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特表2023-505526RASノード標的化治療剤またはRTK標的化治療剤を用いてがん患者を処置する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-09
(54)【発明の名称】RASノード標的化治療剤またはRTK標的化治療剤を用いてがん患者を処置する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20230202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230202BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230202BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
G01N33/48 M
A61P35/00
A61K45/00
G01N33/483 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022534698
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 US2020063890
(87)【国際公開番号】W WO2021119056
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】62/945,608
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514316237
【氏名又は名称】セルキュイティー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】レイン, ランス ギャビン
(72)【発明者】
【氏名】カーン, サルマーン アーメド
(72)【発明者】
【氏名】サリバン, ブライアン フランシス
【テーマコード(参考)】
2G045
4C084
【Fターム(参考)】
2G045CB02
2G045FA34
2G045GC30
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC412
4C084ZC511
(57)【要約】
被験体から得た罹患細胞試料におけるGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達経路の機能状態を決定し、それにより、被験体においてRASノード標的化治療薬または受容体チロシンキナーゼ(RTK)標的化治療薬を治療上で使用するために選択するための方法を本明細書中に提供する。GPCRシグナル伝達経路が被験体由来の罹患細胞試料において超感受性であるかどうかを決定するための方法も提供する。選択されたRASノード標的化治療剤またはRTK標的化治療剤を被験体に投与する方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RASノード標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
前記被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)前記試料の第1の部分をGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)前記試料の第2の部分を前記アゴニストのみと接触させるステップ;
前記第1および第2の部分における前記生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
前記連続測定値の数理解析によって、前記第2の部分と比較して前記第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の前記変化を特徴付ける前記出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、前記出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、前記阻害剤として前記同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬で処置するための前記被験体を選択するステップ
を含む、方法。
【請求項2】
RASノードによって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、前記被験体のがん細胞が、
前記被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)前記試料の第1の部分をGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)前記試料の第2の部分を前記アゴニストのみと接触させるステップ;
前記第1および第2の部分における前記生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
前記連続測定値の数理解析によって、前記第2の部分と比較して前記第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の前記変化を特徴付ける前記出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、前記出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、前記阻害剤として前記同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬を前記被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法。
【請求項3】
前記GPCRがリゾリン脂質GPCRである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リゾリン脂質GPCRがLPA受容体(LPAR)である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記LPARが、LPAR1、LPAR2、LPAR3、LPAR4、LPAR5、およびLPAR6からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記リゾリン脂質GPCRがS1P受容体(S1PR)である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記S1PRが、S1PR1、S1PR2、S1PR3、S1PR4、およびS1PR5からなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記アゴニストが、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、代謝産物、リガンド、試薬、有機分子、シグナル伝達因子、成長因子、生化学物質、またはその組み合わせである、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記アゴニストが、リゾホスファチジン酸(LPA)、FAP-10、FAP-12、およびOMPTである、請求項1~5および8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記アゴニストがLPAである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記LPAが、LPA 18:0、LPA 18:1、LPA 18:2、LPA 20:4、およびLPA 16:0からなる群から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アゴニストが、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、FTY720、BAF312、A971432、セラリフィモド、CS2100、CYM50260、CYM50308、CYM5442、CYM5520、CYM5541、GSK2018682、RP001塩酸塩、SEW2871、TC-G1006、およびTC-SP14である、請求項1~3および6~8のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記RASノードが、ホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)、ERK、MEK、mTOR、RAF、BCL、およびその組み合わせからなる群から選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記試料の前記第1の部分を2またはそれを超える阻害剤と接触させ、前記の阻害剤のそれぞれが異なるRASノードを阻害する、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記2またはそれを超える阻害剤が、
(a)PI3K、mTOR、およびBCL、
(b)PI3K、mTOR、およびRAF、
(c)PI3K、mTOR、およびERK、ならびに
(d)PI3K、mTOR、およびMEK
からなる群から選択されるRASノードの組み合わせを阻害する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記被験体を、前記異なるRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬の組み合わせを用いて処置するか、処置のために選択する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記阻害剤がPI3K阻害剤である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記PI3K阻害剤が、PI3Kのp110α触媒サブユニットを選択的に阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記PI3K阻害剤が、PI3Kのp110β触媒サブユニットを選択的に阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記PI3K阻害剤が、PI3Kのp110γ触媒サブユニットを選択的に阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記PI3K阻害剤が、PI3Kのp110δサブユニットを選択的に阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記PI3K阻害剤が、PI3Kのp110サブユニットの1つを超えるアイソフォームを阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記PI3K阻害剤が、PI3Kのp110サブユニットの全てのアイソフォームを阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記PI3K阻害剤がmTORも阻害する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
前記PI3K阻害剤が、ウォルトマンニン、LY294002、ヒビスコンC、イデラリシブ(GS-1101、CAL-101)、コパンリシブ、デュベリシブ、アルペリシブ、(BYL719)、タセリシブ(GDC-0032)、GDC-0077、ゲダトリシブ、ペリホシン、イデアリシブ、ピララリシブ(XL147)、ブパルリシブ(BKM120)、デュベリシブ、ウムブラリシブ、PX-866、ダクトリシブ、CUDC-907、ボクスタリシブ、ME-401、IPI-549、SF1126、RP6530、INK1117、ピクチリシブ(GDC-0941)、パロミド529、SAR260301、GSK1059615、GSK2636771、CH5132799、CZC24832、AZD6482、AZD8835、WX-037、AZD8186、KA2237、CAL-120、AMG-319、AMG-511、HS-173、INCB050465、INCB040093、TGR-1202、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、TGX221、CAL263、RP6530、PI-103、GNE-477、IPI-145、BAY80-6946、BAY1082439.PX866、BEZ235、MKM120、MLN1117、SAR245408、AEZS-136、セラベリシブ(TAK-117)、ゲダトリシブ、オミパリシブ、およびピラルリシブからなる群から選択される、請求項1~23のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記阻害剤がERK阻害剤である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記ERK阻害剤が、ラボキセルチニブ、SCH772984、SCH900353(MK8353)、ウリキセルチニブ、AZD0364(ATG017)、VX-11e(VTX-113)、CC-90003、LY3214996、FR180204、E6201、ASN007、およびGDC0994からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記阻害剤がMEK阻害剤である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記MEK阻害剤が、トラメチニブ、ビニメチニブ、ピマセルチブ、コビメチニブ、PD901、U0126、セルメチニブ、PD325901、TAK733、CI-1040(PD184352)、PD198306、PD334581、PD98059、およびSL327からなる群から選択される、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記阻害剤がmTOR阻害剤である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記mTOR阻害剤が、ゲダトリシブ、オミパリシブ、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ダクトリシブ、AZD8055、ABTL-0812、PQR620、GNE-493、KU0063794、トルキニブ、リダフォロリムス、サパニセルチブ、ボクスタリシブ、トリン1、トリン2、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ビスツセルチブ、WYE-125132、BGT226、パロミド529、WYE-687、WAY600、GDC-0349、XL388、ビミラリシブ(PQR309)、オナタセルチブ(CC-223)、サモトリシブ、RMC-5552、およびGNE-477からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記阻害剤がRAF阻害剤である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記RAF阻害剤が、PLX7904、GDC-0879、ベルバラフェニブ(GDC-5573)、SB590885、エンコラフェニブ、RAF265、RAF709、ダブラフェニブ(GSK2118436)、TAK-632、TAK580、PLX-4720、CEP-32796、ソラフェニブ、ベムラフェニブ(PLX-4032)、AZ-628、GW5074、ZM-336372、NVP-BHG712、CEP32496、PLX4032、PF-0728489、およびLGX-818からなる群から選択される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記阻害剤がBcl-xL阻害剤である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記Bcl-xL阻害剤が、ナビトクラックス(ABT-263)、GDC-0199(ABT-199)、サブトクスラクス(Bl-97C1)、ABT-737、AT101、TW037、A1331852、BXI-61、およびBXI-72からなる群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記GPCRシグナル伝達経路が前記被験体のがん細胞で異常に活性である、請求項1~35のいずれかに記載の方法。
【請求項37】
細胞接着または細胞付着を、インピーダンスバイオセンサーまたは光学的バイオセンサーを使用して測定する、請求項1~36のいずれかに記載の方法。
【請求項38】
前記がんが、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、卵巣がん、および白血病からなる群から選択される、請求項1~37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記被験体から得た前記がん細胞が、変異していない(野生型)RASノードタンパク質を発現する、請求項1~38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記RASノードの阻害剤が、前記変異していないRASノードタンパク質を阻害する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記被験体から得た前記がん細胞が、野生型ERK、野生型MEK、野生型RAF、野生型mTOR、および/または野生型Bcl-xLを発現する、請求項1~40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記被験体から得た前記がん細胞が、変異していない(野生型)PI3K酵素を発現する、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記被験体から得た前記がん細胞が、変異したPI3K酵素を発現する、請求項1~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
生存がん細胞の前記試料を、成長因子を含み、かつ血清を含まない培地中で培養する、請求項1~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
生存がん細胞の前記試料を、抗アポトーシス剤を含み、かつ血清を含まない培地中でも培養する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
生存がん細胞の第3の部分を、前記阻害剤のみと接触させる、請求項1~45のいずれかに記載の方法。
【請求項47】
受容体チロシンキナーゼ(RTK)標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
前記被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)前記試料の第1の部分をGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)前記試料の第2の部分を前記アゴニストのみと接触させるステップ;
前記第1および第2の部分における前記生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
前記連続測定値の数理解析によって、前記第2の部分と比較して前記第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の前記変化を特徴付ける前記出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、前記出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、前記阻害剤と同じRTKを阻害するRTK標的化治療薬で処置するための前記被験体を選択するステップ
を含む、方法。
【請求項48】
受容体チロシンキナーゼ(RTK)シグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、前記被験体のがん細胞が、
前記被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)前記試料の第1の部分をGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)前記試料の第2の部分を前記アゴニストのみと接触させるステップ;
前記第1および第2の部分における前記生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
前記連続測定値の数理解析によって、前記第2の部分と比較して前記第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の前記変化を特徴付ける前記出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、前記出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、前記阻害剤と同じRTKを阻害するRTK標的化治療薬を前記被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法。
【請求項49】
前記GPCRがリゾリン脂質GPCRである、請求項47または48に記載の方法。
【請求項50】
前記リゾリン脂質GPCRがLPA受容体(LPAR)である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記LPARが、LPAR1、LPAR2、LPAR3、LPAR4、LPAR5、およびLPAR6からなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記リゾリン脂質GPCRがS1P受容体(S1PR)である、請求項49に記載の方法。
【請求項53】
前記S1PRが、S1PR1、S1PR2、S1PR3、S1PR4、およびS1PR5からなる群から選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記アゴニストが、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、代謝産物、リガンド、試薬、有機分子、シグナル伝達因子、成長因子、生化学物質、またはその組み合わせである、請求項47~53のいずれかに記載の方法。
【請求項55】
前記アゴニストが、リゾホスファチジン酸(LPA)、FAP-10、FAP-12、およびOMPTである、請求項47~51および54のいずれかに記載の方法。
【請求項56】
前記アゴニストがLPAである、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記LPAが、LPA 18:0、LPA 18:1、LPA 18:2、LPA 20:4、およびLPA 16:0からなる群から選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記アゴニストが、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、FTY720、BAF312、A971432、セラリフィモド、CS2100、CYM50260、CYM50308、CYM5442、CYM5520、CYM5541、GSK2018682、RP001塩酸塩、SEW2871、TC-G1006、およびTC-SP14である、請求項47~49および52~54のいずれかに記載の方法。
【請求項59】
前記RTKが、EGFR/ERBB、MuSK、HGFR、NGFR、FGFR、IR、CCK、EphR、RYK、RET、ROS、PDGFR、DDR、LTK、VEGFR、TIE、AXL、ROR、LMR、またはRTK106のファミリーのメンバーから選択される、請求項47~58のいずれかに記載の方法。
【請求項60】
前記RTKがErbBファミリーのメンバーである、請求項59のいずれかに記載の方法。
【請求項61】
前記RTKがHER2である、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記RTK阻害剤が、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、パニツムマブ、セツキシマブ、ブリガチニブ、イコチニブ、オシメルチニブ、ネラチニブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブ、ダコミチニブ、アコミチニブ、BIBW2992、テセバチニブ、アムバチニブ、ネシツムマブ、REGN955、MM-151、ナザルチニブ、ASP8273、オルムチニブ、TDM1、MEDI4276、ZW25、ZW33、ツカチニブ、ロシレチニブ、イブルチニブ、DS-8201、TAS07828、XMT-1522、TAK-788、Sym013、LIM716、セリバンツマブ、AMG888、ルムレツズマブ、PF-06804103、ARX788、ポジオチニブ、ピロチニブ、ズリゴツズマン(duligotuzuman)、MCLA-128、MM-111、カボザンチニブ、チバンチニブ、クリゾチニブ(PF-2341066)、テポチニブ、カプマチニブ、サボリチニブ、K252a、SU11274、PHA-665752、ARQ197、ホレチニブ、SGX523、MP470、AV229、AMG102、CGEN241、DN30、OA5D5、リロツムマブ、オナルツズマブ、SAR125844、エムベツズマブ、ABBV-399、sym015、フィクラツズマブ、メレスチニブ、JNJ-61186372、アルチラチニブ、Indo5、BMS-754807、BMS-777607、グレサチニブ、CEP-751、ANA-12、シクロトラキシンB、ゴッシペチン、エントレクチニブ、ラロトレクチニブ、LOXO-101、ドボチニブ、レンバチニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルシタニブ、セジラニブ、インテダニブ、ブリバニブ、PD173074、AZD4547、BGJ398、JNJ42756493、GP369、BAY1187982、MFGR1877S、FP1039、パゾパニブ、エルダフィチニブ、Debio-1347、B-701、フィソガチニブ、FIIN-2、FIIN-3、BLU9931、LY2874455、LY3076226、スニチニブ、AG538、AG1024、NVP-AEW541、フィギツムマブ、リンシチニブ、ダロツズマブ、MEDI-573、テプロツムマブ、ガニツマブ、セリチニブ、MM-141、コフェツズマブペリドチン(PF-06647020)、ダサチニブ、ニロチニブ、NVP-BHG712、シトラバチニブ、ALW-II-41-27、JI-101、123C4、ソラフェニブ、アパチニブ、AST487、アレクチニブ、ドビチニブ、クリゾチニブ、ロルラチニブ、TPX-0005、DS-6051b、イマチニブ、リニファニブ、KTN0182A、ギルテリチニブ、キザルチニブ、ミドスタウリン、レスタウルチニブ、リプレチニブ、マシチニブ、アバプリチニブ、ペキシダルチニブ、テラチニブ、モテサニブ、PLX7486、ARRY386、JNJ-40346527、BLZ945、エマクツズマブ、AMG820、IMC-CS4、カビラリズマブ、CHMFL-KIT-033、SU14813、Ki20227、OSI-930、フルマチニブ、トセラニブ、AZD3229、AC710、AZD2932、ICK03、PLX647、c-Kit-IN-3、バタラニブ、ベバシズマブ、レバスチニブ、BAY-826、ベムセンチニブ、R428(BGB324)、YW327.6S2、GL2I.T、TP-0903、LY2801653、ボスチニブ、MGCD265、ASP2215、SGI-7079、BGB324、HuMax-AXL-ADC、およびUC-961からなる群から選択される、請求項47~61のいずれかに記載の方法。
【請求項63】
前記GPCRシグナル伝達経路が前記被験体のがん細胞で異常に活性である、請求項47~62のいずれかに記載の方法。
【請求項64】
細胞接着または細胞付着を、インピーダンスバイオセンサーまたは光学的バイオセンサーを使用して測定する、請求項47~63のいずれかに記載の方法。
【請求項65】
前記がんが、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、卵巣がん、および白血病からなる群から選択される、請求項47~64のいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記被験体から得た前記がん細胞が、前記RTKを過剰発現しない(すなわち、前記がん細胞がRTK陰性がん細胞である)、請求項47~65のいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記被験体から得た前記がん細胞が、HER2を過剰発現しない(すなわち、前記がん細胞がHER2陰性がん細胞である)、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
生存がん細胞の前記試料を、成長因子を含み、かつ血清を含まない培地中で培養する、請求項47~67のいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
生存がん細胞の前記試料を、抗アポトーシス剤を含み、かつ血清を含まない培地中でも培養する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
生存がん細胞の第3の部分を、阻害剤のみと接触させる、請求項47~69のいずれかに記載の方法。
【請求項71】
がんと診断されたヒト被験体が異常に活性なGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達を有するかどうかを決定する方法であって、
前記被験体から得た生存がん細胞を含む試料を培養するステップ;
前記試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させるステップ;
前記アゴニストと接触していない前記試料の一部と比較した前記アゴニストと接触した前記試料の一部における前記生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;および
前記連続測定値の数理解析によって、前記アゴニストに対する前記試料の感受性、および前記アゴニストと接触しなかった前記試料の一部と比較して、前記アゴニストと接触した前記試料の一部において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける前記アゴニストについての出力値を決定するステップであって、前記アゴニストについての出力値が所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、前記GPCRシグナル伝達経路が異常に活性と見なされる、決定するステップ
を含む、方法。
【請求項72】
がんと診断されたヒト被験体が異常に活性なGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達を有するかどうかを決定する方法であって、
前記被験体から得た生存がん細胞を含む試料を培養するステップ;
前記試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させるステップであって、前記試料の一部を高い方の濃度の前記アゴニストと接触させ、前記試料の一部を低い方の濃度の前記アゴニストと接触させる、接触させるステップ;
前記低い方の濃度の前記アゴニストと接触した前記試料の一部と比較した高い方の濃度の前記アゴニストと接触した前記試料の一部における前記生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;および
前記連続測定値の数理解析によって、前記アゴニストに対する前記シグナル伝達経路の前記感受性を決定するステップであって、前記GPCRシグナル伝達経路が前記アゴニストに対して超感受性である場合に、前記シグナル伝達経路が異常に活性と見なされる、決定するステップ
を含む、方法。
【請求項73】
前記GPCRシグナル伝達経路が、リゾリン脂質GPCRシグナル伝達経路である、請求項71または72に記載の方法。
【請求項74】
前記リゾリン脂質GPCRが、リゾホスファチジン酸(LPA)受容体またはスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体である、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記アゴニストの前記高い方の濃度がEC90であり、前記アゴニストの前記低い方の濃度がEC10である、請求項72~74のいずれかに記載の方法。
【請求項76】
81未満のEC90:EC10比が、前記シグナル伝達経路が前記アゴニストに対して超感受性であることを示す、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記アゴニストに対する前記シグナル伝達経路の感受性を、ヒル係数を決定するためのヒル式を使用して決定する、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
1を超えるヒル係数値が、前記シグナル伝達経路が前記アゴニストに対して超感受性であることを示す、請求項77に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年12月9日出願の米国仮特許出願第62/945,608号(その内容が、本明細書中で参考として援用される)に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
背景
がんは、医学的に大きな問題であり、およそ40%もの米国の男性および女性がその生涯のある時期にがん診断を受けると推定される。患者によってがんが様々であることを考慮すると、各患者のがんの特徴に基づいて治療を適応させることおよび患者が特定の治療薬に応答する可能性があるかどうかを判定することができることは、非常に興味深く、個別化医療の目的となる。にもかかわらず、既存の予後判定ツールキットには、大きな欠点がある。実際に、現在の主要な遺伝子およびタンパク質のバイオマーカーによる検出では、治療応答性を予想するには不十分であることが示されている。
【0003】
各患者によって個人差があることおよび治療が正の反応を生じるのにしばしば失敗し得るという現実に対する1つの答えとしてコンパニオン診療が開発されている。このタイプの診断試験は、現代のバイオマーカー検出ツールを使用して、特定の薬物に応答する可能性が高い患者の同定を試みるように設計されている。この試験は、遺伝子数の増加、遺伝子の変異(複数可)、または特定の遺伝子の発現レベルの変化の探索を含む。多くのがんは、今日では、疾患に関連する特異的な遺伝子変異または過剰発現した受容体タンパク質の存在を判定するための試験を活用して診断される。しかしながら、ほとんどのバイオマーカー試験は、疾患およびその根本にある原因についての間接的で推測に基づいた情報しか提供しない。したがって、これらの試験のほとんどは、有意な治療応答を予測できる確率が50%を遥かに下回ることが多い。例えば、PI3KCA変異を有する後期乳がん患者のうちでアルペリシブ(Andre et al.,N Engl J Med 2019;380:1929-40)(承認されたPIK3CA阻害剤)に応答するのは20%未満であり、遺伝子変異の存在が、変異した遺伝子/タンパク質による異常なシグナル伝達を特異的に標的にする薬物に患者が応答するかどうかが必ずしも予想されないことを示唆している。
患者の細胞による特定の遺伝子またはタンパク質のバイオマーカーの発現を単純に検出することが治療応答性の予測にあまり有効でないというこの所見は、治療のための処置レジメンを選択するためのより有効な手段が必要であることを実証している。特定の患者の細胞がどのようにして機能するのか、または機能不全であるのかという問題に取り組むための1つのアプローチは、シグナル伝達経路の活性を示すか、活性を欠く生理学的応答パラメーター(細胞接着など)の変化を評価することによって患者の細胞内のシグナル伝達経路の活性を試験することである。このアプローチは、試験されるシグナル伝達経路に選択的に影響を及ぼす標的化治療剤の有効性を正確に予測することが可能であった(PCT公開WO2013/188500号およびWO2018/175251号(その内容全体が本明細書中で参考として援用される)に記載)。しかしながら、上市されている承認薬に限りがあることを考慮すると、これらの薬物に応答して処置できる可能性がある新規の患者の亜集団を同定する必要性が常にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/188500号
【特許文献2】国際公開第2018/175251号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Andre et al.,N Engl J Med 2019;380:1929-40
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本明細書中に記載の方法は、RASノード(例えば、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、BCL)または受容体チロシンキナーゼ(RTK)のシグナル伝達経路の阻害に応答し、したがって、それぞれRASノード標的化治療薬またはRTK標的化治療薬での処置のために選択される異常なGタンパク質共役受容体(GPCR)シグナル伝達を有するがん患者の亜集団の同定、選択、および処置が可能である。かかる方法は、RASノードまたはRTKの遺伝子変異(典型的には、標準治療のガイダンスにおける典型的要件)がないかもしれない患者の亜集団を同定可能であり、したがって、これらの標的化治療薬での処置が最初は考慮されないであろうが、本明細書中に記載の方法を使用して処置の候補として新規に同定されるという点で非常に有益である。本明細書中に開示の方法は、RASノードまたはRTKノードが関与する異常なリゾリン脂質GPCRシグナル伝達を有する患者を同定、選択、および処置するのに特に適する。
より具体的には、本明細書中に開示の方法は、1つの部位(すなわち、GPCR)でのシグナル伝達経路活性の活性化(アゴニズム)を、別の部位(すなわち、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、BCL)またはRTK)でのシグナル伝達経路活性の阻害(アンタゴニズム)と組み合わせており、それにより、患者の細胞中の異常なGPCRシグナル伝達経路活性をRASノードまたはRTKのシグナル伝達経路の阻害によってモジュレートすることができるかどうかが決定される。本明細書中に記載されるように、これらの方法は、がん患者の細胞が阻害剤の標的にされるRASノードの変異していない(すなわち、野生型)バージョンを有するにもかかわらず、RASノードの阻害剤に応答するがん患者の亜集団の同定に成功した。さらに、本方法は、がん患者の細胞がRTKを過剰発現しない(すなわち、RTK陰性細胞)にもかかわらず、RTK阻害剤に応答するがん患者の亜集団の同定に成功した。さらに、本方法はまた、がん患者の細胞が変異したPI3K酵素を持たないにもかかわらず、PI3K阻害剤に応答するがん患者の亜集団の同定に成功した。なおさらには、本方法はまた、がん患者の細胞が変異したPI3K酵素を有するにもかかわらず、PI3K阻害剤に応答しないがん患者の亜集団の同定に成功した。したがって、本開示の方法は、本来は現在の標準治療では同定されなかったであろうある特定のがん患者集団への標的療法を利用可能にする。また、本方法は、選択基準として変異したPI3K酵素を使用する現在の標準治療において患者がPI3K阻害剤での処置を選択される場合でさえも、PI3K阻害剤での処置の適応がないはずの患者を同定する。
