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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】心臓壁張力に関連した値の推定
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0215 20060101AFI20230201BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A61B5/0215
A61B5/11 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533082
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(85)【翻訳文提出日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 EP2020084306
(87)【国際公開番号】W WO2021110761
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】1917582.7
(32)【優先日】2019-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519443848
【氏名又は名称】カーディアックス・アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】クローグ,マグヌス・ラインスフェルト
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA01
4C017AB04
4C017AC20
4C017BC11
4C038VA04
4C038VB31
4C038VC14
4C038VC15
4C038VC20
(57)【要約】
心臓壁張力に関連した値を推定する方法。方法は、心臓における運動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用するステップと、心臓における識別された運動に基づいて心臓壁張力に関連した値を推定するステップとを含む。推定の基礎を形成する心臓における運動は、心臓壁における振動である場合がある。心臓壁張力に関連した値を推定する方法を実施するための心臓監視システムは、心臓における運動を識別するために心臓と連通して配置されるように構成されたセンサと、センサから運動データを受け取り、次いで、方法のステップを実施するように構成されたデータ処理デバイスとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓壁における張力に関連した値を推定する方法であって、
心臓における運動を識別するために前記心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用するステップと、
前記心臓における識別された前記運動に基づいて前記心臓壁における張力に関連した値を推定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記心臓壁における識別された前記運動は、前記心臓の通常の機能の一部として前記心臓に本来備わっているものである、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記心臓における識別された前記運動は、僧帽弁、大動脈弁、肺動脈弁および三尖弁のうちの少なくとも1つの開放および閉鎖の一方又は双方から生じるか、または、前記心臓における識別された前記運動は、前記心臓の収縮および拡張から生じる、方法。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記センサは、少なくとも1つの加速度計と、少なくとも1つの磁力計と、少なくとも1つのジャイロスコープとのうちの少なくとも1つを含む、方法。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記センサは、前記心臓、例えば、心外膜と、心内膜と、心筋とのうちの少なくとも1つに埋め込まれた侵襲的センサである、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、前記センサは、前記心臓に位置するペースメーカリード内に含まれている、方法。
【請求項7】
請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記センサは、コンピュータ断層撮影、心エコー検査、磁気共鳴映像法、レーダに基づくセンサなどの非侵襲的センサである、方法。
【請求項8】
請求項1から7のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記運動データは、前記心臓壁における張力に関連した推定された値がリアルタイムの推定であるように、リアルタイムで記録される、方法。
【請求項9】
請求項1から8のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記心臓における識別された前記運動に基づいて前記心臓壁における張力に関連した値を推定する前記ステップは、前記心臓壁における張力に関連した値における動的変化を評価することができるように、記録される前記運動データによってカバーされる期間にわたって前記心臓壁における張力に関連した値を繰り返し推定するステップを含む、方法。
【請求項10】
請求項1から9のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記心臓壁における張力に関連した推定された前記値に基づいて前記心臓の血液量状態を推定するステップをさらに含む方法。
【請求項11】
請求項1から10のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記心臓壁における張力に関連した前記値は、前記心臓壁における張力である、方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法であって、前記心臓壁における推定された前記値に基づいて心室前負荷を推定するステップをさらに含む方法。
【請求項13】
請求項1から10のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記心臓壁における張力に関連した前記値は、心室前負荷である、方法。
【請求項14】
患者固有のフランク-スターリング曲線を生成する方法であって、
心室前負荷の推定が得られるように、請求項12または13に規定の方法のステップを実施するステップと、
心室前負荷の前記推定と同時期に患者心臓機能の測定を取得するステップと、
患者心臓機能の前記測定および心室前負荷の前記推定に基づいて患者固有のフランク-スターリング曲線を生成するステップと
を含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
心室前負荷の少なくとも1つの別の推定が得られるように、前記運動データによってカバーされる異なる時点において少なくとももう一度、請求項12または13に規定の方法のステップを実施するステップと、
心室前負荷の前記少なくとも1つの別の推定と同時期に患者心臓機能の少なくとも1つの別の測定を取得するステップと、
患者心臓機能の各測定および心室前負荷の各推定に基づいて前記患者固有のフランク-スターリング曲線を生成するステップと
を含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記運動データによってカバーされた前記異なる時点において、前記心臓は、前記心臓の流体負荷および除荷の一方又は双方により異なる血液量状態である、方法。
【請求項17】
請求項14から16のうちのいずれか一項に記載の方法であって、心臓機能の前記または各測定は、前記心臓とやりとりする前記センサによって記録された運動データを使用して測定される、方法。
【請求項18】
請求項13に記載の方法であって、前記心臓における識別された前記運動は、患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたる心臓壁運動を含む、方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記方法は、前記患者の前記少なくとも1つの換気サイクルにわたって前記心臓壁運動における変化を決定するステップを含み、心室前負荷を推定するステップは、前記患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたる前記心臓壁運動における前記変化に基づいて心室前負荷を推定するステップを含む、方法。
【請求項20】
請求項1から17のうちのいずれか一項に記載の方法であって、前記心臓における識別された前記運動は、前記心臓壁における振動を含む、方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法であって、
前記心臓壁における振動の周波数を決定するステップと、
前記振動の前記周波数に基づいて、前記心臓の前記壁における推定された張力または推定された心室前負荷を計算するステップと
をさらに含む方法。
【請求項22】
心臓監視システムであって、
心臓における運動を識別するために前記心臓と連通して配置されるように構成されたセンサと、
データ処理デバイスであって、
前記センサから運動データを受け取り、
受け取った前記運動データから前記心臓における運動を識別し、
前記心臓における識別された前記運動に基づいて心臓壁における張力に関連した値を推定するように構成されたデータ処理デバイスと
を含む心臓監視システム。
【請求項23】
