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特表2023-505273肝線維症および線維症に関連する他の疾患に対するエキソソームベースの療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】肝線維症および線維症に関連する他の疾患に対するエキソソームベースの療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20230201BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230201BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230201BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230201BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230201BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230201BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K48/00
A61K9/51
A61K9/127
A61K35/12
A61K31/713
A61K31/7105
A61K47/18
A61K47/10
A61K47/16
A61P11/00
A61P1/16
A61K45/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533626
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-07-29
(86)【国際出願番号】 US2020063475
(87)【国際公開番号】W WO2021113761
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】62/943,943
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】カルーリ ラグ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA65
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB21
4C076CC15
4C076CC16
4C076DD37R
4C076DD38R
4C076DD49R
4C076DD54R
4C076FF70
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA24
4C084MA37
4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA59
4C084ZA75
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA24
4C086MA37
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB70
4C087CA04
4C087MA24
4C087MA37
4C087MA56
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZA75
4C087ZC75
(57)【要約】
治療用のSTAT3ターゲティング阻害RNAを含有する脂質ベースナノ粒子の組成物、例えばエキソソームの組成物が本明細書において提供される。線維症または線維症に関連する疾患を有する患者を処置するためにこのような組成物を使用する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
STAT3ポリヌクレオチドにハイブリダイズする阻害RNAを含有する脂質ベースナノ粒子を含む、組成物。
【請求項2】
前記脂質ベースナノ粒子がその表面にCD47を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記脂質ベースナノ粒子がその表面に増殖因子を含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質ベースナノ粒子がリポソームまたはエキソソームである、請求項1~3のいずれか一項記載の組成物。
【請求項5】
前記阻害RNAが、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、miRNA、またはプレmiRNAである、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
前記阻害RNAがアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが修飾されている、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記阻害RNAがSTAT3タンパク質の発現をノックダウンする、請求項1~6のいずれか一項記載の組成物。
【請求項8】
前記阻害RNAのサイズが18~30ヌクレオチドである、請求項1~7のいずれか一項記載の組成物。
【請求項9】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:1を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:2を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項11】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:3を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:4を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:5を含む、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項記載の組成物と賦形剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
非経口投与用に製剤化されている、請求項14記載の薬学的組成物。
【請求項16】
静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、または腹腔内注射用に製剤化されている、請求項15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
抗菌剤をさらに含む、請求項14~16のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記抗菌剤が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セントリミド(centrimide)、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、エキセチジン(exetidine)、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、またはチメロサールである、請求項17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
その必要がある患者において線維症または線維症に関連する状態を処置する方法であって、請求項14~18のいずれか一項記載の薬学的組成物を前記患者に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項20】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者における細胞への前記阻害RNAの送達をもたらす、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記線維症が、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷である、請求項19または20記載の方法。
【請求項22】
前記線維症が肝線維症である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記薬学的組成物が全身投与によって投与される、請求項19~21のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記全身投与が静脈内投与である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
少なくとも第2の療法を前記患者に実施する工程をさらに含む、請求項19~24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記患者がヒトである、請求項19~25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
前記脂質ベースナノ粒子がエキソソームであり、前記エキソソームが前記患者にとって自己由来である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるCol1a1発現を低減させる、請求項19~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるActa2発現を低減させる、請求項19~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項30】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるCol1a2発現を低減させる、請求項19~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるVim発現を低減させる、請求項19~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
前記肝細胞が肝臓星状細胞である、請求項19~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
前記肝臓星状細胞が活性化肝臓星状細胞である、請求項19~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項34】
STAT3ポリヌクレオチドにハイブリダイズする阻害RNAを含有する脂質ベースナノ粒子を含む、組成物。
【請求項35】
前記脂質ベースナノ粒子がその表面にCD47を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
前記脂質ベースナノ粒子がその表面に増殖因子を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項37】
前記脂質ベースナノ粒子がリポソームまたはエキソソームである、請求項34記載の組成物。
【請求項38】
前記阻害RNAが、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、miRNA、またはプレmiRNAである、請求項34記載の組成物。
【請求項39】
前記阻害RNAがアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが修飾されている、請求項38記載の組成物。
【請求項40】
前記阻害RNAがSTAT3タンパク質の発現をノックダウンする、請求項34記載の組成物。
【請求項41】
前記阻害RNAのサイズが18~30ヌクレオチドである、請求項34記載の組成物。
【請求項42】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:1を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項43】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:2を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項44】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:3を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項45】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:4を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項46】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:5を含む、請求項34記載の組成物。
【請求項47】
請求項34~46のいずれか一項記載の組成物と賦形剤とを含む、薬学的組成物。
【請求項48】
非経口投与用に製剤化されている、請求項47記載の薬学的組成物。
【請求項49】
静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、または腹腔内注射用に製剤化されている、請求項48記載の薬学的組成物。
【請求項50】
抗菌剤をさらに含む、請求項48記載の薬学的組成物。
【請求項51】
前記抗菌剤が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セントリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、エキセチジン、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、またはチメロサールである、請求項50記載の薬学的組成物。
【請求項52】
その必要がある患者において線維症または線維症に関連する状態を処置する方法であって、請求項47~51のいずれか一項記載の薬学的組成物を前記患者に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項53】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者における細胞への前記阻害RNAの送達をもたらす、請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記線維症が、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
前記線維症が肝線維症である、請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記薬学的組成物が全身投与によって投与される、請求項52記載の方法。
【請求項57】
前記全身投与が静脈内投与である、請求項56記載の方法。
【請求項58】
少なくとも第2の療法を前記患者に実施する工程をさらに含む、請求項52記載の方法。
【請求項59】
前記患者がヒトである、請求項52記載の方法。
【請求項60】
前記脂質ベースナノ粒子がエキソソームであり、前記エキソソームが前記患者にとって自己由来である、請求項59記載の方法。
【請求項61】
前記エキソソームが、前記患者から得られる体液試料から得られる、請求項60記載の方法。
【請求項62】
前記体液試料が、血液、リンパ液、唾液、尿、脳脊髄液、骨髄吸引液、眼滲出物/涙、または血清である、請求項61記載の方法。
【請求項63】
前記エキソソームが間葉系細胞から得られる、請求項60記載の方法。
【請求項64】
前記組成物が1回より多く投与される、請求項52記載の方法。
【請求項65】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるCol1a1発現を低減させる、請求項52記載の方法。
【請求項66】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるActa2発現を低減させる、請求項52記載の方法。
【請求項67】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるCol1a2発現を低減させる、請求項52記載の方法。
【請求項68】
前記薬学的組成物を投与する工程が、前記患者の肝細胞におけるVim発現を低減させる、請求項52記載の方法。
【請求項69】
前記肝細胞が肝臓星状細胞である、請求項52記載の方法。
【請求項70】
前記肝臓星状細胞が活性化肝臓星状細胞である、請求項52記載の方法。
【請求項71】
STAT3ポリヌクレオチドにハイブリダイズする阻害RNAを脂質ベースナノ粒子に導入する工程を含む、治療用組成物を調製する方法。
【請求項72】
前記脂質ベースナノ粒子がその表面にCD47を含む、請求項71記載の方法。
【請求項73】
前記脂質ベースナノ粒子がその表面に増殖因子を含む、請求項71または72記載の方法。
【請求項74】
前記脂質ベースナノ粒子がリポソームまたはエキソソームである、請求項71~73のいずれか一項記載の方法。
【請求項75】
前記阻害RNAが、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、miRNA、またはプレmiRNAである、請求項71~74のいずれか一項記載の方法。
【請求項76】
前記阻害RNAがアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、かつ前記アンチセンスオリゴヌクレオチドが修飾されている、請求項75記載の方法。
【請求項77】
前記阻害RNAがSTAT3タンパク質の発現をノックダウンする、請求項71~76のいずれか一項記載の方法。
【請求項78】
前記阻害RNAのサイズが18~30ヌクレオチドである、請求項71~77のいずれか一項記載の方法。
【請求項79】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:1を含む、請求項71~78のいずれか一項記載の方法。
【請求項80】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:2を含む、請求項71~78のいずれか一項記載の方法。
【請求項81】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:3を含む、請求項71~78のいずれか一項記載の方法。
【請求項82】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:4を含む、請求項71~78のいずれか一項記載の方法。
【請求項83】
前記阻害RNAがSEQ ID NO:5を含む、請求項71~78のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年12月5日に出願された米国特許仮出願第62/943,943号の優先権の恩典を主張する。米国特許仮出願第62/943,943号は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.分野
本発明は全体として医学分野に関する。さらに具体的には、本発明は、線維症および線維症に関連する疾患を処置するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
2.背景
