(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】自動車両の車体用の構造構成要素を製造するための改良された方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/05 20060101AFI20230208BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20230208BHJP
C22C 21/06 20060101ALI20230208BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230208BHJP
【FI】
C22F1/05
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/00 602
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536960
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(85)【翻訳文提出日】2022-07-26
(86)【国際出願番号】 EP2020086256
(87)【国際公開番号】W WO2021122621
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517422951
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ-ブリザック
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM NEUF-BRISACH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】ミュレ,エステル
(72)【発明者】
【氏名】ヴゥスイク,ブリュノ
(72)【発明者】
【氏名】バルビエ,ダヴィド
(57)【要約】
Si:0.75~1.10、Fe:最大0.4、Cu:0.5~0.8、Mn:0.1~0.4、Mg:0.75~1、Ti:最大0.15、Cr:最大0.1およびV:最大0.1を含む合金を用いて自動車の車体または車体構造用の圧延品を製造するための方法が、インゴットの鋳造から車体部品の成形および塗装に至る複数のプロセスステップと共に開示されている。シートの予備時効ならびに部品の熱処理のさまざまな可能性が、車体内の部品の場所に応じて変動し得る有利な成形時材料特性、材料強度および焼付け硬化プロセスに対する低い感応性を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
「ホワイトボディ」とも呼ばれる自動車の車体または車体構造用圧延品をアルミニウム合金から製造するための方法において、
a.0.75~1.10のSi、
最大0.4のFe、
0.5~0.8のCu、
0.1~0.4のMn、
0.75~1のMg、
最大0.15のTi、
最大0.1のCr、
最大0.1のV、
各々最大0.05%、合計最大0.15%の不可避的な元素および不純物、
残りはアルミニウム、
という組成(重量%)を有するインゴットの鋳造ステップと、
b.前記インゴットの均質化ステップと、
c.前記インゴットの熱間圧延ステップと、
d.シートへの冷間圧延ステップと、
e.前記シートの溶体化熱処理、焼入れステップと、
f.前記シートの予備時効ステップと、
g.前記シートの自然時効ステップ、
という連続したステップを含む方法。
【請求項2】
前記インゴットのCu最大含有量が0.70%であり、かつ/またはCu最小含有量が0.55%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インゴットのMn最大含有量が0.35%であり、かつ/またはMn最小含有量が0.15%、好ましくは0.24%、そしてより好ましくは0.25%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記インゴットのTi最大含有量が0.05%であり、かつ/またはTi最小含有量が0.01%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
Vが不可避的な元素または不純物の中に入ることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
製造ステップが、
b.好ましくは2~8時間の間、520~560℃の温度での前記インゴットの均質化、
および/または
c.3~10mmの厚みまでの前記インゴットの熱間圧延、
および/または
d.1~4mmの厚みまでのシートへの冷間圧延、
および/または
e.540~580℃の温度で、好ましくは1秒~5分間の溶体化熱処理、
および/または
f.好ましくは50℃~120℃のコイリング温度で前記シートをコイリングすることによる、好ましくは50℃~120℃の温度で少なくとも8時間の予備時効、
および/または
g.好ましくは72時間~6ヵ月の周囲温度での自然時効、
を含む、請求項1から5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記鋳造ステップが、垂直半連続鋳造ステップであることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記予備時効が、70℃~95℃で、95℃は除外されるコイリング温度で前記シートをコイリングすることによって得られる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記予備時効が、50℃~70℃の間のコイリング温度で前記シートをコイリングすることによって得られる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
