(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】ポリプロピレンイミンを含む非ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20230208BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230208BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230208BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20230208BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61K47/34
A61K48/00
A61K47/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537089
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2020086606
(87)【国際公開番号】W WO2021122871
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505308917
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート ゲント
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】リカルド,ホーゲンブーム
(72)【発明者】
【氏名】ニック,サンデルズ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA22
4C076CC50
4C076DD41Z
4C076EE25
4C076EE51
4C076FF68
4C084AA13
4C084MA05
4C084MA23
4C084NA10
4C084NA13
4C084ZC80
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA23
4C086NA10
4C086NA13
4C086ZC80
(57)【要約】
本発明は、ポリプロピレンイミンと核酸とを含む非ウイルスベクター及び医薬組成物の分野、並びにヒト又は獣医学におけるそれらの使用に関する。より詳細には、本発明は、核酸、例えばRNAの送達又はトランスフェクションのためのポリプロピレンイミンのポリマー又はコポリマーを含む医薬組成物に関する。本明細書において記載される医薬組成物は、(核酸)ワクチン接種、核酸に基づくタンパク質療法、核酸に基づくタンパク質置換療法、遺伝子編集、塩基編集、細胞療法、免疫療法、幹細胞療法、再生医療、遺伝子サイレンシング、核酸阻害又はタンパク質阻害に特に有用である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリプロピレンイミンポリマー(PPI)と、
(b)核酸と、
を含み、
前記PPIが約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有することを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
前記PPIが直鎖状である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
ポリエチレンイミンポリマー(PEI)を更に含む、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記PEIが約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記PEIが直鎖状である、請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記PPIがPPI/PEIコポリマーの形態である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記コポリマーがランダムコポリマーである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記コポリマーが約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する、請求項6又は7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記PEIの重合度と前記PPIの重合度との比が、約1:1~1:500、好ましくは約1:1~1:100、最も好ましくは約1:2~1:10の範囲である、請求項3~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
脂質を更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレンイミンと核酸とを含む非ウイルスベクター及び医薬組成物の分野、並びにヒト又は獣医学におけるそれらの使用に関する。より詳細には、本発明は、核酸、例えばRNAの送達又はトランスフェクションのためのポリプロピレンイミンのポリマー又はコポリマーを含む医薬組成物に関する。本明細書において記載される医薬組成物は、(核酸)ワクチン接種、核酸に基づくタンパク質療法、核酸に基づくタンパク質置換療法、遺伝子編集、塩基編集、細胞療法、免疫療法、幹細胞療法、再生医療、遺伝子サイレンシング、核酸阻害又はタンパク質阻害に特に有用である。
【背景技術】
【0002】
予防及び治療目的で1以上のポリペプチドをコードする外来核酸を導入することは、特に遺伝子療法の進歩に照らして、長年の生物医学研究の目標であった。そのような状況下で、外来核酸の導入は、より具体的には、核酸に基づくワクチン接種、タンパク質療法、タンパク質置換療法、遺伝子編集、塩基編集、細胞療法、免疫療法、幹細胞療法、再生医療、遺伝子サイレンシング、RNA阻害又はタンパク質阻害と関連して有用であることが分かってきた。
【0003】
核酸の送達は、現在不治のいくつかの疾患、例えば、遺伝性障害、癌疾患及びいくつかの網膜疾患等を治療することができ、ワクチン接種の目的にも使用することができる、いくつかの用途を備えた有望な新たなツールである。核酸の送達は、核酸、例えばRNA及びDNA等を細胞に導入することによる。裸の核酸自体は、典型的には、細胞によって効率的に内在化されないため、核酸の送達には担体システム(ベクター)が必要である。外来核酸の細胞への導入は、標的細胞又は生物、核酸分子のタイプ及び/又は送達システムによって変化する。
【0004】
