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2023-506056第三級アミン系吸収溶液を用いて、ガス状流出物から酸化合物を除去する方法
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  • -第三級アミン系吸収溶液を用いて、ガス状流出物から酸化合物を除去する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-14
(54)【発明の名称】第三級アミン系吸収溶液を用いて、ガス状流出物から酸化合物を除去する方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20230207BHJP
   B01D 53/48 20060101ALI20230207BHJP
   B01D 53/50 20060101ALI20230207BHJP
   B01D 53/52 20060101ALI20230207BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20230207BHJP
   B01D 53/96 20060101ALI20230207BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
B01D53/48 100
B01D53/50 ZAB
B01D53/52 200
B01D53/78
B01D53/96
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536606
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(85)【翻訳文提出日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2020084178
(87)【国際公開番号】W WO2021121983
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】1914512
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】グランディアン、 ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウアード、 ティエリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンデル、 オレリー
(72)【発明者】
【氏名】グロスジャン、 フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】キッテル、 ジャン
(72)【発明者】
【氏名】レタット、 アブデルカデル
(72)【発明者】
【氏名】デリンジェル、 マリー
(72)【発明者】
【氏名】ムーレ、 オレリー
(72)【発明者】
【氏名】コーティアル、 グザヴィエ
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA03
4D002AA04
4D002AA06
4D002AA09
4D002AC04
4D002AC05
4D002AC07
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA07
4D002DA31
4D002DA32
4D002DA34
4D002DA70
4D002EA07
4D002EA08
4D002GA01
4D002GB08
4D002GB20
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BA30
4D020BB03
4D020BC01
4D020BC02
4D020CB08
4D020DA03
4D020DB20
(57)【要約】
本発明は、吸収カラム中で、ガス状流出物を、水と、20質量%~28質量%のペンタメチルジプロピレントリアミンと、5質量%~35質量%のN-メチルジエタノールアミンと、を含む吸収溶液と接触させることからなる、ガス状流出物に含まれる酸化合物を除去する方法に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状流出物を吸収溶液と接触させることによって酸化合物の吸収の段階を実施することを含み、前記吸収溶液は、
-水;
-20質量%~28質量%のペンタメチルジプロピレントリアミン;
-5質量%~35質量%のN-メチルジエタノールアミン;
を含む、ガス状流出物に含まれる酸化合物を除去する方法。
【請求項2】
前記吸収溶液が、10質量%~30質量%のN-メチルジエタノールアミンと、好ましくは42質量%~70質量%の水と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記吸収溶液が、37質量%~75質量%の水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記吸収溶液が、
-5質量%~20質量%のN-メチルジエタノールアミンと;
-0.5質量%~20質量%の、以下からなる群より選択される第一級または第二級アミン官能基を含む少なくとも1つの活性化化合物と:
-ピペラジン;
-1-メチルピペラジン;
-ホモピペラジン;
-N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン;
-3-(メチルアミノ)プロピルアミン;
-N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-N-メチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-N,N’,N’-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記吸収溶液が、5質量%~15質量%のN-メチルジエタノールアミン、好ましくは10質量%~15質量%のN-メチルジエタノールアミンを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記活性化化合物がピペラジンである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記吸収溶液が、0.5質量%~10質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、好ましくは0.5質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、さらに好ましくは1質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物を含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記吸収溶液が、メタノール、エタノール、2-エトキシエタノール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、ヘプタエチレングリコールジメチルエーテル、オクタエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブトキシアセテート、グリセロールトリアセテート、スルホラン、N-メチルピロリドン、N-メチルモルホリン-3-オン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-ホルミルモルホリン、N,N’-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、N-メチルイミダゾール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、プロピレンカーボネート、およびリン酸トリブチルからなる群より選択される少なくとも1つの物理溶媒をさらに含む、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項9】
前記吸収溶液が消泡添加剤を含まない、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項10】
前記酸化合物の吸収の段階が、0.1MPa~20MPaの圧力、および、20℃~100℃の温度で実施される、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項11】
酸化合物が充填された吸収溶液が、吸収段階の後に得られ、前記方法は、酸化合物が充填された前記吸収溶液の少なくとも1つの再生の段階を、0.1MPa~1MPa、好ましくは0.1MPa~0.5MPaの圧力、および、100℃~180℃、好ましくは110℃~140℃の温度で実施することを含む、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項12】
前記吸収溶液が、吸収カラム内の吸収段階の間、および、少なくとも、再生段階が実施される再生カラムへの入口まで、単相溶液であり、好ましくは、吸収カラム内および少なくとも再生カラムへの入口まで、110℃以下の温度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ガス状流出物が、天然ガス、合成ガス、燃焼煙道ガス、製油所ガス、アミンユニットから生じる酸性ガス、クラウス法によってHSを硫黄に変換するためのユニットから生じるテールガス、バイオマス発酵から生じるガス、セメント工場からのガス、または焼却炉煙道ガスから選択される、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項14】
