(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】ケタミンパモエート塩の長時間作用型注射用製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/13 20060101AFI20230207BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20230207BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20230207BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230207BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20230207BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20230207BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20230207BHJP
A61P 23/00 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20230207BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230207BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230207BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230207BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230207BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20230207BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20230207BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
A61K31/13
A61P25/00
A61P25/24
A61P29/00
A61P25/04
A61P25/06
A61P25/18
A61P27/16
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/28
A61P9/10
A61P17/02
A61P23/00
A61K47/12
A61K47/22
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/18
A61K47/34
A61K47/26
A61K47/04
A61K47/38
A61K47/08
A61K9/107
A61P11/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022531055
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 CN2020137496
(87)【国際公開番号】W WO2021121366
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519087332
【氏名又は名称】▲ユ▼展新藥生技股分有限公司
【氏名又は名称原語表記】Alar Pharmaceuticals Inc.
【住所又は居所原語表記】Rm. 312, 3F., No. 19, Keyuan Rd. Xitun Dist. Taichung City 40763 TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】林 東和
(72)【発明者】
【氏名】文 永順
(72)【発明者】
【氏名】陳 嘉憲
(72)【発明者】
【氏名】劉 映廷
(72)【発明者】
【氏名】侯 睿智
(72)【発明者】
【氏名】呉 致榕
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC11
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD38
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4C076DD46
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4C076EE24
4C076EE32
4C076FF16
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4C076FF39
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4C076FF51
4C076FF57
4C076FF61
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA29
4C206KA16
4C206KA17
4C206MA02
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4C206MA86
4C206NA12
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4C206ZA02
4C206ZA06
4C206ZA12
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA18
4C206ZA34
4C206ZA36
4C206ZA59
4C206ZA89
4C206ZB11
(57)【要約】
ケタミンパモエート塩及びその薬学的に許容される担体を含む徐放性医薬組成物を提供する。当該組成物は、水性懸濁液、溶液及びマトリックス送達システムを含み、麻酔、鎮痛または中枢神経系疾患及び抗炎症性疾患の治療のために持続放出を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケタミンパモエート塩の結晶形又は非晶質形と、その薬学的に許容される担体を含む徐放性医薬組成物であって、前記ケタミンパモエート塩はR,S-ケタミンパモエート塩、S-ケタミンパモエート塩、R-ケタミンパモエート塩、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され、前記ケタミンパモエート塩はケタミン対パモエートの化学量論が2:1であるケタミンパモエート塩、ケタミン対パモエートの化学量論が1:1であるケタミンパモエート塩、又はそれらの組み合わせである、徐放性医薬組成物。
【請求項2】
前記薬学的に許容される担体は、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、デカン酸、リノール酸、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、ポチエチレングリコール4000(PEG4000)、ポリソルベート80(Tween80)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1の徐放性医薬組成物。
【請求項3】
前記徐放性医薬組成物が注射可能な水性懸濁液であり、前記薬学的に許容される担体はポチエチレングリコール4000(PEG4000)、ポリソルベート80(Tween80)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項2の徐放性医薬組成物。
【請求項4】
20μm未満の平均粒度(d50)及び300m
2/gを超える比表面積を有する、請求項3の徐放性医薬組成物。
【請求項5】
前記徐放性医薬組成物が注射可能な溶液であり、前記薬学的に許容される担体は、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、またはそれらの任意の組み合わせである、請求項2の徐放性医薬組成物。
【請求項6】
パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、デカン酸、及びリノール酸の少なくとも1つをさらに含む、請求項5の徐放性医薬組成物。
【請求項7】
