(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-03
(54)【発明の名称】Ni基合金フラックス入りワイヤ
(51)【国際特許分類】
B23K 35/368 20060101AFI20230127BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20230127BHJP
C22C 19/05 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
B23K35/368 A
B23K35/30 320Q
C22C19/05 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532014
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2020016750
(87)【国際公開番号】W WO2021107580
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0157246
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522208807
【氏名又は名称】エサブ セア コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヘ デ
(72)【発明者】
【氏名】キル、ウン
(72)【発明者】
【氏名】ペク、スン ヒュン
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA04
4E084AA06
4E084AA07
4E084AA09
4E084AA11
4E084AA12
4E084AA17
4E084BA02
4E084BA03
4E084BA04
4E084BA05
4E084BA08
4E084BA09
4E084BA13
4E084CA03
4E084CA06
4E084CA23
4E084CA24
4E084CA25
4E084DA10
4E084GA04
4E084GA07
4E084HA01
4E084HA06
4E084HA11
(57)【要約】
本発明は、Ni基合金フラックス入りワイヤに関し、より詳細には、ワイヤから、優れたビード形状、好ましいアーク安定性、スパッター抑止効果、好ましい強度、好ましい耐欠陥性および好ましい亀裂抵抗を有する溶接金属を得られるように、MnとNbの含有量が調整されたNi基合金フラックス入りワイヤに関する。本発明のNi基合金フラックス入りワイヤは、Ni基合金、9%Ni鋼および高耐食性オーステナイトステンレス鋼のマルチポジション溶接で優れたビード形状を有する溶接金属を生成する効果と、好ましい強度、耐欠陥性および亀裂抵抗を有する溶接金属を生成する効果を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックスを中に有するNi基合金シースを有するNi基合金フラックス入りワイヤであって、
シース成分と前記シースの中に提供されるフラックス成分を含む全ワイヤ組成は、全フラックス入りワイヤの合計量に対して、0.1wt%以下(0wt%を除く)のC、0.01-0.5wt%のSi、0.01-3.0wt%のMn、15.0―22.0wt%のCr、0-2.9wt%(0wt%を除く)のNb、5.0-10.0wt%のMo、3.0-9.0wt%のFe,残部としてのNi、および、不可避的不純物を備え、
SiO
2が0.5-3.0wt%の量で含まれ、
Na
2O、K
2O、MgOおよびCaOの少なくとも1つの酸化物が0.1-3.0wt%の量で含まれ、
Al
2O
3、TiO
2およびZrO
2の少なくとも1つの酸化物が5.0-12.0wt%の量で含まれ、
前記組成は、下記の[関係式1]および[関係式2]を満たす、
Ni基合金フラックス入りワイヤ。
[関係式1]
0.1Na
2O+{K
2O+0.5(MgO+Al
2O
3)}/{CaO+1.6(TiO
2+SiO
2)+0.2(ZrO
2)}<0.5