肝線維症は肝臓における過剰な細胞外マトリックス(ECM)沈着を特徴とし、この沈着は機能的な実質に取って代わり、世界中で健康に重大な影響を及ぼしている(Hernandez-Gea et al., 2001)。現在のところ、継続した肝臓損傷の軽減または肝臓移植を除いて有効な抗線維症療法はない(Bataller et al., 2005)。肝線維症に対する有効な処置は革新的な新手法を緊急に必要としている。重要な肝線維症制御因子中でシグナル伝達性転写因子3(STAT3)シグナル伝達経路は中心で関係しており、線維芽細胞と肝臓星状細胞(HSC)の活性化と、これらの細胞の筋線維芽細胞様表現型への変換を引き起こす(Chakraborty et al., 2017; Xiang et al., 2018; Pechkovsky et al., 2012)。STAT3は、サイトカイン活性化に応答してヤヌスチロシンキナーゼ(JAK)によってリン酸化される転写因子である。リン酸化STAT3は活性化されると二量体化し、核に移動してサイトカイン応答性下流遺伝子の転写を活性化する(Chakraborty et al., 2017)。STAT3を活性化するサイトカインには、TGFβ1(Meng et al., 2016)、サイトカインのIL-6ファミリー、および成長ホルモン(GH)が含まれる。STAT3活性化は、患者とマウスモデルにおいて観察される線維症肝臓において報告されており(Xiang et al., 2018; Choi et al., 2019)、ソラフェニブまたは他の阻害物質を用いたSTAT3阻害はマウスのCCl4誘導性肝線維症を部分的に寛解させる(Choi et al., 2019; Su et al., 2015)。STAT3は肝線維症の重要な弱点として現れたが、STAT3特異的阻害物質が無いために、STAT3を治療標的とすることは依然として難題である(Bartneck et al., 2014)。従って、特異的な抗線維症療法を開発するためにSTAT3シグナル伝達を阻害する新たな手段が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示の態様は、ナノ粒子、組成物、薬学的組成物、核酸、阻害RNA分子、治療用組成物を調製するための方法、エキソソームを単離するための方法、脂質ベースナノ粒子を調製するための方法、および対象を処置するための方法を含む。本開示の組成物は、以下の成分:リポソーム、エキソソーム、阻害RNA、siRNA、shRNA、miRNA、増殖因子、非修飾アンチセンスオリゴヌクレオチド、修飾アンチセンスオリゴヌクレオチド、および抗菌剤のうちの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上を含んでもよい。一部の態様では、これらの成分のいずれか1つまたはそれ以上が本開示の組成物から除外され得る。本開示の方法は、以下の工程:薬学的組成物を投与する工程、エキソソームを投与する工程、リポソームを投与する工程、阻害RNAを投与する工程、リポソームを作製する工程、対象からエキソソームを得る工程、間葉系細胞からエキソソームを精製する工程、阻害RNAを作製する工程、siRNAを合成する工程、脂質ナノ粒子を調製する工程、阻害RNAを脂質ベースナノ粒子に導入する工程、阻害RNAをナノ粒子にカプセル化する工程、線維症を有すると対象を診断する工程、および対象の線維症を処置する工程のうちの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上を含んでもよい。一部の態様では、これらの工程のいずれか1つまたは複数が本開示の方法から除外され得ることが意図される。
【0005】
一部の態様では、STAT3ポリヌクレオチドにハイブリダイズする阻害RNAを含有する脂質ベースナノ粒子を含む組成物が本明細書において提供される。一部の局面では、脂質ベースナノ粒子はその表面にCD47を含む。一部の局面では、脂質ベースナノ粒子はその表面に増殖因子を含む。一部の局面では、脂質ベースナノ粒子はリポソームまたはエキソソームである。一部の局面では、阻害RNAは、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、miRNA、またはプレmiRNAである。ある特定の局面では、アンチセンスオリゴヌクレオチドは修飾されている。一部の局面では、阻害RNAはSTAT3タンパク質の発現をノックダウンする。一部の局面では、阻害RNAのサイズは18~30ヌクレオチドである。一部の態様では、阻害RNAは、SEQ ID NO:1~5のいずれか1つと、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、多くても80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有する配列を含む。一部の態様では、阻害RNAは、SEQ ID NO:1と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、多くても80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有する配列を含む。一部の態様では、阻害RNAはSEQ ID NO:1を含む。一部の態様では、阻害RNAは、SEQ ID NO:2と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、多くても80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有する配列を含む。一部の態様では、阻害RNAはSEQ ID NO:2を含む。一部の態様では、阻害RNAは、SEQ ID NO:3と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、多くても80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有する配列を含む。一部の態様では、阻害RNAはSEQ ID NO:3を含む。一部の態様では、阻害RNAは、SEQ ID NO:4と、少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、多くても80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有する配列を含む。一部の態様では、阻害RNAはSEQ ID NO:4を含む。一部の態様では、阻害RNAは、SEQ ID NO:5と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、多くても80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有するか、あるいは80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、99.9%、もしくは100%の同一性、またはその中で導き出せる任意の範囲を有する配列を含む。一部の態様では、阻害RNAはSEQ ID NO:5を含む。一部の態様では、これらの成分のいずれか1つまたは複数が本開示の組成物から除外され得ることが意図される。一部の態様では、治療用組成物を調製する方法であって、本開示の阻害RNA(例えば、STAT3ポリヌクレオチドにハイブリダイズする阻害RNA)を脂質ベースナノ粒子(例えば、リポソーム、エキソソームなど)に導入する工程を含む、方法も本明細書において開示される。
【0006】
一部の態様では、本態様のいずれか1つの脂質ベースナノ粒子と賦形剤とを含む薬学的組成物が本明細書において提供される。一部の局面では、前記組成物は非経口投与用に製剤化されている。ある特定の局面では、前記組成物は静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、または腹腔内注射用に製剤化されている。ある特定の局面では、前記組成物は抗菌剤をさらに含む。ある特定の局面では、抗菌剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セントリミド(centrimide)、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、エキセチジン(exetidine)、イミド尿素、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、またはチメロサールである。
【0007】
一部の態様では、その必要がある患者において線維症または線維症に関連する状態を処置する方法であって、本態様のいずれか1つの組成物を患者に投与する工程を含む、方法が本明細書において提供される。一部の局面では、薬学的組成物を投与する工程は、患者における細胞への阻害RNAの送達をもたらす。一部の局面では、線維症は、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷である。一部の態様では、線維症は肝線維症である。一部の局面では、薬学的組成物は全身投与によって投与される。ある特定の局面では、全身投与は静脈内投与である。ある特定の局面では、前記方法は、少なくとも第2の療法を患者に実施する工程をさらに含む。一部の局面では、患者はヒトである。ある特定の局面では、脂質ベースナノ粒子はエキソソームであり、エキソソームは患者にとって自己由来である。ある特定の局面では、エキソソームは、患者から得られる体液試料から得られる。ある特定の局面では、体液試料は血液、リンパ液、唾液、尿、脳脊髄液、骨髄吸引液、眼滲出物/涙、または血清である。ある特定の局面では、エキソソームは間葉系細胞から得られる。ある特定の局面では、前記組成物は1回より多く投与される。一部の態様では、前記組成物は、少なくとも2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、もしくは15回、またはその中で導き出せる任意の範囲で、または多くても2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、もしくは15回、またはその中で導き出せる任意の範囲で投与される。ある特定の局面では、本開示の組成物(例えば、STAT3ポリヌクレオチドにハイブリダイズする阻害RNAを含有する脂質ベースナノ粒子を含む組成物)を投与する工程は、患者の細胞(例えば、肝細胞)における1つまたは複数のSTAT3関連遺伝子の発現を低減させる。一部の態様では、前記組成物を投与する工程は、患者の肝細胞におけるCol1a1の発現を低減させる。一部の態様では、前記組成物を投与する工程は、患者の肝細胞におけるActa2発現を低減させる。一部の態様では、前記組成物を投与する工程は、患者の肝細胞におけるCol1a2発現を低減させる。一部の態様では、前記組成物を投与する工程は、患者の肝細胞におけるVimの発現を低減させる。
【0008】
本明細書で使用する「本質的に含まない」とは指定された成分の観点からいうと、指定された成分がどれも、意図を持って組成物へと製剤化されていない、および/または単に汚染物質として、もしくは微量に存在することを意味するために本明細書において用いられる。従って、組成物の意図されない汚染に起因する、指定された成分の総量は、0.05%よりかなり少なく、例えば、0.01%より少ない。一部の態様では、指定された成分を「本質的に含まない」組成物は、指定された成分の0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.005%、0.001%、0.0001%、もしくはそれ未満の指定された成分を含有するか、多くても、指定された成分の0.05%、0.04%、0.03%、0.02%、0.01%、0.005%、0.001%、0.0001%、もしくはそれ未満の指定された成分を含有する。一部の態様では、指定された成分を「本質的に含まない」組成物は、標準的な分析方法によって指定された成分の量を検出できないものである。
【0009】
本明細書で使用する「1つの(a)」または「1つの(an)」とは1つまたは複数を意味することがある。本明細書中の特許請求の範囲において使用する場合、「含む(comprising)」という単語と共に用いられる時には、「1つの(a)」または「1つの(an)」という単語は1つまたは複数を意味することがある。
【0010】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢だけを指すか、または選択肢が互いに相容れないことを指すと明示されていない限り「および/または」を意味するために用いられるが、この開示は、選択肢だけと「および/または」を指す定義を裏付ける。本明細書で使用する「別の」とは少なくとも第2のまたはそれ以上を意味することがある。
【0011】
本願全体を通して「約」という用語は、ある値が、測定方法または定量方法の誤差の固有のばらつきを含むことを示すために用いられる。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲で使用する、含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形)という言葉は包括的またはオープンエンドであり、さらなる、列挙されなかった要素または方法の工程を排除しない。「含む(comprising)」という用語の文脈における本明細書に記載の態様は、「からなる」または「から本質的になる」という用語の文脈でも実施され得ることが意図される。
【0013】
治療上の、診断上の、または生理学的な目的または効果の文脈における、どの方法も、「使用」クレーム文言で、例えば、説明された治療上の、診断上の、または生理学的な目的または効果を実現または実行するための、本明細書において議論される任意の化合物、組成物、または作用物質「の使用」で説明することができる。
【0014】
1つまたは複数の配列または組成物の使用は、本明細書に記載の任意の方法に基づいて使用することができる。本願全体を通して他の態様が議論される。本開示の一局面について議論されているどの態様も本開示の他の局面に当てはまり、逆もまた同じである。例えば、本明細書に記載の方法におけるどの工程も他の任意の方法に当てはまる。さらに、本明細書に記載のどの方法にも、あらゆる工程または工程の組み合わせの除外があり得る。実施例のセクションにある態様は、本明細書に記載の技術の全局面に適用可能な態様であると理解される。
【0015】
本発明の他の目的、特徴、および利点は以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の、ある特定の態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲の中で様々な修正および変更が当業者に明らかになるので例示にすぎないことが理解されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
以下の図面は本明細書の一部をなし、本発明のある特定の局面をさらに証明するために含まれる。本発明は、これらの図面のうちの1つまたは複数を、本明細書において示された特定の態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによってさらに深く理解され得る。
図1】肝臓IVISイメージング。
図2A】肝臓実質の損傷。図2Aは、様々なエキソソーム処置で処置した線維症マウスに由来する肝臓のH&E染色切片を示す。
図2B】肝臓実質の損傷。図2Bは、図2Aで見られた線維症のレベルの定量を示す。
図3A】肺実質の損傷。図3Aは、様々なエキソソーム処置で処置した線維症(fibrotis)マウスに由来する肺のH&E染色切片を示す。
図3B】肺実質の損傷。図3Bは、図3Aで見られた線維症のレベルの定量を示す。
図4図4A~4F。初代HSCにおけるSTAT3のノックダウン効率およびエキソソームの生体内分布。図4Aおよび4Bは、5μg/20億のiExosiRNA-STAT3(図4A)またはiExomASO-STAT3(図4B)で処理したHSCにおける相対的Stat3発現を示す。図4Cは、非線維症マウス(シャム)(左パネル)および線維症マウス(右パネル)(n=1)にDiR標識エキソソームが存在するかどうか分析した、列挙された臓器の代表的な画像を示す。図4D~4Fは、列挙された群の凍結肝臓組織におけるAF647標識エキソソームおよびDAPIの免疫蛍光イメージング(図4D)ならびに定量(図4Eおよび4F)を示す(分析した各組織について3つの視野)。スケールバー:100μm。データを平均±SEMで示した。図4Aおよび4Dについては、独立両側t検定を使用した。図4Bについては、一元配置ANOVAとシダックの事後分析(Sidak'spost-hoc analysis)を使用した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
図5図5A~5K。図5Aは、7日間培養したマウス肝臓星状細胞(HSC)の画像を示す(左パネル)。スケールバー:100μm。初代マウスHSCのα-SMAおよびDAPIの免疫蛍光染色(中央および右パネル)。スケールバー:100μm。図5Bおよび5CはSTAT3のqPCR分析を示す。図5Dは、CCl4とiExosome/siRNA/mASO処置スケジュールの図を示す。上の矢印はCCl4注射(0日目)を示し、下の矢印はiExosome/siRNA/mASO注射(9日目)を示す。図5Eおよび5Fは、1μgの10億iExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスにおけるコラーゲンIの免疫組織化学染色(図5E)および定量(図5F)を示す(分析した各組織について3つの視野)。n=3;スケールバー:100μm。図5Gおよび5Hは、1μgの10億iExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスにおけるα-SMAの免疫蛍光染色(図5G)および定量(図5H)を示す(分析した各組織について3つの視野)。n=3。スケールバー:100μm。図5Iは、1μgの10億iExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスに由来する肝臓のH&E染色を示す(分析した各組織について5つの視野)。n=5;スケールバー:100μm。図5Jおよび5Kは、壊死した肝細胞(図5J)および変性した肝細胞(図5K)のパーセントを示す。データを平均±SEMで示した。グラフ中の点の一つ一つが別々のマウスを示す。図5B(左パネル)、独立両側スチューデントt検定。図5B(右パネル)および図5C~5K一元配置ANOVAとシダックの事後分析;p値を全グラフに示した。*p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001;ns:有意でない。
図6図6A~6J。STAT3を標的とするiExosomeは肝線維症を低減した。図6Aおよび6Bは、示された処置の1μg/10億(図6A)または5μg/20億(図6B)のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスの肝臓におけるSTAT3 mRNA相対的発現を示す。n=5μg/20億の群における4~5匹の別々のマウス;1μg/10億の群ではn=4~5匹の別々のマウス、一元配置ANOVAを使用した。図6Cおよび6Dは、1μg/10億の処置群に由来する肝臓切片の代表的なシリウスレッド染色(図6C)および定量(図6D)を示す(分析した各組織について3つの視野)。n=5~6匹の別々のマウス、一元配置ANOVA。スケールバー:100μm。グラフはパーセントシリウスレッド陽性領域を示す。図6Eおよび6Fは、5μg/20億の処置群に由来する肝臓切片の代表的なシリウスレッド染色(図6E)および定量(図6F)を示す(分析した各組織について3つの視野)。n=3~5匹の別々のマウス。スケールバー:100μm。グラフは、パーセントシリウスレッド陽性領域を示す。図6Gおよび6Hは、コラーゲンIの免疫組織化学染色の代表的な画像(分析した各組織について3つの視野)(図6G)およびコラーゲンI+領域/視野(100×)のパーセントの定量(図6H)を示す。n=3。図6Iおよび6Jは、α-SMA免疫蛍光染色(図6I;分析した各組織について3つの視野)およびα-SMA+細胞/視野(100×)の数の定量(図6J)を示す。n=3~4匹の別々のマウス;スケールバー:100μm。データを平均±SEMで示した。グラフ中の点の一つ一つが別々のマウスを示す。特に定めのない限り、一元配置ANOVAまたは独立両側t検定;p値を全グラフに示した。*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;****p<0.0001;ns:有意でない。
