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特表2023-505933外因性分子の連続的又は周期的な経皮的送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】外因性分子の連続的又は周期的な経皮的送達
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/32 20060101AFI20230207BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61N1/32
A61M37/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524168
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-07
(86)【国際出願番号】 CA2020051415
(87)【国際公開番号】W WO2021077221
(87)【国際公開日】2021-04-29
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522163584
【氏名又は名称】ケーアイエフエフアイケー インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】KIFFIK INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【弁理士】
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】エザリク,アブデルティフ
(72)【発明者】
【氏名】ベンセイラム,サミア
【テーマコード(参考)】
4C053
4C267
【Fターム(参考)】
4C053JJ02
4C053JJ13
4C053JJ15
4C053JJ32
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB23
4C267BB39
4C267BB40
4C267BB42
4C267BB62
4C267CC01
4C267CC05
4C267GG02
4C267GG14
4C267HH08
(57)【要約】
皮膚の領域を不可逆的にエレクトロポレーションすることを含む、分子を被験体に非侵襲的に経皮送達するための方法及びデバイスが提供される。
【選択図】 図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子を非侵襲的に被験体に経皮送達するための方法であって、
熱を発生させることなく、皮膚の領域を不可逆的にエレクトロポレーションする工程、
不可逆的にエレクトロポレーションされた前記皮膚の領域又はその付近に圧力をかけること、皮膚を不可逆的にエレクトロポレーションすることと圧力をかけることとの組合せで、皮膚に開口部を形成する工程、及び
前記開口部を通じて前記分子を送達する工程
を含む、方法。
【請求項2】
皮膚をエレクトロポレーションするために、少なくとも第1の移動電極又は静止電極と第2の静止電極との間に、非パルス電圧及びパルス電圧を発生させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力が、周期的にパルスされるか又は連続的である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
エレクトロポレーションされた前記皮膚の領域又はその付近にかけられた前記圧力を圧力センサによってモニターする、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記被験体が、動物又はヒトである、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記分子が、薬物、タンパク質、抗体、DNA分子、RNA分子、ウイルス、酵素又は細胞である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記分子が、スコポラミン、ニトログリセリン、クロニジン、エストラジオール、フェンタニル、ニコチン、テストステロン、リドカイン、エピネフリン、エストラジオール、ノルエチンドロン、エチニルエストラジオール、オキシブチニン、テトラカイン、メチルフェニデート、セレギリン、レチガビン、リバスチグミン、AB-1001、アシクロビル、ブプレノルフィン、妊娠ホルモン、グラニセトロン、E.coliの易熱性エンテロトキシン、ヒト成長ホルモン、インフルエンザワクチン、インスリン、ケトプロフェン、副甲状腺ホルモン、スフェンタニル、トリアムシノロンアセトニド、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、ジスムターゼ又はそれらの組み合わせである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記分子の投与速度を制御する移動制限膜を通じて前記分子を前記開口部に送達する工程をさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