請求項22に記載の心臓監視システムであって、前記データ処理デバイスは、請求項1から21のうちのいずれか一項に記載の方法を実施するように構成された、心臓監視システム。
【請求項24】
請求項22または23に記載の心臓監視システムであって、前記センサは、少なくとも1つの加速度計と、少なくとも1つの磁力計と。少なくとも1つのジャイロスコープとのうちの少なくとも1つを含む、心臓監視システム。
【請求項25】
請求項22から24のうちのいずれか一項に記載の心臓監視システムであって、前記センサは、前記心臓、例えば、心外膜と、心内膜と、心筋とのうちの少なくとも1つに埋め込まれるように構成された侵襲的センサである、心臓監視システム。
【請求項26】
請求項25に記載の心臓監視システムであって、前記センサは、前記心臓に位置するペースメーカリード内に含まれている、心臓監視システム。
【請求項27】
請求項22から24のうちのいずれか一項に記載の心臓監視システムであって、前記センサは、コンピュータ断層撮影、心エコー検査、磁気共鳴映像法、または、レーダに基づくセンサなどの非侵襲的センサである、心臓監視システム。
【請求項28】
実行されたとき、請求項1から21のうちのいずれか一項に記載の方法を実施するようにデータ処理装置を構成する命令を含むコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓壁張力に関連した値を推定および評価する方法に関する。発明は、さらに、対応する装置およびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
心拍出量は、全身へ心臓によって圧送される血液の体積流量を示す血流パラメータである。心拍出量は、心臓性能、特に、体内でのかん流の需要を満たすための心臓の能力の重要な指標である。心拍出量は、患者の心拍数に、全身へ心臓、特に心臓の左心室によって圧送される血液の体積(一回拍出量)を乗じた積である。
【0003】
心臓の一回拍出量、すなわち心拍出量は、収縮性、後負荷および前負荷を含む多数の要因に依存する。
収縮性は、心臓の「パワー」と等しく、前負荷または後負荷のいかなる変化も存在しないときに心筋が収縮する能力を示す。
【0004】
後負荷は、収縮期(心臓の収縮段階)の間の心臓の左心室からの血液の吐出に対抗して提供される患者の循環系における抵抗である。抵抗は、細動脈の直径および身体についての前毛細血管括約筋によって決定される。細動脈および身体についての前毛細血管括約筋がより狭くなるまたはより収縮させられると、抵抗がより高くなる。後負荷は、収縮期の間に血液を吐出するために心臓が対抗して働かなければならない動脈圧に対応するものとして理解することができる。
【0005】
前負荷は、心臓の収縮の直前の、拡張期(すなわち、心臓の充填段階)の最後の心筋壁応力であり、したがって、拡張期の最後の心臓壁における張力に直接相当する/関連する(したがって、それから導き出すことができる)。前負荷は、拡張終期貫壁性圧力として定義することもできる。前負荷は、拡張期の最後の心室容積に直接関連する。なぜならば、より高いレベルの心室充填は、一般に、心筋内のより大きな応力/張力、したがって、より高い前負荷を生じる。他方、前負荷は、身体から心臓への静脈血の戻りに直接関連すると見ることができる。なぜならば、静脈還流は、拡張期の最後の左心室容積に直接関連するからである。
【0006】
増大した心室前負荷は、増大した一回拍出量、ひいては、増大した心拍出量につながる。前負荷と一回拍出量との関係は、心臓のフランク-スターリングの法則として知られており、これは、全ての他の要因が一定にとどまるとき、心臓の一回拍出量が、前負荷の増大に応答して増加するというものである。これは、少なくとも部分的に、より大きな前負荷が心筋繊維のより大きな伸びを生じることにより、心臓の収縮の力の増大につながる。
【0007】
フランク-スターリングの法則のグラフ表示は、横軸の前負荷に対する縦軸の一回拍出量のプロット1である図1に示されている。プロットは、異なる収縮性の3つの異なる心臓を表す3つの異なるフランク-スターリング曲線3a~3cを示している。曲線3bは、静止時の、中間収縮性を有する典型的な健康な心臓を表し、曲線3cは、運動中の、高い収縮性を有する典型的な健康な心臓を表し、曲線3aは、低い収縮性を有する、病気の衰えた心臓を表す。各曲線3a~3cについて、心臓のフランク-スターリングの法則に従って一回拍出量と前負荷との間に比例が存在することをまず見ることができる。しかしながら、前負荷がさらに増大すると、最終的に心筋繊維は過剰に延伸させられ、その結果、一回拍出量が最終的に減少し始める。前負荷の増大が一回拍出量の減少を生じる時点は、各曲線3a~3cにおける最大値5a~5cによって表されている。曲線3a~3cは、任意の前負荷の場合、どのようにより高い収縮性を有する心臓(例えば、曲線3a)が、より低い収縮性を有する心臓(例えば、曲線3c)よりも大きな一回拍出量を有するかも示す。
【0008】
したがって、心室前負荷は、心臓の一回拍出量、ひいては心拍出量に直接かつ測定可能な影響を有し、したがって、心拍出量における重要な決定要因である。したがって、心臓の健康を監視することができるように監視および評価することが望ましいパラメータである。
【0009】
しかしながら、前負荷は、監視することが望ましい心臓の唯一のパラメータではない。より全体的に心臓壁における張力を監視することも望ましく、心拍サイクルにおける様々な他の段階における心臓壁における張力に関連したまたは直接関連した、監視することができることが重要であるまたは望ましい、心臓の複数のその他の生理学的パラメータが存在する。例えば、心臓の収縮性を監視することができることが望ましい。なぜならば、これは、心臓のパワーおよび全体的な健康についての洞察を与えることができるからである。心臓の収縮期の最後の心臓内の張力は、収縮性に関する洞察を与えることができる。したがって、監視することができることが望ましいのは、心臓の拡張期の最後における張力および前負荷だけではない。
【0010】
心室前負荷の推定を可能にする従来技術のシステムは、ドイツのPulsion Medical Systems AGによって紹介されたPulse Contour Cardiac Output(PiCCOTM)システム、およびイングランドのLiDCO Limitedによって紹介されたLiDCOTMシステムを含む。
【0011】
PiCCOTMシステムは、2つの原理に基づいて働く。第1は、心臓への静脈還流の体積(ひいては、上述のように、前負荷)が、胸郭内圧に反比例して関連しているということである。第2は、患者の機械換気中の胸郭内圧変化が、換気サイクル中に動脈圧変化を生じ、胸郭内圧および動脈圧は図2に示されているように互いに比例するということである。
【0012】
図2は、時間を表す共通の横軸に示された、気道内圧のプロット10および動脈圧のプロット20である。プロット20の領域11は、呼吸(吸気および呼気)の期間であり、その間、空気の取り込みは、最大胸腔内圧に対応する最大気道内圧13を生じる。これとほぼ一致して、最大気道内圧13は、高い胸腔内圧の結果としての患者の最大動脈収縮期血圧21である。領域15は、呼吸サイクルにおける休止を表し、その間、気道内圧、ひいては胸腔内圧は最小である。このような休止の間、収縮期血圧も最小23に達する。
【0013】
図3は、時間を表す横軸に対する、縦軸における一回拍出量のプロット30である。図3に示されたタイプの一回拍出量トレースは、図2に示されたものなど、PiCCOTMシステムによって記録された動脈圧測定から導き出すことができる。一回拍出量のプロット30は、機械換気の間に変化する胸腔内圧から生じる、時間の経過における一回拍出量の変化を示すという点において、図2に示された動脈圧のプロット20に特徴が類似している。最大一回拍出量31および最小一回拍出量33がプロット上に示されており、これらは、それぞれ換気サイクルの間の最小胸腔内圧および最大胸腔内圧と一致する。
【0014】
PiCCOTMシステムは、一般に、腋窩動脈、上腕動脈、大腿動脈または橈骨動脈へ挿入され、それにより、換気の間の動脈圧変化を測定する血管内カテーテルを利用する。較正目的のために、低温または室温生理食塩水ボーラスが注入され、この影響が動脈サーミスタによって測定される。記録された結果的な動脈圧データ(プロット20に示されたものなど)から、パーセント脈圧変化(PPV)および/またはパーセント一回拍出量変化(SVV)を、以下の数式(1)および(2)に従って換気サイクルの間に測定および計算された、最大(例えば、21)および最小(例えば、23)収縮期圧ならびに最大(例えば、31)および最小(例えば、33)一回拍出量に基づいて決定することができる:
【0015】
【数1】
【0016】
ここで、SVmaxは、換気サイクルの間の最大一回拍出量(例えば、31)であり、SVminは、換気サイクルの間の最小一回拍出量(例えば、33)であり、PPmaxは、換気サイクルの間の最大脈圧(例えば、21)であり、PPminは、換気サイクルの間の最小脈圧(例えば、23)である。
【0017】
決定されたPPV/SVVは、前記換気サイクルの間の平均動脈圧/一回拍出量と比較して、換気サイクルの間の動脈圧/一回拍出量の相対的な変化を示している。したがって、高いPPV/SVVは、それぞれ低い動脈圧/一回拍出量を示している。前負荷との前述の関係が与えられると、低い動脈圧/一回拍出量が決定された場合、前負荷も低いと推定することもできる。
【0018】
したがって、PiCCOTMシステムを使用した動脈圧読み取りに基づいて計算されたPPVおよび/またはSVVを決定および監視することによって、心室前負荷を監視することができる。15%よりも大きいPPVおよび/またはSVVは、一般的に、低い心室前負荷を示している。10%よりも低いPPVおよび/またはSVVは、通常の十分な前負荷を有する心臓を示していると見られる。
【0019】