図7図7A~7K。STAT3を標的とするiExosomeは肝臓の機能的な実質を保全した。図7A~7Dは、示された処置を受けた肝臓における相対的なCol1a1発現(図7Aおよび7B)ならびにActa2発現(図7Cおよび7D)を示す。5μg/20億の群ではn=4~5匹の別々のマウス;n=1μg/10億の群では5匹の別々のマウス。1μg/10億の群における統計解析には一元配置ANOVAを使用した。図7Eおよび7Fは、示された処置を受けたマウスにおけるALTの血清レベルを示す。5μg/20億の群ではn=4~5匹の別々のマウス;1μg/10億の群における統計解析にはn=4~5匹の別々のマウス、一元配置ANOVAを使用した。図7Gおよび7Hは、示された処置を受けたマウスにおけるASTの血清レベルを示す。5μg/20億の群ではn=4~5匹の別々のマウス;1μg/10億の群ではn=4~5匹の別々のマウス。1μg/10億の群における統計解析には一元配置ANOVAを使用した。図7Iは、パラフィン包埋肝臓切片のH&E染色を示す(分析した各組織について3~5つの視野)。n=4~5匹の別々のマウス;スケールバー:100μm。図7Jおよび7Kは、壊死した肝細胞および変性した肝細胞のパーセントを示す。データを平均±SEMで示した。グラフ中の点の一つ一つが別々のマウスを示す。一元配置ANOVAまたは独立両側t検定;p値を全グラフに示した。*p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001;ns:有意でない。
図8A】5μg/20億のiExosiRNASTAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスにおける列挙された臓器のH&E染色を示す。
図8B】1μg/10億のiExosiRNASTAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスにおける列挙された臓器のH&E染色を示す。
図9A】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Aは、実験群間(siCntrl iExo(n=3)、siSTAT3 iExo(n=3)、mASO Scrbl iExo(n=3)、およびmASO STAT3 iExo(n=3)での全プローブの相対的強度を図示したヒートマップを示す。log2変換したmRNA-Seq発現データを用いた横列と縦列両方のユークリッドクラスタリング。
図9B】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Bは、列挙された実験群の肝臓における異なって調節された遺伝子の数を図示したボルケーノプロットを示す。
図9C】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Cは、列挙された実験群の肝臓における異なって調節された遺伝子の数を図示したボルケーノプロットを示す。
図9D】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Dは、STAT3シグナル伝達のヒートマップを示す。
図9E】EiExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Eは、ECM沈着とリモデリングに関連する選択された遺伝子を示す。
図9F】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Fは、ジーンオントロジー(GO)分析(WebGestalt)エンリッチメントを用いた標的遺伝子の差異の図を示す。
図9G】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Gは、ジーンオントロジー(GO)分析(WebGestalt)エンリッチメントを用いた標的遺伝子の差異の図を示す。
図9H】iExosome処置中の線維症肝臓トランスクリプトームのリプログラミング。図9Hは、STAT3シグナル伝達とECM関連遺伝子を対象にしたNetworkAnalystによって作成した相互作用ネットワークを示す。
図10A】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Aは、ECMとコラーゲンI関連線維症を評価することを目的としたシリウスレッド染色を示す。これにより、線維症の状況で活性化肝臓星状細胞またはαSMA+筋線維芽細胞からI型コラーゲンが遺伝子喪失(Col1a1cKO)すると有意に減少することが証明された。
図10B】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Bは、肝線維症を有するCol1a1cKOではコラーゲンIが有意に低減することを証明する結果を示す。
図10C】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Cは、肝線維症を有するCol1a1cKOでは肝臓組織学が有意に改善することを証明する結果を示す。
図10D】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Dは、図10A~10Cからの結果の定量を示す。
図10E】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Eは、図10A~10Cからの結果の定量を示す。
図10F】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Fは、図10A~10Cからの結果の定量を示す。
図10G】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Gは、肝線維症を有するCol1a1cKOマウスでは、肝線維症と関連するグローバル発現パターンの多くが有意に改善することを証明する遺伝子発現データを示す。
図10H】活性化肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト。図10Hは、肝線維症を有するCol1a1cKOマウスでは、肝線維症と関連するグローバル発現パターンの多くが有意に改善することを証明する遺伝子発現データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
肝線維症および肺線維症を含む臓器線維症のメディエーターであるSTAT3を標的とする、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)およびsiRNAを含む阻害RNA分子を運搬するように操作されたエキソソームが本明細書において提供される。これらの操作されたエキソソームは、肝線維症および肺線維症を含む線維症を処置するのに使用することができる。間葉系幹細胞から得られたエキソソームは肺と肝臓に非常に多く分布するので、ASOまたはsiRNAの送達は効率的になる。
【0018】
I.脂質ベースナノ粒子
脂質ベースナノ粒子は、リポソーム、エキソソーム、脂質調製物、または別の脂質ベースナノ粒子、例えば、脂質ベース小胞(例えば、DOTAP:コレステロール小胞)である。脂質ベースナノ粒子は正に荷電してもよく、負に荷電していてもよく、中性でもよい。脂質ベースナノ粒子は、転写および翻訳、シグナル伝達、走化性、または他の細胞機能を可能にする必要な成分を含んでもよい。一態様では、これらの項目のうちの1つまたは複数が除外され得ることが意図される。
【0019】
脂質ベースナノ粒子はその表面にCD47を含んでもよい。CD47(インテグリン関連タンパク質)は、ほとんどの組織および細胞の表面で発現している膜貫通タンパク質である。CD47は、マクロファージおよび樹状細胞などの食細胞の表面で発現しているSignal Regulatory Protein Alpha(SIRP-α)のリガンドである。活性化されたCD47-SIRP-αは、食作用を阻害するシグナル伝達カスケードを開始する。従って、理論に拘束されるものではないが、エキソソーム表面にCD47が発現していると、マクロファージによる食作用が阻止される可能性がある(その全体が参照により本明細書に組み入れられるWO2016/201323を参照されたい)。
【0020】
A.リポソーム
「リポソーム」は、閉じた脂質二重層または凝集物を生じることで形成される様々な単一膜および多重膜の脂質ビヒクルを含む総称的な用語である。リポソームは、一般的にリン脂質を含む二重層膜を有する小胞構造と、一般的に水性組成物を含む内部媒体を有すると特徴付けられることがある。本明細書において提供されるリポソームには、単層リポソーム、多重膜リポソーム、および多胞体リポソーム(multivesicular liposome)が含まれる。本明細書において提供されるリポソームは正に荷電してもよく、負に荷電していてもよく、中性に荷電していてもよい。ある特定の態様では、リポソームは電荷が中性である。
【0021】
多重膜リポソームは、水性媒体によって分けられた複数の脂質層を有する。リン脂質を含む脂質が過剰量の水溶液に懸濁されると、このようなリポソームが自発的に形成する。脂質成分は自己再編成した後に、閉じた構造が形成され、脂質二重層の間に水と、溶解した溶質が閉じ込められる。親油性分子または親油性領域を有する分子も脂質二重層に溶解するか、または脂質二重層と結合し得る。
【0022】
特定の局面では、ポリペプチド、核酸、または低分子薬物が、例えば、リポソームの水性内部に入れられてもよく、リポソームの脂質二重層内に分散されてもよく、リポソームとポリペプチド/核酸の両方と結合する連結分子を介してリポソームに取り付けられてもよく、リポソームの中に閉じ込められてもよく、リポソームと複合体化されてもよい。
【0023】
本態様に従って用いられるリポソームは、当業者に公知なように様々な方法によって作製することができる。例えば、リン脂質、例えば、中性リン脂質ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)をtert-ブタノールに溶解する。次いで、脂質をポリペプチド、核酸、および/または他の成分と混合する。Tween20が組成物の重量の約5%になるようにTween20を脂質混合物に添加する。tert-ブタノールの体積が少なくとも95%になるように、この混合物に過剰なtert-ブタノールを添加する。混合物をボルテックスし、ドライアイス/アセトン浴に入れて凍結し、一晩凍結乾燥する。凍結乾燥した調製物を-20℃で保管し、3ヶ月まで使用することができる。必要な時に、凍結乾燥したリポソームを0.9%食塩水に溶解して再構成する。
【0024】
または、リポソームは、容器、例えば、ガラス梨型フラスコの中で溶媒に溶解して脂質を混合することによって調製することができる。容器の体積は、予想されるリポソーム懸濁液の体積の10倍でなければならない。ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を陰圧下で約40℃で除去する。通常、溶媒は、望ましいリポソーム体積に応じて約5分~2時間以内に除去される。この組成物をデシケーターに入れて減圧下でさらに乾燥することができる。乾燥した脂質は時間の経過につれて劣化する傾向があるので一般的には約1週間後に廃棄する。
【0025】
乾燥した脂質は、脂質膜が全て再懸濁されるまで震盪することで、発熱物質を含まない滅菌水に約25~50mMリン脂質で溶解して水和することができる。次いで、リポソーム水溶液をアリコートに分け、それぞれをバイアルに入れ、凍結乾燥し、減圧下で密封することができる。
【0026】
上記のように調製した、乾燥した脂質または凍結乾燥したリポソームを脱水し、タンパク質またはペプチドの溶液に溶解して再構成し、適切な溶媒、例えば、DPBSを用いて適切な濃度まで希釈し得る。次いで、混合物をボルテックスミキサーに入れて勢いよく震盪させる。ホルモン、薬物、核酸構築物などを含むが、これに限定されない作用物質などの包まれていない、さらなる材料を29,000×gの遠心分離によって除去し、リポソームペレットを洗浄する。洗浄したリポソームを適切な総リン脂質濃度、例えば、約50~200mMで再懸濁する。包まれた、さらなる材料または活性作用物質の量は標準的な方法に従って求めることができる。リポソーム調製物に包まれた、さらなる材料または活性作用物質の量を求めた後に、リポソームを適切な濃度まで希釈し、使用するまで4℃で保管し得る。リポソームを含む薬学的組成物は、通常、薬学的に許容される滅菌した担体または希釈剤、例えば、水または食塩水を含む。
【0027】
本態様と共に有用であり得る、さらなるリポソームには、カチオン性リポソーム、例えば、WO02/100435A1、米国特許第5,962,016号、米国特許出願第2004/0208921号、WO03/015757A1、WO04029213A2、米国特許第5,030,453号、および米国特許第6,680,068号に記載のカチオン性リポソームが含まれる。これらは全て、ディスクレーマーなしでその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0028】
このようなリポソームを調製する際に、本明細書に記載の、または当業者に公知の任意のプロトコールを使用することができる。リポソームを調製するさらなる非限定的な例は、米国特許第4,728,578号、同第4,728,575号、同第4,737,323号、同第4,533,254号、同第4,162,282号、同第4,310,505号、および同第4,921,706号;国際出願PCT/US85/01161およびPCT/US89/05040に記載され、それぞれが参照により本明細書に組み入れられる。
【0029】
ある特定の態様では、脂質ベースナノ粒子は中性リポソーム(例えば、DOPCリポソーム)である。本明細書で使用する「中性リポソーム」または「非荷電リポソーム」は、本質的に中性の実効電荷(実質的に非荷電)を生じる1つまたは複数の脂質成分を有するリポソームと定義される。「本質的に中性」または「本質的に非荷電」とは、ある特定の集団(例えば、リポソームの集団)の中に、いくつかの脂質成分がもしあれば、別の成分の反対の電荷によって相殺されない電荷を含む(すなわち、成分の10%未満、より好ましくは5%未満、最も好ましくは1%未満が、相殺されていない電荷を含む)ことを意味する。ある特定の態様では、中性リポソームは、大部分は、生理学的条件下(すなわち、約pH7)では、それ自体で中性の脂質および/またはリン脂質を含んでもよい。
【0030】
本態様のリポソームおよび/または脂質ベースナノ粒子はリン脂質を含むことがある。ある特定の態様では、リポソームの作製において1種類のリン脂質が用いられる場合がある(例えば、中性リポソームを作製するために中性リン脂質、例えば、DOPCが用いられる場合がある)。他の態様では、リポソームを作製するために複数種類のリン脂質が用いられる場合がある。リン脂質は中性供給源または合成供給源に由来してもよい。リン脂質には、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、およびホスファチジルエタノールアミンが含まれる。ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンは生理学的条件下(すなわち、約pH7)では非荷電であるので、これらの化合物は中性リポソームを作製するのに特に有用な場合がある。ある特定の態様では、非荷電リポソームを生成するためにリン脂質DOPCが用いられる。ある特定の態様では、リン脂質でない脂質(例えば、コレステロール)が用いられる場合がある。
【0031】
リン脂質にはグリセロリン脂質とある特定のスフィンゴ脂質が含まれる。リン脂質には、ジオレオイルホスファチジルコリン(「DOPC」)、卵ホスファチジルコリン(「EPC」)、ジラウリロイルホスファチジルコリン(「DLPC」)、ジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(「DPPC」)、ジステアロイルホスファチジルコリン(「DSPC」)、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン(「MPPC」)、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン(「PMPC」)、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン(「PSPC」)、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン(「SPPC」)、ジラウリロイルホスファチジルグリセロール(「DLPG」)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(「DPPG」)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(「DSPG」)、ジステアロイルスフィンゴミエリン(「DSSP」)、ジステアロイルホファチジルエタノールアミン(「DSPE」)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(「DOPG」)、ジミリストイルホスファチジン酸(「DMPA」)、ジパルミトイルホスファチジン酸(「DPPA」)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(「DMPE」)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(「DPPE」)、ジミリストイルホスファチジルセリン(「DMPS」)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(「DPPS」)、脳ホスファチジルセリン(「BPS」)、脳スフィンゴミエリン(「BSP」)、ジパルミトイルスフィンゴミエリン(「DPSP」)、ジミリストイルホスファチジルコリン(「DMPC」)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(「DAPC」)、1,2-ジアラキドイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(「DBPC」)、1,2-ジエイコセノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(「DEPC」)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(「DOPE」)、パルミトイルオエオイルホスファチジルコリン(「POPC」)、パルミトイルオエオイルホスファチジルエタノールアミン(「POPE」)、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、およびジリノレオイルホスファチジルコリンが含まれるが、これに限定されない。
【0032】
B.エキソソーム
本明細書で使用する「マイクロベシクル」および「エキソソーム」という用語は、直径(または粒子がスフェロイドでない場合は最大の寸法)が約10nm~約5000nm、より典型的には30nm~1000nm、最も典型的には約50nm~750nmであり、エキソソームの膜の少なくとも一部が細胞から直接得られている膜状粒子を指す。本開示のエキソソームの直径は、少なくとも10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、2000nm、3000nm、4000nm、もしくは5000nm、またはその中で導き出せる任意の範囲、多くても10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、2000nm、3000nm、4000nm、もしくは5000nm、またはその中で導き出せる任意の範囲、または、約10nm、20nm、30nm、40nm、50nm、60nm、70nm、80nm、90nm、100nm、200nm、300nm、400nm、500nm、600nm、700nm、800nm、900nm、1000nm、2000nm、3000nm、4000nm、もしくは5000nm、またはその中で導き出せる任意の範囲でもよい。最も一般的には、エキソソームのサイズ(平均直径)はドナー細胞のサイズの5%までである。従って、特に意図されるエキソソームには、細胞から脱落したエキソソームが含まれる。
