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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】細胞成長のための方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230201BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230201BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230201BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230201BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/071
C12M1/00 A
C12M1/34 A
C12M1/34 Z
C12M3/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533379
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(85)【翻訳文提出日】2022-08-02
(86)【国際出願番号】 EP2020084092
(87)【国際公開番号】W WO2021110665
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】19213642.2
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】20178270.3
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522087051
【氏名又は名称】プレシジョン・キャンサー・テクノロジーズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】リッツィ、シモーヌ
(72)【発明者】
【氏名】トゥーアティ、ジェレミー
(72)【発明者】
【氏名】フレグニ、ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ブキャナン、ピサノ、カラ
(72)【発明者】
【氏名】クーメリュー、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ガウディエッロ、エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】クレッタス、ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】シャルチェ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】エユロ、マチュー
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA11
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB06
4B029GB10
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QR51
4B063QR77
4B063QS08
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BB40
4B065CA46
(57)【要約】
本発明は、1つの組織の型を用いて行われる方法であって、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが、試験される前記1つの組織の型に対して事前に選択されている方法に関する。本発明はまた、前記方法を行うためのキットの内容物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意に間質細胞又は免疫細胞といった他の細胞と組み合わせた、1つの組織の型で行われる方法であって、前記方法は、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、任意に1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、任意に少なくとも1つの架橋剤及び試験される前記組織の型の細胞を架橋することにより、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを提供する工程;
b) 1つ以上の異なる培地の存在下で、前記細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスのアレイの前記別々の空間中で成長し、増殖することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスのアレイの前記別々の空間中で成長した細胞を用いて操作する工程;
を含み、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが、前記試験される1つの組織の型に対して事前に選択される、方法。
【請求項2】
前記ヒドロゲルの前駆体分子又は前記ヒドロゲルの特徴の少なくとも1つ及び前記培地の事前の選択が、ランダムな細胞外マトリックスの条件を使用する方法から好適な細胞外マトリックスの条件を選択することに基づいて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織の型が、がん細胞及び正常な/健康な細胞からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ヒトの生検若しくは組織切除物からの、又は患者由来の異種移植片(PDX)組織からの、新たに単離された若しくは凍結された細胞を使用する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程c)における前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間に、1つ以上の薬物を加える、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記組織の型はc-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞であり、前記ヒドロゲルのマトリックスは非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤はRGDモチーフを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記培地が又はR-スポンジンなどのWntアゴニスト又はFBS(血清)を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記組織の型は膵管腺がん(PDAC)細胞であり、前記ヒドロゲルのマトリックスは剛性が50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記培地がR-スポンジン及びWnt3aなどのWntアゴニストを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組織の型は結腸直腸がん(CRC)細胞であり、前記ヒドロゲルのマトリックスは初期剛性が少なくとも50~2000Paで、任意にラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含むPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記培地がR-スポンジン及びWnt3aなどのWntアゴニストを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組織の型は乳がん細胞であり、前記ヒドロゲルのマトリックスは好ましくは酵素により分解可能なPEGヒドロゲルが事前に選択され、好ましくは、前記架橋剤の少なくとも1つは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、前記ヒドロゲルは任意にラミニン、好ましくはラミニン-111、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記培地が又はR-スポンジンなどのWntアゴニスト又はFBS(血清)を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記組織の型は正常な対応細胞よりもex vivoでゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞であり、前記ヒドロゲルのマトリックスは好ましくは剛性が50~2000PaのPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤はRGDモチーフを含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
1つ以上の組織の型について、又は1つ以上の組織の型を用いて操作するためのキットの内容物であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分は
- 1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子、
- 任意に、少なくとも1つの架橋剤、
- 任意に、1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含む、成分
b) 1つ以上の異なる培地
を含み、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが試験される組織の型に対して事前に選択されている、キットの内容物。
【請求項16】
前記ヒドロゲルのマトリックスは非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤はRGDモチーフを含まず、好ましくは、前記培地は又はR-スポンジンなどのWntアゴニスト又はFBS(血清)を含む、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対する薬物の影響を試験するための、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記ヒドロゲルのマトリックスは剛性が50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含み、好ましくは、前記培地はR-スポンジン及びWnt3aなどのWntアゴニストを含む、膵管腺がん(PDAC)細胞に対する薬物の影響を試験するための、請求項15に記載のキット。
【請求項18】
前記ヒドロゲルのマトリックスは初期剛性が少なくとも50~2000Paで、任意にラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含むPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含み、好ましくは、前記培地はR-スポンジン及びWnt3aなどのWntアゴニストを含む、結腸直腸がん(CRC)細胞に対する薬物の影響を試験するための、請求項15に記載のキット。
【請求項19】
前記ヒドロゲルのマトリックスは好ましくは酵素により分解可能なPEGヒドロゲルが事前に選択され、好ましくは、前記架橋剤の少なくとも1つは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、前記ヒドロゲルは任意にラミニン、好ましくはラミニン-111、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含み、好ましくは、前記培地は又はR-スポンジンなどのWntアゴニスト又はFBS(血清)を含む、乳がん細胞に対する薬物の影響を試験するための、請求項15に記載のキット。
【請求項20】
前記ヒドロゲルのマトリックスは好ましくは剛性が50~2000PaのPEGヒドロゲルが事前に選択され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤はRGDモチーフを含まない、正常な対応細胞よりもex vivoでゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞に対する薬物の影響を試験するための、請求項15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創薬研究開発のためのみならず、基礎科学研究、精密医療、再生医療のための、及び、哺乳動物、好ましくはヒトに移植する細胞を送達するための著しく改善されたツールを提供する、細胞増殖方法及び細胞増殖のためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞成長及び薬物スクリーニングのためのヒドロゲル
ex vivoアッセイの分野では、近年、進歩がなされている。特に、三次元(3D)ヒドロゲルのマトリックスの開発は、in vivoの条件と十分に類似していない二次元細胞培養系に対して大きな利点を提供する。
【0003】
最初に、天然に由来する3D細胞培養系、例えばマトリゲル(登録商標)が使用された。しかし、そのような系は、十分に明確ではない組成物であり、バッチごとの変動を示し、そのためにそれらの性質を系統的に変更すること及びそれらの重要なマトリックスパラメーターを独立して制御することは不可能である。同様に、マルチウェルアレイを利用するスクリーニング目的の場合、そのような天然に由来する3D細胞培養系は、それらが十分に明確ではないために、アレイ間での細胞挙動の変化を、それらのアレイに提供される細胞外マトリックスの条件の特定の改変に正確に帰することができないため、好適ではない。
【0004】
同様に、動物由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)のバッチごとの変動及び明確でない組成のために、ヒトでのそれらの使用に関する規制当局の承認が下りない。明確な、ヒトでの使用に関して承認され、規模拡大可能で、好ましくは異種物質を含まない(すなわち、動物起源の成分を含まない)支持マトリックス及び培地の開発が必要である。
【0005】
しかし、近年、上記の目的にとってはるかにより好適である完全に明確な半合成の又は全合成のヒドロゲル系が開発された。例えば、PEGに基づくヒドロゲルが記載されており、これらは、Ehrbar et al.(Ehrbar, M., Rizzi, S.C., Schoenmakers, R.G., Miguel, B.S., Hubbell, J.A., Weber, F.E., and Lutolf, M.P., Biomolecular hydrogels formed and degraded via site-specific enzymatic reactions, Biomacromolecules 8 (2007), 3000-3007)に詳述される架橋機構によって生理的条件下でトロンビン活性化第XIIIa因子、又はLutolf et al.(Lutolf, M.P., and Hubbell, J.A., Synthesis and physicochemical characterization of end-linked poly(ethylene glycol)-co-peptide hydrogels formed by Michael-type addition, Biomacromolecules 4, 713-722 (2003))に詳述される架橋機構による穏和な化学反応を介することのいずれかを使用して架橋可能であるPEG(ポリエチレングリコール)前駆体分子で構成される。これらのPEGヒドロゲルは、それらの性質に関して調整可能であり、生体適合性である。
【0006】
そのような完全に明確な半合成又は全合成のヒドロゲル系の応用例は、ヒトへの移植、基礎研究、精密医療、例えばがん研究における創薬研究開発の分野である。
【0007】
がん研究及び診療所において、腫瘍細胞の治療的処置に対する(例えば、細胞傷害性物質による化学療法、免疫療法及び/又は標的化療法に対する)耐性は、1つの主要な難題である。
【0008】
化学療法に対する腫瘍細胞の薬物耐性は、通常、遺伝子の変更及びクローンの遺伝的不均質性が原因であった。しかし、がん細胞において薬物耐性をもたらす機構は複数(例.薬物の不活化、細胞死阻害、DNA損傷修復、薬物標的の変更、上皮-間葉転換、薬物排出、物理的障壁等)であり、独立して又は組み合わせて作用でき、同様にがん細胞のエピジェネティック変化及び腫瘍の微小環境の影響にも依存する可能性がある(Holohan C, et al., 13, 714-726(2013))。
【0009】
実際、腫瘍は一般的に、転移を開始する能力及び抗がん療法に対するそれらの感受性が異なる複数の表現型亜集団で構成される(Flavahan et al., Epigenetic plasticity and the hallmarks of cancer, Science 357, 266 (2017); Baylin et al., Nat Rev Cancer, 11(10), 726-734 (2011))。多くの場合、細胞は、遺伝子の変異とは無関係に、しかしその代わりにシグナル伝達の可逆的変化、並びに腫瘍間質細胞、血管系、免疫系、及び細胞外マトリックス(ECM)の組成によって影響を受ける遺伝子発現プログラムを通してこれらの亜集団の間で転換を示す(Juntilla et al., Nature, 501(7467):346-54 (2013))。
【0010】
標的化治療に対する耐性は、固有の耐性、適応耐性及び獲得耐性に分けることができる。固有の耐性は、治療に非感受性のドライバー変異によるものである可能性がある。適応耐性は、治療に対する部分的な初回応答後に、がん細胞が治療後に自身の生存を可能にする適応性の変化を受ける場合に起こる。獲得耐性は、不均質な亜集団における既存の変異(すなわち、最初は腫瘍中の必ずしも全ての細胞が標的に依存するとは限らない)及び治療が加える選択圧による新規変更(表現型又は遺伝的)の獲得の両者の選択の結果である可能性がある。耐性機構は、薬物の一次標的、又は他の生存及び/若しくは成長経路を誘導することによって標的を迂回できる他のシグナル伝達事象のいずれかを伴う可能性がある(Rotow-Bivona et al., Nature Reviews Cancer, 17(11) 637-658(2017))。
【0011】
したがって、特定のがんのin vitroでの培養のために単一の条件を使用することは、異なる薬物応答の原因であり得、このように薬物耐性の原因であり得る異なる遺伝的及び表現型腫瘍細胞特性をex vivoで表すために必要な不均質性を維持するために十分ではない。
【0012】
当初は受動的支持体と考えられたECMは、それにつながれた生物活性ドメインにより、及び可溶性サイトカインのリザーバーとして、悪性疾患の開始、進行における中心的存在であることが認められつつあり、同様に化学療法に対するがん細胞の感受性、例えば化学耐性にも影響を及ぼしている(Senthebane et al., Int. J. Mol. Sci. 2017, 18, 1586)。ECMの構造及び組成は、間質における複数の型の細胞によって調節され、腫瘍細胞の挙動のさまざまな側面に影響を及ぼす。遺伝的要因及び非遺伝的要因が、腫瘍内の表現型多様性に実質的に関与しているが、それらの全ての相対的関与を決定的に解決できるアプローチはない。
【0013】
生物活性ペプチドによって修飾されたポリエチレングリコール(PEG)で主に構成される合成ポリマーに基づく足場の使用が、肺腺がん細胞株のモデルを試験するために適用された(Gill et al., Cancer Res; 72(22) November 15, 2012)。上皮形態形成のECMに由来する差を探査及び試験するためのアレイを提供するために、多様な弾性及び接着リガンド濃度を有する修飾されたPEG-RGD及びMMP感受性のヒドロゲルをガラス基板上にディスクとして適用した。
【0014】
バイオハイブリッドin situ形成ヒドロゲル(starPEG)は、乳がん細胞の挙動に及ぼす骨-細胞分布因子の潜在的役割を試験するために使用された(Bray et al., Cancers 2018, 10, 292)。それらの微小環境内での細胞の生存率、形態及び遊走を試験するために、starPEGは、コラーゲンI由来ペプチドを加えて又は加えずに、マトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)切断可能ペプチドリンカーともコンジュゲートされた。
【0015】
ECMタンパク質と薬物耐性との相互作用に関して、ECM組成物が、フィブロネクチン、ラミニン又は環状細胞接着ペプチド(cRGD)を補充したヒアルロン酸(HA)ヒドロゲルにおいて薬物耐性を調節することが既に説明されている(Blehm et al., Biomaterials. 2015 July ; 56: 129-139)。この文献は、腫瘍-ECM環境の組成物及び構築が、薬物の効能に直接影響を及ぼした、すなわちECM特徴が、異なる薬物に対するがん細胞の感受性に影響を及ぼすという最初の証拠であった。
【0016】
同様に、さまざまな剛性のI型コラーゲンに基づく生体模倣性のヒドロゲルを使用して、Lam et al.(Mol. Pharmaceutics 2014, 11, 2016-2021)は既に、転移性乳房腫瘍細胞の増殖性の成長及び浸潤並びに薬物治療転帰に及ぼすマトリックスの剛性の効果を比較した。
【0017】
最近、3D生物材料環境で培養された細胞における薬物応答をスクリーニングするためのアプローチが、ECMの重要な生物物理的及び生化学的特徴が薬物応答をどのように媒介するかを探索するために開発された(Schwartz et al., Integr. Biol., 2017, 9, 912-924)。cRGDを含有する3D PEG-マレイミド(PEG-MAL)ヒドロゲルを使用して、剛性、次元(すなわち、2D対3D培養)、及び細胞-細胞接触を系統的に変化させ、マトリックス媒介適応耐性を分析した。彼らは、MEK阻害剤とソラフェニブの併用治療の相関的効能を同定したが、これは、唯一のスクリーニング環境、すなわち単一培養条件を使用する場合又はシステム生物学解析を行わなければ、実現されていなかった。この文献では、(特定の患者の腫瘍に由来する細胞ではなく)遺伝的に均質であることがわかっている細胞株からの単一の組織の型を使用した。特定の患者の腫瘍又は異なる患者の腫瘍の細胞の不均質性を捉えるために選択されたゲルを使用する必要性は、この文献からは導くことはできない。
【0018】
国際公開第2014/180970号では、アレイ及びそれによって行われる組合せ方法が記載された。マルチウェルプレートの別々の空間において、異なる細胞外マトリックスの条件が、ヒドロゲルの前駆体分子、架橋剤並びに前記ヒドロゲルの前駆体分子に結合した生物活性剤の種類及び/又は量を多様にすることによって、自動化された形式で提供された。
【0019】
Touati et al.(Poster presentation at the AACR 2018 Annual Meeting, Chicago, April 14-18, 2018)は、A549肺腺がん細胞株の形態に及ぼす異なるECM組成物の影響を報告し、薬物曝露に対する異なる感受性をECM誘導細胞表現型と相関付けた。
【0020】
患者の薬物治療の転帰をより正確に予測するために、患者のさまざまな疾患特性を捉えることができる薬物スクリーニング/試験のためのex vivoでの細胞培養条件を確立する系が必要である。より具体的には、ある疾患の患者の治療を補助する及び改善するために容易に使用できる方法及びキットが必要である。
【0021】
オルガノイドの製造
本発明は、任意の細胞構造、例えばオルガノイド、腫瘍オルガノイド(tumoroid)、多細胞腫瘍スフェロイド、細胞スフェロイド、細胞集合体、腫瘍スフェア、組織由来腫瘍スフェア、又はこれらの細胞構造の断片に関する。本明細書において以降、「細胞」という用語は、そのような任意の細胞構造を指す。
【0022】
細胞スフェロイド又は集合体を含むオルガノイドは、幹細胞の細胞三次元構造であり、細胞選別及びin vivoでの状況と類似の形式で空間的に限定された系統拘束を通して発達及び自己組織化(又は自己パターン形成)する、臓器特異的、組織特異的又は疾患特異的細胞の型である。したがって、オルガノイドは、細胞の生来の生理学を表し、生来の臓器、組織、及び/又は疾患細胞及び組織の状況を模倣する細胞組成(分化の異なる段階で残存している幹細胞及び/又は特殊な細胞若しくは組織の型を含む)及び解剖学(例.がん、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患)を有する。正常な細胞及び/又は疾患細胞(例.がん細胞)は、任意の組織又は任意の細胞構造、例えばオルガノイド又はがんオルガノイド(腫瘍オルガノイドとも呼ばれる)から単離できる。そこからオルガノイドが生成される細胞は、成長及び/又は分化して、自己組織化してin vivoで臓器(すなわち、細胞分化)又は疾患組織(例.腫瘍の多細胞不均質性)と非常に類似の構造を形成する複数の型の細胞を示す臓器様又は疾患様組織(例.がん、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患)を形成できる。したがって、オルガノイドは、in vivoの状況と非常に類似の系で、ヒト臓器、ヒト臓器発達、がん及び他の疾患を試験するための優れたモデルである。オルガノイドはまた、臨床応用、例えば再生医療及び個別化医療のために細胞を成長及び増殖させるためにも使用される。
【0023】
臨床応用の他の例は、個別化医療のためであり、この場合、疾患を表すオルガノイドは、患者のための個別化治療の選択肢を同定するために、薬物を試験するためにex vivoで培養される。簡単に説明すると、疾患組織の生検又は疾患組織の切除物から採取した患者由来の細胞を、ex vivoでオルガノイド及び/又は他の細胞構造として成長及び増殖させる。その後、実際に患者を治療する前に、これらの患者のオルガノイドに、潜在的な治療的処置の選択肢(例.薬物、薬物の併用)による試験を行うことができる。患者の細胞を用いたex vivo薬物試験の結果を、いずれの治療を患者に与えるかに関する医師の決定を支援するために医師が使用してもよい。
【0024】
上述した潜在的臨床応用に関する先行技術では、オルガノイドとしてのex vivoでの患者の細胞成長及び増殖の成功は、動物由来マトリックス(例.マトリゲル(登録商標))の使用に依存した。
【0025】
