(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-07
(54)【発明の名称】エテルカルセチド中間体及びエテルカルセチドの合成方法
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20230131BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230131BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20230131BHJP
【FI】
C07K7/00
A61P43/00 111
A61K38/08
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533637
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 CN2019129440
(87)【国際公開番号】W WO2021109297
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】201911217130.X
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519153006
【氏名又は名称】アシムケム ラボラトリーズ (ティエンジン) カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ASYMCHEM LABORATORIES (TIANJIN) CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,ジウユアン
(72)【発明者】
【氏名】マット,ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】リー,チャンフェン
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ルータオ
(72)【発明者】
【氏名】バラスブラマニアン,アルムガム
(72)【発明者】
【氏名】レイ,シャオロン
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,ジーリー
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA17
4C084NA20
4C084ZC412
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045DA30
4H045EA30
4H045FA52
4H045GA21
(57)【要約】
本発明はエテルカルセチド中間体及びエテルカルセチドの合成方法を開示する。当該エテルカルセチド中間体はFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHであり、エテルカルセチド中間体の合成方法は次のステップを含む。N-Boc-L-Cys-OtBuを出発原料として、置換反応によって一次生成物(A)を生成し、式中、RはS-Py又はClであり、一次生成物がFmoc-D-Cys-OHアミノ酸とカップリング反応してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。当該重要中間体をエテルカルセチドの合成に用いると純度及び収率を高めることができ、そして重要なのは、当該重要中間体の合成原料が安価で入手しやすく、プロセスがシンプルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エテルカルセチド中間体の合成方法であって、前記エテルカルセチド中間体はFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHであり、前記エテルカルセチド中間体の合成方法は、下記のステップを含むことを特徴とする、合成方法。
N-Boc-L-Cys-OtBuを出発原料として、置換反応によって一次生成物
を生成し、式中、RはS-Py又はClであり、前記一次生成物がFmoc-D-Cys-OHアミノ酸とカップリング反応して前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。
【請求項2】
前記一次生成物はPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuであり、前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは、
N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンの置換反応により一次生成物Py-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを合成するステップと、
前記Py-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuとFmoc-D-Cys-OHのカップリングにより前記Fmoc-D-Cys-(S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBu)-OHを得るステップとで得ることを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項3】
前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは、
室温下で、N-Boc-L-Cys-OtBu及びジチオジピリジンを溶媒Aに加えて、6~12時間攪拌し、その後、水を加えて、抽出剤を使用して抽出し、得た有機相を乾燥及び濾過し、精製してPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを得るステップと、
溶媒BにFmoc-D-Cys-OH及びPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを加え、温度を15~30℃にして0.5~2時間攪拌して反応させ、反応系を水洗、濃縮及び精製して前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得るステップとで得、
前記溶媒AはDMF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれ、
前記抽出剤はEtOAc、MTBE及びDCMのうちの1種又は複数種から選ばれ、
前記溶媒BはDCM、DMF、THF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれることを特徴とする請求項2に記載の合成方法。
