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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-10
(54)【発明の名称】摩擦を制限するための潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 161/00 20060101AFI20230203BHJP
   C10M 145/38 20060101ALN20230203BHJP
   C10M 129/72 20060101ALN20230203BHJP
   C10M 129/74 20060101ALN20230203BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20230203BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20230203BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20230203BHJP
【FI】
C10M161/00
C10M145/38
C10M129/72
C10M129/74
C10N20:04
C10N40:25
C10N30:06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536505
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(85)【翻訳文提出日】2022-07-28
(86)【国際出願番号】 EP2020085748
(87)【国際公開番号】W WO2021116401
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】1914410
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ドゥボール,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】シャラン,カトリーヌ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB33C
4H104BB34C
4H104CB14C
4H104DA02A
4H104EA03C
4H104EB05
4H104EB06
4H104EB07
4H104EB08
4H104LA03
4H104PA41
(57)【要約】
本出願は、潤滑剤組成物の総重量との関係において:
- 少なくとも1つの基油と;
- 0.005~10重量%の少なくとも1つのポリマー有機摩擦調整剤と;
- 0.005~10重量%の、1~10個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の、直鎖、環状または分岐一価アルコールとポリカルボン酸との間、あるいは、直鎖、環状または分岐ポリオールと1~10個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の、直鎖、環状または分岐カルボンモノ酸との間のエステル化反応の生成物である少なくとも1つのエステルと;
を含む潤滑剤組成物において、
前記ポリマー有機摩擦調整剤が、化学式(I):
【化1】
の化合物であり、
式中、Rは、少なくともm個の水素原子を有する基の残基であり、mは2超であり;
AOはアルキレンオキシド残基であり;
nは0~100であり;
は、水素原子またはC-(O)-R基であり、ここでRは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ポリヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸オリゴマー残基およびヒドロキシアルケニルカルボン酸オリゴマー残基からなるリストの中から選択された残基であり、ここで平均して少なくとも2個のR基がアシルである、
潤滑剤組成物に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤組成物の総重量に基づいて、
- 少なくとも1つの基油と、
- 0.005~10重量%の少なくとも1つのポリマー有機摩擦調整剤と、
- 0.005~10重量%の、1~10個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の、直鎖、環状または分岐一価アルコールとポリカルボン酸との間、あるいは、直鎖、環状または分岐ポリオールと1~10個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の、直鎖、環状または分岐モノカルボン酸との間のエステル化反応の生成物である少なくとも1つのエステルと、
を含む潤滑剤組成物において、
前記ポリマー有機摩擦調整剤が、化学式(I)、
【化1】
の化合物であり、
式中、Rは、少なくともm個の水素原子を有する基の残基であり、mは2超であり、
AOはアルキレンオキシド残基であり、
nは0~100であり、
は、水素原子またはC-(O)-R基であり、ここでRは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ポリヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸オリゴマー残基およびヒドロキシアルケニルカルボン酸オリゴマー残基からなるリストの中から選択された残基であり、ここで平均して少なくとも2個のR基がアシルである、
潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記ポリマー有機摩擦調整剤が、3000~8000ダルトンの重量平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エステルが、
- 1~10個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有するモノカルボン酸とグリセロールのトリエステル、および
