(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】細胞外小胞およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20230201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230201BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230201BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20230201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20230201BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20230201BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20230201BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230201BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20230201BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20230201BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230201BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230201BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230201BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20230201BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20230201BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230201BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230201BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P43/00 111
A61P11/00
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P9/10
A61P3/04
A61P25/28
A61P25/16
A61P21/00
A61P9/04
A61P35/00
A61P25/18
A61P25/14
A61P31/00
A61P31/04
A61P31/12
A61K45/00
A61K35/12
A61K45/06
A61K31/519
A61P27/02
A61P29/00
C12N5/0786
C12N5/071
B82Y40/00
B82Y30/00
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533338
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(85)【翻訳文提出日】2022-07-25
(86)【国際出願番号】 US2020062803
(87)【国際公開番号】W WO2021113299
(87)【国際公開日】2021-06-10
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511266520
【氏名又は名称】ユナイテッド セラピューティクス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】イラガン,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ホーガン,サラ
(72)【発明者】
【氏名】チードル,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】パプ,カロリーナ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
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4H045AA10
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA71
(57)【要約】
間葉系幹細胞から強力な細胞外小胞集団を単離する方法が提供される。特に、本開示は、MSC由来EV集団に特異的なタンパク質プロファイルを同定した。さらに、肺高血圧症、ARDSなどの慢性もしくは急性肺疾患を含めた様々な疾患および症状ならびに脈管障害、血管新生の減少、アポトーシス、ミトコンドリア機能不全、急性炎症、線維症または慢性炎症によって特徴付けられる疾患および症状の処置における単離された細胞外小胞の使用が本明細書に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、単離された細胞外小胞(EV)。
【請求項2】
CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項3】
前記タンパク質を1つまたは複数含有するように操作される、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項4】
細胞から得られる、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項5】
前記細胞が、不死化細胞株または初代細胞から選択される、請求項4に記載の単離されたEV。
【請求項6】
前記細胞が、間葉系幹細胞(MSC)である、請求項4に記載の単離されたEV。
【請求項7】
前記細胞が、非MSCである、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項8】
前記非MSCが、線維芽細胞またはマクロファージ細胞を含む、請求項7に記載の単離されたEV。
【請求項9】
前記MSCから得られた全てのEVにおける平均量と比較して量が増大した前記タンパク質マーカーを1つまたは複数含有する、請求項4に記載の単離されたEV。
【請求項10】
量が少なくとも20%増大した前記タンパク質マーカーを1つまたは複数含有する、請求項9に記載の単離されたEV。
【請求項11】
前記MSCが、ホウォートンゼリー、臍帯血、胎盤、末梢血、骨髄、気管支肺胞洗浄液(BAL)または脂肪組織から単離される、請求項6に記載の単離されたEV。
【請求項12】
in vitroで生産された合成エクソソームである、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項13】
前記合成エクソソームが、合成リポソームである、請求項12に記載の単離されたEV。
【請求項14】
シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含有する、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項15】
テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含有する、請求項1に記載の単離されたEV。
【請求項16】
前記テトラスパニンファミリの前記メンバーが、CD63、CD81およびCD9を含有する、請求項15に記載の単離されたEV。
【請求項17】
KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するように細胞外小胞(EV)を操作するステップを含む、増大した効力を有するEVを単離する方法。
【請求項18】
前記EVが、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記操作が、前記1つまたは複数のタンパク質を増大した量を呈するEVを選択するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記操作が、前記1つまたは複数のタンパク質を発現するようにEVを生産する細胞を遺伝的に操作するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記EVを生産する前記細胞が、不死化細胞株、初代細胞、間葉系幹細胞(MSC)、線維芽細胞またはマクロファージを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記操作が、前記1つまたは複数のタンパク質を含有する合成EVをin vitroで生産するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記単離されたEVが、平均直径約100nmを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記単離されたEVの少なくとも70%が、サイズ50nm~350nmを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記単離されたEVが、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項26】
前記単離されたEVが、前記テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項27】
前記テトラスパニンファミリの前記メンバーが、CD63、CD81およびCD9を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記EVの前記増大した効力が、増大したピルビン酸キナーゼ活性を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項29】
前記EVの前記増大した効力が、増大したATPアーゼ活性を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項30】
間葉性間質細胞から得た単離された細胞外小胞(EV)を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、
前記単離された細胞外小胞が、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質の1つまたは複数を増大した量で有する細胞外小胞を含む、肺疾患を処置する方法。
【請求項31】
前記EVが、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記肺疾患が、慢性肺疾患または急性肺疾患を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記肺疾患が気管支肺異形成症である、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
間葉性間質細胞から得た単離された細胞外小胞を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、血管新生の減少、急性炎症、慢性炎症、アポトーシス、ミトコンドリア機能不全、線維症または脈管障害と関連する疾患もしくは症状を処置する方法であって、前記単離された細胞外小胞が、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する細胞外小胞(EV)を含む、方法。
【請求項35】
前記EVが、CD44、CD109、NT5EおよびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記単離されたEVが、前記対象の肺組織においてグルコース酸化を正常化する、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
ミトコンドリア機能不全と関連する前記疾患または症状が、前記対象におけるミトコンドリアグルコース酸化の減少と関連する、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
ミトコンドリア機能不全と関連する前記疾患または症状が、フリードライヒ運動失調症、レーベル遺伝性視神経症、キーンズセイアー症候群、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症、リー症候群、肥満、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、がん、心不全、心筋梗塞(MI)、アルツハイマー病、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、脆弱エックス症候群ならびに慢性疲労症候群からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
それを必要とする対象に単離された細胞外小胞(EV)の有効用量を投与するステップを含み、前記単離されたEVが、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置または予防する方法。
【請求項40】
感染症、敗血症、胃酸の誤嚥または外傷に起因するARDSを処置する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記感染症が、細菌感染症またはウイルス感染症である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
COVID-19に起因するARDSを処置する、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
ARDSの重症度を予防または減少させる、請求項39に記載の方法。
【請求項44】
前記EVが、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、請求項39に記載の方法。
【請求項45】
前記単離されたEVが、前記タンパク質を1つまたは複数含有するように操作される、請求項39に記載の方法。
【請求項46】
前記単離されたEVが、細胞から得られる、請求項39に記載の方法。
【請求項47】
前記細胞が、不死化細胞株または初代細胞から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞が、間葉系幹細胞(MSC)である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記単離されたEVが、in vitroで生産された合成エクソソームである、請求項39に記載の方法。
【請求項50】
前記合成エクソソームが、合成リポソームである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記単離されたEVが、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項52】
前記単離されたEVが、前記テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項53】
前記テトラスパニンファミリの前記メンバーが、CD63、CD81およびCD9を含有する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記対象が、ALIまたはARDSを発症する危険性がある、請求項39に記載の方法。
【請求項55】
前記単離されたEVが、非経口的に投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項56】
前記単離されたEVの前記有効用量が、処置される対象1kg当たり約20~約500pmolのEVのリン脂質である、請求項39に記載の方法。
【請求項57】
5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤、プロスタシクリンアゴニストおよび/またはエンドセリン受容体アンタゴニストのうち1つもしくは複数を含む治療的薬剤を投与するステップをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項58】
前記PDE5阻害剤が、シルデナフィル、バルデナフィル、ザプラビスト、ウデナフィル、ダサンタフィル、アバナフィル、ミロデナフィルまたはロデナフィルを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記PDE5阻害剤が、シルデナフィルである、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記単離されたEVおよび前記治療的薬剤が、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項61】
前記単離されたEVおよび前記治療的薬剤が、同じ組成物で投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項62】
前記単離されたEVが、1または複数用量で投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項63】
前記単離されたEVが、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項64】
前記単離されたEVが、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項65】
前記単離されたEVおよび治療的薬剤が、1または複数用量で投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項66】
前記治療的薬剤が、前記PDE5阻害剤であり、前記単離されたEVが、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与され、前記PDE5阻害剤が、16用量、19用量、21用量、24用量、27用量、30用量、33用量、36用量、39用量、42用量、45用量、48用量、51用量、54用量、57用量、60用量、63用量または66用量で投与される、請求項57に記載の方法。
【請求項67】
前記単離されたEVが、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間または1週間にわたって1日1回投与される、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
前記対象において収縮期肺動脈圧(SPAP)を低下させる、請求項39に記載の方法。
【請求項69】
前記対象において肺の肺胞の表面積を増大させる、請求項39に記載の方法。
【請求項70】
前記対象において血液酸素濃度を増大させる、請求項39に記載の方法。
【請求項71】
前記対象において肺の炎症を減少させる、請求項39に記載の方法。
【請求項72】
前記気管支肺胞洗浄液中の細胞外基質の沈着を減少させるまたは前記肺中の細胞外基質の沈澱を減少させる、請求項39に記載の方法。
【請求項73】
フルトンのインデックスを改善する、請求項39に記載の方法。
【請求項74】
前記対象が、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウスまたはラットである、請求項39に記載の方法。
【請求項75】
前記プロスタサイクリンアゴニストが、エポプロステノールナトリウム、トレプロスチニル、ベラプロスト、イルプロストおよびPGI
2受容体アゴニストを含む、請求項57に記載の方法。
【請求項76】
それを必要とする対象に単離された細胞外小胞(EV)の有効用量を投与するステップを含み、前記単離されたEVが、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、肺線維症を処置または予防する方法。
【請求項77】
前記肺線維症が、特発性肺線維症である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記肺線維症が、感染症の結果である、請求項76に記載の方法。
【請求項79】
前記肺線維症が、SARS-CoV-2感染症の結果である、請求項76に記載の方法。
【請求項80】
肺線維症を発症する危険性がある患者にEVを投与するステップを含む、請求項76に記載の方法。
【請求項81】
前記単離されたEVの前記有効用量が、処置される対象1kg当たり約20~約500pmolのEVのリン脂質である、請求項76に記載の方法。
【請求項82】
前記単離されたEVが、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、請求項76に記載の方法。
【請求項83】
前記単離されたEVが、前記タンパク質を1つまたは複数含有するように操作される、請求項76に記載の方法。
【請求項84】
前記単離されたEVが、細胞から得られる、請求項76に記載の方法。
【請求項85】
前記細胞が、不死化細胞株または初代細胞から選択される、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記細胞が、間葉系幹細胞(MSC)である、請求項84に記載の方法。
【請求項87】
前記単離されたEVが、in vitroで生産された合成エクソソームである、請求項76に記載の方法。
