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特表2023-505774安定化燃料油の製造方法およびそれから製造された安定化燃料油
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-13
(54)【発明の名称】安定化燃料油の製造方法およびそれから製造された安定化燃料油
(51)【国際特許分類】
   C10G 21/14 20060101AFI20230206BHJP
   C10L 1/04 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C10G21/14
C10L1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533638
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-06-03
(86)【国際出願番号】 KR2020005521
(87)【国際公開番号】W WO2021112345
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】10-2019-0161976
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513268690
【氏名又は名称】ヒュンダイ オイルバンク カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Hyundai Oilbank Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヘウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョルヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ソン,デジン
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ヨンクウォン
(72)【発明者】
【氏名】オ,ヒョンホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ソンホ
(72)【発明者】
【氏名】カン,スルギ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンデ
【テーマコード(参考)】
4H129
【Fターム(参考)】
4H129AA02
4H129CA01
4H129CA08
4H129CA11
4H129CA25
4H129HB03
4H129NA06
4H129NA21
4H129NA35
4H129NA40
(57)【要約】
【課題】本発明は、アスファルテンの安定化された燃料油の製造方法およびそれから製造された、アスファルテンの安定化された燃料油を提供する。
【解決手段】
(i)アスファルテン含有の油分と高飽和炭化水素油分とを混合して油分の混合物を得ることと、(ii)得られた前記混合物を濾過媒体で濾過し、それからアスファルテン安定化燃料油を得ることとを含んでなることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アスファルテン含有の油分と高飽和炭化水素油分とを混合して、油分画の混合物を得ることと、
(ii)前記油分の混合物を濾過媒体で濾過して、その中の沈殿物を除去し、アスファルテンの安定化された燃料油を回収することと、
を含んでなる、アスファルテン安定化燃料油の製造方法。
【請求項2】
前記アスファルテン含有の油分画が、原油、常圧残渣油、真空残渣油、脱硫残渣油、接触分解残渣油、熱分解残渣油、水素化分解残渣油、残留物溶媒抽出油、ピッチ、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高飽和炭化水素油分が、原油から蒸留された油、熱分解油、接触分解油、水素化分解油、水素化脱硫油、アルカンおよびその誘導体、イソアルカンおよびその誘導体、シクロアルカンおよびその誘導体、多環式ナフテン油およびその誘導体、ならびにそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカンが、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘプタン、ヘプタン、オクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記イソアルカンが、イソプロパン、イソブタン、イソペンタン、イソヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記シクロアルカンは、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記濾材が、0.1から20μmのメッシュ開口直