【請求項4】
前記N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンの反応において、N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンのモル比は1:1.2~1:6.4であり、N-Boc-L-Cys-OtBuの前記溶媒Aにおける濃度は0.01~0.3g/mLであり、前記溶媒BにおけるFmoc-D-Cys-OHの濃度は0.01~0.3g/mLであり、Fmoc-D-Cys-OHとPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuのモル比は1:0.8~1.4であることを特徴とする請求項3に記載の合成方法。
【請求項5】
前記一次生成物は(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuであり、前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは、
N-Boc-L-Cys-OtBuとNCSを反応させて(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuを合成するステップと、
(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuとFmoc-D-Cys-OHを反応させてFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得るステップとで得ることを特徴とする請求項1に記載の合成方法。
【請求項6】
前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは、
A. N-Boc-L-Cys-OtBuを溶媒Cに溶解し、温度を0~10℃にして、DIPEAを加え、数回に分けてNCSを加え、4~5時間攪拌し、反応が終了したら、濾過し、洗い流して、濾液を得るステップと、
B.温度を0~10℃にして、Fmoc-D-Cys-OHを前記濾液に加え、DIPEAを加え、反応温度を10~30℃にして、0.5~2時間攪し、反応系を水洗、濃縮及び精製して前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得るステップとで得、
前記溶媒CはDCM、THF、DMF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の合成方法。
【請求項7】
前記ステップAで、N-Boc-L-Cys-OtBuを前記溶媒Cに溶解して濃度0.01~0.3g/mLの溶液を得、DIPEAの添加量はモル基準で2~3eqであり、NCSの添加量は1.1~1.5eqであり、前記ステップBで、Fmoc-D-Cys-OHの添加量は1.1~1.5eqであることを特徴とする請求項6に記載の合成方法。
【請求項8】
エテルカルセチドの合成方法であって、
S1.請求項1~7のいずれか一項に記載のエテルカルセチド中間体の合成方法に従ってFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを合成するステップと、
S2. NH
2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Argと前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを反応させ、その後、Fmocを除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドを得るステップとを含むことを特徴とする合成方法。
【請求項9】
前記S2において、前記NH
2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-ArgはNH
2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドであることを特徴とする請求項8に記載の合成方法。
【請求項10】
前記S2は、
アミノ樹脂を使用して固相合成法でNH
2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドをリンクし、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH、PyBop及びDIPEAを0~5℃下で0~10分間活性化させ、温度を20~30℃にして2~6時間反応させ、反応が終了したらDMFで4~6回洗浄し、10%~20%ピペリジンでFmocを除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドのペプチド樹脂を得ることを含むことを特徴とする請求項8に記載の合成方法。
【請求項11】
Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH:PyBop:DIPEA=3:3~6:3~6の比率であることを特徴とする請求項10に記載の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学合成の技術分野に関し、具体的には、エテルカルセチド中間体及びエテルカルセチドの合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エテルカルセチドはKaiPharmaceuticals,Inc.社によって開発された、副甲状腺ホルモンの分泌を阻害できる新型のカルシウム受容体作動薬である。エテルカルセチドは副甲状腺上のカルシウム感知受容体と結合してそれを活性化させることによって、副甲状腺ホルモンのレベルを低下させることを実現できる。
【0003】
エテルカルセチドは3つのD-アルギニン、2つのD-アラニン、1つのD-アルギニンアミド、1つのL-システイン及び1つのD-システイン(N末端がアセチル基によってブロックされる)から構成され、D-システインとL-システインがジスルフィド結合によってリンクされている(N-acetyl-D-cysteinyl-D-alanyl-D-arginyl-D-arginyl-D-arginyl-D-alanyl-D-Argininamide,disulfide with L-cysteine)。
【0004】
既存の特許はいずれもヘプタペプチドを固相合成し、その後、様々な方法でジスルフィド結合をリンクさせるもので、特にMMTを除去するプロセスを、1%~2%TFA/DCMを使用して15回以上繰り返す必要があるため、非常に操作しにくい。
【0005】