前記徐放性医薬組成物が注射可能なマトリックス送達システムであり、前記薬学的に許容される担体はポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、又はそれらの組み合わせである、請求項2の徐放性医薬組成物。
【請求項8】
N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、またはそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つをさらに含む、請求項7の徐放性医薬組成物。
【請求項9】
湿潤剤、懸濁剤、張性調整剤、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、及び防腐剤からなる群から選ばれる追加剤を1つ以上さらに含む、請求項1の徐放性医薬組成物。
【請求項10】
前記ケタミンパモエート塩は1%から99%w/wの濃度で存在する、請求項1の徐放性医薬組成物。
【請求項11】
前記ケタミンパモエート塩は5%から60%w/wの濃度で存在する、請求項10の徐放性医薬組成物。
【請求項12】
皮下注射、筋肉内注射又は皮内注射用に調製される、請求項1の徐放性医薬組成物。
【請求項13】
熱に対する耐性を有する、請求項1の徐放性医薬組成物。
【請求項14】
疾患又は状態を治療するための請求項1に記載の徐放性医薬組成物の使用であって、それを必要とする対象に前記徐放性医薬組成物を投与することを含み、前記疾患又は状態は中枢神経系疾患、うつ病、抗炎症、疼痛、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、徐放性医薬組成物の使用。
【請求項15】
前記疾患又は状態は、大うつ病性障害(MDD)、治療抵抗性うつ病(TRD)、自殺念慮、躁うつ病、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、自閉症スペクトラム障害、耳鳴り、難治性慢性片頭痛、喘息、不安、物質使用障害、アルコール使用障害、摂食障害、難治性てんかん重積状態、脳虚血、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、多発性硬化症、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の徐放性医薬組成物の使用。
【請求項16】
必要とする対象を麻酔するための請求項1に記載の徐放性医薬組成物の使用であって、前記徐放性医薬組成物を対象に投与することを含む、徐放性医薬組成物の使用。
【請求項17】
前記徐放性医薬製剤は、投与後に72時間の安定した放出プロファイルを示す、請求項14から16のいずれか一項に記載の徐放性医薬組成物の使用。
【請求項18】
前記徐放性医薬製剤は、投与後に1週間の安定した放出プロファイルを示す、請求項14から16のいずれか一項に記載の徐放性医薬組成物の使用。
【請求項19】
前記徐放性医薬製剤は、投与後に2週間の安定した放出プロファイルを示す、請求項14から16のいずれか一項に記載の徐放性医薬組成物の使用。
【請求項20】
前記徐放性医薬製剤は、投与後に1ヶ月間の安定した放出プロファイルを示す、請求項14から16のいずれか一項に記載の徐放性医薬組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ケタミンパモエート塩の製剤に関する。特に、本開示は、R,S-ケタミンパモエート塩、S-ケタミンパモエート塩又はR-ケタミンパモエート塩を含む徐放性医薬組成物、ならびにその麻酔、鎮痛、又は抗炎症性疾患及び中枢神経系疾患の治療のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ケタミン、すなわち、2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オンは、アリールシクロヘキシルアミン誘導体であって、等量のS-ケタミンとR-ケタミンを含むラセミ混合物である。ケタミンの分子量(MW)は237.73であり、ケタミン塩酸塩(HCl)の分子量は274.19である。ヒトでの臨床研究によると、中央コンパートメント(血漿)から末梢組織コンパートメントへの静脈内ケタミンの初期分布段階は7~11分の半減期で発生し、排出段階は2~3時間の半減期で発生する(Way. et al.,1982)。ケタミンは急速に分布し、作用期間が短い。したがって、ケタミンは通常、即時放出剤形として投与される。
【0003】
N-メチルD-アスパラギン酸(NMDA)受容体の拮抗薬として、ケタミンは麻酔薬の使用に適応とされており、例えば、ケタミン塩酸塩は、1970年以来ケタラー注射(静脈内又は筋肉内)として販売されている。さらに、S-ケタミン塩酸塩は、2019年にFDAによって承認された抗うつ薬「スプラバト(Spravato)(鼻スプレー)」として、治療抵抗性うつ病(TRD)に使用されている。
【0004】
ケタミンの市販品には2つの制限がある。まず、ケタミン製剤は一般的に臨床試験で短い半減期を示す。具体的には、ケタラール(Ketalar)のケタミン除去半減期は2.5時間である。さらに、スプラバトのエスケタミン濃度は急速に低下し、平均終末半減期は7~12時間の範囲である。次に、ケタミン製剤の投与後に、解離(dissociation)、めまい、悪心、鎮静、めまい、感覚鈍麻(hypoesthesia)、不安、嗜眠(lethargy)、血圧上昇、嘔吐、酔いなどの有害事象が発生する可能性があるため、回復期間中、患者は数時間観察される必要がある。したがって、長時間作用型ケタミン製剤が開発されている。
【0005】
Cellix Bio Ltd.へのPCT特許公開番号WO2018/122626A1及びWO2019/186357A1は、ケタミン塩(ケタミン及び-RH)を開示しており、RHはパモ酸を表し、ケタミンとパモ酸の比率は1:1である。
【0006】
Alkermes Controlled Therapeutics Inc.へのPCT特許公開番号WO2005/016261A2は、ハロペリドールとアリピプラゾールからなる群から選択される活性剤のパモエート塩を含む医薬組成物を開示している。当該組成物は、少なくとも約48時間の期間にわたって有効量の活性剤を放出する。
【0007】
以前の研究では、Han等(Int.J.Pharm.(2020),581,119291)は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)-ブロック-ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(poly (lactic-co-glycolic acid、PLGA)を含む徐放性ケタミンナノ粒子を開示している。当該製剤は、マウスへの静脈内注射後5日以上の徐放性プロファイルを示し、ケタミンのCmaxは1000~10000ng/mLである。
【0008】
Shenox Pharmaceuticals LLC.へのPCT特許公開番号WO2017/003935Alには、大うつ病性障害(major depressive disorder、MDD)及び疼痛の治療のためのケタミンを含む経皮送達デバイスSHX-001を説明している。当該経皮送達デバイスは、100ng/mL未満のケタミン血漿濃度を8時間から7日間提供し、ケタミンの有害な副作用を軽減する。薬物動態プロファイルは、インビトロ経皮透過データ及び生体内静脈内血漿濃度データを使用した既知の畳み込み方法によって予測される。
【0009】
Douglas Pharmaceuticals Ltd.へのPCT特許公開番号WO2019/073408Alには、治療抵抗性うつ病(TRD)、治療抵抗性不安および恐怖症の治療のための、ポリエチレンオキシド(polyethylene oxide、PEO)を含む経口徐放性ケタミン塩酸塩錠剤を説明している。ケタミンの血漿中濃度は、臨床試験で60mg、120mg、240mgのケタミン錠を単回投与した後の2日間の徐放性プロファイルを示し、ケタミンのCmaxは約12~42ng/mLである。経口製剤は、60mgから120mgの投与後に解離性の副作用がなく、240mgで最小限の解離性の副作用がある。
【発明の概要】
【0010】
上記に鑑み、本開示は、ケタミンパモエート塩の様々な徐放性医薬組成物に関する。ケタミンパモエート塩は、ケタミン対パモエートの化学量論が2:1であるケタミンパモエート塩の結晶形又は非晶質形で、ケタミン対パモエートの化学量論が1:1であるケタミンパモエート塩の結晶形又は非晶質形、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0011】
