IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 北京市虹天済神経科学研究院の特許一覧

<>
  • 特表-嗅覚前駆細胞の作製方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】嗅覚前駆細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230201BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N1/00 B
C12N1/00 G
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520437
(86)(22)【出願日】2020-10-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 CN2020123101
(87)【国際公開番号】W WO2021093550
(87)【国際公開日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】201911118936.3
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522130081
【氏名又は名称】北京市虹天済神経科学研究院
【氏名又は名称原語表記】BEIJING HONGTIANJI NEUROSCIENCE ACADEMY
【住所又は居所原語表記】A-821, Shoute Venture Base, Gucheng Street, Shijingshan District, Beijing 100043, CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】黄紅雲
(72)【発明者】
【氏名】高文勇
(72)【発明者】
【氏名】劉瑩
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB05
4B065BB11
4B065BB12
4B065BB13
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC50
4B065CA60
(57)【要約】
嗅覚前駆細胞の作製方法を提供し、前記方法で得た嗅覚前駆細胞をさらに提供し、前記嗅覚前駆細胞の単細胞は11世代以上継続的に継代することができる。先行技術と比べて、当該嗅覚前駆細胞の作製方法は効果的で、多くの嗅覚前駆細胞を得ることができ、しかも簡単に行うことができ、低コストで、安全性が高く、国内でも国外でも幅広い利用が期待できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)上鼻甲介と中鼻甲介との間における嗅粘膜組織を採取して、無菌処理を行うステップと、
(2)36~38℃下で、1~2倍の体積で濃度が5%(g/100mL)のトリプシン及び1~2倍の体積で濃度が0.2mmol/LのEDTA水溶液を使用してステップ(1)で得た嗅粘膜組織塊を5~15分間前処理するステップと、
(3)ステップ(2)で前処理後の嗅粘膜組織塊から外膜及び基底膜の緩い層を除去し、PBSで2~5回洗い流して、0.5~1.5mm3の小片を得るステップと、
(4)嗅覚前駆細胞培地を使用してステップ(3)で処理後の小片を培養して、壁に付着して増殖させるステップであって、
前記嗅覚前駆細胞培地が、
基礎培地DMEM/DF12と、上皮成長因子(EGF)と、線維芽細胞成長因子(FGF)と、N2細胞培養サプリメントと、B27細胞培養サプリメントと、ウシ血清アルブミン(BSA)と、グルタミンと、NEAA細胞培養サプリメントとを含む前記ステップと、
(5)壁に付着して増殖する細胞が、コンフルエント率が75%~90%になるまで増殖すると、単細胞を回収し、嗅覚前駆細胞培地を加えて細胞懸濁液を調製して、前記嗅覚前駆細胞を得るステップとを含み、
前記操作はいずれも厳格な無菌条件下で行う嗅覚前駆細胞の作製方法。
【請求項2】
ステップ(1)では、標本組織鉗子を使用してドナーの上鼻甲介と中鼻甲介との間における嗅粘膜組織を採取して、当該鼻粘膜組織塊をアイスボックスに入れる請求項1に記載の作製方法。
【請求項3】
ステップ(3)は、
小片から0.2~0.4mm3の二次小片を作製して、160U/mLのゲンタマイシンを含有する嗅覚前駆細胞培地を使用して二次小片を繰り返し洗浄するステップをさらに含み、