分子を被験体に非侵襲的に経皮送達するためのデバイスであって、
少なくとも1つの第1の移動電極又は静止電極と第2の静止電極との間に非パルス電圧とパルス電圧を発生させることにより、皮膚を不可逆的にエレクトロポレーションするための手段、
前記皮膚の上に圧力を周期的に提供するための真空ポンプ、及び
送達される分子を含むチャンバ
を備える、デバイス。
【請求項10】
前記少なくとも1つの第1の電極及び第2の電極が、前記チャンバ内に含められている、請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記チャンバが、前記エレクトロポレーションのために使用される前記第1の電極及び第2の電極とは別個の部分である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記分子の送達速度及び/又は前記被験体の温度を解析するためのセンサ又は複数のセンサをさらに備える、請求項9から11のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記センサ又は複数のセンサが、有線又は無線の通信デバイスをさらに備える、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記デバイスが、前記デバイスを前記被験体の皮膚上に固定するための接着手段をさらに備える、請求項9から13のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項15】
前記真空ポンプが、蠕動ポンプ、ダイアフラムポンプ又はピストンポンプである、請求項9から14のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項16】
前記真空ポンプによって発生される圧力が、約2kPa~約98kPaである、請求項9から15のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記ポンプによって発生される前記真空が、パルス又は連続的である、請求項9から16のいずれか1項に記載のデバイス。
【請求項18】
前記分子の投与速度を制御するための移動制限膜をさらに備える、請求項9から17のいずれか1項に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
皮膚の領域を不可逆的にエレクトロポレーションすることを含む、分子を被験体に非侵襲的に経皮送達するための方法及びデバイスが提供される。
【背景技術】
【0002】
皮膚を通しての薬物送達は、皮膚の最外層である角質層が示すバリア性に起因して、常に研究の難しい分野であった。過去20年の間に、経皮的薬物送達系が開発され、他の投与又は製剤よりもかなりの臨床的有用性を提供することが証明された。経皮的薬物送達は、患者に対して、所定の薬物放出速度のみならず制御された薬物放出速度を提供するので、血中濃度及び全身濃度を定常状態に保つことができる手段である。経皮的送達は、薬物が分解され得る胃環境を回避し、及び活性な薬物分子が不活性な分子に変換され、副作用に関与する分子に変換され得る初回通過効果を回避する。経皮的薬物送達は、血漿中及び/又は間質液中の濃度を一定にする手段を提供し、潜在的には、その部位からの送達を可能にするデバイスを取り外した後の任意の時点で薬物投入を停止することができる。また、薬物を経皮送達するための手段を開発することにより、コンプライアンスの向上及び医療費の削減、バイオアベイラビリティの改善、小児患者への好ましい投与経路の確保が可能になる。経皮的送達は、過剰投与の機会を減らすことができることも予測される(Sachan and Bajpai,International Journal of Research and Development in Pharmacy and Life Sciences、2013年12月、3(1):748-765、Marwah et al.,Drug Deliv,2016,23(2):564-578を参照のこと)。
