(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】アルツハイマー病および他の神経変性障害の処置のためのレトロマーの安定化
(51)【国際特許分類】
A61K 35/76 20150101AFI20230201BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20230201BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230201BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20230201BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20230201BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230201BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230201BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20230201BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20230201BHJP
A61K 38/17 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
A61K35/76
C12N15/864 100Z
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/12
C07K14/435
A61K48/00
A61P25/28
A61P43/00 121
A61P25/16
A61P25/00
A61K35/761
A61K35/763
A61K38/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533615
(86)(22)【出願日】2020-12-07
(85)【翻訳文提出日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 US2020063627
(87)【国際公開番号】W WO2021113824
(87)【国際公開日】2021-06-10
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512219574
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ コロンビア ユニバーシティー イン ザ シティー オブ ニューヨーク
(71)【出願人】
【識別番号】508057896
【氏名又は名称】コーネル・ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
(71)【出願人】
【識別番号】518274098
【氏名又は名称】メイラジーティーエックス・ユーケー・ザ・セカンド・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】スモール, スコット エー.
(72)【発明者】
【氏名】ペツコ, グレゴリー エー.
(72)【発明者】
【氏名】クレシ, ヤシル エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ワクサル, サミュエル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】フォーブス, アレクサンドリア
(72)【発明者】
【氏名】コックス, レベッカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA23
4C084CA18
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA01
4C084ZA02
4C084ZA15
4C084ZA16
4C084ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、アルツハイマー病および他の神経変性障害を処置および/または予防するためにレトロマーを上昇させるおよび安定化するための方法および組成物に関する。さらに、本開示は、アルツハイマー病(AD)、ならびに他の神経変性状態、例えば、パーキンソン病(PD)、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、および伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、多系統萎縮症(MSA)、ダウン症候群、および遺伝性痙性対麻痺、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(AES)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)を処置するためのアデノウイルスベースの治療に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象において神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒する方法であって、前記対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子と、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子とを含む1つまたは複数のウイルスベクターの有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
それを必要とする対象において神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒する方法であって、前記対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子と、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子とを含む少なくとも1つのウイルスベクターを含む1つまたは複数の組成物の治療有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項3】
それを必要とする対象において神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒する方法であって、前記対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする核酸とVPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも1つの核酸とを含む1つまたは複数の組成物の治療有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項4】
それを必要とする対象において神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を軽減する方法であって、前記対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子と、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子とを含む1つまたは複数のウイルスベクターの有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項5】
それを必要とする対象において神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を軽減する方法であって、前記対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子と、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子とを含む少なくとも1つのウイルスベクターを含む1つまたは複数の組成物の治療有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項6】
それを必要とする対象において神経変性疾患または障害の1つまたは複数の症状を軽減する方法であって、前記対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする核酸とVPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも核酸とを含む1つまたは複数の組成物の治療有効量を投与するステップを含む、方法。
【請求項7】
レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子を含む少なくとも1つのウイルスベクターを含む第1の組成物の治療有効量が対象に投与され、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む少なくとも1つのウイルスベクターを含む第2の組成物の治療有効量が前記対象に投与される、請求項2および5のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む少なくとも1つのウイルスベクターを含む第3の組成物の治療有効量が前記対象に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および第2の組成物が、逐次的に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1および第2の組成物が、同時に投与される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記第1、第2および第3の組成物が、逐次的に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記第1、第2および第3の組成物が、同時に投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、医薬担体をさらに含む、請求項2、3、5および6のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記神経変性疾患または障害が、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、多系統萎縮症(MSA)、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)からなる群から選択される、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
レトロマーコアタンパク質VPS35をコードし、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする少なくとも1つの導入遺伝子を含むウイルスベクター。
【請求項16】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS35が、VPS35のアミノ酸配列(配列番号1)と少なくとも85%同一なアミノ酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項17】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS35が、VPS35のアミノ酸配列(配列番号1)を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項18】
前記レトロマーコアタンパク質Vps35をコードする前記導入遺伝子が、ヒトVps35(配列番号1)を含む、請求項15に記載のベクター。
【請求項19】
前記導入遺伝子が、VPS35(配列番号1)をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項20】
前記導入遺伝子が、配列番号10の核酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項21】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS26aが、VPS26aのアミノ酸配列(配列番号2)と少なくとも85%同一なアミノ酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項22】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質Vps26aが、VPS26aのアミノ酸配列(配列番号2)を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項23】
前記レトロマーコアタンパク質Vps35をコードする前記導入遺伝子が、ヒトVPS26a(配列番号2)を含む、請求項15に記載のベクター。
【請求項24】
前記導入遺伝子が、VPS26a(配列番号2)をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項25】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS26bが、VPS26bのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも85%同一なアミノ酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項26】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS26bが、VPS26bのアミノ酸配列(配列番号3)を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項27】
前記レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする前記導入遺伝子が、ヒトVPS26b(配列番号3)を含む、請求項15に記載のベクター。
【請求項28】
前記導入遺伝子が、VPS26b(配列番号3)をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列を有する、請求項15に記載のベクター。
【請求項29】
アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、バキュロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよび合成ウイルスからなる群から選択される、請求項1から28のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項30】
前記ウイルスベクターがAAVである、請求項29に記載のベクター。
【請求項31】
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAVrh10である、請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
前記AAVが、AAV9およびAAV2/9からなる群から選択される、請求項30に記載のベクター。
【請求項33】
前記導入遺伝子が、神経細胞における前記導入遺伝子の発現を誘導するプロモーターに作動可能に連結されている、請求項1から32のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項34】
前記導入遺伝子が、神経細胞における前記導入遺伝子の発現を誘導するエンハンサーに作動可能に連結されている、請求項1から33のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項35】
レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子と、VPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子とを含む少なくとも1つのウイルスベクターを含む組成物。
【請求項36】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS35が、VPS35のアミノ酸配列(配列番号1)と少なくとも85%同一なアミノ酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS35が、VPS35のアミノ酸配列(配列番号1)を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項38】
前記レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする前記導入遺伝子が、ヒトVPS35(配列番号1)を含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項39】
前記導入遺伝子が、VPS35(配列番号1)をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項40】
前記導入遺伝子が、配列番号10の核酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項41】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS26aが、VPS26aのアミノ酸配列(配列番号2)と少なくとも85%同一なアミノ酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項42】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質Vps26aが、VPS26aのアミノ酸配列(配列番号2)を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項43】
前記レトロマーコアタンパク質Vps35をコードする前記導入遺伝子が、ヒトVPS26a(配列番号2)を含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項44】
前記導入遺伝子が、VPS26a(配列番号2)をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項45】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS26bが、VPS26bのアミノ酸配列(配列番号3)と少なくとも85%同一なアミノ酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項46】
前記導入遺伝子によってコードされる前記レトロマーコアタンパク質VPS26bが、VPS26bのアミノ酸配列(配列番号3)を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項47】
前記レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする前記導入遺伝子が、ヒトVPS26b(配列番号3)を含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項48】
