(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞の製造方法およびこれによって製造された間葉系幹細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20230207BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230207BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20230207BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20230207BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230207BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230207BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20230207BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20230207BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20230207BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N5/10
C12N5/0735
C12M1/00 C
C12N1/00 G
A61P31/14
A61P1/18
A61K35/545
A61K35/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534842
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(85)【翻訳文提出日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 KR2020017948
(87)【国際公開番号】W WO2021118226
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0162393
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508131716
【氏名又は名称】デウン ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】DAEWOONG PHARMACEUTICAL CO., LTD
【住所又は居所原語表記】35-14,Jeyakgongdan 4-gil,Hyangnam-eup,Hwaseong-si,Gyeonggi-do Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】キム,ギナム
(72)【発明者】
【氏名】チェ,スンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】オ,ボラム
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ミギョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ジュングォン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AC12
4B065BC46
4B065BD25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087BB61
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞の製造方法に関し、より詳細には、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)環境で一定のサイズの胚様体から分化した間葉系幹細胞を製造して、安全性が増大され、間葉系幹細胞の特性が長期間維持される間葉系幹細胞の製造方法に関する。本発明によるヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造する方法は、無栄養細胞(feeder cell free)、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)培養環境を通じて外来動物性由来物質の汚染問題を解消し、安全性に優れた間葉系幹細胞を製造すると同時に、球状体形態の胚様体を用いて均一な形態とサイズの成熟胚様体を形成させて、間葉系幹細胞への分化効率の改善および20継代以上長期間継代培養にも間葉系幹細胞の特性が安定的に維持される画期的な効果を有し、これを通じて、ヒト多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を大量生産することができるので、安全性および効率性に優れた細胞治療剤の商用化に有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の段階を含むヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造する方法:
(a)ヒト多能性幹細胞を異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに無血清多能性幹細胞培養培地で培養してヒト多能性幹細胞のコロニーを得、前記コロニーからヒト多能性幹細胞を単離(isolation)する段階、
(b)単離(isolation)した多能性幹細胞を胚様体形成培地に懸濁した後、多能性幹細胞が凝集するように培養して、単一の球状体形態の胚様体を形成させる段階;
(c)前記胚様体を胚様体成熟培地で浮遊培養して、成熟胚様体を形成させる段階;
(d)前記胚様体を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で付着培養させて、間葉系幹細胞に分化を誘導する段階;および
(e)前記分化した間葉系幹細胞を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で間葉系幹細胞の同一性を維持しつつ、増殖および培養する段階。
【請求項2】
前記ヒト多能性幹細胞は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト多能性幹細胞は、未分化状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(a)段階のヒト多能性幹細胞は、ビトロネクチン(vitronectin)、コラーゲン(collagen)、ラミニン(laminin)、マトリゲル(matrigel)およびヘパラン硫酸プロテオグリカン(Heparan sulfate proteoglycan)からなる群から選ばれる物質をコートした培養容器で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(a)段階のヒト多能性幹細胞を培養する無血清培地は、TeSR-E8(essential 8 media)、TeSR-2またはStemMACS iPS-Brew XF、Human培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(b)段階の胚様体は、懸滴培養、またはV型チューブ(V-shape tube)、円形96ウェルプレート(round shape 96 well plate)もしくはコニカルチューブ(conical tube)を用いた培養を通じて形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記(b)段階の胚様体形成培地は、Aggrewell EB formation medium、Gibco Essential 6 Medium、CTS Essential 6 Medium、またはTeSR-E6である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記(b)段階の培養は、18時間~30時間の間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記(c)段階の胚様体成熟培地は、KSR(Knock out serum replacement)、NEAA(non-essential amino acid)およびベータ-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)を含む基本培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記(c)段階の基本培地は、DMEM/F12、alpha MEM、Ham’s F12 mediaまたはDMEMである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記(c)段階の浮遊培養は、10~18日間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記(c)段階で得られた成熟胚様体の平均サイズは、350~450μmである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記(d)段階および(e)段階の間葉系幹細胞培養培地は、L-グルタミン(L-glutamine)が含まれた無異種(xeno-free)、無血清培地である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記無異種(xeno-free)、無血清培地は、Stempro SFM Xeno-free培地、PRIME-XV MSC Expansion XSFM培地、Human Mesenchymal-XF Expansion培地、MSC Nutristem