【0007】
したがって、一態様では、RASノード標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0008】
別の態様では、RASノードによって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、被験体のがん細胞が、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法が本明細書に提供される。
【0009】
いくつかの実施形態では、RASノードは、ホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)、ERK、MEK、mTOR、RAF、BCL、およびその組み合わせからなる群から選択される。
【0010】
いくつかの実施形態では、試料の第1の部分を2またはそれを超える阻害剤と接触させ、の阻害剤のそれぞれが異なるRASノードを阻害する。例えば、2またはそれを超える阻害剤は、
(a)PI3K、mTOR、およびBCL、
(b)PI3K、mTOR、およびRAF、
(c)PI3K、mTOR、およびERK、ならびに
(d)PI3K、mTOR、およびMEK
からなる群から選択されるRASノードの組み合わせを阻害し得る。いくつかの実施形態では、被験体を、異なるRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬の組み合わせを用いて処置するか、処置のために選択する。
【0011】
いくつかの実施形態では、RASノードはPI3Kであり、阻害剤はPI3K阻害剤である。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110α触媒サブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110β触媒サブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110γ触媒サブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110δサブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110サブユニットの1つを超えるアイソフォームを阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110触媒サブユニットの全てのアイソフォームを阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤はmTORも阻害する。
【0012】
いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、ウォルトマンニン、LY294002、ヒビスコンC、イデラリシブ(GS-1101、CAL-101)、コパンリシブ、デュベリシブ、アルペリシブ、(BYL719)、タセリシブ(GDC-0032)、GDC-0077、ペリホシン、イデアリシブ、ピララリシブ(XL147)、ブパルリシブ(BKM120)、デュベリシブ、ウムブラリシブ、PX-866、ダクトリシブ、CUDC-907、ボクスタリシブ、ME-401、IPI-549、SF1126、RP6530、INK1117、ピクチリシブ(GDC-0941)、パロミド529、SAR260301、GSK1059615、GSK2636771、CH5132799、CZC24832、AZD6482、AZD8835、WX-037、AZD8186、KA2237、CAL-120、AMG-319、AMG-511、HS-173、INCB050465、INCB040093、TGR-1202、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、TGX221、CAL263、RP6530、PI-103、GNE-477、IPI-145、BAY80-6946、BAY1082439.PX866、BEZ235、MKM120、MLN1117、SAR245408、AEZS-136、セラベリシブ(TAK-117)、ゲダトリシブ、オミパリシブ、およびピラルリシブからなる群から選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、RASノードはERKであり、阻害剤はERK阻害剤、例えば、ラボキセルチニブ、SCH772984、SCH900353(MK8353)、ウリキセルチニブ、AZD0364(ATG017)、VX-11e(VTX-113)、CC-90003、LY3214996、FR180204、ASN007、およびGDC0994からなる群から選択されるERK阻害剤である。
【0014】
いくつかの実施形態では、RASノードはMEKであり、阻害剤はMEK阻害剤、例えば、トラメチニブ、ビニメチニブ、ピマセルチブ、コビメチニブ、PD901、U0126、セルメチニブ、PD325901、TAK733、CI-1040(PD184352)、PD198306、PD334581、PD98059、およびSL327からなる群から選択されるMEK阻害剤である。
【0015】
いくつかの実施形態では、RASノードはmTORであり、阻害剤はmTOR阻害剤、例えば、ゲダトリシブ、オミパリシブ、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ダクトリシブ、AZD8055、ABTL-0812、PQR620、GNE-493、KU0063794、トルキニブ、リダフォロリムス、サパニセルチブ、ボクスタリシブ、トリン1、トリン2、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ビスツセルチブ、WYE-125132、BGT226、パロミド529、WYE-687、WAY600、GDC-0349、XL388、ビミラリシブ(PQR309)、オナタセルチブ(CC-223)、サモトリシブ、およびGNE-477からなる群から選択されるmTOR阻害剤である。
【0016】
いくつかの実施形態では、RASノードはRAFであり、阻害剤はRAF阻害剤、例えば、PLX7904、GDC-0879、ベルバラフェニブ(GDC-5573)、SB590885、エンコラフェニブ、RAF265、RAF709、ダブラフェニブ(GSK2118436)、TAK-632、TAK580、PLX-4720、CEP-32796、ソラフェニブ、ベムラフェニブ(PLX-4032)、AZ-628、GW5074、ZM-336372、NVP-BHG712、CEP32496、PLX4032、およびLGX-818からなる群から選択されるRAF阻害剤である。
【0017】
いくつかの実施形態では、RASノードはBcl-xLであり、阻害剤がBcl-xL阻害剤、例えば、ナビトクラックス(ABT-263)、GDC-0199(ABT-199)、サブトクスラクス(Bl-97C1)、ABT-737、AT101、TW037、A1331852、BXI-61、およびBXI-72からなる群から選択されるBcl-xL阻害剤である。
【0018】
いくつかの実施形態では、RASノード阻害剤およびRASノード標的化治療薬は同じ化合物である。いくつかの実施形態では、RASノード阻害剤およびRASノード標的化治療薬は異なる化合物である。
【0019】
別の態様では、RTK標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、RTKシグナル伝達の阻害剤と同じRTKを阻害するRTK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0020】
別の態様では、RTKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、被験体のがん細胞が、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が30%と等しいか、それを超える場合、RTKシグナル伝達の阻害剤と同じRTKを阻害するRTK標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法が本明細書に提供される。
【0021】
いくつかの実施形態では、RTKは、EGFR/ERBB、MuSK、HGFR、NGFR、FGFR、IR、CCK、EphR、RYK、RET、ROS、PDGFR、DDR、LTK、VEGFR、TIE、AXL、ROR、LMR、またはRTK106のファミリーのメンバーから選択される。一実施形態では、RTKはErbBファミリーのメンバー、例えば、HER2である。
【0022】
いくつかの実施形態では、RTK阻害剤は、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ラパチニブ、バンデタニブ、アファチニブ、パニツムマブ、セツキシマブ、ブリガチニブ、イコチニブ、オシメルチニブ、ネラチニブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、ペルツズマブ、トラスツズマブ、ダコミチニブ、アコミチニブ、BIBW2992、テセバチニブ、アムバチニブ、ネシツムマブ、REGN955、MM-151、ナザルチニブ、ASP8273、オルムチニブ、TDM1、MEDI4276、ZW25、ZW33、ツカチニブ、ロシレチニブ、イブルチニブ、DS-8201、TAS07828、XMT-1522、TAK-788、Sym013、LIM716、セリバンツマブ、AMG888、ルムレツズマブ、PF-06804103、ARX788、ポジオチニブ、ピロチニブ、ズリゴツズマン(duligotuzuman)、MCLA-128、MM-111、カボザンチニブ、チバンチニブ、クリゾチニブ(PF-2341066)、テポチニブ、カプマチニブ、サボリチニブ、K252a、SU11274、PHA-665752、ARQ197、ホレチニブ、SGX523、MP470、AV229、AMG102、CGEN241、DN30、OA5D5、リロツムマブ、オナルツズマブ、SAR125844、エムベツズマブ、ABBV-399、sym015、フィクラツズマブ、メレスチニブ、JNJ-61186372、アルチラチニブ、Indo5、BMS-754807、BMS-777607、グレサチニブ、CEP-751、ANA-12、シクロトラキシンB、ゴッシペチン、エントレクチニブ、ラロトレクチニブ、LOXO-101、ドボチニブ、レンバチニブ、ポナチニブ、レゴラフェニブ、ルシタニブ、セジラニブ、インテダニブ、ブリバニブ、PD173074、AZD4547、BGJ398、JNJ42756493、GP369、BAY1187982、MFGR1877S、FP1039、パゾパニブ、エルダフィチニブ、Debio-1347、B-701、フィソガチニブ、FIIN-2、FIIN-3、BLU9931、LY2874455、LY3076226、スニチニブ、AG538、AG1024、NVP-AEW541、フィギツムマブ、リンシチニブ、ダロツズマブ、MEDI-573、テプロツムマブ、ガニツマブ、セリチニブ、MM-141、コフェツズマブペリドチン(PF-06647020)、ダサチニブ、ニロチニブ、NVP-BHG712、シトラバチニブ、ALW-II-41-27、JI-101、123C4、ソラフェニブ、アパチニブ、AST487、アレクチニブ、ドビチニブ、クリゾチニブ、ロルラチニブ、TPX-0005、DS-6051b、イマチニブ、リニファニブ、KTN0182A、ギルテリチニブ、キザルチニブ、ミドスタウリン、レスタウルチニブ、リプレチニブ、マシチニブ、アバプリチニブ、ペキシダルチニブ、テラチニブ、モテサニブ、PLX7486、ARRY386、JNJ-40346527、BLZ945、エマクツズマブ、AMG820、IMC-CS4、カビラリズマブ、CHMFL-KIT-033、SU14813、Ki20227、OSI-930、フルマチニブ、トセラニブ、AZD3229、AC710、AZD2932、ICK03、PLX647、c-Kit-IN-3、バタラニブ、ベバシズマブ、レバスチニブ、BAY-826、ベムセンチニブ、R428(BGB324)、YW327.6S2、GL2I.T、TP-0903、LY2801653、ボスチニブ、MGCD265、ASP2215、SGI-7079、BGB324、HuMax-AXL-ADC、およびUC-961からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、RTKノード阻害剤およびRTKノード標的化治療薬は同じ化合物である。いくつかの実施形態では、RTKノード阻害剤およびRTKノード標的化治療薬は異なる化合物である。
【0023】
別の態様では、がんと診断されたヒト被験体が異常に活性なGPCRシグナル伝達を有するかどうかを決定する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞を含む試料を培養するステップ;
試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させるステップ;
アゴニストと接触していない試料の一部と比較したアゴニストと接触した試料の一部における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;および
連続測定値の数理解析によって、アゴニストに対する試料の感受性、およびアゴニストと接触しなかった試料の一部と比較して、アゴニストと接触した試料の一部において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付けるアゴニストについての出力値を決定するステップであって、アゴニストについての出力値が所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、GPCRシグナル伝達経路が異常に活性と見なされる、決定するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0024】
別の態様では、がんと診断されたヒト被験体が異常に活性なGPCRシグナル伝達を有するかどうかを決定する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞を含む試料を培養するステップ;
試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させるステップであって、試料の一部を高い方の濃度のアゴニストと接触させ、試料の一部を低い方の濃度のアゴニストと接触させる、接触させるステップ;
低い方の濃度のアゴニストと接触した試料の一部と比較した高い方の濃度のアゴニストと接触した試料の一部における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;および
連続測定値の数理解析によって、アゴニストに対するシグナル伝達経路の感受性を決定するステップであって、GPCRシグナル伝達経路がアゴニストに対して超感受性である場合に、シグナル伝達経路が異常に活性と見なされる、決定するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0025】
いくつかの実施形態では、アゴニストの高い方の濃度がEC90であり、アゴニストの低い方の濃度がEC10である。いくつかの実施形態では、81未満のEC90:EC10比が、シグナル伝達経路がアゴニストに対して超感受性であることを示す。いくつかの実施形態では、アゴニストに対するシグナル伝達経路の感受性を、ヒル係数を決定するためのヒル式を使用して決定する。いくつかの実施形態では、1を超えるヒル係数値は、シグナル伝達経路がアゴニストに対して超感受性であることを示す。
【0026】
上記方法のいくつかの実施形態では、GPCRは、リゾリン脂質GPCR(LPA受容体(例えば、LPAR1、LPAR2、LPAR3、LPAR4、LPAR5、およびLPAR6)またはS1P受容体(例えば、S1PR1、S1PR2、S1PR3、S1PR4、およびS1PR5)など)である。
【0027】
いくつかの実施形態では、GPCRシグナル伝達のアゴニストは、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、代謝産物、リガンド、試薬、有機分子、シグナル伝達因子、成長因子、生化学物質、またはその組み合わせである。好適なLPA受容体のアゴニストとしては、例えば、リゾホスファチジン酸(LPA)(例えば、LPA 18:0、LPA 18:1、LPA 18:2、LPA 20:4、およびLPA 16:0)、FAP-10、FAP-12、およびOMPTが挙げられる。好適なS1P受容体のアゴニストとしては、例えば、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)、FTY720、BAF312、A971432、セラリフィモド、CS2100、CYM50260、CYM50308、CYM5442、CYM5520、CYM5541、GSK2018682、RP001塩酸塩、SEW2871、TC-G1006、およびTC-SP14が挙げられる。
【0028】
上記方法のいくつかの実施形態では、GPCRシグナル伝達経路が被験体のがん細胞で異常に活性である。いくつかの実施形態では、がんは、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、卵巣がん、および白血病からなる群から選択される。1つの実施形態では、被験体から得たがん細胞中のRASノード(例えば、PI3K酵素または遺伝子)は、変異していない(野生型)(例えば、変異していないPI3K、RAF、MEK、ERK、mTOR、BCL、またはその組み合わせ)である。別の実施形態では、被験体から得たがん細胞中のRASノード(例えば、PI3K酵素または遺伝子)は、変異している。別の実施形態では、被験体から得たがん細胞は、HER2などのRTKを過剰発現せず(すなわち、がん細胞がRTK(例えば、HER2)陰性がん細胞である)、RTKに関連する遺伝子変異(例えば、HER2遺伝子増幅)も持たない。別の実施形態では、がん細胞中でGPCRシグナル伝達のアゴニストによって活性化されたGPCR(例えば、LPA受容体またはS1P受容体)は変異していない。別の実施形態では、がん細胞中でGPCRシグナル伝達のアゴニストによって活性化されたGPCRは、過剰発現していない。
【0029】
いくつかの実施形態では、生存がん細胞の試料を、成長因子を含み、かつ血清を含まない培地中で培養する。いくつかの実施形態では、生存がん細胞の試料を、抗アポトーシス剤を含み、かつ血清を含まない培地中でも培養する。
【0030】
上記方法のいくつかの実施形態では、細胞接着または細胞付着を、インピーダンスバイオセンサーまたは光学的バイオセンサーを使用して測定する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
本開示は、細胞が標的化治療剤に応答するがん患者を同定する方法、ならびにかかる薬剤でかかる患者を選択および処置する方法を提供する。本開示は、少なくとも一部が、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、およびBCL)標的化治療薬またはRTK標的化治療薬に応答する患者を、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、およびBCL)またはRTKのシグナル伝達経路の阻害と組み合わせた、細胞中のGPCRシグナル伝達経路の活性化による読み出しとして細胞接着または細胞付着の変化を使用する細胞ベースのアッセイで同定することができるという発見に基づく。したがって、患者の細胞は、1つの部位(すなわち、GPCR)でアゴナイズされ、かつ別の部位(すなわち、RASノードまたはRTK)で阻害され、RASノード阻害剤またはRTK阻害剤に応答する患者のがん細胞の同定が成功している。さらに、変異していないRASノード(例えば、野生型PI3K、mTOR、RAF、MEK、およびERK)を発現する患者および変異したPI3K酵素または遺伝子を発現する患者の両方において、ならびに細胞がRTKを過剰発現せず(すなわち、HER2陰性がん細胞などのRTK陰性がん細胞)、RTKに関連する遺伝子変異(例えば、HER2遺伝子増幅)も持たない患者においても応答性がん細胞の同定が成功している。したがって、本開示の方法は、がん患者の新規の亜集団を標的化治療剤での処置のために同定可能である。
【0032】
本開示をより容易に理解できるように、ある特定の用語を最初に定義する。さらなる定義を、詳細な説明を通して記載する。別段の定義がない限り、本明細書中で使用した全ての技術用語および科学用語は、本発明に属する当業者によって一般的に理解されている意味を有する。本明細書中で言及した全ての特許、出願、公開出願、および他の刊行物は、その全体が参考として援用される。本節に記載の定義が本明細書中で参考として援用される前記特許、出願、公開出願、および他の刊行物に記載の定義と矛盾するか一致しない場合、本明細書中で参考として援用された定義より本節に記載の定義を優先する。以下の用語は、本明細書中で使用される場合、以下の定義を有することを意図する。
【0033】
用語「約」は、本明細書中で使用される場合、およそ、ほぼ(in the region of)、おおよそ、または前後を意味する。用語「約」を数値範囲と併せて使用する場合、これは、記載した数値の上下の境界まで伸ばすことによってその範囲を修正する。一般に、用語「約」は、本明細書中で、記載した値の上下10%のばらつきに数値を修正するために使用される。1つの態様では、用語「約」は、使用される数値のプラスマイナス20%を意味する。したがって、約50%は、45%~55%の範囲を意味する。端点による本明細書中に列挙された数値範囲は、その範囲内に包含される全ての数字および小数が含まれる(例えば、1~5には、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4、および5が含まれる)。
【0034】
用語「アクチベーター」、「活性化する」、「活性化」、「撹乱物質」、「撹乱する」、および「撹乱」は、細胞に関して併せて使用される場合、当業者に周知の細胞に対する効果を有する試薬、承認薬、実験化合物および薬物様分子、ならびに開発段階にある実験薬、有機分子、成長因子、シグナル伝達因子、生化学物質、核酸、サイトカイン、ケモカイン、またはタンパク質を使用した細胞の生理学的操作の具体的な主題または活性を指す。操作は、細胞の生理学的活性の任意のモジュレーションを指し、上方調節または下方調節が挙げられ得るが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、用語「アゴニズム」は、細胞の生理学的活性(例えば、細胞シグナル伝達活性)の上方調節を指し、用語「アンタゴニズム」は、細胞の生理学的活性(例えば、細胞シグナル伝達活性)の下方調節を指す。
【0035】
用語「接着」は、細胞のECMへの、または他の細胞への直接の、間接的な、および/または経路コミュニケーションによる間接的な接続を担う任意の数の分子が関与するプロセスを包含することができる。例えば、インテグリンは、細胞骨格形成、細胞運動性、細胞周期の調節、細胞のインテグリン親和性の調節、細胞のウイルスへの付着、細胞の他の細胞またはECMへの付着を担う。また、インテグリンは、シグナル伝達(細胞がある種のシグナルまたは刺激を別の種に細胞内および細胞間で変換するプロセス)を担う。インテグリンは、ECMから細胞へ情報を伝達することができ、細胞から他の細胞(例えば、他の細胞上のインテグリンを介して)またはECMに情報を伝達することができる。α-サブユニットおよびβ-サブユニットの組み合わせにより、インテグリンのリガンド特異性が決定される。多数のインテグリンは、同一のリガンドに結合特異性を有し、この特異性は、インテグリン発現/活性化パターンと、in vivoでの相互作用を特定するリガンドの利用可能性との組み合わせである。接着は、細胞領域内または細胞集団の領域内の密度を変化させることができる。接着は、細胞内または細胞集団内の量を変化させることができる。接着は、接着プロセスに関与する特異性またはタンパク質の型によって質を変化させることができる。接着は、極性を変化させることができる。
【0036】
用語「アッセイ」または「アッセイすること」は、例えば、標的の存在、非存在、量、範囲、キネティクス、動力学、または型(外因性の刺激(例えば、治療剤またはリガンド)を用いた活性化の際の細胞の光学的応答またはバイオインピーダンス応答など)を決定するための分析を指す。
【0037】
用語「付着する」または「付着」は、物理的吸収、化学的結合、および化学的誘引などのプロセス、またはその組み合わせなどによる、例えば、本開示の表面改変物質、細胞、およびリガンド候補化合物などの実体の表面への接続を指す。特に、「細胞付着」、「細胞接着」、または「細胞試料の付着」は、培養または細胞係留物質との相互作用などによる、細胞同士の結合または表面への相互作用を指す。
【0038】
用語「付着パターン」は、細胞または細胞試料の表面への接続の観察可能な形質または特徴を指す。付着パターンは、定量的であり得る(例えば、付着部位数)。付着パターンは定性的でもあり得る(例えば、細胞外基質への分子の付着部位の優先度)。
【0039】
用語「細胞付着シグナル(CAS)」は、マイクロプレートのウェルに入れてインピーダンスバイオセンサーを用いて分析した場合に、細胞によって生成される細胞付着の定量的測定値を指す。典型的には、いかなる薬剤の非存在下での細胞のCASを、特定のシグナル伝達経路に影響を及ぼす賦活剤(activator agent)(例えば、GPCRシグナル伝達経路のアゴニストなどのアゴニスト)のみの存在下での細胞のCASおよび/または特定のシグナル伝達経路または経路内のノードの特異的阻害剤と組み合わせた特定のシグナル伝達経路に影響を及ぼす賦活剤の存在下での細胞のCASと比較することができる。典型的には、細胞のCASをオームで測定する。
【0040】
用語「抗体」を、最も広義で使用し、具体的には、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体が挙げられる)、ヒト化抗体、キメラ抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、および所望の生物学的活性または機能を示す抗体断片が挙げられる。
【0041】
抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得、例えば、これらの抗原結合断片であり得る。「抗体断片」は、全長抗体の一部、一般に、その抗原結合領域または可変領域を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)、およびFv断片;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子;および多重特異性抗体(例えば抗体断片から形成された二重特異性抗体など)が挙げられる。「機能的断片」は、実質的に全長抗体の抗原への結合を保持し、生物学的活性を保持する。個別の薬物分子が別個に達成することができる効力、特異性、および有効性を超えるように、抗体を、共有結合または他の結合を介して1またはそれを超える薬物と組み合わせることによって「補強」または「コンジュゲート」することができる。
【0042】
本明細書中で使用される用語「確認剤」は、本明細書中に記載の試験で使用される目的の経路活性を破壊するか影響を及ぼすことが公知の小分子、機能が公知の特異的リガンド、または抗体もしくは親和性/特異性試薬を指す。これは、賦活剤を細胞試料に導入して、目的の経路活性に直接関連する活性を特異的に開始させるときに得られる特異的作用機序に関連する経路活性を確認し、定量するために試験中に使用される。例えば、アクチベーターが細胞表面受容体の公知のリガンドである場合、確認剤の導入後に変化した本明細書中に記載の方法で測定された活性は、前記の方法が分析を意図する経路に関連する活性の量を表すであろう。さらなる例では、リガンド結合領域、受容体二量体化領域、および受容体チロシンキナーゼ領域から構成される受容体に当てはまり得るが、賦活剤は、受容体リガンド結合部位に結合するリガンドであり得る。したがって、確認試薬は、リガンド結合前またはリガンド結合後の事象(複数可)(すなわち、受容体二量体化または受容体二量体化後の受容体チロシンキナーゼ活性)を防止する薬剤であり得る。さらに、確認試薬は、目的の患者で活性化されたか機能不全の下流シグナル伝達経路の特定の部分を改善する薬剤であり得る。
【0043】
本明細書中で使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一の抗体集団(すなわち、集団中の個別の抗体が、微量で存在し得る天然に存在する変異の可能性を除いて同一である)から得た抗体を指す。モノクローナル抗体は、特異性が高く、単一の抗原部位に対する。さらに、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的に含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物と対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対する。修飾語句「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得た抗体の特徴を示し、任意の特定の方法によって抗体を産生する必要があると解釈されない。
【0044】
用語「免疫捕捉試薬」は、任意のタイプの抗体を指し、さらに、RNA、DNA、および塩基の合成バリアントを含むポリマーから構成されたアプタマー、またはアプタマーもしくは試薬が構築されており、別の分子を特異的に認識および結合してその存在、量、および/または質をシグナル伝達する任意の合成分子が含まれる。
【0045】
用語「培養」は、本発明を実施するための細胞の調製を指す。調製は、本発明の種々の実施時期、種々の培地、培地補充物質、温度、湿度、CO2%、播種密度、細胞型の純度または混合物の種々の条件、および細胞培養分野の当業者に公知の他の条件を含むことができる。調製は、細胞を増殖させ、休止、老化、および進入、通過するようにすることが可能であるか、細胞周期の種々の段階で監視される条件を含んでよい。培養は、本発明の理想的な実施を可能にするか、最適化する当業者に公知の幾つもの培地または補充物質(ビタミン、サイトカイン、成長因子、血清(例えば、供給源となる動物は、ウシ、ウシ胎児、ヒト、ウマ、または他の哺乳動物である)、代謝産物、アミノ酸、微量元素、イオン、pH緩衝液、および/またはグルコースなどであるが、これらに制限されない)を含んでよい。本発明による活性化の前または後に、無血清培地および/または無アクチベーター培地を用いて細胞を培養してよい。培養は、理想的には、患者の腫瘍微小環境を模倣するようにデザインされた条件を含んでよい。培養調製物は、理想的には、特定の経路を経路活性のアゴニズムまたはアンタゴニズムの測定が可能な基底レベルまたは高められたレベルに置かれるようにデザインされた条件を含んでよい。
【0046】
用語「基本培地」は、詳細に明らかにされた量で、無機塩類、必須アミノ酸、グルコース、ビタミン、およびpH緩衝液を含むあるタイプの培養培地を指し、この培地は、方法が分析を意図するシグナル伝達経路を刺激する薬剤を含まない。多くの基本培地が当業者に公知であり、例えば、DMEM、F12、MEM、MEGM、RPMI-1640、およびその組み合わせを挙げることができる。例えば、ErbBシグナル伝達経路を分析しようする場合、基本培地はErbB経路を撹乱することが知られている試薬を含まない。基本培地は、細胞集団が生存を維持し、個別の細胞型の不均一性および異なる細胞周期を示す細胞の正規分布を保持するように細胞培養物を維持するために使用される。基本培地は、本明細書中に記載の方法における疾患細胞の試料を賦活剤と接触させるステップの直前に前記の方法において被験体から得た罹患細胞の試料を培養するために使用される。
【0047】
用語「新鮮な」は、材料に適用する場合、まだ使用されていない材料を指す。したがって、新鮮な基本培地は、まだ使用されていない基本培地である。細胞培養物を含む容器中の基本培地の体積を増大させるために、基本培地中で既に培養されている疾患細胞の試料を含む容器に新鮮な基本培地を添加することができる。あるいは、容器中の罹患細胞の試料を培養するために使用されている基本培地の一部を、細胞培養容器から除去し、新鮮な基本培地と交換することができる。いずれの場合においても、細胞培養容器中の基本培地の総体積の50%超が新鮮な基本培地である場合、細胞培養容器は、新鮮な基本培地を含むと見なされる。同一の基本培地中で長期間(例えば、72時間超)培養された細胞は、個別の細胞型の不均一性を喪失し、大部分の細胞がG0/G1細胞周期に進入してする場合があり、それにより、シグナル伝達経路活性の測定を妨げる場合がある。新鮮な培地中に置かれた細胞試料は、新規の培地に適合するために一定期間(例えば、少なくとも12時間)を要し、その結果、細胞試料が元の細胞試料で見出された個別の細胞型の不均一性および異なる細胞周期を示す細胞の正規分布を反映する。
【0048】
用語「緩衝培地」は、pH緩衝液および等張液を含む溶液を指す。緩衝培地は、典型的には、細胞試料を枯渇させるか、細胞に休止または老化(細胞が休止しているときに見出される細胞周期G0/G1など)を進めさせるために使用される。
【0049】
「キメラ」抗体(免疫グロブリン)は、特定の種に由来するか、特定の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体中の対応配列と同一であるか相同であり、一方で、鎖(複数可)の残部が、別の種に由来するか別の抗体クラスまたはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一であるか相同である重鎖および/または軽鎖の部分、ならびに、所望の生物学的活性を示す限り、かかる抗体の断片を含む(米国特許第4,816,567;およびMorrison et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851-6855)。
【0050】
用語「ヒト化抗体」は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小の配列を含む抗体を指す。ほとんどの部分について、ヒト化抗体は、レシピエント抗体の可変ドメインの超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)(マウス、ラット、ウサギ、または非ヒト霊長類など)由来の超可変領域によって置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体またはアクセプター抗体)である。超可変領域は、配列によって定義された相補性決定領域(CDR)(例えば、Kabat 1991,1987,1983を参照のこと)、構造によって定義された超可変ループ(HVL)(例えば、Chothia 1987を参照のこと)、またはその両方であり得る。
【0051】
「生体分子コーティング」は、天然に存在する生体分子もしくは生化学物質、または1またはそれを超える天然に存在する生体分子または生化学物質に由来するかこれらに基づいた生化学物質である分子を含む表面上のコーティングである。例えば、生体分子コーティングは、細胞外基質成分(例えば、フィブロネクチン、コラーゲン、ラミニン、他の糖タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、IntercellularCAM、VascularCAM、MAdCAM)、またはその誘導体を含むことができるか、あるいは、天然に存在する生化学物質であるリジンおよびオルニチンに基づいた高分子である生化学物質(ポリリジンまたはポリオルニチンなど)を含むことができる。アミノ酸などの天然に存在する生化学物質に基づいた高分子は、天然に存在する生化学物質の異性体または鏡像異性体を使用することができる。また、コーティングとしては、細胞表面受容体または細胞表面同族結合タンパク質または前記の細胞表面タンパク質に親和性を示すタンパク質を挙げることができる。
【0052】
用語「ベースライン測定値」は、試験される一連の細胞の生理学的出発点を指し、薬物を添加する前の期間にわたる測定値の評価に基づく。これには、外因性の活性化前の基本細胞代謝の測定値またはCReMSの読み取り値が挙げられ得る。あるいは、この測定値としては、外因性の活性化を行うか行わない通常の健康な細胞の代謝機能のCReMS測定値が挙げられ得るが、これに限定されない。
【0053】
用語「細胞応答測定システム」または「CReMS」は、細胞中、細胞中かつ細胞間、および細胞と計装デバイスとの間の生理学的応答または細胞応答のパラメーターの変化を定量的に決定することができるデバイスを指す。実施形態では、細胞は、無標識のホールセルである。生理学的応答または細胞応答のパラメーターの変化を、分析物(例えば、グルコース、酸素、二酸化炭素、アミン含有材料(タンパク質、アミノ酸など)、細胞外基質の、細胞シグナル伝達分子の、または細胞増殖、細胞形態、または細胞骨格再構成の)の変化を決定することによって測定する。CReMSの例は、バイオセンサーである。
【0054】
本明細書中で使用される用語「CReMSシグナル」は、電気化学的CReMSによって分析されたときの細胞の細胞生理学的変化の1つの尺度と定義される。CReMSシグナルおよびCReMSシグナルの変化は、生理学的変化を測定する特定の電気化学変換器に関連するので、種々の単位を有することができる。例えば、CReMSシグナルは、単位(細胞インデックス、インピーダンス、波長単位、pH単位、電圧、電流であるが、これらに制限されない)を有し得るか、あるいは、単位の比を使用することによって無次元となってもよい。これらの単位のいずれかは、時間成分を有してよい。生物学、生化学、および物理学の分野の当業者によって頻繁に行われているように(例えば、正規化、ベースライニング、カーブサブトラクティング、またはこれらの任意の組み合わせが含まれる)、明確にするためにCReMSシグナルを数学的に修正することができる。CReMSシグナルを、単一の時点で、または、より好ましくは、完全な生理学的細胞応答パターンを表す一連の時点にわたって測定してよい。
【0055】
CReM「光シグナル」という用語は、細胞休止の際にCReMSでバイオセンシングされるフォトニック結晶から反射される光として測定された波長値または波長値の変化と定義する。単位は、典型的には、ピコメートルまたはナノメートルであるが、変化の比を報告する場合には無次元ともなり得る。「光シグナル」は、前記の単位の時間との組み合わせで表すことができる。光の反射波長のシフトは、フォトニック結晶表面上の質量に比例する。したがって、「光シグナル」は、CReMS上の細胞数の定量的尺度である。さらに、「光シグナル」は、例えば、細胞形態、細胞接着、細胞生存度の変化としての細胞の生理学的状態の尺度であり、細胞構造が再編成されると、センサーにおける質量に差が生じ、波長シフトとして検出される。
【0056】
本明細書中で使用される用語「細胞インデックス」は、インピーダンスの測定値と定義され、本発明の一例において、固定電気的周波数(fixed electrical frequency)(例えば、10kHz)および固定電圧での測定によって適用することができる。
そして、以下の式によって計算される:細胞インデックスi=(Rtn-Rt0)/F
式中、
i=1、2、または3時点
F=15オーム(装置を周波数10kHzで操作した場合の一例)
t0は、時点T0で測定したバックグラウンド抵抗である。
tnは、細胞の添加、細胞の生理学的変化、または細胞活性化後の時点Tnで測定した抵抗である。
【0057】
