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特表2023-506158CD276に特異的な抗体-薬物コンジュゲートおよびその使用
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  • 特表-CD276に特異的な抗体-薬物コンジュゲートおよびその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】CD276に特異的な抗体-薬物コンジュゲートおよびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20230208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230208BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230208BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61P35/04
A61P35/02
A61K47/68
A61K45/00
A61P43/00 121
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535127
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(85)【翻訳文提出日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 US2020063732
(87)【国際公開番号】W WO2021118968
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】62/947,135
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508285606
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】セント クロイ, ブラッド
(72)【発明者】
【氏名】フェン, ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シーマン, スティーブン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF68
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC751
4C085AA14
4C085AA26
4C085BB11
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4H045AA11
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA24
4H045EA25
4H045EA26
4H045EA27
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
CD276陽性腫瘍を標的化する改善された抗体-薬物コンジュゲート(ADC)が記載されている。前記ADCは、Fcドメインと内在性のFc受容体との相互作用を防ぎ、かつ前記薬物の部位特異的コンジュゲーションのためのシステインを導入するように改変された重鎖を有するCD276特異的IgG1抗体を含む。前記CD276特異的ADCは、いくつかの動物モデルにおいて、CD276陽性腫瘍を強力に根絶させることが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CD276に特異的に結合するモノクローナル抗体にコンジュゲートされた薬物を含む抗体-薬物コンジュゲート(ADC)であって、
前記モノクローナル抗体が、可変重鎖(VH)ドメイン、可変軽鎖(VL)ドメイン、およびIgG1 Fc領域を含み、ここで、前記VHドメインが、配列番号2の相補性決定領域1(CDR1)配列、CDR2配列、およびCDR3配列を含み、前記VLドメインが、配列番号6のCDR1配列、CDR2配列、およびCDR3配列を含み、前記Fc領域が、Euナンバリング慣例に従って、S239C、L234A、L235A、およびP329G変異を含み;および
前記薬物が、部位特異的コンジュゲーションによって、Fcドメインの残基239のシステインにコンジュゲートされている、
抗体-薬物コンジュゲート。
【請求項2】
前記CDR配列が、Kabat、IMGT、またはChothiaナンバリング慣例を使用して決定される、請求項1に記載のADC。
【請求項3】
前記VHドメインのCDR1配列、CDR2配列、およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号2の残基26-33、51-58、および97-108を含み、前記VLドメインのCDR1配列、CDR2配列、およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号6の残基27-32、50-52、および89-99を含む、請求項1または請求項2に記載のADC。
【請求項4】
前記VHドメインが、配列番号2のアミノ酸配列を含み、前記VLドメインが、配列番号6のアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のADC。
【請求項5】
前記Fc領域のアミノ酸配列が、配列番号3を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のADC。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体が、IgG1である、請求項1~5のいずれか一項に記載のADC。
【請求項7】
前記IgG1の重鎖のアミノ酸配列が、配列番号4を含むか、または配列番号4からなる、請求項6に記載のADC。
【請求項8】
前記IgG1の軽鎖のアミノ酸配列が、配列番号7を含むか、または配列番号7からなる、請求項6に記載のADC。
【請求項9】
前記薬物が、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)のダイマーである、請求項1~8のいずれか一項に記載のADC。
【請求項10】
前記薬物が、バリン-アラニンジペプチドを含むリンカーによって前記モノクローナル抗体にコンジュゲートされている、請求項1~9のいずれか一項に記載のADC。
【請求項11】
前記リンカーが、マレイミド基をさらに含む、請求項10に記載のADC。
【請求項12】
前記リンカーが、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む、請求項10または請求項11に記載のADC。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のADCと、薬学的に許容され得るキャリアとを含む、組成物。
【請求項14】
被験体においてCD276陽性がんを処置する方法であって、治療有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載のADCまたは請求項13に記載の組成物を前記被験体に投与し、それによって前記被験体において前記CD276陽性がんを処置することを含む、方法。
【請求項15】
被験体においてCD276陽性がんの腫瘍増殖または転移を阻害する方法であって、治療有効量の請求項1~12のいずれか一項に記載のADCまたは請求項13に記載の組成物を前記被験体に投与し、それによって前記被験体において前記CD276陽性がんの腫瘍増殖または転移を阻害することを含む、方法。
【請求項16】
前記がんが、肝細胞癌、メラノーマ、白血病、乳がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、結腸直腸がん、骨肉腫、子宮内膜がん、卵巣がん、口腔扁平上皮癌、非小細胞肺がん、膀胱がん、または膵臓がんである、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記がんが、乳がんまたは神経芽細胞腫である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
追加の抗がん剤を前記被験体に投与することをさらに含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記追加の抗がん剤が、化学療法剤または血管新生阻害剤を含む、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月12日に出願された米国仮出願第62/947,135号(これは、参照によりその全体が本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
分野
本開示は、CD276(B7-H3)を標的化する改善された抗体-薬物コンジュゲート(ADC)、およびCD276発現腫瘍の処置におけるその使用に関する。
【0003】
政府の支援に関する陳述
本発明は、(米国)国立衛生研究所によって与えられたプロジェクト番号ZIA BC 010578の下で、政府の援助を受けてなされたものである。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
背景
CD276(B7-H3としても知られる)は、免疫系、肝臓、心臓、前立腺、脾臓、および胸腺の細胞を含む、多くの異なる細胞種の表面上に発現されるI型膜貫通タンパク質である(Picardaら、Clin Cancer Res 22(14):3425-3431,2016)。CD276タンパク質は、また、肝細胞癌(hepatocellular carcinoma)、メラノーマ、白血病、乳がん、前立腺がん、結腸直腸がん、骨肉腫、子宮内膜がん、卵巣がん、口腔扁平上皮癌、非小細胞肺がん、膀胱がん、および膵臓がんを含む、いくつかのヒト悪性疾患においても過剰発現される(Picardaら)。CD276の発現は、多くの種類のがんについて、がんの重篤度および患者の転帰と正の相関がある。CD276は、その発現パターンと機能的活性ゆえに、がん免疫療法のための目的の標的となっている。
【0005】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC)は、がんの処置のための治療剤として現在研究が行われている分子の一種である。ADCは、細胞傷害性化合物にコンジュゲートされた抗体(抗原結合フラグメント)からなる。最も有効なADCは、腫瘍細胞または腫瘍関連ストローマ細胞を特異的に標的化し、正常細胞に対する活性が最小限であって腫瘍細胞に対して毒性が高い薬物を含み、循環中で非常に安定であり、標的腫瘍細胞への内部移行の際に薬物を放出することができる。CD276に特異的に結合する放射性標識したモノクローナル抗体は、がんの処置のために、現在臨床研究中である(NCT01099644、NCT01502917、およびNCT00089245;Picardaら;およびKramerら、J Neurooncol 97:409-418,2010)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Picardaら、Clin Cancer Res(2016)22(14):3425~3431
【非特許文献2】Kramerら、J Neurooncol(2010)97:409~418
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
概要
本明細書において、CD276発現腫瘍細胞を特異的に標的化する抗体-薬物コンジュゲート(ADC)が開示されている。CD276陽性がんを処置するためのADCの使用も開示されている。
【0008】
本明細書において、CD276を特異的に結合するモノクローナル抗体にコンジュゲートされた薬物を含むADCが提供される。いくつかの実施形態において、前記ADCは、可変重鎖(VH)ドメイン、可変軽鎖(VL)ドメイン、およびIgG1 Fc領域を含み、ここで、前記VHドメインは、m276抗体VHドメイン(配列番号2)の相補性決定領域1(CDR1)配列、CDR2配列、およびCDR3配列を含み、前記VLドメインは、m276抗体VLドメイン(配列番号6)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、前記Fc領域は、S239C、L234A、L235A、およびP329G変異を含み;ならびに前記薬物は、部位特異的コンジュゲーションによって、前記Fcドメインの残基239のシステインにコンジュゲートされている。いくつかの例において、前記薬物は、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)(例えば、PBDダイマー)を含む。いくつかの例において、前記薬物は、マレイミド基、ポリエチレングリコール(PEG)、およびバリン-アラニンジペプチドを含むリンカーによって、モノクローナル抗体にコンジュゲートされている。
【0009】
本明細書に開示されているADCと薬学的に許容され得るキャリアとを含む組成物も提供される。
【0010】
さらに、被験体においてCD276陽性がんを処置する方法、および被験体においてCD276陽性がんの腫瘍増殖または転移を阻害する方法が提供される。いくつかの実施形態において、前記方法は、治療有効量の本明細書に開示されているADCまたは組成物を投与することを含む。
【0011】
本開示の前記の、またはその他の目的および特徴は、添付の図面を参照して進められている以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】m276-PBD-SLは、マウスにおいて、皮下で増殖させたヒト神経芽細胞腫異種移植腫瘍に対する強力な抗腫瘍活性を誘導する。m276-PBD-SLによる処置(右のパネル)は、腫瘍の平均サイズがおよそ1200mmに達したときに開始した。0.5mg/kgのm276-PBD-SLを、1週間に1回、動物に投与した(矢印で示す日に開始した)。未処置動物を対照として使用した(左のパネル)。それぞれの線は、個々の腫瘍の増殖を表す。N=6/群(未処置対照)、または4/群(m276-PBD-SL処置)。