前記導入遺伝子が、VPS26b(配列番号3)をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列を有する、請求項35に記載の組成物。
【請求項49】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レンチウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、バキュロウイルス、単純ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスおよび合成ウイルスからなる群から選択される、請求項35に記載の組成物。
【請求項50】
前記ウイルスベクターがAAVである、請求項49に記載の組成物。
【請求項51】
前記AAVが、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAVrh10である、請求項50に記載の組成物。
【請求項52】
前記AAVが、AAV9およびAAV2/9からなる群から選択される、請求項50に記載の組成物。
【請求項53】
前記導入遺伝子が、神経細胞における前記導入遺伝子の発現を誘導するプロモーターに作動可能に連結されている、請求項35から52のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項54】
前記導入遺伝子が、神経細胞における前記導入遺伝子の発現を誘導するエンハンサーに作動可能に連結されている、請求項35から52のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項55】
医薬担体をさらに含む、請求項35に記載の組成物。
【請求項56】
VPS35とVPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質とをコードする少なくとも1つの核酸を含む組成物。
【請求項57】
VPS35をコードする第1の核酸とVPS26a、VPS26bおよびそれらの組合せからなる群から選択されるレトロマーコアタンパク質をコードする第2の核酸とを含む、請求項56に記載の組成物。
【請求項58】
請求項35から57のいずれかに記載の組成物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対する相互参照
本出願は、2019年12月5日出願の米国仮特許出願第62/943,999号および2020年9月4日出願の米国仮特許出願第63/074,578号に対する優先権を主張し、これらは共に、それらの全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、アルツハイマー病および他の神経変性障害を処置するおよび/または予防するためにレトロマーを上昇させるおよび安定化するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
アルツハイマー病(AD)は、ミスフォールディングしたタンパク質および神経炎症の疾患として特徴付けられている。しかし、アミロイド、タウ、コリンエステラーゼ阻害剤、抗炎症化合物に狙いを定めたAD治療薬、および代替的治療、例えば、メマンチンおよび栄養補助食品は失敗しており、この疾患は、死亡率、罹患率および経済的負担の主要な原因であり続けている。AD臨床試験の失敗は、疾患の因果関係をさらに調査することを研究者に強いてきた。多数の前臨床研究が、新規AD関連遺伝子、細胞内タンパク質恒常性経路、ニューロンとそれらの微小環境との相互作用およびグリア細胞との相互作用を試験してきた。いくつかの調査がなおも進行中である。
【0004】
アルツハイマー病における最近の遺伝学的および細胞生物学的知見は、疾患病態生理学において中心的な役割を果たす「エンドソーム輸送」を暗示してきた。最新の文献は、4つのクラスの遺伝子がADに関与すると主張している。これらの遺伝子クラスは、1)エンドソーム輸送;2)コレステロール代謝;3)免疫応答;および4)アミロイド前駆体タンパク質(APP)プロセシングである。これらの遺伝子クラスの4つ全てが、エンドソーム輸送の欠陥に、直接的または間接的に関連付けられる。エンドソーム輸送の欠陥は、他の神経変性疾患、例えば、パーキンソン病(PD)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)および神経セロイドリポフスチン症(NCL)にも関連付けられている。
【0005】
レトロマーは、エンドソームオルガネラに関連するタンパク質複合体であり、管状小胞性担体内のある特定の細胞カーゴ分子の、トランスゴルジネットワークへの輸送を制御する。この輸送における欠陥は、種々の神経変性疾患と関連付けられてきた(Small and Petsko 2015;Anderson et al. 2014)。神経変性は、ニューロンの死を含む、ニューロンの構造または機能の進行性の喪失についての包括的な用語である。筋萎縮性側索硬化症(ALS)、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)およびハンチントンを含む多くの神経変性疾患が、神経変性プロセスの結果として生じる。
【0006】
レトロマー複合体機能を改善するための小分子の使用が記載されている。しかし、ポジティブな薬理学的動態をin vivoで示す首尾よい薬物の開発は、困難であり、何年もかかり得る。これらの神経変性疾患のための有効な処置の緊急の必要性が存在し、現在、長期の利益を提供する遺伝子ベースの治療は、存在しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
本開示は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、ダウン症候群、遺伝性痙性対麻痺(HSP)および多系統萎縮症(MSA)、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症(frontotemporal lobar dementia)およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(frontal-temporal degeneration)(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)が含まれるがこれらに限定されない神経変性疾患を有しているまたは発症するリスクがある対象(例えば、哺乳動物対象、例えば、ヒト対象)を処置するために使用され得る組成物および方法に関する。
【0008】
本開示の組成物および方法を使用して、上記疾患を有しているまたは発症するリスクがある対象(例えば、哺乳動物対象、例えば、ヒト対象)には、本明細書に記載されるレトロマータンパク質のうち1つまたは複数をコードする導入遺伝子を含有する組成物が投与され得る。組成物は、ベクター、例えば、ウイルスベクター、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含み得る。一部の実施形態では、対象には、本明細書に記載されるレトロマータンパク質のうち1つまたは複数をコードする導入遺伝子を含有する第2の組成物が投与される。第2の組成物は、ベクター、例えば、ウイルスベクター、例えば、AAVベクターを含み得る。一部の実施形態では、対象には、本明細書に記載されるレトロマータンパク質のうち1つまたは複数をコードする導入遺伝子を含有する第3の組成物が投与される。第3の組成物は、ベクター、例えば、ウイルスベクター、例えば、AAVベクターを含み得る。
【0009】
第1の態様では、本開示は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはVPS26aおよび/もしくはVPS26bをコードする導入遺伝子を含有する組成物を特色とする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35をコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS26aおよび/またはVPS26bをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35およびVPS26aまたはVPS26bのいずれかをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35およびVPS26aをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35およびVPS26bをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS26aおよびVPS26bをコードする。他の態様では、組成物は、2つの導入遺伝子を含み、導入遺伝子の一方は、VPS35をコードし、他方は、VPS26aまたはVPS26bをコードする。他の態様では、組成物は、2つの導入遺伝子を含み、導入遺伝子の一方は、VPS26aをコードし、他方は、VPS26bをコードする。他の態様では、組成物は、3つの導入遺伝子を含み、導入遺伝子の1つはVPS35をコードし、もう1つはVPS26aをコードし、もう1つはVPS26bをコードする。
【0010】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35タンパク質は、ヒトである。導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS35は、VPS35のアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS35のアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有し得る。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS35は、VPS35のアミノ酸配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS35のアミノ酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS35は、VPS35のアミノ酸配列と少なくとも95%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS35のアミノ酸配列と95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS35は、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入および/または欠失、例えば、1~10、1~15、1~20、1~25またはそれよりも多くのアミノ酸置換、挿入および/または欠失(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換)によってVPS35とは異なるアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS35は、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換、例えば、1~10、1~15、1~20、1~25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換)によってVPS35とは異なるアミノ酸配列を有する。
【0011】
一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子は、ヒトVPS35(Gene ID 55737)を含む。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子は、VPS35をコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列(例えば、VPS35をコードする核酸配列と70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子は、VPS35をコードする核酸配列と少なくとも85%同一な核酸配列(例えば、VPS35をコードする核酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子は、VPS35をコードする核酸配列と少なくとも90%同一な核酸配列(例えば、VPS35をコードする核酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子は、VPS35をコードする核酸配列と少なくとも95%同一な核酸配列(例えば、VPS35をコードする核酸配列と95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする導入遺伝子は、コドン最適化される。
【0012】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aタンパク質は、ヒトである。導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26aは、VPS26aのアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS26aのアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有し得る。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26aは、VPS26aのアミノ酸配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS26aのアミノ酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26aは、VPS26aのアミノ酸配列と少なくとも95%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS26aのアミノ酸配列と95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26aは、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入および/または欠失、例えば、1~10、1~15、1~20、1~25またはそれよりも多くのアミノ酸置換、挿入および/または欠失(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換)によってVPS26aとは異なるアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aは、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換、例えば、1~10、1~15、1~20、1~25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換)によってVPS26aとは異なるアミノ酸配列を有する。
【0013】
さらなる実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子は、ヒトVPS26a(Gene ID 9559)を含む。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子は、VPS26aをコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列(例えば、VPS26aをコードする核酸配列と70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子は、VPS26aをコードする核酸配列と少なくとも85%同一な核酸配列(例えば、VPS26aをコードする核酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子は、VPS26aをコードする核酸配列と少なくとも90%同一な核酸配列(例えば、VPS26aをコードする核酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子は、VPS26aをコードする核酸配列と少なくとも95%同一な核酸配列(例えば、VPS26aをコードする核酸配列と95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子は、コドン最適化される。
【0014】
一部の実施形態では、導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26bタンパク質は、ヒトである。導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26bは、VPS26bのアミノ酸配列と少なくとも85%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS26bのアミノ酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有し得る。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26bは、VPS26bのアミノ酸配列と少なくとも90%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS26bのアミノ酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26bは、VPS26bのアミノ酸配列と少なくとも95%同一なアミノ酸配列(例えば、VPS26bのアミノ酸配列と95%、96%、97%、98%、99%または100%同一なアミノ酸配列)を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26bは、1つまたは複数のアミノ酸置換、挿入および/または欠失、例えば、1~10、1~15、1~20、1~25またはそれよりも多くのアミノ酸置換、挿入および/または欠失(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換)によってVPS26bとは異なるアミノ酸配列を有する。一部の実施形態では、導入遺伝子によってコードされるレトロマーコアタンパク質VPS26bは、1つまたは複数の保存的アミノ酸置換、例えば、1~10、1~15、1~20、1~25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25またはそれよりも多くの保存的アミノ酸置換)によってVPS26bとは異なるアミノ酸配列を有する。
【0015】
さらなる実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子は、ヒトVPS26b(Gene ID 112936)を含む。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子は、VPS26bをコードする核酸配列と少なくとも70%同一な核酸配列(例えば、VPS26bをコードする核酸配列と70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子は、VPS26bをコードする核酸配列と少なくとも85%同一な核酸配列(例えば、VPS26bをコードする核酸配列と85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子は、VPS26bをコードする核酸配列と少なくとも90%同一な核酸配列(例えば、VPS26bをコードする核酸配列と90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子は、VPS26bをコードする核酸配列と少なくとも95%同一な核酸配列(例えば、VPS26bをコードする核酸配列と95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)を有する。一部の実施形態では、レトロマーVPS26bコアタンパク質をコードする導入遺伝子は、コドン最適化される。
