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特表2023-505101無血清培地で浮遊培養可能な新規のベロ細胞株、その製造方法、及び該新規細胞株を用いたワクチン用ウイルスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】無血清培地で浮遊培養可能な新規のベロ細胞株、その製造方法、及び該新規細胞株を用いたワクチン用ウイルスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20230201BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531606
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-27
(86)【国際出願番号】 KR2020016866
(87)【国際公開番号】W WO2021107612
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0154749
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519038714
【氏名又は名称】エスケー バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】クァク,ジュン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウン-ソム
(72)【発明者】
【氏名】キム,フン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,キ-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】イ,コン セ
(72)【発明者】
【氏名】イ,スジン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン-ヘ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA95X
4B065BB32
4B065BC02
4B065BC09
4B065BC11
4B065CA45
(57)【要約】
本発明は、WHOから分譲を受けたベロ(Vero、African Green Monkey Kidney Cell Line)細胞から誘導され、血清成分なしに浮遊培養が可能なベロ細胞株、細胞株sVERO 7C2に関する。また、本発明は、前記ベロ細胞を成長させる培養方法及び前記ベロ細胞を用いてワクチン用ウイルスを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベロ細胞株sVERO 7C2(受託番号:KCLRF-BP-00470)。
【請求項2】
前記細胞株は、WHOから分譲を受けたベロ細胞から誘導され、細胞成長のために血清を必要とせず、付着のための担体を要さずに浮遊培養が可能なことを特徴とする、請求項1に記載のベロ細胞株。
【請求項3】
前記細胞株がウイルスを増殖させることを特徴とする、請求項1に記載のベロ細胞株。
【請求項4】
請求項1に記載の細胞株を用いてワクチン用ウイルスを製造する方法。
【請求項5】
前記ウイルスが、黄熱ウイルス、ジカウイルス、ロタウイルス、デングウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、HSV-1、HSV-2、狂犬病ウイルス、RSウイルス、レオウイルス3型、パルボウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス1型~47型、ラッサウイルス、水疱性口内炎ウイルス及びワクシニアウイルスからなる群より選択されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記ウイルスが、黄熱ウイルスまたはジカウイルスであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
(a)WHOから分譲を受けたベロ細胞を用意する段階と、
(b)前記ベロ細胞を無血清培地で生長するように適応させる段階と、
(c)段階(b)で選別した付着性のベロ細胞を、付着のための担体なしに浮遊状態で生長できるように適応させる段階と、
