(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-02
(54)【発明の名称】高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び糖アルコールを含む組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/26 20060101AFI20230126BHJP
C08K 5/053 20060101ALI20230126BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
C08L1/26
C08K5/053
C08J3/215 CEP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534372
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(85)【翻訳文提出日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 US2020063564
(87)【国際公開番号】W WO2021118917
(87)【国際公開日】2021-06-17
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522224494
【氏名又は名称】ニュートリション アンド バイオサイエンシス ユーエスエー 1,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】オドネル,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】プタンス,レベッカ
(72)【発明者】
【氏名】ピーターマン,オリバー
(72)【発明者】
【氏名】バイエル,ローランド
(72)【発明者】
【氏名】ケリング,ルネ
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA01
4F070AA02
4F070AB11
4F070AC72
4F070FA03
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC05
4J002AB031
4J002EC056
4J002GB00
4J002GT00
4J002HA01
(57)【要約】
組成物は、1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含む。組成物は、例えば、押出装置をパージするために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含む組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、1.0~2.5のDS、好ましくは1.0~2.3のDSを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つのヒドロキシプロピルメチルセルロースが、0.50~1.30のMSを有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、1.6~2.3のDS及び0.60~1.30のMSを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び糖アルコールの重量比が、95:5~90:10である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記糖アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、リビトール、ガラクチトール、フシトール、イノシトール及びラクチトール、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記糖アルコールがキシリトール又はソルビトール、好ましくはキシリトールである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、20℃の2%水溶液として、5~150,000mPa.sの粘度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、20℃の2%水溶液として、1.2~500mPa.sの粘度を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び糖アルコールの混合物中の活性成分の固体分散体である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
乾燥粒子形態の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、前記糖アルコールの水溶液とをブレンドすることと、得られた湿潤ブレンドを8重量%未満の水分含量になるまで乾燥させることとを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物を製造するためのプロセス。
【請求項12】
前記糖アルコールの水溶液が、環状層ミキサー又は造粒機内で前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース上にスプレーされる、請求項10に記載のプロセス。
【請求項13】
熱溶融押出中に高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースの付着性を低減するためのプロセスであって、
a)1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールと、任意選択的に活性成分とを、98:2~85:15のヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比でブレンドするステップと、
b)任意選択的に、ステップa)のブレンドを95℃~230℃の温度で混練するステップと、
c)ステップb)のブレンドを95℃~230℃の温度で押出させるステップと、
d)押出された塊を押出機から回収するステップと
を含むプロセス。