【0016】
前述の態様の一部の実施形態では、組成物は、ベクター、例えば、ウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは、例えば、AAVベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターまたは合成ウイルスベクター(例えば、キメラウイルス、モザイクウイルスもしくはシュードタイプ化されたウイルス、および/または外来タンパク質、合成ポリマー、ナノ粒子もしくは小分子を含有するウイルス)であり得る。
【0017】
前述の態様の一部の実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクター、例えば、AAV1(即ち、AAV1逆位末端反復(ITR)およびAAV1カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV2(即ち、AAV2 ITRおよびAAV2カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV3(即ち、AAV3 ITRおよびAAV3カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV4(即ち、AAV4 ITRおよびAAV4カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV5(即ち、AAV5 ITRおよびAAV5カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV6(即ち、AAV6 ITRおよびAAV6カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV7(即ち、AAV7 ITRおよびAAV7カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV8(即ち、AAV8 ITRおよびAAV8カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAV9(即ち、AAV9 ITRおよびAAV9カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAVrh74(即ち、AAVrh74 ITRおよびAAVrh74カプシドタンパク質を含有するAAV)、AAVrh.8(即ち、AAVrh.8 ITRおよびAAVrh.8カプシドタンパク質を含有するAAV)またはAAVrh.10(即ち、AAVrh.10 ITRおよびAAVrh.10カプシドタンパク質を含有するAAV)である。
【0018】
前述の態様の一部の実施形態では、ウイルスベクターは、1つのAAV血清型由来のITRおよび異なるAAV血清型由来のカプシドタンパク質を含有するシュードタイプ化されたAAVベクターである。一部の実施形態では、シュードタイプ化されたAAVは、AAV2/9(即ち、AAV2 ITRおよびAAV9カプシドタンパク質を含有するAAV)である。一部の実施形態では、シュードタイプ化されたAAVは、AAV2/10(即ち、AAV2 ITRおよびAAV10カプシドタンパク質を含有するAAV)である。
【0019】
前述の態様の一部の実施形態では、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAVrh74、AAVrh.8またはAAVrh.10由来のカプシドタンパク質のうち1つまたは複数のキメラを含有するカプシドタンパク質などの組換えカプシドタンパク質を含有する。実施形態では、カプシドは、バリアントAAVカプシド、例えば、AAV2バリアントrAAV2-retro(これにより参照により本明細書に組み込まれるWO2017/218842からの配列番号44)である。
【0020】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV10である。例えば、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV10を含み得る。
【0021】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV9である。例えば、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV9を含み得る。
【0022】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV2/10である。例えば、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV2/10を含み得る。
【0023】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV2/9である。例えば、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV2/9を含み得る。
【0024】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターであり、導入遺伝子は、VPS35レトロマーコアタンパク質をコードする。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的VPS35レトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV10を含み得る。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的VPS35レトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV9を含み得る。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的VPS35レトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV2/9またはAAV2/10を含み得る。
【0025】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターであり、導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的VPS26aレトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV10を含み得る。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV9を含み得る。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的レトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV2/9またはAAV2/10を含み得る。
【0026】
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、AAVベクターであり、導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的VPS26bレトロマーコアタンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV10を含み得る。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV9を含み得る。例えば、組成物は、組換えAAV(rAAV)、例えば、機能的レトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むAAV2/9またはAAV2/10を含み得る。
【0027】
本開示の上記態様のいずれかの一部の実施形態では、組成物は、リポソーム、小胞、合成小胞、エキソソーム、合成エキソソーム、デンドリマーまたはナノ粒子を含む。
【0028】
本開示の上記態様のいずれかの一部の実施形態では、導入遺伝子は、ニューロンにおける導入遺伝子の発現を誘導するプロモーターに作動可能に連結されている。プロモーターは、例えば、ニワトリベータアクチンプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ミオシン軽鎖-2プロモーター、アルファアクチンプロモーター、トロポニン1プロモーター、Na+/Ca2+交換輸送体プロモーター、ジストロフィンプロモーター、クレアチンキナーゼプロモーター、アルファ7インテグリンプロモーター、脳性ナトリウム利尿ペプチドプロモーター、アルファB-クリスタリン/小ヒートショックタンパク質プロモーター、アルファミオシン重鎖プロモーターまたは心房性ナトリウム利尿因子プロモーターであり得る。
【0029】
本開示の上記態様のいずれかの一部の実施形態では、導入遺伝子は、ニューロンにおける導入遺伝子の発現を誘導するエンハンサーに作動可能に連結されている。本開示の組成物および方法と併せて使用され得る例示的なエンハンサーは、CMVエンハンサー、筋細胞エンハンサー因子2(MEF2)エンハンサーおよびMyoDエンハンサーである。
【0030】
別の態様では、本開示は、先行する実施形態に従う1つまたは複数のウイルスベクターを含む1つまたは複数の組成物を投与することによって、それを必要とする対象において変性疾患または障害を処置するための方法を特色とする。一部の実施形態では、組成物は、対象が変性疾患または障害を有すると診断され次第、または診断された直後に、対象に投与される。実施形態では、変性疾患または障害は、神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、多系統萎縮症(MSA)、ダウン症候群および遺伝性痙性対麻痺(HSP)、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)である。
【0031】
別の態様では、本開示は、上述の段落に記載されるレトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはVPS26aおよび/もしくはVPS26bをコードする導入遺伝子を含む1つまたは複数の組成物を投与することによって、それを必要とする対象において変性疾患または障害を処置するための方法を特色とする。実施形態では、組成物は、VPS35をコードする導入遺伝子およびVPS26aをコードする導入遺伝子を含む。実施形態では、組成物は、VPS35をコードする導入遺伝子およびVPS26bをコードする導入遺伝子を含む。実施形態では、組成物は、VPS26aをコードする導入遺伝子およびVPS26bをコードする導入遺伝子を含む。実施形態では、組成物は、VPS35をコードする導入遺伝子、VPS26aをコードする導入遺伝子およびVPS26bをコードする導入遺伝子を含む。一部の実施形態では、組成物は、対象が変性疾患または障害を有すると診断され次第、または診断された直後に、対象に投与される。実施形態では、変性疾患または障害は、神経変性疾患、例えば、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、ダウン症候群、遺伝性痙性対麻痺(HSP)および多系統萎縮症(MSA)、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)である。
【0032】
一部の実施形態では、方法は、対象に、上述の段落に記載されるレトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはVPS26aおよび/もしくはVPS26bをコードする導入遺伝子を含有する第1の組成物の治療有効量を投与するステップを含む。一部の実施形態では、方法は、対象に、上述の段落に記載されるレトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはVPS26aおよび/もしくはVPS26bをコードする導入遺伝子を含有する第2の組成物の治療有効量を投与するステップをさらに含む。実施形態では、方法は、VPS35をコードする導入遺伝子を含む第1の組成物を投与するステップおよびVPS26aまたはVPS26bをコードする導入遺伝子を含む第2の組成物を投与するステップを含む。実施形態では、方法は、VPS26aまたはVPS26bをコードする導入遺伝子を含む第1の組成物を投与するステップおよびVPS35をコードする導入遺伝子を含む第2の組成物を投与するステップを含む。実施形態では、方法は、VPS26aをコードする導入遺伝子を含む第1の組成物を投与するステップおよびVPS26bをコードする導入遺伝子を含む第2の組成物を投与するステップを含む。実施形態では、方法は、VPS26bをコードする導入遺伝子を含む第1の組成物を投与するステップおよびVPS26aをコードする導入遺伝子を含む第2の組成物を投与するステップを含む。
【0033】
一部の実施形態では、方法は、対象に、上述の段落に記載されるレトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはVPS26aおよび/もしくはVPS26bをコードする導入遺伝子を含有する第3の組成物の治療有効量を投与するステップをさらに含む。実施形態では、第1、第2および第3の組成物は、それぞれVPS35、VPS26aまたはVPS26bをコードする導入遺伝子を含む。
【0034】
一部の実施形態では、第1および第2の組成物は、対象に同じときに投与される。一部の実施形態では、第1、第2および第3の組成物は、対象に同じときに投与される。
【0035】
一部の実施形態では、第2の組成物は、対象への第1の組成物の投与後に、対象に投与される。第2の組成物は、例えば、対象への第1の組成物の投与の1もしくは複数日以内または1もしくは複数週間以内に、対象に投与され得る。一部の実施形態では、第2の組成物は、対象への第1の組成物の投与の少なくとも1か月後に、対象に投与される。一部の実施形態では、第1の組成物の投与が継続しながら、第2の組成物が対象に投与される。
【0036】
一部の実施形態では、第3の組成物は、対象への第1および第2の組成物の投与後に、対象に投与される。第3の組成物は、例えば、対象への第1および第2の組成物の投与の1もしくは複数日以内または1もしくは複数週間以内に、対象に投与され得る。一部の実施形態では、第3の組成物は、対象への第1および第2の組成物の投与の少なくとも1か月後に、対象に投与される。一部の実施形態では、第1および第2の組成物の投与が継続しながら、第3の組成物が対象に投与される。
【0037】
一部の実施形態では、第1の組成物は、静脈内、くも膜下腔内、皮内、経皮、非経口、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮的、気管内、腹腔内、動脈内、血管内、吸入、灌流、洗浄および/または経口投与によって対象に投与される。
【0038】
一部の実施形態では、第2の組成物は、静脈内、くも膜下腔内、皮内、経皮、非経口、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮的、気管内、腹腔内、動脈内、血管内、吸入、灌流、洗浄および/または経口投与によって対象に投与される。
【0039】
一部の実施形態では、第3の組成物は、静脈内、くも膜下腔内、皮内、経皮、非経口、筋肉内、鼻腔内、皮下、経皮的、気管内、腹腔内、動脈内、血管内、吸入、灌流、洗浄および/または経口投与によって対象に投与される。
【0040】
さらなる態様では、本開示は、それを必要とする対象において神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒する方法を特色とする。方法は、対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含有する組成物(単数または複数)の治療有効量を投与するステップを含む。
【0041】
さらなる態様では、本開示は、それを必要とする対象において神経変性疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状を軽減する方法を特色とする。方法は、対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする導入遺伝子を含有する組成物(単数または複数)の治療有効量を投与するステップを含む。
【0042】
上述の態様の一部として、本開示は、本明細書に記載される方法における使用のための本明細書に記載される1つまたは複数の組成物もまた提供する。本開示は、本明細書に記載される方法のための1つまたは複数の医薬の製造のための本明細書に記載される1つまたは複数の組成物の使用もまた提供する。導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードし得る。
【0043】
したがって、上述の態様の一部として、本開示は、神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒する際の使用のための、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含有する組成物もまた提供する。神経変性疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状を軽減する際の使用のための、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含有する1つまたは複数の組成物が、さらに提供される。
【0044】
上述の態様の一部として、本開示は、神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒するための1つまたは複数の医薬の製造のための、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含有する1つまたは複数の組成物の使用もまた提供する。神経変性疾患または障害に関連する1つまたは複数の症状を軽減するための1つまたは複数の医薬の製造のための、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする1つまたは複数の導入遺伝子を含有する1つまたは複数の組成物の使用が、さらに提供される。
【0045】
