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特表2023-505113ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/23 20060101AFI20230201BHJP
   C10L 10/12 20060101ALI20230201BHJP
   C07C 203/04 20060101ALI20230201BHJP
   C07C 201/02 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C10L1/23
C10L10/12
C07C203/04 CSP
C07C201/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532074
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(85)【翻訳文提出日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 BR2020050488
(87)【国際公開番号】W WO2021102542
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】BR1020190251735
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】ガルヴァン シケイラ ベルナルド
(72)【発明者】
【氏名】ネヴェス ポルト クリスティアナ
(72)【発明者】
【氏名】ベゼッラ デ メネゼス ラファエル
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス ジュニア マルリト
(72)【発明者】
【氏名】レネ クロッツ ラベロ カルロス
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AA03
4H006AB44
4H006AC60
4H006BD70
(57)【要約】
本発明は、ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルの使用及びその製造プロセスに関するものであり、バイオディーゼル製造から得られるグリセロールから添加剤を製造すること、及びディーゼルの点火を促進しディーゼル燃料のセタン価を向上させるためのより経済的かつ効率的な選択肢を添加剤市場にもたらすことを目的とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルであって、
a)グリセロールとアルコールとの間のエーテル化反応を行う工程と、
b)工程(a)で得られた化合物を分離する工程と、
c)工程(b)で分離されたグリセロール及びエタノールのモノエーテルをニトロ化し、2つの利用可能なヒドロキシルを置換して、二硝酸化エーテルを形成し、得られる添加剤は、二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール又は二硝酸2-エトキシ-1,3-プロパンジオールである工程と
を含む方法によって製造されることを特徴とする、ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項2】
製造において無水エタノール又は含水エタノールを原料として使用することを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項3】
製造においてバイオディーゼル製造プロセス工場からのグリセリンを原料として使用することを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項4】
前記エーテル化反応が、イオン交換樹脂、ゼオライト、アルミナ、ニオブ酸又は他の酸性触媒から選択できる酸性触媒によって触媒されることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項5】
前記エーテル化反応がバッチ反応器(STR)、連続供給(CSTR)、固定床又は反応蒸留において行われることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項6】
前記エーテル化反応が、1:1~1:6の範囲のグリセロール/エタノールのモル比、50~250℃の温度、及び0.25~4.00h-1の空間速度(LHSV)で行われることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項7】
工程(a)においてモノエーテル(1-エトキシ-2,3-プロパンジオール、2-エトキシ-1,3-プロパンジオール)、ジエーテル(1,2-ジブトキシ-3-プロパノール及び1,3-ジブトキシ-2-プロパノール)、並びにトリエーテル(トリエトキシプロパン)、並びにジエチルエーテル及び水が生成されることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項8】
工程(b)において、グリセロール及びエタノールのモノエーテル、すなわち1-エトキシ-2,3-プロパンジオールと2-エトキシ-1,3-プロパンジオールとの混合物、グリセロールのジエーテル及びトリエーテル(1,3-ジエトキシ-2-プロパノール、1,2-ジエトキシ-3-プロパノール及び1,2,3-トリエトキシプロパン)の混合物、並びにジエチルエーテルのストリームが分離されることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項9】
グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程が、-10℃~10℃の温度範囲で行われることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項10】
グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程が、共溶媒(好ましくはジクロロメタンであるが、これに限定されない)、30:70~50:50の比率の硝酸と無水酢酸との混合物を200%までの過剰で添加して、又は添加しないで硫酸硝酸混合物(発煙硫酸又は濃硫酸、及び濃硝酸)を用いることを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項11】
前記グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程(工程(d))において、二硝酸化エーテル、具体的には二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール又は二硝酸2-エトキシ-1,3-プロパンジオール、の混合物が生成することを特徴とする、請求項1に記載のディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル。
【請求項12】
ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法であって、バイオディーゼル製造プロセスからのグリセリンを用いて、
a)グリセロールとアルコールとの間のエーテル化反応を行う工程と、
b)工程(a)で得られた化合物を分離する工程と、
c)グリセロール及びエタノールのモノエーテルをニトロ化し、利用可能な2つのヒドロキシルを置換して、二硝酸化エーテルを形成する工程と
を含むことを特徴とするグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項13】
バイオディーゼル反応からのグリセロール及びエタノールを試薬として使用することを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項14】
前記エーテル化反応が、イオン交換樹脂、ゼオライト、アルミナ、ニオブ酸又は別の酸性触媒から選択できる酸性触媒によって触媒されることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項15】
前記エーテル化反応が、1:1~1:6の範囲のグリセロール/エタノールのモル比、50~250℃の温度、0.25~4.00h-1の空間速度(LHSV)で行われることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項16】
前記エーテル化反応がバッチ反応器(STR)、連続供給(CSTR)、固定床又は反応蒸留において行われることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項17】
工程(a)においてモノエーテル(1-エトキシ-2,3-プロパンジオール、2-エトキシ-1,3-プロパンジオール)、ジエーテル(1,2-ジブトキシ-3-プロパノール及び1,3-ジブトキシ-2-プロパノール)並びにトリエーテル(トリエトキシプロパン)、並びにジエチルエーテル及び水が生成されることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項18】
工程(b)の間に、グリセロール及びエタノールのモノエーテル、すなわち1-エトキシ-2,3-プロパンジオールと2-エトキシ-1,3-プロパンジオールとの混合物、グリセロールのジエーテル及びトリエーテル(1,3-ジエトキシ-2-プロパノール、1,2-ジエトキシ-3-プロパノール及び1,2,3-トリエトキシプロパン)の混合物、並びにジエチルエーテルのストリームが分離されることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項19】
グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程が、-10℃~10℃の範囲の温度で行われることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項20】
グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程が、共溶媒(好ましくはジクロロメタンであるが、これに限定されない)、30:70~50:50の比率の硝酸と無水酢酸との混合物を200%までの過剰で添加して、又は添加しないで硫酸硝酸混合物(発煙硫酸又は濃硫酸、及び濃硝酸)を用いることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項21】
グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程が、五酸化二窒素又は塩化ニトロニウムとの直接反応によって行われることを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【請求項22】
グリセロール及びエタノールのモノエーテルの前記ニトロ化工程(工程(d))において、二硝酸化エーテルの混合物、具体的には二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール又は二硝酸2-エトキシ-1,3-プロパンジオールが生成することを特徴とする、請求項12に記載のグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステルを得る方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル用セタン価向上剤としてのグリセロール及びエタノールのエーテルの硝酸エステル及びその製造プロセスに関する。本明細書中で提案される発明は、バイオディーゼルの製造から得られるグリセロールから製造される添加剤を提供すること、及びディーゼルの点火を促進し、ディーゼル燃料中のセタン価を向上させるためのより経済的かつ効率的な選択肢を添加剤市場にもたらすことを目的としている。
