(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】分離チップアセンブリ
(51)【国際特許分類】
B03B 5/00 20060101AFI20230208BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20230208BHJP
G01N 1/40 20060101ALI20230208BHJP
B01D 29/96 20060101ALI20230208BHJP
B01D 29/01 20060101ALI20230208BHJP
B01D 29/62 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B03B5/00 Z
G01N1/28 J
G01N1/40
B01D29/02 Z
B01D29/04 510A
B01D29/04 520C
B01D29/38 580C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022522400
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(85)【翻訳文提出日】2022-04-13
(86)【国際出願番号】 CN2020128176
(87)【国際公開番号】W WO2022099517
(87)【国際公開日】2022-05-19
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522022694
【氏名又は名称】深▲せん▼匯芯生物医療科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN HUIXIN LIFE TECHNOLOGIES CO., LTD
【住所又は居所原語表記】Room 816814, Bldg4 (complex building), Yesun Intelligent Community No. 1301-74, Guanguang Rd., Xinlan Community, Guanlan St., Longhua Dist. Shenzhen, Guangdong 518110, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】陳 欲超
【テーマコード(参考)】
2G052
4D071
4D116
【Fターム(参考)】
2G052AA28
2G052AD29
2G052AD55
2G052BA22
2G052EA02
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2G052GA29
2G052JA07
4D071AA02
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4D116QC26A
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4D116QC29A
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4D116RR01
4D116RR27
4D116UU01
4D116UU19
4D116VV30
(57)【要約】
分離チップアセンブリは、分離チップ、第1振動部及び第2振動部を備える。前記分離チップは、サンプルプールと、前記サンプルプールが対向する両側に位置して、孔径が前記標的粒子の粒子径よりも小さい第1濾過膜および第2濾過膜と、前記第1濾過膜を介して前記サンプルプールと連通する第1チャンバ、および前記第2濾過膜を介して前記サンプルプールと連通する第2チャンバと、を備える。前記第1振動部は、第1濾過膜と第2濾過膜に固定され、且つ振動時に第1振動波を発生させる。前記第2振動部は、第1チャンバの外面と第2チャンバの外面とに固定され、且つ振動時に第2振動波を発生させる。前記第1振動波の周波数は、前記第2振動波の周波数よりも大きく、前記第1振動波の振幅は、前記第2振動波の振幅よりも小さい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプルから標的粒子を分離して精製するための分離チップアセンブリであって、
前記分離チップアセンブリは、分離チップ、第1振動部及び第2振動部を備え、
