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特表2023-504562加工性、クリープ強度および耐食性に優れたニッケル-クロム-アルミニウム合金およびその使用
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  • 特表-加工性、クリープ強度および耐食性に優れたニッケル-クロム-アルミニウム合金およびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-03
(54)【発明の名称】加工性、クリープ強度および耐食性に優れたニッケル-クロム-アルミニウム合金およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20230127BHJP
   C22F 1/10 20060101ALN20230127BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20230127BHJP
【FI】
C22C19/05 F
C22F1/10 H
C22F1/00 604
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630G
C22F1/00 630K
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 640D
C22F1/00 640Z
C22F1/00 641Z
C22F1/00 650A
C22F1/00 651A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 694A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533608
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-07-01
(86)【国際出願番号】 DE2020101026
(87)【国際公開番号】W WO2021110218
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】102019133293.1
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020132219.4
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516236078
【氏名又は名称】ファオデーエム メタルズ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】VDM Metals International GmbH
【住所又は居所原語表記】Plettenberger Strasse 2, D-58791 Werdohl, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハイケ ハッテンドルフ
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト ノヴァク
(57)【要約】
本発明は、熱伝達媒体として塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物を使用するソーラータワー発電所で使用するための、(重量%で)12~30%のクロム、1.8~4.0%のアルミニウム、0.1~7.0%の鉄、0.001~0.50%のケイ素、0.001~2.0%のマンガン、0.00~1.00%のチタン、0.00~1.10%のニオブ、0.00~0.5%の銅、0.00~5.00%のコバルト、各0.0002~0.05%のマグネシウムおよび/またはカルシウム、0.001~0.12%の炭素、0.001~0.050%の窒素、0.001~0.030%のリン、0.0001~0.020%の酸素、最大0.010%の硫黄、最大2.0%のモリブデン、最大2.0%のタングステン、最小含有量50%以上の残部のニッケル、およびプロセスに起因する通常の不純物を含むニッケル-クロム-アルミニウム合金であって、良好な加工性を保証するために、次の条件:Fv≧0.9が満たされている必要があり、ここで、Fv=4.88050-0.095546*Fe-0.0178784*Cr-0.992452*Al-1.51498*Ti-0.506893*Nb+0.0426004*Al*Feであり、ここで、Fe、Cr、Al、TiおよびNbは、当該元素の重量%での濃度である、合金に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝達媒体として塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物を使用するソーラータワー発電所で使用するための、(重量%で)12~30%のクロム、1.8~4.0%のアルミニウム、0.1~7.0%の鉄、0.001~0.50%のケイ素、0.001~2.0%のマンガン、0.00~1.00%のチタン、0.00~1.10%のニオブ、0.00~0.5%の銅、0.00~5.00%のコバルト、各0.0002~0.05%のマグネシウムおよび/またはカルシウム、0.001~0.12%の炭素、0.001~0.050%の窒素、0.001~0.030%のリン、0.0001~0.020%の酸素、最大0.010%の硫黄、最大2.0%のモリブデン、最大2.0%のタングステン、最小含有量50%以上の残部のニッケル、およびプロセスに起因する通常の不純物を含むニッケル-クロム-アルミニウム合金であって、良好な加工性を保証するために、次の条件:
Fv≧0.9
が満たされている必要があり、ここで、
Fv=4.88050-0.095546*Fe-0.0178784*Cr-0.992452*Al-1.51498*Ti-0.506893*Nb+0.0426004*Al*Fe
であり、ここで、
Fe、Cr、Al、TiおよびNbは、当該元素の重量%での濃度である、合金。
【請求項2】
溶融塩と接触するすべての部品に使用するための、請求項1記載の合金。
【請求項3】
250℃から最高1000℃までの温度での、請求項1または2記載の合金。
【請求項4】
クロム含有量が14~30%である、請求項1から3までのいずれか1項記載の合金。
【請求項5】
アルミニウム含有量が2.0~4%である、請求項1から4までのいずれか1項記載の合金。
【請求項6】
鉄含有量が0.1~4.0%である、請求項1から5までのいずれか1項記載の合金。
【請求項7】
ケイ素含有量が0.001~<0.40%である、請求項1から6までのいずれか1項記載の合金。
【請求項8】
マンガン含有量が0.001~1.0%である、請求項1から7までのいずれか1項記載の合金。
【請求項9】
チタン含有量が0.001~0.60%である、請求項1から8までのいずれか1項記載の合金。
【請求項10】
ニオブ含有量が0.00~0.7%である、請求項1から9までのいずれか1項記載の合金。
【請求項11】
炭素含有量が0.001~0.10%である、請求項1から10までのいずれか1項記載の合金。
【請求項12】
任意に、イットリウム含有量が0.001~0.20%である、請求項1から11までのいずれか1項記載の合金。