XF培地、StemMACS MSC expansion media kit XF、human培地である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記(d)段階の間葉系幹細胞への分化誘導は、12~20日間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記(e)段階で得られた間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞および心筋細胞からなる群から選ばれた細胞に分化できる多分化能(multipotency)を保有する間葉系幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記(e)段階で得られた間葉系幹細胞は、CD29(+)、CD44(+)、CD73(+)およびCD105(+)の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞表面マーカー発現は、20継代以上の間葉系幹細胞で90%以上維持されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記(e)段階で得られた間葉系幹細胞は、CD34(-)、CD45(-)、HLA-DR(-)、TRA-1-60(-)、およびTRA-1-81(-)の間葉系幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法によって製造されたヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞。
【請求項21】
脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞および心筋細胞からなる群から選ばれた細胞に分化できる多分化能(multipotency)を保有する、請求項20に記載の間葉系幹細胞。
【請求項22】
CD29(+)、CD44(+)、CD73(+)およびCD105(+)の細胞表面マーカーを発現する、請求項20に記載の間葉系幹細胞。
【請求項23】
前記細胞表面マーカー発現は、20継代以上の間葉系幹細胞で90%以上維持される、請求項20に記載の間葉系幹細胞。
【請求項24】
CD34(-)、CD45(-)、HLA-DR(-)、TRA-1-60(-)、およびTRA-1-81(-)である、請求項20に記載の間葉系幹細胞。
【請求項25】
請求項20に記載の間葉系幹細胞を有効成分として含む細胞治療剤。
【請求項26】
前記細胞治療剤は、COVID-19感染または重症急性すい臓炎(Severe acute pancreatitis,SAP)の予防または治療のためのものである、請求項25に記載の細胞治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞の製造方法に関し、より詳細には、無異種(xeno-free)、無血清(serum-free)の間葉系幹細胞の製造環境および球状体形態の胚様体を用いた均一な形態とサイズの成熟胚様体の形成を通じて安全性が増大し、多数回の継代培養後にも間葉系幹細胞の特性が長期間維持される間葉系幹細胞を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞(stem cell)は、生物組織を構成する多様な細胞に分化(differentiation)することができる細胞であり、胚、胎児および成体の各組織で得ることができる分化前段階の未分化細胞を総称する。幹細胞は、分化刺激(環境)によって特定細胞に分化が進み、分化が完了して細胞分裂が停止した細胞とは異なって、細胞分裂によって自分と同じ細胞を複製(self-renewal)することができ、増殖(proliferation;expansion)する特性があり、また、異なる環境または異なる分化刺激によって異なる細胞に分化することができ、分化に柔軟性(plasticity)を有していることが特徴である。
【0003】
幹細胞は、その分化能によって、多能性(pluripotency)、多分化能(multipotency)および単分化能(unipotency)幹細胞に分けられる。多能性幹細胞(pluripotent stem cells)は、すべての細胞に分化することができる潜在力を有する多能性(pluripotency)の細胞であり、胚性幹細胞(embryonic stem cell,ESC)および人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells,iPSC)などがこれに該当する。多分化能および/または単分化能幹細胞としては、成体幹細胞が挙げられる。
【0004】
胚性幹細胞は、胚発生初期である胞胚期(blastocyst)の内細胞塊(inner cell mass)から形成され、すべての細胞に分化可能な潜在力を有していて、いかなる組織細胞にも分化することができ、また、死滅せずに(immortal)未分化状態で培養可能であり、成体幹細胞とは異なって、生殖細胞(germ cell)の製造も可能なので、次世代に遺伝することができる特徴を有している(Thomson et al,Science,282:1145-1147,1998;Reubinoff et al,Nat Biotechnol,18:399-404,2000)。
【0005】
ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚の形成時に内細胞塊のみを分離して培養することによって製造されるが、現在全世界的に作られたヒト胚性幹細胞は、不妊手術後に残った冷凍胚から得られたものである。すべての細胞に分化することができる多能性を有するヒト胚性幹細胞を細胞治療剤として用いるための多様な試みが行われているが、まだ癌発生の危険と免疫拒否反応の高い壁を完全に制御していないのが現状である。
【0006】
一方、多能性幹細胞の概念として含まれている人工多能性幹細胞(iPSC)は、分化が終わった成体細胞をいろいろな方法で逆分化させて、分化初期段階である多能性幹細胞への状態に回帰させた細胞である。現在まで逆分化細胞は、遺伝子発現と分化能において多能性幹細胞である胚性幹細胞とほぼ同じ特性を示すことが報告されている。しかしながら、このようなiPSCの場合も、自家細胞を用いて免疫拒否反応の危険性を排除することができるが、癌発生の危険性は、依然として解決すべき課題として残っている。
【0007】
このような問題点を克服するための代案として、免疫調節機能と共に癌発生の危険性がない間葉系幹細胞が提示されている。間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、心筋細胞などへの分化が可能な多能性を有する細胞であり、免疫反応を調節する機能も有していることが報告されている。間葉系幹細胞は、多様な組織から分離および培養が可能であるが、各起源による能力および細胞表面標識が少しずつ異なるため、間葉系幹細胞を明確に定義することは容易でない。ただし、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞への分化が可能であり、紡錘状(spindle)の形態を有し、基本的な細胞表面標識であるCD73(+)、CD105(+)、CD34(-)およびCD45(-)を発現する場合、一般的に間葉系幹細胞と規定している。
【0008】
また、間葉系幹細胞が細胞治療剤として用いられるためには、再生医学および/または細胞治療分野において要求される最小細胞数(約1×109程度)を満足させなければならないが、適正条件を設けて基準を定める実験まで考慮すると、必要な細胞数は、さらに増加する。したがって、従来の多様な起源の間葉系幹細胞からこの程度の量を供給するには、in vitro(試験管内)実験で最小10回程度の継代が必要になり、この場合、細胞が老化し変形してこれ以上細胞治療剤としての目的を達成するのに適していないことがある。結局、臨床に適用される細胞と品質評価進行細胞が変わることになり、事後検証形態の過程で生じる危険を排除することができないという短所を有している。したがって、細胞治療剤として用いるためには、長期間継代培養が繰り返されても、変形せずに間葉系幹細胞の特性を維持することが重要である。
【0009】
このような成体由来間葉系幹細胞の代案として、ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞への分化誘導方法が提示されている。しかしながら、現在まで知られた方法は、多くの費用が必要とされ、濃度調節が必要な特定サイトカイン(例えばBMP)による誘導過程またはxeno pathogenの危険がある異種栄養細胞(xeno feeder)の誘導、ウシ血清(Fetal Bovine Serum,FBS)の使用などの短所を内包している。従来のヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞への分化誘導方法(WO2011052818)は、ヒト多能性幹細胞の培養時にxeno pathogenの問題になりうる異種栄養細胞(xeno feeder)の上で培養するので、栄養細胞の使用を通した外来細胞の流入可能性がある。また、多能性幹細胞の培養時にウシ血清またはウシ胎児血清(fetal calf serum)などのような動物由来血清の使用による人獣共通感染症の憂慮によって将来細胞治療剤の開発時に外来動物血清を使用しない無異種および無血清(xeno-free & serum-free)培養法の改善が要求される。
【0010】
