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特表2023-504782B細胞のCAR形質導入とCRISPR遺伝子編集との大規模での組み合わせ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(54)【発明の名称】B細胞のCAR形質導入とCRISPR遺伝子編集との大規模での組み合わせ
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20230131BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230131BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20230131BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230131BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230131BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALN20230131BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230131BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20230131BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230131BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230131BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61P35/00
A61P35/02
A61P31/00
A61P37/02
A61K35/17 A
A61K9/08
C12N5/0781
C12N15/09 110
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530901
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-07-20
(86)【国際出願番号】 US2020062345
(87)【国際公開番号】W WO2021108650
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】62/941,651
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レズヴァニ、ケイティ
(72)【発明者】
【氏名】バサール、ラフェット
(72)【発明者】
【氏名】エンスリー、エミリー
(72)【発明者】
【氏名】マリン コスタ、ダビド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C076AA12
4C076BB11
4C076BB13
4C076CC07
4C076CC27
4C076CC31
4C076FF11
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
【課題】癌、感染症および/または免疫関連障害などの病状の処置をはじめとした任意の目的のために使用され得る方法、及び組成物を提供する。
【解決手段】本開示の実施形態は、操作されたB細胞を産生するための方法および組成物を包含する。本開示は、CRISPRを使用するなどして、1つまたは複数の遺伝子の発現を破壊するように操作され、また、少なくとも1つの異種抗原受容体を発現するように操作されるB細胞を産生するための大規模プロセスに関する。特定の実施形態は、プロセスのための特定のパラメータを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作されたB細胞を作製するインビトロ方法であって、
(a)末梢血単核球、造血幹細胞、人工多能性幹細胞、不死化B細胞株、B細胞ハイブリドーマ、骨髄および/または臍帯血単核球から得られたB細胞を第1の期間にわたって刺激する工程であって、前記刺激は、1つ以上の適切なサイトカインに曝露し、それにより、刺激されたB細胞を作製することを含む、工程;
(b)前記刺激されたB細胞にCD40リガンドを形質導入して、CD40L陽性B細胞を作製し、前記CD40L陽性B細胞を第2の期間にわたって数値的に拡大する工程;ならびに
(c1)および(d1)、または(c2)および(d2)のうちの一方:
(c1)前記拡大されたCD40L陽性B細胞に有効量のCas9またはCpF1および1つ以上のガイドRNAを送達して、前記B細胞における1つ以上の遺伝子の発現を破壊し、それにより、遺伝子編集されたB細胞を作製する工程;および
(d1)(c1)の前記遺伝子編集されたB細胞に異種抗原レセプターをコードするベクターを形質導入またはトランスフェクトして、遺伝子編集された改変B細胞を作製する工程;
または
(c2)前記拡大されたCD40L陽性B細胞に異種抗原レセプターをコードするベクターを形質導入またはトランスフェクトして、改変されたB細胞を作製する工程;および
(d2)前記改変されたB細胞に有効量のCas9またはCpF1および1つ以上のガイドRNAを送達して、前記B細胞における1つ以上の遺伝子の発現を破壊し、それにより、遺伝子編集された改変B細胞を作製する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記遺伝子編集された改変B細胞が、前記(c1)および(d1)の工程から作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遺伝子編集された改変B細胞が、前記(c2)および(d2)の工程から作製される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(c1)および(d2)の工程がそれぞれ、2つ以上の送達工程とさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第1の送達工程が、1つ以上の遺伝子を標的化するガイドRNAを送達することを含み、第2の送達工程が、前記第1の送達工程における前記1つ以上の遺伝子と異なる1つ以上の遺伝子を標的化するガイドRNAを送達することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の送達工程と前記第2の送達工程との間の時間が、少なくとも約2日間である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の送達工程と前記第2の送達工程との間の時間が、約2~3日間である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の期間が、約44~48時間である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の期間が、形質導入後の約4~5日間である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記(b)の拡大が、IL-4、IL-10、IL-21、IL-2、CpG、抗BCRまたはそれらの組み合わせの存在下において行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(c1)または(d2)の工程が、IL-4および/またはIL-21の存在下において行われる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
送達工程が、エレクトロポレーションによる工程である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
エレクトロポレーションが、約200,000個~1×10個のB細胞を使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
エレクトロポレーションが、約200,000~2,000,000個の細胞を使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
エレクトロポレーションが、約1,000,000~1×10個のB細胞を使用する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記エレクトロポレーション工程における前記ガイドRNAの濃度が、3、4または5μMである、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エレクトロポレーション工程におけるCpF1またはCas9ヌクレアーゼの濃度が、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9または5μMである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記サイトカインが、IL-2、IL-4、IL-6、IL-10またはそれらの組み合わせである、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記サイトカインの濃度が、100、125、150、175、200、225、250、275もしくは300単位/mlまたは1~500nMである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記異種抗原レセプターが、キメラ抗原レセプター、T細胞レセプター、ケモカインレセプター、ホーミングレセプターである、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記刺激されたB細胞、拡大されたCD40L陽性B細胞、遺伝子編集されたB細胞または遺伝子編集された改変B細胞に、1つ以上のサイトカイン遺伝子および/または1つ以上の免疫グロブリンが形質導入またはトランスフェクトされる、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記異種抗原レセプターが、癌抗原を標的化する、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記異種抗原レセプターが、CD19、EBNA、CD123、HER2、CA-125、TRAIL/DR4、CD20、CD70、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CD56、AKT、Her3、上皮性腫瘍抗原、CD319(CS1)、ROR1、葉酸結合タンパク質、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp41、CD5、CD23、CD30、HERV-K、IL-11Rアルファ、カッパー鎖、ラムダ鎖、CSPG4、CD33、CD47、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAFF-R、BCMA、CD99、p53、変異型p53、Ras、変異型ras、c-Myc、細胞質セリン/トレオニンキナーゼ、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、MART-1、メラノーマ関連抗原、BAGE、DAM-6、-10、GAGE-1、GAGE-2、GAGE-3、GAGE-4、GAGE-5、GAGE-6、GAGE-7A、GAGE-7B、GAGE-8、NA88-A、MC1R、MDA-7、gp75、Gp100、PSA、PSM、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質、TRP-1、TRP-2、ART-4、CAMEL、CEA、Cyp-B、hTERT、hTRT、iCE、MUC1、MUC2、ホスホイノシチド3-キナーゼ、TRKレセプター、PRAME、P15、RU1、RU2、SART-1、SART-3、ウィルムス腫瘍抗原(WT1)、AFP、-カテニン/m、カスパーゼ-8/m、CDK-4/m、ELF2M、GnT-V、G250、HAGE、HSP70-2M、HST-2、KIAA0205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシン/m、RAGE、SART-2、TRP-2/INT2、707-AP、アネキシンII、CDC27/m、TPI/mbcr-abl、BCR-ABL、インターフェロン制御因子4(IRF4)、ETV6/AML、LDLR/FUT、Pml/RAR、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質1(TACSTD1)、TACSTD2、レセプターチロシンキナーゼ、上皮成長因子レセプター(EGFR)、EGFRvIII、血小板由来成長因子レセプター(PDGFR)、血管内皮成長因子レセプター(VEGFR)、VEGFR2、細胞質チロシンキナーゼ、インテグリン結合キナーゼ(ILK)、シグナル伝達性転写因子STAT3、STATSおよびSTATE、HIF-1、HIF-2、核因子-カッパーB(NF-B)、NotchレセプターNY ESO1、c-Met、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)、WNT、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)、PMSA、PR-3、MDM2、メソテリン、腎細胞癌-5T4、SM22-アルファ、炭酸脱水酵素I(CAI)、CAIX)、STEAD、TEL/AML1、GD2、プロテイナーゼ3、hTERT、肉腫転座切断点、EphA2、ML-IAP、EpCAM、TMPRSS2 ETS融合遺伝子、ERG、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲンレセプター、サイクリンB1、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、GD3、フコシルGM1、メソテリアン、PSCA、sLe、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GLoboH、NY-BR-1、RGsS、SAGE、SART3、STn、PAX5、OY-TES1、精子タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE1、B7H3、レグマイン、TIE2、Page4、MAD-CT-1、FAP、MAD-CT-2、fos関連抗原1、CBX2、CLDN6、SPANX、TPTE、ACTL8、ANKRD30A、CDKN2A、MAD2L1、CTAG1B、SUNC1、LRRN1ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される抗原を標的化する、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記B細胞において発現を破壊された前記遺伝子が、阻害性遺伝子である、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記阻害性遺伝子が、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、TDAG8、CD5、CD7、SLAMF7、CD38、LAG3、TCR、ベータ2-ミクログルブリン、HLA、CD73、CD39およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が、前記方法の後、IL-4および/またはIL-21の存在下において拡大される、請求項1~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
任意の前記細胞を解析する、請求項1~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞が、1つ以上の機能アッセイ、細胞毒性アッセイおよび/またはインビボ活性によって解析される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞が、フローサイトメトリー、マスサイトメトリー、RNA配列決定、CytoFまたはそれらの組み合わせによって解析される、請求項27または28に記載の方法。
【請求項30】
任意の前記細胞を保存する、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
任意の前記細胞を凍結保存する、請求項1~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
有効量の前記遺伝子編集された改変B細胞が、それを必要とする個体に送達される、請求項1~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記個体が、癌、感染症または免疫関連障害を有する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
請求項1~33のいずれか1項に記載の方法によって作製されたB細胞の集団。
【請求項35】
請求項32に記載の集団を含む組成物。
【請求項36】
前記集団が、薬学的に許容され得るキャリア中に含まれている、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
ある病状について個体を処置する方法であって、請求項1~33のいずれか1項に記載の方法によって作製された治療有効量のB細胞を前記個体に投与する工程を含む、方法。
【請求項38】
前記病状が癌である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記癌が、血液悪性腫瘍または固形腫瘍を含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記病状が、感染症および/または免疫関連障害である、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記B細胞が、前記個体に1回または複数回投与される、請求項37~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記B細胞が、前記個体に複数回投与されるとき、投与間の時間は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記B細胞が、前記個体に複数回投与されるとき、投与間の時間は、1、2、3、4、5、6または7日間、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
前記B細胞が、前記個体に複数回投与されるとき、投与間の時間は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12ヶ月間を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
有効量の、前記病状に対する1つ以上のさらなる治療が、前記個体に投与される、請求項37~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記さらなる治療が、前記B細胞の投与前、投与中および/または投与後に前記個体に投与される、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
請求項1~33のいずれか1項に記載の方法によって作製された前記B細胞および/または前記B細胞を作製するための1つ以上の試薬を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2019年11月27日出願の米国仮特許出願第62/941,651号に対する優先権を主張する。この仮出願は、その全体が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
本開示は、概して、免疫学、細胞生物学、分子生物学および医学の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
B細胞は、エフェクター細胞と制御性細胞に大別できる。エフェクターB細胞は、病原体に特異的な抗体を産生する能力を有することから、体液性免疫を駆動する重要な因子である。制御性B細胞は、IL-10、IL-35およびTGF-ベータをはじめとした抗炎症性サイトカインの産生によって、複数の疾患における炎症反応を制御することが近年示された。これらのB細胞サブセットが免疫調節および体液性免疫に対して発揮する重要な影響により、それらのサブセットが種々の免疫障害に対して価値のある細胞療法の候補となる。このように、B細胞免疫療法の方法の改善を求めるニーズが対処されないまま残っている。B細胞はエキソビボで拡大させることが難しく、培養するとアポトーシスを起こしやすいことが、治療の可能性を制限する主な要因となっている。優れた生存率を有する首尾よい拡大プロトコルを作り出すことにより、B細胞を治療に直接使用すること、または抗体産生の起源としてエキソビボで使用することへの道が開かれる。さらに、B細胞を操作するストラテジーにより、治療への有用性をさらに高めることができる。このように、特にB細胞を用いた細胞免疫療法の方法の改善に対するニーズが未だ対処されていない。
【発明の概要】
【0004】
本開示の実施形態は、B細胞の生存率および持続性を高めるための方法および組成物を包含し、そのB細胞は、そのように操作されていないB細胞と比べてそのような活性を有するように特異的に操作されている。具体的な実施形態は、B細胞のアポトーシスを低減するための方法および組成物を含み、そのB細胞は、そのように操作されていないB細胞と比べてアポトーシスのリスクを低下するように特異的に操作されている。本開示の方法は、B細胞の拡大を改善し、かつそれを必要とする個体に対して治療として使用されるように有効性を高める特定のパラメータを使用する。
【0005】
本開示の実施形態は、CAR形質導入および/または遺伝子編集(CRISPR遺伝子編集を含む)を伴うまたは伴わない場合を含む、B細胞の拡大のための新規の大規模アプローチ(GMPグレードを含む)を包含する。本開示は、1つ以上の異種抗原レセプターを発現し、かつ/またはB細胞における1つ以上の内在性遺伝子が破壊されるように遺伝子編集されている、操作されたB細胞を提供する。いくつかの実施形態では、CARを形質導入されたB細胞が、そのB細胞における1つ以上の内在性遺伝子の発現を破壊されるように操作され、他の実施形態では、B細胞における1つ以上の内在性遺伝子の発現を破壊されたB細胞が、1つ以上の異種抗原レセプターを発現するように形質導入またはトランスフェクトされる。特定の実施形態は、CARを形質導入された初代B細胞の大規模なCRISPR/Cas9媒介性操作ストラテジーを提供する。
【0006】
ある特定の実施形態において、上記プロセスは、そのプロセスが、大規模であること(最大1×10、1×1010、1×1011個またはそれ以上の細胞を操作することを含む)を可能にする特定のパラメータ(条件および/または試薬を含む)を使用する。特定の場合において、そのプロセスは、1つ以上の拡大工程、および以下のような、B細胞の増殖を高めるように細胞を改変することを含む、連続工程を含む:(1)1つ以上の異種抗原レセプターを有するように細胞を改変すること;(2)B細胞における1つ以上の内在性遺伝子の発現が無くなるまたは発現が低下するように細胞を改変すること;および/または(3)1つ以上のサイトカイン遺伝子を発現する細胞を改変すること。(1)、(2)および(3)に関するB細胞の改変は、任意の順序であり得る。いくつかの場合において、(1)、(2)および(3)のうちの1つ以上が、自由選択であり、用いなくてもよい。具体的な場合において、1つ以上の内在性遺伝子が、複数の遺伝子に対するCRISPRおよびガイドRNAを用いてノックアウトまたはノックダウンされる。所望のB細胞を作製するプロセスは、そのプロセスの特定の工程(そのプロセスの1つ以上の特定の工程を含む)の具体的な持続時間も包含する。
【0007】
作製された操作済みのB細胞は、癌、感染症および/または免疫関連障害などの病状の処置をはじめとした任意の目的のために使用され得る。いくつかの実施形態において、それらのB細胞は、使用前に適切に保存される。操作されたB細胞のレシピエント個体は、それらの細胞の起源に関して自己または同種異系であり得る。いくつかの場合において、本開示の方法によって作製されたB細胞は、適切な保存の後、治療目的で使用され、作製後の保存中にさらに改変されてもよいし、改変されなくてもよい。例えば、B細胞は、それらの生存能を高めるためにそれらの細胞における1つ以上の内在性遺伝子が遺伝子編集されるように操作されてもよく、その後、それらのB細胞は、保存されるが、使用前にそれらのB細胞は、レシピエント個体のニーズに特異的な異種抗原レセプター(例えば、その個体の癌細胞上の抗原を標的化するレセプター)を発現するようにさらに改変され得る。他の場合において、B細胞は、異種抗原レセプター(例えば、公知の癌抗原である抗原に対するものを含む)を発現するように操作されてもよく、その後、それらのB細胞は、保存されるが、使用前にそれらのB細胞は、1つ以上の内在性遺伝子の発現を破壊するように遺伝子編集されるようにさらに改変され得る。この例では、異種抗原レセプターは、周知の癌抗原、または種々のタイプの癌細胞上に存在する抗原を標的化するようにデザインされていてもよいし、そうでなくてもよい。
【0008】
特定の実施形態において、異種抗原レセプターは、キメラ抗原レセプターまたはT細胞レセプターである。異種抗原レセプターは、腫瘍関連抗原を標的化し得る。具体的な場合において、異種抗原レセプターは、CD19、CD319(CS1)、ROR1、CD20、CD70、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、上皮性腫瘍抗原、メラノーマ関連抗原、変異型p53、変異型ras、HER2/Neu、ERBB2、葉酸結合タンパク質、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp41、GD2、CD5、CD123、CD23、CD30、CD56、c-Met、メソテリン、GD3、HERV-K、IL-11Rアルファ、カッパー鎖、ラムダ鎖、CSPG4、ERBB2、WT-1、TRAIL/DR4、VEGFR2、CD33、CD47、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAFF-R、BCMA、CD99およびそれらの組み合わせからなる群より選択される抗原を標的化する。他の抗原は、本明細書中の他の箇所に列挙されている。
【0009】
特定の実施形態において、上記B細胞において発現を破壊された内在性遺伝子は、阻害性遺伝子である。具体的な場合において、上記B細胞において発現を破壊された内在性遺伝子は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、TDAG8、CD5、CD7、SLAMF7、CD38、LAG3、TCR、ベータ2-ミクログルブリン、HLA、CD73、CD39またはそれらの組み合わせである。
【0010】
特定の実施形態において、上記B細胞は、遺伝子編集され、1つ以上の組成物が、エレクトロポレーションによってそのB細胞に送達される。上記B細胞がエレクトロポレートされる場合、エレクトロポレーションは、特定の量のB細胞、例えば、約200,000個~1×1011個のB細胞を使用し得る。エレクトロポレーションは、約200,000~2,000,000個の細胞を使用し得る。エレクトロポレーションは、具体的な場合において、約1,000,000~1×10個またはそれ以上(1010、1011)およびこれらの中で導き出せる任意の範囲のB細胞を使用し得る。
【0011】
本明細書中の任意の方法において、操作された任意のB細胞は、解析されてもよく、例えば、それらの細胞は、遺伝子編集の有効性、機能アッセイ、細胞毒性アッセイおよび/またはインビボ活性によって解析される。具体的な実施形態において、それらの細胞は、フローサイトメトリー、マスサイトメトリー、RNA配列決定、PCRまたはそれらの組み合わせによって解析される。それらの細胞のいずれもが、例えば、そのプロセスの特定の工程の後、または最終的な細胞産物が作製された後、凍結保存など、保存され得る。有効量のB細胞が、それを必要とする個体(例えば、癌、感染症および/または免疫関連障害を有する個体)に送達され得る。
【0012】
