(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】癌治療におけるIL-15及びCD40アゴニストの組合せ免疫療法
(51)【国際特許分類】
A61K 38/20 20060101AFI20230201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230201BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230201BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20230201BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230201BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230201BHJP
【FI】
A61K38/20
A61P35/00
A61P1/18
A61K45/00
A61K39/395 T
A61P43/00 121
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534242
(86)(22)【出願日】2020-12-04
(85)【翻訳文提出日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020084665
(87)【国際公開番号】W WO2021110930
(87)【国際公開日】2021-06-10
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】307020198
【氏名又は名称】ユニバーシタット アントウェルペン
(71)【出願人】
【識別番号】522222386
【氏名又は名称】ユニバーシテイル ジーケンフイス アントウェルペン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITAIR ZIEKENHUIS ANTWERPEN
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】エヴェリーン,スミッツ
(72)【発明者】
【氏名】ジョナス,バナウデナエルデ
(72)【発明者】
【氏名】マルク,ぺーテルス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
4C084DA12
4C084MA02
4C084MA63
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZB26
4C084ZC41
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
4C085EE03
4C085GG02
4C085GG04
4C085GG05
(57)【要約】
本発明は、組合せ免疫療法の分野に関し、より詳細には、癌、例えば、ただしこれに限定されないが、膵臓癌(例えば、膵管腺癌及び膵臓神経内分泌腫瘍)の治療に使用されるIL-15及びCD40アゴニストを含む組合せに関する。
【選択図】
図1-2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における膵臓癌の治療に使用される、IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せであって、前記IL-15及びCD40アゴニストの少なくとも一方が、治療用量以下の用量で使用される、組合せ。
【請求項2】
前記IL-15及びCD40アゴニストの前記治療用量以下の用量は、単独で投与された場合に前記哺乳動物において治療効果を得るために必要な前記IL-15及びCD40アゴニストの用量よりも低い用量である、請求項1に記載の組合せ。
【請求項3】
前記CD40アゴニストは、体重1 kgあたり約20 μg~約800 μg、好ましくは体重1 kgあたり約30 μg~約600 μg、最も好ましくは体重1 kgあたり約40 μg~約300 μgの用量で使用される、請求項1又は2に記載の組合せ。
【請求項4】
前記IL-15は、体重1 kgあたり約0.1 μg~約50 μg、好ましくは体重1 kgあたり約0.1 μg~約20 μg、最も好ましくは体重1 kgあたり約0.1 μg~約2 μgの用量で使用される、請求項1~3の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項5】
前記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満の用量でIVボーラス注射により、又は体重1 kgあたり約2 μg以下の用量で持続IV点滴システムにより、静脈内投与される、請求項1~4の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項6】
前記IL-15は、体重1 kgあたり2 μg未満の用量で皮下又は皮内投与される、請求項1~5の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項7】
以下の:
前記CD40アゴニストは、体重1 kgあたり300 μg未満の用量で使用されること、
前記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満の用量でボーラス注射により静脈内投与されること、
前記IL-15は、体重1 kgあたり約2 μg以下の用量で持続点滴システムにより静脈内投与されること、又は、
前記IL-15は、体重1 kgあたり2 μg未満の用量で皮下又は皮内投与されること、
の少なくとも1つを適用する、請求項1~6の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項8】
前記組合せは、医薬組成物の形態である、請求項1~7の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項9】
前記CD40アゴニストは、CD40抗体又はその抗原結合フラグメントであり、例えば、セリクレルマブ、APX005M、ChiLob7/4、ADC-1013、SEA-CD40、CDX-1140から選択される、請求項1~8の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項10】
前記CD40アゴニストは、CD40L、CD40Lの三量体、HERA-CD40Lから選択される、請求項1~9の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項11】
前記IL-15及び前記CD40アゴニストは同時投与される、請求項1~10の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項12】
前記IL-15及び前記CD40アゴニストは、静脈内、皮内又は皮下投与される、請求項1~11の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項13】
前記膵臓癌は、膵管腺癌、膵臓神経内分泌腫瘍から選択される、請求項1~12の何れか1項に記載の組合せ。
【請求項14】