これより、本発明者らは、ヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞を細胞治療剤として商用化させるために、幹細胞の安全性および大量生産問題を解決するために鋭意努力した結果、無異種および無血清(xeno-free & serum-free)培養環境を通じて細胞の安全性を極大化し、球状体形態の胚様体を用いて均一な形態とサイズの成熟胚様体を形成させて、これから分化誘導された間葉系幹細胞が繰り返し継代培養後にも、間葉系幹細胞の特性を長期間維持することを確認し、本発明を完成することになった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、外来細胞および外来動物性由来物質の汚染による安全性が改善され、繰り返し継代培養後にも、間葉系幹細胞の特性が長期間維持される間葉系幹細胞の製造を通じて細胞治療剤として利用可能なヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造する方法を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、前記方法によって製造された間葉系幹細胞およびこれを用いた細胞治療剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、
(a)ヒト多能性幹細胞を異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに無血清多能性幹細胞培養培地で培養してヒト多能性幹細胞のコロニーを得、前記コロニーからヒト多能性幹細胞を単離(isolation)する段階;
(b)単離(isolation)した多能性幹細胞を胚様体形成培地に懸濁した後、多能性幹細胞が凝集するように培養して、単一の球状体形態の胚様体を形成させる段階;
(c)前記胚様体を胚様体成熟培地で浮遊培養して、成熟胚様体を形成させる段階;
(d)前記胚様体を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で付着培養させて、間葉系幹細胞に分化を誘導する段階;および
(e)前記分化した間葉系幹細胞を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で間葉系幹細胞の同一性を維持しつつ、増殖および培養する段階を含むヒト多能性幹細胞から長期間の継代培養安定性を維持する間葉系幹細胞を製造する方法を提供する。
【0014】
本発明は、また、前記方法によって製造されたヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞および前記間葉系幹細胞を含む細胞治療剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、従来の多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の製造方法(WO2011052818)と本発明の改良された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の製造方法を比較した図式を示す図である。
【
図2】
図2は、ヒト多能性幹細胞を異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに無血清多能性幹細胞培養培地で培養して得られたヒト多能性幹細胞のコロニーを(A)200μm×200μmのサイズで均一に切片化した後、(B)単離(isolation)した細胞形態を示す図である。
【
図3】
図3は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞の特性を分析するために多能性マーカーであるOCT-4およびSSEA-4の免疫蛍光染色を行った結果を示す。
【
図4】
図4は、従来の製造方法(WO2011052818)で製造された胚様体と本発明の改良方法で製造された胚様体のサイズおよび形態を比較した図である。
【
図5】
図5は、従来の製造方法(WO2011052818)で製造された胚様体および本発明の改良方法で製造された胚様体において間葉系幹細胞への分化効率および細胞形態を比較した図である。
【
図6】
図6は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の細胞表面マーカー発現分析結果を示す。
【
図7】
図7は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の分化能分析結果を示す。
【
図8】
図8は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞のGバンド核型(G-band karyotype)分析結果を示す。
【
図9】
図9は、従来の多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の製造方法(WO2011052818)で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞と本発明の改良された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の製造方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の7継代および12継代の細胞形態を比較した図である。
【
図10】
図10は、従来の多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の製造方法(WO2011052818)と本発明の改良された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化能を確認した図である。
【
図11】
図11は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で成熟胚様体形成段階を経て培養された(A)西洋人の胚性幹細胞および(B)東洋人の人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞製造方法を示す模式図である。
【
図12】
図12は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された(A)西洋人の胚性幹細胞および(B)東洋人の人工多能性幹細胞の多能性を分析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
他の式で定義されない限り、本明細書で使用されたすべての技術的および科学的用語は、本発明の属する技術分野における熟練した専門家によって通常的に理解されるのと同じ意味を有する。一般的に、本明細書で使用された命名法は、本技術分野においてよく知られていて、通常的に使用されるものである。
【0017】
本発明の用語「幹細胞」は、組織および器官の特殊化した細胞を形成するように非制限的に再生できるマスター細胞を指す。幹細胞は、発達可能な多能性または多分化能細胞である。幹細胞は、2つの娘幹細胞、または1つの娘幹細胞と1つの由来(「転移:transit」)細胞に分裂することができ、以後に組織の成熟かつ完全な形態の細胞に増殖する。このような幹細胞は、多様な方法で分類することができる。そのうち、最も頻繁に用いられる方法の1つは、幹細胞の分化能によるものであり、3胚葉への分化が可能な多能性幹細胞(pluripotent stem cells)、特定胚葉以上への分化に限定される多分化能幹細胞(multipotent stem cells)および特定胚葉のみに分化が可能な単分化能幹細胞(unipotent stem cells)に分けられる。
【0018】
本発明の用語「多能性幹細胞」というのは、生体を構成する3つの胚葉(germ layer)全部に分化することができる全能性を有する幹細胞を指し、一般的に、胚性幹細胞(ESC)と人工多能性幹細胞(iPSC)がこれに該当する。成体幹細胞は、多分化能または単分化能幹細胞に区分される。
【0019】
本発明の用語「間葉系幹細胞」は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、心筋細胞などの細胞に分化できる多分化能(multipotency)を保有している幹細胞を意味する。
【0020】
本発明の用語「分化(differentiation)」は、細胞が分裂増殖して成長する間に、細胞の構造や機能が特殊化する現象を意味する。多能性間葉系幹細胞は、系統が限定された前駆細胞(例えば、中胚葉性細胞)に分化した後、他の形態の前駆細胞にさらに分化することができ(例えば、骨芽細胞など)、その後、特定組織(例えば、骨など)で特徴的な役割を行う末期分化細胞(例えば、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞など)に分化することができる。
【0021】
本発明の用語「胚様体(embryoid body,EB)」は、多能性幹細胞の分化を誘導するために生成された多能性幹細胞の凝集体である。本発明において「成熟胚様体(mature embryoid body)」は、多能性幹細胞の凝集体、すなわち胚様体が浮遊培養を通じて分裂を繰り返してそのサイズが大きくなった状態で、本発明において成熟胚様体は、間葉系幹細胞への分化を誘導するための材料に用いられる。
【0022】
本発明の用語「細胞治療剤」は、ヒトから分離、培養および特殊な操作を通じて製造された細胞および組織で治療、診断および予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)であり、細胞あるいは組織の機能を復元させるために、生きている自家、同種、または異種細胞を体外で増殖、選別したり、他の方法で細胞の生物学的特性を変化させるなどの一連の行為を通じて治療、診断および予防の目的で使用される医薬品を指す。細胞治療剤は、細胞の分化程度によって大きく体細胞治療剤、幹細胞治療剤に分類され、本発明は、特に幹細胞治療剤に関する。
【0023】