前記分離チップは、サンプルプールと、前記サンプルプールが対向する両側に位置して、孔径が前記標的粒子の粒子径よりも小さい第1濾過膜および第2濾過膜と、前記第1濾過膜を介して前記サンプルプールと連通する第1チャンバ、および前記第2濾過膜を介して前記サンプルプールと連通する第2チャンバと、を備え、
前記第1振動部は、第1濾過膜と第2濾過膜に固定され、且つ振動時に第1振動波を発生させ、
前記第2振動部は、第1チャンバの外面と第2チャンバの外面とに固定され、且つ振動時に第2振動波を発生させ、
前記第1振動波の周波数は、前記第2振動波の周波数よりも大きく、前記第1振動波の振幅は、前記第2振動波の振幅よりも小さいことを特徴とする分離チップアセンブリ。
【請求項2】
前記第1振動波の周波数は、5000Hz~8000Hzであり、第2周波数の振動数は、100~500Hzであることを特徴とする請求項1に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項3】
前記第1振動波の振動周波数は、前記第1濾過膜または前記第2濾過膜の共振周波数と同等であることを特徴とする請求項2に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項4】
前記第1振動部と前記第2振動部とは、同一の水平面上に位置することを特徴とする請求項1に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項5】
前記分離チップは、第1側蓋シートと第2側蓋シートとを備え、
前記第1側蓋シートは、第1カバーシート本体と、それぞれ前記第1カバーシート本体の両側に配置された第1ブロックシート及び第2ブロックシートとを含み、
前記第1濾過膜は、前記第1ブロックシート及び前記第2ブロックシートの間に固定され、且つ前記第1カバーシート本体と対向し、
前記第1カバーシート本体、前記第1ブロックシート、前記第2ブロックシート及び前記第1濾過膜は、共に前記第1チャンバを囲まれ、
前記第2側蓋シートは、第2カバーシート本体と、それぞれ前記第2カバーシート本体の両側に位置する第3ブロックシート及び第4ブロックシートとを含み、前記第3ブロックシートは、前記第1ブロックシートと対向し、前記第4ブロックシートは、前記第2ブロックシートと対向し、
前記第2濾過膜は、前記第2カバーシート本体に対向して、前記第3ブロックシート及び前記第4ブロックシートの間に固定され、
前記第2カバーシート本体、前記第3ブロックシート、前記第4ブロックシート及び前記第2濾過膜は、共に前記第2チャンバを囲まれ、
前記サンプルプールは、前記第1濾過膜と前記第2濾過膜との間に位置することを特徴とする請求項1に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項6】
前記第2振動部は、前記第1カバーシート本体および前記第2カバーシート本体に固定されることを特徴とする請求項5に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項7】
前記第1チャンバは、前記第1チャンバと外部とを連通する第1開口を設けられ、前記第2チャンバには、前記第2チャンバと外界とを連通する第2開口を設けられることを特徴とする請求項1に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項8】
前記第1振動部は、ハーモニック発振器であることを特徴とする請求項1に記載の分離チップアセンブリ。
【請求項9】
前記第2振動部は、振動モータであることを特徴とする請求項1に記載の分離チップアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、バイオテクノロジー分野に関し、詳しくは、液体サンプル中から標的粒子を分離するための分離チップアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソーム(exosome)は、細胞間のコミュニケーションの担体として母細胞からのタンパク質、核酸、代謝小分子などの特異的な成分を担持し、生細胞から大量に分泌され続け、直径が30~150nmであるビスリン脂質膜構造小胞である。多くの研究により、エクソソームは、腫瘍の発展に関する多くのイベントに関与し、多くのイベントは、免疫エスケープ、血管新生、腫瘍転移、腫瘍薬剤耐性などを含むことが明らかとなった。エクソソームは、より早く、持続的にがん細胞により放出されて、患者の血液循環システムに入り込み、その脂質二重膜構造は、担持されたタンパク質と包接された核酸系物質とを効果的に保護する。エクソソームは、血液、尿、腹水、組織液、涙、唾液、及び脳脊髄液等を含む多くの臨床サンプルに広く安定的に存在している。このうち、血液と尿のうちのエクソソームの数が多く、臨床サンプリングが容易である。そのため、エクソソームは、体外診断の研究および腫瘍の臨床検出分野における重要な研究対象であると考えられ、腫瘍の早期診断、腫瘍の転移・再発評価、腫瘍の異性評価、腫瘍の発生、発展と治療効果の動的検出、薬剤耐性変異検出、個別化用薬などの方面で大きな臨床価値を発揮することが期待されている。
