(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】自己不動態化金属の化学活性化
(51)【国際特許分類】
C23C 8/02 20060101AFI20230201BHJP
C23C 8/30 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C23C8/02
C23C8/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022529051
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-05-18
(86)【国際出願番号】 US2020063284
(87)【国際公開番号】W WO2021113623
(87)【国際公開日】2021-06-10
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518337784
【氏名又は名称】スウェージロック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】イリング,シプリアン,アデア ウイリアム
(72)【発明者】
【氏名】ウイリアム,ピーター,シー.
(72)【発明者】
【氏名】セムコウ,クリスティナ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンズ,トッド
【テーマコード(参考)】
4K028
【Fターム(参考)】
4K028AA03
4K028AB01
4K028AB02
4K028AC08
(57)【要約】
自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法が開示される。方法はワークピースを、グアニジン[HNC(NH
2)
2]部分を有し、HClと複合体化された試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のためにワークピースを活性化することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法であって、
前記ワークピースを、グアニジン[HNC(NH
2)
2]部分を有し、HClと複合体化された試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のために前記ワークピースを活性化すること
を含む、方法。
【請求項2】
前記ワークピース表面の曝露は、前記ワークピース活性化することに加えて、前記ワークピースを硬化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ワークピースを含む反応槽を前記曝露中、700℃以下の温度で維持すること
をさらに含み、
前記ワークピースは、5~15原子%の炭素濃度および5~15原子%の窒素濃度を有するが、粗炭化物または粗窒化物析出物を実質的に含まない表面層を形成させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記表面層を形成させることは、前記表面層内で微細炭化物析出物を形成させることを含み;ならびに
前記表面層中の窒素は主に、侵入窒素および微細窒化物析出物の少なくとも1つとして存在する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記微細炭化物析出物の形成は前記ワークピース内の表面不動態化層により提供される耐食性を実質的に低下させず;ならびに
前記表面不動態化層は酸化クロムを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
下記の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法:
前記曝露は2時間以下の期間実施される;
前記曝露は2分以下の期間実施される;
前記ワークピースを含む反応槽を前記曝露中、700℃以下の温度で維持する;
前記試薬は、ジメチルビグアナイドHCl、グアニジンHCl、ビグアナイドHCl、およびメラミンHClの少なくとも1つを含む;ならびに
前記低温侵入型表面硬化は前記曝露と同時に起こる。
【請求項7】
前記肌焼きされた層は30μm未満の厚さであり、下記を含む、請求項1に記載の方法:
侵入窒素に富む外側の副層;ならびに
侵入炭素に富む内側の副層。
【請求項8】
前記肌焼きされた層は20μm未満の厚さである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記低温侵入型表面硬化は浸炭、窒化、および浸炭窒化の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記試薬は、酸素を含まない窒素ハロゲン化物塩および非ポリマN/C/H化合物の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
曝露は、反応槽中の前記ワークピースを用いて前記試薬から8インチ(20cm)以上の距離で起こる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
連続コンベヤーベルト製造において肌焼き部品を生成させるための方法であって、
前記連続コンベヤーベルトの雰囲気をガスでパージすること;
前記雰囲気を700℃以下の温度で維持する間:
未処理部品を前記連続コンベヤーベルトに置くこと;
前記ワークピースを、グアニジン[HNC(NH
2)
2]部分を有し、HClと複合体化された試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させること;ならびに
前記試薬の蒸気への曝露を2時間未満の期間にわたって維持すること
を含み、これにより、前記部品が前記蒸気への曝露から活性化され、表面硬化される、方法。
【請求項13】
前記雰囲気を700℃以下の温度で維持する間:
複数の追加の未処理部品を前記連続コンベヤーベルト上に置くこと;
前記追加の部品を、前記連続コンベヤーベルト上にある間に、前記蒸気に曝露させ、前記追加の部品を活性化すること;ならびに
前記追加の部品上での低温表面硬化を2時間未満の期間にわたって実施すること
をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
合金を活性化および/または硬化させるための第1の試薬および第2の試薬の混合物であって、前記混合物は前記第1および第2の試薬の共沸混合物を形成し、前記試薬の少なくとも1つはグアニド含有試薬を含む、混合物。
【請求項15】
前記第1の試薬の蒸発点より低い蒸発点を有する、請求項14に記載の混合物。
【請求項16】
前記第1および第2の試薬の少なくとも1つはメラミンを含む、請求項15に記載の混合物。
【請求項17】
前記第1および第2の試薬の少なくとも1つは、ビグアナイドHCl、ジメチルビグアナイドHCl、およびグアニジンHClの少なくとも1つを含む、請求項16に記載の混合物。
【請求項18】
前記混合物中の前記第1の試薬対前記第2の試薬の重量比は5対95%、10対90%、25対75%、および50対50%の1つである、請求項14に記載の混合物。
【請求項19】
前記混合物は、前記第1および第2の試薬を、前記第1の試薬の沸点および前記第2の試薬の沸点未満で融合または溶融させることにより形成され;ならびに
前記混合物は石油蒸留物をさらに含み、前記石油蒸留物は蒸発され、前記第1および第2の試薬の乾燥混合物が残る、請求項14に記載の混合物。
【請求項20】
前記曝露中により低い温度からより高い温度まで傾斜する加熱プロトコルを前記曝露中に適用し、前記試薬の分解を増強し、および/または前記ワークピースを表面硬化させること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記より低い温度はおよそ450℃以上であり、前記より高い温度はおよそ550℃以下である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記加熱プロトコルは下記の通りである、請求項20に記載の方法:
実質的に470℃の温度をおよそ30分間維持する;
温度をおよそ470℃からおよそ480℃まで傾斜させる;
480℃の温度をおよそ15分間維持する;
温度をおよそ480℃からおよそ500℃まで傾斜させる;ならびに
500℃の温度をおよそ15分間維持する。
【請求項23】
より低い温度からより高い温度まで傾斜させることは、温度をパルス化することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記加熱プロトコルは下記の通りである、請求項20に記載の方法:
実質的に500℃の温度をおよそ15分間維持する;
温度をおよそ500℃からおよそ480℃まで傾斜させる;
480℃の温度をおよそ15分間維持する;
温度をおよそ480℃からおよそ470℃まで傾斜させる;ならびに
470℃の温度をおよそ30分間維持する。
【請求項25】
自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法であって、
前記ワークピースを、前記ワークピース内で粗窒化物および/または粗炭化物析出物が形成する温度未満の曝露温度で、1つ以上の非ポリマN/C/H化合物を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のために前記ワークピースを活性化すること、
を含み、前記1つ以上のN/C/H化合物は
(a)25℃および大気圧で固体または液体であり;
(b)≦5,000ダルトンの分子量を有し;ならびに
(c)ハロゲン化水素酸と複合体化されていないか、または複合体化させることができ、
さらに、
(i)前記非ポリマN/C/H化合物が複合体化されていない場合、任意のハロゲン原子は前記非ポリマN/C/H化合物の1つ以上の不安定な水素原子に取って代わり、
(ii)前記非ポリマN/C/H化合物が複合体化されている場合、任意のハロゲン原子は前記ハロゲン化水素複合体化酸の一部を形成する、方法。
【請求項26】
下記の少なくとも1つを含む、請求項25に記載の方法:
前記曝露温度は500-700℃である;
前記非ポリマN/C/H化合物は≦500ダルトンの分子量を有する;ならびに
曝露時間は1時間以下である。
【請求項27】
前記自己不動態化金属は下記の少なくとも1つを含む、請求項25に記載の方法:
チタン系合金;
少なくとも10wt%のCrを含む鉄系、ニッケル系、コバルト系またはマンガン系合金;ならびに
10~40wt%のNiおよび10~35wt%のCを含むステンレス鋼。
【請求項28】
前記曝露温度は約600℃以下である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記曝露温度は約550℃以下である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
請求項1に記載の方法に従い製造されたワークピース。
【請求項31】
請求項12に記載の方法に従い製造されたワークピース。
【請求項32】
請求項25に記載の方法に従い製造されたワークピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、下記米国特許仮出願に対し、優先権を主張する:2019年12月6日に出願された第62/922,241号;2020年4月29日に出願された第63/017,259号;2020年4月29日に出願された第63/017,262号;2020年4月29日に出願された第63/017,265号;2020年4月29日に出願された第63/017,271号、および2020年9月10日に出願された第63/076,425号。これらの出願の各々の全開示内容は、参照により本明細書に組み込まれ、これらの出願の各々に対する優先権がこれにより主張される。
【背景技術】
【0002】
従来の浸炭
従来の(高温)浸炭は、金属成形品の表面硬度を増強させるための広く使用される工業プロセスである(「肌焼」)。商業的プロセスでは、ワークピースが高温で(例えば、1,000℃以上)炭素含有ガスと接触する可能性があり、これにより、ガスの分解により解放された炭素原子がワークピースの表面中に拡散する。これらの拡散された炭素原子のワークピース中の1つ以上の金属との反応により、硬化が起こり、これにより、異なる化学化合物、すなわち、炭化物が形成され、続いて、これらの炭化物の、金属マトリクス中の別個の、非常に硬い、結晶粒子としての析出が起こり、ワークピースの表面を形成する。Stickels, “Gas Carburizing”, pp 312 to 324, Volume 4, ASM Handbook, (著作権) 1991, ASM Internationalを参照されたい。
【0003】
ステンレス鋼は耐食性であり、というのも、鋼が空気に曝露されると直ちに形成する酸化クロム表面コーティングは、水蒸気、酸素および他の化学物質の透過に対して不浸透性であるからである。かなりの量のクロム(10wt%以上である可能性がある)を含むニッケル系、コバルト系、マンガン系および他の合金もまた、これらの不浸透性酸化クロムコーティングを形成する。チタン系合金は、それらもまた、空気に曝露されると二酸化チタンコーティングを直ちに形成し、それらもまた、水蒸気、酸素および他の化学物質の透過に対して不浸透性であるという点で同様の現象を示す。
【0004】
これらの合金は空気への曝露で直ちに酸化物表面コーティングを形成するからというだけでなく、これらの酸化物コーティングは水蒸気、酸素および他の化学物質の透過に対して不浸透性であるからという理由で、自己不動態化であると言われる。これらのコーティングは、基本的には、鉄および他の低合金鋼が空気に曝露されると形成する酸化鉄コーティング、例えば、さびとは異なる。これは、これらの合金は、好適に保護されなければ、さびにより完全に消費され得るという事実により認識可能であるように、これらの酸化鉄コーティングは、水蒸気、酸素および他の化学物質の透過に対して不浸透性ではないからである。
【0005】
ステンレス鋼は伝統的に浸炭されると、鋼のクロム含量は、表面硬化の一因となる炭化物析出物の形成により、局部的に激減する。その結果、表面上で保護酸化クロムを形成させるには、炭化クロム析出物を直接取り巻く表面近くの領域で存在するクロムが不十分となる。鋼の耐食性が損なわれるので、ステンレス鋼は従来の(高温)浸炭によりほとんど肌焼きされない。
【0006】
低温浸炭
1980年代半ばに、ワークピースが低温、例えば、約500℃未満で炭素含有ガスと接触させられるステンレス鋼を肌焼きするための技術が開発された。これらの温度では、浸炭がそれほど長く続かないという条件で、ガスの分解により解放された炭素原子がワークピース表面中に(20-50μmの深さまでとすることができる)、炭化物析出物の形成なしで拡散する。それにもかかわらず、非常に硬いケース(表面層)が得られる。炭化物析出物は生成されないので、鋼の耐食性は損なわれず、もっと言えば改善される。この技術は、「低温浸炭」と呼ばれ、U.S.5,556,483号、U.S.5,593,510号、U.S.5,792,282号、U.S.6,165,597号、EPO0787817号、日本9-14019号(公開9-268364号)および日本9-71853号(公開9-71853号)を含む多くの公報において記載されている。
【0007】
窒化および浸炭窒化
浸炭に加えて、窒化および浸炭窒化は、様々な金属を表面硬化するために使用することができる。分解して、表面硬化のための炭素原子を生じさせる炭素含有ガスを使用するのではなく、窒化は分解して、表面硬化のための窒素原子を生じさせる窒素含有ガスを使用することを除き、窒化は、浸炭と、本質的に同じように機能する。
【0008】