SとCOとを含むガス状流出物から、COに対してHSを選択的に除去するための、好ましくは、天然ガスから、COに対してHSを選択的に除去するための、先行する請求項の1つに記載の方法。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載のバイオガスの脱炭素方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス状流出物の脱酸のための方法の分野に関する。本発明は、有利には、工業起源のガス、天然ガスおよびバイオマス発酵から生じるガスの処理において適用される。
【背景技術】
【0002】
ガス中に存在する酸化合物(acid compounds)、特に二酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、硫化カルボニル(COS)、二硫化炭素(CS)、二酸化硫黄(SO)ならびにメチルメルカプタン(CHSH)、エチルメルカプタン(CHCHSH)およびプロピルメルカプタン(CHCHCHSH)などのメルカプタン類(RSH)を除去するために、アミン水溶液を用いるガスの脱酸プロセスが一般に使用される。ガスは、吸収溶液に接触させることによって脱酸され、次いで、該吸収溶液は、熱的に再生される。
【0003】
酸性ガスの脱酸のためのこれらのプロセスは、一般に、化学反応の実施に基づかずに、気相中の実体の分圧に直接依存し、それに比例する、溶解度に基づく、吸収のための「物理」溶媒の使用とは対照的に、「化学」溶媒を用いた「溶媒スクラビング」としても知られている。分圧は、相中の実体の濃度に、全操作圧力を掛けた積である。「化学」溶媒は、有利には、実体の溶解度を増加させるための2つの効果から利益を得る。
【0004】
化学溶媒は、ガスの他の非酸化合物と反応することなく、塩を形成するために、処理されるガス中に存在する酸化合物(HS、CO、COS、CS等)と優先的に反応する反応物を含む水溶液に相当する。次いで、処理されたガスは、溶媒と接触した後、酸化合物中で枯渇し、塩の形態で溶媒中に選択的に移動される。化学反応は可逆的であり、これにより、酸化合物が充填された溶媒を、例えば熱の作用下で、続いて脱酸して、一方では、ガス形態の酸化合物を放出するために、次いで、これを貯蔵し、変換し、または様々な用途に使用することができ、他方では、溶媒を再生することができ、溶媒は、その初期状態に戻り、したがって、処理される酸性ガスとの新しい反応段階に再利用することができる。溶媒と酸性ガスとの反応の段階は、一般に吸収段階として知られており、溶媒が脱酸される段階は、溶媒の再生段階として知られている。
【0005】
一般に、この文脈において、ガスからの酸化合物の分離の性能品質は、主に、選択される可逆反応の性質に依存する。酸性ガスの脱酸のための従来のプロセスは、一般に「アミン」プロセスであり、すなわち、それらは、水溶液中のアミンと酸化合物との反応に基づくものである。これらの作用は、酸/塩基反応の一般的な文脈内に入る。HS、COまたはCOSは、例えば、特に水の存在下で、酸化合物であり、一方、アミンは塩基性化合物である。その反応のメカニズムおよび得られる塩の性質は、一般に、使用されるアミンの構造に依存する。
【0006】
例えば、文献US6852144は、次の群に属する少なくとも1つの化合物:ピペラジンおよび/またはメチルピペラジンおよび/またはモルホリンを高比率で含有する、N-メチルジエタノールアミン(MDEA)またはトリエタノールアミンの吸収水溶液を用いて、炭化水素から酸化合物を除去するための方法を記載している。
【0007】
アミンを用いてスクラビングすることによる酸性ガスの脱酸プロセスの性能品質は、溶媒中に存在するアミンの性質に直接依存する。これらのアミンは、第一級、第二級または第三級であり得る。それらは、1分子当たり1個以上の等価または異なるアミン官能基を示すことができる。
【0008】
脱酸プロセスの性能品質を改善するために、より有効なアミン、特に、より多量の酸性ガスを吸収し、より少ないエネルギーで再生することができるアミンが、絶えず求められている。
【0009】
「選択的」脱酸用途で現在使用されている吸収溶液に対する1つの制限は、COに対するHSの吸収選択性が不十分であることである。これは、天然ガスの脱酸の場合には、COの吸収を極力抑えつつ、HSを選択的に除去することが求められることがあるためである。この制約は、目的の仕様以下のCO量をすでに含んでいるガスを取り扱う場合に、特に重要である。次に、COに対して、最大のHS吸収選択性を有するHSの最大吸収能力が求められる。この選択性により、処理されるガスの量を最大化し、HSの濃度が可能な限り高い再生器出口において、酸性ガスを回収することが可能となる。これにより、処理の下流にある硫黄ラインのユニットのサイズが制限され、ユニットのより良い操作が保証される。場合によっては、酸性ガスをHSに濃縮するために、HSを濃縮するためのユニットが必要になる。酸性ガスを処理するために設置されるこのタイプのアミンスクラビングユニットには、最も選択的なアミンも求められる。
【0010】
重度の立体障害を有する第三級アミンまたは第二級アミンは、障害の少ない第一級または第二級アミンよりも、COを捕捉するための速度が遅いことがよく知られている。一方、アミン、特に重度の立体障害を有する第三級または第二級アミンは、一般に、HSを捕捉する瞬間的な動力学を有する。その結果、これら重度の立体障害を有する第三級および第二級アミンを用いて、明確な動力学的性能品質に基づき、HSの選択的な除去を行うことができる。
【0011】
したがって、MDEAのような第三級アミン、または、COとの遅い反応速度を示す、障害のある第二級アミンが一般に使用される。ただし、それらは、酸性ガスを高レベルで充填すると、選択性が制限される。
【0012】
全脱酸用途で一般的に使用される多くの吸収溶液に対するもう一つの制限は、COまたはCOSの吸収速度が極端に遅いことである。COまたはCOSに関する所望の仕様が極端である場合、すなわち、これらの化合物からの完全な精製に近い場合、吸収カラムの高さを低くするために、できるだけ最速の反応速度が求められるのが一般的である。これは、反応が遅いと、化学反応が起こるのに十分な時間を与えるために、非常に高いカラムの使用を想定する必要があるためである。実際のところ、吸収カラムは、特に加圧設備が関係する場合、プロセスの資本コストの大部分を占める。
【0013】
全ての酸汚染物質の全脱酸の用途におけるCOおよびCOSの吸収の最大速度論、または選択的脱酸用途(COに対するHSの選択的吸収)におけるCOの捕捉の最小速度論のいずれが求められるかにかかわらず、処理されるガス状流出物、例えば天然ガスから除去することが望まれる汚染物質に関して、できる限り最大の循環容量を有する吸収溶液を使用することが常に望まれている。Δαで示されるこの循環容量は、吸収カラムの底部で取り出される吸収溶液と、前記カラムに供給される吸収溶液との間の充填レベル(αは、吸収溶液1キログラム当たりの吸収された酸化合物nacid gasのモル数を示す)の差に対応する。これは、吸収溶液の循環容量が大きいほど、処理されるガスを脱酸するために使用する必要がある吸収溶液の流量がより制限されるためである。ガス処理プロセスにおいて、吸収溶液の流量の減少は、一般に、特にカラムの直径を小さくすることが可能である場合にはカラムの寸法決定において、しかしまた熱交換器、ポンプおよびフラッシュドラムのような装置の他のアイテムのサイズを減少させることによって、資本コストの減少に強い影響を有する。
【0014】
ガスの処理のための、または溶媒による工業用煙道ガスの洗浄のための操作の別の重要な側面は、吸収段階において蓄積した汚染物質から溶媒を精製するための分離剤の再生である。吸収のタイプ(物理的および/または化学的)に応じて、減圧による、および/または蒸留による、および/または「ストリッピングガス」として知られる、気化ガスによる同伴による再生が一般に想定される。溶媒の再生に必要なエネルギー消費量は非常に高くなる可能性があり、これは、酸性ガスの分圧が低い場合、または化学結合力が高い場合に特に当てはまり、脱酸プロセスのかなりの運用コストを表し得る。
【0015】
アミン溶液の蒸留による再生に必要なエネルギーは、再生器の頂部と底部との間の吸収溶液を加熱するために必要なエネルギー、ストリッピングガスの蒸発によって再生器内の酸性ガスの分圧を低下させるために必要なエネルギー、そして最後に、アミンと酸化合物との間の化学結合を切断するために必要なエネルギー、の3つの異なる見出しに従って分解することができることは当業者に周知である。これらの最初の2つの見出しは、再生されるべき溶媒の所与の精製性能、すなわち仕様を達成するために、ユニット内を循環する必要がある吸収溶液の流量に比例する。したがって、溶媒の再生に関連するエネルギー消費を低減するために、溶媒の循環容量を最大にすることがさらに好ましい。これは、吸収溶液の循環容量が大きいほど、処理されるガスを脱酸するために使用する必要がある吸収溶液の流量をより制限することができるためである。
【0016】
循環流量および再生エネルギーを減少させることを可能にする、より効果的なアミンの探索において、特許US6267939および特許出願WO09/156273は、N,N,N’,N’-テトラメチルジプロピレントリアミン(TMDPTA)またはペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)のような、特定のポリアミンに基づく吸収溶液を提供する。
【0017】