[関係式2]
0.01Mn≦Nb≦(0.01Mn)+3.3
【請求項2】
前記フラックス成分は、0.1wt%(0wt%を除く)のMnOと、Fについて0.1-1.5wt%の量のフッ素化合物をさらに備える;
請求項1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項3】
フラックスで満たされたNi基合金シースを有するNi基合金フラックス入りワイヤであって、
前記フラックス入りワイヤから得られる溶着金属は、0.1wt%以下(0wt%を除く)のC、0.01-0.5wt%のSi、0.01-3.0wt%のMn、15.0-22.0wt%のCr、0-2.9wt%(0wt%を除く)のNb、5.0―10.0wt%のMo、3.0-9.0wt%のFe、および、Niと不可避的不純物を含む残部とを備える組成を有し、
前記溶着金属の前記組成は[関係式3]を満足する、
Ni基合金フラックス入りワイヤ。
[関係式3]
[Fe+{15(2.8Nb+0.85Mn)}]/(Cr+Mo)<7.0
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金フラックス入りワイヤに関し、より詳細には、そのワイヤから、好ましいビード外観、アーク安定性、スパッター抑止効果、優れた強度、耐欠陥性、および亀裂抵抗を有する溶接金属を得ることができるように、MnおよびNbの含有量が調整される、Ni基合金フラックス入りワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀においては、超耐熱合金(超合金と呼ばれる)が、航空宇宙、原子力、発電プラントおよび石油化学産業などのハイテク産業において基礎構造材料として広く用いられてきた。その中でも、Ni基合金は、面心立方格子(FCC)のオーステナイト相の析出現象を用いる析出硬化合金である。Ni基合金は、超合金の中でも最高の性能を有し、ガスタービンのブレード、ディスク、燃焼室などの高温で高応力下で運転される多くの部品の構造材料として広く用いられる。それは、980℃のような高温において好ましい剛性、強度および靭性を有し、特に酸化と腐食に耐性がある。それはまた、リン酸溶液に耐性がある。したがって、化学処理や公害防止の設備の配管やオフショアバルブ機器に用いられる。
【0003】
成分としてNi基合金を含む溶接材料は、高耐食性のオーステナイトステンレス鋼の溶接または化学プラントの構造部材や石油関連機器に用いられるNi基合金の溶接に用いられる。あるいは、成分としてNi基合金を含む溶接材料は、LNG、液体窒素、液体酸素等の貯蔵タンクの構造部材として用いられる9%ニッケル鋼の溶接に用いられる。
【0004】
多くのNi基合金の中で、インコネル625合金(Ni-Cr-Mo-Nb合金)は優れた溶接性を有する。ガスタングステンアーク溶接(GTAW)、被覆アーク溶接(SMAW)、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、サブマージアーク溶接(SAW)、フラックス入りアーク溶接(FCAW)などのいくつかの溶接技術が、これらの合金にはしばしば用いられる。
【0005】
FCAW用の溶接材料の開発は、他の溶接材料に比べて遅れており、最近になって垂直上向き溶接姿勢で使える溶接材料が開発され、使用頻度は徐々に増えつつある。近年、Ni基合金などの特殊溶接材料と関連して、被覆アーク溶接やTIG溶接に比べて相対的に高い作業効率が得られる、Ni基合金フラックス入りワイヤを用いるガス被覆アーク溶接の使用が増えつつある。
【0006】