PiCCOTMシステムを使用して決定されたPPVおよび/またはSVV値は、さらに、心臓の血液量状態を評価するために、患者の監視された心拍出量に関連して使用される場合がある。特に、心臓が、通常の十分な前負荷(すなわち、<10%のPPVおよび/またはSVV)を有すると決定されるが、心臓が、減少した心拍出量を有するとも決定される場合、心筋繊維が血液量過多によって過剰に延伸させられ、したがって、心臓が過負荷および心不全のリスクにあると決定することができる。対応するが逆の論理は、血液量減少心臓の決定を可能にする。患者の血管内血液量状態は、最重要の血行力学変数であることが当業者に認められるであろう。
【0020】
LiDCOTMシステムは、患者のSVVを決定するために患者の機械換気の間の圧力測定の変化に依存し、これにより、前負荷が推定されることを可能にするという点において、PiCCOTMシステムと類似のベースで働く。心臓の血液量状態は、上記のようにPiCCOTMと類似の形式でLiDCOTMを使用して監視される場合もある。LiDCOTMシステムは、PiCCOTMに関連して上記で概説したものと類似の侵襲的圧力カテーテルに依存する場合があるか、または脈圧測定が行われることを可能にするために、より侵襲的でない、またはさらには非侵襲的な圧力センサを使用する場合もある。しかしながら、使用される場合があるより侵襲的でないセンサは、上記で説明された侵襲的圧力カテーテルよりも一般的に正確および精確でない。LiDCOTMは、少量のリチウムを静脈内に(あらゆる静脈であり、必ずしも中心静脈ではない)注入することによって行われる較正に依存する。動脈リチウム濃度は、患者の既存の動脈経路に取り付けられたリチウムセンサに血液を通過させることによって記録される。結果的な濃度-時間曲線により、心拍出量を計算することができる。
【0021】
両PiCCOTMおよびLiDCOTMシステムは、前負荷が監視されることを可能にするが、監視は間接的監視である。PiCCOTMおよびLiDCOTMシステムを使用する前負荷値は、直接監視されるのではなく圧力測定から推測される。したがって、これらのシステムは、前負荷のための代理を監視し、前記代理から前負荷に関する推測を行うことに依存する。これは、不正確さに関連している。なぜならば、これらの代理値と前負荷との間に直接の対応が必ずしも存在しないからである。
【0022】
さらに、PiCCOTMおよびLiDCOTMシステムは、好ましくは、侵襲的圧力カテーテルに依存する(侵襲性に依存しないシステムは、上記のように、より不正確かつ不精確である)。このような侵襲的機器は、有意でない健康リスクに関連しておりかつさらに病院セッティングなどにおいて医学的に訓練された専門家の監督下でのみ使用することができる。したがって、このようなシステムは、不十分な可動性を有し、患者が通常の日常生活を送るときに病院セッティングの外部において連続ベースで患者を監視するために使用することができない。むしろ、これらのシステムは、断続的な、患者内ベースで使用される。
【0023】
さらに、PiCCOTMおよびLiDCOTMは、心室前負荷の監視のみを可能にし、より一般的に心臓壁張力の監視を可能にしないという点においてそれらの用途が制限されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
その結果、前負荷、より一般的に心臓壁における張力、および心臓壁における張力に関連したその他のパラメータおよび値を監視するための改良された代替的な方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
最も広い意味において、本発明は、心臓の運動に基づいて心臓壁における張力(すなわち、心筋における張力)に関連した値を推定する方法を提供する。1つの態様において、本発明は、したがって、心臓壁における張力に関連した値を推定する方法であって、方法は、心臓の運動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、心臓の識別された運動に基づいて心臓壁における張力に関連した値を推定することを含む。
【0026】
発明者らは、心臓における張力、およびその他の関連する値およびパラメータを、心臓における/心臓の運動に基づいて推定することができるという自明でない認識に至った。したがって、心臓壁における張力に関連した値のパラメータの間接的な推定を提供するために、従来技術のLiDCOTMおよびPiCCOTMにおけるように、動脈圧測定に依存することが要求されない。したがって、心臓壁張力、および心臓壁張力に関連した値および生理学的パラメータ(例えば、前負荷)のより正確かつ精確な推定が、例えば、従来技術のLiDCOTMおよびPiCCOTMシステムと比較して、第1の態様の方法によって達成される場合がある。特に、より高い精度/正確性は、第1の態様の方法によって達成される場合がある。なぜならば、大動脈弁逆流および過減衰または不足減衰された動脈圧波形などの、LiDCOTMおよびPiCCOTMシステムにおける圧力測定に影響する外部要因が、対応して、本発明の第1の態様の推定が依存する心臓の識別される運動に影響しないからである。
【0027】
その後の推定の基礎として使用される心臓の運動は、選択的に、心臓自体に本来備わっている運動である。すなわち、この運動は、心臓の通常の機能の一部として自然に生じる場合があり、幾つかの外部要因(例えば、活性剤)によって誘発されるのではない。例えば、以下でより詳細に説明するように、運動は、心臓サイクルにおける様々な段階から生じる場合がある。運動は、そのサイクルの間に心臓において閉鎖および/または開放する1つまたは複数の弁(例えば、弁から生じる振動)から生じる場合がある。これは、僧帽弁、大動脈弁、肺動脈弁および/または三尖弁のうちのいずれかである場合がある。代替的に、運動は、心臓サイクルの間に収縮および拡張するときの心臓壁自体の運動である場合がある。
【0028】
代替例として、推定の基礎として使用される心臓の運動は、誘発される運動(すなわち、活性剤またはその他の類似の手段によって人工的に生成されるもの)である場合がある。
【0029】
有利には、方法は、心臓の壁部における振動の形式の心臓の運動を使用する場合がある。発明者らは、あらゆる任意の時点における心臓壁における測定された振動の周波数を、その特定の時点の心臓壁における張力を推定するために使用することができ、この推定された張力をこれにより選択的に、心臓壁における張力に関連したその他の値を推定するために使用することができるという非自明の認識に至った。これは、心臓壁内の振動の周波数が、ドラムスキンの張力が生成される音に影響するのと同様に、振動の時点の心臓壁における張力を示しているからである。その結果、心臓壁内の識別された振動の周波数を測定することによって、心臓壁における張力、ひいては心臓壁における張力に関連した壁応力(例えば、心室前負荷)またはその他の値およびパラメータを推定することができる。
【0030】
心臓壁張力を決定するための心臓の壁部における振動の使用は、数式(3)に示された、振動するモノコードのメルセンヌの法則から導き出すことができる:
【0031】
【数2】
【0032】
ここで、fはモノコードの振動の周波数、Lはモノコードの長さ、Tはモノコードの張力、μはモノコードの密度である。心臓の壁部における各筋繊維をモノコードとしてモデル化することによって、心臓壁における張力が、心臓における振動の周波数の二乗に、心臓壁における筋繊維の長さの二乗と、筋繊維の密度とを乗じたものに比例するということを導き出すことができる。いずれかの任意の時点において、筋繊維の密度および長さが一定のままであると仮定すると、心臓壁における張力は、その時点における心臓の壁部における振動の周波数の二乗に正比例すると考えることができる。したがって、任意の時点での心臓の壁部における振動の周波数の決定は、心臓の壁部における張力が推定されることを可能にする。
【0033】
したがって、上記に基づいて、心臓サイクル内のあらゆる任意の時点において、その時点では筋繊維の長さLおよびそれらの密度μは一定であると考えることができ、心臓壁における振動の周波数fは、心臓壁内の張力Tの平方根に比例すると理解することができる。したがって、心臓壁内の振動の周波数を測定することによって、心臓壁における張力を推定することができ、その後、心臓壁における張力に関連したその他の値またはパラメータが推定される場合がある。心臓壁における測定された振動に基づいて心臓壁における張力を直接計算し、これにより、選択的に、心臓壁における張力に関連したその他のパラメータまたは値を推定するというこの概念は、その自己の権利において独立してユニークでありかつ発明的であると考えられる。これまでの従来技術の方法は、上述の心臓壁張力/前負荷のための測定された代理変数に基づいて心臓壁における張力または心室前負荷に関連して推測が導かれることのみを可能にしていた。本発明は、心臓壁張力およびそれに関連したパラメータ/値の直接計算を可能にし、これは、ユニークであり、従来技術において以前は考えられていない。
【0034】
第1の態様の方法は、さらに、心臓壁における張力に関連した推定された値に基づいて心臓の血液量状態または時間の経過における血液量状態の相対的変化を推定するステップを含む場合がある。前記説明およびラプラスの法則(以下の数式(4)を参照)から導き出すことができるように、心臓壁における張力は、心室容積に直接関連している。したがって、心臓壁における張力に関連した値を推定することによって、心室の血液量状態の推定も推定することができる。
ラプラスの法則は:
(4)σ=Pr/w
ここで、σは心臓の壁部における応力(張力に直接関連している)であり、Pは心室内圧であり、rは心室径であり、wは心臓壁の厚さである。心臓サイクルの任意の時点において、心臓内の壁圧wおよび圧力Pは一定であると仮定することができる。その結果、この任意の時点における壁応力σは、それ自体は心臓の容積に直接関連している心室径rに正比例していることを導き出すことができる。したがって、心臓壁における張力に関連した値を推定することによって、心臓の血液量状態も推定される場合があるかつ/または時間の経過における心臓の血液量状態の相対的変化が推定される場合がある。