また、脱酸プロセスの再生エネルギーを減少させる目的で、文献FR2877858、FR2895273、FR2900843、FR2898284、FR2900842、FR2986441およびFR2986442は、酸性ガスを充填した相のみが再生を必要とするように、ある量の酸性ガスを吸収する場合に2相を形成する吸収溶液の使用を提供する。しかしながら、この解決策は、操作を制御下に保つために、追加の段階および装置のアイテムならびに複数の予防措置を必要とするため、従来の高圧脱酸プラントに適合しないという欠点を有する。これは、脱混合(demixing)現象としても知られている、単相液体吸収溶液の2つの液相への分離が、プロセスおよび装置のアイテムが2つの相を処理するのに適していない場合、吸収中またはより高温で、上流または再生段階中に、重大な操作上の問題を引き起こす可能性があるためである。これらの問題は、特に、文献FR3014101およびWO2015/177333に記載されている。吸収カラムとしても知られる吸収器の操作条件下では、この液/液相分離が、酸性ガスの吸収溶液への移動を妨害し、カラムを不安定にする可能性がある。それはまた、液/気相の平衡を崩壊させる可能性があり、これは、脱酸サイクルの実施、特に再生段階にとって非常に重要である。それはさらに、液体の流れの組成に、突然の変化や不規則な流れを引き起こすことがあり、その結果、プロセスが不安定になり、その制御が不可能になり、その性能がランダムになる。
【0018】
別の問題は、吸収溶液の安定性、特に、アミンの熱安定性にある。吸収溶液は、温度の影響下で分解する可能性があり、これにより、プロセスの操作条件、特に、溶媒の再生が行われる温度が制限される。例として、再生器の温度を10℃上昇させると、モノエタノールアミン(MEA)の熱分解速度は2倍になる。したがって、MEAのようなアルカノールアミンの水溶液の再生は、再生器の底部温度が120℃のオーダーで、実際には、MDEAのような、より安定なアミンの場合は、130℃でさえも行われる。これらの再生器の底部温度の結果として、0.1~0.3MPaの中程度の圧力で、酸性ガス(CO、HS、COS、CSなど)が得られる。再生された酸性ガスの性質および用途に応じて、酸性ガスを、処理ユニットに送るか、または圧縮して、再注入および隔離することができる。特に、この熱安定性の問題を克服する目的で、特許出願WO04/082809は、例えば、典型的には60%を超える、高濃度の第三級ポリアミン、例えばペンタメチルジプロピレントリアミン(PMDPTA)を含む吸収水溶液の使用を提供する。
【0019】
吸収溶液の腐食性または吸収溶液の発泡のような、さらに他の問題に、一般に遭遇する。
【0020】
これは、アミンをベースとする吸収溶液、例えばMEA、ジエタノールアミン(DEA)またはMDEAのようなアルカノールアミンをベースとする吸収溶液は、ガス状流出物の脱酸のためのプロセスに使用される鋼製の装置のアイテムに関して腐食性であることが知られているためである。これらの腐食リスクは、例えば、装置のアイテムが、より高価であるか、または機械的耐性が低い、耐腐食性合金でできていること、あるいは、溶液のコストを増加させ、ファウリングの様式で不可逆的かつ潜在的に蓄積し、その存在が、有効なコンテンツで継続的に監視することが推奨される腐食防止剤を使用すること、のように、かなり制限された措置を講じることを必要とする。
【0021】
吸収溶液の発泡は、ガス状流出物の脱酸における公知の問題であり、これは、吸収カラムまたは再生カラムの早期閉塞など、種々の有害な結果をもたらす可能性があり、結果として、製造能力の低下、目標仕様外の処理されたガス、処理されたガスまたは酸性ガス中への飛沫同伴によるアミンの損失、実際には、ユニットの運転停止さえも、もたらされる。アミン吸収溶液は、特にそれらが液体炭化水素と接触しているときに発泡する傾向があることが知られている。この問題は、多くの場合、消泡剤を添加することによって解決されるが、これにより、運用コストがさらに増加し、プロセスが複雑になる(内容物の監視やフィルターの追加等の必要性)。
【0022】
これに関連して、任意のタイプの流出物中の酸化合物を除去することを可能にし、脱酸プロセスを、より低い運用コスト(再生エネルギーを含む)および資本コスト(吸収カラムのコストを含む)で運用することを可能にし、吸収能力、選択性、特に温度に対する化学的安定性、低腐食性、および発泡の制限、の要件を満たす吸収化合物の配合を見出すことは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第6852144号明細書
【特許文献2】米国特許第6267939号明細書
【特許文献3】国際公開第09/156273号
【特許文献4】仏国特許出願公開第2877858号明細書
【特許文献5】仏国特許出願公開第2895273号明細書
【特許文献6】仏国特許出願公開第2900843号明細書
【特許文献7】仏国特許出願公開第2898284号明細書
【特許文献8】仏国特許出願公開第2900842号明細書
【特許文献9】仏国特許出願公開第2986441号明細書
【特許文献10】仏国特許出願公開第2986442号明細書
【特許文献11】仏国特許出願公開第3014101号明細書
【特許文献12】国際公開第2015/177333号
【特許文献13】国際公開第04/082809号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
発明の目的および概要
したがって、本発明の目的は、従来技術のニーズを満たし、従来技術の上記欠点の1つ以上を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
したがって、本発明は、少なくとも2つの特定のアミンの特定の組合せを含む吸収水溶液を用いて、ガスから、CO、HS、COS、CSまたはメルカプタンのような酸化合物を除去するための方法であって、該方法は、予想外にも、少なくとも1つの以下の効果を示す:
-従来の溶液と比較して、特に、炭化水素の存在下および運転中のユニットのような分解条件下における発泡の制限;
-従来の溶液と比較して低い腐食性;
-従来技術によるポリアミンをベースとする吸収溶液と比較して、より大きな安定性、すなわち、特に分子状酸素の存在下における分解の低減。
【0026】
さらに、本発明者らは、水溶液中の特定のアミンとピペラジンのような活性化剤との、この特定の組合せの使用が、MDEAとピペラジンとの混合物のような参照配合と比較して、COの循環吸収能力および吸収速度を改善し得ることを実証した。
【0027】
本発明に係る吸収溶液はまた、酸性ガス、特にCOおよびHSの吸収のための循環能力に関する良好な性能品質、ならびにHSに対する吸収選択性の結果として、本プロセスにおいて使用される吸収溶液の流量を制限することもできる。これらの性能品質は、酸性ガスの吸収のための循環能力の点で、MDEAの性能品質、および先行技術において引用されるポリアミンの性能品質よりも優れており、特に後者の場合よりも優れている。
【0028】
本発明によれば、吸収溶液は、有利には、本プロセスの操作条件下で、より詳細には、少なくとも吸収条件下で、そして溶液が再生器に入るまで、単相形態であり、これにより、特に沈降による吸収後の分離の段階を省くことが可能となる。
【0029】
したがって、本発明は、第1の態様によれば、ガス状流出物を、以下を含む吸収溶液と接触させることによって、酸化合物の吸収の段階を実施することを含む、ガス状流出物に含まれる酸化合物を除去する方法を提供する:
-水;
-20質量%~28質量%のペンタメチルジプロピレントリアミン;
-5質量%~35質量%のN-メチルジエタノールアミン。
【0030】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、吸収溶液は、10質量%~30質量%のN-メチルジエタノールアミンと、好ましくは42質量%~70質量%の水とを含む。
【0031】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、吸収溶液は、37質量%~75質量%の水を含む。
【0032】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、吸収溶液は、以下を含む:
-5質量%~20質量%のN-メチルジエタノールアミン;および
-0.5質量%~20質量%の、以下からなる群より選択される第一級または第二級アミン官能基を含む少なくとも1つの活性化化合物:
-ピペラジン;
-1-メチルピペラジン;
-ホモピペラジン;
-N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン;
-3-(メチルアミノ)プロピルアミン;
-N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-N-メチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-N,N’,N’-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール。
【0033】
この場合、吸収溶液は、5質量%~15質量%のN-メチルジエタノールアミン、好ましくは10質量%~15質量%のN-メチルジエタノールアミンを含むことができる。
【0034】
好ましくは、活性化化合物はピペラジンである。
【0035】
有利には、吸収溶液が、0.5質量%~10質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、好ましくは0.5質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、さらに好ましくは1質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物を含む。
