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特表2023-505818特発性肺線維症の処置のためのEPAC1阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-13
(54)【発明の名称】特発性肺線維症の処置のためのEPAC1阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230206BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230206BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20230206BHJP
   A61K 31/44 20060101ALI20230206BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P11/00
A61K31/4365
A61K31/44
A61K31/496
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535070
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(85)【翻訳文提出日】2022-08-04
(86)【国際出願番号】 EP2020085730
(87)【国際公開番号】W WO2021116389
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】19306645.3
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ
(71)【出願人】
【識別番号】509059941
【氏名又は名称】アイカーン・スクール・オブ・メディシン・アット・マウント・サイナイ
【氏名又は名称原語表記】ICAHN SCHOOL OF MEDICINE AT MOUNT SINAI
【住所又は居所原語表記】One Gustave L.Levy Place,New York,NY 10029 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ビザリア,マリク
(72)【発明者】
【氏名】ルズーアオ,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ハドリ,ラホアリア
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZC411
4C084ZC412
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC17
4C086BC50
4C086CB26
4C086GA07
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、特発性肺線維症の処置に関する。今日、IPFに治療法はない。本発明者らは、EPAC1阻害剤、特にCE3F4及びAM-001が、肺線維症の患者を処置するための有望な治療方策であることを示した。よって本発明は、特発性肺線維症の処置及び/又は予防に使用するためのEPAC1阻害剤に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特発性肺線維症の処置、予防及び/又は回復、好ましくは処置に使用するためのEPAC1阻害剤。
【請求項2】
請求項1記載の使用のためのEPAC1阻害剤であって、式(I):
【化21】

[式中、
- R’9は、H又は下記式:
【化22】

で示される基であり、そして下記式:
【化23】

で示される基は、テトラヒドロキノリンの窒素原子への結合であり;
- R’1、R’2、R’3、R’4、及びR’8は、H、(C-C10)アルキル、(C-C10)シクロアルキル、(C-C10)アリール、(C-C)アルキレン-(C-C10)アリール及び(C-C10)ヘテロアリールからなる群より独立して選択され、前記アリール及びヘテロアリール基は、OH、NH、NO、(C-C)アルキル、及びハロゲンから選択される少なくとも1個の置換基により置換されていてもよく;
- R’5は、ハロゲン原子であり;
- R’6及びR’7は、H及びハロゲン原子からなる群より独立して選択される]を有する前記EPAC1阻害剤、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマー[ただし、
式(I)の化合物は、下記式:
【化24】

で示される化合物とは異なる]。
【請求項3】
式(I)において、R’9がHである、請求項2記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項4】
請求項1又は2記載の使用のためのEPAC1阻害剤であって、下記式(I-1):
【化25】

を有する前記EPAC1阻害剤。
【請求項5】
請求項1記載の使用のためのEPAC1阻害剤であって、式(II):
【化26】

[式中、
は、
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
は、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
は、
- H;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;そして
は、H、-OH、-NRxRy及び-C(O)ORzからなる群より選択され;
Rx、Ry及びRzは、互いに独立して、H又は(C-C10)アルキルであるか;又は
及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成する]を有する前記EPAC1阻害剤、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマー。
【請求項6】
式(II)において、Rが、
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されている、請求項5記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項7】
式(II)において、Rが、
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アリール及びヘテロアリール基は、-NR、(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されており;ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択される、請求項5又は6記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項8】
式(II)において、Rが、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されている、請求項5~7のいずれか一項記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項9】
式(II)において、Rが、1個以上の置換基(好ましくは(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される)によって場合により置換されている(C-C10)アリールである、請求項5~8のいずれか一項記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項10】
式(II)において、RがHであるか、又はR及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C)シクロアルキル基を形成する、請求項5~9のいずれか一項記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項11】
式(II)において、Rがフェニル基であり、かつ/又はRがチエニル基であり、前記フェニル及びチエニル基は場合により置換されている、請求項4~9のいずれか一項記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項12】
下記式(III):
【化27】

[式中、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rx、Ry及びRzは、H、-OH、ハロゲン原子、-C(O)OH、(C-C10)アルキル、(C-C10)アルコキシ、及び-NRからなる群より選択され;
ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択され;
は、H、-OH、-NH及び-C(O)OHからなる群より選択され;そして
は、請求項5と同義である]を特徴とする、請求項5記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項13】
下記式:
【化28】

のうちの1つを有する、請求項5記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項14】
下記式:
【化29】

を有する、請求項5記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項15】
ピルフェニドン又はニンテダニブと併用される、請求項1~14のいずれか一項記載の使用のためのEPAC1阻害剤。
【請求項16】
特発性肺線維症の予防及び/又は処置及び/又は回復の方法であって、それを必要とする患者への薬学的に許容し得る量のEPAC1阻害剤の投与を含む方法であって、前記EPAC1阻害剤が、ピルフェニドン又はニンテダニブと場合により併用される方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特発性肺線維症の処置のためのEPAC1阻害剤に関する。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたHL133554の下で米国政府の支援を受けて行われた。米国政府は、本発明において一定の権利を有している。
【背景技術】
【0003】
特発性肺線維症(IPF)は、病因不明の慢性及び進行性の線維化性間質性肺炎を特徴とする稀な疾患であり、有効な治療法の用意がない。今日まで、実験的及び臨床的研究における広範な研究にもかかわらず、IPFは依然として罹患率及び死亡率の増加原因であり、診断からの平均生存期間は3年以下である。残念ながら、IPFには治療法がない。
【0004】
したがって、IPFの患者を処置するための新しい治療標的及び方策を特定することが緊急に必要である。
【0005】
本発明の目的は、新しい治療標的を提供することであり、また、この進行性の致命的な肺疾患を阻止し、そして回復させ得る低分子化合物を使用することによって、安全かつ効率的な方策を提供することである。
【0006】
よって、本発明の目的は、IPFを処置するための低分子を提供することである。
【0007】
したがって、本発明は、特発性肺線維症の処置、予防及び/又は回復、好ましくは処置に使用するためのEPAC1阻害剤に関する。
【0008】
本発明は、cAMPによって調節される交換タンパク質1(Epac1)の発現が、対照と比較して、IPF患者及びブレオマイシン投与マウスからの肺組織において有意に増加したという事実に基づいている。
【0009】
Epac1の薬理学的阻害は、増殖を有意に減少させ、幾つかの線維化マーカーの発現を阻止する。注目すべきことに、Epac1の薬理学的阻害はまた、ブレオマイシン誘発PFマウスモデルを使用したインビボの肺線維化を有意に減少させることも分かった。
【0010】
好ましくは、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、EPAC1選択的阻害剤から選択される。
【0011】
1つの実施態様において、EPAC1選択的阻害剤は、EPAC1アイソフォームに対して阻害作用を示す化合物である。更に特定すると、これらは一般にEPAC1に対して阻害作用を示し、そしてEPAC2アイソフォームに対しては多少の阻害作用を示すか又は全く示さない。
【0012】
「選択的EPAC1阻害剤」によって、他のアイソフォームであるEPAC2に優先して特定のEPAC1アイソフォームに作用するEPAC1阻害剤の能力が理解され得る。EPAC1選択的阻害剤は、これら2つのアイソフォームを識別する能力を有する可能性があり、そのため本質的にEPAC1アイソフォームに作用する。
【0013】
「阻害剤」という用語は、「アンタゴニスト」として理解されるべきである。
【0014】
ある実施態様によれば、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、式(I):
【0015】
【化1】

