(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(54)【発明の名称】CB1受容体アゴニストの副作用を軽減するペプチド化合物
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20230131BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230131BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20230131BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230131BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230131BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20230131BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20230131BHJP
A61P 1/08 20060101ALI20230131BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230131BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20230131BHJP
A61K 31/352 20060101ALI20230131BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
C07K7/08
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K38/10
A61P25/04
A61P25/06
A61P29/00
A61P19/02
A61P15/00
A61P29/00 101
A61P1/14
A61P1/08
A61P27/06
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/14
A61P25/22
A61K31/352
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520668
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(85)【翻訳文提出日】2022-05-31
(86)【国際出願番号】 EP2020077642
(87)【国際公開番号】W WO2021064165
(87)【国際公開日】2021-04-08
(32)【優先日】2019-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】514267962
【氏名又は名称】ウニベルシタ デ バルセローナ
(71)【出願人】
【識別番号】513317482
【氏名又は名称】ユニベルシタート ポンペウ ファブラ
(71)【出願人】
【識別番号】521440507
【氏名又は名称】ウニベルシタ アウトノマ デ バルセロナ
(71)【出願人】
【識別番号】522132373
【氏名又は名称】インシュティトュート デ メディシナ モレキュラー ジョアン ロボ アントゥネス
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTO DE MEDICINA MOLECULAR JOAO LOBO ANTUNES
(71)【出願人】
【識別番号】522132395
【氏名又は名称】ファクルダーヂ ヂ メディシナ ダ ウニベルシダーヂ ヂ リスボン
【氏名又は名称原語表記】FACULDADE DE MEDICINA DA UNIVERSIDADE DE LISBOA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】カサド ブリリョ、ビセン
(72)【発明者】
【氏名】モレノ ギリェン、エステファニア
(72)【発明者】
【氏名】モルドナド ロペス、ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】アンドレウ マルティネス、ダビド
(72)【発明者】
【氏名】ガリョ、マリア
(72)【発明者】
【氏名】パルド カラスコ、レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】カスターニョ、ミゲル
(72)【発明者】
【氏名】ネベス、ベラ
(72)【発明者】
【氏名】カバコ、マルコ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA18
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA02
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA021
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4C084ZA082
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA331
4C084ZA332
4C084ZA691
4C084ZA692
4C084ZA711
4C084ZA712
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZA961
4C084ZA962
4C084ZB151
4C084ZB152
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZA02
4C086ZA08
4C086ZA15
4C086ZA33
4C086ZA69
4C086ZA71
4C086ZA81
4C086ZA96
4C086ZB15
4C086ZB21
4C086ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA01
4H045BA17
4H045CA40
4H045CA45
4H045DA50
4H045EA20
4H045EA21
4H045FA33
(57)【要約】
本発明は、式(I)の化合物:
AA1-AA2-D-Ile-AA3-D-Met-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2
(I)、
またはその薬学的に許容される塩に関し、またそれらを得る方法およびそれらの治療用途(適応症)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物:
AA
1-AA
2-D-Ile-AA
3-D-Met-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH
2 (I)
(式中、
AA
1は、D-トリプトファン(D-Trp)、1-ナフチルアラニン(D-1-Nal)および2-ナフチルアラニン(D-2-Nal)からなる群から選択されるアミノ酸を表し;
AA
2は、D-ロイシン(D-Leu)、D-ノルロイシン(D-Nle)およびD-フェニルアラニン(D-Phe)からなる群から選択されるアミノ酸を表し;
AA
3は、D-メチオニン(D-Met)およびD-ノルロイシン(D-Nle)からなる群から選択されるアミノ酸を表す)、
またはその薬学的に許容される塩。
【請求項2】
AA
1がD-トリプトファン(D-Trp)を表す、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
AA
2がD-ロイシン(D-Leu)を表す、請求項1~2のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項4】
AA
3がD-Tyrを表す、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
D-Trp-D-Leu-D-Ile-D-Tyr-D-Met-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp
またはその薬学的に許容される塩
からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
治療有効量の請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物を含む、医薬組成物または獣医用組成物。
【請求項7】