- 1~10個の炭素原子、より優先的には2~8個の炭素原子を有する一価アルコールとクエン酸のトリエステル、および
- それらの混合物、
の中から選択される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記エステルが、グリセロールトリヘプタノエート、トリエチルシトレート、トリブチルシトレートおよびそれらの混合物の中から選択される、請求項1から3のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項5】
潤滑剤組成物の総重量に基づいて、
- 少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは70重量%の単数または複数の基油と、
- 0.005~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%の単数または複数のポリマー有機摩擦調整剤と、
- 0.005~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%の、グリセロールエステル、クエン酸エステル、酒石酸エステルおよびそれらの混合物の中から選択された単数または複数のエステルと、
- 任意には、0.005~30重量%、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは1~20重量%の、好ましくは洗剤添加剤、リン硫黄系添加剤以外の耐摩耗添加剤、摩擦調整添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点降下剤、消泡剤、増粘剤およびそれらの混合物の中から選択された、ポリマー有機摩擦調整剤およびグリセロールエステル、クエン酸エステルおよび酒石酸エステル以外の単数または複数の機能性添加剤と、
を含む、請求項1から4のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項6】
2つの機械的部品の間、好ましくは車両のエンジンなどのエンジンの2つの部品間の摩擦を低減するための、請求項1から5のいずれか一つに記載の組成物の使用。
【請求項7】
部品、詳細にはエンジン部品の摩耗を低減するための、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
機械的部品、詳細にはエンジン内、特に内燃エンジン内の機械的部品を潤滑するための方法において、請求項1から5のいずれか一つに記載の潤滑剤組成物と部品を接触させる少なくとも1つのステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、詳細には機械的部品の間、好ましくは車両のエンジンなどのエンジンの2つの部品間の摩擦を低減するための新規の潤滑剤組成物に関する。例えば、本発明に係る潤滑剤組成物は、内燃エンジン、詳細には車両のエンジン、詳細には自動車両のエンジンを潤滑するために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
潤滑剤の目的は、特に車両エンジン、そしてより詳細には自動車両内の機械的部品の摩擦および摩耗を低減することにある。
【0003】
これらの摩擦現象を低減するためには、潤滑剤中に摩擦調整剤を包含させることが公知である。
【0004】
摩擦調整剤の中でも、有機モリブデン化合物は、その減摩特性が広く記述されてきた化合物族を代表するものである。しかしながら、有機モリブデン化合物、詳細にはジチオカルバメート基を含む有機モリブデン化合物の使用が機械的部品の摩耗を悪化させ得ることは、当業者にとって公知である。そこで、2つの機械的部品間の摩擦を低減するための他の解決法が提案された。
【0005】
これらの代替案のうち、現在、ポリマー有機摩擦調整剤が時として使用されている。
例えば、国際公開第2011/116049号は、有利な1つのタイプのポリマー有機摩擦調整剤について記載している。
【0006】
このタイプのポリマー摩擦調整剤は、企図されている利用分野には時として高過ぎることもある機械的部品間の摩擦係数を達成することを可能にする。
【0007】
したがって、機械的部品間の摩擦を低減するための潤滑剤組成物を提供することが特に関心の的となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/116049号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本出願の1つの目的は、機械的部品間の摩擦を低減するための潤滑剤組成物を提供することにある。
【0010】
さらなる目的は、本発明の以下の説明から明らかになるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて:
- 少なくとも1つの基油と;
- 0.005~10重量%の少なくとも1つのポリマー有機摩擦調整剤と;
- 0.005~10重量%の、1~10個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の、直鎖、環状または分岐一価アルコールとポリカルボン酸との間、あるいは、直鎖、環状または分岐ポリオールと1~10個の炭素原子を有する飽和もしくは不飽和の、直鎖、環状または分岐モノカルボン酸との間のエステル化反応の生成物である少なくとも1つのエステルと;
を含む潤滑剤組成物において、
前記ポリマー有機摩擦調整剤が、化学式(I):
【化1】
の化合物であり、
式中、Rは、少なくともm個の水素原子を有する基の残基であり、mは2超であり;
AOはアルキレンオキシド残基であり;
nは0~100であり;
は、水素原子またはC-(O)-R基であり、ここでRは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ポリヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸オリゴマー残基およびヒドロキシアルケニルカルボン酸オリゴマー残基からなるリストの中から選択された残基であり、ここで平均して少なくとも2個のR基がアシルである、