【0003】
1979年にNovatrisが、最初の経皮送達薬であるスコポラミン送達経皮パッチTransderm Scop(登録商標)を発売して以来、経皮的送達系の技術革新は、開発の3段階に従って分類することができる。皮膚を通過できる薬物を許容され得る治療レベルで送達するパッチからなる第1世代の系が開発された。ほとんどすべての経皮パッチモデルにおいて、薬物は、2つの異なる膜の間に囲まれたリザーバに貯蔵される。外側と接触する第1の膜は、不透過性膜からなり、皮膚にそのパッチが接着できるようにするために、その端に接着層を有していてもよい。皮膚と接触する第2の膜は、薬物の移動速度を制限するバリアとして働くことができる半透膜からなる。第1世代のパッチモデルのいくつかは、液体に溶解された薬物又はゲルベースのリザーバを含む。これらのパッチは、4つの層、すなわち、不透過性の裏打ち膜、薬物リザーバ、薬物の移動速度を制限するバリアとして作用できる半透膜、及び接着層を特徴とする。他の第1世代のパッチは、送達される薬物が固体ポリマーマトリックスに存在することを特徴とする。この同じ世代では、半透膜又は2層を排除して薬物を接着剤に直接組み込んだ、3層型のパッチに注目することができる。
【0004】
第2世代の系は、皮膚の透過性を高めること及び経皮的輸送のための力を推進することによって小分子の分布を促進するために開発された。第2世代の経皮的送達系は、経皮的に適用できる可能性がある分子の範囲を広げるために化学的透過促進剤(CPE)を使用することによって皮膚の透過性を改善し始めたものとして認識することができる。しかしながら、従来の化学的促進剤、キャビテーションを起こさない超音波及びイオン導入などの使用される方法は、一般に、角質層の透過性向上とバランスがとれておらず、これらと同じ方法によって引き起こされるダメージから深部組織を保護できていなかった。
【0005】
第3世代の経皮的送達系は、主に角質層を標的とする系であり、現在開発中である。このアプローチは、角質層の壁をほぼ完全に破壊でき、それにより、分子の経皮的送達をより効果的に行うことが可能になる。新規の化学的促進剤、超音波、エレクトロポレーション、並びにより最近では、熱焼灼及びマイクロ皮膚擦傷法を引き起こすマイクロニードルが、ヒト臨床試験において、ワクチン及び治療用タンパク質をはじめとした高分子を、角質層を越えて送達すると示された。
【0006】
このように、薬物又は分子を患者に経皮送達するための手段を提供することが未だ必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本開示の目的の1つは、分子を被験体に非侵襲的に経皮送達するための方法を提供することであり、その方法は、熱を発生させることなく、皮膚の領域を不可逆的にエレクトロポレーションする工程、不可逆的にエレクトロポレーションされた皮膚の領域又はその付近に圧力をかけること、皮膚を不可逆的にエレクトロポレーションすることと周期的に圧力をかけることとの組み合わせによって、皮膚に開口部を形成する工程、及び開口部を通じて分子を送達する工程を含む。
【0008】
一実施形態では、皮膚をエレクトロポレーションするために、少なくとも第1の移動電極又は静止電極と第2の静止電極との間に非パルス電圧及びパルス電圧を発生させる。
【0009】
別の実施形態において、圧力は、周期的にパルスされるか又は連続的である。
【0010】
さらなる実施形態では、エレクトロポレーションされた皮膚の領域又はその付近にかけられた圧力を圧力センサによってモニターするか又はモニターしない。
【0011】
さらなる実施形態において、被験体は、動物又はヒトである。
【0012】
別の実施形態において、分子は、薬物、抗体、DNA分子、RNA分子、ウイルス、酵素又は細胞である。
【0013】
追加の実施形態において、分子は、スコポラミン、ニトログリセリン、クロニジン、エストラジオール、フェンタニル、ニコチン、テストステロン、リドカイン、エピネフリン、エストラジオール、ノルエチンドロン、エチニルエストラジオール、オキシブチニン、テトラカイン、メチルフェニデート、セレギリン、レチガビン、リバスチグミン、AB-1001、アシクロビル、ブプレノルフィン、妊娠ホルモン、グラニセトロン、E.coliの易熱性エンテロトキシン、ヒト成長ホルモン、インフルエンザワクチン、インスリン、ケトプロフェン、副甲状腺ホルモン、スフェンタニル及び/又はトリアムシノロンアセトニド、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、ジスムターゼ又は最後の3つの酵素の組み合わせである。