2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、2-アラキドニルグリセリルエーテル(2-AGE、ノラジンエーテル)、アナンダミド(N-アラキドノイルエタノールアミンまたはAEA)、N-アラキドノイルドーパミン、パルミトイルエタノールアミド(PEA);11-ヒドロキシ-Δ8-テトラヒドロカンナビノール、11-ヒドロキシ-Δ9-テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、Δ8-テトラヒドロカンナビノール、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、THCまたはΔ9-THC)、AM-2201(1-(5-フルオロペンチル)-3-(1-ナフトイル)インドール)、AM-678(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、アラキドニル-2’-クロロエチルアミド(ACEA)、CP55,940([(-)-シス-3-[2-ヒドロキシ-4-(1,1-ジメチルヘプチル)フェニル]-トランス-4-(3-ヒドロキシプロピル)-シクロヘキサノール])、HU-210、JWH-018(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、JWH-073、リノレイルエタノールアミド、レボナントラドール(CP50,556-1)、ナビロン、ナビキシモルスおよびWIN55,212-2、およびこれらの混合物からなる群から選択されるCB
1受容体アゴニストと組み合わせて、医薬として使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、2-アラキドニルグリセリルエーテル(2-AGE、ノラジンエーテル)、アナンダミド(N-アラキドノイルエタノールアミンまたはAEA)、N-アラキドノイルドーパミン、パルミトイルエタノールアミド(PEA);11-ヒドロキシ-Δ8-テトラヒドロカンナビノール、11-ヒドロキシ-Δ9-テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、Δ8-テトラヒドロカンナビノール、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、THCまたはΔ9-THC)、AM-2201(1-(5-フルオロペンチル)-3-(1-ナフトイル)インドール)、AM-678(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、アラキドニル-2’-クロロエチルアミド(ACEA)、CP55,940([(-)-シス-3-[2-ヒドロキシ-4-(1,1-ジメチルヘプチル)フェニル]-トランス-4-(3-ヒドロキシプロピル)-シクロヘキサノール])、HU-210、JWH-018(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、JWH-073、リノレイルエタノールアミド、レボナントラドール(CP50,556-1)、ナビロン、ナビキシモルスおよびWIN55,212-2、およびこれらの混合物からなる群から選択されるCB
1受容体アゴニストと組み合わせて、ヒトを含む動物におけるCB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態の治療または予防に使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項9】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態が、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連する疼痛からなる群から選択されるものであり、食欲促進治療、化学療法時の制吐薬としての、緑内障の治療のための、多発性硬化症患者における痙縮の治療における、および運動障害(特に、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)の治療における、請求項8に記載の使用のための組み合わせ。
【請求項10】
2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、2-アラキドニルグリセリルエーテル(2-AGE、ノラジンエーテル)、アナンダミド(N-アラキドノイルエタノールアミンまたはAEA)、N-アラキドノイルドーパミン、パルミトイルエタノールアミド(PEA);11-ヒドロキシ-Δ8-テトラヒドロカンナビノール、11-ヒドロキシ-Δ9-テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、Δ8-テトラヒドロカンナビノール、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、THCまたはΔ9-THC)、AM-2201(1-(5-フルオロペンチル)-3-(1-ナフトイル)インドール)、AM-678(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、アラキドニル-2’-クロロエチルアミド(ACEA)、CP55,940([(-)-シス-3-[2-ヒドロキシ-4-(1,1-ジメチルヘプチル)フェニル]-トランス-4-(3-ヒドロキシプロピル)-シクロヘキサノール])、HU-210、JWH-018(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、JWH-073、リノレイルエタノールアミド、レボナントラドール(CP50,556-1)、ナビロン、ナビキシモルスおよびWIN55,212-2、およびこれらの混合物からなる群から選択されるCB
1受容体アゴニストと組み合わせて、CB
1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化の軽減に使用するための、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態が疼痛である、請求項8~9のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項12】
疼痛が慢性疼痛である、請求項11に記載の使用のための化合物。
【請求項13】
疼痛が、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、および末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連するものである、請求項9、11~12のいずれか一項に記載の使用のための化合物。
【請求項14】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態の治療が、食欲不振、癌の治療における化学療法によって引き起こされる嘔吐、緑内障、多発性硬化症患者における痙縮、および運動障害(特に、ハンチントン病、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)からなる群から選択される疾患または状態の治療である、請求項8に記載の使用のための化合物。
【請求項15】
ヒトを含む動物におけるCB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患の治療または予防のための医薬の製造のための、CB
1受容体アゴニストと組み合わせた、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項16】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態が、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連する疼痛からなる群から選択されるものであり、食欲促進治療、化学療法時の制吐薬としての、緑内障の治療のための、多発性硬化症患者における痙縮の治療における、および運動障害(特に、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)の治療における、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
CB
1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減するための医薬の製造のための、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項18】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態が疼痛である、請求項15~16のいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
疼痛が慢性疼痛である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
疼痛が、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、および末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連するものである、請求項15、18~19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態の治療が、食欲不振、癌の治療における化学療法によって引き起こされる嘔吐、緑内障、多発性硬化症患者における痙縮、および運動障害(特に、ハンチントン病、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)からなる群から選択される疾患または状態の治療である、請求項15に記載の使用。
【請求項22】
前記治療または予防が、CB