潤滑剤組成物を提供する本発明によって達成される。
【0012】
より詳細には、発明者らは、意外にも、上述のタイプのポリマー有機摩擦調整剤と、好ましくはグリセロールエステル、クエン酸エステル、酒石酸エステルおよびそれらの混合物の中から選択されたエステルとの組合せが、機械的部品間の摩擦係数を著しく改善することを発見した。
【0013】
実際、発明者らは、エステル、より詳細にはグリセロールエステル、クエン酸エステル、酒石酸エステルおよびそれらの混合物の中から選択されたエステルが、ポリマー有機摩擦調整剤の効果を意外にも上昇させることを可能にするということを発見した。
【0014】
別の好ましい変形形態によると、ポリマー有機摩擦調整剤は、3000~8000ダルトンの重量平均分子量を有する。重量平均分子量は、立体排除クロマトグラフィによって測定可能である。
【0015】
国際公開第2011/116049号は、例えば、ポリマー有機摩擦調整剤について記載している。
【0016】
ポリマー有機摩擦調整剤は、中心基Rの周りに構築される。
【0017】
中心基Rは、少なくともm個の水素原子を含む化合物の残基であり、前記m個の水素原子の除去後に得られる。
【0018】
好ましくは、m個の水素原子は、アミノ基およびヒドロキシル基の中から選択された基の水素原子であり、有利にはヒドロキシル基の水素原子である。
【0019】
好ましくは、中心基Rは、詳細にはC3~C30の置換されたヒドロカルビル化合物である、置換されたヒドロカルビル基の残基である。
【0020】
好ましくは、中心基Rは、少なくともm個の水素原子を含む化合物の、m個の水素原子の除去後に得られる残基であり、前記化合物は以下のものの中から選択される:
- グリセロールおよびポリグリセロール、詳細にはジグリセロールおよびトリグリセロール、グリセロールおよびポリグリセロールの部分エステル、例えばヒマシ油などの少なくとも2つのヒドロキシル基を含むトリグリセリド;
- トリオール、ポリオール、例えばトリメチロールエタン、トリメチロールプロパンおよびペンタエリスリトール、ポリオールの部分エステル;
- 糖類、詳細には非還元糖、例えばソルビトール、マンニトールおよび、ラクチトール、エーテル化糖誘導体、例えばソルビタン(ソルビトールの環状デヒドロエーテル)、糖類の部分アルキルアセタール、例えばメチルグルコース、アルキルサッカリド、アルキルポリサッカリド、糖類のオリゴマーおよび糖類のポリマー、例えばデキストリン部分エステル化糖誘導体、例えば、好ましくはラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸およびベヘン酸の中から選択された脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、ソルビトールエステル、スクロースエステル、アミノサッカリド、例えばN-アルキルグルカミンおよび対応するN-アルキル-N-アルケノイルグルカミド;
- ポリヒドロキシカルボン酸、詳細にはクエン酸および酒石酸;
- 二官能性アミンおよび多官能性アミンを含めたアミン、詳細には、エチレンジアミン(1,2-ジアミノエタン)などのアルキルジアミンを含めたアルキルアミン;
- アミノアルコール、詳細にはエタノールアミン、2-アミノエタノール、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン;
- カルボン酸アミド、例えば尿素、マロンアミドおよびスクシンアミド;および
- アミドカルボン酸、例えばスクシンアミド酸。
【0021】
好ましくは、中心基Rは、少なくともm個の水素原子を含む化合物の、m個の水素原子の除去後に得られる残基であり、前記化合物は、少なくとも3個、好ましくは4~10個、特に5~8個、有利には6個の、アミノ基およびヒドロキシル基の中から選択された基を有する。
【0022】
好ましくは、中心基Rは、少なくとも3個、好ましくは4~10個、特に5~8個、有利には6個のヒドロキシル基を含む化合物の残基である。
【0023】
さらに一層好ましくは、中心基Rは、C4~C7の直鎖、より好ましくはC6を含む。
【0024】
ヒドロキシル基またはアミノ基は好ましくは、中心基Rの直鎖の炭素原子に対して直接連結されている。
【0025】
有利には、中心基Rは、開鎖テトラトール、開鎖ペンチトール、開鎖ヘキシトールおよび開鎖ヘプチトールの中から選択された化合物の残基、またはテトラトール、ペンチトール、ヘキシトールおよびヘプチトールの中から選択された化合物から誘導された無水化合物の残基、例えばテトラトール、ペンチトール、ヘキシトールおよびヘプチトールの中から選択された化合物から誘導された無水シクロエーテル基である。
【0026】
特に好ましい実施形態において、中心基Rは糖類の残基、より好ましくは、好ましくはグルコース、フルクトースおよびソルビトールの中から選択されたモノサッカリドの残基、好ましくはマルトース、パリトース、ラクチトールおよびラクトースの中から選択されたジサッカリドの残基、または2超の重合度を有するオリゴサッカリドの残基である。
【0027】
有利には、中心基Rは、好ましくはグルコース、フルクトースおよびソルビトールの中から選択されたモノサッカリドの残基、特にソルビトール残基である。
【0028】
中心基Rは、好ましくは開鎖形である。しかしながら、中心基Rは、中心基R合成経路がそれを比較的高い温度またはそのような環化に有利に作用する他の条件に曝露する場合、内部環状エーテル官能基も含み得る。
【0029】
指数mは、中心基Rの官能性の尺度である。
【0030】
指数mは、好ましくは3超、好ましくは4以上で10以下、詳細には5以上で8以下、有利には5以上で6以下である。
【0031】
指数mは、整数または小数であり得る。
【0032】
基は、化学式(I)のポリマー有機摩擦調整剤の(ポリ)アルキレンオキシド鎖の末端基である。
【0033】
