IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベセエネ ペプチドス エセ.ア.の特許一覧

特表2023-504533癌および/または転移の治療のためのペプチド
<>
  • 特表-癌および/または転移の治療のためのペプチド 図1
  • 特表-癌および/または転移の治療のためのペプチド 図2
  • 特表-癌および/または転移の治療のためのペプチド 図3
  • 特表-癌および/または転移の治療のためのペプチド 図4
  • 特表-癌および/または転移の治療のためのペプチド 図5
  • 特表-癌および/または転移の治療のためのペプチド 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-03
(54)【発明の名称】癌および/または転移の治療のためのペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/08 20060101AFI20230127BHJP
   C12N 9/64 20060101ALI20230127BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230127BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230127BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230127BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230127BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C12N9/64 Z
A61P35/00
A61P35/04
A61P35/02
A61K38/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533172
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(85)【翻訳文提出日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2020083987
(87)【国際公開番号】W WO2021110609
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】19383084.1
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512188753
【氏名又は名称】ベセエネ ペプチドス エセ.ア.
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】フェレナンデズ カルネアド,ジメナ
(72)【発明者】
【氏名】ポンサティ,ベルタ
(72)【発明者】
【氏名】パレンテ ドエナ,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレス-ミレト,マリオナ
(72)【発明者】
【氏名】ファレラ-シンフレウ,ジョセプ
(72)【発明者】
【氏名】アルマザン-モガ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ロマ カスタンイェル,ジョセプ
(72)【発明者】
【氏名】ガレゴ メルコン,ソレダド
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス デ トレド コディナ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】モレノ マルティン-レトロティロ,ルカス
(72)【発明者】
【氏名】ナヴァロ バレア,ナタリア
(72)【発明者】
【氏名】モリスト ムノズ,カルラ
【テーマコード(参考)】
4B050
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B050DD11
4B050LL01
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA22
4C084MA24
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA52
4C084MA55
4C084MA56
4C084MA58
4C084MA59
4C084MA60
4C084MA63
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA17
4H045BA18
4H045BA50
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA33
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、生物医化学の分野に属す。本発明は、タンパク質ADAM-12のアミノ酸配列に由来する修飾ペプチドおよびそれらの二量体、それらの組成物、合成方法、ならびに医療におけるそれらの使用、特に、種々の癌における癌増殖の抑制、および/または癌細胞の侵襲および転移の減少または抑制を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のペプチド:
-AA-AA-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-AA-Asp-Leu-Pro-Glu-AA-AA-R (I)
その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩であって、
AA Pyr、または、結合であり;
AAは、Lys、Cys、または、結合であり;
AAは、Cys、Met、または、Cys(Cys)(Cystine)であり;
AAは、2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)、または、2,4,6-トリメチルフェニルグリシン(Msg)であり;
AAは、Lys、Cys、または、結合であり;
は、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のヘテロアリールアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアラルキル、ポリエチレングリコールに由来するポリマー、およびR-CO-からなる群より選択され、ここで、Rは、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアラルキル、置換または非置換のヘテロシクリル、および置換または非置換のヘテロアリールアルキルからなる群より選択され;
は、-NR、-OR、および-SRからなる群より選択され、ここで、RおよびRは独立して、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のヘテロアリールアルキル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のアラルキルからなる群より選択される、
ペプチド、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
AAは、2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
AAおよびAAは、Lysまたは結合から独立して選択される、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
は、HおよびR-CO-からなる群より選択され、
ここで、Rは;置換または非置換のC-C24アルキル;置換または非置換のC-C24アルケニル;置換または非置換のC-C24アルキニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキル;置換または非置換のC-C24シクロアルケニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキニル;置換または非置換のC-C30アリール;置換または非置換のC-C24アラルキル;3個~10個の環員を有する置換または非置換のヘテロシクリル;ならびに、2個~24個の炭素原子を有し、1個~3個の炭素以外の原子を有し、かつ、炭素原子が1個~6個であるアルキル鎖を有する、置換または非置換のヘテロアリールアルキル;からなる群より選択される、請求項1~3の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
は、H、アセチル、tert-ブタノイル、ヘキサノイル、2-メチルヘキサノイル、シクロヘキサンカルボキシル、オクタノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、オレオイル、およびリノレオイルからなる群より選択される、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
は、-NRまたは-ORであって、
ここで、RおよびRは独立して、H;置換または非置換のC-C24アルキル;置換または非置換のC-C24アルケニル;置換または非置換のC-C24アルキニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキル;置換または非置換のC-C24シクロアルケニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキニル;置換または非置換のC-C30アリール;置換または非置換のC-C24アラルキル;3個~10個の環員を有する置換または非置換のヘテロシクリル;ならびに、2個~24個の炭素原子を有し、1個~3個の炭素以外の原子を有し、かつ、炭素原子が1個~6個であるアルキル鎖を有する、置換または非置換のヘテロアリールアルキル;からなる群より選択される、請求項1~5の何れか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
およびRは独立して、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルおよびヘキサデシルからなる群より選択される、請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1~7の何れか1項に記載の式(I)で表されるペプチドを2個含むペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩であって、
前記ペプチド二量体は、ジスルフィド架橋ペプチド二量体である、ペプチド二量体。
【請求項9】
以下からなる群より選択される、請求項1~7の何れか1項に記載のペプチド、または請求項8に記載のペプチド二量体:
-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-R(R-配列番号3-R
Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-R(配列番号4-R
-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(R-配列番号5-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号6-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号7-R
(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(ジスルフィド架橋)[(配列番号6-R(ジスルフィド架橋)]
-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(R-配列番号8-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号9-R)。
【請求項10】
以下からなる群より選択される、請求項1~7、9の何れか1項に記載のペプチド、または請求項8または9に記載のペプチド二量体:
Ac-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(Ac-配列番号3-NH
Octanoyl-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(Octanoyl-配列番号3-NH
Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(配列番号4-NH
Ac-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Ac-配列番号5-NH
Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Octanoyl-配列番号5-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号6-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号7-NH
(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(ジスルフィド架橋)[(配列番号6-NH(ジスルフィド架橋)]
Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Octanoyl-配列番号8-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号9-NH)。
【請求項11】
請求項1~7、9~10の何れか1項に記載のペプチドまたは請求項8~10の何れか1項に記載のペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩を調製する方法であって、
固相ペプチド合成または溶液中でのペプチド合成を用いて行われる、方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、請求項11に記載の方法:
a)ポリマー支持体中で固相ペプチド合成を行う工程;
b)前記ポリマー支持体から前記ペプチドを切断する工程;
c)必要に応じて、溶液中で前記ペプチドを酸化して、環状ペプチドまたはペプチド二量体を得る工程;
d)必要に応じて、保護基を除去する工程;
あるいは、
i)ポリマー支持体中で固相ペプチド合成を行う工程;
ii)必要に応じて、前記ポリマー支持体中で、固相ペプチドサイクリングまたは二量体形成を行う工程;
iii)前記ポリマー支持体から前記ペプチドを切断し、必要に応じて、同時に保護基を除去する工程;
iv)必要に応じて、溶液中で前記ペプチドを酸化して、ペプチド二量体を得る工程。
【請求項13】
少なくとも1個の請求項1~7、9~10の何れか1項に記載のペプチド、または、少なくとも1個の請求項8~10の何れか1項に記載のペプチド二量体、もしくは、それらの組み合わせ、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩、の薬学的な有効量を含む、薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1~7、9~10の何れか1項に記載のペプチド、または、請求項8~10の何れか1項に記載のペプチド二量体、もしくは、それらの組み合わせ、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩は、
リポソーム、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、および固体脂質ナノ粒子、ナノ構造脂質担体、スポンジ、シクロデキストリン、小胞、ミセル、界面活性剤の混合ミセル、界面活性剤-リン脂質混合ミセル、ミリスフェア、ミクロスフェア、ナノスフェア、リポスフェア、ミリカプセル、マイクロカプセル、ナノカプセル、マイクロエマルジョン、およびナノエマルジョンからなる群より選択される、送達システム、および/または持続放出システムに組み込まれる、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
