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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20230208BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20230208BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20230208BHJP
   B23P 15/28 20060101ALI20230208BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230208BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20230208BHJP
   C23C 14/35 20060101ALI20230208BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23B27/14 B
B23C5/16
B23B51/00 J
B23P15/28 A
C23C14/06 A
C23C14/34 A
C23C14/35 Z
C23C28/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537090
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2020086659
(87)【国際公開番号】W WO2021122905
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】19218134.5
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506297474
【氏名又は名称】ヴァルター アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エンゲルハート, ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】シーア, ファイト
(72)【発明者】
【氏名】マイフシャク, スベン
【テーマコード(参考)】
3C037
3C046
4K029
4K044
【Fターム(参考)】
3C037CC02
3C037CC04
3C037CC09
3C046FF03
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF16
3C046FF19
3C046FF23
3C046FF24
3C046FF25
3C046FF32
3C046FF39
3C046FF44
3C046FF48
3C046FF52
3C046FF57
4K029AA02
4K029AA04
4K029BA58
4K029BD05
4K029CA06
4K029DC04
4K029DC39
4K029EA03
4K029EA08
4K044AA09
4K044AB10
4K044BA12
4K044BA18
4K044BB06
4K044BC06
4K044CA13
4K044CA67
(57)【要約】
本発明は、被覆切削工具およびその生産方法に関し、被覆切削工具は、WC-Co系超硬合金の基材本体およびコーティングからなり、コーティングは、第1の(Ti,Al)N多層、第1のガンマ-酸化アルミニウム層、および交互に配置された第2の(Ti,Al)N多層と第2のガンマ-酸化アルミニウム層のセットを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材本体(5)およびコーティング(6)からなる被覆切削工具(1)であって、基材本体(5)は、5~15重量%のCoを含むWC-Co系超硬合金本体であり、コーティング(6)は、基材本体(5)表面から順に、
交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層である第1の(Ti,Al)N多層(7)(ここで、
-第1の(Ti,Al)N多層(7)内のTi:Alの全原子比率は33:67~67:33であり;
-第1の(Ti,Al)N多層の総厚は1~8μmであり;
-第1の(Ti,Al)N多層(7)内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nmの厚さを有し;
-第1の(Ti,Al)N多層(7)内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なり;
-第1の(Ti,Al)N多層(7)は、互いに直接上下に配置された2つ以上の(Ti,Al)N副層スタックを含み、同じ(Ti,Al)N副層スタック内に少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層が存在し、少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層は異なるTi:Al原子比率を有し、(Ti,Al)N副層スタックの各々内の全Al含有量は、コーティングの外面に向かう方向に1つの(Ti,Al)N副層スタックから次の(Ti,Al)N副層スタックへと増加する)、
第1のガンマ-酸化アルミニウム層(8)(ここで、
-第1のガンマ-酸化アルミニウム層(8)の厚さは0.3~1.5μmである)、および
交互に配置された第2の(Ti,Al)N多層(9)と第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)のセット(ここで、
-第2の(Ti,Al)N多層(9)および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の各々の数は2以上であり;
-第2の(Ti,Al)N多層(9)の各々は、交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層であり、
-第2の(Ti,Al)N多層(9)内のTi:Alの全原子比率は33:67~67:33の範囲内であり;
-第2の(Ti,Al)N多層(9)の各々の厚さは0.05~0.5μmであり;
-第2の(Ti,Al)N多層(9)内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nm、好ましくは2~10nmの範囲内の厚さを有し;
-第2の(Ti,Al)N多層(9)内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なり;
-第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の各々の厚さは0.05~0.5μmである)
を含み、
被覆切削工具(1)のコーティング(6)全体の総厚は3~15μmである、被覆切削工具。
【請求項2】
基材本体(5)の表面ゾーンが、少なくとも0.5GPaの残留圧縮応力を示す、請求項1に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項3】
個々の(Ti,Al)N副層の種類のうちの最高のAl含有量を有する、第1の(Ti,Al)N多層(7)の個々の(Ti,Al)N副層の種類の原子比率Ti:Alが、好適には20:80~60:40の範囲内である、請求項1から2のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項4】
個々の(Ti,Al)N副層の種類のうち最低のAl含有量を有する、第1の(Ti,Al)N多層(7)の個々の(Ti,Al)N副層の種類の原子比率Ti:Alが、好適には35:65~80:20の範囲内である、請求項1から3のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項5】
第1の(Ti,Al)N多層(7)の各(Ti,Al)N副層スタックの厚さが、0.5~5μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項6】
第1の(Ti,Al)N多層(7)が、互いに直接上下に配置された2~5つの(Ti,Al)N副層スタックからなる、請求項1から5のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項7】
第1の(Ti,Al)N多層(7)が、2800以上のビッカース硬さHV0.0015および/または350GPa超の換算ヤング率を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項8】
基材本体(5)に向かう方向に配置された(Ti,Al)N多層の接触面から第1の(Ti,Al)N多層(7)内の少なくとも100nmから最大1μmの厚さの部分内に、0.5~2GPaの残留圧縮応力が存在する、請求項1から7のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項9】
ガンマ-酸化アルミニウム層(8)のビッカース硬さHV(0.0015)が3000~3500HV0.0015であり、ガンマ-酸化アルミニウム層(8)の換算ヤング率が350~390GPaである、請求項1から8のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項10】