上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、神経変性疾患または障害である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、アルツハイマー病(AD)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、パーキンソン病である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、神経セロイドリポフスチン症(NCL)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、多系統萎縮症(MSA)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、進行性核上性麻痺(PSP)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、慢性外傷性脳症(CTE)である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、ダウン症候群である。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、HSPである。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、LBDである。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、ALSである。上述の態様のいずれかの一部の実施形態では、疾患または障害は、FTDまたはALS-FTDである。
【0046】
別の態様では、本開示は、前述の態様の組成物を含有するキットを特色とする。キットは、添付文書、例えば、本開示の上記態様または実施形態のいずれかの方法に従って対象に組成物を投与するようにキットの使用者に指示する添付文書をさらに含有し得る。
【0047】
本発明を例示することを目的として、本発明のある特定の実施形態が図面中に示される。しかし、本発明は、図面中に示される実施形態の正確な配置および手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、VPS35(橙色)とVPS29(赤色)およびVPS26a(緑色)との相互作用を強調する、レトロマーのカーゴ認識コアの三次元構造の骨格レンダリング(PyMOL、Schroedinger,Inc.)を示す。Vps26bは、事実上同一な形式でVps35に結合する(Collins et al. 2008;Shi et al. 2006)。マウスヘテロトリマーのcryoEM構造から取った原子座標(PDBファイル6vac)(Kendall et al. 2020)。
【0049】
【
図2-1】
図2は、VPS35発現単独では、レトロマーのトリマーおよび機能を上昇させるのに不十分であることを示す。
図2Aは、AAV9-VPS35-HA後のレトロマーおよびSorl1の発現レベルを示す代表的なイムノブロットである。AAV9-GFPおよびAAV9-EV(空のベクター)を対照として使用した。
図2Bは、アクチンに対して正規化したレトロマー構成要素およびSorl1の平均レベルを示す棒グラフである;対照(左側の棒、濃い灰色、n=23)、VPS35過剰発現(右側の棒、赤色、n=16)。
***P<0.001、ns=有意でない。
【0050】
【
図3-1】
図3は、実施例で使用したプラスミドのマップを示す。
図3Aは、空のchassis対照プラスミドマップを示す。
図3Bは、GFP対照プラスミドマップを示す。
図3Cは、VPS35プラスミドマップを示す。
図3Dは、VPS26aプラスミドマップを示す。
図3Eは、VPS26bプラスミドマップを示す。
【0051】
【
図4-1】
図4は、神経芽細胞腫細胞における組み合わせたVPS35およびVPS26の発現の最適化を示す。
図4Aは、VPS35単独、VPS26a単独およびVPS26b単独を含有するプラスミドによるトランスフェクション、またはVPS26aもしくはVPS26bと併せたVPS35の二重トランスフェクション後のレトロマー発現レベルを示す代表的なイムノブロットである。GFPまたは空の骨格プラスミドを対照として使用した。各条件において導入したプラスミドDNA/lipofectamine複合体の量について適切に制御するために、レトロマーの1つの構成要素のみをトランスフェクトした場合には、対照プラスミド(GFPまたは空の骨格)を含めた。VPS29は、これらのN2a細胞におけるこのタンパク質の2つの異なるアイソフォームを表す2つの別個のバンドを示す。
図4B~4Eは、対照としての空のベクター(EV)およびGFPを含有するウイルスベクター(EV+GFP)、VPS35単独、VPS26a単独、VPS26b単独、VPS35ベクター+VPS26aベクター、ならびにVPS35ベクター+VPS26bベクターでトランスフェクトした、アクチンに対して正規化した神経芽細胞腫細胞におけるレトロマーコアタンパク質(VPS35、VPS26a、VPS26b、VPS29)の平均レベルのグラフである。
図4Bは、VPS35を示す。
図4Cは、VPS26aを示す。
図4Dは、VPS26bを示す。
図4Eは、VPS29を示す。対照(濃い灰色、n=15)、VPS35(n=30)、VPS26a(n=30)およびVPS26b(n=15)過剰発現単独(青色)、VPS35+VPS26コンビナトリアル(赤色、n=15)。
***P<0.001、
**P<0.01、!P=0.07、ns=有意でない。
【0052】
【
図5-1】
図5は、組み合わせたVPS35およびVPS26の発現が、ニューロンにおいてレトロマー機能にシナジーを与えることを示す。
図5Aは、VPS35、VPS26aおよびVPS26bを含有するAAV9ベクターによる形質導入後のレトロマー発現レベルを示す代表的なイムノブロットである。AAV9-GFPおよびAAV9-EV(空の骨格プラスミドを含有するAAV9)を対照として使用した。実験的AAV9ベクターを、全ての可能な組合せで、ニューロンにおいて発現させた:単一タンパク質発現(VPS35単独、VPS26a単独、VPS26b単独);二重タンパク質発現(VPS35+VPS26a、VPS35+VPS26b、VPS26b+VPS26a);および三重タンパク質発現(VPS35+VPS26a+VPS26b)。各条件において導入したDNAおよびAAV9の量について適切に制御するために、レトロマーの1つの構成要素のみを形質導入した場合には、対照AAV9(GFPまたはEV)を含めた。
図5B~5Eは、空のベクター(EV)、GFP、VPS35、VPS26aまたはVPS26bを含有する5つのウイルスベクター(AAV9)のうち1つまたは複数でトランスフェクトした、アクチンに対して正規化した神経芽細胞腫細胞におけるレトロマーコアタンパク質(VPS35、VPS26a、VPS26b)の平均レベルの棒グラフである。対照としての空のベクター(EV)+GFP、VPS35ベクター単独、VPS26aベクター単独、VPS26bベクター単独、VPS35ベクター+VPS26aベクター、VPS35ベクター+VPS26bベクター、VPS35ベクター+VPS26aベクター+VPS26bベクターおよびVPS26aベクター+VPS26bベクターについての結果が示される。
図5Bは、VPS35を示す。
図5Cは、VPS29を示す。
図5Dは、VPS26aを示す。
図5Eは、VPS26bを示す。対照(濃い灰色、n=9)、VPS35、VPS26aまたはVPS26bの単一の過剰発現(青色、n=18)、VPS35+VPS26aまたはVPS26bコンビナトリアル(赤色、n=9)、VPS35+VPS26a+VPS26b(濃い赤色、n=9)、VPS26a+VPS26b(ピンク色、n=9)。
***P<0.001、
**P<0.01、
*P<0.05、ns=有意でない。
【0053】
【
図6-1】
図6は、組み合わせたVPS35およびVPS26の発現が、ニューロンにおいてレトロマー機能にシナジーを与えることを示す。
図6Aは、VPS35、VPS26aおよびVPS26bを含有するAAV9ベクターによる形質導入後のSorl1発現レベルを示す代表的なイムノブロットである。AAV9-GFPおよびAAV9-EV(空の骨格プラスミドを含有するAAV9)を対照として使用した。実験的AAV9ベクターを、全ての可能な組合せで、ニューロンにおいて発現させた:単一タンパク質発現(VPS35単独、VPS26a単独、VPS26b単独);二重タンパク質発現(VPS35+VPS26a、VPS35+VPS26b、VPS26b+VPS26a);および三重タンパク質発現(VPS35+VPS26a+VPS26b)。各条件において導入したDNAおよびAAV9の量について適切に制御するために、レトロマーの1つの構成要素のみを形質導入した場合には、対照AAV9(GFPまたはEV)を含めた。
図6Bは、空のベクター(EV)、GFP、VPS35、VPS26aまたはVPS26bを含有する5つのウイルスベクター(AAV9)のうち1つまたは複数でトランスフェクトした、アクチンに対して正規化したニューロンにおけるSorl1のレベルの棒グラフである。対照としての空のベクター(EV)+GFP、VPS35ベクター単独、VPS26aベクター単独、VPS26bベクター単独、VPS35ベクター+VPS26aベクター、VPS35ベクター+VPS26bベクター、VPS35ベクター+VPS26aベクター+VPS26bベクターおよびVPS26aベクター+VPS26bベクターについての結果が示される。対照(濃い灰色、n=9)、VPS35、VPS26aまたはVPS26bの単一の過剰発現(青色、n=18)、VPS35+VPS26aまたはVPS26bコンビナトリアル(赤色、n=9)、VPS35+VPS26a+VPS26b(濃い赤色、n=9)、VPS26a+VPS26b(ピンク色、n=9)。
***P<0.001、ns=有意でない。
図6Cおよび6Dは、多変数回帰から生成された散布図であり、VPS26a(t=5.6、p=1.4E-7)およびVPS26b(F=7.2、p=3.2E-11)が、Sorl1レベルと独立して相関することを実証している。
図6Cは、VPS26aを示す。
図6Dは、VPS26bを示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
詳細な説明
定義
本明細書において使用される用語は、本発明の文脈内および各用語が使用される具体的な文脈内の、当該分野におけるその通常の意味を一般に有する。ある特定の用語は、本発明の方法およびそれをどのように使用するかの記載において、実務者にさらなるガイダンスを提供するために、以下または本明細書の別の場所で議論される。さらに、同じことが1つよりも多くの方法で述べられ得ることが理解される。結果として、代替的な言語および同義語が、本明細書で議論される用語のいずれか1つまたは複数について使用され得、ある用語が本明細書で詳述または議論されるか否かは特に重視されない。ある特定の用語については同義語が提供される。1つまたは複数の同義語の詳述は、他の同義語の使用を排除しない。本明細書で議論される任意の用語の例を含む、本明細書中の任意の場所での例の使用は、例示に過ぎず、本発明の範囲および意味または任意の例示された用語を決して制限しない。同様に、本発明は、その好ましい実施形態に限定されない。
【0055】
用語「約」または「およそ」は、その値が測定または決定される方法、即ち、測定系の制約、即ち、医薬製剤などの特定の目的のために要求される精度に一部依存する、当業者によって決定される特定の値についての許容される誤差範囲内であることを意味する。例えば、「約」は、当該分野の実務に従って、1標準偏差以内または1よりも大きい標準偏差以内であることを意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の最大で20%、好ましくは最大で10%、より好ましくは最大で5%、なおより好ましくは最大で1%の範囲を意味し得る。あるいは、特に生物システムまたはプロセスに関して、この用語は、ある値の一桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内であることを意味し得る。特定の値が本出願および特許請求の範囲において記載される場合、特記しない限り、特定の値についての許容される誤差範囲内であることを意味する用語「約」が前提とされるべきである。
【0056】
用語「対象」は、本出願で使用される場合、治療的または予防的処置を必要とする動物を指す。対象には、哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、げっ歯類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジおよび霊長類が含まれる。したがって、組成物および方法は、例えば、コンパニオンアニマル、家畜、動物園の実験動物および野生の動物を処置するための獣医薬において使用され得る。本明細書で開示される組成物および方法は、ヒト医療適用のために特に望ましい。
【0057】
用語「患者」は、本出願で使用される場合、ヒト対象を意味する。一部の実施形態では、「患者」は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、多系統萎縮症、ダウン症候群および遺伝性痙性対麻痺(HSP)、(MSA)、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)が含まれるがこれらに限定されない神経変性疾患または障害を有することが既知であるまたは有すると疑われている。一部の実施形態では、「患者」は、エンドソーム輸送、例えば、レトロマー機能不全に関連する障害または疾患を有することが既知であるまたは有すると疑われている。
【0058】
語句「治療有効量」は、対象において臨床的に重要な状態における改善を引き起こすのに十分な量、または疾患もしくは障害に関連する1つもしくは複数の症状を遅延させるもしくは最小化するもしくは緩和する量、または対象において生理学の所望の有益な変化を生じる量を意味するために本明細書で使用される。
【0059】
用語「処置する」、「処置」などは、疾患もしくは障害の症状のうち少なくとも1つを減速させる、救済する、寛解させるもしくは軽減すること、またはその開始後に疾患もしくは障害を逆転させるための手段を指す。
【0060】
用語「予防する」、「予防」などは、疾患もしくは障害が発症しないように予防するためまたは疾患もしくは障害の程度を最小化するため、あるいはその発症の過程を緩徐化するために、顕性の疾患または障害の開始の前に作用することを指す。
【0061】
用語「治癒する」などは、治すこと、良くすること、もしくは良好な健康状態に回復させること、または再発のリスクが小さくなるように、疾患の再発なしの時間を与えることを意味する。
【0062】
用語「それを必要とする」は、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、多系統萎縮症、ダウン症候群および遺伝性痙性対麻痺(HSP)、(MSA)、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)が含まれるがこれらに限定されない神経変性疾患または障害を有することが既知であるまたは有すると疑われているまたは有するリスクがある対象である。
【0063】
用語「薬剤」は、本明細書で使用される場合、効果を生じる物質または効果を生じることが可能な物質を意味し、ベクター、化学物質、医薬品、生物製剤、有機小分子、抗体、核酸、ペプチドおよびタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「担体」は、治療薬がそれと共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを指し、これには、任意のおよび全ての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤、緩衝剤、担体溶液、懸濁物、コロイドなどが含まれる。医薬活性物質のためのかかる媒体および薬剤の使用は、当該分野で周知である。
【0065】
用語「薬学的に許容される」は、宿主に投与された場合のアレルギー反応または類似の有害な反応、例えば、ヒトに投与された場合の異常亢進、眩暈などを生じない、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって承認された、または動物、より特にはヒトにおける使用のために、米国薬局方もしくは他の一般に認識される薬局方に列挙された、分子実体および組成物を指す。
【0066】
「単離された核酸分子」は、単離されたポリヌクレオチドが天然に見出されるポリヌクレオチドの全てもしくは一部分に関連しない、またはそれが天然には連結されないポリヌクレオチドに連結された、ゲノム、mRNA、cDNAもしくは合成起源のDNAもしくはRNAまたはそれらのいくつかの組合せを意味する。本開示の目的のために、特定のヌクレオチド配列を「含む核酸分子」は、インタクトな染色体を包含しないと理解すべきである。特定された核酸配列を「含む」単離された核酸分子は、特定された配列に加えて、最大で10個またはさらには最大で20個もしくはそれよりも多くの他のタンパク質またはその部分もしくは断片のコード配列を含み得、あるいは列挙された核酸配列のコード領域の発現を制御する作動可能に連結した調節配列を含み得、および/あるいはベクター配列を含み得る。
【0067】
語句「制御配列」は、特定の宿主生物における作動可能に連結したコード配列の発現のために必要なDNA配列を指す。原核生物に適切な制御配列には、例えば、プロモーター、必要に応じて、オペレーター配列およびリボソーム結合部位が含まれる。真核生物細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナルおよびエンハンサーを使用することが公知である。
【0068】
核酸は、別の核酸配列と機能的に関連している場合、「作動可能に連結」されている。例えば、プレ配列または分泌リーダーについてのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質としてそれが発現される場合には、ポリペプチドについてのDNAに作動可能に連結されており;プロモーターもしくはエンハンサーは、配列の転写にそれが影響を与える場合には、コード配列に作動可能に連結されており;またはリボソーム結合部位は、翻訳を促進するようにそれが位置付けられる場合には、コード配列に作動可能に連結されている。一般に、「作動可能に連結した」は、連結されているDNA配列が連続していること、および分泌リーダーの場合には、連続しておりかつ読み取り相が一致していることを意味する。しかし、エンハンサーは、連続している必要はない。連結は、簡便な制限部位におけるライゲーションによって達成される。かかる部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の実務に従って使用される。
【0069】
本明細書で使用される場合、表現「細胞」、「細胞系」および「細胞培養物」は、相互交換可能に使用され、全てのかかる指定は、子孫を含む。したがって、単語「形質転換体」および「形質転換された細胞」は、初代対象細胞、および移行の回数にかかわらず、それに由来する培養物を含む。意図的なまたは偶発性の突然変異に起因して、全ての子孫が正確に同一なDNA内容を有するわけではないことも理解される。元々形質転換された細胞においてスクリーニングされたものと同じ機能または生物活性を有する突然変異体子孫が含まれる。別個の指定が意図される場合、それは、文脈から明らかになる。
【0070】
一部の態様では、本開示は、単離されたアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)を提供する。本明細書で使用される場合、AAVに関して、用語「単離された」は、その天然の環境から(例えば、宿主細胞、組織または対象から)単離されたまたは人工的に産生されたAAVを指す。単離されたAAVは、組換え方法を使用して産生され得る。かかるAAVは、本明細書で「組換えAAV」と呼ばれる。組換えAAV(rAAV)は、好ましくは、rAAVの導入遺伝子が1つまたは複数の所定の組織に特異的に送達されるように、組織特異的標的化能を有する。AAVカプシドは、これらの組織特異的標的化能を決定する際の重要なエレメントである。
