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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20230201BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230201BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20230201BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230201BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230201BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/62 Z
H01M4/131
H01M10/054
H01M10/052
C01G45/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533477
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 FR2020052278
(87)【国際公開番号】W WO2021111087
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】1913905
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(71)【出願人】
【識別番号】510021203
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ド・ラ・ルシェルシェ・シアンティフィーク(セーエヌエールエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(71)【出願人】
【識別番号】517218815
【氏名又は名称】コレージュ ドゥ フランス
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ワン, チン
(72)【発明者】
【氏名】タラスコン, ジーン-マリー
(72)【発明者】
【氏名】チャキール, モハメド
(72)【発明者】
【氏名】マリヤッパン, サティヤ
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H029AL13
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA09
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050EA02
5H050EA08
5H050EA10
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、式(I):NaLiMn1-y(I)を有し、式中、xが、0.8~1の範囲の数であり、yが、厳密に0より大きく1/3以下の数である、正極活物質に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)を有し、
NaLiMn1-y(I)、
式中:
xは、0.8~1の範囲の数であり;
yは、厳密に0より大きく1/3以下の数である、
正極活物質。
【請求項2】
yが0.1~1/3、好ましくは0.2~1/3で変動し、より好ましくはyが1/3に等しいことを特徴とする、請求項1に記載の物質。
【請求項3】
xが0.9~1で変動し、より好ましくはxが1に等しいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の活物質を製造するための方法であって、
(a)少なくとも1つの遷移金属塩又は複数の遷移金属塩と、少なくとも1つのリチウム前駆体及び少なくとも1つのナトリウム前駆体とを混合する工程;
(b)工程(a)から得られた混合物を500~900℃の範囲の温度まで加熱する工程;
(c)前記材料を回収する工程、
を含む方法。
【請求項5】
少なくとも1つの、請求項1~3のいずれか一項に記載の活物質を含む正極。
【請求項6】
少なくとも1つの導電性化合物をさらに含むことを特徴とする、請求項5に記載の正極。
【請求項7】
導電性化合物が、金属粒子、炭素、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは炭素であることを特徴とする、請求項6に記載の正極。
【請求項8】