コーティングが、金属窒化物層である最外層(11)を含み、金属が、元素周期律表の第4族、第5族、または第6族に属し、好ましくはZr、TiまたはCrである、請求項1から9のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項11】
フライス加工用の切削インサート、旋削加工用の切削インサート、ドリル加工用の切削インサート、ドリルまたはエンドミルである、請求項1から10のいずれか一項に記載の被覆切削工具(1)。
【請求項12】
基材本体(5)および堆積したコーティング(6)からなる被覆切削工具(1)の生産のための方法であって、
-5~15重量%のCoを含むWC-Co系超硬合金本体である基材本体(5)を準備する工程と;
-基材本体(5)の少なくとも0.5μmの厚さが除去されるように、基材本体(5)の表面をイオンエッチング手順である前処理に供する工程と;
-5~15Pa、好ましくは7~12Paの圧力で、-20~-80V、好ましくは-35~-65Vのバイアス電圧を使用して、50~200A、好ましくは100~150Aの印加アーク電流で、窒素ガスを含むチャンバ内においてTi:Al原子比率が異なる少なくとも2つのTiAlターゲットを使用するカソード・アーク・エバポレーションPVD法によって、第1のTiAlN多層(7)である1~8μmの厚さの層を堆積させる工程であって、(Ti,Al)N多層(7)は交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層であり、ターゲットの原子Ti:Al比率は、Ti:Alの全原子比率が33:67~67:33であるように選択され、個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nmの範囲内の厚さを有し、個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なり、(Ti,Al)N多層(7)は、互いに直接上下に配置された2つ以上の(Ti,Al)N副層スタックを含むように堆積され、同じ(Ti,Al)N副層スタック内に少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層が存在し、少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層は異なるTi:Al原子比率を有し、(Ti,Al)N副層スタックの各々内の全Al含有量は、第1の(Ti,Al)N多層(7)の外面に向かう方向に1つの(Ti,Al)N副層スタックから次の(Ti,Al)N副層スタックへと増加する、1~8μmの厚さの層を堆積させる工程と;
-1~5Paの全ガス圧、0.001~0.1Paの酸素分圧、400~600℃の温度で、4~20W/cmのマグネトロンでの電力密度、80~200Vのバイアス電圧、および20~60Aのパルスバイアス電流を使用し、酸素含有ガス体積中、少なくとも1つのAlターゲットを使用する反応性マグネトロンスパッタリングPVD法によって、第1のガンマ-酸化アルミニウム層(8)である0.3~1.5μmの厚さの層を堆積させる工程と;
-第2の(Ti,Al)N多層(9)および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の交互層のセットを堆積させる工程であって、第2の(Ti,Al)N多層(9)および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)は、それぞれ第1の(Ti,Al)N多層(7)および第1のガンマ-酸化アルミニウム層(8)を堆積させるときと同じ工程条件を使用して堆積され、第2の(Ti,Al)N多層(9)および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の各々の数は2以上であり、第2の(Ti,Al)N多層(9)の各々は交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層であり、第2の(Ti,Al)N多層(9)内のTi:Alの全原子比率は33:67~67:33であり、第2の(Ti,Al)N多層(9)の厚さは0.05~0.5μmであり、第2の(Ti,Al)N多層(9)内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nmの厚さを有し、第2の(Ti,Al)N多層(9)内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なり、第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の厚さは、0.05~0.5μmである、第2の(Ti,Al)N多層(9)および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の交互層のセットを堆積させる工程と
を含み、被覆切削工具(1)の堆積したコーティング(6)全体の総厚は、3~15μmであり;方法がさらに、
-少なくとも0.5GPaの圧縮応力が基材本体(5)の表面ゾーンに誘起されるように、堆積したコーティング(6)を、酸化ジルコニウム系セラミックのビーズを使用するショットピーニングを含む第1の後処理手順に供する工程と;
-酸化アルミニウム粒子のスラリーを用いたウェットブラストによって、堆積したコーティング(6)を第2の後処理手順に供する工程と
を含む方法。
【請求項13】
第2の(Ti,Al)N多層(9)および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の交互層のセットの堆積後、第1の後処理手順の前に堆積される最外層(11)があり、最外層(11)が金属窒化物層であり、金属が元素周期律表の第4族、第5族、または第6族に属し、好ましくはZr、TiまたはCrである、請求項13に記載の方法。
【請求項14】
ショットピーニングに使用されるビーズが、70~125μmの範囲のサイズ内であり、ショットピーニングが、3~6バールのブラスト圧を使用して実施され、ショットピーニングにおける作業時間が、2~10秒であり、ブラストノズルと被覆切削工具(1)の表面との間の距離が、75~150mmであり、ショットピーニングが、被覆切削工具(1)の表面に対して実質的に垂直なショット方向で実施される、請求項12から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第2の後処理手順が、1.5~2バールのブラスト圧力を使用するウェットブラストを含み、スラリー中の酸化アルミニウム粒子の濃度が15~20体積%であり、ウェットブラストに使用される酸化アルミニウム粒子がFEPA名称F240、F280およびF320のうちの1つまたは複数に属し、ウェットブラストにおけるブラスト時間が2~60秒であり、ブラストガンノズルと被覆切削工具(1)の表面との間の距離が50~200mmであり、ウェットブラストが、被覆切削工具(1)の表面に対する角度が60~90°であるブラスト方向で実施される、請求項12から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ウェットブラストが、コーティングの厚さ全体に平均化された場合に、少なくとも0.2GPaの残留圧縮応力がコーティング(6)内に誘起されるまで行われる、請求項12から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金の基材本体と、基材に適用された耐摩耗性コーティングとを含む被覆切削工具に関する。本発明はさらに、そのような被覆切削工具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属切削のための切削工具は、一般に、CVD法(化学蒸着)またはPVD法(物理蒸着)によって、基材上に堆積した様々な層の組合せの耐摩耗性コーティングを有する超硬合金製の基材本体からなる。これに関係して、切削工具は、一般に、すくい面と、逃げ面と、その間の刃先とを有する。切削工具の形状およびジオメトリは、目的の金属切削作業に依存する。切削工具の例は、フライス加工インサート、旋削加工インサート、ドリル、およびエンドミルである。
【0003】
例えば、カソードスパッタリング、カソード真空アークエバポレーション、およびイオンプレーティングなどの異なるコーティング特性をもたらす様々な異なる種類のPVD法が存在する。マグネトロンスパッタリング、反応性マグネトロンスパッタリングおよび高出力インパルス・マグネトロン・スパッタリング(HIPIMS)などのカソードスパッタリングならびにアークエバポレーションは、切削工具のコーティングに最も頻繁に使用されるPVD法に属する。
【0004】
