(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】新規な木材保護方法及びこの方法により製造された木材製品
(51)【国際特許分類】
B27K 3/16 20060101AFI20230207BHJP
【FI】
B27K3/16
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535645
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2022-07-07
(86)【国際出願番号】 SE2020051206
(87)【国際公開番号】W WO2021118450
(87)【国際公開日】2021-06-17
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522230761
【氏名又は名称】オルガノウッド アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイディン、ユハネス
(72)【発明者】
【氏名】ハサンザデー、サルマン
(72)【発明者】
【氏名】グラヴァシュ、リディヤ
【テーマコード(参考)】
2B230
【Fターム(参考)】
2B230CA30
2B230DA02
2B230EB01
2B230EB02
2B230EB03
2B230EB05
2B230EB21
(57)【要約】
本明細書は、菌類、細菌、及び虫による損傷などの生物学的な劣化、並びに風化などの非生物学的な木材劣化に対する環境に優しい木材保護方法を開示する。前記方法は、熱処理工程の前に木材をジルコニウム塩の水溶液と接触させること、生分解に対して耐久性のある木材保護を提供すること、及び処理した木材のいくつかの他の特性を向上させることを含む。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物と木材とを接触させること、及び
b)前記木材を100~220℃、より好ましくは115~200℃、最も好ましくは135~185℃の温度で熱処理すること
を含む、木材製品を調製する方法。
【請求項2】
前記組成物が、1種又は複数のジルコニウム塩からのジルコニウムイオンを0.01~30%(w/w)、好ましくは0.1~15%(w/w)、及びより好ましくは0.2~6%(w/w)含み、好ましくは前記ジルコニウム塩が酢酸ジルコニウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物が、70~99.99%(w/w)の水と、任意に、湿潤剤、消泡剤、保存剤又は殺生物剤、染料、顔料、レオロジー改質剤、及びUV安定剤の少なくとも1つとを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物のpH値が、2~13、好ましくは2~11、及びより好ましくは2~9である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記接触工程が、浸漬、含浸、パディング、フォラーディング(foularding)、ディッピング、噴霧、ブラッシング、コーティング、ローリング、フォーム塗布によって行われ、好ましくは真空圧力含浸によって行われる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記木材を熱処理する前に、前記木材を20%未満の含水率まで乾燥させる工程を含む、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記水性組成物と接触させる前に、前記木材製品を40%未満の含水率まで乾燥させる前処理工程を含む、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性組成物と接触させる前に、前記木材製品を5~250℃の温度に加熱する前処理工程を含む、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記木材に接触させる前に、前記水性組成物を100℃未満に加熱することを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記木材製品と前記水性組成物の両方を加熱することを含む、請求項8及び請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法により調製された木材製品。
【請求項12】
ジルコニウム原子と、処理された木材中のヘミセルロース、セルロース、又はリグニンのヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択される親水性官能基との間の化学結合を含む、請求項11に記載の木材製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、菌類、細菌、及び虫による損傷などの生物学的劣化、並びに風化などの非生物学的な木材劣化に対する環境に優しい木材保護方法に関する。前記方法は、熱処理工程の前に木材をジルコニウム塩の水溶液と接触させること、生分解に対して耐久性のある木材保護を提供すること、及び処理した木材のいくつかの他の特性を向上させることを含む。
【背景技術】
【0002】
構造的に、木材は、主にセルロース、ヘミセルロース及びリグニンから構成される、多孔質及び繊維質の、親水性で硬質のバイオ複合材料とみなすことができる。その性質のために、木材は、物理的及び微生物学的な要因の両方を含む環境的分解を受けやすい。従来、様々な殺生物剤及び殺虫剤が、腐敗、菌類、及び虫に対して木材を保存し、保護するために使用されている。これらの化合物は、非常に多くの場合、人間の健康及び環境に悪影響を及ぼす。このため、腐敗、菌類、及び虫からの攻撃を未然に防ぐための新たな方法が、研究者の間でかなりの注目を集めている。特に、地面と接触するような過酷な条件下で木材を保護する場合には、自然及び人間の健康に悪影響を与えることなく、生分解に対する向上した耐性を有する木材改質のための解決策が求められている。木材に関しては、木材を破壊する菌類、腐敗、及び虫に対する保護が非常に重要な特性であるだけでなく、低い吸水性、優れた寸法安定性、高い機械的強度、及び自然風化に対する強化された保護などの特性も、例えば建築材料としての木材の拡張された使用に寄与する非常に重要な要因である。
