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特表2023-505967共固定化酵素、その製造方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】共固定化酵素、その製造方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/091 20200101AFI20230207BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20230207BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20230207BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C12N11/091
C12N9/10 ZNA
C12N9/02
C12P1/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532879
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(85)【翻訳文提出日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 CN2019122447
(87)【国際公開番号】W WO2021108957
(87)【国際公開日】2021-06-10
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519153051
【氏名又は名称】ジーリン アシムケム ラボラトリーズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JILIN ASYMCHEM LABORATORIES CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ハオ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームス,ゲージ
(72)【発明者】
【氏名】ラジャシェカール,バサラヤニ ウィリアムズ
(72)【発明者】
【氏名】ツゥイ,ユーシア
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ナー
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ,ジアドン
(72)【発明者】
【氏名】ハオ,ミンミン
(72)【発明者】
【氏名】ガオ,ヤンヤン
【テーマコード(参考)】
4B033
4B050
4B064
【Fターム(参考)】
4B033NA23
4B033NA25
4B033NA40
4B033NB33
4B033ND02
4B050CC07
4B050CC08
4B050DD02
4B050GG10
4B050LL05
4B064CA32
4B064CA34
4B064CB01
4B064CB11
4B064CB16
4B064CC21
4B064CD04
(57)【要約】
本発明は、共固定化酵素、その製造方法及びその使用を提供する。当該共固定化酵素は、アミノ樹脂担体と主酵素及び補酵素とを含み、主酵素と補酵素は、アミノ樹脂担体に共固定化され、ここで、主酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、補酵素は、共有結合及び/又は非共有結合でアミノ樹脂担体に固定される。主酵素は、アミノ基転移酵素、アミノ酸脱水素酵素、イミン還元酵素、ケトン還元酵素、アルケン還元酵素及びモノオキシゲナーゼのうちのいずれか1つから選ばれ、主酵素及びその補酵素をアミノ樹脂担体に共固定化して共固定化し、酵素の活性及びリサイクル効率を向上させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ樹脂担体と
主酵素及び補酵素と、を含み、
前記補酵素は、1つ又は複数の種類であり、前記主酵素と前記補酵素は、前記アミノ樹脂担体に共固定化され、ここで、前記主酵素は、前記アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、前記補酵素は、共有結合及び/又は非共有結合で前記アミノ樹脂担体に固定され、
前記主酵素は、アミノ基転移酵素、アミノ酸脱水素酵素、イミン還元酵素、ケトン還元酵素、アルケン還元酵素及びモノオキシゲナーゼのうちのいずれか1つから選ばれる、ことを特徴とする共固定化酵素。
【請求項2】
前記アミノ基転移酵素は、B.thuringiensis又はVibrio fluvialis strain JS17に由来するアミノ基転移酵素であり、
好ましくは、前記アミノ酸脱水素酵素は、Bacillus cereus又はBacillus sphaericusに由来するアミノ酸脱水素酵素であり、
好ましくは、前記イミン還元酵素は、Streptomyces sp又はBacillus cereusに由来するイミン還元酵素であり、
好ましくは、前記ケトン還元酵素は、Sporobolomyces salmonicolorに由来するケトン還元酵素又はAcetobacter sp.CCTCC M209061に由来するケトン還元酵素であり、より好ましくは、前記Acetobacter sp.CCTCC M209061に由来するケトン還元酵素は、SEO ID NO:1又はSEO ID NO:2配列を有する変異体であり、
好ましくは、前記アルケン還元酵素は、Chryseobacterium sp.CA49又はSewanella oneidensis MR-1に由来するアルケン還元酵素であり、
好ましくは、前記モノオキシゲナーゼは、Rhodococcus sp.Phi1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、又はBrachymonas petroleovoransに由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、又はRhodococcus ruber-SD1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼであり、より好ましくは、前記Rhodococcus sp.Phi1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼは、SEO ID NO:4配列又はSEO ID NO:5配列を有する変異体であり、前記Rhodococcus ruber-SD1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼは、SEO ID NO:7配列又はSEO ID NO:8配列を有する変異体である、ことを特徴とする請求項1に記載の共固定化酵素。
【請求項3】
前記補酵素は、乳酸脱水素酵素、ギ酸アンモニウム脱水素酵素、グルコース脱水素酵素及びアルコール脱水素酵素のうちの少なくとも1つから選ばれ、
好ましくは、前記乳酸脱水素酵素は、Lactobacillus helveticusに由来するD-乳酸脱水素酵素であり、
好ましくは、前記ギ酸アンモニウム脱水素酵素は、Candida boidiniiに由来するギ酸脱水素酵素であり、
好ましくは、前記グルコース脱水素酵素は、Lysinibacillus sphaericus G10に由来するグリコース1-脱水素酵素であり、
好ましくは、前記アルコール脱水素酵素は、Thermoanaerobium brockiiに由来するアルコール脱水素酵素であり、
好ましくは、前記共固定化酵素のリサイクル回数は、4~25回である、ことを特徴とする請求項1に記載の共固定化酵素。
【請求項4】
前記アミノ樹脂担体は、グルタルアルデヒド活性化のアミノ樹脂担体であり、
好ましくは、前記アミノ樹脂担体は、C2又はC4リンカーを有するアミノ樹脂担体であり、より好ましくは、前記アミノ樹脂担体は、SEPLITE(R) LX1000EA、LX1000HA、LX1000NH、HFA、LX1000EPN、HM100D、Purolite(R) LifetechTM ECR8309、ECR8409、ECR8305、ECR8404、ECR8315、ECR8415、HECHENG(R) ESR-1、ESR-3、ESR-5及びESR-8のうちのいずれか1つから選ばれる、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の共固定化酵素。
【請求項5】
前記共固定化酵素において、前記主酵素と前記補酵素との質量比は、1~20:1~10であり、
好ましくは、前記主酵素と前記補酵素との質量合計をN1とし、前記アミノ樹脂担体の質量をN2とする場合、N1/N2は、50~200mg:1g、さらに、80~120mg:1gである、ことを特徴とする請求項1に記載の共固定化酵素。
【請求項6】
前記主酵素と前記補酵素は、いずれも前記アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、又は、
前記主酵素は、前記アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、前記補酵素は、イオン吸着で前記アミノ樹脂担体に非共有結合で固定され、好ましくは、PEIを介して前記アミノ樹脂担体に前記補酵素を吸着させる、ことを特徴とする請求項1又は5に記載の共固定化酵素。
【請求項7】
前記補酵素は、第1の酵素と、第2の酵素とを含み、前記主酵素と前記第2の酵素は、前記アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、前記第1の酵素は、イオン吸着で前記アミノ樹脂担体に固定される、ことを特徴とする請求項6に記載の共固定化酵素。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の共固定化酵素の製造方法であって、前記製造方法は、
アミノ樹脂担体を活性化し、活性化アミノ基担体を得るステップと、
主酵素を共有結合で前記活性化アミノ基担体に固定し、前記主酵素に対応する補酵素を共有結合及び/又は非共有結合で前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得るステップと、
を含み、
前記主酵素に対応する前記補酵素の数は1つ又は複数である、ことを特徴とする製造方法。
