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  • 特表-新規セリンプロテアーゼ変異体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(54)【発明の名称】新規セリンプロテアーゼ変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/57 20060101AFI20230131BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 9/50 20060101ALI20230131BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230131BHJP
   A23K 10/16 20160101ALI20230131BHJP
【FI】
C12N15/57 ZNA
C12N15/10 200Z
C12N15/63 Z
C12N9/50
C12N1/21
A23K10/16
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531627
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 KR2020016775
(87)【国際公開番号】W WO2021107588
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0157400
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジュヒ
(72)【発明者】
【氏名】ソン,ジンウ
(72)【発明者】
【氏名】ソク,ジョンチョル
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジヒョン
(72)【発明者】
【氏名】シム,セフン
(72)【発明者】
【氏名】イ,イムサン
【テーマコード(参考)】
2B150
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AA03
2B150AA04
2B150AA05
2B150AA06
2B150AB07
2B150AB10
2B150AC03
4B050CC04
4B050DD02
4B050LL02
4B050LL10
4B065AA19X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC15
4B065BA02
4B065CA33
4B065CA43
(57)【要約】
本出願は、新規なセリンプロテアーゼ変異体に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号31の12番目位置に相当するアミノ酸及び116番目位置に相当するアミノ酸から選択されるいずれか一つ以上のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも80%以上、100%未満の配列相同性を有する、セリンプロテアーゼ変異体。
【請求項2】
12番目位置に相当するアミノ酸が、チロシン(Y、tyrosine)、アラニン(A、Alanine)、セリン(S、Serine)又はアルギニン(R、Arginine)に置換された、請求項1に記載のセリンプロテアーゼ変異体。
【請求項3】
116番目位置に相当するアミノ酸が、アスパラギン酸(D、aspartate)、セリン(S、Serine)、トレオニン(T、Threonine)又はグリシン(G、Glycine)に置換された、請求項1に記載のセリンプロテアーゼ変異体。
【請求項4】
請求項1に記載のセリンプロテアーゼ変異体のアミノ酸配列を含み、配列番号2と少なくとも80%以上、100%未満の配列相同性を有する、セリンプロテアーゼ変異体。
【請求項5】
前記変異体が、配列番号3~10及び配列番号32~39で構成された群から選択されるいずれか一つの配列番号で表されるアミノ酸配列で構成された、請求項1に記載のセリンプロテアーゼ変異体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のセリンプロテアーゼ変異体を発現する微生物。
【請求項9】
前記微生物が、バチルス属である、請求項8に記載の微生物。
【請求項10】
前記微生物が、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)である、請求項9に記載の微生物。
【請求項11】
請求項1に記載のセリンプロテアーゼ変異体;及びそれを発現する微生物のうち一つ以上を含む、飼料用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、新規なセリンプロテアーゼ変異体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ(protease)は、生体内で消化、吸収、防御などの様々な機能を果たし、活性部位の構造によってセリンプロテアーゼ(serine protease)、システインプロテアーゼ(cystein protease)、アスパラギン酸プロテアーゼ(aspartic protease)、メタロプロテアーゼ(metalloprotease)に分けられる。それらのうち、セリンプロテアーゼ(又はセリンエンドペプチダーゼ)は、主に活性部位に活性セリン残基を共通して有することを特徴とし、セリンがプロテアーゼの活性部位で求核性アミノ酸として作用し、タンパク質中のペプチド結合を切断する酵素である(非特許文献1)。
【0003】
セリンプロテアーゼは、その用途が多様であり、血栓の溶解などの人類の疾病治療以外にも、衣類用洗剤の成分、コンタクトレンズ洗浄剤の成分として用いられるだけでなく、牛乳タンパク質の改変、絹繊維の脱ガム(silk degumming)、皮革の浸漬(soaking)、脱毛(unhairing)、オリゴペプチド合成、廃レントゲンフィルムからの銀の回収、飼料及び食品の製造及び改善(特許文献1)など、様々に用いられている。しかし、より優れた産業的経済性及び効能を確保するために熱安定性、活性などの面で改善されたセリンプロテアーゼが求められる実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2005-0068750号公報
【特許文献2】大韓民国登録特許第10-0620092号
【特許文献3】大韓民国登録特許第10-1783170号
【特許文献4】大韓民国登録特許第10-1632642号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hedstrom, 2002. Chem Rev 102: 4501-4524