膵臓癌の治療を必要とする対象において膵臓癌を治療する方法であって、前記方法は、前記対象に、IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せを投与することを含み、前記IL-15及びCD40アゴニストの少なくとも一方は、治療用量以下の用量で使用される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組合せ免疫療法の分野に関し、より詳細には、癌、例えば、ただしこれに限定されないが、膵臓癌(例えば、膵管腺癌及び膵臓神経内分泌腫瘍)の治療に使用されるIL-15及びCD40アゴニストを含む組合せに関する。
【背景技術】
【0002】
膵管腺癌(PDAC)は、5年生存率がわずか8%の、世界で3番目に致死率の高い癌である。2030年までには、癌関連死の原因の2番目になるとさえ予測されている。今日まで、PDACは、複数の腫瘍抑制遺伝子の損失により駆動される、強い間質線維化反応、低い免疫原性及び最終的には腫瘍を支持する分子署名を含む、複雑な腫瘍微小環境に起因して、最も攻撃的で困難な消化器悪性腫瘍の1つであり続けている。
【0003】
今日まで、生存率の改善は達成されておらず、このことが、PDACを、患者の転帰を最終的に改善するための新たな治療アプローチに対する緊急のアンメットニーズをまさに象徴する疾患としている。患者の約85%は、診断時に局所進行性又は転移性の疾患であることにより、治療的外科切除に適していない。そのため、患者は、その体力に応じて、FOLFIRINOX又はゲムシタビン/nab-パクリタキセルの何れかを用いて治療される。というのも、前者は大きな毒性の問題があり、後者は限定的な影響しかないからである。他の癌種において成功した新しい有望なアプローチは、残念ながら、抗PD-1及び抗CTLA-4を含む、ゲムシタビンを超える改善には至らない。
【0004】
アゴニスト性CD40抗体は、自然膵臓KPC腫瘍を保持するマウスにおいて有望な結果を示している。これは臨床試験につながり、数人の患者がゲムシタビン及びCD40アゴニストを用いて治療され、ほとんどの患者において中程度の結果が得られた。しかし、他の化合物との組合せによって可能な、CD40アゴニストの可能性を増加させる大きな余地が残されている。
【0005】
本発明者らは、IL-15がPDAC腫瘍細胞だけでなく、治療への低い反応に関与する間質性膵臓星状細胞(PSC)をも死滅させる可能性を有することを示した。IL-15は、T細胞の増殖及び細胞傷害性リンパ球の生成の両方、並びにナチュラルキラー(NK)細胞の活性化及び拡大を刺激する汎用性のサイトカインである。さらに、IL-15はCD8メモリ細胞を誘導する能力を有しており、これにより、悪性細胞に対する長期に持続する免疫反応の維持、及び、再発の可能な防止において重要な役割を担っている。これらの全ての特徴が、IL-15を、癌治療における広範な使用に関して最大の可能性を有するNCIの免疫療法薬剤トップ20における高いランクによって確認されているように、非常に魅力的な癌免疫療法薬剤としている。
【0006】
両分子は膵臓腫瘍の治療において可能性を有することは従来から示されていたが、ここで本発明者らは、驚くべきことに、これらを組み合わせることで、抗腫瘍効果の増加に関して相加効果を示し、生存率の大幅な増加、及び大多数の腫瘍の完全な治癒さえもたらすことを見出した。また、IL-15を加えることによりCD40アゴニストの著しい投与量の低減が可能であり、これにより副作用のリスクも低減される。したがって、本発明者らは、両者を組合せることにより、成分の少なくとも一方を治療用量以下の用量で使用しても、同様の効力を得ることができることを見出した。
【発明の概要】
【0007】
本願は、膵臓癌の治療に使用される、L-15及びCD40アゴニストを含む組合せに関する。特に、本発明は、膵臓癌の治療に使用されるIL-15及びCD40アゴニストの組合せを提供し、IL-15及びCD40アゴニストの少なくとも一方が、治療用量以下の用量で使用される。
【0008】
特定の実施の形態において、上記CD40アゴニストは、体重1 kgあたり約20 μg~約800 μg、好ましくは体重1 kgあたり約30 μg~約600 μg、最も好ましくは体重1 kgあたり約40 μg~約300 μgの用量で投与/使用される。
【0009】
特定の実施の形態において、上記IL-15は、体重1 kgあたり0.1 μg~約50 μg、好ましくは体重1 kgあたり約0.1 μg~約20 μg、最も好ましくは体重1 kgあたり約0.1 μg~約2 μgの用量で投与される。
【0010】
更なる実施の形態において、上記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満の用量で静脈内投与される。特にIL-15がボーラスIV注射により投与される場合、用量は体重1 kgあたり0.3 μg未満であり得る。代替で、IL15が持続IV点滴システムにより投与される場合、用量は、体重1 kgあたり約2 μg以下であり得る。代替で、上記IL-15は、体重1 kgあたり2 μg未満の用量で皮内又は皮下投与される。
【0011】
また更なる実施の形態において、本発明は、本明細書に定義されるような組合せを提供し、以下の:
上記CD40アゴニストは、体重1 kgあたり300 μg未満の用量で使用されること、
上記IL-15は、体重1 kgあたり0. 3 μg未満の用量で静脈内投与されること、
上記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満の用量でボーラス注射により静脈内投与されること、
上記IL-15は、体重1 kgあたり約2 μg以下の用量で、持続点滴システムにより静脈内投与されること、又は、
上記IL-15は、体重1 kgあたり2 μg未満の用量で皮下又は皮内投与されること、
の少なくとも1つを適用する。
【0012】
別の特定の実施の形態において、組合せは、医薬組成物の形態である。
【0013】
別の特定の実施の形態において、上記CD40アゴニストは、CD40抗体又はその抗原結合フラグメントであり、例えば、セリクレルマブ、APX005M、ChiLob7/4、ADC-1013、SEA-CD40、CDX-1140から選択される。
【0014】
別の特定の実施の形態において、上記CD40アゴニストは、CD40L、CD40Lの三量体、HERA-CD40Lから選択される。
【0015】
別の特定の実施の形態において、上記IL-15及び上記CD40アゴニストは同時投与される。
【0016】
更なる実施の形態において、上記IL-15及び上記CD40アゴニストは、静脈内、皮内又は皮下投与される。
【0017】
また更なる実施の形態において、膵臓癌は、膵管腺癌、膵臓神経内分泌腫瘍から選択される。
【0018】
特に、本発明者らは、IL-15及びCD40アゴニストを含む上記組合せが、抗腫瘍効果の増加を示し、これが、大幅な生存率の増加、及び大多数の腫瘍の完全な治癒さえもたらすことを見出した。さらに、本発明者らは、驚くべきことに、IL-15を加えることによって、CD40アゴニストの著しい用量低減が可能となることを見出した。
【0019】
これより図面を具体的に参照するが、示される記述は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1-1】腫瘍の動態及び生存率を示す図である。C57Bl/6jマウスに、0.5×10