しかし、それらの性質、動物由来マトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)の固有のバッチごとの変動及び明確でない組成により、ヒトでのそれらの使用又はヒトにその後に移植するためにex vivoで細胞を増殖させることに関する規制当局の承認が下りない。加えて、これらの問題はまた、精密医療における臨床診断のためにオルガノイドの薬物試験を使用するための規制当局の承認を必要とし得るオルガノイド培養の標準化に関する主要な障壁となり得る。そのため、オルガノイドの使用を臨床応用(精密医療、再生医療等)に橋渡しするために、オルガノイド培養のいくつかの側面を改変する必要がある。これらは、支持マトリックスの開発、及びヒトでの使用に関して定義及び承認され、規模拡大可能で、好ましくは異種物質を含まない(すなわち、動物起源の成分を含まない)培地の開発を含む。
【0026】
Broguiere et al., Growth of Epithelial Organoids in a Defined Hydrogel, Adv. Mater. 2018, 1801621では、ラミニンIIIを補充した、明確であるが合成ではない(すなわち、異系でも異種不含でもない)フィブリンヒドロゲルが、ヒト小腸上皮、肝臓、膵臓及び膵管腺がん(PDAC)に由来するオルガノイド株の成長を支持することが示された。
【0027】
Gjorevski et al., Designer matrices for intestinal stem cell and organoid culture, Nature, Vol 539, 24 November 2016, 560-56;Gjorevski et al., Synthesis and characterization of well-defined hydrogel matrices and their application to intestinal stem cell and organoid culture, Nature protocols, Vol. 12, no.11, 2017, 2263-2274;国際公開第2017/036533号及び国際公開第2017/037295号は、初代マウス及びヒト小腸オルガノイド並びにヒト結腸直腸がんオルガノイドの成長のために、官能化されたRGDペプチド及び特異的酵素による分解並びに制御された自己分解動力学(PEG-アクリレートの加水分解)を含む異なる分解動力学を有する、酵素(第XIII因子)によって架橋された8アームのポリエチレングリコール(PEG)のヒドロゲルを開発した。マウス組織から精製されたラミニンIII(完全なタンパク質)を加えることは、オルガノイドの分化を支援するために必要であった。
【0028】
このアプローチの一部の成功は、マウス細胞からの増殖及びオルガノイド形成に関して示されたが、上記の系がヒトの生検の新たに単離された又は凍結されたヒト細胞からの増殖及びオルガノイド形成にとって好適であることは示されなかった(むしろ、Gjorevski 2017の2265ページでは疑問に思われていた)。同様に、第XIII因子との酵素架橋反応に基づいて唯一試験された系は費用が高く、商業目的のために規模拡大及び/又は自動化することは難しく、再現することが難しいことも証明されている。
【0029】
Cruz-Acuna(Cruz-Acuna et al., Synthetic hydrogels for human intestinal organoid generation and colonic wound repair, Nature cell biology, advanced online publication published online 23 October 2017; DOI: 10.1038/ncb3632, 1-23;Cruz-Acuna et al., PEG-4MAL hydrogels for human organoid generation, culture, and in vivo delivery, Nature protocols, Vol. 13, September 2018, 2102-2119及び国際公開第2018/165565号)による研究は、ヒト胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞を使用して、腸オルガノイドを成長させるため、RGDによって官能化され、プロテアーゼ分解可能なペプチドGPQ-Wによって架橋された全合成の4アームPEG-マレイミドヒドロゲルを開発することに基づいている。これらの合成ゲル中で増殖させたオルガノイドを、概念証明試験としてマウス結腸損傷モデルに注入し、腸オルガノイド移植の治療潜在性を実証した。
【0030】
この系では、患者の生検の新たに単離された又は凍結された細胞を増殖させてオルガノイドに形成できることは示されていない。この系の場合、架橋剤成分は酵素により分解可能でなければならない。
【0031】
現在、オルガノイド培養をex vivoで定着させるための標準は、「基準」であるマトリゲル(登録商標)(マトリゲル(登録商標)は基底膜抽出物(BME)の市販の製品の1つである)において新たに単離された細胞(組織から)を最初に被包すること、及び細胞を数回の継代で成長させて、それらを増殖させる(すなわち、細胞数を増加させる)ことを含む。BME(例.マトリゲル(登録商標))は、マウス肉腫抽出物に由来するゲルであり、これは上記で既に注釈したように、バッチごとの一貫性に欠け、組成が明確でなく、したがって、臨床橋渡し応用のために使用できず、そのため、規制当局の承認を得ることは、難しいか又は不可能であり得る(Madl et al., Nature 557 (2018), 335-342)。
【0032】
オルガノイドの定着のために、明確でない異種成分又はヒト成分を有するゲルの使用を排除すれば、臨床応用、例えば再生医療、精密医療、薬物試験、又は患者の階層化においてオルガノイドを使用する場合の大きい障壁の1つが克服される。
【0033】
生検で得た新たに単離された細胞の、完全に明確な(全合成ではない)マトリックス中での培養の概念実証は、Mazzocchi et al., In vitro patient-derived 3D mesothelioma tumor organoids facilitate patient-centric therapeutic screening, Scientific reports (2018) 8:2886;Votanopoulos et al., Appendiceal Cancer Patient-Specific Tumor Organoid Model for Pre-dicting Chemotherapy Efficacy Prior to Initiation of Treatment: A Feasibility Study, Ann Surg Oncol (2019) 26:139-147及び国際公開第2018/027023号に提供されている。簡単に説明すると、中皮腫及び虫垂がん患者に由来する細胞を、ヒアルロン酸/コラーゲンに基づくヒドロゲル中で培養し、薬物応答予測のためのプラットフォームを開発した。しかし、マトリゲル(登録商標)と同様に、コラーゲンも天然由来のマトリックスであり、類似の問題がある。
【0034】
これまで、生検又は組織切除物の新たに単離された又は凍結されたヒト細胞(すなわち、ヒトから直接得られており、別の系で前培養されていない又は事前に定着していない細胞)の増殖に成功したという報告はなく、天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)又はコラーゲンではない完全に明確な及び/又は全合成のヒドロゲルのマトリックス中でそれらからオルガノイドをその後に形成したという報告はない。そのようなアプローチが明確に必要であるにもかかわらず、上記先行技術で述べられているように、現在まで、細胞の増殖の少なくとも最初の工程に関する基準はなおも、マトリゲル(登録商標)の使用である。これは、半合成又は全合成の三次元ヒドロゲル系の製品の作成に伴う困難の証明である。
【0035】
このように、生検で得た新たに単離された又は凍結されたヒト細胞の増殖、及びそこからオルガノイドをその後に形成するための方法であって、前記方法が天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)の使用を完全にやめて、臨床応用にとって好適で、商業的に実現可能な形式、すなわち費用対効果が高く、信頼でき、再現性があり、自動化可能であり、及び規模拡大可能に生成されるオルガノイドを提供する方法を提供することが必要である。
【0036】
患者の薬物治療の転帰をより正確に予測するために、患者の異なる腫瘍特性を捉えることができる薬物スクリーニング/試験のためのex vivoでの細胞培養条件を確立するための最適な系はまた、生検又は切除物で得た新たに単離された又は凍結されたヒト細胞の増殖能、及びそこからのオルガノイドのその後の形成能も含み、この方法は、天然に由来するマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しない。
【0037】
より具体的に、ある疾患の患者の治療を補助及び改善するために容易に使用できる方法及びキットが必要であり、前記方法は、天然に由来するマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しない。
【発明の開示】
【0038】
本発明は、ある疾患又は健康な組織に関して具体的に事前に選択された細胞外マトリックスの条件を含む細胞成長キットを提供することによって先行技術を拡大し、このように特定の疾患に対する薬物治療の転帰又は特定の健康な組織に対する毒性のより正確でより効率的な予測を可能にする。上記先行技術では、三次元の完全に明確な(全合成を含む)ヒドロゲルのこの潜在性は認識されていない。
【0039】
以前に実施された実験及び/又は知識に基づき、特定の組織の型、例えばがん細胞又は正常な/健康な細胞の成長及びその後の試験のための好適な条件を推定可能である。しかし、これは、それぞれの組織の型の特定の特性に対処しているが、例えばがん細胞の場合では、転移を開始するその能力及び抗がん治療に対するその感受性が異なる組織の型の複数の表現型亜集団に対処するにはなおも十分ではない。したがって、たとえ特定の組織の型の成長にとって好適であるとして以前に確立されている単一のex vivoでの培養条件下で特定の組織の型についてのアッセイを行っても、ある疾患の患者の治療の所望の最適な補助及び改善を提供しない。
【0040】
本発明は、特定の型の組織にとって好適であることが確立されている細胞外マトリックスの条件の事前の選択に基づくが、事前に選択された細胞外マトリックスの条件の別の態様を提供する、細胞外マトリックス(ex vivoでの培養)条件のアレイを提供する。このアプローチにより、大幅でより重点的なアッセイを行うことができる。一方、事前に選択されていない細胞外マトリックスの条件による従来のアッセイ(例.細胞外マトリックスの条件の従来のスクリーニング)では、前記アッセイで利用される特定の数の細胞外マトリックスの条件は好適ではないが、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を利用する本発明の方法では、全ての細胞外マトリックスの条件が意図される目的にとって基本的に好適であり、大幅でより重点的な方法において、治療される患者の特定の型の組織の特定の表現型亜集団に関する最適な細胞外マトリックスの条件の同定が可能である。このように、本発明は、個別化医療に関する改善を提供する。
【0041】
このように、本発明は、任意に間質細胞又は免疫細胞といった他の細胞と組み合わせて1つの組織の型を用いる方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、任意に1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、任意に少なくとも1つの架橋剤及び試験される組織の型の細胞を架橋することにより、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを提供する工程;
b) 1つ以上の異なる培地の存在下で、細胞がヒドロゲルのマトリックスのアレイの別々の空間中で成長し、増殖することを可能にする工程;
c) ヒドロゲルのマトリックスのアレイの別々の空間中で成長した細胞を用いて操作する工程;
を含み、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが、試験される1つの組織の型に対して事前に選択される、方法に関する。
【0042】
本発明によれば、上記の方法の工程b)では、十分な量の細胞に達するまで細胞を成長させ、増殖させる。十分な量の細胞に達すると、所望の操作(例.薬物の試験又は細胞レポジトリ/バイオバンクの作成/樹立)を、工程c)で行うことができる。好ましくは、工程b)(細胞増殖)は、手作業で行われ、各継代後に細胞数を増加させることが重要である。しかし、工程b)を自動で、及び/又は小型化された形式で行うことも可能である。
【0043】
前記方法は、組合せ方法、すなわち、ex vivoでの条件(細胞外マトリックスの条件等)と薬物の複数の組合せを同時に調べる方法であり得る。
【0044】
一態様では、ヒドロゲルのマトリックスのアレイの別々の空間中で成長した細胞を用いて行われる操作は、ヒドロゲルのマトリックスのアレイの前記別々の空間に1つ以上の薬物を加えることであってもよい。前記態様によれば、本発明の方法は、試験される組織の型からの細胞に関連する状態を治療するために好適である1つ以上の薬物を同定するための薬物スクリーニング試験である。これは、個別化医療の分野で使用できる。
【0045】
本発明の好ましい態様によれば、組織の型は、特定の患者に由来し、例えば前記患者の生検又は切除物で得た新たに単離された又は凍結された細胞に由来し、薬物スクリーニング試験は、それが前記の患者の最も好適な治療を正確に同定するのを助けることから、精密医療及び/又は個別化医療に関する改善である。
【0046】
本発明の一態様によれば、方法が行われる組織の型は、がん関連線維芽細胞(CAF)といった間質細胞又は免疫細胞を含む他の型の細胞、及びがん細胞の両者を含んでいてもよい。
【0047】
本発明の好ましい態様によれば、組織の型は肺がん、好ましくはc-Metを過剰発現する非小細胞肺がんであり、ヒドロゲルのマトリックスは、非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択されており、架橋剤及び任意の生物活性剤は、いかなるRGDモチーフも含まない。好ましくは、前記態様で使用される培地は、FBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む。
【0048】
本発明の別の好ましい態様によれば、組織の型は膵管腺がん(PDAC)細胞であり、ヒドロゲルのマトリックスは、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する非自己分解性のPEGヒドロゲルであるとして事前に選択され、架橋剤及び/又は任意の生物活性剤の少なくとも1つは、RGDモチーフを含む。好ましくは、前記態様で使用される培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む。
【0049】
本発明の別の好ましい態様によれば、組織の型は結腸直腸がん(CRC)細胞であり、ヒドロゲルのマトリックスは、50~2000Paの少なくとも初期剛性を有し、必要に応じてラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含むPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤及び/又は任意の生物活性剤の少なくとも1つは、RGDモチーフを含む。好ましくは前記態様で使用される培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む。
【0050】
本発明の別の好ましい態様によれば、組織の型は乳がん細胞であり、ヒドロゲルのマトリックスは、好ましくは酵素により分解可能なPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤の少なくとも1つは、好ましくは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、前記ヒドロゲルは、必要に応じてラミニン、好ましくはラミニン-111、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含む。好ましくは、前記態様で使用される培地は、FBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む。
【0051】
本発明の別の好ましい態様によれば、組織の型は、ex vivoでその健康/正常な対応細胞(例.上皮及び/又は間質細胞)よりゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞であり、ヒドロゲルのマトリックスは、好ましくは50~2000Paの剛性を有するPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤及び任意の生物活性剤は、いかなるRGDモチーフも含まない。
【0052】
本発明の別の好ましい態様によれば、組織の型は、間質細胞、好ましくは線維芽細胞と組み合わせたがん細胞、好ましくは膵管腺癌(PDAC)細胞であり、ヒドロゲルのマトリックスは、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有するPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤の少なくとも1つは、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、架橋剤及び/又は任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含む。好ましくは、前記態様で使用される培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含み、より好ましくはFBS(ウシ胎児血清)も含む。
【0053】
別の態様では、ヒドロゲルのマトリックスのアレイの別々の空間中で成長した細胞を用いて行われる操作は、特に精密医療の分野における健康なオルガノイド細胞に関する薬物スクリーニング/試験であってもよい。好ましい態様によれば、健康/正常なオルガノイド(例えば、結腸又は腸オルガノイド、正常な/健康な前立腺細胞、又は他の臓器の健康な細胞)を、対照条件として、及び/又は同じ臓器の疾患細胞に関する薬物試験における細胞傷害アッセイ(例えば、薬物の毒性を試験するため)として使用してもよい。例えば、健康な/正常な結腸又は腸オルガノイドを、例えばがんオルガノイド又は同じ患者の嚢胞性線維症組織からのオルガノイドについて薬物を試験する場合の対照条件として、薬物試験において使用できる。
【0054】
別の態様では、ヒドロゲルのマトリックスのアレイの別々の空間中で成長した細胞を用いて行われる操作は、基礎科学研究において3D細胞構造を使用するための、又は再生医療若しくは個別化医療の目的に関して、細胞をヒトに植え込むための、成長した細胞(この明細書ではオルガノイドと呼ぶ)の単離であってもよい。
【0055】
本発明の方法の好ましい態様の大きな利点は、天然に由来するマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しない点である。当技術分野においてこの長年望まれていたニーズは、後で説明する具体的に事前に選択された条件を使用することによって達成できることが意外にも見いだされている。薬物の異なる挙動は特定の細胞外マトリックスの条件が明らかに原因であり得ることから、完全に明確な細胞外マトリックスの条件下で方法全体を行うことは、薬物スクリーニングの正確な結果を提供する。同様に、完全に明確な細胞外マトリックスの条件下で方法全体を行うことは、先行技術の方法と比較して個別化医療及び再生医療に関する規制当局の要件を満たす。
【0056】
本発明はまた、1つ以上の組織の型について又は組織の型を用いて操作するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子、
- 必要に応じて少なくとも1つの架橋剤、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含む、成分、
b) 1つ以上の異なる培地、
を含み、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが、試験される組織の型に対して事前に選択されている、キットの内容物に関する。
【0057】
本発明の好ましい態様によれば、キットは、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのものであり、ヒドロゲルのマトリックスは、非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤及び任意の生物活性剤は、いかなるRGDモチーフも含まず、培地は、好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む。
【0058】
本発明の別の好ましい態様によれば、キットは、膵管腺がん(PDAC)細胞に対する薬物の影響を試験するためのものであり、ヒドロゲルのマトリックスは、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤及び/又は任意の生物活性剤の少なくとも1つは、RGDモチーフを含み、培地は、好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む。
【0059】
本発明の別の好ましい態様によれば、キットは、結腸直腸がん(CRC)細胞に対する薬物の影響を試験するためのものであり、ヒドロゲルのマトリックスは、50~2000Paの少なくとも初期剛性を有し、必要に応じてラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含むPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤及び/又は任意の生物活性剤の少なくとも1つは、RGDモチーフを含み、培地は、好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む。
【0060】
本発明の別の好ましい態様によれば、キットは、乳がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのものであり、ヒドロゲルのマトリックスは、好ましくは酵素により分解可能なPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤の少なくとも1つは、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、前記ヒドロゲルは、必要に応じてラミニン、好ましくはラミニン-111、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111を含む1つ以上の生物学的に活性な分子を更に含み、培地は、好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む。
【0061】
本発明の別の好ましい態様によれば、キットは、ex vivoでその健康な/正常な対応細胞(例.上皮及び/又は間質細胞)よりゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞を成長させるため及びがん細胞に対する薬物の影響を調べるためのものである。ヒドロゲルのマトリックスは、好ましくは、50~2000Paの剛性を有するPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤及び任意の生物活性剤は、いかなるRGDモチーフも含まない。
【0062】
本発明に従うキットは、特定の組織の型に由来する細胞を対象とし、前記組織の型について又は前記組織の型を用いて操作するため、例えば前記組織の型に対する薬物の影響の試験、又は基礎科学研究、個別化医療において成長した細胞を使用するための、若しくは再生医療の目的のために細胞をヒトに植え込むための、若しくは創薬開発/研究のための、若しくは細胞レポジトリ/バイオバンクを作成するための、成長した細胞の単離を行うために容易に使用できる。本発明に従うキットは、例えばそれが使用される特定の組織の型に関する、前記キットに提供される使用説明書によって対応して示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
定義
本発明は、任意の細胞構造、例えば単一細胞、オルガノイド、腫瘍オルガノイド、多細胞腫瘍スフェロイド、細胞スフェロイド、細胞集合体、腫瘍スフェア、組織由来腫瘍スフェア、又はこれらの細胞構造の断片を含む三次元細胞培養モデルに関する。
【0064】
これ以降、「細胞」という用語は、そのような任意の細胞構造を指す。
【0065】
アレイは、特定の形式で、例えば行及び/又は列で整列できる別々の空間のセットである。例えば、通常使用されるウェルプレート(例.48ウェルプレート)は、8個の列及び6個の行で整列した48個の別々の空間を提供し、この例において各々の列は、6個の別々の空間からなる。この例における各々のそのような列は、本発明にではアレイと見なされる。あるいは、この例ではまた、8個の別々の空間からなる各々の行は、アレイと見なすことができる。
【0066】
細胞スフェロイド又は集合体を含むオルガノイドは、幹細胞の細胞三次元構造であり、細胞選別及びin vivoでの状況と類似の形式で部分的に制限された系統拘束を通して発達及び自己組織化(又は自己パターン化)する臓器特異的、組織特異的、又は疾患特異的な細胞の型である。したがって、オルガノイドは、細胞の生来の生理学を表し、細胞組成(分化の異なる段階で残存している幹細胞及び/又は特殊な細胞又は組織の型を含む)及び生来の臓器、組織、及び/又は疾患細胞及び組織状況(例.がん、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患)を模倣する解剖学を有する。正常及び/又は疾患細胞(例.がん細胞)は、任意の組織又は任意の細胞構造、例えばオルガノイド又はがんオルガノイド(腫瘍オルガノイドとも呼ばれる)から単離できる。そこからオルガノイドを生成する細胞を成長及び/又は分化させて、自己組織化して臓器(すなわち、細胞分化)又は疾患組織(例.多細胞の不均質性腫瘍)と非常に類似の構造をin vivoで形成する複数の型の細胞示す臓器様又は疾患様組織(例.がん、嚢胞性線維症、炎症性腸疾患)を形成できる。したがって、オルガノイドは、in vivoの状況と非常に類似の系でヒト臓器、ヒト臓器発達、がん及び他の疾患を試験するための優れたモデルである。オルガノイドはまた、臨床応用、例えば再生医療及び個別化医療のために細胞を成長及び増殖させることにも使用される。
【0067】
本発明では、「組織の型」という用語は、類似の構造を有し、共に作用して特定の機能を行う細胞群を指す。動物では、4つの異なる組織の型:結合組織、筋組織、神経組織及び上皮組織が存在する。本発明では、同じ細胞の型からの細胞は、健康な細胞である場合、共に作用して特定の機能を実行する細胞の集合体である。より好ましくは、本発明では、同じ組織の型の細胞は、ヒトの体において同じ起源(例.乳房細胞)を有する。
