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特表2023-505592アノード用多官能ポリマーバインダーおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-09
(54)【発明の名称】アノード用多官能ポリマーバインダーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20230202BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20230202BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230202BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230202BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20230202BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20230202BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M4/1393
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535732
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(85)【翻訳文提出日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 AU2020051357
(87)【国際公開番号】W WO2021113920
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】2019904719
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522222593
【氏名又は名称】シコナ・バッテリー・テクノロジーズ・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Sicona Battery Technologies Pty Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】グオ,ザイピン
(72)【発明者】
【氏名】マオ,ジャンフォン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ジンシン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA04
5H050DA09
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA26
5H050EA28
5H050FA16
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
(57)【要約】
リチウムイオン電池用アノードの製造方法であって、シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを混合してスラリーを生成する工程、金属部材上に前記スラリーをコーティングする工程、および前記コーティングされたスラリーを有する金属部材乾燥させて前記アノードを形成する工程、を含む方法が開示されている。アノードおよびリチウムイオン電池も開示されている。1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを含む多官能ポリマーバインダーも開示されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用アノードの製造方法であって、
シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを混合してスラリーを生成する工程、
金属部材上に前記スラリーをコーティングする工程、および
前記コーティングされたスラリーを有する金属部材乾燥させて前記アノードを形成する工程、を含む方法。
【請求項2】
前記シリコン/グラファイト/カーボン材料がSi@C/グラファイト/カーボン材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属部材が金属箔、ストリップまたはグリッドである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが最初に共に混合され、
前記1つまたは複数の線状ポリマーが、約15重量%以上約70重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが、約1重量%以上約30重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが、約5重量%以上約20重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数のゴムポリマーが、約10重量%以上約40重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総重量パーセンテージは100重量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酸をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸が有機酸である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、前記1つまたは複数のゴムポリマーおよび前記酸が最初に約30~50:10:5~10:30:40:5~15の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー:酸)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、1つまたは複数のゴムポリマーおよび酸の総質量比は100である、請求項4~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、前記1つまたは複数のゴムポリマーおよび酸が最初に約40:10:10:30:10または45:5:10:35:10の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー:酸)で共に混合される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つまたは複数の線状ポリマーが、ヒドロキシル基、アミン基またはカルボキシル基の線状ポリマーから選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが、イミノ基またはスルホン酸基の導電性ポリマーから選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが、尿素基の自己修復性ポリマーから選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1つまたは複数の線状ポリマーが、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、2-ペンテン酸、2-メタクリル酸、キトサン(CS)から成る群から選択される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが、ポリアニリン(PANI)、ポリ[9,9-ビス(3-プロパノエート)フッ素]ナトリウム(PFCOONa)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-co-メタクリル酸)(PPyMAA)、ポリピロール(PPY)および3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレン-4-スルホネート(PEDOT:PSS)から成る群から選択される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが、尿素-ピリミジノン(UPy)、尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)、ドーパミンメタクリルアミド(DMA)およびドーパミン(DA)から成る群から選択される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記1つまたは複数のゴムポリマーが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ネオプレン、ニトリルゴム、ブチルシリコーンゴムおよびポリサルファイドゴムから成る群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、官能化グラフェンプレートレット、ナノカーボンファイバー、およびそれらの混合物から成る群から選択される導電剤が前記スラリーに混合される工程をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記シリコン/グラファイト/カーボン材料、導電剤、および前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび1つまたは複数のゴムポリマーの混合組み合わせが、約80以上96以下:1以上10以下:3以上10以以下の質量比(シリコン/グラファイト/カーボン材料:導電剤:ポリマーの混合組み合わせ)で混合される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記シリコン/グラファイト/炭素材料、および前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび前記1つまたは複数のゴムポリマーの混合組み合わせが、約80~99:1~20の質量比(シリコン/グラファイト/カーボン材料:ポリマーの混合組み合わせ)で共に混合される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記1つまたは複数の線状ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)およびそれらの組み合わせであり、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーがポリピロール(PPY)、PEDOT:PSSおよびそれらの組み合わせであり、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーがドーパミン(DA)、尿素-オリゴアミドアミン(UOAA)およびそれらの組み合わせであり、および
前記1つまたは複数のゴムポリマーがスチレンブタジエンゴム(SBR)である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
1つまたは複数の線状ポリマー、
1つまたは複数の導電性ポリマー、
1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および
1つまたは複数のゴムポリマー
を含む多官能ポリマーバインダー。
【請求項21】
前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15重量%以上約70重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1重量%以上約30重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5重量%以上約20重量%以下の重量パーセンテージを有し、および
前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10重量%以上約40重量%以下の重量パーセンテージを有し、前記バインダーの総重量パーセンテージは100重量%である、請求項20に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項22】
前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが約15~70:1~30:5~20:10~40の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび1つまたは複数のゴムポリマーの総質量比は100である、請求項20に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項23】
前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが約20~50:1~20:5~20の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび1つまたは複数のゴムポリマーの総質量比は100である、請求項20に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項24】
前記1つまたは複数の線状ポリマーが、ヒドロキシル基、アミン基またはカルボキシル基の線状ポリマーから選択される、請求項20~23のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項25】
前記1つまたは複数の導電性ポリマーがイミノ基またはスルホン酸基の導電性ポリマーから選択される、請求項20~24のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項26】
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素基の自己修復性ポリマーから選択される、請求項20~25のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項27】
前記1つまたは複数の線状ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、2-ペンテン酸、2-メタクリル酸およびキトサン(CS)並びにそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項20~26のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項28】
