(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-02
(54)【発明の名称】アルカリ金属電池に使用するためのセパレータとしてのポリカーボネートをベースとしたセミ相互侵入高分子網目
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0565 20100101AFI20230126BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230126BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20230126BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20230126BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20230126BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230126BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230126BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20230126BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230126BHJP
H01G 11/56 20130101ALI20230126BHJP
H01M 8/1016 20160101ALN20230126BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/38 A
H01M4/40
H01M4/13
H01M10/054
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01G11/56
H01M8/1016
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525578
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(85)【翻訳文提出日】2022-04-27
(86)【国際出願番号】 EP2020082964
(87)【国際公開番号】W WO2021105023
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】102019132370.3
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599000142
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム ユーリッヒ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Forschungszentrum Juelich GmbH
【住所又は居所原語表記】Wilhelm-Johnen-Strasse, 52428 Juelich, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000545
【氏名又は名称】弁理士法人小竹アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ゲリット ホーマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス カスナットシェウ
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス シュトルッツ
(72)【発明者】
【氏名】マリアノ グリューネバウム
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ヴィンター
【テーマコード(参考)】
5E078
5G301
5H029
5H050
5H126
【Fターム(参考)】
5E078AA02
5E078AB01
5E078DA12
5G301CD01
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AM16
5H029HJ01
5H029HJ18
5H050AA07
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA18
5H126BB06
(57)【要約】
本発明は、アルカリ金属固体電池用固体電解質に関し、該固体電解質は、2種類のアルカリ金属導電性塩の混合物と、架橋ポリマーと非架橋ポリマーとのセミ相互侵入高分子網目(sIPN)を含み、前記セミ相互侵入高分子網目は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカーボネート(PC)、ポリカプロラクトン(PCL)、これらのポリマーの鎖末端修飾誘導体、またはこれらの少なくとも2成分の混合物からなる群より選択された非架橋ポリマーを50重量%以上80重量%以下とし、且つ、架橋ポリマーとして、単一モノマーを基準として炭素数が2以上15以下の炭素数を有する架橋可能なポリアルキルカーボネートモノマーのポリカーボネートを10重量%以上50重量%以下とし、単一ポリアルキルカーボネートモノマーは、置換または非置換であってよく、アクリル、メタクリル、エポキシ、ビニル、イソシアニドまたはその二つの異なる基の混合物からなる群から選択される二つの架橋可能基を有する。さらに、本発明は、本発明に係る固体電解質を有するアルカリ金属電池に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属固体電池用の固体電解質であって、
