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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-15
(54)【発明の名称】抗菌組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/61 20170101AFI20230208BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230208BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20230208BHJP
【FI】
A61K47/61
A61K9/70
A61K9/12
A61K47/38
A61P17/02
A61P17/00 101
A61P31/04
A61P31/12
A61P31/10
A61P37/00
A61P29/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K33/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022561687
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 GB2020053244
(87)【国際公開番号】W WO2021123773
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】1918552.9
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522239362
【氏名又は名称】オキシー・ソリューションズ・アクシェセルスカプ
【氏名又は名称原語表記】Oxy Solutions AS
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ウグラン,ヘーゲ
(72)【発明者】
【氏名】クヌートセン,マヤ
(72)【発明者】
【氏名】カラスコ,ゲイリー チン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA24
4C076AA71
4C076BB31
4C076CC04
4C076CC18
4C076CC19
4C076CC22
4C076CC32
4C076CC35
4C076EE31
4C076FF33
4C084AA19
4C084MA13
4C084MA32
4C084MA63
4C084NA05
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA901
4C084ZA902
4C084ZB021
4C084ZB022
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZB351
4C084ZB352
4C084ZC221
4C084ZC222
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA10
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA13
4C086MA32
4C086MA63
4C086NA05
4C086ZA89
4C086ZA90
4C086ZB02
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZB35
4C086ZC22
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、少なくとも20mg/L、好ましくは20~100mg/Lの溶存酸素含有量を有する水溶液中に分散された帯電したセルロースナノフィブリルを含む抗菌組成物を提供する。セルロースナノフィブリルは、抗菌特性に寄与するカルボン酸含有量のために、増加した表面電荷を有し得る。特に、カルボン酸含有量は、少なくとも約1000μmol/gセルロース、好ましくは少なくとも約1400μmol/gセルロースであり得る。組成物は、創傷、特に慢性創傷の治療に使用するのに好適である。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中に分散された帯電したセルロースナノフィブリルを含む抗菌組成物であって、前記溶液は、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する、抗菌組成物。
【請求項2】
前記帯電したセルロースナノフィブリルが、前記組成物の総重量に基づいて、0.1~1.0重量%、好ましくは0.2~0.8重量%、例えば0.3~0.5重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
液体または粘性液体の形態で提供され、10rpm、23℃でブルックフィールド粘度計を使用して測定したときに、好ましくは100~9,000mPa.s、例えば、100~600mPa.sの範囲の粘度を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ヒドロゲル、10rpm、23℃でブルックフィールド粘度計を使用して測定したときに、好ましくは10,000~20,000mPa.sの範囲の粘度を有するヒドロゲルの形態で提供される、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
前記帯電したセルロースナノフィブリルが負に帯電している、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記帯電したセルロースナノフィブリルが表面酸化され、好ましくはTEMPO酸化される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記帯電したセルロースナノフィブリルのカルボン酸含有量が、400~1750μmol/gセルロース、好ましくは少なくとも約1000μmol/gセルロース、例えば少なくとも約1400μmol/gセルロースの範囲にある、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記帯電したセルロースナノフィブリルのアルデヒド含有量が10~1700μmol/gセルロース、好ましくは100~400μmol/gセルロースの範囲にある、請求項6または7に記載の組成物。
【請求項9】
前記帯電したセルロースナノフィブリルが木材パルプ、好ましくは針葉樹パルプ、例えばPinus radiataから得られる、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記セルロースナノフィブリルの平均直径が3~20nmの範囲にあり、かつ/または前記セルロースナノフィブリルの平均長さが5~10μmの範囲にある、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記溶液が、20~100mg/Lの酸素、20~70mg/L、20~60mg/L、25~50mg/L、または30~40mg/Lの溶存酸素含有量を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗生物質、成長因子、サイトカイン、ケモカイン、核酸、ビタミン、ミネラル、麻酔薬、抗炎症剤、保湿剤、細胞外マトリックスタンパク質、酵素、植物からの幹細胞、卵と卵殻からの抽出物、植物抽出物、脂肪酸、および皮膚浸透促進剤からなる群から選択される1つ以上の活性物質をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する水溶液を、帯電したセルロースナノフィブリルを含む調製物と組み合わせるステップであって、好ましくは、前記調製物が、帯電したセルロースナノフィブリルを含むエアロゲルである、ステップを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物の調製方法。
【請求項14】
前記方法が、
(i)水溶液中の前記帯電したセルロースナノフィブリルの分散液を提供するステップと
(ii)前記分散液を酸素化するステップと、を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物の調製方法。
【請求項15】
ステップ(ii)が、
●前記分散液を含む液体を配管ネットワークに導入してフローストリームを形成するステップと、
●ガス状酸素を前記フローストリームに注入して、前記液体と酸素の気泡の混合物を生成するステップと、
●液体と気体の酸素気泡の流動混合物を、ベンチュリを通過する前記液体に前記ガスを溶解するように配置されている、前記ベンチュリに通過させるステップと、を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
得られた組成物を架橋させ、それによりその粘度を増加させるステップをさらに含む、請求項13~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
抗菌剤として使用するための、好ましくは少なくとも1つの創傷病原体の増殖を阻害する際に使用するための、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
創傷の治療に使用するための、好ましくは慢性創傷の治療に使用するための、より好ましくは、Bacteroides種、Clostridium種、Pseudomonas種、Enterococcus種、Enterobacteriacea種、Bacillus種、Streptococcus種、およびStaphylococcus種から選択される1つ以上の細菌を内在する創傷、例えば、Pseudomonas aeruginosaおよび/またはStaphylococcus aureusを内在する創傷である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
体表面、好ましくは体外表面、例えば皮膚上の細菌性バイオフィルムの予防または治療において、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物をその中に組み込んでいる創傷被覆(例えば、包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッド)。
【請求項21】
帯電したセルロースナノフィブリルを含むヒドロゲルの形態の創傷被覆材であって、前記ヒドロゲルは、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する、創傷被覆材。
【請求項22】
3D印刷によって形成される、請求項21に記載の創傷被覆材。
【請求項23】
創傷の治療に使用するためのキットであって、
(a)請求項1~12のいずれか一項に記載の抗菌組成物を含む、滅菌され、密封された容器またはパッケージと、
(b)創傷被覆、例えば、創傷被覆材、包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッドと、
任意選択で(c)創傷の治療における前記キットの構成要素の使用に関する印刷された説明書と、を含むキット。
【請求項24】
創傷の治療に使用するためのキットであって、
(a)帯電したセルロースナノフィブリルを含むエアロゲルを含む滅菌され密封された容器またはパッケージと、
(b)少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する酸素化水性液体(酸素化水または酸素化生理食塩水)と、
任意選択で(c)酸素化ヒドロゲルを形成し、創傷の治療における酸素化ヒドロゲルの使用のための構成要素を混合するための印刷された説明書と、を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌組成物、抗菌組成物の調製方法および抗菌組成物の医学的使用に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、創傷治癒を促進するために使用することができ、したがって創傷の治療に使用され得る酸素化ナノセルロース組成物に関する。特に、組成物は、慢性創傷に存在するバイオフィルム感染症の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
創傷は、皮膚組織への血液供給の損傷または破壊を伴う皮膚の損傷である。これにより、組織の再生に必要な酸素と栄養素の供給が損なわれる。局所創傷治療には、微生物の侵入に対する障壁を提供し、外部環境から創傷を保護するために創傷に適用され得る創傷被覆材が含まれる。一部の創傷被覆材は、創傷治癒メカニズムをサポートまたは促進する。
【0004】
特に酸素は、細菌感染の減少、再上皮化の増加、線維芽細胞の増殖、コラーゲン合成、血管新生など、創傷治癒に重要な役割を果たす。不十分な血液循環により創傷の酸素化が不十分であると、適切な創傷治癒が損なわれ、慢性創傷が形成される可能性がある。慢性創傷は、バイオフィルムの一部として好気性および/または嫌気性微生物のコロニーを含む場合がある。慢性開放傷の60~100%には、バイオフィルムが存在するであろう。細菌のバイオフィルムは一般的であり、細菌が体の表面と相互作用して体の表面を覆うポリマーフィルム(「菌体外多糖」または「細胞外多糖」ポリマーとしても知られる)を形成し、さらなるバクテリアのコロニー形成と増殖のための生きたコロニーを提供するときに形成される。バイオフィルムにとどまる細菌は、プランクトン状態のままである(すなわち、単一細胞として浮遊している)バクテリアよりも除去または殺すのが難しく、多くの抗生物質に耐性となり得る。
【0005】
以前の研究では、酸素には抗菌効果があることが示されている。酸素がバイオフィルム形成の減少に役割を果たす可能性があることも示唆されている。慢性創傷治療への様々な酸素ベースの治療アプローチが知られている。これらには、高圧酸素療法(HBOT)および局所酸素療法(TOT)が含まれる。HBOTは、慢性創傷治癒のための主要な酸素療法と考えられている。HBOTは、患者を圧力室に置くことを含み、治療は、周囲圧力よりも高い圧力で供給される純粋な酸素ガスの曝露と呼吸に基づいている。ただし、この治療には特殊な機器と高度なスキルを備えた人員が必要であり、その結果、健康管理システムに高いコストがかかる。TOTは、患者の手足を包むスリーブを介して実現される。このスリーブには、酸素ガスが供給され、大気圧よりわずかに高く加圧される。しかし、局所酸素の吸収の深さ、したがってその有効性に関しては論争がある。
【0006】
創傷治療への他のアプローチには、酸素化された被覆材の使用が含まれる。これらは酸素療法の安価なオプションであるが、現在市場に出ている製品の数は限られている。酸素化された被覆材は、主に酸素気泡の形で酸素を取り込むか、使用時に酸素ガスを生成する成分を含んでいる。このような製品の例には、OxyBand(商標)、OxygeneSys(商標)、およびOxyzyme(商標)被覆材が含まれる。
【0007】
OxyBand(商標)被覆材(OxyBand Technologies、MN、USA)は、指向透過性のガス放出リザーバを使用して、治癒中の創傷に局所的に高濃度の純粋な酸素を送達する。酸素は、閉塞性上層と下部酸素透過性フィルムの間のリザーバに貯蔵され、被覆材が創傷液を酸素で過飽和にすることを可能にする(Lairet et al.,J.Burn Care Res.35(3):214-8、2014、Lairet et al.,The Military Health Services Research Symposium、2012、およびHopf et al.,abstract of the Undersea&Hyperbaric Medical Society Annual Scientific Meeting、2008)。OxygeneSys(商標)被覆材は、酸素ガスをカプセル化する閉鎖セル泡構造を形成するポリアクリレートマトリックスを含む。マトリックスの泡セルの壁には溶存酸素が含まれている。被覆材を滲出液、生理食塩水、または水で湿らせると、被覆材内のガス状酸素が液体に溶解し始めるが、酸素の放出速度は低く、15mg/Lにしか達しない(米国特許第7,160,553号を参照)。Oxyzyme(商標)は酵素活性化ヒドロゲル被覆材システムであり、2つのポリスルホン酸シートヒドロゲルを互いに重ね合わせたものである。被覆材には、オキシダーゼ酵素、グルコース、およびヨウ化物も含まれている。パッケージから取り出して創傷に接触させると、空気中で酸素と接触して被覆材の2つの層の間で接触したときに、最上層内のオキシダーゼ酵素が活性化される。酵素と酸素との反応により、被覆材内で過酸化水素が生成され、創傷に面する表面に到達すると、被覆材のヨウ素成分との相互作用によって溶存酸素に変換される(Ivins et al.,Wounds UK、Vol.3 No.1、2007、およびLafferty et al.,Wounds UK,Vol.7 No.1、2011)。
【0008】
酸素化された被覆材は、高圧チャンバーを介した創傷環境への局所酸素の送達の改善を表し、ケーススタディで有望な結果を示している(例えば、Lairet et al.,2014、Lairet et al.,2012、Hopf et al.,2008、Ivins et al.,2007、およびLafferty et al.,2011(すべて上記の通り)、Roe et al.,Journal of Surgical Research 159:e29-e36,2010、Zellner et al.,Journal of International Medical Research Vol.43(1),93-103,2014、およびKellar et al.,Journal of Cosmetic Dermatology 12:86-95,2013を参照されたい)。ただし、これらの製品の酸素濃度/可用性および酸素安定性の文献は限られており、これらは広くは使用されていない。
【0009】
最近の研究では、組織を酸素ガスに直接曝露する場合と比較して、溶存酸素がより効率的に拡散および浸透することが示されている(例えば、Roe et al.,2010(上記の通り),Stuker,J.Physiol.538(3):985-994,2002、Atrux-Tallau et al.,Skin Pharmacol.Physiol.22:210-217,2009、Reading et al.,Int.J.Cosmetic Sci.35:600-603,2013、およびCharton et al.,Drug Design,Devel.and Ther.8:1161-1167,2014を参照されたい)。既存の治療法のいずれも、創傷組織への高レベルの溶存酸素の直接送達を可能にしない。ほとんどの場合、これらはガスの形で酸素を供給し、ガスは、効果を発揮する前に(例えば、創傷滲出液やその他の細胞液などの中に)溶解する必要がある。これは治療の効力を制限する。OxygeneSys(商標)被覆材には、フォームマトリックスの壁を覆う水分に溶存酸素が幾分含まれているが、酸素の放出速度は最大15mg/Lにしか達しない。したがって、溶解した形で組織に直接高レベルの酸素を提供することができる他の治療は、創傷の治療に使用するのに有益であろう。
【0010】
