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特表2023-504287三分岐N-アセチルガラクトサミン修飾ヒドロキシルポリアミドアミンデンドリマーおよびその使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-02
(54)【発明の名称】三分岐N-アセチルガラクトサミン修飾ヒドロキシルポリアミドアミンデンドリマーおよびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/60 20170101AFI20230126BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/4184 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/575 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20230126BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
A61K47/60
A61K45/00
A61K31/4184
A61K31/575
A61K31/426
A61K31/355
A61P1/16
A61P31/00
A61P3/10
A61P9/12
A61P3/04
A61P9/04
A61P13/12
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534313
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 US2020063342
(87)【国際公開番号】W WO2021113657
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】62/943,705
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/067,155
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/086,109
(32)【優先日】2020-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/108,186
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522223121
【氏名又は名称】アシュバッタ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】クリーランド, ジェフリー
(72)【発明者】
【氏名】シャルマ, リシ
(72)【発明者】
【氏名】ソン, ミンハオ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA95
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC16
4C076EE59
4C084AA17
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA16
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA13
4C084ZA36
4C084ZA42
4C084ZA70
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZB32
4C084ZC35
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086BC39
4C086BC82
4C086DA11
4C086MA01
4C086MA16
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA13
4C086ZA36
4C086ZA42
4C086ZA70
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZB32
4C086ZC35
4C086ZC75
(57)【要約】
炭水化物の三分岐N-アセチルガラクトサミン(三分岐β-GalNAc)にコンジュゲートしている、またはそれと複合体を形成しているデンドリマーが、肝細胞内に選択的に蓄積し、治療剤、予防剤、または診断剤を肝臓に選択的に送達することが確立されている。必要な対象における肝傷害、肝疾患、または肝障害を防止する、処置する、または診断するために、三分岐β-GalNAcおよび1つまたは複数の作用剤と複合体を形成しているデンドリマーの組成物、ならびにその使用方法が開発されている。組成物は、減少した毒性で、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および肝臓がんの1つまたは複数の症状を処置および/または改善するために特に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要な対象における肝疾患および/または肝障害の1つまたは複数の症状を処置または予防する方法であって、
三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に共有結合によりコンジュゲートされ、かつ1つまたは複数の治療剤または予防剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはその中にカプセル化されているデンドリマーを含む組成物を対象に投与するステップを含み、
前記組成物が、肝疾患および/または肝障害の1つまたは複数の症状を処置する、緩和する、または予防するために有効な量で投与される、方法。
【請求項2】
前記デンドリマーが、エステル、エーテル、またはアミド結合を介して、必要に応じて1つまたは複数のリンカーによって三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に共有結合によりコンジュゲートされている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記デンドリマーが、ヒドロキシル末端デンドリマーである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記デンドリマーが、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、または第8世代ポリ(アミドアミン)デンドリマーである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記治療剤が、アンジオテンシンII受容体遮断剤、ファルネソイドX受容体アゴニスト、デス受容体5アゴニスト、ナトリウム-グルコース共輸送体2型阻害剤、リゾホスファチジン酸1受容体アンタゴニスト、エンドセリン-A受容体アンタゴニスト、PPARδアゴニスト、AT1受容体アンタゴニスト、CCR5/CCR2アンタゴニスト、抗線維化剤、抗炎症剤、抗酸化剤、STINGアゴニスト、CSF1R阻害剤、PARP阻害剤、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、MEK阻害剤、グルタミナーゼ阻害剤、TIE IIアンタゴニスト、CXCR2阻害剤、CD73阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、TLR4アゴニスト、TLR7アゴニスト、SHP2阻害剤、化学療法薬、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の作用剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記作用剤が、必要に応じてリンカーまたはスペーサー部分を介して、前記デンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記リンカーまたはスペーサー部分が、エーテル、エステル、およびアミド連結からなる群から選択される連結を介して前記デンドリマーに結合している、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記リンカーまたはスペーサー部分が、アミドまたはエーテル連結を介して前記デンドリマーに結合している、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数の肝疾患および/または肝障害が、非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、薬物誘発性肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、肝細胞癌、またはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記アンジオテンシンII受容体遮断剤が、テルミサルタン、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグであり、必要に応じてテルミサルタン-アミド誘導体またはテルミサルタン-エステル誘導体である、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記FXRアゴニストが、ケノデオキシコール酸、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグであり、必要に応じてケノデオキシコール酸-アミド誘導体またはケノデオキシコール酸-エステル誘導体である、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
1つまたは複数のSGLT2阻害剤が、フロリジン、T-1095、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エルツグリフロジン、およびレモグリフロジンエタボネート、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグからなる群から選択される、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記PPARδアゴニストが、GW0742、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグであり、必要に応じてGW0742-アミド誘導体またはGW0742-エステル誘導体である、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗酸化剤が、ビタミンE、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグである、請求項5~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、前記対象におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、トリグリセリド、ガンマ-グルタミルトランスフェラーゼ、総コレステロール、低密度リポタンパク質、絶食時血糖の1つまたは複数、またはそれらの組合せの血清レベルを低減させるために有効な量で投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、前記対象における脂肪症、炎症、風船様腫大、線維症、硬変の1つまたは複数、またはそれらの組合せを低減させるために有効な量で投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
製剤が、前記対象の肝臓における小葉炎症を低減させるために有効な量で投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、前記対象の肝臓における1つまたは複数の炎症促進性細胞、ケモカイン、および/またはサイトカインの量または存在を低減させるために有効な量で投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、前記対象における1つまたは複数の炎症促進性サイトカインを低減させるために有効な量で投与されるか、または前記炎症促進性サイトカインが、TNF-α、IFN-γ、IL-6、IL-1β、IL-23、およびIL-17からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記治療剤が、STINGアゴニスト、CSF1R阻害剤、PARP阻害剤、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、MEK阻害剤、グルタミナーゼ阻害剤、TIE IIアンタゴニスト、CXCR2阻害剤、CD73阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、TLR4アゴニスト、TLR7アゴニスト、SHP2阻害剤、細胞傷害剤、化学療法薬、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の作用剤である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記STINGアゴニストが、環状ジヌクレオチドGMP-AMPもしくはDMXAAであり、
前記CSF1R阻害剤が、PLX3397、PLX108-01、ARRY-382、PLX7486、BLZ945、JNJ-40346527、およびGW2580からなる群から選択され、
前記PARP阻害剤が、オラパリブ、ベリパリブ、ニラパリブ、およびルカパリブからなる群から選択され、
前記VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が、スニチニブもしくはその誘導体もしくはアナログ、ソラフェニブ、パゾパニブ、バンデタニブ、アキシチニブ、セディラニブ、バタラニブ、ダサチニブ、ニンテダニブ、およびモテサニブからなる群から選択され、
前記MEK阻害剤が、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、セルメチニブ、PD325901、PD035901、PD032901、およびTAK-733からなる群から選択され、
前記グルタミナーゼ阻害剤が、ビス-2-(5-フェニルアセトイミド-1,2,4-チアジアゾル-2-イル)エチルスルフィド(BPTES)および6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)、アザセリン、アシビシン、およびCB-839からなる群から選択され、
前記CXCR2阻害剤が、ナバリキシン、SB225002、もしくはSB332235であり、
前記CD73阻害剤が、APCP、ケルセチン、もしくはテノホビル、もしくはその誘導体、アナログであり、
前記アルギナーゼ阻害剤が、2-(S)-アミノ-6-ボロノヘキサン酸の誘導体もしくはアナログであり、
前記PI3K阻害剤が、アルペリシブ、セラベリシブ、ピララリシブ、WX-037、ダクトリシブ、プレキサセルチブ、ボクスタリシブ、PX-866、ZSTK474、ブパルリシブ、ピクチリシブ、およびコパンリシブからなる群から選択され、
免疫調節剤が、SHP2阻害剤であり、または
前記細胞傷害剤が、アウリスタチンEもしくはメルタンシンである、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記化学療法剤が、アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロイコボリン、ダウノルビシン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ボリノスタット、タキソール、トリコスタチンAおよびその誘導体、トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ならびにベバシズマブからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物が、前記対象における腫瘍サイズを低減するために有効な、および/または腫瘍特異的細胞傷害性T細胞応答を増強するために有効な量で投与される、請求項20~22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、静脈内、皮下、または筋肉内投与のために薬学的に許容される製剤として製剤化される、請求項1~23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、腸投与のための薬学的に許容される製剤として製剤化される、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が静脈内、皮下、または筋肉内経路を介して投与される、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記組成物が腸投与を介して投与される、請求項1~23または25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が、1つまたは複数の追加の療法または手順による前記対象の処置の前、処置と共に、処置の後に、または処置と交互に前記対象に投与される、請求項1~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記1つまたは複数の追加の手順が、感染症、敗血症、糖尿病合併症、高血圧症、肥満、高血圧、心不全、腎疾患、およびがんを含む前記対象における肝傷害の関連疾患または状態の1つまたは複数の症状を防止または処置するために1つまたは複数の治療剤、予防剤、および/または診断剤を投与するステップを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の方法において使用するための医薬組成物。
【請求項31】
1つまたは複数の三分岐GalNAc分子をその上に有するデンドリマーを作製する方法であって、
(a)ハイパーモノマーABを調製するステップであって、
3つの反応基でハイパーモノマーのプロパルギル化を実施することを含むステップ;
(b)1つのアジド基をN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)分子上に、好ましくはスペーサーを介してコンジュゲートして、GalNAc-アジドビルディングブロックを産生するステップ;
(c)ステップ(a)からの前記ハイパーモノマーABおよびステップ(b)からの前記GalNAc-アジドビルディングブロックを混合し、銅(I)触媒アルキンアジドクリックケミストリーを実施して、三分岐GalNAcを生じるステップ;ならびに
(d)前記三分岐GalNAcを、デンドリマーの反応性末端基にコンジュゲートするステップ
を含む方法。
【請求項32】
ステップ(d)の前に、好ましくはスペーサーを介して、GalNAcを有しない前記ハイパーモノマーABの1つの反応基上に1つのアジド基を導入するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記デンドリマーの1つまたは複数の末端官能基をヘキシン酸と反応させることによって、末端アルキンを前記デンドリマー上に導入するステップをさらに含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
三分岐GalNAcをデンドリマーの1つの反応基上にコンジュゲートするステップ(d)が、銅(I)触媒アルキンアジドクリックケミストリーを介して達成される、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記デンドリマーが、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代ヒドロキシル末端ポリアミドアミンデンドリマーである、請求項31~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記デンドリマーがさらに、1つまたは複数の治療剤、予防剤、および/または診断剤と複合体を形成している、および/またはそれにコンジュゲートされている、請求項31~35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、その全体が参照により組み込まれる、2019年12月4日に出願された米国仮出願第62/943,705号、2020年8月18日に出願された米国仮出願第63/067,155号、2020年10月1日に出願された米国仮出願第63/068,109号、および2020年10月30日に出願された米国仮出願第63/108,186号に基づく利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は全般的に、薬物送達、特に、肝臓の部位または領域を選択的に標的化する、デンドリマーに結合した薬物を送達する方法の分野にある。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
肝疾患、例えば肝感染症、肝硬変、薬物誘発性肝不全、および肝細胞癌は、常に世界全体で有意な健康上の課題となっている。肝疾患の有病率は、世界全体で増加しつつあり、世界全体で推定8億4400万人が慢性肝疾患に罹患しており、毎年およそ200万人が、肝障害のために死亡する。
【0004】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)としても公知であり、現在、最も一般的な肝障害であり、2030年には肝移植の最多の適応となると予想される。NAFLD/NASHは、肝硬変(瘢痕化)または肝臓がんを引き起こすことがあり、有意な罹患率および死亡率に関連している。NAFLDの世界全体での推定有病率は、一般的な集団で6.3%~33%であり、有病率の中央値は20%である。NAFLDの有病率の中央値は、先進国では一般的に高い。
【0005】
これらの驚くほどの数にもかかわらず、多くの肝疾患に関する現在の処置の選択肢は限定的で、進行例および重度の例を処置するために必要な有効性を欠如している。NAFLD/NASHの疫学、自然経過、および発病の解明にはかなりの進歩が認められているが、有効な治療は依然としてなく、患者の管理のためのエビデンスに基づく臨床ガイドラインの選択肢は限定的である。NAFLDを有する患者の薬理学的処置はなおも発展途上であり、特に疾患の経過を変更するために明らかに有効であることが証明されている単剤治療はない。
【0006】
肝細胞は、最も豊富な肝細胞型であり、肝生物量の>80%を構成し、ほとんどの肝障害、例えば肝細胞癌、薬物誘発性肝不全、肝炎、および非アルコール性脂肪性肝炎に主に関係している。疾患を有する肝細胞に薬物を有効に送達することは課題である。注射した場合、ほとんどの薬物は肝臓に蓄積するが、肝細胞ではなくてマクロファージおよびクッパー細胞を通して除去される傾向があり、そのため、肝細胞を選択的かつ有効に標的化することは難しい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的は、肝疾患および/または肝障害の1つまたは複数の症状を選択的に低減または防止するための組成物および方法を提供することである。
【0008】
本発明の目的はまた、肝疾患および/または肝障害の発症および進行に関連する病的プロセスを低減または防止する組成物、ならびにそれらを作製および使用する方法を提供することでもある。
【0009】
本発明のなお別の目的は、それを必要とする部位で肝細胞に活性剤を選択的に標的化するための組成物および方法を提供することである。
【0010】
発明の要旨
三分岐(triantennary)N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされているデンドリマーは、in vivoで活性剤を肝細胞に選択的に送達することが確立されている。一部の実施形態では、デンドリマーは、エステル、エーテル、またはアミド結合を介して、必要に応じて1つまたは複数のリンカーによって三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)に共有結合によりコンジュゲートされている。
【0011】
必要な対象における肝疾患および/または肝障害の1つまたは複数の症状を処置または予防するための組成物および方法を提供する。典型的に、対象における肝疾患を処置するための方法は、1つまたは複数の治療剤または予防剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはその中にカプセル化されている三分岐GalNAc修飾デンドリマーを含む製剤を対象に投与することを含む。製剤は典型的に、レシピエントにおける肝疾患および/または肝障害の1つまたは複数の症状を処置する、緩和する、または予防するために有効な量で投与される。処置することができる例示的な肝疾患および/または肝障害としては、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、薬物誘発性肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、肝細胞癌、またはそれらの組合せが挙げられる。一部の実施形態では、デンドリマーはヒドロキシル末端デンドリマーである。一部の実施形態では、デンドリマーは、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、または第8世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーである。
【0012】
本方法を使用して、1つまたは複数の活性剤、例えば治療剤、予防剤、および/または診断剤を、レシピエントの肝細胞に選択的に送達する。送達することができる例示的な治療剤としては、アンジオテンシンII受容体遮断剤、ファルネソイドX受容体アゴニスト、デス受容体5アゴニスト、ナトリウム-グルコース共輸送体2型(SGLT2)阻害剤、リゾホスファチジン酸(LPA)1受容体アンタゴニスト、エンドセリン-A受容体アンタゴニスト、PPARδアゴニスト、AT1受容体アンタゴニスト、CCR5/CCR2アンタゴニスト、抗線維化剤、抗炎症剤、および/または抗酸化剤が挙げられる。一部の実施形態では、アンジオテンシンII受容体遮断剤は、テルミサルタン、またはテルミサルタン-アミド誘導体、またはテルミサルタン-エステル誘導体である。一部の実施形態では、FXRアゴニストは、ケノデオキシコール酸、またはケノデオキシコール酸-アミド誘導体、またはケノデオキシコール酸-エステル誘導体である。送達することができる例示的なSGLT2阻害剤としては、フロリジン、T-1095、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エルツグリフロジン、レモグリフロジンエタボネート、またはその誘導体が挙げられる。一部の実施形態では、PPARδアゴニストは、GW0742、GW0742-アミド誘導体、およびGW0742-エステル誘導体である。一部の実施形態では、抗酸化剤は、ビタミンEまたはその誘導体である。
【0013】
典型的に、方法は、対象において所望の生理的応答を達成するために有効な量で活性剤を対象に送達する。例えば、一部の実施形態では、方法は、対象におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、トリグリセリド(TG)、ガンマ-グルタミルトランスフェラーゼ(glutamyltrasferase)(GGT)、総コレステロール(TC)、低密度リポタンパク質(LDP)、絶食時血糖の1つまたは複数、またはそれらの組合せの血清レベルを低減させるために有効な量で活性剤を対象に送達する。一部の実施形態では、方法は、対象における脂肪症、炎症、風船様腫大、線維症、硬変の1つまたは複数、またはそれらの組合せを低減させるために有効な量で活性剤を対象に送達する。一部の実施形態では、方法は、肝臓における小葉の炎症を低減させるため;肝臓における1つもしくは複数の炎症促進性細胞、ケモカイン、および/もしくはサイトカインの量もしくは存在を低減させるため;またはTNF-α、IL-6、およびIL-1αを含む1つもしくは複数の炎症促進性サイトカインを低減させるために有効な量で活性剤を対象に送達する。
【0014】
一部の実施形態では、肝細胞に送達される治療剤、予防剤、および/または診断剤は、STINGアゴニスト、CSF1R阻害剤、PARP阻害剤、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、MEK阻害剤、グルタミナーゼ阻害剤、TIE IIアンタゴニスト、CXCR2阻害剤、CD73阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、TLR4アゴニスト、TLR7アゴニスト、SHP2阻害剤、化学療法薬、および細胞傷害剤を含む。一部の実施形態では、STINGアゴニストは、環状ジヌクレオチドGMP-AMPまたはDMXAAである。一部の実施形態では、CSF1R阻害剤は、PLX3397、PLX108-01、ARRY-382、PLX7486、BLZ945、JNJ-40346527、およびGW2580からなる群から選択される。一部の実施形態では、PARP阻害剤は、オラパリブ、ベリパリブ、ニラパリブおよびルカパリブからなる群から選択される。一部の実施形態では、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤は、スニチニブまたはその誘導体もしくはアナログ、ソラフェニブ、パゾパニブ、バンデタニブ、アキシチニブ、セディラニブ、バタラニブ、ダサチニブ、ニンテダニブ、およびモテサニブからなる群から選択される。一部の実施形態では、MEK阻害剤は、トラメチニブ、コビメチニブ、ビニメチニブ、セルメチニブ、PD325901、PD035901、PD032901、およびTAK-733からなる群から選択される。一部の実施形態では、グルタミナーゼ阻害剤は、ビス-2-(5-フェニルアセトイミド-1,2,4-チアジアゾル-2-イル)エチルスルフィド(BPTES)および6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)、アザセリン、アシビシン、およびCB-839からなる群から選択される。一部の実施形態では、CXCR2阻害剤は、ナバリキシン、SB225002、またはSB332235である。一部の実施形態では、CD73阻害剤は、APCP、ケルセチン、またはテノホビル、またはその誘導体、アナログである。一部の実施形態では、アルギナーゼ阻害剤は、2-(S)-アミノ-6-ブロモヘキサン酸(boronohexanoic acid)の誘導体またはアナログである。一部の実施形態では、PI3K阻害剤は、アルペリシブ、セラベリシブ、ピララリシブ、WX-037、ダクトリシブ、プレキサセルチブ、ボクスタリシブ、PX-866、ZSTK474、ブパルリシブ、ピクチリシブ、およびコパンリシブからなる群から選択される。一部の実施形態では、免疫調節剤は、SHP2阻害剤である。一部の実施形態では、細胞傷害剤は、アウリスタチンEまたはメルタンシンである。一部の実施形態では、化学療法剤は、アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン(innotecan)、ロイコボリン、ダウノルビシン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ボリノスタット、タキソール、トリコスタチンAおよびその誘導体、トラスツズマブ、セツキシマブ、リツキシマブ、ならびにベバシズマブからなる群から選択される。好ましい実施形態では、方法は、対象における腫瘍サイズを低減するために有効な、および/または腫瘍特異的細胞傷害性T細胞応答を増強するために有効な量で活性剤を対象に送達する。
【0015】
一部の実施形態では、治療剤、予防剤、および/または診断剤は、必要に応じてリンカーまたはスペーサー部分を介して、エーテル、エステル、およびアミド連結からなる群から選択される連結を介してデンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている。好ましい実施形態では、治療剤、予防剤、および/または診断剤は、必要に応じてリンカーまたはスペーサー部分を介して、アミドまたはエーテル連結を介してデンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている。
【0016】
一部の実施形態では、製剤は、対象に静脈内、皮下、または筋肉内投与するために、または腸投与するために製剤化される。一部の実施形態では、製剤は、1つまたは複数の追加の療法または手順による処置の前に、処置と共に、処置の後に、または処置と交互に投与される。例示的な追加の手順は、肝傷害の関連疾患または状態、例えば感染症、敗血症、糖尿病合併症、高血圧症、肥満、高血圧、心不全、腎疾患、およびがんの1つまたは複数の症状を防止または処置するために、1つまたは複数の治療剤、予防剤、および/または診断剤を投与することを含む。
【0017】
1つまたは複数の治療剤または予防剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはその中にカプセル化されている三分岐GalNAc修飾デンドリマーの医薬製剤もまた記載される。1つまたは複数の治療剤または予防剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはその中にカプセル化されている三分岐GalNAc修飾デンドリマーを含むキットもまた提供される。
【0018】