薬剤として使用するための、請求項1~7、9~10の何れか1項に記載のペプチド、または請求項8~10の何れか1項に記載のペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩。
【請求項16】
癌および/または転移の治療および/または診断に使用するための、請求項1~7、9~10の何れか1項に記載のペプチド、または請求項8~10の何れか1項に記載のペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩。
【請求項17】
癌および/または転移は、神経芽細胞腫、肉腫、軟部組織肉腫、横紋筋肉腫(胎児性、胞巣状、多形性および紡錘細胞/硬化性横紋筋肉腫を含む)、内膜肉腫、未分化紡錘細胞肉腫、未分化多形性肉腫、未分化円形細胞肉腫、未分化類上皮細胞肉腫、脂肪肉腫、異型脂肪性腫瘍、悪性孤立性線維性腫瘍、炎症性筋線維芽細胞腫、低悪性度筋線維芽細胞肉腫、線維肉腫(成人および硬化性類上皮線維肉腫の変種を含む)、粘液線維肉腫、低悪性度線維類粘液肉腫、軟部組織の巨細胞腫瘍、平滑筋肉腫、悪性グロムス腫瘍、血管内皮腫(網状、偽筋原性および類上皮血管内皮腫を含む)、軟部組織の血管肉腫、骨外性骨肉腫、悪性消化管間質性腫瘍(GIST)、悪性末梢神経鞘種、悪性トリトン腫瘍、悪性顆粒細胞腫、悪性骨化性粘液性腫瘍、間質肉腫、筋上皮腫、悪性リン酸塩尿性間葉系腫瘍、滑膜肉腫(紡錘細胞および二相性滑膜肉腫を含む)、類上皮肉腫、胞巣状軟部肉腫、軟部組織の明細胞肉腫、骨外性粘液型軟骨肉腫、骨外性ユーイング肉腫、繊維形成性小円形細胞性腫瘍、腎外性横紋筋様腫瘍、血管周囲類上皮細胞腫瘍、骨肉腫(bone sarcomas)、骨肉腫(osteosarcoma)、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、血管内皮腫、血管肉腫、線維肉腫、筋線維肉腫、脊索腫、エナメル上皮腫、乳癌(乳管癌、小葉癌、および乳頭癌を含む)、結腸癌、直腸癌、肛門癌、結腸直腸癌、脳腫瘍、膠芽腫、星細胞腫、または髄芽腫、悪性神経膠腫、前立腺癌、黒色腫およびその他の皮膚癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌(高悪性度漿液性卵巣癌を含む)、子宮体癌、リンパ腫、頭頸部癌、口腔癌、唾液腺癌、網膜芽細胞腫、消化器癌、食道癌、胃癌、膵癌、胆のう癌、肝臓癌(肝細胞癌(HCC)を含む)、腎臓癌(kidney cancer)または腎臓癌(renal cancer)、ウィルムス腫瘍または腎芽細胞腫、膀胱癌、肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、下垂体腺腫、扁平上皮癌、精巣癌、白血病(急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、形質細胞腫および多発性骨髄腫を含む)からなる群より選択される、請求項16に記載の使用のためのペプチドまたはペプチド二量体。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、生物医化学の分野に含まれる。特に、本発明は、癌および/または転移の抑制の分野に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
転移は、症例の約90%で癌患者の死亡の原因である(例えば、Reymond et al.Nature Reviews 2016,13(12),858-70を参照のこと)。
【0003】
転移による癌腫瘍の播種に伴い、標準治療は全く有効ではなく、新たな治療ターゲットおよび治療法の研究が必要とされている。
【0004】
ADAM(A Disintegrin and Metalloproteinases)は、1990年代に初めて報告された膜貫通タンパク質ファミリーである。ADAM-9、ADAM-10、ADAM-12、ADAM-15およびADAM-17を含む複数のADAMメンバーは、癌の形成または進行のいずれかにおいて役割を果たすことが示されている。これらの知見と一致して、いくつかの癌種において、特定のADAMの発現の増加が、侵襲性疾患の特徴および予後不良と相関することが明らかにされた(例えば、Duffyet al.Clin Chim Acta 2009,403(1-2),31-6を参照のこと)。多くのADAMは、細胞の増殖および侵襲の促進をもたらす成長因子活性およびインテグリン機能の調節に関与する(例えば,Mochizukiet al.Cancer Sci 2007,98(5):621-8; Zadka et al.Neoplasma 2018,65(6),823-39を参照のこと)。
【0005】
ADAM-12は、フェルチリンの相同体を調査するためにマウス筋原性細胞株中にて1995年に同定された(例えば、Yagami-Hiromasa et al.Nature 1995,377(6550),652-6を参照のこと)。ヒトADAM-12は、1998年に特性決定された(例えば、Gilpin et al.J Biol Chem 1998,73(1),157-66を参照のこと)。その構造は、N末端シグナルペプチド、プロ領域、メタロプロテイナーゼ(すなわちメタロプロテアーゼ)領域、ディスインテグリン領域、システインリッチ領域、EGF領域、膜貫通領域およびC末端の細胞質尾部からなる。ADAM-12は、上述の全ての領域を有する膜結合型(ADAM12-L)、および分泌型(ADAM12-S)を含み、これは、膜貫通領域および細胞質領域を欠く(例えば、Nyren-Erickson et al.Biochim Biophys Acta 2013,1830(10),4445-55を参照のこと)。
【0006】
ADAM-12は、多くの種類の癌および腫瘍細胞にて高度に発現する。ADAM-12は、インテグリンおよびシンデカンなどの接着分子への結合を介して、細胞-細胞接着または細胞-ECM相互作用を調節することができる(例えば、Kveiborg et al.J Biochem Cell Biol 2008,40(9),1685-702を参照のこと)。ADAM-12はシンデカン-4と相互作用し、細胞の播種およびストレス線維のアセンブリーを促進し得る(例えば、Thodeti et al.J Biol Chem 2003,278(11),9576-84を参照のこと)。
【0007】
全体として、ADAM-12の過剰発現は、癌の広範な多様性について、転移および不良な生存率と相関している。
【0008】
乳癌ではADAM-12が高度に発現し、乳癌転移のプロモーターとして作用することが公表されている(例えば、Iba et al.Am J Pathol 1999,154(5),1489-501; Huang et al.Oncogene 2018,37(49),6316-26を参照のこと)。Kveiborgらによる機能研究(例えば、Kveiborg et al.Cancer Res 2005,65(11),4754-61を参照のこと)は、マウス乳癌モデルにおいて、ADAM-12のアップレギュレーションが腫瘍の進行を加速させることを実証した。また、ADAM-12は、乳癌の腫瘍組織では隣接する正常組織と比較して、アップレギュレートされる。カプラン-マイヤー生存曲線の結果から、ADAM-12のレベルが高い患者は、ADAM-12のレベルが低い患者と比較して、生存期間が短いことが示された(例えば、Ma et al.Int J Clin Exp Pathol 2015,8(10),13279-83を参照のこと)。また、乳癌患者の疾患進行に比例して、患者の尿中のADAM-12が増加することも記されている(例えば、Roy et al.J Biol Chem 2004,279(49),51323-30を参照のこと)。
【0009】
ADAM-12の高い腫瘍レベルは、ADAM-12が高グレード漿液性卵巣癌の侵襲性分子サブタイプにて、最も予後不良と関連する予後因子であることを示している(例えば、Cheon et al. Carcinogenesis 2015,36(7),739-47を参照のこと)。
【0010】
ADAM-12は、前立腺癌(例えば、Peduto et al. Oncogene 2006,25(39),5462-6を参照のこと)、膠芽腫(例えば、Kodama et al.Am.J Pathol 2004,165(5),1743-53を参照のこと)、および胃癌(例えば、Carl-McGrath et al.Int J Oncol 2005,26(1),17-24; Shimura et al.Cancer Prev Research 2015,8(3),240-8を参照のこと)において、高度に発現する。
【0011】
膵管腺癌と診断された患者では、健常対照群と比較して、ADAM-12レベルの上昇が認められた。治療中のADAM-12レベルの低下は、生存期間の延長と関連していた(例えば、Veenstraet al.Oncogenesis 2018,7(11),87を参照のこと)。
【0012】
ADAM-12は膀胱癌のバイオマーカーとしても提唱されている。膀胱癌患者は、最大60%の筋層侵襲癌に進行するリスクを有する。そのアップレギュレーションは、mRNAレベルおよびタンパク質発現について、膀胱癌のグレードおよびステージと相関している(例えば、Frolich et al.Clin Cancer Research 2006,12(24),7359-68を参照のこと)。
【0013】
ADAM-12の発現は、正常な肝臓ではほとんど検出されない。しかし、肝細胞癌および肝転移では増加する(例えば、Mazzocca et al.Biochim Biophys Acta 2010,1806(1),74-81; Le Pabic,Hepatology 2003,37(5),1056-66を参照のこと)。
【0014】
転移性小細胞肺癌(SCLC)もまた、侵襲および転移の増強と共にADAM-12発現の増加を示した(例えば、Shao et al.Plos One 2014,9(1),e85936を参照のこと)。
【0015】
ADAM-12mRNAは、骨巨細胞腫の70%にて検出されている。また、巨細胞腫での単核間質細胞の細胞融合プロセスにおけるADAM-12の意義についても記載されている(例えば、Tian et al.J Clin Pathol 2002,55(6),394-7を参照のこと)。ADAM-12の高度な発現は腫瘍の増殖と相関しているだけでなく、骨溶解の亢進と、動物の生存率の有意な低下とも関連しており、ADAM-12が骨肉腫の新たな治療ターゲットとなりうることが示唆されている(例えば、George et al.Eur J Cancer 2013,49(9),2253-63を参照のこと)。
【0016】
ADAM-12は早期ステージ黒色腫と比較して、進行期に有意に過剰発現する(例えば、Cireap et al.Pathol Oncol Res 2013,19(4),755-62を参照のこと)。
【0017】
Ibaらは、癌腫細胞株(例えば、MDA-MB-231乳癌腫細胞)のパネル中で細胞接着を支持する場合、ADAM-12のCysリッチ領域の重要性を述べた(例えば、Iba et al.Am J Pathol 1999,154(5),1489-501を参照のこと)。Ibaらによれば、ヒトADAM-12の場合、システインリッチ領域の組換えポリペプチドは、癌腫細胞株のパネルの細胞接着を支持したが、ディスインテグリン様領域は支持しなかった。
【0018】
続いて、ADAM-12のディスインテグリン領域の関与(配列番号1、Gilpin et al.J Biol Chem 1998,73(1),157-66から得た)を調査した。Dyczynskaらは、ADAM-12のディスインテグリン領域における乳癌関連突然変異が、タンパク質の細胞内の輸送および処理を妨害することを示した(例えば、Dyczynska et al.Int J Cancer 2008,122(11),2634-40を参照のこと)。Liらは、トリプルネガティブ乳癌および乳癌イニシエーション細胞(BTIC)にて、上皮細胞増殖因子レセプター(EGFR)の活性化に関するADAM-12のディスインテグリン領域での役割についても記載している(例えば、Li et al.Breast Cancer Res Treat 2012,135(3),759-69; Li et alBreast Cancer Res Treat 2013,139(3),691-703を参照のこと)。
【0019】
α9β1インテグリンは多種多様な細胞種に発現し、フィブロネクチンおよびテネイシン-C、特にADAM-12など多くのリガンドと相互作用する。α9β1の異常発現は、病理学的状態(例えば、癌)を引き起こすか、または悪化させる可能性がある(例えば、Hoye et al.Adv Biol Regul 2012,52(2),326-39を参照のこと)。
【0020】
α9β1インテグリン発現は、基底細胞様(basal-like)乳癌サブタイプにおける生存率の低下と関連している。したがって、この腫瘍サブタイプの新規マーカーとして提唱されている(例えば、Allen et al.J Pathol 2011,223(5),646-58を参照のこと)。反対に、トリプルネガティブ乳癌腫瘍でのダウンレギュレーションは、腫瘍血管新生、腫瘍増殖および転移の減少と相関している(例えば、Wang et al.Int J Cancer 2019,145(10),2767-80を参照のこと)。また、腫瘍-α9β1インテグリン媒介シグナリングは、乳癌の増殖およびリンパ行性転移を促進する特有の原発腫瘍組織微小環境を生み出す際に、中心的な役割を果たす(例えば、Majumder et al.Plos One 2012,7(4),e35094; Ota et al.J Mol Med 2014,92(12),1271-81を参照のこと)。
【0021】
ADAM-12は、黒色腫細胞でのα9β1インテグリン媒介細胞付着およびGPT-Rac依存性移動を支持するα9β1インテグリンのリガンドとして記載されている(例えば、Lydolph et al.Exp Cell Research 2009,315(19),3312-24を参照のこと)。しかし、このレセプターが発現されない場合、β1インテグリンファミリーの他のメンバーに結合し得ることも開示されている。
【0022】
ADAMのディスインテグリン領域は、インテグリンとの相互作用において、重要な役割を果たしているようだ。大多数のADAMは、そのディスインテグリン領域中のRGD-モチーフまたはXCD-モチーフを介して、インテグリンと相互作用し得る。実際、XCD配列領域は、おそらく血小板凝集の抑制およびインテグリン相互作用の主因である(例えば、Lu et al.Cardiovasc Hematol Agents Med Chem 2007,5(1),29-42を参照のこと)。
【0023】
いくつかのADAMは、細胞接着および転移の抑制において役割を果たすと仮定されている。しかし、癌および/または転移の治療におけるADAM-12タンパク質またはそのペプチドの臨床適用に関する文献は、ほとんど見出されない。
【0024】
WO2015/028027A1は、ADAM-12のプロ領域に対するモノクローナル抗体および癌の治療のためのそれらの使用を開示している。ADAM-12のプロ領域は、システインリッチ領域およびディスインテグリン領域から離れた領域である。
【0025】
WO2006/014903A2は、癌組織において高度に発現されるADAM-12ポリヌクレオチドまたはそれらのコードされたポリペプチド、およびそのモジュレーター(例えば、抗体)を開示している。当該文献は、癌および乾癬を含む増殖性障害の治療および診断の方法を提唱する。当該文献は、癌性組織におけるADAM-12の発現のみを開示しており、任意の化合物を用いた活性または治療の例は開示していない。
【0026】
WO2011/100362A1は、癌の治療に使用するための、ADAMからのディスインテグリン様領域に由来するADAMポリペプチドを含む修飾したADAM由来ポリペプチド、およびN末端セグメントとしてチオレドキシンを含む融合タンパク質を開示している。上記ポリペプチドの配列は、ADAMのディスインテグリン領域の全長配列に近い約80個のアミノ酸の配列長を有する。
【0027】