工具に対する様々な摩耗プロセスは、最終的には工具の性能を低下させ、新しいものに交換する必要がある。したがって、金属切削のための被覆切削工具を調製する場合、主要な目標は、工具が可能な限り長く使用できければならないこと、すなわち、工具寿命が可能な限り長くなければならないことである。また、切削作業において高い切削速度を使用することが可能でなければならない。高い切削速度は多くの熱を発生するため、これは、例えば、切削工具、特にコーティングの耐熱性が高くなければならないことを意味する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、一般に高い耐摩耗性を有し、フライス加工、旋削加工およびドリル加工などの金属機械加工、特に鋼のフライス加工において長い工具寿命を与える被覆切削工具を提供することである。本発明の被覆切削工具はまた、コーティングが剥がされることなく厳密な表面処理を可能にすべきである。
【0006】
発明
本発明は、基材本体およびコーティングからなる被覆切削工具に関し、基材本体は、5~15重量%のCoを含むWC-Co系超硬合金本体であり、コーティングは、基材表面から順に、
交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層である第1の(Ti,Al)N多層(ここで、
-第1の(Ti,Al)N多層内のTi:Alの全原子比率は33:67~67:33である;
-第1の(Ti,Al)N多層の総厚は1~8μmである;
-第1の(Ti,Al)N多層内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nmの厚さを有する;
-第1の(Ti,Al)N多層内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なる;
-第1の(Ti,Al)N多層は、互いに直接上下に配置された2つ以上の(Ti,Al)N副層スタックを含み、同じ(Ti,Al)N副層スタック内に少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層が存在し、少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層は異なるTi:Al原子比率を有し、(Ti,Al)N副層スタックの各々内の全Al含有量は、コーティングの外面に向かう方向に1つの(Ti,Al)N副層スタックから次の(Ti,Al)N副層スタックへと増加する)と
第1のガンマ-酸化アルミニウム層(ここで、
-第1のガンマ-酸化アルミニウム層の厚さは0.3~1.5μmである)
および
交互に配置された第2の(Ti,Al)N多層と第2のガンマ-酸化アルミニウム層のセット(ここで、
-第2の(Ti,Al)N多層および第2のガンマ-酸化アルミニウム層(10)の各々の数は2以上である;
-第2の(Ti,Al)N多層の各々は、交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層である、
-第2の(Ti,Al)N多層内のTi:Alの全原子比率は33:67~67:33の範囲内である;
-第2の(Ti,Al)N多層の各々の厚さは0.05~0.5μmである;
-第2の(Ti,Al)N多層内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nm、好ましくは2~10nmの範囲内の厚さを有する;
-第2の(Ti,Al)N多層内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なる;
-第2のガンマ-酸化アルミニウム層の各々の厚さは0.05~0.5μmである)と
を含み、被覆切削工具のコーティング全体の総厚は3~15μmである。
【0007】
一実施形態では、基材本体の表面ゾーンは、少なくとも0.5GPa、好ましくは少なくとも0.8GPa、最も好ましくは1~2GPaの残留圧縮応力を示す。
【0008】
本明細書では、基材本体の表面ゾーンとは、基材本体の最上部を意味し、残留応力測定法に使用されるX線が透過する基材本体の表面からの距離である。
【0009】
好ましくは、第1の(Ti,Al)N多層のコーティングの外面に向かう方向に、1つの(Ti,Al)N副層スタックから次の(Ti,Al)N副層スタックへの(Ti,Al)N副層スタックの各々内での全Al含有量の増加は、隣接する(Ti,Al)N副層のいくつかのペアにわたる原子比率Ti:Alが、1つの副層スタックの隣接する(Ti,Al)N副層のいくつかのペアにわたって一定のままであり、次いで原子比率Ti:Alが、さらなる副層スタックの隣接する(Ti,Al)N副層の次のいくつかのペアにおいて相当な量で低下することを含む。
【0010】
第1の(Ti,Al)N層の同じ(Ti,Al)N副層スタック内には、好適には2~5種類、好ましくは2~4種類、最も好ましくは2種類の個々の(Ti,Al)N副層が存在し、異なる種類の個々の(Ti,Al)N副層は異なるTi:Al原子比率を有する。
【0011】
第1の(Ti,Al)N多層内のTi:Alの全原子比率は、好適には33:67~50:50、好ましくは35:65~45:55である。
【0012】
第1の(Ti,Al)N多層の個々の(Ti,Al)N副層が非常に薄い場合、Ti:Al比率が異なる2つの隣接する副層の間にはっきりとした境界が存在しない可能性がある。代わりに、周期的に(Ti,Al)N多層の厚さにわたってTi:Al比率が徐々に変化してもよい。このため、本明細書では、副層のTi:Al比率は、副層の途中に存在するTi:Al比率であると考えられる。
【0013】
一実施形態では、個々の(Ti,Al)N副層の種類のうちの最高のAl含有量を有する、第1の(Ti,Al)N多層の個々の(Ti,Al)N副層の種類の原子比率Ti:Alは、20:80~60:40、好ましくは25:75~50:50、最も好ましくは30:70~40:60である。
【0014】
一実施形態では、個々の(Ti,Al)N副層の種類のうちの最低のAl含有量を有する、第1の(Ti,Al)N多層の個々の(Ti,Al)N副層の種類の原子比率Ti:Alは、35:65~80:20、好ましくは40:60~65:35、最も好ましくは45:55~55:45である。
【0015】
一実施形態では、第1の(Ti,Al)N多層の同じ(Ti,Al)N副層スタック内に、2~5つ、好ましくは2~3つ、最も好ましくは2つの異なる種類の個々の(Ti,Al)N副層が存在し、同じ種類の(Ti,Al)N副層は、Ti:Al原子比率に関して同じ組成を有し、異なる種類の個々の(Ti,Al)N副層は、異なるTi:Al原子比率を有する。
【0016】
好適には、交互に配置された(Ti,Al)N副層の第1の(Ti,Al)N多層内での個々の(Ti,Al)N副層の各々は、2~10nmの厚さを有する。
【0017】
第1の(Ti,Al)N多層の総厚は、好適には2~7μmである。一実施形態では、フライス加工用途に特に適した、第1の(Ti,Al)N多層の総厚は2~5μmである。別の実施形態では、旋削加工用途に特に適した、第1の(Ti,Al)N多層の総厚は5~7μmである。
【0018】
一実施形態では、第1の(Ti,Al)N層の各(Ti,Al)N副層スタックの厚さは、0.5~5μm、好適には1~3.5μm、好ましくは1~2.5μmである。
【0019】
好適には、第1の(Ti,Al)N多層は、互いに直接上下に配置された2~5つ、好ましくは2~3つ、最も好ましくは2つの(Ti,Al)N副層スタックからなる。
【0020】
一実施形態では、第1の(Ti,Al)N多層は、2800以上、好ましくは3000以上のビッカース硬さHV0.0015を有する。ビッカース硬さHV0.0015の上限は、好適には最大3500である。
【0021】
一実施形態では、第1の(Ti,Al)N多層は、350GPa超、好ましくは400GPa超、より好ましくは420GPa超の換算ヤング率を有する。換算ヤング率の上限は、好適には最大520GPaである。
【0022】
本発明の一実施形態では、第1の(Ti,Al)N多層は基材表面に直接堆積される、すなわち、(Ti,Al)N多層は基材表面と直接接触し、基材表面との接触面を有する。
【0023】
一実施形態では、基材本体に向かう方向に配置された(Ti,Al)N多層の接触面から第1の(Ti,Al)N多層内での少なくとも100nmから最大1μmの厚さの部分内に、0.5~2GPa、好ましくは0.8~1.5GPaの残留圧縮応力が存在する。
【0024】
第1の(Ti,Al)N多層の残留応力は、(111)反射に基づくsinΨ法を適用したX線回折によって適切に測定される。XRDは常に層材料へのある程度の侵入深さにわたって測定するので、基材または(Ti,Al)N多層のすぐ下の層とのまさに接触面においてのみで、第1の(Ti,Al)N多層の残留応力を測定することは不可能である。したがって、本発明の意味において、残留応力は、基材に向かう方向に配置された(Ti,Al)N多層の接触面から第1の(Ti,Al)N多層内での少なくとも100nmから最大1μm、好ましくは最大750nm、より好ましくは最大500nm、最も好ましくは最大250nmまでの厚さの部分内で測定される。接触面から最初の100nmから最大1μmまで内の残留応力は、第1の(Ti,Al)N多層の上のコーティング材料を除去し、次いで(Ti,Al)N多層の厚さが減少するようにコーティング材料をさらに除去することによって測定することができる。残りの(Ti,Al)N多層材料内の残留応力を有意には変化させない材料の除去方法を選択し適用するように注意しなければならない。堆積したコーティング材料の除去のための適切な方法は研磨であってもよいが、微粒子研磨剤を使用する穏やかでゆっくりとした研磨が適用されるべきである。粗粒研磨剤を使用する強力な研磨は、当該技術分野で公知であるように、圧縮残留応力をむしろ増加させる。堆積したコーティング材料の除去のための他の適切な方法は、イオンエッチングおよびレーザーアブレーションである。