を含む、細胞成長のために血清を必要とせず、付着のための担体を要さずに浮遊培養が可能な請求項1に記載の細胞株を製造する方法。
【請求項8】
(a)請求項1のベロ細胞を用いて1×10~9×10cells/mLの接種濃度で無血清細胞培養培地に接種する段階と、
(b)40~90rpmの撹拌速度、pH6.5~7.5の培養条件を維持しながら前記細胞を培養する段階を含み、スピナーフラスコで前記ベロ細胞を5.0×10~4.7×10cells/mLの細胞密度で増殖させる段階と、
(c)前記増殖されたベロ細胞を黄熱ウイルスまたはジカウイルスで感染させる段階と、
(d)前記感染された増殖ベロ細胞を培養する段階と、
(e)細胞培養組成物から黄熱ウイルスまたはジカウイルスを分離する段階とを含むことを特徴とする、ワクチン用ウイルスを生産する方法。
【請求項9】
前記段階(b)の間、細胞培養物に新鮮な培地を追加するかまたは培地を一部除去して新鮮な培地で代替することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本出願は、2019年11月27日付け出願の韓国特許出願第10-2019-0154749号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、無血清培地で浮遊培養可能なベロ(Vero)由来の新規細胞株、その製造方法、及び該浮遊培養細胞を用いてウイルスを増殖させる方法に関する。
【0003】
〔背景技術〕
多様な種類のワクチンが商用化されるとともに、ワクチンを製造する方法も多様に発展してきた。ワクチンを製造する伝統的な方法として、代表的には、受精卵を用いたインフルエンザワクチンの生産が挙げられる。受精卵を用いてワクチンを生産する場合、受精卵の安定的な供給が困難であるため、ワクチン生産量を調整しなければならないという限界を有する。また、製品の生産に適したニワトリを無菌施設で飼育しなければならず、そのための諸設備を備えるためコストが増加し、また、卵タンパク質由来成分の精製困難性から卵タンパクアレルギーを持つヒトには接種できないという短所を有している。
【0004】
受精卵を用いたワクチン生産の問題点を解消するための方法として、細胞培養を通じてワクチンを製造する方法がある。無限増殖が可能な動物細胞を大量培養した後、ウイルスを接種してワクチンを生産するため、短期間の大量生産を通じた供給が可能であるだけでなく、卵タンパクアレルギーを持つヒトにも接種できるという長所を有している。
【0005】
このような動物細胞は、一般に、付着型細胞であって、培養時にウシ胎児血清(FBS)が使用されるが、この場合、不明の動物由来の因子が製品に含まれる可能性があり、製品同士の品質の差が生じ得る。また、ウシ胎児血清は、高価であって、プリオン、ウイルス、マイコプラズマのような感染性タンパク質による感染危険性があるため、製品コストが増加し、安全性が保証されないという短所を有している。したがって、ワクチンの生産においては、動物由来の血清だけではなく、動物由来の添加物を使用しないことが望ましい。
【0006】
一方、細胞培養の他の方式として細胞を浮遊状態で培養する方法は、付着型細胞培養方式に比べ、大量培養の容易性、継代過程の単純化、人手の減少、空間活用性などの多くの長所がある。このような点から、無血清の浮遊細胞の開発及びそれを用いたウイルス増殖に関する研究が盛んに行われている。
【0007】
ベロ細胞株は、ロタ、ポリオ、インフルエンザ、日本脳炎、デングウイルスなどの多くのウイルスに対する感受性が高いため、多様なウイルスが増殖可能な樹立細胞株である。しかし、ベロ細胞株は表面への付着性が非常に強いため、大量培養のためには非常に広い面積の培養容器や担体(micro-carrier)が必要であり、それによってワクチンの製造過程で多大なコストが発生する。また、担体に付着した細胞を除去する段階が必要であるが、このとき、動物由来のトリプシンを使用することで、動物由来成分の使用とともに細胞の損失及び損傷可能性がある。
【0008】
そこで、安全且つ効率的な動物細胞の培養を通じてワクチンを製造するため、無血清培地で浮遊培養可能なベロ細胞株が必要となり、本発明者らは無血清浮遊培養が可能なベロ細胞株を研究して特許(韓国特許第10-1831284号)を取得した。
【0009】
ただし、上記の登録特許の浮遊ベロ細胞株であるVero sky 7458は、細胞増殖及びウイルス感染能で一部制限的な効果を見せた。