【0071】
所望のカプシドタンパク質を有する組換えAAVを得るための方法は、記載されている(例えば、米国特許第7,906,111号を参照されたい)。Gao, et al., J. Virology 78(12):6381-6388 (June 2004);Gao, et al., Proc Natl Acad Sci USA 100(10):6081-6086 (May 13, 2003);および米国特許第7,906,111号;米国特許第8,999,678号に開示されるものなどの、いくつかの異なるAAVカプシドタンパク質が記載されている。本明細書に記載される構築物の所望のパッケージングおよび方法についての実施形態では、組換えAAVは、AAV9またはAAV10ベクターおよびカプシドであり得る。しかし、他の適切なAAV、例えば、rAAVrh.8およびrAAVrh.10または他の類似のベクターが、本発明の方法および組成物における使用のために適応され得ることに留意されたい。典型的には、方法は、AAVカプシドタンパク質またはその断片をコードする核酸配列;機能的rep遺伝子;AAV逆位末端反復(ITR)および導入遺伝子から構成される組換えAAVベクター;ならびにAAVカプシドタンパク質中への組換えAAVベクターのパッケージングを可能にするのに十分なヘルパー機能を含有する宿主細胞を培養することを含む。
【0072】
AAVカプシド中にrAAVベクターをパッケージングするために宿主細胞において培養される構成要素は、宿主細胞にトランスで提供され得る。あるいは、要求される構成要素(例えば、組換えAAVベクター、rep配列、cap配列および/またはヘルパー機能)のうちいずれか1つまたは複数は、当業者に公知の方法を使用して、要求される構成要素のうち1つまたは複数を含有するように操作された安定な宿主細胞によって提供され得る。最も適切には、かかる安定な宿主細胞は、誘導性プロモーターの制御下に、要求される構成要素を含有する。しかし、要求される構成要素は、構成的プロモーターの制御下にあってもよい。なお別の代替法では、選択された安定な宿主細胞は、構成的プロモーターの制御下の選択された構成要素を含有し得、1つまたは複数の誘導性プロモーターの制御下の他の選択された構成要素を含有し得る。例えば、293細胞(構成的プロモーターの制御下のE1ヘルパー機能を含有する)に由来するが、誘導性プロモーターの制御下のrepおよび/またはcapタンパク質を含有する安定な宿主細胞が、生成され得る。
【0073】
rAAVを産生するための組換えAAVベクター、rep配列、cap配列およびヘルパー機能は、任意の適切な遺伝エレメント(ベクター)を使用して、パッケージング宿主細胞に送達され得る。選択された遺伝エレメントは、本明細書に記載されるものが含まれる任意の適切な方法によって送達され得る。例えば、Fisher et al, J. Virology 70:520-532 (1993)および米国特許第5,478,745号を参照されたい。
【0074】
一部の実施形態では、組換えAAVは、三重トランスフェクション方法(例えば、米国特許第6,001,650号に詳細に記載される)を使用して産生され得る。典型的には、組換えAAVは、宿主細胞を、AAV粒子へとパッケージングされる組換えAAVベクター(導入遺伝子を含む)、AAVヘルパー機能ベクター、およびアクセサリー機能ベクターでトランスフェクトすることによって産生される。AAVヘルパー機能ベクターは、生産的AAV複製およびカプシド形成のためにトランスで機能する「AAVヘルパー機能」配列(即ち、repおよびcap)をコードする。好ましくは、AAVヘルパー機能ベクターは、検出可能な野生型AAVビリオン(即ち、機能的repおよびcap遺伝子を含有するAAVビリオン)を生成することなしの効率的なAAVベクター産生を支持する。使用に適切なベクターの非限定的な例には、米国特許第6,001,650号に記載されるpHLP19および米国特許第6,156,303号に記載されるpRep6cap6ベクターが含まれ、両文献の全体が、これにより参照により本明細書に組み込まれる。アクセサリー機能ベクターは、AAVが複製のために依存する非AAV由来ウイルスおよび/または細胞機能(即ち、「アクセサリー機能」)のためのヌクレオチド配列をコードする。アクセサリー機能には、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的なAAV mRNAスプライシング、AAV DNA複製、cap発現産物の合成およびAAVカプシドアセンブリに関与する部分が含まれるがこれらに限定されない、AAV複製のために要求される機能が含まれる。ウイルスベースのアクセサリー機能は、公知のヘルパーウイルス、例えば、アデノウイルス、ヘルペスウイルス(単純ヘルペスウイルス1型以外)およびワクシニアウイルスのいずれかに由来し得る。
【0075】
本明細書で使用される場合、用語「AAV1」、「AAV2」、「AAV3」、「AAV4」などは、それぞれAAV1、AAV2、AAV3またはAAV4由来のITRならびにそれぞれAAV1、AAV2、AAV3またはAAV4由来のカプシドタンパク質を含有するAAVベクターを指す。用語「AAV2/1」、「AAV2/8」、「AAV2/9」などは、AAV2由来のITRおよびそれぞれAAV1、AAV8またはAAV9由来のカプシドタンパク質を含有するシュードタイプ化されたAAVベクターを指す。
【0076】
トランスフェクトされた宿主細胞に関して、用語「トランスフェクション」は、細胞による外来DNAの取り込みを指すために使用され、細胞は、外因性DNAが細胞膜の内側に導入されている場合、「トランスフェクトされ」ている。いくつかのトランスフェクション技法が、当該分野で一般に公知である。例えば、Graham et al., Virology 52:456 (1973)、Sambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York (1989)、Davis et al., Basic Methods in Molecular Biology, Elsevier (1986)およびChu et al., Gene 13:197 (1981)を参照されたい。かかる技法は、1つまたは複数の外因性核酸、例えば、ヌクレオチド組込みベクターおよび他の核酸分子を適切な宿主細胞中に導入するために使用され得る。
【0077】
「宿主細胞」は、目的の物質を保有するまたは保有することが可能な任意の細胞を指す。宿主細胞は、哺乳動物細胞である場合が多い。宿主細胞は、AAVヘルパー構築物、AAVミニ遺伝子プラスミド、アクセサリー機能ベクター、または組換えAAVベクターの産生に関連する他の移入DNAのレシピエントとして使用され得る。この用語は、トランスフェクトされた元の細胞の子孫を含む。したがって、「宿主細胞」は、本明細書で使用される場合、外因性DNA配列でトランスフェクトされた細胞を指し得る。単一の親細胞の子孫は、天然の、偶然のまたは意図的な突然変異に起因して、形態学においてまたはゲノムもしくは総DNA相補体において元の親と必ずしも完全に同一である必要がない場合があることが理解される。
【0078】
細胞に関して、用語「単離された」は、その天然の環境から(例えば、組織または対象から)単離された細胞を指す。用語「細胞系」は、in vitroでの連続的なまたは長期の成長および分裂が可能な細胞の集団を指す。しばしば、細胞系は、単一の前駆細胞に由来するクローン性集団である。自発的なまたは誘導された変化が、かかるクローン性集団の貯蔵または移送の間に核型において生じ得ることが、当該分野でさらに公知である。したがって、言及される細胞系に由来する細胞は、祖先細胞または培養物と正確に同一ではない場合があり、言及される細胞系は、かかるバリアントを含む。本明細書で使用される場合、用語「組換え細胞」は、外因性DNAセグメント、例えば、生物学的に活性なポリペプチドの転写またはRNAなどの生物学的に活性な核酸の産生をもたらすDNAセグメントが導入されている細胞を指す。
【0079】
用語「ベクター」は、適切な制御エレメントと関連した場合に複製が可能であり、細胞間で遺伝子配列を移行させることができる任意の遺伝エレメント、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、染色体、人工染色体、ウイルスまたはビリオンを含む。したがって、この用語は、クローニングおよび発現ビヒクル、ならびにウイルスベクターを含む。一部の実施形態では、有用なベクターは、転写される核酸セグメントがプロモーターの転写制御下に位置付けられたベクターであることが企図される。「プロモーター」は、遺伝子の特異的転写を開始するために要求される、細胞の合成機械または導入された合成機械によって認識されるDNA配列を指す。語句「動作可能に位置付けられた」、「動作可能に連結された」、「制御下」または「転写制御下」は、プロモーターが、RNAポリメラーゼ開始および遺伝子の発現を制御するように、核酸に関して正確な位置および配向にあることを意味する。
【0080】
用語「発現ベクター」または「発現構築物」または「構築物」は、核酸コード配列の一部または全てが転写されることが可能である、核酸を含有する任意の型の遺伝子構築物を意味する。一部の実施形態では、発現には、例えば、転写された遺伝子から生物学的に活性なポリペプチド産物または阻害性RNAを生成する、核酸の転写が含まれる。
【0081】
分子生物学における標準的な方法は、Sambrook, Fritsch and Maniatis Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (1982 & 1989 2nd Edition, 2001 3rd Edition);Sambrook and Russell Molecular Cloning, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY (2001);Wu Recombinant DNA, Vol. 217, Academic Press, San Diego, CA) (1993)に記載されている。標準的な方法は、Ausbel, et al. Current Protocols in Molecular Biology, Vols.1-4, John Wiley and Sons, Inc. New York, NY (2001)にも登場している。
レトロマーおよび神経変性疾患
【0082】
アルツハイマー病(AD)の遺伝学、細胞病理学および細胞生物学は、ADの病理発生における重要な欠陥としてのエンドソーム輸送に集中してきた。3つのラインの証拠が、ADにおけるレトロマー機能不全を暗示している。まず第1に、遺伝学的および遺伝子発現研究は、真正の機能喪失型突然変異を含む、ADに関連するますます多くのレトロマー関連分子を同定している。第2に、レトロマー機能不全は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の断片が蓄積する拡張した機能不全的エンドソームによって特徴付けられる、ADの細胞病理学を再現する。第3に、レトロマー機能不全は、ニューロン中のAPPおよびミクログリア中の貪食細胞受容体を含むいくつかのAD関連分子を誤輸送する。
【0083】
レトロマーは、エンドソーム輸送の「マスターコンダクター」であるマルチタンパク質複合体である。レトロマーのコアは、3つの異なるタンパク質のトリマーであり、これは、技術的にはヘテロトリマーになる。これらのタンパク質は全て、「液胞タンパク質選別(Vacuolar Protein Sorting)」(VPS)ファミリーのタンパク質のメンバーである。VPS35は、VPS29およびVPS26が結合する、トリマーコアの中心的タンパク質である。VPS26は、VPS26aおよびVPS26bと呼ばれる2つのパラログを有する唯一のコアタンパク質である。したがって、ニューロンは、2つの別個のレトロマーコア:VPS29-VPS35-VPS26aおよびVPS29-VPS35-VPS26bを有する。
図1を参照されたい。
【0084】
これらのコアタンパク質は、過剰発現されると、内因性レトロマー構成要素に結合し、レトロマー機能の増加をもたらし得る。これらのタンパク質は、細胞の内側で非常に緊密に自己調節される。この障壁を克服するために、2つのレトロマータンパク質が、本明細書に記載されるように、同じときに共発現される。
【0085】
薬理学的シャペロンによりまたはウイルスベクターを介してVPS35レベルを増加させることは、レトロマーの機能を増加させる。VPS35またはVPS26のいずれかと比較して、VPS29タンパク質は、余分に存在し得る。本明細書で示されるように、VPS35およびVPS26aの両方またはVPS35およびVPS26bの両方の共発現は、それぞれVPS35およびVPS26aまたはVPS35およびVPS26bの細胞レベルに対して相乗効果を有する。
【0086】
レトロマー機能についての証拠は、アルツハイマー病において観察されるSorl1欠損の程度を映し出す効果量であるおよそ34%のSorl1レベルにおける増加によっても示される(Sager et al. 2007;Scherzer et al. 204;Dodson et al. 2006)。これらの研究にわたるSorl1の影響についてのより広い比較は、レトロマー機能性についての情報を与える。第1のニューロン研究では、VPS35を単独で過剰発現させた場合、3つのレトロマーコアタンパク質のうち2つは、ロバストに上昇したが、レトロマー機能に対しては影響がなかった。第2のニューロン研究では、シナジーのおかげで、トリマー性タンパク質の3つ全てがロバストに上昇し、これは、レトロマー機能における増加をもたらした。この結果は、レトロマーの全体的機能を上方調節するために3つ全てのレトロマーコアタンパク質を共上昇させる必要があるという最初の経験的証拠を提供している。本明細書の研究は、レトロマーの化学量論およびタンパク質-タンパク質相互作用を活用することによって、3つ全てのタンパク質を外因的に発現させる必要がないことを示している。VPS35およびVPS26を外因的に発現させることは、VPS29のレベルもまた上方調節し、レトロマーのエンドソームカーゴリサイクル機能を増加させるのに十分である。
【0087】
重要なことに、VPS26aおよびVPS26bのレベルが、互いに独立しており、したがって、コンビナトリアルの適切な選択が、他のレトロマーヘテロトリマーを上回る1つのレトロマーヘテロトリマーの選択的増加を可能にすることもまた、本明細書で示される。
【0088】
レトロマーのレベルおよび機能をin vivoで増加させるための、生物学に基づく方法:組換えAAV(アデノ随伴アデノウイルス)技術の使用によるレトロマーの過剰発現が、本明細書に記載される。レトロマーベースの治療薬のために使用される新規レトロマー-AAVツールを確立することは、大きい影響を有するが、それは、このウイルス送達系が、臨床適用のために最近承認されたものであるが、生物内で小分子が遭遇する障害(即ち、低い吸収速度、分解、毒性、標的/臓器特異性の欠如、血液脳関門透過性)を迂回することができるからである。AAVベクターおよびレトロマー導入遺伝子を含む組成物は、治療剤の発現の増加、厳格なタンパク質自己調節の迂回、安定化されたタンパク質の長期発現の可能性、および安定化されたタンパク質の半減期の増加を含む多くの利点を有する。
神経変性疾患を処置、予防および/または治癒する方法
【0089】
記載された遺伝子治療の投与から利益を得る患者には、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病、神経セロイドリポフスチン症(NCL)、伝達性海綿状脳症(TSEまたはプリオン病)、多系統萎縮症(MSA)、ダウン症候群および遺伝性痙性対麻痺(HSP)、ならびにタウオパチー、例えば、進行性核上性麻痺(PSP)、染色体17q21~22に連鎖する前頭側頭葉認知症およびそのサブタイプ(FTLD-17/FTLD-Tau)、レビー小体病(LBD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、前頭側頭変性症(FTD)、ALS-FTDならびに慢性外傷性脳症(CTE)が含まれるがこれらに限定されない、エンドソーム輸送の欠陥が関与する神経変性(neurogenerative)疾患または障害と診断された患者が含まれる。
【0090】
これらの患者では、レトロマーコアタンパク質のうち1つまたは複数をコードする核酸を含有する組成物(例えば、かかる核酸を含有するウイルスベクター、例えば、AAVベクター)が、患者に投与され得る。これらの組成物は、単独で、または神経変性疾患もしくは障害の処置のための他の薬剤と組み合わせて、投与され得る。
【0091】
一部の実施形態では、本開示は、それを必要とする対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26および/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含む組成物(単数または複数)、例えば、ウイルスベクター(例えば、AAV)の治療有効量を投与することによって、神経変性疾患または障害を処置、予防、治癒および/またはその重症度もしくは程度を低減する方法を提供する。一部の実施形態では、ウイルスベクターは、AAV、例えば、rAAV2-retro、AAV10、AAV2/10、AAV9またはAAV2/9である。一部の実施形態では、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含む組成物(単数または複数)(例えば、ウイルスベクター、例えば、AAV)は、神経変性疾患または障害が診断され次第または疑われ次第投与される。実施形態では、投与される組成物は、VPS35とVPS26aまたはVPS26bのいずれかとをコードする核酸を含む。実施形態では、方法は、VPS35をコードする核酸およびVPS26aまたはVPS26bのいずれかをコードする核酸を含む1つまたは複数の組成物を、同時にまたは逐次的に投与するステップを含む。実施形態では、方法は、VPS35をコードする核酸、VPS26aをコードする核酸およびVPS26bをコードする核酸を含む1つまたは複数の組成物を、同時にまたは逐次的に投与するステップを含む。実施形態では、方法は、VPS26aをコードする核酸およびVPS26bをコードする核酸を含む1つまたは複数の組成物を、同時にまたは逐次的に投与するステップを含む。
【0092】
一部の実施形態では、投与される導入遺伝子を含むAAVベクターの量は、約4.2×1011または4.2×1010のゲノムまたはベクターまたはベクターコピーである。
【0093】