本開示の実施形態は、本明細書中に包含される任意の方法によって作製されるB細胞の集団を含む。本開示の細胞の集団が薬学的に許容され得るキャリア中に存在するときなど、その集団を含む組成物が企図される。
【0013】
本開示の実施形態は、個体を病状について処置する方法を含み、その方法は、本開示の任意の方法によって作製された治療有効量のB細胞をその個体に投与する工程を含む。その個体は、その病状に対する1つ以上のさらなる治療も受けたことがあってもよいし、受けたことがなくてもよく、また、受けている最中であるか、受けることになっている。
【0014】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、この詳細な説明から当業者には本発明の趣旨および範囲内での様々な変更および改変が明らかになるので、その詳細な説明および具体例は、本開示の特定の実施形態を示すが、単に例証として与えられることを理解するべきである。
【0015】
本開示の理解をより完全なものにするために、添付の図面と併せて解釈される以下の説明について言及する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】末梢血B細胞へのCD40L形質導入の一例の模式図。
【0017】
図2A】初代B細胞へのCD40LおよびCD40L-IL21の形質導入効率。フィコール密度遠心分離を用いて末梢血からPBMCを単離する。磁気選択を用いてB細胞をネガティブ選択する。CpGおよび抗IgM/IgGを用いてB細胞を48時間活性化する。レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入されたB細胞の形質導入効率;形質導入されなかったものが、左側のピークである。
図2B】初代B細胞へのCD40LおよびCD40L-IL21の形質導入効率。フィコール密度遠心分離を用いて末梢血からPBMCを単離する。磁気選択を用いてB細胞をネガティブ選択する。CpGおよび抗IgM/IgGを用いてB細胞を48時間活性化する。レトロウイルスベクターを介してCD40L-IL21を形質導入されたB細胞の形質導入効率;形質導入されなかったものが、右側のピークである。
図2C】初代B細胞へのCD40LおよびCD40L-IL21の形質導入効率。フィコール密度遠心分離を用いて末梢血からPBMCを単離する。磁気選択を用いてB細胞をネガティブ選択する。CpGおよび抗IgM/IgGを用いてB細胞を48時間活性化する。形質導入され、異なるサイトカインの組み合わせを用いて培養したときのB細胞の成長速度(青色:CD40Lを形質導入され、IL-2およびIL-21と培養されたB細胞、赤色:CD40Lを形質導入され、IL-4およびIL-21と培養されたB細胞、緑色:CD40Lを形質導入され、IL-2およびIL-4と培養されたB細胞、紫色:CD40L-IL21を形質導入され、IL-4と培養されたB細胞、橙色:CD40L-IL21を形質導入され、IL2と培養されたB細胞、黒色:形質導入されず、IL-2と培養されたB細胞)。
図2D】初代B細胞へのCD40LおよびCD40L-IL21の形質導入効率。フィコール密度遠心分離を用いて末梢血からPBMCを単離する。磁気選択を用いてB細胞をネガティブ選択する。CpGおよび抗IgM/IgGを用いてB細胞を48時間活性化する。T細胞のサイトカイン分泌のB細胞による抑制。同種異系T細胞を凍結PBMCサンプルから単離し、抗CD3/CD28マイクロビーズで活性化した。それらをB細胞と種々の比で48時間培養し、次いで、細胞内染色を前もって形成し、T細胞内のIFNg、TNFaおよびIL-2の産生量を評価した。
図2E】初代B細胞へのCD40LおよびCD40L-IL21の形質導入効率。フィコール密度遠心分離を用いて末梢血からPBMCを単離する。磁気選択を用いてB細胞をネガティブ選択する。CpGおよび抗IgM/IgGを用いてB細胞を48時間活性化する。B細胞へのCD40L-IL21形質導入の5、7および9日後に機能アッセイを行った。
【0018】
図3A】末梢血由来の初代B細胞へのCD40Lの形質導入とCARの形質導入とを組み合わせるプロトコルの模式図の一例。まず、B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカインで48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、B細胞に、レトロウイルスベクターを介してCAR構築物(CD19またはCD5)を再度形質導入する。必要に応じて、自由選択の機能的研究、マスサイトメトリーおよび/またはRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持する。
図3B】2回目にCAR CD19(左から2番目のパネルの右側の青色ピーク)またはCAR CD5(1番右のパネルの右側の青色ピーク)を形質導入されたCD40L-B細胞の形質導入効率。
【0019】
図4A】末梢血由来の初代B細胞へのCD40L形質導入とCRISPR Cas9遺伝子編集とを組み合わせるプロトコルの一例の模式図。まず、PB B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカインで48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いたCRISPR-cas9遺伝子編集を行う。必要に応じて、機能的研究、マスサイトメトリーおよびRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持する。
図4B】CD86、CD95、IL10RおよびPD-1遺伝子のノックアウト効率(ノックアウトは、左側の青色ピークであり;野生型は、右側の赤色ピークである)。
【0020】
図5A】末梢血由来の初代B細胞へのCD40L形質導入とCRISPR Cas9遺伝子編集とを組み合わせるプロトコルの一例の模式図。まず、PB B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカインで48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いたCRISPR-cas9遺伝子編集を行う。必要に応じて、自由選択の機能的研究、マスサイトメトリーおよびRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持する。
図5B】この実験計画により、別個のダブルまたはトリプル遺伝子ノックアウトを単一のセッションで首尾よく行うことが可能になる;右側のピークがCas9であり、左側のピークがKOである。
【0021】
図6】CD40Lを形質導入された初代B細胞の大規模なCRISPR cas9遺伝子編集の一例の模式図。まず、PB B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカインで48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いたCRISPR-cas9遺伝子編集を行う。必要に応じて、機能的研究、マスサイトメトリーおよびRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持する。
【0022】
図7A】小規模と大規模でのCRISPR-Cas9遺伝子編集の設定のエレクトロポレーション効率およびノックアウト効率の比較。エレクトロポレーション効率は、小規模と大規模の両方のCRISPR編集B細胞において95%超である。
図7B】小規模と大規模でのCRISPR-Cas9遺伝子編集の設定のエレクトロポレーション効率およびノックアウト効率の比較。CD47のノックアウト効率は、小規模と大規模の両方の設定において高いままである。赤色ヒストグラム:WT:野生型(ノックアウトなし;右側のピーク);青色ヒストグラム(ノックアウト後;左側のピーク)。この研究では、Lonza 4-D Nucleofectorを、1mlのLV Unit-V4LP-3002;プログラムEO-115;gRNA/Cas9のモル比で使用した。この研究では、4.6μM gRNA,4μM Cas9を使用した(比を変化させずにRNP複合体の最終的な量を増加させる)。
【0023】
図8】CRISPR-Cas9媒介性の遺伝子ノックアウト後のB細胞におけるmiR-155の発現レベル。最大効率を見出すために、種々のgRNAの組み合わせを使用した。2と5のgRNAの組み合わせが、最も効率的なノックアウトを達成した。Gは、1つのドナーに相当し、Eは、別のドナーに相当する。用語1+2、1+5および2+5は、ガイドRNA番号の異なる組み合わせを表している。1+2または1+5または2+5の組み合わせは、miR155の相対発現量を減少させる(すなわちノックアウト)が、最も良い効果は、gRNA2+5で見られる。
【0024】
図9】表1.遺伝子KOの各例に使用されたcrRNAの配列の例。
【発明を実施するための形態】
【0025】
I.定義
本明細書で使用される場合、「a」又は「an」は、1つ又はそれ以上を意味することがある。本明細書において請求項(複数可)で使用されているように、単語「comprising」と共に使用される場合、単語「a」または「an」は、1つまたはそれ以上を意味することがある。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくとも2つ目以上を意味する場合がある。さらに、用語「有する」、「含む」、「含む」、及び「包含する」は交換可能であり、当業者は、これらの用語がオープンエンドな用語であることを認識している。特定の実施形態において、本開示の態様は、例えば、本開示の1つ以上の配列から「本質的にからなる」または「構成される」場合がある。本発明のいくつかの実施形態は、本開示の1つ以上の要素、方法ステップ、及び/又は方法から構成されるか、又は本質的に構成されてもよい。本明細書に記載される任意の方法又は組成物は、本明細書に記載される任意の他の方法又は組成物に関して実施され得ることが企図される。本願の範囲は、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造、物質組成、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されることを意図していない。本明細書で使用される場合、「又は」及び「及び/又は」という用語は、複数の成分を組み合わせて、又は互いに排他的に記述するために利用される。例えば、´´x、y、及び/又はz´´は、´´x´´単独、´´y´´単独、´´z´´単独、´´x、y、及びz´´、´´(x及びy)又はz´´、´´x又は(y及びz)´´、又は´´x又はy又はz´´を指すことができる。x、y、またはzは、実施形態から具体的に除外されてもよいことが特に企図される。
【0026】
特許請求の範囲における用語「又は」の使用は、選択肢のみを指すように明示的に示されない限り、又は選択肢は相互に排他的であることを示されない限り、「及び/又は」を意味するために使用される。もっとも、本開示は選択肢及び「及び/又は」のみに言及する定義を支持する。本明細書で使用される「別の」は、少なくとも第2の、またはそれ以上を意味することがある。用語「約」、「実質的に」及び「約」は、一般に、記載された値プラス又はマイナス5%を意味する。
【0027】
本明細書を通じて、「一実施形態」、「実施形態」、「特定の実施形態」、「関連する実施形態」、「ある実施形態」、「追加の実施形態」、又は「さらなる実施形態」又はそれらの組み合わせへの言及は、実施形態と関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が本開示の少なくとも一実施形態に含まれることを意味している。したがって、本明細書中の様々な場所における前述の語句の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ又は複数の実施形態において、任意の適切な方法で組み合わされ得る。
【0028】
「免疫障害」、「免疫関連障害」、又は「免疫介在性障害」は、免疫応答が疾患の発症又は進行に重要な役割を果たす障害を指す。免疫介在性障害には、自己免疫疾患、同種移植片拒絶反応、移植片対宿主病、及び炎症性疾患及びアレルギー性疾患が含まれる。
【0029】
本明細書で使用する「操作された」という用語は、細胞、核酸、ポリペプチド、ベクターなどを含む、人の手によって生成される実体を指す。少なくともいくつかの場合において、操作された物は合成であり、天然には存在しない、または本開示において利用される方法で構成された要素から構成される。細胞に関して、細胞は、1つ以上の内因性遺伝子の発現が減少しているため、および/または1つ以上の異種遺伝子(合成抗原受容体および/またはサイトカインなど)を発現するため、操作され得る。この場合、操作はすべて人の手によって行われる。抗原受容体に関しては、抗原受容体は、自然界に見られない成分の融合タンパク質の形態でそのように構成されるように遺伝的に組み替えられた複数の成分からなるため、操作されているとみなされることがある。
【0030】
本明細書で使用する「大規模」という用語は、1010、1011などの数のNK細胞を含む、最大10以上のオーダーのものを指す。
【0031】
疾患または状態の「治療」または処置は、疾患の徴候または症状を緩和する努力として、患者に1つまたは複数の薬剤を投与することを含み得るプロトコルを実行することを指す。治療の望ましい効果としては、疾患の進行速度の低下、疾患状態の改善または緩和、寛解または予後の改善などが挙げられる。緩和は、疾患または状態の徴候または症状が現れる前に起こり得るだけでなく、それらの出現後にも起こり得る。したがって、「治療する」または「処置」は、疾患または望ましくない状態の「予防する」または「防止する」ことを含むことができる。さらに、「治療する」または「治療」は、徴候または症状の完全な緩和を必要とせず、治癒を必要とせず、特に、患者にわずかな効果しか与えないプロトコルを含む。
【0032】
本出願を通じて使用される「治療上の利益」又は「治療上有効な」という用語は、この状態の医学的治療に関して対象の幸福を促進又は増進するものを指す。これには、疾患の徴候または症状の頻度または重症度の減少が含まれるが、これらに限定されるものではない。例えば、癌の治療は、例えば、腫瘍の大きさの減少、腫瘍の浸潤性の減少、癌の成長速度の減少、癌の発症の遅れ、癌の1つ以上の症状の発症の遅れ、または転移の防止、転移の発症の遅れを含んでもよい。癌の治療はまた、癌を有する被験者の生存を延長することを指す場合もある。
【0033】
「対象」及び「患者」又は「個体」は、霊長類、哺乳類、及び脊椎動物などのヒト又は非ヒトのいずれかを意味する。
【0034】
本明細書で使用されるように、「哺乳動物」は、本開示の方法のための適切な対象である。哺乳類は、ヒトを含む高等脊椎動物クラスMammaliaの任意のメンバーであってよく;生殖、体毛、及び若者を養うためのミルクを分泌する雌の乳腺によって特徴付けられる。さらに、哺乳類は、気候条件が変化しても体温を一定に保つことができることも特徴である。哺乳類の例としては、ヒト、ネコ、イヌ、ウシ、ネズミ、ラット、ウマ、ヤギ、ヒツジ、チンパンジーが挙げられる。哺乳類は、「患者」または「被験者」または「個体」と称されることがある。
【0035】
「医薬または薬学的に許容される」という語句は、適宜、ヒトなどの動物に投与したときに有害、アレルギー、または他の不快な反応を生じない分子および組成物を指す。抗体または追加の活性成分を含む医薬組成物の調製は、本開示に照らして当業者には既知であろう。さらに、動物(例えば、ヒト)投与の場合、調製物は、FDA生物学的標準室が要求する無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準を満たすべきであることが理解されよう。
【0036】
本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される担体」は、任意のおよび全ての水性溶媒(例えば、水、アルコール/水溶液、生理食塩水、非経口ビヒクル、例えば塩化ナトリウム、リンガーデキストロースなど)、非水性溶媒(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、注射用有機エステル、例えばエチルオレート)、分散媒体、コーティング、界面活性剤、酸化剤、保存剤(例えば。抗菌剤または抗真菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガス)、等張剤、吸収遅延剤、塩、薬剤、薬剤安定剤、ゲル、結合剤、賦形剤、崩壊剤、滑剤、甘味剤、香料、色素、液体および栄養補充剤、当業者に知られているような材料およびその組み合わせが挙げられる。医薬組成物中の様々な成分のpH及び正確な濃度は、周知のパラメータに従って調整される。
【0037】
本明細書で使用する場合、遺伝子の「破壊」は、破壊がない場合の遺伝子産物の発現レベルと比較して、細胞内の対象遺伝子によってコードされる1つ以上の遺伝子産物の発現の排除又は減少を意味する。例示的な遺伝子産物には、遺伝子によってコードされるmRNA及びタンパク質産物が含まれる。ある場合の破壊は、一過性または可逆性であり、他の場合は永久的である。いくつかの場合における破壊は、切断された又は非機能的な産物が生成され得るという事実にもかかわらず、機能的又は全長のタンパク質又はmRNAのものである。本明細書のいくつかの実施形態では、発現とは対照的に、遺伝子活性または機能が破壊される。遺伝子破壊は、一般に、人工的な方法、すなわち、化合物、分子、複合体、又は組成物の添加又は導入によって、及び/又はDNAレベルなど、遺伝子の又は遺伝子に関連する核酸の破壊によって、誘導される。遺伝子破壊のための例示的な方法には、遺伝子サイレンシング、ノックダウン、ノックアウト、及び/又は遺伝子編集などの遺伝子破壊技術が含まれる。例としては、一般に一過性の発現低下をもたらすRNAi、siRNA、shRNA、及び/又はリボザイムなどのアンチセンス技術、並びに、例えば、切断及び/又は相同組換えの誘導によって、標的遺伝子の不活性化又は破壊をもたらす遺伝子編集技術などが挙げられる。例としては、挿入、変異、および欠失が挙げられる。破壊は、典型的には、遺伝子によってコードされる正常または「野生型」産物の発現の抑制および/または完全な欠如をもたらす。そのような遺伝子破壊の例示は、遺伝子全体の欠失を含む、遺伝子または遺伝子の一部の挿入、フレームシフトおよびミスセンス変異、欠失、ノックイン、およびノックアウトである。このような破壊は、コード領域、例えば、1つ以上のエクソンにおいて起こり得、その結果、停止コドンの挿入などにより、完全長生成物、機能的生成物、または任意の生成物を生成することができなくなる。このような破壊は、遺伝子の転写を妨げるように、プロモーターまたはエンハンサー、あるいは転写の活性化に影響を与える他の領域の破壊によっても起こり得る。遺伝子の破壊には、相同組換えによる標的遺伝子の不活性化など、ジーンターゲティングが含まれる。
【0038】
本明細書で使用する「異種」という用語は、レシピエントとは異なる細胞型又は異なる種に由来することを意味する。具体的には、合成である、及び/又はB細胞由来でない遺伝子又はタンパク質を指す。この用語はまた、合成的に誘導された遺伝子または遺伝子コンストラクトを指す。この用語はまた、合成的に誘導された遺伝子または遺伝子コンストラクトを指す。例えば、サイトカインは、サイトカインをコードする核酸配列を保有するベクターでB細胞に提供されることを含む、遺伝子組換えによるなど、合成的に由来したため、サイトカインがB細胞によって天然に産生される場合でも、B細胞に関して異種と見なされることがある。
【0039】
本開示は、B細胞の大規模な拡大、CAR形質導入、サイトカイン発現および遺伝子編集のための新規アプローチに関するが、代替の実施形態では、これらの事象の1つ以上をB細胞の作製において用いない。このアプローチは、不死化B細胞株(例えば、EBVリンパ芽球様細胞株からのもの)由来、B細胞ハイブリドーマ由来、PBMC由来、骨髄由来、末梢血由来、臍帯血由来または幹細胞(例えば、造血幹細胞または人工多能性幹細胞)由来のB細胞が大量に拡大されること、および1つ以上のサイトカイン遺伝子を必要に応じて発現することに加えて、その特異性を例えば腫瘍抗原に向け直すように形質導入されることを可能にする。いくつかの実施形態において、B細胞の機能は、いくつかの例として細胞疲弊および腫瘍誘発性の機能不全に関わる遺伝子などの遺伝子を欠失させることによってさらに改善される。
【0040】
特定の実施形態において、本開示は、抗体産生の改善、免疫調節性機能の改善、持続性の改善、輸送の改善またはそれらの組み合わせをはじめとしたB細胞の機能改善に寄与する、ヒトB細胞における異種抗原レセプターの形質導入と単一または複数の遺伝子の欠失との組み合わせを包含する。特に、治療用のB細胞の作製を可能にする大規模なGMPグレードのプロトコルが開示される。本開示の実施形態は、患者自身のB細胞または養子移入されたB細胞の機能を高める新規の免疫療法アプローチを用いた患者ケアの改善を含む。
II.プロセス
【0041】
本開示の実施形態は、操作されたB細胞を特に大規模で作製するプロセスに関する。具体的な実施形態において、そのプロセスは、特定のパラメータのうちの1つまたは組み合わせを使用して、ある特定のタイプの操作されたB細胞を作製し、それらのパラメータには、ある特定の濃度の試薬、ある特定のタイプのB細胞(エフェクターまたは制御性の表現型を含む)、1つ以上の工程に対するある特定の持続時間、ある特定のタイプの細胞改変機構、またはそれらの組み合わせが含まれる。最適な変数が本明細書中に記載されるが、なおも好適な量の操作されたB細胞を作製するプロセスの変法も存在し、これらも本明細書中に包含されることを当業者は認識するだろう。
【0042】
上記プロセスは、一般に工程の連続に関し、具体的な実施形態において、その連続は、B細胞の拡大、CD40L(CD154としても知られる)の形質導入またはトランスフェクション、CD40Lの形質導入またはトランスフェクション以外の、1つ、2つまたはそれ以上の態様におけるB細胞の操作、ならびに作製された操作済みの細胞の拡大、それに続く、自由選択の解析工程および/または個体への自由選択の投与工程を含む。具体的な実施形態において、その操作には、(1)抗原レセプターおよび/またはサイトカインなどの1つ以上の異種タンパク質を発現するように細胞を改変することと、(2)B細胞における1つ以上の内在性遺伝子の発現を低下させる(ノックダウンする)または発現を無くす(ノックアウトする)ように細胞を改変することとの両方が含まれる。いくつかの場合において、(1)が(2)の前に行われるのに対し、他の場合では、(2)が(1)の前に行われる。発現を低下させるまたは発現を無くすように細胞を改変することは、任意の手段によって行われ得るが、特定の実施形態において、その改変は、CRISPRによって行われる。
【0043】
上記プロセスの最初の工程は、最終的な改変に向けてB細胞数の増加を可能にするB細胞の拡大を含み得る。B細胞は、例えば、新鮮な供給源または保管庫から、または商業的に、得られることがある。B細胞は、任意の種類であってよいが、具体的な実施形態において、B細胞は、末梢血単核球、造血幹細胞、人工多能性幹細胞、不死化B細胞株、B細胞ハイブリドーマ、骨髄、臍帯血単核球またはそれらの混合物に由来する。特定の実施形態において、拡大工程用のB細胞の開始培養物は、少なくとも500万~1億個の細胞を含み、いくつかの場合においては、1×10、1×1010もしくは1×1011個またはそれ以上の細胞が使用される。したがって、具体的な場合において、このプロコトルを開始するためのB細胞の数は、500万、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、5000万、5500万、6000万、6500万、7000万、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、1億個またはそれ以上のB細胞である。上記プロセスの任意の工程において、500万~1億、500万~9000万、500万~7500万、500万~5000万、500万~2500万、500万~1000万、1000万~1億、1000万~9000万、1000万~7500万、1000万~6000万、1000万~5000万、1000万~2500万、2500万~1億、2500万~9000万、2500万~7500万、2500万~5000万、5000万~1億、5000万~9000万、5000万~7500万、7500万~1億、7500万~9000万または9000万~1億個およびこれらの間の導き出せる任意の範囲の細胞を含むある範囲の細胞が使用され得る。
【0044】
1.B細胞の拡大およびCD40リガンドの形質導入
【0045】
具体的な実施形態において、ベクター(ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターを含む)を用いて、遺伝的に改変されたB細胞を作製するためのプロトコルは、以下のとおりである:
【0046】
0日目に、B細胞を好適な起源から入手し得る。具体的な場合では、末梢血単核球を単一のバフィーコートから単離する(または臍帯血単核球を臍帯血から単離する)。CliniMACs免疫磁気ビーズを用いて、B細胞をネガティブ選択してもよいが、特定の実施形態では、それらの細胞をポジティブ選択する。未標識のB細胞を回収し、CliniMACs緩衝液で洗浄し、CpG(3ug/ml)、抗IgM+IgG(10ug/ml)およびIL-4(4ng/ml)(または、B細胞をエフェクターまたは制御性の表現型に偏らせるためにどのように条件を最適化するかに応じて、IL-2またはIL-10またはIL-6)を含む完全SCGM(90%幹細胞成長培地、GMPでない場合、10%ウシ胎児血清、またはGMPでの使用である場合、10%ヒトAB血清)中において0.5×10/mlで刺激する。そのB細胞を、5%CO、37℃で、いくつかの場合においては約44~48時間(または30~55時間、35~50時間、40~50時間など)インキュベートする。
【0047】
次いで、2日目または約2日目に、B細胞にCD40リガンドを形質導入する(例えば、その生存および増殖を支援するために)。そのようにするために、一例として、1ウェルあたり1mlの、PBSで希釈された1%レトロネクチンを含む非組織培養プレートをインキュベーター内において37℃で5時間インキュベートすることによって、レトロネクチン形質導入プレートを準備する。次いで、そのレトロネクチンプレートを吸引し、室温のSCGMをウェルに加える。その培地を含むプレートを10分間インキュベートする。次いで、その培地をレトロウイルス上清と交換し、2000g、32℃で2時間遠心する。次に、レトロウイルス上清を新鮮なレトロウイルス上清と交換する。IL-4(4ng/ml)およびIL-21(30ng/ml)(または本明細書中の他の箇所で述べられるような他のサイトカイン、IL-7なしまたはありを含む)またはそれらの組み合わせとともに、0.5×10個の細胞を含むB細胞懸濁液を各ウェルに加える。そのプレートを2000g、32℃で30分間遠心し、次いで、37℃、5%COでインキュベートし;形質導入の24時間後、1mlのSCGMをIL-4(4ng/ml)およびIL-21(30ng/ml)とともに各ウェルに加えるべきである。5日目に、CD40Lを形質導入されたB細胞をプレートから取り出し、遠心し、IL-4(4ng/ml)およびIL-21(30ng/ml)またはそれらの組み合わせを含むSCGM中において0.5×10/mlで培養する。この時点において、CD40Lの形質導入効率を、フローサイトメトリーを用いて評価してもよい。収集を行い得るまで、SCGM/10%血清+IL4(4ng/ml)およびIL21(30ng/mL)(または拡大の目的に応じて他のサイトカイン)を用いて拡大を続ける。
【0048】
2.B細胞の拡大および遺伝子編集
【0049】
本工程では、CD40Lを発現するB細胞を遺伝子編集に供して、そのB細胞における1つ以上の内在性遺伝子の発現を破壊し、特定の実施形態では、B細胞を、遺伝子編集および/または別の異種分子のトランスフェクションの前に、CD40Lを発現するように改変する。具体的な実施形態において、遺伝子編集工程の前に、必要に応じてB細胞を拡大する。本明細書中のいずれの方法も、そのプロセス中の任意の時点において、拡大を用いてもよいし、用いなくてもよい。本明細書中のいずれの方法も、そのプロセス中の任意の時点において、B細胞へのCD40Lのトランスフェクションまたは形質転換を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0050】
