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特表2023-505539混合織物廃棄物からの成分の利用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-09
(54)【発明の名称】混合織物廃棄物からの成分の利用方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20230202BHJP
   C08J 11/16 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
B29B17/02 ZAB
C08J11/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534855
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2020084541
(87)【国際公開番号】W WO2021115932
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】19216001.8
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルヒル、リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】クラウス-ニートロスト、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】タイス、ザブリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイラッハ、クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA02
4F401AA22
4F401AC20
4F401BA04
4F401BA13
4F401CA22
4F401CA30
4F401CA49
4F401CA67
4F401CA75
4F401CB01
4F401EA07
4F401FA07Z
(57)【要約】
本発明は、少なくともセルロース成分およびポリエステル成分を含む混合織物廃棄物からのセルロース原料の抽出のための、少なくともポリエステル分解物を含有しアルカリパルプ化プロセスに由来する廃液の処理および利用のための方法に関する。本方法をより環境にやさしくより資源効率的にするために、本方法は以下のステップ:廃液からポリエステル分解物を沈殿させ、水相とポリエステル分解物を含む固相とを有する二相混合物を得るために、廃液から水を蒸発させること、b)液相から固相を分離すること、およびc)固相の熱的/エネルギー的利用を行うことを含むことを提案する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともセルロース成分およびポリエステル成分を含む混合織物廃棄物からのセルロース原料の抽出のための、少なくともポリエステル分解物を含有しアルカリパルプ化プロセスに由来する廃液の処理および利用のための方法であって、以下のステップ:
a)前記廃液からポリエステル分解物を沈殿させ、水相と前記ポリエステル分解物を含む固相とを有する二相混合物を得るために、前記廃液から水を蒸発させること、
b)前記水相から前記固相を分離すること、および
c)前記固相を利用すること、
を含む方法。
【請求項2】
ステップb)に続いて、前記水相が廃水処理プロセスに供給されるか、またはパルプ製造プロセスにおける別の用途に供されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固相は、ステップc)において、蒸気および/または電力の形態のエネルギーの発生のために熱的に利用されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップc)に続いて、前記固相がスラグタップ燃焼を備えたボイラーに供給されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)において、20~40重量%の固形分を有するまで前記廃液から水を蒸発させることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記廃液がNaOHを含み、前記ポリエステル分解物がテレフタル酸のナトリウム塩であることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