【0010】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本研究では、新規の細胞を開発する過程において、その機能に優れた細胞を選別する過程を通じて、既登録の特許細胞株(Vero sky 7458)に比べて優れた細胞増殖、細胞形態及びウイルス増殖能を有する新規浮遊ベロ細胞株を確立しようとした。
【0011】
したがって、本発明は、血清の使用及び付着培養で発生する汚染または培養時の効率性の問題を解決するため、無血清培養及び浮遊培養が可能であってワクチン用ウイルスの増殖に使用可能なベロ細胞株を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明は、既登録の特許細胞株(Vero sky 7458)に比べて細胞増殖能またはウイルス増殖能に優れた細胞株を提供することで、より効率的なウイルス増殖及びワクチン生産の方法を提示することを他の目的とする。
【0013】
より詳しくは、本発明の目的は、以下の具現例を提供することである。
【0014】
具現例1.ベロ(Vero)細胞株sVERO 7C2(受託番号:KCLRF-BP-00470)。
【0015】
具現例2.具現例1において、前記細胞株はWHOから分譲を受けたベロ細胞から誘導され、細胞成長のために血清を必要とせず、付着のための担体を要さずに浮遊培養が可能なことを特徴とする、ベロ細胞株。
【0016】
具現例3.先行する具現例のいずれか一つにおいて、前記細胞株がウイルスを増殖させることを特徴とする、ベロ細胞株。
【0017】
具現例4.先行する具現例のうちいずれか一つによる細胞株を用いてワクチン用ウイルスを製造する方法、または、先行する具現例のうちいずれか一つによる細胞株のワクチン用ウイルス製造のための用途。
【0018】
具現例5.先行する具現例のうちいずれか一つにおいて、前記ウイルスが、黄熱ウイルス、ジカウイルス、ロタウイルス、デングウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹(はしか)ウイルス、日本脳炎ウイルス、ムンプス(耳下腺炎)ウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、HSV-1、HSV-2、狂犬病ウイルス、RSウイルス、レオウイルス3型、パルボウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス1型~47型、ラッサウイルス、水疱性口内炎ウイルス及びワクシニアウイルスからなる群より選択されることを特徴とする方法または用途。
【0019】
具現例6.先行する具現例のうちいずれか一つにおいて、前記ウイルスが黄熱ウイルスまたはジカウイルスであることを特徴とする方法または用途。
【0020】
具現例7.(a)WHOから分譲を受けたベロ細胞を用意する段階と、
(b)前記ベロ細胞を無血清培地で生長するように適応させる段階と、
(c)段階(b)で選別した付着性のベロ細胞を、付着のための担体なしに浮遊状態で生長できるように適応させる段階と、
を含む、細胞成長のために血清を必要とせず、付着のための担体を要さずに浮遊培養が可能な先行する具現例のうちいずれか一つによる細胞株を製造する方法。
【0021】
具現例8.(a)先行する具現例のうちいずれか一つによるベロ細胞を用いて1×10~9×10cells/mLの接種濃度で無血清細胞培養培地に接種する段階と、
(b)40~90rpmの撹拌速度、pH6.5~7.5の培養条件を維持しながら前記細胞を培養する段階を含み、スピナーフラスコで前記ベロ細胞を5.0×10~4.7×10cells/mLの細胞密度で増殖させる段階と、
(c)前記増殖されたベロ細胞を黄熱ウイルスまたはジカウイルスで感染させる段階と、
(d)前記感染された増殖ベロ細胞を培養する段階と、
(e)細胞培養組成物から黄熱ウイルスまたはジカウイルスを分離する段階と、を含むことを特徴とするワクチン用ウイルスを生産する方法。
【0022】
具現例9.先行する具現例のうちいずれか一つにおいて、前記段階(b)の間、細胞培養物に新鮮な培地を追加するかまたは培地を一部除去して新鮮な培地で代替することを特徴とする方法。
【0023】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってより明らかになる。
【0024】
〔課題を解決するための手段〕