ある特定の実施形態において、「B細胞の拡大およびCD40リガンドの形質導入」において詳述されたような、B細胞の刺激およびCD40リガンドの形質導入のための手順に従うことができる。CD40L形質導入後の約4~5日目に、B細胞をSCGM(90%幹細胞成長培地、GMPでない場合、10%ウシ胎児血清、またはGMPでの使用である場合、10%ヒトAB血清)に、IL-4(4ng/ml)およびIL-21(30ng/mL)の存在下において50万~100万/mLで再懸濁し、下記に記載されるプロトコルの例を用いてエレクトロポレーションを行う。1つまたは2つの遺伝子を編集する場合、CD40L形質導入後の4~5日目にCRISPR-cas9のエレクトロポレーションを行う。2つより多い遺伝子を標的化する場合は、少なくともいくつかの場合において、第1のエレクトロポレーションの後、細胞を約2~3日間休ませた後、所望のgRNAを用いた第2のCRISPR+エレクトロポレーションを行う。(CRISPR Cas9の適用の詳細については下記を参照のこと)。破壊される遺伝子の数に応じて、第3、第4およびそれ以上のエレクトロポレーション工程を行うことがある。いくつかの場合では、1つより多い遺伝子を同じエレクトロポレーション工程において破壊する。
【0051】
3.B細胞の拡大、異種抗原レセプターの形質導入+/-エレクトロポレーション
【0052】
「B細胞の拡大およびCD40リガンドの形質導入」において詳述されたような、B細胞の刺激およびCD40リガンドの形質導入のための手順に従う。
【0053】
B細胞にキメラ抗原レセプターを形質導入して、その特異性を向け直すことができる。さらに、それらにケモカインレセプターまたはホーミングレセプター、サイトカイン遺伝子、特に免疫グロブリンなどを形質導入することがある。
【0054】
CD40リガンド形質導入の約2~3日後(培養開始から約4~5日目)に、1ウェルあたり1mlの、PBSで希釈された1%レトロネクチンを含む非組織培養プレートを37℃で5時間インキュベートすることによって、別のレトロネクチン形質導入プレートを準備する。次いで、そのレトロネクチンプレートを室温で吸引し、SCGM/血清をウェルに加える。その培地を含むプレートを10分間インキュベートする。次いで、その培地をレトロウイルス上清と交換し、2000g、32℃で2時間遠心する。次に、レトロウイルス上清を新鮮なレトロウイルス上清と交換し、IL4(4ng/ml)およびIL21(30ng/mL)とともに0.5×10個の細胞を含むB細胞懸濁液を各ウェルに加える。そのプレートを2000g、32℃で30分間遠心し、次いで、37℃、5%COでインキュベートする。形質導入の2日後、形質導入効率をチェックし、収集するまで、SCGM/10%血清+IL4(4ng/ml)およびIL21(30ng/mL)を用いて拡大を続ける。
【0055】
CRISPR-Cas9遺伝子編集工程に向けて:1~2つの遺伝子を標的化する場合、CAR形質導入の2~3日後(すなわち、培養開始から約6~7日目)に、細胞をエレクトロポレートする。2つより多い遺伝子を標的化する場合は、第1のエレクトロポレーションの後、細胞を約2~3日間休ませた後、所望のgRNAを用いた第2のCRISPR-Cas9+エレクトロポレーションを行う。(CRISPR Cas9の適用の詳細については下記を参照のこと)。
【0056】
以下は、CRISPRプロトコルの1つの具体例を提供するが、このプロトコルは、他のCRISPRプロトコル用に外挿または最適化されてもよい。本明細書中で使用される任意のCRISPR法ではCas9が使用され得るが、いくつかの実施形態ではその代わりにCpF1が使用される。
crRNAの事前の複合体化およびエレクトロポレーション(Lonza 4D)(500万~3000万個のB細胞の場合)
工程1:crRNA+tracrRNA二重鎖を作製する
【表1】
crRNAおよびtracrRNAの開始濃度は、200uMである。それらを等モル濃度で混合した後の最終濃度は、100uMである。
a.ピペットで混合し、遠心分離する。
b.サーモサイクラーにおいて95Cで5分間インキュベートする。
c.卓上で室温に冷却させる。
工程2:crRNA:tracrRNA二重鎖とCas9ヌクレアーゼとを合わせる
【表2】
【表3】
a.ピペットで混合し、遠心分離する。
b.その混合物を室温で15分間インキュベートする。
工程3:工程3からのcrRNA#1とcrRNA#2とを合わせる
【表4】
【表5】
工程4:エレクトロポレーションを行う
a.IL-4およびIL21を含む培地が入った培養プレートを準備する(優先的には抗生物質不含)。
b.使用の直前に、5E+106個の細胞を調製し(PBSで2回洗浄してFBSを除去し)、100ulのP3初代細胞用ヌクレオフェクター溶液に再懸濁する。
c.細胞懸濁液とRNP(Cas9の最終濃度は4.6uMであり、gRNA濃度は4uMである)とを混合し、ヌクルオキュベットに移し、蓋を所定の位置に固定する。
d.エレクトロポレーションプログラムはEO-115であり、次いで細胞を培養プレートに加え、37℃インキュベーター内で回復させる。
e.最大5E+106-Xユニット(Cat:AAF-1002X)(最終生成物からの20ulで十分である。最終濃度については上記を参照のこと)。
f.最大30×10個をエレクトロポレートするために、1mlのLV Kit L Unit(Cat.#:V4LC-2002)を使用する。
g.最大100×10個またはそれ以上をエレクトロポレートするために、1mlのLV Kit L Unit(Cat.#:AAF-1002L)を使用する。
h.細胞の総数を5×10で除算した後、工程3からのRNP複合体の最終的な量を乗算することによって、必要なRNP複合体の総量を算出する。
i.例:細胞数が30×10である場合、30×10/5×10=6となり、6×20ul=120ulを使用する。
j.例:細胞数が100×10である場合、100×10/5×10=20、20×20ul=400ulとなる。
CRISPR CAS9:小規模プロトコル(25万~300万個の開始細胞集団)
1.sgRNA-Cas9の事前の複合体化およびエレクトロポレーション(Neon-Thermo Fisher)
a.各遺伝子に対して、近傍領域にまたがる1つまたは2つのsgRNAをデザインし、使用した。各遺伝子に対して、1.5ugのcas9(PNA Bio)と500ngのsgRNA(すべてのsgRNAの和)との反応を行い、氷上で20分間インキュベートした。
b.20分後、250,000個のB細胞を加え、T-緩衝液(Neon Electroporation Kit,Invitrogenに同梱、RNP複合体および細胞を含む総体積は14ulであるべきである)に再懸濁し、Neon Transfection Systemを用いて10ulのエレクトロポレーションチップでエレクトロポレートした。
c.B細胞に対するエレクトロポレーションの条件は、1600V、10msおよび3パルスである。次いで、培地およびサイトカイン(IL4およびIL21)を含む培養プレートに細胞を加え、37Cインキュベーター内で回復させる。
2.crRNAの事前の複合体化およびエレクトロポレーション(Neon-Thermo Fisher)
工程1:crRNA+tracrRNA二重鎖を作製する
【表6】
crRNAおよびtracrRNAの開始濃度は、200uMである。それらを等モル濃度で混合した後の最終濃度は、44uMである。
d.ピペットで混合し、遠心分離する。
e.サーモサイクラーにおいて95Cで5分間インキュベートする。
f.卓上で室温に冷却させる。
工程2:cas9ヌクレアーゼを調製する
【表7】
工程3:crRNA:tracrRNA二重鎖とCas9ヌクレアーゼとを合わせる
【表8】
【表9】
g.ピペットで混合し、遠心分離する。
h.その混合物を室温で15分間インキュベートする。
工程4:工程3からのcrRNA#1とcrRNA#2とを合わせる
【表10】
【表11】
工程5:エレクトロポレーションを行う
・1ウェルあたり250,000個の細胞を調製し、使用の直前に7.5ulのT緩衝液に再懸濁する。
・エレクトロポレーションの条件は、1600V、10msおよび3パルスである。次いで、それらの細胞を培養プレートに加え、37Cのインキュベーター内で回復させる。
【0057】
上記プロトコルにおける拡大工程に関して、特定の実施形態において、拡大工程が行われる培地は、1つ以上のサイトカインなどの、拡大を促進する1つ以上の作用物質を含む。具体的な実施形態において、その培地中のサイトカインの濃度は、100~300単位/mL(100、125、150、175、200、225、250、275または300単位/mLを含む)もしくは1~500nMの範囲内またはこれらの中で導き出せる任意の範囲内である。そのサイトカインは、B細胞の所望の表現型(エフェクターまたは制御性の表現型)に応じて、IL4、IL2、IL10、IL-21もしくはIL6またはそれらの組み合わせであり得る。いずれの拡大工程も、ある特定の温度、例えば、35℃、36℃、37℃または38℃を含む約35℃~38℃で行われ得る。いずれの拡大工程も、ある特定の酸素レベル(例えば、3%~7%CO)で行われ得る。具体的な実施形態において、拡大工程は、3%、4%、5%、6%または7%COで行われる。いずれの拡大工程も、特定の時間にわたって、例えば、ある特定の日数にわたって継続し得る。具体的な実施形態において、拡大工程は、4、5、6、7日間またはそれ以上継続するが、具体的な場合において、拡大工程は、4~7、4~6、4~5、5~6、5~7または6~7日間継続する。特定の実施形態において、拡大工程における培地は、拡大中に交換されてもよいし、交換されなくてもよいが、具体的な実施形態において、拡大工程開始後の3日目に、培地が交換される。培地は、前述のものと同じ培地組成または異なる培地組成に変えるために交換され得る。具体的な場合では、細胞を遠心し、前述のものと同じまたは類似の培地(100、125、150、175、200、225、250、275または300単位/mLのサイトカインを含む培地を含む)に再懸濁する。具体的な態様において、拡大工程は、バイオリアクター、例えば、気体透過性のバイオリアクター、例えば、G-Rex(登録商標)100MまたはG-Rex100(登録商標)内で行われる。ある特定の態様において、バイオリアクターは、気体透過性のバイオリアクターである。特定の態様において、気体透過性のバイオリアクターは、G-Rex(登録商標)100MまたはG-Rex100(登録商標)である。いくつかの態様において、工程(b)の刺激は、特定の体積の培地、例えば、3~5Lの培地(例えば、3、3.5、4、4.5または5L)において行われる。
【0058】
B細胞の拡大開始後の約2日目に、拡大されたB細胞を、CD40Lの形質導入による改変に供し得る。CD40L形質導入後の約2~3日目(培養開始後4~5日目)に、細胞に1つ以上の異種遺伝子(例えば、1つ以上の異種抗原レセプター、1つ以上のケモカインレセプター、1つ以上のホーミングレセプター、1つ以上のサイトカイン遺伝子および/または1つ以上の免疫グロブリン)を形質導入またはトランスフェクトし得る。
【0059】
CD40Lの形質導入またはトランスフェクションの後の改変は、1つ以上の異種抗原レセプターを発現するようにB細胞を形質導入またはトランスフェクションすることであり得るが、いくつかの場合では、CD40Lの形質導入またはトランスフェクションの後の改変は、B細胞の1つ以上の内在性遺伝子の発現の破壊である。改変が、異種抗原レセプターを発現するようにB細胞に形質導入またはトランスフェクションすることであるとき、その後の改変は、そのB細胞の1つ以上の内在性遺伝子の発現の破壊であり得る。改変が、B細胞の1つ以上の内在性遺伝子の発現を破壊することであるとき、その後の改変は、異種抗原レセプターを発現するようにそのB細胞に形質導入またはトランスフェクションすることである。
【0060】
具体的な実施形態において、拡大されたB細胞は、1つ以上の内在性遺伝子の発現を破壊するために遺伝子編集される前に、異種抗原レセプター遺伝子を有するように形質導入またはトランスフェクトされる。特定の実施形態では、1つ以上のキメラ抗原レセプター、1つ以上のT細胞レセプターまたはそれらの組み合わせをコードする発現構築物を含む特定のベクターが上記細胞に形質導入またはトランスフェクトされる。そのベクターは、少なくともナノ粒子、プラスミド、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルス関連ベクターなどを含む任意の種類であり得る。それらのB細胞が複数の異種タンパク質(例えば、異種抗原レセプター、自殺遺伝子、および1つ以上のサイトカイン、例えば、IL-4、IL-10、IL-7、IL-2、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21およびそれらの組み合わせからなる群より選択される1つ以上の異種サイトカイン)を発現できるようにするベクターが、そのB細胞にトランスフェクトまたは形質導入され得る。複数の異種タンパク質の遺伝子は、同じベクターに存在してもよいが、いくつかの場合では、複数のベクター上に存在する。それらの細胞は、形質導入またはトランスフェクトされたら、それらの細胞は、異種タンパク質の発現について試験されることがあり、これは、トランスフェクション/形質導入の1、2、3日後またはそれ以降に行われ得る。改変(形質導入またはトランスフェクト)されたB細胞の集団由来のアリコートを試験するとき、その試験は、B細胞の遺伝子編集の前など、さらなる改変の前に行われてもよいし、そうでなくてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態において、B細胞(改変されたB細胞を含む)の拡大開始後の約6、7、8、9、10、11または12日目以内に、遺伝子編集の方法に供し得る。遺伝子編集工程は、トランスフェクション/形質導入工程の後の1、2、3日以内またはそれ以降に行われてもよいし、そうでなくてもよい。改変されたB細胞の遺伝子編集は、任意の好適な方法によって行ってよいが、特定の実施形態では、B細胞(改変されたB細胞を含む)の遺伝子編集は、CRISPR法によって行われる。したがって、特定の実施形態において、改変された細胞は、好適な量のCas9およびガイドRNAに曝露される。B細胞の1つより多い遺伝子の発現が破壊される場合、編集される所望の各遺伝子に対する1つ以上の配列特異的ガイドRNAを含むガイドRNAの一群が存在する場合がある。特定の実施形態において、改変されたB細胞は、時間的に1、2、3日間またはそれ以上離れた2つ以上の異なるエレクトロポレーション工程に供される。いくつかの場合、第1のエレクトロポレーション工程は、1つ以上の遺伝子を標的化することを含み、第2のエレクトロポレーション工程は、第1のエレクトロポレーション工程とは異なる遺伝子である1つ以上の遺伝子を標的化することを含む。いくつかの場合、2つのエレクトロポレーション工程を超えて、3、4、5つまたはそれ以上のさらなるエレクトロポレーション工程を含む連続的なエレクトロポレーション工程が存在する。複数のエレクトロポレーション工程を用いるいずれの場合においても、その次のエレクトロポレーションは、前のエレクトロポレーション工程から1、2、3、4日間またはそれ以上経過した後など、特定の時間が経過した後で初めて行われてもよいし、そうでなくてもよい。
【0062】
ある特定の実施形態において、B細胞は、まず遺伝子編集工程を受けた後、異種抗原レセプター遺伝子を有するための形質導入またはトランスフェクション工程を受ける。
【0063】
上記B細胞の遺伝子編集および形質転換/形質導入の後、それらのB細胞は、遺伝子編集された改変B細胞の数を増やすための第2の拡大工程に供されてもよいし、供されなくてもよい。具体的な実施形態において、そのプロセスにおける第2のまたはその後の拡大工程は、そのプロセスにおける第1の拡大工程と実質的に同一であってもよいが、代替の実施形態では、第2のまたはその後の拡大工程は、異なる培地、外因的に加えられる異なる化合物、異なる培養/拡大時間、異なる拡大フラスコ(例えば、いくつかの例としてGREXまたはWAVE)、またはそれらの組み合わせを有するなど、第1の拡大工程と異なる。具体的な場合において、第2のまたはその後の拡大工程は、遺伝子編集された改変B細胞を特定の1つ以上のサイトカインとともに培養することを含む。
【0064】
上記プロセス中の任意の工程において、上記細胞は、使用、解析、保存などされ得る。具体的な実施形態において、それらの細胞は、機能、細胞傷害性、インビボ活性などについて解析される。例えば、それらの細胞は、(1)異種抗原レセプターが標的抗原に結合する能力;(2)発現のノックダウンまたはノックアウトを確かめるために、編集された遺伝子の発現またはその発現の喪失;または(3)その両方について解析され得る。具体的な場合において、それらの細胞は、例えば、質量分析および/またはRNA配列決定に供される。
【0065】
特定の実施形態において、作製されたB細胞は、例えば凍結保存など、保存される。例えば、そのB細胞は、開始B細胞を得た個体が使用するために凍結保存され得るか、またはそのB細胞は、開始B細胞を得た個体とは異なる個体が使用するために凍結保存され得る。
III.異種抗原レセプター
【0066】
本開示のB細胞は、1つ以上の異種抗原レセプター(例えば、操作されたTCR、CAR、キメラサイトカインレセプター、ケモカインレセプター、それらの組み合わせなど)を発現するように遺伝的に操作され得る。それらの異種抗原レセプターは、人間の手によって合成的に作製される。特定の実施形態において、それらのB細胞は、癌抗原に対して抗原特異性を有する1つ以上のCARおよび/またはTCRを発現するように改変される。複数のCARおよび/またはTCR(例えば、異なる抗原に対するもの)が、それらのB細胞に付加され得る。いくつかの態様において、それらの免疫細胞は、CRISPRの使用などによって、特定の遺伝子座にCARまたはTCRをノックインすることによってそのCARまたはTCRを発現するように操作される。
【0067】
上記B細胞は、特にCRISPRを用いて編集されるが、代替の好適な改変方法が当該分野で公知である。例えば、Sambrook and Ausubel,前出を参照のこと。例えば、それらの細胞は、Heemskerk et al.,2008およびJohnson et al.,2009に記載されている形質導入法を用いて、癌抗原に対して抗原特異性を有するTCRを発現するように形質導入され得る。いくつかの実施形態において、それらの細胞は、1つ以上の抗原レセプターをコードする、遺伝子操作を介して導入された1つ以上の核酸、およびそのような核酸の遺伝的に操作された産物を含む。いくつかの実施形態において、それらの核酸は、異種であり、すなわち、ある細胞またはその細胞から得たサンプルには正常には存在せず、例えば、別の生物または細胞から得られたもの、例えば、操作された細胞および/またはそのような細胞が由来する生物には通常見られない核酸である。いくつかの実施形態において、それらの核酸は、天然に存在せず、例えば、自然界には見られない核酸(例えば、キメラ)である。
【0068】
いくつかの実施形態において、上記B細胞は、CAR(抗原に特異的に結合する1つ以上の細胞外の抗原認識ドメインを含むCARを含む)を発現するように改変される。いくつかの実施形態において、その抗原は、細胞表面上(癌細胞の表面上を含む)に発現されているタンパク質である。いくつかの実施形態において、上記CARは、TCR様CARであり、抗原は、TCRと同様に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の状況において細胞表面上で認識される、プロセシングを受けたペプチド抗原(例えば、細胞内タンパク質のペプチド抗原)である。
【0069】
CARおよび組換えTCRをはじめとした例示的な抗原レセプター、ならびにそれらのレセプターを操作するための方法および細胞に導入するための方法には、例えば、国際特許出願公開番号WO200014257、WO2013126726、WO2012/129514、WO2014031687、WO2013/166321、WO2013/071154、WO2013/123061、米国特許出願公開番号US2002131960、US2013287748、US20130149337、米国特許第6,451,995号、同第7,446,190号、同第8,252,592号、同第8,339,645号、同第8,398,282号、同第7,446,179号、同第6,410,319号、同第7,070,995号、同第7,265,209号、同第7,354,762号、同第7,446,191号、同第8,324,353号および同第8,479,118号、ならびに欧州特許出願番号EP2537416に記載されているもの、および/またはSadelain et al.,2013;Davila et al.,2013;Turtle et al.,2012;Wu et al.,2012によって記載されたものが含まれる。いくつかの態様において、遺伝的に操作された抗原レセプターには、米国特許第7,446,190号に記載されているようなCAR、および国際特許出願公開番号WO/2014055668Alに記載されているものが含まれる。
A.キメラ抗原レセプター
【0070】
いくつかの実施形態において、上記CARは、a)1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメイン、b)膜貫通ドメイン、およびc)1つ以上の抗原結合領域を含む細胞外ドメインを含む。細胞外ドメインが2つ以上の抗原結合領域を含む場合、その2つ以上の抗原は、いくつかの場合において、同じ細胞表面上または同じタイプの細胞上に発現される異なる抗原を含む、異なる抗原である。
【0071】
いくつかの実施形態において、操作された抗原レセプターには、活性化型または刺激型のCAR、共刺激型のCAR(WO2014/055668を参照のこと)および/または阻害型のCAR(iCAR、Fedorov et al.,2013を参照のこと)をはじめとしたCARが含まれる。それらのCARは、一般に、1つ以上の細胞内のシグナル伝達構成要素に、いくつかの態様ではリンカーおよび/または膜貫通ドメインを介して連結された、細胞外の抗原(またはリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は、通常、天然の抗原レセプターを介するシグナル、共刺激レセプターとともにそのようなレセプターを介するシグナル、および/または共刺激レセプターのみを介するシグナルを模倣するかまたはまねる。
【0072】
本開示のある特定の実施形態は、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、および1つ以上のシグナル伝達モチーフを含む細胞外ドメインを含む、抗原特異的CARポリペプチド(免疫原性を低減するためにヒト化されたCAR(hCAR)を含む)をコードする核酸を含む核酸の使用に関する。ある特定の実施形態において、そのCARは、1つ以上の抗原の間で共有される空間を含むエピトープを認識し得る。ある特定の実施形態において、結合領域は、モノクローナル抗体の相補性決定領域、モノクローナル抗体の可変領域、および/またはそれらの抗原結合フラグメントを含み得る。別の実施形態において、その特異性は、レセプターに結合するペプチド(例えば、サイトカイン)に由来する。
【0073】
ヒトCAR核酸は、ヒト患者に対する細胞免疫療法を増強するために使用されるヒト遺伝子であり得ると企図される。具体的な実施形態において、本発明は、CARの完全長cDNAまたはコード領域を含む。その抗原結合領域またはドメインは、特定のヒトモノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)のV鎖およびV鎖のフラグメント(例えば、参照により本明細書中に援用される米国特許第7,109,304号に記載されているもの)を含み得る。そのフラグメントは、ヒト抗原特異的抗体の任意の数の異なる抗原結合ドメインでもあり得る。より具体的な実施形態において、そのフラグメントは、ヒト細胞における発現のためにヒトのコドン使用頻度に最適化された配列によってコードされる抗原特異的scFvである。
【0074】
配置は、多量体であり得る(例えば、ダイアボディまたは多量体)。その多量体は、軽鎖および重鎖の可変部分がダイアボディに交差対形成することによって形成される可能性が最も高い。その構築物のヒンジ部分には、完全欠失から、1つ目のシステインが維持されること、セリン置換ではなくプロリン置換であること、1つ目のシステインまで切断されることにまで及ぶ複数の選択肢があり得る。Fc部分を欠失させることができる。安定したかつ/または二量体化する任意のタンパク質が、この目的にかない得る。Fcドメインのうちの1つだけ、例えば、ヒト免疫グロブリンのCH2ドメインまたはCH3ドメインを使用することができる。二量体化を改善するように改変されたヒト免疫グロブリンのヒンジ、CH2およびCH3領域を使用することもできる。免疫グロブリンのヒンジ部分だけを使用することもできる。CD8アルファの部分を使用することもできる。
【0075】
いくつかの実施形態において、上記CAR核酸は、膜貫通ドメインおよび改変されたCD28細胞内シグナル伝達ドメインなどの、他の共刺激レセプタードメインをコードする配列を含む。具体的な共刺激レセプターとしては、CD28、CD27、OX-40(CD134)、DAP10、DAP12および4-1BB(CD137)のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。CD3ζによって惹起される1次シグナルに加えて、ヒトCARに挿入されたヒト共刺激レセプターによって提供されるさらなるシグナルが、B細胞の完全な活性化にとって重要であり、インビボでの持続性および養子免疫療法の治療成功の改善を助け得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、CARは、養子療法によって標的化される特定の細胞型において発現される抗原などの特定の抗原(またはマーカーまたはリガンド)、例えば、癌マーカーおよび/または減衰応答を誘導することを目的とした抗原(例えば、正常細胞型上または非罹患細胞型上に発現される抗原)に対する特異性を有するように構築される。したがって、上記CARは通常、その細胞外の部分に、1つ以上の抗原結合分子(例えば、1つ以上の抗原結合フラグメント、抗原結合ドメインもしくは抗原結合部分)または1つ以上の抗体可変ドメイン、および/または抗体分子を含む。いくつかの実施形態において、上記CARは、抗体分子の抗原結合部分(例えば、モノクローナル抗体(mAb)の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)に由来する一本鎖抗体フラグメント(scFv))を含む。
【0077】
キメラ抗原レセプターのある特定の実施形態において、そのレセプターの抗原特異的部分(抗原結合領域を含む細胞外ドメインと称され得る)は、腫瘍関連抗原または場合によっては病原体特異的抗原に結合するドメインを含む。抗原には、デクチン-1などのパターン認識レセプターによって認識される糖鎖抗原が含まれる。腫瘍関連抗原は、腫瘍細胞の細胞表面上に発現される限り、任意の種類であってよい。腫瘍関連抗原の例示的な実施形態としては、CD19、CD20、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CA-125、MUC-1、CD56、EGFR、c-Met、AKT、Her2、Her3、上皮性腫瘍抗原、メラノーマ関連抗原、変異型p53、変異型rasなどが挙げられる。ある特定の実施形態において、上記CARは、腫瘍関連抗原の量が少ない場合に持続性を改善するために、サイトカインと同時発現され得る。そのような場合、そのサイトカインは、CARタンパク質の一部ではない。例えば、CARは、1つ以上のサイトカイン(例えば、IL-4、IL-10、IL-7、IL-2、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21またはそれらの組み合わせ)と同時発現され得る。
【0078】
キメラレセプターをコードするオープンリーディングフレームの配列は、ゲノムDNA起源、cDNA起源から得ることができるか、または合成することができるか(例えば、PCRを介して)、またはそれらの組み合わせであり得る。イントロンはmRNAを安定化すると見出されているので、ゲノムDNAのサイズおよびイントロンの数に応じて、cDNAまたはそれらの組み合わせを使用することが望ましい場合がある。また、mRNAを安定化するために内在性または外来性の非コード領域を使用することもさらに有益であり得る。