6個のPanc02細胞(
図1B、
図1D、
図1F参照)又はKPC(
図1C、
図1E、
図1G参照)細胞の何れかを皮下注射した。腫瘍が25 mm
2~35 mm
2のサイズに達したときに、マウスを無作為化し、治療スキーム(
図1A)に従って、アイソタイプコントロール、IL-15、CD40アゴニスト又はIL-15+CD40アゴニストを用いて治療した。投薬のタイミングは、IL-15(2.5 μg)については黒い矢印で、CD40アゴニスト又は対応するアイソタイプについては赤い矢印で示している(Panc02については12.5 μg、KPCについては200 μg又は100 μg)。
図1B、
図1Cに、腫瘍の動態を示している(群あたりn=6のマウス、3回(Panc02)又は2回(KPC)の独立な実験の代表データ)。Bonferroni posthocを用いたTwo-way ANOVA。
図1D、
図1Eに、示したように治療したPanc02マウス及びKPCマウスの生存率を示す。3回(Panc02)又は2回(KPC)の独立な実験のプールデータ。生存率は、腫瘍のサイズが150 mm
2に達することにより決定した。Mantel-Cox検定。
図1F、
図1Gに、34日後(Panc02)又は35日後(KPC)のベースラインに対する%倍率変化を示すウォータフォールプロットを示す。全てのデータは平均値±SEMを表す。ns p≧0.05;*p<0.05;**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。
【
図2-1】免疫細胞枯渇を示す図である。Panc02腫瘍(
図2A、
図2B、
図2C、
図2D参照)又はKPC腫瘍(
図2E、
図2F、
図2G、
図2H参照)を保持するC57Bl/6jマウスを、アイソタイプコントロール、又はIL-15+CD40アゴニストの組合せレジメンを、単独で、又はCD4、CD8、アシアロ-GM1に対する枯渇抗体(NK細胞枯渇)と共に用いて治療した。
図2A、
図2Eは、治療無し(アイソタイプ)の、組合せレジメンのみ(枯渇無し)を用いて治療した、又は組合せと枯渇抗体とを用いて治療した、Panc02腫瘍又はKPC腫瘍の腫瘍動態を示す。Bonferroni posthocを用いたTwo-way ANOVA。データポイントは平均値±SEMを表す。n=5~7のマウス/群。
図2B~
図2D、及び
図2F~
図2Hは、治療無し(アイソタイプ)の、組合せレジメン(枯渇無し)を用いて治療した、又は組合せとCD4(
図2B、
図2F)、CD8(
図2C、
図2G)、アシアロ-GM1(
図2D、
図2H)に対する枯渇抗体とを用いて治療した、Panc02(
図2B~
図2D)又はKPC(
図2F~
図2H)を保持するマウスの生存率を示す。n=10~11(Panc02)又はn=11~13(KPC)での2回の独立な実験からのプールデータ。
【
図3-1】腫瘍浸潤リンパ球の特性評価を示す図である。KPC腫瘍を保持するC57Bl/6マウスを、アイソタイプコントロール、IL-15、CD40アゴニスト、又は後者の組合せを用いて治療した。腫瘍は治療開始後8日目に採取した。単一細胞懸濁液をフローサイトメトリ分析用に酵素分解後に取得した。
図3A~
図3Iは、細胞の絶対数の倍率変化として示した免疫細胞集団を示す。3回の独立な実験からのプールデータ、n=13~16/群。Bonferroniを用いたTwo-way ANOVA。*p<p0.05;**p≦0.01;***p≦0.001。
【
図4】腫瘍及びTDLN内のDCの特性評価を示す図である。KPC腫瘍を保持するC57BL/6jマウスを、アイソタイプコントロール、IL-15、CD40アゴニスト、又は後者の組合せを用いて治療した。治療開始後8日目に腫瘍又はTDLNを採取した。単一細胞懸濁液をフローサイトメトリ分析用に酵素消化後に取得した。(a、b)腫瘍内のDC又はCD103
+ DC。(c、d)TDLN内のDC又はCD103
+ DC。3回の独立な実験からのプールデータ、n=10~16/群。Bonferroniを用いたOne-way ANOVA。*p<0.05;**p≦0.01;****p≦0.0001。
【
図5】再負荷実験を示す図である。IL-15+CD40アゴニストを用いて治療した後のPanc02腫瘍又はKPC腫瘍が治癒されたC57BL/6jマウスに、腹部の対側に同じ種類の腫瘍を再注射した。(a、b)Panc02腫瘍細胞を用いて再負荷したマウスの腫瘍の動態及び生存率(ログランク検定)、n=16。(c、d)KPC腫瘍細胞を用いて再負荷したマウスの腫瘍の動態及び生存率、n=9。(e、f)治療後8日後の、KPC腫瘍を保持するマウス(n=9)の腫瘍内CD8
+エフェクタ細胞又はメモリT細胞のフローサイトメトリ定量化。Bonferroniを用いたOne-way ANOVA。**p≦0.01;***p≦0.001;****p≦0.0001。
【発明を実施するための形態】
【0021】
これより、本発明を更に説明する。以下の節では、本発明の種々の態様を更に詳細に規定する。そこで規定された各々の態様は、そうではないことが明確に示されていない限り、他の任意の態様(単数又は複数)と組み合わせてもよい。特に、好適又は有利であると示される任意の特徴を、好適又は有利であると示される他の任意の特徴(単数又は複数)と組み合わせてもよい。
【0022】
本発明の化合物を説明する場合、使用される用語は、文脈上他に指示がない限り、以下の定義に従って解釈されるものとする。
【0023】
本明細書及び添付した特許請求の範囲で使用される場合に、値を限定していない単数形("a"、"an"、及び"the")は、文脈上特に明記されていない限り、複数の指示対象を含む。例として、「a compound」は、1つの化合物又は2つ以上の化合物を意味する。
【0024】
本明細書において使用される、パラメータ、量、期間等の計測可能な値に言及する「約(about)」及び「およそ(approximately)」という用語は、規定値より±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは、±1%以下、そして更に好ましくは、±0.1%以下の変動を包含することを意味し、そのような変動であれば開示される本発明を実施するのに適切である。修飾語句「約」又は「およそ」が言及する値そのものも具体的にかつ好ましくは開示されることが理解される。
【0025】
したがって、本発明は、膵臓癌の治療に使用される、IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せに関する。
【0026】
本発明の文脈において、用語「膵臓癌」は、膵臓すなわち胃の背後にある腺器官における細胞の制御不能な増殖から生じる障害であることを意味する。これらの癌性細胞は、体の他の部分に侵入する能力を持っている。膵臓癌には多くの種類があり、膵臓腺癌が症例の約85%を占める。また、膵臓癌の症例の1%~2%は、膵臓のホルモン産生細胞から発生する神経内分泌腫瘍である。膵臓癌は、米国における癌による一般的な死因の3番目であり、先進国において最も頻繁に発生しており、おそらく、タバコの喫煙、肥満及び糖尿病に関連してリスクが増加することに起因する。
【0027】