しかしながら、浸炭と同じように、窒化がより高温で、かつ、急速焼入れなしで達成される場合、硬化は、拡散原子の別個の化合物、すなわち、窒化物の形成および析出により起こる。他方、窒化がより低温でプラズマなしで達成される場合、硬化は、これらの析出物の形成なしで、この格子中に拡散した窒素原子により金属の結晶格子上に置かれた応力により起こる。浸炭の場合のように、ステンレス鋼は従来の(高温)またはプラズマ窒化により通常窒化されない。というのも、鋼の固有の耐食性は鋼中のクロムが拡散窒素原子と反応し、窒化物を形成させた場合失われるからである。
【0009】
浸炭窒化では、ワークピースは窒素および炭素含有ガスの両方に曝露され、これにより、窒素原子および炭素原子の両方が表面硬化のために、ワークピース中に拡散する。浸炭および窒化と同じように、浸炭窒化はより高温で(肌焼が、窒化物および炭化物析出物の形成により起こる)、または、より低温で達成することができ、この場合、肌焼は、この格子中に拡散した、隙間に溶解した窒素および炭素原子により金属の結晶格子中で生成される、鋭く局在化された応力場により起こる。便宜上、これらのプロセス、すなわち、浸炭、窒化および浸炭窒化の3つ全てが、集合的に、この開示において、「低温表面硬化」または「低温表面硬化プロセス」と呼ばれる。
【0010】
活性化
低温表面硬化に関与する温度は非常に低いので、炭素および/または窒素原子は、ステンレス鋼の酸化クロム保護コーティングに侵入しない。そのため、これらの金属の低温表面硬化の前に、普通は、ワークピースがHF、HCl、NF3、F2またはCl2などのハロゲン含有ガスと高温、例えば、200~400℃で接触させられる活性化(「脱不動態化」)工程が実施され、鋼の保護酸化物コーティングが炭素および/または窒素原子の通過に透過的なものにされる。
【0011】
SomersらのWO2006/136166(U.S.8,784,576)号(その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる)は、アセチレンが、浸炭ガス中の活性材料成分として、すなわち、浸炭プロセスのための炭素原子を供給するための源化合物として使用されるステンレス鋼の低温浸炭のための改良プロセスを記載する。そこで示されるように、ハロゲン含有ガスを用いた別々の活性化工程が必要なくなり、というのもアセチレン源化合物は、鋼を同様に脱不動態化するのに、十分反応性であるからである。よって、この開示の浸炭技術は、自己活性化と考えることができる。
【0012】
ChristiansenらのWO2011/009463(U.S.8,845,823)号(その開示内容もまた、参照により本明細書に組み込まれる)は、酸素含有「N/C化合物」、例えば、尿素、ホルムアミドなどが、浸炭窒化プロセスのために必要とされる窒素および炭素原子を供給するための源化合物として使用される、ステンレス鋼を浸炭窒化するための同様の改良プロセスを記載する。この開示の技術もまた、自己活性化であると考えることができ、というのも、ハロゲン含有ガスを用いた別の活性化工程もまた、必要ないと言われるからである。
【0013】
表面処理およびベイルビー層
低温表面硬化はしばしば、複雑な形状を有するワークピースについて実施される。これらの形状を発展させるために、切断工程(例えば、のこ引き削り、機械加工)および/または鍛錬加工工程(例えば、鍛造、引抜き、曲げ、など)などのいくつかの型の金属成形操作が通常必要とされる。これらの工程の結果として、結晶構造における構造欠陥ならびに汚染物質、例えば、潤滑剤、水分、酸素、などがしばしば、金属の近表面領域に導入される。その結果、複雑な形状のほとんどのワークピースにおいて、通常、塑性変形誘導超微細粒構造および著しいレベルの汚染を有する高欠陥表面層が生成される。この層は、2.5μmまでの厚さとなる可能性があり、ベイルビー層として知られており、保護、コヒーレント酸化クロム層またはステンレス鋼および他の自己不動態化金属の他の不動態化層の真下に形成する。
【0014】
以上で示されるように、低温表面硬化のためにステンレス鋼を活性化するための伝統的な方法は、ハロゲン含有ガスとの接触によるものである。これらの活性化技術は、このベイルビー層により本質的に影響を受けない。
【0015】
しかしながら、同じことは、SomersらおよびChristiansenらにより上記開示において記載されている自己活性化技術(この場合、ワークピースがアセチレンまたは「N/C化合物」との接触により活性化される)では言うことができない。むしろ、経験から、複雑な形状のステンレス鋼ワークピースが、表面硬化が始まる前に、そのベイルビー層を除去するために、電解研磨、機械的研磨、化学エッチングなどにより表面処理されていない場合、これらの開示の自己活性化表面硬化技術は、全く機能しないか、または、幾分、機能する場合、せいぜい、むらがあり、表面領域間で一貫性のない結果となることが示される。
【0016】
Ge et al., The Effect of Surface Finish on Low-Temperature Acetylene-Based Carburization of 316L Austenitic Stainless Steel, METALLURGICAL AND MATERIALS TRANSACTIONS B, Vol. 458, Dec. 2014, pp 2338-2345, 2104 The Minerals, Metal & Materials Society and ASM Internationalを参照されたい。そこで述べられているように、「例えば機械加工のために、不適切な表面仕上げを有する[ステンレス]鋼試料は、アセチレンに基づくプロセスによりうまく浸炭させることができない」。特に、
図10(a)および2339および2343ページ上の関連する議論を参照されたい。これは、エッチング、次いで、鋭いブレードによるスクラッチングにより意図的に導入された「機械加工誘導分配層」(すなわち、ベイルビー層)は、エッチングされたが、スクラッチングされていないワークピースの周囲の部分が容易に活性化し、浸炭するにもかかわらず、アセチレンにより活性化および浸炭することができないことを明らかにしている。そのため、実際問題として、これらのワークピースが、最初に前処理されて、それらのベイルビー層が除去されていない限り、これらの自己活性化表面硬化技術は、複雑な形状のステンレス鋼ワークピースに対して使用することができない。
【0017】
この問題に対処するために、本発明の譲受人に譲渡されたUS10,214,805号は、自己不動態化金属でできたワークピースの低温窒化または浸炭窒化のための改良プロセスを開示し、この場合、ワークピースが酸素を含まない窒素ハロゲン化物塩を加熱することにより生成される蒸気と接触させられる。そこで記載されるように、窒化および浸炭窒化のために必要とされる窒素および任意で炭素原子を供給することに加えて、これらの蒸気はまた、これらの低温表面硬化プロセスのためにワークピース表面を、これらの表面が、前の金属-成形操作のためにベイルビー層を有する可能性があったとしても、活性化することができる。その結果、この自己活性化表面硬化技術は、これらのワークピースについて、前の金属-成形操作のためにそれらが複雑な形状を規定していたとしても、かつ、それらが、最初にそれらのベイルビー層を除去するために前処理されていないとしても、直接使用することができる。
【0018】
低温浸炭の動力学
ワークピースは浸炭の準備ができるとすぐに、上昇させた温度で炭素原子を、ワークピース表面中に拡散させるのに十分な時間の間、浸炭ガスと接触させられる。
【0019】
低温浸炭では、浸炭ガスは、炭素原子の物品の表面中への拡散を促進するのに十分高いが、炭化物析出物が任意の有意な程度まで形成するほど高くはない、上昇された浸炭温度で維持される。
【0020】
これは、炭化物析出物が、鋼が特定の浸炭ガスを用いて浸炭される時に形成する時間および温度の条件を示す、AISI 316ステンレス鋼[316SS(UNS S31600)]の時間-温度-変態(TTT)状態図である
図1を参照することにより、より容易に理解され得る。特に、
図1は、例えば、ワークピースが曲線Aにより規定されるエンベロープ内で加熱される場合、式M23C6の金属炭化物が形成することを示す。よって、ワークピースが曲線Aの下半分より上のいずれかにある時間および温度の条件下で加熱される場合、炭化物析出物がワークピース表面内に形成することが認識されるであろう。そのため、低温浸炭は炭化物析出物が形成しないように曲線Aより下で実施される。
【0021】
図1から、一定の浸炭ガスでは、炭化物析出物の形成を促進する浸炭温度は浸炭時間の関数として変化することもわかり得る。例えば、
図1により、1350°Fの浸炭温度では、炭化物析出物は、たった1時間の10分の1(6分)後に形成し始めることが示される。他方、約975°Fの浸炭温度では、炭化物析出物は、浸炭が100時間かそこらの間進行するまで形成し始めない。この現象のために、低温浸炭は、炭化物析出物が浸炭の終わりに形成する温度未満で維持される一定浸炭温度で普通実施される。例えば、
図1の合金および浸炭ガスを使用して100時間続くと予想される低温浸炭プロセスでは、浸炭は普通、925°F以下の一定温度で実施されるであろう。というのも、これにより、ワークピースが浸炭の終点で炭化物析出物が形成する温度(すなわち975°F)未満で安全に維持されるからである。あるいは、
図1に示されるように、浸炭は普通、ラインMに沿って実施され、というのも、これにより、ワークピースが、炭化物析出物が形成しないように、点Q未満で安全に維持されるからである。
【0022】
低温浸炭プロセスでは、所望の量の浸炭を達成するのに、50~100~1000時間以上かかる可能性がある。したがって、浸炭が一定温度で安全に点Q未満で実施される場合、浸炭の初期段階中のいずれかの瞬時、tでの浸炭温度は曲線Aをはるかに下回ることが認識されるであろう。これもまた、
図1に示され、
図1では線分Sは浸炭の終点での曲線Aの温度と浸炭温度(925°F)の間の差を表し、一方、線分Tは浸炭が始まった後1時間でのこの差を表す。線分SおよびTを比較することによりわかるように、浸炭温度が、浸炭の終わりに点Qより少なくとも50°F低くあるように一定925°Fで維持される場合、浸炭が始まった後1時間に実際の浸炭温度と曲線Aの間に150°Fの差(1175°F-925°F)が存在するであろう。浸炭速度は温度に依存するので、浸炭の初期段階中の925°Fの比較的低い浸炭温度は、このように実施される全体の浸炭プロセスを減速させることがわかる。
【0023】
浸炭温度の調整
米国特許第6,547,888号で論じられているように、この制約は、浸炭プロセスを過去で典型的に使用されたものより高い浸炭温度を用いて開始し、次いで、この温度を浸炭が進行するにつれ低下させ、浸炭温度を安全に、浸炭プロセスの終点で、ワークピースの状態図における曲線により規定されるエンベロープ未満に到達させることにより、大きく排除され得る。
【0024】
このアプローチは
図21において曲線Xにより示され、曲線Xが、浸炭温度を浸炭の過程にわたって初期の高い値からより低い最終値まで低下させることを示していることを除き、これは
図1における曲線Mと同様である。特に曲線Xは、浸炭を1125°Fの初期浸炭温度で開始することを示し、これは、浸炭プロセスが始まって30分に炭化物析出物が形成し始める温度より約50°F低く(
図2の点W)、次いで、浸炭が進行するにつれ浸炭温度が低下され、浸炭の終点で925°Fの最終浸炭温度に到達し、
図1に示される従来のプロセスで使用されるのと同じ終点温度となる。
【0025】
浸炭プロセス中いずれかの時間tでの浸炭温度は、炭化物がその時間にちょうど形成し始める時の、温度のあらかじめ決められた量(例えば、50°F、75°F、100°F、150°Fまたはさらには200°F)内に維持される。言い換えれば、浸炭温度は浸炭プロセスを通して曲線Aより下、あらかじめ決められた温度量(例えば、温度バッファー)で維持される。この手段によって、浸炭温度は炭化物析出物が形成し始める温度よりさらに低い従来の単一、低温実行よりもかなり高く維持される。このアプローチの正味の効果は、全体の浸炭速度を増加させることであり、というのも、浸炭プロセスの大部分を通して、浸炭温度は、そうでない場合に比べて、より高くなるからである。浸炭中のいずれかの時間tで、浸炭の瞬間速度は温度に依存し、このアプローチでは、この瞬間速度は、瞬間浸炭温度を増加させることにより増加する。正味の効果はより高い全体の浸炭速度であり、これはひいては、浸炭プロセスを完了するためのより短い全体の時間量につながる。
1図2は
図1と同じTTT図であることに注意されたい。
【0026】
当然、以上で記載されるより高い浸炭温度で動作する場合、浸炭中に炭化物析出物が実質的な程度まで形成しないことを確保することが依然として必要である。したがって、浸炭温度は、以上で記載される通り、いずれかの時間tで最小のあらかじめ決められた量未満に降下しないように設定されるだけでなく、曲線Aに近すぎる最大値を超えないように設定される。言い換えれば、炭化物析出物が形成されないことを確保するために、浸炭温度は依然として、いずれかの時間tで曲線Aより下、十分な量(例えば25°Fまたは50°F)で維持されなければならない。実際の実行では、これにより、浸炭温度は、曲線Aより下の範囲内に設定され、その最大は曲線Aより下十分な距離(例えば、25°Fまたは50°F)であり、その最小はさらに曲線Aより下、上記あらかじめ決められた量(すなわち、例えば50°F、75°F、100°F、150°Fまたは200°F)であることが意味される。よって、浸炭温度は、曲線Aより下、いくらかの好適な範囲(例えば25°F~200°Fまたは50°F~100°F)内に存在するように設定することができる。
【0027】
図32における曲線Yは別の方法を示し、これは、浸炭温度が連続ではなく段階的に低下させられることを除き、以上で記載されるのと同様に実施することができる。漸進的低減は多くの場合、とりわけ装置の観点からより簡単にすることができる。浸炭プロセスには数時間~多くの時間がかかる可能性があるので、インクリメント数は3~5という少数から、10、15、20、25またはそれ以上もの多数まで変動する可能性がある。
【0028】
より急速な表面処理の必要性
以上で記載される方法の多くによる硬化は時間がかかる可能性がある。従来の方法の多くは、有用な硬度レベルおよび数十ミクロンのオーダーの実質的な浸炭硬化層深さを達成するのに何時間、さらには何日も必要とする。そのため、より少ない時間および費用で、先行技術の方法の硬化レベルおよび深さを達成する方法を開発することは有利となるであろう。
2図3は
図1および2と同じTTT図であることに注意されたい。
【発明の概要】
【0029】
自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法が開示される。方法は、ワークピースを、グアニジン[HNC(NH2)2]部分を有し、HClと複合体化された試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化(interstitial surface hardening)のためにワークピースを活性化することを含む。
【0030】
連続コンベヤーベルト製造において肌焼き部品を生成させるための方法が開示される。方法は連続コンベヤーベルトの雰囲気を、雰囲気を600℃以下の温度で維持しながら、ガスでパージすること、未処理部品を連続コンベヤーベルトに置くこと、試薬を蒸気、溶媒により、または試薬を運搬するビヒクルと共に適用し、例えば、未処理部品をコーティングし(試薬はグアニジン[HNC(NH2)2]部分を有し、HClと複合体化されている)部品を活性化すること、ワークピースを、試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のためにワークピースを活性化すること、ならびに、2時間未満の期間にわたって部品に対して低温侵入型表面硬化を実施することを含む。