【0025】
一実施形態では、(i)基材本体に向かう方向に配置された(Ti,Al)N多層の接触面から第1の(Ti,Al)N多層内の少なくとも100nmから最大1μmの厚さの部分の、および(ii)基材本体の表面ゾーンの残留応力の絶対値間の差は、400MPa以下、好ましくは200MPa以下である。
【0026】
(Ti,Al)N副層スタック間の全Al含有量の差は、いくつかの方法で、個別にまたは組み合わせて達成することができる。例えば、Al含有量の増加は、堆積プロセスの進行中にある特定量のAlおよびTiを含有するターゲットの種類および数を選択することによって達成することができる。さらに、堆積されるコーティング層のAlおよびTi含有量は、バイアスおよびアーク電流などの堆積条件を変えることによって変えることができる。
【0027】
また、第1の(Ti,Al)N多層の厚さにわたるAl含有量の増加は、より低いAl含有量を有する個々の(Ti,Al)N副層の厚さよりも、より高いAl含有量を有する個々の(Ti,Al)N副層の厚さを増加させることによって達成することができる。
【0028】
第1の(Ti,Al)N多層の厚さにわたるAl含有量の増加は、(Ti,Al)N多層の部分間に異なる残留応力をもたらし得る。また、第1の(Ti,Al)N多層内の残留応力は、バイアスおよびアーク電流などの堆積条件を変えることによって影響を受け得る。
【0029】
好適には、第1のガンマ-酸化アルミニウム層の厚さは、0.4~1μm、好ましくは0.5~0.8μmである。
【0030】
第2の(Ti,Al)N多層内のTi:Alの全原子比率は、好適には33:67~50:50、好ましくは35:65~45:55である。
【0031】
好適には、第2の(Ti、Al)N多層の各々の厚さは0.1~0.4μmである。
【0032】
一実施形態では、第2の(Ti,Al)N多層は、2~5種類、好ましくは2~4種類、最も好ましくは2種類の個々の(Ti,Al)N副層を含み、異なる種類の個々の(Ti,Al)N副層は異なるTi:Al原子比率を有する。
【0033】
好適には、交互に配置された(Ti,Al)N副層の第2の(Ti,Al)N多層内での個々の(Ti,Al)N副層の各々は、2~10nmの厚さを有する。
【0034】
第2の(Ti,Al)N多層の個々の(Ti,Al)N副層が非常に薄い場合、Ti:Al比率が異なる2つの隣接する副層の間にはっきりとした境界が存在しない可能性がある。代わりに、周期的に(Ti,Al)N多層の厚さにわたってTi:Al比率が徐々に変化してもよい。このため、本明細書では、副層のTi:Al比率は、副層の途中に存在するTi:Al比率であると考えられる。
【0035】
一実施形態では、個々の(Ti,Al)N副層の種類のうちの最高のAl含有量を有する、第2の(Ti,Al)N多層の個々の(Ti,Al)N副層の種類の原子比率Ti:Alは、20:80~60:40、好ましくは25:75~50:50、最も好ましくは30:70~40:60である。
【0036】
一実施形態では、個々の(Ti,Al)N副層の種類のうちの最低のAl含有量を有する、第2の(Ti,Al)N多層の個々の(Ti,Al)N副層の種類の原子比率Ti:Alは、35:65~80:20、好ましくは40:60~65:35、最も好ましくは45:55~55:45である。
【0037】
好ましくは、すべての第2の(Ti,Al)N多層は同じである、すなわち、それらは実質的に同じな、全Ti:Al原子比率およびそれらの副層のTi:Al原子比率を有する。
【0038】
一実施形態では、第2の(Ti,Al)N多層の各々は、第1の(Ti,Al)N多層の(Ti,Al)N副層スタックの最も外側の副層スタックに存在するのと同じ副層の交互および副層の組成を有する。この理由は、実用的および技術的なものの両方である。より高いアルミニウム含有量がより良好な耐摩耗性と相関することが示されているので、第1の(Ti,Al)N多層の最も外側の副層スタックの比較的高いアルミニウム含有量を維持することに利点がある。また、PVDチャンバ内においてより高いアルミニウム含有量のさらなるターゲットを追加することによって第1の(Ti,Al)N層のアルミニウム含有量を増加させる場合、堆積速度が増加し、これは利点である。
【0039】
第2の(Ti,Al)N多層および第2のガンマ-酸化アルミニウム層の各々の数は、好適には2~20、好ましくは2~10、最も好ましくは2~6である。より高い数、すなわちより高い繰り返し回数を使用する場合、より高い靭性がコーティングに導入され、また、粒界の数が増加するためにより低い熱伝導率がもたらされるとも考えられる。しかしながら、数が多すぎる場合、(Ti,Al)N多層を生産することと酸化アルミニウムを生産することとの間でプロセスを何度も変更しなければならないため、コーティングを作製する際の複雑さが増す。また、生産時間も増加する。したがって、妥当な複雑さおよび生産時間で十分な技術的効果が得られるように、繰り返し回数を制限することが好ましい。
【0040】
好適には、第2のガンマ-酸化アルミニウム層の各々の厚さは0.1~0.3μmである。
【0041】
本発明の被覆切削工具の好ましい実施形態では、コーティングの第1および第2の(Ti,Al)N多層の交互に配置された(Ti,Al)N副層は、カソード・アーク・エバポレーションによって堆積される。
【0042】
一実施形態では、第1のガンマ-酸化アルミニウム層、好ましくは第1および第2のガンマ-酸化アルミニウム層の両方のビッカース硬さHV0.0015は、3000~3500 HV0.0015である。
【0043】
一実施形態では、第1のガンマ-酸化アルミニウム層、好ましくは第1および第2のガンマ-酸化アルミニウム層の両方の換算ヤング率は、350~390GPaである。
【0044】
一実施形態では、コーティングは、最外層として金属窒化物層を含み、金属は、元素周期律表の第4族、第5族または第6族に属し、好ましくはZr、TiまたはCrであり、厚さは0.01~1μm、好ましくは0.05~0.5μmである。この最外層の機能は、ワークピース材料に対する摩耗表示、装飾、および拡散障壁のうちの1つまたは複数である。好ましくは、最外層はZrN層である。
【0045】
被覆切削工具のコーティング全体の総厚は、好適には3~10μmである。理想的な厚さは、金属切削用途に依存する。一実施形態では、フライス加工用途に特に適した、被覆切削工具のコーティング全体の総厚は、3.5~6μmである。別の実施形態では、旋削加工用途に特に適した、被覆切削工具のコーティング全体の総厚は、6~8μmである。別の実施形態では、ドリル加工用途に特に適した、被覆切削工具のコーティング全体の総厚は、3~5μmである。
【0046】
本発明の被覆切削工具の基材は、5~15重量%のCoを含むWC-Co系超硬合金である。基材は、この分野で一般的に公知なように、場合によりさらなる立方晶炭化物または炭窒化物を含む。
【0047】
一実施形態では、基材は、86~90重量%のWC、0.2~0.8重量%のCrおよび11~13重量%のCoで、100重量%に合わせた組成を有する超硬合金である。WC粒径は1μm未満、好ましくは0.2~0.6μmである。
【0048】
一実施形態では、基材は、86~90重量%のWC、0.5~2重量%の(Ta,Nb)Cおよび8~13重量%のCoで、100重量%に合わせた組成を有する超硬合金である。WC粒径は1.5μm未満、好ましくは0.5~1.2μmである。
【0049】
WC粒径は、本明細書では、磁気保磁力の値から決定される。WCの保磁力と粒径との間の関係は、例えば、Roebuckら、Measurement Good Practice No.20、National Physical Laboratory、ISSN1368-6550、1999年11月、2009年2月改訂、第3.4.3節、19-20頁に記載されている。本出願の目的のために、WCの粒度dは、上記文献の20頁の式(8)に従って決定される:
K=(c+dCo)+(c+dCo)/d。
並び替えたものは以下である::
d=(c+dCo)/(K-(c+dCo))、
式中、d=超硬合金本体のWC粒径、K=超硬合金本体の保磁力(kA/m)(ここでは、DIN IEC60404-7規格に従って測定される)、WCo=超硬合金本体中のCo重量%、c=1.44、c=12.47、d=0.04、およびd=-0.37。
【0050】
コーティングと接触する基材の最上部は、好適には、損傷したWC粒子、すなわち、亀裂が入りより小さなパーツになったWC粒子を実質的に含まない。この損傷したWC粒子の欠如は、コーティングの堆積前に基材上に実施された特定の前処理イオンエッチング手順に起因する。
【0051】
被覆切削工具は、好適には、フライス加工用の切削インサート、旋削加工用の切削インサート、ドリル加工用の切削インサート、ドリルまたはエンドミル、好ましくはフライス加工用の切削インサートまたは旋削加工用の切削インサートである。
【0052】
本発明は、基材本体および堆積したコーティングからなる被覆切削工具の生産方法であって、