本開示の実施形態によれば、ケタミンパモエート塩は、ケタミン対パモエートの化学量論が2:1であるR,S-ケタミンパモエート塩(式I)、ケタミン対パモエートの化学量論が2:1であるS-ケタミンパモエート塩、(式II)、ケタミン対パモエートの化学量論が2:1であるR-ケタミンパモエート塩(式III)、ケタミン対パモエートの化学量論が1:1であるR-又はS-ケタミンパモエート塩(式IV)、又はそれらの任意の組み合わせであってもよい。
【0012】
【0013】
式I(R,S-ケタミンパモエート塩、比率が2:1)、
【0014】
【0015】
式II(S-ケタミンパモエート塩、比率が2:1)、
【0016】
【0017】
式III(R-ケタミンパモエート塩、比率が2:1)、
【0018】
【0019】
式IV(R-又はS-ケタミンパモエート塩、比率1:1)。
【0020】
本開示の実施形態によれば、ケタミンパモエート塩の結晶形は、6.0、10.7、11.6、12.0、13.0、14.7、15.0、22.2、25.2及び30.3(±0.2 2θ)から選択される1つ以上の2θ値を含むX線粉末回折(XRPD)パターンで表される。
【0021】
本開示のいくつかの実施形態において、ケタミンパモエート塩は、6.0、8.6、10.7、11.6、12.0、13.0、14.7、15.0、15.3、17.9、18.6、19.6、20.0、21.1、21.6、22.2、23.3、24.4、25.2、25.9、26.9、28.6、29.7、30.3、32.4、34.0及び36.6(±0.2 2θ)から選択される1つ以上の2θ値を含むXRPDパターンで表される結晶形のR,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)である。
【0022】
本開示のいくつかの実施形態において、ケタミンパモエート塩は、6.0、10.8、11.7、12.0、12.6、13.1、14.6、15.1、18.2、19.2、19.7、20.1、22.0、22.8、23.3、23.7、24.1、24.7、25.2、27.3、30.1、31.6、45.4、56.4及び75.2(±0.2 2θ)から選択される1つ以上の2θ値を含むXRPDパターンで表される結晶形のS-ケタミンパモエート塩(比率2:1)である。
【0023】
本開示のいくつかの実施形態において、ケタミンパモエート塩は、6.0、10.8、11.7、12.0、12.6、13.1、14.6、15.0、18.2、19.3、19.7、20.6、22.0、22.9、23.6、24.1、24.7、25.2、25.9、27.3、30.1、31.6、45.4、56.4及び75.2(±0.2 2θ)から選択される1つ以上の2θ値を含むXRPDパターンで表される結晶形のR-ケタミンパモエート塩(比率2:1)である。
【0024】
本開示のいくつかの実施形態において、ケタミンパモエート塩は、6.0、7.5、8.6、9.4、10.7、11.1、11.6、12.1、13.0、14.7、15.0、15.5、17.9、18.6、19.3、20.0、20.7、21.1、21.6、22.3、23.1、23.4、24.3、25.0、26.2、26.9、28.6、29.8、30.3、31.1、32.4、33.3、33.9、36.6及び37.4(±0.2 2θ)から選択される1つ以上の2θ値を含むXRPDパターンで表される結晶形のR-又はS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)である。
【0025】
本開示のいくつかの実施形態において、ケタミンのパモエート塩は、
図1、
図2、
図3又は
図7に示されるパターンに実質的に一致するXRPDパターンで表される結晶形である。
【0026】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物は、ケタミンパモエート塩、及びその薬学的に許容される担体を含む。本開示のいくつかの実施形態において、薬学的に許容される担体は、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、デカン酸、リノール酸、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、ポチエチレングリコール4000(PEG4000)、ポリソルベート80(Tween80)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物は、注射可能な水性懸濁液、注射可能な溶液、又は注射可能なマトリックス送達システムであってもよい。
【0028】
本開示のいくつかの実施形態において、徐放性医薬組成物は、ケタミンパモエート塩と、ポチエチレングリコール4000(PEG4000)、ポリソルベート80(Tween80)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるその薬学的に許容される担体とを含む注射可能な水性懸濁液である。いくつかの実施形態において、本開示の注射可能な水性懸濁液は、20μm未満の平均粒度(d50)及び300m2/gを超える比表面積を有する。
【0029】
本開示のいくつかの実施形態において、徐放性医薬組成物は、ケタミンパモエート塩と、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるその薬学的に許容される担体とを含む注射可能な溶液である。いくつかの実施形態において、本開示の注射可能な溶液は、パルミチン酸、オレイン酸、ステアリン酸、デカン酸、及びリノール酸の少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0030】
本開示のいくつかの実施形態において、徐放性医薬組成物は、ケタミンパモエート塩と、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、またはそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるその薬学的に許容される担体とを含む注射可能なマトリックス送達システムである。いくつかの実施形態において、本開示の注射可能なマトリックス送達システムは、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコールの少なくとも1つをさらに含んでもよい。
【0031】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物において、ケタミンパモエート塩は1%から99%、5%から90%、5%から60%、10%から60%、又は15%から40%(w/w)の濃度で存在する。
【0032】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物は注射可能な製剤である。いくつかの実施形態において、前記徐放性医薬組成物は皮下注射、筋肉内注射又は皮内注射用に調製される。
【0033】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物は、熱に対する耐性を有する。
【0034】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物は、1つ以上の追加剤をさらに含んでもよい。いくつかの実施形態では、追加剤は、湿潤剤、懸濁剤、張性調整剤、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0035】
また、本開示は上記の徐放性医薬組成物を使用することにより、疾患又は状態を治療するための方法を提供する。本開示の実施形態によれば、この方法は、それを必要とする対象に徐放性医薬組成物を投与することを含む。
【0036】
本開示の実施形態によれば、疾患又は状態は、中枢神経系疾患、うつ病、抗炎症、疼痛、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、疾患又は状態は大うつ病性障害(MDD)、治療抵抗性うつ病(TRD)、自殺念慮、躁うつ病、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害(post-traumatic stress disorder、PTSD)、自閉症スペクトラム障害、耳鳴り、難治性慢性片頭痛、喘息、不安、物質使用障害、アルコール使用障害、摂食障害、難治性てんかん重積状態、脳虚血、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、多発性硬化症、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される。