前記固体電解質は、2種類のアルカリ金属導電性塩の混合物と、架橋ポリマーと非架橋ポリマーとのセミ相互侵入高分子網目(sIPN)と、を備え、前記セミ相互侵入高分子網目は、
ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカーボネート(PC)、ポリカプロラクトン(PCL)、これらのポリマーの鎖末端修飾誘導体、またはこれらの少なくとも2成分の混合物からなる群より選択された非架橋ポリマーを50重量%以上80重量%以下とし、且つ、
架橋ポリマーとして、単一モノマーを基準として炭素数が2以上15以下の炭素数を有する架橋可能なポリアルキルカーボネートモノマーのポリカーボネートを10重量%以上50重量%以下とし、
前記単一ポリアルキルカーボネートモノマーは、置換されていても置換されていなくてもよく、アクリル、メタクリル、エポキシ、ビニル、イソシアニドまたはそれらの二つの異なる基の混合物からなる群から選ばれた二つの架橋可能基を有するもの。
【請求項2】
前記sIPN中の非架橋ポリマーに対する架橋ポリマーの重量分率が、20wt.-%以上であり、且つ、40wt.-%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体電解質。
【請求項3】
前記ポリアルキルカーボネートモノマーの分子量が、100g/mol以上であり、且つ、3500g/mol以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体電解質。
【請求項4】
前記ポリアルキルカーボネートモノマーが、直鎖もしくは分岐した、置換もしくは非置換のポリエチレン、ポリメチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリヘキシレンカーボネートまたはそれらの少なくとも2成分の混合物からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項5】
前記ポリアルキルカーボネートモノマーは、それぞれ2つの同一の官能基を有し、前記官能基はメタクリル基であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項6】
前記2種類のアルカリ金属導電性塩の混合物は、少なくともアルカリ(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTFSI)と、アルカリビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)の塩からなることを特徴とする、前記請求項1乃至5のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項7】
アルカリFTFSIの重量をsIPNと更なる導電性塩の成分の重量合計に対するアルカリ(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTFSI)の重量比、すなわち、alkali FTFSI をsIPNと更なる導電性塩の重量の合計で割った値で表されるもの、が0.005以上であり、且つ、0.1以下である、請求項6に記載の固体電解質。
【請求項8】
前記固体電解質は、Li固体電池用の固体電解質である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の固体電解質。
【請求項9】
負極と、正極と、前記負極と前記正極との間に配置された固体電解質とを備えるアルカリ金属電池において、前記固体電解質は、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の固体電解質であることを特徴とするアルカリ金属電池。
【請求項10】
前記電池はLi金属電池であり、前記電池は少なくとも1つの大電流電極または高電圧電極を有することを特徴とする請求項9に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属固体電池用固体電解質に関し、該固体電解質は、2種類のアルカリ金属導電性塩の混合物と、架橋ポリマーと非架橋ポリマーとの半貫通高分子網目(sIPN)を含み、半貫通高分子網目は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカーボネート(PC)、ポリカプロラクトン(PCL)、これらのポリマーの鎖端修飾誘導体またはこれらの少なくとも2成分の混合物からなる群より選択された非架橋ポリマーを50wt.-%以上80wt.-%以下で含有する。また、架橋ポリマーとして、単一モノマーを基準にして炭素数が2以上15以下の架橋性ポリアルキルカーボネートモノマーのポリカーボネートを10wt.-%以上50wt.-%以下含有する。さらに、ポリアルキルカルボネート単量体は、置換されていても非置換でもよく、アクリル、メタクリル、エポキシ、ビニル、イソシアニドまたはそれらの異なる2つの基の混合物からなる群から選択された2つの架橋性基を有する。