【請求項14】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が95:5~90:10である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記糖アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、リビトール、ガラクチトール、フシトール、イノシトール及びラクチトール、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項13又は14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記糖アルコールがキシリトール又はソルビトール、好ましくはキシリトールである、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記ステップ(a)が、乾燥粒子形態の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、前記糖アルコールの水溶液とをブレンドすることと、得られた湿潤ブレンドを8重量%未満の水分含量になるまで乾燥させることとを含む、請求項13~16のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記糖アルコールの水溶液が、環状層ミキサー又は造粒機内で前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース上にスプレーされる、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
押出装置の内部表面に接着した汚染物質材料を前記装置からパージするためのプロセスであって、
a)1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含むパージ組成物を前記押出装置に充満させるステップと、
b)前記押出装置を通して前記パージ組成物を搬送するステップと、
c)前記パージ組成物を前記押出装置から除去し、それにより、前記押出装置の内部表面に接着した前記汚染物質材料の実質的に全てが除去されるステップと
を含むプロセス。
【請求項20】
前記ステップb)が、95℃~230℃の温度で実行される、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記パージ組成物が、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び糖アルコールを95:5~90:10の重量比で含む、請求項19又は20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記糖アルコールが、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、リビトール、ガラクチトール、フシトール、イノシトール及びラクチトール、並びにこれらの混合物からなる群から選択される、請求項19~21のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記糖アルコールがキシリトール又はソルビトール、好ましくはキシリトールである、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記ステップ(a)が、乾燥粒子形態の前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、前記糖アルコールの水溶液とをブレンドすることと、得られた湿潤ブレンドを8重量%未満の水分含量になるまで乾燥させることとを含む、請求項19~23のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記糖アルコールの水溶液が、環状層ミキサー又は造粒機内で前記ヒドロキシプロピルメチルセルロース上にスプレーされる、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
押出装置の内部表面に接着した汚染物質材料を前記装置からパージするための、1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含む組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び糖アルコールを含む組成物と、熱溶融押出中に高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースの付着性を低減するためのプロセスと、前記組成物を用いて、押出装置の内部表面に接着した汚染物質材料を押出装置からパージするためのプロセスとに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、難溶性薬物の非晶質固体分散体などの医薬製剤を調製するために頻繁に使用されるセルロースエーテルである。G.Van den Mooter, “The use of amorphous solid dispersions: A formulation strategy to overcome poor solubility and dissolution rate”, Drug Discov Today: Technol(2011), doi:10.1016/j.ddtec.2011.10.002には、難溶性薬物の溶解の速度及び程度を改善することにより、そのバイオアベイラビリティを増大させるための非晶質固体分散体の調製が議論されている。非晶質固体分散体を調製するために最も多く適用される2つの製造方法は、スプレー乾燥及び熱溶融押出であると思われる。熱溶融押出の最も一般的な設定において、粉末ブレンドは、回転スクリューを備えた加熱バレル内にフィーダーを介して導入され、そこで、粉末ブレンドは加熱され、軟化された又は部分的若しくは完全に溶融された状態で激しく混合され、そしてストランド、フィルム、ペレット、錠剤又はカプセルとして溶融物を成形するダイへ向かって移動される。適用される熱及びせん断力の量、並びに押出物がダイを出るときの冷却速度は、固体分散体の物理的構造に寄与する。非晶質固体分散体は、薬物が実質的に非晶質の非結晶状態で存在する場合に生成される。
【0003】
欧州特許出願EP0872233号は、(a)ロビリド(loviride)、及び(b)1つ又は複数の薬学的に許容される水溶性ポリマーを含む固体分散体を開示する。記載されている多種類の水溶性ポリマーの中で、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、特に約29重量パーセントのメトキシル基及び約10重量パーセントのヒドロキシプロポキシル基を有するHPMC2910が好ましいと言われている。
【0004】
