(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】防汚半透膜
(51)【国際特許分類】
B01D 71/06 20060101AFI20230208BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20230208BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20230208BHJP
B01D 71/38 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B01D71/06
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022535970
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2020085949
(87)【国際公開番号】W WO2021116488
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】10201912023T
(32)【優先日】2019-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521253549
【氏名又は名称】アクアポリン エーエス
【氏名又は名称原語表記】AQUAPORIN A/S
【住所又は居所原語表記】Nymollevej 78 2800 Kongens Lyngby Denmark
(71)【出願人】
【識別番号】522232400
【氏名又は名称】アクアポリン アジア ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118256
【氏名又は名称】小野寺 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】アズマン ヌル アマリナ ビンテ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ ヤン
(72)【発明者】
【氏名】シュー イェ ウィー
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ドンユ
(72)【発明者】
【氏名】ホルムバーグ ブレット
(72)【発明者】
【氏名】スン グオフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホ ウェン ホン
(72)【発明者】
【氏名】ニューイェン シュアン トゥン
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006MA03
4D006MA09
4D006MA10
4D006MB06
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4D006MB20
4D006MC07X
4D006MC33X
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4D006MC63
4D006MC65X
4D006NA44
4D006NA45
4D006NA50
4D006PA01
4D006PC11
4D006PC17
(57)【要約】
本発明は、多孔質支持層と、支持層の表面に形成された薄膜複合(TFC)層と、TFC層の上に形成された架橋ポリビニルアルコール(PVA)層とを含み、架橋PVA層が、PVAと架橋剤との反応生成物であり、前記架橋剤が、3種以上の酸基又はそれらの前駆体を含む多塩基酸である、防汚半透膜に関する。得られた膜は、膜を汚す傾向がある供給溶液に注目すべき有効な膜に適する高い水流束及び低い粗さを示す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持層と、前記多孔質支持層の表面に形成された薄膜複合(TFC)層と、前記TFC層の上に形成された架橋ポリビニルアルコール(PVA)層とを含み、前記架橋PVA層が、PVAと架橋剤との反応生成物であり、前記架橋剤が、3種以上の酸基又はそれらの前駆体を含む多塩基酸である、防汚半透膜。
【請求項2】
前記TFC層は、アクアポリン水チャネルを含む、請求項1に記載の防汚膜。
【請求項3】
前記アクアポリン水チャネルは、小胞内に存在する、請求項1又は2に記載の防汚膜。
【請求項4】
前記小胞は、1種以上のポリマーによって製造されたポリマーソームである、請求項1~3のいずれか一項に記載の防汚膜。
【請求項5】
前記PVAは、ポリ酢酸ビニルの加水分解に由来し、ポリ酢酸ビニルの加水分解度は、90%~99.9%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の防汚膜。
【請求項6】
前記多塩基酸は、クエン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、2,3,5-ヘキサントリカルボン酸及び1,2,3-ブタントリカルボン酸からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の防汚膜。
【請求項7】
前記多塩基酸は、クエン酸である、請求項6に記載の防汚膜。
【請求項8】
防汚半透膜を製造する方法であって、