【0035】
第1の態様の方法は、時間の経過における心臓の壁部における張力に関連した値の動的変化を監視するために使用される場合がある。すなわち、第1の態様の方法は、時間の経過における心臓壁における張力に関連した複数の異なる値を監視/推定するために使用される場合がある。これは、時間の経過において第1の態様の方法のステップを繰り返すことによって達成される。したがって、第1の態様の方法は、第1の時点における心臓の運動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、第1の時点における心臓の識別された運動に基づいて心臓壁における張力に関連した値を推定することと、少なくとも1つの別の時点における心臓の運動(例えば、心臓の壁部における振動)を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、少なくとも1つの別の時点における心臓の識別された運動に基づいて心臓壁における張力に関連した別の値を推定することを含む場合がある。このような方法は、時間の経過において発展/変化するときの心臓壁における張力に関連した値の連続的な監視を可能にするために連続的/反復的に使用することができる。
【0036】
したがって、第1の態様の方法は、例えば、患者が、心臓壁張力に関連した値をリアルタイムにライブで知ることが有益である治療を受けているとき、リアルタイムで患者の心臓壁における張力に関連した値を連続的に監視および/または推定するために使用される場合がある。上記の従来技術は、ある別個の期間にわたって平均的な心室前負荷のみ(より一般的に心臓壁張力値ではなく、心室前負荷のみ)を推定する場合がありかつ/または連続的監視にはあまり適していない場合がある。特に上述のPiCCOTMシステムは、熱希釈較正に依存し、血管コンプライアンスに基づいてドリフトする。したがって、PiCCOTMは、血管コンプライアンスの変化が生じたとき再較正を必要とし、したがって、このようなシステムを連続的監視により適していないものにしている。
【0037】
第1の態様の方法は、リアルタイムで記録された運動データに基づいてリアルタイムで行われる場合がある。代替的に、方法は、遡及的推定として行われる場合がある。すなわち、心臓壁張力に関連した値が、前に記録された運動データに基づいて推定される場合がある。
【0038】
心臓の運動データを識別するために使用される、心臓とやりとりするセンサは、例えば、加速度計、磁力計、ジャイロスコープ、小型超音波センサなどである場合がある。センサは、センサによって受ける移動および/または加速度に基づいて心臓の運動を検出するための運動センサである場合がある。このようなセンサは、患者内に埋め込まれる侵襲的センサである場合がある。例えば、このようなセンサは、心臓に埋め込まれる場合がある。このようなセンサは、心外膜、心臓内または心筋自体内に埋め込まれる場合がある。埋め込まれたセンサは、侵襲的心臓センサと説明される場合がある。
【0039】
センサは、心臓壁張力に関連した値を推定するという目的の代わりの目的で心臓に/患者内に前もって埋め込まれている場合がある。例えば、以下に概説するように、センサは、患者の心臓に既に埋め込まれたペースメーカデバイス内に組み込まれる場合がある。心臓に前もって埋め込まれたセンサからの運動データを使用することによって、第1の態様の方法を行うために必要とされる追加的なセンサを埋め込むことに関連した患者への健康リスクが減じられる。
【0040】
ペースメーカデバイスを使用することが公知であり、この場合、ペースメーカリードは、心臓再同期療法の目的でペースメーカ電極と共に心臓に配置される運動センサ(例えば、加速度計および/またはジャイロスコープ)を組み込む。したがって、上記方法のセンサは、心臓再同期療法またはその他のために前もって埋め込まれたデバイスである場合があるペースメーカリードにおける運動センサである場合がある。これらのタイプの運動センサ向上ペースメーカデバイスは既に使用されているので、本目的の方法は、センサを制御しかつ/またはセンサの出力を処理するためのソフトウェアへの追加によって、既存のシステムに追加し、既存の患者とともに使用することができる。
【0041】
代替的に、心臓の運動データを識別するために使用されるセンサは、非侵襲的タイプである場合がある。このようなセンサは、コンピュータ断層撮影、心エコー検査、磁気共鳴映像法、レーダなどの非侵襲的撮像技術に基づく場合がある。代替的に、このような非侵襲的センサは、センサ、例えば、加速度計、ジャイロスコープおよび/または磁力計を含むセンサによって受ける移動および/または加速度に基づいて心臓の運動を検出するための運動センサである場合がある。このタイプの運動センサは、心臓の近くの患者の胸部の皮膚に配置される場合がある。
【0042】
このような非侵襲的技術は、心臓壁運動が非侵襲的に監視されることを可能にし、心臓壁張力に関連した値の決定のためにセンサが患者内に外科的に挿入されることを必要としない。したがって、例えば、一般的に圧力カテーテルの外科的埋込みに依存する従来技術のLiDCOTMおよびPiCCOTMシステムと比較した場合、患者の健康に対する著しく減じられたリスクが存在する。
【0043】
振動に基づいて心臓壁張力に関連した値を決定するという概念は、特徴の特に有益な組み合わせであると見られる。したがって、発明の例示的な実施形態において、心臓壁における張力に関連した値を推定する方法であって、方法は、心臓の壁部における振動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、心臓の壁部における振動の周波数を決定することと、振動の周波数に基づいて心臓の壁部における張力に関連した推定される値を計算することを含む方法が提供される。
【0044】
第1の態様の方法を使用して推定される心臓壁における張力に関連した値は、実際には、心臓壁における張力から導き出されるまたはこれに関連した幾つかの値またはパラメータではなく、心臓壁における張力自体である場合がある。したがって、選択的な実施形態において、発明は、心臓壁における張力を推定する方法であって、方法は、心臓における運動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、心臓における識別された運動に基づいて心臓壁における張力を推定することを含む方法を提供する。
【0045】
推定される張力は、心臓のサイクル内のあらゆる任意の時点における心臓壁の張力である場合がある。例えば、心臓壁における張力は、心臓の収縮期の最後における張力である場合がある。なぜならば、これは、心臓の収縮性に関する洞察を与えることができるからである。これは、例えば、第2心音および/または大動脈弁および/または肺動脈弁の閉鎖によって誘発される振動に基づいて張力を計算することによって達成される場合がある。発明の第1の態様の方法は、したがって、心臓壁における推定された張力に基づいて、例えば、収縮性または後負荷を推定する追加的なステップを含む場合がある。
【0046】
しかしながら、上記のように、(心臓の拡張期の最後の心臓壁における張力に比例する)心室前負荷を推定することが特に興味を持たれる。したがって、発明の選択的な形態において、発明の第1の態様の方法は、心臓の拡張期の最後の心臓壁における張力を推定することを含む。これから、心臓の心室前負荷が推定される場合がある。発明の第1の態様の方法は、したがって、追加的に、心臓壁における推定された張力に基づいて心室前負荷を推定することを含む場合がある。
【0047】
代替的に、第1の態様の方法を使用して推定された心臓壁における張力に関連した値は、心室前負荷である場合がある。すなわち、心臓壁における張力を推定する別のステップがない場合があり、方法は、心臓における識別された運動に基づいて心室前負荷を推定するステップへ直接進む場合がある。
【0048】
したがって、選択的な実施形態において、発明は、心室前負荷を推定する方法であって、方法は、心臓における運動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、心臓における識別された運動に基づいて心室前負荷を推定することを含む方法を提供する。
【0049】
心室前負荷は、心臓の右心室の前負荷である場合がある。代替的に、心室前負荷は、心臓の左心室の前負荷である場合がある。
推定の基礎として振動が使用され、方法が、(心臓における識別された運動から直接にまたは心臓壁における張力の推定に基づいて)心室前負荷を推定するためのものである実施形態において、心臓の壁部における振動は、あらゆる時点である場合があるのに対し、心臓壁における心筋壁応力が、任意の心臓サイクルのための拡張末期における、または拡張末期に近い、拡張末期における最大値、または拡張末期付近である。なぜならば、これらの時点は、前負荷と同期しているからである。このような時点は、心臓の収縮の直前である。心臓の壁部におけるこの振動は、したがって、例えば、心臓の少なくとも1つの収縮期の開始時、心臓の少なくとも1つの拡張期の終了時、少なくとも1つの心臓サイクルの開始時および/または心臓の電気刺激の開始と心臓の駆出期の開始時との間の時間におけるものである場合がある。上記説明から導き出すことができるように、上記の時点のいずれかにおける心臓壁における応力は、心室前負荷と近接してまたは直接に対応する。
【0050】