【0033】
エキソソームは、例えば、体液などの任意の適切な試料タイプの中に検出されてもよく、任意の適切な試料タイプから単離されてもよい。本明細書で使用する「単離された」という用語は、天然環境から分離することを指し、少なくとも部分的な精製を含むことが意図され、大幅な精製を含む場合がある。本明細書で使用する「試料」という用語は、本発明によって提供される方法に適した任意の試料を指す。前記試料は、検出または単離に適したエキソソームを含む任意の試料でよい。試料の供給源には、血液、骨髄、胸膜液、腹水、脳脊髄液、尿、唾液、羊水、悪性腹水、気管支肺胞洗浄液、関節液、母乳、汗、涙、滑液、および気管支洗浄液が含まれる。一局面では、前記試料は、例えば、全血またはその任意の画分もしくは成分を含む血液試料である。本発明と使用するのに適した血液試料は、血球またはその成分を含む公知の任意の供給源、例えば、静脈、動脈、末梢、組織、帯(cord)などから抽出することができる。例えば、試料は、周知の、かつ日常的な臨床方法(例えば、全血を採取および処理するための手順)を用いて入手および処理することができる。一局面では、例示的な試料は、がんを有する対象から採取された末梢血でもよい。
【0034】
エキソソームはまた、組織試料、例えば、手術試料、生検試料、組織、糞便、および培養細胞からも単離されてよい。組織供給源からエキソソームを単離する時に、シングル細胞懸濁液を入手し、その後に細胞を溶解してエキソソームを放出するために組織をホモジナイズすることが必要な場合がある。組織試料からエキソソームを単離する時に、エキソソームを破壊しないホモジナイゼーションおよび溶解の手順を選択することが重要である。本明細書において意図されるエキソソームは、好ましくは、生理学的に許容される溶液、例えば、緩衝食塩水、増殖培地、様々な水性媒体などに溶解した体液から単離される。
【0035】
エキソソームは、新鮮に収集された試料から単離されてもよく、凍結または冷蔵されて保管されていた試料から単離されてもよい。一部の態様では、エキソソームは細胞培養培地から単離されてもよい。必要ではないが、試料から破片を除去するために、流体試料が、体積排除(volume-excluding)ポリマーを用いた沈殿前に清澄化されれば、さらに高純度のエキソソームが得られる場合がある。清澄化方法には、遠心分離、超遠心分離、濾過、または限外濾過が含まれる。最も典型的には、エキソソームは、当技術分野において周知の非常に多くの方法によって単離することができる。好ましい方法の1つは、体液または細胞培養上清からの分画遠心分離である。エキソソーム単離の例示的な方法は、(Losche et al., 2004; Mesri and Altieri, 1998; Morel et al., 2004)に記載されている。または、エキソソームはまた、(Combes et al., 1997)に記載のようにフローサイトメトリーでも単離されることがある。
【0036】
エキソソームを単離するための一般に認められているプロトコールの1つには、比較的低い密度のエキソソームを浮かべるためにスクロース密度勾配またはスクロースクッションと組み合わされることが多い超遠心分離が含まれる。連続分画遠心分離によるエキソソームの単離は、他のマイクロベシクルまたは巨大分子複合体とサイズ分布が重複する可能性があるために複雑になる。さらに、遠心分離は、サイズに基づいて小胞を分離する不十分な手段を提供することがある。しかしながら、連続遠心分離がスクロース勾配超遠心と組み合わされるとエキソソームを高度に濃縮することができる。
【0037】
超遠心分離経路に代わるものを用いるサイズに基づいたエキソソームの単離が別の選択肢である。超遠心分離よりも時間がかからず、特別な装置の使用を必要としない、限外濾過手順を用いた首尾良いエキソソーム精製が報告されている。同様に、流体を動かす陽圧を用いて、あるマイクロフィルターで細胞、血小板、および細胞破片を除去し、第2のマイクロフィルターに30nmよりも大きな小胞を捕捉する市販のキット(EXOMIR(商標), Bioo Scientific)を用いることができる。しかしながら、このプロセスの場合、エキソソームは回収されず、そのRNA内容物は、第2のマイクロフィルターに捕らえた材料から直接抽出され、次いで、PCR分析に使用することができる。HPLCベースのプロトコールを用いた場合、これらのプロセスは専用の装置を必要とし、スケールアップすることが難しいが、潜在的には高純度のエキソソームを得ることができるだろう。重大な問題は、血液と細胞培養培地が両方とも、エキソソームと同じサイズ範囲の多数のナノ粒子(一部は非小胞)を含有することである。例えば、エキソソームではなく細胞外タンパク質複合体の中に、いくらかのmiRNAが含まれることがある。しかしながら、プロテアーゼ(例えば、プロテイナーゼK)を用いた処理を行って、「エキソソーム外(extraexosomal)」タンパク質による、あらゆる汚染を排除することができる。
【0038】
別の態様では、がん細胞由来エキソソームが、試料のエキソソームを濃縮するのによく用いられる技法、例えば、免疫特異的相互作用が関与する技法(例えば、免疫磁気的捕捉)によって捕捉される場合がある。免疫磁気的捕捉は免疫磁気的細胞分離とも知られ、典型的には、ある特定の細胞タイプの表面に見出されるタンパク質に対して作られた抗体を小さな常磁性ビーズに取り付けることを伴う。抗体でコーティングしたビーズを血液などの試料と混合すると、ビーズは特定の細胞に付着し、取り囲む。次いで、試料を強力な磁場に配置すると、ビーズが片側でペレット化する。血液を除去した後に、捕捉した細胞はビーズと一緒に保持される。この一般的方法の多くのバリエーションが当技術分野において周知であり、エキソソームを単離するための使用に適している。一例では、エキソソームは磁気ビーズ(例えば、アルデヒド/硫酸塩ビーズ)に取り付けられることがあり、次いで、ビーズに取り付けられたエキソソームの表面にあるエピトープを認識させるために、混合物に抗体が添加される。がん細胞由来エキソソーム上に見出されることが分かっている例示的なタンパク質には、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー6(ABCA6)、テトラスパニン-4(TSPAN4)、SLITRK4(SLIT and NTRK-like protein 4)、推定プロトカドヘリンβ-18(PCDHB18)、骨髄性細胞表面抗原CD33(CD33)、およびグリピカン-1(GPC1)が含まれる。がん細胞由来エキソソームは、例えば、これらのタンパク質のうちの1つまたは複数に対する抗体またはアプタマーを用いて単離され得る。
【0039】
細胞において発現している全てのタンパク質が、その細胞が分泌したエキソソームに見出されるとは限らないことに留意しなければならない。例えば、カルネキシン、GM130、およびLAMP-2は全て、MCF-7細胞において発現しているタンパク質であるが、MCF-7細胞が分泌したエキソソームには見出されない(Baietti et al., 2012)。別の例として、ある研究から、190/190人の膵管腺がん患者は、健常対照より高いレベルのGPC1+エキソソームを有することが見出された(Melo et al., 2015。その全体が参照により本明細書に組み入れられる)。注目すべきことに、平均して健常対照の2.3%にしかGPC1+エキソソームがなかった。
【0040】
1.細胞培養物からエキソソームを収集するための例示的なプロトコール
翌日に細胞が約70%コンフルエントになるように、1日目に、10%FBSを含有する培地が入っているT225フラスコに、十分な数の細胞(例えば、約500万個の細胞)を播種する。2日目に、細胞の表面にある培地を吸引し、細胞をPBSで2回洗浄し、次いで、25~30mLの基本培地(すなわち、PenStrepもFBSも無い)を細胞に添加する。細胞を24~48時間インキュベートする。48時間のインキュベーションが好ましいが、細胞株の中には無血清培地に対して感受性が高いものもあり、そのため、インキュベーション時間を24時間に短縮しなければならない。FBSは、NanoSight結果を強くゆがめるエキソソームを含有することに留意のこと。
【0041】
3/4日目に、培地を収集し、死細胞と大きな破片をペレット化するために800×gで室温で5分間遠心分離する。上清を新しいコニカルチューブに移し、他の大きな破片と大きな小胞を除去するために2000×gで10分間、培地を再遠心分離する。培地を0.2μmフィルターに通し、次いで、35mL/チューブを用いて超遠心チューブ(例えば、25×89mm Beckman Ultra-Clear)にアリコートする。1チューブあたりの培地の体積が35mL未満であれば、35mLになるようにチューブの残りをPBSで満たす。SW 32 Tiローター(k-factor 266.7, RCF max 133,907)を用いて、培地を28,000rpmで4℃で2~4時間超遠心分離する。およそ1インチの液体が残るまで、上清を注意深く吸引する。チューブを傾け、残りの培地を、ゆっくりと吸引ピペットに入れる。所望であれば、エキソソームペレットをPBSで再懸濁し、エキソソーム集団をさらに精製するために28,000rpmの超遠心分離を1~2時間繰り返すことができる。
【0042】
最後に、エキソソームペレットを210μLのPBSに再懸濁する。各試料について複数の超遠心チューブがあれば、同じ210μL PBSを用いて、それぞれのエキソソームペレットを連続して再懸濁する。各試料について、10μLを採取し、ナノ粒子追跡分析に使用するために990μLのH2Oに添加する。残りの200μLエキソソーム含有懸濁液を下流プロセスに使用するか、または-80℃ですぐに保管する。
【0043】
2.血清試料からエキソソームを抽出するための例示的なプロトコール
最初に、血清試料を氷上で解凍する。次いで、250μLの無細胞血清試料を11mLのPBSで希釈する。0.2μm孔フィルターで濾過する。希釈した試料を150,000×gで4℃で一晩超遠心分離する。翌日、上清を注意深く捨て、11mL PBSでエキソソームペレットを洗浄する。150,000×gで4℃で2時間、2回目の超遠心分離を行う。最後に、上清を注意深く捨て、分析のために100μL PBSにエキソソームペレットを再懸濁する。
【0044】
C.エキソソームおよびリポソームを電気穿孔するための例示的なプロトコール
1×108個のエキソソーム(NanoSight分析によって測定した)または100nmリポソーム(例えば、Encapsula Nano Sciencesから購入した)と、1μgのsiRNA(Qiagen)またはshRNAを400μLのエレクトロポレーション緩衝液(1.15mMリン酸カリウム, pH7.2、25mM塩化カリウム、21%Optiprep)に入れて混合する。4mmキュベットを用いてエキソソームまたはリポソームを電気穿孔する(例えば、Alvarez-Erviti et al., 2011; El-Andaloussi et al., 2012を参照されたい)。エレクトロポレーション後に、エキソソームまたはリポソームをプロテアーゼフリーRNaseで処理し、その後に10×濃縮RNAse阻害物質を添加する。最後に、前記のように超遠心分離法下でエキソソームまたはリポソームをPBSで洗浄する。
【0045】
II.阻害RNA
A.アンチセンスオリゴヌクレオチド
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)治療用物質は、典型的に長さが約16~30ヌクレオチドの一本鎖核酸治療剤であり、培養状態の標的細胞中または生物における標的細胞中の標的核酸配列に対して相補的である。
【0046】
一部の態様では、前記物質は、一本鎖アンチセンスRNA分子、一本鎖アンチセンスDNA分子、またはDNAとRNAと両方とも含む一本鎖アンチセンスポリヌクレオチドである。特定の態様では、アンチセンス分子は、DNAとRNAと両方とも含むASOである。アンチセンス分子は、標的mRNA、例えば、STAT3 mRNA内の配列に相補的である。アンチセンス分子は、mRNAに塩基対合し、翻訳機構を物理的に妨害することによって化学量論的に翻訳を阻害することができる。アンチセンス分子は、標的mRNAに相補的な少なくとも15~30ヌクレオチドまたは多くても15~30ヌクレオチドを有してもよい。例えば、アンチセンス分子は、標的mRNAに相補的である、少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、もしくは25個、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値の連続したヌクレオチド、または多くても15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、もしくは25個、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値の連続したヌクレオチドの配列を有してもよい。
【0047】
一部の態様では、ASOは、少なくとも8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、もしくは50ヌクレオチド、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値、または多くても8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、もしくは50ヌクレオチド、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値を含む。これらの値はいずれも、ASO中のヌクレオチドの数の範囲を規定するために使用することができる。例えば、ASOは、8~50、15~30、もしくは20~25ヌクレオチドを含んでもよいか、少なくとも8~50、15~30、もしくは20~25ヌクレオチドを含んでもよいか、または、多くても8~50、15~30、もしくは20~25ヌクレオチドを含んでもよい。一部の態様では、ASOは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、もしくは50ヌクレオチド、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値からなる。これらの値はいずれも、ASO中のヌクレオチドの数の範囲を規定するために使用することができる。例えば、ASOは8~50、15~30、または20~25ヌクレオチドからなってもよい。
【0048】
本開示の一局面において、前記物質は一本鎖アンチセンス核酸分子(ASO)である。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は合成分子であり、一部の態様では、18~21ヌクレオチド長を含み、標的遺伝子のmRNA配列に相補的である。ASOは配列特異的ハイブリダイゼーションによってコグネイトmRNA配列に結合し、その結果としてmRNAが切断および無効化され、標的遺伝子の発現が阻害される。
【0049】
1.ASOの修飾
ある特定の態様では、本開示のASOは修飾されてもよい。「修飾ASO」とは、核酸成分、すなわち、糖、塩基、およびリン酸部分のうちの1つまたは複数が天然で生じるものとは異なる分子、例えば、ヒトの体内で生じるものとは異なる分子を指す。ASOに対する、いくつかの修飾が当技術分野において説明される。これらの修飾は、標的mRNAに対する特異性を維持しながら、ASO特性、例えば、ヌクレアーゼに対する耐性、生体膜を横断する透過性、可溶性、安定性、または薬物動態学的特性および薬物動力学的特性の調整を改善することを目的とする。例えば、ヌクレオチド上の修飾には、LNA、HNA、CeNA、2'-メトキシエチル、2'-O-アルキル、2'-O-アリル、2'-C-アリル、2'-フルオロ、2'-デオキシ、2'-ヒドロキシル、およびその組み合わせが含まれ得るが、これに限定されない。一態様では、これらの修飾のうちの1つまたは複数が除外され得ると意図される。
【0050】
アンチセンス核酸、化学修飾、および治療上の使用に指向している特許は、例えば、化学修飾されたRNAを含有する治療用化合物に関する米国特許第5,898,031号、およびこれらの化合物を治療用物質として使用する方法に関する米国特許第6,107,094号、一本鎖化学修飾RNA様化合物を投与することによって患者を処置する方法に関する米国特許第7,432,250号;ならびに一本鎖化学的修飾RNA様化合物を含有する薬学的組成物に関する米国特許第7,432,249号において提供される。米国特許第7,629,321号は、複数のRNAヌクレオシドと少なくとも1つの化学修飾を有する一本鎖オリゴヌクレオチドを用いて標的mRNAを切断する方法に関する。この段落において列挙された特許はそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0051】
a.修飾塩基
治療用核酸は、天然塩基(すなわち、A、G、U、C、またはT)を含んでもよく、修飾塩基(例えば、7-デアザグアノシン、イノシンなど)を含んでもよい。塩基の修飾は、リボ核酸(すなわち、A、C、G、およびU)ならびにデオキシリボ核酸(すなわち、A、C、G、およびT)において生じる標準的な塩基、糖、および/またはリン酸バックボーン化学構造のバリエーションである修飾塩基(または修飾ヌクレオシドもしくは修飾ヌクレオチド)の組み込みを含む。この範囲に含まれるものは、例えば、Gm(2'-メトキシグアニル酸)、Am(2'-メトキシアデニル酸)、Cf(2'-フルオロシチジル酸)、Uf(2'-フルオロウリジル酸)、Ar(リボアデニル酸)である。アプタマーはまた、シトシン、または5-メチルシトシン、4-アセチルシトシン、3-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、2-チオシトシン、5-ハロシトシン(例えば、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-クロロシトシン、および5-ヨードシトシン)、5-プロピニルシトシン、6-アゾシトシン、5-トリフルオロメチルシトシン、N4,N4-エタノシトシン、フェノキサジンシチジン、フェノチアジンシチジン、カルバゾールシチジン、もしくはピリドインドールシチジンを含む任意のシトシン関連塩基も含んでもよい。アプタマーは、グアニン、または6-メチルグアニン、1-メチルグアニン、2,2-ジメチルグアニン、2-メチルグアニン、7-メチルグアニン、2-プロピルグアニン、6-プロピルグアニン、8-ハログアニン(例えば、8-フルオログアニン、8-ブロモグアニン、8-クロログアニン、および8-ヨードグアニン)、8-アミノグアニン、8-スルフヒドリルグアニン、8-チオアルキルグアニン、8-ヒドロキシグアニン、7-メチルグアニン、8-アザグアニン、7-デアザグアニン、もしくは3-デアザグアニンを含む任意のグアニン関連塩基をさらに含んでもよい。アプタマーは、アデニン、または6-メチルアデニン、N6-イソペンテニルアデニン、N6-メチルアデニン、1-メチルアデニン、2-メチルアデニン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデニン、8-ハロアデニン(例えば、8-フルオロアデニン、8-ブロモアデニン、8-クロロアデニン、および8-ヨードアデニン)、8-アミノアデニン、8-スルフヒドリルアデニン、8-チオアルキルアデニン、8-ヒドロキシアデニン、7-メチルアデニン、2-ハロアデニン(例えば、2-フルオロアデニン、2-ブロモアデニン、2-クロロアデニン、および2-ヨードアデニン)、2-アミノアデニン、8-アザアデニン、7-デアザアデニン、もしくは3-デアザアデニンを含む任意のアデニン関連塩基をさらに含んでもよい。ウラシル、または5-ハロウラシル(例えば、5-フルオロウラシル、5-ブロモウラシル、5-クロロウラシル、5-ヨードウラシル)、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル、5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、1-メチルプソイドウラシル、5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル、5'-メトキシカルボニルメチルウラシル、5-メトキシウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、4-チオウラシル、5-メチルウラシル、ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル-5-オキシ酢酸、プソイドウラシル、5-メチル-2-チオウラシル、2-チオウラシル、3-(3-アミノ-3-N-2-カルボキシプロピル)ウラシル、5-メチルアミノメチルウラシル、5-プロピニルウラシル、6-アゾウラシル、または4-チオウラシルを含む任意のウラシル関連塩基も含まれる。
