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特表2023-505393発光性ランタノイド(III)キレート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-08
(54)【発明の名称】発光性ランタノイド(III)キレート
(51)【国際特許分類】
   C07D 401/06 20060101AFI20230201BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20230201BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20230201BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230201BHJP
   G01N 33/533 20060101ALI20230201BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20230201BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20230201BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20230201BHJP
【FI】
C07D401/06
C12N15/11 Z
C07K1/13
C07K16/00
G01N33/533
C09K11/06
C07D401/14
C07F5/00 D CSP
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022560413
(86)(22)【出願日】2020-11-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-15
(86)【国際出願番号】 FI2020050723
(87)【国際公開番号】W WO2021116528
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】20196064
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522228403
【氏名又は名称】アバカス ディアグノスティカ オサケユイチア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ワン チー
【テーマコード(参考)】
4C063
4H045
4H048
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063AA03
4C063BB03
4C063BB09
4C063CC34
4C063CC43
4C063DD12
4C063DD34
4C063EE10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA71
4H045CA42
4H045EA50
4H045FA52
4H045GA22
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB20
4H048VA70
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、ピリジン4-エチニルピラジンサブユニットを含む、新規のランタノイド(III)キレートに関する。これらのキレートは、UV LEDによる励起を可能にする励起波長を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジンサブユニットを含むランタノイド(III)キレート。
【請求項2】
・ ランタノイドイオンLn3+
・ 2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジンサブユニットを含む発色団基、
及び、
・ 少なくとも2つのカルボン酸基、ホスホン酸基、又は前記酸のエステル、アミド、もしくは塩を含み、発色団基に直接、又は環状もしくは非環状であるN含有炭化水素鎖を介して結合しているキレート部分
を含む、請求項1に記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項3】
前記発色団基又は前記キレート部分に、直接又はリンカーLを介して連結された、反応性基Aを含み、前記反応性基が、前記キレートを生体分子又は固体支持体の官能基に結合するように適合した、請求項1又は2に記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項4】
前記反応性基Aが、イソチオシアナト、ブロモアセトアミド、ヨードアセトアミド、マレイミド、4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ、ピリジルジチオ、チオエステル、アミノオキシ、アジド、ヒドラジド、アミノ、アルキニル、重合性基、及びカルボン酸、又は酸ハロゲン化物、もしくはこれらの活性エステルから選択され、好ましくは、イソチオシアナト、ヨードアセトアミド、マレイミド、及び4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノから選択され、最も好ましくは、イソチオシアナトである、請求項3に記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項5】
前記リンカーLが1~10個の成分によって形成され、各成分が、フェニレン、1~12個の炭素原子を含むアルキル、1~12個の炭素原子を含むアルキレン、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR´-、 -NH-CO-及び-NR´-CO-)、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及び-OOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO2-NH-、-SO2-NR´-)、スルホン(-SO2-)、ホスフェート(-O-PO2-O-)、ジアザ(-N=N-)、及び第3級アミンから成る群(R´は5個未満の炭素原子を含むアルキル基、又は第2級アミン(-NH)を表す)から選択される、請求項3又は4に記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項6】