1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減することも可能である、請求項15~16、18~21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項23】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩をCB
1受容体アゴニストと組み合わせてヒトを含む動物に投与することにより、当該動物において、CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患を治療または予防する方法。
【請求項24】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態が、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連する疼痛からなる群から選択されるものであり、食欲促進治療、化学療法時の制吐薬としての、緑内障の治療のための、多発性硬化症患者における痙縮の治療における、および運動障害(特に、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)の治療における、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩をCB
1受容体アゴニストと組み合わせて前記動物に投与することにより、CB
1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減するための方法。
【請求項26】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態が疼痛である、請求項23~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
疼痛が慢性疼痛である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
疼痛が、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、および末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連するものである、請求項24、26~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記CB
1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患または状態の治療が、食欲不振、癌の前記治療における化学療法によって引き起こされる嘔吐、緑内障、多発性硬化症患者における痙縮、および運動障害(特に、ハンチントン病、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)からなる群から選択される疾患または状態の治療である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
前記治療または予防が、CB
1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減することも可能である、請求項23~24、26~29のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CB1受容体アゴニストによる薬理学的治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーロッパ人のほぼ5人に1人が慢性疼痛に罹患しており、仕事、社会生活および家庭生活に影響を及ぼし、毎年5億日近くの労働損失が発生し、ヨーロッパ経済に少なくとも340億ユーロの損失を与えている。鎮痛薬市場は、2019年までに1,000億ユーロに拡大すると予想されており、望ましくない副作用を回避しながら慢性患者の疼痛を効率的に軽減することができる新規補完薬の必要性が強調されている。
【0003】
大麻の主要な精神活性成分であるΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)などのCB1受容体アゴニストまたは部分アゴニストによる、カンナビノイドCB1受容体(CB1R)の活性化は、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、末梢性または中枢性の神経障害性疼痛に関連する疼痛などの疼痛の治療および/または予防、食欲促進治療、癌治療における化学療法時の制吐薬、緑内障の治療、多発性硬化症患者における痙縮の治療、および運動障害(特に、ジスキネジア、ハンチントン病およびパーキンソン病など)の治療を含む治療目的で、非常に興味深い薬理反応を生じる(Kandasamy R他、Eur J Pharmacol.2018年1月5日;818:271~277;Baron EP他、Headache Pain.2018年5月24日;19(1):37;Russo EB他、Cannabis Cannabinoid Res.2016年7月1日;1(1):154~165;Miller S他、Invest Ophthalmol Vis Sci.2018年12月3日;59(15):5904~5911;Escudero-Lara A他、国際疼痛学会(IASP:International Association for the Study of Pain)第7回世界疼痛学会(7th World Congress on Pain)、ボストン、米国、12~16 2018年9月、要約ID:471100;La Porta C他、Pain.2015年10月;156(10):2001~12;Maldonado R.他、Pain.2016年2月;157補遺1:S23~32;Engeli S.,Handb Exp Pharmacol.2012;(209):357~81;Al-Ghezi ZZ他、Front Immunol.2019年8月21日;10:1921;Allen D他,Clin J Oncol Nurs.2019年2月1日;23(1):23~26;Buhmann C他、J Neural Transm(ウイーン)2019年7月;126(7):913~924;Valdeolivas S他、Int J Mol Sci.2017年3月23日;18(4);Donovan KA他、J Adolesc Young Adult Oncol.2019年8月22日[印刷前の電子出版]を参照)。
【0004】
しかしながら、このCB1R活性化は、記憶障害、および不安変化(anxiety alteration)などの他の精神活性反応、および、治療薬としてのカンナビノイドの使用にとって重大な欠点となる、大麻使用者に深刻な結果を招く社会的相互作用の障害などの様々な負の作用に関連している。
【0005】
このため、THCおよび他のCB1受容体アゴニストの有益な作用を利用することに、医学的に大きな関心が寄せられている。
【0006】
5-HT2A受容体(5-HT2AR)欠損マウスを用いて行われた行動学的研究により、THCの有益な抗侵害受容作用とその有害な健忘特性における顕著な5-HT2AR依存性解離が明らかになった。記憶障害、不安変化、および社会的相互作用などのTHCの特定の作用は5-HT2ARの制御下にあるが、THCの急性自発運動抑制作用、体温低下作用、不安惹起作用、および抗侵害受容作用は5-HT2ARの制御下にないことが報告されている(Vinals X.他;PLoS Biol.2015年7月9日;13(7):e1002194)。
【0007】
CB1Rと5-HT2ARが、記憶障害に関与する特定の脳領域で発現され機能的に活性であるヘテロマーを形成すること、および、そのヘテロマー形成を妨害することが、THCなどのCB1Rアゴニストへの曝露によって引き起こされる記憶障害および他の望ましくない副作用の選択的な抑止につながる貴重な戦略であることが示されている(Vinals X.他;PLoS Biol.2015年7月9日;13(7):e1002194)。
【0008】
また、CB1受容体の膜貫通ヘリックス5および6の配列を有する合成ペプチドを細胞透過性ペプチドと融合させたものが、インビボで5-HT2ARとの受容体ヘテロマー化(heteromerization)を妨害できることも開示されている。
【0009】
この度、本発明者らは、以前から知られているペプチドよりも効率的に、カンナビノイド受容体CB1Rとセロトニン受容体5HT2ARによって形成されるヘテロマーを妨害することができるだけでなく、より高い加水分解安定性を有し、血液脳関門を効率的に通過することができる新規合成ペプチドを発見した。
【発明の概要】
【0010】
第1の態様において、本発明は、式(I)の化合物
AA1-AA2-D-Ile-D-Tyr-AA3-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2
(I)
(式中、
AA1は、D-トリプトファン(D-Trp)、1-ナフチルアラニン(D-1-Nal)および2-ナフチルアラニン(D-2-Nal)からなる群から選択されるアミノ酸を表し;
AA2は、D-ロイシン(D-Leu)、D-ノルロイシン(D-Nle)およびD-フェニルアラニン(D-Phe)からなる群から選択されるアミノ酸を表し;