炭素が、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノワイヤ、カーボンナノチューブ、カーボンナノスフェア、好ましくはカーボンブラックの形態であることを特徴とする、請求項7に記載の正極。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか一項に記載の正極と、負極と、セパレータと、電解質とを含むナトリウムイオン電池セル。
【請求項10】
請求項9に記載の少なくとも1つのセルを含むナトリウムイオン電池。
【請求項11】
請求項5~8のいずれか一項に記載の正極と、負極と、セパレータと、電解質とを含むリチウムイオン電池セル。
【請求項12】
請求項11に記載の少なくとも1つのセルを含むリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式電池、ナトリウムイオン(Naイオン)及びリチウムイオン(Liイオン)電池、特にNaイオン電池の一般的な分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、正極活物質及びそれを含む正極に関する。
【背景技術】
【0003】
ナトリウムは大量に入手でき、かつ低コストであるので、リチウムよりも経済的に魅力的であり、そのためNaイオン電池は、リチウムイオン電池の最も有望な代替物の1つである。
【0004】
Naイオン電池用の正極について鋭意研究が行われている。この研究により、正極は2つの主要なカテゴリーに分類された。
【0005】
第1のカテゴリーは、ポリアニオン化合物を含む。これらのポリアニオン化合物の中で、化合物Na(POは、Naイオン電池での使用に適していると特定されている。実際、国際公開第2014/009710号に記載されているように、特に、合成の容易さ、湿潤状態での使用時の安定性、貯蔵時の空気中での安定性、又は高い比エネルギーを特徴とする。
【0006】
しかしながら、電極内のバナジウムの存在は、その毒性のために、Naイオン電池の中/長期使用中に問題となり得る。さらに、このポリアニオン化合物で最良の結果が得られるが、その比較的重い分子量によって、その比容量が制限される。
【0007】
第2のカテゴリーは、層状酸化ナトリウムを含む。これらの特定の酸化物は、一般式NaMOを有し、式中、bは1以下であり、Mは少なくとも1つの遷移金属を表す。これらの層状酸化物は、より軽い分子量を有するため、ポリアニオン化合物よりも有望であると思われる。それらはまた、それらの構造及び組成が豊富であり、合成が容易であるので興味深い。さらに、層状酸化ナトリウムの重量エネルギー密度は、化合物Na(POのそれよりも高い(約4.5g/cm対約3g/cm)。
【0008】
したがって、金属の性質に特に注目して、層状酸化ナトリウムに関する多くの研究が行われてきた。いくつかの遷移金属、特にV、Co及びNiなどの金属は、それらの毒性のために最も回避される。
【0009】
これに関連して、興味深い材料、特に「P-type Nax[Fe1/2Mn1/2]O made from earth-abundant elements for rechargeable Na batteries」、N.Yabuuchi et al.、Nature Materials、11、512~517(2012)に文書化されているような、材料NaFe0,5Mn0,5(dは1以下である)、又は「Electrochemical Properties of Monoclinic NaMnO」、X.Ma、H.Chen、G.Ceder、J.Electrochem.Soc.、158、A1307(2011)、及び文献「β-NaMnO:A High-Performance Cathode for Sodium-Ion Batteries」、J.Billaud et al.、J.Am.Chem.Soc.、136、17243-17248(2014)に文書化されているような、材料NaMnO(fは1以下である)が特定されている。
【0010】
しかしながら、これらの材料は、その高い理論的容量(240mAh/g)によって有望であるにもかかわらず、これらの材料の容量は、Naイオン電池の充放電サイクル中に低下することが判明している。これらの層状酸化物はまた、湿度に非常に敏感であり、それにより貯蔵及び加工が困難になる。
【0011】
したがって、上記の欠点、特に容量低下及び湿度安定性の問題を克服する新しい正極活物質を開発する必要がある。
【0012】
特定の正極活物質は、前記活物質を含み、増強された湿度安定性を提供する、繰り返しの充放電サイクルで低下しない増強されたセル容量を提供することが発見された。
【発明の概要】
【0013】
したがって、本発明の目的は、以下の式(I)を有する正極活物質である。
NaLiMn1-y(I)、
式中、
xは、0.8から1の範囲の数であり、