前記リンカーLが、-NHCH2Phであって、-が発色団基の位置である、請求項3に記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項7】
【化1】
好ましくは、
【化2】
最も好ましくは、
【化3】
[式中、Aは請求項4で定義した反応性基であり、Lは請求項5又は6で定義したリンカーである]
から成る群より選択される、請求項1~6のいずれかに記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項8】
前記ランタノイドイオンLn3+が、ユーロピウム、サマリウム、テルビウム又はジスプロジウムから選択され、好ましくはユーロピウム及びサマリウムから選択され、最も好ましくはユーロピウムである、請求項1~7のいずれかに記載のランタノイド(III)キレート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のランタノイド(III)キレートとコンジュゲートされた生体分子。
【請求項10】
オリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、修飾されたオリゴ又はポリヌクレオチド、例えばホスホロモノチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、及び/又は糖もしくは塩基で修飾されたオリゴ又はポリヌクレオチド、タンパク質、オリゴ糖、多糖、リン脂質、PNA、LNA、抗体、ステロイド、ハプテン、薬剤、受容体結合リガンド及びレクチンから選択される、請求項9に記載の生体分子。
【請求項11】
請求項1~8のいずれかに記載のランタノイド(III)キレートとコンジュゲートされた固体支持体。
【請求項12】
ナノ粒子又はマイクロ粒子、スライド、プレート又は樹脂から選択される、請求項11に記載の固体支持体。
【請求項13】
ナノ粒子と請求項1又は2に記載のランタノイド(III)キレートとの非共有結合コンジュゲート。
【請求項14】
検出が、請求項1~8のいずれかに記載のランタノイド(III)キレート由来の時間分解蛍光に基づいている、生体親和性結合アッセイ方法。
【請求項15】
生体親和性アッセイ方法における標識としての、請求項1~8のいずれかに記載のランタノイド(III)キレートの使用。
【請求項16】
時間分解蛍光共鳴エネルギー移動アッセイ法における供与体分子としての、請求項1~8のいずれかに記載のランタノイド(III)キレートの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子の標識のための発光性ランタノイド(III)キレート、特に2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジンサブユニットを含むキレートに関する。本発明はまた、本発明のキレートを使用する生体親和性アッセイ方法、及び時間分解蛍光アッセイ法に関する。
【背景技術】
【0002】
長寿命発光ランタノイド(III)キレート標識またはプローブを、検出において時間分解蛍光測定と共に使用することは、高感度の生体親和性アッセイを生成する方法を提供する。実際、ランタノイド(III)キレートに基づく時間分解蛍光は、成功した検出技術となり、何十年もの間、インビトロでの診断に使用されてきた。
【0003】
安定な発光性ランタノイド(III)キレートは、生体活性分子への共有結合のための反応性基を有するリガンド、励起エネルギーを吸収して、それをランタノイドに伝達する芳香族構造、及び追加のキレート基、例えばカルボン酸又はホスホン酸部分、及びアミンを含む。有機発色団とは異なり、これらの分子はラマン散乱または濃度消光の影響を受けない。これにより、数個の光吸収部分を有するキレートのマルチラベリング及び現像が可能になる。
【0004】
測定には、通常、キセノンフラッシュまたは窒素レーザーでの高強度パルスUV励起(320~340nm)が必要である。このような計装は高価でサイズが大きい。ポイントオブケア検査の需要のために、リーダー装置は一段と小さく安価であるべきである。光源としてのLEDは、リーダーがこれらの期待を満たすことを可能にする。しかしながら、技術的な理由から、365nm未満の高出力UV LED光を製造することは容易ではない。
【0005】
芳香族構造及びそれらの置換基は、ランタノイド(III)キレートの光物理的特性に有意な影響を及ぼすが、これらの効果の推定のために利用可能である一般的な規則はない。シグナル、コンジュゲーション、安定性、及び生体適合性に関して標識に設定されたすべての要件を満たす蛍光性の高いキレート構造を見つけることは、依然として課題である。
【0006】
ピリジン部分は、発光性ランタノイドキレートにおいて、群を抜いて一般的な発色団サブユニットである。単一の非置換ピリジン部分は、安定な蛍光キレートにおいて光吸収および三重項増感芳香族基として機能するのに十分なほど効率的ではないため、ピリジンは様々なエネルギー吸収基に置換されることが多かった。
【0007】
4-置換ピリジンサブユニットを含む先行技術に開示されている多数のランタノイドキレートは、300nmをわずかに超える程度しかない励起極大値を有し;より簡単で安価な検出装置を開発すると同時に、より高い励起波長が望ましい。励起波長が高いほど、バックグラウンド発光シグナルの有意性は軽減する。さらに、より短い波長は、核酸および芳香族アミノ酸などの生体物質によって吸収される。
【0008】
したがって、さらなる発光性ランタノイド(III)キレートが、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明において、2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジンサブユニットを含むランタノイド(III)キレートが、UV-LEDでの励起が可能な励起波長を有することが観察された。
【0010】
したがって、本発明の1つの態様は、2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジン基を含む発色団基を含むランタノイド(III)キレートを提供することである。
【0011】
本発明の別の態様は、請求項1に記載のランタノイド(III)キレートとコンジュゲートされた生体分子を提供することである。
【0012】
本発明の別の態様は、請求項1に記載のランタノイド(III)キレートとコンジュゲートされた固体支持体を提供することである。
【0013】
本発明の別の態様は、ナノ粒子及び請求項1に記載のランタノイド(III)キレートの非共有結合コンジュゲートを提供することである。
【0014】