横紋筋肉腫(RMS)および神経芽細胞腫(NB)は、一般的な小児癌の例である。早期発症の悪性腫瘍である横紋筋肉腫(RMS)は、小児の軟部組織肉腫の中で最も多い種類である(例えば、Masia et al.Br J Cancer 2012,107(8),1374-83を参照のこと)。神経芽細胞腫は、乳児に最も多くみられる癌であり、小児に3番目に多くみられる癌である。神経芽細胞腫を呈する全患者のほぼ半数に、診断時に疾患の転移が認められる(例えば、Maris et al.The Lancet 2007,369 (9579),2106-20を参照のこと)。
【0028】
転移性疾患の患者は極めて予後不良である。したがって、より強力な治療方法が必要とされる。さらに、これらの患者の主要な死因は遠隔転移の形成である。
【0029】
侵襲および転移のプロセスでのα9β1インテグリンの関与は、横紋筋肉腫などの小児癌でも報告されている(例えば、Masia et al.Br J Cancer 2012,107(8),1374-83を参照のこと)。横紋筋肉腫細胞株は、筋形成において、ADAM‐12/α9β1インテグリン相互作用の役割を確立するためのモデルとして使用されている。しかし、横紋筋肉腫の腫瘍形成におけるADAM-12の役割は記載されていない。神経芽細胞腫におけるADAM-12の役割は、いずれも開示されていない。
【0030】
したがって、癌および/または転移性の疾患を有する患者の生存率を改善するために、新たな治療ターゲットを同定し、新たな薬理学的治療を見出すことが緊急に必要とされている。
【0031】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、種々の癌における癌の増殖、侵襲および/または転移形成を、減少または抑制する必要性に対して、解決策を提供する。
【0032】
本発明の発明者らは、広範かつ徹底的な調査の後、驚くべきことに、様々な癌(例えば、横紋筋肉腫、神経芽細胞腫、および乳癌)の転移可能性を低減することができるADAM-12の一連の合成類似体を見出した。
【0033】
先行技術では、癌増殖の抑制、並びに/または、侵襲および/若しくは転移の減少において、臨床使用するための非天然アミノ酸で置換したADAM-12のディスインテグリン領域に由来する短いペプチドが開示または示唆されていない。
【0034】
本発明は、タンパク質ADAM-12のアミノ酸配列、具体的にはADAM-12のディスインテグリン領域、より具体的にはアミノ酸配列-CRDSSNSCDLPEFC、すなわちADAM-12のディスインテグリン領域内に含まれるCys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Phe-Cys(配列番号2)に由来する修飾ペプチド(およびその二量体)を提供する。修飾ペプチド(およびその二量体)は血漿中で安定であり、in vitroでの侵襲を抑制することができる。したがって、in vivoでの侵襲および転移を減少させることができる。合成アミノ酸を用いた特定の修飾(例えば、メシチルアミノ酸(例えば、3-メシチルアラニン(2,4,6-トリメチルフェニルアラニン、Msa))のフェニルアラニン位置への導入)は、任意に他の修飾(例えば、システイン残基の置換および/または非天然アミノ酸(例えば、ペプチドのアミノ末端中のピログルタミン酸)の包含)と共に、癌増殖の抑制、並びに/または、種々の癌での癌細胞の侵襲および転移の減少若しくは抑制について、改善した薬理学的特性および活性を有する新規の化合物を提供する。システイン残基は、メチオニン、シスチン、または塩基性アミノ酸(例えば、リジン)によって置換され得る。
【0035】
本発明のADAM‐12類似体を用いたin vitro研究は、α9β1インテグリンを過剰発現(RD)する横紋筋肉腫細胞、およびα9β1インテグリンを過剰発現(RH30)しない横紋筋肉腫細胞において、侵襲の減少を示した。この事実から、インテグリンが本発明のADAM-12類似体の限定的なターゲットにはなり得なかったことが明らかになった。
【0036】
〔定義〕
本発明の理解を容易にするために、本発明に関連して使用するいくつかの用語および表現の意味を挙げる。
【0037】
「侵襲(Invasion)」および「侵襲性(invasiveness)」およびそれらの複数形は、細胞移動に関し、細胞が運動性となり、組織内の細胞外マトリックスを通るか、または隣接組織に浸潤する能力を定義する。細胞侵襲は、隣接組織への侵入および隣接組織の破壊である。侵襲性となった癌細胞が二次的な部位に播種し、転移を形成することがある。
【0038】
「転移(Metastasis)」およびその複数形は、原発性と呼ばれる先存の癌に関する癌性細胞の病巣であるが、この原発性病巣から離れて発生したものであり、原発性病巣とは連続していない。これらの二次病巣の播種は、リンパ行性経路または血行性経路を介して起こる。
【0039】
用語「処置(treatment)」およびその複数形は、本明細書中で使用する場合、疾患によって引き起こされる有害な臨床症状を予防、改善または排除するための、もしくは前記疾患の発生率または重症度を、低減または排除するための、本発明による化合物の投与を意味する。
【0040】
本発明との関連において、用語「診断」は、ヒトの身体の非存在下で行われる診断方法(すなわち、in vitroでの診断方法)を指す。
【0041】
本発明との関連において、用語「処置用量(therapeutic dose)」およびその複数形は、医学的または生物学的な陽性反応を得るために、個体に投与しなければならない本発明に開示の化合物の必要量を指す。これは、個々の細胞、動物またはヒトであり、研究者、医師、獣医師または個体自身によって投与される化合物である。
【0042】
本発明との関連において、用語「治療剤(therapeutic agent)」およびその複数形は、個体(細胞、動物またはヒト)において、所望の薬理学的効果を生じる任意の薬剤または化合物を指す。
【0043】
本発明との関連において、用語「活性(activity)」または「薬理学的活性(pharmacological activity)」およびそれらの複数形は、本発明に開示の化合物による個体(細胞、動物またはヒト)処置の結果としての生物学的または医学的な応答を指す。これは、研究者、医師、獣医師または個体自身によって投与される化合物である。
【0044】
用語「個体(individual)」およびその複数形は、本発明に記載の化合物を投与し得る任意の有機体を指す。これは、実験、診断、および/または治療を目的とした投与である。個体は、細胞、動物またはヒトであり得る。
【0045】
本発明との関連において、用語「ペプチド二量体(peptide dimer)」およびその複数形は、システイン残基間のジスルフィド架橋によって連結した本発明のペプチドを2モノマー単位含む化合物を指す。2個の等しいペプチドサブユニットのホモ二量体ペプチドにおいて、ペプチド二量体は(ペプチド)(ジスルフィド架橋)として表す。
【0046】
用語「ペプチド(peptide)」または「ペプチド類似体(peptide analogue)」およびそれらの複数形は、本発明のペプチドおよびペプチド二量体の両方を包含する本発明の化合物の一般的な用語として使用することができる。
【0047】
本明細書において、アミノ酸に使用する略語は、J. Biol. Chem. (1989) 264:633-673に概説されている、生化学命名法に関するIUPAC-IUB合同委員会規則に従う。
【0048】
それゆえ、例えば、Asnは、NH-CH(CHCONH)-COOHを表す。したがって、ペプチド結合を表すダッシュは、記号の右に位置する場合にはアミノ酸の1-カルボキシル基(ここでは、非イオン化慣用形態で表す)のOHを排除し、記号の左に位置する場合にはアミノ酸の2-アミノ基のHを排除する。両方の修飾に同じ記号を使用することができる。
【0049】
アミノ酸構造、ならびにそれらの1文字および3文字の命名コード、および/または、構造を表1に示す。アミノ酸はL-またはD-の立体配置を有し得る。
【0050】
【表1】
【0051】
略語「Ac-」は、本明細書においてアセチル基(CH-CO-)を命名するために使用する。オクタノイル基は、n-オクタノイル基またはカプリロイル基を指す。
【0052】
本発明との関連において、用語「メシチルアミノ酸(mesityl amino acid)」およびその複数形は、3-メシチルアラニン(2,4,6トリメチルフェニルアラニン、Msa)および2-メシチルグリシン(2,4,6トリメチルフェニルグリシン、Msg)を包含する。
【0053】
用語「非環状脂肪族基」は、例えば、直鎖または分枝鎖のアルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基を包含するために使用するが、これらに限定されない。
【0054】
用語「アルキル基」は、飽和、直鎖または分岐の基に関する。それは1個~24個、好ましくは1個~16個、より好ましくは1個~14個、さらにより好ましくは1個~12個、一層さらにより好ましくは1個、2個、3個、4個、5個または6個の炭素原子を有する。これらは、単結合(例えば、メチル、エチル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、ヘプチル、オクチル、デシル、ドデシル、ラウリル、ヘキサデシル、オクタデシル、アミル、2-エチルヘキシル、2-メチルブチル、5-メチルヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない)によって残りの分子に結合する。
【0055】
用語「アルケニル基」は、2個~24個、好ましくは2個~16個、より好ましくは2個~14個、さらにより好ましくは2個~12個、一層さらにより好ましくは2個、3個、4個、5個または6個の炭素原子を有し、共役または非共役の1個以上の炭素-炭素二重結合、好ましくは1個、2個または3個の炭素-炭素二重結合を有する、直線または分岐の基を指す。アルケニル基は、単結合(例えば、ビニル、オレイル、リノレイルおよび類似の基が挙げられるが、これらに限定されない)を介して残りの分子に結合する。
【0056】
用語「アルキニル基」は、2個~24個、好ましくは2個~16個、より好ましくは2個~14個、さらにより好ましくは2個~12個、一層さらにより好ましくは2個、3個、4個、5個または6個の炭素原子を有し、共役または非共役の1個以上の炭素-炭素三重結合、好ましくは1個、2個または3個の炭素-炭素三重結合を有する、直鎖または分岐の基を指す。アルキニル基は、単結合(例えば、エチニル基、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、ペンチニル(例えば、1-ペンチニル)および類似の基が挙げられるが、これらに限定されない)を介して残りの分子に結合する。
【0057】
用語「脂環式基」は、本発明において、例えば、シクロアルキル基またはシクロアルケニル基またはシクロアルキニル基を包含するために使用するが、これらに限定されない。
【0058】
用語「シクロアルキル」は、3個~24個、好ましくは3個~16個、より好ましくは3個~14個、さらにより好ましくは3個~12個、一層さらにより好ましくは3個、4個、5個または6個の炭素原子を有する、飽和単環式または多環式脂肪族基に関する。シクロアルキルは、単結合(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、オクタヒドロインデン、デカヒドロナフタレン、ドデカヒドロフェナレンなどが挙げられるが、これらに限定されない)を介して残りの分子に結合する。
【0059】
用語「シクロアルケニル」は、5個~24個、好ましくは5個~16個、より好ましくは5個~14個、さらにより好ましくは5個~12個、一層さらにより好ましくは5個または6個の炭素原子を有し、共役または非共役の1個以上の炭素-炭素二重結合、好ましくは1個、2個または3個の炭素-炭素二重結合を有する、非芳香族の単環または多環脂肪族基に関する。シクロアルケニルは、単結合(例えば、シクロペント-1-en-1-yl基および類似の基が挙げられるが、これらに限定されない)を介して残りの分子に結合する。
【0060】
用語「シクロアルキニル」は、8個~24個、好ましくは8個~16個、より好ましくは8個~14個、さらにより好ましくは8個~12個、一層さらにより好ましくは8個または9個の炭素原子を有し、共役または非共役の1個以上の炭素-炭素三重結合、好ましくは1個、2個または3個の炭素-炭素三重結合を有する、非芳香族の単環または多環脂肪族基に関する。シクロアルキニルは、単結合(例えば、シクロオクト-2-yn-1-yl基などが挙げられるが、これらに限定されない)を介して残りの分子に結合する。
【0061】
用語「アリール基」は、6個~30個、好ましくは6個~18個、より好ましくは6個~10個、さらにより好ましくは6個または10個の炭素原子を有する芳香族基に関する。アリール基は、1個、2個、3個または4個の芳香環を含み、炭素-炭素結合によって結合されるか、あるいは融合される。アリール基は、単結合(例えば、特に、フェニル、ナフチル、ジフェニル、インデニル、フェナントリルまたはアントリルが挙げられるが、これらに限定されない)を介して残りの分子に結合する。
【0062】
用語「アラルキル基」は、7個~24個の炭素原子を有する、芳香族基によって置換されたアルキル基に関する。アラルキル基には、例えば、-(CH1-6-フェニル、-(CH1-6-(1-ナフチル)、-(CH1-6-(2-ナフチル)、-(CH1-6-CH(フェニル)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
用語「複素環基」は、3員~10員のヘテロシクリルまたは炭化水素環に関する。複素環基では、1個以上の環原子、好ましくは1個、2個または3個よりも多い環原子が、炭素とは異なる元素(例えば、窒素、酸素または硫黄)であり、飽和または不飽和であってもよい。本発明の目的のために、ヘテロシクリルは、融合環系を含み得る環状、単環状、二環状または三環系であってもよく;窒素、炭素または硫黄原子は、任意に、ヘテロシクリルラジカル中で酸化されてもよく;窒素原子は、任意に、四元化されてもよく;ヘテロシクリルラジカルは、部分的または完全に飽和され得るか、あるいは芳香族であってもよい。好ましくは、複素環という用語は、5員環または6員環に関する。
【0064】
用語「ヘテロアリールアルキル基」は、置換または非置換の芳香族ヘテロシクリル基で置換されたアルキル基に関する。アルキル基は1個~6個の炭素原子を有し、芳香族ヘテロシクリル基は2個~24個の炭素原子および炭素以外の1個~3個の原子(例えば、-(CH1-6-イミダゾリル、-(CH1-6-トリアゾリル、-(CH1-6-チエニル、-(CH1-6-フリル、-(CH1-6-ピロリジニルなどが挙げられるが、これらに限定されない)を有する。
【0065】
当技術分野で使用する場合、上述で定義した基では、ある程度の置換が生じ得る。したがって、本発明の基のいずれかに置換が生じてもよい。本発明の基について、置換した基に関する本明細書の参照は、特定したラジカルが1個以上の利用可能な位置において、1個以上の置換基によって、好ましくは1、2または3の位置において、より好ましくは1または2の位置において、さらにより好ましくは1の位置において置換され得ることを示す。これらの置換基としては、例えば、C-Cアルキル;ヒドロキシル;C-Cアルコキシル;アミノ;C-Cアミノアルキル;C-Cカルボニルオキシル;C-Cオキシカルボニル;ハロゲン(例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素);シアノ;ニトロ;アジド;C-Cアルキルスルホニル;チオール;C-Cアルキルチオ;アリールオキシル(例えば、フェノキシル);-NR(C=NR)NR;ここで、RおよびRは、H、C-Cアルキル、C-Cアルケニル、C-Cアルキニル、C-C10シクロアルキル、C-C18アリール、C-C17アラルキル、3-10員ヘテロシクリルまたはアミノ保護基からなる群より独立して選択される、が挙げられる。
【0066】
ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質に関する「一致の割合」は、本明細書中で使用する場合、当技術分野において一般に帰する意味を有する。したがって、これらの配列の最適アラインメントの後に、比較する2つのアミノ酸配列が同一であるアミノ酸の割合に関する。ここで、前記割合は単に統計的であり、2つのアミノ酸配列間の差は、配列全体にわたってランダムに分布する。「最適アラインメント」は、より大きな一致の割合を生じるアミノ酸配列のアラインメントとして理解される。一致の割合は、アミノ酸が比較する2つの配列において、一致する同一位置の数を測定し、同一位置の数を比較した位置の数で割り、得られた結果に100を掛けることによって計算し、2つの配列間の一致の割合を得た。2つのアミノ酸配列間の配列の比較は、手動で、または当技術分野で公知のコンピュータプログラム(例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)アルゴリズム)の手段によって行うことができる。
【0067】
〔本発明の化合物〕
本発明の第一態様は、一般式(I)のペプチド:
-AA-AA-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-AA-Asp-Leu-Pro-Glu-AA-AA-R (I)
その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩であって、以下を特徴とするもの;
AA Pyr、または、結合であり;
AAは、Lys、Cys、または、結合であり;
AAは、Cys、Met、または、Cys(Cys)(Cystine)であり;
AAは、2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)、または、2,4,6-トリメチルフェニルグリシン(Msg)であり;
AAは、Lys、Cys、または、結合であり;
は、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換の脂環式、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のヘテロアリールアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアラルキル、ポリエチレングリコールに由来するポリマー、およびR-CO-からなる群より選択され、ここで、Rは、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアラルキル、置換または非置換のヘテロシクリル、および置換または非置換のヘテロアリールアルキルからなる群より選択され;
は、-NR、-OR、および-SRからなる群より独立して選択され、ここで、RおよびRはH、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のヘテロアリールアルキル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のアラルキルからなる群より選択される、
ペプチド、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩を指す。
【0068】
好ましい実施形態では、一般式(I)中のAAは、2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)である。
【0069】
別の好ましい実施形態では、一般式(I)中のAAおよびAAは、Lysまたは結合から独立して選択される。
【0070】
およびRの基は、ペプチド配列のアミノ末端(N末端)およびカルボキシ末端(C末端)にそれぞれ結合する。
【0071】
本発明の好ましい実施形態では、Rは、HまたはR-CO-からなる群より選択され、ここで、Rは;置換または非置換のC-C24アルキル;置換または非置換のC-C24アルケニル;置換または非置換のC-C24アルキニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキル;置換または非置換のC-C24シクロアルケニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキニル;置換または非置換のC-C30アリール;置換または非置換のC-C24アラルキル;3個~10個の環員を有する置換または非置換のヘテロシクリル;ならびに、2個~24個の炭素原子を有し、1個~3個の炭素以外の原子を有し、かつ、炭素原子が1個~6個であるアルキル鎖を有する、置換または非置換のヘテロアリールアルキル;からなる群より選択される。好ましくは、Rは、置換または非置換のC-C24アルキル、置換または非置換のC-C24アルケニル、および置換または非置換のC-C24シクロアルキルからなる群より選択される。より好ましくは、Rは、H、アセチル、tert-ブタノイル、ヘキサノイル、2-メチルヘキサノイル、シクロヘキサンカルボキシル、オクタノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、オレオイル、およびリノレオイルから選択される。さらにより好ましくは、Rは、H、アセチル、オクタノイル、ラウロイル、ミリストイルまたはパルミトイルである。さらにより好ましい実施形態では、Rは、アセチル、オクタノイルまたはパルミトイルである。
【0072】
別の好ましい実施形態によれば、Rは、-NR、-ORまたは-SRであり、ここで、RおよびRは独立して、H;置換または非置換のC-C24アルキル;置換または非置換のC-C24アルケニル;置換または非置換のC-C24アルキニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキル;置換または非置換のC-C24シクロアルケニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキニル;置換または非置換のC-C30アリール;置換または非置換のC-C24アラルキル;3個~10個の環員を有する置換または非置換のヘテロシクリル;ならびに、2個~24個の炭素原子を有し、1個~3個の炭素以外の原子を有し、かつ、炭素原子が1個~6個であるアルキル鎖を有する、置換または非置換のヘテロアリールアルキル;からなる群より選択される。好ましくは、RおよびRは、H、置換または非置換のC-C24アルキル、置換または非置換のC-C24アルケニル、および置換または非置換のC-C24シクロアルキルからなる群より独立して選択される。RおよびRは、任意に、飽和または不飽和炭素-炭素結合を介して結合して、窒素原子と環を形成することができる。好ましくは、Rは、-NRまたは-ORである。より好ましくは、RおよびRは、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルおよびヘキサデシルからなる群より選択される。さらにより好ましくは、RはHであり、Rは、H、メチル、エチル、ヘキシル、ドデシルおよびヘキサデシルからなる群より選択される。さらにより好ましい実施形態では、Rは、-OHおよび-NHより選択される。
【0073】
特定の態様では、本発明はまた、本発明の式(I)で表されるペプチドを2個含むペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩に関する。前記ペプチド二量体は、ジスルフィド架橋ペプチド二量体であることを特徴とする。
【0074】
好ましい態様では、ペプチド二量体はホモ二量体ペプチドである。また、好ましくは、ペプチド二量体は、AAがCysであり、AAおよびAAが独立してLysまたは結合である場合に、本発明の式(I)の2つの等しいペプチドモノマー間のジスルフィド架橋によって形成される。
【0075】
好ましくは、本発明のペプチドまたはペプチド二量体は、以下からなる群より選択される:
-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-R(R-配列番号3-R
Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-R(配列番号4-R
-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(R-配列番号5-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号6-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号7-R
(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(ジスルフィド架橋)[(配列番号6-R(ジスルフィド架橋)]
-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(R-配列番号8-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号9-R
ここで、RおよびRは上述で定義した通りである。
【0076】
より好ましくは、本発明のペプチドまたはペプチド二量体は、以下からなる群より選択される:
Ac-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(Ac-配列番号3-NH
Octanoyl-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(Octanoyl-配列番号3-NH
Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(配列番号4-NH
Ac-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Ac-配列番号5-NH
Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Octanoyl-配列番号5-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号6-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号7-NH
(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(ジスルフィド架橋)[(配列番号6-NH(ジスルフィド架橋)]
Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Octanoyl-配列番号8-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号9-NH
ペプチドおよびペプチド二量体を形成するアミノ酸は、L-またはD-立体配置、またはそれらの組み合わせを有し得る。
【0077】
例えば、AAがLysであり得ることが示される場合、AAは、L-LysまたはD-Lysより選択されることが理解される。本明細書に記載の調製方法は、当業者が適切な配置を有するアミノ酸を選択することによって、本発明のペプチドまたはペプチド二量体の各々の立体異性体を得ることに役立つ。
【0078】
好ましい実施形態では、本発明のペプチドまたはペプチド二量体のアミノ酸は、L-アミノ酸である。本発明のペプチドおよびペプチド二量体の好ましい構造は、純粋な異性体(すなわち、エナンチオマーまたはジアステレオマー)である。
【0079】
本発明との関連において、用語「非暗号化アミノ酸(uncodified amino acid)」およびその複数形は、天然または非天然の遺伝暗号によって暗号化されていないアミノ酸(例えば、ピログルタミン酸、またはシスチン、または合成アミノ酸2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)、または2,4,6-トリメチルフェニルグリシン(Msg)(表1参照))に関する。
【0080】
本発明のペプチドおよびペプチド二量体のアミノ酸配列は、所与の配列の修飾を含み得る。このような修飾は、当業者に公知である。例えば、本発明のペプチドおよびペプチド二量体のアミノ酸配列の1個以上のL-アミノ酸は、それらの安定性を増大させるために、D-アミノ酸によって置換してもよい。例えば、本発明のペプチドおよびペプチド二量体のアミノ酸配列のN-アシル化、および/または、C-アミド化またはC-エステル化は、タンパク質分解に対するそれらの耐性を増大させ得る。例えば、本発明のペプチドの1個以上のアミノ酸配列の環化は、それらの安定性および透過性を増大させ得る。例えば、本発明のペプチドおよびペプチド二量体のアミノ酸配列の1個以上のアミノ酸は、それらの安定性を改善するために、N-アルキル化(一般にN-メチル化)され得る。例えば、本発明のペプチドおよびペプチド二量体の1個以上のアミノ酸配列は、1個以上の巨大分子(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、アルブミン)に結合され得る。結果として、1個以上のアミノ酸配列は、それらの安定性を改善し、および/または腎クリアランスを減少させる。
【0081】
本発明が提供するペプチドおよびペプチド二量体の薬学的に許容される塩もまた、本発明に含まれる。用語「薬学的に許容される塩」は、動物、特にヒトにおいて、その使用のために承認される塩を意味し、塩基付加塩の形成のために使用する塩を含む。薬学的に許容される塩は、無機(例えば、特に、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅、亜鉛、またはアルミニウムなどが挙げられるが、これらに限定されない)か;または、有機(例えば、特に、エチルアミン、ジエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、またはピペラジンなどが挙げられるが、これらに限定されない)または塩基付加塩であり、有機(例えば、特に、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、マロン酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、安息香酸塩、アスパラギン酸塩、ジアスパラギン酸塩、トリアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない)か;または、無機(例えば、特に、塩化物、硫酸塩、ホウ酸塩、または炭酸塩などが挙げられるが、これらに限定されない)である。塩の性質は、それが薬学的に許容されるならば重要ではない。本発明のペプチドおよびペプチド二量体の薬学的に許容される塩は、先行技術において、従来の公知の方法によって得ることができる(例えば、Berge et al.J Pharm Sci 1977,66(1),1-19を参照のこと)。
【0082】
本発明のペプチドについて本明細書に記載の活性を示す保存的または非保存的な置換、より好ましくは保存的置換を有するペプチドまたはペプチド二量体も、本発明に含まれる。本発明のペプチドまたはペプチド二量体のいずれかに関して、80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、より好ましくは96%、97%、98%、または99%の割合で一致するペプチドまたはペプチド二量体も、本発明に含まれる。当該ペプチドは、本発明のペプチドに関して、本明細書に記載の活性、より好ましくは保存的置換を示す。
【0083】
〔調製方法〕
本発明のペプチドおよびペプチド二量体、それらの立体異性体、またはそれらの薬学的に許容される塩は、当技術分野で知られている従来の方法にしたがって合成することができる。本発明の一実施形態では、ペプチドおよびペプチド二量体は、溶液相または固相ペプチド合成方法によって合成する。
【0084】
固相合成方法は、例えば、Stewart J.M. and Young J.D.,1984, “Solid Phase Peptide Synthesis, 2nd edition”Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois; Bodanszky M., and Bodanszky A., 1984 “The practice of Peptide Synthesis”Springer Verlag, Berlin; Lloyd-Williams P., Albericio F. and Giralt E. (1997) “Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins”CRC, Boca Raton, FL, USAに記載されている。溶液法における合成および固相合成の組み合わせ、ならびに溶液法または酵素合成は、Kullmann,J Biol Chem 1980,255(17),8234-8238に記載されている。