[式中、
- R’9は、H又は下記式:
【0016】
【化2】

で示される基であり、そして下記式:
【0017】
【化3】

で示される基は、テトラヒドロキノリンの窒素原子への結合であり;
- R’1、R’2、R’3、R’4、及びR’8は、H、(C-C10)アルキル、(C-C10)シクロアルキル、(C-C10)アリール、(C-C)アルキレン-(C-C10)アリール及び(C-C10)ヘテロアリールからなる群より独立して選択され、前記アリール及びヘテロアリール基は、OH、NH、NO、(C-C)アルキル、及びハロゲンから選択される少なくとも1個の置換基により置換されていてもよく;
- R’5は、ハロゲン原子であり;
- R’6及びR’7は、H及びハロゲン原子からなる群より独立して選択される]を有する化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーである。
【0018】
ある実施態様によれば、式(I)の化合物は、下記式:
【0019】
【化4】

で示される化合物とは異なる。
【0020】
本発明に関連して、本明細書に使用されるとき「処置すること」又は「処置」という用語は、そのような用語が適用される障害若しくは状態、又はそのような障害若しくは状態の1つ以上の症状の進行を回復、緩和、阻害することを意味する。
【0021】
本発明に関連して、本明細書に使用されるとき「予防すること」又は「予防」という用語は、そのような用語が適用される障害若しくは状態、又はそのような障害若しくは状態の1つ以上の症状の出現又は進行を回避することを意味する。
【0022】
したがって、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤の第1のファミリーは、テトラヒドロキノリン誘導体からなる。
【0023】
本発明によれば、「(C-C10)アルキル」という用語は、鎖中に1~10個の炭素原子を有する直鎖であっても分岐していてもよい飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキル基は、鎖中に1~4個の炭素原子を有しており、好ましいアルキル基は、特にメチル又はエチル基である。「分岐」とは、メチル、エチル又はプロピルなどの1個以上の低級アルキル基が、直鎖アルキル鎖に結合していることを意味する。
【0024】
「(C-C)アルキレン-」という用語は、鎖中に1~6個の炭素原子を有する直鎖であっても分岐していてもよい飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素二価ラジカルを意味する。例えば、好ましい(C-C)アルキレン-(C-C10)アリールは、ベンジル基である。
【0025】
「(C-C10)シクロアルキル」とは、3~10個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基、特にシクロプロピル又はシクロヘキシル基を意味する。
【0026】
「(C-C10)アリール」という用語は、芳香族の単環式、二環式、又は三環式炭化水素環系であって、置換可能な任意の環原子が置換基により置換されていてもよい環系のことをいう。アリール部分の例には、フェニルが含まれるが、これに限定されない。
【0027】
「(C-C10)ヘテロアリール」という用語は、芳香族の単環式、二環式、又は三環式炭化水素環系であって、置換可能な任意の環原子が置換基により置換されていてもよく、そして1個以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子などの1個以上のヘテロ原子;例えば、1個若しくは2個の窒素原子、1個若しくは2個の酸素原子、1個若しくは2個の硫黄原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子などの異なるヘテロ原子の組合せによって置換されている環系のことをいう。好ましいヘテロアリール基は、ピリジル、ピリミジル及びオキサジル基である。
【0028】
「ハロゲン」という用語は、周期表の第17族の原子のことをいい、特に、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素原子を、更に好ましくは、フッ素、塩素、及び臭素原子を包含する。
【0029】
「テトラヒドロキノリン」によって、次の基:
【0030】
【化5】

が理解される。
【0031】
本明細書に記載の化合物は、不斉中心を有し得る。非対称に置換された原子を含有する本発明の化合物は、光学活性体又はラセミ体として単離することができる。ラセミ体の分割によるか、又は光学活性出発物質からの合成によるなど、光学活性体を調製する方法は当技術分野において周知である。立体化学又は異性体が具体的に示されていない限り、化合物の全てのキラル型、ジアステレオマー、ラセミ体及び全ての幾何異性体が想定されている。
【0032】
ある実施態様において、上記で定義されたR’2~R’9を有する式(I)において()で参照される炭素原子は、(R)であっても(S)であってもよい:
【0033】
【化6】
【0034】
ある実施態様において、それは(R)である。特定の実施態様において、式(I)の化合物のエナンチオマー(R)が好ましく、そして更に特定すると以下のエナンチオマーが好ましい:
【0035】
【化7】
【0036】
別の実施態様において、式(I)の化合物の(R)-エナンチオマーは、式(I)の化合物のラセミ体及び(S)-エナンチオマーよりも強力なcAMPアンタゴニストである。1つの実施態様において、式(I)の化合物の(R)-エナンチオマーは、EPAC1の選択的阻害剤である。前記(R)-エナンチオマーは、(S)-エナンチオマーよりも10倍高い効率でEPAC1のGEF活性を阻害し得る。
【0037】
「薬学的に許容し得る塩」という用語は、本発明の化合物の生物学的有効性及び特性を保持し、生物学的にも他の面でも不適切でない塩のことをいう。薬学的に許容し得る酸付加塩は、無機酸及び有機酸から調製することができ、一方、薬学的に許容し得る塩基付加塩は、無機塩基及び有機塩基から調製することができる。薬学的に許容し得る塩の総説については、Bergeら((1977) J. Pharm. Sd, vol. 66, 1)を参照のこと。例えば、塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸に由来するもの、更には酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、フマル酸、メタンスルホン酸、及びトルエンスルホン酸などの有機酸から調製される塩が含まれる。
【0038】
特定の実施態様において、本発明の化合物は、下記式(I-1):
【0039】
【化8】

を有するが、これは、式(I)に含まれ、R’9は、下記式:
【0040】
【化9】

で示される。
【0041】
特定の実施態様において、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、下記式(I-1):
【0042】
【化10】

[式中、
- R’1、R’2、R’3、R’4及びR’8は、H、(C-C10)アルキル、(C-C10)シクロアルキル、(C-C10)アリール、(C-C)アルキレン-(C-C10)アリール及び(C-C10)ヘテロアリールからなる群より独立して選択され、前記アリール及びヘテロアリール基は、OH、NH、NO、(C-C)アルキル及びハロゲンから選択される少なくとも1個の置換基により置換されていてもよく;
- R’5は、ハロゲン原子であり;
- R’6及びR’7は、H及びハロゲン原子からなる群より独立して選択される]又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーを有する。
【0043】
特定の実施態様において、上記と同義の式(I-1)において、R’1はHである。
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’2は、H又は(C-C10)アルキルである。
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’2は(C-C10)アルキルである。好ましくは、R’2は(C-C)アルキルである。
更に好ましくは、式(I)又は(I-1)において、R’2はメチル基である。別の実施態様において、R’2はHである。好ましくは、式(I)又は(I-1)において、R’2は、H又はメチル基である。
【0044】
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’3はHである。
別の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’4はHである。
別の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’8はHである。
1つの実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’3、R’4及びR’8はHである。
【0045】
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、(C-C10)ヘテロアリール基は、ピリジル、ピリミジル及びオキサジル基からなる群より選択される。
【0046】
別の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、(C-C10)アリール基はフェニル基である。
【0047】
別の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、(C-C)アルキレン-(C-C10)アリールはベンジル基である。
【0048】
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’5は、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される。好ましくは、R’5はBrである。
【0049】
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’6は、H、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される。
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’6は、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される。
別の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’6はFである。別の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’6はHである。好ましくは、式(I)又は(I-1)において、R’6は、H又はFである。
【0050】
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’7は、H、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される。
特定の実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’7は、F、Cl、Br及びIからなる群より選択される。別の実施態様において、R’7はBrである。別の実施態様において、R’7はHである。好ましくは、R’7は、H又はBrである。
【0051】
好ましい実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’1はHであり、そしてR’5はBrである。
別の好ましい実施態様において、式(I)又は(I-1)において、R’5、R’6及びR’7のうち少なくとも2個はハロゲンである。
【0052】
上記の特定の実施態様は、互いに組合せることができる。
【0053】
上記と同義の使用のための幾つかの具体的なEPAC1阻害剤は、下記式:
【0054】
【化11】