本発明の別の態様は、検出が請求項1に記載のランタノイド(III)キレート由来の時間分解蛍光に基づいている、生体親和性アッセイ方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の態様は、生体親和性結合アッセイ方法における標識としての、請求項1に記載のランタノイド(III)キレートの新しい使用を提供することである。
【0016】
本発明の別の態様は、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動アッセイ法における供与体分子としての、請求項1に記載のランタノイド(III)キレートの新しい使用を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる対象は、従属請求項に開示される。
【0018】
本発明の例示的および非限定的な実施形態は、構成および操作方法の両方に関して、追加の対象およびその利点と共に、添付の図面に関連して読まれる場合の特定の例示的実施形態の以下の説明から最もよく理解される。
【0019】
動詞「含む(to comprise)」及び「含む(to include)」は、本明細書において、列挙されていない特徴の存在を除外したり要求したりしないオープンな限定として使用される。添付の従属請求項に列挙された特徴は、特に明記しない限り、相互に自由に組み合わせることができる。さらに、本明細書全体を通して、「a」または「an」、すなわち単数形の使用が複数を排除するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、抗体に連結された技術水準のユーロピウム(III)キレート24の励起スペクトルを示す。
図2図2は、グリシンに連結された本発明に記載の例示的なユーロピウム(III)キレート12の励起スペクトルを示す。
図3図3~6は、本発明に記載の例示的で非限定的なユーロピウム(III)キレートの合成経路を示す。
図4図3~6は、本発明に記載の例示的で非限定的なユーロピウム(III)キレートの合成経路を示す。
図5図3~6は、本発明に記載の例示的で非限定的なユーロピウム(III)キレートの合成経路を示す。
図6図3~6は、本発明に記載の例示的で非限定的なユーロピウム(III)キレートの合成経路を示す。
図7図7は、トロポニンI免疫アッセイにおける本発明に記載のキレート12(丸)と2つの先行技術のユーロピウム(III)キレート25(三角形)および26(四角形)との間の検量線および得られた分析感度の比較を示す。(A):340nmでの励起。縦の点線は分析検出限界(CV 10%)を示す:12の場合1L当たり10.0ng cTnI;25の場合1L当たり18.6ng cTnI;及び26の場合1L当たり16.5ng cTnIである。(B):365nmでの励起。分析検出限界(CV 10%):12の場合1L当たり8.0ng cTnI;25の場合1L当たり23.7ng cTnI;及び26の場合1L当たり90ng cTnIである。
図8図8は、異なるサンプルマトリックス(4つのレプリケートチップの平均曲線)を持つポジティブサンプルの増幅曲線(signalcycle(n)/signalcycle15)を示す。マーカーのない線=キレート12、十字のある線=キレート26。連続線:PCRグレードの水、破線:1μL便マトリックス、点線:3μL便マトリックス。
図9図9は、異なるサンプルマトリックス(4つのレプリケートの平均)を使用したテンプレートなしのコントロールランの正規化されたバックグラウンドレベル(signalcycle(n)/signalcycle15)を示す。マーカーのない線=キレート12、十字のある線=キレート26。連続線:PCRグレードの水、破線:1μL便マトリックス、点線:3μL便マトリックス。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の発光性ランタノイド(III)キレートは、1つ以上の2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジン基(1)を含む発色団基を有する。2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジン基は、光又はエネルギーを吸収し、励起エネルギーをキレート化ランタノイドイオンに伝達することができ、蛍光が生じる。
【化1】
【0022】
ランタノイド(III)キレートは、EDTAなどの外部キレートの存在下、および生化学的アッセイで使用されることが多い比較的低いpH条件で安定でなければならない。速度論的安定性は、希釈溶液中でキレート化する場合にもまた重要である。高温に対する耐性は、サーモサイクリングを含むDNAアッセイにおいて必要とされる。発色団基はランタノイドイオンと十分に強く結合しないため、キレートは追加の金属配位部位を有していなければならない。
【0023】
キレートが生体分子などの検出対象の分子に共有結合で結合しようとする場合、前記キレートは反応性基を有していなければならない。
【0024】
多くの用途において反応性基は、原則として、発色団又はキレート部分と直接結合することができるが、立体化学的な理由のために、反応性基と発色団又はキレート部分それぞれとの間にリンカーを有することが望ましい。
【0025】
本発明に記載の例示的なランタノイド(III)キレート2の構造は以下に示される。
【化2】
[式中、Chel1及びChel2は同じ又は異なるキレート基であり、Lはリンカーであって、Aは反応性基である。]
【0026】
キレート基Chel1及びChel2
【0027】
安定性の増強は、発色団基にカルボン酸およびホスホン酸部分などのキレート基を加えることにより得ることができる。あるいは、安定性はいくつかの蛍光発生リガンドを1つの構造に組み込むことによって、または金属イオンをクリプテートおよび大環状シッフ塩基などの多環式籠型化合物を形成している発色団構造に内包することによって増強することができる[Hovinen et al, Bioconjugate Chem. vol 20, 2009, 404-421]。
【0028】
一実施形態において、キレート基は、少なくとも2つのカルボン酸基、ホスホン酸基、または前記酸のエステル、アミド、もしくは塩を含み、1つ以上の2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジン基に直接、または環状もしくは非環状のN含有炭化水素鎖を介して結合する。
【0029】
反応性基A
【0030】