【背景技術】
【0002】
現在、環境上の規制及び法的規制が、世界におけるバイオディーゼルの開発を促進している。しかしながら、その生産は、付加価値の低い一連の副生成物を発生させ、その中でも、バイオディーゼル生産量の約10重量%を占めるグリセリンを挙げることができる。従って、1トンのバイオディーゼルを生産するごとに、約100kgのグリセリンが発生することになるが、これは使用する原料によって異なる可能性がある。
【0003】
ブラジルでは、法律第13,263/2016号が、ディーゼル中のバイオディーゼル含有量を2017年の8%から、2018年に9%、最終的に2019年に10%に漸増するスケジュールを決定していることを考慮すると、発生するグリセリンの剰余分への新しい用途開発のための大きい機会が創出される。
【0004】
別の観点から、より近代的なエンジンは、より高品質の燃料を要求し、これは、ますます高いセタン価の必要性に反映されているが、これは、この仕様の漸増は、より大きい燃料経済、より良い冷間始動(コールドスタート)、エンジンからの微粒子及び騒音の低排出と直接結びついているためである。
【0005】
セタン価向上添加剤として使用されている様々な化合物の中で、硝酸2-エチルヘキシル(2-エチルヘキシルナイトレート、2-EHN)は際立っている。世界中で使用されているこの化合物は、基本的にプロペンを合成ガス(CO/H)でヒドロホルミル化して得られる優れたアルコールである2-エチルヘキサノール(2-EH)のニトロ化から製造される。この原料はコストが高く、ポリマー及びエステル用の可塑剤の製造にも使用される。
【0006】
一般に、2-EHNを生産する企業は、原料から製油所での流通に至るまで、生産チェーン全体を支配している。ブラジルでは、ディーゼルをAgencia Nacional de Petroleo, Gas e Biocombustiveis(ブラジル国家石油・天然ガス・バイオ燃料監督庁)(ANP)の仕様に適合させるために使用される2-EHNはすべて輸入されている。
【0007】
硝酸エステル及び添加剤としてのその使用に関しては、セタン価向上剤としての使用を目的とした、様々なアルコールからの硝酸エステルの調製方法に関する文書米国特許第2294849号明細書に注目することが重要である。
【0008】
同じ文脈で、英国特許出願公開第993623号明細書は、より長い炭素鎖の他の硝酸エステルと比較して、ディーゼル中のセタン価上昇における炭素原子数5までの脂肪族アルコールの硝酸エステルの正の効果について指摘している。同様に、米国特許第4448587号明細書は、ディーゼル中のセタン価を上昇させる上で、脂肪族アルコールモノ硝酸エステルとアルコールアルキル化硝酸エステルとを混合することの相乗効果について記載している。
【0009】
さらに添加剤に関連して、文書ブラジル国特許出願公開第0803767-1号明細書は、グリセロールモノエーテル、特にグリセリンtert-ブチルエーテルを高い選択性で得ることを目的とした、グリセリンエーテル化反応から不均一触媒反応条件下でグリセリンエーテルを製造することに対処している。このグリセロールモノエーテルは添加剤として燃料に添加され、グリセリンとtert-ブタノールとからこの添加剤を得ることが提案されている。しかしながら、この文書では、最終的な添加剤のニトロ化は提案されていない。
【0010】
言及すべき別の文書はブラジル国特許出願公開第0505472-9号明細書であり、この文献は、ディーゼルのセタン価を上昇させるプロセス及び添加剤に対処している。この添加剤は、アルケン又はアルキンとグリセリンとの反応から得られ、グリセリンがバイオディーゼルの製造から得られるかどうかは問わない。しかしながら、文書ブラジル国特許出願公開第0505472-9号明細書に記載されるプロセスは、請求された添加剤の製造のための炭化水素の使用を省くものではない。
【0011】
言及された文書から、ニトロ化された添加剤は、セタン価に関して優れた性能を有すると思われる。さらには、専門の文献であるSIRIPRAPAKITら、2009は、ニトロ化化合物をジニトロ化化合物と比較し、ジニトロ化化合物が、現在市場で使用されている硝酸2-エチルヘキシルも含めたニトロ化化合物より優れていることを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第2294849号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第993623号明細書
【特許文献3】米国特許第4448587号明細書
【特許文献4】ブラジル国特許出願公開第0803767-1号明細書
【特許文献5】ブラジル国特許出願公開第0505472-9号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記の開示から、ディーゼルの特性を最適化し、バイオディーゼルの製造から得られるグリセロールの特定の用途先を与えるために、グリセロールからジニトロ化化合物を得る必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
ディーゼル用セタン向上剤として使用するグリセロールエーテル及びエタノールからの硝酸エステルの製造プロセスは、市場で供給量の多い試薬、すなわちグリセロール及びエタノールを用い、以下に示す工程に従って行われる。
(a)バッチ反応器(STR)、連続供給(CSTR)、固定床又は反応蒸留において、イオン交換樹脂、ゼオライト、アルミナ、ニオブ酸等から選択できる酸性触媒を用いて、バイオディーゼル製造プロセスからのものか否かによらないグリセロールとエタノールとをエーテル化反応させること。
(b)濃縮された形態のグリセロール及びエタノールのモノエーテルを得るために、従来の単位操作によって、工程(a)からの反応器流出物を分離すること。生成されたグリセロールのジエーテル及びトリエーテルは、ディーゼルプールに送ることができ、又は塗料及び洗浄剤用の溶剤及び基剤等の他の用途に送ることができる。生成したジエチルエーテルも、燃料として使用することができ、又はより特定の用途のために販売することができる。