【0003】
経済及び環境への影響の両方に関して、様々な保護技術が異なる保護効率で存在する。現在の技術は、「表面」及び「深さ方向」の保護に分類することができる。他の問題のほかに、有機コーティングなどの表面保護技術は、異方的な保護、並びに木材の全体及び内部のための保護メカニズムの欠如という問題を抱え、表面保護を薄い表面コーティングに対する物理的損傷を受けやすいものとしている。
【0004】
「深さ方向」保護技術は、「化学含浸」又は「熱処理」のいずれかである。しかし、既存の「深さ方向」保護技術のほとんどは、重大な欠点を有する。例としては、重大な環境問題を引き起こす様々な殺生物剤(例えば、ホウ素を有するアンモニア性銅キノレート(ACQ-B)、ホウ素を有する銅アゾール(CBA)、クロム化ヒ酸銅(CCA)、及び同様の化学物質)を使用する「化学含浸」に基づく技術のカテゴリーがある。環境に優しい技術として知られる他の技術でも、例えば、アセチル化及びフルフリル化された木材の複雑/高価な製造と、熱処理された木材における機械的特性の低下という欠点を有する。
【0005】
地殻中で20番目に豊富な元素であるジルコニウムは、周期表のIVB族に属する。ジルコニウムは、好ましい酸化状態4を示し、これらの条件下での酸化還元化学は未知である。ジルコニウムは、高い電荷半径比(charge to radius ratio)を有し、水に溶解すると加水分解してポリマー種を形成し、そこでジルコニウム原子がヒドロキシル基によって結合し架橋される。これらのポリマー種の更なる加水分解重合は、エージング、加熱、又は酸性度の低下によって起こることができ、帯電した性質又は中性の性質を有するポリマーを形成する。
【0006】
水溶液中のジルコニウムのポリマー種は、有機ポリマーの様々な官能基と化学的及び物理的に作用することができる。水性ジルコニウム種の反応は、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及びアミン基で知られている。ジルコニウムと有機ポリマーの官能基との反応は、温度、pH、及びキレート剤を変えることによって有意に制御することができる。使用量、物理的パラメータ、並びに有機ポリマー中の官能性の程度及び種類に基づくジルコニウムポリマー種は、架橋結合を誘導し、処理物及び表面の接着性を向上させ、熱、スクラブ、水/溶媒に対する耐性を高めることができる。
【0007】
ジルコニウム塩は、木材製品の微生物分解を防止するための薬剤として以前から提案されてきた(米国特許出願公開第2011/250359号、国際公開第98/45053号、英国特許第809766号、米国特許第3547688号、及び米国特許第5612094号を参照)。しかし、これらの開示のいずれも、木材の他の重要な特性を向上させるためにジルコニウム塩をさらに使用することができる方法を説明していない。
【0008】
米国特許第5612094号は、1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物と木材とを接触させ、木材を乾燥させる方法を記載している。前記文献は低温での乾燥を記載していることに留意することが重要である。高温で乾燥することにより機械的特性が悪化し、色特性が損なわれることが知られているため、低温で木材を乾燥することが業界内では一般的である。
【0009】
したがって、木材の機械的特性を損なうことなく、生物学的劣化に対する高い耐性が得られる木材の改質方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生物学的劣化に対する保護持続時間が長く、漏出がごくわずかである、ジルコニウム組成物を用いた木材保護を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、木材の機械的特性を向上させる、ジルコニウム組成物を用いた木材保護を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、また、処理された木材の疎水性を高め、含水率を減少させ、それによって木材の寸法安定性に寄与する、ジルコニウム組成物を用いた木材保護を提供することでもある。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、木材の変色を防ぎ、従来のコーティング材料との適合性を維持する、ジルコニウム組成物を用いた木材保護を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
1つの一般的な態様では、本発明は、1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物と木材とを接触させる工程、及び前記木材を100~220℃、より好ましくは115~200℃、最も好ましくは135~185℃の温度で熱処理する工程を含む、木材製品を調製する方法に関する。
【0015】
驚くべきことに、1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物で処理された木材を高温で乾燥させることで、生分解に対する耐性が向上した木材が得られ、かつ、木材の機械的特性が向上することが見出された。理論に束縛されるものではないが、高温により、ジルコニウム塩と木材のヒドロキシル基及びカルボキシル基との間の効果的な化学結合が可能になると考えられる。これにより、前記分解メカニズムを抑えることでヘミセルロース及び非晶質セルロースの分解に起因する熱処理された木材の強度損失が、低減又は排除される。
【0016】