【0031】
自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法が開示される。方法は、ワークピースを、ワークピース内で窒化物および/または炭化物析出物が形成する温度より低い曝露温度で、1つ以上の非ポリマN/C/H化合物を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のためにワークピースを活性化することを含む。1つ以上のN/C/H化合物は、(a)25℃および大気圧で固体または液体である、(b)≦5,000ダルトンの分子量を有する、ならびに(c)ハロゲン化水素酸と複合体化されていないか、または複合体化させることができる。非ポリマN/C/H化合物が複合体化されていない場合、任意のハロゲン原子は非ポリマN/C/H化合物の1つ以上の不安定な水素原子に取って代わる。非ポリマN/C/H化合物が複合体化されている場合、任意のハロゲン原子はハロゲン化水素複合体化酸の一部を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】AISI 316ステンレス鋼[316SS(UNS S31600)]の時間-温度-変態(TTT)状態図である。
【
図2】
図1のTTT上に重ねたいくつかの温度傾斜(傾斜)プロトコルを示す。
【
図3】
図1のTTT上に重ねた追加の温度傾斜プロトコルを示す。
【
図4】実施例のいくつかにおいて使用される例示的なパンを示す。
【
図5】表1に従い、2つの異なる試薬、DmbgHClおよびGuHClを用いて処理した鋼について、Vickers試験により測定された硬度深さプロファイルを示す。
【
図6(a)】ジメチルビグアナイドHCl(DmbgHCl)の存在下での表面層内の、炭素および窒素濃度の重なりを示す、肌焼きされたステンレス鋼(316SS(UNS S31600))パン1のAuger深さプロファイルである。
【
図6(b)】グアニジンHCl(GuHCl)の存在下での表面層内の、炭素および窒素濃度の重なりを示す、肌焼きされたステンレス鋼(316SS(UNS S31600))パン1のAuger深さプロファイルである。
【
図7】316SS(UNS S31600)についてのTTT状態図上に重ねた例示的な上昇温度プロトコルを示す。
【
図8】
図7のTTT状態図上に重ねた例示的な下降温度プロトコルを示す。
【
図9】処理済み316Lステンレス鋼フェルールの表面の光学画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
定義および専門用語
以上で示されるように、伝統的な(高温)表面硬化と、1980年代半ばに最初に開発された最新低温表面硬化プロセスの間の根本的な違いは、伝統的な(高温)表面硬化では、硬化は、硬化される金属の表面における炭化物および/または窒化物析出物の形成の結果として起こることである。対照的に、低温表面硬化では、硬化は、これらの表面中に拡散した炭素および/または窒素原子の結果としての、金属の表面の金属の結晶格子に及ぼされた応力の結果として起こる。伝統的な(高温)表面硬化において表面硬化の一因となる炭化物および/または窒化物析出物は低温浸炭により表面硬化されるステンレス鋼においては見出されないので、さらに、低温表面硬化はステンレス鋼の耐食性に悪影響を及ぼさないので、独創的な考えは、表面硬化は低温浸炭においては、もっぱら、鋼の(オーステナイト)結晶構造中に拡散した、隙間に溶解した炭素および/または窒素原子により生成される鋭く局在化された応力場の結果として起こることであった。
【0034】
しかしながら、最近のより精緻な分析作業により、低温表面硬化が、合金体積のいくらかまたは全てがフェライト相から構成される合金上で実施される場合、いくつかの型の以前に知られていない窒化物および/または炭化物析出物がこれらのフェライト相において少量形成する可能性があることが明らかになった。特定的には、最近の分析作業により、一般にフェライト相構造を示す、AISI 400シリーズステンレス鋼においては、合金が低温表面硬化されると、少量の以前に知られていない窒化物および/または炭化物が析出する可能性があることが示唆される。同様に、最近の分析作業により、フェライトおよびオーステナイト相の両方を含む二相ステンレス鋼では、それらが低温表面硬化されると、これらの鋼のフェライト相において少量の以前に知られていない窒化物および/または炭化物が析出する可能性があることが示唆される。これらの以前に知られていない、新たに発見された窒化物および/または炭化物析出物の正確な性質は依然としてわかっていないが、これらの「パラ-平衡(para-equilibrium)」析出物を直接取り巻くフェライトマトリクスはそのクロム含量が激減されないことが知られている。その結果として、これらのステンレス鋼の耐食性は損なわれないままであり、というのも、耐食性に関与するクロムは、金属全体にわたって、均一に分布されたままであるからである。
【0035】
したがって、この開示の目的のために、「窒化物および/または炭化物析出物を本質的に含まない」ワークピース表面層、または「窒化物および/または炭化物析出物の形成なしで」表面硬化されるワークピース、または「窒化物および/または炭化物析出物が形成する温度未満である温度」に言及される場合、この言及は、伝統的な(高温)表面硬化プロセスでは表面硬化の一因となる窒化物および/または炭化物析出物の型を示し、その析出物は十分なクロムを含有し、そのため、これらの析出物を直接取り巻く金属マトリクスは、そのクロム含量の激減の結果として、その耐食性を失うことが理解されるであろう。この言及は、AISI 400ステンレス鋼、二相ステンレス鋼および他の同様の合金のフェライト相において、少量、形成する可能性のある、本明細書で開示される、以前に知られていない、新たに発見された窒化物および/または炭化物析出物を示さない。
【0036】
また、この開示の目的のために、「浸炭窒化」「窒化浸炭」および「ニトロ浸炭」は、同じプロセスを示すことが理解されるべきである。
【0037】
加えて、「自己不動態化」は、この開示では、この発明により処理される合金への言及との関連で、空気への曝露で、迅速に、水蒸気、酸素および他の化学物質の透過に対して不浸透性である保護酸化物コーティングを形成する合金の型を示すことが理解される。よって、空気への曝露で酸化鉄コーティングを形成し得る鉄および低合金鋼などの金属は、この用語の意味の範囲内の「自己不動態化」であるとは考えられない。というのも、これらのコーティングは、水蒸気、酸素および他の化学物質の透過に対して不浸透性ではないからである。
【0038】
合金
この発明は、空気への曝露でコヒーレント保護クロムリッチ酸化物層を形成する(それは、窒素および炭素原子の通過に対して不浸透性である)という意味で自己不動態化する任意の金属または金属合金に対して実施することができる。これらの金属および合金はよく知られており、例えば、低温表面硬化プロセスに関する以前の特許に記載されており、その例としては、U.S.5,792,282号、U.S.6,093,303号、U.S.6,547,888号、EPO 0787817号および日本特許文献9-14019(公開9-268364)号が挙げられる。
【0039】
特に興味深い合金はステンレス鋼、すなわち、5~50、好ましくは10~40wt%のNiおよび鋼が空気に曝露されると、表面上で酸化クロムの保護層を形成するのに十分なクロムを含有する鋼である。それは、約10%以上のクロムを有する合金を含む。好ましいステンレス鋼は10~40wt%のNiおよび10~35wt%のCrを含有する。AISI 301、303、304、309、310、316、316L、317、317L、321、347、CF8M、CF3M、254SMO、A286およびAL6XNステンレス鋼などのAISI 300シリーズ鋼がより好ましい。AISI 400シリーズステンレス鋼およびとりわけAlloy410、Alloy416およびAlloy440Cもまた、特に興味深い。
【0040】
この発明により処理することができる他の型の合金は、鋼が空気に曝露されるとコヒーレント保護酸化クロム保護コーティングを形成するのに十分なクロム、例えば約10%以上のクロムを含有するニッケル系、コバルト系およびマンガン系合金である。そのようなニッケル系合金の例としては、2~3例を挙げると、Alloy600、Alloy625、Alloy825、AlloyC-22、AlloyC-276、Alloy20CbおよびAlloy718が挙げられる。そのようなコバルト系合金の例としては、MP35NおよびBiodurCMMが挙げられる。そのようなマンガン系合金の例としては、AISI 201、AISI 203EZおよびBiodur108が挙げられる。
【0041】
この発明を、実施することができるさらに別の型の合金はチタン系合金である。冶金学においてよく理解されるように、これらの合金は、空気への曝露でコヒーレント保護酸化チタンコーティングを形成し、それらもまた、窒素および炭素原子の通過に対して不浸透性である。そのようなチタン系合金の具体例としてはGrade2、Grade4およびTi6-4(Grade5)が挙げられる。同様に、亜鉛、銅およびアルミニウムなどの他の自己不動態化金属に基づく合金もまた、この発明の技術により活性化(脱不動態化)することができる。
【0042】
本発明により処理される金属の特定の相は、この発明は、オーステナイト、フェライト、マルテンサイト、二相金属(例えば、オーステナイト/フェライト)、などを含むが、それに限定されない任意の相構造の金属について実施することができるという意味では、重要でない。
【0043】
非ポリマN/C/H化合物による活性化
この発明によれば、自己不動態化金属から作製され、その少なくとも1つの表面領域上にベイルビー層を有するワークピースは、ワークピースを非ポリマN/C/H化合物を含む試薬を加熱する(熱分解する)ことにより生成される蒸気と接触させることにより、低温表面硬化のために活性化(すなわち、脱不動態化)される。異なる非ポリマN/H/C化合物の混合物もまた、このために使用することができる。以下でさらに記載されるように、ワークピースの脱不動態化を引き起こすことに加えて、この発明の非ポリマN/H/C化合物はまた、ワークピースの同時表面硬化、例えば、浸炭、窒化、および/または浸炭窒化のために窒素および炭素原子を供給することができる。異なる非ポリマN/C/H化合物はこれらの窒素および炭素原子を異なる量および程度で供給するので、これらの化合物の混合物は、特定の非ポリマN/C/H化合物が同時表面硬化のために望ましい特定の動作条件に対して使用されるように調整するために使用することができる。
【0044】
この発明の非ポリマN/C/H化合物は、(a)少なくとも1つの炭素原子を含有し、(b)少なくとも1つの窒素原子を含有し、(c)炭素、窒素、水素および任意でハロゲン原子のみを含有し、(d)室温(25℃)および大気圧で固体または液体であり、ならびに、(e)≦5,000ダルトンの分子量を有する任意の化合物として記載することができる。≦2,000ダルトン、≦1,000ダルトンまたはさらには≦500ダルトンの分子量を有する非ポリマN/C/H化合物が含まれる。合計4-50個のC+N原子、5-50個のC+N原子、6-30個のC+N原子、6-25個のC+N原子、6-20個のC+N原子、6-15個のC+N原子、およびさらには6-12個のC+N原子を含有する非ポリマN/C/H化合物が含まれる。
【0045】
この発明において使用することができる特定のクラスの非ポリマN/C/H化合物としては、一級アミン、二級アミン、三級アミン、アゾ化合物、複素環化合物、アンモニウム化合物、アジドおよびニトリルが挙げられる。これらの中で、4-50個のC+N原子を含有するものが望ましい。4-50個のC+N原子、交互C=N結合、および、1つ以上の一級アミン基を含有するものが含まれる。例としては、メラミン、アミノベンズイミダゾール、アデニン、ベンズイミダゾール、グアニジン、ビグアナイド、トリグアニド、ピラゾール、シアナミド、ジシアンジアミド、イミダゾール、2,4-ジアミノ-6-フェニル-1,3,5-トリアジン(ベンゾグアナミン)、6-メチル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン(アセトグアナミン)、3-アミノ-5,6-ジメチル-1,2,4-トリアジン、3-アミノ-1,2,4-トリアジン、2-(アミノメチル)ピリジン、4-(アミノメチル)ピリジン、2-アミノ-6-メチルピリジンおよび1H-1,2,3-トリアゾロ(4,5-b)ピリジン、1,10-フェナントロリン、2,2’-ビピリジルおよび(2-(2-ピリジル)ベンズイミダゾール)が挙げられる。特定のトリグアニドとしては、1,3-ビス(ジアミノメチリデン)グアニジンおよびN-カルバムイミドイルイミドジカルボンイミド酸ジアミドが挙げられる。
【0046】
3つのトリアジン異性体、ならびに4-50個のC+N原子を含有する様々な芳香族一級アミン、例えば、4-メチルベンゼンアミン(p-トルイジン)、2-メチルアニリン(o-トルイジン)、3-メチルアニリン(m-トルイジン)、2-アミノビフェニル、3-アミノビフェニル、4-アミノビフェニル、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、2-アミノイミダゾール、および5-アミノイミダゾール-4-カルボニトリルもまた含まれる。4-50のC+N原子を含有する芳香族ジアミン、例えば、4,4’-メチレン-ビス(2-メチルアニリン)、ベンジジン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン、および2,3-ジアミノナフタレンもまた興味深い。ヘキサメチレンテトラミン、ベンゾトリアゾールおよびエチレンジアミンもまた含まれる。
【0047】
上記化合物のいくつかが含められる、さらにもう一つの含められるクラスの化合物は、窒素系キレート配位子、すなわち、単一の中心金属原子との別々の配位結合を形成するように配列された2つ以上の窒素原子を含有する多座配位子を形成するものである。この型の二座キレート配位子を形成する化合物が含められる。例としては、o-フェナントロリン、2,2’-ビピリジン、アミノベンズイミダゾールおよび塩化グアニジウムが挙げられる(塩化グアニジウムについては、以下でさらに記載する)。
【0048】
もう1つの含められる型の非ポリマN/C/H化合物は、WO2016/027042号(その開示内容は、その全体が、本明細書に組み込まれる)で記載される窒化炭素および/または窒化炭素中間体(複数可)を生成させるために使用されるものである。中間体種はワークピースの低温活性化および硬化に関与または寄与することができる。前駆体はメラミンおよびGuHClを含む可能性があり、様々な窒化炭素種を形成し得る。これらの種は、実験式C3N4を有し、1原子厚の積み重ねられた層またはシートを含み、その層は窒化炭素から形成され、この場合、4つの窒素原子毎に3つの炭素原子が存在する。3という少なさのそのような層、および、1000以上という多さの層を含む固体が可能である。窒化炭素は、他の元素が存在しないように作製されるが、他の元素のドーピングも企図される。
【0049】
以上で記載される非ポリマN/C/H化合物のさらにもう一つの含まれるサブグループは20以下のC+N原子および少なくとも2つのN原子を含むものである。
【0050】
場合によっては、これらの化合物中のN原子の少なくとも2つは、6-炭素芳香環に、直接か、または中間脂肪族部分を介して結合された一級アミンではない。言い換えれば、これらの特定の非ポリマN/C/H化合物中のN原子の1つ以上は、6-炭素芳香環に結合された一級アミンとすることができるが、これらの化合物中のN原子の少なくとも2つは、異なる形態、例えば、二級もしくは三級アミンまたは6-炭素芳香環以外の何かに結合された一級アミンでなければならない。
【0051】