【請求項9】
前記主酵素及び前記補酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得るステップは、
請求項5に記載の共固定化酵素における前記主酵素と前記補酵素との質量比に従って、前記主酵素を前記補酵素と混合し、第1の混合酵素を得るステップと、
請求項5に記載の共固定化酵素における前記N1/N2の割合に従って、前記第1の混合酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記補酵素は、第1の酵素を含み、前記主酵素及び前記補酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得るステップは、
前記主酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、初固定化酵素を得るステップと、
前記第1の酵素を前記初固定化酵素と固定し、前記共固定化酵素を得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記補酵素は、第2の酵素をさらに含み、前記主酵素及び前記補酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得るステップは、
前記主酵素と前記第2の酵素を前記活性化アミノ基担体に共固定化し、前記初固定化酵素を得るステップと、
前記第1の酵素を前記初固定化酵素と固定し、前記共固定化酵素を得るステップと、を含む、ことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
PEIを表面被覆するように、前記第1の酵素を前記初固定化酵素と固定し、前記共固定化酵素を得、
好ましくは、前記初固定化酵素にPEIの最終濃度が0.5w/v%~5w/v%になるまで前記PEIを加えてPEI-初固定化酵素複合体を得、次いで前記第1の酵素を前記PEI-初固定化酵素複合体と結合し、前記共固定化酵素を得る、ことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記第1の混合酵素を質量比が50~150mg:1gである質量比に従って前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得る、ことを特徴とする請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
前記主酵素と前記第1の酵素との質量比は、1~20:1~10である、ことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項15】
前記主酵素と前記第2の酵素との質量比は、1~20:1~10である、ことを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
【請求項16】
前記主酵素は、アミノ基転移酵素であり、前記補酵素は、2種類の補助因子を有し、2種類の前記補助因子は、LDH及びFDH、又はLDH及びGDHであり、前記製造方法は、下記の
(1)前記アミノ基転移酵素、前記LDHをFDHと混合し、第1の酵素ブレンドを得、前記第1の酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
(2)前記アミノ基転移酵素、前記LDHをGDHと混合し、第2の酵素ブレンドを得、前記第2の酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
(3)前記アミノ基転移酵素を前記LDHと混合し、第3の酵素ブレンドを得、前記第3の酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、初固定アミノ基転移酵素を得、前記初固定アミノ基転移酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらに前記GDH又は前記FDHを固定し、前記共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項17】
前記主酵素は、アミノ酸脱水素酵素であり、前記補酵素は、FDH又はGDHであり、前記製造方法は、下記の
アミノ酸脱水素酵素をFDH又はGDHと混合し、アミノ酸脱水素酵素ブレンドを得、前記アミノ酸脱水素酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
又は、
前記アミノ酸脱水素酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、前記初固定アミノ酸脱水素酵素を得、
前記初固定アミノ酸脱水素酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらに前記GDH又は前記FDHを固定し、前記共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項18】
前記主酵素は、イミン還元酵素であり、前記補酵素は、FDH又はGDHであり、前記製造方法は、下記の
前記イミン還元酵素、前記FDH又は前記GDHを混合し、イミド酵素ブレンドを得、
前記イミド酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
又は、
前記イミン還元酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、初固定イミン還元酵素を得、
前記初固定イミン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらに前記GDH又は前記FDHを固定し、前記共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項19】
前記主酵素は、ケトン還元酵素であり、前記補酵素は、FDH又はGDHであり、前記製造方法は、下記の
前記ケトン還元酵素、前記FDH又は前記GDHを混合し、ケトン還元酵素ブレンドを得、
前記ケトン還元酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
又は、
前記ケトン還元酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、初固定ケトン還元酵素を得、
前記初固定ケトン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらに前記GDH又は前記FDHを固定し、前記共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項20】
前記主酵素は、アルケン還元酵素であり、前記補酵素は、FDH又はGDHであり、前記製造方法は、下記の
前記アルケン還元酵素、前記FDH又は前記GDHを混合し、アルケン還元酵素ブレンドを得、
前記アルケン還元酵素ブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
又は、
前記アルケン還元酵素を前記活性化アミノ基担体に固定し、初固定アルケン還元酵素を得、
前記初固定アルケン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらに前記GDH又は前記FDHを固定し、前記共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項21】
前記主酵素は、シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼであり、前記補酵素は、FDH又はGDHであり、前記製造方法は、下記の
前記シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、前記FDH又は前記GDHを混合し、モノオキシゲナーゼブレンドを得、
前記モノオキシゲナーゼブレンドを前記活性化アミノ基担体に固定し、前記共固定化酵素を得ること、
又は、
前記シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼを前記活性化アミノ基担体に固定し、初固定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼを得、
前記初固定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼに対してPEI表面被覆を行うように、さらに前記GDH又は前記FDHを固定し、前記共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項22】
前記アミノ樹脂担体をグルタルアルデヒドで活性化し、前記活性化アミノ基担体を得る、ことを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項23】
請求項1~7のいずれか1項に記載の共固定化酵素、又は請求項8~22のいずれか1項に記載の共固定化酵素の製造方法によって製造された共固定化酵素の、生物触媒反応への使用。
【請求項24】
前記生物触媒反応は、間欠的な生物触媒反応又は連続的な生物触媒反応であり、
好ましくは、前記共固定化酵素は、連続的な流動床又は固定床の生物触媒反応に適用され、
好ましくは、前記連続的な生物触媒反応における前記共固定化酵素のリサイクル回数は、4~25回である、ことを特徴とする請求項23に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化酵素分野に関し、具体的には、共固定化酵素、その製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物細胞又は単離された酵素又は工程酵素の使用を通じて、生物触媒に対し、大きな進展を遂げ、かつ製造方式を転換させた。多くの種類の酵素、例えば、アシル基転移酵素、アミダーゼ、アミノ基転移酵素、ケトン還元酵素、酸化酵素、モノオキシゲナーゼ及び水解酵素などは、抗生物質、除草剤、医薬中間体及び新時代治療剤の製造に関する反応に用いられる。
【0003】
遊離酵素が生物触媒として機能する場合、大量の酵素を浪費する可能性があり、水可溶性酵素の回収が非常に困難であるからである。一方、水不溶性固定化酵素は、循環ごとに非常に簡単なろ過を通じて容易に回収できる。
【0004】