【0003】
従来、エクソソームの臨床応用の主な障害は、分離過程で濾過膜の目詰まり現象が発生し、スループットが低く、純度が低いことである。
【発明の概要】
【0004】
以上の問題点に鑑みて、分離チップアセンブリを提供することを目的とする。
【0005】
液体サンプルから標的粒子を分離して精製するための分離チップアセンブリを提供する。分離チップアセンブリは、分離チップと、第1振動部と、第2振動部とを有する。分離チップは、サンプルプールと、前記サンプルプールが対向する両側に位置して、孔径が前記標的粒子の粒子径よりも小さい第1濾過膜および第2濾過膜と、前記第1濾過膜を介して前記サンプルプールと連通する第1チャンバおよび前記第2濾過膜を介して前記サンプルプールと連通する第2チャンバとを備えた分離チップ、振動時に第1振動波を発生させる第1濾過膜と第2濾過膜とに固定された第1振動部と、振動時に第2振動波を発生させる第1チャンバの外面と第2チャンバの外面とに固定された第2振動部とを備え、前記第1振動波の周波数は、前記第2振動波の周波数よりも大きく、前記第1振動波の振幅は、前記第2振動波の振幅よりも小さい。
【0006】
ある可能な実現態様において、前記第1振動波の周波数は、5000Hz~8000Hzであり、前記第2周波数の振動数は、100~500Hzである。
【0007】
ある可能な実現態様において、前記第1振動波の振動周波数は、前記第1濾過膜または前記第2濾過膜の共振周波数と同等である。
【0008】
ある可能な実現形態において、前記第1振動部と前記第2振動部とは、同一の水平面上に位置する。
【0009】
ある可能な実現態様において、前記分離チップは、第1側蓋シートと第2側蓋シートとを備え、前記第1側蓋シートは、第1カバーシート本体と、それぞれ前記第1カバーシート本体の両側に配置された第1ブロックシート及び第2ブロックシートとを含み、前記第1濾過膜は、前記第1ブロックシート及び前記第2ブロックシートの間に固定され、且つ、前記第1カバーシート本体と対向しており、前記第1カバーシート本体、前記第1ブロックシート、前記第2ブロックシート及び前記第1濾過膜は、共に前記第1チャンバ15を囲まれており、前記第2側蓋シートは、前記第2カバーシート本体と、それぞれ前記第2カバーシート本体の両側に位置する第3ブロックシート及び第4ブロックシートとを含み、前記第3ブロックシートは前記第1ブロックシートと対向して、前記第4ブロックシートは前記第2ブロックシートと対向しており、前記第2濾過膜は、前記第2カバーシート本体に対向して、前記第3ブロックシート及び前記第4ブロックシートの間に固定され、前記第2カバーシート本体、前記第3ブロックシート、前記第4ブロックシート及び前記第2濾過膜は共に前記第2チャンバを囲まれており、前記サンプルプールは、前記第1濾過膜と前記第2濾過膜との間に位置する。
【0010】
ある可能な実現態様において、前記第2振動部は、前記第1カバーシート本体および前記第2カバーシート本体に固定される。
【0011】
ある可能な実現態様において、前記第1チャンバは、前記第1チャンバと外部とを連通する第1開口を設けられ、前記第2チャンバには、前記第2チャンバと外界とを連通する第2開口を設けられる。
【0012】
ある可能な実現態様において、前記第1振動部は、ハーモニック発振器である。
【0013】
ある可能な実現態様において、前記第2振動部は、振動モータである。
【発明の効果】
【0014】
本願の第1振動部は、従来技術と比較して、第1濾過膜および第2濾過膜に第1振動波を伝達し、濾過膜の膜孔に吸着した標的粒子を速やかに濾過膜の膜孔から分離し、還流した液体サンプル中に懸濁し直すことができる。第2振動部は、第2振動波を伝達し、第1振動波と第2振動波とが併せて液体サンプルと濾過膜を摂動して音響効果を生じさせ、標的粒子が目詰まったり、凝集したりすることが防止され、効率的な分離を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本願実施例による分離チップアセンブリの概略構造図である。