【請求項88】
前記合成エクソソームが、合成リポソームである、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
前記単離されたEVが、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含む、請求項76に記載の方法。
【請求項90】
前記単離されたEVが、前記テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む、請求項76に記載の方法。
【請求項91】
前記テトラスパニンファミリのメンバーが、CD63、CD81およびCD9を含む、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記単離されたEVが、非経口的に投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項93】
5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤、プロスタシクリンアゴニストおよび/またはエンドセリン受容体アンタゴニストを含む治療的薬剤を投与するステップをさらに含む、請求項76に記載の方法。
【請求項94】
前記PDE5阻害剤が、シルデナフィル、バルデナフィル、ザプラビスト、ウデナフィル、ダサンタフィル、アバナフィル、ミロデナフィルまたはロデナフィルを含む、請求項93に記載の方法。
【請求項95】
前記PDE5阻害剤が、シルデナフィルである、請求項93に記載の方法。
【請求項96】
前記単離されたEVおよび前記治療的薬剤が、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して投与される、請求項93に記載の方法。
【請求項97】
前記単離されたEVおよび前記治療的薬剤が、同じ組成物で投与される、請求項93に記載の方法。
【請求項98】
前記単離されたEVが、1または複数用量で投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項99】
前記単離されたEVが、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項100】
前記単離されたEVが、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項101】
前記単離されたEVおよび前記治療的薬剤が、1または複数用量で投与される、請求項93に記載の方法。
【請求項102】
前記単離されたEVおよび前記治療的薬剤が、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される、請求項93に記載の方法。
【請求項103】
前記治療的薬剤が、PDE5阻害剤であり、前記単離されたEVが、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与され、前記PDE5阻害剤が、16用量、19用量、21用量、24用量、27用量、30用量、33用量、36用量、39用量、42用量、45用量、48用量、51用量、54用量、57用量、60用量、63用量または66用量で投与される、請求項93に記載の方法。
【請求項104】
前記単離されたEVが、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間または1週間にわたって1日1回投与される、請求項76に記載の方法。
【請求項105】
前記対象において収縮期肺動脈圧(SPAP)を低下させる、請求項76に記載の方法。
【請求項106】
前記対象において肺胞の表面積を増大させるまたは前記肺の損傷もしくは傷害を減少させる、請求項76に記載の方法。
【請求項107】
前記対象において血液酸素濃度を増大させる、請求項76に記載の方法。
【請求項108】
前記対象において肺の炎症を減少させる、請求項76に記載の方法。
【請求項109】
前記気管支肺胞洗浄液中の細胞外基質の沈着を減少させるまたは前記肺中の細胞外基質沈澱を減少させる、請求項76に記載の方法。
【請求項110】
フルトンのインデックスを改善する、請求項76に記載の方法。
【請求項111】
前記対象が、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウスまたはラットである、請求項76に記載の方法。
【請求項112】
前記プロスタサイクリンアゴニストが、エポプロステノールナトリウム、トレプロスチニル、ベラプロスト、イルプロストおよびPGI2受容体アゴニストを含む、請求項93に記載の方法。
【請求項113】
それを必要とする対象に単離された細胞外小胞(EV)および5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤の有効用量を投与するステップを含み、前記単離されたEVが、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、呼吸器疾患または障害を処置する方法。
【請求項114】
前記呼吸器疾患または障害が、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、肺臓炎、肺線維症、急性肺傷害、気管支炎、気腫、閉塞性細気管支炎または気管支肺異形成症(BPD)を含む、請求項113に記載の方法。
【請求項115】
COVID-19に起因する呼吸器疾患もしくは障害を処置または予防する、請求項113に記載の方法。
【請求項116】
前記肺線維症が、特発性肺線維症である、請求項114に記載の方法。
【請求項117】
前記呼吸器疾患または障害が、感染症、敗血症、胃酸の誤嚥または外傷の結果である、請求項113に記載の方法。
【請求項118】
前記感染症が、細菌感染症またはウイルス感染症である、請求項113に記載の方法。
【請求項119】
前記呼吸器疾患または障害が、SARS-CoV-2感染症の結果である、請求項113に記載の方法。
【請求項120】
呼吸器疾患または障害を発症する危険性がある患者にEVを投与するステップを含む、請求項113に記載の方法。
【請求項121】
前記単離されたEVの前記有効用量が、処置される対象1kg当たりEVのリン脂質20~500pmolである、請求項113に記載の方法。
【請求項122】
前記単離されたEVが、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、請求項113に記載の方法。
【請求項123】
前記単離されたEVが、前記タンパク質を1つまたは複数含有するように操作される、請求項113に記載の方法。
【請求項124】
前記単離されたEVが、細胞から得られる、請求項113に記載の方法。
【請求項125】
前記細胞が、不死化細胞株または初代細胞から選択される、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
前記細胞が、間葉系幹細胞(MSC)である、請求項124に記載の方法。
【請求項127】
前記単離されたEVが、in vitroで生産された合成エクソソームである、請求項113に記載の方法。
【請求項128】
前記合成エクソソームが、合成リポソームである、請求項127に記載の方法。
【請求項129】
前記単離されたEVが、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含む、請求項113に記載の方法。
【請求項130】
前記単離されたEVが、前記テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む、請求項113に記載の方法。
【請求項131】
前記テトラスパニンファミリの前記メンバーが、CD63、CD81およびCD9を含む、請求項130に記載の方法。
【請求項132】
前記単離されたEVが、非経口的に投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項133】
前記PDE5阻害剤が、シルデナフィル、バルデナフィル、ザプラビスト、ウデナフィル、ダサンタフィル、アバナフィル、ミロデナフィルまたはロデナフィルを含む、請求項113に記載の方法。
【請求項134】
前記PDE5阻害剤が、シルデナフィルである、請求項113に記載の方法。
【請求項135】
前記単離されたEVおよび前記5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤が、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して 投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項136】
前記単離されたEVおよび前記5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤が、同じ組成物で投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項137】
前記単離されたEVおよびPDE5阻害剤が、1または複数用量で投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項138】
前記単離されたEVおよび前記PDE5阻害剤が、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項139】
前記単離されたEVが、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量、または18用量、3用量、6用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与され、前記PDE5阻害剤が、16用量、19用量、21用量、24用量、27用量、30用量、33用量、36用量、39用量、42用量、45用量、48用量、51用量、54用量、57用量、60用量、63用量または66用量で投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項140】
前記単離されたEVが、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間または1週間にわたって1日1回投与される、請求項113に記載の方法。
【請求項141】
前記対象において収縮期肺動脈圧(SPAP)を低下させる、請求項113に記載の方法。
【請求項142】
前記対象において前記肺の肺胞の表面積を増大させる、請求項113に記載の方法。
【請求項143】
前記対象において血液酸素濃度を増大させる、請求項113に記載の方法。
【請求項144】
前記対象において前記肺の炎症を減少させる、請求項113に記載の方法。
【請求項145】
前記気管支肺胞洗浄液または前記肺中の細胞外基質の沈澱を減少させる、請求項113に記載の方法。
【請求項146】
フルトンのインデックスを改善する、請求項113に記載の方法。
【請求項147】
前記対象が、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウスまたはラットである、請求項113に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月4日に出願の米国仮特許出願第62/943,555号および2020年4月1日に出願の同第63/003,521号の優先権を主張し、それらの全体を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本出願は、エクソソームを含めた細胞外小胞、効能がある細胞外小胞を単離、操作または合成する方法、ならびに肺高血圧症、肺動脈高血圧症(PAH)および気管支肺異形成症を含めた急性および慢性肺疾患、ならびに炎症、血管新生の減少、アポトーシス、ミトコンドリア機能不全および脈管障害に関連する症状および疾患の処置における細胞外小胞の使用に関する。本出願は、エクソソームを含めた細胞外小胞を使用して急性呼吸窮迫症候群(ARDS)または急性肺傷害(ALI)を処置もしくは予防することおよび線維症を処置もしくは予防することにさらに関する。
【背景技術】
【0003】
間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄、脂肪、骨格筋、心臓、臍帯および胎盤を含むがこれに限定されない多くのヒト組織から単離されうる細胞の不均質な線維芽細胞様集団である。MSCは、その分化能力ならびに組織傷害部位への遊走後の組織修復および再生への活発な関与のため、科学者および臨床医の注目を集めてきた。MSCは、適当なシグナルによって刺激されると、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、頻度は低いが、内皮細胞および心筋細胞など多数の特殊な細胞型に分化する能力がある。MSCは、同種移植にも適しており、免疫特権が与えられており、in vivoでより大きな認容性を提供する。
【0004】
加えて、MSCは、細胞-細胞接触と様々なシグナル伝達因子の産生の両方に媒介される強い免疫抑制および免疫調節特性を保有する。間葉系幹細胞(MSC)は、炎症性サイトカインを検知することによって炎症/傷害部位の方へ遊走することができる。これら細胞は、抗炎症性可溶性因子およびエクソソームを含めた細胞外小胞(EV)を放出することによって炎症性環境を免疫調節する(パラクリン効果)と仮定される。さらに、EV自体は、血管新生の増進、アポトーシスの予防、炎症の減少、およびミトコンドリア機能の改善などの生物学的活性を増進する。
【0005】
気管支肺異形成症(BPD)は、早産児の慢性肺疾患である。その疾患は、長期にわたる肺の炎症、肺胞数の低下および肺胞中隔の肥厚、遠位血管の「退縮」による異常な脈管成長ならびに限定的な代謝および抗酸化能力によって特徴付けられる。米国では年間14,000人のBPDの新規症例が存在する。重要なことに、BPDの診断は、PH、気腫、喘息、心蔵血管罹病率および0歳児の死亡率の増大、神経発達障害および脳性麻痺の増大、若年成人としての気腫を含めた他のさらなる症状にしばしば至る。これまでに、BPDの標準的な療法は存在しない。一部のBPD患者は、穏やかな換気およびコルチコステロイドで処置されるが、これらの処置は、神経予後または死に対して効果を示さない。
【0006】
肺高血圧症は、肺脈管構造における圧力の増大によって特徴付けられる進行性で、しばしば致死的な疾患である。肺脈管構造の収縮は、右心に対するストレスを増大させ、右心不全を発症する可能性がある。現在の標準に基づく定義によると、慢性肺高血圧症の場合、平均肺動脈圧(mPAP)は、安静時で>25mmHgまたは運動中>30mmHgである(正常値<20mmHg)。肺動脈高血圧症は、無処置の場合、診断後平均して2.8~5年以内に死に至る[Keily et al. (2013) BMJ 346:f2028]。肺動脈高血圧症の病態生理学は、脈管収縮および肺血管の再形成によって特徴付けられる。慢性PAHでは、当初筋肉化されていなかった肺血管の新筋肉化があり、すでに筋肉化している血管の脈管筋は、外周が増大する。この結果である肺動脈圧の増大は、右心へのストレスを進行させ、右心からの吐出量の減少を引き起こし、最終的に右心不全に終わる(M. Humbert et al., J. Am. Coll. Cardiol. 2004, 43, 13S-24S)。
【0007】
PAHは、有病率が100万人あたり1~2人の希少な障害である。患者の平均年齢は、36歳であり、患者のわずか10%が60歳以上であると推定されている。男性より女性が明らかに多く罹患する(G. E. D'Alonzo et al., Ann. Intern. Med. 1991, 115, 343-349)。
【0008】
多数の機序が、PAHの病因に関係している。重要なことに、この疾患において、異常なミトコンドリアグルコース酸化の下流において全体的な代謝が抑制されることが説明されている。ミトコンドリア機能の減弱は、複数の細胞型の関与、肺脈管細胞のがん様増殖、およびアポトーシスに対するこれら細胞の抵抗性など、PAHにおける明らかに無関係な異常性の多くを一元化する可能性がある。PAHにおけるミトコンドリア機能不全の役割を支持する証拠があるにもかかわらず、ミトコンドリア機能の治療的標的化は困難であると立証されている。
【0009】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、肺の肺胞内の水分蓄積によって特徴付けられるしばしば致死的な症状である。水分蓄積は、肺の適切な酸素供給を妨げ、死をもたらす可能性がある。ARDSは、例えば、感染症(ウイルスまたは細菌)、敗血症、胃酸の誤嚥または外傷が原因になる場合がある。例えば、ARDSの症例は、敗血症および肺炎としばしば関連している。近年では、ARDSは、SARS-CoV-2感染の結果であるCOVID-19に関連する主要な致死的病変と示唆されている。ARDSの症候には、息切れ、呼吸促迫、血圧低下、意識障害および/または無気力がある。ARDSは、現在のところ処置の選択肢が極めて少ない症状である原発性線維症をもたらす可能性がある。
【0010】
ARDSの処置は、一般に主に対症的であり、水分蓄積に起因する酸素供給の不足に対処することを目的とする。したがって、一般的な処置には、酸素補給、必要に応じて、人工呼吸がある。医療ケア提供者は、基礎病理、例えば、感染症または傷害に対処する場合もある。
【0011】
肺線維症は、損傷を受けたまたは瘢痕化した肺組織によって特徴付けられ、肺組織の正常な機能を妨げる。瘢痕化は、特定の傷害まで遡ることができる場合もあるが、肺線維症の原因が決定できない場合、それが一般的であるが、その症状は特発性肺線維症と呼ばれる。症候には、息切れ、疲労および空咳がある。症候の重症度は大きく異なり、一部の症例、特に進行性肺線維症では、症状は致死的となる場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、BPDならびに肺高血圧症などの脈管障害、ウイルス(コロナウイルスなど)または細菌性感染症が原因になるARDSおよび肺線維症を含めたARDSおよび肺線維症を処置するための改善された治療的組成物および方法を開発する必要性が存在する。特に、患者において血管新生を増進する、アポトーシス、炎症を予防するおよび/またはミトコンドリア機能を改善するための改善された効力を持つEVを開発する必要性が大いに存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示は、単離された細胞外小胞(EV)を対象とし、単離されたEVは、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つ以上含有する。一部の実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する。
【0014】
一部の実施形態において、単離されたEVは、タンパク質を1つまたは複数含有するように操作される。
【0015】
一部の実施形態において、単離されるEVは、細胞から得られる。一部の実施形態において、細胞は、不死化細胞株または初代細胞から選択される。一部の実施形態において、細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である。一部の実施形態において、細胞は、非MSCである。一部の実施形態において、非MSCは、線維芽細胞またはマクロファージ細胞を含む。
【0016】
一部の実施形態において、単離されたEVは、MSCから得られた全てのEVにおける平均量と比較して量の増大したタンパク質マーカーを1つまたは複数有する。一部の実施形態において、単離されたEVは、MSCから得られた全てのEVにおける平均量と比較して量が少なくとも20%増大したタンパク質マーカーを1つまたは複数含有する。
【0017】
一部の実施形態において、MSCは、ホウォートンゼリー、臍帯血、胎盤、末梢血、骨髄、気管支肺胞洗浄液(BAL)または脂肪組織から単離される。
【0018】
一部の実施形態において、単離されたEVは、in vitroで生産された合成エクソソームである。
【0019】
一部の実施形態において、合成エクソソームは、合成リポソームである。
【0020】
一部の実施形態において、単離されたEVは、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIのうちの1つもしくは複数をさらに含む。
【0021】
一部の実施形態において、単離されたEVは、テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む。
【0022】
一部の実施形態において、テトラスパニンファミリのメンバーは、CD63、CD81およびCD9を含む。
【0023】
別の態様において、本開示は、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現するようにEVを操作するステップを含む、増大した効力を有する細胞外小胞(EV)を単離する方法に関する。一部の実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する。
【0024】
一部の実施形態において、操作は、1つまたは複数のタンパク質を増大した量で呈するEVを選択するステップを含む。
【0025】
一部の実施形態において、操作は、1つまたは複数のタンパク質を含有するようにEVを産生する細胞を遺伝的に操作するステップを含む。
【0026】
一部の実施形態において、EVを産生する細胞は、不死化細胞株、初代細胞、間葉系幹細胞(MSC)、線維芽細胞またはマクロファージを含む。