従来技術では、既に単一酵素の固定化方法が報告されているが、酵素によって、適用な固定化方法が異なる。例えば、Bolivarら(Biomacromol.2006,7,669-673)は、改質アガロース、CNBr活性化のアガロース、Sepabeads(デキストラン)及びアルデヒドアガロースの様々な担体に共有結合で固定されることを含む、シュードモナス菌SP101に由来するFDHの共有結合による固定化について研究を行った。
【0005】
研究上の結論に関して、臭化物、ポリエチレンミン、グルタルアルデヒドなどの活性化の担体に固定化されることは、熱不活性化下での酵素のいかなる安定作用を促進できない。しかしながら、高度活性化されたグリオキサールアガロースの最適化酵素は、非常に強い熱安定性、pH安定性を有し、そして強化された安定性を有する場合に50%を超えた活性を有することが証明された。
【0006】
Kim et al(J.Mol.Catal B:Enzy 97(2013)209-214)は、架橋酵素凝集物(CLEA)の方法を用いて、Candida boidinii.に由来するギ酸脱水素酵素(formate dehydrogenase、FDH)を固定することを報告し、グルタルアルデヒド(glutaraldehyde)の代わりにデキストランパラホルムアルデヒド(dextran polyaldehyde)を架橋剤として、固定化酵素にとってより優れ、10回のリサイクル後の残存活性は95%を超えると考えられた。また、デキストランパラホルムアルデヒドにより形成された架橋酵素凝集物(Dex-CLEA)の熱安定性は、遊離酵素の熱安定性より3.6倍向上した。
【0007】
Binay et al(Beilstein J.Org.Chem.2016,12,271-277)は、Candida methylicaに由来する高活性のFDHの固定化酵素を報告した。FDHは、エポキシ活性化Immobead 150担体に共有結合で固定され、Immobead 150担体は、先にエチレンジアミン(ethylenediamin)で修飾され、そして、順次グルタルアルデヒド活性化(FDHIGLU)及びアルデヒド官能化(FDHIALD)された。担体としてアルデヒド官能化されたImmobead 150を用いた場合、それぞれ最高90%及び132%の固定化収率及び活性化収率を得た。35℃で、遊離FDH、FDHI150、FDHIGLU及びFDHIALDの半減期(t1/2)の計算結果は、それぞれ10.6、28.9、22.4及び38.5時間であった。FDHI150、FDHIGLU及びFDHIALDは、10回のリサイクル後にその初期活動の69%、38%及び51%をそれぞれ保留した。
【0008】
Jackonら(Process Biochem.Vol.1,9,Sep 2016,1248-1255)は、グリオキサール-アガロースを用いてLDHを固定化することを報告した。その可溶性対応物に比べて、固定化LDHが得た熱安定化因子は1600倍大きい。
【0009】
2種類の酵素の共固定化に関する報告もあり、例えばValikhaniら(Biotech.Bioengg.2018;115:2416-2425)は、シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(色素P450s)とB.megateriumに由来するグルコース脱水素酵素との共固定化を報告した。Delgroveら(Appl.Catal.A:Gen.Vol.572,25 Feb.2019,134-141)は、共固定化されたBaeyer-Villigerモノオキシゲナーゼ(BVMO)及びグルコース脱水素酵素をε-カプロラクトン誘導体の合成に用いることを発表した。
【0010】
Thermocrispum municipaleに由来する熱安定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ(TmCHMO)とThermoplasma acidophilumに由来するグルコース脱水素酵素(GDH)(GDH-Tac)をアミノ官能性アガロースマトリックス担体(MANA-アガロース)に共固定化する。共固定化は、最も有効な生物触媒であることが証明され、3,3,5-トリメチルシクロヘキサノンの合成では、15回の繰り返し循環で平均転化率は83%であった。
【0011】
以上から分かるように、従来技術では、有効な固定化酵素形態がない酵素、特に同一生物触媒反応に共同参与するある酵素がまだ大量に存在しており、これらの酵素を共固定化することにより、酵素のリサイクル性を向上させることが早急な解決の待たれる問題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の主な目的は、従来技術のこのような酵素のリサイクルが困難であるという問題を解決するために、共固定化酵素、その製造方法及びその使用を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を実現するために、本発明の一態様によれば、アミノ樹脂担体と主酵素及び補酵素とを含む共固定化酵素を提供し、補酵素は、1つ又は複数の種類であり、主酵素と補酵素は、アミノ樹脂担体に共固定化され、ここで、主酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、補酵素は、共有結合及び/又は非共有結合でアミノ樹脂担体に固定される。主酵素は、アミノ基転移酵素、アミノ酸脱水素酵素、イミン還元酵素、ケトン還元酵素、アルケン還元酵素及びモノオキシゲナーゼのうちのいずれか1つから選ばれる。
【0014】
さらに、アミノ基転移酵素は、B.thuringiensis又はVibrio fluvialis strain JS17に由来するアミノ基転移酵素であり、好ましくは、アミノ酸脱水素酵素は、Bacillus cereus又はBacillus sphaericusに由来するアミノ酸脱水素酵素であり、好ましくは、イミン還元酵素は、Streptomyces sp又はBacillus cereusに由来するイミン還元酵素であり、好ましくは、ケトン還元酵素は、Sporobolomyces salmonicolorに由来するケトン還元酵素又はAcetobacter sp.CCTCC M209061に由来するケトン還元酵素であり、より好ましくは、Acetobacter sp.CCTCC M209061に由来するケトン還元酵素は、SEO ID NO:1又はSEO ID NO:2配列を有する変異体であり、好ましくは、アルケン還元酵素は、Chryseobacterium sp.CA49又はSewanella oneidensis MR-1に由来するアルケン還元酵素であり、好ましくは、モノオキシゲナーゼは、Rhodococcus sp.Phi1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、又はBrachymonas petroleovoransに由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、又はRhodococcus ruber-SD1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼであり、より好ましくは、Rhodococcus sp.Phi1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼは、SEO ID NO:4配列又はSEO ID NO:5配列を有する変異体であり、Rhodococcus ruber-SD1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼは、SEO ID NO:7配列又はSEO ID NO:8配列を有する変異体である。
【0015】
さらに、補酵素は、乳酸脱水素酵素(LDH)、ギ酸アンモニウム脱水素酵素(FDH)、グルコース脱水素酵素(GDH)及びアルコール脱水素酵素のうちの少なくとも1つから選ばれ、好ましくは、乳酸脱水素酵素は、Lactobacillus helveticusに由来するD-乳酸脱水素酵素であり、好ましくは、ギ酸アンモニウム脱水素酵素は、Candida boidiniiに由来するギ酸脱水素酵素であり、好ましくは、グルコース脱水素酵素は、Lysinibacillus sphaericus G10に由来するグリコース1-脱水素酵素であり、好ましくは、アルコール脱水素酵素は、Thermoanaerobium brockiiに由来するアルコール脱水素酵素であり、好ましくは、共固定化酵素のリサイクル回数は、4~25回である。
【0016】
さらに、アミノ樹脂担体は、グルタルアルデヒド活性化のアミノ樹脂担体であり、好ましくは、アミノ樹脂担体は、C2又はC4リンカーを有するアミノ樹脂担体であり、より好ましくは、アミノ樹脂担体は、SEPLITE(R) LX1000EA、LX1000HA、LX1000NH、HFA、LX1000EPN、HM100D、Purolite(R) LifetechTM ECR8309、ECR8409、ECR8305、ECR8404、ECR8315、ECR8415、HECHENG(R) ESR-1、ESR-3、ESR-5及びESR-8のうちのいずれか1つから選ばれる。
【0017】
さらに、共固定化酵素において、主酵素と補酵素との質量比は、1~20:1~10であり、好ましくは、主酵素と補酵素との質量合計をN1とし、アミノ樹脂担体の質量をN2とする場合、N1/N2は、50~200mg:1g、さらに、80~120mg:1gである。
【0018】
さらに、主酵素と補酵素は、いずれもアミノ樹脂担体に共有結合で固定され、又は主酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、補酵素は、イオン吸着でアミノ樹脂担体に非共有結合で固定され、好ましくは、PEIを介してアミノ樹脂担体に補酵素が吸着される。
【0019】
さらに、補酵素は、第1の酵素と、第2の酵素とを含み、主酵素と第2の酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、第1の酵素は、イオン吸着でアミノ樹脂担体に固定される。
【0020】