高分子材料が押出、特に熱溶融押出を受けると、それは軟化して流動性の塊になり、スクリューによって押出機バレルを通って搬送される。押出された材料の一部は汚染物質として押出装置内に残る傾向があり、これは、押出装置の内部表面上又は空隙内(例えば、スクリューフライト)に固着し、後続バッチの汚染、その不十分な外観及び/又は特性をもたらし得る汚染材料の新たなポリマーへの取込みを回避するために、新しいバッチの高分子材料が押出機内で加工される前に装置のクリーニングが必要とされる。この問題に対処する1つの方法は、装置を解体し、ブラシなどの物理的手段により、若しくは液体クリーニング溶液の適用により、又はその両方によって、その部品から汚染物質材料を除去することである。このような手順は非常に時間がかかり、最近では、装置の解体を必要とせずに、又は曝露の危険を低下させて解体をより簡単にすることなく、押出機を通して処理されて汚染物質を除去することができるパージ組成物を開発するための努力がなされている。
【0005】
本発明よりも前は、配合者は通常何らかのパージ方法を使用していたが、非常に粘着性があり及び/又は処理するのが困難であり得る、その配合物のベースであるニートポリマーに依存していた。医薬品製造のために他の製品も存在するが、これらは、使用可能な動作範囲又は設定が限られている。例えば、BiogrundからのHME Cleaner Plus(GMP)は、HPMC、MC、プロピレングリコール及びコロイドシリカを含み;製品パンフレットには、160~200℃で有効であると記載されている。この範囲より下では粘着性があり、上では破壊的に分解する。
【0006】
米国特許出願公開第2014/0142018号には、セルロースエーテルと、グリコールなどの多価アルコール、又はそのエーテル若しくはエステル、又はエタノールアミンである溶媒とを含む、押出機及び射出成形機をクリーニングするためのパージ組成物が開示されている。このパージ組成物は、溶媒中のセルロースエーテルを加熱及び融解させ、溶液を凝固するまで冷却することによって調製される。セルロースエーテルは、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース又は酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースであり得る。パージは、汚染物質の融解温度よりも高温で実施される。
【0007】
国際公開第2011/056459号には、ポリマー加工装置の内部をクリーニングするための方法が開示されており、ここで、加工装置の内部には汚染物質材料が接着している。加工装置をクリーニングするために使用されるパージ組成物は、デンプン、水及びポリオール可塑剤を含む。パージ組成物は、加工装置を通って搬送されるときに、内部表面に接着した残留ポリマー及び汚染物質を除去する。
【0008】
国際公開第2014/014752号には、熱溶融押出により固体分散体を調製するために有益な特性を有することが見出された、高度置換グレードのヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む固体分散体が開示されている。一方で、高度置換グレードのヒドロキシプロピルメチルセルロースが、熱溶融押出のようにガラス転移温度(Tg)を超えて「塑性」状態で加工(混合、混練又は押出)されているとき、塑性塊は高い粘着性及び付着性を示す。塑性塊の付着性の増大は、押出機又はミキサーなどの加工装置をクリーニングするために多大な努力を必要とするという不都合を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
本発明の目的は、純粋なヒドロキシプロピルメチルセルロースよりも熱溶融押出中の付着性及び粘着性が著しく低く、したがって、押出装置及び打錠手段への組成物の接着による押出塊の損失が低減された固体剤形を調製するために有用である、高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む組成物を提供することである。
【0010】
さらに本発明の目的は、装置の内部に接着した汚染物質を押出装置からパージするために使用可能な組成物を提供することである。本発明は、著しい粘着性又は破壊的な分解をもたらすことなく著しくより広い熱加工ウィンドウ、より多くの種類の配合物をパージする能力(より高い溶融粘度に起因する)、化学的スクラビング剤を含まない(すなわち環境にやさしい)製造環境で使用するためのGMPという利点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、押出の前に高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースに特定の量の糖アルコールを添加することによって、両方の目的を達成できることが見出された。
【0012】
したがって、一態様において、本発明は、1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含む組成物に関する。
【0013】
別の態様において、本発明は、乾燥粒子形態のヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールの水溶液とをブレンドすることと、得られた湿潤ブレンドを8重量%未満の水分含量になるまで乾燥させることとを含む、前記組成物を製造するためのプロセスに関する。
【0014】
さらに別の態様において、本発明は、熱溶融押出中に高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースの付着性を低減するためのプロセスに関し、本プロセスは、
a)1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールと、任意選択的に活性成分とを、98:2~85:15のヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比でブレンドするステップと、
b)任意選択的に、ステップa)のブレンドを95℃~230℃の温度で混練するステップと、
c)ステップb)のブレンドを95℃~230℃の温度で押出させるステップと、
d)押出された塊を押出機から回収するステップと
を含む。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、押出装置の内部表面に接着した汚染物質材料を前記装置からパージするためのプロセスに関し、本プロセスは、
a)1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.6であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含むパージ組成物を押出装置に充満させるステップと、
b)押出装置を通してパージ組成物を搬送するステップと、
c)パージ組成物を押出装置から除去し、それにより、押出装置の内部表面に接着した汚染物質材料の実質的に全てが除去されるステップと
を含む。
【0016】