yは、厳密に0より大きく1/3以下の数である。
【0014】
本発明の別の目的は、本発明の活物質の製造方法である。
【0015】
本発明の目的はまた、少なくとも1つの本発明による活物質を含む正極を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、本発明による電極を含むNaイオン電池セル、及び少なくとも1つのNaイオン電池セルを含むNaイオン電池である。
【0017】
本発明はまた、本発明による電極を含むLiイオン電池セル、及び本明細書において上記で定義した少なくとも1つのLiイオン電池セルを含むLiイオン電池に関する。
【0018】
本発明のさらなる利点及び特徴は、詳細な説明及び添付の図面を検討することによってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】充放電サイクル数に応じた、いくつかのNaイオン電池セルの容量を示すグラフである。
図2】充放電サイクル数に応じた、Naイオン電池セルの電圧を示すグラフである。
図3】2つの活物質の2つのディフラクトグラムを表す。
図4】2つの活物質の2つのディフラクトグラムを表す。
図5】2つの活物質の2つのディフラクトグラムを表す。
図6】容量に応じたLiイオン電池セルの電圧を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のこの説明で使用される「...から...」という表現は、言及された端末のそれぞれを含むものとして理解されるべきであることが明記されている。
【0021】
本発明による正極活物質は、本明細書上記の式(I)の材料である。
【0022】
好ましくは、yは0.1から1/3まで、好ましくは0.2から1/3まで変動し、より好ましくはyは1/3に等しい。
【0023】
本発明の特定の実施形態によれば、xは0.9から1まで変動し、好ましくはxは1に等しい。
【0024】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、上で定義される式(I)の材料は、式NaLi1/3Mn2/3を有する。
【0025】
本発明の目的はまた、本発明による活物質を製造するための方法を提供することであって、方法は
(a)少なくとも1つの遷移金属塩又は複数の遷移金属塩と、少なくとも1つのリチウム前駆体及び少なくとも1つのナトリウム前駆体とを混合する工程;
(b)工程(a)から得られた混合物を500~900℃の範囲の温度まで加熱する工程;
(c)前記材料を回収する工程、
を含む。
【0026】
好ましくは、遷移金属塩はマンガン塩である。
【0027】
有利には、リチウム前駆体は、酸化物、過酸化物、塩及びそれらの混合物から選択され、より好ましくは炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、硫酸リチウム、水酸化リチウム、LiO、Li及びそれらの混合物から選択される。
【0028】
特定の実施形態によれば、ナトリウム前駆体は、酸化物、過酸化物、塩及びそれらの混合物から選択され、より好ましくは、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ソーダ、NaO、Naから選択される。
【0029】
好ましい実施形態によれば、工程(a)から得られた混合物は、600~900℃の範囲の温度まで加熱される。
【0030】
好ましくは、工程(b)は、6時間~20時間、好ましくは6時間~16時間、より好ましくは6時間~12時間、特に好ましくは8時間の範囲の期間にわたって実施される。
【0031】
特定の実施形態によれば、工程(b)はアルゴン流下で実施される。
【0032】
有利には、工程(b)の後に冷却工程が続く。
【0033】
例えば、混合物をオーブン内で8時間700℃に加熱し、次いで300℃以下の温度に冷却し、次いでオーブンから取り出す。
【0034】
本発明の別の目的は、少なくとも1つの本発明による活物質を含む正極である。
【0035】
好ましくは、本発明による正極は、少なくとも1つの導電性化合物をさらに含む。
【0036】
特定の実施形態によれば、導電性化合物は、金属粒子、炭素、及びそれらの混合物から選択され、好ましくは炭素である。
【0037】
前記金属粒子は、銀、銅又はニッケル粒子であってもよい。
【0038】
炭素は、グラファイト、カーボンブラック、炭素繊維、カーボンナノワイヤ、カーボンナノチューブ、カーボンナノスフェア、好ましくはカーボンブラックの形態であり得る。
【0039】
特に、本発明による正極は、有利には、Timcalによって市販されているSuperP(登録商標)カーボンブラックを含む。
【0040】