前記1つまたは複数の導電性ポリマーがポリアニリン(PANI)、ポリ[9,9-ビス(3-プロパノエート)フッ素]ナトリウム(PFCOONa)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-co-メタクリル酸)(PPyMAA)、ポリピロール(PPY)および3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレン-4-スルホネート(PEDOT:PSS)並びにそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項20~27のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項29】
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素-ピリミジノン(UPy)、尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)、ドーパミンメタクリルアミド(DMA)およびドーパミン(DA)並びにそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項20~28のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項30】
前記1つまたは複数のゴムポリマーがスチレンブタジエンゴム(SBR)、ネオプレン、ニトリルゴム、ブチルシリコーンゴムおよびポリサルファイドゴム並びにそれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項20~29のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項31】
酸をさらに含む、請求項20~30のいずれか一項に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項32】
前記酸が有機酸である、請求項31に記載の多官能ポリマーバインダー。
【請求項33】
1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを共に混合することを含む、多官能ポリマーバインダーの製造方法。
【請求項34】
シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および要すれば導電剤の混合物を含むエマルション(パート1)、および
1つまたは複数のゴムポリマーを含むエマルション(パート2)
を含むキット。
【請求項35】
前記エマルション(パート1)がさらに酸を含む、請求項34に記載のキット。
【請求項36】
前記酸が有機酸である、請求項35に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、電気化学セル、特に電池に関する。特定の例では、本発明は、電池、例えばリチウムイオン電池、すなわちリチウムイオン電池で用いる電極、ならびに電極および電池の製造方法に関する。より具体的には、実施形態例は、アノードおよびリチウムイオン電池の製造方法、および/またはアノードおよびリチウムイオン電池で用いる成分または材料の調製方法に関する。さらに、多官能ポリマーバインダーが開示されている。
【背景技術】
【0002】
この出願は、2019年12月13日に出願されたオーストラリア仮特許出願第2019904719号から優先権を主張しており、その内容は組み込まれていると理解すべきである。
【0003】
明細書全体にわたる先行技術の考察は、こうした先行技術が広く知られている、またはその分野における一般的な知識の一部を形成していることを認めるものと決して見なされるべきではない。
【0004】
リチウムイオンベースの電池セルは、比較的高いエネルギーと長いサイクル寿命を提供する能力があることも手伝って、様々な適用にとって魅力的なエネルギー源である。リチウムイオン電池(LIB)の性能特性、例えば総エネルギー容量は、LIBで使用されるアノードとカソードのタイプによって決まる。リチウムイオン電池で用いるアノード材料の分野では、理論容量が最大4200mAh/gであり、シリコンは、例えばグラファイトに代わる次世代LIBの有望なアノード材料と見なされてきた。しかし、シリコンは一般に、リチウム化および脱リチウム化プロセス中に大きな体積変化(300%程度)を伴い、活物質の亀裂および粉砕を引き起こし、続いてアノードが崩壊し、容量が急速に低下する。
【0005】
ナノ構造シリコン(ナノシリコン)に関わるいくつかの手法は、シリコンの体積膨張をある程度軽減することができるが、それでもなおナノシリコンに関わる既知の合成プロセスは、比較的複雑で、高価であり、工業化するのが難しい。
【0006】
LIB、特に高エネルギーLIBのシリコンベースのアノードの性能を向上させるために、対処すべき重要な問題としては、(a)導電性マトリックス中のシリコン粒子の均一な分布、(b)シリコン二次粒子を大量生産して、高い初期クーロン効率で高い重量エネルギー密度と高い体積エネルギー密度の両方を達成する能力、および(c)アノードの優れた機械的特性を挙げることができる。
【0007】
Amprius Nanjing Company Limitedに対する中国特許出願公開第CN108807861号明細書は、リチウムイオン電池用アノードの製造方法であって、ナノシリコン、1つまたは複数の炭素質材料(段落[0028])および1つまたは複数の溶媒の混合物を粉砕する工程であって、前記混合物が粉砕中湿式スラリーとして保持される工程、前記混合物を炭化温度で炭化して、炭素(Si@C)材料でコーティングされたシリコンを生成する工程、前記Si@C材料、1つまたは複数の第2炭素質材料、および1つまたは複数の第2溶媒の第2混合物を粉砕する工程であって、前記第2混合物が粉砕中第2湿式スラリーとして保持される工程、前記第2混合物を第2炭化温度で炭化して、Si@C/カーボン材料を生成する工程、および前記Si@Cカーボン材料から前記アノードを形成する工程を含む、方法を開示している。CN’861はシリコンを「ナノシリコン」と述べているが、使用されるシリコンは3~4μmのオーダーである。
【0008】
より具体的には、CN’861の図1は、CN’861に記載されたプロセスから得られた不規則な形状の二次粒子から形成されたシリコンカーボン複合材料を示している。図1は、連続したアモルファスカーボン保護層に囲まれた粒子を示しており、その内部には、シリコン材料で構成された複数の二次粒子がある。粒子には、混合物全体に均一に分散したカーボンナノチューブなどの導電性添加剤も含まれている。シリコン材料と導電性フィラーはそれぞれアモルファスカーボンフィラーに囲まれており、アモルファスカーボンフィラーは連続アモルファスカーボン保護層に囲まれている。
【0009】
Zhouら(「リチウムイオン電池用アノード材料として複数の炭素相を有するコア-シェル構造のSi/C複合材料の調製と特性評価」、2016年、J. Alloys and Compounds、vol. 658、pp.91-97)は、リチウムイオン電池用アノード材料として変性球状グラファイト/シリコン/フレークグラファイト/無秩序カーボンを含むアノードを開示している。活物質は、ナノシリコン、フレークグラファイト、およびクエン酸を混合し、炭化してSi@CFGを得、コールタールピッチの層を含む変性球状グラファイト(すなわち、グラファイトおよび第2炭素質材料)を添加し、第2の炭化工程を行うことによって調製され、これにより、Si@CFG/球状グラファイト/カーボン材料を製造する。Zhouらは、とりわけ第2混合工程が粉砕を含むことを教示していない。結果として、アノードの構成と完全性が比較的粗い。Zhouらはさらに、炭素で直接コーティングされていないシリコン粒子を教示しており、これはシリコン粒子が膨張や副反応の影響を受けやすく、導電率が低下する。
【0010】
EomおよびCao(「自動車用リチウムイオン電池の低温性能に対するアノードバインダーの影響」、Journal of Power Sources、vol.441、2019年11月30日、p.227178)は、アノードにおけるスチレン-ブタジエンゴム(SBR)/カルボキシメチルセルロース(CMC)のナトリウム塩およびポリ(フッ化ビニリデン)(PVdF)バインダーの自動車用リチウムイオン電池の低温性能とサイクル性能に対する影響を調査している。出願人は、他の成分(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、CPおよびSHP)と組み合わせてPVdFを使用することはサイクル時間を増加させるための次の論理的ステップであることを当業者がこの文書の教示から理解するであろうと考える。当業者は、サイクル時間を増加させるためにスチレン-ブタジエンゴム(SBR)を使用することを予期しないであろう。
【0011】
WuおよびLi(「Siアノードにおける水性バインダーの分布均一性とセル性能に対する分布の影響」、ACS Sustainable Chem. Eng., 2020年4月8、17、13日、pp.6868-6876は、乾燥シリコンアノード内のバインダー、CMC、およびSBRとCMCの複合材料、の濃度分布、並びに構築されたセルの電気化学的特性に対するそれらの分布の影響について報告している。シリコン電極をCMCの単一バインダーで調製すると、バインダーは電極シートの乾燥/厚さ方向に均一に分布する。しかしながら、CMCをSBRと複合すると、バインダーの分布が均一ではなくなる。これは、含まれているSBRが乾燥プロセス中に溶媒とともに移行し、最終的に電極の上面に蓄積する傾向があるためである。SBRの分布が不均一であると、集電体への電極シートの接着強度が弱くなり、それによって、製造されたアノードのインピーダンスを増加させ、構築されたリチウムイオンセルの容量、レート能力、およびサイクル寿命を低下させる。出願人は、当業者が混合相または異種構造を見つけようとしないであろうと推論する。むしろ、当業者は、組成物全体に比較的均一に分布する混和性または相溶性のポリマーを使用しようとするであろう。この引用は、SBRを使用すると、構造全体でSBRが一体的に形成されず、他の成分と相互作用しない二層構造になることを明確に教示している。従って、当業者は、SBRを使用することは組成物においていかなる利点も提供しないであろうことを理解するであろう。
【0012】
本発明の目的は、以前の欠点の少なくとも1つを克服または改善すること、または有用な代替手段を提供することである。
【0013】
本発明の特に好ましい形態の目的は、新しいまたは改善されたアノードおよび/またはリチウムイオン電池の製造方法、および/またはアノードおよび/またはリチウムイオンで使用するための成分または材料の調製方法を提供することである。
【0014】
本発明の別の特に好ましい形態の目的は、例えば、アノードの性能を改善するためにアノードの一部として使用できる、新規な、または改善された多官能ポリマーバインダーを提供することである。
【0015】
文脈が明らかに別段の定めをしない限り、説明および特許請求の範囲全体を通して、「含む」、「含む」などの単語は、排他的または網羅的な意味ではなく、包括的な意味で解釈されるべきである。つまり、「含むがこれに限定されない」という意味で。
【0016】
本発明は特定の例を参照して説明されるが、本発明が他の多くの形態で具体化され得ることが当業者によって理解されるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】中国特許出願公開第108807861号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Zhouら(「リチウムイオン電池用アノード材料として複数の炭素相を有するコア-シェル構造のSi/C複合材料の調製と特性評価」、2016年、J. Alloys and Compounds、vol. 658、pp.91-97)
【非特許文献2】EomおよびCao「自動車用リチウムイオン電池の低温性能に対するアノードバインダーの影響」、Journal of Power Sources、vol.441、2019年11月30日、p.227178
【非特許文献3】WuおよびLi「Siアノードにおける水性バインダーの分布均一性とセル性能に対する分布の影響」、ACS Sustainable Chem. Eng., 2020年4月8、17、13日、pp.6868-6876
【発明の概要】
【0019】
この要約は、以下でさらに説明する簡略化された形式で概念の選択を紹介するために提供される。この要約は、主張された主題の主要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図しておらず、主張された主題の範囲を制限するために使用されることも意図されていない。
【0020】
本発明の第1の態様によれば、
リチウムイオン電池用アノードの製造方法であって、
シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを混合してスラリーを生成する工程、
金属部材上に前記スラリーをコーティングする工程、および
前記コーティングされたスラリーを有する金属部材乾燥させて前記アノードを形成する工程、を含む方法が提供される。
【0021】
一実施形態では、リチウムイオン電池用アノードの製造方法が、
シリコン/グラファイト/カーボン材料を、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを含む多官能ポリマーバインダーと混合してスラリーを生成する工程、
金属部材上に前記スラリーをコーティングする工程、および
前記コーティングされたスラリーを有する金属部材を乾燥させて前記アノードを形成する工程を含む。
【0022】
一実施形態では、前記シリコン/グラファイト/カーボン材料がSi@C/グラファイト/カーボン材料である。
【0023】
一実施形態では、前記金属部材が金属箔、ストリップ、またはグリッドである。
【0024】
一実施形態では、前記金属部材は銅箔である。
【0025】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが、最初に共に混合され、
前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15重量%以上約70重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1重量%以上約30重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5重量%以上約20重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10重量%以上約40重量%以下の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総重量パーセンテージは100重量%である。