【0052】
当技術分野において公知の他の修飾塩基変種の例には、例えば、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2'-メトキシシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2'-O-メチルプソイドウリジン、b-D-ガラクトシルキューオシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、b-D-マンノシルキューオシン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-b-D-リボフラノシル-2-メチルチオプリン-6-イル)カルバモイル)スレオニン、N-((9-b-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチル-カルバモイル)スレオニン、ウルジン(urdine)-5-オキシ酢酸メチルエステル、ウリジン-5-オキシ酢酸(v)、ワイブトキソシン(wybutoxosine)、プソイドウリジン、キューオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-b-D-リボフラノシルプリン-6-イル)カルバモイル)スレオニン、2'-O-メチル-5-メチルウリジン、2'-O-メチルウリジン、およびワイブトシン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジンが含まれるが、それに限定されるわけではない。
【0053】
米国特許第3,687,808号、同第3,687,808号、同第4,845,205号、同第5,130,302号、同第5,134,066号、同第5,175,273号、同第5,367,066号、同第5,432,272号、同第5,457,187号、同第5,459,255号、同第5,484,908号、同第5,502,177号、同第5,525,711号、同第5,552,540号、同第5,587,469号、同第5,594,121号、同第5,596,091号、同第5,614,617号、同第5,645,985号、同第5,830,653号、同第5,763,588号、同第6,005,096号、および同第5,681,941号に記載の修飾核酸塩基も含まれる。これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0054】
b.修飾糖
ASOにおいて使用するための修飾糖部分は当技術分野において周知であり、例えば、その全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,045,754号で説明されている。修飾糖は、ASO標的に対するASOの親和性を変える、典型的には高める、および/またはヌクレアーゼ耐性を高めるのに使用することができる。例えば、一部の態様では、ASO標的に対するASOの結合親和性は、ASOのヌクレオシドサブユニットに置換基を組み込むことによって高めることができる。一部の態様では、置換基は、ASOのヌクレオシドサブユニットのペントフラノシル糖部分の2'位置に位置する置換基であるT置換基である。置換基には、フルオロ、アルコキシ、アミノ-アルコキシ、アリルオキシ、イミダゾリルアルコキシ、およびポリエチレングリコールが含まれるが、これに限定されない。アルコキシおよびアミノアルコキシ基は、一般的に、低級アルキル基、特に、C1~C9アルキルを含む。特定の態様では、2'置換基は2'-O-メチルである。ポリエチレングリコールは、構造(O-CH2-CH2)n-O-アルキルのものである。特定の態様では、置換基は、式(-O-CH2-CH2)n-O-アルキルのポリエチレングリコール置換基であり、n=1およびアルキル=CH3である。この修飾は、オリゴヌクレオチド標的に対するオリゴヌクレオチドの親和性とオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性を高めることが示されている。上記で引用された米国特許第7,629,321号を参照されたい。結合親和性を高めるためのさらなる特に有用な2'-置換基は2'-フルオロ基である。
【0055】
当技術分野において公知の修飾ヌクレオシドおよびヌクレオチド糖バックボーン変種の例には、例えば、2'リボシル置換基、例えば、F、SH、SCH3、OCN、Cl、Br、CN、CF3、OCF3、SOCH3、SO2、CH3、ONO2、NO2、N3、NH2、OCH2CH2OCH3、O(CH2)2ON(CH3)2、OCH2OCH2N(CH3)2、O(C1~10アルキル)、O(C2~10アルケニル)、O(C2~10アルキニル)、S(C1~10アルキル)、S(C2~10アルケニル)、S(C2~10アルキニル)、NH(C1~10アルキル)、NH(C2~10アルケニル)、NH(C2~10アルキニル)、およびO-アルキル-O-アルキルを有するものが含まれるが、それに限定されるわけではない。望ましい2'リボシル置換基には、2'-メトキシ(2'-OCH3)、2'-アミノプロピルオキシ(2'OCH2CH2CH2NH2)、2'-O-アリル(2'-CH2-CH=CH2)、2'-O-アリル(2'-O-CH2-CH=CH2)、2'-アミノ(2'-NH2)、および2'-フルオロ(2'-F)が含まれる。2'-置換基はアラビノ(上)位置にあってもよく、リボ(下)位置にあってもよい。これらの変種のうちの1つまたは複数が本開示の態様から除外され得る。
【0056】
当技術分野において公知であり、本開示のASOにおいて用いられ得る別の修飾ASOクラスは、リボース部分の2'位置にアルキル修飾を含有する。これらのASOは、標的mRNAとの結合親和性とハイブリダイゼーション安定性を改善するように、およびASOのヌクレアーゼ耐性を高めるように開発された。このカテゴリーにおいて、最も一般的に用いられるASOは2'-O-メチル(2'-OME)および2'-O-メトキシエチル(2'-MOE)ASOである。このタイプの修飾を有するASOはRNAseHを活性化することができない。従って、RNAseH活性化を誘導するために、ホスホロチオエートデオキシリボースコアからなる中心ギャップ領域が、ヌクレアーゼ耐性アーム、例えば、大きなヌクレアーゼ耐性を有する2'-OMEまたは2'-MOEと隣接しているキメラASOが開発されている。結果として、アームがASO分解を阻止すると同時に、RNAseHが中心ギャップに位置し、標的特異的mRNA分解を活性化することができる「ギャップマー(gapmer)」が生成される。このカテゴリーのASOは、最初のクラスの修飾ASOと比較して、mRNAに対する高い親和性を有し、良好な組織取り込みを示し、ヌクレアーゼに対する耐性が大きく、インビボ半減期が長く、毒性が弱い。
【0057】
当技術分野において公知であり、本開示のASOにおいて用いられ得る、さらなるASOクラスは、リン酸結合、リボース部分、またはヌクレオチドの修飾と一緒にフラノース環修飾を含有する。これらの修飾は、ASOのヌクレアーゼ安定性、標的親和性、および薬物動態学的プロファイルを改善するように設計された。第3のASOカテゴリーの一般的な例は、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、およびモルホリノホスホロアミダート(MF)である。このカテゴリーのASOは、ヌクレアーゼおよびペプチダーゼによる分解に対して耐性が高いため生物学的流体中で安定性が高い。このカテゴリーのASOはまた、mRNAとの強力なハイブリダイゼーション親和性も示す。さらに、PNAは二本鎖DNAを認識し、遺伝子発現を調整することができるか、または染色体二重鎖DNAのストランド侵入により変異を誘導することができる。このカテゴリーのASOはまたRNAseHを活性化せず、翻訳を停止するためにリボソーム機構を立体妨害することに頼る。このカテゴリーのASOは非荷電であるので血清タンパク質に結合しない。非荷電であるので非特異的相互作用の可能性は低下するが、身体からのクリアランス速度は増加する。これらの静電気的に中性のバックボーンは溶解度を小さくし、取り込みをより難しくする可能性がある。
【0058】
好ましい修飾糖の代表的なリストには、メチレンオキシ(4'-CH2-O-2')BNAおよびエチレンオキシ(4'-(CH2)2-O-2'架橋)BNA;置換糖、特に、2'-F、2'-OCH3、または2'-O(CH2)2-OCH3置換基を有する2'-置換糖;および4'-チオ修飾糖を含む二環式修飾糖(BNA)が含まれるが、これに限定されない。糖は、特に、糖ミメティック基でも置換することができる。修飾糖を調製するための方法は当業者に周知である。このような修飾糖の調製を開示する、いくつかの代表的な特許および刊行物には、米国特許第4,981,957号;同第5,118,800号;5,319,080号;同第5,359,044号;同第5,393,878号;同第5,446,137号;同第5,466,786号;同第5,514,785号;同第5,519,134号;同第5,567,811号;同第5,576,427号;同第5,591,722号;同第5,597,909号;同第5,610,300号;同第5,627,053号;同第5,639,873号;同第5,646,265号;同第5,658,873号;同第5,670,633号;同第5,792,747号;同第5,700,920号;同第6,531,584;および同第6,600,032号;ならびにWO2005/121371が含まれるが、これに限定されない。
【0059】
c.修飾ヌクレオチド間結合
核酸治療剤は少なくとも1つのホスホロチオエートまたはメチルホスホネートヌクレオチド間結合をさらに含んでもよい。ホスホロチオエートまたはメチルホスホネートヌクレオチド間結合修飾は、センス鎖もしくはアンチセンス鎖または(センス鎖を含む核酸治療剤中の)その両方の鎖の任意の位置にある任意のヌクレオチド上にあってもよい。例えば、ヌクレオチド間結合修飾は、センス鎖上またはアンチセンス鎖上にある、あらゆるヌクレオチドにあってもよい。それぞれのヌクレオチド間結合修飾は、センス鎖上またはアンチセンス鎖上にある互い違いのパターンであってもよい。または、センス鎖またはアンチセンス鎖は互い違いのパターンでヌクレオチド間結合修飾を含有してもよい。センス鎖上にあるヌクレオチド間結合修飾の互い違いのパターンはアンチセンス鎖と同じでも、異なってもよく、センス鎖上にあるヌクレオチド間結合修飾の互い違いのパターンには、アンチセンス鎖上にあるヌクレオチド間結合修飾の互い違いのパターンと比べて変化があってもよい。
【0060】
ある特定の態様では、本開示のASOは、ホスホジエステル、ホスホロチオエート、3'(または-5')デオキシ-3'-(または-5')チオ-ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレナート、3'-(または-5')デオキシホスフィナート、ボラノホスフェート、3'-(または5'-)アミノホスホルアミダート、ヒドロゲンホスホネート、ボラノホスフェートエステル、ホスホルアミダート、アルキルまたはアリールホスホネート、およびホスホトリエステルリン結合を含むリン結合によってつながった1つまたは複数のヌクレオシドサブユニットを含む。一部の態様では、本開示のASOは、カーボナート、カルバメート、シリル、硫黄、スルホネート、スルホンアミド、ホルムアセタール、チオホルムアセチル、オキシム、メチレンイミノ、メチレンメチルイミノ、メチレンヒドラゾ、メチレンジメチルヒドラゾ、およびメチレンオキシメチルイミノ結合によってつながったヌクレオシドサブユニットを含む。
【0061】
例えば、当技術分野において説明され、本開示のASOにおいて使用され得る修飾ASOクラスのうちの一つは、ASOのリン酸基における非架橋酸素原子のうちの1つが、硫黄基(ホスホロチオエート)、メチル基(メチルホスホネート)、またはアミン基(ホスホルアミダート)で置換されているものである。これらのASOはホスホジエステルオリゴヌクレオチドと比較してヌクレアーゼに対する耐性が大きく、血漿半減期が長い。これらのASOはRNAseHを活性化することができ、細胞への送達を容易にする負電荷を有し、適切な薬物動態を有する。これらの修飾の中で、ホスホロチオエート修飾は最も広く用いられている。例えば、FDAにより承認されたASO薬物であるVitraveneと、臨床試験中の他のASO薬物の大部分がホスホロチオエートASOである。
【0062】
さらに、ヌクレオチド中の塩基は、ハイブリダイゼーションを妨害しない限り、ホスホジエステル結合以外の結合によって結合されてもよい。従って、阻害核酸は、構成要素の塩基が、ホスホジエステル結合ではなくペプチド結合によって結合されているペプチド核酸でもよい。阻害核酸は、公知の方法(例えば、Ausubel et. al., Current Protocols in Molecular Biology Wiley 1999を参照されたい)を用いてRNAをcDNAに変換することによって調製されてもよい。阻害核酸はまたcRNAでもよい(例えば、Park et. al., (2004) Biochem. Biophys. Res. Commun. 325(4):1346-52を参照されたい)。
【0063】
B.低分子干渉RNA
siRNA(例えば、siNA)は当技術分野において周知である。例えば、siRNAおよび二本鎖RNAは米国特許第6,506,559号および同第6,573,099号、ならびに米国特許出願第2003/0051263号、同第2003/0055020号、同第2004/0265839号、同第2002/0168707号、同第2003/0159161号、および同第2004/0064842号で記載されている。これらは全て、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0064】
siRNAの中で核酸成分は全体を通して同じタイプまたは均一である必要はない(例えば、siRNAはヌクレオチドおよび核酸またはヌクレオチド類似体を含んでもよい)。典型的に、siRNAは二本鎖構造を形成する。二本鎖構造は、部分的または完全に相補的な2つの別々の核酸に起因してもよい。本開示のある特定の態様では、siRNAは1本の核酸(ポリヌクレオチド)または核酸類似体しか含んでおらず、自身で相補する(例えば、ヘアピンループを形成する)ことによって二本鎖構造を形成してもよい。siRNAの二本鎖構造は、16、20、25、30、35、40、45、50、60、65、70、75、80、85、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500個、もしくはそれ以上の連続した核酸塩基を、少なくとも16、20、25、30、35、40、45、50、60、65、70、75、80、85、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500個、もしくはそれ以上の連続した核酸塩基を、または多くても16、20、25、30、35、40、45、50、60、65、70、75、80、85、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500個、もしくは以上の連続した核酸塩基を、その中にある全ての範囲および値を含めて含んでもよい。siRNAは、相補的核酸(同じ核酸の別の部分または別々の相補的核酸でもよい)とハイブリダイズして二本鎖構造を形成する、17~35個の連続した核酸塩基、18~30個の連続した核酸塩基、19~25個の核酸塩基、20~23個の連続した核酸塩基、または20~22個の連続した核酸塩基、または21個の連続した核酸塩基を含んでもよい。
【0065】
本開示の方法を実施するのに有用な本開示の作用物質にはsiRNAが含まれるが、これに限定されない。典型的に、本明細書において低分子干渉RNA(siRNA)と代わりに呼ばれることがある二本鎖RNA(dsRNA)の導入は、RNA干渉またはRNAiと呼ばれる現象である強力かつ特異的な遺伝子サイレンシングを誘導する。RNA干渉は「共抑制」、「転写後遺伝子サイレンシング」、「センス抑制(sense suppression)」、および「クエリング(quelling)」と呼ばれてきた。RNAiは特定の遺伝子の活性をノックアウトするための手段を提供するので魅力的なバイオテクノロジーツールである。
【0066】
RNAiを設計する際に、siRNAの性質、サイレンシング効果の永続性、および送達系の選択などの考慮する必要がある、いくつかの要因がある。RNAi効果を生じさせるために、生物に導入されるsiRNAは典型的にはエキソン配列を含有する。さらに、RNAiプロセスは相同性に依存する。そのため、相同であるが、遺伝子特異的でない配列間の相互干渉の可能性を最小にしながら遺伝子特異性を最大にするように、配列を注意深く選択しなければならない。好ましくは、siRNAは、siRNA配列と、阻害しようとする遺伝子との間で80%、85%、90%、95%、98%の同一性、もしくは100%の同一性さえ、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値を示すか、あるいは80%、85%、90%、95%、98%より大きな同一性、もしくは100%の同一性さえ、またはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値を示す。標的遺伝子との同一性が約80%未満の配列は効果がかなり小さい。従って、siRNAと、阻害しようとする遺伝子との間の相同性が大きいほど、無関係の遺伝子の発現が影響を受ける可能性が小さくなる。
【0067】
さらに、siRNAのサイズは重要な考慮すべき事項である。一部の態様では、本開示は、19~25ヌクレオチドまたはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値を含むか、少なくとも19~25ヌクレオチドまたはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値を含むか、あるいは多くても19~25ヌクレオチドまたはその中で導き出せる任意の範囲もしくは値を含み、遺伝子発現を調整することができるsiRNA分子に関する。本発明の文脈において、siRNAは、一部の態様では、長さが500、200、100、50、または25ヌクレオチド未満である。一部の態様では、siRNAは長さが約19ヌクレオチド~約25ヌクレオチドである。
【0068】
標的遺伝子は、一般的に、ポリペプチドをコードする領域を含むポリヌクレオチド、あるいは複製、転写、もしくは翻訳、またはポリペプチドの発現に重要な他のプロセスを調節するポリヌクレオチド領域、あるいはポリペプチドをコードする領域と、発現を調節する、ポリペプチドをコードする領域に機能的に連結される領域を両方とも含むポリヌクレオチドを意味する。細胞において発現されているあらゆる遺伝子を標的とすることができる。好ましくは、標的遺伝子は、疾患に重要な細胞活性の進行に関与もしくは関連する遺伝子、または研究対象として特に関心が高い遺伝子である。
【0069】