このサブグループの非ポリマN/C/H化合物(すなわち、20以下のC+N原子および少なくとも2つのN原子を含む非ポリマN/C/H化合物)中のN原子は、例えばアゾール部分において起こるように、直接、互いに結合させることができるが、より一般的には1つ以上の中間炭素原子により互いに結合される。
【0052】
このサブグループの非ポリマN/C/H化合物のうち、15以下のC+N原子を含むもの、ならびに少なくとも3つのN原子を含むものが含まれる。15以下のC+N原子、かつ、少なくとも3N原子を含むものが含まれる。
【0053】
このサブグループの非ポリマN/C/H化合物は比較的高程度の窒素置換を有するとみなすことができる。この状況では、比較的高程度の窒素置換は、化合物のN/C原子比率は少なくとも0.2であることを意味するとみなされるであろう。0.33以上、0.5以上、0.66以上、1以上、1.33以上、またはさらに2以上のN/C原子比率を有する化合物が含まれる。0.25-4、0.3-3、0.33-2、さらに0.5-1.33のN/C原子比率を有する非ポリマN/C/H化合物が含まれる。
【0054】
10以下のC+N原子を含むこのサブグループの非ポリマN/C/H化合物、とりわけ、N/C原子比率が0.33-2、さらに0.5-1.33であるものが含まれる。
【0055】
8以下のC+N原子を含む、このサブグループの非ポリマN/C/H化合物、とりわけN/C原子比率が0.5-2またはさらには0.66-1.5であるもの、特にトリグアニド系試薬が特に興味深い。
【0056】
この比較的高程度の窒素置換を達成するために、このサブグループの非ポリマN/C/H化合物は1つ以上の窒素リッチ部分を含むことができ、その例としてはイミン部分[C=NR]、シアノ部分[-CN]およびアゾ部分[R-N=N-R]が挙げられる。これらの部分は、イミン部分がイミダゾールまたはトリアジン基の一部を形成する場合、または、アゾール部分がトリアジンまたはトリアゾール基の一部を形成する場合に生じるものなどの1つ以上の追加のN原子を含む5-もしくは6-員複素環の一部とすることができる。
【0057】
これらの部分はまた、より大きな複素環基の一部ではないという意味で独立したものとすることができる。そうであるならば、これらの部分の2つ以上は、例えば、複数のイミン部分が1,1-ジメチルビグアナイド塩酸塩において生じるなどの中間N原子により互いに結合される場合、または、シアノ基が2-シアノグアニジンにおいて生じるなどの中間N原子によりイミン部分に結合される場合に生じるなどの中間Cおよび/またはN原子により互いに結合させることができる。あるいは、それらは単純に、5-アミノイミダゾール-4-カルボニトリルにおいて生じるなどの分子の残りからペンダントすることができ、または、それらは直接、1,1-ジメチルビグアナイド塩酸塩、ホルムアミジン塩酸塩、アセトアミジン塩酸塩、2-シアノグアニジン、シアナミドおよびシアノグアニジン一塩酸塩において生じるなどの一級アミンに付着させることができる。
【0058】
以上で示されるように、このサブグループの非ポリマN/C/H化合物が1つ以上の一級アミンを含む場合、これらの一級アミンは好ましくは6-炭素芳香環の炭素原子に結合されない。むしろ、それらは好ましくは何か他のものに、例えば、例として1,1-ジメチルビグアナイド塩酸塩、ホルムアミジン塩酸塩、アセトアミジン塩酸塩、2-シアノグアニジン、シアナミドおよびシアノグアニジン一塩酸塩において生じるなどのイミン部分[C=NR]の炭素原子に結合される。または、一級アミンは、例えば、2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノメチルベンズイミダゾール二塩酸塩、5-アミノイミダゾール-4-カルボニトリル、および3-アミノ-1,2,4-トリアジンにおいて生じるなどの、少なくとも1つの、好ましくは少なくとも2つの追加のN原子を含む複素環部分に直接または間接的に結合させることができる。
【0059】
1つ以上の二級アミンを含むこのサブグループの非ポリマN/C/H化合物においては、二級アミンは、追加の0、1または2つのN原子を含む複素環の一部とすることができる。二級アミンが追加のN原子を含まない複素環の一部であるそのような化合物の一例は1-(4-ピペリジル)-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール塩酸塩である。複素環が1つの追加のN原子を含むそのような化合物の例は2-アミノベンズイミダゾール、2-アミノメチルベンズイミダゾール二塩酸塩、イミダゾール塩酸塩および5-アミノイミダゾール-4-カルボニトリルである。二級アミンが2つの追加のN原子を含む複素環の一部であるそのような化合物の一例はベンゾトリアゾールである。あるいは、二級アミンは、2-シアノグアニジンおよびシアノグアニジン一塩酸塩において生じるなどのシアノ部分に結合させることができる。
【0060】
1つ以上の三級アミンを含むこのサブグループの非ポリマN/C/H化合物においては、三級アミンは、追加の1または2つのN原子を含む複素環の一部とすることができ、その一例は1-(4-ピペリジル)-1H-1,2,3-ベンゾトリアゾール塩酸塩である。
【0061】
発明のいくつかの実施形態では、使用される非ポリマN/C/H化合物は、N、CおよびH原子のみを含有する。言い換えれば、使用される特定の非ポリマN/C/H化合物は、ハロゲンを含まない。発明の他の実施形態では、非ポリマN/C/H化合物は、1つ以上の任意的なハロゲン原子を含み、またはこれと会合させ、またはこれと複合体化させることができる。
【0062】
これを実施することができる1つの方法は、化合物中に会合体または複合体の形態でHClなどのハロゲン化水素酸を含むことによるものである。そうであるならば、この非ポリマN/C/H化合物は、この開示において、「複合体化されている」と呼ばれる。他方、非ポリマN/C/H化合物がそのような酸と複合体化されていない場合、それは、この開示において、「非複合体化」と呼ばれる。「複合体化」も「非複合体化」も使用されない場合、問題になっている用語は、複合体化および非複合体化非ポリマN/C/H化合物の両方を示すことが理解されるであろう。
【0063】
任意的なハロゲン原子をこの発明の非ポリマN/C/H化合物中に含めることができる別の方法は、その不安定な水素原子のいくつかまたは全てをハロゲン原子、好ましくはCl、Fまたは両方と置き換えることによるものである。説明を簡単にするために、不安定なH原子に取って代わる1つ以上のハロゲン原子を含む、このサブグループの非複合体化非ポリマN/C/H化合物は本明細書で「ハロゲン-置換された」と呼ばれるが、そのようなハロゲン原子を含まないこの発明の非複合体化非ポリマN/C/H化合物は本明細書では、「非置換」と呼ばれる。
【0064】
使用される非ポリマN/C/H化合物が任意的なハロゲン原子を含むこの発明のそれらの実施形態では、使用される非ポリマN/C/H化合物は全て任意的なハロゲン原子を含むことができる。加えて、両方の型のハロゲン含有非ポリマN/C/H化合物、すなわち、ハロゲン原子が複合体化ハロゲン化水素酸の一部である複合体化非ポリマN/C/H化合物、および、ハロゲン原子が不安定なH原子に取って代わる非複合体化非ポリマN/C/H化合物が使用され得る。
【0065】
以上で示されるように、この発明の非ポリマN/C/H化合物は、所望であれば、好適なハロゲン化水素酸、例えばHClなど(例えば、HF、HBrおよびHI)と複合体化させることができる。この状況では、「複合体化」は、HClなどの単純なハロゲン化水素酸が2-アミノベンズイミダゾールなどの窒素リッチ有機化合物と組み合わされる場合に起こる会合の型を意味すると理解される。どちらも水に溶解された場合HClは解離することができるが、2-アミノベンズイミダゾールは解離しない。加えて、水が蒸発した場合、得られた固体は、原子ベースでのこれらの個々の化合物の混合物-例えば、複合体から構成される。それは、排他的に、HCl由来のCl-アニオンが、N原子がHClから誘導されるH+カチオンを受け取ることにより正となる2-アミノベンズイミダゾール中のN原子にイオン結合されている塩から構成されない。
【0066】
水がアンモニアとHClの水性混合物から蒸発する場合、HCl由来のH+カチオンがアンモニア由来のN原子と結合して、正電荷を持つアンモニウムカチオンを形成する。水が蒸発し続けるにつれ、HCl由来のCl-アニオンは、これらの正電荷を持つアンモニウムカチオンとイオン結合を形成する。その結果、新規化合物、塩である塩化アンモニウムが形成される。この発明の非ポリマN/C/H化合物がHClまたは他のハロゲン化水素酸と複合体化された場合、これと同じことが必ずしも起きない。というのも、これらの化合物のこの特別な化学構造のために、これらの化合物中の窒素原子はイオン性塩結合を形成する可能性が低いからである。
【0067】
例えば、N原子が二級または三級アミンの形態で存在する非ポリマN/C/H化合物は、排他的イオン結合以外の結合を用いて複合体を形成することができ、というのも、これらのN原子の大半は、イオン性塩結合を形成するのに必要な程度まで、H+カチオンを受け取り、正電荷を持つことができる可能性がより低いからである。そのため、この発明のいくつかの実施形態では、複合体化された非ポリマN/C/H化合物は好ましくは二級および/または三級アミンの形態である少なくとも2つの窒素原子を含む。
【0068】
同様に、少なくとも1つのN原子がイミン部分(C=NR)中に存在する非ポリマN/C/H化合物もまた、複合体を形成することも明白であると考えられる。これは、イミン部分の炭素原子がイミダゾール環、グアニジンおよびその誘導体および酸アミジン化合物、例えば、ホルムアミジン塩酸塩およびアセトアミド塩酸塩において生じるなどの窒素原子に直接結合される場合、とりわけそうである。そのため、他の実施形態では、この発明の酸-複合体化非ポリマN/C/H化合物は好ましくは、1、2、3またはさらには4つのイミン部分(C=NR)を含む。1つ以上のこれらのイミン部分の炭素原子がN原子に直接結合された化合物が含まれる。
【0069】
この発明によれば、水素ハロゲン化物と複合体化されているか、または水素ハロゲン化物と複合体化されていない非ポリマN/C/H化合物を含む試薬を、蒸気形態まで加熱および/または熱分解することにより生成された蒸気は、自己不動態化金属の表面を、重要なベイルビー層の存在にもかかわらず容易に活性化することが見出されている。加えて、非常に多くの場合、これらの蒸気はまたワークピースの同時表面硬化のための窒素および炭素原子を供給する。さらにいっそう驚いたことに、このように実施された表面硬化は、従来可能であった時間よりもずっと短い期間で達成することができることもまた見出されている。例えば、活性化、続いて、低温表面硬化のための以前のプロセスでは、好適なケースを達成するのに、24-48時間かかる可能性があるが、活性化、および、低温表面硬化のための発明のプロセスは同等のケースを2時間以下、実に1分で、表面硬化が活性化と同時に起こるか、またはその後に起こるかに関係なく達成することができる。
【0070】
いずれの理論にも縛られることは望まないが、この非ポリマN/C/H化合物の蒸気はワークピース表面との接触前、および/またはその結果のいずれかで加熱および/または熱分解により分解し、イオンおよび/またはフリーラジカル分解種が得られ、それらが効果的にワークピース表面を活性化すると考えられる。加えて、この分解はまた、窒素および炭素原子を生じさせ、それらがワークピース表面中に拡散し、これにより、低温浸炭窒化により硬化される。
【0071】
そのため、非ポリマN/C/H化合物がこの発明による活性化のために使用される場合、活性化および少なくともいくらかの表面硬化がほとんどの場合同時に起こり、これにより、表面硬化プロセスを増強させるために、追加の窒素および/または炭素含有化合物を系に含めることが必要でなくなり得ることが認識されるであろう。しかしながら、そのような追加の化合物は含めることができない、または含めるべきではないと言っているわけではない。
【0072】
この関連で、この発明により活性化される場合にワークピースが表面硬化される程度は、処理される特定の合金の性質、使用される特定の非ポリマN/C/H化合物、および活性化が起こる温度を含む様々な異なる因子に依存することが認識されるべきである。一般的に言って、この発明による活性化は、通常、低温表面硬化に関連する温度より幾分低い温度で起こり得る。この発明による活性化はまた、より高い温度、例えば、600℃以上で起こり得る。加えて、異なる合金は、それらが活性化し、表面硬化する温度の観点から互いに異なり得る。加えて、異なる非ポリマN/C/H化合物は、より多くの、またはより少ない相対量の窒素および炭素原子を含有する。
【0073】
そういう訳で、発明のいくつかの実施形態では、特定の合金は、単に、非ポリマN/C/H化合物から解放された窒素原子および炭素原子の結果として、活性化されると同時に、完全に表面硬化され得る。そうなら、追加の窒素原子および/または炭素原子を供給するために、系に1つまたは複数の追加の窒素および/または炭素含有化合物を含めることにより表面硬化プロセスを増強させることは、不要になり得る。
【0074】
しかしながら、発明の他の実施形態では、特定の合金は、単に、活性化中、非ポリマN/C/H化合物により解放された窒素原子および炭素原子の結果として、完全表面硬化され得ない。そうなら、表面硬化プロセスを増強させるために、追加の窒素原子および/または炭素原子を供給するために、追加の窒素および/または炭素含有化合物を系に含めることができる。例としては、窒素、水素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、アンモニア、メチルアミン、およびそれらの混合物が挙げられる。そうなら、これらの追加の窒素および/または炭素含有化合物は、脱不動態化(活性化)が開始すると同時にまたは脱不動態化(活性化)が完了する前の任意の時間に、脱不動態化(活性化)炉に供給することができる。この追加の窒素および/または炭素含有化合物は、表面硬化のために使用される非ポリマN/C/H化合物とは異なるものとすることができるが、所望であれば、同じ化合物とすることもできることが理解されるべきである。
【0075】
このように活性化中の表面硬化を増強させることに加えて、および/またはその代わりに、表面硬化を増強させることは、活性化が終了して始めて、活性化が追加の窒素および/または炭素含有化合物を供給することにより完了された後まで延期することができる。そうなら、増強された表面硬化は、活性化のために使用されたものと同じ反応器または異なる反応器において実施することができる。
【0076】
特定のワークピースを活性化するために使用する非ポリマN/C/H化合物の量もまた、活性化される合金の性質、処理されるワークピースの表面積および使用される特定の非ポリマN/C/H化合物を含む多くの因子に依存する。それは、ルーチン実験により、参考のための下記実施例を使用して容易に決定することができる。
【0077】
加えて、本明細書で記載される任意の試薬が、米国特許第10,214,805号で開示される試薬と同時に使用され得る。
【0078】
最後に、この発明の重要な特徴は、その非ポリマN/C/H化合物は酸素を含まないということであることに注意されたい。理由は、そうでなければ、これらの化合物が酸素原子を含有した場合に起こるであろう、これらの化合物の反応での一時的な酸素原子の発生を回避するためである。以上で示されるように、この発明によれば、この発明の非ポリマN/C/H化合物が分解した時に発生するイオンおよび/またはフリーラジカル分解種のために、活性化が起こると考えられる。そのような一時的な酸素原子はいずれも、これらのイオンおよび/またはフリーラジカル分解種と反応し、無能化すると考えられる。実際、これにより、なぜ、上記Christiansenらの特許で記載されるプロセスが、処理されるワークピースがベイルビー層を有する場合に、そこで実際に使用されるN/C化合物がかなりの量の酸素を含有するために、困難となるのかが説明される。この問題はこの発明により回避される。というのも、使用される非ポリマN/C/H化合物は酸素を含まないからである。