本発明では、ヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞を細胞治療剤として商用化させるために細胞の安全性および大量生産問題を解決するために、無栄養細胞(feeder cell free)、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)環境でヒト多能性幹細胞を間葉系幹細胞に分化誘導した。また、ヒト多能性幹細胞の細胞間凝集によって単一の球状体形態の胚様体を形成するようにし、このような胚様体を浮遊培養して均一な形態とサイズの成熟胚様体を形成することによって、成熟胚様体間の品質差異を最小化し、これによる間葉系幹細胞への分化効率および一貫性を向上させた。このように製造された間葉系幹細胞は、20継代以上長期間継代培養を繰り返しても、間葉系幹細胞の特性が安定的に維持される画期的な効果を示した。すなわち、本発明は、外来細胞および外来動物性由来物質を汚染することなく、安全でかつ球状体形態の胚様体を用いた均一な形態とサイズの成熟胚様体の形成を通じて品質が均一で、かつ、継代培養安定性が長期間優れていて、大量生産が可能なヒト多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を製造した。したがって、本発明の方法で製造された生産性および安全性が向上した間葉系幹細胞は、再生医学および細胞治療分野において必要とする間葉系幹細胞を持続的に大量供給することを可能にする。
【0024】
したがって、本発明は、一態様において、
(a)ヒト多能性幹細胞を異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに無血清多能性幹細胞培養培地で培養してヒト多能性幹細胞のコロニーを得、前記コロニーからヒト多能性幹細胞を単離(isolation)する段階;
(b)単離(isolation)した多能性幹細胞を胚様体形成培地に懸濁した後、多能性幹細胞が凝集するように培養して、単一の球状体形態の胚様体を形成させる段階;
(c)前記胚様体を胚様体成熟培地で浮遊培養して、成熟胚様体を形成させる段階;
(d)前記胚様体を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で付着培養させて、間葉系幹細胞に分化を誘導する段階;および
(e)前記分化した間葉系幹細胞を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で間葉系幹細胞の同一性を維持しつつ、増殖および培養する段階を含むヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造する方法に関する。
【0025】
以下、各段階別に詳細に説明する。
【0026】
(a)ヒト多能性幹細胞を異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに無血清多能性幹細胞培養培地で培養してヒト多能性幹細胞のコロニーを得、前記コロニーからヒト多能性幹細胞を単離(isolation)する段階
本発明において、前記ヒト多能性幹細胞は、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞であってもよい。
前記ヒト多能性幹細胞は、未分化状態である。
【0027】
一般的に、従来、ヒト多能性幹細胞を培養するにあたって、未分化状態を続いて維持させるために、支持体が必要であり、従来のヒト多能性幹細胞支持体としては、マウス胚由来線維芽細胞が優先的に用いられてきた。しかしながら、異種間の各種病原体の流入が臨床学的に多能性幹細胞を使用しようとするときの問題点と認識されることによって、それに対する代案策としてヒト由来の様々な細胞に対して支持体としての可能性が報告されたことがある。しかしながら、これも、他家由来病原体の絶対的排除が不可能であり、未分化状態の維持のための外来因子(例えば、bFGF、IGF、ACTIVINなど)が必須的に必要な点と、長期培養のための継続的細胞の供給が不可能な短所などを克服することができない。
【0028】
しかしながら、本発明の方法は、異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに、ビトロネクチン(vitronectin)をコートした培養容器を使用し、無血清培地でヒト多能性幹細胞を培養しても、未分化状態を維持させることができる。
【0029】
本発明において、前記(a)段階の多能性幹細胞は、ヒト由来の細胞外マトリックス(extracellular matrix)、動物由来成分を含まない細胞外マトリックスまたは細胞外マトリックスを代替できる合成物質をコートした培養容器で培養された細胞であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0030】
前記ヒト由来の細胞外マトリックスは、ビトロネクチン(vitronectin)、コラーゲン(collagen)またはラミニン(laminin)であることが好ましく、前記ヒトを除いた動物由来成分を含まない細胞外マトリックスは、動物由来成分フリーマトリゲル(animal component free matrigel)であることが好ましく、また、前記細胞外マトリックスを代替できる合成物質は、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(Heparan sulfate proteoglycan)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0031】
すなわち、本発明の方法は、すべての段階で異種栄養細胞(xeno feeder cell)、サイトカインおよび異種物質の無添加培地で行われることを特徴とする。すなわち、無栄養細胞(feeder cell free)、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)環境で行われることを特徴とする。
【0032】
特に、従来の方法(WO2011052818)は、FBSが含まれた培地で培養された異種栄養細胞を使用して多能性幹細胞を培養したが、本発明は、異種栄養細胞(xeno feeder cell)なしに無血清培地で培養されたヒト多能性幹細胞を使用したことを特徴とする。
【0033】
また、従来、多能性幹細胞培養培地としてKSR、NEAA、ベータ-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)、bFGFが含まれたDMEM/F12を使用したが、本発明は、無血清の多能性幹細胞培養培地を使用する。
【0034】
本発明において、前記(a)段階のヒト多能性幹細胞を培養する無血清培地は、TeSR-E8(essential 8 media)、TeSR-2またはStemMACS iPS-Brew XF、Human培地であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
(b)単離(isolation)した多能性幹細胞を胚様体形成培地に懸濁した後、多能性幹細胞が凝集するように培養して、単一の球状体形態の胚様体を形成させる段階
本発明では、ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞への分化誘導のために、均一な形態とサイズの成熟胚様体を用いることを特徴とする。従来の方法では、均一な形態とサイズの胚様体を生成することができないので、間葉系幹細胞へ一貫した分化効率を期待しにくかったが、本発明では、ヒト多能性幹細胞の細胞間凝集によって単一の球状体形態の胚様体を形成するようにし、このような胚様体を浮遊培養して均一な形態とサイズの成熟胚様体を形成することによって、このような技術的限界を克服した。これを通じて、ヒト多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の分化効率を改善すると同時に、繰り返し継代培養後にも、幹細胞の特性を長期間維持する画期的に優れた間葉系幹細胞を製造した。
【0036】
従来の方法(WO2011052818)は、胚様体の形成時に多能性幹細胞を浮遊培養したが、本発明は、多能性幹細胞が互いに凝集して単一の球状体形態の胚様体を形成するように、多能性幹細胞を培養容器の蓋に接種した後、ひっくり返して細胞が重力によって凝集することができるように24時間の間懸滴培養し、このように形成された細胞凝集体、すなわち胚様体をさらに浮遊培養して、成熟胚様体に成熟させた。その結果、
図1に示されたように、均一な形態とサイズの成熟胚様体が形成され、このような成熟胚様体は、間葉系幹細胞への一貫した分化効率と継代培養時の安定性を示すことができる。
【0037】
図4には、従来の方法で製造された成熟胚様体のサイズおよび形態が均一でないことに比べて、本発明の方法で製造された成熟胚様体は、サイズが300~500μmと均一であり、形態も、球状体として一定であることを示す。また、このように製造された成熟胚様体から分化誘導された間葉系幹細胞は、分化効率および間葉系幹細胞のサイズが一定であることが分かる。しかしながら、従来の方法で製造された胚様体から分化誘導された間葉系幹細胞は、分化効率だけでなく、細胞形態も一定でない(
図5)。
【0038】
しかも、均一な形態とサイズの成熟胚様体から分化誘導された間葉系幹細胞は、驚くべきことに、20継代まで間葉系幹細胞表面マーカーであるCD29、CD44、CD73、およびCD105の発現が90%以上であることが示された。また、造血幹細胞特異的表面マーカーであるCD45、MHC class type IIマーカーであるHLA-DR、および多能性幹細胞特異的表面マーカーであるSSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81に対する細胞表面マーカーの発現が2%以下であることが示された。すなわち、本発明の方法で製造された間葉系幹細胞は、長期間継代培養が可能で、高純度を維持しているので、細胞治療剤として使用できる幹細胞を大量生産可能にする。従来の方法で製造された間葉系幹細胞は、細胞治療剤として使用できる基準を満たす程度になると、細胞が老化し変形してこれ以上細胞治療剤としての目的を達成するのに適していない。結局、臨床に適用される細胞と品質評価進行細胞が変わることになるという短所があった。しかしながら、本発明の間葉系幹細胞は、細胞治療剤として用いるために長期間継代培養が繰り返されても、変形せずに間葉系幹細胞の品質特性を維持するので、細胞治療剤の商用化に非常に有用である。