特許2017/114238A1では、液相合成法を採用し、経路が長く、総収率がわずか11%である。特許WO2017/114240A1では、粗ペプチドの純度が81.0%で、不純物が多く、精製後の総収率が30.5%である。特許US2019/0100554A1では、粗ペプチドの純度が低く、複数回の精製を必要とし、総収率が50%である。中国特許CN201811277081では、粗ペプチドの純度が88.2%で、精製後の総収率が57.8%である。つまり、ヘプタペプチドを固相合成してシステインをリンクさせるという従来の方法とその誘導体の合成方法には、粗ペプチドの純度が低く、不純物が多く、精製しにくいなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2017/114238A1号
【特許文献2】国際公開第WO2017/114240A1号
【特許文献3】米国出願公開特許第2019/0100554A1号
【特許文献4】中国特許出願第CN201811277081号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はエテルカルセチド中間体及びエテルカルセチドの合成方法を提供し、当該中間体をエテルカルセチドの合成に用いられ、エテルカルセチドの合成ステップが複雑であるという従来技術の技術的課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための本発明の一態様として、エテルカルセチド中間体の合成方法を提供する。当該エテルカルセチド中間体はFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHであり、構造式Iに示すとおりである。
【0009】
【0010】
エテルカルセチド中間体の合成方法は次のステップを含む。N-Boc-L-Cys-OtBuを出発原料として、置換反応によって一次生成物
を生成し、式中、RはS-Py又はClであり、一次生成物がFmoc-D-Cys-OHアミノ酸とカップリング反応してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。
【0011】
さらに、一次生成物はPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuであり、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンの置換反応により一次生成物Py-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを合成し、そして、Py-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuとFmoc-D-Cys-OHのカップリングによりFmoc-D-Cys-(S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBu)-OHを得る。
【0012】
さらに、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。室温下で、N-Boc-L-Cys-OtBu及びジチオジピリジンを溶媒Aに加えて、6~12時間攪拌し、その後、水を加えて、抽出剤を使用して抽出し、得た有機相を乾燥及び濾過し、精製してPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを得る。溶媒BにFmoc-D-Cys-OH及びPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを加え、温度を15~30℃にして0.5~2時間攪拌して反応させ、反応系を水洗、濃縮及び精製してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。好ましくは、溶媒AはDMF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれる。好ましくは、抽出剤はEtOAc、MTBE及びDCMのうちの1種又は複数種から選ばれる。好ましくは、溶媒BはDCM、DMF、THF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれる。
【0013】
さらに、N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンの反応で、N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンのモル比は1:1.2~1:6.4であり、N-Boc-L-Cys-OtBuの溶媒Aにおける濃度は0.01~0.3g/mLである。溶媒BにおけるFmoc-D-Cys-OHの濃度は0.01~0.3g/mLである。Fmoc-D-Cys-OHとPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuのモル比は1:0.8~1.4である。
【0014】
さらに、一次生成物は(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuであり、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。N-Boc-L-Cys-OtBuとNCSを反応させて(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuを合成し、そして、(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuとFmoc-D-Cys-OHを反応させてFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。
【0015】
さらに、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。A. N-Boc-L-Cys-OtBuを溶媒Cに溶解し、温度を0~10℃にして、DIPEAを加え、数回に分けてNCSを加え、4~5時間攪拌し、反応が終了したら、濾過し、洗い流して、濾液を得る。B.温度を0~10℃にして、Fmoc-D-Cys-OHを濾液に加え、DIPEAを加え、反応温度を10~30℃にして、0.5~2時間攪拌する。反応系を水洗、濃縮及び精製してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。好ましくは、溶媒CはDCM、THF、DMF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれる。
【0016】