【0027】
一部の実施形態において、操作は、1つまたは複数のタンパク質を含有する合成EVをin vitroで生産するステップを含む。
【0028】
一部の実施形態において、単離されたEVは、平均直径約100nmを有する。
【0029】
一部の実施形態において、単離されたEVの少なくとも70%は、サイズ50nm~350nmを有する。
【0030】
一部の実施形態において、単離されたEVは、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含む。
【0031】
一部の実施形態において、単離されたEVは、テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む。
【0032】
一部の実施形態において、テトラスパニンファミリのメンバーは、CD63、CD81およびCD9を含む。
【0033】
一部の実施形態において、EVの増大した効力は、増大したピルビン酸キナーゼ活性を含む。
【0034】
一部の実施形態において、EVの増大した効力は、増大したATPアーゼ活性を含む。
【0035】
別の態様において、本開示は、間葉性間質細胞から得た単離された細胞外小胞(EV)を、それを必要とする対象に投与するステップを含み、単離された細胞外小胞が、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質の1つまたは複数を増大した量で有する細胞外小胞を含む、肺疾患を処置する方法に関する。一部の実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する。
【0036】
一部の実施形態において、肺疾患は、慢性肺疾患または急性肺疾患を含む。
【0037】
一部の実施形態において、肺疾患は、気管支肺異形成症である。
【0038】
別の態様において、本開示は、間葉性間質細胞から得た単離された細胞外小胞を、それを必要とする対象に投与するステップを含む、血管新生の減少、急性炎症、慢性炎症、アポトーシス、ミトコンドリア機能不全または脈管障害と関連する疾患もしくは症状を処置する方法であって、単離された細胞外小胞が、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質の1つまたは複数を増大した発現で有する細胞外小胞を含む、方法に関する。
【0039】
一部の実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5EおよびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含む。
【0040】
一部の実施形態において、単離された細胞外小胞は、対象の肺組織においてグルコース酸化を正常化する。
【0041】
一部の実施形態において、ミトコンドリア機能不全と関連する疾患または症状は、対象におけるミトコンドリアグルコース酸化の減少と関連する。
【0042】
一部の実施形態において、ミトコンドリア機能不全と関連する疾患または症状は、フリードライヒ運動失調症、レーベル遺伝性視神経症、キーンズセイアー症候群、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症、リー症候群、肥満、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、がん、心不全、心筋梗塞(MI)、アルツハイマー病、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、脆弱エックス症候群ならびに慢性疲労症候群からなる群から選択される。
【0043】
別の態様において、本開示は、骨髄間葉系幹細胞(MSC)から単離された細胞外小胞(EV)を含む組成物に関し、EVは:(i)EV内に細胞小器官または細胞小器官断片を実質的に含まず;(ii)脂質、タンパク質、核酸および細胞代謝産物を含み;(iii)加重平均直径200~300nmを有し;(iv)KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)およびVIMから選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する。一部の実施形態において、EVは、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14およびEEFA2から選択されるタンパク質を1つまたは複数さらに発現する。一部の実施形態において、EVは、ENPP1およびNT5Eから選択されるタンパク質を1つまたは複数さらに発現する。一部の実施形態において、EVは、HSPA8をさらに発現する。一部の実施形態において、EVは、CD44をさらに発現する。一部の実施形態において、EVは、MMP2をさらに発現する。一部の実施形態において、EVは、CD109をさらに発現する。
【0044】
別の態様において、本開示は、骨髄間葉系幹細胞(MSC)から単離された細胞外小胞(EV)を含む組成物に関し、EVは:(i)EV内に細胞小器官または細胞小器官断片を実質的に含まず;(ii)脂質、タンパク質、核酸および細胞代謝産物を含み;(iii)加重平均直径200~300nmを有し;(iv)KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、SPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する。一部の実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する。
【0045】
一態様において、本開示は、それを必要とする対象に前述の実施形態のいずれかの単離された細胞外小胞(EV)の有効用量を投与するステップを含む、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を処置または予防する方法に関する。好ましくは、単離されたEVは、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数発現する。
【0046】
一部の実施形態において、本方法は、感染症、敗血症、胃酸の誤嚥または外傷に起因するARDSを処置する。一部の実施形態において、感染症は、ウイルス感染症または細菌感染症である。一部の実施形態において、感染症は、コロナウイルスが原因である。一部の実施形態において、コロナウイルスは、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスOC43、SARS-CoV、HCoV NL63、HKU1、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2を含む。一部の実施形態において、肺線維症は、SARS-CoV-2感染症の結果である。
【0047】
一部の実施形態において、本方法は、COVID-19に起因するARDSを処置する。
【0048】
一部の実施形態において、本方法は、重症ARDSを予防または減少させる。
【0049】
一部の実施形態において、対象は、ALIまたはARDSを発症する危険性がある。
【0050】
一部の実施形態において、単離されたEVは、非経口投与される。
【0051】
一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、処置される対象1kg当たり約20~約500pmolのEVのリン脂質である。
【0052】
一部の実施形態において、本方法は、5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤、プロスタシクリンアゴニストまたはエンドセリン受容体アンタゴニストのうち1つもしくは複数を含む治療的薬剤を投与するステップをさらに含む。
【0053】
一部の実施形態において、PDE5阻害剤は、シルデナフィル、バルデナフィル、ザプラビスト、ウデナフィル、ダサンタフィル、アバナフィル、ミロデナフィルまたはロデナフィルを含む。
【0054】
一部の実施形態において、PDE5阻害剤は、シルデナフィルである。
【0055】
一部の実施形態において、プロスタサイクリンアゴニストは、エポプロステノールナトリウム、トレプロスチニル、ベラプロスト、イルプロストおよびPGI2受容体アゴニストを含む。
【0056】
一部の実施形態において、単離されたEVおよび5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤は、別々の組成物で同時にまたは連続して投与される。
【0057】
一部の実施形態において、単離されたEVおよび5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤は、同じ組成物で投与される。
【0058】
一部の実施形態において、単離されたEVは、1または複数用量で投与される。
【0059】
一部の実施形態において、単離されたEVは、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。
【0060】
一部の実施形態において、単離されたEVは、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与される。
【0061】
一部の実施形態において、単離されたEVおよび治療的薬剤は、同じ組成物で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびPDE5阻害剤は、1または複数用量で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびプロスタサイクリンアゴニストは、1または複数用量で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびエンドセリン受容体アゴニストは、1または複数用量で投与される。用量は、同時にまたは時間間隔を開けて投与されうる。
【0062】
一部の実施形態において、単離されたEVおよび治療的薬剤は、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。
【0063】
一部の実施形態において、単離されたEVおよびPDE5阻害剤は、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。
【0064】
一部の実施形態において、単離されたEVおよびプロスタサイクリンアゴニストは、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。
【0065】
一部の実施形態において、単離されたEVおよびエンドセリン受容体は、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。
【0066】
一部の実施形態において、単離されたEVは、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量または18用量で投与され、PDE5阻害剤は、16用量、19用量、21用量、24用量、27用量、30用量、33用量、36用量、39用量、42用量、45用量、48用量、51用量、54用量、57用量、60用量、63用量または66用量で投与される。
【0067】
一部の実施形態において、単離されたEVは、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間または1週間にわたって1日1回投与される。
【0068】
一部の実施形態において、本方法は、対象において収縮期肺動脈圧(SPAP)を低下させる。
【0069】
一部の実施形態において、本方法は、対象の肺の肺胞表面積を増大させるおよび/または肺胞の損傷を減少させる。
【0070】
一部の実施形態において、本方法は、対象において血液酸素濃度を増大させる。
【0071】
一部の実施形態において、本方法は、対象において肺の炎症を減少させる。
【0072】
一部の実施形態において、本方法は、気管支肺胞洗浄液中の細胞外基質の沈着を減少させる。
【0073】
一部の実施形態において、本方法は、フルトンのインデックスまたは肺脈管再形成を改善する。
【0074】
一部の実施形態において、対象は、ヒト、ヒト以外の霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、マウスまたはラットである。
【0075】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象に単離された細胞外小胞(EV)の有効用量を投与するステップを含み、単離されたEVが、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つ以上含有する、肺線維症を処置または予防する方法に関する。
【0076】
一部の実施形態において、肺線維症は、特発性肺線維症である。
【0077】
一部の実施形態において、肺線維症は、感染症の結果である。一部の実施形態において、感染症は、コロナウイルスが原因である。一部の実施形態において、コロナウイルスは、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスOC43、SARS-CoV、HCoV NL63、HKU1、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2を含む。一部の実施形態において、肺線維症は、SARS-CoV-2感染症の結果である。
【0078】
一部の実施形態において、本方法は、肺線維症を発症する危険性がある患者にEVを投与するステップを含む。
【0079】
別の態様において、本開示は、それを必要とする対象に単離された細胞外小胞(EV)および5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤の有効用量を投与するステップを含み、単離されたEVが、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する、呼吸器疾患または障害を処置する方法に関する。
【0080】
一部の実施形態において、呼吸器疾患または障害は、急性呼吸窮迫症候群(ADRS)、急性肺疾患、急性肺傷害(ALI)、喘息、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、肺臓炎、肺線維症、急性肺傷害、気管支炎、気腫、閉塞性細気管支炎または気管支肺異形成症(BPD)を含む。
【0081】
一部の実施形態において、本方法は、COVID-19に起因する呼吸器疾患もしくは障害を処置または予防する。
【0082】
一部の実施形態において、肺線維症は、特発性肺線維症である。
【0083】
一部の実施形態において、呼吸器疾患または障害は、感染症の結果である。
【0084】
一部の実施形態において、呼吸器疾患または障害は、SARS-CoV-2感染症の結果である。
【0085】
一部の実施形態において、本方法は、呼吸器疾患または障害を発症する危険性がある患者にEVを投与するステップを含む。
【0086】
提供された図面は、開示された主題を例示するものであるが、限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【
図1-1】骨髄間葉系幹細胞(MSC)の細胞培養上清からのUNEX-42開発品質の細胞外小胞(EV)の単離を示す図である。
図1Aは、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)精製ステップの間に生成したUNEX-42 EVならびに直径100nm[Phosphorex(商標)、4002]および200nm[Phosphorex(商標)、2202]の参照ポリスチレンビーズのクロマトグラフィープロファイルを示す図である。
【
図1-2】骨髄間葉系幹細胞(MSC)の細胞培養上清からのUNEX-42開発品質の細胞外小胞(EV)の単離を示す図である。
図1Bは、サイズ排除クロマトグラフィによって単離された異なるEV集団のクロマトグラフィープロファイルを示す図である。
【
図2】ナノ粒子追跡分析(NTA)によって生成されたUNEX-42 EVのUNEX 18-015バッチの代表的なサイズ分布を示す図である。
【
図3】UNEX-42 EVバッチのリン脂質含有量が、粒子数に比例することを実証するグラフである。
【
図4-1】UPLC-MS/MS質量分析によって生成されたUNEX-42 EV開発品質バッチのプロテオームのプロファイリングを示す図である。
図4Aは、質量分析結果のヒートマップ分析を示す図である。
【
図4-2】UPLC-MS/MS質量分析によって生成されたUNEX-42 EV開発品質バッチのプロテオームのプロファイリングを示す図である。
図4Bは、UNEX-42 EV特異的タンパク質を決定するための、全てのUNEX-42 EVバッチ間で共通であることが判明した142個の配列と、線維芽細胞由来EV中に存在するタンパク質との比較を示す図である。
【
図5】UNEX-42 EVバッチにおけるテトラスパニン陽性粒子の頻度を図示するヒストグラムである。
【
図6】UNEX-42 EVの例示的な構造的概略を示す図である。
【
図7】UNEX-42 EVが、高酸素曝露後のシトクロムC放出および細胞死を予防することを示す図である。PBSは、リン酸緩衝食塩水の略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図8】UNEX-42 EVが、in vitroで微小脈管ネットワーク形成を増進することを示す図である。PBSは、リン酸緩衝食塩水の略語である。*p<0.05は、正常酸素およびUNEX-42処置と比較した正常酸素処置を表す。
【
図9】UNEX-42 EVが、高酸素症曝露後のHPEACネットワーク分解を予防することを示す図である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素およびUNEX-42処置を表す。
【
図10】UNEX-42 EVが、高酸素曝露後にMMP-2分泌および活性を維持することを示す図である。MMP2は、マトリックスメタロプロテアーゼ2の略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図11】UNEX-42 EVが、酸素消費およびグルコース取り込みを増大させ、乳酸の集積を低下させることを示す図である。FCCPは、カルボニルシアニド-p-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾンの略語である;Glucは、グルコースの略語である;Hは、正常酸素/低酸素の比である;H+Eは、低酸素+UNEX-42/低酸素の比である;Lacは、乳酸の略語である;OCRは、酸素消費率の略語である;Pyrは、ピルビン酸の略語である;Rot-AAは、ロテノン/アンチマイシンAの略語である。aは、正常酸素処置と比較した低酸素処置を示す、p<0.05。bは、低酸素処置と比較した低酸素+UNEX-42処置を示す、p<0.05。
【
図12】UNEX-42 EVが、腫瘍壊死因子アルファの高酸素誘導性分泌を抑制することを示す図である。PBSは、リン酸緩衝食塩水の略語である:TNFaは、腫瘍壊死因子αの略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図13】UNEX-42 EVが、LPS誘導性腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)を阻害することを示す図である。
図13Aは、UNEX-42濃度に応じたTNFα阻害を図示するグラフである。
図13Bは、LPS処置によるTNFα分泌を示すヒストグラムである。LPSは、リポ多糖類の略語である;TNFαは、腫瘍壊死因子アルファの略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図14】高酸素曝露後のBAL中の総細胞数を図示するグラフである。UNEX-42は、高酸素後のBAL中の総細胞数を低下させる傾向がある。BALは、気管支肺胞洗浄液の略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。
【
図15】UNEX-42 EVが、高酸素曝露10日後にフルトンインデックスを改善することを示す図である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図16】UNEX-42 EVが、高酸素曝露後に肺組織検査を改善することを示す図である。
【
図17】UNEX-42 EVが、高酸素曝露後にMLIを改善することを示す図である。MLIは、平均肺胞径の略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図18】UNEX-42 EVが、高酸素曝露後の1回換気量を改善することを示す図である。TVbは、1回換気量の略語である。*p<0.05は、正常酸素処置と比較した高酸素処置を表す。#p<0.05は、高酸素処置と比較した高酸素+UNEX-42処置を表す。
【
図19】収縮期肺動脈圧(SPAP)に対するUNEX-42 EVおよびシルデナフィルの効果を示す図である。SPAPが、セマキシニブ/低酸素ラットモデルにおいて測定された。G1は、DMSO疾患対照を示す。G2~G7は、セマキシニブおよび低酸素に曝露されたラットの群を示す。G3は、シルデナフィル処置を示す。G4~G6は、示される投薬量のUNEX-42 EVで処置された群を示す。G7は、UNEX-42 EVおよびシルデナフィルの併用処置を示す。
【