【0013】
図2】m276-PBD-SLは、マウスにおいて、皮下で増殖させた第2のヒト神経芽細胞腫異種移植腫瘍モデルに対する強力な抗腫瘍活性を誘導する。ビヒクルによる処置(左のパネル)、またはm276-PBD-SLによる処置(右のパネル)は、腫瘍の平均サイズがおよそ1000mmに達したときに開始した。ビヒクルまたは0.5mg/kgのm276-PBD-SLを、1週間に1回、動物に投与した(矢印で示す日に開始した)。それぞれの線は、個々の腫瘍の増殖を表す。N=8/群(ビヒクル)または7/群(m276-PBD-SL処置)。
【0014】
図3】m276-PBD-SLは、マウスにおいて、同所性に増殖させたヒト乳房異種移植腫瘍モデルに対する強力な抗腫瘍活性を誘導する。ビヒクルまたはm276-PBD-SLによる処置は、腫瘍の平均サイズがおよそ1000mmに達したときに開始した。ビヒクル(左のパネル)、0.1mg/kgのm276-PBD-SL(中央のパネル)、または0.5mg/kgのm276-PBD-SL(右のパネル)を、1週間に1回、動物に投与した(矢印に示す日に開始した)。それぞれの線は、個々の腫瘍の増殖を表す。N=10/群(ビヒクル)または11/群(0.1および0.5mg/kgのm276-PBD-SL処置)。
【0015】
図4】m276-PBD ADCおよびm276-PBD-SL ADCに使用されたリンカーの模式的な比較。
【0016】
図5】同所性Py230乳房腫瘍は、m276-PBD複合糖質による処置の後、まず退縮し、その後再発する。1週間に2回、4週間にわたり、ビヒクル(左)または1mg/kgのm276-PBDを、Py230腫瘍を担持するマウスに投与した。処置は、腫瘍の平均体積が140mmに達したときに開始した。それぞれの線は、個々のマウスからの腫瘍増殖を表す。m276-PBDで処置したマウスにおいて、全ての腫瘍が再発した。
【0017】
図6】大きい同所性MDA-MB-231乳癌腫瘍は、m276-PBD-SLによる処置後、完全奏効を示す。ビヒクル(左)、0.1mg/kgのm276-PBD-SL(中央)、または0.5mg/kgのm276-PBD-SL(右)を、1週間に1回、5週間にわたり、MDA-MB-231腫瘍を担持するマウスに投与した。処置は、腫瘍の平均体積が1000mmに達したときに開始した。それぞれの線は、個々のマウスからの腫瘍増殖を表す。データによって、低(0.1mg/kg)用量で処置されたマウスの一部で再発が起きたが、高(0.5mg/kg)用量のm276-PBD-SLで処置された全てのマウスにおいて完全奏効が観察されたことが示された。
【0018】
図7】大きい同所性SUM159乳癌腫瘍は、m276-PBD-SLによる処置後、完全奏効を示す。ビヒクル(左)または0.5mg/kgのm276-PBD-SL(右)を、1週間に1回、4週間にわたり、SUM159腫瘍を担持するマウスに投与した。処置は、腫瘍の平均体積が1000mmに達したときに開始した。それぞれの線は、個々のマウスからの腫瘍増殖を表す。この結果は、m276-PBD-SLによる処置が、SUM159腫瘍の完全な退縮をもたらすことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
配列表
添付の配列表に示すアミノ酸配列は、37C.F.R.1.822に規定されているように、アミノ酸の標準的な3文字コードを使用して表記されている。この配列表は、2020年11月17日に作成された15.3KBのASCIIテキストファイル(これは、参照により本明細書に援用される)として提出される。添付のこの配列表において、
【0020】
配列番号1は、シグナルペプチドのアミノ酸配列である。
【化1】
【0021】
配列番号2は、m276可変重鎖(VH)ドメインのアミノ酸配列である。CDR配列は、太字の下線で示されている。
【化2】
【0022】
配列番号3は、改変されたm276定常領域のアミノ酸配列である。改変された残基は、太字の下線で示されている。
【化3】
【0023】
配列番号4は、改変されたm276重鎖のアミノ酸配列である。改変された残基は、太字の下線で示されている。
【化4】
【0024】
配列番号5は、N-末端シグナルペプチド(下線部)を有する改変されたm276重鎖のアミノ酸配列である。
【化5-1】
【化5-2】
【0025】
配列番号6は、m276可変軽鎖(VL)ドメインのアミノ酸配列である。CDR配列は、太字の下線で示されている。
【化6】
【0026】
配列番号7は、m276軽鎖のアミノ酸配列である。
【化7】
【0027】
詳細な説明
I.略語
ADC 抗体-薬物コンジュゲート
B7H3 B7ホモログ3
CDR 相補性決定領域
Ig 免疫グロブリン
PBD ピロロベンゾジアゼピン
PEG ポリエチレングリコール
VH 可変重
VL 可変軽
【0028】
II.用語および方法
別段の注釈がない限り、技術用語は、慣習的な用法に従って使用される。分子生物学における一般的な用語は、Benjamin Lewin、Genes X,published by Jones&Bartlett Publishers,2009;およびMeyersら(編)、The Encyclopedia of Cell Biology and Molecular Medicine,published by Wiley-VCH in 16 volumes,2008;および他の類似の参考文献に見いだされるであろう。
【0029】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、明らかに文脈に反しない限り、単数形ならびに複数形の両方を指す。例えば、用語「抗原(an antigen)」は、単一または複数の抗原を含み、また、語句「少なくとも1つの抗原」と等価であるとみなされ得る。本明細書で使用される場合、用語「含む(comprise)」は、「含む(include)」を意味する。さらに、別段の記載がない限り、核酸またはポリペプチドについて示される、あらゆる塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、および全ての分子量または分子質量値は、概数であり、かつ説明の目的で提供されていることを理解すべきである。本明細書に記載されているものと類似または同等の多くの方法および材料を使用することができるが、特定の適切な方法および材料が本明細書に記載されている。矛盾がある場合、本明細書(用語の説明を含む)が優先する。さらに、材料、方法、および例は、例証にすぎず、限定することを意図するものではない。種々の実施形態の考察を容易にするために、以下に用語の説明を示す。
【0030】
投与:任意の効果的な経路で、被験体に薬剤(例えば、CD276を特異的に標的化するADCを含む組成物)を提供または与えること。投与の例示的な経路としては、それらに限定されないが、経口、注射(例えば、皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、および静脈内)、舌下、直腸、経皮的(例えば、局所)、鼻腔内、膣、および吸入経路があげられる。
【0031】
抗体:抗原のエピトープを認識および結合する(例えば、特異的に認識し、かつ特異的に結合する)少なくとも1つの可変領域を含む、ポリペプチドリガンド。哺乳動物免疫グロブリン分子は、重(H)鎖および軽(L)鎖(これらは、それぞれ可変領域を有し、それぞれ可変重鎖(V)領域および可変軽鎖(V)領域と呼ばれる)からなる。V領域とV領域は、共に、抗体によって認識された抗原の結合を担う。哺乳動物免疫グロブリンの5つの主要な重鎖クラス(またはアイソタイプ)が存在し、それが、抗体分子、すなわちIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEの機能活性を決定する。哺乳動物に見られない抗体アイソタイプとしては、IgX、IgY、IgW、およびIgNARがあげられる。IgYは、鳥類および爬虫類によって産生される主要な抗体であり、機能的に、哺乳動物のIgGおよびIgEと類似する。IgWおよびIgNAR抗体は、軟骨魚類によって産生され、他方、IgX抗体は、両生類に見られる。
【0032】
抗体可変領域は、「フレームワーク」領域および超可変領域(「相補性決定領域」または「CDR」として知られる)を含む。CDRは、第一に、抗原のエピトープに対する結合を担当する。抗体のフレームワーク領域は、三次元空間において、前記CDRを位置づけそして整列させるのに役立つ。所定のCDRのアミノ酸配列の境界は、多数のよく知られているナンバリングスキーム(Kabatら(Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1991;「Kabat」ナンバリングスキーム)、Chothiaら(ChothiaおよびLesk、J Mol Biol 196:901-917,1987;Chothiaら、Nature 342:877,1989;およびAl-Lazikaniら、JMB 273,927-948,1997;「Chothia」ナンバリングスキームを参照のこと)、Kunikら(Kunikら、PLoS Comput Biol 8:e1002388,2012;およびKunikら、Nucleic Acids Res 40(Web Server issue):W521-524,2012;「Paratome CDR」を参照のこと)、およびIMGT(ImMunoGeneTics)データベース(Lefranc、Nucleic Acids Res 29:207-9,2001;「IMGT」ナンバリングスキームを参照のこと)に記載されているものが含まれる)のいずれかを使用して、容易に決定することができる。Kabat、Paratome、およびIMGTデータベースは、オンラインで保守されている。本明細書におけるいくつかの実施形態において、(例えば、アミノ酸置換の位置を決定するための)アミノ酸ナンバリングは、Euナンバリング慣例(Edelmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 63:78-85,1969を参照のこと)に従って参照される。
【0033】
「単一ドメイン抗体」は、追加の抗体ドメインなしで、抗原、または抗原のエピトープに特異的に結合することが可能な単一のドメイン(可変ドメイン)を有する抗体を指す。単一ドメイン抗体としては、例えば、Vドメイン抗体、VNAR抗体、ラクダ科(camelid)VH抗体、およびVドメイン抗体があげられる。VNAR抗体は、軟骨魚類(例えば、テンジクザメ、クモハダオオセ、ツノザメ、およびバンブーシャーク)によって産生される。ラクダ科VH抗体は、ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコを含むいくつかの種(これらは、軽鎖を天然で欠く重鎖抗体を産生する)によって産生される。
【0034】
「モノクローナル抗体」は、リンパ球の単一クローンによって、または単一の抗体のコード配列がトランスフェクトされた細胞によって産生される抗体である。モノクローナル抗体には、ヒト化モノクローナル抗体が含まれる。
【0035】
「キメラ抗体」は、1つの種(例えばヒト)に由来するフレームワーク残基と、別の種に由来するCDR(これが、一般に抗原結合を生じさせる)とを有する。
【0036】
「ヒト化」抗体は、ヒトフレームワーク領域と、非ヒト(マウス、ウサギ、ラット、サメ、または合成)免疫グロブリンに由来する1つまたはそれを超えるCDRとを含む免疫グロブリンである。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは、「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは、「アクセプター」と呼ばれる。一実施形態において、全てのCDRは、ヒト化免疫グロブリンにおいて、ドナー免疫グロブリンに由来する。定常領域は、存在する必要はないが、存在する場合、ヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一、すなわち、少なくとも約85~90%、例えば、約95%またはそれを超えて同一などでなければならない。それゆえ、ヒト化免疫グロブリンの全ての部分(おそらく前記のCDRを除き)は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。ヒト化抗体は、CDRを提供するドナー抗体と同じ抗原に結合する。ヒト化または他のモノクローナル抗体は、抗原結合またはその他の免疫グロブリン機能に実質的に影響を及ぼさないさらなる保存的アミノ酸置換を有していてもよい。
【0037】
抗体-薬物コンジュゲート(ADC):薬物(例えば、細胞傷害性薬剤)にコンジュゲートされた抗体(または抗体の抗原結合フラグメント)を含む分子。ADCは、細胞表面に発現した腫瘍抗原に対する抗体の特異的な結合によって、薬物をがん細胞に対して特異的に標的化するために使用することができる。ADCと共に使用するための例示的な薬物としては、微小管阻害剤(例えば、マイタンシノイド、アウリスタチンE、およびアウリスタチンF)および鎖間架橋剤(例えば、ピロロベンゾジアゼピン;PBD)があげられる。
【0038】
微小管阻害剤:有糸分裂を停止させることによって細胞増殖を阻止する薬物の一種。微小管阻害剤は、「有糸分裂阻害剤」とも呼ばれ、がんを処置するために使用される。
【0039】