上記説明を考慮して、心室前負荷を推定するために使用される心臓壁における振動は、心臓の収縮の直前の時点と同期する(例えば、拡張期の最後および/または収縮期の最初と同期する)ことが認められるであろう。したがって、収縮期の開始時と同期するならば、僧帽弁閉鎖および/または第1心音の結果生じる心臓の壁部における振動を測定することが有利である。その他の心臓イベントから生じる振動は、追加的かつ/または代替的に測定され、心室前負荷を推定するために使用される場合がある。追加的かつ/または代替的に、心臓壁内で人工的に誘発される振動が測定され、心室前負荷を推定するために使用される場合がある。
【0051】
しかしながら、心臓における識別された運動に直接基づく心室前負荷の推定は、推定の基礎として振動に依存する方法に限定されない。心臓の壁部における振動の代わりに、心室前負荷は、患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたる心臓壁運動の変化に基づいて推定される場合がある。したがって、心臓における運動を識別するために心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用するステップは、少なくとも1つの換気サイクルにわたって心臓壁における運動を識別することを含む場合がある。方法は、次いで、さらに、患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたって心臓壁運動の変化を決定するステップを含む。
【0052】
心臓壁運動の変化は、心臓サイクルの間の心臓壁の運動の変化であると理解することができる。すなわち、識別される運動は、心臓の収縮期および拡張期の両方の間の心臓壁の動きである場合がある。心臓壁運動の変化は、心筋運動の変化であるといわれる場合もある。
【0053】
発明者らは、心室前負荷を推定するために少なくとも1つの換気サイクルにわたる心臓壁運動の変化を使用することができるという認識に至った(しかしながら、このような方法は、心室前負荷の推定に限定され、より一般的に心臓壁張力または心臓壁張力に関連した値により広く適用可能ではない)。この認識は、従来技術のPiCCOTMおよびLiDCOTMシステムが基づく同様の原理に基づき、結果的な方法は、専用の余分な圧力(および/または温度)センサのための必要性を回避することによって高められる。上記のように、心臓への静脈還流の体積(したがって前負荷)は、胸腔内圧に反比例する。加えて、心臓壁運動は、静脈還流の体積に正比例する(したがって、前負荷に反比例する)。これは、拡張期の最後における心臓における血液のより大きな体積を有する心臓が、より大きく、したがって、収縮期の間により大きな収縮を受ける可能性があるからである。したがって、換気サイクルの経過にわたって、心臓壁運動は、変化する胸腔内圧の結果生じる異なる前負荷により変化する。その例示的実装が数式(5)に示されている少なくとも1つの換気サイクルにわたって心臓壁運動の相対的変化を測定することによって、少なくとも1つの換気サイクルの間の心臓壁変化に関する指示を決定することができる。
(5) PPDV%=(PPDmax-PPDmin)/((PPDmax+PPDmin)/2)×100
ここで、PPDV%は換気サイクルの間のピークとピークの間の変位量変化であり、PPDmaxは換気サイクルの間の最大のピークとピークの間の変位量であり、PPDminは換気サイクルの間の最小のピークとピークの間の変位量である。
【0054】
別の例として、心臓壁運動の相対的変化は、換気サイクルの間の心臓壁の速度の変化を用いて測定することができる。
上述の前負荷との比例性が与えられると、少なくとも1つの換気サイクルの間の心臓壁運動の変化は低いと決定された場合、心室前負荷が十分に高いことを推定することもできる。少なくとも1つの換気サイクルの間の心臓壁運動の変化が高いと決定された場合、心室前負荷が低いことを推定することもできる。
【0055】
患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたる心臓壁運動の変化に基づいて心室前負荷を推定するという概念は、特徴の特に有益な組合せであると見られる。したがって、発明の例示的な実施形態において、患者の心室前負荷を推定する方法であって、方法は、心臓壁運動を識別するために患者の少なくとも1つの換気サイクルの間に心臓とやりとりするセンサによって記録された運動データを使用することと、患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたる心臓壁運動の変化を決定することと、患者の少なくとも1つの換気サイクルにわたる心臓壁運動の変化に基づいて心室前負荷を推定することを含む方法が提供される。
【0056】
上記で説明したように、前負荷は、監視するのが望ましい心臓壁における張力に関連した唯一の値ではない。監視するのが望ましい(例えば、心臓サイクルにおける様々なその他の段階における)心臓壁における張力に関連したまたは直接関連した心臓の複数のその他の生理学的パラメータが存在する。したがって、発明の第1の態様の方法において、心臓壁における張力に関連した値は、例えば、収縮性または後負荷である場合がある。代替的に、心臓壁における張力に関連した値は、拡張末期以外の心臓の段階における心臓壁の張力自体である場合がある。
【0057】
心臓壁における張力に関連した値の推定、およびそれから導き出すことができる生理学的パラメータは、患者を評価するために様々な方式で使用される場合があることが認められるであろう。推定された心室前負荷に関する1つの例示的な実装は、患者固有のフランク-スターリング曲線を生成することを伴う。上記のように、心臓のフランク-スターリングの法則は、全ての他の要因が一定のままであるとき、心室前負荷の増大に応答して心臓の一回拍出量が増大するというものである。フランク-スターリング曲線は、図1のものと類似の表現であり、心臓機能の測定とともに前負荷の推定を取得することによって、あらゆる任意の患者のための適切な曲線を正確にマッピングすることが可能になる。
【0058】
したがって、発明の別の態様によれば、患者固有のフランク-スターリング曲線を生成する方法が提供される。方法は、心室前負荷の推定を決定するために、関連する先行する記述のいずれかにおいて規定された方法を実施することと、心室前負荷の推定と同時期(すなわち、同時に)に患者の心臓機能の測定を取得することと、患者の心臓機能の測定および心室前負荷の推定に基づいて患者固有のフランク-スターリング曲線を生成することを含む。
【0059】
上記方法から生成された患者固有のフランク-スターリング曲線は、患者の異なる推定された心室前負荷の範囲に基づいて生成された場合、改善されることが認められるであろう。したがって、この別の態様の方法は、有利には、心室前負荷の複数の推定が取得されるようにある期間にわたって関連する先行する記述において規定された方法のステップを反復することと、心室前負荷の各推定と同時期の患者の心臓機能の複数の測定を取得することと、患者の心臓機能の複数の測定および心室前負荷の複数の推定に基づいて患者固有のフランク-スターリング曲線を生成することを含む。
【0060】
生成された患者固有のフランク-スターリング曲線は、心臓の異なる血液量状態の範囲に基づいて生成された場合、改善されることが認められるであろう。異なる血液量状態の範囲に基づいて生成されたフランク-スターリング曲線は、患者の流体応答性をより良く予測することができる。これは、認められるように、特に有利である。なぜならば、最も顕著なことには、流体蘇生は、しばしば重症患者における防御の最前線であり、したがって、流体の投与が、危篤状態にあるこのような患者にどのように影響しやすいかの改善された知識は、生命を救う助けとなることができる。したがって、心臓が異なる血液量状態にあるときに、心室前負荷の複数の推定のうちの少なくとも1つ、有利には複数が推定される。有利には、心室前負荷の複数の推定は、心臓の異なる血液量状態の範囲にわたって記録される。
【0061】
心臓の異なる血液量状態は、人工的に心臓に流体を充填および除去することによって誘発される場合がある。
患者固有のフランク-スターリング曲線を生成するために推定された心室前負荷に関連して使用される心臓機能の測定は、一回拍出量、心拍出量、最大収縮期流速、圧力-変位ループ面積および/または心臓機能のあらゆるその他の適切な測定である場合がある。心臓機能のこのような測定は、心臓における運動を識別するために心臓とやりとりするセンサを使用して決定される場合がある。例えば、一回拍出量は、例えば心臓内または心臓に埋め込まれた加速度計を使用して決定される心臓壁速度に基づいて決定される場合がある。例えば、Halvorsen,P.S.ら、Automatic real-time detection of myocardial ischemia by epicardial accelerometer.J.Thorac.Cardiovasc.Surg.139,1026-32(2010)、Grymyr,O.H.N.ら、Continuous monitoring of cardiac function by 3-dimensional accelerometers in a closed-chest pig model t.Interact.Cardiovasc.Thorac.Surg.1-10(2015)、およびGrymyr,O.-J.H.N.ら、Assessment of 3D motion increases the applicability of accelerometers for monitoring left ventricular function.Interact.Cardiovasc.Thorac.Surg.20,329-337(2015)に示されたような発明者らの以前の実績は、埋め込まれた加速度計が、心臓機能を推定するためにどのように使用される場合があるかを示す。患者の心臓機能を評価するために使用されるセンサは、心室前負荷の推定において使用されるものと同じセンサまたは異なるセンサである場合がある。例えば、心臓機能は、侵襲的または非侵襲的センサ、加速度計、ジャイロスコープおよび/または磁力計を含むセンサ、コンピュータ断層撮影、心エコー検査、磁気共鳴映像法またはレーダに基づくセンサ、PiCCOTMシステムおよび/またはLiDCOTMベースのシステムから導き出される場合がある。