キレートを生体分子などの検出対象の分子に共有結合させる場合、少なくとも1つの反応性基を含まなければならない。一実施形態において、反応性基「A」は、イソチオシアナト、ブロモアセトアミド、ヨードアセトアミド、マレイミド、4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジニル-2-アミノ、ピリジルジチオ、チオエステル、アミノオキシ、アジド、ヒドラジド、アミノ、アルキニル、重合性基、及びカルボン酸又は酸ハロゲン化物、もしくはそれらの活性エステルからなる群から、好ましくは、イソチオシアナト、ヨードアセトアミド、マレイミド、及び4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジニル-2-アミノから、より好ましくは、イソチオシアナト、又は4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジニル-2-アミノから選択される。
【0031】
キレート又はキレート剤が、マイクロ粒子またはナノ粒子と、前記粒子の製造工程中に結合する必要がある場合、反応性基は、メタクリロイル基などの重合性基である。
【0032】
キレートまたはキレート剤を、ナノ材料、生体分子、および様々な有機分子を含む固体支持体に、銅(I)触媒ヒュスゲン-シャープレス双極子[2+3]環化付加反応、またはひずみ促進アジド-アルキン環化付加反応を使用して結合させようとする場合、反応性基はアジドまたはアルキニルのいずれかでなければならない。
【0033】
キレートは、生体分子または固体支持体へのキレートの共有結合を可能にするために反応性基を有さなければならない。しかしながら、そのような共有結合を必要としない用途が存在する。本発明のキレート化合物はまた、キレート中に反応性基が必要でない用途に使用することができる。この種の技術の一実施例は、例えばBlomberg, et al., J. Immunological Methods, 1996, 193, 199において実証されている。反応性基Aが必要でない別の実施例は、好酸球性および好塩基球性細胞の分離である[国際公開番号2006/072668]。この用途では、正及び負に荷電したキレートが、それぞれ負及び正に荷電した細胞表面と結合する。
【0034】
リンカーを必要としないさらに別の実施例は、単にキレートをポリマー内に膨潤させることにより高発光性ビーズを調製することである[例えば、Soukka et al., Anal. Chem., 2001, 73, 2254] 。例示的なポリマーは、ナノ粒子である。
【0035】
リンカーL
【0036】
多くの用途において反応性基は、原則として、発色団又はキレート部分と直接結合することができるが、立体化学的な理由のために、反応性基と発色団又はキレート部分それぞれとの間にリンカーを有することが望ましい。前記リンカーは、前記キレートが固体支持体と結合する必要がある場合に特に重要であるが、溶液中で生体分子を標識する場合にもまた望ましい。
【0037】
一実施形態において、リンカー「L」は1~10個の成分によって形成され、各成分が、フェニレン、1~12個の炭素原子を含むアルキル、1~12個の炭素原子を含むアルキレン、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR´-、-NH-CO-及び-NR´-CO-)、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及び-OOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO2-NH-、-SO2-NR´-)、スルホン(-SO2-)、ホスフェート(-O-PO2-O-)、ジアザ(-N=N-)、及び第3級アミンから成る群(ここで、R´は5個未満の炭素原子を含むアルキル基、又は第2級アミン(-NH)を表す)から選択される。特定のリンカーは、-NHCH2Phである。
【0038】
リンカーは、様々な方法で分子に連結することができる。前記リンカーは、キレート部分、芳香族基同士を繋いでいるN含有鎖、または芳香族基、好ましくはピラジン部分に連結することができる。
【0039】
ランタノイドイオンLn (III)
【0040】
ランタノイド(III)イオンは、ユーロピウム(III)、サマリウム(III)、テルビウム(III)又はジスプロジウム(III)から、好ましくはユーロピウム(III)及びサマリウム(III)から選択され、最も好ましくはユーロピウム(III)である。
【0041】
ランタノイド(III)キレート
【0042】
本発明のランタノイド(III)キレートは、1つ以上の2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジン基を含む発色団基を有している。
【0043】
特定の実施形態において、ランタノイド(III)キレートは
・ ランタノイドイオンLn3+
・ 2-(ピリジン-4-イルエチニル)ピラジンサブユニットを含む発色団基、
及び、
・ 少なくとも2つのカルボン酸基、ホスホン酸基、又は前記酸のエステル、アミド、もしくは塩を含み、発色団基に直接、又は環状もしくは非環状であるN含有炭化水素鎖を介して結合しているキレート部分
を含む。
【0044】
好ましい実施形態において、ランタノイド(III)キレートは、発色団基又はキレート部分に、直接もしくはリンカーLを介して連結された反応性基Aを含み、前記反応性基は、生体分子又は固体支持体への前記キレートの結合を可能にする。反応性基Aは、好ましくはイソチオシアナト、ブロモアセトアミド、ヨードアセトアミド、マレイミド、4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ、ピリジルジチオ、チオエステル、アミノオキシ、アジド、ヒドラジド、アミノ、アルキニル、重合性基、及びカルボン酸又は酸ハロゲン化物、もしくはそれらの活性エステルから成る群から、好ましくは、イソチオシアナト、ヨードアセトアミド、マレイミド、及び4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノから選択され、最も好ましくは、イソチオシアナトである。
【0045】
好ましい実施形態において、ランタノイド(III)キレートはリンカーLを含み、そして前記リンカーは1~10個の成分によって形成され、各成分が、フェニレン、1~12個の炭素原子を含むアルキル、1~12個の炭素原子を含むアルキレン、エチニジイル(-C≡C-)、エチレンジイル(-C=C-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、アミド(-CO-NH-、-CO-NR´-、-NH-CO-及び-NR´-CO-)、カルボニル(-CO-)、エステル(-COO-及び-OOC-)、ジスルフィド(-SS-)、スルホンアミド(-SO2-NH-、-SO2-NR´-)、スルホン(-SO2-)、ホスフェート(-O-PO2-O-)、ジアザ(-N=N-)、及び第3級アミンから成る群(R´は5個未満の炭素原子を含むアルキル基、好ましくはメチルフェニレンを表す)から選択される。