【0026】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが、最初に共に混合され、
前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%または70重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%または30重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%または20重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10重量%、15重量%、20重量%、30重量%、35重量%、または40重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総重量パーセンテージは100重量%である。
【0027】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが、最初に共に混合され、
前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69または70重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39または40重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総重量パーセンテージは100重量%である。
【0028】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが最初に約15~70:1~30:5~20:10~40の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総質量比は100である。
【0029】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが最初に約20~50:1~20:5~20:10~30、30~50:5~15:5~15:15~30、30~40:5~10:5~10:20~30、40~70:10~20:10~20:10~20、30~40:10:10:30、40~50:10~15:10~15:30~40または40~45:10~15:10~15:30~35の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総質量比は100である。
【0030】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが最初に、約40:10:10:10:30の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合される。一実施形態では、導電性ポリマーの代わりにクエン酸が使用される。一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、クエン酸、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが最初に約40:10:10:10:30質量比(線状ポリマー:クエン酸:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合される。
【0031】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーがヒドロキシル基、アミン基、またはカルボキシル基の線状ポリマーから選択される。
【0032】
一実施形態では、前記1つまたは複数の導電性ポリマーがミノ基またはスルホン酸基の導電性ポリマーから選択される。
【0033】
一実施形態では、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素基の自己修復性ポリマーから選択される。
【0034】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、2-ペンテン酸、2-メタクリル酸およびキトサン(CS)から成る群から選択される。
【0035】
一実施形態では、前記1つまたは複数の導電性ポリマーがポリアニリン(PANI)、ポリ[9,9-ビス(3-プロパノエート)フッ素]ナトリウム(PFCOONa)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-co-メタクリル酸)(PPyMAA)、ポリピロール(PPY)および3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレン-4-スルホネート(PEDOT:PSS)から成る群から選択される。
【0036】
クエン酸は、ポリマー要素の架橋を駆動する。この架橋は、バインダーが活物質および導電性材料と完全に混合され、集電体にコーティングされてから乾燥した後に生じる。スラリーの加熱によってバインダー要素の架橋を引き起こし、それによって3D構造を作成し、SBRが電極の表面に移行できないようにする。
【0037】
一実施形態では、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素-ピリミジノン(UPy)、尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)、ドーパミンメタクリルアミド(DMA)およびドーパミン(DA)から成る群から選択される。
【0038】
一実施形態では、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)である。
【0039】
一実施形態では、前記1つまたは複数のゴムポリマーがスチレンブタジエンゴム(SBR)、ネオプレン、ニトリルゴム、ブチルシリコーンゴムおよびポリサルファイドゴムから成る群から選択される。
【0040】
一実施形態では、この方法は前記スラリーに混合される導電剤をさらに含む。
【0041】
一実施形態では、前記導電剤がカーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、官能化グラフェンプレートレット、ナノカーボンファイバー、およびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0042】
一実施形態では、前記シリコン/グラファイト/カーボン材料、前記導電剤、および前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび前記1つまたは複数のゴムポリマーの混合組み合わせが、約80以上96以下:1以上10以下:3以上10以下の質量比(シリコン/グラファイト/カーボン材料:導電剤:ポリマーの混合組み合わせ)で共に混合される。
【0043】
一実施形態では、前記シリコン/グラファイト/カーボン材料、前記導電剤、および前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび前記1つまたは複数のゴムポリマーの混合組み合わせが、約80:10:10、約85:10:5、約85:9:6、約85:8:7、約85:7:8、約85:6:9、約85:5:10、約90:7:3、約90:6:4、約90:5:5、約90:4: 6、約90:3:7、約90:2:8、約90:1:9、約95:2:3、約95:1:4または約96:1:3の質量比(シリコン/グラファイト/カーボン材料:導電剤:ポリマーの混合組み合わせ)で共に混合される。
【0044】
一実施形態では、本発明のバインダーが提供する導電性の増加を考慮すると、添加される導電性炭素が0重量%であり得、その場合、比率は96%の活物質:4%のバインダー材料、97:3、98:2、または99:1であり得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記多官能ポリマーバインダーは、導電剤を必要としないように十分に導電性である。これらの実施形態では、前記シリコン/グラファイト/カーボン材料、および前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび前記1つまたは複数のゴムポリマーの混合組み合わせを、約80~99:1~20、85~99:1~15、90~99:1~10、95~99:1~5、96:4、97:3、98:2または99:1の質量比(シリコン/グラファイト/カーボン材料:ポリマーの混合組み合わせ)で共に混合する。
【0046】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)ある、前記1つまたは複数の導電性ポリマーがポリピロール(PPY)である、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーがドーパミン(DA)である、および前記1つまたは複数のゴムポリマーがスチレンブタジエンゴム(SBR)である。
【0047】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)である、および/または前記1つまたは複数の導電性ポリマーがポリピロール(PPY)である、および/または前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーがドーパミン(DA)である、および/または前記1つまたは複数のゴムポリマーがスチレンブタジエンゴム(SBR)である。
【0048】
本発明の第2の態様によれば、
1つまたは複数の線状ポリマー
1つまたは複数の導電性ポリマー
1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および
1つまたは複数のゴムポリマー
を含む多官能ポリマーバインダーが提供される。
【0049】
特に好ましい実施形態では、前記多官能ポリマーバインダーは、30%CMC、10%PAA、10%クエン酸、10%PEDOT-PSS、10%SHPおよび30%SBRを含む。
【0050】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15重量%以上約70重量%以下の重量パーセンテージを有し、前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1重量%以上約30重量%以下の重量パーセンテージを有し、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5重量%以上約20重量%以下の重量パーセンテージを有し、前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10重量%以上約40重量%以下の重量パーセンテージを有し、前記バインダーの総重量パーセンテージは100重量%である。
【0051】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%または70重量%の重量パーセンテージを有し、前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%または30重量%の重量パーセンテージを有し、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%または20重量%の重量パーセンテージを有し、前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10重量%、15重量%、20重量%、30重量%、35重量%、または40重量%の重量パーセンテージを有し、前記バインダーの総重量パーセンテージは100重量%である。
【0052】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーが約15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69または70重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の導電性ポリマーが約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが約5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20重量%の重量パーセンテージを有し、
前記1つまたは複数のゴムポリマーが約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39または40重量%の重量パーセンテージを有し、
前記バインダーの総重量パーセンテージは100重量%である。
【0053】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが約15~70:1~30:5~20:10~40の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび1つまたは複数のゴムポリマーの総質量比は100である。
【0054】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーが約20~50:1~20:5~20:10~30、30~50:5~15:5~15:15~30、30~40:5~10:5~10:20~30、40~70:10~20:10~20:10~20、30~40:10:10:30、40~50:10~15:10~15:30~40または40~45:10~15:10~15:30~35の質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で共に混合され、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの総質量比は100である。
【0055】