ナノ構造セルロース(「ナノセルロース」)は、木材パルプなどの様々なセルロース源から製造され得るよく知られた材料である。セルロースナノフィブリル(「CNF」)は、ナノセルロースの一種である。これらは、ナノメートルスケールの幅(すなわち直径)およびマイクロメートルスケールの長さを有する、高アスペクト比を有するナノスケールのセルロースフィブリルを含む。フィブリルは、高速衝撃ホモジナイゼーション、粉砕、またはマイクロ流動化などの様々な機械的方法によって、木材ベースの繊維などのセルロース含有材料から分離することができる。
【0011】
CNF材料は、生物医学分野での様々な用途で示唆されている。これには、組織再生の足場として、創傷被覆材として、抗菌成分の担体として、および3D印刷用のバイオインクとしての使用が含まれる。このような材料の製造では、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル(TEMPO)などの化学的前処理方法が、それらの特性を調整するために提案されている。TEMPO-CNFは、生理学的pH値において負に帯電したカルボキシル基を有する。ごく少量のアルデヒドも、TEMPO媒介酸化中に生成される。TEMPO-CNFは、水中に低濃度で供給されると、高粘度のゲルを形成する。このようなゲルは、ヒドロゲルネットワークに配置されたナノフィブリルを含み、これは、良好な保水能力および軟組織のテクスチャに似た機械的特性を有する。これは、それらの抗菌活性および半透明構造を形成する能力とともに、創傷被覆材料の開発におけるそれらの提案された使用につながった(Powell et al.,Carbohydrate Polymers 137(10):191-197,2016、およびJack et al.,Carbohydrate Polymers 157:1955-1962,2017を参照されたい)。
【0012】
以前に、ゲル形態のTEMPO-CNFが創傷病原体Pseudomonas aeruginosaの増殖を阻害することが実証されている(Powell et al.,2016、およびJack et al.,2017-両方とも上記の通り)。TEMPO-CNFゲルの抗菌阻害は、濃度に依存することがわかった。つまり、濃度が高いほど、P.aeruginosaの増殖の阻害が高くなる。これは、部分的に、細菌の移動性の制限に起因していた(Jack et al.,2017-上記の通り)。これは、同じパルプ繊維からのTEMPO-CNFが、食品病原体B.cereus、verotoxigenic E.coli、L.monocytogenes、およびS.Typhimuriumの細菌の遊泳能力を阻害した最近の研究で確認されている(Silva et al.,J.Mater.Sci.54(18),12159-12170,2019)。しかし、今日まで、CNF材料の抗菌活性がそれらの表面特性によって影響を受ける可能性があるという認識はなかった。
【0013】
創傷、特にバイオフィルム感染に関連する慢性創傷を治療するために使用できる代替材料の必要性が依然として存在する。特に、費用効果が高く、使いやすく、治療対象(例えば患者)への不便を最小限に抑えて創傷を効果的に治療するために使用できるような材料が必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
この度本発明者らは、CNF材料の抗菌活性がそれらの表面特性に依存し、それらの表面電荷を増加させることによって増強され得ることを発見した。水溶液中の低濃度分散液として提供される場合、発明者らはまた、そのような材料が効果的に酸素化されて、それらの抗菌活性をさらに増強することができることを発見した。したがって、本発明者らは、高い表面電荷を有するセルロースナノフィブリルを含む酸素化ナノセルロースベースの組成物、および創傷、特に慢性創傷の治療におけるそのような組成物の使用を提案する。
【0015】
本明細書に開示される組成物は、高い表面電荷を有するセルロースナノフィブリルを含み、それらが高レベルの溶存酸素を有するように酸素化されている。それらは「すぐに使用できる」形式で提供することも、使用時に調製こともできる。例えば、組成物は、酸素化された「液体」(増粘または「粘性」液体を含む)として提供され得るか、または帯電したセルロースナノフィブリルを含む酸素化ゲル(すなわち「ヒドロゲル」)の形態で提供され得る。このような組成物は、創傷部位で直接使用することができ、または包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッドなどの好適な創傷被覆材に組み込むことができる。酸素化ゲルはまた、創傷被覆材として使用するために3D印刷することができ、またはそのようなゲルは、使用時にナノフィブリル化セルロースエアロゲルから調製することができる。
【0016】
それらの抗菌活性のために、組成物は、特に感染した創傷の治療での使用に好適であり、患部組織に直接適用することによって、または所望の標的部位に適用される適切な創傷被覆材に組み込むことによって、創傷部位に容易に送達することができる。例えば、組成物は、標的部位に適用するための包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッドなどの創傷被覆内に、またはその構成要素として提供され得る。
【0017】
一態様では、本発明は、水溶液中に分散された帯電したセルロースナノフィブリルを含む抗菌組成物を提供し、上記溶液は、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する。
【0018】
別の態様では、本発明は、抗菌剤として使用するための、例えば、少なくとも1つの創傷病原体の増殖を阻害する際に使用するための、本明細書に記載の組成物を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の組成物を調製するための方法を提供し、当該方法は、(i)水溶液中に帯電したセルロースナノフィブリルの分散液を提供するステップ、および(ii)分散液を酸素化するステップを含む。
【0020】
別の態様では、本発明は、創傷を治療するための方法を提供し、当該方法は、本明細書に記載の有効量の抗菌組成物を上記創傷に適用するステップを含む。任意選択で、上記方法は、この抗菌組成物の適用に続いて、創傷被覆材(本明細書では「二次被覆材」と称される)を適用するステップをさらに含み得る。
【0021】
別の態様では、本発明は、創傷を治療するための方法で使用するための薬剤の製造において本明細書に記載されるような抗菌組成物の使用を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、創傷の治療に使用するためのキットを提供し、キットは、(a)本明細書に記載の抗菌組成物を含む滅菌され密封された容器またはパッケージ、および(b)創傷被覆、例えば、創傷被覆材、包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッドを含む。キットは、創傷の治療におけるキットの構成要素の使用についての印刷された説明書をさらに含み得る。
【0023】
別の態様では、本発明は、創傷の治療に使用するためのキットを提供し、このキットは、(a)帯電したセルロースナノフィブリルを含むエアロゲルを滅菌され密封された容器またはパッケージ、および(b)溶存酸素含有量が少なくとも20mg/lである酸素化水性液体(酸素化水または酸素化生理食塩水)を含む。キットは、成分を混合し、それにより酸素化ヒドロゲルを形成し、創傷の治療において酸素化ヒドロゲルの使用するための印刷された説明書をさらに含み得る。
【0024】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の抗菌組成物を組み込んでいる、例えば包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッドなどの創傷被覆を提供する。
【0025】
別の態様では、本発明は、帯電したセルロースナノフィブリルを含むヒドロゲルの形態の創傷被覆材を提供し、ここで、上記ヒドロゲルは、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する。創傷被覆材は、3Dプリントされたヒドロゲルであり得る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義:
「ナノフィブリルセルロース」および「セルロースナノフィブリル」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、単離されたセルロースフィブリルまたはセルロース材料に由来するフィブリル束を指す。セルロースフィブリルは、高いアスペクト比(すなわち、長さ:直径)によって特徴付けられる。セルロースフィブリルの長さは1μmを超えてもよいが、セルロースフィブリルの直径はサブミクロンの範囲、つまり1μm未満である。通常、セルロースフィブリルの直径はナノメートルスケールになり得る。水性溶媒(例えば水)に分散されると、セルロースフィブリルまたはフィブリル束は、低濃度で粘弾性ゲル(すなわち、ヒドロゲル)を形成する能力を有する。理解されるであろうが、ゲル形成の実際の濃度は、ナノフィブリルセルロースの正確な性質、例えばそのフィブリル化の程度などの他の要因に依存するであろう。
【0027】
「酸化セルロースナノフィブリル」および「酸化CNF」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、天然セルロース材料に存在する一級ヒドロキシル基の少なくとも一部がアルデヒドおよび/またはカルボキシル基に酸化されている表面酸化セルロースナノフィブリルを指す。「酸化セルロースナノフィブリル」には、TEMPO媒介酸化セルロースナノフィブリル(本明細書では「TEMPO-CNF」とも称される)が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用される用語「ゲル」は、固体と液体との中間にある物質の形態を指す。ゲルは、自己保持型でありながら変形可能である。ゲルは、一般に、周囲温度、すなわち、約25℃未満、好ましくは約20℃未満の温度での流れに対して耐性がある。レオロジー用語では、「ゲル」は、材料の弾性(エネルギー貯蔵)を表すその貯蔵弾性率(または「弾性率」)G’、および材料の粘性(エネルギー損失)を表すゲルの損失弾性率(または「粘性率」)G’’に従って定義され得る。貯蔵弾性率と損失弾性率との比率であるtanδ(G’’/G’に等しい)は、「損失正接」とも称され、応力および歪みが互いにどれだけ位相がずれているかの尺度を提供する。「ゲル」は、その貯蔵弾性率(G’)よりも大きい損失弾性率(G’’)および1未満の損失正接(tanδ)を有する。
【0029】
ゲルに関して使用されるとき、用語「粘弾性」は、粘性流体のレオロジー挙動に、また部分的に弾性固体のレオロジー挙動に似ているレオロジー特性によって特徴付けられることを意味する。
【0030】
ゲルに関連して使用される場合の「ヒドロゲル」という用語は、ゲルが親水性であり、水を含むことを意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「エアロゲル」という用語は、ゲルの液体成分がガス(通常は空気)で置き換えられた、ゲルに由来する多孔質材料を指す。「エアロゲル」は、密度が非常に低い固体である。
【0032】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される用語「液体」は、自由に流れ、かつ一定の体積を維持する物質を指す。これには、流動する濃厚な液体および粘性の液体が含まれる。「液体」は、通常その貯蔵弾性率(G’)よりも大きい損失弾性率(G’’)および1より大きい損失正接(tanδ)を有するであろう。
【0033】
物質に関連して使用される場合の「粘度」という用語は、応力にさらされたときに物質が流れに抵抗する程度である。粘度は、ブルックフィールド粘度計を使用して測定されるブルックフィールド粘度を指す場合がある。例えば、粘度は、次のパラメータで動作するBrookfield DV2TRV粘度計を使用して測定することができる:物質の評価体積:200ml、温度:23℃±1℃、スピンドル:V-71、速度(せん断速度):10RPM。
【0034】
本明細書で使用される「創傷被覆」という用語は、体組織または体表面に適用されることを意図され、創傷治癒を助けるために所定の位置に留まることが意図される任意の材料を意味する。創傷被覆は、創傷被覆材、包帯、ガーゼ、パッチ、絆創膏、吸収パッドなどの材料を包含する。いくつかの実施形態において、本発明は、本明細書に記載されるような酸素化ナノセルロース組成物(例えば、液体、増粘液体、またはゲル)を組み込むような創傷被覆に関する。他の実施形態において、そのような創傷被覆は、本明細書に記載されるような抗菌組成物の適用に続いて、創傷部位に適用され得る。
【0035】
「創傷」という用語は、物理的、化学的または熱的損傷から、あるいは根本的な医学的または生理学的状態の結果として生じる可能性のある皮膚の任意の欠陥または破壊を含む。創傷は、様々な方法で開始することができ、例えば、外傷、切り傷、潰瘍、火傷、外科的切開などによって誘発することができる。創傷は、急性または慢性に分類され得る。
【0036】
「細菌バイオフィルム」という用語は、細菌によって生成され、体表面に付着した細胞外高分子物質(EPS)マトリックス内に含まれる細菌のコミュニティを意味する。
【0037】
物質に関連して使用される場合の「抗菌性」という用語は、その物質が少なくとも1つの微生物、例えば、限定するものではないが、Pseudomonas aeruginosa,Staphylococcus aureus,Streptococcus epidermisおよびEscherichia coliなどの細菌生物を殺傷する、阻害する、または成長を制御することができることを意味する。
【0038】
一態様では、本発明は、水溶液中に分散された帯電したセルロースナノフィブリルを含む抗菌組成物を提供し、ここで、上記溶液は、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する。
【0039】
セルロースナノフィブリルの濃度およびそれらのフィブリル化の程度に応じて、そのような組成物は、液体(例えば粘性液体)の形態で提供され得るか、またはそれらはヒドロゲルとして提供され得る。ヒドロゲルとして、これらはセルロースのフィブリルによって提供される三次元ネットワーク内に閉じ込められているか固定化されている水を含んでいる。本明細書に開示される組成物において、水は酸素の担体として作用する。
【0040】
本明細書に開示される組成物は抗菌性であり、創傷に適用されると、正常な代謝状態の治癒、再生または回復を助けることができる。それらは、そのわれるおよび位置に関係なく、標的組織に適用するのに便利であり、体組織との接触点で直接溶存酸素を放出することができる。組成物は、それ自体で使用され、そのように体組織に直接適用され得るか、または組成物は、他の創傷被覆と組み合わせて使用され得る。例えば、組成物は、創傷に適用されることを意図された好適な「創傷被覆」に組み込まれるか、またはその一部を形成し得る。場合によっては、抗菌組成物は、創傷被覆材、包帯、ガーゼ、パッチ、石膏、吸収パッド、または標的部位への適用に好適な他の任意の創傷被覆中に、またはその構成要素として提供され得る。
【0041】
抗菌組成物は、単独で、または他の創傷被覆と組み合わせて、所望の標的部位に都合よく適用される。それらは、標的組織と密接に接触することができ、微生物の成長を効果的に殺傷する、阻害する、または制御するために、制御された様式で活性酸素を送達することができる。それらの抗菌活性は、ゲルの場合、ヒドロゲル構造の三次元ネットワークを形成する帯電したセルロースナノフィブリルによってさらに増強される。具体的には、本発明者らは、セルロースナノフィブリルがカルボン酸および/またはアルデヒド基の高い表面含有量、例えば、セルロース1g当たり少なくとも約1000μmol、好ましくはセルロース1g当たり少なくとも約1400μmolの表面カルボン酸基含有量、および/またはセルロース1g当たり少なくとも約100μmol、好ましくはセルロース1g当たり少なくとも約200μmolの表面アルデヒド基含有量の場合、抗菌活性が増強されることを見出した。それらの含水量により、本発明の組成物はまた、標的組織を保湿するのに有用に役立つ。
【0042】
本明細書に記載の組成物は、高レベルの溶存酸素を含む水溶液中に分散されたセルロースナノフィブリルを含む。理解されるように、水溶液は生理学的に許容できるであろう。水溶液には水が含まれているが、純水である必要はなく、他の生理学的に許容できる成分が含まれていてもよい。例えば、水溶液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの生理食塩水であり得る。
【0043】
本発明の組成物中に存在するセルロースナノフィブリルは、表面帯電している。それらは正または負の表面電荷を帯びることがあるが、好ましくは負の電荷を帯び、つまり、それらは陰イオン性である。一実施形態において、セルロースナノフィブリルは「酸化」されている、すなわち、セルロースナノフィブリルは、天然セルロース材料に存在する一級ヒドロキシル基の少なくとも一部をカルボキシル基および/またはアルデヒド基に酸化することによって化学的に修飾されている。
【0044】
化学修飾は、通常、繊維状セルロース原料に関して、ナノフィブリルに分解する前、すなわち「フィブリル化」の前に実行される。例えば、化学修飾は、水中の分散液として提供される場合、すなわち「パルプ」として提供される場合、繊維状セルロース原料に関して実施され得る。次に、酸化されたセルロースパルプは、本明細書に記載されるようにフィブリル化に供され得る。
【0045】
化学修飾には、1以上の化学反応によってセルロースの化学構造を修飾することが含まれる。本発明で使用するためのセルロース材料は、セルロース分子の官能基を修飾するために酸化され得る。具体的には、酸化は、セルロースの一級ヒドロキシル基の一部をアルデヒドおよび/またはカルボキシル基に変換するために効果的である。酸化には、ヒドロキシル基の一部がカルボキシメチル基に変換されるカルボキシメチル化、およびヒドロキシル基の一部またはすべてがリン酸化されるリン酸化も含まれる。
【0046】
化学修飾の程度は、前処理用の化学物質の選択、その濃度、および反応条件によって異なる。化学修飾の程度は、必要に応じて変えることができる。本明細書に記載されるように、より高いレベルの酸化は、抗菌活性を増強するために有益である可能性がある。
【0047】
セルロースのヒドロキシル基は、例えば複素環式ニトロキシル化合物を使用して、触媒的に酸化することができる。セルロース中のC6炭素のヒドロキシル基の選択的酸化を触媒することができる任意の複素環式ニトロキシル化合物を使用し得る。一実施形態において、複素環式ニトロキシル化合物は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカル(一般に「TEMPO」として知られる)またはその任意の誘導体であり得る(Isogai et al.,Nanoscale 3:71,2011を参照されたい)。一実施形態において、本発明で使用するためのセルロースは、「TEMPO酸化セルロース」である。
【0048】