表面に薄膜複合(TFC)層が形成された多孔質支持層を含む半透膜を提供するステップと、
ポリビニルアルコールと架橋剤とのPVA水性混合物の層を、前記膜のTFC層表面に適用するステップと、
前記混合物を反応させるステップとを含み、
前記架橋剤は、3種以上の酸基又はそれらの前駆体を有する多塩基酸である、方法。
【請求項9】
前記PVA水性混合物を適用する前に、表面に薄膜複合層が形成された支持層を含む半透膜をグリセロール水溶液で処理する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記PVA水性混合物を適用する前に、グリセロール溶液を前記TFC膜の支持層の表面に適用する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記グリセロール溶液中のグリセロールの濃度は、13重量%~80重量%である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記多塩基酸は、クエン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、2,3,5-ヘキサントリカルボン酸及び1,2,3-ブタントリカルボン酸からなる群から選択される、請求項8~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記多塩基酸は、クエン酸である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記多塩基酸の重量濃度は、前記PVA水性混合物中のPVAの重量濃度以上である、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
クエン酸の重量濃度は、水性混合物中のPVAの濃度の少なくとも2倍である、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、防汚半透膜に関し、より具体的には、多孔質支持層と、支持層の表面に形成された薄膜複合(TFC)層と、TFC層の上に形成された架橋ポリビニルアルコール(PVA)層とを含む防汚半透膜に関する。更に、本発明は、防汚半透膜を含むモジュール、及び乳清、コーヒー抽出物、果汁、ココナッツミルクなどの液体食品由来の流れを処理するためのこれらのモジュールの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
逆浸透(RO)は、一般的に、溶解した塩を含む水を処理するために使用される。逆浸透技術の1つの適用例は、海水又は汽水を使用して脱塩飲料水を製造することである。近年、正浸透(FO)の人気が高まっている。正浸透工場では、典型的に、供給物を脱水して供給流を濃縮するが、膜を横切って移動する水によってドロー溶液を希釈する。
【0003】
RO膜及びFO膜がしばらく使用されると、膜の表面上の堆積物が目立つようになる。この現象は常にファウリングと呼ばれ、一般的に膜の性能を低下させる。
【0004】
ポリビニルアルコール(PVA)は、逆浸透膜へのファウリングによる堆積を防止するか又は遅延させるためのコーティング層としてUS2005077243(A1)に使用された。PVAコーティングは、水膨潤性であるが水不溶性であるポリマーから製造される。該ポリマーが水不溶性であるため、コーティングが堆積された後、架橋する必要がない。PVA層への適用により、表面を滑らかにし、粒子状物質が堆積する傾向を低減する。
【0005】
US6413425BAには、支持膜及びポリアミド薄膜複合(TFC)層を含むRO膜が開示されている。分離層の表面にPVA(平均重合度n=2600)層をコーティングして比表面積を減少させることにより、ファウリング傾向を低減する。PVAは、25℃で水不溶性であるが、80℃で水溶性であり、99%~100%の範囲の鹸化度を有する。逆浸透複合膜は、高いファウリング耐性を有し、比較的に低い圧力で実用的な脱塩を可能にする。
【0006】
US2010224555(A1)には、内部にナノ粒子が配置されたポリマーマトリックスを有するPVAフィルムを含むナノ複合膜が開示されている。該膜を、架橋剤(例えば、ジアルデヒド及び二塩基酸)及び触媒(例えば、2.4重量%の酢酸)を含む溶液と(例えば、PVA側から)約1秒間接触させることができる。次に、該膜をオーブン内で所定の温度で所定の期間加熱することができる。PVA溶液中の様々な架橋剤(グルタルアルデヒド、PVA-グルタルアルデヒド混合物、パラホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド、グリオキザール)及び添加剤(ホルムアルデヒド、エチルアルコール、テトラヒドロフラン、塩化マンガン及びシクロヘキサン)を使用して、既存の膜上にキャストされたPVAフィルムを製造し、製造されたPVAフィルムの熱処理と組み合わせてフィルムの特性を変更することができる。US2010320143(A1)及びUS2011027599(A1)には、PVA層にナノ粒子を封入する同様の技術が開示されている。
【0007】
US2010178489(A1)には、ポリアミド樹脂を含むスキン層と、スキン層を支持する多孔質支持体とを含む複合半透膜が開示されている。銀系抗菌剤及びPVAを含む抗菌層でスキン層をコーティングしてもよい。PVA層をスキン層のポリアミド系樹脂に付着させるために、ポリビニルアルコールを架橋してもよい。ポリビニルアルコールの架橋は、スキン層上に抗菌層を形成し、次に塩酸で酸性化されたグルタルアルデヒドを含む溶液に抗菌層を浸漬することを含む。