【0068】
本発明では、同じ組織の型は、健康(又は正常とも呼ばれる)な細胞及びがん細胞といった疾患細胞の両者を包含すると理解される。同じ組織の型からの細胞は、異なる細胞の型/亜類型、例えば異なる細胞集団(例.多細胞の不均質性腫瘍)を含有してもよい。
【0069】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法が行われる組織の型は、がん関連線維芽細胞(CAF)といった間質細胞又は免疫細胞を含む他の型の細胞、及びがん細胞の両者を含んでいてもよい。
【0070】
本発明の目的のために使用される組織の型の例は、肺がん、好ましくはc-Metを過剰発現する非小細胞肺がん;膵管腺がん(PDAC)細胞(好ましくは間質細胞、好ましくは線維芽細胞と組み合わせた)、結腸直腸がん(CRC)細胞、乳がん細胞、又はex vivoでその健康な/正常な対応細胞(例.上皮及び/又は間質細胞))よりゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞である。
【0071】
本発明では、「生検又は組織切除物で得た新たに単離された又は凍結されたヒト細胞」という用語は、言及された手順のいずれかによってヒトから直接得られており、及びオルガノイド、スフェロイド、細胞集合体又は任意の細胞構造を形成する方法において使用される前に別の系において前培養されていない又は事前に定着されていない細胞を指す。通常、そのような新鮮な細胞は、本発明の方法において直ちに、又は最大3~4日間以内に収集され、使用される。細胞を、収集後直ちに使用しない場合、それらを貯蔵目的のために、通常の条件で凍結してもよい。収集された細胞は、単一細胞であってもよく、並びに/又は解離された細胞、組織の腺窩及び小片を含む細胞の「集合体」であってもよい。本発明の好ましい態様によれば、上皮細胞を使用する。
【0072】
本発明では、「オルガノイドのデノボ形成」という用語は、ex vivoで(すなわち、元の生物の体外で)初めて成長している新たに単離された又は凍結されたヒト細胞(例.ヒト生検又は組織切除物)を指す。「初代のex vivoでの細胞成長」、又は「継代ゼロ(P0)」という用語は、同義として使用され得る。
【0073】
本発明では、「事前に定着したオルガノイド」という用語は、本発明のヒドロゲルに適用される前に、(例えば、マトリゲル(登録商標)、2D又は3D系、in vivoで患者由来の異種移植片(PDX)として)他の系で成長している細胞、単一細胞及び/又は細胞集合体(例.細胞凝集体、オルガノイド等)を指す。
【0074】
本発明では、「細胞成長」という用語は細胞成長の成功を指す。
【0075】
本発明では、「細胞継代」又は「継代」又は「細胞分割」、又は「オルガノイド継代」という用語は、1つのゲルから細胞を抽出する工程、及びそれらの細胞を、以前のゲルと同じ又は異なる特性を有する別のゲルに播種し、成長させる工程を指す。
【0076】
本発明では、「細胞増殖」又は「オルガノイド増殖」という用語は、細胞成長及び細胞数増加(例えば、同じ継代内又は1つの継代から次の継代での)の工程を指す。
【0077】
本発明では、「オルガノイド分化」という用語は、オルガノイドにおける細胞分化誘導の成功を指す。
【0078】
本発明では、「完全に明確なヒドロゲル」という用語は、全合成又は半合成のヒドロゲル、すなわちその合成及びその合成経路に使用された前駆体分子の性質が既知であることにより、完全に明確な構造及び/又は組成を有するヒドロゲルからなる群から選択されるヒドロゲルを指す。
【0079】
本発明では、「全合成のヒドロゲル」という用語は、合成前駆体のみから形成されている、すなわち天然由来の前駆体、例えば天然のラミニン-111が存在しないヒドロゲルを指す。
【0080】
本発明では、「完全に明確な半合成のヒドロゲル」という用語は、少なくとも1つの天然由来の前駆体、例えば天然のラミニン-111を含むが、その合成に使用される前駆体分子の性質が既知であることにより、完全に明確な構造及び/又は組成を有するヒドロゲルを指す。完全に明確な半合成のヒドロゲルは、このように、未知の構造及び/又は組成を有する天然由来のヒドロゲル、例えばマトリゲル(登録商標)とは異なる。
【0081】
本発明では、「細胞培養微小環境に被包される」という用語又は類似の表現は、細胞がマトリックスに完全に取り囲まれ、それによって天然に存在する細胞成長条件を模倣するように、細胞が前記マトリックスに埋め込まれていることを意味する。
【0082】
本願明細書では、「微小環境」又は「微小環境の空間」はそれぞれ、ハイスループット試験器具、特にマルチウェルプレートにとって好適である空間を意味する。マルチウェルプレートにおいて分析される典型的な空間は、約100nl~約500μl、好ましくは約2μl~約50μlである。
【0083】
「別々の空間」という用語は、アレイ内の空間的に分離されたスポット又は領域に関する。分離されたスポット又は領域は、互いに接触していてもよく、又は好ましくは例えば、プラスチックの障壁によって互いに分離している。これらの別々の空間の各々の中又は各々の上に、所望の組織の型の細胞を、それらが互いに分離されているように入れることができる。それらは、実験の最初から互いに接触せず、時間が経ってもそのままであり、それによって隣接する空間から独立して、それらの細胞培養微小環境(ex vivoでの培養)の影響下のみで成長する。
【0084】
「架橋剤」という用語は、2つ以上のヒドロゲルの前駆体部分を互いに連結するために、ヒドロゲルの前駆体分子の官能基部分と反応できる少なくとも2つの官能基を含む化学物質を指す。その例は、システイン部分のような官能基を少なくとも2つ含むペプチド、又はチオール基のような官能基を少なくとも2つ有するポリエチレングリコール(例.末端チオール部分を有する2アーム又はマルチアームPEG)である。
【0085】
「細胞適合性の反応によって架橋可能な」という用語(又は類似の用語)は、(i)a)好ましくは活性化トランスグルタミナーゼ第XIIIa因子による、酵素触媒反応;並びに、b)好ましくはマイケル付加反応のような、非酵素触媒反応及び/若しくは無触媒反応、からなる群から選択される共有結合形成;並びに/又はii)非共有結合形成(例えば、疎水性相互作用、H-結合、ファンデルワールス相互作用、若しくは静電気的相互作用;特に温度変化又は緩衝液のイオン強度の変化によって誘導される)の両者に基づく反応を含む。これらの反応は、互いに反応してもよい官能基を含む2つのヒドロゲルの前駆体分子の間で、又は少なくとも1つのヒドロゲルの前駆体分子と互いに反応してもよい官能基を含む架橋剤との間で起こり得る。
【0086】
本発明では、「成長した細胞を用いて操作する」という用語は、ヒドロゲルのマトリックスのアレイの別々の空間に1つ以上の薬物を加えることを含む。このように、本発明の方法は、試験した組織の型から細胞に関連する状態を治療するために好適である1つ以上の薬物を同定するための、創薬開発又は薬物スクリーニング試験のためであり得る。これは、個別化医療の分野で使用できる。方法はまた、創薬開発のために、細胞傷害アッセイとして、又は再生医療において使用することもできる。「成長した細胞を用いて操作する」という用語はまた、細胞そのもの又は細胞からの副産物を、例えばDNA又はRNAシーケンシング方法、例えばNGS(次世代シーケンシング)によって分析する操作、並びにこれらの細胞の産物を分析する操作(例.上清の分析)、又は細胞由来産物(例.細胞継代又は細胞増殖の産物)をさらなる使用のために(例.バイオバンク若しくは細胞レポジトリの樹立のため、又はオルガノイドの定着のため)単離する操作を含む。
【0087】
本発明では、「事前に選択された」という用語は、細胞外マトリックスの条件、すなわちヒドロゲルの前駆体分子、必要に応じた架橋剤、任意の生物活性剤、及び好ましくは培地、好ましくはそれらの少なくとも2つ、最も好ましくはそれらの全てが、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが事前に選択されているように、試験される組織の型に対して選択されることを意味する。ヒドロゲルの特徴は、ヒドロゲルの構造及び/又は機能を定義する特徴である。その例は、ヒドロゲルの化学構造(利用される前駆体及び必要に応じた架橋剤及び任意の生物活性剤によって支配される)、ヒドロゲルの剛性、又は分解性質(例.加水分解又は酵素反応による)である。考察される先行技術の方法と比較すると、本発明では、細胞外マトリックスの条件は、無作為に選択されない。以前に得られた又は利用可能な情報に基づいて、試験される特定の組織の型の成長及び目的の表現型特性の提示にとって好適であることが既知である細胞外マトリックスの条件が選択される。細胞外マトリックスの条件を事前に選択する方法を以下に説明する。本発明では、本発明の方法において利用される事前に選択された細胞外マトリックスの条件の別の態様も、これらの態様が無作為ではないが、事前に選択された細胞外マトリックスの条件に基づくことから、「事前に選択された」と理解される。
【0088】
本発明では、「事前に選択された細胞外マトリックス(ex vivoでの培養)条件の別の態様」という用語は、事前に選択された条件と類似であるが、少なくとも1つのパラメーター、好ましくは1~3個のパラメーター、例えばヒドロゲルの特徴(例.剛性、分解)、培地の成分、細胞外マトリックスの条件における成分の量、細胞外マトリックス中の生物活性剤等が異なる条件を包含する。一般的に、異なるパラメーターは、生物学的特性(例.RGDモチーフの存在又は非存在)、生物物理学的特性(例.ヒドロゲルの剛性)及び/又は生化学的特性(例.酵素的分解)である。
【0089】
本発明では、「自己分解性」という用語は、ヒドロゲルが、分解酵素の影響がない状態で経時的に分解することを意味する。好ましくは、自己分解は、水との反応に感受性があるヒドロゲル中の結合の加水分解によって起こる。一例として、PEG-Acr前駆体分子(すなわち、末端アクリレート基を有するPEG分子を含有する前駆体分子)中のアクリレート基の反応によって形成されたエステル結合を挙げることができる。
【0090】
本発明では、「非自己分解性」という用語は、分解酵素の影響がなければヒドロゲルが経時的に分解しないことを意味する。非自己分解性のヒドロゲルは、水との反応を受けやすい結合をヒドロゲル中に含まない。一例として、PEG-VS前駆体分子(すなわち、末端ビニルスルホン基を有するPEG分子を含有する前駆体分子)から形成されたヒドロゲルを挙げることができる。
【0091】
本発明では、「RGD」又は「RGD配列」という用語は、最小の生物活性のRGD配列を指し、これは、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)配列であり、細胞のフィブロネクチンとの結合を模倣し、及び/又は接着依存性細胞の接着を促進するために十分である最小の(最小限の)フィブロネクチン由来アミノ酸配列である。その上、RGDなどのリシン又はアルギニン含有アミノ酸配列は、例えばゲル解離のために使用されるトリプシン様酵素などのプロテアーゼの好適な基質である。好適なRGDモチーフの例は、RGD、RGDS、RGDSP、RGDSPG、RGDSPK、RGDTP、RGDSPASSKP、PHSRNSGSGSGSGSGRGDSPG、又は環状RGDモチーフ、例えばシクロ(RGDfC)であるが、ヒドロゲル及び細胞培養の分野において、基本的に公知の及び首尾よく利用されるRGD配列を使用できる。
【0092】
ヒドロゲルの剛性率は、ヒドロゲルの剛性の係数、G、弾性係数、又は弾性率と等価である。剛性率は、剪断応力対剪断歪みの比として定義される。ヒドロゲルの剛性率は、粘度計を使用して測定できる。簡単に説明すると、事前に成形された厚さ1~1.4mmのヒドロゲルディスクを、完全な細胞培地中で少なくとも3時間膨張させ、その後、粘度計の平行板の間に挟む。ゲルの力学的応答は、周波数掃引(0.1~10Hz)測定を定歪(0.05)モード、室温で行うことによって記録する。剛性率(G’)は、ゲルの力学的性質の測定として報告される。
【0093】
ヒドロゲルのマトリックスのアレイを作成する方法
本発明のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、国際公開第2014/180970号に記載されるように一般的に作成できる。
【0094】
簡単に説明すると、好ましい方法は、以下の工程
a) 1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子、及び必要に応じて少なくとも1つの架橋剤を提供する工程;
b) 工程a)のヒドロゲルの前駆体分子及び必要に応じて少なくとも1つの架橋剤の異なる組合せを組み合わせて、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中に、自動化された形式で分配する工程;
c) 別々の空間に、1つ以上の生物学的に活性な分子を加え、前記分子を、存在するヒドロゲルの前駆体分子若しくは工程e)で形成されたヒドロゲルの少なくとも1つに結合させる、又はそれらを自由に拡散させる工程;
d) 細胞を、基材の前記別々の空間の表面に/中に加える工程;並びに
e) 細胞適合性の架橋反応、例えば酵素により触媒される反応、又はマイケル付加反応によって前記ヒドロゲルの前駆体分子を架橋させて、ヒドロゲルのマトリックスを形成する工程
を含む。
【0095】
ヒドロゲルの前駆体分子を架橋することによって得られた、使用されるヒドロゲルは、当技術分野で公知の任意の型の合成又は半合成の完全に明確なヒドロゲルから基本的に選択できる。その例は、光架橋可能なヒドロゲル、例えばラジカル媒介チオール-ノルボルネン(チオール-エン)光重合化を介する反応機構を使用して作成されてヒドロゲルを形成するヒドロゲル(Anseth et al., Adv Mater. 2009 December 28; 21(48): 5005-5010;Nature scientific reports 2015, 5:17814)、又はクリックケミストリー(例.マイケル付加反応)、物理的架橋、若しくは酵素による架橋によって製造されるヒドロゲルである。
【0096】
使用されるヒドロゲルは、ヒドロゲルの前駆体分子を架橋することによって得られ、好ましくは、親水性ポリマー、例えば、ポリ(エチレングリコール)(PEG)に基づくポリマー、最も好ましくは、細胞適合性の架橋反応によって架橋されたマルチアームPEGに基づくポリマーである。使用される特定のヒドロゲルは、特定の組織の型に関する事前の選択の結果に依存し、以下の好ましい態様で考察される。
【0097】
好ましくは、Ehrbar et al.(Ehrbar, M., Rizzi, S.C., Schoenmakers, R.G., Miguel, B.S., Hubbell, J.A., Weber, F.E., and Lutolf, M.P., Biomolecular hydrogels formed and degraded via site-specific enzymatic reactions, Biomacromolecules 8 (2007), 3000-3007)において詳述される架橋機構によって生理的条件下でトロンビン活性化第XIIIaを使用して、又は例えばLutolf et al.(Lutolf, M.P., and Hubbell, J.A. , Synthesis and physicochemical characterization of end-linked poly(ethylene glycol)-co-peptide hydrogels formed by Michael-type addition, Biomacromolecules 4, 713-722)において詳述される架橋機構による穏和な化学反応を介して架橋可能であるPEG(ポリエチレングリコール)前駆体分子で構成されるPEGに基づくヒドロゲルが使用される。
【0098】
本発明の好ましいヒドロゲルは、前駆体分子として、ビニルスルホン及び/又はアクリレート部分からなる群から選択されるエチレン不飽和基を含有するマルチアームPEG(ポリ(エチレングリコール))に基づく。
【0099】
本発明の好ましい態様によれば、マルチアームPEGは、2~12アーム、好ましくは4アーム又は8アームを有するPEGからなる群から選択され、すなわち好ましくは4アーム又は8アームPEGである。PEGは、1,000~1,000,000、1,000~500,000、1,000~250,000、1,000~150,000、1,000~100,000、1,000~50,000、5,000~100,000、5,000~50,000、10,000~100,000、10,000~50,000、20,000~100,000、20,000~80,000、20,000~60,000、20,000~40,000、又は40,000~60,000の分子量を有し得る。上記の分子量は、例えばGPC又はMALDIといった方法によって決定した場合のDaでの平均分子量である。
【0100】
そのようなPEGは、当技術分野で公知であり、市販されている。それらは4アームPEGの場合にはペンタエリスリトールであってもよいコア、8アームPEGの場合には、トリペンタエリスリトール又はヘキサグリセロールであってもよいコアからなる。
【0101】
【化1】
【0102】
4アームPEG-VS又は8アームPEG-VSでは、上記の約4アーム又は8アームPEGの末端の遊離のOH基を、当技術分野で公知の条件下でビニルスルホン基に変換し、それによって上記の式ではRは、例えば
【0103】
【化2】
【0104】
となる。
【0105】
4アームPEG-Acr又は8アームPEG-Acrでは、上記の約4アーム又は8アームPEGの末端の遊離のOH基を、当技術分野で公知の条件下でアクリレート基に変換し、それによって上記の式ではRは、例えば
【0106】
【化3】
【0107】
となる。
【0108】
好ましくは、上記の4アームPEG又は8アームPEGの全ての末端の遊離のOH基が、ビニルスルホン又はアクリレート基に変換される。
【0109】
ビニルスルホン又はアクリレート部分は、マイケル付加反応を介してPEG前駆体分子を架橋するために好適であるエチレン不飽和基である。マイケル付加反応は、好適な求核部分と好適な求電子部分との反応を伴う周知の化学反応である。例えば、アクリレート又はビニルスルホン部分が、適したマイケルドナー(すなわち、求核剤)として例えばチオール部分と反応する適したマイケルアクセプター(すなわち、求電子剤)であることは公知である。
【0110】
ヒドロゲル(ゲル)は、親水性ポリマー鎖の網状構造を含むマトリックスである。生体機能性ヒドロゲルは、生体接着性(又は生物活性)分子、及び/又は生きている細胞と相互作用して細胞生存率及び所望の細胞表現型を促進する細胞シグナル伝達因子を含有するヒドロゲルである。
【0111】
本発明の好ましい態様によるヒドロゲルを得るために、上記のPEG前駆体分子は、したがって、マイケル付加反応におけるマルチアームPEGのエチレン不飽和基と反応可能な少なくとも2つ、好ましくは2つの求核基を含有する架橋剤分子と反応する。架橋剤分子は、上記のPEG前駆体分子の少なくとも2つを互いに接続する分子である。その目的に関して、架橋剤分子は、1つの求核基が第1のPEG前駆体分子と反応し、他方の求核基が第2のPEG前駆体分子と反応するように、少なくとも2つ、好ましくは2つの上記の求核基を有しなければならない。本発明の好ましい態様によれば、前記架橋剤分子は、少なくとも2つのRGDモチーフ及び少なくとも2つのシステイン部分を含むペプチドである。システインは、チオール基、すなわちマイケルドナー部分を含むアミノ酸である。
【0112】
ヒドロゲルの前駆体分子の架橋は、アレイの別々の空間において試験される組織の型の存在下で行われ、それによって細胞がヒドロゲルのマトリックスによって被包され、すなわち別々の細胞培養微小空間に存在する。
【0113】
本発明に従う三次元ヒドロゲルのマトリックスの力学的性質は、細胞培養微小環境のポリマー含有量、並びにポリマーゲル前駆体の分子量及び/又は官能性(架橋のために利用可能な部位の数)を多様にすることによって変化させることができる。このように、例えば、剛性率(G’)によって表されるマトリックスの剛性は、軟らかいゲルに関して10~10000Pa、好ましくは50~1000Pa、又は中等度のゲルに関して1000~2000Pa、又は硬いゲルに関して2000~3000Paで異なり得る。ヒドロゲルの剛性率は、ヒドロゲルの剛性の計数、G、弾性係数、又は弾性率と等価である。剛性率は、剪断応力対剪断歪みの比として定義される。ヒドロゲルの剪断率は、粘度計を使用して測定できる。簡単に説明すると、事前に成形された厚さ1~1.4mmのヒドロゲルディスクを、水溶液(例.緩衝液又は完全な細胞培地)中で少なくとも3時間膨張させ、その後粘度計の平行板の間に挟む。ゲルの力学的応答は、周波数掃引(0.1~10Hz)測定を定歪(0.05)モード、室温で行うことによって記録する。弾性率(G’)は、ゲルの力学的性質の測定として報告される。
【0114】
さらに、マトリックスの物理化学的性質を、細胞分泌プロテアーゼ、例えばマトリックスメタロプロテナーゼ(MMP)、プラスミン又はカテプシンKに対する感受性が異なるペプチドのマトリックスへの取り込みを介してゲルマトリックスに分解特性を付与することによって経時的に変化できる。これにより、ヒドロゲルのマトリックスは「酵素により分解可能」となる。プロテアーゼが細胞によって分泌される場合のプロテアーゼに対する感受性及びマトリックスにもたらされる物理化学的性質の変化により、三次元マトリックスにおける効率的な細胞増殖及び遊走が可能となる。タンパク質分解に対して異なる感受性を有するヒドロゲルのマトリックスの力学的性質を一致させるために、マトリックスの前駆体含有量を、マトリックスのポリマー前駆体含有量、ポリマーゲル前駆体の分子量及び/又は官能性(架橋に利用可能な部位の数)を多様にすることによって微調整できる。所望の剛性は、ヒドロゲル内のポリマー(PEG)含有量と架橋剤含有量との合計を、好ましくは1.0~10重量/体積%に固定することによって達成される。PEGに基づくヒドロゲルのマトリックスでは、プロテアーゼに対する感受性は、例えば、細胞分泌プロテアーゼに対して異なる感受性を有する異なるペプチド配列を、マトリックス前駆体分子に組み込むことによって変化させることができる。
【0115】
細胞培養微小環境の生物学的特徴は、1つ以上の生物学的に活性な分子をマトリックスに加えることによってモジュレートできる。この明細書では、これらの生物学的に活性な分子は、例えば以下の群
i)細胞外マトリックス由来因子(ex vivoでの培養);
ii)細胞-細胞相互作用因子;及び/又は
iii)細胞シグナル伝達因子
から選択してもよい。
【0116】
使用される細胞外マトリックス由来因子i)は、例えばECMタンパク質、例えばラミニン、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン又はエラスチン、プロテオグリカン、例えばヘパリン硫酸又はコンドロイチン硫酸、非プロテオグリカン多糖、例えばヒアルロン酸、又はマトリックス細胞タンパク質、例えばファイブリン、オステオポンチン、ペリオスチン、SPARCファミリーメンバー、テナシン、又はトロンボスポンジンであってもよい。これらのECM因子は、全長型として、又はより小さい機能的な構築ブロック、例えばペプチド及びオリゴ糖として、又はグリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸(ヒアルロナンとも呼ばれる)のいずれかとして使用できる。
【0117】
使用される細胞-細胞相互作用タンパク質ii)は、多くの場合膜貫通タンパク質であり、細胞-細胞接着に関係するタンパク質、例えばカドヘリン、セレクチン、若しくはIgスーパーファミリー(ICAM及びVCAM)に属する細胞接着分子(CAM)、又は膜貫通シグナル伝達系の成分、例えばNotchリガンドDelta-like及びJaggedであってもよい。
【0118】
使用される細胞シグナル伝達因子iii)は、増殖因子又は発達モルフォゲン、例えば以下のファミリーの増殖因子又は発達モルフォゲン:アドレノメジュリン(AM)、アンジオポエチン(Ang)、自己分泌型細胞運動刺激因子、骨形成タンパク質(BMP)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮成長因子(EGF)、エリスロポエチン(EPO)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、増殖分化因子-9(GDF9)、肝細胞増殖因子(HGF)、肝腫由来増殖因子(HDGF)、インスリン様成長因子(IGF)、白血病阻止因子(LIF)、遊走刺激因子、ミオスタチン(GDF-8)、神経成長因子(NGF)及び他のニューロトロフィン、血小板由来増殖因子(PDGF)、トロンボポエチン(TPO)、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、血管内皮増殖因子(VEGF)、Wntシグナル伝達経路、胎盤増殖因子(PlGF)、又は大きいクラスのサイトカイン若しくはケモカインであってもよい。
【0119】
細胞外マトリックス由来因子i)及び細胞-細胞相互作用因子ii)は、架橋の前又は架橋の間にヒドロゲルのマトリックスに部位特異的に結合できる。生物学的に活性な分子によるゲルの官能化は、生体分子上の遊離の官能基(例.アミン又はチオール基)又は架橋酵素(例.トランスグルタミナーゼ)のペプチド基質と、ゲル網状構造との間の直接共有結合形成によって、又はキメラ/タグ付けされたタンパク質上のドメインと、ゲルに結合した補助タンパク質との間の親和性結合を介して達成できる。タグ付けされたタンパク質は、例えばプロテインA(又はプロテインG、プロテインA/G)、ストレプトアビジン(又はNeutrAvidin)、又はNTAとの結合を可能にするFcタグ、ビオチンタグ、又はHisタグを有するタンパク質を含む。
【0120】
あるいは、それらの因子は架橋剤の一部であってもよく、この明細書に記載の架橋反応のためにヒドロゲルポリマーに組み込まれてもよい。
【0121】
生体分子は、ヒドロゲル網状構造に対して異なるゲル係留戦略を必要としてもよい。より大きいex vivoでの培養由来又はex vivoでの培養模倣タンパク質及びペプチドは好ましくは、直鎖状のヘテロ二官能性リンカーを使用して非特異的係留によってヒドロゲルに結合する。このリンカーの1つの官能基は、ポリマー鎖の末端に結合した官能基、好ましくはチオールと反応性である。リンカーの他方の官能基は、そのアミン基を介して目的の生体分子との非特異的係留が可能である。後者の官能基は、スクシンイミジル活性エステル、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、スクシンイミジルα-メチルブタノエート、スクシンイミジルプロピオネート;アルデヒド;チオール;チオール選択基、例えばアクリレート、マレイミド、又はビニルスルホン;ピリジルチオエステル及びピリジルジスルフィドからなる群から選択される。好ましくは、NHS-PEG-マレイミドリンカーは、生体分子に結合する。