本発明の発明者らは、本発明による組合せが、抗腫瘍効果の増加を示し、これが生存率の大幅な増加、及び大多数の腫瘍の完全な治癒さえもたらすことを見出した。したがって、本発明による組合せの利点は、抗腫瘍活性の増加である。この活性は、CD8 T細胞及びNK細胞の浸潤の拡大及び同時にT制御細胞の低減によって媒介される。本願では、本発明による組合せに関する翻訳前臨床データが提供される。さらに、本発明者らは、この特定の組合せの使用によって、成分の少なくとも一方を治療用量以下の用量で使用でき、これにより、上記成分の高い用量に関連する副作用のリスクが低減されることを見出した。
【0028】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、膵臓癌の治療に使用される、IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せを提供し、上記IL-15及びCD40アゴニストの少なくとも一方は、治療用量以下の用量で使用される。
【0029】
より詳細には、本発明は、ヒト等の哺乳動物における膵臓癌の治療に使用される、IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せを提供し、上記IL-15及びCD40アゴニストの少なくとも一方は、治療用量以下の用量で使用される。
【0030】
本明細書において使用される場合、用語「IL-15」は、T細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞の活性化及び増殖を調節するサイトカインをいう。IL-15に関する当該技術分野における他の名称には、IL15及びインターロイキン-15が含まれる。本発明において使用される場合、IL-15は、そのまま使用されてもよく、又はrh IL15等の組換え型の使用を含んでもよい。代替で、これは、IL-15アゴニスト及びスーパーアゴニスト、例えばRLI-15、IL15 SA又はN-803等の使用を含んでもよい。N-803(従来のALT-803)は、IL-15スーパーアゴニスト変異体、及び、二量体であるIL-15RαSushi-Fc融合タンパク質複合体であり、これは、CD8+ T及びNK細胞の拡大及び機能を高め、前臨床モデルにおいて抗腫瘍効力を示す。IL15 SAは、IL-15及びIL15Ra-Fcを組み合わせたものである。RLI-15は、20アミノ酸のフレキシブルリンカーを介してIL-15と結合した、IL-15RαのNH2末端(アミノ酸1~77、sushi+)サイトカイン結合ドメインからなる融合タンパク質である。この融合タンパク質は、タンパク質受容体-リンカー-IL-15(RLI)というが、増加した血清半減期を有し、複合化IL-15/IL-15Rα-Fcと同様の生物活性を有するIL-15スーパーアゴニストとして作用する。
【0031】
本明細書において使用される場合、用語「CD40アゴニスト」は、対象のCD40分子に特異的に結合し、CD40を発現する対象の細胞、組織又は生物と接触したときに1つ以上のCD40活性を増加させる又は高める又は誘導する分子をいう。
【0032】
本明細書において使用される場合、「CD40」は、腫瘍壊死因子受容体ファミリの一員である細胞表面糖タンパク質をいう。CD40についての当該技術分野における他の名称には、TNFRSF5、p50、CDW40及びBp50が含まれる。
【0033】
本発明の実施形態によれば、上記CD40アゴニストは、抗体又はその抗原結合フラグメントであり、例えば、セリクレルマブ(RG7876としても知られている)、APX005M、ChiLob7/4、ADC-1013、SEA-CD40、CDX-1140から選択される。本発明の実施形態によれば、上記CD40アゴニストは、CD40L、CD40Lの三量体、HERA-CD40Lから選択されてもよい。
【0034】
本明細書において使用される場合、用語「抗体」は、全抗体、F(ab’)2フラグメント、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、二重特異性抗体、モノマー抗体、及び任意の抗原結合フラグメント(すなわち「抗原結合部分」)又はその単鎖可変領域フラグメント(scFv)若しくはジスルフィド安定化可変領域フラグメント(dsFv)を含むことができる。全抗体は、ジスルフィド結合によって相互連結された少なくとも2つの重鎖(H)及び2つの軽鎖(F)を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(ここではVHと略記)及び重鎖定常領域から構成される。
【0035】
本発明の全ての異なる実施の形態において、本発明による薬学的組合せは、対象、特にヒト対象に1日治療用量又は1日治療用量以下の用量で投与することができる。更に別の実施形態において、本発明の薬学的組合せの成分の少なくとも1つは、対象に治療用量以下の用量で投与される。別の実施形態において、本発明による薬学的組合せの成分の少なくとも1つは治療用量で投与される。更に別の実施形態において、薬学的組合せの成分の1つは、治療用量以下の用量で投与されるのに対して、他の成分は治療用量で投与される。別の実施形態において、本発明の薬学的組合せの全ての成分が、治療用量以下の用量で対象に投与される。
【0036】
本発明の文脈において、治療化合物の治療用量以下の用量とは、治療効果を得るために必要な上記化合物の通常の/一般的な用量よりも低い用量を意味する。したがって、好ましい実施形態において、成分の少なくとも一方は、単独で投与された場合に治療効果を得るために必要とされるその用量よりも低い用量で投与される。
【0037】
化合物の「治療量以下の量」という用語は、認められた治療上有効な量に満たない量を意味する。治療量以下の量は、特定の疾患に対してFDAが承認した1回の用量又は複数回の用量未満の量として定義可能である。代替で、多くの薬剤が適応外で使用されることを考慮して、治療量以下の量は、特定の疾患に対して医師によって通常処方される量未満の量として定義可能である。治療量以下の量は、体重、性別、年齢、腎臓又は肝臓の障害、及び所定量の特定の薬剤の効能に影響を与え得る他のパラメータ等の要因を考慮してもよい。或る特定の実施形態において、治療量以下の量は、治療上有効な量の85%であり得る。更なる実施形態において、治療量以下の量は、治療上有効な量の70%であり得る。更なる実施形態において、治療量以下の量は、治療上有効な量の60%であり得る。更なる実施形態において、治療量以下の量は、治療上有効な量の50%であり得る。更なる実施形態において、治療量以下の量は、治療上有効な量の40%であり得る。更なる実施形態において、治療量以下の量は、治療上有効な量の30%であり得る。更なる実施形態において、これは、更に少なくてもよい。
【0038】
言い換えれば、治療用量以下の用量は、患者に投与された場合に、それ自体では、特許請求に係る障害の治療において十分に有効ではない、化合物/成分の量である。しかし、本明細書において特許請求される組合せは、たとえ化合物/成分の1種以上が特許請求に係る障害の治療において十分に有効ではない用量で投与されたとしても、特許請求に係る障害の治療において十分に有効であることが見出された。
【0039】