siRNAは商業的供給業者、天然供給源から入手することができる、または当業者に周知の多数の技法のどれを用いても合成することができる。例えば、予め設計されたsiRNAの商業的供給業者のうちの1つはAmbion(登録商標), Austin, Texである。別の商業的供給業者はQiagen(登録商標)(Valencia, Calif.)である。本開示の組成物および方法において適用できる阻害核酸は、任意の供給業者によって関心対象のタンパク質の検証済みのダウンレギュレーターであることが見出されている、どんな核酸配列でもよい。過度の実験なく、かつ本開示の開示を用いれば、さらなるsiRNAを設計し、本開示の方法を実施するのに使用できることが理解される。
【0070】
siRNAはまた1つまたは複数のヌクレオチドの変化を含んでもよい。このような変化には、例えば、19~25ヌクレオチドRNAの末端への、または(RNAの1つもしくは複数のヌクレオチドにおける)内部への非ヌクレオチド材料の付加が含まれ得る。ある特定の局面では、RNA分子は3’-ヒドロキシル基を含有する。本開示のRNA分子中のヌクレオチドはまた、非天然のヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドを含む非標準的なヌクレオチドも含んでよい。二本鎖オリゴヌクレオチドは、修飾されたバックボーン、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、または当技術分野において公知の他の修飾されたバックボーンを含有してもよく、非天然のヌクレオシド間結合を含有してもよい。siRNAのさらなる修飾(例えば、2’-O-メチルリボヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-フルオロリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5-C-メチルヌクレオチド、1つまたは複数のホスホロチオエートヌクレオチド間結合、および逆位デオキシ脱塩基残基組込み(inverted deoxyabasic residue incorporation))は米国特許出願公開第2004/0019001号および米国特許第6,673,611号において見出される(これらのそれぞれが、その全体が参照により組み入れられる)。ひとまとめにして、前述された、このような変化した核酸またはRNAは全て修飾siRNAと呼ばれる。
【0071】
エキソソームはDICERおよび活性のあるRNAプロセシングRISC複合体を含むことが知られているので(その全体が参照により本明細書に組み入れられるPCT公報WO2014/152622を参照されたい)、トランスフェクションによってエキソソームに導入されたshRNAは、エキソソームそのものの中でRISC複合体結合siRNAに成熟することができる。または、成熟siRNAそのものをトランスフェクションによってエキソソームまたはリポソームに導入することができる。このような阻害核酸が、任意の供給業者によって関心対象のタンパク質の検証済みのダウンレギュレーターであると見出されていれば、どの任意の阻害核酸も本開示の組成物および方法において適用することができる。
【0072】
III.疾患の処置
ヒトを含む哺乳動物の多数の重篤な疾患が線維症と関連する。本明細書で使用する「線維症」とは、(このような形成が望ましいものでも、望ましいものでなくても)線維組織の形成を伴う任意の状態を含む。このような状態には、結合組織炎症、線維腫形成(線維腫症)、線維症(肺線維症および肝線維症を含む)、線維弾性症(心内膜線維)、フィブロミオパシー(fibromyopathy)形成、子宮筋腫形成、フィブロイドーマ(fibroidoma)形成、線維粘液腫形成、およびフィブロシストーシス(fibrocystitis)(嚢胞性線維症を含む)が含まれるが、これに限定されない。
【0073】
一部の態様では、STAT3発現阻害物質を用いて動物において処置することができる線維症には、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷が含まれるが、これに限定されない。一部の態様では、処置することができる線維症には、肺線維症(例えば、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、放射線誘発性肺損傷、またはがん処置に起因する放射線誘発性肺損傷)、皮膚線維症、腎臓線維症、肝線維症(例えば、硬変)、胃腸線維症(例えば、胃腸管の線維症、胃腸炎症と関連する線維症、炎症性腸疾患と関連する線維症、潰瘍性大腸炎と関連すると関連する線維症、クローン病と関連する線維症、腸線維症、小腸線維症、腸骨線維症、盲腸線維症、または結腸線維症)、心臓線維症(例えば、心房線維症、心内膜心筋線維症、または心筋梗塞)、脳線維症(例えば、グリア瘢痕)、あるいは動脈硬化、関節線維症(例えば、膝、肩、もしくは他の関節)、クローン病(例えば、腸)、デュピュイトラン拘縮(例えば、手もしくは指)、ケロイド(例えば、皮膚)、縦隔線維症(例えば、縦隔の軟部組織)、骨髄線維症(例えば、骨髄)、ペロニー病(例えば、陰茎)、腎性全身性線維症(例えば、皮膚)、進行性塊状線維症(例えば、炭坑夫塵肺の合併症)、後腹膜線維症(例えば、後腹膜腔の軟部組織)、硬皮症/全身性硬化症(例えば、皮膚もしくは肺)、癒着性関節包炎(例えば、肩)、または他の臓器線維症を含むが、これに限定されない他の形態の線維症が含まれるが、これに限定されない。
【0074】
処置することができる動物には、哺乳動物、げっ歯類、霊長類、サル(例えば、マカク、アカゲザル、ブタオザル)、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、鳥類(例えば、ニワトリ)、ウシ、マウス、ウサギ、およびラットが含まれるが、これに限定されない。本明細書で使用する、「個体」、「対象」、および「患者」という用語は同義で用いられ、ヒトと非ヒト対象の両方を指すことがある。場合によっては、動物は、(例えば、疾患または線維症の徴候を示すことで)処置を必要とする。
【0075】
本明細書で使用する「処置する」(およびその語尾変化、例えば、「処置」)という用語は、その最も広い文脈で考慮しなければならない。特に、「処置する」という用語は、必ず、動物が完全に回復するまで処置されることを意味するとは限らない。従って、「処置する」は、症状の寛解、状態と関連する症状もしくは影響からの緩和、状態の重篤度の減少、または症状を予防すること、予防的に寛解すること、またはそうでない場合は特定の状態を発症するリスクを低減することを含む。本明細書で使用する、動物を「処置する」ことについての言及は予防的処置および治療的処置を含むが、これに限定されない。本明細書に記載の組成物(例えば、薬学的組成物)はいずれも、動物を処置するのに使用することができる。
【0076】
線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)の処置に関連する時に、処置は予防的処置および治療的処置を含んでもよいが、これに限定されない。従って、処置には、線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)を予防する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)のリスクを低減する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)の症状を寛解または軽減する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)に抵抗する身体反応を誘発する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)の発症または進行を阻害する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)と関連する症状の発症を阻害または予防する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)の重篤度を低減する;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、もしくは放射線誘発性肺損傷)または線維症と関連する症状のうちの1つもしくは複数の後退(例えば、線維症の量の減少)を引き起こす;線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)の軽快を引き起こす;あるいは線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)の再発を阻止することが含まれ得るが、これに限定されない。一部の態様では、処置は、線維症の予防的処置(将来の線維症を予防するか、または寛解する)を含まない。
【0077】
動物(例えば、ヒト)の処置は、任意の適切な投与方法(例えば、本明細書において開示される投与方法)を用いて、および任意の適切な量のSTAT3発現阻害物質(例えば、siRNAもしくはASO)を用いて行うことができる。一部の態様では、処置方法は、動物の線維症(例えば、肝線維症、肺線維症、肺性線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症(IPF)、または放射線誘発性肺損傷)を処置する工程を含む。本開示の態様の中には、1種類または複数種類のSTAT3発現阻害物質を含む組成物(例えば、siRNAまたはASO)(例えば、薬学的組成物)を用いて対象(例えば、動物、例えば、ヒトまたは霊長類)を処置するための方法であって、1つまたは複数のこのような組成物の1回または複数回の投与を含み、複数回の投与がある場合、前記組成物が同じでもよく異なってもよい、方法を含むものもある。
【0078】
STAT3発現阻害物質を用いた処置は、STAT3活性と関連する(例えば、STAT3活性によって調節される)1つまたは複数の遺伝子の発現の減少をもたらし得る。一部の態様では、本開示の処置は、例えば、Col1a1、Acta2、Col1a2、および/またはVimを含む、STAT3活性と関連する1つまたは複数の遺伝子の発現を低減する。一部の態様では、本開示の処置は、患者の標的細胞(例えば、肝細胞)におけるCol1a1の発現を低減する。本開示の例示的な標的細胞には、肝細胞、例えば、活性化された肝臓星状細胞およびαSMA+筋線維芽細胞が含まれる。
【0079】
一部の態様では、任意で、他の線維症処置が含まれ、本明細書に記載の本発明の処置と共に使用することができる。他の線維症処置は、線維症を処置するのに適した任意の公知の線維症処置を含んでもよい。公知の線維症処置の例には、抗生物質(例えば、ペニシリン、メチシリン、オキサシリン、ナフシリン、カベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、メズロシリン、アズロシリン、チカルシリンクラブラン酸、ピペラシリンタゾバクタム、セファロスポリン、セファレキシン、セフジニル、セフプロジル、セファクロル、セフェピム、スルファ、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、エリスロマイシン/スルフイソキサゾール、マクロライド、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、テトラサイクリン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、チゲサイクリン、バンコマイシン、イミペネム、メリペネム、コリスチメタート/コリスチン、アミノグリコシド、トブラマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、キノロン、アズトレオナム、またはリネゾリド)、抗炎症薬(例えば、NSAID、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセン、コルチコステロイド、コルチゾール、コルチコステロン、コルチゾン、またはアルドステロン)、気管支拡張薬(例えば、アルブテロールまたは塩酸レブアルブテロール)、粘液希釈剤(mucus thinner)(例えば、高張食塩水またはドマーズアルファ)、および抗線維化薬(例えば、ピルフェニドン、ニンテダニブ、N-アセチルシステイン、アイバカフトール、またはルマカフトール/アイバカフトール)の投与が含まれるが、これに限定されない。他の線維症処置はまた、気道クリアランス法(例えば、体位ドレナージおよび胸部打診、運動、呼吸運動、または機械的装置、例えば、高頻度胸壁圧迫ベストまたは呼気陽圧療法の使用)などであるがこれに限定されない非薬物呼吸療法を実施する工程も含んでよい。他の線維症処置はまた臓器移植(例えば、肺、皮膚、腎臓、肝臓、心臓、小腸、または結腸)も含んでよい。1つまたは複数の他の線維症処置が本開示の態様において除外され得ることが意図される。
【0080】
一部の態様では、処置体制の一部として(例えば、別の線維症処置として)、オピオイド受容体阻害物質、ナルトレキソン、ピルフェニドン、ニンテダニブ、またはその組み合わせの投与を使用することができる。オピオイド受容体阻害物質、ナルトレキソン、ピルフェニドン、ニンテダニブ、またはその組み合わせの投与は別々の投与(すなわち、STAT3発現阻害物質とは異なる組成物中で)を含んでもよく、STAT3発現阻害物質を含む組成物に添加されてもよい。
【0081】
一部の態様では、さらなる任意の処置(例えば、別の線維症処置として)は、外科的介入、ホルモン療法、免疫療法、およびアジュバントシステマティック(adjuvant systematic)療法のうちの1つまたは複数も含んでよい。1つまたは複数のさらなる任意の処置が本開示の態様において除外され得ることが意図される。
【0082】
疾患を処置する場合、治療用組成物の適切な投与量は、前記で定義されたような処置しようとする疾患のタイプ、疾患の重篤度および経過、患者の病歴および作用物質に対する応答、ならびに主治医の判断に左右される。前記作用物質は、1回で、または一連の処置にわたって患者に適切に投与される。
【0083】
治療および予防のための方法および組成物は、望ましい効果を実現するのに有効な組み合わせた量で提供することができる。組織、腫瘍、または細胞が、前記作用物質のうちの1つまたは複数を含む1つまたは複数の組成物または薬理学的製剤と接触されてもよく、組織、腫瘍、および/または細胞を2つまたはそれ以上の別個の組成物または製剤と接触させることで接触されてもよい。また、このような併用療法が化学療法、放射線療法、外科的療法、または免疫療法と共に使用できることが意図される。
【0084】
併用投与は、2種類またはそれ以上の作用物質を同じ剤形中で同時投与すること、別々の剤形中で同時投与すること、および別々に投与することを含んでもよい。すなわち、本治療用組成物と別の治療用物質を同じ剤形中に一緒に製剤化し、同時投与することができる。または、本治療用組成物と別の治療用物質を同時投与することができ、この場合、両物質とも別々の製剤に存在する。別の選択肢では、治療用物質を投与し、その直後に他の治療用物質を投与することができ、逆もまた同じである。別の投与プロトコールでは、本治療用組成物と別の治療用物質は数分間あけて、または数時間あけて、または数日あけて投与されることがある。
【0085】
IV.薬学的組成物
治療用物質を発現するかまたは治療用物質を含むエキソソームを全身投与または局所投与して、テロメラーゼ活性を高めることができると意図される。治療用物質を発現するかまたは治療用物質を含むエキソソームは静脈内投与、くも膜下腔内投与、および/または腹腔内投与することができる。治療用物質を発現するかまたは治療用物質を含むエキソソームは単独で投与されてもよく、第2の薬物と組み合わせて投与されてもよい。
【0086】
本発明が治療用調製物の特定の性質によって制限されることは意図されない。例えば、このような組成物は、生理学的に許容できる液体、ゲル、固体担体、希釈剤、または賦形剤と一緒に製剤の形で提供することができる。これらの治療用調製物は他の治療用物質と同様に獣医学的使用、例えば、家畜を用いた獣医学的使用、およびヒトにおける臨床的使用のために哺乳動物に投与することができる。一般的に、治療効力に必要とされる投与量は使用のタイプおよび投与方法ならびに個々の対象の特定の要件に応じて変化する。
【0087】
臨床適用が意図される場合、意図された用途に適した形でエキソソームを含む薬学的組成物を調製することが必要な場合がある。一般的に、薬学的組成物は、薬学的に許容される担体に溶解または分散された、有効量の1種類もしくは複数種のエキソソームおよび/またはさらなる作用物質を含んでもよい。「薬学的または薬理学的に許容される」という句は、適宜、例えば、ヒトなどの動物に投与された時に有害な、アレルギー性の、または他の都合悪い反応を生じない分子実体および組成物を指す。本明細書において開示されるエキソソームまたはさらなる活性成分を含む薬学的組成物の調製は、参照により本明細書に組み入れられる、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., 1990により例示されるように、本開示を考慮すれば当業者に公知である。さらに、動物(例えば、ヒト)への投与の場合、調製物は、FDAの生物製剤部の基準(FDA Office of Biological Standard)に求められるように無菌性、発熱性、一般安全性、および純度の基準を満たさなければならないことが理解される。
【0088】
さらに、本開示のある特定の局面によれば、投与に適した組成物は、不活性希釈剤と共に、または不活性希釈剤を伴わずに薬学的に許容される担体に溶解して提供されてもよい。本明細書で使用する「薬学的に許容される担体」は、当業者に公知の任意のおよび全ての水性溶媒(例えば、水、アルコール/水溶液、エタノール、食塩水、非経口ビヒクル、例えば、塩化ナトリウム、リンガーデキストロースなど)、非水性溶媒(例えば、脂肪、油、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、植物油、ならびに注射用有機エステル、例えば、オレイン酸エチル)、脂質、リポソーム、分散媒、コーティング(例えば、レシチン)、界面活性剤、抗酸化物質、防腐剤(例えば、抗菌剤または抗真菌剤、アンチオキシダント、キレート剤、希ガス、パラベン(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン)、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールまたはその組み合わせ)、等張剤(例えば、糖および塩化ナトリウム)、吸収遅延剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)、塩、薬物、薬物安定剤、ゲル、樹脂、増量剤、結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、甘味剤、着香剤、色素、液体および栄養補充薬、このような同様の材料およびその組み合わせを含む。担体は同化できなければならず、液体、半固体、すなわち、ペースト、または固体担体を含む。さらに、所望であれば、前記組成物は微量の補助物質、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、安定化剤、またはpH緩衝剤を含有することがある。薬学的組成物中の様々な成分のpHおよび正確な濃度は周知のパラメータに従って調節される。適切な流動性は、例えば、コーティング、例えば、レシチンを用いることによって、分散液の場合は必要な粒径を維持することによって、界面活性剤を用いることによって維持することができる。
【0089】
薬学的に許容される担体は特にヒトへの投与のために製剤化されるが、ある特定の態様では、非ヒト動物への投与のために製剤化されたが、ヒトへの投与には(例えば、政府規制のために)許容されない薬学的に許容される担体を使用することが望ましい場合がある。従来の担体が活性成分と適合しない場合を除いて(例えば、レシピエントに有害な、または担体に含まれる組成物の治療有効性に有害な場合を除いて)、治療組成物または薬学的組成物における、その使用が意図される。本開示のある特定の局面によれば、前記組成物は、任意の便利な、かつ実用的なやり方で、すなわち、溶解、懸濁、乳化、混合、カプセル化、吸収などによって担体と組み合わされる。このような手順は当業者にとって日常的なものである。
