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特表2023-505243自動車用の単安定結合システムおよびトルク伝達装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】自動車用の単安定結合システムおよびトルク伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 11/10 20060101AFI20230201BHJP
   F16D 23/04 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
F16D11/10 A
F16D23/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533492
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2020084602
(87)【国際公開番号】W WO2021110898
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】1913903
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1913900
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503041177
【氏名又は名称】ヴァレオ アンブラヤージュ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100217836
【弁理士】
【氏名又は名称】合田 幸平
(72)【発明者】
【氏名】エルベ、モーレル
【テーマコード(参考)】
3J056
【Fターム(参考)】
3J056AA04
3J056AA12
3J056AA20
3J056AA63
3J056BA06
3J056BB12
3J056BE06
3J056BE30
3J056GA05
3J056GA12
(57)【要約】
自動車のトルク伝達装置(10)用の結合システム(6)は、回転軸と平行な並進によって、後退位置から結合位置に移動することによって、2つの係合インターフェース(61、62)を結合するように意図される摺動スリーブ(63)を備える。静止位置と作動位置との間で移動可能な可動部材(651)を備えるアクチュエータ(65)は、回転運動のリンク(67)によって、および回転軸(100)の周りに回転するように固定された弾性戻り部材(66)によって、摺動スリーブ(63)に連結されており、可動部材(651)は、運動のリンク(67)によって、摺動スリーブ(63)を後退位置から結合位置に駆動し、静止位置から作動位置まで通過することによって弾性戻り部材(66)を付勢することができ、弾性戻り部材(66)は、付勢解除しながら、運動のリンク(67)によって、可動部材(651)を作動位置から静止位置に、および摺動スリーブ(63)を結合位置から後退位置に戻すことができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合システム(6)であって、
固定基準系の回転軸(100)の周りに回転可能な第1の係合インターフェース(61)、および前記固定基準系の前記回転軸(100)の周りに前記第1の係合インターフェース(61)に対して回転可能な第2の係合インターフェース(62)と、
前記第1および第2の係合インターフェース(61、62)の一方と係合した中間係合インターフェース(64)を含む摺動スリーブ(63)であって、前記摺動スリーブ(63)は、前記回転軸と平行な並進によって、前記中間係合インターフェース(64)が前記第1および第2の係合インターフェース(61、62)の他方と係合していない後退位置から、前記中間係合インターフェース(64)が前記第1および第2の係合インターフェース(61、62)の一方および他方と係合し、前記第1の係合インターフェース(61)と前記第2の係合インターフェース(62)との間に回転結合を作り出す結合位置まで、移動することができる、摺動スリーブ(63)と、
前記固定基準系内の固定支持体(650)と可動部材(651)とを備えるアクチュエータ(65)であって、前記可動部材(651)は、静止位置と作動位置との間で前記回転軸(100)と平行に並進運動可能である、アクチュエータ(65)と、
前記回転軸(100)の周りの回転の自由度を有する、前記可動部材(651)と前記摺動スリーブ(63)との間の回転運動のリンク(67)と、
を備え、
前記アクチュエータ(65)は、前記固定基準系の前記回転軸(100)の周りに回転するように固定された弾性戻り部材(66)を備え、前記可動部材(651)は、前記運動のリンク(67)によって、前記摺動スリーブ(63)を前記後退位置から前記結合位置に駆動して、前記静止位置から前記作動位置まで通過することによって前記弾性戻り部材(66)を付勢することができ、前記弾性戻り部材(66)は、付勢解除しながら、前記運動のリンク(67)によって、前記可動部材(651)を前記作動位置から前記静止位置に、および前記摺動スリーブ(63)を前記結合位置から前記後退位置に戻すことができることを特徴とする、結合システム(6)。
【請求項2】
前記可動部材(651)は、前記固定基準系の前記回転軸(100)の周りに回転するように固定されている、請求項1に記載の結合システム(6)。
【請求項3】
前記弾性戻り部材(66)の一端は、前記固定支持体(650)に固定された支持体(656)に対して当接していることを特徴とする、請求項1または2に記載の結合システム(6)。
【請求項4】
前記固定支持体は、前記第2の係合インターフェース(62)に向かって軸方向に面する前面を有する本体を備え、ロッド(655)がこの前面から軸方向に突出し、各ロッドは前記支持体(656)が形成されるヘッド(656)を備え、前記弾性戻り部材(66)は、前記ヘッド(656)と前記運動のリンク(67)との間で軸方向に把持されたばね(660)を備えることを特徴とする、請求項3に記載の結合システム(6)。
【請求項5】
前記運動のリンク(67)は、前記可動部材(651)と前記弾性戻り部材(66)との間に中間押しロッド(670)を備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の結合システム(6)。
【請求項6】
前記押しロッド(670)は、前記回転軸(100)の周りに回転するように固定され、前記可動部材(651)および前記弾性戻り部材(66)に対して軸方向に当接していることを特徴とする、請求項5に記載の結合システム(6)。
【請求項7】
