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特表2023-506049加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230207BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20230207BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230207BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/06
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536581
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(85)【翻訳文提出日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 KR2020016559
(87)【国際公開番号】W WO2021125589
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0169613
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
(72)【発明者】
【氏名】イ、 テ-オ
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA07
4K037EA09
4K037EA10
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA26
4K037EA27
4K037EA28
4K037EA31
4K037EA32
4K037EA33
4K037EA35
4K037EA36
4K037EB05
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037EB12
4K037FA01
4K037FA02
4K037FA03
4K037FC03
4K037FC04
4K037FD03
4K037FD04
4K037FE01
4K037FE02
4K037FE06
4K037FF02
4K037FF03
4K037FG01
4K037FH00
4K037FJ00
4K037FK02
4K037FK03
4K037FK08
4K037FL02
4K037FL03
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明は、自動車部品などに用いることができる鋼板に関するものであり、強度と延性のバランス及び強度と穴拡げ性のバランスに優れ、曲げ加工性に優れた鋼板とこれを製造する方法に関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含み、
軟質組織であるフェライトと硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトを微細組織として含み、
下記の[関係式1]、[関係式2]及び[関係式3]を満たす、加工性に優れた高強度鋼板。
[関係式1]
0.4≦[H]/[H]TM+B+γ≦0.9
前記関係式1において、[H]及び[H]TM+B+γは、ナノインデンターを用いて測定したナノ硬度値であり、[H]は、軟質組織であるフェライトの平均ナノ硬度値(Hv)であり、[H]TM+B+γは、硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトの平均ナノ硬度値(Hv)である。
[関係式2]
V(1.2μm、γ)/V(γ)≧0.1
前記関係式2において、V(1.2μm、γ)は、平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は、鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
[関係式3]
V(lath、γ)/V(γ)≧0.5
前記関係式3において、V(lath、γ)は、ラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は、鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
【請求項2】
前記鋼板は、下記の(1)~(9)のいずれか1つ以上をさらに含む、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
【請求項3】
前記Si及びAlの合計含有量(Si+Al)は、1.0~6.0重量%である、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、体積分率で、30~70%のテンパードマルテンサイト、10~45%のベイナイト、10~40%の残留オーステナイト、3~20%のフェライト及び不可避な組織を含む、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、下記の[関係式4]で表される引張強度と延伸率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式5]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×10(MPa1/2)以上であり、下記の[関係式6]で表される曲げ加工率(B)が0.5~3.0である、請求項1に記載の加工性に優れた高強度鋼板。
[関係式4]
T・E=[引張強度(TS、MPa)]×[延伸率(El、%)]
[関係式5]
T・H=[引張強度(TS、MPa)]×[穴拡げ率(HER、%)]1/2
[関係式6]
=R/t
前記関係式6において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【請求項6】
重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む冷間圧延鋼板を提供する段階;
前記冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満の温度範囲で加熱(1次加熱)して、50秒以上維持(1次維持)する段階;
平均冷却速度1℃/s以上で、600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)する段階;
平均冷却速度2℃/s以上で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、この温度範囲で5秒以上維持(2次維持)する段階;
平均冷却速度2℃/s以上で、100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)する段階;
350~550℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、この温度範囲で10秒以上維持(3次維持)する段階;
250~450℃の温度範囲まで冷却(4次冷却)し、この温度範囲で10秒以上維持(4次維持)する段階;及び
常温まで冷却(5次冷却)する段階;を含む、加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記鋼スラブは、下記の(1)~(9)のいずれか1つ以上をさらに含む、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
【請求項8】
前記鋼スラブに含まれる前記Si及びAlの合計含有量(Si+Al)は、1.0~6.0重量%である、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記冷間圧延された鋼板の用意は、
鋼スラブを1000~1350℃に加熱する段階;
800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階;
300~600℃の温度範囲で前記熱間圧延された鋼板を巻取る段階;
前記巻き取られた鋼板を650~850℃の温度範囲で600~1700秒間熱延焼鈍によって熱処理する段階;及び
前記熱延焼鈍によって熱処理された鋼板を30~90%の圧下率で冷間圧延する段階;を含む、請求項6に記載の加工性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品などに用いることができる鋼板に関するものであって、高強度特性を備えながらも加工性に優れた鋼板とこれを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業は、地球環境を保護するために素材軽量化を図り、同時に搭乗者の安定性を確保することができる方案に注目している。このような安定性及び軽量化の要求に応えるために、高強度鋼板の適用が急激に増加している。一般的に鋼板の高強度化が行われるほど鋼板の加工性は低下するものと知られている。したがって、自動車部品用鋼板において、高強度特性を備えながらも、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性などに代表される加工性に優れた鋼板が求められている実情である。