デオキシリボ核酸(DNA)分子の使用に関連する安全性及び有効性への関心の影響を受けて、リボ核酸(RNA)分子は近年ますます注目を集めている。RNA送達のための様々なアプローチ、例えば、非ウイルス又はウイルス送達ビヒクルが提案されている。ウイルス及びウイルス送達ビヒクルにおいては、核酸は、典型的には、タンパク質及び/又は脂質(ウイルス粒子)によってカプセル化される。例えば、RNAウイルス由来の操作RNAウイルス粒子が、植物の治療又は哺乳類のワクチン接種のための送達ビヒクルとして提案されている。核酸のベクター化のための様々な化合物、いわゆるトランスフェクション試薬は、以前に記載されている。これらの化合物は、通常、ポリカチオン、又はカチオン性脂質若しくはリピドイド等の脂質様化合物を含む組成物のいずれかである。核酸とポリカチオンとの複合体はポリプレックスと呼ばれ、カチオン性脂質との複合体はリポプレックスと呼ばれる。
【0005】
ウイルスは現在利用可能な最も効率的な送達ビヒクルであるが、その使用可能性は安全上の懸念を引き起こした。医学界及び獣医学界は、人間又は動物にRNAウイルス粒子を投与することに消極的である。上述の全ての理由から、ウイルス粒子を含まない他のタイプのベクターが現在検討されている。現在検討されている非ウイルスベクターはポリマーを含むが、ポリマーは、化学的柔軟性、合成の容易さ、生体適合性の可能性、簡易性及び安価な合成のために有利であることが分かっている。
【0006】
従来技術では、生体高分子の送達のためのPEI及びPGA等のポリマーの使用が開示されている(特許文献1)。様々な治療薬の送達のためのポリマーミセルの使用も記載されている(特許文献2)。しかしながら、従来技術の組成物は、トランスフェクション効率が低い、又はそれらの細胞毒性によって制限される等の欠点を示すことが多い。したがって、核酸の送達と関連して非ウイルスベクターが鋭意検討されてきたが、非ウイルスベクターアプローチの臨床診療への橋渡しは、様々な理由、すなわち、毒性、不十分なトランスフェクション効率、技術上及び規制上の問題により、あまり成功していない。よって、核酸の送達及びトランスフェクションのための代替的な医薬組成物が必要とされている。本発明者らは、本発明において、核酸の送達及びトランスフェクションにおいて効率的であり、上で明示した問題を克服する新規な非ウイルスベクターを特定した。これらのベクターは、PPIを含み、好ましくは重合度が低く、より好ましくは直鎖状PPIであることを特徴とする。
【0007】
本発明は、特に、L-PPIモノマー及び高いPPI含有量を有するL-PPI/L-PEIコポリマーが、L-PEIモノマー及び低いPPI含有量を有するL-PPI/L-PEIポリマーと比較して、より効率的にRNAを複合化することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2018/156617号
【特許文献2】国際公開第2018/002382号
【発明の概要】
【0009】
本発明は、第1の態様において、ポリプロピレンイミンポリマー(PPI)と核酸とを含む新規な組成物を提供する。より具体的には、本発明は、PPIと核酸とを含み、該PPIが約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する、医薬組成物を提供する。
【0010】
好ましい実施の形態においては、上記PPIは直鎖状である。
【0011】
更なる実施の形態においては、組成物は、ポリエチレンイミンポリマー(PEI)を更に含む。別の実施の形態においては、上記PEIは直鎖状である。
【0012】
更なる実施の形態においては、上記PEIは約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する。
【0013】
特定の実施の形態においては、上記PPIと上記PEIとがコポリマーを形成しており、これはランダムコポリマーであり得る。したがって、本発明は、PPI/PEIコポリマーを含む医薬組成物も提供する。
【0014】
本発明による特定の実施の形態においては、上記コポリマーは約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する。
【0015】
特定の実施の形態においては、本発明の組成物又はコポリマーにおける上記PEIの重合度と上記PPIの重合度との比は、約1:1~1:500、好ましくは約1:1~1:100、最も好ましくは約1:2~1:10の範囲である。
【0016】
1つの実施の形態においては、医薬組成物は、脂質を更に含む。
【0017】
更に別の実施の形態においては、核酸はRNA又はDNA分子、好ましくはmRNA、自己複製mRNA(レプリコン)、環状mRNA、環状RNA、外部若しくは内部分子によってその翻訳を制御することができるmRNA又はレプリコン、非コードRNA、siRNA、センスRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、RNAアプタマー、RNAアプタザイム、saRNA、pDNA、ミニサークル、閉鎖型直鎖状DNA、ゲノムDNA、cDNA、1本鎖及び/又は2本鎖DNA、及びこれらの任意の組合せ又は化学修飾物を含むリストから選択される。
【0018】
尚も更なる別の実施の形態においては、N/P比は40未満、好ましくは20未満、より好ましくは10未満である。
【0019】
別の実施の形態においては、本発明による医薬組成物は、ヒト又は獣医学において使用されるものであり、より詳細には、医薬組成物は、(核酸)ワクチン接種、核酸に基づくタンパク質療法、核酸に基づくタンパク質置換療法、遺伝子編集、塩基編集、細胞療法、免疫療法、幹細胞療法、再生医療、遺伝子サイレンシング、核酸阻害又はタンパク質阻害において使用されるものである。
【0020】
本発明は、組成物が、現行の技術水準の非ウイルス担体と比較して、高いトランスフェクション効率、低い細胞毒性を有するという利点を有し、サイズが小さいためにin vivoでの使用に適したものになるという更なる利点を有する。
【0021】
これより図面を具体的に参照するが、示される記述は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)を含む本発明による組成物のトランスフェクション効率を示す図(
図1とも略す)である。
【
図2】250のDPを有する直鎖状PEI(L-PEI)を含む組成物のトランスフェクション効率を示す図(
図2とも略す)である。
【
図3】50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物のトランスフェクション効率を示す図(
図3とも略す)である。
【
図4】200/50のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物のトランスフェクション効率を示す図(
図4とも略す)である。
【
図5】100/150のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物のトランスフェクション効率を示す図(
図5とも略す)である。
【
図6】150/100のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物のin vitroでのトランスフェクション効率を示す図(
図6とも略す)である。
【
図7】修飾mRNAと、250のDPを有する直鎖状PEI(L-PEI)とを含む組成物のトランスフェクション効率を示す図(