【
図2】
図1に示す分離チップアセンブリに負圧を与える模式図である。
【
図3】
図1に示す分離チップアセンブリに印加される第1振動波及び第2振動波の模式図である。
【
図4】本願実施例による分離装置の機能ブロック模式図である。
【
図5】本願実施例と比較例1~4で得られたエクソソームの含有量の経時変化の傾向図である。
【
図6】本願実施例で得られたエクソソームの走査電子顕微鏡の図である。
【
図7】本願において体積とエクソソームの濃度が異なる尿サンプルを分離して精製して得られたエクソソームの含量テスト図である。
【
図8】本願において異なる種類の液体サンプルを、分離して精製して得られたエクソソームの含量のテスト図である。
【
図9】本願実施例および比較例5で得られたエクソソームについてウエスタンブロット解析を行った得るグラフである。
【
図10】本願実施例および比較例5の精製時間、エクソソーム収量およびエクソソーム濃度の3つの面の比較模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本願の好ましい実施形態及び実施例に併せて、本願の技術案について説明する。なお、一方のユニットが他方のユニットに「接続」されると記載される場合、他方のユニットに直接接続されたり、中央部ユニットが同時に存在したりする。一方のユニットが他のユニットに「設置」されると記載される場合、他のユニットに直接設置されたり、中央部ユニットが同時に存在したりする。特に定義しない限り、本文で使用するすべての技術及び科学用語は、本願の技術分野に属する技術者が一般的に理解する意味と同様である。本願の明細書で使用される素子又は機器の名称は、具体的な実施例を記述する目的のみであり、本願を限定することは意図していない。
【0017】
図1を参照して、本願実施例は、液体サンプル中の異なるサイズの粒子を分離して精製されて、特定のサイズの標的粒子を得るための分離チップアセンブリ1を提供する。この液体サンプルは、人体血漿、血清、髄液、唾液、尿および胃液などであってもよい。標的粒子は、エクソソームや循環腫瘍細胞などであってもよい。分離チップアセンブリ1は、分離チップ10と、第1振動部20と、第2振動部30とを備える。
【0018】
分離チップ10は、サンプルプール13と、サンプルプール13が対向する両側に位置する第1濾過膜14および第2濾過膜16とを備える。サンプルプール13は、液体サンプルを収容するためのものである。第1濾過膜14および第2濾過膜16の孔径は、いずれも標的粒子の粒径よりも小さい。
【0019】
さらに、分離チップ10は、第1濾過膜14を介してサンプルプール13と連通する第1チャンバ15と、第2濾過膜16を介してサンプルプール13と連通する第2チャンバ17とを備え、第1チャンバ15には、第1チャンバ15と外部とを連通する第1開口部152が設けられる。第2チャンバ17は、サンプルプール13を介して第2濾過膜16と連通し、第2チャンバ17には、第2チャンバ17を介して外部と連通する第2開口部172が設けられている。ここで、第1チャンバ15と第2チャンバ17とは、それぞれ当該サンプルプール13が対向する両側に位置している。
【0020】
分離チップアセンブリ1を使用される場合、サンプルプール13に液体サンプルを入れ、第1開口152と第2開口172とをそれぞれ真空システム50(
図4を参照する)に接続する。真空システム50が第1開口152を介して第1チャンバ15を吸引させると、第1チャンバ15に負圧を発生させる。第1チャンバ15の負圧により、サンプルプール13における液体サンプルのうち、第1濾過膜14の濾過孔径よりも小さいサイズの成分(小粒子および液体成分を含む)は、第1濾過膜14に向かって移動し、第1濾過膜14を介して第1チャンバ15に流入する。真空システム50が第2開口172を介して第2チャンバ17を吸引させると、第2チャンバ17に負圧を発生させる。第2チャンバ17の負圧により、サンプルプール13における液体サンプルのうち、サイズが第2濾過膜16の濾過孔径より小さい成分は、第2濾過膜16に向かって移動し、第2濾過膜16を介して第2チャンバ17に流入すると同時に、サンプルプール13における液体サンプルが第1濾過膜14に還流する現象が生じて、第1濾過膜14に付着した成分の低減や除去が行われ、濾過分離過程中の濾過膜の目詰まりの発生を防止する。繰り返し交互に、第1チャンバ15及び第2チャンバ17内に負圧を発生させることで、液体サンプルを第1濾過膜14及び第2濾過膜16に効率よく交互に流して、液体サンプルにおける第1濾過膜14及び第2濾過膜16の孔径よりも大きなサイズの成分(すなわち標的粒子)をサンプル13に残させる。分離チップ10の構造の設計は、第1濾過膜14及び第2濾過膜16の表面に吸着した成分を、交互に繰り返し負圧変化で濾過膜の表面から容易に脱落させるように、濾過膜の膜孔が閉塞されるのを効果的に防止することができる。