【請求項13】
任意に、ランタンを0.001~0.20%の含有量で含む、請求項1から12までのいずれか1項記載の合金。
【請求項14】
任意に、セリウムを0.001~0.20%の含有量で含む、請求項1から13までのいずれか1項記載の合金。
【請求項15】
任意に、セリウムミッシュメタル含有量が0.001~0.20%である、請求項1から14までのいずれか1項記載の合金。
【請求項16】
任意に、ジルコンを0.001~0.20%の含有量で含む、請求項1から15までのいずれか1項記載の合金。
【請求項17】
任意に、ハフニウム含有量が0.001~0.20%である、請求項1から16までのいずれか1項記載の合金。
【請求項18】
任意に、ホウ素を0.0001~0.008%の含有量で含む、請求項1から17までのいずれか1項記載の合金。
【請求項19】
任意にさらに0.00~<5.0%のコバルトを含む、請求項1から18までのいずれか1項記載の合金。
【請求項20】
任意にさらに最大0.5%のバナジウムを含む、請求項1から19までのいずれか1項記載の合金。
【請求項21】
前記不純物は、最大0.002%のPb、最大0.002%のZn、最大0.002%のSnの含有量に設定されている、請求項1から20までのいずれか1項記載の合金。
【請求項22】
ストリップ、シート、ワイヤ、ロッド、長手溶接管、およびシームレス管としての、請求項1から21までのいずれか1項記載の合金の使用。
【請求項23】
ストリップ、シート、ワイヤ、ロッド、長手溶接管、およびシームレス管を製造するための、請求項1から21までのいずれか1項記載の合金の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な高温耐食性、良好なクリープ強度を示し、かつ加工性が向上したニッケル-クロム-アルミニウム鍛錬用合金に関する。
【0002】
ニッケル、クロムおよびアルミニウムの含有量が異なるニッケル合金は、その特性ゆえすでに古くから化学・石油化学産業および築炉において使用されてきただけでなく、ソーラータワー発電所での使用に関しても大きな関心を集めている。この設備は、高い塔の周囲に配置された鏡面体(ヘリオスタット)のフィールドからなる。鏡面体は、上部に取り付けられた吸収体(ソーラーレシーバー)に太陽光を集中させる。吸収体はチューブシステムからなり、これにより熱伝達媒体が加熱される。この媒体は、中間貯蔵槽を備えた循環部内を循環しており、熱交換器システムにより、熱エネルギーは発電機を用いて二次回路で電気に変換される。熱伝達媒体は主に、溶融した硝酸ナトリウム塩と硝酸カリウム塩の混合塩であり、部品に使用する合金にもよるが、塩の最高使用温度は約600℃である[Kruizenga et al., 2013, Materials Corrosion of High Temperature Alloys Immersed in 600℃ Binary Nitrate Salt, SANDIA report, SAND 2013-2526]。
【0003】
ソーラータワー発電所の効率を高めるためには、塩の最高使用温度を高める必要がある。これは、熱伝達媒体として例えば塩化物塩および/または炭酸塩を使用することで可能となる[Mehos et al., 2017, Concentrating Solar Power Gen3 Demonstration Roadmap, National Renewable Energy Lab. (NREL)]。これらは硝酸ナトリウム塩や硝酸カリウム塩のように約600℃を上回る温度で分解せず、最高使用温度は1000℃までである。
【0004】
これらの塩系の欠点は、特に塩を輸送し、かつ塩循環部の中で最も高温となる箇所であるソーラーレシーバーや熱吸収パイプの領域において、硝酸ナトリウム塩や硝酸カリウム塩に比べて高温での腐食攻撃性が強いことである。その結果、硝酸塩において通常使用される例えばAlloy 800H(N08810)やAlloy 625(N06625)などの材料は、600℃を超える温度で十分に長い時間にわたって塩化物塩および/または炭酸塩による腐食攻撃に耐えることができないため使用できない[Shankar et al., 2013, Corrosion of Ni-containing Alloys in Molten LiCl-KCl Medium, Corrosion, 69(1), 48-57]。ここでは、吸収体システムの最低寿命である30年を想定している[Gomez-Vidal et al., 2017, Corrosion resistance of alumina-forming alloys against molten chlorides for energy production I: Pre-oxidation treatment and isothermal corrosion tests, Solar Energy Materials and Solar Cells, 166, 222-233]。
【0005】
上記の環境下で合金を使用するための必須条件は、塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物中で良好な高温耐食性を有することである。これは、一貫した酸化クロム膜(Cr)だけでなく、特にその下の酸化アルミニウム膜(Al)ができるだけ閉じていること、つまり連続していて隙間がないことによって決まる。ある条件下では、クロムイオンは塩溶融物に優先的に溶解する。合金中にある程度のアルミニウムを含有させることで、閉じたAl膜の形成によりこのプロセスを遅延させることができる[George Y. Lai, 1990, High-Temperature Corrosion of Engineering Alloys, ASM International, S.100, Fig. 6.11]。一方、吸収管の内側は塩分にさらされ、外側は外気にさらされるため、クロム含有量も低くなりすぎないようにする必要がある。つまり、大気中で1000℃までの高温での耐酸化性を確保するために、一定のクロム含有量が必要である。
【0006】
特に炭素の含有量が多いと、所定の温度での熱間強度あるいはクリープ強度が向上する。しかし、クロム、アルミニウム、ケイ素、モリブデンおよびタングステンなどの固溶体強化元素の含有量が多い場合にも熱間強度が向上する。500℃~900℃の範囲では、アルミニウム、チタンおよび/またはニオブを添加すると、特にγ’相および/またはγ”相が析出して強度を向上させることができる。
【0007】
また、ソーラーレシーバーの全寿命にわたって算出される毎日の太陽および雲のサイクルによる材料の疲労負荷に関するさらなる重要なパラメータは、疲労強度である。
【0008】
先行技術による合金であるAlloy 800H、Alloy 600、Alloy 601、Alloy 690、Alloy 602CA、Alloy 603、Alloy 214、Alloy 625およびAlloy 702の組成を表1に示す。
【0009】