好ましくは、本発明による活物質含有量は、正極の総重量に対して50重量%~90重量%、好ましくは70重量%~90重量%で変動する。
【0041】
有利には、導電性化合物の含有量は、正極の総重量に対して10重量%~50重量%、好ましくは10重量%~30重量%、より好ましくは15重量%~25重量%で変動する。
【0042】
本発明はまた、本発明による活物質を含む正極と、負極と、セパレータと、電解質とを含むNaイオン電池セルに関する。
【0043】
好ましくは、電池セルは、電極間に配置され、電気絶縁体として機能するセパレータを含む。いくつかの材料をセパレータとして使用することができる。セパレータは、一般に、多孔質ポリマー、好ましくはポリエチレン及び/又はポリプロピレンから構成される。それらはまた、ガラスマイクロファイバーから作製することもできる。
【0044】
有利には、使用されるセパレータは、Whatmanによって市販されているCAT番号1823-070(登録商標)ガラスマイクロファイバーセパレータである。
【0045】
好ましくは、前記電解質は液体である。
【0046】
この電解質は、1つ以上のナトリウム塩及び1つ以上の溶媒を含み得る。
【0047】
1つ以上のナトリウム塩は、NaPF、NaClO、NaBF、NaTFSI、NaFSI、及びNaODFBから選択することができる。
【0048】
1つ以上のナトリウム塩は、好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びメチルエチルカーボネートなどの極性非プロトン性溶媒から選択される1つ以上の溶媒に溶解される。
【0049】
有利には、電解質は、1Mナトリウム塩NaPFと混合したプロピレンカーボネートを含む。
【0050】
本発明の目的はまた、本明細書上記の少なくとも1つのセルを含むNaイオン電池を提供することである。
【0051】
本発明はまた、本発明による活物質を含む正極と、負極と、セパレータと、電解質とを含むLiイオン電池セルに関する。
【0052】
本発明の目的はまた、本明細書上記の少なくとも1つのセルを含むLiイオン電池を提供することである。
【0053】
本発明は、以下の実施例によって非限定的に説明される。
【実施例
【0054】
実施例1
Naイオン電気化学ハーフセルの調製
1.活物質の合成
1.1 活物質Na2/3Fe0.5Mn0.5の合成
777.30mgのFe、768.50mgのMn及び687.90mgの炭酸ナトリウムを添加する。3℃/分の速度で900℃まで温度を上げ、次いで900℃の炉内で12時間混合物を焼成する。次いで、混合物をオーブンから取り出す。
【0055】
この材料は、文献「P2-type Nax[Fe1/2Mn1/2]O made from earth-abundant elements for rechargeable Na batteries」、N.Yabuuchi et al.、Nature Materials、11、512~517(2012)に記載されている方法に従って合成される。
【0056】
この比較活物質は、材料Aとして知られている。
【0057】
1.2 活物質NaMnOの合成
1436.10mgのMn及び964.16mgの炭酸ナトリウムを添加する。3℃/分の速度で700℃まで温度を上げ、次いで700℃の炉内で10時間混合物を焼成する。次いで、混合物をオーブンから取り出す。
【0058】
この比較活物質は、材料Bとして知られている。
【0059】
1.3 活物質NaLi1/3Mn2/3の合成
1078.40mgのMn、103.00mgのLiO、及び809.50mgのNaを添加する。2℃/分の速度で700℃まで温度を上げ、次いで700℃の炉内で8時間、アルゴン流下で混合物を焼成する。次いで、混合物を1℃/分の速度で300℃まで冷却する。
【0060】
本発明によるこの活物質は、材料Cとして知られている。
【0061】
1.4 活物質NaLi0.2Mn0.8の合成
617.78mgのNaO、59.56mgのLiO、693.30mgのMnO2、及び629.40mgのMnを添加する。3℃/分の速度で600℃まで温度を上げ、次いで600℃の炉内で8時間、アルゴン流下で混合物を焼成する。次いで、混合物を1℃/分の速度で300℃まで冷却する。
【0062】
本発明によるこの活物質は、材料Dとして知られている。
【0063】
1.5 活物質NaLi0.1Mn0.9の合成
70.29mgのLiCO3、1488.60mgのMnO及び1008.21mgのNaCOを添加する。3℃/分の速度で900℃まで温度を上げ、次いで900℃の炉内で12時間、アルゴン流下で混合物を焼成する。次いで、混合物を1℃/分の速度で300℃まで冷却する。
【0064】
本発明によるこの活物質は、材料Eとして知られている。
【0065】
2.正極の調製