AA3は、D-メチオニン(D-Met)およびD-ノルロイシン(D-Nle)からなる群から選択されるアミノ酸を表す)、
またはその薬学的に許容される塩の提供に関する。
【0011】
特定の実施形態において、AA1はD-トリプトファン(D-Trp)を表す。
【0012】
特定の実施形態において、AA2はD-ロイシン(D-Leu)を表す。
【0013】
特定の実施形態において、AA3はD-チロシン(D-Tyr)を表す。
【0014】
特定の実施形態において、化合物は、
D-Trp-D-Leu-D-Ile-D-Tyr-D-Met-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp
またはその薬学的に許容される塩
からなる群から選択される。
【0015】
第2の態様において、本発明は、治療有効量の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される賦形剤を含む、医薬組成物または獣医用組成物に関する。本発明の文脈における薬学は、ヒト医学および獣医学の両方に関する。
【0016】
第3の態様において、本発明は、CB1受容体アゴニストと組み合わせて、医薬として使用するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩に関する。
【0017】
特定の実施形態において、本発明は、CB1受容体のアゴニストと組み合わせて、ヒトを含む動物におけるCB1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患の治療または予防に使用するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩に関する。
【0018】
特定の実施形態において、CB1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患は、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、背痛、膝痛、末梢性または中枢性の神経障害性疼痛、食欲促進治療、化学療法時の制吐薬、緑内障の治療、多発性硬化症患者における痙縮の治療、および運動障害(特に、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)の治療に関連する疼痛からなる群から選択される。
【0019】
特定の実施形態において、治療および/または予防は、CB1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減することができる。
【0020】
第4の態様において、本発明は、CB1受容体アゴニストで治療される患者において、CB1受容体アゴニストの副作用、例えば、記憶障害、不安変化などの他の精神活性反応、および社会的相互作用の障害などを軽減するのに用いるための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩に関する。患者とは、CB1受容体アゴニストの投与によって改善されやすい疾患、特に疼痛、重度の片頭痛、変形性関節症、子宮内膜症、関節リウマチ、線維筋痛症、腰痛、膝痛、末梢性または中枢性の神経障害性疼痛、食欲促進治療、化学療法時の制吐薬、緑内障の治療、多発性硬化症患者における痙縮の治療、および運動障害(特に、ジスキネジアおよびパーキンソン病など)の治療に関連する疼痛に罹患している哺乳動物、特に、ヒトとみなされる。
【0021】
本発明の第3、第4、第5および第6の態様の特定の実施形態において、CB1受容体アゴニストは、完全アゴニストまたは部分アゴニストのいずれかである。
【0022】
本発明の第3、第4、第5および第6の態様のより特定の実施形態において、CB1受容体アゴニストは、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、2-アラキドニルグリセリルエーテル(2-AGE、ノラジンエーテル)、アナンダミド(N-アラキドノイルエタノールアミンまたはAEA)、N-アラキドノイルドーパミン、パルミトイルエタノールアミド(PEA)などの哺乳動物体内で産生される内在性カンナビノイド;11-ヒドロキシ-Δ8-テトラヒドロカンナビノール、11-ヒドロキシ-Δ9-テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、Δ8-テトラヒドロカンナビノール、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、THCまたはΔ9-THC)などの植物カンナビノイド、およびAM-2201(1-(5-フルオロペンチル)-3-(1-ナフトイル)インドール)、AM-678(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、アラキドニル-2’-クロロエチルアミド(ACEA)、CP55,940([(-)-シス-3-[2-ヒドロキシ-4-(1,1-ジメチルヘプチル)フェニル]-トランス-4-(3-ヒドロキシプロピル)-シクロヘキサノール])、HU-210、JWH-018(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、JWH-073、リノレイルエタノールアミド、レボナントラドール(CP50,556-1)、ナビロン、ナビキシモルスおよびWIN55,212-2などの合成カンナビノイドからなる群から選択され、特に、植物由来カンナビノイドTHCである。
【0023】
すなわち、本発明は、式(I)の化合物を含む医薬組成物または獣医用組成物をヒトを含む動物に投与することにより、当該動物において、CB1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患を治療または予防する方法に関する。前述の特定の疾患および障害の治療のための方法は、本発明の特定の実施形態である。
【0024】
第5の態様において、本発明は、ヒトを含む動物におけるCB1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患の治療または予防のための医薬を製造するために、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩をCB1受容体アゴニストと組み合わせて使用することに関する。
【0025】
特定の実施形態において、治療および/または予防は、CB1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減することができる。
【0026】
第6の態様において、本発明は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩をCB1受容体アゴニストと組み合わせてヒトを含む動物に投与することにより、当該動物において、CB1受容体のアゴニズムによって改善されやすい疾患を治療または予防する方法に関する。
【0027】
特定の実施形態において、治療および/または予防は、CB1受容体アゴニストによって引き起こされる記憶障害および/または不安変化を軽減することができる。
【0028】
本発明の第5の態様によれば、式(I)の化合物は、以下の工程:
a)ペプチドの一部を形成するアミノ酸(D-Ala、D-Arg、Gly、D-Ile、D-Leu、D-Lys、D-Met、D-1-Nal、D-2-Nal、D-Nle、D-Phe、D-Trp、D-Tyr、D-Val)を供給する工程、
b)アミノ酸D-LysおよびD-TrpをBocで保護する工程、
c)アミノ酸D-Argを2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニルで保護する工程、
d)アミノ酸D-Thrをt-ブチルで保護する工程、
e)DMFを溶剤として、過剰の2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)および過剰のDIEAの存在下で過剰のFmoc-アミノ酸とのカップリングを行うFmoc-Rink-アミド樹脂において、アミノ酸および保護アミノ酸を組み立てる工程、
f)好ましくはCF3COOH/H2O/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)/トリイソプロピルシランを用いて、ペプチドの保護された側鎖およびペプチドを樹脂(resing)から切断する工程
を含む方法によって調製され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】ペプチド蛍光の点状パターンを観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書で用いられる場合、「CB1受容体アゴニストと組み合わせた式(I)の化合物」とは、1つの投与単位形態中の式(I)の化合物とCB1受容体アゴニストとの固定された組み合わせか、または組み合わせ投与(ここで、式(I)の化合物とCB1受容体アゴニストは、同時に独立して投与されてもよく、またはCB1受容体アゴニストの有害作用の軽減を特に可能にする時間間隔内で別々に投与されてもよい)のための式(I)の化合物を含む第1の組成物およびCB1受容体アゴニストを含む第2の組成物を含むキットオブパーツのいずれか、あるいはそれらの任意の組み合わせを意味する。