(c)工程(b)で分離されたグリセロール及びエタノールのモノエーテルのニトロ化(硝酸エステル化)。このグリセロール及びエタノールのモノエーテルは、このようにして、それらの2つの利用可能なヒドロキシル基のニトロ化を受け、二硝酸化エーテル(ジニトロ化エーテル)、具体的には二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール(1-エトキシ-2,3-プロパンジオールジナイトレート)又は二硝酸2-エトキシ-1,3-プロパンジオール(2-エトキシ-1,3-プロパンジオールジナイトレート)を形成する。
【0015】
上記グリセリン及びエタノールの二硝酸エステルのディーゼルへの添加は、従来の添加剤の使用と比較して、より少量の添加剤を使用して所定のセタン価に到達させることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下、本発明を、発明の範囲を限定するものではなく模式的にその実施形態の例を表す添付の図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【0017】
図1】S10ディーゼル(10ppmまでの硫黄を含む)中のセタン価の上昇における2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)に対するグリセロールエーテルの異なる硝酸エステルの性能を評価する目的で実施された試験の結果を示すグラフである。
図2】添加剤二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール及びEHN(硝酸2-エチルヘキシル)の濃度がS10ディーゼル(10ppmまでの硫黄を含む)のセタン価の上昇に及ぼす影響を評価する目的で実施された試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
グリセロール及びエタノールからの、ディーゼル用セタン価向上剤添加剤の製造プロセスの詳細な説明は、試薬の特定及び得るプロセスの工程に従って行われる。
【0019】
本発明の対象をよりよく理解するために、ディーゼルは、蒸留範囲が160℃~370℃である炭化水素の混合物であると考えられる。グリセリンは、伝統的なIUPAC命名法ではプロパントリオールとして知られている。
【0020】
本発明は、以下の工程に従って、グリセリンを原料として使用してエーテルを合成し、このエーテルは、その後にニトロ化工程を経る。
(a)液相で、50℃~250℃の温度でのグリセリンとエタノールとのエーテル化反応。この工程では、イオン交換樹脂、ゼオライト、アルミナ、ニオブ酸等から選ばれた酸性触媒を使用することができる。この反応は、バッチ反応器(STR)、連続供給(CSTR)又は固定床で行われる。好ましくは、グリセリン/エタノールのモル比は1:1~1:6の範囲にあり、空間速度(LHSV)は使用する触媒系によって0.25~4.00h-1の範囲にある。このプロセスでは、モノエーテル(1-エトキシ-2,3-プロパンジオール、2-エトキシ-1,3-プロパンジオール)、ジエーテル(1,3-ジエトキシ-2-プロパノール、1,2-ジエトキシ-3-プロパノール)、トリエーテル(1,2,3-トリエトキシプロパン)、ジエチルエーテル、及び水が生成されるが、収率は用いる操作条件によって決まる。
(b)エーテル化反応後、反応器流出物は、濃縮された形態のグリセロール及びエタノールのモノエーテルを得るために、フラッシュ(flash)、デカンテーション、蒸留等の従来の単位操作によって分離される。生成されたグリセロールのジエーテル及びトリエーテルは、ディーゼルプールに送ることができ、又は塗料及び洗浄剤用の溶剤及び基剤等の他の用途に送ることができる。生成したジエチルエーテルも、燃料として、又はより特殊な用途に使用することができる。
(c)工程(b)で得られたグリセロール及びエタノールのモノエーテルのニトロ化。ニトロ化は、硫酸硝酸混合物(発煙硫酸又は濃硫酸、及び濃硝酸)を用いて、-10~10℃の温度で、共溶媒(好ましくはジクロロメタンであるが、これに限定されない)、30:70~50:50の比率の硝酸と無水酢酸との混合物を200%までの過剰で添加して、又は添加しないで行われる。あるいは、ニトロ化プロセスは、五酸化二窒素(N)又は塩化ニトロニウムとの直接反応によって行うことも可能である。
(d)工程(c)の混合物の氷水による希釈、及びそれに続く中和反応。この反応では、有機相は、0℃に近い温度で、アルカリ溶液を用いてpH6.0に中和される。この工程では、共溶媒及び残留酸は回収され、二硝酸化エーテルは安定化され、その後使用することができるようになる。
【0021】
第1の態様では、工程(a)で生成する化合物は、モノエーテル(1-エトキシ-2,3-プロパンジオール;2-エトキシ-1,3-プロパンジオール)、ジエーテル(1,2-ジブトキシ-3-プロパノール及び1,3-ジブトキシ-2-プロパノール)及びトリエーテル(トリエトキシプロパン)、並びにジエチルエーテル及び水であることを強調しておく必要がある。
【0022】
第2の態様では、工程(b)、すなわち分離、から、グリセロール及びエタノールのモノエーテル、すなわち1-エトキシ-2,3-プロパンジオール及び2-エトキシ-1,3-プロパンジオールの混合物、並びにグリセロールのジエーテル及びトリエーテルの混合物並びにジエチルエーテルのストリームが得られることが強調される。
【0023】
第3の態様では、工程(d)から得られる化合物は、二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール及び二硝酸2-エトキシ-1,3-プロパンジオールであることが言及される。
【0024】