【0037】
また、本開示は上記の徐放性医薬組成物を使用することにより、それを必要とする対象を麻酔するための方法を提供する。本開示の実施形態によれば、この方法は、徐放性医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0038】
本開示の実施形態によれば、徐放性医薬組成物は、投与後、72時間、例えば、1週間、2週間、3週間、又は1ヶ月持続する安定した放出プロファイルを示す。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、R,S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図2】
図2は、S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図3】
図3は、R-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図4】
図4は、R,S-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図5】
図5は、S-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図6】
図6は、R-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図7】
図7は、R-又はS-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率1:1)のX線粉末回折パターンを示す。
【
図8】
図8は、R,S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)の
1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図9】
図9は、S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)の
1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図10】
図10は、R-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)の
1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図11】
図11は、R-又はS-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率1:1)の
1H核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図12】
図12は、S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)の
13C核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図13】
図13は、R-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)の
13C核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す。
【
図14】
図14は、S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のフーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを示す。
【
図15】
図15は、R-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のFTIRスペクトルを示す。
【
図16】
図16は、S-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のFTIRスペクトルを示す。
【
図17】
図17は、R-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のFTIRスペクトルを示す。
【
図18】
図18は、R,S-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のFTIRスペクトルを示す。
【
図19】
図19は、R-又はS-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率1:1)のFTIRスペクトルを示す。
【
図20】
図20は、R,S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)の示差走査熱量測定(DSC)パターンを示す。
【
図21】
図21は、S-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のDSCパターンを示す。
【
図22】
図22は、R-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率2:1)のDSCパターンを示す。
【
図23】
図23は、R-又はS-ケタミンパモエート塩(結晶形、比率1:1)のDSCパターンを示す。
【
図24】
図24は、S-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のDSCパターンを示す。
【
図25】
図25は、R-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のDSCパターンを示す。
【
図26】
図26は、R,S-ケタミンパモエート塩(非晶質形、比率2:1)のDSCパターンを示す。
【
図27】
図27は、R,S-ケタミンパモエート塩(結晶形)のpH値の異なる媒体での固有の溶解速度を示す。
【
図28】
図28は、R,S-ケタミン塩酸塩のpH値の異なる媒体での固有の溶解速度を示す。
【
図29】
図29は、S-ケタミンパモエート塩、R-ケタミンパモエート塩及びR,S-ケタミンパモエート塩の結晶及び非晶質形のpH7.4媒体での固有の溶解速度を示す。
【
図30】
図30は、ケタミンパモエート塩の4時間加熱(121℃)後のX線粉末回折パターンを示す。
【
図31】
図31は、ケタミンパモエート塩の4時間の加熱(121℃)前後のDSCパターンを示す。
【
図32】
図32は、ラットにおける60mgケタミン/kgの投与量での製剤SL01の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図33】
図33は、ラットにおける60mgケタミン/kgの投与量での製剤SL02の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図34】
図34は、ラットにおける60mgケタミン/kgの投与量での製剤SL03の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図35】
図35は、ラットにおける60mgケタミン/kgの投与量での製剤AS01の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図36】
図36は、ミニブタにおける3mgケタミン/kgの投与量での製剤SL02の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図37】
図37は、ミニブタにおける6mgケタミン/kgの投与量での製剤SL04の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図38】
図38は、ミニブタにおける6mgケタミン/kgの投与量での製剤AS02の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図39】
図39は、ミニブタにおける10.3mgケタミン/kgの投与量での製剤AS03の筋肉内注射のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図40】