は、水素原子またはC-(O)-R基であり、式中Rは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸の残基、ポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルケニルカルボン酸の残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸のオリゴマーの残基、および/またはポリヒドロキシアルケニルカルボン酸のオリゴマーの残基である。
【0034】
ヒドロキシアルキルカルボン酸およびヒドロキシアルケニルカルボン酸は、化学式HO-X-COOHを有し、ここでXは、少なくとも8個そして多くとも20個の炭素原子、典型的には11~17個の炭素原子を含む二価の飽和または不飽和の、好ましくは飽和の、脂肪族ラジカルであり、ヒドロキシル基とカルボン酸基の間には少なくとも4個の炭素原子が存在する。
【0035】
好ましくは、ヒドロキシアルキルカルボン酸は、12-ヒドロキシステアリン酸である。
【0036】
実際には、ヒドロキシアルキルカルボン酸は、ヒドロキシ酸および対応する非置換脂肪酸の混合物として市販されている。例えば、12-ヒドロキシステアリン酸は典型的には、水素化の時点で12-ヒドロキシステアリン酸とステアリン酸の混合物を提供する非置換脂肪酸(オレイン酸およびリノール酸)および不飽和のC18ヒドロキシ酸を含むヒマシ油脂肪酸を水素化することによって作られる。
【0037】
市販の12-ヒドロキシステアリン酸は典型的には、約5~8%の非置換ステアリン酸を含む。
【0038】
ポリヒドロキシアルキルカルボン酸およびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸は、それぞれ、ヒドロキシアルキルカルボン酸またはヒドロキシアルケニルカルボン酸の重合によって製造される。ヒドロキシアルキルカルボン酸およびヒドロキシアルケニルカルボン酸は、上記で定義された通りである。
【0039】
市販のヒドロキシアルキルカルボン酸中の対応する非置換脂肪酸の存在は、停止剤として作用し、ひいてはポリマーの鎖長を制限する。好ましくは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸中およびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸中のモノマーユニットの数は、平均2~10個、好ましくは4~8個、有利には約7個である。
【0040】
ポリヒドロキシアルキルカルボン酸およびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸の分子量は、典型的には600~3000g/mol、詳細には900~2700g/mol、より詳細には1500~2400g/mol、そして有利には約2100g/molである。
【0041】
ポリヒドロキシアルキルカルボン酸およびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸は、50mgKOH/g未満、好ましくは30~35mgKOH/gの残留酸価により特徴付けられる。
【0042】
好ましくは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸およびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸のヒドロキシル価は、40mgKOH/g以下、有利には20~30mgKOH/gである。
【0043】
ヒドロキシアルキルカルボン酸オリゴマーおよびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸オリゴマーは、末端が、対応する非置換脂肪酸でないという点において、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸およびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸と異なっている。望ましくは、ヒドロキシアルキルカルボン酸オリゴマーおよびポリヒドロキシアルケニルカルボン酸オリゴマーは、それぞれ、ヒドロキシアルキルカルボン酸およびヒドロキシアルケニルカルボン酸のダイマーである。
【0044】
アルキレンオキシド残基AOは、rが2、3または4、好ましくは2または3である化学式-(C2rO)の基すなわち、エチレンオキシド残基(-CO-)またはプロピレンオキシド残基(-CO-)である。AOは、アルキレンオキシド鎖(AO)に沿った異なる基を表わし得る。
【0045】
好ましくは、(AO)は、nが1~100である化学式(-CO-)のホモポリマー鎖である。
【0046】
代替的には、(AO)は、nが1~100である化学式(-CO-)のプロピレンオキシド基のホモポリマー鎖である。
【0047】
代替的には、(AO)は、エチレンオキシド(-CO-)およびプロピレンオキシド(-CO-)残基の両方を含むブロックまたはランダムコポリマー鎖である。この実施形態によると、コポリマー鎖内のエチレンオキシドユニット(-CO-)のモル比は、少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%である。
【0048】
パラメータnは、(ポリ)アルキレンオキシド(AO)鎖内のアルキレンオキシド残基の数を表わす。好ましくは、nは2~50、好ましくは3~20、有利には5~10である。指数nの合計(すなわちn×m)は、好ましくは10~300、好ましくは20~100、特に5~70、有利には30~50である。指数nの値は、鎖の長さの統計的変動を含む平均値である。
【0049】
化学式(I)のポリマー有機摩擦調整剤中のアシル残基-C-(O)-Rの数がmよりも著しく小さい場合、これらの基の分布は中心基Rの性質によって左右される。
【0050】
中心基Rがペンタエリスリトールから誘導される場合、ペンタエリスリトールのアルコキシル化は、1つの水素を除去するために4つの利用可能な部位全体にわたって均等に分布させられ、アシル基の分布は予期されたランダム分布に近い。