【0036】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、吸収溶液は、メタノール、エタノール、2-エトキシエタノール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、ヘプタエチレングリコールジメチルエーテル、オクタエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブトキシアセテート、グリセロールトリアセテート、スルホラン、N-メチルピロリドン、N-メチルモルホリン-3-オン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-ホルミルモルホリン、N,N’-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、N-メチルイミダゾール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、プロピレンカーボネート、およびリン酸トリブチルからなる群より選択される少なくとも1つの物理溶媒をさらに含む。
【0037】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、吸収溶液は消泡添加剤を含まない。
【0038】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、酸化合物の吸収段階は、0.1MPa~20MPaの圧力、および、20℃~100℃の温度で実施される。
【0039】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、酸化合物が充填された吸収溶液が、吸収段階の後に得られ、その方法は、酸化合物が充填された前記吸収溶液の少なくとも1つの再生の段階を、0.1MPa~1MPa、好ましくは0.1MPa~0.5MPaの圧力、および、100℃~180℃、好ましくは110℃~140℃の温度で実施することを含む。
【0040】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、吸収溶液は、吸収カラム内の吸収段階の間、および、少なくとも、再生段階が実施される再生カラムへの入口まで、単相溶液であり、好ましくは、吸収カラム内および少なくとも再生カラムへの入口まで、110℃以下の温度を有する。
【0041】
本発明の1つ以上の実施形態によれば、ガス状流出物は、天然ガス、合成ガス、燃焼煙道ガス、製油所ガス、アミンユニットから生じる酸性ガス、クラウス法によってHSを硫黄に変換するためのユニットから生じるテールガス、バイオマス発酵から生じるガス、セメント工場からのガス、または焼却炉煙道ガスから選択される。
【0042】
本発明に係る方法は、HSとCOとを含むガス状流出物から、好ましくは天然ガスから、COに対してHSを選択的に除去するために用いることができる。
【0043】
本発明に係る方法は、バイオガスの脱炭素にも使用することができる。
【0044】
本発明の他の主題および利点は、非限定的な例として与えられる、本発明の特定の例示的な実施形態に続く、以下の説明を読むことによって明らかになり、この説明は、以下に記載される添付の図面を参照して行われる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1図1は、酸性ガス流出物の処理のためのプロセスのフローシートを表す。この図は、プロセスの実施に必要な構成要素、例えば熱交換器、ポンプ、ミキサー等の全てを含むものではない。本発明の理解に必要な要素のみがそこに表されており、当業者は、本発明を実施するために、この説明を補足することができる。
【発明を実施するための形態】
【0046】
実施形態の説明
本発明は、吸収水溶液を使用することによる、水性流出物からの酸化合物の除去を提供し、その組成は、以下に詳細に記載される。この方法は、吸収溶液の組成に関する詳細に続いて、より詳細に記載される。
【0047】
[吸収溶液の組成]
ガス状流出物中に含まれる酸化合物の除去のために使用される吸収溶液は、以下を含む:
-水;
-20質量%~28質量%のペンタメチルジプロピレントリアミン(PMDPTA);および
-5質量%~35質量%のN-メチルジエタノールアミン(MDEA)。
【0048】
MDEAは、水溶液中で使用される第三級モノアミンであり、ガスの脱酸の分野において、特にガス中に含まれるCOに対して、HSを選択的に吸収するための参照吸収溶液を構成する。
【0049】
PMDPTAは、下式の第三級ポリアミン、より具体的には、第三級トリアミンである。
【0050】
【化1】
【0051】
ポリアミンは、吸収能力を増加させる可能性を有することで、生成物の単位質量当たりの反応部位の数をより多くすることを可能にすることによって、モノアミンと比較して、利点を提供することが、先行技術において知られている。しかしながら、ポリアミンは、酸性ガスの吸収能力、HSの選択的除去性能、および酸性ガスの処理プロセスの条件下における化学的安定性に関して、同等ではない。加えて、水溶液中で使用されるいくつかのポリアミンは、特定の温度条件および酸性ガスの充填レベルの条件下で、脱混合現象、すなわち、単相液体吸収溶液の2つの液相への分離をもたらす可能性がある。
【0052】
水溶液中の示された濃度のPMDPTAとMDEAとの組み合わせは、酸性ガスの吸収のための特に高い能力を達成しながら、吸収および再生器までの循環の段階の間に通常遭遇する温度および充填レベルの条件下で、吸収溶液の2つの液相への分離、すなわち、脱混合現象を防止することを可能にする。
【0053】
本発明者らはまた、予期せぬことに、水溶液中のこれらの2つのアミンの特定の組合せが、炭化水素の存在下および吸収溶液の分解条件下における制限された発泡、優れた化学的安定性の特性、脱酸中に使用される金属装置のアイテムに関する腐食性の低減、および処理されるガス流出物中に含まれるCOに対するHSの選択的吸収のための非常に良好な性能品質を示すことを実証した。
【0054】
一実施形態によれば、吸収溶液は、10質量%~30質量%のMDEAを含む。
【0055】
吸収溶液は、37質量%~75質量%の水を含有することができる。
【0056】
吸収溶液は、該溶液が10質量%~30質量%のMDEAを含有する場合、好ましくは42質量%~70質量%の水を含有する。
【0057】
本明細書のいずれにおいても、吸収溶液の様々な化合物について質量%で表される質量分率の合計は、バージン吸収溶液、すなわち吸収された酸性ガス、または他の共吸収生成物または分解生成物を考慮に入れない吸収溶液の100質量%に等しい。
【0058】
濃度範囲は、特に明記のない限り、限界を含むものとして理解される。
【0059】
本明細書では、特に断りのない限り、圧力は絶対値で表される。
【0060】
一実施形態によれば、吸収水溶液は、20質量%~25質量%のPMDPTAおよび25質量%~35質量%のMDEAを含む。
【0061】
特定の実施形態によれば、吸収溶液は、20質量%~28質量%のPMDPTAと、5質量%~35質量%のMDEAとから構成される水溶液、好ましくは、20質量%~25質量%のPMDPTAと、25質量%~35質量%のMDEAとから構成される水溶液からなる。
【0062】
特定の実施形態によれば、吸収溶液は、以下を含む:
-水;
-22質量%~28質量%のPMDPTA;および
-5質量%~35質量%のMDEA。
【0063】
この場合、吸収溶液は、22質量%~28質量%のPMDPTAと、5質量%~35質量%のMDEAとから構成される水溶液、好ましくは、22質量%~25質量%のPMDPTAと、25質量%~35質量%のMDEAから構成される水溶液からなることができる。
【0064】
別の実施形態によれば、吸収溶液は、以下を含む:
-水;
-20質量%~28質量%のPMDPTA;
-5質量%~20質量%のMDEA;および
-0.5質量%~20質量%の、以下からなる群より選択される、第一級または第二級アミン官能基を含む少なくとも1つの活性化化合物:
-ピペラジン;
-1-メチルピペラジン;
-ホモピペラジン;
-N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン;
-3-(メチルアミノ)プロピルアミン;
-N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-N-メチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-N,N’,N’-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン;
-2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール。
【0065】
この実施形態によれば、吸収溶液は、「少なくとも1つの活性化化合物」という表現によって理解されるように、上に列挙されるような活性化化合物の混合物を含むことができる。
【0066】
活性化化合物とは、処理されるガス中に含まれるCOおよび場合によってはCOSの吸収速度を加速することができる化合物を意味すると理解される。本明細書では、「活性化溶液」を参照して、そのような活性化化合物を含む吸収溶液を示す。
【0067】
本発明によれば、そのような活性化溶液は、特に、処理されるガスの非選択的脱酸の用途、例えば、ガスの全脱酸の用途、すなわち、非常に厳しい仕様、すなわち、高い精製性能品質を達成するために、COおよびCOSを除去することが望まれる場合に使用される。
【0068】
好ましくは、活性化溶液に関するこの実施形態によれば、吸収溶液は、0.5質量%~10質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、好ましくは0.5質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、そしてより好ましくは1質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物を含む。
【0069】
