(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(54)【発明の名称】微生物を除去するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20230131BHJP
A61L 9/18 20060101ALI20230131BHJP
A61L 9/20 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
A61L2/10
A61L9/18
A61L9/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530900
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2022-07-05
(86)【国際出願番号】 SG2020050701
(87)【国際公開番号】W WO2021107882
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10201911270R
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517435434
【氏名又は名称】ナショナル ユニバーシティー オブ シンガポール
【氏名又は名称原語表記】National University of Singapore
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョウ、ウェイピャオ
(72)【発明者】
【氏名】ゲイト、ヴィナヤック
(72)【発明者】
【氏名】ズウィ、イエット
(72)【発明者】
【氏名】ユク、ヒョン-ギュン
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA02
4C058AA07
4C058BB06
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4C058KK23
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4C180HH18
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4C180MM10
(57)【要約】
本発明は、複数の発光器を備える、微生物を除去するためのシステムであって、複数の発光器の各々は380~500nmのピーク波長の光を発するように構成されており、複数の発光器のうちの少なくとも2つ以上は異なるピーク波長の光を発するシステムを提供する。特に、3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発するように構成され得る。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を除去するためのシステムであって、複数の発光器を備え、前記複数の発光器の各々は、380~500nmの波長を含む光を発するように構成されており、前記複数の発光器のうちの少なくとも2つ以上は異なる波長の光を発する、システム。
【請求項2】
前記複数の発光器の各々は、380~430nmの波長を含む光を発するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数の発光器の各々は、互いに異なる波長の光を発するように構成されている、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記システムは少なくとも2つの発光器を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項5】
前記システムは少なくとも3つの発光器を備える、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記システムは3つの発光器を備え、前記3つの発光器の各々はそれぞれ、385~395nm、395~405nm、及び405~425nmの波長の光を発するように構成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
前記システムは3つの発光器を備え、前記3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発するように構成されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項8】
前記微生物は細菌、酵母菌、カビ、藻類、またはこれらの組合せである、請求項1~7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
前記微生物は前記複数の発光器が発する光を照射されると除去される、請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
前記複数の発光器は、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、半導体ダイ、レーザ、白熱灯、スーパールミネセント・ダイオード(SLD)、またはこれらの組合せを備える、請求項1~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
複数の発光器の各々が380~500nmの波長を含む光を発することを含む、微生物を除去する方法。
【請求項12】