【0014】
別の実施形態において、本明細書に提供される方法は、分子の投与速度を制御する移動制限膜を通じて分子を開口部に送達する工程をさらに含む。
【0015】
送達される分子は、CPEも含む水性もしくは中性もしくは親油性の溶液、又はゲル、又はCPEも含むクリームもしくは軟膏に溶解されることも提供される。本明細書に包含されるような化学的透過促進剤(CPE)は、開けられた皮膚の領域を開いた状態で維持するための手段を提供する。
【0016】
分子を被験体に非侵襲的に経皮送達するためのデバイスも提供され、そのデバイスは、少なくとも1つの第1の移動電極又は静止電極と第2の静止電極との間に非パルス電圧及びパルス電圧を発生させることによって皮膚を不可逆的にエレクトロポレーションするための手段、皮膚の上に周期的に圧力を提供するための真空ポンプ、及び送達される分子を含むチャンバを備える。
【0017】
一実施形態において、少なくとも1つの第1の電極及び第2の電極は、チャンバ内に含められている。
【0018】
さらなる実施形態において、チャンバは、エレクトロポレーションのために使用される第1の電極及び第2の電極とは別個の部分である。
【0019】
別の実施形態において、本明細書に記載されるデバイスは、分子の送達速度及び/又は被験体の温度を解析するためのセンサ又は複数のセンサをさらに備える。
【0020】
一実施形態において、そのセンサ又は複数のセンサは、有線又は無線の通信デバイスをさらに備える。
【0021】
別の実施形態において、デバイスは、そのデバイスを被験体の皮膚上に固定するための接着手段をさらに備える。
【0022】
一実施形態において、真空ポンプは、蠕動ポンプ、ダイアフラムポンプ又はピストンポンプである。
【0023】
別の実施形態において、真空ポンプによって発生される圧力は、約2kPa~約98kPaである。
【0024】
一実施形態において、ポンプによって発生される真空は、律動的又は連続的である。
【0025】
別の実施形態において、デバイスは、分子の投与速度を制御するための移動制限膜をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下、好ましい実施形態を例証として示す添付の図面を参照する。
【0027】
図1】一実施形態に係る、感知電極上の感知層の堆積前後のインピーダンスセンサの説明図を示す。
【0028】
図2A】一実施形態に係る、感知電極と参照電極との間の電気的等価回路の概念図を示す。
【0029】
図2B図2Aに示した電気的等価回路に一致する電気化学電池(インピーダンスセンサ)の静止電圧又は開放電圧に相当するDC電圧で維持された感知電極に、2~60mVの正弦波振幅を有する交流電圧を重畳したときに得られるナイキストプロットを示す。
【0030】
図3】一実施形態に係る本明細書に記載されるようなチャンバの底部の上面図を示す。
【0031】
図4】一実施形態に係るチャンバの底部の平面上面図を示す。
【0032】
図5】一実施形態に係るチャンバの上部の上面図を示す。
【0033】
図6】一実施形態に係るチャンバの上部の上面図を示す。
【0034】
図7】一実施形態に係る本明細書に包含されるような電子コントローラボックスと連動する1つのチャンバの組立図を示す。
【0035】
図8】一実施形態に係る電子コントローラボックスと連動する1つのチャンバの組立図を示す。
【0036】
図9】一実施形態に係る電子コントローラボックス内の同一ポンプに直列に接続された3つのチャンバの上面図を示す。
【0037】
図10A】一実施形態に係る電極集合体の写真である。
【0038】
図10B図10Aに見られるような電極集合体を被験者の皮膚に押し付ける写真である。
【0039】
図10C】電極集合体が被験体の皮膚に穴をあけないか又は傷つけないことを示している写真である。
【0040】
図10D】本開示に係る、パルス電場を数分間印加した後の被験体の皮膚のマイクロ開口部の写真である。
【0041】
添付の図面全体を通して、同様の特徴が同様の参照番号によって識別されていることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0042】
分子を被験体に非侵襲的に経皮送達するための方法が提供され、その方法は、熱を発生させることなく、皮膚の領域を不可逆的にエレクトロポレーションする工程、不可逆的にエレクトロポレーションされた皮膚の領域又はその付近に圧力を短時間かけること、皮膚を不可逆的にエレクトロポレーションすることと圧力を短時間かけることとの組み合わせによって、皮膚に開口部を形成する工程、及び開口部を通じて分子を送達する工程を含む。
