(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-13
(54)【発明の名称】混合の繊維(blended textile)廃棄物から出発材料を回収する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 11/16 20060101AFI20230206BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20230206BHJP
D06M 11/00 20060101ALI20230206BHJP
【FI】
C08J11/16
B29B17/02 ZAB
D06M11/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535790
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2020084540
(87)【国際公開番号】W WO2021115931
(87)【国際公開日】2021-06-17
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルヒル、リヒャルト
(72)【発明者】
【氏名】クラウス-ニートロスト、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】タイス、ザブリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイラッハ、クリスティアン
【テーマコード(参考)】
4F401
4L031
【Fターム(参考)】
4F401AA02
4F401AA22
4F401AD20
4F401BA06
4F401BA13
4F401CA22
4F401CA46
4F401CA75
4F401CB32
4F401EA07
4F401EA80
4F401FA01Z
4L031AA18
4L031AB01
4L031AB21
4L031AB31
4L031BA10
4L031CA01
(57)【要約】
以下の工程を記載された順に含む、混合の繊維廃棄物から原材料を回収する方法を示す:a)少なくともセルロース成分及び少なくともポリエステル成分を含む混合の繊維廃棄物を提供すること、b)前記ポリエステル成分を脱重合させて水性処理溶液中に溶解させるために、前記混合の繊維廃棄物を前記処理溶液中で処理すること、c)前記セルロース成分を前記処理溶液から分離し、セルロース原材料を回収すること、d)前記処理溶液から外来性異物、特に染料及び金属イオン、を除去するために、前記処理溶液を濾過すること、及びe)前記処理溶液からテレフタル酸を沈殿させ、沈殿したテレフタル酸を分離し、さらに、テレフタル酸を含むポリエステル原材料を回収すること。本方法の範囲において、純度のレベルが向上した原材料の回収を可能にするために、工程d)における前記処理溶液の濾過は、少なくとも吸着性の濾材による濾過を含むことが提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくともセルロース成分及び少なくともポリエステル成分を含む混合の繊維廃棄物を提供する工程、
b)前記ポリエステル成分を脱重合させて水性処理溶液中に溶解させるために、前記混合の繊維廃棄物を前記処理溶液中で処理する工程、
c)前記セルロース成分を前記処理溶液から分離し、セルロース原材料を回収する工程、
d)前記処理溶液から外来性異物、特に染料及び金属イオン、を除去するために、前記処理溶液を濾過する工程、及び
e)前記処理溶液からテレフタル酸を沈殿させ、沈殿したテレフタル酸を分離し、さらに、テレフタル酸を含むポリエステル原材料を回収する工程、
をこの順に含み、
工程d)における前記処理溶液の濾過が、吸着性の濾材による濾過を少なくとも含み、
ここで、前記水性処理溶液が水性アルカリ処理溶液であって、加水分解剤を含み、加水分解剤として特には塩基を、さらに好ましくはNaOHを含む、ことを特徴とする、
混合の繊維廃棄物から原材料を回収する方法。
【請求項2】