細胞インデックスは、細胞状態を表すための測定した電気インピーダンスの相対的変化として導き出された無次元パラメーターである。細胞が存在しないか、電極上に十分に接着していない場合に、CIはゼロである。同一の生理学的条件下で、電極に付着する細胞が多いほど、CI値は大きくなる。したがって、CIは、ウェル中に存在する細胞数の定量的尺度である。さらに、細胞の生理学的状態(例えば、細胞形態、細胞接着、または細胞生存度)が変化すると、CIの変化をもたらす。
【0058】
用語「測定量」は、臨床試験で測定されることが意図される量と定義される。本明細書中に記載の発明のために、測定を意図される量は、活性化に対する細胞の生理学的応答の変化である。活性化に対する細胞の生理学的応答の測定値の変化を、種々のユーグリッド数理解析を使用して数学的に決定することができ、数値で報告することができるか(定量的試験の場合)、または陽性または陰性の結果として報告することができる(定性試験の場合)。定量試験および定性試験の両方において、測定値(例えば、試験結果)をカットオフ値と比較し、この値を超えるか下回ることで異なる臨床的な決定または解釈を行う。
【0059】
用語「出力値」は、測定量の1つのタイプであり、シグナル伝達経路に選択的に影響を及ぼす1またはそれを超える賦活剤および賦活剤と同一のシグナル伝達経路に影響を及ぼす1またはそれを超える治療剤と接触させた被験体由来の生存細胞試料で生じるCReMSシグナル(細胞接着または細胞付着の測定値など)の相違を指す。出力値は、経時的に得たCReMSシグナルの種々のユーグリッド数理解析を使用して導いてよく、数値で報告することができるか(定量的試験の場合)、または陽性または陰性の結果として報告することができる(定性試験の場合)。例えば、賦活剤(例えば、アゴニスト)のみと接触させた被験体由来の細胞試料は、1,000単位のCReMSシグナルを生成し得、賦活剤および治療剤と接触させた同一の被験体由来の細胞試料は、100単位のCReMsシグナルを生成し得る。この例での出力値は、賦活剤のみと接触させた細胞試料と、賦活剤および治療剤の組み合わせと接触させた細胞試料との間の測定されたCReMSシグナル単位の差である900CReMSシグナル単位に等しいであろう。定量試験および定性試験の両方において、出力値(例えば、試験結果)を、カットオフ値と比較してよく、この値を超えるか下回ることで異なる臨床的な決定または解釈を行う。
【0060】
用語「出力値の百分率」は、シグナル伝達経路に選択的に影響を及ぼす1またはそれを超える賦活剤および賦活剤と同一のシグナル伝達経路に影響を及ぼす1またはそれを超える治療剤と接触させた被験体の細胞試料由来の生存細胞試料で生じるCReMSシグナルの、1またはそれを超える賦活剤または1またはそれを超える治療剤のみと接触させた試料で生じるCReMSシグナルと比較した変化率を指す。例えば、賦活剤のみと接触させた被験体由来の細胞試料は、1,000単位のCReMSシグナルを生成し得、賦活剤および治療剤と接触させた同一の被験体由来の細胞試料は、100単位のCReMsシグナルを生成し得る。この例での出力値の百分率は、賦活剤のみと接触させた細胞試料と賦活剤および治療剤の組み合わせと接触させた細胞試料で測定されたCReMSシグナル単位の差を、賦活剤のみと接触させた細胞試料で測定されたCReMSシグナル単位で除したものである90%に等しいであろう。定量試験および定性試験の両方において、出力値の百分率を、カットオフ値の百分率と比較してよく、これを超えるか下回ることで異なる臨床的な決定または解釈を行う。
【0061】
用語「基本形態」は、薬剤、アクチベーター、または刺激物質の導入前の細胞または細胞試料の形態および構造を指す。
【0062】
用語「細胞接着(cell adhesion)」(「細胞接着(cellular adhesion)」、「細胞付着(cell attachment)」、または「細胞付着(cellular attachment)」と互換的に使用される)は、ある細胞の、別の細胞、細胞外基質成分、または表面(例えば、マイクロタイタープレート)への結合を指す。
【0063】
用語「バイオマーカー」は、最も一般的な意味において、細胞または患者の健康状態または疾病状態の条件の生物学的測定基準を指す。一般的なバイオマーカーの制限されないリストとしては、哺乳動物で見出される生物学的に誘導された分子、哺乳動物の細胞もしくは組織の生物学的活性、遺伝子コピー数、遺伝子変異、一塩基多型、遺伝子発現レベル、mRNAレベル、スプライスバリアント、転写修飾、転写後修飾、後生的修飾、細胞表面マーカー、タンパク質または核酸の差次的発現(機能的RNAの全ての形態が挙げられる)、核酸の増幅、細胞形態、翻訳後修飾、タンパク質の短縮、リン酸化、脱リン酸化、ユビキチン化、脱ユビキチン化、代謝産物、任意の生合成段階のホルモン、サイトカイン、ケモカイン、およびその組み合わせが挙げられる。バイオマーカーのサブセットを、病理学者による疾患の診断を補助し、医師の治療薬の処方を補助するために、診断および治療を選択する目的で使用する。バイオマーカーは、典型的には、固定し、マウントした組織中の遺伝子コピー数、遺伝子変異、またはタンパク質の状態もしくは活性を特定しないタンパク質レベルを測定する。本発明は、新規のタイプのバイオマーカー(患者の生細胞試料に起因する活性または動力学である生理学的応答パラメーター)を含む。
【0064】
用語「バイオマーカーの状態」は、患者、または患者の細胞におけるバイオマーカー(複数可)の評価を指し、典型的には、バイオマーカーが存在する場合の「バイオマーカー陽性」またはバイオマーカーが非存在の場合の「バイオマーカー陰性」として報告される。タンパク質受容体をバイオマーカーとして使用する場合、バイオマーカー陽性の結果は、受容体が過剰発現されたか増幅されたとも称され、バイオマーカー陰性の結果は、受容体が正常に発現されたか増幅されないとも称される。バイオマーカーまたはバイオマーカーシグネチャーが疾患進行の予後指標であるか、治療有効性を予想する疾患について、現在の臨床診療は、患者をバイオマーカー陰性または陽性のいずれかに分類することによって患者の診断を改良するために、バイオマーカーまたはその関連する変異の量の測定に依拠する。バイオマーカーの状態の決定を使用して、患者を処置するための治療薬選択の指針とすることが多い。バイオマーカー陽性患者とバイオマーカー陰性患者とを識別するために使用されるバイオマーカー測定値のカットオフ値は、バイオマーカーによって異なる。バイオマーカーが薬物標的である場合、カットオフ値は、カットオフ値を超える場合にバイオマーカーを標的にする治療薬を患者に投与し、カットオフ値未満の場合にバイオマーカーを標的にする治療薬を患者に投与しない条件である。臨床試験は、典型的には、バイオマーカーの臨床的関連を同定するために必要である。
【0065】
用語「バイオセンサー」は、分析物もしくは分析物の変化または細胞の生理学的条件を測定するデバイスを指す。実施形態では、バイオセンサーは、典型的には、以下の3つの部分を含む:分析物(例えば、細胞外基質、細胞シグナル伝達分子、または細胞増殖、組織、細胞、代謝産物、異化産物、生体分子、イオン、酸素、二酸化炭素、炭水化物、タンパク質などの非限定的な例が含まれる)に結合するか、分析物を認識する生物学的構成成分または要素、検出要素(光学的、圧電性、電気化学的、温度測定、または磁性などの物理化学的様式で操作する)、および両方の構成成分と関連した変換器。
【0066】
用語「光学的バイオセンサー」は、蛍光、吸収、透過率、密度、屈折率、および光の反射を測定するデバイスを指す。実施形態では、光学的バイオセンサーは、生細胞、病原体、またはその組み合わせにおける分子認識事象または分子活性化事象を定量可能なシグナルに変換するための光変換器を含むことができる。さらに、実施形態は、フォトニック結晶デバイス、光導波路デバイス、および表面プラズモン共鳴デバイスを含むことができる。
【0067】
用語「インピーダンスバイオセンサー」は、患者の生細胞の複素インピーダンスの変化(デルタZ、すなわちdZ)を測定するデバイスを指し、ここで、インピーダンス(Z)は、オームの法則によって説明される通り、電圧の電流に対する比(Z=V/I)に関連する。これは、電極の細胞との界面での局所イオン環境を感知し、電圧変動および電流変動の関数としてこれらの変化を検出する。正常な機能またはその活性化の結果として細胞が生理学的に変化すると、電極周囲の電流が定量可能に変化し、測定されるシグナルの規模および特徴に影響を及ぼす。実施形態では、インピーダンスバイオセンサーは、生細胞、病原体、またはその組み合わせにおける分子認識事象または分子活性化事象を定量可能なシグナルに変換するための電極または電気回路を含むことができる。実施形態では、ISFETバイオセンサーは、生細胞、病原体、またはその組み合わせにおける分析物認識事象または細胞活性化事象を定量可能なシグナルに変換するためのイオン選択性電界効果電気変換器を含むことができる。ISFETバイオセンサー内の分析物の濃度が変化した場合にトランジスタ内の電流が変化し、これにより定量シグナルが生じる。
【0068】
用語「細胞シグナル伝達」は、細胞内または細胞間の情報伝達を指す。細胞間の直接接触または一方の細胞からの物質の放出および別の細胞による取り込みによって細胞シグナル伝達を行うことができる。細胞間シグナル伝達は、2つの分子(例えば、リガンドおよび受容体)の間の相互作用を介して生じ得る。受容体結合は、細胞内シグナル伝達のカスケードを誘発することができる(例えば、細胞内の生化学的変化の惹起または膜電位の修飾)。
【0069】
用語「シグナル伝達経路」は、細胞内もしくは細胞間の連絡または情報の伝達に関与する一連の細胞成分(細胞表面受容体、核内受容体、シグナル調節タンパク質、および細胞内シグナル伝達成分が含まれる)を指す。本明細書中で使用される場合、特定の「シグナル伝達経路」は、細胞内シグナル伝達のカスケードを誘発する細胞表面受容体または細胞内シグナル伝達に関与する成分のいずれかにしたがって命名され得る。例えば、LPAのLPA受容体への結合またはS1PのS1P受容体への結合は、PI3KまたはRTKが関与し得るシグナル伝達経路活性化を開始させる。
【0070】
用語「シグナル伝達活性」、「経路活性」、「細胞シグナル伝達活性」、および「シグナル伝達経路活性」は、互換的に使用され、シグナル伝達経路が異常または正常に機能している間に生じる事象を指す。シグナル伝達活性は、しばしば、1つの細胞表面受容体(例えば、GPCR)に主に関連する。しかしながら、1つの経路におけるシグナル伝達活性は、シグナル伝達経路の細胞表面受容体の上流、下流、または側面にある他のシグナル伝達経路由来の経路メンバーに関連するシグナル伝達活性によって駆動され得る。これは、複数の経路収束、経路間のクロストーク、および経路間のフィードバックループによって1つの経路由来のシグナル伝達活性が異なる経路のシグナル伝達活性に影響を及ぼすことができるというシグナル伝達活性の相互接続性を反映している(Giulliano et al.,Bidirectional Crosstalk between the Estrogen Receptor and Human Epidermal Growth Factor Receptor 2 Signaling Pathways in Breast Cancer:Molecular Basis and Clinical Implications,Breast Care(Basel).2013 Aug;8(4):256-262を参照のこと)。したがって、腫瘍が2またはそれを超える相互接続経路由来のシグナル伝達活性によって駆動されるがん患者は、異常に機能している経路の活性化点と異なる標的に結合する標的療法に応答し得る。がんの性質および複雑性に起因して、がん患者のシグナル伝達経路機能障害は、健康な正常集団では一般に認められない他の経路への固有の相互接続を含み得る。
【0071】
用語「細胞骨格形成」は、細胞の内部足場の構成を指す。細胞骨格は、細胞質もしくは膜の要素および/または細胞内オルガネラを支持する働きをするフィラメントを含む。また、細胞骨格は、細胞の形状を維持するのに役立つ。
【0072】
用語「細胞増殖」は、細胞成長および細胞分裂の結果としての細胞数の増加を指す。
【0073】
用語「細胞生存」は、代謝、成長、移動、再生、いくつかの応答形態、および適応性などのある特定の機能を発揮する能力によって特徴付けられる細胞の生存度を指す。
【0074】
用語「有効性」は、特異的介入によって有益な結果が得られる範囲を指す。実施形態では、本発明は、治療剤(既知のタンパク質での介入に対して高い親和性および特異性を有する小分子または抗体または有機試薬の標的化ペプチドなど)であり得る。有益な結果としては、症状の阻害、細胞成長の減少、細胞殺滅の増加、客観的腫瘍縮小効果、患者の生存期間の延伸、患者の無憎悪生存期間の延伸、患者の無病生存期間の延伸、炎症の減少、および免疫応答性の増加が挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
用語「細胞外基質成分」は、動物の細胞外基質で生じる分子を指す。これは、任意の種および任意の組織型に由来する細胞外基質の成分であり得る。細胞外基質成分の非限定的な例としては、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、他の糖タンパク質、ペプチド、グリコサミノグリカン、プロテオグリカンなどが挙げられる。細胞外基質成分としては、成長因子も挙げることができる。
【0076】
用語「包括的表現型」は、細胞または細胞試料の複数のまたは複合的な観察可能な性質の全体を指し、発生、生化学的または生理学的性質、生物季節学、挙動、および挙動の産物を反映する。包括的表現型としては、細胞サイズ、細胞形状、特有の突起、増生、拡大、病巣付着密度、細胞骨格構成、細胞増殖パターン、受容体食作用、または病巣付着数、pHの変化、代謝産物の取り込みまたは流出、シグナル伝達タンパク質および成長因子、酸素、CO2、グルコース、ATP、ならびにイオン(マグネシウム、カルシウム、カリウムなど)が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0077】
用語「事象特異性」は、細胞の特異的性質の物理的所見を指す。かかる特異的性質は、特定のアクチベーターまたは治療剤に対する細胞の意図されるおよび/または予測される生理学的応答の一部としての特異的細胞機能、外因性活性化、または経路アゴニズム/アンタゴニズムに関する。アクチベーターおよび治療剤は、細胞機能のある特定の態様(細胞骨格の構造または細胞経路など)を標的にして影響を及ぼすことが公知であり得る。アクチベーターまたは治療剤の存在下での細胞における物理的に観察可能な事象が細胞に対するアクチベーターまたは治療剤の意図されるおよび/または予測される効果を反映するので、物理的に観察可能な事象は事象特異性と呼ばれる。例えば、付着バイオセンサー型のCReMSにおいてほとんどの細胞試料にビンブラスチンを添加すると、シグナルが著しく低下する。ビンブラスチンは、細胞の細胞骨格足場の崩壊物質である。このシグナルの低下は、微小管分子における薬物作用に原因する細胞形状および付着の喪失に特異的に関連する細胞の物理的に観察可能な事象である。
【0078】
用語「相乗作用」または「相乗的な」は、細胞試料を1またはそれを超える活性化剤および/または2またはそれを超える治療剤を用いて試験した場合に測定されるCReMSシグナル、出力値、または出力値の百分率が、細胞試料を賦活剤(複数可)および/または治療剤を個別に用いて試験した場合に得られる対応する測定値の合計より高い場合の試験結果を指す。1またはそれを超える活性化剤と接触させた細胞試料に2つの治療剤を同時に添加した場合に得られるCReMSシグナル、出力値、または出力値の百分率が、1またはそれを超える同時賦活剤を用いて各治療剤を個別に試験した場合に得られるCReMsシグナル、出力値、または出力値の百分率の合計より高い場合に相乗効果が生じるであろう。
【0079】
本明細書中で使用される用語「インピーダンス」は、以下の式の電圧および電流に関連する物理法則によって定義される:インピーダンス(オーム)=電圧(ボルト)/電流(アンペア)またはZ=V/I。
【0080】
処置または治療を目的とする「哺乳動物」は、哺乳動物に分類される任意の動物(ヒト、家庭動物および農場動物、ならびに動物園、競技、または愛玩用の動物、例えばイヌ、ウマ、ネコ、およびウシなどが含まれる)を指す。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0081】
用語「マイクロカンチレバーデバイス」、「マイクロカンチレバーアレイ」、または「マイクロカンチレバー機器」は、少なくとも1つのカンチレバー(バー形、V形であり得るか、その適用に応じて他の形状を有し得る柔軟ビーム)を含むCREMS装置の一形態を指す。マイクロカンチレバーの一端は支持ベース上に固定され、他端は自由に動く。マイクロカンチレバーは、天然の共鳴周波数と適合することができる位相差シグナルを検出するために電気的方法を使用して濃度を測定することができ(2000年3月28日発行の米国特許第6,041,642号(本明細書中で参考として援用される)に記載の例)、既知分子(例えば、巨大生体分子(macromolecular biomolecule)(DNA、RNA、またはタンパク質など))を配置したマイクロカンチレバーの共鳴特性の変化を使用した標的種の濃度を決定する。光学的方法および圧電的方法を使用して偏向を測定する。
【0082】
用語「正常機能」は、細胞が異常なレベルのシグナル伝達、複製、接触阻害の喪失、ならびに異常な遺伝子コピーおよび増幅の故に機能不全に陥るのを防止するチェックとバランスの定義されたシステムを有する細胞における経路を指す。多くの場合、経路はいくらかの休止状態または定常の基礎的状態で開始され、細胞システムがアクチベーターを認識し、経路活性を開始させ、次いで、アクチベーターの効果が下方調節されて他の細胞機能とのバランスを保つので、経路メンバーのアクチベーターをEC50濃度で少量添加しても、小さな一過性の影響のみしか及ぼさない。罹患した機能は、しばしば、アクチベーターに対する過剰反応、経路に沿った高/低活性、アクチベーター効果に適合するのに不十分な経路間活性、およびアクチベーターの効果を最小にするための下方調節の失敗として認識できる。さらに、いくつかの罹患状態では、ある経路のいくつかの経路メンバーが基底状態に到達できない。これらのシステムは、構成性に活性化されたと説明される。
【0083】
用語「正常基準範囲」は、健常被験体集団(例えば、目的の疾患を欠く被験体集団)から得た値の指定の百分率を囲むと推定される2つの数値(基準の上限および下限)を含むその間の範囲と本明細書中で定義される。ほとんどの分析について、基準の下限および上限は、それぞれ、基準集団についての試験結果の分布の2.5および97.5パーセンタイルと推定される。いくつかの場合、たった1つの基準限界が医学的に重要であり、それは通常は上限の97.5パーセンタイルである。基準集団(一般に、約120人の基準被験体)の無作為抽出を想定した基準範囲の限界を推定するための信頼区間を構築することができる。各信頼区間の幅は、基準被験体数および観測基準値の分布に依存する。
【0084】
正常基準域のカットオフを、基準個体の選択プロセスによって決定および設定し、分析方法を前記の基準個体に適用し、臨床検査標準協会認証ガイドラインEP28-A3C「臨床検査における基準範囲の定義、確立、および検証」(その内容全体が本明細書中で参考として援用される)という刊行物によって定義されたデータの収集および解析を用いて結論づける。
【0085】
1つの実施形態では、基準個体は、疾患、特に全ての形態のがんを罹患していない個体であろう。正常基準範囲を、本明細書中に記載の方法を使用して正常な基準個体を試験することによって決定するであろう。正常基準範囲の上限は、正常経路活性の上限を表すであろう。1つの実施形態では、陽性および陰性の試験結果を識別するカットオフ値は、正常基準範囲の上限に等しいであろう。他の実施形態では、カットオフ値は、正常基準範囲の上限+以下の値のいずれか、組み合わせ、全て、または以下の値の1、組み合わせ、または全ての倍数に等しいであろう:検出限界、ブランクの限界、定量の限界、測定量の標準偏差。
【0086】
無病基準個体群を、目的の疾患を超えた種々の特徴によってさらに定義することができる。例えば、乳がんへの本発明の適用において、女性の無病基準群を、以下の特徴のいずれか、組み合わせ、または全てを含むように定義してよい:閉経前または閉経後、授乳または非授乳、出産経験あり、BRCA遺伝子変異あり、糖尿病の存在、BMI(肥満指数)によって判定された肥満、ホルモンなどの薬理学的因子または他の薬物嗜癖からの離脱、アルコールなどの食品からの離脱、および/またはがんの家族歴。
【0087】
用語「異常なシグナル伝達経路」、「異常なシグナル伝達経路」、および「機能障害性シグナル伝達経路」は、互換的に使用され、細胞がその正常な機能を発揮する能力を損なうような方法で破壊された細胞シグナル伝達経路を指す。細胞シグナル伝達の破壊およびその結果生じた機能障害の根源は、典型的には、シグナル伝達経路の正常な機能を妨害するゲノムまたはプロテオームの損傷の結果である。この損傷は、例えば、DNA複製のエラー、ある特定のDNA塩基の固有の化学的不安定性、腫瘍微小環境、動的システムの調整もしくは選択、または代謝中に生じるフリーラジカルによる攻撃などの内因性プロセスの結果であり得る。ゲノム完全性の維持を担う遺伝子にいくつかの不活性化変異が生じ、さらなる変異が容易になる。ゲノムレベルの細胞制御に影響を及ぼすさらなる機序は、後生的機序を含み、これにより、ヒストンタンパク質の機能が変化することによって特異的遺伝子の発現が変化している。エピゲノム機能は、多くの異なる環境条件(疾患の原因論および伝播に関与する条件が含まれる)に高度に適応するか応答することが実証されている。経路機能障害の種々のRNAベースの機序は、転写レベル、転写後レベル、翻訳レベル、および翻訳後レベルで記載されている。
【0088】
さらに、タンパク質レベルでの多くの経路機能障害作用は、細胞分子生物学分野の当業者に公知である。経路機能障害は、経路メンバーもしくは補因子(複数可)の過剰発現もしくは過小発現、非天然の細胞型もしくは細胞の位置に存在するタンパク質活性、経路交差反応性としても公知の非天然の経路メンバーとのタンパク質相互作用、機能障害のフィードバックループもしくはフィードフォワードループ、または翻訳後修飾の結果であり得る。経路機能障害は、さらに、プロテオーム、プロテアソーム、カイノーム、メタボローム、核のタンパク質および因子、細胞質のタンパク質および因子、ならびに/またはミトコンドリアのタンパク質および因子の活性の結果であり得る。
【0089】
機能障害性経路を有する細胞が複製されると、細胞がその子孫に異常性を伝えることができ、細胞が罹患するようになる見込みが増大する。生細胞中の細胞シグナル伝達経路の活性を分析することにより、細胞のシグナル伝達経路が正常または異常のいずれで機能するのかを決定することが可能である。
【0090】
用語「超感受性シグナル伝達経路」および「過活動性シグナル伝達経路」は互換的に使用され、非常に低レベルの細胞入力の相違(シグナル伝達経路アクチベーターなど)(例えば、1nM~10nMの受容体リガンド濃度の相違)のみで、低レベルの活性(例えば、10%細胞出力)を非常に高レベルの経路活性化応答性(例えば、90%細胞出力)に変化させることができる細胞シグナル伝達経路を指す。典型的には、超感受性または過活動性のシグナル伝達経路内の成分(例えば、酵素)は、10%から90%最大応答まで活性を駆動するために81倍未満の刺激の増加が必要である場合、超感受性または過活動性と見なされる。シグナル伝達経路の超感受性は、Ferrell,J.E.and Ha,S.H.(2014)Trends in Biochem.Sci.39:496-503;Ferrell,J.E.and Ha,S.H.(2014)Trends in Biochem.Sci.39:556-569;Ferrell,J.E.and Ha,S.H.(2014)Trends in Biochem.Sci.39:612-618;Huang,C.Y.and Ferrell,J.E.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:10078-10083;Kim,S.Y.and Ferrell,J.E.(2007)Cell 128:1133-1145;Trunnell,N.B.et al.(2011)Cell 41:263-274にさらに記載されており、これらは、その全体が参考として援用される。
【0091】
用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書中で互換的に使用される場合、任意の長さのヌクレオチドのポリマーを指し、DNAおよびRNAが挙げられる。ヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、修飾ヌクレオチドもしくは塩基、および/もしくはそのアナログ、またはDNAポリメラーゼもしくはRNAポリメラーゼ、または合成反応によってポリマーに組み込むことができる任意の基質であり得る。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド(メチル化されたヌクレオチドおよびそのアナログなど)を含み得る。ヌクレオチド構造への改変は、存在する場合、ポリマー構築の前に付与されてもよく、または後に付与されてもよい。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断されてもよい。ポリヌクレオチドは、標識とのコンジュゲーションなどによって、合成後にさらに改変されてもよい。他の修飾型としては、例えば、「キャップ」、1またはそれを超える天然に存在するヌクレオチドのアナログとの置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、無電荷結合(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホアミダート、カルバマートなど)および荷電結合(例えば、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアートなど)を有するもの、例えば、タンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ply-L-リジンなど)などのペンダント部分を含むもの、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)を有するもの、キレート剤(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)を含むもの、アルキレーターを含むもの、修飾された結合を有するもの(例えば、アルファアノマー核酸など)などが挙げられ、未修飾形態のポリヌクレオチド(複数可)も挙げられる。さらに、通常は糖内に存在するヒドロキシル基のいずれかは、例えば、ホスホン酸基、リン酸基によって置き換えられ、標準的な保護基で保護され、あるいは、活性化されてさらなるヌクレオチドへのさらなる結合を用意し得るか、固体支持体または半固体支持体にコンジュゲートされ得る。5’末端および3’末端のOHをリン酸化するか、アミンまたは1~20個の炭素原子の有機キャッピング基部分で置換することができる。他のヒドロキシルを、標準的な保護基に誘導体化してもよい。また、ポリヌクレオチドは、当該分野で一般的に公知のリボース糖またはデオキシリボース糖の類似の形態(例えば、2’-O-メチル-、2’-O-アリル、2’-フルオロ-または2’-アジド-リボースが含まれる)、炭素環式糖アナログ、アルファ-アノマー糖、エピマー糖(アラビノース、キシロース、またはリキソースなど)、ピラノース糖、フラノース糖、セドヘプツロース、非環式アナログ、および塩基性ヌクレオシドアナログ(メチルリボシドなど)を含むことができる。1またはそれを超えるホスホジエステル結合を、別の結合基で置き換えてよい。これらの別の結合基としては、ホスファートが、P(O)S(「チオアート」)、P(S)S(「ジチオアート」)、(O)NR(「アミダート」)、P(O)R’、P(O)OR’、CO、またはCH(「ホルムアセタール」)で置き換えられ、ここで、各RまたはR’が、独立して、Hまたは置換もしくは非置換のアルキル(1~20個のC)(必要に応じてエーテル(--O--)結合を含む)、アリール、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、またはアラルジルである実施形態が挙げられるが、これらに限定されない。ポリヌクレオチド内の全ての結合が同一である必要はない。前記の説明は、本明細書中で言及した全てのポリヌクレオチド(RNAおよびDNAが挙げられる)に適用される。
【0092】
用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって連結した2またはそれを超えるアミノ酸を含むペプチドまたはタンパク質を指し、ペプチド、オリゴマー、およびタンパク質などが挙げられる。ポリペプチドは、天然アミノ酸、修飾アミノ酸、または合成アミノ酸を含むことができる。また、ポリペプチドは、翻訳後プロセシングなどによって天然に修飾することができるか、例えば、アミド化、アシル化、および架橋などによって化学修飾することができる。
【0093】
用語「水晶共振器/微量天秤」は、測定が意図されるウイルスまたは任意の他の小さな対象などの小塊の添加によって妨害されたときの圧電性水晶の周波数の変化を測定することによって質量を測定するCREMSデバイスの一形態を指す。高精度で周波数を容易に測定することができるため、小塊を測定することは容易である。
【0094】
用語「試料」は、本開示中の機器、マイクロプレート、または方法を使用して単離、操作、測定、定量、検出、または分析すべき部分を含み得るものを指す。試料は、生体液または生物組織などの生物試料であってよい。生体液の例としては、細胞培養培地、尿、血液、血漿、血清、唾液、精液、糞便、痰、髄液、涙、粘液、または羊水などの培地中の細胞懸濁液が挙げられる。生物組織は、細胞、通常は特定の種類の細胞の凝集物であって、その細胞間物質と共にヒト、動物、植物、細菌、真菌、またはウイルスの構造体の構造材料のうちの1つを形成する(結合組織、上皮組織、筋肉組織、および神経組織が含まれる)。また、生物組織の例としては、臓器、腫瘍、リンパ節、動脈、および個別の細胞(複数可)が挙げられる。生物試料としては、細胞懸濁液、生体分子(例えば、タンパク質、酵素、核酸、炭水化物、生体分子に結合する化学分子)を含む溶液がさらに挙げられ得る。
【0095】
用語「細胞試料」は、特定の被験体から単離された細胞を指し、ここで、細胞は、被験体の生体液、排泄物、または組織から単離される。組織から単離された細胞としては、腫瘍細胞を挙げることができる。組織から単離された細胞としては、ホモジナイズされた組織、および細胞抽出物、ならびにその組み合わせが挙げられる。細胞試料としては、限定されないが、血液、血清、血漿、尿、精液(semen)、精液(seminal fluid)、精漿、前立腺液、前射精液(カウパー腺液)、排泄物、涙、唾液、汗、生検、腹水、脳脊髄液、リンパ、骨髄、または毛髪からの単離物が挙げられる。
【0096】
用語「CELx」試験は、一般に、本明細書中に記載の方法の種々の実施形態を指す。
【0097】
用語「疾患細胞試料」は、罹患部位由来の複数の細胞または疾患の特徴を有する複数の細胞を指す。
【0098】
用語「健常細胞試料」は、細胞が試験される疾患を持たないか、試験される疾患を持たない組織から抽出された細胞試料を指す。例えば、特定の被験体が被験体の乳がんに対する治療剤の効果について試験される場合、非乳房組織由来の非がん性細胞を「健常」と見なす。用語「健常細胞試料」は、被験体の全体的な健康状態を決定も反映もしない。正常基準範囲を得るために、使用される健常細胞試料を、試験される疾患を持たない被験体から得ることが多い。
【0099】
分析「感度」という用語は、試験限界または検出限界を指し、ゼロと区別される最少量と定義される。(例えば、ゼロ対照の平均を上回る95%信頼区間または2標準偏差(SD)が一般に用いられる)。
【0100】
臨床「感度」という用語は、試験で陽性の標的状態を有する被験体の比率、または目的の状態が存在する場合に試験で陽性となる頻度を指す。試験の臨床「感度」は、以下の計算式によって提供された正確度の推定値と定義される:100%×TP/(TP+FN)(式中、TPは、試験されるアウトカムについての真陽性事象の数であり、FNは、偽陰性事象(不正確に陰性判定された事象)の数である)。
【0101】
臨床「特異性」は、試験で陰性の標的状態を持たない被験体の比率、または目的の状態が存在しない場合に試験で陰性となる頻度を指す。臨床特異性は、以下の計算式で推定される:100%×TN/(FP+TN)(式中、TNは、試験されるアウトカムについての真陰性事象の数であり、FPは、偽陽性(不正確に陽性判定された事象)の数である)。
【0102】
用語「表面プラズモン共鳴デバイス」は、局所屈折率の変化を検出することによって金属表面の生体分子の結合事象を測定する光学的バイオセンサー型のCReMSを指す。
【0103】
用語「治療剤」は、生物(ヒトまたは非ヒト動物)に投与した場合に、局所作用および/または全身作用によって所望の薬理学的効果、免疫学的効果、および/または生理学的効果を誘導する任意の合成のまたは天然に存在する生物学的に活性な化合物または組成物を指す。この用語は、薬物、ワクチン、および生物医薬品(タンパク質、ペプチド、ホルモン、核酸、および遺伝子構築物などの分子が含まれる)と従来より見なされている化合物または化学物質を包含する。この薬剤は、医学的適用(獣医学的適用が含まれる)および植物などを用いる農業、ならびに他の領域で使用される生物学的に活性な薬剤であり得る。また、治療剤という用語としては、医薬;ビタミン;ミネラルサプリメント;疾患または疾病の処置、予防、診断、治癒、または軽減のために使用される物質;または身体の構造もしくは機能に影響を及ぼす物質;または所定の生理学的環境に置かれた後に生物学的に活性になるか、より活性が高くなるプロドラッグが挙げられるが、これらに限定されない。治療剤としては、抗がん治療薬、抗精神病薬、抗炎症剤、および抗生物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0104】
用語「細胞傷害性治療」および「化学療法」は、1またはそれを超える治療剤での処置を指し、ここで前記の薬剤(複数可)は、罹患細胞(非罹患細胞も可能性がある)に対して非特異的または非標的化された細胞傷害性を示す。
【0105】
用語「標的化治療薬」、「標的化治療剤」、「標的化経路薬」、「経路薬」、または「標的化薬」は、疾患プロセスに関与する特異的生体分子(例えば、タンパク質)に選択的に結合し、それにより、その活性を調節するようにデザインされた治療能を有する任意の分子または抗体を指す。標的化治療薬が結合し得る生体分子の非限定的な例としては、細胞表面受容体ならびに細胞間および細胞内のシグナル伝達経路成分が挙げられる。本明細書中で使用される場合、処置のために被験体に投与される「標的化治療薬」は、対象細胞におけるシグナル伝達経路の状態を決定するために本明細書中に記載のin vitroで試験される同一の標的化治療薬であり得るか、あるいは、処置のために投与されるために選択される標的化治療薬は、in vitroで試験された標的化治療薬と異なるが、in vitroで試験された標的化治療薬と同一のシグナル伝達経路を標的にする(例えば、選択的に影響を及ぼす)(例えば、試験された標的化治療薬と同一のシグナル伝達経路のポイントまたはノードに影響を及ぼす)標的化治療薬であり得る。
【0106】
「RAS」または「RASタンパク質」は、本明細書中で使用される場合、低分子GTPアーゼのRasスーパーファミリーのRASサブファミリーメンバー(H-RAS、N-RAS、およびK-RAS)を指す。RASタンパク質は、細胞外の合図を多様な細胞応答(細胞増殖、アポトーシス、および分化が挙げられる)に伝達する上で極めて重要な役割を果たす。RASが変異するとエフェクター経路の下流が構成性に活性化し、それにより、無秩序な細胞成長、細胞死の阻害、侵襲、および血管新生の誘導が生じ得る。RASは、ヒトのがんにおいて最もよく見られるがん遺伝子のうちの1つであり、全てのヒト腫瘍のうちの約30%で変異の活性化が認められる。さらに、多くの腫瘍は、RAS遺伝子の非存在下でRASシグナル伝達が活性化する(Ji et al.Trends Mol.Med.18,27-35)。例えば、50%を超えるヒト乳房腫瘍、特に高悪性度亜型においてRAS経路活性が上昇し、RAS変異をほとんど示さない場合でさえも、一般に「非RAS」腫瘍型と見なされている(Sears and Gray,Cancer Discov.7,131-133;Siewertsz Van Reesema,Clin.Lab.Int.40,18-23)。
【0107】
「RAS経路」(当該分野で「RASエフェクター経路」とも称される)は、本明細書中で使用される場合、細胞増殖および形質転換を促進するために活性化されたRAS、受容体チロシンキナーゼ、およびGタンパク質共役受容体(GPCR)からのシグナルを伝達するシグナル伝達経路を指す。かかるRAS経路は当該分野で公知であり、例えば、RAF/MEK/ERK、PLCε/PKC、PI3K/AKT/mTOR、RAL-GEF/RAL/TBK1、AKT/BAD/BCL、およびTIAM1/RAC/PAKが挙げられる。
【0108】
「RASノード」は、本明細書中で使用される場合、RAS、受容体チロシンキナーゼ、およびGタンパク質共役受容体によって活性化することができるRAS経路(RAS/RAF/MEK/ERK、PI3K/AKT/mTOR、RAL/CDC42、RAL-GEF/RAL/TBK1、AKT/BAD/BCL、およびTIAM1/RAC/PAKなど)のシグナル伝達成分(遺伝子アイソフォームなどの関連タンパク質が挙げられ得る)を指す。例えば、ERBBファミリーのヘテロ二量体は、HER3またはアダプター(GRB2など)上の部位を介してPI3K/AKT/mTORカスケードを直接活性化することができる一方で、EGFR/HER2/HER4またはアダプター(SHCなど)上の部位を介してRAS/RAF/MEK/ERKカスケードを直接活性化することもできる。あるいは、GPCR(SIPおよびLPAなど)は、RAF/MEK/ERK経路、PI3K/AKT/mTOR経路、およびRAL/CDC42経路による高活性化シグナル伝達を開始させることができる。「RASノードの阻害剤」は、本明細書中で使用される場合、活性化されたRAS、受容体チロシンキナーゼ、またはGPCRからのシグナルを伝達する所与のRAS経路内の成分(遺伝子アイソフォームなどの関連タンパク質が挙げられ得る)の阻害剤を指す。RASノードは当該分野で周知であり、例えば、PI3K、AKT(Akt1、Akt2、Akt3)、mTOR、S6K、RAL(RalA、RalB)、RalBP1、RalGDS、TBK1、PLCε、RGL(Rgl1、Rgl2、Rgl3)、RAF(A-RAF、B-RAF、C-RAF)、MEK(MEK1/2)、ERK(ERK1/2)、TIAM1/2、RAC、PAK、Bcl-xL、およびBCL-2が挙げられる(例えば、Clark,et al.Journal of Cell Science(2020)133,jcs238865;Baines et al.,Future Med Chem 2011;3:1787-808;Vigil et al.,Nat Rev Cancer 2010;10:842-57;Moghadam et al.,Cancer Med.2017;6:2998-3013;Kang et al.,Front Oncol.2012:2:206;Carne Trecesson et al.,Nature Communications 2017;8:1123;Gaspar et al.,Small GTPases 2020,DOI:10.1080/21541248.2020.1724596を参照のこと)。いくつかの実施形態では、RASノードの阻害剤は、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、およびBCLからなる群から選択される1またはそれを超えるRASノードを阻害する。ゲダトリシブは、1つを超えるRASノード(すなわち、PI3KおよびmTOR)を阻害する阻害剤の一例である。いくつかの実施形態では、RAS経路およびRASノードは、細胞増殖および/または細胞生存を促進する。