第4の態様では、工程(d)で得られる二硝酸化エーテルは、硝酸2-エチルヘキシル(2-EHN)で得られる結果と比較して、ディーゼル用セタン価向上剤として、予想外に優れた結果を提示することが強調されるべきである。
【0025】
最後の態様では、グリセロール及びエタノールのモノエーテルのニトロ化プロセスは、二硝酸化エーテル、特に二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール又は二硝酸2-エトキシ-1,3-プロパンジオールの混合物の形成の終了を示す、温度が安定するまで反応器内で処理される。
【0026】
図1及び図2に見られるように、工程(d)で得られた二硝酸化されたグリセロール及びエタノールのモノエーテルは、ディーゼル用セタン価向上剤として使用される他のニトロ化添加剤と比較される。これらの試験において、二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオールは、主に使用される市販添加剤である2-エチルヘキシル(2-EHN)よりも著しく優れた性能を示すことが確認された。
【0027】
実施例01
セタン価45.8のS10ディーゼル(10ppmまでの硫黄を含む)の試料を、種々のセタン価向上添加剤の性能を評価するために使用した。検討した添加剤は以下の通りであった:ディーゼル添加剤の標準とされる硝酸2-エチルヘキシル(2-EHN)、硝酸1,2-ジブトキシ-3-プロパノール、二硝酸1-ブトキシ-2,3-プロパンジオール、二硝酸1,2-プロピレングリコール、及び二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール。各種添加剤について,添加剤濃度を100~2100重量ppmの範囲で変化させた試料を複数作製した。各試料のセタン価を方法ASTM D6890(Ignition Quality Test - IQT(発火性試験))により評価した。その結果を図1に示す。1つ又は2つの位置でニトロ化したグリセロールtert-ブチルエーテル及び二硝酸1,2-プロピレングリコールはいずれも硝酸2-エチルヘキシル(2-EHN)より低い性能を示したことが確認される。
【0028】
2つの位置で窒化されたグリセロール及びエタノールのモノエーテル(二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオール)は、試験したすべての濃度について2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)よりはるかに優れた性能を示すことが検証された。
【0029】
二硝酸1,2-プロピレングリコールに関しては、2つのニトロ基を有するにもかかわらず、硝酸1,2-ジブトキシ-3-プロパノールより低い性能を有することに留意されたい。この事実は、この二硝酸エステルの極性が大きいことが、ディーゼルへの混和性、ひいては添加剤としての性能に負の影響を与えることを示唆している。
【0030】
二硝酸1-ブトキシ-2,3-プロパンジオールに関しては、二硝酸1,2-プロピレングリコールよりも十分に優れた結果を提示し、2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)に近似している。おそらく、この結果は、二硝酸1,2-プロピレングリコールと比較して、1-ブトキシ-2,3-プロパンジオールの極性が低く、ディーゼルにおいてより大きい混和性を可能にすることによって説明することが可能である。
【0031】
これから言えるのは、二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオールからの結果が、二硝酸1-ブトキシ-2,3-プロパンジオールから得られたものより良いということは予想されないであろうということであった。というのも、両方とも二つのニトロ基を持ち、二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオールは二硝酸1-ブトキシ-2,3-プロパンジオールより極性が高いからである。しかしながら、観察されるのは、二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオールの方がはるかに優れた結果であり、この結果は2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)よりもさらに高いものである。
【0032】
実施例02
第2の試験において、初期セタン価46.4のナフテン系ベースのS10ディーゼル(10ppmまでの硫黄)の試料を、異なる濃度の2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)及び二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオールの性能を比較するために使用した。各試料のセタン価を方法ASTM D6890(Ignition Quality Test - IQT)により評価した。その結果を図2に示す。
【0033】
これらの分析から、2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)と比較した場合、グリセロール及びエタノールのモノエーテルの二硝酸エステルの性能が優れていることを確認することが可能であった。
【0034】
従って、ANP(Agencia Nacional de Petroleo, Gas e Biocombustiveis)によるS10セタンの仕様であるセタン価48を得るためには、約200ppmの2-EHN(硝酸2-エチルヘキシル)を必要とするのに対し、同じ条件のもとで同じセタン価を得るためには、100ppmの二硝酸1-エトキシ-2,3-プロパンジオールしか必要とはならない。
【0035】
本発明は添付の図に関連して説明されているが、本発明は、本明細書に定義された発明の範囲内であれば、特定の状況に応じて当業者による改変及び適応を受けてもよいことに留意されたい。
図1
図2
【国際調査報告】