【0122】
細胞シグナル伝達因子iii)は、空間的に離れた領域において可溶性型で細胞を被包する架橋されたヒドロゲルのマトリックスに加えることができ、このように、マトリックスの中を自由に拡散させて、細胞に到達させる。あるいは、それらを、細胞外マトリックス由来因子i)及び細胞-細胞相互作用因子ii)に関する方法と同じ方法でマトリックスに係留できる。
【0123】
上記の好ましい方法の工程b)は、多数の異なる細胞培養微小環境を有する3D細胞含有マトリックスの調合において必要な多様性を達成するために、及び必要な繰り返しもまた達成するために、ゲル作成及び小型化試料のための自動化方法を使用して行われる。この目的のために、好ましくは市販の液体取り扱いロボットを使用して、工程a)に従う前駆体分子の独自の混合物の各々の100~500nLもの小さい体積を、好ましくは三連で、完全に自動化された形式で、基材、例えばスライドガラスの表面に、又は好ましくはマルチウェルプレート、例えば標準的な1536ウェルプレート中で正確に合成する。後者のフォーマットは、それが選択されたヒドロゲル液滴にとって理想的な表面対体積の比を提示することから、及びさまざまな実験設定に適合できる標準的なフォーマットを表すことから、好ましい。3Dヒドロゲルのマトリックスが生成されると、系は、複数の読み取りを同時に得ることができるマルチモーダルアッセイプラットフォームとして機能できる。
【0124】
別の好ましい態様によれば、最終的なヒドロゲルを構成する成分を凍結乾燥し、非反応性粉末として提供し、これを、手作業又は取り扱いロボットを使用して自動で再溶解してヒドロゲルを形成する。所望の細胞浮遊液を、ゲル化が起こる前に加え、3Dヒドロゲルのマトリックスは上記のように生成される。
【0125】
工程e)では、ヒドロゲルの前駆体分子を架橋して三次元ヒドロゲルのマトリックスを形成することは、少なくとも1つの架橋剤を使用することによって達成できる。PEGに基づく前駆体分子を使用する場合、例えば、化学反応性の二官能性ペプチドを架橋剤として選択できる。その例は、Lutolf et al.(Lutolf, M.P., and Hubbell, J.A. , Synthesis and physicochemical characterization of end-linked poly(ethylene glycol)-co-peptide hydrogels formed by Michael-type addition, Biomacromolecules 4, 713-722 (2003))に詳述される架橋機構による穏和な化学反応である。しかし、架橋は、互いに対して容易に反応性である2つの異なる前駆体分子を組み合わせると直ちに起こり得るとも考えられる(例えば、高度に選択的ないわゆるクリックケミストリー、例えばマイケル付加反応又は他の化学反応によって)。
【0126】
同様に、架橋は、互いに反応性である2つの異なる前駆体分子、又は触媒、例えば酵素の存在下で互いに反応性である異なる種類の部分を有する前駆体分子の1つの型の組合せによって起こってもよいとも考えられる。その例は、Ehrbar et al.(Ehrbar, M., Rizzi, S.C., Schoenmakers, R.G., Miguel, B.S., Hubbell, J.A., Weber, F.E., and Lutolf, M.P., Biomolecular hydrogels formed and degraded via site-specific enzymatic reactions, Biomacromolecules 8 (2007), 3000-3007)によって詳述される架橋機構によって生理的条件下でトロンビン活性化第XIIIa因子を使用して架橋可能であるPEG(ポリエチレングリコール)前駆体分子である。簡単に説明すると、好適なヒドロゲルの前駆体を作成するために、8アームPEG-VS及び/又は8アームPEG-Acrマクロマーを、活性化トランスグルタミナーゼ第XIII(FXIIIa)の基質としての役目を果たすリシン及びグルタミン提示ペプチドによって末端官能化する。マクロマーの架橋及び得られたゲル形成は、2つのペプチド基質の間のε-(α-グルタミル)リシンイソペプチド側鎖の架橋のFXIIIa媒介形成により生じた。
【0127】
分配されたヒドロゲルの前駆体のアレイを貯蔵し、後で使用(スクリーニング実験のために細胞と接触)できる。貯蔵は好ましくは、マルチウェルプレート(例.96ウェル、384ウェル又は1536ウェルプレート)で実施され、溶液中の前駆体(まだ架橋剤は存在しない)、又は凍結乾燥した前駆体、すなわち粉末を使用して行うことができる。粉末は無反応であるか又は無反応のままである。例えば緩衝剤を加えると、凍結乾燥前駆体は可溶化し、その後互いに反応してもよい。
【0128】
事前の選択
本発明によれば、利用されるex vivoの条件(例.細胞外マトリックスの条件)は、試験される組織の型に対して事前に選択される。
【0129】
本発明の1つの態様によれば、事前の選択は、国際公開第2014/180970号に記載される方法で実行できる。
【0130】
より詳細には、好ましい態様によれば、使用される特定の組織の型からの細胞は、無作為に選択されたex vivoの条件による方法に供され、前記方法は
a) 細胞培養微小環境を構築するために、1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子、及び必要に応じて少なくとも1つの架橋剤を提供する工程;
b) 工程a)のヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、及び必要に応じて少なくとも1つの架橋剤を、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で好ましくは自動化された形式で組み合わせて、分配する工程;
c) 前記基材の前記別々の空間に、1つ以上の生物学的に活性な分子を更に加え、存在するヒドロゲルの前駆体分子の少なくとも1つ若しくは工程e)で形成されたヒドロゲルに前記分子を結合させる、又はそれらを自由に分散させる工程;
d) 特定の組織の型の細胞を、基材の前記別々の空間の表面に/その中に加える工程:
e) 前記ヒドロゲルの前駆体分子を、細胞適合性の架橋反応、例えば酵素により触媒される反応、又はマイケル付加反応によって架橋してヒドロゲルのマトリックスを形成する工程;
f) 前記特定の組織の型の細胞が、前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
g) 工程f)の間、前記特定の組織の型の細胞を経時的にモニタリングする工程;
h) 異なる細胞培養微小環境に関する挙動を決定する工程;
i) 前記特定の組織の型から異なる細胞集団を成長させるための好適な条件を提供する、特定の細胞培養微小環境又は細胞培養微小環境の範囲を同定する工程
を含む。
【0131】
工程i)で同定された特定の細胞培養微小環境又は細胞培養微小環境の範囲を、本発明の方法に関して事前に選択された細胞外マトリックスの条件として使用する。
【0132】
この明細書では、本発明の方法において、ヒドロゲルのマトリックスのアレイは、事前に選択された細胞外マトリックスの条件及び前記事前に選択された細胞外マトリックスの条件の別の態様と共に提供される。国際公開第2014/180970号に記載される方法と比較すると、事前に選択された細胞外マトリックスの条件及び前記事前に選択された細胞外マトリックスの条件の別の態様を使用することによって、より集中的で正確なアッセイを行うことができ、特定の治療法の同定、例えば組織の型の複数の表現型及び/又は遺伝子型亜集団の異なる挙動を可能にする。
【0133】
先行技術から好適なex vivoの条件(例.ECM条件)が既知である場合、国際公開第2014/180970号に記載される方法を実施する必要はないが、その代わりに、公知の好適なex vivoの条件(例.細胞外マトリックスの条件)を、本発明の方法及びキットに直接利用できる。
【0134】
キットの内容物
本発明の1つの側面に従って、特定の組織の型に対して事前に選択された細胞外マトリックスの条件を含むキットの内容物を提供できる。このため、そのようなキットの内容物は、最適な条件下で特定の組織の型による操作を行うために容易に使用できる。
【0135】
このように、本発明は、1つの組織の型について又は1つの組織の型を用いて操作するためのキットの内容物であって、:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が、
- 1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子、
- 必要に応じて少なくとも1つの架橋剤、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含む、成分、
b) 1つ以上の異なる培地、
を含み、ヒドロゲルの特徴の特定の組合せが、試験される組織の型に対して事前に選択されている、キットの内容物に関する。
【0136】
本発明に従うキットは、特定の組織の型を対象とし、特定の組織の型について又は特定の組織の型を用いて操作するために、例えば特定の組織の型に対する薬物の影響の試験、又は基礎科学研究において成長した細胞(例.3D細胞構造)を使用するための、若しくは個別化医療若しくは再生医療の目的のために前記細胞をヒトに植え込むための、成長した細胞の単離を行うために容易に使用できる。本発明に従うキットは、例えばそれが使用される特定の組織の型に関する、前記キットに提供される使用説明書によって対応して示される。
【0137】
キットの内容物は、当技術分野で公知である。通常、それらは、パッケージ内に、上記で定義された成分が個別に又は共に貯蔵されている1つ以上の容器を含む。
【0138】
好ましい態様によれば、非反応性の粉末の形態でのヒドロゲルの前駆体調合物は、キットの内容物の1つの容器に提供される。前記非反応性の粉末を、適切な緩衝液中で使用するために再懸濁し、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中に分配できる。非反応性の粉末の形態での前記ヒドロゲルの前駆体調合物は、本発明のヒドロゲルの形成にとって必要な全ての成分、すなわち、上記1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子、少なくとも1つの必要に応じた架橋剤分子及び1つ以上の任意の生物活性剤を含む。
【0139】
ヒドロゲルの前駆体調合物の非反応性の粉末の提供は、例えば凍結乾燥が前記粉末を提供するための手段として使用されている国際公開第2011/131642号から、当技術分野で公知である。
【0140】
代表的な態様
本発明を、非限定的な代表的な態様及び図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0141】
図1a図1aは、異なるゲルにおいて成長させたc-metを過剰発現する非小細胞肺がん細胞による異なるex vivoの例におけるc-met発現及び薬物試験実験の結果を示す。
図1b図1bは、本発明に従う例におけるSoC処置及びc-met阻害剤による治療の効果を示す。
図1c図1cは、比較例(マトリゲル(登録商標))におけるSoC処置及びc-met阻害剤による治療の効果を示す。
図1d図1dは、異なるex vivoの例におけるc-met及びEGFR発現の結果を示す。
図1e図1eは、本発明に従う例におけるSoC処置及びEGFR阻害剤による治療の効果を示す。
図2a図2aは、異なるゲルにおけるPDX膵管腺がん(PDAC)細胞の成長を示す。
図2b図2bは、異なるゲルにおけるPDX膵管腺がん(PDAC)細胞の薬物感受性を示す。
図2c図2cは、軟らかい及び中等度のゲルにおけるPDX膵管腺がん(PDAC)の成長を示す。
図3図3は、異なるゲルにおいて33%PDAC細胞を67%線維芽細胞と同時培養した結果の明視野画像を示す。
図4図4は、0及び11日間成長させたヒト結腸がんオルガノイドの結果の明視野画像を示す。
図5図5は、(患者由来の異種移植片モデルから)HER2+乳がん又はトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の4人の患者からのヒト原発性又は転移性(Mets)乳がん細胞の成長の結果の明視野画像を示す。
図6a図6aは、1及び14日間成長させたヒトの健康な前立腺細胞の結果の明視野画像を示す。
図6b図6bは、1、13及び20日間成長させたヒト前立腺がん細胞の結果の明視野画像を示す。
【0142】
肺がん治療
十分に特徴付けられた、患者細胞由来の前臨床モデルは、腫瘍形成の分子経路を同定すること及び潜在的治療法を評価することを含む、信頼できる橋渡しがん研究を行うために必須の成分である。
【0143】
腫瘍細胞株は長い間、研究のための簡便なプラットフォームとして存在し、無数の細胞株が十分に特徴付けられており、動物モデルにおいて腫瘍を定着させるために使用されている(異種移植腫瘍)。しかし、細胞株由来異種移植片腫瘍は、ヒトの治験での応答と比較した場合に前臨床モデルにおける治療応答との間に予測可能な関係がなく、ヒトにおける腫瘍微小環境を正確に再現しない(Johnson et al., British Journal of Cancer (2001) 84(10), 1424-1431)。
【0144】
患者由来の腫瘍異種移植片モデル(PDX)は、橋渡しがん研究のためにしばしば使用され、連続継代を行っても一貫した挙動を示すと想定されている。元の患者試料とPDXモデルとの間の組織病理学的特徴及び遺伝子型特性の相関は、十分に報告されている(Rubio-Viqueira et al., Clin. Cancer Res. 2006, 12(15), 4652)。加えて、複数の継代の間に成長したPDXモデルは、元のヒト腫瘍の治療応答とこれらの同じ患者に由来するPDXにおける応答との相関を維持する。しかし、PDXに基づくスクリーニングモデルのスループットは低く、さらにそのようなスクリーニング試験は費用が高い。
【0145】
本発明は、がん研究のための改善された方法を提供する。本発明は、ハイスループットスクリーニングを非常に費用対効果が高い形式で可能にする、PDXモデルに対する改善された代替モデルを提供する。
【0146】
好ましい態様によれば、がん細胞成長にとって好適な細胞外マトリックスの条件の事前の選択は、PDXからの細胞を使用し、それらを「事前の選択」の項で記載したようにアッセイすることによって行うことができる。そのような条件下、ex vivoで成長させた細胞の組織病理学的及び遺伝子型特徴を、in vivoで定着したPDXモデルの1つと相関付けることができ、それらのPDXモデルに由来するPDX腫瘍の治療応答をin vivoでの基準として使用して、どの細胞外マトリックスの条件がin vivoでのがん細胞の挙動を再現可能であるかを評価できる。
【0147】
上記文献に示されるように、微小環境(すなわち、細胞外マトリックスの条件)は、in vivo及びex vivoでがん細胞が薬物治療にどのように応答するかに影響を及ぼし得る。本発明の方法によって、患者の薬物治療の転帰をより正確に予測するために、異なる患者の腫瘍特性(例.異なるがん亜類型)を捉えることが可能な薬物スクリーニング/試験のためのex vivo細胞培養条件の確立が可能である。
【0148】
これは、細胞を成長させること、及び事前に選択された微小環境の範囲において培養された患者自身の細胞を使用して、ex vivoで成長させた細胞に関して可能な薬物治療を試験することからなる。本発明の方法によって、薬物応答の腫瘍内及び腫瘍間の患者の不均質性(標的化治療に対する耐性を含む)を捉えることが可能である。
【0149】
現在、先行技術で確立された方法はなおも、患者組織から抽出した細胞を、例えば基準となるマトリゲル(登録商標)で構成される単一の培養条件を使用して成長させることである。この単一条件は、必ずしも元の患者の腫瘍の全ての特徴及び可能性がある不均質性が捉えられるように患者の細胞が成長することを可能にするとは限らない。同様に、時に明確でないマトリックスの一部の成分が、試験される細胞に対する薬物応答を妨害し得る。
【0150】
本発明によって、患者の細胞を培養し、次に元の患者の腫瘍において起こっていること(例.腫瘍の不均質性、薬物耐性)を良好に反映する薬物治療に対する感受性及び潜在的耐性(及び基礎となる機構)を解明するために、異なる薬物治療に曝露することが可能である。本発明によって、がん患者の薬物治療を選択する若しくは除外するのを助ける、及び/又は以前の1つ以上の治療に対する耐性を克服するために二次選択治療を選択するのを助けることが可能である。
【0151】
このアプローチに従って、c-Metを過剰発現する非小細胞肺がん(NSCLC)細胞に対するc-Met阻害剤の効果を試験するために好適である事前に選択された条件は、ヒドロゲルにいかなるRGD接着モチーフも存在しないことを特徴とすることが示され得る(実施例1参照)。
【0152】
このことは、先行技術では、反対の結果(細胞外マトリックスの条件におけるRGD接着モチーフの存在の必要性)が予想されていることから特に意外である。Mitra et al.(Oncogene 2011, March 31; 30(13): 1566-1576)では、c-Metがそのリガンド(HGF)とは無関係に、α5β1-インテグリンのフィブロネクチン媒介活性化を介して活性化され、c-Met受容体とのその相互作用をもたらすことができることが示された。α5β1-インテグリンの阻害は、in vitro及びin vivo(卵巣がん株)でc-Metのリン酸化を減少させた。インテグリンβ1とc-Metとのクロストークも、Ju et al.(Cancer Cell International 2013, 13:15)においてNSCLCに関して探査された。この文献は、インテグリンβ1とc-Metとの相互作用が、c-Met活性化(すなわち、リン酸化)を誘導し、EGFR受容体の阻害に対して感受性のがん細胞が、EGF経路を迂回することによってEGFR標的化薬に対して耐性となることができることを示した。いずれの文献も、c-Metが、公知のRGDリンカーであるインテグリンβ1と相互作用できることを示している。それらはまた、この相互作用がc-Metのリン酸化、及びその下流の経路(FAK、AKT)の活性化をもたらし、細胞増殖及び生存の延長を誘導することも実証した。要約すると、いずれの文献も、明らかにc-Met受容体とフィブロネクチンの関係を強調している。
【0153】
しかし、本発明によれば、ヒドロゲルのマトリックスにおけるRGDモチーフの存在がc-Met受容体のダウンレギュレーションをもたらし、NSCLC細胞における活性化c-Met受容体(すなわち、リン酸化受容体)の非存在が、c-Met阻害剤による治療に対するその耐性をもたらすことを示すことができた。ヒドロゲル中にいかなるRGD接着モチーフも存在しないことが、活性化c-met受容体を示すNSCLCがん細胞に関する好適な薬物候補体を同定するための正確な事前に選択された条件を提供したことは、本発明の重要な知見であった。一方、RGDモチーフの存在下で成長するNSCLCがん細胞は、活性化c-met受容体を保有せず、それに依存もせず、このことは、それらのがん細胞を、c-met阻害剤ではなくて他の薬物候補体によって(おそらくc-met阻害剤と共に)治療しなければならないことを示している。「事前に選択された成長条件」を使用しなければ、これらの細胞が、c-Metではなくて他の成長機構に依存し得ることを理解することはできなかったであろう。先行技術で使用される単一の成長条件と比較して、「事前に選択された成長条件」を使用する主な付加価値の1つは、それが特定のがん組織及びがんの型の不均質性(例.遺伝的、表現型)並びにがんを治癒するために必要なより良好な可能性がある治療範囲を明らかにすることを可能にする点である。これは、個別化医療並びに創薬開発応用において関連性を有する。
【0154】
このように、この態様によれば、本発明は、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対するc-Met阻害剤の影響を試験する方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、必要に応じて少なくとも1つの架橋剤及び前記肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞を架橋することにより、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを提供する工程;
b) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含み、特に好ましくはFGF-7、FGF-10及びTGF-β阻害剤も含む、1つ以上の異なる培地の存在下で、前記肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に、c-Met受容体又はc-Met経路を標的とする薬物を加える工程;
を含み、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤がいかなるRGDモチーフも含まない、方法に関する。
【0155】
非常に好ましい態様によれば、本発明は、肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対するc-Met阻害剤及び他の薬物の影響を試験する方法であって、
a) 基材の第1のアレイにおいて、生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞を架橋することによって製造された、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程であって、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤が、いかなるRGDモチーフも含まない工程、並びに
基材の第2のアレイにおいて、前記架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤におけるRGDモチーフの存在によって第1のアレイにおける事前に選択された細胞外マトリックスの条件とは異なる、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程;
b) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含み、特に好ましくはFGF-7、FGF-10及びTGF-β阻害剤も含む、1つ以上の異なる培地の存在下で、前記肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞が、前記ヒドロゲルのマトリックスの第1のアレイ及び第2のアレイの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの第1のアレイ及び第2のアレイの前記別々の空間中で成長した細胞に、c-Met受容体又はc-Met経路を標的とする薬物を加える工程;
d) c-Met受容体又はc-Met経路を標的化する薬物が加えられていないウェル中で、前記ヒドロゲルのマトリックスの第1のアレイ及び第2のアレイの前記別々の空間中で成長した細胞に、少なくとも1つの他の薬物、好ましくはEGFR受容体阻害剤を加える工程;
を含む方法に関する。
【0156】
好ましくは、ヒドロゲルのマトリックスのアレイは、50~2000Paの軟らかい又は中等度の剛性を有する。
【0157】
好ましくは、PEGヒドロゲルの前駆体分子は、PEG-VS(末端ビニルスルホン部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSである。
【0158】
より好ましくは、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSを、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造され、前記架橋剤は、いかなるRGDモチーフも含まない。特に好ましくは、生物活性リガンドはヒドロゲルのマトリックスに結合しない。
【0159】
必要に応じた生物活性リガンドとして、RGD接着モチーフを除く生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。
【0160】
好ましくは、必要に応じた生物活性リガンドは、天然のラミニン、例えばラミニン-111、特にマウスラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択される。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。
【0161】
必要に応じた生物活性リガンドとして、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸及びヒアルロナンを含むリガンドを使用してもよい。ヒアルロン酸の例は、ヒアルロン酸50k、ヒアルロン酸1000k、ヒアルロネートチオール50k、又はヒアルロネートチオール1000kである。
【0162】
好ましくは、培地は、FBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンの存在を特徴とする。好ましい態様によれば、Sachs et al.(The EMBO Journal e 100300|2019)に記載の培地を改変した培地を使用してもよい。好ましい培地は、グルタミン、ノギン、EGF、線維芽細胞増殖因子7及び10[FGF7及びFGF10]、HGF、R-スポンジン条件培地、Primocin、ペニシリン/ストレプトマイシン、N-アセチル-L-システイン、ニコチンアミド、A83-01、SB202190(p38阻害剤)、Y-27632(rock阻害剤)、B27サプリメント及びHEPESを補充したAdDMEM/F12培地を含む。他の培地、例えばLancaster et al.(Nat Biotechnol 2017 35(7): 659-666)に記載の培地、又はPromoCell(Small Airway Epithelial Cell Growth Medium(C-39175))、若しくはInvitrogen(StemPro(登録商標)hESC SFM)の市販の培地を使用してもよい。
【0163】
特に好ましくは、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞は、ヒトの生検若しくは組織切除物、又は患者由来異種移植片(PDX)組織から得た新たに単離された又は凍結されたヒト細胞である。
【0164】
前記方法によって、肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞を選択された培地中、in vivoで観察される薬物結果を再現する細胞外マトリックスの条件下で成長、増殖させ、その後試験が可能である。
【0165】