【0046】
本発明に記載の例示的なランタノイド(III)キレートは以下の構造である:

【化3】
[式中、上で定義したように、Lはリンカーであって、Aは反応性基である。]
【0047】
好ましい実施形態において、ランタノイド(III)キレートは以下の化学式を有する
【化4】
[式中、L及びAは、上で定義した通りである。]
【0048】
特定の実施形態において、LnはEuであり、リンカーLは-NHCH2Phであって、反応性基Aはイソチオシアナトであり、すなわち、ランタノイド(III)キレートは以下の構造を有する。
【化5】
【0049】
生体分子
【0050】
本発明に記載のランタノイド(III)キレートに結合する生体分子は、好ましくはオリゴペプチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、修飾されたオリゴ又はポリヌクレオチド、例えばホスホロモノチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロアミデート、及び/又は糖もしくは塩基で修飾されたオリゴ又はポリヌクレオチド、タンパク質、オリゴ糖、多糖、リン脂質、PNA、LNA、抗体、アプタマー、抗体断片、ステロイド、ハプテン、薬剤、受容体結合リガンド及びレクチンである。特定の生体分子は抗体である。
【0051】
固体支持体
【0052】
本発明に記載の、ランタノイド(III)キレート及びコンジュゲートされた生体分子は、固体支持体にコンジュゲートし得る。前記固体支持体は、ナノ粒子又はマイクロ粒子のような粒子、スライド、プレート又は樹脂であってもよい。例示的な実施形態において、アミノ基を含む固体支持体は、チオ尿素結合を生じさせるイソチオシアネート基に連結されたランタノイド(III)キレートと反応することができる。
【0053】
ランタノイド(III)キレートが反応性基として重合性基を有する場合、キレートは、固体支持体、例えば粒子に、粒子の調製と同時に導入され得る[Org. Biomol. Chem., 2006, 4, 1383] 。銅(I)触媒ヒュスゲン-シャープレス反応、またはひずみ促進アジド-アルキン環化付加を誘導体化に用いる場合、キレートはアジド基に連結されて、固体支持体はアルキンで誘導体化される、またはその逆である。
【0054】
本発明に記載のランタノイド(III)キレートは、固体支持体、例えばナノ粒子又はマイクロ粒子、スライド、プレート又は樹脂に、また非共有結合で結合し得る。例示的で非限定的な実施形態において、非共有結合は、反応性基を含まない本発明のランタノイド(III)キレートでナノ粒子を染色させることによって達成することができる。
【0055】
生体親和性アッセイ
【0056】
一実施形態において、本発明は、検出が本発明のキレート由来のシグナルに基づいた、生体親和性結合アッセイに関する。例示的な生体親和性アッセイは免疫アッセイである。特定の免疫アッセイは、トロポニンIアッセイである。
【0057】
別の実施形態において、生体親和性結合アッセイは、時間分解蛍光エネルギー移動アッセイであり、ここで、本発明のキレートは供与体として作用し、蛍光物質は受容体として作用する。例示的な受容体分子は、Alexa Fluor 700である。
【0058】
なおさらなる実施形態において、本発明は、生体親和性結合アッセイにおける標識としての本発明のキレートの使用に関する。
【0059】
なおさらなる実施形態において、本発明は、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動アッセイにおける供与体としての本発明のキレートの使用に関する。
【実施例
【0060】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明される。
【0061】
一般的な手法
【0062】
使用した全ての試薬および溶媒は試薬等級であった。カップリング反応は、Biotage Microwave Initiator中で行った。MALDI質量スペクトルは、Bruker Daltonics Ultraflex II mass spectrometerで記録した。紫外可視吸収スペクトルは、Varian Cary 300 Bio UV-Vis Spectrophotometerで記録した。キレートの蛍光特性、発光および励起スペクトル、発光減衰プロファイルは、Varian Cary Eclipse Fluorescence Spectrophotometerで記録した。キレートの濃度は、PerkinElmer Elan DRC Plus ICP-MSで計測した。基準キレート24、25(国際公開第2014044916号)および26(von Lode et al., 2003; Anal. Chem. 75:3193-3201) は、文献に記載の手順に従って合成した。
【化6】
【0063】
Tert-ブチル(4-(((5-ブロモピラジン-2-イル)アミノ)メチル)フェニル)カルバメート(5)。
【0064】
2,5-ジブロモピラジン(3;0.55g、2.31mmol)、4-(Boc-アミノ)ベンジルアミン(4;0.40g、1.80mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、0.6ml)及びイソプロパノール(4ml)の混合物をバイアルに密封して、マイクロ波オーブン中で145°Cで1時間加熱した。溶媒およびすべての揮発分を真空中で蒸発させ、生成物を、ジクロロメタン(DCM)を用いたシリカゲルカラムで、1%メタノール/DCMに溶離液として精製した。収率は0.40g(59%)であった。MALDI MS:MH+ 379及び381。
【0065】
Tert-ブチル(4-(((5-((トリメチルシリル)エチニル)ピラジン-2-イル)アミノ)メチル)フェニル)カルバメート(6)。
【0066】