【0051】
中心基Rが、m個の水素原子が等価でない化合物、例えばソルビトールから誘導される場合、アルコキシル化により不等長の(ポリ)アルキレンオキシド鎖が得られることになる。より短い(ポリ)アルキレンオキシド鎖上への-C-(O)-R残基のエステル化による導入は、より長い(ポリ)アルキレンオキシド鎖が及ぼす強い立体効果に起因して、比較的困難であり得る。この場合、-C-(O)-Rアシル残基のエステル化による導入は、より長い(ポリ)アルキレンオキシド鎖内で優先的に発生する。
【0052】
化学式(I)のポリマー有機摩擦調整剤は、少なくともm個の水素原子を含む化合物から調製される。
【0053】
化学式(I)のポリマー有機摩擦調整剤の調製における第1のステップは、少なくともm個の水素原子を含む基のアルコキシル化である。アルコキシル化は、当業者にとって周知の技術によって、例えば少なくともm個の水素原子を含む化合物を所要量のアルキレンオキシド、例えばエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドと反応させることによって実施される。
【0054】
化学式(I)のポリマー有機摩擦調整剤の調製における第2のステップは、第1のステップから得たアルコキシル化された種を、最高250℃の温度で、標準的な触媒エステル化条件下で、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸および/またはポリヒドロキシアルケニルカルボン酸および/またはヒドロキシアルキルカルボン酸および/またはヒドロキシアルケニルカルボン酸と反応させることである。
【0055】
本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて0.005~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、より好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%の、上記で定義した通りのポリマー有機摩擦調整剤を含む。
【0056】
本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて0.005~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%のグリセロールエステル、クエン酸エステル、酒石酸エステル、およびそれらの混合物の中から選択された少なくとも1つのエステルを含む。
【0057】
本発明にしたがって使用されるエステルは、モノエステル、ジエステルまたはトリエステルであってよい。それはモノエステル、ジエステルおよび/またはトリエステルの混合物であり得る。好ましくは、本発明にしたがって使用されるエステルは、少なくとも1つのトリエステルを含む。
【0058】
好ましくは、エステルは、グリセロールエステル、クエン酸エステルおよびそれらの混合物の中から選択される。
【0059】
本発明の一実施形態によると、グリセロールエステルは、1~10個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有するカルボン酸とグリセロールのエステルである。好ましくは、カルボン酸は、モノカルボン酸である。本発明の一実施形態において、グリセロールエステルは、グリセロールヘプタノエートおよびその混合物の中から選択される。
【0060】
グリセロールエステルを調製するために使用されるカルボン酸は、任意にはヒドロキシルおよび/またはエポキシ基で置換されている、飽和または不飽和の直鎖、環状または分岐カルボン酸である。
【0061】
好ましくは、グリセロールエステルを調製するために使用されるカルボン酸は、直鎖飽和であり、炭素原子および水素原子からなる炭化水素鎖を有する。換言すると、特定の一実施形態によると、グリセロールエステルを調製するために使用されるカルボン酸は、酸官能基のもの以外のいかなるヘテロ原子も含まない。
【0062】
一実施形態において、グリセロールエステルは、再生可能な資源由来の原料から得られる。グリセロールエステルを形成するために使用可能なカルボン酸は、例えば、単独でまたは混合した形で取上げられる、植物油、動物または植物由来の脂肪から誘導されたカルボン酸、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ソルビン酸、イソ吉草酸である。別の実施形態においては、グリセロールエステルは、化石由来の原料から得られる。これらは、合成カルボン酸として知られている。単独でまたは混合した形で取上げられる、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸などの合成カルボン酸も使用可能である。
【0063】
本発明において使用されるグリセロールエステルは、当業者にとって周知の方法、例えばカルボン酸とグリセロールを反応させることによって得ることができる。当業者にとって周知であるこれらの化学反応は、触媒を伴ってまたは伴わずに、溶媒を伴ってまたは伴わずに発生し得る。
【0064】
一実施形態によると、本発明に係る潤滑剤組成物において使用されるグリセロールエステルは、グリセロールトリヘプタノエートである。
【0065】
一実施形態によると、酒石酸エステルは、1~10個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有するアルコールと酒石酸のエステルである。好ましくは、酒石酸エステルを調製するために使用されるアルコールはモノアルコールである。
【0066】
本発明の一実施形態において、酒石酸エステルは、酒石酸トリエステルの中から選択される。
【0067】
一実施形態によると、クエン酸エステルは、1~10個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有するアルコールとクエン酸のエステルである。好ましくは、クエン酸エステルを調製するために使用されるアルコールはモノアルコールである。