またさらなる態様において、本発明は、押出装置の内部表面に接着した汚染物質材料を前記装置からパージするための、1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有するヒドロキシプロピルメチルセルロースであって、DS及びMSの合計が1.8~3.2であり、DSがメトキシル基の置換度であり、MSがヒドロキシプロポキシル基のモル置換であるヒドロキシプロピルメチルセルロースと、糖アルコールとの、ヒドロキシプロピルメチルセルロース対糖アルコールの重量比が98:2~85:15である混合物を含む組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図面の簡単な説明
【
図1】パージなしにHS HPMCを押出した後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図2】95:5の比率のHS HPMC及びキシリトールでパージした後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図3】90:10の比率のHS HPMC及びキシリトールでパージした後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図4】コポビドンを押出し、90:10の比率のHS HPMC及びPEG4000でパージした後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図5】コポビドンを押出し、90:10の比率のHS HPMC及びキシリトールでパージした後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図6】コポビドンを押出し、90:10の比率のHS HPMC及びソルビトールでパージした後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図7】90:10の比率のHPMC2910及びキシリトールを押出した後のLeistriz Nano 16熱溶融押出機のスクリューを示す写真である。
【
図8】9:1の比率のHS HPMC及びキシリトールの乾燥ブレンドの示差走査熱量測定により得られたキシリトールの融解ピークの画像である。
【
図9】環状層ミキサー(ring layer mixer)において調製された9:1の比率のHS HPMC及びキシリトールの湿潤ブレンドの示差走査熱量測定により得られたキシリトールの融解ピークの画像である。
【
図10】キシリトールのみと、HS HMPCのみと、キシリトール水溶液中の異なる濃度のキシリトールを用いて環状層ミキサーにおいて調製された本発明の組成物のサンプルとについて、重量減少に関する熱重量分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明の組成物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む。これは、本発明との関連において無水グルコース単位と称されるβ-1,4グリコシド結合したD-グルコピラノース繰返し単位を有するセルロース骨格を有し、非置換セルロースの場合には、式
【化1】
で表され、無水グルコース単位中の炭素原子の番号付けが説明される。無水グルコース単位中の炭素原子の番号付けは、それぞれの炭素原子に共有結合した置換基の位置を示すために参照される。無水グルコース単位の2位、3位及び6位にあるセルロース骨格のヒドロキシル基の少なくとも一部は、メトキシル及びヒドロキシプロポキシル基の組合せによって置換されている。無水グルコース単位の2位、3位及び6位にあるセルロース骨格のヒドロキシル基は、メトキシル及びヒドロキシプロポキシル基以外の基によって置換されていない。
【0019】
無水グルコース単位当たりのメトキシル基の平均数は、メトキシル基の置換度DSで表される。DSの定義において、「メトキシル基により置換されたヒドロキシル基」という用語は、本発明において、セルロース骨格の炭素原子に直接結合したメチル化ヒドロキシル基だけでなく、セルロース骨格に結合したヒドロキシプロポキシル置換基のメチル化ヒドロキシル基も含むと解釈されるべきである。
【0020】
無水グルコース単位の2位、3位及び6位のヒドロキシル基のヒドロキシプロポキシル基による置換度は、ヒドロキシプロポキシル基のモル置換MSによって表される。MSは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース中の無水グルコース単位当たりのヒドロキシプロポキシル基のモルの平均数である。ヒドロキシプロポキシル化反応の間に、セルロース骨格に結合したヒドロキシプロポキシル基のヒドロキシル基が、メチル化剤及び/又はヒドロキシプロピル化剤によってさらにエーテル化され得ることは理解されるべきである。したがって、「ヒドロキシプロポキシル基」という用語は、MSとの関連において、単一のヒドロキシプロポキシル基、又は2つ以上のヒドロキシプロポキシル単位がエーテル結合により互いに共有結合した側鎖のいずれかを含む、ヒドロキシプロポキシル置換基の構成単位としてヒドロキシプロポキシル基を言及していると解釈されなければならない。この定義において、ヒドロキシプロポキシル置換基の末端ヒドロキシル基がさらにメチル化されているかどうかは重要ではなく;MSの決定のために、メチル化及び非メチル化ヒドロキシプロポキシル置換基の両方が含まれる。
【0021】
本発明の組成物において利用されるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、1.0~2.7のDS及び0.40~1.30のMSを有する。好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、1.0~2.5、より好ましくは1.1~2.3、最も好ましくは1.6~2.3のDSを有する。好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、0.50~1.30、より好ましくは0.60~1.20のMSを有する。DSの任意の好ましい範囲は、MSの任意の好ましい範囲と組み合わせることができる。最も好ましくは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースは、1.6~2.3のDS及び0.60~1.30のMSを有する。DS及びMSの合計は、好ましくは、少なくとも1.8、より好ましくは少なくとも1.9、最も好ましくは少なくとも2.5であり、好ましくは3.6まで、より好ましくは3.40まで、最も好ましくは3.2までである。
【0022】