本発明の文脈において、特定の用量に言及する場合、これは、本願において明示的にそう記載されていない場合であっても、所定の日に投与されるべき用量であることを意味する。例えば、CD40アゴニストが体重1 kgあたり約20 μgの用量で投与されると記載されている場合、これは、1日あたり体重1 kgあたり約20 μgの用量で投与されると理解されるべきことを意図している。これは、治療レジームの間、用量が治療レジームの日毎に与えられるのではなく、用量の投与の各日において、体重1 kgあたりの所定用量がここに記載されているとおりであることを意味する。
【0040】
好ましい実施形態において、薬学的組合せにおいて、CD40アゴニストは、体重1 kgあたり約20 μg~約800 μg、好ましくは体重1 kgあたり約30 μg~約600 μg、最も好ましくは体重1 kgあたり約40 μg~約300 μgの用量で投与/使用される。現在臨床試験で使用されている治療用量は、一般に、体重1 kgあたり300 μgを超える。CD40アゴニストの種類によって、治療用量以下の用量は変わり得る。例えば、セリクレルマブについて臨床的に使用される治療用量は、約200 μgであり、一方、別のCD40アゴニストであるAPX005Mについての治療用量は、300 μgである。したがって、好ましい実施形態において、CD40アゴニストは、体重1 kgあたり300 μg未満、例えば、体重1 kgあたり250 μg未満、体重1 kgあたり200 μg未満、体重1 kgあたり150 μg未満、体重1 kgあたり100 μg未満の治療用量以下の用量で投与される。
【0041】
別の好ましい実施形態において、薬学的組合せにおいて、IL-15又はそのアゴニストは、体重1 kgあたり約0.1 μg~約50 μg、好ましくは体重1 kgあたり約0.1 μg~20μg、最も好ましくは体重1 kgあたり約0.1 μg~約0.3 μgの用量で投与/使用される。IL-15の投与用量は、投与方法に関連して変化する。特に、IL-15が静脈内投与される場合、IL-15はボーラスIV注射において体重1 kgあたりおよそ0.3 μgの用量で一般に投与され、一方、IL-15が皮下投与される場合、IL-15は体重1 kgあたり最大2 μgの用量で一般に投与される。
【0042】
したがって、特定の実施形態において、上記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満、例えば体重1 kgあたり約0.2 μg又は約0.1 μgの用量で静脈内投与される。特にIL-15がボーラスIV注射により投与される場合、用量は体重1 kgあたり0.3 μg未満、例えば体重1 kgあたり約0.2 μg又は約0.1 μgであり得る。代替で、IL15が持続IV点滴システムにより投与される場合、用量は、体重1 kgあたり約2 μg以下、例えば、体重1 kgあたり約1.5 μg以下、約1.0 μg以下、約0.5 μg以下であり得る。代替で、上記IL-15は、体重1 kgあたり2 μg未満、例えば、体重1 kgあたり約1.5 μg又は約1 μgの用量で皮下又は皮内投与される。
【0043】
臨床試験におけるボーラスIV注射において現在使用されている治療用量は、一般に、体重1 kgあたり0.3 μgを超える。したがって、好ましい実施形態において、IL-15又はそのアゴニストは、体重1 kgあたり0.3 μg未満、例えば、体重1 kgあたり0.2 μg未満、体重1 kgあたり0.1 μg未満の治療用量以下の用量で投与される。
【0044】
したがって、特定の実施形態において、本発明は、本明細書で定義されるような組合せを提供し、以下の:
上記CD40アゴニストは、体重1 kgあたり300 μg未満の治療用量以下の用量で使用されること、
上記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満の治療量以下の用量で静脈内投与されること、
上記IL-15は、体重1 kgあたり0.3 μg未満の用量でボーラス注射により静脈内投与されること、
上記IL-15は、体重1 kgあたり約2 μg以下の用量で持続点滴システムにより静脈内投与されること、又は、
上記IL-15は、体重1 kgあたり2 μg未満の治療量以下の用量で皮内又は皮下投与されること、
の少なくとも1つを適用する。
【0045】
本発明者らは、驚くべきことに、CD40アゴニストの著しい用量低減が、IL-15を加えることによって可能であることを見出した。この実施形態の利点は、CD40アゴニストの使用に由来する有害作用を低減することができることである。さらに、両分子のこの相乗効果を考慮すると、特定の実施形態において、両成分を治療用量以下の用量で使用することさえあり得る。
【0046】
本明細書において使用される場合、「IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せ」は、対象に投与することができる上記IL-15及び上記CD40アゴニストを含む任意の形態をいう。本明細書において使用される場合、「組合せ」は、2種以上の品の間の任意の関連性をいう。この関連性は、空間的なものであってもよく、又は、共通の用途のための2種以上の品の使用をいうものであってもよい。したがって、本発明の文脈において、本明細書で提供されるような組合せは、両成分を含む単一の組成物であってもよい。しかし、本発明の文脈における組合せは、それぞれが成分のうちの一方を含む2つの個別の組成物の使用もいうが、これらの成分は、特許請求に係る治療において互いに関連して使用される。上記関連性は、患者への両組成物の同時投与、又は両成分が意図された障害の治療において依然として協同することができるような個別の投与を含み得る。
【0047】
本発明の別の特定の実施形態において、組合せは、薬学的組成物の形態である。本発明による医薬組成物は、人間医学又は獣医学における使用のためのものであることができる。
【0048】
本明細書において使用される場合、「組成物」は、2種以上の製品又は化合物(例えば、作用物質、モジュレータ、調節剤等)の任意の混合物をいう。組成物は、溶液、懸濁液、液体、粉末若しくはペースト、水性若しくは非水性製剤、又はこれらの任意の組合せであり得る。本発明の文脈において、組成物は、好ましくは、1種以上の薬学的な賦形剤、担体、希釈剤等を含む、薬学的な組成物である。
【0049】
本願の文脈において、用語「治療(treatment)」、「治療すること(treating)」、「治療する(treat)」等は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることをいう。その効果は、疾患又はその症状の完全な又は部分的な予防に関して予防的であってもよく、及び/又は、疾患及び/又は疾患に起因する有害作用に対する部分的な又は完全な安定化又は治癒に関して治療的であってもよい。「治療」は、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患又は症状が生じやすい素因があるが、まだこれを有していると診断されていない対象において、疾患又は症状の発生を防ぐこと、(b)疾患症状を抑制すること、すなわち、その進行を止めること、又は(c)疾患症状を緩和すること、すなわち疾患又は症状の退行を引き起こすことを含む。
【0050】