図7とも略す)である。
【
図8】siRNAと、50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のHeLa細胞における遺伝子サイレンシング効果を示す図(
図8とも略す)である。
【
図9】siRNAと、50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のSKOV3-Luc細胞における遺伝子サイレンシング効果を示す図(
図9とも略す)である。
【
図10】250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)を含む組成物のZ電位の測定値を示す図(
図10とも略す)である。
【
図11】50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物のZ電位の測定値を示す図(
図11とも略す)である。
【
図12】250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)と、レプリコンRNAとを含む組成物のサイズ測定結果を示す図(
図12とも略す)である。
【
図13】250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)と、修飾非複製mRNAとを含む組成物のサイズ測定結果を示す図(
図13とも略す)である。
【
図14】50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)と、レプリコンRNAとを含む組成物のサイズ測定結果を示す図(
図14とも略す)である。
【
図15】250のDPを有する直鎖状PPIを含む組成物の細胞生存率を示す図(
図15とも略す)である。
【
図16】250のDPを有する直鎖状PEIを含む組成物の細胞生存率を示す図(
図16とも略す)である。
【
図17】50/200のDP(1:4の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物の細胞生存率を示す図(
図17とも略す)である。
【
図18】200/50のDP(4:1の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物の細胞生存率を示す図(
図18とも略す)である。
【
図19】100/150のDP(2:3の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物の細胞生存率を示す図(
図19とも略す)である。
【
図20】150/100のDP(3:2の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)を含む組成物の細胞生存率を示す図(
図20とも略す)である。
【
図21】現行の技術水準のトランスフェクション剤であるlipofectamine MessengerMax(MM)を使用して行ったin vitroでのトランスフェクション効率試験のトランスフェクション結果を示す図(
図21とも略す)である。
【
図22】2:1(μl MM:μg mRNA)の比でlipofectamine MessengerMax(MM)を含む組成物の細胞生存率を示す図(
図22とも略す)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
これより、本発明を更に説明する。以下の節では、本発明の種々の態様を更に詳細に規定する。そこで規定された各々の態様は、そうではないことが明確に示されていない限り、他の任意の態様(単数又は複数)と組み合わせてもよい。特に、好適又は有利であると示される任意の特徴を、好適又は有利であると示される他の任意の特徴(単数又は複数)と組み合わせてもよい。
【0024】
本発明の化合物を説明する場合、使用される用語は、文脈上他に指示がない限り、以下の定義に従って解釈されるものとする。
【0025】
本発明は、(a)ポリプロピレンイミンポリマーPPIと、(b)核酸とを含み、該PPIが約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する、医薬組成物について記載する。本発明者らは、本発明による組成物が、現在利用可能な他の非ウイルス担体よりも高いトランスフェクション効率を示すことを見出した。さらに、この組成物は小さな粒子サイズを有しており、これによりin vivoでの使用に適したものとなる。そのため、本発明は、組成物が高いトランスフェクション効率を有するという利点を有し、サイズが小さいためにin vivoでの使用に適したものになるという更なる利点を有する。さらに、この組成物が誘発する細胞毒性効果は、現行の技術水準の非ウイルス担体に基づく組成物よりも低い。
【0026】
本発明による医薬組成物は、ポリマーブレンド、コポリマー、ホモポリマー、ブロックコポリマー、グラジエントコポリマー及びランダムコポリマーであり得るか又はこれらを含み得る。医薬組成物は、活性医薬成分及び他の賦形剤を更に含むことができる。
【0027】
「核酸」という用語は、五炭糖と、リン酸基と、窒素塩基とから構成される生体分子を指す。核酸という用語は、1本鎖及び/又は2本鎖のいずれかのDNA及びRNA、並びにこれらの任意の組合せ又は化学修飾物を含む。
【0028】
本明細書において使用される「重合度」又は「DP」という用語は、特段の指示がない限り、数平均重合度を指す。これは、Mn/M0の式(式中、Mnはポリマーの数平均分子量であり、M0はモノマー単位の分子量である)を使用して計算することができる。例えば、PPIはプロピルアミン単位を繰り返すことによって構成されるため、プロピルアミンはPPIのモノマー単位である。このPPIのモノマー単位は、およそ57.1 g/molの分子量を有する。上述の式に基づいて、200のDPを有するPPIのポリマーの数平均分子量は、その遊離塩基形態において、およそ11.400 g/molに等しいと計算することができる。ポリマーはプロトン化形態からなることもでき、この場合繰り返し単位の質量は塩の質量とともに増加する。例えば、HCl塩の場合、PPI-HCl繰り返し単位の質量はおよそ93.6 g/molである。
【0029】
本明細書において使用される、パラメータ、量、期間等の計測可能な値に言及する場合の「約(about)」及び「およそ(approximately)」という用語は、規定値より+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは、+/-1%以下、そして更に好ましくは、+/-0.1%以下の変動を包含することを意味し、そのような変動であれば開示される本発明を実施するのに適切である。修飾語句「約」又は「およそ」が言及する値そのものも具体的に、かつ好ましくは開示されることが理解される。
【0030】
本明細書及び添付した特許請求の範囲で使用される場合に、数を限定しない単数形("a"、"an"、及び"the")は、文脈上特に明記されていない限り、複数の指示対象を含む。例として、「a compound」は、1つの化合物又は2つ以上の化合物を意味する。