【0109】
用語「PI3K」は、脂質キナーゼのホスファチジルイノシトール-3-キナーゼファミリーを指す。PI3Kは、そのキナーゼドメイン配列が相同であるが、基質特異性、発現パターン、および調節様式が異なる。PI3Kは、4つのクラス(クラスI~IV)に細分される。クラスI、II、およびIIIは、ホスホイノシチド脂質をリン酸化する脂質キナーゼである。クラスI PI3Kとしては、以下の4つのアイソフォーム:p110α(PI3Kα)、p110β(PI3Kβ)、p110δ(PI3Kδ)、およびp110γ(PI3Kγ)が挙げられ、その調節サブユニットにしたがってIAまたはIBにさらに細分される。クラスIA(PI3Kα、PI3Kβ、およびPI3Kδが挙げられる)は、RTKとの相互作用によって活性化される2つのSH2ドメインを含むp85調節サブユニットを有する。クラスIB(PI3Kγが挙げられる)は、GPCRによって活性化されるp101調節サブユニットを有する。クラスIIは、4つのメンバー(CIIα、CIIβ、およびCIIδ)からなり、クラスIIIは、1つのメンバー(Vps34)からなる。クラスIVキナーゼは、PIKK(PI3K関連プロテインキナーゼ)とも呼ばれ、PI3Kと相同性を共有するが、ホスホイノシチド脂質よりもむしろタンパク質をリン酸化するセリン/トレオニンプロテインキナーゼのサブファミリーである。PIKKとしては、mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)が挙げられる。
【0110】
用語「AKT」または「プロテインキナーゼB(PKB)」は、成長因子、サイトカイン、および発癌性RASに応答して細胞生存シグナルを調節するセリン/トレオニンキナーゼを指す。AKTは、二次メッセンジャーPIP3(PI3Kによる原形質膜上の脂質のリン酸化によって形成される)との相互作用によって細胞の原形質膜に動員され、引き続いて下流応答(増殖、遊走、血管新生、および生存が含まれる)を媒介する。
【0111】
用語「mTOR」は、ラパマイシン(PI3Kファミリーに関連するセリン/トレオニンキナーゼである)の哺乳動物標的タンパク質を指し、PI3K/AKTシグナル伝達経路の下流エフェクターである。mTORは、細胞成長および代謝の調節因子として機能し、2つの複合体mTORC1およびmTORC2中に存在する。
【0112】
用語「RAF」は、高度に保存されたアミノ末端調節領域およびカルボキシ末端の触媒ドメインを共有する以下の3つのアイソフォームを生じる3つの遺伝子からなる遺伝子ファミリーによってコードされるタンパク質を指す:A-RAF、B-RAF、およびC-RAF(RAF1)。B-RAFは、Ras:GTPによって細胞内細胞膜に動員され、ここでB-RAFが活性化されるようになる。続いて、B-RAFはMEK1/2を活性化し、MEK1/2はERK1/2を活性化する。相当数の悪性疾患で見出されるB-RAFの変異(例えば、V600E)により、B-RAFは上流シグナルと無関係にシグナルを伝達し、下流のMEKおよびERKのシグナル伝達の過剰な活性化を促進し、過剰な細胞増殖および生存および腫瘍形成に至る。変異B-RAFによる下流シグナル伝達の過剰活性化は、多くの悪性疾患に関与する。変異B-RAFは、相当数の悪性疾患で見出される。
【0113】
用語「MEK」または「マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ」は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)をリン酸化するキナーゼである。MEKのサブタイプとしては、MAP2K1(MEK1)、MAP2K2(MEK2)、MAP2K3(MKK3)、MAP2K4(MKK4)、MAP2K5(MKK5)、MAP2K6(MKK6)、MAP2K7(MKK7)が挙げられる。本明細書中で使用される場合、「MEK」は、好ましくは、MEK1もしくはMEK2、またはMEK1およびMEK2の両方を指す。
【0114】
用語「ERK」または「細胞外シグナル調節キナーゼ」は、MAPKファミリーのメンバーであるセリン/トレオニンキナーゼを指す。ERKは、RAS/RAF/MEKシグナル伝達経路の成分であり、ここで、RAFはMEK1/2を活性化し、MEK1/2はERK1/2を活性化する。本明細書中で使用される場合、「ERK」は、ERK1もしくはERK2、またはERK1およびERK2の両方を指すことができる。
【0115】
BCL2遺伝子によってコードされる「Bcl-2」という用語は、18番染色体上に存在するB細胞CLL/リンパ腫2遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。Bcl-2は、ミトコンドリア透過を調節する癌原遺伝子であり、内因性細胞アポトーシス経路における重要なポイントである。また、Bcl-2は、細胞死調節因子のBcl-2ファミリーの初期メンバー(founding member)であり、その抗アポトーシスメンバーとしては、例えば、Bcl-2、Bcl-xL、Bcl-w、Mcl-1、およびA1が挙げられる。「BCL」は、本明細書中で使用される場合、Bcl-2ファミリーの抗アポトーシス性メンバーを指す。「Bcl-xL」または「B細胞リンパ腫-特大」は、Bcl-2ファミリーのメンバーであり、Bcl-xのエクソン2におけるオルタナティブスプライシングによって生成されるBcl-xの長い形態を指す。Bcl-xLは、Baxの阻害によってアポトーシスを一部阻止する抗アポトーシス性タンパク質である。
【0116】
用語「受容体チロシンキナーゼ」または「RTK」は、成長因子受容体タンパク質ファミリーのメンバーを指す。成長因子受容体は、典型的には、細胞成長、細胞分裂、分化、代謝、および細胞遊走が挙げられる細胞プロセスに関与する。RTKは、保存されたドメイン構造(細胞外ドメイン、膜を貫通する(膜貫通)ドメイン、および細胞内チロシンキナーゼドメインが挙げられる)を有する。構造モチーフによる分類により、20ファミリーのRTKが同定されており、各々が保存されたチロシンキナーゼドメインを有する。RTKの例としては、エリスロポエチン産生肝細胞(EPH)受容体、上皮成長因子(EGF)受容体、線維芽細胞成長因子(FGF)受容体、血小板由来成長因子(PDGF)受容体、血管内皮成長因子(VEGF)受容体、細胞接着RTK(CAK)、Tie/Tek受容体、インスリン様成長因子(IGF)受容体、およびインスリン受容体関連(IRR)受容体が挙げられる。RTKをコードする遺伝子の例としては、ERBB2(HER2としても公知)、ERBB3、DDRl、DDR2、TKT、EGFR、EPHA1、EPHAB、FGFR2、FGFR4、FLT1(VEGFR-1としても公知)、FLKl(VEGFR-2としても公知)MET、PDGFRA、PDGFRB、およびTEKが挙げられる。
【0117】
用語「Gタンパク質共役受容体」または「GPCR」は、Gタンパク質と会合し、7つのアルファヘリックス膜貫通ドメインを有する膜結合受容体を指す。GPCRは、リガンドまたはアゴニストと会合し、Gタンパク質とも会合して活性化する。「GPCR活性」は、GPCRがシグナルを伝達する能力を指す。
【0118】
用語「リゾリン脂質GPCR」は、リゾリン脂質(リゾホスファチジン酸(LPA)、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)、およびリゾホスファチジルセリン(LyPS)など)によって活性化されるGPCRクラスを指す。
【0119】
用語「アゴニスト」は、受容体に結合して細胞内で応答する化合物を指す。例えば、「GPCRシグナル伝達のアゴニスト」または「GPCRアゴニスト」は、GPCRに結合した際にGPCRを活性化し、GPCRによって媒介される細胞内応答を誘導する薬剤(例えば、リガンド)を指す。例示的なGPCRアゴニストは、リゾリン脂質GPCR(LPA受容体またはS1P受容体など)に結合するリゾリン脂質(LPAまたはS1Pなど)である。GPCRアゴニストのさらなる例を、本明細書中に記載している。
【0120】
用語「RASノード治療」または「RASノード-標的療法」は、RAS経路内のRASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、およびBCL)を特異的に標的にするようにデザインされた1またはそれを超える治療剤(RASノードを標的にする抗体および小分子が挙げられるが、これらに限定されない)を使用した処置を指す。
【0121】
用語「PI3K治療」または「PI3K-標的療法」は、PI3K分子および/またはシグナル伝達経路(複数可)を特異的に標的にするようにデザインされた1またはそれを超える治療剤(例えば、PI3K分子および/またはシグナル伝達経路(複数可)を標的にする抗体および小分子が挙げられるが、これらに限定されない)を使用した処置を指す。
【0122】
用語「RTK治療」または「RTK-標的療法」は、RTK分子および/またはシグナル伝達経路(複数可)を特異的に標的にするようにデザインされた1またはそれを超える治療剤(例えば、RTK分子および/またはシグナル伝達経路(複数可)を標的にする抗体および小分子が挙げられるが、これらに限定されない)を使用した処置を指す。
【0123】
用語「抗増殖薬」、「抗増殖剤」、または「アポトーシス誘導薬」は、細胞分裂を減少させるか、細胞成長を減少させるか、細胞を死滅させるように機能する治療能力を有する任意の分子または抗体を指す。多くの場合、これらの薬物の活性は、正常な細胞プロセス(例えば、DNA挿入)に関与する広い生体分子クラスを対象とし、したがって、前記の薬物は、細胞の罹患状態の判別性が低い場合がある。
【0124】
用語「治療的に活性な」は、被験体のがん細胞が標的化治療剤(小分子もしくは抗体もしくは標的化ペプチドまたは既知タンパク質への介入のための親和性および特異性が高い任意の有機試薬など)と接触した場合に生じるシグナル伝達経路に対する効果を指す。治療的に活性な標的化治療剤は、標的化治療剤が影響を及ぼすことを意図するシグナル伝達経路(複数可)に影響を及ぼす標的化治療剤である。別の標的化治療剤よりも被験体のがん細胞に治療的に活性である標的化治療剤は、影響を及ぼすことを意図するシグナル伝達経路に対する効果が、他の治療剤が影響を及ぼすことを意図するシグナル伝達経路に対する効果よりも高い標的化治療剤である。少なくともある特定のがんにおいて、経路のうちの1つのみを阻害しても他の経路(相互経路)を介してシグナル伝達を依然として維持することができるように、2またはそれを超えるシグナル伝達経路が複数の収束点、クロストーク、およびフィードバックループと相互接続され得ることが証明されている(例えば、Saini,K.S.et al.(2013)Cancer Treat.Rev.39:935-946を参照のこと)。一方のシグナル伝達経路の活性が他方のシグナル伝達経路の活性に影響を及ぼすことができるので、標的化治療薬は、標的化治療薬の結合部位と直接関連するシグナル伝達活性を破壊し得る。これらの場合、標的化治療薬の結合部位に直接関連しない経路のシグナル伝達活性を阻害することが見出された場合、標的療法は治療的に活性であると見なされ得る。
【0125】
ポリペプチドの「バリアント」は、基準配列と異なるアミノ酸配列を含むポリペプチドを指す。基準配列は、全長天然ポリペプチド配列または全長ポリペプチド配列の任意の他の断片であり得る。いくつかの実施形態では、基準配列は、重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインのコンセンサス配列である。ポリペプチドバリアントは、一般に、基準配列に対して少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0126】
がん患者を選択および処置する方法
RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、およびBCL)またはRTKの標的化治療剤での処置のためにヒトがん患者を選択する方法を本明細書中に提供する。処置のためのヒト被験体を選択するために使用される方法は、被験体のがん細胞におけるGPCR媒介シグナル伝達に対するRASノードまたはRTKの阻害剤の効果を評価するステップを含む。RASノードまたはRTKの標的化治療剤を用いた処置のためのヒトがん患者を選択するために使用される方法は、GPCRアゴニスト(例えば、LPAまたはS1Pなどのリゾリン脂質)によって患者の細胞において開始され、RASノードまたはRTKの阻害剤(例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤)によって阻害された活性の量を評価するステップを含む。したがって、本明細書中に記載の方法は、例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤を用いた処置のために、RASノードまたはRTKが関与するGPCRシグナル伝達が異常な患者を同定および選択することが可能である。
【0127】
したがって、一態様では、RASノード標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGタンパク質共役型受容体(GPCR)シグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0128】
別の態様では、RASノードによって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、被験体のがん細胞が、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法が本明細書に提供される。
【0129】
ある特定の実施形態では、患者を選択するか、患者をRASノード標的化治療薬で処置するかどうかの決定は、所定のカットオフ値を使用するよりもむしろ、第2の部分と比較して第1の部分で細胞接着または細胞付着の変化が生じたかどうかを特徴付ける百分率として表される出力値(以後、「出力値の百分率」)に基づく。例えば、出力値の百分率30%は、第2の部分(すなわち、アゴニストのみ)の読み出しが1000であり、第1の部分(アゴニスト+阻害剤)の読み出しが700である場合に割り当てられるであろう。2つの出力値の差300は、阻害剤によって減少するアゴニスト活性の量を表す。同様に、出力値の百分率75%は、第2の部分(すなわち、アゴニストのみ)の読み出しが1000であり、第1の部分(アゴニスト+阻害剤)の読み出しが250である場合に割り当てられるであろう。
【0130】
したがって、一態様では、RASノード標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0131】
別の態様では、RASノードによって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRASノードに影響を及ぼすRASノード標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0132】
阻害剤によって阻害することができる例示的なRASノードとしては、PI3K、AKT(Akt1、Akt2、Akt3)、mTOR、S6K、RAL(RalA、RalB)、RalBP1、RalGDS、TBK1、PLCε、RGL(Rgl1、Rgl2、Rgl3)、RAF(A-RAF、B-RAF、C-RAF)、MEK(MEK1/2)、ERK(ERK1/2)、TIAM1/2、RAC、PAK、Bcl-xL、およびBcl-2、およびその組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、阻害剤によって阻害されるRASノードは、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、Bcl-xL、およびその組み合わせからなる群から選択される。
【0133】
一部の実施形態では、RASノードの阻害剤は、PI3K、AKT(Akt1、Akt2、Akt3)、mTOR、S6K、RAL(RalA、RalB)、RalBP1、RalGDS、TBK1、PLCε、RGL(Rgl1、Rgl2、Rgl3)、RAF(A-RAF、B-RAF、C-RAF)、MEK(MEK1/2)、ERK(ERK1/2)、TIAM1/2、RAC、PAK、Bcl-xL、およびBcl-2、およびその組み合わせからなる群から選択されるRASノードを阻害する。いくつかの実施形態では、RASノードの阻害剤は、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、Bcl-xL、およびその組み合わせからなる群から選択されるRASノードを阻害する。
【0134】
いくつかの実施形態では、試料の第1の部分を、各々が異なるRASノードを阻害する2またはそれを超えるRASノードの阻害剤と接触させる。例えば、2またはそれを超える阻害剤は、(a)PI3K、mTOR、およびBCL(例えば、Bcl-xL、Bcl-2、Mcl-1)、(b)PI3K、mTOR、およびRAF、(c)PI3K、mTOR、およびERK、ならびに(d)PI3K、mTOR、およびMEKからなる群から選択されるRASノードの組み合わせを阻害し得る。2またはそれを超えるRASノードの他の組み合わせも意図され、これも本明細書中に記載の方法の範囲内にある。いくつかの実施形態では、被験体を、異なるRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬の組み合わせを用いて処置するか、処置のために選択する。
【0135】
いくつかの実施形態では、RASノードの阻害剤は、1つを超えるRASノードを阻害する。例えば、阻害剤は、2またはそれを超えるRASノードの多重特異性阻害剤であってよい。例として、阻害剤ゲダトリシブは、RASノードmTORおよびPI3Kを阻害する。
【0136】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはPI3Kであり、RASノードの阻害剤はPI3K阻害剤である。
【0137】
いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、同一のPI3Kアイソフォームを選択的に阻害する。例えば、いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110α触媒サブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110β触媒サブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110γ触媒サブユニットを選択的に阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110δサブユニットを選択的に阻害する。アイソフォーム選択性PI3K阻害剤は、当該分野で周知である。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、クラスIAのPI3K(すなわち、p110α、p110β、およびp110γ)を選択的に阻害する。
【0138】
いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110サブユニットの1つを超えるアイソフォームを阻害する。いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤は、PI3Kのp110触媒サブユニットの全てのアイソフォームを阻害する。
【0139】
PI3K阻害剤の非限定的な例として、例えば、ウォルトマンニン、LY294002、ヒビスコンC、イデラリシブ(GS-1101、CAL-101)、コパンリシブ、デュベリシブ、アルペリシブ、(BYL719)、タセリシブ(GDC-0032)、GDC-0077、ペリホシン、イデアリシブ、ピララリシブ(XL147)、ブパルリシブ(BKM120)、デュベリシブ、ウムブラリシブ、PX-866、ダクトリシブ、CUDC-907、ボクスタリシブ、ME-401、IPI-549、SF1126、RP6530、INK1117、ピクチリシブ(GDC-0941)、パロミド529、SAR260301、GSK1059615、GSK2636771、CH5132799、CZC24832、AZD6482、AZD8835、WX-037、AZD8186、KA2237、CAL-120、AMG-319、AMG-511、HS-173、INCB050465、INCB040093、TGR-1202、ZSTK474、PWT33597、IC87114、TG100-115、TGX221、CAL263、RP6530、PI-103、GNE-477、IPI-145、BAY80-6946、BAY1082439.PX866、BEZ235、MKM120、MLN1117、SAR245408、およびAEZS-136、セラベリシブ(TAK-117)、ゲダトリシブ、オミパリシブ、およびピラルリシブが挙げられる。
【0140】
いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤はまた、mTORシグナル伝達を阻害する。かかる阻害剤としては、BGT-226、DS-7423、PF-04691502、PKI-179、GSK458V、GSK2126458、P7170、SB2343、VS-5584、NVP-BEZ235、SAR245409、GDC-0084、GDC-0980、LY3023414、PQR309、XL765、SF-1126、PF-05212384、PKI-587、ダクトリシブ、ピクチリシブ(GDC-0941)、LY3023414、ゲダトリシブ、オミパリシブ、およびPQR309が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤はまた、RAFシグナル伝達を阻害する。かかる阻害剤としては、ASN003が挙げられるが、これに限定されない。
【0142】
いくつかの実施形態では、PI3K阻害剤はまた、HDACシグナル伝達を阻害する。かかる阻害剤としては、フィメピノスタットが挙げられるが、これに限定されない。
【0143】
1つの実施形態では、PI3K阻害剤および/またはPI3K標的化治療薬は、アルペリシブである。別の実施形態では、PI3K阻害剤および/またはPI3K標的化治療薬は、IPI-549である。
【0144】
1つの実施形態では、PI3K標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびPI3Kシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のPI3Kシグナル伝達経路を阻害するPI3K標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0145】
別の実施形態では、PI3Kシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびPI3Kシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のPI3Kシグナル伝達経路に影響を及ぼすPI3K標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0146】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはERKであり、RASノードの阻害剤はERK阻害剤である。いくつかの実施形態では、ERK阻害剤は、ERK1を選択的に阻害する。他の実施形態では、ERK阻害剤は、ERK2を選択的に阻害する。さらに他の実施形態では、ERK阻害剤は、ERK1およびERK2の両方を阻害する。ERK阻害剤(アイソフォーム特異的ERK阻害剤が挙げられる)は、当該分野で周知であり、例えば、ラボキセルチニブ、SCH772984、SCH900353(MK8353)、ウリキセルチニブ、AZD0364(ATG017)、VX-11e(VTX-113)、CC-90003、LY3214996、FR180204、ASN007、E6201、およびGDC0994が挙げられる。
【0147】
1つの実施形態では、ERK標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびERKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のERKシグナル伝達経路を阻害するERK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0148】
別の実施形態では、ERKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびERKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のERKシグナル伝達経路に影響を及ぼすERK標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0149】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはMEKであり、RASノードの阻害剤はMEK阻害剤である。いくつかの実施形態では、MEK阻害剤は、MEK1を選択的に阻害する。他の実施形態では、MEK阻害剤は、MEK2を選択的に阻害する。さらに他の実施形態では、MEK阻害剤は、MEK1およびMEK2の両方を阻害する。MEK阻害剤(アイソフォーム特異的MEK阻害剤が挙げられる)は、当該分野で周知であり、例えば、トラメチニブ、ビニメチニブ、ピマセルチブ、コビメチニブ、PD901、U0126、セルメチニブ、PD325901、TAK733、CI-1040(PD184352)、PD198306、PD334581、PD98059、およびSL327が挙げられる。
【0150】
1つの実施形態では、MEK標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびMEKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のMEKシグナル伝達経路を阻害するMEK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0151】
別の実施形態では、MEKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびMEKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のMEKシグナル伝達経路に影響を及ぼすMEK標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0152】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはAKTであり、RASノードの阻害剤はAKT阻害剤である。いくつかの実施形態では、AKT阻害剤は、AKT1を選択的に阻害する。他の実施形態では、AKT阻害剤は、AKT2を選択的に阻害する。さらに他の実施形態では、AKT阻害剤は、AKT1およびAKT2の両方を阻害する。AKT阻害剤(アイソフォーム特異的AKT阻害剤が挙げられる)は、当該分野で周知であり、例えば、ARQ751、ボルッセルチブ(borussertib)、TAS-117、アフレセルチブ、M2698、MK-2206、カピバセルチブ、およびイパタセルチブが挙げられる。
【0153】
1つの実施形態では、AKT標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびAKTシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のAKTシグナル伝達経路を阻害するAKT標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0154】
別の実施形態では、AKTシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびAKTシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のMEKシグナル伝達経路に影響を及ぼすAKT標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0155】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはmTORであり、RASノードの阻害剤はmTOR阻害剤である。いくつかの実施形態では、mTOR阻害剤はまた、他のRASノード(PI3Kなど)を阻害する(例えば、二重PI3K/mTOR阻害剤)。1つの実施形態では、mTOR阻害剤は、mTORC1を阻害する。別の実施形態では、mTOR阻害剤は、mTORC2を阻害する。さらに別の実施形態では、mTOR阻害剤は、mTORC1およびmTORC2の両方を阻害する。mTOR阻害剤は当該分野で周知であり、例えば、ゲダトリシブ、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ダクトリシブ、AZD8055、ABTL-0812、PQR620、GNE-493、KU0063794、トルキニブ、リダフォロリムス、サパニセルチブ、ボクスタリシブ、トリン1、トリン2、OSI-027、PF-04691502、アピトリシブ、GSK1059615、WYE-354、ビスツセルチブ、WYE-125132、BGT226、パロミド529、WYE-687、WAY600、GDC-0349、XL388、ビミラリシブ(PQR309)、オミパリシブ(GSK2126458、GSK458)、オナタセルチブ(CC-223)、サモトリシブ、オミパリシブ、RMC-5552、およびGNE-477が挙げられる。
【0156】
1つの実施形態では、mTOR標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびmTORシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のmTORシグナル伝達経路を阻害するmTOR標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0157】
別の実施形態では、mTORシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびmTORシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のmTORシグナル伝達経路に影響を及ぼすmTOR標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0158】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはRAFであり、RASノードの阻害剤はRAF阻害剤である。1つの実施形態では、RAF阻害剤は、A-RAFを選択的に阻害する。別の実施形態では、RAF阻害剤は、B-RAFを選択的に阻害する。さらに別の実施形態では、RAF阻害剤は、C-RAFを選択的に阻害する。さらなる実施形態では、RAF阻害剤は、RAFの1つを超えるアイソフォームを阻害する。なおさらなる実施形態では、RAFは、RAFの全てのアイソフォームを阻害する。RAF阻害剤は当該分野で周知であり、例えば、PLX7904、GDC-0879、ベルバラフェニブ(GDC-5573)、SB590885、エンコラフェニブ、RAF265、RAF709、ダブラフェニブ(GSK2118436)、TAK-632、TAK580、PLX-4720、CEP-32796、ソラフェニブ、ベムラフェニブ(PLX-4032)、AZ-628、GW5074、ZM-336372、NVP-BHG712、CEP32496、PLX4032、PF-0728489、およびLGX-818が挙げられる。
【0159】
1つの実施形態では、RAF標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRAFシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRAFシグナル伝達経路を阻害するRAF標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0160】
別の実施形態では、RAFシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRAFシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRAFシグナル伝達経路に影響を及ぼすRAF標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0161】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはBcl-xLであり、RASノードの阻害剤はBcl-xL阻害剤である。Bcl-xL阻害剤は当該分野で周知であり、例えば、ナビトクラックス(ABT-263)、G139、GDC-0199(ABT-199、ベネトクラックス)、サブトクスラクス(sabutoxlax)(Bl-97C1)、ABT-737、AT101、TW037、A1331852、BXI-61、WEHI-539、A1331852、およびBXI-72が挙げられる。いくつかの実施形態では、Bcl-xL阻害剤は、Bcl-2ファミリーの1またはそれを超えるメンバー(Bcl-2など)をさらに阻害する。
【0162】
1つの実施形態では、Bcl-xL標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびBcl-xLシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のBcl-xLシグナル伝達経路を阻害するBcl-xL標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0163】
別の実施形態では、Bcl-xLシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびBcl-xLシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のBcl-xLシグナル伝達経路に影響を及ぼすBcl-xL標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0164】
いくつかの実施形態では、本明細書中に記載の方法で標的にされるRASノードはBcl-2であり、RASノードの阻害剤はBcl-2阻害剤である。Bcl-2阻害剤は当該分野で周知であり、例えば、ナビトクラックス(ABT-263)、オバトクラックスメシラート(GX15-070)、AZD5991、ジャセオシジン、A-1210477、ML311、ガンボギン酸、S63845、マリノピロールA(マリトクラックス)、VU661013、UMI-77、およびS64315(MIK665)が挙げられる。いくつかの実施形態では、Bcl-2阻害剤(例えば、ナビトクラックス)は、Bcl-2ファミリーの1またはそれを超えるメンバー(Bcl-xLなど)をさらに阻害する。
【0165】
1つの実施形態では、Bcl-2標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびBcl-2シグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のBcl-2シグナル伝達経路を阻害するBcl-2標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0166】
別の実施形態では、Bcl-2シグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびBcl-2シグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、または、出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または例えば95%と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のBcl-2シグナル伝達経路に影響を及ぼすBcl-2標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0167】
1つのRASノードの1つの阻害剤(例えば、PI3K阻害剤、AKT阻害剤、ERK阻害剤、MEK阻害剤、mTOR阻害剤、RAF阻害剤、Bcl-xL阻害剤)、または複数のRASノードの複数の阻害剤が、患者のがん細胞におけるGPCRシグナル伝達に影響を及ぼすと判定されると(例えば、所定のカットオフに等しいかそれを超える出力値または30%に等しいかそれを超える(例えば、50%に等しいかそれを超える)出力値の百分率で表される場合)、がん患者は、1つのRASノード標的化治療薬(例えば、PI3K標的化治療薬、AKT標的化治療薬、ERK標的化治療薬、MEK標的化治療薬、mTOR標的化治療薬、RAF標的化治療薬、Bcl-xL標的化治療薬)、または複数のRASノード標的化治療薬を用いた処置のために選択される。いくつかの実施形態では、RASノードの阻害剤およびRASノード標的化治療薬は、同一の化合物である。あるいは、患者のがん細胞におけるGPCRシグナル伝達がRASノードの阻害に応答性を示すと判定されると、患者を処置するために使用されるRASノード標的化治療薬は、RASノード標的化治療薬が阻害剤と同一のRASノードを阻害する限り、阻害剤と同一の化合物である必要はない。したがって、他の実施形態では、RASノードの阻害剤およびRASノード標的化治療薬は、異なる化合物である。例として、RASノードPI3Kを標的にする場合、患者のがん細胞におけるGPCRシグナル伝達がPI3Kの阻害に応答性を示すかどうかを判定するために使用されるPI3K阻害剤はLY294002であってよいのに対して、患者のがん細胞がLY294002に応答性を示す場合に患者に投与されるPI3K標的化治療薬はPI3K阻害剤アルペリシブであってよい。
【0168】
本明細書中に記載の方法を、RASと共関与する(co-involved)シグナル伝達ノード(RTKなど)を標的にするために使用してもよい。したがって、別の態様では、RTK標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、RTK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0169】
別の態様では、RTKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、RTKシグナル伝達を阻害するRTK標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0170】
ある特定の実施形態では、患者を選択するか、患者をRTK標的化治療薬で処置するかどうかの決定は、所定のカットオフ値を使用するよりもむしろ、第2の部分と比較して第1の部分で細胞接着または細胞付着の変化が生じたかどうかを特徴付ける出力値の百分率に基づく。
【0171】
