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特表2023-505032アルロース二糖類を含むHMF生成抑制用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】アルロース二糖類を含むHMF生成抑制用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20230201BHJP
   A23L 3/3562 20060101ALI20230201BHJP
   A23L 2/42 20060101ALN20230201BHJP
   A23L 2/52 20060101ALN20230201BHJP
   A23L 2/60 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L3/3562
A23L2/00 N
A23L2/52
A23L2/60
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530302
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(85)【翻訳文提出日】2022-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2020016562
(87)【国際公開番号】W WO2021107526
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0156760
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】キム,ミンホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジョンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,スジョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヨンギョン
(72)【発明者】
【氏名】ピョン,ソンベ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソンギュン
【テーマコード(参考)】
4B021
4B035
4B117
【Fターム(参考)】
4B021LA33
4B021LP01
4B021LW06
4B021MC07
4B021MK28
4B021MP01
4B035LC05
4B035LE03
4B035LG19
4B035LK03
4B035LK11
4B035LP05
4B117LC01
4B117LE08
4B117LK12
4B117LL02
4B117LL09
4B117LP14
(57)【要約】
本出願は、アルロース二糖類の新規な使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルロース二糖類を含む、HMF(Hydroxymethylfurfural)生成抑制用組成物。
【請求項2】
前記HMF生成は、糖類によるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記糖類は、単糖類である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記単糖類は、アルロースである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記アルロース二糖類は、アルロース2分子がグリコシド結合(glycosidic bond)で連結され、前記グリコシド結合は、前記アルロース2分子のうちのアルロース1分子の2位炭素(C2)のヒドロキシ基が、他のアルロース1分子の1位~6位(C1~C6)炭素のいずれか一つの炭素のヒドロキシ基にグリコシド結合(glycosidic bond)されたものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
アルロース二糖類を含む、褐変防止用組成物。
【請求項7】
前記褐変は、糖類によるものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記糖類は、単糖類である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記単糖類は、アルロースである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記アルロース二糖類は、アルロース2分子がグリコシド結合(glycosidic bond)で連結され、前記グリコシド結合は、前記アルロース2分子のうちのアルロース1分子の2位炭素(C2)のヒドロキシ基が、他のアルロース1分子の1位~6位(C1~C6)炭素のいずれか一つの炭素のヒドロキシ基にグリコシド結合(glycosidic bond)されたものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
糖類及びアルロース二糖類を含む混合組成物を準備(prepare)することを含む、HMF生成抑制方法。
【請求項12】
糖類及びアルロース二糖類を含む混合組成物を準備(prepare)することを含む、褐変防止方法。
【請求項13】
糖類及びアルロース二糖類を含む混合組成物を準備(prepare)すること;及び
前記混合組成物を加熱することを含む、
糖類を含む組成物の製造方法。
【請求項14】
前記混合組成物を加熱することは、HMFの生成を抑制することである、請求項13に記載の糖類を含む組成物の製造方法。
【請求項15】
アルロース二糖類のHMF生成抑制への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、アルロース二糖類の新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