また、本発明は、固体電解質を有するアルカリ金属電池に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能性とモビリティに対するユーザーの要求の高まりは、ここ数十年で分散型エネルギー貯蔵の風景を大きく変えた。従来、電池のサイズ、重量、および非常に限られていた電気容量により、電池の技術的利用可能性はかなり限られていたが、アルカリ金属ベースのエネルギー貯蔵システム、例えばリチウム二次電池の形態で使用されて以来、可能な用途が大幅に増加した。リチウムイオン電池は、1990年代初頭に市場に投入されて以来、スマートフォンおよびノートパソコンなどのモバイル用途の大量使用に適したものにした。また、さらに継続的な開発により、エネルギー密度およびアプリケーションの信頼性も向上している。まさにこうした最適化のステップは、例えば、リチウムイオン電池が現在、民間および産業界において分散型発電の定置用蓄電デバイス(stationary energy storage devices for decentrally generated electricity)として考えられている、という事実に寄与している。さらに、これらの革新的な蓄電システムは、エレクトロモビリティの分野において、気候変動に配慮した新しい輸送コンセプトの基礎となるものである。
【0003】
アルカリ二次電池には、液状電解質を用いた電池の他に、高粘度の「固体」電解質を用いたポリマーベース固体電池も知られている。通常、このタイプの最適動作温度は60℃前後の範囲であるが、より低い温度、例えば40℃前後、あるいは20℃前後の温度範囲まで動作可能温度範囲を拡大することが求められている。このクラスの電解質の最も一般的な代表はポリエチレンオキシド(PEO)であり、少なくとも1つのリチウム伝導性塩を使用して、酸化的に不安定(3.9 V 以上 vs. Li/Li+)であると想定されるが、安価で容易に入手できる標準的なものである。PEOは加工が容易であり、工業的規模での生産も容易であるため、PEO系高分子電解質の生産に向けた取り組みが多く行われている。通常、正極にはリン酸鉄リチウム(LFP)が使用されるが、この電極材料はPEOとの相性が十分に良いため、LFPが使用されている。
【0004】
高分子電解質としてPEOを使用した場合、3.9V以上で60℃の動作温度でも、充放電を繰り返すと電池セルが短絡してしまう。また、NMC(リチウムニッケルマンガンコバルト)電極などの高電圧電極では、電解質と電極で電荷状態が不均一になり、さらに好ましくない状況になる。また、PEOと導電性塩の組み合わせは、添加物を加えなければ様々な結晶相や非晶質相を示すことが知られており、リチウムイオン輸送が不均一になる可能性がある。このような要因が、広い温度範囲や高電圧の電極で固体電解質を自由に商業利用する妨げとなっている。
【0005】
アルカリ固体電解質の改良については、特許文献にもいくつか記載されている。
例えば、WO 2014 147 648 A1には、高イオン伝導性電解質組成物が開示されている。特に、この文書は、発電、貯蔵及び送達デバイス、特にハイブリッド太陽電池、アキュムレータ、キャパシタ、電気化学システム及びフレキシブルデバイスのための準固体/固体電解質マトリックスとしてのセミ相互侵入高分子網目及びそのナノコンポジットの高イオン伝導性電解質組成物を開示している。セミ相互侵入高分子網目電解質組成物の二元または三元成分は、 (a)ポリエーテル骨格を有する高分子網目(成分I);(b)低分子量の直鎖、分岐、超分岐ポリマー、または好ましくは非反応性末端基を有するそのようなポリマーの任意の二成分の組み合わせ(三元系セミ相互侵入高分子網目を形成する成分IIおよび/または成分III);(c)電解質塩および/または酸化還元対;ならびに、任意的に(d)ナノコンポジットを形成するための純粋または表面修飾したナノ構造材料を備える。
【0006】
WO 2015 043 564 A1は、混合伝導性陽極と、混合伝導性陰極と、陽極と陰極との間に配置された電解質層とを含む固体電池の少なくとも一つの電気化学セルの製造方法であって、以下のステップを含む方法を開示している。
- 混合導電性アノードを製造または提供するステップ、
- 混合伝導性カソードを製造または提供するステップ、
- 2つの電極のうち少なくとも1つの電極の表面を、電極の表面近傍の層でセルに対して垂直な電子伝導度が108S/cm未満に低下するように、追加のプロセスステップによって改質するステップ、そして、
- その後、負極と正極を、少なくとも一方の電極の表面改質層を電解質層として負極と正極の境界に配置し、混合導電性電極を電気的に分離するように組み立てることで固体電池を形成するステップ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/147648号
【特許文献2】国際公開第2015/043564号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような先行技術から知られる解決策は、特にアルカリ二次電池の充放電プロセスの再現性向上に関して、さらなる改善の可能性がある。