(本明細書においてCE3F4と命名される)
【0055】
【化12】

を有する。
【0056】
更に特定すると、上記と同義の使用のための幾つかの具体的な化合物は、下記式:
【0057】
【化13】

を有する。
【0058】
1つの実施態様において、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、下記式:
【化14】

を有する化合物である。
【0059】
他のEPAC1阻害剤としては、下記式:
【0060】
【化15】

で示されるテトラヒドロキノリン誘導体などが挙げられ得る。
【0061】
式(I)の化合物は、P. Bouyssou et al., J. Heterocyclic Chem., 29, 895, 1992の以前に公開された方法によって合成することができる。式(I)の化合物の調製方法は周知である。
【0062】
ある実施態様によれば、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、式(II):
【0063】
【化16】

[式中、
は、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
は、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
は、
- H;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;そして
は、H、-OH、-NRxRy及び-C(O)ORzからなる群より選択され;
Rx、Ry及びRzは、互いに独立して、H又は(C-C10)アルキルであるか;又は
及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成する]を有する化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーである。
【0064】
したがって、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤の第2のファミリーは、チエノ[2,3-b]ピリジン誘導体からなる。
【0065】
式(II)において、「(C-C20)アルキル」又は「(C-C20)アルキル」という用語は、鎖中にそれぞれ1~20個の炭素原子又は2~20個の炭素原子を有する、直鎖であっても分岐していてもよい飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基を意味する。好ましいアルキル基は、鎖中に1~5個の炭素原子を有しており、好ましいアルキル基は、特にメチル又はエチル基である。「分岐」とは、メチル、エチル又はプロピルなどの1個以上の低級アルキル基が、直鎖アルキル鎖に結合していることを意味する。アルキル基は置換されていてもよい。
【0066】
式(II)において、「(C-C10)シクロアルキル」とは、3~10個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基であって、置換可能な任意の炭素原子が置換基により置換されていてもよい基を意味する。特に、シクロアルキル基は、シクロプロピル又はシクロヘキシル基である。
【0067】
「3~10員ヘテロシクロアルキル」とは、3~10個の炭素原子を有する環状の飽和炭化水素基であって、1個以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子などの1個以上のヘテロ原子;例えば、1個若しくは2個の窒素原子、1個若しくは2個の酸素原子、1個若しくは2個の硫黄原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子などの異なるヘテロ原子の組合せによって置換されている基を意味する。置換可能な任意の環原子は、置換基により置換されていてもよい。好ましい3~10員ヘテロシクロアルキルは、フラン、チオフェン、ピロール若しくはピラゾールなどの窒素環又はフルオロフェニル環である。
【0068】
式(II)において、「(C-C10)アリール」という用語は、芳香族の単環式、二環式、又は三環式炭化水素環系であって、置換可能な任意の環原子が置換基により置換されていてもよい環系のことをいう。アリール部分の例には、フェニルが含まれるが、これに限定されない。
【0069】
「5~10員ヘテロアリール」という用語は、芳香族の単環式、二環式、又は三環式炭化水素環系であって、置換可能な任意の環原子が置換基により置換されていてもよく、そして1個以上の炭素原子が、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子などの1個以上のヘテロ原子;例えば、1個若しくは2個の窒素原子、1個若しくは2個の酸素原子、1個若しくは2個の硫黄原子、又は1個の窒素原子と1個の酸素原子などの異なるヘテロ原子の組合せによって置換されている環系のことをいう。好ましいヘテロアリール基は、チエニル、ピリジル、ピリミジル及びオキサジル基であり、更に好ましくはチエニル基である。
【0070】
「ハロゲン」という用語は、周期表の第17族の原子のことをいい、特に、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素原子を、更に好ましくは、フッ素、塩素及び臭素原子、例えば、フッ素を包含する。
【0071】
「場合により置換されている」とは、本発明の化合物のアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基が、-OH、ハロゲン原子、-C(O)OH、-(C-C10)アルキル、-(C-C10)アルコキシ、及び-NR基からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されていることを意味し得、ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択される。
【0072】
好ましくは、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、1個以上のハロゲン原子によって、更に好ましくはフッ素原子によって場合により置換されている。
【0073】
「チエノ[2,3-b]ピリジン誘導体」という用語は、以下の化学構造:
【0074】
【化17】