【非特許文献2】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【非特許文献3】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【非特許文献4】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【非特許文献5】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【非特許文献6】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【非特許文献7】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【非特許文献8】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【非特許文献9】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【非特許文献10】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【非特許文献11】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【非特許文献12】Perry and Kuramitsu, 1981, Infect. Immun. 32: 1295-1297
【非特許文献13】Barrett, A. J., Cathepsin G. Methods Enzymol., 80, Pt. C, 561-565, (1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)由来のセリンプロテアーゼの新規な変異体を開発し、既存のセリンプロテアーゼに比べて活性が大きく優れていることを確認することにより、本出願を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願は、セリンプロテアーゼ変異体を提供することを目的とする。
【0008】
また、本出願は、前記セリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド及びそれを含むベクターを提供することを目的とする。
【0009】
さらに、本出願は、前記セリンプロテアーゼ変異体を発現する微生物を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、前記セリンプロテアーゼ変異体、及びそれを発現する微生物の少なくとも1つを含む飼料用組成物を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、既存のセリンプロテアーゼに比べて優れた活性を有し、高温活性及び耐熱性を有するので、産業的に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】サーモビフィダ・フスカ由来のセリンプロテアーゼ変異体の3次構造における、変異が導入された残基の位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0014】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。
【0015】
本出願の一態様は、セリンプロテアーゼ変異体を提供する。
【0016】
本出願における「セリンプロテアーゼ(serine protease)」とは、プロテアーゼの下位群に属し、タンパク質分解活性を有する酵素を意味する。具体的には、セリンプロテアーゼは、ペプチド結合を加水分解することによりタンパク質を分解し、基本的に活性部位に活性セリン残基を有する酵素であり、より具体的には、触媒三残基(catalytic triad)と呼ばれるアミノ酸残基である、ヒスチジン、アスパラギン酸、セリンの空間配置を有する酵素であってもよい。
【0017】
本出願のセリンプロテアーゼは、サーモビフィダ(Thermobifida)属微生物由来のものあってもよい。具体的には、本出願における前記セリンプロテアーゼの野生型は、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)由来のセリンプロテアーゼであってもよく、具体的には、配列番号40から由来のアミノ酸配列であってもよく、配列番号2から由来のアミノ酸配列であってもよく、より具体的には、 配列番号31で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよいが、これらに限定されるものではない。前記配列番号2、31又は40のアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列を得ることができる。
【0018】
本出願のセリンプロテアーゼは、前記アミノ酸配列と同じ活性を有する配列を含むものであればいかなるものでもよい。また、配列番号31のアミノ酸配列、又はそれと80%以上の相同性(homology)もしくは同一性(identity)を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、前記アミノ酸は、配列番号31で表されるアミノ酸又は前記配列番号31と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸が含んでもよい。また、そのような相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0019】
すなわち、本出願に「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本出願に用いられることは言うまでもない。例えば、「配列番号31のアミノ酸配列を含むポリペプチド」は、それと同一又は相当する活性を有するものであれば、「配列番号31のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属することは言うまでもない。
【0020】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が関連する程度を意味し、百分率で表される。相同性及び同一性は、しばしば互換的に用いられる。
【0021】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズする。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを含有するポリヌクレオチドも考慮される。
【0022】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6、7及び8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustal Wを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0023】
ポリヌクレオチド又はポリペプチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0024】
また、任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法で決定される。
【0025】
本出願が提供するセリンプロテアーゼ変異体とは、前述したセリンプロテアーゼ活性を有するタンパク質の特異的位置のアミノ酸が置換され、酵素活性が変異前のタンパク質の100%を超える変異体を意味する。
【0026】