Alloy 602CA(N06025)およびAlloy 603(N06603)は、1000℃を超える高温でもなお優れた熱間強度あるいはクリープ強度を有する。しかし、加工性は、とりわけアルミニウムの含有量が多いことに影響され、アルミニウムの含有量が多いほど支障が大きくなる(例えば、Alloy 214(UNS N07214)など)。特にAlloy 602CA(N06025)やAlloy 603(N06603)では、Alloy 601(N06601)などの合金に比べ、一次炭化物の含有量が多いため、冷間加工性が低下している。つまり、アルミニウム含有量は、閉じたAl膜が形成されるのに十分な量でなければならないが、高すぎても加工性に悪影響を及ぼすため、高すぎることもあってはならない。この要件は、クロムについても該当する。このことから、アルミニウムやクロムの含有量を正確に調整することが、高温での塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物における耐食性にとって決定的に重要であることが明らかとなる。
【0010】
国際公開第2019/075177号には、吸収管、貯蔵槽および熱交換器を有する改良されたソーラータワーシステムが開示されており、これらはいずれも熱伝達媒体として650℃超の温度で溶融塩を含み、その際、当該改良は、吸収管、貯蔵槽および熱交換器の部品の少なくとも1つが、(重量%で)25~45%のNi、12~32%のCr、0.1~2.0%のNb、最大4%のTa、最大1%のVa、最大2%のMn、最大1.0%のAl、最大5%のMo、最大5%のW、最大0.2%のTi、最大2%のZr、最大5%のCo、最大0.1%のY、最大0.1%のLa、最大0.1%のCs、最大0.1%の他の希土類、最大0.20%のC、最大3%のSi、0.05~0.50%のN、最大0.02%のB、ならびに残部のFeおよび不純物を含む合金から製造される。
【0011】
欧州特許出願公開第549286号明細書には、特に熱プロセス用途の分野において、化学・石油化学産業の分野において、およびタービンエンジンの部品に使用される、0.005~0.5%のC、0.0001~0.1%のN、19~25%のCr、55~65%のNi、0~1%のMn、0.1~1.5%のSi、0.15~1%のTi、1~4.5%のAl、0~0.5%のZr、0~10%のCo、0.045~0.3%のY、0.0001~0.1%のB、ならびに残部のFeおよび不純物を含むNi-Cr-Al合金が開示されている。
【0012】
国際公開第00/34540号には、特に築炉などの熱プロセス用途の分野において、例えば高温用途の炉マッフルや同様の部品の製造のための材料として使用される、27~35%のCr、0~7%のFe、3~4.4%のAl、0~0.4%のTi、0.2~3%のNb、0.12~0.5%のC、0~0.05%のZr、0.002~0.05%のCeおよびY、および0~1%のMn、0~1%のSi、0~0.5%のCa+Mg、0~0.1%のB、ならびに残部のNiおよび不純物を含む高温合金が開示されている。
【0013】
本発明は、
・ 良好な相安定性
・ 良好な加工性
・ およびAlloy 602CA(N06025)と同様の大気中での良好な耐食性
を示すニッケル-クロム-アルミニウム合金を別の用途に提供するという課題に基づく。
【0014】
さらに、この合金はさらに
- 良好な熱間強度
- 良好なクリープ強度
- 良好な疲労強度
を示すことが必要である。
【0015】
この課題は、熱伝達媒体として塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物を使用するソーラータワー発電所で使用するための、(重量%で)12~30%のクロム、1.8~4.0%のアルミニウム、0.1~7.0%の鉄、0.001~0.50%のケイ素、0.001~2.0%のマンガン、0.00~1.00%のチタン、0.00~1.10%のニオブ、0.00~0.5%の銅、0.00~5.00%のコバルト、各0.0002~0.05%のマグネシウムおよび/またはカルシウム、0.001~0.12%の炭素、0.001~0.050%の窒素、0.001~0.030%のリン、0.0001~0.020%の酸素、最大0.010%の硫黄、最大2.0%のモリブデン、最大2.0%のタングステン、最小含有量50%以上の残部のニッケル、およびプロセスに起因する通常の不純物を含むニッケル-クロム-アルミニウム合金であって、良好な加工性を保証するために、次の条件:
Fv≧0.9
が満たされている必要があり、ここで、
Fv=4.88050-0.095546*Fe-0.0178784*Cr-0.992452*Al-1.51498*Ti-0.506893*Nb+0.0426004*Al*Fe
であり、ここで、
Fe、Cr、Al、TiおよびNbは、当該元素の重量%での濃度である、合金によって解決される。
【0016】
本発明の主題の有利なさらなる実施形態は、関連する従属請求項から得ることができる。
【0017】
合金の含有量のデータはいずれも、特に断りのない限り重量%単位である。
【0018】
クロム元素の分布範囲は12~30%であり、好ましい範囲は以下のように設定することができる:
- 14~30%
- 14~28%
- 14~<27%
- 16~24%
- 18~<24%
- >18~23%
【0019】
アルミニウム含有量は1.8~4.0%であるが、ここでも合金の用途に応じて好ましいアルミニウム含有量を以下のように設定することが可能である:
- 2.0~4.0%
- >2.0~<4.0%
- 2.2~4.0%
- 2.5~4.0%
- 2.5~3.5%
- 2.5~3.2%
- 2.7~3.7%
- >3.0~4.0%
- >3.2~<4.0%
- >3.2~3.8%
- >3.0~<3.5%
- 2.0~3.0%
【0020】
鉄の含有量は0.1~7.0%の範囲であり、適用範囲に応じて好ましい含有量を以下の分布範囲内に設定することができる:
- 0.1~4.0%
- 0.1~3.0%
- 0.1~<2.5%
- 0.1~2.0%
- 0.1~<2.0%
- 0.1~<1.0%
【0021】
ケイ素含有量は0.001~0.50%である。好ましくは、Siは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.40%
- 0.001~<0.40%
- 0.001~<0.25%
- 0.001~0.20%
- 0.001~<0.10%
- 0.001~<0.05%
【0022】
マンガン元素も同様であり、合金に0.001~2.0%含まれていてよい。あるいは以下のような分布範囲も考えられる:
- 0.001~1.0%
- 0.001~0.50%
- 0.001~<0.40%
- 0.001~<0.30%
- 0.001~0.20%
- 0.001~0.10%
- 0.001~<0.05%
【0023】
チタン含有量は0.00~1.0%である。好ましくは、Tiは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.60%
- 0.001~<0.50%
- 0.001~<0.40%
- 0.001~<0.20%
- 0.001~<0.15%
- 0.001~<0.10%
- 0.001~<0.05%
- 0.00~<0.02%
【0024】
Nb含有量は0.00~1.1%である。好ましくは、Nbは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.7%
- 0.001~<0.50%
- 0.001~0.30%