したがって、別の態様では、RTK標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または95%またはそれより高い場合、RTK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0172】
別の態様では、RTKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をGPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または95%またはそれより高い場合、RTKシグナル伝達を阻害する標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0173】
いくつかの実施形態では、RTKシグナル伝達の阻害剤は、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、代謝産物、リガンド、試薬、有機分子、シグナル伝達因子、成長因子、生化学物質、またはその組み合わせである。
【0174】
種々のRTK阻害剤が当該分野で公知である。例示的な(非限定的な)RTKおよびその対応する阻害剤を、表1に記載する。
【0175】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0176】
RTK阻害剤が、患者のがん細胞におけるGPCRシグナル伝達に影響を及ぼすと判定されると(例えば、所定のカットオフに等しいかそれを超える出力値または30%に等しいかそれを超える、より好ましくは、50%に等しいかそれを超える出力値の百分率で表される場合)、がん患者は、RTK標的化治療薬を用いた処置のために選択される。いくつかの実施形態では、RTK阻害剤およびRTK標的化治療薬は、同一の化合物である。あるいは、患者のがん細胞におけるGPCRシグナル伝達がRTK阻害に応答性を示すと判定されると、患者を処置するために使用されるRTK標的化治療薬は、RTK阻害剤と同一の化合物である必要はない。したがって、他の実施形態では、RTK阻害剤およびRTK標的化治療薬は、異なる化合物である。
【0177】
いくつかの実施形態では、RTK阻害剤および/またはRTK標的化治療薬は、EGFR/ERBB、MuSK、HGFR、NGFR、FGFR、IR、CCK、EphR、RYK、RET、ROS、PDGFR、DDR、LTK、VEGFR、TIE、AXL、ROR、LMR、またはRTK106のファミリーのメンバーの阻害剤である。1つの実施形態では、RTK阻害剤および/またはRTK標的化治療薬は、ErbBファミリーのメンバーの阻害剤である。具体的な実施形態では、RTK阻害剤および/またはRTK標的化治療薬は、HER2の阻害剤である。さらに具体的な実施形態では、RTK阻害剤および/またはRTK標的化治療薬はネラチニブである。
【0178】
脊椎動物で発現されるGPCRを、配列同一性および機能に基づいて4つのクラス(クラスA(ロドプシン様)、クラスB(セクレチン受容体ファミリー)、クラスC(代謝型グルタミン酸受容体)、およびクラスF(フリズルド(frizzled)/スムースンド(smoothened)受容体)が挙げられる)に分類することができる。本発明の方法で標的にすることができるGPCRのサブクラスは、例えば、Alexander et al.,Br J Pharmacol.2019;176 S1:S21-S141およびwww.guidetopharmacology.orgに記載されており、5-ヒドロキシトリプタミン受容体、アセチルコリン受容体(ムスカリン性)、アデノシン受容体、接着クラスGPCR、アドレノセプター、アンギオテンシン受容体、アペリン受容体、胆汁酸受容体、ボンベシン受容体、ブランジキニン受容体、カルシトニン受容体、カルシウム感知受容体、カンナビノイド受容体、ケメリン受容体、ケモカイン受容体、コレシストキニン受容体、クラスフリズルドGPCR、補体ペプチド受容体、コルチコトロピン放出因子受容体、ドーパミン受容体、エンドセリン受容体、Gタンパク質共役エストロゲン受容体、ホルミルペプチド受容体、遊離脂肪酸受容体、GABA受容体、ガラニン受容体、グレリン受容体、グルカゴン受容体ファミリー、糖タンパク質ホルモン受容体、ゴナドトロフィン放出ホルモン受容体、GPR18、GPR55、GPR119、ヒスタミン受容体、ヒドロキシカルボン酸受容体、キスペプチン受容体、ロイコトリエン受容体、リゾリン脂質受容体、メラニン凝集ホルモン受容体、メラトニン受容体、代謝型グルタミン酸受容体、モチリン受容体、ニューロメジンU受容体、神経ペプチドFF/神経ペプチドAF受容体、神経ペプチドS受容体、神経ペプチドW/神経ペプチドB受容体、神経ペプチドY受容体、ニューロテンシン受容体、オピオイド受容体、オレキシン受容体、オキソグルタル酸受容体、P2Y受容体、副甲状腺ホルモン受容体、血小板活性化因子受容体、プロカイネチシン受容体、プロラクチン放出ペプチド受容体、プロスタノイド受容体、プロテイナーゼ活性化受容体、ソマトスタチン受容体、コハク酸受容体、タキキニン受容体、サイロトロピン放出ホルモン受容体、微量アミン受容体、ウロテンシン受容体、バソプレシンおよびオキシトシン受容体、ならびにVIPおよびPACAP受容体が挙げられるが、これらに限定されない。さらなるGPCRとしては、嗅覚受容体、オーファン受容体(クラスA~Cオーファン)、オプシン受容体、味覚1および2受容体、ならびに他の7回膜貫通タンパク質(GPR107、GPR137、TPRA1、GPR143、およびGPR157など)が挙げられる。
【0179】
上記のGPCRおよびGPCRサブクラスの好適なアゴニストは、当該分野で周知であり、本明細書中に記載の方法において各々のGPCRを刺激するために使用することができる。
【0180】
いくつかの実施形態では、GPCRはリゾリン脂質GPCRである。リゾリン脂質GPCRは、リゾリン脂質(グリセロール骨格またはスフィンゴイド骨格を有することができ、かつ単一の炭素鎖および極性頭部基を有する)によって活性化される。この受容体クラスは、広範な細胞機能(増殖、生存、遊走、接着、およびCaホメオスタシスが挙げられる)に関与する。
【0181】
したがって、一実施形態では、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、BCL)標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0182】
別の実施形態では、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、BCL)によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、被験体のがん細胞が、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法が本明細書に提供される。
【0183】
別の実施形態では、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、BCL)標的化治療薬で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または95%もしくはそれより高い場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0184】
別の実施形態では、RASノード(例えば、PI3K、AKT、mTOR、RAF、MEK、ERK、BCL)によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRASノードの阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または95%もしくはそれより高い場合、阻害剤として同一のRASノードを阻害するRASノード標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0185】
別の実施形態では、RTK標的化治療薬(例えば、HER2標的化治療薬などのErbBファミリーメンバー標的化治療薬)で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRTKを阻害するRTK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0186】
別の実施形態では、RTKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、被験体のがん細胞が、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップ;および
細胞接着または細胞付着の変化を特徴付ける出力値が、所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、阻害剤として同一のRTKを阻害するRTK標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む方法において試験されている、方法が本明細書に提供される。
【0187】
別の実施形態では、RTK標的化治療薬(例えば、HER2標的化治療薬などのErbBファミリーメンバー標的化治療薬)で処置するためにがんと診断されたヒト被験体を選択する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または95%もしくはそれより高い場合、阻害剤として同一のRTKを阻害するRTK標的化治療薬で処置するための被験体を選択するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0188】
別の実施形態では、RTKシグナル伝達によって媒介されるがんと診断されたヒト被験体を処置する方法であって、ここで、被験体のがん細胞は、
被験体から得た生存がん細胞の試料を培養するステップ;
(1)試料の第1の部分をリゾリン脂質GPCRシグナル伝達のアゴニストおよびRTKシグナル伝達の阻害剤と接触させ、(2)試料の第2の部分をアゴニストのみと接触させるステップ;
第1および第2の部分における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;
連続測定値の数理解析によって、第2の部分と比較して第1の部分において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値の百分率を決定するステップ;および
出力値の百分率が、30%と等しいかそれを超える、例えば、35%と等しいかそれを超える、または例えば40%と等しいかそれを超える、または例えば45%と等しいかそれを超える、または例えば50%と等しいかそれを超える、または例えば55%と等しいかそれを超える、または例えば60%と等しいかそれを超える、または例えば65%と等しいかそれを超える、または例えば70%と等しいかそれを超える、または例えば75%と等しいかそれを超える、または例えば80%と等しいかそれを超える、または例えば85%と等しいかそれを超える、または例えば90%と等しいかそれを超える、または95%もしくはそれより高い場合、阻害剤として同一のRTKを阻害するRTK標的化治療薬を被験体に投与するステップ
を含む、方法において試験されている。
【0189】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、RASノードの阻害剤およびRASノード標的化治療薬は、同一の化合物である。他の実施形態では、RASノードの阻害剤およびRASノード標的化治療薬は、異なる化合物である。いくつかの実施形態では、RTKシグナル伝達の阻害剤およびRTK標的化治療薬は、同一の化合物である。他の実施形態では、RTKシグナル伝達の阻害剤およびRTK標的化治療薬は、異なる化合物である。
【0190】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、リゾリン脂質GPCRは、リゾホスファチジン酸(LPA)受容体、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体、リゾホスファチジルイノシトール(LPI)受容体、およびリゾホスファチジルセリン(LyPS)受容体からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、リゾリン脂質GPCRは、内皮分化遺伝子(EDG)GPCR、例えば、LPA受容体(LPAR1-3)またはS1P受容体(S1PR1-5)である。いくつかの実施形態では、リゾリン脂質GPCRは、P2YファミリーGPCR(LPAR4-6)である。
【0191】
いくつかの実施形態では、LPA受容体(LPAR)は、LPAR1、LPAR2、LPAR3、LPAR4、LPAR5、およびLPAR6(当該分野でLPA、LPA、LPA、LPA、LPA、LPAとも称される)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、S1P受容体(S1PR)は、S1PR1、S1PR2、S1PR3、S1PR4、およびS1PR5(当該分野でS1P、S1P、S1P、S1P、およびS1Pとも称される)からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、LPI受容体はGPR55である。いくつかの実施形態では、LyPS受容体は、LyPS1(GPR34)、LyPS2(P2Y10)、LyPS2L、およびLyPS3(GPR174)からなる群から選択される。
【0192】
いくつかの実施形態では、GPCRシグナル伝達のアゴニストは、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、代謝産物、リガンド、試薬、有機分子、シグナル伝達因子、成長因子、生化学物質、またはその組み合わせである。
【0193】
GPCRがLPA受容体である実施形態では、例示的なアゴニストとしては、LPA、FAP-10、FAP-12、およびOMPTが挙げられるが、これらに限定されない。アゴニストとしての使用に好適なLPAの非限定的な例としては、例えば、LPA 18:0、LPA 18:1、LPA 18:2、LPA 20:4、およびLPA 16:0が挙げられる。
【0194】
GPCRがS1P受容体である実施形態では、例示的なアゴニストとしては、S1P、FTY720、BAF312、A971432、セラリフィモド、CS2100、CYM50260、CYM50308、CYM5442、CYM5520、CYM5541、GSK2018682、RP001塩酸塩、SEW2871、TC-G1006、およびTC-SP14が挙げられるが、これらに限定されない。
【0195】
GPCRがLPI受容体(GPR55)である実施形態では、例示的なアゴニストとしては、LPIおよび2-アラキドノイルLPIが挙げられるが、これらに限定されない。
【0196】
GPCRがLyPS受容体である実施形態では、例示的なアゴニストとしては、例えば、Ikubo et al.J Med Chem 2015;58:4204-19に記載のLyPSおよびそのアナログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0197】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、生存がん細胞を、治療剤のみを含む試料の第3の部分と接触させる。いくつかの実施形態では、連続測定値の数理解析によって、細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付ける出力値を決定するステップは、試料の第2の部分および第3の部分との第1の部分の比較を含む。
【0198】
1つの実施形態では、GPCRシグナル伝達経路が被験体のがん細胞で異常に活性である。異常に活性なシグナル伝達を決定する方法を、以下の小節に記載する。
【0199】
本明細書中に提供した方法で使用するための所定のカットオフ値を、以下の小節に記載する。
【0200】
1つの実施形態では、細胞接着または細胞付着を、インピーダンスバイオセンサーまたは光学的バイオセンサーを使用して測定する。バイオセンサーの使用を、以下の小節にさらに詳述する。
【0201】
1つの実施形態では、がんは、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、卵巣がん、および白血病からなる群から選択される。さらなる好適ながんを、以下の小節に記載する。
【0202】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)RASノードタンパク質を発現する。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)PI3K酵素を発現する。別の実施形態では、被験体のがん細胞は、変異したPI3K酵素を発現する。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)PI3K、ERK、MEK、RAF、BCL、および/またはmTORを発現する。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、上昇していないレベルのRTKを発現する(すなわち、RTK陰性がん細胞)。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、上昇していないレベルのHER2を発現する(すなわち、HER2陰性がん細胞)。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、HER2陰性であり、かつ変異していない(すなわち、野生型)PI3K、ERK、MEK、RAF、BCL、および/またはmTORを発現する。いくつかの実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)GPCRを発現する。したがって、1つの実施形態では、本明細書中に記載の方法においてGPCRシグナル伝達のアゴニストによって活性化されるGPCRは、変異していない(すなわち、野生型)。別の実施形態では、被験体のがん細胞は、上昇していないレベルのGPCRを発現する。すなわち、本明細書中に記載の方法においてGPCRシグナル伝達のアゴニストによって活性化されるGPCRは、過剰発現したり、正常を超える統計的に有意なレベルを超えて発現される必要がない。
【0203】
1つの実施形態では、生存がん細胞の試料を、成長因子を含み、かつ血清を含まない培地中で培養する。1つの実施形態では、生存がん細胞の試料を、抗アポトーシス剤を含み、かつ血清を含まない培地中でも培養する。細胞の培養条件および培養を、以下の小節にさらに詳細に記載する。
【0204】
GCPRシグナル伝達経路の超感受性を測定する方法
本明細書中に記載の方法に関して考察するように、いくつかの実施形態では、患者のがん細胞におけるGPCRシグナル伝達経路は、異常に活性である(すなわち、超感受性)。したがって、患者の細胞におけるGPCRシグナル伝達経路が異常に超感受性であるかどうかを決定する方法を本明細書中に提供する。超感受性経路は、シグナル伝達経路アゴニストなどの細胞出力が非常に低いレベルしか変化しない場合でさえも(例えば、受容体リガンド濃度の変化が1nMから10nMまで)、低レベルの経路活性化応答性(例えば、10%の細胞出力)から非常に高レベルの経路活性化応答性(例えば、90%細胞出力)まで変化させることができる経路である。患者のがん細胞における異常に超感受性のシグナル伝達経路は、がん細胞においてさらなる異常なシグナル伝達経路が存在するとしても、疾患プロセス(例えば、腫瘍成長)の駆動に関与する可能性がある。したがって、患者のがん細胞における異常に超感受性のシグナル伝達経路の同定は、治療効果のある処置レジメンの有効な選択手段である。いかにしてがん細胞がシグナル伝達経路に対して超感受性になるかについての実施形態を、実施例2に記載する。
【0205】
したがって、一態様では、がんと診断されたヒト被験体が異常に活性なGPCRシグナル伝達を有するかどうかを決定する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞を含む試料を培養するステップ;
試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させるステップ;
アゴニストと接触していない試料の一部と比較したアゴニストと接触した試料の一部における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;および
連続測定値の数理解析によって、アゴニストに対する試料の感受性、およびアゴニストと接触しなかった試料の一部と比較して、アゴニストと接触した試料の一部において細胞接着または細胞付着の変化が生じているかどうかを特徴付けるアゴニストについての出力値を決定するステップであって、アゴニストについての出力値が所定のカットオフ値と等しいかそれを超える場合、GPCRシグナル伝達経路が異常に活性と見なされる、決定するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0206】
別の態様では、がんと診断されたヒト被験体が異常に活性なGPCRシグナル伝達を有するかどうかを決定する方法であって、
被験体から得た生存がん細胞を含む試料を培養するステップ;
試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させるステップであって、試料の一部を高い方の濃度のアゴニストと接触させ、試料の一部を低い方の濃度のアゴニストと接触させる、接触させるステップ;
低い方の濃度のアゴニストと接触した試料の一部と比較した高い方の濃度のアゴニストと接触した試料の一部における生存がん細胞の細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップ;および
連続測定値の数理解析によって、アゴニストに対するシグナル伝達経路の感受性を決定するステップであって、GPCRシグナル伝達経路がアゴニストに対して超感受性である場合に、シグナル伝達経路が異常に活性と見なされる、決定するステップ
を含む、方法が本明細書に提供される。
【0207】
1つの実施形態では、アクチベーターの高い方の濃度はEC90(すなわち、有効濃度90)であり、アクチベーターの低い方の濃度はEC10(すなわち、有効濃度10)である。本明細書中で使用される場合、EC90は、アクチベーターが被験体の細胞に対して最大応答の90%を示すアクチベーターの濃度である。本明細書中で使用される場合、EC10は、アクチベーターが被験体の細胞に対して最大応答の10%を示すアクチベーターの濃度である。1つの実施形態では、EC90:EC10比が81未満である場合にシグナル伝達経路がアクチベーターに対して超感受性であることを示す。
【0208】
他の実施形態では、アクチベーターの高い方の濃度は、アクチベーターの低い方の濃度の2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍またはそれを超え、80倍までである。
【0209】
別の実施形態では、アクチベーターの高い方の濃度は、使用される唯一の濃度であり、本明細書中に記載の実施形態のいずれかによって超感受性を示す患者の小集団の結果を、超感受性を示さない患者の小集団の結果と比較することによって決定される。したがって、別の実施形態では、シグナル伝達経路の超感受性の測定を含む本開示の方法は、細胞接着または細胞付着に対する効果によって測定した場合にシグナル伝達経路を活性化させるために試料をGPCRシグナル伝達経路のアゴニストと接触させる、接触させるステップを(培養するステップと細胞接着または細胞付着を連続的に測定するステップとの間に)含み、ここで、前記のアクチベーターの使用濃度は、シグナル伝達経路の超感受性を同定するために決定された濃度である。
【0210】
1つの実施形態では、アクチベーターに対するシグナル伝達経路の感受性を、ヒル係数を決定するためのヒル式を使用して決定する。
【0211】
ヒル式は、当該分野で公知であり、以下のように最も簡潔に表すことができる:
【数1】
および
【数2】
式中、
● 入力は、入力濃度である。これを、pM、nM、μM、mM、M、ng/mL、%などの多数の異なる形態で表すことができる。
● K0.5は、最大半量濃度定数である。これを、Khalfと称してもよい。これは、完全な反応の50%を生じる基質濃度である。
nはヒル係数である。
【0212】
1つの実施形態では、1を超えるヒル係数値は、シグナル伝達経路がアクチベーターに対して超感受性を示すことを示す。
【0213】
ヒル式は、以下の別の様式で表される:
【数3】
式中、
θ-経路から導き出された活性の分数
[L]-遊離(非結合)リガンド(アクチベーター)の濃度
-質量作用の法則から導き出された見かけ上の解離定数(解離の平衡定数)であって、リガンド-受容体複合体の解離速度の、その会合速度に対する比
【数4】
に等しい。
n-ヒル係数
【0214】
当業者は、上記の式が、勾配がn(ヒル係数)である直線プロットをもたらす
【数5】
対logLの直線プロットを作成するのに有用であることを認識するであろう。
【0215】
また、当業者は、EC90/EC10が81未満であることが超感受性シグナル伝達の例を表し、ここで、EC90/EC10比が小さいほど超感受性が高くなることを認識するであろう。
【0216】
1つの実施形態では、GPCRシグナル伝達経路は、リゾリン脂質GPCRシグナル伝達経路、例えば、LPAR、S1PR、LPIR(GPR55)、およびLyPSRからなる群から選択されるリゾリン脂質GCPRである。いくつかの実施形態では、LPA受容体(LPAR)は、LPAR1、LPAR2、LPAR3、LPAR4、LPAR5、およびLPAR6からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、S1P受容体(S1PR)は、S1PR1、S1PR2、S1PR3、S1PR4、およびS1PR5からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、LyPS受容体は、LyPS1(GPR34)、LyPS2(P2Y10)、LyPS2L、およびLyPS3(GPR174)からなる群から選択される。
【0217】
いくつかの実施形態では、GPCRシグナル伝達(例えば、リゾリン脂質GPCRシグナル伝達)のアゴニストは、タンパク質、ペプチド、脂質、核酸、代謝産物、リガンド、試薬、有機分子、シグナル伝達因子、成長因子、生化学物質、またはその組み合わせである。当該分野で公知の任意のGPCRアゴニストは、対応するGPCRシグナル伝達経路が被験体の細胞において超感受性を示すかどうかの決定に好適である。使用に好適な例示的なリゾリン脂質GPCRアゴニストは、前記の小節に記載されている。
【0218】
本明細書中に記載の方法のいくつかの実施形態では、RASノード標的化治療薬またはRTK標的化治療薬に対する異常に活性なGPCRシグナル伝達経路の応答性を、GPCRシグナル伝達経路(例えば、リゾリン脂質GPCRシグナル伝達経路)が異常に活性であるかどうかを最初に決定した後に試験する。他の実施形態では、GPCRシグナル伝達のアゴニストに対する患者の細胞の感受性を、RASノードまたはRTKシグナル伝達の阻害剤がGPCRシグナル伝達経路に影響を及ぼすかどうかの決定と同時に試験する。
【0219】
1つの実施形態では、細胞接着または細胞付着を、インピーダンスバイオセンサーまたは光学的バイオセンサーを使用して測定する。バイオセンサーの使用を、以下の小節にさらに詳述する。
【0220】
1つの実施形態では、がんは、乳がん、肺がん、結腸直腸がん、膀胱がん、腎臓がん、卵巣がん、および白血病からなる群から選択される。さらなる好適ながんを、以下の小節に記載する。
【0221】
一実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)RASノードタンパク質を発現する。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)PI3K酵素を発現する。別の実施形態では、被験体のがん細胞は、変異したPI3K酵素を発現する。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、変異していない(すなわち、野生型)PI3K、ERK、MEK、RAF、BCL、および/またはmTORを発現する。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、上昇していないレベルのRTKを発現する(すなわち、RTK陰性がん細胞)。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、上昇していないレベルのHER2を発現する(すなわち、HER2陰性がん細胞)。1つの実施形態では、被験体のがん細胞は、HER2陰性であり、かつ変異していない(すなわち、野生型)PI3K、ERK、MEK、RAF、BCL、および/またはmTORを発現する。1つの実施形態では、本明細書中に記載の方法においてGPCRシグナル伝達のアゴニストによって活性化されるGPCRは、変異していない(すなわち、野生型)。別の実施形態では、被験体のがん細胞は、上昇していないレベルのGPCRシグナル伝達のアゴニストによって活性化されるGPCRを発現する。
【0222】
1つの実施形態では、生存がん細胞の試料を、成長因子を含み、かつ血清を含まない培地中で培養する。別の実施形態では、生存がん細胞の試料を、抗アポトーシス剤を含み、かつ血清を含まない培地中でも培養する。細胞の培養条件および培養を、以下の小節にさらに詳細に記載する。
【0223】
いくつかの実施形態では、これらの薬剤のうちの1つまたは複数に対する試料の応答を、細胞増殖を撹乱する成長因子または抗アポトーシス剤の存在下または非存在下で測定することもできる。細胞増殖を撹乱する成長因子としては、成長ホルモン、上皮成長因子、血管内皮成長因子、血小板由来成長因子、肝細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子、線維芽細胞成長因子、神経成長因子、および当業者に公知の他の成長因子が挙げられる。抗アポトーシス剤としては、抗アポトーシス性のタンパク質または経路を調節する化合物(例えば、Bcl-2タンパク質活性に対するタキソールおよび抗アポトーシス性Rasシグナル伝達カスケードの調節のためのゲフィチニブ)が挙げられる。
【0224】
試料の調製および培養
本発明の実施形態としては、被験体の罹患細胞に投与されたときに標的化治療剤(例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤)の有効性を決定するか、標的化治療剤の有効性をモニタリングするか、あるいは標的化治療剤の用量を同定するためのシステム、キット、および方法が挙げられる。
【0225】
従来より、疾患は、罹患している組織または臓器によって分類されている。根底にある機序(例えば、過活動性RTKまたはGPCRのシグナル伝達、遺伝学、自己免疫応答など)のより深い知識によると、同一の組織/臓器に影響を及ぼすか、同一の症状を生じる疾患が、異なる病因を有する場合があり、不均質な遺伝子発現プロフィールを有し得ると現在は理解されている。さらに、治療剤には応答者および無応答者が存在することが多くの疾患において示されている。実施形態では、応答者および無応答者が同定されている任意の疾患型を、薬物の特定の治療薬の組み合わせが特定の個体に有効であるかどうかを予測するか予後を判定するために(例えば、個体が応答者または無応答者のいずれであるのかの決定)本明細書中の方法で使用することができる。
【0226】
実質的に不均質であり、かつ応答者および多くの無応答者を有することが公知の疾患型の一例はがんである。がんは、典型的には、組織型に応じて分類される。しかしながら、がんの不均質性は、より正確には、がんごとに変異が異なると説明される。がんの不均質性は、さらにより正確には、特定の患者の細胞における変異の実際の機能的、生理学的結果と説明される。例えば、乳がんは、この臓器にがんを生じる型および変異が多様である。アウトカムおよび処置は、がんを生じる変異が機能獲得(例えば、タンパク質産生を増加させる癌原遺伝子)または機能喪失変異(例えば、腫瘍抑制因子)のいずれであるのか、およびどの遺伝子であるのかによって異なり得る。特定のがんの不均質性に起因して、特定の治療剤に対して不均質に応答することが予想されるであろう。本発明の実施形態は、被験体のためにある処置を選択するために、治療剤または一連の治療剤に対して特定の被験体のがん細胞を試験して、特定の被験体のがんに特異的な治療剤または最も有効な治療剤の有効性を決定することが可能である。
【0227】
本発明の実施形態としては、個別の被験体由来のがん細胞の疾患細胞試料が挙げられる。かかるがん細胞は、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、副腎皮質癌、肛門がん、虫垂がん、星状細胞腫、基底細胞癌、肝外胆管がん、膀胱がん、骨のがん、骨肉腫、悪性線維性組織球腫、脳幹部神経膠腫、中枢神経系非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、中枢神経系胎児性腫瘍、中枢神経系胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫、上衣芽細胞腫、上衣腫、髄芽腫、髄様上皮腫、乳がん、中間的な分化を示す松果体実質腫瘍、テント上原始神経外胚葉腫瘍、松果体芽細胞腫、気管支腫瘍、カルチノイド腫瘍、子宮頸がん、慢性リンパ球性白血病(CLL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄増殖性障害、結腸がん、結腸直腸がん、皮膚T細胞リンパ腫、非浸潤性乳管癌(DCIS)、子宮内膜がん、食道がん、感覚神経芽細胞腫、ユーイング肉腫、性腺外生殖細胞腫瘍、眼内黒色腫、網膜芽細胞腫、線維性組織球腫(fibrous histocytoma)、胆嚢がん、胃がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、妊娠性栄養膜腫瘍、神経膠腫、毛様細胞白血病、心臓がん、肝細胞がん、ランゲルハンス細胞組織球症、ホジキンリンパ腫、下咽頭がん、島細胞腫、カポジ肉腫、腎細胞がん、喉頭がん、口唇がん、肝臓がん、上皮内小葉癌(LCIS)、肺がん、メルケル細胞癌、黒色腫、中皮腫、口腔がん、多発性骨髄腫、鼻腔および副鼻腔のがん、鼻咽頭がん、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺がん、口腔がん、口腔咽頭がん、卵巣がん、膵臓がん、乳頭腫症、傍神経節腫、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、松果体実質腫瘍、下垂体腫瘍、胸膜肺芽腫、前立腺がん、直腸がん、横紋筋肉腫、唾液腺がん、扁平上皮癌、小腸がん、睾丸がん、咽喉がん、甲状腺がん、尿管がん、尿道がん、子宮がん、膣がん、外陰がん、ならびにウィルムス腫瘍に由来し得るが、これらに限定されない。
【0228】
自己免疫疾患は、自己抗原に対する免疫系活性化に起因する炎症の増加を特徴とする。現在の治療では、免疫系細胞(B細胞など)および炎症性分子(抗TNFαなど)を標的にする。治療は、免疫調節(immune modulating)または免疫抑制剤(immunosuppressant)と広く特徴付けることができる。薬物は、TNFアルファ、インテグリン、スフィンゴシン受容体、およびインターロイキンなどの特定の分子を標的にしてよい。他の薬物は、抗炎症剤(コルチコステロイドなど)として作用する。さらに他の場合、薬物は、免疫抑制薬(メルカプトプリンおよびシクロホスファミドなど)である。自己免疫状態に関して、末梢血球を、ある特定の治療薬に対する応答について試験してよい。他の実施形態では、炎症部位(例えば、関節リウマチにおける滑膜組織または潰瘍性大腸炎についての結腸組織)の組織試料。
【0229】
例えば、関節リウマチを有する患者は、抗TNFα抗体に対する無応答者である場合があることが公知である。1つの実施形態では、末梢血球を、RAおよび患者のTNF受容体の細胞シグナル伝達能の疾患を有する疑いのある患者から得ることができ、関連するMAPK経路を使用して、患者が免疫調節化合物または免疫抑制化合物に対する応答者または無応答者のいずれである可能性があるかどうかを決定することができる。同様に、IL-6、インターフェロンアルファ、およびインターフェロンガンマなどを標的にする治療などの他の治療を、同一の方法で試験してよい。他の実施形態では、多発性硬化症を有する患者がインターフェロンβに対する無応答者であることが公知である。被験体由来の細胞試料を、一連の薬物に対して試験して、細胞生理学的パラメーターの変化の誘導によって薬物のいずれかが特定の被験体に有効であるかどうかを探索することができる。有利なアウトカムの例は、米国リウマチ学会(ACR)の基準によって決定された細胞炎症パラメーターの低下または血液脳関門機能強化のための細胞接着の増加であろう。
【0230】
他の実施形態では、患者は、微生物、異物、または外来病原因子による細胞の感染に原因する疾患を有し得る。微生物に感染した血球試料または組織試料を、種々の抗生物質、抗ウイルス剤、または他の治療薬の候補に対する応答性について評価し得る。例えば、ウイルス感染を軽減するC型肝炎感染のための異なる治療剤がいくつか存在し、感染組織試料を、1またはそれを超える治療剤と接触させることができ、細胞生理学的パラメーターの変化を検出する。感染組織の細胞生理学的パラメーターを変化させる治療剤および/または最低用量で細胞生理学的パラメーターを変化させる治療剤が選択される。細胞生存の増加または細胞成長の増加などのアウトカムが有利と見なされるであろう。細胞経路の特異的な受容体型または活性化を介してウイルス侵入を遮断することなどによってヒト細胞に直接影響を及ぼすように治療薬がデザインされた他の実施形態では、患者の細胞を、本明細書中の他の実施形態に記載のように前記の治療薬による受容体結合または経路活性化について試験することができる。
【0231】
実施形態では、細胞試料を、治療開始前、治療中、治療後、寛解中、および再発の際に得ることができる。本明細書中に記載の方法は、処置前、処置中、患者が耐性を生じたとき、および再発の際に治療有効性を予測するのに有用である。また、本開示の方法は、治療剤または薬剤の組み合わせに対する応答者または無応答者の予測に有用である。
【0232】
ある特定の実施形態では、細胞を、いかなる種類の固定剤でも接触や処理がされておらず、パラフィンや他の材料にも包埋されておらず、あるいはいかなる検出可能な標識もされていない。他の実施形態では、細胞は、完全で、生存可能であり、かつ/または無標識のままであることが好ましい。したがって、生存初代細胞を細胞試料として使用することができる。いくつかの他の実施形態では、罹患組織および健常組織の両方のために細胞試料が提供される。いくつかの実施形態では、生存形態および固定形態の両方の細胞試料が提供される。固定形態で提供される細胞試料は、特に同定の改善およびさらなるバイオマーカーの相関関係のために、本明細書中に記載の方法にしたがって分析される生存細胞と比較するための対照としての役割を果たすことができる。
【0233】