しかし、Ni基合金フラックス入りワイヤを用いるガス被覆溶接の場合には、Ni基合金が低融点を有するので、ガスがそれ自身と固化したスラグとの間の界面に溜まりやすく、溶接金属のピットを生ずる。さらに、マグネシウム(Mn)の含有量が、スラグ剥離性の低下を防止するために韓国特許第10-1708997号および韓国特許第10-1760828号に開示されるように、ごく微量に制限されなければならないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決するNi基合金フラックス入りワイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、フラックスで満たされたNi基合金シースを有するNi基合金フラックス入りワイヤを提供し、シース成分とシースに提供されたフラックス成分を含めた全体組成は、フラックス入りワイヤの全重量に対して、0.1wt%以下(0wt%を除く)のC、0.01-0.5Wt%のSi、0.01-0.3wt%のMn、15.0-22.0wt%のCr、0―2.9wt%(0%を除く)のNb、5.0-10.0wt%のMo、3.0-9.0wt%のFe、およびNiと不可避的不純物を含む残部とを含み、SiO2が0.5-3.0wt%の量で含まれ、Na2O、K2O、MgO、およびCaOから選択された少なくとも1つの酸化物が0.1―3.0wt%の量で含まれ、Al2O3、TiO2およびZrO2の少なくとも1種が5.0―12.0wt%の量で含まれ、Ni基合金フラックス入りワイヤは、[関係式1]と[関係式2]を満足する。
[関係式1]
0.1Na2O+{K2O+0.5(MgO+Al2O3)}/{CaO+1.6(TiO2+SiO2)+0.2(ZrO2)}<0.5
[関係式2]
0.01Mn≦Nb≦(0.01Mn)+3.3
【0009】
さらに、上記目的を達成するために、本発明は、フラックスで満たされたNi基合金シースを有するNi基合金フラックス入りワイヤを提供し、前記フラックス入りワイヤから得られる溶着金属は、0.1wt%以下(0wt%を除く)のC、0.01-0.5wt%のSi、0.01―3.0wt%のMn、15.0-20.0wt%のCr、0-3.5wt%(0wt%を除く)のNb、5.0-15.0wt%のMo、3.0-9.0wt%のFe、Niと不可避的不純物の残部を含む組成を有し、溶着金属の組成は、[関係式3]を満足する。
[関係式3]
[Fe+{15(2.8Nb+0.85Mn)}]/(Cr+Mo)<7.0
【発明の効果】
【0010】
本発明のNi基合金フラックス入りワイヤは、Ni基合金、9%Ni鋼および高耐食性オーステナイトステンレス鋼の溶接で優れたビード外観を有する溶接金属を生成し、好ましい強度、耐欠陥性および亀裂抵抗を有する溶接金属を生成できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の例示の組成による溶接ビードの亀裂を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本書では、フラックス入りワイヤは、Ni基合金シースがフラックスで満たされたNi基合金フラックス入りワイヤである。
【0014】
本明細書では、用語「溶接金属」は、溶接中に溶着金属と母材の溶融混合物の固化の結果として生ずる金属を指す。
【0015】
本明細書では、用語「溶着金属」は、溶接中に溶接金属領域に加えられる金属材料である、溶加材(すなわちワイヤ)から移動した金属を指す。
【0016】
本発明の一態様によれば、内部にシースを有するフラックス入りワイヤが提供される。フラックス入りワイヤは、Ni、Cr、MnおよびNiが、ワイヤの全重量に関して重量パーセントで表される所定の量が含まれるNi基フラックス入りワイヤである。
【0017】
より詳細には、内部にフラックスを有するNi基合金シースを有するNi基合金フラックス入りワイヤが提供され、シース成分とシースに提供されたフラックス成分を含む全ワイヤ組成は、全フラックス入りワイヤの合計重量に対して、0.05-0.5wt%のSi、0.01-3.0wt%のMn、15.0―22.0wt%のCr、0―2.9wt%(0%を除く)のNb、5.0-10.0wt%のMo、3.0-9.0wt%のFe、残部のNiと不可避的不純物を含む。SiO2が0.5-3.0wt%の量で含まれ、Na2O、K2O、MgOおよびCaOの少なくとも1つの酸化物が0.1-3.0wt%の量で含まれ、Al2O3、TiO2およびZrO2の少なくとも1つの酸化物が5.0-12.0wt%の量で含まれる。組成は、[関係式1]と[関係式2]とを満足する。
[関係式1]