上記の目的を達成するため、本発明は、WHOから分譲を受けたベロ(Vero、African Green Monkey Kidney Cell Line)細胞から由来した、無血清培地で浮遊培養可能な細胞株であって、既登録の特許細胞株であるVero sky 7458に比べて成長速度が70~100%以上向上し、ウイルス感染能に優れた新規浮遊ベロ細胞株(韓国細胞株研究財団受託番号:KCLRF-BP-00470)を提供する。
【0025】
また、上記の目的を達成するため、本発明は、
1)付着型ベロ細胞株を無血清培地に適応させる段階と、
2)優れた成長を特徴とする細胞を選別する段階と、
3)選別された細胞を無血清培地で浮遊培養させる段階と、
4)前記浮遊細胞のうち細胞凝集力が低くて増殖能に優れた細胞を選別し、持続的に継代培養する段階と、を含む前記新規浮遊ベロ細胞株を製造する方法を提供する。
【0026】
さらに、上記の目的を達成するため、本発明の他の態様は、
1)前記本発明の新規浮遊ベロ細胞株にウイルスを感染させる段階と、
2)前記ウイルスに感染された細胞を浮遊培養する段階と、
3)細胞の培養物からウイルスを分離する段階と、を含むワクチンの製造方法を提供する。
【0027】
また、上記の目的を達成するため、本発明は、
1)前記新規浮遊ベロ細胞株の腫瘍形成能を確認する段階と、
2)前記新規浮遊ベロ細胞株の由来を確認する段階と、
3)前記新規浮遊ベロ細胞株の長期安定性を確認する段階と、を含む本発明の新規細胞株の特性に対する結果を提供する。
【0028】
〔発明の効果〕
本発明は、無血清培養及び浮遊培養が可能であって、Vero sky 7458細胞株に比べて成長速度が速いだけでなく、ウイルス増殖に効率的に使用可能な新規のsVERO 7C2細胞株を提供する。また、本発明は、このような細胞株を用いてウイルスまたはワクチンを生産するのに有用である。
【0029】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施例を例示するものであり、発明の詳細な説明とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割をするものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されてはならない。
【0030】
〔図面の簡単な説明〕
図1〕125mLのスピナーフラスコにおけるVero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の細胞増殖を示したグラフである。
【0031】
図2〕5Lの生物反応器(bioreactor)におけるVero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の細胞増殖を示したグラフである。
【0032】
図3〕Vero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の細胞模様をそれぞれ撮影したイメージである。
【0033】
図4〕本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の長期安定性を確認するための細胞増殖パターンを示したグラフである。
【0034】
図5〕本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の長期安定性を確認するための細胞代謝産物の濃度を示したグラフである。
【0035】
図6〕Vero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株に対するウイルス接種によるウイルス力価の結果を示したグラフである。
【0036】
図7〕Vero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株に対するウイルス接種によるウイルス力価の結果を示したグラフである。
【0037】
〔発明を実施するための形態〕
本発明の新規なsVERO 7C2細胞株は、WHOから分譲を受けたベロ(Vero、African Green Monkey Kidney Cell Line)細胞から誘導され、細胞成長のために血清を必要とせず、付着のための担体を要さずに浮遊培養が可能である。
【0038】
本発明において、用語「無血清培地」とは、血清が実質的に添加されていない、本発明による樹立細胞株を培養可能な培地を意味し、用語「実質的に添加されない」とは、血清を0.5(v/v)%以下で含むことを意味し、望ましくは0.1(v/v)%以下、より望ましくは0.01(v/v)%以下、最も望ましくは全く含まれないことを意味する。
【0039】