さらに、ステップAで、N-Boc-L-Cys-OtBuを溶媒Cに溶解して濃度0.01~0.3g/mLの溶液を得、DIPEAの添加量はモル基準で2~3eqであり、NCSの添加量は1.1~1.5eqである。ステップBで、Fmoc-D-Cys-OHの添加量は1.1~1.5eqである。
【0017】
本発明の別の態様として、エテルカルセチドの合成方法を提供する。当該合成方法は次のステップを含む。S1.上記のいずれかのエテルカルセチド中間体の合成方法でFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを合成する。S2. NH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-ArgとFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを反応させ、その後、Fmocを除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドを得る。
【0018】
さらに、S2で、NH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-ArgはNH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドである。
【0019】
さらに、S2は次を含む。アミノ樹脂を使用して固相合成法でNH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドをリンクし、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH、PyBop及びDIPEAを0~5℃下で0~10分間活性化させ、温度を20~30℃にして2~6時間反応させ、反応が終了したらDMFで4~6回洗浄し、10%~20%ピペリジンでFmocを除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドのペプチド樹脂を得る。
【0020】
さらに、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH:PyBop:DIPEA=3:3~6:3~6の比率である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の技術案を用いて、重要中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを合成し、さらにエテルカルセチドを合成することによって、ペプチド鎖にジスルフィド結合を構築する時の副反応を避け、操作を簡素化し、エテルカルセチドの合成に用いると、純度及び収率を高めることができ、そして重要なのは、当該中間体の合成原料が安価で入手しやすく、プロセスがシンプルである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
本願の一部を構成する添付の図面は本発明の一層の理解に供するもので、本発明の例示的な実施例とその説明は、本発明を不適切に限定するものではなく、本発明を解釈するためのものである。
【
図1】
図1は実施例1のFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHの純度スペクトルを示す。
【
図2】
図2は実施例1の中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHのLCMSスペクトル(LC-MS:m/z=617.9(M-1,30ev),1235.7(2M-1,30ev))を示す。
【
図3】
図3は実施例3で分取精製後のエテルカルセチドの純度スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
なお、矛盾しない限り、本願の実施例と実施例の特徴を組み合わせることができる。以下、図面を参照し実施例と結び付けて本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明で使用する略語とその解釈は次のとおりである。
Fmoc:9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基。
Boc:tert-ブトキシカルボニル基。
tBu:tert-ブチル基。
Arg:アルギニン。
Cys:システイン。
Ala:アラニン。
PyBop:ヘキサフルオロリン酸(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウム。
DIPEA:N,N-ジイソプロピルエチルアミン。
DCM:ジクロロメタン。
NCS:N-クロロスクシンイミド。
DMF:N,N-ジメチルホルムアミド。
NMP:N-メチルピロリドン。
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド。
THF:テトラヒドロフラン。
OtBu:tert-ブトキシ基。
EtOAc:酢酸エチル。
【0025】
エテルカルセチドの合成で最も重要なのはジスルフィド結合の合成である。当該ステップの収率は最終的に経路全体の収率に直接的な影響を与える。本願の発明者らは、重要中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH(N-フルオレニルホルミル-D-システイン-S-S-(N-tert-ブトキシカルボニル-L-システインtert-ブチル))の合成で事前にジスルフィド結合を合成すると固相反応効率が低く収率が悪いという問題を避けられることを発見した。
【0026】
本発明の典型的な実施形態として、エテルカルセチド中間体の合成方法を提供する。エテルカルセチド中間体はFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHであり、エテルカルセチド中間体の合成方法は次のステップを含む。N-Boc-L-Cys-OtBuを出発原料として、置換反応によって一次生成物
を生成し、式中、RはS-Py又はClであり、一次生成物がFmoc-D-Cys-OHアミノ酸とカップリング反応してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。
【0027】
本発明の技術案を用いて、重要中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを合成し、そしてエテルカルセチドを合成するのは、ペプチド鎖にジスルフィド結合を入れる時の副反応を避け、操作を簡素化し、エテルカルセチドの合成に用いると純度と収率を高めることができ、そして重要なのは、当該重要中間体の合成原料が安価で入手しやすく、プロセスがシンプルである。
【0028】