結合親和性:抗原に対する抗体の親和性。一実施形態において、親和性は、Frankelら(Mol.Immunol.,16:101-106,1979)によって記述されたスキャッチャード法の変法によって算出される。別の実施形態において、結合親和性は、抗原/抗体解離速度によって測定される。別の実施形態において、高い結合親和性は、競合ラジオイムノアッセイによって測定される。別の実施形態において、結合親和性は、ELISAによって測定される。他の実施形態において、抗体親和性は、フローサイトメトリーによって、または表面プラズモン共鳴によって測定される。抗原(例えば、CD276)に「特異的に結合する」抗体は、その抗原に高い親和性で結合するが、他の無関係な抗原とは有意に結合しない抗体である。
【0040】
乳がん:乳房の組織、通常乳管および小葉に生じるがんの一種。乳がんの種類としては、例えば、乳管内上皮内癌(ductal carcinoma in situ)、浸潤性腺管癌、トリプルネガティブ乳がん、炎症性乳がん、転移性乳がん、髄様癌、管状腺癌、および粘液性癌腫があげられる。トリプルネガティブ乳がんは、がん細胞がエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、または有意なレベルのHER2/neuタンパク質を発現しない乳がんの一種を指す。トリプルネガティブ乳がんは、また、ER陰性、PR陽性、HER2/neu陰性乳がんとも呼ばれる。乳房の浸潤性(悪性)癌腫は、複数のステージ(I、IIA、IIB、IIIA、IIIB、およびIV)に分類される。例えば、Bonadonnaら(編)、“Textbook of Breast cancer:A clinical Guide the Therapy,”3rd;London,Tayloy&Francis,2006を参照のこと。
【0041】
CD276:いくつかの種類の固形腫瘍によって発現される免疫チェックポイント分子。このタンパク質は、共刺激分子のB7スーパーファミリーのメンバーである。CD276は、また、B7ホモログ3(B7-H3)としても知られる。
【0042】
CD276陽性がん:CD276を発現または過剰発現するがん。CD276陽性がんとしては、それらに限定されないが、例えば、肝臓がん(例えば、肝細胞癌)、膵臓がん、腎臓がん、膀胱がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、前立腺がん、乳がん、卵巣がん、結腸がん、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、脳がん(例えば、神経芽細胞腫または神経膠芽細胞腫)、小児がん(例えば、骨肉腫、神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、またはユーイング肉腫)、メラノーマ、および中皮腫があげられる(例えば、Seamanら、Cancer Cell 31(4):501-505,2017を参照のこと)。
【0043】
化学療法剤:異常な細胞増殖によって特徴付けられる疾患の処置において治療的有用性がある、任意の化学的薬剤。そのような疾患としては、腫瘍、新生物、およびがん、ならびに乾癬などの過形成性増殖によって特徴付けられる疾患があげられる。一実施形態において、化学療法剤は、CD276陽性腫瘍の処置に有用な薬剤である。一実施形態において、化学療法剤は、放射性化合物である。有用な化学療法剤の非限定的な例は、SlapakおよびKufe、Principles of Cancer Therapy,Chapter 86 in Harrison’s Principles of Internal Medicine,14th edition;Perryら、Chemotherapy,Ch.17 in Abeloff,Clinical Oncology 2nd ed.,(copyrihgt)2000 Churchill Livingstone,Inc;Baltzer,L.、Berkery,R.(編):Oncology Pocket Guide to Chemotherapy,2nd ed.St.Louis,Mosby-Year Book,1995;Fischer,D.S.、Knobf,M.F.、Durivage,H.J.(編):The Cancer Chemotherapy Handbook,4th ed.St.Louis,Mosby-Year Book,1993)に見いだすことができる。併用化学療法は、がんを処置するための、1つを超える薬剤の投与である。1つの例は、放射性物質または化合物と組み合わせて使用される、CD276を標的化するADCの投与である。
【0044】
結腸がん:結腸または直腸に生じるがんの一種。最も一般的な種類の結腸がん(「結腸直腸がん」としても知られる)は、結腸直腸腺癌であり、全結腸がんのおよそ95%を占める。腺癌は、結腸および/または直腸の内側を裏打ちする細胞に生じる。他の種類の結腸直腸がんとしては、胃腸カルチノイド腫瘍、転移性結腸直腸がん、原発性結腸直腸リンパ腫(非ホジキンリンパ腫の一種)、消化管間質腫瘍(肉腫に分類され、Cajal間質細胞から生じる)、平滑筋肉腫(平滑筋細胞から生じる)、および結腸直腸メラノーマがあげられる。
【0045】
相補性決定領域(CDR):抗体の結合親和性と特異性を決定する、超可変性のアミノ酸配列の領域。哺乳動物免疫グロブリンの軽鎖および重鎖は、それぞれ、3つのCDR(それぞれ、L-CDR1、L-CDR2、L-CDR3、およびH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と呼ばれる)を有する。単一ドメイン抗体は、3つのCDR(本明細書において、CDR1、CDR2、およびCDR3と呼ばれる)を含む。
【0046】
保存的バリアント:タンパク質(例えば、CD276に対する抗体)の親和性に実質的に影響しない、または親和性を実質的に低下させない保存的アミノ酸置換を含むタンパク質。例えば、CD276に特異的に結合するモノクローナル抗体は、最大で約1、最大で約2、最大で約5、および最大で約10、または最大で約15個の保存的置換を含み得、かつCD276ポリペプチドに特異的に結合し得る。用語「保存的バリアント」は、また、抗体がCD276に特異的に結合するという条件で、置換されていない元のアミノ酸に代えて、置換されたアミノ酸を使用することも含む。非保存的置換は、CD276に対する活性または結合を低下させる置換である。
【0047】
保存的アミノ酸置換表は、機能的に類似するアミノ酸を提示する。下記の6つのグループは、互いに保存的置換であるとみなされるアミノ酸の例である。
1)アラニン(A)、セリン(S)、スレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0048】
接触:直接的な物理的会合にある配置であり、固体形態と液体形態の両方が含まれる。
【0049】
細胞傷害性薬剤:細胞を死滅させる任意の薬物または化合物。
【0050】
細胞傷害:(生物の残りの細胞と対照的なものとしての)標的化することを意図した細胞に対する、分子(例えば、イムノトキシン)の毒性。これに対して、用語「毒性」は、イムノトキシンの標的化部分によって標的化することを意図した細胞とは異なる細胞に対するイムノトキシンの毒性を指し、用語「動物毒性」は、イムノトキシンによって標的化することを意図した細胞とは異なる細胞に対するイムノトキシンの毒性による、動物に対するイムノトキシンの毒性を指す。
【0051】
薬物:被験体における疾患または状態を処置、改善、または予防するために使用される任意の化合物。本明細書におけるいくつかの実施形態において、薬物は、抗がん剤、例えば、細胞傷害性薬剤(例えば、有糸分裂阻害または微小管阻害剤など)である。
【0052】
エピトープ:抗原決定基。これは、(特異的な免疫応答を誘発する)抗原性である、分子上の特定の化学基またはペプチド配列である。抗体は、ポリペプチド(例えば、CD276など)上の特定の抗原性エピトープに特異的に結合する。
【0053】
フレームワーク領域:CDRの間に介在するアミノ酸配列。免疫グロブリン分子のフレームワーク領域としては、可変軽鎖フレームワーク領域および可変重鎖フレームワーク領域があげられる。
【0054】
融合タンパク質:2つの異なる(異種)タンパク質の少なくとも一部を含むタンパク質。
【0055】
異種の:別々の遺伝的起源または種を起源とすること。
【0056】
IgG:認識されている免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスまたはアイソタイプに属するポリペプチド。ヒトにおいては、このクラスは、IgG、IgG、IgG、およびIgGを含む。マウスにおいては、このクラスはIgG、IgG2a、IgG2b、およびIgGを含む。
【0057】
免疫応答:刺激に対する、免疫系の細胞(例えば、B細胞、T細胞、または単球)の応答。一実施形態において、この応答は、特定の抗原に対して特異的である(「抗原特異的応答」)。一実施形態において、免疫応答はT細胞応答(例えば、CD4応答またはCD8応答)である。別の実施形態において、この応答は、B細胞応答であり、特定の抗体の産生をもたらす。
【0058】
鎖間架橋剤:DNAの2本の鎖間を共有結合的に結合させ、それによってDNA複製および/または転写を阻害することができる細胞傷害性薬物の一種である。
【0059】
単離された:「単離された」生物学的成分(例えば、核酸、タンパク質(抗体を含む)、またはオルガネラ)は、その成分が天然に存在する環境(例えば、細胞)中の他の生物学的成分(例えば、他の染色体および染色体外DNAおよびRNA、タンパク質、ならびにオルガネラ)から、実質的に分離または精製されている。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。この用語は、また、宿主細胞内で組換え的発現によって調製された核酸およびタンパク質、ならびに化学的に合成された核酸も包含する。
【0060】
標識:別の分子(例えば、抗体またはタンパク質)に対して、その分子の検出を容易にするために、直接的または間接的にコンジュゲートされる、検出可能な化合物または組成物。標識の特定の非限定的な例としては、蛍光タグ、酵素的結合、および放射性同位元素があげられる。1つの例において、「標識抗体」は、抗体に、別の分子を組み入れることを指す。例えば、標識は、検出可能なマーカー(例えば、ポリペプチドに対する、放射性標識したアミノ酸の組み入れ、またはマークされたアビジン(例えば、光学的または比色分析的方法によって検出することができる蛍光マーカーまたは酵素活性を有するストレプトアビジン)によって検出することができるビオチニル部分の結合)である。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識する種々の方法が、当該技術分野において知られており、使用され得る。ポリペプチドのための標識としては、それらに限定されないが、例えば、以下のもの、すなわち放射性同位体または放射性ヌクレオチド(例えば、35S、11C、13N、15O、18F、19F、99mTc、131I、H、14C、15N、90Y、99Tc、111In、および125I)、蛍光標識(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、ランタニド蛍光体)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光マーカー、ビオチニル基、二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えば、ロイシンジッパーペア配列、二次抗体のための結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)、または磁性作用物質(例えば、ガドリニウムキレート)があげられる。いくつかの実施形態において、標識は、起こり得る立体障害を低減させるために、種々の長さのスペーサーアームによって結合される。
【0061】
リンカー:いくつかの場合において、リンカーは、可変重鎖を可変軽鎖に間接的に結合するのに役立つ抗体結合フラグメント(例えば、Fvフラグメント)の中のペプチドである。「リンカー」は、また、標的化部分(例えば、抗体など)をエフェクター分子(例えば、細胞毒または検出可能な標識など)に連結するのに役立つペプチドも指し得る。用語「コンジュゲートする」、「接合する(joining)」、「結合する(bonding)」、または「連結する(linking)」は、2つのポリペプチドを1つの連続したポリペプチド分子にすること、または放射性核種もしくは他の分子をポリペプチド(例えば、抗体など)に共有結合的に結合させることを指す。この結合は、化学的手段または組換え的手段のどちらによるものであってもよい。「化学的手段」は、抗体部分とエフェクター分子との間の、これら2つの分子の間に共有結合が形成され、それによって1つの分子が形成されるような反応を指す。本明細書に開示されているADCは、抗体を薬物に接合するためのリンカーを含む。いくつかの実施形態において、リンカーは、マレイミド基、PEG(例えば、PEG8)、およびバリン-アラニンジペプチドを含む。
【0062】
肝臓がん:肝臓組織に生じる任意の種類のがん。最も一般的な種類の肝臓がんは、肝細胞に生じる肝細胞癌(HCC)である。他の種類の肝臓がんとしては、胆管癌(胆管に生じる);肝臓血管肉腫(肝臓の血管で開始する、まれな形態の肝臓がんである);および肝芽腫(小児に最も多く見られる、非常にまれな種類の肝臓がんである)があげられる。
【0063】
肺がん:肺に形成される任意のがん。肺で開始するたいていのがんは、癌腫である。2つの主要な種類の肺癌は、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)である。NSCLCのサブクラスは、腺癌、扁平上皮癌、および大細胞癌を含む。肺がんは、典型的には、I~IVのステージに分けられるが、他の分類も使用される。例えば、小細胞肺癌は、胸部の二分の一かつ単一の放射線治療野の範囲内に限局されている場合は、限局ステージに分類することができ、そうでない場合は進展ステージである。例えば、Hansen(編)、Textbook of Lung Cancer,2nd,London:Informa Healthcare,2008を参照のこと。