【0085】
例えば、本発明のペプチドおよびペプチド二量体を得る方法は、以下の工程を含む:
-N末端が保護されており、C末端が遊離であるアミノ酸を、N末端が遊離であり、C末端が保護されているか、または固体支持体に結合しているアミノ酸にカップリングする工程;
-N末端の保護基を除去する工程;
-所望のペプチド配列が得られるまで、N末端の保護基のカップリングおよび除去の配列を繰り返す工程;
-C末端の保護基を除去、または固体支持体から切断する工程。
【0086】
-必要に応じて、得られたペプチドを酸化して、ジスルフィド架橋ペプチド二量体を得る工程。
【0087】
本発明の一実施形態では、本発明のペプチドおよびペプチド二量体、それらの立体異性体、またはそれらの薬学的に許容される塩は、以下の工程を含む方法によって調製する:
a)ポリマー支持体中で固相ペプチド合成を行う工程;
b)前記ポリマー支持体から前記ペプチドを切断する工程(好ましくは、酸処理による);
c)必要に応じて、溶液中で前記ペプチドを酸化して、環状ペプチドまたはペプチド二量体を得る工程;
d)必要に応じて、保護基を除去する工程(好ましくは、トリフルオロ酢酸を用いる);
あるいは、
i)ポリマー支持体中で固相ペプチド合成を行う工程;
ii)必要に応じて、前記ポリマー支持体中で、固相ペプチドサイクリングまたは二量体形成を行う工程;
iii)前記ポリマー支持体から前記ペプチドを切断し、必要に応じて、同時に保護基を除去する工程(好ましくは、トリフルオロ酢酸を用いた処理による);
iv)必要に応じて、溶液中で前記ペプチドを酸化して、ペプチド二量体を得る工程。
【0088】
好ましい態様では、本発明のペプチド二量体は、液相中で本発明のペプチドを酸化することによって得られる。ペプチドのシステイン残基の遊離スルフヒドリル基を酸化して、ジスルフィド架橋ペプチド二量体を形成することができる。好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いて酸化を行う。
【0089】
C末端はポリマー支持体に結合し、プロセスは固相で展開することが好ましい。したがって、当該プロセスは、保護されたN末端および遊離のC末端を有するアミノ酸の、遊離のN末端とポリマー支持体に結合したC末端とを有するアミノ酸へのカップリング工程;N末端から保護基を除去する工程;および前記手順を必要な回数繰り返してターゲットペプチド配列を得、最後に合成したペプチドまたはペプチド二量体を、元のポリマー支持体から切断する工程、を含む。必要に応じて、ペプチドは環状ペプチドであってもよく、環化工程はポリマー支持体から切断する前または後に行ってもよい。アミノ酸側鎖の官能基は、合成の間、一時的または永久的な保護基を用いて適切な保護を維持する。それらは、ポリマー支持体からペプチドを切断するプロセスと同時にまたは直交して脱保護され得る。
【0090】
あるいは、ポリマー支持体上またはポリマー支持体に予め結合させたペプチド断片上に、ペプチド断片をカップリングさせることによる収束的なストラテジーによって固相合成を行うことができる。収束的な合成ストラテジーは当業者に公知であり、Lloyd-Williams P. et al. Tetrahedron 1993, 49(48), 11065-11133に記載されている。
【0091】
本方法は、当技術分野で公知の標準的な方法および条件を用いて、N末端およびC末端を脱保護する工程および/またはペプチドをポリマー支持体から不明確な順序で切断する追加の工程を含んでいてもよい。その後、前記末端の官能基を修飾してもよい。N末端およびC末端の任意の修飾は、ポリマー支持体に固定した本発明の式(I)のペプチドを用いて、またはペプチドがポリマー支持体から切断された後に行うことができる。
【0092】
必要に応じて、Rは本発明のペプチドのN末端をR-Z化合物と反応させることによって導入してもよい。ここで、Rは上述の意味を有し、Zは脱離基(例えば、特に、トシル基、メシル基、およびハロゲン基が挙げられるが、これに限定されない)であり;また、適切な塩基および溶媒の存在下にて、求核置換反応を介して、断片はN-C結合形成に関与せず、一時的または永久的な保護基で便宜的に保護される官能基を有する。Rはまた、本発明の化合物のN末端と、RCOOH基またはそのエステル、酸ハロゲン化物またはその無水物との反応によって導入してもよい。Rはすでに上述で定義した通りである。
【0093】
必要に応じて、および/または追加的に、適切な溶媒と、塩基(例えば、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)、またはトリエチルアミン)、または添加剤(例えば、1-ハイドベンゾトリアゾール(HOBt)、または1-ハイドロアザベンゾトリアゾール(HOAt))と、脱水剤(例えば、特に、カルボジイミド、ウロニウム塩、ホスホニウム塩、またはアミジニウム塩)との存在下での、HR化合物(ここでRは、-OR、-NR、または-SR)と本発明の式(I)のペプチドに対応する相補的断片(Rは-OHである)との反応によって、Rラジカルが導入され得る。それにより、一般式(I)の本発明のペプチドを得る。ここで、前記断片は、N-C、O-C、またはS-Cの結合形成に関与せず、一時的または永久的な保護基によって適切に保護される官能基を有する。あるいは、他のRラジカルは、ポリマー支持体からペプチドを切断するプロセスに同時に組み込み得る。
【0094】
当業者は、C末端およびN末端の脱保護/切断の段階、ならびにそれらのその後の誘導体化は、先行技術にて公知の方法にしたがって、不明確な順序で行ってもよいことを容易に理解する。(例えば、Smith M. B. and March J., 1999 “March’s Advanced Organic Chemistry Reactions, Mechanisms and Structure”, 5th Edition, John Wiley & Sons, 2001を参照のこと)。
【0095】
用語「保護基(protecting group)」およびその複数形は、有機官能基をブロックし、制御した条件下で除去され得る基に関する。保護基、それらの相対反応性、およびそれらが不活性で維持される状態は、当業者に公知である。
【0096】
アミノ基の代表的な保護基の例は、アミド(例えば、アミドアセテート、アミドベンゾエート、アミドピバレート;カルバメート(例えば、特に、ベンジルオキシカルボニル(CbzまたはZ)、2-クロロベンジルオキシカルボニル(ClZ)、para-ニトロベンジルオキシカルボニル(pNZ)、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)、2,2,2-トリクロロエトキシカルボニル(Troc)、2-(トリメチルシリル)エトキシカルボニル(Teoc)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、またはアリルオキシカルボニル(Alloc))、トリチル(Trt)、メトキシトリチル(Mtt)、2,4-ジニトロフェニル(Dnp)、N-[1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシル-1-リデン)エチル](Dde)、1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソ-シクロへキシリデン)-3-メチル-ブチル(ivDde)、1-(1-アダマンチル)-1-メチルエトキシ-カルボニル(Adpoc);好ましくは、BocまたはFmocである。
【0097】
カルボキシル基の代表的な保護基の例は、エステル(例えば、特に、tert-ブチル(tBu)エステル、アリル(All)エステル、トリフェニルメチルエステル(トリチルエステル、Trtエステル)、シクロヘキシル(cHx)エステル、ベンジル(Bzl)エステル、ortho-ニトロベンジルエステル、para-メトキシベンジルエステル、トリメチルシリルエチルエステル、2-フェニルイソプロピルエステル、フルオレニルメチル(Fm)エステル、4-(N-(1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシリデン)-3-メチルブチル)ベンジル(Dmab)エステルであり;本発明の好ましい保護基は、All、tBu、cHex、Bzl、およびTrtエステルである。
【0098】
三官能性アミノ酸は、合成プロセスの間、N末端およびC末端の保護基に直交する一時的または永久的な保護基を用いて保護することができる。上述のアミノ基の保護基は、リジン側鎖のアミノ基を保護するために使用され;アルギニン側鎖のグアニジン基は、ニトロ基、アリルオキシカルボニル(Alloc)、para-トルエンスルホニル(tosyl、Tos)、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル(Pmc)、2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(Pbf)、または4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtr)で保護され得、セリンおよびトレオニンの側鎖は、tert-ブチル(tBu)エステルで保護され得;システイン側鎖は、トリチルおよびアセトアミドメチルからなる群より選択される保護基で保護され得;ならびに、アスパラギン側鎖は、メトキシトリチル、トリチル、およびキサンチルからなる群より選択される保護基で保護され得るか、または、アスパラギン側鎖は、保護されていなくてもよい。アスパラギン酸およびグルタミン酸の側鎖のカルボキシル基を保護するために、エステル(例えば、特に、tert-ブチルエステル(tBu)、アリルエステル(All)、トリフェニルメチルエステル(トリチルエステル、Trt)、シクロヘキシルエステル(cHx)、ベンジルエステル(Bzl)、ortho-ニトロベンジルエステル、para-ニトロベンジルエステル、para-メトキシベンジルエステル、トリメチルシリルエチルエステル、2-フェニルイソプロピルエステル、フルオレニルメチルエステル(Fm)、4-(N-(1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシリデン)-3-メチルブチル)ベンジルエステル(Dmab))を使用することができる。メチオニン側鎖は、スルホキシドで保護されるか、または保護されずに使用される。
【0099】
本発明の好ましい三官能性アミノ酸保護基は、セリンおよびトレオニン中、ならびにアスパラギン酸側鎖およびグルタミン酸側鎖中のtBuエステル;リシン側鎖中のBoc、システイン側鎖中のTrt、およびN末端の一時的な保護基としてのFmocまたはBocである。
【0100】
これらおよび追加の保護基、それらの導入および除去の例は、文献Greene T.W. and Wuts P.G.M., (1999) “Protective groups in organic synthesis”John Wiley & Sons, New York; Atherton B. and Sheppard R.C. (1989) “Solid Phase Peptide Synthesis: A practical approach”IRL Oxford University Pressに見出せる。用語「保護基(protecting group)」およびその複数形はまた、固相合成にて使用するポリマー支持体を含む。
【0101】
合成を完全にまたは部分的に固相にて行う場合、本発明の手順で用いる可能性のある固体支持体は、ポリスチレン支持体、ポリスチレンにグラフトされたポリエチレングリコールなど(例えば、p-メチルベンズヒドリルアミン樹脂(MBHA)(Matsueda et al. Peptides 1981, 2(1), 45-50を参照のこと)、2-クロロトリチル樹脂(Barlos et al. Tetrahedron Lett 1989, 30, 3943-3946; Barlos K. et al. Tetrahedron Lett. 1989, 30, 3947-3951を参照のこと)、TentaGel樹脂(Rapp Polymere GmbH)、ChemMatrix樹脂(Matrix Innovation、Inc)などが挙げられるが、これらに限定されない)が挙げられる。これらは、不安定なリンカー(例えば、5-(4-アミノメチル-3,5-ジメトキシフェノキシ)吉草酸(PAL)(Albericio et al. J Org Chem 1990, 55(3), 3730-3743を参照のこと)、2-[4-アミノメチル-(2,4-ジメトキシフェニル)]フェノキシル酢酸(AM)(Rink 1987,Tetrahedron Lett 28(33),3787-90を参照のこと)、Wang(Wang,J Am Chem Soc 1973,95(4),1328-33を参照のこと)など)を含んでも含まなくてもよい。これらは、溶液中、または固相環式および続く同時発生のペプチドの脱保護および切断においてさえ、脱保護工程を用いて溶液中で半分保護したペプチドの切断および環形成に役立つ。
【0102】
〔薬学的組成物〕
本発明のペプチドおよびペプチド二量体は、哺乳動物の身体、好ましくはヒトの身体において、ペプチドおよびペプチド二量体とそれらの作用部位との間の接触を引き起こす任意の手段によって、それらを含有する組成物の形態で投与することができる。
【0103】
この点に関して、本発明の別の態様は、本発明の少なくとも1つのペプチドおよび/または少なくとも1つのペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩を薬学的な有効量含む、薬学的組成物である。本発明の薬学的組成物は、凍結乾燥または噴霧乾燥によって得られる本発明のペプチドまたはペプチド二量体を含むことができ、その投与に適した溶媒中に再構成することができる。
【0104】
本発明のペプチドおよびペプチド二量体は、それらの配列の性質、またはN末端および/またはC末端における任意の起こり得る修飾にしたがって、可変的な水溶性を有する。したがって、本発明のペプチドおよびペプチド二量体は、水溶液を用いる方法によって、組成物中に組み込むことができる。水に溶解しないものは、薬学的に許容される従来の溶媒(例えば、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、グリセロール、ブチレングリコール、またはポリエチレングリコール、またはそれらの任意の組合せなどが挙げられるが、これらに限定されない)中で可溶化することができる。
【0105】
投与しなければならない本発明のペプチドおよびペプチド二量体の薬学的な有効量、およびそれらの用量は、多数の因子(年齢、患者の状態、治療または予防する障害または疾病の性質または重症度、投与の経路および頻度、ならびに使用するペプチドの特異的性質が挙げられる)に依存する。
【0106】
「薬学的な有効量」は、所望の薬学的効果(すなわち、治療すべき病理の予防治療および/または改善)を提供するために、非毒性であるが充分な量の本発明のペプチドまたはペプチド二量体を意味すると理解される。本発明のペプチドおよびペプチド二量体は、本発明の薬学的組成物において、所望の薬学的効果を達成するための薬学的な有効濃度にて使用する;それらの好ましい形態では、ヒトにおいて有効な1日用量は、0.001mg/kg~250mg/kg、より好ましくは0.005mg/kg~100mg/kg、より好ましくは0.01mg/kg~50mg/kg、さらにより好ましくは0.01mg/kg~10mg/kgである。
【0107】
薬学的組成物の投与頻度は、例えば、1ヶ月間に1回、2週間に1回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回、または1日間に1回とすることができるが、これらに限定されない。
【0108】
本発明のペプチドおよびペプチド二量体、それらの立体異性体、その混合物、および/またはそれらの薬学的に許容される塩はまた、送達システムおよび/または薬学的持続放出システムに組み込まれてもよい。
【0109】