【0031】
本発明の特定の実施形態によると、組成物はポリエチレンイミンポリマー(PEI)を更に含むこともできる。
【0032】
ポリエチレンイミン(PEI)及びポリプロピレンイミン(PPI)は、高いカチオン電荷密度を有する有機高分子である。PEI又はポリ(エチレンイミン)とも称するポリエチレンイミンは、エチルアミン繰り返し単位から構成されるポリマーである。PPI又はポリ(プロピレンイミン)とも称するポリプロピレンイミンは、n-プロピルアミン繰り返し単位から構成されるポリマーである。PEI及びPPIは、特にそれらの直鎖状形態において、荷電アミノ基の存在に鑑みるとプロトン化される可能性があるため、PEI及び/又はPPIを含むポリマー組成物は、核酸と結合して圧縮することができる。PEI及びPPIは、細胞表面でアニオン性プロテオグリカンと相互作用して、粒子の侵入を容易にすることができる正に帯電した粒子に核酸を圧縮することができる。
【0033】
本発明の特定の実施形態によると、PPI若しくはPEIのいずれか、又はこれらの両方が直鎖状である。本出願では、直鎖状PPIはL-PPIとも称され、直鎖状PEIはL-PEIとも称される。直鎖状PPI及び/又は直鎖状PEIの使用は、得られる医薬組成物を正に帯電させることができ、核酸との間に形成された複合体が小さいサイズを有するという利点を有する。ポリマーが短いため、腎臓による除去がより容易であるという他の利点も有する。
【0034】
さらに、L-PPIモノマー及び高いPPI含有量を有するL-PPI/L-PEIコポリマーは、L-PEIモノマー及び低いPPI含有量を有するL-PPI/L-PEIポリマーよりも効率的にRNAを複合化することが分かった。
【0035】
本発明の特定の実施形態によると、上記PEIは約20~1000、好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する。
【0036】
「平均粒子径」という用語は、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用したデータ分析を伴う動的光散乱によって測定された粒子の平均流体力学的直径を指し、これは、結果として、長さの寸法を有するいわゆる「Z平均」を提供する。ここで、粒子の「平均粒子径」、「粒子径」、又は「サイズ」は、このZ平均の値と同義的に使用される。
【0037】
本発明によると、「N/P比」は、核酸中のリン原子(P)に対するポリマー中の窒素原子(N)のモル比を指す。N/P比は、所与の量の核酸中のリン酸塩に対する所与の量のポリマー中の窒素の入力モル比を反映している。特定の実施形態においては、このN/P比は40未満、好ましくは20未満、より好ましくは10未満、例えば、5、4、3、2、1以下、例えば、0.5又は0.2等である。特定の実施形態においては、N/P比は、例えば、約0.2~10、例えば、1~10又は1~5等とすることができる。代替的には、このN/P比は、1~20とすることもできる。
【0038】
具体的には、N/P比がより低いと、使用する組成物の毒性を低減するのに有益となり得る。これは、例えば、比較的高いPPI含有量を有する組成物の場合に当てはまり得る。
【0039】
本発明の更なる特定の実施形態によると、上記PPI及び上記PEI又は上記のL-PPI及びL-PEIは、コポリマー、好ましくはランダムコポリマーを形成する。
【0040】
L-PPIとL-PEIとのコポリマーは、例えば以下のように表すことができる。
【化1】
【0041】
本発明者らは、驚くべきことに、コポリマーが好ましくは約20~1000、より好ましくは約100~500、最も好ましくは約200~300の重合度を有する場合に、RNAが効率的に複合化され、細胞にトランスフェクトされることを見出した。より具体的には、比較的高いL-PPI/L-PEI比を有するコポリマーにおいて、より高度なRNA複合化を達成することができる。
【0042】
本発明の特に好ましい組成物は、以下のうちの1つ以上を含むことを特徴とする。
高いPPI含有量を有するPPI/PEIコポリマー
250のDPを有するPPI
250のDPを有するPPI/PEIコポリマー
少なくとも1.5:1、好ましくは少なくとも4:1のPPI/PEI比を有するPPI/PEIコポリマー
1超、好ましくは5超、より好ましくは5~20のN/P比
【0043】
本発明の特に好ましい組成物は、
250のDPを有するL-PPIと、
約0.2~10、好ましくは1~10、最も好ましくは1~5のN/P比でのRNAとを含む。
これらの組成物は、特に、高いトランスフェクション効率、小さな粒子サイズ、良好な安定性及び低い毒性を有することを特徴とする。
【0044】
本発明の特に好ましい別の組成物は、
250のDPを有するL-PEIとL-PPIとのコポリマーと、
約1~20のN/P比でのRNAとを含み、
少なくとも1.5:1、好ましくは少なくとも4:1のPPI/PEI比を有する。
これらの組成物は、特に、高いトランスフェクション効率、小さな粒子サイズ、良好な安定性及び低い毒性を有することを特徴とする。
【0045】
本明細書において使用される「ランダムコポリマー」という用語は、鎖中の特定の箇所で所与のタイプのモノマー残基を見つける確率が、そのモノマー残基の鎖におけるモル分率に類似している統計コポリマーを指す。これは、典型的には、L-PEI/PPIの前駆体として使用される親ポリマーの統計共重合に対する反応性比によって説明される。ここで、反応性比r1が1.35未満、かつ、応性比r2が0.7超(r1=kp1,1/kp1,2、r2=kp2,2/kp2,1、モノマー1がより反応性である)である共重合をランダムコポリマーとして定義する。本発明のコポリマーは、PPI及び/又はPEI以外の他のポリマーを含み得る。
【0046】
本発明の文脈において、L-PEIとL-PPIとのモル比が様々なL-PEIとL-PPIとのコポリマーを合成して試験した。本発明の実施形態によると、上記PEIの重合度(DP)と上記PPIの重合度(DP)との比は、1:1~1:500、好ましくは約1:1~1:100、最も好ましくは約1:2~1:10の範囲である。本発明の特定の実施形態によると、PEIとPPIとを含み、PPIに富む組成物は、他の核酸ベクターよりも高いトランスフェクション効率を示すことが分かった。PPIに富む組成物は、PPIの量が、組成物中の他のあらゆるポリマー成分(PEI等)の量よりも多い組成物である。本発明によると、上記核酸はRNA又はDNA分子、好ましくはmRNA、自己複製mRNA(レプリコン)、環状mRNA、環状RNA、外部若しくは内部分子によってその翻訳を制御することができるmRNA又はレプリコン、非コードRNA、siRNA、センスRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、RNAアプタマー、RNAアプタザイム、saRNA、pDNA、ミニサークル、閉鎖型直鎖状DNA、ゲノムDNA、cDNA、1本鎖及び/又は2本鎖DNA、及びこれらの任意の組合せ又は化学修飾物を含むリストから選択される。
【0047】