【0090】
本開示のある特定の態様は、固体、液体、またはエアロゾルの形で投与されるかどうかに応じて、注射などの投与経路のために滅菌する必要があるかどうかに応じて異なるタイプの担体を含んでもよい。前記組成物は、静脈内投与、皮内投与、経皮投与、くも膜下腔内、動脈内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、腟内投与、直腸内投与、筋肉内投与、皮下投与、粘膜投与、経口投与、局部投与、局所投与されてもよく、吸入(例えば、エアロゾル吸入)によって、注射によって、注入によって、連続注入によって、標的細胞を直接浸す局所灌流により、カテーテルを介して、洗浄を介して、脂質組成物(例えば、リポソーム)の中に入れて、または他の方法もしくは当業者に公知の前述の任意の組み合わせによって投与されてもよい(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., 1990を参照されたい)。
【0091】
エキソソームは非経口投与用に製剤化することができる、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路を介した注射用に、または腹腔内経路を介した注射用でも製剤化することができる。典型的に、このような組成物は液体溶液または懸濁液のいずれかで調製することができる。注射前に液体を添加して溶液または懸濁液を調製するために使用するのに適した固体剤形も調製することができる。調製物は乳化することもできる。
【0092】
注射使用に適した薬学的形態には、滅菌した水溶液または分散液;ゴマ油、ピーナッツ油、またはプロピレングリコール水溶液を含む製剤;および滅菌した注射液または分散液を即時調製するための滅菌した散剤が含まれる。すべての場合で、剤形は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に液状でならなければならない。剤形はまた製造および保管の条件下で安定でなければならず、細菌および菌類などの微生物の汚染作用から守らなくてはならない。
【0093】
製剤化されたら、溶液は、投与製剤と適合するやり方で、かつ治療に有効な量で投与される。製剤は様々な剤形で容易に投与され、例えば、注射液、もしくは肺に送達する場合にはエアロゾルなど非経口投与用に製剤化されるか、または薬物放出カプセルなどの食事投与用に製剤化される。
【0094】
「単位用量」または「投与量」という用語は、対象における使用に適した物理的に別個の単位を指し、それぞれの単位は、投与、すなわち、適切な経路および処置レジメンに関連して前記で議論された望ましい応答を生じるように計算された所定量の治療用組成物を含有する。投与しようとする量は、処置の回数および単位用量に応じて、望ましい効果に左右される。患者または対象に投与される本開示の組成物の実際の投与量は、身体的要因および生理学的要因、例えば、対象の体重、年齢、健康状態、および性別、処置されている疾患のタイプ、疾患侵入の程度、以前の治療介入または同時治療介入、患者の特発性疾患、投与経路、ならびに特定の治療物質の効力、安定性、および毒性によって決定することができる。例えば、用量はまた、1回の投与につき約1μg/kg/体重~約1000mg/kg/体重(このような範囲は、その間の用量を含む)またはそれより多い用量、およびその中から導き出せる任意の範囲も含んでよい。本明細書において列挙された数から導き出せる範囲の非限定的な例では、約5μg/kg/体重~約100mg/kg/体重、約5μg/kg/体重~約500mg/kg/体重などの範囲を投与することができる。別の例として、用量は、1回の投与につき約10億~約5000億個のエキソソーム(このような範囲は、その間の用量を含む)またはそれより多くのエキソソーム、およびその中で導き出せる任意の範囲も含んでよい。本明細書において列挙された数から導き出せる範囲の非限定的な例では、約100万個のエキソソーム~約5000億個のエキソソーム、約500万個のエキソソーム~約2500億個のエキソソームなどの範囲を投与することができる。一例では、用量は5mLの体積中に約1500億個のエキソソームを含んでもよく、このような用量は、体重が70kgのヒト患者に投与されてもよい。投与を担当する医者は、どんな状況でも、組成物中の活性成分の濃度と、個々の対象に適した用量を決定する。
【0095】
動物患者に投与された組成物の実際の投与量は、身体的要因および生理学的要因、例えば、体重、状態の重篤度、処置されている疾患のタイプ、以前の治療介入または同時治療介入、患者の特発性疾患、および投与経路によって決定することができる。投与量および投与経路に応じて、好ましい投与量および/または有効量の投与の回数は対象の応答に従って変化することがある。投与を担当する医者は、どんな状況でも、組成物中の活性成分の濃度と、個々の対象に適した用量を決定する。
【0096】
ある特定の態様では、薬学的組成物は、例えば、少なくとも約0.1%または多くても約0.1%の活性化合物を含んでもよい。他の態様では、活性化合物は、例えば、単位の重量の約2%~約75%または約25%~約60%、およびその中から導き出せる任意の範囲を含んでもよい。天然では、それぞれの治療上有用な組成物中には、活性化合物のある特定の単位用量で適切な投与量が得られるようなやり方で、前記の量の活性化合物が調製され得る。溶解度、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与経路、製品の貯蔵寿命、ならびに他の薬理学的な考慮すべき事項などの要因が、このような薬学的製剤を調製する当業者によって検討され、従って、様々な投与量および処置レジメンが望ましい場合がある。
【0097】
他の非限定的な例では、用量はまた、1回の投与につき、約1マイクログラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重、約10マイクログラム/kg/体重、約50マイクログラム/kg/体重、約100マイクログラム/kg/体重、約200マイクログラム/kg/体重、約350マイクログラム/kg/体重、約500マイクログラム/kg/体重、約1ミリグラム/kg/体重、約5ミリグラム/kg/体重、約10ミリグラム/kg/体重、約50ミリグラム/kg/体重、約100ミリグラム/kg/体重、約200ミリグラム/kg/体重、約350ミリグラム/kg/体重、約500ミリグラム/kg/体重~約1000ミリグラム/kg/体重、またはそれ以上、およびその中から導き出せる任意の範囲も含んでもよい。本明細書において列挙された数から導き出せる範囲の非限定的な例では、上記の数に基づいて、約5ミリグラム/kg/体重~約100ミリグラム/kg/体重、約5マイクログラム/kg/体重~約500ミリグラム/kg/体重などの範囲を投与することができる。
【0098】
V.キットおよび診断剤
本開示の様々な局面では、エキソソームを体液または組織培養培地から精製するための必要な成分を含むキットが想定される。他の局面では、エキソソームを単離し、治療用核酸、治療用タンパク質、または阻害RNAでトランスフェクトするための必要な成分を含むキットが想定される。キットは、このような任意の成分を含む1つまたは複数の密封したバイアルを含んでもよい。一部の態様では、キットはまた、キットの成分と反応しない容器である適切な容器手段、例えば、エッペンドルフチューブ、アッセイプレート、注射器、瓶、またはチューブも備えてよい。容器は、プラスチックまたはガラスなどの滅菌可能な材料から作られてもよい。キットは、本明細書において説明される方法の手順工程を概説する指示書をさらに備えてもよく、本明細書に記載のものと実質的に同じ手順に従うか、または当業者に公知である。指示書の情報は、コンピュータを用いて実行された時に、試料からエキソソームを精製し、エキソソームを治療用カーゴでトランスフェクトする現実または仮想の手順を表示する機械可読指示書を備えるコンピュータ可読媒体の中にあってもよい。
【実施例
【0099】
VI.実施例
以下の実施例は、本発明のある特定の態様を証明するために含まれる。以下の実施例に開示される技法は、本発明者が発見した技法が本発明の実施において十分に機能することを示し、従って、本発明を実施するための好ましい態様を構成すると考えられると当業者に理解されるはずである。しかしながら、本開示を考慮すれば、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された特定の態様において多くの変更を加えることができ、それでもなお、類似または同様の結果を得ることができると当業者に理解されるはずである。
【0100】
実施例1 - CC14によって誘導された肝線維症マウスモデルの肝臓へのエキソソームの局在化
Balb/c成獣マウスにCC14を6週間、隔週でi.p.注射することによって肝線維症を誘導した。肝線維症を有するマウスと肝線維症を有さないマウスに両方とも109個の色素標識エキソソームまたは色素のみを静脈内投与した。投与して3時間後にマウスを安楽死させた。マウスに与えたDiR標識エキソソームはIVISイメージングを用いてアッセイした(図1)。マウスに与えたPHK67標識エキソソームは共焦点顕微鏡観察を用いてアッセイした。エキソソームは健常マウスおよび線維症マウスの両方の肝臓に局在化した。しかしながら、健常マウスと比べて線維症マウスでは局在化レベルが増加した。
【0101】
実施例2 - STAT3阻害RNAをロードしたエキソソームを投与した後の肝線維症の低減
C57Bl6成獣マウスにCC14を6週間、隔週でi.p.注射することによって肝線維症を誘導した。次いで、MSC由来エキソソーム(1回の注射あたり、1用量につき1.5μgのsiRNAまたはASOを含む15億個のエキソソーム)を48時間ごとに投与した。エキソソームは、スクランブルドsiRNA、STAT3 siRNA、非修飾STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチド、修飾スクランブルドアンチセンスオリゴヌクレオチド、または修飾STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチドを含有した。処置後にマウスを安楽死させ、その肝臓を切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色のために処理し、染色切片を画像化した(図2A)。線維症レベルを定量した(図2B)。結果から、STAT3 siRNA、非修飾STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチド、および修飾STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチドは線維症レベルを低減したことが分かる。
【0102】
実施例3 - STAT3阻害RNAをロードしたエキソソームを投与した後の肺線維症の低減
マウスにブレオマイシンを用いて肺線維症を誘導した。次いで、MSC由来エキソソーム(1回の注射あたり、1用量につき5μgのsiRNAまたはASOを含む20億個のエキソソーム)を48時間ごとに投与した。エキソソームは、STAT3 siRNA、非修飾STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチド、修飾スクランブルドアンチセンスオリゴヌクレオチド、または修飾STAT3アンチセンスオリゴヌクレオチドを含有した。処置後にマウスを安楽死させ、その肺を切片化し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)染色のために処理し、染色切片を画像化した(図3A)。線維症レベルを定量した(図3B)。結果から、STAT3 siRNAは線維症レベルを最も大きく減少させたことが分かる。
【0103】
実施例4 - 肝線維症におけるエキソソームを介したSTAT3治療ターゲティング
結果
STAT3を標的とするsiRNAまたはASOをロードしたiExosome(核酸ペイロードを送達するように操作されたエキソソーム)の効率を確かめるために、野生型(WT)マウスから単離した初代肝臓星状細胞(HSC)を7日間培養した。これによりHSCは自発的に活性化した(図4A)(Zhai et al., 2019; Lu et al., 2014; Mederacke et al., 2013)。HSCの活性化はα-平滑筋アクチン(α-SMA)の発現を特徴とする(図4B)。iExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3処理によってHSCにおけるStat3 mRNAレベル(図4Cおよび4D)は脂質ベーストランスフェクション試薬(図5Aおよび5B)と比較して同様の効率で低減した。
【0104】
マウスにおいて外因的に投与したエキソソームの向性が以前に報告された(Mendt et al., 2018; Kamerkar et al., 2017)。これは膵臓および肝臓などのいくつかのGI臓器を含んだ。本発明者らは、健常マウスの肝臓に向かうヒト間葉系ストローマ細胞(MSC)由来エキソソームの肝臓向性を確認した(図4C)。線維症組織におけるエキソソームの生体内分布をさらに調べるために、DiR標識エキソソームを、四塩化炭素(CCl4)によって誘導された線維症肝臓マウスおよびWTマウスに腹腔内(i.p.)投与した。結果から、特異的な蓄積シグナルが正常な肝臓中および膵臓中のエキソソームと関連し、低量のシグナルが腎臓、腸、および脾臓において検出されたことが分かった(図4C)。しかしながら、線維症肝臓は健常肝臓と比較してDiR標識エキソソームの多量の濃縮を示した。さらに、本発明者らは、タグ化されたiExosome/siSTAT3/mASO STAT3のi.p.注射後(24時間後)に、電気穿孔によってAlexa-Fluor 647(AF647)タグ化siSTAT3または修飾ASO(mASO)STAT3をエキソソーム(iExosiRNA647-STAT3またはiExomASO647-STAT3)に導入した。結果から、裸のsiRNAまたはASOよりも高い割合で、蛍光標識されたsiRNAおよびASOが肝臓に蓄積することが明らかになった(図4D~F)。
【0105】
インビボでの肝線維症処置におけるiExosomeの機能を検証するために、WTマウスを週2回のCCl4のi.p.注射に供して慢性肝線維症を誘導した(図5D)。線維症を誘導した後、9日目に、マウスを裸のsiRNAもしくはASOでも、またはiExosiRNAもしくはiExomASOでも処置した(図5D)。STAT3を標的とするsiRNAまたはASOを含むiExosomeを、2種類の投与量、1μgのsiRNAまたはASOと共に電気穿孔した10億のエキソソーム(1μg/10億iExo)と、5μgのsiRNAまたはASOと共に電気穿孔した20億のエキソソーム(5μg/20億iExo)で投与した。siRNAはヒトSTAT3とマウスSTAT3を両方とも標的とするが、ASOはヒトSTAT3を標的とするように設計され、マウス配列と比べて3つのヌクレオチドミスマッチを示す。ASO設計は非修飾(umASO)と修飾ASO(mASO,方法を参照されたい)を含んだ。対照は、未処置マウスと、非標的対照siRNA(siCntrl)、またはASO(修飾スクランブル[mASO Scrbl]もしくはumASO STAT3)を含有するマウスエキソソームで処置したマウスを含んだ。siRNAまたはmASOを用いたSTAT3を標的とするiExosomeは、1μg/10億のiExosiRNA-STAT3と5μg/20億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3を用いた処置時に線維症肝臓におけるStat3発現を有意に低減した(図6Aおよび6B)。siRNA(siRNA-STAT3)またはASO(mASO-STAT3)のみと比較して5μg/20億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3では優れた効力が観察された(図6Aおよび6B)。umASOは、おそらく、この状況では安定性が低下した結果として、インビボでStat3を有意に抑制しなかった。これに対して、mASOの高い安定性はStat3の強固なターゲティングと相関した(図6Aおよび6B)。siRNAおよびmASOターゲティングiExosomeは両方とも線維症肝臓においてStat3発現を抑制するのにほぼ同じ効力を示した(図6Aおよび6B)。
【0106】
肝臓毒素CCl4を反復曝露すると、よく目につく炎症と肝臓損傷が誘導される。これらは進行性線維症と、活性化されたHSCまたは筋線維芽細胞の蓄積を促進する(Mederacke et al., 2013)。肝臓切片のシリウスレッド染色とコラーゲンI染色を適用して細胞外マトリックス(ECM)沈着を評価した。結果から、5μg/20億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスではECMは有意に低減したのに対して、1μg/10億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスでは線維症の中程度の低減が観察されたことが分かった(図6C~6H、図5DおよびE)。5μg/20億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3による処置によってI型コラーゲン沈着も有意に阻害された(図6E~H)。特に、siRNA-STAT3またはmASO-STAT3のみで処置したマウスと比較して、5μg/20億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスでは、線維症肝臓(図4B)における活性化HSC(aHSC)の十分に確立したマーカーであるα-SMAの発現パターンが有意に阻害された(図6J)。これに対して、1μg/10億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置したマウスでは有意な低減は観察されなかった(図5H)。
【0107】
転写レベルでのSTAT3ダウンレギュレーションに加えて、5μg/20億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3で処置すると、siRNA-STAT3またはmASO-STAT3による処置と比較してI型コラーゲンのα1鎖(Col1a1)とおよび平滑筋アクチン(Acta2)の有意な転写抑制が起こった(図7A~7D)。肝機能は、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)とアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルによって測定された時に、5μg/20億のiExosiRNA-STAT3およびiExomASO-STAT3で処置したマウスでは有意に改善し、siRNA-STAT3またはmASO-STAT3による処置でもある程度まで改善した(図7E~7H)。5μg/20億のiExosiRNA-STAT3およびiExomASO-STAT3処置では、ALTレベルとASTレベルは両方とも健常対照マウスに近いレベルまで低減した(図7E~7H)。CCl4によって誘導された肝線維症の病理組織学的評価から、肝細胞変性、局所性架橋壊死(focal bridging necrosis)、および小葉構造のかなりの構造破壊が示された(図7I~7K、未処置群)。siRNA-STAT3またはmASO-STAT3による処置を含む対照処置と比較して、マウスに5μg/20億のiExosiRNA-STAT3およびiExomASO-STAT3を投与した時には肝細胞壊死と変性のパーセントが有意に低減することが認められた(図7I~7K)。1μg/10億のiExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3を投与した時にはマウスにおいて肝臓組織病理学のわずかな改善が観察された(図5I~5K)。iExosiRNA-STAT3またはiExomASO-STAT3処置によって、他の臓器に対して観察可能な細胞傷害性は生じなかった(図8Aおよび8B)。
【0108】