【0039】
たとえ、胚様体のサイズを調節する方法(KR10-2013-0013537)または懸滴培養(Hanging drop method)を通じて均一なサイズの胚様体を形成させる方法(KR10-2007-0075006)などが知られているが、均一なサイズの胚様体の形成は、細胞分化効率に影響を及ぼすことが知られているだけであり、均一なサイズの胚様体から分化誘導された間葉系幹細胞の老化または細胞変形抑制に対する効果は全く知られていない。しかしながら、本発明では、均一な形態とサイズの成熟胚様体を形成させ、これから分化誘導された間葉系幹細胞の間葉系幹細胞の特性が20継代まで長期間維持されることを確認した。特に、従来の方法で製造された胚様体から分化誘導された間葉系幹細胞は、CD105の発現が6継代ぶりに43.6%、12継代には26.6%まで減少したことを確認した(表2)。すなわち、従来の方法で製造された幹細胞は、20継代まで間葉系幹細胞の特性を維持しないが、本発明の幹細胞は、均一なサイズの胚様体の形成を通じて20継代まで長期間葉系幹細胞の特性を維持することができる。
【0040】
したがって、本発明は、無栄養細胞(feeder cell free)、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)培養環境を通じて外来動物性由来物質の汚染問題を解消して、安全性に優れた間葉系幹細胞を製造すると同時に、球状体形態の胚様体を用いて均一な形態とサイズの成熟胚様体を形成させて、間葉系幹細胞への分化効率の改善および20継代以上長期間継代培養にも間葉系幹細胞の特性が安定的に維持される画期的な効果を有するヒト多能性幹細胞由来間葉系幹細胞を製造した。
【0041】
本発明において、「球状体形態の胚様体」というのは、丸い球形態の細胞凝集体を意味し、ここで、球状体形態は、よくスペロイド形態とも表現される。
【0042】
本発明において、前記(b)段階の胚様体は、多能性幹細胞の細胞間凝集を誘導できる培養方法であれば、いずれでも使用可能である。多能性幹細胞の凝集体、すなわち単一の球状体形態の胚様体を製造できる培養法であれば、全部可能であり、限定されない。例えば、(b)段階の胚様体は、懸滴培養、またはV型チューブ(V-shape tube)、円形96ウェルプレート(round shape 96 well plate)もしくはコニカルチューブ(conical tube)を用いた培養を通じて形成することができる。
【0043】
本発明において、前記(b)段階の胚様体形成培地は、多能性幹細胞間の細胞凝集を誘導できる培地であれば、いずれでも使用可能である。例えば、(b)段階の胚様体形成培地は、Aggrewell EB formation medium、Gibco Essential 6 Medium、CTS Essential 6 Medium、またはTeSR-E6であってもよい。(b)段階の培養は、18時間~30時間の間、例えば、20時間~28時間、22時間~26時間、例えば、24時間の間培養することができる。
【0044】
(c)前記胚様体を胚様体成熟培地で浮遊培養して、成熟胚様体を形成させる段階;
(c)段階は、胚様体を浮遊培養させて成長させる段階であり、この段階で得られた成熟胚様体は、均一な形態とサイズを有することを特徴とする。
【0045】
成熟胚様体が「均一な形態とサイズ」を有するというのは、球状体形態の胚様体を浮遊培養して得られた成熟培養体が互いに形態とサイズが均一であることを意味する。成熟培養体の形態は、胚様体と同様に、球状体形態であり、成熟胚様体のサイズは、全体成熟胚様体の平均サイズの±15%以内のサイズであり、均一である。すなわち、成熟胚様体の平均サイズを100%というとき、成熟胚様体の最小サイズは、90%以内、成熟胚様体の最大サイズは、120%以内であり、そのサイズが非常に均一である。好ましくは、成熟胚様体のサイズは、全体成熟胚様体の平均サイズの±10%のサイズであり、均一である。この場合、成熟胚様体の平均サイズを100%というとき、成熟胚様体の最小サイズは、90%、成熟胚様体の最大サイズは、110%以内である。成熟胚様体の平均サイズは、胚様体の成熟培養条件および期間によって変わることができるが、幹細胞への分化誘導のために適合した成熟胚様体の平均サイズは、350~450μm、例えば、380~420であってもよい。好ましくは、成熟胚様体は、300~500μmの均一なサイズを有する。
【0046】
本発明において、前記(c)段階の浮遊培養は、胚様体成熟のための胚様体成熟培地を用いて行われる。胚様体成熟培地は、一般的に公知となったものを使用できるが、特に制限されるものではない。これに制限されるものではないが、本発明の具体例において、(c)段階の胚様体成熟培地は、KSR(Knock out serum replacement)、NEAA(non-essential amino acid)およびベータ-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)を含む基本培地であってもよい。前記基本培地は、DMEM/F12、alpha MEM、Ham’s F12 mediaまたはDMEMであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
前記(c)段階の浮遊培養は、10~18日間、例えば、12~16日間、例えば14日間培養することができるが、これに限定されるものではない。
【0048】
(d)前記胚様体を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で付着培養させて、間葉系幹細胞に分化を誘導する段階
ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞に分化を誘導する場合、一般的に外部でサイトカインであるBMP(bone morphogenetic protein)などを添加して分化誘導を開始することがあるが、本発明では、BMPなどを添加することなく、間葉系幹細胞に分化が自然に誘導されることを確認した。従来の方法(WO2011052818)では、間葉系幹細胞の分化時にFBSが含まれたDMEM培地を使用し、また、増殖培養においてFBSが含まれたEGM2-MV培地を使用した。しかしながら、本発明は、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)環境で間葉系幹細胞の増殖および培養を行った。
【0049】
本発明において、前記(d)段階で使用される間葉系幹細胞培養培地は、L-glutamineが含まれた無異種(xeno-free)の無血清培地であってもよい。L-glutamineの培地内の総濃度は、2~4mMに合わせて使用することが好ましいか、これに限定されるものではない。
【0050】
前記(d)段階の無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地は、Stempro SFM Xeno-free培地、PRIME-XV MSC Expansion XSFM培地、Human Mesenchymal-XF Expansion培地、MSC Nutristem XF培地、StemMACS MSC expansion media kit XF、human培地またはFBSの代わりに5~20%human platelet lysateを含む培地などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0051】
また、本発明において、前記(d)段階の間葉系幹細胞への分化誘導は、12~20日間、例えば、14~18日間、例えば、16日間であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の一実施例では、分化誘導因子および血清が含まれていないStempro MSC SFM Xeno-free培地で間葉系幹細胞の分化を誘導した。
【0053】
(e)前記分化した間葉系幹細胞を無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地で間葉系幹細胞の同一性を維持しつつ、増殖および培養する段階
(e)段階は、分化が誘導された間葉系幹細胞を増殖、培養する段階である。ヒト間葉系幹細胞を含む細胞治療剤を商業化するために、この段階で得られる間葉系幹細胞が十分な量で確保されながらも、同時に間葉系幹細胞の同一性、すなわち、間葉系幹細胞としての特性を維持するかが非常に重要な問題である。
【0054】
本発明では、前記分化誘導された間葉系幹細胞を増殖培養するに際して、さらなる分化誘導因子およびFBS(fetal bovine serum)が添加されていないxeno-free培地で培養する。
【0055】
(d)段階と同様に、本発明において、前記(e)段階で使用される間葉系幹細胞培養培地は、L-glutamineが含まれた無異種(xeno-free)の無血清培地であってもよい。L-glutamineの培地内の総濃度は、2~4mMに合わせて使用することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0056】
前記(e)段階の無異種(xeno-free)、無血清の間葉系幹細胞培養培地は、Stempro SFM Xeno-free培地、PRIME-XV MSC Expansion XSFM培地、Human Mesenchymal-XF Expansion培地、MSC Nutristem XF培地、StemMACS MSC expansion media kit XF、human培地またはFBSの代わりに5~20%human platelet lysateを含む培地などが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0057】