汚れた前記廃液が実質的にリグニンを含まないことを特徴とする、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記混合織物廃棄物の前記アルカリパルプ化法が、前記ポリエステル成分の前記ポリエステル分解物へのアルカリ加水分解を含むことを特徴とする、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリパルプ化法は、前記セルロース原料を得るために、前記ポリエステル分解物から前記ポリエステル成分を分離することをさらに含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記廃液からの前記水の蒸発が、2段階以上、好ましくは2段階~10段階、より好ましくは2段階~6の段階で起こることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記固相と前記液相とを分離するための機械式分離器が、少なくとも1段階の下流に設けられる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
最終濾液がもはやテレフタル酸二ナトリウム残渣を含まなくなるまで、必要なだけ多くのサイクルが実施されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合織物廃棄物(blended textile waste)からセルロース原料を抽出するための、アルカリパルプ化プロセスからの分解物汚染廃液の処理および利用のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に織物廃棄物の環境への影響を低減させるために、これらの織物廃棄物からの原料の回収(reclaiming)又はリサイクルが織物産業にとってますます重要になってきている。
【0003】
織物廃棄物の完全に機械的なリサイクルについてはかなり以前から一般に知られており、織物廃棄物は粉砕され、そこからクリーニングワイプ、詰めもの、または断熱材などのリサイクル済み最終製品が直接製造される。そのようなリサイクルされた織物の繊維に由来する糸を紡糸すると通常、新しい織物の製造に適さない低品質の糸が得られる。
【0004】
化学的リサイクル法は上述の問題を克服するのに役立つ。例えば、セルロース系繊維を化学的前処理の後に紡糸して、再度、再生セルロース系繊維にすることができる。しかしながら、そのような再生セルロース系成形体の製造プロセスはセルロース原料中の不純物に非常に影響を受けやすく、これは、そうしてリサイクルされたセルロース原料が繊維への紡糸に一般に適さないことを意味する。
【0005】
WO 2015/077807 A1は、織物廃棄物からの回収綿繊維を前処理するプロセスを示し、最初に金属が回収綿繊維から除去され、続いて酸化漂白に供される。このようにして回収された綿繊維は続いて、再生セルロースからの成形体製造に使用され得る。
【0006】
WO 2018/115428 A1は、アルカリ性条件下で気体状の酸化剤と組み合わせて綿ベースの原料を処理する方法を開示する。
【0007】
また、WO 2018/073177 A1は、セルロース系織物廃棄物からセルロース原料をリサイクルする方法を記載している。この場合では、織物廃棄物中のセルロース系繊維を膨潤(swell)させて不純物の除去を容易にするために、織物廃棄物が還元剤の存在下、アルカリ性条件下で処理される。アルカリ処理の後、セルロース原料は酸素および/またはオゾンで漂白される。
【0008】
こうした方法では出発物質として純セルロース系織物廃棄物が用いられる。しかしながら実際には、衣類および布地からの織物廃棄物は、混合織物廃棄物(blended textile waste)、すなわちセルロース系繊維および合成繊維の混合物(blend)である。主な成分(fraction)は、ポリエステル繊維およびセルロース系繊維を含む混合織物廃棄物である。同様に、綿織物からの織物廃棄物はほとんどの場合、縫糸またはラベル等に由来するポリエステルで汚染されている。しかし、上述したタイプの方法では、合成ポリマー繊維、とりわけポリエステルによる甚大な汚染を除去することが不可能なので、混合織物廃棄物を処理することが通常できない。