ジルコニウム塩は、塩中のジルコニウムのプロトン化対イオン(protonated counter ion)が熱処理工程の温度よりも低い沸点を有するように選択されることが好ましい。
【0017】
水に可溶な様々なアニオン性対イオンを有するジルコニウム塩の例としては、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、臭化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、ヒドロキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム二過塩素酸八水和物(Zirconium Oxide Diperchlorate Octahydrate)、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム四水和物、塩化ジルコニル、酢酸ジルコニウム水酸化物、オルト硫酸ジルコニウム、及びスルファミン酸ジルコニウム(Zirconium sulphamate)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本発明の方法の1つの態様では、前記組成物は、1種又は複数のジルコニウム塩からのジルコニウムイオンを0.01~30%(w/w)、好ましくは0.1~15%(w/w)、及びより好ましくは0.2~6%(w/w)含み、好ましくは前記ジルコニウム塩が酢酸ジルコニウムである。
【0019】
本発明の方法の1つの態様では、前記組成物は、pH値が2~13であり、好ましくは2~11であり、より好ましくは2~9である。
【0020】
本発明の方法の1つの態様では、前記接触工程は、浸漬、含浸、パディング、フォラーディング(foularding)、ディッピング、噴霧、ブラッシング、コーティング、ローリング、フォーム塗布によって行われ、好ましくは真空圧力含浸によって行われる。
【0021】
1つの態様では、本方法は、木材を熱処理(つまり、キュアリング:curing)する前に、木材を20%未満の含水率まで乾燥させる工程を含む。
【0022】
1つの態様では、本方法は、水性組成物と接触させる前に、木材製品を40%未満の含水率まで乾燥させる前処理工程を含む。
【0023】
1つの態様では、本方法は、水性組成物と接触させる前に、木材製品を5~250℃の温度に加熱する前処理工程を含む。
【0024】
1つの態様では、本方法は、木材に接触させる前に、水性組成物を100℃未満に加熱することを含む。
【0025】
1つの態様では、本方法は、接触工程の前に、木材製品と水性組成物の両方を加熱することを含む。
【0026】
別の一般的な態様では、本発明は、前述の方法のいずれかに従って処理された木材製品に関する。
【0027】
好ましくは、本発明の方法で処理された木材製品は、ジルコニウム原子と、処理された木材中のヘミセルロース、セルロース、又はリグニンのヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択される親水性官能基との間の化学結合を有する。
【0028】
本発明の木材製品は、1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物と未接触である同じ加熱木材製品と比較して、低い結晶化度(CrI)を好ましくは有する。結晶化度Cribは、結晶セルロースを表す86~92ppmの範囲における化学シフトからのピーク面積X、非晶質セルロースを表す79~96ppmの範囲における化学シフトからのピーク面積Yを有する13C CPMAS NMRスペクトルから算出し、CrIは式(X/X+Y)*100により算出する。
【0029】
本発明の木材製品は、一般に、熱、腐敗、菌類、カビ、細菌、虫、及び風化に対する向上した耐性を有する。
【0030】
1つの実施形態では、木材製品がマツ辺材(pine sapwood)の木材から本発明の方法により調製される場合、そのCrIは、同じ温度で熱処理されたが水性組成物と接触しなかったマツ辺材の木材のCrIよりも低い。
【0031】
本発明の木材製品において、ジルコニウム塩は、含浸されたジルコニウム塩と、木材の細胞壁内の化学成分及び/又はセルロース自体との間に化学的/物理的結合を形成し、これにより、処理された木材を、腐敗、風化、水分寸法変化、及びカビ/白カビ(mildew)の攻撃などの微生物学的及び生物環境的な要因、並びに同様の分解現象に対して保護されたものにすることに繋がる。
【0032】
本発明の方法及び製品で使用される水性組成物は、一般に、1種又は複数のジルコニウム塩と、水と、任意に、消泡剤、保存剤、レオロジー改質剤、湿潤剤、及びUV安定剤の少なくとも1つとを含み、本発明の液体組成物の成分は、任意の割合で前述の化学物質を有していてもよい。(腐敗、菌類、及び虫に対する保護のための)水性組成物の最も重要な特徴の1つは、それが木材中に留まり、前述の任意の添加剤によって支持され浸出が防止されることである。
【0033】
ジルコニウム塩については、本発明は、pH値が2~13、好ましくは2~11、及びより好ましくは2~9である、水溶性ジルコニウム塩の環境に優しい含浸液配合物に関し、ここで、ジルコニウム塩からのジルコニウムイオンの重量百分率が0.01~30%(w/w)、好ましくは0.1~15%(w/w)、及びより好ましくは0.2~6%(w/w)の範囲である。
【0034】
本発明によれば、湿潤剤は、任意の界面活性剤、増粘剤、又は安定剤を指すことができる。界面活性剤は、イオン性又は非イオン性であり得る。界面活性剤は、1~41のHLB値を有する非イオン乳化剤として定義され、木材において湿潤性を有する界面活性剤の種類から選択することができる。1つの実施形態では、乳化剤は、酸化ジルコニウム機能の反応性及び熱処理後の木材の疎水性に影響を与えない。本発明の好ましい実施形態では、湿潤剤は、7w/w%未満、好ましくは0.01~4w/w%、より好ましくは0.1~3w/w%の量で使用される。湿潤剤の例としては、BASF社からのLutensol TO5、BASF社からのLutensol TO7、CRODA社からのBrij S10、及び同様のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明で使用される組成物中の消泡剤は、製造及び塗布中の発泡を少なくする。好適な消泡剤の例としては、EO/PO型消泡剤、シリコーン、リン酸トリブチル、フタル酸アルキル、エマルジョン型消泡剤、脂肪酸系消泡剤などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、Dispelair CF 56(Oy Chemec Ab社)が使用される。