「RNA」という用語は、リボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全に又は実質的にリボヌクレオチド残基から構成される分子を指し、本明細書において記載される全てのRNAタイプを含む。「RNA」という用語は、2本鎖RNA、1本鎖RNA、部分的又は完全に精製されたRNA等の単離RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、及び1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変によって自然発生RNAとは異なる修飾RNA等の組換えによって生成されるRNAを含む。このような改変は、RNAの末端(複数の場合もある)又は内部等への、例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドでの非ヌクレオチド材料の付加を含み得る。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば、非自然発生ヌクレオチド又は化学合成ヌクレオチド又はデオキシヌクレオチド等も含み得る。これらの改変RNAを、類似体、特に自然発生RNAの類似体と称する場合がある。本発明に従って使用するRNAは既知の組成を有してもよく、又はRNAの組成が部分的若しくは完全に未知であってもよい。
【0048】
「DNA」という用語は、デオキシリボヌクレオチド残基を含み、好ましくは完全に又は実質的にデオキシリボヌクレオチド残基から構成される分子を指し、本明細書において記載される全てのDNAタイプを含む。「DNA」という用語は、pDNA、ミニサークル、閉鎖型直鎖状DNA、ゲノムDNA、cDNA、1本鎖及び/又は2本鎖DNA、及びこれらの任意の組合せ又は化学修飾物を含む。
【0049】
一実施形態においては、医薬組成物は脂質を更に含む。本発明による医薬組成物の性質を更に向上させるために、脂質及び/又は負に帯電したポリマーコーティングとの共製剤を実現することができる。
【0050】
「脂質」という用語は、非水溶性の脂肪物質を指し、脂肪、油、ワックス及び関連する化合物を含む。脂質は、血液中で作られる(内因性)か、又は食事で摂取される(外因性)かのいずれかであり得る。脂質は正常な身体機能に不可欠であり、外因性源又は内因性源のいずれから作られても、輸送され、次いで細胞による使用のために放出される必要がある。細胞による使用のための脂質の生成、輸送及び放出は脂質代謝と呼ばれる。脂質にはいくつかのクラスがあるが、2つの主要なクラスはコレステロールとトリグリセリドである。コレステロールは食事で摂取され、体内のほとんどの臓器及び組織、主に肝臓内の細胞によって生成され得る。コレステロールは、遊離形態で、又はより多くの場合、コレステロールエステルと呼ばれる脂肪酸との組合せで見つけることができる。
【0051】
本発明による医薬組成物は、ヒト又は獣医学において使用されるものとすることができる。更なる実施形態によると、本発明による医薬組成物は、核酸送達が有用である方法、例えば、限定されるものではないが、(核酸)ワクチン接種又は核酸に基づくタンパク質療法、核酸に基づくタンパク質置換療法、遺伝子編集、塩基編集、細胞療法、免疫療法、幹細胞療法、再生医療、遺伝子サイレンシング、核酸阻害又はタンパク質阻害等において使用することができる。
【実施例】
【0052】
材料及び方法
合成mRNA作製
ベネズエラ馬脳炎ウイルス(VEEV)由来のルシフェラーゼをコードする自己増幅型RNA又はレプリコンを、MEGAscript(商標)キット(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)を使用したin vitroでの転写(IVT)によって合成した。I-SceI直鎖状化プラスミドをテンプレートとして使用した。シリカ系カラム(RNeasy Mini Kit、Qiagen、ヒルデン、独国)を使用して精製した後、ScriptCap(商標)Cap 1 Capping System Kit(Cellscript、ウィスコンシン、米国)を使用して、製造元の指示に従ってRNAをキャップした。最後に、シリカ系カラムを使用してRNAを再度精製し、濃度を分光光度法(Nanodrop、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)によって測定した。
【0053】
ルシフェラーゼをコードするN1-メチルシュードウリジン(1mΨ)修飾非複製mRNA(mod-mRNA)を、IVTミックス内の全てのウリジン-5'-三リン酸塩をN1-メチルシュードウリジン-5'-三リン酸塩(Trilink Biotechnologies、サンディエゴ、米国)で置き換えることにより、I-SceI直鎖状化プラスミドからIVTによって作製した。次いで、ワクシニアウイルスキャッピング酵素及び2'-O-メチルトランスフェラーゼ(Cellscript、ウィスコンシン、米国)を使用してmRNAを精製、キャップして、キャップ1を作製し、次いで、RNeasy mini kit(Qiagen、独国)を使用して再度精製した。40アデノシンの長さを有するこれらのmod-mRNAのポリ(A)テールを、A-plus Poly(A) polymerase tailing kit(Cellscript)を使用しておよそ200アデノシンに伸長し、次いで精製した。最後に、mod-mRNA濃度を分光光度法(Nanodrop、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)で測定した。
【0054】
低分子干渉RNA
ホタルルシフェラーゼ(pGL3)又は対照siRNAを標的とする低分子干渉RNA(siRNA)をDharmacon(Lafayette、米国)から購入し、RNaseフリーの水に16.5 μMの濃度で溶解させ、20 μlのアリコートで-20℃で保存した。
【0055】
ポリマー作製
ポリマーL-PEI DP 250、ポリマーL-PPI DP 250、及びこれらのコポリマー(L-PEI/L-PPI DP 200/50、150/100、100/150、50/200)を以下の通りに合成した。まず、2-エチル-2-オキサゾリン(EtOx)と2-イソプロピル-2-オキサジン(iPrOzi)とのコポリマー(様々なコポリマーを作るために、様々なモノマー比(EtOx:iPrOzi=250:0、0:250、200:50、150:100、100:150及び50:200)を有する)を、4 Mの総モノマー濃度で、開始剤としてメチルトシレートを使用し、開始剤に対する総モノマーの比を250として調製して、250のDPを有するポリマーを得た。ガスクロマトグラフィーによって確認されるように、重合は、140℃のBiotageマイクロ波反応器でモノマーが完全に変換されるまで行った。サイズ排除クロマトグラフィーにより、分散度が1.4未満のかなり明確なコポリマーの形成が確認され、1H NMR分光法により、目的の組成物が得られたことが分かった。続いて、1グラムのポリマーを7.5 mLの脱塩水及び7.5 mLの塩酸(HCl)に溶解させることによって、これらのコポリ(2-オキサゾリン)を加水分解して、L-PPI及びL-PEI/PPIポリマーを得た。次いで、閉鎖バイアルをBiotageマイクロ波反応器で140℃まで9時間加熱して加水分解した。その後、ポリマーを脱塩水で希釈し、HCl及び脱塩水を減圧下で蒸発させた。試料を2 M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液で中和し、凍結乾燥した。1H NMR分析により、ほぼ定量的な加水分解が確認された。