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記濾過工程(ii)において、前記混合物を、前記濾過媒体の上流と下流との間の圧力差1ミリバールから100バール、および温度30から200℃で濾過する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記濾過工程(ii)の前に前記混合工程(i)で得られた油分の混合物を静置することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記油分混合物を大気圧下で、および0から100℃の温度で10分から72時間で放置することにより、前記静置工程を行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかに記載の方法により製造されたアスファルテン安定化燃料油。
【請求項12】
前記燃料油が0.5重量%以下の硫黄含有量を有する、請求項11に記載のアスファルテン安定化燃料油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルテン含有の油分画および高飽和炭化水素油分などの2種類以上の油分画を混合することにより製造される安定化された燃料油、特に2種以上の油分画を混合してその油混合物を得て、その油混合物を濾過することを含んでなる、安定化燃料油の製造方法およびそれから製造された安定化燃料油に関する。
【背景技術】
【0002】
原油は主に飽和炭化水素、芳香族炭化水素、樹脂、アスファルテンで構成されている。これらの成分は、極性によって互いに異なる溶解度を示し、原油精製によって生成される炭化水素油の安定性に影響を及ぼす。それらの成分の極性は、飽和炭化水素、芳香族炭化水素、樹脂、アスファルテンの順に増加する。
【0003】
飽和炭化水素は無極性であり、原油を形成する4つの成分、すなわち飽和炭化水素、芳香族炭化水素、樹脂、アスファレンは、互いに親和性が異なる。例えば、飽和炭化水素とアスファレンは親和性が低いため互に溶解しにくいのに対し、飽和炭化水素と芳香族炭化水素は親和性が高いため相互溶解性がある。
【0004】
炭化水素油の安定性に最大の影響を与えるアスファルテンは、極性官能基と非極性官能基の両方を有する樹脂によって安定化されたミセル構造のコロイド状態で炭化水素油に分散される。
【0005】
アスファルテンの安定化されたミセル構造が圧力、温度、および/または他の外部環境の変化によって破壊されると、アスファルテンは強い分子間π-π結合によって粒子に凝集し、最終的には沈殿して固体状態になる。
【0006】
炭化水素油と原油の配合条件(blending conditions)によって、アスファルテンの沈殿が激しくなる場合があり得る。沈殿したアスファルテンを含むオイルは、次の問題を引き起こす可能性がある; 配管、ヒーター、熱交換器などでのファウリングとコークスの生成; 燃焼ノズル、フィルター、遠心分離機、配管などの目詰まりまたは閉塞; および石油貯蔵タンク等でのスラリー生成。
【0007】
石油精製プロセスは、原油の常圧蒸留および/または減圧蒸留を実行して、ナフサ、灯油、ディーゼルなどの燃料油を製造する。常圧蒸留または減圧蒸留から得られた残渣油分からナフサ、灯油、ディーゼルなどのさらなる燃料油をさらに製造するために、水素化分解、熱分解、流動接触分解、溶媒抽出、水素化脱硫などのような高度化プロセス(upgrading processes)を実行することができる。高度化プロセスで原料として使用される残渣油分は、常圧の残渣油、真空残渣油、脱硫残渣油、接触分解残渣油、熱分解残渣油、水素化分解残渣油、残留溶媒抽出油、ピッチなどの製造に使用することができる。
【0008】
異なる工程で製造された油分(炭化水素油分)を混合して高度化プロセスでの原料として使用する場合、原料の混合タンク、ヒーター、熱交換器などの内部でアスファルテンの沈殿、ファウリング、目詰まりなどの問題が発生する場合があり得る。
【0009】
国際海事機関(IMO)は、2020年以降の舶用燃料油の0.5重量%を超える硫黄含有量を規制しているため、精製業者および舶用燃料油の供給業者は、低硫黄燃料油を製造し、それらを舶用燃料油として供給しなければならない。IMO 2020規制(IMO 2020 regulation)を満たす低硫黄船用燃料油は、高硫黄残渣油を原油から蒸留された油と混合することによって製造できる。蒸留油は、水素化脱硫プロセスを経ており、船用燃料油の製造用の混合油として適しているため、硫黄含有量が非常に低くなっている。しかしながら、蒸留油は一般的な船用燃料油よりも高い価格で取引されているため、蒸留油を船用燃料油に混合することは望ましくない。また、蒸留油には非極性の高いパラフィン系またはナフテン系の飽和炭化水素が多く含まれているため、アスファルテンの安定性が著しく低くなり、アスファルテンの沈殿につながる可能性がある。
【0010】
