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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】抗TIRC7抗原結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230201BHJP
   C07K 16/40 20060101ALI20230201BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230201BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230201BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230201BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230201BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20230201BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20230201BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K16/40 ZNA
C07K19/00
C07K16/46
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K39/395 U
A61P19/02
A61P37/02
A61P37/04
A61P1/16
A61P11/00
A61P5/14
A61P29/00
A61P27/02
A61P13/12
A61P17/00
A61P43/00
A61K48/00
A61P9/00
A61K35/17 Z
C07K14/705
C07K16/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022519994
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2020077422
(87)【国際公開番号】W WO2021073877
(87)【国際公開日】2021-04-22
(31)【優先権主張番号】19200324.2
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519046694
【氏名又は名称】ネコナル エス.ア.エール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】ウツク,ナラン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA33
4C084ZA36
4C084ZA59
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZB07
4C084ZB08
4C084ZB11
4C084ZC06
4C084ZC54
4C085AA14
4C085BB11
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZB07
4C087ZB08
4C087ZB11
4C087ZC06
4C087ZC54
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、新規のヒトT細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)抗原結合タンパク質、例えば、TIRC7への結合親和性及び/又は活性が改善された抗体を提供する。本発明のTIRC7抗体は、親TIRC7抗体の変異によって作製され、様々な細胞実験において試験された。本発明はまた、本発明の抗原結合タンパク質、それらをコードする核酸、並びにそれらを発現させるためのベクター及び宿主細胞を作製するための方法にも関する。本発明はさらに、自己免疫疾患、癌疾患又は他の免疫関連疾患、例えば、細胞性免疫応答が関わる疾患などの疾患を、本発明の抗TIRC7抗原結合タンパク質(ABP)を用いて処置又は診断する方法に関する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)であって、
(i)配列番号01の相補性決定領域(CDR)H1(GYTFTTYV)、配列番号02のCDRH2(INPYNDGT)及び配列番号03のCDRH3(AEFITKTVGGSNWYLDV)を含むか、又は各場合において独立して、前記CDRH1、CDRH2及び/又はCDRH3が、それぞれ配列番号01、配列番号02又は配列番号03と比べて1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域と、
(ii)配列番号05のCDRL1(SSISY)、配列番号06のCDRL2(DTS)及び配列番号07のCDRL3(HQRSSYTWT)を含むか、又は各場合において独立して、CDRL1、CDRL2及び/又はCDRL3が、それぞれ配列番号05、配列番号06又は配列番号07と比べて1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域とを含み、
前記重鎖可変領域は、配列番号29のアミノ酸配列と比べて10個以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む配列を含むことを特徴とする、抗原結合タンパク質。
【請求項2】
前記1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域及び前記1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域リュ尾がそれぞれ、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部を有する抗体フレームワークを含む、請求項1に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項3】
前記重鎖可変領域内において、前記10個以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失が、フレームワーク(FR)3領域内ではないか、又は好ましくは、前記重鎖可変領域FR3が、配列番号29に示されているFR3と同一である、請求項1又は2に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項4】
前記1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域が、配列番号03の配列(AEFITKTVGGSNWYLDV)を有するCDR3を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項5】
免疫細胞と接触したとき、免疫細胞の活性化及び/又は増殖を抑制し、好ましくは、T細胞の活性化及び/又は増殖を抑制又は低減し、及び/又はT細胞と接触したとき、T細胞媒介性のインターフェロン-γ放出を低減する、請求項1~4のいずれか1項に記載のABP。
【請求項6】
エフェクター基を含む、及び/又は標識されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項7】
Fcレセプター結合が減弱している、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項8】
単離された、且つ/又は実質的に純粋な、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項9】
モノクローナル抗体などの抗体であるか、又はモノクローナル抗体のフラグメントなどの抗体フラグメントである、請求項1~8のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項10】
前記抗原結合タンパク質が、IgG、IgE、IgD、IgA又はIgM免疫グロブリンであり、好ましくは、IgG免疫グロブリンである、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項11】
Fab、Fab’-SH、Fv、scFv及びF(ab’)2からなるリストから選択される抗体フラグメントである、請求項1~10のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項12】
キメラ抗原レセプター(CAR)である、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項13】
前記TIRC7以外の抗原、例えば、哺乳動物T細胞上に存在する抗原、最も好ましくは、ヒトCD3又はヒトT細胞レセプター(TCR)に結合する1つ以上のさらなる抗原結合ドメインを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項14】
二重特異性であり、好ましくは、TIRC7に結合する1つ又は2つの結合部位、及び前記TIRC7以外の抗原、例えば、哺乳動物T細胞上に存在する抗原、最も好ましくは、ヒトCD3又はヒトTCRに結合する1つ又は2つの結合部位を含む、請求項13に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項15】
表面プラズモン共鳴によって測定したときTIRC7の細胞外ドメインに100pM未満、好ましくは、50pM未満のKで結合する、請求項1~14のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質。
【請求項16】
ヒトTIRC7に結合することができ、TIRC7への請求項1~14のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質の結合と競合することができる、抗原結合タンパク質(ABP)又はその抗原結合フラグメント。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質又は抗原結合タンパク質の抗原結合フラグメントもしくはモノマー、例えば、重鎖もしくは軽鎖をコードする配列を含む、単離された核酸。
【請求項18】
請求項17に記載の核酸、及びコードされる抗原結合タンパク質又は前記抗原結合タンパク質の構成要素(例えば、抗体の重鎖又は軽鎖)の発現を(宿主)細胞において可能にする1つ以上のさらなる配列特徴を含む、核酸構築物(NAC)。
【請求項19】
請求項17に記載の核酸又は請求項18に記載のNACを含む、組換え宿主細胞。
【請求項20】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であるか、又はヒト免疫細胞である、請求項19に記載の組換え宿主細胞。
【請求項21】
(i)請求項1~16のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、又は(ii)請求項17に記載の核酸もしくは請求項18に記載の核酸構築物、又は(iii)請求項19もしくは20に記載の組換え宿主細胞、並びに薬学的に許容され得るキャリア、安定剤及び/又は賦形剤を含む、薬学的組成物。
【請求項22】
医薬において使用するための構成要素であって、前記構成要素は、請求項1~16のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質、請求項17に記載の単離された核酸又は請求項18に記載の核酸構築物、請求項19又は20に記載の組換え宿主細胞、及び請求項21に記載の薬学的組成物からなるリストから選択される、構成要素。
【請求項23】
前記構成要素が、被験体の細胞性免疫応答を調節する使用のためである、請求項22に記載の使用するための構成要素。
【請求項24】
前記免疫応答の調節が、細胞性免疫応答の阻害である、請求項23に記載の使用するための構成要素。
【請求項25】
細胞性免疫応答の前記阻害が、リンパ球などの免疫細胞の増殖の阻害であり、且つ/又はリンパ球などの免疫細胞におけるサイトカイン発現の阻害である、請求項24に記載の使用するための構成要素。
【請求項26】
細胞性免疫応答の前記阻害が、エフェクターメモリーT細胞の増殖/活性の低減及び/又は制御性T細胞(TREG)の増殖/活性の増大である、請求項24又は25に記載の使用するための構成要素。
【請求項27】
前記使用が、病的な免疫応答を処置するためであり、好ましくは、炎症性疾患、自己免疫疾患、同種移植片拒絶(移植片対宿主病)の処置において使用するためである、請求項22~26のいずれか1項に記載の使用するための構成要素。
【請求項28】
ヒトTIRC7を発現するヒト細胞における細胞性免疫応答を調節する方法であって、前記細胞をT細胞などの免疫細胞の存在下において請求項22に記載の構成要素と接触させ、それにより、前記細胞性免疫応答を調節する、好ましくは、阻害することを含む、方法。
【請求項29】
被験体の病的な免疫応答に関連する疾患を予防及び/又は処置するための方法であって、治療有効量の請求項1~16のいずれか1項に記載の抗原結合タンパク質を前記被験体に投与することを含み、病的な免疫応答に関連する前記疾患は、前記病的な免疫応答に関わる細胞におけるTIRC7の発現及び/又は活性を特徴とする、方法。
【請求項30】
前記病的な免疫応答が、細胞性免疫応答、好ましくは、T細胞媒介性免疫応答である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記疾患が、乾癬性関節炎、移植片対宿主病、自己免疫性肝炎、原発性硬化性胆管炎、原発性胆汁性肝硬変、IgG4関連自己免疫疾患、線維性疾患、例えば、肺線維症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、バセドウ病、ブドウ膜炎又は尿細管間質性腎炎を伴うブドウ膜炎、脈管炎、慢性疲労症候群及び全身性強皮症から選択される自己免疫疾患などの自己免疫疾患である、請求項29又は30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TIRC7への結合親和性及び/又は活性が改善された新規のヒトT細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)抗原結合タンパク質、例えば抗体を提供する。本発明のTIRC7抗体は、親TIRC7抗体の変異によって作製され、様々な細胞実験において試験された。本発明はまた、本発明の抗原結合タンパク質、それらをコードする核酸、並びにそれらを発現させるためのベクター及び宿主細胞を作製するための方法にも関する。本発明はさらに、自己免疫疾患、癌疾患又は他の免疫関連疾患、例えば、細胞性免疫応答が関わる疾患などの疾患を、本発明の抗TIRC7抗原結合タンパク質(ABP)を用いて処置又は診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜タンパク質であるT細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)は、同種抗原によって活性化されたヒト末梢血リンパ球におけるディファレンシャルディスプレイによって同定され、その活性化プロセスの初期において一過性にアップレギュレートされた[1,2,3,4]。抗TIRC7抗体は、臓器の拒絶反応を予防すること及び腎臓の同種移植片の生存時間を延長することが示された[1]ことから、TIRC7が、臓器移植及び他の自己免疫疾患の状況における望まれない(細胞性)免疫応答を抑制するための新規の標的になり得ることが示唆された。
【0003】
TIRC7遺伝子は、15個のエクソンから構成され、全長が7.9kbであり、染色体11q13.4からq13.5に局在化している[5]。T細胞活性化に関わるどの公知のタンパク質ともアミノ酸の相同性は関連付けられていない。TIRC7は、免疫受容抑制性チロシンモチーフを含み、このことは、免疫系において阻害性の役割を示し得る[6]。リンパ球において発現される現在同定されている共刺激分子のほとんどが、免疫グロブリンスーパーファミリー又はTNFレセプタースーパーファミリーに属する。したがって、TIRC7の予測される複数回貫通の膜貫通構造及び非定型の細胞外C末端は、特有のものであるとみられる。
【0004】
TIRC7は、刺激されていないT及びBリンパ球のサブセット(それぞれ5~10%及び10~40%)[14]、並びに単球(30~90%)の、細胞膜に及び細胞内コンパートメント内に存在する。T細胞の活性化の後、30分以内にTIRC7の細胞表面発現が増加し、2時間以内に最高レベルに達する[15]。細胞の活性化の前、TIRC7の発現は、リンパ球の細胞表面と比べて細胞内コンパートメントにおいておよそ100倍高い。細胞刺激の後、細胞表面でのタンパク質発現が最大になるのと同時に、TIRC7の細胞内レベルは低下し、細胞内と細胞外の両方の発現が6時間以内にコントロールレベルに戻る。これらの結果は、TIRC7が、予め形成されたタンパク質として細胞内コンパートメントに存在し、T細胞が活性化されたとき、細胞表面に転位し、その後、細胞質の貯蔵所に戻ることを示す。クラスリンで覆われたベシクルが、TIRC7輸送の潜在的なビヒクルとして特定された[15]。免疫シナプスに局在する他のT細胞活性化関連分子と同様に[16-20]、TIRC7は、抗原活性化の際に活性化プロテインC結合部位に集中し、細胞内TIRC7が抗原結合部位に向かって有向で移動することと、細胞表面におけるTIRC7の再配向とが平行して起きる[15]。これらのデータは、TIRC7が、予め形成された状態で細胞内コンパートメントの中に存在し、免疫活性化の数分以内に細胞表面に移動するので、それがさらなる下流のシグナルを制御する初期のシグナル伝達事象に関わることを示唆している。
【0005】
活性化の際の細胞膜での早期の発現とともに、リンパ球サブセット間のTIRC7の分布パターンは、CD40L、CD3、CD4又は細胞傷害性Tリンパ球抗原(CTLA)-4などの治療的介入に使用される他の共刺激分子と異なる。これらのタンパク質は、T細胞上(CD3、CD4、CD40L)又はB細胞上(CD20、CD40)にもっぱら且つ恒常的に発現されるか、又は免疫活性化の24時間後に細胞表面上に見られる(CTLA-4)[20]。したがって、TIRC7は、活性化後の免疫細胞に提供される最初の負の制御シグナルである可能性がある。抗TIRC7抗体は、T細胞の表面上にCTLA-4を早く誘導し、マイトジェン又は同種抗原で刺激されたヒト末梢血リンパ球の増殖の有意な阻害を示し、tbetに続いてIFNγ、IL6、IL12及びIL-2(Tヘルパー細胞型1[Th1]及び[Th17]サイトカインに相当する)(Frischer et al.2016)の強力な阻害を用量依存的様式で引き起こしたのに対し、IL-4又はIL-10の抑制は観察されなかった。したがって、TIRC7抗体の標的化は、炎症関連サイトカイン、並びにTh1及びTh17を制御する主要な転写因子としてのt-betの選択的な阻害をもたらす。組換えIL-2を培養物に添加したとき、増殖の阻害が逆転した。ゆえに、細胞が再刺激に応答するとき、TIRC7の標的化は、アネルギーをもたらした。しかしながら、IFNγ発現は、部分的にしか消失しなかったことから、TIRC7mAbが、安定した区別されたサイトカイン阻害を誘導することができることが示された。
【0006】
アゴニスト性の抗TIRC7抗体を用いた研究から生成されたデータは、TIRC7の抗増殖性効果及び抗炎症効果を理由に、リンパ球の機能におけるTIRC7の負の調節的役割を割り当てた[14]。この抗体は、特にCD4+細胞の増殖を減少させると示された。アゴニスト性の抗TIRC7mAbのIC50値は、リンパ球とのインキュベーションの前にそのmAbを架橋することによって有意に低下した。さらに、抗TIRC7mAbは、増殖アッセイにおいてFabフラグメントを使用したとき、負のシグナル伝達特性を失うことから、抗TIRC7抗体のアゴニスト性の役割が示された。さらに、TIRC7欠損細胞は、様々な抗原に対して有意な過剰増殖性のT及びB細胞応答を示した[23]ことから、リンパ球の機能におけるTIRC7の負の調節的役割の仮説が裏付けられた。より重要なことには、エフェクターメモリーT細胞の集団は、TIRC7ノックアウトマウスにおいて有意に増加したが、CTLA-4発現は低下した。したがって、TIRC7は、他の公知のチェックポイント阻害剤の上流の細胞表面において、そのリガンドであるHLADRアルファ2への結合を介して負のシグナルを誘導するチェックポイント阻害剤として作用する。
【0007】
世界中の数百万人が自己免疫疾患に罹患している。80を超える自己免疫疾患が知られており、それらには、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬、狼瘡、クローン病及びI型糖尿病、並びにさらに多くのものが含まれる。多発性硬化症(MS)は、西洋の集団において約1000人に1人が罹患し、ミエリンタンパク質、例えば、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、リン脂質タンパク質(PLP)又はミエリン乏突起膠細胞タンパク質(MOG)に対して自己反応性のT細胞の拡大に起因すると考えられている(Stern et al.2008 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 105:5172-5176)。免疫応答の制御において役割を果たす細胞には、制御性T細胞が含まれる。多発性硬化症と1型糖尿病の両方を含むいくつかの自己免疫疾患は、制御性T細胞の数又は機能の不足と関連する(Astier,A.L.and Hafler,D.A.2007,J.Neuroimmunol.191(l-2):70-78)ので、T細胞で発現されるタンパク質が様々な免疫学的障害に対する興味深い治療標的となる。
【0008】
上記のことに基づくと、細胞性免疫、例えば、好ましくはT細胞媒介性の免疫応答だけでなくB細胞媒介性及び単球媒介性の免疫応答に関連する免疫疾患に特に対処する治療用抗体が本分野で必要とされている。ゆえに、上記で概説したような問題のうちの少なくとも1つに対処する改善された治療用のABP、ゆえにABPを標的化するヒト化されたTIRC7タンパク質が必要とされている。今日まで、抗TIRC7抗体のヒト化バリアントの提供は未だ対処されず必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
概して、また、簡単な説明として、本発明の主な態様は、以下のとおり説明することができる。
【0010】
第1の態様において、本発明は、ヒトT細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)に関し、この抗原結合タンパク質は、