前記吸着性の濾材が、活性炭及び/又はゼオライトを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b)の混合の繊維廃棄物の処理の間における前記処理溶液の温度が、100℃より高い、特には110℃より高いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程c)における前記セルロース成分の分離が、篩通し(screening)、圧搾(pressing)又は遠心分離を少なくとも含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程e)における前記テレフタル酸の沈殿生成が、前記処理溶液を酸性化することを少なくとも含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
再生セルロース性ファイバーの製造、特に、ビスコース(viscose)、モダール(modal)、キュプロ、又はリヨセルプロセスによる再生セルロース性ファイバーの製造のための、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法によって回収されたセルロース原材料の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合の繊維(blended textile)廃棄物から原材料を回収するための方法に関わる。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維廃棄物から原材料を回収又は再利用することは、特にそれらの繊維廃棄物の環境へのインパクトを減らすことから、繊維産業にとって非常に重要性を増している。
【0003】
繊維廃棄物を単純に機械的にリサイクルすることは、かなりの期間においてよく知られており、その場合には、繊維廃棄物は細かく砕かれ、そこからクリーニングワイプ、充填材、又は断熱材のような直接リサイクルされた最終製品が生み出される。そのようなリサイクル繊維ファイバーから糸を紡糸すると、通常は、低品質で、限られた範囲でしか新たな織物(textiles)の生産に適していない糸が、結果として得られる。
【0004】
化学的リサイクル法は、上記の問題の克服に適している。例えば、セルロース系ファイバーは、化学的前処理を経て、再生セルロース系ファイバーとして再び紡糸することが可能である。しかしながら、そのような再生セルロース系成型体の生産プロセスは、セルロース原材料中の不純物に対して非常に敏感であり、それがゆえに、このようにしてリサイクルされたセルロース原材料は、一般的に、ファイバーへと紡糸するには不向きである。
【0005】
国際公開第2015/077807A1号は、繊維廃棄物から再生利用される綿ファイバーの前処理方法を示しており、そこでは、まず、前記再生利用綿ファイバーから金属が除去され、その後酸化漂白剤にさらされる。このようにして再生された綿ファイバーは、その後、再生セルロースからの成型体の生産に用いることができる。
【0006】
国際公開第2018/115428A1号は、綿系の原材料を、ガス状の酸化剤と組み合わせたアルカリ性の条件下で処理する方法を開示している。
【0007】
国際公開第2018/073177A1号は、同様に(in turn)、セルロース系繊維廃棄物からセルロース原材料をリサイクルする方法を示している。この場合、繊維廃棄物中のセルロース系ファイバーを膨潤させて、それによって外来性異物の除去を促進するために、繊維廃棄物は還元剤の存在するアルカリ性条件下で処理される。前記アルカリ処理に続いて、セルロース原材料は、酸素及び/又はオゾンによって漂白される。
【0008】
そのような方法では、一般的に、出発物質として純粋なセルロース系繊維廃棄物を使用している。しかしながら、実際には、衣類や生地からの繊維廃棄物は混合の繊維廃棄物であり、すなわち、セルロース系及び合成系のファイバーが混合されたものである。ここで主要な部分(predominant fraction)は、ポリエステル及びセルロース系ファイバーを含む混合の繊維廃棄物である。また、綿繊維製品からの繊維廃棄物には、多くの場合、縫い糸、ラベル、などからのポリエステルが混入している。しかし、上述のタイプの方法は、合成ポリマーファイバーの顕著な混入を除去することができないので、通常、混合の繊維廃棄物を処理することはできない。
【0009】