好ましくは、
160U/mLのゲンタマイシンが加えられた嗅覚前駆細胞培地に小片を入れて、繰り返し洗い流し、眼科手術鑷子で引き裂いて約0.2~0.4mm3にし、二次小片を回収して遠心管に入れ、遠心機回転数を800~2100回転/分とし、10~30分間遠心分離して、上清を捨て、改めて160U/mLのゲンタマイシンを含有する嗅覚前駆細胞培地を加えて、沈殿した組織塊を充分に振盪してほぐし、再び10~30分間遠心分離して、遠心機回転数は800~2100回転/分とするステップを含む請求項1又は2に記載の作製方法。
【請求項4】
ステップ(4)では、細胞培養の前に、血清原液で培養装置を湿潤し、
好ましくは、ステップ(4)では、前記培養条件が遮光、37℃、5%のCO2である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項5】
ステップ(4)では、前記嗅覚前駆細胞培地が、
90mLのDMEM/DF12と、80mgのEGFと、60mgのFGFと、2mLの1%N2細胞培養サプリメントと、3mLの2%B27細胞培養サプリメントと、150mgのBSAと、0.2mmol/mLのグルタミンと、2mLのNEAA細胞培養サプリメントとを含み、
好ましくは、前記嗅覚前駆細胞培地が、
5~20μmol/LのP63、P53阻害剤ピフィスリン-A(Pifithrin-α hydrobromide)もしくはピフィスリン-μ(Pifithrin-μ)をさらに含み、
又は、1~10μmol/LのP63、P53アゴニストPRIMA-1Met/テノビン-1(Tenovin-1)をさらに含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項6】
ステップ(4)及びステップ(5)では、3日ごとに嗅覚前駆細胞培地を取り替える請求項1ないし5のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項7】
ステップ(4)では、壁に付着して増殖する細胞が、コンフルエント率が55%~85%になるまで増殖すると、小片を回収し、新たな培養装置に移して繰り返し培養し、
好ましくは、前記小片を5~7回繰り返し使用して、5~7バッチの嗅覚前駆細胞を作製する請求項1ないし6のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項8】
ステップ(5)では、前記単細胞の回収は、
DMEM/F12溶液を使用して培養装置を洗い流し、0.05%トリプシン及び0.2mmol/LのEDTA水溶液で壁に付着した単細胞を脱落させ、遠心分離して単細胞を回収して、嗅覚前駆細胞培地を加えて細胞懸濁液を調製するステップを含み、
好ましくは、前記単細胞懸濁液の細胞密度は1×105/mL~1×106/mLである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の作製方法。
【請求項9】
ステップ(5)では、前記嗅覚前駆細胞が2~3日ごとに1回継代し、1~3世代の継代培養を行う請求項1ないし8のいずれか1項に記載の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞培養技術の分野に属し、具体的には、嗅覚前駆細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
嗅覚前駆細胞は嗅神経前駆細胞(ONPs)とも呼ばれ、嗅上皮の基底膜に由来し、嗅球、嗅粘膜に分布している。嗅覚鞘細胞、嗅覚ニューロンに分化できるため、外胚葉の神経前駆細胞の1種であり、自己複製、方向性のある分化・発達を行うことができ、神経栄養因子、軸索成長刺激物質を分泌して、軸索の再生と髄鞘の形成を促進することができる。これらの因子が軸索の伸長を助け、神経栄養、保護、免疫調節もしくは刺激、グリア過形成と瘢痕形成の阻害、髄鞘形成と軸索再生の促進といった総合的な神経修復効果を有する。嗅覚前駆細胞は前記特性を備えるため、損傷神経の修復と機能回復のために適切な内部環境を作ることができ、中枢神経系の疾患と損傷を治療するための理想的な候補細胞とされ、臨床上は幅広い利用が見込まれる。
【0003】
そのために、今や嗅覚前駆細胞の安全かつ効果的なインビトロ培養、増殖を行うことが、基礎研究と臨床応用研究におけるその幅広い利用にとって大きな意味がある。しかし、先行技術として嗅覚前駆細胞をめぐる国内外の研究には次の欠点がある。