- 0.001~<0.20%
- 0.00~<0.01%
- 0.01~0.30%
- 0.10~1.10%
- 0.20~0.70%
【0025】
合金は、0.00~0.50%の銅を含む。好ましくは、銅は、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 最大0.20%
- 最大0.10%
- 0.00~0.05%
- 0.00~<0.05%
- 0.00~0.015%
- 0.00~<0.015%
【0026】
さらに、合金は、0.0~5.00%のコバルトを含むことができる。コバルト含有量は、さらに以下のように制限することができる:
- 0.001~<5.0%
- 0.001~2.0%
- 0.001~1.0%
- 0.001~<1.0%
- 0.001~0.50%
- 0.001~<0.50%
- 0.001~0.10%
- 0.001~<0.10%
- 0.01~2.0%
- 0.1~2.0%
【0027】
マグネシウムおよび/またはカルシウムも、0.0002~0.05%の含有量で含まれていてよい。好ましくは、これらの元素を合金においてそれぞれ以下のように設定することができる:
- 0.0002~0.03%
- 0.0002~0.02%
- 0.0005~0.02%
【0028】
合金は、0.001~0.12%の炭素を含む。好ましくは、炭素を合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.10%
- 0.001~<0.08%
- 0.001~<0.05%
- 0.005~<0.05%
- 0.01~0.03%
- 0.01~<0.03%
- 0.02~0.10%
- 0.03~0.10%
【0029】
これは、0.001~0.05%の含有量で含まれている窒素元素についても同様である。好ましい含有量は、次のように示すことができる:
- 0.003~<0.04%
【0030】
合金はさらに、0.001~0.030%の含有量でリンを含む。好ましい含有量は、次のように示すことができる:
- 0.001~0.020%
【0031】
合金はさらに、0.0001~0.020%、特に0.0001~0.010%の含有量で酸素を含む。
【0032】
硫黄元素は、合金中に以下のように含まれている:
- 最大0.010%
【0033】
モリブデンおよびタングステンは、単独でまたは組み合わせて、合金中にそれぞれ最大2.0%の含有量で含まれている。好ましい含有量は、次のように示すことができる:
- Mo 最大1.0%
- Mo 最大<0.50%
- Mo 最大<0.10%
- Mo 最大<0.05%
- Mo 最大<0.01%
- W 最大1.0%
- W 最大<0.50%
- W 最大<0.10%
- W 最大<0.05%
- W 最大<0.01%
【0034】
ニッケル含有量は、50%以上である。ニッケル含有量を、好ましくは以下のように設定することができる:
- ≧55%または>55%
- ≧60%または>60%
- ≧65%または>65%
- ≧70%または>70%
- ≧75%または>75%
【0035】
任意に、合金においてイットリウム元素を0.001~0.20%の含有量で設定することができる。好ましくは、Yは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.15%
- 0.001~0.10%
- 0.001~0.08%
- 0.001~<0.045%
- 0.01~0.15%
【0036】
任意に、合金においてランタン元素を0.001~0.20%の含有量で設定することができる。好ましくは、ランタンは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.15%
- 0.001~0.10%
- 0.001~0.08%
- 0.001~0.04%
- 0.01~0.04%
【0037】
任意に、合金においてセリウム元素を0.001~0.20%の含有量で設定することができる。好ましくは、セリウムは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.15%
- 0.001~0.10%
- 0.001~0.08%
- 0.001~0.04%
- 0.01~0.04%
【0038】
任意に、セリウムとランタンを同時に添加する場合、セリウムミッシュメタルを0.001~0.20%の含有量で使用することもできる。好ましくは、セリウムミッシュメタルは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.15%
- 0.001~0.10%
- 0.001~0.08%
- 0.001~0.04%
- 0.01~0.04%
【0039】
任意に、ジルコン含有量は0.001~0.20%である。好ましくは、ジルコンは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.15%
- 0.001~<0.10%
- 0.001~0.07%
- 0.001~0.04%
- 0.01~0.15%
- 0.01~<0.10%
【0040】
任意に、ハフニウムの含有量は0.001~0.20%である。好ましくは、ハフニウムは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.15%
- 0.001~<0.10%
- 0.001~0.07%
- 0.001~0.04%
- 0.01~0.15%
- 0.01~<0.10%
【0041】
任意に、合金中に0.001~0.60%のタンタルが含まれていてもよい。
【0042】
好ましくは、タンタルは、合金において以下のような分布範囲内に設定することができる:
- 0.001~0.60%
- 0.001~0.50%
- 0.001~0.30%
- 0.001~0.10%
- 0.00~<0.02%
- 0.01~0.30%
- 0.01~0.25%
【0043】
任意に、ホウ素元素は、合金中に以下のように含まれていてよい:
- 0.0001~0.008%
【0044】
好ましい含有量は、以下のように示すことができる:
- 0.0005~0.008%
- 0.0005~0.004%
【0045】
さらに、合金には最大0.5%のバナジウムが含まれていてよい。
【0046】
バナジウムの含有量は、さらに以下のように制限することができる:
- 最大0.20%
- 最大0.10%
- 最大0.05%
【0047】
最後に、不純物としてさらに、鉛、亜鉛およびスズの元素を以下のような含有量で示すことができる:
- 鉛 最大0.002%
- 亜鉛 最大0.002%
- スズ 最大0.002%
【0048】