【0079】
上記キメラ構築物は、裸のDNAとしてまたは好適なベクターに入った状態で免疫細胞に導入され得ることが企図される。裸のDNAを用いたエレクトロポレーションによって細胞を安定的にトランスフェクトする方法は、当該分野で公知である。例えば、米国特許第6,410,319号を参照のこと。裸のDNAとは、一般に、発現にとって適切な向きでプラスミド発現ベクターに含められたキメラレセプターをコードするDNAのことを指す。
【0080】
いくつかの態様では、キメラ構築物を免疫細胞に導入するために、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター)を用いることができる。本開示の方法に従って使用するのに適したベクターは、免疫細胞において非複製性のベクターである。ウイルスに基づくベクターが多数知られており(例えば、HIV、SV40、EBV、HSVまたはBPVに基づくベクター)、細胞内に維持されるそのウイルスのコピー数は、その細胞の生存能を維持するほど十分低い。
【0081】
いくつかの態様において、抗原に特異的に結合する構成要素または抗原特異的認識構成要素は、1つ以上の膜貫通ドメインおよび細胞内のシグナル伝達ドメインに連結される。いくつかの実施形態において、上記CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含む。1つの実施形態において、そのCARにおけるドメインの1つと天然に会合する膜貫通ドメインが使用される。いくつかの場合において、その膜貫通ドメインは、レセプター複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるためにそのようなドメインが同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに結合するのを回避するように、選択されるかまたはアミノ酸置換によって改変される。
【0082】
膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、天然起源または合成起源に由来する。起源が天然である場合、そのドメインは、いくつかの態様において、任意の膜結合型タンパク質または膜貫通タンパク質に由来する。膜貫通領域は、T細胞レセプターのアルファ鎖、ベータ鎖またはゼータ鎖、CD28、CD3ゼータ、CD3イプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、ICOS/CD278、GITR/CD357、NKG2DおよびDAP分子に由来する(すなわち、それらの分子の膜貫通領域を少なくとも含む)膜貫通領域を含む。あるいは、膜貫通ドメインは、いくつかの実施形態において、合成の膜貫通ドメインである。いくつかの態様において、合成の膜貫通ドメインは、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を主に含む。いくつかの態様では、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが、合成の膜貫通ドメインの各末端に見られる。
【0083】
ある特定の実施形態において、B細胞などの免疫細胞を遺伝的に改変するための本明細書中に開示されるプラットフォーム技術としては、(i)エレクトロポレーションデバイス(例えば、ヌクレオフェクター)を用いた非ウイルス遺伝子導入、(ii)エンドドメイン(例えば、CD28/CD3-ζ、CD137/CD3-ζまたは他の組み合わせ)を介してシグナル伝達するCAR、(iii)長さが不定の細胞外ドメインであって抗原認識ドメインを細胞表面に接続する細胞外ドメインを有するCAR、およびいくつかの場合では、(iv)CAR免疫細胞を頑強かつ数値的に拡大することができる、K562に由来する人工抗原提示細胞(aAPC)(Singh et al.,2008;Singh et al.,2011)が挙げられる。
B.T細胞レセプター(TCR)
【0084】
いくつかの実施形態において、遺伝的に操作された抗原レセプターには、組換えTCR、および/または天然に存在するT細胞からクローニングされたTCRが含まれる。「T細胞レセプター」または「TCR」とは、可変a鎖および可変β鎖(それぞれTCRαおよびTCRβとしても知られる)または可変γ鎖および可変δ鎖(それぞれTCRγおよびTCRδとしても知られる)を含む分子であって、MHCレセプターに結合した抗原ペプチドに特異的に結合することができる分子のことを指す。いくつかの実施形態において、TCRは、αβ型である。
【0085】
通常、αβ型およびγδ型として存在するTCRは、一般に構造が似ているが、それらを発現しているT細胞は、解剖学的位置または機能が異なり得る。TCRは、細胞表面上にまたは可溶型として見られ得る。一般に、TCRは、T細胞(またはTリンパ球)の表面上に見られ、通常、その表面上で、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与する。いくつかの実施形態において、TCRは、定常ドメイン、膜貫通ドメイン、および/または短い細胞質テイルも含み得る(例えば、Janeway et al,1997を参照のこと)。例えば、いくつかの態様において、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、およびC末端に短い細胞質テイルを有し得る。いくつかの実施形態において、TCRは、シグナル伝達の媒介に関わるCD3複合体のインバリアントタンパク質と会合される。別段述べられない限り、用語「TCR」は、その機能的TCRフラグメントを包含すると理解されるべきである。この用語は、αβ型またはγδ型のTCRをはじめとしたインタクトなまたは完全長のTCRも包含する。
【0086】
したがって、本明細書中の目的では、TCRへの言及には、任意のTCRまたは機能的フラグメント(例えば、MHC分子において結合した特異的な抗原ペプチド、すなわち、MHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合部分)が含まれる。交換可能に使用され得る、TCRの「抗原結合部分」または抗原結合フラグメントとは、TCRの構造ドメインの一部しか含まないが、完全なTCRが結合する抗原(例えば、MHC-ペプチド複合体)に結合する分子のことを指す。いくつかの場合において、抗原結合部分は、特異的なMHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分なTCRの可変ドメイン(例えば、TCRの可変a鎖および可変β鎖)を含み、例えば一般に、各鎖が3つの相補性決定領域を含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、TCR鎖の可変ドメインは、会合してループ、または免疫グロブリンに類似の相補性決定領域(CDR)を形成し、それにより、抗原認識がもたらされ、TCR分子の結合部位を形成することによってペプチド特異性が決定され、ペプチド特異性が決定される。通常、免疫グロブリンと同様に、CDRは、フレームワーク領域(FR)によって隔てられる(例えば、Jores et al.,1990;Chothia et al.,1988;Lefranc et al.,2003を参照のこと)。いくつかの実施形態において、CDR3は、プロセシングされた抗原の認識に関与する主要なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1は、抗原ペプチドのN末端部と相互作用するとも示されているのに対して、ベータ鎖のCDR1は、そのペプチドのC末端部と相互作用する。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられている。いくつかの実施形態において、β鎖の可変領域は、さらなる超可変性(HV4)領域を含み得る。
【0088】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブリンと同様に、TCR鎖の細胞外の部分(例えば、a鎖、β鎖)は、2つの免疫グロブリンドメインである、N末端における可変ドメイン(例えば、VまたはVp;通常、KabatナンバリングであるKabat et al.,“Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept.Health and Human Services,Public Health Service National Institutes of Health,1991,5th ed.に基づくアミノ酸1~116)、および細胞膜に隣接した1つの定常ドメイン(例えば、a鎖定常ドメインまたはC、通常、Kabatに基づくアミノ酸117~259、β鎖定常ドメインまたはCp、通常、Kabatに基づくアミノ酸117~295)を含み得る。例えば、いくつかの場合、それらの2本の鎖によって形成されるTCRの細胞外の部分は、2つの膜近位定常ドメイン、およびCDRを含む2つの膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成する短い接続配列を含み、それにより、それらの2本の鎖の間に連結が形成される。いくつかの実施形態では、TCRが、定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含むように、そのTCRは、α鎖およびβ鎖の各々に追加のシステイン残基を有してもよい。
【0089】
いくつかの実施形態において、TCR鎖は、膜貫通ドメインを含み得る。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは、正に帯電している。いくつかの場合において、TCR鎖は、細胞質テイルを含む。いくつかの場合において、その構造のおかげで、TCRはCD3のような他の分子と会合することができる。例えば、膜貫通領域とともに定常ドメインを含むTCRは、そのタンパク質を細胞膜に固定し得、CD3シグナル伝達装置または複合体のインバリアントサブユニットと会合し得る。
【0090】
一般に、CD3は、哺乳動物においては3つの異なる鎖(γ、δおよびε)およびζ鎖を有し得る多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物では、この複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、およびホモ二量体のCD3ζ鎖を含み得る。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連した細胞表面タンパク質である。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖の膜貫通領域は、負に帯電しており、これは、これらの鎖が、正に帯電したT細胞レセプター鎖と会合できるようにする特性である。CD3γ鎖、CD3δ鎖およびCD3ε鎖の各細胞内テイルは、免疫受容活性化チロシンモチーフまたはITAMとして知られる保存された単一のモチーフを含むのに対して、各CD3ζ鎖は、3つ含む。一般に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能に関わる。これらのアクセサリー分子は、負に帯電した膜貫通領域を有し、TCRから細胞へのシグナルの伝播において役割を果たす。CD3鎖およびζ鎖は、TCRと一体となって、T細胞レセプター複合体として知られる複合体を形成する。
【0091】
いくつかの実施形態において、TCRは、2本の鎖αおよびβ(または必要に応じてγおよびδ)のヘテロ二量体であり得るか、または一本鎖TCR構築物であり得る。いくつかの実施形態において、TCRは、ジスルフィド結合などによって連結された2本の別個の鎖(α鎖とβ鎖またはγ鎖とδ鎖)を含むヘテロ二量体である。いくつかの実施形態において、標的抗原(例えば、癌抗原)に対するTCRが特定され、細胞に導入される。いくつかの実施形態において、TCRをコードする核酸は、公的に入手可能なTCR DNA配列のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅などによって、種々の起源から得ることができる。いくつかの実施形態において、TCRは、生物学的起源、例えば、細胞、例えば、T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、T細胞ハイブリドーマまたは他の公的に入手可能な起源から得られる。いくつかの実施形態において、T細胞は、インビボで単離された細胞から得ることができる。いくつかの実施形態において、高親和性T細胞クローンが、患者から単離され得、TCRが単離され得る。いくつかの実施形態において、T細胞は、培養されたT細胞ハイブリドーマまたはクローンであり得る。いくつかの実施形態において、標的抗原に対するTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系、すなわちHLA)で操作されたトランスジェニックマウスにおいて産生されたクローンである。例えば、腫瘍抗原(例えば、Parkhurst et al.,2009およびCohen et al.,2005)を参照のこと。いくつかの実施形態では、ファージディスプレイを用いて、標的抗原に対するTCRが単離される(例えば、Varela-Rohena et al.,2008およびLi,2005を参照のこと)。いくつかの実施形態において、TCRまたはその抗原結合部分は、TCRの配列の知識によって合成的に作製され得る。
C.抗原提示細胞
【0092】
マクロファージ、Bリンパ球および樹状細胞を含む抗原提示細胞は、特定のMHC分子の発現によって識別される。APCは、抗原を内部移行し、その抗原の一部をMHC分子とともにその細胞膜の外膜上に再発現する。MHCは、複数の遺伝子座を含む大きな遺伝子複合体である。MHC遺伝子座は、クラスIおよびクラスII MHCと称されるMHC膜分子の主要な2クラスをコードする。Tヘルパーリンパ球は、一般に、MHCクラスII分子と会合した抗原を認識し、T細胞傷害性リンパ球は、MHCクラスI分子と会合した抗原を認識する。MHCは、ヒトではHLA複合体と称され、マウスではH-2複合体と称される。
【0093】
いくつかの場合において、上記実施形態の治療的組成物および細胞療法用の生成物を調製する際には、aAPCが有用である。抗原提示システムの調製および使用に関する一般的ガイダンスについては、例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号、同第6,362,001号および同第6,790,662号;米国特許出願公開第2009/0017000号および同第2009/0004142号;ならびに国際公開番号WO2007/103009を参照のこと。
【0094】
aAPCシステムは、少なくとも1つの外来性の補助分子を含み得る。任意の好適な数および組み合わせの補助分子が使用され得る。補助分子は、共刺激分子および接着分子などの補助分子から選択され得る。例示的な共刺激分子としては、CD86、CD64(FcγRI)、41BBリガンドおよびIL-21が挙げられる。接着分子としては、例えば細胞間の接触または細胞とマトリックスとの接触を促進する、セレクチンなどの糖結合糖タンパク質、インテグリンなどの膜貫通結合糖タンパク質、カドヘリンなどのカルシウム依存性タンパク質、および細胞間接着分子(ICAM)などの1回膜貫通型免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリータンパク質が挙げられ得る。例示的な接着分子としては、LFA-3、およびICAM-1などのICAMが挙げられる。共刺激分子および接着分子をはじめとした例示的な補助分子の選択、クローニング、調製および発現に有用な手法、方法および試薬は、例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号および同第6,362,001号に例証されている。
D.抗原
【0095】
遺伝的に操作された抗原レセプターによって標的化される抗原には、養子細胞療法を介して標的化される疾患、状態または細胞型の状況において発現される抗原が含まれる。それらの疾患および状態には、血液癌、免疫系の癌(例えば、リンパ腫、白血病および/またはミエローマ、例えば、B、Tおよび骨髄性白血病、リンパ腫ならびに多発性骨髄腫)をはじめとした癌および腫瘍を含む、増殖性、腫瘍性および悪性の疾患および障害が含まれる。いくつかの実施形態において、抗原は、正常細胞もしくは正常組織または非標的化細胞もしくは非標的化組織と比べて、その疾患または状態の細胞上、例えば、腫瘍細胞上または病原性細胞上に、選択的に発現されるかまたは過剰発現される。他の実施形態において、抗原は、正常細胞上に発現され、かつ/または操作された細胞上に発現される。
【0096】
任意の好適な抗原が、本方法において標的化され得る。その抗原は、ある特定の癌細胞に関連することもあるが、いくつかの場合では、非癌性細胞と関連しないこともある。例示的な抗原としては、感染性物質、自己(auto)抗原/自己(self)抗原、腫瘍関連抗原/癌関連抗原、および腫瘍新抗原に由来する抗原性分子(Linnemann et al.,2015)が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様において、抗原としては、NY-ESO、EGFRvIII、Muc-1、Her2、CA-125、WT-1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/DR4およびCEAが挙げられる。特定の態様において、上記2つ以上の抗原レセプターに対する抗原としては、CD19、EBNA、WT1、CD123、NY-ESO、EGFRvIII、MUC1、HER2、CA-125、WT1、Mage-A3、Mage-A4、Mage-A10、TRAIL/DR4および/またはCEAが挙げられるが、これらに限定されない。これらの抗原の配列は、当該分野で公知であり、例えば、GenBank(登録商標)データベースにおける以下のものである:CD19(アクセッション番号NG_007275.1)、EBNA(アクセッション番号NG_002392.2)、WT1(アクセッション番号NG_009272.1)、CD123(アクセッション番号NC_000023.11)、NY-ESO(アクセッション番号NC_000023.11)、EGFRvIII(アクセッション番号NG_007726.3)、MUC1(アクセッション番号NG_029383.1)、HER2(アクセッション番号NG_007503.1)、CA-125(アクセッション番号NG_055257.1)、WT1(アクセッション番号NG_009272.1)、Mage-A3(アクセッション番号NG_013244.1)、Mage-A4(アクセッション番号NG_013245.1)、Mage-A10(アクセッション番号NC_000023.11)、TRAIL/DR4(アクセッション番号NC_000003.12)および/またはCEA(アクセッション番号NC_000019.10)。
【0097】
腫瘍関連抗原は、例として、前立腺癌、乳癌、直腸結腸癌、肺癌、膵臓癌、腎癌、中皮腫、卵巣癌、肝臓癌、脳癌、骨癌、胃癌、脾臓癌、精巣癌、子宮頸癌、肛門癌、胆嚢癌、甲状腺癌または黒色腫に由来し得る。例示的な腫瘍関連抗原または腫瘍細胞由来抗原としては、MAGE1、3およびMAGE4(または他のMAGE抗原、例えば、国際特許公開番号WO99/40188に開示されているもの);PRAME;BAGE;RAGE、Lage(NY ESO1としても知られる);SAGE;およびHAGEまたはGAGEが挙げられる。腫瘍抗原のこれらの非限定的な例は、黒色腫、肺癌、肉腫および膀胱癌などの広範囲の腫瘍タイプにおいて発現される。例えば、米国特許第6,544,518号を参照のこと。前立腺癌の腫瘍関連抗原としては、例えば、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺酸性リン酸塩、NKX3.1および前立腺の6回膜貫通上皮抗原(STEAP)が挙げられる。
【0098】
他の腫瘍関連抗原としては、Plu-1、HASH-1、HasH-2、CriptoおよびCriptinが挙げられる。さらに、腫瘍抗原は、多くの癌の処置において有用な自己ペプチドホルモン、例えば、短い10アミノ酸長のペプチドである完全長の性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)であり得る。
【0099】
腫瘍抗原には、HER-2/neuの発現などの腫瘍関連抗原の発現を特徴とする癌に由来する腫瘍抗原が含まれる。目的の腫瘍関連抗原には、系列特異的腫瘍抗原、例えば、メラノサイト-黒色腫系列抗原MART-1/Melan-A、gp100、gp75、mda-7、チロシナーゼおよびチロシナーゼ関連タンパク質が含まれる。
【0100】
例証的な癌抗原としては、CD19、EBNA、CD123、HER2、CA-125、TRAIL/DR4、CD20、CD70、癌胎児抗原、アルファフェトプロテイン、CD56、AKT、Her3、上皮性腫瘍抗原、CD319(CS1)、ROR1、葉酸結合タンパク質、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp120、HIV-1エンベロープ糖タンパク質gp41、CD5、CD23、CD30、HERV-K、IL-11Rアルファ、カッパー鎖、ラムダ鎖、CSPG4、CD33、CD47、CLL-1、U5snRNP200、CD200、BAFF-R、BCMA、CD99、p53、変異型p53、Ras、変異型ras、c-Myc、細胞質セリン/トレオニンキナーゼ(例えば、A-Raf、B-RafおよびC-Raf、サイクリン依存性キナーゼ)、MAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、MART-1、メラノーマ関連抗原、BAGE、DAM-6、-10、GAGE-1、-2、-8、GAGE-3、-4、-5、-6、-7B、NA88-A、MC1R、mda-7、gp75,,Gp100、PSA、PSM、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連タンパク質、TRP-1、TRP-2、ART-4、CAMEL、CEA、Cyp-B、hTERT、hTRT、iCE、MUC1、MUC2、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)、TRKレセプター、PRAME、P15、RU1、RU2、SART-1、SART-3、ウィルムス腫瘍抗原(WT1)、AFP、-カテニン/m、カスパーゼ-8/m、CDK-4/m、ELF2M、GnT-V、G250、HAGE、HSP70-2M、HST-2、KIAA0205、MUM-1、MUM-2、MUM-3、ミオシン/m、RAGE、SART-2、TRP-2/INT2、707-AP、アネキシンII、CDC27/m、TPI/mbcr-abl、BCR-ABL、インターフェロン制御因子4(IRF4)、ETV6/AML、LDLR/FUT、Pml/RAR、腫瘍関連カルシウムシグナル伝達物質1(TACSTD1)TACSTD2、レセプターチロシンキナーゼ(例えば、上皮成長因子レセプター(EGFR)(特に、EGFRvIII)、血小板由来成長因子レセプター(PDGFR)、血管内皮成長因子レセプター(VEGFR))、VEGFR2、細胞質チロシンキナーゼ(例えば、src-ファミリー、syk-ZAP70ファミリー)、インテグリン結合キナーゼ(ILK)、シグナル伝達性転写因子STAT3、STATSおよびSTATE、低酸素誘導因子(例えば、HIF-1およびHIF-2)、核因子-カッパーB(NF-B)、Notchレセプター(例えば、Notch1~4)、NY ESO1、c-Met、ラパマイシンの哺乳動物標的(mTOR)、WNT、細胞外シグナル制御キナーゼ(ERK)およびそれらの調節サブユニット、PMSA、PR-3、MDM2、メソテリン、腎細胞癌-5T4、SM22-アルファ、炭酸脱水酵素I(CAI)およびIX(CAIX)(G250としても知られる)、STEAD、TEL/AML1、GD2、プロテイナーゼ3、hTERT、肉腫転座切断点(sarcoma translocation breakpoints)、EphA2、ML-IAP、EpCAM、ERG(TMPRSS2 ETS融合遺伝子)、NA17、PAX3、ALK、アンドロゲンレセプター、サイクリンB1、ポリシアル酸、MYCN、RhoC、GD3、フコシルGM1、メソテリアン(mesothelian)、PSCA、sLe、PLAC1、GM3、BORIS、Tn、GLoboH、NY-BR-1、RGsS、SAGE、SART3、STn、PAX5、OY-TES1、精子タンパク質17、LCK、HMWMAA、AKAP-4、SSX2、XAGE1、B7H3、レグマイン(legumain)、TIE2、Page4、MAD-CT-1、FAP、MAD-CT-2、fos関連抗原1、CBX2、CLDN6、SPANX、TPTE、ACTL8、ANKRD30A、CDKN2A、MAD2L1、CTAG1B、SUNC1およびLRRN1が挙げられる。
【0101】
抗原には、腫瘍細胞において変異した遺伝子由来の、または正常細胞と比べて腫瘍細胞において異なるレベルで転写される遺伝子由来の、エピトープ領域またはエピトープペプチド(例えば、テロメラーゼ酵素、サバイビン、メソテリン、変異型ras、bcr/abl再配列、Her2/neu、変異型または野生型p53、シトクロムP450 1B1、およびN-アセチルグルコサミン転移酵素-Vなどの異常に発現されるイントロン配列);ミエローマおよびB細胞リンパ腫においてユニークなイディオタイプを生成する免疫グロブリン遺伝子のクローン性再配列;オンコウイルスのプロセスに由来するエピトープ領域またはエピトープペプチドを含む腫瘍抗原(例えば、ヒトパピローマウイルスタンパク質E6およびE7);エプスタイン・バーウイルスタンパク質LMP2;腫瘍選択的に発現する変異していない腫瘍胎児性タンパク質(例えば、癌胎児抗原およびアルファ-フェトプロテイン)が含まれ得る。
【0102】
他の実施形態において、抗原は、病原性微生物または日和見病原性微生物(本明細書中で感染症微生物とも呼ばれる)(例えば、ウイルス、真菌、寄生生物および細菌)から得られるかまたはそれらに由来する。ある特定の実施形態において、そのような微生物に由来する抗原には、完全長タンパク質が含まれる。
【0103】
本明細書中に記載される方法において使用が企図される抗原を有する例証的な病原性生物としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、インフルエンザA、BおよびC、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ポリオーマウイルス(例えば、BKウイルスおよびJCウイルス)、アデノウイルス、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種、ならびにStreptococcus pneumoniaeを含む連鎖球菌属の種が挙げられる。当業者が理解するように、本明細書中に記載されるような抗原として使用するためのこれらおよび他の病原性微生物に由来するタンパク質、ならびにそれらのタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、刊行物ならびにGENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る。
【0104】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に由来する抗原には、HIVビリオン構造タンパク質(例えば、gp120、gp41、p17、p24)、プロテアーゼ、逆転写酵素、またはtat、rev、nef、vif、vprおよびvpuによってコードされるHIVタンパク質のうちのいずれかが含まれる。
【0105】
単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV1およびHSV2)に由来する抗原としては、HSV後期遺伝子から発現されるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。後期群の遺伝子は、ビリオン粒子を形成するタンパク質を主にコードする。そのようなタンパク質としては、ウイルスカプシドを形成する(UL)の5つのタンパク質:UL6、UL18、UL35、UL38ならびに主要カプシドタンパク質UL19、UL45およびUL27が挙げられ、これらの各々が、本明細書中に記載されるような抗原として使用され得る。本明細書中で抗原としての使用が企図される他の例証的なHSVタンパク質としては、ICP27(H1、H2)、糖タンパク質B(gB)および糖タンパク質D(gD)タンパク質が挙げられる。HSVゲノムは、少なくとも74個の遺伝子を含み、その各々が、抗原として使用され得る可能性があるタンパク質をコードする。