【0008】
従来技術で提案されたPVA層は、PVA層によって提供される平滑性の増加に起因する膜のファウリング傾向を低減し得る。しかしながら、膜上の追加の層は、水流束を減少させる傾向もある。本発明は、高い表面平滑性を維持して供給物における粒子状物質の堆積を防止又は低減するとともに、より高い水流束を得ることを目的としている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、多孔質支持層(porous support layer)と、前記支持層の表面に形成された薄膜複合(TFC)層(thin film composite (TFC) layer)と、前記TFC層の上に形成された架橋(cross-linked)ポリビニルアルコール(PVA)層とを備える防汚半透膜(anti-fouling, semi-permeable membrane)に関し、前記架橋PVA層が、PVAと架橋剤との反応生成物であり、前記架橋剤が、3種以上の酸基を含む多塩基酸またはその前駆体である。
【0010】
従来技術では、架橋剤は、膜の長い耐用年数を保証するために、膜のTFC層へのPVA層の付着に焦点を合わせてきた。本発明には、3種以上の酸基又はそれらの前駆体を含む多塩基酸を架橋剤として使用して、PVA層の構造を開放するとともに、表面平滑性を維持するか又は更に向上させることが提案されている。PVA層の開放構造は、水の浸透を増加させるため、水流束についての速度制限が少なくなる。平滑性を高めることで、膜のファウリングを軽減することができる。
【0011】
本発明の防汚半透膜で使用される多孔質支持層は、水の浸透を実質的に阻害しない多孔質基板、例えば、ナノ多孔質層又はマイクロ多孔質層である。場合によっては、多孔質支持層は、例えばポリエステル繊維から形成される織布シート又は不織布シート上にキャストされることにより更に強化されてもよい。多孔質支持層は、一般的に、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリフェニレンスルホン、ポリエーテルイミド、ポリビニルピロリドン及びポリアクリロニトリル(それらのブレンド及び混合物を含む)から製造される。本発明の1つの実施形態では、多孔質支持膜は、溶媒に溶解したポリマーを含むドープから製造される。ドープが所望の厚さの層にキャストされた後、水のような非溶媒中での急冷により転相が実行される。
【0012】
多孔質支持層は、その表面上に、例えば界面重合によって薄膜複合(TFC)層を形成することにより改質される。TFC層は、アミン反応物、好ましくはジアミン又はトリアミンなどの芳香族アミン、例えば水溶液中の1,3-ジアミノベンゼン(m-フェニレンジアミン-MPD)と、二酸塩化物又は三酸塩化物などのハロゲン化アシル反応物、好ましくは芳香族ハロゲン化アシル、例えば有機溶媒に溶解したベンゼン-1,3,5-トリカルボニルクロリド(TMC)とを使用して製造されてもよく、上記反応物は界面重合反応で結合されたものである。
【0013】
本発明の1つの特定の実施形態では、TFC層は、アクアポリン水チャネルなどのナノ多孔質水チャネルを含む。ナノ多孔質水チャネルは、理想的に、水のみを浸透させることができる構造を有する。しかしながら、実際には、少量の還流溶質も供給溶液からTFC層に浸透してドロー溶液又は浸透液に入る。ナノ多孔質水チャネルは、供給溶液からの全て又は大部分の他の溶質の再吸収を低減又は除去する。好ましくは、TFC層は、アクアポリン水チャネルを含み、その高い選択性により、水分子のみを通過させる。アクアポリン水チャネルをTFC層に組み込む前に安定させてもよい。
【0014】
小胞は、アクアポリン水チャネルにとって自然な環境であり、天然由来リン脂質を含む多くの異なる小胞形成材料によって形成されてもよい。適切には、安定したアクアポリンは、WO2018/141985又はWO18087289に開示されているように、アクアポリンタンパク質調製物の存在下で両親媒性マトリックス形成化合物の自己組織化によって形成される小胞の形態であってもよい。或いは、WO2017137361A1に開示されているように、PEI(ポリエチレンイミン)によって、アクアポリン水チャネルを安定化させてもよい。これらの安定化したアクアポリン水チャネルを使用して製造された膜は、堅牢であり、高い水輸送能力と低いイオン逆流束を有することが証明されている。本発明の1つの特定の実施形態では、アクアポリン水チャネルは、小胞内に存在する。
【0015】
適切には、小胞は、1種以上のポリマーによって製造されたポリマーソームである。ポリマーソームは、比較的に高い圧力に耐えることができるため、逆浸透プロセスに適し得る。ポリマーソームのポリマーをPMOXA-PDMSジブロックコポリマー(ポリ(2-メチルオキサゾリン)-ブロック-ポリ(ジメチルシロキサン)ジブロックコポリマー)として適切に選択して、アクアポリン水チャネルなどの膜貫通タンパク質と自己組織化小胞を形成してもよい。次に、小胞は、膜貫通タンパク質が組み込まれるか又は固定化されかつ水分子が膜を通過することを可能にするために活性化されたTFC層の製造に使用することができる。例えば、アクアポリン水チャネルを含む膜を製造するために、ジアミン又はトリアミンなどの芳香族アミン、例えば多孔質支持膜の表面に適用された1,3-ジアミノベンゼン(MPD)を含む水性液体組成物に小胞を添加してもよく、このような芳香族アミンは、有機溶媒中の酸ハロゲン化物の溶液と接触する場合に、界面重合反応に関与して、上記支持体に薄膜複合層を形成するため、上記小胞が固定化されるか又は組み込まれる分離膜を形成する。