【0062】
発明の別の態様によれば、心臓監視システムであって、心臓における運動を識別するために心臓と連通して配置されるように構成されたセンサと、データ処理デバイスであって、センサから運動データを受け取り、受け取った運動データから心臓における運動を識別し、心臓における識別された運動に基づいて心臓壁における張力に関連した値を推定するように構成されたデータ処理デバイスとを含む、心臓監視システムが提供される。
【0063】
データ処理デバイスは、前の記述のうちのいずれかに規定された方法を実施するように構成される場合がある。
心臓監視システムのセンサは、少なくとも1つの加速度計、磁力計および/または少なくとも1つのジャイロスコープを含む場合がある。
【0064】
センサは、心臓、例えば、心外膜、心内膜および/または心筋に埋め込まれるように構成された侵襲的センサである場合がある。
センサは、心臓に位置するペースメーカリード内に含まれる場合がある。
【0065】
センサは、コンピュータ断層撮影、心エコー検査、磁気共鳴映像法またはレーダに基づくセンサなど、非侵襲的センサである場合がある。代替的に、このような非侵襲的センサは、センサ、例えば、加速度計、ジャイロスコープおよび/または磁力計を含むセンサによって受ける移動および/または加速度に基づいて心臓の運動を検出するための運動センサである場合がある。このタイプの運動センサは、心臓の近傍における患者の胸部の皮膚に配置される場合がある。
【0066】
さらに別の態様によれば、コンピュータプログラム製品であって、実行されたとき、関連する先行する記述のうちのいずれかに規定された方法を実施するようにデータ処理装置を構成する命令を含む、コンピュータプログラム製品が提供される。
【0067】
ここで、本発明のある例示的な実施形態を、添付の実施形態を参照して、単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】スターリングの法則のグラフを示す。
図2】時間の経過における変化する気道内圧および動脈圧のグラフを示す。
図3】時間の経過における変化する一回拍出量のグラフを示す。
図4】様々なその他の血行力学パラメータを伴う、時間の経過における心外膜に埋め込まれた加速度計を使用して記録されたデータのグラフを示す。
図5】時間の経過における心外膜に埋め込まれた加速度計を使用して記録されたデータのその他のグラフを示す。
図6】心膜外に埋め込まれた加速度計、血管内PiCCOTMカテーテルを使用して、時間の経過における肺動脈閉塞圧分析から、その回帰分析と共に、記録されたデータのグラフを示す。
図7】心外膜に配置された加速度計によって記録されたデータとソノマイクロメトリ測定との間、および血管内PiCCOTMカテーテルによって記録されたデータとソノマイクロメトリ測定を使用することとの間の、一致を表す2つのブランド-アルトマンプロットを示す。
図8】心外膜に埋め込まれた加速度計およびその他のモダリティから導き出されたフランク-スターリング関係のグラフを示す。
図9】心外膜に埋め込まれた加速度計およびその他のモダリティを使用して記録されたデータに対して実施された受信機動作特性分析のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下の説明は、多数のブタ内で心外膜に配置された加速度計を使用して、左心室前負荷、ひいては左心室充填ステータスを推定するために発明者らによって行われた研究に関する。加速度計は、心臓の流体応答性を評価するためにも使用された。本明細書に示された研究は、上に示されかつ請求項に規定された発明の態様の一例でしかない。保護範囲は、この特定の実装に限定されると見られるべきではない。例えば、以下の説明は、心室前負荷の推定に関するが、発明は、前負荷推定に限定されず、説明したように、発明は、より一般的に心臓壁における張力に関連した値(例えば、張力自体)の推定におけるより広い適用を有することが理解されるであろう。さらに、以下の説明は、心外膜に埋め込まれた加速度計の使用を例示しているが、発明の態様に従って心臓壁運動を決定するためにその他のセンサおよびモダリティが使用される場合があることが認められるであろう。さらに、以下の説明は、心臓壁振動がどのように推定の基礎として使用されるかを概説している。しかしながら、心臓壁運動における変化は、心室前負荷の推定のために同様に使用される場合がある。
【0070】
概要
発明者らの研究において、心臓壁振動は、閉胸条件におけるベースライン、流体負荷および静脈切開の間、9匹のブタにおける左心室(LV)心外膜に縫い付けられた三軸加速度計を使用して連続的に測定された。三軸加速度計を使用して結果の正確性および信頼性を評価するために、LV容積の連続測定のための絶対的基準としてソノマイクロメトリが使用され、拡張終期容積における変化(EDVSONO)が、前負荷における変化の指標として使用された。加えて、グローバルな拡張終期容積は、PiCCOTMを使用して推定され(GEDVPiCCO)、肺動脈閉塞圧(PAOP)は肺動脈カテーテルを使用して測定された。EDVSONOを参照したfs1、GEDVPICCOおよびPAOPの正確性を決定するために、線形回帰およびブランド-アルトマン分析が行われた。受信機動作特性(ROC)分析は、fs1、SVVPiCCO、パルス圧力変化(PPVPiCCO)、GEDVPICCOおよびPAOPのために流体応答性(ソノマイクロメトリによる一回拍出量変化(SVV)>11.6%として規定される)を識別する診断正確性(ROC曲線下面積)を決定するために行われた。
【0071】
方法
研究の基礎として、平均体重45kg(±2kgSD)を有する9匹のランドレース種ブタ(4匹の雄)が使用された。動物は、ケタミン20mg/kg、アザペロン3mg/kgおよびアトロピン0.02mg/kgの筋肉注射によって前投与された。静脈注射チオペンタール2~3mg/kgおよびモルヒネ0.5~1mg/kgによって、麻酔が誘発された。麻酔の誘発後すぐに、気管切開が行われ、麻酔は吸入(イソフルラン1~2%)およびモルヒネ0.50~1.0mg/kg/hによって維持され、動物の自律的ストレス反応によって調節された。Leon呼吸器が、換気および0.35の吸入された酸素部分でのガス監視のために使用された。動物は、心電図(ECG)、周囲酸素飽和(SpO2)、温度および利尿によって監視された。内頸静脈および外頸静脈は、中心静脈圧カテーテルおよび肺動脈カテーテル(Edwards Lifesciences Corporation、Irvine、CA、USA)の導入のためにカニューレ挿入された。頸動脈は、左心室(LV)および大動脈出口(AO)へ2つの5-Fr Millar圧力カテーテルを導入するためにカニューレ挿入された。PiCCOTMカテーテルは、大腿動脈から導入された。
【0072】
麻酔の導入および血行動態監視の後、胸骨切開が行われ、心膜が頂部から基部へ裂開され、心臓を露出させた。LV容積を測定するために、ソノマイクロメトリ結晶が心内膜下で長軸対(頂部から前肺底枝)および短軸対(赤道、後側部から前壁中隔)で配置された。これらの2つの対から、連続的な容積を、数式
【0073】
【数3】
【0074】
を使用して推定することができ、ここで、WおよびHは、それぞれ短軸対間および長軸対間の距離であった。
心筋振動を測定するために、3軸加速度計を組み込んだ慣性センサ(MPU9250、InvenSense Inc,San Jose、CA、USA)が、前LV心尖領域に配置された。
【0075】
最後に、胸部は、胸骨および皮膚を縫合することによって閉鎖された。介入プロトコルは、計装に続いて30分安定期間後に開始された。
各ブタのための心室前負荷のベースライン測定を含む、様々な異なるセンサモダリティを使用した各ブタのためのベースライン測定の後、拡張終期容積(EDV)の10%増大がソノマイクロメトリ容積トレースにおいて観察されるまで、各ブタの心室前負荷は、間隔を置いて250mlの0.9%NaCl溶液の容積負荷によって人工的に変化させられた。負荷の各インターバルの間に、記録が取得された。前負荷を減少させるために、ベースラインからEDVの10%減少が達成されるまで、記録と記録の間に、血液が、250mlまたは500mlインターバルで中心静脈カテーテルからヘパリン化バッグ内へ排出された。
【0076】
肺動脈閉塞圧(PAOP)は、LV充填圧力を評価するために記録された。ソノマイクロメトリを使用して、拡張終期容積(EDVSONO)、一回拍出量(SVSONO)、心拍出量(COSONO)、および一回拍出量変化(SVVSONO)が基準値として記録された。PiCCO記録から、心拍出量(COPiCCO)、グローバル拡張終期容積(GEDVPiCCO)、一回拍出量(SVPiCCO)、一回拍出量変化(SVVPiCCO)、およびパルス圧力変化(PPVPiCCO)が、ソノマイクロメトリおよび加速度計導出値との比較のために抽出された。
【0077】
心外膜に配置された加速度計が、心収縮の開始と同時のイベントである、僧帽弁閉鎖および第1心音の時点の心筋内の振動を測定するために使用された。次いで、これらの測定の周波数から、左心室前負荷を推定することができた。行われたこの推定は、上記の数式(3)に示された、振動するモノコードのメルセンヌの法則からの導出に基づく。心臓の壁部における各筋繊維をモノコードとしてモデル化することによって、また、あらゆる任意の時間において筋繊維の密度および長さが一定のままであるという仮定の下で、僧帽弁閉鎖およびI心音の時点における心臓の壁部における振動の周波数の二乗との正比例により、左心室前負荷を推定することが可能であった。心外膜に配置された加速度計を使用して心臓壁において測定された振動の周波数は、左心室前負荷を推定するために分析され、以下でさらに説明される前負荷の変化に相関させられた。