前記発することは、前記複数の発光器の各々が380~430nmの波長を含む光を発することを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の発光器の各々は互いに異なる波長の光を発する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の発光器は少なくとも2つの発光器を備える、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の発光器は少なくとも3つの発光器を備える、請求項11~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記複数の発光器は3つの発光器を備え、前記3つの発光器の各々はそれぞれ、385~395nm、395~405nm、および405~425nmの波長の光を発する、請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記複数の発光器は3つの発光器を備え、前記3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発する、請求項11~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記微生物は細菌、酵母菌、カビ、藻類、またはこれらの組合せである、請求項11~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記微生物は前記発することによって除去される、請求項11~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の発光器は、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、半導体ダイ、レーザ、白熱灯、スーパールミネセント・ダイオード(SLD)、またはこれらの組合せを含む、請求項11~19のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物を除去するシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は我々の周りの至るところに存在しており、微生物が拡散する疾病および感染症の増加に伴い、より効果的な消毒方法が常に模索され続けている。紫外線および過酸化水素蒸気などの既存の消毒方法は間欠的にしか使用できない。このことは安全上の懸念または手作業の必要性に起因している場合がある。
【0003】
安全上の懸念の観点から、可視光を使用するという選択肢が模索されてきた。代替のまたは補完的な消毒方法としての可視光スペクトルは、人間にとって完全に安全であるという理由で連続的な消毒を可能にする。しかしながら、微生物を殺すために可視光を使用する既存の方法は単一波長の使用を伴うが、最も一般的には405nmのピーク波長であり、これは微生物内に含まれる光感受性物質の、405nmの吸収ピークを有する部分を励起することしかできない。したがって、微生物の完全な除去が達成されない可能性がある。
【0004】
したがって、微生物を除去する改善されたシステムおよび方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの課題に対処すること、ならびに/または、微生物を除去する改善されたシステムおよび方法を提供することを意図する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様によれば、本発明は、微生物を除去するためのシステムであって、複数の発光器を備え、複数の発光器の各々は380~500nmの波長を含む光を発するように構成されており、複数の発光器のうちの少なくとも2つ以上の発光器は異なる波長の光を発するシステムを提供する。特に、複数の発光器は、380~430nmの波長を含む光を発するように構成され得る。
【0007】
特定の態様によれば、複数の発光器の各々は、互いに異なる波長の光を発するように構成され得る。
【0008】
例えば、複数の発光器は少なくとも2つの発光器を備え得る。特に、複数の発光器は少なくとも3つの発光器を備え得る。
【0009】
特定の態様によれば、システムは3つの発光器を備えることができ、3つの発光器の各々はそれぞれ、385~395nm、395~405nm、および405~425nmの波長の光を発するように構成されている。特に、3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発するように構成され得る。
【0010】
微生物は任意の好適な微生物であり得る。例えば、微生物は、細菌、酵母菌、カビ、藻類、またはこれらの組合せであり得る。特に、微生物は、複数の発光器が発する光を照射されると除去され得る。
【0011】
発光器は任意の好適な発光器であり得る。例えば、発光器は、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、半導体ダイ、レーザ、白熱灯、スーパールミネセント・ダイオード(SLD)、またはこれらの組合せを備え得る。
【0012】
本発明はまた、複数の発光器の各々が380~500nmの波長を含む光を発することを含む、微生物を除去する方法も提供する。微生物は複数の発光器が発する光を照射されると除去され得る。特に、発することは、複数の発光器の各々が380~430nmの波長を含む光を発することを含み得る。
【0013】
微生物は第1の態様に関連して上記したようなものであり得る。発光器は第1の態様に関連して上記したようなものであり得る。
【0014】
特定の態様によれば、複数の発光器の各々は互いに異なる波長の光を発し得る。
【0015】
複数の発光器は少なくとも2つの発光器を備え得る。特に、複数の発光器は少なくとも3つの発光器を備え得る。
【0016】
特定の態様によれば、複数の発光器は3つの発光器を備えることができ、3つの発光器の各々はそれぞれ、385~395nm、395~405nm、および405~425nmの波長の光を発する。特に、3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本発明を十分に理解し容易に実施することができるように、添付した説明のための図面を参照して、以下に例示的な実施形態を単なる非限定的な例として記載することとする。