【0003】
鋼板の加工性を改善する技術として、テンパードマルテンサイトを活用する方法が特許文献1及び2に開示されている。硬質のマルテンサイトをテンパリング(tempering)させて作ったテンパードマルテンサイトは軟質化されたマルテンサイトであるため、テンパードマルテンサイトは既存のテンパリングされていないマルテンサイト(フレッシュマルテンサイト)と強度の差が存在する。したがって、フレッシュマルテンサイトを抑制させてテンパードマルテンサイトを形成すると加工性が増加することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に開示された技術では、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%以上を満たせず、これは強度及び延性ともに優れた鋼板を確保しにくいことを意味する。
【0005】
一方、自動車部材用鋼板は、高強度でありながら加工性に優れた特性を全て得るために、残留オーステナイトの変態有機焼成を用いたTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼が開発された。特許文献3では、強度及び加工性に優れたTRIP鋼が開示されている。
【0006】
特許文献3では、多角形のフェライトと残留オーステナイト及びマルテンサイトを含んで、延性及び加工性を向上させようとしたが、ベイナイトを主相としているため、高い強度を確保できず、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)も22,000MPa%以上を満たせないことが分かる。
【0007】
すなわち、高い強度を有しながらも、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性などに代表される加工性に優れた鋼板に対する要求を満たしていない実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2006-0118602号公報
【特許文献2】特開2009-019258号公報
【特許文献3】韓国公開特許第10-2014-0012167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一側面によると、鋼板の組成及び微細組織を最適化して優れた延性、曲げ加工性及び穴拡げ性を有する高強度鋼板とこれを製造する方法を提供することができる。
【0010】
本発明の課題は、上述した事項に限定されない。本発明のさらなる課題は、明細書の全体内容に記載されており、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書に記載された内容から本発明のさらなる課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含み、軟質組織であるフェライトと硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトを微細組織として含み、下記の[関係式1]、[関係式2]及び[関係式3]を満たすことができる。
[関係式1]
0.4≦[H]/[H]TM+B+γ≦0.9
上記関係式1において、[H]及び[H]TM+B+γは、ナノインデンターを用いて測定したナノ硬度値であり、[H]は、軟質組織であるフェライトの平均ナノ硬度値(Hv)であり、[H]TM+B+γは、硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトの平均ナノ硬度値(Hv)である。
[関係式2]
V(1.2μm、γ)/V(γ)≧0.1
上記関係式2において、V(1.2μm、γ)は、平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は、鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
[関係式3]
V(lath、γ)/V(γ)≧0.5
上記関係式3において、V(lath、γ)は、ラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は、鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
【0012】
上記鋼板は、下記の(1)~(9)のいずれか1つ以上をさらに含んでもよい。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
【0013】
上記Si及びAlの合計含有量(Si+Al)は、1.0~6.0重量%であってもよい。
【0014】
上記鋼板は、体積分率で、30~70%のテンパードマルテンサイト、10~45%のベイナイト、10~40%の残留オーステナイト、3~20%のフェライト及び不可避な組織を含んでもよい。
【0015】
上記鋼板は、下記の[関係式4]で表される引張強度と延伸率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式5]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×10(MPa1/2)以上であり、下記の[関係式6]で表される曲げ加工率(B)が0.5~3.0の範囲を満たしてもよい。
[関係式4]
T・E=[引張強度(TS、MPa)]×[延伸率(El、%)]
[関係式5]
T・H=[引張強度(TS、MPa)]×[穴拡げ率(HER、%)]1/2
[関係式6]
=R/t
上記関係式6において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【0016】
本発明の他の一側面による加工性に優れた高強度鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りはFe及び不可避不純物を含む冷間圧延された鋼板を提供する段階;上記冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満の温度範囲に加熱(1次加熱)して、50秒以上維持(1次維持)する段階;平均冷却速度1℃/s以上で、600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)する段階;平均冷却速度2℃/s以上で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、この温度範囲で5秒以上維持(2次維持)する段階;平均冷却速度2℃/s以上で、100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)する段階;350~550℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、この温度範囲で10秒以上維持(3次維持)する段階;250~450℃の温度範囲まで冷却(4次冷却)し、この温度範囲で10秒以上維持(4次維持)する段階;及び常温まで冷却(5次冷却)する段階;を含むことができる。
【0017】
上記鋼スラブは、下記の(1)~(9)のいずれか1つ以上をさらに含んでもよい。
(1)Ti:0~0.5%、Nb:0~0.5%及びV:0~0.5%のうち1種以上
(2)Cr:0~3.0%及びMo:0~3.0%のうち1種以上
(3)Cu:0~4.5%及びNi:0~4.5%のうち1種以上
(4)B:0~0.005%
(5)Ca:0~0.05%、Yを除くREM:0~0.05%及びMg:0~0.05%のうち1種以上
(6)W:0~0.5%及びZr:0~0.5%のうち1種以上
(7)Sb:0~0.5%及びSn:0~0.5%のうち1種以上
(8)Y:0~0.2%及びHf:0~0.2%のうち1種以上
(9)Co:0~1.5%
【0018】
上記鋼スラブに含まれる上記Si及びAlの合計含有量(Si+Al)は、1.0~6.0重量%であってもよい。
【0019】
上記冷間圧延された鋼板の用意は、鋼スラブを1000~1350℃に加熱する段階;800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階;300~600℃の温度範囲で上記熱間圧延された鋼板を巻取る段階;上記巻き取られた鋼板を650~850℃の温度範囲で600~1700秒間熱延焼鈍によって熱処理する段階;及び上記熱延焼鈍によって熱処理された鋼板を30~90%の圧下率で冷間圧延する段階;を含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の好ましい一側面によると、強度に優れるだけでなく、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性などの加工性に優れ、自動車部品用に特に適した鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法に関するものであり、以下では、本発明の好ましい実施例を説明する。本発明の実施例は、様々な形に変形することができ、本発明の範囲が以下で説明される実施例に限定されるものと解釈されてはいけない。本実施例は、当該発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をさらに詳細に説明するために提供されるものである。