一方、国際公開第2014/045062A1号は、抽出溶剤によって繊維製品からポリエステルを抽出する方法を記載している。これによって、ポリエステル成分の回収が可能になるが、しかしながら、セルロース成分は、抽出溶剤の残留物、分子鎖の著しい劣化、残存ポリエステルの残留物、のそれぞれに起因してかなり汚染されており、再生セルロース系成型体の生産方法に用いるには適切ではない。さらに、ポリエステル成分は、外来性異物、染料、つや消し剤などによって汚染されており、分解プロセスの結果として、その分子の長さ及び性質が著しく変わっており、ポリエステル成分の追加処理プロセスが不可避となっている。
【発明の概要】
【0010】
ゆえに、本発明の一つの目的は、より純度のレベルが高い原材料の回収を可能にする、冒頭に記載したタイプの、混合の繊維廃棄物から原材料を回収する方法を提供することである。
【0011】
本発明によれば、前記の目的は請求項1に記載する方法によって達成される。
【0012】
少なくともセルロース成分及び少なくともポリエステル成分を含む混合の繊維廃棄物を提供すること、ポリエステル成分を脱重合させて処理溶液中に溶解させるために前記混合の繊維廃棄物を水性処理溶液中で処理すること、前記処理溶液からセルロース成分を分離すること、及び、セルロース原材料を回収すること、によって、プロセス技術的にシンプルな手法で混合の繊維廃棄物から高品質なセルロース原材料が回収出来、その結果セルロース系出発材料としての再利用に供することが可能である。さらに、処理溶液から外来性異物を除去するために処理溶液を濾過して、処理溶液からテレフタル酸を沈殿させること、沈殿したテレフタル酸を分離すること、及び、テレフタル酸を含むポリエステル原材料を回収することによって、ポリエステル成分の特に有効な活用(utilization)と回収を達成することができ、その過程で、得られたポリエステル原材料は、ポリエステル生産の出発物質として供給され得る。
【0013】
本発明の目的のためには、「ポリエステル」とは、モノマーであるテレフタル酸及びエチレングリコールからなるポリエチレンテレフタレート(PET)を主に指す。しかしながら、本発明は、例えば、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの、他の広く用いられているポリエステル、あるいはこれらのポリエステルの混合物、についても非常に良好に作用する。それぞれの場合において、アルコール性成分、すなわちエチレングリコール、ブタンジオール、プロピレンジオール、トリメチレングリコールなど、が処理溶液中に容易に溶解可能であって、テレフタル酸と共に沈殿することがないことが重要である。
【0014】
工程d)における処理溶液の濾過が、特に処理溶液から染料及び金属イオンを除去するために、吸着性の濾材による濾過を少なくとも含む場合には、工程e)において処理溶液の沈殿生成後に得られるテレフタル酸の沈殿物が高純度であることを確実化できる。そうでなければ、金属イオン及び染料は、それぞれテレフタル酸分子への結合の高い親和性を示し、それにより、沈殿生成の間にテレフタル酸沈殿物を汚染し、回収されたテレフタル酸含有出発材料の品質を著しく損なう。吸着性の濾材による本発明の濾過によれば、主な汚染物質は吸着性の濾材の粒子と結合しやすいので、沈殿生成に先立って、処理溶液から主な汚染物質を効率よく除去することができる。
【0015】
前記吸着性の濾材が、活性炭及び/又はゼオライトをも含む場合には、活性炭の吸着性及び還元性の性質により、染料及び繊維助剤の分解生成物などの不純物は、特に高い信頼性で、また部分的には選択的に吸着され得、処理溶液から除去することが可能である。この選択性は、吸着性の濾材にさらに追加のコーティングを施すことで向上させることが可能である。
【0016】
本発明の目的のためには、「リサイクルセルロース原材料」とは、一般的に、リサイクルパルプ、繊維パルプ(textile pulp)、綿パルプ、ラグパルプ(rag pulp)など、又はそれらの組み合わせを指す。より具体的には、そのようなセルロース原材料は、リヨセル、ビスコース(viscose)、モダール(modal)、又はキュプロファイバーといった再生セルロースファイバーの生産用の出発材料として適したものとなり得る。あるいは、リサイクルセルロース原材料は、紙、紙状の材料、又はパルプ製の不織布の生産用の出発材料にもなり得る。
【0017】