【0021】
図2を併せて参照しながら、ある実施例では、当該真空システム50が、当該第1チャンバ15及び当該第2チャンバ17内で交互に発生する負圧(Negative pressure、NP)は、周期的な台形パルス信号を形成する。矩形パルス信号の幅は10V
ppであり、周波数は5000Hzないし7000Hzである。そのうち、台形パルス信号は、負圧方向の急変による第1濾過膜14及び第2濾過膜16の破損を防止することができる。ある実施例では、血漿サンプル中のタンパク質含有量が多いことを鑑みて、濾過膜の目詰まり現象をより回避するために、一方のチャンバ内で負圧を発生させつつ、他方のチャンバ内で正圧(Air pressure、 AP)を発生させ、濾過膜での還流現象を補強することができる。
【0022】
図1に示すように、第1振動材20の数は2つである。一方の第1振動材20は、第1濾過膜14における第2濾過膜16から離れた表面に固定される。他方の第1振動材20は、第2濾過膜16における第1濾過膜14から離れた表面に固定される。第1振動材20は、振動によって横方向の第1振動波を発生させ、第1濾過膜14及び第2濾過膜16に第1振動波を伝達して第1濾過膜14及び第2濾過膜16を高周波振動させる。このため、濾過膜の膜孔に吸着した標的粒子が、濾過膜の膜孔から速やかに分離され、還流される液体サンプルに新たに浮遊することが可能となり、濾過膜の膜孔が閉塞されるのをさらに防止し、効率的な分離が可能となる。
【0023】
第2振動部30の数は2つである。そのうちの1つの第2振動部30は、第1チャンバ15の外面に固定されている。他方の第2振動部30は、第2チャンバ17の外面に固定されている。第2振動部30は、振動において横方向の第2振動波を発生させるためのものである。
図3を併せて参照すると、第1振動波の周波数は第2振動波の周波数より大きく、第1振動波の振幅は第2振動波の振幅より小さい。第2振動波は、第1チャンバ15及び第2チャンバ17を通じて分離チップ10の全体に伝達され、分離チップ10を低周波振動させる。第2振動波は、第1振動波とともに液体サンプルや濾過膜を摂動して音響流効果を生じさせ、目的粒子が濾孔を詰まらせたり、凝集したりすることを防止して、分離して精製効率を向上させることができる。一実施形態において、第1振動部20はハーモニック発振器であり、第2振動部30は振動モータであってもよい。
【0024】
一実施形態では、第1振動波の振動周波数は、5000Hz~8000Hzであり、第2振動波の振動周波数は、100~500Hzである。この振動周波数における第1振動波及び第2振動波は、いずれモターゲット粒子にダメージを与えない。好ましくは、第1振動波の振動周波数は、第1濾過膜14又は第2濾過膜16の共振周波数と略同一とすることができ、この場合、第1濾過膜14又は第2濾過膜16がより大きな振幅で振動し、濾過膜に吸着された標的粒子がより速やかに分離することが容易となる。
【0025】
ある実施形態においては、第1振動部20と第2振動部30とは同じ水平面に位置している。すなわち、第1振動波と第2振動波とが互いに重なり合って協調振動するように、第1振動波と第2振動波とが同一方向を向く。
【0026】
ある実施形態では、分離チップ10は、第1側蓋シート11と第2側蓋シート12とを備える。第1側蓋シート11は、第1カバーシート本体110と、それぞれ第1カバーシート本体110の両側に配置された第1ブロックシート111及び第2ブロックシート112とを含み、第1濾過膜14は、第1ブロックシート111及び第2ブロックシート112の間に固定され、且つ、第1カバーシート本体110と対向している。第1カバーシート本体110、第1ブロックシート111、第2ブロックシート112及び第1濾過膜14は、共に第1チャンバ15を囲む。第2側蓋シート12は、第2カバーシート本体120と、それぞれ第2カバーシート本体120の両側に位置する第3ブロックシート121及び第4ブロックシート122とを含み、第3ブロックシート121は、第1ブロックシート111と対向し、第4ブロックシート122は、第2ブロックシート112と対向し、第2濾過膜16は、第2カバーシート本体120に対向して、第3ブロックシート121及び第4ブロックシート122の間に固定され、第2カバーシート本体120、第3ブロックシート121、第4ブロックシート122及び第2濾過膜16は、共に第2チャンバ17を囲んでいる。サンプルプール13は、第1濾過膜14と第2濾過膜16との間に位置する。なお、第2振動部30は、第1カバーシート110又は第2カバーシート本体120の外面に固定されている。