【0022】
本発明の発明者らは、ベイナイト、テンパードマルテンサイト、残留オーステナイト及びフェライトを含む変態有機焼成(Transformation Induced Plasticity、TRIP)鋼において、残留オーステナイトの安定化を図るとともに、残留オーステナイト及びフェライトに含まれる特定成分の割合を一定範囲に制御する場合、残留オーステナイトとフェライトの相間硬度差を減少させることで、鋼板の加工性及び強度の同時確保が可能であることを認知するようになった。これを究明し、高強度鋼の延性及び加工性を向上させることができる方法を考案し、本発明に至った。
【0023】
以下、本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板についてより詳細に説明する。
【0024】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含み、軟質組織であるフェライトと硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトを微細組織として含み、下記の[関係式1]、[関係式2]及び[関係式3]を満足することができる。
[関係式1]
0.4≦[H]F/[H]TM+B+γ≦0.9
上記関係式1において、[H]及び[H]TM+B+γは、ナノインデンターを用いて測定したナノ硬度値であり、[H]は、軟質組織であるフェライトの平均ナノ硬度値(Hv)であり、[H]TM+B+γは、硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトの平均ナノ硬度値(Hv)である。
[関係式2]
V(1.2μm、γ)/V(γ)≧0.1
上記関係式2において、V(1.2μm、γ)は、平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は、鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
[関係式3]
V(lath、γ)/V(γ)≧0.5
上記関係式3において、V(lath、γ)は、ラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(体積%)であり、V(γ)は、鋼板の残留オーステナイトの分率(体積%)である。
【0025】
以下、本発明の鋼組成についてより詳細に説明する。以下、特に断りのない限り、各元素の含有量を表す%は、重量を基準とする。
【0026】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、重量%で、C:0.25~0.75%、Si:4.0%以下、Mn:0.9~5.0%、Al:5.0%以下、P:0.15%以下、S:0.03%以下、N:0.03%以下、残りのFe及び不可避不純物を含む。また、加えてTi:0.5%以下(0%含む)、Nb:0.5%以下(0%含む)、V:0.5%以下(0%含む)、Cr:3.0%以下(0%含む)、Mo:3.0%以下(0%含む)、Cu:4.5%以下(0%含む)、Ni:4.5%以下(0%含む)、B:0.005%以下(0%含む)、Ca:0.05%以下(0%含む)、Yを除くREM:0.05%以下(0%含む)、Mg:0.05%以下(0%含む)、W:0.5%以下(0%含む)、Zr:0.5%以下(0%含む)、Sb:0.5%以下(0%含む)、Sn:0.5%以下(0%含む)、Y:0.2%以下(0%含む)、Hf:0.2%以下(0%含む)、Co:1.5%以下(0%含む)のうち1種以上をさらに含むことができる。なお、上記Si及びAlの合計含有量(Si+Al)は、1.0~6.0%であってもよい。
【0027】
炭素(C):0.25~0.75%
炭素(C)は、鋼板の強度確保に必須元素であるとともに、鋼板の延性向上に寄与する残留オーステナイトを安定化させる元素でもある。したがって、本発明は、この効果を達成するために、0.25%以上の炭素(C)を含むことができる。好ましい炭素(C)含有量は0.25%超過であってもよく、0.27%以上であってもよく、0.30%以上であってもよい。より好ましい炭素(C)含有量は、0.31%以上であってもよい。一方、炭素(C)含有量が一定レベルを超過する場合、過度の強度上昇に伴って冷却圧延が困難になることがある。したがって、本発明は、炭素(C)含有量の上限を0.75%に制限することができる。炭素(C)含有量は0.70%以下であってもよく、より好ましい炭素含有量(C)は0.67%以下であってもよい。
【0028】
シリコン(Si):4.0%以下(0%は除く)
シリコン(Si)は、固溶強化による強度向上に寄与する元素であり、フェライトを強化させ、組織を均一化させることで加工性を改善する元素でもある。また、シリコン(Si)は、セメンタイトの析出を抑制させて残留オーステナイトの生成に寄与する元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにシリコン(Si)を必須に添加することができる。好ましいシリコン(Si)含有量は0.02%以上であってもよく、より好ましいシリコン(Si)含有量は0.05%以上であってもよい。但し、シリコン(Si)含有量が一定レベルを超過する場合、めっき工程で未めっきのようにめっき欠陥問題を誘発するだけでなく、鋼板の溶接性を低下させるおそれがあるため、本発明はシリコン(Si)含有量の上限を4.0%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)含有量の上限は3.8%であってもよく、より好ましいシリコン(Si)含有量の上限は3.5%であってもよい。
【0029】
アルミニウム(Al):5.0%以下(0%は除く)
アルミニウム(Al)は、鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素である。また、アルミニウム(Al)は、シリコン(Si)と同様にセメンタイト析出を抑制させて、残留オーステナイトを安定化させる元素でもある。したがって、本発明は、このような効果を達成するために、アルミニウム(Al)を必須に添加することができる。好ましいアルミニウム(Al)含有量は0.05%以上であってもよく、より好ましいアルミニウム(Al)含有量は0.1%以上であってもよい。一方、アルミニウム(Al)が過多に添加される場合、鋼板の介在物が増加されるだけでなく、鋼板の加工性を低下させるおそれがあるため、本発明はアルミニウム(Al)含有量の上限を5.0%に制限することができる。好ましいアルミニウム(Al)含有量の上限は4.75%であってもよく、より好ましいアルミニウム(Al)含有量の上限は4.5%であってもよい。
【0030】
一方、シリコン(Si)とアルミニウム(Al)の合計含有量(Si+Al)は、1.0~6.0%であることが好ましい。シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)は、本発明において微細組織形成に影響を与え、延性、曲げ加工性及び穴拡げ性に影響を及ぼす成分であるため、シリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の合計含有量は1.0~6.0%であることが好ましい。より好ましいシリコン(Si)とアルミニウム(Al)の合計含有量(Si+Al)は、1.5%以上であってもよく、4.0%以下であってもよい。
【0031】
マンガン(Mn):0.9~5.0%
マンガン(Mn)は、強度及び延性を一緒に高めるために有用な元素である。したがって、本発明は、このような効果を達成するためにマンガン(Mn)含有量の下限を0.9%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含有量の下限は1.0%であってもよく、より好ましいマンガン(Mn)含有量の下限は1.1%であってもよい。一方、マンガン(Mn)が過多に添加される場合、ベイナイト変態時間が増加してオーステナイト中の炭素(C)濃化度が十分でなくなるため、目的とするオーステナイトの分率が確保できないという問題点が存在する。したがって、本発明は、マンガン(Mn)含有量の上限を5.0%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は4.7%であってもよく、より好ましいマンガン(Mn)含有量の上限は4.5%であってもよい。
【0032】
リン(P):0.15%以下(0%含む)
リン(P)は、不純物として含有されて衝撃靭性を劣化させる元素である。したがって、リン(P)の含有量は0.15%以下に管理することが好ましい。
【0033】
硫黄(S):0.03%以下(0%含む)
硫黄(S)は、不純物として含有されて鋼板中にMnSを形成し、延性を低下させる元素である。したがって、硫黄(S)の含有量は0.03%以下であることが好ましい。
【0034】
窒素(N):0.03%以下(0%含む)
窒素(N)は、不純物として含有されて連続鋳造中に窒化物を作り、スラブの亀裂を引き起こす元素である。したがって、窒素(N)の含有量は0.03%以下であることが好ましい。
【0035】
一方、本発明の鋼板は、上述した合金成分以外に追加的に含まれ得る合金組成が存在し、これについては以下で詳細に説明する。
【0036】