0.1Na2O+{K2O+0.5(MgO+Al2O3)}/{CaO+1.6(TiO2+SiO2)+0.2(ZrO2)}<0.5
[関係式2]
0.01Mn≦Nb≦(0.01Mn)+3.3
【0018】
フラックス入りワイヤの成分限定の理由を以下に説明する。以下に別に規定されない限り、組成における各成分の含有量は、「重量の%(重量%)」で代表される。各成分の含有量は、合金シースに最初に含まれる成分量と、フラックスから追加される金属パウダまたは合金パウダの形の成分量を含む。
【0019】
Cr:15.0-22.0wt%
クロム(Cr)は、溶接金属の強度と耐食性を向上するために添加される。クロムの含有量が15.0wt%より少ないと、耐食性が低下し、溶接金属の一定の強度を得るのが困難になる。一方、Crは、Cと結合して炭化物を形成する。クロムの含有量が22.0wt%より多いと、炭化クロムが過度に生成され、溶接金属の靭性の低下という結果となる。したがって、フラックス入りワイヤにおけるクロムの含有量は、ワイヤの全体重量に対し15.0-22.0wt%に設定される。より詳細には、Crの含有量は16-18wt%である。
【0020】
Mo:5.0―10wt%
モリブデン(Mo)は、炭素(C)と結合して炭化物を形成する成分であり、摩擦抵抗、硬度および耐食性を向上するのに有利な働きをする成分である。Mo含有量が5wt%より少ないと、上記の効果を得るのが難しく、一方、Mo含有量が10.0wt%より多いと、Moは、ラーベス相として析出し、亀裂抵抗を低下させる結果となる。
【0021】
したがって、本発明では、ワイヤの全重量に対しMoの含有量を、5―10wt%に限定するのが好ましい。さらに詳細には、Mo含有量は、5-8wt%に設定される。
【0022】
C:0.1wt%以下(0wt%は除く)
炭素(C)は、溶接金属の強度を向上する効果を有するが、過度に添加されると、炭化物が形成され、靭性が低下するという問題がある。したがって、Cの含有量は、ワイヤの全重量に基づいて0.1wt%以下に設定される。Cの含有量の下限は特に限定されない。溶接金属の靭性の低下を防止するためにCの含有量は0.1wt%以下の範囲とされるのが好ましい。
【0023】
Mn:0.01-3.0wt%
マンガン(Mn)は、溶接金属のビード形状を向上し、耐欠陥性と亀裂抵抗を向上するのに添加される。マンガンの含有量が1.0wt%より少ないと、充分な脱酸効果が得られないので好ましくない。マンガンの含有量が10.0wt%より多いと、最終固化領域で溶接金属の偏析が加速し、よって、溶融金属の融点を低下させ、耐高温割れ性を低下する。したがって、マンガンの含有量は、1.0-10.0wt%に限定されるのが好ましい。現存するNi基フラックス入りワイヤでは、Mnの含有量は、靭性の突然低下を棒牛するように限定された。しかし本発明では、Mnの含有量は、亀裂抵抗を向上するように増加され、しかし、Nbの含有量が、以下に説明するように靭性を低減するように限定される。
【0024】
Mnは、Niと結合することで亀裂抵抗を減ずる、Sと結合することでSの害を減ずる効果を有する。Mnはまた、溶接領域の脱酸を推進することで機械的性質を改善する効果を有する。Mnmp含有量が0.01wt%より少ないと、MnがSと十分に結合できないので、亀裂抵抗を改善する効果および十分な脱酸効果を得ることが難しい。したがって、Mnの含有範囲が0.01wt%より少ないのは、好ましくない。さらに、Mnの含有量が3.0wt%を超えると、MnOの形成のためにスラグ溶融の融点が下がり、マルチポジション作業性能とスラグ剥離性の劣化という結果となるので、好ましくない。したがって、Mnの含有量は、ワイヤの全重量に基づいて0.01―3.0wt%の範囲であるように設定される。より詳細には、Mnは、0.5―3.0wt%の量で含まれる。
【0025】
Nb:0-2.9wt%以下(0wt%を除く)
ニオブ(Nb)を、溶接金属の強度を向上することを目的に添加してもよい。ニオブ(Nb)は、炭素または窒素と結合して炭化物、窒化物または炭窒化物を形成し、それにより析出硬化効果を有する。しかし、含有量が過度に増加すると、ラーベス相として析出し、亀裂抵抗の冷夏という結果を生ずるという問題がある。