本発明による組合せの投与には、様々な投与方法が適していることが理解されるべきである。本発明による組合せの投与は、標準的な投与経路を用いて行うことができる。非限定的な実施形態には、非経口投与、例えば皮内投与、筋肉内投与、皮下投与、経皮投与、又は粘膜投与、例えば鼻腔内、口内等が含まれる。本発明による一実施形態において、上記IL-15及び上記CD40アゴニストを含む組合せは、静脈内又は皮下投与される。静脈内投与は、ボーラス注射により、又は持続IV点滴システムにより行うことができる。皮下投与がIVボーラス注射よりもより良好な結果を与えることが見出されたように、投与経路によって治療効力が決まり得る。
【0051】
また更なる実施形態において、膵臓癌は、膵管腺癌、膵臓神経内分泌腫瘍から選択される。
【0052】
更なる態様において、本発明は、膵臓癌の治療を必要とする対象において膵臓癌を治療する方法を提供し、上記方法は、上記対象に、IL-15及びCD40アゴニストを含む組合せを投与することを含み、上記IL-15及びCD40アゴニストの少なくとも一方は、治療用量以下の用量で使用される。
【実施例】
【0053】
材料及び方法
動物
雌のC57BL/6Jマウス(6週齢~8週齢)を、Jackson Laboratoriesから入手した。全てのマウスは、アントワープ大学のAnimal Core Facilityで維持した。全ての動物処置は、登録番号2016-30においてアントワープ大学のAnimal Ethics Committeeに従い、その承認の下で実施した。全てのマウスは、ハウス及び巣材を豊富に入れたフィルタトップケージ内に収容した。マウスは、健康及び幸福を検査するために日ベースでチェックした。マウスには、到着後、ストレスレベルを低減するために、実験に含める前に7日間の適応期間を与えた。
【0054】
モデル及び実験デザイン
2種の異なるマウス膵管腺癌細胞株を使用した。Panc02は化学的に誘導された細胞株であり、一方、KPC細胞はKRAS変異及びp53変異を保持する同所性KPC腫瘍に由来する。両細胞株を、10%FBS及び10 mM L-グルタミンを添加したDMEM細胞培養培地中で培養した。細胞株は37℃、5%CO2に維持した。全ての細胞株は、マイコプラズマ汚染について定期的にテストした。全ての細胞株は凍結及び解凍の間、10回を超えて継代せず、継代2回~6回でのみ実験に使用した。
【0055】
腫瘍の動態及び生存率
注射の前に、Trypleを用いてPanc02細胞及びKPC細胞を採取し、汚染が全く無い単一細胞懸濁液を保証するために、滅菌PBSを用いて一瞬(trice)(?twice)洗浄し、70 μmのセルストレーナにかけた。次に、マウスに、100 μlの滅菌PBS中に懸濁した0.5×106個のPanc02細胞又はKPC細胞の何れかを左脇腹に皮下注射した。腫瘍が平均サイズ20 mm2~30 mm2に達したら、マウスを腫瘍サイズに基づいて無作為化し、4つの異なる治療群に分けた(=0日目):1.アイソタイプコントロール;2.IL-15;3.αCD40;4.IL-15+αCD40。マウスに、0日目~3日目、6日目~10日目及び13日目~14日目に、2.5 μgのIL-15(NCI)を腹腔内投与した。マウスアゴニスト性CD40モノクローナル抗体(FGK-45)又は対応するアイソタイプ(2A3)を、0日目、3日目、7日目、10日目及び14日目に、Panc02についてはマウスあたり12.5 μg、KPC腫瘍については200 μg(0日目)及び100 μg(3日目、7日目、10日目及び14日目)の用量で腹腔内投与した。
【0056】
腫瘍サイズを、デジタルノギス(Chicago Brand)を用いて週2回測定した。腫瘍面積は、長さ×幅の式を用いて計算した。マウスは、腫瘍サイズが150 mm2に達した時点で屠殺するか、又はマウスがこの終点に達することなく100日目に達したときに長期生存体として記載した。
【0057】
機能枯渇実験
異なる免疫細胞種の役割を調べるため、機能枯渇実験を行った。マウスに、上記のようにPanc02腫瘍又はKPC腫瘍を投与した。CD4細胞及びCD8 T細胞を、200 μgのモノクローナル抗体を用いて枯渇させ、NK細胞を、マウスあたり25 μlの抗アシアロ-GM1を用いて枯渇させた。マウスは、6つの異なる治療群に無作為化した:1.アイソタイプコントロール;2.IL-15+αCD40;3.IL-15+αCD40+αCD4;IL-15+αCD40+αCD8;IL-15+αCD40+抗アシアロ-GM1;IL-15+αCD40+αCD8+抗アシアロ-GM1。枯渇抗体又は抗アシアロ-GM1を、-1日目、0日目、3日目、6日目、10日目及び14日目に腹腔内投与した。腫瘍の動態及び生存率は上記のように測定した。
【0058】
再負荷実験
免疫記憶の誘導を調べるために、再負荷実験を行った。ここでは、治療開始後100日目に完全に腫瘍が無かったマウスに、Panc02細胞又はKPC細胞の何れかを、最初の腫瘍注射側の対側の脇腹に再度皮下注射した。腫瘍の成長及び生存率は、上記のように測定した。
【0059】
TILの特性評価
腫瘍浸潤リンパ球を特性評価するため、異なる治療群からの脾臓及び腫瘍の両方について、マルチカラーフローサイトメトリ実験を行った。ここでは、Panc02腫瘍又はKPC腫瘍を有するマウスを無作為化し、上記のように治療した。8日目に、マウスを屠殺し、脾臓及び腫瘍の両方を、剖検中に取り出し、重量を測定した。次に、メスを用いて腫瘍をミンチにし、その後、細胞ロッカーにおいて消化培地(RPMI 1640+10%FBS+10 mM L-グルタミン+コラゲナーゼD+DNアーゼ-I+リベラーゼ)を用いて37℃、5%CO2、30分間酵素消化を行った。消化後、全てのサンプルを洗浄バッファ(PBS+2%FBS+1 mM EDTA)を用いて洗浄し、70 μmセルストレーナに通して単一細胞懸濁液を得た。脾臓は機械的に分離し、FACSバッファを用いて洗浄し、40 μmのセルストレーナを通して単一細胞懸濁液を得た。
【0060】
脾臓及び腫瘍の両方の単一細胞懸濁液を、3つの異なるマルチカラー抗体パネルを用いて染色した。パネル1は、CD107a-BV421、CD8-FITC、CD3-PE、CD4-PercP-Cy5.5、CD69-Pe-Cy7、NK1.1-APCからなり、パネル2は、CD8-BV421、CD25-BV786、CD4-FITC、CD3-PE、CD44-PerCP-Cy5.5、CD62L-Pe-Cy7、FoxP3-APCからなり、パネル3は、CD8-BV421、CD103-BV786、Ly6G-FITC、CD11b-PE、F4/80-Pe-TexasRed、Ly6C-PerCP-Cy5.5、MHC-II-PE-Cy7、CD11c-APCからなる。3つのパネル全てにおいて、Live-dead Aquaを生存度染色として用い、CD45.2-APC-Cy7を腫瘍細胞ではなく白血球をゲートアウトするために用いた。全ての細胞懸濁液は、抗体染色の前に2.4G2を用いてブロックした。全てのサンプルを、FACS Aria IIフローサイトメータを用いて分析した。
【0061】
統計情報
異なる実験における異なる治療群間の腫瘍動態における統計的差異を、Bonferroni post-hoc分析を用いたtwo-way ANOVAを用いて決定した。生存率の差を、ログランク検定を用いて分析した。フローサイトメトリによる腫瘍内のTILの量の差を評価するために、Bonferroni posthoc分析を用いたtwo(two-way)-ANOVAを適用した。p<0.5であれば、差を有意な差と見なした。グラフはGraphPad v8.0ソフトウェアを用いて作成した。フローサイトメトリ分析はFlowJo v10.6.3を用いて行った。全ての統計分析はSPSS v26で行った。