好適な酸化剤には、次亜ハロゲン酸塩(例えば次亜塩素酸ナトリウム)、亜塩素酸ナトリウム、および過ヨウ素酸塩が含まれるが、これらに限定されない。そのような薬剤の組み合わせも使用することができる。次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜ハロゲン酸塩は、カルボキシル基とアルデヒドの両方の比率を有する酸化セルロース材料の製造に使用するのに好適である。亜塩素酸ナトリウムは、実質的にすべてのヒドロキシル基のカルボキシル基への変換が望まれる場合に使用することができる。例えば、TEMPO媒介酸化の後に、残りのアルデヒド基をカルボキシル基に変換するために使用することができる。過ヨウ素酸酸化は、C2とC3の間の選択的開裂により、ポリマー鎖に沿って2,3-ジアルデヒド単位の割合を有する修飾セルロース材料を提供する(Liimatainen et al.,Biomacromolecules 5(5):1983-1989,2004を参照)。電荷の望ましい増加を提供するために、過ヨウ素酸塩を亜塩素酸ナトリウムなどの他の酸化剤と組み合わせて、またはカルボキシメチル化またはTEMPO媒介酸化と組み合わせて使用して、C6位置にカルボキシル基を導入することができる(Chinga-Carrasco et al.,Journal of Biomaterials Applications 29(3):423-432,2014を参照)。TEMPO媒介酸化における次亜ハロゲン酸塩の使用は、本発明で使用するためのナノセルロース材料を調製する際の使用に一般的に好ましい。カルボキシメチル化およびリン酸化の方法は当技術分野で周知であり、例えば、Wagberg et al.,Langmuir 24:784-795,2008、Chinga-Carrasco et al.,Journal of Biomaterials Applications 29(3):423-432、 2014、およびGhanadpour et al.,Biomacromolecules 16:3399-3410,2015に記載されており、これらの内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0049】
酸化の結果として、セルロース系β-D-グルコピラノース単位の一級ヒドロキシル基(すなわち、C6ヒドロキシル基)は、カルボン酸基に選択的に酸化される。一部の一級ヒドロキシル基は、アルデヒド基へと部分酸化だけされる可能性がある。セルロース材料中のカルボン酸基の含有量は、当技術分野で知られている方法によって、例えば、SaitoらによるBiomacromolecules5(5):1983-1989,2004に記載されている導電率滴定を使用して決定することができる。アルデヒド基の含有量は、当技術分野で周知の方法を使用して、例えば、JausovecらによるCarbohydrate Polymer 116:74-85,2015に記載されているような分光光度法によって同様に決定することができる。セルロース中のカルボン酸およびアルデヒドレベルは、セルロース材料1g当たりのμmolで定義することができる。
【0050】
セルロース材料の異なる程度の酸化は、例えば、異なる化学的前処理剤を使用して、および/またはそのような薬剤の濃度を変えることによって達成することができる。本明細書で証明されるように、本発明者らは驚くべきことに、ナノセルロース材料の電荷の増加(すなわち、酸化度の増加)がその抗菌特性に影響を与える可能性があることを発見した。
【0051】
いくつかの実施形態において、酸化セルロースのカルボン酸含有量は、400~1750μmol/gセルロース、好ましくは700~1700μmol/gセルロース、例えば、800~1600、900~1600、または1000~1600μmol/gセルロースの範囲であり得る。特定の実施形態において、カルボン酸含有量は、少なくとも約1000μmol/gセルロース、好ましくは少なくとも約1400μmol/gセルロースであり、例えば、カルボン酸含有量は、1400~1700μmol/gセルロース、例えば、1500~1600μmol/gセルロースの範囲であり得る。特定の実施形態において、酸化セルロース材料のカルボン酸含有量は、900μmol/g超でもよく、好ましくは1000μmol/g超でもよく、例えば、1400μmol/gセルロース超でもよい。
【0052】
いくつかの実施形態において、酸化セルロースのアルデヒド含有量は、10~1700μmol/gセルロース、好ましくは100~400μmol/gセルロース、例えば、200~400μmol/gセルロースの範囲であり得る。特定の実施形態において、アルデヒド含有量は、300μmol/gセルロース未満、例えば、250μmol/gセルロース未満であり得る。他の実施形態において、アルデヒド含有量は、少なくとも300μmol/gセルロースであり得る。
【0053】
特定の実施形態において、酸化セルロースは、少なくとも約1400μmol/gセルロース、例えば、1400~1700μmol/gセルロースまたは1500~1600μmol/gセルロースのカルボン酸含有量、および300μmol/gセルロース未満、例えば250μmol/gセルロース未満のアルデヒド含有量を有し得る。
【0054】
化学修飾後のセルロース分子内のカルボン酸基の存在(したがって、生理学的pHでの陰イオン電荷)も、セルロース繊維間の水素結合の程度を減少させ、ナノフィブリルセルロースを生成する崩壊プロセス(すなわちフィブリル化)を助けるため、有益である可能性がある。また、低濃度であっても高粘度のナノフィブリルセルロース材料を提供する。
【0055】
一実施形態において、原料セルロース材料は、酸化の前に前処理に供することができる。例えば、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質の存在下でオートクレーブにかけることができる。このような処理は、エンドトキシン(すなわち、リポ多糖、LPS)を除去するのに役立ち、NordliらによるCarbohydrate Polymers 150:65-73,2016に記載されているように実施でき、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。LPSの含有量は、通常、セルロース1g当たり約100エンドトキシン単位未満であり、創傷被覆材用途に対して超高純度とみなされる。アルカリ処理は、セルロースのリグニン含有量を減らすのにも役立つ。これは通常、セルロース材料の1重量%未満になる。
【0056】
ナノフィブリルセルロースは、任意の起源の原料セルロース材料から調製することができるが、典型的には、植物起源のセルロース材料から調製されるであろう。ナノフィブリルセルロースは、例えば木材または植物からの、セルロースを含む任意の植物材料に由来し得る。他のセルロース原料には、細菌発酵プロセスから得られたものが含まれる。セルロースは、藻類または尾索類からも得られる。
【0057】
一実施形態において、植物由来のセルロース材料は木材である。木材は、針葉樹または広葉樹から入手できる。好適な針葉樹には、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ツガなどがある。好適な広葉樹には、シラカバ、ポプラ、ポプラ、アルダー、オーク、ブナ、アカシア、ユーカリなどがある。針葉樹と広葉樹の混合物も使用することもできる。
【0058】
一実施形態において、セルロース含有材料は、木材由来の繊維状材料から得られる。通常、それは木材パルプから、すなわち水中の木材由来の繊維状材料の組み合わせから得られる。木材パルプは、木材からセルロース繊維を化学的または機械的に分離することによって形成される。セルロース含有材料は、針葉樹パルプ、例えばマツ由来のパルプから得ることができる。一実施形態において、針葉樹は、Monterey pineまたはradiata pineとしても知られているPinus radiataであり得、これは、急速に成長する中密度針葉樹である。別の実施形態において、それはPinus Sylvestrisであり得る。別の実施形態において、針葉樹はトウヒ、例えばPicea speciesであり得る。別の実施形態において、セルロース材料は、広葉樹パルプから得ることができる。
【0059】
原材料のセルロース材料は、主にセルロース、ヘミセルロース、および少量のリグニンで構成されている。セルロース材料は、クラフトおよび/または亜硫酸塩プロセスによって得ることができる。いくつかの実施形態において、天然セルロース材料は、リグニンなどのマトリックス材料を(完全にまたは部分的に)除去して、精製されたセルロース材料を提供するために前処理され得る。漂白木材パルプは、そのような精製された材料の例である。漂白は、無塩素(Elemental Chlorine Free、ECF)プロセスまたは無塩素(totally Chlorine Free、TCF)漂白プロセスなどの従来の漂白方法を使用して実行することができる。
【0060】
セルロースナノフィブリルを生成するためのセルロースのフィブリル化は、本明細書に記載される、化学的に修飾されたセルロース繊維(例えばパルプ繊維)の水性分散液の均質化などの既知の方法を使用して実施され得る。非常に低い濃度でさえ、結果として生じるセルロースナノフィブリルの分散液は、希薄な粘弾性ヒドロゲルである。
【0061】
ナノフィブリルセルロースの調製において、セルロース繊維は、サブミクロンの直径を有するフィブリルを生成するために分解される。例えば、これらはナノメートルの範囲にある直径を有し得る。
【0062】
崩壊方法には、水の存在下でのセルロース材料の機械的崩壊が含まれる。機械的崩壊は、繊維状セルロース材料の粉砕、粉砕、またはせん断、あるいはこれらの任意の組み合わせを含み得る。機械的崩壊は、ホモジナイザー、フリューダイザー(例えば、マイクロフリューダイザー)、グラインダーなどの既知の装置を使用して実施することができる。一実施形態において、崩壊は、繊維状材料を圧力下で均質化するホモジナイザーを使用して実施することができる。繊維状材料を圧力下で狭い開口部に通すと、速度が増加し、したがってせん断力が増加し、セルロース材料から個々のフィブリルまたはフィブリル束が分離する。必要に応じて、所望の程度のフィブリル化を達成するために、機械的崩壊のいくつかの段階を実施することができる。例えば、ホモジナイザーを使用する場合、ホモジナイザーを数回通過させる必要がある場合がある。フィブリル化を行うために使用できるホモジナイザーの例は、Rannie15型12.56Xホモジナイザーである。
【0063】
フィブリル化後に得られるセルロースナノフィブリルまたはナノフィブリル束は、高いアスペクト比(すなわち、長さ:直径)によって特徴付けられる。セルロースナノフィブリルまたはナノフィブリル束の長さは1μmを超える可能性があるが、セルロースナノフィブリルまたはナノフィブリル束の直径はサブミクロンの範囲、つまり1μm未満である。ナノフィブリルまたはナノフィブリル束の正確な寸法および大きさ分布は、原料セルロース材料の性質および崩壊(すなわちフィブリル化)方法に依存し、ある程度変化する可能性がある。セルロースの化学修飾もフィブリル大きさとフィブリル大きさ分布に影響を与える可能性がある。例えば、TEMPO媒介酸化は、短縮された長さおよび/または縮小された直径を有するフィブリルまたはフィブリル束を生成し得る。正確な寸法は、本発明にとって重要であるとは考えられない。
【0064】
典型的には、ナノフィブリルまたはナノフィブリル束の直径は、ナノメートルスケール、例えば、20nm未満である。例えば、ノフィブリルまたはナノフィブリル束の平均直径は、3~20nm、好ましくは5~20nm、例えば5~10nmの範囲であり得る。TEMPO-CNFの直径は小さくなっている場合があり、例えば、これらの平均直径は1~10nmの範囲である場合がある。
【0065】
通常、ナノフィブリルまたはナノフィブリル束の平均長さは、5~10μmの範囲になる。例えば、平均長さは、1~5μm、例えば、0.5~1μm、または0.2~0.5μmの範囲であり得る。
【0066】
フィブリルの大きさおよび大きさ分布は、既知の技術を使用して、例えば顕微鏡検査によって決定することができる。長さと直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、または原子力顕微鏡(AFM)からの画像の分析によって決定できる。原子間力顕微鏡は、フィブリルの直径を測定するのに特に好適であり、例えば、約0.4Nm-1のばね定数を有するAFMチップを備えた周囲温度で動作するVeeco multimode Vを使用して実施することができる。長さの測定にはTEMを使用することができる。
【0067】
ナノフィブリルセルロース材料は、それが分散されている水溶液の粘度に関して特徴付けられ得る。粘度は、従来の方法および装置を使用して測定することができる。粘度は、ブルックフィールド粘度計を使用して測定されるブルックフィールド粘度を指す場合がある。多くのブルックフィールド粘度計が市販されており、粘度の測定に使用できる。例えば、ブルックフィールド粘度計DV2TRVを使用することができる。この装置を使用する場合、次のパラメータを使用できる:物質の評価体積:200ml、温度:23℃±1℃、ベーンスピンドル:V-71、速度(せん断速度):10RPM。
【0068】
本明細書に記載の組成物の粘度は、例えば、ナノフィブリルセルロース材料の濃度、そのフィブリル化の程度などを変えることによって好適に調整することができる。一実施形態において、組成物の粘度をブルックフィールド粘度として決定することができる。一般に、組成物のブルックフィールド粘度は、20~20,000mPa.sの範囲であり得る。(10RPM、23℃の温度で測定した場合)。
【0069】
一実施形態において、水溶液中のセルロースナノフィブリルの0.2重量%分散液は、20~600mPa.s、好ましくは100~200mPa.s、例えば200~400mPa.s、または400~600mPa.s(10RPM、23℃で測定した場合)の範囲のブルックフィールド粘度を有する組成物を提供し得る。水溶液中の0.4重量%の分散液として提供される場合、セルロースナノフィブリルは、1500~9000mPa.s、好ましくは1500~6000、例えば3000~6000mPa.s(10RPM、23℃で測定した場合)の範囲のブルックフィールド粘度を有する組成物を提供し得る。約0.5重量%の濃度で、水性組成物中のセルロースナノフィブリルの分散液は、10,000~20,000mPa.s、好ましくは10,000~15,000または15,000~20,000mPa.s(10RPM、23℃で測定した場合)の範囲のブルックフィールド粘度を提供し得る。
【0070】
セルロースナノフィブリルを製造するために使用されるプロセスの結果として、得られるセルロース材料はまた、非ナノフィブリルパルプの一部、すなわち残留セルロース繊維を含み得る。ただし、存在する場合は、通常、ごく少量存在する。本明細書に記載の組成物中に存在し得る非ナノフィブリルパルプの量は、1~20重量%、例えば1~5重量%(セルロースの総乾燥重量に基づく)の範囲であり得る。本明細書で言及される総セルロースは、材料中の総セルロースの乾燥重量を指す。一実施形態において、材料は、非ナノフィブリルパルプを実質的に含まないであろう。例えば、非ナノフィブリルパルプの量は、0重量%であり得る。
【0071】
本明細書に記載の組成物中のセルロースナノフィブリルの含有量は、組成物の総重量に基づいて0.1~1.0重量%、好ましくは0.2~0.8重量%、例えば、0.3~0.5重量%の範囲であり得る。いくつかの実施形態において、セルロースナノフィブリルの含有量は、0.5~1.0重量%の範囲であり得る。
【0072】
本発明による材料は、本明細書に記載されるように、化学的に修飾されたナノフィブリルセルロースを含む。しかしながら、材料はまた、ある割合の非修飾ナノフィブリルセルロースを含み得る。
【0073】
理解されるように、本明細書に記載の材料はまた、ナノセルロースフィブリルを生成するために使用されるセルロース原料に応じて、他の非セルロース成分を含み得る。例えば、これらにはリグニンやヘミセルロースなどの他の木材成分が含まれている場合がある。そのような成分の性質と量は、ナノセルロースフィブリルを調製するために使用されるセルロース供給源と方法に依存する。存在する場合、これらは、組成物の総重量に基づいて、比較的少量、例えば、約1重量%未満のリグニンおよび約20重量%未満のヘミセルロースとして存在するであろう。
【0074】
本明細書に開示される組成物は、溶解した分子状酸素を含み、創傷への適用後にこれを標的組織に放出することができる。これは、活性物質として機能し、組織に特定のレベルの酸素を供給することを目的としているため、それに応じてその濃度を選択する必要がある。正確な酸素レベルは、組成物の正確な性質(例えば、存在する可能性のある他の成分および酸素の存在下でのそれらの安定性)、任意の治療の使用目的および期間、組成物が投与される患者を含む様々な要因に依存する。好適なレベルは、必要に応じて当業者によって容易に決定され得る。
【0075】
本明細書に記載の組成物は、少なくとも約20mg/lの溶存酸素を含む。いくつかの実施形態において、それらは、20~100mg/L、20~70mg/L、20~60mg/L、25~50mg/L、または30~40mg/Lの酸素を含み得る。高レベルの酸素、例えば少なくとも25mg/Lまたは少なくとも30mg/Lを含む組成物が特に好ましい。一組の実施形態において、溶存酸素レベルは、20~55mg/L、例えば、25~50mg/L、25~40mg/L、または30~35mg/Lの範囲であり得る。酸素含有量は、Orion RDO酸素計(Orion A323、Thermo Scientific、Massachusetts,USA)を使用して決定できる。特に明記しない限り、本明細書で言及されるすべての酸素含有量は、周囲温度、例えば、18~23℃の範囲で測定される。本明細書で言及されるすべての酸素含有量は、大気圧で測定されることが理解されよう。
【0076】
創傷治癒プロセスには、様々な細胞成分とマトリックス成分が一緒に作用して、損傷した組織の完全性と失われた組織の置換を再確立する、様々な重複段階が含まれる。これらは一般的に、止血、炎症、移動、増殖および成熟段階を含むと考えられている。急性低酸素症は血管新生を刺激するが、組織の酸素レベルの上昇は上皮化と線維芽細胞を刺激する。創傷治癒の様々な段階で、様々な濃度の酸素を使用することができる。
【0077】
本発明による組成物中に存在する酸素は、生理学的に許容される水性媒体、例えば、生理学的塩溶液(例えば、生理食塩水)または水に溶解される。通常、これは水であろう。
【0078】
本発明による抗菌組成物を調製するために、いくつかの異なる方法を使用することができる。正確な調製方法は、成分の性質や最終製品の形態などの要因を考慮して変えることができ、例えば、これが液体かゲルかどうか、などである。酸素化のステップは、最終的なセルロース含有組成物の調製の前に、組成物の1つ以上の液体成分に関して実施され得るか、または最終的な組成物に関して実施され得る。後述するように、既知の酸素化方法論を使用して、増粘された液体またはゲル(これらが流動可能である場合)を酸素化することが可能である。抗菌組成物を調製するために本明細書に記載されている方法のいずれも、本発明のさらなる態様を形成する。
【0079】
特定の実施形態において、抗菌組成物は、溶存酸素を含む水溶液を、帯電したセルロースナノフィブリルを含む調製物と組み合わせることによって調製することができる。例えば、高度に酸素化された溶液(例えば、水または生理食塩水)は、セルロースナノフィブリル(例えば、ナノフィブリル化された材料を含むヒドロゲル)を含む水性分散液と組み合わせることができる。あるいは、酸素化された溶液を、帯電したセルロースナノフィブリルを含むエアロゲルと接触させ、それによってエアロゲルを再水和し、ヒドロゲルを形成することができる。
【0080】
したがってさらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の抗菌組成物の調製方法を提供し、その方法は、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する水溶液を、帯電したセルロースナノフィブリル調製物と組わせることを含む。
【0081】
他の実施形態において、本発明による抗菌組成物は、帯電したセルロースナノフィブリルが分散している水溶液を酸素化することによって調製することができる。この場合、セルロース材料を含む酸素化用の水溶液は、液体または流動性ゲルの形態で提供され得る。
【0082】
高レベルの溶存酸素を含む水溶液およびそれらの調製方法は、当技術分野で一般的に知られている。そのような溶液およびそれらの調製方法の例は、WO02/26367、WO2010/077962およびWO2016/071691に記載されており、それらの全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。これらの溶液は、本明細書に記載の抗菌組成物を調製する際に使用することができる。OXY BIOシステム(Oxy Solutions、Oslo、Norway)を使用して、本明細書に記載の酸素化溶液のいずれかを生成することができる。
【0083】
一実施形態において、高レベルの溶存酸素を含み、本発明の組成物を調製する際に使用することができる水溶液は、以下のステップを含む方法によって生成することができる:
●加圧された液体(例えば水)を配管ネットワークに導入して、フローストリームを形成するステップ、
●ガス状酸素をフローストリームに注入して、液体と酸素の泡の混合物を生成するステップ、
●ベンチュリを含む線形フローアクセラレータを提供するステップ、および
●液体と気体の酸素気泡の流動混合物を線形フローアクセラレータに通して流動混合物を加速し、続いて流動混合物を亜音速まで減速して気体酸素気泡を破壊するステップ。
【0084】
上記の方法を用いた酸素化により、溶存酸素含有量が高く安定した酸素化液体(例えば水)を生成することが可能になる。液体が水である場合、酸素の溶解度は約7mg/l~20、30、50、60、70mg/l以上に増加し、酸素含有量は冷却された環境で数ヶ月間実質的に安定である。
【0085】
この方法は、WO2016/071691に記載されているように、液体を保持容積(例えば、保持タンク)に導入するステップをさらに含み得る。液体を、液体と酸素の混合物を形成する前に保持容積に導入することができ、またはベンチュリの下流の保持容積に導入することができる。保持ボリュームは加圧できるが、必要ではない。保持タンク内の液体は、必要に応じて、液体の均一性を維持するために攪拌することができる。好ましい実施形態において、保持容積は、出口と流体連絡し、出口の下流にあり、好ましくは、例えば適切な導管を介して、装置の液体入口の上流とも流体連絡する。
【0086】
いくつかの実施形態において、酸素化のための液体は、1つ以上の泡低減剤(例えば、シメチコン)をさらに含み得るか、または方法は、追加の泡低減ステップを含み得る。泡低減ステップは、任意の好適かつ所望の方法を含み得、泡低減ステップは、酸素化方法の任意の好適な時点で提供され得る。一実施形態において、泡低減ステップは、本明細書に記載されるように、保持容積(例えば、保持タンク)への液体の導入を含み得る。
【0087】
そのような酸素化方法を実行するのに好適な装置は、以下を含み得る:
装置に液体(例えば水)を供給するための液体入口、
液体入口と流体連絡しており、液体入口の下流にある、装置内の液体に酸素を供給して液体と酸素の混合物を生成するための酸素入口、
通過する液体に酸素を溶解するように配置されている、液体入口および酸素入口と流体連絡し、その下流にあるベンチュリ、および
ベンチュリと流体連絡し、ベンチュリの下流にある酸素化液体の出口。
【0088】
この装置は、液体および酸素の入口と出口を含み、その間にベンチュリがある。液体および酸素は、それぞれの入口を介して装置に供給され、酸素入口は、酸素が液体流に注入されるように、液体入口の下流に配置される。次に、この液体と酸素の混合物は、例えば、液体入口および酸素入口と流体連絡し、その下流にある導管を介してベンチュリに送られ、導管は、液体および酸素をベンチュリに供給するように配置される。制限により、ベンチュリが流路を生成し、液体と酸素の混合物がベンチュリを介して加速し、反対側で減速し、混合物に衝撃波が発生して、酸素が液体に溶解し、液体を酸素化する。
【0089】
一実施形態において、装置は、酸素入口(および液体入口も)と流体連絡し、その下流に拡散チャンバーを備え、拡散チャンバーおよび酸素入口は、酸素が酸素入口を通って拡散チャンバーに供給されるように配置される。拡散チャンバーは、液体が流れ、流体内に酸素が注入される体積を提供し、拡散チャンバーは、例えば、拡散チャンバー内の液体および酸素の乱流を促進することによって、酸素の気泡のより小さな気泡への分解を促進するように配置される。好ましくは、例えばガラス、金属またはプラスチックから作られたグリッドまたはメッシュが拡散チャンバー内に配置され、例えば、酸素および液体がそれを通って拡散チャンバーに移らなければならない。これは、酸素を液体内の小さな気泡に分解するのに役立ち、拡散チャンバー内および装置の下流、例えばベンチュリ内の液体に酸素がより容易に溶解する。
【0090】
装置は、酸素入口および液体入口(および拡散チャンバーが提供される実施形態において拡散チャンバーも)と、流体連絡し、その下流にある混合チャンバーを含み得、混合チャンバーは、そこを流れる流体に乱流を誘発するように配置される。混合チャンバーは、液体の乱流を生成し、酸素は酸素を液体内の小さな泡に分解するように作用する混合チャンバーを通って流れ、混合チャンバー内および装置の下流、例えばベンチュリ内でより容易に液体に溶解する。混合チャンバーは、任意の好適かつ所望の方法で、つまり、必要な乱流を誘発するために提供され得る。例えば、混合チャンバーは、1つ以上の障害物(例えば、流路内の障壁)および/または曲がりくねった経路を含み得る。
【0091】
必要に応じて、装置を通過して酸素化された後、酸素化された液体の一部を再循環することができる。例えば、装置は、酸素化された流体の一部を出口から液体入口に再循環するように配置された導管を備え得る。したがって、一実施形態において、導管は、出口と流体連絡し、出口の下流にある一端と、液体入口との流体連絡し、液体入口の上流にある別の端とを有する。酸素化された液体の一部を再循環すると、液体の少なくとも一部が装置を複数回通過するため、液体中の溶存酸素の濃度を上げるのに役立つ場合がある。しかしながら、一実施形態において、装置は、シングルパス生成モード、つまり、酸素化された液体の再循環なしで動作するように構成されている。
【0092】
酸素は、任意の好適かつ所望の方法で装置に供給され得る。それは、液体および/または気体の形態で装置に供給され得る。一実施形態において、装置は、酸素入口と流体連絡している加圧酸素供給、例えば、酸素を含む加圧ガスボンベを含む。
【0093】
装置を通る液体の流量は、例えば液体の粘度に応じて、任意の好適で望ましい値または値の範囲であり得る。一実施形態において、装置は、装置の出口から0.01ml/分~100l/分、例えば、0.1ml/分~50l/分、例えば、1ml/分~20l/分、例えば5ml/分~5l/分の酸素化液体の流量を送達するように構成される。
【0094】
装置を通って流れる液体の圧力は、任意の好適で望ましい値または値の範囲であり得る。一実施形態において、装置は、0.1~5バール、例えば、0.5~4バール、例えば、約3バールの流体圧力で動作するように構成される。
【0095】
本明細書に記載の装置および方法のいずれも、好適かつ所望の任意の液体で使用することができる。したがって、この文脈において、「液体」という用語は、従来の意味での液体だけでなく、流動性のある材料、例えば、増粘または粘性の液体、または流動性のゲルも含む。通常、酸素化のための液体は水または生理食塩水である。
【0096】
本明細書に記載の方法および装置は、溶存酸素の濃度が20mg/lを超える、例えば30mg/Lを超える、例えば40mg/Lを超える、例えば50mg/Lを超える、例えば60mg/Lを超える、例えば約70mg/Lの酸素化溶液を生成することができる。最大約100mg/L、例えば最大約90mg/Lまたは最大80mg/Lの酸素化レベルを達成することができる。
【0097】
理解されるように、達成できる溶存酸素の濃度は、装置を流れる液体の温度に依存し、達成可能な濃度は、一般に、温度の低下とともに増加する。本明細書に記載の酸素化プロセスのいずれかに好適な温度は、当業者によって容易に選択され得る。
【0098】
別の一連の実施形態において、本明細書に記載の抗菌組成物は、化学的に修飾されたセルロースナノフィブリルの水性分散液の酸素化によって調製することができる。例えば、これらは、WO02/26367、WO2010/077962およびWO2016/071691に記載されている装置および方法のいずれかを使用して酸素化することができる。特に、それらは、WO2016/071691に記載されている方法および装置を使用して酸素化することができる。OXY BIOシステム(Oxy Solutions、Oslo、Norway)を使用して、本明細書に記載されているように、帯電したセルロースナノフィブリルの水性分散液を酸素化することができる。
【0099】
化学的に修飾されたセルロースナノフィブリルの水性分散液の粘度は、少なくとも部分的に、ナノセルロースの濃度に依存するであろう。低濃度(例えば、最大約0.4重量)%)では、これらは液体または増粘液体になるが、高濃度(例えば、約0.4重量%以上)では、これらは「ゲル」とみなされる。WO02/26367、WO2010/077962およびWO2013/071691に記載されている装置および方法のいずれかを使用して、液体または流動性ゲルを酸素化することができる。したがって、酸素化溶液を調製する際に使用するための上記の方法および装置は、帯電したセルロースナノフィブリルの水性分散液を酸素化するためにも使用することができる。
【0100】
したがって、一組の実施形態において、本明細書に記載の抗菌組成物は、水溶液中の帯電したセルロースナノフィブリルの分散液の酸素化によって調製することができる。例えば、これらは、以下のステップを含む方法によって生成され得る:
●本明細書に記載の帯電したセルロースナノフィブリルの水性分散液を含む液体を配管ネットワークに導入して、フローストリームを形成するステップ、
●ガス状酸素をフローストリームに注入して、上記液体と酸素の泡の混合物を生成するステップ、および
●液体と気体の酸素気泡の流動混合物を、通過する液体にガスを溶解するように配置されているベンチュリに通ずるステップ。
【0101】
この方法では、「液体」という用語は、従来の意味での液体、および流動性である任意の水性材料、例えば、増粘または粘性の液体、または流動性ゲルを包含する。
【0102】
この方法では、フローストリームを形成するために配管ネットワークに導入された液体を加圧することができるが、加圧する必要はない。好適な流量を容易に選択することができる。いくつかの実施形態において、液体の流量は、1L/分~25L分の範囲であり得る。特定の実施形態において、好適な酸素流量は、0.1L/分~2.0L/分の範囲であり得る。配管ネットワークへの導入時に液体が加圧される場合、これは1~5バールの圧力に加圧される可能性がある。
【0103】
本明細書に記載の装置は、溶存酸素の濃度が20mg/lを超える、例えば30mg/Lを超える、例えば40mg/Lを超える、例えば50mg/Lを超える、例えば60mg/Lを超える、例えば約70mg/Lの酸素化組成物を生成することができる。最大約100mg/L、例えば最大約90mg/Lまたは最大80mg/Lの酸素化レベルを達成し得る。
【0104】
必要に応じて、本明細書に記載の任意の酸素化組成物の粘度は、それを追加の後処理ステップに供することによって増加させることができる。例えば、液体組成物をより粘性のある液体またはヒドロゲルに変換するために粘度を上げることが望ましい場合がある。
【0105】
一実施形態において、本明細書に記載の液体ナノセルロース組成物(「第1のナノセルロース組成物」)の粘度は、より高濃度の分散CNFを有する第2のナノセルロース組成物と混合することによって増加させることができる。第2のナノセルロース組成物は、酸素化されていてもされていなくてもよい。第2のナノセルロース組成物は、例えば、酸素化されていない場合がある。理解されるように、得られる組成物は、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有するであろう。成分は、制御された温度条件下で所望の量で混合することができる。酸素の損失を最小限に抑えるために、低温(例えば、2~25℃の範囲、好ましくは約4~5℃)で、好ましくは制御された圧力条件下で混合することが一般的に推奨される。酸素の損失を避けるために、調製中の組成物の攪拌も制御、例えば最小化する必要がある。この調製方法は、0.2重量%を含む酸素化CNF組成物を、0.4重量%の濃度を有する非酸素化CNF組成物と混合し、それによってその粘度を増加させる実施例10に示されている。この例に見られるように、これは溶存酸素含有量への影響を最小限に抑えて行うことができる。
【0106】
あるいは、より高い粘度を有する酸素化ナノセルロース組成物は、化学的に修飾されたセルロースナノフィブリル(例えば、ヒドロゲル)の高粘度の水性分散液を、溶解酸素の所望の含有量を有する水溶液(例えば、水または生理食塩水)と混合することによって調製され得る。これらの成分の混合は、粘性分散液(例えば、ヒドロゲル)を溶解し、均質な溶液を形成するのに効果的である。酸素の損失を最小限に抑えるために、混合は最小限のせん断力で実行する必要がある。所望の酸素含有量を有する水溶液は、本明細書に記載の装置および酸素化方法のいずれかを使用して調製することができる。
【0107】
別の実施形態において、本明細書に記載の液体ナノセルロース組成物の粘度は、帯電したナノフィブリルの架橋によって増加させることができる。例えば、架橋は、-COO基を介してナノフィブリルを架橋することができる二価カチオンを使用して達成され得る。好適な二価カチオンには、Ca2+、Cu2+、Sr2+およびBa2+が含まれるが、これらに限定されない。CaClは、例えば、Ca2+カチオンを介してナノフィブリルを架橋するために使用され得る。架橋剤の好適な濃度は、必要に応じて容易に決定することができるが、例えば、約50mM~約100mMの範囲であり得る。
【0108】
あるいは、ヒドロゲルの形態の抗菌組成物は、必要なレベルの溶存酸素を含む酸素化液体を使用して、帯電したセルロースナノフィブリルを含むエアロゲルを再水和することによって調製することができる。エアロゲルは、既知の方法で調製することができる。例えば、これらは、ヒドロゲルを例えば-20℃で凍結し、Telstar LyoQuest-83装置を使用して最大24時間凍結乾燥することによって生成することができる。エアロゲルの細孔径を変更するために、凍結温度を調整することができる。例えば、凍結温度は約-80℃まで下げることができる。好切なエアロゲルは、3Dプリントされたヒドロゲルを凍結および凍結乾燥することによって調製できる。
【0109】
したがって、一実施形態において、本発明は、本明細書に記載の抗菌組成物を調製するための方法を提供し、この方法は、以下のステップを含む:(i)帯電したセルロースナノフィブリルを含むエアロゲルを調製する(ii)上記エアロゲルを、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する酸素化液体(酸素化水または酸素化生理食塩水)で飽和させ、それによりヒドロゲルを形成する。
【0110】
本明細書に記載の組成物の抗菌特性は、これらを、例えば創傷の治療における医学的使用に好適なものにする。したがって、さらなる態様において、本発明は、抗菌剤として使用するために、例えば、少なくとも1つの創傷病原体の増殖を阻害する際に使用するために、本明細書に記載の組成物を提供する。
【0111】
さらなる局面において、本発明は、創傷を治療するための方法において使用するための薬剤の製造において本明細書に記載されるような抗菌組成物の使用を提供する。
【0112】
別の態様では、本発明は、創傷を治療するための方法を提供し、上記方法は、本明細書に記載の有効量の抗菌組成物を上記創傷に適用するステップを含む。任意選択で、上記方法は、上記抗菌組成物の適用に続いて、創傷被覆(本明細書では「二次被覆材」と称される)を適用するステップをさらに含み得る。
【0113】
創傷の治療において、他の活性剤を創傷部位に送達することが有益である可能性がある。一実施形態において、少なくとも1つの他の活性物質、例えば他の活性物質の組み合わせもまた、組成物中に存在し得る。これらには、創傷の治療に好適であることが知られている物質が含まれる。
【0114】
本明細書に記載の組成物のいずれかに存在し得る他の活性剤には、抗菌剤、抗真菌剤、抗ウイルス剤、抗生物質、成長因子、サイトカイン、ケモカイン(例えば、マクロファージ化学誘引物質タンパク質(MCP-1またはCCL2))、核酸、DNA、RNA、siRNA、マイクロRNA、ビタミン(例えば、ビタミンA、C、E、B)、ミネラル(例えば、亜鉛、銅、マグネシウム、鉄、銀、金)、麻酔薬(例えば、ベンゾカイン、リドカイン、プラモキシン、ジブカイン、プリロカイン、フェノール、ヒドロコルチゾン)、抗炎症剤(例えば、コルチコステロイド、ヨウ化物溶液)、保湿剤(例えば、ヒアルロン酸、尿素、乳酸、乳酸塩およびグリコール酸)、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、コラーゲン、ヒアルロナン、およびエラスチン)、酵素(例えば、魚の卵からの孵化液中、またはサーモン卵抽出物などの卵抽出物中の酵素)、植物からの幹細胞、卵および卵殻からの抽出物(例えば、サーモンおよび鶏卵から)、植物抽出物、脂肪酸(例えば、オメガ-6およびオメガ-3脂肪酸、特に、多価不飽和脂肪酸)、および皮膚浸透促進剤が含まれる。
【0115】
成長因子は、通常の創傷治癒に強力かつ重大な影響を及ぼす。創傷修復は、成長因子(血小板由来成長因子[PDGF]、ケラチノサイト成長因子、およびトランスフォーミング成長因子-β)によって制御される。PDGFは、創傷治癒のほとんどの段階で重要である。PDGF-BB(ベカプレルミン)の組換えヒト変異体は、糖尿病性潰瘍および褥瘡に成功裡に適用されている。組成物中に提供され得る成長因子には、表皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、ケラチノサイト成長因子(KGFまたはFGF7)、血管内皮成長因子(VEGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF-b1)、インスリン様成長因子(IGF-1)、ヒト成長ホルモンおよび顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)が含まれる。
【0116】
サイトカイン、例えばインターロイキン(IL)ファミリーおよび腫瘍壊死因子-αファミリーは、基底膜の成分の産生の刺激、脱水の防止、炎症の増加、肉芽組織の形成など、様々な経路による治癒を促進する。IL-6は好中球と単球によって産生され、治癒反応を開始するのに重要であることが示されている。IL-6はケラチノサイトに対して分裂促進および増殖効果があり、好中球に対して化学誘引性がある。存在する可能性のあるサイトカインの例には、インターロイキン(IL)ファミリー、および腫瘍壊死因子-αファミリーが含まれる。