本発明の他の実施形態では、個別の被験体由来の細胞を使用して治療有効性を決定する。細胞を、周知の方法(すなわち、スワブ、生検など)によって回収および単離することができる。罹患細胞および非罹患細胞の両方を使用することができる。非罹患細胞を、負の対照、ベースライン測定、測定の経時的な比較などのために使用することができる。実施形態では、同一の被験体由来の組織細胞の対照組織も得てよい。対照試料を、被験体内の別の健常組織または罹患組織試料と同一の臓器由来の健常組織から採取し得るか、より好ましくは、罹患していない個体から健常組織を採取する。罹患細胞は、活動性疾患を有する組織から抽出した細胞である。1つの実施形態では、罹患細胞は、腫瘍細胞(乳がん細胞など)であり得る。がん性細胞は、必ずしも腫瘍細胞から抽出されてなければならないことはない。例えば、白血病細胞を、白血病患者の血液から採取することができる。細胞を、異なる組織部位(転移部位、循環腫瘍細胞、原発腫瘍部位、および再発性腫瘍部位など)から採取し、細胞応答性を相互に比較することができる。別の実施形態では、罹患細胞を、自己免疫疾患部位(関節リウマチ部位など)から抽出することができる。ある特定の実施形態では、各組織試料中の細胞数は、好ましくは、少なくとも約5000細胞である。他の実施形態では、組織試料中の細胞数は、約5000~100万細胞またはそれを超える範囲であってよい。細胞試料としては、限定されないが、血液、血清、血漿、尿、精液、精液、精漿、前立腺液、前射精液(カウパー腺液)、排泄物、涙、唾液、汗、生検、腹水、脳脊髄液、リンパ、骨髄、または毛髪からの単離物が挙げられる。いくつかの他の実施形態では、細胞試料は、患者の血清、その画分、オルガノイド、線維芽細胞、間質細胞、間葉細胞、上皮細胞、白血球、赤血球、B細胞、T細胞、免疫細胞、幹細胞、またはその組み合わせを含むか、これらに由来することができる。
【0234】
1つの実施形態では、被験体由来の細胞の抽出を、シグナル伝達経路活性を評価する方法(例えば、本明細書中に記載のCReMSシステム)と同一の場所(例えば、研究所、病院)で行う。そのようなものとして、細胞を、被験体からバイオセンサーまでの時間を埋めるための周知の移行培地中に懸濁するか保存することができる。別の実施形態では、被験体からの細胞の抽出は、シグナル伝達経路活性を評価する方法(例えば、本明細書中に記載のCReMSシステム)と異なる場所で行う。細胞試料が得られた時点で、細胞試料を、細胞生存度を保持する培地中に維持する。分析現場への輸送時間の長さに応じて、異なる培地を使用してよい。実施形態では、組織試料の輸送に最大10時間を要し得る場合、培地は、400mosm/L未満の重量オスモル濃度を有し、Na+、K+、Mg+、Cl-、Ca+2、グルコース、グルタミン、ヒスチジン、マンニトール、およびトリプトファン、ペニシリン、ストレプトマイシンを含み、必須アミノ酸を含み、非必須アミノ酸、ビタミン、他の有機化合物、微量のミネラルおよび無機塩、血清、細胞抽出物、または成長因子、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、ホスホリルエタノールアミン(phosphophorylrthanoloamine)、トリヨードサイロニン、ピルビン酸ナトリム、L-グルタミンを、ヒト初代細胞の増殖およびプレーティング効率を支持するためにさらに含んでよい。かかる培地の例としては、Celsior培地、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)、ハンクス緩衝食塩水、およびマッコイ5A、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、リーボビッツL-15、または初代細胞を取り扱うためのこれらの改変培地が挙げられる。実施形態では、培地および容器は、内毒素を含まず、発熱性が無く、DNアーゼおよびRNアーゼを含まない。
【0235】
他の実施形態では、個別の被験体の組織標本から得た罹患細胞を、組織標本をミンチおよび酵素消化すること、抽出した細胞を細胞型よって分離すること、そして/または抽出した細胞を培養することを含むステップを使用して抽出する。培養試薬は、種々の補充物質(例えば、患者の血清または患者由来の因子)を含むことができる。
【0236】
さらなる態様は、組織標本からオルガノイドを抽出する方法を含み、その後にオルガノイドを使用して、個別の被験体における治療剤の有効性を決定することができる。かかる方法は、ミンチするステップおよび酵素消化ステップを含む。さらなる態様は、組織標本由来のオルガノイドを培養する方法を含み、その後にオルガノイドを使用して、個別の被験体における治療剤の有効性を決定することができる。かかる方法は、ミンチするステップ、酵素消化ステップ、細胞型による分離ステップ、および培養ステップを含む。さらなる態様は、本明細書中に記載の方法を実施するために、そのように分離した細胞の特異的組換えを含んでよい。
【0237】
ある特定の実施形態では、被験体由来の生存細胞試料におけるシグナル伝達経路活性を評価する前に、細胞が生理学的状態および経路の活性化に関して同期するように、細胞を血清や評価すべきGPCRシグナル伝達経路を撹乱し得るいかなる薬剤も含まない培地中で最初に培養する。ある特定の実施形態では、細胞試料を、血清および成長因子を含まない培地中で培養する。他の実施形態では、ヒト初代細胞の増殖およびプレーティング効率(plating efficacy)を支持するために、機能的な細胞環状アデノシン一リン酸(cAMP)、機能的な甲状腺受容体、および/または機能的なGタンパク質共役受容体(または前記の性質の2つもしくは3つの任意の組み合わせ)を維持する培地中で細胞を培養する。
【0238】
1つの実施形態では、生存がん細胞の試料を、成長因子を含み、かつ血清を含まない培地中で培養する。別の実施形態では、生存がん細胞の試料を、抗アポトーシス剤を含み、かつ血清を含まない培地中でも培養する。抗アポトーシス剤の非限定的な例としては、キナーゼ阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、ストレス阻害剤、デスレセプター阻害剤、シトクロムC阻害剤、アノイキス阻害剤(Rho関連キナーゼ阻害剤が挙げられる)、ALK5阻害剤、カスパーゼ阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、レドックス緩衝剤、活性酸素種阻害剤、TNFα阻害剤、TGFβ阻害剤、シトクロムC放出阻害剤、カルシウムチャネルを活性化しない炭酸脱水酵素アンタゴニスト、インテグリン安定剤、インテグリンリガンド、Fas阻害剤、FasL阻害剤、Bax阻害剤、およびApaf-1阻害剤が挙げられる。
【0239】
初代細胞試料(例えば、被験体から得た生存がん細胞試料)の調製のためのさらなる好適な培養条件は、WO2017/070353号として公開されたPCT出願番号PCT/US2016/057923号(その内容全体が本明細書中で参考として明確に援用される)に詳述されている。
【0240】
試料の分析
本発明のシステムおよび方法は、本明細書中で細胞応答測定システム(CReMS)と称されるシステムを利用する。CReMSは、細胞中、細胞中かつ細胞間、および細胞と計装デバイスとの間の生理学的パラメーターの変化を定量的に決定することができるデバイス(例えば、バイオセンサー)を指す。生理学的パラメーターの変化を、分析物(例えば、細胞外基質、細胞シグナル伝達分子、または細胞増殖、組織、細胞、代謝産物、異化産物、生体分子、イオン、酸素、二酸化炭素、炭水化物、タンパク質などの非限定的な例が含まれる)の変化を決定することによって測定する。いくつかの実施形態では、バイオセンサーは、単離された無標識生存ホールセルにおける生理学的パラメーターの変化を測定する。いくつかの実施形態では、治療剤および/または賦活剤の型に起因した予想される変化を測定することができるバイオセンサーを選択する。
【0241】
CReMSの例は、バイオセンサーである。バイオセンサーの例は、電気化学的バイオセンサー、電気的バイオセンサー、光学的バイオセンサー、質量感知バイオセンサー、温度バイオセンサー、およびISFETバイオセンサーである。電気化学的バイオセンサーは、電位差特性、電流特性、および/または電解電量特性を測定する。電気的バイオセンサーは、表面伝導率、インピーダンス、抵抗、または電解質伝導率を測定する。光学的バイオセンサーは、蛍光、吸収、透過率、密度、屈折率、および反射を測定する。質量感知バイオセンサーは、圧電結晶の共鳴周波数を測定する。温度バイオセンサーは、反応熱および吸着熱を測定する。ISFETバイオセンサーは、イオン、元素、および酸素、二酸化炭素のような単純分子、グルコース、および生命科学において対象とされる他の代謝産物を測定する。いくつかの実施形態では、バイオセンサーは、インピーダンスデバイス、フォトニック結晶デバイス、光導波路デバイス、表面プラズモン共鳴デバイス、水晶共振器/微量天秤、およびマイクロカンチレバーデバイスからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、光学的バイオセンサーは、生細胞、病原体、またはその組み合わせにおける分子認識事象または分子活性化事象を変換するための光変換器を含むことができる。具体的な実施形態では、デバイスは、インピーダンスデバイスである。
【0242】
タンパク質または他のin vitroでの生体分子の相互作用を測定するために使用されるバイオセンサーの一例として、捕捉した特異的タンパク質の質量は、意味のある生化学的値および生物物理学的値に変換される。捕捉された特異的タンパク質の分子量を含む捕捉された質量を用いた単純計算を適用してモル数を評価し、それにより平衡結合定数および当業者に公知の他の相互作用記述値を導く。細胞アッセイのために使用されるバイオセンサーの一例において、細胞表面上の特異的接着分子は、化学的外部刺激または他の刺激を受けた際に、特異的細胞経路を介してセンサーの表面および他の近接細胞に近くにおけるその接着および形態をモジュレートする。
【0243】
バイオセンサーはこれらのモジュレーションを検出することができ、これらのモジュレーションを、刺激および刺激に応答するために使用された細胞内の経路に固有なものとなるような方法で選択することができる。適切にデザインされた場合、前記の細胞アッセイについてのバイオセンサーの結果は、分子および機能の見地から精巧に定量的となり得る。前記のバイオセンサーの結果は、さらに一意にするための時間的応答パターンとなり得る。細胞内の特異的経路をオンおよびオフにすることが公知の生体分子のアクチベーターまたは撹乱物質を、CReMSバイオセンサーシグナルの特異性決定のための対照として使用することができる。バイオセンサーの結果の時間的応答のカーブデコンヴォルーション法(例えば、対照応答との非線形のユークリッド比較)を、さらにより非常に精密な特異的細胞応答に適用することができる。細胞バイオセンサーアッセイにおいて外部刺激を増減すると、さらなる生化学的および生物物理学的パラメーターを説明することもできる。
【0244】
無標識センサーの一例は、高周波数水晶共振器または水晶微量天秤(QCM)または共振カンチレバーである。共振器は、その表面上にパターン化金属電極を備えた水晶振動子を含む。水晶材は、電圧を印加した場合に十分に特徴付けられた共振を生じる。電極に特定の周波数の交流電圧を印加することにより、結晶は、特徴的な周波数で振動する。振動周波数は、センサー表面上に質量が捕捉されると、定量的方法でモジュレートされる;質量が追加されると共振器の周波数は低下する。したがって、水晶発振器の共鳴周波数の小さな変化を測定することにより、研究対象の生体分子または細胞に標識を付着させることなく、配置された質量の非常に小さな変化を測定することができる。
【0245】
イオン選択性電界効果トランジスタ(ISFET)デバイスは、選択されたイオン、元素、および酸素、二酸化炭素のような単純分子、グルコース、ならびに生命科学において対象とされる他の代謝産物を測定することができる小型化されたナノスケールのデバイスである。前記のトランジスタは、電気機械的操作レベルおよび生物学的応用レベルで広範囲に説明されてきた。今日まで、前記のトランジスタは、疾患プロセスにおける提案された治療介入に対する応答もしくは抵抗性またはその時間的パターンを識別するための、特定の患者の細胞を用いた使用に関しては説明されていなかった。
【0246】
光学的バイオセンサーは、センサー表面にカップリングされる光のいくつかの特徴に測定可能な変化を生じるよう設計される。このアプローチの利点は、励起源(センサーの照明源)と、検出変換器(反射光または透過光を集めるデバイス)と、変換器表面自体との間の直接的な物理的接続が必要とされないことである。換言すれば、光学的バイオセンサーへの電気的接続の必要がなく、センサーと大部分の生物システムの安定化および試験に必要とされる流体とを相互作用させる方法が単純化される。全ての光学的バイオセンサーは、質量を直接検出するよりもむしろ、検出された物質の誘電体誘電率に依拠して測定可能なシグナルを生じる。誘電体誘電率の変化は、自由空間内の光の速さの媒体中の光の速さに対する比の差に関係する。この変化は、媒体の屈折率を本質的に表す。屈折率は、媒体の誘電率の平方根として公式に定義される(この関係性のより明確な処理に関しては、マクスウェルの方程式を参照のこと)。光学的バイオセンサーは、タンパク質、細胞、およびDNAなどの全ての生物学的材料が、自由空間よりも高い比誘電率を有するという事実に依拠する。したがって、これらの材料は全て、通過する光の速さを遅らせる固有の能力を保有する。光学的バイオセンサーは、生物学的材料を含有する媒体を通る光の伝播速度の変化を、センサー表面に捕捉された生物学的材料の量に比例する定量可能なシグナルに変換するよう設計される。
【0247】
異なるタイプの光学的バイオセンサーとしては、エリプソメーター、表面プラズモン共鳴(SPR)デバイス、イメージングSPRデバイス、格子結合イメージングSPRデバイス、ホログラフィックバイオセンサー、干渉バイオセンサー、反射型干渉分光法(RIFS)、比色分析干渉バイオセンサー、差干渉計、ハルトマン干渉計、二重偏波干渉計(DPI)、導波路センサーチップ、統合入力格子結合デバイス、チャープ導波路格子デバイス、フォトニック結晶デバイス、ウッドの異常回折に基づく導波モード共鳴フィルターデバイス、三角銀粒子アレイ(Trianglular Silver Particle Array)が挙げられるがこれらに限定されない。また、電磁スペクトルの種々の波長を測定するデバイス(可視、紫外、近赤外、および赤外が挙げられるが、これらに限定されない)がさらに挙げられる。操作モードとしては、散乱、非弾性散乱、反射、吸光度、ラマン、透過率、電気的横波、および磁気的横波が挙げられるがこれらに限定されない。
【0248】
表面プラズモン共鳴デバイスは、局所的屈折率の変化を検出することにより、金属表面における生体分子の結合事象を測定する光学的バイオセンサーである。一般に、ハイスループットSPR装置は、自動サンプリングロボット、高分解能CCD(電荷結合素子)カメラ、およびプラスチック支持プラットフォームに包埋された4アレイを超えるセルをそれぞれ備えた金または銀コーティングされたガラススライドチップからなる。SPRテクノロジーは、ある特定の金属界面、とりわけ銀および金において励起することができる表面プラズモン(特殊電磁波)を活用する。入射光が、臨界角を超える角度で金属界面とカップリングされると、入射光から表面プラズモンへのエネルギーの共鳴移行のために、反射光は、反射性において急激に減衰する(SPR最小)。表面に生体分子が結合すると局所的屈折率が変化し、SPR最小にシフトする。SPRシグナルの変化をモニターすることにより、表面における結合活性をリアルタイムで測定することが可能である。
【0249】
SPR測定は屈折率変化に基づくので、分析物の検出は、無標識かつ直接的である。分析物は、いかなる特殊な特徴または標識(放射性または蛍光性)も必要とせず、多段階検出プロトコールを必要とせずに直接的に検出することができる。測定は、リアルタイムで行うことができ、動態データおよび熱力学的データの収集を可能にする。最後に、SPRは、広範な分子量および結合親和性にわたる多数の分析物を検出することができる。したがって、SPRテクノロジーは、細胞応答測定システムとして非常に有用である。
【0250】
患者の生細胞の複素インピーダンスの変化(デルタZ、すなわちdZ)の測定のためのCReMSがこの実施形態に記載されており、ここで、インピーダンス(Z)は、オームの法則によって説明される電圧の電流に対する比(Z=V/I)に関連する。例えば、患者の細胞が付着している電極に定電圧を印加すると電流が生じ、細胞周囲、細胞間、および細胞を通過して差動周波数で電流が流れる。このCReMSは、電極の細胞との界面での局所イオン環境に対し高感度であり、電圧変動および電流変動の関数としてこれらの変化を検出する。正常な機能またはその活性化の結果として細胞が生理学的に変化すると、電極周囲の電流が定量可能に変化し、かかるCReMSで測定されるシグナルの規模および特徴に影響を及ぼす。
【0251】
ある特定の実施形態では、バイオセンサーは、事象特異性を有する包括的表現型の変化を検出する。包括的表現型は、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O、CO、グルコース、細胞周期、同化、異化、小分子の合成および生成、代謝回転、および呼吸、ATP、カルシウム、マグネシウム、および他の荷電イオン、タンパク質、特異的経路メンバー分子、種々の細胞区画中のDNAおよび/またはRNA、ゲノミクス、およびプロテオミクス、翻訳後修飾および機序、二次メッセンジャーのレベル、cAMP、mRNA、RNAi、マイクロRNA、および生理学的機能を有する他のRNA、およびその組み合わせからなる群から選択される1またはそれを超える細胞応答パラメーターを含む。事象特異性に関して、このタイプの治療剤および/または賦活剤で予想される変化である、細胞試料の変化を反映する細胞パラメーターが選択される。例えば、治療剤が、細胞骨格要素を標的にすることが公知である場合、かかる薬剤と接触した細胞は、前記の薬剤の存在下で細胞接着の変化を示すことが予想されるであろう。
【0252】
他の実施形態では、付着パターンの変化は、細胞接着の変化である。場合によっては、細胞接着の変化は、屈折率の変化またはインピーダンスの変化によって示される。さらに他の実施形態では、付着パターンの変化は、基礎形態の変化、細胞密度の変化、または細胞サイズもしくは細胞形状の変化である。具体的な実施形態では、基礎形態の変化は、細胞極性の変化である。実施形態では、細胞シグナル伝達の減少は、細胞骨格組織化の変化を示す。
【0253】
他の実施形態では、本開示の方法は、無標識であり、リアルタイムで測定することができる細胞試料の分析を提供する。1つの実施形態では、分析される細胞試料は、無標識であり、生存しており、細胞を固定するためのいかなる処置にも供されない。別の実施形態では、本開示の方法およびキットにおいて用いられる治療剤および/または賦活剤も無標識である。今日まで、無標識方法は、有効な方法で治療有効性の決定に適用されたことがない。
【0254】
無標識アッセイは、標識アッセイの時間および紛らわしい複雑化要因を減少させることにより、スクリーニングキャンペーンの時間および費用を低下させることができる。遺伝子発現、遺伝子変異、およびタンパク質機能を同定および定量することができるアッセイは、ラージスケール並列処理を可能にするフォーマットで行われる。無標識アッセイを用いて、数万から数百万種のタンパク質-タンパク質またはDNA-DNA相互作用を同時にかつより経済的に行うことができる。
【0255】
多種多様な標識による方法とは対照的に、分子相互作用の検出を可能にする方法は相対的に少数しか存在せず、標識なしでの細胞機能の検出は、さらにより少数である。無標識検出により、細胞上の活性部位を遮断する治療剤および賦活剤の分子折りたたみに及ぼす標識の影響、または実験において細胞内に有効に配置することができるあらゆる分子に均等に機能する適切な標識を見出せないことによって生じる実験上の不確実性が取り除かれる。無標識検出方法は、クエンチング、保存可能期間、およびバックグラウンド干渉による実験上のアーチファクトを除去しながら、アッセイ開発に必要な時間および労力を大幅に単純化する。
【0256】
標識は、生化学的アッセイおよび細胞に基づくアッセイの主力である。標識は、全てのアッセイ方法の大部分を構成し、特に、ヒト生細胞における複雑な活動の研究の文脈におけるいくつかの問題を克服する必要がある。放射性標識の使用は、大量の汚染材料を生じ、放射性標識は、それを用いる者に対する害(細胞レベルでの)を防止する規制方法により特殊施設において用いられなければならない。フルオロフォアの励起/発光効率は、時間および光への曝露によって低下し、それにより正確かつ高精度である標識の能力を低下させるので、アッセイは、時間的情報を得ることができないようなエンドポイント様式で1回のみ読み取られる必要がある。全ての標識に基づくアッセイは、同種および均一な様式で標識を付着させるためのプロセス、標識が直線的に定量的となり、かつ測定されている相互作用またはプロセスに干渉または影響しないことを判定するためのプロセスの開発に相当な量の時間を必要とする。複合混合物における標識の均一な適用は、プロセスが自然に進むのに全分子が存在する必要があることにより複雑になる。標識を加えることは、前記の分子機能の間接的な可視化を可能にするだけであり、システム機能の全体を直接的に可視化はできない(すなわち、仮定をいくらか拡大する必要があり得る)。細胞活性は、標識を用いた的確な測定がさらにより困難である。有用な試験により、標識を、細胞に対して正しい方法で正しい位置において正しい分子に乗せる方法を解明し、標識が、正常な細胞プロセスを妨害していないことを確実にしなければならない。
【0257】
無標識検出は、一般に、生物学的化合物または生物学的実体(DNA分子、ペプチド、タンパク質、または細胞など)のいくつかの物理特性を直接的に測定することができる変換器の使用に関与する。全ての生化学的分子および細胞は、あるタイプのセンサーを用いて存在または非存在、増加または減少、および修飾を示すために用いることができる、容積、質量、粘弾性、誘電体誘電率、熱容量、および伝導率に関して有限の物理値を有する。さらに、生物系は、分子を利用してエネルギーを得て、O/CO消費/生成、グルコース産生/消費、ATP産生/消費などのその生命プロセスを行い、それにより、有限の期間にわたってその周囲におけるpHなどが測定可能に変化する。センサーは、これら物理特性の1つを、測定可能な電流または電圧などの定量可能なシグナルに変換することができる変換器として機能する。
【0258】
場合によっては、バイオセンサーとして変換器を用いるために、変換器の表面は、望まれない材料が付着できないようにしつつ、タンパク質などの特異的材料または特異的細胞型を選択的に捕捉する能力を持たなければならない。選択的検出能は、変換器の表面上に化学分子の特異的コーティング層を構築することによりもたらされる。センサー表面に付着される材料は、センサーコーティングと称され、一方、検出される材料は、分析物と呼ばれる。したがって、場合によっては、バイオセンサーは、変換器に付着する材料から測定可能なシグナルを生じることができる変換器と、試験試料由来の標的分析物に結合することができる受容体リガンドを含有する特異的認識表面コーティングとの組み合わせである。
【0259】
ある特定の実施形態では、特定の細胞成分または経路に関連するコーティングが、バイオセンサーのために選択される。例えば、かかる場合において、細胞生理学的パラメーターが細胞接着の変化である場合、バイオセンサー表面に細胞試料中の細胞を接着させるコーティングが選択される。実施形態では、バイオセンサーへの細胞接着を増強するコーティングとしては、細胞外マトリックス、フィブロネクチン、およびインテグリンなどが挙げられる。他の実施形態では、細胞表面マーカーに基づいて特定の細胞型に結合するコーティングが選択される。いくつかの実施形態では、かかる細胞表面マーカーとしては、リゾリン脂質GPCR(例えば、LPARおよびS1PR)などのGPCRが挙げられる。
【0260】
他の実施形態では、バイオセンサーは、生体分子コーティングでコーティングされている。細胞に接触するCReMS表面は、細胞の添加前に、細胞の添加の間に、または細胞の添加後に、生体分子コーティングを含有し得る。コーティング材料は、合成、天然、動物由来、哺乳動物性であり得る、あるいはセンサー上に置かれた細胞によって生み出され得る。例えば、生体分子コーティングは、インテグリン、アドへリン、カドヘリン、ならびに他の細胞接着分子および細胞表面タンパク質に会合することが公知の細胞外基質成分(例えば、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、コラーゲン、細胞間CAM、血管性CAM、MAdCAM)、またはその誘導体を含むことができるか、あるいは天然に存在する生化学物質であるリジンおよびオルニチンに基づく高分子であるポリリジンまたはポリオルニチンなどの生化学物質を含むことができるか、アミノ酸などの天然に存在する生化学物質に基づく高分子は、バイオセンサーに特異的な細胞表面タンパク質を付着させるようにデザインされた、天然に存在する生化学物質の異性体または鏡像異性体、抗体、抗体の断片またはペプチド誘導体、相補性決定領域(CDR)を用いることができる。
【0261】
生存細胞をマイクロプレートに付着させる方法は、例えば、センサーのマイクロプレート表面を、バイオセンサーの表面と相互作用するようにデザインされた一端、およびペプチド上の官能基と反応するようにデザインされた他端を有する反応性分子でコーティングするステップを含み得る。例えば、金コーティングバイオセンサーを使用する場合、反応性分子は、硫黄原子またはバイオセンサー表面と化学的に相互作用するようにデザインされた他の化学的部分を含むことができる。分子の他の端は、例えば、ペプチド上のアミド基またはカルボキシ基と特異的に反応することができる。
【0262】
生存細胞(例えば、初代細胞)をバイオセンサー表面に付着させる方法は、PCT出願番号PCT/US2016/0579023号(その内容全体が、本明細書中で参考として明確に援用される)にも詳述されている。
【0263】
別の例では、バイオセンサー表面を、ファンデルワールス力、水素結合、静電気引力、疎水性相互作用、またはこれらの任意の組み合わせによって接着する分子(タンパク質に適用するために使用され得る当該分野で実用されているものなど)でコーティングすることができる。また、細胞外基質(ECM)分子を、第1の表面分子コーティングに添加することができる。Humphries 2006 Integrin Ligands at a Glance.Journal of Cell Science 119(19)p3901-03は、本発明で有用な接着分子を記載している。特異的細胞接着分子を接触させるために使用することができるさらなるECM分子としては、Takada et al.,Genome Biology 8:215(2007)の表1に記載のものが挙げられる。この例は、細胞-ECM接着および細胞-細胞接着に関与するインテグリンについてのものである。生理学的調節および応答に関連する性質を有する多くの他の接着分子が記載されている(以下の表2を参照のこと)。
【表2-1】
【表2-2】
【0264】
さらなるコーティングとしては、本明細書中に記載の方法を実施するための、患者の細胞をバイオセンサーに近接させるために患者の細胞表面タンパク質に親和性を有することが公知の抗体または他のタンパク質が挙げられ得る。患者の細胞が望ましい様式でマイクロプレートに付着していることを確認することが有利な場合もある。特異的バイオセンサーコーティングをさらに使用して、特異的患者細胞型由来の特異的細胞シグナルおよび特異的細胞経路へのセンサーコーティングの連結によって活性化および治療薬に対する細胞シグナル伝達応答を強化、改良、明確化、分離、または検出することができる(例えば、Hynes,Integrins,Cell,110:673-687(2002)を参照のこと)。バイオセンサーは、細胞を播種するための領域を含む。例えば、バイオセンサーは、細胞を播種するためのウェルを含むマイクロタイタープレートを含むことができる。1またはそれを超える細胞試料を、別個の場所にある表面への物理的吸着によってバイオセンサー上に播種することができる。バイオセンサーは、1、10、24、48、96、384、またはそれを超える別個の場所を含むことができる。細胞試料は、約100~約100,000個の個別の細胞またはその間の任意の数の細胞を含むことができる。最適な細胞試料は、バイオセンサー上の別個の位置のサイズおよび性質に依存する。細胞試料は、約5000細胞またはそれ未満;約10,000細胞またはそれ未満;約15,000細胞またはそれ未満;約20,000細胞またはそれ未満;約25,000細胞またはそれ未満;または約50,000細胞またはそれ未満を含むことができる。細胞試料は、約1000~約2500細胞;約1000~約5000細胞;5000~約10,000細胞;約5000~約15,000細胞;約5000~約25,000細胞;約1000~約10,000細胞;約1000~約50,000細胞;および約5000~約50,000細胞を含むことができる。ある特定の実施形態では、細胞応答または生理学的パラメーターの変化を、規定の期間にわたって測定する。他の実施形態では、規定の期間は、生理学的パラメーターの出力の変化が20%またはそれ未満で変動する定常状態に対照細胞が到達する期間である。他の実施形態では、1時間またはそれ未満に細胞で変化が認められる。他の実施形態では、少なくとも1分から約60分までの間に1分毎に細胞で変化が認められる。他の実施形態では、細胞応答の変化を、約10分間から約1週間または200時間測定する。他の実施形態では、治療剤が細胞経路を標的にする場合、細胞応答を、約10分間から約5時間まで、約10分間から約4時間まで、約10分間から約3時間まで、約10分間から約2時間まで、約10分間から約1時間まで、または約10分間から約30分間まで、またはその間の任意の時点まで測定する。他の実施形態では、治療剤が細胞増殖または細胞殺滅または細胞耐性に影響を及ぼす場合、細胞応答を、約1時間から約200時間まで測定する。さらに他の実施形態では、1分と200時間との間の応答の組み合わせ(そうでなければ、全時間パターンとして記載)を使用して、細胞に対する化合物の治療効果および細胞が耐性を生じる能力を決定する。この時間枠は、患者におけるまず確実な応答およびその維持の評価において重要な短期間の経路シグナル伝達、動的リプログラミング、およびより長い期間の細胞応答の重要なプロセスを網羅する。
【0265】
特定の被験体の細胞がバイオセンサー上に播種されると、ベースライン測定値を決定することができる。ベースライン測定値は、同一の細胞試料または対照細胞試料において得ることができる。対照試料は、同一の患者および/または同一の組織由来の健常細胞または罹患細胞を含むことができる。対照試料は、GPCRアゴニスト、RASノードもしくはRTK阻害剤、またはRASノードもしくはRTK標的化治療剤を投与されていない罹患細胞を含むことができる。対照試料は、GPCRアゴニストに応答することが公知の疾患細胞を含むことができる。他の実施形態では、対照試料は、GPCRアゴニストに応答しないことが公知の疾患細胞を含む。対照試料は、細胞の健康、細胞代謝、または細胞経路活性に関する標準化された応答を誘発するようにデザインされた、特定の患者の健常細胞または罹患細胞へのアゴニストの適用を含み得る。
【0266】
対照は、各々の疾患および/または薬物の種類について決定されるであろう。1つの実施形態では、これは、同一の患者由来の健常細胞対照に対する比較または非罹患患者プール(例えば、正常基準域)の結果に対する比較を含む。例えば、細胞殺滅薬物を使用した方法は、健常細胞を超えて疾患細胞を殺滅するという利益を示し、有意な治療指数が達成されるであろう。他の実施形態は、経路機能および薬物による制御を決定するための経路ツールの使用を含む。標的化治療薬について、ツールは、経路を撹乱し、活性化を破壊する標的化薬物の能力を決定するための対照として用いられる、賦活剤(例えば、賦活剤)、生物試薬、または小分子であり得る。さらに他の実施形態では、細胞に対する薬物の生理学的効果は、例えば、酸素消費の時間的パターンもしくは速度、酸性化の速度もしくは時間的パターン、イオン流動、または代謝産物の代謝回転に留意して、賦活剤による外因性撹乱の無い状態で測定される。
【0267】
特定の実施形態では、バイオセンサーシグナルを、連続的時間経過にわたって測定する。時間対バイオセンサーシグナルプロットにおいて特徴的なパターンが存在し、このパターンは、薬物処置に対する患者細胞応答を示す。これらのパターンの評価は、効果的な事象の存在を同定するのに有用である。生きた完全に機能的な細胞の時間経過または絶えず変化する測定値は、ある時点のみを表す典型的なホールセルアッセイで用いられる現行の測定値よりも有益である。本明細書中に記載の方法は、患者において発生する通りの動的システムを測定し、患者応答を決定する最も的確な手段を表す。経路応答の場合、時間経過または時間的パターンが完全に記録されることは、より複雑な分析を裏付けることができるという点で優れており、単一の測定のために最適な時点を選択する必要がない。
【0268】
対照に対する比較は、正の対照ウェルまたは負の対照ウェルに対する被験ウェルの、時間的に最大、最小で、または最大シグナル-最小シグナルの間の差として、または時間経過プロットの積分した曲線下面積(AUC)を比較することにより、もしくは他の非線形比較(差分ベクトルの総和)により、または同一の患者の生存罹患細胞については撹乱済みウェルおよび非撹乱ウェルの比較により行うことができる。バイオセンサーを用いた測定によってのみ裏付けられる追加的な分析は、最大/最小に達する時間および時間経過の他の導関数である。より長期の応答の場合、比較の時間は、処置または複数の薬物適用の数日または1週間後の特定の時点であり得る。より長い時間経過で、傾きの変化を比較しても、あるいは1週間の薬物処置の初め、中間、または終わりに時間対バイオセンサーシグナルプロットの第2の導関数を比較してもよい。対照と比較した有意な変化は、細胞代謝の抑制に関連するバイオセンサーシグナルの絶対的降下を含み得る。あるいは、降下に続いて、アッセイ中の薬物に対する抵抗性の発生を示すことができる増加が起こり得る。さらに、非線形ユークリッド分析を用いて、完全な時間経過にわたる対照および患者試料の間の総計差の尺度を得ることができる。これもまた、患者のアウトカムの予測に関して有意であろう。
【0269】
ある特定の実施形態では、規定の期間にわたるバイオセンサーの出力は、細胞インデックスとして表される。細胞インデックスは、試験出発点からのインピーダンスの変化である。細胞インデックスは、インピーダンスの測定値として定義され、例えば、10kHzの固定された電気的周波数および固定電圧で測定することにより、本発明の一例において適用することができる。
そして、以下の式によって計算される:細胞インデックスi=(Rtn-Rt0)/F
式中、
i=1、2、または3時点
F=15オーム(装置を周波数10kHzで操作した場合の一例)
t0は、時点T0で測定したバックグラウンド抵抗である。
tnは、細胞の添加、細胞の生理学的変化、または細胞撹乱後の時点Tnで測定した抵抗である。
【0270】
細胞インデックスは、細胞状態を表すための電気インピーダンスの測定値の相対的変化として導き出された無次元パラメーターである。細胞が存在しないか、電極上に十分に接着していない場合に、CIはゼロである。同一の生理学的条件下で、電極に付着する細胞が多いほど、CI値は大きくなる。したがって、CIは、ウェル中に存在する細胞数の定量的尺度である。さらに、細胞の生理学的状態(細胞形態が挙げられる)の変化、基礎状態、安定状態、もしくは休止状態、細胞接着、または細胞生存度の変化により、CIが変化する。
【0271】
細胞インデックスは、存在、密度、付着、または出発点もしくはベースラインインピーダンス測定値に基づくそれらの変化の定量的尺度である。ベースライン出発点インピーダンスは、薬物または他のアクチベーターによるいかなる処置にも先立つ細胞の健康、生存度、および生理学的状態の物理的に観察可能な特徴および兆候である。ベースライン出発点を、CELx試験の定性的対照として用いることができる。薬物またはアクチベーターの添加は、細胞が経験する細胞生理学的変化の特異性を反映するインピーダンスの時間的パターンを変化させる。細胞の生理学的状態、例えば、細胞形態、細胞数、細胞密度、細胞接着、または細胞生存度が変化すると、細胞インデックスに変化をもたらす。
【0272】
生理学的応答パラメーターは、細胞周期分析をさらに含むことができ、幾つものコンジュゲート蛍光色素もしくは非コンジュゲート蛍光色素などの化学的バイオセンサーまたは機能的経路および機能障害性経路に関連する患者細胞の他の比色変化を使用して測定することができる。例えば、非コンジュゲート色素を使用した細胞集団の細胞周期の変化を、ヨウ化プロピジウムまたはDNAに挿入されることが公知の類似の色素を用いて定量し、DNA量の変化を評価することによって成長および複製のG0、G1、S、G2、Gm期にわたる細胞周期と相関させることができる。1つの色素型であるヨウ化プロピジウムを用いると、G2/M期の細胞の蛍光は、G0/G1期の細胞の蛍光の2倍にもなる。ヨウ化プロピジウムをRNAに挿入することもでき、しばしばリボヌクレアーゼを使用して、RNAと比較してDNAからの蛍光シグナルを区別する。また、例としては、細胞周期チェックポイントに関連する特定のタンパク質に特異的な色素が挙げられ、さらなる細胞周期状態の測定が提供される。これらの測定の実施に有用な一般的な装置は、蛍光顕微鏡法、共焦点レーザー走査顕微鏡法、フローサイトメトリー、蛍光定量法、蛍光偏光、ホモジニアス時間分解蛍光(homogenous time resolved fluorescence)、および蛍光活性化細胞選別(FACS)であるが、ここに列挙したものに限定されない。
【0273】
非コンジュゲート色素を、代謝パラメーター(同化、異化、小分子の合成および生成、代謝回転、および呼吸など)を測定しながら、細胞または経路の生理学的状態の化学的バイオセンサーとして本発明と共に利用することができる。ワールブルク効果と称される周知の細胞生理学的応答は、腫瘍および他の罹患細胞におけるエネルギー生成のための酸化的リン酸化から乳酸産生へのシフトと説明されており、重要なシグナル伝達経路、がん遺伝子、および腫瘍抑制因子を、本明細書中に記載の化学的バイオセンサー法のいずれかまたは光電子バイオセンサーによって測定することができる。細胞の酸素消費または呼吸および細胞応答における解糖によってプロトンが生成され、溶存酸素および遊離プロトンの濃度または酸度への変化を迅速かつ容易に測定可能である。
【0274】
化学的バイオセンサーを利用した生理学的応答パラメーターのさらなる非限定的な例は、存在するATPの定量(例えば、CellTiterGloおよび類似のルシフェラーゼ駆動アッセイ)に基づいた培養細胞による利用されるATPの量(代謝的に活性でかつ不活性な細胞機能の指標)である。
【0275】
生体分子の折りたたみおよび機能に重要なカルシウム、マグネシウム、および他の荷電イオンは、生理学的応答に起因するフラックスである。これらを、特異的なイオンの複合体形成および測定について、化学的バイオセンサー(Cal-520、オレゴングリーンBAPTA-1、fura-2、indo-1、fluo-3、fluo-4、カルシウムグリーン-1、および他のEGTAまたはEDTA様化学物質など)によって測定することもできる。これらの生理学的応答パラメーターを、多種の非コンジュゲート反応性色素もしくは結合色素または他の電子的手段もしくは分光学的手段を使用して測定することができる。これらの方法の多くを、細胞が破壊されないように構成することができ、それにより、同一の細胞集団の生理学的機能を経時的に連続して繰り返して測定することが可能である。
【0276】