本願の第2の態様では、上記いずれか1つの共固定化酵素の製造方法を提供し、当該製造方法は、アミノ樹脂担体を活性化し、活性化アミノ基担体を得るステップと、主酵素を活性化アミノ基担体に共有結合で固定し、主酵素に対応する補酵素を共有結合及び/又は非共有結合で活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップであって、主酵素に対応する補酵素の数は1つ又は複数であるステップと、を含む。
【0021】
さらに、主酵素及び補酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップは、主酵素を補酵素と混合し、第1の混合酵素を得るステップと、第1の混合酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0022】
さらに、補酵素は、第1の酵素を含み、主酵素及び補酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップは、主酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定化酵素を得るステップと、第1の酵素を初固定化酵素と固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0023】
さらに、補酵素は、第2の酵素をさらに含み、主酵素及び補酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップは、主酵素と第2の酵素を活性化アミノ基担体に共固定化し、初固定化酵素を得るステップと、第1の酵素を初固定化酵素と固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0024】
さらに、PEIを表面被覆するように、第1の酵素を初固定化酵素と固定し、共固定化酵素を得、好ましくは、初固定化酵素にPEIの最終濃度が0.5w/v%~5w/v%になるまでPEIを加えてPEI-初固定化酵素を得、次いで第1の酵素をPEI-初固定化酵素と結合し、共固定化酵素を得る。
【0025】
さらに、第1の混合酵素を質量比が50~150mg:1gである質量比に従って活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得る。
【0026】
さらに、主酵素と第1の酵素との質量比は、1~20:1~10である。
【0027】
さらに、主酵素と第2の酵素との質量比は、1~20:1~10である。
【0028】
さらに、主酵素は、アミノ基転移酵素であり、補酵素は、2種類の補助因子を有し、2種類の補助因子は、LDH(乳酸脱水素酵素)とFDH(ギ酸アンモニウム脱水素酵素)、又はLDH(乳酸脱水素酵素)とGDH(グルコース脱水素酵素)であり、上記製造方法は、
(1)アミノ基転移酵素、LDHをFDHと混合し、第1の酵素ブレンドを得、第1の酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(2)アミノ基転移酵素、LDHをGDHと混合し、第2の酵素ブレンドを得、第2の酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(3)アミノ基転移酵素をLDHと混合し、第3の酵素ブレンドを得、第3の酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、初固定アミノ基転移酵素を得、初固定アミノ基転移酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0029】
さらに、主酵素は、アミノ酸脱水素酵素であり、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、
(1)アミノ酸脱水素酵素をFDH又はGDHと混合し、アミノ酸脱水素酵素ブレンドを得、アミノ酸脱水素酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(2)アミノ酸脱水素酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定アミノ酸脱水素酵素を得、初固定アミノ酸脱水素酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0030】
さらに、主酵素は、イミン還元酵素であり、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、
(1)イミン還元酵素、FDH又はGDHを混合し、イミド酵素ブレンドを得、イミド酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(2)イミン還元酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定イミン還元酵素を得、初固定イミン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0031】
さらに、主酵素は、ケトン還元酵素であり、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、
(1)ケトン還元酵素、FDH又はGDHを混合し、ケトン還元酵素ブレンドを得、ケトン還元酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(2)ケトン還元酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定ケトン還元酵素を得、初固定ケトン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0032】
さらに、主酵素は、アルケン還元酵素であり、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、
(1)アルケン還元酵素、FDH又はGDHを混合し、アルケン還元酵素ブレンドを得、アルケン還元酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(2)アルケン還元酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定アルケン還元酵素を得、初固定アルケン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0033】
さらに、主酵素は、シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼであり、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、
(1)シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、FDH又はGDHを混合し、モノオキシゲナーゼブレンドを得、モノオキシゲナーゼブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、
(2)シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼを活性化アミノ基担体に固定し、初固定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼを得、初固定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼに対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0034】
さらに、アミノ樹脂担体をグルタルアルデヒドで活性化し、活性化アミノ基担体を得る。
【0035】
本願の第3の態様によれば、生物触媒反応における上記いずれか1つの共固定化酵素、又は上記いずれか1つの共固定化酵素の製造方法によって製造された共固定化酵素の使用を提供する。
【0036】
さらに、生物触媒反応は、間欠的な生物触媒反応又は連続的な生物触媒反応であり、好ましくは、共固定化酵素は、連続的な流動床又は固定床の生物触媒反応に適用され、好ましくは、連続的な生物触媒反応における共固定化酵素のリサイクル回数は、4~25回である。
【発明の効果】
【0037】
本発明の技術案を応用して、本願は、上記主酵素及びその補酵素をアミノ樹脂担体に共固定化することにより、これらの主酵素及びその補酵素の共固定化を実現し、それによって酵素の活性及びリサイクル効率の向上に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
なお、矛盾しない限り、本願の実施例及び実施例における特徴を組み合わせることができる。以下、実施例を参照しながら、本発明について詳しく説明する。
【0039】
Polyethylene imineは、PEIと略称され、ポリエチレンミンである。
【0040】
本願の典型的な一実施形態では、アミノ樹脂担体と主酵素及び補酵素とを含む共固定化酵素を提供し、主酵素と補酵素は、アミノ樹脂担体に共固定化され、ここで、主酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、補酵素は、共有結合及び/又は非共有結合でアミノ樹脂担体に固定される。主酵素は、アミノ基転移酵素、アミノ酸脱水素酵素、イミン還元酵素、ケトン還元酵素、アルケン還元酵素及びモノオキシゲナーゼのうちのいずれか1つから選ばれる。
【0041】
本願は、上記主酵素及びその補酵素をアミノ樹脂担体に共固定化することにより、これらの主酵素及びその補酵素の共固定化を実現し、それによって酵素の活性及びリサイクル効率の向上に有利である。
【0042】