一実施形態では、前記多官能ポリマーバインダーがさらに酸を含む。適当な酸は、有機酸、無機酸、スルホン酸、カルボン酸、ハロゲン化カルボン酸、ビニル性カルボン酸およびそれらの組み合わせから成る群から選択できる。適当な酸は、フッ化水素酸(HF)、塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、次亜塩素酸(HClO)、亜塩素酸(HClO2)、塩素酸(HClO3)、過塩素酸(HClO4)、および対応する臭素およびヨウ素化合物、硫酸(H2SO4)、フルオロ硫酸(HSO3F)、硝酸(HNO3)、リン酸(H3PO4)、フルオロアンチモン酸(HSbF6)、フルオロホウ酸(HBF4)、ヘキサフルオロリン酸(HPF6)、クロム酸(H2CrO4)、ホウ酸(H3BO3)、メタンスルホン酸(CH3SO3H)、エタンスルホン酸(CH3CH2SO3H)、ベンゼンスルホン酸(C6H5SO3H)、p-トルエンスルホン酸(CH3C6H4SO3H)、トリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)、ポリスチレンスルホン酸、酢酸(CH3COOH)、クエン酸(C6H8O7)、ギ酸(HCOOH)、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、フルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、アスコルビン酸およびそれらの組み合わせから成る群から選択できる。
【0056】
好ましい実施形態では、前記酸は有機酸である。いくつかの実施形態において、有機酸は、乳酸、酢酸、グルコン酸、ギ酸、クエン酸、シュウ酸、尿酸、リンゴ酸、酒石酸およびそれらの組み合わせから成る群から選択される。好ましい実施形態では、有機酸はクエン酸である。
【0057】
クエン酸は、25℃で約2.92、4.28、および5.21のpKa値を有する三塩基酸である。当業者によって理解されるように、クエン酸のpKa値のいずれか1つのpKa付近のpKaを有する任意の酸は、本発明での使用に適し得る。
【0058】
一実施形態では、酸は、約1~30重量%、1~25重量%、3~20重量%、5~15重量%、好ましくは10重量%の量で本発明の多官能ポリマーバインダーに添加される。この実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、1つまたは複数のゴムポリマーおよび酸の総重量パーセンテージは100重量%である。他の実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、1つまたは複数のゴムポリマーおよび酸の総質量比は100である。有利には、酸、好ましくはクエン酸などの有機酸を添加することで、いくつかの実施形態において、前記1つまたは複数の線状ポリマー、前記1つまたは複数の導電性ポリマー、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および前記1つまたは複数のゴムポリマーの架橋を引き起こすことによって前記スラリーが加熱される場合、製造されたアノードのシリコン/グラファイト/カーボン材料全体にわたる本発明のバインダーの分布を改善し、ゴムポリマーの電極表面への移行を防止または改善し、それによって、より均一な三次元構造を提供する。
【0059】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーがヒドロキシル基、アミン基、またはカルボキシル基の線状ポリマーから選択される。
【0060】
一実施形態では、前記1つまたは複数の導電性ポリマーがイミノ基またはスルホン酸基の導電性ポリマーから選択される。
【0061】
一実施形態では、前記自己修復性ポリマーが尿素基の自己修復性ポリマーから選択される。
【0062】
一実施形態では、前記1つまたは複数の線状ポリマーがカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、2-ペンテン酸、2-メタクリル酸およびキトサン(CS)から成る群から選択される。
【0063】
一実施形態では、前記1つまたは複数の導電性ポリマーがポリアニリン(PANI)、ポリ[9,9-ビス(3-プロパノエート)フッ素]ナトリウム(PFCOONa)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-co-メタクリル酸)(PPyMAA)、ポリピロール(PPY)および3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレン-4-スルホネート(PEDOT:PSS)から成る群から選択される。
【0064】
一実施形態では、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素-ピリミジノン(UPy)、尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)、ドーパミンメタクリルアミド(DMA)尾よびドーパミン(DA)から成る群から選択される。一実施形態では、前記1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)である。
【0065】
一実施形態では、前記1つまたは複数のゴムポリマーがスチレンブタジエンゴム(SBR)、ネオプレン、ニトリルゴム、ブチルシリコーンゴムおよびポリサルファイドゴムから成る群から選択される。
【0066】
本発明の第3の態様によれば、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを共に混合することを含む、多官能ポリマーバインダーの製造方法が提供される。
【0067】
本発明の第4の態様によれば、リチウムイオン電池用アノードの製造方法であって、シリコン/グラファイト/カーボン材料と多官能ポリマーバインダー(例えば、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマー)を混合してスラリーを生成する工程、金属部材上に前記スラリーをコーティングする工程、および前記コーティングされたスラリーを有する金属部材を乾燥させて前記アノードを形成する工程、を含む方法が提供される。
【0068】
本発明の第5の態様によれば、本明細書に開示されている方法のいずれかによって製造される、リチウムイオン電池用アノードが提供される。別の態様において、Si@C/グラファイト/カーボン材料を含むリチウムイオン電池用アノードが提供される。
【0069】
本発明の第6の態様によれば、明細書に開示されている方法のいずれかによって製造されたアノード、カソード、前記アノードと前記カソードの間に配置された電解質および/またはセパレーターを含むリチウムイオン電池が提供される。
【0070】
別の例では、前記アノードを製造する際に、前記Si@C/グラファイト/カーボン材料を1つまたは複数のポリマーバインダーと混合する。別の例では、前記アノードが、前記Si@C/グラファイト/カーボン材料および前記1つまたは複数のポリマーバインダーを混合してスラリーを生成し、金属部材上に前記スラリーをコーティングし、前記コーティングされたスラリーを有する金属部材を乾燥させて前記アノードを形成することによって形成される。
【0071】
本発明の第7の態様によれば、シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および要すれば導電剤の混合物を含むエマルション(パート1)、並びに1つまたは複数のゴムポリマーを含むエマルション(パート2)を含むキットが提供される。
【0072】
いくつかの実施形態では、エマルション(パート1)がさらに酸、好ましくはクエン酸などの有機酸を含む。さらなる実施形態では、前記エマルション(パート1)がカルボキシメチルセルロース(CMC)およびポリアクリル酸(PAA)から選択される1つまたは複数の線状ポリマー、尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)、ドーパミン(DA)およびそれらの組み合わせから選択される1つまたは複数の自己誘導ポリマー、PEDOT:PSSから選択される1つまたは複数の導電性ポリマー、およびクエン酸を含む。特定の実施形態では、前記エマルション(パート2)がスチレンブタジエンゴム(SBR)から選択される1つまたは複数のゴムポリマーを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、前記エマルション(パート1)および前記エマルション(パート2)がそれぞれ独立して水性エマルションまたは非水性エマルションである。特定の実施形態では、前記エマルション(パート1)および前記エマルション(パート2)がそれぞれ適当な溶媒中に独立して分散している。いくつかの実施形態では、前記溶媒がエチレングリコール(EG)、1-ペンタノール、プロピレングリコール、ポリアクリル酸、トルエン、キシレン、キノリン、ピリジンおよびテトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、ジオキサン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、酢酸エチル、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、またはそれらの混合物または同様のもののうちの1つまたは複数であり得る。いくつかの実施形態において、水、極性溶媒、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される前記溶媒。特定の実施形態において、前記極性溶媒が酢酸、n-ブタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、エタノール、メタノール、アセトン、ギ酸、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチルおよびそれらの組み合わせから成る群から選択される。
【0074】
好ましい実施形態では、前記エマルション(パート1)が水性エマルションであり、前記エマルション(パート2)が非水性エマルションである。
【0075】
他の態様、特徴、および利点は、本開示の一部であり、例として様々な実施形態の原理を説明する添付の図面と併せて解釈される場合、以下の説明セクションから明らかになるであろう。
【0076】
次に、本発明の好ましい実施形態が説明され、これは、添付の図に関連して説明される、少なくとも1つの非限定的な実施形態の例としてのみ与えられる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
図1】本発明の得られたSi@C/G/C構造の一実施形態の例示的な描写である。
図2】本明細書に開示される方法例の1つに従って製造されたアノードを含むリチウムイオン電池例、すなわちリチウムイオンセルを示している。
図3図3(a)はアノード例(Si@C/G/C-1とラベルを付けた)のサイクル性能を示し、図3(b)電極例(Si/G-1とラベルを付けた)と比較している。どちらも標準的な工業用CMC/SBRバインダーを使用している。Si@C/G/C-1アノードは、400サイクルにわたって522.17mAh/gの平均可逆放電容量(つまり、比容量)をもたらした。初期CEは80.56%、CEは25サイクル後99.0%を超え、容量の72.6%が400サイクル後保持されている。Si/C/G-1アノードは、400サイクルにわたって510.17mAh/gの平均放電容量をもたらし、容量の保持は70.67%であった。この結果は、(例えば、実施例1で使用されるような)ダブルカーボンコーティングがアノードの電気化学的性能に有益であることを証明した。
図4図4は、多官能ポリマーバインダーの製造方法例のフロー図を示している。
図5図5は、リチウムイオン電池用アノードの製造方法例のフロー図を示している。工程1010は、シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを混合して、スラリーを生成することを含む。
図6図6は、バインダーを有するリチウムイオン電池用アノードの製造方法例のフロー図を示している。
図7(a)】図7(a)は、Si@C/G/C-5アノードとラベルを付けたアノード例(実施例2)のサイクル性能を示している。Si@C/G/C-5アノードは、250サイクルにわたって約525.7mAh/gの平均可逆放電容量をもたらした。CEは13サイクルで99.0%を超え、100サイクル後95.35%の容量を維持でき、250サイクル後89.2%の容量を維持していたため、標準的なCMC:SBRバインダーを用いたSi@C/G/C-1アノード(実施例1)に比べて電気化学的性能が向上している。
図7(b)】図7(b)は400サイクルにわたるSi@C/G/C-5アノードとラベルを付けたLSCRバインダーを有するアノード例(実施例2)のサイクル性能を示している。400サイクル後も容量の82.8%が保持されており、これは、400サイクルにわたってLSCRバインダーを有するSi@C/G/C-1アノード(実施例1)と比較して電気化学的性能が向上している。
図8図8は0.3C(200mA/g)での様々なバインダーを有するSi@C/G/C-5.1のサイクル性能を示しており、Si@C/G/C-5.1アノードは、複合材料に新しいグラファイト(天然グラファイト)を使用したことを除いて、Si@C/G/C-1(実施例1)と同じ方法で調製した。LSCRバインダー(#1)を有するSi@C/G/C-5.1は、100サイクルにわたって88.0%の容量を維持できる。これは、LSC(SBRなし)バインダー(#2)を有するSi@C/G/C-5.1の72.8%、CMC+SBRバインダー(#3)を有するSi@C/G/C-5.1の68.4%、およびCMCバインダー(#4)を有するSi@C/G/C-5.1の63.4%より高い。この結果は、この革新的なバインダーがSi/C複合アノードの容量保持に有益であることを証明した。
図9図9は、0.3C(200mA/g)での様々なバインダーを有するSi@C/G/C-5.1のレート性能を示しており、Si@C/G/C-5.1アノードは複合材料に新しいグラファイト(天然グラファイト)を使用したことを除いて、Si@C/G/C-1(実施例1)と同じ方法で調製した。LSCRバインダー(#1)を有するSi@C/G/C-5.1は、0.15C、0.3C、0.45C、0.75C、1.5C、3Cでそれぞれ606、581、559、522、376、および241mAh/gの比容量をもたらすことができ、これはLSCバインダー(#2)、CMC+SBRバインダー(#3)、CMCバインダー(#4)を有する電極よりも優れているが、CMCバインダー(#4)を有する電極は1.5C、3Cでそれぞれ最も低い234および146mAh/gの比容量をもたらした。