【0064】
マレイミド:式H(CO)NHの化合物。マレイミド基は、バイオコンジュゲーションのために、例えば、薬物の抗体に対するコンジュゲーションのために一般に使用される(例えば、Ravascoら、Chem Eur J 25:43-49,2019を参照のこと)。ポリエチレングリコール(PEG)鎖に連結されたマレイミドは、しばしば可撓性連結分子として使用される(図4を参照のこと)。
【0065】
神経芽細胞腫:胚性神経堤細胞から生じる固形腫瘍。神経芽細胞腫は、一般に、副腎の内部および周囲に生じるが、交感神経組織が見られるいかなる場所にも生じ得る(例えば、腹部、胸部、頸部、または脊椎付近の神経組織内)。神経芽細胞腫は、典型的には、年齢が5歳未満の小児に生じる。
【0066】
作動可能に連結された:第1の核酸配列が、第2の核酸配列と、機能的関連性を持って配置されている場合、その第1の核酸配列は、その第2の核酸配列に、作動可能に連結されている。例えば、プロモーターが、コード配列の転写または発現に影響する場合、そのプロモーターは、そのコード配列に、作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結されたDNA配列は、連続しており、かつ、2つのタンパク質コード領域を連結する必要がある場合、同じリーディングフレーム内にある。
【0067】
卵巣がん:卵巣の組織内に生じるがん。たいていの卵巣がんは、卵巣上皮癌(卵巣の表面上の細胞で開始するがん)か、または悪性生殖細胞腫瘍(卵細胞で開始するがん)のいずれかである。別の種類の卵巣がんは、ストローマ細胞がんであり、これは、ホルモンを放出し、卵巣の別々の構造を連結する細胞から生じる。
【0068】
膵臓がん:膵臓の組織内に悪性細胞が見られる疾患。膵臓腫瘍は、がんの起源となる細胞に基づき、外分泌腫瘍か、または神経内分泌腫瘍のいずれかであり得る。大多数(約94%)の膵臓がんは、外分泌腫瘍である。外分泌がんとしては、例えば、腺癌(最も一般的な種類の外分泌腫瘍)、腺房細胞癌、膵管内乳頭状粘液性新生物(intraductal papillary-mucinous neoplasm)(IPMN)、および粘液性嚢胞腺癌があげられる。いくつかの例において、膵臓がんは、膵管腺癌(PDAC)である。膵臓神経内分泌腫瘍(膵島細胞腫瘍とも呼ばれる)は、生成するホルモンの種類によって分類される。例示的な神経内分泌腫瘍としては、ガストリノーマ、グルカゴノーマ(glucaganoma)、インスリノーマ、ソマトスタチノーマ、ビポーマ(血管作動性腸ペプチド)、および非機能性膵島細胞腫瘍があげられる。
【0069】
小児がん:年齢0~14歳の小児に生じるがん。主要な種類の小児がんとしては、例えば、神経芽細胞腫、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、胎児性横紋筋肉腫(ERMS)、胞巣状横紋筋肉腫(ARMS)、ユーイング肉腫、線維形成性小円形細胞腫瘍(DRCT)、骨肉腫、脳および他の中枢神経系(CNS)腫瘍(例えば、神経芽細胞腫および髄芽腫)、ウィルムス腫瘍、非ホジキンリンパ腫、および網膜芽腫があげられる。
【0070】
薬学的に許容され得るキャリア:有用な薬学的に許容され得るキャリアは、通常のものである。Remington、The Science and Practice of Pharmacy,The University of the Sciences in Philadelphia,Editor,Lippincott,Williams,&Wilkins,Philadelphia,PA,21st Edition(2005)に、本明細書に開示されている抗体および他の組成物の薬学的送達に適した組成物および製剤が記載されている。一般に、キャリアの性質は、採用しようとする特定の投与モードに依存するであろう。例えば、非経口製剤は、通常、ビヒクルとして、水、生理的食塩水、平衡塩類溶液、デキストロース水溶液、グリセロールなどの薬学的および生理学的に許容され得る流体を含有する注射可能流体を含む。固体組成物(例えば、粉末、ピル、錠剤、またはカプセル形態)について、通常の非毒性固体キャリアは、例えば、医薬グレードのマニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムを含み得る。生物学的に中性のキャリアに加えて、投与される医薬組成物は、少量の非毒性の補助的な物質、例えば、湿潤または乳化剤、保存剤、およびpH緩衝化剤など(例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレート)を含んでいてもよい。
【0071】
ポリエチレングリコール(PEG):化学式H-(O-CH-CH-OHの、反復するエチレンオキシド単位からなる化合物。PEG分子は、その水溶性、無毒性、低免疫原性、および明確に規定された鎖長ゆえに、ADCのためのリンカーに使用されることが多い。PEG含有リンカーは、タンパク質凝集の低下を促進し、コンジュゲートの溶解度を向上させる。いくつかの実施形態において、ADCリンカーのPEGは、4、5、6、7、8、9、または10個のエチレンオキシド単位を含む。特定の実施形態において、ADCリンカーのPEGは、8個のエチレンオキシド単位(PEG8)を含む。
【0072】
疾患を予防する、処置する、または改善する:疾患を「予防する」は、疾患の完全な発症を防ぐことを指す。「処置する」は、疾患または病理学的状態の徴候または症状を、発症し始めた後に、改善する(例えば、腫瘍負荷の低減、または転移の数またはサイズの減少など)治療的介入を指す。「改善する」は、疾患(例えば、がんなど)の徴候または症状の数または重篤度の低減を指す。
【0073】
精製された:用語「精製された」は、絶対純度を要求するものではなく、相対的な用語であることが意図されている。よって、例えば、精製されたペプチド調製物は、ペプチドまたはタンパク質が、細胞内の自然環境におけるそのペプチドまたはタンパク質に比べてより富化されているものである。一実施形態において、調製物は、タンパク質またはペプチドが、その調製物の全ペプチドまたはタンパク質含量の少なくとも50%に相当するように精製される。実質的な精製は、他のタンパク質または細胞成分からの精製を意味する。実質的に精製されたタンパク質は、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、または98%純粋である。よって、一つの特定の非限定的な例において、実質的に精製されたタンパク質は、他のタンパク質または細胞成分を90%含まない。
【0074】
ピロロベンゾジアゼピン(PBD):Streptomyces種において最初に発見された配列選択的DNA副溝結合架橋剤のクラス。PBDは、全身的な化学療法薬に比べて、有意に強力である。PBDの作用メカニズムは、DNAの副溝で付加物を形成し、それによってDNAプロセシングを阻害する能力と関係している。本開示の文脈において、PBDは、天然に生成され単離されたPBD、化学的に合成された天然型PBD、および化学的に合成された非天然型PBDを含む。PBDは、また、モノマーPBD、ダイマーPBD、およびハイブリッドPBDも含む(概説として、Gerratana、Med Res Rev 32(2):254-293,2012を参照のこと)。
【0075】
組換え:組換え核酸またはタンパク質は、天然には存在しない配列を有するか、または配列の元々は別々の2つのセグメントを人工的に組み合わせることによって形成された配列を有するものである。この人工的な組み合わせは、化学合成によって実現されるか、または核酸の単離されたセグメントの、例えば、遺伝子工学技術による人工的な操作によって実現されることが多い。
【0076】
サンプル(または生体サンプル):被験体から得られる、ゲノムDNA、RNA(mRNAを含む)、タンパク質、またはそれらの組み合わせを含む、生物学的試料。例としては、それらに限定されないが、末梢血、組織、細胞、尿、唾液、組織生検材料、細針吸引物、外科的検体、および検死材料があげられる。
【0077】
配列同一性:アミノ酸または核酸配列の間の類似性は、配列間の類似性によって表され、この他に配列同一性と呼ばれる。配列同一性は、しばしばパーセント同一性(または類似性または相同性)によって測定され、パーセンテージが高いほど、2つの配列は類似性が高い。ポリペプチドまたは核酸分子のホモログまたはバリアントは、標準的な方法によって整列された場合、比較的高い配列同一性を有するであろう。
【0078】
比較のための配列のアラインメント方法は、当該技術分野においてよく知られている。種々のプログラムおよびアラインメントアルゴリズムが、SmithおよびWaterman、Adv.Appl.Math.2:482,1981;NeedlemanおよびWunsch、J.Mol.Biol.48:443,1970;PearsonおよびLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444,1988;HigginsおよびSharp、Gene 73:237,1988;HigginsおよびSharp、CABIOS 5:151,1989;Corpetら、Nucleic Acids Research 16:10881,1988;およびPearsonおよびLipman、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444,1988に記載されている。Altschulら、Nature Genet.6:119,1994は、配列アラインメント方法および相同性算出の詳細な考察を提示している。
【0079】
配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxと共に使用するためのBLAST(NCBI Basic Local Alignment Search Tool)(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403,1990)は、(米国)国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI、Bethesda、MD)およびインターネット上を含む、種々の提供元から利用可能である。このプログラムを使用して配列同一性を決定するための方法の説明は、インターネット上のNCBIウェブサイトで利用可能である。
【0080】
CD276ポリペプチドに特異的に結合する抗体のホモログおよびバリアントは、典型的には、NCBI BLAST2.0、gapped blastp(初期パラメーター設定)を使用して、抗体のアミノ酸配列に対して、全長アライメントにわたってカウントして、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有することによって特徴付けられる。約30アミノ酸よりも長いアミノ酸配列の比較のために、初期パラメーター(ギャップ伸長コストが11、および残基あたりのギャップコストが1)に設定した初期BLOSUM62マトリックスを使用して、BLAST2配列機能が利用される。短いペプチド(およそ30アミノ酸より少ない)を整列する場合、アラインメントは、初期パラメーター(開始ギャップペナルティが9、伸長ギャップペナルティが1)に設定したPAM30マトリックスを利用して、BLAST2配列機能を使用して行うべきである。参照配列に対してより大きい類似性を有するタンパク質は、この方法によって分析した場合、増大するパーセント同一性、例えば少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を示すであろう。配列同一性について全長配列より短い配列が比較される場合、ホモログおよびバリアントは、典型的には、10~20アミノ酸の短いウィンドウにわたって、少なくとも80%の配列同一性を有し、また、参照配列に対する類似性に応じて、少なくとも85%または少なくとも90%もしくは95%の配列同一性を有し得る。このような短いウィンドウにわたって配列同一性を決定する方法は、インターネット上のNCBIウェブサイトで利用可能である。これらの配列同一性の範囲は、ガイダンスのために示されているだけであり、示されている範囲外の非常に重要なホモログが得られ得ることは全面的に起こり得る。
【0081】
小分子:典型的には約1000ダルトンより小さい分子量を有する分子、または、いくつかの実施形態において、約500ダルトンより小さい分子量を有する分子(ここで、前記分子は、標的分子の活性を、ある測定可能な程度、改変することが可能である)。
【0082】
被験体:生きている多細胞脊椎動物(ヒトと獣医学的被験体(ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む)の両方を含むカテゴリー)。
【0083】
合成:実験室内で人工的手段によって生成される、例えば、合成核酸またはタンパク質(例えば、抗体)は、実験室内で、化学的に合成され得る。
【0084】
治療有効量:単独で、または1つまたはそれを超える追加の薬剤と一緒になって、被験体において、所望の反応(例えば、腫瘍の処置など)を引き起こす薬剤(例えば、CD276を標的化するADC)の量。被験体に投与した場合、所望のin vitro効果を実現することが示されている標的組織濃度を実現するであろう投薬量が、一般に使用されるであろう。理想的には、治療有効量は、被験体において、実質的な細胞毒性効果を引き起こすことなく、治療効果をもたらす。
【0085】
1つの例において、所望の反応は、被験体において、腫瘍のサイズ、体積、または数(例えば、転移)を減少させることである。例えば、薬剤(単数または複数)は、腫瘍のサイズ、体積、または数を、薬剤なしにおける反応と比較して、所望の量、例えば、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、または少なくとも95%減少させることができる。