三分岐GalNAc修飾デンドリマーを作製する方法、および1つまたは複数の治療剤または予防剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはその中にカプセル化されている三分岐GalNAc修飾デンドリマーを作製する方法もまた記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、β-GalNAc-三分岐βEG3-アジド(AB3ビルディングブロック)の合成を示すスキームである。試薬および条件を以下に示す:(i)トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム、DCE、3時間、80℃、(ii)臭化プロパルギル、トルエン、水酸化ナトリウム、水、TBAB、(iii)ピリジン、塩化チオニル、クロロホルム、65℃、2時間;(iv)テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、50%NaOH、16時間、室温;(v)(iii)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、THF、水、10時間;(vi)DMF、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、NaN、80℃、5時間;(vii)メトキシドナトリウム、無水メタノール、30℃、3時間。
【0020】
図2図2は、デンドリマー-三分岐β-GalNAc-CY5の合成を示すスキームである。試薬および条件を以下に示す:(i)EDC、DMAP、DMF、室温、24時間;(ii)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間;(iii)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間。
【0021】
図3図3は、デンドリマー-三分岐β-GlcNAcとのテルミサルタンエステルコンジュゲートの合成を示すスキームである。試薬および条件を以下に示す:(i)DCC、DMAP、DCM、室温、4時間;(ii)EDC、DMAP、DMF、室温、24時間;(iii)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間;(iv)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間。
【0022】
図4図4は、デンドリマー-三分岐β-GlcNAcとのテルミサルタンアミドコンジュゲートの合成を示すスキームである。試薬および条件を以下に示す:(i)HATU、DIPEA、DCM、室温、4時間;(ii)EDC、DMAP、DMF、室温、24時間;(iii)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間;(iv)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間。
図5図5は、血漿(pH7.4、PBS)および細胞内条件(pH5.5、エステラーゼ)でのデンドリマー-テルミサルタンエステルコンジュゲートからの18日間のin vitroでの薬物放出を示す棒グラフである。
【0023】
図6図6は、血漿(pH7.4、PBS)および細胞内条件(pH5.5、エステラーゼ)でのデンドリマー-テルミサルタンアミドコンジュゲートからの18日間のin vitroでの薬物放出を示す棒グラフである。
【0024】
図7図7は、ヒト、マウス、およびラット血漿でのデンドリマー-テルミサルタンアミドコンジュゲートからの37℃で48時間のin vitroでの薬物放出を示す棒グラフである。
【0025】
図8図8は、デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-オベチコール酸コンジュゲートの合成を示すスキームである。試薬および条件を以下に示す:(i)EDC、DMAP、DCM、室温、4時間;(ii)CuSO-5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間;(iii)CuSO-5HO、アスコルビン酸Na、DMF、水、8時間。
【0026】
図9-1】図9A~9Cは、媒体、遊離のテルミサルタン、オベチコール酸(OCA)、高用量デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンアミドコンジュゲート(D-Tel 高)、低用量D-Tel(D-Tel 低)、高用量デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンエステルコンジュゲート(D-TelB 高)、高用量デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-オベチコール酸エステルコンジュゲート(D-OCA 高)、および低用量D-OCA(D-OCA 低)によって処置した正常マウスおよび非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)マウスの、9週齢で屠殺した場合のグラムでの体重(図9A)、グラムでの肝重量(図9B)、および肝重量の体重に対する比(図9C)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;***p<0.001;****p<0.0001。
図9-2】図9A~9Cは、媒体、遊離のテルミサルタン、オベチコール酸(OCA)、高用量デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンアミドコンジュゲート(D-Tel 高)、低用量D-Tel(D-Tel 低)、高用量デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンエステルコンジュゲート(D-TelB 高)、高用量デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-オベチコール酸エステルコンジュゲート(D-OCA 高)、および低用量D-OCA(D-OCA 低)によって処置した正常マウスおよび非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)マウスの、9週齢で屠殺した場合のグラムでの体重(図9A)、グラムでの肝重量(図9B)、および肝重量の体重に対する比(図9C)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;***p<0.001;****p<0.0001。
【0027】
図10-1】図10Aおよび10Bは、媒体、遊離のテルミサルタン、OCA、D-Tel 高、D-Tel 低、D-TelB 高、D-OCA 高、およびD-OCA 低によって処置した正常マウスおよびNASHマウスの、9週齢で屠殺した場合の血清中のアミノトランスフェラーゼレベル(ALT)(図10A)および肝臓中のトリグリセリドレベル(図10B)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
図10-2】図10Aおよび10Bは、媒体、遊離のテルミサルタン、OCA、D-Tel 高、D-Tel 低、D-TelB 高、D-OCA 高、およびD-OCA 低によって処置した正常マウスおよびNASHマウスの、9週齢で屠殺した場合の血清中のアミノトランスフェラーゼレベル(ALT)(図10A)および肝臓中のトリグリセリドレベル(図10B)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
【0028】
図11-1】図11A~11Dは、媒体、遊離のテルミサルタン、OCA、D-Tel 高、D-Tel 低、D-TelB 高、D-OCA 高、およびD-OCA 低によって処置した正常マウスおよびNASHマウスの、9週齢で屠殺した場合の肝臓における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活動性スコア(図11A)、脂肪症スコア(図11B)、炎症スコア(図11C)、および風船様腫大スコア(図11D)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
図11-2】図11A~11Dは、媒体、遊離のテルミサルタン、OCA、D-Tel 高、D-Tel 低、D-TelB 高、D-OCA 高、およびD-OCA 低によって処置した正常マウスおよびNASHマウスの、9週齢で屠殺した場合の肝臓における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活動性スコア(図11A)、脂肪症スコア(図11B)、炎症スコア(図11C)、および風船様腫大スコア(図11D)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
図11-3】図11A~11Dは、媒体、遊離のテルミサルタン、OCA、D-Tel 高、D-Tel 低、D-TelB 高、D-OCA 高、およびD-OCA 低によって処置した正常マウスおよびNASHマウスの、9週齢で屠殺した場合の肝臓における非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活動性スコア(図11A)、脂肪症スコア(図11B)、炎症スコア(図11C)、および風船様腫大スコア(図11D)を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
【0029】
図12図12は、媒体、遊離のテルミサルタン、OCA、D-Tel 高、D-Tel 低、D-TelB 高、D-OCA 高、およびD-OCA 低によって処置した正常マウスおよびNASHマウスの、9週齢で屠殺した場合の肝臓におけるシリウスレッド陽性領域を示すプロットである。媒体と比較して、p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001。
【0030】
図13-1】図13Aは、活性剤の2つの異なるクラスR1およびR2にコンジュゲートされているデンドリマーの合成スキームであり;図13Bは、カペシタビンおよびゲムシタビン、ならびにそのアナログを含む例示的なR1群を示し、図13Cは、例示的なR2群、例えばTIE II阻害剤およびそのアナログを示す。
図13-2】図13Aは、活性剤の2つの異なるクラスR1およびR2にコンジュゲートされているデンドリマーの合成スキームであり;図13Bは、カペシタビンおよびゲムシタビン、ならびにそのアナログを含む例示的なR1群を示し、図13Cは、例示的なR2群、例えばTIE II阻害剤およびそのアナログを示す。
図13-3】図13Aは、活性剤の2つの異なるクラスR1およびR2にコンジュゲートされているデンドリマーの合成スキームであり;図13Bは、カペシタビンおよびゲムシタビン、ならびにそのアナログを含む例示的なR1群を示し、図13Cは、例示的なR2群、例えばTIE II阻害剤およびそのアナログを示す。
【0031】
図14-1】図14Aおよび14Bは、2つの例示的なTLR4アゴニストにコンジュゲートされているデンドリマーの合成スキームである。
図14-2】図14Aおよび14Bは、2つの例示的なTLR4アゴニストにコンジュゲートされているデンドリマーの合成スキームである。
【0032】
図15図15は、例示的なCSF1R阻害剤にコンジュゲートされているデンドリマーの合成スキームである。
【0033】
図16図16は、デンドリマー-N-アセチル-L-システインメチルエステルコンジュゲートの合成スキームである。
【0034】
図17-1】図17Aおよび17Bはそれぞれ、デンドリマー-GW2580エーテルコンジュゲート(図17A)およびデンドリマー-GW2580エステルコンジュゲート(図17B)の合成の化学反応ステップを示すスキームである。
図17-2】図17Aおよび17Bはそれぞれ、デンドリマー-GW2580エーテルコンジュゲート(図17A)およびデンドリマー-GW2580エステルコンジュゲート(図17B)の合成の化学反応ステップを示すスキームである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
発明の詳細な説明
I.定義
「活性剤」または「生物活性剤」という用語は、治療剤、予防剤、または診断剤を指し、予防剤、治療剤、または診断剤であってもよい所望の薬理学的および/または生理学的効果を誘導する化学または生物学的化合物を指すために互換的に使用される。これらは、核酸、核酸アナログ、2kDa未満の分子量、より典型的には1kDa未満を有する低分子、ペプチド模倣体、タンパク質、またはペプチド、炭水化物、または糖、脂質、または界面活性剤、またはそれらの組合せであってもよい。用語はまた、塩、エステル、アミド、プロドラッグ、活性代謝物、およびアナログを含むがこれらに限定されない、活性剤の薬学的に許容される、薬理学的に活性な誘導体も包含する。
【0036】
「治療剤」という用語は、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置するために投与することができる活性剤を指す。
【0037】
「診断剤」という用語は、病的プロセスの局在を明らかにする、正確に指摘する、および定義するために投与することができる活性剤を指す。診断剤は、標的細胞を標識することができ、それによってこれらの標識標的細胞のその後の検出または撮像を可能にする。
「予防剤」という用語は、疾患を防止するために、またはある特定の状態もしくは症状を防止するために投与することができる活性剤を指す。
【0038】
「プロドラッグ」という用語は、不活性型(または有意により活性が低い型)で対象に投与される薬理学的物質(薬物)を指す。投与されると、プロドラッグは、体内(in vivo)で酵素または化学反応によって、または両者の組合せによって、所望の薬理活性を有する化合物へと代謝される。プロドラッグは、上記の化合物に存在する適切な官能基を、例えばH. Bundgaar, Design of Prodrugs (1985)に記載される「プロ部分」に置換することによって調製することができる。プロドラッグのさらなる考察に関しては、例えば、Rautio,J. et al. Nature Reviews Drug Discovery. 7:255- 270 (2008)を参照されたい。
【0039】
「免疫的」、「免疫学的」、または「免疫」応答という用語は、レシピエント患者における免疫原に対する有益な液性(抗体媒介性)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはその分泌産物によって媒介される)応答の発生である。そのような応答は、免疫原の投与によって誘導される能動的応答、または抗体もしくはプライミングされたT細胞の投与によって誘導される受動的応答であり得る。細胞性免疫応答は、クラスIまたはクラスII MHC分子に会合するポリペプチドエピトープの提示によって誘発され、抗原特異的CD4ヘルパーT細胞および/またはCD8細胞傷害性T細胞を活性化する。応答はまた、単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、アストロサイト、ミクログリア細胞、好酸球、または自然免疫の他の成分の活性化を伴ってもよい。細胞性免疫応答の存在は、増殖アッセイ(CD4T細胞)またはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)アッセイによって決定することができる。免疫原の保護効果または治療効果に対する液性および細胞性応答の相対的関与は、免疫した同系動物から抗体およびT細胞を個別に単離すること、および第2の対象において保護効果または治療効果を測定することによって識別することができる。
【0040】
「免疫調節剤」または「免疫療法剤」という用語は、レシピエントにおける自然免疫応答または適応免疫応答の1つまたは複数の要因を調節する、増強する、低減する、延長する、減少する、またはそれ以外の方法で変更するために投与することができる活性剤を指す。一般的に、免疫調節剤は、標的部位で1つまたは複数の免疫細胞または細胞の型を標的化することによって所望の免疫応答に関する免疫微小環境をモジュレートすることができ、このように任意のがんの型に対して必ずしも特異的ではない。例えば、免疫細胞上の1つの分子、プログラム細胞死タンパク質1(PD-1)の遮断は、抗腫瘍活性をもたらした。一部の実施形態では、免疫調節剤は、腫瘍部位での増強された抗腫瘍応答のために腫瘍関連マクロファージなどの抑制性免疫細胞を阻害または低減するために特異的に送達される。
【0041】
「免疫抑制細胞」という用語は、腫瘍の成長、血管新生、浸潤、転移、治療に対する耐性、またはそれらの組合せを促進する免疫細胞を指す。例示的な免疫抑制細胞としては、がん関連線維芽細胞、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)、制御性T細胞(Treg)、間葉間質細胞(MSC)およびTIE2発現単球、ならびに腫瘍関連マクロファージ(TAM)が挙げられる。
【0042】
「炎症促進性細胞」という用語は、炎症促進活性、炎症促進性サイトカイン、例えばIL-12、IFN-γ、およびTNF-α、またはそれらの組合せの分泌を促進する免疫細胞を指す。例示的な炎症促進性細胞としては、炎症促進性M1マクロファージ、または古典的活性化マクロファージ(CAM)が挙げられる。
【0043】
「薬学的に許容される」または「生物学的適合性」という用語は、妥当な利益/リスク比に釣り合って、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を示すことなく、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するために適した組成物、ポリマー、および他の材料および/または投薬剤形を指す。「薬学的に許容される担体」という語句は、薬学的に許容される材料、組成物、または媒体、例えば液体または固体の増量剤、希釈剤、溶媒、または任意の対象組成物の体の1つの臓器または一部から体の別の臓器または一部への移動または輸送に関係するカプセル化材料を指す。各々の担体は、対象組成物の他の成分と適合性であり、患者に対して有害ではないという意味で「許容可能」でなければならない。「薬学的に許容される塩」という用語は、当技術分野で認識されており、化合物の比較的非毒性の無機および有機酸付加塩を含む。薬学的に許容される塩の例としては、無機酸、例えば塩酸および硫酸に由来する塩、ならびに有機酸、例えばエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、およびp-トルエンスルホン酸に由来する塩が挙げられる。塩の形成のための適した無機塩基の例としては、アンモニア、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、および亜鉛の水酸化物、炭酸塩、および重炭酸塩が挙げられる。塩はまた、非毒性でそのような塩を形成するために十分に強い塩基を含む、適した有機塩基によっても形成され得る。説明目的のため、そのような有機塩基のクラスは、モノ、ジ、およびトリアルキルアミン、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、およびトリエチルアミン;モノ、ジ、またはトリヒドロキシアルキルアミン、例えばモノ、ジ、およびトリエタノールアミン;アミノ酸、例えばアルギニンおよびリシン;グアニジン;N-メチルグルコサミン;N-メチルグルカミン;L-グルタミン;N-メチルピペラジン;モルホリン;エチレンジアミン;ならびにN-ベンジルフェネチルアミンを含んでもよい。
【0044】
「治療有効量」という用語は、デンドリマーの中および/または上に組み込まれる場合、任意の医学的処置に応用可能な妥当な利益/リスク比で何らかの所望の効果を生じる治療剤の量を指す。有効量は、処置される疾患もしくは状態、投与される特定の標的化された構築物、対象の体格、または疾患もしくは状態の重症度などの要因に応じて異なり得る。当業者は、過度の実験を必要とすることなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定してもよい。一部の実施形態では、「有効量」という用語は、肝疾患/障害を発症するリスクを低減もしくは減損させる、または肝疾患/障害の1つまたは複数の症状を低減もしくは減損させる、例えば肝臓における炎症を低減させる予防剤または治療剤の量を指す。追加の所望の結果はまた、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、トリグリセリド(TG)および総コレステロール(TC)の血清レベル、脂肪蓄積または脂肪症、炎症、風船様腫大、線維症、長期の病的状態および死亡率を低減および/または阻害することも含む。がんまたは腫瘍の場合、薬物の有効量は、がん細胞の数を低減する;腫瘍サイズを低減する;がん細胞の末梢臓器への浸潤を阻害する;腫瘍転移を阻害する;腫瘍成長を阻害する;および/または障害に関連する症状の1つまたは複数を軽減する効果を有し得る。有効量は、1回または複数回の投与で投与することができる。
【0045】
「阻害する」または「低減する」という用語は、活性および量を低減または減少させることを意味する。これは、活性もしくは量の完全な阻害もしくは低減、または部分的阻害もしくは低減であり得る。阻害または低減は、対照または標準レベルと比較することができる。阻害は、5、10、25、50、75、80、85、90、95、99、または100%、またはその間の整数であり得る。例えば、1つまたは複数の作用剤を含むデンドリマー組成物は、疾患を有する肝臓におけるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、トリグリセリド(TG)および総コレステロール(TC)の血清レベル、脂肪蓄積または脂肪症、炎症、風船様腫大、線維症、長期の病的状態および死亡率を、デンドリマー組成物を投与されていない、または処置されていないまたは処置前の対象から約10%、20%、30%、40%、50%、75%、85%、90%、95%、または99%阻害または低減し得る。一部の実施形態では、阻害および低減は、mRNA、タンパク質、細胞、組織、および臓器レベルで比較される。例えば、腫瘍の増殖または腫瘍サイズ/体積の阻害および低減。
【0046】
「処置する」または「防止する」という用語は、疾患、障害、および/または状態に対する素因を有し得るが、まだそれらを有すると診断されていない動物において疾患、障害、または状態が起こるまたは進行するのを改善する、低減する、またはそれ以外の方法で停止させること;疾患、障害、または状態を阻害すること、例えばその進行を妨害すること;ならびに疾患、障害、または状態を軽減すること、例えば疾患、障害、および/または状態の退縮を引き起こすことを意味する。疾患または状態を処置することは、たとえ基礎となる病理生理学が影響を受けなくとも、特定の疾患もしくは状態の少なくとも1つの症状を改善すること、例えばたとえそのような作用剤が疼痛の原因を処置しない場合であっても鎮痛剤の投与によって対象の疼痛を処置することを含む。処置の望ましい効果は、疾患進行速度を減少させること、疾患状態を改善または和らげること、および寛解または予後の改善を含む。例えば、個体は、アラニントランスアミナーゼ(ALT)およびアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)を含むトランスアミナーゼの上昇を低減および/または阻害すること、肝臓がんの場合にはがん様細胞の増殖を低減させること、疾患に罹患している対象のクオリティオブライフを増加させること、疾患を処置するために必要な他の投薬の用量を減少させること、疾患の進行を遅らせること、および/または個体の生存を延長させることを含むがこれらに限定されない、肝疾患/障害に関連する1つまたは複数の症状が緩和または除去される場合、「処置」が成功している。
【0047】
「T細胞機能を増強する」という語句は、T細胞が持続的または増幅された生物機能を有するように誘導する、引き起こす、もしくは刺激すること、または消耗したもしくは不活化T細胞を再生もしくは再活性化することを意味する。T細胞機能を増強する例としては:介入前のそのようなレベルと比較して、CD8+T細胞からのグランザイムBおよび/またはIFN-γの分泌の増加、増殖の増加、抗原応答性の増加(例えば、ウイルス、病原体、または腫瘍の除去)が挙げられる。一実施形態では、増強レベルは、少なくとも50%、あるいは60%、70%、80%、90%、100%、120%、150%、または200%である。この増強を測定する形式は、当業者に公知である。
【0048】
「腫瘍免疫」という用語は、腫瘍が免疫による認識および除去を回避するプロセスを指す。このように、治療の考え方として、腫瘍免疫は、そのような回避が弱められ、腫瘍が免疫系によって認識され、攻撃される場合に「処置」される。腫瘍の認識の例としては、腫瘍の結合、腫瘍の縮小および腫瘍の除去が挙げられる。
「免疫原性」という用語は、特定の物質が免疫応答を誘発する能力を指す。腫瘍は免疫原性であり得るが、腫瘍の免疫原性を増強することは、免疫応答による腫瘍細胞の除去を助ける。
【0049】
「生分解性」という用語は、生理的条件下で、体が代謝、除去、または排泄することが可能なより小さい単位または化学種へと分解または腐食する材料を指す。材料の分解時間は、材料の組成および形態の関数である。
【0050】
「デンドリマー」という用語は、内部コア、内部コアに規則正しく結合した反復単位の内層(または「世代」)、および最も外側の世代に結合した末端基の外部表面を有する分子構造を含むがこれらに限定されない。
【0051】
「官能化する」という用語は、官能基または部分の結合をもたらす形式で化合物または分子を修飾することを意味する。例えば、分子を強い求核性または強い求電子性にする分子の導入によって、分子を官能化してもよい。
【0052】
「標的化部分」という用語は、特定の場所に局在するまたは特定の場所から離れて局在する部分を指す。部分は、例えばタンパク質、核酸、核酸アナログ、炭水化物、または低分子であり得る。実体は、例えば治療化合物、例えば低分子または診断的実体、例えば検出可能な標識であり得る。場所は、組織、特定の細胞の型または細胞活性化状態、または細胞下区画であってもよい。一部の実施形態では、標的化部分は、活性剤の局在化を方向付ける。
【0053】
「延長された滞留時間」という用語は、比較のための標準、例えば送達媒体、例えばデンドリマーにコンジュゲートされていない同等の作用剤と比較して、患者の体、またはその患者の臓器もしくは組織から作用剤が除去されるために必要な時間の増加を指す。ある特定の実施形態では、「延長された滞留時間」は、比較のための標準、例えば送達媒体、例えばデンドリマーにコンジュゲートされていない同等の作用剤と比較して、10%、20%、50%、または75%長い半減期で除去される作用剤を指す。ある特定の実施形態では、「延長された滞留時間」は、比較のための標準、例えば炎症および/または腫瘍領域の部位に関連する特定の細胞の型を特異的に標的化するデンドリマーを有しない同等の作用剤より、2、5、10、20、50、100、200、または10000倍長い半減期で除去される作用剤を指す。
【0054】
「組み込まれた」および「カプセル化された」という用語は、活性成分を組成物の中および/または上に組み込む、製剤化する、またはそれ以外の方法で含めることを指す。例えば、活性剤または他の材料を、そのようなデンドリマーの1つまたは複数の表面官能基を含むデンドリマーに組み込む(共有結合、イオン、または他の結合相互作用によって)、物理的に混合する、作用剤をデンドリマー構造内に被包化する、デンドリマー構造内にカプセル化することができる等である。
【0055】
粒子の「中性表面電荷」という用語は、0mVである粒子の界面動電位(ゼータ電位)を指す。一部の実施形態では、「中性付近の表面電荷」という用語は、およそ0mV、例えば-10mV~10mV、-5mV~5mV、好ましくは-1mV~1mVであるゼータ電位を指す。
II.組成物
【0056】
炭水化物三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)にコンジュゲートされている、またはそれと複合体を形成しているデンドリマーが、肝細胞内に選択的に蓄積し、肝疾患を防止および/または処置することが確立されている。
【0057】
1つまたは複数の活性剤、特にそれを必要とする対象における肝傷害、肝疾患、または肝障害を防止する、処置する、または診断するための1つまたは複数の活性剤を送達するために適した、炭水化物と複合体を形成しているデンドリマーの組成物が開発されている。組成物は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および/または肝細胞癌(HCC)の1つまたは複数の症状を処置および/または改善するために特に適している。
【0058】
デンドリマーにカプセル化されている、会合している、および/またはコンジュゲートされている1つまたは複数の予防剤、治療剤、および/または診断剤を含むデンドリマー-炭水化物複合体の組成物が提供される。一般的に、1つまたは複数の活性剤は、約0.01重量/重量%~約30重量/重量%、約1重量/重量%~約25重量/重量%、約5重量/重量%~約20重量/重量%、および約10重量/重量%~約15重量/重量%の濃度でデンドリマー複合体にカプセル化されている、会合している、および/またはコンジュゲートされている。好ましくは、活性剤は、1つまたは複数の連結、例えばジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カーバメート、カーボネート、ヒドラジン、およびアミドを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサーを介して、デンドリマーに共有結合によりコンジュゲートされている。一部の実施形態では、スペーサーは、活性剤、例えばテルミサルタンである。例示的な活性剤としては、アンジオテンシンII受容体遮断剤、FXRアゴニスト、PPARδアゴニスト、抗酸化剤、抗炎症薬、化学療法薬、抗線維化薬、および抗感染症剤が挙げられる。
【0059】
追加の作用剤の存在は、デンドリマーのゼータ電位または表面電荷に影響を及ぼし得る。一実施形態では、デンドリマー-炭水化物複合体のゼータ電位は、-100mV~100mVの間、-50mV~50mVの間、-25mV~25mVの間、-20mV~20mVの間、-10mV~10mVの間、-10mV~5mVの間、-5mV~5mVの間、または-2mV~2mVの間である。好ましい実施形態では、表面電荷は、中性または中性付近である。上記の範囲は、-100mV~100mVの間の全ての範囲を含む。
【0060】
A.デンドリマー
デンドリマーは、高密度の表面末端基を含む、三次元の高度分岐、単分散の球状の多価高分子である(Tomalia, D. A., et al., Biochemical Society Transactions, 35, 61 (2007);and Sharma, A., et al., ACS Macro Letters, 3, 1079 (2014))。その独自の構造特徴および物理的特徴により、デンドリマーは、標的化された薬物/遺伝子送達、撮像、および診断を含む様々な生物医学応用のナノ担体として有用である(Sharma,A., et al., RSC Advances, 4, 19242 (2014); Caminade, A.-M., et al., Journal ofMaterials Chemistry B, 2, 4055 (2014); Esfand, R., et al., Drug DiscoveryToday, 6, 427 (2001); and Kannan, R. M., et al., Journal of Internal Medicine,276, 579 (2014))。
【0061】
最近の研究により、デンドリマーの表面基は、その生体分布に有意な影響を及ぼすことが示されている(Nance, E., et al., Biomaterials, 101, 96 (2016))。いかなる標的化リガンドも有しないヒドロキシル末端第4世代PAMAMデンドリマー(サイズ約4nm)は、ウサギ脳性麻痺モデル(CP)において全身投与後に、健康な対照と比較して機能障害のBBBを有意により多く(>20倍)通過し、活性化ミクログリアおよびアストロサイトを選択的に標的化する(Lesniak,W. G., et al., Mol Pharm, 10 (2013))。
【0062】
「デンドリマー」という用語は、内部コアと、この内部コアに規則正しく結合し、そこから伸長する反復単位の層(または「世代」)であって各層が1つまたは複数の分岐点を有する層と、最も外側の世代に結合した末端基の外部表面とを有する分子構造を含むがこれらに限定されない。一部の実施形態では、デンドリマーは、規則性のデンドリマーまたは「starburst」分子構造を有する。
【0063】
一般的に、デンドリマーは、約1nm~約50nmの間、より典型的には約1nm~約20nmの間、約1nm~約10nmの間、または約1nm~約5nmの間の直径を有する。一部の実施形態では、直径は、約1nm~約2nmの間である。コンジュゲートは一般的に同じサイズ範囲であるが、大きいタンパク質、例えば抗体は、サイズを5~15nm増加させ得る。一般的に、作用剤は、大きい世代のデンドリマーの場合、1:1~4:1の作用剤のデンドリマーに対する比でカプセル化される。好ましい実施形態では、デンドリマーは、肝細胞を標的化し、肝細胞中に長期間留まるために有効な直径を有する。
【0064】
一部の実施形態では、デンドリマーは、約500ダルトン~約100,000ダルトンの間、好ましくは約500ダルトン~約50,000ダルトンの間、最も好ましくは約1,000ダルトン~約20,000ダルトンの間の分子量を有する。
【0065】