図10図10は異なるバインダーを有する未使用のおよび100サイクルしたSi@C/G/C-5.1アノードのSEM画像を比較している。図10(a)および(b)はCMCバインダー、(c)および(d)はCMC+SBRバインダー、(e)および(f)はLSCバインダー、(g)および(h)はLSCRバインダーを有する未使用のおよび100サイクルしたSi@C/G/C-5.1アノードを指している。図10(b)および(d)は、電極表面全体にはっきりとした微小亀裂を示しているが、100サイクル後のLSCRバインダーの場合、明らかな亀裂は観察されない。これは、100回の充電/放電サイクル後の電極の完全性が優れていることを示している。
図11図11は実施例3で用いた様々なバインダーの粘度を示している。具体的には、それは様々な粘度を比較しており、SBRバインダーは最も低い粘度を示しているが、一方でLSCRバインダーは最も高い粘度を示している。この結果によって、LSCRバインダーが、サイクル中の体積変化によって引き起こされる応力に耐え、アノードの完全性を維持することを証明した。
【発明を実施するための形態】
【0078】
一実施形態または複数の実施形態の主題のより正確な理解を提供するために、例としてのみ与えられる以下の様式を説明する。実施形態例の特徴を説明するために組み込まれた図では、図全体を通して同様の部品を識別するために同様の参照番号が使用される。
【0079】
シリコン/カーボン/グラファイト材料で形成されたアノードなどの高性能アノードを実現するために、例えばLIB内の既知のグラファイトアノードに取って代わるために、本発明者らは、(a)グラファイトやカーボンなどの導電性マトリックス中のシリコン粒子の均一な分布を達成すること、(b)高い初期クーロン効率で高い重量エネルギー密度と高い体積エネルギー密度の両方を達成するシリコン二次粒子の大量生産、および/または(c)アノードの優れた機械的特性に関連する課題に取り組み、凝集性、弾性、導電性および自己修復性ポリマーバインダーを利用することによって特定の例においてアノードの長いサイクル寿命を達成した。
【0080】
Si/C/GおよびSi@C/G/Cへの言及は、シリコン(Si)、カーボン(C)、およびグラファイトの成分で形成された、またはそれらに基づく「シリコン/カーボン/グラファイト」材料を意味することを目的とする。Si@Cへの言及は、炭素で覆われたシリコン粒子(すなわち、炭素でコーティングされたまたは覆われたシリコン)を意味することを目的とする。例えば、Si@C材料では、カーボンシェルまたは層がシリコンコアを覆い、シリコン表面と電解質の直接接触を防ぐ。具体的には、Si@C/G/Cへの言及は、Si@C材料、グラファイト(G)、およびカーボン(C)の成分で形成された、または、に基づく材料を意味することを目的とする。
【0081】
1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーの混合物を含む多官能ポリマーバインダーが提供される。
【0082】
さらなる実施形態例では、アノードを製造する際1つまたは複数のバインダー、例えば1つまたは複数のポリマーバインダーまたは多官能ポリマーバインダーをさらに利用することができる。1つまたは複数のバインダーのタイプおよび含有率に応じて、アノードの特性、例えば機械的特性および安定性などをさらに改善できる。
【0083】
一例では、Si@C/G/C材料および多官能ポリマーバインダーを含む製造されたアノードは、250サイクルにわたって約525.7mAh/gの平均可逆放電容量をもたらすことができる。クーロン効率(CE)は13サイクル後99.0%を超え、100サイクル後95.35%の容量を保持でき、400サイクル後82.8%の容量を保持できる。
【0084】
別の実施形態例では、リチウムイオン電池用アノードの製造方法が提供され、この方法は、1つの非限定的な例では、シリコン/グラファイト/カーボン材料(例えば、Si@C/G/C材料)と1つまたは複数のバインダー、例えば、(a)線状ポリマー、(b)導電性ポリマー、(c)自己修復性ポリマー、(d)ゴムポリマーを含む多官能ポリマーバインダー混合物を混合することを含み、様々なポリマーの特定の重量範囲が使用される。
【0085】
自己修復性ポリマーは、物理的エネルギーを化学的および/または物理的応答に変換して、系が受けた損傷を修復する能力を有する。自己修復性ポリマーは、外部または内部の刺激に応答して、初期材料特性を回復する。当業者によって理解されるように、正常な状態に戻ることができ、外部刺激(引っかき傷、亀裂など)に反応して損傷を修復することができる任意の適当な自己修復性ポリマーを本発明で使用できる。
【0086】
一実施形態では、本発明で用いる1つまたは複数の自己修復性ポリマーは、尿素-ピリミジノン(UPy)、尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)、ドーパミンメタクリルアミド(DMA)、ドーパミン(DA)およびそれらの混合物から成る群から選択される。他の自己修復性ポリマーは当業者に知られており、参照により本明細書に組み込まれ、例えば、Chao Wangら、「自己修復性ポリマーによって、高エネルギーリチウムイオン電池用のシリコン微粒子アノードの安定した動作が可能になる」、Nature Chemistry、2013年、1042~1048ページ(DOI:10.1038/NCHEM.1802)に記載されている。
【0087】
好ましい実施形態では、1つまたは複数の自己修復性ポリマーが尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)である。
【0088】
<実験項>
a)リチウムイオン電池用アノードの製造
【0089】
リチウムイオン電池で用いるシリコン/グラファイト/カーボン材料、例えば、Si/C/G材料またはSi@C/G/C材料を含むアノード例は、シリコン粒子、1つまたは複数の炭素質材料、およびグラファイトの混合物を熱分解、焼結、または好ましくは炭化することによって製造された。
【0090】
特定の例では、マイクロシリコン(マイクロ-Si)は、約2μm以上約120μm以下の平均粒径を有する。好ましくは、マイクロシリコンは、約2、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115または120μmの平均粒径を有する。最も好ましくは、マイクロシリコンは、約4~5μmの平均粒径を有する。
【0091】
ナノシリコン(ナノ-Si)は、少なくとも1つの不活性溶媒の存在下でマイクロシリコンをサンドミル粉砕またはボールミル粉砕(高エネルギー)し、マイクロシリコンの粉砕中混合物を湿式スラリーとして保持することによって生成される。得られたナノシリコンの平均粒径は、約50nm以上約500nm以下である。好ましくは、ナノシリコンは、約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490または500nmの平均粒径を有する。最も好ましくは、ナノシリコンは、約100nm、例えば、約50~150、60~140、70~130、80~120、90~110nmの平均粒径を有する。
【0092】
マイクロシリコンは、好ましくはサンドミル粉砕によって1つまたは複数の不活性溶媒中で粉砕することによってナノシリコンに粉砕される。不活性溶媒は、エチレングリコール(EG)、1-ペンタノール、プロピレングリコール、ポリアクリル酸、トルエン、キシレン、キノリン、ピリジンおよびテトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、ジオキサン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、酢酸エチル、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、またはそれらの混合物もしくは類似物の1つまたは複数のうちの一つであり得る。マイクロシリコンの粉砕には非常に高い粉砕エネルギーが必要であり、この工程において、サンドミル粉砕、又は高エネルギーボールミル粉砕が必要である。スラリーは、湿式粉砕工程中は、意図的に乾燥させないことで、シリコン粒子の凝集が回避される。
【0093】
前述のようにマイクロシリコンから生成されたようにナノシリコンが得られて使用されるか、あるいは市販のナノシリコンを使用できる。使用されるナノシリコンの平均粒径は、好ましくは、約50nm以上約500nm以下である。使用されるナノシリコンは、約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490または500nmの平均粒径を有し得る。最も好ましくは、使用されるナノシリコンは、約100nmの平均粒径、例えば、約50~150、60~140、70~130、80~120、90~110nmを有する。
【0094】
1つまたは複数の炭素質材料を入手して使用する。例えば、1つまたは複数の炭素質材料は、官能化グラフェンプレートレット、カーボンナノチューブ(CNTs)、還元型酸化グラフェン(rGO)、グルコース、スクロースまたはクリティック酸(CA)などの前駆体に由来する熱分解炭素、ピッチ、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(PDDA)、ポリ(4-スチレンスルホン酸ナトリウム)(PSS)、ポリドーパミン(PDA)、ポリピロール(PPy)、またはフェノール樹脂であり得る。
【0095】
グラファイトを入手して使用する。グラファイトは天然グラファイトおよび/または合成グラファイトであり得る。天然グラファイトについては球形タイプが好ましく、合成黒鉛についてはフレーク形状が好ましい。例えば、約1μm以上約20μm以下の平均粒径を有するグラファイト微小球を使用できる。好ましくは、グラファイト微小球は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20μmの平均粒径を有する。最も好ましくは、グラファイト微小球は、約8~20μmの平均粒径を有する。
【0096】
以下に提供されるのは、本発明によるリチウムイオン電池用アノードのさらなる非限定的な製造方法の工程例である。本明細書に記載の多官能ポリマーバインダー混合物などのバインダーと混合されるSi@C/G/C材料の代表的な製造方法を以下に提供する。
【0097】
<工程1:>
ナノシリコンと少なくとも1つの炭素質材料を、約40:60以上約70:30以下の質量比(ナノシリコン:炭素質材料)で計量する。好ましくは、質量比(ナノシリコン:炭素質材料)は、約40:60、約50:50、約60:40、または約70:30である。より好ましくは、質量比は、約40:60、41:59、42:58、43:57、44:56、45:55、46:54、47:53、48:52、49:51、約50:50、51:49、52:48、53:47、54:46、55:45、56:44、57:43、58:42、59:41、約60:40、61:39、62:38 、63:37、64:36、65:35、66:34、67:33、68:32、69:31または約70:30である。最も好ましくは、質量比(ナノシリコン:炭素質材料)は約50:50である。
【0098】
<工程2:>
ナノシリコンと1つまたは複数の炭素質材料は、粉砕、好ましくは湿式ボールミル粉砕によって完全に混合される。1つまたは複数の不活性溶媒であり得る1つまたは複数の溶媒は、湿式ボール粉砕中に使用され、例えば、トルエン、キシレン、キノリン、ピリジン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、ジオキサン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、酢酸エチル、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン四塩化炭素、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール、ポリアクリル酸、またはそれらの混合物を挙げることができる。
【0099】
所要の1つまたは複数の溶媒の体積は、固体粉末を沈めるのに十分な量であり、混合物を希釈液体または粘性状態ではなく、湿式ボールミル粉砕による粉砕中に湿式スラリーとして維持する必要がある。溶媒の蒸発を防ぐために、粉砕プロセス全体で封止剤を必要とする。ボールミル粉砕の速度は約300~約600rpm、例えば、約300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575または約600rpmであり得るが、ボールミル粉砕の速度は、好ましくは約400rpmである。ボールミル粉砕の継続時間は、約3~約24時間、例えば、約3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23または24時間であり得るが、ボールミル粉砕の継続時間は好ましくは約6時間である。ボール:重量比は、約10:1~40:1、例えば、約10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、45:1または約50:1であり得るが、ボール:重量比は、好ましくは約20:1である。
【0100】
<工程3:>
湿式スラリーである混合物をオーブンにて乾燥温度で乾燥時間真空乾燥して、乾燥粉末を生成する。例えば、温度は、約70℃以上約150℃以下であり得る。好ましくは、温度は約70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃または150℃である。最も好ましくは、温度は約80℃である。乾燥時間は、約2時間以上約18時間以下であり得る。好ましくは、乾燥時間は、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18時間である。最も好ましくは、乾燥時間は約12時間である。
【0101】
<工程4:>
次に、乾燥材料、すなわち乾燥粉末を、例えばチューブ炉内にて不活性ガス、好ましくはアルゴンガスまたは窒素ガス流下で炭化し、得られたSi@C材料(すなわち、カーボン材料でコーティングされたシリコン粒子)を収集する。好ましくは、高温炭化として特徴付けることができる炭化のプロセスは、
乾燥粉末を約400℃(または要すれば約300℃以上約500℃以下)の保持温度に、毎分約5℃(または要すれば約2℃以上約5℃以下)の漸次的上昇で加熱する工程、
乾燥粉末の保持温度を約400℃(または要すれば約300℃以上約500℃以下)で約3時間(または要すれば約2時間以上約5時間以下)維持する工程、
