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特表2023-504236L-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌、その構築方法及び使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-02
(54)【発明の名称】L-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌、その構築方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230126BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20230126BHJP
   C12P 13/10 20060101ALI20230126BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20230126BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20230126BHJP
【FI】
C12N15/09 110
C12N1/21 ZNA
C12N9/12
C12N15/70 Z
C12P13/10 B
C12N9/00
C12Q1/686 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022525726
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(85)【翻訳文提出日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 CN2020090626
(87)【国際公開番号】W WO2021109467
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】201911211097.X
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517403123
【氏名又は名称】寧夏伊品生物科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】謝希賢
(72)【発明者】
【氏名】蒋帥
(72)【発明者】
【氏名】文晨輝
(72)【発明者】
【氏名】呉鶴云
(72)【発明者】
【氏名】劉益寧
(72)【発明者】
【氏名】李旋
(72)【発明者】
【氏名】田道光
(72)【発明者】
【氏名】熊博
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050CC07
4B050KK07
4B050LL05
4B063QA20
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QR75
4B063QS25
4B064AE24
4B064CA02
4B064CA19
4B064DA20
4B065AA24X
4B065AA24Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA17
(57)【要約】
L-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌、その構築方法及び使用を開示する。該方法は、大腸菌にカルバモイルリン酸シンターゼをコードする遺伝子及びL-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子を組み込むことにより、大腸菌のアルギニン合成経路及びアミノ酸代謝ネットワーク全体におけるアルギニンに関連する代謝フラックスを分析して再構成し、遺伝的背景が明確であり、プラスミドを含んでおらず、突然変異誘発を受けず、且つL-アルギニンを安定的かつ効率よく生産し得る遺伝子組換え菌を得るステップを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバモイルリン酸シンターゼをコードする遺伝子pyrAA及びpyrABを含有する、L-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌株。
【請求項2】
大腸菌又はコリネバクテリウム・グルタミカムを出発菌株、例えばE.coli W3110又はE.coli MG1655を出発菌株とし、好ましくは、前記pyrAA及びpyrAB遺伝子は大腸菌のyjiT遺伝子部位に組み込まれ、好ましくは、前記pyrAA及びpyrABは枯草菌に由来する、請求項1に記載の遺伝子組換え菌株。
【請求項3】
L-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子をさらに含有し、前記アルギニン生合成経路酵素は、argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argHから選ばれる1種又は複数種であり、好ましくは、前記L-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子はPtrcプロモータによりスタートされ、好ましくは、前記L-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子は大腸菌のyghX遺伝子部位に組み込まれている、請求項1又は2に記載の遺伝子組換え菌株。
【請求項4】
アルギニントランスポータをコードする遺伝子lysEをさらに含有し、好ましくは、前記lysE遺伝子は大腸菌のilvG遺伝子部位に組み込まれ、好ましくは、前記lysE遺伝子はSEQ ID NO:68で示されるヌクレオチド配列である、請求項1~3のいずれか1項に記載の遺伝子組換え菌株。
【請求項5】
L-アルギニンを分解するコード遺伝子を含有しておらず、
例えば、アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子、アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子のうちの1種又は複数種の遺伝子がノックアウトされており、
好ましくは、前記アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子はspeA、adiAのうちの少なくとも1種を含み、前記アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子はastAであり、前記アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子はargEであり、
好ましくは、前記遺伝子組換え菌株は、speA、adiA、astA及びargE遺伝子が同時にノックアウトされた大腸菌である、請求項1~4のいずれか1項に記載の遺伝子組換え菌株。
【請求項6】
遺伝子組換え菌株の構築方法であって、
出発菌株のゲノムにpyrAA及びpyrAB遺伝子を組み込むステップ(1)と、
好ましくは、必要に応じて、
argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argHのうちの1種又は複数種を含むアルギニン生合成経路酵素遺伝子、及び/又はアルギニントランスポータをコードする遺伝子lysEを組み込むステップ(2)、及び
アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子、アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子をノックアウトするステップであって、例えば、前記アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子はspeA、adiAのうちの少なくとも1種を含み、前記アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子はastAであり、前記アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子はargEであるステップ(3)のうちの1つ又は2つとを含む、遺伝子組換え菌株の構築方法。
【請求項7】
大腸菌においてアルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子speA、アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子adiA及びアルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子astAの3つの遺伝子をノックアウトするステップ(1)と、
大腸菌においてアセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子argEをノックアウトし、必要に応じてグルタミン酸アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子argJを大腸菌に組み込むステップ(2)と、