使用することができる適したデンドリマー足場構造は、PAMAMまたはSTARBURST(商標)デンドリマーとしても公知であるポリ(アミドアミン);ポリプロピルアミン(POPAM)、ポリエチレンイミン、ポリリシン、ポリエステル、イプチセン、脂肪族ポリ(エーテル)、および/または芳香族ポリエーテルデンドリマーを含む。デンドリマーは、カルボキシル、アミン、および/またはヒドロキシル末端を有し得る。好ましい実施形態では、デンドリマーは、ヒドロキシル末端を有する。デンドリマー複合体の各デンドリマーは、他のデンドリマーと類似のまたは異なる化学的性質であり得る(例えば、第1のデンドリマーはPAMAMデンドリマーを含んでもよく、第2のデンドリマーはPOPAMデンドリマーであってもよい)。
【0066】
「PAMAMデンドリマー」という用語は、アミドアミンビルディングブロックと共に異なるコアを含有してもよく、第1世代PAMAMデンドリマー、第2世代PAMAMデンドリマー、第3世代PAMAMデンドリマー、第4世代PAMAMデンドリマー、第5世代PAMAMデンドリマー、第6世代PAMAMデンドリマー、第7世代PAMAMデンドリマー、第8世代PAMAMデンドリマー、第9世代PAMAMデンドリマー、または第10世代PAMAMデンドリマーを含むがこれらに限定されない、任意の世代のカルボキシル、アミン、およびヒドロキシル末端を有し得るポリ(アミドアミン)デンドリマーを意味する。好ましい実施形態では、デンドリマーは、製剤に可溶性であり、第4、5、または6世代(「G」)のデンドリマー(すなわち、G4~G6デンドリマー)、および/またはG4~G10デンドリマー、G6~G10デンドリマー、またはG2~G10デンドリマーである。デンドリマーは、その機能的表面基にヒドロキシル基が結合していてもよい。好ましい実施形態では、デンドリマーは、第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、または第8世代のヒドロキシル末端ポリアミドアミンデンドリマーである。
【0067】
デンドリマーを作製する方法は当業者に公知であり、一般的に中心の開始コア(例えば、エチレンジアミンコア)の周囲に樹状のβ-アラニン単位の同心円のシェル(世代)を生じる2ステップの反復反応シーケンスを伴う。各々のその後の成長ステップは、より大きい分子直径を有するポリマーの新規「世代」を表し、反応性の表面部位の数を2倍にし、その前の世代の分子量をほぼ倍加させる。使用するために適したデンドリマーの足場構造は、多様な世代が市販されている。好ましくは、デンドリマー組成物は、第0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10世代のデンドリマー足場構造に基づく。そのような足場構造はそれぞれ、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048、および4096個の反応部位を有する。このように、これらの足場構造に基づくデンドリマー化合物は、直接またはリンカーを通して間接的に、組み合わせた標的化部分、例えば三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)および活性剤の対応する最大数を有し得る。
【0068】
一部の実施形態では、デンドリマーは、複数のヒドロキシル基を含む。一部の例示的な高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーとしては、市販のポリエステル樹状ポリマー、例えば超分岐2,2-ビス(ヒドロキシル-メチル)プロピオン酸ポリエステルポリマー(例えば、超分岐ビス-MPAポリエステル-64-ヒドロキシル、第4世代)、樹状ポリグリセロールが挙げられる。
【0069】
一部の実施形態では、高密度ヒドロキシル基含有デンドリマーは、オリゴエチレングリコール(OEG)様デンドリマーである。例えば、第2世代OEGデンドリマー(D2-OH-60)は、非常に効率的で、ロバストなアトムエコノミカル化学反応、例えばCu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーおよび光触媒チオール-エンクリックケミストリーを使用して合成することができる。最少の反応ステップで非常に低い世代の高密度ポリオールデンドリマーは、例えばWO2019094952号に記載されるように直交するハイパーモノマーおよびハイパーコア戦略を使用することによって達成することができる。一部の実施形態では、デンドリマー骨格は、in vivoでのデンドリマーの崩壊を回避し、そのようなデンドリマーの単一の実体としての体からの排除を可能にするために(非生分解性)、構造全体に非切断性のポリエーテル結合を有する。
【0070】
一部の実施形態では、デンドリマーは、特定の組織領域および/または細胞の型、例えば肝細胞、肝臓の腫瘍/がんにおける腫瘍関連マクロファージ(TAM)、または肝臓の自己免疫疾患に関係する炎症促進性マクロファージを特異的に標的化する。
【0071】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、デンドリマーの末端に複数のヒドロキシル(-OH)基を有する。ヒドロキシル(-OH)基の好ましい表面密度は、少なくとも1つのOH基/nm(ヒドロキシル表面基の数/nmでの表面積)である。例えば、一部の実施形態では、ヒドロキシル基の表面密度は、2個より多く、3個より多く、4個より多く、5個より多く、6個より多く、7個より多く、8個より多く、9個より多く、10個より多く;好ましくは少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50個、または50個より多くの表面ヒドロキシル基/nmでの表面積である。さらなる実施形態では、ヒドロキシル(-OH)基の表面密度は、約1~約50個、好ましくは5~20個のヒドロキシル表面基/nm(ヒドロキシル表面基の数/nmでの表面積)の間であり、約500Da~約10kDaの間の分子量を有する。一部の実施形態では、デンドリマー上の総表面基(コンジュゲートおよび非コンジュゲート)中の遊離の、すなわち非コンジュゲートヒドロキシル基のパーセンテージは、70%より高い、75%より高い、80%より高い、85%より高い、90%より高い、95%より高い、および/または100%未満である。
【0072】
一部の実施形態では、デンドリマーは、ヒドロキシル基の画分が外部表面に露出していてもよく、他の画分がデンドリマーの内部コアにあってもよい。好ましい実施形態では、デンドリマーは、少なくとも1個のOH基/nm(ヒドロキシル基の数/nmでの体積)のヒドロキシル(-OH)基の体積密度を有する。例えば、一部の実施形態では、ヒドロキシル基の体積密度は、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、または10個より多く、15個より多く、20個より多く、25個より多く、30個より多く、35個より多く、40個より多く、45個より多く、および50個より多くのヒドロキシル基/nmである。一部の実施形態では、ヒドロキシル基の体積密度は、約4~約50個のヒドロキシル基/nmの間、好ましくは約5~約30個の基/nmの間、より好ましくは約10~約20個のヒドロキシル基/nmの間である。
【0073】
B.三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)によって修飾されたデンドリマー
炭水化物三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)にコンジュゲートされている、またはそれと複合体を形成しているデンドリマーは、肝細胞内に選択的に蓄積することが確立されている。三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)をデンドリマー表面に付加することによって修飾されたデンドリマーの組成物が記載される。
【0074】
肝細胞上で豊富に発現されるアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)は、炭水化物認識ドメイン(CRD)を通してガラクトースおよびN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を選択的に認識することができ、受容体に堅固に結合する。炭水化物部分のASGPR受容体との効率的な結合は、受容体媒介エンドサイトーシスを介して肝細胞内での選択的内部移行を可能にする。エンドソームにおける低いpHによって、糖リガンドとASGPR受容体との間の4価のカルシウムキレート化が破壊され、これによって肝細胞にリガンドを放出する。リガンドが放出されると、受容体複合体は、リサイクルし、大量のリガンドが飽和効果なく肝細胞に内部移行するのを可能にする。GalNAcのASGPRとの結合は、肝細胞の類洞表面で起こるが、肝細胞は細胞あたり約500,000個のASGPR受容体を含有し、そのうち約5%~10%は、いつでも細胞表面に存在する。以前の研究から、リガンドのASGPRとの結合は、糖の型(GalNAc>Gal)および糖の数4=3>2>1に依存することが示されている。ASGPRの細胞外ドメインのX線結晶構造から、浅い炭水化物結合ポケットが明らかとなり、これは多価の必要性を説明している。したがって、多価結合が探索されており、3価および4価の炭水化物構築物のASGPRとの結合親和性は、糖鎖クラスター効果により、一価のリガンドと比較して100~1000倍強い。
【0075】
SiRNAにコンジュゲートされている二分岐および三分岐GalNAcリガンドは、皮下投与後のC57BL/6マウスの肝臓において有意に高レベルのGalNAc-siRNAを実証し、GalNAc-siRNAの94%が肝細胞に局在した。さらに、これらのsiRNAコンジュゲートは、効率的な遺伝子沈黙化を媒介した。さらなる試験は、三分岐GalNAcに連結されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)が、マウスモデルにおいて親ASOより最大10倍強力であったことを報告した。
【0076】
炭水化物-タンパク質相互作用は、生物プロセス、例えば受容体媒介エンドサイトーシスにおいて重要な役割を果たし、細胞認識試験ならびに生物医学的材料の設計に適用されている。炭水化物末端デンドリマー(糖デンドリマー)は、同類の受容体に対して増強された結合親和性を与えられ、それらは標的化された薬物送達に関するアビディティおよび選択性で特異的細胞タイプと相互作用することが可能となる。薬物送達プラットフォームにおける炭水化物部分の導入はまた、生体適合性も提供し、ならびにデンドリマー複合体の水溶性も増加させる。
【0077】
三分岐GalNAcは、肝細胞におけるASGPRに対して有効な多価結合を提供する。したがって、好ましい実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数の表面末端基(例えば、-OH)で1つまたは複数の三分岐GalNAc基によって修飾されている。
【0078】
デンドリマーの三分岐GalNAc修飾は、各々の表面末端基で3つのGalNAcの組を生じる。一部の実施形態では、3つのβ-GalNAc分子は、1つまたは複数のリンカーを介してビルディングブロックにグラフトされ、デンドリマーの表面官能基とのコンジュゲーションにとって適したABビルディングブロック(すなわち、三分岐GalNAcデンドロン)を生じる。
【0079】
一実施形態では、3つのβ-GalNAc分子は、1つまたは複数のリンカーを介してプロパルギル化ペンタエリスリトールビルディングブロックにグラフトされ、以下に示すデンドリマーの表面官能基とのコンジュゲーションにとって適したABビルディングブロックを生じる。
【化1】
【0080】
一部の実施形態では、1つまたは複数の表面基を通しての三分岐GalNAcのコンジュゲーションは、コンジュゲーション前のデンドリマーの利用可能な総表面官能基、好ましくはヒドロキシル基の約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、25%、または30%を介して起こる。他の実施形態では、三分岐β-GalNAcのコンジュゲーションは、コンジュゲーション前のデンドリマーの利用可能な総表面官能基の5%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満で起こる。好ましい実施形態では、デンドリマーは、肝細胞上でのASGPRとの結合および/または標的化のために三分岐β-GalNAcの有効量にコンジュゲートされ、なおも肝疾患または障害を処置、防止、および/または撮像するために活性剤の有効量にコンジュゲートされている。
【0081】
C.デンドリマー複合体
三分岐GalNAcによって修飾されたデンドリマー(デンドリマー-三分岐GalNAc)は、デンドリマーと複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子内に分散しているもしくはカプセル化されている1つまたは複数の治療剤または予防剤を含み得る。1つまたは複数の作用剤とデンドリマー-三分岐GalNAc複合体のデンドリマー成分とのコンジュゲーションは、デンドリマーと三分岐GalNAcとのコンジュゲーションの前に、それと同時に、またはその後に起こり得る。作用剤をデンドリマーにコンジュゲートするための組成物および方法は当技術分野で公知であり、米国特許出願公開第2011/0034422号、米国特許出願公開第2012/0003155号、および米国特許出願公開第2013/0136697号に詳細に記載されている。
【0082】
一部の実施形態では、1つまたは複数の活性剤は、デンドリマー-三分岐GalNAcのデンドリマー成分に共有結合されている。一部の実施形態では、活性剤は、必要に応じて1つまたは複数のスペーサーまたは連結部分を介して、デンドリマーとのコンジュゲーションのために官能化されている。官能化された活性剤および/または連結部分は、in vivoでデンドリマー-三分岐GalNAcからの活性剤の望ましい放出速度を有するように設計される。官能化された活性剤および/または連結部分は、in vivoで活性剤の持続的な放出を提供するために、加水分解、酵素、またはそれらの組合せによって切断されるように設計することができる。切断型が望ましい場合、連結部分の組成物と、活性剤とのその結合点の両方を、連結部分の切断によって活性剤またはその適したプロドラッグのいずれかが放出されるように選択する。一部の実施形態では、官能化された活性剤および/または連結部分は、in vivoで最低速度または有意でない速度で切断されるように設計される。連結部分の組成物はまた、活性剤の所望の放出速度に関して選択することもできる。好ましい実施形態では、1つまたは複数の活性剤は、例えば1つまたは複数のアミドもしくはエーテル連結を介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって、in vivoでデンドリマー-三分岐GalNAcから非切断性であるかまたはほとんど切断されないように官能化されている。
【0083】
一部の実施形態では、作用剤とデンドリマーとの結合は、ジスルフィド、エステル、エーテル、チオエステル、カーバメート、カーボネート、ヒドラジン、またはアミド連結の1つまたは複数を介して起こる。好ましい実施形態では、結合は、活性剤の所望の放出速度論に応じて作用剤とデンドリマーとの間にエステル結合またはアミド結合を提供する適切なスペーサーを介して起こる。一部の例では、エステル結合は、活性剤の放出型のために導入される。他の例では、アミド結合は、活性剤の非放出型のために導入される。
【0084】
連結部分は一般的に、1つまたは複数の有機官能基を含む。適した有機官能基の例としては、二級アミド(-CONH-)、三級アミド(-CONR-)、スルホンアミド(-S(O)-NR-)、二級カーバメート(-OCONH-;-NHCOO-)、三級カーバメート(-OCONR-;-NRCOO-)、カーボネート(-O-C(O)-O-)、尿素(-NHCONH-;-NRCONH-;-NHCONR-、-NRCONR-)、カルビノール(-CHOH-、-CROH-)、ジスルフィド基、ヒドラゾン、ヒドラジド、エーテル(-O-)、およびエステル(-COO-、-CHC-、CHROC-)が挙げられ、式中Rは、アルキル基、アリール基、または複素環基である。一般的に、連結部分内の1つまたは複数の有機官能基の同一性は、活性剤の所望の放出速度に関して選択することができる。加えて、1つまたは複数の有機官能基は、活性剤のデンドリマーとの共有結合を容易にするように選択することができる。好ましい実施形態では、結合は、作用剤とデンドリマーとの間のジスルフィド架橋を提供する適切なスペーサーを介して起こり得る。デンドリマー-三分岐GalNAc複合体は、体において見出される還元条件下で、チオール交換反応によってin vivoで作用剤を迅速に放出することが可能である。
【0085】
ある特定の実施形態では、連結部分は、スペーサー基と組み合わせた上記の有機官能基の1つまたは複数を含む。スペーサー基は、オリゴマーおよびポリマー鎖を含む原子の任意の集合体で構成され得るが、スペーサー基における原子の総数は好ましくは、3~200個の原子の間、より好ましくは3~150個の原子の間、より好ましくは3~100個の原子の間、最も好ましくは3~50個の原子の間である。適したスペーサー基の例としては、アルキル基、ヘテロアルキル基、アルキルアリール基、オリゴおよびポリエチレングリコール鎖、ならびにオリゴおよびポリ(アミノ酸)鎖が挙げられる。スペーサー基の変形形態は、in vivoで作用剤の放出に対して追加の制御を提供する。連結部分がスペーサー基を含む実施形態では、1つまたは複数の有機官能基を一般的に使用して、スペーサー基を活性剤およびデンドリマーの両方に接続する。
【0086】
作用剤とデンドリマーとの共有結合にとって有用な反応および戦略は、当技術分野で公知である。例えば、March, "Advanced Organic Chemistry," 5th Edition, 2001,Wiley-Interscience Publication, New York) and Hermanson, "BioconjugateTechniques," 1996, Elsevier Academic Press, U.S.Aを参照されたい。所定の活性剤を共有結合するために適切な方法は、所望の連結部分、ならびに官能基の適合性に関連する作用剤およびデンドリマーの全体としての構造、保護基の戦略、および不安定な結合の存在に関して選択することができる。
【0087】
最適な薬物ローディングは、薬物の選択、デンドリマーの構造およびサイズ、ならびに処置される組織を含む多くの要因に必然的に依存する。一部の実施形態では、1つまたは複数の活性薬は、好ましくはデンドリマーの1つまたは複数の表面基を通して、約0.01重量%~約45重量%、好ましくは約0.1重量%~約30重量%、約0.1重量%~約20重量%、約0.1重量%~約10重量%、約1重量%~約10重量%、約1重量%~約5重量%、約3重量%~約20重量%、および約3重量%~約10重量%の濃度でデンドリマー-三分岐GalNAc複合体にカプセル化されている、会合している、および/またはコンジュゲートされている。しかし、任意の所定の薬物、デンドリマー、および標的部位に関する最適な薬物ローディングを、記載される方法などのルーチンの方法によって同定することができる。
【0088】
一部の実施形態では、デンドリマーと活性剤とのコンジュゲーションは、デンドリマーと三分岐GalNAcとのコンジュゲーションの前に起こる。一部の実施形態では、活性剤および/またはリンカーとデンドリマーとのコンジュゲーションは、1つまたは複数の表面基および/または内部基を通して起こる。このように、一部の実施形態では、活性剤/リンカーのコンジュゲーションは、コンジュゲーション前のデンドリマーの利用可能な総表面官能基、好ましくはヒドロキシル基の約1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、または10%を介して起こる。他の実施形態では、活性剤/リンカーのコンジュゲーションは、コンジュゲーション前および/または三分岐β-GalNAcによる修飾前のデンドリマーの利用可能な総表面官能基の5%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満で起こる。好ましい実施形態では、デンドリマー複合体は、肝細胞を標的化するために三分岐β-GalNAcによる修飾のための表面官能基の有効量を保持し、なおも疾患または障害を処置、防止、および/または撮像するために活性剤の有効量にコンジュゲートされている。
D.カップリング剤およびスペーサー
【0089】
デンドリマー複合体は、デンドリマーにコンジュゲートされているまたは結合している治療活性剤または化合物で形成され得る。必要に応じて、活性剤は、1つまたは複数のスペーサー/リンカーを介して、異なる連結、例えばジスルフィド、エステル、カーボネート、カーバメート、チオエステル、ヒドラジン、ヒドラジド、およびアミド連結を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。デンドリマーと活性剤との間の1つまたは複数のスペーサー/リンカーは、in vivoでデンドリマー活性複合体の放出型または非放出型を提供するように設計することができる。一部の実施形態では結合は、作用剤とデンドリマーとの間にエステル結合を提供する適切なスペーサーを介して起こる。一部の実施形態では結合は、作用剤とデンドリマーとの間にアミドまたはエーテル結合を提供する適切なスペーサーを介して起こる。好ましい実施形態では、デンドリマーと作用剤の間の1つまたは複数のスペーサー/リンカーは、in vivoで所望のおよび有効な放出速度論を達成するために付加される。
【0090】
スペーサーは、デンドリマーおよび活性剤を架橋するために共に連結される単一の化学実体または2つもしくはそれより多くの化学実体のいずれかであり得る。スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホン、およびカーボネート末端を有する任意の小さい化学実体、ペプチド、またはポリマーを含み得る。
【0091】
スペーサーは、スルフヒドリル、チオピリジン、スクシンイミジル、マレイミド、ビニルスルホン、およびカーボネート基で終わる化合物のクラスから選択することができる。スペーサーは、チオピリジン末端化合物、例えばジチオジピリジン、N-スクシンイミジル3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル6-(3-[2-ピリジルジチオ]-プロピオンアミド)ヘキサノエートLC-SPDPまたはスルホ-LC-SPDPを含み得る。スペーサーはまた、本質的にスルフヒドリル基、例えばグルタチオン、ホモシステイン、システインおよびその誘導体、arg-gly-asp-cys(RGDC)、シクロ(Arg-Gly-Asp-d-Phe-Cys)(c(RGDfC))、シクロ(Arg-Gly-Asp-D-Tyr-Cys)、およびシクロ(Arg-Ala-Asp-d-Tyr-Cys)を有する線形または環状であるペプチドも含み得る。一部の実施形態では、スペーサーは、メルカプト酸誘導体、例えば3メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、4メルカプト酪酸、チオラン-2-オン、6メルカプトヘキサン酸、5メルカプト吉草酸および他のメルカプト誘導体、例えば2メルカプトエタノール、および2メルカプトエチルアミンを含む。一部の実施形態では、スペーサーは、チオサリチル酸およびその誘導体、(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-メチル-アルファ-2-ピリジルチオ)トルエン、(3-[2-ピリジルチオ]プロピオニルヒドラジドを含む。一部の実施形態では、スペーサーは、マレイミド末端を含み、スペーサーは、ポリマーまたは小さい化学実体、例えばビス-マレイミドジエチレングリコールおよびビス-マレイミドトリエチレングリコール、ビス-マレイミドエタン、ビスマレイミドヘキサンを含む。一部の実施形態では、スペーサーは、ビニルスルホン、例えば1,6-ヘキサン-ビス-ビニルスルホンを含む。一部の実施形態では、スペーサーは、チオグリコシド、例えばチオグルコースを含む。他の実施形態では、スペーサーは、還元されたタンパク質、例えばウシ血清アルブミンおよびヒト血清アルブミン、ジスルフィド結合を形成することが可能な任意のチオール末端化合物を含む。特定の実施形態では、スペーサーは、マレイミド、スクシンイミジル、およびチオール末端を有するポリエチレングリコールを含む。
【0092】
作用剤および/または標的化部分は、デンドリマーに共有結合している、またはそれらが分子内に分散しているもしくはカプセル化されていることのいずれかであり得る。デンドリマーは、好ましくはヒドロキシル末端を有する第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、第8世代、第9世代、または第10世代PAMAMデンドリマーである。好ましい実施形態では、デンドリマーは、ジスルフィド、エステル、エーテル、またはアミド結合で終わるスペーサーを介して作用剤に連結される。
【0093】
一部の実施形態では、デンドリマー/活性剤複合体の非放出型は、同じデンドリマー/活性剤複合体の放出型と比較して増強された治療有効性を提供する。したがって、一部の実施形態では、1つまたは複数の活性剤(複数可)は、非放出性の形式で、例えばエーテルまたはアミド結合によってデンドリマーに結合するスペーサーを介してデンドリマーにコンジュゲートされている。一部の実施形態では、1つまたは複数の活性剤(複数可)は、非放出性の形式で、例えばエーテルまたはアミド結合によってスペーサーに結合している。したがって、一部の実施形態では、1つまたは複数の活性剤(複数可)は、デンドリマーおよび活性剤(複数可)に非放出性の形式で結合するスペーサーを介してデンドリマーに結合している。例示的な実施形態では、1つまたは複数の活性剤(複数可)は、アミドおよび/またはエーテル結合を介してデンドリマーおよび活性剤(複数可)に結合するスペーサーを介してデンドリマーに結合している。例示的なスペーサーは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
1.エーテル連結を介した活性剤とのデンドリマーのコンジュゲーション
【0094】
一部の実施形態では、エーテル連結を介して、必要に応じて1つまたは複数のリンカー/スペーサーによって活性剤にコンジュゲートされている、ヒドロキシル末端三分岐GalNAc修飾デンドリマーを含む組成物を記載する。
【0095】
好ましい実施形態では、デンドリマーの表面基とリンカーとの間、またはデンドリマーと活性剤との間(いかなる連結部分もなくコンジュゲートされている場合)の共有結合は、in vivo条件下で安定であり、すなわち、対象に投与した場合ほとんど切断されず、および/または体からインタクトのまま排泄される。例えば、好ましい実施形態では、総デンドリマー複合体の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満、または0.1%未満が、in vivoでの投与後24時間、または48時間、または72時間以内に活性剤を切断する。一実施形態では、これらの共有結合はエーテル結合である。さらに好ましい実施形態では、デンドリマーの表面基とリンカーとの間、またはデンドリマーと活性剤(いかなる連結部分もなくコンジュゲートされている場合)の間の共有結合は、加水分解により切断性の結合でも、酵素により切断性の結合、例えばエステル結合でもない。
【0096】
一部の実施形態では、1つまたは複数のエーテル結合を介した、1つまたは複数の連結部分および1つまたは複数の活性剤とのヒドロキシル末端デンドリマーコンジュゲートの1つまたは複数のヒドロキシル基を以下の式(I)に示す。
【化2】
式中、
Dは、第2世代~第10世代ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーであり;Lは、1つまたは複数の連結部分またはスペーサーであり;Xは、活性剤、または誘導体、アナログ、またはそのプロドラッグであり;nは、1~100の整数であり;ならびにmは、16~4096の整数であり;
ならびにYは、二級アミド(-CONH-)、三級アミド(-CONR-)、スルホンアミド(-S(O)-NR-)、二級カーバメート(-OCONH-;-NHCOO-)、三級カーバメート(-OCONR-;-NRCOO-)、カーボネート(-O-C(O)-O-)、尿素(-NHCONH-;-NRCONH-;-NHCONR-、-NRCONR-)、カルビノール(-CHOH-、-CROH-)、ジスルフィド基、ヒドラゾン、ヒドラジド、およびエーテル(-O-)から選択されるリンカーであり、式中Rは、アルキル基、アリール基、または複素環基である。好ましくは、Yは、in vivoでほとんど切断されない結合または連結である。
【0097】
好ましい実施形態では、Yは、二級アミド(-CONH-)である。
【0098】
一実施形態では、Dは、第4世代または第6世代ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーであり;Lは、1つまたは複数の連結またはスペーサー部分であり;Xは、アンジオテンシンII受容体遮断剤、ファルネソイドX受容体アゴニスト、デス受容体5アゴニスト、ナトリウム-グルコース共輸送体2型阻害剤、リゾホスファチジン酸1受容体アンタゴニスト、エンドセリン-A受容体アンタゴニスト、PPARδアゴニスト、AT1受容体アンタゴニスト、CCR5/CCR2アンタゴニスト、抗線維化剤、抗炎症剤、および/または抗酸化剤または誘導体、アナログ、もしくはそのプロドラッグであり;nは、約5~15であり;mは、約49~59の整数であり;ならびにn+m=64である。
【0099】
一実施形態では、Yは、二級アミド(-CONH-)である。
E.治療剤、予防剤、および診断剤
【0100】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の治療剤、予防剤、および診断剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。送達されるデンドリマー複合体に含まれる作用剤は、タンパク質またはペプチド、糖または炭水化物、核酸またはオリゴヌクレオチド、脂質、低分子(例えば、分子量2500ダルトン未満、好ましくは2000ダルトン未満、より好ましくは1500ダルトン未満、より好ましくは300~700ダルトン未満)、またはそれらの組合せであり得る。核酸は、タンパク質をコードするオリゴヌクレオチド、例えばDNA発現カセットまたはmRNAであり得る。代表的なオリゴヌクレオチドとしては、siRNA、マイクロRNA、DNA、およびRNAが挙げられる。一部の実施形態では、活性剤は、治療抗体である。
【0101】
デンドリマーは、複数の治療剤、予防剤、および/または診断剤を同じデンドリマーによって送達することができるという利点を有する。一部の実施形態では、活性剤の1つまたは複数の型を、デンドリマーにカプセル化する、それと複合体を形成する、またはそれにコンジュゲートすることができる。特定の実施形態では、デンドリマーは、2つまたはそれより多くの異なるクラスの作用剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされており、標的部位で異なるまたは独立した放出速度論による同時の送達を提供する。例えば、1つのデンドリマーを、1つまたは複数のPPARδアゴニストおよび1つまたは複数のアンジオテンシンII受容体遮断剤に共有結合により連結することができる。別の実施形態では、デンドリマーは、少なくとも1つの検出可能な部分および少なくとも1つのクラスの作用剤に共有結合により連結されている。さらなる実施形態では、各々が異なるクラスの作用剤を有するデンドリマー複合体を、組合せ処置のために同時に投与する。一実施形態では、デンドリマー組成物は、デンドリマーと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている、複数の作用剤、例えば化学療法薬、免疫療法剤、抗線維化剤、腫脹を減少させるステロイド、抗生物質、抗血管新生剤、および/または診断剤を有する。
【0102】
三分岐GalNAc修飾デンドリマーの選択的標的化は、デンドリマーにコンジュゲートされていない同じ活性剤と比較して、または三分岐β-GalNAcによって修飾されていないデンドリマーにコンジュゲートされている同じ活性剤と比較して、同じ治療効果を達成するために、より弱い活性剤を投与することを可能にし、このように、活性剤に関連する用量関連細胞傷害性および/または他の副作用を低減させる。デンドリマーはまた、送達される1つまたは複数の治療剤、予防剤、および/または診断剤の溶解度を増加させることもできる。例えば、テルミサルタンは、非常に疎水性の薬物であるが、デンドリマーにコンジュゲートされると、高度に水溶性となり、水溶性はおよそ60mg/mlである。
【0103】
活性剤はまた、以下に記載される化合物のいずれかの薬学的に許容されるプロドラッグであってもよい。プロドラッグは、in vivoで代謝されると、所望の薬理活性を有する化合物へと変換される化合物である。プロドラッグは、例えばH. Bundgaar, Design of Prodrugs (1985)に記載されるように、上記の化合物に存在する適切な官能基を「プロ部分」と置換することによって調製することができる。プロドラッグの例としては、上記の化合物のエステル、エーテル、またはアミド誘導体、上記の化合物のポリエチレングリコール誘導体、N-アシルアミン誘導体、ジヒドロピリジンピリジン誘導体、ポリペプチドにコンジュゲートされているアミノ含有誘導体、2-ヒドロキシベンズアミド誘導体、カーバメート誘導体、活性アミンへと生物学的に還元されるN-オキシド誘導体、およびN-マンニッヒ塩基誘導体が挙げられる。プロドラッグのさらなる考察に関しては、例えばRautio,J. et al. Nature Reviews Drug Discovery. 7:255-270 (2008)を参照されたい。