乾燥粉末をさらに約1000℃の炭化温度(または要すれば約900℃以上約1200℃以下の炭化温度、例えば、炭化温度は、約900℃、950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃または1200℃であり得る)に、毎分約8℃(または要すれば約5℃以上約10℃)の漸次的上昇で加熱する工程、
乾燥粉末を該炭化温度で約5時間(または要すれば約3時間以上約8時間以下)維持する工程、および
結果として生じたSi@C材料を自然に室温まで冷却し、その間アルゴンガス(または窒素ガス)のガス流量を安定に保つ工程を含む。
【0102】
<工程5:>
次に、得られたSi@C材料、グラファイト、および1つまたは複数の第2炭素質材料を、約10以上30以下:約40以上80以下:約10以上30以下の質量比(Si@C材料:グラファイト:第2炭素質材料)で計量する。好ましくは、質量比(Si@C材料:グラファイト:第2炭素質材料)は、約10:80:10、約10:70:20、約10:60:30、約20:70:10、約20:60:20、約20:50:30、約30:60:10、約30:50:20、または約30:40:30である。最も好ましくは、質量比(Si@C材料:グラファイト:第2炭素質材料)は、約20:60:20である。この工程で使用される1つまたは複数の第2炭素質材料は、先に使用された1つまたは複数の炭素質材料と同じであることが好ましいが、異なる種類の1つまたは複数の第2炭素質材料を使用できる。
【0103】
<工程6:>
得られたSi@C材料、グラファイト、および1つまたは複数の第2炭素質材料を、粉砕、好ましくは湿式ボールミル粉砕によって第2混合物として完全に混合する。この工程では、Si@C材料がグラファイトと一体化され、さらに1つまたは複数の第2炭素質材料でコーティングされる(2度目の使用)。1つまたは複数の第2溶媒は、粉砕プロセスで使用され、トルエン、キシレン、キノリン、ピリジン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、ジオキサン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、t-ブタノール、酢酸エチル、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ペンタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、アセトニトリル、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン四塩化炭素、エチレングリコール(EG)、プロピレングリコール、ポリアクリル酸、またはそれらの混合物の1つまたは複数であり得る。
【0104】
1つまたは複数の第2溶媒は、好ましくは、先に使用された1つまたは複数の溶媒と同じであるが、異なる溶媒であってもよい。所要の1つまたは複数の溶媒の体積は、固体粉末を沈めるのに十分な量であり、混合物を希釈液体または粘性状態ではなく、湿式ボールミル粉砕による粉砕中に湿式スラリーとして維持する必要がある。2度目の溶媒蒸発を防ぐために、粉砕プロセス全体で封止剤を必要とする。ボールミル粉砕の速度は約300~約600rpmであり得るが、ボールミル粉砕の速度は好ましくは約400rpmである。ボールミル粉砕の継続時間は約12~約48時間であり得るが、ボールミル粉砕の継続時間は好ましくは約24時間である。ボール:重量比は約10:1~40:1であり得るが、ボール:重量比は、好ましくは約20:1である。
【0105】
<工程7:>
第2湿式スラリーである得られた第2混合物をオーブンにて第2乾燥温度で第2乾燥時間真空乾燥して、乾燥未加工Si@C/G/C材料を粉末として生成する。例えば、温度は、約70℃以上約150℃以下であり得る。好ましくは、温度は約70℃、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃、130℃、140℃または150℃である。最も好ましくは、温度は約80℃である。乾燥時間は、約6時間以上約18時間以下であり得る。好ましくは、乾燥時間は、約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18時間である。最も好ましくは、乾燥時間は約12時間である。
【0106】
<工程8:>
次に、乾燥未加工Si@C/G/C材料(粉末)を、例えばチューブ炉内にて不活性ガス、好ましくはアルゴンガスまたは窒素ガスまたはそれらの混合物流下で炭化し、生成されるSi@C/G/C材料を収集する。好ましくは、高温炭化として特徴付けることができる炭化のプロセスは、
乾燥未加工Si@C/G/C粉末を約400℃(または要すれば約300℃以上約500℃以下)の保持温度に、毎分約5℃(または要すれば約2℃以上約5℃以下)の漸進的上昇で加熱する工程、
Si@C/G/C粉末の保持温度を約400℃(または要すれば約300℃以上約500℃以下)で約3時間(または要すれば約2時間以上約5時間以下)維持する工程、
Si@C/G/C粉末をさらに約1000℃の第2炭化温度(または要すれば、約900℃以上約1200℃以下の第2炭化温度、例えば、第2炭化温度は、約900℃、950℃、1000℃、1050℃、1100℃、1150℃または1200℃であり得る)に、毎分約8℃(または要すれば約5℃以上約10℃)の漸次的上昇で加熱する工程であって、第2炭化温度は上記炭化温度と同じであるか、または異なっていてもよく、第2炭化温度範囲は、上記炭素化温度範囲と同じであるか、または異なっていてもよい工程、
Si@C/G/C粉末を第2炭化温度で約5時間(または要すれば約3時間以上約8時間以下)維持する工程、および
得られたSi@C材料を自然に室温まで冷却し、その間アルゴンガスのガス流量を安定に保つ工程を含む。
【0107】
<工程9:>
粉砕、好ましくは乾式ボールミル粉砕による最終粉砕の後、結果として生じる最終的なSi@C/G/C材料が得られる。乾式ボールミル粉砕の速度は、約300rpm以上約500rpmであり得るが、乾式ボールミル粉砕の速度は好ましくは約400rpmである。ボールミル粉砕の継続時間は約12~約48時間であり得るが、乾式ボールミル粉砕の継続時間は好ましくは約24時間である。得られた材料を均一にするために十分な継続時間と速度が必要であり、ボールミル粉砕ジャーには不活性ガス、例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスなどを充填する必要がある。
【0108】
<工程10:>
Si@C/G/C材料は微小寸法の階層構造を示し、そこではカーボンがコーティングされたSiナノ粒子がグラファイトマトリックス上に均一に分布し、構造全体に第2カーボンコーティングが均一な導電性ネットワークを形成する。リチウムイオン電池用アノードを形成するために、Si@C/G/C材料、1つまたは複数のポリマーバインダー(例えば、CMC+SBR)、および導電剤(例えば、カーボンブラック)を(例えば、8:1:1)の割合で混合し、蒸留水中で均一に攪拌して均一なスラリーを形成し、清潔で平らな金属部材(例えば、銅箔)上にコーティングし、考察される例についてはSi@C/G/Cスラリーがコーティングされた銅箔が得られる。Si@C/G/Cスラリーがコーティングされた銅箔を真空下で約12時間加熱乾燥しその後、乾燥Si@C/G/Cコーティングされた銅箔を切断・圧縮することによって、リチウムイオン電池用Si@C/Gを形成する。得られたSi@C/G/C構造の例示的な描写を図1に示す。
【0109】
b)リチウムイオン電池(LIB)例
図2を参照すると、本明細書に開示された方法例の1つに従って製造されたアノードを含むリチウムイオン電池300(すなわち、リチウムイオンセル)例が示されている。
【0110】
図2は、導電性材料で構成され、電気接点として機能できる、第1成分312および第2成分314を有するコイン・オン・コイン型リチウムイオン電池300を示している。しかしながら、電池300は、当技術分野で知られているように、任意のリチウムイオン電池構成に従って構成できることに留意されたい。第1成分312内またはそれに取り付けられているのは、本実施形態に従って作製されたアノード316であり、第2成分314内またはそれに取り付けられているのはカソード320であり、セパレーター318がアノード316とカソード320との間に配置されている。
【0111】
絶縁体322は、アノード316が第1成分312とのみ導電接続し、カソード20が第2成分314とのみ導電接続することを確実にし、それによって第1成分312および第2成分314の両方との導電接触が電気回路を閉じ、アノード316およびカソード320での電気化学反応に起因して電流が流れることができる。コイン・オン・コインリチウムイオン電池構成ならびに他の電極および成分構成は当技術分野で周知であり、本発明に関するアノードは、当業者に明らかであるように、任意のタイプのリチウムイオン電池に簡単に構成できる。
【0112】
電解質を使用するリチウムイオン電池構成例では、様々な電解質を使用できる。非限定的な電解質の例としては、例えば、プロピレンサルフェート(PS)およびアジポニトリル(AND)などの添加剤を有する、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/エチルプロピオネート(EP)/フルオロエチレンカーボネート(FEC)の27:35:27:10(エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):エチルプロピオネート(EP):フルオロエチレンカーボネート(FEC))の重量比の混合物中の1.15MのLiPFが挙げられる。
【実施例
【0113】
以下の実施例は、単に例示目的であり、本発明の範囲を限定するものではないより詳細な考察を提供する。
【0114】
以下の例示的なアノードについて、アノードは、各実施例の製造された材料/粉末から固体電極として形成した。電極は、スラリーコーティングおよび乾燥法を使用して製造した。アノードを形成するために、活物質(例えば、Si@C/G/C、Si/C/G、Si/Gなど)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)の混合物(1つまたは複数のポリマーバインダーである)、およびカーボンブラック(導電剤である)を、約80以上96以下:1以上10以下:3以上10以下の割合で均一に混合し、蒸留水中で攪拌して均一なスラリーを形成し、清潔で平らな銅箔にコーティングして、スラリーがコーティングされた銅箔が得られる。スラリーがコーティングされた銅箔は、真空下で約12時間加熱することにより乾燥され、次いで、乾燥した活物質がコーティングされた銅箔が切断および圧縮され、それにより、リチウムイオン電池例で用いるアノードを形成する。
【0115】
製造されたアノードは、コイン型ハーフCR2032セルとして提供されるリチウムイオン電池(すなわち、リチウムイオンセル)内に組み立てられ、NewareTM電池試験システム上で200mA/gの定電流密度で10mV~1.5V(vsLi/Li)の範囲内の電圧ウィンドウで定電流充放電測定を行った。使用した電解質としてはプロピレンサルフェート(PS)およびアジポニトリル(AND)などの添加剤を有する、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/エチルプロピオネート(EP)/フルオロエチレンカーボネート(FEC)の27:35:27:10(エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC):エチルプロピオネート(EP):フルオロエチレンカーボネート(FEC))の重量比の混合物中の1.15MのLiPFが挙げられる。
【0116】
<尿素-オリゴ-アミドアミン自己修復性ポリマーの合成>
尿素-オリゴ-アミドアミン(UOAA)は、当業者に知られている、または当業者によって考案された任意の合成ルーチンを使用して得ることができる。いくつかの実施形態において、UOAAは本明細書中に参照により組み込まれる、Cordierら、「超分子集合体からの自己修復および熱可逆性ゴム」、Nature、2008、pp 977~980 (doi:10.1038/nature06669)に記載される方法を使用して合成できる。例示的な合成では、UOAAは、Empol(登録商標)1016(3~5%一酸、78~82%二酸、16~19%三酸および多酸の混合物)を、窒素下、160℃で24時間にわたってジエチレントリアミンと縮合させてオリゴアミドアミンを形成することによって得ることができる。オリゴアミドアミンは、NMRで測定した未反応アミンの除去(クロロホルム/水溶媒抽出)後の[CH-CONH]対[CH-NH]の比率は1.8であった。次に、オリゴアミドアミンを窒素下135~160℃で7.5時間尿素と反応させ、続いてアンモニアと未反応の尿素を真空ストリッピングと水洗によって抽出した。得られた尿素-オリゴ-アミドアミンを真空下で乾燥させ、120℃で100cmの面積で2mm厚さの鋼型に圧縮した。ドデカンによる膨潤は、60℃で24時間にわたって達成された。
【0117】
<実施例1>
一実施形態例では、アノード(実施例1)を調製し、Si@C/G/C-1アノードとラベルを付けた。Si@C/G/C-1アノードは、溶媒として50mLのTHF(テトラヒドロフラン)と混合したサンドミル粉砕から得られた5.0gのナノシリコンと5.0gのピッチを用い、湿式ボールミル粉砕によって調製した。
【0118】
THF溶媒の体積で固体粉末を覆い湿式ボールミル粉砕中、混合物を希釈液体または粘性状態ではなく、粉砕中湿式スラリーとして維持した。溶媒の蒸発を防ぐために、粉砕プロセス全体で封止剤を必要とする。湿式ボールミル粉砕の間、THFの蒸発を防ぐために封止剤を使用した。ボールミル粉砕の速度は400rpmであり、ボールミル粉砕の継続時間は48時間であった。ボール対重量比は約20:1であった。得られたスラリーを80℃のオーブンで約12時間真空乾燥した。
【0119】
次に、乾燥粉末をチューブ炉内にてアルゴンガス流下で炭化した。炭化のプロセスの間、乾燥粉末を約400℃の保持温度に、毎分約5℃の漸次的上昇で加熱した。乾燥粉末の保持温度を約400℃で約3時間維持した。乾燥粉末をさらに約1000℃の炭化温度に、毎分約8℃の漸次的上昇で加熱した。乾燥粉末の最終温度を1000℃で約5時間維持し、得られたSi@C材料を自然に室温まで冷却し、その間の時間アルゴンガスのガス流量を安定に保った。得られたSi@C材料を回収した。
【0120】