本開示は、それを必要とする対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含有する第1の組成物(例えば、ウイルスベクター、例えば、AAV)の治療有効量を投与することによって、神経変性疾患または障害を処置、予防、治癒および/またはその重症度もしくは程度を低減する方法であって、対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含有する第2の組成物(例えば、ウイルスベクター、例えば、AAV)の治療有効量を投与するステップをさらに含む方法もまた提供する。実施形態では、方法は、レトロマーコアタンパク質VPS35をコードする核酸を含有する第1の組成物の治療有効量およびレトロマーコアタンパク質VPS26aまたはVPS26bをコードする核酸を含有する第2の組成物の治療有効量を投与するステップを含む。実施形態では、方法は、レトロマーコアタンパク質VPS26aまたはVPS26bをコードする核酸を含有する第1の組成物の治療有効量およびレトロマーコアタンパク質VPS35をコードする核酸を含有する第2の組成物の治療有効量を投与するステップを含む。
【0094】
本開示は、それを必要とする対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含有する第1の組成物(例えば、ウイルスベクター、例えば、AAV)の治療有効量を投与することによって、神経変性疾患または障害を処置、予防、治癒および/またはその重症度もしくは程度を低減する方法であって、対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含有する第2の組成物(例えば、ウイルスベクター、例えば、AAV)の治療有効量を投与するステップをさらに含み、対象に、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする核酸を含有する第3の組成物(例えば、ウイルスベクター、例えば、AAV)の治療有効量を投与するステップをさらに含む方法もまた提供する。実施形態では、第1、第2および第3の組成物は、それぞれ、レトロマーコアタンパク質VPS35、VPS26aまたはVPS26bをコードする核酸を含む。
【0095】
一部の実施形態では、第1および第2および第3のAAVベクターは、各々独立して、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはVPS26bレトロマーコアタンパク質をコードするAAV9ベクターである。一部の実施形態では、第1のAAVベクターおよび第2のAAVベクターおよび第3のAAVベクターは、同じときに投与される。一部の実施形態では、第1のAAVベクターは、第2のAAVベクターの前に投与される。一部の実施形態では、第2のAAVベクターは、第3のAAVベクターの前に投与される。
【0096】
一部の実施形態では、第1の組成物(例えば、AAVベクター)は、神経変性疾患または障害が診断され次第または疑われ次第投与され、第2の組成物(例えば、AAVベクター)は、第1の組成物の後の時点で投与される。一部の実施形態では、第2の組成物(例えば、AAVベクター)は、第1の組成物(例えば、AAVベクター)の数時間以内に投与される。一部の実施形態では、第2の組成物(例えば、AAVベクター)は、第1の組成物(例えば、AAVベクター)の数日以内に投与される。一部の実施形態では、第2の組成物(例えば、AAVベクター)は、第1の組成物(例えば、AAVベクター)の数週間後に投与される。一部の実施形態では、第1の組成物(例えば、AAVベクター)および第2の組成物(例えば、AAVベクター)は、任意の所与の時点において同時に投与される。
【0097】
一部の実施形態では、第3の組成物(例えば、AAVベクター)は、第2の組成物の後の時点で投与される。一部の実施形態では、第3の組成物(例えば、AAVベクター)は、第2の組成物(例えば、AAVベクター)の数時間以内に投与される。一部の実施形態では、第3の組成物(例えば、AAVベクター)は、第2の組成物(例えば、AAVベクター)の数日以内に投与される。一部の実施形態では、第3の組成物(例えば、AAVベクター)は、第2の組成物(例えば、AAVベクター)の数週間後に投与される。
【0098】
一部の実施形態では、第1の組成物(例えば、AAVベクター)および第2の組成物(例えば、AAVベクター)および第3の組成物(例えば、AAVベクター)は、神経変性疾患もしくは障害が診断もしくは疑われた時点、または神経変性疾患もしくは障害が診断された後もしくは疑われた後の時点を含む、任意の所与の時点において同時に投与される。一部の実施形態では、3つの組成物(例えば、AAVベクター)は、同じより大きい組成物内に存在し、一部の実施形態では、これら3つは、別々の組成物である。
【0099】
本明細書に記載される方法の実施形態では、VPS35およびVPS26b(皮質中で優先的に発現される)をコードする1つまたは複数の核酸を含む1つまたは複数の組成物は、エンドソーム輸送の欠陥が皮質中で主に起こり、VPS35が影響を受けない障害を有しているまたは発症するリスクがある対象に投与される。VPS35が影響を受けない皮質エンドソーム輸送障害の例には、バイオマーカー陰性孤発性AD、SORL1突然変異を有するAD患者、FTD、プリオン病、およびダウン症候群が含まれる。
【0100】
本明細書に記載される方法の他の実施形態では、VPS35およびVPS26a(皮質下中で優先的に発現される)をコードする1つまたは複数の核酸を含む1つまたは複数の組成物は、エンドソーム輸送の欠陥が皮質下領域中で主に起こる障害、例えば、バイオマーカー陰性孤発性PD、HSP、プリオン病およびNCLを有しているまたは発症するリスクがある対象に投与される。
【0101】
本明細書に記載される方法の他の実施形態では、VPS35、VPS26aおよびVPS26bをコードする1つまたは複数の核酸を含む1つまたは複数の組成物は、疾患がよりびまん性であるエンドソーム輸送神経学的障害、例えば、レビー小体病(LBD)、プリオン病およびALS-FTDを有しているまたは発症するリスクがある対象に投与される。
【0102】
神経変性疾患または障害を処置、予防、治癒および/またはその重症度もしくは程度を低減することに加えて、実施形態では、本明細書に記載される方法および組成物は、エンドソーム輸送およびレトロマー機能不全に関連する他の障害または疾患を処置、予防、治癒および/またはその重症度を低減するために使用される。
組換えAAVベクター
【0103】
本明細書に記載される「組換えAAV(rAAV)ベクター」は、一般に、導入遺伝子(例えば、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする)を含む。導入遺伝子には、5’-ITRおよび3’-ITRが隣接し、この導入遺伝子は、標的組織の細胞における導入遺伝子の転写、翻訳および/または発現を可能にする様式で、1つまたは複数の調節エレメントに作動可能に連結され得る。かかる調節エレメントには、プロモーターまたはエンハンサー、例えば、本明細書に記載されるものの中でもとりわけ、ニワトリベータアクチンプロモーターまたはサイトメガロウイルスエンハンサーが含まれ得る。組換えAAVゲノムは、一般に、カプシドタンパク質(例えば、ITRが由来するものと同じAAV血清型由来、またはITRが由来するものとは異なるAAV血清型由来)によってカプシド形成される。次いで、AAVベクターは、選択された標的細胞型または組織に送達される。一部の実施形態では、導入遺伝子は、VPS35、VPS26aおよび/またはVPS26bのうち1つまたは複数をコードする、ベクター配列とは異種の核酸配列である。本開示の組成物および方法と併せて使用され得る例示的なAAVベクターの構成要素は、本明細書に記載される。
【0104】
任意のAAV血清型またはAAV血清型の組合せが、本開示の方法および組成物において使用され得る。本開示の方法および組成物は、神経変性疾患または障害の処置および治癒のためのものであるので、中枢神経系を少なくとも標的化するAAV血清型が一部の実施形態において使用され得、これには、AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9およびAAV10が含まれるがこれらに限定されない。
【0105】
一部の実施形態では、広いトロピズムを有するAAV9血清型が使用される。一部の実施形態では、AAV2/9が使用される。
AAVベクターの構成要素
【0106】
本明細書に記載されるAAVベクターは、シス作用性の5’ITRおよび3’ITRを含有し得る(例えば、Carter, in “Handbook of Parvoviruses”, ed., P. Tijsser, CRC Press, pp. 155 168 (1990)を参照されたい)。ITR配列は、典型的には約145bp長である。好ましくは、ITRをコードする配列の実質的に全体が分子中で使用されるが、これらの配列のある程度の軽微な改変が許容される(例えば、Sambrook et al, (1989)およびFisher et al., (1996)などのテキストを参照されたい)。かかる分子の例は、選択された導入遺伝子配列および関連する調節エレメントに5’AAV ITR配列および3’AAV ITR配列が隣接する、導入遺伝子を含有する「シス作用性」プラスミドである。AAV ITR配列は、本明細書で同定された哺乳動物AAV型を含む任意の公知のAAVから得られ得る。
【0107】
組換えAAVベクターのための上で同定されたエレメントに加えて、ベクターは、プラスミドベクターでトランスフェクトされたまたはウイルスに感染した細胞におけるその転写、翻訳および/または発現を可能にする様式で導入遺伝子に作動可能に連結された、従来の制御エレメントもまた含有し得る。本明細書で使用される場合、「作動可能に連結した」配列は、目的の遺伝子と連続する発現制御配列および目的の遺伝子を制御するためにトランスで作用するまたは離れて作用する発現制御配列の両方を含む。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーターおよびエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシングシグナルおよびポリアデニル化(ポリA)シグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を増強する配列(即ち、Kozakコンセンサス配列);タンパク質安定性を増強する配列;および所望の場合、コードされた産物の分泌を増強する配列が含まれる。ネイティブの、構成的、誘導性および/または組織特異的なプロモーターを含む多数の発現制御配列が、当該分野で公知であり、利用され得る。
【0108】
本明細書で使用される場合、核酸配列(例えば、コード配列)および調節配列は、核酸配列の発現または転写を、調節配列の影響下または制御下に置くような方法で共有結合的に連結されている場合、作動可能に連結されていると言われる。核酸配列が機能的タンパク質へと翻訳されることが所望されるとき、5’調節配列中のプロモーターの誘導がコード配列の転写を生じる場合、および2つのDNA配列間の連結の性質が、(1)フレーム-シフト突然変異の導入を生じない、(2)プロモーター領域がコード配列の転写を指示する能力を妨害しない、または(3)対応するRNA転写物がタンパク質へと翻訳される能力を妨害しない場合、2つのDNA配列は、作動可能に連結されていると言われる。したがって、プロモーター領域は、得られた転写物が所望のタンパク質またはポリペプチドへと翻訳され得るように、プロモーター領域がそのDNA配列の転写をもたらすことが可能であった場合、核酸配列に作動可能に連結されている。同様に、2つまたはそれよりも多くのコード領域は、共通のプロモーターからの転写が2つまたはそれよりも多くのタンパク質の発現を生じるような方法で連結されている場合、作動可能に連結されている。一部の実施形態では、作動可能に連結したコード配列は、融合タンパク質を生じる。一部の実施形態では、作動可能に連結したコード配列は、機能的RNA(例えば、shRNA、miRNA)を生じる。一部の実施形態では、作動可能に連結したコード配列は、2つまたはそれよりも多くの別々の機能的タンパク質(例えば、VPS35、およびVPS26aまたはVPS26b)を生じる。
【0109】
タンパク質をコードする核酸について、ポリアデニル化配列は、一般に、導入遺伝子配列の後かつ3’AAV ITR配列の前に挿入される。本開示のrAAV構築物は、プロモーター/エンハンサー配列と導入遺伝子との間に望ましくは位置するイントロンもまた含み得る。1つの可能なイントロン配列は、SV-40に由来し、SV-40Tイントロン配列と呼ばれる。
【0110】
使用され得る別のベクターエレメントは、内部リボソーム進入部位(IRES)である。IRES配列は、単一の転写物から1つよりも多くのポリペプチドまたはタンパク質を産生するために使用される。IRESエレメントは、例えば、同じAAVベクターからVPS35およびVPS26a、VPS35およびVPS26b、またはVPS26aおよびVPS26bを発現させるために使用され得る。
【0111】
宿主細胞における遺伝子発現のために必要とされる調節配列の正確な性質は、種間、組織間または細胞型間で変動し得るが、一般には、転写および翻訳の開始にそれぞれ関与する5’非転写および5’非翻訳配列、例えば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列、エンハンサーエレメントなどを必要に応じて含むものとする。特に、かかる5’非転写調節配列は、作動可能に接合された遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。調節配列は、所望により、エンハンサー配列または上流のアクチベーター配列もまた含み得る。ベクターは、5’リーダーまたはシグナル配列を必要に応じて含み得る。
【0112】
構成的プロモーターの例には、ニワトリベータアクチンプロモーター、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター(RSVエンハンサーを必要に応じて有する)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMVエンハンサーを必要に応じて有する)、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーターおよびヒト伸長因子-la(EFla)プロモーター(Invitrogen)が含まれるがこれらに限定されない。
【0113】
誘導性プロモーターは、遺伝子発現の調節を可能にし、外因的に供給される化合物、環境因子、例えば、温度、または特定の生理学的状態、例えば、急性期の存在、細胞の特定の分化状態によって、もしくは複製中の細胞のみにおいて調節され得る。誘導性プロモーターおよび誘導性の系は、Invitrogen、ClontechおよびAriadが含まれるがこれらに限定されない種々の商業的供給源から入手可能である。外因的に供給されるプロモーターによって調節される誘導性プロモーターの例には、亜鉛誘導性ヒツジメタロチオネイン(metallothionine)(MT)プロモーター、デキサメタゾン(Dex)誘導性マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、T7ポリメラーゼプロモーター系(WO98/10088);エクジソン昆虫プロモーター(No et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:3346-3351 (1996))、テトラサイクリン抑制可能な系(Gossen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551 (1992))、テトラサイクリン誘導性の系(Gossen et al., Science 268:1766-1769 (1995)、RU486誘導性の系(Wang et al., Nat. Biotech. 15:239-243 (1997)およびWang et al., Gene Ther. 4:432-441 (1997))およびラパマイシン誘導性の系(Magari et al., J. Clin. Invest. 100:2865-2872 (1997))が含まれる。これに関して有用であり得る誘導性プロモーターのなお他の型は、特定の生理学的状態、例えば、温度、急性期、細胞の特定の分化状態によって、または複製中の細胞のみにおいて調節される誘導性プロモーターである。
【0114】
別の実施形態では、導入遺伝子のためのネイティブのプロモーターまたはその断片が使用され得る。導入遺伝子の発現がネイティブの発現を模倣すべきであることが所望される場合、ネイティブのプロモーターが好まれ得る。ネイティブのプロモーターは、導入遺伝子の発現が時間的にもしくは発生的に調節される必要がある場合に、または組織特異的様式で、または特定の転写刺激に応答して、使用され得る。さらなる実施形態では、他のネイティブの発現制御エレメント、例えば、エンハンサーエレメント、ポリアデニル化部位またはKozakコンセンサス配列もまた、ネイティブの発現を模倣するために使用され得る。
【0115】
一部の実施形態では、調節配列は、組織特異的遺伝子発現能を付与する。一部の場合には、組織特異的調節配列は、組織特異的様式で転写を誘導する組織特異的転写因子に結合する。
【0116】
一部の実施形態では、1つまたは複数のmiRNAのための1つまたは複数の結合部位が、導入遺伝子を保有する対象の1つまたは複数の組織における導入遺伝子の発現を阻害するために、rAAVベクターの導入遺伝子中に組み込まれる。mRNA中のmiRNA標的部位は、5’-UTR、3’-UTRまたはコード領域中にあり得る。典型的には、標的部位は、mRNAの3’UTR中にある。さらに、導入遺伝子は、複数のmiRNAが同じまたは複数の部位を認識することによってmRNAを調節するように設計され得る。複数のmiRNA結合部位の存在は、複数のRISCの協同作用を生じ得、発現の高度に効率的な阻害を提供し得る。標的部位配列は、合計で5~100、10~60、またはそれよりも多くのヌクレオチドを含み得る。標的部位配列は、標的遺伝子結合部位の配列のうち少なくとも5ヌクレオチドを含み得る。
【0117】
例えば、肝臓における導入遺伝子の発現を阻害する3’-UTR部位が、導入遺伝子中に組み込まれ得る。投与されたウイルスの大部分(およそ60~90%)が肝臓において最終的に見出されるので、肝臓にとって毒性である治療的タンパク質をコードする導入遺伝子のために、これは有益である。したがって、肝臓における治療的遺伝子発現を抑制することは、肝臓細胞から負担を取り除く。
【0118】
一部の実施形態では、AAVベクターは、自己相補AAVになるように改変される。自己相補AAVは、導入遺伝子の相補配列(即ち、導入遺伝子の二重コピー)を有する。自己相補性は、細胞に進入した後に遺伝子をより安定にする。
導入遺伝子コード配列
【0119】
本明細書に記載される導入遺伝子の核酸配列は、導入遺伝子を発現する特定の組成物(例えば、ウイルスベクター)の知識に基づいて設計され得る。例えば、導入遺伝子配列の1つの型には、発現の際に検出可能なシグナルを生じるレポーター配列が含まれる。別の例では、導入遺伝子は、治療的タンパク質または治療的な機能的RNAをコードする。別の例では、導入遺伝子は、研究目的のために、例えば、導入遺伝子を保有する体細胞トランスジェニック動物モデルを創出するため、例えば、導入遺伝子産物の機能を研究するために使用されることが意図されるタンパク質または機能的RNAをコードする。別の例では、導入遺伝子は、疾患の動物モデルを創出するために使用されることが意図されるタンパク質または機能的RNAをコードする。適切な導入遺伝子コード配列は、当業者に明らかである。
【0120】