本発明の薬学的組成物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤および/または補助剤を含んでいてもよい。薬学的に許容される賦形剤の数および性質は、所望の投与方法に依存する。薬学的に許容される賦形剤は、当該分野の専門家に公知である(Rowe R.C., Sheskey P.J., Quinn, M.E. (2009) “Handbook of Pharmaceutical Excipients, 6th Edition”, Pharmaceutical Press and American Pharmacists Associationを参照のこと)。前記組成物は、当技術分野で知られている従来の方法を用いて調製することができる。
【0110】
用語「送達システム(delivery system)」およびその複数形は、本発明のペプチドまたはペプチド二量体を投与する希釈剤、補助賦形剤または担体に関する。これらの薬学的担体は、液体(例えば、水、油、または界面活性剤(石油、動物、植物、または合成由来のもの(例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、ヒマシ油、ポリソルベート、ソルビタンエステル、エーテル硫酸塩、硫酸塩、ベタイン、グリコシド、マルトシド、脂肪アルコール、ノノキシノール、ポロキサマー、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、デキストロース、グリセロール、ジギトニンなどが挙げられるが、これらに限定されない)を含む))であってもよい。当業者は、本発明のペプチドおよびペプチド二量体を投与し得る種々の送達システムにて、使用することができる希釈剤、補助剤、または賦形剤を知っている。
【0111】
用語「持続放出」は、ある期間中に前記化合物の徐放を提供し、好ましくは、必ずしもそうではないが、ある期間にわたって比較的一定の化合物放出レベルを有する化合物の送達システムを指す従来の意味で使用する。
【0112】
送達システムまたは持続放出システムの例は、限定されないが、リポソーム、混合リポソーム、オレソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、および固体脂質ナノ粒子、ナノ構造脂質担体、スポンジ、シクロデキストリン、小胞、ミセル、界面活性剤の混合ミセル、界面活性剤-リン脂質混合ミセル、ミリスフェア、ミクロスフェア、およびナノスフェア、リポスフェア、ミリカプセル、マイクロカプセル、およびナノカプセル、ならびにマイクロエマルジョンおよびナノエマルジョンが挙げられる。これらは、活性成分のより大きな生物学的有用性を達成するために、および/またはその薬物動態学的および薬力学的な特性を改善するために添加してもよい。
【0113】
本発明のペプチドおよびペプチド二量体、それらの立体異性体、その混合物、および/またはそれらの薬学的に許容される塩の薬学的組成物は、所望の投与形態の処方に必要な薬学的に許容される賦形剤を含む任意の適切な経路によって、局所または系統的な使用(例えば、局所、経腸、または非経口の経路が挙げられるが、これらに限定されない)によって投与することができる。本発明との関連において、用語「局所」経路は、経皮および眼の経路を含む。用語「経腸」経路は、消化器系(例えば、経口、頬、胃、舌下、および直腸経路)への投与を含む。用語「非経口」は、鼻、耳介、眼、直腸、尿道、膣、皮下、皮内、血管内注射(例えば、静脈内、筋肉内、眼内、脊髄内、頭蓋内、頚部内、脳内、髄膜内、関節内、肝臓内、胸部内、気管内、髄腔内、および腹腔内、および任意の他の類似の注射または注入技術)を指す。in vitroでの処置はまた、例えば、損傷細胞培養物および/または幹細胞中での処置、およびex vivoでの処置も考慮する。
【0114】
より具体的には、本発明のペプチド、ペプチド二量体、および組成物による処置は、投与経路が皮下であることが好ましいため、in vivoで実施する。
【0115】
本発明のペプチドおよびペプチド二量体、それらの立体異性体、その混合物、および/またはそれらの薬学的に許容される塩の薬学的組成物は、他の治療剤および/または治療処置との併用療法によって投与することができる。好ましくは、上記治療剤および/または治療処置は、抗癌剤および/または処置である。
【0116】
〔使用〕
別の態様に関して、本発明は、本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/もしくはその薬学的に許容される塩、または薬剤として使用するための本発明の薬学的組成物に関する。
【0117】
本発明の別の態様は、本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/もしくはその薬学的に許容される塩、または癌および/もしくは転移の治療ならびに/または診断にて使用するための本発明の薬学的組成物に関する。具体的には、本発明のペプチドおよびペプチド二量体は、種々の癌における癌増殖を抑制し、および/または癌細胞の浸潤および転移を減少または抑制することができる。
【0118】
本発明は、癌および/もしくは転移の治療ならびに/または診断の方法に関する。当該方法は、本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/もしくはその薬学的に許容される塩、または本発明の薬学的組成物の、それを必要とする個体(好ましくは、ヒト)への薬学的な有効量の投与を含む。
【0119】
本発明は、本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物および/もしくはその薬学的に許容される塩、または薬剤の製造のための本発明の薬学的組成物の使用に関する。
【0120】
本発明は、癌および/もしくは転移の診断ならびに/または治療を目的とした薬剤の製造のための、本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/もしくはその薬学的に許容される塩、または本発明の薬学的組成物の使用に関する。
【0121】
一実施形態では、本発明は、癌および/もしくは転移の診断における本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/もしくはその薬学的に許容される塩、または本発明の薬学的組成物の使用に関する。前記診断は、ヒトの身体を用いずに行われる。これは、in vitroでの診断と言われている。
【0122】
したがって、好ましい態様では、本発明は、本発明のペプチドまたはペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/もしくはその薬学的に許容される塩、または本発明の薬学的組成物の使用を含む、癌および/もしくは転移のin vitroでの診断方法を指す。
【0123】
癌および/または転移は、神経芽細胞腫、肉腫、軟部組織肉腫(例えば、横紋筋肉腫(胎児性、胞巣状、多形性、および紡錘細胞/硬化性を含む))、内膜肉腫、未分化紡錘細胞肉腫、未分化多形性肉腫、未分化円形細胞肉腫、未分化類上皮細胞肉腫、脂肪肉腫、異型脂肪性腫瘍、悪性孤立性線維性腫瘍、炎症性筋線維芽細胞腫、低悪性度筋線維芽細胞肉腫、線維肉腫(成人および硬化性類上皮型の変種を含む)、粘液線維肉腫、低悪性度線維類粘液肉腫、軟部組織の巨細胞腫瘍、平滑筋肉腫、悪性グロムス腫瘍、血管内皮腫(網状、偽筋原性および類上皮を含む)、軟部組織の血管肉腫、骨外性骨肉腫、悪性消化管間質性腫瘍(GIST)、悪性末梢神経鞘種(類上皮の変種を含む)、悪性トリトン腫瘍、悪性顆粒細胞腫、悪性骨化性粘液性腫瘍、間質肉腫、筋上皮腫、悪性リン酸塩尿性間葉系腫瘍、滑膜肉腫(紡錘細胞および二相性滑膜肉腫を含む)、類上皮肉腫、胞巣状軟部肉腫、軟部組織の明細胞肉腫、骨外性粘液型軟骨肉腫、骨外性ユーイング肉腫、繊維形成性小円形細胞性腫瘍、腎外性横紋筋様腫瘍、血管周囲類上皮細胞腫瘍、骨肉腫(bone sarcomas)(例えば、骨肉腫(osteosarcoma))、軟骨肉腫、およびユーイング肉腫、血管内皮腫、血管肉腫、線維肉腫、および筋線維肉腫、脊索腫、エナメル上皮腫、乳癌(例えば、乳管癌、小葉癌、および乳頭癌)、結腸癌、直腸癌、肛門癌、結腸直腸癌、脳腫瘍(例えば、膠芽腫、星細胞腫、または髄芽腫)、悪性神経膠腫、前立腺癌、黒色腫およびその他の皮膚癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌(例えば、高悪性度漿液性卵巣癌)、子宮体癌、リンパ腫、頭頸部癌、口腔癌、唾液腺癌、網膜芽細胞腫、消化器癌、食道癌、胃癌、膵癌、胆のう癌、肝臓癌(例えば、肝細胞癌(HCC))、腎臓癌(kidney cancer)または腎臓癌(renal cancer)(例えば、ウィルムス腫瘍または腎芽細胞腫)、膀胱癌、肺癌(例えば、小細胞肺癌、非小細胞肺癌)、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、下垂体腺腫、扁平上皮癌、精巣癌、白血病(例えば、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、形質細胞腫または多発性骨髄腫)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
理解を深めるために、添付の図面を参照して、以下で本発明をより詳細に説明する。当該図面は、例として、例示的かつ非限定的な例を参照して示す。
【0125】
〔図面の簡単な説明〕
図1.6個の横紋筋肉腫細胞株におけるITGA9の発現を示すウェスタンブロット画像。対照としてアクチンを使用した。
【0126】
図2.3個の神経芽細胞腫細胞株におけるITGA9の発現を示すウェスタンブロット画像。対照としてアクチンを使用した。
【0127】
図3:6個の異なる乳癌細胞株におけるITGA9の発現を示すウェスタンブロット画像。対照としてアクチンを使用した。
【0128】
図4.賦形剤(PBS、実線、-)、0.5mg/kgの配列番号7-NH(点線、・・・)、または2mg/kgの配列番号7-NH(破線、---)で処置した横紋筋肉腫転移マウスの27週間の研究に沿った無事象生存カプラン-マイヤー曲線。y軸は無事象生存率(%)を示す。x軸は週(週数)を示す。
【0129】
図5.尾静脈にRD細胞を注射し、賦形剤(PBS)、0.5mg/kgの配列番号6-NH、および2mg/kgの配列番号6-NH、または0.5mg/kgの配列番号7-NH、および2mg/kgの配列番号7-NHで処置したマウスの27週間の研究に沿ったマウス1匹当たりの平均転移数。横線は、平均±SEMを示す。統計的有意性:p-値<0.05;**p-値<0.01。y軸はマウス当たりの転移数を示す。x軸は処置群を示し、種々の群は左から右に、賦形剤(PBS)、0.5mg/kgの配列番号6-NH、2mg/kgの配列番号6-NH、0.5mg/kgの配列番号7-NH、2mg/kgの配列番号7-NHである。
【0130】
図6.賦形剤(PBS、実線、-)、1mg/kgの配列番号7-NH(点線、・・・)または2mg/kgの配列番号7-NH(破線、---)で処置した神経芽細胞腫転移性マウスの13週間の研究に沿った無事象生存カプラン-マイヤー曲線。y軸は無事象生存率(%)を示す。x軸は週(週数)を示す。
【0131】
〔実施例〕
本明細書中にて提供する以下の具体的な実施例は、本発明の性質を例示するのに役立つ。これらの実施例は単に例示の目的のために挙げており、本明細書中で権利を主張する本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0132】
〔略語〕
本明細書中で使用する略語は、以下の意味を有する:
AcO、無水酢酸;ACN、アセトニトリル;AcOH、酢酸;Boc、tert-ブチルオキシカルボニル;DCM、ジクロロメタン;DMEM、ダルベッコ修飾イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium);DIEA、N,N’-ジイソプロピルエチルアミン;DIPCDI、ジイソプロピルカルボジイミド;DMF、N,N-ジメチルホルムアミド;EtO、ジエチルエーテル;eq、等価物;ESI-MS、エレクトロスプレーイオン化質量分析;EtO、ジエチルエーテル;Fmoc、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル;HOBT、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール;HPLC、高速液体クロマトグラフィー;ITGA9、インテグリンα9β1;i.v.、静脈内;p-MBHA樹脂、4-メチルベンズヒドリルアミン樹脂;MeOH、メタノール;MW、分子量;μL、マイクロリットル;PBS、リン酸緩衝生理食塩水;RP-HPLC、逆相HPLC;rpm、毎分回転数;s.c、皮下;tBu、tert-ブチル;TFA、トリフルオロ酢酸;TIS、トリイソプロピルシラン;TIO、チオアニソール;tr、滞留時間;Trt、トリチル。
【0133】
実施例1.ペプチドおよびペプチド二量体の合成。
【0134】
Ac-配列番号10-NH:Ac-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Phe-NH
Ac-配列番号3-NH:Ac-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH
Octanoyl-配列番号3-NH:Octanoyl-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH
配列番号4-NH:Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH
Ac-配列番号5-NH:Ac-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH
Octanoyl-配列番号5-NH:Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH
配列番号6-NH:Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH
配列番号7-NH:Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH
(配列番号6-NH(ジスルフィド架橋):(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(ジスルフィド架橋)
Octanoyl-配列番号8-NH:Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH
配列番号9-NH:Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH
【0135】
ペプチドの合成には、固相ペプチド合成を使用した。ペプチドAc-配列番号10-NH(ADAM-12の天然ディスインテグリン領域内に含まれ、特に、配列番号2内に含まれる12個のアミノ酸配列)も対照化合物として合成した。
【0136】
ペプチドは全て、種々のスケール(0.3mmol~30mmol)で、4-メチルベンズヒドリルアミン樹脂(p-MBHA)を用いた標準的なFmoc/tBuストラテジーによる固相ペプチド合成によって、手動または自動ペプチド合成機(Liberty、CEM)を用いて合成した。各々の配列について、樹脂を、フィルタープレートを備えた適切な反応容器に入れた。Fmoc-AM-OHリンカー(2eq)およびHOBT(2eq)を溶解するまで撹拌したDMF:DCM(1:1)に溶解し、次いでDIPCDI(2eq)を添加した。溶液を反応容器に移し、40分間~60分間反応させた。リンカーの取り込みはニンヒドリン試験によって制御した。ニンヒドリン試験が陽性であった場合、再活性化または再カップリング工程を、カップリングが完了するまで実施した。
【0137】
カップリングが完了すると、合成は、DMF中20%のピペリジン溶液を用いた処置(5分間に2回および10分間に2回)によって、Fmoc基の除去と共に進行した。ペプチド樹脂をDMFで5回洗浄し、濾過し、洗浄液を廃棄し、次のアミノ酸をカップリングした。DMF(Fmoc-Msa-OHを1.5eqでカップリング)中のFmoc-AA-OH:DIPCDI:HOBt(3eq:3eq:3eq)を用いて、カップリングを行った。これらのカップリング反応は全て、40分間~60分間反応した。各々のカップリング反応の完了をニンヒドリン試験(またはカップリングがプロリンの第二級アミン上にある場合はクロラニル)で制御した。必要に応じて、再活性化工程または再カップリング工程を行った。自動合成機で行った合成は、ニンヒドリン試験によって(クロラニルによっても)制御しなかった。必要に応じて、合成の最後に、DMF中AcO(2.5eq)とDIEA(5eq)とを用いることで、アセチル化を行った。N末端オクタノイルを有するこれらの配列については、5eqのオクタン酸、HOBTおよびDIPCDIをアシル化に使用した。ペプチド配列の完成後、ペプチジル樹脂をDMF、MeOH、およびEtOで洗浄し、乾燥させた。