【0027】
さらに、第1ブロックシート111および第三ブロックシート121は、サンプルプール13に連通するサンプル導入口131を規定するように離間して配置されている。分離チップ10は、サンプル導入口131を介してサンプルプール13と連通するサンプル充填室18をさらに備える。操作時に、サンプル充填室18に液体サンプルを入れ、サンプル充填口131は、試料充填室18内の液体サンプルがサンプル充填室18から流出してサンプルプール13に入れるように使用される。
【0028】
なお、
図4を参照して、本願の実施形態は、上述したような分離チップアセンブリ1と、真空システム50と、周波数変換モジュール40と、コントローラ60とを備えた分離装置100をさらに提供する。
【0029】
真空システム50は、分離チップアセンブリ1の第1チャンバ15及び第2チャンバ17のそれぞれに負圧を発生させるためのものである。真空システム50は、2つの独立した真空システムであってもよいし、設計された1つの真空システムであってもよい。真空システム50は、マイクロ真空ポンプやマイクロ吸引ポンプ等の機器を含んでもよい。真空システム50と分離チップ10との間は、気密性の良い配管で接続できることが理解できる。ある実施形態では、真空システム50は、分離チップ10の第1開口152に接続された第1真空ポンプ510と、分離チップ10の第2開口172に接続された第2真空ポンプ520とを含む。
【0030】
周波数変換モジュール40は、真空システム50に電気的に接続され、周波数変換モジュール40は、真空システム50に供給する電源電圧を制御して、第1チャンバ15と第2チャンバ17内に交互に負圧を発生させることができる。ある実施形態において、周波数変換モジュール40は、周波数変換器410と、周波数変換器410に接続される制御弁420とを含む。制御弁420は、液路コンバーターであってもよいが、電磁弁や回転弁に限定されない。制御弁420は、それぞれ第1真空ポンプ510及び第2真空ポンプ520の一方と連通し、第1真空ポンプ510と第2真空ポンプ520とを交互に繰り返し作動させる。例えば、制御弁420を第1真空ポンプ510に連通させることで、周波数変換器410が第1真空ポンプ510の運転を制御し、第1開口152を通して抽気して第1チャンバ15内に負圧を発生させ、サンプルプール13における液体サンプルの液体と第1濾過膜14の孔径よりも小さいサイズの成分とが負圧によって第1濾過膜14を通して第1チャンバ15に入り込み、そして、周波数変換器410は、第1真空ポンプ510を制御して運転を停止する。その後、制御弁420を第2真空ポンプ520に連通させることで、周波数変換器410は、第2真空ポンプ520の運転を制御し、第2開口172を介して吸引して第2チャンバ17内に負圧を発生させることで、サンプルプール13における液体サンプル中の液体と第2濾過膜16の孔径よりも小さいサイズの成分とを、負圧により第2濾過膜16を通して第2チャンバ17に入れる。その後、周波数変換器410は、第2真空ポンプ520を制御して運転を停止する。上記ステップを複数回繰り返す。
【0031】
制御部60は、第1チャンバ15の吸引が停止されるときに、第1振動波及び第2振動波がそれぞれ発生するように、第1振動部20及び第2振動部30の振動を制御する。また、制御部60は、第2チャンバ17の吸引が停止されるときに、第1振動波及び第2振動波がそれぞれ発生するように、第1振動部20及び第2振動部30の振動を制御する。ここで、コントローラ60は、第1真空ポンプ510と第2真空ポンプ520と電気的に接続可能であり、第1真空ポンプ510または第2真空ポンプ520の運転が停止すると、コントローラ60は、第1チャンバ15において第1真空ポンプ510の吸引が停止されたと判定したり、または第2チャンバ17において第2真空ポンプ520の吸引が停止されたと判定したりすると、対応する第1振動部20および第2振動部30の振動の開始を通知することができる。
【0032】