【0104】
活性剤は、1つまたは複数の肝疾患または障害を処置および防止するために有効性を有することが示されている治療剤を含む。例示的な治療剤としては、アンジオテンシンII受容体遮断剤、ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト、ナトリウム-グルコース共輸送体2型(SGLT2)阻害剤、アポトーシスシグナル調節キナーゼ1(ASK-1)阻害剤、ピリジノン誘導体、FGF-21アナログ、FGF-19アナログ、リゾホスファチジン酸(LPA)1受容体アンタゴニスト、エンドセリン-A受容体アンタゴニスト、PPARα/δアゴニスト、AT1受容体アンタゴニスト、CCR5/CCR2阻害剤、デス受容体5(DR5)の活性化剤、抗線維化剤、抗炎症剤、および/または抗酸化剤が挙げられる。一部の実施形態では、デンドリマー-三分岐GalNAcは、1つまたは複数のアンジオテンシンII受容体遮断剤、FXRアゴニスト、SGLT2阻害剤、ASK-1阻害剤、ピリジノン誘導体、FGF-21アナログ、FGF-19アナログ、LPA1受容体アンタゴニスト、エンドセリン-A受容体アンタゴニスト、PPARα/δアゴニスト、AT1受容体アンタゴニスト、CCR5/CCR2アンタゴニスト、DR5の活性化剤、抗線維化剤、抗炎症剤、抗酸化剤またはそれらの組合せと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。
【0105】
ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体デルタ(PPARδ)は、核受容体ファミリーのメンバーであり、脂肪、骨格筋、および肝臓を含む様々な組織において多面的作用を有する重要な代謝調節剤として現れつつある。PPARδアゴニストは、肝細胞のROS生成を低減させることによって肝細胞を細胞死から保護し、より少ない肝線維症をもたらす。例示的なPPARδアゴニストは、以前に記載されている。一部の実施形態では、PPARδアゴニストは、Rudolph J et al., J. Med. Chem. 2007, 50, 5, 984- 1000 (2007)に記載されているように4-チアゾリル-フェノキシテール基を有するインダニル酢酸誘導体である。例示的なPPARδアゴニストは、例えばHamJ et al., Eur J Med Chem. 53:190-202 (2012)によって以前に記載されている。このように、一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のPPARδアゴニストと複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子内に分散しているもしくはカプセル化されている。一実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のPPARδアゴニスト、例えばGW0742、GW501516、エラフィブラノル、またはその誘導体、もしくはアナログもしくはプロドラッグと複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0106】
ナトリウム-グルコース共輸送体2型(SGLT2)阻害剤は、体重減少を促進し、血清尿酸レベルを低下させながら、血糖コントロールを改善する血糖低下剤である。SGLT2阻害剤が脂肪肝に及ぼす有益な効果は、Scheen AJ. Diabetes Metab. 2019;45(3):213- 223; Omori et al., Metab.Clin. Exp. 2019 Jul 11によって報告されている。例示的なSGLT2阻害剤としては、フロリジン、T-1095、カナグリフロジン、ダパグリフロジン、イプラグリフロジン、トホグリフロジン、エンパグリフロジン、ルセオグリフロジン、エルツグリフロジン、およびレモグリフロジンエタボネートが挙げられる。このように、一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のSGLT2阻害剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0107】
リゾホスファチジン酸(LPA)は、オートタキシン(ATX)によるリゾホスファチジルコリンの加水分解を介して主に活性化血小板によって産生される脂質メディエーターである。LPAは、増殖、アポトーシス、遊走、およびがん細胞浸潤を含むいくつかの機能に関係する生物活性脂質である。LPAおよびLPA1受容体(LPA1R)は、肺線維症、肝線維症、および全身性強皮症を含む多くの炎症状態で増加している。LPAは、実質細胞の受容体に対して様々な生理的効果を発揮し、LPA1Rアンタゴニストは、肝線維症、肺線維症、および強皮症モデルにおいて抗線維化効果を示した。例示的なLPA1受容体アンタゴニストとしては、BMS-986202、BMS-986020、VPC12249、AM966、AM095、Ki16425、およびKi16198が挙げられる。このように、一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のLPA1受容体アンタゴニスト、例えばBMS-986202、BMS-986020、VPC12249、AM966、AM095、Ki16425、Ki16198、またはその誘導体もしくはアナログもしくはプロドラッグと複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0108】
エンドセリン-A受容体アンタゴニストであるアンブリセンタンの抗線維化効果は、マウス非アルコール性脂肪性肝炎モデルにおいて示されている(World J Hepatol. 2016 Aug 8; 8(22): 933-941)。例示的なエンドセリン受容体アンタゴニストとしては、シタキセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン、およびジボテンタンが挙げられる。このように、一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のエンドセリン受容体アンタゴニスト、例えばシタキセンタン、アンブリセンタン、マシテンタン、およびジボテンタン、またはその誘導体もしくはアナログもしくはプロドラッグと複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0109】
酸化的ストレスは、NAFLDの発病に関係していることから、反応性酸素種(ROS)と反応することが公知である抗酸化剤、例えばビタミンEの役割は、広範囲の酸化的ストレスの状況でフリーラジカル反応の鎖成長を遮断する。一実施形態では、活性剤は、ビタミンEまたはその誘導体もしくはアナログもしくはプロドラッグである。
【0110】
典型的に、1つまたは複数の活性剤は、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによってデンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために官能化されている。好ましい実施形態では、1つまたは複数の活性剤は、例えばエーテルまたはアミドを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって、in vivoでデンドリマーから非切断性であるかまたはほとんど切断されないように官能化されている。
【0111】
好ましい実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーを介して送達される1つまたは複数の活性剤は、標的細胞、組織、領域で治療的に有効であるために有効な量で、哺乳動物対象に投与後デンドリマー複合体から少なくとも1日、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、好ましくは少なくとも1週間、2週間、または3週間、より好ましくは少なくとも1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、または6ヶ月間放出される。
【0112】
1.アンジオテンシンII受容体遮断剤(ARB)
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のアンジオテンシンII受容体遮断剤(ARB)と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。肝星細胞におけるレニンアンジオテンシン経路は、反応性酸素種を誘導し、肝線維症を加速する。持続的な肝傷害に応答して、レニンアンジオテンシン系(RAS)は、肝線維症の発病に関係する血管収縮アゴニストであるアンジオテンシンII(AngII)の産生によって、炎症、組織修復、および線維素形成を局所的に加速する。RASは、レニンがアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンI(AngI)に変換し、これがアンジオテンシン変換酵素(ACE)によってアンジオテンシンII(AngII)に変換される単一のカスケードとして記載される。AngIIは、2つのGタンパク質カップリング受容体、すなわちAngII受容体1型(AT1)およびAngII受容体2型(AT2)を通して生物学的応答を媒介する。しかし、AngIIの線維素形成作用は、主にアンジオテンシン受容体AT1によって媒介される。
【0113】
NAFLDに関して現れつつある処置アプローチの中には、降圧剤であるテルミサルタンがあり、これはACE/AngII/AT1軸を遮断することによって、およびACE2/Ang(1-7)/Mas軸活性化を増加させることによって、特にレニン-アンジオテンシン系に及ぼすその作用を通して肝臓、脂質、およびグルコース代謝に対して正の効果を有する。
【0114】
このように、一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の肝疾患または障害、例えば非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、薬物誘発性肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、またはそれらの組合せを処置する、緩和する、または予防するために、1つまたは複数のアンジオテンシンII受容体遮断剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0115】
一部の実施形態では、アンジオテンシンII受容体遮断剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化されている。好ましい実施形態では、アンジオテンシンII受容体遮断剤は、in vivoで、例えばエーテルまたはアミドを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによってデンドリマーから非切断性であるかまたはほとんど切断されないように官能化されている。好ましい実施形態では、アンジオテンシンII受容体遮断剤またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。
【0116】
一実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、テルミサルタンまたはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。一部の実施形態では、テルミサルタンは、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)によって官能化されている。デンドリマー-テルミサルタンエステルコンジュゲートおよびデンドリマー-テルミサルタンアミドコンジュゲートとしての、テルミサルタンと三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーとの例示的なコンジュゲーションをそれぞれ、図3および図4に示す。
【0117】
2.ファルネソイドX受容体(FXR)アゴニスト
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、ファルネソイドX受容体(FXR)の1つまたは複数のアゴニストと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。ファルネソイドX受容体(FXR)は、胆汁酸合成および細胞膜輸送に関係する遺伝子の転写調節を通して胆汁酸の恒常性の主な調節因子である。胆管症による胆汁酸の流出障害は、慢性の胆汁うっ滞をもたらし、肝臓内および全身の胆汁酸レベルの異常な上昇をもたらす。オベチコール酸(OCA)は、内因性のリガンドであるケノデオキシコール酸(CDCA)より100倍強力である強力かつ選択的なFXRアゴニストである。
【0118】
一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の肝疾患または障害、例えば非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、薬物誘発性肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、またはそれらの組合せを処置する、緩和する、または予防するために、1つまたは複数のFXRアゴニスト、例えばオベチコール酸およびGW4064と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0119】
一部の実施形態では、FXRアゴニストは、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化されている。好ましい実施形態では、FXRアゴニストは、in vivoで、例えばエーテルまたはアミドを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによってデンドリマーから非切断性であるかまたはほとんど切断されないように官能化されている。
【0120】
一実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、オベチコール酸またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。一部の実施形態では、オベチコール酸は、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)によって官能化されている。デンドリマー-オベチコール酸エステルコンジュゲートとしての、オベチコール酸と三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーとの例示的なコンジュゲーションを、図8に示す。
【0121】
3.デス受容体5(DR5)アゴニスト
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、デス受容体5(DR5)の1つまたは複数のアゴニストと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。デス受容体5(DR5)はまた、TRAIL受容体2(TRAIL-R2)および腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー10B(TNFRSF10B)としても公知であり、腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘導リガンド(TRAIL)に結合するTNF受容体スーパーファミリーの細胞表面受容体である。
【0122】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数の肝疾患または障害、例えば非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、薬物誘発制肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、またはそれらの組合せを処置する、緩和する、または予防するために1つまたは複数のDR5アゴニストを含む。DR5アゴニストは、DR5を発現する細胞に特異的に結合し、アポトーシスカスケードを誘発し、少なくとも1つのDR5アゴニスト感受性細胞株(ヒト結腸癌細胞株Colo205、またはヒト肺癌細胞株H2122を含むがこれらに限定されない)において測定した場合に、細胞死(すなわち、アポトーシス)の統計学的に有意な増加をもたらす。DR5アゴニストは、抗体、apo2L/TRAIL、アビマー、Fc-ペプチド融合タンパク質(例えば、ペプチボディ)、または低分子DR5アゴニストであり得る。一部の実施形態では、DR5アゴニストは、アビマー(例えば、Nature Biotechnology 23:1556-1561 (2005))、またはヒトTRAILリガンド(例えば、米国特許第6,284,236号;および第6,998,116号)DR5アゴニスト(例えば、米国特許出願公開第2012/0070432号および第2006/0275838号)である。一部の実施形態では、組成物は、組み換え可溶性TRAILを含む。
【0123】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数のDR5アゴニスト性抗体を含む。例示的なDR5アゴニスト性抗体は、Lee H et al., Biomacromolecules 2016 17 (9), 3085-3093; Yada A etal., Ann. Oncol. 2008, 19, 1060-1067; Ichikawa, K. et al., Nat. Med. 2001, 7,954-960; Camidge, D. R et al., Clin. Cancer Res. 2010, 16, 1256-1263; Graves,J. D et al., Cancer Cell 2014, 26, 177-189によって記載されている。
【0124】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数のDR5オリゴマーペプチドおよび抗体アゴニスト、例えばその「抗hDR5ペプチド」および「抗DR5抗体」が本明細書に組み込まれる、Li B et al., J Mol Biol 2006 Aug 18;361(3):522-36に記載されるものを含む。
【0125】
一部の実施形態では、組成物は、1つまたは複数のジスルフィド結合破壊剤、例えばWangM et al., Cell Death Discovery (2019) 5:153; Ferreira, R. B. et al. Oncotarget8, 28971-28989 (2017); Law, M. E. et al. Breast Cancer Res. 18, 80 (2016);Ferreira, R. B. et al. Oncotarget 6, 10445-10459 (2015)に記載されるものを含む。一実施形態では、組成物は、以下に示すtcyDTDOを含む。
構造I:tcyDTDOの化学構造
【化3】
【0126】
DR5を直接標的化してアポトーシスを開始する一部の低分子は、以前に記載されている(WangG et al., Nat Chem Biol. 2013 Feb;9(2):84-9)。このように、一部の実施形態では、組成物は、DR5を直接標的化する1つまたは複数の低分子を含む。DR5を直接標的化する一部の例示的な低分子を以下に示す。
構造II:DR5を直接標的化する低分子の化学構造
【化4】
4.抗炎症剤
【0127】
一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の肝疾患または障害、例えば非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、薬物誘発性肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、またはそれらの組合せを処置する、緩和する、または予防するために、1つまたは複数の抗炎症剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。抗炎症剤は炎症を低減し、ステロイド薬および非ステロイド薬を含む。
【0128】
例示的な抗炎症剤としては、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、デキサメタゾン、プレドニゾロン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン酢酸エステル、コルチゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、フルシノニド(Flucinonide)、アルクロメタゾン、ジフルプレドナート、トリアムシノロン二酢酸エステル、ベタメタゾン、ベタメタゾン吉草酸エステル、ベクロメタゾン、ならびにその塩およびプロドラッグが挙げられる。グルココルチコイドステロイド性抗炎症剤としては、プレドニゾン、デキサメタゾン、およびコルチコステロイド、例えばフルオシノロンアセトニドおよびメチルプレドニゾロンが挙げられる。
【0129】
非ステロイド薬の例は、NSAIDSおよびCOX-2阻害剤に分類することができる。これらとしては、イブフェナク、アセチルサリチル酸、ベノキサプロフェン、ナプロキセン、アルミノプロキセン(alminoproxen)、ブクロキシ酸、イブプロフェン、セレコキシブ、カルプロフェン、エトドラク、フルフェナム酸、フルビプロフェン、インドメタシン、イソキセパク、ケトプロフェン、メフェナム酸、オキサプロゼン(oxaprozen)、オキシピナク(oxpinac)、パレコキシブ、フェニルブタゾン、ピロキシカム、スリンダク、スプロフェン、チアプロフェン酸、トルメチン、トラマドール、バルデコキシブ塩、およびそのプロドラッグが挙げられる。
【0130】
好ましい実施形態では、活性剤は、トリアムシノロンアセトニド、プレドニゾン、デキサメタゾン、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩である。トリアムシノロンアセトニド、プレドニゾン、およびデキサメタゾンの例示的なアナログを以下に示す(構造III)。
構造III a~f:トリアムシノロンアセトニド、プレドニゾン、デキサメタゾンのアナログの化学構造
【化5】
【0131】
一実施形態では、抗炎症剤は、N-アセチル-L-システインである。好ましい実施形態では、N-アセチル-L-システインは、投与後にin vivoで遊離のN-アセチル-システインがほとんど放出されないように非切断性の連結を介してヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーにコンジュゲートされている。デンドリマー/N-アセチル-システイン複合体の例示的な非放出(または非切断)型の合成経路を、図16に示す。デンドリマー/N-アセチル-システイン複合体の非放出型は、デンドリマー/N-アセチル-システイン複合体の放出型または切断型と比較して増強された治療有効性を提供する。
【0132】
例示的な免疫調節薬としては、シクロスポリン、タクロリムス、およびラパマイシンが挙げられる。一部の実施形態では、抗炎症剤は、1つまたは複数の免疫細胞の型、例えばT細胞の作用を遮断する、または免疫系のタンパク質を遮断する生物薬、例えば腫瘍壊死因子-アルファ(TNF-アルファ)、インターロイキン17-A、インターロイキン-12、およびインターロイキン-23である。
【0133】
一部の実施形態では、抗炎症薬は、合成または天然の抗炎症性タンパク質である。免疫成分を選択するために特異的な抗体を、免疫抑制治療に加えることができる。一部の実施形態では、抗炎症薬は、抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリンまたは抗リンパ球グロブリン)、抗IL-2Rα受容体抗体(例えば、バシリキシマブまたはダクリズマブ)、または抗CD20抗体(例えば、リツキシマブ)である。
【0134】
多くの炎症性疾患が、リポ多糖(LPS)のための受容体、toll-like受容体4(TLR4)を介した病的に上昇したシグナル伝達に関連し得る。このように、一部の実施形態では、活性剤は、1つまたは複数のTLR4阻害剤である。
【0135】
5.抗線維化剤
一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の肝疾患または障害、例えば非アルコール性脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎、薬物誘発性肝不全、肝炎、肝線維症、肝硬変、またはそれらの組合せを処置する、緩和する、または予防するために1つまたは複数の抗線維化治療剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。一部の実施形態では、肝線維症を処置するために有効であることが示されている1つまたは複数の既存の抗線維化治療剤は、肝細胞への送達および肝細胞内部での蓄積を増強するために三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。例えば、例示的な抗線維化治療剤としては、Cohen-Naftaly M et al., Therap Adv Gastroenterol. 4(6): 391-417(2011) and Chang Y et al., J Clin Transl Hepatol. 28; 8(2): 222-229 (2020)において考察されている治療剤が挙げられる。一部の実施形態では、抗線維化治療剤は、抗酸化剤、抗TNFα、PPARγアゴニスト、IFNαアゴニスト、アンジオテンシン受容体遮断剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト、抗凝固剤、FXRアゴニスト、結合組織増殖因子に対する抗体、インスリン、peg化インターフェロン、またはそれらの組合せである。一部の実施形態では、抗線維化治療剤は、ペントキシフィリン、トコフェロール、pegインターフェロン2a、エタネルセプト、組み換えIL-10、ピオグリタゾン、ビタミンE、Lovaza(魚油)、ポリエニルホスファチジルコリン、オベチコール酸、インフリキシマブ、peg化IFNα-2b、リバビリン、Peg-IFNα-2b、グリチルリチン、カンデサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、アンブリセンタン、FG-3019(結合組織増殖因子に対するヒトモノクローナル抗体)、ワーファリン、インスリン、コルヒチン、またはそれらの組合せである。
6.肝臓がんを処置するための免疫調節剤
【0136】
一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の免疫調節剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。「免疫調節剤」および「免疫療法剤」という用語は、レシピエントの免疫系に特定の作用を誘発する活性剤を意味する。免疫調節は、対照と比較して、自然免疫応答または抗原に対する適応免疫応答の1つまたは複数の生理的プロセスの抑制、低減、増強、延長、または刺激を含み得る。典型的には、免疫調節剤は、1つまたは複数の免疫細胞または細胞の型を標的部位に標的化することによって、所望の免疫応答(例えば、抗腫瘍活性を増加させる、または自己免疫疾患においてそれを必要とする部位での抗炎症活性を増加させる)に関して免疫微小環境をモジュレートすることができるが、このように任意のがんの型に対して必ずしも特異的ではない。一部の実施形態では、免疫調節剤は、腫瘍部位での増強された抗腫瘍応答のために、腫瘍関連マクロファージなどの抑制性免疫細胞を殺滅、その活性または量を阻害、または低減するように特異的に送達される。
【0137】
三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーと共に使用される一部の例示的な免疫調節剤は、インターフェロン刺激遺伝子(STING)アゴニスト、コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)阻害剤、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、MEK阻害剤、グルタミナーゼ阻害剤、TIE IIアンタゴニスト、CXCR2阻害剤、CD73阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)阻害剤、Toll-like受容体4(TLR4)アゴニスト、TLR7アゴニスト、およびSHP2(Src homology-2ドメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼ-2)阻害剤が挙げられる。好ましい実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、STINGアゴニスト、CSF1R阻害剤、PARP阻害剤、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、MEK阻害剤、グルタミナーゼ阻害剤、TIE IIアンタゴニスト、CXCR2阻害剤、CD73阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、TLR4アゴニスト、TLR7アゴニスト、SHP2阻害剤の1つまたは複数、またはそれらの組合せと複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0138】
これらのデンドリマー複合体は、肝臓の腫瘍領域における1つまたは複数の抑制性免疫細胞を標的化するためならびにがん細胞の数を低減するため;腫瘍サイズを低減するため:がん細胞の末梢臓器への浸潤を阻害するため;腫瘍の転移を阻害するため;腫瘍の成長を阻害するため;および/または腫瘍/がんに関連する症状の1つもしくは複数を軽減するために特に適している。一部の実施形態では、1つまたは複数の免疫調節剤に会合している、またはコンジュゲートされているデンドリマーは、例えば自然免疫遺伝子の発現、活性化エフェクターT細胞の浸潤および増大、抗原の伝播、および永続的な免疫応答を増加させるために、抗腫瘍ワクチンおよび/またはアジュバントとしての養子細胞治療(ACT)と組み合わせて使用される。
【0139】
一部の実施形態では、免疫調節剤は、EGFR、ERBB2、VEGFR、Kit、PDGFR、ABL、SRC、mTOR、およびそれらの組合せの1つまたは複数を標的化する任意の阻害剤である。一部の実施形態では、免疫調節剤は、1つまたは複数の阻害剤およびそのアナログ、例えばクリゾチニブ、セリチニブ、アレクチニブ、ブリガチニブ、ボスチニブ、ダサチニブ、イマチニブ、ニロチニブ、ポナチニブ、ベムラフェニブ、ダブラフェニブ、イブルチニブ、パルボシクリブ、リボシクリブ、カボザンチニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ラパチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ルキソリチニブ、トファシチニブ、トラメチニブ、アキシチニブ、レンバチニブ、ニンテダニブ、パゾパニブ、レゴラフェニブ、ソラフェニブ、スニチニブ、バンデタニブ、ボスチニブ、ダサチニブ、ダコミチニブ、ポナチニブ、およびそれらの組合せである。一部の実施形態では、免疫調節剤は、チロシンキナーゼ阻害剤、例えばHER2阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤である。例示的なEGFRチロシンキナーゼ阻害剤としては、ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダコミチニブ、およびオシメルチニブが挙げられる。
【0140】
追加の免疫調節剤は、1つまたは複数の免疫細胞に対して毒性である1つまたは複数の細胞傷害剤を含むことができ、このように抑制性免疫細胞の1つまたは複数の型を殺滅または阻害することができる。デンドリマーにコンジュゲートされているように免疫細胞を標的化するように選択的に送達されると、これらの作用剤は、抑制性免疫細胞を選択的に殺滅し、このように腫瘍内および腫瘍周囲の免疫学的微小環境を変更することができる。細胞傷害性免疫調節剤は、アウリスタチンEおよびメルタンシンを含む。
STINGアゴニスト
【0141】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のインターフェロン刺激遺伝子(STING)アゴニストと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。インターフェロン刺激遺伝子(STING)は、外因性および内因性の両方のサイトゾル環状ジヌクレオチド(CDN)を感知し、TBK1/IRF3(インターフェロン調節因子3)、NF-κB(核内因子κB)、およびSTAT6(signal transducer and activator of transcription 6)シグナル伝達経路を活性化して、強固なI型インターフェロンおよび炎症促進性サイトカイン応答を誘導するサイトゾル受容体である。STINGは、マウスがんモデルにおいて抗腫瘍CD8 T応答の誘導にとって必要である。腫瘍の微小環境では、ex vivoでSTINGアゴニストによって刺激されたT細胞、内皮細胞、および線維芽細胞は、I型IFNを産生する(Corrales, et al., Cell Rep (2015) 11(7):1018-30)。これに対し、ほとんどの試験は、腫瘍細胞がSTING経路活性化を阻害し、おそらく発がんの間の免疫回避をもたらすことができることを示した(He,et al., Cancer Lett (2017) 402:203-12; Xia, et al., Cancer Res (2016)76(22):6747-59)。このように、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のSTINGアゴニストまたはそのアナログに会合している、またはコンジュゲートされている。例示的なSTINGアゴニストとしては、環状ジヌクレオチド、例えば2’3’環状グアノシン一リン酸-アデノシン一リン酸(cGAMP)およびDMXAA(バディメザンまたはASA404としても公知である)が挙げられる。一実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、DMXAAまたはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグに会合している、またはコンジュゲートされている。好ましい実施形態では、三分岐β-GalNAcおよびDMXAAの複合体またはコンジュゲートは、標的部位でTNF-α、IP-10、IL-6、IFN-β、およびRANTESの1つまたは複数を誘導するために有効である。