本発明の典型的な実施形態では、一次生成物はPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuであり、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンを反応させてPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを合成し、そして、Py-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuとFmoc-D-Cys-OHのカップリングによりFmoc-D-Cys-(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。重要なのは、当該中間体の合成原料が安価で入手しやすく、プロセスがシンプルである。
【0029】
好ましくは、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。室温下で、(N-Boc)-L-Cys-OtBu及びジチオジピリジンを溶媒Aに加え、6~12時間攪拌し、その後、水を加えて、抽出剤を使用して抽出し、得た有機相を乾燥及び濾過し、精製してPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを得る。溶媒BにFmoc-D-Cys-OH及びPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuを加え、温度を15~30℃にして0.5~2時間攪拌して反応させ、反応系を水洗、濃縮及び精製してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。好ましくは、溶媒AはDMF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれる。好ましくは、抽出剤はEtOAc、MTBE及びDCMのうちの1種又は複数種から選ばれる。好ましくは、前記溶媒BはDCM、DMF、THF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれる。
【0030】
原料の利用率を高め、反応が高速で効果的に行われること保証するために、好ましくは、N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンの反応で、N-Boc-L-Cys-OtBuとジチオジピリジンのモル比は1:1.2~1:6.4であり、(N-Boc)-L-Cys-OtBuの溶媒Aにおける濃度は0.01~0.3g/mLである。溶媒BにおけるFmoc-D-Cys-OHの濃度は0.01~0.3g/mLである。Fmoc-D-Cys-OHとPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBuのモル比は1:0.8~1.4である。
【0031】
本発明の典型的な実施形態では、一次生成物は(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuであり、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。N-Boc-L-Cys-OtBuとNCSを反応させて(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuを合成し、そして、(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBuとFmoc-D-Cys-OHを反応させてFmoc-D-Cys-(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。
【0032】
好ましくは、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHは次のステップより得る。A. (N-Boc)-Cys-OtBuを溶媒Cに溶解し、温度を0~10℃にして、DIPEAを加え、数回に分けてNCSを加え、4~5時間攪拌し、反応が終了したら、濾過し、洗い流して、濾液を得る。B.温度を0~10℃にして、Fmoc-D-Cys-OHを濾液に加え、DIPEAを加え、反応温度を10~30℃にして、0.5~2時間攪拌する。反応系を水洗、濃縮及び精製してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを得る。好ましくは、前記溶媒CはDCM、THF、DMF、NMP及びDMAcのうちの1種又は複数種から選ばれる。
【0033】
原料の利用率を高め、反応が高速で効果的に行われること保証するために、好ましくは、ステップAで、(N-Boc)-L-Cys-OtBuを溶媒Cに溶解して濃度0.01~0.3g/mLの溶液を得、DIPEAの添加量はモル基準で2~3eqであり、NCSの添加量は1.1~1.5eqである。前記ステップBで、Fmoc-D-Cys-OHの添加量は1.1~1.5eqである。
【0034】
本発明の典型的な実施形態として、エテルカルセチドの合成方法を提供する。当該合成方法は次のステップを含む。S1.上記のいずれかのエテルカルセチド中間体の合成方法に従ってFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを合成する。S2. NH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Argと前記Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを反応させ、その後、Fmocを除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドを得る。
【0035】
重要中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHの原料が安価で入手しやすく、プロセスがシンプルであるため、本発明のエテルカルセチドの合成方法は原料が安価で入手しやすく、プロセスがシンプルである。
【0036】
好ましくは、S2で、NH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-ArgはNH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドである。好ましくは、S2は次を含む。アミノ樹脂を使用して固相合成法でNH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドをリンクし、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH、PyBop及びDIPEAを0~10℃下で0~10分間活性化させ、温度を20~30℃にして2~6時間反応させ、反応が終了したらDMFで6回洗浄し、10%~20%ピペリジンでFmocを除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドのペプチド樹脂を得る。好ましくは、Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH:PyBop:DIPEA=3:3~6:3~6の比率である。