【0056】
自己増幅型及び修飾mRNAナノ複合体の調製と特性評価
ナノ複合体を調製するために、等量のRNA溶液をポリマー溶液に添加し、穏やかに混合し、室温で30分間インキュベートした。ポリマーとRNAの両方を20 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH=5.2)に溶解させた。様々なポリマーとmRNAとの比を使用して、ナノ複合体を作製した。N/P比は、自己増幅型mRNAナノ複合体の場合は、N/P比 40、20、10、5、1及び0.2であり、mod-mRNAナノ複合体の場合は、N/P比 30、15、8、4、0.8、0.2であった。続いて、自己増幅型及び修飾mRNAナノ複合体のサイズ及びゼータ電位を、動的光散乱(Zetasizer Nano、Malvern Instruments、モルバーン、英国)を使用して測定した。ゼータ電位は、表面電荷、ひいては懸濁液中の荷電粒子の安定性の典型的な尺度である。典型的には、少なくとも約20のゼータ電位は、該粒子が良好な安定性を有することを示す。
【0057】
細胞培養及びトランスフェクション手順
HeLa細胞を培地で培養して、37℃、5% CO2の加湿インキュベータ中で維持した。培地は、10%のウシ胎児血清(Biowest、カリフォルニア、米国)、5.000 ユニット/mLのペニシリン及び5.000 μg/mLのストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Gibco、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)からなるものであった。自己増幅型又は修飾mRNAによるトランスフェクションの1日前に、HeLa細胞を50000細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。翌日(すなわち、24時間後)、培地をopti-MEMに変え、500 ngのRNAを含む20 μLのポリマー:RNA複合体溶液を各ウェルに添加した。トランスフェクションの24時間後に、ルシフェラーゼの発現を生物発光画像法で分析した。この目的のため、細胞をトリプシン処理し、中和した細胞懸濁液の一部(60%)を黒色の96ウェルプレートに移した。D-ルシフェリン溶液(50 mg/ml;最終ウェル容量の10%)を各ウェルに添加し、10分間インキュベートした。続いて、放出された生物発光を、IVIS lumina II(Xenogen Corporation、アラメダ、カリフォルニア、米国)を使用して測定した。様々な比での参照担体Lipofectamine MessengerMax(Thermo Fischer Scientific)によるトランスフェクションを、24ウェル当たり500 ngのRNAを使用して同様に行った。
【0058】
siRNAナノ複合体の調製及びin vitroでのサイレンシング効果
ポリマーのsiRNA送達能力を評価するために、等量のsiRNA溶液をポリマー溶液に添加し、穏やかに混合し、室温で30分間インキュベートすることにより、siRNAナノ複合体を調製した。ポリマーとsiRNAの両方を20 mM酢酸ナトリウムバッファー(pH=5.2)に溶解させた。siRNAの最終濃度は10 nMであった。様々なポリマー(PEI/PPI DP 50/200)とsiRNAとの比を使用して、siRNAナノ複合体を作製した。続いて、これらのsiRNAナノ複合体を2つのプロトコルで試験した。
【0059】
一連の1つ目の実験においては、PEI/PPI siRNAナノ複合体によるルシフェラーゼレプリコンのコトランスフェクションをHeLa細胞において行った。HeLaは上述のように培養した。PEI/PPI(50/200)に基づくレプリコンmRNA及びsiRNAナノ複合体によるコトランスフェクションの1日前に、HeLa細胞を24ウェルプレートに50000細胞/ウェルの密度で播種した。翌日(すなわち、24時間後)、培地をOpti-MEMに変え、PEI/PPI(DP 50/200)をN/P比5で使用して、500 ngのルシフェラーゼをコードするレプリコンで細胞をトランスフェクトした。30分後、6 pmolのsiRNAを含むPEI/PPI siRNAナノ複合体を細胞に添加した。24時間後、上述した通り、IVIS lumina II画像化システムを使用してmRNAについてルシフェラーゼを測定した。対照として、ルシフェラーゼレプリコンのみ、又はルシフェラーゼレプリコンと、調査したうちの最高N/P比で作製したスクランブルsiRNAを含むPEI/PPIナノ複合体とで処理された細胞を使用した。後者の比が最も高い細胞毒性を示すと予想される。
【0060】
一連の2つ目の実験においては、安定発現ホタルルシフェラーゼであるSKOV3-Luc細胞を使用した。これらの細胞を、37℃、5% CO2の加湿インキュベータ中で、10%のウシ胎児血清(Biowest、カリフォルニア、米国)、5.000 ユニット/mLのペニシリン及び5.000 μg/mLのストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)を添加したMcCoyの5A(修飾)培地(Gibco、Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ、米国)で培養した。PEI/PPI(50/200)に基づくsiRNAナノ複合体によるトランスフェクションの1日前に、SKOV-3-Luc細胞を50000細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに播種した。翌日(すなわち、24時間後)、培地をopti-MEMに変え、6 pmolのsiRNAを含む20 μLのPEI/PPI(50/200)ポリマーsiRNAナノ複合体溶液を各ウェルに添加した。トランスフェクションの36時間後、上述した通り、IVIS lumina II画像化システムを使用してmRNAについてルシフェラーゼ発現を分析した。
【0061】
細胞生存率
トランスフェクション実験の24時間後の細胞生存率は、Cell Proliferation Reagent WST-1(Roche)を使用して求めた。トリプシン処理後、中和した容量の一部(6.66%)を透明なELISAプレートに移し、製造元の指示に従ってWST-1溶液を添加した。30分間のインキュベーション後、プレートをプレートシェーカーで1分間振盪し、EZ Read 400 microplate reader(Biochrom)を使用して450 nm(参照620 nm)での吸光度を測定した。