実施形態では、導入遺伝子は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bが含まれるがこれらに限定されない機能的タンパク質をコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35およびVPS26aまたはVPS26bのいずれかをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35、VPS26aおよびVPS26bをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS26aおよびVPS26bをコードする。実施形態では、導入遺伝子は、VPS35、VPS26aおよびVPS26bのうち1つだけをコードする。
【0121】
アミノ酸配列情報は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)から得ることができ、以下に示される。
【0122】
ヒトレトロマーコアタンパク質VPS35をコードする遺伝子(Gene ID:55737)が、機能的レトロマーコアタンパク質VPS35(配列番号1):
【化1-1】
【化1-2】
をコードする導入遺伝子を得るために使用され得る。
【0123】
ヒトレトロマーコアタンパク質VPS26aをコードする遺伝子(Gene ID:9559)が、機能的レトロマーコアタンパク質VPS26a(配列番号2):
【化2】
をコードする導入遺伝子を得るために使用され得る。
【0124】
ヒトレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードする遺伝子(Gene ID:112936)が、機能的レトロマーコアタンパク質VPS26b(配列番号3):
【化3】
をコードする導入遺伝子を得るために使用され得る。
【0125】
レトロマーコアタンパク質についての野生型マウスmRNA配列(即ち、コード配列)は、National Center for Biotechnology Information (NCBI)から得、以下に示される。
【0126】
mVPS35(配列番号4)
【化4-1】
【化4-2】
【0127】
mVPS26aアイソフォームA(配列番号5)
【化5-1】
【化5-2】
【0128】
mVPS26b(配列番号6)
【化6-1】
【化6-2】
導入遺伝子コード配列のコドン最適化
【0129】
導入遺伝子コード配列のコドン最適化は、遺伝子治療の効率を増加させ得る。したがって、一部の実施形態では、治療的タンパク質をコードする導入遺伝子のコード配列と少なくとも70%同一な核酸(例えば、核酸配列と70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一な核酸配列)が使用される。
【0130】
コドン最適化ツールは、当該分野で公知である。
【0131】
例示的なコドン最適化された核酸は、以下の通りである。
【0132】
コドン最適化されたmVPS35(配列番号7)
【化7-1】
【化7-2】
【0133】
コドン最適化されたmVPS26a、アイソフォームA(配列番号8)
【化8-1】
【化8-2】
【0134】
コドン最適化されたmVPS26b(配列番号9)
【化9-1】
【化9-2】
【0135】
ヒトVPS35コード配列(制限部位を除去するように改変されたある特定のコドンを有する)(配列番号10)
【化10-1】
【化10-2】
投与および投薬の経路
【0136】
本開示は、対象において神経変性疾患もしくは障害を処置、予防および/もしくは治癒する方法ならびに/または神経変性疾患および/もしくは障害に関連する症状のうち少なくとも1つを軽減する方法における使用のための、rAAVベクターを提供する。一部の実施形態では、方法は、そのような神経変性疾患または障害を有するまたは有すると疑われる対象において神経変性疾患または障害を処置、予防および/または治癒するのに十分な量でのかつそのような期間にわたる、対象への、薬学的に許容される担体中の1つまたは複数の治療的ポリペプチドまたはタンパク質をコードするrAAVベクターの投与を含む。
【0137】
rAAVベクターは、当該分野で公知の任意の適切な方法に従って、組成物中で対象に送達され得る。生理学的に適合性の担体(例えば、組成物)中に好ましくは懸濁されたrAAVベクターが、対象に投与され得る。ある特定の実施形態では、組成物は、rAAVベクターを単独で、または1つもしくは複数の他のベクター(例えば、1つもしくは複数の異なる導入遺伝子を有する第2のrAAVベクター)と組み合わせて含み得る。一実施形態では、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bが含まれるがこれらに限定されない機能的タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むrAAV9ベクターを含み得る。一実施形態では、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bが含まれるがこれらに限定されない機能的タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むrAAV2/9ベクターを含み得る。一実施形態では、組成物は、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bが含まれるがこれらに限定されない機能的タンパク質をコードする導入遺伝子を含む核酸配列を含むrAAV10またはrAAV2/10ベクターを含み得る。
【0138】
適切な担体は、rAAVが指向される適応症を考慮して、当業者によって容易に選択され得る。例えば、1つの適切な担体には、種々の緩衝溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水)を用いて製剤化され得る食塩水が含まれる。他の例示的な担体には、滅菌食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ラッカセイ油、ゴマ油および水が含まれる。担体の選択は、本開示の制約ではない。
【0139】
必要に応じて、本明細書で開示される組成物は、rAAVおよび担体に加えて、他の従来の医薬成分、例えば、防腐剤または化学的安定剤を含有し得る。適切な例示的な防腐剤には、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノールおよびパラクロロフェノールが含まれる。適切な化学的安定剤には、ゼラチンおよびアルブミンが含まれる。
【0140】
一部の実施形態では、rAAV組成物は、特に、高いrAAV濃度(例えば、約1013GC/mlまたはそれよりも高い)が存在する場合に、組成物中のAAV粒子の凝集を低減させるために製剤化される。rAAVの凝集を低減させるための方法は、当該分野で周知であり、それには、例えば、界面活性剤の添加、pH調整および塩濃度調整が含まれる(例えば、Wright, et al., Molecular Therapy 12:171-178 (2005)を参照されたい)。
【0141】
注射可能な使用に適切な医薬形態には、滅菌水性溶液または分散物、および滅菌された注射可能な溶液または分散物の即席の調製のための滅菌粉末が含まれる。分散物は、グリセロール、液体ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物中、ならびに油中でも調製され得る。貯蔵および使用の通常の条件下で、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための防腐剤を含有する。多くの場合には、形態は、滅菌であり、容易な注射可能性(syringability)が存在する程度まで流動性がある。これは、製造および貯蔵の条件下で安定でなければならず、微生物、例えば、細菌および真菌の混入作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)、それらの適切な混合物、および/または植物油を含有する溶媒または分散媒であり得る。適切な流動性は、例えば、コーティング、例えばレシチンの使用によって、分散物の場合には要求される粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらされ得る。多くの場合には、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期の吸収は、組成物中での吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの使用によってもたらされ得る。
【0142】
注射可能な水性溶液の投与のために、例えば、溶液は、必要に応じて適切に緩衝化され得、液体希釈剤は、十分な食塩水またはグルコースを用いて最初に等張にされる。これらの特定の水性溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与に特に適切である。これに関して、使用され得る滅菌水性媒体は、当業者に公知である。例えば、1つの投薬量は、1mlの等張NaCl溶液中に溶解され得、1000mlの皮下点滴療法流体に添加され得るか、または提案された注入部位において注射され得るかのいずれかである。投薬量におけるいくらかのバリエーションが、宿主の状態に依存して、必然的に生じる。いずれにしろ、投与を担う人が個々の宿主に適切な用量を決定する。
【0143】
滅菌された注射可能な溶液は、適切な溶媒中に、本明細書で列挙される種々の他の成分と共に、要求される量の活性なrAAVを組み込み、その後必要に応じて濾過滅菌することによって調製される。一般に、分散物は、基本的分散媒および上で列挙されるものからの要求される他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に、種々の滅菌された活性成分を組み込むことによって調製される。滅菌された注射可能な溶液の調製のための滅菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、以前に滅菌濾過されたその溶液から、活性成分+任意のさらなる所望の成分の粉末を得る、真空乾燥およびフリーズドライ技法である。
【0144】
上記送達の方法に加えて、以下の技法もまた、rAAV組成物を宿主に送達する代替的な方法として企図される。ソノフォレーシス(即ち、超音波)は、循環系中へのおよび循環系を介した薬物透過の速度および有効性を増強するためのデバイスとして使用され、米国特許第5,656,016号に記載されている。企図される他の薬物送達代替法は、骨内注射(米国特許第5,779,708号)、マイクロチップデバイス(米国特許第5,797,898号)、眼科製剤、経皮マトリックス(米国特許第5,770,219号および同第5,783,208号)およびフィードバック制御される送達(米国特許第5,697,899号)である。
【0145】
rAAVは、所望の組織の細胞をトランスフェクトするため、ならびに過度の有害効果なしに十分なレベルの遺伝子移入および発現を提供するための投与経路によって、かつそれらを行うのに十分な量で、投与される。従来の薬学的に許容される投与経路には、選択された組織への直接送達(例えば、脳内投与、くも膜下腔内投与)、静脈内、経口、吸入(鼻腔および気管内送達が含まれる)、眼球内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内および他の非経口投与経路が含まれるがこれらに限定されない。投与経路は、所望により組み合わされ得る。投与レジメンは、治療的組成物の血清または組織代謝回転速度、症状のレベル、および生物学的マトリックス中の標的細胞のアクセス可能性を含む、いくつかの因子に依存する。好ましくは、投与レジメンは、所望されない副作用を同時に最小化しつつ、標的疾患状態における改善をもたらすのに十分な治療的組成物を送達する。したがって、送達される生物製剤の量は、特定の治療的組成物および処置されている状態の重症度に一部依存する。
【0146】
本開示は、rAAVビリオンを含む安定な医薬組成物を提供する。組成物は、凍結/解凍サイクルに供された場合、およびガラスを含有する種々の材料で作製された容器中に貯蔵された場合であっても、安定かつ活性なままである。
【0147】
適切な用量は、他の因子の中でもとりわけ、処置されている対象(例えば、ヒトまたは非ヒト霊長類または他の哺乳動物)、処置される対象の年齢および全身状態、処置されている状態の重症度、rAAVビリオンの投与の様式に依存する。適切な有効量は、当業者によって容易に決定され得る。
【0148】
所望の効果または「治療効果」を達成するために要求されるrAAVビリオンの用量、例えば、体重1キログラム当たりのベクターゲノム(vg/kg)の用量の単位は、rAAVの投与経路;治療効果を達成するために要求される遺伝子またはRNA発現のレベル;処置されている特定の疾患または障害;および遺伝子またはRNA産物の安定性が含まれるがこれらに限定されない、いくつかの因子に基づいて変動する。当業者は、上述の因子、ならびに当該分野で周知の他の因子に基づいて、特定の疾患または障害を有する対象を処置するためのrAAVビリオン用量範囲を容易に決定することができる。rAAVの有効量は、一般に、対象1人当たり約109~1016のゲノムコピーを含有する約10μl~約100mlの溶液の範囲内である。他の体積の溶液が使用され得る。使用される体積は、典型的には、とりわけ、対象のサイズ、rAAVの用量、および投与経路に依存する。例えば、くも膜下腔内または脳内投与について、1μl~10μlまたは10μl~100μlの範囲内の体積が使用され得る。静脈内投与について、10μl~100μl、100μl~1ml、1ml~10mlの範囲内の体積、またはそれよりも多くが使用され得る。一部の場合には、対象1人当たり約1010~1012の間のrAAVゲノムコピーの投薬量が適切である。ある特定の実施形態では、対象1人当たり1012のrAAVゲノムコピーが、所望の組織を標的化するために有効である。一部の実施形態では、rAAVは、対象1人当たり1010、1011、1012、1013、1014または1015のゲノムコピーの用量で投与される。一部の実施形態では、rAAVは、1010、1011、1012、1013または1014ゲノムコピー/kgの用量で投与される。
【0149】
したがって、「治療有効量」は、臨床試験を介して決定され得る比較的広い範囲に入る。例えば、in vivo注射、即ち、対象への直接注射のために、治療有効用量は、約105~1016のrAAVビリオン、より好ましくは108~1014のrAAVビリオンのオーダーであり得る。in vitro形質導入のために、細胞に送達されるrAAVビリオンの有効量は、105~1013、好ましくは108~1013のrAAVビリオンのオーダーであり得る。組成物が、対象に戻し送達される形質導入された細胞を含む場合、医薬組成物中の形質導入された細胞の量は、約104~1010細胞、より好ましくは105~108細胞であり得る。用量は、当然、形質導入の効率、プロモーター強度、メッセージおよびそれによってコードされるタンパク質の安定性に依存する。有効投薬量は、用量応答曲線を確立する慣用的な試験を介して、当業者によって容易に確立され得る。
【0150】
投薬処置は、上で特定された量を最終的に送達する単一用量スケジュールまたは複数用量スケジュールであり得る。さらに、対象は、必要に応じて、多くの用量として投与され得る。したがって、対象には、例えば、単一用量、または例えば、105~1016のrAAVビリオンの送達を集合的に生じる2つ、3つ、4つ、5つ、6つもしくはそれよりも多くの用量で、105~1016のrAAVビリオンが与えられ得る。当業者は、投与するための適切な数の用量を容易に決定することができる。
【0151】
したがって、医薬組成物は、目的のタンパク質の治療有効量、即ち、問題の疾患状態の症状を低減もしくは寛解させるのに十分な量、または所望の利益を付与するのに十分な量を生じるのに十分な遺伝材料を含む。したがって、rAAVビリオンは、1つまたは複数の用量で与えられる場合に治療効果を提供するのに十分な量で、対象組成物中に存在する。rAAVビリオンは、凍結乾燥された調製物として提供され得、即座の使用または将来の使用のためにビリオン安定化組成物中に希釈され得る。あるいは、rAAVビリオンは、産生直後に提供され得、将来の使用のために貯蔵され得る。
【0152】
医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤または担体もまた含有する。かかる賦形剤には、組成物を受けている個体にとって有害な抗体の産生をそれ自体誘導せず、過度の毒性なしに投与され得る、任意の医薬品剤が含まれる。薬学的に許容される賦形剤には、液体、例えば、水、食塩水、グリセロールおよびエタノールが含まれるがこれらに限定されない。薬学的に許容される塩、例えば、鉱酸の塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩など;および有機酸の塩、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などが、その中に含められ得る。さらに、補助物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などが、かかるビヒクル中に存在し得る。薬学的に許容される賦形剤の徹底的な議論は、Remington’s Pharmaceutical Sciences and U.S. Pharmacopeia: National Formulary, Mack Publishing Company, Easton, PA (1984)において入手可能である。
【0153】
治療剤および診断剤の製剤は、例えば、凍結乾燥された粉末、スラリー、水性溶液または懸濁物の形態で、許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することによって調製され得る。
【0154】
単独でまたは別の薬剤と組み合わせて投与される治療的組成物の毒性および治療有効性は、例えば、LD50(集団の50%にとって致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療有効な用量)を決定するために、細胞培養物または実験動物において、標準的な医薬手順によって決定され得る。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療指数(LD50/ED50)である。特定の態様では、高い治療指数を示す治療的組成物が望ましい。これらの細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータが、ヒトにおける使用のための一定範囲の投薬量を製剤化する際に使用され得る。かかる化合物の投薬量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全く伴わずに、ED50を含む循環濃度の範囲内に入る。投薬量は、使用される投薬形態および投与経路に依存して、この範囲内で変動し得る。
【0155】
適切な用量の決定は、例えば、処置に影響を与えることが当該分野で公知のまたは疑われるパラメーターまたは因子を使用して、臨床医によって行われる。用量は、最適な用量よりもいくらか少ない量で開始し得、その後、任意の負の副作用と比較して、所望のまたは最適な効果が達成されるまで、小さい増分で増加させられ得る。重要な診断尺度には、例えば炎症の症状の尺度、または産生された炎症性サイトカインのレベルが含まれる。一般に、使用される生物製剤は、処置のために標的化される動物と同じ種に由来し、それにより、試薬に対するいずれの免疫応答をも最小化することが望ましい。
【0156】