【0036】
本発明の染料及び顔料は、原木材の色とは異なる色を誘発するために使用される任意の染料及び顔料を指す。染料及び顔料は、有機物又は無機物であり得る。本発明の好ましい実施形態では、染料及び顔料は、7w/w%未満、又は0.01~4w/w%、最も好ましくは0.1~3w/w%の量で使用される。
【0037】
レオロジー改質剤は、レオロジープロファイルを変化させ、特定の種類の塗布方法に適合させるために使用することができる。様々な種類のレオロジー改質剤としては、例えば、ヒュームド疎水性シリカナノ粒子(Wacker HDK H30RM)及び親水性シリカナノ粒子(Wacker HDK V15)(Wacker chemie AG社)、デンプン及びその誘導体、又はカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体がある。本発明の水性組成物中のレオロジー改質剤の好適な濃度は、例えば、0.5%~5%(w/w)であってもよい。
【0038】
本発明で使用される組成物において、UV安定剤は、UV放射を吸収/散乱し、木材のUV分解(光酸化)を低減する任意の分子を指すことができる。UV安定剤は、有機物又は無機物であり得る。本発明の好ましい実施形態では、UV安定剤は、7w/w%未満、又は0.01~4w/w%、最も好ましくは0.1~3w/w%の量で使用される。
【0039】
本発明で使用される水性組成物は、安定な配合物であり、好ましくは、室温以下又は0~65℃の範囲の温度で1ヶ月超の貯蔵寿命を有する。
【0040】
本発明の方法では、ブラッシング及び噴霧、ディッピング、浸漬、拡散法、Boucherie法(sap置換)、温冷浴(Richardson 1978, Tsoumis 1991, Walker 2006を参照)を含む非圧力含浸法を用いて、水性組成物を木材に塗布することができる。あるいは、真空と圧力とを組み合わせた含浸法、ベセル法(フルセル(full-cell))、真空法(フルセル)、Rueping法(空セル(empty-cell))、ダブルRueping法(空セル)、ローリー法(空セル)、振動圧力法、カスケード法、Nordheim法、Cellon又はDrilon法、圧力-ストローク法、Boulton法、Poulain法など(Ille 1959, Richardson 1978, Tsoumis 1991, Walker 2006を参照)を含む圧力含浸法を用いて、水性組成物を木材に塗布する。含浸の最も好ましい方法は、真空/圧力含浸法である。時間、温度、及び圧力は、本質的に十分な含浸に達するまで、木材の種類に応じて調節される。
【0041】
本発明で使用される木材は、スプルース(spruce)、マツ、バーチ、オーク、レッドウッド、シダー、又は合板、繊維ボード、パーティクルボードなどの複合材料、又は板紙、段ボール、石膏グレードの板紙、特殊紙若しくは成形パルプ製品などのパルプ系材料から選択することができる。
【0042】
木材は、乾燥工程の後、木材処理工程において熱処理(キュアリング)工程に入る前に、20%未満以下の含水率を有することが好ましい。乾燥工程は、室温以下で、又は15~135℃、特に25~105℃の高温で行われる。
【0043】
本発明の乾燥方法は、マイクロ波、IR、パルス、誘導、空気乾燥、キルン乾燥(Kiln-drying)、除湿、真空乾燥、ソーラーキルン、水乾燥(Water seasoning)、沸騰又は蒸気乾燥、化学又は塩乾燥、電気乾燥、及び同様の方法などの任意の乾燥技術を用いて行うことができる。前記方法は、本質的に乾燥するまで、好ましくは20%未満の含水率まで、真空、不活性雰囲気、蒸気、又は大気雰囲気の非存在下又は存在下で行うことができる。
【0044】
本発明の方法による熱処理(キュアリング)は、様々な大気条件下で、ウエストウッド法、サーモウッド法、Plato法(Ruyter 1989; Boonstra, Tjeerdsma and Groeneveld 1998)、Retification法(Vernois 2000)、Les Bois法、熱真空法(Vacwood)、マイクロ波、IR、パルス、誘導、空気乾燥、キルン乾燥、及び同様の方法などの任意の加熱技術を用いて行うことができる。使用することができる大気条件の非限定的な例は、窒素雰囲気、蒸気及び大気雰囲気又は還元された大気雰囲気などの不活性雰囲気である。熱処理は、様々なプログラムサイクル、加熱速度、及び加熱時間の下で行うことができる。好ましくは、キュアリング/熱処理工程は1~72時間行われる。熱処理全体は2段階を含んでいてもよい。第1段階では乾燥が行われ、第2段階ではキュアリングが行われる。乾燥温度、時間プログラム、及び方法は、木材の含水率が20%以下に達することを目的として、異なって選択することができる。そして、本発明のマイルドなキュアリング工程は、100~220℃、より好ましくは115~200℃、最も好ましくは135~185℃に調整することができる。
【0045】
ここで、例として、添付の図面を参照して、本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1は、不溶性の反応生成物を生成する、キュアリング条件下での、酢酸ジルコニウム(水溶性)と木材ヘミセルロース(水溶性)とのモデル反応を示す。
【
図3】
図3は、本発明の木材を水中に浸すことにより、木材の高い疎水性及び低い含水率を示す。
【
図4】