上記様々な主酵素の由来によって、具体的な種類及び活性が異なる。好適な一実施例では、アミノ基転移酵素は、B.thuringiensis又はVibrio fluvialis strain JS17に由来するアミノ基転移酵素であり、好ましくは、アミノ酸脱水素酵素は、Bacillus cereus又はBacillus sphaericusに由来するアミノ酸脱水素酵素であり、好ましくは、イミン還元酵素は、Streptomyces sp又はBacillus cereusに由来するイミン還元酵素であり、好ましくは、ケトン還元酵素は、Sporobolomyces salmonicolorに由来するケトン還元酵素又はAcetobacter sp.CCTCC M209061に由来するケトン還元酵素であり、より好ましくは、Acetobacter sp.CCTCC M209061に由来するケトン還元酵素は、SEO ID NO:1又はSEO ID NO:2配列を有する変異体であり、好ましくは、アルケン還元酵素は、Chryseobacterium sp.CA49又はSewanella oneidensis MR-1に由来するアルケン還元酵素であり、好ましくは、モノオキシゲナーゼは、Rhodococcus sp.Phi1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、又はBrachymonas petroleovoransに由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、又はRhodococcus ruber-SD1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼであり、より好ましくは、Rhodococcus sp.Phi1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼは、SEO ID NO:4配列又はSEO ID NO:5配列を有する変異体であり、Rhodococcus ruber-SD1に由来するシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼは、SEO ID NO:7配列又はSEO ID NO:8配列を有する変異体である。
【0043】
上記主酵素の種類によって、それぞれに対応する補酵素を選択し、好ましくは、これらの補酵素は、NAD(P)+とNADPH循環再生を行う可能な補酵素である。好適な一実施例では、補酵素は、乳酸脱水素酵素、ギ酸アンモニウム脱水素酵素、グルコース脱水素酵素及びアルコール脱水素酵素のうちの少なくとも1つから選ばれ、好ましくは、乳酸脱水素酵素は、Lactobacillus helveticusに由来するD-乳酸脱水素酵素であり、好ましくは、ギ酸アンモニウム脱水素酵素は、Candida boidiniiに由来するギ酸脱水素酵素であり、好ましくは、グルコース脱水素酵素は、Lysinibacillus sphaericus G10に由来するグリコース1-脱水素酵素であり、好ましくは、アルコール脱水素酵素は、Thermoanaerobium brockiiに由来するアルコール脱水素酵素である。別の好適な実施例では、共固定化酵素のリサイクル回数は、4~25回である。
【0044】
上記好適な実施例では、アミノ基転移酵素に対応する補酵素は、乳酸脱水素酵素とギ酸アンモニウム脱水素酵素、又は乳酸脱水素酵素とグルコース脱水素酵素である。アミノ酸脱水素酵素に対応する補酵素は、ギ酸アンモニウム脱水素酵素又はグルコース脱水素酵素である。イミン還元酵素に対応する補酵素は、ギ酸アンモニウム脱水素酵素又はグルコース脱水素酵素である。ケトン還元酵素に対応する補酵素は、ギ酸アンモニウム脱水素酵素又はグルコース脱水素酵素である。アルケン還元酵素に対応する補酵素は、ギ酸アンモニウム脱水素酵素又はグルコース脱水素酵素である。モノオキシゲナーゼに対応する補酵素は、アルコール脱水素酵素又はギ酸アンモニウム脱水素酵素又はグルコース脱水素酵素である。
【0045】
好適な一実施例では、乳酸脱水素酵素は、Lactobacillus helveticusに由来するD-乳酸脱水素酵素(略称LDH)であり、好ましくは、ギ酸アンモニウム脱水素酵素は、Candida boidiniiに由来するギ酸脱水素酵素(略称FDH)であり、好ましくは、グルコース脱水素酵素は、Lysinibacillus sphaericus G10に由来するグリコース1-脱水素酵素(略称GDH)であり、好ましくは、アルコール脱水素酵素は、Thermoanaerobium brockiiに由来するアルコール脱水素酵素である。
【0046】
従来技術では、上記好適な実施例における各由来の主酵素及び補酵素を共固定化する酵素はなく、これらの主酵素と補酵素を共固定化することは、これらの酵素のリサイクル効率の向上に役立つ。
【0047】
上記共固定化酵素の担体は、アミノ樹脂担体であり、既存の様々なアミノ樹脂担体を採用してもよい。好適な一実施例では、アミノ樹脂担体は、グルタルアルデヒド活性化のアミノ樹脂担体であり、好ましくは、アミノ樹脂担体は、C2又はC4リンカーを有するアミノ樹脂担体であり、より好ましくは、アミノ樹脂担体は、SEPLITE(R) LX1000EA、LX1000HA、LX1000NH、LX1000EPN、HFA、HM100D、Purolite(R) LifetechTM ECR8309、ECR8409、ECR8305、ECR8404、ECR8315、ECR8415、HECHENG(R) ESR-1、ESR-3、ESR-5及びESR-8のうちのいずれか1つから選ばれる。上述した固定された主酵素と補酵素によって、異なるアミノ樹脂担体を選択してもよい。
【0048】
上記共固定化酵素において、主酵素と補酵素の使用量比は、触媒される基質によって異なる。好適な一実施例では、上記共固定化酵素において、主酵素と補酵素との質量比は、1~20:1~10である。好ましくは、主酵素と補酵素との質量合計をN1とし、アミノ樹脂担体の質量をN2とする場合、N1/N2は、50~200mg:1g、さらに、80~120mg:1gである。
【0049】
主酵素と補酵素との質量比を上記範囲内に制御することで、上記全ての主酵素と補酵素との共固定化酵素が大部分の基質を触媒させることができる。かつ酵素と担体との質量比を50~200mg:1gの範囲内に制御することで、上記全ての主酵素と補酵素との共固定化を実現することができる。
【0050】
いくつかのより好適な実施例では、アミノ基転移酵素とその補酵素である乳酸脱水素酵素との質量比は、5~7:1であり、アミノ基転移酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、5~7:1~3であり、アミノ基転移酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、5~7:1~2であり、アミノ酸脱水素酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、8~10:1であり、アミノ酸脱水素酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、5~6:1であり、イミン還元酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、4~8:1であり、イミン還元酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、6~8:1であり、ケトン還元酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、4~8:1であり、ケトン還元酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、1:3~10であり、アルケン還元酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、6~10:1であり、アルケン還元酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、12~20:1であり、及びモノオキシゲナーゼとその補酵素であるアルコール脱水素酵素との質量比は、2~3:2~3であり、モノオキシゲナーゼとその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、2~3:1である。
【0051】
上記各主酵素とそれに対応する異なる補酵素との質量比を上記範囲内に制御することで、主補酵素を可能な限り化学量論比に従って配分させることができ、それによって共固定化酵素の触媒活性及び効率を向上させる。
【0052】
上記共固定化酵素において、主酵素と補酵素は、いずれも担体に固定され、両者の担体への具体的な固定方式は限定されない。好適な一実施例では、主酵素と補酵素は、いずれもアミノ樹脂担体に共有結合で固定される。別の好適な実施例では、主酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、補酵素は、イオン吸着でアミノ樹脂担体に非共有結合で固定され、好ましくは、PEIを介してアミノ樹脂担体に補酵素が吸着される。上記2種類の異なる共固定化方式は、異なる共固定化方法で得ることができる。
【0053】
上記共固定化酵素において、主酵素に1種類の補酵素しかないものもあれば、主酵素に2種類の補酵素があるものもある。両者の共固定化方式は、上記と同じであり、同じであっても異なっていてもよく、具体的な補酵素の性質特徴に応じて決定される。好適な一実施例では、補酵素は、第1の酵素と、第2の酵素とを含み、主酵素と第2の酵素は、アミノ樹脂担体に共有結合で固定され、第1の酵素は、イオン吸着でアミノ樹脂担体に固定される。ここで、第1の酵素は、共固定化過程におけるある試薬、例えば架橋剤であるグルタルアルデヒドなどに対して感受性のある酵素であり、共固定化過程において第1の酵素の活性が低下し、それによって共固定化酵素の活性及び後続のリサイクル効率に影響を与えることを減少させるために、上記好適な実施例では、第1の酵素をイオン吸着でアミノ樹脂担体に非共有結合で固定する。
【0054】