一般的に、本発明の目的のためには、「混合の繊維廃棄物」は、混合の繊維廃棄物のセルロース成分を形成している何らかのセルロースファイバー、及びポリエステル成分を形成している何らかのポリエステルファイバーを含む混合物であってもよい。適切なセルロースファイバーは、例えば、綿、亜麻(flax)、麻(hemp)、ラミー(ramie)、カポック(kapok)などの天然セルロースファイバー、又は、レーヨン、ビスコース(viscose)、リヨセル、キュプロ、又はモダール(modal)といった再生セルロースファイバー、を含む。合成ポリマー成分は、例えば、ポリアミド又はポリエステルファイバー、あるいは加水分解によって分解し得る他の合成ファイバー、を含むことができる。上記のファイバーは、さまざまな直径及び長さでよく、連続したファイバー(フィラメント)でもステープルファイバーでもよく、また不織布の形で存在してもよい。そのような混合の繊維廃棄物は、セルロース成分及びポリエステル成分のそれぞれを1重量%以上、好ましくは2重量%以上、さらに好ましくは3重量%以上含んでいる。
【0018】
さらに、混合の繊維廃棄物がプレコンシューマー(pre-consumer)及び/又はポストコンシューマー(post-consumer)の繊維廃棄物である場合には、特に経済的かつ信頼性のあるリサイクル方法を提供することができる。ポストコンシューマー(post-consumer)繊維廃棄物とは、最終消費者に既に届き、使用された結果として外来性異物を含みうる、場合によってはかなりの量で含みうる繊維製品を指す。ポストコンシューマー(post-consumer)繊維廃棄物は、以下のうちの1種又はいくつかを含む:シャツ、ジーンズ、スカート、ドレス、スーツ、カバーオール、パンツ、下着、セーターなどの使用済み衣類;ベッドリネン、タオル、カーテン、クロス、テーブルクロス、シートカバー、室内装飾用布地(upholstery fabrics)などの使用済み家庭用繊維製品(home textiles);ワイプ、おむつ、フィルターなどの不織布製品。プレコンシューマー(pre-consumer)繊維廃棄物とは、最終消費者にはまだ届いておらず、製造プロセスの過程で廃棄物となった繊維材料を指す。これは、衣類、家庭用繊維製品、不織布などの製造で生じたカット残り又は廃棄分、あるいは、糸、繊維製品又は再生セルロースファイバーの製造で生じた廃棄物、を含んでもよい。
【0019】
この方法は、水性処理媒体が1種以上の加水分解剤を含む場合にさらに改善することができる。さらに、そのような場合、前記1種以上の加水分解剤の量は、ポリエステル成分が工程b)の処理の間に実質的に完全に脱重合するように、混合の繊維廃棄物中のポリエステル成分の量に応じて調節することができる、すなわち、工程b)の処理の間にポリエステル成分中の加水分解的に分裂可能な結合が実質的に全て分裂する量以上に、加水分解剤が添加される。ここで、加水分解剤は、ポリエステル成分における加水分解的に分裂可能な結合の分裂の間における加水分解反応を促進することができる。ポリエステル成分における加水分解的に分裂可能な結合は、実質的に、テレフタル酸及びエチレングリコールのモノマー間に形成されるエステル結合である。混合の繊維製品中のポリエステル成分の含有量との関係で必要とされる加水分解剤の量は、工程b)の処理に先立って、及び/又は工程b)の処理の後に、適切な手法で処理溶液に添加される。ここで特に、ポリエステル成分の完全な脱重合の後、処理溶液中に余剰の加水分解剤が残らないように、添加が行われ、それゆえに、過剰の加水分解剤によるセルロース成分の分解の増加は起こらず、工程c)にて回収されるセルロース原材料の品質を向上させることができる。さらに、ポリエステル成分の完全な脱重合の後、ある量の加水分解剤を意図的に処理溶液中に残すように添加が行われてもよく、そのことによりセルロース成分中の分子の鎖の長さが所望の程度になるように分解し、それゆえに回収されたセルロース原材料の粘度が調節できる。このように、ポリエステル成分及びセルロース成分の分解反応の挙動に対するよりよい制御を与える方法を提供することができる。
【0020】