コンジュゲート色素(天然の細胞タンパク質結合リガンドに付着したものまたは免疫粒子(抗体もしくは抗体の断片または高特異性高親和性合成分子(アプタマーなど))に付着したものなど)または核酸ポリマーハイブリッド形成プローブを使用して、タンパク質、特異的経路メンバー分子、種々の細胞区画中のDNAおよび/またはRNA、ゲノミクス、およびプロテオミクスに関連する生理学的応答パラメーターを測定することができ、特異的な翻訳後修飾および機序を測定することができる。翻訳後修飾および細胞制御の後成的手段は、リボザイム、キナーゼ、ホスファターゼ、ユビキチナーゼ、デユビキチナーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、およびプロテアーゼが挙げられるが、これらに限定されない経路機能を果たす多数の酵素による調節を含むことができる。死細胞のホルマリン固定パラフィンマウント試料の染色のために使用されるこれらの分子の例を、DAKO Immunohistochemical Staining Methods Education Guide-Sixth EditionまたはCell Signaling Technology tutorials and application guides(http://www.cellsignal.com/common/content/content.jsp?id=tutorials-and-application-guides)に見出すことができる。これらの2つの例は、生細胞応答の測定において本発明にさらにより有用であり得る。この測定の実施に有用な一般的な装置は、蛍光顕微鏡法、共焦点レーザー走査顕微鏡法、フローサイトメトリー、蛍光定量法、ホモジニアス時間分解蛍光、蛍光偏光、および蛍光活性化細胞選別(FACS)であるが、これらの方法に限定されない。
【0277】
コンジュゲート色素と非コンジュゲート色素の組み合わせを、細胞の生理学的応答を測定するために本発明で使用することもできる。活性化後、生理学的応答の制御を担う受容体の一種はGPCRである。これらは、以下の2つのシグナル伝達経路を介して情報を伝達し、細胞を制御する:二次メッセンジャーcAMPレベルの変化、または二次メッセンジャーイノシトール(1,4,5)三リン酸(IP3)によって遊離される細胞内Ca2+レベルの変化。例えば、cAMPの検出は、クリプテート標識抗cAMP抗体(または他の免疫捕捉分子)および細胞cAMPとGPCR反応およびその後の抗体結合を競合するd2標識cAMPを使用した競合免疫アッセイに基づくことができる。特異的シグナル(すなわち、エネルギー移動)は、標準または試料中のcAMP濃度に反比例する。
【0278】
mRNA、RNAi、マイクロRNA、および生理学的機能を有する他のRNAの定量による生理学的応答の測定は、転写レベルでの細胞活性化の変化を決定するために本発明で使用される非常に感度の高い方法であり得る。RNAを、例えば、rtPCR、qPCR、選択的配列探索、選択的配列捕捉、および配列ハイブリッド形成法(全て化学的センサーを使用する)を使用することによって(列挙したこれらに制限されない)定量することができる。
【0279】
免疫捕捉法およびハイブリッド形成法としては、ビーズベースの方法(Luminexなど)または光ファイバーチップテクノロジー(Illuminaなど)またはタンパク質、DNA、RNA、もしくは特異的捕捉試薬を固体表面上に固定し、これを使用して細胞由来の生理学的応答分子(複数可)を探索し、単離し、そして正確に測定する他のハイブリッド形成マイクロアレイテクノロジーを使用した方法が挙げられる。これらの方法は、1回の実験で複数の応答パラメーターを測定するのに有利である。
【0280】
細胞応答または生理学的パラメーターの変化は、ベースライン測定値との比較によって決定される。細胞パラメーターまたは生理学的応答の変化は、CReMSのタイプに依存する。例えば、細胞応答の変化が光学的に決定される場合、物理的に観察可能な変化を、例えば、化学的吸収もしくは透過についてのスペクトル波長での光学密度、表面プラズモン測定デバイスにおける変化、またはフォトニック結晶デバイスによって検出される変化の関数として測定することができる。細胞パラメーターまたは生理学的応答の変化が電気的に決定される場合、物理的に観察可能な変化を、例えば、電極に接着した細胞のミリインピーダンスまたはマイクロインピーダンスの変化を使用して測定することができる。pH、グルコース、二酸化炭素、またはイオンの変化を、イオン選択性電界効果トランジスタ(ISFET)を使用して電子的に測定することができる。
【0281】
他の実施形態では、変化率は、治療薬に対する細胞生理学的応答の相違を決定するのに必要な期間についてCReMS応答を測定する方法によって決定される。変化率は、時間経過データを様々に解釈することによって説明され、速度または速度のさらなる導関数(加速度が挙げられる)として表すことができる。
【0282】
患者の生理学的状態を測定する試験は、1またはそれを超えるカットオフ値を誘導することができ、この値を超えるか下回ることによって、患者が異なる臨床アウトカムを経験していることが予測される。実施形態では、細胞応答の変化を決定するための1またはそれを超えるカットオフ値は、既知の応答細胞試料由来の一連の試料および既知の非対応患者由来の一連の試料の統計的有意性についての適切な信頼区間を決定するための当業者に公知の標準偏差、信号雑音比、標準誤差、分散分析、または他の統計的検定の値を決定するステップ;および2つ間の相違を決定し、両方の群についての信頼区間の間のカットオフ値を設定するステップを含む方法によって決定される。さらなる実施形態は、罹患していないことが既知の患者由来のCReMS応答によって定義された正常基準域から決定したカットオフを利用する。この実施形態では、単一の患者の疾患材料の試験結果は、本発明の他所にさらに記載の錯乱および非錯乱の生存がん細胞の結果を、非罹患の基準範囲の間隔と比較することによって報告される。
【0283】
正常な(健常な)基準域の試験結果により、健常被験体由来の正常な組織を使用した研究を実施することによって「正常な」経路活性が確立される。次いで、試験結果から、罹患した経路を有すると予測されない任意の患者(例えば、バイオマーカー陰性患者)が、正常基準範囲の研究から導き出された値と比較した場合に、異常な経路活性を実際に有するかどうかを評価する。また、本発明の結果を、バイオマーカー陰性患者で認められる異常な測定値について、その時点で疾患と診断されている被験体(バイオマーカー陽性患者)から得られた測定値と比較して、バイオマーカー陰性患者が、異常であり、かつバイオマーカー陽性患者の経路活性に匹敵する経路活性を有するかどうかを調査する。経路活性を破壊することを意図する治療をその時点で受けており、その治療から恩恵を受けている患者の経路活性に匹敵する異常な経路活性を有する患者は、したがって、経路疾患を有すると診断されるであろう、そして、したがって、経路活性(例えば、GPCRシグナル伝達経路活性)を破壊するためにバイオマーカーを標的にする薬物(例えば、RASノードまたはRTKの阻害剤)で処置されるべきである。
【0284】
したがって、本発明により、医師は、罹患経路の機能活性に基づいたより正確な疾患の診断手段を作製することが可能である。これは、相関するが、原因とならないモデルに依存する単一のバイオマーカーを測定した場合に得られるアプローチと対照的である。現在のバイオマーカーアプローチでは、高い比率で偽陰性および偽陽性の結果が得られ得る。本発明により、誤った結果のパーセンテージが低下する。
【0285】
好ましい実施形態は、80~90%信頼区間を含み、より好ましい実施形態は、90%超の信頼区間を含み、最も好ましい実施形態は、95%超または99%超の信頼区間を含む。
【0286】
いくつかの実施形態では、カットオフ値を、カットオフ値を使用して盲検化した既知の試料の状態を応答者または無応答者と決定すること、および試料を非盲検化し、試料の状態の予測精度を決定することによって検証する。単一のカットオフ値の場合、カットオフ値を下回るか、既知の応答者の出力値に近い出力値は、患者試料が治療剤に応答することを示す。出力値がカットオフ出力値であるかそれを超えるか、既知の無応答者の出力値の出力値に近い場合、細胞試料を治療剤に対する無応答者と同定する。いくつかの実施形態では、規定の期間でのバイオセンサーの出力値を、応答なし、弱く応答する、または応答するとして分類する。
【0287】
好ましい実施形態では、カットオフ値を、カットオフ値を使用して盲検化した既知の試料の状態を、疾患経路応答を有するか(例えば、異常なGPCRシグナル伝達を有するがん患者)、疾患経路応答を持たない(例えば、正常なGPCRシグナル伝達を有するがん患者)と決定すること、および試料を非盲検化し、試料の状態の予測精度を決定することによって検証する。単一のカットオフ値の場合、カットオフ値を下回るか、疾患経路応答を持たない試料の出力値に近い出力値は、患者試料が経路疾患を示さないことを示す。出力値がカットオフ出力値であるかそれを超えるか、既知の疾患経路試料の出力値に近い場合、細胞試料は罹患経路が存在すると同定される。いくつかの実施形態では、規定の期間でのバイオセンサーの出力値を、経路疾患なし、経路疾患不確定、または経路疾患ありに分類する。
【0288】
規定の期間の出力値を、出力をカテゴリーに分類するために選択する。他の実施形態では、規定の期間は、細胞がバイオセンサーで連続的にモニタリングされている期間のエンドポイントである。他の実施形態では、期間は、少なくとも60分間、120分間、180分間、240分間、300分間、10時間、24時間、60時間、または120時間である。好ましい実施形態では、規定の期間での出力は、30分間と10時間との間である。より好ましい実施形態では、規定の期間での出力は、180分間と600分間との間であるか、240分間である。
【0289】
他の実施形態では、無作為に選択したがん患者集団のがん細胞を、本明細書中に記載の方法を使用して試験する。がん患者集団から得たがん細胞が広範なシグナル伝達活性レベルまたは出力値を示すと予測される。シグナル伝達活性レベルまたは出力値の集団分布を特徴付けるために、有限混合モデル分析、または統計分析ソフトウェア(例えば、mixtools、有限混合モデル分析のためのRパッケージ)を用いた個別の出力値の他の統計分析を行う。分析されたがん患者集団内に2またはそれを超える群が同定された場合、第1群の平均出力値と第2群または他の群の平均出力値との間のカットオフ値を選択する。
【0290】
実施形態では、応答なしと分類された出力値は、治療剤の投与前のベースラインの、または治療剤で処置していない対照細胞の出力値との差が少なくとも20%以下またはそれ未満、少なくとも15%以下またはそれ未満、少なくとも10%以下またはそれ未満、または少なくとも5%以下またはそれ未満の出力値によって示される。
【0291】
他の実施形態では、弱い反応性と分類された出力値は、治療剤の投与前のベースラインの、または治療剤で処置していない対照細胞の出力値との差が少なくとも50%またはそれ未満かつ5%を超える出力値によって示される。他の実施形態では、応答性と分類される出力値の百分率は、治療剤の投与前のベースラインまたは治療剤で処置していない対照細胞と少なくとも50%を超えて異なる出力値によって示される。実施形態では、対照試料は、同一の被験体に由来し、かつ治療剤で処置されていない疾患細胞の試料である。
【0292】
本明細書中に記載の方法のさらなる態様は、個別の被験体における治療剤(例えば、RASノードまたはRTKシグナル伝達の阻害剤)の有効性を予測するために使用することができるアルゴリズムの開発を含む。アルゴリズムは、個別の被験体の健康の態様を定義する1またはそれを超える患者の特徴に割り当てた値と組み合わせて、本明細書中に記載の方法を使用して導いた値を組み込む。患者の特徴としては、転移の存在、転移の位置、結節の状態、最初のがん診断から転移診断までの無病期間、アジュバント化学療法の受け入れ、他の薬物治療の受け入れ、放射線療法の受け入れ、主要な疾患部位、腫瘍塊のサイズ、ボディマス指数、圧痛関節数、腫脹関節数、疼痛、機能障害指数、医師による総合評価、患者による総合評価、Bath強直性脊椎炎機能指標、Bath強直性脊椎炎疾患活動性指標、Bath強直性脊椎炎計測指標、C反応性タンパク質、総背部痛、炎症、遺伝的状態、他の病歴、他の重要な保健統計状態、およびその任意の組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。これらの値が組み込まれたアルゴリズムは、治療剤が治療を意図する疾患を有する患者集団における疾患の進行との相関にしたがって、これらの値に重み付けをするであろう。応答差といかなる相関も実証されなかった疾患の特徴は、アルゴリズム中に含まれないであろう。
【0293】
1つの実施形態では、患者の特徴を表す数値を、試験結果(すなわち、本明細書中に記載の標的化治療剤、GPCRシグナル伝達のアゴニスト、標的化治療剤とアゴニストとの組み合わせなどに対する応答性を決定する方法から導き出された値)、患者の特徴、および試験される患者群の臨床アウトカムの回帰分析から導くことができる。1つの例では、患者の特徴データに基づいた変数と組み合わせた試験結果を使用したアルゴリズムの最適化を、試験出力値を、0.10から開始した幅0.10の9つの等間隔のカットポイントに基づいた10の間隔に分割することによって行うことができる。各カットポイントについて、コックス回帰を、被験体がカットポイントまたはそれ未満のアルゴリズム値を有する場合、値「1」を取り、そうでなければ「ゼロ」を取る指標変数を使用して行うことができる。ハザード比(カットオフまたはそれ未満のハザードの、カットオフを超えるハザードに対する比較)を、各カットオフについて決定する。次いで、推定ハザード比を最小にするカットポイントの値を選択する。
【0294】
例えば、患者の総腫瘍量がある特定の値を超える場合、本明細書中に記載の方法によって決定される薬物に対する患者の応答性が、薬物に対して応答しない患者で見出される結果の中央値を超えて患者の無進行期間の延長を可能にするには不十分であることが見出され得る。試験結果が、薬物が患者で機能を果たし、そうでなければ、薬物から恩恵を受けると予測されることを示す場合、患者の特徴を示す変数を含むアルゴリズムは、腫瘍量の変数が試験結果の値を相殺するので、結果は不確定であると報告するであろう。
【0295】
本明細書中に記載の方法の別の態様は、標的化治療剤に応答しそうであるか、応答しそうでない患者を同定する試験のカットオフ値を決定する方法を提供する。この方法は、a)患者群を選択するステップであって、各患者が同一の疾患を有し、同一の治療薬を処方される、選択するステップ、b)本明細書中に記載の方法を使用して、患者群内の各被験体についての試験値を導くステップ、c)所定のクリニカルエンドポイントに到達する、試験した全患者のうちの有意なパーセンテージについて、十分な期間にわたって試験した患者群の各メンバーの健康状態を観察し、かつ、患者の各々が、到達した場合に、所定のクリニカルエンドポイントに到達するのに必要な期間を記録するステップ、d)他の値と等距離にある2またはそれを超える候補カットオフ値を同定するステップであって、各候補カットオフ値は、前記のカットオフ値未満の値では、患者が応答するか応答しないことが予想され、前記のカットオフ値を超える値では、この患者は、スコアがカットオフ値を下回る患者と逆の様式で応答すると予想される、同定するステップ、e)統計学的方法を使用して、試験値がカットオフまたはそれ未満の患者についてのクリニカルエンドポイント期間と、試験値がカットオフを超える患者についてのクリニカルエンドポイント期間との間の差を分析するステップ、およびf)カットオフ値を超える患者群とそれ未満の患者群との間に統計的有意差があることを示す候補カットオフ値群の間で治療に対して応答しないと予測される患者の百分率が最も高くなるカットオフ値を選択するステップを含む。
【0296】
本明細書中に記載の方法を使用して、個別の被験体についての試験結果の数値を導くことが可能であり、前記の試験値は、細胞が同一の治療薬を用いて試験される同一の疾患を有する他の個体から導いた試験値と比較することができる。これにより、a)同一の疾患を有し、同一の治療薬で処置された群の個別の被験体についての試験結果の値を記録すること、b)これらの値をリストに編集すること、c)各々の個別の被験体の試験の数値の絶対値に基づき、試験された個別の被験体についての試験結果の値に基づいてリストを順序付けること、およびd)個別の被験体の試験値のパーセンタイル順位を決定することであって、個別の被験体の試験値のパーセンタイル順位により、個別の被験体における疾患に対する治療剤の有効性が予想される、決定することによって個別の被験体に対する治療薬の有効性を予測することが可能になる。
【0297】
別の実施形態は、同一の治療の有効性を試験する臨床試験から得た結果を分析して、特定の結果のパーセンタイル順位付けを推定し、次いで、個別の被験体の試験値についてのパーセンタイル順位を同定するステップ、および同一のパーセンタイル順位付けに対応する臨床試験エンドポイントの結果を同定するステップであって、前記の個別の被験体の試験値と同一のパーセンタイル順位付けでの前記の臨床試験エンドポイントの結果から、個別の被験体が疾患のための治療剤から得る可能性がある臨床結果を予測する、同定するステップを含む。臨床試験エンドポイントとしては、例えば、無憎悪期間、無増悪生存期間、全生存期間、客観的奏効期間、ACR応答、総Sharpスコアの変化、骨びらんスコア、および関節裂隙狭小化、臨床応答、疼痛、機能障害指数、臨床的寛解、病変体表面積(body-surface area involvement)、医師による総合評価、および乾癬面積と重度指標を挙げることができる。
【0298】
別の実施形態は、本明細書中に記載の方法から導き出された試験結果の値と試験した治療薬を投与された個体の臨床アウトカムとの間の統計学的相関を決定する方法を含む。この方法は、a)患者群を選択するステップであって、各患者が同一の疾患を有し、同一の治療薬を処方される、選択するステップ、b)本明細書中に記載の方法を使用して、個体の試験値を導くステップ、c)同一の疾患を有し、かつ同一の治療薬を用いて試験された患者群内の各被験体についての試験結果のリストを編集するステップ、d)所定のクリニカルエンドポイントに到達する、試験した全患者のうちの有意なパーセンテージについて、十分な期間にわたって試験した患者群の各メンバーの健康状態を観察するステップ、e)患者の各々が、到達した場合に、所定のクリニカルエンドポイントに到達するのに必要な期間を記録するステップ、およびf)エンドポイントの結果と試験の値との間の統計学的関係が決定されるような様式で、エンドポイントデータ(例えば、無憎悪期間、無増悪生存期間、ACR応答)を分析するステップを含む。
【0299】
例として、臨床試験由来の結果が利用可能な時点で、カットオフ値の推定値「C」の決定を以下のように進める。コックス回帰検定が試験値から無憎悪期間(TTP)などの患者アウトカムが予測されることを示すと仮定すると、試験値は、0.10から開始した幅0.10の9つの等間隔のカットポイントに基づいて10の間隔に分割される。各カットポイントについて、コックス回帰は、被験体がカットポイントまたはそれ未満のアッセイ値を有する場合、値「1」を取り、そうでなければ「ゼロ」を取る指標変数を使用して行われる。ハザード比(カットオフまたはそれ未満のハザードの、カットオフを超えるハザードに対する比較)を、各カットオフについて決定する。推定ハザード比を最大にするカットポイントの値を、その後の重要な研究段階で使用するために選択する。最終分析のために、コックス比例ハザード回帰を、指標変数(カットポイント未満対カットポイント超)を用いて行うことができる。また、最終分析は、他の推定される患者の特徴的なTTPの変数を含むことができる。
【0300】
治療剤が、細胞表面受容体に結合する標的化治療剤である場合、細胞応答性の変化は、受容体に結合する賦活剤または撹乱物質の非存在下または存在下で測定される。いくつかの実施形態では、治療剤は、アクチベーターまたは撹乱物質の前、同時、または後に細胞試料に投与される。いくつかの実施形態では、賦活剤または撹乱物質は、無標識である。細胞表面受容体の密度に関係なく、ベースライン測定値と比較して、必要に応じて、他の治療剤と比較して、賦活剤または撹乱物質に対する細胞応答性を阻害する治療剤が選択される。いくつかの実施形態では、細胞受容体の密度とは無関係の賦活剤または撹乱物質の作用を阻害する治療剤が選択される。
【0301】
生理学的パラメーターの変化は、ベースラインまたは健常細胞対照または非撹乱細胞対照と比較した、パラメーターの増加または減少であり得る。変化は、完全アゴニズム、スーパーアゴニズム、不可逆的アゴニズム、選択的アゴニズム、共アゴニズム、インバースアゴニズム、または部分限定アゴニズム、可逆的および不可逆的アンタゴニズム、競合的アンタゴニズム、非競合的アンタゴニズム、不競合的アンタゴニズムを表すことができる。変化は、適切な対照と比較して、より早く生じるか、より遅く生じるか、または全く生じない可能性がある。より長いまたはより短い期間生じるよう、変化を選択することができる。可逆的または不可逆的な変化を選択することができる。
【0302】
例えば、細胞シグナル伝達を減少させる治療剤が、自己免疫性状態の処置に選択されるであろう。サイトカインの作用を阻害する薬剤に応答する末梢血球は、細胞シグナル伝達の減少を示す。別の例において、Her2のような受容体を標的にするヒト化抗体などの抗がん剤に応答性を示す疾患細胞について、疾患細胞は、EGFファミリー経路シグナル伝達の有意な低下を示すであろう。他の場合では、抗血管新生薬に応答性を示す疾患細胞について、疾患細胞は、VEGF経路シグナル伝達の低下または増殖能力の低下を示すであろう。薬剤のタイプ毎に測定されるCReMS応答または物理的に観察可能な特徴は、不正に設計された薬物の意図される生理学的応答に依存し、必要に応じて特異的または一般的となり得る。重要なことは、薬物が変化することが意図された応答を試験するための、ある期間にわたる生細胞の生理学的測定のためのCReMSの使用である。
【0303】
特定の治療剤を、罹患細胞と、必要に応じて、健常細胞に投与して、特定の治療薬の有効性を決定することができる。処置および無処置の罹患細胞および/または健常細胞に対する治療薬の効果を比較するために、罹患細胞および/または健常細胞は、無処置とすることもできる。単一の治療薬を投与して、被験体が治療上の処置にどのように応答するかを決定することができる。別の実施形態では、一連の異なる治療薬を特定の被験体の細胞に投与することができる。
【0304】
ある特定の実施形態では、細胞経路(例えば、リゾリン脂質GPCRシグナル伝達経路などのGPCRシグナル伝達経路)の活性化を阻害する治療剤(例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤)の有効性のためのカットオフ値は、薬物を添加し、生理学的応答を測定することにより、1つの実施形態において決定される。別の実施形態では、経路は、薬物前処置ありおよびなしで撹乱される。85%信頼区間、あるいは理想的には、90%を超える信頼区間、またはより理想的には95%もしくは99%を超える信頼区間における、薬物による生理学的ベースラインシグナルに対する変化または活性化シグナルの低下が、効果的と見なされる。実施形態では、細胞増殖を阻害するか細胞殺滅を増強する治療剤の有効性のためのカットオフ値は、生理学的応答を経時的に記録することにより決定される。85%信頼区間、または理想的には、90%を超える信頼区間、またはより理想的には、95%もしくは99%を超える信頼区間における、非処置細胞もしくは健常細胞またはその組み合わせと比較した、薬物による生理学的ベースラインシグナルに対する低下または時間的パターンからの逸脱が、効果的と見なされる。
【0305】
個別の被験体の疾患を処置するための治療剤の感度および特異性は、CReMSによって測定された細胞生理学的経路応答を比較して、薬物が、特異的標的において設計された通りに働くことを決定し、有効性のためのカットオフ値が達成されたことを決定することにより決定される。
【0306】
いくつかの実施形態では、賦活剤(例えば、GPCRアゴニスト)および/または治療剤(例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤)を、いずれかの薬剤についてのヒル勾配、EC50値もしくはIC50値を得るために増減する。活性化剤の増減および/または治療剤の増減から得たデータを使用して、いずれかの薬剤の効力(最大効果の半分を達成する濃度)および/または有効性(達成される最大の効果)を評価してよい。
【0307】
1つの実施形態では、個別の被験体における疾患についての薬剤(例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤)の治療有効性を決定する方法は、以下を含む:細胞応答測定システム(CReMS)において個別の被験体から単離した少なくとも1つの疾患細胞試料に薬剤を投与するステップ;およびベースライン測定値と比較して薬剤に対する細胞試料の細胞応答パラメーターの変化が生じたかどうかを決定するステップであって、前記の細胞応答の変化が、個別の被験体における疾患に薬物が治療有効性を有することを示す、決定するステップ。実施形態では、方法は、細胞応答測定システムにおいて個別の被験体から単離した少なくとも1つの疾患細胞試料に、GPCRシグナル伝達経路を活性化するアゴニスト(例えば、リゾリン脂質GPCRのアゴニスト)を、治療剤の投与前または投与後に投与するステップをさらに含む。
【0308】
試験は、一般に、20%未満の標準偏差、最適には、5%未満の標準偏差で、1nM未満~100uM超の濃度範囲内で薬物の有効性を測定することができる。化合物の試験範囲は、最大耐量として公知の薬物包装ラベルに定義されている投与レベルに相当する。試験における細胞の実際のセットにおける生細胞数を確認することができない大部分の試験とは異なり、この試験は、試験開始時における品質管理およびベースラインの生理学的決定ステップにおいて決定される生細胞のみで機能する。この特色の結果、試験結果のばらつきが減少する。試験は、当業者に一般的に公知の、細胞が生存するために一般に許容される温度、酸素、湿度、および二酸化炭素の範囲を用いて行うことができる。場合によっては、好ましい温度範囲は、25℃~40℃の間である。他の場合では、温度は、特異的摂動のためにこの範囲内で±0.5℃へとさらに最適化し、標準温度に制御されたインキュベーターキャビネットを用いて維持してよい。
【0309】
本発明の方法は、候補治療薬を被験体の細胞に投与して、安全性を決定し、治療有効性を決定するステップを含む。さらに、被験体の罹患細胞への候補治療薬の投与は、第IIまたはIII相臨床試験に適した患者集団を選択する方法として用いてよい。本発明の方法は、公知の治療薬の組み合わせに対して罹患細胞を試験するステップを含む。さらに、本発明の方法は、既知および候補の治療薬を試験するステップを含む。
【0310】
また、本発明の方法は、治療剤の組み合わせを投与して、薬剤の特定の組み合わせが、より有効な結果(すなわち、疾患状態の軽減または治癒)を生じるかを決定するステップを含む。治療剤の組み合わせは、同一の細胞試料に投与される2またはそれを超える治療剤である。本発明の実施形態では、治療剤の組み合わせは、細胞試料に併せて投与される。1つの実施形態では、少なくとも1つの治療剤は、組み合わせの他の少なくとも1つの治療剤の投与とは異なる時点で細胞試料に投与される。
【0311】
細胞試料への治療剤の投与後に、細胞試料の複数の態様に関するリアルタイムデータを収集することができる。例えば、pHおよび温度を測定することができる。さらに、「細胞死因子」などの他の因子を決定することができる。CReMSによって決定される細胞死因子は、CReMSによって測定される物理化学的特性の変化であり得る。例えば、がん細胞は、表面に付着し、屈折率のベースライン読み取り値をもたらす。がん細胞死を促進する治療剤の投与は、試料におけるがん細胞が集合して表面から剥離するため、屈折率に変化を引き起こすであろう。これは、連続的リアルタイム様式で表面プラズモン共鳴を利用する光学的バイオセンサーにより測定することができる。
【0312】
ある特定の実施形態では、方法は、特定の治療薬に最適な用量範囲を決定するステップを含む。用量範囲が決定されると、臨床試験に適した設計が可能になり、そして/または医師は有害な副作用と有効性とのバランスを取ることが可能である。いくつかの実施形態では、方法は、ある用量の範囲の治療剤を、同一の患者由来の罹患細胞の別々の試料に投与するステップ、およびベースラインおよび/または健常対照細胞と比較して、本明細書中に記載の細胞の生理学的パラメーターの変化をもたらす用量範囲を決定するステップを含む。
【0313】
本明細書中に記載の方法のいずれかを使用して、個別の被験体の疾患細胞が、例えば、GPCRシグナル伝達経路(例えば、リゾリン脂質GPCRシグナル伝達経路)のアゴニストで刺激した際に1またはそれを超える治療剤(例えば、RASノードまたはRTKの標的化治療剤)に応答するかどうかが決定されると、結果が医療従事者に伝達されて、被験体の処置のための治療剤の選択を可能にする。いくつかの実施形態では、方法は、選択された治療剤を被験体に投与するステップをさらに含む。
【0314】
シグナル伝達経路活性を測定すると、疾患に一致する異常の存在を検出することができる。これを達成するために、細胞シグナル伝達経路の操作と細胞接着プロセスとの間の密接な関係を活用するプラットフォームが開発されている。膜貫通細胞接着受容体(インテグリン、カドヘリン、IgCAM、およびセレクチンなど)が細胞外基質内または他の細胞上のその同族結合部位と相互作用することは、複数の細胞シグナル伝達プロセスとの関係を実証している。この接着の関係は、細胞内シグナル伝達カスケードに直接関連する組織化された膜近傍の細胞骨格構造を通して伝達する。これにより、経路アクチベーターを適用した際に特異的細胞経路を介して特異的接着分子に影響を及ぼすことが可能である。
【0315】
どのようにして細胞経路の活性化が細胞接着に影響を及ぼすのかを測定するために、特異的細胞外基質(ECM)材料をコーティングした微小電極に付着した生存患者細胞の複素インピーダンスの変化を測定するデバイスが使用される。細胞インピーダンスバイオセンサーとして公知のこれらのデバイスは、各ウェルの底部を金箔電極で覆った標準的なマイクロプレートから構成される。選択的な細胞外基質を使用したウェルは、特異的な様式で生存細胞をマイクロプレートウェル電極に付着させる。ウェル電極上部の生存細胞の存在は、電極/細胞界面で局所イオン環境に影響を及ぼし、電極インピーダンスを増加させる。細胞をその機能を変化させるために撹乱または刺激した場合、それに伴う細胞接着の変化がインピーダンスを変化させる。接着応答の特異性を、特異的ECMまたはツール化合物または経路の種々のポイントで作用することが公知の薬物の適用によって決定することができる。インピーダンスの結果は、インピーダンスの時間パターンによって示される時点での特異的プロテオームの変化の免疫検出によってさらに支持される。システムは、サブナノメートルからマイクロメートルの範囲で接着の変化を検出することができ、生細胞に関する種々の経路薬理学を分類するためのデータを生成することができる。細胞付着シグナル(CAS)とも称され、オームで表されるインピーダンスの測定量を使用して、細胞生存度、接着、およびシグナル伝達経路の活性化をモニタリングすることができる。生成されたデータは、インピーダンス対時間である。
【0316】
したがって、本発明の診断試験において、分析物は、マイクロプレートのウェルに入れ、インピーダンスバイオセンサーなどのバイオセンサーを用いて分析した場合に、生存患者細胞が単独または細胞アクチベーターの存在下で生成する細胞付着シグナル(CAS)である。あらゆる試験について、CASを測定し、2つの患者細胞試料群について分析する。
1)患者細胞のみ(C)
2)患者細胞+アクチベーター経路因子(複数可)(CF)
3)患者細胞+アクチベーター経路因子(複数可)+確認剤(CCF)
【0317】
いくつかの実施形態では、Cは患者細胞のみに相当し、CFは患者細胞+GPCRシグナル伝達のアゴニスト(リゾリン脂質GPCRのアゴニスト(例えば、LPA、S1P)など)に相当し、CCFは患者細胞+GPCRシグナル伝達のアゴニスト+RASノードまたはRTKシグナル伝達の阻害剤(例えば、RASノード標的化治療薬またはRTK標的化治療薬)に相当する。
【0318】
シグナル伝達経路が機能的に正常または異常のいずれであるのかを検出するために、患者の罹患細胞におけるシグナル伝達経路を、アゴニスト(例えば、GPCRシグナル伝達経路のアゴニスト)、および確認剤(例えば、RASノードまたはRTKシグナル伝達の阻害剤)を用いて撹乱し、得られた活性を、アゴニストおよび/または確認剤がカットオフ値に及ぼす影響と比較する。カットオフ値を、がんではない被験体から得た健常細胞の試料セットのシグナル伝達経路活性の分析に関与する研究から導くことができる。アッセイの測定量は、患者の罹患細胞におけるCF細胞とC細胞との間のCASの変化およびCF罹患細胞とCCF罹患細胞との間のCASの変化を反映する。シグナル伝達経路が異常である場合、CF罹患細胞とC罹患細胞との間のCASの変化および/またはCF罹患細胞とCCF罹患細胞との間のCASの変化は、カットオフ値を超える。カットオフ値は、典型的には、目的の経路活性についての正常基準範囲の上限を超える。簡潔な実施形態では、経路因子または確認剤での活性化直前の時点でのCASと比較した活性化の時点後のCF試料および/またはCCF試料のCASの測定値も、有用な尺度であり得る。
【0319】
本発明の診断アッセイを、本質的に任意の臨床的状況、特に、現在において遺伝子またはタンパク質のバイオマーカーを疾患の指標として、したがって、治療の意思決定の指標として使用している状況で使用することができる。本発明の方法によれば、本明細書中に記載のアプローチを使用して、GPCRシグナル伝達経路のアゴニストの影響を受けるRASノードまたはRTKの活性を試験し、それにより、患者が標準的なバイオマーカーアッセイを使用して陽性の結果を示すかどうかと無関係に、RASノードまたはRTKの標的化治療剤を患者に処方すべきかどうかを決定することができる。
【0320】
連続測定値を分析して細胞試料において生理学的応答パラメーターが変化するかどうかを決定する方法が、本明細書中に記載されている(例えば、応答の規模(陽性または陰性)、最大値または最小値への到達時間、応答タイムラインの任意のポイントにおける時間の傾き対規模など)。これらのおよび他の非線形分析法を使用して、アゴニスト(例えば、GPCRシグナル伝達経路のアゴニスト)の存在下で生理学的応答パラメーターが変化するかどうかを決定することができる。
【0321】
ベースラインおよび対照を使用して、細胞経路の状態を判定することができる。適切なベースラインとしては、アゴニストを含まない試料、アゴニストが無限希釈された試料、アゴニストの添加後の十分に長い時間の前後の同一の試料、および細胞ベースのアッセイの当業者に公知の他のかかるベースライニング活性を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0322】
好適な対照には、同一患者由来の健常材料の試料、正常基準範囲を導くための目的の疾患を欠く十分な数の患者由来の健常材料の一連の試料、類似しているが異なるアゴニストを使用した試料、既知の陽性応答または陰性応答を示す細胞株、アゴニストの逆の活性で処置した試料、1またはそれを超える患者由来の罹患材料の試料、ならびに細胞ベースのアッセイ分野の当業者に公知の他のかかる正の対照および負の対照が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0323】
試験結果の分析および解釈
本明細書中に記載の方法を使用して得た試験結果を、種々の方法で分析および解釈して、臨床医および/または患者に情報を提供することができる。ある特定の実施形態を、以下に記載する。
【0324】
(i)罹患経路の分析。この分析は、罹患経路活性が患者においてex vivoで見出されるかどうかを同定する。この分析により、患者の罹患細胞において疾患が進行しているかどうかという動的評価が医師に提供される。この実施形態では、試験した経路を、以下の4つのカテゴリーのうちの1つに分類することができる:構成的に活性、超感受性、全く活性なし(低活性)、または正常に活性。経路(例えば、GPCRシグナル伝達経路)が罹患しており、したがって、標的療法(例えば、RASノード標的化治療薬またはRTK標的化治療薬)での処置に好適であるかどうかを決定するために、本明細書中に記載の方法によって決定された疾患を有する疑いのある患者についての経路活性を、疾患を有する疑いのある無作為に選択された患者集団における経路活性の統計分析から導き出されたカットオフ値と比較する。異常である(例えば、異常および正常な経路活性を表すカットオフを超える)経路活性を有することが見出された薬物ターゲティング経路は、前記の活性を破壊し、それにより、患者において意図する効果が得られると予測されるであろう。
【0325】
(ii)薬物機能性分析。この分析は、ex vivoでの薬物の機能性について2つの尺度を提供する。
1)応答スコア(RS):応答スコアは、試験した薬物(例えば、RASノードまたはRTKシグナル伝達の阻害剤)の標的化経路に対する機能的効果を特徴付ける。応答スコアは、0~1のスケールで報告することができ、スコアが高いほど薬物機能性が高い。
2)応答スコアパーセンタイル順位付け(RSPR):RSPRは、患者の応答スコアの、同一薬剤で試験した他の患者から得たスコアに対する順位を特徴付ける。各患者について、全群内の患者の応答スコアのパーセンタイルが決定される。パーセンタイル順位付けが割り当てられた時点で、次いで、患者を以下の3つの群のうちの1つに分類することができる:a)中央値未満、b)ほぼ中央値、またはc)中央値超。ある特定の薬物について、無増悪期間(TTP)などのクリニカルエンドポイントによって測定した患者の薬物応答の変動の大きさは、応答スコアの変動を反映する。臨床試験における75パーセンタイル患者のTTP期間が25パーセンタイル患者のTTP期間の5~10倍であることが多いので、医師に患者の応答スコアの相対ランクが提供されると、医師は重要な解釈のコンテキストを得る。例えば、医師は、個別の患者の応答スコアパーセンタイルに対応するパーセンタイル範囲の臨床試験における患者のTTP期間に基づいて、個別の患者のTTP期間を推定することができる。
(iii)可能性の高い臨床アウトカムの予測。この分析は、問題の薬剤の投与後に試験され、観察された患者についての、臨床試験で見出された応答スコアとクリニカルエンドポイントとの間の相関を反映する。この相関を用いると、臨床試験におけるある特定の応答スコアを受けた患者と一致する臨床アウトカムを同定することが可能である。例えば、TTPが測定された臨床アウトカムである場合、患者の結果を、以下の3つのカテゴリーのうちの1つに分類することができる。
【0326】
1)可能性のあるTTP期間-最低:この亜集団に分類される患者は、患者集団全体が経験するであろうTTP期間の中央値を十分に下回るTTP期間を経験する可能性がある。
2)可能性のあるTTP期間-中間:このカテゴリーに分類される応答スコアを受けた患者は評価されない。
3)可能性のあるTTP期間-最高:この亜集団に分類される患者は、患者群全体が経験するであろうTTP期間の中央値を十分に上回るTTP期間を経験する可能性がある。
【0327】
臨床医は、CELxプロファイル試験の結果を、どの薬物治療を選択するのかを決定するガイダンスとして使用するであろう。患者の細胞を複数のアゴニスト剤および標的化治療薬を用いて試験した場合、各薬物または薬物の組み合わせの可能性のある臨床アウトカムを比較することができ、その結果、医師は、最も可能性のある臨床アウトカムと相関関係がある試験結果を有する薬物または薬物の組み合わせを選択することができる。
【0328】
キット