本発明による合金は、好ましくは、開放溶解した後、VOD(真空酸素脱炭)またはVLF(真空取鍋炉)プラントで処理される。ただし、真空中での溶解・鋳造も可能である。インゴット鋳造または連続鋳造の後、合金を、必要に応じて900℃~1270℃の温度で0.1時間~100時間にわたって焼鈍して所望の半製品形態とした後、必要に応じて900℃~1270℃で0.05時間~100時間にわたって中間焼鈍して、熱間成形する。材料の表面を、必要に応じて(また数回)化学的および/または機械的に除去し、その間および/または最後に洗浄することができる。熱間成形の終了後、必要に応じて、例えばアルゴンや水素などの保護ガス下で700℃~1250℃で0.1分~70時間の中間焼鈍を行い、その後、大気中、撹拌焼鈍雰囲気中、または水浴中で冷却して、所望の半製品形態に成形度98%までの冷間成形を行うことができる。その後、溶体化処理が700℃~1250℃の温度範囲で0.1分~70時間にわたり、任意に例えばアルゴンや水素などの保護ガス下で行われ、その後、大気中、撹拌焼鈍雰囲気中、または水浴中で冷却が行われる。必要に応じて、最後の焼鈍の間および/または後に、材料表面の化学的および/または機械的な清浄化を行うことができる。
【0049】
本発明による合金は、ストリップ、シート、ロッド、ワイヤ、長手溶接管、およびシームレス管といった製品形態で容易に製造および使用することができる。
【0050】
本発明による合金は、好ましくは、塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物を熱伝達媒体として使用するソーラータワー発電所に使用される。
【0051】
本発明による合金は、溶融塩と接触するすべての部品に使用することができる。
【0052】
本発明による合金は、特に、太陽光発電所の塔の吸収体(ソーラーレシーバー)、および/または発電回路(例えば蒸気タービン経由)の熱交換器、および/または貯蔵槽や輸送管に使用することができる。
【0053】
塩化物塩溶融物および/または炭酸塩溶融物は、好ましくは以下の混合物からなることができる:
- MgCl-KCl
- ZnCl-NaCl-KCl
- NaCl-LiCl
- KCl-NaCl
- KCl-LiCl
- LiCl-KCl-CsCl
- NaCO-KCO-LiCO
- LiCO-NaCO
- NaCl-NaCO
【0054】
この混合物は、好ましくは以下の組成からなることができる:
- 60~75%の塩化亜鉛、2~15%の塩化ナトリウム、および15~30%の塩化カリウム
- 30~50%の塩化マグネシウム、および50~70%の塩化カリウム
- 25~40%の炭酸ナトリウム、25~40%の炭酸カリウム、および25~40%の炭酸リチウム。
【0055】
また、必要に応じて、塩混合物を純CO雰囲気下で使用することも可能である。
【0056】
塩混合物の最低使用温度は、250℃である。最低使用温度は、以下のように制限されていてよい:
- 最低290℃
- 最低300℃
- 最低350℃
- 最低400℃
- 最低450℃
- 最低500℃
- 最低550℃
- 最低600℃
- >600℃
- 最低650℃
- >650℃
- 最低680℃
- >680℃
- 最低700℃
- 最低750℃
【0057】
塩混合物の最高使用温度は、1000℃である。最高使用温度は、以下のように制限されていてよい:
- 最高950℃
- 最高900℃
- 最高850℃
- 最高830℃
- <830℃
- 最高800℃
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】各合金含有量での時間-温度-変態(ZTU)グラフを示す図。
【0059】
特性評価:
耐食性
アルミニウムを含む合金の場合、高温での塩化物および/または炭酸塩を含む溶融物における耐食性にとって、隙間のない閉じた酸化アルミニウム膜が形成されるか否かが決定的に重要である。
【0060】
このため、酸化膜形成のための元素、この場合はクロムおよびアルミニウムの最低含有量が必要である[David Young, 2008, High Temp oxidation and corrosion of metals, Elsevier, S.334-341]。ここで、形成に必要なアルミニウムの最低含有量は、クロムの添加によって大幅に低減させることができ、これは「第3元素効果」とも呼ばれる。GigginsおよびPettitは、1200℃において、外部にAl膜が形成され、アルミニウムの内部酸化が起こらないようにするには、Alを3.5~11.0%、Crを0~40%含む必要があることを示している[Giggins and Pettit, 1971, Oxidation of Ni-Cr-Al Alloys Between 1000° and 1200℃, J. Electrochem. Soc., 118(11), 1782-1790]。
【0061】
ただし、例えばAlloy 602CAのようなAl含有量3%未満の合金では、特定の雰囲気下で低温にすると閉じたAl膜の形成が可能である[Schiek et al., 2015, Scale Formation of Alloy 602 CA During Isothermal Oxidation at 800-1100℃ in Different Types of Water Vapor Containing Atmospheres, Oxidation of Metals, 84(5-6), 661-694]。
【0062】
例えばイットリウムやセリウムなどの反応性元素を少量添加することで、耐酸化性などをさらに向上させることができる。
【0063】
Al膜に隙間があると、塩化物および/または炭酸塩を含む環境では腐食の優先的な攻撃点となる。塩素や塩化物イオンは、腐食の促進を招く。その機序については、Grabkeらが詳細に記載している[Grabke et al, 1995, Effects of chlorides, hydrogen chloride, and sulfur dioxide in oxidation of steels below deposits, Corrosion Science, 37(7), 1023-1043]。[Kruizenga, 2012, Corrosion Mechanism in Chloride and Carbonate Salts, SANDIA report, SAND 2012-7594]によれば、ある条件下ではCrイオンが好ましくは溶液として塩溶融物に移行するため、Cr含有量は高すぎてはならない。アルミニウム含有量を十分に高くすることで、閉じたAl膜の形成によりこのプロセスを遅延させることができる[George Y. Lai, 1990, High-Temperature Corrosion of Engineering Alloys, ASM International, S.100, Fig. 6.11]。
【0064】
また、吸収管の内側は塩分にさらされ、外側は外気にさらされるため、クロム含有量も低くなりすぎないようにする必要がある。クロム含有量は、使用分野における使用の過程でゆっくりと消費され、保護膜を構築していく。したがって、保護膜を形成するクロム元素の含有量が多いほど、クロム含有量が臨界限度を下回り、Cr以外の酸化物、例えば鉄および/またはニッケルを含む酸化物が生成する時期が遅れることから、クロム含有量を高めることにより材料の寿命が長くなる。これらの酸化物は、Crの保護不動態膜よりも耐酸化性が著しく低い。そのため、大気中で1000℃までの高温での耐酸化性を確保するためには、十分に高いクロム含有量が必要である。
【0065】
