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特表2023-505028紙製造用組成物、及び湿潤強度が向上された紙の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】紙製造用組成物、及び湿潤強度が向上された紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/24 20060101AFI20230201BHJP
【FI】
D21H13/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530276
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2021000845
(87)【国際公開番号】W WO2021162270
(87)【国際公開日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】10-2020-0017952
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508139664
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CHEILJEDANG CORPORATION
【住所又は居所原語表記】CJ Cheiljedang Center,330,Dongho-ro,Jung-gu,Seoul,Republic Of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グレイス・キム
(72)【発明者】
【氏名】ド・ワン・キム
(72)【発明者】
【氏名】キョン・シク・チョ
(72)【発明者】
【氏名】ヘ・ミン・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ソク・ジュン・ホン
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA01
4L055AA02
4L055AA05
4L055AF16
4L055AF33
4L055AF50
4L055AH11
4L055AH16
4L055AH17
4L055AH18
4L055AH50
4L055BA11
4L055BB03
4L055BE20
4L055BF08
4L055CG32
4L055CH16
4L055EA04
4L055EA32
4L055FA30
(57)【要約】
本出願は、紙製造のための組成物、及びこれを用いて紙を製造する方法に関する。本出願の紙製造用組成物は、パルプ繊維及び高分子繊維を含み、前記パルプ繊維と高分子繊維の含量比は、50:50から95:5であるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維及び高分子繊維を含み、
前記パルプ繊維と高分子繊維の含量比は、50:50から95:5であり、
前記高分子繊維は、高分子短繊維又は高分子粉末である、紙製造用組成物。
【請求項2】
前記パルプ繊維は、木材パルプ繊維及び非木材パルプ繊維よりなる群から選択される1種以上の繊維を含む、請求項1に記載の紙製造用組成物。
【請求項3】
前記パルプ繊維は、針葉樹パルプを含む、請求項2に記載の紙製造用組成物。
【請求項4】
前記高分子繊維は、石油系高分子短繊維及び生分解性高分子短繊維よりなる群から選択される1種以上の繊維を含む、請求項1に記載の紙製造用組成物。
【請求項5】
前記高分子繊維は、PLA短繊維、PET短繊維及びHDPE短繊維のうち少なくとも1つを含む、請求項4に記載の紙製造用組成物。
【請求項6】
前記パルプ繊維と高分子繊維の含量比は、80:20から85:15である、請求項1に記載の紙製造用組成物。
【請求項7】
サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、湿強剤及び架橋剤よりなる群から選択される1種以上の添加剤を含む、請求項1に記載の紙製造用組成物。
【請求項8】
前記パルプ繊維及び高分子繊維の総100重量部を基準として、
前記サイズ剤0.1から5重量部、
前記紙力増強剤0.001から5重量部、
前記歩留まり向上剤0.001から0.5重量部、及び
前記湿強剤0.1から10重量部を含む、請求項7に記載の紙製造用組成物。
【請求項9】
パルプ繊維及び高分子繊維を解離及び叩解して紙生地を準備するステップ、
前記紙生地を成形するステップ;及び
前記紙生地の成形物又は前記紙生地を成形しながら高温高圧処理するステップを含み、
前記紙生地内のパルプ繊維と高分子繊維の含量比は、50:50から95:5であり、
前記高分子繊維は、高分子短繊維又は高分子粉末である、紙の製造方法。
【請求項10】
前記成形するステップは、
成形枠を用いて行うか、又は押出することにより行う、請求項9に記載の紙の製造方法。
【請求項11】