【0142】
一部の実施形態では、STINGアゴニストは、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化されている。例えば、DMXAAは、DMXAAアナログ、例えばDMXAAエステル、DMXAAエーテル、またはDMXAAアミドへと修飾することができる。好ましい実施形態では、STINGアゴニストまたはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。STINGアゴニスト、例えばDMXAAとデンドリマー、例えば第4世代または第6世代PAMAMデンドリマーとの例示的なコンジュゲーションを図1に示す。
【0143】
好ましい例では、1つまたは複数のSTINGアゴニストを含むデンドリマー複合体は、腫瘍浸潤性APC(例えば、CD11c+CD11b-またはCD11c+CD11b+細胞)によるIFN-β産生を誘導/増強するため、TNF-α、IP-10、IL-6、IFN-β、およびRANTESの1つまたは複数を誘導/増強するため、腫瘍の成長を阻害するため、腫瘍サイズを低減するため、長期間の生存率を増加させるため、免疫チェックポイント遮断に対する応答を改善するため、および/または腫瘍再チャレンジに対して保護する免疫学的メモリーを誘導するために有効な量で投与される。
コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)阻害剤
【0144】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のコロニー刺激因子1受容体(CSF1R)阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。CSF1Rは、III型タンパク質チロシンキナーゼ受容体ファミリーに属し、CSF1またはより最近同定されたリガンドであるIL-34の結合は、受容体のホモ二量体化、およびその後の受容体シグナル伝達の活性化を誘導する(Achkova D, Maher J. Biochem Soc Trans. (2016) 44:333-41)。CSF1受容体(CSF1R)媒介シグナル伝達は、単核球色細胞系および特にマクロファージの分化および生存にとって極めて重要である(StanleyER, Chitu V. Cold Spring Harb Perspect Biol (2014), 6(6))。CSF1R+マクロファージの腫瘍内存在は、様々な腫瘍の型において不良な生存と相関することから(PedersenMB, et al., Histopathology. (2014), 65:490-500; Zhang QW et al., PLoS One.(2012), 7:e50946)、腫瘍促進性TAMにおけるCSF1Rシグナル伝達の標的化は、これらの細胞を除去するためにまたは再分極するために魅力的な戦略を表す。TAMに加えて、CSF1R発現は、腫瘍微小環境内の他の骨髄性細胞、例えば樹状細胞、好中球、および骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)において検出することができる。
【0145】
CSF1RまたはそのリガンドであるCSF1に対する多様な低分子およびモノクローナル抗体(mAb)は、単剤療法としておよび標準的な処置モダリティ、例えば化学療法ならびに他のがん免疫療法アプローチとの組合せで臨床開発中である。低分子のクラスの中でも、CSF1R、cKIT、突然変異体fms様チロシンキナーゼ3(FLT3)、および血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)-βの経口チロシンキナーゼ阻害剤であるペキシダルチニブ(PLX3397)は、単剤療法で最も広い臨床開発プログラムの対象であり、c-kit突然変異黒色腫、前立腺がん、膠芽腫(GBM)、古典的ホジキンリンパ腫(cHL)、神経線維腫症、肉腫、および白血病における試験が終了したものもまたは進行中のものもある。ARRY-382、PLX7486、BLZ945、およびJNJ-40346527を含む、追加のCSF1R標的化低分子は、固形腫瘍およびcHLにおいて現在試験中である。臨床開発中のmAbとしては、エマクツズマブ(RG7155)、AMG820、IMC-CS4(LY3022855)、カビラリズマブ、MCS110、およびPD-0360324が挙げられ、後者の2つはリガンドCSF1を標的化する化合物である。「CSF1R阻害剤」という語句は、受容体標的化およびリガンド標的化化合物の両方の全般的用語として使用される。
【0146】
このように、一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、CSF1Rシグナル伝達経路の活性を低減または阻害するための1つまたは複数の作用剤、例えば1つもしくは複数のCSF1R阻害剤、またはリガンドCSF1を標的化する1つもしくは複数の化合物に会合している、またはコンジュゲートされている。一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数の低分子CSF1R阻害剤またはそのアナログに会合している、またはコンジュゲートされている。例示的な低分子CSF1R阻害剤は、Current Medicinal Chemistry, 2019, 26, 1-23に提供されている。例示的なCSF1R標的化低分子としては、ペキシダルチニブ(PLX3397、PLX108-01)、ARRY-382、PLX7486、BLZ945、JNJ-40346527、およびGW2580が挙げられる。低分子CSF1R阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、低分子CSF1R阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。
【0147】
デンドリマーとのコンジュゲーションにとって適した例示的なCSF1R標的化低分子またはそのアナログの化学構造を以下に示す。
構造IV:CSF1R阻害剤1の化学構造
【化6】
構造V:CSF1R阻害剤2の化学構造
【化7】
構造VI:CSF1R阻害剤3の化学構造
【化8】
構造VII:CSF1R阻害剤4の化学構造
【化9】
構造VIII:CSF1R阻害剤5の化学構造
【化10】
構造IX:CSF1R阻害剤6の化学構造
【化11】
構造X a~b:a)CSF1R-Eアナログおよびb)デンドリマー-コンジュゲートCSF1R-Eの化学構造
【化12】
構造XI:CSF1R-Eアナログ1の化学構造
【化13】
【0148】
CSF1R-Eアナログ1(構造XI)の結合親和性は約13nmであり、デンドリマーコンジュゲートCSF1R-Eアナログ1(例えば、アルキン-アジドクリックケミストリーを介して)の結合親和性は約200nmである。このように、好ましい実施形態では、CSF1R阻害剤は、CSF1Rに対する結合親和性の低減を最小限にするように、例えば1倍未満、2倍未満、3倍未満、4倍未満、5倍未満、10倍未満、20倍未満、30倍未満、40倍未満、50倍未満、または100倍未満とするようにスペーサーの存在下または非存在下でデンドリマーにコンジュゲートされている。
構造XII:CSF1R阻害剤Fの化学構造
【化14】
【0149】
例示的なCSF1R標的化mAbとしては、エマクツズマブ(RG7155)、AMG820、IMC-CS4(LY3022855)、およびカビラリズマブが挙げられる。例示的なmAbは、リガンドCSF1MCS110およびPD-0360324を標的化する。
【0150】
好ましい実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のCSF1Rのチロシンキナーゼ阻害剤、例えばGW2580(構造Xとして示される)にコンジュゲートされている。CSF1R阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。例えば、GW2580を、GW2580エーテル、GW2580エステル、およびGW2580アミドを含むGW2580アナログへと修飾することができる。好ましい実施形態では、GW2580またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。CSF1R阻害剤、例えばGW2580をデンドリマーにコンジュゲートするための例示的な戦略を図17Aおよび17Bに示す。
構造XIII:GW2580の化学構造
【化15】
【0151】
一実施形態では、デンドリマーは、以下の構造を有するCSF1R阻害剤またはそのアナログにコンジュゲートされている。
構造XIV:AR004の化学構造
【化16】
【0152】
AR004にコンジュゲートされているデンドリマーの合成経路を図15に示す。
ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤
【0153】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)は、補因子としてNAD+を使用して特異的アクセプタータンパク質上のADP-リボース基を転移する一般的な触媒部位によって特徴付けられる17個の核タンパク質のファミリーである。ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害剤
【0154】
オラパリブ(C2423FN)は、臨床診療に導入された最初のPARP阻害剤であった。ニラパリブは、PARP-1およびPARP-2の強力かつ選択的阻害剤である。ルカパリブは、単剤として、少なくとも2つの化学療法ライン後に再発したgBRCAmまたはsBRCAmを有するHGSOC患者の処置に関して、2016年12月にFDAによって承認され、2018年5月にEMAによって承認された強力なPARP阻害剤である。
【0155】
一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のPARP阻害剤、例えばオラパリブ、ニラパリブ、およびルカパリブを含む。PARP阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、PARP阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。
VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤
【0156】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のVEGFRチロシンキナーゼ阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。チロシンキナーゼは、細胞増殖および遊走を含む多様な生物活性を有する重要な細胞シグナル伝達タンパク質である。受容体チロシンキナーゼ、例えば血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)を含む複数のキナーゼが血管新生に関係している。臨床開発中の抗血管新生チロシンキナーゼ阻害剤は、主にVEGFR-1、-2、-3、上皮成長因子受容体(EGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、PDGFR-β、KIT、fms関連チロシンキナーゼ3(FLT3)、コロニー刺激因子-1受容体(CSF-1R)、Raf、およびRETを標的化する。
【0157】
VEGFRファミリーは、VEGFR-1、-2、および-3として公知である3つの関連する受容体チロシンキナーゼを含み、これらはVEGFリガンドの血管新生効果を媒介する(Hicklin DJ, Ellis LM. J Clin Oncol. (2005), 23(5):1011-27)。哺乳動物ゲノムにおいてコードされるVEGFファミリーは、5つのメンバーを含む:VEGF-A、VEGF-B、VEGF-C、VEGF-D、および胎盤増殖因子(PlGF)。VEGFは、内皮細胞の増殖および遊走の重要な刺激剤である。VEGF-A(一般的にVEGFと呼ばれる)は、腫瘍の血管新生の主要なメディエーターであり、主要なVEGFシグナル伝達受容体であるVEGFR-2を通してシグナルを伝達する(KerbelRS, N Engl J Med. (2008), 358(19):2039-49)。
【0158】
最も注目すべき血管新生阻害剤は、血管内皮増殖因子シグナル伝達経路を標的化し、例えばモノクローナル抗体ベバシズマブ(Avastin、Genentech/Roche)および2つのキナーゼ阻害剤スニチニブ(SU11248、Sutent、Pfizer)およびソラフェニブ(BAY43-9006、Nexavar、Bayer)である。ベバシズマブは、最初は結腸直腸がんの処置に関して、最近では乳がんおよび肺がんの処置に関しても臨床承認されている最初の血管新生阻害剤であった。低分子チロシンキナーゼ阻害剤であるスニチニブおよびソラフェニブは、VEGF受容体(VEGFR)、主にVEGFR-2を標的化し、多様ながんの型において臨床で有効性を示している。両方の薬物は、腎細胞がんを有する患者において利点を示している(Motzer RJ, Bukowski RM, J Clin Oncol. (2006); 24(35):5601-8)。加えて、スニチニブは、消化管間質腫瘍(GIST)の処置のために承認されている。ソラフェニブは、Rafセリンキナーゼも同様に阻害し、肝細胞がんの処置のためにも承認されている。セディラニブは、VEGF受容体(VEGFR)の経口チロシンキナーゼ阻害剤である。
【0159】
一部の実施形態では、デンドリマーは、スニチニブ(SU11248;SUTENT(登録商標))、ソラフェニブ(BAY439006;NEXAVAR(登録商標))、パゾパニブ(GW786034;VOTRIENT(登録商標))、バンデタニブ(ZD6474;ZACTIMA(登録商標))、アキシチニブ(AG013736)、セディラニブ(AZD2171;RECENTIN(登録商標))、バタラニブ(PTK787;ZK222584)、ダサチニブ、ニンテダニブ、およびモテサニブ(AMG706)、またはそのアナログを含む1つまたは複数のVEGF受容体阻害剤にコンジュゲートされている。
【0160】
一部の実施形態では、VEGF受容体阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、1つまたは複数のVEGF受容体阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。例えば、スニチニブを、エステル連結またはアミド連結を有するスニチニブへと修飾することができる(図3Aおよび3B)。VEGF受容体阻害剤、例えばスニチニブのデンドリマーとの例示的なコンジュゲーションを、図3A(ヒドロキシメチル連結を介する)および3B(アミド連結を介する)に示す。一実施形態では、スニチニブアナログは、N,N-ジデスエチルスニチニブである。
【0161】
機能的なスペーサー/連結を有する例示的なVEGF受容体阻害剤アナログを、以下の構造XV、構造XVI、および構造XVIIに示す。
構造XV a~b:ソラフェニブアナログの化学構造
【化17】
構造XVI a~d:ニンテダニブおよびアナログの化学構造
【化18】
構造XVII:オラチニブアナログの化学構造
【化19】
MEK阻害剤
【0162】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のMEK阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。マイトゲン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)カスケードは、ヒトがん細胞の生存、播種、および薬物療法に対する耐性に関する重要な経路である。MAPK/ERK(細胞外シグナル調節キナーゼ)経路は、内部代謝ストレスおよびDNA損傷経路、ならびに変更されたタンパク質濃度を含む多数の刺激からの入力、ならびに外部増殖因子からのシグナル伝達、細胞マトリックス相互作用、および他の細胞からの伝達を介した入力を受けるコンバージェントシグナル伝達ノードである。
【0163】
一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のMEK阻害剤にコンジュゲートされている。例示的なMEK阻害剤としては、レファメチニブ、ピマセルチブ、トラメチニブ(GSK1120212)、コビメチニブ(またはXL518)、ビニメチニブ(MEK162)、セルメチニブ、CI-1040(PD-184352)、PD325901、PD035901、PD032901、およびTAK-733、またはそのアナログが挙げられる。好ましい実施形態では、MEK阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化されている。好ましい実施形態では、MEK阻害剤またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。例えば、ビニメチニブは、ビニメチニブエステル、ビニメチニブエーテル、またはビニメチニブアミドへと修飾することができる;トラメチニブは、トラメチニブエーテル、トラメチニブエステル、またはトラメチニブアミドへと修飾することができ;ピマセルチブは、ピマセルチブエステルおよびピマセルチブエーテルへと修飾することができる。例示的なMEK阻害剤およびそのアナログを以下に示す:エステル連結(構造XVIII)およびエーテル連結(構造XIX)を介してPEGリンカーおよびアジド基によって官能化されたビニメチニブ;アミド連結(構造XX)を介してPEGリンカーおよびアジド基によって官能化されたトラメチニブアナログ;ならびにエステル連結(構造XXI)を介してPEGリンカーおよびアジド基によって官能化されたピマセルチブアナログ。
構造XVIII:ビニメチニブアナログ1の化学構造
【化20】
構造XIX:ビニメチニブアナログ2の化学構造
【化21】
構造XX:トラメチニブアナログの化学構造
【化22】
構造XXI:ピマセルチブアナログの化学構造
【化23】
グルタミナーゼ阻害剤
【0164】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のグルタミナーゼ阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。グルタミンのグルタメートへの変換に関与するグルタミナーゼ(GLS)は、腫瘍細胞成長のための細胞代謝の上方調節において必須の役割を果たす。例示的なグルタミナーゼ阻害剤としては、ビス-2-(5-フェニルアセトイミド-1,2,4-チアジアゾル-2-イル)エチルスルフィニド(BPTES)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)、アザセリン、アシビシン、およびCB-839が挙げられる。一部の実施形態では、グルタミナーゼ阻害剤は、BPTESアナログ、例えばJHU-198、JHU-212、およびJHU-329である(Thomas AG et al., Biochem Biophys Res Commun. (2014); 443(1): 32-36)。
【0165】
一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のグルタミナーゼ阻害剤にコンジュゲートされている。例示的なグルタミナーゼ阻害剤としては、BPTES、DON、アザセリン、アシビシン、CB-839、JHU-198、JHU-212、およびJHU-329が挙げられる。グルタミナーゼ阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、グルタミナーゼ阻害剤またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。好ましい実施形態では、デンドリマーは、CB-839またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩にコンジュゲートされている。CB-839は、以下の構造を有する:
構造XXII:CB-839の化学構造
【化24】
【0166】
一部の実施形態では、デンドリマーは、グルタミンアナログ、またはアンタゴニストL-[αS,5S]-α-アミノ-3-クロロ-4,5-ジヒドロ-5-イソキサゾール酢酸(アシビシン)、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩にコンジュゲートされている。アシビシンの化学構造を以下の構造XXIIIに示す。
構造XXIII:
【化25】
【0167】
アシビシンは、がんの処置のための臨床試験の対象である。投薬量および製剤は当技術分野で公知であり、例えばHidalgo, Clinical Cancer Research, 4(11): 2763-2770 (1998)、米国特許第3,856,807号、第3,878,047号、および第5,087,639号を参照されたい。一実施形態では、デンドリマーは、アシビシンにコンジュゲートされている。好ましい実施形態では、アシビシンは、デンドリマーにコンジュゲートされる前に、例えばエーテル、エステル、N-アルキル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)によって官能化されている。
TIE IIアンタゴニスト
【0168】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のTIE IIアンタゴニストと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。CD202B(CD分類202B)としても公知であるアンジオポエチン-1受容体は、ヒトにおいてTEK遺伝子によってコードされるタンパク質である。同様に、TIE2としても公知であるのは、アンジオポエチン受容体である。アンジオポエチンは、腫瘍の成長および発達を支える血管の形成(血管新生)にとって必要なタンパク質増殖因子である。したがって、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のTIE IIアンタゴニストにコンジュゲートされている。
【0169】
TIE IIアンタゴニストは、例えばデンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。例示的なTIE II阻害剤の化学構造を以下の構造XXIVに示す。遊離のTIE IIアンタゴニストのTIE II阻害は、約8.8nmの解離定数Kを有し、デンドリマーコンジュゲートTIE IIアンタゴニスト(構造XXIV)のTIE II阻害は、約25nmの解離定数Kを有する。このように、好ましい実施形態では、TIE IIアンタゴニストは、TIE II阻害の低減を最小限にするように、例えば1倍未満、2倍未満、3倍未満、4倍未満、5倍未満、10倍未満、20倍未満、30倍未満、40倍未満、50倍未満、および100倍未満にするように、スペーサーの存在下または非存在下でデンドリマーにコンジュゲートされている。
構造XXIV:TIE IIアンタゴニスト1
【化26】
【0170】
一部の実施形態では、デンドリマーは、2つまたはそれより多くの異なるクラスの活性剤と複合体を形成している、またはコンジュゲートされており、標的部位で異なるまたは独立した放出速度論での同時の送達を提供する。一実施形態では、第4世代または第6世代PAMAMデンドリマーは、TIE II阻害剤およびゲムシタビン、またはそのアナログにコンジュゲートされている。別の実施形態では、第4世代または第6世代PAMAMデンドリマーは、TIE II阻害剤およびカペシタビン、またはそのアナログにコンジュゲートされている。2つまたはそれより多くの異なるクラスの活性剤にコンジュゲートされているデンドリマーの例示的な合成経路を、図13A~13Cに示す。
CXCR2阻害剤
【0171】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のCXCR2阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。CXCR2は、多くの腫瘍細胞によって発現され、がんの多様な前臨床モデルにおいて化学療法耐性に関係している(Poeta VM et al., Front Immunol. 2019; 10: 379)。乳がん細胞では、CXCR2欠失は、パクリタキセルに対する良好な応答をもたらした。黒色腫モデルでは、CXCR2阻害剤ナバリキシンはMEK阻害剤と相乗効果を示したが、卵巣腫瘍モデルでは、CXCR2阻害剤SB225002は、ソラフェニブの血管新生治療を改善した。ヒト胃がんでは、レパリキシン、CXCR1およびCXCR2阻害剤は、5-フルオロウラシルの有効性を増強した。
【0172】
CXCR2標的化は、骨髄細胞浸潤に影響を及ぼすことから、腫瘍の成長も阻害する。膵臓腫瘍では、CXCR2阻害は、T細胞応答を開放する好中球の蓄積を防止し、転移性の播種を阻害し、抗PD-1に対する応答の改善をもたらした。興味深いことに、CXCR2とCCR2阻害剤の組み合わせた応答は、TAMの補完的応答を制限し、抗腫瘍免疫を増加させ、FXに対する応答を改善した。最後に、前立腺がんモデルでは、SB265610によるCXCR2阻害は、骨髄細胞の動員を減少させ、ドセタキセル誘発性の老化を増強し、腫瘍の成長を制限する。
【0173】
このように、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のCXCR2阻害剤に会合している、またはコンジュゲートされている。例示的なCXCR2阻害剤としては、ナバリキシン、SB225002、SB332235、SB265610、レパリキシン、およびAZD5069が挙げられる。好ましい実施形態では、デンドリマーは、ナバリキシン、SB225002、またはSB332235、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩にコンジュゲートされている。CXCR2阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、N-アルキル、またはアミド連結によって官能化することができる。一部の実施形態では、CXCR2阻害剤は、クリックケミストリーを使用するN-アルキル連結を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。
CD73阻害剤
【0174】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のCD73阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。CD73は、細胞外アデノシン一リン酸(AMP)を免疫抑制性のアデノシンに変換し、これは、抗腫瘍免疫監視をT細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞、樹状細胞(DC)、骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)および腫瘍関連マクロファージ(TAM)のレベルで遮断する。がんにおいて、腫瘍細胞および腫瘍間質細胞中の細胞におけるCD73発現の上方調節は、アデノシン産生の増加をもたらし、これはT細胞およびNK細胞の細胞傷害性、サイトカイン産生、および増殖の阻害、ならびに抗原提示細胞(APC)の抑制;増強された制御性T細胞(Treg)増殖および抑制性活性、ならびにMDSCおよびマクロファージM2分極化をもたらす。これらの変化は腫瘍の成長および疾患進行を可能にする。
【0175】
このように、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のCD73阻害剤にコンジュゲートされている。例示的なCD73阻害剤としては、非加水分解性AMPアナログ、例えばアデノシン5’-(α,β-メチレン)ジホスフェート(APCP)、フラボノイドに基づく化合物、例えばケルセチン、およびプリンヌクレオチドアナログ、例えばテノホビルおよびスルホン酸化合物が挙げられる。好ましい実施形態では、デンドリマーは、APCP、ケルセチン、またはテノホビル、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩を含む1つまたは複数のCD73阻害剤にコンジュゲートされている。CD73阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、CD73阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介してデンドリマーにコンジュゲートされている。
【0176】
一部の実施形態では、以下の構造XXV a~iおよび構造XXVI a~cに示される構造を有する1つまたは複数のCD73阻害剤および/またはその誘導体、もしくはアナログは、デンドリマーとのコンジュゲーションにとって適している。
構造XXV a~i:CD73阻害剤およびそのアナログの構造
【化27】
構造XXVI a~c:CD73阻害剤およびそのアナログの構造
【化28】
アルギナーゼ阻害剤
【0177】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のアルギナーゼ阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。酵素アルギナーゼ1(Arg1)の発現は、免疫抑制性骨髄性細胞の明確な特徴であり、T細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞増殖にとって必要な栄養であるL-アルギニンの枯渇をもたらす。したがって、がんの状況においてArg1活性を遮断すると、L-アルギニン代謝の平衡をリンパ球増殖に有利となるようにシフトさせることができた。実際に、マウスの試験では、アルギナーゼ阻害剤nor-NOHAを注射するかまたは骨髄性区画におけるArg1を遺伝子破壊すると、低減された腫瘍成長をもたらし、Arg1が腫瘍形成促進性であることを示している。
【0178】
このように、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のアルギナーゼ阻害剤に会合している、またはコンジュゲートされている。一部の実施形態では、1つまたは複数のアルギナーゼ阻害剤は、ボロン酸に基づくアルギナーゼ阻害剤、例えば2-(S)-アミノ-6-ボロノヘキサン酸(ABH)の誘導体(Borek B et al., Bioorg Med Chem. 2020 Sep 15;28(18):115658)、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩である。好ましい実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のアルギナーゼ阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩にコンジュゲートされている。アルギナーゼ阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、アミン、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、アルギナーゼ阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介してデンドリマーにコンジュゲートされている。
【0179】
一部の実施形態では、以下の構造XXVII a~gおよび構造XXVIII a~hに示される構造を有する1つまたは複数のアルギナーゼ阻害剤および/またはその誘導体もしくはアナログは、デンドリマーにコンジュゲートされている。
構造XXVII a~g:アルギナーゼ阻害剤およびそのアナログの構造
【化29】
構造XXVIII a~h:アルギナーゼ阻害剤およびそのアナログの構造
【化30】
ホスファチジルイノシトール-3-キナーゼ(PI3K)阻害剤
【0180】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のPI3K阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。PI3K/PTEN経路成分の調節障害は、過剰活性化PI3Kシグナル伝達をもたらし、様々ながんでしばしば観察されており、腫瘍の成長および生存と相関する。受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤および化学療法剤を含む多様な抗がん治療に対する耐性は、PI3K/PTEN経路に沿って下方調節するシグナルの非存在または減弱のためである。マクロファージPI3-キナーゼγは、炎症およびがんの際の免疫の刺激と抑制の間の重要な切り替えを制御する。AktおよびmTorを通してのPI3Kγシグナル伝達は、NFκB活性化を阻害するが、C/EBPβ活性化を刺激し、それによって炎症および腫瘍成長の際の免疫抑制を促進する転写プログラムを誘導する。これに対し、マクロファージPI3Kγの選択的不活化は、NFκB活性化を刺激し、延長させ、C/EBPβ活性化を阻害し、このようにCD8+T細胞活性化および細胞傷害性を回復する免疫刺激転写プログラムを促進する。