(i)配列番号01のCDRH1(GYTFTTYV)、配列番号02のCDRH2(INPYNDGT)及び配列番号03のCDRH3(AEFITKTVGGSNWYLDV)を含むか、又は各場合において独立して、そのCDRH1、CDRH2及び/又はCDRH3が、それぞれ配列番号01、配列番号02又は配列番号03と比べて3つ又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域、及び
(ii)配列番号05のCDRL1(SSISY)、配列番号06のCDRL2(DTS)及び配列番号07のCDRL3(HQRSSYTWT)を含むか、又は各場合において独立して、CDRL1、CDRL2及び/又はCDRL3が、それぞれ配列番号05、配列番号06又は配列番号07と比べて3つ又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域
を含み、
(i)その1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域及びその1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域はそれぞれ、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部を有する抗体フレームワーク領域を含み、且つ/又は(ii)第1の態様のABPは、その重鎖可変ドメインが、配列番号29に示されている配列と比べて10個以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む配列を含むことを特徴とする、ことを特徴とする。
【0011】
第2の態様において、本発明は、TIRC7に結合することができ、TIRC7への第1の態様のABPの結合と競合することができる、抗原結合タンパク質(ABP)又はその抗原結合フラグメントに関する。
【0012】
第3の態様において、本発明は、第1もしくは第2の態様のABP又はABPの抗原結合フラグメントもしくはモノマー(例えば、重鎖又は軽鎖)をコードする配列、又は第3の態様に記載の二重特異性ABPをコードする配列を含む、単離された核酸に関する。
【0013】
第4の態様において、本発明は、第4の態様の核酸、及びコードされる抗原結合タンパク質(ABP)又は前記ABPの構成要素(例えば、抗体の重鎖又は軽鎖)の発現を細胞において可能にする1つ以上のさらなる配列特徴を含む核酸構築物(NAC)に関する。
【0014】
第5の態様において、本発明は、第3の態様の核酸又は第2の態様に記載の核酸構築物(NAC)を含む組換え宿主細胞に関する。
【0015】
第6の態様において、本発明は、(i)第1もしくは第2の態様の抗原結合タンパク質(ABP)、又は(ii)第3の態様の核酸もしくは第4の態様のNAC、又は(iii)第5の態様に記載の組換え宿主細胞、並びに薬学的に許容され得るキャリア、安定剤及び/又は賦形剤を含む薬学的組成物に関する。
【0016】
第7の態様において、本発明は、医薬において使用するための構成要素に関し、その構成要素は、(i)第1もしくは第2の態様の抗原結合タンパク質(ABP)、又は(ii)第3の態様の核酸又は第4の態様のNAC、又は(iii)第5の態様に記載の組換え宿主細胞及び第6の態様に記載の薬学的組成物からなるリストから選択される。
【0017】
第9の態様において、本発明は、ヒトTIRC7を発現するヒト細胞における細胞性免疫応答を調節する方法に関し、その方法は、その細胞をT細胞などの免疫細胞の存在下において第7の態様に記載の構成要素と接触させ、それにより、細胞性免疫応答を調節する、好ましくは阻害することを含む。
【0018】
第10の態様において、本発明は、被験体の病的な免疫応答に関連する障害を予防及び/又は処置するための方法に関し、その方法は、治療有効量の第7の態様に記載の構成要素を被験体に投与することを含み、病的な免疫応答に関連する障害は、その障害に関連する細胞におけるTIRC7の発現を特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、本発明の要素を説明する。これらの要素は、具体的な実施形態とともに列挙されるが、しかしながら、それらは、任意の様式で且つ任意の数で組み合わされて、さらなる実施形態を形成し得ることが理解されるべきである。様々に説明される例及び好ましい実施形態は、明示的に説明された実施形態だけに本発明を限定すると解釈されるべきでない。この説明は、明示的に説明された実施形態の2つ以上を組み合わせる実施形態、又は明示的に説明された実施形態の1つ以上を任意の数の開示される及び/もしくは好ましい要素と組み合わせる実施形態を裏付ける及び包含すると理解されるべきである。さらに、文脈が他のことを示さない限り、本願において説明されるすべての要素の任意の順列及び組み合わせが、本願の説明によって開示されるとみなされるべきである。
【0020】
化合物
第1の態様において、本発明は、配列番号01のCDRH1(GYTFTTYV)、配列番号02のCDRH2(INPYNDGT)及び配列番号03のCDRH3(AEFITKTVGGSNWYLDV)を含むか、又は各場合において独立して、そのCDRH1、CDRH2及び/又はCDRH3が、それぞれ配列番号01、配列番号02又は配列番号03と比べて3つ又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域、並びに配列番号05のCDRL1(SSISY)、配列番号06のCDRL2(DTS)及び配列番号07のCDRL3(HQRSSYTWT)を含むか、又は各場合において独立して、CDRL1、CDRL2及び/又はCDRL3が、それぞれ配列番号05、配列番号06又は配列番号07と比べて3つ又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域を含む、ヒトT細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)を提供する。好ましくは、(i)本発明のABPは、その1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域及びその1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域がそれぞれ、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部を有する抗体フレームワーク領域を含むことを特徴とし得、且つ/又は(ii)第1の態様のABPは、重鎖可変ドメインが、配列番号29に示されている配列と比べて10個以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む配列を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明は、マウス親抗体のCDR領域をヒト抗体の重鎖及び軽鎖のフレームワーク領域に挿入することを意味するCDR移植によって本明細書で初めてヒト化された、抗TIRC抗体(下記の表1に開示されているcAb1457抗体の配列に従うマウス抗TIRC7抗体)のヒト化バージョンに由来する高親和性の有効な新規の抗体構築物も提供する。しかしながら、本発明のABPを得るために、そのヒト化抗体は、可変領域の配列を大幅に変更しなければならなかった。ヒト化プロセス中の様々な問題を克服するためには、フレームワーク3領域における非直観的な(non-intuitive)ヒトからマウスへの復帰突然変異を含む様々な変更が必要であった。最も驚いたことには、本発明の抗体は、ヒト化されているが、少なくとも1桁を超える標的結合親和性の改善を示す。原則として、任意の可変ヒト軽鎖及び/又は可変重鎖が、CDR移植の骨格として働くことができる。本発明のヒト化抗体の例証的な一例において、その抗体の軽鎖のCDR(配列番号5から配列番号7のCDRループを意味する)は、IMGT/LIGMデータベースに寄託されているヒトκ軽鎖配列IGKV1-9(アクセッション番号Z00013)、IGKV3-11(アクセッション番号X01668)、IGKV6-21*01又はIGKV1-17*03の(可変ドメイン)に挿入され得る。Ichiyoshi Y.,Zhou M.,Casali P.A human anti-insulin IgG autoantibody apparently arises through clonal selection from an insulin-specific ‘germ-line’ natural antibody template.Analysis by V gene segment reassortment and site-directed mutagenesis J.Immunol.154(1):226-238(1995)も参照のこと。本発明のヒト化抗体の例証的な別の例では、その抗体の重鎖のCDR(配列番号1から配列番号3のCDRループを意味する)は、IMGT/LIGMデータベースに寄託されている重鎖配列IGHV1-2(アクセッション番号X07448)、IGHV7-4-1*02又はIGHV1-46*01の(可変ドメイン)に含められ得る(Watson C.T.,et al.Complete haplotype sequence of the human immunoglobulin heavy-chain variable,diversity,and joining genes and characterization of allelic and copy-number variation.Am.J.Hum.Genet.92(4):530-546(2013)も参照のこと。
【0022】
本明細書中で使用される用語「抗原結合タンパク質」又は「ABP」は、標的抗原によって提示される又は標的抗原上に存在する1つ以上のエピトープなどの標的抗原に特異的に結合するタンパク質を意味する。本発明のABPの抗原は、TIRC7である。通常、抗原結合タンパク質は、抗体(又はそのフラグメント)であるが、しかしながら、他の形態の抗原結合タンパク質も本発明によって想定される。例えば、ABPは、小さい頑健な非免疫グロブリン「骨格」に由来する別の(非抗体)レセプタータンパク質、例えば、コンビナトリアルタンパク質の設計方法(Gebauer & Skerra,2009;Curr Opin Chem Biol,13:245)を用いることなどによって結合機能が備わったものであってもよい。そのような非抗体ABPの特定の例としては、プロテインAのZドメインに基づくアフィボディ分子(Nygren,2008;FEBS J 275:2668)、結晶性ガンマ-B及び/又はユビキチンに基づくアフィリン(Ebersbach et al,2007;J Mo Biol,372:172)、シスタチンに基づくアフィマー(Johnson et al,2012;Anal Chem 84:6553)、Sulfolobus acidcaldarius由来のSac7dに基づくアフィチン(Krehenbrink et al,2008;J Mol Biol 383:1058)、三重らせんコイルドコイルに基づくアルファボディ(Desmet et al,2014;Nature Comms 5:5237)、リポカリンに基づくアンチカリン(Skerra,2008;FEBS J 275:2677)、様々な膜レセプターのAドメインに基づくアビマー(Silverman et al,2005;Nat Biotechnol 23:1556)、アンキリンリピートモチーフに基づくDARPin(Strumpp et al,2008;Drug Discov Today,13:695)、FynのSH3ドメインに基づくファイノマー(Grabulovski et al,2007;J Biol Chem 282:3196)、様々なプロテアーゼ阻害剤のクニッツドメインに基づくクニッツドメインペプチド(Nixon et al,Curr opin Drug Discov Devel,9:261)、並びにフィブロネクチンの10番目のIII型ドメインに基づくセンチリン(Centyrins)及びモノボディ(Diem et al.,2014;Protein Eng Des Sel 27:419 doi:10.1093/protein/gzuo16;Koide & Koide,2007;Methods Mol Biol 352:95)が挙げられる。
【0023】
本明細書中で使用される用語「相補性決定領域」(又は「CDR」又は「超可変領域」)は、抗体の軽鎖又は重鎖の可変領域に見られる超可変領域又は相補性決定領域(CDR)の1つ以上のことを広く指す。例えば、“IMGT”,Lefranc et al,20003,Dev Comp Immunol 27:55;Honegger & Pluckthun,2001,J Mol Biol 309:657、Abhinandan & Martin,2008,Mol Immunol 45:3832、Kabat,et al.(1987):Sequences of Proteins of Immunological Interest National Institutes of Health,Bethesda,Mdを参照のこと。これらの表現には、Kabat et al(1983)Sequences of Proteins of Immunological Interest,US Dept of Health and Human Servicesによって定義されたような超可変領域、又は抗体の3次元構造における超可変ループ(Chothia and Lesk,1987;J Mol Biol 196:901)が含まれる。各鎖におけるCDRは、フレームワーク領域によって近位に保持され、その他の鎖のCDRとともに、抗原結合部位の形成に寄与する。CDR内には、抗体-抗原相互作用においてCDRが用いる重要な接触残基に相当する選択性決定領域(SDR)と説明されてきた選択されたアミノ酸が存在する(Kashmiri,2005;Methods 36:25)。
【0024】
本明細書中で使用される「ABP」は、免疫グロブリンM、免疫グロブリンG、免疫グロブリンA、免疫グロブリンD又は免疫グロブリンEの対応する天然に存在するドメインと少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約92%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%又は少なくとも約99%の配列同一性を有する配列を有する1つ以上のドメインを有し得る。この点において、本明細書中で使用される用語「約」又は「およそ」は、所与の値又は範囲の20%の偏差以内、例えば、10%の偏差以内又は5%以内を意味することに注意されたい。
【0025】
用語「抗体」とは、一般に、免疫グロブリンに基づくタンパク質性結合分子のことを指す。そのような抗体の典型例は、結合特異性を有する免疫グロブリンの誘導体又は機能的フラグメントである。抗体及び抗体フラグメントを作製するための手法は、本分野で周知である。用語「抗体」には、種々のクラス(すなわち、IgA、IgG、IgM、IgD及びIgE)及びサブクラス(例えば、IgG1、lgG2など)の免疫グロブリン(Ig)も含まれる。上でも述べたように、抗体誘導体又は抗体分子の例証的な例としては、Fabフラグメント、F(ab’)2、Fvフラグメント、一本鎖Fvフラグメント(scFv)、ダイアボディ又はドメイン抗体が挙げられる(Holt LJ et al,Trends Biotechnol.21(11),2003,484-490)。したがって、用語「抗体」の定義には、キメラ抗体、一本鎖抗体及びヒト化抗体などの実施形態も含まれる。
【0026】
本発明において使用される「パーセント(%)配列同一性」は、本発明のポリペプチドの配列と対象の配列の長いほうの配列の残基数を基準とした、これらの2つの配列の相同性アラインメントの後の対の同一残基のパーセンテージを意味する。パーセントアミノ酸配列同一性を求めることを目的としたアラインメントは、本分野の技術範囲内の様々なやり方で、例えば、BLAST、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを用いて、達成され得る。当業者は、比較されている配列の完全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムをはじめとした、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定できる。本明細書中に開示されるヌクレオチド配列にも同じことが当てはまる。
【0027】
「免疫グロブリン」は、本明細書中で使用されるとき、通常、それぞれおよそ25kDaの2本の軽(L)鎖及びそれぞれおよそ50kDaの2本の重(H)鎖から構成されるグリコシル化された四量体タンパク質である。ラムダ及びカッパーと呼ばれる2つのタイプの軽鎖が、免疫グロブリンに見られ得る。重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンは、5つの主要クラスA、D、E、G及びMに割り当てることができ、これらのうちのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2に分けることができる。IgM免疫グロブリンは、5つの基本的なヘテロ四量体単位に加えて、J鎖と呼ばれるさらなるポリペプチドからなり、10個の抗原結合部位を含み、IgA免疫グロブリンは、重合してJ鎖とともに多価集合体を形成し得る2~5個の基本的な4本鎖単位を含む。IgGの場合、その4本鎖単位は、一般に約150,000ダルトンである。
【0028】
免疫グロブリンのIgGクラスでは、重鎖に免疫グロブリンドメインがいくつかある。本明細書中の「免疫グロブリン(Ig)ドメイン」は、異なる三次構造を有する免疫グロブリンの領域を意味する。IgG抗体の状況において、IgGアイソタイプはそれぞれ、3つのCH領域を有する。「CH1」とは、KabatらにおけるようなEUインデックスに従う、118~220位のことを指し、「CH2」とは、237~340位のことを指し、「CH3」とは、341~447位のことを指す。本明細書中の「ヒンジ」又は「ヒンジ領域」又は「抗体ヒンジ領域」又は「免疫グロブリンヒンジ領域」又は「H」は、抗体の第1の定常ドメインと第2の定常ドメインとの間のアミノ酸を含む可動性のポリペプチドを意味する。構造的に、IgG CH1ドメインは、EU220位で終わり、IgG CH2ドメインは、EU237位の残基から始まる。したがって、IgGの場合、ヒンジは、221位(IgG1におけるD221)から236位(IgG1におけるG236)を含むと本明細書中で定義され、ここで、そのナンバリングは、KabatらにおけるようなEUインデックスに従う。本明細書中で定義されるような定常重鎖とは、CH1ドメインのN末端からCH3ドメインのC末端のことを指し、ゆえに118~447位を含み、ここで、ナンバリングは、EUインデックスに従う。
【0029】
用語「可変」とは、その配列の多様性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性の決定に関わる、免疫グロブリンドメインの部分(すなわち、「可変ドメイン」)のことを指す。多様性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均一に分布するのではなく、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の各々のサブドメインに集中する。これらのサブドメインは、「超可変領域」、「HVR」又は「HV」又は「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存された(すなわち、超可変でない)部分は、「フレームワーク」領域(FR)と呼ばれる。天然に存在する重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、3つの超可変領域によって接続された4つのFR領域(たいていβ-シート配置をとる)を含み、その3つの超可変領域は、そのβ-シート構造をつなげる、及びいくつかの場合ではそのβ-シート構造の一部を形成する、ループを形成する。各鎖における超可変領域は、FRによって近位に保持され、他の鎖の超可変領域とともに、抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.を参照のこと、下記を参照のこと)。一般に、天然に存在する免疫グロブリンは、6つのCDR(下記を参照のこと)、すなわち、VHにおける3つ(CDRH1、CDRH2、CDRH3)及びVLにおける3つ(CDRL1、CDRL2、CDRL3)を含む。天然に存在する免疫グロブリンにおいて、CDRH3及びCDRL3は、6つのCDRのうち最も広範な多様性を示し、特にCDRH3は、免疫グロブリンに対して優れた特異性を付与する際にユニークな役割を果たすと考えられている。定常ドメインは、抗原の結合に直接関わらないが、様々なエフェクター機能、例えば、抗体依存的な細胞媒介性の細胞傷害及び補体活性化を示す。
【0030】
用語「VH」(VHとも称される)及び「VL」(VLとも称される)は、本明細書中において、それぞれ免疫グロブリンの重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのことを指すために使用される。免疫グロブリンの軽鎖可変領域又は重鎖可変領域は、3つの超可変領域によって分断された「フレームワーク」領域からなる。したがって、用語「超可変領域」とは、抗原の結合に関与する抗体のアミノ酸残基のことを指す。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基を含む。免疫グロブリンの可変部分には、3つの重鎖及び3つの軽鎖CDR(又はCDR領域)が存在する。したがって、本明細書中で使用される「CDR」とは、3つすべての重鎖CDR(CDRH1、CDRH2及びCDRH3)もしくは3つすべての軽鎖CDR(CDRL1、CDRL2及びCDRL3)、又は適切な場合には、すべての重鎖CDRとすべての軽鎖CDRの両方のことを指す。3つのCDRが軽鎖可変領域の結合特性を構成し、3つが重鎖可変領域の結合特性を構成する。CDRは、免疫グロブリン分子の抗原特異性を決定し、足場領域又はフレームワーク領域を含むアミノ酸配列によって分断されている。CDRを定義づける正確な境界線及び長さは、種々の分類体系及びナンバリング体系に左右される。抗体の構造及びタンパク質折り畳みが、他の残基を抗原結合領域の一部とみなすことを意味する場合があり、当業者によってそのように理解されるであろう。CDRは、免疫グロブリンが抗原又はエピトープに結合するための接触残基の大部分を提供する。
【0031】