【0031】
本明細書で用いられる場合、「CB1受容体アゴニスト」という表現は、CB1カンナビノイド受容体を活性化することができる化合物を指し、リガンド、例えば2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、2-アラキドニルグリセリルエーテル(2-AGE、ノラジンエーテル)、アナンダミド(N-アラキドノイルエタノールアミンまたはAEA)、N-アラキドノイルドーパミン、パルミトイルエタノールアミド(PEA)などの哺乳動物体内で産生される内在性カンナビノイド;11-ヒドロキシ-Δ8-テトラヒドロカンナビノール、11-ヒドロキシ-Δ9-テトラヒドロカンナビノール、カンナビノール、Δ8-テトラヒドロカンナビノール、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、THCまたはΔ9-THC)などの植物カンナビノイド、およびAM-2201(1-(5-フルオロペンチル)-3-(1-ナフトイル)インドール)、AM-678(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、アラキドニル-2’-クロロエチルアミド(ACEA)、CP55,940([(-)-シス-3-[2-ヒドロキシ-4-(1,1-ジメチルヘプチル)フェニル]-トランス-4-(3-ヒドロキシプロピル)-シクロヘキサノール])、HU-210、JWH-018(1-ペンチル-3-(1-ナフトイル)インドール)、JWH-073、リノレイルエタノールアミド、レボナントラドール(CP50,556-1)、ナビロン、ナビキシモルスおよびWIN55,212-2などの合成カンナビノイドが含まれる。
【0032】
好ましい実施形態において、CB1カンナビノイド受容体アゴニストは、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)である。
【0033】
本明細書で用いられる場合、本明細書で用いられる「薬学的に許容される」という表現は、健全な医学的判断の範囲内で、著しい毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題または合併症を伴うことなく対象(例えば、ヒト)の組織と接触させて使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合う化合物、材料、組成物、および/または剤形に関する。各担体、賦形剤などもまた、医薬組成物の他の成分と適合性であるという意味で「許容される」ものでなければならない。また、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、または他の問題または合併症を伴うことなくヒトおよび動物の組織または器官と接触させて使用するのに適しており、合理的な利益/リスク比に見合うものでなければならない。適切な担体、賦形剤などは、標準的な医薬テキストに記載されており、例えば、防腐剤、凝着剤、湿潤剤、皮膚軟化剤、および抗酸化剤が挙げられる。
【0034】
本明細書で用いられる場合、「薬学的に許容される塩」という表現は、患者への投与に際して、本明細書中に記載される化合物を(直接的または間接的に)提供することができる任意の塩を指す。例えば、本明細書で提供される化合物の薬学的に許容される塩は、塩基性部分または酸性部分を含む親化合物から、従来の化学的方法によって合成される。一般に、そのような塩は、例えば、これらの化合物の遊離酸形態または塩基形態を、水中または有機溶媒中または両方の混合物中で、化学量論量の適切な塩基または酸と反応させることによって調製される。一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、2-プロパノールまたはアセトニトリルのような非水性媒体が好ましい。酸付加塩の例としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの鉱酸付加塩、および、例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩およびp-トルエンスルホン酸塩などの有機酸付加塩が挙げられる。アルカリ付加塩の例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびアンモニウム塩などの無機塩、および、例えば、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、N,N-ジアルキレンエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩および塩基性アミノ酸塩などの有機アルカリ塩が挙げられる。
【0035】
本明細書および特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」およびこの単語の変化形は、他の技術的特徴、付加物、構成要素、または工程を除外することを意図するものではない。さらに、単語「含む(comprise)」は、「からなる(consisting of)」の場合を包含する。
【0036】
ペプチド合成
本発明によるペプチドおよび参考例のペプチドの合成は、従来のペプチド合成方法によって実施され得る。
【0037】
次の段落に記載されているプロセスは、実施例に記載されているペプチドの調製に実際に使用されたものであり、本発明による任意のペプチドを調製するために使用され得る。
【0038】
ペプチドは、最適化されたFmoc合成プロトコルを実行するPrelude装置(Protein Technologies、Tucson、AZ)中の50μmol(0.106g;0.47mmol/g)のFmoc-Rink-アミドChemMatrix樹脂上で組み立てた。側鎖保護は、Boc(D-Lys、TrpおよびD-Trpの保護に使用)、2,2,4,6,7ペンタメチルジヒドロベンゾフラン-5-スルホニル(D-Argの保護に使用)、およびt-ブチル(Glu、Ser、Thr、TyrおよびD-Tyrの保護に使用)であった。DMFを溶媒として用い、5+5分間、2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU、5倍過剰)およびDIEA(10倍過剰)の存在下、5倍過剰のFmoc-アミノ酸でダブルカップリングを系統的に行った。
【0039】
脱保護および開裂カクテルは、CF3COOH/H2O/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(DODT)/トリイソプロピルシラン(94:2.5:2.5:1v/v、90分)であった。合成生成物を、冷却したジエチルエーテルで沈殿させることによって単離し、4℃で3×10分間遠心分離し、H2O中に溶解し、凍結乾燥させた。
【0040】
ペプチド分析および精製
以下のプロトコルを用いて、本願に記載されたペプチドを精製および分析した。
【0041】
凍結乾燥した粗ペプチドを、直接的な方法(HOAcで酸性化したH2O)で再構成した。粗ペプチドを、LC-20ADシステム(島津製作所、京都、日本)中のLuna C18カラム(4.6×50mm、3μm、Phenomenex、Torrance、カリフォリニア州、米国)でのHPLCにより分析した。15分間にわたる溶剤A(H2O中0.045v/v%のTFA)中への溶剤B(CH3CN中0.036v/v%のTFA)の直線勾配で溶出した。ペプチドを、30分間にわたる溶剤A(H2O中0.1v/v%のTFA)中への溶剤B(CH3CN中0.1v/v%のTFA)の直線勾配を用い、7mL/分の流速で、220nmでのUV検出を行いながら、Shimadzu LC-8A装置中のLuna C18(10×250mm、10μm、Phenomenex)カラムでの分取HPLCにより精製した。分析用HPLCによる十分な純度(>95%)の画分をプールし、凍結乾燥し、Shimadzu LC-MS2010EV装置中のC18(4.6×150mmカラム、3.5μm、Phenomenex)で、流速1mL/分で15分間にわたる溶剤A(H2O中0.1v/v%のTFA)中への溶剤B(CH3CN中0.08v/v%のHCOOH)の直線勾配で溶出を行うHPLC-MSによって同一性を再分析した。
【0042】
略語:
本願では、以下の略語を使用している:
Ala:L-アラニン
D-Ala:D-アラニン
D-Arg:D-アルギニン
Glu:L-グルタミン酸
Gly:グリシン
Ile:L-イソロイシン
D-Ile:D-イソロイシン
Leu:L-ロイシン
D-Leu:D-ロイシン
D-Lys:D-リジン
Met:L-メチオニン
D-Met:D-メチオニン
D-1-Nal:1-ナフチルアラニン((2R)-2-アミノ-3-ナフタレン-1-イルプロパン酸)
D-2-Nal:2-ナフチルアラニン((2R)-2-アミノ-3-ナフタレン-2-イルプロパン酸)
D-Nle:D-ノルロイシン
Phe:L-フェニルアラニン
D-Phe:D-フェニルアラニン
Ser:L-セリン
Thr:L-スレオニン
Trp:L-トリプトファン
D-Trp:D-トリプトファン
Tyr:L-チロシン
D-Tyr:D-チロシン
Val:L-バリン
D-Val:D-バリン
CF:下記式の5(6)-カルボキシフルオレセインの残基:
【化1】