【0079】
本明細書で記載される任意の試薬の任意の好適な形態がこの開示と共に使用され得る。これは、粉末、液体、ガスおよびそれらの組み合わせを含む。本明細書では「試薬」は任意の物質を含み、非ポリマN/C/H化合物または金属の活性化および/または硬化に使用される他の化合物が含まれる。
【0080】
低温熱硬化
以上で示されるように、低温窒化または浸炭窒化のために自己不動態化金属の表面を活性化することに加えて、この発明の非ポリマN/C/H化合物を加熱することにより生成される蒸気はまた、たとえ、追加の試薬が反応系に含まれていなくても、これらの熱硬化プロセスにより、ワークピースの少なくともいくらかの熱硬化を達成する窒素および炭素原子を供給することができる。
【0081】
しかしながら、所望であれば、低温熱硬化が起こる速度は、追加の窒素および/または炭素含有試薬を反応系に含めることにより-特に、ワークピースを、分解して、窒化のための窒素原子を生じさせることができる追加の窒素含有化合物、分解して、浸炭のための炭素原子を生じさせることができる追加の炭素含有化合物、分解して、浸炭窒化のための炭素原子および窒素原子の両方を生じさせることができる炭素および窒素原子の両方を含有する追加の化合物、またはこれらの任意の組み合わせと接触させることにより、増加させることができる。
【0082】
これらの追加の窒素および/または炭素含有化合物はいつでも反応系に添加することができる。例えば、それらは、ワークピースの活性化が完了した後、または活性化が起きているのと同時に添加することができる。最後に、それらはまた、活性化が始まる前に添加することができるが、低温表面硬化は、それらが活性化と同時に、および/または、その後に添加されると、より有効となると考えられる。
【0083】
活性化および熱硬化は、例えば、本発明の譲受人に譲渡されたUS10,214,805号において記載される閉鎖系において、すなわち、活性化および熱硬化プロセスの全過程中での任意の材料の出入りに対して完全に密閉された反応槽において、この発明により達成され得る。確実に、活性化および熱硬化が適正に実施されるようにするために、十分な量の、非ポリマN/C/H化合物の蒸気がワークピースの表面、とりわけ、かなりのベイルビー層を有するそれらの表面領域に接触することが望ましい。この発明による活性化および熱硬化の両方のために使用される非ポリマN/C/H化合物はしばしば微粒子固体であるので、この接触が、適正に実施されることを確実にする簡単な方法は、これらの表面をこの微粒子固体でコーティングする、または別様に被覆し、次いで、ワークピースおよび非ポリマN/C/H化合物の加熱が開始する前に、反応槽を密閉することによる。非ポリマN/C/H化合物はまた、好適な液体に溶解または分散させ、次いで、ワークピース上にコーティングすることができる。
【0084】
これらのアプローチは、多くの小さなワークピース、例えばコンジット用のフェルールおよびフィッティングなどを含有する大きなバッチが、同じ反応槽内で同時に熱硬化される場合に、とりわけ好都合である。
【0085】
活性化および熱硬化が、以上で記載される閉鎖系で実施されるこの発明のアプローチは、いくつかの点で、BessenのU.S.3,232,797号で開示される技術に類似する。その中では、鋼薄ストリップが塩化グアニジウムを含むグアニジウム化合物でコートされ、次いで、加熱され、グアニジウム化合物が分解され、鋼ストリップが窒化される。しかしながら、そこで窒化される鋼薄ストリップは、強く接着された、コヒーレント保護酸化物コーティング(これは、窒素および炭素原子の通過に対して不浸透性である)が形成されるという意味で、自己不動態化しない。したがって、そこで記載される技術は、この発明とほとんど関連しない。この発明では、窒素および炭素原子の通過に対して不浸透性であるステンレス鋼および他の自己不動態化金属が、低温熱硬化プロセスの一部としての、非ポリマN/C/H化合物の蒸気との接触により、これらの原子に対して透過的にされる。
【0086】
グアニジンHCl試薬を使用した迅速硬化
本開示によれば、出願人は、グアニジン[HNC(NH2)2]部分を含む、または、HClと機能的に複合体化された特定の試薬クラスの非ポリマN/C/H化合物は、2-48時間とは対照的に1分という短さで、鋼に好適な活性化および同時表面硬化を提供することを含む、予想外に優れた結果を示すことを決定した。
【0087】
特に、結果からこの系に属する少なくとも3つの試薬、1,1-ジメチルビグアナイドHCl(以後、「DmbgHCl」):
【化1】
およびグアニジンHCl(以後、「GuHCl」):
【化2】
およびビグアナイドHCl(BgHCl)は低温条件下で非常に迅速な表面硬化をうまく誘導したことが示される。例えば、8mgのこれらの試薬(別々に試験した)は、2時間の低温(500℃)処理後に、20-24μmの硬化された浸炭硬化層深さを達成することができた。下記でより詳細に記載されるように、この結果は同様の方法を用いて他の試薬を使用した場合よりもかなり速い。肌焼き層は316SS(UNS S31600)ステンレス鋼製の円筒形るつぼパンの壁に形成された。例示的なパン1の画像が
図4に示される。パンは約0.5cmの直径および約0.5cmの高さを有する。パンは丸棒ストックから標準金属切削工具を使用して機械加工される。他の著しい表面準備はなかった。パン1の機械加工された表面はおそらくベイルビー層を有する。試験を、Netzsch同時熱分析(STA)機器を使用して実施した
3。パン1は米国特許第10,214,805号で開示される手順に従い、下記改変を用いて、肌焼きした:
3Netzsch同時熱分析(STA)機器は“Fourier Transform of Infrared (FT-IR) Spectrometers Coupled to Thermal Analysis: Concepts, Instruments and Applications from RT to 2000℃, Analyzing and Testing” NGB-FTIR-EN-0220-NWS、付属書類Aとして添付、においてより詳細に記載される。
【表1】
【0088】
表1に示されるように、出願人らは、これらの試薬は、曝露処理時間を、同等の硬化効果を有したまま、2時間から1分に予想外に短縮することができることを見出した。Vickers試験により測定される硬度深さプロファイルが、表1に従い、2つの異なる試薬、DmbgHClおよびGuHClを用いて処理した鋼について、
図5に示される。これらは表1に従い500℃で2時間処理した316SS(UNS S31600)ステンレス鋼るつぼパン1についてのものである。各試薬、DmbgHClおよびGuHClで処理した2つのパン1が存在した。全ての試料が、表面領域において改善された硬度を示す(約20μm浸炭硬化層深さ)。
4例えば、
図4におけるパン1。
5試験により、湿気は米国特許第10,214,805号において使用される様々な試薬と反応し、化学変化を引き起こすことが示された。
6活性化試薬は硬化直前にパンに入れられ、熱脱水された。
【0089】
グアニジン[HNC(NH2)2]部分またはHCl複合体化を有する官能性はDmbgHCl、GuHCl、およびBgHClの全てに共通する化学構造である。グアニジン部分を欠く、試験した他の試薬は同様の条件下、2時間以下で約20μmの浸炭硬化層深さを生成させることを示していない。
【0090】
グアニジンをHClと共に含む他の化合物、例えば、ビグアナイドHCl(BgHCl)およびメラミンHCl(MeHCl)もまた、好適である。他の好適なグアニジンを含む化合物としてはトリグアニドが挙げられる7。より特定的には、好適なグアニド、ビグアナイド、ビグアニジン、およびトリグアニドの例としては、クロルヘキシジンおよびクロロヘキシジン塩、類似体および誘導体、例えば、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジンおよび塩酸クロルヘキシジン、ピクロキシジン、アレキシジンおよびポリヘキサニドが挙げられる。本発明により使用することができるグアニド、ビグアナイド、ビグアニジンおよびトリグアニドの他の例は、塩酸クロルプログアニル、塩酸プログアニル(現在のところ抗マラリア薬として使用される)、塩酸メトホルミン、フェンホルミンおよび塩酸ブホルミン(現在のところ抗糖尿病薬として使用される)である。
【0091】
本明細書における結果は、HClと複合体化されたグアニジン部分含有化合物の使用を議論するが、これらの結果はまた、HClと複合体化されていないグアニジン部分試薬を用いて得ることができる。任意のハロゲン化水素との試薬複合体化は同様の結果を達成することができる。HCl複合体化なしのグアニジン部分試薬はまた、HCl複合体化を有する他の試薬、例えば、米国特許第10,214,805号で記載される他の試薬と混合することができる。重要な判断基準は、低温浸炭窒化の温度範囲(例えば、450~500C)で分解する間、試薬または試薬の混合物が液相を有するかどうかであり得る。試薬が、その温度範囲に到達する前に、分解せずに蒸発する程度は考慮すべき重要なことである。
【0092】
炭素および窒素の重なりを有する表面層
上記試験において形成された肌焼きされた表面層は低温浸炭窒化を特徴とする2つの別個の副層を含む。外側の副層は侵入窒素に富む。内側の副層は侵入炭素に富む。硬度深さプロファイルにより、DmbgHClおよびGuHClによる2時間の処理後のこれら2層により表される浸炭硬化層深さ(例えば、20-24μmの硬化された浸炭硬化層深さ)は、米国特許第10,214,805号において記載される従来の方法および試薬を用いた2日処理で達成される浸炭硬化層深さと同様であることが示される。出願人らはまた、その表面層内での窒素濃度の重なりを含む炭素含有表面層を形成させることにより、ステンレス鋼を硬化させる方法を発見した。出願人らは、この窒素および炭素濃度の重なりは、近くのベース金属からクロム原子を枯渇させるより粗粒の析出物(これは、ひいては、酸化クロム不動態化層に悪影響を与える)の特性に有害効果を示さない、炭化物の微細析出物の形成による可能性があると考える。そのため、微細析出物はまた、ステンレス鋼上の耐食、酸化クロム不動態化層を保存することができる(例えば、その層から20%未満のクロムを引き出す)。米国特許第10,214,805号において記載されるものなどの、低温侵入型硬化
8の条件下では、粗炭化物および窒化物析出物はおそらく形成しない。温度はおそらく、粗炭化物が析出するのに必要なクロムおよび他の金属原子の置換型拡散には低すぎる。実のところ、以上でより詳細に記載されるように、有害な粗炭化物および窒化物析出物の回避は、これらの条件下で硬化を実施する理由の1つである。これらの同じ条件下では、侵入窒素および炭素の濃度の重なりもまた可能性が低い。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Xiaoting Gu et al., “Numerical Simulations of Carbon and Nitrogen Composition Depth Profiles in Nitrocarburized Austenitic Stainless Steels,” Metal. and Mater. Transactions A, 45A, (2014), 4268-4279(以後、「Gu et al.」)を参照されたい。Gu et al.は低温浸炭窒化中に起こる侵入炭素および窒素の濃度の物理的分離の後ろの熱力学を要約する。例えば、Gu et al.4268(要約)および4277を参照されたい。そのため、Gu et al.は、侵入型炭素および窒素の濃度の重なりについて反対を強く示唆する。同上。しかしながら、Gu et al.は窒素および炭素濃度の重なりの可能性を残し、この場合、元素は、純粋に侵入型ではなく、例えば、窒化物または炭化物析出物などの化合物中で固定される。
7トリグアニドの基本構造は下記の通りである:
【化3】
【0093】
粗窒化物および炭化物析出物および侵入炭素および窒素の重なりは、熱力学に本質的には反するにもかかわらず、出願人らは近年、予想外にステンレス鋼の肌焼きされた層内での炭素および窒素濃度の重なりを発見した。出願人らは、これらの濃度の重なりは、微細な炭化物および/または窒化物析出物の形成によると考えている。
8例えば、450-500℃の温度で浸炭窒化を実施する。
【0094】
図6(a)および6(b)は、それぞれ、ジメチルビグアナイドHCl(DmbgHCl)およびグアニジンHCl(GuHCl)試薬の存在下での表面層内の、炭素および窒素濃度の重なりを示す、肌焼きされたステンレス鋼(316SS(UNS S31600))パン1のAuger深さプロファイルである。
図6(a)および6(b)のx軸はミクロンでの表面からの深さを示す。これらの2つの走査は下記表2に従い470℃で5時間処理された2つの316SSるつぼパン1(
図4を参照されたい)フロアのものである。それらは対象となる窒素および炭素結果のみの領域を示す。
図6(a)は硬化された浸炭硬化層深さの浅い部分(表面から1-2μm)におけるより多くの窒素の分離を示す。炭素はより深い部分でより大きな存在感を有する。
図6(b)はその窒素-炭素分離だけでなく、表面近くでの窒素と共存する炭素の第2のピークも示す。
【0095】
そのため、
図6(a)および6(b)は窒素と一致した表面近くの炭素の著しい濃度を示す。
図6(a)および6(b)はまた、表面窒素濃度は約8~10原子%であることを示す。炭素濃度は5~7原子%である。そのため、
図6(a)および6(b)により、炭素の少なくともいくらかは侵入型ではなく、炭化物析出物で存在する可能性がより高いことが示される。出願人らは、そのような析出物はおそらく、微粒子化されていると推察し、というのも、上記のように、粗粒析出物はこれらの低温条件下では予想外であるからである。Gu et al.および上記米国特許第10,214,805号の議論を参照されたい。そのような表面層は少なくとも5~15原子%の炭素濃度および少なくとも5~15原子%の窒素濃度を有し得る。
【0096】
図6(a)および6(b)のための試料を作製するために、パン1は米国特許第10,214,805号で開示される手順に従い、下記改変を用いて、肌焼きした:
9例えば、
図4におけるパン1。
【表2】
【0097】
表2に示されるように、出願人らは、これらの試薬は、曝露処理時間を、同等の硬化効果を有したまま、2時間から1分に予想外に短縮することができることを見出した。まとめると、上記結果により、
図6(a)および6(b)における、窒素の表面濃度と一致した炭素の表面濃度は微細析出金属炭化物に起因することが示唆される。
図6(a)および6(b)および表2において示されるものは別として、この仮説を支持する他の証拠が存在する。例えば、硬化されたものの炭化物リッチ部分における表面硬度を測定すると、そのような析出物なしの侵入型原子肌焼単独の硬度より硬い。加えて、瞬間調製による肌焼き層構造の目視検査はより粗い金属炭化物および窒化物の形成に典型的なラス構造を示さない。このデータは全て、表2で記載される低温試薬誘導肌焼中の微細金属炭化物析出と一致する。
10試験により、湿気は米国特許第10,214,805号において使用される様々な試薬と反応し、化学変化を引き起こすことが示された。
11活性化試薬は硬化直前にパンに入れられ、熱脱水された。
12この分布はまた、視覚的に切断試料におけるものとした。
13米国特許第10,214,805号からの試料と対照的に、切断試料には視認可能な分布は存在しなかった。この実験における試料について試薬(8mgの代わりに1~2mg)が不足した場合、米国特許第10,214,805号について示されるものと同様の視認可能な分布が存在したことに注意されたい。これにより、本出願における試薬と米国特許第10,214,805号におけるものとの間の主な違いは、試薬の全体の化学的効力である(すなわち、即時条件下、試薬は米国特許第10,214,805号における条件下でよりも有効である)ことが示唆される。