チタン(Ti):0~0.5%、ニオブ(Nb):0~0.5%、及びバナジウム(V):0~0.5%のうち1種以上
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)は、析出物を作って結晶粒を微細化させる元素であり、鋼板の強度及び衝撃靭性の向上にも寄与する元素であるため、本発明はこのような効果のためにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)中の1種以上を添加することができる。但し、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の各含有量が一定レベルを超過する場合、過度の析出物が形成されて衝撃靭性が低下するのみならず、製造原価の上昇の原因となるため、本発明はチタン(Ti)、ニオブ(Nb)及びバナジウム(V)の含有量をそれぞれ0.5%以下に制限することができる。
【0037】
クロム(Cr):0~3.0%及びモリブデン(Mo):0~3.0%のうち1種以上
クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)は、合金化処理時のオーステナイト分解を抑制するだけでなく、マンガン(Mn)と同様にオーステナイトを安定化させる元素であるため、本発明はこのような効果のためにクロム(Cr)及びモリブデン(Mo)中の1種以上を添加することができる。但し、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の含有量が一定レベルを超過する場合、ベイナイト変態時間が増加してオーステナイト中の炭素(C)濃化量が十分でなくなるため、目的とする残留オーステナイトの分率を確保することができない。したがって、本発明は、クロム(Cr)及びモリブデン(Mo)の含有量をそれぞれ3.0%以下に制限することができる。
【0038】
銅(Cu):0~4.5%及びニッケル(Ni):0~4.5%のうち1種以上
銅(Cu)及びニッケル(Ni)は、オーステナイトを安定化させ、腐食を抑制する元素である。また、銅(Cu)及びニッケル(Ni)は鋼板表面に濃化し、鋼板内に移動する水素侵入を防ぎ、水素遅延破壊を抑制する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果のために、銅(Cu)及びニッケル(Ni)中の1種以上を添加することができる。但し、銅(Cu)及びニッケル(Ni)の含有量が一定レベルを超過する場合、過度な特性効果だけでなく、製造原価の上昇の原因となるため、本発明は銅(Cu)及びニッケル(Ni)の含有量をそれぞれ4.5%以下に制限することができる。
【0039】
ホウ素(B):0~0.005%
ホウ素(B)は、焼入れ性を向上させて強度を高める元素であり、結晶粒界の核生成を抑制する元素でもある。したがって、本発明は、このような効果のために、ホウ素(B)を添加することができる。但し、ホウ素(B)の含有量が一定レベルを超過する場合、過度な特性効果だけでなく、製造原価の上昇の原因となるため、本発明はホウ素(B)の含有量を0.005%以下に制限することができる。
【0040】
カルシウム(Ca):0~0.05%、マグネシウム(Mg):0~0.05%、及びイットリウム(Y)を除く希土類元素(REM):0~0.05%のうち1種以上
ここで、希土類元素(REM)とは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)とランタナム族元素を意味する。カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除いた希土類元素(REM)は、硫化物を球形化させることで鋼板の延性向上に寄与する元素であるため、本発明はこのような効果のためにカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除いた希土類元素(REM)中の1種以上を添加することができる。但し、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除いた希土類元素(REM)の含有量が一定レベルを超過する場合、過度な特性効果だけでなく製造原価の上昇の原因となるため、本発明はカルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、イットリウム(Y)を除いた希土類元素(REM)の含有量をそれぞれ0.05%以下に制限することができる。
【0041】
タングステン(W):0~0.5%及びジルコニウム(Zr):0~0.5%のうち1種以上
タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)は、焼入れ性を向上させて鋼板の強度を増加させる元素であるため、本発明はこのような効果のためにタングステン(W)及びジルコニウム(Zr)中の1種以上を添加することができる。但し、タングステン(W)及びジルコニウム(Zr)の含有量が一定レベルを超過する場合、過度な特性効果だけでなく製造原価の上昇の原因となるため、本発明はタングステン(W)及びジルコニウム(Zr)の含有量をそれぞれ0.5%以下に制限することができる。
【0042】
アンチモン(Sb):0~0.5%及びスズ(Sn):0~0.5%のうち1種以上
アンチモン(Sb)及びスズ(Sn)は、鋼板のめっき濡れ性及びめっき密着性を向上させる元素であるため、本発明はこのような効果のためにアンチモン(Sb)及びスズ(Sn)中の1種以上を添加することができる。但し、アンチモン(Sb)及びスズ(Sn)の含有量が一定レベルを超過する場合、鋼板の脆性が増加して熱間加工または冷間加工時に亀裂が発生することがあるため、本発明はアンチモン(Sb)及びスズ(Sn)の含有量をそれぞれ0.5%以下に制限することができる。
【0043】
イットリウム(Y):0~0.2%及びハフニウム(Hf):0~0.2%のうち1種以上
イットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)は、鋼板の耐食性を向上させる元素であるため、本発明はこのような効果のために、イットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)中の1種以上を添加することができる。但し、イットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)の含有量が一定レベルを超過する場合、鋼板の延性が劣化することがあるため、本発明はイットリウム(Y)及びハフニウム(Hf)の含有量をそれぞれ0.2%以下に制限することができる。
【0044】
コバルト(Co):0~1.5%
コバルト(Co)は、ベイナイト変態を促進させてTRIP効果を増加させる元素であるため、本発明はこのような効果のために、コバルト(Co)を添加することができる。但し、コバルト(Co)含有量が一定レベルを超過する場合、鋼板の溶接性と延性が低下することがあるため、本発明はコバルト(Co)含有量を1.5%以下に制限することができる。
【0045】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、上述した成分以外に残りのFe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では原料または周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野で通常の知識を有する者であれば、誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を本明細書で特に言及しない。さらに、上述の成分以外に有効な成分の追加的な添加が全面的に排除されるものではない。
【0046】
本発明の一側面に係る加工性に優れた高強度鋼板は、軟質組織であるフェライトと硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトを微細組織として含むことができる。ここで、軟質組織及び硬質組織は、相対的な硬度差によって区分される概念として解釈されることができる。
【0047】
好ましい一例として、本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板の微細組織は、体積分率で、30~70%のテンパードマルテンサイト、10~45%のベイナイト、10~40%の残留オーステナイト、3~20%のフェライト、及び不可避な組織を含むことができる。本発明の不可避な組織としては、フレッシュマルテンサイト(Fresh Martensite)、パーライト、島状マルテンサイト(Martensite Austenite Constituent、M-A)などが含まれることができる。フレッシュマルテンサイトやパーライトが過度に形成されると、鋼板の加工性が低下したり、残留オーステナイトの分率が低減されることがある。
【0048】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式1]のように、硬質組織(テンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト)の平均ナノ硬度値([H]TM+B+γ、Hv)に対する軟質組織(フェライト)の平均ナノ硬度値([H]、Hv)の比が0.4~0.9の範囲を満たすことができる。