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る微生物を除去するためのシステムを組み込んだ装置の概略を示す図である。
【
図2】
図2(A)は単一波長の光を発することによる光感受性物質の励起への影響を示す模式図であり、
図2(B)は波長を組み合わせた光を発することによる光感受性物質の励起への影響を示す模式図である。
【
図4】波長を組み合わせた光を利用する可視光消毒システムの模式図である。
【
図5】異なる波長を組み合わせた光、及び405nmの波長のみの光による照射後の、大腸菌(ATCC25922)の不活性化プロットである。
【
図6】本発明の一実施形態に係る微生物を除去するためのシステムを組み込んだ装置の概略図である。
【
図7】波長を組み合わせた光の照射後、及び光を用いない場合の、大腸菌(ATCC25922)の不活性化プロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
上で説明したように、微生物を除去するための改善された消毒のシステムおよび方法が必要とされている。
【0020】
一般的な観点からは、本発明は、可視光スペクトルを使用して微生物細胞中の様々な内因性光感受性物質を最適に励起することによって、微生物を殺すためのシステムおよび方法に関する。特に、本発明は、表面上の微生物の効果的な除去を可能にするために、表面を場合によっては連続的に消毒するための、システムおよび方法を提供する。
【0021】
第1の態様によれば、本発明は、微生物を除去するためのシステムであって、複数の発光器を備え、複数の発光器の各々は380~500nmの波長を含む光を発するように構成されており、少なくとも2つ以上の発光器は、異なる波長の光を発するシステムを提供する。
【0022】
特に、複数の発光器の各々は、380~430nmの波長を含む光を発するように構成されている。例えば、複数の発光器の各々は、380~450nm、390~430nm、395~425nm、400~420nm、405~415nm、410~412nmの波長を含む光を発するように構成されている。
【0023】
微生物は任意の好適な微生物であり得る。例えば、微生物は、限定するものではないが、細菌、酵母菌、カビ、藻類、またはこれらの組合せであり得る。特に、微生物は、複数の発光器が発する光を照射されると除去され得る。
【0024】
微生物は、限定するものではないがポルフィリンなどの、感光性の光感受性物質を含み得る。これらの光感受性物質は、励起されると、一重項酸素、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、またはスーパーオキシドアニオンなどの活性酸素種(ROS)の生成を介し、一連の細胞傷害性反応による細胞死を引き起こし得る。これらの活性酸素種は実質的に、微生物内部に、最終的に微生物の死亡をもたらす細胞傷害性反応を引き起こす。各光感受性物質は固有の吸収スペクトルを持つ場合があり、各微生物はこれらの化合物を様々な組成で有する。
【0025】
380~500nmの波長を含む光を発するように構成されている複数の発光器を提供することによって、および、複数の発光器のうちの少なくとも2つ以上の発光器が異なる波長の光を発するように構成されることで、使用時に、異なる波長で異なる光感受性物質が励起され得るため、異なる組成の活性酸素種が生成され得る。このようにして、多種多様な内因性光感受性物質を励起することができ、その結果、微生物中の複数のポルフィリン化合物を標的にすることによって、ただ1つの波長の光を照射した場合の単一のポルフィリンとは異なり、様々な組成の活性酸素種を生成することができる。この結果、抗菌効果を高めることができる。
【0026】
本発明の目的に関して、最適な励起は、可視光電磁スペクトル内の照明素子の発光ピークと光感受性物質の吸収ピークとが一致するものとして定義され得る。
【0027】
特定の態様によれば、複数の発光器の各々は、互いに異なる波長の光を発するように構成され得る。このようにして、より多くの光感受性物質を励起することができ、微生物の細胞死をもたらす活性酸素種をより多く生成することができる。
【0028】
複数の発光器は、任意の好適な数の発光器から成ることができる。例えば、複数の発光器は、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの発光器を備え得る。特に、複数の発光器のうちの少なくとも2つ、3つ、または4つを異なる波長の光を発するように構成することができ、光は380~500nmの波長を含み、特に、光は380~430nmの波長を含む。
【0029】
特定の態様によれば、システムは3つの発光器を備えることができ、3つの発光器の各々は異なる波長の光を発するように構成されている。例えばそれぞれ、第1の発光器を385~395nmの波長の光を発するように構成することができ、第2の発光器を395~405nmの波長の光を発するように構成することができ、第3の発光器を405~425nmの波長の光を発するように構成することができる。特に、第1の発光器を385~395nmの波長の光を発するように構成することができ、第2の発光器を395~405nmの波長の光を発するように構成することができ、第3の発光器を405~415nmの波長の光を発するように構成することができる。特定の実施形態によれば、3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発するように構成され得る。別の実施形態によれば、3つの発光器の各々はそれぞれ、395nm、405nm、および415nmの波長の光を発するように構成され得る。別の実施形態では、3つの発光器の各々はそれぞれ、385nm、395nm、および405nmの波長の光を発するように構成され得る。
【0030】