前記押しロッドは、前記回転軸(100)の周りの回転ガイドまたはピボット接続部によって前記摺動スリーブ(63)に連結されていることを特徴とする、請求項5または6に記載の結合システム(6)。
【請求項8】
前記押しロッド(670)は、前記ばね(660)が当接するカラーを備え、前記カラーには開口部が形成されており、前記ロッド(655)が前記押しロッド(670)を軸方向に案内するように、前記ロッド(655)は、これらの開口部を貫通することを特徴とする、請求項4に従属する請求項5から7のいずれか一項に記載の結合システム(6)。
【請求項9】
前記回転ガイドまたは前記ピボット接続部は、少なくとも1つの環状パッド(672)を備え、前記環状パッド(672)は、少なくとも部分的に、前記摺動スリーブ(63)の2つの対向壁の間に位置決めされることを特徴とする、請求項5から10のいずれか一項に記載の結合システム(6)。
【請求項10】
前記環状パッド(672)は、少なくとも部分的に、前記押しロッド(670)の2つの対向壁の間に位置決めされることを特徴とする、請求項11に記載の結合システム(6)。
【請求項11】
前記可動部材(651)は、油圧供給ライン(653)に接続された、前記固定支持体(650)の可変容積環状チャンバ(652)内を軸方向に摺動することができる環状ピストン(651)を備えることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の結合システム(6)。
【請求項12】
前記結合システム(6)は、前記第1の係合インターフェース(61)と前記第2の係合インターフェース(62)との間で軸方向に介在して、少なくとも1つの同期リング(680)を含む同期装置(68)を含み、前記後退位置にある前記摺動スリーブ(63)は、前記同期リング(680)を駆動せず、前記摺動スリーブ(63)は、軸方向並進中に前記後退位置から前記結合位置に移動している間、前記中間係合インターフェース(64)が前記同期リング(680)の同期係合インターフェース(682)に係合されて、前記第1の係合インターフェース(61)と前記同期リング(680)との間に回転結合を作り出す中間同期位置を通過することができ、前記同期リング(680)は、前記回転軸(100)の周りに前記第2の係合インターフェース(62)に対して回転することができ、摩擦によって、前記第2の係合インターフェース(62)を駆動するためのトルクを生成することを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の結合システム(6)。
【請求項13】
前記結合システムは、
前記回転軸(100)の周りに回転することが可能な伝達シャフト(5)であって、前記第1の係合インターフェース(61)が前記伝達シャフト(5)に固定されている、伝達シャフト(5)と、
前記回転軸(100)の周りに前記伝達シャフト(5)に対して回転することが可能な空転伝達ホイール(43)であって、前記第2の係合インターフェース(62)が前記空転伝達ホイール(43)に固定されている、空転伝達ホイール(43)と、
を備えることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の結合システム(6)。
【請求項14】
少なくとも1つのモータ(4)を備える自動車用のトルク伝達装置(10)であって、前記伝達装置は、
第1の入力要素(41)および第2の入力要素(51)と、
請求項13に記載の結合システム(6)と、
第1の一定のギア比にしたがって、前記第1の入力要素(41)の回転運動を前記空転伝達ホイール(43)に恒久的に伝達するように配置された、第1の伝達機構(11)と、
前記第1のギア比とは異なる第2の一定のギア比にしたがって、前記第2の入力要素(51)と前記伝達シャフト(5)との間での回転運動を恒久的に伝達するように配置された、第2の伝達機構(12)と、
を備える、トルク伝達装置(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、より具体的には、ただし排他的ではないが、電動またはハイブリッド車両用、特に電気自動車またはハイブリッド自動車用のトルク伝達装置に組み込まれるように意図された、結合システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、より具体的には、ハイブリッド車両および電動車両に適用される。電動モータの速度は、特に二速度電気伝達線の場合、毎分15000回転以上の高速であり得る。
【0003】
速度およびトルクを調整するために、電動モータの使用は一般に、各ホイールで所望の速度およびトルク出力レベルを達成することを可能にする減速装置と、横方向に対向する2つのホイールの間で速度を変化させるための差動装置と、を含む変速機を必要とする。
【0004】
異なる車両速度に適合するために、減速装置上で所望の減速比を選択することを可能にするクラッチを使用することが知られている。このような装置は、例えば、ドイツ特許第102016202723号明細書に開示されている。
【0005】
この装置は、他のクラッチが閉じているときに開いているクラッチのうちの1つに引きずりトルクが発生するため、効率の点では不十分である。この引きずりトルクは、クラッチが湿っているとき、特に有害である。
【0006】
加えて、この装置のクラッチは比較的高いトルクを伝達するが、このことは、クラッチがかなりのサイズおよび重量でなければならず、したがってクラッチに関連するフットプリントが大きくなることを意味する。
【0007】
フランス特許出願1901916号明細書は、まだ公開されていないが、少なくとも1つのモータを備える車両用のトルク伝達装置を提案しており、トルク伝達装置は、
モータによって駆動されることが可能な第1の入力要素と第1の出力要素とを備える第1のクラッチであって、第1のクラッチが閉じているときに第1の入力要素と第1の出力要素との間でトルクが伝達される、第1のクラッチと、
モータによって駆動されることが可能な第2の入力要素と第2の出力要素とを備える第2のクラッチであって、第2のクラッチが閉じているときに第2の入力要素と第2の出力要素との間でトルクが伝達される、第2のクラッチと、
伝達部材と、
第1のギア比にしたがって、第1の出力要素と伝達部材との間でトルクを伝達するように配置された第1の伝達機構と、
第1のギア比とは異なる第2のギア比にしたがって、第2の出力要素と伝達部材との間でトルクを伝達するように配置された第2の伝達機構と、
第1の伝達機構によって、第1のクラッチの第1の出力要素と伝達部材との間の相互回転駆動を許可または中断するように配置された接続要素と、
を備える。
【0008】
少なくとも2つのギア比の使用により、高い始動トルクおよび最高速度を両立させ、結果的に車両が高速に達するのに必要な時間を短縮することができる。電動モータによる2つのギア比の選択は、変速機の複雑さ、動的性能、車両の消費、および電動モータのサイズの間に良好な折衷案を提供する。