【0016】
1つの特定の態様では、小胞のPMOXAa-b-PDMSc-dは、PMOXA10-40-PDMS25-70及びそれらの混合物からなる群から選択される。小胞の堅牢性を向上させるために、一般式PMOXA10-28-PDMS25-70の第1の両親媒性ジブロックコポリマー(amphiphilic diblock copolymer)及び一般式PMOXA28-40-PDMS25-70の第2の両親媒性ジブロックコポリマーを少なくとも含む混合物を使用することが好ましい。第1の両親媒性ジブロックコポリマーと第2の両親媒性ジブロックコポリマーとの重量比は、通常、0.1:1~1:0.1の範囲である。液体組成物中の両親媒性ジブロックコポリマーの濃度は、一般的に、0.1~50mg/mlの範囲であり、例えば0.5~20mg/ml、好ましくは1~10mg/mlである。
【0017】
小胞の反応性末端基で官能基化されたPDMSe-f(反応性末端基で官能基化されたポリ(ジメチルシロキサン))は、通常、小胞を含む液体組成物中に約0.05%v/v~約1%v/vの濃度で存在する。反応性末端基で官能基化されたPDMSe-fは、1つ、2つ又はそれ以上のアミン基、カルボン酸基及び/又はヒドロキシ基で官能基化されてもよい。適切には、整数eは、20~40の範囲で選択され、例えば30であり、整数fは、40~80の範囲から選択され、例えば50である。本発明の1つの特定の態様では、反応性末端基で官能基化されたPDMSe-fは、ビス(アミノアルキル)、ビス(ヒドロキシアルキル)又はビス(カルボン酸アルキル)で終端されたPDMSe-fであり、例えばポリ(ジメチルシロキサン)、ビス(3-アミノプロピル)又はポリ(ジメチルシロキサン)、ビス(3-ヒドロキシプロピル)である。更に、反応性末端基で官能基化されたPDMSe-fは、H2N-PDMS30-50、HOOC-PDMS30-50及びHO-PDMS30-50並びにそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。上記末端官能化されたPDMSe-f(e-fは30~50の範囲を表す)の例としては、以下に示す式を有するビス(アミノプロピル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)(CAS番号:106214-84-0、アルドリッチ製品番号:481246、平均Mn:約5600又はCAS番号:106214-84-0、製品番号481696アルドリッチ、平均Mn:約27000)と、
【0018】
【0019】
以下に示す式(nは約30~50であり、m及びpは両方とも2~5の整数、例えば3又は4である)を有するビス(ヒドロキシアルキル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)(CAS番号:156327-07-0、アルドリッチ製品番号:481246、平均Mn:約5600)とが挙げられる。
【0020】
【0021】
小胞の完全性を向上させるために、小胞は、約1%v/v~約12%v/vのPMOXAa-b-PDMSc-d-PMOXAa-bタイプのトリブロックコポリマーを更に含んでもよい。典型的には、上記小胞は、約8%v/v~約12%v/vのPMOXAa-b-PDMSc-d-PMOXAa-bタイプのトリブロックコポリマーを含む。PMOXAa-b-PDMSc-d-PMOXAa-bタイプのトリブロックコポリマーは、典型的に、PMOXA10-20-PDMS25-70-PMOXA10-20から選択される。
【0022】
本発明の液体製剤中の小胞は、水流束を増加させるか又は塩逆流束を減少させるか又はその両方を行うために、流束改善剤を更に含んでもよい。流束改善剤は、化合物の大きなグループから選択されてもよいが、一般的には、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアルキラート、ベータシクロデキストリン又はポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレートとして選択されることが好ましい。流束増加剤は、通常、液体組成物の0.1重量%~1重量%の量で存在する。
【0023】
特定の理論に拘束されることを望まないが、表面に利用可能な反応性基(free available reactive groups)が遊離している小胞は、TFC層に物理的に組み込まれるか又は固定化される(吸着される)だけでなく、化学的に結合されると考えられており、その原因としては、アミノ基、水酸基及びカルボキシル基などの反応性遊離末端基(reactive free end groups)がトリメソイルクロリド(TMC)などのアシルクロリドとの界面重合反応に関与するからである。このようにして、小胞がTFC層に共有結合する結果として、比較的多くの小胞が投入されることになり、膜を通過する水流束が高くなると考えられている。更に、TFC層における小胞の共有結合により、選択的な膜層に組み込まれた場合に、アクアポリン水チャネル及びアクアポリン水チャネルを含む小胞のより高い安定性及び/又は長い寿命をもたらすと考えられている。