CDR3は、通常、抗体結合部位内で最も分子多様性のある起源である。例えば、H3は、2アミノ酸残基もの短さであり得るか、又は26アミノ酸超であり得る。種々のクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び3次元配置が、本分野で周知である。抗体構造の概説については、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,eds.Harlow et al,1988を参照のこと。当業者は、各サブユニット構造、例えば、CH、VH、CL、VL、CDR、FR構造が、活性なフラグメント、例えば、抗原に結合する、VH、VLもしくはCDRサブユニットの一部、すなわち抗原結合フラグメント、又は例えば、Fcレセプター及び/もしくは補体などに結合する及び/もしくはそれらを活性化する、CHサブユニットの一部、を含むことを認識するであろう。CDRは、通常、Sequences of Proteins of immunological Interest,US Department of Health and Human Services(1991)、Kabatら編に記載されているようなKabat CDRのことを指す。抗原結合部位を特徴付ける別の規格は、Chothiaが報告したような超可変ループを指すものである。例えば、Chothia,et al.(1992;J.Mol.Biol.227:799-817;及びTomlinson et al.(1995)EMBO J.14:4628-4638を参照のこと。さらに別の規格は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアが使用するAbM定義である。例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains.In:Antibody Engineering Lab Manual(Ed.:Duebel,S.and Kontermann,R.,Springer-Verlag,Heidelberg)を広く参照のこと。Kabat CDRに関して説明される実施形態は、Chothia超可変ループ又はAbM定義のループに関して説明される類似の関係を用いて代替的に実施できる。本発明の文脈において、ある抗体の可変ドメイン内の具体的な位置は、IMGTデータベースの命名法に従って言及される。
【0032】
対応する免疫グロブリンミュー重鎖、ガンマ重鎖、アルファ重鎖、デルタ重鎖、イプシロン重鎖、ラムダ軽鎖又はカッパー軽鎖は、任意の種、例えば、げっ歯類の種、両生類、例えば平滑両生亜綱(例えばカエル、ヒキガエル、サンショウウオ又はイモリを含む)、又は無脊椎動物の種をはじめとした哺乳動物の種のものであり得る。哺乳動物の例としては、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、リス、ハムスター、ハリネズミ、カモノハシ、アメリカナキウサギ、アルマジロ、イヌ、キツネザル、ヤギ、ブタ、ウシ、オポッサム、ウマ、コウモリ、ウッドチャック、オランウータン、アカゲザル、ウーリーモンキー、マカク、チンパンジー、タマリン(ワタボウシタマリン)、マーモセット又はヒトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本明細書中で言及されるとき、免疫グロブリンは、通常、ジスルフィド結合によって連結された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質又はその抗原結合部分である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書中ではVHと省略される)及び重鎖定常領域を有する。いくつかの実施形態において、重鎖定常領域は、3つのドメインCH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書中ではVLと省略される)及び軽鎖定常領域を有する。軽鎖定常領域は、1つのドメインCLを含む。VH及びVL領域はさらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域に挿入された、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域に細分され得る。CDRは、その抗体と抗原との特異的な相互作用に関与する残基のほとんどを含む。各VH及び各VLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された3つのCDR及び4つのFRを有する。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原のエピトープと相互作用する結合ドメインを含む。
【0034】
「フレームワーク領域」又は「FR」の残基は、超可変領域以外の可変ドメイン残基である。異なる軽鎖又は重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。したがって、「ヒトフレームワーク領域」は、天然に存在するヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域と実質的に同一(約85%又はそれ以上、通常、90~95%又はそれ以上)のフレームワーク領域である。ある抗体のフレームワーク領域、すなわち、構成要素の軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域が組み合わされたものは、CDRの位置を決め、CDRを整列させるように働く。CDRは、主に抗原のエピトープへの結合に関与する。
【0035】
用語「Fab」、「Fab領域」、「Fab部分」又は「Fabフラグメント」は、VH、CH1、VL及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを定義すると理解される。Fabは、この領域を単独で指し得るか、又はABP並びに完全長免疫グロブリン又は免疫グロブリンフラグメントの状況におけるこの領域を指し得る。通常、Fab領域は、抗体の軽鎖全体を含む。Fab領域は、免疫グロブリン分子の「アーム」を定義すると解釈され得る。それは、そのIgのエピトープ結合部分を含む。天然に存在する免疫グロブリンのFab領域は、パパイン消化によってタンパク分解性フラグメントとして得ることができる。「F(ab’)2部分」は、ペプシンで消化された免疫グロブリンのタンパク分解性フラグメントである。「Fab’部分」は、F(ab’)2部分のジスルフィド結合の還元に由来する生成物である。本明細書中で使用されるとき、用語「Fab」、「Fab領域」、「Fab部分」又は「Fabフラグメント」は、抗体アームのC末端を定義するヒンジ領域をさらに含む場合がある。このヒンジ領域は、ABPのアームがYを定義するように解釈され得る、完全長免疫グロブリンの中のCH1ドメインのC末端に見られるヒンジ領域に対応する。免疫グロブリンがこの領域においていくらかの可動性を有するので、ヒンジ領域という用語が本分野において使用される。本明細書中で使用される「Fab重鎖」は、VH及びCH1を含むFabフラグメントの部分又はポリペプチドとして理解されるのに対して、本明細書中で使用される「Fab軽鎖」は、VL及びCLを含むFabフラグメントの部分又はポリペプチドとして理解される。
【0036】
用語「Fc領域」又は「Fcフラグメント」は、天然配列のFc領域及びバリアントのFc領域を含む、免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために本明細書中で使用される。Fc部は、抗体のエフェクター機能、例えば、補体系、及びFcレセプターを有する免疫エフェクター細胞(例えば、NK細胞)の活性化を媒介する。ヒトIgG分子では、Fc領域は、Cys226のN末端のパパイン切断によって生成される。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界線は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、Cys226位又はPro230のアミノ酸残基からそのカルボキシル末端までに及ぶと定義される。Fc領域のC末端のリジン(EUナンバリングシステムに従う残基447)は、例えば、ABPの作製中もしくは精製中に、又はABPの重鎖をコードする核酸を組換え的に操作することによって、除去され得る。天然配列のFc領域には、哺乳動物、例えば、ヒト又はマウスの、IgG1、IgG2(IgG2A、IgG2B)、IgG3及びIgG4が含まれる。Fc領域は、抗体のクラスに応じて2つ又は3つの定常ドメインを含む。免疫グロブリンがIgGである実施形態では、Fc領域は、CH2及びCH3ドメインを有する。本発明のある特定の好ましい実施形態において、本発明のABPのFc領域は、Fcレセプター結合を低減するように、及びそれにより、ADCCを低減するように変異される。本発明のそのような好ましいABPは、「Fc減弱型」である。
【0037】
用語「一本鎖可変フラグメント」(scFv)は、免疫グロブリンの重鎖(VH)可変領域と軽鎖(VL)可変領域とが10~約25アミノ酸の短いリンカーペプチドによって融合された抗体フラグメントを定義するために本明細書中で使用される。そのリンカーは、通常、可動性のためにグリシンリッチであり、また、溶解性のためにセリンリッチ又はトレオニンリッチであり、VHのN末端をVLのC末端に接続できるか、又はVLのN末端をVHのC末端に接続できる。scFvフラグメントは、特異的な抗原結合部位を有するが、免疫グロブリンの定常ドメインを有しない。
【0038】
「抗原決定基」としても知られる用語「エピトープ」とは、抗体又はT細胞レセプターが特異的に結合し、それにより、複合体を形成する、抗原の一部のことを指す。したがって、用語「エピトープ」には、免疫グロブリン又はT細胞レセプターへの特異的結合が可能な任意の分子又はタンパク質決定基が含まれる。本明細書中に記載されるABPの結合部位(パラトープ)は、標的構造に対してユニークである、立体構造エピトープ又は連続エピトープに特異的に結合し得る/相互作用し得る。エピトープ決定基は、通常、分子の化学的に活性な表面の分類、例えば、アミノ酸又は糖側鎖からなり、通常、特異的な3次元構造の特性、並びに特異的な電荷特性を有する。いくつかの実施形態において、エピトープ決定基には、分子の化学的に活性な表面の分類、例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニルが含まれ、ある特定の実施形態において、エピトープ決定基は、特異的な3次元構造特性及び/又は特異的な電荷特性を有し得る。ポリペプチド抗原に関して、立体構造エピトープ又は不連続エピトープは、2つ以上の別個のアミノ酸残基が一次配列において隔てられて存在しているが、そのポリペプチドが天然のタンパク質/抗原に折り畳まれたとき、その分子の表面上に一貫した構造に組み立てられることを特徴とする(Sela,M.,Science(1969)166,1365-1374;Laver,W.G.,et al.Cell(1990)61,553-556)。エピトープに寄与するそれらの2つ以上の別個のアミノ酸残基は、1つ以上のポリペプチド鎖の別々の区画に存在し得る。これらの残基は、そのポリペプチド鎖が3次元構造に折り畳まれてエピトープを構成するとき、その分子の表面上で一体となる。対照的に、連続エピトープ又は線状エピトープは、あるポリペプチド鎖の単一の線状セグメントとして存在する2つ以上の別個のアミノ酸残基からなる。
【0039】
この文脈における用語「特異的」、又は「~を対象にしている」としても使用される「~に特異的に結合する」は、本発明によれば、その抗体又は免疫レセプターフラグメントが、特異的な抗原もしくはリガンド又は特異的な抗原もしくはリガンドのセットと特異的に相互作用できる及び/又は結合できるが、他の抗原又はリガンドに本質的に結合しないことを意味する。そのような結合は、「鍵と鍵穴の原理」という特異性によって例証され得る。抗体は、抗体が相互に競合する場合、「同じエピトープに結合する」と言われ、1つの抗体だけが所与の時点においてそのエピトープに結合でき、すなわち、一方の抗体が、他方の結合又は調節効果を妨げる。
【0040】
本明細書中で使用される用語「単離されたABP」とは、特定され、天然の環境の構成要素から分離及び/又は回収されたABPのことを指す。その天然の環境の混入構成要素は、その抗体の診断用途又は治療用途を干渉し得る物質であり、それらとしては、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性溶質又は非タンパク質性溶質が挙げられ得る。いくつかの実施形態において、ABPは、Lowry法によって測定したとき、抗体の95重量%超(例えば、99重量%超)まで精製される。いくつかの実施形態において、その抗体は、クマシーブルー又は好ましくは銀染色を用いて還元条件下又は非還元条件下のSDS-PAGEによって判断するとき、均一に精製される。単離されたABPは、いくつかの実施形態において、抗体の天然の環境の1つ以上の構成要素が存在しない組換え細胞内に存在し得る。通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0041】
本明細書中に記載されるようなTIRC7及び/又はTIRC7を発現する免疫細胞に結合する本発明の(組換え)ABPは、任意の好適な組換え抗体の形式で、例えば、Fvフラグメント、scFv、ヒンジ領域を欠く一価抗体、ミニボディ(minibody)、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメントとして、使用され得る。本発明の組換えABPは、定常ドメイン(領域)、そのようなヒトIgG定常領域、CH1ドメイン(Fabフラグメントが含むように)及び/又はFc領域全体も含み得る。あるいは、本発明のABPは、完全長(完全)抗体、好ましくは、二重特異的な形式でもあり得る。
【0042】
抗体が、必要とされるシグナル伝達経路の遮断を介した抗増殖、レセプター-リガンド相互作用の模倣、又はリガンド-レセプター相互作用の阻止、抗原のターンオーバー又は内部移行の調節をはじめとした細胞効果を媒介する可能性がある機構はいくつか存在する。TIRC7抗体の有効性は、これらの機構の組み合わせに起因することがあり、自己免疫に対する臨床治療におけるそれらの相対的な重要性は、疾患依存的であるとみられる。
【0043】
本発明のABPは、ヒトTIRC7に結合することができる。用語「T細胞免疫応答cDNA7」又は「TIRC7」は、本明細書中で交換可能に使用され、ヒトTIRC7のバリアント、アイソフォーム及び種ホモログを含む。ヒトTIRC7タンパク質は、UniProt(www.uniprot.org)アクセッション番号Q13488(2019年9月26日のバージョン)を有する。このタンパク質のさらなる同義語としては、V型プロトンATPアーゼ116kDaサブユニットaアイソフォーム3が挙げられる。ヒトTIRC7の遺伝子(TCIRG1とも命名される)は、11q13.2に位置し、HGNC:11647というHGNCアクセッション(www.genenames.org-2019年9月26日のHGNCバージョン)を有する。しかしながら、本発明の抗体は、ある特定の好ましい場合において、ヒト以外の種由来のTIRC7と交差反応しない場合がある。
【0044】
エピトープを決定するために、本分野で公知の標準的なエピトープマッピング法を使用することができる。例えば、上記抗体に結合するTIRC7のフラグメント(ペプチド)(例えば、合成ペプチド)である可溶性タンパク質は、候補抗体又はその抗原結合フラグメントが同じエピトープに結合するかを判定するために使用できる。線状エピトープの場合、規定の長さ(例えば、8又はそれ以上のアミノ酸)の重複ペプチドが合成される。それらのペプチドを1アミノ酸ずつずらして、TIRC7タンパク質配列のすべての8アミノ酸フラグメントをカバーする一連のペプチドを調製することができる。ずらすアミノ酸を多くする、例えば、2又は3アミノ酸を用いることによって、より少ないペプチドを調製することができる。さらに、より長いペプチド(例えば、9、10又は11mer)を合成することもできる。抗体又は抗原結合フラグメントへのペプチドの結合は、表面プラズモン共鳴(BIACORE)及びELISAアッセイをはじめとした標準的な方法を用いて測定できる。立体構造エピトープを調べる場合、より大きなTIRC7フラグメントを使用できる。立体構造エピトープを定義するために質量分析を使用する他の方法がすでに報告されており、存在し得る(例えば、Baerga-Ortiz et al,Protein Science 11:1300-1308,2002及びそれに引用されている参考文献を参照のこと)。エピトープを決定するためのさらに他の方法は、標準的な研究室の参考資料、例えば、Current Protocols in Immunology,Coligan et al,eds.,John Wiley & SonsのUnit6.8(“Phage Display Selection and Analysis of B-cell Epitopes”)及びUnit9.8(“Identification of Antigenic Determinants Using Synthetic Peptide Combinatorial Libraries”)に提供されている。エピトープは、既知のエピトープに点変異又は欠失を導入し、次いで1つ以上の抗体又は抗原結合フラグメントとの結合を試験して、どの変異がその抗体又は抗原結合フラグメントの結合を低減させるかを判定することによって、確かめることができる。
【0045】
他の実施形態において、TIRC7機能の調節因子である、TIRC7に結合するABPは、代替的に又は追加的に、
・細胞性免疫応答(例えば、インビトロアッセイ又は被験体(例えば、それを必要とする被験体)におけるもの)を阻害し得るか、損ない得るか、低減し得るか、もしくは逆転し得る、且つ/又は
・液性免疫(例えば、インビトロアッセイ又は被験体(例えば、それを必要とする被験体)におけるもの)を阻害し得るか、損ない得るか、低減し得るか、もしくは逆転し得る。
【0046】
本明細書中で使用される用語「細胞性免疫応答」には、T細胞の成熟、増殖、活性化、遊走、浸潤及び/もしくは分化、並びに/又はマクロファージ、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球(又はT細胞)、ヘルパーTリンパ球、メモリーTリンパ球及び/もしくは細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の活性化/調節/遊走/浸潤、並びに/又は細胞が分泌可能な1つ以上の因子もしくは細胞によって分泌される1つ以上の因子、例えば、サイトカインもしくはオータコイド(特に炎症促進性サイトカイン)の産生、放出及び/もしくは効果、並びに/又はそのようなプロセスのいずれかの1つ以上の構成要素(例えば、サイトカイン又はオータコイド、特に炎症促進性サイトカイン)のうちのいずれか1つ又はそれらの組み合わせに関わる、それらを使用する及び/又は促進する、宿主生物における応答が含まれ得るが、これらに限定されない。本明細書中で使用される用語「細胞性免疫応答」には、遺伝的に操作された、インビトロで培養された、自己の、異種の、改変された、及び/又は移入されたTリンパ球が関わる細胞応答が含まれ得るか、又は遺伝子操作によって作製される、細胞が分泌可能な因子又は細胞によって分泌される因子(例えば、サイトカイン又はオータコイド、特に炎症促進性サイトカイン)が含まれ得る。細胞性免疫応答は、好ましくは、宿主を害する可能性がある病的な免疫応答である。
【0047】
ある特定の実施形態において、細胞性免疫応答を媒介する細胞は、炎症促進性サイトカイン(例えば、インターロイキン-1(IL-1)、IL-2、IL-12、IL-17及びIL-18、腫瘍壊死因子(TNF)[アルファ]、インターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)並びに顆粒球マクロファージコロニー刺激因子からなる群より選択されるもの)を分泌することができる(例えば、分泌する)細胞(例えば、免疫細胞)によって媒介され得る。
【0048】
ある特定の実施形態において、細胞性免疫応答は、炎症促進性サイトカインを分泌する細胞、例えば、リンパ球(例えば、T細胞)、特に細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって媒介され得る。
【0049】
特定の実施形態において、細胞性免疫応答は、自己免疫疾患の状況において自己細胞の殺滅を誘導し得る。
【0050】
用語「液性免疫」(又は「液性免疫応答」)も、当業者によって容易に理解され、分泌型抗体、補体タンパク質及びある特定の抗菌ペプチドなどの細胞外液中に見られる高分子によって媒介される免疫応答の態様を含む。液性免疫は、体液(humors)すなわち体液(body fluid)中に見られる物質が関与するので、そのように命名された。抗体が関わる態様は、抗体性免疫と呼ぶことができる。
【0051】
本発明のABPは、いくつかの好ましい実施形態において、その第1の抗原結合ドメインに、対立遺伝子IGHV1-2(アクセッション番号X07448)、IGHV7-4-1*02又はIGHV1-46*01のヒトフレームワーク領域を含む重鎖可変領域を含み、好ましくは、IGHV1-2である。本発明のABPは、軽鎖内に、IGKV1-9(アクセッション番号Z00013)、IGKV3-11(アクセッション番号X01668)、IGKV6-21*01又はIGKV1-17*03のフレームワークを有する可変領域を好ましくは含む。しかしながら、結合親和性、アビディティー、並びに/又はリンパ球の動員及びリンパ球によって媒介される抗腫瘍細胞傷害性の活性化、特にT細胞媒介性免疫の活性化に対する活性が改善されたヒト化抗TIRC7抗体の変異バリアントを提供することが本発明の成果の1つである。ゆえに、本発明によれば、TIRC7に特異的な第1の抗原結合ドメインにおける本発明のABPであるABPは、IMGTナンバリングに従う78、80、82及び/又は85位から選択される1つ以上の位置に変異を有する重鎖可変領域を含むことが好ましい。最も好ましくは、それらの変異は、IMGTナンバリングに従う78L、80S、82K及び/又は85Sのうちのいずれか1つもしくは任意の組み合わせ又はすべてである。
【0052】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、重鎖可変領域が、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83又は85から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するか、又は各場合において独立して、必要に応じて、これらの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む、アミノ酸配列を含み、且つ/又は軽鎖可変領域が、配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84又は86から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するか、又は各場合において独立して、必要に応じて、これらの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む、アミノ酸配列を含む、ABPが提供される。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態において、ABPの重鎖可変領域は、配列番号11に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号12に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、ABPの重鎖可変領域は、配列番号11に示されているアミノ酸配列、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号12に示されているアミノ酸、又は必要に応じてこの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸を含む。