本発明の課題は、先行技術から知られている欠点を少なくとも部分的に克服することである。特に、繰り返されるサイクルの後でも、改善された充放電安定性が得られる解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この問題は、請求項1に記載の特徴を有する固体電解質によって解決される。本発明によれば、この問題は、請求項9に記載のアルカリ金属電池によってさらに解決される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項、詳細な説明または図に示されており、それによって、従属請求項または詳細な説明または図に記載または示されているさらなる特徴は、文脈が明確に反対の説明をしない限り、個別にまたは任意の組み合わせで、本発明の目的を構成することが可能である。
【0010】
本発明によれば、アルカリ金属固体電池用の固体電解質であって、該固体電解質は、2種類のアルカリ金属導電塩の混合物と、架橋ポリマーと非架橋ポリマーとの半貫通高分子網目(sIPN)とを有し、前記半貫通高分子網目は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカーボネート(PC)、ポリカプロラクトン(PCL)、これらのポリマーの鎖端修飾誘導体またはこれらの少なくとも2成分の混合物からなる群から選択される非架橋ポリマーが50wt.-%以上、且つ、80wt.-%以下であり、また、架橋ポリマーとして、単一モノマーを基準にして炭素数が2以上15以下である架橋可能なポリアルキルカーボネートモノマーのポリカーボネートが10 wt.-%以上、且つ、50wt.-%以下であり、前記単一のポリアルキルカーボネートモノマーは、置換または非置換であってもよく、アクリル、メタクリル、エポキシ、ビニル、イソシアニド、又はそれらの2つの異なる基の混合物からなる群から選択された2つの架橋性基を有することを特徴としている。
【0011】
驚くべきことに、架橋ポリカーボネートと非架橋PEOに基づく半貫通高分子網目からの固体電解質の上記の構造と二重導電性塩との組み合わせは、形成された固体電解質の特性を著しく改善することにつながることが見いだされた。この固体電解質は、PEOをベースとした純粋な固体電解質とは対照的に、機械的安定性が大幅に向上している。二重導電性塩の機械的安定性が高いということは、固体電解質およびそれを用いた電池の電気的特性が、ポリエチレンオキサイドのみを用いた電池や単一導電性塩のみを用いた電池に比べて、著しく再現性が高いことを意味している。そのため、同じ電気的条件下で達成可能なサイクル数と電池の寿命は、本発明による構造によって著しく向上する。この固体電解質のもう一つの利点は、より低い温度域で改良された適切な動作が可能であることである。理論に束縛されることなく、本発明に従って使用されるポリカーボネートのPEOに対する極性がほぼ等しいことは、非常に優れた混和性のために決定的であると思われ、これは特に均質な混合をもたらし、最終的に安定で均質な網目網の形成につながるものである。同時に、カーボネート基はアルカリイオンに対して弱い配位性を示すため、導電性塩のアルカリイオンは主に添加したアルカリイオン導電性高分子電解質、例えばPEOに配位し、ネットワークフォーマーの比較的柔軟性のないカーボネート骨格に保持されないことにつながる
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明によらない電池アセンブリのLiメッキ/ストリップ実験の結果を時間の関数として示した図である。
【
図2】
図2は、本発明によらない電池アセンブリのガルバノスタティックサイクリングの結果を時間の関数として示した図である。
【
図3】
図3は、本発明によらない電池アセンブリと、二塩電解質を用いた本発明に係る電池アセンブリの Li めっき/剥離試験結果を時間の関数として示した図である。
【
図4】
図4は、本発明によらない電池アセンブリと、二塩電解質を使用した本発明による電池アセンブリのガルバノスタティックサイクリングの結果を時間の関数として示した図である。
【
図5】
図5は、機械的安定性試験の結果である(本発明によらない電池構造体と本発明に係る電池構造体を、圧力変形の関数として示した図である)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る固体電解質は、アルカリ金属固体電池用の固体電解質である。固体電解質は、固体電解質とも、固体電解質イオン伝導体とも、固体イオン伝導体とも呼ばれる。固体電解質は、コヒーレントな高分子支持構造と、そこに埋め込まれたアルカリ金属イオンを有し、アルカリ金属イオンは、固体電解質の高分子マトリックス内で移動可能である。固体電解質中のイオンの移動を介して電流を流すことができる。固体電解質は電気伝導性はあるが、金属に比べると電子伝導性はかなり低い。アルカリ金属固体電池は、少なくとも2つの電極と、電極間に配置された固体、特に非流動性の電解質とを有する。これらの構成要素に加えて、固体電池は、他の層又はシートを有していてもよい。例えば、固体電池は、固体電解質と電極との間に他の層を有していてもよい。アルカリ金属固体電池の電気特性は、アルカリ金属、すなわち周期表第1主族の金属の酸化還元反応に基づくものである。アルカリ金属としては、特にリチウム、ナトリウム、カリウムが使用可能である。
【0014】