から誘導される化合物のことをいう。
【0075】
本明細書に記載の化合物は、不斉中心を有し得る。非対称に置換された原子を含有する本発明の化合物は、光学活性体又はラセミ体として単離することができる。ラセミ体の分割によるか、又は光学活性出発物質からの合成によるなど、光学活性体を調製する方法は当技術分野において周知である。立体化学又は異性体が具体的に示されていない限り、化合物の全てのキラル型、ジアステレオマー、ラセミ体及び全ての幾何異性体が想定されている。
【0076】
「薬学的に許容し得る塩」という用語は、本発明の化合物の生物学的有効性及び特性を保持し、生物学的にも他の面でも不適切でない塩のことをいう。薬学的に許容し得る酸付加塩は、無機酸及び有機酸から調製することができ、一方、薬学的に許容し得る塩基付加塩は、無機塩基及び有機塩基から調製することができる。薬学的に許容し得る塩の総説については、Bergeら((1977) J. Pharm. Sd, vol. 66, 1)を参照のこと。例えば、塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸などの無機酸に由来するもの、更には酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、ステアリン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、パモ酸、マレイン酸、ヒドロキシマレイン酸、フェニル酢酸、グルタミン酸、安息香酸、サリチル酸、スルファニル酸、フマル酸、メタンスルホン酸、及びトルエンスルホン酸などの有機酸から調製される塩が含まれる。
【0077】
EPAC1阻害剤の好ましいファミリーは、上記式(II)であって、式中、
が、
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
が、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
が、
- H;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;そして
が、H、-OH、-NRxRy及び-C(O)ORzからなる群より選択され;
Rx、Ry及びRzが、互いに独立して、H又は(C-C10)アルキルであるか;又は
及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成する、式(II)を有する化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーからなる。
【0078】
EPAC1阻害剤の好ましいファミリーは、上記式(II)であって、式中、
が、
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
が、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;
が、
- H;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;そして
が、H、-OH、-NRxRy及び-C(O)ORzからなる群より選択され;
Rx、Ry及びRzが、互いに独立して、H又は(C-C10)アルキルであるか;又は
及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成する、式(II)を有する化合物、又はその薬学的に許容し得る塩、水和物若しくは水和塩、又はその多形結晶構造、ラセミ体、ジアステレオマー若しくはエナンチオマーからなる。
【0079】
ある実施態様によれば、式(II)において、Rは、
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されている。
【0080】
特定の実施態様において、式(II)において、Rは、1個以上の置換基(好ましくは(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される)によって場合により置換されている(C-C10)アリールである。1つの実施態様において、Rは、Hであるか、又は(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されている(C-C10)アリールである。特定の実施態様において、Rは、Hであるか、又は1個以上のハロゲン原子によって場合により置換されているフェニルである。特定の実施態様において、Rは、好ましくは1個以上のハロゲン原子によって、場合により置換されているフェニルである。
【0081】
ある実施態様によれば、式(II)において、Rは、
- H;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アリール及びヘテロアリール基は、-NR、(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されており;ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択される。
【0082】
ある実施態様によれば、式(II)において、Rは、Hであるか、又は1個以上の置換基によって(例えば、(C-C10)アルキル、ハロゲン原子及び-NR基からなる群より選択される置換基によって)場合により置換されている(C-C10)アリールであり;ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択される。特定の実施態様において、Rは、Hであるか、又は1個以上のハロゲン原子によって(例えば、1個のフッ素原子によって、好ましくはパラ位で)、場合により置換されているフェニルである。
【0083】
別の実施態様において、Rは、
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アリール及びヘテロアリール基は、(C-C10)アルキル、ハロゲン原子及び-NR基からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されており;ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択される。
【0084】
好ましくは、式(II)において、Rは、1個以上の置換基によって(例えば、(C-C10)アルキル、ハロゲン原子及び-NR基からなる群より選択される置換基によって)場合により置換されている(C-C10)アリールであり;ここで、R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択される。特定の実施態様において、Rは、1個以上のハロゲン原子によって(例えば、1個のフッ素原子によって、好ましくはパラ位で)、場合により置換されているフェニルである。
【0085】
ある実施態様によれば、式(II)において、Rは、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって場合により置換されている。
【0086】
特定の実施態様において、式(II)において、Rは、(C-C10)アルキル、及び5~6員ヘテロアリール基からなる群より選択されるか、又はR及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C)シクロアルキル基を形成し、ここで、前記アルキル、シクロアルキル、及びヘテロアリール基は、好ましくは(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって、場合により置換されている。
【0087】
特定の実施態様において、式(II)において、Rは、5~6員ヘテロアリール基からなる群より選択され、前記ヘテロアリール基は、好ましくは(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって、場合により置換されている。特定の実施態様において、Rはチエニル基である。
【0088】
特定の実施態様において、式(II)において、Rは、(C-C10)アルキル及びチエニル環からなる群より選択されるか、又はR及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に、シクロヘキシル基などの(C-C)シクロアルキル基を形成する。
【0089】
特定の実施態様において、式(II)において、Rは、好ましくは(C-C10)アルキル及びハロゲン原子からなる群より選択される1個以上の置換基によって、場合により置換されている(C-C10)アリールである。
【0090】
特定の実施態様において、式(II)において、Rは、H、-OH、-NH及び-C(O)OHからなる群より選択されるか、又はR及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成する。1つの実施態様において、式(II)において、RはHであるか、又はR及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C)シクロアルキル基を形成する。好ましくは、RはHである。
【0091】
特定の実施態様において、式(II)において、RはHであるか、又はR及びRは、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C)シクロアルキル基を形成する。
【0092】
特定の実施態様において、式(II)において、Rはフェニル基であり、かつ/又はRはチエニル基であり、前記フェニル及びチエニル基は場合により置換されている。
【0093】
特定の実施態様において、式(II)において、R及びRの少なくとも一方は、(C-C10)アリール基又は5~10員ヘテロアリール基である。
【0094】
特定の実施態様において、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、式(II)を有する化合物であって、式中、
が、
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- 3~10員ヘテロシクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択され;
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されており;そして
が、
- H;
- (C-C20)アルキル;
- (C-C10)シクロアルキル;
- (C-C10)アリール;及び
- 5~10員ヘテロアリール
からなる群より選択されるか、又は
及びRが、これらを有する炭素原子と一緒に(C-C10)シクロアルキル基を形成し、
ここで、前記アルキル、シクロアルキル、アリール及びヘテロアリール基は、場合により置換されている、化合物からなる。
【0095】
本発明の使用のためのEPAC1阻害剤の好ましいファミリーは、下記式(III):
【0096】
【化18】

[式中、
- Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rx、Ry及びRzは、H、-OH、ハロゲン原子、-C(O)OH、(C-C10)アルキル、(C-C10)アルコキシ、及び-NRからなる群より選択され;
ここで、前記R及びRは、互いに独立して(C-C10)アルキル又はHから選択され;
- Rは、H、-OH、-NH及び-C(O)OHからなる群より選択され;そして
- Rは、上記式(II)と同義である]を有する化合物からなる。
【0097】
特定の実施態様において、式(III)において、Ra、Rb、Rc、Rd、Re、Rx、Ry及びRzは、H、ハロゲン原子又は(C-C10)アルキルから選択される。1つの実施態様において、式(III)において、Rx、Ry及びRzは、Hであるか、かつ/又はRa、Rb、Rd及びReは、Hである。好ましくは、式(III)において、Rcは、Hであるか、又はハロゲン原子、例えば、フッ素原子である。
【0098】
ある実施態様によれば、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、下記式:
【0099】
【化19】