図20】収縮期肺動脈圧(SPAP)に対するUNEX-42 EVおよびシルデナフィルの効果を示す図である。SPAPが、セマキシニブ/低酸素ラットモデルにおいて測定された。G1は、DMSO疾患対照を示す。G2~G7は、セマキシニブおよび低酸素に曝露されたラットの群を示す。G3は、シルデナフィル処置を示す。G4~G6は、示される様々な用量のUNEX-42 EVを用いてUNEX-42 EVとシルデナフィルの併用で処置された群を示す。G7は、示される投薬量でUNEX42 EVのみで処置された群を示す。
【
図21】UNEX-42 EVが、高酸素曝露後のMLI(A)および高酸素後の血液酸素レベルの増大(B)を改善することを示す図である。MLIは、平均肺胞径の略語である。
【
図22】UNEX-42 EVが、特発性肺線維症(IPF)のブレオマイシン(Bleo)モデルにおいて気管支肺胞洗浄液(BAL)に浸潤する免疫細胞数を減少させることを示す図である。
【
図23】UNEX-42 EVが、肺線維症の二酸化ケイ素モデルにおいて気管支肺胞洗浄液(BALF)に浸潤する総細胞数(A)ならびにマクロファージ、リンパ球および好中球数(B)を減少させることを示す図である。
【
図24】UNEX-42 EVが、TNFaの高酸素誘導性分泌(A)、高酸素誘導性IL6の分泌(B)および高酸素誘導性IL3の分泌(C)を抑制することを示す図である。
【
図25】UNEX-42 EVが、LPS誘導性ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド1(GRO)を減衰させることを示す図である。
【
図26】UNEX-42 EVが、LPS誘導性ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(6CKine)を減衰させることを示す図である。
【
図27】UNEX-42 EVが、LPS誘導性顆粒球走化性タンパク質2(GCP2)を減衰させることを示す図である。
【
図28】UNEX-42 EVが、LPS誘導性ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド16(CXCL16)を減衰させることを示す図である。
【
図29】UNEX-42 EVが、マウス単球においてLPS誘導性TNFa分泌を阻害することを示す図である。
【
図30】UNEX-42 EVが、ラット末梢血単核細胞(PBMC)においてLPS誘導性TNFaおよびケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド1(GRO)分泌を阻害することを示す図である。
【
図31】UNEX-42 EVが、ヒトTHP1単球においてインターロイキン1ベータ(IL1β)(A)およびインターロイキン12ベータ(IL12β)(B)のLPS誘導性mRNA発現を減衰させたことを示す図である。
図31(C)は、UNEX-42 EVが、炎症誘発性サイトカインであるマクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1α)およびベータ(MIP1β)の分泌を減衰させたことを示す図である。
【
図32】UNEX-42(19-017)EVが、高酸素曝露後にMLIを改善することを示す図である。MLIは、平均肺胞径の略語である。UNEX-42 EVは、125nMリン脂質の用量で投与された。
【
図33】UNEX-42 EV処置が、抗炎症性CD206 mRNA(A)およびIL10 mRNA(B)の発現を誘導することを示す図である。
【
図34】UNEX-42 EV処置が、特発性肺線維症(IPF)のブレオマイシン(Bleo)モデルにおいて気管支肺胞洗浄液(BAL)中の総細胞数(A)ならびにマクロファージ、リンパ球および好中球数(B)を改善することを示す図である。
【
図35】UNEX-42 EV処置が、特発性肺線維症(IPF)のブレオマイシン(Bleo)モデルにおいて気管支肺胞洗浄液(BAL)中の可溶性コラーゲンを減少させたことを示す図である。
【
図36】UNEX-42 EV処置が、高酸素曝露8日後にフルトンのインデックスを改善することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0088】
間葉系幹細胞(MSC)由来細胞外小胞(EV)は、潜在的に有益な生理的効果を多数有しうる。特に、EVは、グルコース酸化を増強し、ミトコンドリア機能を正常化することができる。肺生理学の文脈において、EVは、対象の肺において収縮期肺動脈圧(SPAP)を低下させ、肺胞の表面積を増大させ、血液酸素を増大させ、細胞外基質タンパク質の沈着を減少させ、フルトンのインデックスを改善し、炎症を減少させることができる。したがって、これら細胞外小胞は、肺動脈高血圧症(PAH)、ARDSおよび肺線維症などの呼吸困難疾患または症状、ならびにミトコンドリア機能不全と関連する疾患または症状に治療的有用性を付与することができる。本開示は、EV、EVを得る方法、ならびにこれらEVを使用してCOVID-19もしくはSARS-CoVもしくは関連するコロナウイルス感染症と関連するARDSおよび肺線維症を含めたARDSおよび肺線維症などの呼吸困難疾患もしくは症状、ならびに他の様々な疾患および症状を処置または予防する方法を提供する。一実施形態において、本開示は、特発性肺線維症を処置または予防する方法を提供する。
【0089】
特に、本発明者らは、MSCからのEVを操作および単離し、MSCから得たEVのプロテオミクス分析を実行して、EVの構造を解明し、効力に影響を及ぼす成分を同定した。MSCから得られるEV中に差異的に含有されるタンパク質の同定は、生物学的に操作されたEVまたはこれら細胞由来EVを模倣できる合成EVの生産を可能にする。
【0090】
MSCから得られるEVに差異的に含有されるタンパク質は、1つもしくは複数の細胞骨格タンパク、1つもしくは複数の遺伝子転写/翻訳関連タンパク質、1つもしくは複数のヌクレアーゼまたはヌクレオチダーゼ、1つもしくは複数の熱ショックタンパク質、1つもしくは複数の小胞輸送関連タンパク質、1つもしくは複数の細胞外基質(ECM)関連タンパク質、1つもしくは複数のタンパク質分解関連タンパク質、および1つもしくは複数の細胞シグナル伝達タンパク質を含むことができる。実施例1.4の表3を参照のこと。特に、MSC由来EVおよびエクソソーム中に差異的に含有されると同定された1つまたは複数の細胞骨格タンパクは、ケラチンI型細胞骨格19(KRT19)、チューブリンベータ鎖(TUBB)、チューブリンベータ鎖2A(TUBB2A)、チューブリンベータ鎖(TUBB2B)、チューブリンベータ鎖2C(TUBB2C)、チューブリンベータ鎖3(TUBB3)、チューブリンベータ鎖4B(TUBB4B)、チューブリンベータ鎖6(TUBB6)、コフィリン1(CFL1またはHEL-S-15)、およびビメンチン(VIM)を含む。MSC由来EVおよびエクソソーム中に差異的に含有されると同定された1つまたは複数の遺伝子転写関連タンパク質は、真核生物伸長因子1(EEF1A1)、真核生物伸長因子1アルファ偽遺伝子5(EEF1A1P5)、前立腺腫瘍誘導1(PTI-1)、真核生物伸長因子1アルファ1様14(EEF1A1L14)、および真核生物伸長因子アルファ2(EEFA2)を含む。MSC由来EVおよびエクソソーム中に差異的に含有されると同定された1つまたは複数のヌクレアーゼは、エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ1(ENPP1)およびエクト5’-ヌクレオチダーゼ(NT5E)を含む。MSC由来EVおよびエクソソーム中に差異的に含有されると同定された他のタンパク質は、熱ショックタンパク質A8(HSPA8またはHEL-S-72pもしくはHsc70)、RAB10(小胞輸送に関係する小GTPアーゼタンパク質)、CD44(ヒアルロナンなどの細胞外基質成分と相互作用する細胞表面接着受容体)、マトリックスメタロプロテアーゼ2(MMP2)、CD109(TGFベータ受容体シグナル伝達阻害剤)および未知のタンパク質DKFZp686P132を含む。
【0091】
したがって、一部の実施形態において、本開示は、単離されたEVを提供し、単離されたEVは、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する。一部の好ましい実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5EおよびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する。
【0092】
別の態様において、本開示は、骨髄間葉系幹細胞(MSC)から単離された細胞外小胞(EV)を含む組成物に関し、EVは:(i)EV内に細胞小器官または細胞小器官断片を実質的に含まず;(ii)脂質、タンパク質、核酸および細胞代謝産物を含み;(iii)加重平均直径200~300nmを有し;(iv)KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)およびVIMから選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する。一部の実施形態において、EVは、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14およびEEFA2から選択されるタンパク質を1つまたは複数さらに含有する。一部の実施形態において、EVは、ENPP1およびNT5Eから選択されるタンパク質を1つまたは複数さらに含有する。一部の実施形態において、EVは、HSPA8をさらに含有する。一部の実施形態において、EVは、CD44をさらに含有する。一部の実施形態において、EVは、MMP2をさらに含有する。一部の実施形態において、EVは、CD109をさらに含有する。
【0093】
別の態様において、本開示は、骨髄間葉系幹細胞(MSC)から単離された細胞外小胞(EV)を含む組成物に関し、EVは:(i)EV内に細胞小器官または細胞小器官断片を実質的に含まず;(ii)脂質、タンパク質、核酸および細胞代謝産物を含み;(iii)加重平均直径200~300nmを有し;(iv)KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、SPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する。一部の実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有する。
【0094】
本開示が、あらゆる呼吸器疾患または障害の処置に適用されうることも本明細書に意図される。例えば、呼吸器疾患または障害は、急性呼吸窮迫症候群(ADRS)、急性肺疾患、喘息、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、肺臓炎、肺線維症、急性肺傷害、気管支炎、気腫、閉塞性細気管支炎または気管支肺異形成症(BPD)を含みうる。一部の実施形態において、本方法は、コロナウイルス感染症またはCOVID-19に起因する呼吸器疾患もしくは障害を処置または予防する。EVの生理的効果のため、EVを使用して炎症過程または肺機能不全を原因とする血液の酸素供給の減少によって特徴付けられる肺症状を処置もしくは予防することができる。
【0095】
A.定義
特に明記しない限り、「a」または「an」は、「1つまたは複数」を意味するものとする。
【0096】
特に定義されない限り、本明細書に使用される全ての専門および科学用語は、当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有するものとする。
【0097】
特に明記しない限り、本開示において利用される分子生物学、組換えタンパク質、細胞培養および免疫学的技術は、当業者に周知の標準的な手順である。これらの技術は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T. A. Brown (編者), Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D. M. Glover and B. D. Hames (editors), DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、およびF. M. Ausubel et al. (編者), Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience (1988, 現在までの全ての更新を含む)、Ed Harlow and David Lane (編者) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory, (1988)、およびJ. E. Coligan et al. (編者) Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons (現在までの全ての更新を含む)などの出典中の文献全体に記載ならび説明されており、これらを参照により本明細書に組み込む。
【0098】
これらの目的のタンパク質を含有するEVを得る過程は、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を含む、所望のタンパク質を1つ以上含有するようにEVを「操作すること」と本明細書において一般に称される。本明細書では、用語「操作」とは、広く、所望のタンパク質を含有するEVを得るあらゆる可能性ある手段のことを指すことを意味する。用語「操作」は、MSCから得られるEVに差異的に含有されると本明細書において同定された1つもしくは複数のタンパク質を増大したレベルで含有するEVを生成するために、EVを直接もしくはEVが得られるドナー細胞のいずれかを操作、選択、単離、培養または精製するあらゆる形態を含む。所望のタンパク質を含有するようにEVを操作する例示的な実施形態は、以下でさらに記載される。
【0099】
本明細書では、ARDSは、急性呼吸窮迫症候群を意味する。ARDSは、例えば、感染症(ウイルスまたは細菌)、敗血症、胃酸の誤嚥または外傷が原因になる場合がある。ARDSは、未知の原因を有する場合がある。ARDSは、COVID-19またはSARSーCoV感染症と関連付けられる場合がある。
【0100】
本明細書では、肺線維症は、肺組織に対する瘢痕化または損傷によって特徴付けられる症状のことを指す。肺線維症は、あらゆる原因または未知の原因(特発性肺線維症)を持つ線維症を含む。肺線維症は、COVID-19感染症またはSARS-CoV感染症と関連付けられる場合がある。
【0101】
ARDS、肺線維症または関連する呼吸疾患もしくは障害は、コロナウイルスによる感染症と関連付けられる場合もある。一部の実施形態において、コロナウイルスは、ヒトコロナウイルス229E、ヒトコロナウイルスOC43、SARS-CoV、HCoV NL63、HKU1、MERS-CoVまたはSARS-CoV-2を含む。一部の実施形態において、ARDS、肺線維症または関連する呼吸疾患もしくは障害は、任意の感染性疾患または障害と関連付けられうる。
【0102】
本明細書では、用語「対象」(本明細書において「患者」とも称される)は、温血動物、好ましくはヒトを含めた哺乳動物を含む。好ましい実施形態において、対象は、霊長類である。さらに好ましい実施形態において、対象は、ヒトである。
【0103】
本明細書では、用語「処置する(treating)」、「処置する(treat)」、または「処置(treatment)」は、疾患もしくは症状の少なくとも1つの症候を減少、緩和または排除すること含む。
【0104】
本明細書では用語「予防する(preventing)」、「予防する(prevent)」または、「予防(prevention)」は、脈管障害などの疾患もしくは症状の少なくとも1つの症候の出現もしくは存在を停止させるまたは妨害すること含む。あるいは、用語「予防する(preventing)」、「予防する(prevent)」または、「予防(prevention)」は、血管新生機能不全、アポトーシス、炎症、ミトコンドリア機能不全などの疾患もしくは症状の少なくとも1つの症候の出現もしくは存在を停止させるまたは妨害することを含みうる。
【0105】
ここでは、用語「発現」は、1つもしくは複数の遺伝子のRNA発現および/またはタンパク質発現レベルを意味する。言い換えれば、用語「発現」は、RNA発現もしくはタンパク質発現または2つの組合せのことを指しうる。本明細書では、この用語の含有(contain)または含有すること(containing)は、タンパク質および/またはRNA発現を含みうる。
【0106】
ここでは、用語「低酸素」とは、大気O2濃度である21%より低い酸素(O2)濃度条件のことを指す。一部の実施形態において、低酸素とは、0%~10%、0%~5% O2、5%~10%、または5%~15%であるO2濃度の条件のことを指す。一実施形態において、低酸素とは、約10% O2の酸素の濃度のことを指す。
【0107】
ここでは、用語「正常酸素」とは、酸素の正常大気中濃度、およそ20%~21% O2条件のことを指す。
【0108】
ここでは、用語「単離する(isolating)」または「単離された(isolated)」とは、細胞培養または培地から単離される細胞外小胞の文脈で使用される場合、人の手によって天然の環境から離れて存在する細胞外小胞のことを指す。
【0109】
ここでは、用語「細胞外小胞」は、EVと略記され、エクソソームを包含する。本明細書では、一部の実施形態において、用語「細胞外小胞」および「EV」とは、直径(または粒子が球状でない場合、最大寸法)約10nm~約5000nm、より一般には30nm~1000nm、最も一般には約50nm~750nmを有する膜粒子のことを指す。最も一般的には、EVは、ドナー細胞のサイズの多くとも5%のサイズ(平均直径)を有することになる。したがって、特に意図されるEVは、細胞から排出されたEVを含む。
【0110】
ここでは、用語「細胞外小胞の集団」とは、固有の特徴または特徴の組を有する細胞外小胞の集団のことを指す。用語「細胞外小胞の集団」および「細胞外小胞」は、固有の特徴または特徴の組を有する細胞外小胞の集団のことを指すために互換的に使用されうる。
【0111】
ここでは、用語「間葉性間質細胞」は、間葉系幹細胞を含む。間葉系幹細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、表皮、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮および骨膜に見られる細胞である。間葉系幹細胞は、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉および繊維結合組織を含むがこれに限定されない多数の細胞型に分化する能力がある。間葉系幹細胞によって進行される特定の系統拘束および分化経路は、機械的影響および/もしくは成長因子、サイトカインなどの内在性生理活性因子、ならびに/または宿主組織によって確立される局所的な微小環境条件を含めた様々な影響によって決まる。したがって間葉系幹細胞は、分裂していずれも幹細胞である娘細胞を生成する非造血前駆細胞、またはやがて不可逆的に分化して表現型細胞を生成することになる前駆体細胞である。
【0112】
本開示の一部の実施形態は、間葉性間質細胞細胞外小胞に広く関し、それは間葉性間質細胞細胞外小胞、すなわちMSC細胞外小胞、または細胞外小胞と互換的に称される。
【0113】
EVが合成エクソソームを包含することも本明細書に意図される。本明細書では、用語「合成エクソソーム」とは、細胞からではなくin vitroで生産されるエクソソームのことを指す。例えば、合成エクソソームは、閉じた脂質二重層または凝集体の生成によって形成されるリポソームでもよい。リポソームは、リン脂質を一般に含む二重層膜、と水性組成物を一般に含む内部媒体とを持つ小胞構造を有すると特徴付けられうる。
【0114】
B.細胞外小胞
i.MSC特異的タンパク質を含有するようにEVを操作する
本開示は、PAH、PH、BPDまたはミトコンドリア機能不全、血管新生の減少、アポトーシス、もしくは炎症に関連する障害を処置するための増大した効力を有するMSC由来EVを操作する方法を提供する。一部の実施形態において、EVは、どんな細胞型から得られてもよい。一部の実施形態において、EVは、不死化細胞または不死化細胞株として確立された細胞から得られてもよい。一部の実施形態において、EVは、初代細胞から得られてもよい。本明細書では、用語「初代細胞」は、対象またはドナーから直接得られる細胞を意味し、初代細胞は、不死化されていないおよび/または不死化細胞株として確立されていない。一部の好ましい実施形態において、EVは、間葉系幹細胞(MSC)から得られる。
【0115】
一部の実施形態において、本開示は、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するようにEVを操作するステップを含む、増大した効力を有する細胞外小胞(EV)を単離する方法を提供し、より好ましくは、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するように操作されてもよい。
【0116】