代わりに、高硫黄含有の残渣油を脱硫して、IMO2020規制を満たす舶用燃料油を製造する方法を採用することも可能かも知れない。樹脂、芳香族化合物、飽和炭化水素などの成分がアスファルテンと安定して平衡状態にある残渣油分画を水素化脱硫して硫黄を除去すると、芳香族成分と樹脂成分に存在する二重結合が水素化されて飽和に変換される。炭化水素。飽和炭化水素の増加により、安定した平衡状態が不安定な状態に移行し、アスファルテンの沈殿を引き起こす。また、残渣油分の水素化脱硫により生成される低硫黄炭化水素油は、飽和炭化水素の含有量が多いため、アスファルテン含有の炭化水素油と混合するとアスファルテンを沈殿させる要因となる。したがって、このようにアスファルテンの安定化された燃料油を製造することは困難である。
【0011】
韓国特許第10-1886858号公報は、貯蔵タンクおよび/または輸送ラインでのスラッジ形成を低減し、炭素数が10~20の範囲のパラフィン系または重質ナフサ溶媒を混合することを含む炭化水素収率を高めるための重質炭化水素の安定化プロセスを開示している。原料を溶媒に使用して、原料に存在するアスファルテンの比較的小さな所定の部分を凝集させ、沈殿物を分離してフラッシングして軽質炭化水素画分を回収し、重質炭化水素/溶媒相をフラッシングし、溶媒をリサイクルして、貴重な製品の收率に著しく影響を及ぼすことなく重質炭化水素を大幅に安定化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】韓国特許第10-188685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、アスファルテンが安定化された燃料油を簡単かつ効果的に製造する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、(i)アスファルテン含有の油分と高飽和炭化水素油分とを混合して油分の混合物を得ることと、(ii)前記油分の混合物を濾過媒体で濾過して、その中の沈殿物を除去し、アスファルテンが安定化された燃料油を回収することとを含んでなる、アスファルテン安定化燃料油を製造するための方法が提供される。
【0015】
前記アスファルテン含有の油分画には、原油、常圧残渣油、真空残渣油、脱硫残渣油、接触分解残渣油、熱分解残渣油、水素化分解残渣油、残留溶媒抽出油、ピッチおよびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0016】
前記高飽和炭化水素油分には、原油からの留出物、熱分解油、接触分解油、水素化分解油、水素化脱硫油、アルカンおよびその誘導体、イソアルカンおよびその誘導体、シクロアルカンおよびその誘導体、多環式ナフテン油およびその誘導体、ならびにそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0017】
前記アルカンは、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘプタン、ヘプタン、オクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。前記イソアルカンは、イソプロパン、イソブタン、イソペンタン、イソヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。シクロアルカンは、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。
【0018】
前記濾過工程(ii)において、前記濾過媒体は、0.1から20μmの目開径を有し得る。
【0019】
前記濾過工程(ii)において、前記混合物は、1ミリバール(bar)から100バールの濾過媒体の上流と下流との間の圧力差で、そして30から200℃の温度で濾過され得る。
【0020】
前記方法は、前記混合工程(i)で得られた油分混合物を前記濾過工程(ii)の前に放置する工程をさらに含み得る。
【0021】
静置工程は、前記油分の混合物を大気圧下、0から100℃の温度で10分から72時間放置することによって実施することができる。
【0022】
本発明の別の態様によれば、(i)アスファルテン含有の油分と高飽和炭化水素油分を混合して油分の混合物を得ることと、(ii)前記油分の混合物を濾過して沈殿物を除去し、アスファルテンの安定化された燃料油を回収することとを含んでなる方法によって製造されるアスファルテン安定化燃料油が提供される。
【0023】
好ましくは、前記アスファルテン安定化燃料油は、0.5重量%以下の硫黄含有量を有し得る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、安定性の高い燃料油は、石油精製の様々なプロセスにおいて高品質の油を製造した後に残る様々な油分画、特に、さまざまなプロセスからの残渣油のようなアスファルテンを多く含む油分と高飽和炭化水素油分とを混合することによって得られる混合物を濾過することによって製造することができる。
【0025】