【0054】
本発明のいくつかの好ましい実施形態において、重鎖可変領域が、配列番号25から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%、好ましくは100%という配列同一性を有するか、又は必要に応じてこの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む、アミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域が、配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84又は86から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列、又は各場合において独立して、必要に応じて、これらの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む、アミノ酸配列を含む、ABPが提供される。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態において、ABPの重鎖可変領域は、配列番号25に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号26に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、ABPの重鎖可変領域は、配列番号25に示されているアミノ酸配列、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号26に示されているアミノ酸、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸を含む。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態において、ABPの重鎖可変領域は、配列番号27に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号28に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、ABPの重鎖可変領域は、配列番号27に示されているアミノ酸配列、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号28に示されているアミノ酸、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸を含む。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態において、ABPの重鎖可変領域は、配列番号29に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号30に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、ABPの重鎖可変領域は、配列番号29に示されているアミノ酸配列、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号30に示されているアミノ酸、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸を含む。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態において、ABPの重鎖可変領域は、配列番号31に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号32に示されているアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、ABPの重鎖可変領域は、配列番号31に示されているアミノ酸配列、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸配列を含み、軽鎖可変領域は、配列番号32に示されているアミノ酸、又は必要に応じて、この配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含むアミノ酸を含む。
【0059】
本発明のいくつかの特定の実施形態において、重鎖可変領域が78Lを含むABPが好ましく、ここで、そのナンバリングは、IMGTシステムに従う。
【0060】
本発明に従うABPは、いくつかの実施形態において、ヒト抗体重鎖定常配列に対して少なくとも70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%、好ましくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又はヒト抗体重鎖定常配列と比べて20、15、10、9、8、7、6、4個以下、好ましくは、3つ又は2つ以下、好ましくは1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有するアミノ酸配列を有する少なくとも1つの抗体重鎖定常配列を含むABPであり得る。そのような抗体は、CH1、CH2又はCH3領域のうちの1つ以上を有し得る。
【0061】
いくつかの実施形態において、ABPは、少なくとも1つ、好ましくは2つの抗体重鎖配列、及び少なくとも1つ、好ましくは2つの抗体軽鎖配列から構成される抗体又はその抗原結合フラグメントであり、ここで、その抗体重鎖配列及び抗体軽鎖配列はそれぞれ、以下の組み合わせのうちの1つの可変領域配列を含む。
【0062】
さらに、本発明のいくつかの実施形態は、TIRC7への結合について本発明のABPと競合して、例えば、TIRC7への本発明の抗体の結合を競合的に阻害する、ABPに関する。競合阻害を測定するために、当業者に公知の種々のアッセイを使用できる。例えば、交差競合アッセイを用いることにより、抗体又はその抗原結合フラグメントが、別の抗体又はその抗原結合フラグメントによるTIRC7への結合を競合的に阻害するかを判定することができる。これらには、フローサイトメトリー又は固相結合解析を用いる細胞ベースの方法が含まれる。細胞表面上に発現されていないTIRC7分子に対して抗体又はその抗原結合フラグメントが交差競合する能力を固相又は液相において評価する他のアッセイも使用できる。
【0063】
いくつかの実施形態において、本発明のABPは、TIRC7又はそのパラログ、オルソログもしくは他のバリアントに(例えば、それらの1つ以上の細胞外ドメインによって提示される1つ以上のエピトープを介して)結合し得るか、又は特に、TIRC7の細胞外ドメインに20nM未満(例えば、約10nM、5nM又は2nM未満(特に、約1nM未満)のKで結合し得る。好ましい実施形態において、本発明のABPは、TIRC7もしくはドメイン又はそのバリアント(例えば、それらのエピトープ)に100pM未満のKで結合する。より好ましい実施形態において、本発明のABPは、TIRC7もしくは細胞外ドメイン又はそのバリアントに50pM未満のKで結合する。最も好ましい実施形態において、本発明のABPは、TIRC7もしくはドメイン又はそのバリアントに30pM未満のKで、ある特定の実施形態では10pM未満のKで結合する。Kは、好ましくは表面プラズモン共鳴によって測定される。
【0064】
本明細書中で使用される用語「細胞外ドメイン」(「ECD」又は「EC」ドメイン)とは、通常、リガンド又は抗体の結合に関与する、細胞外の空間に露出された、タンパク質の領域のことを指す。TIRC7は、細胞内N末端、膜貫通ドメイン5と6との間のより大きな細胞外ループ及び細胞外の可動性のC末端を含む7回膜貫通ドメインタンパク質である。本発明のABPが結合する好ましい細胞外ドメインは、TIRC7の5番目の膜貫通ドメインと6番目の膜貫通ドメインとの間のタンパク質ループに位置する領域である。
【0065】
本明細書中で使用される用語「K」は、KdとKaとの比(すなわちKd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表現される、解離定数のことを指すように意図されている。抗体のK値は、プラズモン共鳴(BIAcore(登録商標))、ELISA及びKINEXAなどの本分野において確立された方法を用いて測定できる。抗体のKを測定するための好ましい方法は、表面プラズモン共鳴を使用することによる方法、好ましくは、BIAcore(登録商標)システムなどのバイオセンサーシステムを使用することによる方法又はELISAによる方法である。本明細書中で使用される「K」(又は「K-assoc」)は、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度のことを広く指すのに対して、本明細書中で使用される用語「K」(又は「K-diss」)は、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度のことを指す。
【0066】
本発明に係るABPは、2本の鎖、つまり、いくつかの実施形態では軽鎖であり得る短い鎖及びいくつかの実施形態では重鎖としても扱われ得る主鎖を有し得る。ABPは、通常、これらの2本の鎖の二量体である。
【0067】
本発明のABPは、好ましくは、二重特異性ABPであり得る。二重特異性ABPは、(i)前述の請求項のいずれか1項において定義されたような重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含む可変領域であって、ここで、その可変領域は、ヒトTIRC7に結合することができる第1の抗原結合ドメインを含む、可変領域、並びに(ii)第2の抗原結合ドメインを含むABPの重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み得る。TIRC7に対する結合部位は、好ましくは、本明細書中に記載される本発明のTIRC7結合抗体の結合部位であると理解される。
【0068】
「二重特異性」又は「二機能性」ABPは、2つの異なるエピトープ/抗原結合ドメイン(又は「部位」)を有するABPであって、ゆえに2つの異なる標的エピトープに対して結合特異性を有するABPである。これらの2つのエピトープは、同じ抗原のエピトープであってもよいし、本発明において好ましい場合、異なる抗原であるTIRC7及びCD3又はTIRC7及びTCRなどの異なる抗原のエピトープであってもよく、好ましくは、これらの抗原はヒト抗原である。
【0069】
「二重特異性ABP」は、重鎖と軽鎖又は主鎖と短鎖/小鎖との第1の対によって定義される2つ以上の結合アームのうちの1つを用いて1つの抗原又はエピトープに結合し、重鎖と軽鎖又は主鎖と小さい鎖との第2の対によって定義される第2のアーム上で異なる抗原又はエピトープに結合する、ABPであり得る。二重特異性ABPのそのような実施形態は、特異性とCDR配列の両方が異なる2つの抗原結合アームを有する。通常、二重特異性ABPは、それが結合する各抗原に対して一価であり、すなわち、それぞれの抗原又はエピトープに対して1つのアームだけで結合する。しかしながら、二重特異性抗体は、二量体化又は多量体化も可能であり、これは本発明の状況において好ましい。二重特異性抗体は、第1の軽鎖可変領域と第1の重鎖可変領域とによって定義される第1の結合領域及び第2の軽鎖可変領域と第2の重鎖可変領域とによって定義される第2の結合領域を有し得る、ハイブリッドABPであり得る。これらの結合領域のうちの1つが重鎖/軽鎖対によって定義され得ることが本発明によって想定される。本発明の状況において、二重特異性ABPは、主鎖と小鎖との可変領域によって定義される第1の結合部位及びABPの主鎖に含まれるscFvフラグメントの可変領域によって定義される第2の異なる結合部位を有し得る。
【0070】
二重特異性ABPを作製する方法は、本分野で公知であり、例えば、2つの異なるモノクローナル抗体の化学的結合体化、又は例えば、2つの抗体フラグメント、例えば、2つのFabフラグメントの化学的結合体化である。あるいは、二重特異性ABPは、親抗体を産生するハイブリドーマの融合によるクアドローマ技術によって作製される。H鎖とL鎖との組み合わせがランダムであるので、10個の異なる抗体構造の潜在的な混合物が生成され、そのうちのただ1つが所望の結合特異性を有する。
【0071】
本発明の二重特異性ABPは、各標的に対してモノクローナル抗体(mAb)として作用できる。いくつかの実施形態において、抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である。二重特異性ABPは、例えば、二重特異性タンデム一本鎖Fv、二重特異性Fab2又は二重特異性ダイアボディであり得る。
【0072】
この文脈において、ABPが1つ以上の変異したアミノ酸残基を含み得ることが本発明の範囲内であることに注意されたい。核酸又はポリペプチドに関する用語「変異した」、「変異体」及び「変異」とは、「天然」又は「親」(参照が提供される場合)の核酸又はポリペプチド、すなわち、野生型を定義すると解釈できる参照配列と比べて、それぞれ1つ以上のヌクレオチド又はアミノ酸の交換、欠失又は挿入のことを指す。例えば、親4G8分子の広範な突然変異変更によって得られる、本明細書中に記載されるような本発明のABPの可変ドメインが、親配列として解釈され得る。
【0073】
この点において、用語「位置」は、本発明に従って使用されるとき、本明細書中に描かれるアミノ酸配列内のアミノ酸の位置を意味すると理解される。この位置は、似ている天然配列、例えば、天然に存在するIgGドメイン又は鎖の配列を基準にして指摘され得る。本明細書中で使用される用語「対応する」も、位置が、必ずしも前述のヌクレオチド/アミノ酸の番号によって決定されないこと、つまり前述のヌクレオチド/アミノ酸の番号だけによって決定されないことを含む。したがって、置換され得る本発明に従う所与のアミノ酸の位置は、抗体鎖のどこかにおけるアミノ酸の欠失又は付加に起因して、変動し得る。
【0074】
したがって、本発明に従う「対応する位置」の下において、アミノ酸は、指摘される番号が異なり得るが、類似の隣接アミノ酸をなおも有し得ることが理解されるべきである。交換、欠失又は付加され得るアミノ酸は、用語「対応する位置」によっても包含される。所与のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基が、天然に存在する免疫グロブリンドメイン又は鎖のアミノ酸配列におけるある特定の位置に対応するかを判定するために、当業者は、本分野で周知の手段及び方法、例えば、手作業によるアラインメント又はコンピュータプログラム(例えば、ベーシックローカルアラインメントサーチツールの略語であるBLAST2.0もしくはClustalW又は配列アラインメントを生成するのに適した他の任意の好適なプログラム)を用いるアラインメントを使用できる。
【0075】
いくつかの実施形態において、置換(又は置き換え)は、保存的置換である。保存的置換は、一般に、以下に列挙される置換であり、変異される各アミノ酸の後に、保存的であると解釈できる1つ以上の置き換えが続いている。Ala→Gly、Ser、Val;Arg→Lys;Asn→Gln、His;Asp→Glu;Cys→Ser;Gln→Asn;Glu→Asp;Gly→Ala;His→Arg、Asn、Gln;Ile→Leu、Val;Leu→Ile、Val;Lys→Arg、Gln、Glu;Met→Leu、Tyr、Ile;Phe→Met、Leu、Tyr;Ser→Thr;Thr→Ser;Trp→Tyr;Tyr→Trp、Phe;Val→Ile、Leu。他の置換も許容でき、それは経験的に決定され得るか、又は他の公知の保存的置換もしくは非保存的置換と一致し得る。さらなるオリエンテーションとして、以下の8つの群はそれぞれ、互いに対して保存的置換を定義すると通常解釈され得るアミノ酸を含む。
-アラニン(Ala)、グリシン(Gly);
-アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu);
-アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln);
-アルギニン(Arg)、リジン(Lys);
-イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、メチオニン(Met)、バリン(Val);
-フェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp);
-セリン(Ser)、トレオニン(Thr);及び
-システイン(Cys)、メチオニン(Met)
【0076】
そのような置換が、生物学的活性を変化させる場合、より実質的な変更、例えば、以下のもの又はアミノ酸クラスに関して下記でさらに説明されるような変更が導入され得、その生成物が所望の特徴についてスクリーニングされ得る。そのようなより実質的な変更の例は、Ala→Leu、Ile;Arg→Gln;Asn→Asp、Lys、Arg、His;Asp→Asn;Cys→Ala;Gln→Glu;Glu→Gln;His→Lys;Ile→Met、Ala、Phe;Leu→Ala、Met、ノルロイシン;Lys→Asn;Met→Phe;Phe→Val、Ile、Ala;Trp→Phe;Tyr→Thr、Ser;Val→Met、Phe、Alaである。
【0077】
いくつかの実施形態において、本発明に係るABPは、システイン残基を介する二量体化を妨げるように又はFc機能を調節するように変異される(上記を参照のこと)1つ以上のアミノ酸残基(2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17又は18個のアミノ酸残基を含む)を含む。これらの実施形態のうちのいくつかにおいて、CH2ドメイン、及び/又はFcレセプターへの結合を媒介できるヒンジ領域の1つ以上のアミノ酸残基が変異される。Fcレセプターへの結合を媒介できる1つ以上のアミノ酸残基は、存在する場合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体媒介性細胞傷害(CDC)を活性化できるアミノ酸残基であり得る。いくつかの実施形態において、Fcレセプターへの結合を媒介することができるそれぞれのアミノ酸残基は、一般に、配列をIgGなどの免疫グロブリンにおける対応する天然に存在するドメインの配列と比較するとき、別のアミノ酸によって置換される。いくつかの実施形態において、Fcレセプターへの結合を媒介することができるそのようなアミノ酸残基は、一般に、IgGなどの免疫グロブリンにおける対応する天然に存在するドメインの配列を基準として、欠失される。
【0078】
必要に応じて、上で説明したように、アミノ酸残基の置換又は欠失は、この効果のために行われ得る。好適な変異は、例えば、Armour et al.(Eur.J.Immunol.[1999]29,2613-2624)から得ることができる。抗体鎖の配列への変異に適したさらなる位置は、FcγRIIIとヒトIgG1 Fcフラグメントとの複合体について公開された結晶構造データから得られ得る(Sondermann et al,Nature[2000]406,267-273)。「Fc減弱」又は結合親和性喪失のレベルを評価するために、上に記載されたような結合親和性の測定に加えて、Fcレセプターへの結合を媒介する能力(の欠如)を機能的に評価することも可能である。1つの標的としてCD3に結合するABPの場合、例えば、細胞上のそのようなCD3結合ABPの有糸分裂促進性を通じて結合を評価することが可能である。有糸分裂促進性は、単球などのアクセサリー細胞上のFcレセプターにCD3抗体が結合することによって媒介される。CD3に対して1つの結合部位を有する本発明のABPが細胞分裂促進作用を示さないのに対して、機能的Fc部を有する親モノクローナル抗CD3抗体が、T細胞において強い有糸分裂を誘導する場合、有糸分裂が起きないことに起因して、本発明のABPは、Fc結合の能力を欠き、ゆえに「Fcノックアウト」分子とみなされ得ることが明白である。抗CD3媒介性の有糸分裂促進性を評価する方法の例証的な例は、Davis,Vida & Lipsky(J.Immunol(1986)137,3758)及びCeuppens,JL,& van Vaeck,F(J.Immunol.(1987)139,4067又はCell.Immunol.(1989)118,136を参照のこと)によって説明されている。抗体の有糸分裂促進性を評価するためのアッセイのさらなる例証的で好適な例は、Rosenthal-Allieri et al.(Rosenthal-Allieri MA,Ticcioni M,Deckert M,Breittmeyer JP,Rochet N,Rouleaux M,and Senik A,Bernerd A,Cell Immunol.1995 163(1):88-95)及びGrosse-Hovest et al.(Grosse-Hovest L,Hartlapp I,Marwan W,Brem G,Rammensee H-G,and Jung G,Eur J Immunol.[2003]May;33(5):1334-1340)によって説明されている。さらに、Fc結合の欠如は、本発明のABPがFc部の周知のエフェクター機能のうちの1つ以上を媒介できるかによって評価され得る。
【0079】
上で述べたように、1つ以上のジスルフィド結合を導入するため又は除去するために(潜在的な又は以前から存在するジスルフィド結合の導入又は除去を含む)、システイン残基の置換又は欠失が行われ得る。それにより、本発明に係るABPの主鎖と、より低分子量の/より長さの短い鎖との連結が制御(確立、強化又は消失を含む)され得る。1つ以上のシステイン残基を導入又は除去することによって、ジスルフィド架橋が導入又は除去され得る。例証的な例として、本発明に係る四量体のABPは、一般に、2つの二量体ABPを連結する1つ以上のジスルフィド結合を有する。そのようなジスルフィド結合の1つは、通常、第1の二量体ABPの主鎖におけるシステイン及び第2の二量体ABPのヒンジ領域におけるシステインによって定義される。この点において、いくつかの実施形態において、本発明に係る抗体は、Kabatナンバリング[EUインデックス]に従うヒトIgG免疫グロブリンの配列を基準にしたとき226及び/又は229位における天然のシステイン残基の、別のアミノ酸残基によるアミノ酸置換を含み得る。