【0026】
したがって、本発明では、Nbは全く添加されないか、Nbの含有量は2.9wt%以下に限定される(すなわち、Nbは0―2.9wt%)。好ましくは、Nbは2wt%以下の量で添加され、より好ましくは0.5wt%以下である。加工性と物理的性質は、Nb含有量を限定しつつMnの含有量を調整することにより確保されるという特徴がある。
【0027】
Fe:3.0-9.0wt%
鉄(Fe)は、溶接材料またはNi基合金び製造の原料物質では不可欠な要素であり、金属の延性を得るための成分である。Feの含有量が3.0wt%より少ないと、溶接金属の要求される延性が得られず、一方、Feの含有量が9.0wt%を超えると、高温亀裂抵抗が低下する。したがって、本発明では、Feの含有量をワイヤの全重量に基づいて3.0-9.0wt%の範囲に限定するのが好ましい。さらに、Cuが含まれると、FeはCu(銅)と化合物を形成し亀裂を生ずるので、Feの含有量と共にCuの含有量をコントロールするのが好ましい。
【0028】
Si:0.01-0.5wt%
シリコン(Si)は、脱酸作用と溶接性を向上する成分である。Siの含有量が0.01wt%より少ないと、脱酸効果が不十分となる。Siの含有量が0.5wt%より多いと、ラーベス相の発生により割れ感受性が増大するので好ましくない。したがって、Siの含有量は、0.01-0.5wt%の範囲に限定されるのが好ましい。
【0029】
P+S:0.01wt%以下(0wt%は除く)
リン(P)と硫黄(S)は、高温割れに影響する要素である。PとSは、低融点であり、それにより高温割れを生ずる。本発明の場合には、PまたはSが含まれてもよく、PとSの合計含有量は0.01wt%未満であるのが好ましい。
【0030】
本発明の残りの成分は、ニッケル(Ni)である。
【0031】
Niは、オーステナイト構造を安定化させ、Nbと結合して析出物を形成し、それにより引張強さを向上する。好ましくは、Niの含有量は、45-60wt%の範囲に限定される。Niの含有量が40wt%より少ないと、他の要素の含有量が増加するので、構造が不安定となり、靭性が低下する。Niの含有量が60wt%より多いと、Cr、Mo当の量が相対的に低下するので、隊腐食性または強度が低下する。したがって、フラックス入りワイヤでのNi含有量は、ワイヤの全重量に関して45-60wt%の範囲に設定される。より詳しくは、Niの含有量は50-60wt%の範囲とされる。
【0032】
SiO
2
:0.5-3.0wt%
SiO2は、スラグ形成物質であり、溶接ビードの流動性と展延性を増大する作用がある。この効果のために、SiO2は、0.5wt%以上の量で添加されるのが好ましい。さらに、SiO2の含有量が3.0wt%より多いと、溶接金属中のSi含有量が増え、亀裂抵抗の低下という結果となる。したがって、SiO2の含有量は0.5―3.0wt%の範囲に限定するのが好ましい。
【0033】
Na
2
OおよびK
2
Oから選択された1つ以上の酸化物:0.1―3.0wt%
アルカリ金属酸化物が0.1wt%以上の量で添加され、溶接中のアークのイオン化ポテンシャルを減じて、アークの発生を容易にし、溶接中の安定したアークを維持するのがよい。さらに、アルカリ金属酸化物の含有量が3.0wt%より多いと、高蒸気圧のために溶接ヒュームが過度に生成される。したがって、アルカリ金属酸化物の含有量を0.1―3.0wt%に限定するのが好ましい。アルカリ金属酸化物は、Na2OおよびK2Oの何れか1つまたは両方を含んでもよい。
【0034】
SiO2、TiO
2
およびZrO
2
から選択された1つ以上の酸化物:5.0―12.0wt%
Si、TiおよびZr酸化物が、スラグの融点を高めて多点溶接の加工性を向上するのに添加されてもよい。Si、TiおよびZr酸化物の含有量の合計が5.0wt%より少ないと、スラグの量が不十分となり、よってスラグ被りが低下する。それが12.0wt%より多いと、スラグ巻き込み欠陥が生じ得る。よって、Si、TiおよびZr酸化物の合計含有量を5.0-12.0wt%の範囲に限定するのが好ましい。