特に、アスファルテン含有の油分を他の油分、特に高飽和炭化水素留分と混合した場合に発生するアスファルテンの浸出の問題を解決することが可能である。
【0026】
そのうえ、燃料油は、油分の混合物を濾過することによりアスファルテン安定化状態で製造されるため、収率が高く、製造コストが低くなる。また、油分の供給源、油分の混合比等にほとんど制限がないため、燃料油の生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によるアスファルテン安定化燃料油を製造するための方法は、(i)アスファルテン含有油分と高飽和炭化水素油分とを混合して、油分画の混合物を得ることと、(ii)前記油分画の混合物中の沈殿物を除去し、アスファルテンが安定化された燃料油を回収するために、濾過媒体を通して前記油分の混合物を濾過することとを含んでなる。
【0028】
高品質のアスファルテン安定化燃料油を製造し、燃料油の収率を高めるために、発明者らは、石油精製のさまざまなプロセスで高品質の油を製造した後に残ったさまざまな残渣油の画分を混合することによって燃料油を製造するための多くの実験を行った。油分、特に高アスファルテン含有の油分に残っているアスファルテンは、非極性の高い高飽和炭化水素油分と混合すると、不安定化して沈殿する傾向がある。高飽和炭化水素油分をアスファルテンを含む油分と安定して混合した場合でも、アスファルテン安定化油分に存在するアスファルテンのミセル構造が混合操作により破壊され、切り離しまたは分離したアスファルテンの沈殿が生じる可能性がある。
【0029】
原油からの留出物などの高飽和炭化水素油分は飽和炭化水素の含有量が高いため、アスファルテン含有油分と混合して得られる混合物は、アスファルテンの安定化に不利である。特に、水素化分解プロセスによって生成された油分は、蒸留油分よりも飽和炭化水素の含有量が高く、これは、燃料油中のアスファルテンを安定化するためにより不利である。一方、熱分解油分や接触分解油分は芳香族化合物の含有量が比較的多く、芳香族化合物は飽和炭化水素よりもアスファルテンへとの親和性が高く、アスファルテン含有油分画の安定化に役立ち得る。
【0030】
精製プロセスでC3、C5、またはC7溶媒で抽出することによってアスファルテンが除去された油分などのアスファルテンのない油分は、混合油には非常に適しているが、硫黄分が多いので、低硫黄燃料油には適していない。アスファルテンのないオイルは、脱硫、脱窒、脱金属プロセスなどの前処理を経て、流動接触分解プロセスで使用される触媒の性能を維持するための原料として使用される。水素化を伴う流動接触分解プロセスでの原料の前処理は、アスファルテンを含まない油の硫黄含有量を非常に低くし、芳香族成分または樹脂成分の水素化を引き起こし、それによって非常に高い飽和炭化水素含量の油に変換する。脱硫プロセスで得られたアスファルテンのないオイルは、硫黄含有量が少ないため低硫黄燃料油には適しているが、アスファルテン含有油分画と混合して燃料油を製造することには適していない。
【0031】
本発明者らは、様々な種類の油分画を混合して燃料油を製造する際に、アスファルテン含有油分画と高飽和炭化水素油分画を混合し、次に前記混合物を濾過および安定化することによって安定化燃料油を製造できることを見出した。さらに、アスファルテン含有油分を高飽和炭化水素油分と混合すると、アスファルテンの安定した平衡状態が崩れるため、得られた混合物中のアスファルテンの一部が凝集した固体粒子に沈殿し、その混合物中でコロイド状態で安定して存在することになり、その混合物中で平衡化するし、次に、混合物から沈殿したアスファルテンを除去することにより、アスファルテン安定化燃料油を製造することができる。その油分の混合物から固体として沈殿したアスファルテンは、フィルターを通して濾過することができ、フィルターを通過したその油分の混合物は、舶用燃料油または他の燃料油としての使用に特に適している。
【0032】
前記アスファルテン含有油分画には、原油、常圧残渣油、真空残渣油、脱硫残渣油、残留触媒油、熱分解残渣油、水素化分解残渣油、残留溶媒抽出油、ピッチ、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0033】
前記高飽和炭化水素油分には、原油精製からの留出物、熱分解油、接触分解油、水素化分解油、水素化脱硫油、アルカンおよびその誘導体、イソアルカンおよびその誘導体、シクロアルカンおよびその誘導体、多環式ナフテン油およびその誘導体、ならびにそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
前記アルカンは、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘプタン、ヘプタン、オクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。
【0035】
前記イソアルカンは、イソプロパン、イソブタン、イソペンタン、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。