図40は、ミニブタにおける3mgケタミン/kgの投与量での製剤AS05の皮下注射後のケタミンの平均血漿レベルを示す。
【
図41】
図41は、ラットにおける60mgケタミン/kgの投与量での製剤SL01、SL02、SL03及びAS01の皮下注射後の平均ケタミン放出プロファイルを示す。
【
図42】
図42は、ミニブタにおける3mgケタミン/kgの投与量での製剤SL02及びAS05の皮下注射後の平均ケタミン放出プロファイル、6mgケタミン/kgの投与量での製剤AS02及びSL04の皮下注射後の平均ケタミン放出プロファイル、10.3mgケタミン/kgの投与量での製剤AS03の筋肉内注射後の平均ケタミン放出プロファイルを示す。
【
図43】
図43は、ケタミン塩酸塩(KET)、R,S-ケタミンパモエート塩(KEP)、S-ケタミンパモエート塩(S-KEP)及びR-ケタミンパモエート塩(R-KEP)の抗うつ効果を評価するためのデキサメタゾン(DEX)によって誘発されたうつ病様動物モデルのプロトコルを示した図である。ICRマウスは、生後1~3日目(P1~P3)に、それぞれ、生理食塩水又は0.5mg/kg、0.3mg/kg及び0.1mg/kgの投与量減少でのDEXが腹腔内注射された。各群の薬剤又は生理食塩水は、35日目(P35、すなわち投与日0、D0)に皮下投与され、強制水泳試験(FST)は、投与日1(D1、P36)からP98まで10日ごとに実施された。鎮静行動の評価は、注射直後から薬物投与後28日目(P49)までの鎮静評価スケールによっても実施された。
【
図44】
図44は、薬物投与後1日目から63日目の強制水泳試験(FST)によるケタミン塩酸塩(KET)、R,S-ケタミンパモエート塩(KEP)、S-ケタミンパモエート塩(S-KEP)及びR-ケタミンパモエート塩(R-KEP)の抗うつ効果を示すグラフである。結果は平均±SEMで表される。スチューデントのt検定は、各時点で生理食塩水グループと他のグループを比較して分析される。*p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001は、生理食塩水群と比べて有意差があることを示す。
【
図45】
図45は、注射直後から28日までの生理食塩水(Salineグループ)、ケタミン塩酸塩(KET)、R,S-ケタミンパモエート塩(KEP)、S-ケタミンパモエート塩(S-KEP)及びR-ケタミンパモエート塩(R-KEP)で処置されたマウスの鎮静評価スコアを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下の実施例は、本開示を説明するために使用される。当業者は、本明細書の開示に基づいて、本開示の他の利点及び効果を容易に想像することができる。本開示は、異なる実施例に記載されるように実施又は適用することもできる。異なる態様及び用途について、その範囲に違反することなく本開示を実施するために、上記の例を修正又は変更することができる。
【0041】
さらに、本開示で使用される場合には、単数形の「一つ(a)」、「一つ(an)」及び「当該、前記(the)」は、明示的かつ明確に1つの指示対象に限定されない限り、複数の指示対象を含むことに留意すべき。「又は」という用語は、文脈が明らかに他のことを示さない限り、「及び/又は」という用語と交換可能に使用される。
【0042】
本開示は、単回投与後の放出プロファイルが長続きし、初期バーストが最小限に抑えられるケタミンパモエート塩の製剤に関する。本開示の実施形態によれば、ケタミンパモエート塩の製剤は、中枢神経系疾患、うつ病、疼痛又は抗炎症の治療に有用である。本開示のいくつかの実施形態において、ケタミンパモエート塩は、R,S-ケタミンパモエート塩、S-ケタミンパモエート塩、又はR-ケタミンパモエート塩の結晶形又は非晶質形である。本開示のいくつかの実施形態においては、ケタミン対パモエートの化学量論が2:1であるケタミンパモエート塩、ケタミン対パモエートの化学量論が1:1であるケタミンパモエート塩、又はそれらの組み合わせである。
【0043】
本開示の実施形態によれば、ケタミンパモエート塩の製剤は、前記ケタミンパモエート塩の結晶形又は非晶質形及びその薬学的に許容される担体を含む徐放性医薬組成物である。
【0044】
本開示の実施形態によれば、前記徐放性医薬組成物は、任意の適切な濃度、例えば、1%から99%、1%から90%、5%から90%、5%から80%、5%から70%、5%から60%、10%から70%、10%から60%、15%から50%及び15%から40%(w/w)でケタミンパモエート塩を含んでもよい。本開示において数値範囲が開示される場合には、これらの数値のそれぞれが個別に開示されたかのように、範囲内のすべての数値を含むことを意図していることに留意されたい。
【0045】
本開示の実施形態によれば、前記徐放性医薬組成物は、薬学的に許容される担体とする生体適合性溶媒を含む水溶液に調製されてもよい。生体適合性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、酢酸エチル、エタノール、ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソプロパノール、グリセリン、安息香酸ベンジル、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、プロピレングリコール、ジメチルグリコール、ベンジルアルコール、またはそれらの任意の組み合わせを含む有機溶媒を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0046】
本開示の実施形態によれば、前記徐放性医薬組成物は、PEG4000、Tween80、カルボキシメチルセルロースナトリウム、塩化ナトリウム、またはそれらの任意の組み合わせの少なくとも一つを含む水性懸濁液に調製されてもよい。
【0047】
本開示の実施形態によれば、前記徐放性医薬組成物は、薬学的に許容される担体とする制御された放出マトリックスを含むマトリックス送達システムに調製されてもよい。制御された放出マトリックスは、ポリ乳酸、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、又はそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0048】
本開示の徐放性医薬組成物は、湿潤剤、懸濁剤、張性調整剤、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、防腐剤、及びそれらの任意の組み合わせをさらに含んでもよい。
【0049】
本開示のさまざまな製剤には、望ましくない初期バーストがなく、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月以上の持続的なプロファイルを示すことができる。有意なバースト放出のないケタミンパモエート塩製剤は、いくつかの全身性副作用、例えば、針瞳孔、鎮静、低血圧、呼吸抑制のリスクを軽減するだけでなく、頻繁に患者を監視する医師の負担を軽減できる。さらに、ケタミンパモエート塩の製剤は、高い生物学的利用能、少なくとも1週間の薬学的に有効な血漿濃度、及び局所部位反応の最小のリスクを示す。
【0050】
本開示を説明するために、異なる実施例が使用された。以下の実施例は、本開示の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【実施例】
【0051】
S-ケタミンパモエート塩及びR-ケタミンパモエート塩の調製の流れを以下のスキーム1に示す。
【0052】
スキーム1
【0053】
【0054】
R-ケタミンパモエート塩(6) S-ケタミンパモエート塩(7)
A:ジ-p-トルオイル-L-酒石酸/EtOH、EtOH/H2O(3:2)
B:ジ-p-トルオイル-L-酒石酸/EtOH、EtOH/H2O(2:3)
C:HCl/THF
D:パモ酸ジナトリウム/H2O
【0055】
実施例1:R,S-ケタミン遊離塩基の調製(1)
10gのR,S-ケタミン塩酸塩を100mLの水に溶解し、次に150mLの飽和重炭酸ナトリウム水溶液を10分間撹拌しながら加えた。反応混合物をジクロロメタン(100mL×2)で抽出した。分離された有機層を合わせ、減圧下で蒸留して、R,S-ケタミン遊離塩基(1)を得た。
【0056】
実施例2:R-ケタミンの(-)-O,O’-ジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩(2)の調製