-5~15重量%のCoを含むWC-Co系超硬合金本体である基材本体を準備する工程と;
-基材本体の少なくとも0.5μmの厚さが除去されるように、基材本体の表面をイオンエッチング手順である前処理に供する工程と;
-5~15Pa、好ましくは7~12Paの圧力で、-20~-80V、好ましくは-35~-65Vのバイアス電圧を使用して、50~200A、好ましくは100~150Aの印加アーク電流で、窒素ガスを含むチャンバ内においてTi:Al原子比率が異なる少なくとも2つのTiAlターゲットを使用するカソード・アーク・エバポレーションPVD法によって、第1のTiAlN多層である1~8μmの厚さの層を堆積させる工程であって、(Ti,Al)N多層は交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層であり、ターゲットの原子Ti:Al比率は、Ti:Alの全原子比率が33:67~67:33であるように選択され、個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nmの範囲内の厚さを有し、個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なり、(Ti,Al)N多層は、互いに直接上下に配置された2つ以上の(Ti,Al)N副層スタックを含むように堆積され、同じ(Ti,Al)N副層スタック内に少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層が存在し、少なくとも2種類の個々の(Ti,Al)N副層は異なるTi:Al原子比率を有し、(Ti,Al)N副層スタックの各々内の全Al含有量は、第1の(Ti,Al)N多層の外面に向かう方向に1つの(Ti,Al)N副層スタックから次の(Ti,Al)N副層スタックへと増加する、堆積させる工程と;
-1~5Paの全ガス圧、0.001~0.1Paの酸素分圧、400~600℃の温度で、4~20W/cmのマグネトロンでの電力密度、80~200Vのバイアス電圧、および20~60Aのパルスバイアス電流を使用し、酸素含有ガス体積中、少なくとも1つのAlターゲットを使用する反応性マグネトロンスパッタリングPVD法によって、第1のガンマ-酸化アルミニウム層である0.3~1.5μmの厚さの層を堆積させる工程と;
-第2の(Ti,Al)N多層および第2のガンマ-酸化アルミニウム層の交互層のセットを堆積させる工程であって、第2の(Ti,Al)N多層および第2のガンマ-酸化アルミニウム層は、それぞれ第1の(Ti,Al)N多層および第1のガンマ-酸化アルミニウム層を堆積させるときと同じ工程条件を使用して堆積され、第2の(Ti,Al)N多層および第2のガンマ-酸化アルミニウム層の各々の数は2以上であり、第2の(Ti,Al)N多層の各々は交互に配置された(Ti,Al)N副層の多層であり、第2の(Ti,Al)N多層内のTi:Alの全原子比率は33:67~67:33であり、第2の(Ti,Al)N多層の厚さは0.05~0.5μmであり、第2の(Ti,Al)N多層内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、1~25nmの厚さを有し、第2の(Ti,Al)N多層内の個々の(Ti,Al)N副層の各々は、原子比率Ti:Alに関して、直接隣接する(Ti,Al)N副層とは異なり、第2のガンマ-酸化アルミニウム層の厚さは、0.05~0.5μmである、堆積させる工程と
を含み、被覆切削工具の堆積したコーティング全体の総厚は、3~15μmであり;
-少なくとも0.5GPaの圧縮応力が基材本体の表面ゾーンに誘起されるように、堆積したコーティングを、酸化ジルコニウム系セラミックのビーズを使用するショットピーニングを含む第1の後処理手順に供する工程と;
-酸化アルミニウム粒子のスラリーを用いたウェットブラストによって、堆積したコーティングを第2の後処理手順に供する工程と
を含む生産方法をさらに含む。
【0053】
一実施形態では、第2の(Ti,Al)N多層および第2のガンマ-酸化アルミニウム層の交互層のセットの堆積後、第1の後処理手順の前に堆積される最外層があり、最外層は金属窒化物層であり、金属は元素周期律表の第4族、第5族、または第6族に属し、好ましくはZr、TiまたはCrである。
【0054】
ガンマ-酸化アルミニウム層の堆積において、マグネトロンにおける電力密度は、好適には6~13W/cmである。
【0055】
ガンマ-酸化アルミニウム層の堆積において、パルスバイアス電圧は、好適には100~180Vである。パルスバイアス電圧は、ユニポーラまたはバイポーラのいずれかであり得る。
【0056】
イオンエッチングの前に行われるエッジ丸め、ブラスト加工または研削などの超硬合金本体の初期処理中に、一般に、基材表面に損傷したWC粒子が存在する。そのような損傷したWC粒子は、亀裂が入りより小さなパーツになり、これは、例えば、堆積されたコーティングが基材への付着を失い、剥離をもたらす基材表面の点を形成する可能性がある。
【0057】
コーティングの堆積前の超硬合金本体のイオンエッチングによる前処理は、超硬合金本体の以前の処理中に損傷または機械的に微細化されたWC粒子を低減または完全に除去するために行われる。イオンエッチングでは、好適には超硬合金本体の少なくとも0.8μmの厚さ、好ましくは少なくとも1μmの厚さ、最も好ましくは少なくとも1.5μmの厚さが除去される。これらの除去レベルは、少なくとも刃先に近い領域、すなわち刃先から最大500μmの距離内に見られる。イオンエッチング手順は、好ましくは、超硬合金本体表面から実質的にすべての損傷したWC粒子を除去することを含む。
【0058】
さらに、損傷した粒子の除去に加えて、超硬合金本体のイオンエッチング手順は、そのような誘起された残留応力を含む最上部が実際には部分的または完全に除去されるので、任意の以前の処理によって誘起され得る基材表面での残留応力の量を低減させる。これにより、コーティング付着が改善される。
【0059】
好ましくは、アルゴン・イオン・エッチングは、使用されるイオンエッチングである。イオンエッチング加工は、損傷粒子の所望の除去が達成されるように十分な時間にわたって実施される。
【0060】
「ショットピーニング」とは、本明細書では、非研磨性であり、典型的には丸い形状を有する粒子、いわゆるビーズを含む媒体との衝突を意味する。ショットピーニングは、本明細書では、いずれの液体もビーズと一緒に使用しないドライブラスト加工である。ビーズは、本明細書では、酸化ジルコニウム系セラミックから作製される。酸化ジルコニウム系とは、本明細書では、ビーズ中の酸化ジルコニウムの重量パーセントが50重量パーセントを超えることを意味する。ビーズは、酸化ケイ素および/または酸化アルミニウムなどの他の酸化物をさらに含んでもよい。
【0061】
ショットピーニングは、基材本体の表面ゾーンに少なくとも0.5GPa、好ましくは少なくとも0.8GPa、最も好ましくは1~2GPaの残留圧縮応力を好適には誘起する。
【0062】
好適には、ショットピーニングのビーズは、50~175μm、好ましくは70~125μmの範囲のサイズ内である。ショットピーニング中のビーズからの衝撃またはエネルギーは、コーティングに影響を及ぼすリスクを高め、さらにはコーティングの剥離をもたらすので、高すぎてはならない。ビーズからの衝撃またはエネルギーは、技術的効果が達成されなくなるため、低すぎるべきではない。ビーズが大きすぎる場合、コーティングに対して大きな影響を及ぼすリスクが高まる。一方、ビーズが小さすぎる場合、ビーズから基材に伝達されるエネルギーおよび衝撃は小さすぎる。ビーズの適切なサイズは、当業者によって選択されるべきである。
【0063】
ショットピーニングは、ビーズがブラストノズルを出るブラストガンを使用する。一実施形態では、ショットピーニングは、1~8バール、好ましくは3~6バールのブラスト圧を使用して実施される。ブラスト圧は、ノズルからの出口圧である。
【0064】
一実施形態では、ショットピーニングにおける作業時間は、2~60秒、好ましくは2~10秒である。
【0065】
一実施形態では、ブラストノズルと被覆切削工具の表面との間の距離は、50~200mm、好ましくは75~150mmである。
【0066】
一実施形態では、ショットピーニングは、被覆切削工具の表面に対する角度が75~90°、好ましくは被覆切削工具の表面に対して実質的に垂直なショット方向で実施される。
【0067】
一実施形態では、ショットピーニングにおけるビーズは、70~125μmの範囲のサイズ内であり、ショットピーニングは、3~6バールのブラスト圧を使用して実施され、ショットピーニングにおける作業時間は、2~10秒であり、ブラストノズルと被覆切削工具の表面との間の距離は、75~150mmであり、ショットピーニングは、被覆切削工具の表面に対して実質的に垂直なショット方向で実施される。
【0068】
「ウェットブラスト」とは、本明細書では、スラリーを形成する液体中に研磨粒子、本明細書では酸化アルミニウムを含む媒体を使用するブラスト加工を意味し、材料は典型的にはある程度除去されてコーティングのより滑らかな表面をもたらす。また、いくつかの残留圧縮応力がコーティングに導入される。
【0069】