一部の実施形態において、ドナー細胞は、MSCであり、EVは、差異的に含有されるタンパク質を選択用マーカーとして使用して単離される。例えば、EVは、フローサイトメトリもしくはパニング、または他の任意の周知の免疫選択方法を使用することによってMSC培養物から選択されて、MSCから得られる全てのEVの平均と比較してKRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質の1つもしくは複数を増大したレベルで含有するEVを単離してもよい。一部の好ましい実施形態において、EVは、MSCから得られる全てのEVの平均レベルと比較してCD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質の1つまたは複数を増大したレベルで含有するように操作されてもよい。
【0117】
別の態様において、EVを得るために使用されるドナー細胞は、MSCでなくてもよく、目的のタンパク質のいずれも含有しなくてもよい。むしろ、非MSCドナー細胞が、本明細書の他の場所で参照される標準的な分子生物学技術を使用して目的のタンパク質の1つまたは複数を含有するように遺伝子操作されてもよい。したがって、一部の実施形態において、EVは、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するように遺伝子操作された非MSC細胞から得られてもよい。好ましい実施形態において、EVは、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するように遺伝子操作された非MSC細胞から得られてもよい。本開示のEVを得るためのドナーとして使用される細胞は、任意の型の細胞でもよい。一部の実施形態において、非MSC細胞は、線維芽細胞またはマクロファージでもよい。
【0118】
別の態様において、EVは、目的のタンパク質を含有するように直接操作されてもよい。目的のタンパク質を含有するようにエクソソームを直接操作する様々な方法は、当業者に周知である。例えば、EVは、単離または精製された目的のタンパク質とインキュベートされてもよい。EVは、単離または精製された目的のタンパク質と一緒に、受動的にインキュベートされてもよい。EVに目的のタンパク質を搭載する効率を改善するために、EVと単離された目的のタンパク質の混合物を超音波処理して膜の完全性を損なわせ、その後膜内に埋め込まれた目的のタンパク質を含むEVが復元させてもよい。EVは、押出プロトコールによって目的のタンパク質を含有するように操作されてもよく、EVは、目的のタンパク質と混合され、シリンジによる脂質押出機にその後搭載されて、エクソソームと目的のタンパク質を力強く混合する。
【0119】
一部の実施形態において、EVは、目的のタンパク質とEVを混合し、その後、混合物を繰り返し凍結融解することによって目的のタンパク質を含有するように操作される。EVは、エレクトロポレーションによってまたは当業者に周知の透過処理剤とのインキュベーションによって目的のタンパク質を含有するように操作されてもよい。
【0120】
一部の実施形態において、EVは、クリック化学手法を使用して目的のタンパク質を含有するように操作される。例えば、銅触媒によるアジドアルキン環化付加を使用して、目的のタンパク質を直接EVにコンジュゲートしてもよい。
【0121】
本明細書に記載の目的のタンパク質を含有するようにEVを操作する方法を使用することにより、リポソームなどの合成EVまたはエクソソームは、KRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するように、好ましい実施形態においては、CD44、CD109、NT5E、MMP2およびHSPA8からなる群から選択されるタンパク質を1つまたは複数含有するように操作されてもよい。
【0122】
EVは、タンパク質マーカーであるシンテニン-1、フロチリン-1、CD105、主要組織適合複合体クラスIおよびテトラスパニンファミリのメンバーの含有についてさらに評価されうる。したがって、単離されたEVは、シンテニン-1、フロチリン-1、CD105および/または主要組織適合複合体クラスIをさらに含む。一部のさらなる実施形態において、単離されたEVは、テトラスパニンファミリのメンバーをさらに含む。一部の実施形態において、テトラスパニンファミリのメンバーは、CD63、CD81およびCD9を含む。
【0123】
ii.細胞からの細胞外小胞の取得
本開示の細胞外小胞(EV)は、任意の細胞供給源から得ることができる。一部の実施形態において、EVは、間葉性間質細胞から放出される膜(例えば、脂質二重層)小胞である。それらは、例えば、直径約30nm~1000nm、約30nm~約500nm、約50nm~約350nm、または約30nm~約100nmを有することができる。一部の実施形態において、単離された細胞外小胞は、平均直径約100nm、約150nm、約200nm、約250nm、約300nmまたは約350nmを有する。好ましい実施形態において、単離された細胞外小胞は、平均直径約100nmを有する。別の実施形態において、単離された細胞外小胞の少なくとも70%は、サイズ50nm~350nmを有する。
【0124】
電子顕微鏡検査によって、細胞外小胞は、カップ形状の形態を有するように見える場合がある。それらは、例えば、約100000×gで沈殿させることができ、ショ糖中で浮遊密度約1.10~約1.21g/mLを有することができる。
【0125】
間葉性間質細胞は、骨髄、血液、骨膜、真皮、臍帯血および/または基質(例えば、ホウォートンゼリー)ならびに胎盤を含むがこれに限定されない多数の供給源から採取されてもよい。間葉系幹細胞を採取する方法については、実施例にさらに詳細に記載されている。本開示に使用されうる他の採取方法については、米国特許第5486359号明細書を参照することができ、それを参照により本明細書に組み込む。
【0126】
本開示の方法に使用することが意図される間葉性間質細胞、したがって細胞外小胞は、処置される同じ対象から得られてもよく(したがって、対象に対して自家と称されることになる)または異なる対象、好ましくは同種の対象から得られてもよい(したがって、対象に対して同種と称されることになる)。
【0127】
特に明記しない限り、本明細書では、本開示の態様および実施形態は、細胞および細胞集団に関すると理解されるべきである。したがって、特に明記しない限り、細胞が記載される場合、細胞集団も意図されることは理解されるべきである。
【0128】
本開示の一部の態様は、単離された細胞外小胞を指す。本明細書では、単離された細胞外小胞は、天然の環境から物理的に分離されたものである。単離された細胞外小胞は、間葉性間質細胞を含めて、天然に存在する組織または細胞環境から全体的もしくは部分的に物理的に分離されてもよい。本開示の一部の実施形態において、単離された細胞外小胞の組成物は、間葉性間質細胞などの細胞を含まなくてもよく、または順化培地を含まなくてもまたは実質的に含まなくてもよい。一部の実施形態において、単離された細胞外小胞は、無操作の順化培地中に存在する細胞外小胞より高濃度で提供されうる。細胞外小胞は、間葉性間質細胞培養物の順化培地から単離されてもよい。
【0129】
一般に、磁気粒子、ろ過、透析、超遠心分離、ExoQuick(商標)(Systems Biosciences、CA、USA)および/もしくはクロマトグラフィを含む方法など、細胞外小胞を精製ならびに/または富化するための任意の適切な方法が使用されうる。一部の実施形態において、細胞外小胞は、遠心分離および/または超遠心分離によって単離される。細胞外小胞は、清浄な順化培地の超遠心分離によっても精製されうる。それら細胞外小胞は、ショ糖クッション中での超遠心分離によっても精製されうる。プロトコールは、例えばThery et al. Current Protocols in Cell Biol. (2006) 3.22に記載されており、参照により本明細書に組み込む。一部の実施形態において、細胞外小胞は、単一ステップのサイズ排除クロマトグラフィによって単離される。例えば、プロトコールは、Boing et al. Journal of Extracellular Vesicles (2014) 3:23430に記載されており、参照により本明細書に組み込む。間葉性間質細胞または間葉系幹細胞から細胞外小胞を採取する詳細な方法は、実施例に提供される。
【0130】
EVは、直ちに使用することができ、または短期か長期間かにかかわらず、使用前に、冷凍保存状態などで貯蔵されうる。長期貯蔵の間に細胞外小胞の完全性を得られるように、プロテイナーゼ阻害剤が冷凍媒体に一般に含まれる。-20℃での冷凍は、細胞外小胞活性の喪失の増大に関連するので好ましくない。-80℃での急速冷凍は、活性を維持するのでより好ましい。例えばKidney International (2006) 69, 1471-1476を参照のこと、参照により本明細書に組み込む。細胞外小胞の生物学的活性の維持を増強するために、冷凍媒体には添加物が使用されてもよい。そのような添加物は、完全な細胞の凍結保存に使用されるものと類似することになり、DMSO、グリセロールおよびポリエチレングリコールがあるが、これに限定されない。
【0131】
iii.合成EV
本実施形態によって使用される合成EVまたはエクソソームは、当業者に公知であろう異なる方法によって作ることができる。合成エクソソームは、脂質を二重層構造(エクソソームの膜に似ている)に組立て、小胞表面をタンパク質で官能化する、もしくは標的細胞の受容体と直接接触させてメッセージを輸送することによってその表面をモジュレートすることによって、または親水性分子を付加してその血液循環を増大させることによって形成されてもよい。
【0132】
一部の実施形態において、合成EVまたはエクソソームは、リポソームを含む。本明細書では、用語「リポソーム」は、少なくとも1つの脂質二重層を有する球状小胞のことを指す。リポソームは、水などの極性溶媒中で、リン脂質などの脂質の分散液に十分なエネルギーを供給して多層凝集体をオリゴまたは単層二重層小胞へと分解させた後に形成されうる。リポソームは、それ故、水中でリン脂質などの両親媒性脂質の分散液を超音波処理することによって創出されうる。
【0133】
リポソームの主要な型には、多層小胞(MLV、いくつかのラメラ相脂質二重層を持つ)、小型単層リポソーム小胞(SUV、1つの脂質二重層を持つ)、大型単層小胞(LUV)、および渦巻形小胞がある。低い剪断速度は、多重層リポソームを創出する。これによって、タマネギのような多くの層を有する元の凝集体は、次第により小さくなり、最終的には小型単層リポソーム小胞またはSUV(その小さいサイズおよび超音波処理で創出された欠損のため、しばしば不安定である)を形成する。超音波処理に代わるものとして、押出およびMozafari法を利用して、ヒトに使用するための材料を作製することができる。ホスファチジルコリン以外の脂質を使用することによりリポソーム調製を大いに促進することができる。
【0134】
特に、小型単層小胞(SUV)は、天然のEVとの類似点(サイズ範囲および膜傾向)のため、EVを模倣できる小胞の調製にとって理想的な前駆体である。したがって、SUVリポソームの調製に使用される周知の技術(例えば、薄膜水和法、逆相蒸発法、エタノール注入法、エーテル注入法、微小流体法、押出技術、Mozafari法、等)を適用することによって、天然のEVと類似のサイズ範囲を持つリポソームが得られてもよい。
【0135】
リポソームをさらに修飾して、例えば膜の外側をポリエチレングリコール(PEG)で被覆することによって身体の免疫系の検出を回避してもよい。したがって、一部の実施形態において、合成EVは、PEGで被覆される。
【0136】
C.疾患もしくは症状を処置または予防するために本開示のEVを使用する方法
本明細書に記載されるEVは、上述の急性呼吸窮迫症候群(ARDS)もしくは肺線維症を処置または予防する方法など、呼吸器疾患もしくは障害を処置または予防する際に特に使用されうる。一部の実施形態において、肺線維症は、特発性肺線維症である。他の実施形態において、本明細書に開示されるEVを使用して、対象において収縮期肺動脈圧(SPAP)を低下させ、対象において肺の肺胞の表面積を増大させ、対象において血液酸素の濃度を増大させ、細胞外基質沈着(可溶性コラーゲンなど)を減少させ、フルトンのインデックスを改善し、または対象において肺の炎症を減少させることができる。
【0137】
EVを使用して、PAHまたはPHなどの脈管障害;BPD;またはミトコンドリア機能不全、血管新生の減少、アポトーシス、もしくは炎症に関連する障害を処置することもできる。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVを使用して、ヒト対象を含めたそれを必要とする対象においてミトコンドリア機能を改変することができる。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVは、肺の免疫調節能力を増大させることができる。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVは、炎症を減少させることができる。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVは、肺において血管新生を増進することができる。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVは、肺のミトコンドリア代謝を増大させることができる。
【0138】
i.気管支肺異形成症
気管支肺異形成症(BPD)は、早産児の慢性肺疾患である。それは、長期にわたる肺の炎症、肺胞数の低下および肺胞中隔の肥厚化、遠位血管の「退縮」による異常な脈管成長ならびに限定的な代謝および抗酸化能力によって特徴付けられる。米国では年間14,000人のBPDの新規症例が存在する。重要なことに、BPDの診断は、PAH、気腫、喘息、心蔵管罹病率および0歳児の死亡率の増大、神経発達障害および脳性麻痺の増大、若年成人としての気腫を含めた他のさらなる症状にしばしば至る。これまでに、BPDの標準的な療法は存在しない。一部のBPD患者は、穏やかな換気およびコルチコステロイドで処置されるが、これらの処置は、神経予後または死に対して効果を示さない。BPDの主要な危険性は、生後24~28週の乳児に存在し、それは嚢状発達の始まりの期間に相当する。危険性の高い乳児は、1.3~2.2ポンドである。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVを使用して対象のBPDを処置することができる。
【0139】
ii.脈管障害
脈管障害成分を伴う疾患および症状には、肺高血圧症、肺動脈高血圧症(PAH)、末梢血管疾患(PVD)、重症虚血肢(CLI)、冠状動脈疾患および糖尿病性脈管障害があるが、これに限定されない。
【0140】
肺高血圧症、例えば、肺動脈高血圧症(PAH)とは、肺循環の圧力が増大し、最終的に心不全および死を引き起こす症状のことを指す。多くの原因および症状が、PAHと関連することが判明しているが、その多くは、いくつかの基本的な病態生理学的特徴を共有している。これらの過程に共通する特徴の1つは、全ての血管壁の内側の細胞層である内皮の機能不全であり、内皮は、血管の緊張および修復を調節し、凝血塊形成を阻害する多数の物質の産生ならびに代謝に通常関与する。PAHの場合、内皮の機能不全は、有害物質の過剰な産生、および防御物質の産生障害をもたらす可能性がある。これがPAHの発症における主要な事象なのかまたは下流のカスケードの一部なのかは依然として不明であるが、いずれの場合にも、疾患を特徴付ける進行性の脈管収縮および脈管増殖における要因であると考えられている。したがって、本明細書に記載される細胞外小胞を使用して、PAHを含めた肺高血圧症を処置することができる。
【0141】
用語末梢血管疾患(PVD)とは、末梢動脈および静脈内の損傷、機能不全または閉塞のことを指す。末梢動脈疾患は、最も一般的なPVDの形態である。末梢血管疾患は、最も一般的な動脈疾患であり、米国において非常に一般的な症状である。それは、たいていは50歳以上の人において発生する。末梢血管疾患は、50歳以上の人および糖尿病の人に共通する障害の主原因である。米国において約一千万人が末梢血管疾患を有し、それは50歳以上の人の約5%に相当する。症状がある人の数は、人口年齢につれて増加すると予想される。男性は、女性より末梢血管疾患を有する可能性がわずかに高い。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVを使用して、ヒト対象を含めた対象においてPVDを処置することができる。
【0142】
末梢動脈閉塞の進行による重症虚血肢(CLI)は、安静時の血流および酸素送達の減少によって特徴付けられ、安静時の筋肉痛および治癒しない皮膚潰瘍または壊疽を生じる[Rissanen et al., Eur. J. Clin. Invest. 31:651-666 (2001);Dormandy and Rutherford, J. Vasc. Surg. 31:S1-S296 (2000)]。重症虚血肢は、1年間に患者100万人当たり500~1000人に発症すると推定されている["Second European Consensus Document on Chronic Critical Leg Ischemia", Circulation 84(4 Suppl.) IV 1-26 (1991)]。重症虚血肢の患者においては、関連する罹病率、死亡率および機能的影響にもかかわらず、切断が、支障となる症候に対する解決策としてしばしば推奨される[M. R. Tyrrell et al., Br. J. Surg. 80: 177-180 (1993);M. Eneroth et al., Int. Orthop. 16: 383-387 (1992)]。重症虚血肢に対する最適な医学療法は存在しない[Circulation 84(4 Suppl.): IV 1-26 (1991)]。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVを使用して、ヒト対象を含めた対象において重症虚血肢を処置することができる。
【0143】
冠状動脈疾患(アテローム性動脈硬化症)は、ヒトにおける進行性の疾患であり、1つまたは複数の冠状動脈が、プラークの蓄積によって徐々に閉塞される。この疾患を有する患者の冠状動脈は、部分的に閉塞した動脈を押し広げておくための気球血管形成またはステントの挿入によってしばしば処置される。最終的には、これらの患者は、多大な出費および危険性を伴う冠状動脈バイパス手術を受ける必要がある。一部の実施形態において、本明細書に記載されるEVを使用して、ヒト対象を含めた対象において冠状動脈疾患を処置することができる。
【0144】
iii.血管新生の減少
本明細書では、用語「血管新生」とは、脈管形成の初期段階で形成された既存の血管から新たな血管を形成する生理的過程のことを指す。血管新生活性は、内皮管分岐点を測定することによって評価できる。本開示は、MSCから得られるEVが、ヒト内皮細胞において管形成を増進し、ヒト内皮細胞において高酸素に媒介される管ネットワークの喪失を予防することを示す。
【0145】
一部の実施形態において、本開示のEVは、内皮管分岐点を測定することによって決定される血管新生を増進することができる。
【0146】
iv.アポトーシス
未熟児において、高い酸素レベルおよび機械換気は、肺上皮における細胞ストレスの原因となりうる。酸化的ストレスは、呼吸困難を呈する早産児において、アポトーシスまたは細胞死の原因になりえ、気管支肺異形成症(BPD)の発症に至る場合がある。酸化的ストレスは、シトクロムCのミトコンドリア放出を誘導し、アポトーシスをもたらすシグナル伝達カスケードを開始する。したがって、本明細書に開示されるMSCから得られるEVによる細胞救済は、シトクロムCの放出を測定することによって決定できる。
【0147】
一部の実施形態において、本開示のEVは、アポトーシスを予防する、または細胞および組織を救済することができる。一部の実施形態において、本開示のEVは、シトクロムCのミトコンドリア放出を予防し、それによって、アポトーシスを予防することができる。一部の実施形態において、本開示のEVは、早産児においてBPDを処置することができる。一部の実施形態において、本開示のEVは、肺上皮においてアポトーシスを予防することができる。
【0148】
v.炎症
炎症性サイトカインは、免疫細胞および炎症を増進する他の特定の細胞型から分泌されるサイトカインの一種である。炎症は、酸化的ストレスなどの細胞のストレスが原因になりうる。
【0149】
炎症性サイトカインは、ヘルパーT細胞(Th)およびマクロファージによって主に産生され、炎症反応の上方調節に関係する。炎症性疾患を処置する治療法は、炎症性サイトカインまたはその受容体のいずれかを中和するモノクローナル抗体を含む。
【0150】
炎症性サイトカインまたはケモカインとしては、インターロイキン-1(IL-1)、IL-3、IL-6およびIL-18、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターフェロンγ(IFNγ)ならびに顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド1(GRO)、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(6Ckine)、顆粒球走化性タンパク質2(GCP2)もしくはケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド16(CXCL16)、マクロファージ炎症性タンパク質1a(MIP1a)、マクロファージ炎症性タンパク質1b(MIP1b)、インターロイキン1ベータ(IL1β)、インターロイキン12ベータ(IL12β)またはインターフェロン誘導可能なT細胞アルファ化学誘引物質(ITAC)を挙げることができる。肺のこの炎症状態は、機械換気に伴う気圧傷害および高酸素補給に起因する酸化的ストレスによるものである。したがって、MSCから得られるEVの免疫調節活性は、IL-3または腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)などの炎症誘発性サイトカインのレベルを測定することによって評価されうる。