HMFは、アルデヒド基とヒドロキシ基を含む化合物の脱水作用(dehydration)により形成された有機化合物であり、水と有機溶媒にともに溶解性の高い白色低溶融化合物である。HMFの生成が多いということは、製品の加工及び流通過程における鮮度の低下、又は熱ダメージの蓄積による品質劣化、さらには持続的な非酵素的褐変の誘導可能性が高いことを示唆する。さらに、HMFは、発がん性に関する問題もまだ残存するなど、人体リスクの観点からもまだ解明されていない否定的な懸念が確認される(Abraham K (2011) Toxicology and risk assessment of 5-Hydroxymethylfurfural in food, Molecular Nutrition & Food Research. 55 (5): 667-678(非特許文献1))。
【0003】
食品の加工過程で加熱殺菌方法が最も普遍的に使用されるが、糖類を含む食品は、前述のとおり、加熱時にHMFが発生するため、このようなHMFの生成量を下げることが重要な課題である。
【0004】
このような問題の解決のために、HMF生成の抑制による製品品質安定化法に関する研究が行われており、Food Browning and Its Prevention: An Overview. J. Agric. Food Chem., Vol. 44, No. 3(非特許文献2)などで研究されているが、より優れた効果を有する方法に対する研究が必要な実情であり、さらに、炭水化物を添加する方法はまだ報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0327796号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Abraham K (2011) Toxicology and risk assessment of 5-Hydroxymethylfurfural in food, Molecular Nutrition & Food Research. 55 (5): 667-678
【非特許文献2】Food Browning and Its Prevention: An Overview. J. Agric. Food Chem., Vol. 44, No. 3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうした背景の下、本発明者らは新規な物質を分離し、この物質がアルロース二糖類であることを確認し、糖類を含む組成物にアルロース二糖類を添加する場合、HMFの生成が抑制されることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、アルロース二糖類を含む、HMF(Hydroxymethylfurfural)生成の抑制及び/または褐変防止用組成物を提供する。
【0009】
本出願は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備することを含む、HMF生成抑制及び/または褐変防止方法を提供する。
【0010】
本出願は、糖類及びアルロース二糖類を含む混合組成物を準備すること;及び前記混合組成物を加熱することを含む、糖類を含む組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本出願のアルロース二糖類を含む組成物は、加工、殺菌及び長期間保管時に生成される有害物質の生成を抑制するため、糖脱水反応抑制、HMF生成抑制及び/または褐変防止に有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】アルロース製造過程で生成された二糖類のカラム(Biorad Aminex HPX-87C)で分析したHPLCクロマトグラムである。
図2】アルロース製造過程で生成された二糖類のカラムで分取した混合物形態の物質をカラム(YMC Pack Polyamine II)で分析したD1及びD2のHPLCクロマトグラムである。
図3】アルロース二糖類であるD1の立体構造を示したものである。
図4】アルロースの構造と炭素番号付けを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これを具体的に説明すれば、次の通りである。一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの他の説明及び実施形態にも適用することができる。即ち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願のカテゴリに属する。また、以下に記載される具体的な記述により本出願のカテゴリが制限されるとは見られない。
【0014】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本出願に含まれることが意図されている。
【0015】
本出願の一態様は、アルロース二糖類を含むHMF(Hydroxymethylfurfural)生成抑制用組成物を提供する。
【0016】
本出願の「アルロース二糖類」とは、「アルロース二量体(dimer)」、「アルロース二倍体」、「二糖類アルロース」などの用語と互換的に使用することができ、「アルロース2分子がグリコシド結合で連結された化合物」を意味する。
【0017】
具体的には、前記アルロース二糖類は、アルロース2分子がグリコシド結合(glycosidic bond)で連結され、前記グリコシド結合は、前記アルロース2分子のうちのアルロース1分子の2位炭素(C2)のヒドロキシ基が他のアルロース1分子の1位~6位(C1~C6)炭素のいずれか一つの炭素のヒドロキシ基にグリコシド結合(glycosidic bond)されたものであってもよい。
【0018】