一実施形態では、ウェットブラストは、コーティングの厚さにわたって平均化された場合に、少なくとも0.2GPa、好ましくは少なくとも0.5GPa、最も好ましくは少なくとも1GPaの残留圧縮応力がコーティング内に誘起されるまで行われる。
【0070】
ウェットブラストは、スラリーがブラストノズルを出るブラストガンを使用する。一実施形態では、ウェットブラストは、1.5~2バールのブラスト圧を使用して実施される。ウェットブラスト圧は、ノズルからの出口圧である。
【0071】
一実施形態では、スラリー中の酸化アルミニウム粒子の濃度は、15~20体積%である。
【0072】
例えばブラスト加工に使用される砥粒については、粒径を定義する、確立された規格-FEPA(欧州研磨製造者協会(Federation of European Producers of Abrasives)がある。一実施形態では、ウェットブラストに使用される酸化アルミニウム粒子は、FEPA名称F240、F280およびF320、好ましくはF280およびF320のうちの1つまたは複数に属する。
【0073】
一実施形態では、ウェットブラストにおけるブラスト時間は、2~60秒、好ましくは2~30秒、最も好ましくは2~10秒である。
【0074】
一実施形態では、ブラストガンノズルと被覆切削工具の表面との間の距離は、50~200mm、好ましくは75~150mmである。
【0075】
一実施形態では、ウェットブラストは、被覆切削工具の表面に対する角度が60~90°、好ましくは75~90°であるブラスト方向で実施される。
【0076】
一実施形態では、第2の後処理手順は、1.5~2バールのブラスト圧力を使用するウェットブラストを含み、スラリー中の酸化アルミニウム粒子の濃度は15~20体積%であり、ウェットブラストに使用される酸化アルミニウム粒子はFEPA名称F240、F280およびF320のうちの1つまたは複数に属し、ウェットブラストにおけるブラスト時間は2~60秒であり、ブラストガンノズルと被覆切削工具(1)の表面との間の距離は50~200mmであり、ウェットブラストは、被覆切削工具の表面に対する角度が60~90°であるブラスト方向で実施される。
【0077】
方法
XRD(X線回折)
XRD測定は、CuKα照射を使用してGE Sensing and Inspection TechnologiesのXRD3003 PTS回折計で行った。X線管を40kVおよび40mAでポイントフォーカスにて運転した。固定されたサイズの測定開口を有するポリキャピラリーコリメートレンズを使用した平行ビーム光学系を一次側に使用し、それによって試料の被覆面上のX線ビームのこぼれが回避されるように試料の照射領域を画定した。二次側には、0.4°の広がりを有するソーラースリットおよび厚さ25μmのNi Kβフィルタを使用した。測定を、0.03°のステップサイズで15~80°の2θの範囲にわたって行った。層の結晶構造を研究するために、1°入射エンジェル(angel)の下での斜入射X線回折技法を用いた。
【0078】
残留応力
残留応力は、sinΨ法(M.E.Fitzpatrick,A.T.Fry,P.Holdway,F.A.Kandil,J.ShackletonおよびL.Suominen-A Measurement Good Practice Guide No.52;「Determination of Residual Stresses by X-ray Diffraction-Issue2」、2005を参照)を使用してXRDによって測定した。
【0079】
側傾法(Ψジオメトリ)は、選択されたsinΨ範囲内で等距離にある8つのΨ角度で使用されている。Φセクタが90°内であるΦ角度の等距離分布が好ましい。測定は、工具のすくい面側、すなわち可能な限り平坦な面を使用して実施した。残留応力値の計算には、ポアソン比率=0.20およびヤング率E=450GPaを適用した。(Ti,Al)N層の測定については、市販のソフトウェア(RayfleXバージョン2.503)を使用してデータを評価し、擬似ヴォイトフィット関数により(Ti,Al)Nの(1 1 1)反射の位置を特定した。回折パターンに応じて、十分なシグナル強度があるという条件では、(2 0 0)反射などの他の反射も可能である。
【0080】
超硬合金基材の測定については、市販のソフトウェア(RayfleXバージョン2.503)を使用してデータを評価し、擬似ヴォイトフィット関数によりWCの(2 1 1)反射の位置を特定した。コーティングは、一般に除去する必要はない。
【0081】
コーティング自体の上にさらに堆積した層を有するコーティングの層の残留応力を測定のために、測定される層の上の材料は除去される。これは、コーティングが堆積した超硬合金基材の測定にも当てはまる。残りの(Ti,Al)N多層材料内の残留応力を著しく変化させない材料の除去方法を選択し適用するように注意しなければならない。堆積したコーティング材料の除去のための適切な方法は研磨であってもよいが、微粒子研磨剤を使用する穏やかでゆっくりとした研磨が適用されるべきである。粗粒研磨剤を使用する強力な研磨は、当該技術分野で公知であるように、圧縮残留応力をむしろ増加させる。堆積したコーティング材料の除去のための他の適切な方法は、イオンエッチングおよびレーザーアブレーションである。
【0082】
硬さ/ヤング率
硬さおよびヤング率(換算ヤング率)の測定は、オリバー(Oliver)およびファー(Pharr)評価アルゴリズムを適用したFischerscope(登録商標)HM500 Picodentor(Helmut Fischer GmbH、Sindelfingen、Germany)でナノインデンテーション法によって実施し、ビッカースによるダイヤモンド試験体を層に押し込んで、測定中にフォース-パス曲線を記録した(最大ロード:15mN;ロード/アンロード時間:20秒;クリープ時間:5秒)。この曲線から、硬さおよび(換算)ヤング率を計算した。
【0083】
測定は、通常、表面平面に垂直な層の上部から行われる。しかしながら、多層構造の場合、切断面を作製し、表面平面に沿った方向に硬さを測定することができる。さらに、薄層の場合、硬さを測定することができる傾斜面が設けられるように、傾斜研磨を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
図1】フライス加工インサートである切削工具の一実施形態の概略図を示す。
図2】基材および様々な層を含むコーティングを示す、本発明の被覆切削工具の一実施形態の断面の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0085】
図1は、すくい面(2)および逃げ面(3)および刃先(4)を有する切削工具(1)の一実施形態の概略図を示す。切削工具(1)は、この実施形態ではフライス加工インサートである。図2は、基材本体(5)およびコーティング(6)を有する、本発明の被覆切削工具の一実施形態の断面の概略図を示す。コーティングは、第1の(Ti,Al)N多層(7)、第1のガンマ酸化アルミニウム層(8)、交互に配置された第2の(Ti,Al)N多層(9)と第2のガンマ酸化アルミニウム層(10)のセット、およびZrN層である最外層(11)からなる。
【実施例
【0086】
実施例1:本発明による試料の製造
基材として、ジオメトリADMT160608R-F56、ODHT050408-F57およびP2808.1を有するインサートである切削工具本体(「ブランク」と呼ばれる)が使用され、これらはすべてフライス加工作業で使用されるジオメトリである。
【0087】
試料S1~S4については、切削工具本体は、組成88重量%のWC、1.5重量%の(Ta,Nb)Cの超硬合金と、10.5重量%のCoの結合相とから構成された。平均WC粒径dWCは0.8μmであった。
【0088】
試料S5~S6については、切削工具本体は、組成87.5重量%のWC、0.5重量%のCrの超硬合金と、12.5重量%のCoの結合相とから構成された。平均WC粒径dWCは0.4μmであった。
【0089】
堆積の前に、水系媒体中で超音波洗浄により基材本体を前処理した。
【0090】
PVD反応器を8×10-5mbarまで排気し、基材を550℃で前処理した。前処理には、基材の約0.8μmの厚さを除去するように実施されるArイオンエッチング手順が含まれ、それによって、エッジ丸めなどのブランクの以前の処理中に損傷(亀裂)したすべての炭化物粒子が除去された。
【0091】
本発明によるコーティングを堆積させるために使用されたコーティング装置は、1mのチャンバサイズを有するHauzer HTC1000(IHI Hauzer Techno Coating B.V.,The Netherlands)であった。
【0092】
第1の(Ti,Al)N多層の堆積:
第1の(Ti,Al)N多層の堆積では、カソード・アーク・エバポレーションを使用した。使用したHauzer HTC1000装置では、一定磁場構成を使用した円形アークPVD技術(CARC+)を堆積中に適用した。
【0093】
第1の(Ti,Al)N多層の堆積のために、異なる原子比率Ti:Alを有する2種類のTiAlターゲットを使用して、交互に配置された(Ti,Al)N副層を作成した。2種類のTiAlターゲットのTi:Al原子比率は、それぞれ「Ti50Al50」(Ti:Al=50:50)および「Ti33Al67」(Ti:Al=33:67)であった。