【0062】
in vivoでのトランスフェクション
自己増幅型mRNAと、L-PEI/PPIポリマー(DP 50/200)とを含むナノ複合体のin vivoでのトランスフェクション効率を、首又は翼への局所注射後のニワトリで調査した。この目的のために、in vitro実験で説明したように、自己増幅型mRNA-PEI-PPIナノ複合体をN/P比5で調製した。続いて、5 μgの自己増幅型mRNA(ルシフェラーゼをコードする)を含むナノ複合体を首又は翼に注射した。2日後、ニワトリにD-ルシフェリンを注射し、続いて安楽死させ、IVIS lumina IIで画像化した。
【0063】
結果
トランスフェクション効率の測定値
図1~
図7に、自己増幅型mRNAナノ複合体又は修飾mRNAナノ複合体を用いて行ったin vitroでのトランスフェクション効率試験の結果を示す。様々なN/P比でポリマーと核酸とを含む組成物を調製した。より具体的には、N/P比は、0.2、1、5、10、20及び40とした。バッファーのみを含み、したがってナノ複合体を含まない対照溶液も調製した(controle、ctrl)。
【0064】
図1に、自己増幅型mRNAと、250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。この図から、それぞれの場合において、トランスフェクション効率が対照と比較して高いことが分かる。1~10、特に5~10のN/P比を有する組成物の場合に、特に高いトランスフェクション効率が達成される。
【0065】
図2に、自己増幅型mRNAと、250のDPを有する直鎖状PEI(L-PEI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。N/P比10及びN/P比5の場合の第1の組成物の生物発光強度、したがってトランスフェクション効率は、第2の組成物の蛍光強度を大きく超えることに留意することが重要である。PPIについて得られた結果とは対照的に、PEIの場合は、N/P比40の場合を除いた様々な組成物について、対照と比較してトランスフェクション効率の増加は観察されない。
【0066】
図3に、自己増幅型mRNAと、50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。したがって、上記PEIの重合度と上記PPIの重合度とは1:4の比である。この場合も、全ての組成物について、対照と比較してトランスフェクション効率の増加が観察され、5超のN/P比を有する組成物の場合に特に高いトランスフェクション効率が得られる。
【0067】
図4に、自己増幅型mRNAと、200/50のDP(4:1の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。PPIに富む第1の組成物の生物発光強度は、試験した各N/P比について、第2の組成物の生物発光強度を大きく超えることに留意することが重要である。したがって、L-PPIに富む第1の組成物は、L-PPIを含むがL-PEIを含まない組成物(その結果は
図1の左側に示されている)よりも更に高いトランスフェクション効率を示す。
【0068】
図5に、自己増幅型mRNAと、100/150のDP(2:3の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。この図から、過剰なPPIが、試験した組成物のトランスフェクション効率に有益な効果をもたらすことが再度分かる。
【0069】
図6に、自己増幅型mRNAと、150/100のDP(3:2の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。この図から、組成物中の過剰なPEIが、試験した組成物のトランスフェクション効率に実質的に影響を及ぼさないことが確認される。
【0070】
図7に、修飾mRNAと、250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)とを含む組成物のトランスフェクション結果を示す。この図から、0.8~30のN/P比で、対照(ctrl)と比較してトランスフェクション効率が増加していることが分かる。1~10のN/P比を有する組成物の場合に、特に高いトランスフェクション効率が達成される。このグラフには、現行の技術水準のトランスフェクション剤であるlipofectamine MessengerMax(MM)を使用して行ったin vitroでのトランスフェクションの結果も示す。この脂質担体と修飾mRNAとを(2 μl MM:1 μg mod-mRNAの比で)含む組成物は、典型的には、1×10
6~1×10
7のトランスフェクション効率をもたらした。修飾非複製mRNAを使用する場合、本発明の組成物は少なくともMMと同等に効率的であると結論付けることができる。
【0071】
図8に、siRNAと、50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のHeLa細胞におけるトランスフェクション結果を示す。この図から、スクランブルsiRNA又はルシフェラーゼをコードするレプリコンのみを受け取ったHeLa細胞(neg.Ctrl.)と比較して、siRNAを介したサイレンシングが1~0.2のN/P比で最も効率的であることが分かる。データは、ルシフェラーゼをコードするレプリコンでコトランスフェクトされたHeLa細胞にsiRNAナノ複合体を添加することにより得た。より低い発現(総フラックス)は、siRNAの良好な細胞内送達及びその後の標的ルシフェラーゼmRNAのシグナル伝達を示す。
【0072】
図9に、siRNAと、50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のSKOV-3-Luc細胞におけるトランスフェクション結果を示す。この図から、siRNAを介したサイレンシングが5以下のN/P比で最も効率的であることが分かる。SKOV-3-Luc細胞はルシフェラーゼを安定して発現する。より低い発現(総フラックス)は、siRNAの良好な細胞内送達及びその後の標的ルシフェラーゼmRNAのシグナル伝達を示す。
【0073】
全体としては、結果から、L-PEIに富む組成物と比較して、L-PPIに富む組成物のトランスフェクション効率が高いことが分かる。さらに、結果から、組成物が修飾mRNA及びsiRNAと共にin vivoでも効果を発揮することが分かる。
【0074】
化合物の物理化学的性質
ゼータ電位
図10に、自己増幅型mRNAと、250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)とを含む組成物のゼータ電位の測定値を示す。図示されるように、少なくとも5のN/P比を有する組成物は優れたゼータ電位を有し、安定した配合物であると考えられる。
【0075】
図11に、自己増幅型mRNAと、50/200のDP(1:4の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物のZ電位の測定値を示す。図示されるように、少なくとも5のN/P比を有する組成物は優れたゼータ電位を有し、安定した配合物であると考えられる。