特に好ましい態様によれば、細胞外マトリックスの条件は、天然に由来するマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しないように選択される。
【0166】
本発明は、完全に明確な、又は好ましくは全合成のヒドロゲルのマトリックスを使用して、肺がん細胞、好ましくはNSCLC細胞の成長並びに増殖を維持する、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を用いる方法を提供する。方法は、PDX肺モデルにおいてin vivoで観察されるが、マトリゲル(登録商標)では達成されない標的発現及び薬物応答の再現を可能にする。事前の選択は、異なるex vivoの条件が、異なる薬物応答を促進できることから重要であり、単一培養条件を使用することが、元の患者の腫瘍において起こっていることを反映しないことを確認する。
【0167】
この態様によれば、本発明はまた、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対するc-Met阻害剤の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記架橋剤及び前記生物活性剤がいかなるRGDモチーフも含まない、成分、
b) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地、
を含む、キットの内容物に関する。
【0168】
この態様によれば、本発明はまた、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対するc-Met阻害剤の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記架橋剤及び前記生物活性剤がいかなるRGDモチーフも含まない、成分;
b) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地、
c) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0169】
別の好ましい態様によれば、本発明はまた、肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対するc-Met阻害剤及び他の薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記架橋剤及び前記生物活性剤がいかなるRGDモチーフも含まない、成分;
b) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記架橋剤及び/又は前記生物活性剤がRGDモチーフを含む、成分;
c) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地
を含む、キットの内容物に関する。
【0170】
別の好ましい態様によれば、本発明は、肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に対するc-Met阻害剤及び他の薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記架橋剤及び前記生物活性剤がいかなるRGDモチーフも含まない、成分;
b) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記架橋剤及び/又は前記生物活性剤がRGDモチーフを含む、成分;
c) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地;
d) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0171】
本発明の方法及びキットによって、異なる疾患特徴(例えば、異なる肺がん亜類型、変異、例えば、EGFR、KRAS、又はPI3キナーゼの変異)を有する追加の肺がん細胞を培養し、肺がん細胞について薬物を試験することも可能である。同じ形式で、細胞外マトリックスの条件をそれらの他の細胞について事前に選択できる。
【0172】
特に好ましい態様によれば、ヒドロゲルは、いかなるRGD結合部位も含まず、特に好ましくはインテグリン結合部位を全く含まない。
【0173】
実施例1及び図1から理解できるように、c-Metを過剰発現する非小細胞肺がん細胞に対するその活性に関して薬物を試験する場合、正確な条件の事前の選択が極めて重要である。マトリゲル(登録商標)、すなわち先行技術における基準マトリックスによって、c-Metを標的とする薬物候補体を同定することは不可能である。比較例1に見いだされているように、これはおそらく、マトリゲル(登録商標)を利用する条件下では、薬物標的c-Metは十分に発現されておらず、活性化されていないためである。したがって、マトリゲル(登録商標)を利用する条件下では、それらの肺がん細胞における最も重要な標的、すなわち過剰発現されたc-Metに対して作用する好適な薬物候補体を同定することは不可能である。
【0174】
同様に実施例1及び図1において、c-Metの標的化が、c-Metを過剰発現する非小細胞肺がん細胞の成長を阻害するために実際に重要な特徴であることが示された。
【0175】
加えて、本発明のこの態様の事前に選択された条件によって、特定の患者に関する最適な治療レジメンをより良好に同定することも可能である。特定の患者は、おそらくそのような患者が、c-met阻害を補完できる細胞表現型を有したために、c-met阻害剤単独による薬物治療に応答しなかったことが見いだされた。本発明のこの態様の事前に選択された条件によって、別の薬物の型と共にc-met阻害剤を使用して薬物併用治療に関してスクリーニングが可能である。これまでに検討したように、これは、マトリゲル(登録商標)を使用する先行技術の条件では不可能である。本発明は、患者の応答に関するより良好な予測可能性を提供する。
【0176】
この態様の事前に選択された細胞外マトリックスの条件はまた、
a) がん患者の生検又は組織切除物からの新たに単離された又は凍結された肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞を提供する工程;
b) 前記細胞からのオルガノイドを定着及び増殖させ、上記の方法によって前記オルガノイドに1つ以上の薬物を適用する工程;
c) 工程b)で適用された1つ以上の薬物の活性を、工程b)で適用された前記薬物の1つによる前記患者の治療の結果と比較する工程;
d) 並びに/又は患者のオルガノイドに関する薬物活性の結果、並びに疾患の対応する遺伝的及び表現型データを提供して、医師が患者をどのように治療するかを決定するのを支援する工程
を含む、がん患者の治療の有効性を試験する方法でも使用できる。
【0177】
肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん(NSCLC)細胞の単離のため専用の患者の生検又は切除物を、工程b)でオルガノイドを定着させるために、標準的な診断手順の間に収集し、その後工程b)を実施する場所に輸送できる。
【0178】
この方法の工程b)は、上記のとおりに、すなわち生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞を架橋することによって製造された、50~2000Paの剛性を有する、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供すること;
好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含み、特に好ましくは同様にFGF-7、FGF-10及びTGF-β阻害剤も含む、1つ以上の異なる培地の存在下で、前記肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にすること;
並びに前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加えること;
によって実施され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤は、いかなるRGDモチーフも含まない。
【0179】
ヒドロゲルのマトリックスの別々の空間中で成長した細胞に加えられる1つ以上の薬物は、患者の抗がん標準治療(SoC)のために使用される薬物を含む。
【0180】
好ましい態様によれば、生検又は切除物は、組織学分析のために、及び/又は参照ベースラインを確立するオーミクス試験(例.NGS)のために更に処理できる。これらの追加の分析の結果はまた、上記のex vivo並びにin vivo試験を比較し及び/又は相関付けるためにも使用できる。
【0181】
この方法に基づいて、適用される抗がん標準治療(SoC)が好適であるか否か、又は上記のようにex vivoで試験した異なる薬物治療レジメンがより有望であるか否かを、信頼性をもって評価することが可能である。このように、本発明によって、がん治療を、個別化及び最適化できる。ヘルスケア従事者による治療の決定の精度を増加することが可能な機能的なin vitroデータを生成できる。
【0182】
精密医療における患者由来オルガノイド(PDO)
がんは、正常な細胞の遺伝的及びエピジェネティック形質転換に起因し、異常な増殖をもたらす多因子性疾患である。従来のがん治療は、細胞分裂を阻害するため又はがん細胞のアポトーシスを誘導するために、外科的切除、放射線療法、非特異的又は標的化化学療法及び免疫療法を含む。
【0183】
異なるがんは、治療に対して異なるように応答し、したがって一部のがんを、他のがんより良好に治療できる。強力な化学療法剤及び腫瘍遺伝子特異的標的化薬の開発にもかかわらず、この疾患の永続的又は持続性の治癒は、多くの患者で達成されていない。
【0184】
DNAシーケンシング技術の最近の改善により、腫瘍の分子プロファイルに基づいてがん治療を調整する潜在性を有する患者の腫瘍の特定のゲノムの変異を迅速に同定できる。大幅な改善が、白血病、肺がん及び黒色腫がんの治療において示された(Druker et al. (N Engl J Med, Vol. 344, No. 14 (2001), 1031)、Lynch et al. (N Engl J Med 350; 21 (2004), 2129)、Flaherty et al. (N Engl J Med 2010; 363: 809-19))。しかし、ゲノムガイド精密医療の臨床上の利益はなおも多くの議論の余地がある(Le Tourneau et al. (www.thelancet.com/oncology, Published online September 3, 2015, http://dx.doi.org/10.1016/S1470-2045(15)00188-6)、Prasad (Nature 537 (2016), S63)、Letai (NATURE MEDICINE, VOLUME 23 | NUMBER 9 | SEPTEMBER 2017, 1028)。固形腫瘍を有する患者を標的化治療に割付する割合を評価する最近の臨床試験から、臨床で検証され、承認された利用可能な治療と一致する変異を有するのは患者のごく一部(10~50%)であることが示された(Letai 2017、Sicklick (Nature Medicine https://doi.org/10.1038/s41591-019-0407-5 (2019)))。これに加えて、2つの根本的な生物学的局面:
- がん細胞の患者間の遺伝的及び表現型不均質性(異なるサブクローンの存在)による特定の治療に対する耐性(Tannock et al. (N Engl J Med 375;13 (2016), 1289)、Flavahan et al ., (Science 357, 266 (2017));
- 薬物応答のモジュレートにおける腫瘍微小環境の効果の不十分な生物学的理解(Friedmann et al. (Nature Reviews Cancer AOP, published online 5 November 2015; doi:10.1038/nrc4015 2015))
が、ゲノムガイド精密医療の有効性を損なう。
【0185】
患者由来の細胞に関する薬物のスクリーニング(機能的精密医療)は、これらの制限に対処し、ゲノミクス及び病理データを補完して患者の転帰の予測を支援し、したがって意思決定治療方法の誘導を支援する。
【0186】
in vivoでの腫瘍微小環境を再現する新規のin vitro腫瘍生物学モデル、例えば患者由来オルガノイド(PDO)は、3D環境で成長し、元の組織の空間構造を再現するという利点を有する。オルガノイドは、その元の健康な組織又は疾患組織の重要な特徴及び機能を模倣する、患者由来の細胞から成長させた小型の3Din vitro構造である。多様なPDOが、非限定的に結腸直腸がん(Sato et al. (Nature vol. 469 (2011), 415)、van de Wetering et al. (Cell 161 (2015), 933-945)、膵管腺がん(Boj et al. (Cell 160, 324-338, January 15, 2015)、Huang et al. (Nature medicine, published online 26 October 2015; doi:10.1038/nm.3973))、乳がん(Sachs et al. (Cell 172 2018, 1-14)及び肺がん(Sachs et al. (The EMBO Journal e 100300|2019))を含む多くの腫瘍に関して定着している。全体として、これらの試験は、PDOが、原発腫瘍において同定されたのと同じ遺伝子変異を維持できることを示した。
【0187】
最近、同じ腫瘍の異なる位置に由来する患者オルガノイドを使用して、腫瘍間不均質性の性質及び程度を試験し、薬物のパネルに対するその応答を評価した(Roerink et al. Nature 556, 457-462, 2018)。同じ腫瘍の密接に関連する細胞の間で薬物に対する応答の大幅な差が観察された。
【0188】
臨床での機能的診断ツールとしてのオルガノイドの使用は、直腸がん(Ganesh et al., Nature Medicine, 10, 1067-1614(2019))、転移性結腸直腸がん(Vlachogiannis et al., Science 359, 920-926 (2018)及びOoft et al., Science Translational Medicine, 11, (2019), DOI: 10.1126/scitranslmed.aay2574)、膵臓がん(Tiriac, CANCER DISCOVERY, SEPTEMBER 2018, DOI: 10.1158/2159-8290.CD-18-0349)及び虫垂がん(Votanopoulos et al., Ann Surg Oncol (2019) 26:139-147)に関して既に示されている。これらの試験では、PDOの薬物応答は、オルガノイドが由来する患者に対する同じ治療の転帰と相関する。
【0189】
PDO薬物応答が対応する患者の転帰と一致するというこれらの有望な結果にもかかわらず、これらの試験は、少数の患者に限定され、使用した方法は、明確でない組成及びバッチごとの変動を有する基底膜抽出物(BME)、例えばマトリゲル(登録商標)に依存している。これは、臨床での関連する応用への橋渡しのためのPDOの標準化における大幅な制限となる。同様に、異なる細胞外マトリックスの条件を必要とし得るバイオマーカーの発現も非限定的に含む、遺伝的及び/又は表現型腫瘍特徴の可能性がある差にもかかわらず、単一培養条件のみが各々の型のがんについて利用された。これは、特定の細胞集団の成長、又はex vivoでの細胞増殖の間にごく一部の表現型の発現を誘導することに有利となり得(国際公開第2010/090513号;国際公開第2016/015158号;国際公開第2015/173425号)、したがってin vivoでの腫瘍特性及び薬物応答を模倣できない。このことは、c-Metを過剰発現する肺がん細胞、好ましくは非小細胞肺がん細胞に関して上記で概要が記載されている。
【0190】
天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)の制限を克服するために、完全に明確な及び同様に合成ヒドロゲルは、マウス及びヒト起源の腸及び結腸オルガノイド(Gjorevski et al., Designer matrices for intestinal stem cell and organoid culture, Nature, Vol 539, 24 November 2016, 560-56、国際公開第2017/037295号;又はCruz-Acuna et al., Synthetic hydro-gels for human intestinal organoid generation and colonic wound repair, Nature cell biology, advanced online publication published online 23 October 2017; DOI: 10.1038/ncb3632, 1-23、国際公開第2018/165565号)、虫垂がん、膵臓がん及び中皮腫がん患者の細胞(Votanopoulos 2019 (上述)、Broguiere et al., Adv. Mater. 2018, 1801621 (2018)、Mazzocchi et al., SCIENTIFIC Reports (2018) 8:2886 DOI:10.1038/ s41598-018-21200-8)を含む多様な組織を成長させるために既に研究されている。
【0191】
これらの試験の一部は、完全に明確な又は全合成のマトリックスを使用しているが、それらはなおも、腫瘍特徴にかかわらず、単一培養条件の使用に依存している。
【0192】
膵臓がん
本発明によって、患者の膵細胞、好ましくは膵管腺がん(PDAC)細胞を、これらの細胞の成長及び増殖を維持する条件で培養が可能である。その後、細胞を、がん患者の有効な薬物治療を選択するために異なる薬物治療に曝露する。
【0193】
本発明によれば、PDAC細胞は、少なくとも1つのRGDモチーフ及び培地を含む、好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む、完全に明確な軟らかい(50~1000Pa剛性)又は中等度(1000~2000Pa)又は硬い(2000~3000Pa)非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの組合せを使用して、良好に培養及び試験可能であることを示すことができた。
【0194】
このように、この態様によれば、本発明は、膵管腺がん(PDAC)細胞に対する薬物の影響を試験する方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記膵管腺がん細胞を架橋することにより製造された、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記膵管腺がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加える工程;
を含み、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む方法に関する。
【0195】
好ましくは、PEGヒドロゲルの前駆体分子は、PEG-VS(末端ビニルスルホン部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSである。
【0196】
より好ましくは、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSを、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造され、前記架橋剤はRGDモチーフを含んでいてもよい。
【0197】
必要に応じた生物活性リガンドとして、RGD接着モチーフを含む生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好適なRGDモチーフの例は、RGD、RGDS、RGDSP、RGDSPG、RGDSPK、RGDTP、RGDSPASSKP、PHSRNSGSGSGSGSGRGDSPG、又は任意の環状RGDモチーフ、例えばシクロ(RGDfC)であるが、ヒドロゲル及び細胞培養の分野において、基本的に公知の及び首尾よく利用されるRGD配列を使用できる。
【0198】
好ましくは、必要に応じた生物活性リガンドは、天然のラミニン、例えばラミニン-111、特にマウスラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択される。好適な組換えラミニンアイソフォームは、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521であり、ラミニン-511が好ましい。
【0199】
必要に応じた生物活性リガンドとして、コラーゲンペプチドモチーフを含む生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好適なコラーゲンペプチドの例はDGEAである。
【0200】
必要に応じた生物活性リガンドとして、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸及びヒアルロナンを含むリガンドを使用してもよい。ヒアルロン酸の例は、ヒアルロン酸50k、ヒアルロン酸1000k、ヒアルロネートチオール50k、又はヒアルロネートチオール1000kである。
【0201】
好ましくは、培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aの存在を特徴とする。好ましい態様によれば、Boj et al.(Cell 160, 324-338, January 15, 2015)335ページ、右欄、第2段落、又はHuang et al.(Nature medicine, published online 26 October 2015; doi:10.1038/nm.3973)に記載のる培地を使用してもよい。特に好ましいのは、Boj et al.を改変した培地であり、これはHEPES、Glutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、B27、Primocin、N-アセチル-L-システイン、Wnt3a-条件培地[50v/v%]又は組換えタンパク質[100ng/ml]、RSPO1-条件培地[10v/v%]又は組換えタンパク質[500ng/ml]、ノギン-条件培地[10v/v%]又は組換えタンパク質[0.1μg/ml]、上皮成長因子[EGF、50ng/ml]、ガストリン[10nM]、線維芽細胞増殖因子10[FGF10、100ng/ml]、ニコチンアミド[10mM]、プロスタグランジンE2[PGE2、1μM]及びA83-01[0.5μM]を補充したAdDMEM/F12培地を含む。
【0202】
特に好ましくは、膵管腺がん細胞は、ヒトの生検若しくは組織切除物、又は患者由来異種移植片(PDX)組織から得た新たに単離された又は凍結された細胞から得ることができる。
【0203】
前記方法によって、膵管腺がん細胞を、選択された培地中、in vivoで観察される薬物の結果を再現する細胞外マトリックスの条件下で成長、増殖させ、その後試験が可能である。
【0204】
特に好ましい態様によれば、細胞外マトリックスの条件は、天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しないように選択される。
【0205】
この態様によれば、本発明は、膵管腺がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が、
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、成分;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地
を含む、キットの内容物に関する。
【0206】
この態様によれば、本発明はまた、膵管腺がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が、
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、成分;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地、
c) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0207】
この態様の事前に選択された細胞外マトリックスの条件はまた、
a) がん患者の生検又は組織切除物からの新たに単離された又は凍結された膵管腺がん細胞を提供する工程;
b) 前記細胞からのオルガノイドを定着及び増殖させ、上記の方法によって前記オルガノイドに1つ以上の薬物を適用する工程;
c) 工程b)で適用された1つ以上の薬物の活性を、工程b)で適用された前記薬物の1つによる前記患者の治療の結果と比較する工程;
d) 並びに/又は患者のオルガノイドに関する薬物活性の結果並びに疾患の対応する遺伝的及び表現型データを提供して、医師が患者をどのように治療するかを決定するのを支援する工程
を含む、がん患者の治療の有効性を試験する方法で使用できる。
【0208】
膵管腺がん(PDAC)細胞の単離のため専用の患者の生検又は切除物を、工程b)でオルガノイドを定着させるために、標準的な診断手順の間に収集し、その後工程b)を実施する場所に輸送できる。
【0209】
この方法の工程b)は、上記のとおりに、すなわち生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び膵管腺がん細胞を架橋することによって製造された、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供すること;
好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記膵管腺がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にすること;
並びに前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加えること;
によって実施され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含む。
【0210】
ヒドロゲルのマトリックスの別々の空間に加えられる1つ以上の薬物は、患者の抗がん標準治療(SoC)のために使用される薬物を含む。
【0211】
好ましい態様によれば、生検又は切除物は、組織学分析のために、及び/又は参照ベースラインを確立するオーミクス試験(例.NGS)のために更に処理できる。これらの追加の分析の結果はまた、上記のex vivo並びにin vivo試験を比較し及び/又は相関付けるためにも使用できる。
【0212】