【0035】
本発明のフラックス入りワイヤは、0.2wt%以下の量のチタン(Ti)をさらに含んでもよい。Tiは、Ni基合金中の析出硬化の効果のために強度を向上でき、脱酸成分としての作用のために細孔生成を減ずることができる。Tiの含有量が0.2wt%より多いと、過度の析出のために溶接領域の低温衝撃靭性と亀裂抵抗が低下するので、好ましくない。
【0036】
一方、本発明のフラックス入りワイヤでは、以下に示す[関係式1]を満足するように各酸化物の含有量をコントロールするのが好ましい。特に、[関係式1]で定義される値が0.5より小さくなるようにコントロールが実行されるのが好ましい。値が0.5以上であると、溶接性の低下と亀裂特性のために溶接金属領域の品質が低下する。
[関係式1]
0.1Na2O+{K2O+0.5(MgO+Al2O3)}/{CaO+1.6(TiO2+SiO2)+0.2(ZrO2)}<0.5
【0037】
さらに本発明では、[関係式2]を満足するようにMnとNbの含有量をコントロールするのが好ましい。[関係式2]を満足しない化学成分の場合には、MnとNbの含有量に応じて有害な相を生ずるので、溶接金属領域の好ましい物理的性質を確保するのが困難である。
[関係式2]
0.01Mn≦Nb≦(0.01Mn)+3.3
【0038】
本発明によるフラックス入りワイヤのフラックス成分は、0.1wt%以下のMnOと、Fに関して0.1-1.5wt%のフッ素化合物をさらに含んでもよい。上記の成分に加えて、通常の製造過程で原材料や周囲環境からの意図しない不純物が不可避的に組み込まれてもよい。
【0039】
本発明の他の態様によれば、Ni基合金シースがフラックスで満たされたNi基合金フラックス入りワイヤでは、フラックス入りワイヤから得られた溶着金属は、0.1wt%以下(0wt%を除く)のC、0.01-0.5wt%のSi、0.01wt%-3.0wt%のMn、15.0-22.0wt%のCr、0-2.9wt%(0wt%を除く)のNb、5.0-10.0wt%のMo、3.0-9.0wt%のFeおよびNiと不可避的不純物を含む残部とを備え、溶着金属の組成は[関係式3]を満足する。[関係式3]は、[Fe+{15(2.8Nb+0.85Mn)}]/(Cr+Mo)<7.0である。
【0040】
本発明によるフラックス入りワイヤ合金の組成によれば、マルチポジション溶接が可能であり、優れた強度と靭性を有する溶接金属が得られる。各成分の含有量は、合金シースに最初に含まれていた成分の量と、フラックスから添加される金属パウダーまたは合金パウダーの形の成分の量とを含む。
【0041】
本発明によるフラックス入りワイヤから得られた溶着金属のCr含有量は、15-20wt%であってもよい。クロム(Cr)は、溶接金属の強度と耐食性を向上する目的で添加される。Crの含有量が15wt%より少ないと、耐食性が低下し、溶接金属の一定の強度を得ることが困難になる。一方、CrはCと結合して炭化物を形成する。Crの含有量が20wt%より多いと、溶接金属の靭性が低下し、炭化物の成長が抑制される。
【0042】
Moの含有量は、5-15wt%の範囲であってもよい。モリブデン(Mo)は、炭素(C)と結合して炭化物を形成する成分であり、耐摩耗性、硬度および耐食性の向上において有利な役割を果たす成分である。Moの含有量が5wt%より少ないと、上述の効果を得ることgむずかhしく、一方、Moの含有量が15wt%より多いと、Moが析出し、それにより亀裂抵抗を低下する。より詳細には、Moの含有量は、5-8wt%の範囲でよい。
【0043】
Cの含有量は0.1wt%以下であってもよい。炭素(C)は溶接金属の強度を向上する効果を有するが、過度に添加されると炭化物が形成され、靭性が低下するという問題がある。より好ましくは、溶接金属の靭性の低下を防ぐため、Cの含有量は、0.1wt%以下に設定されてもよい。
【0044】
