(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】mTOR活性化剤を含む体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物及びこれを用いた逆分化効率の増進方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230201BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/09 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532143
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(85)【翻訳文提出日】2022-05-30
(86)【国際出願番号】 KR2020017172
(87)【国際公開番号】W WO2021107715
(87)【国際公開日】2021-06-03
(31)【優先権主張番号】10-2019-0157361
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510273880
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】キム,ビョン ソ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ソン ジン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065BA02
4B065BD50
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、mTOR活性化剤を含む、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化(reprogramming)効率増進用組成物及びこれを用いた逆分化効率の増進方法に関する。前記方法は、体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる逆分化因子を形質導入させた後にmTOR活性化剤を処理することによって、誘導万能幹細胞への逆分化効率を顕著に上昇させる効果がある。したがって、前記組成物及び方法は、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化誘導に効率よく用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
mTOR活性化剤を含む、体細胞から誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS)への逆分化効率増進用組成物。
【請求項2】
前記mTOR活性化剤は、
4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン又はその誘導体である、請求項1に記載の体細胞から誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS)への逆分化効率増進用組成物。
【請求項3】
前記組成物は、OCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる群から選ばれる1種以上のタンパク質をコードする核酸配列をさらに含む、請求項1に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物。
【請求項4】
前記体細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells;HUVEC)、ヒト線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts;HDF)及びヒト胎盤由来細胞(Human Placenta derived Cells;HPC)からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物。
【請求項5】
前記組成物は、CXCR2の活性化剤をさらに含む、請求項1に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物。
【請求項6】
前記組成物は、ヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)をさらに含む、請求項1に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物。
【請求項7】
次の段階を含む、体細胞から誘導万能幹細胞(induced Pluripotent Stem cell;iPS)への逆分化効率の増進方法:
体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる群から選ばれる1種以上のタンパク質をコードする核酸配列を形質導入する体細胞形質変換段階;及び
前記形質変換された体細胞にmTOR活性化剤を処理して培養する培養段階。
【請求項8】
前記mTOR活性化剤は、4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン又はその誘導体である、請求項7に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法。
【請求項9】
前記体細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells;HUVEC)、ヒト線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts;HDF)及びヒト胎盤由来細胞(Human Placenta derived Cells;HPC)からなる群から選ばれる1種以上である、請求項7に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法。
【請求項10】
前記培養段階は、CXCR2の活性化剤の存在下で行われる、請求項7に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法。
【請求項11】
前記培養段階は、ヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived cells conditioned media;PCCM)で行われる、請求項7に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法。
【請求項12】
前記逆分化誘導方法は、培養段階で形成されたコロニーから誘導万能幹細胞を分離する細胞分離段階をさらに含む、請求項7に記載の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本特許出願は、2019年11月29日に大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2019-0157361号に対して優先権を主張し、該特許出願の開示事項は本明細書に参照によって組み込まれる。