前記紙生地にサイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、湿強剤及び架橋剤よりなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに充填するステップを含み、
前記充填された紙生地を高温高圧処理する、請求項9に記載の紙の製造方法。
【請求項12】
前記パルプ繊維及び高分子繊維の総100重量部を基準として、
前記サイズ剤0.1から20重量部、
前記紙力増強剤0.001から5重量部、
前記歩留まり向上剤0.001から0.5重量部、及び
前記湿強剤0.1から10重量部を充填する、請求項11に記載の紙の製造方法。
【請求項13】
前記高温高圧の処理は、前記高分子繊維のガラス転移温度以上の温度条件及び0.5から2kgf/cmの圧力条件で行う、請求項9に記載の紙の製造方法。
【請求項14】
請求項1から8の何れか1項に記載の紙製造用組成物から製造された紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、紙製造のための組成物、及びそれを用いて紙を製造する方法に関する。
【0002】
特に、本出願は、湿潤強度が向上された紙を製造するための組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、プラスチックの使用に関する環境問題が台頭するに伴い、多様な分野においてプラスチックの使用を減らそうとする社会的要求が増加している。よって、プラスチックが多く用いられている食品業界においても、環境に優しく、プラスチックの使用を減らすことができる食品の包装素材を開発するための研究が続けられている。
【0004】
一方、前記のような要求にしたがい、紙容器類が天然系原料であるパルプを用いるという側面で、従来の使い捨ての合成樹脂包装素材の代替品として実用化されている。それだけでなく、紙素材自体だけで包装素材を構成する場合、紙の破けやすいか水に濡れる特性や、紙特有の匂いが食品にうつる問題などがあるので、これもまた適していないという問題がある。
【0005】
また、環境的負担が大きい非分解性石油化学系プラスチック原料の代わりに、微生物により分解される生分解性樹脂を原料として用いる包装素材を用いて環境汚染の負担を減少しようとする試みもある。しかし、使い捨ての包装素材の原料を生分解性樹脂で代替して用いる場合、コストが高くて希少性を有する原料を重合単量体として用いることとなるため、製造コストが高くなり適していないという指摘がある。
【0006】
これにより、物性に優れながらも環境に優しい食品包装素材に対する要求が続いている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本出願は、難分解性プラスチック包装素材を代替するために、環境に優しいながらも物性に優れた紙を製造するための組成物、これを用いて紙を製造する方法、及びこれから製造された紙の提供を図る。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一側面において、本出願は、パルプ繊維及び高分子繊維を含み、パルプ繊維と高分子繊維の含量比は、50:50から95:5であり、前記高分子繊維は、高分子短繊維又は高分子粉末である紙製造用組成物を提供する。
【0009】
他の側面において、本出願は、パルプ繊維及び高分子繊維を解離及び叩解して紙生地を準備するステップ、前記紙生地を成形するステップ、及び前記紙生地の成形物又は前記紙生地を成形しながら高温高圧処理するステップを含み、前記紙生地内のパルプ繊維と高分子繊維の含量比は、50:50から95:5であり、前記高分子繊維は、高分子短繊維又は高分子粉末である紙の製造方法を提供する。
【0010】
また、他の側面において、本出願は、前記紙製造用組成物及び/又は前記紙の製造方法により製造された紙を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本出願の紙製造用組成物を用いると、分解されないプラスチックの使用量を低減することができる紙を製造することができる。
【0012】
また、本出願の紙製造用組成物を用いると、紙素材の制限された物性、例えば、湿潤強度、水分遮断性、防水性、酸素遮断性、成形性、熱成形性などを改善した紙を製造することができる。
【0013】
また他の側面において、本出願の紙の製造方法を用いると、前記のような特性の紙を製造することができる。特に、湿潤強度に優れるように改善された紙を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本出願を詳細に説明する。
本出願の一側面によれば、本出願は、パルプ繊維及び高分子繊維を含み、前記パルプ繊維と高分子繊維の含量比は、50:50から95:5であり、前記高分子繊維は、高分子短繊維又は高分子粉末である紙製造用組成物を提供する。
【0015】
前記紙製造用組成物は、パルプ繊維及び高分子繊維を含み、前記高分子繊維は、高分子短繊維、高分子粉末又はこれら形状の混合物を用いる。
【0016】