【0024】
ポリビニルアルコール(PVA)は、一般的に、ポリ(酢酸ビニル)から製造される。ポリ(酢酸ビニル)の重合度は、典型的に、100~5000である。ポリ(酢酸ビニル)のエステル基は、ポリ(酢酸ビニル)をポリビニルアルコールと酢酸に変換する塩基加水分解に対して感受性がある。本明細書において、該プロセスは、加水分解と呼ばれるが、従来技術では鹸化とも呼ばれてもよい。
【0025】
本発明の1つの特定の実施形態では、PVAは、ポリ酢酸ビニルの加水分解に由来し、ポリ酢酸ビニルの加水分解度は、90%~99.9%である。好ましくは、加水分解度は、95%~99.5%の間であり、例えば98.0~99.0%である。したがって、PVAポリマーは、実際には、ビニルアルコールと少量の酢酸ビニルコモノマーとのコポリマーである。
【0026】
重合度が増加するにつれて粘度が増加するため、重合度は、一般的に、粘度で測定される。1つの特定の態様では、20℃で4%水溶液として測定されたPVAの粘度は、20~80mPa・sの間である。1つの好ましい実施形態では、高い水流束を得るために、重合度は、適切に50~70Pa・sの間である。ポリビニルアルコールは、様々なベンダーから入手できるが、現在ではKuraray Povalから入手される。適切なグレードには、完全加水分解グレード、すなわち、約30mPa・s又は約60mPa・sの粘度を有する98~99モル%の加水分解が含まれる。
【0027】
PVAポリマーは、アルデヒド及び酸などの化学薬品と紫外線照射とで架橋されてもよい。本発明によれば、多塩基酸、すなわち、3種以上の酸基又はそのような酸基の前駆体を有する化合物が使用される。酸基の前駆体基には、例えば、アルデヒド(-CHO)、酸ハロゲン化物(-COOX、ここで、XはCl、Br又はIである)及びカルボン酸のアルカリ金属塩(-COOM、ここで、MはLi、Na又はKである)が含まれる。一般的に、場合によってはトリメシン酸のような芳香族架橋剤も使用されてもよいが、脂肪族架橋剤は好ましい。適切には、多塩基酸は、クエン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、2,3,5-ヘキサントリカルボン酸及び1,2,3-ブタントリカルボン酸(1,2,3-butanetricarbaoxylic acid)からなる群から選択される。1つの好ましい態様では、多塩基酸は、クエン酸である。クエン酸は、生物学的耐性が高いため、限定なしで食品の製造に使用できる。したがって、クエン酸を架橋剤として使用して製造された膜は、一般的に、食品の処理も含むより広い適用領域を有すると見なされている。
【0028】
多塩基酸の量は、一般的に、PVAポリマー上での反応に利用可能なヒドロキシ基の量に調整される。したがって、1つの特定の実施形態では、多塩基酸の量は、PVAポリマー上の少なくとも40%のヒドロキシ基が反応することができるように調整される。本発明の1つの好ましい態様では、多塩基酸の量は、PVAポリマー上のヒドロキシ基の少なくとも60%、例えば少なくとも80%である。1つの好ましい実施形態では、多塩基酸の量は、約100%の利用可能なヒドロキシ基が多塩基酸の酸基と反応することができるように調整される。
【0029】
多孔質支持膜は、中空繊維膜又はフラットシート膜であってもよい。現在、フラットシート膜が、適しており、板枠モジュール(plate-and-frame modules)又はスパイラル巻きモジュールなどの様々なモジュールの製造に使用され得る。
【0030】
本発明はまた、防汚半透膜を製造する方法に関し、該方法は、
表面に薄膜複合(TFC)層が形成された多孔質支持層を含む半透膜を提供するステップと、
ポリビニルアルコールと架橋剤とのPVA水性混合物の層を前記膜のTFC層表面に適用するステップと、
前記混合物を反応させるステップとを含み、
前記架橋剤は、3種以上の酸基又はそれらの前駆体を有する多塩基酸である。
【0031】
水性混合物を前処理なしで半透膜に適用することができるが、前記PVA水性混合物を適用する前に、表面に薄膜複合層が形成された支持層を含む半透膜をグリセロール水溶液で処理することが適切である。PVA水性混合物を適用する前に、グリセロール水溶液を多孔質側、TFC層側又はその両方に適用してもよいが、一般的に、PVA水性混合物を適用する前に、グリセロール溶液のみをTFC膜の支持層の表面に適用する。膜の多孔質側へのみ水性グリセロールを適用することにより、例えばグリセロール濃度の変動に対してより寛容で、水流束の変動がより少ない製造が可能となる。
【0032】
適切には、グリセロール溶液中のグリセロールの濃度は、5%~50%の間、例えば10%~40%であってもよい。一般的に、好ましくは、グリセロール溶液中のグリセロールの濃度は、13重量%~80重量%である。
【0033】
注入及び噴霧を含む多くの方法を使用してPVA水性混合物をTFC膜に適用してもよい。好ましい方法では、より高い水流束を得るために、PVA水性混合物を噴霧によってTFC膜に適用する。
【0034】
一般的には、多塩基酸は、クエン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、2,3,5-ヘキサントリカルボン酸及び1,2,3-ブタントリカルボン酸からなる群から選択される。1つの特定の態様では、多塩基酸は、クエン酸である。多塩基性架橋剤は、PVA層の構造を開放することにより水流束を増加させると考えられている。