前記予備時効が、95℃超、好ましくは95℃~105℃のコイリング温度で前記シートをコイリングすることによって得られる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一つに記載の方法にしたがって得ることのできる圧延品。
【請求項12】
T4質別における前記圧延品の引張降伏強度が、165MPa未満であり、T6B質別における前記圧延品の引張降伏強度が、少なくとも345MPaである、請求項8または9に記載の方法を用いて得ることのできる請求項11に記載の圧延品。
【請求項13】
T8A質別における前記圧延品の引張降伏強度が、少なくとも275MPaである、請求項9に記載の方法を用いて得ることのできる請求項11に記載の圧延品。
【請求項14】
T8CおよびT8D質別における前記圧延品の引張降伏強度とT4質別における同じ圧延品製の引張降伏強度の差異が5MPa未満であり、かつT6CおよびT6D質別における前記圧延品の引張降伏強度とT4質別における同じ圧延品製の引張降伏強度の差異が5MPa未満であり、かつ/またはT4質別の圧延品が190MPaの最大引張降伏強度を有し、かつ/またはT6B質別の圧延品が340MPaの最小引張降伏強度を有し、かつ/またはT8A質別の圧延品が280MPa、好ましくは290MPaの最小引張降伏強度を有する、請求項10に記載の方法を用いて得ることのできる請求項11に記載の圧延品。
【請求項15】
g.詳細にはプレススタンピングによって、前記圧延品を1つの形状品へと成形するステップと、
h.任意には前記形状品の人工時効ステップと、
i.5~30分間、好ましくは15~30分間にわたり、150~190℃、好ましくは170~190℃の温度で、前記形状品を1つの部品へと塗装し「焼付け硬化」するステップ、
という追加の連続するステップを含む、請求項1から10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法を用いて得ることのできる部品。
【請求項17】
車体スキン部品(または車体のアウターパネル)、例えばフロントウィング、ルーフ、ボンネット、トランクまたはドアスキン、およびライニング部品または車体構造構成要素、例えば、ドア、ボンネット、テールゲートまたはルーフライニングまたは補強材、あるいは好ましくはスパー、バルクヘッド、積載床、フロアトンネルおよびフロント、ミドルおよびリヤピラーそして最後にインパクトアブソーバまたは「クラッシュボックス」としての、自動車内での請求項16に記載の部品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、詳細には、アルミニウム合金シート、より詳細にはアルミニウム協会の呼称にしたがってAA6xxxシリーズ内の合金をスタンピングすることによって製造され、衝撃の時点で不可逆的にエネルギを吸収するように意図され、かつ、衝突時の優れた挙動と高い機械的強度との間の卓越した妥協点を有する、「ホワイトボディ」とも呼ばれる自動車両の構造部品または構成要素、例えば詳細にはインパクトアブソーバまたは「クラッシュボックス」、補強部品、ライニングまたは他の車体構造部品の分野に関する。
【0002】
より厳密には、本発明は、固溶硬化され焼入れされかつ自然時効された調質状態でスタンピングし、その後、部品上での時効および塗料の焼付け処理つまり「焼付け硬化」によって硬化させることによる、このような構成要素の製造に関する。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム合金は、自動車製造において、車両の重量を削減しひいては燃費および温室効果ガスの放出を削減するために増々使用されている。
【0004】
アルミニウム合金シートは、詳細には、「ホワイトボディ」の多くの部品を製造するために使用されており、これらの部品としては、車体スキン部品(または車体のアウターパネル)、例えばフロントウィング、ルーフ、ボンネット、トランクまたはドアスキン、およびライニング部品または車体構造構成要素、例えば、ドア、ボンネット、テールゲートまたはルーフライニングまたは補強材、あるいはスパー、バルクヘッド、積載床、フロアトンネルおよびフロント、ミドルおよびリヤピラーそして最後にインパクトアブソーバまたは「クラッシュボックス」が存在する。
【0005】
多くのスキン部品がすでにアルミニウム合金シートから生産されているとしても、複雑な幾何形状を有するライニングまたは構造部品の鋼からアルミニウムへの置き換えはさらに難しいものであることが判明している。第1に、鋼に比べてアルミニウム合金の成形性はさほど良くないこと、そして第2にこのタイプの部品のために使用される鋼よりも概して機械的特性が低いこと、がその理由である。
【0006】
このタイプの利用分野が、時として相反するものである以下の特性のセットを必要とすることにその理由がある:すなわち、
- 詳細にはスタンピング作業のための、納入時質別、質別T4における高い成形性、
- 整形時にスプリングバックを抑えるための、シートの納入時条件における制御された引張降伏強度、
- スポット溶接、レーザ溶接、接着剤ボンディング、クリンチングまたはリベット締結などの自動車車体内で使用されるさまざまな組立て方法における優れた挙動、
- 部品の重量を最小限に抑えながら稼動中の優れた機械的強度を得るための、電気泳動および塗料焼付け後の高い機械的強度、
- 車体構造部品に対して応用する場合の、衝撃時の優れたエネルギ吸収能力、
- 腐食、詳細には完成部品の粒間腐食、応力腐食および糸状腐食に対する、優れた耐性、
- 製造廃棄物のリサイクルまたはリサイクル車両についての要件との適合性、
- 許容可能な大量生産コスト。
【0007】
しかしながら、現在、主としてアルミニウム合金で構成されたホワイトボディを有する大量生産された自動車両が確かに存在する。例えば、フォードF-150モデル2014バージョンは、AA6111構造合金で構成されている。この合金は、1980~1990年代にAlcanグループによって開発された。以下の2つの参照文献がこの開発作業について記載している:
- P.E.Fortinら、「An optimized Al alloy for auto body sheet applications」、SAE technical conference、1984年3月は、Si:0.85;Fe:0.20;Cu:0.75;Mn:0.20およびMg:0.72という組成について記述している。
- M.J.Bullら、「Al sheet alloys for structural and skin applications」、25th ISATA symposium,Paper 920669、1992年6月。
【0008】
当初は、「2%の予備ひずみおよび177℃で30分間の後に、280MPaの降伏強度が達成される」というスキンタイプの利用分野の場合に圧入に耐えるように設計されているとしても、その主要特性はひきつづき高い機械的強度であり続けている。
【0009】
さらに、航空機または自動車の利用分野のために、高い機械的特性を有するAA6xxx系統内の他の合金が開発されてきた。こうして、その開発がPechiney社での1980年代にさかのぼるAA6056タイプの合金は、機械的特性を最適化するためかあるいは粒間腐食に対する耐性を改善するために、多くの研究作業および数多くの刊行物の対象となってきた。これは、1つの特許出願(国際公開第2004/113579号)の主題であった。
【0010】
AA6013タイプの合金も多くの研究作業の対象となってきた。例えば、Alcoaでは、2002年に公開された米国特許出願公開第2002/039664号明細書中で、T6質別で使用された0.6~1.15%のSi;0.6~1%のCu;0.8~1.2%のMg;0.55~0.86%のZn;0.1%未満のMn;0.2~0.3%のCrおよびおよそ0.2%のFeを含む合金が、粒間腐食に対する優れた耐性と380MPaのRp0.2を組合せている。
【0011】
Alerisでは、2003年に公開された国際公開第2003/006697号が、0.2%~0.45%のCuを伴うAA6xxxシリーズ内の合金に関連している。発明の目的は、T6質別で355MPaのRmおよび粒間腐食に対する優れた耐性を目標とする、低減したCuレベルを有するAA6013タイプの合金を提案することにある。特許請求された組成は以下の通りである:0.8~1.3%のSi、0.2~0.45%のCu;0.5~1.1%のMn;0.45~0.1%のMg。
【0012】
例えば欧州特許第2581218号明細書中に記載の7xxx合金から作られた自動車の利用分野向けの構造部品も知られている。
【0013】
さらに、例えば上述の合金を用いた従来のスタンピングによって達成することのできないドアライニングなどの複雑な幾何形状を有する部品をアルミニウム合金から生産するために、過去において以下のようなさまざまな解決法が企図されかつ/または実装されてきた:
- 成型、詳細には「加圧下」タイプの成型によりこのタイプの部品を生産することによって、スタンピングに関連する難しさを回避すること。2000年の優先権下のNothelfer GmbHの欧州特許第1305179号明細書がこれを立証している。
- より優れた成形適性の恩恵を享受するために、いわゆる「ウォーム」スタンピングを実施すること。これは、アルミニウム合金ブランクをいわゆる中間温度、すなわち150~350℃まで全体的または局所的に加熱して、予熱可能でもあり得るツールを有するプレス下でのその挙動を改善することからなる。2003年の優先権下の当該出願人の欧州特許第1601478号明細書は、この解決法に基づくものである。
- AA5xxxシリーズ内の合金自体のスタンピングに対する適性を、その組成を介して修正すること;詳細には、マグネシウム含有量を5%超に増大させることが提案された。しかし、これは、耐腐食性の観点から見て、中立的ではない。
- より優れた成形性のため5%を超えるMgを伴うAA5xxxシリーズ内の合金コアと、より優れた耐腐食性を有する合金から作られたクラッドシートで構成された複合シートを使用すること。しかしながら、シートの縁部における、または穿孔ゾーンにおける、あるいはより一般的にコアが露出している場所における、そして特にアセンブリ内での耐腐食性は、このとき不十分であることが判明する可能性がある。
- さらに、欧州特許出願公開第1702995号明細書は、アルミニウム合金シートの生産方法において、重量%として、Mg:0.30~1.00%、Si:0.30~1.20%、Fe:0.05~0.50%、Mn:0.05~0.50%、Ti:0.005~0.10%、任意にはCu:0.05~0.70%およびZr:0.05~0.40%のうちの1つ以上、そして残りのAlおよび不可避的不純物という化学組成を有する溶融アルミニウム合金の供給ステップ;プレートの厚みの1/4において40℃~150℃/秒の冷却速度でダブルストリップ鋳造方法により5~15mmの厚みを有するプレートへと溶融合金を鋳造するステップと、リールの形態へのコイリングステップと、均質化処理と、少なくとも500℃/時以上の冷却速度で250℃の温度まで、結果として得たリールを冷却するステップとそれに続く冷間圧延ステップと、その後の溶体化熱処理ステップを含む方法について記述している。該文書は、成形後の部品上での時効については言及していない。