具体的に、前記パルプ繊維及び高分子繊維の含量比はパルプ繊維:高分子繊維で表現し、50:50から95:5とする。より具体的に、前記パルプ繊維及び高分子繊維の含量比は、これに制限されるものではないが、例えば、55:45から95:5、60:40から90:10、65:35から95:5、70:30から90:10、75:25から95:5、75:25から85:15、又は80:20から85:15であってよい。
【0017】
前記パルプ繊維と高分子繊維の含量比がこれに制限されるものではないが、前記範囲の場合、紙の製造工程に適するか、湿潤強度、水分遮断性、酸素遮断性などの紙の物性の側面で優れた効果を奏するものであり得る。
【0018】
前記紙製造用組成物において、前記パルプ繊維と高分子繊維をともに用いることにより、パルプ繊維と高分子繊維が複合ネットワークを形成することができるようになる。このとき、本出願のメカニズムがこれに限定されるものではないが、形成される複合ネットワークによりパルプ繊維内の親水性が、疎水性を示す高分子繊維により低減されることにより、紙の水分吸収量を低減するという効果を奏し得る。具体的に、複合ネットワークによりパルプ繊維内の空隙を減少させるか、親水性基、例えば、ヒドロキシ基による水素結合をマスキング(masking)することにより、紙の水分吸収量を低減するという効果を奏し得る。また、添加剤として架橋剤を導入することにより、親水性高分子と親水性セルロースに保有しているヒドロキシ基間の架橋結合が形成され、紙の水分吸収量の減少と湿潤紙力を向上させるという効果を奏し得る。
【0019】
本出願において、前記パルプ繊維は、繊維が得られる原料により、木材パルプ繊維及び非木材パルプ繊維よりなる群から選択される1種以上の繊維を含むものであってよい。前記木材パルプ繊維は、針葉樹パルプ(softwood pulp、SwP)、広葉樹パルプ(hardwood pulp、HwP)、又はこれらの混合物から得られる繊維を含むことができる。前記非木材パルプ繊維は、わらパルプ(straw pulp)、バガスパルプ(bagasse pulp)、アシパルプ、バンブーパルプ、靭皮繊維パルプ、ぼろパルプ、綿パルプ、又はこれらの混合物から得られる繊維を含むことができる。
【0020】
前記パルプ繊維は、前記原料の加工方法により、例えば、木材又はその他の繊維植物体を機械的に及び/又は化学的に処理して作製したパルプを原料とするものであってよい。例えば、前記パルプ繊維は、木材又はその他の植物体を機械的に砕いて得られたパルプとして、砕木パルプ(ground wood pulp、GP)、精製パルプ(refiner pulp、RP)、熱機械パルプ(thermo-mechanical pulp、TMP)などの機械パルプ;木材又はその他の植物体を多様な薬品で処理して非繊維質を除去したパルプとして、硫酸塩パルプ(kraft pulp、KP)、亜硫酸パルプ(sulphite pulp、SP)、セミケミカルパルプ(semi-chemical pulp、SCP)などの化学パルプ;及び、廃紙で作製されたパルプとして、離解古紙パルプ、脱墨パルプ(deinking pulp、DIP)などの古紙パルプであってよい。
【0021】
一側面において、前記パルプ繊維は、繊維長が長く、繊維質が強く、強度特性に優れた針葉樹から得られる針葉樹パルプ繊維を含むことができる。
【0022】
一側面において、前記パルプ繊維は、真空成形、圧空成形方式を用いたトレイ製造、包装パウチ製造方式を用いたときの紙の成形性を考慮し、針葉樹及び綿繊維及び/又は針葉樹及び非木材繊維で混合加工されたパルプ繊維を含むことができる。
【0023】
本出願において、前記高分子繊維は、高分子短繊維、高分子粉末又はこれら形状の混合物であってよい。このとき、前記「短繊維」は、繊維長さ500μmから3mmの長さの繊維を示してよいが、これに限定されるものではない。また、前記「短繊維」は、繊維長さ当たり0.5から10デニール、例えば、0.5から6デニールの太さを示してよいが、これに限定されるものではない。また、前記「粉末」は、粒径(D50)が3μmから3mmであってよいが、これに限定されるものではない。
【0024】
また、前記高分子繊維は、石油系高分子短繊維及び生分解性高分子短繊維よりなる群から選択される1種以上の繊維を含むものであってよい。
【0025】
前記石油系高分子は、ポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate、PET)、高密度ポリエチレン(High density polyethylene、HDPE)などのポリオレフィン系高分子、ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol、PVA)、これらのブレンド(blend)又は各単量体間の共重合体であってよい。
【0026】