【0035】
1つの特定の実施形態では、多塩基酸の重量濃度は、PVA水性混合物中のPVAの重量濃度以上である。好ましくは、クエン酸の重量濃度は、水性混合物中のPVAの濃度の少なくとも2倍である。
【0036】
驚くべきことに、PVA水性混合物への多塩基酸の添加により、膜がPVA層でコーティングされるときに平均粗さが低下するという結果をもたらす。更に、多塩基酸をPVA溶液に添加する場合に、接触角及びゼータ電位が大幅に低下する。一般的に、膜の防汚特性を改善するには、表面の粗さとゼータ電位が低いことが重要であるとされている。クエン酸をPVA溶液に添加する場合に、表面電荷が中性になる傾向があるという事実も、防汚特性の向上に寄与していると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0037】
実施例1.1 支持膜の製造
TACT Chemieから入手した83%のDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解した17%のポリスルホン(ソルベイP3500 MB7 LCD)からドープを製造した。均一な粘度を得るために、ドープを密閉容器内で45℃で90rpmの混合速度で8時間混合した。
【0038】
230μmのキャストギャップを使用して、ドープをナイフオーバーロールキャストモードで三菱から入手した不織布ポリエステルシート(モデルPMB-SKC)にキャストした。1.9秒間の曝露時間を経た後、13℃の水で16秒間急冷することにより転相を行った。続いて、支持膜を60℃の水で120秒間洗浄した。約130μmの厚さを得た。
【0039】
実施例1.2 アクアポリン水チャネルの製造
大腸菌においてジャポニカイネ(日本米)からのヒスチジンタグ付きアクアポリンを発現させ、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を使用して精製した。
【0040】
大腸菌における発現を改善するために、Geneartの(サーモフィッシャーサイエンティフィックの子会社)サービスを使用して、ジャポニカイネ(UNIPROT:A3C132)からのアクアポリンをコードする遺伝子をコドン最適化した。10個のヒスチジンをコードするコドンを、それぞれ、C末端で追加し、N末端及びC末端で隣接するNdel/Xhol制限部位に追加することにより、得られた遺伝子を合成した(遺伝子ID:aquaporin_Oryza_sativa_Japonica)。合成遺伝子断片をNdel/Xhol制限酵素で消化し、Ndel/Xholで消化して精製したベクターpUP1909断片に連結した。得られた連結混合物を大腸菌DH10Bに形質転換し、カナマイシン耐性形質転換体を、カナマイシンを含むLB寒天プレート上で選択した。遺伝子構築物の配列決定によって形質転換体を確認した。続いて、単離されたベクターDNAを産生宿主である大腸菌BL21に移転した。
【0041】
大腸菌でアクアポリンを異種発現させるために、30g/Lのグリセロール、6g/Lの(NH4)2HPO4、3g/LのKH2PO4、5g/LのNaCl、0.25g/LのMgSO4・7H2O、0.4g/Lのクエン酸鉄(III)及び1mL/Lの滅菌ろ過微量金属溶液からなる最少培地で産生宿主を増殖させた。微量金属溶液は、1g/LのEDTA、0.8g/LのCoCl2・6H2O、1.5のMnCl2-4H2O、0.4g/LのCuCl2・2H2O、0.4g/LのH3O3、0.8g/LのNa2MoO4・2H2O、1.3g/LのZn(CH3COO)2・2H2Oからなる。接種して一晩増殖させた後、更に0.25g/LのMgSO4・7H2Oを添加した。
【0042】
バッチ発酵プロセスで大腸菌をez-対照とともに3LのApplikonバイオリアクターで培養した。最終濃度が0.5mMになるまでIPTGを約30の光学密度(OD 600nm)で添加することにより、タンパク質の産生を誘導した。培養を約24時間誘導し、5300gで20分間遠心分離して細菌細胞を回収した。
【0043】
大腸菌細胞を含むペレットをバッファー(プロテアーゼ阻害剤PMSF及びEDTAの水溶液)に再懸濁し、Stansted nm-GEN7575ホモジナイザーで1000バールで均質化した。温度を約10~15℃に維持した。混合物を5300gの最高速度で30分間遠心分離した。ペレットには膜タンパク質が含まれており、上清を廃棄した。
【0044】
ペレットを0.9%の塩化ナトリウム溶液に再懸濁することにより、総タンパク質濃度が約50mg/mlになった。28LのTRIS結合バッファーと4.5リットルの5%のn-ラウリルジメチルアミンN-オキシド(LDAO)を5Lの再懸濁ペレット材料に添加することにより、膜タンパク質の可溶化を行った。室温で穏やかに撹拌し、混合物を2~24時間インキュベートした。
【0045】
可溶化プロセスの後に、混合物を2Lの容器内で5300gで90分間遠心分離した。上清を回収し、希釈バッファーを添加することによりLDAO濃度を0.2%に調整した。
【0046】