【0086】
本明細書に開示されているいくつかの調製物は、治療有効量で投与される。ヒトまたは獣医学的被験体に投与される、CD276に特異的に結合するADC(またはADCを含む組成物)の治療有効量は、その被験体に関連する多数の因子(例えば、被験体の全体的な健康状態)によって変わるであろう。治療有効量は、投薬量を変化させ、得られる治療的反応(例えば、腫瘍の退縮)を測定することによって決定することができる。治療有効量は、また、種々のin vitro、in vivo、またはin situイムノアッセイによって決定することもできる。本開示の薬剤は、所望の反応を得るための必要に応じて、単回の用量または数回の用量で投与することができる。しかしながら、治療有効量は、適用する供給源、処置される被験体、処置される状態の重篤度および種類、ならびに投与のやり方に依存し得る。
【0087】
ベクター:宿主細胞内に導入される核酸分子(それによって、形質転換宿主細胞が生成される)。ベクターは、宿主細胞における複製を可能にする核酸配列(例えば、複製起点など)を含み得る。ベクターは、また、1つまたはそれを超える選択マーカー遺伝子、および当該技術分野で知られている他の遺伝要素も含み得る。いくつかの実施形態において、ベクターは、ウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)である。
【0088】
III.CD276を標的化する抗体-薬物コンジュゲート
CD276特異的モノクローナル抗体m276(m8524としても知られる)は、以前に説明されているように(WO2016/044383(参照により、その全体が本明細書に援用される))、ナイーブヒトscFvライブラリーから単離された。m276抗体は、ヒトm276とマウスm276の両方に結合する。WO2016/044383は、m276抗体を使用した2つの異なるADCを説明しており、1つのADCは、連結部分によってモノメチルアウリスタチンE(MMAE)にコンジュゲートされたm276を含んでおり、第2のADCは、グリコール基によってピロロベンゾジアゼピン(PBD)にコンジュゲートされたm276からなっていた(m276-PBD)。以前に説明されているADCはCD276発現腫瘍細胞の死滅に部分的に有効であるが、本開示は、安定性と有効性が向上し、かつオフターゲット効果が最小限である改善されたCD276特異的ADCを提供する。
【0089】
改善されたCD276標的化ADCは、m276抗体のFc領域にいくつかの変異を含む。特に、ADCは、L234A、L235A、およびP329G置換(Euナンバリング慣例に従い、ヒトIgG1を基準としてナンバリングされている)を含むことでFc領域がFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIに対して非反応性にされており、それがFc受容体発現正常細胞の死滅を予防することによってオフターゲット効果を低減させる。改変ADCは、また、S239C変異(Euナンバリング慣例に従い、ヒトIgG1を基準としてナンバリングされている)も含むことで薬物(例えば、PBDまたはPBDダイマーなど)の部位特異的コンジュゲーションが可能になっている。1つの例として、薬物は、バリン-アラニンジペプチドリンカーを使用して、残基239のシステインにコンジュゲートされる。この場所における部位特異的コンジュゲーションは、著しい凝集を起こすことなく疎水性が高い薬剤(例えば、PBD)のコンジュゲーションを可能にすることによって、ADCの生物物理学的特性を改善する。S239C変異は、また、循環中の薬物の早すぎる喪失も防ぎ、それによってADCの安定性を増大させる。
【0090】
抗体m276と、薬物成分としてPBDダイマーとを含む改変ADC(本明細書において「m276-PBD-SL」と呼ぶ)が、マウス腫瘍異種移植モデルにおいて、非常に効力が高いことが本明細書に開示されている。m276-PBD-SL ADCは、非常に大きい腫瘍(>1000mm)を根絶させることが可能であり、これは、元の改変されていないm276ベースのADCでは不可能であった。さらに、この効果は、マウスにおいて毒性を引き起こさない用量のm276-PBD-SLで観察された(実施例2および5参照)。
【0091】
m276 VHドメインおよびVLドメインのアミノ酸配列を以下に示す。IMGTによるCDR配列は、太字の下線で示されている。各CDRのアミノ酸残基を各配列の下に列挙する。
【0092】
m276可変重鎖(VH)ドメイン(配列番号2)
【化8】
CDR1=残基26-33
CDR2=残基51-58
CDR3=残基97-108
【0093】
m276可変軽鎖(VL)ドメイン(配列番号6)
【化9】
CDR1=残基27-32
CDR2=残基50-52
CDR3=残基89-99
【0094】
m276抗体を使用して改変ADCを生成するために、m276の重鎖に4つのアミノ酸置換を導入した。改変された重鎖の配列を以下に示し、本明細書において配列番号4と示す。重鎖中の4つのアミノ酸置換(配列番号4の残基236、237、241、および331に位置し、かつヒトIgG1の残基234、235、239、および329に対応する)を太字の下線で示す。VHドメイン(配列番号4の残基1-119)に下線が付されている。m276重鎖の定常領域は、配列番号3と示す(かつ、配列番号4の残基120-449に対応する)。
【0095】
改変されたm276重鎖(配列番号4)
【化10-1】
【化10-2】
【0096】
いくつかの実施形態において、改変されたm276定常ドメインは、N-末端シグナルペプチド:
【化11】
(配列番号1)を含む。N-末端シグナル配列(下線部)を有する改変された重鎖を以下に示し、本明細書において配列番号5と示す。
【0097】
シグナル配列を有する改変されたm276重鎖(配列番号5)
【化12】
【0098】
本明細書において、CD276特異的モノクローナル抗体にコンジュゲートされた薬物を含むADCが提供される。このモノクローナル抗体は、可変重鎖(VH)ドメイン、可変軽鎖(VL)ドメイン、およびIgG1 Fc領域を含む。いくつかの実施形態において、前記モノクローナル抗体のVHドメインは、m276 VHドメイン(配列番号2として示す)の相補性決定領域1(CDR1)配列、CDR2配列、およびCDR3配列を含み、前記モノクローナル抗体のVLドメインは、m276 VLドメイン(配列番号6として示す)のCDR1配列、CDR2配列、およびCDR3配列を含み、前記モノクローナル抗体のFc領域は、S239C、L234A、L235A、およびP329G変異(ヒトIgG1を基準としてナンバリングされている)を含む。前記ADCの薬物成分は、部位特異的コンジュゲーションによって、Fcドメインの残基239のシステインに(直接的に、またはリンカーによって間接的に)コンジュゲートされている。
【0099】
いくつかの実施形態において、CDR配列は、Kabat、IMGT、またはChothiaナンバリング慣例を使用して決定される。
【0100】
いくつかの実施形態において、前記VHドメインのCDR1配列、CDR2配列、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号2の残基26-33、51-58、および97-108を含み;および/または前記VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号6の残基27-32、50-52、および89-99を含む。いくつかの例において、前記VHドメイン(列挙したCDR配列に加えて)は、配列番号2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一なアミノ酸配列を含み、および/または前記VLドメイン(列挙したCDR配列に加えて)は、配列番号6に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一なアミノ酸配列を含む。特定の非限定的な例において、前記VHドメインは、配列番号2のアミノ酸配列を含むか、もしくは配列番号2のアミノ酸配列からなり、および/または前記VLドメインは、配列番号6のアミノ酸配列を含むか、もしくは配列番号6のアミノ酸配列からなる。
【0101】
いくつかの実施形態において、前記Fc領域のアミノ酸配列は、配列番号3を含む。
【0102】
いくつかの実施形態において、モノクローナル抗体は、IgG1である。いくつかの例において、モノクローナル抗体は、IgG1であり、前記IgG1の重鎖のアミノ酸配列は、配列番号4または配列番号5を含む。いくつかの例において、モノクローナル抗体は、IgG1であり、前記IgG1の軽鎖のアミノ酸配列は、配列番号7を含む。
【0103】
いくつかの実施形態において、ADCの薬物は、細胞傷害性薬剤(例えば、鎖間架橋剤、有糸分裂阻害剤、または微小管阻害剤など)を含む。いくつかの例において、鎖間架橋剤は、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)(例えば、PBDダイマーなど)を含む。
【0104】
いくつかの実施形態において、ADCは、薬物をモノクローナル抗体に接続するリンカーをさらに含む。いくつかの例において、前記薬物は、バリン-アラニンジペプチドを含むリンカーによってモノクローナル抗体にコンジュゲートされる。特定の例において、前記リンカーは、マレイミド基をさらに含む。特定の例において、前記リンカーは、ポリエチレングリコール(PEG)をさらに含む。特定の非限定的な例において、前記リンカーは、バリン-アラニンジペプチド、PEG(例えば、PEG8)、およびマレイミド基を含む。
【0105】
本明細書において、本明細書に開示されているADCと、薬学的に許容され得るキャリアとを含む組成物も提供される。
【0106】
本明細書において、被験体においてCD276陽性がんを処置する方法がさらに提供される。いくつかの実施形態において、前記方法は、被験体に対して、治療有効量の本明細書に開示されているADCまたは組成物を投与することを含む。いくつかの例において、前記方法は、CD276陽性がんと診断された被験体を選択することをさらに含む。いくつかの例において、CD276陽性がんは、肝細胞癌、メラノーマ、白血病、乳がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、結腸直腸がん、骨肉腫、子宮内膜がん、卵巣がん、口腔扁平上皮癌、非小細胞肺がん、膀胱がん、または膵臓がんである。特定の非限定的な例において、CD276陽性がんは、乳がんまたは神経芽細胞腫である。
【0107】
被験体において、CD276陽性がんの腫瘍増殖または転移を阻害する方法も提供される。いくつかの実施形態において、前記方法は、被験体に対して、治療有効量の本明細書に開示されているADCまたは組成物を投与することを含む。いくつかの例において、前記方法は、CD276陽性がんと診断された被験体を選択することをさらに含む。いくつかの例において、CD276陽性がんは、肝細胞癌、メラノーマ、白血病、乳がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、結腸直腸がん、骨肉腫、子宮内膜がん、卵巣がん、口腔扁平上皮癌、非小細胞肺がん、膀胱がん、または膵臓がんである。特定の非限定的な例において、CD276陽性がんは、乳がんまたは神経芽細胞腫である。
【0108】
本開示の方法のいくつかの実施形態において、前記方法は、被験体に対して、追加の抗がん剤を投与することをさらに含む。いくつかの例において、前記追加の抗がん剤は、化学療法剤または血管新生阻害剤を含む。いくつかの実施形態において、前記方法は、腫瘍の外科的切除および/または放射線療法をさらに含む。
【0109】
IV.薬物およびリンカー
ADCは、腫瘍抗原特異的抗体および薬物(典型的には、細胞傷害性薬剤(例えば、微小管阻害剤または架橋剤など))からなる化合物である。ADCは、がん細胞を特異的に標的化することができるので、前記薬物は、標準的な化学療法に使用される薬剤と比較して、はるかに強力であり得る。現在ADCと共に使用されている最も一般的な細胞傷害性薬物は、従来の化学療法剤よりも、100倍~1000倍強力なIC50を有する。一般的な細胞傷害性薬物としては、ピロロベンゾジアゼピン(PDB)(これは、DNAの副溝に共有結合的に結合し、鎖間架橋を形成する)、および微小管阻害剤(例えば、マイタンシノイドおよびアウリスタチン(例えば、アウリスタチンEおよびアウリスタチンF))があげられる。いくつかの例において、ADCは、1:2~1:4の比の抗体と薬物を含む(Bander、Clinical Advances in Hematology&Oncology 10(8;suppl 10):3-7,2012)。
【0110】
本明細書において、CD276に結合する(例えば、特異的に結合する)モノクローナル抗体にコンジュゲートされた薬物(例えば、細胞傷害性薬剤)を含むADCが提供される。いくつかの実施形態において、前記薬物は、小分子である。いくつかの例において、前記薬物は、架橋剤、微小管阻害剤および/または有糸分裂阻害剤、または腫瘍細胞の死滅を媒介するのに適した任意の細胞傷害性薬剤である。例示的な細胞傷害性薬剤としては、それらに限定されないが、PDB、アウリスタチン、マイタンシノイド、ドラスタチン、カリチアマイシン、ネモルビシン(nemorubicin)およびその誘導体、PNU-159682、アントラサイクリン、デュオカルマイシン、ビンカアルカロイド、タキサン、トリコテシン、CC1065、カンプトテシン、エリナフィド(elinafide)、コンブレタスタチン、ドラスタチン、デュオカルマイシン、エンジイン、ゲルダナマイシン、インドリノ-ベンゾジアゼピン二量体、ピューロマイシン、チューブリシン、ヘミアステリン、スプライソスタチン(spliceostatin)、またはプラジエノリド(pladienolide)、ならびに細胞傷害活性を有するそれらの立体異性体、アイソスター、アナログ、および誘導体があげられる。