材料A、B及びCから3つの正極を調製し、それぞれEN-A、EN-B及びEN-Cと名付けた。正極EN-A,EN-Bは、比較電極である。正極EN-Cは、本発明による電極である。
【0066】
正極EN-Aは、空気へ曝露されることなくオーブンからグローブボックス内に直接移された80重量%の活物質Aと、20重量%のSuperP(登録商標)カーボンブラックとを混合し、次いで混合物を、SPEX 8000Mミキサーを使用して15分間粉砕することによって作製される。
【0067】
その他の正極EN-B、EN-Cは、それぞれ80重量%の活物質、B及びCと、20重量%のSuperP(登録商標)カーボンブラックとを混合し、次いで混合物を正極EN-Aと同様に粉砕することによって作製される。活物質Aと同様に、活物質B及びCは、空気へ曝露されることなく炉からグローブボックス内に直接移送された。
【0068】
3.電気化学ハーフセルの組み立て
次いで、正極EN-A~EN-Cをそれぞれ含む3つの電気化学ハーフセルを調製した。ハーフセルを、それぞれCE-A、CE-B及びCE-Cと名付ける。
【0069】
電気化学ハーフセルを、直径12mmのSwagelok(登録商標)コネクタで構成される装置を使用してグローブボックス内で組み立てる。各ハーフセルは、セパレータと、負極と、電解質とを含む。
【0070】
3.1 ハーフセルCE-Aの組み立て
正極
6mg質量の粉末の形態の電極EN-Aを、次いでハーフセルCE-Aに配置されたアルミニウムプランジャー上に広げる。
【0071】
セパレータ
CAT番号1823-070(登録商標)のガラスマイクロファイバーセパレータの3つの層を使用して、充放電サイクル中の正極と負極との間の短絡を防止する。これらのセパレータを直径12mm及び厚さ675ミクロンに切断する。
【0072】
負極
直径10mmのペレットをナトリウム金属のシートから切断する。次いで、得られたペレットをステンレス鋼集電体に押し付ける。次いで、この集電体をハーフセルの分離膜上に配置する。
【0073】
電解質
使用される電解質は、プロピレンカーボネートに溶解した1M NaPFで構成される溶液である。
【0074】
3.2 ハーフセルCE-B及びCE-Cの組み立て
正極
次いで、各々6mg質量の粉末の形態のEN-B及びEN-C電極をそれぞれ、ハーフセルCE-B及びCE-C内に配置されたアルミニウムプランジャー上に広げる。
【0075】
セパレータ、負極及び電解質は、ハーフセルCE-Aで使用されるものと同一である。
【0076】
II.電気工学試験
1.比較ハーフセルCE-A
定電流サイクリングを、BioLogicサイクラーを使用してC/8のサイクリング速度で行った。ハーフセルCE-Aのキャパシタンスは、図1に示すように、4.3~1.5Vの範囲の電圧でサイクル数に従って測定した。キャパシタンス傾向は、曲線Aに見ることができる。この材料の充電及び放電の電子窓は、文献「P2-type Nax[Fe1/2Mn1/2]O made from earth-abundant elements for rechargeable Na batteries」、N.Yabuuchi et al.、Nature Materials、11、512~517(2012)に記載されているものである。
【0077】
したがって、キャパシタンスの劣化を充放電サイクルで観測することができる。約145mAh.g-1のキャパシタンスが20サイクル後に、約106mAh.g-1が40サイクル後に測定される。
【0078】
2.比較ハーフセルCE-B
定電流サイクリングを、BioLogicサイクラーを使用してC/8のサイクリング速度で行った。ハーフセルCE-Bのキャパシタンスは、図1に示すように、3.8~2.0Vの範囲の電圧でサイクル数に従って測定した。キャパシタンスの傾向は曲線Bで見ることができる。この材料の充放電の電位窓は、文献「Electrochemical Properties of Monoclinic NaMnO」、X.Ma、H.Chen、G.Ceder、J.Electrochem.Soc.、158、A 1307(2011)に記載されているものである。
【0079】
したがって、非常に速いキャパシタンスの劣化を充放電サイクルで観測することができる。実際、わずか20回の充放電サイクルの後、測定されたキャパシタンスは、同じサイクル数の後のハーフセルCE-Aのキャパシタンスよりも既に低く、すなわち20サイクル後には約120mAh.g-1である。
【0080】
3.本発明によるハーフセルCE-C
定電流サイクリングを、BioLogicサイクラーを使用してC/8のサイクリング速度で行った。ハーフセルCE-Cのキャパシタンスは、図1に示すように、4.5~1.5Vの範囲の電圧でサイクル数に従って測定した。キャパシタンスの傾向は、曲線Cに見ることができる。