具体的には、アルロース2分子の少なくとも1分子が環状アルロースであり、前記環状アルロースの2位炭素のヒドロキシ基と他のアルロース1分子の1位~6位炭素のいずれか一つの炭素のヒドロキシ基との間にグリコシド結合で連結されている化合物であってもよい。前記グリコシド結合は、1つ又は2つであってもよく、具体的には1つであってもよい。
【0019】
一具現例として、前記結合は、環状アルロースの2位炭素のヒドロキシ基と他のアルロースの6位炭素のヒドロキシ基との間のグリコシド結合であってもよい。
【0020】
一具現例として、前記アルロース2分子のうちの1分子はプシコフラノース(psicofuranose)の形態であり、他の1分子はプシコピラノース(psicopyranose)の形態であってもよい。一具現例として、下記化学式(1)で表されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
【化1】
・・・(1)
【0022】
一具現例として、本出願のアルロース二糖類は、2-(ヒドロキシメチル)-2-((3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール(2-(hydroxymethyl)-2-((3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよく、より具体的には、(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0023】
一具現例として、本出願のアルロース二糖類は、2-(ヒドロキシメチル)-2-((3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール(2-(hydroxymethyl)-2-((3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよく、より具体的には、(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0024】
前記(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオールは、プシコフラノースの形態に応じて6-O-β-D-フシコピラノシル-α-D-フシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranose)または6-O-β-D-フシコピラノシル-β-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranose)と命名される化合物を総称することができる。
【0025】
前記(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオールは、(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R,5S)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R,5S)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよく、または(2S,3R,4R,5R)-2-(ヒドロキシメチル)-2-(((2R,3S,4R,5R)-3,4,5-トリヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-イル)メトキシ)テトラヒドロ-2H-ピラン-3,4,5-トリオール((2S,3R,4R,5R)-2-(hydroxymethyl)-2-(((2R,3S,4R,5R)-3,4,5-trihydroxy-5-(hydroxymethyl)tetrahydrofuran-2-yl)methoxy)tetrahydro-2H-pyran-3,4,5-triol)と命名される化合物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0026】
具体的には、前記化学式(1)の化合物は、下記化学式(2)及び/または(3)の2つの形態で存在する。
【0027】
【化2】
・・・(2)
【0028】
【化3】
・・・(3)
【0029】
前記化学式(2)の化合物は、6-O-β-D-プシコピラノシル-α-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psico furanose)であり、化学式(3)の化合物は、6-O-β-D-フシコピラノシル-β-D-プシコフラノース(6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psico furanose )と称されることができる。
【0030】
本出願の「HMF」は、5'-HMF(5-hydroxymethyl-furfural)とも称される物質であり、下記化学式(4)で表される構造を有するものであってもよい。
【0031】
【化4】
・・・(4)
【0032】
前記HMFは、アルデヒド基とヒドロキシ基を含む化合物から生成されるものであってもよい。
【0033】
本出願において「HMF生成物質」とは、HMFを生成する化合物を意味する。
【0034】
前記HMF生成物質は、アルデヒド基及び/またはヒドロキシ基を含む限り、制限なく含まれ、例えば、炭水化物、糖脂質、糖タンパク質などの物質も含むことができる。
【0035】
具体的には、前記HMFの生成は、糖類(糖; sugarまたはsaccharideで表される)によるものであってもよい。前記HMFの生成は、糖分解によるものであってもよい。前記糖分解は、脱水反応による糖分解を含む。
【0036】