【0009】
それでも本方法は、セルロース成分に加えてかなりの量のポリエステル成分も含有する混合織物廃棄物の化学的処理法に関する。
【0010】
US 2019/0218362 A1は、さもなければ廃棄される綿廃棄物および綿/ポリエステル混合織物廃棄物のセルロース系成分およびポリエステル成分をリサイクルするための亜臨界水処理を含むシステムおよび方法を記載している。
【0011】
Anna Petersonによる論文:「Towards Recycling of Textile Fibers,Separation and Characterization of Textile Fibers and Blends,Master’s Thesis in Materials Chemistry and Nanotechnology」、チャルマース工科大学、ゴセンバーグ、スウェーデン、2015年1月1日は、穏和な条件下、相間移動触媒であるベンジルトリブチルアンモニウムクロリドを用いて混合織物からポリエステルを完全に加水分解する方法を開示している。
【0012】
しかしながら、そのような混合織物廃棄物を適切な圧力および適切な温度でアルカリ化学パルプ化する際、特にセルロース原料を回収する場合、種々の分解物を含む相当な量の廃液が生成され、その大部分はポリエステル分解物である。そうした廃液は通常、非常に高い化学的酸素要求量(COD)と金属含有量を有するので、前処理することなく従来の廃水処理プロセスに移すことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、冒頭で述べたタイプの、廃液の利用を可能にし廃水処理プロセスへの負荷を軽減する、上述のような分解物を含有する廃液の処理および利用のための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、定義された目的は、請求項1において特許請求される方法によって達成される。
【0015】
つまるところ、混合織物廃棄物からリサイクルセルロース原料を抽出するための、アルカリパルプ化プロセスからの分解物汚染廃液の処理および利用のための本発明に係る方法において、廃液からポリエステル分解物を沈殿させ水相とポリエステル分解物を含む固相とを有する二相混合物を得るために廃液から水を蒸発させると、汚染廃液からのポリエステル分解物の再現可能な分離ができるようになる。また、固相が水相から分離されると、廃液の水相を従来の廃水処理プロセスに供給することができ、それにより、廃水処理プロセスへの負荷と廃水処理プロセスの化学的酸素要求量を最小限に抑えることができる。最後に、固相を水相と独立して利用することができ、これにより、より環境にやさしい手法で本発明の方法を設計することが可能になる。
【0016】
本発明の目的のために、「ポリエステル」は主に、モノマーであるテレフタル酸およびエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(PET)を指す。しかしながら、本発明は、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等の他の広く使用されているポリエステル、またはこれらのポリエステルの混合物とも非常に良好に機能する。いずれの場合も、アルコール成分、すなわちエチレングリコール、ブタンジオール、プロピレンジオール、トリメチレングリコール等が処理溶液に易溶性であることと、テレフタル酸と共に沈殿しないことが重要である。
【0017】
本発明の目的のために、「廃液」は全般に、使用済みの水性アルカリ性処理溶液を指し、該処理溶液は、混合織物廃棄物のセルロース成分からリサイクルセルロース原料を得るために混合織物廃棄物を処理するのに使用される。混合織物廃棄物中のセルロース成分は一般に染料または他の不純物で汚染されており、繊維レベルでポリエステル成分と混合されているので、不純物とポリエステル成分はアルカリ性処理溶液中に溶出(dissolved out)され、分解、より具体的には加水分解されて分解物になる。したがって、廃液は、少なくともポリエステル分解物と場合により染料または他の不純物由来の分解物を、分解物として含有する。
【0018】