【0043】
したがって、表皮、特に、角質層のバリアを乗り越えるための方法及びデバイスを説明する。このバリアの破壊が、本明細書の以下で提案される方法及びデバイスによって実現すると、任意の種類の薬物が、そのサイズ、疎水性/親水性/中性/親油性の性質を問わず、このバリアを通過して真皮に到達するので、局所的に又は標的の身体内の体循環に利用できるようになる。
【0044】
角質層を貫く1つ以上の求電子性の導管を形成する方法が本明細書に開示される。これらの開口部は不変であり、その持続時間は、処置の持続時間によってのみ制限される。そうでない場合は、角質層を貫くこれらの開口部又は導管は、全身循環に移されるべき薬物と接触している間は、開いたままで、それらと対象の薬物との接触が除去されて初めて閉じる。
【0045】
カナダ特許第2655017号(その全体が参照により本明細書に援用される)に記載されているようなデバイス及び方法は、角質層のみを通って1つ又は複数の開口部又は導管を不可逆的に形成するために用いることができる。そのように形成された導管は、化学的組成物中に存在するか又は単独で存在する標的分子が配置され、真皮及び真皮下に存在する間質液における輸送によって体循環に到達するための関心領域になる。
【0046】
一実施形態において、本明細書で使用されるデバイスは、図1に示されるような感知電極を備えることができる。電極は、安定化材、及び望ましくないバイオマテリアルの遮断材、炭素電極(感知電極)の表面上のXC-72Rなどの電子伝導体のナノ粒子及びアミノシランなどの接着促進物質を備え得る。センサ電極は、対電極の有無にかかわらず使用され得る。
【0047】
電気化学電池(インピーダンスセンサ)の静止電圧又は開放電圧に相当するDC電圧で維持された感知電極に、2~60mVの正弦波振幅を有する単一周波数の交流電圧を重畳したときに発生する電気的パラメータの測定(インピーダンスセンサ)が本明細書に記載される。そのような電気的パラメータには、感知電極/間質液の界面におけるインピーダンス(ナイキストプロットから:図2a及び図2b)又は位相角/位相変化(ボードプロットから)の値の変動が含まれ得る。
【0048】
本明細書に記載されるような電気素子又は回路網(図2A及び図10Aを参照のこと)は、純粋なオーム抵抗である参照電極と感知電極との間の電解質の抵抗(R)、二重層容量(Cdl)、オーム抵抗ではない電荷移動抵抗(Rct)及びワールブルグ拡散素子(Zω)を備える。Zωは、定位相素子(CPE)であり、定位相は45°(周波数と無関係な位相)であり、振幅は周波数の平方根に反比例する。
【0049】
2~60mVの正弦波振幅を有する交流電圧が感知電極に重畳され、図2Aに示される電気的等価回路に一致する電気化学電池(インピーダンスセンサ)の静止電圧又は開放電圧に相当するDC電圧で維持された場合に得られるナイキストプロットが、図2Bに示される。このプロットは、正弦波電圧の周波数ωを1mHz~100KHzで変化させたときに得られる。X軸は、インピーダンスの実数値(Real(Z))によって表されており、Y軸は、インピーダンスの虚数値の負のモジュール(-Im(Z))によって表されており、ここで、Zはインピーダンスである。図2Bのプロットには、オーム抵抗Rによって表される3つの異なる領域、Cdlによって表現される少なくとも1つの時定数を伴う、抽出間質液と感知電極との界面における電荷移動抵抗Rctによってシステムが制御される領域が存在している。本開示において、Rctの値は、例えばそのセンサがCovid-19に特異的である場合、Covid-19の濃度又はその存在の増加とともに大きくなる。
【0050】
皮膚のエレクトロポレーションは、印加電圧の振幅、印加電圧及び電極の形状、印加信号の周波数、印加電流の強度、並びに印加信号の持続時間に影響される。印加電圧の振幅は、ボルトを単位として表現され、上記の変数に応じて5V~500Vまで変化でき、陽極と陰極の間の距離が1~10cmで構成されていれば、この距離には依存しない。印加電圧の周波数は、50μSから7000μSまで様々であり得る。信号の形状は、正方形であるのが好ましいが、他のタイプの信号も使用できる。好ましい持続時間は、上で言及した変数に応じて3分未満であるが、好ましい値を超える又は好ましい値を下回る持続時間も排除されない。
【0051】
本明細書に包含されるとき、用語「不可逆的に」は、角質層を貫いて形成された実際の導管を説明すると意図される。これらの導管は、標的分子がそれらと接触している限り持続する。これらの導管は、直径及び深さなどの実際の物理的寸法を有する。それらは、可逆的でない。