1.嗅覚前駆細胞を作製する際、組織標本の採取部位が様々で、線維芽細胞と造血幹細胞を汚染するリスクが増える。
【0004】
2.従来の作製方法では酵素分解で組織を消化するのが一般的で、初代嗅覚前駆細胞の取得量、純度などが制限されている。
【0005】
3.従来の作製方法では、培地の選択で得た嗅覚前駆細胞の増殖効率と得た細胞の純度が制限されている。
【0006】
4.従来の作製方法では、嗅覚前駆細胞の継代培養方法と継代数が得た嗅覚前駆細胞の生存状態と純度に影響を与えている。
【0007】
上記のことから、今や新規な嗅覚前駆細胞の作製方法が要望される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は従来の技術の欠点に対して、嗅覚前駆細胞の作製方法を提供し、本発明に係る方法はインビトロで嗅覚前駆細胞を培養し効率的に増殖させることにより、高純度の嗅覚前駆細胞を得ることができる。さらに、本発明に係る作製方法では嗅覚前駆細胞の採取部位及び組織の処理方法が最適化される。先行技術と比べて、本発明の方法は従来の技術における継代と純度に関する技術上の難題を解決しており、国内外の実験や臨床応用研究をはじめ、これからは幅広い利用が見込まれ、臨床用細胞の研究を支える上では期待できる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は次の技術的解決手段によって達成される。
本発明の一態様では、嗅覚前駆細胞の作製方法として、
(1)上鼻甲介と中鼻甲介との間における嗅粘膜組織を採取して、無菌処理を行うステップと、
(2)36~38℃下で、1~2倍の体積で濃度が5%(g/100mL)のトリプシン及び1~2倍の体積で濃度が0.2mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)水溶液を使用して、ステップ(1)で得た嗅粘膜組織塊を5~15分間前処理するステップと、
(3)ステップ(2)で前処理後の嗅粘膜組織塊から外膜及び基底膜の緩い層を除去し、リン酸緩衝液(PBS)で2~5回洗い流して、0.5~1.5mm3の小片を得るステップと、
(4)嗅覚前駆細胞培地を使用してステップ(3)で処理後の小片を培養して、壁に付着して増殖させるステップであって、
前記嗅覚前駆細胞培地が、
基礎培地DMEM/DF12と、上皮成長因子(EGF)と、線維芽細胞成長因子(FGF)と、N2細胞培養サプリメントと、B27細胞培養サプリメントと、ウシ血清アルブミン(BSA)と、グルタミンと、NEAA細胞培養サプリメントとを含む前記ステップと、
(5)壁に付着して増殖する細胞が、コンフルエント率が75%~90%になるまで増殖すると、単細胞を回収し、嗅覚前駆細胞培地を加えて細胞懸濁液を調製して、前記嗅覚前駆細胞を得るステップとを含み、
前記操作はいずれも厳格な無菌条件下で行う前記方法が提供される。
【0010】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(1)では、標本組織鉗子を使用してドナーの上鼻甲介と中鼻甲介との間における嗅粘膜組織を採取して、当該鼻粘膜組織塊をアイスボックスに入れる。
【0011】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(1)では、前記無菌処理は医学的無菌操作として行う。
【0012】
本発明に記載の作製方法において、前記ステップ(3)は解剖顕微鏡下で行う。
【0013】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(3)は、
小片から0.2~0.4mm3の二次小片を作製して、160U/mLのゲンタマイシンを含有する嗅覚前駆細胞培地を使用して二次小片を繰り返し洗浄するステップをさらに含み、
好ましくは、ステップ(3)は、
160U/mLのゲンタマイシンが加えられた嗅覚前駆細胞培地に小片を入れて、繰り返し洗い流し、眼科手術鑷子で引き裂いて約0.2~0.4mm3にし、二次小片を回収して遠心管に入れ、遠心機回転数を800~2100回転/分とし、10~30分間遠心分離して、上清を捨て、改めて160U/mLのゲンタマイシンを含有する嗅覚前駆細胞培地を加えて、沈殿した組織塊を充分に振盪してほぐし、再び10~30分間遠心分離して、遠心機回転数は800~2100回転/分とするステップをさらに含む。
【0014】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(4)では、細胞培養の前に、血清原液(Gibco 16000044)で培養装置を湿潤する。