のうちの1つを有する。
【0100】
好ましくは、本発明の使用のためのEPAC1阻害剤は、下記式:
【0101】
【化20】

を有しており、本明細書においてAM-001と命名される。
【0102】
本発明はまた、上記と同義の使用のためのEPAC1阻害剤であって、ピルフェニドン又はニンテダニブと併用される前記EPAC1阻害剤に関する。
【0103】
本発明はまた、特発性肺線維症の予防及び/又は処置及び/又は回復の方法であって、それを必要とする患者への薬学的に許容し得る量のEPAC1阻害剤の投与を含む方法に関するものであり、前記EPAC1阻害剤は、ピルフェニドン又はニンテダニブと場合により併用される。
【図面の簡単な説明】
【0104】
図1】Epac1の発現は肺線維化で上昇している。A)ヒトの非IPF及びIPF患者におけるRTq-PCR(n=8/群)によって定量化されたEpac1 mRNA発現レベル。B)及びC)ブレオマイシン(4U/Kg;14日間)の気管内注入によって誘発された特発性肺線維症の実験モデルにおけるqRT-PCR(n=8/群)及びウエスタンブロット(n=3/群)によって定量化されたEpac1 mRNA及びタンパク質発現。データは平均±SEMとして示され、p値はt検定を使用して算出された;=p<0.05、***=p<0.001。
図2】強力なEpac1阻害剤であるCE3F4は、線維芽細胞の増殖を有意に減少させ、TGF-β1によって誘導される線維化マーカーの発現を抑制した。A)正常なヒト肺線維芽細胞(NHLF)におけるEpac1阻害剤CE3F4の役割を研究するための実験計画の概略図。B)NHLF細胞の増殖は、BrdUアッセイで細胞を標識することによって判定された。特定条件下での相対的な増殖が示されている(n=4)。C)NHLF細胞をTGF-β1(2ng/mL;48時間)単独で、又はEpac1阻害剤CE3F4(20μM;48時間)との併用で処理した。プロコラーゲン、I型、α1[COL1]、III型コラーゲン[COL3]、結合組織増殖因子[CTGF]、トランスフォーミング増殖因子β[TGFβ]の線維化マーカーmRNAレベルをqPCRによって定量化した(n=3)。データは平均±SEMとして示され、p値は一元配置分散分析を使用して算出された;ns=有意でない、=p<0.05、**=p<0.01、及び***=p<0.001。
図3】新しいEpac1選択的阻害剤であるAM-001は、肺線維芽細胞の増殖を阻止し、インビトロでNHLFの線維化マーカーの発現を減少させた。A)正常なヒト肺線維芽細胞におけるAM-001の役割を評価するための実験方策の概略図。B)増殖は、BrdUアッセイで細胞を標識することによって判定された。特定条件下での相対的な増殖が示されている(n=4)。C)NHLF細胞をTGF-β1単独で、又はAM-001(20μM;48時間)との併用で処理し、線維化マーカー(プロコラーゲン、I型、α1[COL1]、III型コラーゲン[COL3]、結合組織増殖因子[CTGF]、トランスフォーミング増殖因子β[TGFβ])のmRNAレベルをqPCRによって定量化した(n=3)。データは平均±SEMとして示され、p値は一元配置分散分析を使用して算出された;ns=有意でない、=p<0.05、**=p<0.01、及び***=p<0.001。
図4】A)ブレオマイシン誘発性肺線維症のマウスモデルにおけるEpac1阻害剤AM-001の治療効果を評価するための実験計画の概略図。B)右心室収縮期圧(RVSP)、及びC)右心室肥大は、フルトン指数(RV/(LV+中隔))(n=3~7/群)によって評価された。データは平均±SEMとして示され、p値は一元配置分散分析を使用して算出された;=p<0.05、**=p<0.01、及び***=p<0.001。
図5】Epac1阻害剤AM-001は、マウスのブレオマイシン誘発性肺線維症において肺線維化を低減させる。A)指定マウスの代表的なマッソントリクローム染色された肺切片(上のパネル)。グラフは線維化の定量化を表す。B)線維化マーカーCOL1、COL3、CTGF、及びTGFβのレベルは、肺組織におけるqPCRによって定量化された(n=3~7/群)。C)代表的なヘマトキシリン及びエオシン染色された肺切片(上)並びに内側壁の厚さの定量化(下)が示される(n=3~7/群)。D)RV切片を蛍光標識コムギ胚芽凝集素で染色して、RV心筋細胞の断面積(上)及び心筋細胞の断面積の定量化(下)を検討した。E)COL1、COL3、CTGF、及びTGFβの線維化マーカーmRNAレベルは、RV組織におけるqPCRによって定量化された(n=3~7/群)。F)qPCRによって評価されたRV心肥大関連転写物(心房性ナトリウム利尿因子[ANF]、脳性ナトリウム利尿ペプチド[BNP]、β-ミオシン重鎖[β-MHC])のmRNAレベル。
図6】Epac1-/-マウスは、ブレオマイシン誘発性肺線維症から保護されている。A)指定マウスの代表的なマッソントリクローム染色された肺切片(左パネル)。グラフは線維化の定量化を表す(右パネル)。B)線維化マーカーCOL1A1、COL3A1、CTGF、及びTGFβのレベルは、肺組織におけるqPCRによって定量化された(n=3~7/群)。データは平均±SEMとして示され、p値はt検定又は一元配置分散分析を使用して算出された;=p<0.05、**=p<0.01、及び***=p<0.001。
図7】Epac1阻害はFGFR1及びTNCの発現を低減させた。A~B)ヒト肺から単離されたRNAにおけるFGFR1及びTNC mRNAの発現、並びにC~D)対照と比較したBLM Epac1 KO投与マウス(28日)。E~F)BLM+ビヒクル対BLM+AM-001処理マウス(n=3~7/群)におけるFGFR1及びTNC mRNAレベル。データは平均±SEMとして示され、p値はt検定又は一元配置分散分析を使用して算出された;=p<0.05、**=p<0.01、及び***=p<0.001。
図8】Epac1の標的としてのFOXO3転写因子。A)Epac1サイレンシング後の線維芽細胞におけるFOXO3 mRNA発現又はB)NHLF細胞におけるAd.Epac過剰発現(n=3)。
図9】Epac1サイレンシングは、IPF線維芽細胞の増殖、IL-6、及びSMAの発現を低減させ、FOXO3を回復させる。A)lenti.sh.Epac1で72時間トランスフェクトされたNHLF及びIPF FBにおけるEpac1 mRNA発現。B)示された条件でBrdUアッセイによって判定されたNHLF及びIPF FB細胞の増殖。C~E)IL-6、α-SMA、及びFOXO3 mRNAの発現(n=2)。
図10】AM-001は、IPF線維芽細胞の増殖を減少させ、IL-6及びα-SMAの発現を低減させた。A)lenti.sh.Epac1で72時間トランスフェクトされたNHLF及びIPF FBにおけるEpac1 mRNA発現。B)示された条件でBrdUアッセイによって判定されたNHLF細胞の増殖。C~E)AM-001(20μMで48時間、n=2)で処理されたNHLF及びIPF線維芽細胞におけるIL-6、α-SMA、及びFOXO3のmRNA発現レベル。F)AM-001で処理されたNHLF及びIPF線維芽細胞における示された条件の代表的な免疫ブロット。
【実施例
【0105】