【0094】
本明細書において特定の組成のターゲットが参照される場合、これは、使用されるPVD反応器のレイアウトによって、同じ組成の4つのターゲットのラインが反応器の高さ全体にわたって均一な堆積を可能にするように垂直に配置されたことを意味する。
【0095】
ターゲットは100mmの直径を有した。窒化物堆積のための反応性ガスはNであった。2種類の(Ti,Al)N副層スタック、L1およびL2を作成した。本発明のコーティングを作成するために、L1を基材表面のすぐ上に堆積させ、L2をL1のすぐ上に堆積させた。しかしながら、(Ti,Al)N副層スタックL1およびL2を互いに独立して調査するために、L1のみが基材表面のすぐ上に堆積した試料およびL2のみが基材表面のすぐ上に堆積した試料を作成した。L1の堆積のために、2つのターゲットを使用した:1×「Ti50Al50」+1×「Ti33Al67」。L2においてより低いTi含有量およびより高いAl含有量を達成するために、L2の堆積のために3つのターゲットを使用した:1×「Ti50Al50」+2×「Ti33Al67」。堆積を、各ターゲットにおいて約150Aのアーク電流で行った。L1に対してそれぞれ-40Vおよび-60V、L2に対してそれぞれ-40Vおよび-50Vの異なるバイアスレベルを使用して、異なる試料を作製した。様々な層の堆積のためのさらなる加工パラメータを表1に示す。
【0096】
-40Vのバイアスレベルを使用して作製した試料についての副層スタックL1およびL2の厚さは、すくい面および逃げ面の両方のエッジ(エッジ丸めの開始部)で測定し、平均を計算すると、それぞれ約2μmであった。
【0097】
-60V(L1)および-50V(L2)のバイアスレベルを使用して作製した試料についての副層スタックL1およびL2の厚さは、すくい面および逃げ面の両方のエッジ(エッジ丸めの開始部)で測定し、平均を計算すると、それぞれ約1.5μmであった。表2は、作製した試料を要約している。
【0098】
L1の堆積時間は、-40Vを使用して堆積させた場合、90分であった(試料S1、S3およびS5)。したがって、L1は、約270の副層周期からなり、約4nmの個々の副層厚に近かった。
【0099】
-60Vを使用してL1を堆積させた場合(試料S2、S4およびS6)、L1の堆積時間は63分であった。したがって、L1は、約190の副層周期からなり、約4nmの個々の副層厚に近かった。
【0100】
L2の堆積時間は、-40Vを使用して堆積させた場合、60分であった(試料S1、S3およびS5)。したがって、L2は約180の副層周期からなり、近似組成Ti0.50Al0.50Nを有する副層については約4nmの個々の副層厚に近く、近似組成Ti0.33Al0.67Nを有する副層については約8nmの個々の副層厚に近かった。
【0101】
-50Vを使用してL2を堆積させた場合(試料S2、S4およびS6)、L2の堆積時間は42分であった。したがって、L2は約130の副層周期からなり、近似組成Ti0.50Al0.50Nを有する副層については約4nmの個々の副層厚に近く、近似組成Ti0.33Al0.67Nを有する副層については約8nmの個々の副層厚に近かった。
【0102】
第1の(Ti,Al)N多層の硬さおよびヤング率:
実施例1で堆積させた(Ti,Al)N副層スタックL1およびL2の硬さおよびヤング率は、L1およびL2をそれぞれ別々に基材のすぐ上に堆積させ、次いで測定を行うことによって測定した。副層スタックL1およびL2の厚さは約2μmであった。結果を表3に示す。代替として、第1の(Ti,Al)N多層の断面積でL1およびL2の硬さおよびヤング率をそれぞれ測定すること、または傾斜研磨された試料での測定も可能であった。
【0103】
第1のガンマ-酸化アルミニウム層の堆積:
すべての試料S1~S6には、第1の(Ti,Al)N層上に第1のガンマ-酸化アルミニウム層が設けられた。
【0104】
Hauzer HTC1000PVD装置は、バイポーラ・パルス・マグネトロン・スパッタリングによる堆積のためのモードに設定される。
【0105】
酸化アルミニウムの堆積には、2つのAlターゲット(それぞれ800mm×200mm×10mm)を使用し、デュアルマグネトロンを適用した。バイアス電源は、45kHzおよび10msのオフ時間を有するバイポーラパルスモードで使用した。マグネトロン電源を60kHz(±2kHz)でパルスし、パルス形態は洞型であった。加工の安定化された段階でのカソード電圧は390Vであった。堆積を、3倍回転された基材を用いて行った。必須の堆積パラメータおよび測定結果(反応器の高さの中央に配置されたコーティングされる切削工具で測定された)を表5に示す。
【0106】
0.6μmの酸化アルミニウムを、試料S1~S6上に堆積させた。
【0107】
XRD測定は、ガンマ相酸化アルミニウムピークのみを示した。
【0108】
第1のガンマ-酸化アルミニウム層の硬さおよびヤング率:
第1のガンマ-酸化アルミニウム層の硬さおよびヤング率は、試料S1~S6に使用したのと同じ堆積条件を使用して、超硬合金基材上に約1μmのガンマ-酸化アルミニウムの堆積を別々にさら行い、次いで測定を行うことによって測定した。表6は結果を示す。代替として、傾斜研磨された試料または第1のガンマ-酸化アルミニウム層の断面積に対して硬さおよびヤング率を測定することも可能であった。
【0109】
交互に配置された第2の(Ti,Al)N多層と第2のガンマ-酸化アルミニウム層のセットの堆積:
試料S1~S6を、交互に配置された第2の(Ti,Al)N多層と第2のガンマ-酸化アルミニウム層のセットでさらに堆積させた。
【0110】
3つの第2の(Ti,Al)N多層および2つの第2のガンマ-酸化アルミニウム層が堆積され、層順序は(Ti,Al)N-Al-(Ti,Al)N-Al-(Ti,Al)Nである。
【0111】
第2の(Ti,Al)N多層の最初の2つおよび2つの第2のガンマ-酸化アルミニウム層の各々の厚さは約0.1μmであった。第2の(Ti,Al)N多層のうちの3番目のものは、わずかに厚く、約0.3μmであった。
【0112】
第2の(Ti,Al)N多層は、試料S1~S6の各々について第1の(Ti,Al)N多層の副層スタックL2を堆積させる場合と同じ様式で堆積される、すなわち、使用されたHauzer HTC 1000装置で、堆積中に一定磁場構成を使用する円形アークPVD技術(CARC+)を適用した。他のすべてのパラメータおよび工程条件は、第1の(Ti,Al)N多層の副層スタックL2を作製するために使用されたものと同じであった。第2の(Ti,Al)N多層を作製するために使用したバイアスは-40Vであった。
【0113】
第2の(Ti,Al)N多層の堆積のために、第1の(Ti,Al)N多層のL2を堆積に関しては、3つのターゲット:1×「Ti50Al50」+2×「Ti33Al67」を使用した。加工パラメータを表7に要約している。
【0114】
各第2の(Ti,Al)N多層の堆積時間は約200秒であった。第2の(Ti,Al)N多層を作製するための工程条件は、第1の(Ti,Al)N多層の副層スタックL2を作製するためのと同じであるので、200秒の堆積時間は、0.11μmの第2の(Ti,Al)N多層の層厚を与えると推定できる。副層周期の数は200秒の堆積に対して約10であるので、個々の副層厚は、近似組成Ti0.50Al0.50Nを有する副層については約4nmに近く、近似組成Ti0.33Al0.67Nを有する副層については約8nmの個々の副層厚に近い。
【0115】
第2のガンマ-酸化アルミニウム層は、第1のガンマ-酸化アルミニウム層を堆積させるのと同じパラメータおよび条件を使用して、バイポーラ・パルス・マグネトロン・スパッタリングによって堆積された。
【0116】
次いで、最後に、色および/または摩耗検出の目的で、外側の約0.2μmのZrN層を試料に堆積させた。ZrNの堆積は、ターゲットあたり150Aのアーク電流を使用し、4Paの窒素圧力で、-40Vのバイアス電圧を使用するアークエバポレーションによって行った。
【0117】
したがって、試料S1、S3およびS5のコーティングの総厚は約5.5μmであった。
【0118】
したがって、試料S2、S4およびS6のコーティングの総厚は約4.5μmであった。
【0119】
得られた層構造を表8に示す。
【0120】
したがって、試料S1、S3およびS5のコーティングの総厚は約5.5μmであり、試料S2、S4およびS6のコーティングの総厚は約4.5μmであった。
【0121】
残留応力のレベルは、コーティング全体を堆積させたが、いかなる後処理も施されてない試料S1の超硬合金基材で決定した。結果は-149MPa(すなわち、149MPaの残留圧縮応力)であった。すべての試料S1~S6について、-150MPa程度の値が一般的であると考えられる。
【0122】
基材表面に近い第1の(Ti,Al)N多層についても、残留応力のレベルを決定した。試料S1を選択した。結果は、試料について154MPa(すなわち、154MPaの残留引張応力)であった。
【0123】