具体的には、糖類は単糖類(monosaccharide)であってもよい。前記単糖類は、アルドトリオース(グリセルアルデヒド)、ケトトリオース(ジヒドロキシアセトン)、アルドテトロース(エリトロース、トレオース)、ケトテトロース(エリトルロース)、アルドペントース(アラビノース、リキソース、リボース、キシロース(木糖、木材糖))、ケトペントース(リブロース、キシルロース)、デオキシ糖(デオキシリボース)、アルドヘキソース(アロース、アルトロース、ガラクトース、グルコース(ブドウ糖))、グロース、イドース 、マンノース、タロース)、ケトヘキソース(フルクトース(果糖)、アルロース、ソルボース、タガトース)、デオキシ糖(フコース、フクロース 、ラムノース)、ケトヘプトース(マンノヘプツロース、セドヘプツロース)など、HMFを生成する可能性があれば制限なく含む。具体的には、六炭糖であってもよく、より具体的には、アルロースであってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0037】
一方、前述した物質を1つ以上含む混合物もHMF生成物質に含まれてもよい。
【0038】
前記HMFは、糖化中間産物(glycation intermediate)の一例でもある。本出願の用語「糖化産物」とは、タンパク質のリジン残基などのアミノ酸グループと還元糖が酵素の作用なしに起こる反応で生成された産物であり、糖化中間産物及び糖化最終産物の両方を含み、糖化中間産物(glycation intermediates)において糖化最終産物(glycation endproducts(AGEs))として生成される。前記糖化最終産物は、褐色を帯び、揮発性芳香成分を生成するものであってもよく、または体内で血中ブドウ糖やブドウ糖の分解産物とヘモグロビン、LDL、collagenなどのような種々のタンパク質成分と反応して生成される多様な物質を意味することができる。糖化産物は、糖類を含む組成物の加工、保管及び殺菌反応で生成される副産物の代表例に相当する。
【0039】
最終糖化産物は、一旦生成されると、血糖が正常に回復しても分解されずに、タンパク質の生存期間中に血中や組織に蓄積される。蓄積された最終糖化産物は、タンパク質と架橋結合を形成し、最終糖化産物受容体(receptor for AGEs, RAGE)と相互作用することにより炎症細胞が蓄積される。
【0040】
従って、人体に有害な影響を及ぼし得る糖化最終産物の生成とHMFの量は密接な関連を有するところ、本出願のアルロース二糖類は、HMF生成を抑制することにより糖化最終産物の生成も抑制するものであってもよい。
【0041】
すなわち、本出願の他の一態様は、アルロース二糖類を含む糖化産物生成抑制用組成物を提供する。
【0042】
本出願の他の一態様は、アルロース二糖類を含む糖脱水反応(hydration) 抑制用組成物を提供する。
【0043】
本出願の用語「脱水反応(hydration)」とは、分子内または分子間で水が分離する反応が行われる全過程を意味する。本出願において、前記脱水反応を引き起こす分子は糖分子であってもよい。
【0044】
本出願において「糖脱水反応」とは、糖分子内または糖分子間でHOが生成する反応を意味する。前記糖脱水反応は、具体的には、糖分子内でHOが生成する反応であってもよい。
【0045】
前記糖分子は、具体的には、糖質(sugar、glucide)の単位体である単糖類(monosaccharide)であってもよい。前記単糖類については前述した通りである。
【0046】
糖分子において脱水反応が起こる場合、HO分子以外に、糖分子に由来する他の物質が生成されてもよい。一例として、六炭糖内の脱水反応は、下記反応式1のように、HO 分子以外にも、ヒドロキシメチルフルフラール(hydroxymethylfurfural)、すなわち、HMFを生成する反応であってもよい。
【0047】
反応式1
【化5】
【0048】
糖脱水反応抑制とは、前述の糖脱水反応が起こらないようにするか、またはアルロース二糖類が存在しないか、または比較的微量存在する環境に比べて、糖脱水反応が少なく起こるようにすることを意味する。このような糖脱水反応の抑制は、糖脱水反応産物の量を測定して確認することができる。一例として、HMF生成量を測定することにより糖脱水反応の抑制有無を確認することができる。
【0049】
前記脱水反応は、加熱、殺菌及び/または公知となった組成物の加工処理条件で行われてもよいが、これに限定されず、室温で自然に発生する反応も含むため、組成物の保管中に発生する反応も含まれる。
【0050】
本出願の他の一態様は、アルロース二糖類を含む褐変防止用組成物を提供する。
【0051】
本出願において、「褐変防止」とは、褐変が起こらないようにするか、褐変を遅延させること、褐変を抑制することなどを全て含む意味で使用することができ、本出願で混用することができる。一例として、シリアル及びシリアルバー、ポテトチップス、パン、炭酸飲料、果菜ジュース、果汁類、果実酒、ソース、キャンディー、ゼリー、ジャム類、アイスクリーム、ビールなどの食品における褐変反応は、香り、味及び栄養価の損失につながる品質の低下を引き起こす。
【0052】
メイラード(Maillard)反応、キャラメル化(Caramelization)反応などは、褐変反応で現れうる。一例として、メイラード反応は、糖類のカルボニル基とタンパク質のアミノ酸基が加熱などにより反応して褐色の物質(melanoidins)を生成することがある。この反応は、反応物質の名称に従い、melanoidin reactionとも呼ばれ、反応物に起因するアミノカルボニル反応とも呼ばれる。
【0053】
メイラード反応の中間段階では、反応性の高い物質であるHMFが生成され、反応の最終段階における生成物も反応性の大きい物質であり、これらの物質がポリマーを形成して褐色の蛍光性を有するmelanoidin色素を形成するようになるが、この過程で褐変が進む。
【0054】
前述のように、HMFの生成は、組成物の褐変反応と密接に関連しているため、本出願のアルロース二糖類は、HMF生成を抑制することにより褐変防止用途に使用することができる。すなわち、前記褐変防止は、HMF生成抑制によるものであり得る。
【0055】