【0015】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(4)では、前記培養条件が遮光、37℃、5%のCO2である。
【0016】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(4)では、前記嗅覚前駆細胞培地が、
90mLのDMEM/DF12(11320 Gibco)と、80mgのEGF(Pepro Tech)と、60mgのFGF(Pepro Tech)と、2mLの1%N2細胞培養サプリメント(Gibco 17502-048)と、3mLの2%B27細胞培養サプリメント(Gibco 17504-044)と、150mgのBSA(Sigma)と、0.2mmol/mLのグルタミン(Gibco)と、2mLのNEAA細胞培養サプリメント(100×、11140050)とを含み、
好ましくは、前記嗅覚前駆細胞培地には、
細胞の増殖が速すぎる時にその増殖を阻害するために、P63、P53阻害剤ピフィスリン-A(Pifithrin-α hydrobromide、63208-82-2)/ピフィスリン-μ(Pifithrin-μ、64984-31-2)をさらに含み、使用濃度範囲は5~20μmol/Lであり、
又は、細胞の増殖が遅すぎる時にその増殖を促進するために、P63、P53アゴニストPRIMA-1 Met(19980)/テノビン-1(Tenovin-1、13423)をさらに含み、使用濃度範囲は1~10μmol/Lである。
【0017】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(4)及びステップ(5)では、3日ごとに嗅覚前駆細胞培地を取り替える。
【0018】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(4)では、壁に付着して増殖する細胞が、コンフルエント率が55%~85%になるまで増殖すると、小片を回収し、新たな培養装置に移して繰り返し培養し、
好ましくは、前記小片を5~7回繰り返し使用して、5~7バッチの嗅覚前駆細胞を作製する。
【0019】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(5)では、前記単細胞の回収は、
DMEM/F12溶液を使用して培養装置を洗い流し、0.05%(g/100mL)のトリプシン及び0.2mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)水溶液で壁に付着した単細胞を脱落させ、遠心分離して単細胞を回収して、嗅覚前駆細胞培地を加えて細胞懸濁液を調製するステップを含み、
好ましくは、前記単細胞懸濁液の細胞密度は1×105/mL~1×106/mLである。
【0020】
本発明に記載の作製方法において、ステップ(5)では、前記嗅覚前駆細胞が2~3日ごとに1回継代し、1~3世代の継代培養を行う。
【0021】
本発明は、本発明の方法で得た嗅覚前駆細胞をさらに提供し、前記嗅覚前駆細胞の単細胞は11世代以上継続的に継代することができる。
【0022】
本発明に係る嗅覚前駆細胞は嗅覚鞘細胞又は嗅覚ニューロン細胞として作製することが可能で、詳細は中国発明特許第201510935540.3号、第201510516055.2号を参照し、その全ての内容が引用されて本明細書に組み込まれる。
【発明の効果】
【0023】
先行技術と比べて、本発明は次の利点を有する。
1.本発明の方法では組織標本の採取部位が最適化され、培養前に複数の酵素を使用して採取組織を前処理する手順と後の培養過程で除去する手順を組み合わせることにより、造血幹細胞と線維芽細胞の汚染を軽減して、細胞の純度を高めることができる。
【0024】
2.本発明の方法は外植培養を行っては嗅覚前駆細胞を得られるため、組織標本を節約できる。
【0025】
3.本発明の方法を用いると、嗅覚前駆細胞培地による細胞の増殖率、生理活性、純度などがいずれも向上する。
【0026】
4. 0.05%トリプシン、0.2mmol/LのEDTAを使用する酵素分解と継代消化で、細胞の損傷を軽減している。
【0027】
5.本発明の方法で得られた嗅覚前駆細胞が標的化効果、再生能力に優れている。初代培養で得た嗅覚前駆細胞はいずれも3つの部分に分けて11世代以上に継代することができ、しかも純度が高い。異体移植が可能である。作製コストが削減され、応用研究の安全性と有効性が向上する。そのために幅広い利用が見込まれる。