【0078】
図4は、心外膜に埋め込まれた加速度計を使用して記録された代表的なデータを、共通の時間にわたって異なるセンサモダリティを使用して記録された様々なその他の心臓測定データとともに示している。特に、図4の上のパネル41は、埋め込まれた加速度計を使用して記録された生の加速度データを、加速度計の3つの軸の合計として示している。第2のパネル43は、加速度データトレースの合計のための時間にわたる周波数スペクトル(ウェーブレットスケイログラム)を示している。周波数スペクトルにおける黒いトレース(fc)は、各時点のための重みづけされた平均周波数を計算することによって抽出された、各時点のための中心周波数を表している。
【0079】
第3のパネル45は、LV圧力(青のトレース)および大動脈圧(オレンジのトレース)のプロットを示しており、第4のパネル47は、LV容積のプロットを示しており、第5のパネルは、記録された心電計(ECG)データを示している。各パネル41~49は、パネル49の底部に示されたように共通の時間横軸にプロットされている。各パネルにおける縦のグレーの線51は、ECGにおけるQの時間を示しており、これは、心臓の拡張段階の終了/心臓の収縮期の開始を示すイベントであると考えられる。各パネルにおける縦の緑の線53は、LV圧力の変化の率が最小となる時間を示している。この最小は、心臓の収縮期の終了を示すと考えられた。
【0080】
生の加速度データの前処理(例えば、パネル41におけるような)を含む、全ての信号前処理のために、PythonTM Software Foundation,version 3.6.9が使用された。記録されたデータから、呼吸による変化によって値が影響されないことを保証するために少なくとも3つの換気サイクルからのデータが分析の基礎のために使用された。
【0081】
高周波ノイズと、周波数分析に対する望ましくない呼吸および基準心拍数効果を除去するために、生の加速度計信号(例えば、パネル41におけるような)は、20Hzおよび250Hzにおけるカットオフ周波数を有する第5オーダButterworthバンドパスフィルタを使用してフィルタリングされた。加速度計は3つの空間的方向(x、yおよびz)において検知するので、各軸における周波数分析は、個々に行われ、これらの平均が、加速度計配置の向き、ひいては重力の効果を無効にするために分析の基礎のために取得された。
【0082】
生の加速度計信号の周波数(ウェーブレット)分析は、MATLAB(登録商標)を使用して第1心音/僧帽弁閉鎖の周波数成分を分析するために使用された。連続ウェーブレット変換は、信号オーバータイムにおける各周波数成分のパワーを含むスペクトログラム(例えば、パネル43におけるような)を生成するために使用された。スペクトログラムにおける色は、変換における特定の周波数成分の大きさを表し、黄色/オレンジの領域は、より高い大きさの周波数成分を表し、より青い領域は、より低い大きさの周波数を表す。
【0083】
図5は、さらに、それぞれ図4のパネル41および43に示したものと同様の、生の加速度データおよび対応するウェーブレット変換およびスペクトログラムのトレースを示している。図5のトレースは、拡張末期後の最初の150msの間に記録されたデータ(パネル61a~61cに示されている)と、生の加速度データから生成された対応する連続ウェーブレット変換およびスペクトログラム(パネル63a~63cに示されている)とに関する。パネル61aおよび63aは、血液量減少性心臓のために記録されたデータを表し、パネル61bおよび63bは、血液量正常心臓に関し、パネル61cおよび63cは、血液量過多心臓に関する。ここでも、黒いトレースは、各時点のための中心周波数(f)を表すのに対し、赤い円(fs1)は、時間枠内の最大周波数の点を表す。
【0084】
前負荷変化を調査するために、中心周波数fにおけるシフトの分析が、記録されたデータについて行われた。増大する中心周波数fは、増大した前負荷を示すと予測された。中心周波数fにおけるシフトを決定するために、拡張末期後の0.03および0.1s以内の第1心音の間の中心周波数fs1の最大値が、比較として使用された。ノイズをさらに減じるために、記録にわたる全ての心臓サイクルのための中心周波数トレースは、平均化され、この平均に基づいて中心周波数fs1が計算された。次いで、心筋周波数と、ソノマイクロメトリ測定によって決定された拡張末期容積(EDVSONO)との関係を評価するために、相関分析が行われた。
【0085】
EDVSONO値は、心室前負荷における変化のための指標として使用された。第1心音周波数fs1、GEDVPiCCO、およびEDVSONOを参照したPAOPの正確性を決定するために、線形回帰およびブランド-アルトマン分析が行われた。異なる単位(Hz、mlおよびmmHg)を用いた異なる測定がどれほど良くEDVSONO(ml)と相関するかの比較を行うために、ベースラインからのパラメータ値における相対パーセンテージ変化も評価され、相関させられた。
【0086】
埋め込まれた加速度計を使用して推定された前負荷パラメータは、その後、患者のフランク-スターリング関係を連続的に監視するために使用された。心臓機能の測定値としてのSVSONOは、フランク-スターリング曲線を生成するために、埋め込まれた加速度計を使用して決定された推定された前負荷と相関させられた。生成された曲線は、異なるセンサモダリティを使用して導き出されたフランク-スターリング曲線との比較を可能にした。
【0087】
推定された前負荷パラメータは、心臓の流体応答性を監視しかつ評価する際にも使用された。流体応答性の評価において、一回拍出量変化(SVV)のためのしきい値は、当該技術分野において前に決定されたように11.6%として設定された。基準としてSVVSONOを使用して、流体応答性を正確に識別するための加速度計ベースの方法の正確性が、調査され、PiCCOTMベースの測定および肺動脈閉塞圧と比較された。受信機動作特性(ROC)分析が行われ、各方法のためのROC曲線の下の領域(AUC)が、それらの正確性を評価および比較するために使用された。
【0088】
全ての統計的分析は、Foundation for Statistical Computingによって開発されたR(v3.5.1)を使用して行われた。合計で15の実験が実施された。6の実験は、機器の故障(n=2)、左心房破裂による致命的出血(n=1)、または心室細動(n=3)により除外された。表1(以下参照)における血液量介入の著しい効果を試験するために、スチューデントT-検定が使用された。分布の正規性は、シャピロ-ウィルク検定を使用して決定された。2つの受信者動作特性曲線下面積(AUC)における差を試験するために、我々はDelong検定を使用した。有意性はp≦0.05として決定された。
【0089】
結果
以下の表1は、上記の9の実験から決定された結果を示している。一匹の動物において実施された実験の結果は、流体負荷の間の過負荷の状態に達しなかったため、表1に与えられた結果から除外された。3つのコラムが表1に示されており、ベースライン血行力学変数、心臓の最大流体負荷後に決定された変数、および最大流体除荷後に決定された変数を示している。表1における値は、ペア標本t-検定を使用して平均(SD).*:p<0.05vsベースラインとして報告される。表1に示された頭字語は以下のとおりである:EDV-拡張末期容積;SV-一回拍出量;CO-心拍出量;EF-駆出率;SW-一回仕事量;SVV-一回拍出量変化;fs1[x,y,z,avg]-第1心音周波数;GEDV-グローバル拡張終期容積;PPV-脈圧変化;MAP-平均動脈圧;CVP-中心静脈圧;HR-心拍数;SvO2-静脈血酸素飽和度;PAOP-肺動脈閉塞圧。述べたように、除荷が負荷の前に行われたため過負荷の状態に達しなかったため、一匹の動物はこの表から除外された。
【0090】
EDVSONOは、最大負荷および最大除荷の両方において著しく変化した。SVSONO、COSONO、EFSONO、SWSONOおよびSVVSONOもそうであった。加速度計を使用して測定された第1心音周波数fs1は、最大容積除荷の間、平均に加えて全ての軸(x、yおよびz)に対して著しい減少を示した。第1心音周波数fs1は、最大容積負荷の間、xおよびz軸に対して著しい増大、および平均を示したが、y軸に対しては示さなかった。PiCCOベースのパラメータ(GEDVPiCCO、SVPiCCO、COPiCCO、SVVPiCCO、PPVPiCCO)は全て、除荷および負荷の両方の間、著しい変化を示した。肺動脈閉塞圧は、いずれの極値に対しても著しく変化しなかった。
表1:
【0091】
【表1】
【0092】
図6は、研究において行われた実験の結果およびそれから導き出された統計のグラフ表示を示している。図6において、サブプロットA、CおよびEは、それぞれ個々のブタについて、EDVSONOと、fs1、GEDVPiCCOおよびPAOPとの間の相関関係を示している。サブプロットB、DおよびFは、それぞれ全ての実験からプールされたデータについて、EDVSONOにおける相対変化(ΔEDVSONO)と、ベースラインからのfs1の相対変化(Δfs1)、GEDVPiCCOにおける相対変化(ΔGEDVPiCCO)およびPAOPにおける相対変化(ΔPAOP)との間の相関関係を示している。サブプロットB、DおよびFにおいて、黒い実線は、回帰直線を表すのに対し、黒い点線は、y=xを表している。
【0093】