背景。cAMPによって直接活性化される交換タンパク質(Epac)は、アドレナリン刺激によって活性化されるPKA非依存性シグナル伝達分子である(de Rooij et al., 1998, Nature, 396, 474-7; Kawasaki et al., 1998, Science, 282, 2275-9)。Epac1及びEpac2の2つのアイソフォームが同定されている。Epac1は遍在的に発現される。2つのEPACアイソフォームであるEPAC1及びEPAC2は、Ras様GTPaseであるRap1及びRap2のグアニンヌクレオチド交換因子であり、これらは、cAMPの古典的なエフェクターであるプロテインキナーゼAとは無関係に活性化する。EPACの薬理学的モジュレーターの開発に伴い、文献の多数の報告は、種々の心血管疾患及び腎疾患の調節におけるEPACの重要な役割を証明している(Yang et al., 2013, Am J Physiol Renal Physiol, 304, F831-9; Laudette et al., 2018, J Cardiovasc Dev Dis, 5)。Epac1に選択的な阻害化合物は、心血管疾患におけるその潜在的な特性が調査されている(Fazal et al., 2017, Circ Res, 120, 645-657)。AM-001化合物は、Epac1の新規な選択的薬理学的阻害剤として同定及び性状解析されている。この低分子は、チエノ[2,3-b]ピリジン誘導体(3-アミノ-N-(4-フルオロフェニル)-4-フェニル-6-(チオフェン-2-イル)チエノ[2,3-b]ピリジン-2-カルボキサミド)であり、Epac1の触媒活性を選択的に阻害する。AM-001は、心筋虚血/再灌流傷害及び慢性β-AR活性化の有害な作用に対する心臓保護特性を示す(Laudette et al., 2019, Cardiovasc Res, 115, 1766-1777)。
【0106】
材料及び方法
患者。本研究では、ヒトIPF及び健常対照ドナーのRNA、タンパク質試料、及びホルマリン固定パラフィン包埋切片を使用した。ヒトの肺組織は、臓器移植プログラムのために手術を受けたIPF患者(n=8)から得られ、そして肺外植片の健常対照試料は、University General Consortium Hospital of Valenciaの臓器移植プログラムから得られた(n=8)。試料は匿名でアーカイブ標本であった。プロトコールは、University General Consortium Hospital of Valenciaの地域研究及び独立倫理委員会によって承認された(CEIC/2013)。書面によるインフォームド・コンセントが各参加者から得られた。
【0107】
動物。マウスは無菌施設に収容され、全ての動物実験はAnimal Care and Use Committees of the University of Toulouseによって承認された。Epac1欠損マウス(Epac1-/-)は、Frank Lezoualc'h博士の研究室で操作された。簡単に説明すると、Epac1ノックアウトマウスは、GenowayによるRAPGEF3遺伝子のイントロン7及び15内にloxP配列を挿入することによって作製された。卵母細胞でCreリコンビナーゼを散発的に発現するデスミン(Desmin)-Cre(C57BL/6バックグラウンド)トランスジェニックのメスをEpac1 flox/flox(C57BL/6-SV129バックグラウンド)のオスと交配して、デスミン-Cre-Epac1-/-、次にEpac1-/-マウスを作製した。遺伝子型は、使用前にPCRによって確認された。この研究において、14週齢のマウス(Epac1ノックアウト及び対照同腹仔のC57BL/6又はC57BL/6-SV129バックグラウンド)を使用した。
【0108】
気管内ブレオマイシン動物モデル。全ての動物実験及び操作は、実験動物の管理及び使用に関するNIHガイド(NIH Guide for the Care and Use of Laboratory Animals)に従って実施された。動物をキシラジン/ケタミンのIP注射によって麻酔し、仰臥位でトレイに固定した。挿管後、ボードを45度に傾け、IA-1C Microsprayerチップ(PennCentury, Wyndmoor, PA)を血管カテーテルの内腔に挿入した。動物にBLM(50μL;4U/Kg)を28日間にわたり単回気管内注射した。Epac1の薬理学的阻害剤であるAM-001を、1日置きに(10mg/kg)2週間腹腔内注射した。
【0109】
心臓の血行動態研究。マウスを(2~4%)イソフルランで麻酔し、気管切開により挿管し、1~2%イソフルラン及び酸素(一回換気量、6mL/kg;呼吸数、100呼吸/分)で機械的に換気した。胸腔が開かれ、胸骨切開により臓器にアクセスした。心膜が開かれ、心臓に完全にアクセスできるようになったら、超音波血流計プローブ(血流計プローブ2.5S176;Transonic Systems Inc., Ithaca, NY)をRVに挿入して、右心室収縮期圧(RVSP)を収集した。血行動態データは、Scisense PV Control Unit(Scisense, Ontario, Canada)を使用して記録された。
【0110】
右心室重量測定。血行動態データを収集した後、マウスを回収して心臓及び肺を収集した。心臓を胸部から取り出し、PBSで灌流して血液及び血塊を除去した。心房及び接続血管の両方を別々にした。次に、RVを心臓から分離し、秤量した。最後に、残りの左心室(LV)及び中隔を秤量した。フルトン指数は、RV肥大を具体的に説明するために、LV+中隔の重量に対するRV重量の重量比(RVの重量/LV+中隔の重量)によって算出された。
【0111】
ヘマトキシリン&エオシン及びマッソントリクローム染色。肺組織を摘出し、PBS/OCT(50:50)で満たし、OCTで固定(-80℃で凍結)した。切片を8μmに切り、カラーフロストスライドガラス(ThermoFisher)に付着させた。肺組織切片をヘマトキシリン及びエオシン(H&E)並びにマッソントリクローム(Sigma-Aldrich)で染色し、光学顕微鏡を使用して可視化した。次に、ImageJソフトウェアを使用して、内側壁の厚さ及びコラーゲン沈着を定量化した。
【0112】
コムギ胚芽凝集素(WGA)免疫染色
RV切片を1%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、蛍光標識コムギ胚芽凝集素(WGA)(Invitrogen)を使用して4℃で一晩染色し、Zeiss Observer Z.1顕微鏡(Carl Zeiss)で160倍の倍率で画像化した。心筋細胞の輪郭を追跡し、ImageJソフトウェアを使用して心筋細胞の面積を算出した。
【0113】
細胞培養。正常なヒト肺線維芽細胞(NHLF)及びIPF患者の肺線維芽細胞を、Lonza, Inc.(Allendale, NJ)から購入し、37℃で5% CO中で5%ウシ胎仔血清(FBS)を補足したFGM-2培地で推奨どおりに培養し、そしてコンフルエントに達したら継代した。全ての細胞株は製造業者によって試験され、HIV-1、HBV、HCV、マイコプラズマ、細菌、酵母、及び真菌に対して陰性であった。
【0114】
shRNA及びレンチウイルス産生。pLKO.1レンチウイルス発現ベクターにクローニングされたEpac1 shRNA(TRCN0000047228)をDharmaconから入手した。レンチウイルス産生には、構築物とウイルスパッケージングプラスミドpSPAX2及びpMD2.Gを、製造業者の推奨によりEffectene(登録商標)(Qiagen)を使用して293T細胞に同時トランスフェクトした。供給業者の推奨どおりLenti-X Concentrator(Clontech)とのインキュベーションによって、ウイルスを濃縮した。濃縮ウイルス粒子を使用して、NHLF細胞に72時間感染させた。RNA及びタンパク質の発現をRT-qPCR及び免疫ブロット法によってそれぞれ測定し、Epac1ノックダウンを検証した。
【0115】
薬理学的処理。細胞を6ウェルプレートに250,000細胞/ウェルで播種し、使用前に5% COの37℃のインキュベーターで24時間維持培養した。細胞をTGF-β1(2ng/mL;48時間)単独で、又はEpac1阻害剤のCE3F4(20μM;48時間)若しくはAM-001(20μM;48時間)との併用で処理した。
【0116】
細胞増殖
NHLFの増殖は、製造業者の取扱説明書によりCell Proliferation ELISA、BrdU(比色法)アッセイ(Roche, Indianapolis, IN)を使用して、5-ブロモ-2’-デオキシウリジン(BrdU)の取り込みによって測定された。