前記生分解性高分子は、自然界において、微生物が関与して低分子化合物に分解される高分子を示し、その種類は、例えば、ポリ乳酸(Poly lactic acid、PLA)、熱可塑性デンプン(Thermopplastic starch、TPS)、脂肪族ポリエステル(aliphatic polyester、AP)、ポリカプロラクトン(Polycaprolactone、PCL)、ポリグリコール酸(Polyglycolic acid、PGA)、ポリブチレンサクシネート(Poly butylene succinate、PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(Poly butylene adipate terephthalate、PBAT)、ポリヒドロキシアルカノエート(polyhydroxy alkanoate、PHA)及びこれらの混合物から選択される1種以上であってよいが、これに制限されるものではない。また、前記生分解性高分子は、バイオ由来の高分子として生分解可能なものを用いることもできる。そのようなバイオ由来の高分子として生分解可能なものは、例えば、バイオポリエチレン(Bio-PE)、バイオポリエチレンテレフタレート(Bio-PET)、バイオポリトリメチレンテレフタルレート(Bio-PTT)、バイオポリアミド(Bio-PA)、バイオポリプロピレン(Bio-PP)及びこれらの混合物から選択される1種以上であってよいが、これに制限されるものではない。また、前記生分解性高分子を構成する各単量体の共重合体を用いることにより製造される紙の柔軟性、耐熱性などの物性を向上させるものであってよい。また、前記生分解性高分子、これらのブレンド及びこれらの共重合体にタルク、粘土物質などを混入したものを用いることにより製造される紙の剛性、耐熱性などの物性を向上させるものであってよい。
【0027】
一側面において、前記高分子繊維は、PLA短繊維、PET短繊維及びHDPE短繊維のうち少なくとも1つを含むものであってよい。
【0028】
前記紙製造用組成物は、パルプ繊維及び高分子繊維の他にサイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤、湿強剤及び架橋剤よりなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに含むことができる。
【0029】
前記サイズ剤は、紙内部に存在する微細空隙を減らしたり、紙表面に存在する繊維間の空間を減らしたり、紙の形態及び寸法変化の誘発を改善し、紙の耐水性増進のために添加されるものであってよい。前記サイズ剤は、疎水性を示す物質であって、紙の抄紙時に投入される内添サイズ剤としては、これに制限されるものではないが、例えば、AKD、ASA、ワックス、分散ロジンサイズ剤などのエマルジョン形態のサイズ剤、けん化ロジンサイズ剤などの溶液形態のサイズ剤、又はこれらの混合物を用いることができる。一側面において、前記内添サイズ剤は、AKDであってよく、前記AKDは、分子内のラクトン環(Lactone ring)がセルロースのヒドロキシ基と反応してベータ-ケトエステル結合を形成し、疎水性のアルキル基が繊維の外部に配向することにより紙に耐水性を付与するものであってよい。また、紙の表面に塗布されることにより、紙の寸法安定性、撥水性、表面耐水性などの物性を改善可能な表面サイズ剤として、例えば、デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシセルロース、アルギン酸ナトリウム、キトサン、ポリビニルアルコール(PVA)、無水スチレン-マレイン酸(styrene-maleic anhydride、SMA)、スチレンアクリルエマルジョン(styrene acrylic emulsion、SAE)、スチレンアクリル酸 (Styrene acrylic acid、SAA)、ポリウレタン、エチレンアクリル酸(Ethylene acrylic acid、EAA)、及びこれらの混合物よりなる群から選択される1種以上を用いることができるが、これに制限されるものではない。
【0030】
前記紙力増強剤は、繊維間又は繊維-充填物質間に静電気的引力を発生して歩留まり率の増加及び紙の強度補完のために添加されるものであってよい。前記紙力増強剤は、これに制限されるものではないが、例えば、ポリビニルアミン(PVAm)、両性ポリアクリルアミド(amphoteric polyacrylamide、A-PAM)、カチオンポリアクリルアミド(cationic polyacrylamide、C-PAM)、又はこれらの混合物を用いることができる。一側面において、前記紙力増強剤は、C-PAMであってよく、前記C-PAMは、紙製造用組成物のうちアニオン性物質の表面を改質して表面に強い極性を形成することができる。形成される極性により繊維間結合を減少させながらも紙の強度を改善するという効果を奏し得る。
【0031】