本出願における「変異体(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により前記列挙した配列(the recited sequence)とは異なるが、前記タンパク質の機能(functions)又は特性(properties)が維持されるポリペプチドを意味する。変異体は、数個のアミノ酸置換、欠失又は付加により識別される配列(identified sequence)とは異なる。このような変異体は、一般に前記ポリペプチド配列の1つを改変し、その改変したポリペプチドの特性を評価することにより識別することができる。すなわち、変異体の能力は、本来のタンパク質(native protein)より向上するか、変わらないか又は低下する。
【0027】
また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異体も含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異型、又は付加された変異型も含まれる。
【0028】
前記「変異体」には、改変/変異したタンパク質、変異型ポリペプチド、変異などの用語(英語表現では、modification、modified protein、modified polypeptide、mutant、mutein、divergent、variantなど)が用いられるが、変異を意味する用語であればいかなるものでもよい。
【0029】
前記変異体は、天然の野生型又は非改変タンパク質に比べて変異したタンパク質の活性が上昇したものであるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本出願における「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。前記変異型は、少なくとも1つの生物学的活性を依然として有する状態で、例えば少なくとも1つの保存的置換を有する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンを含み;負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸を含み;芳香族アミノ酸は、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンを含み、疎水性アミノ酸は、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンを含む。また、アミノ酸は電荷を帯びる(electrically charged)側鎖を有するアミノ酸と電荷を帯びていない(uncharged)側鎖を有するアミノ酸に分類することができ、電荷を帯びる側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、 リシン、アルギニン、ヒスチジンを含み、電荷を帯びない側鎖を有するアミノ酸は、非極性(nonpolar)アミノ酸又は極性アミノ酸(polar)にまた分類することができ、非極性アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、極性アミノ酸は、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンを含むものとして分類することができる。典型的には、保存的置換は生成されたポリペプチドの活性にほとんど影響を与えないか、又は影響を与えない。
【0031】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質のN末端のシグナル(又はリーダー)配列に結合されてもよい。また、前記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0032】
本出願における「セリンプロテアーゼ変異体」とは、セリンプロテアーゼ活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列において少なくとも1つのアミノ酸の置換を有するポリペプチドを意味する。本出願のセリンプロテアーゼ変異体には、配列番号31のN末端から12番目のアミノ酸及び/又は116番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものが含まれる。具体的には、前記変異体は配列番号31のアミノ酸配列において、N末端から12番目の位置、116番目の位置、又は12番目及び116番目の位置に相当するアミノ酸の全てが他のアミノ酸に置換されたタンパク質であってもよい。前記「他のアミノ酸」とは、置換前とは異なるアミノ酸を意味し、置換前のアミノ酸を除くアミノ酸であればいかなるものでもよい。
【0033】
具体的には、本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、配列番号31のアミノ酸配列において、12番目の位置のフェニルアラニン(phenylalanine)が、グリシン(glycine)、アラニン(alanine)、アルギニン(arginine)、アスパラギン酸(aspartate)、システイン(cysteine)、グルタミン酸(glutamate)、アスパラギン(asparagine)、グルタミン(glutamine)、ヒスチジン(histidine)、プロリン(proline)、セリン(serine)、チロシン(tyrosine)、イソロイシン(isoleucine)、ロイシン(leucine)、リシン(lysine)、トリプトファン(tryptophan)、バリン(valine)、メチオニン(methionine)、トレオニン(threonine)に置換され、かつ/又は、116番目の位置のアスパラギンが、グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、セリン、チロシン、イソロイシン、ロイシン、リシン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリン、メチオニンもしくはトレオニンに置換されたものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0034】
具体的には、前記変異体は、配列番号31のアミノ酸配列において、12番目の位置に相当するアミノ酸が、チロシン(Y)、セリン(S)、アラニン(A)もしくはアルギニン(R)に置換されるか、116番目の位置に相当するアミノ酸がアスパラギン酸(D)、セリン(S)、トレオニン(T)もしくはグリシン(G)に置換されるか、又は配列番号31のアミノ酸配列において、12番目及び116番目の位置に相当するアミノ酸が、それぞれチロシン(Y)及びアスパラギン酸(D;チロシン(Y)及びセリン(S);セリン(S)及びアスパラギン酸(D);セリン(S)及びトレオニン(T);もしくはアラニン(A)及びグリシン(G)に置換されたタンパク質であるが、これらに限定されるものではない。前記配列番号31のアミノ酸配列において、12番目及び/又は116番目の位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体には、前記位置に相当するアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体が含まれることは言うまでもない。
【0035】