【0052】
本明細書に記載される方法が適用されたときに形成される開口部又は導管は、本明細書に記載されるような制御された短い不可逆的なエレクトロポレーションの後に形成される、角質層を貫くマイクロホールのことを意味すると意図される(図10Dに見られるように)。不可逆的なエレクトロポレーションとは、生存被験体の皮膚に適用されたとき、角質層を貫くマイクロホールを不可逆的に形成するプロセスのことである。形成されたマイクロホールは、それらが必要とされる限り持続する。
【0053】
より詳細には、本明細書に包含されるデバイスは、非パルス電圧及びパルス電圧を発生させることによって皮膚をエレクトロポレーションするための手段、並びに電子的に制御されるセンサを備える。その情報を変換し、例えば得られた情報をさらに拡散するために、その情報を警報器又は携帯電話に送信するために、センサから得た信号の解析も電子的に制御される。皮膚の領域の本明細書に記載される不可逆的なエレクトロポレーションは、細胞骨格に対する傷害を排除し、分子及びコラーゲンを変性させないように、結合組織を保存するため熱を発生させずに行われ、また、血管マトリックスが損なわれないことから、処置領域と非処置領域との辺縁が明白になる。
【0054】
カナダ特許第2655017号に記載されているように、例えばエレクトロポレーション中及び検出工程中に使用されるチャンバは、電極、より詳細には、参照電極、感知電極及び対電極を備える。接続パッドを使用することにより、デバイスの電子部品に電極を接続することができる。
【0055】
本明細書に包含されるデバイスのチャンバの実施形態は、図3から図9に示される。そのデバイスは、接着剤もしくは他の任意の好適な封止製品又は維持方法26を用いて表皮を介して皮膚と接触した状態で維持される絶縁体(図3を参照のこと。5、5’、2及び3)を備える。
【0056】
チャンバは、ねじ19を受ける少なくとも1つの穴1を含み、チャンバの本体3は、穴4を有するポリマー体2からできており、負の電極が前記穴4を通って皮膚と接触する。皮膚を所定位置に保持するため及びその吸引を回避するために、50~200μmの薄層膜5を用いる。2~5mmのさらなる厚い膜5’を用いることにより、異なるミニチャンバが分離されている。
【0057】
図5に見られるように、チャンバの上部では、ねじ19を受ける穴の受端10を含むチャンバの上部11を形成するためにポリマーが使用されている。チャンバ12の出口は、ポンプの入口に接続される。一実施形態において、デバイスは、マイクロ導管15から抜き取られた天然の間質液を回収する回収用マイクロ導管13を備えることができ、また、圧力センサ16を収容するためにも働く。プラットフォーム14によって、チャンバの底部と上部が接続される。
【0058】
チャンバ21は、完全にポリマー材料、ポリマー材料の組み合わせ、又は他の任意の非導電性もしくは電気絶縁性の材料から作製することができる。
【0059】
図6に見られるように、圧力センサを保護するためにケープ18が使用され、チャンバの上部20に底部を固定するためのねじ19が使用されている。
【0060】
特に液体がチャンバ21を取り囲むことができる状況では、その使用を容易にするために、カプセル又は接着剤などの材料によってデバイスを覆うことができる。チャンバ21は、密閉された穴を備え得る。さらに、本明細書に記載されるようなチャンバ21の固定を高めるために、ストラップなどの非アレルギー性材料を用いて、デバイスと皮膚との接触を安定させることができる。
【0061】
図7は、電子コントローラボックス23と連動する1つのチャンバ21の組立図を一実施形態に従って示される。チャンバ21は、圧力センサを電子コントローラボックス23に接続する電気ケーブル22によって、中にポンプが封入されている電子コントローラボックス23に接続されており、ここで、ポンプの出口24及び入口25は、前記電子コントローラボックス23に入り込んでいる。
【0062】
チャンバ21を皮膚に適用する前に、皮膚を清浄にするために医学において使用される任意の公知の化学物質によって、又は単純に石鹸及び/又は水を用いて、皮膚を優しく清浄にすることができる。好ましくは、皮膚表面に残留物を残さないように、清浄にした後に蒸発する任意の化学物質が使用される。さらに、それらの化学物質又は石鹸は、皮膚のアレルギー反応を誘導するべきでなく、且つ皮膚の構造を改変するべきでない。さらに、場合によっては、ヨードポビドンとしても知られるポビドンヨード(PVP-I)を、エレクトロポレーション及びチャンバ21の設置の前の皮膚消毒に使用しなければならない。皮膚を優しく清浄にするか又は好ましくは消毒したらすぐに、接着剤26又はストラップ又はブレスレットなどの非アレルゲン性材料の助けを借りてチャンバ21を、清浄にされた又は消毒された皮膚の上に貼り付ける(図7)。接着剤26は、導電性の接着剤に基づくものであってもよく、そうでなくてもよい。