【0117】
全RNAの単離、cDNAの調製、及び定量的RT-PCR分析
全RNAは、製造業者の取扱説明書により、TRIzol(商標)(Invitrogen)を使用して分離し、RNeasyミニカラム(Qiagen)を使用して精製した。cDNA合成キット(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使用して、製造業者の説明どおりにcDNAを合成した。定量的RT-PCRは、PerfeCTa SYBR(商標)Green FastMixキット(Quantabio, Beverly, MA)及び指定遺伝子に対する特異的プライマーを使用して、製造業者の取扱説明書により実施した。遺伝子発現の倍率変化は、内部ローディングコントロールとしてのGAPDHに対して正規化した相対比較法を使用して決定された。
【0118】
SDS-PAGE及び免疫ブロット分析。タンパク質溶解物は、プロテアーゼ/ホスファターゼ阻害剤カクテル(Pierce)を含有するRIPA溶解緩衝液(Boston BioProducts)を使用して調製した。15000×gで20分間遠心分離した後、ビシンコニン酸(BCA)アッセイ(Sigma-Aldrich)を使用してタンパク質濃度を判定した。次に、タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ポリフッ化ビニリデン膜に転写した。膜を5% スキムミルクでブロックし、次の一次抗体:Epac1(Cell Signaling)、phospho-SMAD2/3(Cell Signaling)、phospho-STAT3(Cell Signaling)、phospho-AKT(Cell Signaling)、全AKT(Cell Signaling)、及びGAPDH(Thermofisher)と4℃で一晩ハイブリダイズさせた。次に、膜を適切な二次HRP結合抗体(Cell Signaling)と一緒に1時間インキュベートし、ECLシステム(Thermofisher)を使用してブロットを発色させた。
【0119】
結果
1.ヒトIPF及びBLM誘発性肺線維症のマウスモデルにおけるEpac1の発現の増加。IPFの病因に対するEpacタンパク質の寄与を判定するために、Epac1、及びEpac2 mRNA発現レベルを、IPFと診断された患者の肺生検及び正常肺において測定した。我々は、Epac1 mRNAの発現の有意な増加を見い出したが、一方、Epac2 mRNAレベルは、健常肺試料と比較してヒト肺線維症肺組織では変化がなかった(図1A)。これらの知見により、ブレオマイシン(BLM)の気管内送達によって誘発されたPFの実験マウスモデルからの肺試料において、Epac1a mRNA及びタンパク質発現の増加が見られた(図1B~C)。
【0120】
2.Epac1の選択的な薬理学的阻害は、増殖を減少させ、幾つかの線維化マーカーの発現を抑制した。肺線維化におけるEpac1aの役割を更に調査するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を使用して、正常ヒト肺線維芽細胞(NHLF)の増殖に対するEpac1阻害の効果を検討した。NHLF細胞は、TGFβ単独で、又はEpac1阻害剤CE3F4と併用して、0.1%又は5% FBSのいずれかを含有する培地を使用して48時間処理した(図2A)。線維化促進剤のTGFβ1は線維化の重要なメディエーターであり、IPFの病因に寄与すると考えられている(Fernandez et al., 2012)。TGFβ処理及び血清刺激はNHLFの増殖を増加させたが、一方、CE3F4処理はこの反応を有意に減少させた(図2B)。本発明者らは更に、Epac1阻害がインビトロで幾つかのTGFβ1調節遺伝子の発現を調節するかどうかを判定しようと試みた。したがって、NHLF細胞をTGFβ1で48時間、単独で、又はCE3F4化合物と併用して処理した。次に、コラーゲンIAI(COLIA1)、COLIII、並びに結合組織増殖因子(CTGF)及びトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ1)などの幾つかの線維化マーカーのmRNA発現を分析した。注目すべきことに、CE3F4化合物によるEpac1阻害は、TGFβ処理によって誘導された線維化マーカーの誘導を障害した(図2C)。
【0121】
3.新しいEpac1選択的阻害剤であるAM-001は、肺線維芽細胞の増殖を阻止し、インビトロでNHLFにおける線維化マーカーの発現を減少させた。CE3F4は、インビトロのEpac1の選択的薬理学的阻害剤として同定されたが、その低い生物学的利用能により、将来のインビボ適用への使用が阻まれる。したがって、本発明者らは、AM-001と命名された新しいEpac1選択的阻害化合物であるAM-001が、NHLFの増殖及びインビトロの線維化マーカーの発現に及ぼす効果を調査した。実際、低分子AM-001は、チエノ[2,3-b]ピリジン誘導体(3-アミノ-N-(4-フルオロフェニル)-4-フェニル-6-(チオフェン-2-イル)チエノ[2,3-b]ピリジン-2-カルボキサミド)であり、Epac2又はプロテインキナーゼA(PKA)活性に対するアンタゴニスト作用が報告されていないため、Epac1に対して選択的な阻害活性を示した(Laudette et al., Cardiovasc. Res. 2019, 115(12):1766-1777)。この新たに性状解析及び同定された化合物は、前臨床研究において心筋虚血/再灌流傷害及び慢性β-AR活性化中の病的心臓リモデリングに対する有望な心臓保護特性を示した。CE3F4の存在下で実施された以前の実験と同様に、NHLF細胞をTGFβ単独で、又は新しいEpac1阻害剤AM-001と併用して、0.1%又は5% FBSのいずれかを含有する培地を使用して48時間処理した(図3A)。我々の結果は、AM-001が高濃度血清又はTGFβ刺激によって誘導されるNHLFの増殖を阻害することを示した(図3B)。以前の結果と一致して、AM-001は、インビトロでTGFβによって誘導される線維化遺伝子マーカーのアップレギュレーションを障害した(図3C)。
【0122】
4.ブレオマイシン誘発性PFマウスモデルにおける肺線維化及び肺機能障害を阻害するための新しい治療方策としてのEpac1の薬理学的阻害。肺線維化の病因におけるEpac1のアップレギュレーションの関与を更に裏付けるために、Epac1阻害の治療効果の見込みを、次にEpac1選択的阻害化合物AM-001を使用してインビボで評価した(Laudette et al., Cardiovasc. Res. 2019, 115(12):1766-1777)。BLMマウスモデルは、肺線維化を誘導するために頻繁に使用され、依然として間質性肺疾患を研究するために齧歯類で最も一般的に使用される動物モデルである(Liu et al., 2017, Methods Mol Biol, 1627, 27-42; Leach et al., 2013, Am J Respir Cell Mol Biol, 49, 1093-101)。BLMエアゾール投与は、活性酸素種の産生の増加を誘導し、それによって内皮細胞及び他の細胞型に細胞損傷を引き起こし、TGFβ及びIL-6などのサイトカイン及び線維化促進メディエーターの産生につながることによって、その後のマウスの線維増殖反応を伴う肺損傷を招く(Adamson, 1976, Environ Health Perspect, 16, 119-26; Yamamoto and Nishioka, 2005, Exp Dermatol, 14, 81-95; Leach et al., 2013)。
【0123】