前記組成物においてアルロース二糖類の含有量は、組成物に含まれるHMF生成物質100重量部に対してアルロース二糖類を0超15重量部以下の含有量で含むものであってもよい。
【0056】
具体的には、全HMF生成物質100重量部に対してアルロース二糖類を0.0001重量部超、0.001重量部超、0.01重量部超、0.1重量部超、または0.15重量部超でありながら15重量部以下の含有量で含むものであってもよく、及び/又は、HMF生成物質100重量部に対してアルロース二糖類を15重量部以下、13重量部以下、11重量部以下、10重量部以下、9重量部以下、8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4重量部以下、3重量部以下、2重量部以下、または1重量部以下でありながら0重量部超の含有量で含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
前記組成物においてアルロース二糖類の含有量は、組成物に含まれる全糖類100重量部に対してアルロース二糖類を0超15重量部以下の含有量で含むものであってもよい。具体的には、全糖類100重量部に対してアルロース二糖類を0.0001重量部超、0.001重量部超、0.01重量部超、0.1重量部超、または0.15重量部超でありながら15重量部以下の含有量で含むものであってもよく、及び/または、全糖類100重量部に対してアルロース二糖類を15重量部以下、13重量部以下、11重量部以下、10重量部以下、9重量部以下、8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4重量部以下、3重量部以下、または2重量部以下でありながら0重量部超の含有量で含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
または、前記組成物においてアルロース二糖類の含有量は、組成物に含まれる全固形分100重量部に対してアルロース二糖類を0超15重量部以下の含有量で含むものであってもよい。具体的には、全固形分100重量部に対してアルロース二糖類を0.0001重量部超、0.001重量部超、0.01重量部超、0.1重量部超、または0.15重量部超でありながら15重量部以下の含有量で含むものであってもよく、または、全固形分100重量部に対してアルロース二糖類を15重量部以下、13重量部以下、11重量部以下、10重量部以下、9重量部以下、8重量部以下、7重量部以下、6重量部以下、5重量部以下、4重量部以下、3重量部以下、または2重量部以下でありながら0重量部超の含有量で含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
前記組成物は、食品組成物であってもよい。本出願の食品組成物は、一般食品、健康食品及び医療用(または患者用)食品組成物が含まれるが、これらに限定されるものではない。具体的には、本出願の食品組成物は、飲料(例えば、炭酸飲料、果汁飲料、果実野菜飲料、食物繊維飲料、炭酸水、ミスッカル、茶、コーヒーなど)、アルコール飲料、パン、ソース(例えば、ケチャップ、トンカツソースなど)、乳加工品(例えば、発酵乳、加工乳など)、肉加工品(例えば、ハム、ソーセージ、ジャーキーなど)、チョコレート加工品、ガム、キャンディー、ゼリー、アイスクリーム、シロップ、ドレッシング、スナック(例えば、クッキー、クラッカー、ビスケット等)、果菜漬け(例えば、砂糖漬け、フルーツ漬け、紅参エキス、紅参切片など)、食事代替食品(例えば、冷凍食品、レトルト食品及びHMR(home meal replacement)など)又は加工食品であってもよい。ただし、これらは一例であり、これらに限定されるものではない。
【0060】
本出願の食品組成物は、様々な香味剤や天然炭水化物などを追加成分として含有してもよい。前述した天然炭水化物は、グルコース及びフルクトースのような単糖類、マルトース及びスクロースのような二糖類、デキストリン及びシクロデキストリンのような多糖類、キシリトール、ソルビトール及びエリスリトールなどの糖アルコールである。甘味剤としては、ソーマチン及びステビア抽出物のような天然甘味剤やスクラロース、サッカリン及びアスパルテームのような合成甘味剤などを用いることができる。
【0061】
前記以外に、本出願の食品組成物は、各種栄養剤、ビタミン、電解質、風味剤、着色剤、ペクチン及びその塩、アルギン酸及びその塩、有機酸、保護性コロイド増粘剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、グリセリン、アルコール、炭酸飲料に使用される酸度剤及び塩度剤などを含有することができる。その他に、本出願の食品組成物は、天然フルーツジュース、フルーツジュース飲料及び野菜飲料の製造のための果肉を含有してもよい。これらの成分は、独立して又は組み合わせて用いることができる。また、食品組成物に通常含まれる物質を当業者が適宜選択して添加することができ、これらの添加剤の割合は、本出願の食品組成物100重量部当たり0.001~1重量部、または0.01~0.20重量部の範囲から選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本出願の他の一態様は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備(prepare)することを含む、HMF生成を抑制する方法を提供する。
【0063】
本出願の「準備(prepare)」は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を提供(provide)する如何なる方法でも制限なく含む。すなわち、組成物に糖類及びアルロース二糖類が含まれるようにするいかなる方法も含む。一例として糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備することは、糖類を含む組成物にアルロース二糖類を添加すること、アルロース二糖類を含む組成物に糖類を添加すること、糖類/糖類組成物の製造時にアルロース二糖類が生成されることなどを含むことができる。