【0028】
上記のことから分かるように、本発明の嗅覚前駆細胞の作製方法は効果的で、多くの嗅覚前駆細胞を得ることができ、しかも簡単に行うことができ、低コストで、安全性が高く、国内でも国外でも幅広い利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
次に、図面と結び付けて本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1図1は本発明の方法で作製した嗅覚前駆細胞の形態である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、実施例と結び付けて本発明を具体的に説明し、ただし本発明は下記の実施例に限定されない。当業者が、本発明の趣旨を逸脱していない範囲で培地、抗凍結剤、初代培養時間、継代時間、バッチ数などについて様々な調整を行うことができる。
【0031】
実施例1:本発明の方法で作製した嗅覚前駆細胞
90mLのDMEM/DF12(11320 Gibco)と、80mgのEGF(Pepro Tech)と、60mgのFGF(Pepro Tech)と、2mLの1%N2細胞培養サプリメント(Gibco 17502-048)と、3mLの2%B27細胞培養サプリメント(gibco 17504-044)と、150mgのBSA(Sigma)と、0.2mmol/mLのグルタミン(Gibco)と、2mLのNEAA細胞培養サプリメント(100×、11140050)とで嗅覚前駆細胞培地を調製し、次に血清原液(Gibco 16000044)で24時間前に培養瓶をコーティングしておいた。
【0032】
具体的には、前記方法は、
(1)標本組織鉗子を用いてドナーの上鼻甲介と中鼻甲介との間における嗅粘膜組織塊を採取し、当該嗅粘膜組織塊をアイスボックスに載せたガラス皿に入れて、すぐに培養室に送って無菌処理を行う鼻からの嗅粘膜採取ステップと、
(2)36℃下で、1倍の体積の5%(g/100mL)トリプシン、1倍の体積で濃度が0.2mmol/LのEDTA水溶液で前記嗅粘膜組織塊を15分間前処理するステップと、
(3)解剖顕微鏡下で、嗅粘膜組織塊から外膜及び基底膜の緩い層を除去し、PBSで3回洗い流し、切断して1mm3の小片を得るステップとを含む。
【0033】
160U/mLのゲンタマイシンが加えられた嗅覚前駆細胞培地に小片を入れて、3回洗い流し、眼科手術鑷子で引き裂いて約0.4mm3にし、組織塊を回収して10mL遠心管に入れて、高速遠心分離し、遠心機回転数は1100回転/分とし、20分間遠心分離して、上清を捨て、改めて160U/mLのゲンタマイシンを含有する嗅覚前駆細胞培地を加えて、沈殿した組織塊を充分に振盪してほぐし、再び高速遠心分離し、遠心機回転数は1100回転/分とし、20分間遠心分離した。
【0034】
(4)組織塊を適量の培地に加えて均一に混合し、予めコーティングしておいた培養瓶に接種して壁に付着させ、組織塊間の距離としては約4mm~6mmが好ましく、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて3日間培養した。当該ステップは線維芽細胞及び造血細胞を可能な限り除去するためである。
【0035】
(5)3日間培養した後、培養瓶を軽く振って組織塊を回収し適量の嗅覚前駆細胞培地を加えて、予めコーティングしておいた培養瓶に接種し、組織塊間の距離としては約4mm~6mmが好ましく、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて培養した。
得た単細胞を引き続き培養し、3日ごとに、嗅覚前駆細胞培地を半分取り替えた。3日で、顕微鏡下では双極性や三極性のような多極性細胞の増殖が見られた。
コンフルエント率が約60%になるまで単細胞が増殖した時、軽く振って組織塊を回収して、予めコーティングしておいた培養瓶に接種し、組織塊間の距離としては約4mm~6mmが好ましく、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて培養した。元の細胞培養瓶で壁に付着した単細胞には嗅覚前駆細胞培地を加えて引き続き培養した。
【0036】