また、前記変異体は、前述した配列番号31で表されるアミノ酸配列又は前記配列番号31と少なくとも80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%もしくは99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号31のN末端から12番目のアミノ酸及び/又は116番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものが含まれる。
【0036】
具体的には、前記変異体のうち、配列番号31のアミノ酸配列において、12番目のアミノ酸及び/又は116番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体は、配列番号32~39から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなるものであるが、これらに限定されるものではない。前記変異体は、配列番号31の12番目及び/又は116番目位置に相当する位置における他のアミノ酸への置換を含み、配列番号31のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97。 %、98%、又は99%以上、100%未満の配列相同性を有し、セリンプロテアーゼ活性を有するものであってもよい。
【0037】
本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、変異前のポリペプチド、天然の野生型ポリペプチド又は非改変ポリペプチドに比べて活性が強化されたものであるが、これらに限定されるものではない。また、そのような相同性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0038】
また、本出願の変異体と同一又は相当する活性を有するものであれば、特定の活動を与える前記12番目及び/もしくは116番目のアミノ酸の変異、又はそれに相当する位置の変異以外に、当該配列番号のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加、自然に発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、このような配列付加又は突然変異を有するものも本願に含まれることは言うまでもない。
【0039】
一方、NCBI Reference Sequence WP_016188200.1(配列番号40)のmature regionは本出願の配列番号31に相当し、配列番号40からsignal peptideのみ除いた配列は本出願の配列番号2に相当する。
【0040】
本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、前述したように、配列番号31の12番目、116番目に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたセリンプロテアーゼの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよいことは言うまでもない。また、当業者であれば、当該技術分野で公知の配列アラインメントにより、本出願の配列番号31のN末端から12番目、116番目の位置が配列番号40の193番目、297番目の位置、配列番号2の163番目、267番目の位置に相当するものであることを理解することができ、配列番号31が配列番号2及び配列番号40に含まれることを理解することができる。
【0041】
よって、本出願のセリンプロテアーゼ変異体には、配列番号31のアミノ酸配列を含む配列番号2及び配列番号40において、配列番号31の12番目、116番目に相当する位置のアミノ酸(配列番号2における163番目及び/又は267番目のアミノ酸、配列番号40における193番目及び/又は297番目のアミノ酸)が置換された変異体が含まれる。また、本出願において、配列番号31及びその12番目、116番目のアミノ酸について説明した内容は、配列番号2及びその163番目、267番目のアミノ酸、配列番号40及びその193番目、297番目のアミノ酸にも適用される。
【0042】
一例として、本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、配列番号31の12番目及び/又は116番目に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列を含み、配列番号2と少なくとも80%以上、100%未満の配列相同性を有するものであってもよい。他の例として、本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、配列番号2の163番目及び/又は267番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、配列番号2と80%以上100%未満の配列相同性を有するものであってもよく、配列番号3~10から選択されるいずれかのアミノ酸配列と80%以上の配列相同性を有するものであってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0043】
本出願の他の態様は、前記セリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0044】
本出願における、「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖であり、より具体的には、前記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0045】
本出願のセリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドは、本出願の強化された活性を有するセリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。本出願において、野生型セリンプロテアーゼをコードする遺伝子は、サーモビフィダ(Thermobifida)属微生物由来のものであってもよく、具体的には、サーモビフィダ・フスカ(Thermobifida fusca)由来のものであってもよいが、これに制限されない。
【0046】
本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、配列番号31のN末端から12番目のアミノ酸及び/又は116番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。
【0047】