こうして、アルカリパルプ化プロセスの際、ポリエステル成分中のポリエステル分子の分子量および分子鎖長が水性アルカリ性処理溶液の存在中で起こる加水分解によって意図的に低減される。このようにして、ポリエステル成分の分子は分子鎖長が徐々に低減されていき、最終的にそれらのモノマー構成単位、すなわちテレフタル酸およびエチレングリコールに分解される。アルカリ性処理溶液中のこのプロセスにおいて形成されるテレフタレートの種類は、実質的に、処理溶液中に含まれるアルカリ性加水分解剤に依存する。例えば、もしNaOHが使用された場合、ポリエステル分解物は処理溶液に易溶性のテレフタル酸二ナトリウムを主に含有する。これによりその後、ポリエステル分解物をセルロース成分からプロセス技術的に簡単に分離することができ、それにより、混合織物廃棄物からセルロース原料を高純度で回収することができる。実際、プロセス条件は全般に穏やかなため、セルロース成分中のセルロースポリマーはほとんど分解しない。しかしそれと同時に、セルロース成分を有利には処理溶液によって部分的にパルプ化することができ、染料または架橋剤等の不純物を除去することができ、回収されたセルロース原料の品質に利益をもたらす。
【0019】
廃液中にポリエステル分解物として含まれるテレフタル酸二ナトリウムは、廃液から水を蒸発させると沈殿し、それにより、固相と水相とを有する二相混合物が形成され、固相はテレフタル酸二ナトリウムを含み、水相はアルカリ性処理溶液の残滓と場合により他の分解物とを含む水性の上澄みから形成される。この水相は、環境への影響が小さく、廃水処理プロセスに直接供給することができるか、或いはアルカリ性処理溶液を回収するために使用することができる。別の実施形態では、水相を再び蒸発させ、それによりさらにテレフタレートを沈殿させてもよい。これは本発明に従って得られる物質の総発熱量(total calorific value)を増加させる一方で、廃水処理プロセスに供給される水相のCODをさらに減少させる。したがって、固相を水相から独立して利用することができ、資源集約的(resource-intensive)で環境にやさしくない共同(joint)処理プロセスを経る必要がない。
【0020】
本発明の目的のために、「リサイクルセルロース原料」は、リサイクルパルプ、織物パルプ、綿パルプ、ラグパルプ等、またはそれらの組み合わせを指す。より具体的には、このようなセルロース原料はリヨセル、ビスコース、モダール、またはキュプラ繊維等の再生セルロース繊維の製造のための出発原料として適し得る。また、リサイクルセルロース原料は、紙、紙様材料、またはパルプから作製された不織布の製造のための出発原料としての役割を果たし得る。
【0021】
全般に、本発明の目的のために、「混合織物廃棄物」は、混合織物廃棄物のセルロース成分を形成する任意のセルロース繊維と、ポリエステル成分を形成する任意のポリエステル繊維とを含有する混合物であればよいことも述べておく。適切なセルロース繊維は、例えば、綿、亜麻、麻、ラミー、カポック等の天然セルロース繊維、またはレーヨン、ビスコース、リヨセル、キュプラ、もしくはモダール等の再生セルロース繊維を含む。上述の繊維は、直径および長さが可変であってもよく、連続繊維(フィラメント)でもステープル繊維でもよく、または不織形態(nonwoven form)で存在してもよい。このような混合織物廃棄物は、セルロース成分およびポリエステル成分の各々を、少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも2重量%、より好ましくは少なくとも3重量%含む。
【0022】
さらに、混合織物廃棄物がプレコンシューマ織物廃棄物および/またはポストコンシューマ織物廃棄物であると、特に経済的で信頼性のあるリサイクル法を提供することができる。ポストコンシューマ織物廃棄物とは、最終消費者のもとに到着し、使用された結果として不純物を時にはかなりの量で含有し得る織物を指す。ポストコンシューマ織物廃棄物は、次の要素の1つまたはいくつかを含み得る:シャツ、ジーンズ、スカート、ドレス、スーツ、カバーオール、パンツ、下着、セーター等の使用済み衣類;ベッドリネン、タオル、カーテン、クロス、テーブルクロス、シートカバー、張り生地等の使用済み家庭用織物;ワイプ、おむつ、フィルター等の不織製品。プレコンシューマ織物廃棄物とは、最終消費者のもとには到着せず、生産プロセスの過程で廃棄物として生じた織物材料を指す。これは、衣類、家庭用織物、不織布等の生産からのカット残りもしくは廃棄物、または糸、織物、もしくは再生セルロース繊維の生産からの廃棄物を含み得る。
【0023】