-Lys(CF)-NH
2:下記式の残基:
【化2】
-D-Lys(CF)-NH2:下記式の残基:
【化3】
Fmoc-Lys(Mtt)-OH
【化4】
【実施例】
【0043】
参考例1:
式Glu-Thr-Tyr-Leu-Met-Phe-Trp-Ile-Gly-Val-Thr-Ser-Val-Leu-Leu-Leu-Phe-Ile-Val-Tyr-Ala-Tyr-Met-Tyr-Ile-Leu-Trp-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg-NH2(配列番号1-NH2)のペプチドを、上記で説明した一般的な合成方法を用いて調製した。
【0044】
このペプチドは、カンナビノイド受容体1の膜貫通領域5(TM5)が細胞透過性ペプチド配列Tat(Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Arg)(配列番号2)と結合したものに相当する。
【0045】
HPLC:tR8.10分(15分間にわたるA中へのBの40~90%直線勾配)。ESI-MS;m/z1576.45[M+3H]+3、1182.65[M+4H]+4、946.30[M+5H]+5、788.70[M+6H]+6、676.20[M+7H]+7、591.75[M+8H]+8(MW計算値:4727.76)。
【0046】
参考例2:
式Val-Tyr-Ala-Tyr-Met-Tyr-Ile-Leu-Trp-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2のペプチドを、上記で説明した一般的な合成方法を用いて調製した。
【0047】
このペプチドは、TM5の19~27番目のアミノ酸の部分配列が細胞透過性ペプチド配列D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2と結合したものに由来する。
【0048】
HPLC:tR5.24分(15分間にわたるA中へのBの30~60%直線勾配)。ESI-MS;m/z:1023.60[M+2H]+2、682.75[M+3H]+3、511.20[M+4H]+4、411.90[M+5H]+5、340.90[M+6H]+6、292.00[M+7H]+7(MW計算値:2045.52)。
【0049】
参考例3:
上記で説明した一般的な合成方法を用いた、式D-Trp-D-Leu-D-Ile-D-Tyr-D-Met-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2のペプチド。
【0050】
このペプチドは、TM5の23~27番目のアミノ酸の部分配列のレトロエナンチオ型(retroenantio version)(D-Trp-D-Leu-D-Ile-D-Tyr-D-Met)が細胞透過性ペプチド配列D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2と結合したものに由来する。ペプチド配列のレトロエナンチオ型とは、すべてのアミノ酸がそのD-エナンチオマーで置換され、配列中のアミノ酸の順序が逆転している新しいペプチド配列と理解される。
【0051】
HPLC:tR6.33分(15分間にわたるA中へのBの20~60%直線勾配)。ESI-MS;m/z:1549.70[M+1H]+1、775.45[M+2H]+2、517.35[M+3H]+3、389.95[M+4H]+4(MW計算値:1548.96)。
【0052】
実施例1:
上記で説明した一般的な合成方法を用いた、式D-Trp-D-Leu-D-Ile-D-Tyr-D-Met-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val-D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2のペプチド。
【0053】
このペプチドは、TM5の19~27番目のアミノ酸の部分配列のレトロエナンチオ型(D-Trp-D-Leu-D-Ile-D-Tyr-D-Met-D-Tyr-D-Ala-D-Tyr-D-Val)が細胞透過性ペプチド配列D-Ala-Gly-D-Ile-D-Leu-D-Lys-D-Arg-D-Trp-NH2と結合したものに由来する。ペプチド配列のレトロエナンチオ型とは、すべてのアミノ酸がそのD-エナンチオマーで置換され、配列中のアミノ酸の順序が逆転している新しいペプチド配列と理解される。
【0054】
HPLC:tR7.10分(15分間にわたるA中へのBの30~60%直線勾配)。ESI-MS;m/z:1023.90[M+2H]+2、682.70[M+3H]+3、512.85[M+4H]+4、409.90[M+5H]+5、340.95[M+6H]+6、293.00[M+7H]+7(MW計算値:2045.52)。
【0055】
実施例2:
実施例1のペプチドは、そのカルボキシ末端に-Lys(CF)-NH2残基を結合することにより標識されている。
【0056】
ペプチドのカルボキシ末端への標識(5(6)-カルボキシフルオレセインの組み込み)は、ペプチド配列にさらなる標識リジンを付加することによって行った。そのために、Fmoc-Lys(Mtt)-OHを使用した。
【0057】
上記化合物では、リジンの側鎖はメチルトリチル(Mtt)保護基で保護されており、これは樹脂中において1%TFAの存在下で選択的に脱保護することができる(この条件下では、他のすべての側鎖保護基は安定である)。
【0058】
上記化合物を標識対象ペプチドのカルボキシ末端アミノ酸と縮合させた後、メチルトリチルを除去し、「余分な」リジン側鎖のε-NH2基を5(6)-カルボキシフルオレセインの-COOH基と反応させて、標識ペプチドを得る。最後にカルボキシ末端基をアミド化する。
【0059】
このわずかに修飾を加えたペプチドを用いて、このペプチドのインビトロBBBトランスロケーションおよび細胞内移行を評価した。
【0060】
試験方法
A.トリプシン消化
トリプシンの作用に対するペプチドの安定性は、以下に記載する方法で試験した。
【0061】
1000μg/1000μLのトリプシン溶液(Thermo Fisher Scientific)は、凍結乾燥酵素を50mM炭酸水素アンモニウム緩衝液(pH8.2)に懸濁して調製した。同じ緩衝液に溶解したペプチド(1μg/μL)を、トリプシンと共に(ペプチド:トリプシン比=100:1)、37℃で24時間インキュベートした。試料を様々な時点で採取し、H2O中0.5%ギ酸を20%(v/v)添加することによって消化を停止させた。試料は逆相HPLC-MSで分析するまで-20℃で保存した。実験は2連で行い、データをGraphPad Prismに適合させた。
【0062】
B.bEnd.3細胞培養
bEnd.3脳内皮腫細胞(ATCC(登録商標)CRL-2299(商標))は、10%牛胎児血清(FBS)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質溶液を補充したDMEM(Gibco(商標)、米国)中で75cm2Tフラスコ上の単層として増殖させた。細胞は、95%大気と5%CO2の加湿雰囲気中、37℃で培養し(MCO-18AIC(UV)、三洋電機、日本)、1日おきに培地を交換した。細胞は、コンフルエントになった時点でトリプシン-EDTA(Gibco(商標)、米国)を用いて細胞培養用Tフラスコから収集し、種々のアッセイ(細胞増殖、インビトロBBBトランスロケーション、およびインビトロ二分子蛍光相補性)に使用した。
【0063】
C.細胞生存率アッセイ
評価対象化合物のインビトロ細胞毒性を、インビトロBBBモデルと同じ細胞株、すなわちbEnd.3細胞を用いて調べ、毒性の可能性を評価する。bEnd.3細胞株は、漸増濃度の化合物に24時間曝露した。
【0064】
bEnd.3細胞に対するペプチドの細胞毒性は、CellTiter-Blue(登録商標)細胞生存率アッセイにより、下記のように製造業者の指示に従って試験した。
【0065】
このアッセイは、生存細胞がレサズリンを還元して高蛍光性代謝物であるレゾルフィンにする能力に基づいている。非生存細胞はレゾルフィンを生成することができない。したがって、このアプローチを用いることで、代謝細胞と非代謝細胞を区別し、種々の化合物の細胞毒性を間接的に判定することが可能である。bEnd.3細胞を、10,000細胞/100μL/ウェルで96ウェルプレート(Corning、米国)上に播種し、24時間インキュベートした。培地除去後、DMEM培地で予め希釈したペプチド(0.01~50μMの範囲)100μLをウェルに添加した。24時間のインキュベーション後、20μLのCellTiter-Blue(登録商標)試薬を各ウェルに添加し、5%CO
2の加湿雰囲気下、37℃で3時間インキュベートした。Infinite F200 TECANプレートリーダーを用いて、λ
exc=560nmおよびλ
em=590nmで蛍光強度を測定した。培地および1%Triton X-100含有培地を、それぞれ陽性対照(細胞生存率100%)および陰性対照(細胞生存率0%)として使用した。細胞生存率(%)は、以下の方程式で求めた:
【数1】
(式中、F
pはペプチド処理した細胞の蛍光強度、F
NCは陰性対照の蛍光強度、F
PCは陽性対照の蛍光強度である。)
【0066】
実験は、独立に増殖させた細胞培養物を用いて、異なる日に行った。