試料S1~S6のいずれよりもはるかに薄く堆積させたコーティングを有する試料S7を、さらに作製した。この試料に対して、第1の(Ti,Al)N多層の堆積中に使用されたバイアス電圧は、L1については-60V、L2については-50Vであった。第2の(Ti,Al)N多層には、-50Vを使用した(L2と同様)。この試料は、試料S1~S6(表8を参照)のコーティングに存在するものと同じ種類の層および層順序を有するが、ほとんどの場合より薄い堆積コーティングを有していた。総コーティング厚は3.7μmであった。表9は層厚を示す。この試料の基材表面に近い第1の(Ti,Al)N多層についても同様に、残留応力のレベルを決定した。
【0124】
基材表面に近い第1の(Ti,Al)N多層について、残留応力のレベルを決定した。結果は、試料について-1198MPa(すなわち、1198MPaの残留圧縮応力)であった。
【0125】
後処理作業
試料S1~S6および試料S7を、ショットピーニングとそれに続くウェットブラストによって後処理した。ウェットブラストは、コーティング表面を滑らかにし、かつコーティングに平均圧縮応力のレベルを付与する。
【0126】
ショットピーニングのパラメータ:
ブラスト圧 5バール
ブラスト角 コーティングの表面平面に対して90°
ブラスト距離 10cm
ブラスト材料 ZrOビーズ(直径75~125μm)、
ブラスト時間 2秒
【0127】
使用したZrOビーズは、以下の組成を有していた:
ZrO:60~65重量%
SiO:25~30重量%
Al:2~5重量%
残りは他の酸化物(CaO、Fe、TiO
ブラスト処理されていない基材-80MPa
基材の残留応力は-1120MPaであった。
【0128】
ウェットブラストパラメータ:
ブラスト圧 1.6~2バール
ブラスト角 コーティングの表面平面に対して75°
ブラスト距離 10cm
ブラスト材料 Al F220(FEPA)
【0129】
ブラストは、14個のブラストガンを備えた装置を使用して行われ、この装置は、約50~400個の切削工具インサートのインサートのトレイをブラストするように設計されている。回転中の40~50秒のブラストにより、インサート当たりの推定ブラスト時間は1~3秒になる。
【0130】
残留応力のレベルは、コーティング全体が堆積した試料S1の超硬合金基材上、および後処理のショットピーニングおよびウェットブラストの両方の後に決定された。結果は-1133MPa(すなわち、1133MPaの圧縮応力)であった。
【0131】
基材表面に近い第1の(Ti,Al)N多層についても、残留応力のレベルを決定した。コーティング全体が堆積され、後処理のショットピーニングおよびウェットブラストの両方に供された、試料S1および試料S7を試験した。結果は、試料S1について-1258MPa(すなわち、1258MPaの残留圧縮応力)であり、試料S7について-1225MPa(すなわち、1225MPaの残留圧縮応力)であった。したがって、両方の試料について同じ応力レベルに達した。
【0132】
表10は、すべての残留応力測定からの結果を要約している。
【0133】
後処理プロセスは、コーティングの最下部の残留圧縮応力(より厚いコーティングの場合)を約1GPaのレベルまで増加させる。同時に基材の表面は、後処理プロセス後に同じレベルの残留応力レベルを有する。
【0134】
実施例2:比較試料の製造
本質的に先行技術の米国特許第8,709,583号明細書に従う比較被覆切削工具試料S8~S10は、それぞれ、ジオメトリADMT160608R-F56(試料S8について)、ODHT050408-F57(試料S9について)およびP2808.1(試料S10について)を有するインサートである切削工具本体上にコーティングを堆積させることによって作製された。試料S8およびS9については、切削工具本体は、組成88重量%のWC、1.5重量%の(Ta,Nb)Cの超硬合金と、10.5重量%のCoの結合相とから構成された。平均WC粒径dWCは0.8μmであった。試料S10については、切削工具本体は、組成87.5重量%のWC、0.5重量%のCrの超硬合金と、12.5重量%のCoの結合相とから構成された。平均WC粒径dWCは0.4μmであった。
【0135】
PVDコーティング装置Hauzer HTC1000を使用することによりコーティングを堆積させた。コーティングは7層コーティングを作製した:
1.アークエバポレーションによって堆積した層厚2μmの(Ti,Al)N(比率Ti:Al=33:67の原子%)、
2.反応性マグネトロンスパッタリングによって堆積した層厚0.5μmの酸化アルミニウム、
3.アークエバポレーションによって堆積した層厚0.2μmの(Ti,Al)N(比率Ti:Al=33:67の原子%)、
4.反応性マグネトロンスパッタリングによって堆積した層厚0.15μmの酸化アルミニウム、
5.アークエバポレーションによって堆積した層厚0.2μmの(Ti,Al)N(比率Ti:Al=33:67の原子%)、
6.反応性マグネトロンスパッタリングによって堆積した層厚0.15μmの酸化アルミニウム、
7.アークエバポレーションによって堆積した層厚0.6μmのZrN。
【0136】
コーティング操作の前に、基材をアルコール中で洗浄し、真空チャンバでの層の堆積の前にArイオン衝撃を使用することによってさらに洗浄した。しかしながら、Arイオン衝撃は、約0.2μmまでの基材材料のみが除去されるように進行しただけであった。
【0137】
層の堆積:
第1、第3および第5の層:
(Ti,Al)Nの堆積は、3Paの窒素および-40VのDCモードでのバイアス電圧および約550℃の温度で、供給源ごとに65Aのヴェポライザー電流でアークエバポレーションによって行った。
【0138】
第2、第4および第6の層:
酸化アルミニウムの堆積は、0.5PaのArおよび反応性ガスとしての酸素(流量約80sscm)で約7W/cm2の比カソード出力を用い、-150Vのバイポーラ・パルスバイアス電圧(70kHz)および約550℃の温度で反応性マグネトロンスパッタリングによって行った。
【0139】
第7層:
ZrNを、4Paの窒素および-40VのDCモードでのバイアス電圧および約550℃の温度で、供給源ごとに150Aのヴェポライザー電流でアークで堆積させた。
【0140】
表11は、比較試料S8~S10における層順序を要約している。
【0141】
実施例1の本発明の試料に対して行ったようなショットピーニング後処理を比較試料に対しても行うことを試験した。しかしながら、コーティングは剥がれ落ちた。
【0142】
実施例3-切削試験
本発明による被覆切削工具試料S1~S6の性能を、比較試料S8~S10と共にフライス加工作業で試験した。試料を要約している表12を参照されたい。
【0143】
試料S1およびS2を、比較試料S8に対して比較した。
【0144】
試料S3およびS4を、比較試料S9に対して比較した。
【0145】
試料S5およびS6を、比較試料S10に対して比較した。
【0146】
試験1:
被覆切削工具試料S1、S2およびS8の金属切削性能を、以下の条件下でHeller FH120-2機械で、Walter AG、Tubingen、Germany製の正面フライスカッタ型F2010.UB.127.Z08.02R681M(DIN4000-88に従う)を使用して正面フライス加工作業にて試験した。
【0147】
切削条件:
刃送り量f[mm/刃]:0.2
切削速度v[m/分]:283
軸方向切込み量a[mm]:98
半径方向切込み量a[mm]:3
ワークピース材料:42CrMo4;引張強度Rm:740N/mm
【0148】
カットオフ基準は、工具の逃げ面での最大摩耗、すなわち、工具の逃げ面で観察された最も深いクレータVBmaxであり、0.3mmに達した。
【0149】
表13は、切削試験の結果を示す。
【0150】
試験2:
被覆切削工具試料S3、S4およびS9の金属切削性能を、以下の条件下でHeller FH120-2機械で、Walter AG、Tubingen、Germany製の正面フライスカッタ型F4081.B.052.Z05.04(DIN4000-88に従う)を使用して正面フライス加工作業にて試験した。
【0151】
切削条件:
刃送り量f[mm/刃]:0.23
切削速度v[m/分]:240
軸方向切込み量a[mm]:3
半径方向切込み量a[mm]:40
ワークピース材料:1.4435(X2CrNiMo18-14-3);引張強度Rm:515N/mm
【0152】
カットオフ基準は、工具の逃げ面での最大摩耗、すなわち、工具の逃げ面で観察された最も深いクレータVBmaxであり、0.3mmに達した。
【0153】
表14は、切削試験の結果を示す。
【0154】
試験3:
被覆切削工具試料S5、S6およびS10の金属切削性能を、以下の条件下でHeller FH120-2機械で、Walter AG、Tubingen、Germany製の正面フライスカッタ型F2010.UB.127.Z08.02R681M(DIN4000-88に従う)を使用して正面フライス加工作業にて試験した。
【0155】
切削条件:
刃送り量f[mm/刃]:0.2
切削速度v[m/分]:150
軸方向切込み量a[mm]:3
半径方向切込み量a[mm]:50
ワークピース材料:1.4301(X5CrNi18-10)
【0156】
カットオフ基準は、工具の逃げ面での最大摩耗、すなわち、工具の逃げ面で観察された最も深いクレータVBmaxであり、0.3mmに達した。
【0157】
表15は、切削試験の結果を示す。
図1
図2
【国際調査報告】