AAVの好ましい投与経路は、静脈内である。本明細書に記載されるrAAVベクターの他の投与経路には、頭蓋内、実質内、脊髄内が含まれる。
【0157】
好ましい用量は、約1×1010~約8×1011、約2×1010~約6×1011、約4×1010~約4×1011のゲノムまたはウイルスコピー(vc)の総投与の範囲である。好ましい用量は、rAAVの約4×1011のゲノムまたはウイルスコピー(vc)の総投与である。
【0158】
1つよりも多くのrAAVが使用される場合、ベクターの好ましい総用量は、約1×1010~約6×1011、約2×1010~約5×1011、約1×1010~約4×1011のゲノムまたはウイルスコピー(vc)の総投与の範囲である。総ベクターの好ましい用量は、約3×1011である。AAVは、等しい量、例えば、50/50の比で、または約5/95、10/90、15/85、20/80、25/75、30/70、35/65、40/60、45/55、55/45、60/40、65/35、70/30、75/25、80/20、85/15、90/10および95/5でもしくはこれらの比で投与され得る。
【0159】
用量は、対象における効果を最適化するために調整され得る。さらに、対象は、投薬量を増加させる前に、それらの状態の改善についてモニタリングされ得る。rAAVの治療的投与に対する対象の応答は、対象の筋力および筋肉制御、および運動性、ならびに身長および体重における変化を観察することによってモニタリングされ得る。これらのパラメーターのうち1つまたは複数が投与後に増加する場合、処置は継続され得る。これらのパラメーターのうち1つまたは複数が同じままであるかまたは減少する場合、投薬量は増加され得る。
キット
【0160】
本開示は、本明細書で開示される組合せの構成要素をキット形態で含むキットもまた提供する。本開示のキットは、本明細書に記載されるウイルスベクター(例えば、AAVベクター)が含まれるがこれらに限定されない1つまたは複数の構成要素を含む。キットは、本明細書で議論されるように、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。ウイルスベクターは、純粋な組成物として、または薬学的に許容される担体と組み合わせて、医薬組成物中に製剤化され得る。
【0161】
一部の実施形態では、キットは、1つの容器(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックバイアル)中の本明細書に記載される導入遺伝子を含有するAAVベクターを含む。
【0162】
一部の実施形態では、キットは、1つの容器(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックバイアル)中の本明細書に記載される導入遺伝子を含有するAAVベクター、および別の容器(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックバイアル)中の本明細書に記載される導入遺伝子をコードする第2のAAVベクター、および別の容器(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックバイアル)中の本明細書に記載される導入遺伝子をコードする第3のAAVベクターを含む。
【0163】
一部の実施形態では、キットは、1つまたは複数の容器(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックバイアル)中の、レトロマーコアタンパク質VPS35ならびに/またはレトロマーコアタンパク質VPS26aおよび/もしくはレトロマーコアタンパク質VPS26bをコードするAAVベクター、あるいはその医薬組成物を含む。
【0164】
キットが、対象への非経口投与のための1つまたは複数の医薬組成物を含む場合、そのキットは、かかる投与を実施するためのデバイスを含み得る。例えば、キットは、上で議論したように、1つまたは複数の皮下針または他の注射デバイスを含み得る。
【0165】
キットは、キット中の医薬組成物および投薬形態に関する情報を含む添付文書を含み得る。一般に、かかる情報は、患者および医師が同梱された医薬組成物および投薬形態を有効かつ安全に使用するのを助ける。例えば、組合せに関する以下の情報が、添付文書中に提供され得る:薬物動態学、薬動力学、臨床研究、有効性パラメーター、適応症および用法、禁忌症、警告、使用上の注意、有害反応、過剰投薬量、適切な投薬量および投与、どのように提供されるか、適切な貯蔵条件、参考文献、製造業者/配給業者情報ならびに特許情報。
【実施例】
【0166】
本発明は、本発明の好ましい実施形態をより完全に例示するために提示された以下の非限定的な実施例を参照して、より良く理解され得る。これらは、本発明の広い範囲を制限すると決して解釈すべきではない。
(実施例1)
材料および方法
プラスミド産生
【0167】
VPS35、VPS26aおよびVPS26bのmRNA配列は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)から獲得した。配列をコドン最適化し、次いで、de novo合成した。合成した構築物を、AAV2逆位末端反復(ITR)および遍在性ニワトリベータアクチン野生型プロモーターを有するAAV移入プラスミド中にサブクローニングした。導入遺伝子の後には、ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルが続いた。空のchassisベクター対照を、VPS35配列を欠失させることによって生成した。GFP対照を、標的VPS構築物の合理的な設計を模倣するように設計した。これは、高感度緑色蛍光タンパク質、VPS構築物と同じウシ成長ホルモンポリA(BgH)およびニワトリベータアクチン野生型プロモーターを含有していた。得られたプラスミドは
図3に示される。
AAV9産生
【0168】
上記構築物の各々を、MeiraGTxのカプシドおよびヘルパープラスミドDNAを使用して、組換えアデノ随伴ウイルスベクター9(AAV9)へと個々にパッケージングした。簡潔に述べると、移入プラスミド、rep-capプラスミドおよびヘルパープラスミドを、HEK 293細胞中に共トランスフェクトした。ウイルスおよび細胞破片を含有する収集した懸濁物を、millipore SHC XL150フィルター(140cm2)を使用して清澄化した。次いで、清澄化した懸濁物を、AVB Sepharose、20mLカラム、3カラム体積での溶出を用いて精製した。濃縮および透析濾過を、100kD mPES中空線維(Spectrum MicroKros カタログ番号C02-E100-05-S)を用いて実施した。さらなる濃縮を、Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter 30kD(カタログ番号UFC8030)を用いて実施した。
N2A培養
【0169】
マウス神経芽細胞腫(N2a)細胞を、微生物の混入を防止するためのペニシリンおよびストレプトマイシンを含む50%DMEM(高グルコース)および50%Opti-MEM+10%FBSおよびグルタミン(2mM)中で培養した。
トランスフェクション
【0170】
Lipofectamineトランスフェクションプロトコールを、いくらかの改変を伴って使用した。簡潔に述べると、lipofectamine LTXを使用して、6ウェル形式でニューロン様細胞Neuro2a(N2a)中にVps35およびVps26(Vps26aまたはVps26b)プラスミドを共トランスフェクトした。100k個の細胞を、DNA-lipofectamine複合体と共に媒体を既に含有する各ウェル中にプレートした。空のchassisおよびGFPを、対照プラスミドとして使用した。1ウェル当たりの導入されたDNAコピーの量は、2.81E+11であった。細胞を、以前に記載されたように(Qureshi et al. 2019)、RIPA緩衝液を使用して、トランスフェクションの48時間後に収集した。
ニューロン培養および形質導入
【0171】
初代マウス皮質および海馬ニューロン培養を、以前に記載されたように(Bhalla et al. 2012)実行した。ニューロン(1ウェル当たり450k個の細胞)を、12ウェルプレート中にプレートした7日後に、レトロマーAAV9(1ウェル当たり1条件当たり2.27E+10のベクターゲノム)で形質導入した。空のchassis AAV9およびGFP AAV9を対照として使用した。培養物を、形質導入後3週間にわたって維持した(合計で4週間)。28日目に、ニューロンを、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤を含むRIPA緩衝液を使用して溶解させた。
ウエスタンブロット
【0172】
以前に記載されたように(Qureshi et al. 2019;Kirby et al. 2015)、N2Aおよびニューロン培養物由来の細胞を、RIPA中で溶解させ、タンパク質を、単離した。試料由来の溶解物を、NuPAGE(登録商標)Bis-Tris 4~12%ゲル上で泳動し、iblotを使用してニトロセルロースメンブレン上に移し、抗体でプローブした。
【0173】
以下のタンパク質を標的化する一次抗体を使用した:VPS35(ab57632、Abcam、1:1k);VPS26a(ab211530、Abcam、1:500);VPS26b(NBP1-92575、Novus、1:500または15915-1-AP、Proteintech、1:500);VPS29(sab2501105、Sigma-Aldrich、1:500);Sorl1(611861、BD-biosciences、1:2kおよび79322、Cell Signaling、1:500);およびβ-アクチン(ab6276、Abcam、1:5k)。IRDye(登録商標)800または680抗体(LI-COR)を、800CW抗体については1:10kの、680RD抗体については1:15kの、および680LT抗体については1:25kの希釈で、二次抗体として使用した。ウエスタンブロットを、以前に記載されたように(Eaton et al. 2013)、Odysseyイメージングシステムを使用してスキャンした。
【0174】
Sorl1(BD-611861)について、Peroxidase AffiniPure Donkey Anti-Mouse IgG(H+L)を二次抗体として使用し(Jackson Immuno Research labs、1:2k)、ブロットをFujifilm LAS-3000 Imagerでスキャンした。
統計学
【0175】
統計分析を、Microsoft ExcelおよびSPSSを使用して実施した。両側分布を用いた、等しい分散を仮定する独立した2標本スチューデントt検定を、特記しない限り、全ての実験に使用した。全てのデータは、平均として示され、エラーバーは、平均の標準誤差を示す。全ての棒グラフは、GraphPad Prism 8で創出した。散布図は、SPSSで創出した。
(実施例2)
VPS35発現単独では、レトロマーのトリマーおよび機能を上昇させるのに不十分である
【0176】
外因性VPS35過剰発現が非欠損状態のレトロマーコアタンパク質およびレトロマー機能に対して有する影響を決定するために、培養野生型マウスニューロンを、AAV9-VPS35-HAで形質導入し、AAV9-GFPまたはAAV9-空のベクター(EV)のいずれかを対照条件として使用し、3週間後に収集した。
【0177】
全てのレトロマーコアタンパク質のレベルを、イムノブロッティングによって決定した(
図2A)。対照と比較して、90%のVPS35-HA過剰発現は、内因性VPS29におけるロバストな67%の増加(p=9E-09)、VPS26aにおける小さい22%の増加(p=2E-08)、およびVPS26bにおける増加なし(p=0.62)をもたらす(
図2B)。
【0178】
Sorl1レベルもまた、イムノブロッティングによって決定した。対照と比較して、VPS35単独の過剰発現は、Sorl1における僅かな(11%)、統計的に信頼性のない(p=0.06)増加を有した(
図2B)。
【0179】
VPS35過剰発現が、VPS29のロバストな過剰発現をもたらすが、VPS26パラログにおいては増加をもたらさないまたは控えめな増加をもたらし、レトロマー機能に対する明らかな影響を有さないことを示すことによって、これらの結果は、VPS35およびVPS26共発現の影響の調査を正当化する。
(実施例3)
神経芽細胞腫細胞ならびにプラスミドおよびAAV9構築物を使用した結果
【0180】
神経芽細胞腫(N2A)細胞を、単一のタンパク質(VPS35、VPS26aまたはVPS26b)またはタンパク質の組合せ(VPS35+VPS26aまたはVPS35+VPS26b)を発現するプラスミドでトランスフェクトした。GFPを発現するプラスミドまたは空のプラスミドを対照として使用した。
【0181】
単一タンパク質条件は、以下について、対照レベルを上回る各タンパク質の過剰発現を生じた:VPS35単独(80%、p=3.4E-09)、VPS26a単独(550%;p=2.2E-06)およびVPS26b単独(362%;p=0.0002)。単一タンパク質条件と比較した場合、VPS35+VPS26a発現は、VPS35(31%;p=0.0003)、VPS29(17%;p=0.0007)およびVPS26a(52%;p=0.015)における有意な増加を生じたが、VPS26bでは最小限の変化を生じた。VPS35+VPS26b発現は、VPS35(15%;p=0.07)およびVPS26b(56%;p=0.14)における非有意な増加、VPS29における有意な増加(22%;p=0.0005)を生じたが、VPS26aでは増加を生じなかった。
図4を参照されたい。
(実施例4)
ニューロンおよびAAV9構築物を使用した結果
【0182】
培養ニューロンにおけるVPS35およびVPS26コンビナトリアルの影響を試験するために、マウスVPS35、VPS26a、VPS26bを発現する5つの実験的AAV9ベクター、および一方のベクターはGFPを発現し、他方は空のベクターである2つの対照AAV9ベクターを生成した。実験的ベクターを、全ての可能な組合せで、ニューロンにおいて発現させた:単一タンパク質発現(VPS35単独、VPS26a単独、VPS26b単独);二重タンパク質発現(VPS35+VPS26a、VPS35+VPS26b、VPS26b+VPS26a);および三重タンパク質発現(VPS35+VPS26a+VPS26b)。
【0183】
各ウイルスベクターの用量を、予備研究において最適化し、最終コンビナトリアル研究において使用した場合、平均AAV9-VPS35過剰発現は11%であり(範囲:1%~23%)、平均AAV9-VPS26aは218%であり(範囲:154%~354%)、平均AAV9-VPS26bは80%であった(範囲:50%~107%)(
図5B、青色の棒)。このプロファイルは、相互作用についての試験に特に有用であることが分かった。
【0184】
単一タンパク質条件において検出されたレベルを、コンビナトリアル実験において検出されたレベルと比較することによって、レトロマーコアタンパク質発現に対するVPS35-VPS26相互作用が存在したかどうかを最初に試験した。単一タンパク質発現と比較して、VPS35+VPS26a発現は、VPS35(70%;p=4.4E-18)、VPS26a(53%;p=2.1E-05)、VPS29(約42%;p<1.22E-05)における有意な増加を生じたが、VPS26bでは生じなかった。VPS35+VPS26b発現は、VPS35(64%;p=3.6E-09)、VPS26b(15%;p=0.003)、VPS29(約18%;p<0.013)における有意な増加を生じたが、VPS26aでは生じなかった。
【0185】
最後に、VPS35+VPS26a+VPS26b発現は、対照(EV+GFP)と比較して、4つ全てのレトロマータンパク質における有意な増加を生じた - VPS35(81%;p=5.6E-15)、VPS29(51%;p<1.8E-07)、VPS26a(220%;p=1.7E-08)およびVPS26b(51%;p=9.8E-10)。
【0186】
【0187】
これらの結果は再び、VPS35発現に対する、ならびにVPS26aおよびVPS26bに対するVPS35+VPS26の共発現の相乗効果を実証した。
【0188】
この包括的な一連の実験の主要な目的は、相乗的相互作用について試験することであったが、VPS35+VPS26aがVPS26bに対して影響を有さず、VPS35+VPS26bがVPS26aに対して影響を有さないという事実は、ニューロンにおいて、各VPS26パラログが生化学的に別個のトリマー中に存在することを示唆している。
(実施例5)
組み合わせたVPS35およびVPS26の発現は、ニューロンにおいてレトロマー機能にシナジーを与える
【0189】
SORL1における機能喪失型突然変異は、アルツハイマー病の原因であり(Holstege et al. 2017)、Sorl1タンパク質におけるおよそ30%の低減が、孤発性疾患の初期段階においてさえ見出される(Sager et al. 2007;Scherzer et al. 2004;Dodson et al. 2006)ので、次に、全ての条件にわたって測定したSorl1のレベルを比較することによって、VPS35およびVPS26コンビナトリアルがレトロマー機能に対して相乗効果を有するかどうかを試験した。
【0190】
対照条件、単一条件およびコンビナトリアル条件を固定因子として含め、Sorl1を従属変数として含めた一変量ANOVAを使用した。結果は、群効果を明らかにし(F=19.3、p=9.3E-8)、単純な比較が、対照条件と単一条件との間には差異が存在しなかったが(コントラスト推定値=0.1、p=0.9)、単一条件と組合せ条件との間には有意な差異が存在した(コントラスト推定値=0.4、p=2.2E-7)ことを示した。事後比較により、各組合せ条件が、単一条件とは有意に異なったことが明らかになった(
図6B)。
【0191】
興味深いことに、Sorl1に対するVPS26a+VPS26b過剰発現の有意な効果(34%;p=0.006)(
図6B)もまた観察されたが、この組合せ条件は、VPS35のレベルもVPS29のレベルも増加させなかった(
図5B)。Sorl1は、VPS26を介してレトロマーコアと相互作用することが見出されており(Suzuki et al. (2019))、この観察は、両方のパラログがSorl1と独立して相互作用し得ることを示唆している。
【0192】
140を超える実験条件または対照条件が存在し、4つのレトロマーコアタンパク質およびSorl1が広いダイナミックレンジにわたって測定した、生成された大規模データセットを使用した。Sorl1レベルを従属変数として含め、VPS35、VPS26、VPS26aおよびVPS26bレベルを独立変数として同時に入力した、多重線形回帰モデルを使用した。Sorl1レベルとの有意な関連性が見出され(F=19.5、p=1.1E-12)、VPS26パラログのみが、モデルに有意に寄与した。したがって、このモデルを両方のパラログを含むようにトリミングしたところ、VPS26a(t=5.6、p=1.4E-7)およびVPS26b(F=7.2、p=3.2E-11)の両方がSorl1レベルと独立して相関することが確認された(
図6Cおよび6D)。この結果は、ニューロンが、生化学的に別個であるだけでなく機能的にも別個である2つのトリマー(VPS26b-VPS35-VPS29およびVPS26a-VPS35-VPS29)を有するという解釈と一致した。
【0193】
【配列表】
【国際調査報告】