本発明に係る固体電解質は、2つの異なるアルカリ金属導電性塩の混合物を有している。アルカリ金属導電性塩は、本質的にアルカリ金属カチオンと無機または有機アニオンとからなる。2つの異なるアルカリ金属導電性塩の混合物を形成するためには、2つの導電性塩は、カチオンは同じだが、アニオンが異なっていれば十分である。この点で、本発明による固体電解質は、1つのカチオン種、例えばリチウムのみを含むことができるが、対照的に2つの異なるアニオンを含むことも可能である。使用される2つの異なるアルカリ金属導電性塩の量は、等モルである必要はない。また、2つの異なるアルカリ金属導電性塩を異なる濃度で使用することも可能である。本発明の意味において、2つの異なるアルカリ金属導電性塩の混合物は、2つのアルカリ金属導電性塩のうちの1つがアルカリ金属導電性塩の総量の少なくとも10mol%、好ましくは15mol%、より好ましくは20mol%を構成する場合に存在する。
【0015】
可能なアニオンは、ヘキサフルオロホスフェート、パーチロレート、テトラフルオロボレート、トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリフルオロメタンスルホネート、ビス(フルオスルホニル)イミド、ビス(フルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミドからなる群から選択することができます。ビス(シュウ酸塩)ボレート、ジフルオロ(シュウ酸塩)ボレート、ビス(フルオロマロナト)ボレート、テトラシアノボレート、ジシアノトリアゾレート、ジシアノトリフルオロメチル-イミダゾール、ジシアノペンタフルオロエチル-イミダゾール、フロロスルホニル-(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、またはこれらの少なくとも2成分の混合物である。さらに、使用される導電性塩の少なくとも1つは、架橋性官能基、例えばメタクリル酸基を有するアニオンを含んでいてもよい。
【0016】
固体電解質は、架橋ポリマーと非架橋ポリマーのセミ相互侵入高分子網目(sIPN)を有している。固体電解質の基本的な機械構造は、2つの異なるポリマーの網目によって形成されており、これが強度を与えている。固体電解質の基本的な機械構造は、2種類のポリマーの網目網によって形成されており、これが強度も与えている。セミ相互侵入網目とは、2種類の異なるポリマーから構成されるものである。一方のポリマーは、モノマー間に共有結合を形成することで架橋され、3次元網目を形成することができるが、もう一方のポリマーは、官能基がないため、純粋にイオン的相互作用またはファンデルワールス的相互作用によって結合されている。両ポリマー成分は、少なくとも原理的には、洗浄工程によって互いに分離することが可能である。架橋性ポリマーの官能基の架橋は、非架橋性ポリマーとの物理的な混合プロセスの後にのみ起こるため、両成分は物理的に相互浸透し、一緒にセミ相互侵入高分子網目を形成する。固体電解質の他の成分はアルカリ金属導電性塩であり、これらは網目内に「溶解して」存在するか、または網目に結合しているが、本発明によれば、セミ相互侵入高分子網目の成分としてではなく、固体電解質の成分とみなされる。
【0017】
セミ相互侵入網目は、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリカーボネート(PC)、ポリカプロラクトン(PCL)、これらのポリマーの鎖端修飾誘導体またはこれらの少なくとも2成分の混合物からなる群より選択された非架橋ポリマーを50重量%以上、80重量%以下有している。このように、2つのポリマー成分から構成されるセミ相互侵入網目は、PEO、PC、PCLまたはこれらの混合物を主な重量成分としている。網目内で架橋することができず、また、架橋されていないこれらのポリマーは、それぞれ官能基によって鎖末端が置換されることが可能である。
【0018】
PEOとは、以下の構造式で表されるモノマーを指す。
【化1】
【0019】
ここで、指数nは、好適には、10-120000から選択され得る。ラジカルRは、それぞれ互いに独立に、水素、または置換もしくは非置換のアルキルもしくはアリールラジカルであってもよい。
置換または非置換のアルキルまたはアリールラジカルは、C1-C20のC数を有していてもよく、さらに、ハロゲン、OH、NH3、NO2などの非架橋性官能置換基を有していてもよい。
【0020】
ポリカーボネートは、以下の構造式で表される化合物である。
【化2】
【0021】
ここで、指数nは好適には3-120000から選択することができる。鎖末端のラジカルRは、上記の定義に対応する。基R1は、芳香族または脂肪族C1-C15基を表す。
【0022】
ポリカプロラクトンとは、以下の構造式で表される化合物を指す。
【化3】
【0023】
ここで、指数nは3-120000から好適に選択することができる。鎖末端の残基Rは、上記の定義に対応する。
【0024】
さらなる成分として、セミ相互侵入高分子網目(sIPN)は、架橋ポリマーとしての個々のモノマーを基準として、2以上15以下の炭素数を有する架橋可能なポリアルキルカーボネートモノマーのポリカーボネートを、10wt.-%以上、50wt.-%以下含有している。このように、セミ相互侵入網目の架橋性成分は、モノマー中の官能基を介して互いに架橋可能なカーボネートモノマーで構成されている。このようにして、セミ相互侵入網目内に不溶性の共有結合型架橋構造体を形成することができ、網目の機械的安定性を高めることができる。好ましくは、カーボネートモノマーは、2つの架橋性基、特に2つの架橋性末端基を有してもよい。しかし、カーボネートモノマーが2つ以上の官能基を有することも可能である。なお、上記で示した重量比は、セミ相互侵入網目の構成要素についてであり、特に、アルカリ金属導電性塩を介して導入される固体電解質の部分は含まれない。可能なポリカーボネートベースモノマーは、例えば、カルボネート基の間の炭素数が15までの直鎖または分枝されたアルキルポリカーボネートである。ポリアルキルカーボネートモノマーの分子量は、架橋官能基化されていない状態で100g/mol-5000g/molの範囲とすることができる。