【0009】
クラッチ、特に漸進的なマルチディスククラッチの使用もまた、知覚可能な加速度の変化とともに、突然のギアチェンジを回避することによって、ユーザの快適性を確保することを可能にする。
【0010】
加えて、接続要素は、第2のクラッチが閉じているときに、第1のクラッチの出力要素、特に第1のクラッチの出力摩擦ディスクの駆動を中断することを可能にし、これにより、第2のクラッチが閉じているときの第1のクラッチの引きずりトルクを大幅に制限、またはなくすことによって、エネルギー効率を向上させることができる。
【0011】
しかしながら、接続要素の統合は、コンパクトで効率的なアクチュエータを必要とする。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、最新技術の欠点を克服し、提案することを目的とする。
【0013】
これを行うために、本発明の第1の態様によれば、結合システムであって、
固定基準系の回転軸の周りに回転可能な1の係合インターフェース、および固定基準系の回転軸の周りに第1の係合インターフェースに対して回転可能な第2の係合インターフェースと、
第1および第2の係合インターフェースの一方と係合した中間係合インターフェースを含む摺動スリーブであって、摺動スリーブは、回転軸と平行な並進によって、中間係合インターフェースが第1および第2の係合インターフェースの他方と係合していない後退位置から中間係合インターフェースが第1および第2の係合インターフェースの一方および他方と係合し、第1の係合インターフェースと第2の係合インターフェースとの間に回転結合を作り出す結合位置まで移動することができる、摺動スリーブと、
固定基準系内の固定支持体と可動部材とを備えるアクチュエータであって、可動部材は、静止位置と作動位置との間で回転軸と平行に並進運動可能である、アクチュエータと、
回転軸の周りの回転の自由度を有する、可動部材と摺動スリーブとの間の回転運動のリンクと
を含む結合システムが提供される。
【0014】
本発明によれば、アクチュエータは、固定基準系内の回転軸の周りに回転するように固定された弾性戻り部材を備え、可動部材は、運動のリンクによって、摺動スリーブを後退位置から結合位置に駆動し、静止位置から作動位置まで通過することによって弾性戻り部材を付勢することができ、弾性戻り部材は、付勢解除しながら、運動のリンクによって、可動部材を作動位置から静止位置に、および摺動スリーブを結合位置から後退位置に戻すことができる。
【0015】
弾性戻り部材は、3つの係合インターフェースによって形成されたドッグクラッチに「常時開」結合機能を与える。単安定アクチュエータの実装により、コンパクトで単純化されたアクチュエータを有することが可能である。弾性戻り部材は、結合段階中に結合システムの過渡トルクを制限する、加速されなければならない回転ユニットの部分を、各結合部に形成しない。アクチュエータの可動部材は、いずれの回転質量の慣性モーメントにも寄与しないように、それ自体が好ましくは回転軸の周りにも回転するように固定される。
【0016】
実際には、第1の係合インターフェースおよび第2の係合インターフェースは、中間係合インターフェースの歯が軸方向に摺動する、同一のピッチを有するスプラインで構成されている。しかしながら、当業者は、より一般的には、単一のスプライン内で摺動することができる中間係合インターフェース上、または第1の係合インターフェースおよび第2の係合インターフェースの単一の歯の上では、単一の歯またはスプラインで十分であることを理解するだろう。
【0017】
弾性戻り部材は、回転軸の周りに均等に分布した1つ以上のばね、特にその軸が回転軸と平行かつ回転軸から分離した螺旋ばねからなってもよい。
【0018】
一実施形態によれば、第2の係合インターフェースは、第1の係合インターフェースの軸方向延長部に配置される。第1および第2の係合インターフェースのスプラインの歯は、軸方向に延在する。
【0019】
一実施形態によれば、可動部材は、固定基準系内の回転軸の周りに回転するように固定される。
【0020】
一実施形態によれば、弾性戻り部材の一端は、固定支持体に固定された支持体に対して当接する。実際には、好ましくは、固定支持体は、第2の係合インターフェースに向かって軸方向に面する前面を有する本体を備え、ロッドがこの前面から軸方向に突出し、各ロッドは支持体が形成されるヘッドを備え、弾性戻り部材は、ヘッドと運動のリンクとの間で軸方向に把持されたばねを備える。
【0021】
一実施形態によれば、ロッドは、固定支持体の本体の雌ねじにねじ込まれるねじ付き端部を有する。ばねは、ロッドの周りに実装することができる。
【0022】
一実施形態では、運動のリンクは、可動部材と弾性戻り部材との間に中間押しロッドを備える。
【0023】
押しロッドは、回転軸の周りに回転するように固定される。
【0024】
押しロッドは、可動部材および弾性戻り部材に対して軸方向に当接する。
【0025】
押しロッドは、回転軸の周りの回転ガイドまたはピボット接続部によって摺動スリーブに連結される。
【0026】
適切であれば、押しロッドは、ばねが当接するカラーを備え、カラーには開口部が形成されており、ロッドが押しロッドを軸方向に案内するように、ロッドは、これらの開口部を貫通する。
【0027】
特に単純な実施形態によれば、回転ガイドは、軸方向遊びの有無にかかわらず、回転軸100の周りのピボット接続部を提供する。
【0028】
これは、例えば、双方向軸力吸収を伴う玉軸受によって構成されたピボット接続部であってもよい。
【0029】
あるいは、回転運動のリンクは、摺動スリーブと回転ガイド(またはピボット接続部)との間に回転軸と平行な寸法構成並進遊びを有し、この遊びは、静止位置と作動位置との間のストロークの100分の1より大きく10分の1未満の大きさを有する。すると遊びは、回転案内またはピボット接続部、特に押しロッドを形成する部分がシステムの安定位置で動作しておらず、引きずりトルクをさらに低下させることを想定できるようにする。
【0030】
特に有利な実施形態によれば、回転ガイドまたはピボット接続部は、少なくとも1つの環状パッドを備え、環状パッドは、少なくとも部分的に、好ましくは環状である摺動スリーブの2つの対向壁の間に位置決めされる。
【0031】
一実施形態によれば、摺動スリーブの2つの対向壁は、パッドの環状溝に入る、摺動スリーブの環状径方向リブ上に形成することができる。
【0032】
あるいは、好ましくは、摺動スリーブの対向壁は、摺動スリーブに形成された環状溝の対向する側面で構成することができ、パッドは少なくとも部分的にこの中に係合される。
【0033】