【0151】
一部の実施形態において、本開示のEVは、炎症誘発性サイトカインの分泌を予防することができる。一部の実施形態において、炎症誘発性サイトカインは、IL-3または腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)を含む。一部の実施形態において、本開示のEVは、急性炎症を処置することができる。EVは、マンノース受容体(CD206)およびインターロイキン10(IL10)などの抗炎症性サイトカインの存在または活性化を増強させうる。一部の実施形態において、本開示のEVは、慢性炎症を処置することができる。
【0152】
BPDは、肺における炎症誘発性サイトカインの持続的な上昇と関連している。したがって、本開示のEVを使用して、BPDと関連する炎症を処置することができる。
【0153】
vi.ミトコンドリア機能不全
ミトコンドリアは、多数の代謝的変換および調節機能に関与する細胞内細胞小器官である。それらは、真核生物細胞によって利用されるATPを多く産生する。それらは、酸化的ストレスの原因となるフリーラジカルおよび活性酸素種の主要な供給源でもある。そのため、ミトコンドリア欠損は、特に、エネルギーレベルの要求が高い神経および筋肉組織にとって有害である。したがって、エネルギー性欠損は、運動障害、心筋症、筋疾患、失明および難聴の形態で関係している[DiMauro et al. (2001) Am. J. Med. Genet.106, 18-26;Leonard et al. (2000) Lancet.355, 299-304]。ミトコンドリア機能不全は、乳酸産生の増大、呼吸の減弱およびATP産生に関係しうる。ミトコンドリア機能不全は、酸化的ストレスとして現れることがある。
【0154】
発達が不十分な肺および未熟な呼吸の制御は、低酸素症をしばしばもたらし、BPD患者において、慢性的に低いO2貯蔵能および低い血液酸素飽和度を招く可能性がある。代謝機能の改善は、低酸素に曝露した肺動脈平滑筋細胞(PASMC)におけるグルコース代謝およびミトコンドリアの酸素消費を測定することによって評価されうる。特に、ミトコンドリア代謝を増大させるEVの能力は、ピルビン酸キナーゼ活性またはATPアーゼ活性を測定することによって評価されうる。
【0155】
本開示は、ミトコンドリア機能不全と関連する疾患または症状を処置する方法を提供する。ミトコンドリア機能不全は、対象においてミトコンドリアグルコース酸化の減少と関連する可能性がある。
【0156】
一部の実施形態において、ミトコンドリア機能不全と関連する疾患または症状は、フリードライヒ運動失調症、レーベル遺伝性視神経症、キーンズセイアー症候群、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発作を伴うミトコンドリア脳筋症、リー症候群、肥満、アテローム性動脈硬化症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、がん、心不全、心筋梗塞(MI)、アルツハイマー病、ハンチントン病、統合失調症、双極性障害、脆弱エックス症候群ならびに慢性疲労症候群からなる群から選択されるものである。
ミトコンドリアエネルギー産生
【0157】
本明細書に提供されるEVは、ピルビン酸キナーゼまたはATPアーゼの発現を増大させることによってミトコンドリアのエネルギー産生も改善できることもまた意図される。真核生物の細胞は、細胞過程を実施するためにエネルギーを必要とする。これらのエネルギーは、アデノシン5’-三リン酸(「ATP」)のリン酸結合に主に貯蔵される。真核生物には:(1)解糖;(2)TCA回路(クレブス回路またはクエン酸回路とも称される);および(3)酸化的リン酸化を含めて、エネルギーを生成する特定の経路が存在する。ATPが合成される場合、炭水化物が、単糖(例えば、グルコース)に最初に加水分解され、脂質は脂肪酸とグリセロールに加水分解される。同様に、タンパク質は、アミノ酸に加水分解される。これらの加水分解された分子の化学結合内のエネルギーが、次いで放出され、細胞に利用されて、多数の異化経路によってATP分子が形成される。
【0158】
生体にとってエネルギーの主要な供給源は、グルコースである。グルコース分解では、グルコース分子の化学結合内のエネルギーが放出され、細胞に利用されてATP分子が形成されうる。これが起こる過程は、いくつかの段階からなる。第1は、解糖と呼ばれ、グルコース分子がピルビン酸と呼ばれる2つのより小さい分子に分解される。
【0159】
解糖において、グルコースおよびグリセロールは、解糖系によってピルビン酸へと代謝される。この過程の間に、2つのATP分子が生成される。NADHも2分子産生され、これは電子伝達鎖を介してさらに酸化され、その結果追加のATP分子が生成されうる。
【0160】
解糖は、グルコース(および他の単糖)を2つのピルビン酸分子へと分解する多くの酵素触媒性ステップを含む。代わりに、その経路は、合計2つのATP分子の生成をもたらす。解糖系から生成されたピルビン酸分子は、細胞質ゾルからミトコンドリアへ入る。ピルビン酸分子は、TCA回路に入るためにアセチル補酵素A(アセチル-CoA)に次いで変換される。TCA回路は、アセチル補酵素Aとオキザロ酢酸が結合してクエン酸を形成するステップからなる。形成されたクエン酸は、酵素に触媒される一連のステップによって次いで分解されて、追加のATP分子が生成される。
【0161】
ミトコンドリア基質においてTCA回路から放出されたエネルギーは、NADH(複合体I)およびFADH2(複合体II)としてミトコンドリア電子伝達鎖に入る。これらは、ATP産生に関与する5つのタンパク質複合体の最初の2つであり、その全てはミトコンドリア内膜に位置する。NADH(NADH特異的デヒドロゲナーゼによる酸化による)およびFAD3/4(コハク酸デヒドロゲナーゼによる酸化による)から得られる電子は、呼吸鎖を下流に進み、ミトコンドリア基質から膜間腔への(すなわち、ミトコンドリア内膜を通る)水素イオンの能動輸送を駆動することによって別々のステップでエネルギーを放出する。呼吸鎖における電子運搬体には、フラビン、タンパク質結合鉄硫黄中心、キノン、シトクロムおよび銅が挙げられる。複合体間で電子を伝達する2つの分子:補酵素Q(複合体I→III、および複合体II→III)およびシトクロムc(複合体III→IV)が存在する。呼吸鎖における最終的な電子アクセプタは、複合体IV内で3/4に変換される(3/4である。
【0162】
理論に束縛されるものではないが、本明細書に提供されるEVは、ピルビン酸キナーゼ活性および/またはATPアーゼ活性を増大させて、ミトコンドリアエネルギー産生を増強させうると考えられる。
【0163】
D.細胞外小胞の効力の判定
本明細書では、用語「効力」とは、単離されたEVの生物活性のことを指す。
【0164】
本明細書に記載されるEVの効力は、肺の構造様式の改善の尺度として平均肺胞径を測定することによって評価されうる。平均肺胞径(MLI)の測定は、肺胞サイズを定量化するために使用されるツールであり、より高いMLIは、肺胞表面積の減少を示唆する。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、EVによる処置をしないままの対照と比較して対象においてMLIを少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%低下させる能力がある。
【0165】
本明細書に記載されるEVの効力は、炎症誘発性サイトカインの分泌を測定することによって評価されうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、EVによる処置をしないままの対照と比較して対象において炎症誘発性サイトカインのレベルを少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%低下させる能力がある。測定される炎症誘発性サイトカインは、例えば腫瘍壊死因子アルファまたはインターロイキン3でありうる。
【0166】
本明細書に記載されるEVの効力は、抗炎症性サイトカインのmRNA発現を測定することによって評価されうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、EVによる処置をしないままの対照と比較して対象において少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%またはより多く抗炎症性サイトカインのレベルを増大させる能力がある。測定された炎症誘発性サイトカインは、例えばCD206またはインターロイキン-10(IL10)でありうる。
【0167】
本明細書に記載されるEVの効力は、心室肥大および肺脈管再形成の尺度であるフルトンのインデックスを測定することによって評価されうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、EVによる処置をしないままの対照と比較して対象において少なくとも約5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、200%またより多くフルトンのインデックスを改善する能力がある。測定された炎症誘発性サイトカインは、例えばCD206またはインターロイキン-10(IL10)でありうる。
【0168】
本明細書に記載されるEVの効力は、シトクロムCの分泌を測定することによって評価されうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、EVによる処置をしないままの対照と比較して対象においてシトクロムC放出のレベルを少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%低下させる能力がある。
【0169】
本明細書に記載されるEVの効力は、肺組織における血管の総分岐点を測定することによって評価されうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、EVによる処置をしないままの対照と比較して対象において肺組織内の血管の総分岐点を少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%増大させる能力がある。
【0170】
マウスモデルにおいて低酸素誘導性PAHの細胞外小胞処置の効果の右心室収縮期圧(RVSP)測定値を使用して、細胞外小胞の強力な集団を同定することができる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、3週間の慢性低酸素曝露に供し、PBS緩衝液で処置した対照マウスと比較して、3週間の慢性低酸素曝露に供したマウスのRVSPを少なくとも約10%、12.5%、15%、17.5%、20%、22.5%、25%、27.5%または30%減少させる能力がある。
【0171】
一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、デルタRVSPによって同定されうる。ここで、デルタRVSPは、(細胞外小胞で処置した低酸素曝露されたマウスのRVSP)-(正常酸素のマウスのRVSP)として定義される。一部の実施形態において、デルタRVSPが、約6、5、4、3、または2mmHg未満の場合、細胞外小胞の集団は強力である。
【0172】
一部の実施形態において、細胞外小胞の集団の効力は、平滑筋細胞(SMC)溶解物によるO2消費を増大させる能力によって特徴付けられうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、24時間の低酸素曝露に供し、PBS対照で処置した対照SMC細胞溶解物と比較して、24時間の低酸素曝露に供したSMC溶解物によるO2消費を少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%または40%増大させる能力がある。
【0173】
一部の実施形態において、細胞外小胞の集団の効力は、PK活性によって特徴付けられ得る。一部の実施形態において、細胞外小胞の強力な集団は、少なくとも約0.15nmol/分/mL、0.16nmol/分/mL、0.17nmol/分/mL、0.18nmol/分/mL、0.19nmol/分/mL、0.20nmol/分/mL、0.21nmol/分/mL、0.22nmol/分/mL、0.23nmol/分/mL、0.24nmol/分/mL、0.25nmol/分/mL、0.3nmol/分/mL、または0.4nmol/分/mLのPK活性を有する。
【0174】
一部の実施形態において、細胞外小胞の集団の効力は、LDH活性によって特徴付けられうる。一部の実施形態において、細胞外小胞の集団の効力は、低酸素に暴露されたSMCによって分泌されるLDHを、少なくとも約10%、20%、30%または40%低下させる能力によって特徴付けられる。
【0175】
一部の実施形態において、単離された細胞外小胞は、間葉性間質細胞の全ての細胞外小胞におけるKRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132の平均レベルより少なくとも10%、20%、30%、50%または100%多い量のKRT19、TUBB、TUBB2A、TUBB2B、TUBB2C、TUBB3、TUBB4B、TUBB6、CFL1(HEL-S-15)、VIM、EEF1A1、EEF1A1P5、PTI-1、EEF1A1L14、EEFA2、ENPP1、NT5E、HSPA8(HEL-S-72p)、RAB10、CD44、MMP2、CD109およびDKFZp686P132を含む。
【0176】
一部の実施形態において、単離された細胞外小胞は、MHCII汚染物質が減少しているまたはMHCII汚染物質を実質的にもしくは完全に含まないものであり、例えば、間葉性間質細胞の全ての細胞外小胞におけるMHCII汚染物質の平均レベルより少なくとも50%、70%、80%、90%、95%、98%もしくは99%少ない量のMHCII汚染物質を含む。
【0177】
一部の実施形態において、単離された細胞外小胞は、フィブロネクチン含有量が減少しているまたはフィブロネクチンを実質的もしくは完全に含まないものであり、例えば、間葉性間質細胞の全ての細胞外小胞におけるフィブロネクチンの平均レベルより少なくとも50%、70%、80%、90%、95%、98%もしくは99%少ない量のフィブロネクチンを含む。
【0178】
E.細胞外小胞を使用する処置
本開示の方法に有用な組成物は、特に、カテーテル投与を含めた局所注射、全身注射、局所注射、静脈内注射、子宮内注射または非経口投与によって投与されうる。本明細書に記載される治療用組成物(例えば、医薬組成物)を投与する場合、それは単位投薬量の注射可能な形態(例えば溶剤、懸濁剤または乳剤)で一般に処方されることになる。
【0179】
実施形態のいずれかにおいて、細胞外小胞の単回投与または2、3、4、5回もしくはより多くの投与を含めた反復投与が可能である。一部の実施形態において、単離されたEVは、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量、18用量またはより多くで投与される。一部の実施形態において、単離されたEVは、1週間に2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量、18用量またはより多くで投与される。一部の実施形態において、細胞外小胞は、連続的に投与されてもよい。反復または連続投与は、処置される症状の重症度に応じて、数時間(例えば、1~2、1~3、1~6、1~12、1~18または1~24時間)、数日間(例えば、1~2、1~3、1~4、1~5、1~6日間または1~7日間)または数週間(例えば、1~2週間、1~3週間または1~4週間)の期間にわたって行われてもよい。投与が反復されるが、連続的でない場合、投与間の期間は、数時間(例えば、4時間、6時間または12時間)、数日(例えば、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間または6日間)または数週(例えば、1週間、2週間、3週間または4週間)であってもよい。一部の実施形態において、単離されたEVは、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。一部の実施形態において、単離されたEVは、2日間、3日間、4日間、5日間、または1週間にわたって1日1回投与される。投与間の期間は、同じであってもよく、または異なっていてもよい。例えば、疾患の症候が悪化しているように見える場合、細胞外小胞は、より頻繁に投与されてもよく、次いで一旦症候が安定または減弱している場合、細胞外小胞は、より低い頻度で投与されてもよい。一部の実施形態において、EVは、ARDSなどの呼吸困難が発生したら投与され得、少なくとも呼吸困難の期間投与され続けることができる。一部の実施形態において、EVは、機械換気の期間のほとんどまたは全てで投与され得る。そのような投与は、基礎症状または機械換気自体のいずれかに起因する炎症を減少させ得る。そのような投与は、機械換気の有害効果を減少させ得る。
【0180】
EVは、低投薬形態で反復して、または高投薬形態の単回投与として投与されうる。低投薬形態は、それだけには限らないが、1キログラム当たり1~50マイクログラムの範囲、一方で、高投薬形態は、それだけには限らないが、1キログラム当たり51~1000マイクログラムの範囲でありうる。疾患の重症度、対象の健康状態および投与経路に応じて、特に、低用量もしくは高用量の細胞外小胞の単回または反復投与が意図されることは理解されよう。
【0181】
EVの単位用量は、処置される対象1kg当たりのEVのリン脂質であってもよい。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、処置される対象1kg当たりEVのリン脂質50pmolである(pmol/kg)。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、処置される対象1kg当たりEVのリン脂質20~500pmolである(pmol/kg)。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、処置される対象1kg当たりEVのリン脂質100~500pmolである(pmol/kg)。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、処置される対象1kg当たりEVのリン脂質200~500pmolである(pmol/kg)。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、20~150pmol/kgである。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、25~100pmol/kgである。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、25~75pmol/kgである。一部の実施形態において、単離されたEVの有効用量は、処置される対象1kg当たりEVのリン脂質40~60pmol/kgである。
【0182】
EVは、併用処置で使用されてもよい。一部の実施形態において、EVは、5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤、プロスタサイクリンアゴニストまたはエンドセリン受容体アンタゴニストのうちの1つまたは複数を含む治療的薬剤とともに投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよび治療的薬剤は、同じ組成物で投与される。一部の実施形態において、EVおよび治療的薬剤は、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよび治療的薬剤は、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。
【0183】
一部の実施形態において、本方法は、治療的薬剤として5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤を投与するステップをさらに含む。一部の実施形態において、PDE5阻害剤は、シルデナフィル、バルデナフィル、ザプラビスト、ウデナフィル、ダサンタフィル、アバナフィル、ミロデナフィルまたはロデナフィルを含む。一部の実施形態において、PDE5阻害剤は、シルデナフィルである。一部の実施形態において、単離されたEVおよび5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤は、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよび5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤は、同じ組成物で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびPDE5阻害剤は、1または複数用量で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびPDE5阻害剤は、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。一部の実施形態において、単離されたEVは、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量、18用量またはより多くで投与され、PDE5阻害剤は、16用量、19用量、21用量、24用量、27用量、30用量、33用量、36用量、39用量、42用量、45用量、48用量、51用量、54用量、57用量、60用量、63用量、66用量またはより多くで投与される。一部の実施形態において、単離されたEVは、1週間に2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量、8用量、9用量、12用量、15用量、18用量またはより多くで投与され、PDE5阻害剤は、1週間に16用量、19用量、21用量、24用量、27用量、30用量、33用量、36用量、39用量、42用量、45用量、48用量、51用量、54用量、57用量、60用量、63用量、66用量またはより多くで投与される。