【0098】
316SS中の微粒子化された炭化物は、より粗い炭化物と比べて耐食性の損失が最小であることが期待できる。1つの理由は、微細炭化物形成の低温条件下では、最小のクロム移動が予想されることである。これにより、ステンレス鋼に耐食性を提供する酸化クロム不動態化層におけるより少ないクロム枯渇が示唆される。これは全て、微細炭化物の比較的小さなサイズ(例えば、粗炭化物と比べた場合比較的小さな容積および質量)と一致する。それらの小さなサイズのために、微細炭化物は、粗粒析出物と比べた場合、比較的小さいクロムを用いて形成することができる。加えて、微細析出物は、粗析出物の場合に観察される鋼特性に対する有害効果を示すと予想されない。これらの微細析出物は侵入元素不純物、例えば侵入窒素と同時に存在し得る。加えて、微細窒化物析出物が存在し得る。
【0099】
遠隔硬化
引用文献において記載されるように、ステンレス鋼(例えば、316SSステンレス鋼(UNS S31600))の試薬により活性化される迅速な肌焼は、試薬、特に本開示のHClと複合体化されたグアニド型試薬およびワークピースが比較的近接近している、例えば、0.1μm以下の距離だけ分離されている場合に、実施することができる。しばしば、活性化および硬化プロセス中に、試薬が鋼の一部に直接隣接し、またはさらに接触する。幾人かのプロセス設計者は、さらに、そのような近接近が迅速硬化に必要であることを仮定する。
【0100】
試薬およびワークピースが近接近することを要求する処理は、工業プロセスのためにスケールアップするのが困難である。例えば、複数のワークピースを活性化し、硬化させるために単一試薬を使用するのは困難である。近接制限は連続プロセス処理(例えば、コンベヤーベルトによる)を、不可能ではないにしても、困難にする。その上、近接要求は各個々の試薬により処理することができるワークピースの数を制限するので(例えば、いつでも1つの試薬あたり1つのワークピース)、試薬を効率的に使用することができない。言い換えれば、そのような条件下では各個々のワークピースを処理するためにより多くの量の試薬が必要とされる可能性がある。
【0101】
そのため、試薬および鋼を分離させることができる低温硬化のプロセスを開発することが有利となるであろう。そのようなプロセスは、とりわけ、工業的スケールアップおよび試薬のより効率的な使用を可能にするであろう。加えて、より「遠隔」な硬化は、より近接近の試薬/ワークピースでのプロセス処理から生じる問題を回避することができ、試薬との近接または接触により引き起こされるワークピース表面でのピッチングまたは障害の減少が挙げられる。
【0102】
出願人らは、本開示の手順は、特に本開示のHClと複合体化されたグアニド型試薬を使用する場合、鋼表面を遠隔で硬化させるために使用することができることを発見した。すなわち、硬化のための標的表面を、活性化試薬から、8インチ(20cm)以上の距離だけ分離した場合に、本明細書で記載される同じまたは同様の肌焼効果が達成され得ることが発見されている。最近の結果により、迅速な、低温、試薬活性化硬化は、試薬およびワークピースがこれらの距離だけ分離されていてもそれらは近接近するので、同様に有効となり得ることが示されている。
【0103】
この研究では、肌焼き層が316SS(UNS S31600)ステンレス鋼製の円筒形るつぼパンの壁に形成された。例示的なパン1の画像が
図4に示される。パンは約0.5cmの直径および約0.5cmの高さを有する。パンは丸棒ストックから標準金属切削工具を使用して機械加工される。他の重要な表面準備は存在しなかった。パン1の機械加工された表面はおそらくベイルビー層を有する。試験を、Netzsch同時熱分析(STA)機器を使用して実施した
14。
【0104】
これらの実験において、パン1は米国特許第10,214,805号で開示される手順に従い、下記改変を用いて、肌焼きした:
14Netzsch同時熱分析(STA)機器は“Fourier Transform of Infrared (FT-IR) Spectrometers Coupled to Thermal Analysis: Concepts, Instruments and Applications from RT to 2000℃, Analyzing and Testing” NGB-FTIR-EN-0220-NWS、付属書類Aとして添付、においてより詳細に記載される。
15例えば、
図4におけるパン1。
【表3】
【0105】
表3に示されるように、出願人らはこれらの試薬は、曝露処理時間を、同等の硬化効果を有したまま、2時間から1分に予想外に短縮することができることを見出した。
【0106】
図4に示されるように、パン1はその上面に穴1aを有する。実験配置では、穴1aは大気圧の窒素パージガスに供せられる。ガスセルはパン1上方約8インチ(20cm)にある。処理に関与する試薬から放出された蒸気は分析計を有するガスセルまで進む。以下で議論されるように、出願人らは、少なくともこの距離、すなわち、8インチ(20cm)移動する蒸気が、試薬が鋼とちょうど隣接して、または接触して配置された時と同じくらい迅速、かつ効果的に標的を硬化させると考える。出願人らは、るつぼパンおよび蓋内に0.5cm遠隔硬化を示した。
【0107】
これらの結果から、試薬と直接接触しておらず、試薬から8インチ(20cm)も離れている、316SS金属表面は、効果的に試薬により活性化し、肌焼きすることができることが示される。特定的には、500℃で2-5時間処理されたパン1からのるつぼパンおよび蓋は、0.5cmの試薬/処理表面距離で28-32μmのケースを示す。同様の結果がDmbgHCl、BgHCl、およびGuHCl試薬の両方について得られた。その上、出願人らは、試薬の分解により生成された蒸気は少なくとも8インチ(20cm)進むことができることを発見した。この期間におけるこの浸炭硬化層深さは、米国特許第10,214,805号および本明細書で引用される他の参考文献において記載される接触硬化に相当する。そのため、活性化および肌焼処理はこれらの距離では、それらが、直接接触を含む、近接近しているのと全く同じように有効であると考えられる。
16試験により、湿気は米国特許第10,214,805号において使用される様々な試薬と反応し、化学変化を引き起こすことが示された。
17活性化試薬は硬化直前にパンに入れられ、熱脱水された。
【0108】
出願人らは、このデータおよび関連する観察結果に基づき、分解試薬由来の蒸気は試薬と接触していない表面(例えば、るつぼパンおよび蓋)まで運ばれ、それらの表面を遠隔で活性化しおよび/または硬化すると結論付ける。出願人らは現在のところこの蒸気の組成および特性を分析している。彼らは、その効力は直接、試薬の量に関連すること、例えば、反応系に試薬が欠乏している(より少ない試薬が使用される)場合、より少ない遠隔活性化/硬化が観察されることを発見した。
【0109】
1つの変形では、上記プロセスにおける、試薬および金属触媒は反応性を改善するために粉末形態で一緒に混合され得る。より特定的には、その金属触媒は316SSまたは他の合金金属粉末を含むことができ、それは試薬と混合される。試薬を、316SS粉末などの金属触媒とセラミックるつぼパン内で混合すると、そのセラミックるつぼパン内の試薬単独と比べて、より大きな試薬反応性が観察された。
【0110】
上記開発はかなりの経済効果を有する。それらにより、試薬は複数の、遠隔表面を並行して(例えば、同時に)、各々が逐次試薬と直接接触または近接近して処理されたかのように、かなりの効力で処理することができることが暗示される。例えば、遠隔、迅速、1~2時間、さらには1分の硬化処理が、硬化部品の連続コンベヤーベルト製造において使用され得る。単一試薬(例えば、DmbgHCl、GuHCl、またはBgHCl)はワークピース(例えば、フェルール)からある距離で、それらがベルト上を移動する時に、分解され、それらの各々を効果的に同時に処理することができる。これにより、ワークピースを硬化させる生産量および迅速性が大きく改善されるであろう。試薬使用の効率もまた改善されるであろう。1ワークピースあたりに必要とされる試薬は、そのような一括的処理レジーム下では、各ワークピースが逐次別個の反応槽において処理される場合よりも少なくなるであろう。
【0111】
出願人らはこのプロセスのさらに別の利点に気づいた。本明細書で記載される遠隔硬化は、試薬および処理表面を近接近させておくことにより生じる問題のいくつかを回避する。特に、試薬への直接曝露はピッチングまたは他の望まれない表面効果を引き起こす可能性がある。遠隔活性化および硬化に起因するこれらの問題は観察されなかった。
【0112】
試薬共沸混合物
以上で記載される構成に加えて、試薬は組み合わせて、様々な共沸混合物とすることができる。共沸混合物は蒸発を通して一定沸点および組成を有する液体の混合物である。共沸混合物蒸発温度は混合物中の2つの液体のいずれかの純粋形態の沸点にほぼ等しいか、または、それ以上であり得る。試薬共沸混合物は本開示との関連で使用することができ、便宜的に試薬が組み合わせられ、活性化および硬化において使用するための試薬特性が増強または改善される。
【0113】
例えば、メラミンは、共沸混合物中で、グアニド試薬(例えば、上記グアニド試薬のいずれか)と組み合わせることができ、ある一定の硬化プロセスにおけるメラミンの使用が促進される。メラミン、環状トリ-グアニド(HCl複合体化なし)はその化学的性質により、本明細書で議論される合金の迅速な活性化および硬化を支援する。しかしながら、その純粋形態では、メラミンは、活性化および硬化用途には都合が悪い可能性がある。これは、純粋メラミンは、本明細書で開示されるプロセスのいくつかによる硬化を促進するには低すぎる温度で蒸発するためである。メラミンを共沸混合物中で適切に選択した液体と組み合わせると、効果的にその蒸発温度を上昇させることができる。例えば、メラミンを別のグアニド様試薬と混合すると、混合物はより大きな共沸混合物蒸発温度を有することができる。これにより、混合物のメラミン部分は適切な温度で硬化を誘導するのにより有用になり得る。メラミンを有する共沸混合物のために使用され得るグアニド様試薬としては、ビグアナイドHCl、ジメチルビグアナイドHCl、グアニジンHClが挙げられる。重量割合は変動し得る。共沸混合物中の例示的なメラミン対グアニド様重量割合としては、5%対95%、10%対90%、25%対75%、または50%対50%が挙げられる。他の化合物もまた、試薬または共沸混合物混合物に必要に応じて含めることができる。例えば、メラミンおよびグアニド様試薬の混合物は、追加の試薬、または試薬混合物のある一定の特性を増強させることができる他の化合物をさらに含むことができる。
【0114】
メラミンをグアニド様試薬と組み合わせることが、例示的な共沸混合物として以上で議論されているが、明確に本明細書で記載される、または、参照により含められる試薬の任意の好適な組み合わせが可能であることが理解されるべきである。メラミンは、他の試薬と組み合わせることができる。その上、以上で記載される通り、例えば、共沸混合物の形成を促進するために、3つ以上の試薬の混合物もまた、可能である。
【0115】
共沸混合物のために試薬混合物を作製するための方法は、試薬を一緒に、個々の試薬の沸点より低い温度で融合または溶融することを含み得る。得られた混合物または共沸混合物の融点は混合された試薬のいずれか(純粋な場合)の融点より低い可能性がある。あるいは、そのような共沸混合物のための試薬混合物は、2以上の試薬を溶媒、または精密に蒸留された石油蒸留物(例えば、塗料)中に懸濁させることにより作製することができる。次いで、溶媒を除去することができ、試薬混合物が残る。例えば、溶媒を除去する1つの方法はそれを金属またはセラミック表面で蒸発させるものであり、乾燥2-試薬混合物が残る。
【0116】
上記開発はかなりの経済効果を有する。迅速な、1~2時間肌焼処理が窒素(または他の雰囲気)パージ下での硬化ワークピースの連続コンベヤーベルト製造において使用され得る。試薬(例えば、DmbgHClおよびGuHCl)は直接、噴霧適用することができ、または液体または固体ビヒクルと懸濁もしくは混合させることができ、これは、スプレー、浸漬、または蒸気などの従来のコーティング方法により、直接ワークピース(例えば、フェルール)上に、それらがベルト上を移動する時に、適用することができる。あるいは、ワークピースは何らかの形態の試薬を用いて前処理することができる(水または油系コーティングでコートされる、粉末コートされる、など)。これにより、硬化部品の生産量および迅速性が大きく改善されるであろう。
【0117】
トレーサー
この発明のさらにもう一つの特徴によれば、この発明において使用される処理試薬-非ポリマN/C/H化合物-は、C、N、Hおよび/または他の元素の特定の、珍しい同位体で強化され得、診断目的のためのトレーサー化合物として機能することができる。例えば、非ポリマN/C/H化合物は、N、CまたはHの珍しい同位体を用いて作製された同じかまたは異なる非ポリマN/C/H化合物、あるいはそのような珍しい同位体を用いて作製された完全に異なる化合物を、低濃度で播くことができる。これらのトレーサーを感知するための、質量分析または他の好適な分析技術を使用することにより、生産規模でのこの発明の低温表面硬化プロセスの品質管理が容易に決定することができる。
【0118】
このために、処理試薬は、下記ハロゲン化物同位体の少なくとも1つで強化することができる:塩化アンモニウム-(15N)、塩化アンモニウム-(15N,D4)、塩化アンモニウム-(D4)、グアニジン-(13C)塩酸塩、グアニジン-(15N3)塩酸塩、グアニジン-(13C、15N3)塩酸塩、グアニジン-(D5)ジュウテリオクロリド、およびそれらの異性体のいずれか。その代わりに、または、加えて、処理試薬は、下記非ハロゲン化物同位体の少なくとも1つで強化することができる:アデニン-(15N2)、p-トルイジン-(フェニル-13C6)、メラミン-(13C3)、メラミン-(トリアミン-15N3)、ヘキサメチレンテトラミン-(13C6、15N4)、ベンジジン-(環-D8)、トリアジン(D3)、およびメラミン-(D6)、およびそれらの異性体のいずれか。
【0119】
任意的なコンパニオンガス
上記ガスに加えて、この発明により活性化が達成されるガス雰囲気はまた、1つ以上の他のコンパニオンガス-すなわち、上記ガス化合物とは異なるガスを含む。例えば、このガス雰囲気は、下記実施例で示されるアルゴンなどの不活性ガスを含むことができる。加えて、有意に発明の活性化プロセスに悪影響を及ぼさない他のガスもまた、含めることができ、その例としては、例えば、水素、窒素ならびにアセチレンおよびエチレンなどの不飽和炭化水素が挙げられる。
【0120】
ワークピースの大気酸素への曝露
この発明のさらに別の実施形態では、ワークピースが、活性化と表面硬化の間に、すなわち、ワークピースの活性化が実質的に完了された後だが、低温表面硬化が実質的に完了される前に、大気酸素に曝露される。
【0121】
前に示されたように、ステンレス鋼および他の自己不動態化金属が低温浸炭および/または浸炭窒化のために活性化される伝統的な方法は、ワークピースをハロゲン含有ガスと接触させることによる。この関連で、前記U.S.5,556,483号、U.S.5,593,510号およびU.S.5,792,282号で記載されるこの領域における初期の研究のいくつかにおいて、活性化のために使用されるハロゲン含有ガスは、非常に腐食性で高価なフッ素含有ガスに制限された。これは、他のハロゲン含有ガス、とりわけ塩素含有ガスが使用された場合、ワークピースが、活性化と熱硬化の間で大気酸素に曝露されるとすぐに再不動態化したためである。そのため、この初期の研究においては、かなりの量のフッ素原子を含有するそれらの活性化されたワークピースのみが、直ちに再不動態化せずに、大気に曝露することができた。