[関係式1]
0.4≦[H]/[H]TM+B+γ≦0.9
【0049】
硬質組織及び軟質組織のナノ硬度値は、ナノインデンター(FISCHERSCOPE HM2000)を用いて測定されることができる。具体的には、鋼板表面を電解研磨した後、圧入荷重10,000μN条件で硬質組織及び軟質組織をそれぞれ20点以上ランダムに測定し、測定された値に基づいて硬質組織及び軟質組織の平均ナノ硬度値を算出することができる。
【0050】
本発明の一側面に係る加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式2]のように、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(V(1.2μm、γ)、体積%)の比が0.1以上であってもよく、下記の[関係式3]のように、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対するラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(V(lath、γ)、体積%)の比は0.5以上であってもよい。
[関係式2]
V(1.2μm、γ)/V(γ)≧0.1
[関係式3]
V(lath、γ)/V(γ)≧0.5
【0051】
本発明の一側面に係る加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式4]で表される引張強度と延伸率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式5]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×10(MPa1/2)以上であり、下記の[関係式6]で表される曲げ加工率(B)が0.5~3.0の範囲を満たすため、優れた強度と延性のバランス及び強度と穴拡げ率のバランスを有するだけでなく、優れた曲げ加工性を有することができる。
[関係式4]
T・E=[引張強度(TS、MPa)]×[延伸率(El、%)]
[関係式5]
T・H=[引張強度(TS、MPa)]×[穴拡げ率(HER、%)]1/2
[関係式6]
=R/t
上記関係式6において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【0052】
本発明は、高強度特性だけでなく、優れた延性及び曲げ加工性を同時に確保するために、鋼板の残留オーステナイトを安定化させることが重要である。残留オーステナイトを安定化させるためには、鋼板のフェライト、ベイナイト及びテンパードマルテンサイトでの炭素(C)及びマンガン(Mn)をオーステナイトに濃化させることが必要である。しかしながら、フェライトを活用してオーステナイト中に炭素(C)を濃化させると、フェライトの低い強度特性のため、鋼板の強度が不足する可能性があり、過度な相間硬度差が発生して穴拡げ率(HER)が低下することがある。したがって、ベイナイト及びテンパードマルテンサイトを活用してオーステナイト中に炭素(C)及びマンガン(Mn)を濃化させる。
【0053】
残留オーステナイト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含有量を一定範囲に制限する場合、ベイナイト及びテンパードマルテンサイトから残留オーステナイト中に炭素(C)及びマンガン(Mn)を多量に濃化させることができるため、残留オーステナイトを効果的に安定化させることができる。また、オーステナイト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含有量を一定範囲に制限することで、フェライト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含有量を増加させることができる。フェライト中のシリコン(Si)及びアルミニウム(Al)の含有量が増加するにつれて、フェライトの硬度は増加し、軟質組織であるフェライトと硬質組織であるテンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイトの相間硬度差を効果的に減少させることができる。
【0054】
硬質組織(テンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト)の平均ナノ硬度値([H]TM+B+γ、Hv)に対する軟質組織(フェライト)の平均ナノ硬度値([H]、Hv)の比が一定レベル以上の場合、軟質組織(フェライト)と硬質組織(テンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト)の相間硬度差が減少して、目的とする引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)を確保することができる。一方、硬質組織(テンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト)の平均ナノ硬度値([H]TM+B+γ、Hv)に対する軟質組織(フェライト)の平均ナノ硬度値([H]、Hv)の比が過度の場合、フェライトが過度に硬質化されて却って加工性が低下するため、目的とする引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)を全て確保できなくなる。したがって、本発明は、硬質組織(テンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト)の平均ナノ硬度値([H]TM+B+γ、Hv)に対する軟質組織(フェライト)の平均ナノ硬度値([H]、Hv)の比を0.4~0.9の範囲に制限することができる。
【0055】
残留オーステナイトのうち、平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトは、ベイナイト形成温度で熱処理されて、平均サイズが増加してオーステナイトからマルテンサイトへの変態を抑制させることになり、鋼板の加工性を向上させることができる。
【0056】
また、残留オーステナイト中にラス(lath)状の残留オーステナイトは、鋼板の加工性に影響を与える。残留オーステナイトは、ベイナイト相の間に形成されたラス状の残留オーステナイトと、ベイナイト相がない部分に形成されたブロック(block)状の残留オーステナイトに区分される。ブロック状の残留オーステナイトは熱処理過程でベイナイトにさらに変態し、ラス状の残留オーステナイトが増加し、結果的に鋼板の加工を効果的に向上させることができる。
【0057】
したがって、鋼板の延性及び加工性を向上させるために、残留オーステナイト中で平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率及びラス(lath)状の残留オーステナイトの分率を増加させることが好ましい。
【0058】
本発明の一側面に係る加工性に優れた高強度鋼板は、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(V(1.2μm、γ)、体積%)の比を0.1以上に制限し、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対するラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(V(lath、γ)、体積%)の比を0.5以上に制限することができる。鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対する平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(V(1.2μm、γ)、体積%)の比が0.1未満であるか、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対するラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(V(lath、γ)、体積%)の比が0.5未満である場合、曲げ加工率(R/t)が0.5~3.0を満たさなくなり、目的とする加工性が確保できないという問題点が存在する。
【0059】
残留オーステナイトが含まれた鋼板は、加工中のオーステナイトからマルテンサイトへの変態時に発生する変態有機焼成によって優れた延性及び曲げ加工性を有する。残留オーステナイトの分率が一定レベル未満の場合には、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であるか、曲げ加工率(R/t)が3.0を超過することがある。一方、残留オーステナイトの分率が一定レベルを超過すると、局部延伸率(Local Elongation)が低下することがある。したがって、本発明は、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)だけでなく、曲げ加工率(R/t)に優れた鋼板を得るために、残留オーステナイトの分率を10~40体積%の範囲に制限することができる。
【0060】