活性化溶液に関するこの実施形態によれば、吸収溶液中のMDEAの濃度は、好ましくは5質量%~15質量%、好ましくは10質量%~15質量%である。この場合、吸収溶液は、0.5質量%~10質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、好ましくは0.5質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物、より好ましくは1質量%~6質量%の前記少なくとも1つの活性化化合物を含むことができる。
【0070】
好ましくは、活性化溶液に関するこの実施形態によれば、吸収溶液は、ピペラジンである少なくとも1つの活性化化合物を含む。より好ましくは、吸収溶液は、活性化化合物としてピペラジンを含む。
【0071】
別の好ましい実施形態によれば、吸収溶液は、以下を含み、そして、それらからなり得る:
-水;
-20質量%~28質量%のPMDPTA、好ましくは22質量%~27質量%のPMDPTA;
-5質量%~20質量%のMDEA、好ましくは5質量%~15質量%のMDEA;および
-0.5質量%~20質量%のピペラジン、好ましくは0.5質量%~10質量%のピペラジン、より好ましくは1質量%~6質量%のピペラジン。
【0072】
水の濃度は可変であり、吸収溶液に含まれる他の化合物の合計に対する、質量による補数を表す。
【0073】
本発明によれば、水の濃度は可変である。
【0074】
好ましくは、吸収溶液は、少なくとも37質量%の水および最大で75質量%の水を含む。
【0075】
一実施形態によれば、吸収溶液は、「物理溶媒」として一般に知られる、酸化合物に対して非反応性である有機化合物を含み、これは、ガス状流出物の少なくとも1つ以上の酸化合物の溶解度を増加させることを可能にする。したがって、この実施形態によれば、吸収溶液は、5質量%~50質量%の物理溶媒を含むことができる。
【0076】
例えば、吸収溶液は、アルコール、エーテル、エーテルアルコール、グリコールおよびポリエチレングリコールのエーテル、グリコールチオエーテル、グリコールおよびポリエチレングリコールのエステルおよびアルコキシエステル、グリセロールエステル、ラクトン、ラクタム、N-アルキル化ピロリドン、モルホリン-3-オン、モルホリンの誘導体、イミダゾールおよびイミダゾリジノン、N-アルキル化ピペリドン、シクロテトラメチレンスルホン、N-アルキルホルムアミド、N-アルキルアセトアミド、エーテルケトンアルキルカーボネートまたはアルキルホスフェートおよびそれらの誘導体などの、少なくとも1つの物理溶媒を含むことができる。非限定的な例として、物理溶媒は、メタノール、エタノール、2-エトキシエタノール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、ヘプタエチレングリコールジメチルエーテル、オクタエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールブトキシアセテート、グリセロールトリアセテート、スルホラン、N-メチルピロリドン、N-メチルモルホリン-3-オン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-ホルミルモルホリン、N,N’-ジメチルイミダゾリジン-2-オン、N-メチルイミダゾール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、プロピレンカーボネートまたはリン酸トリブチルであり得る。
【0077】
[ガス状流出物の性質]
本発明によれば、吸収溶液は、以下のガス状流出物を脱酸するために使用することができる:天然ガス、合成ガス、燃焼煙道ガス、製油所ガス、アミンユニットから生じる酸性ガス、クラウス法によってHSを硫黄に変換するためのユニットから生じるテールガス、バイオマス発酵から生じるガスのようなバイオガス、セメント工場からのガスまたは焼却炉煙道ガス。これらのガス状流出物は、1つ以上の、以下の酸化合物を含有する:CO、HS、メルカプタン(例えば、メチルメルカプタン(CHSH)、エチルメルカプタン(CHCHSH)、プロピルメルカプタン(CHCHCHSH))、COS、CSまたはSO
【0078】
燃焼煙道ガスは、特に、ボイラー内での炭化水素、バイオガス、または石炭の燃焼によって、または、例えば電気を生成する目的で燃焼ガスタービンのために生成される。実例として、燃焼煙道ガス中に含まれるCOの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、実際には少なくとも90%さえも吸収するために、本発明に係る脱酸プロセスを実施することができる。このようなCOの除去は、ガスの「脱炭素(decarbonization)」と呼ぶことができる。これらの煙道ガスは一般に、20℃~60℃の温度、および0.1MPa~0.5MPaの圧力を有し、50体積%~80体積%の窒素(N)、5体積%~40体積%のCO、1体積%~20体積%の酸素(O)、そして、脱酸プロセスの上流で除去されない場合には、SO化合物およびNO化合物のような少しの不純物を含むことができる。特に、本発明に係る脱酸プロセスは、低いCO分圧、例えば0.02MPa未満のCO分圧を有する燃焼煙道ガスに含まれるCOを吸収するのに、特に好適である。
【0079】
本発明に係る脱酸プロセスは、合成ガスを脱酸するために使用することができる。合成ガスは、一酸化炭素CO、水素H(通常、H/CO比は2に等しい)、水蒸気(通常、スクラビングが行われる温度で飽和状態)、およびCO(約10体積%のオーダー)を含有する。圧力は、通常2~3MPaであるが、7MPaまで到達することもある。それはさらに、硫黄含有不純物(HS、COSなど)、窒素含有不純物(NH、HCN)およびハロゲン含有不純物を含有することができる。
【0080】
本発明に係る脱酸プロセスは、天然ガスを脱酸するために使用することができる。天然ガスは、主にガス状炭化水素から構成されているが、以下の酸化合物のいくつかを含有することができる:CO、HS、メルカプタン、COSまたはCS。これらの酸化合物の含有量は非常に変動しやすく、COでは70体積%まで、HSでは40体積%までとすることができる。天然ガスの温度は、10℃~100℃とすることができる。処理される天然ガスの圧力は1~20MPaであることができる。本発明は、天然ガスの液化を引き続き実施するために、2体積%未満のCO、実際には50体積ppm未満のCO、4体積ppm未満のHSおよび50体積ppm未満、さらには10体積ppm未満の総硫黄という、脱酸ガスに一般的に課される仕様を達成するために使用することができる。
【0081】
本発明に係る脱酸プロセスは、バイオガス、典型的には、バイオマス発酵から生じ、HS、メルカプタンまたはシロキサンのような不純物を除去するために一般に前処理されたガスを脱酸するために使用することができる。これらのガスは、一般に、5℃~60℃の温度、そして0.1MPa~2MPaの圧力を有し、30体積%~75体積%のメタン、0体積%~40体積%の窒素(N)、15体積%~50体積%のCO、および0体積%~10体積%の酸素(O)を含むことができる。特に、本発明に係る脱酸プロセスは、一般に大量の酸素、例えば10分の数体積%~数体積%の酸素を含むという際立った特徴を有するバイオガスからCOを除去するために有利に使用される。アミンは、一般に、酸素に敏感であり、酸素の存在下で、より容易に分解することが知られている。したがって、本発明は、特に、酸素の存在下での吸収溶液の良好な化学的安定性の結果として、バイオガスの処理に、特に好適である。
【0082】
[ガス状流出物中の酸化合物の除去方法]
本発明に係るガス状流出物からの酸化合物の除去方法は、ガス状流出物を吸収溶液に接触させることによる酸化合物の吸収の段階を含む。
【0083】
図1のスキームに示すように、吸収段階の後に再生段階が続く。
【0084】
本発明では、圧力範囲および温度範囲などの、所与の段階のための様々な範囲のパラメータを、単独で、または組み合わせて使用することができる。例えば、本発明では、ある範囲の好ましい圧力値を、より好ましい範囲の温度値と組み合わせることができる。
【0085】
図1を参照すると、ガス状流出物の脱酸のためのプラントは、ガスと液体とを接触させるための手段、例えば、ランダムパッキング、構造化パッキングまたはプレートを備えた吸収カラムC1を含む。処理されるガス状流出物は、カラムC1の底部に現れるパイプ1によって運ばれる。パイプ4は、カラムC1の頂部における吸収溶液の導入を可能にする。パイプ2は、処理された(脱酸された)ガスの排出を可能にし、パイプ3は、吸収後の酸化合物に富む吸収溶液を、再生カラムC2に運ぶことを可能にする。この再生カラムC2は、ガスと液体とを接触させるための内部機構、例えばプレート、ランダムパッキングまたは構造化パッキングを備える。カラムC2の底部には、吸収溶液の一部を蒸発させることによって再生に必要な熱に寄与するリボイラーR1が備えられている。酸化合物に富む溶液は、パイプ5を介して再生カラムC2の頂部に導入される。パイプ7は、カラムC2の頂部で、再生中に放出される酸化合物に富むガスを排出することを可能にし、カラムC2の底部に位置するパイプ6は、再生された吸収溶液を吸収カラムC1に送ることを可能にする。熱交換器E1は、吸収カラムC1から出てくる酸化合物に富む吸収溶液を加熱するために、カラムC2から生じる再生された吸収溶液の熱を回収することを可能にする。
【0086】
吸収段階は、パイプ1を介して到達するガス状流出物を、パイプ4を介して到達する吸収溶液と接触させることからなる。接触中、吸収溶液の分子のアミン官能基は、流出物に含まれる酸化合物と反応して、カラムC1の頂部のパイプ2を介して排出される、酸化合物が枯渇したガス状流出物と、再生されるために、カラムC1の底部のパイプ3を介して排出される、酸化合物に富む吸収溶液を得る。
【0087】
酸化合物の吸収段階は、天然ガスの処理のためには、0.1MPa~20MPa、好ましくは2MPa~10MPaのカラムC1内の圧力で、また工業用煙道ガスの処理のためには、好ましくは0.1MPa~0.3MPaで実施することができる。