【0122】
この発明の別の特徴によれば、フッ素系活性剤の使用と関連する望ましくない腐食および費用と塩素系活性剤が使用される場合の再不動態化を回避する望ましくない必要性の間のこのトレードオフが破壊され、というのも、この発明により生成された、活性化されたワークピースは大気酸素に24時間以上曝露されても、たとえ、それらがフッ素原子を含んでいなくても容易に再不動態化しないことが見出されたからである。
【0123】
温度傾斜プロトコル
概要
出願人らは、日ではなく時間の時間スケールで有効な低温硬化の方法を開発した(特に
図1-3との関連で、以上で示され、議論される方法とは対照的)。そのため、出願人らは、これらのより急速な硬化プロセスを促進するための、硬化中の温度調整、または傾斜の新しい方法を開発する必要があった。特に、出願人らは、依然として、これらの先例のない時間スケール下での有害な析出物の形成を回避しながら、活性化および/または硬化を最適化する温度傾斜手順を開発した。
【0124】
急速低温硬化の開発
上記のように、結果から、少なくともDmbgHCl、GuHCl、およびBgHClは低温条件下で非常に迅速な表面硬化をうまく誘導したことが示される。特定的には、別々に試験した、8mgのいずれかの試薬は、2時間の低温(500℃)処理後に、20-24μmの硬化された浸炭硬化層深さを達成することができた。上記議論から明らかなように、これは、
図1-3との関連で議論される処理よりずっと急速である。
【0125】
これらの研究において、316SS(UNS S31600)ステンレス鋼製の円筒形るつぼパンの壁で肌焼き層が形成された。例示的なパン1の画像が
図4に示される。パンは約0.5cmの直径および約0.5cmの高さを有する。パンは丸棒ストックから標準金属切削工具を使用して機械加工される。他の重要な表面準備は存在しなかった。パン1の機械加工された表面はおそらくベイルビー層を有する。試験を、Netzsch同時熱分析(STA)機器を使用して実施した。
18
【0126】
パン1は米国特許第10,214,805号で開示される手順に従い、下記改変を用いて、肌焼きした:
18Netzsch同時熱分析(STA)機器は“Fourier Transform of Infrared (FT-IR) Spectrometers Coupled to Thermal Analysis: Concepts, Instruments and Applications from RT to 2000℃, Analyzing and Testing” NGB-FTIR-EN-0220-NWS、付属書類Aとして添付、においてより詳細に記載される。
19例えば、
図4におけるパン1。
【表4】
【0127】
グアニジン[HNC(NH2)2]部分またはHCl複合体化を有する官能性はDmbgHCl、BgHCl、およびGuHClの両方に共通する化学構造である。グアニジン部分を欠く、試験した他の試薬は同様の条件下、2時間以下で約20μmの浸炭硬化層深さを生成させることを示していない。表4に示されるように、出願人らは、これらの試薬は、曝露処理時間を、同等の硬化効果を有したまま、2時間から1分に予想外に短縮することができることを見出した。
【0128】
本開示のこの態様において使用するための好適なグアニド、ビグアナイド、ビグアニジンおよびトリグアニド
22の例としては、クロルヘキシジンおよびクロロヘキシジン塩、類似体および誘導体、例えば、酢酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジンおよび塩酸クロルヘキシジン、ピクロキシジン、アレキシジンおよびポリヘキサニドが挙げられる。他の好適な例としては、塩酸クロルプログアニル、塩酸プログアニル(現在のところ抗マラリア薬として使用される)、塩酸メトホルミン、フェンホルミンおよび塩酸ブホルミン(現在のところ抗糖尿病薬として使用される)が挙げられる。
20試験により、湿気は米国特許第10,214,805号において使用される様々な試薬と反応し、化学変化を引き起こすことが示された。
21活性化試薬は硬化直前にパンに入れられ、熱脱水された。
22トリグアニドの基本構造は下記の通りである:
【化4】
【0129】
本明細書における結果はHCl複合体化を有するグアニジン部分含有化合物の使用を議論するが、これらの結果はまた、HCl複合体化なしのグアニジン部分試薬を用いて得ることができる。任意のハロゲン化水素との試薬複合体化は同様の結果を達成することができる。HCl複合体化なしのグアニジン部分試薬はまた、HCl複合体化を有する他の試薬、例えば、米国特許第10,214,805号で記載される他の試薬と混合することができる。重要な判断基準は、低温浸炭窒化の温度範囲(例えば、450~500C)で分解する間、試薬または試薬の混合物が液相を有するかどうかであり得る。試薬が、その温度範囲に到達する前に、分解せずに蒸発する程度は考慮すべき重要なことである。
【0130】
急速硬化中の温度処理
出願人らは、低温硬化を加速または促進するための温度処理プロトコルの決定に関して、上記研究、特に米国特許第6,547,888の目標を共有している。試薬技術における上記進歩は、処理時間を日から時間に加速したので、出願人らは完全に新しいプロトコルを開発した。とりわけ、それらの目的は、処理中の重要な点での試薬蒸気の強度を最適化するための温度プロファイルを使用することである。
【0131】
温度上昇プロトコル
析出物形成を回避するために温度の減少に焦点を合わせている、以上で引用された参考文献の温度調整プロトコルとは異なり、出願人らは温度上昇プロトコルを開発した。上昇の1つの目的は、とりわけ、試薬の熱分解の生成物(活性化または硬化のいずれかのため)の生成の加速である。特に、出願人らは、窒化および/または浸炭のためのワークピースの活性化は硬化に対する律速ステップとなり得ると考える。よって、この律速ステップが克服され、活性化が実質的なものとなるまで、より高い加熱温度を採用する必要はない。それ以前は、追加の加熱は硬化を効果的に支援しない。彼らは、活性化プロセスが進行する間、比較的低い温度で始まる加熱プロトコルを開発した。活性化が窒素および炭素にワークピースを硬化させるのに実質的に十分なものとなるとすぐに、プロトコルは集中的な、「パルス」加熱ステップを提供する。この集中的なパルスは試薬を分解し、適切な時間での硬化のための炭素および窒素を提供する。
【0132】
例示的な温度上昇プロトコルが
図7に示される。
図7は米国特許出願公開第2010/0116377号の
図2から複製した316SS(UNS S31600)についてのTTT状態図である。新しく提案される温度上昇プロトコルが
図7に注釈付きのライン7aとして示される。析出物が形成するTTT図中の領域が7bと表示される。析出領域7bは曲線QQにより囲まれている。
図7における温度傾斜7aは、有利な温度上昇プロトコルを示唆するにすぎないことが理解されるべきである。
図7に示され、温度傾斜7aと関連する特定の温度および時間は精密または正確であることを意味しない。むしろ、それらは、本開示の温度上昇プロトコルにより望まれる物理および化学変化を示すことが意味される。
【0133】
図7に示されるように、初期段階は試薬を470℃で30分間加熱することである。この段階は、ワークピースの活性化を促進することができる。その後、この初期加熱は480℃で15分間まで上昇される。最後に、熱処理の最初の1時間の最後の15分において、加熱は500℃まで上昇される。このような温度上昇は、熱処理の最初の1時間内の加熱において500℃の最高温度での、しかしながら、比較的短い期間(例えば、15分)の「パルス」または比較的大きな増加を提供する。パルスの目的の1つは、初期加熱が十分ワークピースを活性化した後に、試薬を分解して、硬化プロセスに窒素および炭素を提供するのに十分な熱を提供することである。再び、これらの特定の時間および温度は例示にすぎない。それらは、処理の最初の1時間においてワークピースを活性化するために、試薬の分解能力を増強または増加させることができるパルス加熱プロトコルを示す。これらの特定の時間および温度の改変は、これらのまたは同様の結果が同様に得られる限り、依然として本開示の枠内にあることが理解されるべきである。プロトコル5aの例示的な別の変形は下記である:500℃で0.5時間、510℃で0.25時間、530℃で0.25時間。より一般的には、本明細書で開示される上昇プロトコルは温度を少なくとも450℃以上から550℃以下まで変化させることができるが、さらに大きな温度範囲が可能である。温度における差分、または段階的変化は少なくとも100℃以下とすることができる。
【0134】
図7における温度プロトコル7aは段階プロトコルである。これは、
図3との関連で上記のように、実施上の配慮点に関しては有利となり得る(例えば、実験または製造加熱機器の制限を考慮すると)。しかしながら、7aの段階形態は、例示であり、非限定的であることが意味される。本明細書で記載される同じ効果は滑らかな、または部分的に滑らかな、温度プロトコルを用いて達成することができ、依然としてこの開示の枠内にあることが理解されるべきである。
【0135】
加熱プロトコル7aは複数の目標を同時に達成することができる。最初に、それは処理される表面の硬化および/または活性化を促進するために、可能な限り多くの熱を試薬に提供することができる。第2に、それは
図7の領域7bに入ることにより炭化物または窒化物析出物を形成することを回避することができる。第3に、プロトコル7aは、ピーク(例えば、
図7では1時間で500℃)を通って傾斜するのに十分な試薬バルク温度を得るために、試薬を「予熱する」のに十分な時間を与えることにより、熱容量問題に対処することができる。ピークに到達するとすぐに、加熱は緩和される(
図7、1時間後)。このように、加熱プロトコル7aは、処理の重要点(例えば、
図7で示される熱処理では45分-1時間)での、ワークピースの硬化を引き起こす試薬由来の蒸気のパルスまたは急上昇の強度を最適化することができる。上記のように、そのような熱処理は硬化中、窒素および炭素に対してワークピースを「開く」または活性化することができ、および/または浸炭および/または浸炭窒化により実際の硬化を加速することができる。
【0136】
加熱プロトコル7aはまた、あるいはその代わりに、より低い温度でのワークピースにおける侵入型炭素および窒素原子の初期ローディングを促進し、次いで、より高い温度へと進む。これにより、本明細書で開示される微細炭化物が生成され得、粗炭化物(または窒化物)は生成されない。初期ローディングは粗炭化物および窒化物形成を阻止すると考えられる。
【0137】
温度下降プロトコル
以上で議論される上昇熱処理に加えて、出願人らはまた、日ではなく、時間のオーダーの急速硬化のための温度下降処理を開発した。下降処理の目的は、活性化および硬化中に炭化物または窒化物の析出なしでワークピースの高温を維持することである。上記のように、より高い温度は活性化および硬化プロセスの両方、ならびに試薬の分解の動力学を推進する。
【0138】
例示的な温度上昇プロトコルが
図8に示される。
図8は
図7と同じ316SS(UNS S31600)についてのTTT図である。新しく提案される温度下降プロトコルが
図8に注釈付きのライン8aとして示される。析出物が形成するTTT図中の領域が、
図7で同じように7bとして表示される。再び、析出領域7bは曲線QQにより囲まれている。
図8のプロトコル8aは単に有利な温度下降プロトコルを示唆するにすぎないことが理解されるべきである。
図8で示され、温度傾斜8aと関連する特定の温度および時間は精密または正確であることを意味しない。むしろ、それらは、本開示の温度下降プロトコルにより望まれる物理および化学変化を示すことが意味される。
【0139】
図8の温度プロトコル8aは段階プロトコルである。これは、
図3との関連で上記のように、実施上の配慮点(例えば、実験または製造加熱機器の制限)に関しては有利となり得る。しかしながら、8aの段階形態は、例示であり、非限定的であることが意味される。本明細書で記載される同じ効果は滑らかな、または部分的に滑らかな、温度プロトコルを用いて達成することができ、依然としてこの開示の枠内にあることが理解されるべきである。
【0140】
図8に示されるように、初期段階は試薬を500℃で15分間加熱することである。その後、この初期加熱は480℃で15分間まで下降される。最後に、熱処理の最初の1時間の最後の30分において、加熱は470℃まで下降される。このような温度下降は
図8のTTT図における曲線QQを回避し、よって析出領域7bを回避する。言い換えれば、温度プロトコル8aは、析出物形成を回避しながら、活性化および硬化中に試薬およびワークピースの増加された加熱を提供する。この増加された加熱は、便宜的に試薬分解、活性化、および/または硬化の動力学を増加させることができる。再び、これらの特定の時間および温度は例示にすぎない。それらは分解、活性化、および/または硬化動力学を増加させることができる下降加熱プロトコルを示す。これらの特定の時間および温度の改変は、これらのまたは同様の結果が同様に得られる限り、依然として本開示の枠内にあることが理解されるべきである。プロトコル6aの例示的な別の変形は下記である:530℃で0.25時間、510℃で0.25時間、500℃で0.5時間。より一般的には、本明細書で開示される下降プロトコルは温度を少なくとも450℃以上から550℃以下まで変化させることができるが、さらに大きな温度範囲が可能である。温度における差分、または段階的変化は少なくとも100℃以下とすることができる。
【0141】
60秒処理での15-20μm硬化層についての迅速なプロトコル
上記に加えて、出願人らはおよそ60秒の試薬処理で15-20μm硬化層を生成させる硬化プロトコルを開発した。試料を316SS鋼製の1/16”バックフェルールから作製した。硬化プロセスでは、試料を、下記試薬を加熱することにより形成された蒸気に曝露させた:ビグアナイドHCl、1,1-ジメチルビグアナイドHClおよびGuHCl。どちらの試薬も、フェルール試料において15-20μmの硬化された浸炭硬化層深さを生成させた。
【0142】
温度プロトコルは下記の通りとした。最初に、試料を室温からおよそ600℃まで直線的に上昇させた。上昇は、25℃/分の速度で実施した。600℃に到達するとすぐに、その温度を60秒間維持し、その間、試料を試薬蒸気に曝露させた。その後、次いで、試料を室温まで20℃/分の速度で冷却させた。
【0143】
図9は、今述べたように処理した316Lステンレス鋼フェルール910の表面の断面の光学画像を示す。プロトコルにより、フェルール試料周囲回りに比較的均一な肌焼き層920が生成された。ASTM G61周期動電分極(CPP)試験により、処理されたフェルール910は約900mVで完全不動態(transpassive)となることが示され、比較的高い耐食性が示される。これらの結果から、硬化された外層は、微細金属炭化物析出物の分散物、微細金属窒化物析出物の分散物、耐食固体溶液処理金属相中に懸濁された粗い金属炭化物析出物、および耐食固体溶液処理金属相中に懸濁された粗い金属窒化物析出物の1つ以上を含むことが示唆される。析出物が分散物ではなく、耐食固体溶液処理金属相中に懸濁されていない場合、CPP試験により、900mVより低いmV値での孔食が明らかになるであろう。
【0144】
加熱プロトコルの組み合わせ
加熱プロトコル7aおよび8aが上記で別々に提示されているが、それらは組み合わせて実施され得ることが理解されるべきである。例えば、プロトコル8aに続いて、またはその前にプロトコル7aの加熱パルスを実施することは有利となり得る。他の組み合わせおよび変形が可能であり、全てがこの開示の枠内に含まれる。
【0145】
影響