【0081】
このように、約170mAh.g-1のキャパシタンスが20サイクル後に、約173mAh.g-1が40サイクル後に測定される。
【0082】
ハーフセルCE-A及びCE-Bのキャパシタンスと比較して、本発明によるハーフセルCE-Cのキャパシタンスは、充放電サイクルにわたってより高く、より安定している。
【0083】
このように、本発明の活物質を含むハーフセルのキャパシタンスが向上する。
【0084】
さらに、図2に示すように、ハーフセルCE-Cの平均電位をサイクル数に従って測定した。平均電位の傾向は、曲線C1に見ることができる。
【0085】
ハーフセルCE-Cの平均電位は、充放電サイクルを繰り返しても低下せず、したがって安定していることが明らかである。
【0086】
実施例2
I.活物質の合成
活物質A、B及びCを、実施例1において上述した合成方法に従って合成する。
【0087】
II.湿度に対する感度の評価
1.比較材料A
合成後、図3(曲線A1)に示すように、材料Aをディフラクトグラムによって特徴付ける。
【0088】
図3(曲線A2)に示すように、水で洗浄した後の材料Aもまた、ディフラクトグラムによって特徴付けた。材料Aを、100mgの粉末に対して10mLの水の比率の水で30分間洗浄した後、80℃で一晩減圧乾燥した。
【0089】
この材料Aは、湿度に対して非常に敏感であることが観察される。実際、2つのディフラクトグラムは重ならない。図3において2つのディフラクトグラム間に記号#でマークされた相違を見ることができ、したがって構造の変化を示している。
【0090】
2.比較材料B
合成後、図4(曲線B1)に示すように、材料Bをディフラクトグラムによって特徴付ける。
【0091】
図4(曲線B2)に示すように、材料Bも、材料Aについて記載したものと同じプロトコールに従って水で洗浄した後、ディフラクトグラムによって特徴付けた。
【0092】
この材料Bは湿度に対して非常に敏感であり、材料Aよりもはるかに敏感であることも観察される。実際、2つのディフラクトグラムは全く重ならない。実際、2つのディフラクトグラム間に多くの相違を見ることができ、したがって構造の変化を示している。
【0093】
3.本発明による材料C
合成後、図5(曲線C2)に示すように、材料Cをディフラクトグラムによって特徴付ける。
【0094】
図5(曲線C3)に示すように、材料Cも、材料Aについて記載したものと同じプロトコールに従って水で洗浄した後、ディフラクトグラムによって特徴付けた。
【0095】
この材料が湿度に敏感でないことが明らかに観察される。実際、2つのディフラクトグラムは重なっている。
【0096】
したがって、本発明による材料は、先行技術の材料と比較して、湿度に対する向上した安定性を有する。
【0097】
実施例3
I.Liイオン電気化学ハーフセルの調製
本発明による材料C及び正極は、実施例1において上述した方法に従って製造した。
【0098】
ハーフセルを、直径12mmのSwagelok(登録商標)コネクタで構成される装置を使用してグローブボックス内で組み立てる。ハーフセルは、セパレータと、負極と、電解質とを含む。
【0099】
正極
6mg質量の粉末の形態の正極を、次いでハーフセルに配置されたアルミニウムプランジャー上に広げる。
【0100】
セパレータ
CAT番号1823-070(登録商標)のガラスマイクロファイバーセパレータの2つの層を使用して、充放電サイクル中の正極と負極との間の短絡を防止する。これらのセパレータを直径12mm及び厚さ675ミクロンに切断する。
【0101】
負極
直径10mmのペレットをリチウム金属のシートから切断する。次いで、得られたペレットをステンレス鋼集電体に押し付ける。次いで、この集電体をハーフセルの分離膜上に配置する。
【0102】
電解質
使用される電解質は、エチレンカーボネート及びジメチルカーボネートの50/50体積混合物に溶解した1M LiPFで構成される溶液を含む。
【0103】
II.電気化学試験
2~4.8Vの範囲の電圧での複数の充放電サイクルの適用を含むサイクリング法を、C/10のサイクリング速度で行った。
【0104】
図6(曲線C4)に示すように、キャパシタンスに従ってハーフセル電圧を測定した。
【0105】
このように、ハーフセルのキャパシタンスは、繰り返し充放電サイクルで安定していることが観察される。
【0106】
ハーフセルのキャパシタンスは、繰り返し充放電サイクルで低下しないことが観察される。
【0107】
したがって、本発明による材料Cは、適切な電気化学的挙動を有するLiイオン電池用の活物質であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】