【0088】
酸化合物の吸収段階は、20℃~100℃、好ましくは30℃~90℃、実際には30℃~60℃のカラムC1内の温度で実施することができる。
【0089】
再生段階は、特に、酸化合物をガスの形態で放出するために、酸化合物に富む吸収溶液を加熱し、場合により減圧することからなる。カラムC1から出てくる酸化合物に富む吸収溶液は、熱交換器E1に導入され、そこで、再生カラムC2から生じるパイプ6内を循環する流れによって加熱される。E1の出口で加熱された溶液は、一般に110℃以下の温度で、パイプ5を介して再生カラムC2に導入される。
【0090】
再生カラムC2においては、パイプ5を介して到達する吸収溶液を、リボイラーによって生成される蒸気と接触させる効果の下、酸化合物がガス状形態で放出され、パイプ7を介してカラムC2の頂部で排出される。再生された吸収溶液、すなわち、酸化合物が枯渇した吸収溶液は、パイプ6を介して排出され、E1において冷却され、次いで、パイプ4を介して吸収カラムC1に再循環される。
【0091】
再生段階は、熱再生によって実施することができ、任意に、1つまたは複数の減圧段階を補うことができる。例えば、パイプ3を介して排出される酸化合物に富む吸収溶液は、任意の加熱後、熱交換器E1に入る前に、第1のフラッシュドラム(不図示)に送ることができる。天然ガスの場合、減圧により、吸収溶液に共吸収された脂肪族炭化水素の大部分を含む、ドラムの頂部で排出されるガスを得ることが可能となる。このガスは、再生された吸収溶液の一部によって任意に洗い落とすことができ、このようにして得られるガスは、燃料ガスとして使用することができる。フラッシュドラムは、好ましくは吸収カラムC1の圧力よりも低く、再生カラムC2の圧力よりも高い圧力で作動する。この圧力は、一般に、燃料ガスの使用条件によって設定され、典型的には0.2~1.5MPa、好ましくは0.5~1.5MPaのオーダーである。フラッシュドラムは、吸収カラムC1の底部で得られる吸収溶液の温度と実質的に同じ温度で作動する。
【0092】
次いで、吸収溶液は、減圧段階の後に、減少した量の酸性ガスを含む。それは、本発明の特定の実施態様(示されていない)における新しい吸収サイクルのために、場合によっては、カラムC2から生じる再生吸収溶液とは異なるレベルで、吸収カラムC1に部分的に再循環させることができる。吸収溶液が部分的に吸収カラムに再循環される場合、減圧段階から生じる吸収溶液の他の部分は、再生カラムC2に導入される。
【0093】
本発明の特定の実施態様(示されていない)において、吸収溶液は、減圧段階の後、吸収カラムC1に完全に再循環され、再生カラムC2は使用されない。
【0094】
再生は、0.1MPa~0.5MPa、好ましくは0.1MPa~0.4MPa、実際には1MPaまでのカラムC2内の圧力、および100℃~180℃、好ましくは100℃~140℃、より優先的には110℃~140℃、さらにより優先的には115℃~140℃、さらにより好ましくは115℃~130℃のカラムC2内の温度で実施することができる。例えば、カラムC2内の再生温度は、酸性ガスが、大気中に、またはクラウス(Claus)法もしくはテールガス処理プロセスのような下流の処理プロセスに送られる場合には、115℃~130℃である。
【0095】
好ましい実施形態によれば、再生は、0.1MPa~0.5MPa、好ましくは0.1MPa~0.4MPaのカラムC2内の圧力、および110℃~140℃、より好ましくは115℃~130℃の温度で行われる。
【0096】
本発明によれば、液体吸収溶液は、有利には、吸収カラムC1における吸収の段階の間、および少なくとも再生カラムC2への入り口までの、酸化合物に富む溶液の循環の間、単相溶液のままである。これは、吸収溶液の特定の配合により、溶液の吸収および再生カラムまでの循環中に、吸収溶液が脱混合するリスクを最小限に抑えることができるためである。これは、このような脱混合が、操作上の問題の原因となる可能性があるためである。これは、溶液が、吸収カラム中で2つの別々の相の形態である場合、ガスから吸収溶液に移動する酸化合物の流れが強く影響を受け、その結果、カラムの高さを一般に調節する必要がある(カラムのサイズの増加)ためである。したがって、この現象は、システムの複雑さを考慮すると、実装上の困難さを示し、モデル化することは困難である。さらに、2つの別々の液相の形態の溶液は、再生カラムの上流に、分離装置(例えば、沈降による分離のための)を設置する必要があり、これにより、プロセスが複雑になり、コストが増大する。したがって、このような問題は、本発明に係るプロセスにおいては回避される。
【0097】
本発明によれば、吸収溶液は、ガス状流出物の脱酸のためのプラントの装置のアイテムの腐食を最小限に抑え、その表面は鋼を含み、前記溶液と接触するようにされる。
【0098】
これらの装置のアイテムは、炭素鋼としても知られる低合金鋼またはステンレス鋼で構成することができる。低合金鋼は、主として鉄、特に少なくとも90質量%の鉄、および0.01質量%~2.5質量%の炭素、およびアルミニウム、クロム、コバルト、銅、マンガン、モリブデン、ニッケル、ニオブ、リン、ケイ素、チタン、タングステンまたはバナジウムから選択される少なくとも1つの合金元素から構成される鋼を意味すると理解され、前記少なくとも1つの合金元素の個々の含有量は、5質量%未満である。この定義は、1質量%の制限内の他の元素の存在を排除するものではない。腐食の影響を受けにくいステンレス鋼は、クロム含有量が11.5質量%を超える点において、低合金鋼とは組成が異なる。
【0099】
関連する装置のアイテムは、非限定的に、ガス/液体接触が行われる吸収および再生カラム;プラントの様々な要素を接続するパイプ;プレート、構造化もしくはランダムパッキング、交換器、ポンプおよびバルブの本体、または貯蔵タンクなどの、チャンバ内に配置される要素である。
【0100】
本発明によれば、装置のアイテムは、主に鋼から構成される表面を含むが、これは、このような装置のアイテムの製造に使用される他の材料の存在を排除するものではない。
【0101】
その限られた腐食力のために、吸収溶液は、脱酸プラントの装置のアイテムの腐食を制限すること、そしてまた、本発明に係る方法における腐食防止剤の使用を制限または不要にすることを可能にする。
【0102】
本発明の方法に係るガス状流出物の脱酸のための吸収溶液の使用によって提供される別の利点は、発泡現象の制限である。発泡は、一般に、プロセスの性能品質を害し、ユニットの停止をもたらすことさえある。発泡は、今日においても制御が困難な現象であるが、それにもかかわらず、脱酸ユニットの運転にとっては重要である。
【0103】
予期せぬことに、吸収溶液は、処理されるべきガス中に最初に存在し得る脂肪族または芳香族炭化水素の存在下、および/または、その使用条件を反映して、溶液の特定の分解条件下での発泡を制限することを可能にする。したがって、アミン溶液の発泡の問題を克服するために従来使用されている消泡添加剤の使用を制限すること、またはそれを省くことさえ想定することが可能である。したがって、一実施形態によれば、吸収溶液は、消泡添加剤を含まない。
【0104】
消泡添加剤は、吸収溶液の組成に関与することができる上記化合物以外の、吸収溶液中の任意の追加の化合物または追加の化合物の混合物を意味すると理解され、それは、吸収溶液の発泡を防止することができる、または、既に形成された泡を除去することができる。
【0105】
従来、消泡添加剤は、10分の数質量パーセントを達成するために、消泡溶液の吸収溶液中への定期的な注入からなる最初の計量によって使用され、次いで、この計量は、ユニット上で観察される発泡のレベルに従って調節される。従来、ポリジアルキルシロキサンまたはシリコーン樹脂のようなケイ素ベースの有機化合物が、一般的に、水中のエマルジョンとして使用される。消泡添加剤の過剰または不適切な使用は、発泡問題を悪化させることが知られており、これは、そのような添加剤の使用を管理することを困難にすることに留意されたい。
【0106】
溶液の発泡力および/または消泡添加剤を使用する必要性を特徴付けるために、実験室で有利に使用することができる試験は、溶液の撹拌に続いて、メスシリンダー型の円筒形ガラス容器中に生成される泡の高さを決定することにあり、泡の高さは、時間の関数として、溶液の初期高さに対するパーセンテージとして表される。
【0107】
それは、例えば、体積50mlの溶液に対して20℃で行われ、250mlビーカーに入れて、5枚羽根撹拌機を用いて、1200回転/分で4分間撹拌する。撹拌を停止したらすぐに、溶液の表面上に発生した泡の高さを直ちに(t0)、そして30秒において測定し、初期高さのパーセンテージとして表す。測定における不確かさは、初期高さの2.5%に相当する。
【0108】
本発明によれば、吸収溶液は、特に酸素の存在下で、分解に対する耐性を示し、したがって、当業者に周知の現象による腐食を促進する副生成物の生成を制限する。本明細書では、特に、吸収溶液の再生中に作動するような高温における分解に対するこの耐性を表すための化学的安定性についても言及する。
【0109】
本発明に係る方法は、有利には、処理すべきガス、例えば天然ガス中のCOに対して、HSを選択的に除去することができる。これは、吸収溶液が、このタイプの用途に対して優れた性能品質、特に、HSの吸収能力が高く、COの吸収速度が比較的遅いためであり、これにより、効果的な選択的除去が可能となり、また、使用される吸収溶液の流量を減少させることもできる。
【0110】
本発明に係る方法は、特に、活性化された吸収溶液の良好な性能品質のために、酸性ガス、特にCOの吸収の能力の観点からだけでなく、COの吸収の速度の観点、および化学的安定性の観点から、ガス状流出物の非選択的脱酸、例えば、燃焼煙道ガスの脱炭素またはバイオガスの脱炭素のために、有利に使用することができる。
【実施例
【0111】