高度置換ヒドロキシプロピルメチルセルロースは熱溶融押出のために特に有用であることが見出されており、以下において「HS HPMC」と称される。本発明で利用されるHS HPMCは、米国特許第4,614,545号及び国際公開第2014/014752号に記載されている。
【0023】
メトキシル基の置換度(DS)及びヒドロキシプロピル基のモル置換(MS)は、ヨウ化水素によるHS HPMCのZeisel開裂と、その後の定量的ガスクロマトグラフィ分析とによって決定することができる(G.Bartelmus and R.Ketterer, Z.Anal.Chem., 286 (1977) 161-190)。メトキシル%及びヒドロキシプロポキシル%の決定は、米国薬局方(USP35,“Hypromellose”, pages 3467-3469)に従って実行される。得られる値は、メトキシル%及び%ヒドロキシプロポキシル%である。これらは続いて、メチオキシル(methyoxyl)置換基の置換度(DS)及びヒドロキシプロポキシル置換基のモル置換(MS)に変換される。塩の残存量は、変換において考慮されている。
【0024】
本発明の組成物において利用されるHS HPMCは、広い粘度範囲内にあり得る。通常それは、USP35,“Hypromellose”, pages 3467-3469に従って20℃の2重量%水溶液として測定される、5~150,000mPa・sの範囲内にある。本発明の組成物は、HS HPMCの広い粘度範囲にわたって押出、通常は溶融押出によって調製され得ることが見出されている。また組成物は、20℃の2重量%水溶液として測定される、1.2~500mPa・s、好ましくは1.2~200mPa・s、特に2.4~120mPa・sの低粘度を有するHS HPMCを用いて調製されてもよい。このような粘度のHS HPMCは、より高粘度のHS HPMCに部分脱重合プロセスを受けさせることによって得ることができる。部分脱重合プロセスは当該技術分野において周知であり、例えば、欧州特許出願EP1,141,029号;EP210,917号;EP1,423,433号;及び米国特許第4,316,982号に記載されている。
【0025】
本発明の組成物は、第2の成分として、98:2~85:15のHS HPMC対糖アルコールの重量比の糖アルコールを含む。好ましくは、HS HPMC対糖アルコールの重量比は、95:5~90:10である。糖アルコールは、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、リビトール、ガラクチトール、フシトール、イノシトール及びラクチトール、並びにこれらの混合物からなる群から選択され得るが、好ましくはキシリトール又はソルビトール、最も好ましくはキシリトールである。
【0026】
本発明の組成物は、1つ又は複数の活性成分、最も好ましくは1つ又は複数の薬物の固体分散体を調製するために使用され得る。「薬物」という用語は従来通りであり、動物、特にヒトに投与されたときに有益な予防及び/又は治療特性を有する化合物を示す。好ましくは、薬物は難溶性薬物であり、これは、薬物が生理学的に適切なpH(例えば、pH1~8)において約0.5mg/mL以下の水溶解度を有すること意味する。本発明は、薬物の水溶解度が低下するにつれてより大きい有用性を見出す。したがって、本発明の組成物は、0.1mg/mL未満又は0.05mg/mL未満又は0.02mg/mL未満、又はさらに0.01mg/mL未満の水溶解度を有する低溶解性薬物のために好ましく、ここで、水溶解度(mg/mL)は、USP模擬胃腸緩衝液を含む、生理学的に適切な任意の水溶液(例えば、1~8の間のpH値を有するもの)中で観察される値である。低溶解性薬物の例は、例えば、国際公開第2005/115330号の17~22ページに開示されるものである。
【0027】
本発明の一態様によると、本発明の組成物は、上記で定義されるHS HPMCと、1つ又は複数の糖アルコールと、任意選択的に1つ又は複数の活性成分とを混合し、混合物を押出させることによって調製される。本明細書で使用される「押出」という用語は、ラム押出、熱溶融押出、射出成形、融合加工又はフィラメント製造として知られているプロセスを含む。薬物などの活性成分を含む組成物を押出するための技術は既知であり、Joerg Breitenbach, Melt extrusion: from process to drug delivery technology, European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 54(2002)107-117、又は欧州特許出願EP0872233号に記載されている。一実施形態では、HS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分は、粒子形態、好ましくは粉末形態で混合され得る。HS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分は、押出、好ましくは熱溶融押出のために利用されるデバイスに混合物を供給する前に予め混合され得る。押出のために有用なデバイス、具体的には有用な押出機は、当該技術分野において知られている。或いは、HS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分は、別々に押出機内へ供給され、加熱ステップの前又は加熱ステップ中にデバイス内でブレンドされてもよい。
【0028】
好ましくは、HS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分はミキサー内でプレブレンドされ、そこから押出機内へ供給される。本発明との関連において、「ミキサー内でプレブレンドされる」という用語は、溶融造粒、共粉砕により支援される乾式ブレンド、音響混合により支援される乾式ブレンド、高せん断造粒による湿式ブレンド、環状層ミキサーにおける湿式ブレンド、混練などの方法、並びにHS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分の混合物をその押出の前に提供する任意の他の方法を包含することが意図される。
【0029】
現在好ましい実施形態では、乾燥粒子形態のHS HPMCは、糖アルコールの水溶液とブレンドされ、得られた湿潤ブレンドは、8重量%未満の水分含量になるまで乾燥される。糖アルコールの水溶液は、好ましくは、環状層ミキサー又は造粒機などのミキサー内でHS HPMC上に溶液をスプレーすることによってHS HPMCとブレンドされる。湿潤ブレンドは、好ましくは、例えば流動床乾燥機において、5重量%未満、又はさらに1重量%未満の水分含量になるまで乾燥され得る。
【0030】
HS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分をプレブレンドするために有用な環状層混合プロセスは、以下のステップ:
糖アルコールが水性液体中に溶解されるステップ;
HS HPMCの乾燥粒子、及び任意選択的に活性成分が、規定の速度でスクリューコンベヤにより環状層ミキサー内に搬送されるステップ;
急速に回転する攪拌器が、HS HPMC粒子を環状層ミキサー内の管の内部表面に移動させて、環状層ミキサーの入口から出口に移動する環状層を形成するステップ;
溶液がHS HPMC粒子上に均一にスプレーされるように、糖アルコールの水溶液が環状層ミキサー内にポンプで送られるステップ;
HS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分の湿潤ブレンドが、環状層ミキサーの出口で捕集されるステップ;並びに
湿潤ブレンドが、例えば流動床乾燥機において、乾燥されるステップ
を含み得る。
【0031】
造粒機におけるHS HPMC、糖アルコール、及び任意選択的に活性成分のプレブレンドは、以下のステップ:
糖アルコールが水性液体中に溶解されるステップ;
HS HPMCが、高せん断湿式造粒機などの造粒機の混合ボウルに入れられるステップ;
内部混合要素、例えば水平攪拌器及び垂直インペラが粉末HS HPMCの攪拌及び移動を開始するように、造粒機が起動されるステップ;
適用される糖アルコールの量が所望の完成組成物に関して決定されたw/w%比に達するまで、糖アルコールの水溶液が、制御された速度で、攪拌されたHS HPMC上にスプレーされるステップ;
得られた湿潤塊が造粒機から取り出され、任意選択的に、湿式粉砕を受けるステップ;
トレイ乾燥、真空乾燥、オーブン乾燥、又は流動床乾燥を含むがこれらに限定されない、静的又は流体乾燥方法によって湿潤塊が乾燥されるステップ;
次に、乾燥塊が任意選択的に、所望の最終粒径になるまで乾式粉砕を受けるステップ
を含み得る。
【0032】
糖アルコールが溶解される水性液体は、水のみ又は少量の有機溶媒と混合された水のいずれかであり得る。水性液体は、水及び有機溶媒の全重量に基づいて、好ましくは50~100重量%、より好ましくは75~100重量%の水と、好ましくは0~50重量%、より好ましくは0~25重量%の有機溶媒とからなる。好ましい有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール若しくはn-プロパノールなどのアルコール、テトラヒドロフランなどのエーテル、アセトン、メチルエチルケトン若しくはメチルイソブチルケトンなどのケトン、酢酸エチルなどのアセテート、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素、又はアセトニトリルなどのニトリルである。水性液体は、好ましくは、溶媒として水のみを含む。
【0033】
押出機内へ供給された組成物又はその個々の成分は、組成物又は少なくとも1つ若しくは複数のその成分を溶融又は軟化させ得る温度で押出機の加熱領域を通過されて、成分が均一に分散された混合物を形成する。混合物は押出を受け、それにより押出機から出ることになる。典型的な押出温度は、押出機の加熱ゾーンの設定により決定されるように、95~230℃、好ましくは100~200℃、より好ましくは110~190℃である。動作温度範囲は、加工中に組成物の活性成分及び他の成分の分解又は変質を最小限にするように選択されなければならない。シングル又はマルチスクリュー押出機、好ましくはツインスクリュー押出機を本発明の押出プロセスにおいて使用することができる。押出機で得られた溶融又は軟化混合物は、1つ又は複数の出口孔、例えば1つ又は複数のノズル又はダイを通して押される。次に、溶融又は軟化混合物はダイ又は1つ若しくは複数の孔を有する他のそのような要素から出ていき、その時点で、押出されたブレンド(ここから、押出物と呼ばれる)は硬化し始める。ダイを出る際、押出物はまだ軟化状態にあるので、容易に形作られ、成形され、刻まれ、ビーズに球形化され、ストランドに切断され、錠剤化され、又は他の方法で所望の物理的形態に加工され得る。さらに、押出物は冷却されて硬化し、粉末形態に粉砕され得る。
【0034】
驚くべきことに、98:2~85:15のHS HPMC対糖アルコールの重量比で、糖アルコールがHS HPMCに添加されると、溶融又は軟化混合物の付着性は劇的に低下され、押出装置の壁又はツールに残留物がほとんど粘着することなく、組成物をミキサーから押出機を通って移動させることができ、また押出装置のクリーニングを必要とする資源を少なくできることも見出された。さらに、ダイを出る溶融又は軟化混合物は、打錠機などの加工ツールに著しく粘着することなく、打錠などの加工を受けることができる。
【0035】
押出装置をパージするためのプロセスにおいて、パージ組成物は押出装置を通過し、装置の内部表面に接着した実質的に全ての汚染物質材料と一緒に除去される。
【0036】
本発明との関連において、「押出装置」という用語は、限定はされないが、ラム押出、熱溶融押出、射出成形、熱融合及びフィラメント製造を含む押出プロセスのいくつかの段階で使用され、そして押出される高分子又は他の材料にさらされる任意の部品、例えば、混練機、ブレンダー、ミキサー、スクリュー、及び押出機バレル若しくは管の内部表面などを含む、任意の装置又はその部品であると広く理解されるべきである。
【0037】
以下の実施例2~4において明らかであるように、本発明のパージ組成物は、熱溶融押出を受けたときに、高度置換HPMCポリマーのみの場合よりも、押出装置の金属表面への接着性がはるかに低いことが見出された。
【0038】
パージが行われる温度は、適切には、95℃~230℃、好ましくは100℃~200℃、例えば110℃~190℃である。
【0039】
本発明の組成物によるパージによって除去される汚染物質材料は、使用後に押出装置内に残存する任意の材料、例えば、残留押出高分子材料、押出中に生成される分解生成物、又は顔料、着色剤、充填剤などの添加剤であり得る。
【0040】
文献に開示されているパージ組成物のいくつかとは異なり、本発明の組成物は、水又は有機溶媒を添加することなく製造することができ、押出及び/又はパージプロセスは、水又は有機溶媒を添加せずに実行することができることが見出された。
【0041】
しかしながら、驚くべきことに、乾燥粒子形態のHS HPMCと、糖アルコールの水溶液とをブレンドし、その後そのブレンドを乾燥させることによってパージ組成物が調製されると、HS HPMC及び糖アルコールの乾燥ブレンドから調製されたパージ組成物と比較して、組成物は、165℃~200℃の間の温度での重量減少の低減として決定される、改善された熱安定性を示すことが見出された。
図10及び以下の実施例5を参照。本組成物の熱安定性の増大は、押出機内の組成物の動作範囲を増大させ、作業時間を増大させるので有利であり得る。また熱安定性の増大は、未知の不純物の形成及びガス放出などの分解に関連するリスクも低下させ得る。