【0106】
サイトメガロウイルス(CMV)に由来する抗原としては、CMV構造タンパク質、ウイルス複製の前初期および初期に発現されるウイルス抗原、糖タンパク質IおよびIII、カプシドタンパク質、コートタンパク質、低分子マトリックスタンパク質(lower matrix protein)pp65(ppUL83)、p52(ppUL44)、IE1および1E2(UL123およびUL122)、UL128~UL150の遺伝子クラスターのタンパク質産物(Rykman,et al.,2006)、エンベロープ糖タンパク質B(gB)、gH、gN、ならびにpp150が挙げられる。当業者が理解するように、本明細書中に記載される抗原として使用するためのCMVタンパク質は、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの公的データベースにおいて特定され得る(例えば、Bennekov et al.,2004;Loewendorf et al.,2010;Marschall et al.,2009を参照のこと)。
【0107】
ある特定の実施形態において使用が企図されるエプスタイン・バンウイルス(EBV)に由来する抗原としては、EBV溶解性タンパク質gp350およびgp110、エプスタイン・バン核抗原(EBNA)-1、EBNA-2、EBNA-3A、EBNA-3B、EBNA-3C、EBNA-リーダータンパク質(EBNA-LP)、ならびに潜伏感染膜タンパク質(LMP)-1、LMP-2AおよびLMP-2Bを含む、潜伏感染サイクル中に生成されるEBVタンパク質が挙げられる(例えば、Lockey et al.,2008を参照のこと)。
【0108】
本明細書中で使用が企図される呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に由来する抗原には、RSVゲノムによってコードされる11個のタンパク質またはそれらの抗原性フラグメント:NS1、NS2、N(ヌクレオカプシドタンパク質)、M(マトリックスタンパク質)SH、GおよびF(ウイルスコートタンパク質)、M2(第2のマトリックスタンパク質)、M2-1(伸長因子)、M2-2(転写制御)、RNAポリメラーゼ、ならびにリンタンパク質Pのうちのいずれかが含まれる。
【0109】
使用が企図される水疱性口内炎ウイルス(VSV)に由来する抗原には、VSVゲノムによってコードされる主要な5つのタンパク質およびそれらの抗原性フラグメント:巨大タンパク質(L)、糖タンパク質(G)、核タンパク質(N)、リンタンパク質(P)およびマトリックスタンパク質(M)のうちのいずれか1つが含まれる(例えば、Rieder et al.,1999を参照のこと)。
【0110】
ある特定の実施形態において使用が企図されるインフルエンザウイルスに由来する抗原としては、赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質M1およびM2、NS1、NS2(NEP)、PA、PB1、PB1-F2、ならびにPB2が挙げられる。
【0111】
例示的なウイルス抗原としては、アデノウイルスのポリペプチド、アルファウイルスのポリペプチド、カリシウイルスのポリペプチド(例えば、カリシウイルスのカプシド抗原)、コロナウイルスのポリペプチド、ジステンパーウイルスのポリペプチド、エボラウイルスのポリペプチド、エンテロウイルスのポリペプチド、フラビウイルスのポリペプチド、肝炎ウイルス(AE)のポリペプチド(B型肝炎のコアまたは表面抗原、C型肝炎ウイルスのE1もしくはE2糖タンパク質、コアまたは非構造タンパク質)、ヘルペスウイルスのポリペプチド(単純ヘルペスウイルスまたは水痘帯状疱疹ウイルスの糖タンパク質を含む)、感染性腹膜炎ウイルスのポリペプチド、白血病ウイルスのポリペプチド、マールブルグウイルスのポリペプチド、オルトミクソウイルスのポリペプチド、パピローマウイルスのポリペプチド、パラインフルエンザウイルスのポリペプチド(例えば、赤血球凝集素ポリペプチドおよびノイラミニダーゼポリペプチド)、パラミクソウイルスのポリペプチド、パルボウイルスのポリペプチド、ペスチウイルスのポリペプチド、ピコルナウイルスのポリペプチド(例えば、ポリオウイルスのカプシドポリペプチド)、ポックスウイルスのポリペプチド(例えば、ワクシニアウイルスのポリペプチド)、狂犬病ウイルスのポリペプチド(例えば、狂犬病ウイルスの糖タンパク質G)、レオウイルスのポリペプチド、レトロウイルスのポリペプチド、およびロタウイルスのポリペプチドも挙げられるが、これらに限定されない。
【0112】
ある特定の実施形態において、抗原は、細菌抗原であり得る。ある特定の実施形態において、目的の細菌抗原は、分泌型ポリペプチドであり得る。他のある特定の実施形態において、細菌抗原には、細菌の細胞外面上に露出したポリペプチドの一部を有する抗原が含まれる。
【0113】
使用が企図される、メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA)を含むブドウ球菌属の種に由来する抗原としては、ビルレンス制御因子、例えば、Agrシステム、SarおよびSae、Arlシステム、Sarホモログ(Rot、MgrA、SarS、SarR、SarT、SarU、SarV、SarX、SarZおよびTcaR)、SrrシステムならびにTRAPが挙げられる。抗原として役立ち得る他のブドウ球菌属のタンパク質としては、Clpタンパク質、HtrA、MsrR、アコニターゼ、CcpA、SvrA、Msa、CfvAおよびCfvBが挙げられる(例えば、Staphylococcus:Molecular Genetics,2008 Caister Academic Press,Ed.Jodi Lindsayを参照のこと)。Staphylococcus aureusの2種(N315およびMu50)のゲノムが、配列決定済みであり、例えば、PATRIC(PATRIC:The VBI PathoSystems Resource Integration Center,Snyder et al.,2007)において公的に入手可能である。当業者が理解するように、抗原として使用するためのブドウ球菌属のタンパク質は、GenBank(登録商標)、Swiss-Prot(登録商標)およびTrEMBL(登録商標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。
【0114】
本明細書中に記載されるある特定の実施形態において使用が企図されるStreptococcus pneumoniaeに由来する抗原としては、ニューモリシン、PspA、コリン結合タンパク質A(CbpA)、NanA、NanB、SpnHL、PavA、LytA、Phtおよびピリンタンパク質(RrgA;RrgB;RrgC)が挙げられる。Streptococcus pneumoniaeの抗原性タンパク質も、当該分野で公知であり、いくつかの実施形態において抗原として使用され得る(例えば、Zysk et al.,2000を参照のこと)。Streptococcus pneumoniaeの毒性株の全ゲノム配列は、配列決定済みであり、当業者が理解するように、本明細書中で使用するためのS.pneumoniaeタンパク質は、GENBANK(登録商標)、SWISS-PROT(登録商標)およびTREMBL(登録商標)などの他の公的データベースにおいても特定され得る。本開示に係る抗原として特に興味深いタンパク質としては、肺炎球菌の表面に露出すると予測される病原性因子およびタンパク質が挙げられる(例えば、Frolet et al.,2010を参照のこと)。
【0115】
抗原として使用され得る細菌抗原の例としては、アクチノマイセス属のポリペプチド、バチルス属のポリペプチド、バクテロイデス属のポリペプチド、ボルデテラ属のポリペプチド、バルトネラ属のポリペプチド、ボレリア属のポリペプチド(例えば、B.burgdorferi OspA)、ブルセラ属のポリペプチド、カンピロバクター属のポリペプチド、キャプノサイトファーガ属のポリペプチド、クラミジア属のポリペプチド、コリネバクテリウム属のポリペプチド、コクシエラ属のポリペプチド、デルマトフィルス属のポリペプチド、エンテロコッカス属のポリペプチド、エーリキア属のポリペプチド、エシェリキア属のポリペプチド、フランシセラ属のポリペプチド、フソバクテリウム属のポリペプチド、ヘモバルトネラ属のポリペプチド、ヘモフィルス属のポリペプチド(例えば、H.influenzae b型外膜タンパク質)、ヘリコバクター属のポリペプチド、クレブシエラ属のポリペプチド、L型細菌のポリペプチド、レプトスピラ属のポリペプチド、リステリア属のポリペプチド、マイコバクテリウム属のポリペプチド、マイコプラズマ属のポリペプチド、ナイセリア属のポリペプチド、ネオリケッチア属のポリペプチド、ノカルジア属のポリペプチド、パスツレラ属のポリペプチド、ペプトコッカス属のポリペプチド、ペプトストレプトコッカス属のポリペプチド、肺炎球菌のポリペプチド(すなわち、S.pneumoniaeのポリペプチド)、プロテウス属のポリペプチド、シュードモナス属のポリペプチド、リケッチア属のポリペプチド、ロシャリメア属のポリペプチド、サルモネラ属のポリペプチド、シゲラ属のポリペプチド、ブドウ球菌属のポリペプチド、A群連鎖球菌のポリペプチド(例えば、S.pyogenesのMタンパク質)、B群連鎖球菌(S.agalactiae)のポリペプチド、トレポネーマ属のポリペプチド、およびエルシニア属のポリペプチド(例えば、Y pestisのF1およびV抗原)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0116】
真菌抗原の例としては、アブシディア属のポリペプチド、アクレモニウム属のポリペプチド、アルテルナリア属のポリペプチド、アスペルギルス属のポリペプチド、バシジオボラス属のポリペプチド、ビポラーリス属のポリペプチド、ブラストミセス属のポリペプチド、カンジダ属のポリペプチド、コクシジオイデス属のポリペプチド、コニディオボラス属のポリペプチド、クリプトコッカス属のポリペプチド、カーバラリア属のポリペプチド、エピデルモフィトン属のポリペプチド、エクソフィアラ属のポリペプチド、ゲオトリクム属のポリペプチド、ヒストプラズマ属のポリペプチド、マヅレラ属のポリペプチド、マラセチア属のポリペプチド、ミクロスポルム属のポリペプチド、モニリエラ属のポリペプチド、モルチエレラ属のポリペプチド、ケカビ属のポリペプチド、ペシロマイセス属のポリペプチド、ペニシリウム属のポリペプチド、フィアレモニウム属(Phialemonium)のポリペプチド、フィアロフォラ属のポリペプチド、プロトテカ属のポリペプチド、シュードアレシェリア属のポリペプチド、シュードミクロドキウム属(Pseudomicrodochium)のポリペプチド、フィチウム属のポリペプチド、リノスポリジウム属のポリペプチド、クモノスカビ属のポリペプチド、スコレコバシジウム属(Scolecobasidium)のポリペプチド、スポロトリクス属のポリペプチド、ステンフィリウム属(Stemphylium)のポリペプチド、白癬菌属のポリペプチド、トリコスポロン属のポリペプチドおよびキシロヒファ属(Xylohypha)のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0117】
原生動物の寄生生物抗原の例としては、バベシア属のポリペプチド、バランチジウム属のポリペプチド、ベスノイチア属(Besnoitia)のポリペプチド、クリプトスポリジウム属のポリペプチド、エイメリア属のポリペプチド、エンセファリトゾーン属のポリペプチド、エントアメーバ属のポリペプチド、ジアルジア属のポリペプチド、ハモンディア属(Hammondia)のポリペプチド、ヘパトゾーン属のポリペプチド、イソスポラ属のポリペプチド、リーシュマニア属のポリペプチド、微胞子虫門のポリペプチド、ネオスポラ属のポリペプチド、ノゼマ属のポリペプチド、ペンタトリコモナス属のポリペプチド、プラスモディウム属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。蠕虫寄生生物抗原の例としては、アカントケイロネマ属のポリペプチド、アエルロストロンギルウス属(Aelurostrongylus)のポリペプチド、鉤虫属のポリペプチド、住血線虫属のポリペプチド、回虫属のポリペプチド、ブルギア属のポリペプチド、ブノストムム属のポリペプチド、キャピラリア属のポリペプチド、カベルチア属(Chabertia)のポリペプチド、クーペリア属のポリペプチド、クレノソマ属(Crenosoma)のポリペプチド、ディクチオカウルス属のポリペプチド、ジオクトフィーメ属のポリペプチド、ディペタロネマ属のポリペプチド、裂頭条虫属のポリペプチド、ジプリジウム属のポリペプチド、イヌ糸状虫属のポリペプチド、ドラクンクルス属のポリペプチド、エンテロビウス属のポリペプチド、フィラロイデス属(Filaroides)のポリペプチド、ヘモンクス属のポリペプチド、ラゴキラスカリス属(Lagochilascaris)のポリペプチド、ロア糸状虫属(Loa)のポリペプチド、マンソネラ属のポリペプチド、ムエレリウス属(Muellerius)のポリペプチド、ナノフィエツス属(Nanophyetus)のポリペプチド、アメリカ鉤虫属のポリペプチド、ネマトジルス属のポリペプチド、腸結節虫属のポリペプチド、オンコセルカ属のポリペプチド、オピストルキス属のポリペプチド、オステルタギア属のポリペプチド、パラフィラリア属(Parafilaria)のポリペプチド、肺吸虫属のポリペプチド、パラスカリス属(Parascaris)のポリペプチド、フィサロプテラ属のポリペプチド、プロトストロンギルス属(Protostrongylus)のポリペプチド、セタリア属のポリペプチド、スピロセルカ属(Spirocerca)のポリペプチド スピロメトラ属のポリペプチド、ステファノフィラリア属のポリペプチド、ストロンギロイデス属のポリペプチド、ストロンギルス属のポリペプチド、テラジア属のポリペプチド、トキサスカリス属のポリペプチド、トキソカラ属のポリペプチド、旋毛虫属のポリペプチド、毛様線虫属のポリペプチド、鞭虫属のポリペプチド、ウンシナリア属のポリペプチドおよびウケレリア属のポリペプチド(例えば、P.falciparumのスポロゾイト周囲ポリペプチド(PfCSP))、スポロゾイト表面タンパク質2(PfSSP2)、肝臓状態抗原(liver state antigen)1のカルボキシル末端(PfLSA1 c末端)、ならびに搬出タンパク質1(PfExp-1)、ニューモシスチス属のポリペプチド、サルコシスティス属のポリペプチド、住血吸虫属のポリペプチド、タイレリア属のポリペプチド、トキソプラズマ属のポリペプチド、ならびにトリパノソーマ属のポリペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0118】
外寄生生物抗原の例としては、ノミ;カタダニおよびヒメダニを含むマダニ;ハエ、例えば、小虫、蚊、スナバエ、ブユ、ウマバエ、ノサシバエ、メクラアブ、ツェツェバエ、サシバエ、ハエ幼虫症の原因となるハエおよび刺して血を吸う小さな羽虫(biting gnats);アリ;クモ、シラミ;ダニ;ならびに半翅類の昆虫、例えば、トコジラミおよびサシガメのポリペプチド(抗原ならびにアレルゲンを含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
E.自殺遺伝子
【0119】
いくつかの場合において、本開示の任意の細胞が、異種サイトカイン、操作されたレセプターなど以外の1つ以上の作用物質を産生するように改変される。具体的な実施形態において、B細胞などの細胞は、1つ以上の自殺遺伝子を有するように操作され、本明細書中で使用される用語「自殺遺伝子」は、プロドラッグが投与された際に、遺伝子産物が、宿主細胞を殺滅する化合物に変化する遺伝子と定義される。いくつかの場合において、B細胞療法は、B細胞療法を受けている個体および/またはB細胞療法を受けた個体が、1つ以上の有害事象の1つ以上の症状(例えば、サイトカイン放出症候群、神経毒性、アナフィラキシー/アレルギーおよび/またはオンターゲット/オフ腫瘍毒性(例として))を示したとき、または1つ以上の症状を有するリスクがあると考えられるとき(切迫した場合を含む)、任意の種類の1つ以上の自殺遺伝子の利用の対象となり得る。自殺遺伝子の使用は、治療のために計画されたプロトコルの一部であり得るか、またはそれを使用する必要性が認められたときにだけ使用され得る。いくつかの場合において、細胞療法は、もはや必要なくなったという理由で、自殺遺伝子またはその遺伝子産物を標的化する作用物質を使用することによって終結される。
【0120】
自殺遺伝子の例としては、操作された非分泌性(膜結合型を含む)の腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ変異ポリペプチド(その全体が参照により本明細書中に援用されるPCT/US19/62009を参照のこと)が挙げられ、それらのポリペプチドは、TNF-アルファ変異体に結合する抗体の送達によって標的化され得る。使用され得る自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせの例は、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-tk)と、ガンシクロビル、アシクロビルまたはFIAU;オキシドレダクターゼとシクロヘキシミド;シトシンデアミナーゼと5-フルオロシトシン;チミジンキナーゼチミジル酸キナーゼ(Tdk::Tmk)とAZT;およびデオキシシチジンキナーゼとシトシンアラビノシドである。プロドラッグである6-メチルプリンデオキシリボシドを毒性のプリンである6-メチルプリンに変換するいわゆる自殺遺伝子であるE.coliのプリンヌクレオシドホスホリラーゼが使用され得る。他の自殺遺伝子としては、CD20、CD52、誘導性カスパーゼ9、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)、シトクロムp450酵素(CYP)、カルボキシペプチダーゼ(CP)、カルボキシルエステラーゼ(CE)、ニトロ還元酵素(NTR)、グアニンリボシルトランスフェラーゼ(XGRTP)、グリコシダーゼ酵素、メチオニン-α,γ-リアーゼ(MET)およびチミジンホスホリラーゼ(TP)が例として挙げられる。
F.送達方法
【0121】
当業者であれば、本開示の抗原レセプターを発現させるために標準的な組換え手法(例えば、Sambrook et al.,2001およびAusubel et al.,1996(両方が参照により本明細書中に援用される)を参照のこと)によってベクターを構築する能力を充分に備えているだろう。ベクターとしては、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)および人工染色体(例えば、YAC)、例えば、レトロウイルスベクター(例えば、モロニーマウス白血病ウイルスベクター(MoMLV)、MSCV、SFFV、MPSV、SNVなどに由来するもの)、レンチウイルスベクター(例えば、HIV-1、HIV-2、SIV、BIV、FIVなどに由来するもの)、アデノウイルス(Ad)ベクター(その複製可能型、複製欠損型およびガットレス型(gutless forms)を含む)、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、サルウイルス40(SV-40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン・バーウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳癌ウイルスベクター、ラウス肉腫ウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ポリオウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、マラバウイルス(maraba virus)ベクターおよびB群アデノウイルスenadenotucirevベクターが挙げられるがこれらに限定されない。
【0122】
具体的な実施形態において、ベクターは、PCT/US19/62014(その全体が参照により本明細書中に援用される)に記載されているようなマルチシストロニックベクターである。そのような場合、単一のベクターが、CARまたはTCR(その発現構築物は、CARまたはTCRの部分の相互交換を可能にするためにモジュール形式で構成され得る)、自殺遺伝子および1つ以上のサイトカインをコードし得る。
1.ウイルスベクター
【0123】
抗原レセプターをコードするウイルスベクターが、本開示のある特定の態様において提供され得る。組換えウイルスベクターを作製する際、必須ではない遺伝子は、通常、異種(または非天然)タンパク質の遺伝子またはコード配列で置き換えられる。ウイルスベクターは、ウイルス配列を利用して、核酸および場合によってはタンパク質を細胞に導入する一種の発現構築物である。ある特定のウイルスが細胞に感染する能力またはレセプター媒介性のエンドサイトーシスを介して細胞に侵入する能力、および宿主細胞のゲノムにインテグレートし、ウイルス遺伝子を安定かつ効率的に発現する能力によって、それらのウイルスが、外来核酸を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に移行させるための魅力的な候補になった。本発明のある特定の態様の核酸を送達するために使用され得るウイルスベクターの非限定的な例を下記に記載する。
【0124】
レンチウイルスは、複雑なレトロウイルスであり、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、polおよびenvに加えて、調節機能または構造機能を有する他の遺伝子も含む。レンチウイルスベクターは、当該分野で周知である(例えば、米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照のこと)。
【0125】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染することができ、インビボとエキソビボの両方において遺伝子導入および核酸配列発現のために使用され得る。例えば、非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルス(ここで、好適な宿主細胞が、パッケージング機能を有する2つ以上のベクター、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatでトランスフェクトされる)は、参照により本明細書中に援用される米国特許第5,994,136号に記載されている。
a.調節エレメント
【0126】
本開示において有用なベクターに含められる発現カセットは、特に、タンパク質コード配列に作動可能に連結された真核生物転写プロモーター、介在配列を含むスプライスシグナル、および転写終結/ポリアデニル化配列を(5’から3’の方向で)含む。タンパク質をコードする遺伝子の転写を真核細胞において制御するプロモーターおよびエンハンサーは、複数の遺伝的エレメントから構成される。細胞機構は、各エレメントによって運ばれる調節情報を集め、統合することができ、それにより、異なる遺伝子が、多くの場合は複雑なパターンである異なるパターンの転写制御を展開することが可能になる。本開示の状況において使用されるプロモーターとしては、構成的プロモーター、誘導性プロモーターおよび組織特異的プロモーターが挙げられる。
b.プロモーター/エンハンサー
【0127】
本明細書中に提供される発現構築物は、抗原レセプターの発現を駆動するプロモーターを含む。プロモーターは、一般に、RNA合成のための開始部位の位置を特定するように機能する配列を含む。これの最もよく知られている例は、TATAボックスであるが、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターなど、一部のプロモーターでは、TATAボックスを欠き、開始部位自体と重なっている不連続なエレメントが、開始の場所を固定するのを助ける。さらなるプロモーターエレメントが、転写開始の頻度を制御する。通常、これらは、開始部位の30110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むと示されている。コード配列をプロモーター「の支配下に」するためには、転写読み枠の転写開始部位の5’末端を、選択されたプロモーターの「下流」(すなわち、3’)に置く。「上流」のプロモーターは、DNAの転写を刺激し、コードされるRNAの発現を促進する。
【0128】
プロモーターエレメント間の間隔は、変更がきくことが多く、エレメントが、反転されるかまたは互いに対して移動された場合でも、プロモーターの機能は保存される。tkプロモーターでは、プロモーターエレメント間の間隔は、活性が低下し始めるまで最大50bp広げられ得る。プロモーターに応じて、個々のエレメントは、協同的にまたは独自に機能して転写を活性化し得るとみられる。プロモーターは、核酸配列の転写性の活性化に関わるシス作用性制御配列のことを指す「エンハンサー」と併せて使用されてもよいし、使用されなくてもよい。
【0129】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエキソンの上流に位置する5’非コード配列を単離することによって得られることがあるような、ある核酸配列と天然に会合したプロモーターであり得る。そのようなプロモーターは、「内在性」プロモーターと呼ぶことができる。同様に、エンハンサーは、ある核酸配列の下流または上流に位置する、その配列と天然に会合したエンハンサーであり得る。あるいは、ある核酸配列とその天然の環境では天然には会合していないプロモーターのことを指す、組換えプロモーターまたは異種プロモーターの支配下にコード核酸セグメントを置くことによって、一定の利点が得られる。また、組換えエンハンサーまたは異種エンハンサーは、その天然の環境では核酸配列と天然には会合していないエンハンサーのことを指す。そのようなプロモーターまたはエンハンサーには、他の遺伝子のプロモーターまたはエンハンサー、ならびに他の任意のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーターまたはエンハンサー、ならびに「天然に存在」しない、すなわち、種々の転写制御領域の種々のエレメントおよび/または発現を変化させる変異を含む、プロモーターまたはエンハンサーが含まれ得る。例えば、組換えDNAの構築において最もよく使用されるプロモーターとしては、βラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)、ラクトースおよびトリプトファン(trp-)プロモーターシステムが挙げられる。プロモーターおよびエンハンサーの核酸配列を合成的に作製することに加えて、組換えクローニング、および/またはPCRTMをはじめとした核酸増幅技術を用いて、ある配列が、本明細書中に開示される組成物に関連して作製され得る。さらに、核以外のオルガネラ(例えば、ミトコンドリア、葉緑体など)内での配列の転写および/または発現を指示する調節配列も同様に使用できることが企図される。
【0130】
当然、発現のために選択されたオルガネラ、細胞型、組織、器官または生物におけるDNAセグメントの発現を効果的に指示するプロモーターおよび/またはエンハンサーを使用することが重要になる。分子生物学の当業者は、一般に、タンパク質発現のために、プロモーター、エンハンサーおよび細胞型の組み合わせを使用することを承知している(例えば、参照により本明細書中に援用されるSambrook et al.1989を参照のこと)。使用されるプロモーターは、構成的プロモーター、組織特異的プロモーター、誘導性プロモーター、および/または導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指示する、適切な条件下において有用なプロモーター(例えば、組換えタンパク質および/または組換えペプチドの大規模生成において有益なプロモーター)であり得る。そのプロモーターは、異種であっても、内在性であってもよい。
【0131】