前記無血清培地は、Sky FM03(Lonza)、SFM4CHO(Hyclone)、ProVero1(Lonza)、EX-CELL VERO(Sigma)及びVP-SFM(Gibco)からなる群より選択される少なくとも一つであり得るが、これに限定されず、動物細胞の培養に使用可能な無血清培地であれば制限なく本発明に適用し得る。
【0040】
本発明の新規なsVERO 7C2細胞株は、Vero sky 7458細胞株に比べて70%または100%以上向上した細胞成長を示すことが望ましい。これは、細胞の増殖が相対的に速くて細胞凝集力が低い細胞を選択的に選別する一連の段階を含む方法によって製造することができる。前記細胞成長が向上するほどウイルスの感染対象細胞数が多くなり、ウイルスやワクチンの大量生産に有益である。
【0041】
また、無血清培地で浮遊培養が可能な本発明のsVERO 7C2細胞株は、Vero sky 7458に比べて高いウイルス力価を示すため、ウイルス生産能がさらに優れる。また、腫瘍原性試験(test for tumorigenicity)、核型分析(karyotype analysis)及びPCRを用いた種判別試験(species verification test)の結果は、本発明の新規細胞株が高い継代数(Passage No.220)でも腫瘍形成能がなく、サル細胞から誘導されたものであることを確認することでワクチン用ウイルス生産に有用に使用できることを示している。
【0042】
さらに、本発明者等は、前記ベロ細胞から新規に確立した無血清及び浮遊培養可能な細胞株を「sVERO 7C2」と命名し、2019年9月9日韓国細胞株研究財団(KCLRF)に受託番号KCLRF-BP-00470で寄託した。
【0043】
本発明の一態様は、無血清浮遊培養が可能な新規なsVERO 7C2細胞株を提供する。例えば、(a)付着性ベロ(WHO)細胞を解凍した後、血清培地で培養する段階と、(b)段階a)で収得した細胞を血清の含量を下げながら培養し、最終的に無血清の培地で培養する段階と、(c)段階b)で収得した細胞のうち、細胞増殖が速い個体を選別する段階と、(d)段階c)で収得した細胞を40~90rpmで撹拌する方式で浮遊培養に適応させる段階と、(e)段階d)で収得した、浮遊培養に適応した細胞のうち、細胞凝集力が低くて増殖能に優れた個体を選別する段階と、を含む方法によって製造することができる。
【0044】
本発明のsVERO 7C2細胞株の製造方法を具体的に説明する。
【0045】
段階(a)
段階(a)では、ベロ(WHO)細胞を解凍した後、10%ウシ胎児血清(FBS)を含む上述した候補培地群で37℃及び5%COの環境下で培養する。
【0046】
段階(b)
段階(b)では、段階(a)で収得した細胞を3~4日後に0.25%トリプシンEDTAを用いてフラスコ底で懸濁して収得した後、血清の含量を下げながら付着状態で継代培養する。細胞倍加時間が48時間以下であるとき、血清の比率を下げて最終的に無血清培地に代替する。
【0047】
段階(c)
段階(c)では、段階(b)で収得した細胞を対象にしてシングルセルクローニング(single cell cloning)を行い、細胞を選別する。96ウェルプレートに1cell/wellの濃度で細胞を接種し、細胞の増殖様相を観察する。具体的には、これは、無血清培地に適応して培養が可能な細胞のうち増殖能に優れた一つの細胞を選別し、単一細胞で由来した同種の(homogeneous)細胞株を確保することで、以降一貫した細胞増殖能またはウイルス感染能を確保するためである。本発明においては、前記シングルセルクローニングをベロ(WHO)細胞の無血清適応段階(c)及び浮遊培養適応段階(e)でそれぞれ行い、総2回の細胞選別過程を経て新規開発細胞の均一性(homogeneity)を確保する。これは、従来の浮遊培養可能なベロ細胞に関する先行研究の結果とは差別性を有する。
【0048】
例えば、単一細胞を96ウェルプレートに接種して培養することは容易ではないが、単一細胞が培養容器に付着しても細胞が増殖するまで4週以上の長い期間が必要であるかまたは成長できず退化することもある。したがって、これを解消するため、前記浮遊培養培地を用いてシングルセルクローニングの実行に適した培地を製造して単一細胞を培養する。この過程を経て相対的に細胞増殖が速い単一個体を選別する。
【0049】
段階(d)