この方法に基づいて、適用される抗がん標準治療(SoC)が好適であるか否か、又は上記のようにex vivoで試験した異なる薬物治療レジメンがより有望であるか否かを、信頼性をもって評価することが可能である。このように、本発明によって、がん治療を、個別化及び最適化できる。ヘルスケア従事者による治療の決定の精度を増加することが可能な機能的なin vitroデータを生成できる。
【0213】
PDAC細胞の同時培養
本発明の別の好ましい態様によれば、がん細胞及び好ましくは膵管腺がん(PDAC)細胞は、間質細胞、好ましくは線維芽細胞と組み合わせて同時培養できる。この態様に関して、ヒドロゲルのマトリックスは、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する非自己分解性のPEGヒドロゲルが事前に選択され、架橋剤の少なくとも1つは、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つはRGDモチーフを含む。
【0214】
好ましくは、前記態様で使用される培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含み、好ましくはFBSを更に含む。
【0215】
このように、この態様によれば、本発明は、間質細胞、好ましくは線維芽細胞と同時培養されているがん細胞、好ましくは膵管腺がん(PDAC)細胞を試験する方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記がん細胞、好ましくは膵管腺がん(PDAC)細胞、及び前記間質細胞、好ましくは線維芽細胞を架橋することによって製造された、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含み、好ましくはFBSを更に含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記膵管腺がん細胞及び間質細胞、好ましくは線維芽細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスのアレイの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加える工程;
を含み、少なくとも1つの架橋剤が、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む方法に関する。
【0216】
好ましい態様によれば、前記方法は、アレイが、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフの存在又は非存在に関して異なる、少なくとも2つの異なるアレイが提供されるように行われる。前記酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフが存在するアレイでは、PDAC細胞を、間質細胞、好ましくは線維芽細胞と同時培養できる。前記酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフが存在しないアレイでは、PDAC細胞は、間質細胞、例えば線維芽細胞の成長を損なう単一培養中で成長する。
【0217】
好ましくは、PEGヒドロゲルの前駆体分子は、PEG-VS(末端ビニルスルホン部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSである。別の好ましい態様によれば、自己分解性のPEGは、1つ以上のPEG-Acr前駆体分子から製造されてもよく、単独で又はPEG-VS前駆体分子と組み合わせて使用してもよい。
【0218】
より好ましくは、前記完全に明確な、好ましくは非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSを、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造され、前記架橋剤は、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、更にRGDモチーフを含んでいてもよい。
【0219】
必要に応じた生物活性リガンドとして、RGD接着モチーフを含む生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好適なRGDモチーフの例は、RGD、RGDS、RGDSP、RGDSPG、RGDSPK、RGDTP、RGDSPASSKP、PHSRNSGSGSGSGSGRGDSPG、又は任意の環状RGDモチーフ、例えばシクロ(RGDfC)であるが、ヒドロゲル及び細胞培養の分野において、基本的に公知の及び首尾よく利用されるRGD配列を使用できる。
【0220】
好ましくは、必要に応じた生物活性リガンドは、天然のラミニン、例えばラミニン-111、特にマウスラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択される。好適な組換えラミニンアイソフォームは、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521であり、ラミニン-511が好ましい。
【0221】
必要に応じた生物活性リガンドとして、コラーゲンペプチドモチーフを含む生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好適なコラーゲンペプチドの例はDGEAである。
【0222】
必要に応じた生物活性リガンドとして、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸及びヒアルロナンを含むリガンドを使用してもよい。ヒアルロン酸の例は、ヒアルロン酸50k、ヒアルロン酸1000k、ヒアルロネートチオール50k、又はヒアルロネートチオール1000kである。
【0223】
好ましくは、培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aの存在、好ましくは更にFBSの存在を特徴とする。好ましい態様によれば、Boj et al.(Cell 160, 324-338, January 15, 2015)、335ページ、右欄、第2段落、又はHuang et al.(Nature medicine, published online 26 October 2015; doi:10.1038/nm.3973)に記載の培地を使用してもよい。特に好ましいのは、Bojらのものを改変した培地であり、これはHEPES、Glutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、B27、Primocin、N-アセチル-L-システイン、Wnt3a-条件培地[50v/v%]又は組換えタンパク質[100ng/ml]、RSPO1-条件培地[10v/v%]又は組換えタンパク質[500ng/ml]、ノギン-条件培地[10v/v%]又は組換えタンパク質[0.1μg/ml]、上皮成長因子[EGF、50ng/ml]、ガストリン[10nM]、線維芽細胞増殖因子10[FGF10、100ng/ml]、ニコチンアミド[10mM]、プロスタグランジンE2[PGE2、1μM]及びA83-01[0.5μM]を補充したAdDMEM/F12培地を含む。
【0224】
特に好ましくは、膵管腺がん細胞は、必要に応じてBME、例えばマトリゲル(登録商標)中で事前に定着させた、ヒトの生検若しくは組織切除物、又は患者由来異種移植片(PDX)組織、又は患者由来オルガノイド(PDO)から得た新たに単離された又は凍結された細胞である。
【0225】
好ましくは、間質細胞は患者から単離される。特に好ましくは、前記間質細胞は線維芽細胞である。
【0226】
前記方法によって、選択された培地中、in vivoで観察された薬物の結果を再現する細胞外マトリックスの条件下で間質細胞との同時培養において、膵管腺がん細胞を成長、増殖させ、その後試験が可能である。
【0227】
特に好ましい態様によれば、細胞外マトリックスの条件は、天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しないように選択される。
【0228】
この態様によれば、本発明はまた、間質細胞、好ましくは線維芽細胞と同時培養されているがん細胞、好ましくは膵管腺がん(PDAC)細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な、好ましくは非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、少なくとも1つの架橋剤が好ましくは、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、並びに架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、成分;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含み、好ましくはFBSを更に含む1つ以上の異なる培地
を含む、キットの内容物に関する。
【0229】
この態様によれば、本発明はまた、間質細胞、好ましくは線維芽細胞と同時培養されているがん細胞、好ましくは膵管腺がん(PDAC)細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な、好ましくは非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VS、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、少なくとも1つの架橋剤が好ましくは、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、並びに架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、成分;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含み、好ましくはFBSを更に含む1つ以上の異なる培地、
c) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0230】
この態様の事前に選択された細胞外マトリックスの条件はまた、
a) 同時培養系を確立するために、がん患者の生検又は組織切除物からの新たに単離された又は凍結されたがん細胞、好ましくは膵管腺がん細胞を提供し、及び患者から単離された間質細胞を提供する工程;
b) 前記同時培養系からの細胞を定着及び増殖させ、上記の方法によって前記細胞に1つ以上の薬物を適用する工程;
c) 工程b)で適用された1つ以上の薬物の活性を、工程b)で適用された前記薬物の1つによる前記患者の治療の結果と比較する工程;
d) 並びに/又は患者のオルガノイドに関する薬物活性の結果並びに疾患の対応する遺伝的及び表現型データを提供して、医師が患者をどのように治療するかを決定するのを支援する工程
を含む、がん患者の治療の有効性を試験する方法でも使用できる。
【0231】
膵管腺がん(PDAC)細胞の単離のため専用の患者の生検又は切除物を、工程b)でオルガノイドを定着させるために、標準的な診断手順の間に収集し、その後工程b)を実施する場所に輸送できる。
【0232】
この方法の工程b)は、上記のとおりに、すなわち生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び間質細胞、好ましくは線維芽細胞と同時培養されているがん細胞、好ましくは膵管腺がん細胞を架橋することによって製造された、50~3000Pa、好ましくは50~2000Pa、最も好ましくは50~1000Paの剛性を有する、完全に明確な、好ましくは非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供すること;
好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含み、好ましくはFBSを更に含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記がん細胞、好ましくは膵管腺がん細胞及び前記間質細胞、好ましくは線維芽細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にすること;
並びに前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加えること;
によって実施され、前記少なくとも1つの架橋剤は、好ましくは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含み、前記架橋剤及び/又は前記必任意の生物活性剤の少なくとも1つは、RGDモチーフを含む。
【0233】
ヒドロゲルのマトリックスの別々の空間中で成長した細胞に加えられる1つ以上の薬物は、患者の抗がん標準治療(SoC)のために使用される1つ以上の薬物を含む。
【0234】
好ましい態様によれば、生検又は切除物は、組織学分析のために、及び/又は参照ベースラインを確立するオーミクス試験(例.NGS)のために更に処理できる。これらの追加の分析の結果はまた、上記のex vivo並びにin vivo試験を比較し及び/又は相関付けるためにも使用できる。
【0235】
この方法に基づいて、適用される抗がん標準治療(SoC)が好適であるか否か、又は上記のようにex vivoで試験した異なる薬物治療レジメンがより有望であるか否かを、信頼性をもって評価することが可能である。このように、本発明では、がん治療を、個別化及び最適化できる。ヘルスケア従事者による治療の決定の精度を増加することが可能な機能的なin vitroデータを生成できる。
【0236】
結腸直腸がん
結腸直腸がん(CRC)細胞は、不均質性を示すことが公知である(Roerink et al., (Nature, published online https://doi.org/ 10.1038/s41586-018-0024-3 (2018)))。同じ腫瘍の密接に関連する細胞の間での薬物に対する応答の有意な差が観察された。膵細胞に関する考察が結腸直腸がんに当てはまる。
【0237】
本発明によって、患者の結腸直腸がん(CRC)細胞を、これらの細胞の成長及び増殖を維持する条件で培養することが可能である。その後、細胞を、がん患者にとって有効な薬物治療を選択するために異なる薬物治療に曝露する。このように、本発明は、異なる微小環境におけるCRC組織の成長及び薬物試験を可能にする精密医療プラットフォームを提供し、したがって単一の腫瘍内の複数のクローンの特異性を捉える。
【0238】
本発明によれば、結腸直腸がん(CRC)細胞は、少なくとも1つのRGD接着モチーフ、及び必要に応じて追加の生物活性リガンドとしてラミニン、好ましくはラミニン-111、又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511、並びに好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む培地を含む、完全に明確な軟らかい又は中等度の(50~2000Paの剛性)ヒドロゲルのマトリックスの組合せを使用して、良好に培養及び試験可能であることを示すことができた。
【0239】
このように、この態様によれば、本発明は、結腸直腸がん(CRC)細胞に対する薬物の影響を試験する方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記結腸直腸がん細胞を架橋することによって製造された、50~2000Paの剛性を有する、完全に明確な、好ましくは非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記結腸直腸がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加える工程;
を含み、前記架橋剤及び/又は前記生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、方法に関する。
【0240】
好ましくは、PEGヒドロゲルの前駆体分子は、PEG-VS(末端ビニルスルホン部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr(末端アクリレート部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acrである。
【0241】
より好ましくは、完全に明確な自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSと、PEG-Acr、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-Acrとの50:50混合物を、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造され、前記架橋剤はRGDモチーフを含んでいてもよい。
【0242】
より好ましくは、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSを、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造され、前記架橋剤はRGDモチーフを含んでいてもよい。
【0243】
必要に応じた生物活性リガンドとして、RGD接着モチーフを含む生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好適なRGDモチーフの例は、RGD、RGDS、RGDSP、RGDSPG、RGDSPK、RGDTP、RGDSPASSKP、PHSRNSGSGSGSGSGRGDSPG、又は任意の環状RGDモチーフ、例えばシクロ(RGDfC)であるが、ヒドロゲル及び細胞培養の分野において、基本的に公知の及び首尾よく利用されるRGD配列を使用できる。
【0244】
好ましくは、必要に応じた生物活性リガンドは、天然のラミニン、例えばラミニン-111、特にマウスラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、例えば組換えヒトラミニン-511、及びその生体機能性断片からなる群から選択される。好適な組換えラミニンアイソフォームは、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。
【0245】
好ましくは、培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aの存在を特徴とする。好ましい態様によれば、Vlachogiannis et al., Science 359, 920-926 (2018)に記載の培地を使用してもよい(例えば、supplementary material、5ページ、ヒトPDO培地を参照)。あるいは、市販の培地Intesticult(登録商標)を使用してもよい。特に好ましいのは、Vlachogiannisらによる培地であり、これは、B27添加剤、N2添加剤、BSA、L-グルタミン、ペニシリン-ストレプトマイシン、EGF、ノギン、R-スポンジン1、ガストリン、FGF-10、塩基性FGF、Wnt-3A、プロスタグランジンE2、Y-27632、ニコチンアミド、A83-01、SB202190及び必要に応じてHGFを補充したAdvanced DMEM/F12を含む。
【0246】
特に好ましくは、結腸直腸がん細胞は、ヒトの生検若しくは組織切除物、又は患者由来異種移植片(PDX)組織から得た新たに単離された又は凍結された細胞である。
【0247】
前記方法によって、結腸直腸がん細胞を、選択された培地中、in vivoで観察された薬物の結果を再現する細胞外マトリックスの条件下で成長、増殖させ、その後試験できる。
【0248】
特に好ましい態様によれば、細胞外マトリックスの条件は、天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しないように選択される。
【0249】
この態様によれば、本発明は、結腸直腸がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特徴が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、50~2000Paの剛性を有する、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じてラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記架橋剤及び/又は前記生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、成分;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地
を含む、キットの内容物に関する。
【0250】
この態様によれば、本発明はまた、結腸直腸がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特徴が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、50~2000Paの剛性を有する、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じてラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記架橋剤及び/又は前記任意の生物活性剤の少なくとも1つがRGDモチーフを含む、成分;
b) 好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aを含む1つ以上の異なる培地;
c) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0251】
この態様の事前に選択された細胞外マトリックスの条件はまた、
a) がん患者の生検又は組織切除物からの、新たに単離された又は凍結された結腸直腸がん細胞を提供する工程;
b) 前記細胞からのオルガノイドを定着及び増殖させ、上記の方法によって前記オルガノイドに1つ以上の薬物を適用する工程;
c) 工程b)で適用された1つ以上の薬物の活性を、工程b)で適用された前記薬物の1つによる前記患者の治療の結果と比較する工程;
d) 並びに/又は患者のオルガノイドに関する薬物活性の結果並びに疾患の対応する遺伝的及び表現型データを提供して、医師が患者をどのように治療するかを決定するのを支援する工程
を含む、がん患者の治療の有効性を試験する方法でも使用できる。
【0252】
結腸直腸がん細胞の単離のため専用の患者の生検又は切除物を、工程b)でオルガノイドを定着させるために、標準的な診断手順の間に収集し、その後工程b)を実施する場所に輸送できる。
【0253】
この方法の工程b)は、上記のとおりに、すなわち生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特徴が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、ラミニン、好ましくはラミニン-111又はラミニン-511、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111又は組換えヒトラミニン-511を含む必要に応じた1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記結腸直腸がん細胞を架橋することによって製造された、50~2000Paの剛性を有する、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供すること;
好ましくはWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びAnt 3aを含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記結腸直腸がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にすること;
並びに前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間で成長した細胞に1つ以上の薬物を加えること;
によって実施され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤の少なくとも1つは、RGDモチーフを含む。
【0254】
ヒドロゲルのマトリックスの別々の空間中で成長した細胞に加えられる1つ以上の薬物は、患者の抗がん標準治療(SoC)のために使用される薬物を含む。
【0255】
好ましい態様によれば、生検又は切除物は、組織学分析のために、及び/又は参照ベースラインを確立するオーミクス試験(例.NGS)のために更に処理できる。これらの追加の分析の結果はまた、上記のex vivo並びにin vivo試験を比較し及び/又は相関付けるためにも使用できる。
【0256】
この方法に基づいて、適用される抗がん標準治療(SoC)が好適であるか否か、又は上記のようにex vivoで試験した異なる薬物治療レジメンがより有望であるか否かを、信頼性をもって評価することが可能である。このように、本発明によって、がん治療を、個別化及び最適化できる。ヘルスケア従事者による治療の決定の精度を増加することが可能な機能的なin vitroデータを生成できる。
【0257】
乳がん
乳がんには別個の亜類型が存在し、これらは異なる培養条件を必要とする。膵細胞に関する考察が乳がんに当てはまる。
【0258】
本発明によって、乳がん細胞、例えば非限定的にトリプルネガティブ(TNBC)又はHER2+受容体の乳がん細胞を、これらの細胞の成長及び増殖を維持する条件で培養することが可能である。その後、細胞を、がん患者のための有効な薬物治療を選択するために異なる薬物治療に曝露する。このように、本発明は、異なる微小環境における乳がん組織の成長及び薬物試験を可能にする精密医療プラットフォームを提供し、したがって単一の腫瘍内の複数のクローンの特異性を捉える。
【0259】
本発明によれば、乳がん細胞は、好ましくは完全に明確な酵素により分解可能なヒドロゲルのマトリックス、及び好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む培地を使用して、好ましくは低酸素(5%O)条件で良好に培養及び試験可能であることを示すことができた。一部の亜類型(特にTNBC亜類型)では、少なくとも1つのRGD接着モチーフ及び必要に応じて追加の生物活性リガンドとしてラミニン、好ましくはラミニン-111、特に好ましくは天然のマウスラミニン-111が好ましかった。
【0260】
このように、この態様によれば、本発明は、乳がん細胞に対する薬物の影響を試験する方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記乳がん細胞を架橋することによって製造された、完全に明確な、好ましくは酵素により分解可能なヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程;
b) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記乳がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加える工程;
を含み、前記少なくとも1つの架橋剤が、好ましくは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含む、方法に関する。
【0261】
好ましくは、ヒドロゲルのマトリックスのアレイは、50~2000Paの軟らかい又は中等度の剛性を有する。
【0262】
好ましくは、PEGヒドロゲルの前駆体分子は、PEG-VS(末端ビニルスルホン部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr(末端アクリレート部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acrである。
【0263】
より好ましくは、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、又はPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VSと、PEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acrとの50:50混合物を、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造され、前記架橋剤は、酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含んでいてもよい。
【0264】
必要に応じた生物活性リガンドとして、RGD接着モチーフを含む生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好適なRGDモチーフの例は、RGD、RGDS、RGDSP、RGDSPG、RGDSPK、RGDTP、RGDSPASSKP、PHSRNSGSGSGSGSGRGDSPG、又は任意の環状RGDモチーフ、例えばシクロ(RGDfC)であるが、ヒドロゲル及び細胞培養の分野において、基本的に公知の及び首尾よく利用されるRGD配列を使用できる。
【0265】
必要に応じた生物活性リガンドとして、生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好ましくは、前記必要に応じた生物活性リガンドは、天然のラミニン、例えばラミニン-111、特にマウスラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択される。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。
【0266】
必要に応じた生物活性リガンドとして、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸及びヒアルロナンを含むリガンドを使用してもよい。ヒアルロン酸の例は、ヒアルロン酸50k、ヒアルロン酸1000k、ヒアルロネートチオール50k、又はヒアルロネートチオール1000kである。
【0267】
好ましい態様によれば、Sachs et al.(Cell 172 2018, 1-14 (例えばsupplementary materialのtable S2を参照))に記載の培地を使用してもよい。あるいは、市販の培地Intesticult(商標)、Mammocult(商標)、WIT-P(商標)、MEBM(商標)、又はStemPro(商標)hESC SFMを使用してもよい。特に好ましいのは、Sachsらに記載の培地であり、これは、R-スポンジン1条件培地又はR-スポンジン3、ニューレグリン1、FGF7、FGF10、EGF、ノギン、A83-01、Y-27632、SB202190、B27サプリメント、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、GlutaMax 100×、Hepes、ペニシリン/ストレプトマイシン、Primocin及びAdvanced DMEM/F12を含む。他の培地、例えばIMDM+FBS(血清)、又はLiu et al.(Sci Rep 2019, (9):622)若しくはLancaster et al.(Nat Biotechnol 2017 35(7): 659-666)に記載の培地を使用してもよい。
【0268】
好ましい態様によれば、低酸素(5%O)条件が好ましい。
【0269】
特に好ましくは、乳がん細胞は、ヒトの生検若しくは組織切除物、又は患者由来異種移植片(PDX)組織から得た新たに単離された又は凍結された細胞である。
【0270】
前記方法によって、乳がん細胞を、選択された培地中、in vivoで観察された薬物の結果を再現する細胞外マトリックスの条件下で成長、増殖させ、その後試験できる。
【0271】
特に好ましい態様によれば、細胞外マトリックスの条件は、天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しないように選択される。
【0272】
この態様によれば、本発明は、乳がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特徴が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な、好ましくは酵素により分解可能なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子
を含み、前記少なくとも1つの架橋剤が、好ましくは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含む、成分;
b) 1つ以上の異なる培地、好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジン
を含む、キットの内容物に関する。
【0273】
この態様によれば、本発明は、乳がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特徴が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確な、好ましくは酵素により分解可能なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記少なくとも1つの架橋剤が、好ましくは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含む、成分;
b) 好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地;
c) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0274】
この態様の事前に選択された細胞外マトリックスの条件はまた、
a) がん患者の生検又は組織切除物からの新たに単離された又は凍結された乳がん細胞を提供する工程;
b) 前記細胞からオルガノイドを定着及び増殖させ、上記の方法によって前記オルガノイドに1つ以上の薬物を適用する工程;
c) 工程b)で適用された1つ以上の薬物の活性を、工程b)で適用された前記薬物の1つによる前記患者の治療の結果と比較する工程;
d) 並びに/又は患者のオルガノイドに関する薬物活性の結果並びに疾患の対応する遺伝的及び表現型データを提供して、医師が患者をどのように治療するかを決定するのを支援する工程
を含む、がん患者の治療の有効性を試験する方法でも使用できる。
【0275】
乳がん細胞の単離のため専用の患者の生検又は切除物を、工程b)でオルガノイドを定着させるために、標準的な診断手順の間に収集し、その後工程b)を実施する場所に輸送できる。
【0276】
この方法の工程b)は、上記のとおりに、すなわち生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記乳がん細胞を架橋することによって製造された、完全に明確な、好ましくは酵素により分解可能なヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供すること;
好ましくはFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンを含む1つ以上の異なる培地の存在下で、前記乳がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にすること;
並びに前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加えること;
によって実施され、前記架橋剤の少なくとも1つは、好ましくは酵素により分解可能なモチーフ、好ましくはMMP感受性モチーフを含む。
【0277】
前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間に加えられる1つ以上の薬物は、患者の抗がん標準治療(SoC)のために使用される薬物を含む。
【0278】
好ましい態様によれば、生検又は切除物は、組織学分析のために、及び/又は参照のためのベースラインを確立するためのオーミクス試験(例.NGS)のために更に処理できる。これらの追加の分析の結果はまた、上記のex vivo並びにin vivo試験を比較し及び/又は相関付けるためにも使用できる。
【0279】
この方法に基づいて、適用される抗がん標準治療(SoC)が好適であるか否か、又は上記のようにex vivoで試験した異なる薬物治療レジメンがより有望であるか否かを、信頼性をもって評価することが可能である。このように、本発明によって、がん治療を、個別化及び最適化できる。ヘルスケア従事者による治療の決定の精度を増加することが可能な機能的なin vitroデータを生成できる。
【0280】
前立腺がん
この態様は、正常な細胞(例.野生型の健康な細胞、間質細胞)と比較してがん細胞の選択的成長の問題に関して本発明によって提供される利益を示す。
【0281】
一部の臓器に関して、腫瘍オルガノイドを形成する患者由来のがん細胞は、ex vivoでその健康な(野生型の)対応細胞よりゆっくりと増殖する傾向があり、及び/又はマトリゲル(登録商標)又は等価のマトリックスに基づいて現在使用されているex vivoの条件は、他の組織と比較して1つの組織の型を選択できず、その成長に有利となることができない。
【0282】
したがって、正常な細胞は、特定の手段を講じなければ、がんオルガノイド培養より過成長する傾向がある。一部の例では培地組成の改変がこの問題を解決できるという事実にもかかわらず、がん細胞と比較して正常細胞(健康な細胞)の過成長は、例えば前立腺がんに関してはなおも問題である。これは、例えば、どの薬物又は薬物の組合せが特定の患者を治療するために作用し得るかを決定するための生理学的前臨床モデルとしての患者由来のがん細胞のex vivoでの成長の定着を損なう。
【0283】
正常な細胞の過成長は、前立腺がんオルガノイドの場合に特に観察されている(Drost et al., Development (2017) 144, 968-975)。例えば、現在存在する前立腺がん細胞株は10個未満であり(結腸がんの場合は50個超の細胞株が存在する)、それらのいずれも正確ながん疾患を適切に反映していない(ATCC及びECACC細胞バンク)。したがって、例えば正常細胞の成長を妨げながら前立腺がんオルガノイドを成長できれば、より生理学的な前臨床モデルを使用することによって新薬の開発に大幅な影響を及ぼし、個別化医療応用のための患者特異的細胞モデルの使用を可能にするであろう。
【0284】
Drost et al., Development (2017) 144, 968-975(971-972ページの“Personalized cancer therapy”参照)は、(i)がん細胞と(ii)正常細胞(野生型)との間で、(ii)と比較して(i)のex vivoでの純粋な細胞集団を成長させるためにどのような選択が行われたかを要約している。簡単に説明すると、可能な場合、これは、細胞培地中で化学物質/増殖因子を加える又は省略することによって達成される。しかし、前立腺がんの場合、例えば野生型の対応細胞と比較して特定の化学物質とは無関係にその培養の成功が可能である特定の遺伝子変異を有する特定の結腸がんほど容易ではない。Drost et al., Nature protocols, Vol.11 no.2 (2016) 347(347-348ページの“Limitation of the method”参照)に記載されるように、彼らの培養プロトコールは、最も可能性が高いのはex vivoでの腫瘍細胞が正常細胞と比較して選択的な利点がないという理由のために、原発性前立腺がんに由来するオルガノイドを成長させるために十分良好ではなかった。その結果、各々のがん試料組織内に通常存在する正常な前立腺細胞が、腫瘍細胞より過成長するように思われる(Karthaus et al., Cell 159, 163-175, September 25, 2014、171ページの“Discussion”の最終段落も参照)。さらに、類似の問題はまた、骨及び軟部組織における前立腺転移からの試料生検についても観察され(Gao et al., Cell 159, 176-187, September 25, 2014、177-178ページの“Results”参照)、これらの部位では正常な宿主組織細胞(例.間質細胞及び/又は上皮細胞)が、がん細胞を追い越していた。
【0285】
一般的に報告されていない正常細胞過剰成長の他の例は、乳がん及び肺がんのex vivoでの培養を含む。100個超の原発及び転移性乳がんオルガノイドの定着を実証するSachs et al.(Cell 172 2018, 1-14)によって公表された試験では、オルガノイドの病理学が正常であると分類されたが、元の組織病理は腫瘍であると分類された一対の例が存在する(Sachs et al., Cell 172 2018, 1-14, Table S3)。これはまた、例えばp53に変異を有する患者に由来する肺がんオルガノイドでも観察でき、細胞培地に化学物質を加えることによって、正常細胞とがん様細胞が選択できる(Sachs et al., The EMBO Journal e 100300|2019)。しかし、p53変異が存在しない場合、正常細胞の過成長を防止する方法はない。
【0286】
本発明のこの態様によれば、前立腺がん細胞の成長を促進するが、同時にその正常な対応細胞の定着を妨げる、事前に選択された細胞外マトリックスの条件が同定された。これにより、それ以外ではその正常な対応細胞が過成長するがん細胞を、信頼性をもって評価できるスクリーニング方法の確立が可能となる。
【0287】
詳細には、正常な前立腺細胞は、RGD接着モチーフを含有するゲル調合物に限って成長し、その成長が中等度又は硬いゲルと比較して軟らかいゲルにおいて良好であることが見いだされた。他方、患者から又は患者由来異種移植片(PDX)腫瘍から単離された前立腺がん細胞は、RGDモチーフの存在及び非存在下でゲルにおいて類似の成長を示す。患者由来異種移植片(PDX)腫瘍から単離された一部の前立腺がん細胞は、RGDを含まないゲル(軟らかい又は中等度の剛性)において更に良好に成長する。
【0288】
このように、この態様によれば、本発明は、ex vivoでその正常な対応細胞又は関連する間質細胞よりゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞に対する薬物の影響を試験する方法であって、
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記がん細胞を架橋することによって製造された、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供する工程;
b) 1つ以上の異なる培地の存在下で、前記がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にする工程;
c) 前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加える工程;
を含み、前記架橋剤及び前記必要に応じた生物学的活性剤が、いかなるRGDモチーフも含まない、方法に関する。
【0289】
好ましくは、PEGヒドロゲルの前駆体分子は、PEG-VS(末端ビニルスルホン部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr(末端アクリレート部分を有するポリエチレングリコール)、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acrである。
【0290】
より好ましくは、完全に明確な自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr、又はPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VSと、PEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acrとの50:50混合物を、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造される。
【0291】
好ましくは、ヒドロゲルのマトリックスのアレイは、50~2000Paの軟らかい又は中等度の剛性を有する。
【0292】
別の好ましい態様によれば、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスのアレイは、PEG-VS、特に好ましくは4アーム又は8アームPEG-VSを、架橋剤としての少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチドと架橋することによって製造される。
【0293】
必要に応じた生物活性リガンドとして、生物活性モチーフを含むリガンドを使用してもよい。好ましくは、前記必要に応じた生物活性リガンドは、テナシンC及びグリピカン、天然のラミニン、例えばラミニン-111、特にマウスラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択される。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。
【0294】
好ましくは、培地は、前立腺がん細胞を成長させるために事前に選択された。市販の培地、例えば、Mammocult(商標)、WIT-P(商標)、StemPro(商標)hESC SFM、LonzaのPrEGM(商標)BulletKit(商標)(ref. CC-3166)及びNutriStem(登録商標)hPSC XFを使用してもよく、並びに国際公開第2015/173425号、Drost et al.(Nature Protocol 11, 347-358, January 2016)、 Beshiri et al.(Clinical Cancer Research 24, 4332-4345, May 2018)若しくはPuca et al.(Nature Communications 9:2404, 1-10, June 2018)又はInce et al.(Cancer Cell 12, 160-170, August 2007)に記載の培地は、がん細胞の成長にとって好適である。国際公開第2015/173425号に記載の培地は、がん細胞の成長に有利であることが見いだされた。したがって、特に好ましいのは、グルタミン、BSA、トランスフェリン、ノギン、FGF(2又は塩基性)、FGF10、EGF、R-スポンジン条件培地又は組換え体、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタチオン、ニコチンアミド、DHT、プロスタグランジンE2、A83-01、Y-27632、N-アセチルシステイン、SB202190及びHepesを含む培地である。
【0295】
特に好ましくは、がん細胞は、ヒトの生検若しくは組織切除物、又は患者由来異種移植片(PDX)組織から得た新たに単離された又は凍結されたヒト細胞である。
【0296】
前記方法によって、がん細胞を選択された培地中、その正常な対応細胞又は関連する間質細胞が過成長することなく、in vivoで観察される薬物結果を再現する条件下で成長させ、その後試験できる。
【0297】
特に好ましい態様によれば、細胞外マトリックスの条件は、天然由来のマトリックス、例えばマトリゲル(登録商標)を完全に使用しないように選択される。
【0298】
この態様によれば、本発明はまた、ex vivoでその正常な対応細胞又は関連する間質細胞よりゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、該成分が、以下;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤が、いかなるRGDモチーフも含まない、成分;
b) 1つ以上の異なる培地
を含む、キットの内容物に関する。
【0299】
この態様によれば、本発明はまた、ex vivoでその正常な対応細胞又は関連する間質細胞よりゆっくりと増殖するがん細胞、好ましくは前立腺がん細胞に対する薬物の影響を試験するためのキットの内容物であって、以下:
a) 生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、完全に明確なヒドロゲルのマトリックスのアレイを製造するための成分であって、前記成分が、以下;
- 1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子、好ましくはPEG-VS、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-VS、及び/又はPEG-Acr、特に好ましくは4アーム若しくは8アームPEG-Acr、
- 少なくとも1つの架橋剤、好ましくは少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含むペプチド、
- 必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子、
を含み、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤が、いかなるRGDモチーフも含まない、成分;
b) 1つ以上の異なる培地;
c) 必要に応じて同じ細胞外マトリックスの条件を使用して作成されている細胞レポジトリ/バイオバンクからの細胞
を含む、キットの内容物に関する。
【0300】
この態様の事前に選択された細胞外マトリックスの条件はまた、
a) がん患者の生検又は組織切除物からの新たに単離された又は凍結されたがん細胞を提供する工程;
b) 前記細胞からオルガノイドを定着及び増殖させ、上記の方法によって前記オルガノイドに1つ以上の薬物を適用する工程;
c) 工程b)で適用された1つ以上の薬物の活性を、工程b)で適用された前記薬物の1つによる前記患者の治療の結果と比較する工程;
d) 並びに/又は患者のオルガノイドに関する薬物活性結果並びに疾患の対応する遺伝的及び表現型データを提供して、医師が患者をどのように治療するかを決定するのを支援する工程
を含む、がん患者の治療の有効性を試験する方法でも使用できる。
【0301】
前立腺がん細胞の単離のため専用の患者の生検又は切除物を、工程b)でオルガノイドを定着させるために、標準的な診断手順の間に収集し、その後工程b)を実施する場所に輸送できる。
【0302】
この方法の工程b)は、上記のとおりに、すなわち生物学的、生物物理学的及び/又は生化学的特性が互いに異なる完全に明確な三次元細胞外マトリックスの条件を作成するために、基材の表面で、又は基材の別々の空間、好ましくはマルチウェルプレート中で、必要に応じて1つ以上の生物学的に活性な分子の存在下、1つ以上の異なるPEGヒドロゲルの前駆体分子の異なる組合せ、少なくとも1つの架橋剤及び前記がん細胞を架橋することによって製造された、完全に明確な非自己分解性のヒドロゲルのマトリックスの別々の空間を有するアレイを含む、事前に選択された細胞外マトリックスの条件を提供すること;
1つ以上の異なる培地の存在下で、前記がん細胞が前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長することを可能にすること;
並びに前記ヒドロゲルのマトリックスの前記別々の空間中で成長した細胞に1つ以上の薬物を加えること;
によって実施され、前記架橋剤及び前記任意の生物活性剤は、いかなるRGDモチーフも含まない。
【0303】
ヒドロゲルのマトリックスの別々の空間に加えられる1つ以上の薬物は、患者の抗がん標準治療(SoC)のために使用される薬物を含む。
【0304】
好ましい態様によれば、生検又は切除物は、組織学分析のために、及び/又は参照のためのベースラインを確立するためのオーミクス試験(例.NGS)のために更に処理できる。これらの追加の分析の結果はまた、上記のex vivo並びにin vivo試験を比較し及び/又は相関付けるためにも使用できる。
【0305】
この方法に基づいて、適用される抗がん標準治療(SoC)が好適であるか否か、又は上記のようにex vivoで試験した異なる薬物治療レジメンがより有望であるか否かを、信頼性をもって評価することが可能である。このように、本発明によって、がん治療を、個別化及び最適化できる。ヘルスケア従事者による治療の決定の精度を増加することが可能な機能的なin vitroデータを生成できる。
【0306】
動的オルガノイド成長画像解析方法
オルガノイド成長の異なるパラメーター(例.成長速度、オルガノイドの数、オルガノイドのサイズ)を正確かつ容易に同定することが必要である。従来の2D細胞培養に関して、オルガノイド成長の定量は、培養ウェル中の代謝物の量を測定する蛍光測定、比色測定、又は発光方法を使用して間接的に達成できる(例.Alamar Blue, MTT, Cell Titer Glow 3D)。これらの間接的アッセイは全て、それらが細胞にとって致死的でない場合であっても、オルガノイドの適合性に影響を及ぼし得、成長したオルガノイドを更に使用する(例えば、薬物試験、再生医療のため)可能性を完全に妨害する。
【0307】
したがって、オルガノイドの成長を定量するために光学顕微鏡などの非侵襲的(及び標識を含まない)方法を使用することは、長期培養における及び/又はオルガノイドが、可能な限り「生来の」かつ「未使用」で維持する必要がある場合(例えば、再生医療、バイオバンキングのため)に有利な代替である。3Dオルガノイド培養のハイスループットイメージングの定量の必要性により、2D方法の改変(Carpenter et al., Genome Biology 2006, 7:R100)、又は迅速、再現可能に、及びバイアスのない形式でのオルガノイドの計数及び測定を可能にする新規自動検出及び画像セグメント化アルゴリズムの開発がもたらされた。これらの方法は、蛍光マーカーを使用して容易かつ正確に行われ(Robinson et al., PloS ONE 10(12): e0143798. doi:10.1371/journal.pone.01437982015、Boutin et al., Nature scientific reports (2018) 8:11135, DOI:10.1038/s41598-018-29169-0 2018)、この場合も、それらが免疫蛍光染色又は蛍光トランスジーン発現を必要とすることから、「未使用」かつ「標識を含まない」患者由来の細胞の使用、又は再植え込みプロトコールと適合しない。