さらに、任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせ(例えば、epd.isb-sib.ch/のワールドワイドウェブを介したEukaryotic Promoter Data Base EPDBに従って)も、発現を駆動するために使用され得る。T3、T7またはSP6細胞質発現系の使用が、別の実行可能な実施形態である。適切な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部としてまたはさらなる遺伝的発現構築物として提供される場合、真核細胞は、ある特定の細菌プロモーターからの細胞質での転写を支持し得る。
【0132】
プロモーターの非限定的な例としては、初期ウイルスプロモーターまたは後期ウイルスプロモーター(例えば、SV40初期または後期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)初期プロモーター);真核細胞プロモーター(例えば、ベータアクチンプロモーター、GADPHプロモーター、メタロチオネインプロモーター);および連鎖状応答エレメントプロモーター(例えば、サイクリックAMP応答エレメントプロモーター(cre)、血清応答エレメントプロモーター(sre)、ホルボールエステルプロモーター(TPA)およびミニマルTATAボックス近傍の応答エレメントプロモーター(tre))が挙げられる。ヒト成長ホルモンプロモーター配列(例えば、Genbankに記載されているヒト成長ホルモンミニマルプロモーター、アクセッション番号X05244、ヌクレオチド283~341)またはマウス乳腺腫瘍プロモーター(ATCCから入手可能,Cat.No.ATCC45007)を使用することも可能である。ある特定の実施形態において、プロモーターは、CMV IE、デクチン-1、デクチン-2、ヒトCD11c、F4/80、SM22、RSV、SV40、Ad MLP、ベータ-アクチン、MHCクラスIまたはMHCクラスIIプロモーターであるが、しかしながら、治療用の遺伝子の発現を駆動するために有用な他の任意のプロモーターも本開示の実施に適用できる。
【0133】
ある特定の態様において、本開示の方法は、エンハンサー配列、すなわち、プロモーターの活性を増加させる核酸配列であって、シスで、かつその向きを問わず、比較的長い距離(標的プロモーターから最大数キロベース離れた距離)にわたって作用する能力を有する核酸配列にも関する。しかしながら、エンハンサーは、所与のプロモーターに対して近位でも機能し得るので、エンハンサーの機能は必ずしもそのような長い距離に限定されない。
c.開始シグナルおよび連結発現
【0134】
コード配列の効率的な翻訳のために、本開示に提供される発現構築物において、特異的な開始シグナルも使用され得る。これらのシグナルは、ATG開始コドンまたは隣接配列を含む。外来性の翻訳制御シグナル(ATG開始コドンを含む)が提供される必要がある場合がある。当業者であれば、これを判断することおよび必要なシグナルを提供することが容易にできるだろう。インサート全体の翻訳を確保するためには、開始コドンが、所望のコード配列の読み枠と「インフレーム」でなければならないことは周知である。その外来性の翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然のものまたは合成のものであり得る。適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって、発現効率が高められ得る。
【0135】
ある特定の実施形態において、配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントの使用は、多重遺伝子のメッセージ、すなわちポリシストロニックなメッセージを生成するために使用される。IRESエレメントは、5’メチル化キャップ依存的翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回し、内部の部位において翻訳を開始することができる。ピコルナウイルス科の2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)由来のIRESエレメント、ならびに哺乳動物のメッセージ由来のIRESが、報告されている。IRESエレメントは、異種のオープンリーディングフレームに連結できる。各々がIRESによって隔てられた複数のオープンリーディングフレームを一緒に転写することができ、ポリシストロニックなメッセージを生成できる。IRESエレメントのおかげで、各オープンリーディングフレームが、効率的な翻訳のためにリボソームに接近できるようになる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて複数の遺伝子を効率的に発現して、単一のメッセージを転写することもできる。
【0136】
さらに、本開示に提供される構築物内の遺伝子の連結発現または同時発現をもたらすために、ある特定の2A配列エレメントが使用され得る。例えば、オープンリーディングフレームを連結して単一のシストロンを形成することによって遺伝子を同時発現するために、切断配列が使用され得る。例示的な切断配列は、F2A(口蹄疫ウイルス2A)または「2A様」配列(例えば、Thosea asignaウイルス2A;T2A)である。
d.複製開始点
【0137】
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、そのベクターは、1つ以上の複製開始部位(「ori」と呼ばれることが多い)、例えば、複製が開始される特異的な核酸配列である、上に記載されたようなEBVのoriPまたはプログラミングにおける機能が似ているかもしくは高められた遺伝的に操作されたoriPに対応する核酸配列を含み得る。あるいは、上に記載されたような染色体外で複製する他のウイルスの複製起点、または自律複製配列(ARS)を使用することができる。
e.選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカー
【0138】
いくつかの実施形態において、本開示の構築物を含む細胞は、マーカーを発現ベクターに含めることによって、インビトロまたはインビボにおいて特定され得る。そのようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞を容易に特定できるようにする特定可能な変化を細胞にもたらす。一般に、選択マーカーは、選択を可能にする特性を付与するマーカーである。ポジティブ選択マーカーは、そのマーカーが存在することによってその選択が可能になるマーカーであり、ネガティブ選択マーカーは、その存在が選択を妨げるマーカーである。ポジティブ選択マーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0139】
通常、薬物選択マーカーを含めることにより、形質転換体のクローニングおよび特定が助けられ、例えば、ネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシンおよびヒスチジノールに対して耐性にする遺伝子が、有用な選択マーカーである。条件の実行に基づいて形質転換体の判別を可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色解析を基礎とする、GFPなどのスクリーニング可能なマーカーをはじめとした他のタイプのマーカーも企図される。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの、ネガティブ選択マーカーとしてスクリーニング可能な酵素が利用され得る。当業者であれば、免疫学的マーカーをおそらくはFACS解析と併せて使用する方法も承知しているだろう。使用されるマーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されることが可能である限り、重要ではないと考えられている。選択マーカーおよびスクリーニング可能なマーカーのさらなる例は、当業者に周知である。
2.他の核酸送達方法
【0140】
抗原レセプターをコードする核酸のウイルス送達に加えて、以下の方法が、所与の宿主細胞への組換え遺伝子送達のさらなる方法であるので、本開示において考慮される。
【0141】
本開示の免疫細胞へのDNAまたはRNAなどの核酸の導入は、本明細書中に記載されるようにまたは当業者に公知であるように、細胞を形質転換するための核酸送達に適した任意の方法を使用し得る。そのような方法としては、DNAの直接送達(例えば、エキソビボトランスフェクション、注射(マイクロインジェクションを含む));エレクトロポレーション;リン酸カルシウム沈殿;DEAE-デキストランに続くポリエチレングリコールの使用;直接的な音波負荷;リポソーム媒介性のトランスフェクションおよびレセプター媒介性のトランスフェクション;微粒子銃(microprojectile bombardment);炭化ケイ素繊維を伴った撹拌;アグロバクテリウム媒介性の形質転換;乾燥/阻害媒介性のDNA取り込み、およびそのような方法の任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。これらの手法などの手法の適用により、オルガネラ、細胞、組織または生物が安定にまたは一過性に形質転換され得る。
IV.遺伝子編集およびCRISPR
【0142】
本開示のB細胞作製プロセスは、B細胞の遺伝子編集を含み得る。いくつかの場合において、その遺伝子編集は、1つ以上の異種抗原レセプターを発現しているB細胞において行われるのに対して、他の場合において、その遺伝子編集は、異種抗原レセプターを発現していないB細胞において行われる。特定の実施形態において、遺伝子編集されたB細胞は、拡大されたB細胞である。
【0143】
特定の場合において、上記B細胞の1つ以上の内在性遺伝子は、発現が破壊されるなど、改変され、ここで、その発現は、部分的または完全に低下される。具体的な場合において、1つ以上の遺伝子が、本開示のプロセスを用いてノックダウンまたはノックアウトされる。具体的な場合において、複数の遺伝子が、同じ工程において又は複数の工程もおいて、ノックダウンまたはノックアウトされる。B細胞において編集される遺伝子は、任意の種類であってよいが、具体的な実施形態において、それらの遺伝子は、その遺伝子産物がB細胞の活性および/または増殖を阻害する遺伝子である。具体的な場合において、B細胞において編集される遺伝子は、そのB細胞が腫瘍微小環境においてより効果的に働くのを可能にする。具体的な場合において、それらの遺伝子は、NKG2A、SIGLEC-7、LAG3、TIM3、CISH、FOXO1、TGFBR2、TIGIT、CD96、ADORA2、NR3C1、PD1、PDL-1、PDL-2、CD47、SIRPA、SHIP1、ADAM17、RPS6、4EBP1、CD25、CD40、IL21R、ICAM1、CD95、CD80、CD86、IL10R、TDAG8、CD5、CD7、SLAMF7、CD38、LAG3、TCR、ベータ2-ミクログロブリン、HLA、CD73およびCD39のうちの1つ以上である。具体的な実施形態では、TGFBR2遺伝子が、B細胞においてノックアウトまたはノックダウンされる。
【0144】
いくつかの実施形態において、遺伝子編集は、RNAガイドエンドヌクレアーゼ(RGEN)を介した変更など、1つ以上のDNA結合核酸を用いて行われる。例えば、その変更は、クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)およびCRISPR関連(Cas)タンパク質を用いて行われ得る。いくつかの態様では、CpF1がCas9の代わりに用いられ得る。
一般に、「CRISPRシステム」とは、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子(Cas遺伝子をコードする配列を含む)、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracrメイト配列(内在性のCRISPRシステムの文脈では「直列反復配列」、およびtracrRNAによってプロセシングされた部分的な直列反復配列を包含する)、ガイド配列(内在性のCRISPRシステムの文脈では「スペーサー」とも称される)、ならびに/またはCRISPR遺伝子座由来の他の配列および転写物の発現に関与するかまたはその活性を指示する転写物および他のエレメントのことを総称する。
【0145】
CRISPR/CasヌクレアーゼまたはCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、DNAに配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA、およびヌクレアーゼ機能(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えば、Cas9)を含み得る。CRISPRシステムの1つ以上のエレメントが、I型、II型またはIII型CRISPRシステムに由来し得、例えば、内在性のCRISPRシステムを含む特定の生物(例えば、Streptococcus pyogenes)に由来し得る。
【0146】
いくつかの態様において、CasヌクレアーゼおよびgRNA(標的配列に特異的なcrRNAと既定のtracrRNAとの融合物を含む)が、細胞に導入される。一般に、gRNAの5’末端における標的部位が、相補的な塩基対形成によって、Casヌクレアーゼをその標的部位、例えば、遺伝子に標的化する。標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列(例えば、通常、NGGまたはNAG)のすぐ5’の位置に基づいて選択され得る。この点において、gRNAは、標的DNA配列に対応するようにガイドRNAの最初の20、19、18、17、16、15、14、14、12、11または10ヌクレオチドを改変することによって、所望の配列に標的化される。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位においてCRISPR複合体の形成を促進するエレメントを特徴とする。通常、「標的配列」とは、一般に、ガイド配列が相補性を有するようにデザインされる配列のことを指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションが、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要ない。
【0147】
CRISPRシステムは、標的部位における二本鎖切断(DSB)に続いて、本明細書中で論じられるような破壊または変更を誘導し得る。他の実施形態では、「ニッカーゼ」とみなされるCas9バリアントが、標的部位において一本鎖にニックを入れるために使用される。例えば特異性を改善するために、対のニッカーゼを使用することができ、そのニッカーゼの各々は、配列を標的化する異なるgRNAの対によって導かれ、ニックが同時に導入されると、5’オーバーハングが導入される。他の実施形態では、遺伝子発現に影響するように、触媒的に不活性なCas9が、転写抑制因子または転写活性化因子などの異種エフェクタードメインに融合される。
【0148】
標的配列は、DNAポリヌクレオチドまたはRNAポリヌクレオチドなどの任意のポリヌクレオチドを含み得る。標的配列は、細胞のオルガネラ内など、細胞の核または細胞質に位置し得る。一般に、標的配列を含む標的化される遺伝子座への組換えのために使用され得る配列または鋳型は、「編集鋳型」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と称される。いくつかの態様では、外来性の鋳型ポリヌクレオチドが、編集鋳型と称されることがある。いくつかの態様において、組換えは、相同組換えである。
【0149】
通常、内在性のCRISPRシステムの文脈では、CRISPR複合体(標的配列にハイブリダイズして1つ以上のCasタンパク質と複合体化するガイド配列を含む)の形成によって、標的配列においてまたは標的配列の近くで(例えば、標的配列から1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、50塩基対以内またはそれ以上以内において)一方または両方の鎖の切断が生じる。野生型tracr配列の全部もしくは一部(例えば、野生型tracr配列の約20ヌクレオチド、約26ヌクレオチド、約32ヌクレオチド、約45ヌクレオチド、約48ヌクレオチド、約54ヌクレオチド、約63ヌクレオチド、約67ヌクレオチド、約85ヌクレオチドもしくはそれ以上または約20ヌクレオチド超、約26ヌクレオチド超、約32ヌクレオチド超、約45ヌクレオチド超、約48ヌクレオチド超、約54ヌクレオチド超、約63ヌクレオチド超、約67ヌクレオチド超、約85ヌクレオチド超もしくはそれ以上)を含み得るかまたはそれらからなり得るtracr配列も、ガイド配列に作動可能に連結されたtracrメイト配列の全部または一部へのtracr配列の少なくとも一部に沿ったハイブリダイゼーションなどによって、CRISPR複合体の一部を形成し得る。tracr配列は、ハイブリダイズしてCRISPR複合体の形成に参加する、tracrメイト配列に対して十分な相補性(例えば、最適にアラインメントされたとき、tracrメイト配列の長さに沿って少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%の配列相補性)を有する。
【0150】
CRISPRシステムの1つ以上のエレメントの発現によって、1つ以上の標的部位においてCRISPR複合体の形成が指示されるように、そのCRISPRシステムのそれらのエレメントの発現を駆動する1つ以上のベクターが細胞に導入され得る。また、構成要素がタンパク質および/またはRNAとして細胞に送達され得る。例えば、Cas酵素、tracrメイト配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列がそれぞれ、別個のベクター上の別個の調節エレメントに作動可能に連結され得る。あるいは、同じまたは異なる調節エレメントから発現されるエレメントの2つ以上が、単一ベクターにおいて組み合わされ得、1つ以上のさらなるベクターが、第1のベクターに含まれていないCRISPRシステムの任意の構成要素を提供する。そのベクターは、制限エンドヌクレアーゼ認識配列などの1つ以上の挿入部位(「クローニング部位」とも称される)を含み得る。いくつかの実施形態において、1つ以上の挿入部位が、1つ以上のベクターの1つ以上の配列エレメントの上流および/または下流に配置される。複数の異なるガイド配列が使用されるとき、細胞内の異なる複数の対応する標的配列に対してCRISPR活性を標的化するために単一の発現構築物が使用され得る。
【0151】
ベクターは、Casタンパク質などのCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された調節エレメントを含み得る。Casタンパク質の非限定的な例としては、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4、それらのホモログまたはそれらの改変バージョンが挙げられる。これらの酵素は公知であり;例えば、S.pyogenesのCas9タンパク質のアミノ酸配列は、アクセッション番号Q99ZW2としてSwissProtデータベースに見られ得る。
【0152】
CRISPR酵素は、Cas9(例えば、S.pyogenesまたはS.pneumonia由来のもの)であり得る。いくつかの態様では、CpF1がCas9の代わりに用いられ得る。CRISPR酵素は、標的配列内および/または標的配列の相補鎖内などの標的配列の位置での一方または両方の鎖の切断を指示し得る。ベクターは、対応する野生型酵素と比べて変異したCRISPR酵素をコードし得、変異したCRISPR酵素は、標的配列を含む標的ポリヌクレオチドの一方または両方の鎖を切断する能力を欠く。例えば、S.pyogenes由来のCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)は、Cas9を、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)に変換する。いくつかの実施形態において、Cas9ニッカーゼは、ガイド配列、例えば、そのDNA標的のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ標的化する2つのガイド配列と組み合わせて使用され得る。この組み合わせは、両方の鎖にニックを入れること、およびNHEJまたはHDRを誘導するために使用されることができる。
【0153】
いくつかの実施形態において、CRISPR酵素をコードする酵素コード配列は、真核細胞などの特定の細胞における発現に向けてコドンが最適化される。真核細胞は、特定の生物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌまたは非ヒト霊長類を含むがこれらに限定されない哺乳動物)の細胞またはそれらの生物に由来する細胞であり得る。一般に、コドンの最適化とは、天然のアミノ酸配列を維持しつつ、天然の配列の少なくとも1つのコドンをその宿主細胞の遺伝子においてより高頻度にまたは最も高頻度に使用されるコドンで置き換えることによって、目的の宿主細胞において発現が高まるように核酸配列を改変するプロセスのことを指す。様々な種が、特定のアミノ酸のある特定のコドンについて特定のバイアスを示す。コドンバイアス(生物間でのコドン使用頻度の差異)は、メッセンジャーRNA(mRNA)の翻訳効率と相関することが多く、その翻訳効率は、とりわけ、翻訳されるコドンの特性および特定の転移RNA(tRNA)分子の利用可能性に依存すると考えられている。選択されるtRNAが細胞内で優勢であることは、通常、ペプチド合成において最も高頻度に使用されるコドンであることを反映する。したがって、コドン最適化に基づいて、遺伝子を所与の生物における最適な遺伝子発現に適応させることができる。
【0154】
一般に、ガイド配列は、標的ポリヌクレオチド配列とハイブリダイズするのに十分およびその標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指示するのに十分な相補性をその標的配列に対して有する任意のポリヌクレオチド配列である。いくつかの実施形態において、ガイド配列と対応する標的配列との相補性の程度は、好適なアラインメントアルゴリズムを用いて最適にアラインメントしたとき、約50%、約60%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%、約99%もしくはそれ以上、または約50%超、約60%超、約75%超、約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約97%超、約99%超もしくはそれ以上である。
【0155】
最適なアラインメントは、配列をアラインメントするための任意の好適なアルゴリズムを使用して決定され得る。そのアルゴリズムの非限定的な例としては、Smith-Watermanアルゴリズム、Needleman-Wunschアルゴリズム、Burrows-Wheeler Transformに基づくアルゴリズム(例えば、Burrows Wheeler Aligner)、Clustal W、Clustal X、BLAT、Novoalign(Novocraft Technologies、ELAND(Illumina,San Diego,Calif.)、SOAP(soap.genomics.org.cnにおいて利用可能)およびMaq(maq.sourceforge.netにおいて利用可能)が挙げられる。
【0156】
CRISPR酵素は、1つ以上の異種タンパク質ドメインを含む融合タンパク質の一部であり得る。CRISPR酵素融合タンパク質は、任意のさらなるタンパク質配列、および必要に応じて任意の2つのドメインの間にリンカー配列を含み得る。CRISPR酵素に融合され得るタンパク質ドメインの例としては、エピトープタグ、レポーター遺伝子配列、ならびに以下の活性:メチラーゼ活性、デメチラーゼ活性、転写活性化活性、転写抑制活性、転写終結因子活性、ヒストン修飾活性、RNA切断活性および核酸結合活性のうちの1つ以上を有するタンパク質ドメインが挙げられるがこれらに限定されない。エピトープタグの非限定的な例としては、ヒスチジン(His)タグ、V5タグ、FLAGタグ、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タグ、Mycタグ、VSV-Gタグおよびチオレドキシン(Trx)タグが挙げられる。レポーター遺伝子の例としては、グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、および青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。CRISPR酵素は、DNA分子に結合するかまたは他の細胞分子(マルトース結合タンパク質(MBP)、S-タグ、Lex A DNA結合ドメイン(DBD)融合物、GAL4A DNA結合ドメイン融合物および単純ヘルペスウイルス(HSV)BP16タンパク質融合物を含むがこれらに限定されない)に結合するタンパク質またはタンパク質のフラグメントをコードする遺伝子配列に融合され得る。CRISPR酵素を含む融合タンパク質の一部を形成し得るさらなるドメインは、参照により本明細書中に援用される米国特許出願公開第20110059502号に記載されている。
V.処置方法
【0157】
いくつかの実施形態において、本開示の方法によって作製されたB細胞は、それを必要とする個体の処置方法に使用される。本開示の実施形態は、例として、癌、任意の種類の感染症および任意の免疫障害について、個体を処置する方法を含む。その個体は、最初の処置として、または別の処置の後に(または別の処置とともに)、本開示の処置方法を使用し得る。いくつかの実施形態において、免疫療法の方法は、癌のタイプおよび/またはステージに基づいて、癌を有する個体のニーズに合わせることができ、少なくともいくつかの場合では、免疫療法は、処置の期間中にその個体に対して改変され得る。
【0158】
具体的な場合において、処置方法の例は、以下のとおりである:1)任意のタイプの血液悪性腫瘍を有する癌患者を処置するために、作製されたB細胞(エキソビボで拡大されたもの、またはCARもしくはTCRを発現するもの)を用いる養子細胞療法、(2)任意のタイプの固形癌を有する癌患者を処置するために、作製されたB細胞(エキソビボで拡大されたもの、またはCAR及び/又はTCRを発現するもの)を用いる養子細胞療法、(3)感染症および/または免疫障害を有する患者を処置するために、作製されたB細胞(エキソビボで拡大されたもの、またはCAR及び/又はTCRを発現するもの)を用いる養子細胞療法。
【0159】
いくつかの実施形態において、本開示は、本開示の方法によって作製された有効量のB細胞を投与する工程を含む、免疫療法のための方法を提供する。1つの実施形態において、少なくとも特定の場合において、本明細書中の方法によって作製された、免疫応答を誘発するB細胞集団の移入によって、内科疾患または内科障害が処置される。本開示のある特定の実施形態において、本開示の方法によって作製された、免疫応答を誘発する1つ以上のB細胞集団の送達によって、癌または感染症が処置される。個体の癌を処置するためまたは癌の進行を遅延させるための方法が本明細書中に提供され、その方法は、有効量の抗原特異的細胞療法をその個体に投与する工程を含む。本方法は、免疫障害、固形癌、血液癌および/またはウイルス感染症の処置に適用され得る。
【0160】
本処置方法が有用な腫瘍には、任意の悪性細胞タイプ、例えば、固形腫瘍または血液腫瘍に見られる細胞タイプが含まれる。例示的な固形腫瘍としては、膵臓、結腸、盲腸、胃、脳、頭部、頸部、卵巣、腎臓、喉頭、肉腫、肺、膀胱、黒色腫、前立腺および乳房からなる群より選択される器官の腫瘍が挙げられ得るが、これらに限定されない。例示的な血液腫瘍としては、骨髄の腫瘍、TまたはB細胞悪性腫瘍、白血病、リンパ腫、芽腫、ミエローマなどが挙げられる。本明細書中に提供される方法を用いて処置され得る癌のさらなる例としては、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む)、腹膜癌、胃(gastric)癌または胃(stomach)癌(消化器癌および消化管間質癌を含む)、膵癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、乳癌、結腸癌、直腸結腸癌、子宮内膜癌または子宮癌、唾液腺癌、腎臓癌または腎癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、様々なタイプの頭頸部癌、および黒色腫が挙げられるが、これらに限定されない。