図4は、本発明で処理した木材製品又は処理していない木材製品の13C CPMAS NMRスペクトルを示す。
【
図5】
図5は、本発明で処理した木材製品又は処理していない木材製品の13C CPMAS NMRスペクトルを示す。
【
図6】
図6は、本発明で処理した木材製品又は処理していない木材製品の結晶化度を示す。
【
図7】
図7は、含浸した木材及び含浸していない木材の重量損失を示す。
【
図8】
図8は、含浸した木材及び含浸していない木材の含水率及び質量損失を比較する図である。
【
図9】
図9は、含浸した木材及び含浸していない木材の含水率及び質量損失を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
含浸液体(腐朽菌及び虫に対する保護)の最も重要な特徴の1つは、自然/加速風化条件下で、木材中に留まることであり、かつ、浸出が防止され、最小に抑えられることである。これは、処理された木材の耐用寿命を延ばすために非常に重要な特徴である。本発明者らは、ジルコニウム塩に木材のヒドロキシル基及びカルボキシル基と物理的及び化学的な結合を形成させるためには、含浸した木材の熱処理(キュアリング)が必要であることを見出した。ジルコニウム塩と木材との反応を解明するために、酢酸ジルコニウム(水溶性)を抽出した木材ヘミセルロース(水溶性)と1:1のモル比(単糖:Zr)で反応させた後、135℃でキュアリングする、モデル反応(
図1)を考案した。その結果、酢酸ジルコニウムとヘミセルロースの反応性基(ヒドロキシル基、カルボキシル基、及び同様のもの)との化学反応により、もはや水溶性ではない生成物を生じた。このことから、構造間に架橋があったことが明らかになった。したがって、酢酸ジルコニウムを含浸し熱処理した木材において、木材の化学成分(セルロース、ヘミセルロース、及びリグニン)中の反応性基がジルコニウム塩と反応し、同じ現象が起こると予想できる。
【0048】
<本発明による組成物調製1~2の一般的な手順>
【0049】
方法1
工程a)任意の添加順で、ジルコニウム塩組成物と水とを混合し、
工程b)変形剤(deformer)、湿潤剤、及び他の任意成分を工程aで得られた混合物に添加し、ここで、工程a~bで得られた混合物を任意に混合し、及び/又は任意に均質化する。
【0050】
方法2
工程a)変形剤、湿潤剤、及び他の任意成分を水に混合し、
工程b)工程aで得られた混合物にジルコニウム塩を添加し、ここで、工程a~bで得られた混合物を任意に混合し、及び/又は任意に均質化する。
【0051】
水性組成物を調製するための装置は、本発明の均質組成物を製造するために低せん断力及び/又は高せん断力を使用する任意の種類の実験用又は工業用装置である。これは、磁気撹拌機、プロペラ又は分散機などを備えたオーバーヘッド撹拌機、高圧又は非高圧のホモジナイザー、インラインホモジナイザー又は外部ホモジナイザー、押出機、振動装置、乳鉢及び乳棒、ブレンダー型装置、任意の種類のミキサー(スタティックミキサー、マイクロミキサー、ボルテックスミキサー、工業用ミキサー、リボンブレンダー、Vブレンダー、連続プロセッサー、コーンスクリューブレンダー、スクリューブレンダー、ダブルコーンブレンダー、ダブルプラネタリー、高粘度ミキサー、逆回転、ダブル及びトリプルシャフト、真空ミキサー、高せん断ローターステーター、分散ミキサー、パドル、ジェットミキサー、モバイルミキサー、ドラムミキサー、インターミックスミキサー、プラネタリーミキサー、バンベリーミキサー(Banbury mixer)など)、フレンチプレス、粉砕機、ミル(ビーズミル、コロイドミル、ハンマーミル、ボールミル、ロッドミル、自生粉砕ミル、半自生粉砕、ペブルミル、高圧粉砕ロール、ケイ石ミル(buhrstone mill)、垂直シャフトインパクターミル、タワーミルなどによる粉砕)、超音波処理、ロータ-ステーター機械装置、任意の種類のプロペラ又はミキサー、高温及び/又は高圧ビチューメン乳化装置(bitumen emulsifiers)、又は上記の組み合わせであり得る。
【0052】
以下の表1は、本明細書の以下の項で本発明を示す実施例をまとめたものである。
【0053】
【0054】
キュアリング条件下におけるジルコニウム塩との反応に起因する木材の記載された構造変化は、木材の特性にいくつかの影響を及ぼす。これらを以下の実施例において例示する。
【0055】
実施例1
木材中の親水性官能基とのジルコニウム塩の反応による木材の親水性の低下
【0056】
図1に示されているように、水溶性成分ヘミセルロースと酢酸ジルコニウムとを混合し、135℃でキュアリングすることにより、混濁/不透明分散物(水溶性ではない)を生成した。この特性は、酢酸ジルコニウムとヘミセルロースの親水性官能基(ヒドロキシル、カルボン酸、及び同様のもの)との化学結合及び単糖系分子の架橋に起因し得る。
【0057】
実施例2
図2には、木材の高い疎水性及び低い水分収着を示す。
図2に示されているように、改質物の疎水性により、酢酸ジルコニウムで含浸し、185℃で熱処理した木材は、元の/未処理の参照木材と比較して、同じ相対湿度で低い平衡含水率を示す。
【0058】
実施例3
図3は、水中に浸すことにより、木材の高い疎水性及び低い含水率を示す。酢酸ジルコニウムで含浸し、185℃で熱処理した木材中の吸収された水の量は、未処理の木材及び熱処理のみの木材に比べてはるかに少ない。
【0059】
実施例4
一般に、木材を熱処理する場合には、熱処理工程中の木材で生じる分解量に関係し得る木材の変色が起こる。熱処理に起因する木材の変色についての評価は、未含浸の木材及びジルコニウム塩を含浸した木材を使用して行った。ジルコニウム塩含浸木材では、熱処理の前後での変色は基本的になかった。より多くのジルコニウム塩が存在することで、所定の温度における熱処理中の変色に対して木材を保護できることも証明された。3%及び10%の酢酸ジルコニウムで含浸し、185℃で熱処理した木材を、官能パネル評価に供した。官能パネルは、木材製品を比較し、変色を評価するように訓練された個人を利用した。褐色は、褐色を示さない0から非常に暗い褐色を示す5までのスケールでランク付けした。未処理の木材は、0にランク付けされる。含浸せずに熱処理した木材は、3にランク付けされる。以下の表1に示された結果により、10%酢酸ジルコニウム溶液で含浸した木材は、185℃での熱処理の間、変色が少なく、したがって、木材の分解が少ないことが明らかである。熱処理工程中の木材におけるジルコニウム塩の存在は、熱分解に対してある程度の保護的な役割を有することが明らかである。以下の表2は、熱処理した木材の変色評価を示す。