【0042】
本発明は、以下の実施例においてさらに説明される。
【0043】
材料及び方法
高度置換HPMC(HS HPMC)の調製
攪拌器、温度制御及び真空ラインを備えた反応容器において、約30℃で、6.3kgの50重量%の水酸化ナトリウム水により2kgの粉砕セルロースをアルカリ化する。
【0044】
次に、容器を排気し、排気の後、4.6kgの塩化メチル及び1.2kgのプロピレンオキシドを添加する。続いて、容器内の温度を30℃から90℃まで上昇させる。8時間後に、HPMCを約90℃の水で洗浄し、回収し、そして以下に記載されるようにQIPIC画像分析システムで決定したときに粒径中央値DIFI50/LEFI50/EQPC50がそれぞれ65/182/113である粉末になるまで乾燥させた。
【0045】
得られたHPMCは、28%のメトキシル置換及び21%のヒドロキシプロポキシル置換を有する。HPMCの2重量%水溶液の粘度は、Ubbelohde粘度計を用いて測定される、75,000mPa.sである。
【0046】
QICPIC画像分析システムを用いた粒径及び形状
Sympatec QICPIC画像分析器は、粒子分散システム、レーザー、及び最大フレームレートが500フレーム/秒である高速カメラ(1024x1024)からなる。加圧空気システム及びノズルにより分散されて、粒子はレーザービームにより照射される。粒子の陰影像は、カメラで捉えられる。測定ごとに40000フレームまでである粒子像は、WINDOXソフトウェアによって平均粒子特性に変換される。この報告で使用される特性は、粒子の50%が規定サイズ(μm)よりも小さいような特性中央値である:
EQPC(x50=50%):粒子の投影面積と同じ面積を有する円の直径
DIFI(x50=50%):繊維の直径は、投影面積と、投影された繊維の全ての分枝の長さの合計との除算によって計算される。
LEFI(x50=50%):繊維の長さは、その対向する端部間の最長の直接接続によって定義される。
【0047】
水分含量の測定
Satorius MA150湿度分析計を使用して、乾燥減量により水分含量を測定する。加熱源は、2~3gのサンプルの安定で一貫した高速加熱を提供するセラミックIR加熱素子である。本発明の組成物及び湿潤ブレンドのために、130℃の温度を使用して、生成物の水分を蒸発させる。LODは、以下の式により計算される:
【数1】
【0048】
変調示差走査熱量測定(mDSC)
TA Discovery DSCを使用し、20℃から開始して2℃/分及び0.63℃/分の変調を用いてサンプルを窒素下で200℃まで加熱し、その後、20℃/分の速度で20℃まで冷却した。2℃/分及び0.63℃/分の変調を用いて材料を20℃から200℃まで再加熱した。
【0049】
熱重量分析(TGA)
20℃/分の速度で30℃から130℃まで、材料を空気下で加熱した。TA Discovery TGAを使用し、130℃において温度を10分間保持(等温段階)した後、次の等温段階である150℃(10分間)、165℃(10分)、200℃(10分)、そして最後に300℃まで、20℃/分の速度で加熱した。
【実施例】
【0050】
実施例1
熱可塑性混練ステップ:
金属製カバーヘッドを有するBrabender Plasti-Corder PL 2000トルク混練機の30mlの混練セルW30を適切な温度まで加熱した(以下の表を参照)。空のセルを自動較正した後、HS HPMC(表中の組成物1;C1)又はHS HPMC及びソルビトールの均一な混合物をセルに充填した。クロージャヘッドを用いて、一定のトルクに達するまで30rpmで均質化を実行した。
【0051】
押出試験:
適切な直径のダイを備えたキャピラリーレオメータ(Malvern RH10,Malvern Instruments)を加熱し(温度については以下の表を参照)、トルク混練機試験から得られるペーストを充填した。ダイを通した垂直押出は、10mm/分の範囲で駆動するピストンを用いて実施した。
【0052】
【0053】
上記の表から、HS HPMCを含有し且つソルビトールを含有しない組成物1は粘着性であり、残留物を残さずに押出ツールから除去し得なかったが、HS HPMCに加えてソルビトールを含有する組成物2~5は一体で除去することができ、粘着性でなかったことは明らかである。
【0054】
実施例2
サンプル調製
上記のように調製されたHS HPMC、及びキシリトール(Xivia CM 90)を所望の比率(95:5、9:1、85:15)でガラス瓶に正確に秤量し、キシリトール凝集塊を除去するように処理し、Turbulaブレンダーにおいて5分間ブレンドした。
【0055】
押出
Leistritz Nano 16熱溶融押出機において押出試験を実行した。供給及び4つの加熱ゾーンの温度を水冷供給、150℃、160℃、165℃、165℃ダイに設定した。スクリュー速度を175RPMに設定した。いずれの場合も60グラムのパージ組成物を添加した。各試験の後、次の実行のための清浄なシステムを保証するために、必要に応じてスクリュー及びバレルをクリーニングした。
【0056】
最初の試験は、HS HPMCのみを用いて実施した。この結果、かなりの材料がスクリュー上に残り、スクリューは、押出機から取り外すのが非常に困難であった(
図1)。
【0057】
第2の試験は95:5のHS HPMC:キシリトールを含み、その結果、スクリューに残存する材料は著しく少なくなった(
図2)。スクリューを取り外すために最小限の力が必要とされた。
【0058】
第3の試験には、90:10のHS HPMC:キシリトールが含まれた。この配合物は、スクリュー又はバレル壁上に材料をほとんど残さず、スクリューを押出機から取り外すために力を必要としなかった(
図3)。
【0059】
またこれにより、清浄なダイアセンブリがもたらされた;ダイブロックに残った材料は容易に剥離し、手で除去することができた(画像は示さず)。
【0060】
またキシリトール含量を15%まで増大させると、清浄なスクリューがもたらされた(画像は示さず)。
【0061】
実施例3:代替の添加剤との比較
サンプル調製
Turbulaブレンダーにおいて、上記のように調製されたHS HPMCを90:10の比率でキシリトール、ソルビトール、又はポリエチレングリコール4000のいずれかと5分間ブレンドした。必要に応じて、まず添加剤をふるいにかけて塊を除去した。
【0062】
熱溶融押出
全ての試験をLeistritz Nano 16熱溶融押出機において実行した。パージ組成物を導入する前に、30グラムのコポビドンを手作業で押出機に供給して、加工される配合物をシミュレートした。次に、60グラムのパージ組成物を導入し、組成物が出終わった後、画像化するためにスクリューを取り外した。