いくつかの研究では、ニッケル含有量を増やした合金は塩素を含む大気中で耐食性の向上を示しているが、モリブデンの添加は、場合により重大な腐食を招くことがある[Indacochea et al., 2001, High-Temperature Oxidation and Corrosion of Structural Materials in Molten Chlorides, Oxidation of Metals, 55(1), 1-16]。他の研究では、クロムを7%しか含まない合金ハステロイNは、16%以上のクロムを含むC-276やC-22よりも腐食速度が著しく高いことから、16%未満のクロムは、250℃および500℃で塩化ナトリウム塩/塩化カリウム塩/塩化亜鉛塩において極めて高い腐食速度を招くことが示されている[Vignarooban et al, 2014, Corrosion resistance of Hastelloys in molten metal-chloride heat-transfer fluids for concentrating solar power applications, Solar Energy, 103, 62-69]。Indacocheaらの研究とは対照的に、Vignaroobanらの研究では、合金C-276あるいはC-22に16%あるいは13%のモリブデンが含まれていても重大な腐食には至らず、これは、場合によっては、試験した温度範囲に起因し得る。試験した温度範囲は、Indacocheaらの場合には725℃あるいは650℃であり、これはVignaroobanらの場合の500℃あるいは250℃に比べて大幅に高かった。したがって、Indacocheaらの研究におけるより高温での重大な腐食は、その形成が極めて温度依存的であるオキシ塩化物MoOClの形成によって説明できる[Kloewer et al., 1999, Chloride-induced oxidation of nickel-base alloys 600H, 625 and 626 Si, Proc. Conf. Eurocorr]。これはタングステンにも該当するが、さほど極端な程度ではない。
【0066】
さらなる研究では、合金Alloy 625の鉄の含有量を減らすと、Alloy 800Hと比較して、650℃あるいは700℃で塩化ナトリウム塩/塩化リチウム塩において腐食速度が低下することが実証されている[Gomez et al., 2016, Corrosion of alloys in a chloride molten salt (NaCl-LiCl) for solar thermal technologies, Solar Energy Materials and Solar Cells, 157, 234-244]。
【0067】
ShankarらはAlloy 600、Alloy 625、Alloy 690およびAlloy 800Hを研究し、400、500および600℃での塩化リチウム/塩化カリウム雰囲気ではニッケル含有量の増加および鉄含有量の減少が有利であることを確認した[Shankar et al., 2013, Corrosion of Ni-containing Alloys in Molten LiCl-KCl Medium, Corrosion, 69(1), 48-57]。また、Alloy 625は、Alloy 600およびAlloy 690に比べて高い腐食速度を示したが、これは、モリブデン含有量が著しく多い(Alloy 625では11重量%)ことによって説明でき、それというのも、Alloy 600およびAlloy 690中にはモリブデンが存在しないためである。
【0068】
ニッケル含有量の増加および鉄含有量の減少に関するこれらの結果は、Gomez-Vidalらの研究でも同様に認めることができた[Gomez-Vidal et al., 2017, Corrosion resistance of alumina-forming alloy against molten chlorides for energy production: Preoxidation treatment and isothermal corrosion tests, Solar Energy Materials and Solar Cells, 166, 222-233]。また、驚くべきことに、Alloy 702中のアルミニウム含有量が2%超4%未満であれば、Al膜の形成により耐食性が向上することが判明した。
【0069】
総括すると、アルミニウム含有量の増加と同様に、ニッケル含有量の増加およびクロム含有量の減少は、塩化物塩および/または炭酸塩溶融物による腐食に関して非常に有利である。鉄、モリブデンおよびタングステンの添加は避けるべきである。
【0070】
加工性
クロム、鉄およびアルミニウムの含有量を調整あるいは最適化し、かつチタンやニオブなどのさらなる合金元素を加えた場合の影響を調べるため、Thermotech社のシミュレーションプログラムJMatPro Version 11を用いて熱力学計算を行った。このプログラムを用いて、まず各合金含有量での時間-温度-変態(ZTU)グラフを算出した(図1参照)。このグラフは、ある温度である含有量(ここでは0.1%)の相がどれほどの時間後に析出するかを示している。これは、他の相による合金元素の消費を考慮せずに、各相について算出したものである。各相は、ZTUグラフにおいて、この相が析出するまでの最短時間を有する。この最短時間tγ’1は、各合金組成のγ’相(図1のガンマプライム)に対して決定されたものである。γ’相は、硬化および硬度の大幅な増加を引き起こすと同時に、伸びを低減させる。これがあまりに迅速に多量に形成されると、加工(例えば、熱間成形、溶接)時にクラックが発生する可能性がある。したがって、以下では、最短時間tγ’1を加工性のパラメータとする。図1の合金の場合、tγ’1=107分である。
【0071】
良好な加工性を保証するためには、時間tγ’1が8分以上であることが望ましい。これは特に、次の条件:
Fv≧0.9 (1)
が満たされている場合に該当し、ここで、
Fv=4.88050-0.095546*Fe-0.0178784*Cr-0.992452*Al-1.51498*Ti-0.506893*Nb+0.0426004*Al*Fe (2)
であり、ここで、Fe、Cr、Al、TiおよびNbは、当該元素の重量%での濃度である。式(2)は、Cr<31%、Al<5%、Fe<18%、Ti<1.5%およびNb<4%の含有量である組成物に対してのみ有効である。
【0072】
表2は、先行技術による合金(T)の組成、時間tγ’1およびFvを、本発明による合金組成(E)および本発明によらない合金組成と共に示す。
【0073】
表2aにおいて、組成A001~A018および先行技術による合金について、JMatProを用いて時間tγ’1を算出するとともに(最後から2番目の欄参照)、式(2)を用いて算出したFvの値(最後の欄参照)を示している。表2bは、先行技術による合金の組成および組成A001~A018に関する表2aの続きである。表2cは、表2aの続きで、組成A019~A032を記載したものである。表2dは、組成A019~A032に関する表2cの続きである。
【0074】
組成A001~A004は、アルミニウム含有量が2.0%から始まって4.0%へと増加している。他の合金成分は一定である。アルミニウム濃度が高くなると時間tγ’1が小さくなり、Fvの値も小さくなる。組成A004の場合、Fv=0.53であり、条件(1)を満たさない。そのため、この組成は加工性が良好でない。つまり、アルミニウム含有量が多いほど、時間tγ’1が小さすぎるため加工性の悪い組成物となり、これは条件(1)および式(2)で特徴付けられる。