【0067】
D.インビトロBBBトランスロケーションアッセイ
bEnd.3細胞を、培養用Tフラスコ中でコンフルエンスまで増殖させた。細胞をトリプシン-EDTA(Gibco(商標)、米国)を用いて注意深く収集し、24ウェルプレート(BD Falcon、米国)用の1%フィブロネクチンコートした組織培養インサート(1.0μm孔の透明ポリエステル(PET)膜)に5,000細胞/ウェルで播種した。10日間を通して、2日ごとに培地を交換した。10日後、細胞を1×PBSで2回、フェノールレッドを含まないDMEM培地(Gibco/Thermo Fisher、USA)で1回洗浄した。次いで、フェノールレッドを含まないDMEMで最終濃度1μMに希釈したペプチドを、インビトロBBBモデルの頂端側に添加した。実験は、独立に増殖させた細胞培養物を用いて、異なる日に行った。
【0068】
5(6)-カルボキシフルオレセイン標識ペプチドのトランスロケーションは、蛍光発光によって判定する。
【0069】
インビトロBBBモデルは、bEnd.3細胞が2つのチャンバーに分かれて増殖するインサート付きのトランスウェルシステムからなる(
図1参照)。インサート、すなわち頂端側は血液脳関門の血液側に相当し、側底側(下部チャンバー)は血液脳関門の脳側に相当する。
【0070】
ペプチドのトランスロケーション能力を調べるために、評価対象の5(6)-カルボキシフルオレセイン標識ペプチド1μMを上述のインビトロBBBモデルの頂端側に添加した。24時間のインキュベーション後に頂端側容量および側底容量を収集し、これらの試料中の蛍光をプレートリーダーで別々に測定した。細胞内移行パーセンテージは、全蛍光と、頂端側と側底側の蛍光の合計との差として得た。
【0071】
24時間のインキュベーション後、頂端側および側底側から試料を採取し、分析する。蛍光をinfinite F200 TECANプレートリーダーを用いて測定した。トランスロケーションのパーセンテージ(%)は、以下の方程式を用いて算出した:
【数2】
【0072】
Fiは回収した蛍光強度であり、F細胞はペプチドインキュベーションを行わない細胞から回収した蛍光強度であり、Fペプチドはトランスウェル頂端側に最初に添加した全ペプチドの蛍光強度である。
【0073】
内皮関門の完全性は、分子量4kDaの蛍光標識デキストラン(FD)(FD4)の透過性によって評価する。標識ペプチドの存在下または非存在下での頂端側からの蛍光プローブのクリアランスにより、BBBの完全性に関する情報が得られる。
【0074】
E.二分子蛍光相補性によるCB
1
Rと5-HT
2A
Rとのヘテロマーを破壊する能力のインビトロ判定
「Vinals* X,Moreno* E,Lanfumey L,Cordomi A,Pastor A,de La Torre R,Gasperini P,Navarro G,Howell LA,Pardo L,Lluis C,Canela EI,McCormick* PJ,Maldonado* R,Robledo* P.「Δ9-テトラヒドロカンナビノールにより誘導される認知障害は、カンナビノイドCB1受容体とセロトニン5-HT2A受容体とのヘテロマーを介して生じる。(Cognitive Impairment Induced by Delta9-tetrahydrocannabinol Occurs through Heteromers between Cannabinoid CB1 and Serotonin 5-HT2A Receptors.)」PLoS Biology,13(7):e1002194(2015)」に記載の方法を、本明細書に記載の若干の修正を加えて使用し、CB1Rと5-HT2ARとのヘテロマーを破壊するペプチドのインビトロ能力を判定した。
【0075】
発現ベクター
目的の受容体と融合したYFP Venus半短縮型タンパク質(5-HT2AR-cYFP、CB1R-nYFP)を得るために、5-HT2ARを、YFP Venusタンパク質の156~238番目のアミノ酸残基をコードする配列を含むpcDNA3.1-cVenusの制限酵素部位にインフレームとなるようにサブクローニングした。さらに、CB1Rを、YFP Venusタンパク質の1~155番目のアミノ酸残基をコードする配列を含むpcDNA3.1-nVenusの制限酵素部位にインフレームとなるようにサブクローニングした。
【0076】
構築物の発現は共焦点顕微鏡により、受容体融合タンパク質の機能性はERK1/2リン酸化により試験した。
【0077】
細胞培養および一過性トランスフェクション
ATCCから入手したヒト胚性腎臓(HEK-293T)細胞を、2mM L-グルタミン、100μg/mlピルビン酸ナトリウム、100U/mlペニシリン/ストレプトマイシン、MEM非必須アミノ酸溶液(1/100)、および5%(v/v)熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco)中で増殖させた(すべての補充物は、英国、スコットランド、ペイズリーのInvitrogen製であった)。細胞を5%CO2の雰囲気中、37℃で維持した。
【0078】
蛍光相補性アッセイ
6ウェルディッシュで増殖中の細胞に、YFP Venus N末端フラグメント(n-YFP)と融合したCB1RおよびYFP Venus C末端フラグメント(c-YFP)と融合した5-HT2ARをコードするcDNAを、PEI(ポリエチレンイミン、Sigma)法により一過性にトランスフェクトした。細胞を、血清飢餓培地中でPEIおよび150mM NaClと共に、対応するcDNAと4時間インキュベートした。4時間後、培地を新鮮な完全培地に交換した。
【0079】
48時間後、細胞を37℃で4時間、示されたTAT-ペプチド(4μM)で処理したか、または処理しなかった。相補されたYFP Venus発現を定量するために、細胞を、10mMグルコースを含むHBSSで素早く2回連続して洗浄し、剥離し、そして同じバッファーに再懸濁させた。細胞数を管理するために、ウシ血清アルブミン希釈液を標準として用い、Bradfordアッセイキット(Bio-Rad、ミュンヘン、ドイツ)を用いて試料タンパク質濃度を測定した。20μgのタンパク質を96ウェルマイクロプレート(底が透明な黒いプレート、Porvair、キングズ・リン、英国)に分配し、Mithras LB940(Berthold Technologies、バート・ヴィルトバート、ドイツ)を用いて500nmでの励起後に530nmでの蛍光発光を記録した。タンパク質の蛍光は、試料の蛍光からトランスフェクトされていない細胞の蛍光(基底)を差し引いた値として求めた。5-HT2AR-cVenusおよびnVenusを発現する細胞またはCB1R-nVenusおよびcVenusを発現する細胞は、非トランスフェクト細胞と同様の蛍光レベルを示した。
【0080】
実施例3(実施例1の化合物のトリプシン安定性)
実施例1の化合物のHPLC分析から、上述の方法Aに記載されているように提供されるトリプシンとのインキュベーションの際に、表1に要約した結果がもたらされ、
【0081】
【表1】
これは、実施例1の化合物がトリプシン消化に対して非常に耐性があり、出発ペプチドの80%超が24時間後に変質していないことを証明するものである。
【0082】
実施例4(実施例1の化合物の細胞毒性)
実施例1の化合物の細胞毒性を、上述の方法B.で提供されているように評価し、その結果を以下の表2に要約する。
【0083】
【0084】
上記の結果から、EC50値は50μMより高いことが分かる。この実験から、実施例1の化合物には顕著な毒性はないことが分かる。
【0085】
実施例5(実施例2の化合物のトランスロケーション)
実施例2の化合物(実施例1の5(6)-カルボキシフルオレセイン標識ペプチド)のトランスロケーションを、上述の方法D.で提供されるように評価した。
【0086】
実施例2のペプチド(実施例1の5(6)-カルボキシフルオレセイン標識ペプチド)を合計1μM、最初に頂端側に添加した。24時間インキュベーション後、頂端側、細胞内移行、および側底側におけるペプチドの相対量を定量した。頂端側および側底側の量を、頂部に添加した標識ペプチドの初期総量で正規化し、回収した蛍光線量のパーセンテージで表した。細胞内移行したペプチドは、初期添加量と、頂端側および側底側との差である。その結果を以下の表3に示す:
【0087】
【0088】
得られたデータは、実施例2のペプチド(5(6)-カルボキシフルオレセインで標識された実施例1のペプチド)が、細胞内移行保持率19.98±7.324%で、24時間で最大43.39±2.703%までBBBをトランスロケートさせることができることを実証している。
【0089】
内皮バリアの完全性を、方法Dに記載されているように評価した。頂端側からの蛍光プローブ(分子量4kDaの蛍光標識デキストラン(FD)(FD4))のクリアランスは、標識ペプチドの存在下でも非存在下でも無視できる程度であり、細胞バリアの開窓と傍細胞漏出の両方がないことが立証された。
【0090】
実施例6(二分子蛍光相補性によるCB
1
Rと5-HT
2A
Rとのヘテロマーを破壊する能力のインビトロ判定)
CB1Rと5-HT2ARとのヘテロマーを破壊する実施例1の化合物の能力を、上述の方法E.に基づく二分子蛍光相補性により評価し、得られた結果を表4に要約する。