アルギニン生合成関連遺伝子クラスタ、argC、argJ、argB、argD、argF、argG及びargHを組み込むステップ(3)と、
カルバモイルリン酸シンターゼをコードする遺伝子pyrAA及びpyrABを組み込むステップ(4)と、
アルギニントランスポータをコードする遺伝子lysEを大腸菌ゲノムに組み込むステップ(5)とを含む、請求項6に記載の構築方法。
【請求項8】
CRISPR/Cas9が仲介する遺伝子編集技術を用いて遺伝子の組み込み及びノックアウトを行うステップを含む、請求項6又は7に記載の構築方法。
【請求項9】
組換え断片及びpGRBプラスミドの構築を含み、
好ましくは、前記pGRBプラスミドの構築は、標的配列を設計し、標的配列を含むDNA断片を製造し、標的配列を含むDNA断片と線形化ベクター断片とを組換えるステップを含み、
好ましくは、組換え断片の構築は、遺伝子を組み込んだ組換え断片又は遺伝子がノックアウトされた組換え断片を構築するステップを含み、
好ましくは、遺伝子を組み込んだ組換え断片を構築するステップは、
出発菌株のゲノムをテンプレートとして、目的遺伝子の挿入部位の上流・下流配列に従って上流・下流相同性アームプライマーを設計し、目的ゲノムに従ってプライマーを設計し、目的遺伝子断片を増幅し、次にPCRオーバーラップ技術により組換え断片を得るステップを含み、
好ましくは、遺伝子がノックアウトされた組換え断片を構築するステップは、
遺伝子をノックアウトする対象となる上流・下流配列をテンプレートとして、上流・下流相同性アームプライマーを設計するステップと、PCR方法によって上流・下流相同アームをそれぞれ増幅し、次にオーバーラップPCRにより組換え断片を製造するステップとを含み、
好ましくは、pGRBプラスミドと上記の組換え断片とをpREDCas9含有エレクトロコンピテント細胞に同時形質転換するステップを含み、
プラスミドを除去し、組換え遺伝子組換え菌株を得るステップをさらに含む、請求項6~8のいずれか1項に記載の構築方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の遺伝子組換え菌の発酵によるL-アルギニン生産方法であって、
上記の大腸菌遺伝子組換え菌株を発酵培地と接触させ、発酵培養を行い、L-アルギニンを製造するステップを含み、
好ましくは、前記発酵培養は振とうフラスコ発酵又は発酵槽発酵を含み、
好ましくは、L-アルギニンの蓄積量は130-135g/L、転化率は0.48gアルギニン/gグルコース、生産性は2.5gアルギニン/L/hに達する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年12月02日に中国国家知識産権局に提出された特許出願番号201911211097.X、発明の名称「L-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌、その構築方法及び使用」の先行出願の優先権を主張しており、当該先行出願の全内容は援用により本願に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は遺伝子工学の技術分野に属し、具体的には、L-アルギニンを安定的かつ効率よく生産する遺伝子組換え菌、その構築方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0003】
L-アルギニンは人体と動物体内の半必須塩基性アミノ酸又は条件性必須アミノ酸であり、重要な生化学的及び生理学的機能を有する。現在、L-アルギニンはすでに医薬、工業、食品、化粧品、牧畜業などの分野で広範な応用があり、重要な経済と社会価値がある。
【0004】
L-アルギニンの生産方法は主にタンパク質加水分解法と微生物発酵法を含み、タンパク質加水分解抽出法に比べ、微生物発酵法は生産技術が簡単で、環境への影響が小さく、製品の純度が高いという優位性があり、大規模な工業的生産に適している。
【0005】
現在のアルギニン生産菌種は主にコリネバクテリウム・グルタミカムであり、生産過程において発酵周期が長く(90h~120h)、生産性が低いという問題があり、また、現在のコリネバクテリウム・グルタミカムの発酵プロセスはコーンスティープリカーなどの副原料の品質に大きく影響され、生産が変動しやすい。コリネバクテリウム・グルタミカムは遺伝子の編集が難しいので、現在のアルギニン生産菌株でプラスミド発現ベクターを用いてアルギニン合成に関連する重要な遺伝子を強化するのだが、発酵過程中にプラスミドの多コピーは菌体の成長に一定の負担を与え、発酵後期の生産量の低下をもたらし、しかも、生産過程中にプラスミド発現ベクターが失われやすく、あるいは一定の選択的圧力を加える必要があり、その結果、工業生産過程のコストが高すぎるという問題を引き起こした。多くの要因により、現在のアルギニン生産菌株は工業的生産に適用することが困難である。
【0006】
アルギニン合成代謝経路に多くのフィードバック制御が存在し、アルギニン代謝経路が多く、アルギニン合成に必要な前駆物質が関わる代謝ネットワークが複雑であるため、最初のアルギニン工業生産用菌株の研究開発は、主に伝統的な突然変異誘発とアルギニン構造類似体耐性スクリーニング方法を用いた。選択した出発菌株は、主にブレビバクテリウム・フラバム、コリネバクテリウム・クレナタム、コリネバクテリウム・グルタミカムであり、研究戦略はアルギニン構造類似体の突然変異体のスクリーニングに集中し、アルギニン合成過程におけるフィードバック制御を解除し、細胞内のL-アルギニンの蓄積量を高める。その中で、李少平らはNTGの段階的突然変異誘発によりヒスチジン欠損型、スルファグアニジン耐性、D-アルギニン耐性、ホモアルギニン耐性、S-メチルシステイン耐性を有するコリネバクテリウム・クレナタム(CN201010610917.5)をスクリーニングし、発酵実験により、5L発酵槽で96h培養したところ、L-アルギニンの蓄積量は32.8g/Lであることを検証した。しかし、突然変異誘発と構造類似体のスクリーニングを経て得られた生産菌株は、遺伝的安定性が悪いため、復帰突然変異が生じやすいなどの欠点があり、工業的な量産に適用することが難しい。
【0007】
遺伝子工学技術の急速な発展に伴い、代謝工学技術を用いてL-アルギニン生産菌株を構築する方法は、次第に伝統的な突然変異誘発育種方法に取って代わった。コリネバクテリウム・グルタミカムは、アルギニンの分解に関する遺伝子を有しておらず、グルタミン酸はアルギニン合成の主要な前駆物質の一つであり、コリネバクテリウム・グルタミカムの細胞内に取り込まれたグルコースは解糖経路を経てグルタミン酸を生成する代謝フラックスが強いため、コリネバクテリウム・グルタミカムは、L-アルギニン生産菌株を構築する主要な選択肢である。徐美娟ら(Xu M,Rao Z,Yang J,et al.J Ind Microbiol Biotechnol,2012,39(3):495-502.)は、L-アルギニンを合成する遺伝子クラスタargCJBDFRGHをpJCtacシャトル発現ベクターに連結し、コリネバクテリウム・クレナタムに導入し、この菌株は、96h(時間)発酵後、L-アルギニン産量が45.6g/Lに向上する。Parkら(Park S H,Kim H U,Kim T Y,et al.Nature Communications,2014,5:4618---)はコリネバクテリウム・グルタミカムを出発株とし、ランダム突然変異誘発によりL-アルギニン構造類似体に対するグルタミンの耐性を向上させ、システム代謝工学技術を用いて、アルギニン合成過程中のフィードバック阻害を解除し、合成過程中のNADPHの供給を増強し、前駆物質の供給を増強し、最終的に5L発酵槽で96h発酵させたところ、L-アルギニンの蓄積量は92.5g/L、転化率は0.35gアルギニン/gグルコース、最大生産性は0.9gアルギニン/L/hに達する。上記の生産菌株は一般的には、生産周期が長い、生産性が低いなどの問題が存在し、その上、菌株の構築過程において、アルギニン合成のキー遺伝子を発現ベクターに連結することでキー酵素の転写量を高め、さらにアルギニン合成経路の代謝フラックスを増強するが、生産過程において発現ベクターが失われやすく、あるいは一定の選択的圧力を加える必要があり、その結果、工業的生産に適用するのが困難である。
【0008】
大腸菌は発酵周期が短く、遺伝的背景が明確であり、分子操作が便利で、発酵技術が安定しているなどの優位性があるため、L-アルギニンの工業生産菌株を構築する上でより良い選択となっている。Ginesyら(Ginesy M,Belotserkovsky J,Enman J,et al.Microbial Cell Factories,2015,14(1):29.)は大腸菌を出発菌株とし、argRをノックアウトしてアルギニンのフィードバック阻害を解除し、突然変異遺伝子argA214(H15Y)を組み込んでアルギニンによるArgAのフィードバック阻害を解除し、アルギニン分解関連遺伝子adiAをノックアウトし、オルニチン分解関連遺伝子speCとspeFをノックアウトすることで、中間代謝産物の炭素流量をより多くL-アルギニンに流す。1L発酵槽で42h培養したところ、L-アルギニンの蓄積量は11.64g/L、転化率は0.44gアルギニン/gグルコース、生産性は0.29gアルギニン/L/hに達する。この菌株の発酵周期は明らかに短縮されたが、そのアルギニン蓄積量や生産性は工業的生産の要件を満たしていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の課題に対して、本発明の目的は、L-アルギニンを安定的かつ効率よく生産する、産業利用が期待できる遺伝子組換え菌、その構築方法及び使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記技術的解決手段を提供する。