【0062】
結果
IL-15とCD40アゴニストとの組合せは、腫瘍体積の低減、及び生存率の増加をもたらす
本発明者らは、IL-15及びCD40アゴニストの組合せ治療が、膵管腺癌における抗腫瘍反応の増加を導き得るかを調査しようとした。これを調べるために、Panc02腫瘍又はKPC腫瘍の何れかを保持するC57BL/6マウスを、腫瘍が25 mm
2~35 mm
2のサイズに達した時点で、IL-15及び/又はCD40アゴニストを用いて腹腔内で治療した(
図1A)。本発明者らは、これらの作用物質の組合せが、両方のマウスモデルにおける腫瘍体積の低減及び生存率の増加をもたらしたことをここに示す。
【0063】
第1のモデルであるPanc02について、本発明者らは、マウスを単一作用物質で治療した場合の、腫瘍体積における有意な低減を観察した。組合せレジメンを用いた治療は、両方の単一作用物質治療と比較しても腫瘍体積の有意な低減、及び生存率の増加をもたらし、17匹のマウスのうち16匹が完全に腫瘍が無くなった(
図1B、
図1D、
図1F)。
【0064】
第2のモデルであるKPCについて、本発明者らは、非常によく似た結果を観察した:腫瘍体積の低減及び生存率の増加が示され、組合せはコントロール又は何れかの単一の作用物質よりも有意に優れている。11匹中7匹のマウスが再び完全に腫瘍が無くなった(
図1C、
図1E、
図1G)。
【0065】
注目すべきことに、本発明者らは、Panc02モデルとKPCモデルとの間で同様の反応を観察し、一方で、Panc02モデルにおいて必要なCD40アゴニストの用量(12.5 μg/投薬;ヒト等価用量は51 μg/kg)は、KPCモデルにおける(200 μg及び100 μg/投薬;ヒト等価用量はそれぞれ813 μg/kg及び406 μg/kg)の8分の1である。したがって、腫瘍の種類によっては、2種の作用物質の組合せは、CD40アゴニストの用量の大幅な低減をもたらし得る。まとめると、本発明者らは、IL-15及びCD40アゴニストの組合せが大幅な抗腫瘍活性を有し、両作用物質の組合せが相加効果につながることをここに示す。
【0066】
CD8
+ T細胞、NK細胞は、主要な抗腫瘍エフェクタ細胞に関与する
観察された抗腫瘍反応に関与する免疫細胞についてより深い理解を得るために、本発明者らは、特異的な枯渇抗体を用いて、腫瘍を保持するマウスにおけるいくつかの免疫細胞集団を枯渇させた。次に、本発明者らは、この枯渇が腫瘍の動態及び生存率の両方に及ぼす影響を観察した(
図2A、
図2E)。本発明者らは、CD4
+ T細胞を枯渇させると、両方のPDACモデルにおいて、枯渇群と非枯渇群との間で生存率に有意な差がないことを観察し、このことは、CD4
+ T細胞が本発明者らの組合せ治療によって誘発される抗腫瘍反応において大きな役割を担っていないことを示す(
図2B、
図2F)。しかし、CD8
+ Tが枯渇された場合、組合せ治療の抗腫瘍効果は、両方の腫瘍モデルにおいて有意に低減した。腫瘍の成長における有意な増加及び生存率の低減が存在した(
図2C、
図2G)。NK細胞の役割を見ると、観察された結果は混ざり合った反応を示す:Panc02モデルにおいては、本発明者らは、腫瘍の成長においてはそうではないが、腫瘍の生存率における有意な低減を明確に観察でき、一方で、KPCモデルについては、生存率の低減が観察されるが、統計的に有意ではない(
図2D、
図2H)。結論として、これらの実験は、CD4
+ T細胞が大きな役割を果たさない一方で、CD8
+ T細胞が、観察された抗腫瘍効果に主に関与し、これにはNK細胞も同様に関与する傾向が伴うことを示す。
【0067】
IL-15とCD40アゴニストとの組合せは、腫瘍内の抗腫瘍免疫細胞の量の増加をもたらす
組合せレジメンの抗癌効果を更に調べるために、腫瘍浸潤リンパ球をチャート化するためのマルチカラーフローサイトメトリを実施した。本発明者らは、この組合せ治療の異なるアーム間で興味深い違いを観察した。治療した免疫細胞集団は、白血球(
図3A)、NK細胞(
図3B)、NK T細胞(
図3C)、T細胞(
図3D)、CD4 T細胞(
図3E)、CD8 T細胞(
図3F)、Treg(
図3G)、樹状細胞(DC)(
図3H)、好中球(
図3I)であった。最初の観察は、抗腫瘍効果が、浸潤リンパ球のより高い量それ自体に起因しておらず、存在する免疫細胞サブセット間の有意な差に起因しているということである(
図3A)。まず、浸潤NK細胞及びNK T細胞の量は、アイソタイプ及びCD40アゴニストの群に比べ、組合せ群において有意により高い。IL-15単独では、両細胞種の量の増加を示すものの、統計的に有意ではない(
図3B、
図3C)。本発明者らは、T細胞について、組合せレジメンにおける全T細胞の量の増加を観察している(
図3D)。このT細胞区画を拡大すると、このT細胞の量の増加が、CD8+ T細胞に帰することができることが明らかであり、CD8+ T細胞は、他の全てのアームと比較した場合に組合せ治療で有意により高く、一方で、浸潤CD4 T細胞において差はない(
図3E、
図3F)。興味深いことに、本発明者らは、さらに、CD40アゴニストが治療の一部であった場合に、腫瘍内に存在するTregにおける有意な低減を観察した(
図3G)。次に、また、腫瘍内DCの量が、組合せ群において増加しており、これは、CD8 T細胞及びNK細胞のより良好なプライミングを示している(
図3H)。最後に、存在する好中球の量に有意な差は観察されなかった(
図3I)。NK細胞、CD8+ T細胞、DC及びTregに関するこれらの観察をまとめると、組合せ治療は、抗癌免疫細胞(DC)の、より良好なプライミングと、その後の、免疫抑制細胞(Treg)の低減と組み合わさった抗腫瘍免疫細胞(NK細胞、NK T細胞及びCD8+ T細胞)の有意な増加とを引き起こすため(CD8/Treg比の増加によっても証明される)、これがより大きな抗腫瘍効果を有することが合理的である。
【0068】
組合せ治療は、CD103
+交差提示DCの量の増加をもたらす
樹状細胞は、抗原のプロセシング及び提示において重要な役割を果たすことが知られており、NK細胞及びT細胞の両方の活性化における中心的存在である。本発明者らは、KPC腫瘍モデルにおけるこれらの存在を更に調べた。ここでは、本発明者らは、組合せ治療群のみにおける、腫瘍内のDCの数の有意な増加を観察した(
図4a)。さらに、交差提示に関与するサブタイプであるCD103
+ DCの量を決定した。ここで、IL-15は腫瘍内のCD103
+ DCの数の有意な増加をもたらし、一方、これはCD40アゴニストを用いた治療後の群においては有意により低かった(
図4b)。DCがどのように振る舞ったかを更に調べるために、本発明者らは、腫瘍排出リンパ節(TDLN)におけるこれらの細胞の存在を分析し、CD40アゴニストを投与した場合の、DCの数の3倍の増加を観察した(
図4c)。また、CD103
+交差提示DCの頻度はこれらの条件下で2倍増加し(
図4d)、このことは、これらのDCが腫瘍部位で抗原を捕捉し、TDLNに移動してNK細胞及びT細胞を活性化していることを示唆している。さらに、遺伝子シグネチャーは、組合せ治療を実施した場合の、CD80、CD83及びCD86のより高い発現を示し、このことは、おそらくDCのような抗原提示細胞が活性化され成熟していることを示す。走化性ケモカインとしてのCXCR3、CXCL9、及びCXCL10(CXCL11ではない)の発現をコードするmRNAにおける増加は、腫瘍部位への抗腫瘍免疫細胞のトラフィッキングへの関与を示唆している(データ示さず)。