【0091】
【0092】
実施例7 共焦点顕微鏡によるペプチドの細胞内移行評価
bEnd.3細胞を、ibiTreatコートした8ウェルμ-スライド(Ibidi、ドイツ)に50,000細胞/200μLで24時間播種した。次いで、細胞を1×PBSで2回、培地で1回、注意深く洗浄し、最終濃度10μMの標識ペプチドと共に2時間インキュベートした。2時間後、細胞を再度1×PBSで2回、培地で1回洗浄し、核および膜をそれぞれHoescht33342(ThermoFisher、米国)およびCellsMask(商標)Deep Red(ThermoFisher、米国)で染色した。核染料および膜染料は、最終濃度5μg/mL、0.5×の作業溶液で、37℃で10分間細胞に添加した。最後に、細胞を1×PBSで2回洗浄し、画像化した。
【0093】
αPlan-Apochromat×100油浸対物レンズ(開口数1.46)を装備した共焦点走査型Zeiss LSM880顕微鏡(Carl Zeiss、ドイツ)で取得した。ダイオード405-30およびHeNe633レーザーを使用して、Hoesch33342(Sigma-Aldrich、スペイン)およびCellMask(商標)Deep Red形質膜染料(ThermoFisher、米国)を励起した。アルゴンレーザーからの488nm線を用いて、実施例2のペプチド(5(6)-カルボフルオレセイン-Lysで標識された実施例1のペプチド)を励起した。通常の共焦点モードでは、0.6倍ズーム画像を1024×1024の解像度で記録した。画像取得にはZENソフトウェアを使用した。画像処理にはFijiソフトウェアを使用した。少なくとも合計12の画像を、3回別個に繰り返して取得した。実施例2のペプチド(すなわち、5(6)-カルボフルオレセイン-Lysで標識された実施例1のペプチド)の細胞内移行を確認するために、bEnd.3細胞を10μMの上記ペプチドと共に37℃で2時間インキュベートし、共焦点顕微鏡を用いて調べた。
【0094】
ペプチド蛍光の点状パターンが観察され、細胞内移行後に小胞画分中にペプチドが存在することが示された。これを
図2に示す。
【0095】
実施例8:記憶に対するペプチドの作用のインビボ判定(新規物体認識試験)
「Puighermanal E,Marsicano G,Busquets-Garcia A、Lutz B,Maldonado R,Ozaita A.「海馬長期記憶のカンナビノイド調節はmTORシグナル伝達により媒介される(Cannabinoid modulation of hippocampal long-term memory is mediated by mTOR signaling.)」Nature Neuroscience,12(9):1152~8(2009)」に記載された方法を、本明細書に記載した若干の修正を加えて使用し、記憶に対するペプチドの作用を評価した。結果を以下の表5に要約する。
【0096】
1日目(馴化)に、マウスを、課題を行うV迷路に9分間馴化させた。2日目(訓練)に、マウスをV迷路に9分間戻し、2つの同一の物体を提示し、マウスがそれぞれの物体を探索するのに費やした時間を記録した。24時間後にマウスを再びV迷路に9分間入れ(試験)、馴染みのある物体の1つを新規物体に置き換え、2つの物体(新規および馴染みのある)のそれぞれを探索するのに費やした時間の合計を算出した。物体探索は、物体に対する鼻の向きが2cm未満になることと定義した。識別指数は、新規物体または馴染みのある物体の探索に費やした時間の差を、2つの物体の探索時間の合計で割って算出した。正常なマウスは馴染みのある物体よりも新規物体を探索することにより多くの時間を費やすので、識別指数が高いほど馴染みのある物体に対する記憶保持力が高いことを示すと考えられる。
【0097】
マウスの体重1kg当たり20mgのペプチドの用量でのビヒクル(生理食塩水+2%DMSO)中の試験対象ペプチドによる処置、または上記ビヒクル単独による処置を、訓練直後に静脈内投与(IV)で行い、一方、IPビヒクル(5v/v%のエタノール、5v/v%のCremophor-ELおよび90v/v%生理食塩水)またはIPビヒクルに溶解したマウス1kg当たり3mgのTHCを、ペプチドの30分後に腹腔内注射(IP)で投与した。
【0098】
【0099】
上記の表に要約した結果から、実施例1の化合物の共投与により、記憶に対するTHCの有害作用が覆されることが示される。
【0100】
実施例9:ペプチドの鎮痛効果のインビボ判定(ホットプレート試験)
「Monory K,Blaudzun H,Massa F,Kaiser N,Lemberger T,Schutz G,Wotjak CT,Lutz B*,Marsicano G*.「マウスにおけるD9-テトラヒドロカンナビノールの行動的および自律神経的作用の遺伝学的解析(Genetic Dissection of Behavioural and Autonomic Effects of D9-tetrahydrocannabinol in Mice.)」PLOS Biology,5(10):e269,2007」に記載された方法を、本明細書に記載した若干の修正を加えて使用し、ペプチドの鎮痛効果を評価した。結果を以下の表6に要約する。
【0101】
【0102】
THC誘発鎮痛を、IPビヒクル(5v/v%のエタノール、5v/v%のCremophor-ELおよび90v/v%生理食塩水)中に溶解したTHCの腹腔内注射(IP)またはビヒクル(生理食塩水+2%DMSO)単独注射の60分後に、および、IVビヒクル中の試験対象ペプチドまたはビヒクル単独の最初の注射から90分後の静脈内注射により、ホットプレート鎮痛計(Hot/Cold Plate Test、Bioseb、米国)を用いて測定した。プレートを52±0.5℃に加熱し、マウスがプレート上で足舐めおよび跳躍反応を示すまでの時間(秒)を記録した(足舐めおよび跳躍潜時)。組織損傷を防ぐため、240秒をカットオフタイムとした。
【0103】
実施例1の化合物とTHCとの共投与により、実質的な鎮痛効果の達成が可能になる。
【0104】
参考文献一覧
明細書に引用した非特許文献
1. Vinals X. et al; PLoS Biol. 2015 Jul 9;13(7):e1002194
2. Kandasamy R, Dawson CT, Craft RM, Morgan MM. Anti-migraine effect of Δ9-tetrahydrocannabinol in the female rat. Eur J Pharmacol. 2018 Jan 5;818:271-277. doi: 10.1016/j.ejphar.2017.10.054. Epub 2017 Oct 28.
3. Baron EP, Lucas P, Eades J, Hogue O. Patterns of medicinal cannabis use, strain analysis, and substitution effect among patients with migraine, headache, arthritis, and chronic pain in a medicinal cannabis cohort. Headache Pain. 2018 May 24;19(1):37. doi: 10.1186/s10194-018-0862-2.
4. Russo EB. Clinical Endocannabinoid Deficiency Reconsidered: Current Research Supports the Theory in Migraine, Fibromyalgia, Irritable Bowel, and Other Treatment-Resistant Syndromes. Cannabis Cannabinoid Res. 2016 Jul 1;1(1):154-165. doi: 10.1089/can.2016.0009. eCollection 2016.
5. Miller S, Daily L, Leishman E, Bradshaw H, Straiker A. Δ9-Tetrahydrocannabinol and Cannabidiol Differentially Regulate Intraocular Pressure. Invest Ophthalmol Vis Sci. 2018 Dec 3;59(15):5904-5911. doi: 10.1167/iovs.18-24838.
6. Escudero-Lara A, Argerich J, Cabanero D, Maldonado R. Δ9-tetrahydrocannabinol (THC) alleviates pelvic hypersensitivity in a mouse model of endometriosis. IASP (International Association for the Study of Pain) 7th World Congress on Pain. Boston, USA. 12-16 September 2018, Abstract ID: 471100.
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【配列表】
【国際調査報告】