可溶化及び清澄化後に、IMACを使用してタンパク質を捕捉し、1000mMのイミダゾール及び0.2%w/vのLDAOを含む溶出バッファーで溶出した。溶出画分をSDS Pageで分析し、日本米からのアクアポリンのサイズに相当する27kDaのバンド一本のみが検出された。更に、空ベクターで形質転換された大腸菌からの陰性対照精製と比較することにより結果を確認した。陰性対照は精製タンパク質をもたらさなかった。ヒスチジンタグに特異的な抗体(TaKaRa Bio)を用いたウエスタンブロット分析では、予想通り、精製タンパク質からの明確なシグナルが得られるが、陰性対照からのシグナルがなく、精製タンパク質がヒスチジンタグ付き膜タンパク質由来であることが確認された。
【0047】
2%のLDAOを含む氷冷したイミダゾールを含まないバッファーを添加してタンパク質の濃度を5mg/mlに調整することにより、ストック溶液を製造した。最後に、アクアポリンストック溶液を0.45mMの滅菌カップでろ過して滅菌し、冷蔵庫で4℃で1ヶ月以内に使用するか又は冷凍庫で-80℃で保存した。
【0048】
実施例1.3 アクアポリン製剤の製造
1)5gのKHSを11のPBS(8gのNaCl、0.2gのKCl、1.44gのNa2HPO4及び0.24gのKH2PO4を800mLのMiliQ精製H2Oに溶解させ、HClでpHを7.2に調整し、容積を1Lに達成させることにより調製される)に溶解させて、0.5重量%のKolliphor(登録商標)HS15(ポリエチレングリコール(15)-ヒドロキシステアレート)(KHS)溶液を調製する。
2)0.05gのLDAOを100mLのPBSに溶解させて、PBS中に0.05重量%のLDAO溶液を調製する。
3)調製容器内で、調製した製剤1Lあたり0.5gのポリ(2-メチルオキサゾリン)-ブロック-ポリ(ジメチルシロキサン)ジブロックコポリマー(PDMS65PMOXA24)を計量する。
4)同じ調製容器内で、ポリ(2-メチルオキサゾリン)-ブロック-ポリ(ジメチルシロキサン)ジブロックコポリマー(PDMS65PMOXA32を計量して、調製した製剤の濃度を0.5g/Lに達成させる(PDMS65PMOXA24とPDMS65PMOXA32との重量比は1:1である)。
5)同じ調製容器内に、ポリ(2-メチルオキサゾリン)-ブロック-ポリ(ジメチルシロキサン)-ブロック-ポリ-(2-メチルオキサゾリン)トリブロックコポリマーPMOXA12PDMS65PMOXA12を添加して、調製した製剤の濃度を0.12g/Lに達成させる。
6)ステップ2で調製した0.05%のLDAOを、調製した製剤の100mL/Lの割合で添加する。
7)分子量2500Daのビス(3-アミノプロピル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)を添加して、最終濃度を0.1%に達成させる。
8)アクアポリンストック溶液を添加して、調製した製剤の濃度を5mg/Lに達成させ、タンパク質とポリマーとの比率を1/400とする。
9)ステップ1で調製した3重量%のKHS溶液を添加し、ステップ6及び8で添加されたLDAO、ビス(3-アミノプロピル)末端ポリ(ジメチルシロキサン)及びアクアポリンの容積を差し引いた、調製した製剤の所望の容積に達成させる。
10)ステップ9の混合物を、室温で毎分170回転で一晩(20時間以内)撹拌して、製剤を得る。
11)翌朝、ステップ1~10の順序で得られた調製した製剤を取り、200nmの細孔径のフィルターでろ過して滅菌し、密閉ボトルに入れ、室温で12月間以内に保管する。
【0049】
実施例1.4 支持膜上でのTFC層の製造
a)DI水に以下のi~iiiの成分を混合して水溶液を調製する。
i)3.0%のMPD
ii)0.75%のε-カプロラクタム(CAP)
iii)3%のアクアポリン製剤
b)アイソパーE中で0.13%のTMCで有機溶液を調製する。
c)TFCを形成する。
i)支持膜を水溶液に50秒間浸した。
ii)膜をエアガンで1バールで乾燥させた。
iii)有機溶液を20~22秒間添加した。
iv)膜をエアガンで約0.1バールで乾燥させた。
d)TFC層を備えた膜を70℃の10%のクエン酸に入れて4分間放置し、次に60℃のDI水に入れて2分間放置した。
e)膜を2000ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液に2分間浸し、次に室温の脱イオン水に1分間浸し、最後に1%の亜硫酸水素ナトリウム(SBS)に浸した。
【0050】
実施例2 PVA層前のグリセロール処理
10%のグリセロール水溶液及び20%のグリセロール水溶液を調製した。最初の実行では、実施例1.4で得られた膜をグリセロール溶液に1分間浸し、エアナイフで処理して過剰のグリセロール溶液を除去し、次に0.35%のPVA水溶液(Kuraray Poval、タイプ60-98)を30秒間注入することにより処理し、1バールのエアナイフで処理して過剰のPVA溶液を除去し、オーブン内で60℃で4分間乾燥させた。結果を以下の表1に示す。
【0051】
【0052】
適用方法を、膜全体をグリセロール溶液に浸すことから実施例1.4で得られた膜の裏面にグリセロール溶液を単に適用することへ変更することにより、別の試験を実行した。結果を以下の表2に示す。
【0053】
【0054】
表1及び2に示す結果は、10%のグリセロールと比較して、20%のグリセロールを使用する場合に流束が改善されることを示している。グリセロールディップの除去率のわずかな低下が観察された。しかしながら、裏面グリセロール(back-side glycerol)の場合は、グリセロール濃度の変化は除去率に影響を与えないようである。グリセロールディップと比較して、流束の偏差も小さくなる。