【0063】
例えばチャンバ21内のマイクロ導管を通って、分子を送達できる。チャンバ21は、例えば逆止弁又は一方向弁によってポンプから隔離されていてもよく、そうでなくてもよい。投与は、特にチャンバ21を構成する導管システムに印加される制御された圧力の印加によって実施することができる。制御された圧力は、ポンプの作用によって維持され、その圧力のレベルは、逆止弁の前又は後に設置され得る圧力センサ又は圧力スイッチを用いて連続的にモニターされ、制御される。
【0064】
圧力は、オン/オフ形式又は連続的に調節される形式でポンプを作動させることによって達成される。実際の圧力の値は、圧力センサ又は圧力スイッチを用いて制御できる。ポンプ及び圧力センサは、マイクロコントローラーの制御下におくことができ、そのマイクロコントローラーは、圧力センサ又は圧力スイッチの実際の状態を読み取ることによってデバイス内の実際の圧力を連続的又は不連続的にモニターし、それに応じて、所望の圧力を達成するために連続した形式、不連続の形式又は調節された形式でポンプの動作を作動又は停止させる。デバイスの効率を改善するために、温度センサも組み込むことができる。さらに、例えば、投与プロセスが順調に進んでいることをユーザに知らせるために、チャンバ21の出口とポンプとの間に流量センサを設置することもできる。
【0065】
接着及び投与を改善するために、皮膚とポンプとの間のチャンバ21内において真空又は超過圧力を周期的に発生させる。好ましくは、真空ポンプは、分子が投与される領域の皮膚の一部を引っ張るのに十分な吸引をもたらす真空を提供できる。真空ポンプによって提供される吸引が、皮膚の適切な部分を引っ張るので、真空ポンプによって提供される吸引も、引っ張られた部分をもたらす。本明細書に定義されるデバイスに適した真空ポンプは、蠕動ポンプ、ダイアフラムポンプ、ピストンポンプ、ロータリーベーンポンプ、又は先に示された必要な機能を果たす他の任意のポンプであり得る。通常、真空ポンプは、好ましくは、内蔵型の永久磁石式DCモータを採用する。本発明に適した真空ポンプは、当業者に周知であり、商業的に入手可能である。その真空ポンプは、好ましくは、約0.90atmまでの差圧を提供でき、より好ましくは、約0.99atmから0.2atmで作動する。真空ポンプによって提供される真空は、連続的又は律動的であり得る。適用される真空は、皮膚に対して不可逆的な損傷を引き起こさないことが好ましい。適用される真空は、数週間持続する皮膚の挫傷及び変色をもたらさないことが好ましい。適用される真空のレベル及び真空適用の持続時間は、真皮を表皮から離れさせて、体液で満たされた水疱を形成するほど過剰でないことも好ましい。
【0066】
皮膚の不可逆的なエレクトロポレーションは、2つの電極の間、又は電極のネットワークを形成する複数の電極の間にパルス電圧を印加することによって行われる。本明細書の技術の例示として、本プロセスの励起部分は、陰極、及び接着剤としても使用される陽極である、皮膚の露出部分に接触して配置される少なくとも2つの電極を用いて行われる。励起電極のうちの1つ(陰極又はエレクトロポレーション電極)は、非加熱性の不可逆的なエレクトロポレーション中、皮膚の露出部分と接触して維持される。
【0067】
皮膚のエレクトロポレーションは、印加電圧の振幅、印加電圧及び電極の形状、印加信号の周波数、並びに印加信号の持続時間に影響される。印加電圧の振幅は、ボルトを単位として表現され、上記の変数及び電極間の距離に応じて0.100V~500Vで変更できる。印加電圧の周波数は、100μ秒~10μ秒で変更できる。信号の形状は、正方形であることが好ましいが、他のタイプの信号を使用することもできる。好ましい持続時間は、上で述べた変数に応じて1秒未満であるが、その好ましい値を超える又はその好ましい値を下回る持続時間も排除されない。
【0068】
本明細書において、不可逆的なエレクトロポレーションとは、生存組織又は非生存組織に対してマイクロ秒の電気パルスを印加する事象のことであり、ここで、その組織は、生存している被験体の表皮によって例示され、組織の電位を不安定にし、不可逆的なナノスケール/マイクロスケールのポアをもたらす。したがって、望ましくないジュール効果又は熱の発生を回避するために、残りの組織に熱損傷を誘導せずに細胞膜が選択的に標的化されるように電気的パラメータが選択される。これらのパラメータは、以下の表1において説明される。