【0181】
このように、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のPI3K阻害剤に会合している、またはコンジュゲートされている。好ましい実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のPI3Kγ阻害剤に会合している、またはコンジュゲートされている。例示的なPI3K阻害剤としては、BYL719(アルペリシブ)、INK1117(セラベリシブ、MLN-1117、またはTAK-117)、XL147(SAR245408)、ピララリシブ、WX-037、NVP-BEZ235(ダクトリシブまたはBEZ235)、LY3023414(プレキサセルチブ)、XL765(ボクスタリシブまたはSAR245409)、PX-866、ZSTK474、NVP-BKM120(ブパルリシブ)、GDC-0941(ピクチリシブ)、およびBAY80-6946(コパンリシブ)が挙げられる。PI3K阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、PI3K阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。例示的なPI3K阻害剤の化学構造を以下の構造XXIXおよび構造XXXに示す。
構造XXIX a~k:PI3K阻害剤およびそのアナログの構造
【化31】
構造XXX a~f:PI3K阻害剤およびそのアナログの構造
【化32】
Toll-like受容体4(TLR4)およびTLR7アゴニスト
【0182】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のToll-like受容体4(TLR4)アゴニストおよび/またはToll-like受容体7(TLR7)アゴニストと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。TLRは、免疫応答の活性化において極めて重要な役割を果たす。TLRは、広範囲の微生物上で発現される保存された病原体関連分子パターン(PAMP)、ならびにストレスを受けたまたは死につつある細胞から放出される内因性のDAMPを認識する。
【0183】
一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のTLR4アゴニストに会合している、またはコンジュゲートされている。例示的なTLR4アゴニストとしては、合成のtoll-like受容体4アゴニストであるグルコピラノシルリピッドA、Bacillus Calmette-Guerin(BCG)、およびモノホスホリルリピッドA(MPLA)が挙げられる。TLR4アゴニストは、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。一部の実施形態では、デンドリマーは、第4世代、第5世代、または第6世代ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーである。好ましい実施形態では、TLR4アゴニスト、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。例示的なTLR4アゴニストまたはそのアナログを以下に示す。
構造XXXI a~b:2つのTLR4アゴニストアナログの構造
【化33】
【0184】
デンドリマーにコンジュゲートした例示的なTLR4アゴニストの化学合成経路を、図14Aおよび14Bに示す。
【0185】
一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のTLR7アゴニストに会合している、またはコンジュゲートされている。例示的なTLR7アゴニストとしては、イミキモド、レシキモド、ガルジキモド、852A、ロキソリビン(Loxoribine)、ブロピリミン、3M-011、3M-052、DSR-6434、DSR-29133、SC1、SZU-101、SM-276001、およびSM-360320が挙げられる。好ましい実施形態では、TLRアゴニストはレシキモドである。TLR7アゴニストは、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。
【0186】
一部の実施形態では、1つまたは複数のTLR4またはTLR7アゴニストに会合している、またはコンジュゲートされているデンドリマーは、例えば、自然免疫遺伝子の発現、活性化エフェクターT細胞の浸潤および増大、抗原提示、ならびに永続的な免疫応答を増加させるために、抗腫瘍ワクチンおよび/またはアジュバントとしての養子細胞治療(ACT)と組み合わせて使用される。
SHP2阻害剤
【0187】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数のSHP2阻害剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている。SHP2(Src homology-2ドメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼ-2)は、チロシンリン酸化を除去する非受容体タンパク質チロシンホスファターゼである。機能的に、SHP2は、幾つかの細胞内腫瘍遺伝子シグナル伝達経路、例えばJak/STAT、PI3K/AKT、RAS/Raf/MAPK、およびPD-1/PD-L1経路を接続する重要なハブとして作用する。SHP2の突然変異および/または過剰発現は、遺伝的な発達疾患およびがんに関連している。
【0188】
したがって、一部の実施形態では、デンドリマーは、1つまたは複数のSHP2阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩に会合している、またはコンジュゲートされている。例示的なSHP2阻害剤としては、SHP2の触媒部位を標的化する阻害剤およびSHP2のアロステリック部位を標的化する阻害剤、例えばTNO155、RMC-4630、JAB-3068、JAB-3312、およびRMC-4550が挙げられる。SHP2阻害剤は、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。一部の実施形態では、デンドリマーは、第4世代、第5世代、または第6世代ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーである。好ましい実施形態では、SHP2阻害剤、またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。例示的なSHP2阻害剤またはそのアナログを以下に示す。
構造XXXII a~b:2つのSHP2阻害剤アナログの構造
【化34】
【0189】
デンドリマーと共に使用される一部の例示的な免疫調節剤としてはまた、STINGアンタゴニスト、JAK1阻害剤、および抗炎症剤が挙げられる。好ましい実施形態では、STINGアンタゴニスト、JAK1阻害剤、および抗炎症剤を含む1つまたは複数の免疫調節剤に会合している、またはコンジュゲートされているデンドリマーは、1つまたは複数の炎症促進性免疫細胞を標的化するために特に適している。
【0190】
7.肝臓がんに関する追加の作用剤
一部の実施形態では、三分岐β-GalNAc修飾デンドリマーは、従来のがん治療剤、例えば、化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、および放射線療法を含む1つまたは複数の追加の治療剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。化学療法薬物の大部分は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、および他の抗腫瘍剤に分類することができる。これらの薬物は、細胞分裂またはDNA合成および機能に何らかの影響を及ぼす。追加の治療剤としては、モノクローナル抗体およびチロシンキナーゼ阻害剤、例えばある特定の型のがん(慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍)における分子異常を直接標的化するイマチニブメシル酸塩(GLEEVEC(登録商標)またはGLIVEC(登録商標))が挙げられる。
【0191】
一部の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、1つまたは複数の化学療法剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはその中にカプセル化されている。代表的な化学療法剤としては、アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロイコボリン、リポソームドキソルビシン、リポソームダウノルビシン(daunorubici)、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキンサトロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ボリノスタット、タキソール、トリコスタチンA、およびその誘導体、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、セツキシマブ、およびリツキシマブ(RITUXAN(登録商標)またはMABTHERA(登録商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、およびそれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。代表的なアポトーシス促進剤としては、フルダラビン、スタウロスポリン(taurosporine)、シクロヘキシミド、アクチノマイシンD、ラクトシルセラミド、15d-PGJ(2)5、およびそれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
【0192】
一実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、好ましくはエステル、エーテル、またはアミド連結を介して、PEGなどのスペーサーを介してカペシタビンに共有結合によりコンジュゲートされている。
【0193】
別の実施形態では、三分岐GalNAc修飾デンドリマーは、好ましくはエステル、エーテル、またはアミド連結を介して、PEGなどのスペーサーを介してゲムシタビンに共有結合によりコンジュゲートされている。
【0194】
一部の実施形態では、活性剤は、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤である。一実施形態では、活性剤はボリノスタットである。他の実施形態では、活性剤はトポイソメラーゼIおよび/またはII阻害剤である。特定の実施形態では、活性剤は、エトポシドまたはカンプトテシンである。
【0195】
追加の抗がん剤としては、イリノテカン、エキセメスタン、オクトレオチド、カルモフール、クラリスロマイシン、ジノスタチン、タモキシフェン、テガフール、トレミフェン、ドキシフルリジン、ニムスチン、ビンデシン、ネダプラチン、ピラルビシン、フルタミド、ファドロゾール、プレドニゾン、メドロキシプロゲステロン、ミトタン、ミコフェノール酸モフェチル、およびミゾリビンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0196】
代表的な抗血管新生剤としては、血管内皮増殖因子(VEGF)に対する抗体、例えばベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))およびrhuFAb V2(ラニビズマブ、LUCENTIS(登録商標))、およびアフリベルセプト(EYLEA(登録商標))を含む他の抗VEGF化合物;MACUGEN(登録商標)(ペガプタニブ(pegaptanim)ナトリウム、抗VEGFアプタマー、またはEYE00l)(Eyetech Pharmaceuticals);色素上皮由来因子(複数可)(PEDF);COX-2阻害剤、例えばセレコキシブ(CELEBREX(登録商標))およびロフェコキシブ(VIOXX(登録商標));インターフェロンアルファ;インターロイキン-12(IL-12);サリドマイド(THALOMID(登録商標))およびその誘導体、例えばレナリドミド(REVLIMID(登録商標));スクアラミン;エンドスタチン;アンジオスタチン;リボザイム阻害剤、例えばANGIOZYME(登録商標)(Sirna Therapeutics);多機能抗血管新生剤、例えばNEOVASTAT(登録商標)(AE-941)(Aeterna Laboratories,Quebec City,Canada);受容体チロシンキナーゼ(RTK)阻害剤、例えばスニチニブ(SUTENT(登録商標));チロシンキナーゼ阻害剤、例えばソラフェニブ(Nexavar(登録商標))およびエルロチニブ(Tarceva(登録商標));上皮成長因子受容体に対する抗体、例えばパニツムマブ(VECTIBIX(登録商標))およびセツキシマブ(ERBITUX(登録商標))、ならびに当技術分野で公知の他の抗血管新生剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0197】
一部の例では、活性剤は、抗感染症剤である。例示的な抗感染症剤としては、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生虫剤、および抗真菌剤が挙げられる。例示的な抗生物質としては、モキシフロキサシン、シプロフロキサシン、エリスロマイシン、レボフロキサシン、セファゾリン、バンコマイシン、チゲサイクリン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、セフタジジム、オフロキサシン、ガチフロキサシン;抗真菌剤;アムホテリシン、ボリコナゾール、ナタマイシンが挙げられる。
【0198】
追加の活性化合物のいずれも、デンドリマーとのコンジュゲーションを容易にするため、および/または所望の放出速度論のために、例えばエーテル、エステル、エチル、またはアミド連結によって、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカーによって官能化することができる。好ましい実施形態では、活性剤またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグは、Cu(I)触媒アルキン-アジドクリックケミストリーまたはチオール-エンクリックケミストリーを介して、必要に応じて1つまたは複数のスペーサー/リンカー、例えばポリエチレングリコール(PEG)を介してデンドリマーにコンジュゲートされている。一部の実施形態では、追加の活性剤は、化学療法剤またはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩である。一実施形態では、デンドリマーと複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている活性剤は、例えば構造XXXIIIに示されるメトトレキサートまたはその誘導体、アナログ、もしくはプロドラッグ、またはその薬理学的に活性な塩である。
構造XXXIII:メトトレキサートアナログの化学構造
【化35】
8.高血圧症および他の障害を処置するための作用剤
【0199】
一部の実施形態では、デンドリマーは、肝傷害および/または関連疾患もしくは状態、例えば感染症、敗血症、糖尿病合併症、高血圧症、肥満、高血圧、心不全、腎疾患、およびがんの1つまたは複数の症状を防止または処置するために、1つまたは複数の追加の活性剤、特に1つまたは複数の治療剤、予防剤、および/または診断剤を送達するために使用される。
【0200】
一部の実施形態では、他の作用剤、例えば化学療法薬、抗血管新生剤、および抗興奮毒性剤、例えばバルプロ酸、D-アミノホスホノ吉草酸、D-アミノホスホノヘプタン酸、グルタメート形成/放出の阻害剤、例えばバクロフェン、NMDA受容体アンタゴニスト、ラニビズマブ、およびアフリベルセプトを含む抗VEGF剤、ならびに免疫調節剤、例えばラパマイシンを組み込むことができる。
【0201】
送達され得る他の治療剤としては、インスリン感受性改善剤、ピオグリタゾンが挙げられる。
【0202】
一部の実施形態では、活性剤は、抗感染症剤である。例示的な抗感染症剤としては、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生虫剤、および抗真菌剤が挙げられる。
9.診断剤
【0203】
一部の例では、作用剤は、診断剤を含み得る。診断剤の例としては、常磁性分子、蛍光化合物、磁性分子、および放射性核種、x線造影剤、およびコントラスト媒体が挙げられる。他の適したコントラスト剤の例としては、放射線不透過性である気体または気体放出化合物が挙げられる。デンドリマー複合体は、投与された組成物の位置を決定するために有用な作用剤をさらに含むことができる。この目的にとって有用な作用剤は、蛍光タグ、放射性核種、およびコントラスト剤を含む。
【0204】
例示的な診断剤としては、色素、蛍光色素、近赤外線色素、SPECT造影剤、PET造影剤、および放射性同位元素が挙げられる。
【0205】
さらなる実施形態では、単一のデンドリマー複合体組成物は、体における1つまたは複数の位置で疾患または状態を同時に処置および/または診断することができる。
III.医薬製剤
【0206】
デンドリマーおよび1つまたは複数の活性剤、例えば1つまたは複数のアンジオテンシンII受容体遮断剤を含む医薬組成物は、活性化合物を、薬学的に使用することができる調製物へと処理することを容易にする賦形剤および補助剤を含む1つまたは複数の生理的に許容される担体を使用して通常の形式で製剤化されてもよい。製剤は、選択される投与経路に依存する。好ましい実施形態では、組成物は、非経口送達のために製剤化される。一部の実施形態では、組成物は、皮下注射のために製剤化される。典型的には、組成物は、処置される組織または細胞に注射するために、滅菌食塩水または緩衝溶液中で製剤化される。組成物は、使用直前に再水和するために単回使用バイアル中に凍結乾燥状態で保存することができる。再水和および投与のための他の手段は当業者に公知である。
【0207】
医薬組成物は、1つまたは複数の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて1つまたは複数のデンドリマーを含有する。代表的な賦形剤としては、溶媒、希釈剤、pH調整剤、保存剤、抗酸化剤、懸濁剤、湿潤剤、粘度調整剤、等張剤、安定化剤、およびそれらの組合せが挙げられる。適した薬学的に許容される賦形剤は、好ましくは、一般的に安全であると認識され(GRAS)、望ましくない生物学的副作用または望ましくない相互作用を引き起こすことなく個体に投与され得る材料から選択される。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th ed., Lippincott Williams& Wilkins, Baltimore, MD, 2000, p. 704を参照されたい。
【0208】
組成物は、好ましくは、投与の容易さおよび投薬量の均一性のために単位投与剤形に製剤化される。「単位投与剤形」という語句は、処置される患者にとって適切なコンジュゲートの物理的に個別の単位を指す。しかし、組成物の総1回投与量は、健全な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されると理解される。治療有効量は、最初に細胞培養アッセイまたは動物モデル、通常マウス、ウサギ、イヌ、またはブタのいずれかにおいて推定することができる。動物モデルはまた、所望の濃度範囲および投与経路を達成するためにも使用される。次にそのような情報は、ヒトでの投与のための有用な用量および経路を決定するために有用でなければならない。コンジュゲートの治療有効性および毒性は、細胞培養または実験動物における標準的な薬学的手順、例えばED50(用量は、集団の50%において治療的に有効である)およびLD50(用量は、集団の50%において致死的である)によって決定することができる。毒性効果の治療効果に対する用量比が治療指数であり、比LD50/ED50として表記することができる。大きい治療指数を示す医薬組成物が好ましい。細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを、ヒトで使用するための投薬量範囲を製剤化するために使用することができる。
【0209】
非経口投与(筋肉内、腹腔内、静脈内、または皮下注射)による投与および腸内投与経路のために製剤化される医薬組成物を記載する。
A.非経口投与
【0210】
「非経口投与」および「非経口に投与された」という語句は、当技術分野で認識された用語であり、腸および局所適用投与以外の投与形式、例えば注射を含み、静脈内、筋肉内、胸膜内、血管内、心膜内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内(intradennal)、腹腔内、気管内、皮下、表皮下、間接内、被膜下、くも膜下、脊椎内、および胸骨内注射および注入を含むがこれらに限定されない。デンドリマーは、例えば硬膜下、静脈内、髄腔内、心室内、動脈内、羊水内、腹腔内、または皮下経路によって非経口投与することができる。好ましい実施形態では、デンドリマー組成物は、皮下注射によって投与される。
【0211】
液体製剤の場合、薬学的に許容される担体は、例えば水溶液または非水溶液、懸濁液、乳剤、または油であり得る。非経口媒体(例えば、皮下、静脈内、動脈内、または筋肉内注射)は、例えば塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、および塩化ナトリウム、乳酸加リンゲル、および固定油を含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は、例えば食塩水および緩衝培地を含む、水、アルコール/水溶液、シクロデキストリン、乳剤、または懸濁剤を含む。デンドリマーはまた、乳剤、例えば油中水型乳剤中で投与することもできる。油の例は、石油、動物、植物、または合成起源の油、ワセリン、および鉱物油である。非経口製剤において使用するための適した脂肪酸は、例えばオレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適した脂肪酸エステルの例である。
【0212】
非経口投与にとって適した製剤は、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質、ならびに懸濁剤、溶解剤、濃化剤、安定化剤、および保存剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液を含み得る。静脈内媒体は、流体および栄養補充剤、電解質補充剤、例えばリンゲルデキストロースに基づく補充剤を含むことができる。一般的に、水、食塩水、水性デキストロース、および関連する糖溶液、およびグリコール、例えばプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールは、特に注射用溶液のために好ましい液体担体である。
【0213】
注射用組成物のための注射可能な薬学的担体は、当業者に周知である(例えば、Pharmaceuticsand Pharmacy Practice, J.B. Lippincott Company, Philadelphia, PA, Banker andChalmers, eds., pages 238-250 (1982), and ASHP Handbook on Injectable Drugs,Trissel, 15th ed., pages 622-630 (2009)を参照されたい)。
B.腸投与
【0214】
組成物は、腸に投与することができる。担体または希釈剤は、カプセルまたは錠剤などの固形担体または固体製剤のための希釈剤、液体製剤のための液体担体もしくは希釈剤、またはそれらの組合せであり得る。
【0215】
液体製剤の場合、薬学的に許容される担体は、例えば水溶液または非水溶液、懸濁液、乳剤、または油であってもよい。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は、例えば食塩水および緩衝培地を含む水、アルコール/水溶液、シクロデキストリン、乳剤または懸濁剤を含む。
【0216】
油の例は、石油、動物、植物、または合成起源の油、例えば落花生油、ダイズ油、鉱物油、オリーブ油、ヒマワリ油、肝油、ゴマ油、綿実油、コーン油、オリーブ、ワセリン、および鉱物油である。非経口製剤での使用のために適した脂肪酸は、例えばオレイン酸、ステアリン酸、およびイソステアリン酸を含む。オレイン酸エチルおよびミリスチン酸イソプロピルは、適した脂肪酸エステルの例である。
【0217】
媒体は、例えば塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、および塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル、および固定油を含む。製剤は、例えば抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、および製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含有し得る水性および非水性の等張滅菌注射溶液、ならびに懸濁剤、溶解剤、濃化剤、安定化剤、および保存剤を含み得る水性および非水性の滅菌懸濁液を含む。媒体は、例えば流体および栄養補充剤、電解質補充剤、例えばリンゲルデキストロースに基づく補充剤を含み得る。一般的に、水、食塩水、デキストロース水溶液および関連する糖溶液が好ましい液体担体である。これらはまた、タンパク質、脂肪、糖類、および小児用処方の他の成分と共に製剤化することもできる。
【0218】
好ましい実施形態では、組成物は、経口投与のために製剤化される。経口製剤は、チューインガム、ゲルストリップ、錠剤、カプセル剤、またはトローチ剤の形態であってもよい。腸溶コーティングされた経口製剤の調製のためのカプセル化物質は、酢酸フタル酸セルロース、酢酸フタル酸ポリビニル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル、およびメタクリル酸エステルコポリマーを含む。固体経口製剤、例えばカプセル剤または錠剤が好ましい。エリキシル剤およびシロップ剤もまた、周知の経口製剤である。
IV.作製方法
A.デンドリマーを作製する方法
【0219】
デンドリマーは、多様な化学反応ステップを介して調製することができる。デンドリマーは通常、構築のあらゆる段階でその構造を制御することを可能にする方法に従って合成される。デンドリマー構造はほとんどが、2つの主な異なるアプローチ;ダイバージェントまたはコンバージェントアプローチで合成される。
【0220】
一部の実施形態では、デンドリマーは、異なる方法を使用して調製され、この場合デンドリマーは多機能コアからアセンブルされ、一連の反応、一般的にマイケル反応によって外方向に伸長する。戦略は、反応基および保護基を保有する単量体分子と多機能コア部分とのカップリングを伴い、これによってコアの周囲に世代が段階的に付加され、その後保護基が除去される。例えば、PAMAM-NHデンドリマーは最初に、N-(2-アミノエチル)アクリルアミド単量体をアンモニアコアにカップリングすることによって合成される。
【0221】
他の実施形態では、デンドリマーは、コンバージェント法を使用して調製され、この場合デンドリマーは、球体の表面で終わる低分子から構築され、反応は内向きに構築するように進行し、最終的にコアに達する。
【0222】
デンドリマーを調製するために、他の多くの合成経路、例えば直交アプローチ、加速アプローチ、ダブルステージコンバージェント法、またはハイパーコアアプローチ、ハイパーモノマー法、または分岐モノマーアプローチ、二重指数法;直交カップリング法、または2ステップアプローチ、2モノマーアプローチ、AB-CDアプローチが存在する。
【0223】
一部の実施形態では、デンドリマーのコア、1つまたは複数の分岐単位、1つまたは複数のリンカー/スペーサー、および/または1つまたは複数の表面基は、1つまたは複数の銅支援アジド-アルキン環化付加(CuAAC)、ディールス-アルダー反応、チオール-エンおよびチオール-イン反応、ならびにアジド-アルキン反応を使用するクリックケミストリーを介して、さらなる官能基(分岐単位、リンカー/スペーサー、表面基等)、モノマー、および/または活性剤とのコンジュゲーションを可能にするように修飾することができる(Arseneault M et al., Molecules. 2015 May 20;20(5):9263-94)。一部の実施形態では、事前に作製したデンドロンを、高密度ヒドロキシポリマー上でクリック反応させる。「クリックケミストリー」は、例えば2つの異なる部分(例えば、コア基と分岐単位;または分岐単位と表面基)を、第1の部分の表面上のアルキン部分(またはその等価物)と、第2の部分上のアジド部分(例えば、トリアジン組成物またはその等価物上に存在する)、または任意の活性末端基、例えば、一級アミン末端基、ヒドロキシル末端基、カルボン酸末端基、チオール末端基等)との間の1,3-双極子環化付加反応を介してカップリングすることを伴う。
【0224】
一部の実施形態では、デンドリマー合成は、1つまたは複数の反応、例えばチオール-エンクリック反応、チオール-インクリック反応、CuAAC、ディールス-アルダークリック反応、アジド-アルキンクリック反応、マイケル付加、エポキシ開環、エステル化、シランケミストリー、およびそれらの組合せに依存する。
【0225】
任意の既存の樹状プラットフォームを使用して、高ヒドロキシル含有部分、例えば1-チオ-グリセロール、またはペンタエリスリトールをコンジュゲートすることによって、所望の官能性、すなわち、高密度表面ヒドロキシル基を有するデンドリマーを作製することができる。例示的な樹状プラットフォーム、例えばポリアミドアミン(PAMAM)、ポリ(プロピレンイミン)(PPI)、ポリ-L-リシン、メラミン、ポリ(エーテルヒドロキシルアミン)(PEHAM)、ポリ(エステルアミン)(PEA)およびポリグリセロールを合成および探索することができる。
【0226】
デンドリマーはまた、2つまたはそれより多くのデンドロンを組み合わせることによっても調製することができる。デンドロンは、反応性の中心部官能基を有するデンドリマーのくさび形セグメントである。多くのデンドロン足場構造が市販されている。それらは、第1世代、第2世代、第3世代、第4世代、第5世代、および第6世代であり、それぞれ2、4、8、16、32、および64個の反応基を有する。ある特定の実施形態では、活性剤の1つの型は、デンドロンの1つの型に連結され、活性剤の異なる型は、デンドロンの別の型に連結される。次に、2つのデンドロンを接続してデンドリマーを形成する。2つのデンドロンは、クリックケミストリー、すなわち1つのデンドロン上のアジド部分と、別のデンドロン上のアルキン部分との間の1,3-双極子環化付加反応を介して連結し、トリアゾールリンカーを形成することができる。
【0227】
デンドリマーを作製する例示的な方法は、WO2009/046446号、WO2015168347号、WO2016025745号、WO2016025741号、WO2019094952号、および米国特許第8,889,101号に詳細に記載されている。
B.三分岐N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)とデンドリマーとのコンジュゲーション
【0228】
一部の実施形態では、β-GalNAc-三分岐PEG3-アジドは、図1に示されるように調製される。一部の実施形態では、β-GalNAc-アジドの3つの分子が必要に応じてPEGなどのリンカーによって、プロパルギル化ペンタエリスリトールビルディングブロック上にグラフトされてAB型直交性ビルディングブロックを生じる、三分岐ビルディングブロックが調製される。他の実施形態では、ABモノマー、例えばペンタエリスリトールまたはその誘導体を、β-GalNAcの3つの分子をコンジュゲートするためのコアとして使用する。一部の実施形態では、合成は、β-D-GalNAcペントアセテート(例えば、図1の化合物1)と2-[2-(2-アジドエトキシ)エトキシ]エタン-1-オール(図lの化合物2)とのグリコシル化反応から始まり、PEGスペーサー/リンカーによって過アセチル化β-GalNAc-アジドを生じる(例えば、図1の化合物3)。一部の実施形態では、ペンタエリスリトール(化合物4)は、3つのプロパルギルアームによって選択的に修飾されてトリプロパルギルペンタエリスリトール(例えば、図1の化合物5)を生じる。一部の実施形態では、トリプロパルギルペンタエリスリトール上の残りの1つのヒドロキシル基は、ビス-クロロテトラエチレングリコール(化合物7)と反応して中間化合物、ABビルディングブロック(例えば、図1の化合物8)を生じる。一部の実施形態では、過アセチル化β-GalNAc-PEG3-アジドは、従来のCuAACクリック反応条件を使用して、ABビルディングブロック(例えば、化合物8)とクリック反応して化合物9を生じる。一部の実施形態では、クリック反応の成功を、H NMR、HRMS、およびHPLCによって確認する。一部の実施形態では、化合物9の末端塩化物基は、求核置換によってアジドに交換されて化合物10を生じる。一部の実施形態では、最後のステップはトランスエステル化であり、脱アセチル化β-GalNAc-三分岐PEG3アジド(化合物11)ビルディングブロック、GalNAcデンドロンを生じる。