- 国際公開第2018/185425号の発明は、自動車両の車体または車体構造のスタンピングされた構成要素をアルミニウム合金から生産する方法において、(重量%で)Si:0.60~0.85;Fe:0.05~0.25;Cu:0.05~0.30;Mn:0.05~0.30;Mg:0.50~1.00;Ti+V≦0.10として、Ti:0.02~0.10;V:0.00~0.10;各々0.05未満で合計0.15未満の他の元素、残りはアルミニウム、ここでMg<-2.67×Si+2.87、という組成の合金を有する、厚み1.0~3.5mmの金属シートまたはストリップを生産するステップと、溶解および浸漬ステップと、予備焼き戻しステップと、72時間~6ヵ月の間の熟成ステップと、スタンピングステップと、30~170分の保持時間で205℃前後の温度での焼き戻しステップまたは同等の時間・温度での焼き戻しステップと、塗装および150~190℃の温度で15~30分間塗料を「焼付け硬化」するステップとを含む方法、に関する。発明は、このような方法によって生産された「ホワイトボディ」とも呼ばれる自動車両の車体または車体構造のスタンピングされた構成要素にも関する。
【0014】
米国特許出願公開第2018/0119261号明細書は、予期せぬ特性を有する6xxxシリーズのアルミニウム合金およびこのようなアルミニウム合金を生産する新規の方法について記述している。アルミニウム合金は、極めて成形性が高く、高い強度を示す。該合金は、連続鋳造法によって生産され、最終的ゲージおよび/または最終的質別へと熱間圧延され得る。該合金は、数例を挙げると、自動車、輸送、工業および電子機器の利用分野で使用可能である。
【0015】
米国特許出願公開第2018/0171452号明細書は、高強度で極めて変形性の高いアルミニウム合金およびこのような合金の製造および加工方法を開示している。より詳細には、改善された機械的強度および成形性を示す、熱処理可能なアルミニウム合金が開示されている。加工方法には、鋳造、均質化、熱間圧延、溶体化、予備時効そしていくつかの事例においては予備歪みが含まれる。いくつかの事例において、加工ステップはさらに、冷間圧延および/または熱処理を含むことができる。
【0016】
自動車の車体構成要素および大量生産のためのアルミニウムシートの使用に関する開発が増大していることを考慮すると、つねに軽量化の向上を目的としながら他の特性を損なうことなく厚みを削減することを可能にするさらに改善されたグレードに対する需要がなおも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2004/113579号
【特許文献2】米国特許出願公開第2002/039664号明細書
【特許文献3】国際公開第2003/006697号
【特許文献4】欧州特許第2581218号明細書
【特許文献5】欧州特許第1305179号明細書
【特許文献6】欧州特許第1601478号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1702995号明細書
【特許文献8】国際公開第2018/185425号
【特許文献9】米国特許出願公開第2018/0119261号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2018/0171452号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】P.E.Fortinら、「An optimized Al alloy for auto body sheet applications」、SAE technical conference、1984年3月
【非特許文献2】M.J.Bullら、「Al sheet alloys for structural and skin applications」、25th ISATA symposium,Paper 920669、1992年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、周囲温度での自然時効後のT4質別における成形ステップと、それに続いて任意には成形された部品に対する時効硬化ステップと、塗料の焼付けまたは焼付け硬化ステップとを含む構成要素の製造方法を提案することによって、完成した構成要素のリベット締結下および衝突時における優れた挙動ならびに高い機械的強度とT4質別における成形性の間の卓越した妥協点を得ることを目的とする。1つの課題は、短時間でかつ経済的に有利な方法を達成し、AA6111合金製の製品に比べた改善を行なうことにもある。
【0020】
これらの構成要素は、スポット溶接、レーザ溶接、接着剤ボンディング、クリンチングまたはリベット締結などのさまざまな組立てプロセスにおける優れた挙動および非常に優れた耐腐食性も有していなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の対象は、「ホワイトボディ」とも呼ばれる自動車の車体または車体構造用圧延品をアルミニウム合金から製造するための方法において:
a.Si:0.75~1.10;
Fe:最大0.4;
Cu:0.5~0.8;
Mn:0.1~0.4;
Mg:0.75~1;
Ti:最大0.15;
Cr:最大0.1;
V:最大0.1;
不可避的な元素および不純物:各々最大0.05%、合計最大0.15%;
残りはアルミニウム;
という組成(重量%)を有するインゴットの鋳造ステップと;
b.インゴットの均質化ステップと;
c.インゴットの熱間圧延ステップと;
d.シートへの冷間圧延ステップと;
e.シートの溶体化熱処理、焼入れステップと;
f.シートの予備時効ステップと;
g.シートの自然時効ステップ;
という連続したステップを含む方法である。
【0022】
本発明の別の対象は、本発明の方法によって得ることのできる圧延品である。
【0023】
本発明の別の対象は、本発明の方法によって得ることのできる部品である。
【0024】
本発明の別の対象は、車体スキン部品(または車体のアウターパネル)、例えばフロントウィング、ルーフ、ボンネット、トランクまたはドアスキン、およびライニング部品または車体構造構成要素、例えば、ドア、ボンネット、テールゲートまたはルーフライニングまたは補強材、あるいはスパー、バルクヘッド、積載床、フロアトンネルおよびフロント、ミドルおよびリヤピラーそして最後にインパクトアブソーバまたは「クラッシュボックス」としての、自動車内での部品の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】厚みtの圧延品Tの曲げ加工を実施するための、2本のローラRと半径rのパンチBで構成された「3点曲げ試験」用装置を描いている。