【0075】
組成A005~A007は、クロム含有量が増加している(18、20および23%)。時間tγ’1およびFvはクロム含有量の増加にも伴って小さくなるが、その効果はアルミニウムの場合よりもはるかに小さい。
【0076】
組成A008~A011は、鉄含有量が減少しているため、時間tγ’1およびFvの値が小さくなっている。つまり、鉄を添加すると時間tγ’1が大きくなるため、加工性が向上する。
【0077】
組成A012およびA018はチタン含有量が異なり、組成A012~A014はチタン含有量が増加している。チタン濃度が増加すると時間tγ’1およびFvの値が小さくなるため、Ti=1.2%の組成A014はFv=0.61となり、条件(1)を満たさなくなるため、もはや良好に加工できない。これは組成A015にも当てはまり、チタン含有量の増加(Ti=0.8%)とアルミニウム濃度2.5%との組み合わせにより、Fv=0.81となるため、もはや良好に加工できない。組成A016~A018は、鉄含有量10%でチタン含有量が増加したものである。チタン濃度が高くなると時間tγ’1およびFvの値が小さくなるため、Ti=1.00%の組成A018はFv=0.82となり、条件(1)を満たさなくなるため、もはや良好に加工できない。
【0078】
表2cの組成A019およびA025は、ニオブ含有量が異なり、組成A019~A021は、ニオブ含有量が増加している。ニオブ濃度の増加により時間tγ’1およびFvの値が小さくなるため、Nb=3.0%の組成A021はFv=0.53となり、条件(1)を満たさなくなるため、もはや良好に加工できない。組成A022についても同様であり、組成A022は、ニオブ含有量Nb=1.0%とアルミニウム濃度3.5%との組み合わせゆえにFv=0.72となり、もはや良好に加工できない。組成A023~A025は、クロム濃度23%でニオブ含有量が増加している。ニオブ濃度の増加により、時間tγ’1およびFvの値が小さくなり、Nb=3.0%の組成A025はFv=0.85となり、条件(1)を満たさなくなるため、もはや良好に加工できない。
【0079】
組成A026~A031は、イットリウム、ランタン、ハフニウムおよびタンタルの含有量が異なる。すべての組成についてFv>0.9が成り立ち、時間tγ’1が十分に大きいため、加工性が良好である。組成A032は、アルミニウム含有量2.2%で29.6%の高いクロム含有量を有し、Fv=2.07であるため、加工性が良好である。
【0080】
総括すると、本発明による合金組成物(E)は、上記で明確にした分析限界内にあり、Fvの値に関する条件(1)および式(2)を満たすため、十分に大きな時間tγ’1を有し、したがって加工性が良好である。これは、組成A001~A003、A005~A007、A009~A013、A019~A020、およびA026~A032である。
【0081】
表2aの先行技術による合金の場合、合金H214およびIN702は、Fvの値が<0.9である。これは、合金H214の場合にはアルミニウム含有量の増加(4.5%)に起因し、IN702の場合にはアルミニウム含有量の増加(3.25%)とチタン含有量の増加(0.38%)との組み合わせに起因し得る。つまり、合金H214およびIN702は、時間tγ’1が小さすぎるため、加工性が劣悪である。
【0082】
先行技術による他の合金は、Fvの値が>0.9であり、tγ’1が十分に大きいため、加工性が良好である。これは、アルミニウムの含有量が少ないこと(Alloy 603では2.78%であり、他はさらに低い)や、アルミニウムとの組み合わせで制限されるチタンおよびニオブの含有量に起因し得る。
【0083】
Alloy 800 Hは、組成の鉄含有量が46.8%と比較的高く、式(1)および条件(2)の有効範囲外であるため、Fvの値を算出できなかった。
【0084】
特にFv≧1.0になると、加工性がさらに向上する。
【0085】
熱間強度、クリープ強度および疲労強度
疲労強度とクリープ強度との双方に関して可能な限り高い強度を達成するためには、適切な粒径を設定することが重要な点である。
【0086】
低温域では、細粒硬化(ホール・ペッチの式参照)により、熱間強度の増加に加えて延性および靭性の向上も生じる。しかし高温では、これは強度を高めるためには不適切な措置であることがわかっており、なぜならば、クリープ領域(T>0.4Tm、Tm=融点)において粗粒子の構造が有利であるためである[R. Buergel, Handbuch Hochtemperatur-Werkstofftechnik, 5. Ueberarbeitete Auflage, 2015, S.83/84]。粒径がクリープ強度やクリープ速度に与える影響は、粒界すべりの場合には数学的にも記述でき、その際、粒径はクリープ速度に反比例する。つまり、平均粒径が大きいほど粒界すべりにおけるクリープ速度が低くなり、結果としてクリープ強度が高くなる[R. Buergel, Handbuch Hochtemperatur-Werkstofftechnik, 5. Ueberarbeitete Auflage, 2015, S.111]。拡散クリープの場合、すなわち粒界すべりに比べ高温で印加応力が小さい場合、クリープ速度の依存性は二次関数的または三次関数的に反比例する。したがって、この場合、拡散クリープの場合よりも高い印加応力で起こる粒界すべりの場合よりも、さらに粗い構造が決定的となる[R. Buergel, Handbuch Hochtemperatur-Werkstofftechnik, 5. Ueberarbeitete Auflage, 2015, S.117/119]。
【0087】
疲労強度あるいはHCF強度(HCF=High Cycle Fatigue)の粒径依存性は、Haigグラフで記述される[R. Buergel, Handbuch Hochtemperatur-Werkstofftechnik, 5. Ueberarbeitete Auflage, 2015, S.206/207]。より低い温度では、より微細な組織が有利であることが判明している。一般に、HCF(HCF=High Cycle Fatigue)領域だけでなくLCF(LCF=Low Cycle Fatigue)領域の疲労強度も、粒径の減少に伴ってすべての温度で増加する[R. Buergel, Handbuch Hochtemperatur-Werkstofftechnik, 5. Ueberarbeitete Auflage, 2015, S.238]。
【0088】
これまでの考察から、クリープ強度に関しては粗粒であることが有利であるが、これは疲労強度にはマイナスに働くことが判明している。
【0089】
したがって、クリープ強度と疲労強度との合理的な妥協を保証するためには、適切な粒径を設定することが決定的に重要である。
【0090】
したがって、本発明による合金は、典型的には10~500μmの平均粒径を有する。
【0091】
ここで好ましくは、粒径を以下の限度内とすることができる:
- 10~300μm
- 10~200μm
- 10~100μm
- 10~50μm