【0076】
サイズ測定
図12に、250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)とレプリコンRNA(自己増幅型mRNA)とを含む組成物のサイズ測定結果を示す。1以下のN/P比を有する組成物は、より高いN/P比を有する組成物と比較して、より高いZ平均を有することが分かった。いくつかの用途では、小さな平均粒子径が有益な場合がある。
【0077】
図13に、修正mRNAと、250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)とを含む組成物のサイズ測定結果を示す。0.2以下のN/P比を有する組成物は、より高いN/P比を有する組成物と比較して、より高いZ平均を有することが分かった。いくつかの用途では、小さな平均粒子径が有益な場合がある。
【0078】
図14に、自己増幅型mRNAと、50/200のDP(1:4の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)と、レプリコンRNAとを含む組成物のサイズ測定結果を示す。PPIに富むコポリマーの場合、5~20のN/P比を有する組成物の場合に、小さな平均粒子径が得られる。
【0079】
細胞生存率
図15に、自己増幅型mRNAと、250のDPを有する直鎖状PPI(L-PPI)とを含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。図から明らかなように、N/P比が小さくなるほど、組成物の毒性は低くなる。
【0080】
図16に、自己増幅型mRNAと、250のDPを有する直鎖状PEI(L-PEI)とを含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。PPIに対して得られた結果とは対照的に、N/P比は、PEIを多量に含む組成物の毒性に大きな影響を及ぼさない。
【0081】
図17に、自己増幅型mRNAと、50/200のDP(1:4の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。コポリマーの場合も、N/P比が小さくなるほど、組成物の毒性は低くなる。
【0082】
図18に、自己増幅型mRNAと、200/50のDP(4:1の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。PPIに対して得られた結果とは対照的に、N/P比は、PEIを多量に含む組成物の毒性に大きな影響を及ぼさない。
【0083】
図19に、自己増幅型mRNAと、100/150のDP(2:3の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。コポリマーの場合も、N/P比が小さくなるほど、組成物の毒性は低くなる。
【0084】
図20に、自己増幅型mRNAと、150/100のDP(3:2の比)を有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。PPIに対して得られた結果とは対照的に、N/P比は、PEIを多量に含む組成物の毒性に大きな影響を及ぼさない。
【0085】
図21に、現行の技術水準のトランスフェクション剤であるlipofectamine MessengerMax(MM)を使用して行ったin vitroでのトランスフェクション効率試験のトランスフェクション結果を示す。この脂質担体と核酸とを様々な比で含む組成物を調製した。表示する比はμl MM:μg mRNAである。バッファーのみを含み、したがってナノ複合体を含まない対照溶液も調製した(controle)。MMを用いて観察される典型的なトランスフェクション効率は、1×10
6~1×10
7である。
図1及び
図3から明らかなように、本発明の組成物は、少なくとも同等に効率的であるか、又は更に良好である、すなわち、1×10
7~1×10
8のトランスフェクション効率に達する。
【0086】
図22に、lipofectamine MessengerMax(MM)を2:1の比(μl MM:μg mRNA)で含む組成物で24時間トランスフェクションした後の細胞生存率を示す。MMは約30%の細胞生存率しか達成しないことが分かった。これとは対照的に、
図15~
図20から明らかなように、本発明の組成物によって50%超、更には100%近い細胞生存率を達成することができる。細胞生存率は24時間のトランスフェクション期間後に測定されたことに留意することが重要である。
【0087】
in vivo実験
また、ルシフェラーゼをコードする自己増幅型mRNAと、50/200のDPを有する直鎖状PEIと直鎖状PPIとのコポリマー(L-PEI/L-PPI)とを含む組成物を使用して、in vivoでのトランスフェクション実験をニワトリで行った。D-ルシフェリンの光生成酵素変換にはATPが必要であり、安楽死後に急激な低下を示すことが知られており、可視生物発光シグナルは実際のシグナルを過小評価することが多いため、安楽死直後に生物発光画像を撮影した。結果は、注射されていない対照ニワトリと比較して、トランスフェクトされたニワトリにおいて明確な生物発光シグナルが得られた(データは不図示)。
【0088】
図面訳
図1
Total flux(photons/s) 総フラックス(光子数/秒)
controle 対照
図2
Total flux(photons/s) 総フラックス(光子数/秒)
controle 対照
図3
Total flux(photons/s) 総フラックス(光子数/秒)
controle 対照
図4
Total flux(photons/s) 総フラックス(光子数/秒)
controle 対照
図5
Total flux(photons/s) 総フラックス(光子数/秒)
controle 対照
図6
Total flux(photons/s) 総フラックス(光子数/秒)
controle 対照
図7
Total Flux (p/s) 総フラックス(光子数/秒)
ctrl 対照
図8
Total Flux [p/s] 総フラックス(光子数/秒)
Neg.Ctrl 陰性対照
ScrambledsiRNA-Polymer N/P 2,5 スクランブルsiRNA-N/P比2.5のポリマー
図9
Total Flux [p/s] 総フラックス(光子数/秒)
図10
Zeta potential ゼータ電位
図11
Zeta potential ゼータ電位
図12
Z-average Z平均
図13
Z-average Z平均
図14
Z-average Z平均
図15
Viability 生存率
図16
Viability 生存率
図17
Viability 生存率
図18
Viability 生存率
図19
Viability 生存率
図20
Viability 生存率
図21
Total flux (fotons/s) 総フラックス(光子数/秒)
Ratio 比
controle 対照
図22
cell viability 細胞生存率
【国際調査報告】