本発明の別の態様では、キットが提供される。ある特定の実施形態では、キットは、輸送培地を含有する、個別の被験体由来の疾患細胞試料のための容器;輸送培地を含有する、個別の被験体由来の対照細胞試料のための容器;バイオセンサー;バイオセンサーからのデータを出力へと変換し(ここで、出力は、規定の期間にわたる細胞生理学的応答パラメーターの変化を示し、細胞生理学的応答パラメーターは細胞接着または細胞付着である)、応答者または無応答者として状態を示すカットオフ値を超えるかそれ未満に出力を分類し、そして/または応答なし、弱く応答する、および応答するとして試料を分類し、分類を含む報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一時的コンピュータ可読媒体を含む。別の実施形態では、細胞生理学的応答パラメーターは、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O、CO、グルコース、細胞周期、同化、異化、小分子の合成および生成、代謝回転、および呼吸、ATP、カルシウム、マグネシウム、および他の荷電イオン、タンパク質、特異的経路メンバー分子、種々の細胞区画中のDNAおよび/またはRNA、ゲノミクス、およびプロテオミクス、翻訳後修飾および機序、二次メッセンジャーのレベル、cAMP、mRNA、RNAi、マイクロRNA、および生理学的機能を有する他のRNA、およびその組み合わせからなる群から選択される。
【0329】
疾患細胞試料のタイプおよび量が、本明細書中に記載されている。ある特定の実施形態では、疾患細胞試料は、少なくとも5,000細胞を有するホールセル無標識生存細胞試料である。いくつかの実施形態では、対照細胞試料は、同一の被験体由来の疾患細胞試料、同一の被験体由来の健常細胞試料、罹患していないことが既知の被験体由来の健常細胞試料、正常基準範囲を導くための目的の疾患を欠く十分な数の患者由来の健常材料の一連の試料、治療剤に応答することが既知の細胞試料、治療剤に応答しないことが既知の細胞試料、およびその組み合わせからなる群から選択される。
【0330】
容器および輸送培地を、細胞生存度を維持し、かつ細胞活性化を最小にするようにデザインする。ある特定の実施形態では、培地および容器は、内毒素を含まず、発熱性が無く、DNアーゼおよびRNアーゼを含まない。細胞試料が得られた時点で、細胞試料を細胞生存度を保持する輸送培地中に維持する。分析現場への輸送時間の長さに応じて、異なる培地を使用してよい。いくつかの実施形態では、組織試料の輸送に最大10時間を要し得る場合、培地は、400mosm/L未満の重量オスモル濃度を有し、Na+、K+、Mg+、Cl-、Ca+2、グルコース、グルタミン、ヒスチジン、マンニトール、およびトリプトファン、ペニシリン、ストレプトマイシンを含み、必須アミノ酸を含み、非必須アミノ酸、ビタミン、他の有機化合物、微量のミネラルおよび無機塩、血清、細胞抽出物、または成長因子、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、ホスホリルエタノールアミン(phosphophorylrthanoloamine)、トリヨードサイロニン(tridothyronine)、ピルビン酸ナトリム、L-グルタミンを、ヒト初代細胞の増殖およびプレーティング効率を支持するためにさらに含んでよい。かかる培地の例としては、Celsior培地、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)、ハンクス緩衝食塩水、およびマッコイ5A、イーグル最小必須培地(EMEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、リーボビッツL-15、または初代細胞ケアを行うためのこれらの改変培地が挙げられる。
【0331】
バイオセンサーが本明細書中に記載されている。ある特定の実施形態では、バイオセンサーは、細胞接着、細胞付着、細胞形態、細胞表現型、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞密度、細胞極性、pH、O、CO、グルコース、およびその組み合わせからなる群から選択される細胞パラメーターを検出するバイオセンサーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、デバイスは、インピーダンスデバイスまたは光学的デバイスである。バイオセンサーは、必要に応じて、本明細書中に記載のようにコーティングされていてよい。実施形態では、本明細書中に記載の治療薬および/または賦活剤のタイプに関連する生理学的パラメーターの変化を測定するバイオセンサーが選択される。
【0332】
他の実施形態では、キットは、バイオセンサーからのデータを出力へと変換し(ここで、出力は、規定の期間にわたる細胞生理学的応答パラメーターの変化を示し、細胞生理学的応答パラメーターは、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O、CO、グルコース、およびその組み合わせからなる群から選択される)、応答者もしくは無応答者、および/または応答なし、弱く応答する、および応答するとして出力を分類し;分類を含む報告を作成するためのコンピュータ実行可能命令を有する非一時的コンピュータ可読媒体を含む。
【0333】
他の実施形態では、本発明は、本開示の方法を実行するための命令を有するコンピューティング デバイスまたはコンピュータ可読媒体を提供する。コンピュータ可読媒体としては、非一時的CD、DVD、フラッシュドライブ、外部ハードドライブ、およびモバイルデバイスが挙げられる。
【0334】
本明細書中に記載のキットおよび方法は、プロセッサ/コンピュータシステムの使用を採用することができる。例えば、方法を実行するためのプログラムメモリ保存コンピュータプログラムコードに、ワーキングメモリに、およびインターフェース(従来のコンピュータスクリーン、キーボード、マウス、およびプリンタなど)、ならびに他のインターフェース(ネットワークインターフェースおよび本明細書中に記載の1つの実施形態で使用されるデータベースインターフェースを含むソフトウェアインターフェースなど)に連結されたプロセッサを含む汎用コンピュータシステム。
【0335】
コンピュータシステムは、キーボード、入力データファイル、またはネットワークインターフェース、または例えば、規定の期間にわたりバイオセンサーによって作成されたデータを解釈するシステムなどの別のシステムなどのデータ入力デバイスからのユーザー入力を受け入れ、プリンタ、ディスプレイ、ネットワークインターフェースまたはデータ記憶デバイスなどの出力デバイスに出力を提供する。入力デバイス(例えば、ネットワークインターフェース)は、本明細書中に記載の細胞生理学的パラメーターの変化および/またはこれら変化の定量を含む入力を受け取る。出力デバイスは、細胞パラメーターの変化の検出および/または定量を描写する1またはそれを超える数および/またはグラフを含むディスプレイなどの出力を提供する。
【0336】
コンピュータシステムを、本明細書中に記載の方法によって作成されたデータを記憶するデータストアに連結することができる。このデータは、測定値毎および/または被験体毎に記憶される;必要に応じて、これらデータタイプの各々の複数のセットは、各被験体に対応して記憶される。1またはそれを超えるコンピュータ/プロセッサを、例えば、ネットワークを通じてコンピュータシステムに連結された、例えば、別々の機械として用いてよく、あるいはコンピュータシステムにおいて起動する別々のまたは統合されたプログラムを含んでよい。いずれの方法が用いられるとしても、これらのシステムは、データを受け取り、引き換えに検出/診断に関するデータを提供する。
【0337】
いくつかの実施形態では、コンピューティング デバイスは、サーバーコンピュータなどの単一のコンピューティング デバイスを含むことができる。他の実施形態では、コンピューティング デバイスは、ネットワーク(示さず)を通じて互いに通信するよう構成された複数のコンピューティング デバイスを含むことができる。コンピューティング デバイスは、メモリ内に複数のデータベースを記憶することができる。コンピューティング デバイスに記憶されたデータベースは、診療所、開業臨床医、プログラマ識別コード、または任意の他の所望のカテゴリーにより組織化することができる。
【0338】
バイオセンサーからのデータは、遠隔の演算システムまたは別のデータ記憶デバイスに送ることができる。通信プロセスは、初期化し、開始モジュールにおいて始め、接続操作へと進む。接続操作は、例えば、ケーブル接続、無線ローカルエリアネットワーク(WLANまたはWi-Fi)接続、セルラーネットワーク、無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)接続(例えば、BLUETOOTH(登録商標))、または任意の所望の通信リンクを介して、医療提供者の記憶された情報を遠隔の演算システムへと通信により連結する。
【0339】
転送操作は、バイオセンサーからのデータをコンピューティング デバイスへと送信する。1つの実施形態では、転送操作は、デバイス間でデータを送信する前にデータを暗号化する。通信プロセスは、停止モジュールにおいて完了および終了することができる。バイオセンサーデータが、遠隔のコンピューティング デバイスへと転送されると、データは、経時的な細胞インデックス測定値などの出力に変換される。ある特定の実施形態では、定義されたエンドポイントが選択され、本明細書中に記載されている通り、応答なし、弱く応答する、または応答するとしての細胞試料の分類に用いられる。実施形態では、応答者または無応答者としての試料の分析の状態は、ケーブル接続、無線ローカルエリアネットワーク(WLANまたはWi-Fi)接続、セルラーネットワーク、無線パーソナルエリアネットワーク(WPAN)接続(例えば、BLUETOOTH(登録商標))、または任意の所望の通信リンクを通して、同様のプロセスを用いて医療提供者に返信される。
【0340】
ある特定の実施形態では、コンピュータ可読記憶媒体は、コンピューティング デバイスにより実行されると、バイオセンサーからのデータを出力へと変換するステップであって、出力が、規定の期間にわたる細胞生理学的応答パラメーターの変化を示し、細胞生理学的応答パラメーターが、治療剤の存在および/または非存在下における、pH、細胞接着、細胞付着パターン、細胞増殖、細胞シグナル伝達、細胞生存、細胞密度、細胞サイズ、細胞形状、細胞極性、O、CO、グルコース、およびその組み合わせからなる群から選択される、変換するステップ、治療剤の存在下における細胞試料由来のバイオセンサーからの出力を、治療剤の非存在下における細胞試料由来のバイオセンサーからの出力と比較することにより、定義されたエンドポイントにおける応答なしおよび応答するとして出力を分類するステップ、および分類を含む報告を作成するステップを含むステップをコンピューティング デバイスに実行させるコンピュータ実行可能命令を有する。いくつかの実施形態では、コンピュータ実行可能命令は、医療提供者に分類を伝達するための命令を含む。
【0341】
他の実施形態では、コンピュータ可読記憶媒体は、いずれの経路が、被験体の疾患細胞試料において効き目があるかを同定するための命令を含んでよい。命令は、コンピューティング デバイスにより実行されると、アゴニスト(例えば、GPCRシグナル伝達経路のアゴニスト)で処置した被験体由来の疾患細胞試料からのバイオセンサーデータの出力と、前記のアゴニストで処置していない同一の被験体由来の第2の疾患細胞試料からのバイオセンサーデータの出力との間に差が存在するかどうかを決定して、前記のアゴニストに対し応答性である経路が、疾患細胞試料において活性であるかどうかを決定するステップ、出力における差の存在を、経路の活性の兆候として同定するステップ、および経路の活性を医療提供者に伝達するステップを含む。アゴニストおよびその経路は、本明細書に記載されている。
【実施例
【0342】
実施例
本発明は、以下の実施例を参照することによってより完全に理解される。しかしながら、実施例は、本発明の範囲を制限すると理解されないものとする。本明細書中に記載の実施例および実施形態は、例示のみを目的とし、実施例を考慮した種々の修正形態または変更形態が当業者に示唆され、これらが、本出願の主旨および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の範囲内に含まれると理解される。
【0343】
実施例1:HER2陰性/PI3K野生型であるがん細胞におけるPI3K阻害剤およびGPCRシグナル伝達アゴニストの試験
バイオセンサーおよび変換器:96ウェルインピーダンス(impendence)E-Plate(ACEA,San Diego,CA)を、xCELLigence RTCA MPステーションインピーダンス(impendence)バイオセンサー(ACEA,San Diego,CA)上に配置した。バイオセンサーは、ウェル毎のインピーダンスを同時に測定した。特定のウェルについてのインピーダンスの変化は、細胞数およびインピーダンスマイクロプレートへの細胞の付着タイプに比例する。インピーダンスの変化は、これらの細胞小集団の撹乱に対する応答を示す。
【0344】
コーティング:96-E-Plateウェルに、フィブロネクチンおよび/またはコラーゲンをコーティングした。コラーゲンを、Advanced BioMatrix(Carlsbad,CA)から購入し、フィブロネクチンをSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0345】
組織および細胞試料:18種のHER2陰性/PI3K野生型乳房腫瘍細胞試料を研究した。
【0346】
シグナル伝達経路賦活剤(アゴニスト)と標的化治療薬の対:
18種の腫瘍細胞試料の各々について、S1Pアゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)およびLPA1アゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)に対する生細胞の応答を、2つのPI3K標的化治療薬であるアルペリシブおよびIPI-549を個別に用いるか組み合わせて用いて測定した。これらの応答から、S1Pで開始されたシグナル伝達およびLPA1で開始されたシグナル伝達におけるPI3Kの正味の関与量を定量した。
【0347】
他の試薬:標準培地の抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)および他の緩衝液を、ATCC(Manassas,VA,USA)またはLife Technologies(Grand Island,NY)から購入し、入手した状態で使用した。
【0348】
手順:各乳房腫瘍細胞試料について、7つのウェルに、120uL培養培地中およそ12,750個の細胞を播種した。シグナル伝達経路賦活剤添加の18時間前に、20マイクロリットルの各標的化治療薬(アルペリシブ、IPI-549)を各患者の細胞の2つのウェル(合計4ウェル)に個別に添加し、20マイクロリットルの標準培地を各患者の細胞試料の他の3つのウェルに添加した。20マイクロリットルの各シグナル伝達経路アゴニスト(S1P、LPA1)を、標的化治療剤を投与された各患者の細胞のウェルに個別に添加し、標的化治療薬を用いなかった各患者の細胞セットについては1つのさらなるウェルに個別に添加した。活性化剤や標的化治療薬のいずれも投与しなかった細胞の単一のウェルを対照とした。
【表3-1】
【0349】
インピーダンスによる付着および接着の変化の記録を、37℃、5%CO2で行った。データを、試験を通して連続して記録し、ここで、示したデータは、18種の異なる患者試料に対する標的化治療剤およびシグナル伝達経路アゴニストの添加のその後の効果と比較した細胞付着の初期のベースラインレベルに由来する。所定のカットオフ値(すなわち、この実施例において250またはそれを超える)を超える出力値を生成するPI3K標的化治療薬は、患者を処置するために選択されることになる治療薬である。
【0350】
カットオフ値
統計分析ソフトウェア(例えば、mixtools、有限混合モデル分析のためのRパッケージ)を用いた有限混合モデル分析を使用してシグナル伝達活性レベルまたは出力値の集団分布を特徴付けることによって、カットオフを事前に決定した。分析したがん患者集団内の2またはそれを超える群が同定された;カットオフ値は、選択された第1の群の平均出力値と第2の群または他の群の平均出力値との間の中点を表す。
【0351】
結果:
表3は、上記の方法を使用して行った72の試験の各々についての結果を出力値として示す。18の細胞試料の各々について、2つの異なるGPCRシグナル伝達経路(S1PおよびLPA1)を、それのみを用いて試験したか、2つの異なる標的化治療薬であるアルペリシブおよびIPI-549と共に試験した。出力値は、S1PおよびLPA1アゴニスト(シグナル伝達経路賦活剤)の添加に起因する細胞接着の変化量と、標的化治療剤であるアルペリシブおよびIPI-549の添加に起因する細胞接着の変化量との間の差を示す。この実施例では、試験した18の患者細胞試料のうちの5つにおいて、標的化治療薬IPI-549を用いた場合に250を超える出力値が記録された。したがって、これら5人の患者は、PI3K変異を欠くとしても、IPI-549での処置を受けるために選択されるであろう。
【表3-2】
【0352】
考察:
標準治療ガイダンスでは、PI3K標的化治療薬を用いた乳がん患者の処置前にPI3Kの変異状態を確認することを要求している。この実施形態で試験した患者の細胞試料がPI3K変異を欠くので、前記の患者は、PI3K標的化治療薬を用いた処置を受けることに適していないであろう;前記の患者は、標的化治療薬の結合部位に対応する変異を欠く。しかしながら、この実施形態では、18の患者の腫瘍細胞試料のうちの5つにおいて、PI3K標的化治療薬を用いたカットオフを超える出力値を記録し、したがって、本明細書中に記載の方法に基づいて、対応するPI3K標的化治療薬で処置されるために選択されるであろう。したがって、これら5人の患者について、この方法の結果を使用して投与された標的化治療薬は、現在の標準治療における処置ガイダンスで推奨されている標的化治療薬と異なる。この実施例は、多くの症例において、基礎疾患機序(すなわち、患者において実証された特異的シグナル伝達経路機能障害)が、対応する遺伝子変異と関連しないので、がん患者のGPCRシグナル伝達経路の活性を測定することの重要性が示唆される。
【0353】
また、この実施例は、どのようにして本明細書中に記載の方法が、処置すべき患者を選択するために、活性化剤の結合部位と異なる結合部位を有する標的化治療薬の効果を評価することができるのかを実証している。この実施例では、2つの異なるGPCR経路を、そのそれぞれの受容体(S1PおよびLPA1)に結合するリガンドで活性化し、PI3Kに結合する標的化治療薬(アルペリシブおよびIPI-549)の効果を測定して、PI3K阻害剤を用いた処置のために患者を選択するために使用され得る結果を得た。
【0354】
実施例2:HER2陰性/PI3K野生型であるがん細胞におけるHER2阻害剤およびGPCRシグナル伝達アゴニストの試験
バイオセンサーおよび変換器:96ウェルインピーダンス(impendence)E-Plate(ACEA,San Diego,CA)を、xCELLigence RTCA MPステーションインピーダンス(impendence)バイオセンサー(ACEA,San Diego,CA)上に配置した。バイオセンサーは、ウェル毎のインピーダンスを同時に測定した。特定のウェルについてのインピーダンスの変化は、細胞数およびインピーダンスマイクロプレートへの細胞の付着タイプに比例する。インピーダンスの変化は、これらの細胞小集団の撹乱に対する応答を示す。
【0355】
コーティング:96-E-Plateウェルに、フィブロネクチンおよび/またはコラーゲンをコーティングした。コラーゲンを、Advanced BioMatrix(Carlsbad,CA)から購入し、フィブロネクチンをSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0356】
組織および細胞試料:18種のHER2陰性/PI3K野生型乳房腫瘍細胞試料を研究した。
【0357】
シグナル伝達経路賦活剤(アゴニスト)と標的化治療薬の対:
18種の腫瘍細胞試料の各々について、S1Pアゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)およびLPA1アゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)に対する生細胞の応答を、HER2阻害剤(ネラチニブ)を個別に用いるか組み合わせて用いて測定した。これらの応答から、S1Pで開始されたシグナル伝達およびLPA1で開始されたシグナル伝達におけるHERファミリー経路の正味の関与量を定量した。
【0358】
他の試薬:標準培地の抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)および他の緩衝液を、ATCC(Manassas,VA,USA)またはLife Technologies(Grand Island,NY)から購入し、入手した状態で使用した。
【0359】
手順:各乳房腫瘍細胞試料について、5つのウェルに、120uL培養培地中およそ12,750個の細胞を播種した。シグナル伝達経路賦活剤添加の18時間前に、20マイクロリットルの標的化治療薬(ネラチニブ)を各患者の細胞の2つのウェルに個別に添加し、20マイクロリットルの標準培地を各患者の細胞試料の他の3つのウェルに添加した。20マイクロリットルの各シグナル伝達経路アゴニスト(S1P、LPA1)を、標的化治療剤を投与された各患者の細胞の1つのウェルに個別に添加し、標的化治療薬を用いなかった各患者の細胞セットについては1つのさらなるウェルに個別に添加した。活性化剤や標的化治療薬のいずれも投与しなかった細胞の単一のウェルを対照とした。
【表4-1】
【0360】
インピーダンスによる付着および接着の変化の記録を、37℃、5%CO2で行った。データを、試験を通して連続して記録し、ここで、示したデータは、18種の異なる患者試料に対する標的化治療剤およびシグナル伝達経路活性化因子剤の添加のその後の効果と比較した細胞付着の初期のベースラインレベルに由来する。所定のカットオフ値(この実施例において500またはそれを超える)を超える出力値を記録する標的化治療薬は、患者を処置するために選択されることになる治療薬である。
【0361】
カットオフ値
統計分析ソフトウェア(例えば、mixtools、有限混合モデル分析のためのRパッケージ)を用いた有限混合モデル分析を使用してシグナル伝達活性レベルまたは出力値の集団分布を特徴付けることによって、カットオフを事前に決定した。分析したがん患者集団内の2またはそれを超える群が同定された;カットオフ値は、第1の群の平均出力値と第2の群または他の群の平均出力値との間の中点を表す。
【0362】
結果:
表4は、上記の方法を使用して行った36の試験の各々についての結果を出力値として示す。18の細胞試料の各々について、2つの異なるGPCRシグナル伝達経路(S1PまたはLPA1)を、それのみを用いて試験したか、HER2阻害剤(ネラチニブ)と共に試験した。出力値は、S1PまたはLPA1アゴニスト(シグナル伝達経路賦活剤)の添加に起因する細胞接着の変化量と、標的化治療剤であるネラチニブの添加に起因する細胞接着の変化量との間の差を示す。この実施例では、試験した18の患者細胞試料のうちの4つにおいて、標的化治療薬ネラチニブを用いた場合に500を超える出力値が記録された。したがって、これら4人の患者は、HER2陰性であるとしても、ネラチニブでの処置を受けるために選択されるであろう。
【表4-2】
【0363】
考察:
標準治療ガイダンスでは、HER2標的化治療薬を用いた患者の処置前に患者がHER2陽性であると確認することを要求している。この実施形態で試験した患者の細胞試料がHER2陰性であるので、前記の患者は、HER2標的化治療薬を用いた処置を受けることに適していないであろう;前記の患者は、標的化治療薬の結合部位に対応する変異を欠く。しかしながら、この実施形態では、18の患者の腫瘍細胞試料のうちの4つにおいて、HER2標的化治療薬を用いたカットオフを超える出力値およびGPCR活性化シグナル伝達を記録し、したがって、本明細書中に記載の方法に基づいて、対応するHER2標的化治療薬で処置されるために選択されるであろう。したがって、これら4人の患者について、本明細書に記載されるこの方法の結果を使用して投与された標的化治療薬は、現在の標準治療における処置ガイダンスで推奨されている標的化治療薬と異なる。この実施例は、一部の症例において、基礎疾患機序(すなわち、患者において実証された特異的シグナル伝達経路機能障害)が、対応する遺伝子変異と関連しないので、がん患者のGPCRシグナル伝達経路の活性を測定することの重要性が示唆される。
【0364】
前の実施例と同様に、この実施例は、どのようにして本明細書中に記載の方法が、処置すべき患者を選択するために、活性化剤の結合部位と異なる結合部位を有する標的化治療薬の効果を評価することができるのかを実証している。この実施例では、2つの異なるGPCR経路を、そのそれぞれの受容体(S1PおよびLPA1)に結合するリガンドで活性化し、HER1、HER2およびHER3に結合する標的化治療薬(ネラチニブ)の効果を測定して、ネラチニブを用いた処置のために患者を選択するために使用され得る結果を得た。
【0365】
実施例3:PI3K変異を有するがん細胞におけるPI3K阻害剤およびGPCRシグナル伝達アゴニストの試験
バイオセンサーおよび変換器:96ウェルインピーダンス(impendence)E-Plate(ACEA,San Diego,CA)を、xCELLigence RTCA MPステーションインピーダンス(impendence)バイオセンサー(ACEA,San Diego,CA)上に配置した。バイオセンサーは、ウェル毎のインピーダンスを同時に測定した。特定のウェルについてのインピーダンスの変化は、細胞数およびインピーダンスマイクロプレートへの細胞の付着タイプに比例する。インピーダンスの変化は、これらの細胞小集団の撹乱に対する応答を示す。
【0366】
コーティング:96-E-Plateウェルに、フィブロネクチンおよび/またはコラーゲンをコーティングした。コラーゲンを、Advanced BioMatrix(Carlsbad,CA)から購入し、フィブロネクチンをSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入する。
【0367】
組織および細胞試料:PI3K-α変異を有する3種の乳房腫瘍細胞試料を研究した。
【0368】
シグナル伝達経路賦活剤(アゴニスト)と標的化治療薬の対:
3種の乳房腫瘍細胞試料の各々について、S1Pアゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)およびLPA1アゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)に対する生細胞の応答を、2つのPI3K標的化治療薬であるアルペリシブおよびIPI-549を個別に用いるか組み合わせて用いて測定した。これらの応答から、S1Pで開始されたシグナル伝達およびLPA1で開始されたシグナル伝達におけるPI3Kの正味の関与量を定量した。
【0369】
他の試薬:標準培地の抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)および他の緩衝液を、ATCC(Manassas,VA,USA)またはLife Technologies(Grand Island,NY)から購入し、入手した状態で使用した。
【0370】
手順:各乳房腫瘍細胞試料について、7つのウェルに、120uL培養培地中およそ12,750個の細胞を播種した。シグナル伝達経路賦活剤添加の18時間前に、20マイクロリットルの各標的化治療薬(アルペリシブ、IPI-549)を各患者の細胞の2つのウェルに個別に添加し、20マイクロリットルの標準培地を各患者の細胞試料の他の3つのウェルに添加した。20マイクロリットルのシグナル伝達経路アゴニスト(S1P、LPA1)を、標的化治療剤を投与された各患者の細胞のウェルに個別に添加し、標的化治療薬を用いなかった各患者の細胞セットについては1つのさらなるウェルに個別に添加した。活性化剤や標的化治療薬のいずれも投与しなかった細胞の単一のウェルを対照とした。
【表5-1】
【0371】
インピーダンスによる付着および接着の変化の記録を、37℃、5%CO2で行った。データを、試験を通して連続して記録し、ここで、示したデータは、18種の異なる患者試料に対する標的化治療剤およびシグナル伝達経路活性化因子剤の添加のその後の効果と比較した細胞付着の初期のベースラインレベルに由来する。所定のカットオフ値(この実施例において250またはそれを超える)を超える出力値を記録するPI3K標的化治療薬は、患者を処置するために選択されることになる治療薬である。
【0372】
カットオフ値
統計分析ソフトウェア(例えば、mixtools、有限混合モデル分析のためのRパッケージ)を用いた有限混合モデル分析を使用してシグナル伝達活性レベルまたは出力値の集団分布を特徴付けることによって、カットオフを事前に決定した。分析したがん患者集団内の2またはそれを超える群が同定された;カットオフ値は、選択された第1の群の平均出力値と第2の群または他の群の平均出力値との間の中点を表す。
【0373】
結果:
表5は、上記の方法を使用して行った10の試験の各々についての結果を出力値として示す。2つの異なるGPCRシグナル伝達経路(S1PおよびLPA1)を、別々に用いて試験したか、2つPI3K阻害剤であるアルペリシブおよびIPI-549と共に試験した。出力値は、S1PまたはLPA1アゴニスト(シグナル伝達経路賦活剤)の添加に起因する細胞接着の変化量と、標的化治療剤であるアルペリシブまたはIPI-549の添加に起因する細胞接着の変化量との間の差を示す。この実施例では、PI3K変異患者細胞試料のうちのたった1つにおいて、PI3K標的化治療薬を用いた場合に250を超える出力値が記録された。他の2人の患者は、PI3K変異を持たないにもかかわらず、カットオフ未満の出力値を有し、したがって、PI3K阻害剤を用いた処置を受けるために選択されないだろう。
【表5-2】
【0374】
考察:
標準治療ガイダンスでは、PI3K標的化治療薬を用いた乳がん患者の処置前にPI3Kの変異状態を確認することを要求している。この実施形態で試験した患者の細胞試料がPI3K変異を有するので、前記の患者は、PI3K標的化治療薬を用いた処置を受けることに適しているであろう;それらの変異は、標的化治療薬の結合部位に対応する。しかしながら、この実施形態では、3つの患者の腫瘍細胞試料のうちの2つにおいて、PI3K標的化治療薬を用いた場合にカットオフ未満の出力値が記録され、したがって、本明細書中に記載の方法に基づいて、対応するPI3K標的化治療薬を用いた処置を受けるために選択されないだろう。前の実施例と同様に、この実施例は、多くの症例において、基礎疾患機序(すなわち、患者において実証された特異的シグナル伝達経路機能障害)が、対応する遺伝子変異と関連しないので、がん患者のGPCRシグナル伝達経路の活性を測定することの重要性が示唆される。
【0375】
実施例4:HER2陰性および野生型であるがん細胞におけるPI3K、ERK、MEK、RAF、およびmTORについてのRASノード阻害剤およびGPCRシグナル伝達アゴニストの試験
GPCRによる調節不全のシグナル伝達は、乳がん(BC)における発癌性RASシグナル伝達に関与する。RASノードが関与する複雑な調節機構は、ノードの変異状態と無関係に、単一のRASノードが阻害された場合に適応応答(例えば、耐性)を誘発することができる。したがって、複数のRASノードの阻害には、持続的な抗腫瘍応答が必要であり得る。RASノード阻害剤に応答し得るRASシグナル伝達が調節不全の腫瘍を有する患者を同定するために、インピーダンスバイオセンサーを使用したアッセイを開発した。この実施例は、GPCR開始シグナル伝達活性ならびに生きている腫瘍細胞におけるこの活性の変換におけるPI3K、ERK、MEK、mTOR、RAF、およびBCLの役割(複数)を試験した。
【0376】
バイオセンサーおよび変換器:96ウェルインピーダンス(impendence)E-Plate(ACEA,San Diego,CA)を、xCELLigence RTCA MPステーションインピーダンス(impendence)バイオセンサー(ACEA,San Diego,CA)上に配置した。バイオセンサーは、ウェル毎のインピーダンスを同時に測定した。特定のウェルについてのインピーダンスの変化は、細胞数およびインピーダンスマイクロプレートへの細胞の付着タイプに比例する。インピーダンスの変化は、これらの細胞小集団の撹乱に対する応答を示す。
【0377】
コーティング:96-E-Plateウェルに、フィブロネクチンおよび/またはコラーゲンをコーティングした。コラーゲンを、Advanced BioMatrix(Carlsbad,CA)から購入し、フィブロネクチンをSigma-Aldrich(St.Louis,MO)から購入した。
【0378】
組織および細胞試料:28種のHER2陰性/PI3K//ERK/MEK/RAF/mTOR野生型乳房腫瘍細胞試料を研究した。
【0379】
シグナル伝達経路賦活剤(アゴニスト)と標的化治療薬の対:
28種の腫瘍細胞試料の各々について、LPA1アゴニスト(シグナル伝達経路アクチベーター)に対する生細胞の応答を、個別に測定したか、PI3K-α阻害剤(GDC-0077)、汎PI3K阻害剤(コパンリシブ)、汎PI3K/mTOR阻害剤(ゲダトリシブ)、Bcl-xL/Bcl-2阻害剤(ナビトクラックス)、MEK阻害剤(トラメチニブ)、ERK阻害剤(ラボキセルチニブ)、およびRAF阻害剤(PLX7904)と組み合わせて測定した。これらの応答から、PI3K-α、クラス1 PI3K-アイソフォーム(汎PI3K)、クラス1 PI3K-アイソフォーム、およびmTOR、Bcl-xLおよびBcl-2、MEK、ERK、ならびにRAFが関与するLPA1で開始されたシグナル伝達の正味の量を、個別におよび組み合わせて定量した。
【0380】
他の試薬:標準培地の抗生物質(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン)および他の緩衝液を、ATCC(Manassas,VA,USA)またはLife Technologies(Grand Island,NY)から購入し、入手した状態で使用した。
【0381】
手順:各乳房腫瘍細胞試料について、12のウェルに、120マイクロリットルの培養培地中およそ12,750個の細胞を播種した。シグナル伝達経路賦活剤添加の18時間前に、20マイクロリットルのGDC-0077、コパンリシブ、ゲダトリシブ、ナビトクラックス、トラメチニブ、ラボキセルチニブ、およびPLX7904を単独で、20マイクロリットルのゲダトリシブとトラメチニブの組み合わせ、ゲダトリシブとナビトクラックスの組み合わせ、ゲダトリシブとラボキセルチニブの組み合わせ、およびゲダトリシブとPLX7904の組み合わせを、10ウェルの各患者の細胞に別々に添加し、20マイクロリットルの標準培地を、各患者の細胞試料の他の2つのウェルに添加した。20マイクロリットルのシグナル伝達経路アゴニスト(LPA1)を、標的化治療剤を投与された各患者の細胞のウェルに個別に添加し、標的化治療薬を用いなかった各患者の細胞セットについては1つのさらなるウェルに個別に添加した。活性化剤や標的化治療薬のいずれも投与しなかった細胞の単一のウェルを対照とした。
【0382】
インピーダンスによる付着および接着の変化の記録を、37℃、5%CO2で行った。データを、試験を通して連続して記録し、ここで、示したデータは、28種の異なる患者試料に対する標的化治療剤およびシグナル伝達経路アゴニストの添加のその後の効果と比較した細胞付着の初期のベースラインレベルに由来する。所定のカットオフ値(すなわち、この実施例において250またはそれを超える)を超える出力値を生成する単一の標的化治療剤および標的化治療薬の組み合わせは、患者を処置するために選択されることになる治療薬である。
【0383】
カットオフ値
統計分析ソフトウェア(例えば、mixtools、有限混合モデル分析のためのRパッケージ)を用いた有限混合モデル分析を使用してシグナル伝達活性レベルまたは出力値の集団分布を特徴付けることによって、カットオフを事前に決定した。分析したがん患者集団内の2またはそれを超える群が同定された;カットオフ値は、選択された第1の群の平均出力値と第2の群または他の群の平均出力値との間の中点を表す。
【0384】
結果:
表4は、上記の方法を使用して行った試験の各々についての結果を出力値として示す。28種の細胞試料の各々について、LPA1を、単独で試験し、異なる標的化治療薬を単剤として(GDC-0077、コパンリシブ、ゲダトリシブ、ナビトクラックス、トラメチニブ、ラボキセルチニブ、PLX7904)、および併用剤として(ゲダトリシブとトラメチニブ、ゲダトリシブとナビトクラックス、ゲダトリシブとラボキセルチニブ、ゲダトリシブとPLX7904)、用いて試験した。出力値は、LPA1アゴニスト(シグナル伝達経路賦活剤)の添加に起因する細胞接着の変化量と、標的化治療剤(複数可)の添加に起因する細胞接着の変化量との間の差を示す。この実施例では、試験した28の患者細胞試料のうちの14において、標的化治療薬(複数可)の少なくとも1つを用いた場合に250を超える出力値が記録された。患者は、トラメチニブ、GDC-0077、ラボキセルチニブを単剤として用いた処置を受けるために選択されないであろう。5人の患者がゲダトリシブを用いた処置を受けるために選択され、4人がコパンリシブを用いた処置を受けるために選択され、1人の患者がPLX7904を用いた処置を受けるために選択され、6人の患者がゲダトリシブおよびPLX7904を用いた処置を受けるために選択され、7人の患者がゲダトリシブおよびラボキセルチニブを用いた処置を受けるために選択され、9人の患者がゲダトリシブおよびトラメチニブを用いた処置を受けるために選択され、14人の患者がゲダトリシブおよびナビトクラックスを用いた処置を受けるために選択されるであろう。
【表4-3】
【0385】
考察:
標準治療ガイダンスでは、対応する標的化治療薬を用いた乳がん患者の処置前に、PI3K/ERK/MEK/RAF/mTOR野生型の変異状態を確認することを要求している。この実施形態で試験した患者の細胞試料がPI3K/ERK/MEK/RAF/mTOR変異を欠くので、前記の患者は、PI3K/ERK/MEK/RAF/mTOR標的化治療薬を単独でまたは組み合わせて用いた処置を受けることに適していないであろう;前記の患者は、標的化治療(targeted therapy)の結合部位に対応する変異を欠く。しかしながら、この実施形態では、28の患者の腫瘍細胞試料のうちの14において、標的化治療薬のうちの1つを用いたカットオフを超える出力値を記録し、したがって、本明細書中に記載の方法に基づいて、対応する標的化治療薬で処置されるために選択されるであろう。したがって、これら14人の患者について、この方法の結果を使用して投与された標的化治療薬は、現在の標準治療における処置ガイダンスで推奨されている標的化治療薬と異なる。この実施例は、多くの症例において、基礎疾患機序(すなわち、患者において実証された特異的シグナル伝達経路機能障害)が、対応する遺伝子変異と関連しないので、がん患者のGPCRシグナル伝達経路の活性を測定することの重要性が示唆される。
【0386】
また、この実施例は、どのようにして本明細書中に記載の方法が、処置すべき患者を選択するために、活性化剤の結合部位と異なる結合部位を有する標的化治療薬の効果を評価することができるのかを実証している。この実施例では、GPCR経路を、その受容体(LPA1)に結合するリガンドを用いて活性化し、RASノードに結合する標的化治療薬(GDC-0077、コパンリシブ、ゲダトリシブ、ナビトクラックス、トラメチニブ、ラボキセルチニブ、PLX7904、ゲダトリシブとトラメチニブ、ゲダトリシブとナビトクラックス、ゲダトリシブとラボキセルチニブ、ゲダトリシブとPLX7904)の効果を測定して、RASノード阻害剤による処置のために患者を選択するのに使用し得るという結果を得た。
【国際調査報告】