【0002】
本発明は、mTOR(mammalian target of rapamycin)活性化剤を含む体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物及びこれを用いた逆分化効率の増進方法に関し、さらに詳細には、体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる逆分化因子を形質導入させた後、MHY1485(4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン)を処理することによって、誘導万能幹細胞への逆分化効率を増加させる方法に関する。
【0003】
〔背景技術〕
幹細胞治療剤は、生産のためには、その供給源となる幹細胞の大量体外培養が必須である。また、幹細胞治療剤は、安全かつ経済的であってこそ、臨床で細胞治療剤として使用できる。しかしながら、現在のヒト全能性幹細胞の増殖培養方法は、動物由来支持細胞を用いるか、又は動物由来産物を含んでいる特殊ゲルを塗布した容器で培養するため、異種蛋白の汚染による安全性に対する懸念が発生し得る。また、高価の特殊ゲルを用いる増殖培養方法は、経済的な面から見れば、大量生産に適していない。
【0004】
一方、mTORは、容量、時間、抑制の有無又は活性化の有無などの様々な条件及び方法によって、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化に影響を及ぼすことが知られている。例えば、既存の通念は、逆分化因子を体細胞に導入させる前にオートファジーが増加すると、大規模な細胞内再配列が起き、その後、細胞呼吸が減少しながら節約したATPを逆分化誘導に活用できるということである。
【0005】
しかしながら、逆分化が抑制又は活性化される条件は、未だ明確に定義されずにいる。
【0006】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明者らは、体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる逆分化因子を形質導入させた後にmTOR活性化剤を処理すると、誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS)への逆分化(reprogramming)効率が顕著に上昇することを確認した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、mTOR活性化剤を含む、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、体細胞にmTOR活性化剤を処理して培養する培養段階を含む、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、mTOR活性化剤の体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進の用途に関することである。
【0010】
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、mTOR活性化剤を含む、体細胞から誘導万能幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS)への逆分化(reprogramming)効率増進用組成物及びこれを用いた逆分化効率の増進方法に関する。
【0011】
本発明者らは、体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる逆分化因子を形質導入させた後、mTOR活性化剤である4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミンを処理すると、誘導万能幹細胞への逆分化効率が顕著に上昇することを確認した。
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の一態様は、mTOR活性化剤を含む、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率増進用組成物である。
【0014】
本発明の一具現例において、前記mTOR活性化剤は、4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン又はその誘導体であるが、これに限定されるものではない。
【0015】
mTOR活性化剤は、逆分化因子の導入後の逆分化機転においてmTORを活性化させる物質を意味する。mTOR活性化剤は、mTORを活性化させる機転によってCXCR2及びcMYCの発現を増加させ、オートファジーの活性を減少させる。前記機転により、mTOR活性化剤は逆分化効率を増進させる効果を呈する。したがって、mTOR活性化剤は、逆分化因子の導入後の逆分化機転においてmTORを活性化させ得る物質であれば、制限なく使用可能である。
【0016】
本発明の一具現例において、前記MHY1485の処理濃度は、0.1~10.0ug/mL、0.2~10.0ug/mL、0.5~10.0ug/mL、0.8~10.0ug/mL、0.1~5.0ug/mL、0.2~5.0ug/mL、0.5~5.0ug/mL、0.8~5.0ug/mL、0.1~5.0ug/mL、0.2~5.0ug/mL、0.5~5.0ug/mL、0.8~5.0ug/mL、0.8~3.0ug/mL、0.1~3.0ug/mL、0.2~3.0ug/mL、0.5~3.0ug/mL、又は0.8~3.0ug/mL、例えば、1.0~3.0ug/mLであるが、これに限定されるものではない。
【0017】
本発明の一具現例において、前記組成物は、OCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる群から選ばれる1種以上のタンパク質をコードする核酸配列をさらに含む。前記タンパク質は逆分化因子であって、体細胞に形質導入されて誘導万能幹細胞への逆分化を誘導する機能を果たすことができる。
【0018】
本発明の一具現例において、前記体細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cells;HUVEC)、ヒト線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts;HDF)及びヒト胎盤由来細胞(Human Placenta derived Cells;HPC)からなる群から選ばれる1種以上である。
【0019】
本発明の一具現例において、前記胎盤由来細胞は、ヒト絨毛膜板から分離されて培養された胎盤由来線維様細胞である。
【0020】