【0064】
前記組成物は、糖類及びアルロース二糖類を含む限り、それ以外の成分は制限なく含まれてもよい。
【0065】
一方、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物は、「混合組成物(mixture)」とも呼ばれる。前記混合組成物においてアルロース二糖類以外の「糖類」は、例えば、アルロースを含むことができるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
HMF生成を抑制する方法は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備した以降に前記組成物を加熱することをさらに含んでもよい。ただし、これに限定されず、前記加熱は、混合組成物準備の前、後、または同時に行うことができる。
【0067】
前記加熱は、組成物の種類に応じて適切な温度範囲で行うことができ、温度範囲及び加熱時間、殺菌方法等は当業界に公知となった内容に基づいて当業者が適宜行うことができる。具体的には、60℃以上100℃以下の温度で行われてもよく、より具体的には、60℃以上95℃以下、65℃以上95℃以下、70℃以上95℃以下の温度で行われてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0068】
前記加熱は、0時間超108時間以下の時間で行われてもよく、具体的には、10分、20分、30分、40分、50分、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間以上で行われてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0069】
本出願の他の一態様は、糖類及びアルロース二糖類を含む混合組成物を準備すること;及び前記混合組成物を加熱することを含む、糖類を含む組成物の製造方法を提供する。
【0070】
前記混合組成物を加熱することは、HMF生成が抑制されることであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0071】
前記加熱は、混合組成物準備の前、後、または同時に行うことができる。
【0072】
前記製造方法により製造された糖類を含む組成物は、不純物の含有量が少ないか、HMF生成量が少ないか、アルロース含有量が増加するか、その物性が変化したか、副産物が生成されるか、結晶化、褐変反応、酸化/還元反応、アルロース二糖類以外の糖類が他の物質に転換される反応などが少なく起こるものであってもよい。具体的には、アルロース二糖類が含まれていないか、前記混合組成物に比べて相対的にアルロース二糖類の含有量が少ない組成物を同一条件で加熱する場合に比べて、上述した反応が少なく起こるものであってもよい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0073】
本出願の他の一態様は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備することを含む、糖脱水反応を抑制する方法を提供する。
【0074】
本出願の他の一態様は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備することを含む、褐変防止方法を提供する。
【0075】
本出願の他の態様は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備することを含む、組成物の殺菌方法を提供する。
【0076】
前記方法は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備した以降に組成物を加熱することをさらに含んでもよい。ただし、これに限定されず、前記加熱は、混合組成物準備の前、後、または同時に行うことができる。
【0077】
HMF生成、糖脱水反応、褐変防止、糖類及び加熱については前述した通りである。
【0078】
前記組成物は、一例として食品組成物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0079】
食品については前述した通りである。
【0080】
本出願の他の一態様は、アルロース二糖類を含む糖類変性抑制用組成物を提供する。
【0081】
本出願の他の一態様は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備することを含む、組成物の変性抑制方法を提供する。
【0082】
前記方法は、糖類及びアルロース二糖類を含む組成物を準備した以降に前記組成物を加熱することをさらに含んでもよい。ただし、これに限定されず、前記加熱は、混合組成物準備の前、後、または同時に行うことができる。
【0083】
アルロース二糖類、糖類及び加熱については前述した通りである。
【0084】
前記変性は、結晶化、褐変反応、酸化/還元反応など糖類が他の物質に転換されるか、その物性などが変化するか、副産物が生成されることを含む。しかし、これらに限定されるものではない。
【0085】
本出願の他の一態様は、アルロース二糖類のHMF生成抑制への使用を提供する。
【0086】
アルロース二糖類及びHMF生成抑制については前述した通りである。
【実施例
【0087】
以下、本出願を実施例及び実験例を通じてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例及び実験例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれら実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0088】
実施例1:新規なアルロース二糖類の分離