【0117】
ビタミンC(L-アスコルビン酸)、A(レチノール)、およびE(トコフェロール)は、強力な抗酸化作用と抗炎症作用を示す。ビタミンCの欠乏は治癒の障害をもたらし、コラーゲン合成と線維芽細胞の増殖の減少、血管新生の減少、毛細血管の脆弱性の増加、免疫応答の障害、および創傷感染に対する感受性の増加に関連している。同様に、ビタミンA欠乏症は、創傷治癒の障害につながる。ビタミンAの生物学的特性には、抗酸化活性、線維芽細胞の増殖の増加、細胞の分化と増殖の調節、コラーゲンとヒアルロン酸の合成の増加、MMPを介した細胞外マトリックスの分解の減少などがある。
【0118】
いくつかのミネラルは、最適な創傷修復に重要であることが示されている。マグネシウムはタンパク質とコラーゲンの合成に関与する多くの酵素の補因子として機能し、銅はチトクロームオキシダーゼ、サイトゾルの抗酸化スーパーオキシドジスムターゼ、およびコラーゲンの最適な架橋に必要な補因子である。亜鉛はRNAとDNAポリメラーゼの両方の補因子であり、亜鉛の欠乏は創傷治癒に重大な障害を引き起こす。プロリンとリジンのヒドロキシル化には鉄が必要であり、その結果、重度の鉄欠乏はコラーゲン産生の障害を引き起こす可能性がある。
【0119】
コラーゲンは、凝固の誘発から瘢痕の形成および最終的な外観までの自然な創傷治癒過程において重要な役割を果たす。コラーゲンは線維芽細胞の形成を刺激し、損傷した組織と接触すると内皮細胞の移動を加速する。キトサンは、増殖期および創傷治癒中に肉芽形成を促進する。
【0120】
組成物中に存在し得る抗菌剤の例には、以下が含まれるが、これらに限定されない:アルコール、塩素、過酸化物、アルデヒド、トリクロサン、トリクロカルバン、塩化ベンザルコニウム、リネゾリド、キヌプリスチンダルホプリスチン、ダプトマイシン、オリタバンシンおよびダルババンシン、キノロン、およびモキシフロキサシン。
【0121】
本発明による組成物中に存在し得る他の任意の活性物質の量は、活性物質の選択に応じて当業者によって容易に決定され得る。典型的には、活性物質は、1~10重量%、例えば、1~5重量%(組成物の総重量に基づく)の範囲で存在し得る。
【0122】
一実施形態において、本明細書に記載の組成物は、他の活性物質を実質的に含まない(例えば、含まない)場合がある。例えば、組成物は、追加の抗菌剤を含む必要はない。
【0123】
本明細書に記載の組成物は水性であるが、純粋に水性である必要はない。組成物は、最大99.8重量%の水を含み得る。典型的には、組成物は、少なくとも50重量%の水、より好ましくは少なくとも60重量%の水、さらにより好ましくは少なくとも70重量%の水、例えば少なくとも80重量%の水を含むであろう。例えば、本明細書に記載の組成物は、95~99.8重量%の水を含み得る。水分含有量が比較的高いと、酸素レベルが高くなり、溶存酸素が皮膚に急速に吸収される可能性がある。
【0124】
本発明による組成物は、他の任意の成分、例えば、緩衝されたpHを維持する成分、または意図された用途に好適な範囲の浸透圧を維持する成分、または組成物の安定性を維持する成分を含み得る。したがって、存在し得る他の成分には、緩衝剤、pH調整剤、浸透圧調整剤、防腐剤(例えば、抗菌剤)、抗酸化剤、香料、着色剤などが含まれる。
【0125】
緩衝剤の存在は、pHを生理学的レベル、例えば3~9の範囲、好ましくは4~7、例えば約5.5に調整するのに役立つ。緩衝剤の好適な選択はまた、組成物のイオン強度を制御するのを助けることができる。使用できる緩衝剤の例には、クエン酸塩、リン酸塩、炭酸塩、および酢酸塩が含まれる。リン酸塩などの等張性水性緩衝剤が特に好ましい。好適な緩衝液の例には、TRIS、PBS、HEPESが含まれる。
【0126】
アルカリ性のpHを有する創傷は、中性に近いpHの傷よりも治癒率が低くなる。いくつかの研究はまた、傷の酸性環境が自然治癒過程をサポートし、微生物感染を制御することも示している。慢性創傷は、通常、アルカリ性環境が高く、例えば、7.15~8.9の範囲のpHを有する可能性がある。したがって、創傷、特に慢性創傷の治療において、酸性pHが有利である可能性がある。したがって、一実施形態において、組成物は、2~7の範囲のpHを有するように緩衝され得る。例えば、これらは、3~6.5の範囲、好ましくは5~6、より好ましくは5~5.5、例えば約5.1~約5.5の範囲のpHに緩衝され得る。存在し得るpH調整剤には、水酸化ナトリウム、塩酸、酢酸、ホウ酸、アスコルビン酸、ヒアルロン酸、およびクエン酸が含まれる。
【0127】
組成物の浸透圧を調整し、したがってインビボでのそれらの忍容性を高めるために、塩も存在し得る。浸透圧を調整するための当技術分野で知られている任意の好適な塩を使用することができる。浸透圧は、創傷の性質に応じて調整される場合がある。例えば、過剰な滲出液を有するものは、高張組成物から利益を得る可能性があるが、他の人にとっては、低張性または等張性組成物がより適切である可能性がある。好適な塩の一例は塩化ナトリウムである。これは、等張組成物を形成するために、約0.05~約2重量%、例えば約0.2~約1重量%(組成物の総重量に基づく)の範囲の量で添加され得る。低張性または高張性の組成物を得るために、必要に応じて、より多いまたはより少ない量を加えることができる。組成物がヒドロゲルである場合、塩化ナトリウムの存在は、ゲルを強化し、その生体接着力を高めるのにさらに役立つ可能性がある。
【0128】
組成物がヒドロゲルの形態である場合、任意の追加の成分の選択は、それがゲルの強度に及ぼす可能性のある任意の悪影響を考慮に入れるべきである。したがって、ゲルの強度を低下させる可能性のある薬剤は、控えめに使用するか、まったく使用しないべきである。
【0129】
組成物中に存在し得る好適な防腐剤には、塩化ベンザルコニウム、塩化ナトリウム、パラベン、ビタミンE、EDTA二ナトリウム、グリセリン、およびエタノールが含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
1つ以上の抗酸化剤の存在は、例えば、組成物が酸化に敏感な他の成分を含み得る場合、本明細書に記載の組成物の貯蔵寿命を延ばすのに役立ち得る。存在する可能性のある好適な抗酸化剤の例には、アスコルビン酸およびアスコルビン酸塩(アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウムおよびアスコルビン酸カルシウム)、パルミチン酸アスコルビルやステアリン酸アスコルビルなどのアスコルビン酸の脂肪酸エステル、アルファ-トコフェロール、ガンマ-トコフェロール、デルタ-トコフェロールなどのトコフェロール、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシルまたは没食子酸エチル、グアヤク脂、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸またはエリソルビン酸ナトリウム、tert-ブチルキノン(TBHQ)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、アノキソマーとエトキシキンが含まれる。本発明での使用に好ましいものは、例えば、アスコルビン酸およびアスコルビン酸塩などの水溶性である抗酸化剤である。
【0131】
本発明の組成物中の抗酸化剤の最適量は、組成物の酸素レベル、組成物中の任意の酸素感受性化合物の存在および量などを含む多くの要因に依存する。好適なレベルは、当業者によって容易に決定され得る。しかしながら、抗酸化剤のレベルは、通常、少なくとも0.001重量%、特に少なくとも0.01または少なくとも0.03重量%である。抗酸化剤のレベルは、通常、5重量%未満、特に2または1重量%未満、例えば0.02~0.5重量%または0.05~0.2重量%であろう。
【0132】
皮膚浸透促進剤も存在する可能性があり、これらは、組成物の活性を増強するのに有益な効果を有する可能性がある。製薬文献にて知られ、記載されている皮膚浸透促進剤のいずれかを使用することができる。これらには、以下のいずれかが含まれるが、これらに限定されない:脂肪酸(例えば、オレイン酸)、ジアルキルスルホキシド(ジメチルスルホキシド、DMSOなど)、アゾン(例えば、ラウロカプラム)、ピロリドンおよび誘導体(例えば、2-ピロリドン、2P)、アルコールおよびアルカノール(例えば、エタノール、デカノール、イソプロパノール)、グリコール(例えば、プロピレングリコール)、および界面活性剤(例えば、ドデシルサルフェート)。他の皮膚浸透促進剤の例には、ラウリン酸プロピレングリコール、モノラウリン酸プロピレングリコール、モノカプリリン酸プロピレングリコール、ミリスチン酸イソプロピル、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルピリジニウムクロリド、オレイン酸、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ニコチン酸エステル、硬化大豆リン脂質、エッセンシャルオイル、アルコール(エタノール、イソプロパノール、n-オクタノール、デカノールなど)、テルペン、Nメチル-2-ピロリジン、コハク酸ポリエチレングリコール(TPGS)、Tween 80およびその他の界面活性剤、ならびにジメチル-ベータ-シクロデキストリンが含まれる。存在する場合、任意の表面浸透促進剤は、0.1~10重量%の範囲、例えば、約5重量%の量で提供され得る。
【0133】
一実施形態において、本発明による組成物は、本質的に、水、溶存酸素、帯電したセルロースナノフィブリル、および任意選択で1つ以上の薬学的に許容される担体または賦形剤からなる。本明細書で使用される場合、「本質的にからなる」という用語は、組成物が、創傷治療で典型的に使用され得る他の薬学的に許容される薬剤など、使用時にそれらの特性に実質的に影響を与える他の成分を含まないことを意味する。
【0134】
本発明による組成物が本明細書に記載の他の成分のいずれかを含む場合、これらは、酸素化セルロース含有組成物または組成物の任意の成分、例えばそれらの調製に使用される酸素化液体に組み込まれ得る。これらは、制御された温度条件下で、酸素の損失を最小限に抑得るために、例えば、低温(例えば、2~25℃、好ましくは4~5℃の範囲)で、好ましくは、制御された圧力条件下で、成分を所望の量で単純に混合して添加することができる。調製中の組成物の撹拌(stirring)または撹拌(agitation)は、酸素の損失を回避するために、例えば最小限に制御されるべきである。好ましい実施形態において、酸素化された後に組成物を混合または撹拌する必要性を回避するために、酸素化の前に他の成分を組成物に添加することができる。
【0135】
インビボで使用するために、本明細書に記載の組成物は滅菌されるべきである。これは、当技術分野で知られている方法によって達成することができる。滅菌の条件は、製品がその望ましい抗菌特性を維持しながらも、保管中の製品中の生存微生物のレベルを最小限に抑えるように選択するべきである。場合によっては、組成物の別個の成分は、混合する前に滅菌され得る。セルロースナノフィブリルの滅菌は、例えば、電子ビーム放射またはガンマ放射によって達成することができる。あるいは、最終組成物は、酸素化された後に滅菌することができる。この場合、滅菌は、同様に、ガンマ線または電子ビーム照射によって、または小さな孔径(例えば、約0.22μm)を有するフィルターを使用する精密濾過などの他の手段によって達成され得る。組成物を濾過する能力は、その最終粘度に依存するが、これが液体状態になるように十分に冷却されると、精密濾過は一般に実行可能である。
【0136】
本明細書に記載の組成物は、創傷被覆に組み込むことができ、例えば、これらは、従来の被覆材、包帯、または任意の他の好適な創傷被覆に、または従来の被覆材、包帯、または任意の他の好適な創傷被覆の構成要素として提供することができる。したがって、別の態様では、本発明は、本明細書に記載の抗菌組成物をその中に組み込んでいる創傷被覆を提供する。使用中、創傷被覆は、そこに含まれる抗菌組成物が下にある体組織と接触するように、標的組織(例えば、皮膚の表面)に適用され得る。
【0137】
一実施形態において、組成物は、包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッド、またはそれらの一部に組み込まれ、すぐに使用できるように包装され得る。例えば、液体組成物を好適な創傷被覆(例えば、吸収性パッド)に浸し、すぐに使用することができるように包装することができる。被覆材、ガーゼ、パッチまたは吸収パッドは、真空または圧力下で包装することができる。あるいは、組成物を含む創傷被覆は、使用の時点で、体組織に適用する直前に、好適な創傷被覆に組成物を適用することによって(例えば、創傷被覆を任意の液体組成物に浸漬または浸漬することによって)調製することができる。したがって、別の態様では、本発明は、創傷の治療に使用するためのキットを提供し、キットは、以下を含む:(a)本明細書に記載される抗菌組成物を含む、滅菌され密封された容器またはパッケージ、および(b)創傷被覆、例えば、創傷被覆材、包帯、ガーゼ、パッチまたは吸収パッド。キットは、創傷の治療におけるキットの構成要素の使用についての印刷された説明書をさらに含み得る。
【0138】
一実施形態において、本明細書に記載の組成物は、創傷被覆材として使用することができるヒドロゲルの形態で提供することができる。別の態様では、本発明は、したがって、帯電したセルロースナノフィブリルを含むヒドロゲルの形態の創傷被覆材を提供し、上記ヒドロゲルは、少なくとも20mg/lの溶存酸素含有量を有する。
【0139】
創傷被覆材として使用される場合、ヒドロゲルは、創傷部位への適用に好適な任意の所望の形状または大きさで提供することができる。例えば、それは、ヒドロゲル材料の柔軟な構造または「構築物」(例えば、シート)として提供され得る。このような構造物は、本明細書に記載されているように、酸素化セルロース材料の3次元(3D)印刷によって製造することができる。ヒドロゲル材料の3D印刷の方法は当技術分野で周知であり、Regemat3D印刷ユニットなどの任意の従来の3D印刷装置を使用して実行することができる。3D印刷された構造は、それらの使用目的、例えば、治療される創傷の性質および程度に応じて、単層または多層であり得る。「印刷」されると、ヒドロゲル構築物は、それらの粘度を増加させ、それらの機械的特性を強化するために、例えば、自己保持的であるが柔軟な3D構造を提供するために、架橋に供され得る。架橋は、本明細書に記載の架橋剤のいずれかを使用して、例えば、3D印刷されたヒドロゲル構築物を、選択された架橋剤の溶液に浸漬することによって達成され得る。CaClの溶液に数時間、例えば最大24時間浸漬することが好適な場合がある。
【0140】
使用中、ヒドロゲル被覆材は創傷部位に直接適用することができる。必要に応じて、使用時に大きさにカットすることができる。
【0141】
本明細書に記載の組成物は、例えば蒸気滅菌(すなわちオートクレーブ)またはガンマ線照射によって滅菌される好適な密封容器またはパッケージに包装することができる。オートクレーブは、菌を殺傷するのに十分な時間、105~150℃、好ましくは120~135℃の範囲の温度で実施することができる。滅菌時間は、滅菌するアイテムのタイプ(金属、プラスチックなど)によって異なるが、1~60分、例えば4~45分の範囲であると予想される。典型的な蒸気滅菌温度は121℃または132℃である。
【0142】
ヒドロゲルの性質、およびその使用目的、例えば、治療される創傷のタイプ、治療期間、および複数回の使用が想定されるかどうかに応じて、好適なタイプの容器を選択することができる。好適なパッケージには、バイアル、装填済みシリンジ、チューブ、パウチ、ボトルなどが含まれる。いずれの場合も、保管時に酸素が枯渇しないように、これらを効果的に密封する必要がある。バイアルには、例えば、キャップを壊すための好適なねじれを設けることができる。
【0143】
パッケージは、単一または複数回の使用を目的としている場合がある。これらが複数回の使用を目的としている場合、製品の無菌性を維持し、酸素の損失を最小限に抑えるために、パッケージの残りの内容物を開封後、各用量の組成物の送達後に密封できることが重要である。一方向ポンプを備えた容器が好適な場合がある。あるいは、組成物は、皮膚への単回の適用に十分な量を含む個々の用量、例えば、サッシエ、小さなチューブまたはボトルで提供され得る。使い捨てアンプルが好ましい。
【0144】
保管時に組成物中の高く安定した酸素レベルを維持することが不可欠である。好適な保管容器、蓋、およびそれらの準備に使用される材料は、それに応じて選択する必要がある。これらは、ガス、特に酸素の浸透に対する感受性が低いはずである。好ましくは、これらはガスを通さないようにする必要がある。好適な容器には、ガラス瓶、バイアル、チューブ、およびポリエチレンテレフタレート(PET)またはその共重合体から作られたものなどの使い捨てプラスチック容器が含まれる。任意選択で、任意のプラスチック容器(例えば、PETまたはその共重合体から作られたもの)は、それらのガスバリア特性を強化するための追加の成分を含み得る。そのような材料は、例えば、US2007/0082156およびWO2010/068606に記載されており、それらの内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0145】
理想的には、製品の貯蔵寿命を最大化するために、いかなる貯蔵容器も最小の酸素透過性を備えている必要がある。通常、好適な貯蔵寿命は、最低でも約6か月、好ましくは周囲条件下で6~12か月である。棚の寿命は、2~4℃の範囲の温度での冷蔵など、より低い温度での保管によって延長される場合がある。意図された貯蔵寿命の保存の間、製品の酸素含有量が25%を超えて減少しないことが好ましい。
【0146】
本明細書に記載の組成物は、酸素の送達が望ましい任意の創傷部位に適用することができる。送達の方法は、製品の形態、すなわち、これが液体(例えば、増粘または粘性液体)またはゲルとして使用されるかどうか、またはこれが本明細書に記載されるような創傷被覆の成分として提供されるかどうかに依存する。いかなる治療用途においても、製品の無菌性を維持するために、これらは無菌手段によって適用されるべきであると一般に想定されている。例えば、これらは、アプリケーターを使用して(例えば、注射器から)標的領域に適用され得る。
【0147】
創傷は通常、皮膚の完全性の中断を伴う。皮膚が損傷または除去されると、例えば、手術によって除去されたり、火傷したり、裂傷したり、擦り切れたりすると、その保護機能が失われる。急性および慢性の両方の創傷を含む、すべてのタイプの皮膚創傷を本発明に従って治療することができる。
【0148】
急性創傷は通常、予想される時間枠内、例えば最大10日以内に最小限の瘢痕で完全に治癒する組織損傷である。急性創傷の主な原因には、皮膚と硬い表面との摩擦接触によって引き起こされる擦り傷や裂傷などの外的要因による機械的損傷が含まれる。機械的損傷には、ナイフによって引き起こされる貫通傷や、外科的切開によって引き起こされる外科的傷(腫瘍の除去など)も含まれる。急性創傷には、熱傷や、放射線、電気、腐食性化学物質、熱源(高温と低温の両方)から発生する可能性のある化学的損傷も含まれる。火傷は、その重症度に応じて分類することができ、例えば、1度、2度、または3度の火傷である。
【0149】