本発明の他の好ましい実施形態は、従属請求項2~11に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を第1の実施形態変形例(embodiment variant)に基づいて例示する。さらなる実施形態変形例は、本明細書に記述されている、任意の手法で互いに組み合わせることができる改変物(the modifications)から得られる。
【0025】
第1の実施形態変形例によれば、本発明に係る方法では、混合織物廃棄物からのリサイクルセルロース原料の抽出のために、アルカリパルプ化プロセスに由来する分解物含有廃液が処理および利用される。ここで、混合織物廃棄物は少なくともセルロース成分およびポリエステル成分を含み、どちらかは染料または架橋剤等でさらに汚染されている場合がある。アルカリパルプ化プロセスは、ポリエステル成分を加水分解してポリエステル分解物にし、それらを処理溶液に溶解させるために、水性アルカリ性処理溶液中の混合織物廃棄物のアルカリ蒸解(alkaline cooking)であることが好ましい。パルプ化プロセスでは、セルロース成分はごくわずかに溶出または分解するだけなので水性処理溶液から容易に分離することができ、こうして、リサイクルセルロース原料を得るためにポリエステル分解物からセルロース成分を分離することができる。次いで、残った使用済み処理溶液は分解物含有廃液として本方法に従って処理される。
【0026】
廃液は混合繊維廃棄物に対して行われるアルカリパルプ化プロセスからの分解物を含有するので、その組成は旧来のパルプ製造プロセス(例えば、硫酸塩パルプ化または亜硫酸塩パルプ化による)で生成される廃液と基本的に異なる。本方法の範囲内の化学パルプ化の主な目的はまた、精製したセルロース成分を得るために、ポリエステル(特にPET)および他のセルロース不含成分(non-cellulose-containing-components)、ならびに混合織物廃棄物から織物産業で使用される種々の染料および他の物質(可塑剤等)を溶出させることである。したがって、前述のように廃液は主にポリエステル分解物を含むが、リグニンおよび他の木材特有の(wood-specific)不純物、分解物、または構成成分を実質的に含まない。本明細書中で使用される場合、「実質的に」は本発明に係る方法において生じる全物質が典型的にはリグニンを全く含まないことを意味する。但し、ほんの僅かのリグニンが偶然意図せずして本発明に係る方法に入り込むことはある。
【0027】
第1の実施形態変形例によれば、アルカリパルプ化のための加水分解剤としてNaOHが用いられる。こうして、ポリエステル分解物は主にテレフタル酸二ナトリウム(CNa)およびモノエチレングリコール(C)を含む。1モルのPETおよび2モルのNaOHから、化学量論的には1モルのテレフタル酸二ナトリウムおよび1モルのモノエチレングリコールがポリエステル分解物として形成される。重量の観点からいえば、比は以下の通りである:1kgのPETの変換の場合、化学量論的には約0.42kgのNaOHが消費され、約1.1kgのテレフタル酸二ナトリウムおよび0.33kgのモノエチレングリコールが形成される。アルカリパルプ化プロセスでは化学量論比を超えるNaOHが通常使用されるので、蒸解廃液は対応する量の未消費の有効アルカリ/NaOHも含有する。廃液の重要な特性は、パルプ産業で一般に使用される回収方法による廃液処理を不可能にするポリエステル分解物であるテレフタル酸二ナトリウムおよびモノエチレングリコールの含有量である。また、本廃液は、パルプ化された木材ではなく混合織物廃棄物なので、従来のパルプ化からの蒸解廃液と比べると、リグニンおよびヘミセルロースを全く含まない。有機塩であるテレフタル酸二ナトリウムは、テレフタル酸二ナトリウムが固形分で約20質量%になると沈殿し始めるため(他の固形物の残存含有量にもよるが)プロセスに難題をもたらす。沈殿し始めるのは、廃液の蒸発中のテレフタル酸二ナトリウムの溶解性に起因するのだが、廃液は、必要に応じて焼却用廃液の発熱量を調節するために熱利用するのに必要である。
【0028】
別の実施形態変形例では、他の適切な加水分解剤をアルカリパルプ化に使用することもできるが、これについては本明細書中でさらに詳細に説明する必要はない。
【0029】
アルカリパルプ化プロセスからの廃液は、蒸解条件および原料の特性に応じて、3~10%の固形分を有する。廃液は最初に、のちの蒸発プロセスに悪影響を及ぼし得るかまたは妨害し得る残存繊維様成分の大部分を除去するために、パルプ産業で一般に使用されるスロット付きスクリーン(繊維フィルタ)を通過する。