前記水性処理溶液が、水性アルカリ処理溶液である場合、本方法の制御性はさらに向上する。ここでは、処理溶液中におけるポリエステル成分の加水分解は、主にアルカリ性加水分解又はけん化として生じ、水性加水分解と比べてより早い反応速度が特徴である。加水分解剤が塩基である場合、特に単純で費用対効果の良い方法がさらに得られる。前記塩基は、エステル結合を分裂させるアルカリ性加水分解において、効果的な促進剤として作用することができる。このアルカリ性加水分解の間に前記塩基は反応に使い尽くされ、これは例えば、分裂したポリエステル成分のモノマー構成要素と塩を形成することにより、使い尽くされる。さらに、形成されたテレフタル酸の塩(テレフタル酸二ナトリウム)は、有利なこととして、水溶液中での高い溶解度を示す。こうして、ゆえに、合成ポリマー成分の完全な分解の後、水性アルカリ処理溶液中には、過剰な遊離塩基はわずかな量しか残っておらず、セルロース成分の分解は効果的に抑制される。さらに、水性アルカリ処理溶液中におけるセルロース成分の処理は、セルロース成分と結合している染料、外来性異物、不純物、又は繊維助剤(例えば、架橋剤)の除去に適している。こうして、純化された高品質なリサイクルセルロース原材料が得られる。
【0021】
水酸化ナトリウム(NaOH)はパルプ及びセルロース原材料の処理に大量に使用されているが、加水分解剤として用いられる前記塩基が水酸化ナトリウム(NaOH)である場合、信頼性があり費用対効果の良い方法が提供される。そのような場合には、水性アルカリ処理媒体中のNaOHの総含有量は、混合の繊維廃棄物1kgあたり、10~300gであり、例えば20~250gであって、混合の繊維廃棄物中のポリエステル成分の割合に依存する。
【0022】
工程b)における混合の繊維廃棄物の処理の際に、処理溶液の温度が100℃より高い場合、特に110℃より高い場合には、ポリエステル成分のモノマー構成要素への非常に信頼性の高い脱重合が起こり得る。さらに、処理溶液の温度が200℃より低い場合には、セルロース成分のいかなる過剰な分解も避けることができるように十分に温和な条件を保証することができる。本発明のさらなる実施形態において、前記温度は特に110℃~190℃、好ましくは120℃~180℃、より好ましくは125℃~175℃、最も好ましくは130℃~170℃であってもよい。
【0023】
さらに、工程c)におけるセルロース成分の分離が、少なくとも処理溶液の篩通し(screening)、圧搾(pressing)、又は遠心分離を含む場合、技術的に簡潔な手法で処理溶液から再生セルロース原材料を得ることができる。この場合、実質的に分解していない又は実質的に溶解していないセルロース成分を、処理溶液から単純に分離することができる。上記の分解プロセスによると、セルロース成分のある部分は処理溶液中に溶解して存在し得、そのため工程c)の間に処理溶液中に残存する。これは、溶解したポリエステル成分のモノマー構成要素及び外来性異物についても同様である。
【0024】
工程e)におけるテレフタル酸の沈殿生成は、工程e)が少なくとも処理溶液の酸性化を含む場合に、促進され得る。その酸性化は、特に、処理溶液に酸を加えることを含んでもよく、その酸の添加は、例えば、テレフタル酸の完全な沈殿まで、あるいはpH値が特定の値よりも低くなるまで行うことができる。用いられる酸は、セルロースのパルプ化プロセスでよく用いられる硫酸(H2SO4)が好ましい。
【0025】
本方法の信頼性は、混合の繊維廃棄物が、工程b)の処理の前に破砕され(comminuted)、及び/又は個別化(singularized)されている場合に、さらに向上し得る。混合の繊維廃棄物を破砕する及び/又は個別化することは、ポリエステル部分からセルロース部分を機械的に分離するために用いることができ、それにより、水性処理媒体中におけるポリエステル成分のより信頼性の高い分解(溶解)が可能となる。
【0026】
本方法の信頼性は、工程b)の処理の前に、混合の繊維廃棄物から非ファイバー性の固形分が少なくとも部分的にでも除去されている場合に、さらに向上し得る。非ファイバー性の固形分は、例えば、ボタン、ジッパー、装飾要素、印刷、ラベル、及び/又は汚れ、及びこれらの部分を含み得る。
【0027】
本発明によれば、前記方法によって回収されるセルロース原材料は、再生セルロースファイバーの製造、特に、ビスコース(viscose)、モダール(modal)、キュプロ、又はリヨセルプロセスによる再生セルロースファイバーの製造、にも適している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下において、本発明は、第1の実施形態例(embodiment variant)に基づいて例示される。明細書中に記載される改変からさらなる実施形態例が生じ、それらは互いに任意のやり方で組み合わせることが可能である。