【0080】
抗体のグリコシル化パターンを改変するために、アルギニン、アスパラギン、セリン、トレオニン又はチロシン残基などのアミノ酸残基の置換又は欠失も行われ得る。例証的な例として、IgG分子は、単一のN結合型二分岐炭水化物をCH2ドメインのAsn297に有する。血清由来のIgG、又はハイブリドーマもしくは操作された細胞においてエキソビボで生成されたIgGの場合、そのIgGは、Asn297に連結した炭水化物に関して不均一である。ヒトIgGの場合、コアのオリゴ糖は、通常、GlcNAc2Man3GlcNAcからなり、外側の残基の数は異なる。
【0081】
示されるように、抗原/エピトープの結合のほかに、免疫グロブリンは、免疫グロブリンのFc領域(天然配列のFc領域又はアミノ酸配列バリアントのFc領域)に起因し得る生物学的活性であるさらなる「エフェクター機能」を有し、免疫グロブリンのアイソタイプによって異なると知られている。抗体のエフェクター機能の例としては、C1q結合及び補体依存性細胞傷害(CDC)、Fcレセプター結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、食作用、細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション、並びにB細胞活性化が挙げられる。抗体のエフェクター機能の発揮には、一般に、エフェクター細胞の動員が必要である。いくつかの免疫グロブリンのエフェクター機能は、抗体のFc領域に結合するFcレセプター(FcR)によって媒介される。FcRは、免疫グロブリンアイソタイプに対する特異性によって定義され、IgG抗体に対するFcレセプターは、FcγRと称され、IgEに対するFcレセプターは、FcεRと称され、IgAに対するFcレセプターは、FcαRと称されるなど。本発明のABPがFc結合の能力を欠くかを評価するために、CDC又はADCCなどのこれらのエフェクター機能(又はそのようなエフェクター機能の喪失)のいずれかを使用できる。
【0082】
この文脈において、用語「Fcレセプター」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合することができるレセプター、一般にタンパク質を定義することに注意されたい。Fcレセプターは、生物の免疫系のある特定の細胞、例えば、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、好中球及びマスト細胞の表面上に見られる。インビボのFcレセプターは、感染細胞上に固定化された又は侵入病原体上に存在する免疫グロブリンに結合する。それらの活性は、貪食細胞又は細胞傷害性細胞を刺激して、抗体性食作用又は抗体依存性細胞媒介性細胞傷害によって微生物又は感染細胞を破壊する。フラビウイルスなどの一部のウイルスは、抗体依存性感染増強として知られる機構によって、細胞に感染するのを助けるようにFcレセプターを使用する。FcRは、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.9:457-92(1991);Capel et al,Immunomethods 4:25-34(1994);及びde Haas et al,J.Lab.Clin.Med.126:330-41(1995)において概説されている。
【0083】
「補体依存性細胞傷害」又は「CDC」とは、補体の存在下における標的細胞の溶解のことを指す。古典的補体経路の活性化は、補体系の第1成分(Clq)が、同族抗原に結合した抗体(適切なサブクラスの抗体)に結合することによって惹起される。補体の活性化を評価するために、CDCアッセイ、例えば、Gazzano-Santoro et al,J.Immunol.Methods 202:163(1997)に記載されているようなアッセイが行われ得る。
【0084】
用語「補体系」は、一般に、不活性な前駆体(プロタンパク質)として循環している、血液中に見られる、補体因子と呼ばれるいくつかの低分子タンパク質のことを指すために本分野において使用される。この用語は、この変更できず適応できない系が、抗体及び食細胞が細菌などの病原体並びに抗原-抗体複合体を生物から除去する能力を「補完」する能力のことを指す。補体因子の例は、C1q並びに2つのセリンプロテアーゼC1r及びC1sを含むC1複合体である。このC1複合体は、CDC経路の構成要素である。C1qは、およそ460,000の分子量を有する6価の分子であり、6つのコラーゲンの「柄」が6つの球状頭部領域に接続されているチューリップの花束に連結した構造を有する。補体カスケードを活性化するためには、C1qは、IgG1、IgG2又はIgG3のうちの少なくとも2つの分子に結合しなければならない。
【0085】
「抗体依存性細胞傷害」又はADCCとは、ある特定の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)上に存在するFcレセプター(FcR)上に結合した免疫グロブリン分子によって、これらの細胞傷害性エフェクター細胞が、抗原を有する標的細胞に特異的に結合し、その後、その標的細胞を細胞毒によって殺滅することが可能になる、細胞傷害の1つの形態のことを指す。抗体は、細胞傷害性細胞を「武装」させ、この機構による標的細胞の殺滅に必要とされる。ADCCを媒介するための主要な細胞であるNK細胞は、FcγRIIIだけを発現するのに対して、単球は、FcγRI、FcγRlI及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcRの発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol.9:457-92(1991)の464頁の表3に要約されている。目的の分子のADCC活性を評価するために、インビトロADCCアッセイ(例えば、米国特許第5,500,362号又は同第5,821,337号に記載されているアッセイ)が行われ得る。そのようなアッセイにとって有用なエフェクター細胞としては、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、目的の分子のADCC活性は、インビボにおいて、例えば、動物モデル(例えば、Clynes et al,PNAS USA 95:652-656(1998)に開示されている動物モデル)において、評価され得る。
【0086】
本発明は、ある特定の好ましい実施形態において、抗体の細胞傷害性を低下させる又は無くすように開発された公知のすべてのストラテジーを包含するものとする。ヒト抗体において効果的なストラテジーの1つは、残基Asn297におけるN結合型グリコシル化を無くすことであり、それは、Asn297をアラニン、グリシンもしくはアスパラギン酸で置換すること、又は299位のセリン/トレオニン残基を改変することによって達成される。抗体のエフェクター機能を緩和するための、本発明に包含される代替のストラテジーとしては、抗体の下部のヒンジにおける残基の置換、例えば、L234A及びL235A(LALA)が挙げられる。これらの残基は、CH2ドメイン上のFcγレセプター結合部位の一部を形成しており、エフェクター機能がより高い又はより低い抗体アイソタイプ間でこれらの残基が交換されていることから、ADCCにおける重要性が明らかになった。これらの部位におけるアラニン置換は、ヒト抗体とマウス抗体の両方においてADCCの低下に有効であるが、これらの置換は、CDC活性の低下にはあまり有効でない。FcのC1q結合部位をマッピングするためのランダム変異誘発アプローチによって特定された別の単一バリアントであるP329Aが、ADCC活性を保持しつつ、CDC活性の低下に非常に効果的であると示された。
【0087】
本発明のABPは、任意の公知の確立された発現系及び組換え細胞培養技術を用いて、例えば、細菌宿主(原核細胞系)、又は真核細胞系、例えば、酵母、真菌、昆虫細胞もしくは哺乳動物細胞における発現によって、作製され得る。本発明のABPは、トランスジェニック生物、例えば、ヤギ、植物、又はヒト免疫グロブリン遺伝子座の大きなフラグメントを有し、マウス抗体産生が欠損している、操作されたマウス系統であるXENOMOUSEトランスジェニックマウスにおいても作製され得る。抗体は、化学合成によっても作製され得る。
【0088】
本発明の組換えABPを作製する場合、通常、抗体をコードするポリヌクレオチドを単離し、さらなるクローニング(増幅)又は発現に向けて、プラスミドなどの複製可能なベクターに挿入する。好適な発現系の例証的な例は、グルタミン酸シンテターゼ系(例えば、Lonza Biologicsから販売されているもの)であり、ここで、宿主細胞は、例えばCHO又はNSoである。抗体をコードするポリヌクレオチドは、従来の手順を用いて容易に単離され、配列決定される。使用され得るベクターとしては、プラスミド、ウイルス、ファージ、トランスポゾン、ミニ染色体が挙げられ、それらのうち、プラスミドが典型的な実施形態である。一般に、そのようなベクターはさらに、発現を容易にするように軽鎖及び/又は重鎖ポリヌクレオチドに作動可能に連結された、シグナル配列、複製開始点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター及び転写終結配列を含む。軽鎖及び重鎖をコードするポリヌクレオチドは、別個のベクターに挿入され、同じ宿主細胞にトランスフェクトされてもよいし、所望であれば、重鎖と軽鎖の両方が、同じベクターに挿入されて、宿主細胞へトランスフェクションされてもよい。両方の鎖が、Skerra,A.(1994)Use of the tetracycline promoter for the tightly regulated production of a murine antibody fragment in Escherichia coli,Gene 151,131-135又はSkerra,A.(1994)A general vector,pASK84,for cloning,bacterial production,and single-step purification of antibody Fab fragments,Gene 141,79-8に記載されているように、例えば、ジシストロニックオペロンの支配下に配置され、発現されて、正しく折り畳まれた機能的なABPをもたらすことができる。したがって、本発明の1つの態様によれば、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントの軽鎖及び/又は重鎖をコードするベクターを構築するプロセスが提供され、その方法は、本発明のABPの軽鎖及び/又は重鎖をコードするポリヌクレオチドをベクターに挿入することを含む。
【0089】
組換え手法を使用するとき、ABPは、細胞内にもしくは細胞周辺腔に生成され得るか、又は培地中に直接分泌され得る(Skerra 1994,前出も参照のこと)。抗体が、第1の工程として細胞内に生成される場合、宿主細胞又は溶解されたフラグメントである粒子状の残屑が、例えば、遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carter et al,Bio/Technology 10:163-167(1992)には、E coliの細胞周辺腔に分泌された抗体を単離するための手順が説明されている。抗体は、任意の酸化環境においても生成され得る。そのような酸化環境は、E.coliなどのグラム陰性菌の周辺質、グラム陽性菌の細胞外環境又は真核細胞(昆虫細胞又は哺乳動物細胞などの動物細胞を含む)の小胞体の内腔に提供され得、通常、構造的なジスルフィド結合の形成に好都合である。しかしながら、E.coliなどの宿主細胞のサイトゾルにおいて本発明のABPを生成することも可能である。この場合、そのポリペプチドは、折り畳まれた可溶性の状態で直接得ることができるか、又は封入体の形態で回収された後、インビトロで再生できる。さらなる選択肢は、細胞内の酸化環境を有するがゆえに、サイトゾルにおいてジスルフィド結合の形成が可能であり得る、特異的な宿主株を使用することである(Venturi M,Seifert C,Hunte C.(2002)“High level production of functional antibody Fab fragments in an oxidizing bacterial cytoplasm.”J.Mol.Biol.315,1-8)。
【0090】
上記細胞によって産生されたABPは、任意の従来の精製技術、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製でき、アフィニティークロマトグラフィーが、好ましい精製手法の1つである。ABPは、CH1又はCLドメインなどの定常ドメインに特異的且つ可逆的に結合するタンパク質/リガンドを用いた親和性精製を介して精製され得る。そのようなタンパク質の例は、免疫グロブリンに結合する細菌タンパク質、例えば、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G又はプロテインLであり、ここで、プロテインLの結合は、カッパー軽鎖を含むABPに限定される。κ-軽鎖を有する抗体を精製するための代替方法は、ビーズに結合した抗カッパー抗体(KappaSelect)を使用することである。親和性リガンドとしてのプロテインAの適格性は、その抗体に存在する免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、抗体を精製するために使用できる(Lindmark et al,J.Immunol.Meth.62:1-13(1983))。プロテインGは、すべてのマウスアイソタイプ及びヒトガンマ3に対して推奨されている(Guss et al,EMBO J.5:15671575(1986))。本発明の特定のABPに対して使用される精製方法の選択は、当業者の知識の範囲内である。
【0091】
本発明のABPの鎖のうちの1つに1つ以上の親和性タグを備え付けることも可能である。Strep-タグ(登録商標)又はStrep-タグ(登録商標)II(Schmidt,T.G.M.et al.(1996)J.Mol.Biol.255,753-766)、myc-タグ、FLAGTM-タグ、His6-タグ又はHA-タグなどの親和性タグが、組換えABPの容易な検出を可能にし、その簡便な精製も可能にする。
【0092】
ここで本発明の核酸に目を向けると、本発明に係る抗体の1つ以上の鎖をコードする核酸分子は、一本鎖、二本鎖又はそれらの組み合わせなど、任意の存在し得る配置の任意の核酸であり得る。核酸としては、例えば、DNA分子、RNA分子、ヌクレオチドアナログ又は核酸化学を用いて作製されるDNA又はRNAのアナログ、ロックト核酸分子(LNA)、及びタンパク質核酸分子(PNA)が挙げられる。DNA又はRNAは、ゲノム起源であってもよいし、合成起源であってもよく、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。そのような核酸は、例えば、mRNA、cRNA、合成RNA、ゲノムDNA、cDNA合成DNA、DNAとRNAとの共重合体、オリゴヌクレオチドなどであり得る。それぞれの核酸はさらに、非天然のヌクレオチドアナログを含んでもよく、且つ/又は親和性タグもしくはラベルに連結されてもよい。
【0093】
いくつかの実施形態において、本発明に係る抗体の主鎖及び/又は小鎖などの鎖をコードする核酸配列は、プラスミドなどのベクターに含められる。抗体の天然に存在するドメイン又は領域と比べて置換又は欠失が抗体鎖に含められる場合、それぞれの天然のドメイン/領域のコード配列、例えば、免疫グロブリンの配列に含まれるコード配列が、突然変異誘発のための出発点として使用され得る。選択されたアミノ酸位置の変異誘発のために、当業者は、部位特異的変異誘発のために確立された様々な標準的な方法を自由に利用できる。通常使用される手法は、所望の配列位置に縮重塩基組成物を有する合成オリゴヌクレオチドの混合物を使用したPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を用いて変異を導入することである。例えば、コドンNNK又はNNS(ここで、N=アデニン、グアニン又はシトシン又はチミン;K=グアニン又はチミン;S=アデニン又はシトシンである)を使用することにより、突然変異誘発において20個すべてのアミノ酸及びアンバー停止コドンを組み込むことが可能になるのに対して、コドンVVSは、そのポリペプチド配列の選択された位置にアミノ酸Cys、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、Valが組み込まれることを排除するので、組み込まれる可能性があるアミノ酸の数を12個に限定する。コドンNMS(ここで、M=アデニン又はシトシンである)を使用することにより、例えば、選択された配列位置にアミノ酸Arg、Cys、Gly、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Valが組み込まれることを排除するので、選択された配列位置に存在する可能性のあるアミノ酸の数を11個に限定する。この点において、セレノシステイン又はピロリシン(pyrrolysine)などの他のアミノ酸(通例の20個の天然に存在するアミノ酸以外のアミノ酸)に対するコドンも、ABPの核酸に組み込まれ得ることに注意されたい。Wang,L.,et al.(2001)Science 292,498-500又はWang,L.,and Schultz,P.G.(2002)Chem.Comm.1,1-11に説明されているように、他の珍しいアミノ酸、例えば、o-メチル-L-チロシン又はp-アミノフェニルアラニンを挿入するために、通常、終止コドンとして認識されるUAGなどの「人工」コドンを使用することも可能である。
【0094】
例えば、イノシン、8-オキソ-2’デオキシグアノシン又は6(2-デオキシ-β-D-リボフラノシル)-3,4-ジヒドロ-8H-ピリミン-ド-1,2-オキサジン-7-オン(Zaccolo et al.(1996)J.Mol.Biol.255,589-603)のような、塩基対の特異性が低いヌクレオチド基本単位の使用は、選択された配列セグメントに変異を導入するための別の選択肢である。さらなる可能性は、いわゆるトリプレット突然変異誘発である。この方法では、異なるヌクレオチドトリプレットの混合物(各々が、コード配列に組み込むための1つのアミノ酸をコードする)を使用する(Virnekas B,et al.,1994 Nucleic Acids Res 22,5600-5607)。
【0095】
本発明に係る抗体の主鎖及び/又は小鎖などの鎖をコードする核酸分子は、任意の好適な発現系を用いて、例えば、好適な宿主細胞又は無細胞系において、発現され得る。得られたABPは、選択及び/又は単離によって、濃縮され得る。好ましくは、本発明の核酸は、ベクター/プラスミドなどの遺伝子構築物として提供される。
【0096】
核酸のシステム、すなわち、そのような本発明の核酸を含む構築物がさらに提供され、ここで、本発明のシステムは、本発明の少なくとも2つの核酸を含み、それらの核酸の各々が本発明のABPの1つのモノマーをコードし、例えば、1つの核酸が重鎖配列をコードし、第2の核酸が軽鎖配列をコードする。
【0097】
いくつかの実施形態において、本発明のABPのポリペプチドは、インビボ又はインビトロで発現するための核酸によってコードされ得る。したがって、いくつかの実施形態において、本発明のABPをコードする単離された核酸が提供される。いくつかの実施形態において、その核酸は、本発明のABPの一部分又はモノマー(例えば、抗体の2本の鎖(重鎖及び軽鎖)のうちの一方)をコードし、且つ/又は別の核酸が、本発明のABPの別の一部分又はモノマー(例えば、抗体の2本の鎖のうちの他方)をコードする。そのような核酸は、組み合わせて、又は一緒に1つの系として、提供され得る。いくつかの実施形態において、その核酸は、2つ以上のABPポリペプチド鎖、例えば、少なくとも2本の抗体鎖をコードする。複数のABP鎖をコードする核酸は、少なくとも2つの鎖配列の間に核酸切断部位を含み得、2つ以上の鎖配列の間に転写開始部位又は翻訳開始部位をコードし得、且つ/又は2つ以上のABP鎖の間にタンパク分解性の標的部位をコードし得る。
【0098】
関係する1つの態様において、本発明は、本発明の少なくとも1つの核酸(例えば、上に記載されたもの)を含む核酸構築物(NAC)に関する。そのようなNACは、細胞(例えば、宿主細胞)において、コードされるABP又は前記ABPの構成要素の発現を可能にする1つ以上のさらなる特徴を含み得る。本発明のNACの例としては、プラスミドベクター、ウイルスベクター、mRNA、非エピソーム哺乳動物ベクター及び発現ベクター、例えば、組換え発現ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の核酸構築物は、本発明の核酸を、宿主細胞などの細胞におけるその核酸の発現に適した形態で含み得る(下記を参照のこと)。本発明の核酸構築物は、通常、組換え核酸であり、且つ/又は単離されたもの及び/もしくは実質的に純粋なものであり得る。組換え核酸は、通常、非天然のものであり、特に、異なる種に由来する部分及び/又は合成の、インビトロのもしくは変異原性の方法に由来する部分を含む場合、非天然のものである。
【0099】
いくつかの実施形態において、本発明のNACは、1つ以上の構築物を含み、それらの構築物のいずれかは、抗体の重鎖又は軽鎖をコードする核酸を含む。いくつかの実施形態において、本発明のNACは、2つの構築物を含み、それらの構築物の一方が、抗体の重鎖をコードする核酸を含み、他方が、抗体の軽鎖をコードする核酸を含み、その結果、両方の構築物からの発現によって、完全な抗体分子が生成され得る。いくつかの実施形態において、本発明のNACは、抗体の重鎖と軽鎖の両方をコードする核酸を含む構築物を含み、その結果、1つの構築物から完全な抗体分子が発現され得る。他の実施形態において、本発明のNACは、例えばコードされるABPがscFv又は単一ドメイン抗体(例えば、ラクダ科動物の抗体)である場合、本発明のABPを形成するのに十分な一本鎖をコードする単一の構築物を含み得る。
【0100】