【0184】
一部の実施形態において、EVは、プロスタサイクリンアゴニストとともに投与されてもよい。一部の実施形態において、プロスタサイクリンアゴニストは、エポプロステノールナトリウム、トレプロスチニル、ベラプロスト、イルプロストおよびPGI2受容体アゴニストを含む。一部の実施形態において、単離されたEVおよびプロスタサイクリンアゴニストは、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびプロスタサイクリンアゴニストは、1または複数用量で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびプロスタサイクリンアゴニストは、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびプロスタサイクリンアゴニストは、同じ組成物で投与される。
【0185】
一部の実施形態において、EVは、エンドセリン受容体アゴニストとともに投与されてもよい。一部の実施形態において、単離されたEVおよびエンドセリン受容体アゴニストは、1または複数用量で投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびエンドセリン受容体は、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、4日間、5日間、6日間間隔でまたは1週間に1回投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびエンドセリン受容体アゴニストは、別々の組成物で実質的に同時にまたは連続して投与される。一部の実施形態において、単離されたEVおよびエンドセリン受容体アゴニストは、同じ組成物で投与される。
【0186】
細胞外小胞は、一般に薬学的に許容可能な担体と組み合わせた場合、薬学的に許容可能な製剤(または、薬学的に許容可能な組成物)で使用(例えば、投与)されてもよい。語句「薬学的に許容可能な」とは、たしかな医学的判断の範囲で、過剰な毒性、刺激性、アレルギー応答もしくは他の問題も合併症もなしに、合理的な利益/危険比に相応して、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適している化合物、材料、組成物ならびに/または投薬形態のことを指す。本明細書では語句「薬学的に許容可能な担体」とは、液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤もしくは溶剤封入材料などの薬学的に許容可能な材料、組成物または媒体を意味する。
【0187】
そのような調製品は、薬学的に許容可能な濃度の塩、緩衝剤、保存剤、適合する担体を常法通り含有することができ、他の(すなわち、第2の)治療的薬剤を任意選択で含むことができる。薬学的に許容可能な担体は、予防もしくは治療的に活性な薬剤の運搬または輸送に関係する液体もしくは固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒もしくは封入材料などの薬学的に許容可能な材料、組成物もしくは媒体である。各担体は、製剤の他の成分に適合するという意味において「許容可能」でなければならず、対象に対して有害であってはならない。薬学的に許容可能な担体として用いられうる材料の例としては、ラクトース、グルコースおよびショ糖などの糖;塩化ナトリウムなどの塩;エチレンジアミン四酢酸(EDTA);プロピレングリコールなどのグリコール;グリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコールなどの多価アルコール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;発熱性物質を含まない水;等張性生理食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール;リン酸緩衝溶液;ならびに医薬製剤に利用される他の非毒性適合物質が挙げられる。
【0188】
調製品は、有効量で投与される。有効量とは、単独で所望の成果を促す薬剤の量である。絶対量は、投与のために選択される材料、投与が単回用量か複数回用量か、ならびに年齢、健康状態、サイズ、体重および疾患の段階を含めた個々の患者パラメータを含めた様々な要因によって決まることになる。これらの要因は当業者に周知であり、日常の実験だけで解決されうる。
【0189】
他の実施形態は、包装され、ラベル付けされた医薬製品を含む。この製品またはキットは、ガラスバイアルもしくはプラスチックアンプルもしくは密封される他の容器など、適当なベッセルまたは容器内に適当な単位投薬形態を含む。単位投薬形態は、肺送達に適しているべきであり、例えばエアロゾルである。好ましくは、製品またはキットは、医薬製品を投与する方法を含めた使用法に関する説明書をさらに含む。説明書は、問題の疾患もしくは障害を適切に予防または処置する方法について開業医、技術者もしくは対象に助言する情報材料をさらに含有することができる。換言すれば、製品は、実際の用量、監視手順および他の監視情報を含むがこれに限定されない使用のための与薬レジメンを示すまたは示唆する説明書を含む。
【0190】
あらゆる医薬製品と同じように、包装材料および容器は、貯蔵および出荷の間の製品の安定性を保護するように設計されている。キットは、滅菌水性懸濁液中にMSC細胞外小胞を含むことができ、その小胞は直接使用されてもよく、または静脈内注射もしくはネブライザでの使用、もしくは気管内投与のための界面活性剤との希釈もしくは組合せのために通常の生理食塩水で希釈されてもよい。したがって、キットは、希釈溶液または薬剤、例えば生理食塩水もしくは界面活性剤などを含有することもできる。
【実施例】
【0191】
以下の例は、本明細書に記載される方法ならびに組成物を製作し、使用する方法の完全な開示および説明を当分野の技術者に提供することを目的とするものであり、限定することを目的としない。
【0192】
[実施例1.1]
EV集団を単離する一般的な方法
この例は、細胞培養物の培地からのEVの単離を実証する。
【0193】
ろ過:間葉系幹細胞(MSC)から得られた順化培地を、ろ過ラインへポンプ輸送し、あらゆる細胞、死細胞および細胞残屑を除去した。次いで、順化培地を、25mM HEPESおよび10mM EDTA緩衝液で補充した。
【0194】
タンジェンシャルフローフィルトレーション:順化培地を、単一の100kDa MWCOカセットを備えたタンジェンシャルフローフィルトレーション(TFF)システムによって濃縮した。残留物を採集し、0.22umフィルタを使用してろ過した。ろ液を、10mLアリコート試料に分割し、-80℃で冷凍した。
【0195】
透析ろ過:試料は、任意選択で、好ましくはTFFステップ後かつ分画ステップ前に、緩衝液交換と類似の透析ろ過ステップに供されてもよい。EVが所望の濃度に達したら、PBS緩衝液を、貯蔵部を通して試料に添加して、TFFカセットフィルタへのポンプを動かし続けながら容積を維持した。徐々に、PBSを順化培地を置きかえた。可能な限り完全な交換を達成するために、全容積の7倍の透析ろ過を残留物で実行した。このステップは、EVに影響を及ぼすことなく、残留物中の一部の不純物を除去するのに役立つ。EVの存在をFLOT-1ウエスタンブロット法によって検証し、総タンパク質およびリン脂質の量の減少を示す。
【0196】
分画:試料を、37℃でおよそ10分間解凍した。全ての試料を、150mLコーニングボトルに一緒にプールした。Axichrom70/500カラムを、セファロースCL-2B樹脂(GE)で充填した。Axichrom 70/500カラムを、AKTA Avant 150(GE)に接続する。試料を、試料ラインを介してカラムに導入した。全ての試料がカラムに導入されたら、溶出ステップを開始した(設定:流速9.0mL/分)。ボイドカラムの0.2カラム容積(CV)を溶出し、次いで画分収集装置は、1画分当たり1分間の速度(各画分4.6mL)で画分を採集し始めた。0.6CVが溶出されるまで画分を採集した(EVは、0.3CV~0.4CVで溶出した)。PBSを、全ての実験に使用した。画分試料にフード下で蓋をし、4℃で貯蔵した。
【0197】
リン脂質濃度の測定:リン脂質シグナル伝達を、EV検出に使用した。簡潔には、分画後、各EV調製物20uLおよび反応混合物(Sigma)80uLを、黒色、透明底の96ウェルプレート(Corning、Corning、NY)に移し、光から保護して室温で30分間インキュベートした。蛍光強度を、FLUOstar(商標)Omegaマイクロプレートリーダ(BMG Labtech、Ortenberg、Germany)を使用して530/585nmで測定した。示したEV生産操作において、A214クロマトグラムとリン脂質との両方を、EV検出に利用した。
【0198】
[実施例1.2]
サイズ排除クロマトグラフィを使用する間葉系幹細胞(MSC)から単離したEVの特徴付け。
この例は、MSCからのEVの単離およびMSCから単離したEVが、クロマトグラフィープロファイルによって線維芽細胞由来EVとは区別され得ることを実証する。
【0199】
EVを、細胞外小胞(EV)を他の細胞分泌因子と分離するセファロース(登録商標)製樹脂を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を使用して間葉系幹細胞(MSC)の細胞培養上清から精製した。MSCからの精製EVを含む原薬バッチを、UNEX18-001、UNEX18-002、UNEX18-009、UNEX18-011およびUNEX18-015と称し、EVのこれらの開発品質バッチを、UNEX-42とまとめて称する。比較のために、EVを、線維芽細胞培養物からも単離し、線維芽細胞由来EVを含むバッチをUNEX-18-014と称する。この精製ステップの間、材料がカラムから溶出する際の214nmの紫外(UV)光吸光度(A214)に基づいて、進行中のクロマトグラフィープロファイルを生成した。
図1に示すように、EVバルク原薬は、およそ0.3~0.5カラム容積(CV)で観察される吸光度ピークと一致する。直径100nm(Phosphorex、4002)および200nm(Phosphorex、2202)の参照ポリスチレンビーズを、同一のクロマトグラフィ条件で行い、そのプロファイルを、
図1Aに示すように代表的な精製クロマトグラムとしてUNEX18-015と重ね合わせた。現在のSEC樹脂およびパラメータでは、100nmと200nmの間の差異を分離することができないが、これらのデータは、単離されたEVの粒子サイズが、これら参照ビーズのサイズ範囲に近いことを確認する。
【0200】
図1Bに示すように、SECを使用してMSCから単離したEVバッチのクロマトグラフィープロファイルを重ね合わせ、線維芽細胞由来EVと比較した。これらデータは、溶出容積、最大振幅および曲線の全体の形状/非対称性に基づいてEV精製行程の一貫性を示す。重要なことに、EVのクロマトグラムは、線維芽細胞由来EVと違うプロファイルを示す。
【0201】
ナノ粒子トラッキング分析(NTA)は、光散乱およびリアルタイム粒子運動に基づいて粒子サイズならびに濃度を決定するビデオに基づく方法である。NTAは、溶液中のEV量およびサイズ分布を決定するために一般的に使用されるツールである。分布ヒストグラムを生成する確立されたNTA方法を使用して、
図2および下の表1に示すように、EVの開発品質バッチは、主に直径およそ50~350nmのサイズ範囲の粒子を含有すると判明した。MSC由来EVに関する公開されている成果と一致して、および
図2に示される経験的データに基づくと、本明細書で単離されたMSCからのEVは、非常に多分散の集団を表す。この分布プロファイルを記載するために取り込まれる測定基準には、(1)加重平均、(2)加重最頻値および(3)測定した粒子が集団全体の10、50、および90パーセンタイルを下回るサイズ、がある。サイズ分布および粒子濃度は、下の表1に示すように間葉系幹細胞由来EVおよび線維芽細胞由来EVの開発品質バッチ間で類似している。
【0202】
【0203】
[実施例1.4]
MSCから得られるEVのタンパク質プロファイルを決定するための包括的なプロテオーム分析。
包括的なプロテオミクス分析を行って、MSCから得られるEVの開発品質バッチそれぞれのタンパク質プロファイルを生成した。プロファイルを、バッチ間で比較して産物の一貫性を決定し、そのプロファイルを線維芽細胞由来EVのプロファイルとも比較して、MSCから得られるEVに特異的なタンパク質プロファイルを同定した。各試料を、3つ組でトリプシン消化に供し、続いてUPLC-MS/MSによってペプチドプロファイリングした。リードが不十分なため、バッチUNEX18-011を分析から除外した。これらのデータに基づいて、
図4Aに示す通りMSC由来EVと線維芽細胞由来EVのバッチ間で差異的に含有されるタンパク質上位100個を示すヒートマップを生成した。これらプロファイルは、MSC由来EVのバッチの中に高い類似性があること、その含有量は線維芽細胞由来EVのタンパク質プロファイルと異なることを示す。さらなる分析を行って、MSC由来EVのバッチの中で最も一般的なタンパク質を決定した。重要なことに、142個の配列が、分析したMSC由来EVの全4つのバッチに存在すると同定された。142個のヒットを、線維芽細胞由来EVと比較し、MSC由来EVに特異的な25個のタンパク質の組を同定し(
図4B)、細胞機能によって分類した完全なリストを下の表3に示した。
【0204】
【0205】
[実施例1.5]
EVの開発品質バッチの特異的マーカーの分析。
EV調製品は、International Society for Extracellular Vesicles(ISEV)にしたがって少なくとも3つの予想されるタンパク質の半定量的または定量的判定に基づいて、最小限特徴付けられるべきである。予想されるタンパク質は:1)小胞ルーメン内に位置する、2)小胞表面上の部分に結合している、または3)疎水性ドメインによって脂質二重層内に埋め込まれている、という可能性がある。さらに、EV調製品は、目的の集団において富化されないと予想されるタンパク質が存在しないことについて評価されるべきであることが推奨される。半定量的(例えば、ウエスタンブロット)または定量的(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ[ELISA])タンパク質アッセイ方法を使用して、MSC由来EVの開発品質調製品(UNEX-42と称される)を、予想される目的タンパク質および予想されない目的タンパク質の存在について分析した。個々のUNEX-42バッチを、マーカー分析の結果を示す表4においてUNEX 18-001、UNEX 18-002、UNEX 18-009、UNEX 18-011およびUNEX 18-015と称する。これらの結果を、UNEX 18-014と称される線維芽細胞由来EVバッチと比較した。
【0206】
【0207】
表4は、線維芽細胞由来バッチと比較してUNEX-42バッチ中のシンテニン-1(または、シンデカン結合タンパク質、SDCBP)、Anxa2、フロチリン(FLOT-1)、CD105、MHC-IおよびMHC-IIの量を示した。
【0208】
シンテニン-1(または、シンデカン結合タンパク質、SDCBP)は、膜貫通タンパク質輸送、小胞選別およびエクソソーム生合成に関係するアダプタタンパク質である。シンテニン-1は、輸送に必要とされるエンドソーム選別複合体(ESCRT)機構の構成成分と間接的に結合し、膜貫通タンパク質のテトラスパニンクラスと直接結合する。表4に示した通り、シンテニン-1は、ウエスタンブロットによって、MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチの5つ全てに検出されたが、線維芽細胞由来EVには検出されなかった。
【0209】
アネキシンは、カルシウム依存的リン脂質結合特性によって特徴付けられるタンパク質のファミリであり、膜脂質ドメインの組織化に役割を果たす。アネキシンA2は、EVの外葉と内葉の両方に局在することができ、ホスファチジルセリン脂質ラフトおよびコレステロールミクロドメインと結合することが示されている。表4に示した通り、アネキシンA2は、MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチの全て、および線維芽細胞由来EVにおいてウエスタンブロットによって検出された。
【0210】
フロチリン1(FLOT-1)は、エンドサイトーシスおよびエンドソーム輸送に関係する膜結合タンパク質である。フロチリン1は、EVに対する十分確立されたタンパク質マーカーであり、MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチの全て、および線維芽細胞由来EVにおいてウエスタンブロットによって検出された(表4)。フロチリン-1の検出を、UNEX-42製剤の放出試験のために行った。
【0211】
CD105(または、エンドグリン、ENG)は、シグナル伝達分子である形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリの補助受容体であり、MSCの原形質膜表面で発現される。EVは、その起源細胞と類似の表面マーカープロファイルを保有することが公知であり、MSC由来EVは、CD105を含有するとこれまでに示されてきた。CD105のタンパク質レベルを、ELISAによってUNEX-42の開発品質バッチおよび線維芽細胞由来EVで評価し、結果を表4に挙げた。CD105は、MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチの5つ全てに検出されたが、線維芽細胞由来EVには検出されなかった(表4)。CD105 ELISA法を、UNEX-42原薬とUNEX-42製剤両方の放出試験のための識別マーカーとして行った。
【0212】
主要組織適合複合体クラスI(MHC-I)タンパク質は、ヒト白血球抗原(HLA-)A、BおよびCを含み、細胞傷害性Tリンパ球に対するサイトゾル抗原提示を促進する細胞表面タンパク質である。MSCは、様々なレベルのMHC-Iタンパク質を発現することが公知であり、この延長から、MHC-Iタンパク質は、骨髄MSC由来EVに存在すると予想された。MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチの5つ全てが、MHC-Iを発現することが判明したが、線維芽細胞由来EVにはMHC-Iは検出されなかった(表4)。
【0213】
主要組織適合複合体クラスII(MHC-II)タンパク質は、HLA-DRタンパク質およびその他を含み、ヘルパーTリンパ球に対する外因性抗原の提示を促進する。MHC-Iとは異なり、MSCは、MHC-IIを発現せず、同種移植においてある程度の免疫特権を与える。予想通り、MSCから得たEVのUNEX-42バッチはMHC-IIを発現せず、線維芽細胞由来EVにも検出されない(表4)。
【0214】
MSCから得たEVのUNEX-42バッチを、膜組織化、エンドソーム輸送および細胞外小胞生合成に関係する膜貫通タンパク質のテトラスパニンファミリのメンバーの発現についても特徴付けた。CD63、CD81およびCD9は、細胞外小胞と最も一般的に結合するテトラスパニンタンパク質である。CD63、CD81およびCD9の存在ならびに頻度を、免疫親和性マイクロアレイと増強光散乱顕微鏡の特徴を組み合わせたExoView(商標)分析プラットフォーム(NanoView Biosciences)を使用して決定した。簡潔には、EVを、目的の捕捉抗体、特にCD63、CD81およびCD9を使用してチップアレイ上に先ず固定した。結合している粒子を、増強した明視野で可視化し、プラットフォームソフトウェアを使用して計数した。データの概要を、
図5に示す。CD63は、MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチの5つ全てにおいて優勢な表面マーカーであった。MSCから得たEVのUNEX-42開発品質バッチは、中程度の量のCD81および少量のCD9を含有した。線維芽細胞由来EVにおいては3つ全てのテトラスパニンが、最小限検出された。
【0215】
図6は、上に示したデータに基づいてMSCから得られるUNEX-42 EVの例示的な全般的な概略図を示す。
【0216】
[実施例1.6]
MSCから得たEVの血管新生活性
MSCから得たEVは、ヒト内皮細胞において管形成を増進し、ヒト内皮細胞において高酸素媒介性の管ネットワークの喪失を予防することが示された。
【0217】