本願実施例は、さらに、以下の工程を含み、上記分離チップアセンブリ1に適用される液体サンプル中の標的粒子を分離する方法を提供する。
ステップS1は、本願の分離チップアセンブリ1を提供し、該当分離チップアセンブリ1のサンプルプール13に液体サンプルを供給する。
【0033】
ステップS2では、第1開口152により第1チャンバ15が吸引され、第1チャンバ15内に負圧を発生させる。
ここで、吸引を行う前に、第1開口152、第2開口172をそれぞれ分離装置100の真空システム50に接続する。このように、真空システム50は、第1開口152により第1チャンバ15を吸引し、第1チャンバ15内に負圧を発生させる。サンプルプール13における液体サンプル中の液体およびサイズが第1濾過膜14の孔径よりも小さい成分は、負圧によって第1濾過膜14に向かって移動し、第1濾過膜14を介して第1チャンバ15に入れてもよい。
【0034】
ステップS3では、第1チャンバ15の吸引が停止され、第1振動部20及び第2振動部30の振動を制御して、第1振動波及び第2振動波をそれぞれ発生させる。同時に、通過した第2開口172が第2チャンバ17を吸引して第2チャンバ17内に負圧を発生させる。
ここで、第1振動波は、第1濾過膜14を高周波振動させるものであり、濾過膜の膜孔に吸着した標的粒子を速やかに濾過膜の膜孔から分離させ、還流される液体サンプル中に再懸濁させることができる。第2振動波は、標的粒子が凝集してしまうことを防ぐことができる。同時に、真空システム50は、第2開口172により第2チャンバ17を吸引し、第2チャンバ17内に負圧を発生させる。第1濾過膜14の表面に付着した成分は、気流及び/又は液流サンプルプール13においてサンプルプール13における液体サンプル中の液体と第2濾過膜16の孔径よりも小さい成分とが負圧により第2濾過膜16に向かって移動し、第2濾過膜16を介して第2チャンバ17に入れてもよい。
【0035】
ステップS4では、第2チャンバ17の吸引が停止され、第1振動部20及び第2振動部30を振動させるように制御する。
そして、ステップS2~ステップS4は、複数回循環され、液体サンプル中の濾過膜の孔径よりも小さい成分が除去され、濾過膜の孔径よりも大きい成分がサンプルプール13に閉じ込められることにより、分離精製効果をより優れたものとすることができる。
【0036】
以下、実施例および比較例を併せて本願について具体的に説明する。
【実施例】
【0037】
本願で提供する分離チップアセンブリを用いて2mLの尿サンプルをエクソソームと分離して精製を行い、第1振動部の周波数が6250Hz(濾過膜の共振周波数と略同じ)、第2振動部の周波数が200Hzである。
【比較例1】
【0038】
分離チップを用いて2mLの尿サンプルをエクソソームと分離して精製を行ったところ、比較例1の分離チップは、第1振動部および第2振動部を含んでいない点が、実施例の分離チップアセンブリと相違する。
【比較例2】
【0039】
分離チップを用いて2mLの尿サンプルをエクソソームと分離して精製を行ったところ、実施例2の分離チップには、第2振動部(周波数200Hz)のみが含まれ、第1振動部が含まれていない点で、実施例の分離チップアセンブリと相違する。
【比較例3】
【0040】
分離チップを用いて2mLの尿サンプルをエクソソームと分離して精製を行ったところ、実施例3の分離チップは、第1振動部(周波数6250Hz)のみを含み、第2振動部を含まない点で、実施例の分離チップモジュールと相違する。
【比較例4】
【0041】
デッドエンド濾過法(dead-end filtration)を用いて2mLの尿サンプルをエクソソームと分離して精製を行ったところ、デッドエンド濾過が実施例の分離チップと同じ濾過膜を用いたが、濾過膜の上流に液体サンプルを置き、圧力差の押し込みにより、濾過膜に液体成分と膜孔よりも粒子径の小さい粒子とを透過させる点で相違する。
実施例および比較例1~4が経時的に得られたエクソソームの含有量を測定した結果を
図5に記録した。
図5に示すように、実施例は、10min以内に約30μmのエクソソームを分離でき、比較例1~4よりも分離効率がかなり大きい。さらに、実施例で得られたエクソソームについて、透過型電子顕微鏡試験(スケールラベル250nm)を行い、試験結果を
図6に示す。このうち分離されたエクソソームの粒子径は50nm~200nmであり、エクソソームの理論粒子径と一致し、且つその形は円形またはカップ形であり、高い完全性を有する。
【0042】