標的細胞の遺伝子発現に及ぼすiExosome処置の影響を確かめるために、本発明者らは、5μg/20億のiExosiRNA-STAT3およびiExomASO-STAT3で処置したマウスに由来する肝臓全体のRNA配列決定を行った。各実験群の異なって発現した遺伝子(DEG)をヒートマップにプロットした(図9A)。所定の遺伝子の有意な発現変化は比が2倍を超えて増加または減少していることと定義し、補正されたp値は<0.05であった。ヒートマップとボルケーノプロットから、iExosiRNA-STAT3およびiExomASO-STAT3処置によって、遺伝子発現はそれぞれの対照と比較して変化することが分かった(図9A~9C)。iExosiRNA-STAT3群からの肝臓転写物分析から1,918の遺伝子の発現が増加し、2,460の遺伝子の発現が減少したことが分かった。これに対して、iExomASO-STAT3群の肝臓転写物分析から2,140の遺伝子の発現が増加し、2,021の遺伝子の発現が減少したことが分かった(図9Bおよび9C)。肝線維症の発症において重要な役割を果たしているSPP1およびThbs1(Arriazu et al., 2017; Breitkopf et al., 2005)を含む、STAT3シグナル伝達に関与する遺伝子クラスターはiExosome処置後に抑制された(図9D)。肝線維症におけるSTAT3シグナル伝達に関連する、一般的に異なって調節解除された遺伝子はECM沈着とリモデリングに関連した(図9E)。iExosome処置によって、Col1a1、Acta2、Col1a2、およびVimを含む古典的な線維症関連遺伝子の発現が抑制された(図9E)。このことから、STAT3は肝線維症の重要なメディエーターであることが示唆される。過剰出現(overrepresentation)分析から、DEGは主にECM受容体相互作用経路に豊富にあることが証明され(図9Fおよび9G)、ダウンレギュレートされた遺伝子は、チトクロムP450による生体異物代謝、タンパク質の消化および吸収、一次胆汁酸生合成、リノール酸代謝、ならびに化学的発がんに関与する経路について豊富にあることも示された(図9Fおよび9G)。同様の一組の変化した下流経路がiExosiRNA-STAT3処置とiExomASO-STAT3処置の両方に観察され(図9Fおよび9G)、このデータセットが、肝線維症におけるSTAT3調節経路をさらに調査するための有用なツールであることを裏付けている。STAT3シグナル伝達と、肝線維症における標的ECM遺伝子の間の関連性をさらに調べるために、STAT3 mRNAと肝線維症に関連するECM調節ネットワークをDEGに基づいて作成した。図9Hに示したように、作成したネットワークは24のECM関連遺伝子において関連性を示した。このネットワーク分析によって、STAT3が、将来の臨床処置のためのECM沈着の復氷(regelation)の重要なノードであることが突き止められた。
【0109】
まとめると、これらの研究から、肝細胞および星状細胞における肝線維症を促進するSTAT3の重大な役割に関する以前の報告が裏付けられた(Wang, Lafdil, Kong et al., 2011)。肝線維症におけるSTAT3調節解除は複雑であり、肝細胞では保護機能、aHSCs/筋線維芽細胞では線維化促進機能をもつ(Chakraborty et al., 2017; Wang, Lafdil, Kong et al., 2011; Wang, Lafdil, Wang et al., 2011)。STAT3を標的とするiExosomeアプローチの抗線維症アウトカムはaHSCs/筋線維芽細胞による優先的な取り込みを反映しているのかもしれない(図5C)。このことは、STAT3発現を抑制するエキソソームmiR-181-5pによって肝線維症を阻止することが示された脂肪由来間葉系幹細胞由来エキソソームを用いた以前の報告(Qu et al., 2017)とも一致している。様々な阻害物質がマウスにおいて効力を示しているが、STAT3ターゲティングにおける、これらの特異性はまだ検証されないでいる(Beebe et al., 2018)。開示されたアプローチは遺伝子ターゲティング特異性をもたらし、さらなるsiRNA標的と併用される可能性がある。さらに、肝臓がんの治療アプローチにおけるエキソソームの役割も浮上している (Lou et al., 2020)。肝臓がん中の形質転換肝細胞はSTAT3発現に頼っており(Wang, Lafdil, Wang et al., 2011; Jung et al., 2017)、STAT3を標的とするiExosomeは肝臓がん進行の制限において利益を提供できるかもしれない。膵臓がんに関する以前の研究から、発がん性KrasのsiRNAターゲティングによる臨床グレードエキソソームの開発が示されている(Mendt et al., 2018; Kamerkar et al., 2017)。このことから、肝線維症におけるエキソソームを用いたSTAT3阻害のための臨床適用の可能性が裏付けられる。
【0110】
方法
HSC単離およびα-SMA染色
以前に説明された方法(Vinas et al., 2003)に従ってマウス初代HSCを8週齢の雌Balb/cマウスから単離した。マウス初代HSCを、20%FBS(Gemini)を含有する高グルコースダルベッコ変法イーグル培地(DMEM, Gibco)の中で培養した。培養によって活性化された初代HSC(7日目)をCy3-α-SMA抗体(Sigma, C6198, 1:200)で一晩免疫染色した。200×倍率の代表的な画像をAxiovert 200およびAxiocam HRcカメラ(Zeiss)によって撮影した。
【0111】
リアルタイムPCR分析
TRIzol(商標)(Invitrogen, 15596018)を用いて全RNAを肝臓組織から単離し、High-Capacity cDNA Reverse Transcriptase Kit(Life Technology)によって製造業者の説明書に従ってcDNAを作製した。定量RT-PCRをSYBR Green PCR Master Mixを用いて行った。全量の標的遺伝子mRNAをGAPDH発現に対して標準化した。以下のプライマー配列:
を使用した。分散の統計解析はΔCtで行った。変化倍率を示し、対照比較群を1に設定して対照群に対して標準化した。
【0112】
エキソソームの精製およびエレクトロポレーション
テキサス大学MD Anderson Cancer CenterのCell Therapy Laboratoryから入手し、20%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Corning)、1%L-グルタミン(Corning)、および1%非必須アミノ酸(NEAA, Gibco)を加えたαMEM(Corning)の中で骨髄由来MSCを培養した。エキソソーム収集には継代4~6のMSCを使用した。本発明者らの確立したプロトコール(Mendt et al., 2018; Kamerkar et al., 2017)に従ってエキソソームを分画遠心分離プロセスによって精製した。簡単に言うと、細胞を70~80%コンフルエンシーまで増殖させ、1×PBS(Corning)で洗浄し、無血清培地(1%ペニシリン-ストレプトマイシン、1%L-グルタミン、および1%NEAAを含むαMEM)の中で48時間培養した。上清を収集し、800×gで5分間、その後に2,000×gで10分間遠心分離し、0.2μmフィルター(Thermo Fisher)で濾過した。濾過した上清をSW 32 Tiローター(Beckman)に入れて100,000×gで4℃で3時間遠心分離した。上清を吸引し、ペレットを100μLの1×PBSに再懸濁した。エキソソームの濃度およびサイズをナノ粒子トラッキング解析(NTA, NanoSight LM10, Malvern)によって検証した。100億個のエキソソームのアリコートを使用前に-80℃で保管した。低用量混合物は、100μlのPlasmaLyte(Medline, BHL2B2544XH)の中に、NTAに従う10億個の全エキソソームと1μgのsiRNAまたはアンチセンスオリゴ(ASO)を含有した。これに対して、高用量混合物は、100μlのPlasmaLyteの中に20億個の全エキソソームと5μgのsiRNAまたはASOを含有した。400μlのRNAi-エキソソーム混合物をキュベットにロードし、次いで、400V、125μF、および∞オームで電気穿孔した。すぐにキュベットを氷に移した。siSTAT3配列:センス鎖
、アンチセンス
(Sigma-Aldrich)。mASO Scrbl配列は、
であった。umASO STAT3配列は、
であった。mASO STAT3配列は、
であった。「m」は2’O-メトキシ-エチル塩基を示す。*はホスホロチオエート結合を示す。siCntrlはSigma-Aldrich(SIC001, Sigma-Aldrich)から入手した。ASOはIntegrated DNA Technologies, Incによって合成された。マウスSTAT3とヒトSTAT3を標的とするように、等しい潜在的な効力をもつsiRNAを設計した。ASOもマウスSTAT3とヒトSTAT3を標的とするように設計したが、マウス配列と3つのヌクレオチドミスマッチがあるために、マウスSTAT3に対する効力が潜在的に低かった。
【0113】
インビボでのエキソソーム生体内分布の視覚化
肝線維症を誘導するために(下記で詳述するように)マウスをCCl4で処置した。MSC由来エキソソームの生体内分布については、以前に述べられたように(Mendt et al., 2018)、XenoLight DiR(ヨウ化1,1'-ジオクタデシルテトラメチルヨードトリカルボシアニン, Perkin Elmer,カタログ125964)で標識した8×109個の精製エキソソームを健常マウス(シャム)および線維症Balb/cマウスにi.p(100μl)注射した。希釈したDiR(100μl)を対照として注射した。注射して6時間後にマウスを安楽死させ、様々な組織(腎臓、脾臓、肝臓、膵臓、および腸)を収集し、すぐに画像化した。簡単に言うと、5×109個のMSC由来エキソソームごとに1μM DiRで標識し、次いで、37℃で1時間、4℃で15分間インキュベートし、次いで、10mlの1×PBSに溶解して40,000gの超遠心分離によって4℃で3時間洗浄した(Mendt et al., 2018)。標識エキソソーム(8×109個)を100μlの1×PBSに再懸濁した。対照群については、上記と同じ手順に従って3時間超遠心分離することで1μlのDiRを11mlの1×PBSで希釈した。対照試料(DiRのみ)を100μlの1×PBSに再懸濁した。変種臓器の蛍光強度を画像化し、780nmのEmフィルターと、710nmのExフィルターが付いたIVIS 200小動物イメージングシステム(small animal imaging system)(PerkinElmer)を用いて定量した。
【0114】
肝臓組織における標識されたsiSTAT3およびmASO STAT3局在化の視覚化
(下記で詳述するように)マウスをCCl4で処置して肝線維症を誘導した。注射前に、MSC由来エキソソームをAF647タグ化siRNAおよびmASOと共に電気穿孔した。次いで、これらのAF647標識iExosomeおよびAF647タグ化裸のsiRNAまたはmASOをWT Balb/cマウスおよび線維症マウスにi.p.注射した。切片化した肝臓標本をDAPIで染色し、次いでマウントした。画像を共焦点レーザースキャニング顕微鏡(Zeiss LSM800)によって入手し、次いで、AF647陽性細胞の核の数を計数し、その数を核の総数で割ることによって定量した。1つの臓器につき3つのランダムな視野を取り込んだ(200×)。
【0115】
マウス
肝線維症をBalb/cマウス(Jackson laboratoryから購入した8週齢の雌)において誘導した。CCl4(Sigma, 56-23-5)を100μlのオリーブ油に溶解して10%の投与量で37日間にわたって週2回、i.p.注射することで肝臓損傷を誘導した。対照マウスには、CCl4がないオリーブ油を投与した(図5D)。9日後に、マウスを無作為に13の群に割り付けた。マウスには、100μl体積のPlasmaLyte(Medline)に溶解した1μg siRNA/ASOの10億個の操作されたエキソソームもしくは5μg siRNA/ASOの20億個の操作されたエキソソームまたはsiRNA-STAT3/mASO-STAT3のみも1日おきにi.p.投与した。最後のiExosome注射の24時間以内にマウスを安楽死させた。全てのプロトコールと手順がMDACCの動物実験委員会(Institute for Animal Care and Use Committee)によって承認された。
【0116】
シリウスレッド染色および定量
肝臓を10%中性緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。シリウスレッド染色のために5μm厚のパラフィン切片を使用した。3回リンスし、ヴァイゲルトヘマトキシリンで8分間染色した後に、スライドをピクロシリウスレッドで1時間、対比染色した。肝線維症を定量するために、カウンティンググリッドを用いて、各マウスから3つの独立したシリウスレッド染色切片を分析した。以前に述べられたように(Whittaker et al., 1994)、肝線維症のパーセント領域を計算した。
【0117】
免疫組織化学
組織を10%ホルマリンで一晩固定し、脱水し、およびパラフィン包埋した。次いで、5μm切片を分析のために処理した。1mM EDTA-TE(pH9.0)中で1時間の熱媒介性抗原賦活化を行った。一次抗体と一晩インキュベーションする1時間前に、コラーゲンI(Southern Biotech, 1310-01, 1:200)染色のために切片を、TBSに溶解した4%CWFSゼラチン(Aurion)でブロックした。ビオチン化抗ヤギ(Vector Laboratories, BA9500, 1:400)とインキュベートした後に、切片をABCと30分反応させ、次いで、製造業者のプロトコールに従ってDABによって発色させた。
【0118】
肝機能評価
マウス血液を後眼窩叢(retro-orbital plexus)から収集した。次いで、すぐに血清を6,000rpm、4℃で10分間の遠心分離によって単離し、使用前に-80℃で保管した。血清のALTおよびAST含有率の測定はMDACCの獣医病理学部門によって行われた。
【0119】
ヘマトキシリン・エオシン染色
肝臓組織試料を10%緩衝ホルマリンで固定し、パラフィン包埋した。厚さが5μmの組織切片をヘマトキシリン・エオシン(H&E)で染色した。各スライドについて5つの別々の200×視野を無作為に選択し、壊死した肝細胞および変性した肝細胞の数を、Adobe Photoshop 7.0のカウンティングツールを用いて手作業で計数した。肝細胞は、細胞質が凝集しており、濃く染色されていることと、核が無いことで壊死していると定義された(Krishna et al., 2017)。肝細胞変性は、特に以前に報告されたように(Lackner et al., 2008)、細胞の膨張と拡大が発見されることで確かめられた。
【0120】
RNA配列決定
TRIzol(商標)(Invitrogen, 15596018)を用いて全RNAを肝臓から抽出し、製造業者の説明書に従って精製した。RNA完全性は、MDACC SequencingとncRNA ProgramコアによるRNA 6000 Nanoアッセイを用いて確かめた。肝臓RNA配列決定は、Illumina TrueSeq stranded mRNAseq MDACC SequencingとncRNA Programコアを用いて行った。ゲノムマッピングは、TopHatソフトウェア(v2.0.9; ワールドワイドウェブ上でccb.jhu.edu/software/tophat/index.shtmlから入手可能)を用いて行った。本発明者らはRNA-Seqデータから転写物を特定するためにCufflinksアルゴリズムを使用し、遺伝子発現プロファイリングのために、DESeq2(ワールドワイドウェブ上でbioconductor.org/packages/release/bioc/html/DESeq2.htmlから入手可能)を用いて、異なって発現した遺伝子を決定した。偽発見率(FDR)は、複数の試験のp値の有意性閾値を決定するために行った。有意な発現遺伝子は0.05未満のFDRによって決定した。ジーンセットエンリッチメントアナリシス(Gene Set Enrichment Analysis)(GSEA)および遺伝子アノテーションは、WebGestalt 2019(ワールドワイドウェブ上でwebgestalt.org/から入手可能)(He et al., 2019)によって行った。STAT-ECM遺伝子相互作用調節ネットワークは、NetworkAnalyst 3.0(ワールドワイドウェブ上でnetworkanalyst.ca/から入手可能)(Zhou et al., 2019)を用いて作成した。
【0121】
統計解析
使用した統計解析を図面の簡単な説明において詳述した。データを平均±平均の標準誤差で表した。p<0.05が統計的に有意だとみなした。GraphPad Prism(GraphPad Software)を使用して、一元配置ANOVAまたは独立両側スチューデントt検定とウエルチの補正を用いて統計的有意性を証明した。統計検定の有意性を以下のようにグラフ中で報告した:****(p<0.0001)、***(p<0.001)、**(p<0.01)、*(p<0.05)、n.s.(p>0.05)。
【0122】
実施例5 - 肝臓星状細胞におけるCol1a1ノックアウト
活性化肝臓星状細胞またはαSMA+筋線維芽細胞にCol1a1遺伝子のノックアウト変異(Col1a1cKO)を有するマウスを作製した。あるマウス群にCCl4をi.p.注射することによって肝線維症を誘導した。これに対して、対照群にはCCl4を与えなかった。線維症群と対照(「健常」)群を両方とも屠殺および分析した。野生型(WT)と比較して、Col1a1cKOマウスではコラーゲンIと肝線維症の有意な低減が観察された(図10A~F)。WTと比較して、肝線維症を有するCol1a1cKOマウスでは肝線維症と関連するグローバル発現パターンの多くが有意に改善した(図10Gおよび10H)。
【0123】
本明細書において開示および請求された方法は全て、本開示を考慮すれば過度の実験なく作製および実施することができる。本発明の組成物および方法が、ある特定の態様に関して説明されたが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の方法および本明細書に記載の方法の工程または工程の順序に変更を加えることができることは当業者に明らかである。例えば、本明細書に記載の作用物質の代わりに、化学的および生理学的に関連している、ある特定の作用物質を使用することができ、それと同時に、同一の結果または類似の結果が得られることは明らかである。当業者に明らかな、このような類似する代用および変更は全て、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内だと考えられる。
【0124】
参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の詳細または本明細書に記載のものを補足する他の詳細を示す程度まで参照により本明細書に特に組み入れられる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図5J
図5K
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G
図6H
図6I
図6J
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図7K
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図10H
【手続補正書】
【提出日】2022-08-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2023505273000001.app
【国際調査報告】