【0025】
ポリアルキルカーボネートモノマーは、置換または非置換であって、アクリル、メタクリル、エポキシ、ビニル、イソシアニドまたはそれらの異なる2つの基の混合物からなる群から選択された2つの架橋性基から構成されていてもよい。従って、ポリアルキルカーボネートモノマーは、このような、さらに別の官能基、例えばOH、NH3、CHO基を担持することができる。しかしながら、モノマーの基本骨格のこの一般的な置換に加えて、ポリアルキルカーボネートモノマーは、上記に示した官能基の中から少なくとも2つの架橋可能な官能基を有する。これらの官能基により、個々のポリカーボネートモノマー間に共有結合が形成される。
【0026】
固体電解質の好ましい実施形態において、sIPN中の非架橋ポリマーに対する架橋ポリマーの重量分率は、20wt.-%以上、40wt.-%以下とすることができる。各成分の濃度と混和性は、ポリマーフィルム内で網目形成剤が十分に安定したスポンジ状の構造を生成する上で重要な役割を果たす。従って、上記の20wt.-%以上のポリカーボネート網目形成剤(PEOベース)の濃度範囲から、純粋なPEO導電塩標準と比較して、著しく高い再現性が観察される。さらに、ポリカーボネート網目形成剤の使用による全体的な導電性の低下は、純粋なPEO-導電性塩の組み合わせと比較して、60℃においてセル抵抗増加による容量損失が生じない程度に塩含有量を増やすことで補償することができる。
【0027】
固体電解質の好ましい実施形態では、ポリアルキルカーボネートモノマーの分子量が、100g/mol以上であり、且つ、3500g/mol以下にするとよい。ポリアルキルカーボネートモノマーの鎖長の違いについて検討した結果、ポリアルキルカーボネートモノマーの鎖長が短いほど、電気化学的性能の向上が得られることがわかった。明らかに、sIPNの安定性は鎖長が短いほど高く、そのため、本発明の固体電解質を用いた電池集合体のスクイズによって誘発される短絡を回避することができる。
【0028】
固体電解質の好ましい態様において、ポリアルキルカーボネートモノマーは、直鎖もしくは分岐した、置換もしくは非置換のポリエチレン、ポリメチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリヘキシレンカーボネート、またはそれらの少なくとも2成分の混合物からなる群から選択されてもよい。これらのポリアルキルカーボネートモノマーの例としては、ポリエチレンカーボネート(PEC)、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、またはポリトリメチレンカーボネート(PTMC)が挙げられ、それぞれ500g/mol-5000g/molの範囲の分子量を有していてもよい。好ましくは、ポリアルキルカーボネートモノマーの分子量は、500g/molから2000g/molまでの範囲であってよい。これらのアルキルポリアルキルカーボネートモノマーは、マトリックスの特に好ましい機械的特性、及び固体電解質の特に好適な電気的特性を提供することができる。
【0029】
固体電解質の好ましい実施形態では、ポリアルキルカーボネートモノマーは、それぞれ2つの同一の官能基を担持することができ、官能基はメタクリル基であることが可能である。ポリアルキルカーボネートモノマーに2つのメタクリル基を介して対称的な官能基を導入することで、機械的に安定なセミ相互侵入網目を得ることに特に適していることが証明された。この点で、個々のモノマーは2つのメタクリル基、好ましくは2つの末端メタクリル基を担持している。形成されるセミ相互侵入網目の特殊な機械的安定性により、固体電解質の寿命を著しく向上させることが可能となる。
【0030】
固体電解質の好ましい特徴の範囲内で、2つの異なるアルカリ金属導電性塩の混合物は、少なくともアルカリ(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTFSI)およびアルカリビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(TFSI)の塩を含むことができる。上記の両アルカリ金属導電性塩の組み合わせは、長寿命で高効率な電池を得るのに特に適していることが分かっている。この固体電解質は優れた導電性を示し、この固体電解質を用いた電池集合体の電気的故障までの期間を著しく延長することができる。両導電性塩の特に好適な混合物は、導電性塩を含むsIPNの重量を基準として、FTFSIの割合が0,1wt.-%と5wt.-%の間、TFSIの割合が15wt.-% - 60wt.-%である。特に、両方の導電性塩の割合は、導電性塩を含むsIPNの重量に基づいて、5wt.-%から70wt.-%までとすることができる。さらに、架橋性アニオンを有する導電性塩は、sIPNと固定化アニオンの静電相互作用により、sIPNの過剰な変形を打ち消すことができるので、特に有利であることが証明されている。本発明に従って構築されたsIPNにおける架橋可能な導電性塩の使用は、この添加が高度に非晶質のカチオン導電性ポリマー相の形成をさらにサポートするので、特に有利であることを表す。このような機械的に安定なアモルファス構造の形成は、先行技術の組成物では実行不可能である。