【0029】
第1の実施形態例によれば、本発明による混合の繊維廃棄物から原材料を回収するための方法は、第1の工程において、少なくともセルロース成分及び少なくともポリエステル成分を含む混合の繊維廃棄物を提供する。この場合、そのような混合の繊維廃棄物は、セルロース成分を形成する何らかのセルロースファイバー、及びポリエステル成分を形成する何らかのポリエステルファイバーの混合物を含む。例えば、ある実施形態例において、混合の繊維廃棄物は綿とポリエステルファイバー(特にPET)との混合物を含み、それらは混合の繊維において糸のレベルで混合してい得る。
【0030】
さらなる工程において、ポリエステル成分を脱重合させて処理液中に溶解させるために、前記混合の繊維廃棄物は、それから、水性処理溶液中で処理される。第1の実施形態例において、前記水性処理溶液は、水性アルカリ処理溶液であり、特に、加水分解剤としてNaOHを含む希釈された苛性ソーダ液である。前記処理は、100℃よりも高い温度、好ましくは110℃よりも高い温度で行われる。ポリエステル成分の脱重合の間に、ポリエステル分子の分子量と分子鎖の長さは、水性処理溶液の存在下で生じる加水分解により意図的に減少させられる。こうして、ポリエステル成分の分解された分子はその分子鎖の長さを徐々に減らし、最終的にはモノマー性の出発材料、すなわち、テレフタル酸及びアルコールであるエチレングリコール(C2H6O2)にまで分裂する。このプロセスにおいて、テレフタル酸は2つのNa+イオンを消費してテレフタル酸塩、すなわちテレフタル酸二ナトリウム(C8H4O4Na2)を形成する。加水分解の結果、易溶解性のテレフタル酸二ナトリウム及びエチレングリコールが、水性処理溶液中に溶解した形で存在する。それに続いて、このことは、セルロース成分から脱重合させたポリエステル成分をプロセス技術的に簡易に分離することを可能とし、それにより、混合の繊維廃棄物から高レベルの純度のセルロース原材料を回収することが可能である。実際、全般的に穏やかな条件であるがゆえに、セルロース成分におけるセルロースポリマーの分解はごくわずかで、比較的取るに足りない程度しか起こらず、より具体的には、前記分解は、セルロースポリマーから分離されるグルコースモノマーは無いか又は最小量のみであるほどにわずかである。しかしながら、同時に、セルロース成分は有利なことに処理溶液によって部分的にパルプ化されることができ、及び結合した染料又は架橋剤といった不純物を非含有とすることが可能で、このことは、今度は、回収されるセルロース原材料の品質及び純度を利する。
【0031】
本方法の別の実施形態においては、混合の繊維廃棄物は、PTT、PBTなどの他のポリエステルをポリエステル成分として含んでおり、その結果、脱重合においては、モノマー性出発材料として他のアルコールが生成する。そのような場合も、上記の方法は同様に適用可能である。
【0032】
さらなる工程において、前記セルロース成分は、次に、処理溶液から分離され、このプロセスにおいて、セルロース原材料が回収される。水性処理溶液の中には、セルロース成分から溶出した染料及び外来性異物とともに、脱重合させたポリエステル成分が溶解した状態で存在しているため、不溶解性のセルロース成分は、篩通し(screening)、圧搾(pressing)、又は遠心分離といった単純な固/液分離により、液状部分、すなわち処理溶液から分離することが可能である。こうして、純化されてコンディショニングングされたセルロース成分が、セルロース原材料として得られる。その後、さらなる使用に向けてコンディショニングするために、このセルロース原材料を、洗浄及び/又は乾燥することも可能である。前記分離において液体として残る水性のアルカリ性処理溶液は、脱重合させたポリエステル成分(テレフタル酸二ナトリウム及びエチレングリコール)、及び存在する可能性のある外来性異物の混入を依然として含んでいる。
【0033】