好ましくは、環状パッドは、好ましくは環状である、押しロッドの2つの対向壁の間に、少なくとも部分的に位置決めされる。
【0034】
一実施形態によれば、押しロッドの2つの対向壁は、パッドの環状溝に入る、押しロッドの環状径方向リブ上に形成される。
【0035】
あるいは、好適な実施形態によれば、押しロッドの対向壁は、押しロッドに形成された環状溝の対向する側面で構成することができ、パッドは少なくとも部分的にこの中に係合される。
【0036】
環状パッドは、低摩擦係数のプラスチック材料で、必要であれば固体潤滑剤で満たされた材料で、作ることができる。好ましくは、環状パッドと摺動スリーブの環状溝の対向壁との間で軸方向に遊びが維持される。あるいは、または追加で、環状パッドと押しロッドの環状溝の対向壁との間で軸方向に遊びが維持されてもよい。
【0037】
アクチュエータは、適切であれば、電気機械式であってもよい。あるいは、好ましくは、可動部材は、油圧供給ラインに接続された、固定支持体の可変容積環状チャンバ内で軸方向に摺動することが可能な環状ピストンを備える。油圧駆動装置は、非常に低コストで優れたコンパクトさを保証する。環状チャンバ内で摺動するピストンによって形成された油圧シリンダは一方向であり、静止位置への復帰は弾性戻り部材によって保証される。
【0038】
一実施形態によれば、第1の係合インターフェースと第2の係合インターフェースとの間には、少なくとも1つの同期リングを含む同期装置が軸方向に介在しており、後退位置にある摺動スリーブは同期リングを駆動せず、摺動スリーブは、軸方向並進中に後退位置から結合位置に移動している間、中間係合インターフェースが同期リングの同期係合インターフェース内に係合され、第1の係合インターフェースと同期リングとの間に回転結合を作り出す中間同期位置を通過することができ、同期リングは、回転軸の周りに第2の係合インターフェースに対して回転することができ、摩擦によって、第2の係合インターフェースを駆動するためのトルクを生成する。同期装置は、過渡的な結合段階における第2の係合インターフェースの漸進的な始動を可能にし、中間係合インターフェースと第1および第2の係合インターフェースの他方との間のトルクスパイクおよび過剰な衝撃を回避する。
【0039】
一実施形態によれば、押しロッドは、パッドが軸方向にクランプされた状態で保持される環状溝を確定する2つの隣接するカバーを備える。
【0040】
実際には、結合システムは、
回転軸の周りに回転することが可能な伝達シャフトであって、第1の係合インターフェースが伝達シャフトに固定されている、伝達シャフトと、
回転軸の周りに伝達シャフトに対して回転することが可能な空転伝達ホイールであって、第2の係合インターフェースが空転伝達ホイールに固定されている、空転伝達ホイールと、
を備える。
【0041】
本発明の別の態様によれば、後者は、少なくとも1つのモータを備える自動車用のトルク伝達装置であって、伝達装置は、
第1の入力要素および第2の入力要素と、
上述のような結合システムと、
第1の一定のギア比にしたがって、第1の入力要素の回転運動を空転伝達ホイールに恒久的に伝達するように配置された、第1の伝達機構と、
第1のギア比とは異なる第2の一定のギア比にしたがって、第2の入力要素と伝達シャフトとの間で回転運動を恒久的に伝達するように配置された、第2の伝達機構と、
を備える伝達装置に関する。
【0042】
このような伝達装置は特に、例えば毎分15000回転以上の、電動モータのロータの高回転速度を特徴とする、ハイブリッド車両および電動車両に適用することができる。上述のように、少なくとも2つのギア比の使用により、高い始動トルクおよび最高速度を両立させることができる。
【0043】
実際には、第1のギア比は、歩行速度での始動または走行の短い移行段階の間だけ使用されるように意図され、第2の比は、他のすべての状況で牽引力を提供するように意図されている。
【0044】
好ましくは、トルク伝達装置は、閉状態で、駆動シャフトと第2の入力要素との間でトルクを伝達することができる少なくとも1つのクラッチをさらに備える。
【0045】
一実施形態によれば、トルク伝達装置は、閉状態で、モータの駆動シャフトと第1の入力要素との間でトルクを伝達することができる別のクラッチと、好ましくは、別のクラッチが閉じているときに可動部材が結合位置にあり、別のクラッチが開いているときに可動部材が静止位置にあるようにアクチュエータを制御するための制御部と、をさらに備える。
【0046】
あるいは、駆動シャフトと第1の入力要素との間の伝達は直接的であり、結合機能は結合システムによってのみ実行される。
【0047】
これらの配置は、第2のクラッチが閉じているときに第1のクラッチおよび結合システムの構成要素を駆動することを回避することによって、良好なエネルギー効率を保証することを可能にする。
【0048】
本発明はまた、結合システムであって、
固定基準系の回転軸の周りに回転することができる第1の係合インターフェース、および固定基準系の回転軸の周りに第1の係合インターフェースに対して回転することができる第2の係合インターフェースと、
第1および第2の係合インターフェースの一方と係合した中間係合インターフェースを含む第1および第2の係合インターフェースの一方と係合した中間係合インターフェースを含む摺動スリーブであって、摺動スリーブは、回転軸と平行な並進によって、中間係合インターフェースが第1および第2の係合インターフェースの他方と係合していない後退位置から、中間係合インターフェースが第1および第2の係合インターフェースの他方と係合し、第1の係合インターフェースと第2の係合インターフェースとの間に回転結合を作り出す結合位置まで、移動することができる、摺動スリーブと、
固定支持体および可動部材を備えるアクチュエータであって、可動部材は、静止位置と作動位置との間で回転軸と平行に並進運動可能である、アクチュエータと、
回転軸の周りの回転の自由度を有する、可動部材と摺動スリーブとの間の回転運動のリンクと、
を備える結合システムにも関する。
【0049】
この発明によれば、運動のリンクは、固定基準系内の回転軸の周りに回転するように固定された押しロッドと、環状パッドとを備え、環状パッドは、押しロッドの軸方向並進運動を回転軸と平行な2つの対向する方向で環状パッドに伝達できるように、押しロッドの2つの対向壁と軸方向に協働することが可能であり、環状パッドは、環状パッドの軸方向並進運動を2つの対向する方向で摺動スリーブに伝達できるように、摺動スリーブの2つの対向壁と軸方向に協働することが可能であり、環状パッドは、可動部材が静止位置から作動位置に通過するとき、環状パッドが、押しロッドの対向する面のうちの1つおよび摺動スリーブの対向する面のうちの1つに対して当接し、摺動スリーブを後退位置から結合位置に駆動するように、摺動スリーブに対して回転軸の周りに自由に回転する。
【0050】