次に、得られた5.0gのSi@C材料、15.0gのグラファイト及び5.0gのピッチを、溶媒としてTHF(50mL)を用いて湿式ボールミル粉砕した。THF溶媒の体積で固体粉末混合物を沈め、湿式ボールミル粉砕による粉砕中混合物を希釈液体または粘性状態ではなく湿式スラリーとして維持した。粉砕プロセスでは、THF溶媒の蒸発を防ぐために封止剤を使用した。ボールミル粉砕の速度は400rpmであり、ボールミル粉砕の継続時間は約48時間であった。ボール対重量比は約20:1であった。得られたスラリーを80℃のオーブンで約12時間真空乾燥した。
【0121】
次に、回収した乾燥未加工Si@C/G/C粉末を、管状炉内にてアルゴンガス流下炭化した(第2炭化工程)。さらなる炭化のプロセスの間、乾燥未加工Si@C/G/C粉末を約400℃の保持温度に、毎分約5℃の漸次的上昇で加熱した。該Si@C/G/C粉末の保持温度を約400℃で約3時間維持した。乾燥Si@C/G/C粉末をさらに約1000℃の最終温度に、毎分約8℃の漸次的上昇で加熱した。Si@C/G/C粉末の最終温度を1000℃で約5時間維持し、得られたSi@C材料を自然に室温まで冷却し、その間の時間アルゴンガスのガス流量を安定に保った。得られたSi@C材料を回収した。
【0122】
Si@C/G/C粉末を乾式ボールミル粉砕して均一な状態にし、得られたSi@C/G/C材料(粉末)を回収した。乾式ボールミル粉砕の速度は400rpmであり、乾式ボールミル粉砕の継続時間は約24時間であり、ボールミル粉砕ジャーをアルゴンガスで満たしていた。
【0123】
図3はさらに得られたSi@C/G/C-1アノードのサイクル性能を示している。図3を参照すると、Si@C/G/C-1アノードは、400サイクルにわたって522.17mAh/gの平均可逆放電容量(つまり、比容量)をももたらした。初期クーロン効率(CE)は80.56%で、CEは25サイクル後99.0%を超え、400サイクル後容量の72.6%は保持される。これは、例えば200サイクル後83%の容量保持を達成した中国特許公開公報第108807861号(上記で検討)の図5と比較して有利である。
【0124】
c)多官能ポリマーバインダー
多官能バインダー、特に比較的低コストの多官能ポリマーバインダーを設計および合成した。多官能ポリマーバインダーは、3D(3次元)ネットワーク構造、向上した導電性、および自己修復特性を有する。リチウムイオン電池用アノードの1つの適用例では、アノードの一部として多官能ポリマーバインダーを使用しようすることでアノードの、例えば、シリコンベースのアノードの、急速な容量減衰の問題になりかねない比較的低い導電性および大きな体積膨張に対処する際に役に立つ。多官能ポリマーバインダーについて、他の様々な適用例が可能であることは、当業者によって理解されるであろう。
【0125】
図4を参照すると、多官能ポリマーバインダーの製造方法900が示されている。方法900は、1つまたは複数の線状ポリマー910、1つまたは複数の導電性ポリマー920、1つまたは複数の自己修復性ポリマー930、および1つまたは複数のゴムポリマー940を混合して多官能ポリマーバインダー950を生成することを含む。
【0126】
多官能ポリマーバインダー例の組成としては以下が挙げられる。
約15重量%以上約70重量%以下の重量パーセンテージの1つまたは複数の線状ポリマー。好ましくは、1つまたは複数の線状ポリマーの重量パーセンテージは、約15重量%、約20重量%、25重量%、30重量%、35重量%、40重量%、45重量%、50重量%、55重量%、60重量%、65重量%または70重量%である。好ましい例では、1つまたは複数の線状ポリマーの重量パーセンテージは約30~50重量%、より好ましくは35~45重量%である。
約1重量%以上約30重量%以下の重量パーセンテージの1つまたは複数の導電性ポリマー。好ましくは、1つまたは複数の導電性ポリマーの重量パーセンテージは、約1重量%、2重量%、3重量%、4重量%、5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%、20重量%25重量%または30重量%である。好ましい例では、1つまたは複数の導電性ポリマーの重量パーセンテージは約10重量%である。
【0127】
約5重量%以上約20重量%以下の重量パーセンテージの1つまたは複数の自己修復性ポリマー。好ましくは、1つまたは複数の自己修復性ポリマーの重量パーセンテージは、約5重量%、7.5重量%、10重量%、15重量%、または20重量%である。好ましい例では、1つまたは複数の自己修復性ポリマーの重量パーセンテージは、約5~10重量%である。または
約10重量%以上約40重量%以下の重量パーセンテージの1つまたは複数のゴムポリマー。好ましくは、1つまたは複数のゴムポリマーの重量パーセンテージは、約10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、35重量%または40重量%である。好ましい例では、1つまたは複数のゴムポリマーの重量パーセンテージは、約30~40重量%である。
【0128】
驚くべきことに、本発明者らは、シリコン/グラファイト/カーボン材料(例えば、Si@C/G/C)と混合してリチウムイオン電池用アノードを製造すると、本明細書に記載の多官能バインダーはシリコン含有アノードのサイクル寿命(サイクル性能)と、得られるリチウムイオン電池のクーロン効率の少なくとも1つを高めることを見出した。
【0129】
本発明者らは、いずれか1つの理論に縛られることなく、サイクル寿命およびクーロン効率の向上は、本発明の多官能ポリマーバインダーが、製造されたアノードのシリコン/グラファイト/カーボン材料全体に実質的に均一に分布するためであると考える。いずれか1つの理論に縛られることなく、本発明者らは、多官能ポリマーバインダーが、製造されたアノード中のシリコン/グラファイト/カーボン材料と混和性または相溶性であり、実質的に均一な分布およびSBR移行の回避をもたらすと考える。
【0130】
特定の例では、線状ポリマーのヒドロキシル基、アミン基、またはカルボキシル基;導電性ポリマーのイミノ基またはスルホン酸基;自己修復性ポリマーの尿素基は架橋されて剛性かつ柔軟性の鎖で構成される3Dネットワークを形成し、アノードの所望の機械的特性と接着力を高める。
【0131】
いずれか1つの理論に拘束されることなく、本発明者らはまた、いくつかの実施形態では、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマー架橋を引き起こすことによってスラリーが加熱される場合、酸、好ましくは有機酸、より好ましくはクエン酸の添加によって製造されたアノードのシリコン/グラファイト/カーボン材料全体にわたって本発明のバインダーの分布を改善できることを見出した。架橋された多官能ポリマーバインダーは、電極の表面へのゴムポリマーの移行を防止または改善し、それによって、より均一な三次元構造を提供する。
【0132】
好ましい線状ポリマーとしては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(LiPAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、2-ペンテン酸、2-メタクリル酸、またはキトサン(CS)が挙げられる。
【0133】
好ましい導電性ポリマーとしては、例えば、ポリアニリン(PANI)、ポリ[9,9-ビス(3-プロパノエート)フッ素]ナトリウム(PFCOONa)、ポリ(1-ピレンメチルメタクリレート-co-メタクリル酸)(PPyMAA)、ポリピロール(PPY)または3,4-エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレン-4-スルホネート(PEDOT:PSS)が挙げられる。
【0134】
好ましい自己修復性ポリマーとしては、例えば、尿素-ピリミジノン(UPy)、ウレアオリゴアミドアミン(UOAA)、ドーパミンメタクリルアミド(DMA)、およびドーパミン(DA)が挙げられる。好ましい実施形態では、自己修復性ポリマーはウレアオリゴアミドアミン(UOAA)である。
【0135】
好ましいゴムポリマーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ネオプレン、ニトリルゴム、ブチルシリコーンゴム、またはポリサルファイドゴムが挙げられる。好ましい実施形態では、ゴムポリマーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびその誘導体である。
【0136】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の線状ポリマーは、1,000~1,000,000ダルトンの重量平均分子量を有する。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、20,000~1,000,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、20,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、50,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、10,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、500,000~550,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は520,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は50,000~150,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、数平均分子量は、100,000~200,000ダルトンである。
【0137】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の導電性ポリマーは、20,000~1,000,000ダルトンの重量平均分子量を有する。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、20,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、50,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、100,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、500,000~550,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は520,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は50,000~150,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、数平均分子量は、100,000~200,000ダルトンである。
【0138】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数の自己修復性ポリマーは、20,000~1,000,000ダルトンの重量平均分子量を有する。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、20,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、50,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態にでは、重量平均分子量は、100,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、500,000~550,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は520,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は50,000~150,000ダルトンである。いくつかの実施形態において、数平均分子量は、100,000~200,000ダルトンである。
【0139】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のゴムポリマーは、20,000~1,000,000ダルトンの重量平均分子量を有する。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、20,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、50,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、100,000~600,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は、500,000~550,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は520,000ダルトンである。いくつかの実施形態では、重量平均分子量は50,000~150,000ダルトンである。いくつかの実施形態において、数平均分子量は、100,000~200,000ダルトンである。
【0140】
特定の実施形態では、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび/または1つまたは複数のゴムポリマーはブロックコポリマーである。特定の実施形態では、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび/または1つまたは複数のゴムポリマーはランダムコポリマーである
【0141】
d)リチウムイオン電池用バインダーを有するアノードの製造
さらなる例示的な実施形態では、リチウムイオン電池用アノード例は、例えば本明細書に開示される多官能バインダー、好ましくは多官能ポリマーバインダーも含む。
【0142】
上述した調製されたままのアノード材料の電気化学的性能は、電極構造を改善することによってさらに向上した。本明細書に開示されるような多官能バインダーは、アノードの一部として使用できる。多官能バインダーは、3D(3次元)ネットワーク構造、向上した導電率、および自己修復特性を備えており、急速な容量減衰の問題につながるリチウムイオン電池(LIB)用のシリコンベースのアノードの比較的低い導電率と大きな体積膨張に対処する。
【0143】