【表1】
【0069】
本明細書に記載される不可逆的なエレクトロポレーションは、その非加熱の性質に起因して、結合組織に影響せず、且つ分子及びコラーゲンを変性させないことから、細胞骨格に対する傷害が排除され、また、血管のマトリックスを損なわないことから、この不可逆的なエレクトロポレーションにより、処置領域と非処置領域との辺縁が明白になる。
【0070】
標的被験体に対して治療効果をもたらすか、又は被験体の安否に影響するか、又は被験体に対して予防作用を有するか、又は被験体の健康に対して改善効果を有する、外因性分子又は複数の分子を移動させる方法が本明細書に開示される。本明細書において、被験体は、年齢を問わずヒトであり得るか、又は動物であり得る。
【0071】
一実施形態において、治療効果を有する分子又は複数の分子は、スコポラミン、ニトログリセリン、クロニジン、エストラジオール、フェンタニル、ニコチン、テストステロン、リドカイン、エピネフリン、エストラジオール、ノルエチンドロン、エチニルエストラジオール、オキシブチニン、テトラカイン、メチルフェニデート、セレギリン、ロチゴチン、リバスチグミン、AB-1001、アシクロビル、ブプレノルフィン、妊娠ホルモン、グラニセトロン、E.coliの易熱性エンテロトキシン、ヒト成長ホルモン、インフルエンザワクチン、インスリン、ケトプロフェン、副甲状腺ホルモン、スフェンタニル及び/又はトリアムシノロンアセトニドのうちの少なくとも1つであり得、これらはすべて、経皮的手段によって投与されてきた薬物/分子である。
【0072】
単独で使用でき、且つ間質液への溶解性が良好な固体物質であり得るか、好ましくは間質液に混和性の液体であり得るか、凍結乾燥分子の形態であり得るか、又は粒子の形態であり得る、外因性分子又は複数の分子が本明細書に開示される。
【0073】
本明細書に包含されるとき、外因性分子又は複数の分子は、リチウムイオンなどの小イオンの分子量を有し得、DNA又は病原体もしくはウイルスなどの重い分子などの重い重量を有し得る。記載される外因性分子又は複数の分子は、固体のポリマーマトリックスに封入され得る、エマルジョンの一部であり得る、水性液体、親油性液体に溶解され得る、軟膏ベースの混合物、ゼラチン状の混合物、固溶体又は粉末混合物の形態に封入され得ることも包含される。外因性分子又は複数の分子は、使用前に、被験体の抽出された間質液に溶解することもできる。
【0074】
一実施形態において、本明細書に包含される方法及びデバイスは、移動されるべき標的分子又は複数の分子と皮膚との間に移動制限膜を含むことが開示される。この移動制限膜は、標的分子又は複数の分子の決められた移動速度を維持する役割だけを有し、マイクロ導管を開いた状態で維持する役割だけを有する促進剤を含み得る。
【0075】
標的分子又は複数の分子が、例えば、酵素、タンパク質、抗体などの生物学的物質である場合、ヒト血清アルブミンなどの安定化剤が、標的分子又は複数の分子が被包される基質の製剤に加えられる。
【0076】
一実施形態において、標的分子又は複数の分子としては、メチルフェニデート、スーパーオキシドジスムターゼ又はスーパーオキシドジスムターゼの模倣物、カタラーゼ、非晶質インスリン、及びテストステロンが例として挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0077】
別の実施形態において、本明細書に記載される方法及びデバイスは、小型のRTD、小型のサーミスタ又は小型の熱電対などの小型の温度センサを備え得る。小型の温度センサは、温度上昇又は汗又はその両方の組み合わせによって過量投与のリスクがある場合、ユーザに知らせる又は真皮への外因性分子もしくは複数の分子の移動を自動的に終わらせる役割だけを有する。
【0078】
特定の実施形態に関連して本開示を説明したが、さらなる修正が可能であり、本出願は、本分野における既知又は慣習的な実践の範囲内に現れるものとして、且つ以上に記載の必須の特徴に適用され得るものとして、且つ添付の特許請求の範囲内にあるものとして、本開示から出発したものを含む、あらゆる変形、使用、又は適合を網羅することが意図されることが理解されるであろう。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
【図
図6
【図
図7
【図
図8
【図
図9
【図
図10A
図10B
図10C
図10D
【国際調査報告】