【0037】
以下、実施例と結び付けてさらに本発明の有益な効果について説明する。
【0038】
実施形態の合成経路は次のとおりである。
【0039】
【0040】
(実施例1)
R=S-Py
N-Boc-L-Cys-OtBu(Cpd1)を原料として、ジチオジピリジンと反応してPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBu(Cpd2a)を合成し、Py-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBu(Cpd2a)とFmoc-D-Cys-OHのカップリングによりFmoc-D-Cys-(S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBu)-OH(Cpd3)を得た。
【0041】
ステップ1:
室温下で、Cpd1(1.6g、1.0eq)及び2,2-dithiodipyridne(2,2-ジチオジピリジン、5.1g、4.0eq)をDMF(16mL、10vol.)に加えた。反応系を室温下で6~12時間攪拌した。その後、反応系に水を加えた。酢酸エチル(100mL×3)で抽出した。有機相を合わせてMgSO4で乾燥し、濾過した。有機相を濃縮して粗Cpd2aを得、カラムクロマトグラフィーにより精製して純粋なPy-S-S-(N-Boc)-L-Cys-OtBu(Cpd2a)を得た。
【0042】
ステップ2:
15~30℃下で、DCM(30mL、30vol.)にFmoc-D-Cys-OH(1.0g、1.0eq.)を加え、その後、Cpd2a(1.13g、1.0eq.)を反応系に加えた。温度を15~30℃にして0.5~2時間攪拌して反応させた。反応系を3回水洗し、濃縮して粗Cpd3を得た。カラムクロマトグラフィーにより純粋なFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys-(OtBu))-OH(Cpd3)を得た。
【0043】
図1は精製後のCpd3の純度スペクトルを示す。
図2は精製後のCpd3のLCMSスペクトルを示す。
(実施例2)
R=Cl
N-Boc-L-Cys-OtBu(Cpd1)を原料として、NCSと反応して(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBu(Cpd2b)を合成し、(N-Boc)-L-Cys(S-Cl)-OtBu(Cpd2b)がFmoc-D-Cys-OHと反応してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys-(OtBu))-OH(Cpd3)を得た。
【0044】
ステップ1:
(N-Boc)-Cys-OtBu(0.28g、0.1mmol)をDCM(20mL)に溶解し、攪拌して温度を0~10℃にして、DIPEA(0.19g、0.15mmol)を加えた。温度を0~10℃にして数回に分けてNCS(0.15g、1.1eq)を加えた。反応を保温して4~5時間攪拌し、HPLCにより反応の終了を検出した。反応が終了したら、濾過した。フィルターケーキをDCM(20mL)で洗い流した。濾液を合わせてそのまま次のステップに使用した。
【0045】
ステップ2:
温度を0~10℃にして、Fmoc-D-Cys-OH(0.34g、0.1mmol)をステップ1の濾液に加えた。DIPEA(0.15g、1.1eq)を反応系に滴加した。反応温度を10~30℃にして、0.5~2時間攪拌した。反応系を3回水洗し、濃縮して粗Cpd3を得た。カラムクロマトグラフィーにより純粋なFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys-(OtBu))-OH(Cpd3)を得た。
【0046】
精製後のCpd3のLCMSスペクトルは
図2に示すとおりである。
(実施例3)
重要中間体を使用してエテルカルセチドを合成する。
【0047】
アミノ樹脂(Sieber樹脂、Rink Amide MBHA、Rink Amide樹脂を含み、ただしそれらに限定されない)を使用して、固相合成法でNH2-D-Ala-D-Arg-D-Arg-D-Arg-D-Ala-D-Arg-樹脂ヘキサペプチドをリンクして、重要中間体を使用してFmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OH:PyBop:DIPEA=3:3:3の比率で0~5℃下で0~5分間活性化させ、温度を20~30℃にして2~6時間反応させ、kaiserで反応の終了を検出した。反応が終了したらDMFで6回洗浄し、20%ピペリジンでFmoc除去し、アセチル化を経てエテルカルセチドのペプチド樹脂を得た。切断後の粗ペプチドの純度は90.3%で、分取精製した後、純度は99.51%で、総収率は65%であった。
【0048】
エテルカルセチドの重要中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHの新規開発の合成プロセスを参照して、システイン100gを出発原料として、最終的に重要中間体357gが合成された。当該中間体を使用して実施例3に従ってエテルカルセチドを合成し、分取精製した後、純粋な生成物227g(TFA塩)を得た。純度は99.51%で(
図3)、総収率は65%であった。
【0049】
上記の説明から、本発明の上記の実施例は次の技術的効果を実現していることが明らかになった。本願ではまずエテルカルセチドの重要中間体Fmoc-D-Cys(S-S-(N-Boc)-L-Cys(OtBu))-OHを合成し、当該中間体を使用してエテルカルセチドを合成し、分取精製した後、純度は99.51%に達し(
図3)、収率は73%であった。従来の合成プロセスではポリペプチド鎖間のジスルフィド結合がミスマッチする反応が存在し、副反応と副生成物の種類が多いという問題を解決している。
【0050】
上述した説明は本発明を限定するものではなく、本発明の好ましい実施例に過ぎず、当業者は、本発明に様々な修正と変更を行うことができる。本発明の趣旨を逸脱せず、修正、同等な置き換え、改善などを行う場合は、そのいずれも本発明の保護範囲に含まれる。
【国際調査報告】