一方、焼戻しされていないマルテンサイト(フレッシュマルテンサイト)及びテンパードマルテンサイトは、いずれも鋼板の強度を向上させる微細組織である。しかしながら、テンパードマルテンサイトと比較すると、フレッシュマルテンサイトは鋼板の延性及び穴拡げ性を大きく低下させる特性がある。これは、焼戻し熱処理によってテンパードマルテンサイトの微細組織が軟質化するためである。したがって、本発明は、強度と延性のバランス、強度と穴拡げ性のバランス及び曲げ加工性に優れた鋼板を提供するために、テンパードマルテンサイトを活用することが好ましい。テンパードマルテンサイトの分率が一定レベル未満では、22,000MPa%以上の引張強度と延伸率のバランス(TS×El)または7×10(MPa1/2)以上の引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)を確保しにくく、テンパードマルテンサイトの分率が一定レベルを超過すると、延性及び加工性が低下して、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であるか、曲げ加工率(R/t)が3.0を超過するため、好ましくない。したがって、本発明は、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)に優れた鋼板を得るためにテンパードマルテンサイトの分率を30~70体積%の範囲に制限することができる。
【0061】
引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)及び曲げ加工率(R/t)を向上させるためには、微細組織としてベイナイトが適切に含まれることが好ましい。ベイナイトの分率が一定レベル以上の場合に限って、22,000MPa%以上の引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、7×10(MPa1/2)以上の引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)及び0.5~3.0の曲げ加工率(R/t)を確保することができる。一方、ベイナイトの分率が過度の場合、テンパードマルテンサイトの分率の減少が必須に伴われるため、結果的に本発明が目的とする引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)、及び曲げ加工率(R/t)が確保できなくなる。したがって、本発明は、ベイナイトの分率を10~45体積%の範囲に制限することができる。
【0062】
フェライトは延性向上に寄与する元素であるため、フェライトの分率が一定レベル以上の場合に限って、本発明が目的とする引張強度と延伸率のバランス(TS×El)を確保することができる。但し、フェライトの分率が過度の場合には、相間硬度差が増加して穴拡げ率(HER)が低下することがあるため、本発明が目的とする引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)が確保できなくなる。したがって、本発明はフェライトの分率を3~20体積%の範囲に制限することができる。
【0063】
以下、本発明の鋼板を製造する方法の一例について詳細に説明する。
【0064】
本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板の製造方法は、所定の成分を有する冷間圧延された鋼板を提供する段階;上記冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満の温度範囲まで加熱(1次加熱)して、50秒以上維持(1次維持)する段階;平均冷却速度1℃/s以上で、600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)する段階;平均冷却速度2℃/s以上で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、この温度範囲で5秒以上維持(2次維持)する段階;平均冷却速度2℃/s以上で、100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)する段階;350~550℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、この温度範囲で10秒以上維持(3次維持)する段階;250~450℃の温度範囲まで冷却(4次冷却)し、この温度範囲で10秒以上維持(4次維持)する段階;及び常温まで冷却(5次冷却)する段階;を含むことができる。
【0065】
また、本発明の冷間圧延された鋼板は、鋼スラブを1000~1350℃に加熱する段階;800~1000℃の温度範囲で仕上げ熱間圧延する段階;300~600℃の温度範囲で上記熱間圧延された鋼板を巻取る段階;上記巻き取られた鋼板を650~850℃の温度範囲で600~1700秒間熱延焼鈍によって熱処理する段階;及び上記熱延焼鈍によって熱処理された鋼板を30~90%の圧下率で冷間圧延する段階;を介して提供されてもよい。
【0066】
鋼スラブの用意及び加熱
所定の成分を有する鋼スラブを用意する。本発明の鋼スラブは、上述の鋼板の合金組成と対応する合金組成を有するため、鋼スラブの合金組成に対する説明は、上述の鋼板の合金組成に対する説明に代わる。
【0067】
用意された鋼スラブを一定温度範囲に加熱することができ、このときの鋼スラブの加熱温度は1000~1350℃の範囲であってもよい。鋼スラブの加熱温度が1000℃未満である場合、目的とする仕上げ熱間圧延温度範囲以下の温度区間で熱間圧延されるおそれがあり、鋼スラブの加熱温度が1350℃を超える場合、鋼の融点に到達して溶けるおそれがある。
【0068】
熱間圧延及び巻取り
加熱された鋼スラブは、熱間圧延されて熱延鋼板として提供することができる。熱間圧延時の仕上げ熱間圧延温度は、800~1000℃の範囲が好ましい。仕上げ熱間圧延温度が800℃未満である場合、過度の圧延負荷が問題になることがあり、仕上げ熱間圧延温度が1000℃を超える場合、熱延鋼板の結晶粒が粗大に形成され、最終鋼板の物性低下を引き起こすことがある。
【0069】
熱間圧延が完了した熱延鋼板は、10℃/s以上の平均冷却速度で冷却されてもよく、300~600℃の温度で巻取ることができる。巻取り温度が300℃未満である場合、巻取りが容易ではなく、巻取り温度が600℃を超過する場合、表面スケール(scale)が熱延鋼板の内部まで形成されて、酸洗を難しくするおそれがある。
【0070】
熱延焼鈍による熱処理
巻取り後の後続工程である酸洗及び冷間圧延を容易に行うために、熱延焼鈍による熱処理工程を行うことが好ましい。熱延焼鈍による熱処理は、650~850℃の温度区間で600~1700秒間行うことができる。熱延焼鈍による熱処理温度が650℃未満であるか、熱延焼鈍による熱処理時間である600秒未満である場合、熱延焼鈍によって熱処理された鋼板の強度が高く、後続する冷間圧延が容易でないことがある。一方、熱延焼鈍による熱処理温度が850℃を超過するか、熱延焼鈍による熱処理時間である1700秒を超過する場合、鋼板内部に深く形成されたスケール(scale)に起因して酸洗が容易でないことがある。
【0071】
酸洗及び冷間圧延
熱延焼鈍による熱処理後に鋼板表面に生成されたスケールを除去するために酸洗を行い、冷間圧延を行うことができる。本発明において、酸洗及び冷間圧延の条件を特に制限するものではないが、冷間圧延は累積圧下率30~90%で行うことが好ましい。冷間圧延の累積圧下率が90%を超過する場合、鋼板の高い強度により冷間圧延を短時間で行うことが難しいおそれがある。
【0072】
冷間圧延された鋼板は、焼鈍熱処理工程を経て未めっきの冷延鋼板で製作されるか、耐食性を付与するためにめっき工程を経てめっき鋼板で製作されることができる。めっきは、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっきなどのめっき方法を適用することができ、その方法及び種類を特に制限しない。
【0073】
焼鈍熱処理
本発明は、鋼板の強度及び加工性の同時確保のために焼鈍熱処理工程を行う。
【0074】
冷間圧延された鋼板をAc1以上Ac3未満(二相域)の温度範囲で加熱(1次加熱)し、当該温度範囲で50秒以上維持(1次維持)する。1次加熱または1次維持温度がAc3以上(単相域)の場合、目的とするフェライト組織を実現することができないため、目的とするレベルの[H]/[H]TM+B+γ及び引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)が実現できなくなる。また、1次加熱または1次維持温度がAc1未満の温度範囲である場合、十分な加熱が行われず、後続する熱処理によっても、本発明が目的とする微細組織が実現できないおそれがある。1次加熱の平均昇温速度は、5℃/s以上であってもよい。
【0075】
1次維持時間が50秒未満である場合には、組織を十分に均一化できず、鋼板の物性が低下することがある。1次維持時間の上限は特に限定しないが、結晶粒粗大化による靭性の減少を防止するために、1次加熱時間は1200秒以下に制限することが好ましい。
【0076】