本発明の一実施例では、間葉系幹細胞増殖培地としてFBSが添加されていないStempro MSC SFM培地を使用したが、これに限定されるものではなく、異種タンパク質のような異種物質が含まれていない(xeno-free)培地を使用することができる。
【0058】
前記で説明したように、間葉系幹細胞を細胞治療剤として使用するためには、十分な量の細胞を供給することが優先されなければならないが、このためには、間葉系幹細胞の継代培養が必要である。しかしながら、継代培養を継続すると、間葉系幹細胞が老化して分裂能力がなくなり、その活性(分化能)が喪失される問題がある。これと関連して、本発明では、無異種および無血清培地でも体外培養時に間葉系幹細胞の特性および活性が20継代以上長く維持されうることことを確認した(表1)。すなわち、本発明の方法で製造された間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞の特性を長期間維持することができるので、大量生産を通した細胞治療剤として使用が可能である。このような特徴は、無異種(xeno-free)、無血清(serum-free)の間葉系幹細胞の製造環境および均一なサイズの胚様体の製造を通じて達成することができる。
【0059】
間葉系幹細胞は、均一な紡錘状(spindle shape)のfingerprint pattern形態と基本的な細胞表面標識CD73(+)、CD105(+)、CD34(-)、CD45(-)などの発現程度で規定していて、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などに分化が可能である。
【0060】
本発明において、前記(e)段階の間葉系幹細胞は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞および心筋細胞からなる群から選ばれた細胞に分化できる多分化能(multipotency)を保有する間葉系幹細胞であることを特徴とする。
【0061】
本発明の一実施例では、多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の継代培養による幹細胞の特性持続性(consistency)を確認するために、20継代まで細胞表面マーカーの変化を比較分析した。間葉系幹細胞表面マーカーであるCD29、CD44、CD73、CD105、造血幹細胞特異的表面マーカーであるCD45、MHC class type IIマーカーであるHLA-DR、および多能性幹細胞特異的表面マーカーであるSSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81に対する細胞表面マーカーの発現を12継代から20継代まで比較分析した結果、20継代まで間葉系幹細胞表面マーカーであるCD29、CD44、CD73、およびCD105の発現が90%以上を維持していることを確認した(表1)。また、従来の方法(WO2011052818)で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、CD105の発現が6継代細胞で50%未満であることが示され、特に12回継代培養後には、26.6%まで減少することを確認した(表2)。すなわち、従来の方法で製造された幹細胞は、20継代まで間葉系幹細胞の特性を維持しないが、本発明の幹細胞は、均一な形態とサイズを有する成熟胚様体の形成を通じて20継代まで長期間間葉系幹細胞の特性を維持することができる。
【0062】
CD105は、間葉系幹細胞の特異的な表面マーカーの1つと知られていて、2003年Duff SEなどの報告によれば、CD105は、間葉系幹細胞による血管再生に重要な役割を担当していることが報告された(The FASEB Journal 2003;17(9):984-992)。また、CD105は、間葉系幹細胞の骨細胞分化(Levi B et al.,The Journal of Biological Chemistry.2011;286(45):39497-39509)だけでなく、間葉系幹細胞の骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞など細胞分化後に減少して、間葉系幹細胞の幹細胞能(stemness)の維持に重要な役割を担当することが知られている(Jin HJ et al.,BBRC 2009;381(4):676-681)。
【0063】
本発明において、前記(e)段階の間葉系幹細胞は、CD29(+)、CD44(+)、CD73(+)およびCD105(+)の細胞表面マーカーを発現する間葉系幹細胞であることを特徴とする。
【0064】
本発明において、前記細胞表面マーカー発現は、20継代以上の間葉系幹細胞で90%以上維持されることが好ましく、より好ましくは、CD105(+)細胞表面マーカーの発現が20継代以上の間葉系幹細胞で90%以上維持されることであるが、これに限定されるものではない。
【0065】
本発明において、前記(e)段階の間葉系幹細胞は、CD34(-)、CD45(-)、HLA-DR(-)、TRA-1-60(-)、およびTRA-1-81(-)の間葉系幹細胞であることを特徴とする。
【0066】
本発明は、他の観点において、前記方法によって製造されたヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞に関する。
【0067】
本発明の方法で製造されたヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞は、起源人種(東洋人および西洋人)および種類(胚性幹細胞および人工多能性幹細胞)の差異にもかかわらず、同じ結果を導き出した。本発明は、多様な遺伝的起源を有するヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を生産するのに一般的に使用できる規範化された分化誘導および増殖培養方法を提供する。すなわち、本発明の規定化された方法は、多様な遺伝的背景および/または培養環境を有する多能性幹細胞から中胚葉幹細胞を分化誘導するために一般的に使用できる方法である。
【0068】
本発明の一実施例では、ヒト多能性幹細胞として国立幹細胞再生センター内幹細胞銀行に登録されたSNUhES35/hES12011003胚性幹細胞を使用して間葉系幹細胞を生産したが、これに限定されるものではない。
【0069】
また、本発明の他の実施例では、西洋人の胚性幹細胞として国立幹細胞再生センター内幹細胞銀行に登録されたESI-017/hES22014005、ESI-035/hES22014006を使用して間葉系幹細胞を生産したが、これに限定されるものではなく、ESI-049/hES22014007、ESI-051/hES22014008、ESI-053/hES22014009などの胚性幹細胞を使用することができる。
【0070】
本発明のさらに他の実施例では、東洋人の人工多能性幹細胞を使用して間葉系幹細胞を生産したが、これに限定されるものではない。
【0071】
本発明は、さらに他の観点において、前記方法によって製造されたヒト多能性幹細胞から分化誘導された間葉系幹細胞を有効成分として含む細胞治療剤に関する。細胞治療剤は、間葉系幹細胞の他に注射用水を含んでもよい。また、細胞治療剤は、凍結のために使用される凍結賦形剤を含んでもよい。凍結賦形剤は、動物由来成分を含まないCryoStor 10(CS10)あるいはSTEM-CELLBANKER DMSO Free GMP gradeであることが好ましいが、これに限定されるものではない。通常、間葉系幹細胞を含む細胞治療剤は、1×106~1×108cells/kgの用量で対象体に投与される。本発明による間葉系幹細胞を含む細胞治療剤は、一般的に間葉系幹細胞の移植治療の効果と知られた多様な病気の治療のために制限なしに使用することができる。特に、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞治療剤は、COVID-19ウイルスに感染した患者や重症急性すい臓炎(Severe acute pancreatitis,SAP)などを治療するために使用することができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、ただ本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例により制限されるものと解されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明だろう。
【0073】
実施例1:ヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞への製造方法
1-1:無栄養細胞(feeder cell free)、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)環境で多能性幹細胞の培養および多能性の確認
無栄養細胞、無異種および無血清環境で多能性幹細胞が多能性(pluripotency)を維持しつつ、体外培養が可能であるかを確認するために、組織培養容器にヒト細胞外マトリックス(human extracellular matrix)成分であるヒトビトロネクチン(human vitronectin)を最終濃度10μg/mLになるように組織培養容器にコートした後、無異種、無血清培地であるTeSR-2またはTeSR-E8(essential 8 media)培地を用いて未分化状態のヒト多能性幹細胞(韓国人由来胚性幹細胞:SNUhES35/hES12011003)を培養して多能性幹細胞のコロニーを得た(
図1、左側のESC培養写真)。Confluencyが60%であるとき(20 colony以上)の多能性幹細胞コロニーをEZPassage Passaging Toolを用いて約200μm×200μmのサイズで均一に切片化した後(
図2A)、ピペットを用いて培養容器から剥がし、conical tubeに移し、静置させて、細胞を沈殿させた後、上澄み液を除去した。単離(isolation)した多能性幹細胞は、約10~15μmのサイズ(直径)を有する球形の細胞であることが確認された(