【0060】
【0061】
実施例5
本発明をさらに評価するために、固体400MHz NMR分光計を用いて、1次元((1D)
1H→
13C CPMASスペクトルを記録した。固体NMR記録のために、未処理木材、熱処理木材、並びにジルコニウム塩含浸及び熱処理木材の全ての試料の微粉末を調製した。
図4は、
13C CPMAS NMRスペクトル及びスコットマツ材のシグナル帰属を示し、Crは結晶質、amは非晶質、及びhはヘミセルロースを意味する。
【0062】
図5には、マツ辺材、「マツ辺材+185℃熱処理」、及び「3%酢酸ジルコニウムで含浸したマツ辺材+熱処理185℃」の記録した
13C CPMAS NMRスペクトルを示す。まず、木材化学成分の同定を定性的に行った。木材試料の
13C CPMAS NMRスペクトルは、セルロースに帰属するシグナルが支配である。木材マトリクス中のヘミセルロースのさらなる研究は、ヘミセルロース及びセルロースに帰属するシグナルの重なりが著しいためより複雑であるが、リグニンのシグナルは、(異なる化学的性質のために)ほとんど干渉がない。
【0063】
木材の熱処理中、キシラン中のアセチルエステルの加水分解から酢酸が生成する。ヘミセルロースは、オリゴマー単位及びモノマー単位に解重合され、さらに酸性条件下でアルデヒドに脱水され、ヒドロキシル基が少なく、吸湿性の低い木材が得られる。セルロースの解重合に対する熱処理の影響は、やや限定的であり、代わりにセルロースの結晶化度がわずかに増加する。リグニンは、最も活性の低い成分であり、高温でのみ切断することができフェノール基を形成する。したがって、一般に熱処理した木材の強度損失と同様に木材特性の変化は、主として、酸性の自己触媒的反応を介するヘミセルロースの熱分解に起因する結果であると考えられる。
【0064】
異なる処理間の比較分解研究を行うために、結晶化度(CrI)として決定されるセルロースの結晶化度を、結晶セルロース(86~92ppm)C-4シグナルの面積X及び非晶質セルロース(79~86ppm)C-4シグナルの面積Yから解析(deconvolution)することによって算出した(Wikberg, Hanne. 2004. Advanced Solid State NMR Spectroscopic Techniques. PhD thesis, Helsinki, Finland: University of Helsinki)。
【0065】
【0066】
非晶質領域のより多くの分解は、試料のより高い結晶化度CrIに関連付けられる(表2及び
図6)。定量的
13C固体NMRは、酢酸ジルコニウムで含浸し、185℃で熱処理したマツ辺材のセルロース結晶化度(「結晶セルロース」の「結晶質+非晶質」セルロースに対するピーク積分の比)が、185℃で熱処理したマツ辺材よりも低いことを示す。これは、酢酸ジルコニウムで木材を含浸した場合には、ヘミセルロース及び非晶質セルロースの分解が少ないことを意味する。
【0067】
定量的13C固体NMRは、酢酸ジルコニウムで含浸し、185℃で熱処理したマツ辺材のセルロース結晶化度(「結晶セルロース」の「結晶質+非晶質」セルロースに対するピーク積分の比)が、185℃で熱処理したマツ辺材よりも低いことを示す。これは、酢酸ジルコニウムで木材を含浸した場合には、ヘミセルロース及び非晶質セルロースの分解が少ないことを意味する。
【0068】
実施例6
バイオポリマーが低分子/揮発性分子へ熱分解された結果としての熱処理中の木材の重量損失は、分解度を示す別のサインである。木材試料の重量分析及び熱処理工程中の放出された低分子量揮発性分子の量は、熱処理前及び185℃での熱処理の後に乾燥木材を秤量することで評価した。その結果は、酢酸ジルコニウムジルコニウムを3%含浸した木材において、制御された分解及び約2%の質量損失を示し、未含浸木材とほぼ同様である。
【0069】
木材構造の低分子への分解がより少ないことの別の証拠として、浸出試験(EN84)後の浸出した物質の量を測定した。熱処理(185℃)したジルコニウム含浸木材は、熱処理(185℃)したが含浸していない木材よりも、浸出が少ないと結論づけることができる(
図7参照)。
【0070】
実施例7
下記の表3は、水接触角の向上を示す。示されているように、水を使用する場合には、Zr塩で含浸し熱処理した木材において、熱処理のみの木材と比較して、より高い接触角(CA)を測定することができた。
【0071】
【0072】
実施例8
以下の表4は、水に4日間浸したマツ辺材の寸法拡大を示す。ジルコニウム含浸熱処理木材の化学的変化及び導入された疎水性は、参照木材及び熱処理のみの木材と比較して、木材試料の寸法変化を低下させることができた。
【0073】
【0074】
実施例9
CEN TS 15083-2(SS-ENV 807:2009)に従って、軟腐保護を実施する。規格SS-ENV 807:2009を用いて実施した軟腐試験は、ジルコニウム含浸/熱処理木材の含水率が、原木材及び同じ温度での熱処理のみを行った木材と比較して、低いことを示した(
図8参照)。この低い含水率は、生物的な木材劣化及び生物学的劣化に起因する損傷をさらに低減することができる。原木材及び熱処理のみの木材と比較したジルコニウム含浸/熱処理木材の質量損失の低減は、木材の低い含水率及び少ない消化性食物源の両方に起因し得る、軟腐に対する熱処理ジルコニウム含浸木材の有効性を立証した。
図9を参照。
【0075】
実施例10