【
図2】内角βでの「3点曲げ」試験後の圧延品Tを描いており、試験の測定結果である外角αは、添付の結果で報告されており、試験手順中の最大強度も同様に報告されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書中で別段の定義がない限り、一般的用語は、NF EN12258-1規格中で定義されている。シートは、0.20mm~6mmの均一な厚みを有する矩形断面をもつ平坦な圧延品である。
【0027】
以下で問題となっている全てのアルミニウム合金は、相反する指示の無いかぎり、アルミニウム協会が定期的に刊行するRegistration Record Series中で該協会が定義する呼称で呼ばれる。
【0028】
合金の化学組成に関する全ての表示は、合金の総重量に基づく重量%として表現される。
【0029】
冶金学的質別の定義は、本明細書中で別段の定義の無いかぎり、欧州規格EN515中に示されている。
【0030】
静的引張機械的特性、換言すると最大抗張力Rm、0.2%伸びにおける引張降伏強度Rp0.2、および破断点伸びA%は、NF EN ISO 6892-1にしたがった引張り試験によって決定される。
【0031】
曲げ角度は、NF EN ISO 7438および手順VDA 238-100およびVDA 239-200にしたがって3点曲げ試験によって決定される。
【0032】
曲げ性も、ASTM規格E290-97aを用いて測定される。
【0033】
発明者らは、部品を生産するための有利な特性を自動車メーカーに提供する好適な方法と併せてアルミニウム合金の組成セットを選択した。
【0034】
本発明の主題は、以下のステップを含む、アルミニウム合金から「ホワイトボディ」とも呼ばれる自動車の車体または車体構造用圧延品を製造するための方法にある:
以下の組成を(重量%で)有するインゴットを鋳造するステップ:
Si:0.75~1.10。好ましくは、Siの最大含有量は1.0%、そしてより好ましくは最大Si含有量は0.95%である。
Fe:最大0.4。好ましくは、最小Fe含有量は0.15%であり、かつ/または最大Fe含有量は0.30%である。
Cu:0.5~0.8。好ましくは、インゴットのCu最大含有量は0.70%であり、かつ/またはCuの最小含有量は0.55%である。より好ましくは、最大Cu含有量は0.65%である。通常Cuはアルミニウムよりも高価であるため、Cuを0.8%、0.70%さらには0.65%に制限することは、経済的な理由から有利である。それはまた、材料のリサイクルを容易にするためにも有利である。それはまた、耐腐食性も改善することができる。しかしながら、別の実施形態においては、Cu最小含有量は、特に強度を増大させるために0.65%である。
Mn:0.1~0.4。好ましくは、最大Mn含有量は0.35%であり、かつ/または最小Mn含有量は、0.24%または好ましくは0.25%である。Mnを添加すると、特に曲げ挙動が改善される。
Mg:0.75~1、好ましくは、Mgの最小含有量は0.80%であり、かつ/または最大Mg含有量は0.90%である。
Ti:最大0.15、好ましくは、最小Ti含有量は0.01%であり、かつ/または最大Ti含有量は0.05%である。
Cr:最大0.1、そして好ましくは、Crは不可避的元素または不純物である。
V:最大0.1、そして好ましくは、Vは不可避的元素または不純物である。
そして、各々最大0.05%、合計0.15%の不可避的元素および不純物、そして残りはアルミニウムである。
【0035】
鋳造は、さまざまな鋳造プロセスを用いて行なうことができる。通常は水平鋳造である連続鋳造が可能である。また、直接チル鋳造の名称でも知られている垂直半連続鋳造を使用することも好ましい。垂直半連続鋳造は、シートの厚み全体にわたってより均質であるため、好ましい。
【0036】
インゴットは、均質化され、熱間圧延され、冷間圧延されてシートになる。シートは、溶体化熱処理され、焼入れされる。好ましくは、インゴットの均質化処理は、520~560℃の温度で、好ましくは2~8時間である。好ましくは熱間圧延は、インゴットを3~10mmの厚みを有する中間圧延品へと圧延する。好ましくは、冷間圧延は、中間圧延品を1~4mmの厚みを有するシートへと圧延する。その後シートは、初期溶融を回避しながら、典型的には合金のソルバス温度を超える温度で溶体化熱処理される。好ましくは、溶体化熱処理温度は530℃から、好ましくは540℃から580℃までで、好ましくは1秒~5分間である。その後、シートに焼入れが適用される。約15~60℃、好ましくは15℃~40℃の温度での水焼入れが好適である。好ましくは50~120℃の温度で、好ましくは少なくとも8時間、予備時効が適用される。その後、自然時効が適用される。自然時効は、NF EN12258-1で定義されており、室温はNF EN ISO6892-1で定義されている。好ましくは、自然時効の持続時間は72時間~6ヵ月である。
【0037】
予備時効ステップは好ましくは、コイリング温度でシートをコイリングし、それを開放空気中において室温で冷却することによって達成される。
【0038】
予備時効を実現するのに便利な連続焼鈍ライン装置が、
図3により描かれている。シート3は、アンコイラ1によりアンコイリングされ、溶体化炉4および焼入れユニット5を通り、その後シート3は、車体シートにとって非常に有用なステップである表面処理機6に入り、その後予備時効オーブン7が続き、最終的に開放空気中においてコイラ2上でコイリングされる。したがって、予備時効オーブン7の出口において、シートは高温であり、シートは開放空気中においてコイリング温度でコイラ2上でコイリングされる。コイリングされたシート8は高温であり、プラント内で周囲温度で保管され、周囲温度まで冷却する。この冷却中に予備時効が発生する。自然時効は、コイリングされたシート8の冷却終了後に開始し、好ましくは予備時効持続時間は少なくとも8時間である。