アミノ基転移酵素TA-Bt(具体的には、表1参照)とLDH及びFDHとは最適割合で担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は15回に達し、アミノ基転移酵素TA-BtとLDH及びGDHとは最適割合で担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は20~25回に達し、モノオキシゲナーゼCHMO-RsとGDHとは最適割合で担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は13回に達し、モノオキシゲナーゼCHMO-RsとADHとは最適割合で担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は13~15回に達し、ECR8409担体に共固定化され、最高使用回数は16回に達し、CHMO-Rsの変異体V1とADHとは担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は17回に達し、変異体V2とADHとは担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は17回に達し、CHMO-BpとADH又はGDHとはLX1000HA担体に共固定化され、使用回数は14-15回に達し、CHMO-Bp変異体V1とADHとはLX1000HA担体に共固定化され、使用回数は19回に達し、CHMO-Bp変異体V1とADHとはLX1000HA担体に共固定化され、使用回数は21回に達し、AADH-BcとFDHとは最適割合で担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は12回に達し、AADH-BsとGDHとは最適割合で担体LX1000HAに共固定化され、最高使用回数は15回に達し、KRED-AcとFDHとは担体ECR8409に共固定化され、最高使用回数は18回に達し、KRED-Ac-V1とFDHとは担体ECR8409に共固定化され、最高使用回数は24回に達し、KRED-AcとGDHとは担体ECR8409に共固定化され、最高使用回数は14回に達し、ERED-ScとFDHとは最適割合で担体LX1000HAに固定化され、最高使用回数は17回に達し、ERED-ScとGDHとは最適割合で担体LX1000HAに固定化され、最高使用回数は21回に達し、ERED-Chrは最適割合で担体LX1000EPNに固定化され、最高使用回数は21回に達し、IRED-StrとFDHとは最適割合で担体LX1000EPNに固定化され、最高使用回数は17回に達し、IRED-BcとGDHとは最適割合で担体LX1000EPNに固定化され、最高使用回数は19回に達する。
【0055】
本願の第2の典型的な実施形態では、上記いずれか1つの共固定化酵素の製造方法を提供し、当該製造方法は、アミノ樹脂担体を活性化し、活性化アミノ基担体を得るステップと、主酵素を活性化アミノ基担体に共有結合で固定し、主酵素に対応する補酵素を共有結合及び/又は非共有結合で活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0056】
上記共固定化酵素の方法は、まず、アミノ樹脂担体を活性化し、さらに上記いずれか1つの主酵素及びその補酵素を活性化アミノ基担体に共固定化することにより、共固定化酵素を得ることができる。
【0057】
上記主酵素及び補酵素を活性化のアミノ基担体に共固定化する具体的な方法は、補酵素の種類及び性質に応じて適切なステップを選んで行ってもよい。
【0058】
好適な一実施例では、主酵素及び補酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップは、主酵素を補酵素と混合し、第1の混合酵素を得るステップと、第1の混合酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0059】
この好適な方法では、補酵素の数にかかわらず、いずれも主酵素と混合した後、担体に固定されることができる。主酵素及び補酵素によって、それぞれ混合割合が異なる。好ましくは、前述主酵素と補酵素との質量比が1~20:1~10である割合に従って、主酵素を補酵素と混合し、第1の混合酵素を得、前述N1/N2の割合に従って、第1の混合酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得る。
【0060】
好適な一実施例では、補酵素は、第1の酵素を含み、主酵素及び補酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップは、主酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定化酵素を得るステップと、第1の酵素を初固定化酵素と固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0061】
補酵素が1つしかない場合には、上記主酵素と混合して共に固定する方法を採用してもよいし、上記段階的固定の方法を採用してもよい。アミノ基担体を活性化するステップにおけるグルタルアルデヒドに感受性のあるなんらかの補酵素の共固定化にとって、段階的固定の方法を採用することが好ましく、このように、補酵素の活性をより大きい程度で保留することができ、それによって共固定化酵素のリサイクル効率を向上させる。
【0062】
好適な一実施例では、補酵素は、第2の酵素をさらに含み、主酵素及び補酵素を活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得るステップは、主酵素と第2の酵素を活性化アミノ基担体に共固定化し、初固定化酵素を得るステップと、第1の酵素を初固定化酵素と固定し、共固定化酵素を得るステップと、を含む。
【0063】
補酵素が1つだけではない場合には、補酵素及びグルタルアルデヒドなどの活性化剤の感受性程度に基づいて、上述した一部を主酵素とともに混合して活性化アミノ基担体に固定し、第2ステップで感受性の高い補酵素を担体に固定する工程を採用してもよく、このように、感受性酵素の活性を向上させることができ、それによって製造された共固定化酵素の全体活性及び循環回収効率を向上させる。上記好適な実施例では、第1の酵素がグルタルアルデヒドに対して感受性のある酵素であり、第2の酵素の感受性が相対的に低いため、第2の酵素を主酵素と混合固定し、第1の酵素を個別固定する。
【0064】
上記段階的固定化のステップでは、2回目の固定化は、いずれも固定所望補酵素の活性を向上させることを考慮して行われることであり、そのため、この補酵素の活性向上を実現でき、かつその固定を実現できるいかなる方式も本願に適用可能である。好適な一実施例では、PEIを用いて第1の酵素を初固定化酵素と固定し、共固定化酵素を得る。別の好適な実施例では、初固定化酵素にPEIの最終濃度(質量体積濃度)が0.5%~5%になるまでPEIを加えてPEI-初固定化酵素を得、PEI-初固定化酵素に第1の酵素を加えて温置し、共固定化酵素を得る。
【0065】
PEIは、ポリエチレンミンであり、被固定補酵素をイオン吸着で担体に吸着させる非中実形態の支持体として機能することができ、具体的には、添加されるPEIの量は、実際需要に応じて合理的に調整してもよい。PEIの添加の最終濃度が0.5%~5%に達すると、上記全ての種類の補酵素の固定化を実現することができる。
【0066】
主酵素がアミノ基転移酵素である場合、補酵素は、LDH及びFDH、又はLDH及びGDHである2種類の補助因子を有し、その製造方法は、ワンステップ固定法又は段階的固定法を含む。ワンステップ固定法は、異なる組み合わせの2種類の補助因子をアミノ基転移酵素と混合することにより、それぞれ第1の酵素ブレンド又は第2の酵素ブレンドを得、次いで第1の酵素ブレンド又は第2の酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ることである。段階的固定法は、アミノ基転移酵素をLDHと混合し、第3の酵素ブレンドを得、第3の酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、初固定アミノ基転移酵素を得、初固定アミノ基転移酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることである。
【0067】
主酵素がアミノ酸脱水素酵素である場合、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、アミノ酸脱水素酵素をFDH又はGDHと混合し、アミノ酸脱水素酵素ブレンドを得、アミノ酸脱水素酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、又は、アミノ酸脱水素酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定アミノ酸脱水素酵素を得、初固定アミノ酸脱水素酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0068】
主酵素がイミン還元酵素である場合、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、イミン還元酵素、FDH又はGDHを混合し、イミド酵素ブレンドを得、イミド酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、又は、イミン還元酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定イミン還元酵素を得、初固定イミン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0069】
主酵素がケトン還元酵素である場合、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、ケトン還元酵素、FDH又はGDHを混合し、ケトン還元酵素ブレンドを得、ケトン還元酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、又は、ケトン還元酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定ケトン還元酵素を得、初固定ケトン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0070】
主酵素がアルケン還元酵素である場合、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、アルケン還元酵素、FDH又はGDHを混合し、アルケン還元酵素ブレンドを得、アルケン還元酵素ブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、又は、アルケン還元酵素を活性化アミノ基担体に固定し、初固定アルケン還元酵素を得、初固定アルケン還元酵素に対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0071】