段階(d)では、段階(c)で収得した細胞をスピナーフラスコで40~90rpmで撹拌する方式で浮遊培養に適応させる。具体的には、段階(c)の細胞を1.0×10~9.0×10cells/mLの接種濃度、望ましくは5.0×10cells/mLの接種濃度で前記無血清浮遊培養培地に接種する。40~90rpmの撹拌速度、望ましくは60rpmの撹拌速度、pH約6.5~7.5の培養条件を維持しながら前記細胞を3~4日間隔で継代培養する方式で浮遊培養に適応させる。
【0050】
段階(e)
段階(e)では、段階(d)で収得した細胞を、段階(c)のようにシングルセルクローニングを行うことで、細胞凝集力が低くて増殖能に優れた個体を選別する過程を経る。このとき、培養容器は一般的な付着培養容器ではなく、超低付着性96ウェルプレートを用いて浮遊状態で細胞が増殖できるように誘導する。2回の単一細胞を選別する過程を経て先行文献の浮遊ベロに比べて優れた性能を見せる浮遊ベロ細胞株を確立することができ、これを「sVERO 7C2」と命名する。また、sVERO 7C2をスピナーフラスコで持続的に継代培養して細胞株の長期安定性と細胞増殖パターンを確認し、腫瘍原性試験などの特性分析を行う。
【0051】
本発明の他の態様は、本発明によるsVERO 7C2細胞株を用いてワクチン用ウイルスを増殖させる方法を提供する。
【0052】
本発明によるsVERO 7C2細胞株を用いて増殖可能なウイルスは、例えば、黄熱ウイルス、ジカウイルス、ロタウイルス、デングウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、日本脳炎ウイルス、ムンプスウイルス、風疹ウイルス、ポリオウイルス、HSV-1、HSV-2、狂犬病ウイルス、RSウイルス、レオウイルス3型、パルボウイルス、コクサッキーウイルス、アデノウイルス1型~47型、ラッサウイルス、水疱性口内炎ウイルス及びワクシニアウイルスなどがあり、本発明による細胞株はこのようなウイルスのうち黄熱ウイルス及びジカウイルスの生産に最も適する。
【0053】
以下、本発明を実施例を挙げて詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するためのものであるだけで、本発明の範囲が実施例によって限定されることはない。本発明の実施例は、当業界で平均的な知識を持つ者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0054】
<実施例1>無血清浮遊培養ベロ細胞株の製造
1.1 付着性ベロ細胞の解凍
凍結保存された付着性ベロ(WHO)を解凍し、T-75フラスコ内の10%血清を含むEMEM培地で37℃、5%CO条件下で培養した。
【0055】
1.2 無血清適応細胞株の選別
1.1で収得した細胞を3~4日間隔で継代培養した。継代を行う度に細胞数を確認し、細胞倍加時間が48時間以下であれば、培地内の血清の比率を下げて培養した。培地内の血清の比率は10%、5%、2%、1%に下げ、最終的に無血清培養が可能になるまで継代培養を繰り返した。前記無血清適応細胞に対して96ウェルプレートにシングルセルクローニングを行った。週1回培地を交換し、約3~4週間培養して顕微鏡観察によって細胞増殖が相対的に速い群を選別した。細胞増殖が速い細胞群をT-フラスコに拡張して培養した。
【0056】
1.3 浮遊培養適応細胞株の選別
1.2で収得した細胞を十分に拡張し、スピナーフラスコに移して浮遊培養を行った。撹拌速度60rpm、培養温度37℃、5%COの条件で細胞を培養した。培養培地のpHが低くなるか又は細胞が一定水準以上に成長した場合、培地を交換するか又は継代培養を行った。2ヶ月の浮遊培養適応を経た後、細胞濃度が約1.5×10cells/mL水準になった。細胞の生存率は90%以上であることを確認した。前記浮遊培養適応細胞のうち細胞増殖速度が速くて細胞凝集力が低い単一細胞を確保するため、超低付着性96ウェルプレートにシングルセルクローニングを行った。約3~4週間培養して顕微鏡観察を通じて細胞増殖が相対的に速い群を選別した。前記細胞を超低付着性T-フラスコに拡張して増殖速度が最も速い一つの群を選択し、それを「sVERO 7C2」と命名する。
【0057】
<実施例2>細胞株の増殖能及び特性の分析
2.1 新規細胞株の増殖能の評価
前記sVERO 7C2細胞株をスピナーフラスコまたは5Lの生物反応器で浮遊培養してその増殖能を評価した。対照群としてVero sky 7458細胞株を用いた。
【0058】
浮遊培養時に開始細胞濃度は5.0×10cells/mLにし、スピナーフラスコの場合、3~4日経過後に細胞を回収して1200rpm、5分間遠心分離して5.0×10cells/mLに継代培養する。