【0011】
第1態様では、本発明は、カルバモイルリン酸シンターゼをコードする遺伝子pyrAA、及びpyrABを含有するL-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌株を提供する。
【0012】
一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株は、大腸菌又はコリネバクテリウム・グルタミカムを出発菌株、例えばE.coli W3110又はE.coli MG1655を出発菌株とする。
【0013】
一実施形態では、前記pyrAA、及びpyrAB遺伝子は大腸菌のyjiT遺伝子部位に組み込まれる。
【0014】
一実施形態では、前記pyrAA及びpyrABは枯草菌に由来し、具体的には、前記pyrAA及びpyrABはB.subtilis A260においてカルバモイルリン酸シンターゼをコードする遺伝子に由来する。
【0015】
一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株はL-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子をさらに含有し、前記-アルギニン生合成経路酵素は、argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argHの酵素から選ばれる1種又は複数種であり、前記L-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum ATCC13032)に由来し、一実施形態では、前記L-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子はPtrcプロモータによりスタートされ、一実施形態では、前記L-アルギニン生合成経路酵素をコードする遺伝子は大腸菌のyghX遺伝子部位に組み込まれる。
【0016】
一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株はアルギニントランスポータをコードする遺伝子lysE(NCBI Reference Sequence:WP_143758438.1)をさらに含有し、前記トランスポータ遺伝子はコリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)に由来し、一実施形態では、前記lysE遺伝子は大腸菌のilvG遺伝子部位に組み込まれる。
【0017】
一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株はL-アルギニンを分解するコード遺伝子を含有しておらず、例えば、アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子、アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子の1種又は複数種の遺伝子がノックアウトされている。前記アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子は、speA(NCBI-GeneID:12933352)、adiA(NCBI-GeneID:12934085)のうちの少なくとも1種を含み、前記アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子はastA(NCBI-GeneID:12933241)であり、前記アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子はargE(NCBI-GeneID:12930574)である。一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株はspeA、adiA、及びastA遺伝子を同時にノックアウトした大腸菌である。
【0018】
一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株はpyrAA、pyrAB、argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argH、及びlysE遺伝子を含有する。一実施形態では、前記遺伝子組換え菌株はspeA、adiA、 astA及びargE遺伝子を含有していない。
【0019】
本発明では、pyrAA、pyrAB、argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argH、lysE、speA、adiA、astA及びargE遺伝子は、野生型遺伝子に限定されるものではなく、対応するタンパク質をコードする突然変異体、又は1つ又は複数の部位の置換、1つ又は複数のアミノ酸残基の欠失又は挿入を含むように人工修飾された遺伝子であってもよく、この突然変異体又は人工修飾された遺伝子でコードされるタンパク質は対応する活性を有し、機能的な欠陥がなければよい。これらの遺伝子は全てGenBankに登録されており、当業者はPCRによってこれらの遺伝子を得ることができる。一例として、pyrAA遺伝子はNCBI-GeneID:937368、pyrAB遺伝子はNCBI-GeneID:936608、argC遺伝子はNCBI-GeneID:1019370、argJ遺伝子はNCBI-GeneID:1019371、argB遺伝子はNCBI-GeneID:1019372、argD遺伝子はNCBI-GeneID:1019373、argF遺伝子はNCBI-GeneID:1019374、argG遺伝子はNCBI-GeneID:1019376、argH遺伝子はNCBI-GeneID:1019377、lysE遺伝子はSEQ ID NO:68で示されるヌクレオチド配列(NCBI Sequence ID:WP_143758438.1)であり、speA遺伝子はNCBI-GeneID:12933352、adiA遺伝子はNCBI-GeneID:12934085、astA遺伝子はNCBI-GeneID:12933241であり、argE遺伝子はNCBI-GeneID:12930574である。
【0020】
第2態様では、本発明は出発菌株のゲノムにpyrAA、pyrAB遺伝子を組み込むステップ(1)を含む上記の遺伝子組換え菌株の構築方法を提供する。
【0021】
例示的には、前記出発菌株は大腸菌、例えばE.coli W3110(ATCC27325)である。
【0022】
一実施形態では、前記構築方法は、必要に応じて、
argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argHのうちの1種又は複数種を含むアルギニン生合成経路酵素遺伝子、及び/又はアルギニントランスポータをコードする遺伝子lysEを組み込むステップ(2)、及び
アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子、アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、及び/又はアセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子をノックアウトするステップであって、例えば、前記アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子はspeA、adiAのうちの少なくとも1種を含み、前記アルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子はastAであり、前記アセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子はargEであるステップ(3)
のうちの1つ又は2つを含んでもよい。
【0023】
一実施形態では、前記構築方法は、
大腸菌においてアルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子speA、アルギニンデカルボキシラーゼをコードする遺伝子adiA及びアルギニンサクシニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子astAの3つの遺伝子をノックアウトするステップ(1)と、
大腸菌においてアセチルオルニチンデアセチラーゼをコードする遺伝子argEをノックアウトし、必要に応じてグルタミン酸アセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子argJを大腸菌に組み込むステップ(2)と、