さらに、本発明の1つのさらなる態様は、本明細書中に開示されるようなABP又はABPの一部もしくはモノマーをコードする核酸を含むベクター(例えば、発現ベクター)を提供する。例えば、ABPが多量体タンパク質であるいくつかの実施形態では、その核酸は、抗原構築物の1つのポリペプチド鎖だけをコードする。ゆえに、そのような抗原結合構築物を発現するために、本発明の発現ベクターは、各々がABPの別個の一部又はモノマーをコードする2つ以上の核酸を含み得、それらの核酸は、組み合わさってABP全体を発現する。同じように、抗原結合構築物の一部又はモノマーだけをコードする核酸を含む本発明の発現ベクターは、各々がABPの別個の一部又はモノマーをコードする本発明の他の別個の発現ベクターと組み合わせて使用され得る。他の実施形態において、その核酸は、本発明のABPの複数のポリペプチド鎖をコードする。いくつかの実施形態において、その発現ベクターには、哺乳動物での発現用のpcDNA3.1TM/myc-His(-)バージョンAベクター(Invitrogen,Inc.)又はそのバリアントが含まれる。pcDNA3.1発現ベクターは、哺乳動物での発現用のCMVプロモーター、及び哺乳動物(ネオマイシン)選択マーカーと細菌(アンピシリン)選択マーカーの両方を特徴とする。いくつかの実施形態において、発現ベクターには、プラスミドが含まれる。いくつかの実施形態において、ベクターには、ウイルスベクター、例えば、レトロウイルスベクター又はアデノウイルスベクターが含まれる。実施形態において、ベクターには、コスミド、YAC又はBACが含まれる。
【0101】
別の関係する態様では、本発明は、本発明の1つ以上の核酸を含む細胞(例えば、宿主細胞及び/又は組換え宿主細胞)に関する。好ましくは、そのような細胞は、その核酸によってコードされるABP(又はその構成要素)を発現することができる。例えば、本発明のABPが、2つの別個のポリペプチド鎖(例えば、IgGの重鎖及び軽鎖)を含む場合、本発明の細胞は、そのようなABPの重鎖をコードする(及び発現できる)第1の核酸並びにそのようなABPの軽鎖をコードする(及び発現できる)第2の核酸を含んでもよいし、或いは、その細胞は、そのようなABPの両方の鎖をコードする単一の核酸を含んでもよい。このように、そのような本発明の細胞は、本発明の機能的ABPを発現することができるであろう。本発明の(宿主)細胞は、本明細書中の他の箇所に記載されているような、哺乳動物、原核生物又は真核生物の宿主細胞のうちの1つであり得、特に、その細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0102】
そのような態様のある特定の実施形態において、(宿主)細胞は、ヒト細胞であり、特に、特定の個体からサンプリングされたヒト細胞(例えば、自己ヒト細胞)であり得る。そのような実施形態では、そのようなヒト細胞は、本発明の核酸を導入するために、インビトロで増殖及び/又は操作され得る。特定の個体由来の操作されたヒト細胞の有用性は、治療において使用するためなど、そのような操作されたヒト細胞の集団をヒト被験体に再導入することを含む、本発明のABPを作製することであり得る。ある特定のそのような使用において、操作されたヒト細胞は、最初にサンプリングされた同じヒト個体に、例えば自己ヒト細胞として、導入され得る。
【0103】
そのような操作に供されるヒト細胞は、任意の生殖細胞型又は身体内の体細胞型であり得る。例えば、ドナー細胞は、線維芽細胞、B細胞、T細胞、樹状細胞、ケラチノサイト、脂肪細胞、上皮細胞、表皮細胞、軟骨細胞、卵丘細胞、神経細胞、グリア細胞、アストロサイト、心臓細胞、食道細胞、筋細胞、メラノサイト、造血細胞、マクロファージ、単球及び単核細胞からなる群より選択される体細胞又は生殖細胞であり得る。ドナー細胞は、身体内の任意の臓器又は組織から得ることができ、例えば、肝臓、胃、腸、肺、膵臓、角膜、皮膚、胆嚢、卵巣、精巣、腎臓、心臓、膀胱及び尿道からなる群より選択される臓器由来の細胞であり得る。
薬学的組成物
【0104】
本発明は、本発明のABP、並びに必要に応じて、薬学的に許容され得る賦形剤及び/又はキャリアを含む薬学的組成物も提供する。
【0105】
治療において使用されるために、本発明のABP、核酸又はNAC(又は宿主細胞などの細胞)は、動物又はヒトへの投与を容易にするのに適切な薬学的組成物に製剤化され得る。用語「薬学的組成物」は、薬学的に使用するための、治療的に活性な物質(例えば、本発明のABP)を含む物質の混合物を意味する。
【0106】
例として、本発明の薬学的組成物は、0.1%~100%(w/w)の活性成分(例えば、本発明のABP)、例えば、約0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、8% 10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%、好ましくは、約1%~約20%、約10%~50%又は約40%~90%を含み得る。
【0107】
本発明に係るABPは、タンパク質性薬物にとって治療的に有効な任意の腸管外経路又は非腸管外(経腸的)経路を介して投与され得る。腸管外の適用方法としては、例えば、注射溶液、注入溶液又はチンキ剤の形態などでの、皮内、皮下、筋肉内、気管内、鼻腔内、硝子体内又は静脈内注射及び注入の手法、並びにエアロゾル混合物、スプレー又は粉末の形態などでの、エアロゾル注入及び吸入が挙げられる。薬物の肺送達、すなわち、エアロゾルの吸入(鼻腔内投与でも使用され得る)又は気管内注入のいずれかを介する送達に関する概説は、例えば、J.S.Patton et al.The lungs as a portal of entry for systemic drug delivery.Proc.Amer.Thoracic Soc.2004 Vol.1 pages 338-344に提供されている。非腸管外の送達様式は、例えば、丸剤、錠剤、カプセル剤、溶液もしくは懸濁液の形態などでの、経口的な様式、又は坐剤の形態などでの、直腸的な様式である。本発明のABPは、従来の無毒性の薬学的に許容され得る賦形剤又はキャリア、添加物及びビヒクルを所望のとおり含む製剤として全身的又は局所的に投与され得る。
【0108】
本発明の1つの実施形態において、医薬品は、哺乳動物、特にヒトに、腸管外に投与される。対応する投与方法としては、例えば、注射溶液、注入溶液又はチンキ剤の形態などでの、皮内、皮下、筋肉内、気管内又は静脈内注射及び注入の手法、並びにエアロゾル混合物、スプレー又は粉末の形態などでの、エアロゾル注入及び吸入が挙げられるが、これらに限定されない。静脈内及び皮下注入及び/又は注射の組み合わせは、血清半減期が比較的短い化合物の場合に最も好都合であり得る。薬学的組成物は、水溶液、水中油型エマルジョン又は油中水型エマルジョンであり得る。
【0109】
この点において、Meidan VM and Michniak BB 2004 Am.J.Ther.11(4):312-316に記載されているような経皮的送達技術、例えば、イオン導入、ソノフォレーシス又はマイクロニードルによって強化される送達も、本明細書中に記載されるABPの経皮的送達に使用できることに注意されたい。非腸管外の送達様式は、例えば、丸剤、錠剤、カプセル剤、溶液もしくは懸濁液の形態などでの、経口的な様式、又は坐剤の形態などでの、直腸的な投与である。本発明のABPは、種々の従来の無毒性の薬学的に許容され得る賦形剤又はキャリア、添加物及びビヒクルを含む製剤として全身的又は局所的に投与され得る。
【0110】
適用されるABPの投与量は、所望の予防効果又は治療反応を達成するための広い範囲内で変動し得る。それは、例えば、選択される標的に対するABPの親和性、並びにABPとリガンドとの複合体のインビボ半減期に依存する。さらに、最適な投与量は、ABP又はその結合体の体内分布、投与の様式、処置される疾患/障害の重症度、並びに患者の病状に依存する。例えば、局所的適用のために軟膏として使用されるときは、高濃度のABPを使用できる。しかしながら、求められれば、ABPは、徐放製剤、例えば、PolyActiveTM又はOctoDEXTM(Bos et al,Business Briefing:Pharmatech 2003:1-6を参照のこと)のようなリポソーム分散液又はヒドロゲルベースのポリマーミクロスフェアとしても投与され得る。他の利用可能な徐放製剤は、例えば、PLGAベースのポリマー(PR pharmaceuticals)、PLA-PEGベースのヒドロゲル(Medincell)及びPEAベースのポリマー(Medivas)である。
【0111】
したがって、本発明のABPは、薬学的に許容され得る成分並びに確立された調製方法(Gennaro,A.L.and Gennaro,A.R.(2000)Remington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Ed.,Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA)を用いて組成物に製剤化され得る。薬学的組成物を調製するために、薬学的に不活性な無機賦形剤又は有機賦形剤が使用され得る。例えば、丸剤、散剤、ゼラチンカプセル剤又は坐剤を調製するために、例えば、ラクトース、タルク、ステアリン酸及びその塩、脂肪、ろう、固体又は液体のポリオール、天然油並びに硬化油が使用され得る。溶液、懸濁液、エマルジョン、エアロゾル混合物、又は使用前に溶液もしくはエアロゾル混合物に再構成する粉末を作製するのに好適な賦形剤としては、水、アルコール、グリセロール、ポリオール及びそれらの好適な混合物並びに植物油が挙げられる。
【0112】
薬学的組成物は、添加物、例えば、充填剤、結合剤、湿潤剤、滑剤、安定剤、保存剤、乳化剤、及びさらには、デポー効果を達成するための溶媒又は可溶化剤又は作用物質も含み得る。後者は、融合タンパク質が、持続放出系又は徐放系又は標的化送達系、例えば、リポソーム及びマイクロカプセルに組み込まれ得るものである。
【0113】
上記製剤は、細菌保持フィルターによる濾過を含む数多くの手段によって、又は使用直前に滅菌水もしくは他の滅菌媒質に溶解もしくは分散され得る滅菌された固体組成物の形態で滅菌剤を組み込むことによって、滅菌され得る。
【0114】
投与を容易にするため、及び投与量の均一性のために、経口、直腸又は腸管外組成物を投与単位形態(dosage unit form)で製剤化することが特に有益である。本明細書中で使用される投与単位形態には、処置される被験体に対する単位投与量としてふさわしい物理的に不連続な単位が含まれる。各単位は、必要な薬学的キャリアとともに所望の治療効果をもたらすと計算される所定の量の活性な化合物を含む。本発明の投与単位形態の仕様は、活性な化合物のユニークな特性及び達成されるべき特定の治療効果、並びに個体を処置するためにそのような活性な化合物を配合する技術に固有の限界によって規定され、それらに直接依存する。
【0115】
いくつかの実施形態において、本発明のABP又は他の構成要素(例えば、核酸又はNAC)を含む薬学的組成物は、10~1000mgの本発明のABP又は他の構成要素という単位用量の形態である。いくつかの実施形態において、本発明のABP又は他の構成要素を含む薬学的組成物は、10~200mgのABP又は他の構成要素という単位用量の形態である。いくつかの実施形態において、ABPを含む薬学的組成物は、200~400mgのABP又は他の構成要素という単位用量の形態である。いくつかの実施形態において、ABP又は他の構成要素を含む薬学的組成物は、400~600mgのABP又は他の構成要素という単位用量の形態である。いくつかの実施形態において、ABP又は他の構成要素を含む薬学的組成物は、600~800mgのABP又は他の構成要素という単位用量の形態である。いくつかの実施形態において、ABP又は他の構成要素を含む薬学的組成物は、800~1000mgのABP又は他の構成要素という単位用量の形態である。
【0116】
ABP又は他の構成要素を含む薬学的組成物の例示的な単位剤形は、錠剤、カプセル剤(例えば、散剤、顆粒剤、微小錠剤又はマイクロペレットとして)、懸濁液又は使い捨ての充填済みシリンジである。ある特定の実施形態において、単一用量の投与単位を作製するためのキットが提供される。そのキットは、乾燥した活性成分を有する第1の容器と水性製剤を有する第2の容器の両方を含み得る。あるいは、そのキットは、シングルチャンバー及びマルチチャンバーの充填済みシリンジを含み得る。
【0117】
そのような活性成分の毒性及び治療効果(例えば、有効性)は、例えば、LD50(集団の50%にとって致死性の用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を測定するための、標準的な薬学的手順によって細胞培養物又は実験動物において測定され得る。毒性と治療効果との用量比は、治療指数であり、LD50/ED50比として表現され得る。高い治療指数を示す活性な作用物質が好ましい。毒性の副作用を示す化合物も使用してよいが、非感染細胞に対する潜在的な損傷を最小限に抑え、それにより副作用を低減させるために、そのような化合物を罹患組織部位に標的化する送達系をデザインするように注意を払うべきである。
【0118】
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータは、ある範囲の投与量の活性成分(例えば、本発明のABP又は他の構成要素)を製剤化する際に、例えば、ヒトにおいて使用するために使用できる。そのような活性成分の投与量は、好ましくは、毒性がほとんど又は全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。その投与量は、使用される剤形及び使用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。本発明の治療的アプローチにおいて使用されるいずれの活性成分についても、(治療)有効量は、まずは細胞培養アッセイから推定され得る。動物モデルでは、細胞培養において測定されたIC50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する活性成分の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように用量を製剤化できる。そのような情報を用いることにより、例えばヒトに投与するための、有用な(例えば、有効な)量又は用量をより正確に決定できる。薬学的組成物は、投与の指示書と共に、容器、パック又はディスペンサーに含められ得る。
【0119】
本発明の文脈において、有効量の本発明のABP又は他の構成要素又は薬学的組成物は、研究者、科学者、薬理学者、薬剤師、獣医師、医師又は他の臨床医が調べている細胞、組織、系、身体、動物、個体、患者又はヒトの生物学的、生理学的、薬理学的、治療的又は医学的な応答を誘発する、例えば、障害、疾患又は状態(例えば、増殖性障害、例えば、癌又は腫瘍)の影響/症状を和らげる、又は増殖性障害に関わる細胞(例えば、腫瘍細胞)を殺滅するもしくはその成長を阻害する、ものであり得る。その有効量は、下記で説明される手順を含む標準的な手順によって決定され得る。
【0120】
本明細書中に提供される処置の医学的な使用及び方法のあらゆる態様及び実施形態によれば、本発明のABP又は他の構成要素による処置を必要とする被験体に少なくとも1回投与される有効量は、通常、1投与あたり約0.01mg/kg~約100mg/kg、例えば、1投与あたり約1mg/kg~約10mg/kgである。いくつかの実施形態において、被験体に少なくとも1回投与されるABP又は他の構成要素の有効量は、1投与あたり約0.01mg/kg~約0.1mg/kg、1投与あたり約0.1mg/kg~約1mg/kg、1投与あたり約1mg/kg~約5mg/kg、1投与あたり約5mg/kg~約10mg/kg、1投与あたり約10mg/kg~約50mg/kg又は1投与あたり約50mg/kg~約100mg/kgである。
【0121】
疾患の予防又は処置の場合、ABP又は他の構成要素(又はそれらを含む薬学的組成物)の適切な投与量は、処置される疾患のタイプ、疾患の重症度及び経過、ABP又は他の構成要素及び/又は薬学的組成物が予防目的で投与されるのか又は治療目的で投与されるのか、以前の治療、患者の病歴、年齢、サイズ/体重及びABPもしくは他の構成要素及び/又は薬学的組成物に対する応答、並びに主治医の裁量に依存する。ABPもしくは他の構成要素及び/又は薬学的組成物は、一度に又は一連の処置にわたって、患者に適切に投与される。そのようなABPもしくは他の構成要素及び/又は薬学的組成物が、一連の処置にわたって投与される場合、所与の処置経過における投与の総数は、合計約2、3、4、5、6、7、8、9、10回又は約10回を超える処置からなり得る。例えば、ある処置が、1週間、1ヶ月間又は数ヶ月間にわたって1日に1回(又は、1日に2、3又は4回)投与され得る。ある特定の実施形態において、処置経過は、無限に継続する場合がある。
【0122】
投与されるABPもしくは他の構成要素及び/又は薬学的組成物の量は、処置される疾患又は適応症のタイプ及び程度、患者の全体的な健康状態、年齢、サイズ/体重、ABPもしくは他の構成要素及び/又は薬学的組成物のインビボ効力、並びに投与経路などの変数に依存する。初回投与量は、速やかに所望の血中レベル又は組織レベルを達成するために、上限を超えて増加させることができる。あるいは、初回投与量は、最適量より少なくすることができ、処置経過の間に1日投与量を徐々に増加させてもよい。ヒト投与量は、例えば、比較的少ない初回量、例えば、約0.01mg/kg~約20mg/kgの活性成分から実施するようにデザインされた従来の第I相用量漸増研究において最適化され得る。投与頻度は、投与経路、投与量及び処置される疾患などの因子に応じて変動し得る。例示的な投与頻度は、1日につき1回、1週間につき1回及び2週間ごとに1回である。本発明の(又は本発明とともに使用するための)ABP又は他の構成要素の製剤化は、本分野の通常の技術範囲内である。本発明のいくつかの実施形態において、そのようなABP又は他の構成要素は、凍結乾燥されており、投与時に緩衝食塩水で再構成される。ABPもしくは他の構成要素及び/又は薬学的組成物はさらに、処置される疾患の再発を減少させ得るか、又は薬物耐性の発生率を低下させ得るか、又は薬物耐性が現れるまでの時間を延長し得、癌の場合は、無増悪生存期間及び/又は全生存期間を延長し得る。
疾患の処置及び診断
【0123】
本発明のABP、並びに任意の核酸、NAC、細胞又は組成物は、被験体の疾患の処置及び/又は予防に好適であり得、それらにおいて使用され得る。好ましくは、そのような疾患は、例えば、自己抗原又は異質(同種)抗原に対する応答における、被験体の病的な免疫応答である。したがって、炎症性疾患及び自己免疫疾患が、本発明の構成要素によっておそらく処置可能である。関連する態様において、本発明は、医薬において使用するための生成物又は構成要素に関し、薬を製造するための生成物の使用に関し、その生成物は、本発明のABP、核酸、NACもしくは宿主細胞、又は前述のいずれかを含む薬学的組成物からなるリストから選択される。
【0124】
本明細書中の他の箇所に記載される他の態様では、哺乳動物被験体の疾患、障害又は状態を検出及び/又は診断する方法が提供され、好ましくは、そのような方法は、TIRC7又はTIRC7陽性細胞への本発明のABPの結合を検出する工程を含む。
【0125】
本発明は、組換え細胞株又は本発明のABP、本発明のABPを産生できるハイブリドーマ又は宿主細胞を生成する様々な方法にも関し、並びに様々な測定方法及び/もしくは診断方法、又は使用、並びにそのような測定方法及び/もしくは診断方法に有用なキット、並びに化合物を特定するため及び/又は特徴付けるための様々な方法及び/又はABPを特定するため、作製するため及び/又は生成するための方法、例えば、医薬において使用するのに適した方法に関する。
【0126】
本発明における用語「処置」は、治療、例えば、治療的な処置、並びに疾患(又は障害又は状態)に対する予防的又は抑制的な措置を含むように意味される。したがって、例えば、疾患の発症前のABP(又は核酸又はNAC又は細胞、例えば、宿主細胞)の投与の成功は、その疾患の処置をもたらす。「処置」には、疾患(又はその症状)を回復させる又は根絶するために、その疾患が現れた後にABPを投与することも包含される。臨床症状の軽減が見込まれ、場合によっては疾患が回復することもある、発症後及び臨床症状が現れた後のABPの投与も、疾患の処置を構成する。「処置を必要とする」者には、すでに疾患、障害又は状態を有する被験体(例えば、ヒト被験体)、並びに疾患、障害もしくは状態になりやすい又はそれらを有すると疑われる者(疾患、障害又は状態が予防されるべき者を含む)が含まれる。
【0127】
自己免疫疾患:用語「自己免疫疾患」とは、適応免疫系及び自然免疫系が自己抗原に応答し、細胞損傷及び組織損傷を媒介するような、自己寛容の崩壊によって引き起こされる疾患のことを指す。自己免疫疾患は、単一の臓器もしくは単一の細胞型の関与又は複数の臓器もしくは又は組織系の関与によって特徴付けられることが多い。自己免疫疾患は、「膠原」病又は「膠原血管」病又は「結合組織」病とも称されてきた。自己免疫障害は、過敏症反応を伴うことが多い。本発明の構成要素は、様々なタイプの自己免疫疾患の処置及び/又は予防に有用であり得る。自己免疫障害の非限定的な具体例は、全身性エリテマトーデス、インスリン依存性(I型)糖尿病、炎症性関節炎、関節リウマチ、多発性硬化症、自己免疫性肝炎、慢性侵襲性肝炎、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症、悪性貧血の自己免疫性萎縮性胃炎、自己免疫性脳脊髄炎、脳炎、自己免疫性睾丸炎、自己免疫性膵炎、後天性血友病、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、円形脱毛症、ライム病、硬化性苔癬、ベーチェット症候群、心筋症、封入体筋炎、自己免疫性心筋炎、抗GBM腎炎、スティル病、水疱性類天疱瘡、結節性多発動脈炎、乾癬性関節炎、線維筋痛症、リウマチ熱、サルコイドーシス、全身性硬化症、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、ギランバレー症候群、橋本甲状腺炎、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、バセドウ病、免疫性血小板減少性紫斑病、間質性膀胱炎、若年性関節炎、若年性筋炎、1型糖尿病、甲状腺眼疾患、IgA腎症、亜急性細菌性心内膜炎、グッドパスチャー症候群、線維化肺胞炎、再発性多発性軟骨炎、好酸球性筋膜炎、食道炎、子宮内膜症、原発性硬化性胆管炎、皮膚炎、リウマチ性多発性筋痛、川崎病、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素病、多発性筋炎、皮膚筋炎、円板状狼瘡、交感性眼炎、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症、線維筋炎、ギランバレー症候群、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病、IgA腎症、若年性関節炎、全身性硬化症、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、高IgE、全身性進行性硬化症、乾癬、ライター症候群、サルコイドーシス、全身硬直症候群、ブドウ膜炎又は尿細管間質性腎炎を伴うブドウ膜炎、脈管炎、天疱瘡、視神経炎、未分化炎症性結合組織病、横断性脊髄炎、トロサ・ハント症候群、強膜炎、交感性眼炎、白斑、橋本甲状腺炎、グッドパスチャー病、悪性貧血、アジソン病、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、皮膚筋炎、重症筋無力症、バセドウ病、アレルギー性脳脊髄炎、糸球体腎炎、セリアック病、シャーガス病、線維性疾患などである(N Engl J Med,Vol.345,No.5,August 2,2001,P340-350)。DNA含有又はRNA含有微生物から放出されるDNA又はRNAは、自己のRNA含有又はDNA含有複合体に特異的な自己抗体の産生を刺激することがあり、その結果として、SLEを含むがこれに限定されない自己免疫疾患に至ることがある。