化合物5(402mg, 1.06mmol)をバイアル内に配置した。THF(9ml)及びTEA(9ml)を加えて、混合物をアルゴンで2分間脱気した。エチニルトリメチルシラン(0.602 ml, 416 mg, 4.24 mmol)を加え、続いて触媒としてビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロライドPd(PPh3)2Cl2(30mg, 0.0424mmol)及びヨウ化銅(I)CuI(16.2mg, 0.0848mmol)を加えた。バイアルを密封し、室温で30分間攪拌し、マイクロ波反応器内で60°Cまで1時間加熱した。すべての溶媒を真空中で蒸発させ、生成物をDCMで1%メタノール/DCMに溶出した短いシリカゲルカラムで精製した。収量は410mgであった。MALDI MS:MH+ 397。
【0067】
Tert-ブチル(4-(((5-エチニルピラジン-2-イル)アミノ)メチル)フェニル)カルバメート(7)。
【0068】
化合物6を炭酸カリウム(無水、685mg)と共に、メタノール(25ml)中で30分間撹拌した。溶媒を真空中で蒸発させて乾燥した。残渣にDCM(20ml)を加え、濾過により透明な溶液を得た。生成物をシリカゲルカラムで、DCMの溶離液と共に2%メタノール/DCMに精製した。収量は302mg(90%)であった。MALDI MS:MH+ 325。
【0069】
Di-tert-ブチル 2,2'-(((6-(((2-(ビス(2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)エチル)(2-(tert-ブトキシ)-2-オキソエチル)アミノ)メチル)-4-((5-((4-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)ベンジル)アミノ)ピラジン-2-イル)エチニル)ピリジン-2-イル)メチル)アザンジイル)ジアセテート(9)。
【0070】
国際公開第2014044916号に開示されるように合成された化合物8、および化合物7をTHF(2.5ml)およびTEA(2.5ml)に溶解した。混合物をアルゴンで3分間脱気した。Pd(PPh3)2Cl2(7 mg, 0.0096 mmol)およびCuI(2 mg, 0.0096 mmol)を触媒として添加した。次いで、反応混合物をバイアルに密封し、マイクロ波リアクター中で60°Cで60分間加熱した。反応混合物をフラスコに移し、真空乾燥した。生成物をシリカゲルカラムで、酢酸エチルおよび石油エーテル1:1(+1% TEA、v/v)の溶離液と共に、酢酸エチル(+1% TEA、v/v)に精製した。収量は167mg(64%)であった。MALDI MS:MH+ 1073。
【0071】
ユーロピウム(III)キレート(10)。
【0072】
化合物9 (167 mg, 0.156 mmol) をTFA(2 ml)に溶解し、混合物を25°Cの水浴中で2時間撹拌した。全ての揮発分を真空中で除去した。MALDI MS:MH+ 693。遊離リガンドを水(1.5ml)に溶解し、EuCl3溶液(63.7mg、水1ml中に0.174mmol)を加えて、混合物を5分間攪拌した。pHを5%NaHCO3で7.0に調整して、溶液をさらに10分間撹拌した。pHをsat.Na2CO3で9.0に調整した。沈殿物を遠心分離により除去した。溶液のpHを酢酸で7に調整した。アセトン(45ml)を加えて、混合物を1分間振とうした。遠心分離により沈殿を回収し、50mlのアセトンで洗浄して、気流乾燥した。
【0073】
イソチオシアナト活性化ユーロピウム(III)キレート(11)。
【0074】
化合物10を水に溶解した。チオホスゲン(24μl, 0.31mmol)およびクロロホルム(1ml)を加えて、混合物を2分間激しく撹拌した。pHを追跡して、5%NaHCO3溶液で7.0に保持した。クロロホルムを除去し、アセトン(50ml)を加えた。激しい振盪後、沈殿物を遠心分離により単離し、アセトン(50ml)で1回洗浄して、気流及び真空により乾燥した。MALDI MS:M- 881及び883。
【0075】
グリシン複合体の調製。
【0076】
キレート11(10mg)をpH7.5の水溶液中でグリシン(100mg)と4時間反応させた。生成物をHPLC(カラム:Spelco Ascentis RP-Amide、21.2mm×25cm。流速8ml/分、溶離液20mM TEAAバッファー、pH7.0、2~20%アセトニトリル中、v/v)で精製した。画分を回収して、凍結乾燥させた。
【0077】
DTA活性化ユーロピウム(III)キレート12の合成。
【0078】
化合物10を水に溶解して、sat.sat.Na2CO3でpHを9に調整した。クロロホルム中のトリクルロトリアジンを加えて、混合物を室温で10分間激しく撹拌した。水相を分離して、ジエチルエーテルで洗浄した。アセトンを加えて、混合物を1分間振盪した。遠心分離により沈殿物を回収し、アセトンで洗浄して気流乾燥した。
【0079】
化合物14の合成。
【0080】
化合物6について上述したような、化合物13(Tetrahedron Lett, 46, 2005, 4387-4389)及び化合物7の反応により、化合物14を得る。
【0081】
化合物15の合成。
【0082】
チオフェノールでのノシル基または化合物14の除去に続いて、ブロモ酢酸エチルエステルでの処理により、化合物15を生じる。
【0083】
ユーロピウム(III)キレート16の合成。
【0084】
酸及び塩基による化合物15からの保護基の除去に続いて、塩化ユーロピウム(III)での処理により、キレート16を生じる。
【0085】
ヨードアセトアミド活性化ユーロピウム(III)キレート17の合成。
【0086】
化合物16をヨード無水で処理することにより、化合物17を生成する。
【0087】
化合物19の合成。
【0088】
化合物8について上述したように、Pd(II)およびCu(I)の存在下で、2,2,2'',2'''-[(4-ブロモピリジン-2,6-ジイル)ビス(メチレンニトリロ)]テトラキス(アセテート)18と化合物7とを反応させることにより、化合物19を得る。
【0089】
ユーロピウム(III)キレート20の合成。
【0090】
TFAによる化合物19の保護基の除去に続いて、塩化ユーロピウム(III)による処理により、キレート20を生じる。
【0091】
化合物22の合成。
【0092】
化合物8について上述したように、Pd(II)およびCu(I)の存在下で、欧州特許出願第1447666号に開示されたように合成することができるテトラ(tert-ブチル) 2,2',2'',2"'-{(エトキシカルボニル)メチルイミノ]ビス(メチレン)ビス(4-ブロモピリジン-6,2-ジイル)ビス(メチレンニトリロ)}テトラキス(アセテート) 21と化合物7とを反応させることにより、化合物22が得る。
【0093】
ユーロピウム(III)キレート23の合成。
【0094】