また、エクソソーム濃度が異なる4種類の尿サンプルを、同一の分離チップアセンブリを用いて同一の方法で分離して精製を繰り返し行い、各尿サンプルの体積は1mLから20mLまで様々である。そして、分離するたびに得られるエクソソームごとに微量紫外可視光分光光度計を用いてタンパク質含量試験を行った結果を
図7に記録した。
図7に示すように、精製されたエクソソームの含有率は、エクソソーム濃度ごとに尿サンプル体積の増加に伴って線形に増大する傾向にあり、これは、種々の異なる体積の尿サンプルまたは尿サンプルが種々の異なる量のエクソソームを有する場合に、本願の実施例の分離チップアセンブリを用いて分離して精製することは、構造安定性が高いことが示された。また、同じ分離チップアセンブリを用いて体積10mLの尿サンプルを分離して精製することを繰り返し、20回繰り返した後に、得られたエクソソーム含量の変異係数(CV)が9.9%未満であることが認められ、その分離チップアセンブリを用いた分離して精製が高い反復性を有することが示された。
【0043】
さらに、本願が提供する分離チップアセンブリーは、血漿(plasma)、細胞培養液(culture medium)、涙(tear)、唾液(saliva)、及び脳脊髄液(CSF)等を含む他の液体サンプルに対してエクソソーム分離して精製を行うこともできる。
図8に示すように、これらのいくつかの液体サンプルから高濃度のエクソソームが分離され、本願において提供される分離チップアセンブリは、様々な液体サンプルと分離して精製に適していることが示された。また、分離されたエクソソームの粒子径は、同じく50nm~200nmである。
【比較例5】
【0044】
従来の超遠心(UC)、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿、ホスファチジルセリン(PS)アフィニティー、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、膜アフィニティー(MA)等の方法を用いて、同じ尿サンプルからエクソソームが分離される。
【0045】
具体的には、実施例および比較例5において、各分離して精製方法で得られたエクソソーム中のALIX、CD63、TSG101、CD81タンパク質マーカーを、タンパク質インプリント法を用いて試験した。このうち、ウロモジュリン(UMOD)は、尿サンプル中の含有量が高いタンパク質であり、エクソソーム精製後の純度を表すために使用できる。
図9に示すように、従来と分離して精製方法に対して、尿サンプルを分離チップアセンブリ(
図9にEXODUSと記載)で分離して精製したエクソソームにおいて、高濃度の4種類のタンパク質マーカーを同時に検出でき、精製収量が高いことが示された。また、エクソソームには、多量のウロモジュリンが吸着されておらず、精製精度が高いことが示された。
【0046】
このうち、精製にかかる時間、エクソソーム収量及びエクソソーム純度は、異なる分離して精製方法を表すための3つの面のパラメータである。
図10に示されるように、実施例の分離チップアセンブ(
図10においてEXODUSと記載)は、比較例5の従来と分離して精製方法に比べ、分離して精製にかかる時間が短く(95%低減)、エクソソームの産出量が高く(526%向上)、エクソソーム純度が高く(259%向上)、市販されている種々のエクソソーム分離手段に比べ、強い競合力を有することが示された。
【0047】
上記実施例は本願の好ましい実施形態であるが、本願の実施形態は上記実施例に限られるものではなく、以上の実施形態は特許請求の範囲の解釈に過ぎない。しかし、本願の保護範囲が明細書に限られず、当業者は、本願が開示される技術範囲内で、容易に想到し得る変化または置き換えが、本願の保護範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 分離チップアセンブリ
10 分離チップ
11 第1側蓋シート
12 第2側蓋シート
13 サンプルプール
14 第1濾過膜
15 第1チャンバ
16 第2濾過膜
17 第2チャンバ
18 サンプル充填室
20 第1振動部
30 第2振動部
40 周波数変換モジュール
50 真空システム
60 コントローラ
100 分離装置
110 第1カバーシート本体
111 第1ブロックシート
112 第2ブロックシート
120 第2カバーシート本体
121 第3ブロックシート
122 第4ブロックシート
131 サンプル導入口
152 第1開口部
172 第2開口部
410 周波数変換器
420 制御弁
510 第1真空ポンプ
520 第2真空ポンプ
【国際調査報告】