【0059】
本発明により製造されたsVERO 7C2細胞株は、Vero sky 7458細胞株と比べたとき、スピナーフラスコで約1.7倍、生物反応器で約2倍水準の細胞増殖率を見せた。
【0060】
2.2 新規細胞株の長期継代安定性
前記sVERO 7C2細胞株を4ヶ月間スピナーフラスコで継代培養して細胞増殖、細胞生存率及び細胞代謝産物を分析することで、長期継代に対する安定性を確認した。本発明の細胞株は、4ヶ月間の培養期間中に同等な水準の細胞増殖率を見せ、90%以上の細胞生存率を確認することができた。さらに、類似したパターンの細胞代謝産物濃度を確認できた。
【0061】
2.3 新規細胞株の特性分析
本発明の新規なsVERO 7C2細胞株に対して腫瘍原性試験を行った。ヨーロッパ薬局方の腫瘍原性評価ガイドラインに従って非臨床評価センターであるCubest Bio社で試験を行い、臨床病理の結果、本発明の細胞株は高い継代数(Passage No.220)でも腫瘍形成能がないことを確認した。
【0062】
また、核型分析及び種判別試験(PCR)を行い、本発明の細胞株がサル由来細胞であることを確認した。
【0063】
さらに、無菌及びマイコプラズマ否定試験を行い、菌で汚染されていないことを確認した。
【0064】
<実施例3>ウイルス増殖能の比較
本発明の新規なsVERO 7C2細胞株を用いて浮遊培養条件でウイルスを増殖させた。対照群としてはVero sky 7458を用いてウイルス増殖能を比べた。本実験に使用されたウイルスは黄熱ウイルス及びジカウイルスであり、培養条件は下記のようである。
【0065】
細胞濃度:5.0×10cells/mL
培養規模:125mLスピナーフラスコ
撹拌速度:60rpm
培養条件:37℃、5%CO、湿潤
培養期間:4日(黄熱ウイルス)、6日(ジカウイルス)。
【0066】
二つの細胞株間のウイルス増殖能を比較するため、同じ開始細胞濃度及びウイルス接種濃度でウイルス感染能試験を行った。接種後の細胞変性効果(cytopathic effect、CPE)及び細胞生存率を確認しながらウイルスを培養した。黄熱ウイルスは4日間、ジカウイルスは6日間培養した。培養上清を回収してウイルス力価(titer)を測定した。二つのウイルスの力価の測定はプラークアッセイ(plaque assay)を行って測定した。その結果、本発明の新規細胞株で増殖されたウイルス力価が、対照群として使用されたVero sky 7458のウイルス力価よりも優れた。さらに、sVERO 7C2はVero sky 7458よりも細胞増殖能が優れることから、ウイルス感染時に感染対象細胞数が多いため、より効率的に大容量のウイルス製造が可能であることを確認した。
【0067】
〔受託番号〕
寄託機関名:韓国細胞株研究財団(KCLRF)
受託番号:KCLRF-BP-00470
受託日付:20190909
【0068】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】125mLのスピナーフラスコにおけるVero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の細胞増殖を示したグラフである。
図2】5Lの生物反応器(bioreactor)におけるVero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の細胞増殖を示したグラフである。
図3】Vero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の細胞模様をそれぞれ撮影したイメージである。
図4】本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の長期安定性を確認するための細胞増殖パターンを示したグラフである。
図5】本発明の新規なsVERO 7C2細胞株の長期安定性を確認するための細胞代謝産物の濃度を示したグラフである。
図6】Vero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株に対するウイルス接種によるウイルス力価の結果を示したグラフである。
図7】Vero sky 7458及び本発明の新規なsVERO 7C2細胞株に対するウイルス接種によるウイルス力価の結果を示したグラフである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】