【0030】
分解物を含む廃液を処理および利用する方法の第一のステップでは、廃液からポリエステル分解物を沈殿させ、水相とポリエステル分解物を含む固相とを有する二相混合物を得るために、廃液から水を蒸発させる。繊維残渣を除去済みの廃液は蒸発ユニットに供給される。一実施形態変形例では、このユニットは低圧蒸気で加熱された流下膜蒸発器(falling film evaporator)(例えば、薄膜蒸発器)であってもよい。他の適切なユニットおよび加熱手段を用いてもよい。ここで、廃液中に含まれる主成分の溶解性に注意を払わなければならない。それを考慮にいれた場合、テレフタル酸二ナトリウムは、固形分で約20%からポリエステル分解物として沈殿し始め、約30%への増加は比較的速く起こる。固形分が約30%になったら、蒸発ユニットに対する固相による悪影響(ケーキング、熱伝達の低下)を回避するために、蒸発プロセスを中断すべきである。これは、特にテレフタル酸二ナトリウム粒子がより大きな凝集物を形成する傾向が強いことによって助長されてしまう。
【0031】
本方法の別のステップでは、続いて固相が水相から分離される。このプロセスでは、20~30%の固形分まで蒸発させた廃液が機械式分離器に供給される。好ましくは、種々のタイプの遠心分離機およびデカンターをここで使用することができる。固形分および粒子特性は、大量の濾過剤(filtration agent)を用いてしか達成できないため、ケーキ形成濾過では非常に不利になる。この分離ユニットでは、固相の大部分が水相から分離され、後者は主に水、残留アルカリ、モノエチレングリコール、およびそれらの分解物からなる。上澄み液が固相から分離される。固相は、依然として残存する内在水分が完全に分離できないため、約60%の固形分を有する。しかしながら、焼却ボイラー中での固形物の焼却に十分な加熱または発熱量をここで達成することができる。これは、残留水分が、固相のみからの加熱または発熱量を更に増大させるモノエチレングリコールも含有するためであり、いずれにせよ可能な限り最大の固形物含有量を得ることが望ましい。
【0032】
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、廃液からの水の蒸発が2段階以上で、好ましくは2段階~10段階で、より好ましくは2段階~6段階で起こる。採用される段階の数が多ければ多いほど蒸発プロセスはよりエネルギー効率的になるが、必要な投資も大きくなる。とりわけ、蒸発は、最終濾液がもはやテレフタル酸二ナトリウム残渣を含まなくなるまで、必要なだけ多くの段階で起こるべきである。ここで、固相を分離し焼却ボイラー中で利用するために、機械式分離器(例えば、遠心分離機)が各段階の下流に設けられてもよい。或いは、蒸発段階自体が懸濁物の蒸発のために適切に設計されてもよい(例えば、薄膜蒸発器)。本発明の好ましい実施形態では、固相と液相とを分離するための機械式分離器が少なくとも1段階の下流に設けられる。しかし、固相と液相とを分離するための各機械式分離器がいくつかの段階の下流に設けられてもよい。
【0033】
一実施形態変形例では、こうして分離された固相がスクリュコンベアによって焼却ボイラー(この場合、スラグタップ燃焼を備える)に供給され、熱利用および/またはエネルギー利用のために焼却される。ここで、蒸気発生ユニット(自然循環型または強制循環型の蒸気ドラム)による焼却によって、蒸気を発生させることができる。この蒸気の少なくとも一部を高圧蒸気として発生させた場合、発電機を駆動する蒸気タービンに高圧蒸気または高圧蒸気の部分流(partial flow)を供給することによって発電に利用することもできる。
【0034】
スラグタップ燃焼(いわゆるソーダまたはパワーボイラー)を好ましくは含む燃焼ボイラーでは、ソーダ(NaCO)溶融物、およびソーダ(NaCO)で主に構成されるアッシュが形成される。焼却の際に生じる排ガスは、静電フィルターまたはバグフィルターを用いて脱塵され、場合によりさらなる処理(脱硫、脱窒)に供され、次いでスタックに送られる。分離されたダストは主にソーダからなり、続いて回収され、圧縮され、種々の産業部門に対して販売可能である。
【0035】