治療方策を利用して、マウスを、生理食塩水を気管内投与された偽の対照処理群と、BLM(4U/kg)のエアゾールを気管内単回投与されたPF群とにランダムに割り当てた。2週間後、BLM投与群を、ビヒクル又はEpac1阻害剤AM-001のいずれかを2週間投与するようにランダムに割り当てた(図4A)。ビヒクル又はAM-001を1日置きに2週間腹腔内注射した(10mg/kg)。興味深いことに、AM-001処理群では対照群と比較して右心室収縮期圧(RVSP)の低減が分かった(図4B)。更に、我々の結果はまた、フルトン指数の低減によって明らかにされたとおり、AM-001処理がBLM投与マウスのRV肥大を有意に低減させたことを示した(図4C)。
【0124】
5.AM-001は、間質性肺線維化及び血管リモデリングを効果的に回復させる。PFにおけるEpac1阻害の治療効果の見込みを更に調査するために、次に間質性線維化レベル及び血管リモデリングを、2週間の処理後の組織学的分析によって評価した。結果は、ブレオマイシン注入に応答して間質性線維化と血管周囲線維化の両方が増加し、結果としてAM-001処理群と比較してビヒクル処理群で実質的な組織学的な組織損傷があったことを示した(図5A)。興味深いことに、これらの結果は、間質性線維化と血管周囲線維化との両方がビヒクル対照群で増加し、AM-001処理BLM群で有意に減少したことを示した(図5A)。本発明者らはまた、RT-qPCRによって、肺試料における線維化の幾つかのマーカーの発現を測定した。Epac1阻害により、肺試料中のCOLI、COLIII、CTGF、及びTGFβのmRNAレベルの発現が著しく低減することが分かった(図5B)。更に、遠位肺動脈の形態計測分析は、BLM処理マウスの内側壁の厚さの有意な増加を示した(図5C)。同様に、AM-001は、ビヒクル処理BLMマウス群と比較して、肺血管リモデリングを著しく減少させた(図5C)。組織学的分析は、Epac1阻害剤AM-001で処理した場合にRVの心筋細胞サイズの低減を示した(図5D)。更に、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、ベータミオシン重鎖(β-MHC)などの線維化及び肥大関連遺伝子マーカーの発現のアップレギュレーションは、AM-001処理マウスで障害された(図5E)。
【0125】
全体として、これらの前臨床データは、Epac1の薬理学的阻害が、ブレオマイシン誘発性IPFモデルの血行動態パラメーターを改善しながら、肺線維化、血管リモデリング、及びRV肥大を有意に阻害することを導いた。まとめると、インビトロ及びインビボの結果は、Epac1の薬理学的阻害が肺線維症の患者を処置するための有望な治療方策であることを更に裏付けている。
【0126】
6.Epac1欠損は、BLM誘発性線維症からマウスを保護する。本発明者らは、PFに対するEpac1欠失の影響に取り組もうと試みた。汎用性のEpac1 KO幼若マウス(Lezoualch博士から寄贈)及びWTマウスをランダムに2群に割り当てた:未損傷の対照生理食塩水群(n=10)及びBLM(4U/Kg)を28日間にわたり単回気管内注射したBLM群(n=10)。注目すべきことに、BLMの28日後、マッソントリクローム染色によって評価された線維化病変は、WT BLM投与マウスと比較してEpac1 KOマウスで有意に減少した(図6A)。これと一致して、プロコラーゲン、I型、α1[COL1A1]、III型コラーゲン[COL3A1]、結合組織増殖因子[CTGF]、トランスフォーミング増殖因子β[TGFβ]などの線維化マーカーのmRNAレベルが、BLM Epac KOマウスにおいて有意に低減することが分かった(図6B)。これらのデータは、Epac1が肺線維化の発症に必要であり、その欠失が線維化からの顕著な保護を得るのに十分であることを示唆している。
【0127】
7.RNA-Seqは、主要な線維化経路に関与するEpac1標的遺伝子を同定する。Epac1の標的を包括的に同定するために、DMSO又は20μMのAM-001(Epac1阻害剤)のいずれかで48時間処理したNHLFにおいてRNA-Seqを実行した。対照及びAM-001処理NHLF細胞での我々の予備実験結果データセット分析により、線維化、ECMリモデリング、及び肺損傷時の増殖に関与する主要なIPF遺伝子シグネチャーが同定された。
【0128】
この広範なデータセットから、TGFβシグナル伝達、FGFR1(線維芽細胞増殖因子受容体1)、及びTNC(テネイシンC)が候補遺伝子として選択された。TGF-βは、ヒト肺線維芽細胞におけるFGF/FGFRシグナル伝達カスケードの調節因子であり(1、2)、多くの増殖因子間で複雑な相互作用を示している。TGF-βはまた、TNCをアップレギュレートした(3~5)。まとめると、この証拠は、肺線維症の疾患発症機序におけるEpac1の重要な役割を示唆している。FGFR1及びTNCは確立された肺線維症の引き金であり(5、6)、両方とも我々のヒト肺試料でアップレギュレートされる(図7A~B)。本発明者らはまた、Epac1 KOマウスにおけるRNA seqの結果を検証した。データは、BLMがEpac1 KOと比較して投与WTマウスのFGFR1及びTNC mRNAレベルを有意に増加させることを示した(図7C~D)。興味深いことに、AM-001処理は、WTマウスにおいてTNC mRNAの減少傾向と共に、FGFR1を有意に減少させることにより、BLMの作用を逆転させた(図7E~F)。本発明者らは、AM-001処理NHLFを使用して得られたRNA-Seqデータセットを更に分析し、ENCODE及びChEAライブラリーを使用して上位50個の転写因子(TF)を同定した。本発明者らは、フォークヘッドボックスO3(Forkhead Box O3)(FOXO3)を見込みある候補として同定した。フォークヘッドボックスO(FOXO)は、進化的に保存されたTFであり、PI3-キナーゼ/プロテインキナーゼB-AKTシグナル伝達経路の標的であり、そして一連の基本的な生物学的プロセスに関与している。
【0129】
研究によると、FOXO3の喪失は、肺線維芽細胞の分化転換及び過剰増殖の表現型を導くことが示されている(7、8)。更には、FOXO3 KOマウスは、BLM投与に対する感受性の増強、線維化の増加、肺機能の喪失、及び死亡率の上昇を示した(7)。注目すべきことに、shRNA介在性Epac1サイレンシングは、FOXO3 mRNAの発現を増強し、一方Epac1の過剰発現は、NHLF細胞におけるこれらの作用を逆転させることが分かった(図8A~B)。
【0130】
8.正常及びIPF線維芽細胞におけるEpac1の機能喪失又は機能獲得の効果。Epac1欠失IPF線維芽細胞、又はAM-001で処理された同細胞は、BrdU取り込みアッセイを使用して基本条件での増殖に関して評価された(22)。予備データは、IPF線維芽細胞(FB)が基本条件においてNHLFと比較して高いEpac1のmRNAレベルを示し、そしてEpac1ノックダウン(図9A)及びAM-001阻害の両方が、IPF線維芽細胞の増殖を減少させることを示している(図9B~10B)。Epac1は、炎症誘発性IL-6シグナル伝達経路の必須の調節因子として浮上している(9、10)。IPF線維芽細胞におけるEpac1の欠失又は阻害は、IL-6及びα-SMAを減衰させ、FOXO3 mRNA発現を回復させる(図9C~E及び10C~E)。更には、SMAD2/3、STAT3、及びAKTのリン酸化は、AM-001処理IPF線維芽細胞において減少した(図10E)。AM-001は、TGF-β1シグナル伝達、AKT、及びIL-6を標的としていると考えられる。
【0131】
要約すると、これらのデータは、PFにおける肺線維化促進遺伝子発現並びに線維芽細胞の活性化及び増殖における重要なプレーヤーとしてのEpac1の可能性の予備的証拠を提供する。よって、Epac1は、PFの新規な抗線維化薬としてのAM-001の開発のための見込みある治療標的かもしれない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0132】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】