【0128】
本発明のABP又は本明細書中に開示される別の構成要素で処置され得る自己免疫疾患は、T細胞媒介性免疫応答の阻害及び/又は低減によって処置可能な疾患である。例えば、本発明のABPを用いて処置及び/又は予防され得るそのような疾患は、本明細書中の図8に示される例示的なABPの免疫抑制効果の恩恵を受ける疾患から選択される。
【0129】
本発明の構成要素及び方法によって処置可能又は予防可能な好ましい自己免疫疾患は、自己免疫性肝炎、IgG4関連自己免疫疾患、肺線維症、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、ブドウ膜炎又は尿細管間質性腎炎を伴うブドウ膜炎、脈管炎、慢性疲労症候群及び全身性強皮症の群から選択される。
【0130】
本発明のABP又は他の構成要素は、ある特定の処置、例えば、そのような処置を受けている患者において望まれない免疫応答(例えば、細胞性免疫応答、例えば、T細胞応答)を誘導し得る処置によって引き起こされる免疫学的副作用の処置にさらに有用である。CAR、抗体、T細胞レセプター又は他の任意の巨大タンパク質などの生物学的複合体による任意の処置が、患者の免疫系にその治療薬を潜在的な外来性脅威として「攻撃」させることがある。例えば、治療用抗体、キメラ抗原レセプター又は免疫チェックポイント阻害剤による処置を受けている癌患者における典型的な副作用は、サイトカインストームとして知られる有害な免疫応答の発生である。ゆえに、好ましくは、自己免疫疾患は、サイトカインストームなどの、第一選択処置によって引き起こされる病的な免疫応答である。
【0131】
さらに、ある特定の状況においては、液性免疫不全及び免疫調節不全によって特徴付けられる、不均一且つ不可解な原発性免疫不全障害である分類不能型免疫不全(CVID)といったB細胞によって媒介される疾患も、本発明のABP又は他の構成要素で処置され得る。
【0132】
「過敏症」:過敏症は、内因性又は外来性の起源の抗原に対する液性又は細胞性応答の結果として組織損傷が起きる障害のことを指し、4つのタイプに分類される。I型過敏症(アナフィラキシー性の、即時型の、アトピー性の、レアギン性の(reagenic)、IgE媒介性の、過敏症反応又はアレルギーと称されることが多い)は、一般に、特定の外来性抗原との接触後の、IgEで感作された好塩基球及びマスト細胞からの、ヒスタミン、アナフィラキシー遅反応性物質(SRS-A)及び好酸球性走化因子(ECF)などの薬理学的に活性な物質の放出に起因する。I型過敏症には、アレルギー性外因性喘息、季節性アレルギー性鼻炎及び全身アナフィラキシーが含まれるが、これらに限定されない。II型過敏症(細胞傷害性、細胞溶解性、補体依存性又は細胞刺激性の過敏症反応とも称される)は、抗体が、細胞もしくは組織エレメントの抗原性の構成要素、又は細胞もしくは組織に密接に結合するようになった抗原もしくはハプテンと反応するとき、生じる。II型過敏症としては、自己免疫性溶血性貧血、胎児赤芽球症及びグッドパスチャー病が挙げられるが、これらに限定されない。III型過敏症(毒性複合体、可溶性複合体又は免疫複合体による過敏症反応とも称される)は、免疫複合体の沈着部位に急性炎症反応を伴う、可溶性の循環抗原-抗体複合体が血管又は組織に沈着することに起因する。III型過敏症としては、アルチュス反応、血清病、全身性エリテマトーデス及びある特定のタイプの糸球体腎炎が挙げられるが、これらに限定されない。IV型過敏症(細胞過敏症反応、細胞性過敏症反応、遅延型過敏症反応又はツベルクリン型過敏症反応と呼ばれることが多い)は、特定の抗原との接触に起因する感作Tリンパ球によって引き起こされる。IV型過敏症としては、接触皮膚炎及び同種移植片拒絶が挙げられるが、これらに限定されない(Richard A.et al.Immunology,Fifth Edition,2003,W.H.FREEMAN AND COMPANY)。
【0133】
「微生物による宿主免疫系の過剰刺激に関連する疾患」:微生物の侵入は、深刻な場合、時折、被験体において全身性炎症反応を引き起こし、微生物による宿主免疫系の過剰刺激に関連する疾患に至る場合がある。インフルエンザA(H5N1)又は細菌感染症の場合など、それらの疾患が発症する際の事象としては、TNFa、インターロイキン-1(IL-1)、IL-6、IL-12、インターフェロンアルファ(IFN-a)、インターフェロンベータ(IFN-β)、インターフェロンガンマ(IFN-γ)、ケモカイン、インターフェロン誘導タンパク質10、単球走化性タンパク質1、インターロイキン-8、インターロイキン-1β及び単球走化性タンパク質1の有意に高い血中濃度が挙げられる。そのような応答は、多くの患者において観察される敗血症、ARDS及び多臓器不全に部分的に関与するサイトカイン媒介性の致死性ショックをもたらし得る(The Writing Committee of the World Health Organization(WHO)Consultation on Human Influenza A H5.Avian Influenza A(H5N1)Infection in Humans.N Engl J Med 2005;353:1374-85)。微生物感染後のサイトカインの血中濃度の有意な上昇は、高サイトカイン血症又はサイトカインストームと呼ばれる。研究から、鳥インフルエンザ又はSARSに接触する患者は、抗ウイルス薬に加えて、免疫応答を抑制する薬物を必要とする場合があることが示唆された。ゆえに、本発明のABPは、SARS-CoV2感染によって引き起こされるCOVID-19などの、行き過ぎの免疫応答に関連するウイルス性疾患の処置に有用であり得る。
【0134】
本発明の化合物は、被験体における微生物による宿主免疫系の刺激に関連する疾患を処置及び/又は予防するために使用され得る。それらの疾患を引き起こす微生物としては、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物、及び海綿状脳症の病原因子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
微生物による宿主免疫系の過剰刺激に関連する疾患を引き起こすウイルスとしては、SARS CoV、特にSARS-CoV2、インフルエンザウイルス、鳥インフルエンザウイルス、HIV-1、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、エンテロウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、ライノウイルス、エコーウイルス、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス、コロナウイルス、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、インフルエンザウイルス、ハンタンウイルス、ブンガ(bunga)ウイルス、フレボウイルス、ナイロウイルス、出血熱ウイルス、レオウイルス、オルビウイルス及びロタウイルス、B型肝炎ウイルス、パルボウイルス、パピローマウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(HSV)1及びHSV-2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス、痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、アフリカブタ熱ウイルス、海綿状脳症の病原因子、デルタ型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、口蹄疫ウイルス及び鳥インフルエンザウイルスが挙げられる。微生物による宿主免疫系の過剰刺激に関連する疾患、例えば、敗血症を引き起こし得る細菌としては、Helicobacter pyloris、Borelia burgdorferi、Legionella pneumophilia、マイコバクテリアの種(例えば、M.tuberculosis、M.avium、M.E intracellulare、M.kansaii、M.gordonae)、Staphylococcus aureus、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、A群連鎖球菌、B群連鎖球菌、連鎖球菌属、Streptococcusfaecalis、Streptococcus bovis、連鎖球菌属(嫌気性菌の種)、Streptococcus pneumoniae、病原性のカンピロバクター属の種、エンテロコッカス属の種、Haemophilus influenzae、Bacillus antracis、corynebacterium diphtheriae、コリネバクテリウム属の種、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringers、Clostridium tetani、Enterobacter aerogeytes、Klebsiella pneumoniae、Pasturella multocida、バクテロイデス属の種、Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Treponema pallidium、Treponema pertenue、レプトスピラ属及びActinomyces israeliiが挙げられる。微生物による宿主免疫系の過剰刺激に関連する疾患を引き起こし得る真菌としては、Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis、Candida albicansが挙げられるが、これらに限定されない。微生物による宿主免疫系の過剰刺激に関連する疾患を引き起こし得る寄生生物としては、Plasmodium falciparum及びToxoplasma gondiiが挙げられる。
【0136】
「移植片拒絶反応」:移植片拒絶反応(移植片対宿主病)は、臓器移植又は組織移植によって引き起こされる免疫媒介性の障害である。移植は、ドナーからレシピエントへの移植組織(移植片)の移動を意味する。移植片は、ドナーからレシピエントに移植される生細胞、組織又は臓器である。自家移植片は、ある場所から別の場所に移動される自身の組織の移植片であり、同系移植片(アイソグラフト)は、一卵性双生児間の移植片であり、同種異系移植片(ホモグラフト)は、同じ種の遺伝的に非類似のメンバー間の移植片であり、異種移植片(ヘテログラフト)は、異なる種のメンバー間の移植組織である。被験体が、同種異系移植片又は異種移植片のレシピエントであるとき、その身体は、ドナー組織に対して免疫応答を起こし得る。この状況では、移植片の拒絶を回避するために、その免疫応答を抑制する明確な必要性がある(Richard A.et al.Immunology,Fifth Edition,2003,W.H.FREEMAN AND COMPANY)。移植片の例は、心臓、腎臓、肝臓、骨髄、皮膚、角膜、肺、膵臓、小腸(intestinum tenue)、肢、筋肉、神経、十二指腸、小腸(small-bowel)、膵島細胞、幹細胞などである。
【0137】
上記融合タンパク質で処置される被験体は、ヒト又は非ヒト動物であり得る。そのような動物は、好ましくは、哺乳動物、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、ウサギ、マウス、ラット、霊長類、ヤギ、ヒツジ、ニワトリ又はウマであり、最も好ましくは、ヒトである。
【0138】
本発明のABPは、本明細書中に記載されるような疾患などの疾患の診断にも使用され得る。ABPは、この目的のために、好適な検出可能なシグナル標識で標識され得る。そのような標識されたABPは、TIRC7レベル、又は白血病もしくは上述の癌のいずれかなどの癌又は被験体の検出又は定量化を可能にし得る。インビボで使用するためにデザインする場合、検出可能なシグナル標識は、好ましくは、インビボで検出可能な標識である。
【0139】
標識されたABPは、免疫イメージング法において使用され得る。そして、その検出可能なシグナル標識は、例えば、診断のために使用される免疫イメージング法に基づいて選択され得、例えば、ガンマカメライメージング法/SPECTの場合は、ガンマ線を放射する放射性核種(又はガンマ放射体)、MRI又はPETイメージング法の場合は、それぞれ金属又は陽電子放射体であり得る。この点において、本開示の1つ以上の検出可能なシグナル標識には、ガンマカメラでイメージング可能な作用物質、PETでイメージング可能な作用物質及びMRIでイメージング可能な作用物質、例えば、放射性核種、蛍光剤、フルオロゲン(fluorogen)、発色団、色素原、リン光体、化学発光体及び生物発光体が含まれる。
【0140】
好適な検出可能なシグナル標識は、放射性核種であり得る。放射性核種は、3H、14C、35S、99Tc、123I、125I、131I、IIIIn、97Ru、67Ga、68Ga、72As、89Zr及び201T1からなる群より選択され得る。
【0141】
好適な検出可能なシグナル標識は、フルオロフォア又はフルオロゲンであってもよい。フルオロフォア又はフルオロゲンは、フルオレセイン、ローダミン、ダンシル、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o-フタルアルデヒド、フルオレサミン、フルオレセイン誘導体、オレゴングリーン、ローダミングリーン、ロードールグリーン又はテキサスレッドからなる群より選択され得る。
【0142】
標識されるABPは、検出可能なシグナル標識に直接又は間接的に結合され得る。例えば、そのABPは、検出可能なシグナル標識に直接(例えば、ABPのチロシン残基を介して)又は間接的に(例えば、金属キレート剤としてのリンカーを介して)結合され得る。他のいくつかの実施形態では、そのABPは、使用時に及び使用する場所で、検出可能なシグナル標識に(インビトロ又はインビボで)結合できる分子に結合され得る。
【0143】
検出可能なシグナル標識は、ABPに結合した1つ以上のジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)残基を介してABPに結合され得る。
【0144】
本明細書中で定義される疾患を検出又は診断するインビトロ方法も本発明によって企図される。そのような方法は、被験体から得られたサンプルを本発明の好ましく標識されたABPと接触させることを含み得る。そのサンプルは、血液、尿又は脳脊髄液サンプルであり得るが、好ましくは、液体サンプル又は生検サンプルであり得る。検出又は診断される疾患は、好ましくは、ALL又はAMLなどの白血病である。
【0145】
第9の態様において、本発明は、ヒトTIRC7を発現するヒト細胞における細胞性免疫応答を調節する方法に関し、その方法は、前記細胞をT細胞などの免疫細胞の存在下において第7の態様に記載された構成要素と接触させ、それにより、細胞性免疫応答を調節する、好ましくは、阻害することを含む。
【0146】
第10の態様において、本発明は、被験体の病的な免疫応答に関連する障害を予防及び/又は処置するための方法に関し、その方法は、治療有効量の第7の態様に記載された構成要素をその被験体に投与することを含み、病的な免疫応答に関連する障害は、その障害に関連する細胞におけるTIRC7の発現を特徴とする。
【0147】
さらに、本発明は、以下の一連の項目別実施形態に関する。
項目1:
(i)配列番号01のCDRH1(GYTFTTYV)、配列番号02のCDRH2(INPYNDGT)及び配列番号03のCDRH3(AEFITKTVGGSNWYLDV)を含むか、又は各場合において独立して、CDRH1、CDRH2及び/又はCDRH3が、それぞれ配列番号01、配列番号02又は配列番号03と比べて3つ又は2つ以下、好ましくは、1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの重鎖可変領域、及び
(ii)配列番号05のCDRL1(SSISY)、配列番号06のCDRL2(DTS)及び配列番号07のCDRL3(HQRSSYTWT)を含むか、又は各場合において独立して、CDRL1、CDRL2及び/又はCDRL3が、それぞれ配列番号05、配列番号06又は配列番号07と比べて3つ又は2つ以下、好ましくは、1つ以下のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を有する配列を含む、1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域を含む、T細胞免疫応答cDNA7(TIRC7)に結合することができる抗原結合タンパク質(ABP)であって、その1つ、好ましくは2つの重鎖可変ドメイン及びその1つ、好ましくは2つの軽鎖可変領域はそれぞれ、ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列の少なくとも一部を有する抗体フレームワーク領域を含むことを特徴とする、
抗原結合タンパク質(ABP)。
項目2:重鎖可変領域ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列が、IGHV1-2(アクセッション番号X07448)、IGHV7-4-1*02又はIGHV1-46*01に由来し、且つ/又は軽鎖可変領域ヒト抗体コンセンサスフレームワーク配列が、IGKV1-9(アクセッション番号Z00013)、IGKV3-11(アクセッション番号X01668)、IGKV6-21*01又はIGKV1-17*03に由来する、項目1に記載のABP。
項目3:ABPが、1つ、好ましくは2つの抗体重鎖可変配列を含み、その1つ、好ましくは2つの抗体重鎖可変配列において、78、80、82及び/又は85位のうちの1つが、欠損しているか又は変異しており、そのナンバリングは、IMGT命名法に従う、項目1又は2に記載のABP。
項目4:ABPが、1つ、好ましくは2つの抗体重鎖可変配列を含み、その1つ、好ましくは2つの抗体重鎖可変配列は、78L、80S、82K及び/又は85Sを含み、そのナンバリングは、IMGT命名法に従う、項目1~3のいずれか1つに記載のABP。
項目5:ABPが、1つ、好ましくは2つの抗体重鎖可変配列を含み、その1つ、好ましくは2つの抗体重鎖可変配列は、78Lを含み、そのナンバリングは、IMGT命名法に従う、項目1~3のいずれか1つに記載のABP。
項目6:重鎖可変領域が、配列番号9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35、37、39、41、43、45、47、49、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83又は85から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又は各場合において独立して、必要に応じて、これらの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含み、且つ/又は軽鎖可変領域が、配列番号10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32、34、36、38、40、42、44、46、48、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84又は86から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%という配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又は各場合において独立して、必要に応じて、これらの配列と比べて10、9、8、7、6、5、4個以下、好ましくは、3つ、2つ又は1つ以下のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を含む、項目1~5のいずれか1つに記載のABP。
項目7:ABPが、少なくとも1つ、好ましくは2つの抗体重鎖配列、及び少なくとも1つ、好ましくは2つの抗体軽鎖配列から構成される、抗体又はその抗原結合フラグメントであり、その抗体重鎖配列及び抗体軽鎖配列はそれぞれ、以下の組み合わせのうちの1つにおける可変領域配列を含む、項目1~6のいずれか1つに記載のABP。
項目8:エフェクター基を含む、且つ/又は標識されている、項目1~7のいずれか1つに記載のABP。
項目9:単離された、且つ/又は実質的に純粋な、項目1~8のいずれか1つに記載のABP。
項目10:モノクローナル抗体などの抗体であるか、又はモノクローナル抗体のフラグメントなどの抗体フラグメントである、項目1~9のいずれか1つに記載のABP。
項目11:抗体が、ヒトキメラ抗体などのキメラ抗体である、項目10に記載のABP。
項目12:抗体が、IgG、IgE、IgD、IgA又はIgM免疫グロブリン、好ましくは、IgG免疫グロブリンである、項目10又は11に記載のABP。
項目13:Fab、Fab’-SH、Fv、scFv及びF(ab’)2からなるリストから選択される抗体フラグメントである、項目10~12のいずれか1つに記載のABP。
項目14:ABPが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を増大するように改変又は操作されており、好ましくは、ABPが、脱フコシル化されている、項目1~13のいずれか1つに記載のABP。
項目15:キメラ抗原レセプター(CAR)である、項目1~14のいずれか1つに記載のABP。
項目16:哺乳動物T細胞上に存在する抗原などのTIRC7以外の抗原、最も好ましくはヒトCD3に結合する1つ以上のさらなる抗原結合ドメインを含む、項目1~15のいずれか1つに記載のABP。
項目17:二重特異性であり、好ましくは、TIRC7に結合する1つ又は2つの結合部位、及び哺乳動物T細胞上に存在する抗原などのTIRC7以外の抗原、最も好ましくはヒトCD3に結合する1つ又は2つの結合部位を含む、項目16に記載のABP。
項目18:ヒトTIRC7に結合することができ、TIRC7への項目1~17のいずれか1つに記載のABPの結合と競合することができる、抗原結合タンパク質(ABP)又はその抗原結合フラグメント。
項目19:項目1~18のいずれか1つに記載のABP又はABPの抗原結合フラグメントもしくはモノマー、例えば、重鎖もしくは軽鎖をコードする配列を含む、単離された核酸。