【0111】
いくつかの実施形態において、前記ADCは、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)を含む。天然産物のアントラマイシン(PBDの一種)は、1965年に最初に報告された(Leimgruberら、J Am Chem Soc,87:5793-5795,1965;Leimgruberら、J Am Chem Soc,87:5791-5793,1965)。それ以来、多数のPBD(天然に存在するアナログと合成アナログの両方)が報告されている(Gerratana、Med Res Rev 32(2):254-293,2012;および米国特許第6,884,799号;第7,049,311号;第7,067,511号;第7,265,105号;第7,511,032号;第7,528,126号;第および7,557,099)。1つの例として、PDBダイマーは、特定のDNA配列を認識および結合し、細胞傷害性薬剤として有用である。PBDダイマーは、抗体にコンジュゲートされ、得られたADCは、抗がん特性を有していた(例えば、US2010/0203007を参照のこと)。PBDダイマー上の例示的な連結部位としては、5員ピロール環、PBD単位間のテザー、およびN10-C11イミン基があげられる(WO2009/016516;US2009/304710;US2010/047257;US2009/036431;US2011/0256157;およびWO2011/130598を参照のこと)。
【0112】
いくつかの実施形態において、前記ADCは、1つまたはそれを超えるマイタンシノイド分子にコンジュゲートされた抗体を含む。マイタンシノイドは、マイタンシンの誘導体であり、チューブリン重合を阻害することによって機能する有糸分裂阻害剤である。マイタンシンは、東アフリカの灌木Maytenus serrataから最初に単離された(米国特許第3,896,111号)。その後、ある特定の微生物もマイタンシノイド(例えば、マイタンシノールおよびC-3マイタンシノールエステル)を産生することが発見された(米国特許第4,151,042号)。合成マイタンシノイドは、例えば、米国特許第4,137,230号;第4,248,870号;第4,256,746号;第4,260,608号;第4,265,814号;第4,294,757号;第4,307,016号;第4,308,268号;第4,308,269号;第4,309,428号;第4,313,946号;第4,315,929号;第4,317,821号;第4,322,348号;第4,331,598号;第4,361,650号;第4,364,866号;第4,424,219号;第4,450,254号;第4,362,663号;および第4,371,533号に開示されている。
【0113】
いくつかの実施形態において、前記ADCは、ドラスタチンもしくはアウリスタチン、またはそのアナログもしくは誘導体にコンジュゲートされた抗体を含む(米国特許第5,635,483号;第5,780,588号;第5,767,237;および第6,124,431号を参照のこと)。アウリスタチンは、海洋性軟体動物化合物ドラスタチン10の誘導体である。ドラスタチンおよびアウリスタチンは、微小管動態、GTP加水分解、および核および細胞分裂を妨害し(Woykeら、Antimicrob Agents and Chemother 45(12):3580-3584,2001)、抗がん活性(米国特許第5,663,149号)および抗真菌活性(Pettitら、Antimicrob Agents Chemother 42:2961-2965,1998)を有する。例示的なドラスタチンおよびアウリスタチンとしては、それらに限定されないが、ドラスタチン10、アウリスタチンE、アウリスタチンF、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEFP(AEFP)、MMAD(モノメチルアウリスタチンDまたはモノメチルドラスタチン10)、MMAF(モノメチルアウリスタチンFまたはN-メチルバリン-バリン-ドライソロイイン-ドラプロイン-フェニルアラニン)、MMAE(モノメチルアウリスタチンEまたはN-メチルバリン-バリン-ドライソロイイン-ドラプロイン-ノルエフェドリン)、5-ベンゾイル吉草酸-AEエステル(AEVB)、および他のアウリスタチン(例えば米国公開第2013/0129753号を参照のこと)があげられる。
【0114】
いくつかの実施形態において、前記ADCは、1つまたはそれを超えるカリチアマイシン分子にコンジュゲートされた抗体を含む。カリチアマイシンファミリーの抗生物質、およびそのアナログは、ピコモル濃度未満で二本鎖DNA切断を生じさせることができる(Hinmanら、Cancer Res 53:3336-3342,1993;Lodeら、Cancer Res 58:2925-2928,1998)。カリチアマイシン薬物部分を有するADCを調製するための例示的な方法は、米国特許第5,712,374号号;第5,714,586号;第5,739,116号;および第5,767,285号に記載されている。
【0115】
いくつかの実施形態において、前記ADCは、アントラサイクリンを含む。アントラサイクリンは、細胞傷害活性を示す抗菌性化合物である。アントラサイクリンは、多数の異なるメカニズム(細胞のDNA中にアントラサイクリン分子がインターカレーションすることによってDNA依存的核酸合成を阻害すること;フリーラジカルの産生を誘発し、次いでそれが細胞高分子と反応して細胞に障害を引き起こすこと;および/またはアントラサイクリン分子が細胞膜と相互作用することを含む)によって、細胞を死滅させるように機能し得ると考えられている。非限定的な例示的アントラサイクリンとしては、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ダウノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ネモルビシン、バルルビシン、およびミトキサントロン、ならびにそれらの誘導体があげられる。例えば、PNU-159682は、ネモルビシンの強力な代謝産物(または誘導体)である(Quintieriら、Clin Cancer Res 11(4):1608-1617,2005)。ネモルビシンは、ドキソルビシンのグリコシドアミノ上に2-メトキシモルホリノ基を有する、ドキソルビシンの半合成アナログである(Grandiら、Cancer Treat Rev 17:133,1990;Ripamontiら、Br J Cancer 65:703-707,1992)。
【0116】
抗体と薬物は、切断可能または切断不能リンカーによって連結され得る。しかしながら、いくつかの例において、著しいオフターゲット毒性をもたらし得る細胞傷害性薬物の全身的な放出を防ぐために、循環中で安定なリンカーを有することが望ましい。切断不能リンカーは、ADCが標的細胞によって内部移行される前の細胞傷害性薬剤の放出を防ぐ。リソソームに入ると、リソソームプロテアーゼによって抗体が消化される結果、細胞傷害性薬剤の放出が起こる(Bander、Clinical Advances in Hematology&Oncology 10(8;suppl 10):3-7,2012)。
【0117】
いくつかの実施形態において、リンカーは、抗体上に存在する遊離のシステインと反応し、共有結合を形成することができる官能基を有する。このような反応性の官能基を有する例示的なリンカーとしては、マレイミド、ハロアセトアミド、α-ハロアセチル、活性化エステル、例えば、スクシンイミドエステル、4-ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、テトラフルオロフェニルエステル、無水物、酸クロリド、スルホニルクロリド、イソシアネート、およびイソチオシアネートがあげられる。
【0118】
本明細書のいくつかの例において、リンカーは、切断不能であり、部位特異的コンジュゲーションによって抗体に直接的にコンジュゲートされている。いくつかの例において、ADCのリンカーは、バリン-アラニンジペプチド、PEG分子、およびマレイミド基を含む。
【0119】
V.組成物および使用方法
本明細書に開示されているCD276特異的ADCを含む組成物が提供される。前記組成物は、被験体に投与するための単位剤形に調製され得る。投与の量およびタイミングは、所望の転帰を実現するために、処置する臨床医の自由裁量である。前記ADCは、全身または局所(例えば、腫瘍内)投与のために製剤化され得る。1つの例において、前記ADCは、非経口投与(例えば、静脈内投与など)のために製剤化される。
【0120】
投与のための組成物は、薬学的に許容され得るキャリア(例えば、水性キャリアなど)中に、ADCの溶液を含み得る。種々の水性キャリア、例えば、緩衝化食塩水などを使用することができる。これらの溶液は、無菌であり、一般に望ましくない物質を含まない。これらの組成物は、従来の、よく知られている滅菌技術によって滅菌され得る。前記組成物は、生理学的条件に近づけるための必要に応じて、pH調整剤および緩衝化剤、毒性調節剤などの薬学的に許容され得る補助的な物質、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、乳酸ナトリウムなどを含んでいてもよい。これらの製剤中のADCの濃度は、大幅に変動してもよく、主として、液体の体積、粘度、体重などに応じて、選択された特定の投与モードおよび被験体の要求に従って選択されるであろう。
【0121】
ADCを含む組成物は、正確な投薬量の個々の投与に適切な単位剤形に製剤化され得る。さらに、前記組成物は、単回用量で、または複数回用量スケジュールで投与され得る。複数回用量スケジュールは、主要な処置過程が1つを超える別々の用量(例えば、1~10用量)であり、次いで、後続の時間間隔で、その組成物の作用を維持または増強するための必要に応じて他の用量で投与されるものであり得る。処置は、数日から数か月、またはさらには数年の期間にわたる、1日に1回または1日に複数回の化合物(単数または複数)の用量を含み得る。よって、投与レジメンは、また、少なくとも部分的には、処置を受ける被験体の特定の要求に基づいて決定されるであろうし、投与する医師の判断に依存するであろう。
【0122】
前記ADC、組成物、または追加の薬剤の典型的な投薬量は、約0.01~約30mg/kg、例えば約0.1~約10mg/kgにわたり得る。いくつかの例において、前記投薬量は、少なくとも約0.1mg/kg、少なくとも約0.2mg/kg、少なくとも約0.3mg/kg、少なくとも約0.4mg/kg、少なくとも約0.5mg/kg、少なくとも約1mg/kg、少なくとも約4mg/kg、少なくとも約3mg/kg、少なくとも約5mg/kg、少なくとも約6mg/kg、少なくとも約7mg/kg、少なくとも約8mg/kg、少なくとも約9mg/kg、少なくとも約10mg/kg、少なくとも約11mg/kg、少なくとも約12mg/kg、少なくとも約13mg/kg、少なくとも約14mg/kg、少なくとも約15mg/kg、少なくとも約16mg/kg、少なくとも約17mg/kg、少なくとも約18mg/kg、少なくとも約19mg/kg、少なくとも約20mg/kg、少なくとも約21mg/kg、少なくとも約22mg/kg、少なくとも約23mg/kg、少なくとも約24mg/kg 少なくとも約25mg/kg、少なくとも約26mg/kg、少なくとも約27mg/kg、少なくとも約28mg/kg、少なくとも約29mg/kg、または少なくとも約30mg/kgである。
【0123】
特定の例において、被験体は、ADCもしくはその組成物、または追加の薬剤(単数または複数)を、複数日の毎日投与スケジュール(例えば、少なくとも連続する2日間、連続する10日間など)で、例えば、数週間、数か月、または数年の期間にわたって投与される。1つの例において、被験体は、前記ADC、組成物、または追加の薬剤(単数または複数)を、少なくとも30日(例えば、少なくとも2か月、少なくとも4か月、少なくとも6か月、少なくとも12か月、少なくとも24か月、または少なくとも36か月)の期間にわたって投与される。
【0124】
いくつかの実施形態において、開示されているADCまたは組成物は、静脈内、皮下、または別のモードによって、1日1回または1週間に複数回、ある期間にわたって投与され、次いで、無処置の期間がおかれ、その後このサイクルが繰り返される。いくつかの実施形態において、処置の初期期間(例えば、1日1回または1週間に複数回の治療剤投与)は、3日間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、または12週間である。関連する実施形態において、無処置の期間は、3日間、1週間、2週間、3週間、または4週間続く。ある特定の実施形態において、前記治療剤の投与レジメンは、3日間にわたり1日1回、次いで3日間の中断;または1週間にわたり1日1回または1週間に複数回、次いで3日間または1週間の中断;または2週間にわたり1日1回または1週間に複数回、次いで1または2週間の中断;または3週間にわたり1日1回または1週間に複数回、次いで1、2、または3週間の中断;または4、5、6、7、8、9、10、11、または12週間にわたり1日1回または1週間に複数回、次いで1、2、3、または4週間の中断である。
【0125】
本明細書に開示されているADCは、また、他の経路(吸入、経口、局所、または眼内によるものを含む)によっても投与され得る。いくつかの例において、前記ADCは、細針によって投与される。
【0126】