実際には、第1の係合インターフェースおよび第2の係合インターフェースは、中間係合インターフェースの歯が軸方向に摺動する、同一のピッチを有する環状スプラインで構成されている。しかしながら、当業者は、より一般的には、単一のスプライン内で摺動することができる中間係合インターフェース上、または第1の係合インターフェースおよび第2の係合インターフェースの単一の歯の上では、単一の歯またはスプラインで十分であることを理解するだろう。
【0051】
回転運動のリンクの構造は、回転軸の周りの回転運動の伝達なしに並進運動の伝達の機能を非常に単純に提供することを可能にする。
【0052】
特に有利な実施形態によれば、静止位置と作動位置との間のストロークの100分の1より大きく10分の1未満の大きさを有する、回転軸と平行な寸法構成並進遊びが、環状パッドと摺動スリーブの対向壁との間で軸方向に維持される。この遊びは、後退位置から結合位置への移動の移行段階におけるパッドと摺動スリーブの対向する面との間の相互作用を制限することを可能にする。結合位置と同様に後退位置において、摺動スリーブは、並進的に固定された位置決めを見つけ、パッドが摺動スリーブの2つの対向する面から一定距離にあるような位置に位置決めされる。したがって、回転運動のリンクによって誘発された残留引きずりトルクは大幅に減少する。このパッドの自動センタリングは、部品が油槽内にあり、パッドと摺動スリーブの対向する面との間に油膜が形成されるという事実によって促進される。
【0053】
一実施形態によれば、押しロッドの2つの対向壁は、パッドの環状溝に入る、押しロッドの環状径方向リブ上に形成される。あるいは、好適な実施形態によれば、押しロッドの2つの対向壁は、押しロッドの環状溝の側面に形成される。
【0054】
同様に、摺動スリーブの2つの対向壁は、パッドの環状溝に入る、摺動スリーブの環状径方向リブ上に形成することができる。あるいは、好ましくは、摺動スリーブの2つの対向壁は、摺動スリーブの環状溝の側面に形成されることも可能である。
【0055】
一実施形態によれば、環状パッドは、実質的に正方形または長方形の軸方向断面を有する。
【0056】
一実施形態によれば、押しロッドおよび可動部材は、モノブロックユニットを構成し、一体に形成されるかまたは互いに固定されてもよい。別の実施形態によれば、2つの部品は別個であり、押しロッドは可動部材に対して当接する。
【0057】
一実施形態によれば、可動部材は、油圧供給ラインに接続された、固定支持体の可変容積環状チャンバ内で軸方向に摺動することができる環状ピストンを備える。アクチュエータは、適切であれば、完全に環状であってもよく、これにより、本発明による結合システムが組み込まれたトルク伝達装置の伝達シャフトがアクチュエータを横切ることが可能となる。あるいは、アクチュエータは、トルク伝達装置の伝達シャフトの一端を収容するために、底部によって閉じられた空洞を確定してもよい。いずれの場合も、回転している伝達シャフトを案内するための滑り軸受または転がり軸受を空洞内に収容するために、アクチュエータの固定支持体の環状形状を利用することが可能である。
【0058】
一実施形態によれば、結合システムは、回転軸の周りに回転するように固定された弾性戻り部材を備え、可動部材は、押しロッドを介して、静止位置から作動位置に通過することによって弾性戻り部材を付勢することができ、弾性戻り部材は、押しロッドによって、付勢解除することで、可動部材を作動位置から静止位置に、および摺動スリーブを結合位置から後退位置に戻すことができる。
【0059】
好ましくは、弾性戻り部材の一端は、固定支持体に固定された支持体に対して当接する。
【0060】
アクチュエータの弾性部材は、3つの係合インターフェースによって形成されたドッグクラッチに「常時開」結合機能を与える。弾性戻り部材は、結合段階中に結合システムの過渡トルクを制限する、加速されなければならない回転ユニットの部分を、各結合部に形成しない。アクチュエータの可動部材は、いずれの回転質量の慣性モーメントにも寄与しないように、それ自体が好ましくは回転軸の周りにも回転するように固定される。
【0061】
弾性戻り部材は、回転軸の周りに均等に分布した1つ以上のばね、特にその軸が回転軸と平行かつ回転軸から分離した螺旋ばねからなってもよい。
【0062】
一実施形態によれは、結合システムは、第1の係合インターフェースと第2の係合インターフェースとの間で軸方向に介在して、少なくとも1つの同期リングを含む同期装置を含み、後退位置にある摺動スリーブは同期リングを駆動せず、摺動スリーブは、軸方向並進中に後退位置から結合位置に移動している間、中間係合インターフェースが同期リングの同期係合インターフェース内に係合され、第1の係合インターフェースと同期リングとの間に回転結合を作り出す中間同期位置を通過することができ、同期リングは、回転軸の周りに第2の係合インターフェースに対して回転することができ、摩擦によって、第2の係合インターフェースを駆動するためのトルクを生成する。同期装置は、過渡的な結合段階における第2の係合インターフェースの漸進的な始動を可能にし、中間係合インターフェースと第1および第2の係合インターフェースの他方との間のトルクスパイクおよび過剰な衝撃を回避する。
【0063】
実際には、結合システムは、
回転軸の周りに回転することが可能な伝達シャフトであって、第1の係合インターフェースが伝達シャフトに固定されている、伝達シャフトと、
回転軸の周りに伝達シャフトに対して回転することが可能な空転伝達ホイールであって、第2の係合インターフェースが空転伝達ホイールに固定されている、空転伝達ホイールと、
を備える。
【0064】
本発明の別の態様によれば、後者は、少なくとも1つのモータを備える自動車用のトルク伝達装置であって、伝達装置は、
第1の入力要素および第2の入力要素と、
上述のような結合システムと、
第1の一定のギア比にしたがって、第1の入力要素の回転運動を空転伝達ホイールに恒久的に伝達するように配置された、第1の伝達機構と、
第1のギア比とは異なる第2の一定のギア比にしたがって、第2の入力要素と伝達シャフトとの間で回転運動を恒久的に伝達するように配置された、第2の伝達機構と、
を備える伝達装置に関する。
【0065】
このような伝達装置は特に、例えば毎分15000回転以上の、電動モータのロータの高回転速度を特徴とする、ハイブリッド車両および電動車両に適用することができる。上述のように、少なくとも2つのギア比の使用により、高い始動トルクおよび最高速度を両立させることができる。
【0066】
実際には、第1のギア比は、歩行速度での始動または走行の短い移行段階の間だけ使用されるように意図され、第2の比は、他のすべての状況で牽引力を提供するように意図されている。
【0067】