ジ-p-トルオイル-L-酒石酸(13g、33.6mmol)及びR,S-ケタミン遊離塩基(8g、33.6mmol)を5分間撹拌しながらエタノール(EtOH、160mL)に溶解した。室温で10mLの水を溶液に滴下し、続いて1時間撹拌し、沈殿物を得た。吸引ろ過後にろ液溶液を収集し、真空下で乾燥させた。残留物を60℃で100mLの60%エタノール溶液(すなわち、EtOH:H2O=3:2)に溶解し、室温に1時間冷却して固体を得た後、真空下で乾燥させた。得られた粉末を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、示差走査熱量測定(DSC)、旋光度、核磁気共鳴(NMR)スペクトル及び文献情報によって分析した。R-ケタミンの(-)-O,O’-ジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩(2)の特性は、以下に示すように、比旋光度、融点(m.p.)及びHPLCキラル純度によって確認された。
m.p.=133.5-141.3℃、
【0057】
【0058】
c=1.0、ジメチルホルムアミド、キラル純度=98.4%.1H-NMR(DMSO-d6):7.87(d,4H,J=8.0Hz),7.68(d,1H,J=6.8Hz),7.44(m,3H),7.36(d,4H,J=8.0Hz),5.74(s,2H),2.66-2.32(m,2H),2.39(s,6H),2.04(s,3H),1.90-1.58(m,6H)。
【0059】
実施例3:S-ケタミンの(-)-O,O’-ジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩(3)の調製
実施例2からの沈殿物を減圧下で乾燥させた。固体を100mLの40%エタノール溶液(すなわち、EtOH:H2O=2:3)に60℃で溶解し、室温に1時間冷却して固体を得た後、真空下で乾燥させた。得られた粉末を、HPLC、DSC、旋光度、NMRスペクトル及び文献情報によって分析した。S-ケタミンの(-)-O,O’-ジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩(3)の特性は、以下に示すように、比旋光度、融点及びHPLCキラル純度によって確認された。
m.p.=157.1-163.3℃、
【0060】
【0061】
c=1.0、ジメチルホルムアミド、キラル純度=100%.1H-NMR(DMSO-d6):7.87(d,4H,J=7.6Hz),7.67(d,1H,J=7.6Hz),7.44(m,3H),7.36(d,4H,J=8.0Hz),5.74(s,2H),2.64-2.31(m,2H),2.39(s,6H),2.03(s,3H),1.91-1.59(m,6H)。
【0062】
実施例4:R-ケタミンパモエート塩(6)(結晶、比率2:1)の調製
2℃~10℃で撹拌することにより、R-ケタミンのジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩(2)を10倍のテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。溶液に塩酸(37%)を添加し、沈殿物を得た、吸引ろ過により沈殿物を集めて、R-ケタミン塩酸塩(4)を得た。R-ケタミン塩酸塩(4)とパモ酸二ナトリウムをそれぞれ10倍の水に溶解した。その後、減圧により反応混合物から水を蒸留した。残留物を60℃で撹拌しながらエタノールに溶解し、温度を下げることにより再結晶させた。得られた粉末を、HPLC、DSC、赤外線(IR)、X線回折パターン(XRD)及びNMRスペクトルで分析した。R-ケタミンパモエート塩(6)の結晶形の特性は、分析結果と
【0063】
【0064】
のR-ケタミンパモエート塩(6)の比旋光度によって確認された。
【0065】
実施例5:S-ケタミンパモエート塩(7)(結晶、比率2:1)の調製
2℃~10℃で撹拌することにより、S-ケタミンのジ-p-トルオイル-L-酒石酸塩(3)を10倍のテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。溶液に塩酸(37%)を添加し、沈殿物を得た、吸引ろ過により沈殿物を集めて、S-ケタミン塩酸塩(5)を得た。S-ケタミン塩酸塩(5)とパモ酸二ナトリウムをそれぞれに10倍の水に溶解した。その後、減圧により反応混合物から水を蒸留した。残留物を60℃で撹拌しながらエタノールで再結晶し、真空ろ過により単離した。得られた粉末を、HPLC、DSC、旋光度、IR、XRD及びNMRスペクトルで分析した。S-ケタミンパモエート塩(7)の結晶形の特性は、分析結果と
【0066】
【0067】
のS-ケタミンパモエート塩(7)の比旋光度によって確認された。
【0068】
実施例6:R-ケタミンパモエート塩(非晶質、比率2:1)の調製
R-ケタミンパモエート塩(6)をメタノールに溶解し、溶媒を減圧下で除去し、R-ケタミンパモエート塩の非晶質形を得た。得られた粉末を、HPLC、DSC、旋光度、IR、XRD及びNMRスペクトルで分析した。R-ケタミンパモエート塩の非晶質形の特性は、分析結果と
【0069】
【0070】
のR-ケタミンパモエート塩の比旋光度によって確認された。
【0071】
実施例7:S-ケタミンパモエート塩(非晶質、比率2:1)の調製
S-ケタミンパモエート塩(7)をメタノールに溶解し、溶媒を減圧下で除去し、S-ケタミンパモエート塩(非晶質)の非晶質形を得た。得られた粉末を、HPLC、DSC、旋光度、IR、XRD及びNMRスペクトルで分析した。S-ケタミンパモエート塩の非晶質形の特性は、分析結果と
【0072】
【0073】
のS-ケタミンパモエート塩の比旋光度によって確認された。
【0074】
実施例8:R,S-ケタミンパモエート塩(結晶、比率2:1)の調製
ケタミン塩酸塩(20g、72.9ミリモル)及びパモ酸二ナトリウム一水和物(15g、33.3ミリモル)を丸底フラスコ中の65%エタノール水溶液(350mL)に溶解した。混合物を70℃で30分間絶えず撹拌した。その後、混合物を氷浴で周囲温度まで徐々に冷却した。その後、混合物を周囲温度で一晩撹拌した。この反応混合物を濾過し、粉末を収集し、減圧下で乾燥させた。得られた粉末をDSC、IR、XRD、及びNMRスペクトルによって分析した。
【0075】
実施例9:R,S-ケタミンパモエート塩(非晶質、比率2:1)の調製
実施例8から収集した粉末をメタノールに溶解した。さらに、溶媒を減圧下で除去し、乾燥させ、非晶質形のR,S-ケタミンパモエート塩を得た。得られた粉末を、DSC、IR、XRD及びNMRスペクトルで分析した。
【0076】
実施例10:R-又はS-ケタミンパモエート塩(結晶、比率1:1)の調製
ケタミン遊離塩基(10g、42.1ミリモル)およびパモ酸(16g、41.2ミリモル)を、丸底フラスコ中のアセトニトリル(2300mL)およびジメチルスルホキシド(100mL)に溶解した。混合物を周囲温度で一晩撹拌した。この反応混合物を濾過し、粉末を収集し、減圧下で乾燥させた。得られた粉末をDSC、IR、XRD、およびNMRスペクトルによって分析した。
【0077】
実施例11:XRPD分析
X線粉末回折(XRPD)パターンは、40kV及び40mAで動作したCuKα放射線源を備えるBruker D8 Discover X線粉末回折計で得られた。
【0078】
各サンプルは、2θにおいて2°~80°の間で、0.02°のステップサイズ及び走査速度0.6秒/ステップで走査された。2θの角度ピーク位置と、最大ピークの10%以上の強度を持つすべての結晶形のケタミンパモエート塩ピークに対応するI/Ioデータを、以下の表1に示す。
【0079】
R-又はS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)、R,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、及びR-ケタミンパモエート塩(比率2:1)の結晶形をX線回折パターン(XRD)によって特徴づけられ、結果を
図1~
図7に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
実施例12:NMR分析
ケタミンパモエート塩の結晶形を重水素溶媒(DMSO)に溶解し、Bruker Ascend TM 400MHz NMR分光計を使用して核磁気共鳴(NMR)スペクトルを得た。