ADCは、既知の濃度の無菌溶液として提供してもよいが、凍結乾燥形態で提供し、投与前に滅菌水で再湿潤化(rehydrate)してもよい。前記ADC溶液は、次いで、0.9%塩化ナトリウム(USP)を含む点滴バッグに加えられ、いくつかの場合において、0.5~15mg/kg体重の投薬量で投与される。抗体薬物(これは、米国において、1997年のリツキサン(商標)の承認以来販売されている)の投与における多くの経験が、当該技術分野において利用可能である。ADCは、静脈内プッシュまたはボーラスよりも、むしろゆっくりとした点滴によって投与され得る。1つの例において、より高い負荷用量が投与され、次いで、より低いレベルで維持用量が投与される。
【0127】
制御放出非経口製剤は、インプラント、油性注射剤、または粒子系として製造され得る。タンパク質送達系の幅広い概説のために、Banga,A.J.、Therapeutic Peptides and Proteins:Formulation,Processing,and Delivery Systems,Technomic Publishing Company,Inc.,Lancaster,PA,(1995)を参照のこと。粒子系としては、例えば、ミクロスフェア、微小粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェア、およびナノ粒子があげられる。マイクロカプセルは、治療用タンパク質(例えば、細胞毒または薬物など)を、中心コアとして含有する。ミクロスフェアにおいて、前記治療薬は、粒子全体にわたって分散している。約1μmより小さい粒子、ミクロスフェア、およびマイクロカプセルは、一般に、それぞれナノ粒子、ナノスフェア、およびナノカプセルと呼ばれる。毛細管は、ナノ粒子だけが静脈内に投与されるように、およそ5μmの直径を有する。微小粒子は、典型的には、直径がおよそ100μmであり、皮下または筋肉内に投与される。例えば、Kreuter,J.、Colloidal Drug Delivery Systems、J.Kreuter(編)、Marcel Dekker,Inc.,New York,NY,pp.219-342(1994);およびTice&Tabibi、Treatise on Controlled Drug Delivery,A.Kydonieus,ed.,Marcel Dekker,Inc.New York,NY,pp.315-339,(1992)を参照のこと。
【0128】
ポリマーは、本明細書に開示されているADC組成物のイオン制御性放出のために使用され得る。制御された薬物送達に使用するための種々の分解性ポリマーマトリックスおよび非分解性ポリマーマトリックスが、当該技術分野において知られている(Langer、Accounts Chem.Res.26:537-542,1993)。例えば、ブロックコポリマーのポロキサマー407(polaxamer 407)は、低温において粘性であるが移動性の液体として存在するが、体温において半固形ゲルを形成する。これは、組換えインターロイキン2およびウレアーゼの製剤化および持続送達のために有効なビヒクルである(Johnstonら、Pharm.Res.9:425-434,1992;およびPecら、J.Parent.Sci.Tech.44(2):58-65,1990)。あるいは、ヒドロキシアパタイトは、タンパク質の制御放出のためのマイクロキャリアとして使用されてきた(Ijntemaら、Int.J.Pharm.112:215-224,1994)。さらに別の態様において、リポソームは、脂質カプセル化薬物の制御放出ならびに薬物標的化のために使用される(Betageriら、Liposome Drug Delivery Systems,Technomic Publishing Co.,Inc.,Lancaster,PA(1993))。治療用タンパク質の制御送達のための多数のさらなるシステムが知られている(米国特許第5,055,303号;第5,188,837号;第4,235,871号;第4,501,728号;第4,837,028号;第4,957,735号;第5,019,369号;第5,055,303号;第5,514,670号;第5,413,797号;第5,268,164号;第5,004,697号;第4,902,505号;第5,506,206号;第5,271,961号;第5,254,342号;および第5,534,496号を参照のこと)。
【0129】
本明細書に開示されているADCは、腫瘍細胞(例えば、CD276陽性腫瘍(例えば、固形腫瘍))の増殖を遅らせる、もしくは阻害するために、または腫瘍細胞の転移を遅らせる、もしくは阻害するために投与され得る。これらの適用において、治療有効量の組成物は、被験体に対して、がん細胞の増殖、複製、または転移を阻害するために、またはがんの徴候または症状を抑制するために十分な量で投与される。適切な被験体としては、CD276を発現しているがん、例えば、それらに限定されないが、肝細胞癌、メラノーマ、白血病、乳がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、結腸直腸がん、骨肉腫、子宮内膜がん、卵巣がん、口腔扁平上皮癌、非小細胞肺がん、膀胱がん、または膵臓がんと診断された被験体があげられる。
【0130】
本明細書において、治療有効量の本明細書に開示されているADCまたは組成物を被験体に投与することによって、被験体におけるCD276陽性がんを処置する方法が提供される。また、本明細書において、治療有効量の本明細書に開示されているADCまたは組成物を被験体に投与することによって、被験体におけるCD276陽性がんの腫瘍増殖または転移を阻害する方法も提供される。いくつかの実施形態において、前記CD276陽性がんは、肝細胞癌、メラノーマ、白血病、乳がん、神経芽細胞腫、前立腺がん、結腸直腸がん、骨肉腫、子宮内膜がん、卵巣がん、口腔扁平上皮癌、非小細胞肺がん、膀胱がん、または膵臓がんである。
【0131】
治療有効量の本明細書に開示されているCD276特異的ADCまたは組成物は、疾患の重篤度、疾患の種類、および患者の健康の全身状態に依存するであろう。治療有効量の抗体ベースの組成物は、症状(単数または複数)の主観的軽減か、または臨床医もしくは他の資格を有する観察者によって指摘される、客観的に同定できる改善のいずれかをもたらすものである。
【0132】
本明細書に開示されているCD276特異的ADCおよび組成物の投与は、また、他の抗がん剤または治療的処置(例えば、腫瘍の外科的切除)の投与を伴ってもよい。任意の適切な抗がん剤が、本明細書に開示されているADCおよび組成物と組み合わせて投与され得る。例示的な抗がん剤としては、それらに限定されないが、化学療法剤、例えば、有糸分裂阻害剤、アルキル化剤、代謝拮抗剤、インターカレート抗生物質、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生存阻害剤(anti-survival agent)、生物学的応答調節剤、抗ホルモン剤(例えば、抗アンドロゲン薬)、および血管新生阻害剤などがあげられる。他の抗がん処置としては、放射線療法およびがん細胞を特異的に標的化する他の抗体があげられる。
【0133】
アルキル化剤の非限定的な例としては、ナイトロジェンマスタード(例えば、メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、ウラシルマスタード、またはクロラムブシル)、アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、またはダカルバジン)があげられる。
【0134】
代謝拮抗剤の非限定的な例としては、葉酸アナログ(例えば、メトトレキセート)、ピリミジンアナログ(例えば、5-FUまたはシタラビン)、およびプリンアナログ(例えば、メルカプトプリンまたはチオグアニンなど)があげられる。
【0135】
天然産物の非限定的な例としては、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン、またはビンデシン)、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシドまたはテニポシド)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、またはマイトマイシンC)、および酵素(例えば、L-アスパラギナーゼ)があげられる。
【0136】
その他の様々な薬剤の非限定的な例としては、白金配位錯体(例えば、シスプラチンとしても知られるcis-ジアミンジクロロ白金II)、置換された尿素(例えば、ヒドロキシウレア)、メチルヒドラジン誘導体(例えば、プロカルバジン)、および副腎皮質抑制薬(adrenocrotical suppressant)(例えば、ミトタンおよびアミノグルテチミド)があげられる。
【0137】
ホルモンおよびアンタゴニストの非限定的な例としては、副腎皮質ステロイド(例えば、プレドニゾン)、プロゲスチン(例えば、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、および酢酸メゲストロール(magestrol acetate))、エストロゲン(例えば、ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオール)、抗エストロゲン剤(例えば、タモキシフェン)、およびアンドロゲン(例えば、プロピオン酸テストステロン(testerone proprionate)およびフルオキシメステロン)があげられる。最も一般的に使用されている化学療法薬の例としては、アドリアマイシン、アルケラン、Ara-C、BiCNU、ブスルファン、CCNU、カルボプラチン、シスプラチン、シトキサン、ダウノルビシン、DTIC、5-FU、フルダラビン、ハイドレア、イダルビシン、イホスファミド、メトトレキセート、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ナイトロジェンマスタード、タキソール(または、他のタキサン類(例えば、ドセタキセルなど))、ベルバン(Velban)、ビンクリスチン、VP-16があげられ、一方で、いくつかのより新しい薬剤としては、ゲムシタビン(ジェムザール)、ハーセプチン、イリノテカン(カンプトサール、CPT-11)、ロイスタチン、ナベルビン、リツキサンSTI-571、タキソテール、トポテカン(ハイカムチン)、ゼローダ(カペシタビン)、ゼバリン(Zevelin)、およびカルシトリオールがあげられる。
【0138】
使用され得る免疫調節剤の非限定的な例としては、AS-101(Wyeth-Ayerst Labs.)、ブロピリミン(Upjohn)、γインターフェロン(Genentech)、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子;Genetics Institute)、IL-2(CetusまたはHoffman-LaRoche)、ヒト免疫グロブリン(Cutter Biological)、IMREG(ニューオーリンズ、ルイジアナのImregから)、SK&F 106528、およびTNF(腫瘍壊死因子;Genentech)があげられる。
【0139】
いくつかの種類のがんに対する別の一般的な処置は、外科的処置、例えば、そのがんまたはその一部の外科的切除である。処置の別の例は、放射線療法、例えば、腫瘍の根絶を助けるか、または外科的切除の前に腫瘍を縮小させるための、腫瘍部位に対する放射性物質またはエネルギー(例えば、外部照射療法)の適用である。
【0140】
以下の実施例は、ある特定の特徴および/または実施形態を説明するために提供される。これらの実施例は、本開示を、記載されているその特定の特徴または実施形態に限定するものと解釈すべきではない。
【実施例
【0141】
実施例1:CD276特異的抗体m276の重鎖の改変
ヒトCD276特異的抗体m276(「m8524」としても知られる)は、PCT公開番号WO2016/044383(これは、参照によりその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、酵母ディスプレイナイーブヒト抗体ライブラリーから選択された。前記m276可変ドメインは、天然(非合成)ヒト抗体ライブラリーに由来するため、m276 IgG抗体は、ヒトに投与された場合、免疫系によって認識される可能性が低いであろう。全てではないとしても、以前に記述されたCD276抗体のほとんどは、最初は、マウスにおいて、伝統的なハイブリドーマ技術を使用して開発された。結果として、それらのマウス抗体は、ヒト化した後であっても、依然としてマウス可変ドメインを含んでおり、したがって、m276(これは、完全ヒト可変ドメインを有する)と比較して、依然としてより外来的(よって、より免疫原性)であろう。
【0142】
前記m276抗体は、ヒトCD276とマウスCD276の両方に結合する。m276のVHドメインおよびVLドメインのアミノ酸配列は、本明細書において、それぞれ、配列番号2および配列番号6と示す。
【0143】
この実施例は、m276 IgG1の改変バージョンの生成を説明する。具体的には、m276の重鎖定常領域に4つのアミノ酸置換(L234A、L235A、P329G、およびS239C(ヒトIgG1に対してEuナンバリング慣例に従ってナンバリングした;Edelmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 63:78-85,1969))を導入した。改変されたm276重鎖の配列を以下に示す(また、配列番号5と示す):
【化13】
【0144】
前記重鎖配列は、19アミノ酸のシグナル配列(上記の斜字体;配列番号1)、m276 VHドメイン(上記の下線部;配列番号2)、およびm276重鎖定常ドメイン(配列番号3)を含み、前記4つのアミノ酸置換は、太字の下線で示されている。
【0145】