酸及び塩基による化合物22の保護基の除去に続いて、塩化ユーロピウム(III)による処理により、キレート23を生じる。
【0095】
発光特性の測定
【0096】
発光特性の測定のために、抗体に結合させた後のキレート構造変化を模倣することを目的に、ユーロピウムキレート11をグリシンのアミノ基に結合させた。精製はHPLCで行った。キレート-グリシン(図2)の励起スペクトルは、技術水準(図1)によるキレートの励起スペクトルよりも365nmのLED発光スペクトルと有意によく重なっている。そのため、365nmのLEDを光源として利用する用途では高いシグナルが期待される。キレート-グリシンの蛍光発光寿命は1.07msであり、これはTRF-免疫アッセイのための良好なキレートにとって所望の範囲(1~2ms)である。
【0097】
免疫アッセイ試験
【0098】
モデルトロポニンIアッセイのモノクローナルマウス抗-心臓トロポニンI (cTnI)トレーサー抗体 (625-Mab, Hytest Oy, Finland)を、本発明のユーロピウムキレート及び2種類の商業的に利用されているユーロピウムキレートで標識し、本発明のキレートが市販のキレートに対してどのように遂行されるか、および本発明のユーロピウムキレートが、ポイントオブケア試験に適したより単純なリーダー構造を使用した場合に、分析感度に改善をもたらすことができるかどうかを研究した。
【0099】
キレート25及び26は、基準ユーロピウム(III)キレートとして用いられた。
【0100】
手順
【0101】
・アッセイ:トロポニンI
【0102】
・捕捉抗体:19C7-Mab(Hytest Oy, Finland)、4C2-Fab(Dept of Biotechnology, University of Turku, Finland)、及びMF4-Fab(Dept of Biotechnology, University of Turku, Finland)。
捕捉抗体は、常法によりビオチン化される(von Lode et al 2003; Anal Chem 75:3193-3201)。
【0103】
・トレーサー抗体:モノクローナルマウス抗心臓トロポニンI (cTnI)トレーサー抗体 625-Mab (Hytest Oy, Finland)のサンプルを、以下の3つのEu (III)キレートで標識した:12、25及び26。標識は、本発明のキレート12及び26の場合、50mmol/Lの炭酸バッファー(pH 9.8)中で、または25の場合、50mmol/Lのリン酸バッファー(pH 7.2)中で行われ、抗体と比較して、少なくとも約20倍モル過剰のキレートを使用した。反応は+22°Cで一晩行った。Tris-saline-azide (6.1 g/L Tris, 9.0 g/L NaCl, 及び 0.5 g/L NaN3)、pH7.75を溶出バッファーとして用いて、標識抗体を、Superdex 200 HR 10/30カラム(Pharmacia Biotech)で、過剰の遊離キレートから分離した。抗体を含む画分をプールして、ユーロピウム濃度をユーロピウム校正器に対して測定した。得られた標識度合は、それぞれ12の場合7.1、26の場合8.0、25の場合3.3であった。抗体は+4°Cで保存した。
【0104】
・標準液:ITC複合体(HyTest Oy, Finland)を7.5% BSA-TSA、pH7.75中で終濃度0、0.05、0.05、0.5、5、および50ng/mlに希釈することで標準希釈液を調製した。
【0105】
・捕捉抗体によるマイクロタイターウェルのコーティング:各ビオチン化捕捉抗体50ngを、合計25μLのレッドアッセイバッファー(Kaivogen Oy, Finland)中に、ウェル(Yellow streptavidin coated microtiter well plates, Kaivogen Oy, Finland)ごとに分注して、振とうさせずに22°Cで1時間インキュベートした。コーティングされたウェルを洗浄バッファー(Kaivogen Oy)で2回洗浄して、免疫アッセイを行うためにすぐに使用した。
【0106】
・免疫アッセイ:標準希釈液又は臨床用リチウムヘパリン血漿サンプルを、3つのリプリケートに20μl/ウェルで分注した。バックグラウンド測定のために、21個のリプリケートを調製した。標識トレーサー抗体(100ng/ウェル)を20μl/ウェルで添加した。反応物を+36°C、900rpmで30分間インキュベートし、次いで洗浄バッファーで6回洗浄した。ウェルを温風で5分間乾燥させ、そして5分間冷却した。
【0107】
・測定は、Lahdenpera et al (Analyst,2017;142(13):2411-2418.doi:10.1039/c7an00199a)により記載された通りに実施された。340nmでの励起について、ウェルをWallac PerkinElmer VictorX4 microfluorometerを用いて、発光波長615nm、遅延時間250μs、測定時間750μs、サイクル時間1ms、1000サイクルで測定した。励起には、発光波長615nm、遅延時間300μs、測定時間600μs、サイクル時間1ms、1000サイクルを用いたLabrox LED励起蛍光光度計を用いた。
【0108】
図7は、トロポニンI免疫アッセイにおける、本発明によるキレートと2種類の商業的に利用されているユーロピウム(III)キレートとの間の、検量線および得られた分析感度の比較を示す。(A):340nmでの励起。縦の点線は分析検出限界(CV 10%)を示す:12の場合1L当たり10.0ng cTnI;25の場合1L当たり18.6ng cTnI;及び26の場合1L当たり16.5ng cTnIである。(B):365nmでの励起。分析検出限界(CV 10%):12の場合1L当たり8.0ng cTnI;25の場合1L当たり23.7ng cTnI;及び26の場合1L当たり90ng cTnIである。
【0109】
表1は、ユーロピウムキレート12、13および9-デンテート-α-ガラクトースで標識されたトレーサー抗体を用いたcTnI免疫アッセイで得られた分析感度を列挙する。
【表1】
【0110】
表2は、ユーロピウムキレート12、25および26で標識されたトレーサー抗体を用いて4つの患者サンプルにおいて測定された臨床cTnI濃度を列挙する。
【表2】
【0111】