US 2018-0327796 A1(特許文献1)で公知となったアルロース製造の過程で、HPLCを通じて二糖類を分離した。具体的には、下記表1のHPLCクロマトグラム分析の条件通りに行い、原液から、図1のように、アルロース以外に、従来は知られていない新規な物質(unknown)が生成されることが確認された。
【0089】
前記のように分離した新規な物質は、製造工程により含有量に多少の差があったが、最初の原液には2%以下で存在し、保管時間によっては5%の水準に増加することが確認された。
【0090】
【表1】
【0091】
その結果、アルロースは21.1分、新規物質は31.7分で確認された。
【0092】
これにより、生成した新規な物質を分離するために、分取用HPLCを用いて新規な物質を純度95%以上に精製し、順相カラムを用いて再度精密に分離した。
【0093】
具体的には、HPLCクロマトグラムを行った。
【0094】
クロマトグラム分離条件は下記表2の通りである。
【0095】
【表2】
【0096】
その結果、表1のHPLCの条件では1つのピークを示した物質が表2の分離条件では2つのピークを示すことを確認し、分離した(図2)。22.5分に確認されたピークの物質をD1、17.7分に確認されたピークの物質をD2と命名した。
【0097】
実施例2:アルロース二糖類のHMF生成抑制効果の確認
実施例2-1:アルロース二糖類のHMF生成率の比較
加熱時に変性してHMFの生成が高い単糖類の代表例としてアルロースを選択した。実施例1で分離した二糖類(dimer)を糖類の使用量が異なる様々な種類の食品に適用できるかどうかを確認するために、糖類の濃度を多様にして差を比較した。さらに、より厳しい環境を考慮し、食品の殺菌条件のうち、温度が最も高いレトルト環境(121℃、15分)におけるHMF生成率を比較した。
【0098】
具体的には、単糖類として構成比率が最も高い結晶アルロース(CJ第一製糖、純度99%以上)を用いて不純物のない超純水を添加し、実施例1で分離した純度95%以上の二糖類を定量測定して混合比を異にして実験例1を作製した。また、実験例1に添加される水の量を異にして濃度をそれぞれ1、5、10、20、30、そして50%(w/w)となるように試料(A)~(F)を準備した(表3)。
【0099】
一方、他の二糖類の効果と比較するために、アルロース二糖類に代えて代表的な二糖類である砂糖を添加して比較例1として使用した。具体的には、実験例1と同様の方法で単糖類であるアルロース結晶に実験例1と同じ割合となるように二糖類である砂糖を加え、これを表1の条件でHPLCを用いてその構成成分の割合を確認した。構成成分の割合が確認された比較例1及び実験例1は、不純物のない超純水に溶解して1~50%(w/w)で製造した。
【0100】
【表3】
【0101】
準備した試料を全て高圧滅菌器(ジェイオテック、ST-105G)に入れて121℃で15分間加熱した。このとき、設備の昇温にかかる時間は考慮せず、目的温度に達してから加熱時間を測定した。熱処理が完了した試料を取り出し、常温で10分間放置した後、実施例1の表1の条件でHPLCを用いて分析した。
【0102】
全ての実験は3回繰り返して行い、その結果は以下の表4の通りである。
【0103】
【表4】
【0104】
実験の結果、アルロース二糖類が一定量含まれた実験例1では、HMFの増加率が有意に少ないことが確認された。加熱温度が非常に高く、HMFの生成を完全に遮断することはできなかったが、二糖類としてアルロース二糖類の代わりに砂糖を同一比率で添加した比較例1において単糖類が熱ダメージを直接吸収して急激に分解されたことと比較すると、有意に安定性が増進したことが確認される。すなわち、他の二糖類と比較してアルロース二糖類が加熱による単糖類の変質を遅延し、保護する効果が有意に高いことを確認することができる。
【0105】
また、濃度による観点から、HMF生成物質である単糖類の絶対量が多い高濃度試料であるほど同様の加熱条件でHMFの生成が増加したことを確認した。ただし、砂糖を添加した比較例1に比べて、アルロース二糖類を添加した実験例1において、HMFの生成が有意に少なく、単糖類の変性を遅延させることが確認された。
【0106】
これにより、極めて高温の過酷な環境においても、アルロース二糖類が単糖類の脱水反応ないしは分解、変性を抑制することを確認したところ、アルロース二糖類をHMFの生成抑制及び糖類脱水反応の抑制に有用に用いることができる。
【0107】
実施例2-2:アルロース二糖類の含量別HMF生成率の比較
実施例1で分離した二糖類(dimer)を下記表5のように混合して二糖類の割合がそれぞれ異なる試料を製造した。
【0108】
具体的には、単糖類として構成比率が最も高い結晶アルロース(CJ第一製糖、純度99%以上)を用いて不純物のない超純水を添加し、通常の飲料の平均濃度と同様の10%(w/w)で製造して実験例2として使用した。また、結晶アルロースに実施例1で分離した純度95%以上のアルロース二糖類を定量測定して添加した後、同様に超純水に溶解して10%の濃度に製造したものを実験例3~4として用いた。製造された各試料は、HPLCを用いて実施例1の表1の条件で再度その構成を分析し、下記表5のように含まれた二糖類の量が異なることを確認することができた。
【0109】
【表5】
【0110】
準備した各試料は、飲料の通常の工程温度である95℃で加熱し、20分間の間隔でサンプリングして構成成分の変化とHMFの生成量を確認した。HMFの定量は、実施例1の表1の条件でHPLCを用いて分析した。
【0111】
全ての実験は3回繰り返して行い、その結果を下記表6に示す。
【0112】
【表6】
※縦方向に互いに異なる文字列a、b、c、dは、同じ試料において加熱時間の経過による有意差(p<0.05)があることを意味する。
【0113】