以下の例は、非限定的な方法で、ガス状流出物中に含まれるCOまたはHSなどの酸化合物を除去するために、本発明に従って使用される吸収溶液の性能品質を説明する。
【0112】
これらの例における吸収溶液として、MDEAと組み合わせたPMDPTAの水溶液を使用する。本発明に係る方法において使用されるこれらの溶液の組成を、以下の表1に要約する。
【0113】
いくつかの吸収溶液はまた、活性化剤として使用されるピペラジン(Pz)を含有する。
【0114】
【表1】
【0115】
第1の工程(例1および2)においては、吸収溶液AおよびBの特定の物理化学的特性、特に、成分の混和性は、Pzの有無にかかわらず、従来技術によるPMDPTAの水溶液のものとは非常に異なることが示されている。
【0116】
使用される、PMDPTAに基づく従来技術による吸収溶液(吸収溶液C、D、E)の組成は、以下の表2に示され、また、別のポリアミンである、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)に基づく吸収溶液F(文献WO04/082809またはUS6267939による)、および、例えば、文献US6267939またはWO09/156273A2に開示されている、別のポリアミンである、N,N,N’,N’-テトラメチルジプロピレントリアミン(TMDPTA)に基づく、2つの他の吸収溶液MおよびNも表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
例3~5では、本発明に従って使用される吸収溶液の利点を、化学的安定性、腐食および発泡の問題の制限の観点で、Pzを含むまたは含まない、MDEAの種々の水溶液(その吸収溶液を、以下の表3に示す)と比較して説明する。表3に示す吸収溶液は、酸性ガスの処理のための参照溶媒を構成する。本発明に係る方法において使用される溶液のいくつかの特徴はまた、ジエタノールアミン(DEA)の40質量%水溶液(表3に示される吸収溶液x)の特徴と比較され、これはまた、酸性ガスの処理のための参照溶媒である。
【0119】
【表3】
【0120】
表1~3に示される吸収溶液において、種々の化合物および水の質量%として表される質量分率の合計は、バージン(virgin)吸収溶液、すなわち、吸収された酸性ガス、または他の共吸収生成物または分解生成物を考慮に入れない吸収溶液の100質量%に等しい。
【0121】
例3では、吸収溶液Bの化学的安定性を、MDEAおよびPzに基づく従来技術による吸収溶液Kの化学的安定性、ならびに文献WO04/082809およびUS6267939による吸収溶液Fの化学的安定性と比較する。吸収溶液Bの化学的安定性はまた、50%のTMDPTAを含有する、従来技術による吸収溶液Mの化学的安定性、そして、25%のTMDPTA、15%のMDEAおよび5%のPzを含有する、従来技術による吸収溶液N(本発明に係る吸収溶液Bと同様であるが、PMDPTAがTMDPTAに置き換えられている)の化学的安定性と比較される。
【0122】
例4では、吸収溶液AおよびBの腐食性を、MDEAに基づく従来技術による吸収溶液Jの腐食性と、MDEAおよびPzに基づく従来技術による吸収溶液Lの腐食性と、そしてまた、DEAの40質量%水溶液の腐食性と比較する。
【0123】
最後に、例5では、吸収溶液AおよびBの発泡特性を、MDEAに基づく従来技術による吸収溶液Jの発泡特性と、MDEAおよびPzに基づく従来技術による吸収溶液Kの発泡特性と比較する。
【0124】
[例1:40℃での混和性、COの充填レベルの影響]
文献FR2877858に記載されているように、COを充填したPMDPTAの水溶液中で観察される脱混合現象は、PMDPTAとMDEAを、本発明に従って定義される比率で組み合わせることによって排除することができる。この吸収溶液は、特定の質量割合のPMDPTAを、本発明に従って、同等の質量割合のMDEAで置き換えることからなる。
【0125】
PMDPTAに基づく吸収溶液の組成および処理されるガスの組成、特にCO分圧に応じて、脱混合という名で知られている、液/液相分離を行うことができる。所定の吸収溶液(すなわち、所定の濃度のアミンおよび水)に対して、40℃で脱混合が起きる条件は、CO分圧を徐々に増加させ、それにより物理化学的平衡状態でのCOの充填レベル(α=nacid gas/namine、nacid gasは、溶液中の酸性ガスのモル数、namineは、溶液中のアミンのモル数)を徐々に上げることにより、実験室試験(完全に撹拌された気体/液体反応器中)によって決定される。
【0126】
これらの実験室試験の結果によれば、吸収溶液は、図1に記載されるような脱酸プロセスにおいて使用することができる。本発明によって定義される、PMDPTAおよびMDEAに基づく吸収溶液は、吸収カラムの操作条件(すなわち、一般に40℃)に対応する操作条件下において単相溶液のままであるため、このタイプのプロセスに特に適している。
【0127】
ここでは、40℃における液/液平衡が関係しており、これは、吸収カラムにおける低温に対応する。実験室試験は、50質量%の第三級アミン濃度を有する吸収溶液AおよびCについて実施される。種々の吸収溶液について得られた結果を、以下の表4に要約する。
【0128】
【表4】
【0129】
表4の結果によれば、溶液Aは、吸収カラムの操作条件を代表する操作条件下(例では、CO充填レベル1.24に相当する、0.3MPaのCO分圧および40℃)において、単相吸収溶液を得ることを可能にすることが分かる。
【0130】
他方、従来技術による50%のPMDPTAを含有する吸収溶液(溶液C)は、0.7~1.5の充填レベルで脱混合現象を示すことが分かる。
【0131】
[例2:混和性に対する温度の影響]
PMDPTAの水溶液中で観察される脱混合現象は、本発明に従って定義される割合でPMDPTAをMDEAと組み合わせることによって排除することができる。この特定の組み合わせはまた、活性化剤なしで、またはピペラジンなどの活性化剤の存在下で、PMDPTA溶液において観察される、あらゆる脱混合現象を防止することを可能にする。
【0132】
PMDPTAに基づく吸収溶液の組成、第一級または第二級アミンの任意の存在、および吸収溶液の温度に応じて、液/液相分離が起こり得る(脱混合現象)。
【0133】
所定の吸収溶液(すなわち、所定の濃度のアミンおよび水)について脱混合が起こる温度は、サーモスタット制御された油浴中での実験室試験によって、前記吸収溶液のサンプルが浸漬される浴の温度を徐々に上昇させることによって決定される。脱混合現象は、混合物の透明度の変化を観察することによって検出される、すなわち、脱混合が生じると、混合物は混濁する。
【0134】
これらの実験室試験の結果によれば、吸収溶液は、図1に記載されるような脱酸プロセスにおいて使用することができる。本発明によって定義される割合のPMDPTAおよびMDEAに基づく吸収溶液は、充填/流出物交換器を通過した後の温度条件下(一般に110℃以下)で単相のままであることを可能にするため、このタイプのプロセスに特に適している。
【0135】
実験室試験は、40質量%の第三級アミン濃度および5質量%のPz濃度を有する活性化吸収溶液(BおよびG)について実施される。種々の吸収溶液について得られた結果を、以下の表5に要約する。溶液には、1モル/モルアミンの充填レベルでCOが充填され、これは、充填/流出物交換器の出口での状態を表す。
【0136】
【表5】
【0137】
表5の結果によれば、本発明に従って使用される吸収溶液(溶液AおよびB)は、従来技術による溶液CおよびGで観察される脱混合現象を、完全に排除することができることが分かる。したがって、吸収溶液AおよびBは、COの充填レベルおよび充填/流出物交換器の出口に対応する温度(一般に110℃以下)の条件下で、単相吸収溶液を有することを可能にするため、有利である。
【0138】
一方で、50%のPMDPTA(従来技術による溶液C)、または、30%のPMDPTAと5%のPz(従来技術による溶液G)を含む、COを充填した溶液は、110℃未満、すなわち、溶液Gについては95℃、そして溶液Cについては40℃の温度で脱混合現象を示すことが分かる。
【0139】
[例3:吸収溶液の安定性]
本発明に従って使用される吸収溶液のアミンは、脱酸ユニットにおいて起こり得る分解に対して特に耐性があるという際立った特徴を示す。
【0140】
分解試験は、調節システムによって温度が制御される、密閉反応器内の吸収溶液に対して実施される。各溶液について、100cmの液量を反応器に注入して試験を行う。この溶液は、ガスを注入する前に、真空を維持することによって、あらかじめ、溶解した全ての汚染物質から脱気され、続いて、反応器を、設定温度の加熱ジャケットに入れて、磁気撹拌下に置く。その後、液量を、分圧0.17MPaのCOと窒素との混合物からなる23Sl/hのガス流により、60℃、全圧0.2MPa下で、一晩フラッシュし、吸収器底部に充填された溶液を表す充填レベルを達成する。飽和後、COで飽和した吸収溶液を、密閉反応器中、140℃で15日間加熱する。次いで、該溶液を80℃に冷却し、次いで、COを除去するために、0.2MPaの圧力で30Sl/hの窒素流によって、この温度でフラッシュする。続いて、残留アミンの濃度を測定するために、溶液を分析する。
【0141】
吸収溶液の分解に対する酸素の影響は、60℃における飽和段階の間に、窒素の一部を空気で置換し、この段階を3日間延長することによっても研究することができる。飽和段階の間、CO分圧を0.17MPaに維持しながら、所望の酸素分圧を達成するために、空気および窒素の流量ならびに全圧を調節する。
【0142】
充填段階において、酸素がない状態での、CO圧下での15日間に亘る、溶液B、TMDPTAに基づく従来技術による溶液M、従来技術による溶液N(溶液Bと同様であるが、PMDPTAがTMDPTAで置き換えられている)、50%のPMDETAを含む従来技術による溶液F、そして39質量%のMDEAと6質量%のPzを含む参照吸収溶液Kの、CO下での分解による相対分解速度を、以下の表6に示す。相対分解速度は、吸収溶液のアミンの分解速度を、同じ実験条件下における吸収溶液Kの分解速度で割った比によって計算される。