argC、argJ、argB、argD、argF、argG及びargHのようなアルギニン生合成関連遺伝子クラスターを組み込み、Ptrcプロモータによりスタートするステップ(3)と、
カルバモイルリン酸シンターゼをコードする遺伝子pyrAA及びpyrABを組み込むステップ(4)と、
アルギニントランスポータをコードする遺伝子lysEを大腸菌ゲノムに組み込むステップ(5)とを含む。
【0024】
当業者であれば理解できるように、本発明の上記の構築方法のステップ(1)~(5)の順序は限定されるものではなく、当業者によって実施可能な任意の順序で行われてもよい。好ましくはステップ(1)~(5)は順次行われる。
【0025】
上記の遺伝子ノックアウトは当該分野で公知の任意の遺伝子ノックアウト又は遺伝子サイレンシング方法によって行われてもよく、遺伝子の組み込みも当該分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え、オーバーラップPCR、突然変異誘発スクリーニング又は遺伝子編集などの技術によって行われてもよい。例えば、遺伝子ノックアウトは、遺伝子における特定の領域を除去して目的タンパク質を発現させる機能を失わせたり、又は部位特異的突然変異によりコード領域又はプロモータ領域に1つ又は複数のヌクレオチド配列の置換、欠失、挿入などを導入したり、化学試薬を使用してこの特定遺伝子でコードされる転写を低下又は解消したりすることにより行われてもよい。
【0026】
一実施形態では、前記構築方法は、CRISPR/Cas9が仲介する遺伝子編集技術を用いて遺伝子の組み込み及びノックアウトを行うステップを含む。
【0027】
一実施形態では、前記構築方法は組換え断片及びpGRBプラスミドの構築を含む。
【0028】
一実施形態では、前記pGRBプラスミドの構築は、標的配列を設計し、標的配列を含むDNA断片を製造し、標的配列を含むDNA断片と線形化ベクター断片とを組換えることを含み、1つの特定実施形態では、前記標的配列は5’-NGG-3’である。
【0029】
一実施形態では、前記構築方法において、組換え断片の構築は、遺伝子を組み込んだ組換え断片又は遺伝子をノックアウトした組換え断片を構築するステップを含む。ここで、遺伝子を組み込んだ組換え断片を構築するステップは、出発菌株のゲノムをテンプレートとして、目的遺伝子の挿入部位の上流・下流配列に従って上流・下流相同性アームプライマーを設計し、目的ゲノムに従ってプライマーを設計し、目的遺伝子断片を増幅し、次にPCRオーバーラップ技術により組換え断片を得るステップを含む。遺伝子をノックアウトした組換え断片を構築するステップは、遺伝子をノックアウトする対象となる上流・下流配列をテンプレートとして、上流・下流相同性アームプライマーを設計するステップと、PCR方法によって上流・下流相同アームをそれぞれ増幅し、次にオーバーラップPCRにより組換え断片を製造するステップとを含む。
【0030】
一実施形態では、前記構築方法は、pGRBプラスミドと上記の組換え断片とをpREDCas9含有エレクトロコンピテント細胞に同時形質転換するステップと、プラスミドを除去し、組換え遺伝子組換え菌株を得るステップとをさらに含む。
【0031】
本発明では、L-アルギニンの製造における上記の遺伝子組換え菌の使用が提供される。
【0032】
本発明では、上記の大腸菌遺伝子組換え菌株を発酵培地と接触させ、発酵培養を行い、L-アルギニンを製造するステップを含む上記の遺伝子組換え菌の発酵によるL-アルギニン生産方法がさらに提供される。
【0033】
本発明によれば、前記発酵培養は振とうフラスコ発酵又は発酵槽発酵を含む。
【0034】
一実施形態では、振とうフラスコ発酵では、播種量は10~15%、発酵条件は、37℃、200r/min振とう培養であり、pHが発酵過程において7.0-7.2に維持され、アンモニア水の補充により調整可能である。発酵過程において発酵を持続するためにグルコース溶液を補充してもよく、好ましくは前記グルコース溶液の質量体積濃度は60%(m/v)である。好ましくは、前記振とうフラスコ発酵の発酵時間は26~30hである。本発明では、グルコース溶液の補充量について特に限定はなく、発酵液中のグルコース濃度は5g/L以下、例えば1-5g/Lに維持されてもよい。
【0035】
一実施形態では、前記振とうフラスコ発酵は500mL三角フラスコにて行われる。振とうフラスコ発酵が26~30h行われたところ、発酵液中のL-アルギニン濃度は30~32g/Lに達する。
【0036】
一実施形態では、発酵槽発酵では、播種量は15~20%、発酵温度は35℃、溶存酸素は25~35%である。発酵過程においてpHが安定的に7.0~7.2に制御され、アンモニア水の補充により調整可能であり、培地中のグルコースが全て消費されると、80%(m/v)のグルコース溶液を流加することで、発酵培地中のグルコース濃度を0.1~5g/Lに維持する。
【0037】
一実施形態では、前記発酵槽発酵は5L発酵槽を用いて行われる。5L発酵槽で50~55h培養したところ、L-アルギニンの蓄積量は、130~135g/L、転化率は0.48gアルギニン/gグルコース、生産性は2.5gアルギニン/L/hに達する。
【0038】
本発明では、発酵は当該分野で公知の大腸菌発酵培地を用いて行われてもよい。
【0039】
一実施形態では、振とうフラスコ発酵の発酵培地の組成は以下のとおりである。グルコース20~40g/L、酵母抽出物1-3g/L、ペプトン2~3g/L、KHPO3~6g/L、MgSO・7HO 1~2g/L、FeSO・7HO 15~20mg/L、MnSO・7HO 15~20mg/L、VB1、VB3、VB5、VB12、V:1~3mg/L、水:残量、pH 7.0~7.2。
【0040】
一実施形態では、発酵槽発酵の発酵培地の組成は以下のとおりである。グルコース10~25g/L、酵母抽出物1~5g/L、ペプトン1~5g/L、KHPO1~5g/L、MgSO・7HO 1~3g/L、FeSO・7HO 10~30mg/L、MnSO・HO 10~30mg/L、VB1、VB3、VB5、VB12、V:1~3mg/L、水:残量、pH 7.0~7.2。
【0041】
有利な効果
本発明では、成長周期が短く、代謝経路が明確であり、分子操作が簡便な大腸菌を出発菌株として、L-アルギニン合成代謝経路の遺伝子工学改変及び代謝ネットワーク全体の工学的改変により、大腸菌のアルギニン合成経路及びアミノ酸代謝ネットワーク全体におけるアルギニンに関連する代謝フラックスを分析して再構成し、遺伝的背景が明確であり、プラスミドを含んでおらず、突然変異誘発を受けず、L-アルギニンを安定的かつ効率よく生産し得る遺伝子組換え菌株が得られる。
【0042】
本発明で得られた大腸菌は、L-アルギニンの循環経路を構築し、L-アルギニンフラックスや前駆物質の供給を向上させ、L-アルギニンの分解を低下させ、L-アルギニンの蓄積や輸送を促進し、これにより、L-アルギニンの生産量を効果的に向上させる。
【0043】
本発明に係るL-アルギニンを生産する遺伝子組換え菌は、5L発酵槽で50~55h培養したときに、L-アルギニンの蓄積量は130~135g/L、転化率は0.48gアルギニン/gグルコース、生産性は2.5gアルギニン/L/hに達し、2014年にParkらにより報告された菌株(5L発酵槽で96h発酵したところ、L-アルギニンの蓄積量は92.5g/L、転化率は0.35gアルギニン/gグルコース、最大生産性は0.9gアルギニン/L/h)に比べて、該組換え菌は、L-アルギニンを生産する能力が強く、しかも突然変異誘発処理を受けず、プラスミドベクターを含んでおらず、このため、発酵周期が短く、遺伝的背景が明確であり、代謝が安定しており、生産性が高いなどの優位性があり、工業的応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】(a)pREDCas9プラスミドマップ、(b)pGRBプラスミドマップ。
図2】speA遺伝子をノックアウトした断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:下流相同アーム;3:オーバーラップ断片;4:元の菌対照;5:陽性菌同定用断片。
図3】adiA遺伝子をノックアウトした断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:下流相同アーム;3:オーバーラップ断片;4:元の菌対照;5:陽性菌同定用断片。
図4】astA遺伝子をノックアウトした断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:下流相同アーム;3:オーバーラップ断片;4:元の菌対照;5:陽性菌同定用断片。
図5】argJ遺伝子を組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:argJ断片;3:下流相同アーム;4:オーバーラップ断片;5:元の菌対照;6:陽性菌同定用断片。
図6】argC-argJを組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:argC-argJ断片;3:下流相同アーム;4:オーバーラップ断片;5:元の菌対照;6:陽性菌同定用断片。