好ましくは、トルク伝達装置は、閉状態で、駆動シャフトと第2の入力要素との間でトルクを伝達することができる少なくとも1つのクラッチをさらに備える。
【0068】
一実施形態によれば、トルク伝達装置は、閉状態で、モータの駆動シャフトと第1の入力要素との間でトルクを伝達することができる別のクラッチと、好ましくは、別のクラッチが閉じているときに可動部材が結合位置にあり、別のクラッチが開いているときに可動部材が静止位置にあるようにアクチュエータを制御するための制御部と、をさらに備える。
【0069】
あるいは、駆動シャフトと第1の入力要素との間の伝達は直接的であり、結合機能は結合システムによってのみ実行される。
【0070】
これらの配置は、第2のクラッチが閉じているときに第1のクラッチおよび結合システムの構成要素を駆動することを回避することによって、良好なエネルギー効率を保証することを可能にする。
【0071】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の添付図面を参照して、以下の説明を読むことで明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】結合システムの後退位置にある、本発明の一実施形態による結合システムを組み込んだトルク伝達システムの図4の線I-Iに沿った断面図である。
図2】結合システムの後退位置にある、図1のトルク伝達システムの図4の線IIに沿った別の断面図である。
図3図2の詳細を示す図である。
図4図1のトルク伝達システムの正面図である。
図5】結合システムの結合位置にある、図1のトルク伝達システムの断面図である。
図6】結合システムの結合位置にある、図1のトルク伝達システムの別の断面図である。
図7図6の詳細を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
より明確にするために、同一または類似の要素は、全ての図において同一の参照符号を使用して識別される。
【0074】
説明および請求項において、「外部」および「内部」という用語、ならびに「軸方向」および「径方向」という配向は、説明において与えられた定義にしたがって伝達装置の要素を示すために使用される。慣例により、「径方向」の配向は、軸方向の配向に直交する。軸方向の配向は、文脈に応じて、シャフトのうちの1つ、例えばモータの出力シャフトまたは伝達シャフト5の回転軸に関連する。「周方向」の配向は、軸方向に直交し、径方向に直交する。「外部」および「内部」という用語は、基準軸に対して、1つの要素の他の要素に対する相対位置を定義するために使用され、したがって軸に近い要素は、径方向で周囲に位置する外部要素とは対照的に、内部として記載される。
【0075】
伝達装置の異なる部材は各々、入力要素とも呼ばれるトルク入力と、出力要素とも呼ばれるトルク出力とを有する。入力は、運動学的観点から、モータ側に位置し、出力は、車両のホイールの側に位置している。
【0076】
図1は、車両を推進することができる自動車の電動モータ4と、トルク伝達アセンブリと、を備えるトルク伝達システムを示している。
【0077】
トルク伝達アセンブリは、伝達装置10と、車両の2つの横方向に対向するホイール、または2組の駆動される前輪および後輪を駆動することができる差動装置7と、を含んでいる。トルク伝達装置10は、差動装置7に結合された出力部材9を備えている。
【0078】
先のフランス特許出願1901916号明細書で前述されたように、トルク伝達装置10は、
モータ4によって駆動されることが可能な第1の入力要素と第1の出力要素とを備える第1のクラッチ1であって、第1のクラッチが閉じているときに第1の入力要素と第1の出力要素との間でトルクが伝達される、第1のクラッチ1と、
モータによって駆動されることが可能な第2の入力要素と第2の出力要素とを備える第2のクラッチ2であって、第2のクラッチが閉じているときに第2の入力要素と第2の出力要素との間でトルクが伝達される、第2のクラッチ2と、
伝達部材と、
この場合には伝達シャフトである伝達部材5と、
第1のギア比にしたがって、第1の出力要素と伝達部材5との間でトルクを伝達するように配置された第1の伝達機構11と、
第1のギア比とは異なる第2のギア比にしたがって、第2の出力要素と伝達部材5との間でトルクを伝達するように配置された第2の伝達機構12と、
第1の伝達機構11によって、第1のクラッチ1の第1の出力要素と伝達部材5との間の相互回転駆動を許可または中断するように配置された結合システム6と、
を含んでいる。
【0079】
ギア比は、伝達機構の出力における速度と伝達機構の入力における速度との間の比を意味するように与えられる。
【0080】
第1のクラッチ1の第1の入力要素および第2のクラッチ2の第2のクラッチ2は、この場合はモータ4の出力シャフトである、共通のトルク入力シャフト8によって駆動されるように配置されている。クラッチ1および2は、減速装置の前に、モータ4のできるだけ近くに運動学的に配置されており、このことは、2つのクラッチが、伝達線のトルクが最も低い部分に配置されることを意味している。特に漸進摩擦クラッチの場合、この配置により、クラッチのコンパクトさを改善することができる。好ましくは、第1のクラッチ1は漸進摩擦クラッチであり、第2のクラッチ2も漸進摩擦クラッチである。したがって、ギアチェンジは、突然の加速なしに滑らかで漸進的であり得る。漸進クラッチは、その伝達可能なトルクを漸進的に制御することができるクラッチを意味するために与えられる。適切であれば、第1のクラッチ1および第2のクラッチ2は、ともにデュアルクラッチを形成することができる。
【0081】
トルク伝達装置の出力においてトルクを増加させ、回転速度を低下させるために、この場合、差動装置7の入力に配置された歯車70と噛み合う出力部材9を形成するピニオンによって、出力部材9および差動装置7によって減速機14が形成される。
【0082】
結合システム6は、第1のクラッチ1が閉じているときには、第1の伝達機構11によって、第1のクラッチ1の第1の出力要素と伝達シャフト5との間の相互回転駆動を許可し、第1のクラッチが開いて第2のクラッチが閉じているときには、第1の伝達機構11によって、第1のクラッチ1の第1の出力要素と伝達シャフト5との間の相互回転駆動を中断するように配置される。
【0083】
結合システムは、伝達シャフト5と第1の伝達機構11との間の相互駆動を直接的に許可または中断するように配置される。不必要に第1の伝達機構を駆動することを回避することによって、第1の伝達機構の効率の有害な損失が回避されるが、この損失は、特に回転伝達要素のはねかけ注油に関連している可能性がある。
【0084】