【0083】
R-又はS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)、R,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、及びR-ケタミンパモエート塩(比率2:1)の結晶形の特性は、
1H-NMR分光法により確認された(表2及び
図8~
図11に示されているように)。さらに、S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)及びR-ケタミンパモエート塩(比率2:1)を
13C-NMR分光法に供し、ppmでケミカルシフトを報告した(表3及び
図12及び13に示すように)。
【0084】
【0085】
【0086】
実施例13:フーリエ変換赤外(FT-IR)分光分析
ケタミンパモエート塩の多形体は、Bruker FPA-FTIR Vertex70V、Hyperion3000システムを使用して、ディスクで得られた赤外線(IR)分光測定によってさらに特徴づけられ、結果は
図14~
図19に示される。S-ケタミンパモエート塩、R-ケタミンパモエート塩、及びR,S-ケタミンパモエート塩の結晶形及び非晶質形を同定するのに十分なIR吸光度(波数、cm
-1)は以下の表4に報告された。
【0087】
【0088】
実施例14:DSC分析
R,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、R-ケタミンパモエート塩(比率2:1)及びR-又はS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)のサンプルの示差走査熱量測定(DSC)分析は、それぞれ約234℃、212℃、214℃及び230℃でガラス転移を示し、それらのサンプルが結晶形であることを示した(
図20~
図23)。S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)及びR-ケタミンパモエート塩(比率2:1)のサンプルのDSC分析は、約210℃及び193℃でガラス転移を示し、それらのサンプルが非晶質であることを示した(
図24及び25を参照)。R,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)のサンプルのDSC分析は、約213℃でガラス転移を示し、そのサンプルが非晶質であることを示した(
図26)。
【0089】
DSC分析は、Mettler Toledo DSC3を標準条件下で使用して行った。ケタミンパモエート塩の結晶形のDSC分析を以下の表5にまとめた。
【0090】
【0091】
実施例15:溶解度試験
ケタミンパモエート塩の溶解度は、米国薬局方(United States Pharmacopeia、USP)のガイダンスに基づいて測定され、以下の表6にまとめられている。結果は、ケタミンパモエート塩が異なるpH媒体の中で低い溶解度が示した。溶解度の最も高いのは、pH1.2(1.68mg/mL)でのR,S-ケタミンパモエート塩で観察され、溶解度の最も低いのは、pH6.8(0.16mg/mL)でのR,S-ケタミンパモエート塩で観察された。R-またはS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)は、溶解度においてR,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)と同様の特性を持っていた。ここで、溶解度の最も高いのは、pH1.2(0.72mg/mL)でのR-またはS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)で観察され、溶解度の最も低いのは、pH6.8(0.07mg/mL)でのR-またはS-ケタミンパモエート塩(比率1:1)で観察された。
【0092】
また、ケタミン塩酸塩(溶解度:水の中では>200mg/mL)に対して、ケタミンパモエート塩はあまり水溶液に溶解しないことを発見した。
【0093】
【0094】
実施例16:溶解速度研究
ケタミンパモエート塩の結晶形および非晶質形の固有溶解速度は、米国薬局方の第1087章に記載されている固有溶解回転ディスク法を使用し、媒体pHが1.2、4.5、6.8または7.4であり、媒体体積が900mLであり、回転数50rpmであり、媒体温度が37℃であり、検出波長が210nmである条件で決定した。結果を表7および8ならびに
図27から29に示した。
【0095】
表7および
図29および30に示されるように、R,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)の結晶形の固有溶解速度は、pHが上昇するにつれて減少し、また、R,S-ケタミン塩酸塩と比較して、R,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)は、異なるpH媒体において実質的に低い溶解速度を示した。
【0096】
また、pH7.4の媒体におけるS-ケタミンパモエート塩(比率2:1)、R-ケタミンパモエート塩(比率2:1)およびR,S-ケタミンパモエート塩(比率2:1)の結晶形および非晶質形の溶解速度を表8および
図29に示し、生物薬剤分類システム(BCS)に基づくそれらのケタミンパモエート塩の溶解度分類も表8に示された。ケタミンパモエート塩の固有溶解速度は、ケタミン塩酸塩のそれより80倍以上低いことが観察された。
【0097】
【0098】
【0099】
実施例17:ケタミンパモエート塩溶液の調製
R,S-ケタミンパモエート塩(結晶、比率2:1)と賦形剤をガラスバイアルに加え、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)などの生体適合性有機溶媒に溶解した。混合物を周囲温度で撹拌し続け、またはすべての成分が溶解するまでわずかに加熱した。得られた医薬溶液の組成を以下の表9に示した。
【0100】
【0101】
実施例18:ケタミンパモエート塩の水性懸濁液の調製
R,S-ケタミンパモエート塩(結晶、比率2:1)、S-ケタミンパモエート塩(結晶、比率2:1)およびR-ケタミンパモエート塩(結晶、比率2:1)を個別にフラスコに加え、dd-H2Oに溶解したポリエチレングリコール4000(PEG4000)、ポリソルベート80(Tween80)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(NaCMC)、および/または塩化ナトリウム(NaCl)で構成される賦形剤に懸濁した。
【0102】
水性懸濁液を超音波処理により均一に混合し、さらに粉砕した。水性懸濁液の組成および使用した粉砕プロセスを表10に示した。水性懸濁液をガラスバイアルに加え、Bettersizer S2-Eレーザー粒度分布分析器によって粒度分布を分析した。粒度分布の結果を表11に示した。
【0103】
【0104】
【0105】
実施例19:ケタミンパモエート塩のマトリックス送達システムの調製
R,S-ケタミンパモエート塩(結晶、比2:1)、ポリ乳酸(PLA)またはポリ(乳酸-コ-グリコール)酸(PLGA)、および生体適合性溶媒をガラスバイアルに加え、すべての成分が溶解するまで絶えず攪拌しながら50℃の水浴に入れた。混合物を水浴から取り出し、室温で撹拌して、溶液(すなわち、マトリックス送達システム)を形成した。マトリックス送達システムの組成を以下の表12に示した。
【0106】
【0107】
実施例20:ケタミンパモエート塩の医薬製剤の安定性研究
高温(121℃)でのケタミンパモエート塩の製剤の安定性を評価するために、医薬品のタイプIガラスバイアル(3mL)、ゴム製クロージャー、およびアルミニウムとポリプロピレン製のフリップオフシールを使用した。さらに、実施例18で調製された配合物AS11は、オーブン中で121℃に1~4時間加熱された。
【0108】
続いて、HPLCを使用してケタミンおよび総関連物質の分析を分析し、結果を表13に示した。さらに、製剤の粒度分布をさらに測定し、結果を表14に示した。
【0109】
4時間加熱した後の製剤を真空ポンプによって乾燥させ、粉末をXRDおよびDSCによって特定された。加熱したケタミンパモエート塩のXRDを表15および
図1に示した。加熱したケタミンパモエート塩のDSCを
図31に示した。実施例14で得られた結果と比較することにより、4時間の加熱前後のR,S-ケタミンパモエート塩は、それぞれ231.3℃および231.6℃のオンセット温度を示すことが見出された。