【0143】
アミンの分解速度(DR)は、以下の式によって計算される。
【0144】
【数1】
【0145】
ここで、
[A]は、分解された溶液中のアミンの総濃度であり、
[A]°は、分解されていない溶液中のアミンの総濃度であり、そして
initialおよびwfinalは、分解試験前後の溶液の質量である。
濃度[A]および[A]°は、ガスクロマトグラフィーによって決定される。
【0146】
【表6】
【0147】
飽和充填段階において、酸素の存在下、CO圧下で15日間、酸素分圧を3日間、0.02MPaに維持した場合の相対分解速度DRを、以下の表7に示す。
【0148】
【表7】
【0149】
表6によれば、この例は、先行技術に記載されているポリアミンが、参照溶液および本発明に従って使用される溶液と比較して、化学的安定性に関して同等ではないことを示している。
【0150】
本発明に従って使用される吸収溶液は、先行技術によるポリアミン溶液とは異なり、CO圧下および酸素の不存在下で、参照溶液の化学的安定性に匹敵する化学的安定性を示す。
【0151】
さらに、表7によれば、本発明に従って使用される吸収溶液は、参照溶液Kと比較して、酸素に対する増加した耐性を示す。
【0152】
これは、合成ガス(合成ガス(syngas))および天然ガスの処理のためのアミンユニットにとって特に有利であり、これらは一般的に、特定の予防措置によって、または後燃焼におけるCOの捕捉の場合、または、10分の数体積%~数体積%の酸素を含有することができる、バイオマス発酵から生じるバイオガスの処理における脱炭素の用途で、酸素による分解を防ぐ。
【0153】
[例4:吸収溶液の腐食性]
プロセスで使用される冶金の耐食性は、新しい技術の導入時に確認すべき重要なポイントである。
【0154】
吸収溶液の腐食性を、適用条件よりも厳しい条件下でのオートクレーブ試験により研究した。結果は、異なる参照吸収溶液:MDEAの溶液(溶液J)、MDEAおよびPzの混合物を含む溶液(溶液L)、ならびにDEAの水溶液(40質量%のDEAおよび60質量%の水)について実施された試験と比較することができた。
【0155】
アミン溶液の腐食性は、分解生成物の存在下で、より大きくなることが知られているように、第1の段階は、溶液AおよびBを、140℃、3.5MPaのCO下で1週間分解することにあった。
【0156】
これらの分解された溶液は、その後、AISI 1020炭素鋼およびAISI 316Lステンレス鋼の長さの腐食試験を実施するために使用され、それらの化学組成は、以下の表8に示される(質量%として与えられる値)。鉄は、表8に示されておらず、これらすべての合金における主要な元素である。
【0157】
【表8】
【0158】
第1の試験は、吸収器の底部と再生器の入口との間で遭遇する可能性のある極端な条件を表す、温度およびCO充填レベルの条件下で充填された溶液を表すために、110℃、3.5MPaのCO下で実施した。
【0159】
第2の試験は、再生器出口における吸収溶液の状態(0.1mol/mol未満の充填レベルで再生された溶液)を表すために、前の溶液からCOを抽出(ストリッピングによる)した後、135℃、窒素下で行った。
【0160】
各試験において、2つの長さの炭素鋼と2つの長さのステンレス鋼を、回転マウント(周速は0.4m/sに近い)上に配置する。これらの長さは、一辺の長さ(側面の長さ)が26mm、厚さが1mmのシートの形態で提供される。各試験の前に、各サンプルを、グレード600のサンドペーパーで研磨し、次いで、エタノール中で慎重に脱脂し、脱イオン水ですすぎ、秤量する。
【0161】
腐食生成物の堆積物を除去するため、試験の終わりに、秤量前に、各サンプルに対して適切な表面洗浄を実施し、文献ASTM G1に記載されている方法に従う。
【0162】
腐食速度は、質量の変化から計算され、μm/年で表される。
【0163】
これらの試験の間に得られた腐食速度を、以下の表13(第1の試験のデータ)および表14(第2の試験のデータ)に示し、溶液Jおよび溶液Lにおいて実施された同様の試験の間に得られたものと比較する。
【0164】
高い充填の条件下(3.5MPaのCO下で飽和)および110℃での4週間の試験後に測定した腐食速度(μm/年)を表9に示す。
【0165】
リーン(lean)条件下(0.1mol/mol未満の充填レベル)および135℃(溶液AおよびB)または120℃(参照溶液)での4週間の試験後に測定した腐食速度(μm/年)を表10に示す。
【0166】
本発明に従って使用される吸収溶液は、参照溶液よりも腐食性が低いことが判明した。
【0167】
【表9】
【0168】
【表10】
【0169】
[例5:炭化水素で飽和された、またはアミンの分解から生じる化合物を含有する吸収溶液の発泡]
発泡試験を実施することにより、吸収溶液の発泡力を評価することができる。発泡試験は、溶液の撹拌後に発生する泡の高さを測定することからなり、試験は、時間の関数として、溶液の初期高さに対するパーセンテージとして表される。
【0170】
試験は、体積50mlの溶液に対して20℃で行われ、250mlビーカーに入れて、5枚羽根撹拌機を用いて、1200回転/分で4分間撹拌する。
【0171】
撹拌を停止したらすぐに、溶液の表面上に発生した泡の高さを直ちに(t0)、そして30秒において測定し、液体の初期高さのパーセンテージとして表す。
【0172】
測定における不確かさは、初期高さの2.5%で評価される。
【0173】
この研究は、参照吸収溶液JおよびK、ならびに本発明による吸収溶液AおよびBについて行われる。
【0174】
吸収溶液AおよびJでは、一般にアミンの酸化分解から生じる特定のアニオン性生成物の発泡に対する効果が観察される。熟成した(aged)溶液の組成を表すために、種々のカルボン酸を、新鮮な吸収溶液に対してppmで表される、以下の量で、吸収溶液AおよびJに添加した。すなわち、グリコール酸3000質量ppm、シュウ酸500質量ppm、ギ酸40000質量ppm、酢酸6000質量ppm、すなわち、添加されたカルボン酸の総量は、新鮮な吸収溶液の4.95質量%に相当する。
【0175】
炭化水素を含むガス状流出物中の酸性ガスの吸収溶液に対する、それらの発泡力を観察するために、Pzで活性化された吸収溶液BおよびKは、吸収溶液を、周囲温度で数ミリリットルのこれらの化合物と接触させることによって、n-ヘキサンまたはトルエンで飽和される。続いて、炭化水素で飽和した溶液BおよびKを、発泡試験に供する前に、沈降による分離によって回収する。
【0176】
最後に、本発明による吸収溶液Bの発泡力を、参照吸収溶液Kおよび従来技術による吸収溶液Gと比較し、これらは、例7において、酸素の不在下、記載された条件下で分解され、分解された吸収溶液の質量の4.95%に相当するカルボン酸の混合物(その組成は上に示されている)が添加されている。
【0177】
カルボン酸の存在下での吸収溶液AおよびJにおける、撹拌の停止時および30秒後に観察される、撹拌前の高さのパーセンテージとして表される泡の高さを表11に示す。
【0178】
【表11】
【0179】
試験条件下、酸化分解を表す酸化合物の存在下で、本発明に係る吸収溶液Aは、有意な発泡効果を示さないが、参照吸収溶液Jは、同じ撹拌条件下で発泡傾向を示すことが判明した。
【0180】
n-ヘキサンまたはトルエンで飽和された吸収溶液BおよびKにおいて、撹拌停止時および30秒後に観察される、撹拌前の高さのパーセンテージとして表される泡の高さを表12に示す。
【0181】
【表12】
【0182】
試験条件下で、n-ヘキサンで飽和された本発明による溶液Bは、有意な発泡効果を示さないのに対し、n-ヘキサンで飽和された、MDEAおよびPzに基づく参照吸収溶液Kは、同じ撹拌条件下で、発泡傾向を示すことが判明した。
【0183】
また、トルエンの存在下で、本発明による吸収溶液Bは、MDEAおよびPzに基づく参照溶液Kに対して、実質的に半分である発泡係数を示すことが判明した。
【0184】
この注目すべき効果は、例えば、本発明に係る吸収溶液の使用により、参照吸収溶液と比較して、吸収カラム上の閉塞の遅延を想定することを可能にし、また、他の全てが等しい場合には、既存のガス処理ユニットの容量の増加、すなわち、溶媒の所与の流量に対して処理することができる酸性ガスの流量の増加を想定することを可能にする。
【0185】
天然ガスの場合のように、炭化水素を含む酸性ガスを処理し、本発明に係る吸収溶液を使用するための新しいプラントを構築するために、ガスの所与の流量および吸収溶液の所与の流量について、参照吸収溶液における通常の寸法規則と比較して、吸収カラムの直径の低減、したがって吸収カラムのコストの低減を想定することも可能である。
【0186】
例7で定義した、酸素の不存在下における分解の条件下において分解され、そして、分解された溶液の4.95質量%に相当するカルボン酸とその組成物との混合物を添加した、吸収溶液B、GおよびKにおいて、撹拌停止時および30秒後に観察された、撹拌前の高さのパーセンテージで表される泡の高さを、表13に示す。
【0187】
【表13】
【0188】
試験条件下で、本発明に係る溶液Bから出発して分解された溶液は、MDEAおよびPzに基づく参照溶液Kから出発して同じ条件下で分解された吸収溶液と比較して、2分の1に低減された発泡効果を示すことが判明した。驚くべきことに、27%のPMDPTAを含む本発明に係る吸収溶液Bから出発して分解された吸収溶液は、30秒後に、30%のPMDPTAを含む従来技術による吸収溶液Gから出発して分解された吸収溶液と比較して、2分の1に低減された発泡傾向を示すことも判明し、これは、発泡の出現における遅延効果を示す。
図1
【国際調査報告】