項目20:項目19に記載の核酸、及びコードされるABP又はABPの構成要素(例えば、抗体の重鎖又は軽鎖)の発現を(宿主)細胞において可能にする1つ以上のさらなる配列特徴を含む、核酸構築物(NAC)。
項目21:項目19に記載の核酸又は項目20に記載のNACを含む、組換え宿主細胞。
項目22:(i)項目1~18のいずれか1つに記載のABP、又は(ii)項目19に記載の核酸もしくは項目20に記載のNAC、又は(iii)項目21に記載の組換え宿主細胞、並びに薬学的に許容され得るキャリア、安定剤及び/又は賦形剤を含む、薬学的組成物。
項目23:医薬において使用するための構成要素であって、その構成要素は、項目1~18のいずれか1つに記載のABP、項目19に記載の単離された核酸又は項目20に記載のNAC、項目21に記載の組換え宿主細胞、及び項目22に記載の薬学的組成物からなるリストから選択される、構成要素。
項目24:構成要素が、被験体の細胞性免疫応答を調節する使用のためである、項目23に記載の使用するための構成要素。
項目25:免疫応答の調節が、細胞性免疫応答の阻害である、項目24に記載の使用するための構成要素。
項目26:阻害が、リンパ球などの免疫細胞の増殖の阻害であり、且つ/又はリンパ球などの免疫細胞におけるサイトカイン発現の阻害である、項目25に記載の使用するための構成要素。
項目27:細胞性免疫応答の阻害が、エフェクターメモリーT細胞の増殖/活性の低減及び/又は制御性T細胞(TREG)の増殖/活性の増大である、項目24又は25に記載の使用するための構成要素。
項目28:使用が、病的な免疫応答を処置するためであり、好ましくは、炎症性疾患、自己免疫疾患、同種移植片拒絶(移植片対宿主病)の処置において使用するためである、項目23~27のいずれか1つに記載の使用するための構成要素。
項目29:ヒトTIRC7を発現するヒト細胞における細胞性免疫応答を調節する方法であって、その細胞をT細胞などの免疫細胞の存在下において項目23に記載の構成要素と接触させ、それにより、その細胞性免疫応答を調節する、好ましくは、阻害することを含む、方法。
項目30:被験体の病的な免疫応答に関連する障害を予防及び/又は処置するための方法であって、治療有効量の項目23に記載の構成要素を被験体に投与することを含み、病的な免疫応答に関連する障害は、その障害に関連する細胞におけるTIRC7の発現/活性を特徴とする、方法。
【0148】
本明細書中で使用される用語「[本]発明の」、「本発明に従う」、「本発明に係る」などは、本明細書中に記載される及び/又は特許請求される本発明のすべての態様及び実施形態のことを言及すると意図される。
【0149】
本明細書中で使用されるとき、用語「~を含む(comprising)」は、「~を含む(including)」と「~からなる」の両方を包含すると解釈されるべきであり、この両方の意味が、本発明に従って明確に意図される、ゆえに、個別に開示される、実施形態である。「及び/又は」は、本明細書中で使用されるとき、2つの特定の特徴又は構成要素の各々の、他方を伴う又は伴わない、明確な開示として解釈されるべきである。例えば、「A及び/又はB」は、それぞれが本明細書中に個別に示されているかのように、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びBの各々の明確な開示と解釈されるべきである。本発明の文脈において、用語「約」及び「およそ」は、対象の特徴の技術的効果がなおも確保されると当業者が理解する精度の幅のことを表す。この用語は、通常、記載の数値からの、±20%、±15%、±10%及び例えば±5%のずれを示す。当業者が認識するように、所与の技術的効果に対するある数値のそのような具体的なずれは、その技術的効果の性質に左右される。例えば、天然の又は生物学的な技術的効果は、一般に、人為的又は工学的な技術的効果よりも大きなそのようなずれを有し得る。当業者が認識するように、所与の技術的効果に対するある数値のそのような具体的なずれは、その技術的効果の性質に左右される。例えば、天然の又は生物学的な技術的効果は、一般に、人為的又は工学的な技術的効果よりも大きなそのようなずれを有し得る。単数形の名詞を言及するときに不定冠詞又は定冠詞、例えば、「a」、「an」又は「the」を使用する場合、何か他のことが明確に述べられない限り、これには、複数のその名詞が含まれる。
【0150】
本発明の教示を特定の問題又は環境に適用すること、及び本発明又はそのさらなる特徴(例えば、さらなる態様及び実施形態)のバリエーションの包含は、本明細書中に含められる教示に照らして、当業者の能力の範囲内であろうことが理解されるべきである。
【0151】
文脈が他のことを示さない限り、上記に示された特徴の説明及び定義は、本発明のいずれの特定の態様又は実施形態にも限定されず、説明されるすべての態様及び実施形態に等しく適用される。
【0152】
本明細書に引用されるすべての参考文献、特許及び刊行物は、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0153】
上記に鑑みて、本発明は、以下の項目別実施形態にも関することが認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0154】
図面及び配列の簡単な説明
図面は、以下を示す。
【0155】
図1】17-20(親マウス抗体)のVH(A)及びVL(B)配列と、最もマッチする生殖細胞系列配列とのアラインメント及びアノテーションを示している。
【0156】
図2】17-20(親抗体)のVH及びVLドメインのモデルを示している。重鎖及び軽鎖のCDR領域が示されている。
【0157】
図3】17-20のVH及びVLドメインのモデルを示している。CDR領域が示されている。キメラ抗体cAb1457-10.0とヒト化抗体cAb1459-10.0との差が、「棒」として表されるアミノ酸側鎖によって示されている。ヒト化部位の大部分が、CDRに対して影響を及ぼさないとみられるが、H-80、H-82及びH-85位は、CDRH1及びH2に非常に近いため、それらの折り畳み及び配向に影響を及ぼす可能性がある。
【0158】
図4】ヒト化VH配列と元の親配列とのアラインメントを示している。CDRが示されており、支持アミノ酸がさらなる四角形に囲まれている。
【0159】
図5】ヒト化VL配列と元の親配列とのアラインメントを示している。CDRが示されており、支持アミノ酸がさらなる四角形に囲まれている。
【0160】
図6】17-20(親)のVH及びVLドメインのモデルを示している。重鎖及び軽鎖のCDRが示されている。
【0161】
図7】タンパク質収率によって整理された本発明の抗体の比較を示している。精製タンパク質(%)及びモノマー含有率(%)がさらに示されている。
【0162】
図8】タンパク質収率によって整理された本発明の抗体の生物学的活性の比較を示している。IFNg産生の阻害、TIRC7+細胞の誘導、TIRC7+TREGの誘導及びTREGの誘導の量が、以下の符号を用いて示されている。*=弱い効果→*****=非常に強い効果。
【0163】
図9】産生及び機能によってランク付けされた(図7及び8)VH鎖ヒト化アラインメントを示している。有望な興味深い部位が強調されている。これらの図において、ナンバリング及びCDRの位置決めは、Chothia et al.(1992)J.Mol.Biol.,227,776-798、Tomlinson et al.(1995)EMBO J.,14,4628-4638及びWilliams et al.(1996)J.Mol.Biol.,264,220-232(VBase.https://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/vbase/alignments2.php#JHEXに例が示されている)に従う。鎖「Mu17-20-VKは、本明細書中でcAB1457とも称されるマウス親配列を表す。CDR領域に下線が引かれている。
【0164】
図10】産生及び機能によってランク付けされたVL鎖ヒト化アラインメントを示している(図9及び10)。これらの図において、ナンバリング及びCDRの位置決めは、Chothia et al.(1992)J.Mol.Biol.,227,776-798、Tomlinson et al.(1995)EMBO J.,14,4628-4638及びWilliams et al.(1996)J.Mol.Biol.,264,220-232(VBase.https://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/vbase/alignments2.php#JHEXに例が示されている)に従う。鎖「Mu17-20-VKは、本明細書中でcAB1457とも称されるマウス親配列を表す。CDR領域に下線が引かれている。
【0165】
図11】アロ刺激の後に本発明の抗体バリアントで処置された混合リンパ球の増殖アッセイを示している。上のパネルは、20μg/mlの試験抗体を用いた実験を示しており、下のパネルは、40μg/mlの試験抗体を用いた実験を示している。コントロールは、抗体なしの処置、IgGコントロール及び親キメラ抗体である。抗体のナンバリングは、表1に示されるとおりである。特許管理は、親マウス抗体(cAb1457)の使用に関する。3つの独立した実験の平均値が示されている。
【0166】
図12】フィトヘマグルチニン(PHA)刺激マイトジェンの後に本発明の抗体バリアントで処置されたリンパ球の増殖アッセイを示している。上のパネルは、20μg/mlの試験抗体を用いた実験を示しており、下のパネルは、40μg/mlの試験抗体を用いた実験を示している。コントロールは、抗体なしの処置、IgGコントロール及び親キメラ抗体である。抗体のナンバリングは、表1に示されるとおりである。特許管理は、親マウス抗体(cAb1457)の使用に関する。3つの独立した実験の平均値が示されている。
【0167】
本発明のABPはすべて、配列表及び以下の表1に記載される。
【表1】
【0168】
実施例
以下、本明細書中に示される説明、図面及び表を参照して、本発明のある特定の態様及び実施形態を例として説明する。本発明の方法、使用及び他の態様のそのような例は、単に代表例であって、本発明の範囲をそのような代表例だけに限定すると解釈されるべきでない。
【0169】
実施例は、以下を示す。
【0170】
実施例1:バリアント抗TIRC7抗体及びヒト化抗TIRC7抗体の作製
【0171】
相補性決定領域(CDR)を特定する目的及び最もマッチする生殖細胞系列配列を解析する目的で、IMGT Domain Gap Alignツールを使用した。http://www.imgt.org/3Dstructure-DB/cgi/DomainGapAlign.cgi.
【0172】
以前に公開された抗体の結晶構造に対する相同性に基づき、社内のソフトウェアを用いてVH及びVLドメインの分子モデルを構築した。任意の分子可視化ソフトウェアで表示するために要求に応じてPDBファイルを提供できる。画像はPyMolを用いて生成した。
【0173】
Absolute Antibody(登録商標)クローニングベクター及び発現ベクターへのクローニングを可能にするために、適切な制限酵素認識部位を5’及び3’末端に有する可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインをデザインした。可変ドメイン配列のコドンをヒト細胞での発現用に最適化した。遺伝子を合成した後、可変ドメインを適切な種及びタイプのAbsolute Antibody(登録商標)ベクターにクローニングした。DNASTAR(登録商標)Lasergeneソフトウェアを用いて生データを解析するSangerシーケンシングによって正しい配列を確かめた。確認されたら、適切なサイズのプラスミドDNAの調製を行って、トランスフェクション用に十分量の高品質DNAを生成した。
【0174】
HEK293(ヒト胎児腎293)哺乳動物細胞を、一過性のトランスフェクションに最適な段階にまで継代した。重鎖発現ベクター及び軽鎖発現ベクターを細胞に一過性にトランスフェクトし、その細胞をさらに6日間培養した。培養物を4000rpmでの遠心分離によって収集し、0.22μMフィルターで濾過した。クエン酸pH3.0緩衝液での溶出の後、0.5M Tris,pH9.0で中和するプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって、精製の第1工程を行った。次いで、溶出したタンパク質の緩衝液を、脱塩カラムを用いてPBSに交換した。抗体濃度をUV分光法によって測定し、必要に応じて抗体を濃縮した。
【0175】
SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)及びHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によって抗体の純度を測定した。適切なサイズ排除カラム(SEC)を用いてAgilent1100シリーズの装置においてSEC-HPLCを行った。抗体の発現力価をプロテインA HPLCによって測定した。
【0176】
17-20のVH及びVL配列をIGMT Gap Alignツールにかけて、すべての公知の抗体生殖細胞系列配列に対して解析した(図1)。IMGT定義を用いてCDR領域を割り当てた。予想通り、その配列は、マウスに最も近くアラインメントされ、詳細には、重鎖についてはIGHV1-2、IGHV1-46*01及びIGHV7-4-1*02、軽鎖についてはIGKV1-9、IGKV3-11、IGKV6-21*01及びIGKV1-17*03に最も近くアラインメントされる。
【0177】
構造情報に基づくヒト化を可能にするために、図2に示されているように、17-20マウスVH及びVL配列に対してモデルを構築した。
【0178】
それらのVH及びVL配列を、ヒト生殖細胞系列配列のAbsolute Antibody(登録商標)データベースとアラインメントした。表1は、ヒト化のためにフレームワークとして選択された生殖細胞系列配列を示している。
【0179】
表2及び3:ヒト化フレームワークとして選択された重鎖及び軽鎖の生殖細胞系列配列、並びに元のマウスVH及びVL配列に対するそれらの同一性パーセント
【表2】
【表3】
【0180】
上記VH及びVL配列をCDR移植アルゴリズムにかけて、それらのCDRをマウス抗体17-20から、選択されたヒト生殖細胞系列配列に移した。CDRは、主に抗原への結合に関与すると定義されるが、これらの領域の外にある、フレームワーク領域として知られる領域内のアミノ酸は、結合と直接関わること又はCDRに正しく配向させる役割を果たすことが可能である。結合の完全性を保持するために元のマウスアミノ酸の中のどのフレームワークアミノ酸を残すかを、構造情報に基づくアプローチを用いて判定した(図3及び6)。表1は、作製された配列を含んでいる。
【0181】
実施例2:機能的なヒト化抗TIRC7抗体を得るために生殖細胞系列の組み合わせ及び非直観的な復帰突然変異が必要であった。
【0182】
実施例1に記載されたように、ヒト化重鎖及びヒト化軽鎖をデザインした。これらの各々を別々に合成し、それぞれヒトIgG1重鎖発現ベクター及びヒトカッパー軽鎖発現ベクターにクローニングした。トランスフェクションの時点において、それらのヒト化配列の可能なすべての組み合わせを行って、合計12個の異なるヒト化抗体を作製した。これらに加えて、元のマウス抗体並びにキメラヒトIgG1をコントロールとして作製した。
【0183】
作製されたほとんどのヒト化鎖は、発現しなかったか、低いモノマー含有率で発現されたか、又は活性を失った。いくつかの妥当なヒト化配列を特定するためには、合計5回のヒト化の試みが必要であり、通常の移植手順及びCDR領域近傍の復帰突然変異に加えて、重鎖配列にさらなる非直観的な復帰突然変異が必要であった。これは驚くべきことであった。
【0184】
上記の表1に示されたいくつかの抗体のアラインメントを図4及び5に提供する。
【0185】
重鎖をヒト化する1つの試みにおいて、本発明者らは、IGHV7-4-1ヒト生殖細胞系列配列を使用して、ヒト化重鎖を作製した。残念なことに、作製された配列のすべてが、全く発現できなかった(図7を参照のこと。重鎖配列cAB2714-VH又はcAB2712-VHを有する抗体)。
【0186】
さらなる試みでは、ヒト生殖細胞系列配列IGHV1-46を移植に使用した。得られた鎖は、cAB2288-VH及びcAB2287-VHであり、そのうちのcAB2287-VHは、全く発現できなかったが、cAB2288-VHは、いくらか発現を示した。しかしながら、cAB2288-VH鎖を有する抗体は、発現されたとき、モノマー含有率を示さなかった(図7)。
【0187】
別の試みであるIGHV1-2を移植に使用したところ、cAB1901VH鎖が得られた。この鎖を有する抗体も全く発現できなかった。
【0188】
さらなる2回のヒト化では、異なる生殖細胞系列配列由来のヒトフレームワーク領域を組み合わせる(これは通常のアプローチにあたる)ために、上で説明された生殖細胞系列配列の3つすべてに基づく鎖を、選択された位置に様々な変異を導入して作製した(特に、鎖cAB1458-VH、cAB1462-VH、cAB1466-VH、cAB2021-VH及びcAB2023-VH)。少なくともいくつかの抗体における作製された重鎖配列は、少なくとも低い程度に発現できた。しかしながら、cAB2021-VH又はcAB2023-VH鎖を含む抗体は、低い又は検出不可能なモノマー含有率を有し、最終的な選択から外された。
【0189】
残りの鎖を、それらを含む抗体の保持される生物学的活性によって比較した。結果を図8に示す。最も驚いたことには、3つの非直観的な復帰突然変異がフレームワーク3(FR3)に導入された重鎖を含む抗体は、好ましいタンパク質発現及びモノマー含有率を有しつつ、驚くべき生物学的活性を示した(鎖cAB1466-VH)。まとめると、cAB1467-10.0、cAB1468-10.0及びcAB1459-10.0と表される抗体が、最善の候補であり、cAB1467-10.0、cAB1468-10.0(両方ともがcAB1466-VH鎖を含む)が最善である。
【0190】
結論:
【0191】
標準的なヒト化の後、どのヒト生殖細胞系列遺伝子が元のマウスハイブリドーマ配列に最も近いか、及びゆえにCDR移植のためのドナーフレームワークとして使用できるかを判定するために解析を行った。多くのヒト化プロセスの変法において、2つの異なるヒトVH遺伝子由来のCDR移植用フレームワークドナーの組み合わせも試した。広範な実験により、より良い結果をもたらすドナーの組み合わせが明らかになった。配列の比較を、目的の位置を強調して図9(重鎖)及び10(軽鎖)に示す。これらの図では、ナンバリング及びCDRの位置決めは、Chothia et al.(1992)J.Mol.Biol.,227,776-798、Tomlinson et al.(1995)EMBO J.,14,4628-4638及びWilliams et al.(1996)J.Mol.Biol.,264,220-232)に従う。VBase.https://www2.mrc-lmb.cam.ac.uk/vbase/alignments2.php#JHEXに例が示されている。
・FR1及びFR2(ハイライトによって示されている)用のドナーとしてIGHV1-2を使用した
・FR3(ハイライトによって示されている)用のドナーとしてIGHV1-46*01を使用した
【0192】
ヒト化抗体の高親和性及び高安定性をもたらすために、フレームワーク3において元のマウス配列への変則的な復帰突然変異が必要であった。
・71位-マウスL(Leu,疎水性)へのヒトドナーR(Arg、塩基性)の復帰突然変異
・73位-マウスK(Lys、塩基性)へのヒトドナーT(Thr、求核性)の復帰突然変異
・69位-マウスL(Leu、疎水性)へのヒトドナーM(Met、疎水性)の復帰突然変異。軽微な変更だが、cAb1466-VHをcAb2021よりも良好にするようである。
【0193】
フレームワーク2においても変則的な変異を作製した。
・元のVH17-20、提案されるすべてのヒトドナーVH、及びヒト化候補のほとんどにおいて、43位はQ(Gln、アミド)であった。しかしながら、最善のヒト化VH(cAb1466-VH)では、Q(Gln、アミド)からK(Lys、塩基性)への43位の変異が、次善のヒト化VH(cAb2021-VH)よりも首尾良い親和性/安定性にとって重要であるとみられる。
【0194】
ゆえに、複数のヒト生殖細胞系列配列の組み合わせ、及びマウス復帰突然変異の非直観的な導入だけが、発現及び生物学的活性が改善された少数の最終候補抗体をもたらし得ることが実証される。
【0195】
軽鎖ヒト化-インタクトなmAbの親和性と安定性の両方において十分機能することができたヒト化軽鎖の広い多様性は、そのmAbの成功のほとんどが重鎖に起因すること、及び重鎖は軽鎖選択においてむしろ無秩序であることを示唆している。
【0196】
実施例3:ヒトリンパ球に対する本発明の改善された抗TIRC7抗体の効果
【0197】
混合リンパ球増殖についての免疫アッセイ及びリンパ球のPHA刺激による免疫アッセイにおいて、本発明の抗体を試験した。その結果は、親キメラ抗体よりも驚くほど強い本発明の改善された抗体の効果を示す。結果をそれぞれ図11及び12に示す。
【0198】
実施例4:抗体親和性の表面プラズモン共鳴試験
【0199】
作製された抗体の標的結合を親分子と比較するために、親抗体及び選択された作製済みのヒト化バージョン抗体の結合定数をBiaCore(登録商標)表面プラズモン共鳴試験から得た。親抗体に対する既知の結合物質である最も大きいTIRC7細胞外ドメインを、CM5センサーチップ(CM5チップ、研究グレード)のカルボキシメチル化されたデキストラン表面上に固定化した。Biacore T200装置を、動力学的相互作用の定量的解析のために25℃の解析温度及び50μl/分という流速で使用した。解析用緩衝液は、10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%Tween20であった。
【0200】
速度定数又は吸収作用を測定するために、各抗体について、複数のBiacore SPR解析列を様々な濃度で行った。特定の定数が、この緩衝液の条件に対して非常に再現性のある定数であった。親抗体は、300+/-100pMという平均Kを示した。3つのヒト化抗体について測定を同じ設定で行った。結果を表4に提供する。驚いたことに、それらの結果は、選択されたヒト化ABバリアントのTIRC7に対するAB親和性が、親分子よりも少なくとも1桁高いことを示した。
【0201】
【表4】
【0202】
以下の参考文献を引用する。
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図1-1】
図1-2】
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
2023504974000001.app
【国際調査報告】