第1の伝達機構11は、減速ギア列である。第2の伝達機構12もまた減速ギア列である。これらのギア列は、油によってはねかけ注油されるように実装することができる。第1の伝達機構11は、第2の伝達機構12よりも低いギア比を有する。第1の伝達機構は、比較的低速で車両を推進するために使用され、第2の伝達機構は、比較的高速で車両を推進するために使用される。
【0085】
第1の伝達機構11は、一緒に回転するために第1の入力歯車42またはピニオン42に堅固に接続された第1の入力シャフト41と、この場合は第1の入力歯車42と直接噛み合う出力歯車43と、を備えている。
【0086】
第2の伝達機構12は、一緒に回転するために第2の入力歯車52またはピニオン52に堅固に接続された第2の入力シャフト51と、この場合は第2の入力歯車52と直接噛み合う第2の出力歯車53と、を備えている。
【0087】
第2の入力シャフトは中空シャフト51であり、第1の入力シャフト41はこの中空シャフト51の内側に延在している。第2の入力シャフト51と第1の入力シャフト41とは同軸である。
【0088】
ピニオン42は、第1の入力シャフト41上に実装されるか、またはこれと一体に形成されてもよい。同様に、ピニオン52は、第2の入力シャフト51上に実装されるか、またはこれと一体に形成されてもよい。
【0089】
第2の出力歯車53は、例えばスプラインを介して、一緒に回転するために伝達シャフト5に堅固に接続されている。第1の出力歯車43は、伝達シャフト5の回転軸100の回りで回転する遊び車であるが、結合システム6によって、一緒に回転するために伝達シャフト5に堅固に接続することができる。針状ころ軸受430は、伝達シャフト5の円筒面上で第1の出力歯車43の回転を案内する。
【0090】
図3および図7に詳細に示される結合システム6は、この場合、伝達シャフト5上のスプラインによって焼きばめまたは堅固に接続されたホイール610の周囲に形成された第1のスプラインで構成された第1の係合インターフェース61と、第1の出力歯車43上に焼きばめされたリング620の周囲に形成された第2のスプラインで構成された第2の係合インターフェース62と、第1のスプライン61および第2のスプライン62と相互作用するように配置された中間スプラインによって形成された中間係合インターフェース64を含む摺動スリーブ63と、を含んでいる。
【0091】
より具体的には、スプライン61、62、64は、回転軸100と平行に軸方向に延在する、リブまたは歯によって分離された溝で構成される。中間スプライン64の歯は、この場合、第1のスプライン61および第2のスプライン62の対応する溝に入るために、径方向内側に向いている。中間スプライン64は、第1のスプライン61と恒久的に係合している。中間スプライン64に当接する摺動スリーブ63は、回転軸100と平行な並進によって、中間スプライン64が第2のスプライン62と係合していない図1から図3に示される後退位置から、中間スプラインが第2のスプラインと係合して第1のスプラインと第2のスプラインとの間で回転結合を作り出し、これによって第1の出力歯車43と伝達シャフト5との間の回転結合を作り出す結合位置まで、移動することができる。
【0092】
任意選択的に、所定の閾値よりも大きい軸力がピストン651によって摺動スリーブ63に加えられないことを条件として、摺動スリーブ63を後退位置に保持するために、ホイール610と摺動スリーブ63との間に弾性保持部材630が配置される。
【0093】
結合システム6は、固定支持体650と、固定支持体650の可変容積環状チャンバ652内を軸方向に摺動することができる環状ピストンで構成された可動部材651と、を含むアクチュエータ65をさらに含み、この環状チャンバ652は油圧供給ライン653に接続されている。任意選択的に、センサ654は、可動部材651の位置を検出することを可能にする。
【0094】
環状チャンバ652内を摺動する環状ピストン651によって形成された油圧シリンダは一方向であり、摺動スリーブ63を後退位置から結合位置に駆動することを可能にする。
【0095】
この場合は回転軸100と平行な軸上に整列され、回転軸100の周りに分布している螺旋ばね660で構成された弾性戻り部材66は、同様に、摺動スリーブを結合位置から後退位置に戻す。弾性戻り部材66は、環状チャンバ652内の圧力が摺動スリーブ63を後退位置から結合位置に押すようにピストン651に強制するときに付勢され、チャンバ652内で圧力が解放されたときにピストン651を後退位置に押し戻すことによって付勢解除されるように、ピストン651の反対に位置決めされている。
【0096】
運動のリンク67は、摺動スリーブ63とアクチュエータ65とその弾性戻り部材66との間に介在する。運動のリンクは、制御溝671を形成する押しロッド670を含み、その2つの対向壁の間には、環状パッド672の径方向外側部分が把持され、その径方向内側部分は、摺動スリーブ63の溝673の2つの対向壁の間の軸方向遊びを伴って収容されている。
【0097】
固定支持体650の本体にしっかりとねじ込まれたロッド655(図2)は、弾性戻り部材66のばね660と並んで押しロッド670内に形成された開口部を貫通し、ばね660も貫通し、各々が関連するばね660の一端のためのストップとして機能するヘッド656を含んでいる。したがって、ばね660は、ロッド655のヘッド656と押しロッド670との間に把持されている。
【0098】
ピストン651と弾性戻り部材66との間に把持された押しロッド670は、回転軸100の周りに回転しないように、ロッド655によって並進的に案内される。したがって、押しロッド670、弾性戻り部材66、およびピストン651で構成された可動ユニットは、回転軸100の周りに回転することなく、軸方向並進で移動可能である。押しロッド670は、一体に形成されてもよく、または図3に示されるように、互いに押しつけられて溝671を確定する2つの隣接するシートで構成されてもよい。
【0099】
押しロッド670の溝671内に把持され、摺動スリーブ63の溝673内に位置決めされたパッド672は、押しロッド670と摺動スリーブ63との間に回転ガイドまたはピボット接続部を提供し、これにより、押しロッド670の並進運動を摺動スリーブ63に伝達することができるが、ただし押しロッド670に対する回転軸100の周りの摺動スリーブ63の自由回転を妨げることはない。並進運動は、ピストン651または弾性戻り部材66の運動力の下で軸方向に移動する押しロッド670が、溝673の対向する側壁の一方に対してパッド672を押し、押しロッド670と同じ方向で軸方向に摺動スリーブ63を押すようにパッド672に強制するときに、実行される。パッド672は、溝673の側壁との摩擦を最小限に抑えるために、理想的には固体潤滑剤で含浸された、低摩擦係数を有する材料で形成されている。
【0100】