例えば、本出願のポリヌクレオチドは、本出願の変異体、具体的には、前記配列番号32~39から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、又はそれと相同性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であってもよいが、これらに限定されるものではない。より具体的には、配列番号41~48から選択されるいずれかの配列番号で表されるポリヌクレオチド配列からなるものであってもよいが、これに制限されるものではない。また、前述したように、本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、配列番号31を含むアミノ酸配列である配列番号2及び配列番号40についても、配列番号31の12番目及び/又は116番目に相当する位置のアミノ酸(配列番号2における163番目及び/又は267番目のアミノ酸、配列番号40における193番目及び/又は297番目のアミノ酸)が置換された変異体を含むため、前記セリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド配列も本出願に含まれる。例えば、前記セリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチド配列は、配列番号3~10から選択されるいずれかの配列番号で表されるアミノ酸配列をコードするものであり、具体的には、配列番号23~30から選択されるいずれかの配列番号で表されるポリヌクレオチド配列からなるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
また、公知の遺伝子配列から調製されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号31のN末端から12番目のアミノ酸及び/又は116番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体の活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。
【0049】
前記「ストリンジェントな条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、公知の文献に具体的に記載されている。例えば、相同性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。しかし、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0050】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つのポリヌクレオチドが相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似するポリヌクレオチド配列だけでなく、全配列に相補的な単離されたポリヌクレオチド断片が含まれてもよい。
【0051】
具体的には、相同性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0052】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である。
【0053】
本出願のさらに他の態様は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0054】
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0055】
前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されたものを意味する。作動可能な連結は当該技術分野で公知の遺伝子組換え技術を用いて作製することができ、部位特異的DNA切断及び連結は当該技術分野の切断及び連結酵素などを用いて作製することができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
本出願において用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系、pUB110系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BAC、pSM704ベクターなどを用いることができる。本出願に使用可能なベクターは、特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。
【0057】
一例として、細胞内染色体挿入用ベクターにより、染色体内で標的変異体をコードするポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面変異型ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0058】
本出願のさらに他の態様は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体を発現する微生物を提供する。
【0059】
本出願におけるタンパク質が「発現するように/される/する」とは、標的タンパク質が微生物に導入されるか、微生物で発現するように改変された状態を意味すくことができる。本出願の目的上、「標的タンパク質」は、前述したセリンプロテアーゼ変異体であってもよい。
【0060】
具体的には、「タンパク質の導入」とは、微生物が本来持っていなかった特定タンパク質の活性が現れるようにすること、又は当該タンパク質の内在性活性もしくは改変前の活性に比べて向上した活性が現れるようにすることを意味する。例えば、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物中の染色体に導入されることや、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが微生物に導入されてこの活性が現れることであってもよい。
【0061】
前記セリンプロテアーゼ変異体を発現する微生物は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体、それをコードするポリヌクレオチド、及びそれを含むベクターのうち1つ以上を含むものであってもよい。
【0062】
前記セリンプロテアーゼ変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及びそれを含むベクターのうち一つ以上を含む微生物は、具体的には、変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換して製造される微生物であってもよいが、これに制限されない。
【0063】
前記微生物は、組換え微生物であってもよく、前記組換えは、形質転換などの遺伝的改変(genetically modification)により行われてもよい。
【0064】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、いかなるものでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されるものでもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。前記形質転換する方法は、ポリヌクレオチドを細胞に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(Ca(HPO、CaHPO又はCa(PO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE-デキストラン法、カチオン性リポソーム法、自然形質転換能(natural competence)(例えば、非特許文献12参照)、酢酸リチウム-DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
前記組換え微生物は、本出願のセリンプロテアーゼ活性が強化されたものであってもよい。