慢性創傷は、ゆっくりと治癒する組織損傷、例えば、約12週間後に治癒せず、しばしば再発する損傷から生じる。このような創傷は、通常、繰り返される組織損傷、または糖尿病、肥満、悪性腫瘍、持続感染、不十分な一次治療および他の患者関連要因などの基礎となる生理学的状態のために治癒することができない。慢性創傷には、褥瘡性潰瘍(床ずれまたは褥瘡)などの皮膚潰瘍、下腿潰瘍(静脈、動脈、虚血または外傷起源)、および糖尿病性潰瘍が含まれる。静脈性下腿潰瘍は、脚の静脈の弁の機能不全による静脈不全によって引き起こされ、生命を脅かす状態である肺塞栓症につながる可能性がある。それらは治療に費用がかかり、しばしば入院を必要とする。動脈性下腿潰瘍は、脚の動脈の機能低下または閉塞によって引き起こされ、動脈硬化症などの状態から発生する可能性がある。糖尿病性潰瘍は、糖尿病の結果としての微小循環障害から発生する。糖尿病性潰瘍の場合、治癒に失敗すると手足が失われることがよくある。
【0150】
創傷はまた、皮膚層の数および影響を受ける皮膚の面積に従って分類することができる。表在性の創傷では、損傷は表皮の皮膚表面のみに影響を及ぼす。表皮と、血管、汗腺、毛包などのより深い真皮層の両方が関与する損傷は、中間層創傷と称されることがある。全層創傷は、表皮および真皮層に加えて、下にある皮下脂肪またはより深い組織が損傷した場合に発生する。
【0151】
創傷の治療に使用される場合、本発明の組成物は、改善された酸素化を通じて創傷治癒の速度を増加させると同時に、創傷部位の水分を保持し、感染から保護する。傷や火傷は、2度または3度の火傷など、組織が破壊されたりひどく損傷したりする場合に特に感染しやすくなる。そのような場合、本明細書に記載の組成物の適用はまた、細菌感染を予防するだけでなく、損傷した組織を治癒するために治療的に作用することができる。
【0152】
本明細書に記載の組成物は、感染した創傷、例えば慢性創傷の治療に使用するのに特に好適である。それらは、そのような病原性生物に対する酸素の毒性のために、皮膚の好気性および嫌気性の細菌および真菌感染症の両方の治療に使用され得る。真菌感染症は、enterococcus、enterobacteriacea、clostridium、B.fragilis、streptococcus、pyogenisに関連している可能性がある。侵襲性真菌感染の例には、mucorales、aspergilusに関連するものが含まれる。
【0153】
好気性細菌と嫌気性細菌の両方が、感染した傷や皮膚のやけどの領域にも見られることがある。本発明の組成物を使用して治療することができる嫌気性細菌感染症には、Bacteroides種、およびClostridium種が含まれる。組成物を使用して治療することができる好気性細菌感染症には、Pseudomonas種(例えば、Pseudomonas aeruginosa),Enterococcus種、Enterobacteriacea種,Bacillus種,Streptococcus種,およびStaphylococcus種(例えば、Staphylococcus aureus)が含まれる。組成物は、Pseudomonasおよび/またはStaphylococcus種、例えば、Pseudomonas aeruginosaおよび/またはStaphylococcus aureusを宿す創傷の治療に使用するのに特に好適である。
【0154】
一実施形態において、本明細書に記載の組成物を使用して、細菌性バイオフィルムの形成を防止し、および/または体表面上の細菌性バイオフィルムを治療することができる。治療は通常、体表面からのバイオフィルムの少なくとも一部の破壊、除去、または剥離を伴い得る。
【0155】
治療される対象は、任意の哺乳動物であり得る。通常、対象はヒトであるが、本明細書に記載の方法は、非ヒト哺乳動物の治療にも同様に適している。したがって、組成物の獣医学的使用は、本発明の範囲内で想定される。
【0156】
組成物は、治療される領域、状態の性質、治療される対象などの要因に応じて、様々な異なる方法で適用することができる。これらは、顔、胸、腕、脚または手を含む体の任意の領域に適用することができる。通常、それらは皮膚に適用される。皮膚への塗布方法は、組成物の粘度に依存し得るが、摩擦、浸漬(soaking)、浸漬(immersion)、連続灌流、注射などによる塗布を含み得る。
【0157】
それらの粘度に応じて、組成物は指で塗布することができる。しかしながら、無菌性を維持するために、これらは、例えばアプリケーターを使用する無菌的手段によって適用されることが一般的に想定されている。皮膚製品の塗布に使用することが知られているアプリケーターは、製剤の性質、特にその粘度に応じて使用することができる。例えば、これはスパチュラで適用することができる。
【0158】
組成物は、標的組織、すなわち創傷に直接適用することができ、したがって「一次被覆材」を形成するのに役立つ。通常、これには、組成物を保護し、治療期間中これが所定の位置に留まることを確実にするための二次被覆材が必要になる。二次被覆材は柔軟で、創傷部位に適合できる必要がある。通常、この被覆材は、治療される組織の領域に応じて適切なサイズおよび形状に切断され得る従来の創傷被覆材材料のシートの形態をとる。
【0159】
二次被覆材は、理想的には水および/または酸素に対する透過性が制限されているべきであり、例えば、これは水および/または酸素に対して実質的に不透過性であるべきである。密封被覆材の使用は、下にある組成物に存在する溶存酸素が皮膚に送達されることを保証するだけでなく、創傷の湿った治癒環境を維持するのにも役立つ。「酸素に対して実質的に不浸透性」とは、ヒドロゲルの酸素含有量の25%未満が被覆材を通して失われる可能性があることを意味する。
【0160】
創傷の修復および治癒に対処する際に、創傷からの滲出液を制御する必要があり得る。これには、創傷からの滲出液の排出または適切な吸収性被覆材を使用した吸収が含まれる場合がある。特に滲出液が大量に生成される場合は、損傷した組織の部位で最適なレベルの水分を維持することも重要である。被覆材の使用はこれを達成するのに役立つ。したがって、一実施形態において、特に高レベルの滲出液で任意の創傷を治療する場合、二次被覆材は非常に吸収性である可能性がある。好適な被覆材の例は当技術分野で知られており、創傷のタイプ、その大きさおよび位置に応じて容易に選択することができる。既知の被覆材には、合成フィルム、アルギン酸塩、親水コロイド、ヒドロゲル、およびコラーゲン被覆材などの合成および生物学的被覆材の両方が含まれる。酸素の通過に対して実質的に不浸透性のものには、ポリエステルおよびポリオレフィンが含まれる。必要に応じて、創傷を圧迫包帯で覆うこともできる。これは、例えば、静脈性潰瘍を治療するときに有益である可能性がある。
【0161】
使用中、組成物は、創傷部位に直接適用されるか、または創傷部位に可能な限り近く適用される。好ましくは、組成物は創傷床と直接接触しているべきである。次に、好適切な二次被覆材が組成物の上に適用され、必要に応じて、テープ、ガーゼ、またはこれを無傷の皮膚に固定するための他の好適な手段を使用して所定の位置に固定される。二次被覆材は一時的なものであるため、必要に応じて取り外して新しい被覆材と交換することができる。一実施形態において、二次被覆材は、これを皮膚に固定することができる接着剤で部分的にコーティングすることができる。例えば、被覆材はその周囲に接着剤を有することができる。好適切な接着剤材料は当技術分野で知られており、例えば、ポリイソブチレン、ポリイソブチレン、およびポリアクリレートが含まれる。被覆材に接着剤部分が付属している場合、これには通常、使用前に除去される剥離ライナー、例えばシリコン処理されたポリエステルフィルムもある。
【0162】
治療期間は、創傷の性質および皮膚に適用される組成物の酸素含有量に依存する。典型的には、被覆材は、数日間、例えば最大3日間、創傷に使用され得る。被覆材を数日間使用すると、治療費がさらに削減され、被覆材の交換に伴う外傷が軽減される(例えば、毎日または1日に数回交換する必要がある場合)。被覆材からの酸素の供給は制御され得る。制御放出は、7時間~2日までの所定の期間にわたる酸素の放出に関連する。酸素の送達は、好ましくは、この期間中、実質的に連続的であり、これは、送達が実質的に中断されないことを意味する。
【0163】
場合によっては、組成物のさらなる適用が望ましい場合があり、これは必要に応じて何度でも繰り返すことができる。被覆材を交換するために、酸素が枯渇した組成物は、滅菌水または生理食塩水などの生理学的に許容される溶液で穏やかに洗浄することによって、創傷から容易に除去することができる。酸素化された水または酸素化された生理食塩水もこの目的のために使用され得る。被覆材を交換する間の創傷の洗浄はまた、創傷を洗浄して、死んだまたは壊死した組織を除去するのに役立つ。
【0164】
創傷治癒にはいくつかの異なる段階があり、すべてが特定のヒドロゲルまたは被覆材の対象となるわけではない。したがって、組成物の性質および任意の二次被覆材は、異なるタイプの創傷(例えば、急性、慢性、乾燥、滲出など)だけでなく、創傷の治癒の異なる段階についても調整することができる。これには、特に、治療の様々な段階のために様々な組成物の酸素含有量を変えることが含まれる。創傷治癒の初期段階では、低pO(低酸素症)が成長因子、サイトカイン、遺伝子活性化、血管新生の必須の刺激因子であるのに対し、pOの正常(正常酸素)または上昇(高酸素)レベルは、創傷治癒のその後の段階でより有利になる。例えば、線維芽細胞および内皮細胞の増殖は、30~80mmHgのpOで最もよく発生し、コラーゲン合成、血管新生、および上皮化はすべて、20~60mmHgのpOを必要とする。
【0165】
それらが使いやすいことから、本明細書に記載の創傷治療は、在宅ケアとして使用することができ、それにより、治療費を削減し、患者の入院の必要性を回避する。これらはまた、入院、酸素ボンベまたは追加の機器を必要とせずに、治療中の患者の完全な可動性を可能にする。これにより、患者の生活の質が向上する。
【0166】
本明細書に記載の組成物は、哺乳動物、好ましくはヒト対象の皮膚での皮膚使用を意図している。このように、これらは皮膚だけでなく、粘膜、爪、髪にも適合する。通常、これらはまた、皮膚に適用された場合、刺激性がなく、忍容性が良好である。
【0167】
次に、以下の非限定的な実施例および付随する図を参照して、本発明をさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0168】
図1】酸化の増加に伴って生成されたCNFのCNF膜粗さのレーザープロフィロメトリーによる定量を示している。各横方向の波長の平均値は、平均の標準偏差で示される(n=10)。
図2】試料CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0のAFM分析を示す。CNF_2.5試料の比較的厚いナノフィブリルは矢印で示されている。高さプロットは、点線で示されている各画像の中央で取得された。較正およびスケールバーはナノメートルで示される。高さおよび幅は、プロファイルプロットから単一のナノフィブリル(黒く色付け)で測定される。
図3】酸化を増加させて生成されたCNFについて、様々な速度で測定されたブルックフィールド粘度を示している。
図4】100%に設定された陰性対照BHI100と相関させた、24時間の曝露後のP.aeruginosaに対するCNFゲルの抗菌効果を示している。バーは平均を表し、エラーバーはSEMを表する。すべてのグループでN=5。
図5】3Dプリントされた構造物の光透過率の定量を示している(平均値は標準偏差とともに与えられ、n=4)。3D印刷された構築物の目標寸法は、20mm×40mm×2mmであった。
図6】凍結乾燥した構築物のSEM評価を示している。4つの列は、シリーズごとに4つの複製SEM画像を提供する。矢印は印刷方向を示している。右の列は、表面構造の主な方向を示す極座標プロットを示している。
図7】CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0について、0.2重量%のCNFおよび酸素化されたCNFのブルックフィールド粘度を示している(表1)。データは平均±SEMとして表される(n=10)。
図8】(A)ファイバーテスター(残留繊維と微粉)、および(B)ナノ粒子分析器(ナノサイズの繊維)を使用したCNF分散の評価を示している。
図9】CNFの酸素化と溶存酸素(DO)の定量を示している。異なる酸化レベル(CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0、表1)の0.2重量%CNFを酸素化し、密封されたガラスバイアルに室温(22℃)で保管した。DO濃度は、製造日と5週間後に測定された。酸素化CNFの重複測定とCNFの単回測定。データは平均±SEMとして表される。
図10】P.aeruginosaに対するCNFと酸素化CNFの抗菌効果を示す。P.aeruginosaでの4時間または24時間後の、異なる酸化レベル(CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0、表1)での0.2重量%CNFの細菌生存率。データは平均±SEMとして表される。CNF_6.0 4時間およびCNF 24時間を除くすべてのグループでn=5(n=4)。BHI100を陰性対照として使用した。
図11】P.aeruginosaとS.aureusに対するCNFと酸素化CNFの抗菌効果を示している。(A)P.aeruginosaおよび(B)黄色ブドウ球菌での24時間の曝露後の、異なる酸化レベル(CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0、表1)での0.2重量%CNFの細菌生存率(Log10 CFU)。データはLog10として表される。図BのCNF_3.8を除くすべてのグループでN=5(n=4)。BHI100およびProntosanをそれぞれ陰性対照および陽性対照として使用した。
図12】細菌性バイオフィルムのSEM評価を示している:(A)P.aeruginosaおよびCNF_6.0、(B)P.aeruginosaおよびCNF_6.0-酸素化、(C)S.aureusおよびCNF_6.0、ならびに(D)S.aureusおよびCNF_6.0-酸素化。
図13】酸素化されたCNFをCaClで架橋する効果を示している。上の図:CaCl(50mMまたは100mM)を使用した場合と使用しない場合の0.2重量%酸素化CNFの溶存酸素(DO)、N=3。下の図:CaCl(50mMまたは100mM)を使用した場合と使用しない場合の0.4重量%酸素化CNFの溶存酸素(DO)、「Oxy 0.4% 100mM CaCl」(N=1)を除くN=3。
図14】0.2重量%および0.4重量%(10RPMで測定)でのCNFのブルックフィールド粘度を示している。
図15】18Gカニューレを備えた50mlの針先から注入されたCNFの溶存酸素(DO)含有量を示している。上の図:0.2重量%CNF。下の図:0.4重量%CNF。N=3。
図16】100%に設定された陰性対照BHI100と相関させた、24時間の曝露後のP.aeruginosaに対するCNFゲルの抗菌効果を示す。バーは平均を表し、エラーバーは平均の標準誤差を表する。すべてのグループでn=15。すべての試料は、対照と比較して有意に異なっていた(*、p<0.05)。
図17】CNFを含む寒天ゲル中(0.6重量%)のP.aeruginosaの遊泳レベルを示している。バーは平均を表し、エラーバーは平均の標準誤差を表す。すべてのグループでn=3(*、p<0.05)。
図18】インビボで評価したCNF_3.8および酸素化CNF_3.8の抗菌効果を示している。データはCFUの数として表される。すべてのグループでn=5。(*)は有意差(p<0.05)を示す。
【実施例
【0169】
実施例1-セルロースナノフィブリル(CNF)の調製と特性評価
CNFの調製:
Nordli et al.(Carbohydrate Polymer 150,65-73,2016)に記載されているように、Pinus radiataクラフトパルプ繊維を洗浄し、NaOHを使用してオートクレーブ処理した。これは、エンドトキシンの量を減らすために行われた(Nordli et al.,ACS Applied Bio Materials 2(3),1107-1118,2019)。表面の化学的性質が変化するCNFは、TEMPOを介した酸化によって生成され、3つのレベルの酸化、つまり2.5、3.8、6.0mmolの次亜塩素酸(NaClO)/gセルロースを適用し、それぞれ、CNF_2.5、CNF_3.8、CNF_6.0として定義した(Saito et al.,Biomacromolecules 5(5),983-1989,2004)。酸化セルロース繊維をホモジナイザー(Rannie 15型12.56Xホモジナイザー、1000barの圧力で操作)に3回通した後、CNFを収集した。
【0170】
CNFの特性評価:
カルボン酸基の含有量は、Saito et al.(Biomacromolecules 5(5),1983-1989,2004)に従って電導度滴定によって定量化された。アルデヒド基の含有量は、Jausovec et al.(Carbohydrate Polymer 116,74-85,2015)によって以前に記載された分光光度法に基づいて決定された。
【0171】
CNFゲル(濃度0.6重量%)は、Regemat3D印刷ユニット(バージョン1.0、Regemat3D、Granada、Spain)を使用して顕微鏡スライドに印刷された。0.58mmのノズルと3mm/秒の流量を使用して、10×20mmのソリッドエリアを2層で印刷した。ゲルを室温(23℃)および40%の相対湿度で乾燥させた。印刷された構造上に金の層が堆積され、1μm/ピクセルの解像度で10個のレーザープロフィロメトリー画像(1×1mm)が取得された。レーザープロフィロメトリー画像をバンドパスフィルター処理し、表面粗さ(二乗平均平方根)を様々な横方向の波長で定量化した(Chinga-Carrasco et al.,Micron 56,80-84,2014)。
【0172】
原子間力顕微鏡(AFM)を、3つのCNF試料で実行された。試料は、室温でVeecoマルチモードVを使用して分析した。AFMチップには、0.4Nm-1のばね定数があった~(Bruker AFMプローブ)。評価された局所領域は2x2μmで、解像度は1.95nm/ピクセルであった。
【0173】
CNFの粘度は、ブルックフィールド粘度計(Brookfield DV2TRV)で評価した。評価は、スピンドルV-73を使用して、23℃±1℃の温度で、0.6、1、2、6、および10RPMの速度で実行された。
【0174】
結果と考察:
CNFゲルのカルボキシルおよびアルデヒド含有量ならびにCNFフィルムの表面粗さを表1に示す。
【表1】
【0175】
NaClOの量の増加は、カルボキシル基の量の増加につながった。カルボキシル基の量を増やすと、ナノフィブリル間の反発力が増加し、これにより、個別化されたナノフィブリルの生成が容易になる。これは、レーザープロフィロメトリーによって確認された。繊維が酸化されるほど、ナノフィブリルの収率が高くなり、CNFフィルムの表面が滑らかになる。CNF_2.5の比較的高い粗さプロファイルは、主にマイクロメートルサイズの残留繊維が発生するためである。酸化が増加すると、粗さが減少する(図1を参照)。これは、得られる個別化されたナノフィブリルの大部分によるものである(図2を参照)。
【0176】
AFM分析により、3つの試料にナノフィブリル(直径20nm未満)が含まれていることが明らかになった(図2)。AFM分析は、3つの試料間の比較を提供するために価値があり、試料CNF_2.5に比較的太いナノフィブリルが含まれていることを示唆している(図2、矢印)。この観察結果は、構造的に不均一な試料の兆候でもあり、粗さ分析を裏付ける(表1を参照)。