(6)コンフルエント率が約75%~90%になるまで単細胞が増殖した時、まずDMEM/F12溶液で緩やかに培養瓶を2回洗い流し、0.05%トリプシン/0.2mmol/LのEDTAを含有する水溶液で壁に付着した単細胞を脱落させて、1100回転/分で20分間遠心分離して、単細胞を回収した。嗅覚前駆細胞培地を加えて細胞懸濁液を調製し、細胞の数量によって3つの部分に分けて、予めコーティングしておいた培養瓶に移して、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて培養した。
ここで、ステップ(5)及び(6)では、培養状況を観察しながら、適量のP63、P53阻害剤又はP63、P53アゴニストを添加した。細胞の増殖が遅い時には、適量のP63、P53アゴニストを加えた。細胞の増殖が速い時には、適量のP63、P53阻害剤を加えた。単細胞が2~3日で1回継代することを保証する。3~5日で組織塊から初代細胞を分離できることを保証する。
ステップ(5)及び(6)を繰り返して、組織塊を繰り返し使用して5~7回増殖させると、組織塊を捨ててよい。5~7バッチの初代嗅覚前駆細胞が得られ、各バッチの嗅覚前駆細胞は3つの部分に分けて継代培養することを繰り返し、細胞が10~11世代増殖すると、多くの高純度の嗅覚前駆細胞を得られた。
【0037】
実施例2:本発明の方法で作製した嗅覚前駆細胞
90mLのDMEM/DF12(11320 Gibco)と、80mgのEGF(Pepro Tech)と、60mgのFGF(Pepro Tech)と、2mLの1%N2細胞培養サプリメント(gibco)と、3mLの2%B27細胞培養サプリメント(gibco)と、150mgのBSA(Sigma)と、0.2mmol/mLのグルタミン(Gibco)と、2mLの非必須アミノ酸(11140050 GIBCO)とで嗅覚前駆細胞培地を調製し、次に血清(Gibco 16000044)で24時間前に培養瓶をコーティングしておいた。
具体的には、前記方法は、
(1)標本組織鉗子を用いてドナーの上鼻甲介と中鼻甲介との間における嗅粘膜組織塊を採取し、当該嗅粘膜組織塊をアイスボックスに載せたガラス皿に入れて、すぐに培養室に送って無菌処理を行う鼻からの嗅粘膜採取ステップと、
(2)38℃下で、1倍の体積の5%(g/100mL)トリプシン、1倍の体積で濃度が0.2mmol/LのEDTAで前記嗅粘膜組織塊を15分間処理するステップと、
(3)解剖顕微鏡下で、嗅粘膜組織塊から外膜及び基底膜の緩い層を除去し、PBSで3回洗い流し、切断して1mm3の小片を得るステップとを含む。
【0038】
160U/mLのゲンタマイシンが加えられた嗅覚前駆細胞培地に小片を入れて、3回洗い流し、眼科手術鑷子で引き裂いて約0.4mm3にし、組織塊を回収して10mL遠心管に入れて、高速遠心分離し、遠心機回転数は2100回転/分とし、10分間遠心分離して、上清を捨て、改めて160U/mLのゲンタマイシンを含有する嗅覚前駆細胞培地を加えて、沈殿した組織塊を充分に振盪してほぐし、再び高速遠心分離し、遠心機回転数は2100回転/分とし、30分間遠心分離した。
【0039】
(4)組織塊を適量の培地に加えて均一に混合し、予めコーティングしておいた培養瓶に接種して壁に付着させ、組織塊間の距離としては約4mm~6mmが適宜であり、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて3日間培養した。当該ステップは線維芽細胞及び造血細胞を可能な限り除去するためである。
【0040】
(5)3日間培養した後、培養瓶を軽く振って組織塊を回収し適量の嗅覚前駆細胞培地を加えて、予めコーティングしておいた培養瓶に接種し、組織塊間の距離としては約4mm~6mmが好ましく、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて培養した。
得た単細胞を引き続き培養し、3日ごとに、嗅覚前駆細胞培地を半分取り替えた。5日で、顕微鏡下では双極性や三極性のような多極性細胞の増殖が見られた。
コンフルエント率が約85%になるまで単細胞が増殖した時、軽く振って組織塊を回収して、予めコーティングしておいた培養瓶に接種し、組織塊間の距離としては約4mm~6mmが好ましく、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて培養した。元の細胞培養瓶で壁に付着した単細胞には嗅覚前駆細胞培地を加えて引き続き培養した。
【0041】