【0066】
前記「活性の強化」とは、微生物が有する特定タンパク質の内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することを意味する。「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して微生物の形質が変化する場合に、形質変化の前に親株が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。
【0067】
具体的には、本出願における前記タンパク質変異体の活性の強化は、前記タンパク質変異体をコードする遺伝子の細胞内のコピー数を増加する方法、前記タンパク質変異体をコードする遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法、前記タンパク質変異体をコードする遺伝子発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、染色体上のセリンプロテアーゼ活性を有する天然タンパク質をコードする遺伝子を前記タンパク質変異体をコードする遺伝子に代替する方法、前記タンパク質変異体の活性が強化されるように前記変異体をコードする遺伝子に変異をさらに導入する方法の少なくとも1つの方法で行われるが、これらに限定されるものではない。
【0068】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列を改変する方法は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有する核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0069】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターに代えて強力なプロモーターが連結されるが、これに限定されるものではない。公知の強力なプロモーターの例としては、cj1~cj7プロモーター(特許文献2)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、Pプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(特許文献3)、O2プロモーター(特許文献4)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
また、染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より強い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。
【0071】
このようなタンパク質活性の導入及び強化とは、対応するタンパク質の活性又は濃度が野生型や非改変の微生物菌株におけるタンパク質の活性又は濃度に比べて、一般に少なくとも1%、10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%又は500%、最大で1000%又は2000%まで増加することを意味するが、これらに限定されるものではない。
【0072】
本出願の宿主細胞又は微生物は、本出願のポリヌクレオチド又は本出願のベクターを含み、セリンプロテアーゼ変異体を発現する微生物であればいかなるものでもよい。具体的には、エシェリキア(Escherichia)属、セラチア(Serratia)属、エルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacteria)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、バチルス属などの微生物菌株が含まれ、より具体的には、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)、バチルス・ベレゼンシス(Bacillus velezensis)、大腸菌(Escherichia coli)、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterum glutamicum)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)などの菌株であり、さらに具体的には、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)であるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
本出願のさらに他の態様は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体、及びそれを発現する微生物の少なくとも1つを含む飼料用組成物を提供する。
【0074】
本出願の飼料用組成物に含まれるセリンプロテアーゼ変異体は、それを発現する微生物自体が含まれる形態、又はそれを発現する微生物から分離精製された形態であるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本出願における「飼料用組成物」は、動物が食べて摂取し、消化させるための、もしくはそれに適した任意の天然もしくは人工の規定食、一食など、又は前記一食の成分であり、飼料は、当該技術分野で公知の様々な形態の飼料に製造することができる。
【0076】
前記飼料用組成物は、飼料添加剤であってもよい。
【0077】
前記飼料の種類は特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられる飼料を用いることができる。前記飼料の例としては、穀物類、堅果類、食品加工副産物類、藻類、繊維質類、製薬副産物類、油脂類、デンプン類、ミール類、穀物副産物類などの植物性飼料と、タンパク質類、無機物類、油脂類、ミネラル類、単細胞タンパク質類、動物性プランクトン類、飲食物などの動物性飼料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独で用いることもでき、2種以上を混合して用いることもできる。
【0078】
本出願の飼料用組成物は、クエン酸、フマル酸、アジピン酸、乳酸、リンゴ酸などの有機酸、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、酸性ピロリン酸塩、ポリリン酸塩(重合リン酸塩)などのリン酸塩、ポリフェノール、カテキン(catechin)、α-トコフェロール、ローズマリー抽出物(rosemary extract)、ビタミンC、緑茶抽出物、甘草抽出物、キトサン、タンニン酸、フィチン酸などの天然抗酸化剤からなる群から選択される1種以上をさらに含んでもよい。
【0079】
本出願の飼料用組成物は、アミノ酸、無機塩類、ビタミン、抗生物質、抗菌物質、抗酸化、抗カビ酵素、他の生菌状態の微生物製剤などの補助剤成分、穀物、例えば粉砕又は破砕したコムギ、エンバク、オオムギ、トウモロコシ及びコメ、植物性タンパク質飼料、例えばアブラナ、マメ及びヒマワリを主成分とするもの、動物性タンパク質飼料、例えば血紛、肉紛、骨粉及び魚紛、糖分及び乳製品、例えば各種粉乳及び乳清粉末からなる乾燥成分、脂質、例えば加熱により任意に液化した動物性脂肪や植物性脂肪などの主成分、栄養補充剤、消化吸収促進剤、成長促進剤、疾病予防剤などの添加剤からなる群から選択される1つ以上をさらに含んでもよい。