【0177】
試料CNF_6.0の個別化されたナノフィブリルの大部分は、対応するゲルの粘度の増加を引き起こす(図3を参照)。3つの試料は、速度が増加するにつれて粘度が低下することを示し、これはせん断粘減性効果から説明できる。さらに、粘度データは、試料CNF_6.0が試料CNF_2.5およびCNF_3.8と比較して、所与の速度でより高い粘度を持っていることを示している。
【0178】
実施例2-CNFの細胞毒性と皮膚刺激能
実施例1で生成された3つのCNF試料の細胞生存率および皮膚刺激性は、医療機器を評価するための標準化されたプロトコルに従って試験された。各シリーズから6つのエアロゲル(20g/m)を調製した。Telstar LyoQuest-83装置を使用して、ゲルを-20℃で凍結し、24時間凍結乾燥した。
【0179】
In vitro EpiDerm皮膚刺激試験:
試料CNF_2.5、CNF_3.8、およびCNF_6.0の皮膚刺激能は、In Vitro EpiDerm(商標)Skin Irritation Test kit(EPI-200-SIT、MatTek In Vitro Life Science Laboratories、Bratislava,Slovakia)およびプロトコル「In vitro skin irritation test for medical device extracts」v.9.0最終版を使用した、医療機器のインビトロ皮膚刺激による刺激試験によって決定された。この試験は、試験アイテムの抽出物を再構築されたヒト表皮(RhE)モデルに局所的に曝露した後、生細胞で代謝的に青紫色の不溶性ホルマザンに還元される黄色の水溶性MTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドを使用した細胞生存率アッセイで構成される。生細胞の数は、ホルマザンをアルコールに溶解した後の測光測定によって決定された色の強度と相関している。
【0180】
RhE組織をアッセイ培地中の6ウェルプレートで一晩(37±1℃、5±1%CO)プレインキュベートし、その後100μLの試験アイテム抽出物または対照試料を添加した。陽性対照は、生理食塩水およびゴマ油中の1%ドデシル硫酸ナトリウム溶液(SDS、MatTek In Vitro Life Science Laboratories、Bratislava)であり、陰性対照は、Ca2+およびMg2+を含まないダルベッコのPBS(GE Healthcare Lifescience HyClone Laboratories、South Logan,UT)であった。試験アイテムは、37±1℃で72±2時間抽出された。18時間の曝露後、組織をCa2+およびMg2+を含まないダルベッコのPBS(GE Healthcare Lifescience HyClone Laboratories、South Logan,UT)で完全にすすぎ、1mg/mL MTT(MatTek In Vitro Life Science Laboratories)を含む24ウェルプレート内で3時間(5±1%CO中で37±1℃)インキュベートした。MTT溶液を除去し、組織を2-プロパノール(2mL/組織、MatTek)に浸し、プレートを2時間振とうした。その後、抽出されたホルマザンの吸光度を、分光光度計を使用して570nmで測定した。残りの相対細胞生存率が50%未満の場合、試験アイテムの皮膚刺激性が予測される。
【0181】
細胞毒性:
試料CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0の細胞毒性能は、ISO 10993-5:2009 Annex Cおよび RISE standard operating procedure SOP KM 11741に従って、細胞毒性試験によって決定された。この試験は、試験アイテムの抽出物をL929マウスのサブコンフルエントな単層に曝露した後、生細胞で代謝的に青紫色の不溶性ホルマザンに還元される黄色の水溶性MTT 3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5ジフェニルテトラゾリウムブロミドを使用した細胞生存率アッセイで構成される。生細胞の数は、ホルマザンをアルコールに溶解した後の測光測定によって決定された色の強度と相関している。
【0182】
試験アイテムは、37±1℃で24±2時間、Eagleの最小必須培地1Xで、非必須アミノ酸(Gibco Life Technologies)、ピルビン酸ナトリウム(GE Healthcare Hyclone)、5%(v/v)胎児ウシ血清(Gibco Life Technologies)、4mM安定グルタミン(Gibco Life Technologies)、0.1g/mLの割合を使用した100IU/mLペニシリンおよび100μg/mLストレプトマイシン(GE Healthcare Hyclone)を添加したNaHCO(Gibco Life Technologies)で緩衝されたEarlの平衡塩溶液で抽出された。L929マウス線維芽細胞(ATCC NCTCクローン929:CCL-1)を96ウェルプレートに播種し、37±1℃および5%CO 24±2時間培養して、サブコンフルエントな単層を形成した。試験アイテム、陽性対照(ラテックスゴム、Gammex 91-325、AccuTech Ansell)および陰性対照(Thermanoxプラスチックカバースリップ、Art no 174934、Thermo Scientific NUNC)、ならびにブランク(細胞生存率の%測定値として機能する抽出ビヒクル)からの100μL抽出物を6つの複製ウェルに追加した。プレートを5%CO中37℃で24時間インキュベートした。抽出物を除去し、50μLのMTT溶液を各ウェルに添加し、細胞を5%CO中37℃で2時間インキュベートした。MTT溶液を除去し、100μLの2-プロパノールを各ウェルに添加した。細胞からホルマザンが抽出され、均一な溶液を形成するまで、プレートを急速に振とうした。吸光度を570nm(参照波長650nm)で測定し、細胞の生存率を計算した。細胞生存率が70%未満の場合、試験アイテムは細胞毒性があるとみなされる。
【0183】
結果と考察:
結果を表2に示す。
【表2】
【0184】
結果は、CNF試料に細胞毒性の可能性がないことを確認している(線維芽細胞の生存率は70%を超えていた。表2を参照)。「インビトロEpiDermTM皮膚刺激性試験(EPI-200-SIT)」およびプロトコル「医療機器のインビトロ皮膚刺激性試験(In vitro skin irritation test for medical devices)」に与えられている基準に従って、材料は非刺激性として分類される。つまり、RhEの生存率は、皮膚刺激の可能性があるとみなされる限界を超えている(De Jong et al.,Toxicology in Vitro 50、439-449,2018)。これらの発見は、安全で生体適合性のある創傷被覆材の開発を裏付けている。
【0185】
実施例3-CNFの抗菌特性
P.aeruginosaに対する実施例1(CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0)で生成されたCNFゲルの抗菌効果をインビトロで評価した。
【0186】
方法:
P.aeruginosa(ATCC 15692)の一晩培養は、600nmでの光学密度(OD)を使用して、1×10コロニー形成単位(CFU)/mLの最終細菌濃度に設定された。調製した細菌懸濁液10μL(1×10CFU/mL)を500μlのCNFゲルと混合し、37℃で24時間インキュベートした。230μLの混合物を2mLのリン酸緩衝液(0.0375Mホスフェート中の0.05%Triton X-100)に懸濁し、10段階のステップで5倍に希釈した。各希釈液からの50μLを馬の血液寒天プレートに広げ、37℃で一晩インキュベートした。血液寒天プレート上のCFUの数を数え、ゲルと細菌の混合物を含む元のチューブ内のCFUの数を計算した。これは、24時間の処理後の細菌の生存として定義された。各ゲルについて、5回繰り返し、陰性対照として、CNFゲルの代わりにHO(BHI100)で100倍に希釈した500μLのブレインハートインフュージョン培地を使用した。
【0187】
結果と考察:
図4の結果は、用量依存的な抗菌効果を確認し、すなわち、CNFの濃度を0.2~0.6重量%に増加させると、P.aeruginosaの生存が減少した。さらに、抗菌特性もCNFの表面電荷に依存することがわかった。結果は、表面電荷を1036~1593μmol/gに増やすと、細菌の生存率が低下することを示している。細菌の生存率の低下は、CNFの表面化学に起因する可能性がある。カルボキシル基の含有量を増やすと、ナノフィブリル化が増加する。つまり、ホモジナイゼーション中に、より大きなCNF収率が得られる。カルボキシル含有量は、ゲル分散液中の個々のナノフィブリル間の反発力を増加させると予想され、したがって、液体媒体中のナノフィブリルの電荷依存性分布につながる可能性がある。電荷密度が高いほど、ナノフィブリルがより均一に分布し、粘度が高くなり(表1および図3を参照)、細菌の表面をナノフィブリルが覆う面積が大きくなる可能性がある。アルデヒド含有量はまた、グラム陰性菌の細胞壁のタンパク質の架橋に寄与する可能性があり、したがって、本質的な機能を引き受けることができない。理論に縛られることを望まないが、これらの特徴が細菌の生存と成長を制限するのに寄与するかもしれないと我々は仮定する。
【0188】
実施例4-CNFの3D印刷
実施例1で製造された3つのCNFグレード(濃度0.6重量%)は、3D印刷のために試験された。
【0189】
方法:
3D印刷は、Regemat3D印刷ユニットを使用して実行された。各シリーズ(CNF_2.5、CNF_3.8、およびCNF_6.0)について、0.58の印刷ノズルを使用して4つの構築物(寸法20mm×40mm×2mm)を印刷した。印刷されたトラック間のスペースは2mm×2mmであった。高さ(2mm)は4つの印刷層で構成された。印刷時の流速は3mm/秒であった。印刷忠実度の追加試験として、3つのCNFグレードの印刷性能を評価した。3つの複製(2×40mm)が印刷された。印刷性能をより適切に評価するために、構造は1層のみで構成されていた。印刷されたトラック間の距離は2mmであった。流速は3mm/秒であった。3D印刷された構造の画像は、Epson Perfection V750 PROスキャナーで送信モードで印刷した直後に取得された。適用された解像度は1インチ当たり2400ドットであった。光学画像を通過する光の透過率は、ImageJプログラム(バージョン1.52h)を使用して定量化され、バックグラウンドに対する構築物を透過した光の割合として報告される。
【0190】
3D印刷された構造は、-20℃で凍結され、Telstar LyoQuest-83装置を使用して24時間にわたって凍結乾燥された。凍結乾燥試料の走査型電子顕微鏡(SEM)評価は、Hitachi SU3500走査型電子顕微鏡を使用して実行された。金のコーティングは、Agar Auto Sputter Coater(Agar Scientific、Essex CM24 8GF United Kingdom)を使用して実行された。画像は、5kVの加速電圧と6mmの作動距離をそれぞれ使用して、二次電子イメージング(SEI)モードで取得された。
【0191】
グリッドは、直径=20mm、高さ=1mmで印刷され、2つの層で構成されている。印刷ノズルは0.58mmであった。印刷時の流速は3mm/秒であった。グリッドをCaCl(100mmol)に少なくとも24時間浸した後、Bruker(旧Hysitron)のTI950Triboindenterで機械的評価を行った。ナノインデンテーションパラメータは次の通りである:変位は2000nmのピーク押し込み深さで制御された。0.125秒間のロード、0.4秒の保持、0.125秒のアンロード(1つのインデントの合計試験時間0.65秒)。試料ごとに、ランダムな領域に少なくとも20の再現可能なインデントが行われた。
【0192】
結果と考察:
0.6重量%の濃度を持つCNFの適切な3D印刷プロセスが達成された。つまり、堆積したトラックが崩壊せず、3D構造を印刷できた。
【0193】
3D構築物(ターゲット寸法40mm×20mm×2mm)の光学画像を取得し、光透過率を定量化した。試料CNF_2.5およびCNF_3.8の印刷されたトラックは、CNF_6.0と比較して弱い精細度を示した。CNF_6.0試料は、明確に定義されたトラックを備えた3D構築物を示した。これは、印刷の忠実度が高いことを示している。構造物を通る光透過率を図5に示す。創傷被覆材として使用する場合、透明性は創傷の発達の監視を容易にする。
【0194】
1層構造の場合、CNF_6.0試料(粘度が比較的高く、ナノフィブリルの割合が多い)は、特に優れた印刷適性を備えていることがわかりた。つまり、印刷された構造に大きな欠陥は観察されなかった。
【0195】
SEM分析の結果を図6に示す。結果は、マイクロメートルスケールでの細孔大きさを示しており、およそ10μm~200μmの範囲である。CNFの特別な特徴は、ナノメートルの断面寸法と比較して、マイクロメートルスケールの長さである、個別化されたナノフィブリルの高アスペクト比である。これらの特性と押し出し中のせん断力によって促進され、ナノフィブリルは印刷方向に整列する。個々のナノフィブリルの整列は、凍結乾燥後の構造の自己組織化にも影響を与えるようである。本発明者らは、Sobel演算子(Gadalamaria et al.,Polymer Composite 14(2):126-131,1993)およびYoshigi et al.,Cytom Part A 55a(2):109-118,2003)に基づくコンピューター化された勾配分析を使用して、エアロゲルテクスチャの配向を定量化することができた。これは、方位角ファセットの極座標プロットで表され、主な配向の方向を示す(Chinga et al.,Journal of Microscopy-Oxford 227(3):254-265,2007)。極座標プロットが長くなるほど、特定の方向の配向がより顕著になる。水平方向に印刷された構造の極座標プロットは、垂直方向に印刷された構造の垂直方向の極座標プロットと比較して、明らかに水平方向に向けられている。試料CNF_2.5およびCNF_3.8には、マイクロメートルサイズの表面細孔によって定義された明確な配向パターンがある。ただし、試料CNF_6.0は、より等方性のテクスチャを示す。CNF_6.0の表面テクスチャは、自己組織化ナノフィブリルのフレーク/壁で構成されている。印刷されたパターンの方向を制御することは、特定の方向の細胞の成長と増殖を制御するための足場および組織工学にとって特に興味深いものである。
【0196】
表3は、CNFヒドロゲル(0.6重量%濃度)の剛性と硬度(ナノメカニカル特性)を示している。
【表3】
【0197】
結果は、弾性率のレベルをもたらし、つまり3セットのゲルの約2~3MPaおよび硬度(約0.2~0.5MPa)。CNF_3.8およびCNF_6.0は、CNF_2.5よりも高い硬度値を持っている。
【0198】
力を加えたときの材料の変形(弾性領域)に対する抵抗である剛性は、細胞のメカノトランスダクション応答にとって重要である。例えば、細胞は細胞骨格を再編成することで生体材料の剛性に反応し、細胞の拡散、増殖、および移動に影響を与える。したがって、生体材料の剛性は、細胞および組織の生物学的挙動に影響を及ぼし、これは、創傷治癒の観点から重要である可能性がある。
【0199】
結論:
CNFは3D印刷可能であり、x、y、z方向の特定の要件(形状と組成)に適合できる創傷被覆材を形成する能力を提供する。CNFゲルは、Ca2+で架橋することができ、創傷の状況で簡単に管理することができる。創傷被覆材はさらに透明であり、創傷治癒管理を容易にすることが期待される。
【0200】
実施例5-酸素化CNFの調製と特性評価
酸素化CNFの準備:
3つの異なる酸化レベルで実施例1(水中の濃度0.6重量%)で生成されたCNFは、CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0と名付けられた(表1)。CNFを精製水(Milli-Q浄水器、Millipore、Molsheim,France)で0.2重量%に希釈した。3つのグレードのCNFを、オートクレーブ(TOMY、オートクレーブSX-700E、Tokyo,Japan)内で高圧蒸気で20分間(121℃)滅菌した。ゲルは4℃に保たれた。
【0201】
3つのグレードのCNFは、OXY BIOシステム(Oxy Solutions、Oslo,Norway)によって酸素化された。酸素化装置および製造プロセスの詳細な説明は、WO2016/071691(Oxy Solutions AS、Oslo,Norway)に記載されている。OXY BIOシステムには、酸素ガス(98%、Praxair、カタログ番号500183、Oslo,Norway)とCNFが混合されたベンチュリを備えた配管システムが含まれている。製造中、対応するCNFを酸素化装置に最低10分間連続して循環させた。製造中に所望の酸素濃度(>30mg/l)が達成されたかどうかを確認するために、溶存酸素(DO)濃度をOrion RDO酸素計(Orion A323、Thermo Scientific、Massachusetts,USA)で測定した。製造設定は、3.45バール(液圧)および200ml/分O(酸素ガス流量)であった。CNFは、製造全体を通して低温に保たれた。製造後、酸素化されたCNFをガラスバイアル(VWR、Pennsylvania,SA、カタログ番号216-3006)に充填し、アルミニウム製中央引き裂きシール(VWR、Pennsylvania,USA、カタログ番号218-2117)およびブロモブチルストッパー(VWR、Pennsylvania,USA、カタログ番号WHEAW224100-405)で密封した。
【0202】
酸素化CNFの特性評価:
酸素化されたCNFの粘度は、ブルックフィールド粘度計(Brookfield DV2TRV)で評価された。実行パラメータは次の通りである。評価体積:200mL。温度:23℃±1℃。スピンドル:V-71。
【0203】
残留繊維の定量化は、Fiber Tester(L&W Fiber Tester Plus,コード912)を使用して実行された。この装置は、7μmを超える残留繊維と微粉の量を定量化する。40mlの各CNF分散液(0.2重量%)を調製し、定量した。分析は、7800を超える画像の取得に基づいている。シリーズごとに2つの複製が行われた。CNF分散液を0.1重量%に希釈し、3nm~3μmの範囲の粒子大きさを決定できる粒子サイズ分析器(N5 Submicron Particle Size Analyzer,Beckman Coulter)で分析した。
【0204】
結果と考察:
酸素化されたCNFのブルックフィールド粘度値を図7に示す。粘度データによって明らかにされた2つの特定の傾向がある:(i)酸化が増加するにつれて粘度が減少する。(ii)酸素化プロセスにより、対応する試料の粘度が低下する。0.2重量%の濃度での酸化の増加に伴う粘度の低下は、残留繊維と微細な材料が原因である可能性がある。残留繊維は比較的長い物体であり、低濃度の分散液で粘度を上げるのに寄与する可能性がある。
【0205】