1次維持後、1℃/s以上の平均冷却速度で600~850℃の温度範囲(1次冷却停止温度)まで冷却(1次冷却)することが好ましい。1次冷却の平均冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、100℃以下に制限することが好ましい。1次冷却停止温度が600℃未満の場合には、フェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが不足して、[H]/[H]TM+B+γ及び引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が低下することがある。また、1次冷却停止温度の上限は、上記1次維持温度より30℃以下であることが好ましいため、1次冷却停止温度の上限は850℃に制限することができる。
【0077】
1次冷却後、2℃/s以上の平均冷却速度で、300~500℃の温度範囲まで冷却(2次冷却)し、当該温度範囲で5秒以上維持(2次維持)することが好ましい。2次冷却の平均冷却速度が2℃/s未満の場合には、フェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが不足して[H]/[H]TM+B+γ及び引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が低下することがある。2次冷却の平均冷却速度の上限は、特に規定する必要はないが、100℃/s以下に制限することが好ましい。一方、2次維持温度が500℃を超える場合、残留オーステナイトが不足して[H]/[H]TM+B+γ、V(lath、γ)/V(γ)、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。また、2次維持温度が300℃未満である場合、低い熱処理温度でV(1.2μm、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。2次維持時間が5秒未満である場合、熱処理時間が不足してV(1.2μm、γ)/V(γ)、V(lath、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。一方、2次維持時間の上限は特に規定する必要はないが、600秒以下とすることが好ましい。
【0078】
一方、1次冷却の平均冷却速度(Vc1)は、2次冷却の平均冷却速度(Vc2)より小さいことが好ましい(Vc1<Vc2)。
【0079】
2次維持後、2℃/s以上の平均冷却速度で100~300℃の温度範囲(2次冷却停止温度)まで冷却(3次冷却)することが好ましい。3次冷却の平均冷却速度が2℃/s未満である場合、遅い冷却によりV(1.2μm、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。3次冷却の平均冷却速度の上限は特に規定する必要はないが、100℃/s以下に制限することが好ましい。一方、2次冷却停止温度が300℃を超過する場合、ベイナイトが過度に形成され、テンパードマルテンサイトが不足して引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が低下することがある。一方、2次冷却停止温度が100℃未満の場合には、テンパードマルテンサイトが過度に形成されて残留オーステナイトが不足し、[H]/[H]TM+B+γ、V(1.2μm、γ)/V(γ)、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。
【0080】
3次冷却後、350~550℃の温度範囲まで加熱(2次加熱)し、当該温度範囲で10秒以上維持(3次維持)することが好ましい。3次維持温度が550℃を超過する場合、残留オーステナイトが不足して[H]/[H]TM+B+γ、V(lath、γ)/V(γ)、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。一方、3次維持温度が350℃未満である場合、維持温度が低くて、V(1.2μm、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。3次維持時間が10秒未満である場合、維持時間が不足してV(1.2μm、γ)/V(γ)、V(lath、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。上記3次維持時間の上限は特に限定しないが、好ましい3次維持時間は1800秒以下であることができる。
【0081】
3次維持後、1℃/s以上の平均冷却速度で250~450℃の温度範囲まで冷却(4次冷却)し、当該温度範囲で10秒以上維持(4次維持)することが好ましい。4次冷却の平均冷却速度が1℃/s未満である場合、遅い冷却によりV(1.2μm、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。4次冷却の平均冷却速度の上限は、特に規定する必要はないが、100℃/s以下に制限することが好ましい。4次維持温度が450℃を超過する場合、長時間の熱処理によりV(1.2μm、γ)/V(γ)、V(lath、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下する。一方、4次維持温度が250℃未満である場合、維持温度が低くてV(1.2μm、γ)/V(γ)、V(lath、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。4次維持時間が10秒未満である場合、維持時間が不足してV(1.2μm、γ)/V(γ)、V(lath、γ)/V(γ)及び曲げ加工率(R/t)が低下することがある。上記4次維持時間の上限は特に限定しないが、好ましい4次維持時間は176,000秒以下であってもよい。
【0082】
上記4次維持後、常温まで1℃/s以上の平均冷却速度で冷却(5次冷却)することが好ましい。
【0083】
上述した製造方法によって製造された加工性に優れた高強度鋼板は、微細組織でテンパードマルテンサイト、ベイナイト、残留オーステナイト及びフェライトを含むことができ、好ましい一例として、体積分率で、30~70%のテンパードマルテンサイト、10~45%のベイナイト、10~40%の残留オーステナイト、3~20%のフェライト及び不可避な組織を含むことができる。
【0084】
上述の製造方法によって製造された加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式1]のように、硬質組織(テンパードマルテンサイト、ベイナイト及び残留オーステナイト)の平均ナノ硬度値([H]TM+B+γ、Hv)に対する軟質組織(フェライト)の平均ナノ硬度値([H]、Hv)の比が0.4~0.9の範囲を満たすことができ、また、下記の[関係式2]のように、鋼板の残留オーステナイトの分率に対する平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率の比が0.1以上を満たすことができる。
[関係式1]
0.4≦[H]/[H]TM+B+γ≦0.9
[関係式2]
V(1.2μm、γ)/V(γ)≧0.1
【0085】
また、上述した製造方法により製造された加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式3]のように、鋼板の残留オーステナイトの分率(V(γ)、体積%)に対するラス(leth)状の残留オーステナイトの分率(V(lath、γ)、体積%)の比が0.5以上であってもよい。
[関係式3]
V(lath、γ)/V(γ)≧0.5
【0086】
上述した製造方法により製造された加工性に優れた高強度鋼板は、下記の[関係式4]で表される引張強度と延伸率のバランス(BT・E)が22,000(MPa%)以上であり、下記の[関係式5]で表される引張強度と穴拡げ率のバランス(BT・H)が7×10(MPa1/2)以上であり、下記の[関係式6]で表される曲げ加工率(B)が0.5~3.0の範囲を満たすことができる。
[関係式4]
T・E=[引張強度(TS、MPa)]×[延伸率(EL、%)]
[関係式5]
T・H=[引張強度(TS、MPa)]×[穴拡げ率(HER、%)]1/2
[関係式6]
=R/t
上記関係式6において、Rは90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径(mm)を意味し、tは鋼板の厚さ(mm)を意味する。
【実施例
【0087】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明の一側面による加工性に優れた高強度鋼板及びその製造方法についてより詳細に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明の権利範囲を限定するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項と、それから合理的に類推される事項によって決定されるためである。
【0088】
(実施例)
下記表1に記載された合金組成(残りはFe及び不可避不純物である)を有する厚さ100mmの鋼スラブを製造し、1200℃で加熱した後、900℃で仕上げ熱間圧延を行った。その後、30℃/sの平均冷却速度で冷却し、表2及び表3の巻取り温度で巻取って厚さ3mmの熱延鋼板を製造した。上記熱延鋼板を表2及び3の条件で熱延焼鈍によって熱処理した。この後、酸洗して表面スケールを除去した後、1.5mm厚さまで冷間圧延を行った。
【0089】
この後、表2~7に開示された焼鈍熱処理条件で熱処理を行い、鋼板を製造した。
【0090】