Mnの含有量は、0.01―3.0wt%の範囲であってもよい。マンガン(Mn)は、溶接金属のビード形状を向上し、耐欠陥性や亀裂抵抗を向上するために添加される。本発明は、Mnの含有量を増やすことにより亀裂抵抗を向上し、以下に説明するように、Nbの含有量を制限することにより靭性低下を防止する。本発明では、Mnの含有量が0.01wt%より少ないと、Sとの接合が不十分なので亀裂抵抗を向上する効果が得られず、充分な脱酸効果が得られない。したがって、Mnの含有量が0.01wt%より少ないことは好ましくない。さらに、Mnの含有量が3.0wt%より多いと、剥離性が低くなるであろう。したがって、Mnの含有量が3.0wt%より多いことは好ましくない。より好ましくは、Mnの含有量は、0.5―3.0wt%の範囲である。
【0045】
Nbの含有量は、0-3.5wt%(0wt%は除く)の範囲であってもよい。ニオブ(Nb)は、溶接金属の強度を向上する目的で添加されてもよい。ニオブ(Nb)は、tン素または窒素と結合し、炭化物、窒化物または炭窒化物を形成し、それにより析出強化効果を有する。しかし、含有量が過度に増えると、亀裂抵抗が低下するという問題がある。したがって、本発明では、Nbは全く添加されないか、Nbの含有量は3.5wt%以下に限定される。好ましくは、Nbは、2.9wt%以下の量で添加され、より好ましくは2.0wt%以下である。本発明は、Nbの含有量が制限され、Mnのが入寮が適切な範囲に調整されて、ある程度の強度を確保するという特徴を有する。
【0046】
Feの含有量は、3.0―9.0wt%の範囲であってもよい。Feは、Ni基合金の溶接材料または基礎材料では不可欠の要素である。鉄(Fe)は、Ni基合金の溶接材料または基礎材料で必須の要素であり、金属の延性を確保するための成分である。Feの含有量が3.0wt%より少ないと、溶接金属の要求される延性が得られず、一方、Feの含有量が9.0wt%より多いと、高温亀裂抵抗が低下する。よって、このようなFe含有量範囲は好ましくない。したがって、本発明では、Feの含有量をワイヤの全重量に基づいて、3.0―9.0wt%の範囲に限定するのが好ましい。さらに、Cuが追加で含まれると、FeはCu(銅)と化合物を形成し亀裂の原因となるので、Cuの含有量に加えてFeの含有量もコントロールするのが好ましい。
【0047】
Siの含有量は、0.01―0.5wt%の範囲であってもよい。Siの含有量が0.01wt%より少ないと、脱酸効果が不十分となる。Siの含有量が0.5wt%より多いと、ラーベス相の生成のため亀裂感受性が高まるので好ましくない。したがって、Si含有量は0.5wt%以下に制限されるのが好ましい。
【0048】
さらに、チタン(Ti)が0.2wt%以下の量で含まれてもよい。Tiは、Ni基合金において析出硬化効果のために強度を向上し、脱酸成分として作用することで細孔生成を低減することができる。Tiの含有量が0.2wt%より多いと、過度の析出のために溶接領域の低温衝撃靭性と亀裂抵抗が低下するので、好ましくない。
【0049】
残部は、Niと不可避的不純物であってもよい。
【0050】
一方、本発明のNi基合金フラックス入りワイヤから得られる溶着金属の成分が下記の[関係式3]を満足することが好ましい。
[関係式3]
[Fe+{15(2.8Nb+0.85Mn)}]/(Cr+Mo)<7.0
【0051】
詳細には、溶接金属の組成は、[関係式3]で定義される値が7.0より小さいように定められることが好ましい。その値が7.0以上であると、溶接性と亀裂抵抗の低下により優れた溶接品質を確保することが困難となる。
【0052】
本発明によるNi基合金フラックス入りワイヤは、タングステン(W)を含んでいないが、クロム(Cr)とマンガン(Mn)を多くの量で、そしてニオブ(Nb)を所定の限定された量で含み、スラグ剥離性と亀裂抵抗を向上して、所望の強度などの物理的性質を得る。
【0053】
以下に、例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明は例によっては限定されない。
【0054】
表1に示す成分を含むフラックス入りワイヤが用意された。各成分の例を説明する。
【表1】
【0055】