上記開発はかなりの経済効果を有する。加熱プロトコル5aおよび6a、ならびに以上で議論される変形は硬化時間をグアニジン系試薬(など)について上記で報告された2時間よりもさらに少なく短縮することができる。1時間以下の硬化時間が可能である。迅速な、1-2時間、またはそれ以下の肌焼処理が窒素(または他の雰囲気)パージ下での硬化ワークピースの連続コンベヤーベルト製造において使用され得る。試薬(例えば、DmbgHClおよびGuHCl)は、直接ワークピース(例えば、フェルール)上に、それらがベルト上を移動する時に、噴霧することができる。あるいは、ワークピースは何らかの形態の試薬を用いて前処理することができる(水または油系コーティングでコートされる、粉末コートされる、など)。これにより、硬化部品の生産量および迅速性が大きく改善されるであろう。
【0146】
ワークピースが、この発明による活性化および/または硬化中に供される温度は、活性化を達成するのに十分高いが、窒化物および/または炭化物析出物が形成するほどは高くないものでなければならない。
【0147】
この関連で、低温表面硬化プロセスにおいては、ワークピースが高すぎる温度に曝露されると、望まれない窒化物および/または炭化物析出物が形成することがよく理解されている。加えて、ワークピースが、これらの窒化物および/または炭化物析出物を形成せずに耐えることができる最高表面硬化温度は数変数に依存し、実行される特定の型の低温表面硬化プロセス(例えば、浸炭、窒化または浸炭窒化)、表面硬化される特定の合金(例えば、ニッケル系対鉄系合金)およびワークピース表面中に拡散される窒素および/または炭素原子の濃度が挙げられることもまた理解される。例えば、本発明の譲受人に譲渡されたU.S.6,547,888号を参照されたい。そのため、低温表面硬化プロセスの実施においては、窒化物および/または炭化物析出物の形成を回避するために、高すぎる表面硬化温度を回避ように注意を払わなければならないこともよく理解されている。
【0148】
同様に、発明の活性化および/または硬化プロセスの実施では、確実に、活性化中にワークピースが曝露される温度が望まれない窒化物および/または炭化物析出物が形成するほど高くはないものとすることにも注意を払わなければならない。一般に、これにより、ワークピースが活性化ならびに同時および/またはその後の表面硬化中に曝露される最高温度は、処理される特定の合金によって、約700℃、場合によっては600℃、好ましくは500℃、または、他の例では、さらに450℃を超えてはならないことが意味される。そのため、例えば、ニッケル系合金が活性化され、表面硬化される場合、最高プロセス処理温度は約700℃もの高さとなる可能性があり、というのも、これらの合金は、より高い温度に到達するまで窒化物および/または炭化物析出物を形成する可能性がないからである。他方、鉄系合金、例えばステンレス鋼が活性化され、表面硬化される場合、最高プロセス処理温度は望ましくは約475℃、好ましくは450℃に制限されなければならず、というのも、これらの合金は、より高い温度では、窒化物および/または炭化物析出物の形成に対して感受性が高くなる傾向があるからである。
【0149】
最低プロセス処理(すなわち、活性化および/または硬化)温度の観点から、非ポリマN/C/H化合物およびワークピースそれ自体の両方の温度が、ワークピースが、生成される蒸気の結果として、活性化されるように十分高くなければならないという事実以外の現実の下限は存在しない。通常、これにより、非ポリマN/C/H化合物は≧100℃の温度まで加熱されることが意味されるが、より好ましくは、非ポリマN/C/H化合物は≧150℃、≧200℃、≧250℃、またはさらに≧300℃の温度まで加熱される。≧350℃、≧400℃、またはさらに≧450°の活性化温度が企図される。
【0150】
この発明により、特定の合金が低温表面硬化のために活性化される、および/または表面硬化されるのにかかる時間はまた、活性化される合金の性質、使用される特定の非ポリマN/C/H化合物、および、活性化が起こる温度を含む多くの因子に依存する。一般的に言って、活性化および/または硬化は1秒という短い時間~3時間という長い時間で達成することができる。しかしながら、合金は、1~150分、1~120分、1~90分、1~75分、1~60分、例えば5~120分、10~90分、20~75分、またはさらには30~60分で十分活性化することができる。硬化は活性化と同時に、またはその後に起こり得る。いずれの場合でも、硬化は活性化と同様の時間スケールで起こり得る。特定の合金が発明のプロセスにより十分活性化されるのにかかる期間は個々の場合に応じて決定することができる。その上、活性化および表面硬化が同時に起こる場合、表面硬化を増強させるために系中に追加の窒素および/または炭素化合物が含まれるかどうかに関係なく、活性化のための最短時間は、通常、表面硬化プロセスを完了するのに必要とされる最短時間により決定される。
【0151】
圧力に関しては、発明の活性化および/または硬化プロセスは、大気圧で、大気圧を超えて、または減圧(厳密な真空、すなわち、1トール(133Pa(パスカル)以下の全圧ならびに穏やかな真空、すなわち、約3.5~100トールの全圧(約500~約13,000Pa(パスカル))が含まれる)で実施することができる。
【0152】
さらなる実施例
この発明をより完全に説明するために、下記実施例が提供される。
【0153】
実施例1
A1-6XN合金で作製された機械加工ワークピースは、ニッケル含量の増大により特徴付けられるスーパーオーステナイトステンレス鋼であり、これを、研究室反応器内に、ワークピースに直接接触するように配列される活性化化合物としての粉末2-アミノベンズイミダゾールと共に入れた。反応器を乾燥Arガスでパージし、次いで、327℃まで加熱し、これで60分間保持し、その後、反応器を452℃まで加熱し、これで120分間保持した。
【0154】
反応器から取り出し、室温まで冷却した後、ワークピースを調査し、630HVの表面近くの硬度を示す立体構造の、均一なケース(すなわち、表面コーティング)を有することを見出した。
【0155】
実施例2
実施例1を、活性化化合物を0.01対0.99の質量比のグアニジン塩酸塩および2-アミノベンズイミダゾールの混合物から構成させたことを除き、繰り返した。言い換えれば、使用されるグアニジン塩酸塩の量は、使用される非ポリマN/C/H化合物の総量に基づき、1wt%であった。加えて、反応器を452℃まで加熱し、これで120分の代わりに360分間保持した。
【0156】
ワークピースは、660HVの表面近くの硬度を示すことが見出された。
【0157】
実施例3
実施例2を、ワークピースをAISI 316ステンレス鋼から作製し、活性化化合物を、グアニジン塩酸塩および2-アミノベンズイミダゾールの混合物から構成させたことを除き、繰り返した。第1の実行では、グアニジン塩酸塩対2-アミノベンズイミダゾールの質量比は0.01対0.99(使用される非ポリマN/C/H化合物の総量に基づき1wt%グアニジン塩酸塩)であり、第2の実行では、この質量比は0.10対0.90(使用される非ポリマN/C/H化合物の総量に基づき10wt%グアニジン塩酸塩)であった。
【0158】
第1の実行で生成されたワークピースは、550HVの表面近くの硬度を示したが、第2の実行で生成されたワークピースは1000HVの表面近くの硬度を示した。加えて、第2の実行で生成されたワークピースの肌焼きされた表面は、第1の実行で生成されたワークピースの肌焼き表面と比べて、その全表面上で優れた硬化層深さおよび完全なコンフォマリティーを示した。
【0159】
実施例4
実施例3を、使用した活性化化合物を、0.50対0.50の質量比のグアニジン塩酸塩および2-アミノベンズイミダゾールの混合物(使用される非ポリマN/C/H化合物の総量に基づき50wt%グアニジン塩酸塩)としたことを除き、繰り返した。
【0160】
得られたワークピースの硬化表面または「ケース」は900HVの表面近くの硬度を示し、その全表面上でほとんど完全なコンフォマリティーを有したが、いくらかのピッチングが存在した。
【0161】
実施形態
下記は本開示の態様による例示的な実施形態の包括的でないリストである。
1.自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法であって、
ワークピースを、グアニジン[HNC(NH2)2]部分を有し、HClと複合体化された試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のためにワークピースを活性化することを含む、方法。
2.ワークピース表面の曝露は、ワークピースを活性化することに加えて、ワークピースを硬化させる、実施形態1の方法。
3.ワークピースを含む反応槽を曝露中、700℃以下の温度で維持することをさらに含み;
ワークピースは、5~15原子%の炭素濃度および5~15原子%の窒素濃度を有するが、粗炭化物または粗窒化物析出物を実質的に含まない表面層を形成させる、実施形態1-2のいずれか一つの方法。
4.表面層を形成させることは、表面層内で微細炭化物析出物を形成させることを含み;ならびに
表面層中の窒素は主に、侵入窒素および微細窒化物析出物の少なくとも1つとして存在する、実施形態3の方法。
5.微細炭化物析出物の形成はワークピース内の表面不動態化層により提供される耐食性を実質的に低下させず;ならびに
表面不動態化層は酸化クロムを含む、実施形態4の方法。
6.下記の少なくとも1つを含む、実施形態1-5のいずれか一つの方法:
曝露は2時間以下の期間実施される;
曝露は2分以下の期間実施される;
ワークピースを含む反応槽を曝露中、700℃以下の温度で維持すること;
試薬は、ジメチルビグアナイドHCl、グアニジンHCl、ビグアナイドHCl、およびメラミンHClの少なくとも1つを含む;ならびに
低温侵入型表面硬化は曝露と同時に起こる。
7.肌焼きされた層は30μm未満の厚さであり
侵入窒素に富む外側の副層;ならびに
侵入炭素に富む内側の副層
を含む、実施形態1-6のいずれか一つの方法。
8.肌焼きされた層は20μm未満の厚さである、実施形態7の方法。
9.低温侵入型表面硬化は浸炭、窒化、および浸炭窒化の少なくとも1つを含む、実施形態1-8のいずれか一つの方法。
10.試薬は、酸素を含まない窒素ハロゲン化物塩および非ポリマN/C/H化合物の少なくとも1つを含む、実施形態1-9のいずれか一つの方法。
11.曝露は、反応槽中のワークピースを用いて試薬から8インチ(20cm)以上の距離で起こる、実施形態1-10のいずれか一つの方法。
12.連続コンベヤーベルト製造において肌焼き部品を生成させるための方法であって、
連続コンベヤーベルトの雰囲気をガスでパージすること;
雰囲気を700℃以下の温度で維持する間:
未処理部品を連続コンベヤーベルトに置くこと;
ワークピースを、グアニジン[HNC(NH2)2]部分を有し、HClと複合体化された試薬を加熱することにより生成された蒸気に曝露させること;ならびに
試薬の蒸気への曝露を2時間未満の期間にわたって維持すること
を含み、
これにより部品が蒸気への曝露から活性化され、表面硬化される、方法。
13.雰囲気を700℃以下の温度で維持する間:
複数の追加の未処理部品を連続コンベヤーベルト上に置くこと;
追加の部品を、連続コンベヤーベルト上にある間に、蒸気に曝露させ、追加の部品を活性化すること;ならびに
追加の部品上での低温表面硬化を2時間未満の期間にわたって実施すること
をさらに含む、実施形態12の方法。
14.合金を活性化および/または硬化させるための第1の試薬および第2の試薬の混合物であって、混合物は第1および第2の試薬の共沸混合物を形成し、試薬の少なくとも1つはグアニド含有試薬を含む、混合物。
15.第1の試薬の蒸発点より低い蒸発点を有する、実施形態14の混合物。
16.第1および第2の試薬の少なくとも1つはメラミンを含む、実施形態15の混合物。
17.第1および第2の試薬の少なくとも1つは、ビグアナイドHCl、ジメチルビグアナイドHCl、およびグアニジンHClの少なくとも1つを含む、実施形態16の混合物。
18.混合物中の第1の試薬対第2の試薬の重量比は5対95%、10対90%、25対75%、および50対50%の1つである、実施形態14-17のいずれか一つの混合物。
19.混合物は、第1および第2の試薬を、第1の試薬の沸点および第2の試薬の沸点未満で融合または溶融させることにより形成され;ならびに
混合物は石油蒸留物をさらに含み、石油蒸留物は蒸発され、第1および第2の試薬の乾燥混合物が残る、実施形態14-18のいずれか一つの混合物。
20.曝露中により低い温度からより高い温度まで傾斜する加熱プロトコルを曝露中に適用し、試薬の分解を増強し、および/またはワークピースを表面硬化させることをさらに含む、実施形態1-13のいずれか一つの方法。
21.より低い温度はおよそ450℃以上であり、より高い温度はおよそ550℃以下である、実施形態20の方法。
22.加熱プロトコルは下記の通りである、実施形態20の方法:
実質的に470℃の温度をおよそ30分間維持する;
温度をおよそ470℃からおよそ480℃まで傾斜させる;
480℃の温度をおよそ15分間維持する;
温度をおよそ480℃からおよそ500℃まで傾斜させる;ならびに
500℃の温度をおよそ15分間維持する。
23.より低い温度からより高い温度まで傾斜させることは、温度をパルス化することを含む、実施形態20の方法。
24.加熱プロトコルは下記の通りである、実施形態20の方法:
実質的に500℃の温度をおよそ15分間維持する;
温度をおよそ500℃からおよそ480℃まで傾斜させる;
480℃の温度をおよそ15分間維持する;
温度をおよそ480℃からおよそ470℃まで傾斜させる;ならびに
470℃の温度をおよそ30分間維持する。
25.自己不動態化金属から作製され、ベイルビー層を有するワークピースを処理するための方法であって、
ワークピースを、ワークピース内で粗窒化物および/または粗炭化物析出物が形成する温度未満の曝露温度で、1つ以上の非ポリマN/C/H化合物を加熱することにより生成された蒸気に曝露させ、低温侵入型表面硬化のためにワークピースを活性化すること
を含み、
1つ以上のN/C/H化合物は、
(a)25℃および大気圧で固体または液体であり;
(b)≦5,000ダルトンの分子量を有し;ならびに
(c)ハロゲン化水素酸と複合体化されていないか、または複合体化させることができ、さらに、
(i)非ポリマN/C/H化合物が複合体化されていない場合、任意のハロゲン原子は非ポリマN/C/H化合物の1つ以上の不安定な水素原子に取って代わり、
(ii)非ポリマN/C/H化合物が複合体化されている場合、任意のハロゲン原子はハロゲン化水素複合体化酸の一部を形成する、方法。
26.下記少なくとも1つを含む、実施形態25の方法:
曝露温度は500-700℃である;
非ポリマN/C/H化合物は≦500ダルトンの分子量を有する;ならびに
曝露時間は1時間以下である。
27.自己不動態化金属は下記の少なくとも1つを含む、実施形態25-26のいずれか一つの方法:
チタン系合金;
少なくとも10wt%のCrを含む鉄系、ニッケル系、コバルト系またはマンガン系合金;ならびに
10~40wt%のNiおよび10~35wt%のCを含むステンレス鋼。
28.曝露温度は約600℃以下である、実施形態25-27のいずれか一つの方法。
29.曝露温度は約550℃以下である、実施形態25-28のいずれか一つの方法。
30.実施形態1-11および20-28のいずれか一つの方法により製造されたワークピース。
31.実施形態12および13のいずれか一つの方法により製造されたワークピース。
32.実施形態14-19のいずれか一つの混合物を使用することにより製造されたワークピース。
【0162】
この発明のほんのわずかな実施形態について以上で説明してきたが、この発明の精神および範囲から逸脱せずに、多くの改変が可能であることが認識されるべきである。そのような改変は全て、下記特許請求の範囲によってのみ制限される、この発明の精神および範囲内に含まれることが意図される。
【国際調査報告】