【0039】
好ましくは、予備時効は、50~120℃、好ましくは60~120℃のコイリング温度でシートをコイリングし、続いてコイリングされたシートを開放空気中において冷却することによって得られ、その持続時間は少なくとも8時間である。
【0040】
本発明の圧延品は、鋳造から自然時効に至る上述の方法で得ることのできる製品を含む。自然時効後の圧延品の質別はT4である。
【0041】
T4質別の圧延品の引張降伏強度は、同じ圧延品の内部において横断方向と45°の方向での引張降伏強度間で、5MPa未満、好ましくは3MPa未満変動する。同じシートとは、同じインゴット、同じ均質化、同じ熱間および冷間圧延、同じ溶体化熱処理、同じ焼入れ、同じ予備時効、同じ自然時効から作られた圧延品として定義付けされ、引張り試験試料は可能なかぎり近くで圧延品から切り取られる。これは、部品スタンピングにとって有用な特性である。
【0042】
T4質別での圧延品は、部品の材料特性を推定する6つの他の特定の質別、T8A、T8C、T8D、T6B、T6CおよびT8Dにおいて特徴付けすることができる。
【0043】
T8A、T8CおよびT8D質別は、2%の歪みと各々それに続く特定の熱処理をT4圧延品に対して適用することによって達成される。T8A質別は、180℃の温度で20分の焼付け硬化熱処理を使用する。T8C質別は、160℃の温度で5分の軽くて短い焼付け硬化熱処理を使用する。T8D質別は、160℃の温度で20分の軽くて長い焼付け硬化熱処理を使用する。
【0044】
T6B、T6CおよびT6D質別は、T4圧延品に対して特定の熱処理を適用することによって達成される。T6B質別は、30分間225℃の温度での熱処理を使用する。T6C質別は、160℃の温度で5分間の軽くて短い焼付け硬化熱処理を使用する。T6D質別は、160℃の温度で20分の軽くて長い焼付け硬化熱処理を使用する。
【0045】
その後、T4圧延品を、詳細にはプレススタンピングによって成形して、形状品を得ることができる。任意には、形状品は時効される。形状品を、塗装し、150~190℃、好ましくは170~190℃の温度で、5~30分間、好ましくは15~30分間焼付け硬化して部品にすることができる。
【0046】
本発明の対象は、本発明の圧延品を用いて上述の方法で得ることのできる部品である。この部品は、車体スキン部品(または車体のアウターパネル)、例えばフロントウィング、ルーフ、ボンネット、トランクまたはドアスキン、およびライニング部品または車体構造構成要素、例えば、ドア、ボンネット、テールゲートまたはルーフライニングまたは補強材、あるいは好ましくはスパー、バルクヘッド、積載床、フロアトンネルおよびフロント、ミドルおよびリヤピラーそして最後にインパクトアブソーバまたは「クラッシュボックス」として自動車内で使用可能である。
【0047】
第1の実施形態において、コイリング温度は、50℃から95℃までで、95℃は除外され、好ましくは60℃から95℃までで、95℃は除外される。この第1の実施形態のT4質別の圧延品は、165MPa未満の引張降伏強度によって特徴付けられ、これはプレススタンピングにおける顧客の成形性にとって有用であり得る。この第1の実施形態のT6B質別の圧延品は、正式に記述されている通り、345MPaの最小引張降伏強度そして好ましくは350MPaの最小引張降伏強度を有する。
【0048】
第1の実施形態に係る方法のための好ましい組成は以下の通りである:
Si:0.75~1.10、より好ましくは0.95%未満;
Fe:最大0.4、より好ましくは0.15%~0.30%;
Cu:0.5~0.70、好ましくは0.5~0.65;
Mn:0.1~0.4;
Mg:0.75~1;
Ti:0.01~0.05;
Cr:最大0.1;
V:不純物として;
不可避的元素および不純物:各々最大0.05%、合計最大0.15%;
残りはアルミニウムである。
【0049】
この好ましい組成で、かつ50℃から95℃までで、95℃は除外され、好ましくは60℃から95℃までで、95℃は除外されるコイリング温度で、第1の実施形態のT4圧延品の曲げ性は最大0.19である。これは、部品成形において有利である。
【0050】
第1の実施形態のさらに一層好ましい組成は以下の通りである:
Si:0.75~1.10、より好ましくは0.95%未満;
Fe:最大0.4、より好ましくは0.15%~0.30%;
Cu:0.5~0.70、好ましくは0.5~0.65;
Mn:0.24~0.30、好ましくは最小0.25%;
Mg:0.75~1;
Ti:0.01~0.05;
Cr:最大0.1;
V:不純物として;
不可避的元素および不純物:各々最大0.05%、合計最大0.15%;
残りはアルミニウムである。
【0051】
このさらに一層好ましい組成では、50℃から70℃まで、好ましくは60℃から70℃までのコイリング温度と併せて、T4質別の圧延品のVDA角度は125°超である。T4圧延品の曲げ性はそれでも0.19未満である。これは、一部のプレススタンピングの利用分野において有利であり得る。
【0052】
第1の実施形態の別の好ましい方法において、コイリング温度は70℃~95℃である。この方法では、T8A質別の圧延品は、275MPaの最小引張降伏強度を有する。この実施形態のより好ましい方法において、T8A質別の圧延品は、70℃~95℃のコイリング温度かつ以下の組成で、280MPaの最小引張降伏強度を有する:
Si:0.75~1.10、より好ましくは0.90%未満;
Fe:最大0.4、より好ましくは0.15%~0.30%;
Cu:0.65~0.8;
Mn:0.1~0.4、より好ましくは0.24%未満で最小0.15%;
Mg:0.75~1、より好ましくは0.95%未満;
Ti:0.01~0.05;