【0229】
一部の実施形態では、β-GalNAc-三分岐PEG3-アジドは、図2に示すようにデンドリマーにコンジュゲートされている。一部の実施形態では、第4世代または第6世代ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーは、5-ヘキシン酸による部分的エステル化を受けて、2つまたはそれより多くのヘキシンアーム、好ましくは5~20、または10~15、または12~14個のヘキシンアームがデンドリマーに結合した化合物を生じる。一部の実施形態では、1つまたは複数のβ-GalNAc-三分岐PEG3-アジドは、銅触媒クリック(CuAAc)反応を使用して、ヘキシンアームがそれに結合しているデンドリマーにコンジュゲートされ、β-GalNAc-三分岐修飾デンドリマーを生じる。好ましい実施形態では、デンドリマーにコンジュゲートされている1つまたは複数のヘキシンアームは、GalNAcデンドロンまたはβ-GalNAc-三分岐PEG3-アジドとのコンジュゲーションのためであり、デンドリマーにコンジュゲートされている1つまたは複数のヘキシンアームは、薬物または造影剤とのコンジュゲーションのためである。一実施形態では、5~6個のヘキシンアームは、GalNAcデンドロンまたはβ-GalNAc-三分岐PEG3-アジドとのコンジュゲーションのためであり、5~7個のヘキシンアームは、薬物および/または造影剤とのコンジュゲーションのためである。デンドロンの5~6個のアームの導入は、最終構造において15~18個のGalNAc単位をもたらす。
V.使用方法
【0230】
活性剤を肝細胞に選択的に送達する方法を提供する。三分岐β-GalNAc修飾デンドリマー組成物が、肝細胞上のアシアロ糖タンパク質受容体(ASGPR)に結合することが確立されている。ASGPR受容体に対する効率的な結合は、受容体媒介エンドサイトーシスを介して肝細胞内のデンドリマー-三分岐β-GalNAcの選択的内部移行を方向付ける。肝細胞内のエンドソームにおける低いpHによって、三分岐β-GalNAcリガンドとASGPR受容体との間の相互作用が破壊され、リガンドの肝細胞への放出を引き起こす。1つまたは複数の活性剤の肝細胞への選択的送達、蓄積、および細胞内放出のために三分岐β-GalNAc修飾デンドリマー組成物を使用する方法を記載する。
A.肝障害および疾患を処置する方法
【0231】
対象における1つまたは複数の肝疾患または障害を処置または予防するために、デンドリマー-三分岐GalNAc修飾組成物を使用する方法を記載する。
【0232】
肝疾患または障害を処置または予防するために1つまたは複数の活性剤を含むデンドリマー-三分岐GalNAc組成物を、対象における1つまたは複数の肝障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置する、防止する、および/または診断するために対象に投与することができる。方法は、必要な対象を同定および/または選択するステップを含み得る。
【0233】
1つまたは複数の肝障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置または予防する方法は、1つまたは複数の治療剤または予防剤と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されているデンドリマーを、1つまたは複数の肝障害または疾患の1つまたは複数の症状を処置する、緩和する、または予防するために有効な量で、対象に投与することを含む。好ましい実施形態では、1つまたは複数の抗酸化剤および/もしくはアンジオテンシンII I型受容体遮断剤を含むデンドリマー組成物、またはその製剤を、1つまたは複数の肝障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置するまたは防止するために、例えば肝臓における小葉炎症を低減するために有効な量で投与する。
【0234】
一実施形態では、1つまたは複数の肝障害および/または疾患を処置または予防する方法は、1つまたは複数のアンジオテンシンII I型受容体遮断剤に共有結合によりコンジュゲートされている第4世代、第5世代、第6世代、第7世代、または第8世代の三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーを含む組成物を、1つまたは複数の肝障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置または予防するために有効な量で対象に投与することを含む。
1.処置される肝障害および疾患
【0235】
一部の実施形態では、1つまたは複数の肝障害および/または疾患を処置する、防止する、および/または診断するために、1つまたは複数の活性剤と複合体を形成している、またはそれにコンジュゲートされている三分岐GalNAc修飾デンドリマーを、対象における1つまたは複数の肝障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を処置する、防止する、および/または診断するために対象に投与する。
【0236】
デンドリマー-三分岐β-GalNAc組成物は、肝疾患または障害、例えば急性または慢性肝疾患の1つまたは複数の症状を処置または改善するために有効である。処置することができる例示的な適応としては、例えば新生物浸潤に起因する急性肝不全(急性肝炎、劇症肝炎)、急性バッドキアリ症候群、熱中症、マッシュルームの摂取、代謝疾患、例えばウィルソン病、または例えば単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、パルボウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎、E型肝炎、D+B型肝炎ウイルス感染症)によって引き起こされるウイルス性肝疾患に関連する疾患、またはリファンピシン誘発性肝毒性、アセトアミノフェン誘発性肝毒性、脱法薬誘発性毒性、例えば3,4-メチレンジオキシ-N-メチルアンフェタミン(MDMA、エクスタシーとしても公知である)、もしくはコカイン誘発性毒性を含む薬物誘発性肝傷害、急性虚血性肝細胞傷害、または低酸素性肝炎、または外傷性肝傷害に起因する疾患が挙げられるがこれらに限定されない。方法は、以前は正常な肝臓を有する個体における脳症、凝固障害、および黄疸の発生によって定義される任意の超急性、急性、亜急性肝疾患を処置および防止することができる。
【0237】
急性肝疾患の症状および臨床発現は、黄疸および脳症、ならびに肝機能障害(例えば代謝機能の喪失、低血糖症をもたらす糖新生の減少、乳酸アシドーシスをもたらす乳酸クリアランスの減少、高アンモニア血症をもたらすアンモニアクリアランスの減少、および凝固障害をもたらす合成能の低減)を含む。急性肝疾患および障害はしばしば、敗血症の高リスクに寄与する免疫不全麻痺;高エネルギー消費または異化速度を伴う全身性炎症応答;門脈圧亢進;腎機能障害;心筋傷害;膵炎(特に、アセトアミノフェン関連疾患);血圧低下に寄与する副腎における不適切なグルココルチコイド産生;および急性呼吸窮迫症候群をもたらす急性肺傷害を含む複数の全身症状に関連している。
【0238】
記載される方法は全て、処置を必要とする対象、または組成物による投与から利益を得る対象を同定および選択するステップも含み得る。一部の実施形態では、対象は、疾患の臨床(例えば、身体)症状を示すことによって、急性肝疾患または障害を有すると医学的に診断されている。他の実施形態では、対象は、急性肝疾患を発症するリスクまたは可能性の増加を示す臨床(または、身体)症状を示すことによって、亜急性肝疾患または慢性肝疾患を有すると医学的に診断されている。したがって、一部の実施形態では、本開示のデンドリマー組成物の製剤は、急性肝疾患の臨床診断の前に対象に投与される。
【0239】
好ましい実施形態では、方法は、非アルコール性脂肪性肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎に関連する肝線維症、原発性胆汁性胆管炎を処置または予防する。
i.非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)
【0240】
一部の実施形態では、デンドリマー-三分岐β-GalNAc組成物は、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に関連する1つまたは複数の症状を処置または緩和する。NAFLDは、肝細胞における脂肪の過剰な蓄積(脂肪症)として主に現れる疾患の臨床-病理的スペクトルを表す。NAFLDは、単純な脂肪症から、生命を脅かす肝硬変および最も重症型の肝細胞癌をもたらし得る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に及ぶ疾患の全スペクトルを包含する。これは代謝症候群の肝臓での発現であると考えられており、その他の病態は肥満、インスリン抵抗性、高血圧症、および高脂血症を含む。組織学的には、NASHは、肝脂肪症および肝細胞の風船様腫大を有する小葉内炎症の兆候によって特徴付けられる。推定されるNASHの有病率は、NAFLDよりはるかに低く、3~5%の範囲である。NASH患者の20%は、肝硬変を発症することが報告されており、NASH硬変を有する患者の30~40%は、肝関連死を経験する。
【0241】
一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、NAFLDのNASHへの変換を防止するため、および疾患の病理生理学を改善するために有効な量で投与される。
【0242】
NAFLDは、広く2つの表現型:孤発性の脂肪症を特徴とする非アルコール性脂肪肝(NAFL)と、より劇症性の亜型である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に分類され、NASHは、細胞傷害、炎症細胞の浸潤、および線維症とさらに進行し得る肝細胞の風船様腫大、硬変、および肝細胞癌(HCC)によって特徴付けられる。一部の実施形態では、デンドリマー組成物は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の1つまたは複数の症状を処置または改善するために有効な量で使用される。
【0243】
NAFLDまたはNASHの1つまたは複数の症状を処置および/または防止するための方法は典型的に、NAFLDまたはNASHに関連する1つまたは複数の症状を処置および/または緩和するために、三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーおよび1つまたは複数の作用剤を含む組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。一実施形態では、デンドリマー組成物は、1つまたは複数のアンジオテンシンII I型受容体遮断剤に共有結合によりコンジュゲートされている第4世代、第5世代、または第6世代の三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーを含む。
【0244】
一部の実施形態では、デンドリマー-三分岐β-GalNAc組成物は、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、トリグリセリド(TG)、および総コレステロール(TC)の血清レベル、脂肪蓄積または脂肪症、炎症、風船様腫大、線維症、長期罹患率および死亡率を阻害または低減するために有効な量で投与される。
ii.肝臓がん
【0245】
一部の実施形態では、1つまたは複数の免疫調節剤、1つまたは複数の化学療法剤、および/または追加の治療剤もしくは診断剤にコンジュゲートされている、またはそれと複合体を形成しているデンドリマー-三分岐β-GalNAcの組成物は、増殖性疾患、例えば良性または悪性腫瘍を有する対象に投与される。一部の実施形態では、処置される対象は、ステージI、ステージII、ステージIII、またはステージIVのがんであると診断されている。がんという用語は、具体的に悪性腫瘍を指す。制御されない成長に加えて、悪性腫瘍は転移を示す。このプロセスでは、がん様細胞の小さい集団が腫瘍から外れ、血管またはリンパ管に浸潤し、他の組織へと運ばれ、そこでそれらは増殖し続ける。このようにして、1つの部位の原発腫瘍は、別の部位で二次腫瘍を生じることができる。
【0246】
一部の実施形態では、デンドリマー-三分岐β-GalNAc組成物は、肝臓がんに関連する1つまたは複数の症状を処置または緩和する。一部の実施形態では、対象は、肝臓がんを有すると医学的に診断されている。
【0247】
一部の実施形態では、デンドリマー-三分岐β-GalNAc組成物は、肝細胞癌(HCC)に関連する1つまたは複数の症状を処置または緩和する。HCCの発症は、環境的要因と遺伝的要因の間の相互作用に起因する。肝硬変、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)感染症、過剰なアルコール摂取、アフラトキシンB1の摂取、ならびに非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、HCC発症の重要な危険因子である。
【0248】
肝臓がんの1つまたは複数の症状を処置および/または防止する方法は典型的に、肝臓がんまたはHCCに関連する1つまたは複数の症状を処置および/または緩和するために、三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーおよび1つまたは複数の作用剤を含む組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。一実施形態では、第4世代、第5世代、または第6世代の三分岐β-GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーを含むデンドリマー組成物は、STINGアゴニスト、CSF1R阻害剤、PARP阻害剤、VEGFRチロシンキナーゼ阻害剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤、MEK阻害剤、グルタミナーゼ阻害剤、TIE IIアンタゴニスト、CXCR2阻害剤、CD73阻害剤、アルギナーゼ阻害剤、PI3K阻害剤、TLR4アゴニスト、TLR7アゴニスト、SHP2阻害剤、またはそれらの組合せの1つまたは複数と複合体を形成している、それに共有結合によりコンジュゲートされている、またはそれらが分子間に分散しているもしくはカプセル化されている。
【0249】
一部の実施形態では、デンドリマー-三分岐β-GalNAc組成物は、がん細胞の数および/または増殖を低減するため、腫瘍サイズを低減するため、がん細胞の末梢臓器への浸潤を阻害するため、腫瘍の転移を阻害するため、腫瘍の成長を阻害するため、長期間の生存率を増加させるため、免疫チェックポイント遮断に対する応答を改善するため、および/または腫瘍の再チャレンジに対して保護する免疫学的記憶を誘導するために有効な量で投与される。
2.投薬量および有効量
【0250】
投薬量および投与レジメンは、障害もしくは傷害の重症度および場所、ならびに/または投与方法に依存し、当業者が決定することができる。肝障害および/または疾患の処置に使用されるデンドリマー組成物の治療有効量は典型的に、肝障害および/または疾患の1つまたは複数の症状を低減または緩和するために十分である。
【0251】
好ましくは、活性剤は、疾患/損傷を有する組織内に存在しないもしくはそれに関連しない健康な細胞を標的化せず、またはそれ以外の方法でそれら細胞の活性もしくは量をモジュレートしない、または疾患/傷害を有する肝臓に関連する細胞と比較して、低減されたレベルで標的化し、もしくはモジュレートする。このようにして、組成物に関連する副産物および他の副作用が低減される。
【0252】
デンドリマー組成物の治療有効量および薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む医薬組成物が記載される。一部の実施形態では、医薬組成物は、テルミサルタンにコンジュゲートされている三分岐GalNAc修飾ヒドロキシル末端PAMAMデンドリマーの有効量を含む。一部の実施形態では、使用するために適した投薬量範囲は、約0.1mg/kg~約100mg/kgを含むその間;約0.5mg/kg~約40mg/kgを含むその間;約1.0mg/kg~約20mg/kgを含むその間;および約2.0mg/kg~約10mg/kgを含むその間の範囲である。
【0253】
デンドリマー組成物を含む医薬組成物の投薬剤形も同様に提供される。「投薬剤形」は、患者に投与されることが意図される、カプセルまたはバイアルなどの、治療化合物の用量の物理的な形態を指す。「投薬単位」という用語は、単一用量で患者に投与される治療化合物の量を指す。一部の実施形態では、使用するために適した投薬単位は、(成人患者の平均体重が70kgであると仮定して)、5mg/投薬量単位~約7000mg/投薬量単位を含むその間;約35mg/投薬量単位~約2800mg/投薬量単位を含むその間;および約70mg/投薬量単位~約1400mg/投薬量単位を含むその間;および約140mg/投薬量単位~約700mg/投薬量単位を含むその間である。
【0254】
デンドリマー複合体の実際の有効量は、投与される特定の活性剤、製剤化される特定の組成物、投与様式、および処置される対象の年齢、体重、状態、ならびに投与経路および疾患または障害を含む要因に従って異なり得る。対象は、好ましくはヒトである。一般的に投薬量は、経口投与などの他の全身性の投与経路と比較して静脈内注射または注入ではより低く、処置される領域に基づく局所適用、局所、または限局的投与と比較して患者あたりの体重に基づく。
【0255】
一般的に、投与のタイミングおよび回数は、所定の処置の有効性または診断スケジュールと所定の送達系の副作用とのバランスをとるように調整される。例示的な投薬回数としては、連続注入、1回および複数回投与、例えば毎時間、毎日、毎週、毎月、または毎年の投与が挙げられる。
【0256】
一部の実施形態では、投薬量は、1日1回、2回、または3回、またはそれより低い頻度、すなわち1日毎、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、または6日毎にヒトに投与される。一部の実施形態では、投薬量は、週に約1回または2回、2週間毎、3週間毎、または4週間毎に投与される。一部の実施形態では、投薬量は、1ヶ月に約1回または2回、2ヶ月毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、5ヶ月毎、6ヶ月毎、またはそれより低い頻度で投与される。
【0257】
投薬レジメンは、対象における障害を処置するために十分な任意の期間であり得ることは当業者によって理解される。一部の実施形態では、レジメンは、1ラウンドの治療の後に休薬期間(例えば、薬物なし)を設ける1つまたは複数のサイクルを含む。休薬期間は、1、2、3、4、5、6、もしくは7日間;または1、2、3、4週間、または1、2、3、4、5、もしくは6ヶ月間であり得る。
3.対照
【0258】
1つまたは複数の作用剤を含むデンドリマー組成物の効果を、対照または代替処置と比較することができる。適した対照は、当技術分野で公知であり、例えば無処置対象またはプラセボ処置対象を含む。典型的な対照は、標的化された作用剤の投与前および投与後の対象の状態または症状の比較である。状態または症状は、生化学、分子、生理学、または病理学的読み出しであり得る。例えば、特定の症状、薬理学的、または生理学的指標に及ぼす組成物の効果を、無処置対象、または処置前の対象の状態と比較することができる。一部の実施形態では、症状、薬理学的、または生理学的指標を、対象において処置前、および処置を開始した後に再度1回または複数回測定する。一部の実施形態では、対照は、処置される疾患または状態を有さない1人または複数の対象(例えば、健康な対象)における症状、薬理学的、または生理的指標の測定に基づいて決定された参照レベルまたは平均値である。一部の実施形態では、処置の効果を、当技術分野で公知である従来の処置と比較する。一部の実施形態では、無処置対照の対象は、処置される対象と同じ急性肝疾患または症状に罹患している。
B.組合せ治療および手順
【0259】
組成物は、単独で、または1つもしくは複数の従来の治療と組み合わせて投与することができる。一部の実施形態では、従来の治療は、1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせた組成物の1つまたは複数の投与を含む。組合せ治療は、同じ混合物中で、または個別の混合物中で活性剤を共に投与することを含む。したがって、一部の実施形態では、医薬組成物は、2つ、3つ、またはそれより多くの活性剤を含む。そのような製剤は典型的に、処置部位を標的化する作用剤の有効量を含む。追加の活性剤(複数可)は、同じまたは異なる作用機序を有することができる。一部の実施形態では、組合せは、肝状態の処置に対して追加の効果をもたらす。一部の実施形態では、組合せは、疾患または障害の処置に対して追加の効果より多くの効果をもたらす。
【0260】
追加の療法または手順は、デンドリマー組成物の投与と同時または連続的であり得る。一部の実施形態では、追加の治療は、薬物サイクルの間、または組成物投薬レジメンの一部である休薬期間の間に行われる。例えば、一部の実施形態では、追加の療法または手順は、手術、放射線治療、化学療法、肝移植、幹細胞移植、または間葉幹細胞(MSC)である。
【0261】
例示的な追加の療法または手順は、飽和脂肪、過剰な糖含有食、ソフトドリンク、ファストフード、および精製糖質を避けることなどのライフスタイルの変更を含み、また適度の運動も行うように奨励する。糖尿病患者は、ライフスタイルの変更によって処置することができ、必要に応じて、経口スルホニルウレア-グリクラジド、グリメペリド、および/またはインスリンによって処置することができる。脂質異常症は、スタチンによって管理することができ、高血圧症の場合は、降圧剤によって管理することができる。
【0262】
一部の実施形態では、組成物および方法は、1つまたは複数の追加の療法または手順による処置の前に、処置と共に、処置の後に、または処置と交互に使用される。追加の治療剤は、従来のがんの治療、例えば化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、および放射線治療を含む。化学療法薬物の大部分は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、および他の抗腫瘍剤に分類することができる。これらの薬物は、細胞分裂またはDNA合成および機能に何らかの影響を及ぼす。追加の治療剤としては、モノクローナル抗体およびチロシンキナーゼ阻害剤、例えばある特定の型のがん(慢性骨髄性白血病、消化管間質腫瘍)における分子異常を直接標的化するイマチニブメシル酸塩(GLEEVEC(登録商標)またはGLIVEC(登録商標))が挙げられる。
【0263】
代表的な化学療法剤としては、アムサクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カペシタビン、カルボプラチン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、クリサンタスパーゼ、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エピルビシン、エトポシド、エトポシドリン酸塩、フルダラビン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシカルバミド、イダルビシン、イホスファミド、イリノテカン、ロイコボリン、リポソームドキソルビシン、リポソームダウノルビシン、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、メルカプトプリン、メスナ、メトトレキサート、マイトマイシン、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、ペントスタチン、プロカルバジン、ラルチトレキセド、サトラプラチン、ストレプトゾシン、テニポシド、テガフール-ウラシル、テモゾロミド、テニポシド、チオテパ、チオグアニン、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、ボリノスタット、タキソール、トリコスタチンA、およびその誘導体、トラスツズマブ(HERCEPTIN(登録商標))、セツキシマブ、およびリツキシマブ(RITUXAN(登録商標)またはMABTHERA(登録商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、およびそれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。代表的なアポトーシス促進剤としては、フルダラビン、スタウロスポリン、シクロヘキシミド、アクチノマイシンD、ラクトシルセラミド、15d-PGJ(2)5、およびそれらの組合せが挙げられるがこれらに限定されない。
【0264】
一部の実施形態では、組成物および方法は、免疫療法の前にまたは免疫療法と共に、1つまたは複数の免疫チェックポイント調節剤(例えば、PD-1アンタゴニスト、PD-1リガンドアンタゴニスト、およびCTLA4アンタゴニスト)、養子T細胞治療、および/またはがんワクチンを使用して、チェックポイントタンパク質、例えばPD-1/PD-L1軸またはCD28-CTLA-4軸の成分を阻害するために使用される。免疫療法において使用される例示的な免疫チェックポイント調節剤としては、ペンブロリズマブ(抗PD1 mAb)、デュルバルマブ(抗PDL1 mAb)、PDR001(抗PD1 mAb)、アテゾリズマブ(抗PDL1 mAb)、ニボルマブ(抗PD1 mAb)、トレメリムマブ(抗CTLA4 mAb)、アベルマブ(抗PDL1 mAb)、およびRG7876(CD40アゴニスト mAb)が挙げられる。
【0265】
養子T細胞治療の方法は、当技術分野で公知であり、臨床の実践において使用されている。一般的に養子T細胞治療は、ワクチン接種単独で得られる数より多数のT細胞を達成するために腫瘍特異的T細胞の単離およびex vivoでの増大を伴う。次に、がんを攻撃して殺滅することができるT細胞を介して残存腫瘍を克服する能力を免疫系に与える試みで、腫瘍特異的T細胞を、がんを有する患者に注入する。腫瘍浸潤性リンパ球またはTILを培養すること;1つの特定のT細胞またはクローンを単離および増大すること;ならびに腫瘍を認識して攻撃するように操作されているT細胞を使用することを含むがこれらに限定されない、いくつかの形態の養子T細胞治療を、がんの処置のために使用することができる。一部の実施形態では、T細胞は、患者の血液から直接採取される。適応性(adaptive)T細胞治療のためにT細胞をin vitroでプライミングおよび活性化する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Wang, et al, Blood, 109(11):4865-4872 (2007) and Hervas-Stubbs, etal, J. Immunol.,189(7):3299-310 (2012)を参照されたい。
【0266】
組織学的に、養子T細胞治療戦略は、腫瘍細胞を直接殺滅することができる腫瘍抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の注入に大きく重点を置いている。しかし、CD4+ ヘルパーT(Th)細胞、例えばTh1、Th2、Tfh、Treg、およびTh17もまた使用することができる。Thは、抗原特異的エフェクター細胞を活性化することができ、自然免疫系の細胞、例えばマクロファージおよび樹状細胞を動員して抗原提示(APC)を助けることができ、抗原によってプライミングされたTh細胞は、抗原特異的CTLを直接活性化することができる。APCの活性化の結果として、抗原特異的Thは、腫瘍における他の抗原に対する免疫の拡大であるエピトープまたは決定因子拡大の開始剤として関係している。エピトープ拡大を誘発する能力は、腫瘍における多くの潜在的抗原に対する免疫応答を拡大し、異種応答を開始する能力によってより効率的な腫瘍細胞の殺滅をもたらすことができる。このようにして、養子T細胞治療を使用して内因性の免疫を刺激することができる。
【0267】
一部の実施形態では、T細胞は、キメラ抗原受容体(CAR、CAR T細胞、またはCART)を発現する。人工T細胞受容体は、特定の特異性を免疫エフェクター細胞にグラフトする操作された受容体である。典型的に、これらの受容体は、モノクローナル抗体の特異性をT細胞にグラフトするために使用され、実質的にいかなる腫瘍関連抗原も標的化するように操作することができる。第1世代CARは典型的に、CD3ζ鎖からの細胞内ドメインを有し、これは内因性TCRからのシグナルの一次伝達物質である。第2世代CARは、様々な共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB、ICOS)からの細胞内シグナル伝達ドメインをCARの細胞質テールに付加して、T細胞に追加のシグナルを提供し、第3世代CARは、複数のシグナル伝達ドメイン、例えばCD3z-CD28-41BB、またはCD3z-CD28-OX40を組み合わせて、有効性をさらに増強する。
【0268】
一部の実施形態では、組成物および方法は、がんワクチン、例えば樹状細胞がんワクチンの前に、またはそれと共に使用される。ワクチン接種は典型的に、抗原(例えば、がん抗原)をアジュバンと共に対象に投与して、in vivoで治療的T細胞を誘発することを含む。一部の実施形態では、がんワクチンは、樹状細胞によって送達される抗原がex vivoでプライミングされてがん抗原を提示する樹状細胞がんワクチンである。例としては、前立腺がんを処置するための樹状細胞に基づくワクチンであるPROVENGE(登録商標)(シプリューセル-T)(Ledford, et al., Nature, 519, 17-18 (05 March 2015)が挙げられる。そのようなワクチンならびに免疫療法のための他の組成物および方法は、Palucka,et al., Nature Reviews Cancer, 12, 265-277 (April 2012)において論評されている。
【0269】
一部の実施形態では、組成物および方法は、例えば原発腫瘍の転移を防止するために、腫瘍の外科的切除の前または切除と共に使用される。一部の実施形態では、組成物および方法は、体自身の抗腫瘍免疫機能を増強するために使用される。
【0270】
これらの三分岐GalNAc修飾デンドリマーのin vivo有効性試験を、非アルコール性脂肪性肝炎のマウスモデル、例えば非アルコール性脂肪性肝炎のSTAMTMモデル(マウス)において評価することができる。
方法
【0271】
病原体フリーの妊娠14日目のC57BL/6マウスは、Japan SLC,Inc.(Japan)から得ることができる。
NASHは、雄性マウスにおいてストレプトゾトシン(STZ,Sigma,USA)200μgを生後2日目に1回皮下注射し、4週齢以降(28日目±2日)、高脂肪食(CLEA Japan Inc.,Japan)を自由に与えることによって確立することができる。
【0272】
NASHマウスを、6週齢(42日目±2日)で処置開始の前日に、その体重に基づいてマウス8匹の8群およびマウス4匹の2群に無作為化することができる。STZプライミングを行わなかった同腹子の対照マウス(n=8)に、通常食を自由に与え、対照目的として設定することができる。
動物が、1週間以内に>25%の体重減少を示す場合、または前日と比較して>20%の体重減少を示す場合、動物を試験終了前に安楽死させる。動物が腹臥位などの瀕死の兆候を示す場合、動物を試験終了前に安楽死させる。安楽死させた動物からは試料を採取しない。
【0273】
処置期間の間に、個々の体重を毎日測定する。
【0274】
マウスの生存、臨床徴候、および行動を毎日モニターする。
【0275】

群1(正常):正常なマウス8匹に、いかなる処置も行わずに通常食を自由に与え、9週齢で屠殺する。
群2(媒体):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、媒体[食塩水]を10mL/kgの体積で1日おきに腹腔内投与する。
群3(テルミサルタン):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、テルミサルタンの10mg/kg用量を補充した純水を1日1回経口投与する。
群4(オベチコール酸、または「OCA」):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、OCAの30mg/kg用量を補充した1%メチルセルロースを1日1回経口投与する。
群5(デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンアミドコンジュゲート、または「D-Tel」高):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-Telの90mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与する。
群6(D-Tel 低):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-Telの18mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与する。