第1心音周波数fs1によって推定された心室前負荷は、基準EDVSONOに対して非常に強い相関関係を示した。これは、図6のプロットAにおいて示されている。図6のプロットCにおいて示されたグローバル拡張終期容積(GEDVPiCCO)も、EDVに対する非常に良好な相関関係を示しているが、より低い決定平均係数(r)を有する。PAOPは、図6のプロットEに示された最も低い平均rを有していた。全ての被験者についてデータをプールし、推定された前負荷パラメータにおけるベースラインからの相対変化Δfs1、ΔGEDVPiCCO、ΔPAOPおよびΔEDVSONOを見たとき、相関関係は、それぞれ0.59および0.36のr値を有するΔGEDVPiCCO(プロットD)およびΔPAOP(プロットF)の場合よりも、図6のプロットBに示したように、r=0.81を有するΔfs1の場合により強い。
【0094】
図7は、2つのブランド-アルトマンプロットAおよびBを示している。プロットAは、Δfs1とΔEDVSONOとの間の一致を示す。プロットBは、ΔGEDVPiCCOとΔEDVSONOとの間の一致を示す。Δfs1の場合のバイアス(1.96SD)は、1.0(8.9)%であった。ΔGEDVPiCCOの場合のバイアス(1.96SD)は、4.0(17.5)%であった。プロットは、全ての実験からプールされたデータに基づく。黒い実線は、バイアスを表し、赤い線は、バイアス±1.96SDを表す。
【0095】
図7に見られるように、ブランド-アルトマン分析は、EDVと比較したfs1のバイアスが、-7.9%および10.0%における一致の限界で1.0%であることを示した。GEDVについての平均バイアスおよびスプレッドは、fs1の場合よりも高かったが、著しくはなく(p=0.11、対になったサンプルのt-検定)、4.0%の値および-13.6および21.5%における一致の限界を有する。
【0096】
図8は、基準SVSONOを用いる推定されたフランク-スターリング関係、およびEDVのために決定された結果、前負荷fs1、GEDVPiCCOおよびPAOPのための加速度計導出インデックスを示す。SVSONOとEDVSONOとの間の相関関係(プロット81)、推定された前負荷パラメータfs1(プロット83)、GDEVPiCCO(プロット85)およびPAOP(プロット87)を評価する線形回帰分析からの結果も、各ブタについて実線として示されている。各プロット81,83,85,87のための全てのブタにわたる平均rも示されている。
【0097】
プロット83に見られるように、SVSONOとfs1との間に非常に強い相関関係があり、これは、個々の動物のための平均相関関係係数を評価する場合、プロット85に示されたGEDVPiCCOの場合よりも強かった。SVSONOとGEDVPiCCOとの間の相関関係自体はプロット87に示されたPAOPの場合よりも強かった。ベースラインからのEDVSONO、fs1、GEDVPiCCOおよびPAOPの相対変化に基づくプールされた結果も、それぞれプロット71,73,75および77として図8に示されている。fs1のための一回拍出量との相関関係は、PAOPの場合よりも強く、それ自体は、GEDVPiCCOよりも強かった。
【0098】
図9は、上記のように流体応答性のためのインジケータとして使用された、ソノマイクロメトリによって決定されたSVV値が11.6%よりも高い測定を識別するための、fs1(赤のトレース)、SVVPiCCO(金色のトレース)、PPVPiCCO(ライトグリーンのトレース)、GEDVPiCCO(ダークグリーンのトレース)、PAOP(青のトレース)および心拍数(HR-紫のトレース)のためのROC曲線を示すプロットである。異なる予測因子のための各曲線下の面積(AUC値)も示されている。
【0099】
図9に示したように、AUC値は、fs1の場合に最も高かったが、差は、SVVPiCCO(p=0.21)、PPVPiCCO(p=0.09)、GEDVPiCCO(p=0.23)またはPAOP(p=0.10)と比較して統計的に有意ではなかった。心拍数(p=0.01)と比較して統計的に有意な差のみが存在した。ROC分析から最適なカットオフ値を選択する、fs1のための感度および特異度は、それぞれ87および67%であった。SVVPiCCO、PPVPiCCO、GEDVPiCCO、PAOPおよび心拍数について、感度および特異度は、それぞれ、81および60%;70および60%;56および71%;55および64%;および57および67%であった。
【0100】
前記説明は、心臓の運動が、変化を監視しかつ心臓壁における張力に関連した値を(すなわち、心室前負荷の形式で)推定するために使用することができるという発明者らの認識の証拠である。特に前記説明は、心室前負荷における変化が、第1心音周波数(fs1)における変化の評価により、心外膜に取り付けられた加速度計によって監視することができることを示す。
【0101】
さらに、前記説明は、I心音fs1に関連した心筋振動の周波数と、EDVおよび心筋剛性との間の強い相関関係を示している。したがって、監視された心臓壁運動、特に、拡張末期/収縮始期などにおける振動は、連続的にかつリアルタイムで患者の血液量状態を監視するために使用することができる。これにより、有利には、例えば心外膜に配置された加速度計は、術後の患者の血液量状態を監視するために使用される場合がある。
【0102】
心室前負荷の推定および流体応答性を識別するために本明細書に提示されたような加速度計ベース測定は、現在の臨床標準方法、例えば、PiCCOTMおよびPAOPと同等であることも示された。
【0103】
さらに、本明細書に提示された研究の基礎として使用された小型加速度計は、心臓切開手術患者に日常的に配置される一時的なペースリードに組み込まれる場合があるので、提示された方法は、心臓壁における張力に関連した値(例えば、前負荷)および/または心臓の血液量状態の評価および監視のために追加的な手順(例えば、PiCCOシステムの場合のように)を必要としない場合がある。それらは、代わりに、異なる目的のために既に心臓に埋め込まれている機器に依存することができる。これは、患者の安全の観点から明らかに有利である。
【0104】
上記で示されたような埋め込まれた加速度計の使用は、血流との接触が回避されることを保証する。
上記で詳述したような加速度計ベースの方法および従来技術のPiCCOTMシステムの両方は、血行力学値の連続的測定を可能にする。しかしながら、PiCCOTMシステムは、熱希釈較正に依存し、血管コンプライアンスに基づいてドリフトし、したがって、血管コンプライアンスの変化が生じたとき、再較正されなければならない。加えて、PiCCOTMベースの監視の正確性および精度は、大動脈弁逆流および過剰または過少に減衰された動脈圧波形によっても影響される。上記に示されたような加速度計ベースの方法、および実際には本発明の範囲に含まれる代替的な方法(例えば、心臓壁運動における変化に依存するもの)は、心臓壁運動の識別に依存し、圧力波形に依存せず、このような方法の正確性および精度は、前記条件によって影響されるべきではない。
【0105】
収縮期最大流速、圧力変位ループ面積またはその他などの、心臓機能の測定と組み合わせて、フランク-スターリング曲線における患者位置の頑丈な推定は、発明の態様による方法を使用して推定される心室前負荷に基づいて決定することができる。これは、一回拍出量に対する前負荷パラメータの相関関係を評価する線形回帰分析の結果において反映された。SVSONOとfs1との間の相関関係は、個々のデータおよびプールされたデータの両方を評価する場合、臨床的に利用可能な手段GEDVPiCCOおよびPAOPの両方よりも強かった。PiCCOは、個々の回帰線の傾斜における大きな変化も示したが、fs1の傾斜は、より整列させられており、これは、加速度ベースの測定が、被験者間変動を受けにくい場合があることを示唆している。
【0106】
上記で説明した方法は、流体応答性を予測することができることも示されており、これは、流体蘇生が重症患者における防御の第一線であるため著しく重要である。fs1を使用して(すなわち、心外膜に埋め込まれた加速度計を使用して)流体応答性を識別するための診断正確性(ROC曲線下面積)は、SVVPiCCOおよびPPVPiCCO法と同等であることが上記に示されており、したがって、発明の方法は、流体応答性を決定することについては従来技術のシステムと少なくとも同等である。
【0107】
さらに、上記説明に示したように心臓壁における振動に依存する発明の少なくとも例示的方法は、患者の機械換気に依存しないので、このような方法は、開胸条件において、圧力支持換気における患者において、心外膜液の間など(すなわち、患者の機械換気がないまたは患者の人工的に変更された機械換気がある条件において)、従来のPiCCOTMシステムを使用して測定されたSVVにおける流体応答性を予測することにおいて広がるべきである。
【0108】
加えて、本明細書に開示された発明の方法は、心臓における識別された運動に依存するので、このような方法は、末梢血管疾患などの末梢系における合併症によって最も影響されにくく、したがって、SVVに依存するPiCCOTMシステムなどの従来技術システムを使用することができない、不整脈、弁膜症、心内短絡、末梢血管疾患、駆出率低下を有する患者の血行力学評価において使用することができる。
【0109】
上記のように、発明の上記の例示的な実施形態は、心室前負荷を推定することに関係しているが、発明はそのように限定されない。これは、例えば、図6のパネル43における周波数スペクトルによって示されている。上記の説明から認められるように、この周波数スペクトルは、心臓サイクル全体にわたる心筋における張力のための代理として見ることができる。したがって、心筋における張力(および関連したパラメータ)は、心臓サイクル内のあらゆるポイントのために推定することができる。例えば、パネル43の約0.5~0.55sにおいて、心収縮の終了時に2つのピークがあることを見ることができる。これらのピークは、心筋の収縮性を表す可能性があり、したがって、発明は、収縮性を推定することを含む場合がある。周波数スペクトルは、連続的な測定であり、異なる時点における心臓の多くの異なる生理学的パラメータを表す場合がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】