前記Fcドメインと、細網内皮系の細胞上に存在する内在性のFc受容体との相互作用を防ぐために、L234A、L235A、およびP329G(「LALAPG」)変異を導入した(Loら、J Biol Chem 292(9):3900-3908,2017)。これら3つの変異によって、前記Fc領域は、Fcγ受容体I(RI)、FcγRII、およびFcγRIIIに対して非反応性になる。多くのグループが非武装抗体(すなわち、薬物コンジュゲートを有さない抗体)のADCCまたはCDC活性を向上させるためにFc/Fc受容体相互作用の増強を試みてきたが、毒性のADCの場合において、このような相互作用は、内部移行した抗体が貪食標的細胞を死滅させる場合、不利なものになり得る。したがって、ADC-Fc/Fc受容体相互作用を阻止することによって、Fc受容体を有する正常細胞の不適切な死滅を防ぎ、オフターゲット毒性を最小化させ得る。
【0146】
位置239に導入されたシステインは、薬物(本実施例においてはPBDダイマー)の結合のために使用される。得られたADCは、「m276-PBD-SL」(SLは、
【化14】
変異を意味する)と呼ばれる。操作されたシステイン残基は、薬物の部位特異的コンジュゲーションを可能にする。表面システイン残基の導入による抗体の部位特異的標識は、Lyonsら(Protein Eng 3(8):703-708,1990)に記載されている。S239C部位におけるPBDペイロードの結合は、多くの理由で重要である(Jeffreyら、Bioconjug Chem 24(7):1256-63,2013)。第1に、この部位における結合は、ADCの生物物理学的特性を改善する。PBD薬物は、非常に疎水性であり、そのため、抗体を凝集させることなく、PBDを抗体にコンジュゲートすることは困難である。凝集した抗体は、予測できない生物物理学的特性を有し、かつ、例えば、溶液から沈殿し得、または非標的細胞に非特異的に結合し得るため、抗体の凝集は、ADC分野において重要な課題である。この部位(S239C)におけるコンジュゲーションは、ADCの溶解度を向上させ、凝集傾向を劇的に低下させる。第2に、S239C部位は、コンジュゲートした薬物が、血清中のスカベンジャーとなるスルフヒドリル(例えば、アルブミンにおける34番目のシステインなど)の存在下で、いわゆるレトロマイケル反応によって、抗体から脱落することを防ぐ(Sussmanら、Protein Eng Des Sel 31(2):47-54,2018)。最後に、コンジュゲーションのS239C部位は、また、循環酵素によるバリン-アラニンジペプチドの早すぎる切断(これもまた、血清中で薬物の早すぎる脱落をもたらし得る)も防止し、それによって、ADCの安定性を向上させる。WO2016/044383に記載されているm276-PBD ADCは、PBDが、グリコール基(図4参照)によって抗体にコンジュゲートされ、そのジペプチドリンカーが血清プロテアーゼに対して直接的に曝露されているため、本開示のm276-PBD-SL ADCよりも安定性が低かった。
【0147】
実施例2:m276-PBD-SLによる処置は、動物腫瘍モデルにおいて強力な抗腫瘍活性をもたらす
この実施例は、m276-PBD-SLが、ヒト神経芽細胞腫および乳がんのマウスモデルにおいて、大きい腫瘍を根絶可能であることを示す。
【0148】
m276-PBD-SL ADCを、マウスの皮下で増殖させたヒトNB-EB神経芽細胞腫異種移植モデルで試験した。この研究において、m276-PBD-SLによる処置は、腫瘍の平均サイズがおよそ1200mmに達したときに開始した。動物は、腫瘍細胞の接種後24日目から始めて、1週間に1回、0.5mg/kgのm276-PBD-SL(N=4)の投与を受けた。未処置動物を対照(N=6)として使用した。この結果によって、m276-PBD-SLが、神経芽細胞腫異種移植腫瘍に対する強力な抗腫瘍活性を誘発することが示された(図1)。
【0149】
m276-PBD-SL ADCを、IMR-5と呼ばれるヒト神経芽細胞腫の第2のモデルで評価した。ビヒクル(N=8)またはm276-PBD-SL(N=7)による処置は、腫瘍の平均サイズがおよそ1000mmに達したときに開始した。動物は、腫瘍細胞の接種後40日目から始めて、1週間に1回、ビヒクルまたは0.5mg/kgのm276-PBD-SLの投与を受けた。この研究の結果によって、m276-PBD-SLが、マウスの皮下で増殖させたヒト神経芽細胞腫異種移植腫瘍に対する強力な抗腫瘍活性を誘発することが示された(図2)。
【0150】
別の研究において、m276-PBD-SL ADCを、マウスにおいて同所性に増殖させたヒトMDA-MB-231乳房異種移植腫瘍モデルで試験した。ビヒクル(N=10)またはm276-PBD-SL(N=11)による処置は、腫瘍の平均サイズがおよそ1000mmに達したときに開始した。動物は、腫瘍細胞の接種後31日目から始めて、1週間に1回、ビヒクル、0.1mg/kgのm276-PBD-SL、または0.5mg/kgのm276-PBD-SLの投与を受けた。図3に示すように、m276-PBD-SLは、このヒト乳がんモデルにおいて、強力な抗腫瘍活性を誘発した。
【0151】
以前に記述されているm276-PBD複合糖質(WO2016/044383)と、本明細書に開示されているm276-PBD-SL ADCの有効性を比較するために、追加の研究を行った。第1の研究において、m276-PBDを、同所性Py230乳がんモデルで試験した。Py230腫瘍を担持するマウスに、4週間にわたり、1週間に2回、ビヒクルまたは1mg/kgのm276-PBDを投与した。処置は、腫瘍の平均体積が140mmに達したときに開始した。図5に示すように、m276-PBD複合糖質で処置した全てのマウスにおける乳房腫瘍は、処置後、まず退縮し、その後再発した。比較として、m276-PBD-SL ADCを、大きい同所性MDA-MB-231乳がんモデルで評価した。処置は、腫瘍の平均体積が1000mmに達したときに開始した。MDA-MB-231腫瘍を担持するマウスは、5週間にわたり、1週間に1回、ビヒクル、0.1mg/kgのm276-PBD-SL、または0.5mg/kgのm276-PBD-SLの投与を受けた。図6に示すように、より低い(0.1mg/kg)用量で処置されたマウスの一部で再発が起こったが、より高い(0.5mg/kg)用量のm276-PBD-SLで処置された全てのマウスにおいて、完全奏効が観察された。このように、より高い用量のm276-PBD複合糖質がより小さい腫瘍を処置することができたことと比較して、より低い用量のm276-PBD-SLはより大きい腫瘍を成功裏に処置することができた。
【0152】
m276-PBD-SL ADCを、同所性SUM519乳がんモデルでさらに試験した。SUM159腫瘍を担持するマウスは、4週間にわたり、1週間に1回、ビヒクルまたは0.5mg/kgのm276-PBD-SL(右)の投与を受けた。処置は、腫瘍の平均体積が1000mmに達したときに開始した。この結果によって、m276-PBD-SLによる処置が、SUM159腫瘍の完全な退縮をもたらすことが示された(図7)。
【0153】
これらの結果は、m276-PBD-SL ADCが、非常に強力であり、マウスにおいて毒性の徴候を示さない薬物用量で腫瘍を根絶させることを示す。この薬物は、サイズが1000mmまたはそれを超える大きい腫瘍を根絶させることができるように強力である。このレベルの効力は、いかなる前臨床薬物についても極めて珍しく、m276-PBD複合糖質によっては観察されなかった。
【0154】
実施例3:UACC-62ヒトメラノーマのマウスモデルにおけるm276-PBD-SLの評価
この実施例は、UACC-62ヒトメラノーマのマウスモデルにおける、m276-PBD-SLとm276 PBD複合糖質ADCの有効性を比較するための研究を説明する。
【0155】
UACC-62メラノーマ腫瘍を担持するマウスは、4週間、5週間、または6週間にわたり、1週間に1回、ビヒクル、0.1mg/kgのm276-PBD、0.5mg/kgのm276-PBD、0.1mg/kgのm276-PBD-SL、または0.5mg/kgのm276-PBD-SLの投与を受ける。m276-PBD-SLによる処置は、腫瘍の完全な、または著しい根絶をもたらすであろうことが予期される。m276-PBD-SLは、m276-PDB複合糖質と比較して、有意に有効であろうことも予期される。
【0156】
実施例4:HCT-116ヒト結腸癌のマウスモデルにおけるm276-PBD-SLの評価
この実施例は、HCT-116ヒト結腸癌のマウスモデルにおけるm276-PBD-SLとm276 PBD複合糖質ADCの有効性を比較するための研究を説明する。
【0157】
HCT-116結腸癌腫瘍を担持するマウスは、4週間、5週間、または6週間にわたり、1週間に1回、ビヒクル、0.1mg/kgのm276-PBD、0.5mg/kgのm276-PBD、0.1mg/kgのm276-PBD-SL、または0.5mg/kgのm276-PBD-SLの投与を受ける。m276-PBD-SLによる処置は、腫瘍の完全な、または著しい根絶をもたらすであろうことが予期される。m276-PBD-SLは、m276-PDB複合糖質と比較して、有意に有効であろうことも予期される。
【0158】
実施例5:小児がんの前臨床モデルにおけるm276-PBD-SLの評価
この実施例は、小児固形腫瘍の前臨床異種移植モデルに対する、m276-PBD-SLの抗腫瘍活性を説明する。
【0159】
方法
抗体コンジュゲートm276-PBD-SLを、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、骨肉腫、および神経芽細胞腫の皮下マウス異種移植モデルで試験した。m276-PBD-SLは、連続3週間にわたり、1週間に1回、0.5mg/kgの用量で、腹腔内注射によって投与された。事象は、処置の初日から、腫瘍体積が4倍増加することと定義された。事象までの時間(time-to-event)の、処置群と対照群の間の比較のために、カプラン・マイヤー法を使用した。客観的応答のカテゴリーは、以下に示す通りである(Houghtonら、Pediatr Blood Cancer 49(7):928-940,2007も参照のこと):
PD=進行性疾患、試験全体を通して<50%の腫瘍退縮、および試験終了時における>25%の腫瘍増殖
PD1=PD、かつマウスの事象までの時間≦200% 対照群におけるKMメジアンの事象までの時間の場合
PD2=PDであるが、さらに、事象までの時間>200% 対照群におけるカプラン・マイヤー(KM)メジアンの事象までの時間の場合
SD=安定病態、試験全体を通じて<50%の腫瘍退縮、かつ試験終了時における≦25%の腫瘍増殖
PR=部分奏効、試験中の任意の時点において≧50%の腫瘍退縮、しかしながら試験期間全体を通して測定可能な腫瘍
CR=完全奏効、試験期間の間、測定可能な腫瘍の消滅
MCR=維持された完全奏効、処置が完了した後の任意の時点で、少なくとも3回の連続する週ごとの読み取りについて測定可能な腫瘍塊なし
【0160】
神経芽細胞腫試験は、腫瘍退縮を評価するために、モデルあたり2個体の動物を使用したが、その他の組織学は、腫瘍退縮、および事象までの時間を評価するために、標準的な試験手順(n=8~10)を使用した。
【0161】
小児前臨床試験コンソーシアム(pediatric preclinical testing consortium)(PPTC)モデルにおけるCD276発現
CD276mRNA発現は、PPTCモデルにおいて、RNA-Seqを使用して、百万あたりキロ塩基あたりフラグメント(fragments per kilobase million)(FPKM)で測定して評価した。この結果によって、CD276発現は、固形腫瘍において最も高く(メジアン41FPKM)、骨肉腫において最大の発現を観察した(メジアン82FPKM)。神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、および胚性脳腫瘍モデルもまた、発現レベルが高かったが、急性リンパ芽球性白血病(ALL)モデルが示した発現レベルは低かった。RNA-Seqデータは、臨床検体からのタンパク質発現データと整合性がある(Majznerら、Clin Cancer Res 25(8):2560-2574,2019。
【0162】
腫瘍増殖結果のまとめ
m276-PBD-SLは、3週間にわたって毎週投与される0.5mg/kgの用量で、いくつかの小児固形腫瘍前臨床モデルに対して、非常に高いレベルの抗腫瘍活性を示した。客観的応答(PR/CR/MCR)は、25モデル中23モデル(92%)で観察され、これには、4/5骨肉腫モデル、4/4横紋筋肉腫モデル、3/3ユーイング肉腫モデル、2/2ウィルムス腫瘍モデル、および6/11神経芽細胞腫モデルにおける完全奏効(CR)/維持された完全奏効(MCR)が含まれる。応答の持続期間は、処置の最終日(15日目)の後も続き、CRを達成したほとんどのモデルは、56日目まで再増殖を示さなかった。
【0163】
RNA-Seqによって測定したCD276mRNA発現と、m276-PBD-SLに対する応答の間に、明確な関係はなく、CRおよびMCRは、20~166FPKMにわたるCD276発現があるモデルにおいて観察され、安定病態(SD)/部分奏効(PR)は、14~131FPKMの発現レベルで観察された。
【0164】
さらに、m276-PBD-SLは、毒性死亡率が2%未満、かつ平均体重減少が9.5%であることから明らかであるように、耐容性が高かった。
【0165】
本開示の主題の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮して、説明された実施形態は、本開示の好ましい例にすぎず、本開示の範囲を限定するものと解釈すべきではないことを認識すべきである。むしろ、本開示の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。したがって、本出願人らは、その特許請求の範囲の範囲および趣旨の範囲内である全てを主張する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2023506158000001.app
【国際調査報告】