図7】argB-argD-argFを組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:argB-argD-argF上流断片-argB-argD-argF遺伝子断片;2:下流相同アーム;3:オーバーラップ断片;4:元の菌対照;5:陽性菌同定用断片。
図8】argG-argHを組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:argG-argH断片;3:下流相同アーム;4:オーバーラップ断片;5:元の菌対照;6:陽性菌同定用断片。
図9】pyrAA-pyrAB第1部分を組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:1-pyrAA-pyrAB断片;3:下流相同アーム;4:オーバーラップ断片;5:元の菌対照;6:陽性菌同定用断片。
図10】pyrAA-pyrAB第2部分を組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:pyrAAの上流断片-pyrAA-pyrAB-下流相同アーム;2:下流相同アーム;3:オーバーラップ断片;4:元の菌対照; 5:陽性菌同定用断片。
図11】lysEを組み込んだ断片の構築及び検証の電気泳動図。M:1kb DNA marker;1:上流相同アーム;2:lysE断片;3:下流相同アーム;4:オーバーラップ断片;5:元の菌対照;6:陽性菌同定用断片。
図12】菌株E.coli W3110 ARG10を5L発酵槽にバッチ式で補充して発酵する過程の曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施例を説明することによって、本発明の上記及び他の特徴や優位性をさらに詳しく解説、説明する。なお、以下の実施例は、本発明の技術的解決手段を例示的に説明するためのものであり、請求項及びその等価物により限定される本発明の特許範囲を制限することを意図していない。
【0046】
特に断らない限り、本明細書における材料及び試薬は全て市販商品、又は当業者が従来技術により製造したものであり得る。
【0047】
実施例1
遺伝子組換え菌E.coli W3110 ARG10の構築
1 遺伝子編集方法
本発明で使用される遺伝子編集方法は文献(Li Y,Lin Z,Huang C,et al.Metabolic engineering of Escherichia coli using CRISPR-Cas9 meditated genome editing.Metabolic engineering,2015,31:13-21.)を参照して行われ、該方法に使用される2つのプラスミドマップは図1に示される。この中でも、pREDCas9はgRNA発現プラスミドpGRBの除去システム、λファージのRed組換えシステム及びCas9タンパク質発現システムを含んでおり、スペクチノマイシン耐性(作動濃度:100mg/L)であり、32℃で培養されたものであり、pGRBはpUC18を骨格として、プロモータJ23100、gRNA-Cas9結合領域配列及びターミネータ配列を含み、アンピシリン耐性(作動濃度:100mg/L)であり、37℃で培養されたものである。
【0048】
該方法のステップは具体的には以下のとおりである。
1.1 pGRBプラスミドの構築
プラスミドpGRBを構築する目的は、対応するgRNAを転写し、Cas9タンパク質とともに複合体を形成し、塩基対合及びPAMを介して目的遺伝子の標的部位を認識することで、目的DNA二本鎖切断を実現することである。標的配列を含むDNA断片と線形化ベクター断片とを組換える方法によってpGRBプラスミドを構築した。
【0049】
1.1.1 標的配列の設計
CRISPR RGEN Toolsを使用して標的配列(PAM:5’-NGG-3’)を設計した。
1.1.2 標的配列を含むDNA断片の製造
プライマー:5’-線形化ベクター末端配列(15bp)-酵素切断部位-標的配列(PAM配列を含まない)-線形化ベクター末端配列(15bp)-3’及びこれと逆相補的なプライマーを設計し、一本鎖DNAのアニーリングによって標的配列を含むDNA断片を製造した。反応条件:予備変性95℃、5min(分);アニーリング30~50℃、1min。アニーリング系を以下の表1に示す。
【0050】
1.1.3 線形ベクターの製造
ベクターの線形化にはインバースPCRによる増幅方法が使用された。
【0051】
1.1.4 組換え反応
組換え系を以下の表2に示す。使用されるリコンビナーゼは全て
シリーズの酵素であり、組換え条件は37℃、30minとした。
【0052】
1.1.5 プラスミドの形質転換
反応液10μLを、DH5α化学的形質転換コンピテント細胞100mLに加え、軽く均一に混ぜて20min氷浴処理し、42℃で45~90s(秒)熱ショックした直後、2~3min氷浴処理し、SOC 900μLを加え、37℃で1h蘇生させた。8000rpmで2min遠心分離して、一部の上澄みを捨て、約200μLを残して菌体を再懸濁したものを100mg/Lアンピシリン含有平板に塗布し、平板を逆さにし、37℃で一晩培養した。平板に単一コロニーが成長した後、コロニーPCRにより同定し、陽性組換え体を選択した。
【0053】
1.1.6 クローンの同定
PCR陽性コロニーを100mg/Lアンピシリン含有LB培地に播種し、一晩培養した後、菌を保存し、プラスミドを抽出して、酵素切断し同定した。
【0054】
1.2 組換えDNA断片の製造
ノックアウト用の組換え断片はノックアウトすべき遺伝子の上流・下流相同アームからなり(上流相同アーム-下流相同アーム)、組み込むための組換え断片は、組み込む部位の上流・下流相同アーム及び組み込む対象の遺伝子断片からなる(上流相同アーム-目的遺伝子-下流相同アーム)。プライマー設計ソフトウェアprimer5を利用して、ノックアウト対象の遺伝子又は組み込む対象の部位の上流・下流配列をテンプレートとして、上流・下流相同性アームプライマー(増幅長さ約400~500bp)を設計し、組み込まれる遺伝子をテンプレートとして、組み込まれる遺伝子の増幅プライマーを設計した。PCR方法によって上流・下流相同アーム及び目的遺伝子断片をそれぞれ増幅し、次にオーバーラップPCRにより組換え断片を製造した。PCR系及び方法を以下の表3に示す。
オーバーラップPCR系を以下の表4に示す。
PCR反応条件(タカラバイオ社製PrimeSTAR HS酵素):予備変性(95℃)5min;次に30回サイクル:変性(98℃)10s、アニーリング((Tm-3/5)℃)15s、72℃伸長;72℃で10minさらに伸長;保持(4℃)。
【0055】
1.3 プラスミド及び組換えDNA断片の形質転換
1.3.1 pREDCas9の形質転換
エレクトロポレーション方法によってpREDCas9プラスミドをW3110のエレクトロコンピテントセルにエレクトロポレーションし、菌体を蘇生させて培養してからスペクチノマイシン含有LB平板に塗布し、32℃で一晩培養した。耐性平板上で単一コロニーを成長させ、同定プライマーを用いてコロニーPCRを行い、陽性組換え体をスクリーニングした。
【0056】
1.3.2 pREDCas9含有目的菌株のエレクトロコンピテントセルの製造
32℃でOD600=0.1~0.2まで培養すると、最終濃度0.1mMのIPTGを添加し、さらにOD600=0.6~0.7まで培養したときにコンピテントセルの製造を行った。IPTGの添加は、pREDCas9プラスミド上のリコンビナーゼの誘導発現のためである。コンピテントセル製造に必要な培地及び製造過程について一般的な標準的な操作を参照した。
【0057】
1.3.3 pGRB及び組換えDNA断片の形質転換
pGRB及び組換えDNA断片をpREDCas9含有エレクトロコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後に蘇生させて培養した菌体を、アンピシリンとスペクチノマイシンを含むLB平板に塗布し、32℃で一晩培養した。上流相同アーム上流プライマー及び下流相同アームの下流プライマー、又は専門に設計された同定プライマーを用いて、コロニーPCR検証を行い、陽性組換え体をスクリーニングして保存した。
【0058】
1.4 プラスミドの除去
1.4.1 pGRBの除去
陽性組換え体を0.2%アラビノース含有LB培地に入れて一晩培養し、適切に希釈してスペクチノマイシン耐性LB平板に塗布し、32℃で一晩培養した。それぞれ単一コロニーをアンピシリン及びスペクチノマイシン耐性LB平板に移し、アンピシリン平板では成長せず、スペクチノマイシン耐性平板では成長した単一コロニーを選択して保存した。
【0059】
1.4.2 pREDCas9プラスミドの除去
陽性組換え体を耐性無しLB液体培地に移し、42℃で一晩培養し、適切に希釈して耐性無しLB平板に塗布し、37℃で一晩培養した。スペクチノマイシン耐性及び耐性無しLB平板を比較し、スペクチノマイシン耐性平板では成長せず、耐性無し平板で成長した単一コロニーを選択して菌体を保存した。
【0060】