【0138】
合成後、以下の手順にしたがってペプチドの切断を行った。ペプチジル樹脂を、室温で適切なTFA混合物(以下表2を参照のこと)中にて、2時間~4時間反応させた。樹脂をTFAおよびEtOで洗浄した。全ての濾液を低温エーテル81:7(v:v)に注入し、15分間~30分間静置した。フィルタープレートを通して、得られた懸濁液を濾過し、フィルターを廃棄した。残渣をエーテルで洗浄し、各々の洗浄で用いたフィルターを廃棄した。固体を凍結乾燥し、ペプチド粗生成物を得た。以下の表(表2)は、種々のペプチドおよびペプチド二量体に使用したTFAカクテルを示す。
【0139】
【表2】
【0140】
ペプチド二量体(配列番号6-NH(ジスルフィド架橋)は、水中、10%AcOH中、15%DMSO中にて、10mg/mL濃度のペプチド(配列番号6-NH)20mgを48時間~72時間酸化することによって得た。次いで、Sep pack C18カートリッジ(Waters)を使用して回収した。ペプチド二量体を、C18カラムに保持した。次いで、水:アセトニトリルの混合物(80:20)で回収し、凍結乾燥して17mgのペプチド二量体(配列番号6-NH(ジスルフィド架橋)を得た(収率81%)。
【0141】
粗ペプチドおよびペプチド二量体を、10マイクロメートルのクロマシルシリカを充填したNW50カラムを備えた半分取システムで精製し、分析用RP-HPLCで分析した純粋画分を凍結乾燥した。
【0142】
以下の表(表3)は、合成の重量計、粗ペプチドおよび純粋ペプチドの収率、ならびに各々の化合物のMWを示す。
【0143】
【表3】
【0144】
イオン交換工程は以下のように行った。凍結乾燥した純粋な化合物をAcOHの混合物に溶解した。次いで、それらを含有する酢酸溶液をDOWEX樹脂で処置し、酢酸塩対イオンを有するペプチドまたはペプチド二量体を得た。最後に、酢酸塩化合物を濾過して回収し、凍結乾燥した。
【0145】
以下の表(表4)に示すように、ペプチドおよびペプチド二量体をESI-MS装置中にて質量分析によって特性決定した。
【0146】
【表4】
【0147】
実施例2.in vitro安定性。ヒト血漿中のペプチドおよびペプチド二量体の半減期(t1/2)の測定。
【0148】
実施例1にしたがって合成および調製したペプチドおよびペプチド二量体を、6mg/mLの濃度にて水中に溶解し、37℃まで温めた。
【0149】
ヒト血漿を凍結乾燥固形物(K3 EDTA血漿、BBI溶液、コードS112-1)として得た。滅菌0.9%塩化ナトリウム溶液で再構成し、-20℃で保存した。ヒト血漿を解凍し、使用前に37℃でインキュベートした。
【0150】
ペプチドおよびペプチド二量体を、90%ヒト血漿中、37℃にて種々の期間インキュベートし、次いで2体積当量のメタノールで沈殿させた。サンプルをアセトン-二酸化炭素浴中で数秒間冷却し、約10,000rpm、4℃にて12分間遠心分離した。上清を0.45μmPVDFフィルターで濾過し、定組成法(溶離剤A=水中0.1%TFA;溶離剤B=ACN中0.07%TFA、カラム=Kromasil C8、100Å、5μm、250×4.6mm、流量=1mL/分、波長:220nm、注射容量=20μL、温度=60℃)を用いて、RP-HPLCによって3連で分析した。化合物の消失は、その半減期を計算するための初期期間の面積に関連して決定した。
【0151】
以下の表(表5)は、ペプチドおよびペプチド二量体についてのt1/2データを示す。
【0152】
【表5】
【0153】
実施例3.インテグリンα9β1(ITGA9)タンパク質レベル。ウェスタンブロットによるITGA9タンパク質発現の評価。
【0154】
横紋筋肉腫細胞株RH30、CW9019、RH4、RH18、RD、およびHTB82を、10%ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma-Aldrich)、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、1x非必須アミノ酸、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン(全てBiowestの試薬)を補充したアール塩(Biowest)を含む最小必須培地中で培養した。神経芽細胞腫細胞株CHLA-90、BE(2)-CおよびSK-N-BE(2)-Cを、10%FBS(Sigma-Aldrich)、1%インスリン-トランスフェリン-セレンGサプリメント(Thermo Fisher Scientific)、100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン(Biowest)を補充したイスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)(Thermo Fisher Scientific)中で増殖させた。乳癌細胞株MDA-MB-231、MDA-MB-468 MCF7、T47D、BT474およびMCF10Aを、10%FBS(Sigma)、1x非必須アミノ酸、100U/mlペニシリンおよび0.1mg/mlストレプトマイシン(全てBiowestの試薬)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)(Thermo Fisher Scientific)中で培養した。全ての細胞株を、5%COで制御した大気中で37℃にて管理した。
【0155】
80%コンフルエンスにて、細胞をPBSで洗浄し、プロテアーゼ阻害剤(Roche)およびホスファターゼ阻害剤(Sigma)を補充したRIPAタンパク質溶解緩衝液(Thermo Fisher Scientific)中にてかき取った。細胞溶解物を95℃で5分間インキュベートした。4℃にて15分間、13000rpmで遠心分離した後、細胞の残骸を廃棄した。上清タンパク質濃度を、DCタンパク質アッセイ(Bio-Rad Laboratories)によって製造業者の指示にしたがって定量した。
【0156】
タンパク質を、8%SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)によって分離し、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜(GE Healthcare)上に移した。TBS-T(トリス緩衝生理食塩水-ツイーン)中の5%BSA(ウシ血清アルブミン)で1時間ブロッキングした後、膜を4℃にて希釈した一次抗体と共に一晩インキュベートした。抗体は以下の通りであった:1:1000に希釈した抗α9-インテグリンモノクローナル抗体クローン3E4(Novus Biologicals)、1:1000に希釈した抗FAK(Cell Signaling)、1:1000に希釈したTyr397(Cell Signaling)の抗ホスホ-FAK、および1:10000に希釈した抗アクチン(Santa Cruz Biotechnology)。TBS-Tで洗浄した後、膜を、対応するペルオキシダーゼ結合二次抗体と共に、室温で1時間インキュベートした。免疫反応性バンドをECLプライム化学発光検出試薬(GE Healthcare)で可視化した。
【0157】
図1、2および3のウェスタンブロット画像に示されるように、ITGA9の発現は、RDにおいてRH30細胞よりも高く、BE(2)-CおよびCHLA-90細胞においてSK-N-BE(2)-C細胞よりも高く、また評価した残りの乳癌細胞株の中で、MDA-MB-468細胞においても高い。
【0158】
実施例4.横紋筋肉腫細胞株(RH30およびRD)におけるin vitroでの侵襲性の測定。
【0159】
10個のRH30またはRD細胞を、マトリゲル被覆トランスウェル(コーニング)の上部チャンバーに、FBSを含まない0.1mL培地中で平板培養した。細胞を種々の濃度(0nM、100nM、200nM、500nM、および1000nM)のペプチドおよびペプチド二量体と共に48時間予めインキュベートし、細胞浸潤アッセイの間に培地中にも存在させた。下部チャンバーに、FBSを含む培地0.6mLを添加した。細胞を37℃で24時間インキュベートした。
【0160】
その後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(Sigma)で10分間固定した。その後、PBSで洗浄した。マトリゲルおよび残りの細胞を綿棒で膜の上面から除去した。その後、下面に存在する細胞をHoechst希釈液(Sigma)で染色し、10x対物レンズを備えた倒立蛍光顕微鏡Nikonで数えた(各々のウェルについて5視野)。実験は全て3連で行った。表6において、%侵襲性は、それらの制御に対する侵襲性細胞の平均割合を示す。
【0161】
【表6】
【0162】
全てのペプチド類似体は、非処置細胞と比較して、RH30および/またはRD横紋筋肉腫細胞の侵襲性の割合(%侵襲性)の有意な減少を引き起こした。これは、種々の濃度のペプチド類似体で有意に達した。Ac-配列番号5-NHおよび(配列番号6-NHは、100nMのペプチド濃度にてRH30細胞の侵襲性%の有意な減少を示した。Octanoyl-配列番号5-NHおよび配列番号6-NHは、500nMにて有意な減少を示した。RD細胞の侵襲性%の有意な低下は、500nM濃度でのOctanoyl-配列番号5-NHでの処置、および1μM濃度での(配列番号6-NHおよびOctanoyl-配列番号8-NHでの処置にて観察された。配列番号7-NHは、最低投与量(100nm)でさえ、50%未満の侵襲性で、RD細胞侵襲性に有意な影響を示した。低いITGA9発現を示したRH30細胞株中では、その効果はより穏やかであり、有意に達することなく%侵襲性を減少させた。
【0163】
実施例5.神経芽細胞腫細胞株(CHLA-90およびBE(2)-C)におけるin vitroでの侵襲性の測定。
【0164】
CHLA-90およびBE(2)-C細胞株を用いたトランスウェルアッセイを同じ詳細な条件で行い、横紋筋肉腫細胞における侵襲性%を測定した。
【0165】
表7で述べるように、神経芽細胞腫細胞株はまた、ペプチド(配列番号6-NH)に対する感受性を示し、200nMおよび500nMの濃度にて、それぞれ、細胞株CHLA-90およびBE(2)-Cの両方について、%侵襲性の有意な減少に達した。
【0166】
【表7】
【0167】
実施例6.神経芽細胞腫細胞(CHLA‐90、BE(2)‐CおよびSK‐N‐BE(2)‐C)および乳癌細胞株(MDA‐MB‐231およびMDA‐MB‐468)におけるin vitro侵襲性に対するペプチド(配列番号7-NH)の結果。
【0168】
神経芽細胞腫細胞株(CHLA-90、BE(2)-CおよびSK-N-BE(2)-C)および乳癌細胞株(MDA-MB-231およびMDA-MB-468)を用いたトランスウェルアッセイを、同じ詳細な条件で行い、横紋筋肉腫細胞における侵襲性%を測定した。
【0169】
表8に示すように、神経芽細胞腫細胞株CHLA-90およびBE(2)-Cはまた、ペプチド(配列番号7-NH)に対する感受性を示し、細胞侵襲性は有意に減少した。第3の神経芽細胞腫細胞株中にて、当該ペプチドを使用したさらなる侵襲性の研究では、この処置がまた、ITGA9を過剰発現しないSK-N-BE(2)-C細胞株において、500nM濃度での侵襲を抑制する点で有効であることを示した。乳癌細胞株において、細胞株MDA-MB-468は、処置下での侵襲の明らかな減少を示した。一方で、細胞株MDA-MB-231(低いITGA9発現を伴う)は、最大処置用量で穏やかな減少を示した(統計的に有意ではなかった)。
【0170】
【表8】
【0171】
総合して、これらの結果は、より高いITGA9発現レベルと、侵襲を減少させるペプチド(配列番号7-NH)のより良好な有効性との間の特有の関連性を示さない。したがって、ITGA9との相互作用は、ペプチドアナログが効力を示す唯一の分子メカニズムであってはならない。その理由は、例えば、500nm濃度での配列番号7-NHが、低ITGA9発現レベルを有する細胞株であるSK-N-BE(2)-Cの侵襲性について、有意な減少を引き起こしたからである。
【0172】
実施例7.横紋筋肉腫転移マウスモデルにおけるin vivoでの侵襲性。
【0173】
5週齢のSCID/Beige雌マウスに、-1日目に、賦形剤(PBS、リン酸緩衝生理食塩水)またはペプチドを最初の処置用量で皮下(s.c.)投与した。0日目に、マウスの尾静脈に2×10のRD横紋筋肉腫細胞を静脈内(i.v.)注射した。その後、マウスを、賦形剤PBS(n=9);配列番号6-NH0.5mg/kg(n=6);配列番号6-NH2mg/kg(n=7);配列番号7-NH0.5mg/kg(n=6)および配列番号7-NH2mg/kg(n=7)にて、27週間、週に3回(2~3日毎)皮下に処置した。
【0174】
体重は27週間、週2回評価した。全ての生存率および無事象生存率を測定した。剖検時に、転移の総数を定量し、マウス1匹当たりの転移数およびその局在位置も報告した。
【0175】
研究に沿って、賦形剤処置マウスは、配列番号6-NH(p<0.0001)0.5mg/kg、配列番号6-NH(p<0.0001)2mg/kg、配列番号7-NH(p=0.0006)0.5mg/kgおよび配列番号7-NH(p=0.0012)2mg/kgで処置したマウスよりも、統計的に有意に低い体重を示した。これらの差異は主に、配列番号6-NHおよび配列番号7-NHペプチドで処置した群において、転移が発生したマウスの割合が低いことによるものであった。
【0176】
表9に示すように、全てのPBS処置マウスは転移を発症した。配列番号6-NHの2つの試験用量および配列番号7-NHの低用量での処置は、転移形成において、約15%の減少を引き起こした。一方、配列番号7-NH2mg/kgで処置した群では、7匹のマウスのうち2匹のみが転移し、PBS処置群と比べて統計的に有意な減少を示した(p=0.0048)。
【0177】
【表9】
【0178】
処置群当たりの無事象生存率の表出はまた、賦形剤で処置した対照群と比較した場合、2mg/kg用量の配列番号7-NHで処置した群において有意な差を示した(ログ・ランク p値=0.0006)。試験した、より低用量の配列番号7-NHおよび両用量の配列番号6-NHは、賦形剤で処置した群と比較した場合、統計的に有意な差を示さなかった(図4は、PBSおよび配列番号7-NHで処置した動物についての結果を示す)。
【0179】
さらに、RD細胞を単回静脈内投与した後に、ならびに賦形剤または種々の処置を1週間に3回皮下投与した後に、マウス1匹当たりの形成した転移数を評価したところ、2mg/kgの配列番号6-NHおよび配列番号7-NHは、賦形剤(PBS)で処置した対照マウスと比較して、マウス1匹当たりの転移形成が統計的に減少していた(配列番号6-NH2mg/kg、p=0.0058;配列番号7-NH2mg/kg、p=0.0184)(図5)。
【0180】
上述の結果は、より低用量の配列番号6-NHまたは配列番号7-NHが、無事象生存率として評価した転移発現の遅延においても、転移がないマウスの数においても、有意な影響を示さなかったことを表す。しかし、より高用量の配列番号6-NHおよび配列番号7-NHでの処置は、剖検で観察される転移数の減少において、有用であることを示した。
【0181】
局在位置との関係では、転移は、腸、子宮、足、背部脾臓、卵巣および副腎の種々の局在位置にて発現した。全ての処置群において、卵巣、副腎、背部および脾臓への転移が、より高頻度であった。
【0182】
実施例8.神経芽細胞腫転移性マウスモデルに対するペプチド(配列番号7-NH)の効果。
【0183】
-1日目に、5週齢のSCID/Beige雌マウスに、1mg/kgおよび2mg/kgの用量の賦形剤(PBS)またはペプチド(配列番号7-NH)を最初の処置用量で皮下(s.c.)投与した。0日目に、マウスの尾静脈に2×10のBE(2)-C神経芽細胞腫細胞を静脈内(i.v.)注射した。その後、マウスを、1mg/kg(n=9)および2mg/kg(n=9)の用量の賦形剤PBS(n=8)および配列番号7-NHで13週間、週3回(2~3日毎)皮下に処置した。