残留する前記処理溶液は、今度は次の工程で、脱重合したポリエステル成分から望まれない物質を分離するために濾過される。本発明によれば、このプロセスにおいて、処理溶液は、吸着性の濾材を通して濾過される。特に、この濾過は、固定床フィルターの形で実施することができるが、濾材を処理溶液中に分散させて、その後単純な固/液分離によって分離対象の固形分とともに添加された(loaded)濾材を再度分離することも可能である。第1の実施形態例において、前記吸着性の濾材は、活性炭及び/又はゼオライトを含む。しかしながら、さらなる実施形態例において、前記濾材は、金属イオン/染料などの吸着に適した他の吸着性濾材を含むこともできる。実際、活性炭は、染料、金属イオン、又は架橋剤などの繊維助剤の、特に高い信頼性での、及び選択的でさえある吸着を可能とし、これらの物質は、好ましくは活性炭の還元作用によって吸着される。この選択性は、また別の実施形態例において、例えば、吸着性の濾材にさらに追加のコーティングを施す、すなわち、特に活性炭及びゼオライトのそれぞれを適切な物質でコーティングすることでさらに向上させることが可能である。
【0034】
最後の工程において、リサイクル可能で純化されたポリエステル原材料を回収するために、処理溶液からテレフタル酸を沈殿物として沈殿させる。先に濾過しておくことによって、沈殿工程の間にテレフタル酸沈殿物には外来性異物が取り込まれていないことを確実化出来る。テレフタル酸沈殿物に外来性異物が取り込まれると、一つには(in part)、テレフタル酸が例えば複雑でコストのかかる純化工程を経てのみ後の利用可能性、例えば再重合化のための利用可能性、について再度利用可能になり得るような、実質的な汚染をもたらす。沈殿生成については、テレフタル酸が沈殿物の形で処理溶液から分離されるまで、適切な酸、例えば硫酸が処理溶液に添加され、あるいは処理溶液がそれによって酸性化される。酸のアニオンはテレフタル酸二ナトリウムのNa+カチオンによって中性化されるため、酸性化の間に、溶解度が著しく低く、溶液からすぐに沈殿するテレフタル酸が形成される。テレフタル酸の沈殿生成が完了した後、よく知られた操作工程による単純な固/液分離により液体から再び分離され、必要な場合は再度洗浄され、最終的にテレフタル酸がポリエステルの出発材料として得られる。
【実施例】
【0035】
例1:ポストコンシューマー(post-consumer)繊維廃棄物(綿及びポリエステルの混合物、80:20重量%)は、苛性ソーダ(繊維廃棄物の質量に対し15%のNaOH)と、浴比1:7(繊維廃棄物の質量:アルカリ液(lye))で、加熱された。加熱時間120分間における温度は150℃であった。このような条件で生じるポリエステルファイバーの脱重合のため、テレフタル酸二ナトリウムが生じ、このような条件では水溶性であり加熱浴中に溶け出し、最終的には篩(screen)によって残存固形材料(綿ファイバー)から分離された。
【0036】
分離されたアルカリ液(lye)は、過剰の活性炭と共に攪拌され、それによって、金属イオン及び染料及び/又はそれらの分解生成物等の不純物が選択的に吸着されて、アルカリ液(lye)から除去された。2000mlのアルカリ液(lye)あたり約100gの活性炭が用いられ、室温で1時間攪拌された。そして、活性炭は、濾過及びそれに続く遠心分離によって分離されて沈殿し、上澄み液は濾紙を使って吸引された。そして、活性炭を含まない濾液は、硫酸を用いてpH2まで酸性化された。これにより、テレフタル酸が沈殿物として沈殿し、続いてガラスフリットを用いて吸引され、乾燥チャンバー内で乾燥させた。
【0037】
上記の活性炭濾過の結果、得られたテレフタル酸はほとんど汚染物を含まず、それは例えば分析した金属の含有量(表1)に基づいて示されており、ゆえに、さらなる複雑な純化の工程を経ることなくリサイクル可能であった。
【0038】
金属の含有量は、以下のように算出された:約20gの試料を灰化し、続いてその灰をテトラホウ酸ナトリウムで溶解消化(melting digestion)し、残渣を1.6Mの硝酸を用いて溶解させた。鉄の含有量を測光により算出するためには、試料にチオシアン酸カリウムを加え、チオシアン酸鉄の赤い着色を校正曲線によって測定した。シリコンの含有量を測光により算出するためには、試料にモリブデン酸アンモニウムを加え、モリブデン酸シリコンの青い着色を校正曲線によって測定した。リン酸塩をマスクするために、リン酸塩をシュウ酸によって錯体化した。
【0039】
例2(比較例):例1に記載の方法を繰り返したが、ただし、活性炭による純化のステージは行わなかった。
【0040】
【国際調査報告】