【0068】
本発明の一実施形態において、クエン酸エステルは、クエン酸トリエステルの中から選択される。
【0069】
クエン酸エステルまたは酒石酸エステルを調製するために使用されるアルコールは、任意には酸および/またはエポキシ基で置換されている、飽和または不飽和の直鎖、環状または分岐アルコールである。
【0070】
好ましくは、クエン酸エステルまたは酒石酸エステルを調製するために使用されるアルコールは、直鎖飽和であり、炭素原子および水素原子からなる炭化水素鎖を有する。換言すると、特定の実施形態によると、クエン酸エステルまたは酒石酸エステルを調製するために使用されるアルコールは、ヒドロキシル官能基のもの以外のいかなるヘテロ原子も含まない。
【0071】
本発明において使用されるクエン酸エステルまたは酒石酸エステルは、当業者にとって周知の方法、例えばクエン酸または酒石酸と単数または複数のアルコールを反応させることによって得ることができる。当業者にとって周知であるこれらの化学反応は、触媒を伴ってまたは伴わずに、溶媒を伴ってまたは伴わずに発生し得る。
【0072】
一実施形態において、クエン酸エステルは、トリエチルシトレート、トリブチルシトレートおよびそれらの混合物の中から選択される。
【0073】
本発明の一実施形態によると、潤滑剤組成物のエステルは、
- 1~10個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有するモノカルボン酸とグリセロールのトリエステル;および
- 1~10個の炭素原子、好ましくは2~8個の炭素原子を有する一価アルコールとクエン酸のトリエステル;および
- それらの混合物、
の中から選択される。
【0074】
本発明の一実施形態によると、潤滑剤組成物のエステルは、グリセロールトリヘプタノエート、トリエチルシトレート、トリブチルシトレートおよびそれらの混合物の中から選択される。
【0075】
本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、好ましくは、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、さらには少なくとも70重量%の量で単数または複数の基油を含む。
【0076】
基油は、当業者にとって公知である鉱物、合成または天然、動物性または植物性の潤滑用基油の中から選択され得る。
【0077】
本発明に係る潤滑剤組成物中で使用される基油は、API分類中で定義されている部類(またはATIEL分類にしたがったそれらの等価物)にしたがって、I~V群に属する鉱物または合成起源の油(表1)またはそれらの混合物であってよい。
【0078】
【表1】
【0079】
本発明に係る鉱物基油には、原油の常圧蒸留および真空蒸留とそれに続く溶媒抽出、脱アルカリ化、溶媒脱ろう、水素処理、水素化分解、水素異性化および水素精製などの精製作業によって得られる全てのタイプの基油を含む。
【0080】
合成油と鉱油の混合物も使用可能である。
【0081】
概して、本発明に係る潤滑剤組成物を製造するための異なる潤滑基剤の使用には、それらの使用のために好適である特に粘度、粘度指数、硫黄含有量、耐酸化性という特性を有していなければならないということを除いて、全く制限はない。
【0082】
本発明に係る潤滑剤組成物の基油は、カルボン酸およびアルコールのいくつかのエステルなどの合成油から、そしてポリアルファオレフィンの中から選択されてもよい。基油として使用されるポリアルファオレフィンは、例えば4~32個の炭素原子を伴うモノマーから、例えばオクテンまたはデセンから得られ、その100℃における粘度は、ASTM D445にしたがって1.5~15mm×s-1である。それらの平均分子量は概して、ASTM D5296にしたがって250~3000である。
【0083】
1つの特定の実施形態によると、本発明に係る潤滑剤組成物は、組成物の総重量との関係において、60重量%~99.5重量%の基油、好ましくは70重量%~99.5重量%の基油を含む。
【0084】
本発明に係るこの潤滑剤組成物のためには、多くの追加の添加剤を使用することができる。
【0085】
本発明に係る潤滑剤組成物のための好ましい追加の添加剤は、洗剤添加剤、リン硫黄系添加剤以外の耐摩耗添加剤、上記で定義されたポリマー有機摩擦調整剤以外の摩擦調整添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点降下剤、消泡剤、増粘剤およびそれらの混合物の中から選択される。
【0086】
好ましくは、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて:
- 少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%、より好ましくは70重量%の単数または複数の基油と;
- 0.005~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%の単数または複数のポリマー有機摩擦調整剤と;
- 0.005~10重量%、好ましくは0.05~5重量%、好ましくは0.1~3重量%、より好ましくは0.2~2重量%の、グリセロールエステル、クエン酸エステル、酒石酸エステルおよびそれらの混合物の中から選択された単数または複数のエステルと;
- 任意には0.005~30重量%、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは1~20重量%の、好ましくは洗剤添加剤、リン硫黄系添加剤以外の耐摩耗添加剤、摩擦調整添加剤、極圧添加剤、分散剤、流動点降下剤、消泡剤、増粘剤およびそれらの混合物の中から選択された、ポリマー有機摩擦調整剤およびグリセロールエステル、クエン酸エステルおよび酒石酸エステル以外の単数または複数の機能性添加剤と;
を含む。
【0087】