主酵素がシクロヘキサノンモノオキシゲナーゼである場合、補酵素は、FDH又はGDHであり、製造方法は、シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼ、FDH又はGDHを混合し、モノオキシゲナーゼブレンドを得、モノオキシゲナーゼブレンドを活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得ること、又は、シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼを活性化アミノ基担体に固定し、初固定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼを得、初固定シクロヘキサノンモノオキシゲナーゼに対してPEI表面被覆を行うように、さらにGDH又はFDHを固定し、共固定化酵素を得ることのうちのいずれか1つを含む。
【0072】
上記様々な主酵素及びその補酵素の共固定化の製造方法において、PEI表面被覆の方式は、「初固定化酵素にPEIの最終濃度が0.5w/v%~5w/v%になるまでPEIを加えてPEI-初固定化酵素複合体を得、次いで第1の酵素をPEI-初固定化酵素複合体と結合し、共固定化酵素を得る」という前述した操作と同様であるので、ここで説明を省略する。
【0073】
上述したアミノ基担体を活性化するステップでは、既存の活性化剤を用いて活性化してもよい。好適な一実施例では、アミノ樹脂担体をグルタルアルデヒドで活性化し、活性化アミノ基担体を得る。グルタルアルデヒドの応用範囲は広く、かつ最も一般的なものである。
【0074】
上記共固定化のステップでは、共固定化方法及び共固定化した補酵素の種類及び数によって、共固定化した酵素の総質量と活性化アミノ基担体の総質量との比が異なる。それに応じて、主酵素と補酵素との質量比も異なり、かつ補酵素が2種類ある場合、主酵素と第1種補酵素及び第2種補酵素との質量比も異なり、実際需要に応じて合理的に調整してもよい。
【0075】
好適な一実施例では、第1の混合酵素を質量比が50~150mg:1gである質量比に従って活性化アミノ基担体に固定し、共固定化酵素を得る。
【0076】
好適な一実施例では、主酵素と第1の酵素との質量比は、1~20:1~10である。
【0077】
好適な一実施例では、主酵素と第2の酵素との質量比は、1~20:1~10である。
【0078】
好ましくは、上記共固定化のステップでは、アミノ基転移酵素とその補酵素である乳酸脱水素酵素との質量比は、5~7:1であり、アミノ基転移酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、5~7:1~3であり、アミノ基転移酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、5~7:1~2であり、アミノ酸脱水素酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、8~10:1であり、アミノ酸脱水素酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、4~6:1であり、イミン還元酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、4~6:1であり、イミン還元酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、5~6:1であり、ケトン還元酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、4~6:1であり、ケトン還元酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、1:5~10であり、アルケン還元酵素とその補酵素であるギ酸アンモニウム脱水素酵素との質量比は、6~8:1であり、アルケン還元酵素とその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、18~20:1であり、及びモノオキシゲナーゼとその補酵素であるアルコール脱水素酵素との質量比は、2~3:2~3であり、モノオキシゲナーゼとその補酵素であるグルコース脱水素酵素との質量比は、2~3:1である。
【0079】
上記各主酵素とそれに対応する異なる補酵素との質量比を上記範囲内に制御することで、主補酵素を可能な限り化学量論比に従って配分させることができ、それによって共固定化酵素の触媒活性及び効率を向上させる。
【0080】
本願の第3の典型的な実施形態では、生物触媒反応における上記いずれか1つの共固定化酵素、又は上記いずれか1つの共固定化酵素の製造方法によって製造された共固定化酵素の使用をさらに提供する。好ましくは、生物触媒反応は、連続的な生物触媒反応である。
【0081】
以下、具体的な実施例を結び付けながら、本願の有益な効果についてさらに説明する。
【0082】
以下の実施例で用いる酵素及びその由来を表1に示し、表2~表4に一部の酵素の配列を示す。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
【表4】
【0087】
次の実施例におけるPBは、リン酸緩衝液を意味する。
【0088】
(実施例1)
アミノ樹脂1gを0.1M リン酸緩衝液(pH7.5)4~5mLで洗浄し、0.1M リン酸緩衝液(pH7.5)4mLで再懸濁させ、25%~50%(w/v)グルタルアルデヒド水溶液を滴加し、グルタルアルデヒド最終濃度を2%(w/v)とし、20℃温和振動下で1時間温置し、ろ過し、0.1M リン酸緩衝液(pH7.5)で3回洗浄した。
【0089】
タンパク100~120mgを含有する酵素溶液4mL(適切な割合に調整したTAとLDH)をグルタルアルデヒド活性化樹脂に加え、20-25℃温和振動下で温置した後、0.1M リン酸緩衝液(pH7.5)でろ過し、3回洗浄した。
【0090】
イミド二重結合をホウ水素化物で還元することにより、より安定した結合を実現することができる。固定化酵素1gを緩衝液4mL(50mM NaHCO3-Na2CO3、pH8.0~10.0)で再懸濁し、NaBH4最終濃度が1mg/mLとなるように5-15℃でNaBH4を加えた。5-15℃で1-2時間撹拌した後、ろ過し、0.1M リン酸緩衝液(pH7.5)で3回洗浄した。
【0091】
TAとLDHの共固定化活性度試験は、遊離のFDHを用いてNADHの再生を実現することで試験を行った。以下の基質1を用いて試験を行った。
【0092】
0.1M リン酸緩衝液(pH8.0)5mLを10mLの反応器に加え、次いで、100mgの上記基質1、80mgのギ酸アンモニウム(FDH)、5mgのPLPを加え、pHをpH7.5-8.0に調整した後、5mgのNAD+、30mgのFDH遊離酵素、及び100mgの共固定化酵素(湿式酵素、50~80%の水を含有する)を加えた。30℃で16-20時間反応させ、HPLCにより転化率を測定し、測定結果を表に示す。
【0093】
【表5】
【0094】
実施例2 TA-Bt、LDH及びFDHの共固定化
方法1:ワンステップ共固定化
アミノ樹脂1gを0.1M PB(PH7.5)1-2mLで洗浄し、0.1M PB(PH7.5)4mLで再懸濁し、濃度が25(w/v)%~50(w/v)%であるグルタルアルデヒド水溶液を再懸濁液に滴加してグルタルアルデヒドの最終濃度が2(w/v)%となるようにした。20℃温和振動下で1時間温置し、その後、ろ過し、0.1M PB(PH7.5)で3回洗浄した。タンパク100-120mgを含有する酵素溶液4mL(適切な割合に調整したTAとLDH及びFDH)をグルタルアルデヒド活性化樹脂に加え、20-25℃温和振動下で温置した後、ろ過し、0.1M PB(pH7.5)で3回洗浄した。
【0095】
方法2:ツーステップ共固定化
FDHの活性と安定性を向上させるために、共固定化したTA及びLDH1gを0.1MのPB(pHは7.0-7.5である)で再懸濁し、PEI溶液(最終濃度2%)を加え、その後、FDH20mgを加え、20-25℃で温和振動温置した後、ろ過し、0.1M PB(pH7.5)で3回洗浄した。
【0096】
共固定化したTA、LDH及びFDHの活性は、以下の反応により検出した。
【0097】
0.1M PB(pH8.0)5mLを10mlの反応器に入れ、その後、100mgの上記基質1、80mgのギ酸アンモニウム、及び5mgのPLPを加えることにより、pHをpH7.5-8.0に調整した後、5mgのNAD+、及び100mgの共固定化酵素(湿式、50~80%の水を含有する)を加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。測定結果を次の表に示す。
【0098】
【表6】
【0099】
実施例3 TA-Bt、LDH及びGDHの共固定化
方法1と方法2では、FDHの代わりにGDHを用いた以外に、他のステップが実施例2と同様であった。
【0100】
共固定化したTA、LDH及びGDHの活性は、以下の反応により検出した。
【0101】
0.1M PB(pH8.0)5mLを10mlの反応器に入れ、その後、100mgの上記基質1、120mgのグリコース、及び5mgのPLPを加えることにより、pHをpH7.5-8.0に調整した後、5mgのNAD+、及び100mgの共固定化酵素(湿式、50~80%の水を含有する)を加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。測定結果を表7に示す。
【0102】
【表7】
【0103】
実施例4 CHMOとADH及びGDHとの共固定化
実施例2における方法1と方法2を採用し、主酵素と補酵素をCHMO及びADH、GDHに置き換えた以外に、他のステップは同様であった。
【0104】
CHMOとADH、GDHとの共固定化酵素の活性は、以下の基質2を用いた反応により検出した。
【0105】
CHMOとGDHとの共固定化酵素の活性は、以下の反応により検出した。
【0106】
0.1M PB(pH8.0)3mLを10mlの反応瓶に入れ、その後、50ミリグラムの基質2、100mgのグリコース、及び5mgのNADP+を加え、次いでCHMOとGDHとの共固定化酵素(湿式、50~80%の水を含有する)200-300mgを加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。
【0107】
CHMOとADHとの共固定化酵素の活性は、以下の反応により検出した。
【0108】
イソプロピルアルコール0.3mLを10mlの反応瓶に入れ、その後、500mgの基質2を加え、次いで、5mgのNADP+を含有する0.1M PB(pH8.0)3mL及びCHMOとADHとの共固定化酵素(湿式、50~80%の水を含有する)100-200mgを加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。測定結果を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