【0080】
本出願の飼料用組成物は、乾燥又は液体状の剤形であってもよく、また飼料添加用賦形剤を含んでもよい。前記飼料添加用賦形剤としては、例えばゼオライト、コーンミール、米糠などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
本出願の飼料用組成物は、前記セリンプロテアーゼ変異体以外の酵素製剤をさらに含んでもよい。例えば、リパーゼ(lipase)などの脂肪分解酵素、フィチン酸(phytic acid)を分解してリン酸塩とイノシトールリン酸塩を生成するフィターゼ(phytase)、片栗粉やグリコーゲンなどに含まれるα-1,4-グリコシド結合(α-1,4-glycoside bond)を加水分解する酵素であるアミラーゼ、有機リン酸エステルを加水分解する酵素であるホスファターゼ(phosphatase)、マルトースを2分子のグルコースに加水分解するマルターゼ、スクロースを加水分解してグルコース-フルクトース混合物を生成する変換酵素などからなる群から選択される1つ以上をさらに含んでもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0082】
本出願の飼料用組成物は、動物に単独で投与してもよく、食用担体中で他の飼料添加剤と組み合わせて投与してもよい。また、前記飼料用組成物は、飼料添加剤として、トップドレッシングするか、それらを家畜飼料に直接混合して、もしくは飼料とは別の経口剤形で、又は他の成分と組み合わせて容易に投与することができる。さらに、当該技術分野で周知のように、単独1日摂取量又は分割1日摂取量を用いることができる。
【0083】
本出願の飼料用組成物が用いられる動物には、例えば食用牛、乳牛、小ウシ、ブタ、子ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコなどの家畜、ヒヨコ、採卵鶏、家鶏、雄鶏、カモ、ガチョウ、シチメンチョウ、ウズラ、小鳥などの家禽類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
本出願の飼料用組成物に含まれる本出願のセリンプロテアーゼ変異体の量は、特に限定されるものではなく、その目的に応じて適宜調節される。一例として、本出願の属する技術分野で周知のように、家畜の消化管に長期間生存してタンパク質源物質を分解するのに適した量で含まれるが、これに限定されるものではない。
【0085】
本出願のさらに他の態様は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体、及びそれを発現する微生物の少なくとも1つを含む食品組成物を提供する。前記プロテアーゼタンパク質は、液体又は固体状の食品組成物に用いることができる。また、前記食品は、粉末、丸剤、飲料、茶又は一般食品の添加物であってもよい。
【0086】
一例として、前記食品は、乳製品、便通用又はダイエット用機能性食品、高血圧予防用機能性食品などのプロテアーゼを必要とする食品群であってもよい。
【0087】
他の例として、前記プロテアーゼ変異体は、様々な食品組成物に含まれ、食品の可溶化、又は軟化剤、肉質改質剤として用いられてもよい。さらに他の例として、製パン過程で添加され、グルテン網を壊すステップで用いられてもよい。あるいは、食品タンパク質(例えば、牛乳中のタンパク質)の加水分解に用いられてもよい。あるいは、レンダリング、香料製造、苦味低減、エマルジョン化特性変化、生理活性(bioactive)ペプチド生成、タンパク質のアレルギー誘発抗原減少などの用途で様々な食品組成物に含まれて用いられるが、これらは一例にすぎず、前述した用途に限定されるものではない。
【0088】
前記食品組成物内のセリンプロテアーゼ変異体の量は、目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0089】
本出願のさらに他の態様は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体、及びそれを発現する微生物の少なくとも1つを含む洗剤組成物を提供する。
【0090】
本出願による洗剤組成物は、1部及び2部水性洗剤組成物、非水性液体洗剤組成物、成形固体(cast solid)、顆粒形態、粒子形態、圧縮錠剤、ゲル、ペースト又はスラリー形態であってもよい。前記洗剤組成物は、食物の汚れ、食物のシミ及びその他少量の食品組成物の除去に用いられてもよい。
【0091】
本出願による洗剤組成物は、硬い表面を洗浄する洗剤組成物、布地を洗浄する洗剤組成物、台所用洗剤組成物、口腔洗浄剤組成物、義歯洗浄剤、コンタクトレンズ洗浄溶液などの形態で提供される。しかし、これらに限定されるものではない。
【0092】
本出願のさらに他の態様は、本出願のセリンプロテアーゼ変異体、及びそれを発現する微生物の少なくとも1つを含む薬学組成物を提供する。
【0093】
本出願の薬学組成物は、消化器の疾患、消化異常、消化器手術後の異常疾患を改善するための消化酵素用薬学的組成物、血栓に直接作用してフィブリンを溶解する血栓溶解剤又は抗血栓用組成物、生体内防御システムとして作用して炎症性物質もしくは壊死組織を除去する消炎剤、又は手術もしくは外傷後の浮腫を軽減する消炎剤としての用途で用いられる。
【0094】
前記薬学的組成物は、使用方法及び使用目的に応じて薬学的又は栄養学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤又は副成分をさらに含んでもよい。前記担体、賦形剤又は希釈剤は、ラクトース、グルコース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリトリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱油、デキストリン、炭酸カルシウム、プロピレングリコール、流動パラフィン、生理食塩水からなる群から選択される少なくとも1つであるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
本出願のセリンプロテアーゼ変異体又はそれを発現する微生物は、前述した用途以外にも、例えば化粧品、皮革加工、薬剤、診断剤、廃棄物管理、学術研究用化学剤製造などの用途に用いられる。しかし、前記用途は一例にすぎず、その他にも、当該技術分野で公知のタンパク質物質の変性、分解又は除去に関する任意の用途に用いられる。
【実施例
【0096】
以下、本出願を実施例及び実験例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0097】
Thermobifida fusca由来セリンプロテアーゼ変異体の選択
実施例1-1:Thermobifida fusca由来セリンプロテアーゼライブラリーの作製
Thermobifida fusca由来セリンプロテアーゼのmature regionに対応するアミノ酸(配列番号31)をコードする遺伝子に、error-prone PCRによりランダム変異を導入した。Error prone PCRにはDiversifyTM PCR Random Mutagenesis Kit(Clontech, Cat# 630703)を用いた。PCR条件を表1に示す。下記条件で行うと、6.2mutations/Kbの頻度で変異が挿入されることが確認された。