本発明の一具現例において、前記組成物はCXCR2の活性化剤をさらに含み、前記活性化剤はリガンド(ligand)であり、前記CXCR2のリガンドは、GRO-α、GRO-β、GRO-γ、GCP-2、NAP-2、ENA-78及びIL-8からなる群から選ばれる1種以上であり、例えば、GRO-α又はIL-8であるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の一具現例において、前記組成物は、ヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)をさらに含む。
【0022】
本明細書上における用語「ヒト胎盤由来細胞の条件化培地」とは、胎盤由来細胞をゼラチンコートのウェルプレート上に接種し、細胞培養液を添加して前記胎盤由来細胞を培養した後、培養液だけを回収することによって製造された培地のことを意味する。ヒト胎盤由来支持細胞は、ヒト胚幹細胞の未分化状態を維持するために使用できるものと究明され、その効用が台頭している。
【0023】
具体的に、前記PCCM培地は、ヒト胎盤由来細胞を培養液の添加された細胞成長培地で培養する胎盤由来細胞の培養段階;及び、細胞成長培地から培養液を回収する培養液の回収段階を行うことによって提供されてよく、前記培養液は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)/F-12であってよく、血清代替剤をさらに含んでよい。PCCM培地にはCXCR2のリガンドが含まれている。
【0024】
本発明の他の態様は、次の段階を含む、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率の増進方法である:
体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる群から選ばれる1種以上のタンパク質をコードする核酸配列を形質導入する体細胞の形質変換段階;及び
前記形質変換された体細胞にmTOR活性化剤を処理して培養する培養段階。
【0025】
本発明の一具現例において、前記mTOR活性化剤は、4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン又はその誘導体であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明の一具現例において、前記培養段階は、前記形質変換段階の後に行われる。
【0027】
本発明の一具現例において、前記MHY1485の処理濃度は、0.1~10.0ug/mL、0.2~10.0ug/mL、0.5~10.0ug/mL、0.8~10.0ug/mL、0.1~5.0ug/mL、0.2~5.0ug/mL、0.5~5.0ug/mL、0.8~5.0ug/mL、0.1~5.0ug/mL、0.2~5.0ug/mL、0.5~5.0ug/mL、0.8~5.0ug/mL、0.8~3.0ug/mL、0.1~3.0ug/mL、0.2~3.0ug/mL、0.5~3.0ug/mL、又は0.8~3.0ug/mL、例えば、1.0~3.0ug/mLであるが、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の一具現例において、前記体細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞、ヒト線維芽細胞及びヒト胎盤由来細胞からなる群から選ばれる1種以上である。
【0029】
本発明の一具現例において、前記胎盤由来細胞は、ヒト絨毛膜板から分離されて培養された胎盤由来線維様細胞である。
【0030】
本発明の一具現例において、前記培養段階は、CXCR2の活性化剤の存在下で行われ、前記活性化剤はリガンド(ligand)であり、前記CXCR2のリガンドは、GRO-α、GRO-β、GRO-γ、GCP-2、NAP-2、ENA-78及びIL-8からなる群から選ばれる1種以上であり、例えば、GRO-α又はIL-8であるが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の一具現例において、前記培養段階は、ヒト胎盤由来細胞の条件化培地で行われる。
【0032】
本発明の一具現例において、前記逆分化誘導方法は、体細胞の培養段階で形成されたコロニーから幹細胞を分離する幹細胞の分離段階をさらに含む。
【0033】
本発明の実施例によれば、体細胞に逆分化因子を形質導入させた後にmTOR活性化剤(MHY1485)を処理すると、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化効率が増加する効果がある。特に、mTOR活性化剤は、PCCM培地を共に使用する場合に、最も優れた逆分化効率の増進効果を呈した。
【0034】
〔発明の効果〕
本発明は、mTOR活性化剤を含む、体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化(reprogramming)効率増進用組成物及びこれを用いた逆分化効率の増進方法に関する。前記方法は、体細胞にOCT4、SOX2、c-Myc及びKLF4からなる逆分化因子を形質導入させた後にmTOR活性化剤を処理することによって、誘導万能幹細胞への逆分化効率を顕著に上昇させる効果がある。したがって、前記組成物及び方法は、効率よく体細胞から誘導万能幹細胞への逆分化の誘導に用いることができる。
【0035】
〔図面の簡単な説明〕
〔
図1A〕体細胞に逆分化(reprogramming)因子を形質導入させ、4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミンを処理しながら培養する過程を示す模式図である。
【0036】
〔
図1B〕MHY1485の処理有無によるヒト臍帯静脈内皮細胞(Primary Umbilical Vein Endothelial Cells,HUVEC)、ヒト線維芽細胞(Primary Dermal Fibroblasts,HDF)及びヒト胎盤由来細胞(Human Placenta derived Cells,HPC)におけるタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットの分析結果である。
【0037】
〔
図1C〕HUVEC、HDF及びHPC細胞に対してMHY1485を処理した場合、オートファジーの抑制されたか否かを確認した免疫蛍光法(Immunofluorescence Assay)の分析結果を示す写真である。
【0038】
〔
図2A〕HUVEC細胞に対して、MHY1485の処理有無及びヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)の使用有無による逆分化(reprogramming)効率の差を比較した写真である。
【0039】
〔
図2B〕HDF細胞に対してMHY1485の処理有無及びヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)の使用有無による逆分化(reprogramming)効率の差を比較した写真である。
【0040】
〔
図2C〕HPC細胞に対してMHY1485の処理有無及びヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)の使用有無による逆分化(reprogramming)効率の差を比較した写真である。