2.菌株構築に使用されるプライマーを表5に示す。
表5 菌株構築に係るプライマー:
【0061】
3 菌株構築の具体的な過程
3.1 speA、adiA及びastAの3つの遺伝子のノックアウト
3.1.1 speA遺伝子のノックアウト
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのspeA遺伝子(NCBI-GeneID:12933352)の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-speA-S、UP-speA-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-speA-S、DN-speA-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、speA遺伝子ノックアウト断片(上流相同アーム-下流相同アーム)を得た。プライマーgRNA-speA-S及びgRNA-speA-Aをアニーリングして得られたDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、組換えプラスミドpGRB-speAを構築した。E.coli W3110のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-speA及びspeAノックアウト断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG1を得た。speAノックアウト断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図2に示す。ここで、上流相同アームの長さは397bp、下流相同アームの長さは468bp、オーバーラップ断片の総長さは865bpとし、PCR検証の際に、陽性菌のPCR増幅断片長さは2752bp、元の菌のPCR増幅断片長さは865bpとした。
【0062】
3.1.2 adiA遺伝子のノックアウト
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのadiA遺伝子(NCBI-GeneID:12934085) の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-adiA-S、UP-adiA-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-adiA-S、DN-adiA-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、adiA遺伝子ノックアウト断片(上流相同アーム-下流相同アーム)を得た。プライマーgRNA-adiA-S及びgRNA-adiA-Aをアニーリングして得られたDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-adiAを構築した。E.coli W3110 ARG1のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-adiA及びadiAノックアウト断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG2を得た。adiAノックアウト断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図3に示す。ここで、上流相同アームの長さは806bp、下流相同アームの長さは402bp、オーバーラップ断片の総長さは1208bpとし、PCR検証の際に、陽性菌のPCR増幅断片長さは2124bp、元の菌のPCR増幅断片長さは1208bpとした。
【0063】
3.1.3 astA遺伝子のノックアウト
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのadiA遺伝子(NCBI-GeneID:12933241)の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-astA-S、UP-astA-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-astA-S、DN-astA-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、astA遺伝子ノックアウト断片(上流相同アーム-下流相同アーム)を得た。プライマーgRNA-astA-S及びgRNA-astA-Aをアニーリングして得られたDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-astAを構築した。E.coli W3110 ARG2のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-astA及びastAノックアウト断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG3を得た。astAノックアウト断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図4に示す。ここで、上流相同アームの長さは443bp、下流相同アームの長さは523bp、オーバーラップ断片の総長さは965bpとし、PCR検証の際に、陽性菌のPCR増幅断片長さは1869bp、元の菌のPCR増幅断片長さは965bpとした。
【0064】
3.2 大腸菌中のargE遺伝子のノックアウト、及び当該部位へのコリネバクテリウム・グルタミカム由来のargJ遺伝子の組み込み
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのargE遺伝子(NCBI-GeneID:12930574)の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-argE-S、UP-argE-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-argE-S、DN-argE-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅し、コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13032)ゲノムをテンプレートとして、argJ遺伝子配列(NCBI-GeneID:1019371)に従ってプライマー(argJ-S、argJ-A)を設計し、argJ断片をPCR増幅し、プロモータPtrcを上流相同アームの下流プライマー及びargJ遺伝子の上流プライマーに設計した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、argE遺伝子をノックアウトしたとともにargJ遺伝子を組み込んだ組み込み断片(上流相同アーム-Ptrc-argJ-下流相同アーム)を得て、プライマーgRNA-argE-S及びgRNA-argE-Aをアニーリングして得られたDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-argEを構築した。E.coli W3110 ARG3のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-argE及びargE遺伝子をノックアウトしたとともにargJ遺伝子を組み込んだ組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG4を得た。Ptrc-argJ断片を組み込む過程において、組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図5に示す。ここで、上流相同アームの長さは510bp、argJ遺伝子断片の長さは1206bp、下流相同アームの長さは668bp、オーバーラップ断片の長さは2458bpとし、組換え体のPCR検証の際に、陽性組換え体から増幅された断片の長さは2458bp、元の菌から増幅された断片の長さは2154bpとした。
【0065】
3.2 大腸菌中のyghX遺伝子部位へのコリネバクテリウム・グルタミカムのアルギニン合成オペロンの組み込み
コリネバクテリウム・グルタミカム中のアルギニン合成オペロン遺伝子(argC、argJ、argB、argD、argF、argG、argHの7つの遺伝子を含む)を大腸菌のyjhX遺伝子部位に順次組み込み、プロモータPtrcによってこの外因性オペロンの転写発現をスタートし、菌株E.coli W3110 ARG7を構築した。
コリネバクテリウム・グルタミカム中のアルギニン合成オペロン遺伝子の組み込みは合計3段階に分けられた。
【0066】
3.2.1 Ptrc-argC-argJの組み込み