【0036】
前記シクロアルカンは、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、およびそれらの2つ以上の混合物からなる群から選択することができる。
【0037】
原油、熱分解油、接触分解油、水素化分解油、および水素化脱硫油から蒸留された油には、ナフサ、灯油、ディーゼル、未転換油などが含まれ得る。
【0038】
前記濾材は、目開径が0.1~20μmの範囲内のものが望ましい。濾材の目開径が0.1μmよりも小さい場合、濾材の上流と下流の差圧が必要以上に大きくなり、アスファルテンの安定化された燃料油の製造にかかる時間とコストとが増加するという問題が生じる可能性があるし、それが20μmを超えると、沈殿したアスファルテンがフィルターにより除去されずに濾材を通過し、得られた燃料油のアスファルテン安定化が不十分になる可能性がある。
【0039】
様々な試験により、望ましい濾過温度は-20~400℃、好ましくは30~200℃の範囲であることが示されている。濾過温度が-20℃未満の場合、油分混合物のワックス分が結晶化するため、油分混合物の流動性が低下し、濾材が目詰まりする場合がある。濾過温度が400℃を超えると、油分混合物に含まれる油分が気散、分解し、油分混合物の組成が変化する場合がある。
【0040】
濾過圧力は特に制限されない。好ましくは、濾材の上流と下流との間の圧力差は、1ミリバールから100バールの間である。圧力差が小さすぎると、濾過性能が良くない場合がある。本発明による安定化燃料油を製造するための方法は、その混合工程と濾過工程との間の混合工程から得られた油分混合物を静置することをさらに含み得る。
【0041】
前記静置工程は、前述の混合工程から得られた油分混合物を、0から100℃、好ましくは30から70℃の温度範囲でおよび大気圧下で10から72時間放置することによって実施することができる。
【0042】
油分混合物を前述のように放置することにより、油分混合物に含まれるアスファルテンが混合物の底に効果的に沈降し、それにより次の濾過工程での濾過効率が向上し、フィルターの寿命が延長する。
【0043】
以下、本発明をその実施例により詳細に説明することとする 。
実施例1乃至3
常圧残渣油の脱硫から得られた炭化水素油(t-AR:処理常圧残留物)をアスファルテン含有油分として使用した。炭化水素油(DAO:脱アスファルト油)の水素化分解から得られた炭化水素油(t-DAO:脱アスファルト油)からアスファルテンを抽出し、n-ペンタン溶媒で除去したものを高飽和炭化水素油分として使用した。 前記アスファルテン含有油分と高飽和炭化水素油分を下の表1に示す混合比で混合した。
【0044】
そのようにして得られた混合物を、目開径がそれぞれ5μm、8μm、11μmの3つの濾材を使用して濾過し、アスファルテンを除去して燃料油を得た。濾過工程中、温度は70℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。
【0045】
そのようにして得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従ってそれらの安定性について評価した。その結果を以下の表1に示す。
比較例1
t-ARは、目開径がそれぞれ5μm、8μm、11μmの濾材を使用して濾過し、アスファルテンを除去して燃料油を得た。濾過中、温度は70℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。そのようにして得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従ってその安定性について評価された。その結果を以下の表1に示す。
実施例4乃至6
テキサス産の軽質原油から得られた常圧残渣油(WTI-AR)は、アスファルテン含有油分として使用した。高飽和炭化水素油分として水素化分解軽油(HCGO)を使用した。アスファルテン含有油分と高飽和炭化水素油分を下の表1に示す混合比で混合した。そのように得られた油分混合物を、目開径がそれぞれ5μm、8μm、11μmの3つの濾材を使用して濾過し、アスファルテンを除去して燃料油を得た。濾過中、温度は70℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。
【0046】
そのようにして得られた燃料油は、ASTM D 4740-02の試験方法に従ってそれらの安定性について評価された。その結果を以下の表1に示す。
比較例2
WTI-ARは、目開径がそれぞれ5μm、8μm、11μmの濾材を使用して濾過し、アスファルテンを除去して燃料油を得た。濾過中、温度は70℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。そのように得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従って安定性について評価された。その結果を以下の表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例7および8