ボイラーから取り出されたソーダ溶融物は、溶融物溶解タンクに供給され、そこで冷却され、再び溶解される。続いて、こうして得られた溶解した炭酸ナトリウムを含む水流(aqueous flow)は、パルプ製造からの酸性廃水を中和するために使用されてもよく、或いは(有効アルカリの残留含有量が十分に多い場合は)NaOHの回収のために従来のクラフトプロセス化学回収ユニットに供給されてもよい。
【0036】
あるいは、別の実施形態変形例では、蒸解廃液中に存在する特定量(the quantity)のテレフタル酸二ナトリウムをさらに利用するために、適切な量の酸(例えば、モル基準で、存在するテレフタル酸二ナトリウムの量に対応する硫酸)が添加されてもよい。硫酸との反応は続いて、その溶解性ゆえに直ちに沈殿するテレフタル酸、および、溶液中に残存する硫酸ナトリウムを生成する。その後、テレフタル酸は焼却プロセスに供給されてもよく、濾液は一定の硫酸塩量の廃水処理プロセスに供給されなければならないか、または硫酸ナトリウムは蒸発または冷結晶化によって濾液から回収される。
【0037】
分離器からの水相の残留固形分に応じて、この水相は、一実施形態では廃水処理プロセスに直接供給されてもよく、または別の実施形態ではさらなる利用のために再び蒸発させてもよい。この場合、最初の蒸発ステップからの蒸気は、一度蒸気の圧縮が起こってから、蒸発に利用することができる。必要に応じて、新鮮な蒸気(低圧蒸気)が追加されなければならない。続いて、蒸発が行われた廃液は、(固形分に応じて)フィルターまたは分離器を使用することにより固相および液相に再び分離される。出発原料および分離効率によっては、濾液は、洗浄ステップのためにまたは酸性廃水の中和のためにパルププロセスに戻されてもよく、或いは廃水処理プラントに供給されてもよい。再び得られた固形物は焼却ボイラーに供給される。
【0038】
例:
ポストコンシューマ廃棄織物(綿とポリエステルの混合物、80~20重量%)をソーダライ(廃棄織物の質量を基準にして15重量%のNaOH)を用いて1:7の廃液比(廃棄織物の質量:ライ)で蒸解した。温度は150℃で蒸解時間は120分間であった。これらの条件下で起こったポリエステル繊維の解重合により、生成したこれらの条件下で水溶性のテレフタル酸二ナトリウムが蒸解液中に入っていき(got into)、最終的にスクリーンによって残りの固形物質(綿繊維)から分離された。
【0039】
廃棄織物の蒸解は、約10%の乾燥物含有量および沸点のすぐ下の温度(約95℃)を有する約1.75t/hの廃液量を生ずる。蒸発および濾過の連続多段配置構成(successive multi-stage arrangement)において、この廃液は65%の乾燥物含有量まで濃縮され、該廃液は7,300kJ/kgの発熱量を有する。蒸発後の物質流量(mass flow)は0.27t/hである。これは3つの連続的に配置された蒸発段階で起こり、蒸気の再利用は当面の間行われることなく、各段階に新鮮な蒸気が供給される。蒸発全体では、115℃の温度水準および1.677baraで約1.52t/hの蒸気が必要とされ、これは約1.47t/h(4.9bara、155℃)の低圧蒸気の量に相当する。各蒸発に続いて、固形物が濾過ユニットにより分離され、最終的に濾液と再度混合されて、加熱面でのケーキングおよび輸送の問題を防ぐ。ここで、凝縮物の総量は1.48t/hである。これは、約3.4GJ/hrの熱出力に相当する。次いで、濃縮された廃液流は液焼却ボイラー(自然循環)に供給される。アッシュ溶融温度超の焼却チャンバ温度(約870℃)で、約330kg/hrの新鮮な水の供給を受け完全焼却を行ったと仮定した場合、そこから以下のプロセスストリームが発生し得る:
【0040】
-排ガス:130℃の温度および1.00baraの圧力で約1000Nm/hr、以下の組成を有する:
・CO:12.3 vol%
・N :66.18 vol%
・O :1.27 vol%
・HO:20.24 vol%
・SO:0.0033vol%
-アッシュ:約8.5kg/hr、210℃のアッシュ温度、99.1%の炭酸ナトリウム(残部:硫酸ナトリウム)を含む組成を有する
-溶融物:約77kg/hr、850℃の温度、次の組成のもの(NaCO:96.45wt%、NaSO:0.18wt%、NaS:0.9wt%、残部:炭素及び不活性物質)
-高圧蒸気(500℃、50bar)の形態のエネルギー:約300kg/hr
-焼却に必要とされる追加の空気:約900m/hr(余剰空気の9%に制御)
-ボイラーブローダウン(boiler blowdown):約6.5kg/hr
【国際調査報告】