- 50~300μm
- 60~300μm
- 70~300μm
- 75~280μm
- 80~250μm
- 20~250μm
- 20~150μm
- 20~100μm
- 30~100μm
- 40~100μm
【0092】
したがって、本発明による合金「E」の特許請求される限度について、以下のように詳細に根拠づけることができる:
クロム含有量が少なすぎると、合金を腐食性雰囲気で使用した場合に酸化物-金属界面のクロム濃度が非常に迅速に臨界限度未満に低下するため、酸化物膜が損傷した場合、閉じた純酸化クロム膜が形成できなくなり、保護性の低い他の酸化物(例えば、酸化ニッケルおよび/または酸化鉄)も形成され得る。したがって、クロムの下限は12%である。特に、吸収管の内側は塩にさらされ、外側は外気にさらされるため、この点は重要である。つまり、大気中で1000℃までの高温での耐酸化性を保証するために、一定のクロムの含有量が必要である。クロム含有量が多すぎると合金の相安定性が低下し、これは特に1.8%以上の高アルミニウム含有量の場合に該当する。よって、30%のクロムを上限とする。
【0093】
酸化クロム膜の下にアルミニウム酸化膜が形成されることで、酸化速度が低下する。アルミニウムが1.8%を下回ると、形成される酸化アルミニウムの膜が不完全で、その効果を十分に発揮することができなくなる。アルミニウム含有量が高すぎると、合金の加工性が損なわれる。したがって、アルミニウム含有量は4.0%が上限となる。
【0094】
鉄含有量を減らすと合金のコストが高くなる。0.1%を下回ると、特別な出発原料を使用しなければならないため、コストが不釣り合いに高くなる。したがって、コスト面を考慮し、0.1%の鉄含有量が下限である。鉄含有量を増やすと、特にクロムおよびアルミニウム含有量が多い場合に、相安定性が低下する(脆性相が形成される)。したがって、鉄7%が、本発明による合金の相安定性を確保するための合理的な上限値である。
【0095】
合金の製造には、ケイ素が必要である。そのため、0.001%の最低含有量が必要である。特にアルミニウムおよびクロム含有量が多い場合は、加工性および相安定性が損なわれる。そのため、ケイ素含有量は0.50%に制限されている。
【0096】
加工性の向上には、0.001%のマンガン最低含有量が必要である。マンガン元素は耐酸化性を低下させるため、2.0%に制限される。
【0097】
チタンは、高温強度を高める。1.00%を超えると酸化挙動が悪化し得るため、最大値は1.00%である。
【0098】
マグネシウム含有量および/またはカルシウム含有量が非常に少なくても、硫黄の凝固により加工性が向上し、それにより低融点のニッケル-硫黄共晶の発生が回避される。したがって、マグネシウムおよび/またはカルシウムについて、0.0002%の最低含有量が必要である。含有量が多すぎると、金属間化合物であるニッケル-マグネシウム相あるいはニッケル-カルシウム相が発生し、これも加工性を著しく低下させる。したがって、マグネシウム含有量および/またはカルシウム含有量は、最大0.05%に制限される。
【0099】
良好なクリープ強度を得るためには、0.001%の炭素最低含有量が必要である。炭素は、最大0.12%に制限される。なぜならば、この含有量を超えると、この元素は、一次炭化物の過剰な形成により加工性を低下させるためである。
【0100】
0.001%の窒素最低含有量が必要であり、それにより材料の加工性が向上する。窒素は最大0.05%に制限される。なぜならば、この元素は粗大な炭窒化物の生成により加工性を低下させるためである。
【0101】
酸素含有量は0.020%以下でないと、合金の製造を保証することができない。酸素含有量が少なすぎるとコストが高くなる。そのため、酸素含有量は0.0001%以上である。
【0102】
リンは界面活性元素であり耐酸化性を損なうため、リン含有量は0.030%以下とすることが望ましい。リン含有量が少なすぎると、コストが高くなる。そのため、リン含有量は0.001%以上である。
【0103】
硫黄は界面活性元素であり耐酸化性を損なうため、可能な限り含有量を少なく設定することが望ましい。そのため、硫黄は最大0.010%に定められる。
【0104】
モリブデン元素は耐酸化性を低下させるため、最大2.0%に制限される。
【0105】
タングステン元素も同様に耐酸化性を低下させるため、最大2.0%に制限される。
【0106】
必要に応じて、例えばイットリウム、ランタン、セリウム、セリウムミッシュメタルなどの酸素と親和性のある元素を添加することにより、耐酸化性をさらに向上させることができる。これらの元素は、酸化物膜に取り込まれ、そこで粒界にある酸素の拡散経路を遮断することで耐酸化性を向上させる。
【0107】
イットリウムの耐酸化性向上効果を得るためには、イットリウムの0.001%の最低含有量が必要である。コストの面から、上限は0.20%に設定される。
【0108】
ランタンの耐酸化性向上効果を得るためには、ランタンの0.001%の最低含有量が必要である。コストの面から、上限は0.20%に設定される。
【0109】
セリウムの耐酸化性向上効果を得るためには、セリウムの0.001%の最低含有量が必要である。コストの面から、上限は0.20%に設定される。
【0110】
セリウムミッシュメタルによる耐酸化性向上効果を得るためには、セリウムミッシュメタルの0.001%の最低含有量が必要である。コストの面から、上限は0.20%に設定される。
【0111】
また、ニオブも高温強度を高めるため、必要に応じてニオブを添加することも可能である。含有量を増やすと、コストが非常に高くなる。そのため、上限は1.10%に設定される。
【0112】
また、タンタルも高温強度を高めるため、必要に応じて合金はタンタルを含むこともできる。含有量を増やすと、コストが非常に高くなる。そのため、上限は0.60%に設定される。効果を得るには、0.001%の最低含有量が必要である。
【0113】
必要に応じて、合金はジルコンを含むこともできる。ジルコンの高温強度および耐酸化性向上効果を得るためには、ジルコンの0.001%の最低含有量が必要である。コストの面から、上限は0.20%のジルコンに設定される。
【0114】
ハフニウムの高温強度および耐酸化性向上効果を得るためには、ハフニウムの0.001%の最低含有量が必要である。コスト面から、上限は0.20%のハフニウムに設定される。
【0115】
また、ホウ素はクリープ強度を向上させるため、必要に応じて合金にホウ素を添加することができる。したがって、少なくとも0.0001%の含有量が存在すべきである。同時に、この界面活性元素は耐酸化性を低下させる。そのため、最大0.008%のホウ素に設定される。
【0116】
コバルトは、この合金に5.0%まで含まれていてよい。含有量が多くなると、耐酸化性が著しく低下する。
【0117】
銅元素は耐酸化性を低下させるため、最大0.5%に制限される。
【0118】
バナジウム元素も同様に耐酸化性を低下させるため、最大0.5%に制限される。
【0119】
鉛元素は耐酸化性を低下させるため、最大0.002%に制限される。亜鉛およびスズも同様である。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
【表3】
【0123】
【表4】
【0124】
【表5】
図1
【国際調査報告】