パッド672と環状溝673の対向壁との間に配置された軸方向遊びは、後退位置と結合位置との間の押しロッドの全ストロークに対して小さくなければならない。実際には、この遊びは、静止位置と作動位置との間のストロークの10分の1未満の大きさを有している。この遊びは、押しロッド670が結合位置に到達すると、一旦生成されたらスプライン61、62、および64の間の結合が大きな軸力を生成しない限り、パッド672と溝673の壁との間のいかなる圧力も、さらには接触も、実質的に排除することを可能にする。したがって、パッド672は、第1の出力歯車43の回転に対して大きな引きずりトルクを加えない。
【0101】
結合システム6は、第1の係合インターフェース61と第2の係合インターフェース62との間で軸方向に介在して、回転軸100の周りに自由に回転する少なくとも1つの同期リング680と、適切であれば、同期リング680と第1の出力歯車43との間の1つ以上の中間摩擦リング681と、を含む同期装置68をさらに含んでいる。同期リング680は、同期係合インターフェースを形成する少なくとも1つの軸方向の歯または溝682を有している。
【0102】
後退位置にある摺動スリーブ63は、同期リング680と相互作用しない。摺動スリーブが後退位置から結合位置に向かってその軸方向並進運動を開始すると、中間スプライン64と同期リング680の同期係合インターフェース681とが互いに係合して第1の係合インターフェース64と同期リング680との間に回転結合を作り出す、中間同期位置を通過する。摺動スリーブ63の中間スプライン64と係合した第1のスプライン61に当接するホイール610が中間シャフト5によって回転した場合、第1の出力歯車43が動いていないとき、同期リング680と出力歯車43との間に生成された摩擦は、摺動スリーブ63が結合位置に向かってそのストロークを継続している間、直接、または摩擦リング681によって、出力歯車を始動する。中間スプライン64が第2のスプライン62に接触するとき、中間スプライン64と第2のスプライン62との間の係合が衝撃も雑音もなく行われ得るように、第2のスプライン62の歯車43と摺動スリーブ63の中間スプライン64との間の速度差は小さい。
【0103】
第1の出力歯車43は、ホイールディスク430と、第1の入力歯車42と係合する歯が形成される周辺ドラム431と、を含んでいる。結合システム6の軸方向のコンパクトさを高めるために、周辺ドラム431は、結合システム6の特定の構成要素が少なくとも結合位置に完全にまたは部分的に収容される凹部432を形成するように、ホイールディスク430に対して少なくとも部分的に突出して位置決めされている。したがって、弾性戻り部材66、運動のリンク67、および押しロッド63の一部は、同期装置68および第2のスプライン62に当接するリング620とともに、すべての動作位置において凹部432内に位置決めされている。ピストン651は、結合位置において凹部432に入る。
【0104】
伝達シャフト5を案内するための軸受501を収容するために、支持体650に凹部657が形成され、これもシステムの軸方向のコンパクトさに貢献することにも留意されたい。
【0105】
第1のギア比になると、常時開の第1のクラッチ1は、閉コマンドの適用によって閉状態に保たれ、常時開の第2のクラッチは開状態に保たれ、常時開の結合システム6は、チャンバ652内の圧力の印加によって閉状態に保たれる。伝達シャフト5は、第1の入力シャフト41、第1の入力歯車42、およびホイール610に結合された第1の出力歯車43によって駆動される。しかしながら、第2の出力歯車53はまた、第2の入力歯車52および第2の入力シャフト51を不必要に駆動する。したがって、この状態はエネルギーを消費し、始動段階または低速駆動段階のみを意図している。
【0106】
第1のギア比から第2のギア比への変更は、第1のクラッチ1の閉コマンドにエネルギーを供給するのを停止し、閉コマンドを第2のクラッチ2に適用し、チャンバ652の圧力供給コマンドにエネルギーを供給するのを停止することによって得られる。次いで、第1のクラッチ1および結合システム6は、その安定位置、すなわち開位置に自力で戻り、第2のクラッチは、その閉位置に移動する。
【0107】
トルク伝達システムはその後、伝達シャフト5に空転状態で実装された第1の出力歯車43がこれによって駆動されず、第1の入力シャフト41を不必要に駆動しないので、エネルギーをほとんど消費しない。
【0108】
一変形例によれば、第2のクラッチは常時閉であり、第1のクラッチは常時開である。次いで、トルク伝達システムは、この動作モードではいずれのコマンドにもエネルギーが供給されず、これは最も一般的であるため、第2のギアでさらに最適化される。
【0109】
実際には、2つの構成要素の開閉を調整するために、第1のクラッチ1と結合システム6との間に、油圧インターロック、または電子コマンドによるインターロックが設けられている。
【0110】
別の実施形態によれば、第2の伝達機構12の第2の出力歯車53に結合システム6と同様の結合システムが設けられることが可能である。
【0111】
変形例として、ギア列のうちの少なくともいくつかをベルトドライブに置き換えることができる。より大きなギア減速のために、ギア列のうちの少なくともいくつかは、入力歯車と出力歯車との間に中間ホイールを含むことができる。
【0112】
係合インターフェース61、62、64は、便宜上スプラインとして説明してきたが、これらは各々、摺動スリーブが摺動できるようにするために、回転軸100と平行に、1つ以上の歯、および/または1つ以上の長手方向溝またはスプラインを含むことができる。
【0113】
押しロッド670は、ピストン651と一体に形成することができる。
【0114】
環状パッド651は、一体に形成されてもよく、または軸方向に積層された、もしくは同軸層で径方向に重ねられた、いくつかのリングで形成されてもよい。これはまた、溝671および673内の実装を容易にするために、いくつかの角度セクタで構成することもできる。
【0115】
溝671および/または673がパッド内に形成され、押しロッド670および/または摺動スリーブ63上の対応する径方向リブと相互作用することも考えられる。
【0116】
別の実施形態によれば、アクチュエータのピストンは、遠心機構によって駆動される。したがって、所定の速度閾値に到達すると、結合システム6は、駆動を中断するように切り替えられる。
【0117】
別の実施形態によれば、第1のクラッチ1を省略することができ、その場合結合システム6は、第1の駆動シャフト41と伝達シャフト5との間に唯一の結合要素を形成する。
【0118】
本発明による結合システムは、例えばフランス特許出願1901916号明細書の図2および図4に示されるように、他のトルク伝達装置に組み込むことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】