可溶性ジルコニウム塩の水溶液は、木材との不適合性が最小であり、含浸工程を非常に効率的にする。例えば、11バールにおける3%酢酸ジルコニウム溶液を用いた木材含浸は、わずか3時間で327kg/m3までの含浸水分吸収を生じ、これは、含浸した木材のほとんど全ての辺材部分がジルコニウム塩水溶液で飽和されたことを意味する(表5参照)。ジルコニウム溶液の深い浸透深さは、最終製品の深さ方向の保護及びより長い耐久性をもたらすことになる。この実験は、本発明の工業的な実行可能性を確認するものである。
【0076】
【0077】
実施例11
多数の含浸サイクルで使用した後のジルコニウム塩水溶液の状態を評価するために、エージングし再使用した(10回の含浸サイクル)液体を検査した。最小の化学的変化及び物理的変化が生じた(木材基質からジルコニウム溶液への浸出はないか又は最小であり、溶液は不安定ではなく、液体のpH変化はない)ことを観察により確認した。この観察された適合性は、生産効率をさらに高めることになる。
【0078】
実施例12
一般に、木材を熱処理した場合には、曲げ弾性率及び強さの損失が予想される。これは、上述したように、木材の変色、質量損失、及びリーチング特性によって明らかである木材での分解にも関連する。本発明から得られる利点をさらに強調するために、未処理マツ辺材(原材)、135℃で熱処理したマツ辺材、及び5%酢酸ジルコニウム含浸+熱処理(135℃)マツ辺材について、3点曲げ試験を行った。予想されるように、機械的特性(曲げ弾性率及び曲げ強さの両方)は、熱処理した木材では低下した。一方で、ジルコニウムを含浸し熱処理した木材については、未処理の木材又は熱処理した木材と比較して、木材は機械的特性を維持するか、又は向上すると結論づけられた(
図10参照)。
【0079】
実施例13
本発明に従って処理した試料をEN84/EN113に供し、SS-EN 350-1に従って分類すると、白色腐敗(カワラタケ(Coriolus versicolor))及び褐色腐敗(イドタケ(Coniophora puteana)及びキチリメンタケ(Gloeophyllum trabeum))の両方に対して良好な保護が確認できた(表6及び7参照)。10%酢酸ジルコニウム溶液で含浸した後、135℃で熱処理したマツ辺材は、自然耐久性クラス1(非常に耐久性がある)を示した。
【0080】
【0081】
【0082】
実施例14
他のコーティングによる塗装性及び更なる改質を評価した。本発明に従って熱処理したZr含浸木材は、一般に、市販のコーティング/塗料と非常に良好な適合性を示した。10%酢酸ジルコニウム粉末で含浸し、135℃で熱処理し、さらに市販のアルキド系塗料で1層及び2層塗装し、屋外で1年間エージングした木材は、依然として非常に良好な品質/特性を有する。
【0083】
実施例15
本発明は、木材でのカビ及び菌類染色(青色染色)保護について評価した。本発明の処理試料及び比較用木材試料を自然風化条件に1年間供したとき、処理しなかった比較用試料は表面及び木材の深部に集中的な菌類の成長が見られたが、10%酢酸ジルコニウム含浸+135℃熱処理木材試料ははるかに少ない攻撃を受けたことが確認できた。
【0084】
このように一般的に記載し例示した本発明は、以下の利点を有する。本発明は環境に優しいものであり、つまり、ハロゲンを含まず、ホウ酸化合物を含まず、リンを含まず、重金属を含まず、殺虫剤を含まず、かつ、殺生物剤を含まない。化学物質は、毒性がなく、健康上の危険性がなく、かつ、環境ハザードピクトグラムのないものを使用する。有機溶媒は使用せず、水のみを使用する。本発明は、腐敗に対する保護、及び老朽/白カビ(mildew)からの保護を与えるものである(木材は、屋外の気候にさらされた場合に、表面及び深部がそれ程早く灰色にならない)。さらに、本発明は、疎水性(寸法安定性の増加、少ない収縮及び膨潤、少ないクラック)を提供し、疎水性であるものの、依然として塗装可能であり、水性コーティングと適合性がある。さらに、本発明の木材製品は、活性成分の漏出が最小限であり、熱処理中の分解が少なく、かつ、制御され、機械的特性が向上している。最後に、工業的に利用可能な化学物質のみが使用され、組成物調製のリスクが最も低い方法が、効率的な木材の含浸/処理及び製造サイクル中での組成物の高い耐久性/リサイクルとともに、採用される。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物と木材とを接触させること、及び
b)前記木材を100~220
℃の温度で熱処理すること
を含む、木材製品を調製する方法。
【請求項2】
木材を115~200℃の温度で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
木材を135~185℃の温度で加熱することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が、1種又は複数のジルコニウム塩からのジルコニウムイオンを0.01~30%(w/w)
含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ジルコニウム塩が、酢酸ジルコニウムである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物が、1種又は複数のジルコニウム塩からのジルコニウムイオンを0.1~15%(w/w)含む、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記組成物が、1種又は複数のジルコニウム塩からのジルコニウムイオンを0.2~6%(w/w)含む、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、70~99.99%(w/w)の
水を含む、請求項1
から請求項7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組成物が、湿潤剤、消泡剤、保存剤又は殺生物剤、染料、顔料、レオロジー改質剤、及びUV安定剤の少なくとも1つをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物のpH値が、2~1