前記歩留まり向上剤は、紙の製造工程上において破壊された繊維、又はそれ以外の原料を再凝集させることにより、紙の製造時に紙製造用組成物内に水以外の原料が残留される程度を改善するために添加されるものであってよい。前記歩留まり向上剤は、これに制限されるものではないが、例えば、シリカ、ベントナイト、微細ポリマー又はこれらの混合物を用いることができる。一側面において、前記歩留まり向上剤は、前記紙力増強剤としてカチオン性物質を用いる場合と対を形成できるようにアニオン性粒子を用いることができる。一例として、シリカを用いることにより、前記紙力増強剤とともに紙製造用組成物の保持及び乾燥紙力をさらに優秀に向上させることができる。
【0032】
前記湿強剤は、紙が水に完全に飽和された状態の強度(湿潤強度、wet strength)を増強させるために添加されるものであってよい。前記サイズ剤は、紙に水が浸透することを抑制する機能を示すことができるが、紙が水に完全に濡れると強度の低下を防止することができないという問題があるため、紙が水に露出されても紙の強度を維持するため、サイズ剤と湿強剤をともに含むことにより紙の耐水性をさらに優秀に改善するものであってよい。また、親水性高分子であるポリビニルアルコールと架橋剤を導入し、ポリビニルアルコール-架橋剤-セルロース間の架橋結合を形成するようにして紙の耐水性と湿潤紙力をさらに優秀に改善することができる。
【0033】
前記湿強剤は、永久湿強剤、一時湿強剤又はこれらの混合物を用いるものであってよい。前記永久湿強剤は、湿強剤を処理して紙を水中に浸漬させる場合、浸漬時間の増加により湿潤強度の低下が示されない湿強剤を意味し、前記一時湿強剤は、浸漬時間の増加により湿強紙の湿潤強度が低下する湿強剤を意味する。前記湿強剤は、これに制限されるものではないが、例えば、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ化ポリアミドレジン、グリオキシ化ポリアクリルアミドレジン、ポリエチレンイミン、ポリアミド-エピクロロヒドリン又はこれらの混合物を用いることができる。一側面において、前記湿強剤は、一時湿強剤を用いるものであってよい。
【0034】
本出願において、前記紙製造用組成物は、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤及び湿強剤よりなる群から選択される1種以上の添加剤は、紙製造用組成物の主原料であるパルプ繊維及び高分子繊維の総含量を基準として紙の物性を優秀に改善する含量で含むことができる。
【0035】
前記添加剤の含量は、これに制限されるものではないが、例えば、前記パルプ繊維及び高分子繊維の総100重量部を基準として、前記サイズ剤0.1から5重量部、前記紙力増強剤0.001から5重量部、前記歩留まり向上剤0.001から0.5重量部、及び前記湿強剤0.1から10重量部を含むものであってよい。一側面において、前記パルプ繊維及び高分子繊維の総100重量部を基準として、前記サイズ剤0.3から5重量部、前記紙力増強剤0.01から0.1重量部、前記歩留まり向上剤0.002から0.2重量部、及び前記湿強剤0.1から2重量部を含むものであってよい。
【0036】
前記架橋剤は、例えば、サイズ剤100重量部を基準として、0.3重量部から10重量部の含量で含まれてよいが、これに限定されるものではない。
【0037】
前記紙製造用組成物は、前記成分の他に紙製造のための溶媒をさらに含んでよく、前記溶媒は、特に制限されるものではなく、例えば、水を用いるものであってよい。前記溶媒の含量は、例えば、紙製造用組成物の総重量を基準として99.9重量%以下、例えば、90.0重量%から99.9重量%、90重量%から98重量%、90重量%から97重量%、90重量%から96重量%、又は90重量%から95重量%であってよい。
【0038】
一側面において、本出願は、前記紙製造用組成物を用いて紙を製造する方法を提供する。
【0039】
前記紙の製造方法は、パルプ繊維及び高分子繊維を解離及び叩解して紙生地を準備するステップ、前記紙生地を成形するステップ、及び前記紙生地の成形物又は前記紙生地を成形しながら高温高圧処理するステップを含む。具体的に、前記紙生地内のパルプ繊維及び高分子繊維の含量比は、50:50から95:5とする。より具体的なパルプ繊維及び高分子繊維の含量比は、前記紙製造用組成物において詳述したとおりである。
【0040】
先ず、前記パルプ繊維と高分子繊維の繊維膜を破砕して除去し、繊維の内外部に微細繊維と小繊維を形成するよう、パルプ繊維と高分子繊維を水などの準備された溶媒に40から50℃で解離及び叩解ステップを行って紙生地を準備する。前記解離及び叩解ステップは、パルプ繊維と高分子繊維の種類に従ってその繊維質が充分に解けるまで行うことであり、製品及び工程の状況に合わせて調整され得るので、これに制限されるものではないが、例えば、カナダ標準ろ水度(Canada standard freeness(CSF))基準200mlから500ml、又は300mlから450mlの叩解度を有するように解離及び叩解工程を行うことであってよい。
【0041】