ユーロピウムキレート12は、低いバックグラウンド信号レベルを維持しながら、25または26よりも著しく高い特異的なシグナルを生成した(図7、表1)。ユーロピウムキレート12の発光特性は、キレート12が両方の測定条件においてモデルcTnIアッセイでより良い分析感度を可能にしたように、キレート25および26の特性を明らかに上回った(表1)。キレート12を用いた分析感度の改善は最も明瞭であった(LEDベースの365nmでの励起でポイントオブケア試験に適した簡単な測定装置を用いて免疫アッセイを測定した場合、25と比較して3倍;キレート26と比較して11倍(表1))。加えて、臨床患者サンプルについて得られた結果は、12について両方の測定条件で一致していた(表2)。12で測定されたすべての臨床サンプルは、両方の測定条件で分析検出限界を明らかに上回る結果を示したが、25では、365nmでの励起を用いた場合に、最も濃度の低いサンプル(サンプル1)が分析検出限界をほとんど越えなかった。26を用いた場合、4つの臨床サンプルのうち3つは分析検出限界以下の結果を示し、したがって、365nmでの励起で測定した場合に免疫アッセイにより検出できなかった。測定に簡単で低コストの機器を使用したポイントオブケア試験の状況で、正しい結果を迅速に提供できることを示したのは12のみだった。
【0112】
大幅に改善された発光特性に加えて、イソチオシアナト活性化を用いるユーロピウムキレートは、DTA-活性化ベースのキレートと比較して、より良く、より普遍的に適しているはずである。25は特定の抗体に対してうまく機能するように見えるが、標識の条件は抗体ごとに個別に最適化する必要がある。さらに、より反応性の高いDTAの化学的性質により抗体の免疫反応性が低下するように見えるため、一部の抗体は、25による標識を容易に施すことができないようである。
【0113】
PCR検査
【0114】
PCRにおける、本発明のキレート12の安定性を実証するために、リアルタイムPCRを用いたモデルアッセイを行った。プライマー及びプローブの配列は、Niesters, 2001 (Niesters, H.G.M, Quantitation of Viral Load Using Real-Time Amplification Techniques. METHODS 25, 419-429 (2001), figure 6)を採用した。プローブは、3'末端をダブシルで標識して、5'末端を本発明のユーロピウムキレート12及びキレート26で標識した。本検査の狙いは、キレート12が水中、及びより難解なサンプルマトリックス中でのポリメラーゼ連鎖反応を、基準キレートと比較してどのように実行したかを評価することであった。
【0115】
プローブは、以下のEu(III)キレートで標識された:12および26。標識は、本発明のキレート12、および26について、50mmol/Lの炭酸バッファー(pH9.8)中で、オリゴヌクレオチドプローブと比較して12~16倍モル過剰のキレートを使用して行った。反応は、+37°Cで終夜行った。標識プローブは、10 mM Tris-HClバッファー、pH 8.0を溶出バッファーとして用いるIllustra NICKカラム(GE Healthcare)上で、過剰の遊離キレートから最初に分離された。プローブを逆相HPLCでさらに精製して、最終的に、10 mM Tris-HCl 50 mM KClバッファー、pH 8.3を溶出バッファーとして用いるIllustra NICKカラム(GE Healthcare)上で微量の遊離キレートから分離された。プローブを-20°Cで保存した。
【0116】
・標的:PCR等級の水(VWR)中の、GeneArt クローニングベクターに挿入されたアザラシヘルペスウイルス1gB型遺伝子の一部 (Invitrogen, Thermo Fisher Scientific)、10,000コピー/μl。
【0117】
サンプルマトリックス:キレートの性能をPCR等級の水(VWR)及び便マトリックスの両方で検討した。便マトリックスは、GenomEra Z-tube (Abacus Diagnostica Oy)の中にループで1~3μlのヒトの便をピッキングして、メーカーのプロトコルに従ってチューブを5分間ボルテックスすることにより調製された。次いで、この液体をサンプルのベースとして使用した。
【0118】
検査混合物: 80nMフォワードプライマー、100nMリバースプライマー、及び10nMプローブを含む検査混合物を、キレート12又は26のいずれかで標識した。両方のプローブを用いて、テンプレートなしのコントロール混合物及び標的DNAの1000コピー/反応を有する混合物を調製した。サンプルのベースには、PCR等級の水または便マトリックスのいずれかが使用された。
【0119】
検査チップ:オリゴヌクレオチドを除いた、すべての必要なPCR試薬を含むGenomEra test chips (Abacus Diagnostica)を検査に使用した。
【0120】
PCRアッセイ:各サンプル35μl(純水、1μlの便マトリックス、および3μlの便マトリックス中の、テンプレートの有り無し両方の検査混合物)を4つのリプリケートチップに分注した。チップは、+60°C~+98°Cの温度範囲の45サイクルから成る、RUO C. difficile Bin. Tox. (cdtA)リアルタイムPCRアッセイを用いるGenomEra装置で行った。蛍光は2サイクルごとに測定された。
【表3】
【表4】
【0121】
ユーロピウムキレート12は、PCRにおいて有意に良好に機能した。キレート12及び26の最大シグナル、又は閾値サイクルは区別されなかったが(表3)、各サンプルマトリックスにおけるキレート12での相対的なシグナルは、ユーロピウムキレート26のシグナルと比較して約2倍であった(表4、図8)。驚くべきことに、蛍光は、ユーロピウムキレート12を用いるとき、キレート26よりもより効果的に消光される。使用した励起範囲は、両方のキレートにとって最適な励起波長を含むが、キレート26に対して最適化されている。したがって、キレート12はキレート26よりも優れていると思われる。テンプレートなしのランでは、ユーロピウムキレート12のベースラインシグナルが、ユーロピウムキレート26よりマトリックスの違いによる影響を受けにくいことが示された:PCR水中のキレート12では、相対的シグナルのわずかな増加が見られるが、より難解なマトリックスではシグナルはランを通して同じレベルにとどまる(図9)。キレート26シグナルは、PCR水中で同じレベルを維持するが、より難解なマトリックスではシグナルの有意な減少が見られ、アッセイの感度に影響を与える可能性がある。さらに、干渉物質及び温度ストレスに同時にさらされる場合、キレート12の構造はキレート26と比較してより安定である。
【0122】
上記の説明において提供される特定の実施例は、添付の特許請求の範囲及び/又は適用性を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】