図5を参照すると、リチウムイオン電池用アノードの製造方法1000が示されている。工程1010は、シリコン/グラファイト/カーボン材料、1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを混合して、スラリーを生成することを含む。シリコン/グラファイト/カーボン材料は、先に開示された、Si@C/G/CもしくはSi/C/G粉末材料例であり得るか、または未加工のシリコン(Si)、グラファイト(G)およびカーボン(C)の混合物(活物質)であり得る。要すれば、工程1010はまた、スラリーの一部として導電剤を混合することを含み得る。導電剤は、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、官能化グラフェンプレートレットナノカーボンファイバー、または導電性スラリーとしてのそれらの混合物であってよい。工程1020は、金属部材、例えば、金属箔、ストリップ、またはグリッド上にスラリーをコーティングすることを含む。工程1030は、コーティングされたスラリーを有する金属部材を乾燥させてアノードを形成することを含む。
【0144】
以下に、そして図6を参照して、リチウムイオン電池用の多官能ポリマーバインダーを含むアノードのさらなる非限定的な製造方法例1100が提供される。
【0145】
<工程1110:>
1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマー、および1つまたは複数のゴムポリマーを本明細書に記載の重量パーセンテージおよび質量比(線状ポリマー:導電性ポリマー:自己修復性ポリマー:ゴムポリマー)で量り分ける。
【0146】
<工程1120:>
シリコン/グラファイト/カーボン材料は、先に開示された、Si@C/G/CもしくはSi/C/G粉末材料例であり得るか、または未加工のシリコン(Si)、グラファイト(G)およびカーボン(C)の混合物(活物質)であり得る、を導電剤(例えば、官能化グラフェンプレートレット、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ナノカーボンファイバー、または導電性スラリーとしてのそれらの混合物)および多官能ポリマーバインダーと約80以上96以下:1以上10以下:3以上10以下の質量比(活物質:導電材:多官能ポリマーバインダー)で均一に混合する。好ましくは、質量比(活物質:導電剤:多官能ポリマーバインダー)は、約80:10:10、約85:10:5、約85:9:6、約85:8:7、約85:7:8、約85:6:9、約85:5:10、約90:7:3、約90:6:4、約90:5:5、約90:4:6、約90:3:7、約90:2:8、約90:1:9、約95:2:3、約95:1:4、または約96:1:3である。最も好ましくは、質量比(活物質:導電剤:多官能ポリマーバインダー)は約80:10:10である。
【0147】
いくつかの実施形態では、多官能ポリマーバインダーは、導電剤を必要としないように十分に導電性である。これらの実施形態では、シリコン/グラファイト/カーボン材料、および1つまたは複数の線状ポリマー、1つまたは複数の導電性ポリマー、1つまたは複数の自己修復性ポリマーおよび1つまたは複数のゴムポリマーの混合組み合わせを、約80~99:1~20、85~99:1~15、90~99:1~10、95~99:1~5、96:4、97:3、98:2または99:1の質量比(シリコン/グラファイト/カーボン材料:ポリマーの混合組み合わせ)で混合する。
【0148】
混合時間は約2時間以上約5時間以下であり得る。好ましくは、混合時間は約2時間、3時間、4時間または5時間である。最も好ましくは、混合時間は約2時間である。
【0149】
<工程1130:>
得られたスラリーは、金属部材、例えば、金属箔、ストリップまたはグリッド、好ましくは銅箔として提供される銅部材上にコーティングするが、これは、清潔で平らに保たなければならない。他の金属部材は、例えば、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、金、銀でできている場合がある。得られたスラリーは、ディップコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング、接着、およびそれらの組み合わせなどの任意の適当な技術を用いてコーティングできる。当業者は、電極のコーティングが、十分に導電性の接触を提供するために任意の適当な厚さであり得ることを理解すべきである。
【0150】
<工程1140:>
アノード材料のスラリーでコーティングされた得られた金属部材(例えば、銅箔)は、真空オーブン内で、特定の乾燥温度で特定の乾燥時間乾燥する。例えば、乾燥温度は、約100℃以上約180℃以下であり得る。好ましくは、温度は、約100℃、110℃、120℃、130℃、140℃、150℃、160℃、170℃、または180℃である。最も好ましくは、温度は約100℃である。乾燥時間は、約10時間以上約18時間以下であり得る。好ましくは、乾燥時間は約10、11、12、13、14、15、16、17または18時間である。最も好ましくは、乾燥時間は約12時間である。
【0151】
<工程1150:>
その後生成された乾燥複合材料を、組み立てられたリチウムイオン電池(すなわち、リチウムイオンセル)のアノードとして使用される前に圧縮する。特定の実施形態では、得られたコーティングは、約10nm~500ミクロン、約100nm~500ミクロン、約300nm~500ミクロン、約10~500ミクロン、約50~500ミクロン、約100~500ミクロン、約200~500ミクロンの厚さを有する。特定の実施形態では、コーティングは、約500ミクロン、400ミクロン、300ミクロン、200ミクロン、または100ミクロン未満の厚さを有する。いくつかの実施形態では、コーティングは、約0.5mm~約5mm、約0.5mm~約3mm、約0.5mm~約2mm、好ましくは約1mmの厚さを有する。
【0152】
e)多官能ポリマーバインダーを有するアノード
以下の実施例は、単に例示することを目的とし本発明の範囲を限定するものではないより詳細な考察を提供する。
【0153】
<実施例2>
一実施形態例では、アノード(実施例2)を調製し、Si@C/G/C-5アノード(多官能ポリマーバインダーを有する)とラベルを付けた。
【0154】
Si@C/G/C-1アノード(実施例1)でCMC(線状ポリマー)およびSBR(ゴムポリマー)を含むバインダーを用いたが、Si@C/G/C-5アノードでCMC(線状ポリマー)、PPY(導電性ポリマー)、DAおよび/またはUOAA(自己修復性ポリマー)、およびSBR(ゴムポリマー)を含む多官能ポリマーバインダーを用いたことを除いてSi@C/G/C-1アノード(実施例1)と同じ方法を使用してSi@C/G/C-5アノードを調製した(実施例2)。他の条件は、アノードを調製する際と同じであった。
【0155】
Si@C/G/C-5アノードは、40:20:20:20のポリマーの質量比(CMC:PPY:DA/UOAA:SBR)を使用して調製した。使用した導電剤は、スイスのTIMCAL Graphite&CarbonからSuperPTMの商品名で販売されているカーボンブラックの一種であった。次に、活物質、導電剤および多官能ポリマーバインダーを、80:10:10の質量比(Si@C/G/C:導電剤:多官能ポリマーバインダー)、2時間の混合時間で混合した。得られたスラリーを銅箔にコーティングし、これを清潔で平らに保った。得られたアノード材料のスラリーでコーティングされた銅箔を、真空オーブン内で100℃の乾燥温度で12時間乾燥した。次に、生成された乾燥複合材料を圧縮し、組み立てられたリチウムイオン電池のアノードとして使用した。
【0156】
図7(a)は、Si@C/G/C-5アノードとラベルを付けたLSCRバインダーを有するアノード例(実施例2)のサイクル性能を示している。Si@C/G/C-5アノードは、250サイクルにわたって約525.7mAh/gの平均可逆放電容量をもたらした。CEは13サイクル後99.0%を超え、100サイクル後95.35%の容量を保持でき、250サイクル後89.2%の容量を維持したため、標準のCMC:SBRを用いたSi@C/G/C-1アノード(実施例1)に比べて電気化学的性能が向上している。
【0157】
図7(b)は、400サイクルにわたるSi@C/G/C-5アノードとラベルを付けたLSCRバインダーを有するアノード例のサイクル性能を示している。400サイクル後も82.8%の容量を保持した。これは、LSCRバインダーを有するSi@C/G/C-1アノード(実施例1)と比較して400サイクルにわたって電気化学的性能が向上している。
【0158】
<実施例3>
一実施形態例では、アノード(実施例3)を調製し、さらにSi@C/G/C-5.1アノードとラベルを付けた。この例は実施例2と同様であるが、天然グラファイト(好ましくは精製された球状天然グラファイト)を使用した。
【0159】
Si@C/G/C-1アノード(実施例1)でCMC(線状ポリマー)およびSBR(ゴムポリマー)を含むバインダーを用いたが、Si@C/G/C-5アノード(実施例3)でCMC(線状ポリマー)、PPY(導電性ポリマー)、DAおよび/またはUOAA(自己修復性ポリマー)、およびSBR(ゴムポリマー)を含む多官能ポリマーバインダー(LSCR線状自己修復複合ゴムともいう)を用いたことを除いてSi@C/G/C-1アノード(実施例1)と同じ方法を使用してSi@C/G/C-5.1アノードを調製した。CMC(線状ポリマー)、PPY(導電性ポリマー)、DAおよび/またはUOAA(自己修復性ポリマー)を含みゴムを含まない線状自己修復複合材料(LSC)を用いた比較例はSi@C/G/C-5アノード(実施例2)で用いた。他の条件は、アノードを調製する際と同じであった。
【0160】
LSCR Si@C/G/C-5.1アノードは、40:20:20:20のポリマーの質量比(CMC:PPY:DA/UOAA:SBR)を使用して調製した。使用した導電剤は、スイスのTIMCAL Graphite & CarbonからSuper PTMの商品名で販売されているカーボンブラックの一種であった。次に、活物質、導電剤および多官能ポリマーバインダーを、80:10:10の質量比(Si@C/G/C:導電剤:多官能ポリマーバインダー)で2時間の混合時間で混合した。得られたスラリーを銅箔にコーティングし、これを清潔で平らに保った。得られたアノード材料のスラリーでコーティングされた銅箔を真空オーブン内で100℃の乾燥温度で12時間乾燥させた。次に、生成された乾燥複合材料を圧縮し、組み立てられたリチウムイオン電池のアノードとして使用した。
【0161】
実施例2および3のLSCR Si@C/G/C-5およびLSCR Si@C/G/C-5.1アノードを調製するための多官能ポリマーバインダー(LCSRバインダー)の代替配合物は、40:10:10:30:10(1つまたは複数の線状ポリマー:1つまたは複数の導電性ポリマー:1つまたは複数の自己修復性ポリマー:1つまたは複数のゴムポリマー:酸)、および40:10:10:30:10(CMC + PAA:PEDOT + PSS:UOAA:SBR:クエン酸の重量パーセンテージであった。
【0162】
図8は、0.3C(200mA/g)での様々なバインダー有するSi@C/G/C-5.1のサイクル性能を示している。LSCRバインダー(#1)を有するSi@C/G/C-5は、100サイクルにわたって88.0%の容量を維持し、これはLSC(SBRなし)バインダー(#2)を有するSi@C/G/C-5の72.8%、CMC+SBRバインダーを有するSi@C/G/C-5の68.4%(#3)およびCMCバインダーを有するSi@C/G/C-5の63.4%(#4)よりも高い。結果は、多官能ポリマーバインダーがSi/G/C複合アノードの容量保持に有益であることを示している。
【0163】
図9は、0.3C(200mA/g)での様々なバインダーを有するSi@C/G/C-5.1のレート性能を示している。LSCRバインダー(#1)を有するSi@C/G/C-5は、0.15C、0.3C、0.45C、0.75C、1.5C、3Cでそれぞれ606、581、559、522、376、および241mAh/gの比容量をもたらすことができ、LSCバインダー(#2)、CMC + SBRバインダー(#3)、CMCバインダー(#4)を有する電極よりも優れているが、一方CMCバインダー(#4)を有する電極は1.5C、3Cでそれぞれ234および146mAh/gの最も低い容量をもたらした。本発明者らは、驚くべきことに、標準的な工業用CMC:SBRバインダー(すなわち、Si@C/G/Cで使用;実施例2)と比較して、本発明のLSCRバインダーの使用によって、同じダブルカーボンコーティングされたアノードの容量の保持が向上したことを見出した。これは、得られたリチウムイオン電池の向上したサイクル性能およびクーロン効率を含む、本発明のLSCRバインダーの有益な効果を示している。
【0164】
図10は様々なバインダーを有する未使用のおよび100サイクルしたSi@C/G/C-5アノードのSEM画像の比較を示している。(a)および(b)はCMCバインダー、(c)および(d)はCMC+SBRバインダー、(e)および(f)はLSCバインダー、(g)および(h)はLSCRバインダーを有する未使用のおよび100サイクルしたSi@C/G/C-5アノードを指している。図10(b)および(d)は、電極表面全体にはっきりとした微小亀裂を示しているが、100サイクル後のLSCRバインダーの場合、明らかな亀裂は観察されない。これは、100回の充電/放電サイクル後の電極の完全性が優れていることを示している。
【0165】
図11は様々なバインダーの粘度の比較を示している。SBRバインダーは最も低い粘度を示しているが、LSCRバインダーは最も高い粘度を示している。この結果によって、LSCRバインダーが、サイクル中の体積変化によって引き起こされる応力に耐え、アノードの完全性を維持することを証明した。
【0166】
任意の実施形態はまた、本明細書で参照または示される部分、要素、工程および/または特徴を、個別に、または2つ以上の部品、要素、工程および/または特徴の任意の組み合わせで広く含むと言うことができ、そこでは本発明が関係する当技術分野で既知の同等物を有する特定の整数が言及されており、こうした既知の同等物は、個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれるとみなされる。
【0167】
好ましい実施形態を詳細に説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの修正、変更、置換、または変化が当業者には明らかであることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】