血管新生を増進するUNEX-42の能力を評価するために、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、およそ80%のコンフルエンスまでマトリゲル被覆プレート上で成長させた。PBSまたはUNEX-42による3時間の前処置後に内皮管分岐点を5時間にわたって評価した。
図8に示すように、UNEX-42は、総分岐点を2倍より多く増大させ、このことはUNEX-42が、気管支肺異形成症(BPD)を発症する危険性のある乳児において微小脈管ネットワーク形成を増進し得ることを示唆した。
【0218】
さらに、通常の空気に曝露されたHPAECは、培養物においてネットワークを形成することができた。次いで、細胞をPBSもしくはUNEX-42に3時間曝露し、その後に正常酸素(21% O2)または高酸素(97% O2)に40時間曝露して、高酸素媒介性の脈管ネットワーク損傷をモデル化した。管分岐点を評価し、対照細胞を高酸素へ曝露した結果、分岐点の減少によって示される通りHPAECネットワークが劣化したが、
図9に示すようにUNEX-42前処置はこの劣化を完全に予防した。
【0219】
さらに、本明細書に開示されるMSCから得たEVが、正常な肺の発達に必要とされるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の減少を予防できるかどうか試験した。本明細書に開示されるMSCから得られるEVが、MMP2レベルの減少を予防できるかどうか判断するために、HUVECを、PBSもしくはUNEX-42に3時間曝露し、その後に通常酸素または高酸素(97% O2)に24時間曝露し、その後に酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を使用して培地中に分泌されたMMP2の量を測定した。
図10に示すように、MMP-2レベルは、高酸素曝露後に減少し、その減少はUNEX-42前処置によって予防された。
【0220】
これらの結果は、本明細書に開示されるMSCから得られるEVが、血管新生活性を有することを示す。さらに、一部の実施形態において、本明細書に開示されるMSCから得たEVを使用して、BPDの乳児において血管新生を増進し、高酸素処置から既存の血管を保護することによってBDPを処置することができる。
【0221】
[実施例1.7]
MSCから得たEVによる細胞救済
この例の目的は、MSCから得たEVが、酸化的ストレスが原因であるシトクロムCの放出を予防することによって呼吸困難を呈する早産児において気管支肺異形成症(BPD)を予防するための処置として使用できるかどうか試験することであった。BPDに見られる肺上皮細胞損傷をモデル化するために、A549細胞を使用してin vitro研究を行った。
【0222】
A549細胞の高酸素曝露は、分泌されるシトクロムCの劇的な誘導および培養物中に残っている総核酸含有量によって測定される生細胞の喪失を招いたが、UNEX-42 EVは両方の効果を予防し、
図7に示すように正常なシトクロムCレベルを維持し、生細胞の喪失を減少させた。特に、
図7は、UNEX-42 EVが、高酸素で誘導されるシトクロムCの放出を減少させ(A)、高酸素処置細胞におけるシトクロムCの細胞レベルを正常酸素圧の細胞のレベルに維持した(B)ことを示した。
【0223】
したがって、MSCから得たEVは、高酸素に曝露されたA549肺癌腫細胞においてシトクロムCの分泌を予防し、生細胞の喪失を減少させることが示された。
【0224】
これらの結果は、本明細書に開示されるMSCから得たEVが、細胞生存率を救済し、酸化的ストレスが原因であるシトクロムCの放出を予防することによって呼吸困難を呈する早産児において気管支肺異形成症(BPD)を予防するための処置として使用され得ることを示す。
【0225】
[実施例1.8]
MSCから得たEVによる代謝機能の改善
MSCから得たEVは、低酸素に曝露した肺動脈平滑筋細胞(PASMC)においてグルコース代謝を増大させ、ミトコンドリアの酸素消費を改善することが示された。
【0226】
酸素消費に対するMSCから得たEVの効果を評価するために、PASMCを低酸素に24時間曝露し、その後ミトコンドリアストレス試験を行い、一連の化合物を細胞培養系に注入してATP産生(オリゴマイシン)、最大呼吸(カルボニルシアニドp-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン[FCCP])、および非ミトコンドリア呼吸(ロテノン/アンチマイシンA)を決定した。
図11Aに示すように、UNEX-42は、ミトコンドリアストレス試験の全ての相の間に用量依存的様式で低酸素細胞の酸素消費を増大させた。これらのデータは、UNEX-42が、低酸素曝露後に酸素消費を増大させる潜在能力を実証する。
【0227】
さらなる実験は、このミトコンドリアの優位性に関係する代謝産物を調査した。PASMCを、コンフルエンスまで培養し、細胞を、PBSまたはUNEX-42で処置した。細胞を、低酸素(4%酸素)で2週間維持し、UNEX-42またはPBSのいずれかにより隔週で、培養1、4、8、および11日目に処置した。代謝産物分析を、超高速液体クロマトグラフィ/タンデム精密質量分析(UHPLC/MS/MS)およびメタボロミクスプロファイリングのためのmLIMS代謝産物標準ライブラリを利用する包括的な代謝学プラットフォームを使用して行った。メタボロミクスデータを、Metabolyncソフトウェア(Metabolon、Morrisville、NC)を使用して分析した。低酸素は、ピルビン酸の乳酸への劇的な転換をもたらし、
図11Bに示すようにPAHに見られる解糖系シフトと一致する高い乳酸レベルを培養培地にもたらした。UNEX-42の添加は、培養培地中のグルコースレベルを減少させ、このことはグルコース取り込みの増大を示す。UNEX-42の添加は、培養培地中の乳酸レベルの減少ももたらし、このことはミトコンドリアへのピルビン酸の侵入を示し、それにより乳酸産生が低下した(
図11B)。この複合効果は、慢性低酸素曝露の間のミトコンドリア内への養分の流入増大を反映しており、BPDとBPD関連PHの両方においてUNEX-42の治療的有用性を支持する。
【0228】
[実施例1.9]
MSCから得たEVの免疫調節活性
MSCから得たEVは、高酸素に曝露されたA549肺癌腫細胞においてサイトカイン分泌を予防し、リポ多糖曝露後のTHP1単球白血病細胞においてin vitroでならびに齧歯目のモデルにおいて、in vivoでサイトカインおよびケモカイン分泌を減少させることが示された。
【0229】
本明細書に開示されるMSCから得られるEVが、酸化的ストレスの結果である炎症誘発性サイトカインの分泌を予防する能力を評価するために、A549細胞を、UNEX-42で3時間下処理し、その後正常酸素(21% O2)または高酸素(97% O2)中でさらに44時間培養した。上清培地を次いで採集し、炎症誘発性サイトカインである腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)の分泌の変化を測定した。
図12および
図13に示すように高酸素への曝露は、これらサイトカインそれぞれの分泌を増大させたが、UNEX-42による前処置は、これらのレベルを減衰させた。特に、
図12に図示される結果は、UNEX-42 EVが、腫瘍壊死因子アルファの高酸素誘導分泌を抑制することを示し、
図13に図示される結果は、UNEX-42 EVが、LPSによって誘導される腫瘍壊死因子アルファの分泌を抑制できることを示した。
【0230】
図24に示す、高酸素誘導炎症に供したヒト肺胞上皮細胞における炎症誘発性サイトカインTNFa、IL6およびIL3の分泌を抑制するUNEX42 EVの効果。
【0231】
ヒト単球において炎症誘発性サイトカインであるケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド1(GRO)、ケモカイン(C-Cモチーフ)リガンド21(6CKine)、顆粒球走化性タンパク質2(GCP2)、ケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド16(CXCL16)の分泌を抑制するUNEX42 EVの効果を、
図25~
図28に示す。加えて、
図29および
図30にそれぞれに示すように、UNEX-42 EVが、マウス単球においてLPS誘導性TNFa分泌を阻害し、ならびにラット末梢血単核細胞(PBMC)においてLPS誘導性TNFaおよびケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド1(GRO)分泌を阻害することも判明した。
【0232】
図31(A)および
図31(B)にそれぞれに示すように、LPSに対する曝露は、ヒトTHP1単球におけるインターロイキン1ベータ(IL1β)およびインターロイキン12ベータ(IL12β)のmRNA発現を増大させ、一方、UNEX-42による前処置は、両方のmRNA発現を減衰させた。IL1βおよびIL12βは、ARDSの動物モデルにおいて上方調節されるサイトカインをコードしている遺伝子であり、これらデータは、UNEX-42が、循環単球の炎症活性化を減少させる潜在能力を支持している。さらに、
図31(C)に示すようにUNEX-42は、炎症誘発性サイトカインであるマクロファージ炎症性タンパク質1アルファ(MIP1α)およびベータ(MIP1β)の分泌も減衰させた。
抗炎症性サイトカインの発現に対するUNEX-42 EVの効果を研究するために、THP-1単球を、IL-4およびIL-13への曝露によってM0マクロファージ、次いでM2マクロファージに分極化させた。M2分極化後に、UNEX-42を添加し、遺伝子発現を評価した。
図33に示すようにM2分極化は、マンノース受容体(CD206)およびインターロイキン10(IL10)抗炎症性サイトカインのmRNA発現を増大させ、両方の発現は、UNEX-42処置によってさらに誘導された。
【0233】
これらの結果は、MSCから得たEVが、例えば酸素補給による換気を設けた場合に、肺の炎症誘発性サイトカインの分泌を予防することによる免疫調節活性を有することを実証した。
【0234】
本明細書に開示されるMSCから得たEVの免疫調節能力をさらに評価するために、単球およびマクロファージの活性化に対するMSCから得たEVの効果をin vivoで評価した。この実験において、ヒト単球を核内因子カッパB(NF-κB)に媒介される炎症性サイトカイン産生の周知の活性化剤であるLPSを添加する前にUNEX-42で3時間前処置した。
図13に示すように、UNEX-42はTNFαの減衰を実証した(
図13)。
【0235】
[実施例1.10]
動物モデルにおけるUNEX-42処置の研究
BPDのラットモデル
マウスと比較して出生時のサイズがより大きいため、後の研究用としてBPDのラットモデルを開発した。このラットモデルは、一層信頼性が高く、一貫した与薬および組織評価が可能になる。PND1のスプラーグドーリーラットの仔を、正常酸素または高酸素(92.5% O2)のいずれかで飼育した。授乳母獣は、酸素毒性を回避するために正常酸素および高酸素群において同腹仔間で毎日交替させた。酸素濃度を代表的なケージ内リアルタイム監視装置を使用して監視して、酸素レベルを確認した。PBS媒体またはUNEX-42を、提案された臨床試験に使用した投与経路である単回IV注射50uLによって投与した。加えて、従来データは、細胞外小胞を含有する骨髄MSC由来順化培地の単回IV用量が、類似のBPDラットモデルにおいて肺の構造様式に改善をもたらしうることを示した。
【0236】
肺の炎症における減少を実証するラット研究
UNEX-42活性を評価する研究を、肺への炎症細胞の浸潤を測定するように設計した。この研究において、新生仔ラットを、授乳母とともに、PND1に正常酸素または高酸素(92.5% O2)のいずれかに無作為に割り当てた(下記表6を参照のこと)。PND2に、PBSまたは0.003×、0.01×、0.03×、0.1×、0.3×もしくは1×用量のUNEX-42を、単回IV注射として投与した。PND8における判定は、気管支肺胞洗浄液(BAL)中の細胞数および差異を含んだ。
【0237】
【0238】
図14に示すように、新生仔ラットを高酸素へ曝露すると、BAL中の総細胞数においておよそ11倍の増大をもたらし、UNEX-42の用量を増大させて投与すると、高酸素対照と比較して総細胞数が減少した。これらの変化は、統計的有意差には到達しなかったが、好中球浸潤が最も大きい差を示した(下記表6を参照のこと)。
【0239】
【0240】
この研究は、高酸素が肺における免疫細胞の浸潤を増大させ、UNEX-42が、用量の増大に伴ってこれらの数を全般的に低下させることを実証する。
【0241】
肺の構造様式および肺脈管構造における改善を実証するラット研究
MLIによって定量化した通り、肺構造に対するUNEX-42の薬力学的効果の追跡研究を行って、UNEX-42の用量応答をさらに特徴付け、EC50を生成し、より広範囲の用量を評価した(研究報告UNT-IFBPD-17)。この研究において、新生仔ラットを、授乳母とともに、PND1に正常酸素または高酸素(92.5% O2)のいずれかに無作為に割り当てた。PND2に、PBSまたは0.001×、0.01×、0.03×、0.1×、0.3×もしくは1×(137nMリン脂質)用量のUNEX-42を、単回IV注射として投与した(表7を参照のこと)。死亡率の懸念のため、判定はPND10に行い、組織検査ならびにMLIによるフルトンのインデックスおよび肺の構造様式を含み、表6に記載される上に記載の研究に使用した最終時点と一致した。
【0242】
【0243】
UNEX-42処置群における動物の生存は、高酸素対照群(群2)よりも統計学的に有意に異なるものではなかった。
図15に示すように高酸素への新生仔ラットの曝露は、正常酸素対照と比較して、フルトンのインデックスを増大させた。UNEX-42は、試験したあらゆる用量においてフルトンのインデックスを正常化し、したがって高酸素対照と比較して最大の阻害を実証した。肺の構造様式において、高酸素曝露は、
図16に示すようにより少なく、より大きな肺胞によって特徴付けられる肺肺胞化の減少をもたらした。UNEX-42処置は、
図16、
図17ならびに
図32に示すように、試験したUNEX-42用量の全てにおける組織学的外観の改善およびMLI値の改善によって示される通り、この表現型を逆転させた。さらに、
図21に示すように、UNEX-42の複数用量は、MLIを減少させ(
図21A)、血液酸素を増大させる(
図21B)のに最も有効であった。
図21の実験に使用する与薬レジメンを、下の表8に示す。重要なことに、UNEX-42は、用量応答様式で肺構造の変化を改善し、0.001×、0.01×、0.03×、0.1×、0.3×および1×のUNEX-42用量で、高酸素対照と比較してそれぞれ22%、29%、32%、40%、35%および32%減少させた。
【0244】
【0245】
肺機能の改善を実証するラット研究
BPDの患者は、1回換気量および総肺容量によって測定される肺機能の減弱を示す。したがって、UNEX-42の潜在的機能的有用性を、1回換気量、呼吸速度および分時換気量の測定を含めた全身プレチスモグラフィー測定を使用して評価した。3つの用量のUNEX-42を選択した(0.01×、0.1×および1×)。これらの用量は、上に記載のこれまでの研究の最大有効用量(0.1×)に基づいて選択され、その量を中間用量として設定した。高いおよび低い用量を、10倍高くおよび低くそれぞれ設定した。
【0246】
新生仔ラットを、授乳母とともに、PND1に連続的な正常酸素または高酸素(92.5% O2)のいずれかに無作為に割り当てた(下記表9を参照のこと)。PND2に、PBSまたは0.01×、0.1×もしくは1×(137nMリン脂質)のUNEX-42を単回IV注射として投与した。PND11について1回換気量、呼吸速度および分時換気量を評価し、肺の構造様式および脈管再形成を調べた先行研究における標的最終時点と一致した。
【0247】
【0248】
高酸素への新生仔ラットの曝露は、正常酸素対照と比較して1回換気量を低下させ(
図18)、UNEX-42は、全ての用量でこれを部分的に減衰し、高酸素対照と比較して0.01×および1×で統計的有意に達した。これらのデータは、高酸素曝露後の肺機能におけるUNEX-42に媒介される改善を支持している。
【0249】
肺動脈高血圧症のラットモデル
セマキシニブ/低酸素(SU/低酸素)へのラットの曝露は、収縮期肺動脈圧(SPAP)の増大をもたらした。SU/低酸素モデルラットを、UNEX-42 EV単独で、または5型ホスホジエステラーゼ(PDE5)阻害剤シルデナフィルと組み合わせて処置した。UNEX-42の有用性を、SPAPに対する処置の効果を測定することによって評価した。
図19および
図20に示すように、UNEX-42 EVとシルデナフィルの組合せは、シルデナフィルを単独で使用するよりもSPAPを減少させた。
図19に示す結果のための実験構成を、下記表10に示し、
図20に示す結果のための実験構成を下記表11に示す。
【0250】
【0251】
【0252】
ブレオマイシンマウスモデルにおいて特発性肺線維症(IPF)を処置するためのUNEX-42 EVの有益性の研究
ブレオマイシン誘導される線維症を、IPFのモデル系として使用した。下記表12は、ブレオマイシン(bleo)モデルにおいてIPFを処置するUNEX-42 EVを試験するための研究設計を示す。
図22および
図34に示すようにUNEX-42 EVは、IPFのブレオマイシンモデルにおいて気管支肺胞洗浄液(BAL)に浸潤する免疫細胞の数を減少させた。特に、
図22に図示される結果は、BAL中の総細胞数を示し、UNEX-42 EVが、ブレオマイシン処置マウスにおいてBAL中の総数を減少させることを実証した。
図34は、ブレオマイシン対照処置動物と比較した場合に、UNEX-42 EVの投与が、BAL中の総細胞数の有意な減少をもたらし(
図34A)、これは好中球およびリンパ球の減少に主に起因しており、マクロファージの減少はより小さい(
図34B)ことを明示するデータを図示する。複数用量のUNEX-42 EV処置が、単回用量処置と比較してアルファ-SMA(アルファ平滑筋アクチン)発現においてわずかな改善をもたらすことも判明した。
【0253】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の進行した段階は、細胞外基質タンパク質、特にコラーゲンの過剰な沈着によって特徴付けられる。可溶性コラーゲン含有量を、気管支肺胞洗浄液中で評価した。ブレオマイシン投与は、生理食塩水対照と比較してBAL可溶性コラーゲンを23倍増大させた(
図35を参照のこと)。UNEX-42は、疾患対照と比較して可溶性コラーゲンを減少させ、0.1×単回用量ならびに0.1×および1×複数用量群で統計的有意に達した(
図35を参照のこと)。ブレオマイシン対照と比較して、単回用量0.1×UNEX-42は、コラーゲン含有量を33%改善し、1×単回用量は15%、0.1×複数用量は39パーセントおよび1×複数用量は40%改善した(
図35を参照のこと)。
【0254】
肺脈管再形成に対するUNEX-42の影響を高酸素曝露8日後に評価し、高酸素は、正常酸素対照より高くフルトンのインデックスを増大させたが、UNEX-42は、0.01×およびより高い用量でこの効果を部分的に逆転させた(
図36を参照のこと)。UNEX-42は、
図36に示すように0.003×、0.01×、0.03×、0.1×、0.3×および1×用量で、フルトンのインデックスをそれぞれ7、12、16、13、16および15パーセント改善した。
【0255】
【0256】
線維症の二酸化ケイ素マウスモデル
線維症処置に対するUNEX-42 EVの有益性を、二酸化ケイ素モデルにおいても示した。二酸化ケイ素モデル実験のための研究設計を下記表13に示す。二酸化ケイ素の投与は、BALにおいて総細胞数の4.5倍の増大をもたらし、UNEX-42の投与は、PBSの投与と比較した場合、総細胞数を減少させ、1×単回用量および0.1×複数用量群で統計的有意に達した(
図23A)。0.1×単回用量および1×複数用量群は、PBS処置と比較した場合に細胞数の減少を実証したが、統計的有意に達しなかった。BAL中の細胞数の差異の最大の変化は、マクロファージおよび好中球数に観察された(
図23B)。UNEX-42 EV処置は、
図23に示すように1×単回用量および0.1×複数用量群においてBALF(気管支肺胞洗浄液)中の総細胞数を減少させた。
【0257】
UNEX-42 EVが、0.1×複数用量群において線維症のアッシュクロフトスコアを減少させ、UNEX-42が、1×および0.1×単回用量群においてa-SMA(アルファ平滑筋アクチン)染色を減少させることも判明した。
【0258】
【0259】
UNEX-42 EVの毒物学研究を実施した。UNEX-42 EVの評価毒物学のための研究設計を、下記表14に示す。UNEX-42に関連する臨床徴候、体重、血液学および臨床化学パラメータ、または器官質量に変化はなかった。同様に、UNEX-42に関連する巨視的または微視的変化はなかった。
【0260】
【0261】
本発明は、上記実施形態と組み合わせて記載されてきたが、前述の説明および例は、本発明の範囲を例示することを意図するものであり、限定することを意図しないことを理解すべきである。本発明の範囲にある他の態様、優位性および改変は、本発明が属する当業者にとって明らかになる。
【0262】
本明細書に引用される特許、特許出願、刊行物および参照文献の全ては、それらが個々に参照により組み込まれるかのような範囲でその全体が参照により組み込まれる。
【国際調査報告】