図2B)。
【0074】
無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞の多能性を確認するために、免疫蛍光染色法(immunofluorescence staining)を通じて幹細胞の多能性マーカーの1つであるOCT-4およびSSEA-4の発現を確認した。
【0075】
その結果、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞で多能性を示すマーカーであるOCT-4およびSSEA-4が発現していた。すなわち、培養された多能性幹細胞が無栄養細胞、無異種および無血清環境で多能性を維持していることを確認することができた(
図3)。
【0076】
1-2:多能性幹細胞の成熟胚様体の形成
多能性幹細胞が懸濁された胚様体形成培地(Aggrewell EB Formation Medium)の一定容量をペトリ培養容器(petri dish)の蓋に接種した後、懸滴培養して、細胞凝集体、すなわち胚様体を形成した。胚様体をさらに胚様体成熟培地に接種後、浮遊培養して、一定のサイズの成熟胚様体を形成させた。
【0077】
具体的に、単離(isolation)した多能性幹細胞が収容されたconical tubeに胚様体形成培地(Aggrewell EB Formation Medium)(ヒト多能性幹細胞20コロニー当たり400μlの濃度)を入れて、ピペッティングにより胚様体形成培地中に単離(isolation)した多能性幹細胞が単一細胞になるように懸濁させた。多能性幹細胞が懸濁された胚様体形成培地を20μlずつ組織培養容器の蓋に接種した後、ひっくり返して、細胞が重力によって凝集することができるように24時間の間37℃、5%CO2培養器で懸滴培養した。24時間培養後、単一な球状体形態の細胞凝集体、すなわち胚様体が形成された。
【0078】
形成された胚様体を胚様体成熟培地(DMEM/F12、20%Knock out serum replacement(KSR)、0.1mMのnon-essential amino acid(NEAA)、0.1mMのβ-mercaptoethanol)を用いてペトリ培養容器(petri dish)で浮遊培養し、2~3日間隔で培地を交換しながら、14日間培養した(
図1参照)。
【0079】
その結果、球状体として形態が一定であり、300~500μmの均一なサイズの成熟胚様体が形成されたことを確認することができた(
図4、右側の改良方法の写真)。
【0080】
1-3:成熟胚様体の間葉系幹細胞への分化誘導および増殖
14日間培養された成熟胚様体を無異種基材であるCellStartTM(Thermo Fisher Scientific)でコートされた(78μL/cm2の濃度)6wellプレートに付着させた。付着時、胚様体4~5個ずつを各wellごとに接種した後、間葉系幹細胞への分化を誘導するために、無異種および無血清間葉系幹細胞培養培地であるStemPro MSC SFM XenoFreeTM(Thermo Fisher Scientific)を用いて分化を誘導した。
【0081】
間葉系幹細胞への分化誘導および初期培養のために、2~3日に1回ずつ新しく培地を交換しながら、継代培養することなく、16日間培養を進めた。
【0082】
顕微鏡を通じて付着した成熟胚様体から分化した間葉系幹細胞が十分に増殖することを確認した後、継代培養を実施した。
【0083】
また、このように製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、継代培養を進め、無異種および無血清環境で分化および増殖のために、StemPro MSC SFM XenoFree培地を用いて37℃、5%CO2培養器で培養を進めた。
【0084】
図5は、従来の製造方法(WO2011052818)で製造された胚様体および本発明の改良方法で製造された胚様体において間葉系幹細胞への分化効率および細胞形態を比較した図である。本発明の方法によれば、均一な胚様体の形態およびサイズによって間葉系幹細胞への分化効率および細胞形態が一定であることを確認することができた(
図5の下段)。しかしながら、従来の方法で製造された胚様体から分化誘導された間葉系幹細胞は、分化効率だけでなく、細胞形態も一定でない(
図5の上段)。
【0085】
実施例2:多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の特性の分析
2-1:間葉系幹細胞の細胞表面標識発現の分析
実施例1の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が間葉系幹細胞の特性を有しているかを確認するために、フローサイトメトリー(flow cytometry)を用いた細胞表面マーカーの分析および骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化が可能であるかを分析した。
【0086】
図6は、無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の細胞表面マーカー発現分析結果を示す。
【0087】
その結果、多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、間葉系幹細胞特異的表面マーカーであるCD73およびCD105が陽性で発現していることを確認し、免疫反応に関連したMHC class type IIの細胞表面マーカーであるHLA-DR、造血幹細胞特異的細胞表面マーカーであるCD34とCD45の発現が陰性であることを確認した。
【0088】
それだけでなく、多能性幹細胞の混入の有無を確認するために、多能性幹細胞特異的細胞表面マーカーであるTRA-1-60の発現を確認した結果、TRA-1-60の発現が陰性であることを確認して、製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が一般的な間葉系幹細胞の特異的細胞表面標識を発現していることを確認した(
図6)。
【0089】
2-2:間葉系幹細胞の分化能の分析
実施例1の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の分化能を分析するために、脂肪細胞(adipocyte)、骨細胞(osteocyte)、および軟骨細胞(chondrocyte)に14日間分化を誘導した後、それぞれ特異的化学染色法を通じて分化能を検証した。
【0090】
脂肪細胞への分化誘導14日後、Oil-Red-O染色を進めた結果、製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が脂肪細胞への分化が行われたことを確認し、骨細胞分化誘導14日後、Alizarin-Red-SおよびAlkaline Phosphatase染色を進めた結果、製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が脂肪細胞に分化が行われたことを確認した。また、軟骨細胞分化誘導14日後、Alcian Blue染色を進めた結果、製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が軟骨細胞に分化したことを確認した(
図7)。
【0091】
これは、実施例1で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が一般的な間葉系幹細胞の分化能と類似した分化能を有していることを示す。
【0092】
2-3:間葉系幹細胞の染色体異常の分析
実施例1の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の分化過程で染色体異常が発生するかを確認するために、Gバンド核型分析(G-banding Karyotyping)(Saccone et al,Proc Natl Acad Sci USA、89:4913-4917,1992)を進めた。
【0093】
その結果、製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞において46XYの正常核型を確認し、これは、実施例1で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の分化過程でいかなる染色体異常も引き起こされていないことを示す(
図8)。
【0094】
2-4:間葉系幹細胞の幹細胞特性持続性の分析
実施例1の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の継代培養による幹細胞特性持続性(consistency)を確認するために、培養容器で持続的な継代培養を進めて、20継代まで細胞表面マーカーの変化を比較分析した。
【0095】
間葉系幹細胞表面マーカーであるCD29、CD44、CD73、CD105、造血幹細胞特異的表面マーカーであるCD45、MHC class type IIマーカーであるHLA-DR、および多能性幹細胞特異的表面マーカーであるSSEA-3、TRA-1-60、TRA-1-81に対する細胞表面マーカーの発現を12継代から20継代まで比較分析した(表1)。
【0096】
その結果、実施例1の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、12継代から20継代まで間葉系幹細胞表面マーカーであるCD29、CD44、CD73、およびCD105の発現が90%以上を維持していることを確認した。また、造血幹細胞特異的細胞表面マーカーであるCD45、MHC class type IIマーカーであるHLA-DR、多能性幹細胞特異的細胞表面マーカーであるSSEA-3、TRA-1-60およびTRA-1-81の細胞表面マーカーの発現は、陰性に維持されていることを確認した。
【0097】