このように製造された鋼板の微細組織を観察し、その結果を表8及び表9に示した。微細組織のうち、フェライト(F)、ベイナイト(B)、テンパードマルテンサイト(TM)及びパーライト(P)は、研磨された試験片の断面をナイタルエッチングした後、SEMを介して観察した。このうち、区別が難しいベイナイト及びテンパードマルテンサイトは、ディラテーション評価後に膨張曲線を用いて分率を計算した。一方、フレッシュマルテンサイト(FM)と残留オーステナイト(残留γ)も区別が容易でないため、上記SEMで観察されたマルテンサイトと残留オーステナイトの分率からX線回折法で計算された残留オーステナイトの分率を差し引いた値をフレッシュマルテンサイト分率で決定した。
【0091】
一方、鋼板の[H]/[H]TM+B+γ、V(lath、γ)/V(γ)、V(1.2μm、γ)/V(γ)、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)、曲げ加工率(R/t)を観察して、その結果を表10及び表11に示した。
【0092】
硬質組織及び軟質組織のナノ硬度値は、ナノインデンテーション(Nanoindentation)法を用いて測定した。具体的には、各試験片の表面を電解研磨した後、ナノインデンター(FISCHERSCOPE HM2000)を用いて圧入荷重10,000μN条件で硬質組織及び軟質組織をそれぞれ20点以上ランダムに測定し、測定された値に基づいて硬質組織及び軟質組織の平均ナノ硬度値を算出した。
【0093】
平均結晶粒径が1.2μm以上である残留オーステナイトの分率(V(1.2μm,γ))及びラス(lath)状の残留オーステナイトの分率(V(lath、γ))は、EPMAの相マップ(Phase Map)を用いて残留オーステナイト相内で測定された面積で決定した。
【0094】
引張強度(TS)及び延伸率(El)は、引張試験によって評価され、圧延板材の圧延方向に対して90°方向を基準にJIS5号規格に基づいて、採取された試験片で評価して、引張強度(TS)及び延伸率(El)を測定した。曲げ加工率(R/t)はV-曲げ試験で評価され、圧延板材の圧延方向に対して90°方向を基準に試験片を採取して、90°曲げ試験後にクラックが発生しない最小曲げ半径Rを板材の厚さtで割った値で決定して算出した。穴拡げ率(HER)は穴拡げ試験によって評価され、10mmφのパンチング孔(ダイ内径10.3mm、クリアランス12.5%)を形成した後、頂角60°の円錐形パンチをパンチング孔のバー(burr)が外側になる方向にパンチング孔に挿入し、20mm/minの移動速度でパンチング孔の周辺部を圧迫拡張した後、下記の[関係式7]を用いて算出した。
[関係式7]
穴拡げ率(HER、%)={(D-D)/D}×100
上記関係式5において、Dは亀裂が厚さ方向に沿って鋼板を貫通したときの孔径(mm)を意味し、Dは初期孔径(mm)を意味する。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
【表9】
【0104】
【表10】
【0105】
【表11】
【0106】
上記表1~9に示したように、本発明で提示する条件を満たす試験片の場合、[H]/[H]TM+B+γの値が0.4~0.9の範囲を満たし、V(lath、γ)/V(γ)の値が0.5以上を満たし、V(1.2μm、γ)/V(γ)の値が0.1以上を満たし、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%以上であり、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)が7×10(MPa1/2)以上であり、曲げ加工率(R/t)が0.5~3.0の範囲を満たすことで、優れた強度及び加工性を同時に備えることが分かる。
【0107】
試験片2~5は、本発明の合金組成範囲は重複するが、熱延焼鈍温度及び時間が本発明の範囲を外れるため、酸洗不良が発生したり、冷間圧延時に破断が発生したことを確認することができる。
【0108】
試験片6は、冷間圧延後の焼鈍熱処理過程で1次加熱または維持温度が本発明が制限する範囲を超過(単相域)するため、フェライトの形成量が不足した。その結果、試験片6は、[H]/[H]TM+B+γが0.4未満であり、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)が7×10(MPa1/2)未満であることが確認できる。
【0109】
試験片8は、冷間圧延後の焼鈍熱処理過程で1次冷却停止温度が低くて、フェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試験片8は、[H]/[H]TM+B+γが0.9を超過し、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であることを確認することができる。
【0110】
試験片9は、2次冷却の平均冷却速度が低くて、フェライトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試験片9は、[H]/[H]TM+B+γが0.9を超過し、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であることを確認することができる。
【0111】
試験片11は、2次維持温度が高くて、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、試験片12は、[H]/[H]TM+B+γが0.9を超過し、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0112】
試験片12は、2次維持温度が低くて、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることを確認することができる。
【0113】
試験片13は、2次維持時間が短くて、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0114】
試験片14は、3次冷却の平均冷却速度が低くて、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0115】
試験片15は、2次冷却停止温度が高くて、ベイナイトが過度に形成され、テンパードマルテンサイトが少なく形成された。その結果、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であることが確認できる。
【0116】
試験片16は、2次冷却停止温度が低くて、テンパードマルテンサイトが過度に形成され、残留オーステナイトが少なく形成された。その結果、[H]/[H]TM+B+γが0.9を超過し、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0117】
試験片17は、3次維持温度が高くて、残留オーステナイトが少なく形成された。[H]/[H]TM+B+γが0.9を超え、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)が22,000MPa%未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0118】
試験片18は、3次維持温度が低いため、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0119】
試験片19は、3次維持時間が短いため、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0120】
試験片20は、4次維持温度が高くて、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超え、試験片21は、4次維持温度が高くて、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることを確認することができる。
【0121】
試験片22は、4次維持時間が短くて、V(lath、γ)/V(γ)が0.5未満であり、V(1.2μm、γ)/V(γ)が0.1未満であり、曲げ加工率(R/t)が3.0を超えることが確認できる。
【0122】
試験片45~53は、本発明で提示する製造条件は満たす場合であるが、合金組成の範囲を外れた場合である。これらの場合には、本発明の[H]/[H]TM+B+γ条件、V(lath、γ)/V(γ)条件、V(1.2μm、γ)/V(γ)条件、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)条件、引張強度と穴拡げ率のバランス(TS×HER1/2)条件及び曲げ加工率(R/t)の条件を全て満たさないことが確認できる。一方、試験片47は、アルミニウム(Al)及びシリコン(Si)の合計含有量が1.0%未満の場合として、[H]/[H]TM+B+γ、引張強度と延伸率のバランス(TS×El)及び曲げ加工率(R/t)の条件を満たさないことが確認できる。
【0123】
以上、実施例を挙げて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施例も可能である。したがって、以下に記載される特許請求の範囲の技術的思想及び範囲は実施例に限定しない。
【国際調査報告】