【0308】
最近、Borten et al., Nature scientific reports (2018) 8:5319, DOI:10.1038/s41598-017-18815-8 2018において、OrganoSegと呼ばれるMatlab(登録商標)(Mathworks社)に基づくアルゴリズムが、3D明視野画像からオルガノイドを具体的に分析するために開発され、それによって3Dで成長した生きている生来のオルガノイドから多くのパラメーターを検出、セグメント化(すなわち、デジタル画像を特定のピクセルセットに分配する)、及び定量することを可能にする(Borten 2018)。このオープンソースのソフトウェアは、所定の時点で検出された特徴のサイズ、球状及び形状に基づくオルガノイドの同定及びマルチパラメトリック形態学的分類を可能にする。
【0309】
しかし、正確かつ強力ではあるが、このツールは、時間の次元を考慮できず、異なる時点での複数の解析を必要とし、このように、オルガノイド成長の動力学を適切に評価するためにその後に複雑な作業が必要となる。
【0310】
本発明により、新規分析方法が提供される。MATLAB(登録商標)コードに基づいて、異なる時点で獲得した明視野画像を整列させ、その強度に基づいてオルガノイドを自動で同定及びセグメント化できる新規方法が開発された。このプログラムは、OrganoSegと同じ方法を使用して明視野画像から対象をセグメント化する。主な違いは、これらのセグメント化された対象で構成される使用にある:OrganoSegは、サイズ及び形態学を使用して所定の別個の時点でオルガノイドの異なる型を分類するが、この新規プログラムは、1つの単一の解析においてオルガノイド成長の動的追跡を可能にし、このようにOFE/AIF及び薬物応答の計算を可能にする。したがって、プログラムは、オルガノイド成長に関する以下の動的情報を提供する:
・ オルガノイド形成効率(OFE)及び
・ 面積増加係数(AIF)。
【0311】
本発明の方法によって、獲得した各ウェルに関して整列させた微速度撮影ビデオ、及び単一にした画像における培養期間に沿ったオルガノイドの全体的成長を表す「時間射影」の作成も可能である。それらの時間射影は、容易にプレゼンテーション及び公開に含まれる。
【0312】
単一細胞又は細胞の小さい凝集体は、3D細胞外マトリックス内に被包され、これらの細胞のサブセットのみが成長してオルガノイドを生成できる;これは、培養の「オルガノイド形成効率」(OFE)として設計されるものである。本発明の方法によって、0日目で被包された細胞の数を定量する。その上、この方法は、ユーザーが、オルガノイドであると考えられるサイズに関する閾値を定義することを可能にする。これは次に、アッセイにおける任意の特定の時点に関するOFEを提供する。
【0313】
OFEは、オルガノイドにおいて発達可能な元の培養中の細胞(例.幹細胞)の割合の指標を与えるが、本発明の方法によって、オルガノイド培養全体の成長速度は、微速度撮影のセグメント化後の時間に沿った面積の増加を計算することによっても定量される。これは、「面積増加係数」(AIF)であり、これは0日目で単一の細胞によって占有される総面積の、任意の所定の日でのオルガノイドによって占有される総面積の比に対応する。本発明の方法は、AIFを計算するために最初及び最後の日の選択を可能にする。
【0314】
OFE及びAIFスコアを組み合わせると、所定の細胞外マトリックスの条件の適合性及び性能に有用な情報を与える。
【0315】
本発明に従うこの半自動化画像解析法は、ハイスループット設定におけるオルガノイド成長の時間による研究及び解析を可能にする。これはマーカー及び/又は有害なアッセイの必要なく、オルガノイド培養に関する細胞外マトリックスの条件の適合性及び性能を反映するバイアスのない再現可能なスコアリングを提供する。これはまた、患者由来オルガノイドの薬物試験結果の半自動的定量化も可能にする(例.IC50値の決定)。
【0316】
実施例1 肺がん細胞の試験
1a c-Met受容体を過剰発現する肺がん細胞
患者から、c-Met受容体を過剰発現する肺がん細胞をPDX細胞から得た。リガンドの結合により活性化すると、c-Met受容体は自己リン酸化し、細胞内の幾つかのシグナル伝達カスケードを活性化する。
【0317】
非小細胞肺がん(NSCLC)モデルLXFA-1647の患者由来の異種移植片(PDX)細胞を、c-Metを標的化する薬物(c-Met阻害剤:PF-04217903, Selleck Chemicals)によって治療すると、その自己リン酸化を阻害し、in vivoでの腫瘍成長退縮を誘導する。
【0318】
PEGを、非自己分解性のヒドロゲルを作成するためのヒドロゲルの前駆体分子として使用した。架橋剤として、そのアミノ酸配列が異なる、特にRGD接着モチーフの存在又は非存在に関して異なる、及びMMP分解配列の存在又は非存在に関して異なる、少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含有するペプチドを使用した。一部のヒドロゲルに対して行った別の態様は、RGD接着モチーフを含む生物活性リガンド並びに/又は天然のラミニン、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択されるリガンドの結合であった。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。事前に選択された特徴が異なるヒドロゲルのアレイは、上記の方法によって確立された。
【0319】
ヒドロゲルの力学的性質も異なった(軟らかい(50~1000Pa)、中等度(1000~2000Pa)、又は硬い(2000~3000Pa)ゲル)。
【0320】
比較のために、明確でない天然由来のマトリックスであるマトリゲル(登録商標)においても実施した。
【0321】
培地を、上記のc-Met阻害剤PF-04217903(Selleck Chemicals)、すなわち、c-metを標的として、その自己リン酸化を阻害する薬物、又はこのがんの標準治療(SoC)において使用される薬物(ドセタキセル)を含むように事前に選択した。それぞれの薬物を1~8日間培養後に培地に加えた(細胞被包化後1~8日)。薬物応答を、薬物を加えた5~10日後に測定した。好ましい培地として、FBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンの存在を特徴とする培地を事前に選択した。この例に従って、Sachs et al.(The EMBO Journal e 100300|2019)に記載の培地を改変した培地を使用した。好ましい培地は、グルタミン、ノギン、EGF、線維芽細胞増殖因子7及び10[FGF7及びFGF10]、HGF、R-スポンジン条件培地、Primocin、ペニシリン/ストレプトマイシン、N-アセチル-L-システイン、ニコチンアミド、A83-01、SB202190(p38阻害剤)、Y-27632(rock阻害剤)、B27サプリメント及びHEPESを補充したAdDMEM/F12を含んだ。標的の発現(c-Met及びホスホc-Met)は、対応する成長条件でウェスタンブロットによって検出した。
【0322】
結果を、図1a、1b及び1cに示す。
【0323】
これらの事前に選択された条件によって、in vivoで観察された薬物の結果(すなわち、c-Met阻害剤PF-04217903(Selleck Chemicals)の活性)を再現するex vivoでの成長(ex vivoでの培養、細胞外マトリックス)の条件を同定した。これらの細胞外マトリックスの条件を、「応答体条件」と見なした。
【0324】
この実施例では、最も好ましい応答体条件は、それぞれのPEGヒドロゲルの前駆体分子、架橋剤としての、2つのシステイン部分を含有するがいかなるRGDモチーフも含有しない(架橋剤中に又はヒドロゲルに結合して)ペプチドから作成された非自己分解性のヒドロゲルの使用であった。前記ヒドロゲルは、50~1000Pa(例1a)、さらにより好ましくは250~500Paの軟らかい剛性を有する。
【0325】
同じアッセイにおいて、薬物耐性をもたらす他の条件を同定した。薬物耐性は、微小環境、すなわち、細胞外マトリックス又は可溶性因子に依存することが見いだされた。特に、RGDモチーフを含む1mM生物活性リガンドがヒドロゲルに結合すると、腫瘍細胞は上記のc-Met阻害剤PF-04217903(Selleck Chemicals)に対して耐性となったことを示すことができた。それらの条件を「非応答体条件」(例1b)として見なす。
【0326】
最後に、同じアッセイにおいて、マトリックスとしてのマトリゲル(登録商標)の使用(比較例1)はまた、腫瘍細胞が上記のc-Met阻害剤PF-04217903(Selleck Chemicals)に応答しない「非応答体条件」(比較例1)を提供した。
【0327】
図1bは、例1aの条件下でのドセタキセルによる標準治療(SoC)の効果、及びc-met阻害剤PF-04217903(Selleck Chemicals)による治療の効果を示す。いずれの薬物も明らかに有効であった。
【0328】
これとは対照的に、図1cには、比較例1(マトリゲル(登録商標))の条件下では、ドセタキセルによる標準治療(SoC)の効果のみが観察されたことが示されている。c-met阻害剤PPF-04217903(Selleck Chemicals)による治療効果は観察できなかった。したがって、図1a~1cは、本発明の事前の選択条件下に限り、調べた細胞に対するc-met阻害剤の効果があることを示している。従来の条件(すなわち、マトリゲル(登録商標))下で試験した場合、c-met阻害剤について可能性がある治療は認識されなかった。
【0329】
1b EGFR受容体を過剰発現する肺がん細胞
例1aを、EGFR受容体を過剰発現する肺がん細胞について繰り返した。これらの細胞は、PDX細胞から得られた。
【0330】
例1a(すなわち、いかなるRGDモチーフも有しない(架橋剤に、又はヒドロゲルに結合して)の「応答体条件」を使用すると、例1bでは、例1bで試験した細胞におけるc-met受容体の自己リン酸化の欠如により予想されたように、c-met阻害剤による治療効果は観察できなかった(図1d参照)。一方、EGFR受容体並びにそのリン酸化型は、これらの条件によって過剰発現されたが(図1d)、EGFR受容体に作用する薬物(エルロチニブ及びセツキシマブ)並びにパクリタキセルによるSoC治療は、(マトリゲル(登録商標)を使用する比較例1の条件と類似の(データは示していない))明らかな効果を示した(図1e)。
【0331】
実施例2 膵臓がん細胞の試験
患者からの膵管腺がん(PDAC)がん細胞を、PDXモデルとしてマウスにおいて最初に増殖させた。PDX由来細胞を、細胞外マトリックスの条件の範囲で成長させた。
【0332】
膵管腺がん(PDAC)がんモデルPAXF736の患者由来の異種移植片(PDX)細胞を、EGFRを標的化する薬物(EGFR阻害剤:セツキシマブ)によって治療すると、in vivoでの腫瘍の成長を低減させる。
【0333】
PEGを、非自己分解性のヒドロゲルを作成するためのヒドロゲルの前駆体分子として使用した。架橋剤として、そのアミノ酸配列が異なる、特にRGD接着モチーフの存在又は非存在に関して、及びMMP分解配列の存在又は非存在に関して異なる、少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含有するペプチドを使用した。一部のヒドロゲルに対して行った別の態様は、RGD又は環状RGD接着モチーフを含む生物活性リガンド、又はあるいはDGEAモチーフを含む生物活性リガンドの結合であった。事前に選択された特徴が異なるヒドロゲルのアレイは、上記の方法によって確立された。
【0334】
ヒドロゲルの力学的性質も多様であった(硬い(2000~3000Pa)、中等度(1000~2000Pa)又は軟らかい(50~1000Pa)ゲル)。
【0335】
多様な異なる公知の、一般的に利用される及び/又は市販の培地を使用した。
【0336】
図2a及び図2bは、RGDモチーフを有しない架橋部分及びRGD接着モチーフを有する生物活性リガンドを有する軟らかい非自己分解性のPEGヒドロゲル(例2a)、並びにRGDモチーフ有する架橋部分及びDGEA接着モチーフを含む生物活性リガンドを有する軟らかい非自己分解性のPEGヒドロゲル(例2b)についての結果を示す。比較のために、明確でない天然由来のマトリックスマトリゲル(登録商標)においても、試験を実施した(比較例2)。
【0337】
図2aから、試験した全てのヒドロゲルが、膵管腺がん(PDAC)がんモデルPAXF736の患者由来の異種移植片(PDX)細胞の同等の成長をもたらしたことが理解できる。
【0338】
図2bから、例2aのヒドロゲルが、マトリゲル(登録商標)(比較例2)と同等の薬物感受性(セツキシマブに対して)を示したことが理解できる。他方、例2bのヒドロゲルは、かなり高い薬物感受性を示した。
【0339】
図2cでは、軟らかいゲル(50~1000Pa、例2c及び2d)又は中等度のゲル(1000~2000Pa、例2e及び2f)をRGDモチーフの存在下、及びMMP感受性モチーフの存在下(例2c及び2e)又は非存在下(例2d及び2f)で使用すると、PDAC細胞の非常に良好な成長を達成でき、これはマトリゲル(登録商標)(比較例2)におけるPDAC細胞の成長と同等であったことが理解できる。
【0340】
培地中のWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aの存在は、細胞成長にとって重要であることが見いだされた。同様に、ヒドロゲルのマトリックスは、少なくとも1つのRGDモチーフを含まなければならないことも見いだされた。
【0341】
この実施例は、本発明による事前の選択の利点を示す。マトリゲル(登録商標)(比較例2)を使用する従来の細胞外マトリックスの条件下で試験する場合、試験した細胞に対するEGFR阻害剤の効果は観察されなかった。したがって、このがんのおそらく有効な治療はまだ同定されていない。
【0342】
例2aと2bの比較は、本発明による事前の選択の別の利点を示す。特定の細胞の型(この例ではRGDモチーフの存在)にとって基本的に好適である異なる事前の選択条件を使用することによって、試験した細胞の可能性がある耐性の同定が可能である。例2aでは、EGFR阻害剤であるセツキシマブに対して観察された薬物感受性は、例2bと比較してかなり低く、この特定のがん細胞の型をEGFR阻害剤単独で治療することは十分ではないことが示された。
【0343】
実施例3 線維芽細胞と同時培養した膵臓がん細胞の試験
PDAC細胞(マトリゲル(登録商標)において事前に定着させたPDOからの)と異なる比率のがん関連線維芽細胞(患者から単離され、2D培養において事前に増殖させた)との同時培養を、細胞外マトリックスの条件の範囲で調べた。同時培養中の線維芽細胞は、特異的マーカー(CD90)を使用して同定された。
【0344】
図3は、33%PDAC細胞を67%線維芽細胞と同時培養した結果を、RGDモチーフ及び酵素により(MMP)分解可能な部分(例3a)の両者を含むヒドロゲル、RGDモチーフのみを含み、酵素により分解可能な部分を含まない(例3b)ヒドロゲル、RGDモチーフを含まず、酵素により分解可能な部分のみを含む(例3c)ヒドロゲル、及びRGDモチーフも酵素により分解可能な部分も含まない(例3d)ヒドロゲルについて示す。比較のために、従来の明確でない天然由来のマトリックスであるマトリゲル(登録商標)(比較例3)による結果を示す。
【0345】
最善の同時培養結果は、例3aにおいて、好ましくはRGDモチーフと酵素により分解可能な部分の両者を含む軟らかいPEGヒドロゲルにおいて得られたことが理解できる。
【0346】
この実施例は、他の細胞の同時の成長、例えば線維芽細胞の同時成長を許容すべきであるか否かに応じて、条件を事前に選択できることを示す。
【0347】
実施例4 結腸直腸がんの試験
患者から及び事前に定着させたマトリゲル(登録商標)からの結腸直腸がん(CRC)細胞を、一定範囲の細胞外マトリックスの条件で成長させた。
【0348】
PEGを、ヒドロゲルの前駆体分子として使用して、非自己分解性のPEGヒドロゲル、又はあるいは非自己分解性のPEGヒドロゲルと自己分解性のPEGヒドロゲルの50:50混合物を提供した。架橋剤として、特にRGD接着モチーフの存在又は非存在に関して、及びMMP分解配列の存在又は非存在に関して、アミノ酸配列が異なる、少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含有するペプチドを使用した。一部のヒドロゲルに対して行った別の態様は、RGD接着モチーフを含む生物活性リガンド、又はあるいは天然のラミニン、例えばラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、例えば組換えヒトラミニン-511、及びその生体機能性断片からなる群から選択されるリガンドの結合であった。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。事前に選択された特徴が異なるヒドロゲルのアレイは、上記の方法によって確立された。
【0349】
ヒドロゲルの力学的性質も異なった(硬い(2000~3000Pa)、中等度(1000~2000Pa)又は軟らかい(50~1000Pa)ゲル)。
【0350】
多様な異なる公知の、一般的に利用される及び/又は市販の培地を使用した。
【0351】
結果を図4に示す。図4は、0日間及び11日間成長させたヒト結腸がんオルガノイドの明視野画像を示す。
【0352】
例4a~4cでは、非自己分解性及び酵素により分解可能ではないヒドロゲルを使用した。例4bでは、架橋剤はRGDモチーフを含み、例4a及び4cでは、RGDモチーフを含む生物活性リガンドが、ぶら下がる形式で結合した。例4bでは、ラミニン-111である生物活性リガンドが、ぶら下がる形式で結合した。例4a及び4bのヒドロゲルは軟らかかった(500Pa未満)が、例4cのヒドロゲルは中等度(1000Pa超)の軟らかさであった。例4dでは、自己分解性であったが、酵素により分解可能ではない、400~600Paの初期剛性を有するヒドロゲルを使用した。前記ヒドロゲルは、RGDモチーフを含む架橋剤、及び生物活性リガンドとしてのラミニン-111を含んだ。比較のために、明確ではない天然由来のマトリックスであるマトリゲル(登録商標)(比較例4)でも試験を実施した。
【0353】
例4a~4dのヒドロゲルでは、標準的なマトリゲル(登録商標)と同等の細胞成長が観察されたが、明確な条件(マトリゲル(登録商標)とは異なる)では観察されなかったことが示された。
【0354】
他方で、例4eでは、非自己分解可能であるが、酵素により分解可能であり、さらにいかなるRGDモチーフも含まないヒドロゲルを使用した。これらの条件下では、試験したCRC細胞は成長しなかった。
【0355】
例4fでは、初期剛性およそ400~600Pa、RGDモチーフ(架橋剤に組み込まれている)及び生物活性剤として組換えヒトラミニン-511を有する自己分解性のヒドロゲルを使用した。試験したCRC細胞の非常に良好な成長が観察された。
【0356】
培地中のWntアゴニスト、例えばR-スポンジン及びWnt3aの存在は、細胞成長にとって有利であることが見いだされた。同様に、ヒドロゲルのマトリックスは、少なくとも1つのRGDモチーフ、並びに必要に応じて天然のラミニン、例えばラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、例えば組換えヒトラミニン-511、及びその生体機能性断片からなる群から選択される少なくとも1つの生物活性リガンドを含まなければならないことが見いだされた。
【0357】
実施例5 乳がん細胞の試験
別個のがん亜類型(トリプルネガティブ(TNBC)又はHER2+受容体状態)を有する患者に由来する乳がん細胞を、最初にPDXモデルとしてマウスにおいて増殖させた。次に、PDX由来細胞を、一定範囲の細胞外マトリックスの条件で成長させた。
【0358】
PEGをヒドロゲルの前駆体分子として使用して、非自己分解性のヒドロゲルを提供した。架橋剤として、そのアミノ酸配列が異なる、特にRGD接着モチーフの存在又は非存在に関して異なる、及びMMP分解配列の存在又は非存在に関して異なる、少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含有するペプチドを使用した。
【0359】
一部のヒドロゲルに対して行った別の態様は、RGD接着モチーフを含む生物活性リガンド、並びに/又は天然のラミニン、例えばラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択されるリガンドの結合であった。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。事前に選択された特徴が異なるヒドロゲルのアレイは、上記の方法によって確立された。
【0360】
ヒドロゲルの力学的性質も異なった(硬い(2000~3000Pa)、中等度(1000~2000Pa)、又は軟らかい(50~1000Pa)ゲル)。
【0361】
多様な異なる公知の、一般的に利用される及び/又は市販の培地を使用した。
【0362】
試験は、低酸素(5%O)又は正常酸素(18%O)条件で行った。
【0363】
培地中のFBS(血清)又はWntアゴニスト、例えばR-スポンジンの存在は、細胞成長にとって有利であることが見いだされた。同様に、ヒドロゲルのマトリックスは、好ましくは酵素により分解可能でなければならないことも見いだされた。
【0364】
図5は、異なる乳がん細胞の成長の結果を示す。(患者由来の異種移植片モデルから)HER2+乳がん又はトリプルネガティブ乳がん(TNBC)の4人の患者からのヒト原発性又は転移性(Mets)乳がん細胞の明視野画像を示す(4×対物倍率)。
【0365】
同じ時間後の例5aのヒドロゲル(RGDモチーフ及び生物活性リガンドとしてラミニン-111を含む、非自己分解性、酵素により分解可能な軟らかい(<500Pa)PEGヒドロゲル)は、TNBC肺転移細胞及びTNBC原発細胞に関して、図の上の行の比較例5(マトリゲル(登録商標))と類似の成長条件を提供したことが下の行から理解できる。
【0366】
TNBC脳転移細胞に関して、例5bのヒドロゲル(RGDモチーフを含むが、ラミニン生物活性リガンドを含まない非自己分解性、酵素により分解可能な軟らかい(<500Pa)PEGヒドロゲル)は、比較例5(マトリゲル(登録商標))と類似の成長条件を提供した。
【0367】
HER2+皮膚転移細胞に関して、例5cのヒドロゲル(RGDモチーフもラミニン生物活性リガンドも含まない非自己分解性、酵素により分解可能な中等度の(>1000Pa)PEGヒドロゲル)は、比較例5(マトリゲル(登録商標))と類似の成長条件を提供した。
【0368】
一般的に、TNBC亜類型は、成長させることがより難しい。低酸素条件は、正常酸素条件と比較して乳がんオルガノイドの成長を改善した。加えて、事前に選択された細胞外マトリックスの条件で成長させたHER2+及びTNBC細胞の形態は、マトリゲル(登録商標)中で定着した以前の乳がんオルガノイドの形態と一致した(Sachs et al., 2018, Cell 172, 1-14)。
【0369】
実施例6 前立腺がん細胞の試験
市販の初代培養の健康な前立腺細胞並びにPDX細胞からの前立腺がん細胞を、異なる細胞外マトリックスの条件の範囲内で被包した。
【0370】
PEGを、ヒドロゲルの前駆体分子として使用して、非自己分解性のヒドロゲルを提供した。架橋剤として、そのアミノ酸配列が異なる、特にRGD接着モチーフの存在又は非存在に関して異なる、及びMMP分解配列の存在又は非存在に関して異なる、少なくとも2つの、好ましくは2つのシステイン部分を含有するペプチドを使用した。
【0371】
一部のヒドロゲルに対して行った別の態様は、RGD接着モチーフを含む生物活性リガンド並びに/又は天然のラミニン、例えばラミニン-111、組換えラミニンアイソフォーム、及びその生体機能性断片からなる群から選択されるリガンドの結合であった。好適な組換えラミニンアイソフォームの例は、ラミニン-111、ラミニン-211、ラミニン-332、ラミニン-411、ラミニン-511、又はラミニン-521である。事前に選択された特徴が異なるヒドロゲルのアレイは、上記の方法によって確立された。
【0372】
ヒドロゲルの力学的性質も異なった(硬い(2000~3000Pa)、中等度(1000~2000Pa)又は軟らかい(50~1000Pa)ゲル)。
【0373】
多様な異なる公知の、一般的に利用される及び/又は市販の培地を使用した。好ましくは、前記培地は、Wntアゴニスト、例えばR-スポンジンの存在を特徴とする。好ましい態様によれば、Drost et al.(Nature Protocol 11, 347-358, January 2016)又はBeshiri et al.(Clinical Cancer Research 24, 4332-4345, May 2018)に記載の培地を改変した培地を使用してもよい。好ましい培地は、グルタミン、BSA、トランスフェリン、ノギン、線維芽細胞増殖因子2又は塩基性及びFGF10[FGF2又はFGF-塩基性及びFGF10]、EGF、R-スポンジン条件培地、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタチオン、必要に応じてN-アセチル-L-システイン、ニコチンアミド、DHT(ジヒドロテストステロン)、インスリン、プロスタグランジンE2、A83-01、SB202190(p38-阻害剤)、Y-27632(rock阻害剤)及びHEPESを補充したAdDMEM/F12培地を含む。
【0374】
結果を図6a及び6bに示す。例6a及び6bのヒドロゲルは、軟らかい、酵素により分解可能なヒドロゲルであった。例6aは、RGDモチーフを含まないヒドロゲルである。例6bは、RGDモチーフを含むヒドロゲルである。
【0375】
正常な(健康な)細胞は、生物活性ペプチドRGDを含有する細胞外マトリックスに限って成長していることが見いだされた(図6a、例6b)。同様に、健康な細胞の成長は、RGDを含有する軟らかいゲルと比較してRGDを含有する中等度のゲルでは顕著ではなかった。他方で、例6a(RGDを有しない)及び6b(RGDを有する)では、前立腺がん細胞は成長した(図6b)。
【0376】
これとは対照的に、天然に由来するマトリックスであるマトリゲル(登録商標)を使用する比較例では、健康な前立腺細胞及び前立腺がん細胞の成長の差は、いずれの培地についても達成されなかった(図6a及び6b)。
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2a
図2b
図2c
図3
図4
図5
図6a
図6b
【国際調査報告】