【0063】
結果
PEG4000を含む組成物は、結果として、かなりの材料がスクリュー上に残り(
図4)、スクリューを取り外すのが中程度に困難であった。明白なコポビドンは残存しなかった。キシリトールを含む組成物は清浄なスクリューをもたらし、明白なコポビドンは残存せず(
図5)、スクリューの取外しは簡単であった。ソルビトールを含む組成物はスクリュー、特に先導フライト上にいくらかの残留材料をもたらしたが、スクリューの取外しは簡単であった(
図6)。
【0064】
実施例4:代替のHPMC置換との比較
サンプル調製
まずキシリトール塊をふるい分けにより除去し、HPMC中に手作業でブレンドしてから、さらにTurbulaブレンダーにおいて5分間ブレンドすることによって、5mPa.s又は50mPa.sのいずれかの2%水溶液粘度を有するHPMCタイプ2910(DuPontから入手可能)を90:10の比率でキシリトールとブレンドした。
【0065】
熱溶融押出
全ての試験をLeistritz Nano 16熱溶融押出機において実行した。加熱ゾーンの温度を150℃、160℃、165℃、及び165℃に設定した。スクリュー速度を175RPMに設定した。100グラムのブレンドを供給口に導入し、供給口に残存する材料がなくなったら、スクリュー速度を250RPMまで上昇させた。組成物が出終わった後、画像化するためにスクリューを取り外した。
【0066】
結果
50mPa.sのHPMC2910を含有するブレンドは加工することができなかった;導入の際、トルクがモーターにより搬送可能な最大値を超え、焼付きが生じた。5mPa.sのHPMC2910を含有するブレンドはうまく加工されたが、非常に高い圧力(HS HPMCを加工する場合の約300PSIに対して約1500PSI)及びトルクを有した。実行の完了後にスクリューを取り外し、中程度の量の残留材料が見られた(
図7)。残った材料は、わずかに冷却しただけで物理的に硬くなり;スクリューに残存している全ての材料は、大きな困難を伴うことなくワイヤホイールを用いて除去することができた。しかしながら、ブレンドをダイブロックからきれいに引き出すことができず、ダイ内に残存している材料は極めて硬く、清浄化するのが極めて困難であった。
【0067】
実施例5
サンプル調製
上記のように調製された高度置換HPMC及びキシリトールを、環状層ミキサー(RLM; Loedige, Germanyから入手可能なCorimix CM 20)において異なるプロセス条件でブレンドした。第1のステップにおいて、異なる濃度のキシリトール水溶液を調製した(35重量%、45重量%及び60重量%)。2000rpmを超える高回転速度のために環状層が形成されるRLM内へ、スクリューコンベヤによりHS HPMCを異なる投与率(25kg/h及び50kg/h)で添加した。RLMの回転シャフトに沿って配置されたいくつかのノズルを介して、移動する環状層上にキシリトール溶液をスプレーした。RLM内の滞留時間は10~20秒の間であった。溶液を異なる投与率で添加して、9重量%~11重量%の水を除去した後に、標的キシリトール濃度を有するブレンドを得た。10個の異なる設定のそれぞれについて20kgのブレンドを生成した。プロセス条件は、以下の表2に要約される。
【0068】
【0069】
その後、50℃以下の入口温度及び約40℃の実際の生成物温度を有する標準的な流動床乾燥機において、10~20重量%の間の含水量を有する湿潤ブレンドを、1重量%未満の水分含量になるまで乾燥させた。
【0070】
RLMブレンドと、参照としての役割を果たすHS HPMC及びキシリトール(9:1)の乾燥ブレンドとについて、有意差が観察された。乾燥ブレンドは、第1の加熱曲線の91℃において強力で鋭いキシリトール融解ピークを示し(
図8)、これは、キシリトールがHS HPMCとの分子ブレンドを形成しないことを示した。第2の加熱曲線では融解ピークは観察されず、第1の加熱サイクル中にキシリトールが融解したときに形成された分子ブレンドがここで示された。RLMブレンドは、第1の加熱曲線の74及び82℃において2つの幅広の弱いキシリトール融解ピークを示し(
図9)、環状層ミキサーにおいて部分的に分子ブレンドが形成されることが示された。二重ピーク及び融点温度の低下は、ブレンドの乾燥中にキシリトールが異なる結晶形態に部分的に結晶化した可能性があることを示す。第2の加熱曲線はもはやキシリトールピークを示さず、完全な分子ブレンドの形成が示された。
【0071】
熱重量分析は、RLMブレンドについて改善された熱安定性を示した。改善された熱安定性は165℃から観察され、最後の200℃の等温段階が完了したときに最も顕著であった。200℃の等温段階の最後に、乾燥ブレンドの重量減少は約9%であり、HS HPMC原料の重量減少よりもわずかに多いが、最良RLMブレンド(#1)は、わずか約1.75%の重量減少であった(
図10)。200℃での重量減少とは対照的に、150及び165℃での重量減少は、RLMブレンドについて大きな違いはなかった。
【0072】
RLMサンプルの熱溶融押出
全ての試験をLeistritz Nano 16熱溶融押出機において実行した。加熱ゾーンの温度を150℃、160℃、165℃、及び165℃に設定した。スクリュー速度を175RPMに設定した。パージ組成物を導入する前に、30グラムのコポビドンを手作業で押出機に供給して、加工される配合物をシミュレートした。続いて、60グラムのパージ組成物が次に導入され、完了まで加工した。組成物が出終わった後、画像化するためにスクリューを取り外した。
【0073】
結果
パージのためにRLM組成物を利用する全ての試験により、明白なコポビドンの残存がなく清浄なスクリューと、簡単なスクリューの取外しが得られた。
【0074】
実施例6
サンプル調製
111gのキシリトールを200gの水中に溶解させた。999gの乾燥粉末形態のHS HPMCをPowrex Vertical GranulatorモデルFM-VG-0の混合ボウルに入れ、以下の設定で攪拌した:メインブレード:300rpm及びクロススクリュー:1500rpm。攪拌したHS HPMC上に、約11.5g/分~12g/分のスプレー速度で26.16分間にわたってキシリトールの水溶液(311.14g)をスプレーした。得られた湿潤塊を85℃のオーブンで約1%の水分になるまで乾燥させた。
【0075】
熱重量分析は、実施例6の改善された熱安定性を示した。改善された熱安定性は165℃で観察された。165℃の等温段階の最後に、乾燥ブレンドの重量減少は2.9%であったが、HS HPMC原料の重量減少は約5%であった。150℃での重量減少は1.9%であり、130℃での重量減少は1.3%であった。
【国際調査報告】