【0055】
グリセロール溶液の反応時間を3分と長くして、テスト運転を繰り返した。結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
表3の結果は、PVA溶液に関して20%のグリセロール溶液で処理し、反応時間を3分間にすることにより、最高の流束及び同じ除去率が得られることを示している。
【0058】
実施例3 PVA溶液の反応時間及び種類
裏面が20%のグリセロールで3分間処理された膜に、0.35%のPVA 60-98溶液を10秒間又は30秒間注入し、1バールのエアナイフで処理して、オーブン内で60℃で4分間乾燥させた。結果を表4に示す。
【0059】
【0060】
結果は、流束及び除去率が本質的に変化しないままであることを示している。したがって、更なる調査のために、10秒間のPVA反応時間を使用した。
【0061】
上記試験の実行経験を使用して、すなわち、20%のグリセロールで裏面処理を3分間行い、0.35%のPVA溶液を注入法で適用して10秒間反応させ、1バールのエアナイフで処理して過剰のPVA溶液を除去し、オーブン内で60℃で4分間乾燥させるように、Kuraray Poval(登録商標)から入手可能な様々な種類のPVAをスクリーニングした。様々なPVA種類及び品質に関して、結果を以下の表5に示す。
【0062】
【0063】
命名法の第1の数値は、PVAのモル質量の相対的な尺度として、20℃での4%の水溶液の粘度を示す。第2の数値は、PVAが由来するポリ酢酸ビニルの加水分解度を示す。
【0064】
表5に示す結果は、PVA 30-98及びPVA 60-98が、高い流束と除去率を示すだけでなく、低い偏差を示すため、優れた候補であることを示す。これらの候補を、市販のHypershell DOW膜(ベンチマーク)と比較した。結果を以下の表6に示す。
【0065】
【0066】
表6に示されている結果に基づいて、PVA60-98は、PVA 30-98と比較して流束及び除去率が高いため、更なる開発のために選択される。除去率は、ベンチマークと同じレベルで不可欠であるが、流束は約25%高くなる。
【0067】
実施例4 PVAの適用方法
コーティングされた膜のPVA層は、PVA色素試験によって、かなり厚いことが観察された。比較的に厚い層は、対照膜と比較して、流束が比較的に大きく低下することによるものである可能性がある。したがって、PVA溶液を適用するための噴霧法を使用し、注入法と比較した。流束に関する結果を以下の表7に示す。
【0068】
【0069】
表7の結果は、噴霧によってPVA溶液が適用された膜が、注入方法と比較してPWP流束を約20%改善し、DOWのベンチマークと比較して60%改善することを示している。
【0070】
実施例5 クエン酸(CA)架橋剤
流束を更に改善するために、架橋剤又は細孔形成剤としてクエン酸をPVA溶液に添加した。
【0071】
上記のように調製されたPVA溶液に、PVAの利用可能なOH基と反応したときの50%の架橋度に相当する0.42重量%のクエン酸を補充した。PVAを噴霧法で適用し、過剰のPVA溶液をエアナイフで除去する前に、10秒間反応させた。結果を以下の表8に示す。
【0072】
【0073】
試験条件:2000ppmのNaCl供給、15.5バール、1.8のLPM流量。
【0074】
結果は、クエン酸をPVA溶液に添加することにより約9%の流束の改善が得られることを示している。
【0075】
表面粗さRa(nm)、接触角及びゼータ電位(mV)を、PVA膜及びPVA+CA(50%)について調査し、PVAで処理されていない対照膜と比較した。結果を以下の表9に示す。
【0076】
【0077】
表9の結果は、膜がPVA層でコーティングされている場合に平均粗さが低下することを示している。粗さの更なる低下は、PVA溶液へのクエン酸の添加によって得られる。更に、クエン酸をPVA溶液に添加する場合に、接触角及びゼータ電位が大幅に低下する。低い表面粗さ及びゼータ電位は、一般的に、膜の防汚特性を改善すると考えられている。クエン酸をPVA溶液に添加する場合に、表面電荷が中性になる傾向があるという事実も、防汚特性を改善すると見なされる。
【0078】
更なる実験は、50%の架橋度と100%の架橋度とを比較するために設計された。100%の架橋度のPVA溶液は、0.84重量%のクエン酸を含んでいる。結果を以下の表10に示す。
【0079】
【0080】
試験条件:2000ppmのNaCl供給、15.5バール、1.8のLPM流量。
【0081】
表10に示される結果は、PVA溶液中のクエン酸の量が50%の架橋度から100%の架橋度に増加した場合に、約9%の改善された流束が得られることを示している。
【0082】
様々な態様及び実装は、本明細書の様々な実施形態に関連して説明されてきた。しかしながら、特許請求される主題を実施する際に、当業者は、本開示の研究及び添付の特許請求の範囲から、開示された実施形態に対する他の変形例を理解し実施することができる。特許請求の範囲において、「含む」という語は、他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は、複数を除外しない。
【国際調査報告】