一側面において、パルプ繊維と高分子繊維を解離及び叩解して準備された生地にサイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤及び湿強剤よりなる群から選択される1種以上の添加剤をさらに充填するステップを含んでもよく、そのような添加剤は、前記紙製造用組成物において詳述したとおりである。前記添加剤それぞれの投入順序は特に制限されず、順次又は同時に添加することであってよい。例えば、サイズ剤、紙力増強剤、歩留まり向上剤及び湿強剤を順次添加することであってよい。また、前記添加剤は、解離及び叩解ステップで準備された生地にすぐに添加するものであってよく、又は準備された生地に溶媒を追加して希釈された紙生地に添加するものであってよい。
【0042】
一具現形態において、前記添加剤は、それぞれの投入順序は特に制限されないが、特定の添加剤に対しては順序通りに投入される必要がある。例えば、それぞれ紙力向上剤又は歩留まり向上剤として用いられるC-PAMと高分子電解質(silica、bentoniteなど)は対で用いられる物質であり、電荷による繊維と原料内の微細粉及びその他の成分の凝集を誘導する工程に互いに逆となる電荷の物質を順序に合わせて投入しなければならない。
【0043】
次に、前記紙生地を成形するステップを含む。前記成形ステップは、成形枠を用いて行うか、又は押出することにより行うことであってよい。具体的に、手漉き機を用いて紙生地を押出することによりシート形状に成形することであってよく、成形枠を用いてシート形状以外にも所望の多様な形状に成形することであってよい。前記成形枠を用いた成形工程は、モールドに紙生地を注入する乾式モールド法、モールドを紙生地に浸漬する湿式モールド法などの方法で行うことができるが、これに制限されない。
【0044】
前記紙生地の成形物又は前記紙生地を成形しながら高温高圧処理するステップを含む。具体的に、前記紙生地を押出してシート形状の紙を製造するとき、前記紙生地を成形しながら(例えば、押出しながら)高温高圧処理することであってよい。また、成形枠を用いて所望の形状に成形された紙生地を乾燥して溶媒を除去した後、又は乾燥及び溶媒の除去を行わずに所望の形状に成形された紙生地を高温高圧処理することであってよい。前記紙生地を乾燥するステップは、成形を介して加工された形状が維持されながら成形物内の架橋が破壊されないように行うことであってよく、例えば、湿度10から90%、温度110から250℃、例えば、180℃で行うことであってよい。
【0045】
前記高温高圧の処理は、本出願のメカニズムがこれに制限されるものではないが、例えば、成形ステップを介して繊維間及び/又は繊維と添加剤の間の1次架橋が形成されたものに熱圧融着を介し、さらに高分子繊維の溶解により空隙を減少させるか、水素結合をマスキングするか、高分子繊維間のさらなる結合を発生させるなどの作用を用いて、紙の湿潤強度、水分遮断性、引張強度などの物性を改善するためのことであってよい。
【0046】
一側面において、前記高温高圧の処理は、用いられる高分子繊維が溶解できるよう、高分子繊維のガラス転移温度以上の温度条件で行うことであってよい。例えば、前記高分子繊維としてPET短繊維を用いる場合、前記高温高圧の処理は、150から260℃、150から250℃、120から240℃、120から230℃、130から220℃、130から210℃、又は125から200℃の温度で行うことであってよい。また、前記高分子繊維としてPLA短繊維を用いる場合、前記高温高圧の処理は、150から200℃、150から190℃、160から190℃、170から190℃、又は175から185℃の温度で行うことであってよい。さらに、前記高分子繊維としてHDPE短繊維を用いる場合、前記高温高圧の処理は、90から170℃、95から170℃、95から160℃、95から150℃、100から140℃、又は110から135℃の温度で行うことであってよい。
【0047】
一側面において、前記高温高圧の処理は、製造される紙が破壊されないとともに、紙内の繊維が緻密な架橋を形成することができる圧力を加えることであってよい。例えば、前記手漉き機を用いてシート形状に成形された紙に0.5kgf/cmから2kg/cmの圧力を加えることであってよく、パルプモールドを用いて捏ねられた組成を金型に注入し、0.5kgf/cmから2kg/cmの圧力を加えて容器又はシートを形成することであってよい。
【0048】
一具現形態において、前記紙生地を成形しながら高温高圧処理することにより製造されたシート形状の紙は、高温高圧処理の後に熱成形(例えば、真空成形、圧空成形)するステップがさらに行われることであってよい。
【0049】
また他の側面において、本出願は、前記紙製造用組成物から製造された紙を提供する。また、本出願は、前記紙の製造方法により製造された紙を提供する。
【0050】
本出願による紙は、紙生地のパルプ繊維及び高分子繊維の複合化により、紙素材の制限された物性に優れるという効果があり、特に成形性が優秀に改善されるという効果がある。
【0051】
それだけでなく、本出願による紙、例えば、シート形状の紙は、追加加工を介してパウチ、容器などの包装材として優れた活用性を示し得る。
【実施例
【0052】
以下、実施例を挙げて詳細に説明する。
【0053】
実験例1.