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのyghX遺伝子の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-yghX-S、UP-yghX-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-yghX-S1、DN-yghX-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅し、コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC 13032)ゲノムをテンプレートとして、argC-argJ遺伝子配列(NCBI-GeneID:1019370、1019371)に従ってプライマー(argC-argJ-S、argC-argJ-A)を設計し、argC-argJ断片をPCR増幅し、プロモータPtrcを上流相同アームの下流プライマー及びargC-argJ遺伝子の上流プライマーに設計した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、argC-argJ遺伝子の組み込み断片(上流相同アーム-Ptrc-argC-argJ-下流相同アーム)を得て、プライマーgRNA-yghX-S及びgRNA-yghX-Aをアニーリングして得られた標的配列を含むDNA配列を、プラスミドpGRBに連結し、pGRB-yghXを構築した。E.coli W3110 ARG4のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-yghX及びargC-argJ遺伝子の組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG5を得た。Ptrc-argC-argJ断片を組み込む過程において、組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図6に示す。ここで、上流相同アームの長さは602bp、argC-argJ遺伝子断片の長さは2324bp、下流相同アームの長さは561bp、オーバーラップ断片の長さは3650bp、同定プライマーから増幅された断片の長さは1068bpとし、元の菌にはバンドがなかった。
【0067】
3.2.2 argB-argD-argFの組み込み
コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13032)ゲノムをテンプレートとして、argB-argD-argF(NCBI-GeneID:1019372、1019373、1019374)及びその上流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-argB-argD-argF-S、UP-argB-argD-argF-A)を設計し、上流相同アーム断片をPCR増幅し、E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、yghX遺伝子の下流配列に従って下流相同性アームプライマー(DN-yghX-S2、DN-yghX-A)を設計し、その下流相同アーム断片をPCR増幅した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、argB-argD-argFの組み込み断片(argBの上流断片-argB-argD-argF-下流相同アーム)を得た。プライマーgRNA-argBDF-S及びgRNA-argBDF-Aをアニーリングして得られた標的配列を含むDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-argBDFを構築した。E.coli W3110 ARG5のコンピテント細胞を製造sヴぃ、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-argBDF及びargB-argD-argFの組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG6を得た。argB-argD-argF断片を組み込む過程において、組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図7に示す。ここで、argBの上流断片-argB-argD-argFの総長さは3575bp、下流相同アームの長さは561bp、オーバーラップ断片の長さは4219bp、同定プライマーから増幅された断片の長さは1034bpとし、元の菌にはバンドがなかった。
【0068】
3.2.3 argG-argHの組み込み
コリネバクテリウム・グルタミカム(ATCC13032)ゲノムをテンプレートとして、argG-argH(NCBI-GeneID:1019376、1019377)及びその上流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-argG-argH-S、UP-argG-argH-A)及びargG-argH断片プライマー(argG-argH-S、argG-argH-A)を設計し、その上流相同アーム断片及びargG-argH断片をPCR増幅し、E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのyghX遺伝子の下流配列に従って下流相同性アームプライマー(DN-yghX-S3、DN-yghX-A)を設計し、その下流相同アーム断片をPCR増幅した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、argG-argHの組み込み断片(argGの上流断片-argG-argH-下流相同アーム)を得た。プライマーgRNA-argG-argH-S及びgRNA-argG-argH-Aをアニーリングして得られた標的配列を含むDNA配列をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-argG-argHを構築した。E.coli W3110 ARG6のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-argG-argH及びargG-argHの組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG7を得た。argG-argHを組み込む過程において、組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図8に示す。ここで、argGの上流断片の総長さは405bp、argG-argH断片の総長さは2826bp、下流相同アームの長さは561bp、オーバーラップ断片の総長さは3875bp、同定プライマーから増幅された断片の長さは1521bpとし、元の菌にはバンドがなかった。
【0069】
3.3 枯草菌由来のpyrAA-pyrAB遺伝子の大腸菌のyjiT遺伝子部位への組み込み
B.subtilis A260は枯草菌168菌株を出発菌株として、ARTP突然変異誘発とハイスループットスクリーニングを組み合わせた方法によって育種したものである(該菌株は2015年12月2日に中国普通微生物菌種保蔵管理センター(China General Microbiological Culture Collection Center, CGMCC)(アドレス:北京市朝陽区北辰西路l号院3号、中国科学院微生物研究所、郵便番号:100101、菌種寄託番号:CGMCC No.11775)に寄託された)。該菌株は、ウリジル酸及びアルギニンによるカルバモイルリン酸シンターゼのフィードバック調整作用を解除し、そのピリミジンヌクレオシドオペロン遺伝子をシーケンシングしたところ、そのカルバモイルリン酸大サブユニット(pyrABコード)の第949位のグルタミン酸が欠失していることを見出した(出願公開番号CN105671007A)。B.subtilis A260においてアルギニンフィードバックにより阻害されていないカルバモイルリン酸シンターゼ(pyrAA、pyrAB)を大腸菌に組み込むことで、アルギニン合成中の前駆物質であるカルバモイルリン酸の供給量を向上させた。
枯草菌中pyrAA-pyrAB遺伝子は合計4292bpであり、2つの部分に分けて大腸菌に組み込まれ、第1部分の長さは2651bp、第2部分の長さは1641bpである。
【0070】
3.3.1 第1部分Ptrc-pyrAA-pyrABの組み込み