フラックス入りアーク溶接(FCAW)を各溶接材料で実施した。FCAWの場合、溶接は、100%CO2保護ガス環境下で8.0―12.0kJ/cmの入熱で実施された。直径1.2mmのワイヤがFCAWに用いられた。板厚7mmのA36鋼板で溝面のベベル角が30°となるようにベベルが形成され、溝は、テストワイヤでバタリングされバタリング層が形成された。その後、バタリングされた基礎材料をルート間隔が12mmとなるように並べ、同様にバタリングされた表面を有する当て板(鋼材)が、溝の狭い側に置かれた。このベベルで、溶接が実施され、溶接継手が形成された。
【0056】
その後、アーク安定性と得られた溶接継手のスラグ剥離性を勘案して、マルチポジション溶接を視覚的に比較し評価し、溶接品質を、◎(優)、O(良)、△(可)、X(不可)の4段階にクラス分けした。結果を表2に示す。
【表2】
【0057】
表2を参照すると、MnとNbの含有量が本発明で提案された範囲内のフラックス入りワイヤの溶接継手では、亀裂抵抗とビード外観が向上することが確認された。特に、ビード外観、スラグ剥離性および亀裂抵抗が向上するマンガンとニオブの含有量の範囲を決定できることが可能である。
【0058】
組成例1―11を参照すると、ニオブの含有量が2.5wt%以上であっても、マンガン含有量を増やすことにより亀裂抵抗とビード外観が向上した。
【0059】
組成例12―20を参照すると、マンガン含有量が2wt%より多くてもニオブの含有量が2.9wt%以下に限定されると亀裂抵抗およびスラグ剥離性については問題ないことが確認された。
【0060】
さらに、関係式1に関連して組成例24を参照すると、関係式1の値が0.5より大きいと、亀裂抵抗に加え、アーク安定性、ビード外観、およびスラグ剥離性について問題が生ずる。
【0061】
一方、ニオブの含有量による亀裂比を調べた。異なるニオブ含有量の組成例13-20によるビードのクレータ割れ比とビード割れ比を下記の表3に示す。
図1は、本発明の例示の組成による溶接ビードの亀裂(割れ)を示す写真である。
図1において、(a)は組成例15による溶接ビードの写真、(b)は組成例17による溶接ビードの写真、(c)は組成例18による溶接ビードの写真、(d)は組成例20による溶接ビードの写真である。
【表3】
【0062】
表3と
図1を参照すると、ニオブの含有量をコントロールすることにより亀裂比を顕著に低減できる。特に、組成例17と組成例18の亀裂比を比較すると、本発明のニオブ含有範囲の上限である2.9wt%のNb含有量で亀裂比が約20%異なることが分かった。
【0063】
さらに、得られた溶接継手の降伏点(YS、MPa)、引張強さ(TS、MPa)、延び(E.L.、%)、および、―196℃でのシャルピ衝撃エネルギ(J)を測定した。結果を下記の表4に示す。
【表4】
【0064】
表4を参照すると、従来のNi基合金フラックス入りワイヤと異なり、マンガン含有量が増えてニオブ含有量が減っても、強度等の物理的性質が維持されることが確認された。タングステンがなくてもニオブを加えることで所望の強度が得られた。従来のフラックス入りワイヤに比べてニオブ含有量が相対的に低いことにより生ずる問題は、クロム含有量を増やすことで解消されることが確認された。
【0065】
本発明によるNi基合金フラックス入りワイヤは、マンガンおよびニオブの含有量をコントロールすることにより優れた高温亀裂抵抗を有し、満足できる衝撃靭性と強度を有する。本発明によるNi基合金フラックス入りワイヤは、Ni合金によりもたらされる低い亀裂抵抗や低い加工性を含め、従来のワイヤの問題を解消できる。
【0066】
上記では、添付の請求項がより良く理解されるように、本発明の特徴と技術的利点を広く説明した。この技術分野の当業者は、本発明が、技術的思想または例示の実施形態の基本的特徴から逸脱することなく他の異なった形で実施できることを理解されよう。よって、上記に説明した例は説明の目的だけのためであり、全ての点で限定されるものではないことが理解できるであろう。本発明の範囲は、上記の詳細な説明ではなく、以下の特許請求の範囲により画定され、特許請求の範囲の意味と範囲から導かれる全ての変更または修正、および、その均等な概念は本発明の範囲内であると解されるべきである。
【国際調査報告】