【0161】
癌は、具体的には以下の組織タイプの癌であり得るが、これらに限定されない:新生物、悪性;癌腫;癌腫、未分化;巨細胞および紡錘形細胞癌;小細胞癌;乳頭状癌;扁平上皮癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行上皮癌;乳頭状移行上皮癌;腺癌;ガストリノーマ、悪性;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌・胆管癌の混合型;索状腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫性ポリープ内腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;カルチノイド腫瘍、悪性;細気管支肺胞腺癌;乳頭状腺癌;嫌色素性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭状・濾胞腺癌;非被包性硬化癌;副腎皮質癌;類内膜癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;皮脂腺癌;耳垢腺癌;粘表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性導管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;パジェット病、乳房;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平上皮化生を伴う腺癌;胸腺腫、悪性;卵巣間質腫瘍、悪性;莢膜細胞腫、悪性;顆粒膜細胞腫、悪性;アンドロブラストーマ、悪性;セルトリ細胞癌;ライディッヒ細胞腫瘍、悪性;脂質細胞腫瘍、悪性;傍神経節腫、悪性;乳房外傍神経節腫、悪性;褐色細胞腫;グロムス血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在拡大型黒色腫;悪性黒子黒色腫;末端黒子型黒色腫;結節性黒色腫;巨大色素性母斑内悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;青色母斑、悪性;肉腫;線維肉腫;線維性組織球腫、悪性;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;胞巣状横紋筋肉腫;間質肉腫;混合腫瘍、悪性;ミュラー管混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;間葉腫、悪性;ブレンナー腫瘍、悪性;葉状腫瘍、悪性;滑膜肉腫;中皮腫、悪性;未分化胚腫;胎児性癌;奇形腫、悪性;卵巣甲状腺腫、悪性;絨毛癌;中腎腫、悪性;血管肉腫;血管内皮腫、悪性;カポジ肉腫;血管外皮腫、悪性;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍皮質骨肉腫;軟骨肉腫;軟骨芽細胞腫、悪性;間葉性軟骨肉腫;骨巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;歯原性腫瘍、悪性;エナメル上皮歯牙肉腫;エナメル上皮腫、悪性;エナメル上皮線維肉腫;松果体腫、悪性;脊索腫;グリオーマ、悪性;上衣腫;アストロサイトーマ;原形質性アストロサイトーマ;細線維性アストロサイトーマ;星芽腫;膠芽腫;乏突起膠腫;希突起芽腫;原始神経外胚葉性;小脳肉腫;神経節神経芽腫;神経芽腫;網膜芽腫;嗅神経原腫瘍;髄膜腫、悪性;神経線維肉腫;神経鞘腫、悪性;顆粒細胞腫、悪性;悪性リンパ腫;ホジキン病;ホジキン;側肉芽腫;悪性リンパ腫、小リンパ球性;悪性リンパ腫、大細胞型、びまん性;悪性リンパ腫、濾胞性;菌状息肉腫;他の特定の非ホジキンリンパ腫;B細胞リンパ腫;低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL);小リンパ球性(SL)NHL;中悪性度/濾胞性NHL;中悪性度びまん性NHL;高悪性度免疫芽球性NHL;高悪性度リンパ芽球性NHL;高悪性度小非切れ込み型細胞NHL;巨大病変(bulky disease)NHL;マントル細胞リンパ腫;AIDS関連リンパ腫;ワルデンシュトレームマクログロブリン血症;悪性組織球増殖症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞性白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基球性白血病;好酸球性白血病;単球性白血病;肥満細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫;ヘアリー細胞白血病;慢性リンパ性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);急性骨髄性白血病(AML);および慢性骨髄芽球性白血病。
【0162】
特定の実施形態は、白血病の処置方法に関する。白血病は、血液または骨髄の癌であり、血液細胞(通常は白血球細胞(白血球))の異常な増殖(分裂増殖による生成)を特徴とする。白血病は、血液腫瘍と呼ばれる広範な疾患群の一部である。白血病は、多種多様な疾患を網羅する広義語である。白血病は、急性および慢性の形態に臨床的におよび病理学的に分けられる。
【0163】
本開示のある特定の実施形態において、B細胞は、それを必要とする個体(例えば、癌または感染症を有する個体)に送達される。次いで、それらの細胞は、その個体の免疫系を増強して、それぞれの癌細胞または病原性細胞を攻撃する。いくつかの場合では、その個体にB細胞が1回以上提供される。個体にB細胞が2回以上提供される場合、投与間の時間は、その個体において伝播するのに十分な時間であるべきであり、具体的な実施形態では、投与間の時間は、l、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、及び24時間もしくはそれ以上、l、2、3、4、5、6、7日間もしくはそれ以上、または1、2、3、4週間、またはそれ以上、あるいは1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月間またはそれ以上である。およびその間に派生する範囲のいずれでも良い。連続した投与量は、互いに同一量であってもなくてもよい。ある場合には、連続した用量は時間とともに減少し、または時間とともに増加する
【0164】
本開示のある特定の実施形態は、免疫媒介性障害を処置または予防するための方法を提供する。1つの実施形態において、被験体は、自己免疫疾患を有する。自己免疫疾患の非限定的な例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および自己免疫性睾丸炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック多発性皮膚炎(celiac spate-dermatitis)、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパシー、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、CREST症候群、寒冷凝集素病、クローン病、円板状狼瘡、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症-線維筋炎、糸球体腎炎、グレーヴズ病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少紫斑病(ITP)、IgAニューロパシー、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合結合組織病、多発性硬化症、1型糖尿病または免疫媒介性糖尿病、重症筋無力症、ネフローゼ症候群(例えば、微小変化群、巣状糸球体硬化症または膜性腎症)、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティフ・マン症候群、全身性エリテマトーデス、エリテマトーデス、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、脈管炎(例えば、結節性多発性動脈炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎または疱疹状皮膚炎脈管炎)、白斑ならびにウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。したがって、本明細書中に開示される方法を用いて処置され得る自己免疫疾患のいくつかの例としては、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、I型糖尿病、クローン病;潰瘍性大腸炎、重症筋無力症、糸球体腎炎、強直性脊椎炎、脈管炎または乾癬が挙げられるが、これらに限定されない。被験体は、喘息などのアレルギー性障害も有し得る。
【0165】
さらに別の実施形態では、被験体は、移植される器官または幹細胞のレシピエントであり、拒絶反応を予防および/または処置するために免疫細胞が使用される。特定の実施形態において、被験体は、移植片対宿主病を有するか、または移植片対宿主病を発症するリスクがある。GVHDは、血縁ドナーまたは非血縁ドナーからの幹細胞を使用するまたは含む任意の移植に関して起こり得る合併症である。GVHDには、急性と慢性の2種類がある。急性GVHDは、移植後の最初の3ヶ月以内に現れる。急性GVHDの徴候としては、手および足における赤みがかった発疹が挙げられ、それは、剥皮または皮膚の水疱形成を伴って広がることがあり、より重篤になることがある。急性GVHDは、胃および腸にも影響することがあり、その場合、筋痙攣、悪心および下痢が認められる。皮膚および目の黄変(黄疸)は、急性GVHDが肝臓に影響していることを示す。慢性GVHDは、その重症度に基づいて等級付けされる:ステージ/グレード1が軽度であり;ステージ/グレード4が重度である。慢性GVHDは、移植の3ヶ月後またはそれ以降に発症する。慢性GVHDの症状は、急性GVHDの症状と似ているが、さらに、慢性GVHDは、眼の粘液腺、口の唾液腺ならびに胃壁および腸を滑らかにする腺にも影響し得る。本明細書中に開示される任意の免疫細胞集団を使用することができる。移植される器官の例としては、臓器移植片、例えば、腎臓、肝臓、皮膚、膵臓、肺および/または心臓、あるいは細胞移植片、例えば、小島、肝細胞、筋芽細胞、骨髄または造血性幹細胞もしくは他の幹細胞が挙げられる。移植片は、複合性の移植片、例えば、顔面の組織であり得る。免疫細胞は、移植の前、移植と同時、または移植の後に、投与され得る。いくつかの実施形態において、免疫細胞は、移植の前に、例えば、移植の少なくとも1時間前、少なくとも12時間前、少なくとも1日前、少なくとも2日前、少なくとも3日前、少なくとも4日前、少なくとも5日前、少なくとも6日前、少なくとも1週間前、少なくとも2週間前、少なくとも3週間前、少なくとも4週間前または少なくとも1ヶ月前に投与される。1つの非限定的な具体例では、治療有効量の免疫細胞の投与は、移植の3~5日前に行われる。
【0166】
いくつかの実施形態において、被験体には、免疫細胞療法の前に骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法が施され得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、任意の好適な経路によって投与され得る任意の好適なそのような治療であり得る。その骨髄非破壊的なリンパ球除去化学療法は、特に、癌が転移性であり得る黒色腫である場合、例えば、シクロホスファミドおよびフルダラビンの投与を含み得る。シクロホスファミドおよびフルダラビンの例示的な投与経路は、静脈内である。同様に、任意の好適な用量のシクロホスファミドおよびフルダラビンが投与され得る。特定の態様では、およそ60mg/kgのシクロホスファミドが2日間投与され、その後、およそ25mg/mのフルダラビンが5日間投与される。
【0167】
ある特定の実施形態では、B細胞の成長および活性化を促進する1つ以上の成長因子が、B細胞と同時にまたはB細胞に続いて被験体に投与される。その成長因子は、NK細胞の成長および活性化を促進する任意の好適な成長因子であり得る。好適な免疫細胞成長因子の例としては、IL-2、IL-4、IL-10、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18又はIL-21が挙げられ、これらは、単独でまたは様々な組み合わせで(例えば、IL-2とIL-7、IL-2とIL-15、IL-7とIL-15、IL-2、IL―4、及びIL-10、とIL-7とIL-15、IL-12とIL-7、IL-12とIL-15またはIL-12とIL2)使用され得る。
【0168】
治療有効量の作製されたNK細胞が、非経口投与をはじめとしたいくつかの経路、例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、胸骨内、腫瘍内、髄腔内、心室内、レザバー、関節内の注射または注入によって投与され得る。
【0169】
養子細胞療法において使用するための作製されたB細胞の治療有効量は、処置される被験体において所望の効果を達成する量である。例えば、これは、進行を阻害するために必要な免疫細胞の量、または自己免疫疾患もしくは同種免疫疾患を後退させるために必要なB細胞の量、または自己免疫疾患によって引き起こされる症状、例えば、疼痛および炎症を和らげることができる量であり得る。これは、炎症に伴う症状、例えば、疼痛、浮腫および体温上昇を和らげるために必要な量であり得る。これは、移植された器官の拒絶反応を減少させるまたは予防するために必要な量でもあり得る。
【0170】
作製されたB細胞集団は、疾患状態を回復させるために、上記疾患と一致した処置レジメンで、例えば、1日から数日間にわたって1回または数回で、投与され得るか、または疾患の進行を阻害するためおよび疾患の再発を予防するために、長期間にわたる定期的な投与で投与され得る。製剤において用いられる正確な用量は、投与経路および疾患または障害の重篤度にも依存し、医師の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。B細胞の治療有効用量は、処置される被験体、苦痛の重症度およびタイプならびに投与様式に依存する。いくつかの実施形態において、ヒト被験体の処置において使用され得る用量は、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10、少なくとも3.8×10または少なくとも3.8×1010B細胞/mで変動する。ある特定の実施形態において、ヒト被験体の処置において使用される用量は、約3.8×10~約3.8×1010B細胞/mで変動する。さらなる実施形態において、B細胞の治療有効量は、約5×10細胞/kg体重~約7.5×10細胞/kg体重、例えば、約2×10細胞~約5×10細胞/kg体重または約5×10細胞~約2×10細胞/kg体重で変動し得る。B細胞の正確な量は、被験体の年齢、体重、性別および生理学的状態に基づいて当業者によってすぐに決定される。有効量は、インビトロモデルまたは動物モデルの試験系から導かれた用量反応曲線から外挿され得る。
【0171】
上記B細胞は、免疫媒介性障害を処置するための1つ以上の他の治療薬と併用して投与され得る。併用療法としては、1つ以上の抗菌剤(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤および抗真菌剤)、抗腫瘍剤(例えば、フルオロウラシル、メトトレキサート、パクリタキセル、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫枯渇剤(例えば、フルダラビン、エトポシド、ドキソルビシンまたはビンクリスチン)、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリンまたは糖質コルチコイド、例えば、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)、抗炎症剤(例えば、糖質コルチコイド(例えば、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンまたはプレドニゾン)または非ステロイド性抗炎症剤(例えば、アセチルサリチル酸、イブプロフェンまたはナプロキセンナトリウム))、サイトカイン(例えば、インターロイキン-10またはトランスフォーミング成長因子-ベータ)、ホルモン(例えば、エストロゲン)またはワクチンが挙げられ得るが、これらに限定されない。さらに、カルシニューリン阻害剤(例えば、シクロスポリンおよびタクロリムス);mTOR阻害剤(例えば、ラパマイシン);ミコフェノール酸モフェチル、抗体(例えば、CD3、CD4、CD40、CD154、CD45、IVIGまたはB細胞を認識する抗体);化学療法剤(例えば、メトトレキサート、トレオスルファン、ブスルファン);照射;またはケモカイン、インターロイキンもしくはそれらの阻害剤(例えば、BAFF、IL-2、抗IL-2R、IL-4、JAKキナーゼ阻害剤)を含むがこれらに限定されない免疫抑制剤または免疫寛容誘発剤が投与され得る。そのようなさらなる医薬品は、所望の効果に応じて免疫細胞の投与前、投与中または投与後に投与され得る。上記細胞および作用物質のこの投与は、同じ経路または異なる経路による投与、および同じ部位または異なる部位における投与であり得る。
A.薬学的組成物
【0172】
本明細書中に包含されるプロセスによって作製されたB細胞および薬学的に許容され得るキャリアを含む薬学的組成物および製剤も本明細書中に提供される。
【0173】
本明細書中に記載されるような薬学的組成物および製剤は、所望の程度の純度を有する活性成分(例えば、抗体またはポリペプチド)を1つ以上の自由選択の薬学的に許容され得るキャリア(Remington’s Pharmaceutical Sciences 22nd edition,2012)と混合することによって、凍結乾燥された製剤または水溶液の形態で調製され得る。薬学的に許容され得るキャリアは、一般に、使用される投与量および濃度においてレシピエントにとって無毒性であり、それらのキャリアとしては、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸および他の有機酸);酸化防止剤(アスコルビン酸およびメチオニンを含む);保存剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノールアルコール、ブチルアルコールまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン(例えば、メチルパラベンまたはプロピルパラベン);カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類および他の炭水化物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖類(例えば、スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール(PEG))が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な本明細書中の薬学的に許容され得るキャリアとしては、間質薬物分散剤、例えば、中性で活性な可溶性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標),Baxter International,Inc.)がさらに挙げられる。rHuPH20を含むある特定の例示的なsHASEGPおよび使用方法は、米国特許出願公開第2005/0260186号および同第2006/0104968号に記載されている。1つの態様において、sHASEGPは、1つ以上のさらなるグリコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと併用される。
B.併用療法
【0174】
ある特定の実施形態において、本実施形態の組成物および方法は、少なくとも1つのさらなる治療と併用されるB細胞集団を含む。そのさらなる治療は、放射線療法、手術(例えば、ランペクトミーおよび乳房切除術)、化学療法、遺伝子療法、DNA治療、ウイルス治療、RNA治療、免疫療法、(ここに含まれるもの以外に)、骨髄移植、ナノ治療、モノクローナル抗体治療または前述の組み合わせであり得る。そのさらなる治療は、アジュバント療法またはネオアジュバント療法の形態であり得る。
【0175】
いくつかの癌の実施形態において、さらなる治療は、小分子酵素阻害剤または抗転移剤の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、副作用制限剤(例えば、処置の副作用の発生率および/または重症度を下げることを目的とする作用物質、例えば、抗悪心剤など)の投与である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、手術である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、放射線療法と手術の併用である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、ガンマ線照射である。いくつかの実施形態において、さらなる治療は、PBK/AKT/mTOR経路を標的化する治療、HSP90阻害剤、チューブリン阻害剤、アポトーシス阻害剤および/または化学予防剤である。さらなる治療は、当該分野で公知の化学療法剤の1つ以上であり得る。
【0176】
本開示のB細胞療法は、免疫チェックポイント療法などのさらなる癌治療の前、最中、後または様々な組み合わせで投与され得る。それらの投与は、同時から数分、数日、数週間までの範囲の間隔で行われ得る。免疫細胞療法がさらなる治療薬とは別に患者に提供される実施形態では、それら2つの化合物が、なおも患者に対して有益な併用効果を発揮できるように、各送達時点の間にかなりの期間が経過しないことを保証するのが一般的である。そのような場合、抗体療法と抗癌療法とが、互いの約12~24または72時間以内に、より詳細には、互いの約6~12時間以内に患者に提供され得ることが企図される。いくつかの状況において、それぞれの投与間に数日(2、3、4、5、6または7)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8)が経過した場合、処置期間をかなり延長することが望ましいことがある。
【0177】
様々な組み合わせが使用され得る。下記の例の場合、免疫細胞療法が、「A」であり、抗癌療法が、「B」である:
A/B/A B/A/B B/B/A A/A/B A/B/B B/A/A A/B/B/B B/A/B/B
B/B/B/A B/B/A/B A/A/B/B A/B/A/B A/B/B/A B/B/A/A
B/A/B/A B/A/A/B A/A/A/B B/A/A/A A/B/A/A A/A/B/A
【0178】
本実施形態の任意の化合物または治療の患者への投与は、それらの作用物質に毒性がある場合はそれを考慮して、そのような化合物を投与するための一般的なプロトコルに従う。ゆえに、いくつかの実施形態では、併用療法に起因し得る毒性をモニタリングする工程が存在する。
1.化学療法
【0179】
多種多様の化学療法剤が、本実施形態に従って使用され得る。用語「化学療法」とは、薬物を使用して癌を処置することを指す。「化学療法剤」は、癌の処置において投与される化合物または組成物を意味するために使用される。これらの作用物質または薬物は、細胞内でのそれらの活性様式によって、例えば、それらが細胞周期に影響するか否かおよびどのステージにおいて細胞周期に影響するかによって、分類される。あるいは、作用物質は、DNAを直接架橋する能力、DNAにインターカレートする能力、または核酸合成に影響することによって染色体異常および有糸分裂異常を誘導する能力に基づいて特徴付けられ得る。
【0180】
化学療法剤の例としては、アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロスホスファミド);スルホン酸アルキル(例えば、ブスルファン、インプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa));エチレンイミンおよびメチルアメラミン(methylamelamines)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチローロメラミン(trimethylolomelamine)を含む);アセトゲニン(特に、ブラタシンおよびブラタシノン);カンプトテシン(合成アナログであるトポテカンを含む);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン(carzelesin)およびビゼレシン(bizelesin)合成アナログを含む);クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1およびクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成アナログであるKW-2189およびCB1-TM1を含む);エレウセロビン(eleutherobin);パンクラチスタチン(pancratistatin);サルコジクチイン(sarcodictyin);スポンギスタチン(spongistatin);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノベンビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロフォスファミド(trofosfamide)およびウラシルマスタード);ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチンおよびラニムヌスチン(ranimnustine));抗生物質(例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマlIおよびカリケアマイシンオメガI1));ジネマイシン(dynemicin)(ジネマイシンAを含む);ビスホスホネート(例えば、クロドロネート);エスペラミシン;ならびにネオカルチノスタチンクロモフォアおよび関連色素タンパク質であるエンジイン抗生物質クロモフォア、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウトラルニシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモミシニス、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン(detorubicin)、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロリノ-ドキソルビシンおよびデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC)、ミコフェノール酸、ノガラルニシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチンおよびゾルビシン;抗代謝産物(例えば、メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU));葉酸アナログ(例えば、デノプテリン(denopterin)、プテロプテリンおよびトリメトレキサート);プリンアナログ(例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)およびチオグアニン);ピリミジンアナログ(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビンおよびフロクスウリジン);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタンおよびテストラクトン);抗副腎(anti-adrenals)(例えば、ミトタンおよびトリロスタン);葉酸補給剤(例えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキセート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダイニン(lonidainine);メイタンシノイド(maytansinoids)(例えば、メイタンシンおよびアンサミトシン(ansamitocins));ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダンモール(mopidanmol);ニトラエリン;ペントスタチン;フェナメット(phenamet);ピラルビシン;ロソキサントロン(losoxantrone);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK多糖複合体;ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクォン(triaziquone);2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;トリコテシン(特に、T-2トキシン、ベラクリンA、ロリジン(roridin)Aおよびアングイジン(anguidine));ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;タキソイド、例えば、パクリタキセルおよびドセタキセルゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;白金配位錯体(例えば、シスプラチン、オキサリプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ノバントロン;テニポシド;エダトレキセート;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート;イリノテカン(例えば、CPT-11);トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド(例えば、レチノイン酸);カペシタビン;カルボプラチン、プロカルバジン、プリコマイシン、ゲムシタビエン、ナベルビン、ファルネシル-タンパク質タンスフェラーゼ阻害剤、トランスプラチナ(transplatinum)、ならびに上記のいずれかの薬学的に許容され得る塩、酸または誘導体が挙げられる。