常圧残渣油の脱硫から得られる炭化水素油(t-AR:処理常圧残渣油)、常圧残渣油の流動接触分解(FCC)から生成されるスラリー油(SLO)、流動触媒から生成される軽質サイクル油(LCO)常圧残渣油の分解(FCC)とC9 +重質芳香族溶媒(H-Aro)(BTX製造工程でのキシレンの分離により蒸留塔の底に残った重質留分)を以下の表2に示す混合比で混合した。
【0049】
前述のようにして得られた前記油分の混合物を、目開径がそれぞれ5μm、8μm、11μmの3つの濾材を用いて70℃で濾過し、アスファルテンを除去して燃料油を得た。前述のように得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従ってそれらの安定性について評価された。その結果を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例9
T-AR、SLO、LCO、H-Aroは、以下の表3に示す混合比で混合された。
【0052】
前述のようにして得られた前記油分の混合物を目開径5μmの濾材で濾過し、アスファルテンを除去し、燃料油を得た。濾過中、温度は70℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従って安定性について評価された。その結果を以下の表3に示す。
実施例10
T-AR、SLO、LCO、H-Aroは、以下の表3に示す混合比で混合された。
【0053】
前述のようにして得られた前記油分の混合物を目開径5μmの濾材で濾過し、アスファルテンを除去し、燃料油を得た。濾過中、温度は50℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従ってその安定性について評価された。その結果を以下の表3に示す。
実施例11
T-AR、SLO、LCO、H-Aroは、以下の表3に示す混合比で混合された。
【0054】
前述のようにして得られた前記油分の混合物を目開径5μmの濾材で濾過し、アスファルテンを除去し、燃料油を得た。濾過中、温度は100℃に維持され、濾材の上流と下流の圧力差は1バールであった。得られた燃料油は、ASTM D 4740-02試験方法に従ってその安定性について評価された。その結果を以下の表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表1から表3に示す結果から、次の効果が示される。
【0057】
※アスファルテン含有油分と高飽和炭化水素油分との混合油を濾過して得られた燃料油は、いずれも安定性が大幅に向上した。
【0058】
※アスファルテン含有油分と高飽和炭化水素油分との混合物の安定性は、アスファルテン含有油単独の安定性よりも遅かった(比較例1と実施例1、比較例2と実施例6を参照)。しかしながら、濾過後の油分混合物の安定性は、濾過前の油分混合物の安定性と比較して改善された。
【0059】
*アスファルテン含有油分と高飽和炭化水素油分との油混合物の安定性は、濾材の目開径が小さいほど高くなった。特に、実験で使用した濾材の中で、5μm濾材を使用した場合に最も安定性が向上した。
【0060】
※アスファルテン含有油分と2種類以上の炭化水素油分とを混合した場合でも、濾材で濾過することにより、得られた混合物の安定性が向上した。特に、濾材の目開径が5μmの場合、安定性が向上する。
【0061】
※アスファルテン含有油分画と芳香族含有量の高い炭化水素油分画とを混合しても不安定な状態であったが、濾過によりアスファルテン安定化燃料油に転換された。
【0062】
※濾過温度が高くなると、油分混合物の流動性が高くなり、濾過速度が速くなる。濾過時間は50℃で30分(実施例10)であったが、70℃で10分(実施例9)、100℃で5分(実施例11)に短縮された。温度が100℃を超えても、濾過速度に大きな変化はなかった。全体としての加熱時間やエネルギー消費量等を考慮すると、好ましい濾過温度は30~70℃であった。
【0063】
*すべての油分混合物の実施例で使用された濾材の中で、5μmの濾材は混合物の安定性を最も向上することができた(スポット評価1)。
【0064】
前述の実施例では、アスファルテン含有油分としてt-ARとt-DAOを使用した混合油について説明したが、高品質の油の製造後に残っている他のアスファルテン含有油分についても同様の結果が得られることを理解されたい。
【0065】
本発明は特定の実施の形態を参照して説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱しない範囲で種々変更可能である。したがって、本発明の範囲は、記載された実施形態に限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲のみならず、特許請求の範囲の同等物によっても定義されるべきである。
【国際調査報告】