Cr:最大0.1;
V:不純物として;
不可避的元素および不純物:各々最大0.05%、合計最大0.15%;
残りはアルミニウムである。
【0053】
本発明の第2の実施形態において、コイリング温度は、95℃~120℃、好ましくは95℃~105℃であり、好ましくは、組成は以下の通りである:
Si:0.75~1.10、より好ましくは0.90%未満;
Fe:最大0.4、より好ましくは0.15%~0.30%;
Cu:0.5~0.70、好ましくは0.5~0.65;
Mn:0.1~0.4、好ましくは最小0.25%でかつ好ましくは0.35%未満;
Mg:0.75~1;
Ti:0.01~0.05;
Cr:最大0.1;
V:不純物として;
不可避的元素および不純物:各々最大0.05%、合計最大0.15%;
残りはアルミニウムである。
【0054】
この第2の実施形態の利点は、詳細には、焼付け硬化処理の変動に対する部品の降伏強度の感応度が低いという点にある。焼付け硬化条件は、車体アセンブリ内部の場所に左右され、したがって、焼付け硬化条件に対する感応性が低い部品は、自動車メーカーにとっての融通性がより高いことから、有利である。この低い感応性は、同じT4質別の圧延品から得られる、T6C質別における特性とT6D質別における特性、および/またはT8C質別における特性とT8D質別における特性を比較することによって査定可能である。
【0055】
第2の実施形態の方法で得られる圧延品では、T8CおよびT8D質別における圧延品の引張降伏強度とT4質別における同じ圧延品製の引張降伏強度の差異は、5MPa未満である。T8CおよびT8Dの圧延品の試料は、焼付け硬化の持続時間だけが異なり、その温度は160℃である。
【0056】
T6CとT6Dの圧延品試料は、焼付け硬化の持続時間が異なるだけであり、その温度は160℃である。第2の実施形態の方法で得られる圧延品では、T6CおよびT6D質別における圧延品の引張降伏強度とT4質別における同じ圧延品製の引張降伏強度の差異は、5MPa未満である。
【0057】
より一般的には、圧延品は、150~190℃、好ましくは170~190℃の温度で5~30分、好ましくは15~30分の間、熱処理され得る。上述の温度範囲内の所与の温度で、上述の持続時間範囲内の任意の持続時間の間熱処理された圧延品の降伏強度は、15MPa未満、好ましくは10MPa未満そしてより好ましくは5MPa未満だけ変動する。
【0058】
より一般的には、2%の歪みを受けた圧延品は、150~190℃、好ましくは170~190℃の温度で5~30分、好ましくは15~30分の間、熱処理され得る。上述の温度範囲内の所与の温度で、上述の持続時間範囲内の任意の持続時間の間熱処理された2%の歪みを受けた圧延品の降伏強度は、15MPa未満、好ましくは10MPa未満そしてより好ましくは5MPa未満だけ変動する。
【0059】
第2の実施形態では、T4質別の圧延品は、190MPaの最大引張降伏強度を有する。第2の実施形態では、T6B質別の圧延品は、340MPaの最小引張降伏強度を有する。第2の実施形態では、T8A質別の圧延品は、280MPa、好ましくは290MPaの最小引張降伏強度を有する。
【0060】
あらゆる合金のリサイクル性は、重要な技術的および経済的パラメータである。将来の溶融物の予測可能性を提供することから、あらゆる元素の範囲を縮小することは、リサイクルプロセスを強化するために有用である。添加元素の最大値を削減することも、これらの元素がアルミニウムよりも高価である可能性があることから、有利である。Si含有量の削減は、多くの合金中でこの元素が不純物であるだけでなくアルミニウム製品の特性にとって有害でもあることから、リサイクルに有利である。したがって、本発明の有利な実施形態は、Si含有量を最大0.95%まで削減することにある。Fe最大値を0.30%まで削減しかつ/またはFe最小値を0.15%まで増大させることも有利な実施形態である。別の有利な実施形態は、Cu最大値を0.70%、好ましくは0.65%まで削減しかつ/またはCu最小値を0.55%まで増大させることにある。別の有利な実施形態は、Mnの最大含有量を0.35%まで、より好ましくは0.30%まで削減し、かつ/またはその最小含有量を0.15%、より好ましくは0.25%まで増大させることにある。別の実施形態は、Tiの最大含有量を0.05%まで削減しかつ/または最小含有量を0.01%まで増大させることにもある。別の実施形態は、最大値0.05%でVを不純物として分類することにある。
【0061】
本発明の合金組成およびコイリング温度のこれらの組合せは全て、異なる成形特性と共に多くの可能性を自動車メーカーに提供する。自動車メーカーはまた、その加工およびその部品の設計を最適化することもできる。形状品の時効は、高強度の部品を可能にするが、形状品の時効に特定の熱処理を必要とする。高強度の合金は、軽量部品に有用である。部品が高強度材料を必要としない場合、自動車メーカーは、形状品の時効を回避することができ、これは、生産を簡略化するために有利である。したがって、本発明は自動車メーカーに融通性を提供する。
【実施例】
【0062】
序文
表1は、試験中に使用される合金の化学的組成(重量%)をまとめている。その他の不可避的元素および不純物の割合は、0.05%未満であり、合計は0.15%未満であり、残りはアルミニウムである。合金Gは、例示的AA6111合金であり、合金Hは、改質されたAA6056の例である。
【0063】
【0064】
これらのさまざまな合金の圧延インゴットを、垂直半連続鋳造によって得た。スカルピングの後、これらのさまざまなインゴットは、540℃で約4時間の均質化熱処理とその直後の熱間圧延を受け、5mmの中間圧延品となった。この5mmの中間圧延品を冷間圧延して、厚み2mmのシートを得た。
【0065】