2.放射線療法
【0181】
DNA損傷を引き起こす、広く使用されてきた他の因子としては、γ線、X線および/または腫瘍細胞への放射性同位体の定方向送達として一般的に知られているものが挙げられる。マイクロ波、陽子ビーム照射およびUV照射などの他の形態のDNA損傷因子も企図される。これらの因子のすべてが、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製および修復ならびに染色体のアセンブリおよび維持に対して広範囲のダメージをもたらす可能性が最も高い。X線の線量の範囲は、長期間(3~4週間)にわたる50~200レントゲンという1日線量から、2000~6000レントゲンという単回線量までの範囲である。放射性同位体の線量の範囲は、大きく異なり、同位体の半減期、放射される放射線の強度およびタイプ、ならびに腫瘍性細胞による取り込みに依存する。
3.免疫療法
【0182】
当業者は、さらなる免疫療法が上記実施形態の方法と併用してまたは併せて使用され得ることを理解する。癌の処置の状況において、免疫治療薬は、通常、癌細胞を標的化し、破壊するために免疫エフェクター細胞および免疫エフェクター分子を使用することに頼る。リツキシマブ(RITUXAN(登録商標))が、そのような例である。免疫エフェクターは、例えば、腫瘍細胞の表面上の何らかのマーカーに特異的な抗体であり得る。その抗体は、単独で治療のエフェクターとして機能し得るか、または他の細胞をリクルートして、実際に細胞殺滅に影響し得る。その抗体はまた、薬物またはトキシン(化学療法剤、放射性核種、リシンA鎖、コレラ毒素、百日咳毒素など)に結合体化され得、標的化剤として役立ち得る。あるいは、そのエフェクターは、腫瘍細胞標的と直接または間接的に相互作用する表面分子を有するリンパ球であり得る。様々なエフェクター細胞には、細胞傷害性T細胞およびNK細胞が含まれる。
【0183】
抗体-薬物結合体(ADC)は、殺細胞薬に共有結合的に連結されたモノクローナル抗体(MAb)を含み、併用療法において使用され得る。このアプローチは、抗原標的に対するMAbの高い特異性を非常に強力な細胞傷害性薬物と組み合わせることにより、豊富なレベルの抗原を有する腫瘍細胞にペイロード(薬物)を送達する「武装した」MAbをもたらす。また、薬物の標的化送達は、正常組織への曝露を最小限に抑えることから、毒性を低減し、治療指数を改善する。例示的なADC薬物としては、ADCETRIS(登録商標)(ブレンツキシマブベドチン)およびKADCYLA(登録商標)(トラスツズマブエムタンシンまたはT-DM1)が挙げられる。
【0184】
免疫療法の1つの態様において、腫瘍細胞は、標的化の影響を受けやすい何らかのマーカー、すなわち、他の大部分の細胞上に存在しない何らかのマーカーを有さなければならない。多くの腫瘍マーカーが存在し、これらのいずれかが、本実施形態の状況において標的化に好適であり得る。一般的な腫瘍マーカーとしては、CD20、癌胎児抗原、チロシナーゼ(p97)、gp68、TAG-72、HMFG、Sialyl Lewis抗原、MucA、MucB、PLAP、ラミニンレセプター、erb Bおよびp155が挙げられる。免疫療法の代替の態様は、抗癌効果と免疫刺激効果とを組み合わせることである。IL-2、IL-4、IL-12、GM-CSF、ガンマ-IFNなどのサイトカイン、MIP-1、MCP-1、IL-8などのケモカイン、およびFLT3リガンドなどの成長因子をはじめとした免疫刺激分子も存在する。
【0185】
免疫療法の例としては、免疫アジュバント、例えば、Mycobacterium bovis、Plasmodium falciparum、ジニトロクロロベンゼンおよび芳香族化合物);サイトカイン療法、例えば、インターフェロンα、βおよびγ、IL-1、GM-CSFならびにTNF;遺伝子療法、例えば、TNF、IL-1、IL-2およびp53;ならびにモノクローナル抗体、例えば、抗CD20、抗ガングリオシドGM2および抗p185が挙げられる。1つ以上の抗癌療法が、本明細書中に記載される抗体療法とともに使用され得ることが企図される。
【0186】
いくつかの実施形態において、免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤であり得る。免疫チェックポイントは、シグナルを強める(例えば、共刺激分子)かまたはシグナルを弱めるかのいずれかである。免疫チェックポイントの遮断によって標的化され得る阻害性免疫チェックポイントとしては、アデノシンA2Aレセプター(A2AR)、B7-H3(CD276としても知られる)、BおよびTリンパ球アテニュエーター(BTLA)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CD152としても知られるCTLA-4)、インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)、キラー細胞免疫グロブリン(KIR)、リンパ球活性化遺伝子-3(LAG3)、プログラム死1(PD-1)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン3(TIM-3)、ならびにT細胞活性化のV-ドメインIgサプレッサー(VISTA)が挙げられる。特に、免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1軸および/またはCTLA-4を標的化する。
【0187】
免疫チェックポイント阻害剤は、小分子、組換え型のリガンドまたはレセプターなどの薬物であり得るか、または特に、ヒト抗体などの抗体である。免疫チェックポイントタンパク質またはそのアナログの公知の阻害剤が、使用され得、特に、キメラ化型、ヒト化型またはヒト型の抗体が使用され得る。当業者が承知しているように、代替のおよび/または等価な名称が、本開示において述べられるある特定の抗体に対して使用され得る。そのような代替のおよび/または等価な名称は、本開示の文脈において相互交換可能である。例えば、ランブロリズマブが、代替のおよび等価な名称であるMK-3475およびペンブロリズマブとしても知られていることは公知である。
【0188】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、PD-1がそのリガンド結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PD-1リガンド結合パートナーは、PDL1および/またはPDL2である。別の実施形態において、PDL1結合アンタゴニストは、PDL1がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PDL1結合パートナーは、PD-1および/またはB7-1である。別の実施形態において、PDL2結合アンタゴニストは、PDL2がその結合パートナーに結合するのを阻害する分子である。具体的な態様において、PDL2結合パートナーは、PD-1である。アンタゴニストは、抗体、その抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドであり得る。
【0189】
いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、抗PD-1抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)である。いくつかの実施形態において、抗PD-1抗体は、ニボルマブ、ペンブロリズマブおよびCT-011からなる群より選択される。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPDL1またはPDL2の細胞外部分またはPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの実施形態において、PD-1結合アンタゴニストは、AMP-224である。MDX-1106-04、MDX-1106、ONO-4538、BMS-936558およびOPDIVO(登録商標)としても知られるニボルマブは、使用され得る抗PD-1抗体である。MK-3475、Merck3475、ランブロリズマブ、KEYTRUDA(登録商標)およびSCH-900475としても知られるペンブロリズマブは、例示的な抗PD-1抗体である。hBATまたはhBAT-1としても知られるCT-011も、抗PD-1抗体である。B7-DCIgとしても知られるAMP-224は、PDL2-Fc融合可溶性レセプターである。
【0190】
本明細書中に提供される方法において標的化され得る別の免疫チェックポイントは、CD152としても知られる細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(CTLA-4)である。ヒトCTLA-4の完全cDNA配列は、Genbankアクセッション番号L15006を有する。CTLA-4は、T細胞の表面上に見られ、抗原提示細胞の表面上のCD80またはCD86に結合したとき「切」スイッチとして作用する。CTLA4は、ヘルパーT細胞の表面上に発現される免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、T細胞に阻害シグナルを伝達する。CTLA4は、T細胞共刺激タンパク質であるCD28に似ており、両分子は、抗原提示細胞上のCD80およびCD86(それぞれB7-1およびB7-2とも呼ばれる)に結合する。CTLA4は、T細胞に阻害シグナルを伝達するのに対して、CD28は、刺激シグナルを伝達する。細胞内CTLA4は、制御性T細胞にも見られ、それらの細胞の機能にとって重要であり得る。T細胞レセプターおよびCD28を介したT細胞の活性化により、B7分子に対する阻害性レセプターであるCTLA-4が高発現される。
【0191】
いくつかの実施形態において、免疫チェックポイント阻害剤は、抗CTLA-4抗体(例えば、ヒト抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体)、それらの抗原結合フラグメント、イムノアドヘシン、融合タンパク質またはオリゴペプチドである。
【0192】
本方法における使用に適した抗ヒトCTLA-4抗体(またはそれ由来のVHおよび/もしくはVLドメイン)は、当該分野で周知の方法を用いて作製され得る。あるいは、当該分野で認められている抗CTLA-4抗体を使用することができる。例示的な抗CTLA-4抗体は、イピリムマブ(10D1、MDX-010、MDX-101およびYervoy(登録商標)としても知られる)またはその抗原結合フラグメントおよびバリアントである。他の実施形態において、その抗体は、イピリムマブの重鎖CDRおよび軽鎖CDRまたは重鎖VRおよび軽鎖VRを含む。したがって、1つの実施形態において、その抗体は、イピリムマブのVH領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインならびにイピリムマブのVL領域のCDR1、CDR2およびCDR3ドメインを含む。別の実施形態において、その抗体は、CTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープへの結合について競合し、かつ/またはCTLA-4上の、上述の抗体と同じエピトープに結合する。別の実施形態において、その抗体は、上述の抗体に対して少なくとも約90%の可変領域アミノ酸配列同一性(例えば、イピリムマブと少なくとも約90%、95%または99%の可変領域同一性)を有する。
4.手術
【0193】
癌を有する人のおよそ60%が、予防的手術、診断的手術または進行度診断手術、根治的手術および緩和手術をはじめとした何らかのタイプの手術を受ける。根治的手術には、癌性組織の全部または一部を物理的に除去、切除および/または破壊する摘出術が含まれ、他の治療(例えば、本実施形態の処置、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子治療、免疫療法および/または代替療法)と併せて使用され得る。腫瘍摘出術とは、腫瘍の少なくとも一部を物理的に除去することを指す。手術による処置には、腫瘍摘出術に加えて、レーザー手術、凍結手術、電気手術および顕微鏡下手術(モース術)が含まれる。
【0194】
癌性細胞、組織または腫瘍の一部または全部を切除する際、身体に空洞が形成され得る。処置は、さらなる抗癌療法によるその領域の灌流、直接注射または局所適用によって達成され得る。そのような処置は、例えば、1、2、3、4、5、6もしくは7日ごとに、または1、2、3、4および5週間ごとに、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11もしくは12ヶ月ごとに、反復され得る。これらの処置は、様々な投与量の処置でもあり得る。
5.他の作用物質
【0195】
処置の治療効果を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて他の作用物質が使用され得ることが企図される。これらのさらなる作用物質としては、細胞表面レセプターおよびギャップ結合のアップレギュレーションに影響する作用物質、細胞分裂抑制剤および分化剤、細胞接着の阻害剤、アポトーシス誘導物質に対する過剰増殖細胞の感度を高める作用物質、または他の生物学的作用物質が挙げられる。ギャップ結合数を増加させることによる細胞間のシグナル伝達の増加は、隣接する過剰増殖細胞集団に対する抗過剰増殖効果を高め得る。他の実施形態では、処置の抗過剰増殖の有効性を改善するために、本実施形態のある特定の態様と組み合わせて細胞分裂抑制剤または分化剤が使用され得る。本実施形態の有効性を改善するために、細胞接着の阻害剤が企図される。細胞接着阻害剤の例は、接着斑キナーゼ(FAK)阻害剤およびロバスタチンである。アポトーシスに対する過剰増殖細胞の感度を高める他の作用物質(例えば、抗体c225)が、処置の有効性を改善するために本実施形態のある特定の態様と組み合わせて使用され得ることがさらに企図される。
VI.製品またはキット
【0196】
B細胞を含む製品またはキットも本明細書中に提供される。操作されたB細胞および/またはそれを作製するための1つ以上の試薬を含む製品またはキットが提供される。そのB細胞は、任意の起源に由来してよく、そのB細胞は、本明細書中に包含される方法によって作製され得るか、またはそのキットは、そのような操作されたB細胞を作製するための試薬を含み得る。いくつかの実施形態において、そのB細胞は、CD40Lを発現するようにすでに改変されており、かつそのB細胞が、遺伝子編集されるおよび/または1つ以上の異種抗原レセプターを発現するなど、さらに改変され得るように、そのキットに提供されてもよい。具体的な実施形態において、そのB細胞は、1つ以上の異種抗原レセプターを発現するように、および/または遺伝子編集されるように、すでに改変されており、かつそのB細胞が、さらに改変され得るように、そのキットに提供されてもよい。
【0197】
具体的な実施形態において、上記B細胞を作製するための1つ以上の試薬(例えば、特定の遺伝子を標的化する試薬、1つ以上の異種抗原レセプターを含む試薬(または異種抗原レセプターを作製するための1つ以上の試薬)、CD40Lのトランスフェクションベクターもしくは形質導入ベクターまたは発現構築物、あるいはそれらの組み合わせ)が、キット内に提供される。一般的な実施形態において、それらの試薬には、DNAまたはRNAを含む核酸、タンパク質、培地、緩衝液、塩、補助因子などが含まれ得る。具体的な場合において、そのキットは、所望の特定の遺伝子を標的化するための試薬を含む1つ以上のCRISPR関連試薬を含む。
【0198】
上記製品またはキットは、個体の癌を処置するためもしくは癌の進行を遅延させるためにまたは癌を有する個体の免疫機能を高めるために免疫細胞を使用するための指示を含む添付文書をさらに含み得る。本明細書中に記載される任意の抗原特異的免疫細胞が、その製品またはキットに含められ得る。好適な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグおよびシリンジが挙げられる。その容器は、ガラス、プラスチック(例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリオレフィン)または金属合金(例えば、ステンレス鋼またはハステロイ)などの種々の材料から形成され得る。いくつかの実施形態において、その容器は、製剤およびラベルを保持し、そのラベルは、容器に付着しているかまたは関連付けられており、その容器には、使用法が示されている場合がある。その製品またはキットは、商業的な観点およびユーザーの観点から望ましい他の材料をさらに含むことがあり、それらの材料としては、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および使用するための指示を含む添付文書が挙げられる。いくつかの実施形態において、その製品は、1つ以上の別の作用物質(例えば、化学療法剤および抗悪性腫瘍剤)をさらに含む。その1つ以上の作用物質に適した容器としては、例えば、ボトル、バイアル、バッグおよびシリンジが挙げられる。
【0199】
上記キットの構成要素が、1つおよび/またはそれ以上の液体溶液として提供されるとき、その液体溶液は、水溶液であり得、滅菌された水溶液が特に想定される。上記組成物はまた、シリンジで投与可能な(syringeable)組成物、または静脈内投与などの投与に適した任意の形態に製剤化され得る。その場合、容器手段は、それ自体が、シリンジ、ピペットおよび/もしくは他のこのような装置であってよく、その容器手段から、製剤が、身体の感染領域に適用され得る、動物に注射され得る、かつ/またはそのキットの他の構成要素に適用され得る、かつ/もしくはそのキットの他の構成要素と混合され得る。
【実施例
【0200】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含められる。以下の実施例に開示される手法は、本発明の実施において十分に機能すると本発明者らが発見した手法であり、ゆえにその実施に対する好ましい形式であると考えることができることが当業者によって認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示に鑑みて、開示される具体的な実施形態において多くの変更を行うことができ、それらの変更は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、なおも同様または類似の結果をもたらすと認識するだろう。
実施例1
初代B細胞の大規模なCRISPR/Cas9媒介性操作ストラテジー
【0201】
本実施例は、CRISPR/Cas9による編集を含む、B細胞の大規模操作のプロトコルの例を含む。一例として、図1に、末梢血(PB)B細胞をまずCpG、抗BCR(B細胞レセプターに対する抗体(IgG+iIM)およびサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IFN-ガンマ(別々にまたは組み合わせて))で48時間刺激するプロトコルの1つを示している。次いで、それらに、レトロウイルスベクターなどのベクターを介してCD40L構築物を形質導入する。いくつかの場合、それらにCD40LおよびIL-21を形質導入する。そのIL-21は、膜結合型であってもよいし、そうでなくてもよい。いずれにしても、1つのバイシストロニックな構築物において、または異なる構築物から、IL-21およびCD40Lが発現され得る。いくつかの場合において、形質導入された細胞を1つ以上のサイトカインの存在下などにおいて、拡大する。次いで、B細胞を使用してもよいし、必要に応じて保存してもよい。いくつかの場合では、そのB細胞を機能的研究、マスサイトメトリーおよび/またはRNA配列決定に供する。
【0202】
一例では、CD40L対CD40L-IL21の初代B細胞の形質導入効率を測定する。フィコール密度遠心分離を用いて末梢血からPBMCを単離し、磁気選択を用いてB細胞をネガティブ選択する。CpGおよび抗IgM/IgGを用いてB細胞を48時間活性化する。レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入されたB細胞の形質導入効率を図2Aにおいて測定し、レトロウイルスベクターを介してCD40L-IL21を形質導入されたB細胞の形質導入効率を図2Bに示す。異なるサイトカインの組み合わせを用いた特定の期間にわたる培養の後、形質導入されたB細胞の成長速度を測定した。図2Dには、T細胞のサイトカイン分泌のB細胞による抑制が示されている。同種異系T細胞を凍結PBMCサンプルから単離し、抗CD3/CD28マイクロビーズで活性化した。それらをB細胞と種々の比で48時間培養し、次いで、細胞内染色を行って、T細胞内のIFNg、TNFaおよびIL-2の産生量を評価した。B細胞は、T細胞のサイトカイン産生量を用量依存的様式で減少させることができた。B細胞へのCD40L-IL21の形質導入の5、7および9日後に、機能アッセイを行ったところ、B細胞が培養されたままであると、それらは抑制能力を失う(図2E)。
【0203】
図3Aは、末梢血由来の初代B細胞へのCD40Lの形質導入とCARの形質導入とを組み合わせるプロトコルの別の例を提供している。まず、B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカイン((IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IFN-ガンマ(別々にまたは組み合わせて))で48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、B細胞に、レトロウイルスベクターを介してCAR構築物(単なる例として、CD19またはCD5)を再度形質導入する。B細胞を、少なくともいくつかの場合ではIL-4およびIL-21を含む、培養液中で維持する。いくつかの場合では、機能的研究、マスサイトメトリー(CytoF)および/またはRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、それらの細胞を培養する。図3Bは、2回目にCAR CD19またはCAR CD5を形質導入されたCD40L-B細胞の形質導入効率を提供している。2回目の形質導入は、最初のCD40L形質導入の発現を低下させない。
【0204】
図4Aは、末梢血由来の初代B細胞へのCD40L形質導入とCRISPR Cas9遺伝子編集とを組み合わせるプロトコルの別の例を示している。まず、PB B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IFN-ガンマ(別々にまたは組み合わせて))で48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いたCRISPR-cas9遺伝子編集を行う。例えば、必要に応じて機能的研究、マスサイトメトリーおよびRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持し得る。CD86、CD95、IL10RおよびPD-1遺伝子のノックアウト効率が図4Bに提供されている。
【0205】
末梢血由来の初代B細胞へのCD40L形質導入とCRISPR Cas9遺伝子編集とを組み合わせるさらなるプロトコルを図5Aに示す。まず、PB B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IFN-ガンマ(別々にまたは組み合わせて))で48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いたCRISPR-cas9遺伝子編集を行う。必要に応じて機能的研究、マスサイトメトリーおよびRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持し得る。図5Bに示されているように、この実験計画により、別個のダブルまたはトリプル遺伝子ノックアウトを単一のセッションで首尾よく行うことが可能になる。
【0206】
図6は、CD40Lを形質導入された初代B細胞の大規模CRISPR cas9遺伝子編集の具体的な実施形態を示している。まず、PB B細胞をインビトロにおいてCpG、抗BCRおよびサイトカイン(IL-2、IL-4、IL-7、IL-10、IFN-ガンマ(別々にまたは組み合わせて))で48時間刺激する。次いで、それらに、レトロウイルスベクターを介してCD40Lを形質導入し、IL-21およびIL-4を補充する。CD40L形質導入の2日後、リボ核タンパク質複合体(RNP)を用いたCRISPR-cas9遺伝子編集を行う。必要に応じて機能的研究、マスサイトメトリーおよび/またはRNA配列決定にとって十分な数が利用可能になるまで、B細胞を培養液中で維持する。
【0207】
小規模と大規模でのCRISPR-Cas9遺伝子編集の設定のエレクトロポレーション効率およびノックアウト効率の比較が図7に提供されている。図7Aに示されているように、エレクトロポレーション効率は、小規模と大規模の両方のCRISPR編集B細胞において95%超である。図7Bは、CD47のノックアウト効率が、小規模と大規模の両方の設定において高いままであることを実証している。
【0208】
図8は、CRISPR-Cas9媒介性の遺伝子ノックアウト後のB細胞におけるmiR-155の発現レベルを示している。最大効率を見出すために、種々のgRNAの組み合わせを使用した。2と5のgRNAの組み合わせが、最も効率的なノックアウトを達成した。
【0209】
本明細書中に開示および特許請求される方法のすべてが、本開示に鑑みて、過度の実験を行うことなく実施および実行され得る。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態の点から説明してきたが、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載された方法および方法の工程または工程の順序に変更が適用されてもよいことが当業者には明らかだろう。より詳細には、同じまたは類似の結果が達成される限り、化学的かつ生理的に関係するある特定の作用物質を本明細書中に記載される作用物質の代わりに用いてもよいことが明らかだろう。当業者に明らかなそのような類似の代替物および改変のすべてが、添付の請求項によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
【配列表】
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【国際調査報告】