3である、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物のpH値が、2~9である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記接触工程が、浸漬、含浸、パディング、フォラーディング(foularding)、ディッピング、噴霧、ブラッシング、コーティング、ローリング、フォーム塗布によって行わ
れる、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
前記接触工程が、真空圧力含浸によって行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記木材を熱処理する前に、前記木材を20%未満の含水率まで乾燥させる工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項15】
前記水性組成物と接触させる前に、前記木材製品を40%未満の含水率まで乾燥させる前処理工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項16】
前記水性組成物と接触させる前に、前記木材製品を5~250℃の温度に加熱する前処理工程を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項17】
前記木材に接触させる前に、前記水性組成物を100℃未満に加熱することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項18】
前記木材製品と前記水性組成物の両方を加熱することを含む、請求項
16及び請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から請求項
18のいずれか一項に記載の方法により調製された木材製品。
【請求項20】
ジルコニウム原子と、処理された木材中のヘミセルロース、セルロース、又はリグニンのヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択される親水性官能基との間の化学結合を含む、請求項
19に記載の木材製品。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0084】
このように一般的に記載し例示した本発明は、以下の利点を有する。本発明は環境に優しいものであり、つまり、ハロゲンを含まず、ホウ酸化合物を含まず、リンを含まず、重金属を含まず、殺虫剤を含まず、かつ、殺生物剤を含まない。化学物質は、毒性がなく、健康上の危険性がなく、かつ、環境ハザードピクトグラムのないものを使用する。有機溶媒は使用せず、水のみを使用する。本発明は、腐敗に対する保護、及び老朽/白カビ(mildew)からの保護を与えるものである(木材は、屋外の気候にさらされた場合に、表面及び深部がそれ程早く灰色にならない)。さらに、本発明は、疎水性(寸法安定性の増加、少ない収縮及び膨潤、少ないクラック)を提供し、疎水性であるものの、依然として塗装可能であり、水性コーティングと適合性がある。さらに、本発明の木材製品は、活性成分の漏出が最小限であり、熱処理中の分解が少なく、かつ、制御され、機械的特性が向上している。最後に、工業的に利用可能な化学物質のみが使用され、組成物調製のリスクが最も低い方法が、効率的な木材の含浸/処理及び製造サイクル中での組成物の高い耐久性/リサイクルとともに、採用される。
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
a)1種又は複数のジルコニウム塩を含む水性組成物と木材とを接触させること、及び
b)前記木材を100~220℃、より好ましくは115~200℃、最も好ましくは135~185℃の温度で熱処理すること
を含む、木材製品を調製する方法。
<2>
前記組成物が、1種又は複数のジルコニウム塩からのジルコニウムイオンを0.01~30%(w/w)、好ましくは0.1~15%(w/w)、及びより好ましくは0.2~6%(w/w)含み、好ましくは前記ジルコニウム塩が酢酸ジルコニウムである、<1>に記載の方法。
<3>
前記組成物が、70~99.99%(w/w)の水と、任意に、湿潤剤、消泡剤、保存剤又は殺生物剤、染料、顔料、レオロジー改質剤、及びUV安定剤の少なくとも1つとを含む、<1>又は<2>に記載の方法。
<4>
前記組成物のpH値が、2~13、好ましくは2~11、及びより好ましくは2~9である、<1>から<3>のいずれか一項に記載の方法。
<5>
前記接触工程が、浸漬、含浸、パディング、フォラーディング(foularding)、ディッピング、噴霧、ブラッシング、コーティング、ローリング、フォーム塗布によって行われ、好ましくは真空圧力含浸によって行われる、<1>から<4>のいずれか一項に記載の方法。
<6>
前記木材を熱処理する前に、前記木材を20%未満の含水率まで乾燥させる工程を含む、<1>から<5>のいずれか一項に記載の方法。
<7>
前記水性組成物と接触させる前に、前記木材製品を40%未満の含水率まで乾燥させる前処理工程を含む、<1>から<6>のいずれか一項に記載の方法。
<8>
前記水性組成物と接触させる前に、前記木材製品を5~250℃の温度に加熱する前処理工程を含む、<1>から<7>のいずれか一項に記載の方法。
<9>
前記木材に接触させる前に、前記水性組成物を100℃未満に加熱することを含む、<1>から<8>のいずれか一項に記載の方法。
<10>
前記木材製品と前記水性組成物の両方を加熱することを含む、<8>及び<9>に記載の方法。
<11>
<1>から<10>のいずれか一項に記載の方法により調製された木材製品。
<12>
ジルコニウム原子と、処理された木材中のヘミセルロース、セルロース、又はリグニンのヒドロキシル基及びカルボキシル基から選択される親水性官能基との間の化学結合を含む、<11>に記載の木材製品。
【国際調査報告】