実施例5 AADHとFDH/GDHとの共固定化
方法1:
酵素が異なる以外に、他のステップは、実施例2における方法1と同様であった。
【0111】
方法2:
アミノ樹脂1gを0.1M PB(PH7.5)1-2mLで洗浄し、0.1M PB(PH7.5)4mLで再懸濁し、質量濃度が25%~50%であるグルタルアルデヒド水溶液を再懸濁液に滴加してグルタルアルデヒドの最終濃度が2%となるようにした。20℃温和振動下で1時間温置し、その後、ろ過し、0.1M PB(PH7.5)で3回洗浄した。
【0112】
タンパク(AADHのみ)50-100mgを含有する酵素溶液4mLをグルタルアルデヒド活性化樹脂に加え、20-25℃温和振動下で温置した後、ろ過し、0.1M PB(pH7.5)で3回洗浄した。0.1MのPB(pHは7.0-7.5である)で再懸濁した後、PEI溶液(最終濃度2%)を加え、その後、GDH/FDH20-50mgを加え、20-25℃で温和振動温置した後、ろ過し、0.1M PB(pH7.5)で3回洗浄した。
【0113】
AADH及びFDH共固定化酵素の活性は、以下の基質の反応により検出した。
【0114】
0.1M Tris-Cl緩衝液(pH8.0-9.0)5mLを10mLの反応器に加え、次いで、100mgの基質3又は4、又は1、108mgの塩化アンモニアを加え、pHをpH7.5-8.0に調整した後、10-50mgのNAD+、80mgのギ酸アンモニウム、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させた後、転化試験を行った。
【0115】
AADH及びFDH共固定化酵素の活性測定方法は、以下のとおりである。
【0116】
0.1M Tris-Cl緩衝液(pH8.0-9.0)5mLを10mLの反応器に加え、次いで、100mgの基質5又は6、又は7、108mgの塩化アンモニアを加え、pHをpH7.5-8.0に調整した後、10-50mgのNAD+、150mgのグリコース、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させた後、転化試験を行った。測定結果を表9に示す。
【0117】
【表9】
【0118】
実施例6 KREDとFDH/GDHとの共固定化
酵素が異なる以外に、他の方法1と2のステップは、いずれも実施例5と同様であった。
【0119】
KREDとFDHとの共固定化酵素の活性は、以下の基質5又は6の反応により検出した。
【0120】
0.1M PB(pH7.0-8.0)3mLを10mlの反応器に入れ、その後、100mgの基質5又は6を加え、続いて10-50mgのNAD(P)+、80mgのギ酸アンモニウム、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。
【0121】
KREDとGDHとの共固定化酵素の活性は、以下の反応により検出した。
【0122】
0.1M PB(pH7.0-8.0)3mLを10mlの反応器に入れ、その後、100mgの基質5又は6を加え、続いて10-50mgのNAD(P)+、120mgのグリコース、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。
【0123】
測定結果を表10に示す。
【0124】
【表10】
【0125】
実施例7 EREDとFDH/GDHとの共固定化
酵素が異なる以外に、他の方法1と2のステップは、いずれも実施例5と同様であった。
【0126】
EREDとFDHとの共固定化酵素の活性は、基質7との反応により検出した。
【0127】
0.1M PB(pH7.0-8.0)3mLを10mlの反応器に入れ、その後、100mgの基質7を加え、続いて10-50mgのNAD(P)+、80mgのギ酸アンモニウム、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。
【0128】
EREDとGDHとの共固定化酵素の活性は、以下の反応により検出した。
【0129】
0.1M PB(pH7.0-8.0)3mLを10mlの反応器に入れ、その後、100mgの基質7を加え、続いて10-50mgのNAD(P)+、120mgのグリコース、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させ、転化率を測定した。
測定結果を表11に示す。
【0130】
【表11】
【0131】
実施例8 IREDとFDH/GDHとの共固定化
酵素が異なる以外に、他の方法1と2のステップは、いずれも実施例5と同様であった。
【0132】
IREDとFDHとの共固定化酵素の活性は、以下の基質8を用いて、以下の方法で試験した。
【0133】
0.1M PB緩衝液(pH7.0-8.0)2mLを10mLの反応器に入れ、次いで、100mgの上記基質を加えた後、10-50mgのNAD(P)+、60mgのギ酸アンモニウム、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させた後、転化試験を行った。
IREDとGDHとの共固定化酵素の活性は、以下の方法で試験した。
【0134】
0.1M PB緩衝液(pH7.0-8.0)3mLを10mLの反応器に入れ、その後、100mgの基質を加え、10-50mgのNAD(P)+、100mgのグリコース、及び100mgの共固定化酵素を加えた。30℃で16-20時間反応させた後、転化試験を行った。
【0135】
測定結果を表12に示す。
【0136】
【表12】
【0137】
実施例9 充填床連続反応における共固定化酵素の使用
実施例2における方法2に従って、アミノ基転移酵素TA-Btと補酵素LDH及びFDHを担体LX1000HAに共固定化し、得られた共固定化酵素を10mLカラム体積の柱状反応器に充填し、固定化酵素の使用量は5.9gであった。
【0138】
500gの基質5、108mgの塩化アンモニアをPB緩衝液(0.1M、pH8.0)4.5Lで溶解し、pHを水酸化ナトリウム溶液でpH7.5-8.0に調整した後、10-50mgのNAD+、80mgのギ酸アンモニウムを加え、最後にPB緩衝液で5Lに定容した。
【0139】
流速0.1mL/min、即ち保持時間100minを設定し、連続化反応を行い、転化率を出口端流出液で測定し、転化率>98%、300h持続運行し、転化率は低下せず、348h運行し、転化率低下値は88.4%であった。具体的には、表13に示す。
【0140】
【表13】
【0141】
実施例10 連続撹拌槽反応における共固定化酵素の使用
実施例9と同じ共固定化酵素を用いて、200mLの反応器にアミノ基転移酵素TA-Btと補酵素LDH、FDHの共固定化酵素50gを加え、リン酸緩衝液150mLを加えた。
【0142】
500gの基質5、108mgの塩化アンモニアをPB緩衝液(0.1M、pH8.0)4.5Lで溶解し、pHを水酸化ナトリウム溶液でpH7.5-8.0に調整した後、10-50mgのNAD+、80mgのギ酸アンモニウムを加え、最後にPB緩衝液で5Lに定容した。
【0143】
連続撹拌槽に基質を0.8mL/min(即ち保持時間250min)の速度で連続的に加えるとともに、出口にて反応系(配管末端にろ過ヘッドを追加し、固定化酵素の抽出を防止する)から同様の流速で抽出した。この条件下で、転化率は92%以上に達し、かつ400h連続運行し、転化率もほとんど低下しなかった。結果を表14に示す。
【0144】
【表14】
【0145】
実施例11 1グラム当たり担体へのタンパク担持量の調査
実施例1と同様に、アミノ基担体を活性化した後、1グラム当たり担体へのタンパクの添加量を検討し、アミノ基転移酵素TA-Btとその補酵素である乳酸脱水素酵素LDHとの共固定化を例にして、異なるタンパク量を加え、タンパク担持量と反応リサイクル回数を検出した。結果を表15に示す。
【0146】
実施例4と同様に、モノオキシゲナーゼCHMO-Rsとその補酵素であるADH及びGDHとの共固定化を例にして、異なるタンパク量を加え、タンパク担持量と反応リサイクル回数を検出し、結果を表16に示す。結果から分かるように、1グラム当たり選択された担体の担持可能なタンパクの範囲は50~200mgであり、タンパク担持率は50%~100%であった。
【0147】
【表15】
【0148】
【表16】
【0149】
大多数の担体に対して、タンパクサンプリング量が50-100mgである場合、タンパク担持率は90%以上であることが、表15、16のデータから分かった。同じタンパク担持率の場合には、異なる担体によって形成された共固定化酵素のリサイクル回数が異なる。LX1000HA、LX1000EPN及びECR8409といういくつかの担体が示す固定化酵素活性と安定性は比較的良いことが、この表から分かった。
【0150】
実施例12 PEI最終濃度の調査
実施例2と同様に、方法2(ツーステップ法)で、アミノ基転移酵素TA-Btとその補酵素である乳酸脱水素酵素LDH及びギ酸アンモニウム脱水素酵素FDHとの共固定化酵素を調製し、TA-BtとLDHとの混合酵素を担体に結合させた後、異なる量のPEIを加え、第2の補酵素FDHを加えてPEIの濃度範囲を検討し、結果を表17に示す。
【0151】
【表17】
【0152】
PEIの濃度は1%~5%の範囲内での効果がほぼ一致するが、この範囲を超えると、固定化酵素の安定性が低下することが、表17のデータから分かった。
【0153】
前述の説明から、本発明の上述した実施例は、以下の技術的効果を達成することが分かった。本願は、上記主酵素及びその補酵素をアミノ樹脂担体に共固定化することにより、これらの主酵素及びその補酵素の共固定化を実現し、それによって酵素の活性及びリサイクル効率の向上に有利である。
【0154】
上述したのが本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定するためのものではなく、当業者にとっては、本発明に様々な変更や変化が可能である。本発明の技術的解決策に基づいて行われる修正、同等な置き換え、改善などは、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
【配列表】
2023505967000001.app
【国際調査報告】