【0069】
免疫記憶の誘導
免疫療法の目的の1つは、将来の再発を防止するための強力な免疫学的記憶の誘導である。本発明者らは、その研究において、アイソタイプコントロール又はシングルアーム治療と比較した、組合せレジメンを用いて治療した場合の、KPC腫瘍内のエフェクタ細胞及びセントラルメモリCD8
+ T細胞の数の増加を観察した(
図5a及び
図b)。機能的な免疫記憶が誘導されたか否かを調べるために、組合せ治療群からの腫瘍の無いマウスに、当初に接種したものと同じ腫瘍細胞種を用いて再負荷した。ここで、本発明者らは、両方のPDACモデルにおける免疫記憶の明確な誘導を観察し、Panc02腫瘍モデルについては16匹中14匹が、KPC腫瘍モデルでは全てのマウスが、ナイーブコントロールマウスと比較して腫瘍無しとなった(
図5c~
図5f)。
【符号の説明】
【0070】
図面訳
図1A
CD40 agonist CD40アゴニスト
Seed tumours 腫瘍播種
Day 日目
図1B
Isotype アイソタイプ
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Tumour area (mm
2) 腫瘍面積(mm
2)
Days post treatment 治療後日数
図1C
Isotype アイソタイプ
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Tumour area (mm
2) 腫瘍面積(mm
2)
Days post treatment 治療後日数
図1D
Isotype アイソタイプ
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Percent survival (%) 生存率パーセント(%)
Days post treatment 治療後日数
図1E
Isotype アイソタイプ
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Percent survival 生存率パーセント
Days post treatment 治療後日数
図1F
Isotype アイソタイプ
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Tumour area (%change relative to baseline) 腫瘍面積(ベースラインに対する%変化)
図1G
Isotype アイソタイプ
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Tumour area (%change relative to baseline) 腫瘍面積(ベースラインに対する%変化)
図2A
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
αasialo-GM1 αアシアロ-GM1
Tumour area (mm
2) 腫瘍面積(mm
2)
Days post treatment 治療後日数
図2B
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
Percent survival (%) 生存率パーセント(%)
Days post treatment 治療後日数
図2C
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
Percent survival (%) 生存率パーセント(%)
Days post treatment 治療後日数
図2D
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
αasialo-GM1 αアシアロ-GM1
Percent survival (%) 生存率パーセント(%)
Days post treatment 治療後日数
図2E
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
αasialo-GM1 αアシアロ-GM1
Tumour area (mm
2) 腫瘍面積(mm
2)
Days post treatment 治療後日数
図2F
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
Percent survival (%) 生存率パーセント(%)
Days post treatment 治療後日数
図2G
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
Percent survival 生存率パーセント
Days post treatment 治療後日数
図2H
Isotype アイソタイプ
No depletion 枯渇無し
αasialo-GM1 αアシアロ-GM1
Percent survival 生存率パーセント
Days post treatment 治療後日数
図3A
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3B
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3C
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3D
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3E
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3F
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3G
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3H
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図3I
Fold change 倍率変化
Isotype アイソタイプ
Combo 組合せ
図4
Control コントロール
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
DCs (Tumour) DC(腫瘍)
CD103
+ DCs (Tumour) CD103
+ DC(腫瘍)
Fold change (relative to control) 倍率変化(コントロールに対する)
図5
Control コントロール
CD40 agonist CD40アゴニスト
IL-15 + CD40 agonist IL-15+CD40アゴニスト
Fold change (relative to control) 倍率変化(コントロールに対する)
CD8
+ Effector T cells CD8
+エフェクタT細胞
CD8
+ Memory cells CD8
+メモリ細胞
Tumour area (mm
2) 腫瘍面積(mm
2)
Days post rechallenge 再負荷後日数
Survival (%) 生存率(%)
Rechallenge 再負荷
【国際調査報告】