発光器は任意の好適な発光器であり得る。例えば、発光器は、発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、半導体ダイ、レーザ、白熱灯、スーパールミネセント・ダイオード(SLD)、またはこれらの組合せを備え得る。特に、発光器はLEDであり得る。
【0031】
複数の発光器は好適な放射輝度の光を発するように構成され得る。例えば、放射輝度は0.001~1000mW/cm2であり得る。特に、放射輝度は、0.01~800mW/cm2、0.1~600mW/cm2、0.5~500mW/cm2、1~300mW/cm2、5~250mW/cm2、10~200mW/cm2、40~175mW/cm2、50~150mW/cm2、75~100mW/cm2であり得る。また更に特定的には、放射輝度は10~40mW/cm2であり得る。
【0032】
本発明のシステムは任意の好適な装置において使用され得る。例えば、システムは、頻繁なまたは常時の消毒を必要とする装置において使用され得る。特定の態様によれば、装置の少なくとも一部は、発光器が発する光が、装置の消毒が必要な表面に到達できるように、透明であり得る。例えば、装置は、便座、便器、ドアノブ、ドア取っ手、または接触頻度の高い任意の装置もしくは表面であり得る。
【0033】
特定の態様によれば、システムは便座において使用され得る。上記したシステムを組み込んだ便座または便座の一部は透明であり得る。特に、本発明のシステムは使用時に、透明な座面リムの内部から、使用者と接触する便座の表面を消毒する光を照射し得る。便座の蓋に消毒光を照射する追加のシステムを取り付けて、蓋を閉じたときにこのシステムが下にある便器に対して消毒効果を及ぼし得るようにしてもよい。そのような便器の例が
図1に示されている。
【0034】
特に、使用者が通常着座する便座リムは、限定するものではないがポリレジンなどの、透明な材料で製作され得る。リムの本体内には、主電源から電源供給される、上記したような波長の組合せを特徴とする単一の照明素子が、リムの周囲を貫通していてもよい。透明であるという材料の性質によって、中に埋め込まれた照明素子が発する光が、使用者が接触して汚染する場所であるリムの表面に到達することが可能になる。
【0035】
便座はまた、中心に光源があることを特徴とする蓋も含み得る。光源は蓋を閉じると光を発するように構成することができ、この光によって便器の内側表面が消毒されることになる。
【0036】
本発明はまた、上記したシステムを使用することによって微生物を除去する方法も提供する。
【0037】
第2の態様によれば、本発明は、微生物を除去する方法であって、複数の発光器の各々が380~500nmの波長を含む光を発することを含み、少なくとも2つ以上の発光器は異なる波長の光を発する方法を提供する。微生物は、複数の発光器が発する光が照射されると除去され得る。
【0038】
特に、発することは、複数の発光器の各々が380~430nmの波長を含む光を発することを含み得る。例えば、発することは、複数の発光器の各々が、380~450nm、390~430nm、395~425nm、400~420nm、405~415nm、410~412nmの波長を含む光を発することを含み得る。
【0039】
微生物は、第1の態様に関連して上記したようなものであり得る。
【0040】
発光器は、第1の態様に関連して上記したようなものであり得る。
【0041】
複数の発光器は、任意の好適な数の発光器から成ることができる。例えば、複数の発光器は、少なくとも2つの、少なくとも3つの、少なくとも4つの発光器を備え得る。特に、複数の発光器のうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つは、異なる波長の光を発することができ、光は380~430nmの波長を含む。
【0042】
特定の態様によれば、複数の発光器の各々は互いに異なる波長の光を発し得る。
【0043】
一実施形態によれば、複数の発光器は3つの発光器を備えることができ、3つの発光器の各々は異なる波長の光を発し得る。例えば、第1の発光器は385~395nmの波長の光を発することができ、第2の発光器は395~405nmの波長の光を発することができ、第3の発光器は405~425nmの波長の光を発することができる。特にそれぞれ、第1の発光器は385~395nmの波長の光を発することができ、第2の発光器は395~405nmの波長の光を発することができ、第3の発光器は405~415nmの波長の光を発することができる。特定の実施形態によれば、3つの発光器の各々はそれぞれ、390nm、405nm、および425nmの波長の光を発し得る。別の実施形態によれば、3つの発光器の各々はそれぞれ、395nm、405nm、および415nmの波長の光を発し得る。別の実施形態では、3つの発光器の各々はそれぞれ、385nm、395nm、および405nmの波長の光を発し得る。
【0044】
発することは、複数の発光器が好適な放射輝度の光を発することを含み得る。例えば、放射輝度は0.001~1000mW/cm2であり得る。特に、放射輝度は、0.01~800mW/cm2、0.1~600mW/cm2、0.5~500mW/cm2、1~300mW/cm2、5~250mW/cm2、10~200mW/cm2、40~175mW/cm2、50~150mW/cm2、75~100mW/cm2であり得る。また更に特定的には、放射輝度は10~40mW/cm2であり得る。
【0045】
微生物は、限定するものではないが、フラビン、ポルフィリン、クロロフィル、ビリルビンなどの、様々な光感受性物質を含有している。これらの化合物の各々は異なる吸収スペクトルを有する。例えば、可視領域内でのリボフラビンの吸収スペクトルは446.5nmにピークを有し、一方、コプロポルフィリンIは390nmにそのピークを有し、一方、ポルフィリン類の多くの他の形態の化合物は、415~425nmの範囲の吸収ピークを有する。励起される光感受性物質のグループが異なると、生成される活性酸素種の組成も異なる。
【0046】