圧延ステップの後には、溶体化熱処理とそれに続く焼入れを行なった。溶体化熱処理は、初期溶融を回避しながら、合金のソルバス温度を超える温度で行なわれた。この非限定的実施例において、溶体化温度は570℃であった。溶体化されたシートをその後20℃の水中で水焼入れした。シート試料を、8時間の予備時効のため100℃、80℃および60℃の3つのコイリング温度でコイリングし、それに続いて自然時効を行なった。2つの自然時効、すなわち室温で7日および30日を用いて、T4質別の圧延品を得た。
【0066】
T4圧延品を、2%の歪みおよびその後20分間180℃の典型的な焼付け硬化を伴う熱処理を用いてT8A質別へと変換した。T8Aの試料をその後特徴付けした。
【0067】
T4圧延品はまた、30分間225℃の熱処理を用いてT6B質別へと熱処理した。T6B試料をその後特徴付けした。
【0068】
試験結果
NF EN ISO6892-1にしたがって、この規格の付録Bの表B.1中の試験片タイプ2に対応する、シート用に広く用いられる幾何形状を有する非比例試験片を用いて、周囲温度での引張り試験を実施した。これらの試験片は詳細には、20mmの幅および120mmの較正済み長さを有する。T4、T8AおよびT6B質別における圧延品に対して引張試験を行なった。80℃のコイリング温度および30日間の自然時効で得た結果は、表2に提示されている。60℃のコイリング温度および30日間の自然時効で得た結果は、表3に提示されている。60℃、80℃および100℃のコイリング温度ならびに7日間の自然時効で得られた結果は、表4に提示されている。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
コイリング温度は、T4質別の引張降伏強度のための重要なパラメータである。60℃および80℃では、T4引張降伏強度を165MPa未満に制限することを可能にし、これは、スタンピングの容易さを維持する必要がある場合に、自動車メーカーにとって有利であり得る。
【0073】
実施例の合金B、D、EおよびFは、T6B質別において350MPaの引張降伏強度最小値を有する。これらの実施例合金は、T8A質別で275MPaの引張降伏強度最小値を有する。
【0074】
Tiの範囲を最大0.05%まで削減し、Vを最大0.05%の不純物にし、Cuを0.65%未満まで削減することも、曲げ性を0.15まで低減してコイリング温度とは無関係に構成要素を容易に製造可能にすることから、合金EおよびDによって実証されている通り、有利である。
【0075】
上述の削減されたV、TiおよびCuの範囲に加えて、Mnの範囲を0.25から0.35%までに最適化することによって、60℃のコイリング温度で、成形性にとって良好である高いVDA角度と共に非常に有利な3点曲げ試験が提供される。このことは、60℃のコイリング温度で合金Eによって実証されている。
【0076】
実施例2
80℃および100℃のコイリング温度で、7日間の自然時効の後、合金Eで製造された圧延品を、他の試験のために使用した。両方のコイリング温度における試料を、2%の歪みを適用した第1のグループといかなる歪みも存在しなかった第2のグループという2つのグループに分割した。その後、5分および20分という2つの異なる持続時間で、160℃の焼付け硬化温度を適用した。
【0077】
80℃のコイリング温度については表5中にそして100℃のコイリング温度については表6中に提供されているこれらの結果は、別の有利な実施形態を示している。すなわち、100℃のコイリング温度で、圧延品の引張降伏強度は焼付け硬化の持続時間とはほぼ無関係である。これは、降伏強度が類似であり続けることから、車体アセンブリ内で多重部品アセンブリの表面またはその内部の奥深いところのいずれにでも設置可能である部品にとって有利な挙動である。これは、自動車メーカーに部品設計の融通性を提供する。
【0078】
【0079】
【0080】
実施例3
以下の組成のインゴットを鋳造した。
【0081】
表7中の化学的組成(重量%)を有するインゴットを、垂直半連続鋳造を用いて鋳造した。その他の不可避的元素および不純物の割合は、0.05%未満であり、合計は0.15%未満であり、残りはアルミニウムである。
【0082】
【0083】
圧延インゴットを4時間554℃で加熱した。インゴットを直接熱間圧延した。熱間圧延開始直前のインゴットの温度は540℃であった。熱間圧延の終了時における厚みは5mmであった。冷間圧延の終了時における厚みは2mmであった。各々525℃より上で20秒、45秒および68秒という異なる持続時間で、そして535℃、544℃という3つの異なる温度で溶体化するために、シートを3分割した。22℃の水中でシートを焼入れした。96℃の温度でシートをコイリングし開放空気中において冷却し、続いて約20℃の室温で3日間自然時効することによってシートを予備時効して、T4質別の圧延品を得た。
【0084】
T4圧延品を、2%の歪みおよびその後20分間180℃の典型的な焼付け硬化を伴う熱処理を用いてT8A質別へと変換した。T8A試料をその後特徴付けした。
【0085】
T4圧延品はまた、30分間225℃の熱処理を用いてT6B質別へと熱処理した。T6Bの試料をその後特徴付けした。
【0086】
圧延方向(L)、この圧延方向に対する横断方向(T)そして圧延方向と45°を成す方向(45°)で、引張試験を行なった。
【0087】
【0088】
表8は、溶体化熱処理が、機械的特性を得るための温度または持続時間についてのプロセス変動に対して信頼度の高いものであることを示している。
【0089】
T4質別の引張降伏強度は、表8中に見られるものと同じ圧延品内部でのT方向の引張降伏強度と45°方向の引張降伏強度の間に3MPa未満の異方性を示している。
【0090】
圧延品の衝突挙動をチェックするために、T6B質別についても、曲げ半径を測定した。結果は表9中に開示されている。
【0091】
【符号の説明】
【0092】
1:アンコイラ
2:コイラ
3:シート
4:溶体化炉
5:焼入れユニット
6:表面処理機
7:予備時効オーブン
8:保管されたコイル
【国際調査報告】