【0110】
HPLCの結果は、ケタミンの分析が99.7%から100.8%の間であり、関連物質が生成されなかったことを示した。さらに、粒度分布、XRDおよびDSCによって特定された結果は、加熱の前後の配合物の間に有意差がないことを示した。これらの結果は、ケタミンパモエート塩の懸濁液が優れた耐熱性を有することを示唆した。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
実施例21:ラットにおけるケタミンパモエート塩の医薬製剤の薬物動態プロファイル
実施例17及び18で調製された製剤SL01、SL02、SL03及びAS01を、60mgケタミン/kgの投与量でオスCD(SD)IGSラットに皮下注射した。血液サンプルは、特定の時点で外頸静脈から収集された。血漿サンプルを遠心分離機で分離し、後で分析するために凍結状態で保存した。LC-MS/MSを使用して、血漿サンプル中のケタミンの濃度を分析した。
【0116】
製剤SL01、SL02、SL03及びAS01の薬物動態プロファイルを表16~19及び
図32~35に示した。結果は、製剤SL01が10日間にわたってケタミンの放出プロファイルを維持すること、製剤SL02が14日間にわたってケタミンの放出プロファイルを維持すること、製剤SL03が10日間にわたってケタミンの放出プロファイルを維持すること、および製剤AS01が14日間にわたってケタミンの放出プロファイルを維持することを示した。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
実施例22:ミニブタにおけるケタミンパモエート塩の医薬製剤の薬物動態プロファイル
実施例17及び18で調製された製剤SL02、SL04、AS02、AS03及びAS05を、オス蘭嶼(Lanyu)ミニブタ(PigModel Animal Technology Co.、Ltd.から提供した)に皮下注射(SC)又は筋肉内注射(IM)した。ミニブタ動物研究の投与記録の詳細は下記表20に示す。
【0122】
血液サンプルは、特定の時点で外頸静脈から収集された。血漿サンプルを遠心分離機で分離し、後で分析するために凍結状態で保存した。LC-MS/MSを使用して、血漿サンプル中のナルトレキソンの濃度を分析した。製剤SL02、SL04、AS02、AS03及びAS05の薬物動態プロファイルを表21~25及び
図36~40に示した。結果は、製剤AS03が21日間にわたってケタミンの放出プロファイルを維持することを示した。製剤AS02の注射後のケタミンの血漿濃度は2時間から28日まで10ng/mL以下となった。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
実施例23:ラット及びミニブタにおける注射可能な医薬製剤の生体内放出プロファイル
ラット及びミニブタにおける薬物動態プロファイルに基づき、特定の時点での曲線下面積(AUC0-t)及び時間0から無限大まで外挿した血漿濃度-時間曲線下面積(AUC0-∞)を測定した。放出プロファイルにおけるナルトレキソンの放出百分率は、下記式で推算された
【0130】
【0131】
ラットにおける製剤SL01、SL02、SL03及びAS01の生体内放出プロファイルを表26及び
図41に示した。ミニブタにおける製剤SL02、SL04、AS02、AS03及びAS05の生体内放出プロファイルを表27及び
図42に示した。2つの異なる動物モデルでの放出プロファイルは、ケタミンパモエート塩の製剤が10~28日間の様々な期間でケタミンを常に放出できることを示した。
【0132】
【0133】
【0134】
実施例24:生体内(in vivo)での抗うつ効果
デキサメタゾン(以下、DEXと略す)によって誘発されたうつ病様動物モデルを使用し、同等の投与量(120mg/kgのケタミン遊離塩基)でのケタミン塩酸塩(KET)、R,S-ケタミンパモエート塩(KEP)、S-ケタミンパモエート塩(S-KEP)及びR-ケタミンパモエート塩(R-KEP)の抗うつ効果を評価した。文献によると、新生児期にDEXに曝露された幼若マウスと成体マウスでうつ病性のような行動が観察された。この研究のプロトコルを
図43に示し、以下に説明する。
【0135】
新生児ICRマウスについて、生後1日目、2日目及び3日目(P1~P3)に、生理食塩水又はDEXを0.5mg/kg、0.3mg/kg及び0.1mg/kgの投与量でそれぞれ腹腔内注射した。生理食塩水が投与されたマウスを対照群とし、DEXが投与されたマウスをKET、KEP、S-KEP、R-KEP及び生理食塩水の群に分けた(各群でn=10~14匹のマウス)。生後35日目に、KET、KEP、S-KEP、及びR-KEP群のマウスにはKET製剤、KEPを含む製剤AS04、S-KEPを含む製剤AS06及びR-KEPを含む製剤AS07を皮下注射した。KET製剤は、0.9%生理食塩水に溶解された20%(w/w)ケタミン塩酸塩であった。製剤AS04、AS06及びAS07は実施例18で調製された。対照群と生理食塩水群のマウスには等量の0.9%生理食塩水を注射した。
【0136】
抗うつ効果は、薬物投与後の1日目(P36)から63日目(P98)に実施された強制水泳試験(FST)によって評価された。すべての群のマウスは薬物投与前に水泳訓練を実施した。FST期間内、マウスをそれぞれ4Lの水(23±1℃)で充填された5Lのガラスシリンダー(高さ27cm、直径18cm)に配置した。FST中の5分間の無動時間(immobility time)の合計期間を観察した。結果は平均±SEMとして表された。スチューデントのt検定を利用し、生理食塩水群(生理食塩水で注射されたDEX処理マウス群)と他の群を各時点で分析した。*p<0.05、**p<0.01、及び***p<0.001は、生理食塩水群と比べて有意差があることを示す。
【0137】
新生児期にDEXに曝露されたマウスは、対照群と比べてFSTでの無動時間の有意な増加を示した。FSTの結果を
図44に示し、KETとKEPの両方が、投与1日後にDEX処理マウスで増加した無動時間を短縮することが観察された。さらに、KEPは投与後少なくとも52日まで無動時間を持続的に短縮し、この効果はより顕著になった。対照的に、KETは注射後1日から10日まで無動時間を短縮しただけであり、この効果は注射後11日から21日の間持続することができなかった。
【0138】
さらに、鎮静行動は、薬物投与直後からの28日間においてげっ歯類鎮静評価スケール(表28)によっても評価された。
図45に示すように、KET群のマウスは、注射後すぐに強い鎮静関連行動を示し、この作用は投与後2時間まで完全に回復した。KEP、S-KEP及びR-KEPで処置されたマウスは、注射後0~28日目で正常な行動を示した。
【0139】
【0140】
その結果、KET、KEP、S-KEP及びR-KEPはいずれも、同等の投与量(120mg/kgのケタミン遊離塩基)での単回注射後にFSTに対する即効性抗うつ効果を示し、この効果は少なくともDEX治療マウスでは10日間持続した。驚いたことに、KEP、S-KEP及びR-KEPの群では、鎮静又はその他のケタミン関連の精神模倣作用(psychotomimetic)及び神経系障害は、投与後に発生せず、これは、KEP、KETに比べて、S-KEP及びR-KEPが抗うつ薬として使用される別の有益な特性を有することを意味する。
【0141】
本開示の実施形態のいくつかは上記の通り詳細に説明されたが、当業者は、本開示の教示及び利点から実質的に逸脱することなく、示された特定の実施形態に様々な修正及び変更を加えることができる。そのような修正及び変更は、添付の特許請求の範囲に記載されるように、本開示の範囲に含まれる。
【0142】
参考文献
1. Han、Felicity Y.、et al. “Sustained-release ketamine-loaded nanoparticles fabricated by sequential nanoprecipitation. ” International Journal of Pharmaceutics(2020) :119291.
2. Way、Walter L. “ketamine -its pharmacology and therapeutic uses. ” Anesthesiology:The Journal of the American Society of Anesthesiologists 56.2(1982) :119-136.
【国際調査報告】