【0041】
〔
図3〕HUVEC、HDF及びHPC細胞に対して、MHY1485の処理有無及びPCCM培地の使用有無による逆分化効率の差を比較したフラフである。
【0042】
〔
図4〕HUVEC、HDF及びHPC細胞に対して、MHY1485を処理した場合とPCCM培地を使用した場合における逆分化効率の差を相互比較したグラフである。
【0043】
〔発明を実施するための形態〕
以下、本発明を下記の実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は、本発明を例示するためのもので、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0044】
本明細書全般において、特定物質の濃度を示すために使用される「%」は、特記しない限り、固体/固体は(重量/重量)%、固体/液体は(重量/体積)%、そして液体/液体は(体積/体積)%である。
【0045】
<実施例1:MHY1485による逆分化効率増進の有無の確認>
mTOR(mammalian target of rapamycin)活性化剤である4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミン(MHY1485、CAS Number 326914-06-1)が逆分化(reprogramming)効率に影響を及ぼすか否かを確認するため、
図1Aのように、ヒト臍帯静脈内皮細胞(Primary Umbilical Vein Endothelial Cells,HUVEC、ATCC#PCS-100-010)、ヒト線維芽細胞(Primary Dermal Fibroblasts,HDF、ATCC#PCS-201-012)及びヒト胎盤由来細胞(Human Placenta derived Cells,HPC)にセンダイウイルス(Sendai virus;SeV)システムを用いて逆分化因子(OCT4、SOX2、c-Myc、KLF4;OSKM)を形質導入した。
【0046】
その24時間後に、ヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)又は成長培地(Growth Medium;GM)で、MHY1485 2ug/mLを24時間毎に1回ずつ3週間処理して1週間培養した後、マトリゲル(Matrigel)コートの培養ディッシュ上に、MHY1485と共にmTeSR培地を用いて一般の万能幹細胞培養条件で2週間逆分化を誘導した。
【0047】
その後、ウェスタンブロットにてCXCR2、mTOR及びcMYCの発現を確認し、幹細胞の標識マーカーに特異的なTra-60にて染色し、オートファジー(autophagic flux)の活性を確認した。
【0048】
図1Bから、MHY1485を処理したとき、体細胞でCXCR2、mTOR、cMYCの発現が増加した反面、LC3a/bの発現は減少し、p62の発現が増加したことから、オートファジーが非活性化されたことが確認できた。
【0049】
図1Cから確認できるように、免疫蛍光法(Immunofluorescence Assay)を行い、mTOR抑制剤であるラマパイシン(Rapamycin)を対照群としてMHY1485を処理したとき、体細胞においてLC3a/bの発現が減少したことから、オートファジーが抑制されたことを検証した。
【0050】
<実施例2:逆分化効率の増進効果におけるMHY1485とCXCR2刺激の相関関係の確認>
図2A~
図2Cから確認できるように、MHY1485を処理した場合に、処理しなかった場合に比べて全ての細胞における逆分化効率が増加した。また、逆分化効率は、GMに比べてPCCMにおいてより優勢であった。
【0051】
したがって、MHY1485の処理によりオートファジーが非活性化され、逆分化効率が増加することを確認した。
【0052】
図3及び表1から確認できるように、MHY1485を処理していない群に比べて処理した群において逆分化効率が有意に高く示された。
【0053】
【0054】
図4及び表2から確認できるように、HUVEC、HDF及びHPC細胞に対して、MHY1485を処理した群及びPCCM培地で逆分化を誘導した群を、3種の細胞においてそれぞれ3つのディッシュ(dish)ずつ確認し、合計n数9個で比較した結果、MHY1485を処理した群において逆分化効率が有意に高かく示された。
【0055】
【0056】
したがって、前記結果は、PCCM培地を用いて得られる逆分化効率の増加効果に比しても、MHY1485を処理することによって得られる逆分化効率の上昇効果が有意に高いことを示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1A】体細胞に逆分化(reprogramming)因子を形質導入させ、4,6-ジ-4-モルホリニル-N-(4-ニトロフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-アミンを処理しながら培養する過程を示す模式図である。
【
図1B】MHY1485の処理有無によるヒト臍帯静脈内皮細胞(Primary Umbilical Vein Endothelial Cells,HUVEC)、ヒト線維芽細胞(Primary Dermal Fibroblasts,HDF)及びヒト胎盤由来細胞(Human Placenta derived Cells,HPC)におけるタンパク質の発現量を示すウェスタンブロットの分析結果である。
【
図1C】HUVEC、HDF及びHPC細胞に対してMHY1485を処理した場合、オートファジーの抑制されたか否かを確認した免疫蛍光法(Immunofluorescence Assay)の分析結果を示す写真である。
【
図2A】HUVEC細胞に対して、MHY1485の処理有無及びヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)の使用有無による逆分化(reprogramming)効率の差を比較した写真である。
【
図2B】HDF細胞に対してMHY1485の処理有無及びヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)の使用有無による逆分化(reprogramming)効率の差を比較した写真である。
【
図2C】HPC細胞に対してMHY1485の処理有無及びヒト胎盤由来細胞の条件化培地(Placenta-derived Cells Conditioned Media;PCCM)の使用有無による逆分化(reprogramming)効率の差を比較した写真である。
【
図3】HUVEC、HDF及びHPC細胞に対して、MHY1485の処理有無及びPCCM培地の使用有無による逆分化効率の差を比較したフラフである。
【
図4】HUVEC、HDF及びHPC細胞に対して、MHY1485を処理した場合とPCCM培地を使用した場合における逆分化効率の差を相互比較したグラフである。
【国際調査報告】