二糖類が一定量含まれた実験例2~4では、十分量の二糖類がまず熱ダメージを吸収して分解する過程で単糖類がむしろ増加することが確認された。これにより、単糖類から生成されるHMFも増加率が有意に少ないことが確認された。特に、二糖類が最も多く含まれた実験例4(構成糖類中2.1%(w/w)を含む、試料全量基準約0.21%(w/w)を含む)の場合、加熱60分間が経過してもHMF増加率に統計的有意差がない水準であることが確認され、HMFの生成を抑制する効果が非常に大きいことを確認した。
【0114】
これにより、アルロース二糖類が単糖類の脱水反応ないしは分解、変性を抑制し、HMFの生成を抑制することを確認したところ、アルロース二糖類が通常の飲食料品の加工及び流通過程中で熱により変質してHMFが生成する品質劣化現象を極端に遅延させることが分かる。
【0115】
このような実験過程により、アルロースを含む二糖類が一定量含有されたとき、糖類(アルロース)が熱により分解及び変性してHMFが生成されることを有意に遅延させることができることを確認した。
【0116】
これは、従来のHMF生成抑制のために全く異なる成分からなる添加物(例えば、抗酸化剤など添加物)を用いるものと比較し、糖類を根幹とする二糖類を使用するため、製品の味と特徴に及ぼす影響が極めて少なくする利点を有する。
【0117】
実施例3:アルロース二糖類の構造の同定
HMF生成抑制機能を有するアルロース二糖類の構造を確認するために、実施例1で分離したD1、D2に対してESI-MS、1 H NMR、13C NMRを通じて構造を同定した。
【0118】
具体的には、以下の方法で構造を同定した。
【0119】
Major 6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranoseは、白色無定形粉末、 ESI-MS m/z 365 [M+Na]+; 1H NMR (850 MHz, D2O) δH 3.44 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.47 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.56 (1H, dd, J = 11.0, 5.0 Hz), 3.60 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.62 (1H, dd, J = 11.0, 2.5 Hz), 3.70 (1H, br d, J = 12.5 Hz), 3.75 (1H, d, J = 12.0 Hz), 3.75 (1H, br ma), 3.82 (1H, br d, J = 12.5 Hz), 3.84 (1H, br s), 3.92 (1H, t, J = 3.0 Hz), 3.97 (1H, d, J = 5.5 Hz), 4.09 (1H, t, J = 5.5 Hz), 4.13 (1H, br m) [D2O signal δH 4.70]; 13C NMR signalsb δC 57.6, 60.4, 62.9, 64.7, 64.9, 69.1, 68.9, 70.2, 70.3, 81.2, 101.8, 103.4.
【0120】
Minor 6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranoseは、白色無定形粉末、ESI-MS m/z 365 [M+Na]+; 1H NMR (850 MHz, D2O) δH 3.49 (1H, d, J = 13.0 Hz), 3.73 (1H, d, J = 13.0 Hz), 3.58 (1H, ma), 3.68 (1H, dd, J = 11.0, 2.5 Hz), 3.62 (1H, ma), 3.71 (1H, br d, J = 12.0 Hz), 3.82 (1H, br d, J = 12.0 Hz), 3.76 (1H, br ma), 3.78 (1H, ma), 3.87 (1H, br s), 3.98 (1H, t, J = 3.0 Hz), 3.95 (1H, d, J = 4.5 Hz), 4.00 (1H, br m), 4.34 (1H, dd, J = 8.0, 4.5 Hz) [D2O signal δH 4.70]; 13C NMR signalsb δC 57.7, 61.4, 62.2, 64.7, 64.8, 69.0, 69.2, 70.8, 74.4, 80.8, 101.8, 105.9.
【0121】
その結果、D1は、新規なアルロース二糖類であり、下記化学式(1)の構造を有することが確認された。
【0122】
【化6】
・・・(1)
【0123】
また、D1は、majorまたはminor formの2つの形態を有し(図3)、major formである6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranoseは、下記化学式(2)、minor formである6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranoseは、下記化学式(3)の構造を有することが確認された。
【0124】
【化7】
・・・(2)
【0125】
【化8】
・・・(3)
【0126】
化学式(2)の化合物(6-O-β-D-Psicopyranosyl-α-D-psicofuranose)を化合物Aと命名し、化学式(3)の化合物(6-O-β-D-Psicopyranosyl-β-D-psicofuranose)を化合物Bと命名した。
【0127】
一方、D2は、前記化学式(1)と構造異性体の関係でアルロースの2位炭素(C2;図4の炭素番号付けによる)のヒドロキシ基と他のアルロース1分子の1位~6位(C1~C6)炭素のいずれか1つの炭素のヒドロキシ基のグリコシド結合(glycosidic bond)である新規なアルロース二糖類であることが確認された。
【0128】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】