【0098】
【表1】
【0099】
前記過程で得られたPCR fragmentは、表2に示すプライマーを用いて増幅したベクターに、In-FusionR HD cloning kit(clontech)でライゲーションし、その後DH5αに形質転換してコロニーを得た。得られたコロニーからプラスミドを精製し、約5×10サイズのライブラリーを確保した。
【0100】
【表2】
【0101】
実施例1-2:Thermobifida fusca由来セリンプロテアーゼライブラリーのスクリーニング
実施例1-1で作製したプロテアーゼライブラリーをタンパク質分泌が容易なバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)LB700菌株に形質転換し、スクリーニングを行った。スクリーニングは、全2ステップで行った。第1ステップは、ライブラリーを形質転換したバチルス・サブティリス菌株を2%スキムミルクプレートに塗抹し、その後形成されたhaloサイズに基づいて選択する方法を用いる。バチルス・サブティリス形質転換は、Groningen methodに従って行った。スクリーニングに用いたスキムミルクプレートの組成を表3に示す。
【0102】
【表3】
(1L中)
【0103】
第2ステップは、第1ステップで1次的に選択したコロニーをAzocasein発色により選択する方法を用いる。96 deep wellプレートにカナマイシン抗生剤を含むBHI(Brain Heart Infusion, bd, cat#53286)液体培地を入れ、第1ステップで選択したコロニーを接種し、37℃で20~24時間培養した。培養後に、遠心分離により酵素を含む上清を得て、上清と基質である2%(w/v)Azocaseinを同量で混ぜ、その後37℃で1時間反応させた。酵素反応液に10%TCA(Trichloro acetic acid)を3倍量で添加して反応を中断し、遠心分離により凝固したタンパク質を除去した。NaOHを同量で混ぜて発色反応を行い、その後440nmで吸光を測定することにより、発色の程度を比較した。この過程で、野生型セリンプロテアーゼに対して吸光度が150%以上増加したコロニーを選択した。
【実施例2】
【0104】
選択した変異体の製造及び活性評価
実施例2-1:変異体の作製
スクリーニングにより選択した変異体のシーケンス分析の結果、配列番号31の12番目のアミノ酸(フェニルアラニン,Phe)、116番目のアミノ酸(アスパラギン,Asn)がそれぞれチロシン(Tyr)、アスパラギン酸(Asp)に置換されていることを最終的に確認した。図1に前記変異の位置を示す。選択した2種の変異(F12,N116)をsite directed mutagenesisによりpBE-S-TAPプラスミドに単独変異形態で再導入し、その後double変異及びsingle変異形態の活性を野生型の活性と比較評価した。変異体の作製時に用いたプライマーを表4に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
実施例2-2:活性評価
前述したように作製したプラスミドをバチルス・サブティリスLB700菌株に形質転換して発現させ、その後N-SUCCINYL-ALA-ALA-PRO-PHE-P-NITROANILIDE(Sigma, cat#S7388, 以下、SUC-AAPF-pNAという)ペプチドを基質として活性評価を行った。形質転換したバチルス・サブティリス菌株をカナマイシン抗生剤含有BHI培地に接種して37℃で20~24時間培養し、その後細胞を除いて培養液の一部を25mM Tris-HCl(pH7.5)buffer、1mM Suc-AAPF-pNAと混ぜ、次いで37℃で30分間反応させた。前述した反応液は、410nmで吸光を測定した。酵素産生物であるpara-nitroanilineの文献に示されているextinction coefficientは410nmで8,800M-1cm-1であり、これに基づいて酵素のユニットを換算した(非特許文献13)。測定された活性を表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
測定の結果、pH7.5、37℃の条件において、F12Y、F12YN116D変異は、それぞれ野生型の約2.1倍、約3.9倍に活性が増加することが確認された。
【0109】
実施例2-3:熱安定性の評価
該当酵素は熱安定性が非常に重要な特性であるため、変異体を導入した際の熱安定性に及ぼす影響を確認するために、次の実験を行った。
【0110】
具体的には、実施例2-2で活性評価を行った同一サンプルを常温、70℃、80℃、90℃の温度の条件でそれぞれ5分間静置し、その後酵素活性を測定した。測定された活性を表6に示す。
【0111】
【表6】
【0112】
測定の結果、F12Y、F12YN116D変異は、80℃でも、それぞれ野生型の約2倍及び約4倍の酵素活性を保持することが確認された。よって、本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、高温でも活性が高く保持されることが確認されたので、産業的に有用である。
【実施例3】
【0113】
飽和変異ライブラリー(Saturation mutagenesis library)の作製及び選択
実施例3-1.F12、N116残基飽和変異ライブラリーの作製
前述したように選択した変異体であるF12、N116残基をチロシン、アスパラギン酸以外の他の残基に置換し、活性に及ぼす影響を確認するために、2つの残基の飽和変異ライブラリーを作製した。
【0114】
pBE-S-TAPを鋳型とし、配列番号11及び12のプライマー、配列番号13及び14のプライマーをそれぞれ用いて2つのPCR fragmentを得て、In-Fusion HD cloning kitでライゲーションし、その後DH5αに形質転換してコロニーを得た。得られたコロニーからプラスミドを精製し、約4×10サイズのライブラリーを確保した。
【0115】
【表7】
【0116】
実施例3-2:飽和変異ライブラリーのスクリーニング及び活性評価
実施例3-1で作製した飽和変異ライブラリーは、実施例1-2と同様にスクリーニングを行った。スクリーニングにより、F12YN116D変異体に比べて活性が同等又は増加した変異体を選択し、その変異体に対して配列分析及びSuc-AAPF-pNAを基質とした活性評価を行った。
【0117】
【表8】
【0118】
確認したところ、F12、N116残基は、実施例2で確認されたチロシン、アスパラギン酸以外にも、F12S、F12A、F12R、N116S、N116T、N116Gなどの他のアミノ酸に置換されても活性が増加する結果を示した。
【0119】
よって、F12、N116の残基は、セリンプロテアーゼ酵素活性に重要な残基であり、それを他のアミノ酸に置換することにより酵素活性が増加することが確認されたので、本出願のセリンプロテアーゼ変異体は、酵素活性を増加されて産業的に有用に用いることができる。
【0120】
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
図1
【配列表】
2023504807000001.app
【国際調査報告】