【0184】
表10に示すように、PBS処置群の8匹中7匹(88%)が転移を発症したのに対し、配列番号7-NH2mg/kgで処置した群では、転移したマウスの数が少ない傾向にあった(9匹中4匹(44%)、p=0.1312)
【0185】
【表10】
【0186】
さらに、無事象生存率の表出は、賦形剤で処置した群(生存率:8匹中1匹、13%)、ペプチド1mg/kg(配列番号7-NH)で処置した群(生存率:9匹中2匹(22%)、ログ・ランク p値=0.6294)、およびペプチド2mg/kgで処置した群(生存率:9匹中5匹(56%)、ログ・ランクp値=0.0658)の間で顕著な差を示し、最大用量でのペプチド(配列番号7-NH)の有用性を示した(図6)。
【図面の簡単な説明】
【0187】
図1】6個の横紋筋肉腫細胞株におけるITGA9の発現を示すウェスタンブロット画像。対照としてアクチンを使用した。
図2】3個の神経芽細胞腫細胞株におけるITGA9の発現を示すウェスタンブロット画像。対照としてアクチンを使用した。
図3】6個の異なる乳癌細胞株におけるITGA9の発現を示すウェスタンブロット画像。対照としてアクチンを使用した。
図4】賦形剤(PBS、実線、-)、0.5mg/kgの配列番号7-NH(点線、・・・)、または2mg/kgの配列番号7-NH(破線、---)で処置した横紋筋肉腫転移マウスの27週間の研究に沿った無事象生存カプラン-マイヤー曲線。y軸は無事象生存率(%)を示す。x軸は週(週数)を示す。
図5】尾静脈にRD細胞を注射し、賦形剤(PBS)、0.5mg/kgの配列番号6-NH、および2mg/kgの配列番号6-NH、または0.5mg/kgの配列番号7-NH、および2mg/kgの配列番号7-NHで処置したマウスの27週間の研究に沿ったマウス1匹当たりの平均転移数。横線は、平均±SEMを示す。統計的有意性:p-値<0.05;**p-値<0.01。y軸はマウス当たりの転移数を示す。x軸は処置群を示し、種々の群は左から右に、賦形剤(PBS)、0.5mg/kgの配列番号6-NH、2mg/kgの配列番号6-NH、0.5mg/kgの配列番号7-NH、2mg/kgの配列番号7-NHである。
図6】賦形剤(PBS、実線、-)、1mg/kgの配列番号7-NH(点線、・・・)または2mg/kgの配列番号7-NH(破線、---)で処置した神経芽細胞腫転移性マウスの13週間の研究に沿った無事象生存カプラン-マイヤー曲線。y軸は無事象生存率(%)を示す。x軸は週(週数)を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
2023504533000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-08-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のペプチド:
-AA-AA-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-AA-Asp-Leu-Pro-Glu-AA-AA-R (I)
その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩であって、
AA Pyr、または、結合であり;
AAは、Lys、Cys、または、結合であり;
AAは、Cys、Met、または、Cys(Cys)(Cystine)であり;
AAは、2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)、または、2,4,6-トリメチルフェニルグリシン(Msg)であり;
AAは、Lys、Cys、または、結合であり;
は、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のヘテロアリールアルキル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアラルキル、ポリエチレングリコールに由来するポリマー、およびR-CO-からなる群より選択され、ここで、Rは、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のアリール、置換または非置換のアラルキル、置換または非置換のヘテロシクリル、および置換または非置換のヘテロアリールアルキルからなる群より選択され;
は、-NR、-OR、および-SRからなる群より選択され、ここで、RおよびRは独立して、H、置換または非置換の非環状脂肪族基、置換または非置換のアリシクリル、置換または非置換のヘテロシクリル、置換または非置換のヘテロアリールアルキル、置換または非置換のアリール、および置換または非置換のアラルキルからなる群より選択される、
ペプチド、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
AAは、2,4,6-トリメチルフェニルアラニン(Msa)である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
AAおよびAAは、Lysまたは結合から独立して選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項4】
は、HおよびR-CO-からなる群より選択され、
ここで、Rは;置換または非置換のC-C24アルキル;置換または非置換のC-C24アルケニル;置換または非置換のC-C24アルキニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキル;置換または非置換のC-C24シクロアルケニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキニル;置換または非置換のC-C30アリール;置換または非置換のC-C24アラルキル;3個~10個の環員を有する置換または非置換のヘテロシクリル;ならびに、2個~24個の炭素原子を有し、1個~3個の炭素以外の原子を有し、かつ、炭素原子が1個~6個であるアルキル鎖を有する、置換または非置換のヘテロアリールアルキル;からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
は、H、アセチル、tert-ブタノイル、ヘキサノイル、2-メチルヘキサノイル、シクロヘキサンカルボキシル、オクタノイル、デカノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、オレオイル、およびリノレオイルからなる群より選択される、請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
は、-NRまたは-ORであって、
ここで、RおよびRは独立して、H;置換または非置換のC-C24アルキル;置換または非置換のC-C24アルケニル;置換または非置換のC-C24アルキニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキル;置換または非置換のC-C24シクロアルケニル;置換または非置換のC-C24シクロアルキニル;置換または非置換のC-C30アリール;置換または非置換のC-C24アラルキル;3個~10個の環員を有する置換または非置換のヘテロシクリル;ならびに、2個~24個の炭素原子を有し、1個~3個の炭素以外の原子を有し、かつ、炭素原子が1個~6個であるアルキル鎖を有する、置換または非置換のヘテロアリールアルキル;からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項7】
およびRは独立して、H、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシルおよびヘキサデシルからなる群より選択される、請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
請求項1に記載の式(I)で表されるペプチドを2個含むペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩であって、
前記ペプチド二量体は、ジスルフィド架橋ペプチド二量体である、ペプチド二量体。
【請求項9】
以下からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド、または請求項8に記載のペプチド二量体:
-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-R(R-配列番号3-R
Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-R(配列番号4-R
-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(R-配列番号5-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号6-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号7-R
(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(ジスルフィド架橋)[(配列番号6-R(ジスルフィド架橋)]
-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(R-配列番号8-R
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-R(配列番号9-R)。
【請求項10】
以下からなる群より選択される、請求項1に記載のペプチド、または請求項8に記載のペプチド二量体:
Ac-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(Ac-配列番号3-NH
Octanoyl-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(Octanoyl-配列番号3-NH
Pyr-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-NH(配列番号4-NH
Ac-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Ac-配列番号5-NH
Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Octanoyl-配列番号5-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号6-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号7-NH
(Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(ジスルフィド架橋)[(配列番号6-NH(ジスルフィド架橋)]
Octanoyl-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Met-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(Octanoyl-配列番号8-NH
Pyr-Lys-Arg-Asp-Ser-Ser-Asn-Ser-Cys(Cys)-Asp-Leu-Pro-Glu-Msa-Lys-NH(配列番号9-NH)。
【請求項11】
請求項1に記載のペプチドまたは請求項8に記載のペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩を調製する方法であって、
固相ペプチド合成または溶液中でのペプチド合成を用いて行われる、方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、請求項11に記載の方法:
a)ポリマー支持体中で固相ペプチド合成を行う工程;
b)前記ポリマー支持体から前記ペプチドを切断する工程;
c)必要に応じて、溶液中で前記ペプチドを酸化して、環状ペプチドまたはペプチド二量体を得る工程;
d)必要に応じて、保護基を除去する工程;
あるいは、
i)ポリマー支持体中で固相ペプチド合成を行う工程;
ii)必要に応じて、前記ポリマー支持体中で、固相ペプチドサイクリングまたは二量体形成を行う工程;
iii)前記ポリマー支持体から前記ペプチドを切断し、必要に応じて、同時に保護基を除去する工程;
iv)必要に応じて、溶液中で前記ペプチドを酸化して、ペプチド二量体を得る工程。
【請求項13】
少なくとも1個の請求項1に記載のペプチド、または、少なくとも1個の請求項8に記載のペプチド二量体、もしくは、それらの組み合わせ、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩、の薬学的な有効量を含む、薬学的組成物。
【請求項14】
上記ペプチド、または、上記ペプチド二量体は
リポソーム、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子、および固体脂質ナノ粒子、ナノ構造脂質担体、スポンジ、シクロデキストリン、小胞、ミセル、界面活性剤の混合ミセル、界面活性剤-リン脂質混合ミセル、ミリスフェア、ミクロスフェア、ナノスフェア、リポスフェア、ミリカプセル、マイクロカプセル、ナノカプセル、マイクロエマルジョン、およびナノエマルジョンからなる群より選択される、送達システム、および/または持続放出システムに組み込まれる、請求項13に記載の薬学的組成物。
【請求項15】
薬剤として使用するための、請求項1に記載のペプチド、または請求項8に記載のペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩。
【請求項16】
癌および/または転移の治療および/または診断に使用するための、請求項1に記載のペプチド、または請求項8に記載のペプチド二量体、その立体異性体、その混合物、および/またはその薬学的に許容される塩。
【請求項17】
上記癌および/または転移は、神経芽細胞腫、肉腫、軟部組織肉腫、横紋筋肉腫(胎児性、胞巣状、多形性および紡錘細胞/硬化性横紋筋肉腫を含む)、内膜肉腫、未分化紡錘細胞肉腫、未分化多形性肉腫、未分化円形細胞肉腫、未分化類上皮細胞肉腫、脂肪肉腫、異型脂肪性腫瘍、悪性孤立性線維性腫瘍、炎症性筋線維芽細胞腫、低悪性度筋線維芽細胞肉腫、線維肉腫(成人および硬化性類上皮線維肉腫の変種を含む)、粘液線維肉腫、低悪性度線維類粘液肉腫、軟部組織の巨細胞腫瘍、平滑筋肉腫、悪性グロムス腫瘍、血管内皮腫(網状、偽筋原性および類上皮血管内皮腫を含む)、軟部組織の血管肉腫、骨外性骨肉腫、悪性消化管間質性腫瘍(GIST)、悪性末梢神経鞘種、悪性トリトン腫瘍、悪性顆粒細胞腫、悪性骨化性粘液性腫瘍、間質肉腫、筋上皮腫、悪性リン酸塩尿性間葉系腫瘍、滑膜肉腫(紡錘細胞および二相性滑膜肉腫を含む)、類上皮肉腫、胞巣状軟部肉腫、軟部組織の明細胞肉腫、骨外性粘液型軟骨肉腫、骨外性ユーイング肉腫、繊維形成性小円形細胞性腫瘍、腎外性横紋筋様腫瘍、血管周囲類上皮細胞腫瘍、骨肉腫(bone sarcomas)、骨肉腫(osteosarcoma)、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、血管内皮腫、血管肉腫、線維肉腫、筋線維肉腫、脊索腫、エナメル上皮腫、乳癌(乳管癌、小葉癌、および乳頭癌を含む)、結腸癌、直腸癌、肛門癌、結腸直腸癌、脳腫瘍、膠芽腫、星細胞腫、または髄芽腫、悪性神経膠腫、前立腺癌、黒色腫およびその他の皮膚癌、子宮頸癌、子宮癌、卵巣癌(高悪性度漿液性卵巣癌を含む)、子宮体癌、リンパ腫、頭頸部癌、口腔癌、唾液腺癌、網膜芽細胞腫、消化器癌、食道癌、胃癌、膵癌、胆のう癌、肝臓癌(肝細胞癌(HCC)を含む)、腎臓癌(kidney cancer)または腎臓癌(renal cancer)、ウィルムス腫瘍または腎芽細胞腫、膀胱癌、肺癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、下垂体腺腫、扁平上皮癌、精巣癌、白血病(急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、形質細胞腫および多発性骨髄腫を含む)からなる群より選択される、請求項16に記載の使用のためのペプチドまたはペプチド二量体。
【国際調査報告】