リン酸アミンは、本発明に係る潤滑剤組成物中に使用可能な耐摩耗添加剤である。しかしながら、これらの添加剤によって提供されるリンは、これらの添加剤が灰分を発生させることから、自動車の触媒系に対して有害なものとして作用する可能性がある。これらの影響は、非リン添加剤、例えば多硫化物、特に含硫オレフィンでリン酸アミンを部分的に置換することによって最小限に抑えることができる。
【0088】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて0.01~6重量%、好ましくは0.05~4重量%、より好ましくは0.1~2重量%の耐摩耗添加剤および極圧添加剤を含み得る。
【0089】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、上記で定義されたポリマー有機摩擦調整剤とは異なる少なくとも1つの追加の摩擦調整剤添加剤を含み得る。追加の摩擦調整剤添加剤は、金属元素を提供する化合物および無灰化合物の中から選択され得る。金属元素を提供する化合物としては、その配位子が、酸素、窒素、硫黄またはリン原子を含む炭化水素化合物であり得るSb、Sn、Fe、Cu、Zn、Moなどの遷移金属錯体を挙げることができる。
【0090】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの酸化防止剤添加剤を含み得る。
【0091】
酸化防止剤添加剤は概して、使用中の潤滑剤組成物の分解を遅延させる。この分解は、結果として推積物の形成、スラッジの存在または潤滑剤組成物の粘度の上昇をもたらし得る。
【0092】
酸化防止剤添加剤は、ラジカル阻害剤またはヒドロペルオキシド破壊剤として作用する。一般的に使用される酸化防止剤添加剤としては、フェノール系酸化防止剤添加剤、アミン酸化防止剤添加剤およびリン硫黄系酸化防止剤添加剤が含まれる。これらの酸化防止剤添加剤のいくつか、例えばリン硫黄系酸化防止剤添加剤は、灰形成性であり得る。フェノール系酸化防止剤添加剤は、無灰であるか、あるいは中性または塩基性金属塩の形態をしている可能性がある。酸化防止剤添加剤は、詳細には、立体障害型フェノール、立体障害型フェノールエステルおよび、チオエーテル架橋、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC~C12のアルキル基によって置換されたジフェニルアミン、N,N’-ジアルキル-アリール-ジアミンを含む立体障害型フェノールおよびそれらの混合物の中から選択され得る。
【0093】
好ましくは、本発明によると、立体障害型フェノールは、アルコール官能基を担持する炭素の少なくとも1つの隣接炭素が少なくとも1つのC~C10のアルキル基、好ましくはC~Cのアルキル基、好ましくはCのアルキル基、好ましくはTer-ブチル基によって置換されているフェノール基を含む化合物の中から選択される。
【0094】
アミノ化合物は、場合によってはフェノール系酸化防止剤添加剤と組合わせた形で使用可能である別の部類の酸化防止剤添加剤である。アミノ化合物の例としては、芳香族アミン、例えばNRなる化学式の芳香族アミンがあり、ここで式中、Rは、任意には置換されている脂肪族基または芳香族基を表わし、Rは、任意には置換されている芳香族基を表わし、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基またはR10S(O)11なる化学式の基を表わし、ここでR10はアルキレン基またはアルケニレン基を表わし、R11はアルキル基、アルケニル基またはアリール基を表わし、zは0、1または2を表わす。
【0095】
硫化アルキルフェノールまたはそれらのアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩も、酸化防止剤添加剤として使用可能である。
【0096】
別の部類の酸化防止剤添加剤は、銅化合物、例えば銅チオホスホネートまたは銅ジチオホスホネート、カルボン酸の銅塩、ジチオカルバメート、スルホネート、フェネート、銅アセチルアセトネートである。銅(I)および銅(II)塩、コハク酸または無水物塩も使用可能である。
【0097】
本発明に係る潤滑剤組成物は、当業者にとって公知のあらゆるタイプの酸化防止剤添加剤を含んでもよい。
【0098】
有利には、潤滑剤組成物は、少なくとも1つの無灰酸化防止剤添加剤を含む。
【0099】
同等に有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、組成物の総質量に基づいて0.5~2重量%の少なくとも1つの酸化防止剤添加剤を含む。
【0100】
本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの洗剤添加剤も含んでいてよい。
【0101】
洗剤添加剤は概して、酸化および燃焼副産物を溶解することによって、金属部分の表面上の堆積物の形成を削減する。
【0102】
本発明に係る潤滑剤組成物中で使用される洗剤添加剤は概して、当業者にとっては公知のものである。洗剤添加剤は、親油性炭化水素長鎖と親水性頭部を含むアニオン化合物であり得る。付随するカチオンは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の金属カチオンであり得る。
【0103】
洗剤添加剤は、好ましくは、カルボン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩、スルホネート、サリチレート、ナフテネートおよびフェネートの中から選択される。アルカリ金属およびアルカリ土類金属は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウムまたはバリウムである。
【0104】
これらの金属塩は概して、化学量論量のまたは過剰の、すなわち化学量論量よりも多い量の金属を含む。これらは、過塩基化洗剤添加剤であり、洗剤に対して過塩基化特性を付与する過剰の金属は、概して不油溶性金属塩、例えばカーボネート、ヒドロキシド、オキサレート、アセテート、グルタメートの形態、好ましくはカルボネートの形態をしている。