【0031】
固体電解質の別の好ましい態様では、アルカリ(フルオロスルホニル)(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(FTFSI)の、sIPNとさらなる導電塩の成分の重量和に対する重量比(アルカリFTFSIの重量をsIPNとさらなる導電塩の重量の和で割った値)は、0.005以上、0.1以下にするとよい。FTFSIと、さらなる導電性塩を含むsIPNとの比がこの範囲内であれば、固体電解質の電気的特性が特に良好であり、長寿命が得られる。さらに好ましい実施形態では、この比率は0.01以上、0. 075以下にするとよい。網目形成剤のカルボニル基は、電解質中のLi+に対して、線状PEOポリマーよりも全体的に弱い親和性を有し、それによって、Li+の配位が線状PEOポリマーで優先的に起こる。これにより、純粋なポリエーテルや同じ塩濃度の網目形成剤としてのポリエーテルと比較して、より低い塩濃度で使用することができます。
【0032】
さらなる好ましい実施形態において、固体電解質は、Li-固体電池用の固体電解質であってもよい。固体電解質の改善された機械的及び電気的特性のために、本発明に係る固体電解質は、リチウム系電池タイプにおける電気的に高度に要求される用途に特に適している。
【0033】
さらに本発明によれば、陽極と、陰極と、陽極と陰極の間に配置された固体電解質とを含むアルカリ金属電池であって、固体電解質が本発明に係る固体電解質であることを特徴とするアルカリ金属電池が提供される。本発明に係るアルカリ金属電池の利点については、本発明に係るプロセスおよび本発明に係る高分子固体電解質の利点に明示的に言及される。電池は、言及された構成要素に加えて、一般に他の層を有していてもよい。
【0034】
Li金属電池としての実施形態におけるアルカリ金属電池の正極には、全固体リチウムイオン電池用材料やリチウム金属電池用材料を用いることができる。この点で、電極層は、LiNixMnyCozO2(NMC)、LiCoO2(LCO)、LiFePO4(LFP)、又はLNixMnyO4(LNMO)などの活物質を含む。さらに、正極は、バインダー、電子伝導率を高めるための電子伝導性材料、例えばアセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、イオン伝導性を高めるための電解質材料、特にポリマーまたは固体電解質、および他の添加物をさらに含んでいてもよい。
【0035】
アルカリ金属電池の好ましい実施形態において、電池はLi金属電池であってもよく、電池は少なくとも1つの高電流または高電圧電極を有していてもよい。この好適性は、特に高い機械的強度に起因し、また、固体電解質が高電流電極または高電圧電極との併用にも適しているという事実に起因する。高電流電極は、15時間以下の充電時間で100mAhg-1を超える比容量を提供することができる電極である。高電圧電極は、4V以上の充電終止電圧を提供することができる。
【0036】
さらなる好ましい実施形態において、本発明に係る固体電解質は、電気化学デバイスに使用することができる。電気化学デバイスは、一次電池及び二次電池に加え、燃料電池又はキャパシタを含むことができる。さらに、本発明による固体電解質は、電極の電気的接触(「濡れ」)を改善するための層として、電気化学デバイスにおいて使用することができる。
【0037】
本発明による高分子電解質が正極と直接接触するリチウム金属電池の高分子電解質分離層としての用途のほか、硫化物系の固体電解質電池への使用も可能である。この電気のコンセプトは、酸化物系セラミックスにも転用でき、ポリマー電解質はリチウム金属側への湿潤補助剤として機能することができる。また、陽極と陰極に複数の異なるポリマー層を使用することも可能である。熱ラジカル重合の代わりに、紫外線を照射して重合を開始させる光重合も考えられる。また、短鎖のポリエチレングリコール誘導体を添加することで、より低い動作温度を可能にすることも可能である。本発明のsIPNは、シロキサイド紙、ポリエチレン/ポリプロピレンフィルム、PTFE、あるいはガラスや改質ガラスなどの化学表面など、他のコーティング基材の仕上げにも使用することが可能である。
【0038】
実施例
I. 固体電解質の調製
Li電池用のsIPNを作製する。
I.a. ポリカーボネート網目形成剤の合成。
ポリカーボネート網目形成剤の合成は、不活性ガス下で実施される。10gのポリ(1,6-ヘキサンジオール)カーボネートジオール(Mw=1000g/mol)を乾燥ジクロロメタン(100mL)に溶解させる。約0.5gの硫酸マグネシウムを加えてポリカーボネートを乾燥させ、混合物を一晩攪拌する。混合物を濾過して硫酸マグネシウムを除去する。次に、DMAP(4-(ジメチルアミノ)ピリジン)(末端水酸基当たり0.001mol%)、およびトリエチルアミン(末端水酸基を基準として2当量)を添加する。攪拌しながら0℃に冷却し、メタクリロイルクロリド(末端水酸基を基準として1.2当量)を注意深く添加する。反応混合物を室温で3日間攪拌する。粗生成物を2M塩酸水溶液(5 x 50 mL)で5回洗浄し、有機相から極性反応物および副生成物を抽出する。相分離には分液漏斗を使用する。有機相を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、減圧下で溶媒を除去した。生成物を真空下、RTで数日間乾燥させる。乾燥した生成物は、不活性ガス下で保存する。