微生物を殺すために可視光を使用する既存の方法は、ほとんどは405nmである1つの波長の使用を伴うが、これによって最適に励起できるのは対応する405nmの吸収ピーク・スペクトルを有する光感受性物質だけであり、このとき微生物細胞内の内因性光感受性物質の他の部分が殺傷効果にとって最適に励起されることはない。このことが
図2Aに概略的に示されている。例えば、405(±5)nmの吸収ピークを有する単一の照明素子が、390nmのピーク吸光度を有し405±5nmでの吸光度は相対的にはるかに低い光感受性物質であるコプロポルフィリンIを、有効に励起することはない。
【0047】
この制約に鑑みて、本発明の方法は、
図2Bに示すように、微生物中に存在し得るポルフィリン類に由来する複数の内因性光感受性物質が同時に励起されることを保証するような波長の組合せを使用する。複数の光感受性物質の励起によって様々な組成の活性酸素種を生成させ、その後の細胞傷害性反応の効果を高めるものである。このことは可視光消毒方法の従来の方法に対して顕著な改善を呈する。
【実施例1】
【0048】
〈細菌培養条件〉
大腸菌(Escherichia coli)ATCC25922を、トリプトンソイブイヨン培地(TSB)中で、毎実験前に少なくとも2回、37℃で24時間培養した。1mLの細菌懸濁液を9000xgで5分間遠心分離し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、0.1%ペプトン水(PW)で、0.1%ペプトン水中の細胞密度が約106CFU/mLになるまで段階希釈した。この細菌懸濁液5mLを可視光消毒処理用に、6cm径のペトリ皿に分注した。
【0049】
〈可視光消毒(VLD)システムおよび構成〉
合計3つの構成の消毒デバイスを構築した:
1)405nmの単一波長(λ)のコントロール、
2)標準的な波長(λ)の組合せ(395nm+405nm+415nm)、および
3)低い波長(λ)の組合せ(385nm+395nm+405nm)。
【0050】
構成1で使用されるデバイスは
図3に示すようなものであり、冷却ファンと単一の405nm LEDライトとが中央に取り付けられたヒートシンクを特徴とする。
【0051】
構成2および構成3で使用されるデバイスを同様に構築したが、各々が単一のLEDの代わりに、それぞれの構成によって決定されるような、波長(λ)の異なる3つのLEDを備えていた(これを
図4に示す)。
【0052】
〈VLD処理〉
図3に描かれているような構成を使用して、調製した5mLの細菌懸濁液のVLD処理を行った。合計4つのそのようなペトリ皿試料を準備し、各々に構成1、構成2、または構成3のいずれかでVLD処理を行ったのに対して、4番目のペトリ皿は照射を行わないコントロールとして準備した。各試料から100μLの部分標本を45分間隔で3時間まで取り出し、0.1%ペプトン水で適切に段階希釈した後で、トリプトンソイ寒天培地(TSA)上にプレーティングして、菌数を計数した。これらのTSAプレートを37℃で24時間培養した。
【0053】
〈結果と分析〉
様々な時点の菌数を、以下の式を使用して、様々な線量の光エネルギーでの菌数として表した:
【0054】
【0055】
PM100D Optical Power Meter(ThorLabs)を使用して、実験によって放射照度(I)を測定した。構成1ではI
405を測定し、構成2および構成3では実効放射照度を以下のように計算した:
構成2:I
e=(I
395+I
405+I
415)÷3
構成3:I
e=(I
385+I
395+I
405)÷3
線量に対する菌数の散布図をプロットし、各構成のD値(decimal reduction time)を傾向線の傾きの負の逆数として計算した。表1は各構成のD値を示し、
図5は不活性化プロットを示す。
【0056】
【0057】
表1:異なる構成で照射したときの大腸菌(ATCC25922)のD値(decimal reduction time)
【0058】
波長の組合せを使用することによって、単一波長の光を使用して消毒した場合と比較して著しく良好な微生物の不活性化/除去が得られたことが、
図5から見て取れる。
【実施例2】
【0059】
〈細菌培養条件〉
大腸菌(Escherichia coli)ATCC25922を、トリプトンソイブイヨン培地(TSB)中で、毎実験前に少なくとも2回、37℃で24時間培養した。1mLの細菌懸濁液を9000xgで5分間遠心分離し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、段階希釈して、TSB中で約107CFU/mL細胞密度の細菌懸濁液を得た。
【0060】
〈自己消毒式のドア取っ手〉
図6に示すように、背中合わせに取り付けた2つの照明モジュールを挿入した、透明な中空アクリル管から成るドア取っ手の試作品を構築した。各照明モジュールはピーク波長の異なる複数のLED球を備えていた。
【0061】
〈VLD処理〉
上記した細菌懸濁液の各々の10μLを、アクリル管上にその長さに沿って合計10スポット(合計約106CFU)設置した。コントロールとして、照明モジュールの挿入されていない同一の設計のドア取っ手にも細菌懸濁液を植菌した。ドア取っ手を2時間点灯し、表面をふき取り、37℃で24時間培養したトリプトンソイ寒天培地(TSA)上で菌数を計数した。コントロールおよび点灯されたドア取っ手において、0時間での植菌レベルから2時間でのレベルへの菌数の減少によって、抗菌効果を判定した。
【0062】
〈結果〉
図7に示すように、VLD処理(SafeLightと表記)はコントロールと比較して顕著な微生物減少を示し、このことは本発明によるVLD処理が表面上の微生物の除去に効果的であることを示している。
【0063】
上記の説明では例示的な実施形態を記載しているが、本発明から逸脱することなく多くの変形を行い得ることが当業者には理解されよう。更に、例示的な実施形態は例に過ぎず、本発明の範囲、適用可能性、動作、または構成を限定することをいかなる点においても意図していない。
【国際調査報告】