【0105】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量との関係において2重量%~4重量%の洗剤添加剤を含み得る。
【0106】
同等に有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの流動点降下剤添加剤も含み得る。
【0107】
パラフィン結晶の形成を減速させることにより、流動点降下剤添加剤は概して、本発明に係る潤滑剤組成物の低温挙動を改善する。
【0108】
流動点降下剤添加剤の例としては、アルキルポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、アルキル化ポリスチレンがある。
【0109】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、少なくとも1つの分散剤も含み得る。
【0110】
分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミドおよびそれらの誘導体の中から選択され得る。
【0111】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の総重量に基づいて、0.2重量%~10重量%の分散剤を含み得る。
【0112】
本発明の潤滑剤組成物は、粘度指数を改善することのできる少なくとも1つの追加のポリマーも含み得る。追加の粘度指数改善ポリマーの例は、スチレン、ブタジエンおよびイソプレンのポリマーエステル、水素化または非水素化ホモポリマーまたはコポリマー、ポリメタクリレート(PMA)である。
【0113】
本発明は、金属部品の潤滑のため、詳細にはエンジン、特に内燃エンジン、例えば車両のエンジンの潤滑のための、上記で定義された通りの潤滑剤組成物の使用にも関する。
【0114】
有利には、本発明に係る潤滑剤組成物は、摩擦、詳細には2つの機械的部品の間、例えばエンジン、詳細には内燃エンジン、例えば車両のエンジンの2つの部品間の摩擦を低減することを可能にする。
【0115】
したがって、本発明は、機械的部品、例えばエンジン、詳細には車両のエンジンの部品の摩耗を低減するための、本発明に係る潤滑剤組成物の使用に関する。
【0116】
本出願は、部品を本発明に係る潤滑剤組成物と接触させる少なくとも1つのステップを含む、機械的部品、詳細にはエンジン内、例えば内燃エンジン内の機械的部品を潤滑する方法にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0117】
ここで、非限定的な実施例を用いて、本発明について説明する。
【0118】
実施例1:潤滑剤組成物
表2中に示された割合を提供することを目的として、基油、粘度指数改善剤および添加剤パッケージを含む組成物中に60℃でエステルおよび/またはポリマー摩擦調整剤を混合することによって、表2中の組成物(LC:本発明に係る潤滑剤組成物;CC:比較用組成物)を調製した。示した百分率は、エステルおよび/またはポリマー摩擦調整剤を含む潤滑剤組成物100重量%に基づくものである。
【0119】
【表2】
* 化学式(I)
【化2】
の化合物である有機摩擦調整剤であって、
式中、Rは、少なくともm個の水素原子を有する基の残基であり、mは2超であり;
AOはアルキレンオキシド残基であり;
nは0~100であり;
は、水素原子またはC-(O)-R基であり、ここでRは、ポリヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ポリヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸残基、ヒドロキシアルケニルカルボン酸残基、ヒドロキシアルキルカルボン酸オリゴマー残基およびヒドロキシアルケニルカルボン酸オリゴマー残基からなるリストの中から選択された残基であり、ここで平均して少なくとも2個のR基がアシルである。
** 洗剤、分散剤、酸化防止剤および耐摩耗剤を含む。
【0120】
実施例2:トライボロジー試験結果
以下の条件下でトライボロジー試験を実施した。
【0121】
【表3】
【0122】
硬化鋼平面上で直径2cmの硬化鋼球を用いてMTM(Mini Traction Machine)装置を使用して100℃で、試験された潤滑剤組成物の摩擦係数を決定した。
【0123】
MTM装置は、PCS Instrumentsの装置であり得る。この装置は、鋼球および鋼平面を互いとの関係において移動させて、速度、荷重および温度などのさまざまな特性を変動させながら所与の潤滑剤組成物についての摩擦係数を決定することを可能にする。
【0124】
硬化鋼平面は、鏡面仕上げ(0.01μm未満のRa)を有するAISI 52100であり、球も、硬化鋼製のAISI 52100である。
【0125】
印加された荷重は、30N(0.96Gpa)であり、回転速度は、0.007m/sから3m/sまで変動する。
【0126】
試験対象の潤滑剤組成物おおよそ50mlを装置内に導入した。球を平面と対面して係合させ、この球と平面は独立して起動されて混合型転がり/滑り接触を創出する。
【0127】
力センサを用いて、摩擦係数を測定し、記録する。
【0128】
121分間(スリップ-スリップ周期とストライベック周期の間で交番させる)試験を行なう。速度を当初、0.1m/sで恒常に保ち、表中に定義されている各間隔で、速度を1分間で3m/sから0.007m/sまで変化させてから、前記定義された周期の終了時に0.1m/sの速度まで戻す。
【0129】
こうして摩擦係数は、定義された速度の関数として測定される。
【0130】
表5は、摩擦係数とスリップ速度の関係という観点で表現された、表2中の組成物についての結果を示す。
【0131】
【表4】
【0132】
結果は以下のことを示している:
- エステルは、ポリマー摩擦調整剤無しで単独で使用する場合、摩擦係数に対する有意な影響を及ぼさない。
- 本明細書中で定義されているエステルと潤滑剤組成物中のポリマー摩擦調整剤の間には相乗効果が存在し、摩擦係数を有意に低下させしたがって機械的部品間の摩擦を制限する。
【国際調査報告】