【0039】
I.b. 本発明によるsIPNの調製。
13部のLi-TFSI(0.289g)対1部のLi-FTFSI(0.018g)のモル比の導電塩配合物を、ポリカーボネート(ポリ(1,6-ヘキサンジオル)カーボネートジメタクリレート)(0.125g)とラジカル開始剤AIBN(アゾビスブチロニトリル)(0.018g)と共に3mLアセトニトリルまたはTHF中に溶剤として溶解し、続いてPEO粉末(0.5g)を添加する。導電性塩とポリマーの比が1対3の混合物を数時間攪拌し、完全に均質化した後、フィルムキャストによりマイラーフィルムに基本的に任意の厚さで塗布することができる。この溶媒をヒュームフード内で蒸発させ、生成したポリマーフィルムを窒素気流下、70℃で1時間重合し、真空下で一晩乾燥させる。固体電解質の厚さは、1μm以上500μm以下にすることが可能である。
【0040】
I.c. 電池の製造
リチウム金属電池セルに使用するため、高さ200μm、直径17mmのポリマーフィルムの円形片を型抜きし、91wt.-% LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2, 4wt.-% carbon black and 5wt.-% PVdFからなるリチウム金属電極と正極の間のセパレータとして使用する。このようにして作製したリチウム金属電池セルを、60℃で試験した。
【0041】
本発明に係る電池集合体と本発明でない電池集合体の電気化学的挙動を
図1-
図5に示す。 それは、以下の通りである。
図1は、本発明によらない電池アセンブリのLiメッキ/ストリップ実験の結果を時間の関数として示す図。
図2は、本発明によらない電池アセンブリのガルバノスタティックサイクリングの結果を時間の関数として示したものである。
図3は、本発明によらない電池アセンブリと、二塩電解質を用いた本発明に係る電池アセンブリの Li めっき/剥離試験結果を時間の関数として示したものである。
図4は、本発明によらない電池アセンブリと、二塩電解質を使用した本発明による電池アセンブリのガルバノスタティックサイクリングの結果を時間の関数として示したものである。
図5は、機械的安定性試験の結果である(本発明によらない電池構造体と本発明に係る電池構造体を、圧力変形の関数として示したものである。
【0042】
図1は、2種類の電解質を使用しないs-IPNを用いたLi-Li電池の電圧応答である。2つのLi電極を正極と負極として交互に1時間ずつ、50μA/cm2の定電流で使用し、電解質を通してLiが一方から他方へ変化していく様子を示している。この電池は100時間という比較的短い時間で電池破壊を起こしたが、これは短絡が原因である。
【0043】
図2は、PEOとポリカーボネートのポリマー電解質を用いたLi-NMC622セルの従来のガルバノスタティックサイクルの電圧挙動を示しているが、1つの導電塩(Li-TFSI)のみ、s-IPNの総重量に対して30 wt.-%の導電塩濃度で使用したものである。このセルでも、電圧曲線のノイズから明らかなように、時間依存の誤差が見られる。
【0044】
図3は、時間の関数としてのLiめっき/剥離実験の電圧曲線を示し、1回は本発明によるセルセットアップについて、1回は本発明によらないセルセットアップについてである。同じLi-Liセルアセンブリを同じs-IPNで実行したが、本発明に従って、「デュアル塩」電解質としてLi-FTFSI/Li-TFSIで1回、電解質としてLi-TFSIのみで1回実行した。Li-FTFSIとLi-TFSIを用いたデュアルソルトアプローチは、著しく長く、故障なく動作することが明確に分かる。理論にとらわれることなく、s-IPNとLi-FTFSIおよびLi-TFSIの組み合わせにより、Li電極が安定化することが推測される。
【0045】
図4は、固体電解質の組成を変えたLi-NMC622電池のガルバノスタティックサイクルの結果である。PEOとLi-TFSIを単独で用いた場合(PEO12LiTFSI)、電池セルはすでに環化の初期に欠陥を示し、おそらく短絡が原因であると考えられる。PEOを単独ポリマーとし,別の鉛塩のみを添加した場合(LiFTFSI+PEO12LiTFSI),電気的挙動に大きな改善は見られず,短時間でセルが破壊されることがわかった。半貫通型ネットワークを形成せずに、すなわち個々のポリカーボネートモノマーを架橋せずに、PEO12LiTFSIのLi-FTFSIに炭酸塩を添加した場合も、電気的挙動の改善は見られなかった。一方、2種類の電解質(Li-FTFSIとTFSI)を組み合わせ、PEOと架橋ポリカーボネートの半貫通ネットワークを形成した場合のみ、測定期間中、誤差のないサイクルを示すことがわかった。
【0046】
図5は、本発明による固体電解質および本発明によるものでないものの機械的安定性試験を示す図である。架橋ポリカーボネートと非架橋PEOのsIPNを有する本発明による固体電解質を使用することにより、PEOネットワークのみと比較して圧縮強度が大幅に改善することが示される。圧縮強度は、高さ2mm、直径18mmのポリマーサンプルを、20μm/分の一定の送り速度で2枚のステンレス鋼プレート間で圧縮し、これに要する力を測定する圧縮性試験装置を用いて測定されたものである。この圧縮強度の向上は、デュアルソルトアプローチと相まって、Li-NMC622セルのLi適合性向上とエラーフリーサイクルを実現した理由であると考えられる。
【国際調査報告】