(6)コンフルエント率が約75%~90%になるまで単細胞が増殖した時、まずDMEM/F12溶液で緩やかに培養瓶を2回洗い流し、0.05%トリプシン/0.2mmol/LのEDTAを含有する水溶液で壁に付着した単細胞を脱落させて、2100回転/分で5分間遠心分離して、単細胞を回収した。嗅覚前駆細胞培地を加えて細胞懸濁液を調製し、細胞の数量によって3つの部分に分けて、予めコーティングしておいた培養瓶に移して、遮光で37℃、5%CO2のインキュベーターにおいて培養した。
ここで、ステップ(5)及び(6)では、培養状況を観察しながら、適量のP63、P53阻害剤又はP63、P53アゴニストを添加した。細胞の増殖が遅い時には、適量のP63、P53アゴニストを加えた。細胞の増殖が速い時には、適量のP63、P53阻害剤を加えた。単細胞が2~3日で1回継代することを保証する。3~5日で組織塊から初代細胞を分離できることを保証する。
ステップ(5)及び(6)を繰り返して、組織塊を繰り返し使用して5~7回増殖させると、組織塊を捨ててよい。5~7バッチの初代嗅覚前駆細胞が得られ、各バッチの嗅覚前駆細胞は3つの部分に分けて継代培養することを繰り返し、細胞が10~11世代増殖すると、多くの高純度の嗅覚前駆細胞を得られた。
【0042】
実施例3:本発明の方法で得た嗅覚前駆細胞の同定
培養で得られた単細胞を通常の免疫組織化学染色で同定し、結果は図1に示すとおりである。嗅覚前駆細胞の細胞学的同定(ネスチン(nestin)、GFAP及びTuj-1又はOMP細胞化学的染色を用いた)から分かるように、殆どの細胞はネスチン(nestin)陽性であり、一部が同時にGFAP陽性で、一部が同時にTuj-1陽性であった。他のマーカーとの共染色で陽性を示さずネスチン(nestin)陽性のみであるという細胞はなく、嗅覚前駆細胞の特性に合致した。
【0043】
実施例4:本発明の方法で得た嗅覚前駆細胞からの嗅覚鞘細胞又は嗅覚ニューロン細胞の作製
中国発明特許第201510935540.3号又は第201510516055.2号に記載の技術を用いて、培養で得られたた単細胞を嗅覚鞘細胞又は嗅覚ニューロン細胞に方向分化させた。「国際神経修復学国際協会による臨床応用ガイドライン」に基づいて、臨床細胞治療に使用した。
【0044】
実施例5:本願で作製した細胞の用途
症例1:アメリカ人男性で、第6胸髄完全損傷から9年余が経過した。地元で定期的にリハビリテーションを受けていたが、神経機能が全く回復しなかった。2005年から当方の嗅覚鞘細胞治療を受け、治療が2週間続くと、感覚レベルが下がり、股関節と膝関節には屈筋と伸筋が部分的に回復していると感じた。帰国後に神経機能が引き続き改善・回復し、排便制御機能が部分的に回復していた。治療前のASIA評価では運動50点、ピン痛覚52点、表在触覚52点であり、治療が半年続いて経過観察したところ、同評価が運動56点、ピン痛覚60点、表在触覚60点となった。国際神経修復協会による脊髓損傷機能評価では治療前が21点で、治療が半年続いて経過観察したところ29点になった。「完全性脊髄損傷の晩期患者が立ち直って歩けるようになった」と米FOXテレビ局が報道していた。
【0045】
症例2:アメリカ人男性で、運動ニューロン疾患(筋萎縮性側索硬化症)と診断された後、症状が悪化し続け、よろめくような足取りで、両側の上肢と手に力が入らず、物を持ち上げるのは難しく、余命2年の宣告を受けた。2005年から嗅覚鞘細胞治療を受けた後、上肢、下肢と手に力が入り、普通に歩けるようになった。帰国後はゴルフを再開し(嗅覚鞘細胞治療を始める半年前にはゴルフができない状態であった)、治療で改善され機能が1年半継続した頃、再びゴルフは難しいと感じ、嗅覚鞘細胞治療を受けに来た。その後、1年半ないし2年ごとに嗅覚鞘細胞治療を受けるようになり、2016年の経過観察までは健在であった。
【0046】
症例3:イタリア人女性で、左側の脳卒中から3年間後遺症を持ち、右足踝関節に支持具を設けないと立つことができず、足を引きずるような歩き方で、2006年から当方の嗅覚鞘細胞治療を受けた後、神経機能が次第に改善されてきた。2年後の経過観察では、支持具がなくても、普通に歩けるようになった。バーセルインデックス(Barthel index)評価を行って、治療前は85点で、2年後の経過観察では100点となった。
【0047】
上述が実施例と結び付けた本発明の具体的な説明であり、本発明は前記実施例に限定されない。当業者の知識の範囲内で、本発明の趣旨を逸脱していない範囲で様々な変更を行うか、直接的に又は間接的に本発明を他の関連技術分野に利用することができる。その変更も活用も本発明特許の保護範囲に含まれる。
図1
【国際調査報告】