このような結果は、実施例1の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞が20継代まで間葉系幹細胞の特性を維持していることを示唆し、将来間葉系幹細胞を用いた治療剤の大量培養だけでなく、遺伝子導入を通した細胞機能強化幹細胞治療剤の開発にも重要な細胞資源として活用価値が高いと言える。
【0098】
【0099】
実施例3:製造方法の差異による多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の特性の比較
3-1:細胞形態(cell morphology)の比較
同じ多能性幹細胞から異なる間葉系幹細胞製造方法で製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞2種の細胞形態を顕微鏡を用いて比較した。製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の7継代および12継代の形態学的な比較を進めた。
【0100】
従来の方法(WO2011052818)で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞と前記実施例を通じて製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、いずれも、紡錘状(spindle shape)の形態を有しており、7継代まで細胞の形態が類似に維持されていることを確認した。しかしながら、従来の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の場合、12継代で細胞がかたまる現象が発生した。
【0101】
しかしながら、前記実施例を通じて製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、12継代培養後にも紡錘状の細胞形態を良好に維持していることを確認した(
図9)。
【0102】
3-2:細胞表面マーカー発現の比較
実施例3-1のように、従来の方法(WO2011052818)で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞と本発明を通じて製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の細胞表面マーカー発現を比較した。
【0103】
本発明の方法によって製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、6、8、12継代まで間葉系幹細胞特異的細胞表面マーカーであるCD29、CD44、CD73、CD105の発現が90%以上で陽性であることを確認した。また、造血幹細胞特異的細胞表面マーカーであるCD34、CD45、MHC class type IIマーカーであるHLA-DRおよび多能性幹細胞特異的細胞表面マーカーであるTRA-1-60の発現は、陰性であることを確認した(表2)。
【0104】
これに対し、従来の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、CD105を除いた残り細胞表面標識の発現は、6、8、12継代まで本発明の方法によって製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞と類似に維持されたが、CD105の発現が6継代細胞で50%未満であることが示され、特に12回継代培養後には、26.6%まで減少することを確認した(表2)。
【0105】
【0106】
3-3:骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞分化能の比較
実施例3-1のように、従来の方法(WO2011052818)で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞と本発明を通じて製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞の骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化能を比較した。
【0107】
本発明の方法によって製作された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞は、従来の方法で製造された多能性幹細胞由来間葉系幹細胞に比べて骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞への分化能がさらに高いことを確認した(
図10)。
【0108】
実施例4:多能性幹細胞の種類の差異による間葉系幹細胞の比較
4-1:西洋人胚性幹細胞由来間葉系幹細胞
本発明の方法で製造された間葉系幹細胞が多能性幹細胞の起源人種によって差異があるかを確認するために、西洋人胚性幹細胞(ESI-017/hES22014005、ESI-035/hES22014006)を無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養を進めた。
【0109】
実施例1-1の方法と同一に、組織培養容器にヒト細胞外マトリックス(human extracellular matrix)成分であるヒトビトロネクチン(human vitronectin)を最終濃度10μg/mLになるようにコートした後、無異種、無血清培地であるTeSR-2培地を用いて未分化状態の西洋人多能性幹細胞を培養した(
図11A)。
【0110】
無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞の多能性を確認するために、免疫蛍光染色法(immunofluorescence staining)を通じて幹細胞の多能性マーカーの1つであるOCT-4およびSSEA-4の発現を確認した結果、西洋人多能性幹細胞で多能性を示すOCT-4およびSSEA-4が発現していた。また、アルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase)発現を確認して、培養された西洋人多能性幹細胞が多能性を維持していることが分かった(
図12A)。
【0111】
また、培養された西洋人多能性幹細胞から間葉系幹細胞の分化を誘導するために、実施例1-2と同じ方法および培地で成熟胚様体を形成させ、このように14日間培養された成熟胚様体を実施例1-3と同じ方法および培地で間葉系幹細胞に分化させた。顕微鏡を通じて付着した成熟胚様体から分化した間葉系幹細胞が十分に増殖することを確認した後、継代培養を実施し、無異種および無血清環境で分化および増殖のために、StemPro MSC SFM Xeno-free培地を用いて37℃、5%CO
2培養器で培養を進めた(
図11A)。
【0112】
したがって、本発明の方法で製造された間葉系幹細胞は、多能性幹細胞の起源人種によって差異がないことを確認することができた。
【0113】
4-2:人工多能性幹細胞由来間葉系幹細胞
本発明の方法で製造された間葉系幹細胞が多能性幹細胞の種類によって差異があるかを確認するために、人工多能性幹細胞(iPSC,induced pluripotent stem cell)を無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養を進めた。
【0114】
実施例1-1の方法と同一に、組織培養容器にヒト細胞外マトリックス(human extracellular matrix)成分であるヒトビトロネクチン(human vitronectin)を最終濃度10ug/mLになるようにコートした後、無異種、無血清培地であるTeSR-2培地を用いて未分化状態の人工多能性幹細胞を培養した(
図11B)。
【0115】
無栄養細胞、無異種および無血清環境で培養された多能性幹細胞の多能性を確認するために、免疫蛍光染色法(immunofluorescence staining)を通じて幹細胞の多能性マーカーの1つであるOCT-4およびSSEA-4の発現を確認した結果、人工多能性幹細胞で多能性を示すOCT-4およびSSEA-4が発現していた。
すなわち、培養された人工多能性幹細胞が多能性を維持していることが分かった(
図12B)。
【0116】
また、培養された人工多能性幹細胞から間葉系幹細胞の分化を誘導するために、実施例1-2と同じ方法で成熟胚様体を形成させ、このように14日間培養された成熟胚様体を実施例1-3と同じ方法で間葉系幹細胞に分化させた。顕微鏡を通じて付着した胚様体から分化した間葉系幹細胞が十分に増殖することを確認した後、継代培養を実施し、無異種および無血清環境で分化および増殖のためにStempro MSC SFM Xeno-free培地を用いて37℃、5%CO
2培養器で培養を進めた(
図11B)。
【0117】
したがって、本発明の方法で製造された間葉系幹細胞は、多能性幹細胞の種類によって差異がないことを確認することができた。
【0118】
以上、本発明内容の特定部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的技術は、単に好ましい実施態様であるだけであり、これによって本発明の範囲が制限されるものではない点は明白だろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項らとそれらの等価物によって定義されると言える。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によるヒト多能性幹細胞から間葉系幹細胞を製造する方法は、無栄養細胞(feeder cell free)、無異種(xeno-free)および無血清(serum-free)培養環境を通じて外来動物性由来物質の汚染問題を解消し、球状体形態の胚様体を用いた均一な形態とサイズの成熟胚様体の形成を通じて長期間繰り返し継代培養後にも、細胞の特性が変形しない間葉系幹細胞を大量生産することができるので、安全性および効率性に優れた細胞治療剤の商用化に有用である。
【国際調査報告】