[紙製造用組成物の製造]
先ず、針葉樹パルプ(三和製紙社から入手した針葉樹漂白クラフトパルプ)とPET繊維(ヒュビス社から入手)を混合して40~50℃で解離(30分)及び叩解(10分)を実施した。叩解された原料を希釈してターゲット濃度に調整した後、AKD、PAM、シリカ、湿強剤の順に添加剤を投入した。組成物の具体的な組成は下表1に示した。
【0054】
次に、準備された紙生地を、四角手漉き機を用いてパルプ又はパルプ/高分子短繊維複合素材に形成した後、乾燥(130℃)し、140℃で10秒間熱処理を行った。但し、比較例1の紙製造用組成物は、熱処理を行わずに紙を製造した。
【0055】
【表1】
【0056】
[引張強度の評価]
前記で製造した紙を用いて、次の方法で引張強度を評価した。
実験方法:1kN Load cell下で幅15mm、測定距離20mmの条件で試片の両方をクランプでつかんだ後、50mm/minの速度で引っ張って引張破壊時の強度を測定した。
実験条件:23℃で10分間又は85℃で30分間水に含浸した後、キムワイプ(Kimwipe)で表面の水分を除去してから湿潤引張強度を測定した。
【0057】
測定の結果を下表2に示した。
【0058】
【表2】
【0059】
実験例2.
[紙製造用組成物の製造]
先ず、針葉樹パルプとPLA短繊維又はHDPE短繊維を混合して40~50℃で解離(10分)及び叩解(2分)を実施した。叩解された原料を希釈してターゲット濃度(1%)に調整した後、AKD、PAM、シリカ、湿強剤の順に添加剤を投入した。組成物の具体的な組成は下表3に示した。
【0060】
次に、準備された紙生地を、四角手漉き機を用いてパルプ又はパルプ/高分子短繊維複合素材に形成した後、乾燥(130℃)し、パルプ繊維のみを用いた組成(比較例2)は熱圧処理をせず、PLA短繊維を用いた組成(実施例4)は、175~185℃で0.1~15tonで1~10秒間、HDPE短繊維を用いた組成(実施例5)は、110~135℃で0.1~15tonで1~10秒間熱圧処理を行って、坪量300g/mでシートの紙を製造した。
【0061】
【表3】
【0062】
[物性の評価]
前記で製造した紙を用いて、次の方法で吸湿、通気度、引張強度、(冷水)ぬれ引張強度及び(熱水)ぬれ引張強度を評価し、その結果を下表4に示した。
【0063】
1)吸湿:熱水に対する防水特性測定の実験であって、85℃、10分の条件下でCobb吸収量を測定した。
- 計算式(吸収後-吸収前)g/0.01m
【0064】
2)通気度:多孔性素材である紙の空隙の程度を判断するための性能であって、大気圧で100ccの空気が通過するのに必要な時間、又は一定時間の間に通過した空気の量を測定した。
【0065】
3)引張強度:1kN Load cell下で幅15mm、測定距離20mmの条件で試片の両方をクランプでつかんだ後、50mm/minの速度で引っ張って引張破壊時の強度を測定した。
【0066】
4)(冷水)ぬれ引張強度:常温の水道水に幅15mmに裁断されたサンプルを10分間浸漬した後に引張強度を測定した。
【0067】
5)(熱水)ぬれ引張強度:85℃の水で15mmに裁断されたサンプルを10分間沸かした後に引張強度を測定した。
【0068】
【表4】
【0069】
前記の実験結果を介して確認できるように、高分子短繊維が添加された紙製造用組成物を用い、熱圧処理されて製造された紙の場合、防水性、引張強度、ぬれ引張強度の物性が向上されることを確認することができた。
【国際調査報告】