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのyjiT遺伝子の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-yjiT-S、UP-yjiT-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-yjiT-S、DN-yjiT-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅し、B.subtilis A260(CGMCC No.11775)ゲノムをテンプレートとして、遺伝子pyrAA(NCBI-GeneID:937368)、pyrAB(NCBI-GeneID:936608)に従ってプライマー(1-pyrAA-pyrAB-S、1-pyrAA-pyrAB-A)を設計し、第1部分pyrAA-pyrAB遺伝子断片を増幅した。プロモータPtrcは上流相同アームの下流プライマー及びpyrAA-pyrAB遺伝子の上流プライマーに設計されている。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、第1部分pyrAA-pyrAB遺伝子の組み込み断片(上流相同アーム-Ptrc-pyrAA-pyrAB-下流相同アーム)を得て、プライマーgRNA-yjiT-S及びgRNA-yjiT-Aをアニーリングして得られた標的配列を含むDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-yjiTを構築した。E.coli W3110 ARG7のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-yjiT及び第1部分pyrAA-pyrAB遺伝子の組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションしたところ、菌株E.coli W3110 ARG8を得た。第1部分Ptrc-pyrAA-pyrAB組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図9に示す。ここで、上流相同アームの長さは316bp、第1部分pyrAA-pyrAB遺伝子断片の長さは2651bp、下流相同アームの長さは667bp、組み込み断片の総長さは3634bp、同定プライマーから増幅された断片の長さは1100bpであり、元の菌にはバンドがなかった。
【0071】
3.3.2 第2部分pyrAA-pyrABの組み込み
B.subtilis A260(CGMCC No.11775)ゲノムをテンプレートとして、第2部分pyrAA-pyrAB遺伝子配列及びその上流配列に従って上流相同性アームプライマー(2-pyrAA-pyrAB-S、2-pyrAA-pyrAB-A)を設計し、その上流相同アーム断片(第1部分pyrAA-pyrAB下流配列266bpと組み込まれる第2部分pyrAA-pyrAB配列1641bpを合計1907bp含む)をPCR増幅し、E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのyjiT遺伝子の下流配列に従って下流相同性アームプライマー(DN-yjiT-S1、DN-yjiT-A)を設計し、その下流相同アーム断片をPCR増幅した。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、第2部分pyrAA-pyrABの組み込み断片(第2部分pyrAA-pyrAB-下流相同アーム)を得た。プライマーgRNA-pyrAA-pyrAB-S及びgRNA-pyrAA-pyrAB-Aをアニーリングして得られた標的配列を含むDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-pyrAA-pyrABを構築した。E.coli W3110 ARG8のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-pyrAA-pyrAB及び第2部分pyrAA-pyrAB遺伝子の組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG9を得た。第2部分pyrAA-pyrABを組み込む過程において、組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図10に示す。ここで、第2部分pyrAA-pyrABの上流断片の総長さは1907bp、下流相同アームの長さは667bp、オーバーラップ断片の総長さは2574bp、同定プライマーから増幅された断片長さは1135bpとし、元の菌にはバンドがなかった。
【0072】
3.4 コリネバクテリウム・エフィシエンス中のlysE遺伝子の大腸菌ilvG遺伝子部位への組み込み
E.coli W3110(ATCC27325)ゲノムをテンプレートとして、そのilvG遺伝子の上流・下流配列に従って上流相同性アームプライマー(UP-ilvG-S、UP-ilvG-A)及び下流相同性アームプライマー(DN-ilvG-S、DN-ilvG-A)を設計し、その上流・下流相同アーム断片をPCR増幅し、lysE遺伝子(NCBI Reference Sequence:WP_143758438.1)配列(SEQ ID NO:68)に従ってプライマー(lysE-S、lysE-A)を設計し、lysE遺伝子断片を増幅した。プロモータPtrcは上流相同アームの下流プライマー及びlysE遺伝子の上流プライマーに設計されている。上記の断片をオーバーラップPCR方法で融合して、lysE遺伝子の組み込み断片(上流相同アーム-Ptrc-lysE-下流相同アーム)を得て、ilvGプライマーgRNA-ilvG-S及びgRNA-ilvG-Aをアニーリングして得られた標的配列を含むDNA断片をプラスミドpGRBに連結し、pGRB-ilvGを構築した。E.coli W3110 ARG9のコンピテント細胞を製造し、1.3及び1.4に記載の方法に従って操作し、プラスミドpGRB-ilvG及びlysE遺伝子の組み込み断片をコンピテント細胞に同時にエレクトロポレーションし、菌株E.coli W3110 ARG10を得た。Ptrc-lysE組み込み断片の構築及び陽性菌株のPCR検証による電気泳動図を図11に示す。ここで、上流相同アームの長さは412bp、Ptrc-lysE遺伝子断片の長さは806bp、下流相同アームの長さは481bp、組み込み断片の総長さは1699bpとし、PCR検証の際に、陽性菌のPCR増幅断片長さは1699bp、元の菌のPCR増幅断片長さは1426bpとした。
【0073】
実施例2
遺伝子組換え菌E.coli W3110 ARG10の発酵によるアルギニン生産方法は以下のとおりである。
(1)振とうフラスコ発酵:
斜面培養:-80℃で保蔵した菌種を活性化斜面にストリーク播種し、37℃で12h培養し、1回継代した。
振とうフラスコシード培養:斜面シードを1かき取り、30mLシード培地を容れた500mL三角フラスコに播種し、9層ガーゼで開口をシールし、37℃、200rpmで7~10h培養した。
振とうフラスコ発酵培養:シード培養液に対して15体積%の播種量で発酵培地を容れた500mL三角フラスコに播種し(最終体積30mL)、9層ガーゼで開口をシールし、37℃、200r/minで振とう培養し、発酵中にアンモニア水を補充することでpHを7.0~7.2に維持し、60%(m/v)グルコース溶液を補充して発酵を持続し、発酵周期を26~30hとした。
斜面培地の組成:グルコース1g/L、ペプトン10g/L、牛肉ペースト10g/L、酵母粉5g/L、NaCl 2.5g/L、寒天20g/L、水:残量、pH 7.0~7.2
シード培地の組成:グルコース25g/L、酵母抽出物5g/L、ペプトン3g/L、KHPO1g/L、 MgSO・7HO 1g/L、FeSO・7HO 10mg/L、MnSO・7HO 10mg/L、VB1、VB3、VB5、VB12、V:1mg/L、水:残量、pH 7.0~7.2。
発酵培地の組成:グルコース25g/L、酵母抽出物3g/L、ペプトン2g/L、KHPO3g/L、MgSO・7HO 2g/L、FeSO・7HO 10mg/L、MnSO・7HO 10mg/L、VB1、VB3、VB5、VB12、V:1mg/L、水:残量、pH 7.0~7.2。
振とうフラスコ発酵を26~30h行ったところ、E.coli W3110 ARG10菌株発酵液中のL-アルギニンの産量は30~32g/Lであった。
【0074】
(2)発酵槽発酵:
斜面活化培養:-80℃の冷蔵庫にある細菌保存チューブから菌種を1かき取り、活性化斜面に均一に塗布し、37℃で12~16h培養し、ナスフラスコに移して、さらに12~16h培養した。
シード培養:適量の無菌水をナスフラスコに取り、菌懸濁液をシード培地に播種し、pHを7.0程度に安定化し、温度を37℃、溶存酸素を25~35%に維持し、細胞の乾燥重量が5~6g/Lに達するまで培養した。
発酵培養:15%播種量で新鮮な発酵培地に播種し、発酵を開始させ、発酵過程においてpHを約7.0に安定化させ、温度を35℃、溶存酸素を25~35%に維持し、培地中のグルコースが全て消費されると、80%(m/v)のグルコース溶液を流加し、発酵培地中のグルコース濃度を0.1~5g/Lに維持した。
斜面培地、シード培地及び発酵培地は振とうフラスコ発酵と同様であった。
5L発酵槽にて50~55h培養したところ、L-アルギニンの蓄積量は130~135g/L、転化率は0.48gアルギニン/gグルコース、生産性は2.5gアルギニン/L/hに達する。発酵過程の曲線を図12に示す。
【0075】
以上は、本発明の実施形態を説明したものであるが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の主旨や原則を逸脱することなく行われる任意の修正、同等置換や改良などは、本発明の特許範囲に含まれるものとする。
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2023504236000001.app
【国際調査報告】