群7(デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンエステルコンジュゲートまたは「D-TelB」高):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-TelBの90mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与する。
群8(D-OCA 高):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-OCAの315mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与する。
群9(D-OCA 低):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-OCAの63mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与する。
群10(D-Cy5-6 wks):NASHマウス4匹に、6週齢時に、D-Cy5の50mg/kg用量を補充した媒体を単回腹腔内投与する。
群11(D-Cy5-9 wks):NASHマウス4匹に、9週齢時に、D-Cy5の50mg/kg用量を補充した媒体を単回腹腔内投与する。
【0276】
群10および11のマウスを、6および9週齢で投与の48時間後に屠殺する。群1~9のマウスは、後のアッセイのために9週齢で屠殺し、群10および11のマウスは、後のアッセイのために6および9週齢で屠殺する。
臓器重量の測定:
・ 個々の肝重量を測定し、
・ 肝重量の体重に対する比を計算する。
生化学アッセイ(群1~9):
・ 非絶食時血清ALTレベルは、FUJI DRI CHEM (Fujifilm,Japan)が定量する、
・ 肝トリグリセリドは、トリグリセリドE試験キット(FUJIFUILM Wako Pure Chemical Corporation,Japan)によって定量する、
肝切片(ルーチンの方法に従う)の組織学分析(群1~9):
・ NAFLD活動性スコアのHE染色および推定、
・ シリウスレッド染色および線維症領域のパーセンテージの推定、
【0277】
試料の採取および固定:
試験の生存中部分の終了後、以下の試料を、さらなる分析または輸送のために採取する。
【0278】
群10~11の動物を、イソフルランによって麻酔し、左心室の中を食塩水(その後に4%中性緩衝ホルマリン、NBF、pH7.4)によって20~30分間灌流する。動物を解剖し、組織試料(左右の腎臓、肝臓)を連続的に採取する。試料の厚さは、適切な固定を確実にするためにおよそ5mm未満である。平坦な表面を目的の領域に対して整形する。試料を固定のために直ちに4%NBF中に入れる。試料を4%NBF中、室温で一晩固定する。
【0279】
固定後、試料に以下のプロセスを行う。
【0280】
試料の処理
1.組織をPBS中に5分間、3回入れる;
2.組織を10%スクロース(PBS中)に4℃で24時間入れる;
3.組織を20%スクロース(PBS中)に4℃で24時間入れる;
4.組織を30%スクロース(PBS中)に4℃で24時間入れる;
5.組織を30%スクロース(PBS中):OCT(1:1)中に4℃で24時間入れる。
【0281】
組織包埋手順
組織および30%スクロース:OCT(1:1~2)を包埋モジュールに入れ、組織の方向を調整する;
平坦なドライアイス上にモジュールを置き、固化するまで待つ;
包埋モデルを-80℃で保存する;
切片作製
包埋モデルをThermoHM550ミクロトームに入れ、軸方向に厚さ10μmの切片を作製する;
スライドガラスを使用するまで-80℃で保存する。
試料
・ 血清試料(群1~9)を凍結する、
・ 肝試料(群1~11)を凍結する、
・ 肝切片(群10~11)を凍結する、
・ O.C.T.-包埋した肝ブロック(群10~11)、
・ O.C.T.-包埋した腎ブロック(群10~11)、
統計学検定(群1~9)
・ 統計学検定は、ボンフェローニ多重比較検定を使用して行う。P値<0.05は、統計学的に有意であると考えられる。
V.キット
【0282】
組成物を、キットにパッケージングすることができる。キットは、デンドリマーにカプセル化されている、会合している、またはコンジュゲートされている1つまたは複数の作用剤を含む組成物の単一用量または複数用量、および組成物を投与するための使用説明書を含み得る。具体的には、使用説明書は、組成物の有効量が指示通り特定の肝状態/疾患を有する個体に投与されることを指示する。組成物は、特定の処置方法を参照して上記の通りに製剤化することができ、任意の簡便な形式でパッケージングすることができる。
【0283】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに理解される。
【実施例
【0284】
(実施例1)
β-GalNAc-三分岐PEG3-アジドビルディングブロックの合成
三分岐Gal-NAcに基づくヒドロキシルPAMAMデンドリマーを、薬物を部位特異的に肝細胞に標的化および送達することに関して評価した。表面のGalNAc糖によって、ASGPRに対して多価結合効果が得られ、デンドリマーが非アルコール性脂肪性肝炎のSTAMモデルにおいてin vivoで肝細胞を選択的に標的化し、内部移行することを可能にすることが示されている。
【0285】
4つの異なるデンドリマー-薬物コンジュゲートを合成し、このモデルにおいて評価した:1)標的化のためのD-GalNAc-Cy5、2)D-GalNAc-テルミサルタン-エステル(切断性薬物リンカー、アンジオテンシン2受容体遮断剤)、3)D-GalNAc-テルミサルタン-アミド(非切断性薬物リンカー)、およびD-オベチコール酸(切断性薬物リンカー)。標的化リガンド、造影色素、および治療剤の組合せの正確なローディングが首尾よく実証されている。デンドリマーをさらに操作して、多様な治療分子の組合せを結合させることができる。これらの結果は、GalNAc PAMAMデンドリマーが、肝疾患の処置のための有効なプラットフォームを表すことを示している。
方法
【0286】
β-GalNAc-三分岐PEG3-アジド(AB3ビルディングブロック)の合成スキームを図1に示す。試薬および条件:(i)トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム、DCE、3時間、80℃、(ii)臭化プロパルギル、トルエン、水酸化ナトリウム、水、TBAB、(iii)ピリジン、塩化チオニル、クロロホルム、65℃、2時間;(iv)硫酸水素テトラブチルアンモニウム、50%NaOH、16時間、室温;(v)(iii)CuSO・5HO、アスコルビン酸Na、THF、水、10時間;(vi)DMF、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、NaN、80℃、5時間;(vii)メトキシドナトリウム、無水エタノール、30℃、3時間。
【0287】
ベータ-GALNAc-PEG3アジドの3つの分子がプロパルギル化ペンタエリスリトールビルディングブロック上にグラフトされ、AB型直交ビルディングブロックを生じる三分岐ビルディングブロックを調製した。ジクロロメタン中のトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウムの存在下で、β-D-GalNAcペントアセテート(1、図1)と2-[2-(2-アジドエトキシ)エトキシ]エタン-1-オール(2)とのグリコシル化反応によって合成を開始し、過アセチル化β-GalNAc-PEG3-アジド(3)を生じた。他方、ペンタエリスリトール4を、文献の方法に従ってDMSO中の水酸化ナトリウムおよび臭化テトラブチルアンモニウムの存在下で3つのプロパルギルアームによって選択的に修飾し、トリプロパルギルペンタエリスリトール(5)を生じた。化合物(5)上の残っている1つのヒドロキシル基を、DMSO中の水酸化ナトリウムおよびTBABを使用してビス-クロロテトラエチレングリコール(7)と反応させて中間化合物(8)を与えた。次の合成ステップの間、過アセチル化β-GalNAc-PEG3-アジドを、通常のCuAACクリック反応条件(THF:水中のスルホン酸銅(II)五水和物およびアスコルビン酸ナトリウム)を使用してABビルディングブロック(8)とクリック反応させ、化合物(9)を生じた。クリック反応の成功を、H NMR、HRMS、およびHPLCによって確認する。H NMRでは、トリアゾールの単一のシャープな一重線がδ7.9ppmで観察された。他の特徴的なピークは、δ2.0~1.74ppmの間の酢酸ピーク、δ5.2~3.2ppmでのGalNAcプロトン、およびδ7.78ppmのGALNACのNHである。次の合成ステップにおいて、化合物(9)の末端塩化物基を、DMF中のアジ化ナトリウムおよびヨウ化テトラブチルアンモニウムの存在下で求核置換によってアジドに置換し、化合物(10)を生じた。最後のステップは、反応がメトキシドナトリウムを使用してメタノール中で行われ、脱アセチル化β-GalNAc-三分岐PEG3アジド(11)ビルディングブロックを与える、zemplen条件を使用するトランスエステル化である。
結果
【0288】
反応の完了の成功を、H NMRによって確認し、O-酢酸塩に対応するピークは完全に消失し、全ての糖プロトンは高磁場にシフトした。全合成シーケンスを、H NMR、HPLC、およびHRMSを使用して特徴付け、所望の化合物を確認した。
(実施例2)
蛍光標識肝細胞標的化デンドリマー-三分岐β-GalNAc-CY5の合成および特徴付け
【0289】
標的化デンドロン(11)の合成後、デンドリマー-三分岐β-GalNAc-CY5の合成を行って、共焦点顕微鏡および蛍光分光法を使用してこのデンドリマーの選択的肝細胞標的化能を評価した。
方法
【0290】
デンドリマー合成を、第4世代PAMAMヒドロキシル末端デンドリマー12(図2)について開始し、5-ヘキシン酸(13)による部分的エステル化を、ステグリッヒエステル化を使用して達成し、化合物(14)を生じた。この反応に関して、EDC-HClをカップリング試薬として、4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)と共に使用し、12~14個のヘキシンアームをデンドリマーに結合させた。化合物(14)の構造を、H NMRによって確認すると、エステル化されたCHのピークはδ4.0ppmで観察され、ヘキシンアームからのCHに対応する他の多重線がδl.7~1.6ppmで観察された。ヘキシンアームのローディングを正確に定量するために、δ8.0~7.7ppmでのデンドリマーの内部アミドピークを、参照点として使用し、プロトン積分法を使用して、結合したアームの数を計算した。ヘキシンアームがデンドリマー表面に導入されると、GalNAcデンドロン(3)(図1)を、銅触媒クリック(CuAAc)反応を使用してデンドリマー(14)に結合し、デンドリマー(15)を生じた。H NMRから、GalNAcデンドロン(11)の5~6個のアームが、デンドリマーに結合したことが確認された。GalNAcデンドロンの5~6個のアームは、標的化のために維持され、ヘキシンの5~7個のアームは薬物または造影剤に結合するために触れられないままで維持された。デンドロンの5~6個のアームの導入は、最終構造において15~18個のGalNAc単位をもたらす。
【0291】
ローディングの計算のために、プロトン積分法を使用した。H NMRでは、内部アミドプロトン+デンドロンからの15個のトリアゾールプロトン、および新たに作製されたトリアゾールに関する5~6個のプロトンが、δ8.0~7.7ppmの間で観察された。GalNAcからのNHピークがδ7.6ppmで観察され、45個のプロトンに対応するN-アセチル一重線がδ1.78ppmで観察された。H NMRをDO中で記録する場合、NHに関連する全てのシグナルは水に交換されて消失し、15および5個のプロトンに対応する2つの異なるトリアゾールピークが、δ8.0および7.8ppmで明らかに認められた。全てのGalNAcおよびデンドリマーシグナルは、δ5.0~1.5ppmの間で観察することができる。標的化部分がデンドリマーに結合すると、次のステップは、蛍光タグをこのデンドリマーに結合することである。近赤外線色素CY5を蛍光タグとする。CY5アジド(16)をデンドリマー(15)に結合させるため、CuAAc反応を利用して蛍光-GalNAcデンドリマー(17)を生じた。
結果
【0292】
クリック反応は、2~3個のCY5分子(診断剤として有用な代表的な低分子であり、低分子薬による結果を予測する)が結合しているCY5標識デンドリマーを首尾よく生成した。最終的なデンドリマーを、H NMRによって特徴付け、CY5ローディングを、プロトン積分法を使用して計算した。CY5に対応するピークは、δ7.5~6.2ppmの間に現れた。全合成シーケンスをHPLCによって追跡した。G4-OHのHPLCスペクトルは、6.l分で現れる。HPLCスペクトルは、ヘキシンアームをデンドリマーに付加した場合、疎水性側に9.4分にシフトし、水溶性三分岐GalNAcデンドロンをデンドリマーにコンジュゲートするともう一度親水性側にシフトし、7.7分で現れる。CY5の付加はまた、ピークを右方向に8.4分にシフトさせた。最終的なCY5標識デンドリマー(17)は、HPLCによって決定した場合、>98%純粋であった。
(実施例3)
NASH処置のための酵素による切断性および非切断性のリンカーとのデンドリマー-GalNAc-テルミサルタンコンジュゲートの合成および特徴付け
【0293】
蛍光デンドリマーが首尾よく完了した後、次の目的は、肝障害に関する標的化部分および薬物を有するデンドリマーを合成することであった。NASHは、肝硬変および肝細胞癌などの疾患をもたらす十分に認識された世界的な健康問題である。多くの異なる型の治療分子、例えばPPARガンマ、抗酸化剤、および細胞保護剤が使用されているが、その成功は限定的であるかまたは成功していない。
方法
【0294】
現在、NASHおよび他の慢性肝疾患の処置に関して承認された薬物はない。最近、アンジオテンシン受容体遮断剤(ARB)およびペルオキシソーム増殖剤受容体の部分的アゴニストであるテルミサルタンが、インスリン感受性を増加させ、肝臓における脂肪の蓄積を阻害することによって、NASHの多くの動物モデルにおいて有望であることが示されている。良好な結果にもかかわらず、その臨床への橋渡しは、用量関連毒性および血圧低下などの他の副作用によって進んでいない。
【0295】
これらの課題を克服するために、薬物ロードを所望の臓器または組織へと送達するために、非常に特異的な標的化薬物送達ナノプラットフォームが必要である。この目的のために、テルミサルタンを、2つの異なる連結、すなわちテルミサルタンエステル(図3)およびテルミサルタンアミド(図4)を使用してデンドリマー-GalNAc(15)に結合した。テルミサルタン-エステルPEG4アジド(19)を合成するために、テルミサルタンを、無水DCM中のDCCおよびDMAPの存在下で、2-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エトキシ)エタン-1-オール(2)と反応させた。テルミサルタンエステル-PEG4アジドは、定量的収量で達成された。
【0296】
デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンエステルコンジュゲートの合成に関して、産物を、H NMRおよびLCMSを使用して確認した。H NMRでは、芳香族プロトン(14)は、δ7.8~7.1ppmの間に現れ、ベンジルCHは、δ5.6ppmで現れ、CHの隣のCHは、δ1.85ppmで現れ、CHに対応する三重項は、δ1.0ppmで現れる。テルミサルタンアジドが首尾よく形成されたことが確認された後、CuAACクリック反応を使用して、これをヘキシンリンカーの6~7個のアームを有するGalNAcデンドリマー(15)とクリック反応させた。クリック反応は、デンドリマー-三分岐GalNAc(4-5)-テルミサルタン(7-8)(20)を首尾よく作製した。産物の確認を、H NMRによって再度行った。デンドリマー内部アミドピーク、トリアゾールピーク、テルミサルタンからの芳香族プロトン、およびGalNAcに対応するNHは、δ8.0~7.0ppmの間に現れる。ベンジルCHは、δ5.6ppmで現れる。観察すべき他の重要なピークは、δ1.7ppmでのN-アセチルピーク、およびδ0.9ppmでのCHピークである。プロトン積分法を使用して、薬物ローディングを計算した。テルミサルタンエステルの7~9分子がデンドリマーに結合していることが確認された。テルミサルタンの重量%ローディングはおよそ14%であり、テルミサルタン8分子が結合していると考えられた。テルミサルタンは、非常に疎水性の薬物であるが、コンジュゲートは非常に水溶性であり、溶解度はおよそ60mg/mlである。最終的なコンジュゲートの純度は>96%である。
【0297】
酵素感受性エステル連結を有するデンドリマーテルミサルタンが首尾よく完了した後、生理的条件下でより安定でなければならないデンドリマー-テルミサルタンアミドコンジュゲートを合成した(図4)。これを達成するために、テルミサルタンに対するリンカーアジドを、HATUおよびDIPEAを使用して、2-(2-(2-(2-アジドエトキシ)エトキシ)エトキシ)エタン-1-アミン(21)とカップリングさせることによって最初に導入し、テルミサルタン-PEG3-アミドアジド(22)を与えた。化合物を、H NMRおよびLCMSを使用して特徴付けた。アジド官能化テルミサルタンが形成された後、これを、CuAAcを使用してデンドリマー-GalNAc(15)にコンジュゲートし、デンドリマー-GalNAc(4-5)-テルミサルタンアミド(6-7)(23)を得た。
【0298】
デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンアミドコンジュゲートの合成に関して、産物の確認をH NMRによって行った。薬物分子が結合した後、最終化合物中の薬物からの全てのシグネチャーピークが観察された。デンドリマー内部アミドピーク、トリアゾールピーク、テルミサルタンからの芳香族プロトン、およびGalNAcに対応するNHは、δ8.2~7.1ppmの間で現れる。ベンジルCHはδ5.6ppmで現れる。他の重要なピークは、δ1.8ppmで現れるN-アセチルピーク、およびδ1.0ppmで現れるCHピークである。H NMRをDO中で記録すると、デンドリマーに対応する内部アミドピークは交換されて消失し、トリアゾールに対応する一重線がδ8.0ppmで現れる。プロトン積分法を使用して薬物ローディングを計算した。
結果
【0299】
テルミサルタンアミド6分子がデンドリマーに結合していることが確認された。テルミサルタンの重量%ローディングはおよそ11%であり、テルミサルタン6分子が結合したと考えられた。最終的なコンジュゲートは、高度に水溶性であり、溶解度はおよそ60~70mg/mlである。
【0300】
全合成プロセスの進行をHPLCによって追跡した。GalNAc三分岐コンジュゲート(15)の保持時間は7.8分であるが、疎水性のテルミサルタンアジドの付加が起こると、最終的なコンジュゲート(23)の保持時間は、疎水性側にシフトし、10.4分となる。最終的なコンジュゲートの純度は>95%である。
(実施例4)
ヒトアンジオテンシンII AT1受容体に対するテルミサルタンおよびテルミサルタンリンカーの結合親和性
方法
【0301】
テルミサルタン、テルミサルタン-エステル-PEG4アジドおよびテルミサルタン-PEG3-アミドアジドの結合親和性を、ヒトアンジオテンシンII AT1受容体(放射リガンドアンタゴニスト)結合アッセイを使用して評価した(表1)。細胞膜ホモジネート(タンパク質8μg)を、50mM Tris-HCl(pH7.4)、5mM MgCl、1mM EDTA、および0.1%BSAを含有する緩衝液中で、0.05nM[125I][Sar1-Ile8]アンジオテンシンIIと共に試験化合物の非存在下または存在下、37℃で120分間インキュベートする。非特異的結合を10μMアンジオテンシンIIの存在下で決定する。インキュベーション後、試料溶液を、0.3%PEIを予め浸したガラス繊維フィルター(GF/B、Packard)を通して真空下で急速にろ過し、96試料のセルハーベスター(Unifilter、Packard)を使用して、氷冷50mM Tris-HClによって数回すすぐ。フィルターを乾燥させた後、シンチレーションカクテル(Microscint 0、Packard)を使用して、シンチレーションカウンター(Topcount、Packard)によって放射活性に関して計数する。
結果
【0302】
結果を、対照の放射リガンド特異的結合のパーセント阻害として表記する。サララシンを標準的な参照化合物として使用し、これを各実験において数個の濃度で試験し、競合曲線を得て、そこからそのIC50を計算する。
【0303】
試料の調製:テルミサルタン、テルミサルタンエステルリンカー、およびテルミサルタンアミドリンカーを、DMSO水溶液中で溶解し、10mMの遊離の薬物(テルミサルタン)濃度の溶液を形成した。各試料溶液を、結合試験のためにそれぞれ、DMSO中で10μM、3.33μM、l.llμM、0.37μM、0.123μM、41.2nM、13.7nM、4.57nM、1.52nM、0.508nM、および0.169nMへとさらに希釈した。
【0304】
修飾された薬物リンカーの結合親和性は、ナノモル濃度範囲の値を保持した(表1)。
表1. テルミサルタン、テルミサルタン-エステル-PEG4アジド、およびテルミサルタン-PEG3-アミドアジドの結合親和性
【表1】
(実施例5)
デンドリマー-テルミサルタン-エステルおよびデンドリマー-テルミサルタン-アミドの放出試験
方法
【0305】
両方のコンジュゲートの薬物放出プロファイルを、血漿(pH7.4、PBS)および細胞内条件(pH5.5、エステラーゼ)で評価した。
結果
【0306】
結果は、血漿の生理的条件で、デンドリマー-エステル連結構築物が非常に安定であり、18日間でわずか14%の薬物放出が観察されているが、細胞内条件下では、18日間で薬物の94%が放出されることを示している(図5)。しかし、デンドリマー-テルミサルタンアミドコンジュゲートの放出実験では、血漿の生理的条件下で2%未満の薬物が18日間で放出され、細胞内条件下では18日間で10%未満の薬物が放出された(図6)。アミド連結薬物コンジュゲートは、生理的条件下でエステル連結デンドリマーコンジュゲートより安定である。
【0307】
D-テルミサルタンアミドコンジュゲートの安定性をまた、37℃でヒト、マウス、およびラット血漿においても評価し、2日間の期間で放出されたのは薬物のわずか3%であった(図7)。
(実施例6)
NASH処置のためのデンドリマー-GalNAc-オベチコール酸(Obiticholic acid)コンジュゲートの合成および特徴付け
【0308】
非常に強力な薬物であるオベチコール酸は、半合成の胆汁酸アナログであり、NASHにおいて有望な結果を示しているが用量関連毒性の問題を有する、ファルネソイドX受容体の最も活性な生理的リガンドであり、これを利用した。オベチコール酸をデンドリマー-GalNAc-ヘキシン酸(15)にコンジュゲートするために、オベチコール酸のカルボン酸官能性ハンドル(24)を、EDC、DMAPカップリング反応を使用してPEG4アジドリンカー(25)によって選択的にエステル化した(図8)。オベチコール酸リンカーアジド(26)を、H NMR、HRMS、およびHPLCを使用して特徴付けた。アジド末端オベチコール酸は、クリック反応を使用してデンドリマー-GalNAc-ヘキシン(15)に首尾よくコンジュゲートされ、デンドリマー-GalNAc(4-5)-オベチコール酸コンジュゲート(6-7)(27)を与えた。デンドリマーおよび中間体を、H NMR(図8)およびHPLCを使用して十分に特徴付けた。デンドリマーの薬物ローディングを、デンドリマー内部アミドプロトンを参照ピークとして使用するプロトン積分法によって計算した。メチルピークは、δ0.6ppmでオベチコール酸に属し、これは正確な薬物ローディングを計算するために役立った。オベチコール酸6分子がデンドリマーに結合し、薬物ローディングはおよそ9.5%である。最終的なコンジュゲートの純度は99%より高く、溶解度の範囲は約l00mg/mLである。
(実施例7)
マウス非アルコール性脂肪性肝炎モデルにおける三分岐Galnac修飾ヒドロキシルデンドリマーのin vivo有効性試験
方法
マウスおよびNASHモデル
【0309】
病原体フリーの妊娠14日目のC57BL/6マウスは、Japan SLC,Inc.(Japan)から得ることができる。NASHは、雄性マウスにおいてストレプトゾトシン(STZ,Sigma,USA)200μgを生後2日目に1回皮下注射し、4週齢以降(28日目±2日)、高脂肪食(CLEA Japan Inc.,Japan)を自由に与えることによって確立された。NASHマウスを、6週齢(42日目±2日)で処置開始の前日に、その体重に基づいてマウス8匹の8群およびマウス4匹の2群に無作為化した。STZプライミングを行わなかった同腹子の対照マウス(n=8)に、通常食を自由に与え、対照目的として設定した(群分けに関する詳細は以下を参照されたい)。動物が、1週間以内に>25%の体重減少を示す場合、または前日と比較して>20%の体重減少を示す場合、動物を試験終了前に安楽死させる。動物が腹臥位などの瀕死の兆候を示す場合、動物を試験終了前に安楽死させた。安楽死させた動物からは試料を採取しない。処置期間の間に、個々の体重を毎日測定する。マウスの生存、臨床徴候、および行動を毎日モニターする。
【0310】
群分け
群1(正常):正常なマウス8匹に、いかなる処置も行わずに通常食を自由に与え、9週齢で屠殺した。
群2(媒体):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、媒体(食塩水)を10mL/kgの体積で1日おきに腹腔内投与した。
群3(テルミサルタン):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、テルミサルタンの10mg/kg用量を補充した純水を1日1回経口投与した。
群4(オベチコール酸、または「OCA」):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、OCAの30mg/kg用量を補充した1%メチルセルロースを1日1回経口投与した。
群5(デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンアミドコンジュゲート、または「D-Tel」高):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-Telの90mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与した。
群6(D-Tel 低):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-Telの18mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与した。
群7(デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-テルミサルタンエステルコンジュゲートまたは「D-TelB」高):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-TelBの90mg/kg用量を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与した。
群8(D-OCA 高):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-OCAの315mg/kg用量(この投薬量でデンドリマーにコンジュゲートしたOCAの約30mg/kgと等価である)を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与した。
群9(D-OCA 低):NASHマウス8匹に、6から9週齢まで、D-OCAの63mg/kg用量(この投薬量でデンドリマーにコンジュゲートしたOCAの約6mg/kgと等価である)を補充した媒体を1日おきに腹腔内投与した。
群10(D-Cy5-6 wks):NASHマウス4匹に、6週齢時に、D-Cy5の50mg/kg用量を補充した媒体を単回腹腔内投与した。
群11(D-Cy5-9 wks):NASHマウス4匹に、9週齢時に、D-Cy5の50mg/kg用量を補充した媒体を単回腹腔内投与した。
【0311】
群10および11のマウスを、6および9週齢で投与の48時間後に屠殺した。群1~9のマウスは、後のアッセイのために9週齢で屠殺し、群10および11は、後のアッセイのために6および9週齢で屠殺した。個々の肝重量を測定し、肝重量の体重に対する比を計算した。
生化学アッセイ(群1~9):
【0312】
非絶食時血清ALTレベルは、FUJI DRI CHEM(Fujifilm,Japan)が定量した。肝トリグリセリドは、トリグリセリドE試験キット(FUJIFUILM Wako Pure Chemical Corporation,Japan)によって定量した。
肝切片の組織学分析(群1~9):
【0313】
HE染色およびNAFLD活動性スコアの推定は、ルーチンの方法によって行った。シリウスレッド染色および線維症領域のパーセンテージの推定も同様に計算した。
試料の採取および固定:
【0314】
試験の生存中部分の終了後、以下の試料を、さらなる分析または輸送のために採取した。群10~11の動物を、イソフルランによって麻酔し、左心室の中を食塩水(その後に4%中性緩衝ホルマリン、NBF、pH7.4)によって20~30分間灌流する。動物を解剖し、組織試料(左右の腎臓、肝臓)を連続的に採取する。試料の厚さは、適切な固定を確実にするためにおよそ5mm未満である。平坦な表面を目的の領域に対して整形する。試料を固定のために直ちに4%NBF中に入れる。試料を4%NBF中、室温で一晩固定する。
結果
【0315】
個々の体重を、測定期間を通して測定した。処置を行っていない(媒体)または処置を行った実験的NASHマウスは、試験期間を通して類似の体重を維持した。実験を通して体重約26~27グラムの正常なマウスは、全てのNASHマウスより大きかったが、全ての処置群のNASHマウスは処置期間を通して類似の体重を示した。9週目では、すなわち処置の開始後3週目では、異なる処置群からの体重は有意差を示さなかった(図9A)。遊離のテルミサルタンによって処置した群を除く全ての処置群が9週目で類似の肝重量を示した。遊離のテルミサルタンによって処置したNASHマウスは、媒体処置NASHマウスと比較して低減された肝重量を有した(図9B)。図9Cは、全ての実験群の肝重量の体重に対する比を示す。
【0316】
非絶食時血清ALTレベルおよび肝トリグリセリドレベルを測定する生化学アッセイを、9週齢で行った(図10Aおよび10B)。
【0317】
組織病理学分析を9週齢で屠殺した全ての処置群からの正常なマウスおよびNASHマウスの肝臓について実施した。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)活動性スコア、脂肪症スコア、炎症スコア、および風船様腫大スコアを図11A~11Dに示す。シリウスレッド染色を使用して、全ての処置群からの正常なマウスおよびNASHマウスの肝臓における線維症の程度を評価した(図12)。
【0318】
オベチコール酸(OCA)は、強力かつ選択的なファルネソイドX受容体アゴニスト(FXRa)である。肝組織の免疫組織化学分析は、デンドリマー-三分岐β-GlcNAc-アジド-オベチコール酸エステルコンジュゲート(D-OCA)がNAFLDスコア、肝線維症、および肝細胞風船様腫大を、遊離のOCAおよび媒体対照と比較して有意に減少させることを実証する(p<0.05、n=8)。低用量D-OCA処置は、脂肪症スコアの有意な低減を示したが、高用量D-OCA処置は、遊離のOCA群と比較して線維症スコアの改善された低減を示した。生化学分析はまた、肝細胞標的化ヒドロキシルデンドリマーがコンジュゲートされているオベチコール酸の処置が肝機能を改善したことも示唆している。
【0319】
要約すると、肝細胞標的化ヒドロキシルデンドリマー治療剤は、全身投与後にアシアロ糖タンパク質受容体(ASGP-R)媒介取り込みを通してFXRaの肝細胞への選択的標的化、薬物有効性の増強、ならびに用量および部位以外での毒性の低減を可能にすることが確立されている。FXRaの肝細胞への選択的標的化は、NASHモデルにおいて機能的転帰を改善する。この標的化されたアプローチは、現行のFXRa化合物について観察される全身性の標的外毒性を有意に低減させる。ヒドロキシル末端デンドリマーによる以前の試験は、最大1ヶ月間の標的細胞内の持続的な局在を実証した。全体として、肝細胞標的化ヒドロキシルデンドリマーアプローチは、肝疾患を処置するための広範囲の薬物を開発するためのプラットフォームを提供する。
【0320】
それ以外の方法で定義されていない限り、本明細書で使用した全ての科学技術用語は、本開示の発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で引用した刊行物およびそれらが引用される材料は、明確に参照により組み込まれる。
【0321】
当業者は、単なるルーチンの実験を使用して、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するまたは確認することができるであろう。そのような等価物は以下の特許請求の範囲に包含されると意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図12
図13-1】
図13-2】
図13-3】
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17-1】
図17-2】
【国際調査報告】