図8Bでは、ナノ粒子分析器を用いた分散液の分析は、酸化が増加するにつれて平均物体サイズが減少することを示している。さらに、レーザープロフィロメトリーによる定量化により、残留繊維(マイクロメートルサイズ)の割合がそれに応じて減少することが明らかになった。これは、酸化の関数として残留繊維および微粉の減少を定量化することによって確認される(図8A)。その結果、比較的長い物体の割合が高いことが、希釈された分散液(0.2重量%)での試料CNF_2.5の粘度の増加に影響を与える要因である可能性がある。酸素化に伴う粘度の低下は、酸素化プロセス中のOXY BIOシステムを循環することによるCNFの機械的応力に起因する可能性がある。溶存酸素の濃度の増加は、粘度の低下にも寄与する可能性がある。つまり、酸素はナノフィブリル間のスペーサーとして機能する可能性がある。
【0206】
実施例6-酸素化されたCNFの貯蔵寿命試験
酸素化および非酸素化CNFは、密封されたガラスバイアルに室温(22℃)で5週間保管された。溶存酸素(DO)濃度は、製造日(0週目)と5週間後に、前述のようにウィンクラー滴定によって測定された(Moen et al.,Health Sci.Rep.e57,2018)。
【0207】
図9に示すように、3つのCNFグレード間でDOレベルに有意差は観察されなかった(CNF_2.5では31.2mg/l、CNF_3.8では29.6mg/l、CNF_6.0では31.6mg/l)。この結果は、表面の化学的性質と形態が異なるCNFを、OXY BIOシステムによってほぼ同じ高レベルのDOに酸素化できることを実証している。5週間の保管後、0.2重量%CNFのDOレベルは、それぞれ26.9%、31.1%、38.0%に減少した。それにもかかわらず、DOレベルは対照レベルの2倍であった。
【0208】
実施例7-酸素化CNFの抗菌試験
酸素化CNF、非酸素化CNF、および陽性対照としてのプロントサン創傷ゲルの盲検試料(Braun Medical AG、Sempach,Switzerland、カタログ番号400515)の抗菌効果を評価した。
【0209】
方法:
P.aeruginosa(ATCC 15692)またはS.aureus(ATCC 29213)の終夜培養物を、600nmでの光学密度(OD)を使用して、1×10コロニー形成単位(CFU)/mlの最終細菌濃度に設定した。調製した細菌懸濁液10μl(1×10CFU/ml)を500μlのゲルと混合し、37℃で4/24時間インキュベートした。230μlを2mlのリン酸緩衝液(0.0375Mホスフェートの0.05%Triton X-100)に懸濁し、10段階のステップで5倍に希釈した。各希釈液からの50μlをウマの血液寒天プレートに広げ、37℃で一晩インキュベートした。血液寒天プレート上のCFUの数を数え、ゲルと細菌の混合物を含む元のチューブ内のCFUの数を計算した。これは、4時間および24時間の処理後の細菌の生存として定義された。各ゲルについて、5回の繰り返しを行い、陰性対照として、ゲルの代わりにHO(BHI100)で100倍に希釈した500μlのブレインハート注入培地を使用した。
【0210】
最初の試験では、好気性細菌であるPseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)の細菌の生存が評価された。細菌の生存の定量化は、4時間後の潜在的な迅速な抗菌効果を検証するために、4時間および24時間後に実行された。この急速な効果は4時間後に示された(図10)。4時間後の酸素化CNF_2.5、CNF_3.8、およびCNF_6.0は、それぞれ非酸素化CNF_2.5、CNF_3.8、およびCNF_6と比較して、P.aeruginosaの生存率が有意に低かった(P<0.05、独立両側t検定)。結果は24時間後に確認された。CNFの電荷を増やすと、より大きな抗菌効果が生じ、この効果は酸素化によって強化された。
【0211】
2番目の試験では、24時間後の好気性細菌であるPseudomonas aeruginosa(P.aeruginosa)およびStaphylococcus aureus(S.aureus)の細菌生存率を調査した(図9A~B)。試験は、酸素化CNFの製造から1~3週間後に開始された。しかしながら、図9は、評価の時点で、CNFゲル中の溶存酸素の潜在的な減少がわずかであると予想されることを確認している。酸化レベルの増加に伴うCNF(0.2重量%)(CNF_2.5、CNF_3.8およびCNF_6.0、表1)は、BHI100(陰性対照)と比較して、両方の試験で有意な抗菌効果(P<0.05、独立両側t検定)を示した(図11A-B)。
【0212】
これらの結果は、カルボキシル化CNFゲルが抗菌効果を有することを確認している。酸素化されたCNF_2.5およびCNF_6.0は、それぞれ非酸素化CNF_2.5およびCNF_6.0と比較して、P.aeruginosaの生存率が有意に低かった(P<0.05、独立両側t検定)(図7A)。CNF_3.8と酸素化CNF_3.8の差は有意ではなかった。P.aeruginosaの最低の細菌生存率は、酸素化されたCNF_6.0で測定された(図11A)。これらの結果は、酸化レベル(CNF_6.0)が高いほど、抗菌効果が良好であることを示している。CNFの効果は、高レベルの溶存酸素の存在下でさらに強化される。細菌株でも同様の結果が観察された(図11B)。酸素化されたCNF_6.0およびCNF_6.0ゲルは、この研究で対照として使用された強力な抗菌剤であるProntosanゲルと同様に機能する。OXY BIOシステムによる酸素化のために、ゲルを0.2重量%の濃度に希釈したことに注意されたい。以前に、カルボキシル化CNFの濃度を上げると、抗菌効果が高まることが実証されている(Jack et al.,Carbohydrate Polymers 157,1955-1962,2017)。ナノフィブリルの濃度が高い高酸素化ゲルは、強力な抗菌剤になると期待できる。
【0213】
実施例8-バイオフィルムのSEM特性評価
CNFと酸素化CNFの作用機序をより明らかにするために、S.aureusおよびP.aeruginosaのバイオフィルムをブタの皮膚と寒天上で成長させ、CNFゲルで処理した。試料を固定し、凍結乾燥し、SEMで評価した。
【0214】
方法:
P.aeruginosa(ATCC 15692)またはS.aureus(ATCC 29213)のバイオフィルムは、ブタの皮膚および寒天上で培養された。インキュベーション後、試料を2.5%グルタルアルデヒドで一晩固定し、バッファーで30分間2回撹拌しながら洗浄し、次に1%四酸化オスミウムで一晩固定し、超純水で30分間2回撹拌して洗浄し、液体プロパンで急冷し、一晩凍結乾燥した。その後、試料を顕微鏡ピンにマウントし、15nmのAu/Ptでコーティングした。イメージングは、Zeiss Supra 40VP SEMによって二次電極イメージモードで行われた。加速電圧と作動距離はそれぞれ3kVと12mmであった。
【0215】
結果と考察:
結果を図12に示し、CNFの作用機序を証明する。図12A~Bは、P.aeruginosaを捕捉するCNFの画像である。図12C~Dは、S.aureusを捕捉するCNFの画像である。ナノフィブリルは、細菌を取り囲み、閉じ込めるネットワークを形成しているように見える。カルボキシル化ナノフィブリルの空間分布は、酸化度(カルボキシル基)に依存しているようであり、これにより、CNFと細菌との相互作用が促進される可能性がある。さらに、CNF表面で遭遇するアルデヒド基(表1)は、個々のナノフィブリルを細菌の細胞壁のタンパク質に固定し、それにより微生物を閉じ込めてその移動性と成長を制限することに寄与する可能性がある。個々のナノフィブリルは、細菌を捕捉し、それらのさらなる移動性と成長を潜在的に制限する上で特定の役割を果たしている(図12)。
【0216】
実施例9-酸素化CNF-ヒドロゲルの調製
表面帯電ナノフィブリルを含む酸素化ヒドロゲルは、Ca2+カチオンとの架橋(-COO基を介して)により、低濃度(0.2重量%または0.4重量%)のナノフィブリルを有する対応する酸素化「CNF液体」から生成された。
【0217】
方法:
CaClの有無にかかわらず、0.2重量%および0.4重量%の酸素化ナノセルロースの溶存酸素(DO)含有量を測定して、CaClの添加によってDOと粘度が変化するかどうかを試験すると決めた。各ナノセルロースを酸素化した後、CaCl(50mMまたは100mM)を添加した。次に、DOのレベルを、製造日と1か月後のウィンクラー滴定(3回の測定)によって測定した。粘度の変化を視覚的に観察した。
【0218】
結果と考察:
結果を図13に示す。CaClを0.2重量%の酸素化ナノセルロースに添加すると、DOがわずかに減少した-50mMCaClに対して6.9mg/lDOおよび3.8mg/lDO(それぞれ製造日および1か月後)ならびに100mMCaClに対して7.7mg/lDOおよび4.5mg/lDO(それぞれ製造日および1か月後)。CaClを0.4重量%の酸素化ナノセルロースに添加すると、DOがわずかに減少した-50mMCaClに対して2.2mg/lDO、(1か月後)100mMCaClに対して0.7mg/lDOおよび3.6mg/lDO(それぞれ製造日と1か月後)。「CNF液体」とCa2+との架橋は、架橋により粘度を増加させるが、酸素化レベルに過度に影響を与えることはないことが見出された。
【0219】
実施例10-酸素化CNF-ヒドロゲルの調製
表面帯電ナノフィブリルを含む酸素化ヒドロゲルは、低濃度のナノフィブリル(0.2重量%)を有する対応する酸素化「CNF液体」と、より高いCNF含有量(0.6重量%)を有する非酸素化CNFゲルと混合することによって生成された。
【0220】
方法:
酸素化されたCNF(0.2重量%)を非酸素化されたCNF(0.6重量%)と混合して、より高いCNF濃度(0.4重量%)を有する酸素化されたCNFを得た。材料の詳細を表4に示す。
【表4】
【0221】
材料のブルックフィールド粘度は、実施例1に記載されているように測定された。
【0222】
結果:
材料の粘度を図14に示す。試料22_01~22_06の粘度は、図5に与えられた結果に対応する。0.4重量%の「ゲル」の粘度の有意な増加が観察された。
【0223】
実施例11-酸素化されたCNFの3D印刷
0.2重量%および0.4重量%の濃度の酸素化CNF(CNF_6.0)を、18Gカニューレシリンジ(Braun、Einmal Injektions-Kanule、1.20×40mmBC/SB 18Gx11/2)を備えた50mlの針先から押し出し(つまり注入し)、3D印刷が酸素含有量に与える潜在的な影響を試験する。
【0224】
図15の結果は、押し出しプロセスが酸素の有意な損失をもたらさなかったことを示している。溶存酸素(DO)の減少は小さく、有意ではなかった(0.2重量%ナノセルロースの場合はp値=0.277、0.4重量%ナノセルロースの場合はp値=0.393)。
【0225】
同様の実験を、0.2重量%の濃度のCNF_2.5およびCNF_3.8材料を使用して実行した。22Gカニューレシリンジ(BraunSterican(登録商標)、Einmal Injektions-Kanule、0.45×12mmBL/LB 26Gx1/2)を使用して50mlの針先から注射すると、DOがわずかに減少したが、これは有意ではなかった。
【0226】
実施例12-CNFの抗菌特性
P.aeruginosa(ATCC 15692、American Type Culture Collection、Manassas,VA)およびS.aureus(ATCC 29213、American Type Culture Collection、Manassas,VA)に対する、実施例1で生成したCNFゲルの抗菌効果(CNF_2.5,CNF_3.8およびCNF_6.0)をインビトロで評価した。
【0227】
方法-細菌の生存の決定:
P.aeruginosaまたはP.aeruginosaのコロニーを、5%の脱線維化ウマ血液(Swedish National Veterinary Institute、Uppsala,Sweden)を補充したウマ血液寒天プレート(Columbia agar,Oxoid、Basingstoke,UK)で培養し、次いで10mlの3.7%ブレインハート注入(BHI)ブロス(Difco、BD Diagnostics、Franklin Lakes,NJ)に移し、+37℃、250rpmで一晩インキュベートした。細菌懸濁液を2000×gで10分間遠心分離した。上澄みを廃棄し、ペレットを1mlの0.037%BHI(水で100倍に希釈したBHI培地、BHI100)に再懸濁した。この懸濁液をBHI100でさらに希釈して、600nmでの光学密度を測定することにより推定される、1×10コロニー形成単位(CFU)/mlの最終細菌濃度に到達させた。調製した細菌懸濁液10μL(1×10CFU/ml)を500μlのCNFゲルと混合し、37℃で24時間インキュベートした。230μLの混合物を2mlのリン酸緩衝液(0.0375Mホスフェート中の0.05%Triton X-100)に懸濁し、10段階のステップで5倍に希釈した。各希釈液からの50μLをウマの血液寒天プレートに広げ、37℃で一晩インキュベートした。プレート上のCFUの数をカウントし、ゲルおよび細菌の混合物を含む元のチューブ内のCFUの数を計算し、24時間の処理後の細菌の生存として定義した。各ゲルは、P.aeruginosaに関する3つの別々の盲検試験およびS.aureusに関する1つの試験で3回試験された。各試行で5つの複製を実施し、陰性対照としてCNFゲルの代わりに500μLのBHI100を使用した。
【0228】
方法-水泳アッセイ:
Silva et al.(J.Mater.Sci.54(18),12159-12170,2019)に記載されているように、0.5%グルコースと0.3%寒天を添加したLB培地を沸騰水で溶かし、45℃まで冷却してから、CNF(6重量%)を5%v/v混合物で溶かした寒天に加える。混合物を55mmのペトリ皿(1皿当たり7.5ml)に注ぎ、蓋を傾けて3時間硬化させた。CNFゲルを水に置き換えた1つの試料を対照として使用した。S.aureus(ATCC 29213)(非鞭毛細菌)またはP.aeruginosa(ATCC 15692)(鞭毛細菌)懸濁液(1×10CFU/ml)5μLをピペットの先端を寒天に少し浸して各プレートの中央に接種した。CNFと対照は3回試験された。プレートを直立位置で好気性条件で37℃で9時間インキュベートした。各寒天プレートのデジタル画像を取得し、ImageJプログラムで評価した。画像は、ノイズを除去するためにメディアンフィルターで自動的にフィルター処理され、バクテリアのハローをセグメント化するためにバイナリ画像に自動的にしきい値処理された。バクテリアハローのフェレット直径が定量化され、各試験された試料の遊泳の程度として報告された。
【0229】
結果:
図16の結果は、CNFゲルの抗菌効果を確認している。すべての試料は、対照と比較して大幅に異なっていた。図17の結果は、CNFを含む寒天ゲル中のP.aeruginosaの遊泳レベルを示している。
【0230】
実施例13-インビボ手術部位感染(SSIモデル)-CNFおよび酸素化CNF
それぞれ実施例1および5に従って調製されたCNF_3.8および酸素化CNF_3.8の抗菌効果をインビボで決定し、Protonsan(登録商標)創傷ゲル(B.Braun、Germanyから入手)と比較した。
【0231】
方法:
細菌調製物:S.aureus(ATCC 29213)のコロニーを、5%脱線維化ウマ血液(Swedish National Veterinary Institute、Uppsala,Sweden)を添加したウマ血液寒天プレート(Columbia寒天培地、Oxoid、Basingstoke,UK)で培養した後、10mlの3.7%ブレインハートインフュージョン(BHI)ブロス(Difco,BD Diagnostics、Franklin Lakes,NJ)に移し、+37℃、250rpmで一晩インキュベートした。細菌懸濁液を2000×gで10分間遠心分離した。ペレットを1mlのBHI100に再懸濁し、懸濁液をさらにBHI100で希釈して、600nmでの光学密度から推定して2×10CFU/mlに到達させた。8mlの細菌懸濁液を15mlチューブに移し、3-0絹縫合糸(684G、Ethicon、Sollentuna,Sweden)を懸濁液に30分間浸した。縫合糸を濾紙上で+4℃で乾燥させ、使用するまで(最大4時間)+4℃で維持した。以前に記載されたように(Hakansson et al.,Antimicrob.Agents Chemother.58(5),2982-4,2014)、約5×10個の細胞が1cmの縫合糸当たりに吸着された。動物モデル:この研究で使用されたモデルは以前に公開されており(Gisby et al.,Antimicrob.Agents Chemother.44(2),255-60,2000、Hakansson et al.,Antimicrob.Agents Chemother.58(5),2982-4,2014、McRipley Antimicrob.Agents Chemother.10,38-44,1976、Rittenhouse et al.,Antimicrob.Agents Chemother.50,3886-3888,2006)、以下のように変更された。すべての動物実験は、Gothenburg,Swedenにある行政裁判所の動物研究のための地元の倫理委員会からの事前の承認後に実施された。動物は、水とペレット(Lab For,Lantmannen、Malmo、Sweden)に自由にアクセスできる12時間の明暗サイクルで飼育され、実験動物の保護に関する規則に従って世話をされた。雌のCD1マウス(25~30g、Charles River、Sulzfeldt,Germany)をイソフルラン(Isobavet、Shering-Plough Animal Health、Farum,Denmark)で麻酔した。マウスの背中をクリッパーで剃り、70%エタノールで洗浄し、メスで首の領域のマウスの背中の中央に1cmの全層切開創を置いた。感染した縫合糸の約1cmを創傷に配置し、1本のナイロン縫合糸5-0Ethilon*II(EH7800H,Ethicon、Sollentuna,Sweden)を使用して創傷を閉じ、マウスが引っかかないようにした。ブプレノルフィン(48μg/kg、Temgesic,Shering-Plough、Brussels,Belgium)を、術後の痛みを和らげるために腹腔内注射によって術前に投与した。感染の24時間後、30μlのプラセボまたは活性治療剤をマイクロピペットで創傷に適用した。3時間後、2回目の30μlの治療剤を創傷に適用した。プラセボと治療は傷口に留まった。最後の治療の2時間後、マウスを頸椎脱臼により安楽死させ、創傷の周囲2×1cmの領域(創傷領域全体および周囲の組織を含む)を切除し、2mlの氷冷BHI100中でローターステーターホモジナイザー(T10 basic ULTRA-TURRAX,IKA-WerkeGmbH & Co.KG、Staufen,Germany)でホモジナイズした。ホモジネートを、96ウェルプレートで22.2μlを200μlのリン酸緩衝液(0.0375Mホスフェート中の0.05%Triton X-100)に移すことにより、6つの10段階のステップで希釈した。各希釈液50μlをウマの血液寒天プレートに移し、+37℃で一晩インキュベートした。30~300CFUを含むプレート上のコロニーをカウントし、CFU/創傷の数を決定した。
【0232】
結果:
結果を図18に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【国際調査報告】